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がん治療の中断・中止を防ぐ血圧管理方法とは/日本腫瘍循環器学会

 第8回日本腫瘍循環器学会学術集会が2025年10月25、26日に開催された。本大会長を務めた向井 幹夫氏(大阪がん循環器病予防センター 副所長)が日本高血圧学会合同シンポジウム「Onco-Hypertensionと腫瘍循環器の新たな関係」において、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』の第10章「他疾患やライフステージを考慮した対応」を抜粋し、がん治療の中断・中止を防ぐための高血圧治療実践法について解説した。高血圧はがん患者でもっとも多い合併症の一つ、がんと高血圧の関係は双方向性を示す がんと高血圧はリスク因子も発症因子も共通している。たとえば、リスク因子には加齢、喫煙、運動不足、肥満、糖尿病が挙げられ、発症因子には血管内皮障害、酸化ストレス、炎症などが挙げられる。そして、高血圧はがん治療に関連した心血管毒性として、心不全や血栓症などに並んで高率に出現するため、血圧管理はがん治療の継続を判断するうえでも非常に重要な評価ポイントとなる。また、高血圧が起因するがんもあり、腎細胞がんや大腸がんが有名であるが、近年では利尿薬による皮膚がんリスクが報告されている1)。 このように高血圧とがんは密接に関連しており、今年8月に改訂された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、高血圧GL)には新たに「第10章7.担がん患者」の項2)が追加。治療介入が必要な血圧値を明記するとともに、がん特有の廃用性機能障害・栄養障害、疼痛、不安などの全身状態に伴う血圧変動にも留意する旨が記載されている。 向井氏は「このような高血圧はがん治療関連高血圧と呼ばれ、さまざまながん治療で発症する。血圧上昇のメカニズムは血管新生障害をはじめ、血管拡張障害によるNO低下、ミトコンドリアの機能低下など多岐にわたる。血圧上昇に伴いがん治療を中断させないためにも、発症早期からの適切な降圧が必要」と強調した。<注意が必要な薬効クラス/治療法と高血圧の発生率>3,4)・VEGF阻害薬(血管新生阻害薬):20~90%・BTK阻害薬:71~73%・プロテアソーム阻害薬:10~32%・プラチナ製剤:53%・アルキル化薬:36%・カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン):30~60%・BRAF/MEK阻害薬:20%・RET阻害薬:43%・PARP阻害薬:19%・mTOR阻害薬:13%・ホルモン療法(アンドロゲン受容体遮断薬・合成阻害薬):11~26%*注:上記についてすべての症例が同様の結果を示すわけではない140/90mmHg以上で降圧薬開始、がん治療後も130/80mmHg未満を この高血圧GLにおいて、がん治療患者の降圧治療開始血圧は140/90mmHg以上、動脈硬化性疾患、慢性腎臓病、糖尿病合併例では130/80mmHg以上で考慮することが示され、まずは140/90mmHg未満を目指す。もし、降圧治療に忍容性があれば130/80mmHg未満を、転移性がんがある場合には予後を考慮して140~160/90~100mmHgを目標とする。 がん治療終了後については、血圧管理は130/80mmHg未満を目標とする。治療介入するには低過ぎるのでは? と指摘する医師も多いようだが、患者の血管はがんやがん治療によりすでに傷害されていることがあり、「その状況で血圧上昇を伴うと早期に臓器障害が出現してしまう」と同氏は経験談も交えて説明した。ただし、廃用性機能障害・栄養障害 を示す症例において血圧の下げ過ぎはかえって危険なため、がん治療関連高血圧マネジメントにおいては、基本的には高リスクI度高血圧およびII・III度高血圧に対する降圧薬の使い方(第8章1.「2)降圧薬治療STEP」)の遵守が重要である。同氏は「STEP1として、治療開始はまず単剤(RA系阻害薬あるいは長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)から、160/100mmHg以上の場合には両者を併用する。降圧不十分な場合にはSTEP2、3と高血圧GLに沿って降圧薬を選択していく」とし、「がん患者の病態をチェックしながら体液貯留や脱水状態そして頻拍、心機能障害などの有無などに合わせ降圧薬を選択する必要がある。さらに治療抵抗性を示す症例では選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)などの投与を考慮して欲しい」と説明した。 がん治療の中止基準となる血圧値については「180/110mmHg以上または高血圧緊急症が認められた場合、がん治療の休止/中止または治療薬変更が求められる」と説明した。 最後に同氏は「がん治療終了後も治療終了(中止)に伴う血圧変化として血圧低下に注意し、がんサバイバーにおいては晩期高血圧のフォローアップが重要となる。そのためには、がん治療が終了した後もがん治療医、循環器医、そして腎臓内科医やプライマリケア医、外来薬剤師などが連携して、患者の血圧管理を継続してほしい」と締めくくった。「大阪宣言2025」 今回の学術集会では、日本の腫瘍循環器外来発症の地、大阪での開催を1つの節目として、南 博信氏(神戸大学大学院医学研究科 腫瘍・血液内科/日本腫瘍循環器学会 理事長)による「大阪宣言2025」がなされた。これは、がん診療医と循環器医が診療科横断的に協力し合い、多職種が連携・協同し、がん患者の心血管リスクや心血管合併症の管理・対応、がんサバイバーにおける予防的介入により、がん患者・がんサバイバーの生命予後延伸とQOL改善を目指すため、そして市民啓発から腫瘍循環器の機運を高めていくために宣言された。 日本での腫瘍循環器学は、2011年に大阪府立成人病センター(現:大阪国際がんセンター)で腫瘍循環器外来が開設されたことに端を発する。その後、2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され、2023年日本臨床腫瘍学会/日本腫瘍循環器学会よりOnco-Cardiologyガイドラインが発刊されるなど、国内での腫瘍循環器診療の標準化が着実に進められている。

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オピオイド鎮痛薬のトラマドール、有効性と安全性に疑問

 がんによる疼痛や慢性疼痛に対して広く処方されている弱オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)のトラマドールは、期待されたほどの効果はないことが、新たな研究で明らかにされた。19件の研究を対象にしたメタアナリシスの結果、トラマドールは中等度から重度の疼痛をほとんど軽減しないことが示されたという。コペンハーゲン大学(デンマーク)附属のリグスホスピタレットのJehad Ahmad Barakji氏らによるこの研究結果は、「BMJ Evidence Based Medicine」に10月7日掲載された。研究グループは、「トラマドールの使用は最小限に抑える必要があり、それを推奨するガイドラインを再検討する必要もある」と結論付けている。 研究グループによると、トラマドールはモルヒネと同様に脳内のオピオイド受容体に結合することで鎮痛作用を発揮するが、セロトニンやアドレナリンといった脳内化学物質の再取り込みを阻害することで、抗うつ薬に似た作用も併せ持つ。トラマドールは、モルヒネ、オキシコンチン、フェンタニルといったより強力なオピオイドよりも安全で依存性が低い選択肢と見なされていることから使用が急増し、現在では米国で最もよく処方されるオピオイド鎮痛薬の一つになっているという。 Barakji氏らは今回、総計6,506人の慢性疼痛患者を対象とした19件のランダム化比較試験のデータを統合して解析した。5件の研究は神経痛、9件は変形性関節症、4件は腰痛、1件は線維筋痛症に対するトラマドールの使用を検討していた。 その結果、トラマドールは慢性疼痛の軽減に対してわずかに効果があるものの、その効果量は、NRS(Numerical Rating Scale;痛みを0〜10の数字で評価する指標)で1.0ポイントという、事前に設定した臨床における最小重要差には届かないことが明らかになった。重篤な有害事象については、トラマドール群ではプラセボ群と比較してリスクが2倍に増加しており、このリスクは、主に心臓関連イベントと新生物の発生率の高さに起因していた。その他の副作用には、吐き気、めまい、便秘、眠気などがあった。 これらの結果からBarakji氏らは、「疼痛管理のためにトラマドールを使用することで生じる潜在的な有害性は、その限られた有効性を上回る可能性が高い」と述べている。また同氏らは、対象とした研究の実施方法に鑑みると、これらの結果はトラマドールの有効性を過大評価する一方で、有害性を過小評価している可能性が高いと指摘している。 さらにBarakji氏らは、トラマドールの使用を控えるべき理由として依存と過剰摂取を挙げ、「世界中で約6000万人が依存を引き起こすオピオイドの作用を経験している。2019年には薬物使用により約60万人が死亡した。そのうちの約80%はオピオイド関連、約25%はオピオイドの過剰摂取によるものだった」と述べている。 研究グループは、「米国では、オピオイド関連の過剰摂取による死亡者数は、2019年の4万9,860人から2022年には8万1,806人に増加した。これらの傾向と今回の研究結果を考慮すると、トラマドールをはじめとするオピオイドの使用は可能な限り最小限に抑えるべきだ」と主張している。

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わが国初の点鼻噴霧のアナフィラキシー薬「ネフィー点鼻液1mg/2mg」【最新!DI情報】第50回

わが国初の点鼻噴霧のアナフィラキシー薬「ネフィー点鼻液1mg/2mg」今回は、アナフィラキシー補助治療薬「アドレナリン(商品名:ネフィー点鼻液1mg/2mg、製造販売元:アルフレッサ ファーマ)」を紹介します。本剤は、蜂毒、食物および薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療薬であり、点鼻液であるため簡便かつ迅速な投与が可能になると期待されています。<効能・効果>本剤は、蜂毒、食物および薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、体重30kg未満の患者にはアドレナリンとして1回1mgを、体重30kg以上の患者にはアドレナリンとして1回2mgを鼻腔内に投与します。<安全性>重大な副作用として、肺水腫、呼吸困難、心停止(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、鼻部不快感、鼻粘膜障害、鼻腔内感覚鈍麻、鼻痂皮、鼻痛、鼻漏、鼻閉、咽喉刺激感、咳嗽、口腔咽頭不快感、口腔咽頭痛、咽頭感覚鈍麻、動悸、頻脈、血圧上昇、心拍数増加、胸内苦悶、不整脈、顔面潮紅・蒼白、頭痛、振戦、浮動性めまい、不安、口の感覚鈍麻、悪心、嘔吐、そう痒症、過敏症状など、悪寒、熱感、発汗、疼痛、びくびく(いずれも頻度不明)があります。過量投与により過度の昇圧反応を起こす可能性があり、急性肺水腫、不整脈、心停止などの重篤な有害事象を生じる恐れがあるので、過量投与に対して注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、アナフィラキシーが発現したときの緊急の補助治療のための点鼻薬です。交感神経を刺激する作用により、ショック症状を改善します。鼻以外には絶対に投与しないでください。2.医療機関での治療に代わるものではありませんので、この薬を使用した後には必ず医療機関を受診し、医師の治療を受けてください。3.患者向けの説明文書などをよく読み、練習用見本を用いて、この薬の使用方法に慣れておいてください。4.噴霧器には1回(1噴霧)分の薬が入っています。試し噴霧や再使用はしないでください。<ここがポイント!>アナフィラキシーは急速に症状が発現し、致死的な気道・呼吸・循環器症状を引き起こし得る重篤な全身性アレルギー反応です。アナフィラキシー発現時には、迅速な対応が不可欠であり、現在では補助治療の第一選択薬として、アドレナリン注射液自己注射キット(エピペン注射液)が広く使用されています。しかし、自己注射キットの用法は大腿部中央の前外側への筋肉注射であり、自己注射という特性上、患者本人や家族などの介護者が事前に投与訓練を受ける必要があります。そのため、自己注射以外のより簡便で迅速に投与できる製剤の開発が望まれていました。本剤は、アドレナリンを有効成分とする鼻腔内投与製剤で、わが国で初めて「蜂毒、食物および薬物などに起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療」の適応を取得した点鼻薬です。本剤には、鼻腔内投与時のバイオアベイラビリティー向上を目的として、界面活性剤であるドデシルマルトシド(DDM)が配合されています。また、非加圧式ディスペンサー(ポンプ式噴霧器)を採用しており、ポンプ作動時には微細な霧状で薬液が噴霧されます。1回の作動で全量を使い切る単回使用製剤であり、試し噴霧や再使用はできません。なお、本剤の処方には医師の会員サイトでの登録が必要であり、適正使用のための流通管理が行われています。鼻アレルゲン負荷試験(OFC)によって誘発した症状を有する患者を対象とした国内第III相試験(EPI JP03試験)において、主要評価項目である投与15分後または投与15分後までの代替治療前の最終評価時点における主症状※の投与前からの改善率は、本剤1.0mg投与群の83.3%で1グレード以上の改善が認められ、本剤2.0mg投与群では66.7%でした。全体での1グレード以上の改善率は73.3%でした。総合グレードの推移は、いずれの用量群でも、本剤投与から5分以内(最初の評価時点)に各器官症状の総合グレードの平均値が低下し始めました。※主症状:OFCにより誘発されたアナフィラキシーガイドラインに基づくグレード2以上の症状(消化器症状、呼吸器症状または循環器症状)。複数の器官に同じグレードの症状が認められた場合は、その器官症状の重篤性より循環器症状>呼吸器症状>消化器症状の順に主症状を定めた。

