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ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第55回

第55回 ネガティブな結果を超ポジティブに考える PROMINENT試験冠動脈疾患の危険因子の代表である脂質への介入で、最も目覚ましい成果を挙げている薬剤がスタチンです。多くの疫学研究から、中性脂肪(トリグリセライド:TG)は独立した心血管イベントのリスク因子とされます。しかしながら、スタチン治療下でも高TG血症を呈する症例にしばしば遭遇します。このような例での冠動脈疾患の残余リスク低減に、TG低下作用を持つフィブラート系薬であるペマフィブラートの効果を検証するための臨床研究が実施されました。PROMINENT試験と呼ばれ、十分量のスタチン治療下で、中性脂肪が高く、かつHDLコレステロールが低い2型糖尿病患者を対象に、この薬剤の心血管イベントの抑制作用を確認するデザインでした。2022年11月に米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会で結果が発表され、その詳細は臨床系の医学雑誌の最高峰であるNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med. 2022;387:1923-1934)。この研究には日本人医師の多くが関心をもっていました。その理由は、本研究は日本人の患者を含む24ヵ国876施設から10,497例が登録されたグローバル試験であるだけでなく、本研究の鍵となるペマフィブラートが日本企業で創製され、その企業の研究開発組織からの資金提供により実施されたからです。つまり日本発の薬剤が世界に勝負を挑んだ大一番であったのです。残念!結果は期待どおりではありませんでした。ペマフィブラート群とプラセボ群のイベント発生率曲線は、観察期間中ほぼ一貫して重なっていました。事前設定されたサブグループ解析も、両群に有意差はありませんでした。つまり、心血管イベントの発生率の抑制作用は証明されなかったのです。PROMINENT試験の結果は、「negative results(否定的な結果)」でした。科学や学問の世界、とくに医療界では否定的な結果が公表されない傾向にあることが問題になっています。膨大なコストを要する臨床試験の実施には、利益を追求する企業として期待する結果があったと推察します。否定的な結果となったPROMINENT試験の結果を、公開することに同意した当該企業の高い倫理観と見識に敬意を表します。また、その否定的な結果を掲載するからこそNEJM誌は一流誌と言われるのだと納得します。否定的な結果が公表されにくい理由を考えてみましょう。単純にいえば、派手で注目を浴びるストーリーが欲しいという人間の根幹的な欲望があります。論文を掲載する側にも有効性を示すポジティブな論文を好むというバイアスがあります。ポジティブな論文のほうが被引用回数を稼ぐことも期待され、インパクトファクター上昇にも寄与します。否定的な研究結果はポジティブな結果よりも公表される可能性が低く、公表された論文を集めるとポジティブな結果に偏りやすいことを出版バイアスと言います。否定的な結果が公表されにくく、ポジティブな研究結果が多くなることによって、メタ解析による分析の結果が肯定的なほうへ偏るといった影響が出ます。メタ解析の結果は、EBMにおいて最も質の高い根拠とされ、診療ガイドラインの策定にも大きな影響を与えます。そのメタ解析の結果に誤認があれば、大勢の健康に影響を与えることに繋がります。PROMINENT試験の否定的な結果についても十分な考察が必要です。研究のベースライン時で95.7%がスタチンを投与されています。さらに、ACE阻害薬やARBの高率な使用や、GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬なども影響を与えていることでしょう。心血管イベント抑制作用がすでに確認された複数の薬剤が使用可能な現状で、中性脂肪への介入の上乗せ効果を獲得する余地があるのかどうかも議論すべきでしょう。観察研究と介入研究の違いもあります。観察研究では、中性脂肪の高い人にイベントが多く、中性脂肪の低い人にイベントが少ないことは事実かもしれません。しかし、高い中性脂肪を薬剤介入で低下させることにより、イベントを抑制することが可能かどうかは別の問題なのかもしれません。人は、人生においても辛くネガティブな経験に遭遇しながらも、それに対処しながら生きているものです。企業の運営や経営も人生になぞらえることができます。これが法人という言葉の由縁です。人も企業も、ネガティブな経験に苦しむだけでなく、それを乗り越え肯定的な意味に昇華させていくことが必要です。科学や医学の発展を望むならば、否定的な結果が論文として公表され、さらにそれが活かされるシステムが必要です。否定的な試験には、より良い新たな臨床試験を立案するためなど重要な存在意義があるからです。今回、PROMINENT試験の結果は残念ながら否定的な結果でした。しかし、その臨床研究に取り組む姿勢や志には共感するものがあります。エールを送りたい気持ちです。製薬企業の利益の実現のためだけではなく、人類がより健康になることを目指して活動していることが伝わってきます。今後も解決すべき健康上の課題は多く残されています。今も心筋梗塞で命を落とす患者さんが存在する残念な事実が、その証左です。さあ、ポジティブに前に進みましょう!

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第128回 かかりつけ医機能もつ医療機関の公表を/全世代型社会保障構築会議

<先週の動き>1.かかりつけ医機能もつ医療機関の公表を/全世代型社会保障構築会議2.入手困難な医療用解熱鎮痛薬に110番を設置/厚労省3.病院経営者に医療情報のガイドライン順守を求めるガイドラインを改定へ/厚労省4.75歳以上の4割が健康保険料を段階的に引き上げへ/厚労省5.薬価改定で半数近くを引き下げ、3,100億円削減へ/厚労省6.地域医療構想で急性期病床6,600床が減少、一定の成果を確認/厚労省1.かかりつけ医機能もつ医療機関の公表を/全世代型社会保障構築会議岸田文雄総理は総理大臣官邸で全世代型社会保障構築会議と全世代型社会保障構築本部を合同開催し、全世代型社会保障構築会議報告書について、意見交換を行った。公表された報告書には「かかりつけ医機能」が発揮される制度整備が明記され、今後の高齢者人口のさらなる増加と人口減少を見据え、かかりつけ医機能が発揮される制度整備は不可欠としている。また、「かかりつけ医機能」の定義は、現行の医療法施行規則に規定されている「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」をベースに検討すべきとしている。かかりつけ医機能は、医療機関、患者それぞれの手挙げ方式で、患者がかかりつけ医機能を持つ医療機関を選択できる方式とするため、医療機能情報提供制度を拡充するため、医療機関が自ら有するかかりつけ医機能を都道府県に報告する制度を創設することとなっている。今後、この報告書をもとに、医療法など改正案を次期通常国会で審議する見込み。(参考)第12回全世代型社会保障構築会議(内閣官房)全世代型社会保障構築会議 報告書(同)「かかりつけ医機能」全て提供可能なら確認・公表 全世代型会議が報告書決定(CB news)2.入手困難な医療用解熱鎮痛薬に110番を設置/厚労省12月16日、加藤厚生労働大臣は、医療機関や薬局向けに、医療用解熱鎮痛薬の購入をサポートする相談窓口を設置したと明らかにした。医療用解熱鎮痛薬について、各メーカーが限定出荷を行っているため入手が困難となっている状況に対応して、需要が急増している医療機関や小規模な薬局などに優先して供給を行うよう医薬品卸売業者に要請しているが、解熱鎮痛薬などが購入できない医療機関や薬局に対応するため、相談窓口を開設した。供給が困難な場合は、厚生労働省の相談窓口にメールを送信した場合、相談のあった医療機関や薬局のある地域の卸売業者に同省が働きかけるとしている。(参考)医療用解熱鎮痛薬等の供給相談窓口(医療用解熱鎮痛薬等110番)の設置について(厚労省)解熱鎮痛剤の入手支援 コロナ感染増で厚労省(産経新聞)解熱鎮痛薬、入手困難の薬局向けに相談窓口…厚労省が卸売業者に供給依頼(読売新聞)解熱鎮痛薬やせき止め 感染拡大で入手難しく 厚労省が供給支援(NHK)3.病院経営者に医療情報のガイドライン順守を求めるガイドラインを改定へ/厚労省厚生労働省は12月15日に健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」を開催し、近年急増しているサイバー攻撃による電子カルテの被害を防ぐため、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を改定して、病院経営層に対して、医療情報システムの安全管理に関する責任や、リスク評価など、安全管理に必要な項目などを指針の改定版に盛り込むことを明らかにした。新しいガイドラインはパブリックコメントを経て、2023年3月上旬に改定を行い、公表される見通し。(参考)セキュリティー対策、指針に経営層の順守事項明示へ 改定版の概要提示、厚労省(CB news)続発する病院へのサイバー攻撃 情報公開で教訓の「バトン」つなごう(朝日新聞)全医療機関に「セキュリティー責任者を」、大学病院団体が提言へ…大阪の病院サイバー攻撃(読売新聞)第13回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料[令和4年12月15日](厚労省)医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版 概要(同)4.75歳以上の4割が健康保険料を段階的に引き上げへ/厚労省厚生労働省は、12月15日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度において、一定の年収を超える人が支払う保険料の上限金額を引き上げることについて議論を行った。年間保険料の上限は、2024年度に73万円、2025年度に80万円と段階的に引き上げ、激変緩和措置を設けることになった。これにより、現役世代の負担を抑えるとともに、出産育児一時金の財源に充てることを目指す。(参考)第161回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)75歳以上の4割で医療保険料を増額、出産一時金の財源に…審議会が了承(読売新聞)75歳以上医療保険料の上限額、段階的に引き上げ 24-25年度、厚労省(CB news)医療保険改革案まとまる!「段階的な保険料(税)引き上げ」により、後期高齢者の急激な負担増に配慮!-社保審・医療保険部会(1)(GemMed)5.薬価改定で半数近くを引き下げ、3,100億円削減へ/厚労省厚生労働省は、12月16日に中央社会保険医療協議会薬価専門部会を開き、来年の春に実施される薬価改定について討論を行い、最終的には48%の品目を薬価引き下げの対象とする一方、原価高騰のため不採算となっている医薬品6%については価格を引き上げるとした。従来は2年ごとに改定していた薬価の見直しは2021年度から毎年実施しており、製薬業界からは新薬によるイノベーションに対する評価を求める声があり、前回の中間年の2021年度の削減額4,300億円と比較すると1,200億円ほど低くなる見通し。(参考)中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(厚労省)薬価改定で医療費3100億円減 来年度、48%の品目引き下げ(日経新聞)23年度薬価改定 48%の品目で薬価引き下げも6%は引上げ 加藤厚労相「メリハリ利かせた見直し」(ミクスオンライン)全医薬品の48%薬価引き下げへ、来年度 全品目の6%は上げ、3閣僚合意(CB news)6.地域医療構想で急性期病床6,600床が減少、一定の成果を確認/厚労省厚生労働省は、12月14日に地域医療構想および医師確保計画に関するワーキンググループを開催し、2019年に再編統合の議論が必要としてきた公立病院と公的病院の全国436病院のうち、228病院の病床が25年7月までに2,900床減少する見通しであることを明らかにした。対象となった3万6,800床が、25年7月までには3万3,900床となる。削減されるのは急性期病床が6,600床、慢性期病床が1,200床。代わりに回復期病床は4,900床増え、高度急性期も100床増加が見込まれている。一方、民間病院については「合意済み」が全体の29%にとどまるなど、今後は、未着手の民間病院への対応にシフトしていくよう求める声が上がった。(参考)第10回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ(厚労省)再編検討228病院、急性期6,600床削減見込み 厚労省調べ、25年までの8年間で(CB news)424病院は「再編検討を」 厚労省、全国のリスト公表(日経新聞)

