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軽症脳梗塞、4.5時間以内DAPT vs.アルテプラーゼ/JAMA

 日常生活や仕事上の障害につながらない(非障害性)軽症脳梗塞患者において、発症後4.5時間以内の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は90日後の機能的アウトカムに関して、アルテプラーゼ静注に対して非劣性であることが示された。中国・General Hospital of Northern Theatre CommandのHui-Sheng Chen氏らが、多施設共同無作為化非盲検評価者盲検非劣性試験「Antiplatelet vs R-tPA for Acute Mild Ischemic Stroke study:ARAMIS試験」の結果を報告した。軽症脳梗塞患者において、静脈内血栓溶解療法の使用が増加しているが、軽症非障害性脳梗塞患者における有用性は不明であった。JAMA誌2023年6月27日号掲載の報告。中国38施設で760例を、DAPT群とアルテプラーゼ群に無作為化 研究グループは中国の38施設において、18歳以上で発症後4.5時間以内、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコア(範囲:0~42)が5以下およびNIHSSのいくつかの主要項目スコアが1以下、かつ無作為化時に意識項目スコアが0の軽症非障害性の急性脳梗塞患者を、DAPT群またはアルテプラーゼ群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 DAPT群では、クロピドグレルを1日目に300mg負荷投与、その後75mgを1日1回12(±2)日間投与+アスピリンを1日目に100mg、その後100mgを12(±2)日間、以降90日目まではガイドラインに基づいた抗血小板薬単剤療法またはDAPTを行った。 アルテプラーゼ群では、ガイドラインに従いアルテプラーゼ0.9mg/kg、最大90mgを静脈内投与し、その24時間後からガイドラインに基づいた抗血小板療法を行った。 主要エンドポイントは、無作為化され1回以上の有効性評価を受けた全患者(full analysis set:FAS)における90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0~6)が0~1で定義される優れた機能的アウトカムで、DAPT群のアルテプラーゼ群に対する非劣性マージンは群間リスク差の片側97.5%信頼区間(CI)下限値が-4.5%とした。 安全性エンドポイントは、90日間の症候性頭蓋内出血およびあらゆる出血とした。 2018年10月~2022年4月に760例がDAPT群(393例)またはアルテプラーゼ群(367例)に無作為化された。最終追跡調査日は2022年7月18日であった。mRSスコア0~1のアウトカム達成、DAPTの非劣性を確認 無作為化された適格患者760例(年齢中央値64歳[四分位範囲[IQR]:57~71]、女性223例[31.0%]、NIHSSスコア中央値2[IQR:1~3])で、同意撤回者などを除く719例(94.6%)が試験を完遂した。 90日時点で優れた機能的アウトカムを達成したのは、DAPT群93.8%(369例中346例)、アルテプラーゼ群91.4%(350例中320例)で、両群のリスク差は2.3%(95%CI:-1.5~6.2)、粗相対リスクは1.38(95%CI:0.81~2.32)であった。片側97.5%CI(両側95%CI)の補正前下限値は-1.5%で、非劣性マージン-4.5%を上回っていた(非劣性のp<0.001)。 90日時点での症候性頭蓋内出血の発現は、DAPT群で371例中1例(0.3%)、アルテプラーゼ群で351例中3例(0.9%)であった。

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多遺伝子リスクスコアと冠動脈石灰化スコアを比較することは適当なのか?(解説:野間重孝氏)

 pooled cohort equations(PCE)はACC/AHA心血管ガイドラインの一部門であるリスク評価作業部会によって開発されたもので、2013年のガイドラインにおいて、これを使用して一次治療においてアテローム性動脈硬化性心血管病のリスクが高いと判断された患者(7.5%以上)に対する高強度、中強度のスタチンレジメンが推奨され話題となった。現在PCEを計算するためのサイトが公開されているので、興味のある方は開いてみることをお勧めする(https://globalrph.com/medcalcs/pooled-cohort-2018-revised-10-year-risk/)。わが国であまり用いられないのは国情の相違によるものだろうが、米国ではPCE計算に用いられていない付加的指標を組み合わせることにより、精度の向上が議論されることが多く、現在その対象として注目されているのが冠動脈石灰化スコア(CACS)と多遺伝子リスクスコアだと考えて論文を読んでいただけると理解しやすいのではないかと思う。 「多遺伝子リスクスコア」とは一体何なのか、と疑問を持たれている方も多いのではないかと思う。少々極端なたとえになるが、臨床医ならばだれしも初診患者の診察をする際に家族歴を尋ねるのではないだろうか。また、少し年配の方で疫学に関係したことのある方なら、心筋症の家族歴の調査にかなりの時間を費やした経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思う。そこに2003年、ヒトゲノムが解読されるという大事件が起こったのである。その発症に遺伝が関係すると考えられる疾患の基礎研究で、研究方法がゲノム解析に向かって大きく舵を切られたことが容易に理解されるだろう。 一部のがんや難病では単一のドライバー遺伝子変異もしくは原因遺伝子によって説明できることがあるが、糖尿病・心筋梗塞・喘息・関節リウマチ・アルツハイマー認知症etc.など多くの問題疾患はいずれも多因子疾患であり、多数の遺伝的バリアントによって構成される多遺伝子モデル(ポリジェニック・モデル)に従うと考えられる。間接的、網羅的ゲノム解析であるSNPアレイを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、この15年ほどの間に多くの多因子疾患の遺伝性を明らかにされた。さらに近年、数万人を超える大規模なGWASによって、非常に多数の遺伝因子を用いて多遺伝子モデルに従う予測スコア、すなわちいわゆる多遺伝子スコア(ポリジェニック・スコア)が構築され、医療への応用可能性を論じることが可能となってきた。しかしその一方で問題点や限界も明らかになってきており、直接的な臨床応用にはまだ限界があることを考えておかなければならない。また、GWASは主に欧州系の白人を対象に研究された経緯から、他の人種にどのように応用できるかには検討の余地がある。本研究で取り上げられた2つの大規模臨床モデルがいずれも欧州系白人を対象としているのは、このような理由によるものと考えられる。 一方冠動脈石灰化スコア(CACS)は造影剤を用いない心電図同期CTで計測可能な指標で、冠動脈全体の石灰化プラークの程度について石灰化の量にCT値で重み付けすることにより求められ、現在冠動脈全体の動脈硬化負荷の代替指標として確立しているといえる。しかし心筋梗塞や不安定狭心症は必ずしも高度狭窄から起こるわけではなく、プラークの不安定性を評価する指標も必要となる。CCTAでもプラークの不安定性を示す指標がいくつか知られているが、臨床応用にはまだ研究の余地があるといえる。とはいえ、FFR-CTまで含め、冠動脈CT検査は直接的な臨床応用が可能である点がゲノム解析にはない利点であることは確かだといえる。実際ゲノム解析には大変な手間・費用が掛かり、その将来性を否定するものではないが、現段階においてはその臨床応用範囲が、まだ限定的であることは否定できないだろう。 なお、多遺伝子リスクスコアがPCEに加えられることによって予想確度が上がるか否かについては2020年の段階で意見が分かれており、いずれもジャーナル四天王で取り上げられているのでご参考願いたい (「多遺伝子リスクスコアの追加、CADリスク予測をやや改善/JAMA」、「CHD予測モデルにおける多遺伝子リスクスコアの価値とは/JAMA」)。 今回の研究はさまざまな議論を踏まえ、多遺伝子リスクスコアを加えること、CACSを加えることのいずれがPCE予測値をより改善するかを検討したものである。結果は多遺伝子リスクスコア、CACSそれぞれ単独では冠動脈疾患発生を有意に予測したが、PCEに多遺伝子リスクスコアを加えても予測確度は上昇しなかった。一方CACSを加えることによりPCEの予測確度は有意に上昇した。 この研究の結論はそれ自体としては大変わかりやすいものなのだが、そもそも多遺伝子リスクスコアとCACSを同じ土俵で比較することが適当なのか、という疑問が残る。何故なら多遺伝子リスクスコアは原因・素因というべきであり、CACSはいわば結果であるからだ。素因と現にそこに起こっている現象とでは意味が違うのではないだろうか。こうした批判は関係する後天的な因子の果たす役割の大きい生活習慣病を考える場合、重要な視点なのではないかと思う。普段ゲノム研究を覗く機会の少ないものとしては大変勉強になる論文ではあったが、そんな素朴な疑問が残った。

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男性性腺機能低下症、テストステロン補充で心血管リスクは?/NEJM