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筋層浸潤性膀胱がんにおけるデュルバルマブの役割:NIAGARA試験からの展望

 膀胱がんは筋層に浸潤すると予後不良となる。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の治療にはアンメットニーズが多く、新たな治療戦略が求められる。そのような中、デュルバルマブのMIBCにおける術前・術後補助療法が承認された。都内で開催されたアストラゼネカのプレスセミナーで、富山大学の北村 寛氏がMIBC治療の現状と当該療法の可能性について紹介した。StageII/III MIBCにおける術前化学療法の限界とICIの登場 膀胱がんの5年生存割合は、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)では70~80%であるのに対して、MIBCでは20~30%と低い。また、病期が進行するにつれ予後不良となり、II期のMIBCでは46.6%、III期では35.7%、IV期では16.6%である。 StageIIとIIIのMIBC治療におけるゴールドスタンダードは膀胱全摘術±CDDPベースの術前補助療法である。膀胱全摘への術前化学療法の導入により治療成績は向上し、5年生存割合は5%上がる。この成績はさまざまな試験で立証され確立したものである。半面、恩恵を受けられる患者は5%にとどまる。StageIIとIIIのMIBCに対する新たな治療法の開発が必要であった。 このような状況で、 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場し、MIBC治療への導入が検討され始める。周術期においては、高リスクの根治切除後MIBCに対するニボルマブ術後補助療法の有効性を評価したCheckMate-274試験が行われている。同試験において、ニボルマブの術後補助療法は、プラセボと比較して無病生存期間などを有意に改善している。デュルバルマブによる術前・術後補助療法を評価する「NIAGARA試験」 CheckMate 274の結果から、ICIのさらなる有効活用が検討されはじめる。 NIAGARA試験はMIBCに対するデュルバルマブを上乗せした周術期療法を評価するために行われた。対象は膀胱全摘術の対象となるMIBCで、標準治療である術前ゲムシタビン+CDDP(GC)療法とデュルバルマブ周術期療法(術前GC・デュルバルマブ併用+術後デュルバルマブ)を比較する第III相非盲検無作為化試験である。主要評価項目は病理学的完全奏効率(pCR)、無イベント生存期間(EFS)である。 その結果、主要評価項目であるpCR(データ更新後再解析)は、デュルバルマブ・GC群37.3%、GC群27.5%で、デュルバルマブ・GC群で有意に高かった(オッズ比:1.60、95%信頼区間[CI]:1.227~2.084、p=0.0005)。また、EFSのHRは0.68(95%CI:0.56~0.82、p<0.001)、2年EFS割合はデュルバルマブ・GC群で67.8%、GC群59.8%で、デュルバルマブ・GC群で有意に改善した。 デュルバルマブ・GC群の有害事象プロファイルはGC療法単独群と大きく変わらず、免疫関連有害事象 の頻度も限定的であった。 NIAGARA試験の結果から、StageII/III MIBCに対するデュルバルマブ併用周術期治療はNCCNガイドラインで推奨されている。※記事の一部に誤記載がございました。訂正してお詫び申し上げます。

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抗うつ薬30種類の生理学的影響を比較~ネットワークメタ解析/Lancet

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのToby Pillinger氏らは系統的レビューとネットワークメタ解析を行い、抗うつ薬はとくに心代謝パラメータにおいて薬剤間で生理学的作用が著しく異なるという強力なエビデンスがあることを明らかにした。抗うつ薬は生理学的変化を誘発するが、各種抗うつ薬治療におけるその詳細は知られていなかった。結果を踏まえて著者は、「治療ガイドラインは、生理学的リスクの違いを反映するよう更新すべき」と提唱している。Lancet誌オンライン版2025年10月21日号掲載の報告。15のパラメータの変化をネットワークメタ解析で評価 研究チームは、2025年4月21日の時点で医学関連データベースに登録された関連文献を検索し、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(英国国立衛生研究所[NIHR]などの助成を受けた)。対象は、成人の精神疾患患者の急性期(8週目まで)単剤療法において、抗うつ薬とプラセボを比較した単盲検または二重盲検無作為化臨床試験の論文とした。 頻度論的な変量効果ネットワークメタ解析により、抗うつ薬治療による抑うつ症状の重症度の変化と、次の15の代謝パラメータの変化の相関性を評価した。体重、総コレステロール、血糖、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、補正QT間隔(QTc)、ナトリウム、カリウム、アスパラギン酸トランスフェラーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、ビリルビン、尿素、クレアチニン。 151件の研究と17件の米国食品医薬品局(FDA)の報告書が選択基準を満たした。対象は5万8,534例(抗うつ薬[30種の薬剤]群4万1,937例、プラセボ群1万6,597例)で、平均年齢は44.7(SD 15.8)歳、女性が62.0%、白人が74.8%であり、治療期間の範囲は3~12週(中央値:8週、四分位範囲:6.0~8.5)であった。4つの試験が、バイアスのリスクが高いと判定された。体重に4kg、心拍数に21bpm、収縮期血圧に11mmHg以上の差 代謝および血行動態に及ぼす影響について、抗うつ薬間で臨床的に有意な差を認めた。たとえば、(1)体重:プラセボと比較してagomelatineで2.44kg減少、同様にマプロチリンで1.82kg増加し(いずれも有意差あり)、両群間で4.26kgの差、(2)心拍数:フルボキサミンで8.18bpm低下、ノルトリプチリンで13.77bpm上昇し(いずれも有意差あり)、21.95bpmの差、(3)収縮期血圧:ノルトリプチリンで6.68mmHg低下、doxepinで4.94mmHg上昇し(いずれも有意差あり)、11.62mmHgの差が観察された。 また、パロキセチン、デュロキセチン、desvenlafaxine、ベンラファキシンは総コレステロール値の上昇(プラセボと比較してそれぞれ0.16、0.17、0.27、0.22mmol/Lの上昇、いずれも有意差あり)と関連し、デュロキセチンはさらに血糖値の上昇(0.30mmol/Lの上昇、有意差あり)とも関連しており、これら4つの薬剤は体重減少(それぞれ0.35、0.63、0.63、0.74kgの減少、いずれも有意差あり)をももたらした。 一方、デュロキセチン、desvenlafaxine、levomilnacipranについては、AST(プラセボと比較してそれぞれ2.08、1.27、1.78IU/Lの上昇、いずれも数値上の有意差あり)、ALT(同様に2.20、1.43、1.97IU/Lの上昇、有意差あり)、ALP(同様に2.29、7.25、4.55IU/Lの上昇、有意差あり)の濃度上昇の強力なエビデンスを得たが、これらの変化の程度は臨床的に有意とは見なされなかった。高齢ほど血糖値上昇幅が大きい QTcとナトリウム、カリウム、尿素、クレアチニンの濃度には、臨床的に有意な影響を及ぼすほどの抗うつ薬の強いエビデンスを認めなかった。また、ベースラインの体重が重いほど、抗うつ薬による収縮期血圧、ALT、ASTの上昇幅が大きく、ベースラインの年齢が高いほど、抗うつ薬による血糖値の上昇幅が大きかった。抑うつ症状の変化と代謝異常との間に関連はみられなかった。 著者は、「これらの知見は、個別の抗うつ薬には高頻度で多様な生理学的副作用があることを示しており、とくに体重、心拍数、血圧の生理学的変化の程度は大きい。マプロチリンやアミトリプチリンは、患者のほぼ半数に臨床的に重要な体重増加を引き起こす可能性がある」「抗うつ薬の選択は、臨床所見および患者、介護者、臨床医の意向を考慮し、個別に行うべき」としている。

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経口選択的心筋ミオシン阻害薬aficamtenは症候性の閉塞性肥大型心筋症患者においてβ遮断薬よりも臨床的に有効である(解説:原田和昌氏)

 Cohen、Braunwaldらの約60年前のエキスパートオピニオンと限定的なエビデンスにより、β遮断薬は症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)の第1選択の治療として使い続けられてきた。一方、経口選択的心筋ミオシン阻害薬であるaficamtenの上乗せは標準治療と比較して左室流出路圧較差を軽減し、運動耐容能を改善してHCMの症状を軽減することが第III相二重盲検比較試験であるSEQUOIA-HCM試験により示された。今回、スペイン・CIBERCVのGarcia-Pavia氏らMAPLE-HCM研究者たちは、HCMの治療においてβ遮断薬単剤投与とaficamtenの単剤投与との臨床的有益性を比較する目的で、国際共同第III相二重盲検ダブルダミー無作為化試験であるMAPLE-HCM試験を実施した。 年齢18~85歳、左室壁厚が15mm以上(疾患の原因となる遺伝子変異またはHCMの家族歴がある場合は13mm以上)のHCMと診断され、LVEFが60%以上、かつ安静時の左室流出路圧較差が30mmHg以上、またはバルサルバ法で誘発時の左室流出路圧較差が50mmHg以上の患者175例を世界71施設で登録した。ダブルダミー法により、被験者をaficamten(漸増)+プラセボ群、またはメトプロロール(漸増)+プラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、24週間投与した。aficamten群は88例、メトプロロール群は87例で、平均年齢58歳、58.3%が男性であった。ベースラインの安静時の平均左室流出路圧較差は47mmHg、誘発時の平均左室流出路圧較差は74mmHgで、平均LVEFは68%、NYHA心機能分類II群が70.3%を占めた。NT-proBNP値中央値は468pg/mLであった。 メトプロロール単剤に比べaficamten単剤は、主要エンドポイントである最高酸素摂取量の改善に関して優越性を示し、副次エンドポイントである症状の軽減や安静時および誘発時の左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数の改善と関連した。有害事象の発現状況は同程度であった。 現在のガイドラインではHCMに対してマバカムテンが推奨されているが、本試験の結果により、aficamtenはβ遮断薬中心の標準治療に代わって、HCMの第1選択ないしは単剤治療として推奨される可能性がある。逆に、β遮断薬はHCMの安静時および誘発時の左室流出路圧較差、NT-proBNP値、左房容積係数をいずれも改善しないことが明らかになった。もっとも、Braunwald先生らの名誉のために付け加えると、β遮断薬でKCCQ-CSSやNYHA心機能分類がわずかに改善する傾向はみられた。

