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患者向け広告が解禁される「治療用アプリ」って何?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第128回

医師が“処方”する「治療用アプリ」の一般消費者向けの広告が解禁されます。治療用アプリは、正しくは「プログラム医療機器」という分野になり、国が推進に向けた施策を進めたり、開発を後押ししたりしていました。現時点で保険適用されている治療用アプリは、禁煙治療補助システムおよび高血圧症治療補助プログラムで、他の生活習慣病や疼痛治療などでも続々と開発が進められています。しかし、医師の処方に基づき患者さんが使用する医薬品および医療機器の一般消費者向け広告は禁止されていますので、治療用アプリもこれらと同じく一般消費者向けの広告はできませんでした。今回、「令和4年度及び令和5年度規制改革実施計画」において、これらの治療用アプリは一般消費者向け広告の解禁対象になりました。これらの適正な販売プロモーションの促進、また安全な使用のための理解促進を目的として、「禁煙治療補助システムの適正広告ガイドライン」および「高血圧症治療補助プログラムの適正広告ガイドライン」が作成されています。「健康に関するアプリって、すでにCMで流れてるでしょ?」と思う人もいるかもしれませんが、あれは健康を補助するアプリ(非医療機器のヘルスケアアプリ)で、予防などを目的としているものです。医療機器の治療用アプリは治験を実施して承認を得ていて、治療を目的として医師が処方するものです。承認を得ていないヘルスケアアプリは初めから広告の規制対象とならず、承認を得た治療用アプリが規制を受けるという逆転現象が発生していることも問題になっていました。広告が解禁されると、一般の方の目にとまり使ってみたいという声が増えたり、市場が拡大したりすることが予想されます。実際にどのようなものかというと、日本で初めて承認された禁煙治療補助システムの治療用アプリは、「患者用アプリ」「患者の呼気中CO(一酸化炭素)濃度を測定するCOチェッカー」「医師用アプリ」から構成されていて、患者用アプリでは行動療法などの心理療法でニコチン依存症を治療します。システムを利用した禁煙治療を実施する場合、医療機関は初回の診察での処方時に一括で2,540点(2万5,400円)を算定し、患者さんはそれに診療費用や治療薬の処方箋料などを加えた総額の3割を負担することになります。治療用アプリは海外で先行して開発・使用されていて、日本ではいわゆるベンチャー企業が開発を手掛けていました。最近では大手製薬企業も開発に着手するなど、市場の拡大が予想されます。薬局や薬剤師が治療用アプリをどう理解して活用していくのか、患者さんの治療をサポートしていくのかというのが新しい課題になりそうです。

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英語で「予防」は?【1分★医療英語】第123回

第123回 英語で「予防」は?《例文1》Do you recommend initiating antibiotic prophylaxis?(抗菌薬での予防を開始したほうがいいと思いますか?)《例文2》The oncology team has decided to use neutropenia prophylaxis.(腫瘍チームが好中球減少症の予防をすることを決めました)《解説》「予防」を示す英単語は、“prevention”と習ったかと思います。患者さんとの会話の際は一般的なこの表現を使いますが、医療者同士では“prophylaxis”(プロフィラクスィス:[病気の]予防)が使われることが多く、臨床ガイドライン等でもこちらが採用されています。“PrEP”(pre-exposure prophylaxis=曝露前予防)、“PEP”(post-exposure prophylaxis=曝露後予防)など、HIV曝露前後に予防として抗HIV薬を服用する意味の単語にも使われています。“prophylaxis”は少し長いので、カルテ等では略語の“ppx”と書くこともあります。同じ薬であっても、治療目的と予防目的では異なる用量で処方することも多く、注意が必要です。“therapeutic dose”は「治療目的の用量」、“prophylactic dose”は「予防目的の用量」を指します。薬のオーダーをするときや、スタッフとの会話の際に、間違いや勘違いがないよう気を付けてください。講師紹介

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心不全へのARNI、日本人での安全性が明らかに(REVIEW-HF)/日本循環器学会

 急性・慢性心不全診療―JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版が2020年に発表され、国内における心不全(HF)治療も変化を遂げている。とくにアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)発売の影響は大きいが、そのサクビトリル・バルサルタン(商品名:エンレスト)の治療を受ける国内患者の特徴、忍容性、臨床転帰は明らかにされていない。そこで、金岡 幸嗣朗氏(国立循環器病研究センター)らが全国多施設観察研究の分析を行い、その結果を第88回日本循環器学会年次学術集会 Late Breaking Cohort Studies1にて報告した。 同氏らはHF管理のためにサクビトリル・バルサルタンの新規処方患者の特徴と臨床転帰を評価するため、国内のリアルワールドエビデンス研究であるREVIEW-HF試験よりサクビトリル・バルサルタンに関連する有害事象(AE)を分析した。処方90日以内に発生したAEとして、血圧低下、腎機能低下、高カリウム血症、血管浮腫の発生について解析し、AEと転帰との関連についても調査した。 主な結果は以下のとおり。・993例を解析、男性は702例(70.2%)、平均年齢は69.6歳だった。・HFrEFは549例(55.3%)、HFmrEFは218例(22.0%)、HFpEFは226例(22.7%)だった。・サクビトリル・バルサルタンの開始用量は、82.6%が100mg/日であった。・HFrEF患者の27.3%はベースライン時点で収縮期血圧(SBP)<100mmHgだった。・サクビトリル・バルサルタンに関連する90日以内のAEは、22.5%で観察された。・400mg/日まで増量できたのは、HFrEF群で38.9%、HFmrEF群で42.1%、HFpEF群で39.1%であった。中止理由としては血圧低下が最も多かった。・調整後、ベースラインのNYHA心機能分類IIIまたはIV、SBP<100mmHg、eGFR<30mL/min/1.73m2は、AEの発生とARNIの中止の両方と統計学的に有意に関連しており、AEがみられた患者では、AEがなかった患者よりも心血管死または心不全による入院のリスクが高かった。 同氏は「国内では高齢者、LVEF機能分類を問わず、そしてSBP<100mmHgや腎機能が低下している患者にもサクビトリル・バルサルタンが処方されているのが現状である。今回の研究より、治療開始直後に比較的高い割合でAEを認め、低血圧、腎不全などのリスクを有する患者への処方の際は、とくに有害事象の発生に配慮する必要がある」とコメントした。