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第139回 情報過多でも希少疾病の患者が孤立する理由

私のような仕事をしている者のもとにはさまざまな企業・組織からプレスリリースや記者会見などの案内が届く。一昔前はこうしたリリースなどはメディア各社が所属する記者クラブに一括して届き、それを基に各社の記者が会見などに出席することが一般的な流れだった。このため以前の本連載で私のようなフリーは、この点でかなり不利であると書いた。それでも世の連絡手段が電話中心からインターネットを介したメール中心になったことでかなり改善はしている。そのためほぼ毎日のように、どこからかはメールでリリースが届く。そうした中、医療関係のニュースリリースで最近一番増えているのは、製薬企業が主催する疾患啓発のプレス向けセミナーである。もちろん主催する製薬企業側は啓発対象疾患の治療薬を有し、セミナーの中心は対象疾患のキーオピニオンリーダー(KOL)とされる医師の講演である。ただし、一昔前と比べ、実際のセミナー内容には変化が認められる。まず、2018年に厚生労働省が策定した「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の影響で、セミナー内で直接的に主催製薬企業の製品名が出てくることはかなり少なくなった。中にはKOLの医師が治療の実際について解説する際も、主催企業の製品も含め一般名すら言及されることなく、「A薬」「B薬」などと伏字にされていることもある。また、かつてはこうしたセミナーが取り扱う疾患は高血圧症や糖尿病などいわゆるコモンディジーズが多かったが、現在は製薬企業の新薬開発トレンドを反映し、がん、神経疾患、希少疾患などのケースが多い。とくに国内での患者数が数百人という希少疾患のプレスセミナーは激増と言ってもいい。しかも、この手のケースでは専門医に加え、実際の患者さんがセミナーに登壇することもある。正直、私のように医療をテーマとして取材する記者も数多くの希少疾患すべてに関して詳細な知識があるわけでもなく、こうした機会にはなるべく出席しようと思って、足しげく通っている。先日も製薬企業が主催したある希少疾患のセミナーに出席した。その希少疾患とは「短腸症候群」である。短腸症候群とは先天的あるいは後天的な事情で小腸が通常より短くなっている状態のこと。具体的な原因には小腸軸捻転症や壊死性腸炎、クローン病などで小腸を切除したなどが挙げられる。私もこの主催企業の開発品一覧でこの疾患名を見たことはあったが、具体的にどのようなものであるかはほとんど知識がなかった。KOL医師の説明によると「実は明確な学術的定義はない」という点がまず驚きだった。ただ、海外などでは小腸の75%以上を切除していることなどを要件とし、日本国内では障害者手帳交付基準の小腸障害として、小腸の長さが成人で1.5m未満、小児で75cm未満という基準もあるという。小腸が短いため、食事による生命維持や成長に不可欠な栄養吸収が不十分になり、頻回な下痢、脱水、体重減少などに悩まされる。経腸栄養剤や中心静脈栄養で不足分の栄養を補うことが治療の中心となる。外科的な腸管延長手術や一部の内科的な治療があるものの、現時点では限界がある。再生医療も検討され始めたばかりだ。そして静脈管理が長期化すると腸管不全関連肝障害やカテーテル関連血流感染症などで命を落とすこともある。セミナーでは患者会「一般社団法人 短腸症候群の会」の代表理事である高橋 正志氏が発言した。高橋氏は中学1年生以降に絞扼性イレウスを繰り返して4回目の入院で小腸壊死が発覚し、小腸切除手術を受け、短腸症候群となった。現在は経腸栄養療法や下痢、低マグネシウム血症の対症療法を受け続けている。就労を目指したものの、非正規で週1~2回のアルバイトをして生活を続けているという。2010年からブログを通じて短腸症候群の情報発信や情報収集を始め、2014年に現在の患者会を立ち上げた。患者会立ち上げのきっかけについて高橋氏は次のように語った。「とにかく情報がなかったというのが一番の理由。自身が住んでいたのは半ば医療過疎のような地域で医師も短腸症候群という名前しか知らなかった状態。これからどうなっていくのか、どんな治療をすれば良くなっていくのか全然わからず、とにかく情報が欲しかった。今から30年前のことでインターネットもそれほど発達しておらず、調べる方法もなかった。そうした中で自分なりに調べてきたが、その後体調が悪化し、学業もあきらめざるを得ず、社会参加のきっかけとも考えてブログを開始した」高橋氏が語ったことは希少疾患では現在でよくありがちなことだろう。もっとも近年はインターネットの発展とともに希少疾患の情報も入手しやすくはなっている。実は今回のセミナーに当たって、予習的に私はGoogle検索をかけていた。そこで1ページ目に出てきた検索結果は、上から順に製薬会社A社(今回のセミナーの主催会社)の一般生活者・患者向け疾患啓発ホームページ、MSD(旧メルク)マニュアル、A社の短腸症候群治療薬ホームページ、栄養療法食品会社B社ホームページ、国立研究開発法人 国立成育医療研究センター・小児慢性特定疾病情報センターホームページ、A社の医療従事者向けホームページである。希少疾患の情報が得やすくなったとは言われているが、この検索結果に「これしかないの?」とやや驚いた。私が過去に検索を試みた希少疾患の中でも極めつけに情報が少ない印象だったからだ。より細かいことを言えば、検索結果1ページ目でほぼ中立的と言えるのはMSDマニュアルと小児慢性特定疾病情報センターのみである。もっとも私はA社やB社のページが偏っているというつもりもない。たとえば、筆頭に出たA社の患者向けホームページは図や平易な表現を使用し、検索結果一覧に出てきたホームページの中では最も患者が読みやすいと言っても過言ではない。だが、ここでの問題は逆にA社やB社のように短腸症候群の患者向けの製品を有する企業がない希少疾患の場合、患者が自分の疾患について知る手段はさらに限定されるということ。そして中立的と言える2つのホームページは専門用語が数多く登場し、お世辞にも患者にわかりやすいとは言えない。結局、治療手段が少なければ少ないほど、情報面からも患者は追い込まれてしまうことになる。高橋氏は患者会を結成した結果、「ほかの患者もかなり孤立しているというか、周りに同じ患者がいないということでかなり悩み、苦労していることがわかった」とも話した。私はセミナーの質疑応答の際に高橋氏に短腸症候群になった当初(90年代前半)はどのようにして情報収集していたのかを尋ねてみた。すると次のような答えが返ってきた。「担当の先生があまり詳しくなかったので、できたこととしては図書館で資料検索して、(自分が在住する)県内の図書館同士の連携貸し出しで、少しでも専門書と思われるものを取り寄せて読んでみるということをしていた。中には『この本なら大丈夫かな』と思って取り寄せたら、先生の単なるエッセーだったということもあった」一方、現在はどうか?「今はインターネットで先生方が利用するような情報を入手できるようになったので、語学の問題が何とかなれば海外の論文まで見ることができるようになったので、その辺はかつてとはまるっきり違う。ただし、インターネットの情報は玉石混交が甚だしいので、その辺を見極める目をきちんと養っておかないと簡単に迷ってしまうのではないかと思う」この変化をどう捉えるかどうかは人によって異なるかもしれない。私個人は少なくとも日常生活ですらさまざまな困難を抱える患者が語学などの努力をしなければ、自分の疾患やその治療の最新情報を得られないというのは必ずしも喜ばしいとばかりは言えないのではないかと考えてしまう。今回のセミナーでは高橋氏を含む3人の短腸症候群の患者さんが登場したが、一様にメディアが短腸症候群の問題を報じることへの期待が高いこともひしひしと感じた。これは今回の短腸症候群のように治療選択肢が限られ、そうした治療を欠かさず続けてもなお、一般人にとってごく当たり前の日常と思われがちな就学・就労、結婚などが思うに任せないことが多い疾患ではなおのことだ。彼らがこうした日常生活を送るためには社会の受容が大きな意味を持つため、情報拡散力のあるメディアへの期待が高いことはよくわかる。しかし、メディア界に身を置くものにとっては、インターネット中心に移行しつつある現在特有の限界も感じている。紙メディア中心の時代と違って今はページビュー(PV)という形で読者の反応がリアルタイムでわかり、それゆえにメディアはPVが取れる、今風で言うバズるテーマに偏りがちな傾向は年々強くなっている。ネットメディアではまさにこのPVが編集者や執筆者の評価に直結してしまう。その結果、かつて以上に希少疾患のように患者数、周囲で身近に感じる関係者が少ないテーマは置き去りにされがちな危険性がある。実際、医療をテーマに一般向けにも執筆する自分が編集者と企画相談をする際、企画採用のカギを握るのは患者数であることも少なくないからだ。その意味で一般にあまり馴染みのない疾患を少しでも取り上げる機会は、実を言うとそうした疾患に著名人が罹患した時やその結果として亡くなった時である。実例を挙げれば、先日亡くなったプロレスラー・アントニオ猪木氏の死因は、国内患者数が2,000人に満たない希少疾患の全身性アミロイドーシスだったが、その際は各メディアがこの疾患のことを取り上げた。もっともそうしたメディアの“手法”には「死の商人」的な批判も存在する。あれやこれやと考えれば考えるほどメディア側も打つ手が限られてくる。かと言って、公的情報の充実を求める声を上げるだけではかなり無責任になる。理想を言えば、ある意味採算を度外視できる公的サイトと、われわれ一般向けの伝え手とがコラボレーションできれば最も望ましい姿なのだが、公的機関と民間が手を携えるというのは思っているより高い壁がある。その意味では希少疾患の患者がメディアに期待したいのと同じくらい、この領域の一般向け報道ではメディア側も誰かの助けが欲しいと思う瞬間は少なくない。希少疾患の報道という重い宿題をどう解決していくべきなのか?実はここ最近、ひたすら悩み続けている。

