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フィネレノンは糸球体疾患由来のCKDに対しても腎保護的である可能性がある(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しい? フィネレノン(商品名:ケレンディア)は、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)であり、ミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性を抑制する。従来、本剤は糖尿病性慢性腎臓病(CKD)を適応とし、心・腎保護を目的に使用されてきた。 今回のFIND-CKD試験では、新たに非糖尿病性CKD患者を対象として、フィネレノンの腎保護効果が評価された。FIND-CKD試験の結果は、非糖尿病性CKD患者全体を対象とした主要解析を報告したNEJM論文(Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. 2026 Jun 4. [Epub ahead of print])と、糸球体疾患を有するCKD患者を対象に事前規定された探索的サブグループ解析を報告したJAMA論文(本論文)の2報として公表されている。 NEJM論文では、主要アウトカムとしてフィネレノンによるeGFRスロープの有意な改善が示された。一方、本JAMA論文では、糸球体疾患を有するCKD患者においても、先行するNEJM論文の結果を支持する腎保護効果が示された。MRAによる腎保護療法の流れ 現在、糖尿病性CKDに対する腎保護を目的とした薬物療法として推奨されているのは、RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nonsteroidal mineralocorticoid receptor antagonist:nsMRA)、およびGLP-1受容体作動薬である。このうち、RAS阻害薬とSGLT2阻害薬は第1選択薬として推奨されている一方、nsMRAはこれら2剤に追加して使用する薬剤として位置付けられており、推奨度はやや低い(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。 nsMRAであるフィネレノンは、糖尿病性CKD患者を対象としたFIGARO-DKD試験、FIDELIO-DKD試験、および両試験の統合解析であるFIDELITYにおいて、心血管アウトカムおよび腎複合アウトカムの改善効果が示されている。これらのエビデンスを踏まえ、2024年KDIGOガイドラインでは、RAS阻害薬およびSGLT2阻害薬に追加する治療薬として、糖尿病性CKDの早期から心・腎保護を目的に使用することが推奨されている。 今回報告されたFIND-CKD試験は2報から構成されており、NEJM論文では非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの腎保護効果が検証された。一方、JAMA論文(本論文)では、その対象集団のうち糸球体疾患を有するCKD患者に限定した事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。FIND-CKD試験(JAMA論文)の結果の概要 FIND-CKD試験は、24の国・地域で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験であり、非糖尿病性CKD患者を対象とした。本試験の結果は2報として報告されており、NEJM論文では登録された全1,584例を対象とした主要解析が、一方、本JAMA論文では、そのうち糸球体疾患由来のCKDと診断された903例を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析が報告された。 対象患者の平均年齢は51.1歳、女性は40.1%、アジア人は61.9%を占め、平均eGFRは48.8mL/min/1.73m2であった。また、尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)も評価された。約80%の患者では腎生検により組織学的診断が確定しており、その内訳はIgA腎症46.1%、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)23.8%、膜性腎症10.0%、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)1.8~3.9%で、一部は高血圧性腎硬化症であった。 全例で試験開始前に最大忍容量のRAS阻害薬が4週間以上投与されており、その上乗せ治療としてフィネレノンの有効性が検討された。その結果、ベースラインから32ヵ月までのeGFRスロープは、フィネレノン群で−3.50mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で−4.23mL/min/1.73m2/年となり、群間差は0.73mL/min/1.73m2/年(95%信頼区間[CI]:0.22~1.24)であった。また、フィネレノン群ではベースラインから12ヵ月までのUPCRが42%(95%CI:35~48)低下した。さらに、腎不全への進行またはeGFRが40%以上低下する複合腎アウトカムの発生リスクは、プラセボ群と比較して26%低下した(100患者年当たり7.42件vs.9.60件、ハザード比:0.74、95%CI:0.57~0.97)。 以上より、フィネレノンは糸球体疾患を有する非糖尿病性CKD患者において、腎機能低下の抑制、蛋白尿の減少、および腎アウトカムの改善を示し、腎保護作用を有する可能性が示唆された。FIND-CKDから学ぶこと 本研究の最大のポイントは、非糖尿病性CKD患者を対象としたFIND-CKD試験において、糸球体疾患サブグループでもフィネレノンの腎保護効果を支持する結果が得られた点である。 まず留意すべき点は、既報のFIGARO-DKD試験およびFIDELIO-DKD試験と同様に、FIND-CKD試験もRAS阻害薬による標準治療にフィネレノンを上乗せした治療の有効性を検証した試験であり、フィネレノン単独の効果を評価したものではないことである。また、NEJM論文は、非糖尿病性CKD患者全体を対象としてフィネレノンの有効性を検証するために計画された確証的試験である。一方、本JAMA論文は、試験計画時から糸球体疾患患者を対象とした事前規定の探索的サブグループ解析として実施されたものである。したがって、その結果は仮説的・補足的な位置付けであり、統計学的な確証的結論を導くものではないことを明記しておく必要がある。 そのような制約があるにもかかわらず、本JAMA論文では、主要評価項目であるeGFRスロープの改善に加え、事前に設定された腎複合エンドポイントおよび心血管エンドポイントについても、一貫してフィネレノンに有利な傾向が認められた。したがって、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者においても、フィネレノンの腎保護作用を支持する結果が得られたと解釈することは妥当と思われる。ただし、その有効性が確立されたと結論付けるには、今後の独立した確証試験による検証が必要である。 MRA投与時の高カリウム血症について、糖尿病性CKDと非糖尿病性CKDで差異があるかどうかも興味深い点である。高カリウム血症の発現率は、糖尿病性CKDを対象としたFIGARO-DKD試験では10.8%(プラセボ群5.3%、群間差5.5%)、FIDELIO-DKD試験では18.3%(同9.0%、群間差9.3%)であった。一方、非糖尿病性CKDを対象としたFIND-CKD試験では17.0%(同13.3%、群間差3.7%)であり、プラセボ群との差は3試験中で最も小さかった。各試験の平均eGFRは、FIGARO-DKD試験で約68、FIDELIO-DKD試験で約44、FIND-CKD試験で約49mL/min/1.73m2であった。これらの試験間比較からは、(1)高カリウム血症の発現頻度は腎機能低下の程度と関連する可能性、(2)非糖尿病性CKDでは糖尿病性CKDと比べてフィネレノン投与に伴う高カリウム血症の増加幅が小さい可能性、の2点が示唆される。ただし、これらは異なる試験間の比較から得られた知見であり、患者背景や試験デザインの違いによる影響を受ける可能性があるため、これには慎重な解釈が必要である。一般に、糖尿病性CKDでは低レニン性低アルドステロン症(hyporeninemic hypoaldosteronism:HRHA)、インスリン作用不足、代謝性アシドーシスなどが高カリウム血症の誘因となりやすいことが知られている。今回のFIND-CKD試験の結果は、糸球体疾患を主体とする非糖尿病性CKDでは、nsMRA投与に伴う高カリウム血症の頻度が少ない可能性を示唆しており、副作用の観点からも注目される。 今後は、IgA腎症をはじめとする糸球体疾患由来の非糖尿病性CKD患者に対し、フィネレノンが真に腎保護作用を有するかどうかを検証する独立した確証試験の実施が期待される。

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高血圧管理・治療ガイドライン2025(11):薬物療法(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q172

高血圧管理・治療ガイドライン2025(11):薬物療法(1)Q172高血圧症に適応のある内服薬として、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)が2021年に承認された。現在、高血圧症の適応が承認された国は日本だけである。○か×か。

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AHA/ACC脂質異常症GL改訂、スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大/JAMA