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電子カルテを通じた医師への警告で不要な検査が減少

 80歳の男性に定期的な前立腺がんの検査(PSA検査)を指示するために医師がコンピューターを操作していると、患者の電子カルテに派手な黄色の警告が表示された。そこには、「ガイドラインで推奨されていない検査をオーダーしています。PSA検査の結果に基づき行われる診断や治療が患者に有害となる可能性があります。正当な理由なく検査を行うと、不要な検査であることがカルテに記載されます」との警告文が表示されていた。 この警告文は、医師による高齢患者への不要な検査を減らすための戦略の一環として米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のStephen Persell氏らが作成し、試験的に導入したものである。同氏らの研究では、この戦略により18カ月後には不要なPSA検査が9%、女性での尿路感染症診断のための尿検査が約6%減少したという。Persell氏は、「われわれの知る限り、これはポイント・オブ・ケア(ケアが行われている場)での警告が全ての不要な検査や治療を有意に減少させることを示した初めての研究である」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に2月6日掲載された。 この研究では、ノースウェスタン・メディスンに属する60施設のプライマリケア診療所の医師とその患者を対象に、医師の注意を患者が被る害に向けさせ、また、医師に過剰医療に対する社会的懸念や風評に対する懸念を考えさせることで、医師の意思決定がどのように変わるかが評価された。対象とされた医師は、行動科学に基づいた臨床意思決定支援ツールによる介入と症例ベースの教育を受ける群(30クリニックの医師187人、介入群)と、症例ベースの教育のみを受ける群(30クリニックの医師187人、教育群)に割り付けられた。意思決定支援ツールは、患者にもたらされる潜在的な害や結果に対する医師の責任を強調し、社会的規範を伝えるようにデザインされたものだった。 介入効果は、前立腺がんの既往歴がない76歳以上の男性に対するPSA検査、65歳以上の女性に対する非特異的な理由での尿検査、HbA1cが7%未満の75歳以上の糖尿病患者に対する血糖降下薬による過剰治療の3点について検討した。先行研究では、75歳以上の男性でのPSA検査は延命治療につながらないばかりか、不要な治療を受けることで尿失禁や性機能障害、直腸出血などが生じる可能性もあることが示されている。同様に、65歳以上の無症状の尿路感染症に対する抗菌薬による治療が健康を改善することを示したエビデンスもない。さらに、インスリンやスルホニル尿素のような糖尿病治療薬を使用している75歳以上の糖尿病患者の血糖値を低下させる治療も低血糖のリスクを高めるので危険である。 その結果、介入から18カ月後には、介入群では教育群に比べてPSA検査が8.7%、非特異的な尿検査が5.5%、糖尿病に対する過剰治療が1.4%少なく、介入が有効であることが明らかになった。 先行研究では、電子カルテを通じて医師にメッセージを配信することで不要な検査を減らすことが試みられているが、Persell氏らは今回の研究で、医師に影響を与え得る言葉の組み合わせを考え出すことができたと話している。同氏は、「患者にもたらされる潜在的な害に焦点を当て、社会的規範を共有し、社会的責任や風評への懸念を促進する要素を取り入れることが、これらのメッセージの効果につながったと考えている」と大学のニュースリリースで説明している。その上で、「臨床医にとって説得力のあるメッセージを、臨床医がオーダーを出す際に電子カルテを通じて配信することができるのなら、これはケアを改善する簡単な方法となるし、大規模な医療システム全体への適用も可能だ」と付け加えている。 研究グループは、このようなメッセージ配信による介入が、オピオイドや睡眠薬の処方、潜在的に危険な薬剤の組み合わせなど、他のタイプの過剰治療を減らす上でも有効であるのかを検討する予定だと話している。

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禁煙後の体重増加は将来の高血圧発症と関連する可能性

 禁煙後の体重増加は血圧の上昇につながり、将来の高血圧発症と関連する可能性があることが、鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学の二宮雄一氏らの研究グループによる研究から明らかになった。日本人の一般集団を対象に分析した結果、禁煙した群では、喫煙を継続した群と比べて体重がより増加し、血圧値も上昇することが分かったという。詳細は「Hypertension Research」に1月5日掲載された。 禁煙は、慢性疾患リスクの低減や寿命の延伸、QOLの向上など健康面にさまざまなメリットをもたらす。一方で、禁煙後には体重や肥満度が増加することが知られており、禁煙意欲を低下させる要因の一つとなっている。また、禁煙後の体重増加が引き起こす健康への悪影響については、これまで心血管疾患や2型糖尿病に焦点を当てた研究が多く、高血圧との関連は明らかになっていない。そこで、二宮氏らは、禁煙後の体重増加とその後の高血圧発症の関連を検討するため、後ろ向き研究を実施した。 2005年から2019年の間に、鹿児島厚生連病院健康管理センターで年1回の健康診断を受診した成人男女23万4,596人のうち、禁煙6年後のデータを入手し得た856人を対象に分析した。禁煙後の体重増加と高血圧発症の関連以外にも、禁煙1年後および6年後の血圧値と降圧薬処方率の変化を評価。また、傾向スコアでマッチングした禁煙群(856人)と喫煙継続群(854人)の体重と血圧値を比較した。さらに、収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)に影響を与える因子を特定するため、重回帰分析を行った。 禁煙1年後の体重増加の中央値(1.8kg)を基に、体重増加が1.8kg以上だった群(high weight gain:HWG群、428人)と1.8kg未満だった群(low weight gain:LWG群、428人)に分けて分析した(平均年齢:HWG群46.5歳、LWG群45.2歳、男性の割合:それぞれ93%、90%)。その結果、HWG群とLWG群のベースライン時の体重は同程度だったが、LWG群に比べてHWG群では禁煙1年後および6年後の体重が有意に増加した(ベースライン→禁煙1年後→6年後の平均体重:HWG群64.9±10.5kg→68.9±10.6kg→69.2±10.9kg、LWG群66.3±10.7kg→66.1±10.5kg→66.8±10.9kg)。 また、禁煙から6年後の降圧薬の処方率にはHWG群とLWG群で有意な差はなかったが、ベースラインから6年後のSBP値およびDBP値の変化には有意差が認められた(SBP:HWG群10.3±13.8mmHg、LWG群6.2±12.8mmHg、P<0.001、DBP:HWG群6.0±9.3mmHg、LWG群3.1±9.7mmHg、P<0.001)。重回帰分析の結果、SBP値の変化は年齢と大幅な体重増加の影響を受けたのに対し、DBP値の変化は大幅な体重増加の影響のみを受けていた。さらに、禁煙群と喫煙継続群の比較では、禁煙群の方が体重の増加幅が有意に大きく、6年間のSBP値とDBP値の変化も大きかった。 以上から、同氏らは「禁煙後の体重増加は、その後の血圧上昇をもたらす可能性があり、禁煙を希望する人には減量指導を行うことが有効だ」と結論。その上で、「禁煙を勧める際には、禁煙による健康へのベネフィットは、禁煙後の体重増加による悪影響を上回ることを強調すべきだ。また、診療ガイドラインでは、禁煙後の体重管理療法の時期や期間について言及する必要があるだろう」と述べている。

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第204回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(前編) アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の1つは、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためだと考えられます。そこで、今回と次回はこの記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)アドレナリンは“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い――この記事が多くの読者に読まれた理由について、先生はどうお考えですか。海老澤タイトルにあるように、「エピペンを打てない、打たない医師」は実際に少なくなく、そうした方が読んだということが1つ考えられます。また、ワクチンの集団接種会場ということで、医師会などから依頼されて医師等が接種を行うわけですが、アナフィラキシーなど、万が一のことが起こった場合に、その場ですぐに全身管理ができるような体制は多くの会場で整っていなかったと考えられます。そういった意味で、「自分にも起こり得た事件だった」と捉えた方も多かったのかもしれません。――「エピペン」こと、アドレナリンを「打てない、打たない医師」はまだ結構いるのでしょうか。海老澤アドレナリンの筋肉注射については、僕らの世代から上の医師だと、”心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い印象です。最近は、医師国家試験でもアナフィラキシーの時のアドレナリン筋注は第一選択だということが設問になるくらいで、若い医師たちには十分浸透していることだと思います。しかし、一方で少し世代が上になると、「まずアドレナリン筋注」とは考えない医師は存在します。使った経験がない人だと躊躇してしまうことはある――今回のコロナワクチンのアナフィラキシーに最初に対応した医師は、事故報告書によれば「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっていました。海老澤比較的若い医師だったのですね。今回のケースに当てはまるかどうかはわかりませんが、アナフィラキシーの患者にこれまで遭遇したことがある医師は、アナフィラキシーの患者を目の前にして、すぐに筋注しても問題はないと理解していると思うのですが、使った経験がない人だと躊躇してしまうことはあると思います。これまでにアナフィラキシーの患者さんを1人も診たことがなく、対処法に慣れていない医師は全国で少なくないと思います。仮に病院での治療中に起きたアナフィラキシーだったら、筋注後すぐにICUに運びルートを取り、アドレナリンを希釈して投与することも可能です。酸素投与もできます。また、手術中であればすでにルートが取れているので、即時対応が可能です。しかし、アナフィラキシーの初期対応としてアドレナリン筋注(0.1%アドレナリンの筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤〈エピペン0.3mg製剤の投与〉)が第一選択だというのは基本中の基本です。もちろん、糖尿病や高血圧、動脈硬化など基礎疾患があるような方だと、アドレナリンを打って血圧が急上昇して脳出血を起こしたりするリスクは全くゼロではありません。そうしたリスクとベネフィットを考えて投与するわけですが、打って害になることは少ないと思います。アナフィラキシーが呼吸器系の症状や循環器症状が単独で起こった場合は判断が難しい――報告書によれば、看護師の1人は、アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン1mgプレフィールドシリンジに22ゲージ針を付け、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をしていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。海老澤なるほど。ただ、そこは医師の判断ですから難しいですね。あともう1つ考えられるのは、アナフィラキシーの症状が典型的なパターンではなく、それが見逃しにつながった可能性です。――報告書では、「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外した」と書かれています。海老澤アナフィラキシーが呼吸器系の症状や、血圧低下などの循環器症状が単独で起こった場合は、判断が難しいというのは確かにあります。2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」1)では、診断基準が2つに集約されました。1つは、「皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、瘙痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間)で発症した場合」。もう1つが「典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性が高いものに曝露された後、血圧低下または気管支痙攣または咽頭症状が急速に(数分〜数時間)で発症した場合」となっています。この2番目は、循環器症状と呼吸器症状の単独の場合を言っているわけです。アナフィラキシーの基本は皮膚症状なのですが、典型的な皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面で、血圧低下または気管支攣縮、咽頭症状などの呼吸器症状があればアドレナリンを打つ、というのが2022年改訂の大きなポイントです。ワクチンもそうですが、薬剤等の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早く時間的余裕もないので、そこはとくに注意が必要です。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともある――今回の事故で「打たなかった」背景にはいろいろな原因が考えられるわけですね。海老澤今回の事例に直接当てはまるかどうかは軽々に言えませんが、「アナフィラキシーの典型的な症状ではなく判断が難しかった」「アナフィラキシーに対する医療者の経験値、慣れが足りなかった」「何か起こった場合に対応する医療体制が乏しかった」ことなどが教訓として挙げられると思います。ただ、症状の進行はものすごく速かったと考えられるので、アドレナリンの1回の筋注で軽快していたかどうかはわかりません。重症の方の場合、アドレナリン投与1回では効かないこともあります。それでもダメな場合は、ルートを取って輸液したり、酸素を投与したりと全身管理が必要になってきます。救命できるかどうかは、そういった一連の流れの中で決まってきます。(この項続く)(2024年1月23日収録)【事故の概要】2022年11月、愛知県愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡しました。愛西市がまとめた報告書2)によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と解釈していました。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだ」という看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など「アナフィラキシーで典型的な症状」がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外してしまいました。女性は接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されました。報告書で愛西市医療事故調査委員会は、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」とし、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。参考1)アナフィラキシーガイドライン2022/日本アレルギー学会2)事例調査報告書/愛西市