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第287回 高市新首相の所信表明と閣僚指示で気になった2つの言葉、「新たな地域医療構想」と「自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度」

医療界は補正予算での医療機関に対する支援に期待こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。高市政権が誕生しました。新総理大臣は就任直後から、フルスロットルで国内外を飛び回り、タフネス振りをアピールしています。とはいえ60歳を超えた女性です。いつ何時、つまづいたり転んだりして大腿骨頸部などを骨折しないとも限りません。学生時代、カワサキのロードスポーツ、Z400GP(ホンダやヤマハでないところが渋いですね)に乗っていた“走り屋”だそうですが、くれぐれも諸々、飛ばし過ぎには気を付けていただきたいと思います。さて、医療界では、来年の診療報酬改定を待たず、補正予算で医療機関に対する何らかの支援が行われるだろうとの期待が高まっています。しかし、所信表明演説をよく読むと、前回(第286回 連立に向けた与野党の最低パフォーマンスのあげく、高市早苗総理大臣の誕生へ 連立参加で維新の社会保障政策案はどこまで実現できる?)も書いたように、日本維新の会の意向も汲んで、医療界にとってはなかなか厳しい内容も盛り込まれています。ということで、今回も前回に引き続き、高市政権のこれからの医療政策について書いてみたいと思います。国民会議を設置し税と社会保障の一体改革について議論高市早苗首相は10月24日、衆参両院の本会議で就任後初めての所信表明演説を行いました1)。「物価高対策」の中では、「赤字に苦しむ医療機関や介護施設への対応は待ったなしです。診療報酬・介護報酬については、賃上げ・物価高を適切に反映させていきますが、報酬改定の時期を待たず、経営の改善及び従業者の処遇改善につながる補助金を措置して、効果を前倒しします」と、改定前での対応を約束しました。また、「健康医療安全保障」の中では、「社会保障制度における給付と負担の在り方について、国民的議論が必要」として、「超党派かつ有識者も交えた国民会議を設置し、給付付き税額控除の制度設計を含めた税と社会保障の一体改革について議論してまいります」と述べました。そして、「政党間合意も踏まえ、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しや、電子カルテを含む医療機関の電子化、データヘルスなどを通じた効率的で質の高い医療の実現などについて、迅速に検討を進めます」と述べるとともに、「こうした社会保障制度改革を進めていく中で、現役世代の保険料負担を抑えます。当面の対応が急がれるテーマについては、早急に議論を進めます」としました。日本維新の会が強く求める現役世代の保険料負担軽減については、所信表明が行われる前日、10月23日に開かれた社会保障審議会・医療保険部会において、厚生労働省が70歳以上の高齢者が医療機関の窓口で支払う医療費の負担について、現役世代と同じ3割とする対象者の拡大など、医療費負担のあり方が議題として提示され、議論がスタートしています。厚労省からは後期高齢者の給与所得や金融所得が増えていることを示す資料が出されたとのことです。各方面からの抵抗も大きそうですが、一定収入のある高齢者の負担増はほぼ既定路線と言えるでしょう。「新たな(新しい)地域医療構想」という言葉が2度も所信表明で個人的に気になったのは、地域医療構想に言及した部分です。「高齢化に対応した医療体制の再構築も必要です。入院だけでなく、外来・在宅医療や介護との連携を含む新しい地域医療構想を策定するとともに、地域での協議を促します。加えて、医師の偏在是正に向けた総合的な対策を講じます。あわせて、新たな地域医療構想に向けた病床の適正化を進めます」と、「新たな(新しい)地域医療構想」という言葉を2度も使っています。それだけ政府が重要視している政策だということでしょう。高市首相は社会保障分野でこれまで目立った実績はありませんが、第3次安倍内閣で総務大臣をしていた2015年には、「新公立病院改革ガイドライン」の策定に関与し、地域医療構想に沿った公立病院の病床機能分化・連携強化を推し進めました。病院経営や病院再編に関しては一定の素養があるとみられます。とは言うものの、「新たな地域医療構想」が盛り込まれた医療法改正案は、以前の回「第265回 “米騒動”で農水相更迭、年金法案修正、医療法改正案成立困難を招いた厚労相の責任は?」で書いたように今年4月に衆院本会議で審議入りしてから棚ざらしとなり、年金法改正案が優先されたこともあって結局継続審議となっています。厚労省は今の臨時国会での成立を目指しているとのことですが、自民、公明、維新の3党合意を踏まえた法案の修正も行わなければなりません。医療法の施行期日は、最も早いもので来年4月を予定しているそうです。仮に臨時国会でも成立せず、来年の通常国会に回した場合、施行スケジュールの大幅な見直しを迫られ、医療提供体制の改革にも大きな影響が出るでしょう。「重要視」している割に医療法改正案を「棚晒し」にしてきた政府と厚労省の本気度が問われるところです。OTC類似薬含めセルフメディケーションは推進の姿勢ところで、21日の内閣発足にあたり、高市首相が18人の閣僚に出した指示書の全容が明らかになっており、上野 賢一郎厚生労働大臣にも9項目に及ぶ指示が飛んでいます。各紙報道等によれば、総理大臣が就任にあたって各大臣にこのような指示書を出すというのは極めて異例のことだそうです。しかもこの指示書、高市サイドからあえてマスコミにリークしたそうで、「なかなかの剛腕ぶり」と書くメディアもありました。上野厚労省への指示書の中にも気になる文言がありました。2つ目の項目の中に、「関係大臣と協力して、データに基づく医療行政のメリハリ強化を進めるとともに、自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度の構築により、医療費を適正化する」と書かれているのです。「自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度」とは、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しやセルフメディケーション推進のことだと考えられます。所信表明では「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し」、大臣への指示では「自己管理を主眼とした健康維持のための医療制度の構築」と表現が微妙に異なるその真意はわかりませんが、OTC類似薬だけではなく広くセルフメディケーションを推進していく意向があるのは間違いないようです。だとすれば、日本医師会とは全面対決となるかもしれません。財務省主計局次長に「診療報酬の地域別単価」の一松氏ところで、財務省は10月21日付で、予算編成を担う主計局の次長に、一松 旬大臣官房審議官(大官房担当)を充てる人事を発令しました。一松氏は次期診療報酬改定も含め社会保障分野を担当するとのことです。一松氏は社会保障に詳しい財務官僚として有名な存在で、主計官の時には2021年度介護報酬改定、2022年度診療報酬改定を担当しました。また、「第209回 これぞ財務省の執念? 財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」でも書いたように、財務省から出向し奈良県副知事を務めていた時には奈良県(高市首相の地元です)で診療報酬の地域別単価の導入を推し進めようとした人物でもあります。医療関係団体が補正予算対応を喜んでいる間に、政府側は“抵抗勢力”のための布陣をしっかり敷いたという見方もできそうです。これから本格化する次期診療報酬改定に向けての議論、とくに財務省の動きが注目されます。参考1)第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説/首相官邸

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冠動脈バイパス術後の新規AF発症、術後30日以後はリスク低い?/JAMA

 ドイツ・LMU University HospitalのFlorian E. M. Herrmann氏らは、同病院およびイエナ大学病院の心臓外科センターで研究者主導の前向き観察研究を実施し、植込み型心臓モニター(ICM)による1年間のモニタリングの結果、冠動脈バイパス術(CABG)後1年以内の新規心房細動(AF)の累積発生率は既報より高かったものの、術後30日以降はAF負担がきわめて低いことを明らかにした。CABG後のAF新規発生率や負担は不明であるが、米国のガイドラインでは非無作為化臨床試験に基づきCABG後新たにAFを発症した患者に対し60日間の経口抗凝固療法がクラス2a(中程度の強さ)で推奨されている。著者は「術後30日以降のきわめて低いAF負担は、現行ガイドラインの推奨に疑問を呈するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年10月9日号掲載の報告。AF既往歴のない初回単独CABG施行患者198例を登録 研究グループは、初回単独CABGで、3枝冠動脈疾患または左主幹病変に対し2本以上のバイパスグラフトを施行する、AFならびにその他の不整脈の既往がない術前左室駆出率が35%以上の成人(18歳超)を対象に、術中(皮膚閉鎖後)にICMを埋設し、持続モニタリングを開始した。 主要アウトカムは、持続モニタリングで検出されたCABG後1年以内の新規AF累積発生率。副次アウトカムは、1年間におけるAF累積持続時間、AF負担(AF累積持続時間/総モニタリング時間)、臨床アウトカムなどであった。 2019年11月~2023年11月に1,217例がスクリーニングされ、適格患者198例(男性173例[87.4%]、女性25例[12.6%]、平均年齢66歳[SD 9])が登録された。術後1ヵ月以降はAF負担中央値0、累積持続時間0分 198例中1例はモニタリング開始前に死亡し、197例(99.5%)で遠隔データ収集が開始され、192例(97.0%)が1年間の持続モニタリングを完了した。 198例中95例がCABG後1年以内に新規AFを発症し、累積発生率は48%(95%信頼区間:41~55)であった。 一方、副次アウトカムである1年間のAF負担中央値は0.07%(四分位範囲:0.02~0.23)、AF累積持続時間は370分であった。AF負担中央値は、術後1~7日目で3.65%(0.95~9.09)、8~30日目0.04%(0~1.21)、31~365日目0%(0~0.0003)であり、AF累積持続時間はそれぞれ368分、13分、0分であった。 退院後、3例で24時間を超えるAF発作が認められた。

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アナフィラキシーへのアドレナリン点鼻投与の効果、エピペンと同等以上