 米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)による2026年版の脂質異常症ガイドラインでは、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の推定リスクおよび1次予防においてスタチンが適応となる集団について新たな推奨事項が提示された。米国・ピッツバーグ大学のTimothy S. Anderson氏らは、2018年版から2026年版への変更により、ASCVDの1次予防を目的とするスタチン療法の対象となる米国の人口が推定2,150万人拡大し、結果として30~79歳の非妊娠成人の半数以上が現在、1次予防におけるスタチンの適応となっており、新たな適応集団の多くは、ASCVDの推定10年リスクが3%未満(平均値3.1%)であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年7月20日号に掲載された。2026年版の変更が公衆衛生に及ぼす影響を検討 研究グループは、2026年版AHA/ACC脂質異常症ガイドラインに基づくスタチン療法による1次予防が、公衆衛生に及ぼす影響の評価を目的に、米国の国民健康栄養調査(NHANES)の全国的な代表的データを用いて検討を行った(米国国立老化研究所[NIA]の助成を受けた)。 対象は、2017~23年にNHANESに参加し、ASCVDを有さず、年齢30~79歳の非妊娠成人の横断的サンプルとした。データの解析は、2026年3~5月に行った。 主要評価項目として、1次予防におけるスタチン療法の適応基準の変更の影響を、2026年版と2018年版のガイドラインを比較することで評価した。8.6%がASCVDリスクとは独立にスタチンの適応、適応外は37.9% 加重サンプルには、米国の成人1億5,450万人(加重平均年齢51歳、女性52.0%、白人62.2%、ヒスパニック系16.4%、黒人10.5%、アジア系6.3%)を代表する4,366人のNHANES参加者が含まれた。 2026年版ガイドラインに基づくと、このうち860万人(5.5%、95%信頼区間[CI]:4.7~6.6)が、未治療でLDLコレステロール(LDL-C)値<70mg/dLであり、スタチンは推奨されない集団であった。2,760万人(17.8%、95%CI:16.3~19.5)は、すでにスタチンの投与を受けていた。 また、1,330万人(8.6%、95%CI:7.6~9.8)は、それぞれLDL-C値≧190mg/dL(360万人[2.3%、95%CI:1.6~3.3])、40~75歳で糖尿病(780万人[5.0%、95%CI:4.3~5.8])、40~75歳でステージ3以上の慢性腎臓病(200万人[1.3%、95%CI:0.9~1.8])であり、ASCVDリスクとは独立にスタチン投与の適格基準を満たし、いずれもストロングスタチンが推奨された。 残りの1億510万人(68.0%、95%CI:65.9~70.0)が、ガイドラインの推定ASCVDリスクに基づく判定基準によりスタチン適応の可否が決まる集団であった。 10年ASCVDリスクが高(≧10%)の集団は320万人(2.0%、95%CI:1.5~2.7)であり、中(5~<10%)が1,140万人(7.4%、95%CI:6.5~8.4)、境界型(3~<5%)が1,290万人(8.4%、95%CI:7.2~9.7)、低(<3%)は7,760万人(50.2%、95%CI:47.7~52.7)であった。 10年ASCVD低リスク集団のうち、LDL-C値<160mg/dLで、30年リスク<10%の集団(5,850万人、37.9%、95%CI:35.8~40.0)はスタチン適応外であるが、これ以外の参加者はストロングまたは中強度スタチンが推奨された。スタチンによる1次予防の対象が大幅に拡大 8,750万人(56.6%、95%CI:54.2~58.9)が2026年版ガイドラインに基づきスタチンの適応となり、このうち新たに適応となったのは2,150万人(13.9%、95%CI:12.5~15.5)であった。 また、70~79歳の93.5%および60~69歳の85.0%が、スタチンによる1次予防の対象となるのに対し、30~39歳では11.1%と少なかった。 従来からスタチン療法が推奨されていた集団に比べ、新たにスタチンの適応となった集団は、全般に若年層であり、リスクも低かった(推定10年ASCVDリスクの平均値:新規スタチン適応集団3.1%[95%CI:2.7~3.5]、従来スタチン適応集団6.1%[95%CI:5.8~6.4])。 著者は、「2026年版の脂質異常症ガイドラインは、主に低リスクの集団を対象に、スタチンによる1次予防が推奨される米国の成人集団を大幅に拡大している」とまとめている。また、「今回の解析では、現在、薬物療法を受けている患者の大多数が、2026年版ガイドラインでもスタチンの『強い』または『中等度』の適応を保持していることを確認した」としている。

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学会抄録のかたちにまとめる その3【「実践的」臨床研究入門】第65回

前回は、臨床研究における誤差を偶然誤差と系統誤差に分類し、前者は精度(信頼性)、後者は正確度(妥当性)に関わることを説明しました。さらに、系統誤差には狭義のバイアス(選択バイアス、情報バイアス)と交絡が含まれること、狭義のバイアスは交絡とは異なり、解析段階では制御が困難であることを解説しました。そこで今回は、狭義のバイアスである選択バイアスと情報バイアスについて説明するとともに、以前作成した構造化抄録(連載第63回参照)にLimitation(研究の限界)を加える実例を示します。選択バイアス選択バイアスとは、「研究対象集団」が「標的母集団」から偏って抽出された場合に生じるバイアスを指します。さらに、「解析対象集団」と「研究対象集団」が同意拒否やデータ欠損によって乖離した場合にも、追加の選択バイアスが生じ得ます。図に、母集団から解析対象集団に至るまでに選択バイアスが入りこむ3つの段階を示しました。観察研究の報告ガイドラインであるSTROBE声明1)でも、参加者がどのように特定・選択されたかを明確に示し、研究対象集団と最終的な解析対象集団を区別して記載することが推奨されています(連載第34回参照)。画像を拡大する理想を言えば、標的母集団のすべてを対象とする悉皆調査(全数調査)か、無作為抽出サンプリングを採用したいところです。悉皆調査の代表例は国勢調査です。これは日本国内に住むすべての人と世帯を対象として5年ごとに実施される調査で、悉皆調査の最も典型的な例とされています。無作為抽出サンプリングの好例は、以前も紹介した筆者が長年関わってきたDialysis Outcomes and Practice Patterns Study(DOPPS)です。DOPPSでは調査対象施設を無作為抽出したうえで施設からさらに研究対象患者を無作為抽出する二段階無作為抽出を行うことにより、研究対象集団の外的妥当性を担保しています(連載第35回参照)。しかし、悉皆調査や無作為抽出を、実際の単施設研究や多施設共同研究で実施することは容易ではありません。そこで現実的な方法として、選択基準を満たす対象者を研究者の判断で選別せず、一定期間に来院・登録した対象者を連続して組み入れる「連続サンプリング」が推奨されます。たとえば、「自分が担当する外来患者のみ」や「アドヒアランスが良好と考えられる患者のみ」を対象とするような抽出は避けるべきです。また、除外基準は研究目的に照らして必要最小限にとどめます。さらに、参加者の負担を軽減し、適切なインセンティブを設計するなどして、同意拒否やデータ欠損を減らす工夫を重ねることが、選択バイアスの抑制につながります。情報バイアス情報バイアスとは、研究で得られた情報が真の値から系統的にずれることで生じるバイアスであり、発生段階に応じて「測定段階」と「追跡段階」に大別されます。測定段階の情報バイアスはデータ取得方法に起因します。一方、追跡段階の情報バイアスはランダムに発生しない「打ち切り」によって生じます(連載第37回参照)。転院や追跡不能などにより「打ち切り」が群間で偏って発生すると、とくに重症例が観察から脱落する場合にイベント発生率が過小評価されるおそれがあります。生存時間解析では打ち切りがランダムであることが前提であり、この仮定が崩れると結果の妥当性が損なわれます。対策として、測定段階では曝露やアウトカムの厳密な定義(操作化)、測定手法の標準化などが重要です。追跡段階では「可能な限り追跡率を高める」ことが最も本質的な対策です。先述のDOPPSでは、調査施設を転院した患者についても90日後まで転帰を追跡する周到な仕組みを採用しています。それでも「打ち切り」が避けられない場合には、結果の解釈にいっそうの慎重さが求められます。構造化抄録にLimitation(研究の限界)を加えてみるそれでは、以前作成した構造化抄録(連載第63回参照)に独立した見出しとして「Limitation(研究の限界)」を加えてみたいと思います。対象は保存期CKD患者638例の単施設後ろ向きコホート研究で、24時間蓄尿検体から推定した1日たんぱく質摂取量(estimated daily protein intake:eDPI)と末期腎不全発症およびeGFR低下速度との関連を検討したものでした。Limitationは、本研究のデザインから想定される、(1)選択バイアス、(2)情報バイアス(測定段階/追跡段階)、(3)残余交絡の3つの観点から具体的に記述してみました。【研究の限界】本研究は単施設の腎臓専門外来患者を対象としたため、選択バイアスが存在し、一般化可能性に限界がある。eDPIは24時間蓄尿に基づく推定値であり、蓄尿不完全例では摂取量を過小評価する可能性がある。また、非ランダムな打ち切りによる情報バイアスや、生活習慣・社会経済因子など未測定因子による残余交絡を否定できない。1)von Elm E, et al. J Clin Epidemiol. 2008;61:344-349.