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双極性障害に対する多剤併用療法~リアルワールドデータ

 双極性障害に対する薬物治療は、多剤併用で行われることが少なくない。イタリア・ジェノバ大学のAndrea Aguglia氏らは、双極性障害患者に対する複雑な多剤併用に関連する社会人口学的および臨床的特徴を明らかにするため、検討を行った。結果を踏まえて著者らは、とくに薬物治療の中止が必要な場合においては、双極性障害の長期マネジメントのための明確なガイドラインを作成する必要があることを報告した。Psychiatry Research誌2022年12月号の報告。 対象は、双極性障害患者556例。社会人口学的および臨床的特徴、薬理学的治療に関する情報は、半構造化インタビューを用いて収集した。対象患者を複雑な多剤併用(4剤以上の向精神薬の併用)の状況に応じて2群に分類した。両群間の比較は、t検定およびカイ二乗検定を用いて評価した。また、複雑な多剤併用に関連する因子を特定するため、ステップワイズロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・複雑な多剤併用が行われている双極性障害患者は、独身および失業している傾向があった。・さらに、複雑な多剤併用と関連していた因子として、発症年齢の低さ、罹病期間の長さ、入院回数の多さ、医学的および精神医学的合併症の多さ、違法物質(ヘロインを除く)の使用が挙げられた。・ロジスティック回帰モデルでは、複雑な多剤併用と関連している因子として、独身、高齢、入院回数、精神医学的合併症が特定された。

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米国でのAMIの30日死亡率、保険プランでの差は?/JAMA

 米国高齢者向けの公的医療保険・メディケアの、マネジドケア型でカバーする健康保険プラン「メディケアアドバンテージ」加入者と、従来型の出来高払いでカバーするプラン加入者について、2009~18年の急性心筋梗塞(AMI)のアウトカムを比較したところ、30日死亡率は、2009年時点ではメディケアアドバンテージ加入者が従来型メディケア加入者より、わずかながら統計学的に低かったが、2018年までに統計学的有意差は認められなくなっていた。米国・ハーバード大学医学大学院のBruce E. Landon氏らが、メディケアプログラムのデータを基に行った後ろ向きコホート試験の結果で、JAMA誌2022年12月6日号で発表された。メディケアアドバンテージプラン加入者の支払いカバー率は、2018年は37%だったが、2022年には48%に増大している。メディケアアドバンテージプランにおいて、特定の臨床状態の患者に同質のケアを提供していたかどうかは明らかになっていないが、著者は「今回の結果は、他の結果も考慮したうえで、メディケアプランの違いによる治療とアウトカムの格差に関する見識を提供するものになるだろう」と述べている。STEMI約56万人、NSTEMI約167万人を対象に試験 研究グループは、メディケアアドバンテージ加入者と従来メディケア加入者で、2009~18年にAMIの治療を受けた患者について、後ろ向きコホート試験を行い、30日死亡率と治療内容について比較した(データの最終フォローアップは2019年12月31日)。 被験者数は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)が55万7,309例、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)が167万193例だった。 主要アウトカムは、補正後30日死亡率。副次アウトカムは、年齢・性別補正後の治療(カテーテル法、血行再建術)の施行率、退院後の処方とアドヒアランス、医療システムパフォーマンス指標(ICU入院率、30日再入院率)などだった。ICU入院率や30日再入院率はメディケアアドバンテージ群で低率 被験者総数は222万7,502例で、2018年の平均年齢はメディケアアドバンテージSTEMI群の76.9歳から、従来メディケアNSTEMI群の79.3歳の範囲にわたっていた。女性患者の割合は、メディケアアドバンテージ群と従来メディケア群で類似していた(2018年STEMIは41.4%、41.9%)。 2009年の30日死亡率は、メディケアアドバンテージ群が従来メディケア群より統計学的に有意に低かった。STEMI患者では、メディケアアドバンテージ群19.1% vs.従来メディケア群20.6%で群間差は-1.5ポイント(95%信頼区間[CI]:-2.2~-0.7)、NSTEMI患者では、それぞれ12.0% vs.12.5%で群間差は-0.5ポイント(-0.9~-0.1)だった。 しかし2018年までに、同死亡率はすべての群で低下が認められ、メディケアアドバンテージ群と従来メディケア群の統計学的有意差は認められなくなっていた。同死亡率は、STEMI患者でそれぞれ17.7%と17.8%(群間差:0.0ポイント[95%CI:-0.7~0.6])、NSTEMI患者で10.9%と11.1%(-0.2ポイント[-0.4~0.1])だった。また、2018年までに、標準化90日血行再建術施行率についても両群間で有意差はなくなっていた。 ガイドライン推奨の薬物処方について、2018年のSTEMI患者に対する退院後スタチン処方率は、メディケアアドバンテージ群(91.7%)が従来メディケア群(89.0%)より有意に高率だった(群間差:2.7ポイント、95%CI:1.2~4.2)。 また、メディケアアドバンテージ群は従来メディケア群に比べ、2018年のICU入院率が低く(STEMI患者について50.3% vs.51.2%、群間差:-0.9ポイント[95%CI:-1.8~0.0])、自宅への退院率が亜急性期施設への退院率に比べ高率だった(STEMI患者について71.5% vs.70.2%、1.3ポイント[0.5~2.1])。 30日再入院率は、2009年、2018年共にメディケアアドバンテージ群が従来メディケア群に比べ低率だった(2009年STEMI患者:13.8% vs.15.2%、群間差:-1.3ポイント[95%CI:-2.0~-0.6]、2018年STEMI患者:11.2% vs.11.9%、-0.6ポイント[-1.2~0.0])。

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AIで乳がん病変の悪性鑑別を~非侵襲的かつ鑑別精度の高い手法の開発目指す