 新たなエビデンスレビューによると、命に関わる重度のアレルギー反応を起こした人は、アドレナリンを主成分とするエピペンを太ももに刺すよりも点鼻スプレーを使った方が良いかもしれない。この研究では、液体または粉末のアドレナリンのスプレーによる鼻腔内投与は、注射による投与と同等か、場合によってはそれ以上の効果のあることが示されたという。英ロイヤル・ダービー病院のDanielle Furness氏らによるこの研究結果は、欧州救急医学会議(EUSEM 2025、9月28日〜10月1日、オーストリア・ウィーン)で発表された。 Furness氏は、「このレビューから、液体または乾燥粉末のアドレナリンの鼻腔内投与の効果はエピペンと同等であり、場合によってはエピペンよりも早く血流に到達する可能性のあることが分かった。現在のアナフィラキシーの治療薬はエピペンだが、この点鼻スプレーはエピペンと同等の効果を持つ、針を使わない適切な代替治療法となる可能性がある」とEUSEMのニュースリリースの中で述べている。 ナッツや虫刺されなどに強いアレルギーを持つ人は、アナフィラキシーショックを起こす可能性がある。アナフィラキシーショックが生じると、呼吸困難や血圧低下、意識障害が生じ、ただちにアドレナリンを投与しない限り命を失う可能性がある。米食品医薬品局(FDA)は2024年8月、アレルギー反応の緊急治療薬として初の点鼻スプレー薬「ネフィー点鼻液」を承認した。ネフィーはARSファーマ社によって製造されており、体重66ポンド(約30kg)以上の成人および小児に使用できる。 Furness氏らは、イスラエル、カナダ、タイ、米国、日本で実施された5件の研究のデータを分析してアドレナリンの注射による投与と点鼻投与を比較した。その結果、アドレナリンが血流に入るまでにかかる時間は点鼻投与で最大2.5〜20分であったのに対し、注射による投与では9〜45分であることが示された。また、点鼻投与による血中のアドレナリン濃度は、注射による投与と同等かそれ以上であることも判明した。どちらの投与法を用いた場合も、投与後の心拍数と血圧は同等であった。Furness氏はさらに、点鼻薬の保存期間は2年と注射薬(12〜18カ月)よりも長く、持ち運びも容易であると指摘している。 Furness氏は、「点鼻スプレーも、使い方や投与のタイミングについての明確な指示が必要なことに変わりはないが、特に注射針に恐怖を感じる人にとっては、病院外の公共の場でのアドレナリン投与がタイムリーに行われるようになることから、入院率を低下させられる可能性がある」と述べている。 Furness氏はさらに、「実臨床で、点鼻スプレーの安全性と有効性を裏付ける強力なエビデンスが得られれば、国のアナフィラキシーガイドラインに組み込まれる可能性があると考えている」と話し、「導入当初は、綿密かつ厳格なモニタリングを行い、期待通りの効果が得られなかった症例があれば医師に報告するよう促し、患者の安全を確保し、治療への信頼を維持する必要がある」と付け加えている。 本研究には関与していない、SRH Zentralklinikum Suhl(ドイツ)の救急科長であるFelix Lorang氏は、アドレナリンの点鼻スプレーが注射薬の非常に有用な代替品になることに同意している。同氏は、「針恐怖症や、常に持ち歩ける手軽さといった理由から、針を使うことに抵抗を感じる患者もいる。私の経験では、親戚や友人に針を使うことさえ、相手を傷つけたり怪我をさせたりするのではないかと恐れて躊躇する人も多い」と話し、「点鼻スプレーなら、このような障壁を克服できるだろう。さらなる研究で安全性と有効性が確認されれば、患者にとって有用な代替手段となるだけでなく、医療従事者が使用できる追加ツールにもなるだろう」との展望を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕

近年の知見を反映し52項目を改訂!2022年1月から2023年12月までの2年間に発表された論文のうち「レベル1のエビデンス」「レベル3以下だったエビデンスがレベル2となっていて、かつ、とくに重要と考えられるもの」を採用する方針で、該当する項目(140項目中52項目)を改訂しました。主な改訂点「改訂のポイント」を新設担当班長・副班長がまとめた「改訂のポイント」を各章の冒頭に新設しました。前版から改訂した箇所や改訂の経緯などについて把握する際に、ぜひご活用ください。近年の知見をタイムリーに・広範囲に反映各疾患の治療選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬や抗アミロイド抗体治療薬に対する知見、諸々の背景を持つ患者さんへのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)や抗血小板薬による治療の知見、日進月歩ともいえるMT(経動脈的血行再建療法)の臨床研究成果など、近年の知見を反映した改訂を行いました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数352頁発行2025年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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蕁麻疹に外用薬は非推奨、再確認したい治療の3ステップ

 かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみ(膨疹)が一時的に現れて、しばらくすると跡形もなく消える蕁麻疹は、診察時には消えていることも多く、医師は症状を直接みて対応することが難しい。そのため、医師と患者の間には認識ギャップが生まれやすく、適切な診断・治療が選択されない要因となっている。サノフィは9月25日、慢性特発性蕁麻疹についてメディアセミナーを開催し、福永 淳氏(大阪医科薬科大学皮膚科学/アレルギーセンター)がその診療課題と治療進展について講演した。 なお、蕁麻疹の診療ガイドラインは現在改訂作業が進められており、次改訂版では病型分類における慢性(あるいは急性)蕁麻疹について、原因が特定できないという意味を表す“特発性”という言葉を加え、“慢性(急性)特発性蕁麻疹”に名称変更が予定されている。蕁麻疹の第1選択は経口の抗ヒスタミン薬、外用薬は非推奨 慢性特発性蕁麻疹は「原因が特定されず、症状(かゆみを伴う赤みを帯びた膨らみが現れて消える状態)が6週間以上続く蕁麻疹」と定義され、蕁麻疹患者全体の約6割を占める1)。幅広い世代でみられ40代に患者数のピークがあり1)、女性が約6割と報告されている2)。医療情報データベースを用いた最新の研究では、慢性特発性蕁麻疹の推定有病割合は1.6%、推定患者数は約200万人、1年間の新規発症者数は約100万人と推計されている3)。 蕁麻疹診療ガイドライン4)で推奨されている治療ステップは以下のとおりで、内服の抗ヒスタミン薬が治療の基本だが、臨床現場では蕁麻疹に対してステロイド外用薬が使われている事例も多くみられる。福永氏は「蕁麻疹に対するステロイド外用薬はガイドラインでは推奨されておらず、エビデンスもない」と指摘した。[治療の3ステップ]Step 1 抗ヒスタミン薬Step 2 状態に応じてH2拮抗薬*1、抗ロイコトリエン薬*1を追加Step 3 分子標的薬、免疫抑制薬*1、経口ステロイド薬*2を追加または変更*1:蕁麻疹、*2:慢性例に対しては保険適用外だが、炎症やかゆみを抑えることを目的に、慢性特発性蕁麻疹の治療にも使われることがある分子標的薬の登場で、Step 3の治療選択肢も広がる 一方で、Step 1の標準用量の第2世代抗ヒスタミン薬による治療では、コントロール不十分な患者が60%以上いると推定されている5,6)。Step 2の治療薬はエビデンスレベルとしては低く、国際的なガイドラインでは推奨度が低い。エビデンスレベルとしてはStep 3に位置付けられている分子標的薬のほうが高く、今後の日本のガイドラインでの位置付けについては検討されていくと福永氏は説明した。 原因が特定されない疾患ではあるが、薬剤の開発により病態の解明が進んでいる。福永氏は、「かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるという出口戦略としての治療に頼る状況から、アレルギー反応を引き起こす物質をターゲットとした分子標的薬が使えるようになったことは大きい」とした。約4割が10年以上症状継続と回答、医師と患者の間に生じている認識ギャップ 症状コントロールが不十分(蕁麻疹コントロールテスト[UCT]スコア12点未満)な慢性特発性蕁麻疹患者277人を対象に、サノフィが実施した「慢性特発性じんましんの治療実態調査(2025年)」によると、39.0%が最初に症状が出てから現在までの期間が「10年以上」と回答し、うち27.8%は現在も「ほぼ毎日症状が出続けている」と回答した。福永氏は、「蕁麻疹は誰にでも起こりうるありふれた病気として、時間が経てば治ると思っている患者さんは多い。しかしなかには慢性化して、長期間症状に悩まされる患者さんもいる」とし、診療のなかでその可能性についても説明できるとよいが、現状なかなかできていないケースも多いのではないかと指摘した。 また、慢性特発性蕁麻疹をどのような疾患だと思うかという問いに対しては、「治療で完治を目指せる病気」との回答は5.1%にとどまり、コントロール不十分な慢性特発性蕁麻疹患者の多くが完治を目指せるとは思っていないことが明らかになった。福永氏は、「治療をしてもすぐには完治しないが、症状が出ていないときも治療を継続することが重要」とした。 原因を知りたいから検査をしてほしいという患者側のニーズと、蕁麻疹との関連が疑われる病歴や身体的所見がある場合に検査が推奨される医療者側にもギャップが生じることがある。福永氏は、「必ず原因がわかる病気ではなく、原因究明よりも治療が重要ということを説明する必要がある」と話し、丁寧な対話に加え、患部の写真撮影をお願いする、UCTスコアを活用するといった、ギャップを埋めるため・見えないものを見える化するための診療上の工夫の重要性を強調して講演を締めくくった。■参考文献1)Saito R, et al. J Dermatol. 2022;49:1255-1262.2)Fukunaga A, et al. J Clin Med. 2024;13:2967.3)Fukunaga A, et al. J Dermatol. 2025 Sep 8. [Epub ahead of print]4)秀 道広ほか. 蕁麻疹診療ガイドライン 2018. 日皮会誌. 128:2503-2624;2018.5)Guillen-Aguinaga S, et al. Br J Dermatol. 2016;175:1153-1165.6)Min TK, et al. Allergy Asthma Immunol Res. 2019;11:470-481.

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どう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方

小児感染症の抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方に自信がつく! 臨床現場に必携の1冊「小児診療 Knowledge & Skill」第2巻小児科診療において、感染症治療は抗菌薬や抗ウイルス薬の基礎的知識が不可欠である。一方で、感染症には多様なバリエーションがある。エビデンスやガイドラインに忠実に従うだけでは対応が困難な場面に遭遇したときに、どう対応するか?本書は病院で診療する医師がよく遭遇する感染症、とりわけ抗微生物薬による治療が考慮されるものを中心にとりあげた総論にて感染症の診断と治療の基本的なアプローチ、細菌感染症に対する抗菌薬の使い方、新しい診断法や治療をふまえた抗ウイルス薬の使い方を解説各論にて個別の感染症の診断と治療を解説という特色で、各疾患に造詣の深い医師が執筆。トピックスや臨床的な疑問を含め通常の成書よりも一歩踏み込んだ内容とした。単なる知識の羅列ではなく、読者が明日の診療で「どう考え、どう動くか」の手がかりとなるような情報となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するどう診る? 小児感染症-抗菌薬・抗ウイルス薬の使い方定価8,800円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年10月総編集加藤 元博(東京大学)専門編集宮入 烈(浜松医科大学)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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アブレーション後の再発予防、スタチンが最適か~ネットワークメタ解析

 心房細動(AF)はアブレーションや薬物療法を実施しても再発率が高く、大きな臨床課題となっている。AFの再発リスクには炎症が影響しているともされ、抗炎症作用を有する薬剤が再発抑制の補助療法として注目されている。今回、米国・ユタ大学のSurachat Jaroonpipatkul氏らは、コルヒチンとスタチンが炎症と心房リモデリングの軽減における潜在的な役割を担い、アブレーション後早期での最も有望な治療法であることを示唆した。Journal of Cardiovascular Electrophysiology誌オンライン版2025年7月9日号掲載の報告。 本研究では、アブレーション後のAF再発予防における抗炎症作用の有効性を評価するため、アブレーション後のAF再発を検討したランダム化比較試験に対し、PRISMA-NMAガイドラインに基づくシステマティックレビューとネットワークメタ解析を実施した。対象試験で投与されていたのは、コルヒチン、スタチン(アトルバスタチン)、コルチコステロイド(メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン)、ACE阻害薬(ペリンドプリル)、アスコルビン酸であった。今回、直接比較と間接比較を統合させ、治療成績の順位付けは累積順位曲線下面積(Surface Under the Cumulative Ranking、SUCRA)を、エビデンスの質はCINeMA(Confidence in Network Meta-analysis)を用いて評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・21試験群を対象とした13研究の2,283例が解析対象となった。・プラセボと比較し、コルヒチンとスタチンはAF再発率を有意に減少させ(コルヒチンのリスク比[RR]:0.59[95%信頼区間:0.46~0.77、p<0.001]、スタチンのRR:0.57、[同:0.38~0.86、p=0.008])、スタチンはSUCRAランキングで最高の評価を得た。・コルヒチンは、CRPやIL-6などの炎症マーカーを抑制させることで、早期再発率を顕著に減少させる有効性を示した。・コルチコステロイドとACE阻害薬は再発率に有意な影響を与えず、アスコルビン酸には効果が認められなかった。・対象研究間の異質性は最小限であり、感度分析により堅牢性が確認された。 なお、本研究の限界として、研究間でのAF再発定義のばらつきや治療エビデンスが少ない試験を対象とした点などがあった。