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第324回 発生確率0~6%だった、令和8年熊本地震

INDEX地震発生の確率は高かった?現在の被災状況災害は発生時期で優先対策も変わる地震発生の確率は高かった?2026年7月28日、熊本県内陸を震源とする推定マグニチュード7.1、最大震度7の「令和8年熊本地震」が発生した1)。今回の地震に関して、文部科学省の特別機関・地震調査研究推進本部の下部組織である地震調査委員会の委員長を務める小原 一成氏(東京大学地震研究所 所長)は、「熊本県内に位置する日奈久(ひなぐ)断層帯の一部が活動したことによって起きた」との見解を示している。日奈久断層帯とは熊本県上益城郡益城町(かみましきぐんましきまち)から八代海南部に向けて北東−南西方向に延びる全長約81kmの内陸活断層。この断層は北から「高野−白旗区間」「日奈久区間」「八代海区間」の3つに分かれ、10年前の平成28年熊本地震(2016年)の際は、このうちの「高野−白旗区間」の活動により発生したと考えられている。そして今回は震源の位置を見る限り、「日奈久区間」が活動したとみられる。ちなみに地震調査研究推進本部は日本国内各地の内陸活断層の地震発生確率を算出しており、それによると最新の日奈久断層・日奈久区間の30年以内の地震発生確率は0~6%だった。 この数字の読み解き方は、多くの人が「?」と思うだろうし、中には「そんな低い確率で予想されていたものが起きるのだから、地震発生の将来予測研究など当てにならない」と思う人もいるだろう。一応、理工学部土木工学科卒で地震工学を学んだ経験があり、災害・防災も取材領域としている私が解説すると、この数字はかなり発生確率が高い部類に入る。まず、なぜ「0~6%と幅があるの?」という指摘もあるだろう。これについては、内陸活断層の調査では、その断面を大きく掘削して断層の歴史を読み解くトレンチ調査というものが行われるのだが、そもそも内陸活断層による地震発生は数千年間隔がごく普通で、なおかつトレンチ調査の限界として活断層の履歴の解釈では、おのずと数百年の誤差が生じるからである。そしてこの発生確率がどの程度のモノかというと、最大確率の6%とは既に地震調査研究推進本部が評価を終えた主要な活断層110件超の中で、トップ10に入る確率の高さである。それでも「向こう30年で6%の発生確率」の意味がわからないかもしれないので、ここで一例を挙げてみよう。今この記事を読んでいる方自身が交通事故で命を落とす生涯確率は、諸データから計算すると約0.2%である。つまりこの日奈久断層日奈久区間での地震発生確率は、あなたが交通事故で命を落とす確率の最大30倍なのである。つまり相当高い確率なのだ。その意味では地震調査研究推進本部の評価はかなり的を射ていたと言える。現在の被災状況前置きが長くなってしまったが、今回の地震では29日8時30分時点の政府発表で、死者13人、重傷者7人、軽傷者29人となっている。ご存じのようにイオンモール熊本で発生した爆発事故や日本製紙八代工場での煙突倒壊による安否不明者を含めたとしても、2016年熊本地震の直接死50人から見れば、まだ被害規模は少ない。もっとも平成28年熊本地震では地震後の災害関連死が222人と直接死の4倍も発生していることを考えれば、今後も油断はできない展開が続くだろう。私自身は発災直後から現地熊本の医療関係者と連絡を取り、情報を収集しているが、その中で聞こえてくるのが、今回の“特異性”である。まず、現地で被害が大きいのは、県南部の宇城市、八代市、氷川町周辺。関係者は、宇城市と八代市の両市に挟まれた氷川町は、宇城市や八代市に比べ「倒壊家屋が目立つ」と語る。また、この地域では停電と断水の二重被災に見舞われているケースが少なくない。九州電力によると、31日午前9時現在も県内4,350戸で停電中である。すごく多いと思われるかもしれないが、発災直後はこの倍の戸数で停電が発生していた。断水も八代市の全域、平成の大合併で5町が合併してできた宇城市では旧5町のうち3町の全域と1町の一部で継続中だ。熊本県災害対策本部ではより具体的な数値を発表しており、30日午前7時半現在、宇城市では約1万7,800戸、八代市・氷川町では約2万8,500戸で断水中である。これらについては大地震による広域災害のため、「停電・断水のダブルパンチは不思議ではないだろう」との受け止めが多いと思う。これ自体はその通りなのだが、今は真夏である。しかも、温暖化の影響で10年前よりも過酷な暑さになっている。実際、被害の大きい宇城市、八代市、氷川町周辺の気温は連日35℃前後である。つまり自宅が損壊を免れても停電でエアコンは使えない、断水で飲用水ですら手に入らないという状況なのである。そもそも自宅が無事でも、地震動により家具などが倒れ、家の中がしっちゃかめっちゃかで庭先などで過ごしている被災者の様子をニュースなどで見ている人は多いはずだ。「ならば避難所に行けば」という声もありそうだが、たとえば氷川町では、避難所運営のための電源車確保に難渋し、町が避難所を開設できたのは発災から丸1日経ってからとも報じられている。高齢者ですでに車の運転はしない人はもちろん、車を持つ人でもあちこちで道路が陥没・隆起し、避難所へのアクセスも阻まれているケースもある。そして現地では、営業時間が長いガソリンスタンドほど給油を希望する車列で大混雑状態でもある。平成28年熊本地震の際に被災者支援活動に従事し、今回も発災翌日から被災地域を回っている熊本県在住の旧知の医療者は、「通常の自然災害時の感染対策やエコノミークラス症候群対策以外にも熱中症対策が急務だ」と私に語ってくれた。ちなみにエコノミークラス症候群に対する注意とは、車中泊の被災者が少なくないからである。これは避難所では落ち着いて寝られない、あるいは前述のように家屋内に物が散乱して寝場所がない被災者がとる手段だ。ただ、現在の熊本ではこれとは別の事情も絡んでいると現地の関係者は語る。「平成28年熊本地震では、最初に起きた震度7の2日後に起きた震度7の地震が後に本震と分かった。その影響があり、今でもこの後により大きな地震が来るという恐怖で、家の中で過ごすことを怖がる被災者が多い」災害は発生時期で優先対策も変わるさて話を熱中症対策に戻そう。すでに過去10年ほどは官公庁や報道が繰り返し熱中症対策を呼び掛けていることもあり、厳格に実行しているかどうかは別にして、多くの人がその基本中の基本は心得ているはずだ。まず、熱中症の予防に関しては、▽喉の渇きの有無にかかわらずこまめに水分を補給する▽外出は控えてエアコンなどを使って適切に室温を管理する、の主に2つだ。そして熱中症が疑われる人の応急対処法は、▽エアコンが効いている室内や風通しのよい日陰など涼しい場所への避難▽衣服をゆるめて体を冷やす▽経口補水液を補給、の主に3つで、自力で飲水できない、応答がおかしいなどの場合はすぐ救急車を呼ぶ。これは厚生労働省の熱中症対策のホームページ2)にも記載されている。だが、断水ならば、こまめに水を飲むのはかなり難しい。農林水産省のホームページ3)には、一般論として、成人に必要な水分量は1日2.5L、うち0.9Lを食品自体の水分と調理水、0.3Lは体内の酸化燃焼から得ており、残り1.3Lをあらゆる飲み物から摂取すると記載されている。もっともこれは一般的に必要な水分量で、熱中症対策としてはさらに発汗量に応じた水分を追加摂取する必要がある。もちろん被災自治体も手をこまねいているわけではなく、地域内で1人当たりの1日上限量を設けて給水活動を行っている。具体的には宇城市が1回4L、八代市、氷川町は1回5Lである。氷川町の場合、発災当初はこれが2Lだった。もっとも被災地支援などに従事した人ならばすぐわかるだろうが、車がない限り、4~5Lの水を運ぶのは容易ではない。車を持たない単身者や高齢世帯ならば運べてこの半分だろう。となると、酷暑の中で摂取できる水分は、現在の気候かつエアコンも使えない状態での発汗量も考慮すると、前述の必要量に達するかはかなり微妙だ。しかも多くの人は想像がつくと思うが、被災地で停電、断水が発生した際は多くの被災者が自炊はできず、食料は自治体からなどの保存性を考慮した水分量が少ない支援物資に頼ることになる。つまり食事からの水分摂取量は必然的に低下する。そこでPubMedで断水・停電の両方が発生した環境下での真夏の熱中症リスクについて論文検索したが、該当するものはなく、断水下での研究も少なくとも私の力では見つけられなかった。一方、停電下の真夏の熱中症リスクに関する論文は見つけることができた。これはまさに日本の事例で2019年9月9日に関東を襲った台風15号による大規模停電の影響をレトロスペクティブに解析した結果4)である。それによると非停電地域と比較した停電地域での熱中症による救急搬送の発生率比(IRR)は、停電後0~2日が2.01(95%信頼区間[CI]:1.42~2.84、p<0.01)、停電後3~5日が2.12(95%CI:1.15~3.92、p<0.05)で、いずれも停電地域では熱中症による救急搬送が2倍強となった。まさに今の熊本県南部の被災地域はこの状況に似ている。しかも、今の熊本県の場合は前出の関東での台風15号の時よりも状況は悪い。というのも、この台風15号発生時の関東周辺の気温は、発災から3日間は最高気温が30℃超えだったものの、猛暑日には達せず、その後は発災から1週間目までが30℃未満、湿度はおおむね70%台後半、ときには60%台の日もあった。しかし、宇城市、八代市、氷川町周辺の今後1週間先までの予想最高気温は35℃前後の真夏日で、湿度は一貫して70%台後半である。もちろん、停電・断水の状況は今後改善に向かうとは思うが、当面はかなり危険な状態が続くとみられる。ここで水か電気かの優先順位を安易にはつけにくいが、そもそも身体維持のためには常に水が不可欠なことを考えれば、優先順位としては水だろう。中には電気が回復すれば浄水場は動くという意見もあるだろうが、激しい地震動で浄水場の設備が物理的に破壊されていれば、通電したところで意味をなさない。ちなみに米国心臓協会(AHA)と米国赤十字社による『応急処置ガイドライン2024年版』5)では、従来のActive Cooling(積極的冷却法)として、水を皮膚にかけて扇ぐという蒸散冷却法を記述している。となるとやはり電気よりも水が優先されるということになる。いずれにせよ現地で活動する、あるいは駆けつける医療者の皆さんは、自身の管理、被災者のケアともに「まずは水の確保」が重要ということではないか。参考1)気象庁:令和8年熊本地震の地震活動の関連情報. 地震の概要2)厚生労働省:熱中症予防のための情報・資料サイト3)農林水産省:熱中症対策には、どのような飲料が適していますか。4)Yamasaki L, et al. Environ Epidemiol. 2024;8:e292.5)Hewett Brumberg EK, et al. 2024;150:e519-e579.