 性腺機能低下症の中高年男性で、心血管疾患を有するか、そのリスクが高い集団において、テストステロン(ゲル剤)補充療法は、心血管系の複合リスクがプラセボに対し非劣性で、有害事象の発現率は全般に低いことが、米国・クリーブランドクリニックのA Michael Lincoff氏らが実施した「TRAVERSE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年6月16日号に掲載された。米国の無作為化プラセボ対照非劣性試験 TRAVERSE試験は、米国の316施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照非劣性第IV相試験であり、2018年5月23日に患者の登録が開始された(AbbVieなどの助成を受けた)。 対象は、年齢45~80歳、心血管疾患を有するかそのリスクが高く、性腺機能低下症の症状がみられ、2回の検査で空腹時テストステロン値が300ng/dL未満の男性であった。 被験者は、1.62%テストステロンゲルまたはプラセボゲルを毎日経皮的に投与する群に、無作為に割り付けられた。 心血管系の安全性の主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合であった。ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.5未満の場合に非劣性と判定された。感度分析でも非劣性を示す 最大の解析対象集団5,204例のうち、2,601例(平均[±SD]年齢63.3±7.9歳、血清テストステロン中央値227ng/dL)がテストステロン群に、2,603例(63.3±7.9歳、227ng/dL)はプラセボ群に割り付けられた。平均(±SD)投与期間は、テストステロン群が21.8±14.2ヵ月、プラセボ群は21.6±14.0ヵ月、平均フォローアップ期間はそれぞれ33.1±12.0ヵ月、32.9±12.1ヵ月であった。 心血管系の安全性の主要エンドポイントは、テストステロン群が2,596例中182例(7.0%)、プラセボ群は2,602例中190例(7.3%)で発生し(HR:0.96、95%CI:0.78~1.17、非劣性のp<0.001)、テストステロン群のプラセボ群に対する非劣性が示された。 また、主要感度分析(最終投与から365日以降に発生したイベントのデータは打ち切り)では、主要エンドポイントはテストステロン群が154例(5.9%)、プラセボ群は152例(5.8%)で発生し(HR:1.02、95%CI:0.81~1.27、非劣性のp<0.001)、非劣性が確認された。 心血管系の副次複合エンドポイント(主要エンドポイント+冠動脈血行再建[PCIまたはCABG])の発生は、テストステロン群が269例(10.4%)、プラセボ群は264例(10.1%)であり、臨床的に意義のある明らかな差は認められなかった(HR:1.02、95%CI:0.86~1.21)。主要エンドポイントの各項目の発生率は、いずれも両群で同程度であった。 前立腺がんが、テストステロン群の12例(0.5%)、プラセボ群の11例(0.4%)で発現した(p=0.87)。前立腺特異抗原(PSA)のベースラインからの上昇は、テストステロン群のほうが大きかった(0.20±0.61ng/mL vs.0.08±0.90ng/mL、p<0.001)。また、テストステロン群では、心房細動(3.5% vs.2.4%、p=0.02)、急性腎障害(2.3% vs.1.5%、p=0.04)のほか、肺塞栓症(0.9% vs.0.5%)の発生率が高かった。 著者は、「メタ解析では、静脈血栓塞栓イベントとテストステロンには関連がないことが示されているが、今回の知見は、過去に血栓塞栓イベントを発症した男性ではテストステロンは慎重に使用すべきとする現行の診療ガイドラインを支持するものであった」としている。

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高齢者糖尿病診療ガイドライン2023、薬物療法のエビデンス増え7年ぶりに改訂

 日本老年医学会・日本糖尿病学会の合同編集である『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』が5月に発刊された。2017年時にはなかった高齢者糖尿病における認知症、サルコペニア、併存疾患、糖尿病治療薬などのエビデンスが集積したことで7年ぶりの改訂に至った。今回、日本老年医学会の編集委員を務めた荒木 厚氏(東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科)に『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』の改訂点について話を聞いた。 高齢者糖尿病とは、「65歳以上の糖尿病」と定義されるが、医学的な観点や治療、介護上でとくに注意すべき糖尿病高齢者として「75歳以上の高齢者と、身体機能や認知機能の低下がある65~74歳の糖尿病」と、より具体的な定義付けもなされている。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023の改訂ポイント6点 日本老年医学会、日本糖尿病学会の両学会は上記のような高齢者糖尿病患者における「低血糖による弊害」「認知症などの併存疾患の影響」などの課題解決のために2015年に合同委員会を設立、その2年後に高齢者糖尿病診療ガイドライン2017年版を発刊した。当時は治療薬のエビデンスなどが乏しかったが、国内外の新しいエビデンスが集積したこと、新薬が登場したこと、そして併存疾患に対する対策や治療目的が明確になったことから、今回6年ぶりの発刊となった。そのような背景のある『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』について、荒木氏は改訂ポイント6点を示した。<注目すべき6つのポイント>1)2017年時点では得られていなかった認知症、フレイル、サルコペニア、悪性腫瘍、心不全などの併存疾患やmultimorbidityに関するエビデンスが記載されている、Question・CQ(Clinical Question)に反映2)血糖コントロール目標を設定するためのカテゴリー分類を行うことができる認知・生活機能質問票(DASC-21)を掲載[p.228付録3]3)運動療法が糖尿病のみならず認知機能やフレイルにも良い影響を与える4)薬物療法ではSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の心血管疾患や腎イベントに対するリスク低減効果に関するエビデンスも集積5)2型糖尿病患者の注射のアドヒアランス低下の対策として、インスリン治療の単純化を記載6)社会サポート制度の活用 このほか、「高齢者糖尿病患者の背景・特徴については第I章に、治療については第IX章p.151~170に掲載されているので一読してほしい」とし、「治療の基本的な内容は『糖尿病治療ガイド2022-2023』にのっとっているので、両書を併せて読むことが理解につながる」とも話した。インスリン治療の単純化はアドヒアランス向上だけでなく、低血糖を減らす 高齢者の場合、腎・肝機能低下による薬剤の排泄・代謝遅延から有害事象を来しやすい。そのため低血糖をはじめ、これまで注意点が強調されることが多かった。一方で、高齢者糖尿病ではポリファーマシーになりやすく、さらに認知機能障害のため服薬アドヒアランスの低下を来しやすい。そのため減薬だけでなく、複雑な処方をシンプルにする“治療の単純化”を行うことが必要になる。2型糖尿病のインスリン治療においても注射のアドヒアランス低下の対策としてインスリン治療の単純化を行う研究が行われている。 これについて同氏は「たとえば、インスリン注射を1日複数回注射している2型糖尿病患者の場合、メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などを追加することでインスリン投与回数を1日1回の持効型インスリンのみにすることが治療の単純化となる。このインスリン治療の単純化は、注射回数を1回にしても血糖コントロールは変わらない、もしくは改善し、インスリンの単位数が減ることで低血糖が減ることも報告されてきているため、インスリン治療の単純化は低血糖回避という観点からも有用であると考える。また、複数回のインスリン注射を週1回のGLP-1受容体作動薬やインスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤に変更にすることも治療の単純化となり、低血糖を減らすことが可能となる」とコメント。「これは高齢者のインスリン治療法の大きな進歩」だとも述べ、また、「絶食の不要な経口のGLP-1受容体作動薬において種々の製剤が開発中であり、今後のインスリン治療の単純化にも役立つ可能性がある」ともコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドラインにSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬のCQ追加SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は心・腎イベントに関するCQが『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』に新たに盛り込まれた。―――CQ IX-2:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は心血管イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ IX-3:高齢者糖尿病でSGLT2阻害薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。CQ X-1:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は心血管イベントを抑制する【推奨グレードA】。CQ X-2:高齢者糖尿病でGLP-1受容体作動薬は複合腎イベントを抑制する可能性がある【推奨グレードB】。――― これについて「高齢者糖尿病においてもSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用は心・腎イベントのリスクや心不全による再入院リスクを低減させるエビデンスがあり、additional benefitがあることが明らかになった。したがって、この両剤はこれらの心・腎に対するベネフィットと副作用のリスクのバランスを考慮しながら使用する必要がある」と同氏はコメントした。高齢者糖尿病診療ガイドライン2023でマルチコンポーネント運動を推奨 高齢者糖尿病でも若年者同様に運動療法は推奨され、血糖コントロールのみならず脂質異常症、高血圧、生命予後などの改善に有効とされ、『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』でも推奨されている。また、糖尿病のない患者と比べ筋量が減少しやすいため、サルコペニア予防としても重要な位置付けにある。今回、有酸素運動・レジスタンス運動・バランス運動・ストレッチングを組み合わせたマルチコンポーネント運動も推奨されている。ただし、高齢者糖尿病患者が行う際には、年齢や合併症、併存疾患、生活スタイルに合わせることがポイントである。 最後に同氏は、地域社会で高齢者糖尿病患者を支えることが今後より一層求められる時代になることから、『社会サポート制度』(p.217)についても言及し、「認知症然り、糖尿病でも地域で生活を続けていけるように、各自治体で高齢者糖尿病のQOLに寄り添うサービスが設けられている場合がある。たとえば、デイケア、通いの場、訪問看護、訪問栄養指導、訪問薬剤指導がそうであるが、そのようなサービスの存在に踏み込んだことも、本改訂での大きな特徴とも言える」と話した。

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よくわかる睡眠時無呼吸の診かた,考えかた

睡眠時無呼吸の知識を系統立ててやさしく解説、正しく理解し実践力に繋がる入門書睡眠時無呼吸の知識を、最新のガイドライン・エビデンスを踏まえて解説。Part1から順番に通読すれば、基礎となる確固たる土台ができあがり、その上により深い知識を身に付けられるように工夫されています。すでに診療やケアに携わっている医療者の方については、気になるPartから読み進めても構いません。曖昧であった知識がクリアに整理され、実践に使えるものに進化するでしょう。睡眠時無呼吸の対応に自信がつく、頼れる1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    よくわかる睡眠時無呼吸の診かた,考えかた定価6,050円(税込)判型A5判頁数332頁発行2023年6月著者富田 康弘電子版でご購入の場合はこちら

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脳卒中既往のある心不全患者の心血管リスク、HFrEFとHFpEFで検討