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マルチターゲットFITで大腸がんの検出能が向上

 大腸がん検診で広く用いられている免疫学的便潜血検査(fecal immunochemical test;FIT)よりも大腸ポリープの検出に優れた便検査の開発に関する研究成果を、オランダの研究グループが「The Lancet Oncology」に2月9日発表した。論文の上席著者であるオランダがん研究所のGerrit Meijer氏は、「現行のFITは良く機能しているが、改善の余地がある。われわれは、大腸ポリープが腫瘍となって浸潤する前の前がん病変の段階で検出できるようにしたいのだ。そうすれば、手術をせずとも大腸内視鏡検査の際にそのようなポリープを摘出することができる」と話す。 毎年、世界中で190万人もの人が大腸がんの診断を受け、93万5,000人が大腸がんにより死亡していると推定されている。大腸がんは早期に発見されれば治癒も見込めるがんである。 多くの国で実施されている大腸がん検診では、FITが採用されている。FITは、血液成分のヒトヘモグロビンに結合する抗体を利用して、便中の肉眼では確認できない微量の血液を検出する検査であるが、進行腺腫などの前がん病変の検出能は最適とは言えない。 今回開発された新たな検査法は、ヘモグロビンに加えて、2種類のタンパク質(炎症の指標であるカルプロテクチン、セルピンファミリーFメンバー2)を測定する、マルチターゲットFIT(multitarget FIT;mtFIT)と呼ぶものである。Meijer氏らは、オランダの大腸がん検診プログラムへの参加者1万3,187人(55〜75歳、男性50.3%)からFIT用とmtFIT用の糞便サンプルを提供してもらい、2種類の検査の性能を比較した。 その結果、advanced neoplasia(進行新生物)に対する陽性率はmtFITで9.11%、FITで4.08%、検出率は前者で2.27%、後者で1.21%であった。また、大腸がん検出率は、mtFITで0.20%、FITで0.17%、進行腺腫検出率は同順で1.64%と0.86%、進行鋸歯状ポリープの検出率は0.43%と0.17%であった。 さらに、オランダでのFIT検査のカットオフ値に基づくと、mtFITを用いた大腸がん検診により、現行のFITによる検診と比べて大腸がんの罹患率が21%、関連する死亡率が18%低下する可能性も示された。Meijer氏は、カットオフ値をオランダよりも低く設定している国では、この数字はさらに低くなる可能性があるとし、その場合、大腸がん症例が少なくとも5%、大腸がんによる死亡率は少なくとも4%減少すると推定している。その上で、「いずれにせよ、mtFITの費用対効果が高いことに変わりはない」と述べている。 ただし、この検査法を臨床の現場で使うにはもう少し時間がかかりそうだ。Meijer氏は、「次の重要なステップは、ヨーロッパの診断検査ガイドラインに従ってこの検査を製品として工業規模で生産することだ」と話している。そのための新会社としてCRCbioscreen社がすでに設立済みであるという。

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高齢者の身体活動量、推奨値を変更/厚労省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」

 厚生労働省は健康・医療・介護分野における身体活動を支援する関係者を対象として、身体活動・運動に関する推奨事項や参考情報をまとめた「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」を2024年1月に公表した。「健康づくりのための身体活動基準 2013」から10年ぶりの改訂となる。同ガイドの改訂に関する検討会で座長を務めた中島 康晴氏(九州大学大学院医学研究院整形外科 教授)に主な改訂点とその背景について話を聞いた。年齢や疾患の有無などに応じ、身体活動の推奨事項をそれぞれ提示 今回の改訂では、「健康日本21(第三次)」のビジョン1)の中で示されている「誰一人取り残さない健康づくり(inclusion)」ならびに「より実効性をもつ取組の推進(implementation)」の観点から、ライフステージごと(成人、こども、高齢者)に身体活動・運動に関する推奨事項をまとめるとともに、「慢性疾患(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、変形性膝関節症)を有する人の身体活動のポイント」「働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント」など個人差を踏まえた推奨事項を示している点が大きな特徴。それぞれ2~4ページごとにまとめられており、指導の際のツールとしての使いやすさを考慮して作成されている。中島氏は、「年齢・性別・疾患の有無などに応じて、多くの人が当てはまるように場合分けをして、わかりやすく推奨事項を示すことが今回の改訂の大きなテーマ」とした。高齢者の推奨身体活動量を週10メッツから15メッツに変更 高齢者の身体活動量の推奨値は、2013年版では「強度を問わず身体活動を週10メッツ・時」とされていたが、「強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上」に変更された。これは今回の改訂にあたって実施されたアンブレラレビューの結果(強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上行う高齢者は、身体活動をほとんど行わない高齢者と比べて総死亡および心血管疾患死亡のリスクが約30%程度低下)や高齢者の現状の身体活動量に基づく。 そのほか高齢者への推奨事項に関しては、今回から「多要素の運動」という言葉が用いられ、その具体例や科学的根拠なども示されている。成人は1日約8,000歩以上、高齢者は約6,000歩以上を推奨 推奨の身体活動量についてメッツだけでなく相当する歩数をそれぞれ示したことも2023年版の大きな特徴となっている。これについて中島氏は、「わかりやすさはもちろん、近年多くの研究で歩数と疾患の関係が示されており、運動器そのものの機能も歩くことによって改善することが明らかになっている」と説明。また、座位行動という言葉が初めて用いられ、成人・高齢者ともに「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)」と明記された。 成人・高齢者それぞれの主な推奨事項は以下のとおり:[成人]・強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ・時以上行う。具体的には、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上行う(1日約8,000歩以上に相当)・強度が3メッツ以上の運動を週4メッツ・時以上行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上行う・筋力トレーニングを週2~3日行う(週4メッツ・時の運動に含めてもよい)[高齢者]・強度が3メッツ以上の身体活動を週15メッツ・時以上行う。具体的には、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日40分以上行う(1日約6,000歩以上に相当)・筋力・バランス・柔軟性など多要素な運動を週3日以上行う・筋力トレーニングを週2~3日行う(多要素な運動に含めてもよい) 中島氏は、「たとえば成人の1日約8,000歩以上というのは決して簡単な数字ではなく、かなり意識しないと達成できない。ガイドにも明記されているように、個人差を踏まえて可能なものから取り組み、今より少しでも多く身体を動かすことを意識してほしい」と話した。また小児については、WHOの「身体活動及び座位行動に関するガイドライン(2020年)」2)では具体的な数値が示されているものの、日本の子供たちの現状としては身体活動を全然行っていない場合と行っている場合に大きく二極化していることから、本ガイドでは参考値として示している。実臨床での運動指導を“より具体的に”行うために 本ガイドでは「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」として、運動前の注意事項、症状の把握やリスク分類、身体活動の状況の評価が3つのステップに分けて解説されており、実臨床で運動指導を行う際にも活用できるチェックシートが掲載されている。中島氏は、「患者さんに“運動してください”と言っても、それだけで実行に移してもらうことは難しい。具体的に何をどのくらいどこまでやったらいいのか、注意点は何なのかを伝えることが重要。その際の参考に、今回のガイドをぜひ活用していただきたい」と話した。