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がん患者の肺塞栓症診断、YEARSアルゴリズムは有効か?/JAMA

 がん患者における肺塞栓症(PE)の診断戦略について、YEARSアルゴリズムの使用はCT肺動脈造影(CTPA)のみ使用の場合と安全性は同等であることが、オランダ・ライデン大学医療センターのBram Akerboom氏らHydra Study Investigatorsが実施した研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Hydra試験」の結果で示された。同試験において22%の患者がYEARSアルゴリズムの使用でCTPAの実施を回避できたことも示された。YEARSアルゴリズムは、急性PEを除外する安全かつ効率的な方法とされているが、がん患者における精度に関する確固たるエビデンスは不足しており、現行のガイドラインでは直接CTPAを行うことが推奨されている。JAMA誌オンライン版2026年7月12日号掲載の報告。活動性がんを有する急性PEが疑われる患者を無作為化 Hydra試験はオランダ、イタリア、スイス、ベルギー、フランス、スペインの21施設で実施され、対象は、活動性がん(皮膚の基底細胞がんまたは扁平上皮がんを除く)を有し、臨床的に急性PEが疑われる18歳以上の患者であった。 活動性がんの定義は、研究登録6ヵ月以内の組織学的な確定診断、または臨床医により強く疑われたがんの診断、登録時点でがんの治療中、無作為化前6ヵ月以内にがん治療が行われた、または転移病変の存在とされた。 研究グループは、適格患者を、YEARSアルゴリズム(YEARS項目の評価、D-ダイマーの測定、およびリスクに応じたCTPAの実施で構成される)に基づく診断群(352例)と、CTPAのみによる診断群(346例)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、ベースラインでPEが除外された患者における無作為化後90日以内に発生した、症候性PE、症候性の上肢または下肢の深部静脈血栓症(DVT)(これらは確定されたもののみ)、あるいはPE関連死(関連が疑われたものを含む)で、非劣性マージンはper-protocol解析による絶対リスク群間差の片側99.9%信頼区間(CI)の上限2.6%とした。 主要な副次評価項目は、CTPA陰性割合(実施されたCTPA件数のうちCTPAの結果が陰性であった割合)であった。YEARSアルゴリズムはCTPA単独に非劣性 2019年8月22日~2025年5月23日に、計698例が無作為化され(YEARS群352例、CTPA群346例)、最終追跡調査日は2025年8月21日であった。患者背景は、年齢中央値65歳(四分位範囲:56~72)、女性が422例(60%)で、104例(15%)がベースラインでPEと診断され、1例が追跡不能となった。 per-protocol解析対象集団は555例であった。主要評価項目のイベントは、YEARS群で282例中5例(1.8%)、CTPA群で273例中15例(5.5%)に認められた。絶対リスク群間差は-3.7%(99.9%CI:-8.8~1.4)であり、YEARS群のCTPA群に対する非劣性が示された(非劣性のp=3.4×10-5)。 intention-to-diagnosis解析では、YEARS群とCTPA単独群の絶対リスク群間差は-2.6%であった(99.9%CI:-7.5~2.4、非劣性のp=5.9×10-4)。 YEARS群において352例中77例(22%)は、CTPAを実施せずにPEの診断が行われた。CTPA陰性割合は、両群とも83%であり差はなかった(p=0.93)。

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敗血症性ショック早期蘇生における輸液量と昇圧薬のタイミング(解説:寺田教彦氏)