 GEヘルスケア・ジャパン株式会社(以下、GEヘルスケア)と愛媛大学は、乳がんの早期発見・診断精度向上に向けた非侵襲的な検査方法を開発するべく2021年より共同研究を開始している。本研究では同医学部附属病院で得られた乳腺病変のデータに人工知能技術を使用した解析を行っており、その結果、画像データから乳腺病変の良悪性を鑑別できる可能性が示唆された。本結果は、12月6日の記者会見で発表されたもので、将来的に乳がんの診断や治療に伴う身体的負担や心理的不安、検査コストの低減につながる可能性がある。 乳がん領域において、検診のマンモグラフィ画像から病変検出や良悪性判定するためにCAD(Computer-aided diagnosis)が活用されるなど、人工知能による乳がん発症予測の実現化が期待され、実際に陰性のマンモグラフィ検査後5年以内の乳がん発症リスクを推定できることも報告されている1)。一方、精密検査では超音波検査や乳腺MRIを実施した後、米国放射線専門医会(ACR)が中心となって作成したガイドラインBreast imaging reporting and data system(BI-RADS)を用いて良悪性診断を行うが、人間による腫瘤の形・辺縁の評価や判別には限界があることから、診断方法の確立が望まれている。 そこで、GEヘルスケアと愛媛大学は「MRIによる各種定量値のマッピング画像を用いた人工知能による新たな乳腺病変の良悪性判定方法」の開発に着手。本研究に当たっている松田 卓也氏(同大学大学院医学系研究科医療情報学講座)らは、Synthetic MRIの“1回の撮像から複数種類の定量値マップが取得できる”という利点を用い、造影前後の乳腺Synthetic MRIのマッピング画像から得たRadiomics*特徴量(ヒストグラム特徴量とテクスチャー特徴量)を用いて、機械学習手法による乳腺腫瘤の良悪性鑑別に対する有用性を検討した。造影前後に行った水平断像のSynthetic MRIのsource imageからPD map、T1 map、T2 mapを作成し、それぞれからRadiomics特徴量88種類を抽出させる(88×3×2=528種類)。ただし、機械学習の性能維持のために計528特徴量から100種類の特徴量を選択(次元削減)するなどの処理を行った。*Radiomics=Radiology(放射線医学)+Omics(すべて+学問)の意。医用画像の(多数の)特徴量を統計解析や機械学習に用いる手法のこと。 本研究の初期検討結果について、松田 卓也氏は「今後の性能向上(特徴量の追加[そのほかのMRI画像特徴量・臨床的因子]やカテゴリー判定と組み合わせた総合的アルゴリズム)を検討している。臨床応用のためにエビデンスを構築し、更なる検討を重ねていく」とコメント。松田 恵氏(同大学医学部附属病院 放射線部)は「今後、精度を上げていくことで生検が不要になり、医療コスト面からも貢献できる可能性がある」と話した。

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脂質管理目標値設定(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q45

脂質管理目標値設定(2)Q45脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりである。冠動脈疾患、脳梗塞、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患など血管系の既往がない患者は、スコアリングをしてリスクの層別化を図る。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から新しく採用された、そのスコアの名前は?

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治療抵抗性高血圧に対する二重エンドセリン受容体拮抗薬の効果(解説:石川讓治氏)

 治療抵抗性高血圧は、降圧利尿薬を含む3種類の降圧薬の服用によっても目標血圧レベル(本研究では収縮期血圧140mmHg未満)に達しない高血圧であると定義されている。基本的な2種類としてカルシウムチャネル阻害薬およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンII受容体阻害薬といった血管拡張薬が選択されることが多く、この定義には、血管収縮と体液ナトリウム貯留といった2つの血圧上昇の機序に対して介入しても血圧コントロールが不十分であることが重要であることが含まれている。従来から、第4番目の降圧薬として、血管拡張と体液ナトリウム貯留の両方に作用する薬剤であるスピロノラクトンやミネラルコルチコイド受容体阻害薬が投与されることが多かったが、高齢者や腎機能障害のある患者では、高カリウム血症に注意する必要があった。 本研究においては、二重エンドセリン受容体拮抗薬であるaprocitentan 12.5mg、25mgとプラセボを治療抵抗性高血圧患者に投与して、診察室における収縮期血圧がaprocitentan 12.5mg投与群で15.3mmHg、aprocitentan 25mg投与群で15.2mmHg低下したことが報告された。本研究においてはプラセボ群においても11.5mmHgの収縮期血圧の低下が認められており、実際の投薬による収縮期血圧の降圧効果はそれぞれ3.8mmHgおよび3.7mmHgであったと推定されている。24時間自由行動下血圧における降圧効果も4.2mmHgと5.9mmHgであり、aprocitentanの治療抵抗性高血圧に対する有効性を示した報告であった。 治療抵抗性高血圧の研究において、研究者を悩ませるのが、プラセボ群においても血圧が大きく低下する(本研究では11.5mmHg)ことで、従来の研究においてはピルカウントや尿中の降圧薬血中濃度のモニタリングをしながら、服薬アドヒアランスを厳密に調整しないと統計学的な有意差がでないことがあった。本研究においてもaprocitentan内服による実質の収縮期血圧低下度(プラセボ群との差)はaprocitentan 12.5mg群で3.8mmHg、aprocitentan 25mg群で3.7mmHg程度でしかなかった。現在、わが国で使用されているエンドセリン受容体拮抗薬は、肺動脈性肺高血圧に対する適応ではあるが、非常に高価である。本態性高血圧に対するaprocitentan投与が実際にどの程度の価格になるのかは明らかではないが、わが国においては本態性高血圧の患者は4,300万人いるといわれており(日本高血圧治療ガイドライン2019)、約4mmHgのさらなる降圧のためにどの程度の医療資源や財源を投入すべきかといったことも今後の議論になると思われる。 有害事象として、浮腫や体液貯留がaprocitentan 12.5 mmHg群で約9%、25mg群で約18%も認められた。治療抵抗性高血圧の重要な要因である体液貯留が10%近くの患者に認められたことは注意が必要であると思われる。そのため、効果とリスクのバランスの評価が難しいと感じられた。治療抵抗性高血圧に対する4番目の降圧薬として、aprocitentanとミネラルコルチコイド受容体阻害薬のどちらを優先するのかといったことも今後の検討が必要になると思われた。

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がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2022、利用者の意見反映

 『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン』が6年ぶりに改訂された。2016年の初版から分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による治療の知見が増えたことや腎障害にはさまざまな分野の医師が関与することを踏まえ、4学会(日本腎臓学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本腎臓病薬物療法学会)が合同で改訂に携わった。 本書は背景疑問を明確に定義する目的で16の「総説」が新たに記載されている。また、実用性を考慮して全体を「第1章 がん薬物療法対象患者の腎機能評価」(治療前)、「第2章 腎機能障害患者に対するがん薬物療法の適応と投与方法」(治療前)、「第3章 がん薬物療法による腎障害への対策」(治療中)、「第4章 がんサバイバーのCKD治療」(治療後)の4章にまとめている。とくに第4章は今回新たに追加されたが、がんサバイバーの長期予後が改善される中で臨床的意義を考慮したものだ。2022版のクリニカルクエスチョン(CQ)※総説はここでは割愛■第1章 がん薬物療法対象患者の腎機能評価CQ 1 がん患者の腎機能(GFR)評価に推算式を使用することは推奨されるか?CQ 2 シスプラチンなどの抗がん薬によるAKIの早期診断に新規AKIバイオマーカーによる評価は推奨されるか?CQ 3 がん薬物療法前に水腎症を認めた場合、尿管ステント留置または腎瘻造設を行うことは推奨されるか?■第2章 腎機能障害患者に対するがん薬物療法の適応と投与方法CQ 4 透析患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?CQ 5 腎移植患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は推奨されるか?■第3章 がん薬物療法による腎障害への対策CQ 6 成人におけるシスプラチン投与時の腎機能障害を軽減するために推奨される補液方法は何か?CQ 7 蛋白尿を有する、または既往がある患者において血管新生阻害薬の投与は推奨されるか?CQ 8 抗EGFR抗体薬の投与を受けている患者が低Mg血症を発症した場合、Mgの追加補充は推奨されるか?CQ 9 免疫チェックポイント阻害薬による腎障害の治療に使用するステロイド薬の投与を、腎機能の正常化後に中止することは推奨されるか?CQ 10 免疫チェックポイント阻害薬投与に伴う腎障害が回復した後、再投与は治療として推奨されるか?■第4章 がんサバイバーのCKD治療CQ 11 がんサバイバーの腎性貧血に対するエリスロポエチン刺激薬投与は推奨されるか?アンケート結果で見る、認知度・活用度が低かった3つのCQ 本書を発刊するにあたり、日本腎臓学会、日本がんサポーティブケア学会、日本医療薬学会、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会の5学会は初版(2016年版)の使用に関する実態調査報告を行っている。回答者は1,466人で、学会別で見ると、日本腎臓学会から264人(アンケート実施時の会員数:約1万人)、日本臨床腫瘍学会から166人(同:9,276人)、日本癌治療学会から107人(同:1万6,838人)、日本医療薬学会から829人(同:1万3,750人)、日本がんサポーティブケア学会から25人(同:約1,000人)、そのほかの学会より74人の回答が得られた。 なかでも、認知度が低かった3つを以下に挙げる。これらは腎臓病学領域での認知度はそれぞれ、63.1%、69.7%、62.0%であったのに対し、薬学領域での認知度はそれぞれ52.9%、51.9%、39.5%。腫瘍学領域での認知度はそれぞれ49.5%、56.5%、43.2%と比較的低値に留まった。(1)CQ2:がん患者AKI(急性腎障害)のバイオマーカー(2)CQ14:CDDP(シスプラチン)直後の透析(3)CQ16:抗がん剤TMA(血栓性微小血管症)に対するPE(血漿交換) 認知度・活用度の低いCQが存在する理由の1つとして、「CQの汎用性の高さに比して、実用性に関しては当時十分に普及していなかった」と可能性を挙げおり、たとえば「CQ2は認知度55.2%、活用度59.8%とともに低値である。抗がん薬によるAKI予測は汎用性の高いテーマではあるが、2016年のガイドライン時点では、代表的なバイオマーカーである尿NGAL、尿KIM-1、NephroCheck(R)[尿中TIMP-2とIGFBP7の濃度の積]が保険適用外であった。しかし、尿NGAL(好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン)が2017年2月1日に保険適用となり、バイオマーカーの実用性が認識されてきた。加えて、エビデンスを評価できる論文も増加してきたことから、今回あらためてシステマティックレビューを行い、positive clinical utility index(CUI)が0.782でgood(0.64以上0.81未満)、negative CUIも0.915でexcellent(0.81以上)と高い評価が得られたことを、2022年のガイドラインで記載している」としている。 本ガイドラインに対する要望として最も多かったのは「腎機能低下時の抗がん薬の用量調整に関して具体的に記載してほしい」という意見であったそうで、「本調査結果を今後のガイドライン改訂に活かし、より実用的なガイドラインとして発展させていくことが重要」としている。