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便通異常症 慢性便秘(11)薬物療法:酸化マグネシウム【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q109

便通異常症 慢性便秘(11)薬物療法:酸化マグネシウムQ109浸透圧性下剤の1つである酸化マグネシウムは本邦で広く使われている。『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』において、本薬剤が使用禁忌・慎重投与と記載されている腎機能はどれくらいか。

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前庭リハビリテーションガイドライン 2024年版

平衡訓練/前庭リハビリテーションのガイドラインが誕生!前庭リハビリテーションはめまい患者の日常生活動作(ADL)改善目的で行われるが、日本国内ではかつてさまざまな訓練方法が混在していた。日本めまい平衡医学会はその標準化を目的に、本ガイドラインを策定した。訓練方法をイラストで詳細に解説し、11のCQでシステマティックレビューに則ってエビデンスを解析し、推奨を作成した。エビデンスによって標準化された前庭リハビリテーションを学ぶために、必携・必読・必修の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する 前庭リハビリテーションガイドライン 2024年版定価3,300円(税込)判型B5判頁数100頁(カラー図数:9枚)発行2024年2月編集日本めまい平衡医学会ご購入はこちらご購入はこちら

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うつ病高齢者に対する日本で使用可能な抗うつ薬~系統的レビューとメタ解析

 日本うつ病学会のうつ病治療ガイドラインの改定を行うために、藤田医科大学の岸 太郎氏らは、うつ病の高齢者を対象とした日本で使用可能な抗うつ薬の、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験のシステマティックレビューおよびペアワイズメタ解析を実施した。Neuropsychopharmacology Reports誌2024年3月号の報告。 主要アウトカムは、治療反応率とした。副次的アウトカムに、抑うつ症状評価尺度のスコア改善、寛解率、すべての原因による治療中止、有害事象による治療中止、1つ以上の有害事象を含めた。ランダムエフェクトモデルを用いて、リスク比(RR)、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・9件の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験(2,145例)が特定された。・日本で行われた研究はなかった。・本メタ解析に含まれた抗うつ薬は、デュロキセチン、エスシタロプラム、イミプラミン、セルトラリン、ベンラファキシン、ボルチオキセチンであった。・抗うつ薬治療群はプラセボ群と比較し、治療反応率が有意に高かった(RR:1.38、95%CI:1.04~1.83、p=0.02)。・抗うつ薬治療群はプラセボ群と比較し、良好な抑うつ症状評価尺度のスコア改善が認められた(SMD:-0.62、95%CI:-0.92~-0.33、p<0.0001)。・抗うつ薬治療群はプラセボ群と比較し、有害事象による治療中止率が高く(RR:1.94、95%CI:1.30~2.88、p=0.001)、1つ以上の有害事象発現率も高かった(RR:1.11、95%CI:1.02~1.21、p=0.02)。・寛解率やすべての原因による治療中止に関しては、両群間に差は認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「日本で使用可能な抗うつ薬による治療は、中等度~重度のうつ病高齢者に対し、弱く推奨される」と結論付けた。

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精巣癌診療ガイドライン 2024年版 第3版

2015年以来の改訂!エビデンス評価、推奨グレードを変更2015年以来の改訂。前版より書名を一部変更し『精巣癌診療ガイドライン』とした。エビデンスの確実性、推奨グレードを4段階で評価した。十分なコンセンサスが得られている事項は総論として記載し、議論の余地が残る重要臨床事項については13のClinical Question(CQ)、保険未承認の新規診断法や治療法については2つのFuture Research Question(FRQ)として記載した。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する 精巣癌診療ガイドライン 2024年版 第3版定価3,960円(税込)判型B5判頁数192頁発行2024年2月編集日本泌尿器科学会ご購入(電子版)はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら

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3月14日 世界腎臓デー【今日は何の日?】

【3月14日 世界腎臓デー】〔由来〕腎臓病の早期発見と治療の重要性を啓発する取り組みとして、国際腎臓学会などにより2006年から、3月第2木曜日を「世界腎臓デー」と定め、毎年、世界各地で腎臓病に関する啓発に向けてイベントが開催されている。関連コンテンツ意外と知らない薬物動態(1)Cockcroft-Gault式【臨床力に差がつく 医薬トリビア】尿中アルブミンってなあに?【患者説明用スライド】CKD患者の年間医療費はどの程度増加するのか/広島大学新規アルドステロン合成酵素阻害薬、CKDでアルブミン尿を減少/Lancet『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

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がん治療中のその輸液、本当に必要ですか?/日本臨床腫瘍学会

 がん患者、とくに終末期の患者において最適な輸液量はどの程度なのか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)で企画されたシンポジウム「その治療、やり過ぎじゃないですか?」の中で、猪狩 智生氏(東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野)が、終末期がん患者における輸液の適切な用い方について、ガイドラインでの推奨や近年のエビデンスを交え講演した。「輸液の減量」をがん治療中の腹痛や悪心の治療オプションに 猪狩氏はまず実際の症例として、70代の膵頭部がん(StageIV)患者の事例を紹介した:1次治療(GEM+nab-PTX)後にSDとなったものの、8ヵ月後に腹痛、悪心で緊急入院し、がん性腹膜炎、麻痺性イレウスと診断。中心静脈確保、絶食補液管理(1日2,000mL)となり、腹痛に対しオピオイドを開始したものの症状コントロール困難となった。 このようなケースで治療オプションとなるのは、オピオイドの増量や制吐薬、ステロイド、オクトレオチドの使用などだが、同氏は「輸液の減量も症状緩和のための手段の1つとして加えてほしい」と話した。輸液量で予後は変わるか?また大量の輸液で増悪する可能性のある症状とは 近年報告されているエビデンスとしては、終末期のがん患者において輸液1日1,000mL群(63例)と100mL群(66例)を比較した結果、全生存期間について群間の有意差はなかったという多施設共同無作為化比較試験の報告がある1)。一方で腹膜転移のあるがん患者226例を対象に実施された前向き観察研究では、輸液1日1,000mL群と200mL群の比較において、1,000mL群で浮腫、腹水、胸水の増悪が認められやすかったと報告されている2)。「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」3)では、終末期がん患者に対する大量輸液で増悪する可能性のある病態・症状としては以下が挙げられている:・浮腫→疼痛、倦怠感・胸水、腹水の増加→腹痛、腹部膨満感、呼吸苦、咳嗽・気道分泌の増加→呼吸苦、咳嗽、喘鳴・せん妄→身の置き所のなさ、疼痛の閾値低下・消化管分泌物の増加→嘔吐、悪心、腹痛 これらの知見から猪狩氏は、終末期がん患者に対する多量の輸液は、全生存期間の延長効果も乏しく、むしろ各種症状を増悪させる可能性があることを指摘した。症状緩和に適した輸液量と減量を検討するタイミング では、実際に症状緩和に適した輸液量とはどのくらいなのか? 日本、韓国、台湾の2,638例を対象に実施された前向き観察研究では、Good Death Scale(GDS)という評価尺度(症状緩和や死の受容といった観点から患者が穏やかな死を迎えられたかの医療者評価)を用いた評価の結果、1日250~499mLの輸液を投与された患者で有意にGDSが高かった4)。 実臨床で輸液の減量を検討するタイミングについて猪狩氏は、Palliative Performance Scale(PPS)20%以下(ADLがベッド上で全介助、食事の経口摂取は少量、意識レベルもややdrowsy)が1つの目安となるのではないかと提案。「PPS20%以下のタイミングがいま投与している輸液量がこのままでいいのかを振り返る1つのポイント。輸液を完全にやめる必要はないが、患者さんの苦痛症状や家族の希望に応じて、減量を選択肢の1つに加えていただきたい」と話して講演を締めくくった。