 2001年にRiversらがearly goal-directed therapy(EGDT)による死亡率低下を報告して以降1)、早期輸液を含むプロトコール化された蘇生が広く普及した。一方、その後の観察研究では、正の水分出納と死亡との関連が指摘され2)、輸液過剰への懸念が高まった。2023年のCLOVERS試験では、1~3Lの輸液を受けた敗血症性低血圧患者において、輸液を制限して昇圧薬を優先する方針と、輸液を優先する方針との間で主要転帰に有意差を認めなかった3)。また、本研究が公表される前の2026年3月に発表されたSurviving Sepsis Campaign(SSC)2026は、敗血症による低灌流または敗血症性ショックに対して、最初の3時間に少なくとも30mL/kgの晶質液を投与することを条件付きで推奨しているが、エビデンスの確実性は低いとしている4)。SSC 2026自身も、初期輸液量は患者背景に応じて調整し、過少蘇生と過剰蘇生の双方を避けるために頻回に再評価するよう求めている。その中で、本試験は、追加輸液を優先して昇圧薬を比較的遅く開始する方針(輸液群)と、輸液量を抑えて昇圧薬を早期に開始する方針(昇圧薬群)を直接比較した。 本試験では、無作為化前に少なくとも1,000mL(中央値1,500mL)の輸液を受けた患者において、昇圧薬群は輸液群と比較して90日までの生存かつ院外日数を改善せず、その優越性は示されなかった。安全性転帰において、肺水腫の発生率は昇圧薬群で0.6%、輸液群で5.0%であった。非盲検下で評価され、報告バイアスの可能性があるため慎重な解釈を要するが、追加輸液を優先する方針が一部の患者で肺水腫を増やす可能性は示唆された。 以上を踏まえると、感染に伴う低血圧が救急外来で早期に認識され、1~2L程度の初期輸液後も低血圧が持続する患者では、固定量の輸液を完遂することよりも、治療反応を再評価して追加輸液と昇圧薬を選択することが妥当と考えられる。ただし、本試験を「敗血症性ショックでは輸液が不要」と解釈することはできない。昇圧薬群でも無作為化後に追加輸液を受けており、本試験が比較したのは輸液の有無ではなく、一定量の初期輸液後に追加輸液を優先するか、昇圧薬を早期に開始するかという方針の違いである。また、早期昇圧薬の非劣性や両方針の同等性を証明した試験でもない。 日本では、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」が、循環血液量低下を伴う患者への初期輸液と、低血圧を伴う患者における輸液蘇生と並行した早期昇圧薬投与を提示しており5)、本試験結果はこの個別化の方向性と整合する。国内診療を大きく転換させるというより、30mL/kgを全患者が達成すべき一律の最低量として運用する根拠をさらに弱めたと位置付けることができるだろう。 今後の敗血症診療では、血管拡張が主体で低血圧が持続する場合には昇圧薬を使用し、低灌流が持続し動的指標から輸液反応性が認められる場合は、心不全などの患者背景や現在の臨床状態を踏まえて追加輸液を検討する。十分な体液量と動脈圧を確保しても、心機能障害に伴う低灌流が持続する場合にはドブタミンの追加やエピネフリンを検討する。など、循環表現型と治療反応に応じた個別化が、これまで以上に重視されるだろう。この方向性は、毛細血管再充満時間、輸液反応性、ベッドサイド心エコーなどに基づく個別化蘇生が階層的複合転帰を改善したANDROMEDA-SHOCK-2試験とも整合する6)。本試験は個別化蘇生そのものを検証した試験ではないが、固定された輸液量や治療順序の一方が優れていることを示さなかった点で、生理学的所見と治療反応に基づく意思決定の重要性を浮き彫りにした。■参考文献・参考サイトはこちら1)Rivers E, et al. N Engl J Med. 2001;345:1368-1377.2)Boyd JH, et al. Crit Care Med. 2011;39:259-265.3)National Heart, Lung, and Blood Institute Prevention and Early Treatment of Acute Lung Injury Clinical Trials Network. N Engl J Med. 2023;388:499-510.4)Prescott HC, et al. Crit Care Med. 2026;54:725-812.5)Shime N, et al. Acute Med Surg. 2025;12:e70037.6)ANDROMEDA-SHOCK-2 Investigators for the ANDROMEDA Research Network, Spanish Society of Anesthesiology, Reanimation and Pain Therapy (SEDAR), and Latin American Intensive Care Network (LIVEN). JAMA. 2025;334:1988-1999.

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CKDの生命予後・腎予後に対するmGFR評価の意義とeGFRの有用性(解説:浦信行氏)

 腎機能評価にはmGFRが最も有用であるが、その煩雑性から生命予後・腎予後との関連を示した成績は少ない。スウェーデンの成人のイオヘキソールを用いたmGFR値とこれらの関連を後ろ向きに評価し、併せてeGFRの有用性を後ろ向きに評価した成績がJAMA誌オンライン版で発表され、追跡期間中央値5.9年の概要がジャーナル四天王(2026年7月3日配信)に掲載された。その結果、mGFR90の群に対してmGFR60ですでに死亡率は1.21倍、腎代替療法導入では実に2.85倍の高頻度であった。この成績はmGFRで60がCKDの閾値であることを明らかにした意義のある研究である。 評価の簡便性により実臨床で頻用されるeGFRでの評価も同時に行っており、mGFRを基準として予後評価を行っている。最も頻用されている血漿クレアチニン値で算出したeGFRcrとシスタチンCで評価したeGFRcysの両者を検討したが、クレアチニンは筋肉量の影響を受け、シスタチンCは炎症、喫煙、肥満、ステロイド治療などの影響を受ける。その結果算出されたeGFRcrは筋肉量減少で実際より高値になり、eGFRcysは肥満などで高値を示す。結果的に両eGFRの平均値がmGFRでの成績に一致した。したがって、サルコペニアや肥満などの背景を有する例に対しては、両者を測定することが重要との成績である。 この報告はmGFRの予後評価における有用性を示した優れた論文であるが、eGFRについてはすでに英国のバーミンガム大学を中心とした多施設共同研究で正確な腎機能変化の評価にはクレアチニンとシスタチンCの両者を用いた方法が優れることを3年間の前向き研究で明らかにし、ジャーナル四天王(2026年4月2日配信)にその概要が掲載されている。中等度CKDのクレアチニンとシスタチンCを半年ごとに測定し、Log変換した値を用いてeGFRの3年間のスロープを評価した結果、eGFRcrとeGFRcys各々で評価した値よりは両者を併用した値が基準値であるmGFRにより近似していたと報告されており、両者を同時評価することの重要性を示唆している。日本腎臓学会でも評価方法は異なるが両者を用いたeGFRの同時評価を先行して行ってイヌリンクリアランスと対比し、2012年のCKD診療ガイドラインに両者の平均eGFRの正確度が高いと報告している。しかし、両者の平均値で評価するのも症例によっては限界がある。 超高齢化社会を迎えたわが国ではサルコペニアなどによりeGFRcrが極端に高値の場合も珍しくない。両者の併用の意義は理解できるが、症例の病態やADLを考慮した評価も念頭に置く必要があると考える。

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第326回 地域医療構想策定ガイドラインやっと公表(後編) 地域で急性期拠点機能の病院選定が難航した場合、都道府県が主導して決定、大学病院本院等の意見も参考に