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さまざまな不眠症診療ガイドラインのシステマティックレビュー

 不眠症治療に関する臨床診療ガイドライン(CPG)の質および推奨事項の評価、エビデンスの要約を通じた適切な薬理学的治療へのアルゴリズム的アプローチに関するガイダンスの提供を目的に、シンガポール・センカン総合病院のSu Yin Seow氏らがシステマティックレビューを実施した。その結果、不眠症に対する薬物治療の適応はすべてのCPGで共通していたが、第1選択薬では違いが認められ、また、ほとんどのCPGで薬物治療後のすべての臨床的考慮事項に関する推奨事項の記載はなかった。Journal of Psychiatric Practice誌2022年11月1日号の報告。 PubMed、EMBASEのデータベース、ガイドライン、リポジトリ、専門家協会のWebサイトより検索を行った。CPGの質の評価には、AGREE-REXにより補完されたガイドライン評価ツールAGREE IIを用いた。不眠症患者に対する薬物治療のアルゴリズム的アプローチを検討する際に臨床医が考慮する重要な臨床上の問題は、学術チームが特定を行った。CPGの推奨事項の特徴を明らかにし、推奨マトリクスを介して要約するため、メタ合成アプローチを用いた。 主な結果は以下のとおり。・包含基準を満たしたCPG 10件を評価した。・全体的な質の評価では、高評価が4件、中程度の評価が3件であった。・ほとんどのCPGにおいて、不眠症に対する薬物療法は、認知行動療法またはその他の非薬理学的介入が利用できなかった場合、失敗した場合、患者より拒否された場合にのみ推奨されていた。・薬剤の種類、投与量、治療期間に関する推奨事項は、さまざまかつ非特異的であった。・CPGの中で、特殊な集団への薬物療法に関する推奨事項を記載しているものは、ほとんどなかった。

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アムロジピンとニフェジピンが妊婦にも処方可能に/使用上の注意改訂

 厚生労働省は12月5日、血管拡張薬のアムロジピンベシル酸塩とニフェジピンの添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。アムロジピンとニフェジピンの禁忌から妊婦が削除 これまでアムロジピンとニフェジピンの2剤は「妊婦(ニフェジピンは妊娠20週未満)又は妊娠している可能性のある婦人」が禁忌とされてきたが、今回の改訂によりこの内容が削除され、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合には投与可能とされた。アムロジピンとニフェジピンの添付文書改訂の背景 今般、妊娠全期間において厳格な血圧コントロールが求められるようになってきた。そのような医療環境を踏まえ、積極的適応のない場合の高血圧に対して第1選択薬とされているCa拮抗薬のうち、医療現場での処方割合の高いアムロジピンとニフェジピンの2剤について、添付文書の禁忌の適正性が検討された。国内外のガイドライン、海外添付文書、臨床使用に関する公表文献などが評価された結果、アムロジピンとニフェジピンの添付文書の禁忌から「妊婦(ニフェジピンは妊娠20週未満)又は妊娠している可能性のある女性」を削除することが可能と判断された。

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ソトロビマブ、高リスクCOVID-19で優れた重症化予防効果/BMJ

 オミクロンBA.1およびBA.2変異株が優勢な時期のイングランドでは、重症化のリスクが高い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の日常診療において、中和モノクローナル抗体ソトロビマブは抗ウイルス薬モルヌピラビルと比較して、28日以内の重症化の予防効果が優れ、60日の時点でも結果はほぼ同様であったことが、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のBang Zheng氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年11月16日号で報告された。イングランドのEHRデータを用いたコホート研究 研究グループは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染し、COVID-19による重症転帰のリスクが高い患者において、重症化の予防効果をソトロビマブとモルヌピラビルで比較する目的でコホート研究を行った(UK Research and Innovation[UKRI]などの助成を受けた)。 本研究は、OpenSAFELY-TPPプラットフォーム(国民保健サービス[NHS]の電子健康記録[EHR]の解析のための、安全で透明性の高いオープンソースのソフトウエアプラットフォーム)を用いた実臨床コホート研究であり、イングランドの総合診療(GP)施設に登録している2,400万人から、患者レベルのEHRデータが取得された。 2021年12月16日以降に、ソトロビマブまたはモルヌピラビルによる治療を受けた、COVID-19による重症化リスクが高い成人COVID-19患者が対象となった。主要アウトカムは、治療開始から28日以内のCOVID-19による入院およびCOVID-19による死亡であった。さまざまな解析法で、矛盾のないほぼ同様の結果 2021年12月16日~2022年2月10日の期間に、3,331例がソトロビマブ、2,689例がモルヌピラビルによる治療を受けた。全体(6,020例)の平均年齢は52.3(SD 16.0)歳、58.8%が女性、88.7%が白人で、87.6%はCOVID-19ワクチンを3回以上接種していた。 治療開始から28日以内に、87例(1.4%)がSARS-CoV-2感染により入院または死亡した(ソトロビマブ群32例、モルヌピラビル群55例)。 居住地域で層別化したCox比例ハザードモデルでは、人口統計学的因子、高リスクコホート分類、ワクチン接種状況、暦年、BMI、その他の併存疾患で補正すると、ソトロビマブ群はモルヌピラビル群に比べ、COVID-19による入院または死亡のリスクが大幅に低かった(ハザード比[HR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.33~0.88、p=0.01)。 傾向スコアで重み付けしたCoxモデル(HR:0.50、95%CI:0.31~0.81、p=0.005)および完全ワクチン接種者に限定した解析(HR:0.53、95%CI:0.31~0.90、p=0.02)でも、これと矛盾のない結果が得られた。また、他の因子の有無による層別解析でも、実質的な効果の修正は検出されなかった(交互作用検定のp値はすべて>0.10)。さらに、この結果は、イングランドでオミクロンBA.2が優勢だった2022年2月16日~5月1日の期間に治療を受けた患者の探索的解析でもほぼ同様であった。 治療開始から60日以内(95例[1.58%]がCOVID-19で入院または死亡、ソトロビマブ群34例、モルヌピラビル群61例)の層別Cox回帰分析でも、ソトロビマブ群はモルヌピラビル群よりもCOVID-19による入院・死亡の予防効果が優れた(4つのモデルのHRの範囲は0.46~0.51、すべてp<0.05)。 著者は、「これらの結果は、入院を要さないCOVID-19患者の治療において、モルヌピラビルよりもソトロビマブを優先する現行ガイドラインを支持するものである」としている。

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脂質管理目標値設定(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q44

脂質管理目標値設定(1)Q44脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりであるが、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版以降、『二次予防』として厳密に管理すべき基礎疾患として示されたのは?

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SGLT2阻害薬【心不全診療Up to Date】第3回