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低リスク高血圧患者、「血圧の下げすぎ」による心血管リスクは

 高リスクの高血圧患者において、治療中の収縮期血圧(SBP)が120mmHg未満および拡張期血圧(DBP)が70mmHg未満の場合は心血管リスクが増加することが報告され、欧州心臓病学会/欧州高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2018年版では高血圧患者全般に対してSBPを120mmHg以上に維持することを提案している。しかし、低リスク患者におけるデータは十分ではない。京都大学の森 雄一郎氏らの研究グループは、全国健康保険協会のデータベースを用いたコホート研究を実施。結果をHypertension Research誌オンライン版2024年2月14日号に報告した。 本研究は、3,000万人の生産年齢人口をカバーする全国健康保険協会のレセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて行われた。10年間の心血管リスクが10%未満で降圧薬を継続的に使用している患者が特定され、治療中のSBPとDBPによってカテゴリー分類された。主要アウトカムは心筋梗塞、脳卒中、心不全、末梢動脈疾患の新規発症の複合であった。 主な結果は以下のとおり。・92万533例の心血管低リスク患者が対象とされた(平均年齢:57.3歳、女性:48.3%、平均追跡期間:2.75年)。・SBPごとの主要アウトカムの調整後ハザード比(95%信頼区間)は、<110mmHg:1.05(0.99~1.12)110~119mmHg:0.97(0.93~1.02)120~129mmHg:1(参照)130~139mmHg:1.05(1.01~1.09)140~149mmHg:1.15(1.11~1.20)150~159mmHg:1.30(1.23~1.37)≧160mmHg:1.76(1.66~1.86)・DBPごとの主要アウトカムの調整後ハザード比は、<60mmHg:1.25(1.14~1.38)60~69mmHg:0.99(0.95~1.04)70~79mmHg:1(参照)80~89mmHg:1.00(0.96~1.03)90~99mmHg:1.13(1.09~1.18)≧100mmHg:1.66(1.58~1.76) 著者らは、「低リスクの高血圧患者において、治療中のDBPが60mmHg未満の場合に心血管イベント増加と関連していたが、治療中のSBPが110mmHg未満の場合には関連していなかった。高リスク患者を対象としたこれまでの研究結果と比較して、低リスク患者では、血圧を下げすぎることが有害となる可能性はそれほど顕著ではないことが明らかとなった」としている。

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日本循環器学会から学ぶ、学会公式SNSのあるべき運用とは?/日本臨床腫瘍学会

 学会の情報発信はどうあるべきか? 第21回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2024)ではSNSを使った学会の広報活動をどう広めていくかをテーマにシンポジウムが行われた。 本シンポジウムは昨年4月にJSMO広報渉外委員会の下部組織として「SNSワーキンググループ(SNS-WG)」が発足したことを契機として企画された。SNS-WGは立候補制で、現在専攻医からがん薬物療法専門医まで幅広い世代の会員14人が参加し、1)JSMO会員のSNS利用を活発にするための環境整備、2)医学生・研修医や一般市民に向けた腫瘍内科・JSMOの認知度向上、3)JSMOの国際化を主な目的として活動している。 今回のシンポジウムはメンバーからの報告のほか、国内でもっとも活発にSNSを使っている学会の1つである日本循環器学会から、活動の中心的メンバーである国際医療福祉大学大学院医学研究科 循環器内科の岸 拓弥氏が招かれ、講演を行った。本シンポジウムでは特例的に公演中のスライド撮影、SNSへの投稿を自由とし、活発なディスカッションの一助とする取り組みも行われた。演題1)「JSMO SNS 元年」名古屋医療センターの山口 祐平氏(SNS-WGメンバー)――海外学会を見ると、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のXのフォロワーは14万5,000人、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は7万4,000人。対してJSMOは3,300人余りと大きな差がある(2024年2月時点)。しかし、学会からの公式な発信をするためには、きちんとした体制づくりが前提となる。日本循環器学会の活動も参照し、まずはJSMOとしてSNS利用の5原則と運用ポリシーを明文化し、公開した。今後も学術集会での情報共有や盛り上げ、学会のスライド投稿自由化への環境づくり、医学生向け腫瘍内科セミナーの企画・運営などを行っていく予定だ。演題2)「SNSをキッカケに広がるアカデミアの世界」東京都立駒込病院 呼吸器内科、国立がんセンター東病院 呼吸器内科の上原 悠治氏(SNS-WGメンバー)――海外の学会はSNSをどう活用しているのか。ESMO2023を例にして紹介する。SNS活動を盛り上げるための20~30代の若手医師をアンバサダーとして選出し、戦略的な発信を行っている。聴衆によって発表スライドが即時にSNSに投稿され、コメント欄でディスカッションが行われたり、治療選択を投票で呼びかけたりするなどで新たな盛り上がりを見せている。なぜここまで学会がSNSを盛り上げるのか。考えるに1)学会の国際化、2)現地に参加できない人のため、3)患者のため、4)若手のため、といった側面があるのではないか。 個人的側面とがん領域に限ってSNS活用の利点を考えてみると、1)最新情報のアップデート、2)自分の研究の認知度向上、3)新たなコネクションの形成、4)患者・市民参画の促進、5)若手のリクルート活動などにあると考えている。どれも自分自身の経験から実感していることで、とくにSNSを使って希少がんの患者さん同士がつながる例などを見ると、SNSのメリットを強く感じる。演題3)「日本循環器学会公式X @JCIRC_IPRとYouTubeの5年間の活動で見えてきた学会公式SNSの光と闇」国際医療福祉大学大学院医学研究科 循環器内科の岸 拓弥氏(ゲスト講演)――日本循環器学会(JCS)は公式でSNSの活用を比較的早い段階で始め、うまくいっているほうだと考えている。ただ、他学会を見るとフォロワー数が伸び悩んだり、炎上してアカウントを停止したり、難しい面もあるようだ。 JCSがSNSを使った取り組みを本格的にはじめたのは2018年前後。しかし、Twitter(当時)の公式アカウントのフォロワー数はわずか8人、投稿もほぼないような状態。学会の上層部からは「SNSなんて若者のおもちゃ」「炎上したらどうする」と散々な言われようだった。そこで、1)学会公式として真面目に取り組む、2)学会のブランディングを行う、3)SNS利用に慣れた会員でチームを結成して取り組む、4)学術集会を盛り上げることを目的とする、5)学会公式ジャーナルを広報する、6)YouTubeで教育・啓発動画を公開して拡散する、という点を確約したうえで進めた。 活動スタート当初に行ったのが、学術集会上でSNSを使って取り組むべきことを論文にまとめ、学会誌に投稿したことだ1)。論文として掲載されることで、やらざるを得ない状況にチームや周囲を追い込んだ。さらに国内の医学系学会として初めて、公式のTwitterの利用指針を定めて公開した。1)プライバシー保護、2)第三者の権利尊重、3)透明性の担保、4)技術利用に対する責任、5)関連法令の遵守を5原則とし、さらに「学会を代表する立場として、学術的なツイートする」「批判的なツイートはしない」などの細かい利用原則も定めた。そこまで準備を固めたうえで、2019年の学術集会に臨んだ。 学術集会では前述の原則に加え、「演者許可が得られたスライドだけ」「公式サポーターが撮影」「決められたハッシュタグを付けて投稿」などのルールをつくり、運用した。終了後はツイート数の集計や分析、影響力のあるアカウントを特定するクラスター解析を行い、次回以降の学術集会の座長や演者の選定の参考にする、反響あるツイートの分析を行うなどして、翌年以降の活動をブラッシュアップしている。こうした取り組みは都度論文にまとめて発表しており、学会として公式に取り組むうえでは、分析や成果の論文化も欠かせない活動だと考えている。こうした分析から「SNSに投稿した論文はその後の引用数が増える」といった傾向も見えてきたため、アクセプトされた論文をAbstractの図解を付けたうえでジャーナル公式のアカウントで発信する、という取り組みも始めた。 現在、JCS公式アカウントのフォロワー数は2万人弱。海外学会とは会員数もSNSの使い方も異なるので、数だけの比較はあまり意味がないと考えている。フォロワー数よりも投稿を見た人がなんらかの反応をしてくれる「エンゲージメント率」を重視している。 学会や医療機関単位で、組織の上層部が気軽に「情報発信や若手リクルートのためにSNSをはじめよう」と若手に依頼するケースがあると聞くが、それは危険だ。組織として公式に取り組む以上、自分たちの存在意義(コアバリュー)を明確にしたうえで、「誰に、何を伝えたいのか。その結果、何をどうしたいのか」を明確にし、数値目標を設定し、SNSに慣れた人がチームをつくってスタートする必要があるだろう。JCS公式の場合、やるべきことは「医療者向けに医療情報を発信すること」であり、目標(KPI)は「ガイドラインのダウンロード数」に設定している。批判的なコメントは必ず来るのでそうしたものはやり過ごし、優しい気持ちで真面目に継続していけば、必ず成果につながるはずだ。 3つの講演終了後は、岸氏とSNS-WGのメンバーがSNSを使うメリットや注意点などについて意見を出し合った。JSMO2024 委員会企画 2 SNS-WGシンポジウムオンデマンド配信中(3/31まで。JSMO2024への参加登録要)https://www.micenavi.jp/jsmo2024/