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の患者における脳卒中既往と心血管イベント(心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞)発生率を調べたところ、左室駆出率にかかわらず、脳卒中既往のある患者はない患者に比べて心血管イベントリスクが高いことが示された。英国・グラスゴー大学のMingming Yang氏らが、European Heart Journal誌オンライン版2023年6月26日号で報告。 本研究は、HFrEFとHFpEFの患者が登録されていた7つの臨床試験のメタ解析である。 主な結果は以下のとおり。・脳卒中既往があったのは、HFrEF患者2万159例中1,683例(8.3%)、HFpEF患者1万3,252例中1,287例(9.7%)であった。・左室駆出率に関係なく、脳卒中既往のある患者は血管合併症が多く、心不全も悪化していた。・HFrEF患者では、心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞の複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり18.23(95%信頼区間[CI]:16.81~19.77)に対し、既往なしで13.12(95%CI:12.77~13.48)であった(ハザード比[HR]:1.37、95%CI:1.26~1.49、p<0.001)。・HFpEF患者では、複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり14.16(95%CI:12.96~15.48)に対し、既往なしで9.37(95%CI:9.06~9.70)であった(HR:1.49、95%CI:1.36~1.64、p<0.001)。・脳卒中既往ありの患者では、複合アウトカムの各項目の頻度が高く、またその後の脳卒中リスクは2倍だった。・脳卒中既往ありの患者は、心房細動患者の30%が抗凝固療法を受けておらず、動脈疾患患者の29%がスタチンを服用していなかった。また、HFrEF患者の17%、HFpEF患者の38%が収縮期血圧をコントロールされていなかった(140mmHg以上)。 著者らは、「脳卒中既往のある心不全患者は心血管イベントリスクが高く、ガイドライン推奨の治療を行っていない患者をターゲットにすることが、この高リスク集団の予後を改善する方法かもしれない」と考察している。

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院外心停止後のPaCO2目標値、軽度高値vs.正常/NEJM

 院外心停止後に蘇生された昏睡患者において、目標PaCO2値を軽度高値とする治療(targeted mild hypercapnia)が正常値とする治療(targeted normocapnia)と比較して、6ヵ月後の良好な神経学的アウトカムに結びつかなかったことが示された。オーストラリア・Austin HospitalのGlenn Eastwood氏らが、17ヵ国63施設のICUが参加した医師主導の評価者盲検無作為化非盲検試験「Targeted Therapeutic Mild Hypercapnia after Resuscitated Cardiac Arrest trial:TAME試験」の結果を報告した。ガイドラインでは、院外心停止後に蘇生した昏睡状態の成人患者に対して、正常PaCO2値を治療目標とすることが推奨されているが、軽度高値とするほうが脳血流を増加させ神経学的アウトカムを改善する可能性が示唆されていた。NEJM誌オンライン版2023年6月15日号掲載の報告。50~55mmHg vs.35~45mmHg、6ヵ月後のアウトカムを比較 研究グループは、心原性と推定されるかまたは原因不明の院外心停止後に蘇生しICUに入室した昏睡状態の成人患者を、軽度高値群(目標PaCO2値:50~55mmHg)または正常値群(35~45mmHg)に1対1の割合で無作為に割り付け、無作為化から24時間それぞれの目標値を維持した。 主要アウトカムは、6ヵ月後のGlasgow Outcome Scale-Extended(GOS-E)(スコア範囲:1[死亡]~8、スコアが高いほど神経学的アウトカムが良好であることを示す)による評価で、5点以上(中等度以下の障害を示す)で定義された良好な神経学的アウトカムとし、盲検下で評価した。 副次アウトカムは、6ヵ月以内の死亡および修正Rankinスケール(mRS)(スコア範囲:1[障害なし]~6[死亡])で評価した6ヵ月後の機能的アウトカム不良(mRSスコア:4~6)などであった。1,548例が解析対象、主要アウトカムの有意差なし 2018年3月~2021年9月の期間に1,700例が登録され、847例(49.8%)が軽度高値群、853例(50.2%)が正常値群に割り付けられた。合計24例が同意撤回となり、1,676例中1,548例で主要アウトカムのデータが得られた。 6ヵ月後の良好な神経学的アウトカムを認めた患者は、軽度高値群764例中332例(43.5%)、正常値群で784例中350例(44.6%)であった(相対リスク:0.98、95%信頼区間[CI]:0.87~1.11、p=0.76)。 副次アウトカムである無作為化後6ヵ月以内の死亡は、軽度高値群816例中393例(48.2%)、正常値群832例中382例(45.9%)で報告された(相対リスク1.05、95%CI:0.94~1.16)。有害事象の発現率は、両群間で有意差はなかった。

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薬剤師の復職支援や地域出身者枠で「偏在」が改善? 【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第112回

医療職に就きたい理由として、「日本各地でニーズがある」というのがよく挙げられます。家族の転勤で地方に付いていった薬剤師が再就職に困ったという話はあまり聞きませんし、とある地域では薬剤師が離職したという情報が流れると、次から次へと「うちで働きませんか?」と誘われるそうです。一方で、都内においては中途採用で不採用となることも多く、転職が厳しくなっているといううわさを聞きます。このような「薬剤師の偏在」について対策が取られるようです。厚生労働省は、来年度からスタートする第8次医療計画作成指針に薬剤師確保策が盛り込まれたことから、都道府県が薬剤師確保の取り組みを推進できるよう薬剤師確保計画ガイドラインを作成し、6月9日付で各都道府県に通知した。医療計画の1計画期間が6年間とされているが、薬剤師の偏在状況の変化を踏まえ計画の見直しを行う機会を設ける観点から、薬剤師確保計画の計画期間は、原則3年間とする。薬剤師確保計画の目標年次を2036年とした。(2023年6月14日付 薬事日報)この第8次医療計画作成指針において、看護師と薬剤師の不足に対する対策が盛り込まれました。第8次医療計画は、2024~29年までの6年間の計画ですが、今回の偏在対策については、2計画期間である2036年までの12年間を偏在の是正を達成する期間としています。今回、薬剤師確保計画ガイドラインに規定する偏在指標を算定し、薬剤師少数区域・薬剤師多数区域を設定しました。地域ごとの薬剤師数の比較には、従来は人口10万人当たりの薬剤師数が一般的に用いられてきましたが、それでは実態を反映できないなどの理由から、病院と薬局の区別、薬剤師の勤務形態なども考慮して新たな偏在度合いを示す指標が導入されました。それにより、より小さな範囲においてその偏在が明らかとなり、「地方の病院で薬剤師が大幅に不足している」という実態が浮き彫りになってきました。ではどうするのか、という点ですが、「ガイドラインで示す薬剤師確保計画の考え方や構造を参考に、各都道府県が地域の実情に応じた実効性のある計画を策定できるよう支援する」とされています。具体的には、上記の新たな算出方法によって導き出された薬剤師が不足している場所を「薬剤師少数スポット」として薬剤師少数区域と同様に取り扱い、復職支援やその地域出身者枠の設定、出身者へのアプローチ、学生への啓発などが案として挙げられています。薬剤師が不足している実態がより細かい範囲で把握できるという点はよいとして、その後の偏在対策が大手薬局チェーンにかなうとは思えないというのが正直なところです。これから具体的に計画が練られていくようですが、なかなか厳しそうな気配がするのは私だけでしょうか…。将来的には薬剤師が過剰になると予想されていることを踏まえ、文部科学省は2025年度以降の6年制薬学部の新設・定員増を原則として認めない方針を決めました。しかし、薬剤師不足の都道府県は例外的に新設・定員増を認める方針です。とは言え、薬剤師を志す人にも希望の進学先や勤務地があり、本当に薬剤師の偏在を解決しようとすると、もっと抜本的な改革が必要かもしれません。地方で働く薬剤師や医療者にはとても重要な問題でしょう。今後の動きを見守りたいと思います。

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僧帽弁形成術、小切開vs.胸骨正中切開/JAMA

 僧帽弁形成術において、術後12週時の身体機能の回復に関して、小開胸術の胸骨切開術に対する優越性は示されなかった。弁修復率および安全性については両手術で同等であることが確認された。英国・South Tees Hospitals NHS Foundation TrustのEnoch F. Akowuah氏らが、実用的多施設共同無作為化優越性試験の結果を報告した。変性による僧帽弁逆流を有する患者における、胸腔鏡下小開胸vs.胸骨正中切開の僧帽弁形成術の安全性と有効性は不明であった。JAMA誌2023年6月13日号掲載の報告。小開胸術と胸骨切開術に無作為化、術後12週時のSF-36身体機能スコアを比較 研究グループは、英国の3次医療機関10施設において、変性による僧帽弁逆流を有し僧帽弁形成術を受ける成人患者を、小開胸術群または胸骨切開術群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。手術は専門医が行い、評価は割り付けを盲検化された独立した研究者が行った。 主要アウトカムは、術後12週時の身体機能およびそれに伴う日常活動への復帰で、SF-36身体機能スコアのTスコアのベースラインからの変化量として測定した。副次評価項目は、1年後までのSF-36身体機能スコア、6週時および12週時の手首装着型加速度計による身体活動および睡眠、12週後および1年後の経胸壁心エコーによる残存僧帽弁逆流、1年後までのEQ-5D-5Lで評価したQOLとした。また、安全性評価項目は、術後12週までの術後合併症、ならびに術後1年までの死亡、僧帽弁再手術および心不全による入院の複合とした。SF-36身体機能スコアの変化量に群間差なし 2016年11月~2021年1月に1,167例がスクリーニングを受け、330例が無作為化され(平均年齢67歳、女性100例[30%])、小開胸術群に166例、胸骨切開術群に164例が割り付けられた。このうち309例が手術を受け、294例で主要アウトカムに関するデータを得られた。 術後12週時のSF-36身体機能スコアのTスコアの変化量平均値は、小開胸術群7.62(95%信頼区間[CI]:5.49~9.78)、胸骨切開術群7.20(同:5.04~9.35)で、平均群間差は0.68(同:-1.89~3.26)であり、胸骨切開術に対する小開胸術の優越性は認められなかった。 残存僧帽弁逆流がない、または軽度の患者割合は、術後12週時で小開胸術群95%、胸骨切開術群96%と両群で類似しており、1年後では両群とも92%で群間差は認められなかった。 安全性については、術後1年時の複合アウトカムの発生は、小開胸術群5.4%(166例中9例)、胸骨切開術群6.1%(163例中10例)であった。 著者は、「今回の結果は、共同意思決定(shared decision-making)および治療ガイドラインへ、エビデンスのある情報を提供するものである」とまとめている。