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第265回 呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省

<先週の動き> 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省全国でインフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ肺炎といった複数の呼吸器感染症が同時期に急増し、医療現場と地域社会で警戒が強まっている。厚生労働省は10月17日、2025年10月6~12日の1週間におけるインフルエンザの感染者報告数が、全国の定点医療機関当たり2.36人に達したと発表した。これは前週の約1.5倍で、8週連続の増加。総患者報告数は9,074人を超え、昨年の同時期と比較して2倍以上、流行のペースも昨年より約1ヵ月早い状況となっている。都道府県別では、沖縄県(14.38人)が突出して多いほか、東京(4.76人)、神奈川(4.21人)、千葉(4.20人)といった首都圏でも感染が拡大している。この影響で、全国の小学校や中学校など合わせて328ヵ所の学校・学級閉鎖の措置が取られ、厚労省では手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。また、激しい咳が続く百日咳の流行も深刻である。国立健康危機管理研究機構によると、今年に入ってからの累計患者数(10月5日時点の速報値)は8万719人に達し、現在の集計法となった2018年以降で初めて8万人を突破した。これは、過去最多だった2019年の約4.8倍という異例の多さとなっている。コロナ対策中に病原体への曝露機会が減り、免疫が弱まったことが一因と指摘されている。感染は10代以下の子供を中心に広がっており、乳児は肺炎や脳症を併発する重症化リスクがあるため、とくに警戒が必要とされる。さらに、マイコプラズマ肺炎も5週連続で増加しており、9月29日~10月5日の定点当たり報告数は1.36人となっている。秋田、群馬、栃木、北海道などで報告が多く、この秋は複数の感染症が同時に拡大する「トリプル流行」の様相を呈している。 参考 1) 2025年 10月17日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ感染者数 前週の1.5倍に 8週連続で増加 1医療機関あたり「2.36人」 厚生労働省(TBS) 3) インフル定点報告2.36人、前週の1.5倍に 感染者数は9,074人に(CB news) 4) マイコプラズマ肺炎の定点報告数、5週連続増 前週比6.3%増 JIHS(同) 5) インフルエンザ患者 昨年同期の2倍超 日ごとの寒暖差が大きいため体調管理に注意を(日本気象協会) 6) 百日ぜきが初の8万人超 2025年患者数、18年以降の最多更新続く(日経新聞) 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省厚生労働省は10月10日、「がん検診のあり方に関する検討会」を開き、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正する方針を固めた。最新の医学的エビデンスに基づき、肺がん検診の方法を抜本的に見直すほか、乳がん検診のガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼する。最も大きな変更は、重喫煙者を対象とした「胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法」の公費検診からの削除。これは、喫煙率の低下に伴い、喀痰細胞診で見つかる肺門部扁平上皮がんが減少し、現在ではこの検査による追加的な効果が極めて小さい(ガイドラインで「推奨しない:グレードD」)と評価されたためである。厚労省は2026年4月1日の指針改正で同検査を削除する方針。ただし、喀痰などの有症状者に対しては、検診ではなく医療機関での早期受診を促す指導を指針に追記する方向とされる。一方、「重喫煙者に対する低線量CT検査」については、死亡率を16%程度低下させるという高い有効性(グレードA)が認められたため、新たに住民検診への導入を目指す。この導入に向け、2026年度から希望する自治体でモデル事業を実施し、実施マニュアルの作成と課題整理を行う予定。その結果を踏まえ、早ければ2027年以降に指針に追加し、全国で導入される見通しである。また、乳がん検診についても、現在のガイドラインが2013年度版で古いことから、最新の医学研究成果を反映させるため、ガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼した。高濃度乳房で有用性が期待される「3Dマンモグラフィ」や「マンモグラフィ+超音波検査の併用」などの知見を整理し、今後の対策型検診への導入可能性が検討される。厚労省は、これらの検診方法の見直しを通じて、死亡率減少効果が高い検査に重点を置く「エビデンスに基づいたがん検診」への転換を加速させる。今後は、低線量CT導入に必要な実施体制の整備や、受診率の向上、住民への適切な情報提供などが課題となる。 参考 1) 第45回がん検診のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 肺がん検診について(同) 3) 胸部X線と喀痰細胞診の併用法、肺がん検診から削除 指針改正へ(MEDIFAX) 4) たん検査、肺がん検診除外 喫煙率低下で効果小さく(共同通信) 5) 最新医学知見踏まえて乳がん検診ガイドライン更新へ、肺がん検診に「重喫煙者への低線量CT」導入し、喀痰細胞診を廃止-がん検診検討会(Gem Med) 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会総会(中医協)を10月17日に開き、2026年度改定に向けて、2025年度から始まる「かかりつけ医機能報告制度」に関して、制度の背景や今後のスケジュールを説明するとともに、地域医療体制および診療報酬制度との関係を整理するための論点提示を行った。「かかりつけ医機能」の報告は、ほぼすべての医療機関(特定機能病院、歯科診療所を除く)に対して、2026年1~3月に(1)かかりつけ医機能を有するかどうか、(2)対応可能な診療領域・疾患、(3)在宅医療・介護連携・時間外対応の可否について、報告を求める。1号側(支払い側)の委員からは、「かかりつけ医機能報告制度」の項目(1次診療で対応可能な領域・疾患のカバー状況、研修医受け入れなど)と、機能強化加算などの施設基準・算定要件を整合させ、わかりやすい仕組みに再設計すべきと主張する意見が挙げられた。2号側(診療側)の委員からは、2040年像を見据えた制度を1年後の改定に直結させるのは「論外」と反発する意見が出た。改定の論点には、「大病院→地域医療機関」への逆紹介の実効性向上(2人主治医制の推進、情報連携の評価である「連携強化診療情報提供料」の要件緩和)や、外来機能分化の徹底も含まれている。厚労省の提案には、かかりつけ医側に(1)一次診療対応領域の明確化と提示、(2)地域の病院との双方向連携(紹介・逆紹介、共同管理)の定着、(3)データ提出の拡大・標準化が求められている。とくに機能強化加算は、報告制度の実績(対応疾患カバー、ポリファーマシー対策、研修体制など)とリンクした見直しが俎上に上がっており、基準の再整理や算定要件の具体化が想定される。開業医に対しては「対応可能領域・疾患の可視化」「紹介・逆紹介の運用記録」「連携書式・電子共有の整備」などの対応と提出するデータに根拠が求められる。一方で、情報連携加算の要件が緩和されれば、地域のかかりつけ医は大学病院などとの共同管理で報酬評価を得やすくなる可能性がある。全体として「報告制度による見える化」と「診療報酬での評価」をどの程度リンクさせるかで、支払側と診療側の主張が対立し、年末まで引き続き協議が続く見通し。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 議事次第(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」報告、診療報酬と「整合を」支払側が主張 日医委員は「あり得ない」(CB news) 3) 大病院→地域医療機関の逆紹介をどう進めるか、生活習慣病管理料、かかりつけ医機能評価する診療報酬はどうあるべきか-中医協総会(Gem Med) 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省厚生労働省は10月10日、2023年度の国民医療費が48兆915億円に達し、前年度比3.0%増で3年連続の過去最高を更新したと発表した。1人当たりの医療費も38万6,700円と過去最高を記録している。医療費増加の主な要因は、高齢化の進展と医療の高度化に加え、コロナ禍後の反動やインフルエンザなどの呼吸器系疾患が増加したことが背景にあるとされる。とくに、医療費の負担は高齢者層に集中し、65歳以上が国民医療費全体の60.1%を占め、75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の39.8%にあたる19兆円超となった。人口の大きなボリュームゾーンである団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に到達し始めている影響が顕著となり、2025年度に向けてこの傾向は続くとみられる。財源は、保険料が24.1兆円、公費が18.3兆円、患者負担が5.6兆円で構成されているが、患者負担額が前年度から4.5%増と最も高い伸びを示した。また、1人当たりの国民医療費には依然として大きな地域格差が残っており、最高額の高知県(49.63万円)と最低額の埼玉県(34.25万円)との間で1.44倍の開きがある。医療費の高い地域ではベッド数が多い傾向が指摘され、地域医療構想に基づく病床の適正化が課題として改めて浮き彫りとなった。厚労省は、国民皆保険制度の維持・継承のため、社会経済環境の変化に応じた医療費の適正化と改革を積み重ねる重要性を訴えている。 参考 1) 令和5(2023)年度 国民医療費の概況(厚労省) 2) 国民医療費、3年連続最高 23年度3%増(日経新聞) 3) 2023年度の国民医療費、3.0%増の48兆915億円…3年連続の増加で過去最高を更新(読売新聞) 4) 2023年度の国民医療費は48兆915億円、1人当たり医療費に大きな地域格差あり最高の高知と最低の埼玉とで1.44倍の開き―厚労省(Gem Med) 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道全国の医療機関の経営環境が急速に悪化し、地域医療に直接影響を及ぼす段階に入っている。東京商工リサーチによると、2025年1~9月の病院・クリニックの倒産は27件と高水準で推移し、とくに病床20床以上の中堅病院の倒産が前年同期比1.5倍の9件に急増した。負債10億円以上の大型倒産も増加し、地域の基幹医療を担う施設が深刻な苦境に立たされている。この経営危機は、物価高、人件費上昇、設備投資負担といったコストアップ要因に加え、理事長・院長の高齢化、医師・看護師不足という構造的な課題が重なり発生している。また、自治体が運営する公立病院も約8割が赤字であり、医療業務のコストと診療報酬のバランスの崩壊が、医療機関全体を採算悪化に追い込んでいる。再編の動きは加速し、とくに北海道では江別谷藤病院(負債25億円)が、給与未払いの事態を経て、札幌の介護大手「ライフグループ」への経営譲渡が決定し、未払い給与が肩代わりされた。また、室蘭市では、日鋼記念病院を運営する法人が、経営難の市立病院との統合協議を棚上げし、国内最大級の徳洲会グループ入りを選択した。これは、公立病院の巨額赤字(年間約20億円)と人口減がネックとなり、民間主導での集約が進んでいるとみられる。こうした倒産・統合の波は、診療科の再配置、当直体制・人事制度の統一、電子カルテや検査体制の共有など、医師や医療者の勤務環境やキャリア設計に直接的な変化をもたらす。地域の医療提供体制を維持するため、再編の移行期における診療体制の維持と、地域住民・自治体との合意形成が、医療従事者にとって重要な課題となる。診療報酬の見直しやM&Aといった手段による医療機関の存続に向けた取り組みが急務となる。また、病院再編にあたっては、移行期の診療体制の維持や、患者の混乱を避けるため、地域住民への情報提供と、自治体との合意形成が鍵となる。 参考 1) 1-9月「病院・クリニック」倒産 20年間で2番目の27件 中堅の病院が1.5倍増、深刻な投資負担とコストアップ(東京商工リサーチ) 2) 負債額約25億円の江別谷藤病院 札幌の「ライフグループ」に経営譲渡(北海道テレビ) 3) 室蘭3病院、再編協議難航 市立病院の赤字ネックに…「日鋼」、徳洲会の傘下模索(読売新聞) 4) 赤字続きの兵庫県立3病院、入院病床130床休止へ…収支改善が不十分ならさらに減床も(同) 5) 突然の来訪、室蘭市に衝撃 日鋼記念病院の徳洲会入り検討、市立総合病院との統合に黄信号(北海道新聞) 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁全国で100以上のクリニックを展開する「麻生美容クリニック(ABC)グループ」が、大阪国税局など複数の国税局による大規模な税務調査を受け、2023年までの5年間で計約62億円の巨額な申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。追徴税額は、重加算税などを含め約12億円に上るとみられている。申告漏れの主な原因は、グループ内の基幹法人「IDEA」と傘下の6医療法人の間で、医療機器などの仕入れ価格を約47億円分過大に計上していたと判断されたためである。これにより、各医療法人の課税所得が不当に圧縮されていた。また、患者から受け取った前受金(手付金)約10億円の計上漏れも指摘された。さらに、基幹法人IDEAが得た収入のうち約3億円が、売上記録の偽装など悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しと認定され、重加算税の対象となった。法人の資金を個人的な用途に流用したとして、グループ関係者にも約2億円の申告漏れが指摘されている。グループ側は報道機関の取材に対し、税務調査の事実を認め、「見解の相違もあったが、当局の指導により修正申告と納税は完了している」とコメントしている。背景には、SNSの普及などで美容医療の市場が急拡大する一方、新規開設費や広告費がかさみ、収益性の低い法人の倒産・休廃業が増えるなど、美容医療業界の過当競争が激化している現状がある。また、グループを率いる医師やその息子が、自家用ジェットや高級車などの豪華な私生活をSNSで積極的に公開していたことが、税務当局による異例の大規模調査のきっかけの1つになった可能性も指摘されている。 参考 1) 美容医療グループが62億円申告漏れ(朝日新聞) 2) 麻生美容クリニックグループ、60億円申告漏れ 大阪国税局など指摘(日経新聞) 3) 「19歳で3,000万円のフェラーリを乗り回し…」 62億円申告漏れの美容外科医と息子が自慢していた豪遊生活(週刊新潮)