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第185回 国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省

<先週の動き>1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省厚生労働省の武見 敬三厚生労働省大臣は、関西国際空港に到着したアラブ首長国連邦(UAE)発の国際便に搭乗していた5人から、はしかの感染が確認されたことを3月8日に発表した。この感染者は、2月24日にエティハド航空EY830便で関空に到着し、岐阜県で1人、愛知県で2人、大阪府で2人が感染していることが判明している。武見厚労相は、はしかの感染疑いがある場合、公共交通機関の利用を避け、医療機関に電話で相談するよう国民に強く呼びかけた。また、はしかは空気感染するため、手洗いやマスクでは予防が難しく、ワクチン接種が最も有効な予防策であることを強調した。はしかは世界的に流行しており、2023年の感染者数は前年の1.8倍の30万人を超え、とくに欧州地域では前年の60倍に当たる5万8,114人と大幅に増加している。国内でも感染が広がる可能性があり、すでに複数の感染者が報告されている。はしかには10~12日の潜伏期間があり、発症すると高熱や発疹が出現し、肺炎や脳炎などの重症化リスクがある。武見厚労相は、国内での感染拡大を防ぐために、ワクチン接種を含む予防策の徹底を呼びかけ、2回のワクチン接種で95%以上の人が免疫を獲得できるとされ、国は接種率の向上を目指しているが、2回目の接種率が目標に達していない状況。参考1)はしか、厚労相が注意喚起 関空到着便の5人感染確認(毎日新聞)2)はしかの世界的流行 欧州で60倍 国内も感染相次ぐ 国が注意喚起(朝日新聞)3)麻しんについて(厚労省)2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定について3月5日に官報告示を行ない、新たに急性期病床として設けられる「地域包括医療病棟」の詳細について発表した。この病棟は、とくに高齢者の救急搬送に応じ、急性期からの早期離脱を目指し、ADL(日常生活動作)や栄養状態の維持・向上に注力する。この病棟は、看護師の配置基準が「10対1以上」で、かつリハビリテーション、栄養管理、退院・在宅復帰支援など、高齢者の在宅復帰に向けて一体的な医療サービスを提供することが求められている。また、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職を2名以上、常勤の管理栄養士を1名以上配置することを求めている。地域包括医療病棟入院料は、DPC(診断群分類)に準じた包括範囲で設定され、手術や一部の高度な検査は出来高算定が可能とされ、加算ポイントとしては、入院初期の14日間には1日150点の初期加算が認められる。さらに、急性期一般入院料1の基準が厳格化され、急性期から地域包括医療病棟への移行を促す。この改定により、急性期病棟、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟という3つの機能区分が明確にされ、患者のニーズに応じた適切な医療提供の枠組みが整うことになる。この改革の背景には、高齢化社会における救急搬送患者の増加と、それに伴う介護・リハビリテーションのニーズの高まりがあり、地域包括医療病棟は、これらの課題に対応するため、急性期治療後の患者に対して継続的かつ包括的な医療サービスを提供することを目指す。参考1)地域包括医療病棟、DPC同様の包括範囲に 診療報酬改定を告示(CB news)2)新設される【地域包括医療病棟】、高齢の救急患者を受け入れ、急性期からの離脱、ADLや栄養の維持・向上を強く意識した施設基準・要件(Gem Med)3)令和6年度診療報酬改定の概要[全体概要版](厚労省)【動画】3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省電子処方箋の運用開始から1年、全国の医療機関や薬局において導入が約6%にとどまっていることが明らかになった。とくに病院の運用開始率は0.4%と非常に低く、25道県では運用を始めた病院が1つもない状況。導入が進まない主な理由として、高額な導入費用、医療機関や薬局が緊要性を感じていないこと、さらには患者からの認知度の低さが挙げられている。電子処方箋は、医療のデジタル化推進の一環として導入され、医師が処方内容をサーバーに登録し、患者が薬局でマイナンバーカードか健康保険証を提示することで、薬剤師がデータを確認し、薬を渡す仕組み。これにより、患者の処方履歴が一元化され、重複処方の防止や薬の相互作用チェックなど、医療の質向上が期待されている。政府は、2025年3月までに約23万施設での電子処方箋の導入を目指しており、システム導入費用への補助金拡充などを通じて、その普及を後押ししていく。しかし、病院での導入費用が約600万円、診療所や薬局では55万円程度が必要であることが普及の大きな障壁となっている。3月3日時点で、電子処方箋の運用を始めた施設は計1万5,380施設に達しているが、そのうち薬局が全体の92.4%を占めており、医科診療所、歯科診療所、病院での導入は遅れている。厚労省は、診療報酬改定に伴うシステム改修のタイミングでの導入を公的病院に要請しており、導入施設数の増加を目指す。参考1)電子処方箋の導入・運用方法(社会保険診療報酬支払基金)2)電子処方箋導入わずか6% 運用1年、費用負担も要因(東京新聞)3)電子処方箋、病院の「運用開始率」0.4%-厚労省「緊要性を感じていない」(CB news)4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労公立・公的病院で働く看護師、臨床検査技師、事務職員など約8割が現在の職場を辞めたいと考えていることが、全日本自治団体労働組合(自治労)の調査によって明らかになった。この調査は、47都道府県の公立・公的病院勤務者1万184人を対象に実施され、36%がうつ的症状を訴えていた。理由としては、業務の多忙、人員不足、賃金への不満が挙げられており、とくに「業務の多忙」を理由とする回答が最も多く、新型コロナウイルス感染症が5類へ移行した後も、慢性的な人員不足や業務の過多が改善されていない状況が背景にあると分析されている。新型コロナ関連の補助金減額による病院経営の悪化と人件費の抑制も、問題の一因とされている。自治労は、業務量に見合った人員確保や公立・公的医療機関での賃上げ実施の必要性を訴えているほか、医師の働き方改革に伴い、医療従事者全体の労働時間管理や労働基準法の遵守が必要だとしている。参考1)公立病院の看護師ら、8割が「辞めたい」 3割超がうつ症状訴え(毎日新聞)2)公立病院の看護師など 約8割“職場 辞めたい” 労働組合の調査(NHK)3)「職場を辞めたい」と感じる医療従事者が増加-衛生医療評議会が調査結果を公表-(自治労)5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?わが国は「不妊治療大国」と称されながらも、体外受精の成功率は10%台前半に留まり、米国や英国と比べ約10ポイント低い状況であることが明らかになった。日経新聞の報道によると、不妊治療に取り組むタイミングの遅れが主な原因とされている。不妊治療の開始年齢が遅いことによる成功率の低下は、出産適齢期や妊娠についての正確な知識の提供が不足していることと関係しており、わが国の「プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)」の取り組みが十分ではないことによる。わが国は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の件数が世界で2番目に多いにもかかわらず、出産数に対する成功率は低いままであり、この理由として年齢が上がるほど、成功に必要な卵子の数が減り、治療開始の遅れだけでなく、高齢になるにつれて卵子の質が低下することにも起因する。不妊治療の体験者からは、治療の長期化による心身への負担や、職場での理解不足による仕事と治療の両立の困難さが指摘されている。また、不妊治療について適切な時期に関する情報が不足していることも、問題として浮き彫りになっている。企業や自治体による不妊治療支援は徐々に広がりをみせているが、職場での不妊治療への理解を深め、支援体制を構築することが求められる。NPOの調査によれば、治療経験者の多くが職場の支援制度の不足を訴えており、不妊治療に関する休暇・休業制度や就業時間制度の導入が望まれている。参考1)不妊治療、仕事と両立困難で働き方変更39% NPO調査(日経新聞)2)不妊治療大国、日本の実相 体外受精の成功率10%台前半(日経新聞)3)プレコンセプションケア体制整備に向けた相談・研修ガイドライン作成に向けた調査研究報告書(こども家庭庁)6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁京都地裁は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性への嘱託殺人罪などで起訴された被告医師(45)に対し、懲役18年の判決を下した。女性の依頼に応えて行ったとされる殺害行為について、被告は「願いをかなえた」ためと主張し、弁護側は自己決定権を理由に無罪を主張したが、裁判所はこれを退け、「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と述べた。判決では、「自らの命を絶つため他者の援助を求める権利は憲法から導き出されるものではない」と指摘、また、社会的相当性の欠如やSNSでのやり取りのみで短期間に殺害に及んだ点を重視した。被告の医師は2019年、別の被告医師と共謀し、女性を急性薬物中毒で死亡させたとされ、さらに別の殺人罪でも有罪とされた。事件について、亡くなった女性の父親は「第2、第3の犠牲者が出ないことを願う」と述べ、ALS患者の当事者からは、「生きることを支えられる社会であるべき」という訴えがされていた。判決は、医療行為としての嘱託殺人の範囲や自己決定権の限界に関する議論を浮き彫りにした。参考1)ALS嘱託殺人、医師に懲役18年判決 京都地裁「生命軽視」(日経新聞)2)ALS女性嘱託殺人 被告の医師に対し懲役18年の判決 京都地裁(NHK)3)「命絶つため援助求める権利」憲法にない ALS嘱託殺人判決、弁護側主張退ける(産経新聞)