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CKD-MBDガイドライン改訂に向けたデータの吟味/日本透析医学会

 日本透析医学会による慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドラインが発表されてから10年以上が経過し、これまでに多くのデータが蓄積されてきた。そのデータを吟味し、今後のガイドラインのアップデートにつなげる目的として、2023年6月16日、日本透析医学会学術集会・総会のシンポジウム1「CKD-MBDガイドライン改訂に必要なデータを吟味する」にて、8名の医師からその方向性に関する報告と提案があった。血液透析患者における血清リン、カルシウム濃度の目標値の上限 日本透析医学会の統計調査データによる観察研究の結果を基に、血液透析患者における血清リン、カルシウムの管理について、後藤 俊介氏(神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 腎・血液浄化センター)から提案があった。同氏は、「血清リンの下限は3.5mg/dLのまま、上限は現状の6.0mg/dLよりも少し厳しく管理することが望ましい。血清カルシウムも下限は現状の8.4mg/dLは必要であり、上限については10.0mg/dLのままでよいか、より厳しくしていく必要があるか、さらなる検討が必要である」と述べた。CKD-MBDガイドラインが発表されてから多くのリン吸着薬が登場 2012年にCKD-MBDガイドラインが発表されてから多くのリン吸着薬が登場し、実臨床で使用されている。その多彩なリン吸着薬をどのように使い分けていくべきか、ネットワークメタ解析による結果を基に山田 俊輔氏(九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科)から提案があった。解析の結果、カルシウム含有リン吸着薬と比較して、塩酸セベラマーは総死亡リスクが有意に低下し、炭酸ランタンは冠動脈の石灰化が有意に低下した。心血管死亡リスクではリン吸着薬間で有意差は認められなかった。また、消化器症状のリスクは、ニコチン酸アミド、鉄含有リン吸着薬、塩酸セベラマー、炭酸ランタンの順で高くなっていた。この結果を踏まえて同氏は、エビデンスに基づいて薬剤を選択することはもちろん重要だが、日本人の特徴を考慮して、患者背景に即した自由な選択、個々の薬剤の特性を活かした選択を検討する必要があり、その参考指標を改訂時に公表できるよう準備を進めていくと述べた。インタクトPTH 240pg/mL以上で総死亡や心血管死亡リスクが上昇 わが国のPTHの管理目標値は、インタクトPTH60~240pg/mLと、海外と比較して厳格な設定となっている。ガイドラインの改訂に向けて、海外の基準値に合わせるべきか、より厳格な目標値を設定すべきか、日本透析医学会の統計調査データを基に、駒場 大峰氏(東海大学医学部 腎内分泌代謝内科)からPTHと生命予後、骨折リスクとの関連について報告があった。生命予後の観点ではインタクトPTH 240pg/mL以上で総死亡や心血管死亡リスクが上昇、インタクトPTHを下げ過ぎることによるこれらのリスクは確認されなかった。一方、骨折リスクは死亡リスクよりも頻度は高く、PTHが高くなるほど、あらゆる骨折と大腿骨近位部骨折のリスクが上昇していた。高齢や低栄養、女性においてその傾向が強く、「骨折防止の観点でもPTHの管理はthe lower, the better?」とコメント。新しいPTHの管理目標をどのように設定すべきか、同氏は「生命予後の観点ではPTHの管理目標値の上限は240pg/mLとなるかもしれないが、骨折防止の観点ではより厳格なPTHの管理を目指すべきかもしれない。また、患者の背景を考慮して、個々に検討する必要がある」と述べた。 CKD・透析患者の骨の評価では、骨代謝マーカーにも注目 腎機能低下に伴って大腿部骨折のリスク増加に関しては、多くの観察研究で報告されており、CKDや透析患者において骨の評価・管理は重要な要素である。骨の評価について、谷口 正智氏(福岡腎臓内科クリニック)から骨脆弱性と骨密度に加えて骨代謝マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)も一緒に評価すべきと提案があった。ALPと骨折リスクの相関性をみた報告によると、インタクトPTHを十分に抑えた状況でもALPが高いと大腿部頸部骨折のリスクが高くなっていることが報告されており1)、「ALPも骨の評価の予後規定因子として考えるべき」とコメント。一方、骨の管理に関してはPTH管理のポイントとして駒場氏の報告でもあった「the lower, the better?」を採用し、適切に管理したうえで骨粗鬆症治療薬の使用を考慮し、薬剤選択は標準治療に準じて検討するように提案された。今後に向けて、同氏は他領域の医師にも骨粗鬆症治療薬によるリスクを認識してもらえるようヒートマップを活用した薬剤別の表の作成や、骨密度上昇効果と骨折予防効果を明確に分けて、エビデンスレベルがどの程度まであるか示したプラクティスポイントを調整中であると述べた。腹膜透析におけるCKD-MBDによる死亡リスクとは 血液透析ではカルシウム、リン、PTHと死亡リスクに関する報告はあるものの、腹膜透析に限定した報告は存在しない。日本透析医学会の統計調査のデータベースを用いた前向きコホート研究の結果から、カルシウム、リン、PTHを可能な限り低めに保つことで全死亡や心血管死亡などのアウトカムの改善につながる可能性があることがわかった。この結果に対して、村島 美穂氏(名古屋市立大学病院 腎臓内科)は、「目標値の下限でコントロールすることを提案していきたい」とコメント。また、カルシミメティクスの投与に関して、残腎機能に注意を払う必要があると述べた。移植患者のCKD-MBDの管理とは 移植後のビスフォスフォネートや活性型ビタミンD製剤の効果、移植後を見据えた移植前のCKD-MBDの管理、移植後のCKD-MBDの管理について、河原崎 宏雄氏(帝京大学医学部附属溝口病院 第4内科)からシステマティック・レビューの紹介があった。同氏は、「ビスフォスフォネートでは骨折予防、活性型ビタミンD製剤ではPTH抑制に対して効果があるかもしれない。移植前のCKD-MBDでは、透析期間が長い、副甲状腺腫が大きい、シナカルセトの使用、移植前にカルシウムやPTHが高い場合には副甲状腺摘出術(PTx)を検討すること。そして、移植後のCKD-MBDでは高カルシウム血症に対してPTxやカルシミメティクスを検討すること」と述べた。CKD-MBDガイドラインに保存期における治療の開始時期 保存期CKDにおけるCKD-MBD治療の開始タイミングに関して、ガイドラインのClinical Questionに答えるための十分なエビデンスが存在しない状況にある。新しいCKD-MBDガイドラインの方向性について、藤井 直彦氏(兵庫県立西宮病院 腎臓内科)は、「保存期CKD患者における低カルシウム血症、高リン血症、高PTH血症のデータに注目し、CKD-MBD治療をどのタイミングで開始すればよいのか、アプローチ方法について検討中である」とコメント。保存期からカルシウム、リン、PTHを測定する目安をまとめたフローについても準備を進めていると述べた。小児におけるCKD-MBDの現状とは 日本透析医学会の統計調査データを基に小児腎不全患者におけるCKD-MBDの指標と成長、生命予後との関連について、今泉 貴広氏(名古屋大学医学部附属病院 腎臓内科)から報告があった。小児腎不全患者はPTHの増加に伴い成長が鈍化する傾向にあり、カルシウム、リン、PTHのいずれも生存との関連はなかった。同氏は、「現在、ガイドラインで設定されているインタクトPTHの目標値を覆す根拠は得られなかった」とコメント。さらなる追加解析について検討していく必要があると述べた。

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日本の統合失調症治療における向精神薬の併用~EGUIDEプロジェクト