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下垂体性ADH分泌異常症〔Pituitary ADH secretion disorder〕

1 疾患概要■ 定義抗利尿ホルモン(ADH)であるバソプレシン(AVP)は、視床下部の視索上核および室傍核に存在する大細胞性AVPニューロンで産生されるペプチドホルモンである。血漿浸透圧の上昇または循環血漿量の低下に応じて下垂体後葉から分泌され、腎集合管における水の再吸収を促進することで体液恒常性の維持に重要な役割を果たす。下垂体性ADH分泌異常症には、AVP分泌不全により多尿を呈する中枢性尿崩症と、低浸透圧環境下にも関わらずAVP分泌が持続し低ナトリウム血症を呈する抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)が含まれる。■ 疫学わが国における中枢性尿崩症の患者数は約5,000~1万人程度と推定されている1)。一方、SIADHの患者数は不明であるが、低ナトリウム血症は電解質異常の中で最も頻度が高く、全入院患者の2~3%で認められる。軽度の低ナトリウム血症を呈する患者を含めると、とくに高齢者では相当数に上ると推定されている1)。■ 病因中枢性尿崩症とSIADHの主な病因をそれぞれ表1および表2に示す。特発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体後葉に器質的異常を認めないが、一部はリンパ球性漏斗下垂体後葉炎に由来する可能性がある。続発性中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の腫瘍や炎症、手術、外傷などによりAVPニューロンが障害され、AVP産生および分泌が低下することで発症する。SIADHの原因としては、中枢神経疾患、肺疾患、異所性AVP産生腫瘍、薬剤などが挙げられる。表1 中枢性尿崩症の病因特発性家族性続発性(視床下部-下垂体系の器質的障害):リンパ球性漏斗下垂体後葉炎胚細胞腫頭蓋咽頭腫奇形腫下垂体腫瘍(腺腫)転移性腫瘍白血病リンパ腫ランゲルハンス細胞組織球症サルコイドーシス結核脳炎脳出血・脳梗塞外傷・手術表2 SIADHの病因中枢神経系疾患髄膜炎脳炎頭部外傷くも膜下出血脳梗塞・脳出血脳腫瘍ギラン・バレー症候群肺疾患肺腫瘍肺炎肺結核肺アスペルギルス症気管支喘息腸圧呼吸異所性バソプレシン産生腫瘍肺小細胞がん膵がん薬剤ビンクリスチンクロフィブレートカルバマゼピンアミトリプチンイミプラミンSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)■ 症状中枢性尿崩症では、口渇、多飲、多尿を認め、尿量は1日1万mLに達することもある。血液は濃縮され高張性脱水に至り、上昇した血漿浸透圧により渇中枢が刺激され、強い口渇が生じて大量の水を飲むことになるが、摂取した水は尿としてすぐに排泄される。SIADHでは、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害、痙攣など低ナトリウム血症に伴う症状が出現する。急速に血清ナトリウム濃度が低下した場合には重篤な症状が早期に出現するが、慢性の低ナトリウム血症では症状が軽度にとどまることがある。■ 予後中枢性尿崩症は、妊娠時や頭蓋内手術後の一過性発症を除き自然回復はまれであるが、飲水が可能な状態であれば生命予後は良好である。一方で、渇感障害を伴う場合や飲水が制限される場合には高度の高張性脱水を呈し、重篤な転機をたどることがある。実際、渇感障害を伴う尿崩症患者はそうでない患者に比べ、血清ナトリウム濃度150mEq/L以上の高ナトリウム血症の発症頻度が有意に高く、さらに重症感染症による入院や死亡率も有意に高いと報告されている2)。続発性中枢性尿崩症やSIADHの予後は、原因となる基礎疾患に依存する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」3)に記載された診断の手引きを表3および表4に示す。表3 中枢性尿崩症の診断の手引きI.主症候1.口渇2.多飲3.多尿II.検査所見1.尿量は成人においては1日3,000mL以上または40mL/kg以上、小児においては2,000mL/m2以上2.尿浸透圧は300mOsm/kg以下3.高張食塩水負荷試験(注1)におけるバソプレシン分泌の低下:5%高張食塩水負荷(0.05mL/kg/分で120分間点滴投与)時に、血漿浸透圧(血清ナトリウム濃度)高値においても分泌の低下を認める(注2)。4.水制限試験(飲水制限後、3%の体重減少または6.5時間で終了)(注1)においても尿浸透圧は300mOsm/kgを超えない。5.バソプレシン負荷試験(バソプレシン[ピトレシン注射液]5単位皮下注後30分ごとに2時間採尿)で尿量は減少し、尿浸透圧は300mOsm/kg以上に上昇する(注3)。III.参考所見1.原疾患の診断が確定していることがとくに続発性尿崩症の診断上の参考となる。2.血清ナトリウム濃度は正常域の上限か、あるいは上限をやや上回ることが多い。3.MRI T1強調画像において下垂体後葉輝度の低下を認める(注4)。IV.鑑別診断多尿を来す中枢性尿崩症以外の疾患として次のものを除外する。1.心因性多飲症:高張食塩水負荷試験で血漿バソプレシン濃度の上昇を認め、水制限試験で尿浸透圧の上昇を認める。2.腎性尿崩症:家族性(バソプレシンV2受容体遺伝子の病的バリアントまたはアクアポリン2遺伝子の病的バリアント)と続発性[腎疾患や電解質異常(低カリウム血症・高カルシウム血症)、薬剤(リチウム製剤など)に起因するもの]に分類される。バソプレシン負荷試験で尿量の減少と尿浸透圧の上昇を認めない。[診断基準]確実例:Iのすべてと、IIの1、2、3、またはIIの1、2、4、5を満たすもの。[病型分類]中枢性尿崩症の診断が下されたら下記の病型分類をすることが必要である。1.特発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めないもの。2.続発性中枢性尿崩症:画像上で器質的異常を視床下部-下垂体系に認めるもの。3.家族性中枢性尿崩症:原則として常染色体顕性遺伝形式を示し、家族内に同様の疾患患者があるもの。(注1)著明な脱水時(たとえば血清ナトリウム濃度が150mEq/L以上の際)に高張食塩水負荷試験や水制限試験を実施することは危険であり、避けるべきである。多尿が顕著な場合(たとえば1日尿量が1万mLに及ぶ場合)は、患者の苦痛を考慮して水制限試験より高張食塩水負荷試験を優先する。多尿が軽度で高張食塩水負荷試験においてバソプレシン分泌の低下が明らかでない場合や、デスモプレシンによる治療の必要性の判断に迷う場合には、水制限試験にて尿濃縮力を評価する。(注2)血清ナトリウム濃度と血漿バソプレシン濃度の回帰直線において傾きが0.1未満または血清ナトリウム濃度が149mEq/Lのときの推定血漿バソプレシン濃度が1.0pg/mL未満(中枢性尿崩症)。(注3)本試験は尿濃縮力を評価する水制限試験後に行うものであり、バソプレシン分泌能を評価する高張食塩水負荷試験後に行うものではない。なお、デスモプレシンは作用時間が長いため水中毒を生じる危険があり、バソプレシンの代わりに用いることは推奨されない。(注4)高齢者では中枢性尿崩症でなくても低下することがある。表4 SIADHの診断の手引きI.主症候脱水の所見を認めない。II.検査所見1.血清ナトリウム濃度は135mEq/Lを下回る。2.血漿浸透圧は280mOsm/kgを下回る。3.低ナトリウム血症、低浸透圧血症にもかかわらず、血漿バソプレシン濃度が抑制されていない。4.尿浸透圧は100mOsm/kgを上回る。5.尿中ナトリウム濃度は20mEq/L以上である。6.腎機能正常7.副腎皮質機能正常8.甲状腺機能正常III.参考所見1.倦怠感、食欲低下、意識障害などの低ナトリウム血症の症状を呈することがある。2.原疾患の診断が確定していることが診断上の参考となる。3.血漿レニン活性は5ng/mL/時間以下であることが多い。4.血清尿酸値は5mg/dL以下であることが多い。5.水分摂取を制限すると脱水が進行することなく低ナトリウム血症が改善する。IV.鑑別診断低ナトリウム血症を来す次のものを除外する。1.細胞外液量の過剰な低ナトリウム血症:心不全、肝硬変の腹水貯留時、ネフローゼ症候群2.ナトリウム漏出が著明な細胞外液量の減少する低ナトリウム血症:原発性副腎皮質機能低下症、塩類喪失性腎症、中枢性塩類喪失症候群、下痢、嘔吐、利尿剤の使用3.細胞外液量のほぼ正常な低ナトリウム血症:続発性副腎皮質機能低下症(下垂体前葉機能低下症)[診断基準]確実例:IおよびIIのすべてを満たすもの。中枢性尿崩症では、多尿の鑑別診断として、浸透圧利尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以上)と低張性多尿(尿浸透圧300mOsm/kgH2O以下)を区別する必要がある。実臨床では、糖尿病に伴う浸透圧利尿の頻度が高い。低張性多尿の場合は、高張食塩水負荷試験、水制限試験およびバソプレシン負荷試験、デスモプレシン試験により、中枢性尿崩症、腎性尿崩症、心因性多飲症を鑑別する。SIADHでは、低ナトリウム血症と低浸透圧にもかかわらずAVP分泌の抑制がみられないことが診断上重要である。血清総蛋白や尿酸値の低下など血液希釈所見を伴うことが多い。SIADHは除外診断であり、低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別対象となる。とくに続発性副腎皮質機能低下症は、SIADHと同様に細胞外液量がほぼ正常な低ナトリウム血症を呈し臨床像も類似するため、両者の鑑別は極めて重要である。3 治療中枢性尿崩症の治療にはデスモプレシンを用いる。水中毒を避けるため、最小用量から開始し、尿量、体重、血清ナトリウム濃度を確認しながら投与量および投与回数を調整する。その際、少なくとも1日1回はデスモプレシンの抗利尿効果が切れる時間帯を設けることが、水中毒による低ナトリウム血症の予防に重要である。SIADHの治療では、血清ナトリウム濃度が120mEq/L以下で中枢神経症状を伴い迅速な治療を要する場合には、3%食塩水にて補正を行う。ただし、急激な補正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)の危険性があるため、血清ナトリウム濃度を頻回に測定しつつ、補正速度は24時間で8~10mEq/L以下にとどめる。血清ナトリウム濃度が125mEq/L以上の軽度かつ慢性期の症例では、1日15~20mL/kg体重の水分制限を行う。水分制限で改善が得られない場合には、入院下でAVPV2受容体拮抗薬トルバプタンの経口投与を検討する。4 今後の展望わが国においてAVP濃度は従来RIA法で測定されているが、抗体が有限であること、測定のためにアイソトープを使用する必要があること、さらに結果判明まで数日を要することなど、複数の課題を抱えている。近年、質量分析法によるAVP測定が試みられており、これらの課題を克服できるのみならず、高張食塩水負荷試験の所要時間短縮につながる可能性が報告されており4)、次世代の検査法として期待されている。一方、SIADHの治療においては、ODSの予防を重視した安全な低ナトリウム血症治療を実現するため、機械学習を用いた治療予測システムの開発が進められている5)。現在は社会実装に向けた精度検証が進行中であり、将来的には実臨床における安全かつ効率的な治療選択を支援するツールとなることが期待される。5 主たる診療科内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報中枢性尿崩症(CDI)の会(患者とその家族および支援者の会) 1) 難病情報センター 下垂体性ADH分泌異常症(指定難病72) 2) Arima H, et al. Endocr J. 2014;61:143-148. 3) 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班. 日内分泌会誌. 2023;99:18-20. 4) Handa T, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2025 Jul 30.[Epub ahead of print] 5) Kinoshita T, et al. Endocr J. 2024;71:345-355. 公開履歴初回2025年10月17日