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低リスク子宮頸がん、単純子宮全摘が標準治療に非劣性/NEJM

 早期の低リスク子宮頸がん女性では、子宮傍組織浸潤の発生率は1%未満であることが複数の後ろ向き研究で示されており、標準治療である広汎子宮全摘出術の必要性について疑問が生じている。カナダ・Centre Hospitalier Universitaire de QuebecのMarie Plante氏らは「CX.5 SHAPE試験」において、3年骨盤内再発率に関して、単純子宮全摘出術は広汎子宮全摘出術に対し非劣性であり、尿失禁や尿閉のリスクは有意に低いことを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年2月29日号で報告された。12ヵ国の第III相無作為化非劣性試験 CX.5 SHAPE試験は、12ヵ国130施設で実施した第III相無作為化非劣性試験であり、2012年12月~2019年11月の期間に参加者を募集した(Canadian Cancer Societyなどの助成を受けた)。 子宮頸部の扁平上皮がん、腺がんまたは腺扁平上皮がんを有し、低リスク(病変の大きさ≦2cm、間質浸潤<10mmまたは<50%またはこれら両方、術前の画像所見でリンパ節転移がない)の患者700例を登録し、リンパ節の評価を含めた単純子宮全摘出術を受ける群に350例(年齢中央値42歳[範囲:26~77])、広汎子宮全摘出術を受ける群にも350例(45歳[24~80])を無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、3年の時点での骨盤領域のがんの再発(骨盤内再発)であった。事前に、3年骨盤内再発率の群間差の非劣性マージンを4ポイントと規定した。per-protocol解析でもほぼ同じ結果 全体の91.7%の腫瘍が2009年の国際産婦人科連合(FIGO)分類のIB1期であり、61.7%が扁平上皮細胞の組織学的特徴を持ち、59.3%がグレード1または2の腫瘍であった。追跡期間中央値は4.5年だった。 ITT解析では、骨盤内再発は単純子宮全摘出術群で11例(3.1%)、広汎子宮全摘出術群で10例(2.9%)に、骨盤外再発はそれぞれ7例(2.0%)および2例(0.6%)に認めた。 3年骨盤内再発率は、単純子宮全摘出術群2.52%、広汎子宮全摘出術群2.17%であり(絶対群間差:0.35ポイント、90%信頼区間[CI]:-1.62~2.32)、90%CIの上限値が非劣性マージンを満たしたことから、単純子宮全摘出術群は広汎子宮全摘出術群に対し非劣性と判定した。 また、per-protocol解析(単純子宮全摘出術群317例、広汎子宮全摘出術群312例)でも、結果はITT解析とほぼ同じだった。手術関連有害事象、QOL、性機能も良好 術中の外科的合併症は、単純子宮全摘出術群7.1%、広汎子宮全摘出術群6.4%で発生した。また、術後4週間以内の手術関連有害事象は、単純子宮全摘出術群のほうが少なかった(42.6% vs.50.6%、p=0.04)。 尿失禁の発生率は、術後4週間以内(単純子宮全摘出術群2.4% vs.広汎子宮全摘出術群5.5%、p=0.048)および4週間以降(4.7% vs.11.0%、p=0.003)のいずれも、広汎子宮全摘出術群に比べ単純子宮全摘出術群で低かった。 尿閉の発生率も、術後4週間以内(単純子宮全摘出術群0.6% vs.広汎子宮全摘出術群 11.0%、p<0.001)および4週間以降(0.6% vs.9.9%、p<0.001)の双方において、単純子宮全摘出術群で低率だった。 また、患者報告による生活の質(QOL)および性機能指標も、全体として単純子宮全摘出術群のほうが良好であった。 著者は、「本試験のデータは、100例を対象とした単純子宮全摘出術の第II相単群実行可能性試験(ConCerv試験)の結果(2年再発率3.5%)と一致する。最近、更新されたNCCNガイドラインでは、ConCerv試験の基準をすべて満たす患者のみが広汎子宮全摘出術の代替療法の対象となるとしているが、今回のSHAPE試験とは患者の適格基準や除外基準、背景因子に異なる点があるため、今後、より多くのデータの収集が求められる」と考察している。