 統合失調症のガイドラインでは、抗精神病薬の単剤療法が推奨されているが、長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬で治療中の患者では、経口抗精神病薬が併用されることが少なくない。九州大学の鬼塚 俊明氏らは、LAIまたは経口の抗精神病薬で治療を行った日本の統合失調症患者を対象に、向精神薬の使用状況を詳細に調査した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2023年5月23日号の報告。 全国94施設が参加する「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」のデータを用いて、分析を行った。対象は、2016~20年に入院治療を行った後、退院した統合失調症患者2,518例。LAI群(263例)には、いずれかのLAI抗精神病薬で治療を行った患者を含み、非LAI群(2,255例)には、退院時に経口抗精神病薬を使用していた患者を含めた。 主な結果は以下のとおり。・LAI群は、非LAI群と比較し、抗精神病薬の多剤併用率、抗精神病薬の数、クロルプロマジン等価換算量が有意に高かった。・対照的に、LAI群は、非LAI群よりも睡眠薬および/または抗不安薬の併用率が低かった。 著者らは、「これらのリアルワールドの臨床結果を提示することで、とくにLAI群では抗精神病薬の併用を減らし、非LAI群では睡眠薬や抗不安薬の併用を減らすことにより、統合失調症治療において単剤療法を念頭に置くことを臨床医に対して奨励したい」としている。

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がん遺伝子検査、よく受けるがん種・人種は?/JAMA

 米国・スタンフォード大学のAllison W. Kurian氏らは、2013~19年に同国カリフォルニア州とジョージア州でがんと診断された患者のうち、生殖細胞系列遺伝子検査を受けた患者の割合が6.8%とごくわずかであり、非ヒスパニック系白人に比べ、黒人、ヒスパニック系、アジア系の患者ではより低いことを示した。同検査は遺伝性のがんリスクを明らかにし、遺伝学的な標的治療を可能にすることで、がん患者の生存率を向上させるが、米国ではどのくらいの患者が受けているかは、これまで知られていなかった。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年6月5日号で報告された。SEERレジストリを用いた米国2州の観察研究 研究グループは、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)レジストリのデータを用いて、カリフォルニア州とジョージア州でがんの診断を受けた年齢20歳以上の患者を対象に、生殖細胞系列遺伝子検査の実施状況とその結果を調査する目的で観察研究を行った(米国国立がん研究所[NCI]などの助成を受けた)。 主要アウトカムは、がんの診断から2年以内の生殖細胞系列遺伝子検査の実施であった。がんリスクの上昇と関連するバリアント(病原性バリアント)およびがんリスクとの関連が知られていないバリアント(不確実なバリアント)を含む、各遺伝子のシークエンシングの結果を評価した。 遺伝子は、乳がんや卵巣がん、消化器がん、その他のがんなどの主要ながんとの関連、および診療ガイドラインが生殖細胞系列遺伝子検査を推奨しているか否かによって分類された。検査実施率、全体6.8%、大腸がん5.6%、肺がん0.3% 2013年1月1日~2019年3月31日の期間に、2州でがんと診断された136万9,602例のうち、生殖細胞系列遺伝子検査を受けていたのは9万3,052例(6.8%、95%信頼区間[CI]:6.8~6.8)であった。 同検査を受けた患者の割合は、がん種によってばらつきがみられ、男性乳がんが50.0%と最も高く、次いで卵巣がん38.6%、女性乳がん26.0%、多重がん7.5%、子宮体がん6.4%、膵がん5.6%、大腸がん5.6%、前立腺がん1.1%、肺がん0.3%の順であった。 ロジスティック回帰モデルによる解析では、男性乳がん、卵巣がん、女性乳がんの患者のうち検査を受けた患者の割合は、非ヒスパニック系白人が31%(95%CI:30~31)であったのに対し、他の人種・民族では低く、黒人25%(24~25)、ヒスパニック系23%(23~23)、アジア系22%(21~22)であった(χ2検定のp<0.001)。 病原性バリアントの67.5~94.9%は、診療ガイドラインで検査が推奨されている遺伝子で同定され、68.3~83.8%は、診断されたがん種と関連する遺伝子で同定された。 著者は、「遺伝子検査の実施率は経時的に上昇したが、2021年においても、診療ガイドラインで推奨されている卵巣、男性乳房、膵臓などの特定のがん種については100%を大幅に下回っていた。生殖細胞系列の遺伝子のがんスクリーニング、予防的手術、標的治療により生存率が向上することは臨床試験で実証されていることから、生殖細胞系列遺伝子検査の実施率の低さが、がん死亡率の上昇に寄与している可能性がある」と指摘している。

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わが国初の原発性手掌多汗症治療薬「アポハイドローション20%」【下平博士のDIノート】第123回

わが国初の原発性手掌多汗症治療薬「アポハイドローション20%」今回は、原発性手掌多汗症治療薬「オキシブチニン塩酸塩ローション(商品名:アポハイドローション20%、製造販売元:久光)」を紹介します。本剤はわが国初の原発性手掌多汗症の適応を有する治療薬であり、いわゆる「手汗」を抑制することで、QOLの向上や労働生産性の改善が期待されています。<効能・効果>原発性手掌多汗症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、6月1日より発売されています。本剤は抗コリン作用を有するため、閉塞隅角緑内障の患者、前立腺肥大など排尿障害のある患者、重篤な心疾患のある患者、腸閉塞または麻痺性イレウスのある患者、重症筋無力症の患者は禁忌となっています。<用法・用量>1日1回、就寝前に適量を両手掌全体に塗布します。1回の塗布量は、両手掌に対しポンプ5押し分が目安です。本剤は可燃性であるため、保存および使用の際には火気を避けます。<安全性>第III相比較試験において、下記の副作用が認められました。1~5%未満適用部位皮膚炎、適用部位そう痒感、適用部位湿疹、皮脂欠乏症、口渇0.1~1%未満適用部位紅斑、皮膚剥脱、口角口唇炎、尿中ブドウ糖陽性なお、重大な副作用として、血小板減少、麻痺性イレウス、尿閉(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、手のひらの皮膚から吸収され、エクリン汗腺の受容体をブロックすることで、発汗を抑えます。2.1日1回、就寝前にポンプ5押し分を目安として、両手の手のひら全体に塗布してください。3.起床後、手を洗うまでの間は、眼や塗布部位以外に触れないようにしてください。もし塗布時に眼に入った場合は、刺激や散瞳作用があるため、直ちに水で洗い流してください。4.眼の調節障害やめまい、眠気が現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作を行う際には注意してください。5.消化管運動が低下する恐れがあるので、消化器症状が現れた場合は使用を中止し、医療機関を受診してください。6.妊婦または妊娠している可能性のある人は医師に相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国初の原発性手掌多汗症に適応を有する薬剤です。原発性局所多汗症は、頭部・顔面、手掌、足底、腋窩に温熱や精神的負荷の有無に関わらず、日常生活に支障を来すほどの大量の発汗が生じる状態で、そのうち手掌部に発現するものが原発性手掌多汗症です。国内における原発性手掌多汗症の有病率は5.33%で、学習効率や労働生産性の低下、精神的苦痛、対人関係への悪影響など、患者のQOLが低下することがあります。「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版」において、原発性手掌多汗症に対する第1選択の治療法は、20%~50%塩化アルミニウム外用療法および水道水イオントフォレーシス療法とされています。しかし、塩化アルミニウム外用薬は保険適用外であり、イオントフォレーシスは患者自身による機器購入または機器を有する医療機関への通院が必要です。本剤の有効成分であるオキシブチニン塩酸塩は、エクリン汗腺に発現するムスカリンM3受容体に対して抗コリン作用を有することにより、抑汗作用を示します。本剤の代謝物であるN-デスエチルオキシブチニン(N-Desethyloxybutynin:DEO)も臨床効果に関与することが示唆されています。なお、オキシブチニン塩酸塩は、頻尿治療薬のポラキスやネオキシテープと同じ成分です。12歳以上の原発性手掌多汗症患者284例を対象にした国内第III相比較試験において、投与4週後に発汗量が50%以上改善した患者の割合は、プラセボ群と比較して本剤群で有意に高いことが認められました。本剤塗布から手を洗うまでの行動制限を可能な限り少なくするため、日中の塗布を避け、1日1回就寝前に塗布します。万一、塗布時に眼に入った場合は、散瞳作用および眼刺激性があることから、直ちに水で洗い流します。また、発汗を抑制するため、気温や湿度が高い場所や運動時などでも汗が出ず、体温が上がる恐れがあるため、熱中症対策も指導しましょう。なお、なお、1回の塗布量のポンプ5押し分は約0.5mLに相当し、最初の空打ち分を差し引くと、1本で約7日分に相当します。手掌多汗症の患者のQOL低下はアトピー性皮膚炎やざ瘡よりも大きいという報告もあります。保険適用の治療選択肢が増えることは朗報です。関連サイトHamm H, et al. Dermatology. 2006;212:343-353.