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2025年度医療安全管理者養成研修のご案内/医療安全学会

 日本医療安全学会(理事長:大磯 義一郎氏)は、2025年度の医療安全管理者養成研修アドバンスドコースを開催する。 この研修は、現場で「使える」医療安全の知識を体系的に修得することを目的とし、実践的な事例や演習を通じ、知識を「行動」へとつなげる応用力とリーダーシップを培い、現場の医療安全をリードできる人材としての成長を目指す。講師は、医療や法学、医療安全のエキスパートが担当する。 主催学会の大磯氏は、「医療安全管理者としての基本的な理解に加え、より高いレベルでの医療安全管理への理解と実践の機会を提供することを目的に、本アドバンスドコースを企画した。本コースが、日本医療安全学会の医療安全管理者養成研修修了者に限らず、医療安全や質改善に関心を持つ多くの方にとって、有意義な学びと交流の場となることを願っている。現場の課題解決に直結する「次の一歩」を共に考える場として、ぜひご参加していただきたい」とコメントしている。 コースの概要は以下のとおり。●対象者:医師・看護師・薬剤師・医療安全管理者・医療従事者全般 ーこんな方におすすめ! ・医療事故の再発防止策を学びたい方 ・インシデント・アクシデントのリスク管理を強化したい方 ・医療安全の最新ガイドラインを学びたい方 ・職場の安全文化を向上させたい方 ・医療安全に関わるすべての医療従事者 ※本コースは、医療安全や質の改善に興味がある医療者であれば、どなたでも受講できます。  本コースの受講のみでは厚生労働省が定める医療安全管理者の資格要件を満たしません。●開講日程: Day1 11月23日(日) 10:00~17:00 医療安全のDX最前線とそのリスクマネジメント Day2 12月14日(日) 10:00~17:00 実践編-現場力を高める技術と手法 Day3 12月21日(日) 10:00~17:00 組織文化とチームワークで支える医療安全●開催形式:Live配信(Zoom)●募集期間:各日程1週間前まで●募集定員:100名●参加費:1回のみ受講7,000円/2回受講14,000円/全3回セット受講18,000円 2024年度医療安全管理者養成研修参加者割引 1回のみ受講5,000円/2回受講10,000円/全3回セット受講12,000円 *本会はインボイス未登録となります。 *免税事業者となりますので消費税請求はありません。 *受講料は、お支払いの後、いかなる理由があっても返金できないのでご注意ください。●医療安全管理者養成研修アドバンスドコースの概要はこちら

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DANFLU-2試験:高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果(解説:小金丸博氏)

 DANFLU-2試験は、高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンの入院予防効果を検証した大規模臨床試験である。デンマークの全国行政健康登録を用いた実践的・非盲検・無作為化比較試験で、2022~23年から3シーズンにかけて実施された。試験には65歳以上の高齢者33万2,438人(平均年齢73.7±5.8歳)が登録され、高用量ワクチン(1株当たり抗原60μg)接種群と標準用量ワクチン(1株当たり抗原15μg)接種群に割り付けられた。その結果、高用量群では主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を経験した人がより少なく、相対リスクは5.9%減少したが、統計的に有意ではなかった(p=0.14)。副次評価項目として、高用量群においてインフルエンザによる入院の減少(相対リスク減少率:43.6%)、心肺疾患による入院の減少(同:5.7%)、あらゆる原因による入院の減少(同:2.1%)を示した。 近年、高齢者に対するインフルエンザ予防として「高用量ワクチン」が注目されてきた。これまでの標準用量との比較試験で、抗体応答の向上のみならず、検査確定インフルエンザの発症および入院を一定程度抑える効果が報告されてきた。DANFLU-2試験では、標準用量と比較して主要評価項目に設定した「インフルエンザあるいは肺炎による入院」を有意に低下させなかった。これは従来の試験で示されてきた高用量ワクチンの有利性と一見矛盾する結果であったが、その理由として、主要評価項目の選択が影響した可能性が考えられる。本試験ではアウトカムに「肺炎入院」を含めた複合エンドポイントを採用したため、非インフルエンザ性の肺炎(誤嚥性や細菌性肺炎)が多数を占めれば、インフルエンザワクチンの効果が相対的に希釈され得る。加えて実地条件下では、季節間のウイルス活動変動、被験者の背景免疫(過去のワクチン接種歴など)が影響した可能性がある。 同時にスペインから報告されたGALFLU試験との統合解析では、インフルエンザまたは肺炎による入院、心肺疾患による入院、検査で確認されたインフルエンザによる入院、およびあらゆる原因による入院において有意な減少が示された。これらのデータはこれまでの報告と一致して、重篤な転帰に対する高用量ワクチンの臨床的有益性を標準用量ワクチンよりも支持している。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される人では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。

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がん治療の有害事象が減る!?高齢がん患者への機能評価【高齢者がん治療 虎の巻】第3回

<今回のPoint>高齢者総合機能評価(CGA)は、身体面・精神面・社会的要素などいくつかの構成要素から成り立つ高齢がん患者に対する機能評価は、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的CGA(GA)の実施には、多職種協働や診療科連携によるチーム医療が重要だが、最終評価者は医師または歯科医師が担う<症例>85歳・男性X年9月前医でS状結腸がんcStageIIaと診断し、腹腔鏡下S状結腸切除術施行X+1年4月前医で増大傾向にある肝腫瘤の指摘あり、大学病院消化器内科紹介受診X+1年5月生検の結果、肝内胆管がんstageIV(多発肝転移・多発リンパ節転移)の診断X+1年6月治療方針決定前の評価目的で同院老年科に紹介 評価で問題がなければ、治療開始(GCD療法[GEM+CDDP+デュルバルマブ])の予定。治療説明などの応答がしっかりせず、不安症状がみられる。CGA実施、診療報酬は50点日本は世界に先駆けて超高齢社会を迎えたことで、高齢のがん患者も増加し、高齢者診療や高齢者がん診療の重要性はより一層高まっています。その中でもとくに重要なことは、「高齢者の医療や生活を多面的に評価し、問題点を抽出し、適切な介入を行う」というプロセスです。このことを、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)と呼び、老年医学の根幹となっています。入院中の患者(65歳以上の全員と特定疾患を有する40歳以上の一部)に関しては、CGAを行うことで、診療報酬点数「総合機能評価加算」50点(入退院支援加算として退院時1回)の算定ができます。算定にあたっては、日常生活力などを評価する必要があり、各医療職種が評価できますが、最終評価者は医師または歯科医師が行わなければなりません。CGAの構成成分には主に、身体機能・精神心理状態・社会的背景などが挙げられ(表1)、それらを元に生活機能や医療の評価を行います。日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)は、人が生活を送るために必要な動作のことであり、身体的な要素を主とした評価として、CGAの代表的な評価ツールとなっています。(表1)高齢者総合機能評価の構成要素画像を拡大する移動・食事・排泄・更衣・整容など、生きていく上で最低限必要な基本的な日常動作のことを基本的ADLと呼びます。一方で、買い物・調理・洗濯・金銭管理など、社会で自立した生活を送るために必要な動作のことを手段的ADLと呼びます。当院での総合機能評価加算の書式では、いくつかの項目を多職種でチェックし、日常生活動作、認知機能、気分・心理状態それぞれに対して、最終判定を担当医が行います。がん診療では“治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測が目的”ここまで、一般高齢者を対象としたCGAに関して述べましたが、がん患者に対する機能評価は、目的やアプローチがやや異なります。がん患者に対しては、「治療を実施するか否か」「どの治療法を選択するか」「治療に伴う有害事象がどの程度起こりうるか」といった診療方針決定に重要な情報が求められます。高齢者がん診療の領域においても、多面的な評価の重要性は広く示されてきました。しかし実際には、必要なケアを同定して介入につなげるというよりも、治療の適応性や有害事象のリスク評価、予後予測などに使われることが多く、CGAではなく、GA(Geriatric Assessment)と称されます1)。なお、日本老年腫瘍学会のホームページ内では、CGAとGAの違いについて表2のようにまとめられております2)。(表2)CGAとGAの違い画像を拡大するがん診療のガイドラインでは、ECOG-PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)という、日常生活の活動レベルを5段階で表した指標によって治療方針が定められることも多いですが、ECOG-PSが良好でも、併存症の存在、手段的ADLの低下、栄養状態や認知機能の低下などにより、がん治療に対しての脆弱性を有しているケースはとても多いです。実際にGAが治療方針に与える影響も大きく、あるシステマティックレビューによると、GAの実施により、がん治療方針が変更された割合は28%(中央値)で、その変更の多くは、より強度の弱い治療へ変更されていました3)。また、根治不能な70歳以上の固形がん患者に対して、GAを行って結果と推奨マネジメントを治療担当医に提供することで、重篤な有害事象を有意に減らせられたといった報告もあります(1年後の生存率は変わらず)4)。GAに含めるべき必須の重要ドメインとして、身体機能、認知機能、心理状態、併存疾患、栄養状態、多剤併用、社会的サポートなどが挙げられます5)。特徴として、がん治療を念頭に置いているため、「治療に耐えられるか」という観点から、とくに重要な要素として、栄養状態や併存疾患が入ります。また、近年、GAにおいて評価を行うだけではなく、CGAのように、結果に基づいたマネジメントを行うこと(GA-guided management:GAM)(第2回参照)が強く推奨されてきています。さらに、個別化した治療計画の立案、有害事象の予測、介入すべき問題を特定することに加え、意思決定支援のために、GAの結果を患者と家族に提供することも推奨されます。冒頭に示した症例では、GAを施行したところ、元々バイタリティにあふれた性格でしたが、家族の病気や家族との関係性、また自身への立て続けのがんの告知などにより、診察時には心身共にエネルギー切れの、うつ傾向の心理状態であることがわかりました。さらには、独居であり、スムーズに家族のサポートを得ることも難しい状態でもありました。これらの情報を元に腫瘍専門医と協働し、多職種との連携も通して意思決定のサポートを行い、化学療法に伴う副作用の説明も含めて、治療の準備を行いました。その結果、予定通りGCD療法が通常量で投与されました。1)Wildiers H, et al. J Clin Oncol. 2014;32:2595-2603.2)日本老年腫瘍学会:CGAとGA3) Hamaker ME, et al. J Geriatric Oncol. 2018;9:430-440. 4)Mohile SG, et al. Lancet. 2021;398:1894-1904.5)Dale W, et al. J Clin Oncol. 2023;41:4293-4312.講師紹介