高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については併存できずこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。花巻東高校出身でスタンフォード大学の佐々木 麟太郎選手(21)のマイアミ・マーリンズとの契約が正式に決まり、7月23日(現地時間)、入団会見が行われました。流暢な英語で「My goal, my dream, is always to make it to the Big Leagues as soon as possible」と抱負を語るとともに、スペイン語も話せるように勉強するとも話していました。佐々木選手は昨秋のNPBドラフト会議でソフトバンクから1位指名を受け、進路が注目されていましたが、7月12日、マーリンズがドラフト8巡目(全体235位)で指名していました。各紙報道によれば契約金は21万200ドル(約3,400万円)と、ソフトバンクの提示よりはるかに低額でしたが、自身の長年の夢であったMLBを目指すことにしたわけです。こうした日本の有望選手の米国大学を経てのMLB流出は今後も続きそうです。それにしても、大谷 翔平選手、菊池 雄星投手に続いて3人目のMLB選手を輩出する可能性のある花巻東高校はすごいですね(今年の夏の全国高等学校野球選手権大会にも岩手県代表で出場します)。ところで、佐々木選手はスタンフォード大学の2年目を終わったばかりのはずですが、名門大学は中退するのでしょうか?調べてみると、現時点では中退ではなく休学と報じられています。スタンフォード大学の学籍を維持したまま、マーリンズ傘下でプレーしながら将来復学する余地を残した形です。米国の大学には長期の休学制度があり、報道等によればスタンフォード大学の休学は無期限に近い形で認められるそうです。現役引退後(あるいはMLBで通用しなかった場合)に再び通い、学位を取ってビジネスマンを目指す可能性もあるわけです。なかなか賢い選択です。早くメジャーに上がって活躍して欲しいですが、重めの体重(120kg前後と報じられています)ゆえ、走力と守備力が少々心配です。今回も前回に引き続き、7月3日に公表された「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。創設される「医療機関機能報告」は新たな地域医療構想の最大の“肝”と言えますが、とりまとめ段階では言われていなかった「新ルール」が盛り込まれました。以前は、1医療機関が複数の機能を報告することもできるとされていましたが、高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、両機能を一つの医療機関が報告できないことが明示されたのです。地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料を持つ急性期病院にとって、このルールは影響が大きいと考えられます。「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」の診療報酬と連動した措置「医療機関機能報告」制度とは、地域(二次医療圏等を基礎とした構想区域)ごとに確保すべき医療機関機能として高齢者救急・地域急性期機能在宅医療等連携機能急性期拠点機能専門等機能より広域な観点で確保すべき医療機関機能として医育及び広域診療機能(大学病院本院のみ)をそれぞれ位置付け、「各医療機関が2040年において担う医療機関機能を決定」し、報告する制度です。「とりまとめ」の段階では、医療機関は「複数の機能を報告することもできる」とされていましたが、最終的には「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されました。2026年度診療報酬改定では急性期拠点機能を想定した「急性期病院A一般入院料」、「急性期病院B一般入院料」が新設されましたが、「A」は地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料とのケアミックスは認められず(経過措置あり)、「B」も地域包括医療病棟とのケアミックスは認められません(経過措置あり)。「医療機関機能報告」のルールも診療報酬と連動した措置と言えます。高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能を一つの医療機関が報告できないことについては、すでに全国自治体病院協議会などから批判の声が出ています。7月17日付のGem Medの報道によれば、全国自治体病院協議会は7月16日に定例記者会見を開き、望月 泉会長らが、地方の自治体病院は急性期拠点機能とともに、実質的に高齢者救急・地域急性期機能を果たしていることから、病院による機能分担は難しいとの考えを示し、(厚労省は)「地域医療の実態を把握・勘案できていないのではないか」との疑問を呈したとのことです。この問題、今後さらに揉めそうな予感がします。急性期拠点機能は地方都市型や大都市型の地域では人口20万人から30万人の単位で一つガイドラインにおいて急性期拠点機能は、「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行うものである」と定義、「単に手術の実施や救急医療の提供を行うだけでなく、例えば、災害医療への対応、新興感染症への対応、医育(臨床研修・専門研修)、地域の医療機関への人的協力、地域における必要な病床の確保のための積極的な役割など、各地域において政策的に必要な医療等も含め、地域において求められる医療を提供する必要がある」としています。その上で、「急性期拠点機能は、人口の少ない地域においては、一つ確保・維持することとし、地方都市型の地域や大都市型の地域において、人口20万人から30万人の単位で一つ確保することを基本的な考え方として確保する」と必要数の目安も提示しています。どの医療機関が急性期拠点機能を担うか関係者間の協議が調わない場合の考え方も提示どの病院が「急性期拠点機能」を担うかは、各地域でこれから議論、駆け引きが行われるわけですが、ガイドラインは協議が難航する際の考え方(議論の収束のさせ方)について以下のように細かく明示しています。厚労省が各地域の「協議の場」が相当荒れるだろうと予想していることがうかがえます。ガイドラインの「II.地域医療構想の策定について」の「4.入院医療」の中の「(2)協議事項」において、区域内において、どの医療機関が急性期拠点機能を担うかについて、関係者間の協議が調わない場合の考え方を以下のように示しています。地域において設定すべき数以上の医療機関が急性期拠点機能を担う意向があり、協議が円滑に進まない場合であって、医療機関から求めがあった場合や都道府県が必要と認めた場合等については、都道府県が病院間での意見交換等の場を設定する。病院間での協議でも調わない場合においては、都道府県や医師の人的協力を行う大学病院本院も交え、人材確保の見通しを踏まえた上で、協議を行う。例えば、大都市、地方都市部において、県立病院と市立病院、あるいは市立病院同士等が近接して所在し、急性期医療の役割分担について協議が必要となるような場合は、県と市の病院事業担当部局が、県の地域医療構想担当部局、医療関係者、人的協力を行う大学病院本院等の協力を得ながら、診療実態や各種補助金・繰入金の活用状況等を踏まえ協議を行い、2040年に向けた連携・再編・集約化の方針の下で、それぞれの病院がどのような役割分担を行っていくか整理する必要がある。その上で、なお、関係者間の協議が調わない場合には、都道府県において、改めて各医療機関の診療実績や将来の医療需要の見通し等を客観的に勘案し、医療関係者や人的協力を行う大学病院本院等の協力も得ながら、方向性を決定する。なお、その場合、急性期拠点機能を担わないこととなった病院についても、高齢者救急の対応や地域の初期救急の対応等、地域で必要な役割を果たすことができるよう、高齢者救急の主な受入先とする体制を構築するなど、関係医療機関との協議も踏まえ、具体的な取組を検討していく。各診療科で“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能に相応しいかを判断端的に言えば、協議がうまく進まない場合は、都道府県が診療実績等を参考にしながら主導して決定に持っていけ、その際、人的協力を行う大学病院本院等の意見も参考せよというわけです。仮に人口30万人の圏域に脳神経外科で同レベルの手術を同程度行っている医療機関が2病院あった場合、どちらに人員を集約したいかの希望を医師派遣元の大学病院に聞き、それを参考にすることになります。もちろん、脳神経外科だけでは急性期拠点機能は担えませんから、消化器外科、心臓外科等々、各診療科でいわば“星取り表”を作り、全体としてどちらの病院が急性期拠点機能にふさわしいかを判断するわけです。病院と大学医局とのそれまでの関係や、病院側の医療機器・設備等の充実具合なども勘案されると考えられます。つまり、地域で急性期拠点機能の医療機関を目指す病院は、患者獲得競争だけではなく、医師を派遣してもらっている大学病院との関係を深めることも重要な要素になるわけです。大学病院の意見が重要ということになると、各科教授の権限も相当大きなものになりそうです。国公立の大学医学部では、贈収賄事件が起きないかと今から心配になってしまいました。

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妊娠悪阻は有害妊娠転帰と関連

 妊娠悪阻(hyperemesis gravidarum;HG)は母子双方の合併症リスクを高める可能性があることが、新たな研究で示された。HGは、早産や在胎週数に比べて小さい児(SGA児)などの有害妊娠転帰や貧血のリスク増加と関連し、このリスク増加は、妊娠第2トリメスター(妊娠13週以上27週未満)にHGにより入院した女性で高かったという。米スタンフォード大学医学部疫学・公衆衛生分野のRebecca Gardner氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Epidemiology」に6月16日掲載された。 Gardner氏は同大学のニュースリリースで、「本研究で、HGは早産、貧血、SGA児、妊娠高血圧腎症、常位胎盤早期剥離のリスク上昇と関連していることが示された。HGによる入院は、その妊娠で種々の重篤な合併症が生じるリスクが高いことを示す重要なサインである」と述べている。 HGは、妊婦の70~80%に見られる一般的なつわりとは異なる。Gardner氏はニュースリリースで、「HGは単なるひどいつわりではなく、脱水や著しい体重減少を引き起こすほど重症の状態だ」と説明している。研究グループによると、HGの妊婦は、十分な栄養を摂取できず著しい栄養不足に陥ることで胎盤の発達や機能に異常が生じ、特定の有害妊娠転帰のリスクを高めるとする仮説が立てられているという。 今回の研究では、2007年から2011年の間に米カリフォルニア州で出生した約250万件の単胎出生を対象に解析が行われた。このうち2.2%(5万3,681件)では、母親がHGのために救急外来を受診または入院していた。 交絡因子を調整して解析した結果、HGはさまざまな有害妊娠転帰のリスク増加と関連していた。調整相対リスクは、妊娠高血圧腎症で1.18(95%信頼区間1.13~1.23)、妊娠高血圧で1.15(同1.09~1.22)、早産で1.25(同1.22~1.29)、SGA児で1.19(同1.16~1.22)、常位胎盤早期剥離で1.14(同1.05~1.25)、貧血で1.37(同1.33~1.40)であった。さらに、このような有害妊娠転帰のリスク増加は、妊娠第2トリメスターにHGで初めて入院した女性で高いことも示された。 Gardner氏は、「これまでの研究から、HGの妊婦では栄養摂取量が不足していることが分かっている。この状態は胎盤の発育に悪影響を与え、それが妊娠高血圧腎症やSGA児など、今回調べた一部の転帰のリスク上昇につながると考えられる」と述べている。 研究グループは、今回の結果は2018年に策定された、妊娠中の悪心・嘔吐に対してより早期かつ積極的な治療を推奨する診療ガイドラインを支持するものだとの見方を示している。Gardner氏は、「今回のデータは、医師にとっては、HGで入院した妊婦では特定の合併症についてより慎重な経過観察が必要となる可能性を示すものだ」と述べている。さらに同氏は、「HGの妊婦でも、多くの場合、母子ともに良好な転帰が得られることを知ってほしい。それでも、HGを軽視してはならない。より頻回な経過観察や制吐薬の必要性を医師に相談し、自分自身のために積極的に声を上げることが大切だ。HGは我慢して乗り切るものではない」と呼びかけている。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座【大学医局紹介~がん診療編】