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第152回 新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省

<先週の動き>1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省厚生労働省は6月16日に新型コロナウイルス対策を助言する「アドバイザリーボード」を開催した。厚労省の定点把握データに基づき、新型コロナウイルス感染者数が夏の間に一定の拡大が生じる可能性があるとの見解をまとめた。定点把握による感染者数は前週比で1.12倍増加し、全国で36都府県で感染者数は増加していた。会合では高齢者など重症化リスクのある人々に対するワクチン接種の検討を求める一方、基本的な感染対策の重要性も強調された。専門家からは、感染拡大の可能性や医療提供体制についての懸念が述べられた。また、変異ウイルスのオミクロン株の亜系統「XBB」の増加や免疫逃避性の変異などにも注意が必要とされた。これに先立ち、日本小児科学会は6月6日に、新型コロナワクチンの子どもへの接種を「すべての小児に推奨する」と発表しており、「コロナ対策の緩和によって多くの子供が感染する可能性があるため、ワクチン接種は重要であり、重症化を防ぐ手段として有効だ」と主張している。同学会側は、WHOが子供へのワクチン接種を支持しており、複数の研究でも予防効果が確認されていることを指摘している。参考1)第122回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年6月16日)2)コロナ感染「夏に拡大恐れ」=定点把握は前週比1.12倍-「5類」後初会合・厚労省助言組織(時事通信)3)コロナ1カ月で2倍に、沖縄注意 専門家組織「夏に拡大の可能性」(朝日新聞)4)新型コロナワクチン「すべての小児に接種推奨」日本小児科学会(NHK)5)小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方[2023.6追補](日本小児科学会)2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府政府は6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。少子化対策の財源について具体的な言及はなく、新たな税負担も考えていないとした。防衛費の財源については増税の実施時期を2025年以降と先送りする方針だが、具体的な財源の確保は困難であり、実現するためには安定した財源が必要とされている。政府は年末までに具体化を進める予定。骨太の方針の中で、社会保障分野については、引き続き経済・財政一体改革の強化・推進を行い、限りある資源を有効に活用して質の高い医療介護サービスを提供するために、医療の機能分化と連携のさらなる推進を行い、医療・介護人材の確保や育成にあたるほか、働き方改革の実現のために医療DXの推進、医療費適正化や地域医療構想の推進のために、地域医療連携推進法人制度の有効活用などの推進が盛り込まれた。介護の分野では、高齢者の自己負担2割の対象者を拡大するか否かを年末に判断することを正式に決めた。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(内閣府)2)政府、骨太の方針を閣議決定 防衛増税後ろ倒し示唆、歳出増ずらり(朝日新聞)3)骨太の方針のポイント 物価安定・賃金上昇狙う 少子化対策 児童手当や育休給付拡充(日経新聞)4)終身雇用など日本の“常識”見直しへ 骨太方針閣議決定(産経新聞)3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府政府が391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を6月16日の閣議で決定した。この中には、医療データの個人情報を加工すれば同意が不要で研究開発に利用できる法整備や、AIを活用した契約書審査のガイドライン作成、医師の業務を一部看護師にも許可するなど、さまざまな分野での規制緩和が含まれている。また、都市部でもオンライン診療のための診療所を開設できるよう検討し、診療所管理者の常勤要件の緩和や特定行為の範囲拡充も検討する。これにより、医療のデジタル化や効率化が進む見込み。さらに、医療データの2次利用の同意不要化や、在宅患者への薬剤提供体制整備、プログラム医療機器の保険適用の検討なども行われている。この実施計画は2023年中に結論を出す予定。参考1)『規制改革実施計画』[令和5年6月16日閣議決定](内閣府)2)参考資料[内閣府規制改革推進室作成](同)3)規制緩和策 391項目盛り込んだ政府の計画 閣議決定(NHK)4)都市部でも公民館でオンライン診療、年内に結論 新たな規制改革実施計画を閣議決定(CB news)4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省厚生労働省が行なったドクターカーの運用に関する全国調査の内容が判明した。これによると、24時間体制で運用している病院は全体の約20%に過ぎず、手術可能なドクターカーは約30%、輸血可能なドクターカーは約10%であることが明らかになった。この中で人員不足が主な課題とされており、厚労省は効率的な運用のための指針を策定し、救命率の向上につなげたいと考えている。調査は厚生労働省調査研究事業「ドクターカーの運用事例等に関する調査研究事業」として全国ドクターカー協議会によって実施され、約140病院が回答した。調査によると2021年1月~2022年9月にかけて、ドクターカーで診療された患者は約5万4,800人。しかし、夜間運用や手術能力、輸血能力に関しては課題があり、運用している病院は限られていた。また、ドクターカーの購入費用は装備を含めて1台当たり1,000~4,000万円かかり、国の補助もあるが、病院の負担も大きい。全国ドクターカー協議会は、データ収集と分析を行い、ドクターカーの診療能力向上のために、車内診療の訓練コースなどを設けるなどの取り組みを行っていく考えを示している。参考1)ドクターカー「24時間」運用2割、人員不足など課題…「手術可能」は3割(読売新聞)5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題について、衆参両院がまとめた調査報告書原案の全文が判明した。調査では、手術の65%が本人の同意なしに行われ、盲腸など別の手術と偽って手術が行われたり、審査会を開催せずに書類だけで手術を決定するなど、ずさんな実態が浮かび上がった。最年少の被害者は9歳で、児童施設や福祉施設の入所条件として手術が行われた事例も認められた。報告書によれば、旧法に基づき全国で実施された手術は2万4,993件で、本人の同意なしの手術は1万6,475件だった。被害の背景には経済的な困難や家族の意向、福祉施設の入所条件などがあった。報告書の原案は衆参両院に提出され、公表される予定。この問題について、国会の議長や厚生労働委員会の委員長は謝罪の意を表明した。参考1)盲腸と偽り不妊手術、最年少9歳 同意なし65%、旧優生報告判明(東京新聞)2)強制不妊、最年少は9歳 国の報告書全文判明 旧優生保護法、衆参議長提出へ(時事通信)3)旧優生保護法 いきさつなど調べた国会の報告書案まとまる(NHK)6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に医療脱毛クリニック「ウルフクリニック」が突如として全店舗を休業し、破産手続きの準備を進めていることが明らかになった。クリニックはコース契約を結んだ患者に対する返金も行わず、従業員の給与も未払いのままで、被害総額は約1億8,000万円と推定されている。男性の医療脱毛を扱うウルフクリニックは東京、神奈川、愛知、大阪に5店舗を展開していたが、今年4月に全店舗を休業し、先月末に突然の破産を発表した。被害者たちは、返金対応がずさんであることを、クリニックの会議の録音や返金対応マニュアルから明らかにした。運営会社の幹部の会議の録音データからは、クリニックが自転車操業に陥っており、客からの入金がなくなったために従業員への給与支払いができなくなったことが判明している。被害者は900人以上を上回っており、被害者らは集団訴訟を起こす見込み。参考1)「通い放題」トラブル相次ぐ脱毛サロン、倒産が過去最多に 年度内には業界大手「脱毛ラボ」が破綻、一般利用者3万人に被害(産経新聞)2)「マジ終わった」脱毛クリニック破産手続き準備 被害総額1億8,000万円か 集団提訴へ(テレビ朝日)

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併存症のある患者での注意点~高齢者糖尿病診療ガイドライン2023/糖尿病学会

 5月11日~13日に城山ホテル鹿児島をメイン会場に第66回 日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 高齢者の糖尿病患者では、糖尿病とは別に併存症があるケースが多い。では、糖尿病以外の疾病もある高齢者の糖尿病患者の診療はどうあるべきであろう。 本稿では、「シンポジウム10 より良い高齢糖尿病ケアを目指して」より「高齢者糖尿病の合併症と併存症」(杉本 研氏 [川崎医科大学総合老年医学])の口演をお届けする。 2023年5月に『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2023』(以下「ガイドライン」と略す)が上梓され、今回の口演は、このガイドラインの内容を踏まえて構成されている。 今回のガイドラインの改訂では、合併症と併存症につき、「併存症」が独立して章立てされた。また、併存症の予防・管理が、健康寿命の延伸には重要となることが改めて確認され、引き続き、高齢の糖尿病患者の診療では、平均余命の減少と低血糖の高リスクをどのように防止するかが重要とされている。 とくに杉本氏は「高齢者の併存疾患で注意したいのが、動脈硬化性疾患であり、高齢者のADLとQOLを大きく損ない健康寿命などに影響を与える」と診療での注意点を強調した。 続いて先のガイドライン中で「高齢者の併存疾患」を取り上げ、重要なポイントを説明した。 なお、ガイドラインでは、「CQ」と「Q」に分けて、「CQ」は「推奨度(推奨グレード)を問う疑問として回答が可能な臨床的疑問」を、「Q」は「CQ以外の臨床的疑問(推奨グレードは付さない)」について記述している。■高齢者の糖尿病治療が認知機能などの低下抑制になるかは不明 CQ V-3「高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か?」というCQでは「血糖コントロールが認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU:推奨するだけの明確根拠がない)、「糖尿病治療薬による治療が認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU)として研究の余地を残している。 Q V-4「高齢者糖尿病の高血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病または高血糖は、フレイル、サルコペニアの危険因子である」とされ、これについて杉本氏は「8つのメタ解析から糖尿病はフレイルの危険因子となり(オッズ比1.48)1)、サルコぺニアはBMI25以下で増加する」と説明した。 同様にQ V-5「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコぺニアに危険因子である」としている。 Q V-6「高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か?」というQでは「高齢者糖尿病の血糖コントロールが筋量や筋力の維持に有効かは明らかではない」としている。ただ、HbA1cとサルコぺニアの関係では、いくつかの論文で弱い相関を示唆するものもあり、今後研究が待たれる。また、薬物治療の影響については、フレイルとSGLT2阻害薬との関係は「現状では『明らかでない』としか言えない」と杉本氏は説明した。 Q V-8「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子であり、インスリン使用者ではとくに注意を要する」と転倒への注意を記載している。 Q V-9「高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か?」というQでは「高齢者糖尿病における血糖コントロール状態は転倒に影響するが、厳格な血糖コントロールの影響は明らかではない」、「高齢者糖尿病における血糖コントロールの改善が転倒の予防に有用であるかは不明である」と研究の余地を残している。■高齢者糖尿病の心不全の予防・改善に糖尿病治療薬は有効か 悪性腫瘍や心不全、multimorbidity(多疾患罹患)についても触れ、とくに心不全、multimorbidityでは次の3つのQについて説明を行った。 Q V-16「高齢者糖尿病において糖尿病治療薬は心不全の予防・改善に有効か?」というQでは、「高齢者糖尿病においてSGLT2阻害薬は心不全の予防・改善に有効な可能性がある」とする一方で「高齢者糖尿病においてDPP-4阻害薬が心不全リスクに及ぼす影響は明らかではない」と記載している。 そして、このQに関して杉本氏は、SGLT2阻害薬による心不全への影響は70歳以上でより良かったとする報告2)がある一方で、有意なBNPの低下がなかったとする報告もある3)ことを述べ、自験例としながらもSGLT2阻害薬で左室心筋重量係数(LVMI)の低下がみられたことを報告した。 Q V-18「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすいか?」というQでは、「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすい」と記載している。 また、Q V-19「高齢者糖尿病のmultimorbidityではどのような点に注意すべきか?」というQでは「高齢者糖尿病のmultimorbidityにどのような対応を行うべきかのエビデンスは不足しているが、低血糖に注意し、多職種で患者・家族の意思決定の支援をしながら目標を設定していくことが望ましい」と記載している。 今回のガイドラインを受け杉本氏は75歳以上では4つ以上の疾患の合併割合が多くなること、とくに認知症、腎機能不全、骨折が多くなることを指摘するとともに、「重症低血糖では、糖尿病治療薬もインスリンやSU薬など3剤以上の併用も多くなり、ポリファーマシーへの配慮も必要」と述べ、口演を終えた。■参考文献1)Hanlon P, et al. Lancet Healthy Longev. 2020 Dec;1:e106-e116.2)Martinez FA, et al. Circulation. 2020;141:100-111.3)Tamaki S, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e007048.