第3回 SGLT2阻害薬Key PointsSGLT2阻害薬 栄光の軌跡1)リンゴとSGLT2阻害薬の甘い関係?2)SGLT2阻害薬のエビデンス、作用機序は?3)最も注意すべき副作用は?はじめにSGLTとは、sodium glucose co-transporter(ナトリウム・グルコース共役輸送体)の略であり、ナトリウムイオン(Na+)の細胞内外の濃度差を利用してNa+と糖(グルコース)を同時に細胞内に取り込む役割を担っているトランスポーターである1)。このSGLTにはSGLT1-6のアイソフォームがあり2)、その1つであるSGLT2の活性を阻害するのがSGLT2阻害薬である。SGLT2は、ほぼすべてが腎臓の近位尿細管起始部の管腔側に選択的に発現しており、Na+とグルコースを1:1の割合で共輸送することで、尿糖再吸収のおよそ90%を担っている(残りの10%はSGLT1を介して再吸収)1)。このように、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコース再吸収を阻害し、尿糖の排泄を増やすことから、血糖を下げ、糖毒性を軽減し、糖尿病の病態を改善させる薬剤として当初開発された。しかし現在、この薬は心不全治療薬として脚光を浴びている。本稿ではその栄光の軌跡、エビデンス、作用機序について考えていきたい。1. リンゴとSGLT2阻害薬の甘い関係SGLT2阻害薬はどのようにしてこの世に生まれたのか。そこには日本人研究者が重要な役割を担っていた。SGLT2阻害薬のリード化合物であるフロリジン(ポリフェノールの一種)は、1835年にピーターセン氏(フランス)によって『リンゴの樹皮』から抽出された。その約50年後にフォンメリング氏(ドイツ)によってフロリジンの尿糖排泄促進作用が報告された(Von Mering, J. "Über künstlichen diabetes." Centralbl Med Wiss 22 (1886):531.)。そこから約100年の時を経て、糖尿病モデル動物でのフロリジンの抗糖尿病効果(インスリン作用を介さない血糖降下作用、インスリン抵抗性改善、インスリン分泌能回復)が証明された。また時を同じくして1987年に小腸からSGLT1が発見され、フロリジンがその阻害薬であることが報告された3)。その7年後(1994年)に腎臓からSGLT1と類似した構造を持つSGLT2が同定され4)、創薬に向けた研究が進んでいった。そして1999年ついに田辺製薬(当時)より世界初の経口フロリジン誘導体(T-1095)の糖尿病モデル動物に対する糖尿病治療効果が報告された5)。ただ、フロリジンは小腸にも存在するSGLT1をも阻害するため、下痢等の消化器症状を引き起こす恐れがある6)。こうして誕生したのが現在の“選択的”SGLT2阻害薬であり、『糖を尿に出して糖尿病を治す(turning symptoms into therapy)』という逆転の発想から生まれた実にユニークな薬剤なのである7)。2. SGLT2阻害薬のエビデンスと作用機序1)SGLT2阻害薬のエビデンス 現在・過去・未来上記のとおり、SGLT2阻害薬は当初糖尿病治療薬として開発されたため、有効性を検証するためにまず行われた大規模臨床試験は2型糖尿病患者を対象としたものであった(図1)。最初に実施された心血管アウトカム試験が2015年に発表されたエンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME[対象:心血管疾患既往の2型糖尿病患者7,020名(二次予防)]であり、その結果は誰も予想しえなかった衝撃的なものであった。まず、主要エンドポイントである3P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中の心血管複合エンドポイント)の相対リスクを、エンパグリフロジンがプラセボとの比較で14%有意に減少させ、これは3P-MACEを主要エンドポイントとする2型糖尿病を対象にした試験の中で、初めての快挙であった。その中でもとくに心血管死のリスクを38%減少させ、また心不全入院のリスクも35%減少させることも分かり、さらなるインパクトを与えた。その後同様に、CANVAS試験(2017年)ではカナグリフロジンが、DECLARE-TIMI 58試験(2019年)ではダパグリフロジンが、心血管イベントハイリスクの2型糖尿病患者(一次予防含む)の心血管イベントを減少させるという結果が報告された。つまり、『どうやらSGLT2阻害薬には心保護作用がありそうだ。ただこれらの試験の対象患者の多くは心不全を合併していない糖尿病患者であり、心不全患者を対象とした試験でしっかり検証すべきだ』という流れになったわけである(図1、図2)。画像を拡大する画像を拡大するこのような背景から、まずHFrEF(LVEF≦40%)に対するSGLT2阻害薬の心血管イベント抑制効果を検証するために、ダパグリフロジンを用いたDAPA-HF試験とエンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Reduced試験が実施された(図1)。結果は、両試験ともに、標準治療へのSGLT2阻害薬の追加が、糖尿病の有無にかかわらず、心血管死または心不全入院のリスクを26%有意に低下させることが示され8)、さらなる衝撃が走った。そうなると、次に気になるのが、もちろんLVEF>40%の慢性心不全ではどうか、ということであろう。その疑問について検証した試験が、エンパグリフロジンを用いたEMPEROR-Preserved試験とダパグリフロジンを用いたDELIVER試験である(図1)。まず初めに結果が発表されたのが、EMPEROR-Preserved試験で、エンパグリフロジンを心不全に対する推奨療法を受けている患者(LVEF>40%)に追加した結果、心血管死または心不全入院の初回発現がプラセボ群と比較して21%有意に低下していた9)。この効果はLVEF≧50%の症例でも同様であった。この結果をもって、最新の米国心不全診療ガイドラインではHFpEFへのSGLT2阻害薬の投与がClass 2aの推奨となった10)。そして、最近DELIVER試験の結果も発表され、ダパグリフロジンは、LVEF>40%の慢性心不全患者の心血管死または心不全悪化(心不全入院+緊急受診)のリスクを18%有意に抑制させた11)。よって、2つのRCTでHFpEFに対するポジティブな結果が出たため、今後のガイドラインでは、EFに関わらず慢性心不全へのSGLT2阻害薬の投与がClass 1へ格上げされる可能性が高い12)。ただし、これらの試験は、NT-proBNPが上昇しているHFpEF(洞調律では300pg/mL、心房細動では600pg/mL以上)が対象であり、運動負荷検査をして初めてHFpEFと診断されるNT-proBNPがまだ上昇していない症例は含まれておらず、すべてのHFpEFでこの薬剤が有効かどうかは不明である。そして、今後も虚血領域、腎不全領域などで数多くのエビデンスが出てくる予定であり、この薬剤の効果がどこまで広がるのか、引き続き目が離せない(図3)。画像を拡大する2)SGLT2阻害薬はなぜ心不全に有効なのか?SGLT2阻害薬がなぜ心不全に有効なのか。そして今回の本題ではないが、SGLT2阻害薬には腎保護作用もあり、そのような心腎保護作用のメカニズムは何なのか。図4で示したとおり、さまざまなメカニズムが提唱されているが、どれがメインなのかは分かっておらず、それが真実なのかもしれない。つまり、これらのさまざまな心腎保護へ働くメカニズムが複合的に絡み合っての結果であると考えられる。個人的にはこの薬剤の心不全への効果は、腎臓への良い効果が主な理由と考えており、熱く語りたいところではあるが、字数足りずまたの機会とさせていただく。ただ、これは今も議論のつきないテーマであり、今後より詳細なメカニズムの解明が進んでいくものと期待される。画像を拡大する3. 最も注意すべき副作用、それは…注意すべき副作用は、正常血糖ケトアシドーシス(Euglycemic DKA)、尿路感染症、脱水である。とくにケトアシドーシスはかなり稀な副作用(DAPA-HF試験における発現率は、糖尿病患者で0.3%、非糖尿病患者では0%)ではあるが、見逃されると予後に関わることもあり、どのような患者でとくに注意すべきか把握しておかれると良い。まず、日常診療で最も起こりうる状況は、非心臓手術の前にSGLT2阻害薬が継続投与されていた時であろう(そのメカニズムは図5を参照)。術後のケトアシドーシスや尿路感染症のリスクを最小限に抑えるために、手術の少なくとも3日前からのSGLT2阻害薬の中止が推奨されていることはぜひ覚えておいていただきたい13)。また、著明なインスリン分泌低下を認める症例(インスリン長期治療を受けているなど)にも注意が必要であり、体重減少の有無や過度な糖質制限をしていないかなどしっかり確認しておこう。血糖値正常に騙されず、ケトアシドーシスを疑った場合は、速やかに血液ガス分析にてpH低下やアニオンギャップ増加がないかを確認するとともに、血清ケトン濃度を測定し,鑑別を行う必要がある。なお、日本糖尿病学会からその他の副作用も含め『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」14)が公表されており、ぜひ一読をお勧めしたい。このような副作用もしっかり理解した上で、心不全患者さんを診られた際は、これほどのエビデンスがあるSGLT2阻害薬が投与されているか、されていなければなぜ投与されていないか、を必ず確認いただきたい。画像を拡大する1)Ferrannini E, et al. Nat Rev Endocrinol. 2012;8:495-502.2)Wright EM, et al. Physiol Rev. 2011;91:733-94.3)Hediger MA, et al. Nature. 1987;330:379-81.4)Kanai Y, et al. J Clin Invest. 1994;93:397-404.5)Oku A, et al. Diabetes. 1999;48:1794-800.6)Gerich JE. Diabet Med. 2010;27:136-42.7)Diamant M, Morsink LM. Lancet. 2013;38:917-8.8)Zannad F, et al. Lancet. 2020;396:819-829.9)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.10)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Vaduganathan M, et al. Lancet. 2022;400:757-767.13)FDA Drug Safety Communication. FDA revises labels of SGLT2 inhibitors for diabetes to include warnings about too much acid in the blood and serious urinary tract infections.14)日本糖尿病学会. 糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

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G-CSF適正使用ガイドライン 2022年10月改訂 第2版

書籍としては7年ぶりの全面改訂!科学的根拠に基づく新たな指針Web版としては4年ぶり、書籍としては7年ぶりの全面改訂となる第2版は、Minds 2014および2017に準拠して作成された。世界の多くのガイドラインで科学的根拠に乏しい「FN発症率20%」のカットオフを前提に推奨が決められてきた歴史があるが、今回議論を重ね「FN発症率20%」の前提を捨て、個々のQuestionに対して科学的にエビデンスを評価した。エビデンスに乏しく明確な推奨ができないがん種やレジメンにおいても、それぞれの状況でリスクとベネフィットのバランスを評価する際の参考になるように作成した。目の前の患者さんに最適な医療を行うためにご活用いただきたい。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    G-CSF適正使用ガイドライン 2022年10月改訂 第2版定価3,520円(税込)判型B5判頁数208頁・図数:20枚発行2022年10月編集日本癌治療学会電子版でご購入の場合はこちら

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アナフィラキシーなどの治療を非専門医向けに/アレルギー総合ガイドライン改訂