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ADHDに対する神経刺激薬治療後の精神疾患発症リスク〜メタ解析

 注意欠如・多動症(ADHD)患者は、神経刺激薬による治療後に精神疾患や双極症を呈することがある。しかし、その発現の程度は不明であった。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのGonzalo Salazar de Pablo氏らは、ADHD患者における神経刺激薬治療後の精神疾患または双極症の発現を定量化し、その影響を調節する可能性のある因子を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年9月3日号の報告。 DSMまたはICDで定義されたADHD患者を対象に精神疾患または双極症のアウトカムを評価した、あらゆるデザインの研究を対象とした。2024年10月1日までに公表された対象研究を、PubMed、Web of Science、Ovid/PsycINFO、Cochrane Central Register of Reviewsより言語制限なしで検索した。PRISMAおよびMOOSEガイドラインに従い、プロトコールを登録し、ニューカッスル・オタワ尺度およびCochraneバイアスリスクツール2を用いて質評価を行った。ランダム効果メタ解析、サブグループ解析、メタ回帰分析を実施した。主要アウトカムは、精神症状、精神病性障害、双極症を発症した患者の割合とし、エフェクトサイズおよび95%信頼区間(CI)を算出した。アンフェタミンとメチルフェニデートの比較についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象は16研究(39万1,043例)で、平均年齢12.6歳(範囲:8.5〜31.1歳)、男性28万8,199例(73.7%)であった。・神経刺激薬を処方されたADHD患者のうち、精神症状、精神病性障害、双極症を発症した患者は、次のとおりであった。【精神症状】2.76%、95%CI:0.73〜9.88、10研究、23万7,035例【精神病性障害】2.29%、95%CI:1.52〜3.40、4研究、9万1,437例【双極症】3.72%、95%CI:0.77〜16.05、4研究、9万2,945例・研究間で有意な異質性が認められた(I2>95%)。・アンフェタミン治療患者では、メチルフェニデート治療患者よりも、精神疾患発症リスクが有意に高かった(オッズ比:1.57、95%CI:1.15〜2.16、3研究、23万1,325例)。・サブグループ解析では、北米の研究およびフォローアップ期間の長い研究において、精神症状の有病率が有意に高かったことが示唆された。・精神疾患発症率の上昇と関連していた因子は、女性の割合の高さ、サンプルサイズが小さいこと、高用量の神経刺激薬であった。 著者らは「本解析の結果、神経刺激薬治療を行ったADHD患者において、精神症状、精神病性障害、双極症の発症率は無視できないレベルであることが明らかとなった。アンフェタミン治療は、メチルフェニデート治療と比較して、精神疾患発症率が高いことが示された」とし、「対象とした研究では因果関係を立証できず、ランダム化臨床試験や神経刺激薬使用の有無により比較するミラーイメージ研究など、さらなる調査の必要性が浮き彫りになった。とはいえ、臨床医は神経刺激薬治療について患者と話し合う際に、精神疾患や双極症の発現率上昇について説明し、治療全体を通してこれらの症状をシステマティックにモニタリングする必要がある」とまとめている。

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定義変更や心肺合併症患者の分類に注意、肺高血圧症診療ガイドライン改訂/日本心臓病学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が2025年3月に改訂された。本ガイドラインが扱う静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の診断・治療は、肺循環障害という点だけではなく、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点で共通の課題をもつ。そのため、今回より「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合され、VTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起も、狙いの1つとなっている。 本稿では本ガイドライン第5~13章に記されているPHの改訂点について、本ガイドライン作成委員長を務めた田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が第73回日本心臓病学会学術集会(9月19~21日開催)で講演した内容をお届けする(VTEの改訂点はこちらの記事を参照)。PHの定義が変わった 本ガイドラインは、PHにおける改訂目的の1つを「どの施設でも適切な診断・初期治療が行えること」とし、診断基準の変更と第7回肺高血圧症ワールドシンポジウム(WSPH)で提案された概念を世界で初めてガイドラインに取り入れた点を改訂の目玉として作成された。田村氏は「これまで議論されてきた診断基準は、WSPHならびに日本の研究を踏まえ、PHの定義をRHC検査により測定した安静仰臥位の平均肺動脈圧(mPAP)>20mmHg(推奨クラスI、p.68)とした」と説明。しかし、治療の側面からはこの定義の解釈に注意が必要で、「肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象とした臨床試験はmPAP≧25を対象に行われていることから、21~24mmHgではPH治療薬のエビデンスが乏しい状況にある。そして、PHの第4群に該当する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、慢性血栓塞栓性疾患(CTED)の概念でこの21~24mmHgというボーダーラインも治療されるケースがあるため、CTEPHとPAHでの解釈の違いにも注意してほしい」とコメントした。 次に「肺血管抵抗(PVR)を2.0以上」としたことも世界と足並みを揃えた点だが、この解釈についても「体格の小さい日本人は心拍出量が欧米人よりも少ないため、PVR 2.0をたまたま超えてしまうケースもある。ボーダーライン患者の場合、背景に病気の有無を確認することが重要」と、同氏は本指標の判断に対して注意喚起した。また、WSPHでも議論された「肺動脈楔入圧(PAWP)の引き下げについては、現状は変更せず15mmHgの基準を維持、13~15mmHgに該当する患者については心疾患合併を考慮してほしい」と説明した。臨床的分類、第3群に変化 臨床的分類はバルセロナ分類2024を引き継ぐかたちになっている。とくに注目すべきは、第3群において機能別(閉塞性、拘束性など)で表記されていたものが、ほかの群と同様に「慢性閉塞性肺疾患(COPD)に伴うPH」「間質性肺疾患(ILD)に伴うPH」のように疾患と紐付けることでそれぞれのエビデンスが変わる点を明確化した。このほか、第1群にCa拮抗薬長期反応例、第2群に特定心筋症(肥大型心筋症または心アミロイドーシス)が追加されたことにも留意したい。初期対応/鑑別アルゴリズムを明確に 日本において、PHの症状発現から診断までに費やされる平均期間は18.0ヵ月と報告されている(PAHは20.2ヵ月、CTEPHは12.2ヵ月)。加えて、就学・就業率は罹病期間が長期化するにつれて経時的に減少することが明らかになっている1)。このような現状において、プライマリ・ケアや地域中核病院、専門医が共に患者をフォローアップしていくためには、PHの初期対応アルゴリズム(図14、p.80)と鑑別アルゴリズム(図15、p.81)の活用が大きなポイントとなる。同氏は「初期対応アルゴリズムでは医療機関や専門医の役割を明確化した。心疾患や肺疾患の評価を行うなかで医師らが相互にコンサルトすることで、CTEPHを見逃さないだけではなく、第2群や第3群の要素の評価を目指す。PHセンターへ早期に紹介すべき患者像も明確化できるようにしている」とし、「鑑別アルゴリズムについては、急性血管反応試験を実施する対象を規定したほか、PAWP 13~15mmHgやHFpEFリスクを有する患者は純粋な1群と判断しかねるため、心肺疾患をもつPAHの特徴を明記し、2群などとの鑑別を念頭に置いてもらえるようなフローを作成した」と改訂の狙いを説明した。新規PH患者も高齢化、治療前の合併症評価を 典型的なPAH患者というと若年者女性を想像するが、近年では新規診断患者の高齢化がみられ、心肺疾患合併例が増加傾向にあるという。この心肺疾患合併の有無は治療選択時の重要なポイントとなることから、まずは心肺疾患合併PAHを示唆する特徴を捉え、単なるPHではなく第3群の要素も併せ持っているか否かを判断し(図17、p.90)、その後、治療アルゴリズム(図18、p.92)に基づいた治療介入を行う。 この流れについて、「心肺疾患合併がある場合に併用療法を行ってしまうと肺水腫のような合併症リスクを伴うため、それらを回避するための手立てとして、まずは単剤での開始を考慮してほしい。決して併用療法を否定するものではない」と説明した。またPAWPが高めのPAHの分類や治療時の注意点として、「PAWPが12~18mmHgの患者は境界域として解釈に注意すべきゾーンであるため、PAWPだけで分類評価をするのではなく、病歴や画像所見、負荷試験結果などを複合的に評価してほしい」ともコメントした。 さらに、診断時/フォローアップ時のリスク層別化については、国内レジストリデータに基づいたJCSリスク層別化指標(表30、p.83)が作成されており、これにのっとり薬物治療を進めていく。低リスク・中リスクの場合にはエンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタンあるいはマシテンタン)+PDE5阻害薬タダラフィルの2剤併用療法を行い(推奨クラスI)、高リスクの場合は静注/皮下注投与によるプロスタグランジン製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)+エンドセリン受容体拮抗薬+PDE5阻害薬の3剤併用療法を行う(推奨クラスI、エビデンスレベルB)。薬物療法開始後の注意点としては「初回治療開始後は3~4ヵ月以内に評価」「薬剤変更・追加後は6ヵ月以内に再評価」「中リスク以上の場合はカテーテル検査実施」が明記された。 なお、ガイドライン発刊後の2025年8月にアクチビンシグナル阻害薬ソタテルセプトが日本でも発売され、第1群の治療強化という位置付けで本ガイドラインにおいても推奨されている(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。 このほか、CTEPHの治療について、心臓外科医らとの丁寧な協議を進めた結果、従来は手術適応の有無が最初に評価されていたが、本ガイドラインでは完全血行再建を目指すなかで肺動脈内膜摘除術(PEA)、バルーン肺動脈形成術(BPA)、あるいはハイブリッドという選択肢のなかで最適な方法を多職種チーム(MDT)で選択して治療を進めていくことが重視される。 最後に同氏は「ガイドラインの終盤には専門施設が満たすべき要素や患者指導に役立つ内容も記載しているので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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