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末梢性めまいで“最も頻度の高い”良性発作性頭位めまい症、BPPV診療ガイドライン改訂

 『良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療ガイドライン』の初版が2009年に発刊されて以来、15年ぶりとなる改訂が行われた。今回、BPPV診療ガイドラインの作成委員長を務めた今井 貴夫氏(ベルランド総合病院)に専門医が押さえておくべきClinical Question(CQ)やBPPV診療ガイドラインでは触れられていない一般内科医が良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo)を疑う際に役立つ方法などについて話を聞いた。BPPVは末梢性めまいのなかで最も頻度が高い疾患 BPPVは末梢性めまいのなかで最も頻度が高い疾患である。治療法は確立しており予後は良好であるが、日常動作によって強いめまいが発現したり、症状が週単位で持続したりする点で患者を不安に追い込むことがある。また、BPPVはCa代謝の異常により耳石器の耳石膜から耳石がはがれやすくなって症状が出現することから、加齢(50代~)、骨粗鬆症のようなCa代謝異常が生じる疾患への罹患、高血圧、高脂血症、喫煙、肥満、脳卒中、片頭痛などの既往により好発するため、さまざまな診療科の医師による理解が必要になる。 よって、BPPV診療ガイドラインは耳鼻咽喉科や神経内科などめまいを扱う医療者向けにMinds診療ガイドライン作成マニュアルに準拠し作成されているが、BPPVの疫学(p.20)や鑑別診断(p.25~27)はぜひ多くの医師に一読いただきたい。 以下、BPPV診療ガイドラインの治療に関する全10項目のCQを示す。―――CQ1:後半規管型BPPVに耳石置換法は有効か?CQ2:後半規管型BPPVに対する耳石置換術中に乳突部バイブレーションを併用すると効果が高いか?CQ3:後半規管型BPPVに対する耳石置換法後に頭部の運動制限を行うと効果が高いか?CQ4:外側半規管型BPPV(半規管結石症)に耳石置換法は有効か?CQ5:外側半規管型BPPV(クプラ結石症)に耳石置換法は有効か?CQ6:BPPVは自然治癒するので経過観察のみでもよいか?CQ7:BPPV発症のリスクファクターは?CQ8:BPPVの再発率と再発防止法は?CQ9:BPPVに半規管遮断術は有効か?CQ10:BPPVに薬物治療は有効か?――― 今回、今井氏は「めまい診療を行う医師にはCQ5とCQ8に目を通して欲しい」と述べており、その理由として「両者に共通するのは、諸外国では積極的に行われているにもかかわらず日本ではまだ実績が少ない治療法という点」と話した。「たとえば、CQ8のBPPVの再発防止については、ビタミンDとカルシウム摂取が有効であると報告されているが、国内でのエビデンスがないため推奨度は低く設定された。次回のBPPV診療ガイドライン改訂までにエビデンスが得られ、推奨度が高くなることを期待する」とも話した。BPPVと鑑別すべきめまいを伴う疾患 めまいを伴う疾患はBPPVのほか、脳卒中やメニエール病をはじめ、前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴、起立性調節障害、起立性低血圧が挙げられる。とくに起立性低血圧はBPPVの34%で合併しており鑑別が困難であるので注意したい。なお、めまいの訴えが初回で単発性の場合、高血圧・心疾患・糖尿病が既往にある患者では脳卒中も鑑別診断に挙げるべきである。BPPVを疑う鍵は「めまいが5分以内で治まる」か否か BPPVの確定診断のためには特異的な“眼振”を確認することが必要であるので、フレンツェル眼鏡や赤外線CCDカメラといった特殊機材を有している施設でしか診断できないが、同氏は「BPPV診療ガイドラインには掲載されていないが、非専門医でもBPPVを疑うことは可能」とコメントしている。「眼振が確認できない施設では、われわれが開発した採点システム1)を用いて患者の症状をスコア化し、合計2点以上であればBPPVを疑って専門医に紹介して欲しい」と説明した。 本採点システムを開発するにあたり、同氏らは大阪大学医学部附属病院の耳鼻咽喉科およびその関連病院のめまい患者571例を対象に共通の問診を行い、χ2検定を実施。BPPV患者とそれ以外の患者で答えに有意差のあった問診項目を10個抽出した。同氏はこれについて「10個の項目に0~10点を付け、患者の答えから求めた合計点によりBPPVか否かを判断した際、感度、特異度の和が最も高くなるように点数を決定し、0点の項目を除外すると最終的に4項目に絞ることができた。なかでも“めまいが5分以内で治まる”は点数が2点と高く、BPPV診断で最も重要な問診項目であることも示された」と説明した。なお、本採点システムによる BPPVの診断の感度は81%、特異度は69%だった。 以下より、そのツールを基にケアネットで作成した患者向けスライドをダウンロードできるので、非専門医の方にはぜひ利用して欲しい。『良性発作性頭位めまい症の判別ツール』(患者向け説明スライド) なお、CareNeTVでは『ガイドラインから学ぶ良性発作性頭位めまい症(BPPV)診療のポイント』を配信中。話術でも定評のある新井 基洋氏(横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科 部長)が改訂BPPV診療ガイドラインを基に豊富な写真・イラストや動画を用いて解説している。

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HR+/HER2-進行乳がん、CDK4/6阻害薬は1次治療か2次治療か(SONIA)/ASCO2023

 HR+/HER2-進行乳がんに対する1次治療でのCDK4/6阻害薬使用は、2次治療での使用と比較して、無増悪生存期間(PFS)の有意な減少や臨床的に意味のある有用性が認められなかったことが、オランダで全国的に実施された医師主導の第III相SONIA試験で示された。また、CDK4/6阻害薬を1次治療で使用すると使用期間が16.5ヵ月長くなり、毒性および治療費用が増加したという。オランダ・The Netherlands Cancer InstituteのGabe S. Sonke氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。 CDK4/6阻害薬の1次治療での使用は2次治療での使用より毒性が長期にわたり、治療費用も増加しているが、現在、ほとんどの世界的なガイドラインでは1次治療での使用を推奨している。しかし、1次治療での使用の2次治療での使用に対する優越性は、head-to-headの比較試験から得られているわけではない。本試験では、オランダの74病院におけるHR+/HER2-進行乳がんを対象に進行がんに未治療の患者において、1次治療もしくは2次治療の内分泌療法へのCDK4/6阻害薬追加の有効性、安全性、費用対効果を評価した。・対象:測定可能または評価可能な病変を有し、進行がんに未治療の閉経前・後のHR+/HER2-進行乳がん(WHO PS 0~2) 1,050例・A群:1次治療で非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(AI)+CDK4/6阻害薬(アベマシクリブ、パルボシクリブ、リボシクリブから治験担当医師が選択)、進行後フルベストラント 524例・B群:1次治療で非ステロイド性AI単独、進行後フルベストラント+CDK4/6阻害薬 526例・評価項目:[主要評価項目]PFS2(2次治療でのPFS:無作為化から増悪/死亡まで)[副次評価項目]QOL、全生存期間(OS)、費用対効果 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2022年12月1日)時点の追跡期間中央値は37.3ヵ月だった。・CDK4/6阻害薬の投与期間中央値は、A群24.6ヵ月、B群8.1ヵ月で、A群が16.5ヵ月長かった。・1次治療におけるPFS(PFS1)中央値は、A群24.7ヵ月、B群(AI単独)16.1ヵ月だった(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.51~0.69、p<0.0001)。PFS2中央値はA群31.0ヵ月、B群26.8ヵ月で有意差は認められなかった(HR:0.87、95%CI:0.75~1.03、p=0.10)。これは、どのサブグループ解析でも同様だった。・OS中央値はA群45.9ヵ月、B群53.7ヵ月で、有意差は認められなかった(HR:0.98、95%CI:0.80~1.20、p=0.83)。・QOL(FACT-B合計スコア)に差はなかった。・安全性については、CDK4/6阻害薬の特徴的な有害事象が認められ、Grade3以上の有害事象はA群が42%多かった。・患者当たりの薬剤費用はA群のほうが20万ドル高かった。 本試験の結果から、Sonke氏は「1次治療において内分泌療法単独は優れた選択肢」と述べ、「SONIA試験のような試験は、効果的な薬剤の毒性を大きく減少でき、また、高価なために手の届かない患者が利用しやすくなる」と考察している。