 多くの診療科に関係するアレルギー疾患。2022年10月に刊行された『アレルギー総合ガイドライン2022』は、2019年版の全面改訂版だ。各診療ガイドラインのエッセンスを精選して幅広いアレルギー診療の基本をまとめ、前版より大幅なコンパクト化を実現した。編纂作業にあたった日本アレルギー学会・アレルギー疾患ガイドライン委員会委員長の足立 雄一氏(富山大学 小児科学講座 教授)に改訂のポイントを聞いた。重複を削る編集作業で、コンパクト化を徹底――『アレルギー総合ガイドライン』は、各分野のガイドラインや診療の手引きの短縮版を合本してつくられています。これまではそのまま合本していたため、どうしても重複箇所が多くなり、2019年版は700ページを超えました。読者から「読みにくい」「重くて持ち運べない」といった声が出ており、今回はガイドライン委員が全ページに目を通して重複を削る作業をした結果、300ページ近いコンパクト化を図ることができました。――2022年版の編集方針は「総合的に、かつ実用的に」です。章立てを変更し、すべてのアレルギーに共通する「アレルゲン検査」「アレルゲン免疫療法」「アナフィラキシー」の項目に最初の3章を割き、その後に個別疾患の解説が続く、というつくりにしました。――さらに前版の「重症薬疹の診断基準」の章を拡充して「薬物アレルギー」の章を新設しました。ここは前版まで皮膚科の医師だけが執筆していましたが、新たに内科と小児科の医師も執筆に加わり、臨床の場で実際に診ることの多い軽症・中等症の対応にもページを割いています。この1冊でアレルギー全般の診断、治療、管理について最低限知っておくべき知識を得られ、疫学的知識や病態への理解をさらに深めたい方はそれぞれ原本となるガイドラインにあたってもらう、という方針で作成しました。非専門医が主要な想定読者だが、専門医にも有用――読者として想定している層は2つです。メインは日常診療を行う非専門医です。国民の2人に1人がアレルギー性疾患を持つとされ、日常診療を行う医師は誰もがアレルギー診療を避けては通れない状況です。そうした非専門医に向け、アレルギー全般の現在の標準治療がわかる1冊としました。コンパクトにまとまっていることで利便性も増したと思います。さらに、今版からは各章の章末に「専門医への紹介のポイント」という文章を加えており、紹介に迷ったときの指針になると思います。――もう1つの読者層は、アレルギー専門医です。たとえば、私は小児アレルギーが専門ですが、他のアレルギー疾患もある程度まで診られたほうがよいと考えています。というのも、アレルギー疾患は身体の複数の部位に症状が出るケースが多く、たとえば成人喘息の患者さんであれば呼吸器内科にかかり、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎を合併していれば、それぞれ皮膚科と耳鼻科を受診するというケースは少なくないと思います。それぞれが重症であればしかたないでしょうが、いずれかが軽症であれば重症の科の医師が主治医となって他の症状も診ることで患者さんの負担を減らすことができます。本書は、こうした「総合アレルギー専門医(Total Allergist)」の指針ともなる1冊です。――今回の改訂では、これまでの合本の形式から1冊の本へ編集し直す、という大きな方針転換をしました。図表や画像、レイアウト、紙の質まで細かく見直しています。これから集まる読者の感想を聞き、また3年後の改訂につなげたいと思っています。『アレルギー総合ガイドライン2022』定価:5,060円(税込)判型:B5判頁数:419頁発行:2022年10月作成:一般社団法人日本アレルギー学会発行:協和企画https://www.carenet.com/store/book/cg003919_index.html

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「肥満」との違いは?肥満症診療ガイドライン改訂

 11月24日に日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学医学部附属病院長])は、『肥満症診療ガイドライン2022』についてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の現況や治療に関する解説と今回刊行されたガイドラインの概要が説明された。また、本ガイドラインは12月2・3日に那覇市で開催される第43回日本肥満学会(会長:益崎 裕章氏[琉球大学大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授])で発刊される。肥満症とはBMI25以上で何らかの健康障害がある人 はじめに理事長の横手 幸太郎氏が「わが国における肥満症の現況と肥満症診療ガイドライン2022の位置づけ」をテーマに講演を行った。 肥満とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」をいい、わが国ではBMI25以上が肥満とされている。その数は、年を経て全世界で増えており、とくにアメリカやアフリカで増加している。 肥満になると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害のほか、膝・腰・足首などへの運動器障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じるリスクが高くなる。 そこで、BMIが25以上あり、一定の健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風など11項目)がある人を「肥満症」として、医学的に治療が必要な対象者としている(BMI35以上は高度肥満症)。 肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法と5つの考え方があり、他職種連携によるチーム医療がなされる必要がある。実際、一番身近な保健指導の介入により6ヵ月後のHbA1cは-0.2%減少、中性脂肪は-81.5%減少など改善効果が報告されている1)。 肥満に関して最近のトピックスとしては、若い女性にはBMI18.5未満の「やせ過ぎ」の女性がむしろ増えていることやそのやせ過ぎが将来的に骨粗鬆症や不妊のリスクとなること、高齢者の肥満ではフレイルなどとの関連も考慮し、無理な減量よりも筋肉量維持や増強に心がけることなども指摘されている。 横手氏は終わりに本ガイドラインの目的について「体重を減らすことにメリットがある。『やせるべき人』を選び出す、そして、適切に治療と予防を行うことである」と述べ講演を終えた。小児や高齢者の肥満にも言及 続いて、同学会のガイドライン作成委員会委員長の小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授)が「肥満症診療ガイドライン2022の改訂のポイント」をテーマに、今回の改訂内容や今後の展望などを解説した。 本ガイドラインは、2006年、2016年と発刊され、今回の2022年版では、主に「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」「コラム」について改訂が行われた。 「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」と「高度肥満症」では、肥満症治療指針について「肥満症」と「高度肥満症」とで目標、治療などの治療方針が異なることが記載された。とくに肥満の外科治療の減量・代謝改善手術では保険適用の内容などが改訂された。薬物治療についてはGLP-1受容体作動薬の治験に関して言及され、セマグルチドの68週後の体重変化率についてプラセボ-2.1%に対し、セマグルチド-13.2%と有意な体重減少があったこと、また、本試験が学会の定める肥満症の診断基準に基づいて作成されたプロトコ-ルで実施された試験であることなどが記載されている2)。 「高齢者の肥満」では、日本老年医学会のガイドラインの内容 と統一性を考慮して改訂され、 高齢者肥満症の減量目標をフレイル予防と健康障害発症予防の両者も考慮し「BMI22~25」の範囲とすることが記載され、過剰な減量には留意が必要とされている。 「小児の肥満」では、将来の成長を考慮しBMIではなく、肥満度で判定し、身体面だけでなく、肥満に伴う「いじめ」など生活面への配慮も記載されている。 「肥満症の治療薬」では、「肥満の治療」ではなく、「肥満症の治療」という基本概念のもと、記載の整備と概念を明確化したほか、改訂では製薬企業の開発担当者とも意見交換を行い、評価基準と適応基準は必ず同一ではないことが記載されている。 その他、今回の改訂では「肥満へのスティグマ」についても触れられ、肥満の原因が個人への帰責事由という偏見からくる社会的スティグマと肥満を自分自身の責任とする個人的スティグマへの配慮が述べられている。 最後に小川氏は「肥満症の課題は、認知度がまだ低く、社会的な浸透もメタボリックシンドローム(72.5%)や肥満(81.8%)と比較しても、肥満症(58.3%)は低い。このガイドラインが、診療に役立つだけでなく社会の啓発に寄与することを期待する」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

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ドキソルビシン、乳がん併用療法での休薬期間短縮可能に/サンドファーマ

 サンドファーマ株式会社は2022年11月24日、ドキソルビシン(一般名:アドリアシン注用10、同注用50)について、乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)に対する他の抗悪性腫瘍薬との併用療法の場合、シクロホスファミド水和物との併用において、用法及び用量の医薬品製造販売承認事項一部変更承認を受けたことを発表した。<製品概要>・販売名:アドリアシン注用10アドリアシン注用50・一般名:ドキソルビシン塩酸塩・効能・効果:変更なし・用法及び用量:<乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法>シクロホスファミド水和物との併用において、標準的なドキソルビシン塩酸塩の投与量及び投与方法は、1日量、ドキソルビシン塩酸塩として60mg(力価)/m2(体表面積)を日局注射用水又は日局生理食塩液に溶解し、1日1回静脈内投与後、13日間又は20日間休薬する。この方法を1クールとし、4クール繰り返す。なお、年齢、症状により適宜減量する。またドキソルビシン塩酸塩の総投与量は500mg(力価)/m2(体表面積)以下とする。・用法及び用量に関連する注意:<乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法)に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法>本剤の投与スケジュールの選択、G-CSF製剤の使用等について、国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。・承認取得日:2022年11月24日

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B型肝炎(HB)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第15回