倉田 宝保 氏(主任教授)池田 慧 氏(准教授)吉田 清里 氏(病院助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴関西医科大学呼吸器腫瘍内科学講座は、肺がんを中心とする胸部腫瘍に対する診療・研究を行う、呼吸器腫瘍内科学を冠した大学講座として全国で初めて設立された講座です。私たちは「優れた呼吸器内科医であり、かつ優れた腫瘍内科医であること」を人材育成の基本理念とし、肺がん薬物療法のみならず、呼吸器感染症や間質性肺疾患など呼吸器内科全般、内科学全般の診療能力を兼ね備えた医師の育成を目指しています。当講座の特徴は、日常診療から生まれた課題を研究へ発展させ、その成果を患者さんへ還元する「臨床重視」の姿勢にあります。若手医師も早期から診療・研究に主体的に参加し、多施設共同臨床研究や治験などに携わる機会が豊富にあります。また、関連病院への出向においては、1人ひとりのキャリアプランを尊重し、できる限り本人の希望に沿った施設で経験を積めるよう配慮しています。大学病院での高度ながん診療から地域医療まで幅広く経験できる環境も当講座の強みです。今後は、地域のがん診療を支える中核講座として、診療・研究・教育をさらに発展させるとともに、患者さんに寄り添いながら新しい医療を創造できる人材を育成していきます。呼吸器内科医として、そして腫瘍内科医として成長したい若手医師の皆さんを心より歓迎します。力を入れている治療/研究テーマ当科は西日本随一の症例数を誇り、日々の診療から多様な経験を積むことが可能です。各種ガイドラインや臨床研究グループへ委員を多数輩出しており、豊富な企業治験から当科主導の医師主導臨床研究まで、日本の最先端の肺がん診療をじかに体感できる刺激的な環境が整っています。また、指導医層の充実も大きな魅力です。日本の肺がん領域における若手リーダーの1人である山中 雄太講師、国立がん研究センターから帰任し臨床とアカデミックな研究を牽引する竹安 優貴助教、がんリハビリの第一人者としてフレイル外来を立ち上げた勝島 詩恵診療講師など、それぞれ独自の特色や得意分野を持つエキスパートが揃っています。医局の雰囲気、魅力私自身、1年前に赴任してまいりましたが、手前味噌ながら医局員は皆人柄がよく、非常によい雰囲気だと実感しています。学ぶ意欲を持つ若い先生を大切にし、時に優しく、時に厳しく育むための最高の土壌がここにはあります。最先端の環境と温かい仲間に囲まれ、共に高め合える方をお待ちしています。同医局を選んだ理由私が当医局を選んだ理由は、医局全体の雰囲気がよく相談しやすい環境が整っていると感じたからです。上級医の先生方も気軽に相談に乗ってくださり、日々安心して診療に取り組むことができています。また、女性医師も多く活躍しており、子育てをしながら働く先生もいらっしゃるため、私自身も育児と仕事を両立しながら安心してキャリアを続けられる環境であることも大きな魅力です。現在学んでいること現在は肺がん診療を中心に研修を行っており、診断から薬物療法、治療効果や有害事象の評価まで専門的な知識と経験を積んでいます。一方で、呼吸器疾患に限らず、併存疾患を含めた内科的な全身管理についても幅広く学ぶことができる点が大きな特徴だと感じています。また、積極的な治療だけでなく、患者さん1人ひとりの価値観や生活背景に寄り添った緩和医療についても学ぶ機会が多く、日々多くのことを吸収しています。専門性と総合的な診療能力の両方を高められる環境で、充実した研修を送っています。関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座住所〒573-1010 大阪府枚方市新町2丁目5番1号問い合わせ先koshunai@kmu.ac.jp医局ホームページ関西医科大学 呼吸器腫瘍内科学講座専門医取得実績のある学会日本内科学会日本呼吸器学会日本臨床腫瘍学会日本呼吸器内視鏡学会研修プログラムの特徴(1)個々人のキャリアプランに合わせた柔軟なプログラム画一的な研修ではなく、1人ひとりの目標や希望を尊重し、個別のキャリアプランに合わせた柔軟な研修プランを提供して個人の成長をサポートします。(2)経験豊富なスタッフによる手厚い指導体制それぞれの得意分野を持つエキスパートが揃っており、複雑な症例や研究に関しても、先輩医師からじかに丁寧なアドバイスを受けられる体制が整っています。(3)互いに助け合い、高め合える良好な医局環境医局員同士の仲がよく、風通しのよい雰囲気が特徴です。気軽に相談し互いにサポートし合う環境が、日々の質の高い診療や優れた研究成果に直結しています。詳細はこちら

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PCI実施の急性冠症候群患者、LDL-C40未満でMACEリスク最小化/CVIT

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行した急性冠症候群(ACS)患者において、PCI後早期におけるLDL-C 40mg/dL未満の達成は、長期的な主要心血管イベント(MACE)リスクの最小化に直結し、慢性冠症候群(CCS)患者と比較してもはるかに大きな臨床的恩恵をもたらすことが明らかになった。本結果は片岡 有氏(国立循環器病研究センター 循環器内科)が2026年7月16~18日に開催された第34回日本心血管インターベンション治療学会のLate Breaking Clinical Trials 1にて発表し、JACC Asia誌オンライン版2026年7月17日号に同時掲載された。一律の管理目標から「臨床病態に応じた個別化」へ 現行の欧州心臓病学会(ESC)などの『脂質異常症管理のためのガイドライン』では、心血管イベントの二次予防、とくにACSを含む超高リスク患者に対してLDL-C 55mg/dL未満、さらに一部の極高リスク患者には40mg/dL未満の達成を推奨している。しかし日本の実臨床では、ACSと安定期病態であるCCSに一律のLDL-C管理基準値が適用されており、両病態での脂質低下療法の恩恵の差異や、40mg/dL未満達成への真の臨床的意義について、直接比較した多施設データは十分に示されていない。また、J-PCIレジストリデータ(2024年)によると、日本国内で年間約9万5,000例のACS患者がPCI治療を受けている。 そこで同氏らは、国内3施設(国立循環器病研究センター、柏厚生総合病院、近森病院)でPCIを受け、3年間フォローアップされた冠動脈疾患(CAD)患者2,560例(CCS:878例、ACS:1,682例)を対象に大規模多施設レトロスペクティブ解析を実施し、LDL-C値層別化によりACS、CCSでの心血管系の転帰の違い、LDL-C 40mg/dL未満への低下効果について検証した。本研究におけるLDL-C達成は、PCI後2ヵ月(8週間)時点で測定された値とし、主要評価項目はMACE(心臓死、非致死性心筋梗塞[MI]、非責任病変における冠血行再建術)*とした。*再狭窄やステント血栓症に伴う標的病変再血行再建術(TLR)は評価項目から除外 主な結果は以下のとおり。・PCI後2ヵ月時点でのLDL-C達成中央値は、CCS群で61.0mg/dL、ACS群で60.5mg/dLであった。・LDL-C 55mg/dL未満の達成率は、CCS群で32.5%、ACS群で29.4%と両群間に有意差はなかった。・CCSのLDL-C 70mg/dL以上の患者群を基準として多変量調整ハザード比(aHR)を算出・比較したところ、ACSでLDL-C 70mg/dL以上にとどまった群では、aHR2.31(95%信頼区間[CI]:1.61~3.31、p<0.001)と、心血管イベントリスクが大幅に上昇していた。・LDL-C 55mg/dL未満を達成したACS患者では、aHR0.29(95%CI:0.17~0.51、p<0.001)とMACEリスクが極めて低いレベルに抑えられた。これに対し、CCS患者のaHRは0.67(p=0.088)であった。・カプランマイヤー曲線による推定でも、ACS患者での55mg/dL未満達成群と非達成群の乖離は、CCS患者と比較して顕著であった。・LDL-C 40mg/dL未満を達成した超厳格管理群(CCS:10.9%、ACS:9.2%)の追加解析を実施したところ、ACS患者のaHRは0.20(95%CI:0.06~0.72、p=0.039)で、40~54mg/dL群(aHR:0.88、p=0.009)と比較してもリスクが大幅に減少していた。・連続的なLDL-C値とMACEリスクの関連を評価するスプライン曲線解析において、CCS患者では全体的な関連性が認められたものの非線形性は有意ではなかった(Non-linearity p=0.211、Overall association p=0.040)。・ACS患者では非常に強い非線形性を示し(Non-linearity p<0.001、Overall association p<0.001)、LDL-Cの低下がMACEリスク低下に極めて高感度に反映されることが示唆された。 本結果の限界として、観察研究の枠組みであること、日本人のみを対象としたデータ、脂質評価タイミングといった点が挙げられるが、PCI後のACS患者で、病態の安定化と新規イベント予防のためにPCI後2ヵ月(8週間)という極めて早期の段階でLDL-C値を70mg/dL未満→55mg/dL未満→40mg/dL未満と段階的かつ強力にコントロールすることの重要性が示された。 なお、上述のようにACS患者でPCI治療を受けている10万例弱に対して本解析結果を適用した場合、日本人ACS患者の約70%(年間約6万6,500例に相当)がPCI後にLDL-C 55mg/dL以上の高リスク水準に留まっていると推計される。これらを踏まえて、同氏は「ACSというハイリスク症例に対しては、躊躇することなく早期から強力なLDL-C管理(Strike Early)である“LDL-C 40mg/dL未満”という超厳格な目標達成を目指すことが重要である」と締めくくった。