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心アミロイドーシス、本当に除外できていますか?【心不全診療Up to Date】第9回

第9回 心アミロイドーシス、本当に除外できていますか?Key Points心臓に影響を及ぼすアミロイドーシスには、どんな種類がある?最近話題のATTRアミロイドーシスって、なに?まずは疑い、早期発見!~心アミロイドーシス診断の今とこれから~はじめに心アミロイドーシスとは、心臓の間質にアミロイドと呼ばれる不溶性の異常な線維が沈着して機能障害を引き起こす、重篤で進行性の浸潤性疾患である。そのアミロイドが形成されるために必要なアミロイド前駆蛋白は、現在30種類以上同定されているが、心アミロイドーシスを来す病型は、異常形質細胞により産生されたモノクローナルな免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイドが全身諸臓器に沈着する免疫グロブリン性(AL, amyloid light chain)アミロイドーシス、トランスサイレチン(TTR, transthyretin) を前駆蛋白とするアミロイドが全身諸臓器に沈着するATTRアミロイドーシスのどちらかで98%以上を占める1)(図1、表1)。(図1)心臓に影響を及ぼすアミロイドーシスは、主にこの2種類画像を拡大するそしてATTRアミロイドーシスの中に、TTR遺伝子に変異のある遺伝性トランスサイレチン(ATTRv, hereditary transthyretin)アミロイドーシス(常染色体優性の遺伝性疾患)と、変異のない野生型トランスサイレチン(ATTRwt, wild-type transthyretin)アミロイドーシス(旧病名:老人性全身性アミロイドーシス)が存在する(表1)。(表1)心アミロイドーシスの主な種類とその特徴画像を拡大する画像診断技術や非侵襲的な診断方法の進歩のおかげで、そのほかの疾患で偶然診断されることも少なくなく(図2)、心アミロイドーシスは従来考えられていたよりも頻度の高い疾患であることがわかってきている。とくに近年症例数が増加している病型は、高齢者に多いATTRwtアミロイドーシスである2,3)(後述の表3で説明)。(図2)さまざまな場面における心アミロイドーシスの有病率画像を拡大するそして、心アミロイドーシスといえば、早期発見、早期治療がきわめて重要な疾患であるが、それはなぜか。その理由を含め、心アミロイドーシスの今とこれからについて皆さまと共有したい。まずは疑い、早期発見!~心アミロイドーシス診断の今とこれから~心アミロイドーシスを見逃さず早期発見するための症状やポイントを表2、図3にまとめた。(表2)心アミロイドーシスをいつ疑うか画像を拡大する臨床症状は多様であるが、まずは心アミロイドーシスのRed Flagsをしっかり把握しておくことが重要である。左室壁肥厚があるにもかかわらず心電図上は低電位を呈する、ACE阻害薬やβ遮断薬などの心不全治療薬に抵抗性であるなど、表2に詳細を記載したので、ぜひご確認いただきたい。それ以外にも、ATTRアミロイドーシスやALアミロイドーシスを疑う所見も表2、図3に記載した。このように、病歴、血液検査、心電図、心エコー図検査などを参考にしながら、「まずは疑う」という姿勢こそが見逃さないためにきわめて重要である(表3)。(表3)トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は稀ではない!画像を拡大するそして、臨床的に心アミロイドーシスを疑われた場合(表2、図3)、本当に心アミロイドーシスか、アミロイドーシスであれば、どの病型かを診断していくこととなる。その診断アルゴリズムを最新の文献を参考に図4にまとめたので、これを基に診断方法を解説していく。なお、本邦の「2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン」にも大変わかりやすい診断アルゴリズムが掲載されており、ぜひこちらも一読いただきたい。(図3)心アミロイドーシスの症状画像を拡大する(図4)心アミロイドーシスの診断アルゴリズム4,5)画像を拡大する心アミロイドーシスを疑った場合、まず行うべきことは、治療可能なALアミロイドーシス(未治療の場合、急速に進行する致命的な疾患!)の除外である。ALアミロイドーシスは、骨髄中のクローナルな(腫瘍化した)形質細胞の過剰増殖によるもので、通常、血清または尿中にモノクローナル蛋白(M蛋白)が検出される。この疾患は、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS, monoclonal gammopathy of undetermined significance)、くすぶり型骨髄腫(SMM, smoldering multiple myeloma)、多発性骨髄腫(MM, multiple myeloma)にまたがる疾患群の一部である。MGUSは、クローナルな形質細胞のわずかな過剰増殖(骨髄中のクローナルな形質細胞比率<10%)によるものであり、血清M蛋白が3g/dL未満で、クローンに関連する臓器障害(CRAB [高Ca血症:calcium、腎不全:renal、貧血:anemia、溶骨性骨病変:bone]など)がないと定義される。SMMは、骨髄形質細胞または血清M蛋白のいずれか(または両方)が基準値を超えているが、臓器障害がない患者を指す。そして、最終的には臓器障害(CRAB)を合併し、MMとなる。定義上、ALアミロイドーシスは、MGUSとSMMのいずれにも該当しないが、AL患者の骨髄やM蛋白はそれらの定義に合致している。重要な点は、AL患者は、心筋障害、腎障害、神経障害、肝障害などの臓器障害を有し、化学療法を必要とするということである。治療の詳細は後編で述べる。現在、ALアミロイドーシスを除外するための最も効率的で効果的な方法は、血清および尿蛋白免疫固定電気泳動法(IFE, immunofixation electrophoresis)、血清遊離軽鎖(sFLC, serum free light chain)アッセイ、この3つの簡易検査を行うことである。血清および尿のIFEでM蛋白が検出されず、sFLCアッセイが正常(κ/λ比:0.26~1.65)であれば、ALアミロイドーシスを除外するための陰性的中率は約99%となる(なお、sFLCの正常値は、使用するアッセイによって異なる)6,7)。なお、これらの検査が陽性であれば、生検が必要であり、今後の早期治療も踏まえて早急に血液内科へコンサルトする。一方、これらの検査が陰性であれば、次に行うべき検査は、ピロリン酸シンチグラフィ(99mTc-PYP)である。その結果、視覚的評価法のGrade2(肋骨と同等の心臓への中等度集積)もしくはGrade3(肋骨よりも強い心臓への高度集積)、心/対側肺野比(H/CL比)≧1.5(1時間後撮影)もしくは1.3(3時間後撮影)であれば、ATTRアミロイドーシスと診断される8)。ただし、Grade2の症例では、ALや血液プールへの生理的集積を鑑別する必要があるため、プラナー撮影にSPECT撮影をできる限り追加し、心筋や血液プールへの集積をより正確に評価することが推奨されている8,9)。そして最後にTTR遺伝子解析を行い、ATTRvかATTRwtかを診断する。以上、診断アルゴリズムについて詳しく説明してきたが、最後に少し心アミロイドーシス診断のこれからについて、述べてみたい。近年、人工知能・深層学習モデルを用いて心電図や心エコー図検査から心アミロイドーシスを自動検出する技術の進歩が凄まじく、かなりの精度で完全自動診断できるという報告10)や、機械学習モデルを用いて電子カルテ情報からATTRwtアミロイド心筋症のリスク評価を自動で行い、早期診断に繋げるという報告がある11)。このように、心アミロイドーシスが早期に自動診断される時代はすぐそこに来ており、わが国においても、いち早くこのようなシステムが導入されることが望まれる。以上、今回は心アミロイドーシスとはどういったもので、診断をどうすべきかについて述べてきた。次回は、心アミロイドーシスの最新治療を含めた治療の今とこれからについて詳しくまとめていきたいので、乞うご期待。第10回につづく。1)Benson MD, et al. Amyloid. 2018;25:215-219.2)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.3)Aimo A, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24:2342-2351.4)Hanna M, J Am Coli Cardiol. 2020;75:2851-2862.5)Kittleson MM, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1076-1126.6)Katzmann JA, et al. Clin Biochem Rev. 2009;30:105-111.7)Katzmann JA, et al. Clin Chem. 2002;48:1437-1444.8)Dorbala S, et al. J Nucl Cardiol. 2019;26:2065-2123.9)Singh V, et al. J nucl Cardiol. 2019;26:158-173.10)Goto S, et al. Nat Commun. 2021;12:2726.11)Huda A, et al. Nat Commun. 2021;12:2725.

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