今回は、ワクチンで予防できる疾患(VPD:vaccine preventable disease)の1つであるB型肝炎を取り上げる。B型肝炎はがんの原因となりうるウイルス性疾患の1つで、わが国では2006年に定期接種に導入された。ワクチンで予防できる疾患B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に感染し、一過性の感染もしくは持続性の感染を起こす。B型肝炎に感染すると20~30%が急性肝炎を発症し、そのうち1%前後が劇症化して昏睡・死亡に至ることがある。ウイルスを排除できず持続感染に至ると、慢性肝炎を発症し、さらに肝硬変、肝細胞がんを生じることがある。この持続感染の多くは出産時や乳幼児期に成立するため、ワクチンによる出生早期からの予防が望まれる1)。感染は血液や体液を介して成立する。母親がHBV保有者である場合、妊娠中あるいは出産中に、胎児もしくは新生児が母親の血液を介して感染することがある(垂直感染)。また、近年では性感染の割合も増加しており、2006~2015年に報告された急性B型肝炎のうち70%は性的接触による感染であった2)。さらに父子感染、保育園での集団感染といった汗、涙などによる感染が疑われる例も報告されている。そのほか医療従事者や清掃業者などが針刺し事故などの血液曝露で感染することがある1)(水平感染)。急性B型肝炎は感染症法において5類感染症に位置付けられており、診断から7日以内の届け出が義務付けられている1,3)。WHO(世界保健機関)による2019年の報告によると全世界の2億9,600万人がHBV持続感染者(キャリア)で、肝硬変や肝細胞がんにより年間82万人が亡くなっている4)。ワクチンの概要と接種スケジュール(表)表 B型肝炎ワクチンの概要画像を拡大する(おとなとこどものワクチンサイトより引用)開発、普及の歴史B型肝炎ワクチンは、1985年に母子感染予防事業として導入された。この事業では全妊婦で感染を確認し、HBs抗原陽性妊婦から出生した乳児に公費でワクチンおよび免疫グロブリン投与を行った。これにより94~97%と高率に母子感染が予防できるようになった5)。さらにWHOおよびUNICEF(国際連合児童基金)は、1992年にB型肝炎制圧のため、全世界の全新生児を対象にB型肝炎ワクチンの接種を行うように推奨した。これを受けて2016年10月には定期接種(A類疾病)となり、わが国においてもB型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチンとなった1,3)。1)効果B型肝炎ウイルスの感染を予防する。2)対象定期接種(1)1歳に至るまでの年齢にある者(2)長期療養などで定期接種期間中に受けることができなかった者(治療後2年間)3)保険適応(1)HBs抗原陽性(B型肝炎ウイルスキャリア)の母親から出生した児(2)血液曝露後:事故発生からなるべく早く経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)と共に1回目を接種する(保険適応は7日以内)。業務上の曝露でHBs抗原が陽性なら労災保険が適応される。4)任意接種上記以外のすべての場合5)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。6)注意点B型肝炎ワクチンによりアナフィラキシーを起こしたことがある場合は禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント1)どのような人に勧めるか?血液・体液に曝露する可能性のあるすべての人、つまり基本的にはすべての人に推奨される。特に医療・介護従事者、清掃業者、血液透析患者、コンタクトスポーツ(ラグビー、レスリングなど)をする人には必須である。そのほかHIV陽性者などの免疫不全者、HBs抗原陽性者のパートナーにも強く推奨される。また、海外留学の要件になることも多く、留学を考える人にとっても必須ワクチンの1つである。2)3回接種の途中で、異なる種類のワクチンを使っても良いか?問題はない。現在国内には、遺伝子型A由来のワクチン(商品名:ヘプタバックス-II[MSD社])と遺伝子型C由来のワクチン(同:ビームゲン[KMバイオロジクス社])の2種類が流通している。いずれも異なる遺伝子型に対しても有効であり、互換性がある。3)3回目接種が遅れた場合はどうすればよいか?気付いた時点で速やかに3回目を接種する。4)3回接種後の抗体確認は必要か?定期接種では不要である。ただし母子感染予防対象者、医療従事者などのハイリスク者では、3回目接種から1~2ヵ月後の抗体検査が推奨される。HBs抗体値が10mIU/mL未満の場合は1回の追加接種を行い、環境感染学会が推奨する図のアルゴリズムで対応する。被接種者の約10%が、1シリーズ(3回)接種後も抗体反応ができない(non responder)もしくは悪い(low responder)とされている。なお、若いほど抗体獲得率が高い7)ため、なるべく早期の接種が推奨される。図 ワクチン接種歴はあるが抗体の上昇が不明の場合の評価画像を拡大する(環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.より転載)今度の課題、展望従来のワクチンで十分な感染予防効果が期待できないワクチンエスケープ株が報告されており、新しいワクチンの開発が進んでいる。HBVは3種類のエンベロープ蛋白(small-S、middle-S、large-S蛋白)を持つ。従来のワクチンはsmall-S蛋白を抗原としているが、現在開発されているのはmiddle-S蛋白からなる“Pre-S2含有”ワクチンと、large-Sとsmall-S蛋白を併用するワクチンで、より多くのHBV株に対する効果が期待される1,8)。B型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチンである。職種を問わず全世代で推奨されるワクチンの1つであり、2016年4月以前に生まれた人の多くはワクチン接種歴がなく免疫を持たないため、1度は接種を検討すると良いだろう。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)B型肝炎、海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019. 日本渡航医学会; 2019.p.85-86.2)国立感染症研究所. IASR.2016;37:438.3)日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021.(2022年9月アクセス)4)Hepatitis B. WHO.5)白木和夫. IASR. 2000;21:74-75.6)環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.(2022年11月アクセス)7)厚生労働省. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版).(2022年9月アクセス)8)Washizaki A, et al. Nature Communications. 2022;13:5207.講師紹介

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2型DM患者の高TG血症へのペマフィブラート、心血管イベント抑制効果は?/NEJM

 軽度~中等度の高トリグリセライド血症を伴い、HDLコレステロールとLDLコレステロールの値が低い2型糖尿病患者において、ペマフィブラート(選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター)はプラセボと比較して、トリグリセライド、VLDLコレステロール、レムナントコレステロール、アポリポ蛋白C-IIIの値を低下させたが、心血管イベントの発生は抑制しなかったことが、米国ブリガム&ウィメンズ病院のAruna Das Pradhan氏らが実施した「PROMINENT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2022年11月24日号に掲載された。24ヵ国のイベント主導型試験 PROMINENT試験は、日本を含む24ヵ国876施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2017年3月~2020年9月の期間に患者の登録が行われた(Kowa Research Instituteの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病と診断され、軽度~中等度の高トリグリセライド血症(空腹時トリグリセライド値200~499mg/dL)を伴い、HDLコレステロール値が40mg/dL以下の患者であった。また、患者は、ガイドラインに基づく脂質低下療法を受けているか、有害事象なしでスタチン療法を受けることができず、LDLコレステロール値が100mg/dL以下の場合に適格とされた。 被験者は、ペマフィブラート(0.2mg錠、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術、心血管死の複合とされた。非アルコール性脂肪性肝疾患の頻度は低い 1万497例(年齢中央値64歳、女性27.5%)が登録され、ペマフィブラート群に5,240例、プラセボ群に5,257例が割り付けられた。1次予防の集団(年齢が男性50歳以上、女性55歳以上でアテローム動脈硬化性心血管疾患がない)が33.1%、2次予防の集団(年齢18歳以上で、アテローム動脈硬化性心血管疾患が確立されている)は66.9%であった。 ベースラインで95.7%がスタチンの投与を、80.1%がACE阻害薬またはARBの投与を、9.3%がGLP-1受容体作動薬を、16.8%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。空腹時トリグリセライド中央値は271mg/dL、HDLコレステロール中央値は33mg/dL、LDLコレステロール中央値は78mg/dLだった。追跡期間中央値は3.4年。 4ヵ月の時点におけるプラセボ群と比較した脂質値のベースラインからの変化率の差は、トリグリセライドが-26.2%(95%信頼区間[CI]:-28.4~-24.10)、VLDLコレステロールが-25.8%(-27.8~-23.9)、レムナントコレステロールが-25.6%(-27.3~-24.0)、アポリポ蛋白C-IIIが-27.6%(-29.1~-26.1)と、いずれもペマフィブラート群で低かった。一方、HDLコレステロールは5.1%(4.2~6.1)、LDLコレステロールは12.3%(10.7~14.0)、アポリポ蛋白Bは4.8%(3.8~5.8)であり、ペマフィブラート群で高かった。 有効性の主要エンドポイントは、ペマフィブラート群が572例(3.60/100人年)、プラセボ群は560例(3.51/100人年)で発生し(ハザード比[HR]:1.03、95%CI:0.91~1.15、p=0.67)、両群間に差はなく、事前に規定されたすべてのサブグループで明確な効果修飾(effect modification)は認められなかった。 重篤な有害事象の発生には両群間に有意な差はみられなかった(ペマフィブラート群 14.74/100人年vs.プラセボ群14.18/100人年、HR:1.04、95%CI:0.98~1.11、p=0.23)。一方、ペマフィブラート群では、腎臓の有害事象(10.67/100人年vs.9.55/100人年、HR:1.12、95%CI:1.04~1.20、p=0.004)、静脈血栓塞栓症(0.43/100人年vs.0.21/100人年、HR:2.05、95%CI:1.35~3.17、p<0.001)の発生率が高く、非アルコール性脂肪性肝疾患(0.95/100人年vs.1.22/100人年、HR:0.78、95%CI:0.63~0.96、p=0.02)の発生率が低かった。 著者は、「ペマフィブラート群で観察されたアポリポ蛋白BとLDLコレステロール値の上昇が、トリグリセライド値やレムナントコレステロール値の低下による有益性を打ち消した可能性は否定できない」としている。

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