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内臓脂肪減少薬オルリスタット、OTCで発売/大正

 大正製薬は日本初の内臓脂肪減少薬オルリスタット(商品名:アライ)を、ダイレクトOTC薬として2024年4月8日に発売する。発売に先立ち世界肥満デーである3月4日に新発売記者会見を開催した。世界的な肥満パンデミック、日本人は小太りでも要注意 米国の若年成人の肥満(BMI30以上)は、1970年代後半には5.5%だったが、2017年には33%と6倍に増加している1)。米国だけでなく1975年当時、成人の平均BMIが25前後だった欧州、中東、オーストラリアなども2014年には30前後になっている2)。いまや肥満は世界的パンデミックと言っても過言ではない。 BMI30の白人の2型糖尿病発症率は10%強だが、日本人を含む東アジア人はBMI24〜25で同じ発症率に達してしまう。つまり、「日本人は小太りでも病気になりやすい」と日本肥満学会理事長である千葉大学の横手 幸太郎氏は述べる。 「肥満」は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、「肥満症」は肥満に伴って健康を脅かす合併症があるまたは合併症になるリスクが高い場合と定義され、肥満症は医療行為の対象である3)。 肥満における内臓脂肪の蓄積は健康障害の原因となる。積極的保健指導対象者に対する試験では、3%以上の減量で血圧、脂質、血糖、肝機能、尿酸など、内臓脂肪蓄積者における多くのリスク因子に改善がみられた。日本肥満学会でも、肥満症や高度肥満症患者に対する減量を目指した食事、運動、行動療法を提唱している3)。しかし、それらの治療には限界があり、治療薬の登場が期待されていた。そのような中、2023年、30年ぶりの抗肥満薬としてセマグルチドとオルリスタットが登場した。セマグルチドは肥満症治療薬であり、オルリスタットは内臓脂肪減少薬として、未病である肥満から肥満症への進行を抑制する。横手氏は、肥満の予防から健康寿命の延伸に寄与する薬剤として、オルリスタットに期待感を示した。16年間の開発期間を要した日本初の内臓脂肪減少薬オルリスタット オルリスタットは肪分解酵素リパーゼに結合し不活性化することで、脂肪の分解を阻害して腸からの吸収を抑える。摂取した脂肪の約25%を便とともに排出するとされる。 同剤は、海外において、1997年に医療用医薬品として承認され、2007年にはOTC医薬品としても承認されている。大正製薬は2008年に日本への導入契約を締結し、2011年から臨床試験を実施、2019年にダイレクトOTC医薬品として厚労省に承認申請して2023年に承認された。日本での開発期間は16年間におよび、「市販薬では異例といえる長期間の開発」と大正製薬マーケティング本部の宍戸 正臣氏は述べる。52週時で内臓脂肪が2割強減少 オルリスタットは1,700万人以上の使用経験、100以上の臨床プログラムなど、海外では豊富なエビデンスがある。日本人に対しては、探索試験、用量設定試験、検証試験(二重盲検)、長期投与試験、一般臨床試験(薬剤師による有効性安全性の検討)、生活習慣病治療薬併用試験が行われ、安全性と有効性が検証されている。 日本人試験の結果、投与24週時点の内臓脂肪面積は、プラセボ群-5.78%に対しオルリスタット群では-14.1%(検証試験)、52週時点ではオルリスタット群で21.52%、実測値で28.05cm2減少した。内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲は、オルリスタット投与52週で4.89%、実測値で4.3cm減少した(長期試験)。 オルリスタットの長期投与試験における副作用発現は60.8%、主なものは油の漏れ34.2%、便を伴う放屁23.3%、脂肪便9.2%、便失禁6.7%などであった。消化管における脂肪吸収を抑えるという作用機序から起こる症状であるため、発現機序を十分に理解して、服用前は脂肪の多い食事を避けるなどの対策をとっておくべきである。症状発現時期は「臨床データ上では服薬開始14日以内が最も高く、その後は率が下がってくる傾向」と大正製薬セルフメディケーション臨床開発部の藤田 透氏は言う。研修を修了した薬剤師による対面販売 オルリスタットは要指導薬のため薬剤師の対面販売でしか購入できない。初回購入には、専用のチェックシートと生活習慣記録(購入1ヵ月前からの記録)を使用者が記入し、薬剤師が確認しなければならない。生活習慣記録については、入力の手間を省くために、LINEアプリ「STEP UP DIARY」を用意している。 一方、特別な販売方法のため薬剤師の継続的な教育は欠かせない。販売に従事する薬剤師は日本肥満学会監修の「アライ専用eラーニング研修」の修了が求められるが、すでに2万6,000人を超える薬剤師が研修を修了しているという。 また、オルリスタットは医薬品卸を介さず、大正製薬が要指導薬と第1類を取り扱う薬局・ドラックストアに直接販売する。販売店は全国で約1万店舗強あるとされるが、ほぼすべての店舗で取り扱いできる見込みだ。販売店は同剤のブランドサイトで検索できる。製品概要・製品名:アライ・効能・効果:腹部が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る)・用法・用量:年令 成人(18才以上) 1回量1カプセル 服用回数1日3回・成分:1 カプセル中 オルリスタット 60mg・価格:6日分2,530円、30日分8,800円(ともに税込み)使用条件・腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上・健康障害*を合併していない・初回購入前3ヵ月以上生活習慣改善の取り組みを行っていること・初回購入前1ヵ月および使用中に生活習慣改善の取り組み**、体重、腹囲を記録すること*:高度肥満または糖尿病、脂質異常症、高血圧などの「肥満診療ガイドライン2016」に記載された11疾患**:定期的に健康診断を受けていること

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市中誤嚥性肺炎、嫌気性菌カバーは必要?

 誤嚥性肺炎の治療において、本邦では嫌気性菌カバーのためスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、海外では誤嚥性肺炎の0.5%にしか嫌気性菌が認められなかったという報告もあり1)、米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、嫌気性菌カバーは必須ではないことが記載された2)。また、2023年に実施されたシステマティックレビューにおいて、嫌気性菌カバーの有無により、誤嚥性肺炎患者に転帰の差はみられなかったことも報告されている3)。しかし、本レビューに含まれた論文は3本のみであり、サンプルサイズも小さく、結論を導くためには大規模研究が必要である。そこで、カナダ・クイーンズ大学のAnthony D. Bai氏らは、約4千例の市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させた。本研究結果は、Chest誌オンライン版2月20日号で報告された。 研究グループは、カナダの18施設において市中誤嚥性肺炎で入院した患者のうち、入院から48時間以内に抗菌薬が投与された3,999例を対象とした後ろ向き研究を実施した。セフトリアキソン、セフォタキシム、レボフロキサシンが投与された患者を非カバー群(2,683例)とした。アモキシシリン・クラブラン酸※、モキシフロキサシンが投与された患者、非カバー群の薬剤とクリンダマイシンまたはメトロニダゾールが併用された患者を嫌気性菌カバー群(1,316例)とした。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目はC. difficile大腸炎の発現、治療開始後のICU入室であった。なお、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。※:本研究が実施されたカナダではSBT/ABPCが使用できないため、SBT/ABPCに相当するものとした。 主な結果は以下のとおり。・入院期間中央値は非カバー群6.7日、嫌気性菌カバー群7.6日であった。・院内死亡率は非カバー群30.3%(814例)、嫌気性菌カバー群32.1%(422例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後の院内死亡リスクの群間差は1.6%(95%信頼区間[CI]:-1.7~4.9)であり、両群間に有意差は認められなかった。・C. difficile大腸炎の発現率は非カバー群0.2%以下(5例以下)、嫌気性菌カバー群0.8~1.1%(11~15例)であった。・傾向スコアによる背景因子の調整後のC. difficile大腸炎の発現リスクの群間差は1.0%(95%CI:0.3~1.7)であり、嫌気性菌カバー群で有意にリスクが高かった。・治療開始後のICU入室率は非カバー群2.5%(66例)、嫌気性菌カバー群2.7%(35例)であった。 著者らは、本研究には抗菌薬を必要としない誤嚥性肺炎患者が含まれる可能性があること、院外死亡や再入院の評価ができなかったこと、多くの患者で肺炎の原因菌が特定できていなかったことなどの限界が存在することを指摘しつつ、「誤嚥性肺炎において、嫌気性菌カバーは院内死亡率を改善せず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させることから不要である可能性が高いと考えられる」とまとめた。

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