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ガイドラインで変わり始めたうつ病治療/塩野義

 2025年12月に『うつ病診療ガイドライン2025』が公表された1)。ゼロベースで全面的に改訂された本ガイドラインでは、エビデンスに基づく治療に加え、患者と医療者が治療方針を共に決める「SDM:Shared Decision Making(共有意思決定)」や、症状を定量的に評価しながら治療を進める「MBC:Measurement-Based Care(測定に基づく診療)」が重視された。 塩野義製薬は2026年7月1日に「新ガイドライン導入で変わり始めたうつ病治療 患者と医師が“一緒に考える”診療の最前線を解説」と題したプレスセミナーを開催した。加藤 正樹氏(関西医科大学 精神神経科学講座)が登壇し、うつ病診療の課題、『うつ病診療ガイドライン2025』の概要、新たに期待される薬剤について解説した。うつ病診療の課題―早期改善への期待と治療継続の難しさ 多くの抗うつ薬が開発されてきたにもかかわらず、薬物治療に対する医師の満足度は低いことが指摘されている。患者を対象とした調査では、治療に対する要望として「症状を早く改善してほしい」が最も多く、「自分の病気について詳しく知りたい」「有効な薬があるなら早く服用したい」「症状のつらさを医師に聞いてほしい、理解してほしい」といった回答が続いた。 この背景には、従来の抗うつ薬の効果が現れるまでには、一定の時間を要するということがある。既存の抗うつ薬のほとんどがモノアミン仮説に基づいて開発されたものであり、セロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミン神経伝達を調節する。これらの薬剤では、シナプス間隙のモノアミン神経伝達には比較的早期から変化が生じる一方、臨床的な抗うつ効果を実感するまでには一定の時間を要する。患者によっては、効果を実感する前に有害事象が発現し、治療を中止してしまうこともある。 治療中止の背景には、薬剤の有害事象や効果不十分だけでなく、用量不足、治療期間不足、患者の希望と治療内容の不一致、医師と患者のコミュニケーション不足など、医療者側の要因もある。患者側でも、改善を実感できないことによる治療意欲の低下や、症状が軽減した段階で「治った」と判断して服薬を中止することがある。  このような背景から、コミュニケーションや薬物治療の質の向上を目指して『うつ病診療ガイドライン2025』が作成された。「診療の地図」として作成された新ガイドライン 本ガイドラインは、「今どこに立ち、次に何を考えるべきか」を整理する診療の地図として設計され、ゼロベースで全面的に改訂された。改訂を貫く3つの考え方として、「Patient-Centered Care」「SDM」「MBC」がある。 Patient-Centered Careの観点では、本ガイドラインの作成に当事者・家族も参加し、治療方針の検討に、当事者・家族の声が組み込まれた。 SDMは、医師が一方的に治療方針を決めるのでも、患者に判断を委ねるのでもなく、医師が信頼できる情報と各治療のメリット・デメリットを提示したうえで、患者の希望、過去の治療歴、副作用歴などを踏まえて治療を決定するものである。うつ病治療では、ある選択肢がすべての患者に明確に優れているとは限らない。効果だけでなく、副作用、服薬方法、生活上の制約などに対する患者の価値観も異なるため、患者が治療方針の決定に参加することが重要となる。 SDMの実践に欠かせないのがMBCである。これは、PHQ-9やQIDSなどの定量的な評価尺度で症状や治療反応を評価し、数値を基に治療を調整することで、漫然とした治療継続を防ぐものだ。患者自身が質問票に回答することで、直近の睡眠、食欲、集中力、希死念慮などを定期的に振り返ることができる。診察時に伝え忘れやすい症状を補足できるほか、医師も変化を把握しやすくなり、重要な症状の聞き漏らしを防ぐことにつながる。また、評価結果を患者にフィードバックすれば、薬剤を増量・変更する理由も共有しやすくなる。MBCを導入した群と導入しなかった群を比較した無作為化試験のメタ解析では、MBC導入群の寛解率が約10%高かったことも報告されている2)。「今後期待される治療」として掲載されたズラノロン 本ガイドラインでは、各臨床疑問に対する推奨とは別に、うつ病診療に役立つ情報を「トピックス」として掲載している。その中の1つが「今後期待される治療」である。 ガイドライン作成のためにシステマティックレビューを開始した時点で、本邦で使用できなかった薬剤は、臨床疑問に対する正式な推奨の対象には含まれない。このため、従来の抗うつ薬とは異なる作用機序を持つ治療薬などが、将来の治療選択肢としてトピックス内で紹介された。 そのなかで、本邦で使用可能となった薬剤がズラノロンである。ズラノロンは、GABAA受容体に作用し、GABAのシグナル伝達を促進することで抗うつ作用を発揮する新規作用機序の薬剤で、2026年3月に発売された。 ズラノロンの特徴の1つは、連日服用を長期間継続する従来の抗うつ薬とは異なり、一定期間の投与を基本とする点にある。具体的には、14日間の投与後に最低6週間の休薬期間を設ける。これは「2週間服用すればうつ病の治療が終了する」という意味ではない。投与終了後も効果の持続が期待される一方、十分な改善が得られない患者や、時間の経過とともに症状が再び悪化する患者も想定される。そのため、投与終了後も症状や社会生活上の機能を継続して評価し、必要に応じて他の薬物療法や精神療法、再投与などを検討する必要がある。 最後に、これからの新しいうつ病診療について、加藤氏は「うつ病治療は、医師にすべてを任せるものから、患者が自身の希望を伝え、医療者と共に治療を選択するものへと変わりつつある。最初の治療で薬剤が合わない場合でも、それは次の治療選択肢を検討する段階に進んだことを意味するため、焦る必要はない。治療は段階的に続けることが重要である」とまとめ、講演を締めくくった。

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高齢者DLBCL診療における治療強度の考え方【高齢者がん治療 虎の巻】第11回

講師紹介<今回のPoint>高齢者DLBCLでは暦年齢のみで判断せず、G8などのスクリーニングと高齢者機能評価(GA)でfit/unfit/frailを評価し、治療強度を検討する。層別化に応じて、fitには治癒を目指す標準治療、unfitにはR-miniCHOPなどの減量レジメンを検討する。frailでは治療目標を再確認し、低強度治療または緩和的治療を含めて個別に判断する。Pola-R-CHP療法は初発DLBCLの標準治療の一つであるが、80歳を超える患者では臨床試験のエビデンスが限られる。心機能、併存症、本人の希望を確認し、減量投与を含めて慎重に検討する。<症例>82歳、男性。2ヵ月前から頸部リンパ節腫大と食欲低下、体重減少を認め、近医から紹介された。頸部リンパ節生検の結果、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断され、免疫染色の結果、Non-GCB型(Hans分類)に分類された。PET-CTを撮影したところ、腹腔内リンパ節にも病変を認め、臨床病期はLugano分類でStage III、LDH高値、ECOG Performance Status(PS)1で、国際予後指標(International Prognostic Index:IPI)はhigh-intermediate riskだった。併存症は高血圧症、持続性心房細動、慢性心不全、2型糖尿病で、抗凝固薬、利尿薬、経口血糖降下薬を内服していた。退職後は自宅近くの畑仕事を日課としており、発症前のADLは自立、買い物や通院も自力で可能だった。最近は倦怠感のため畑に出る頻度が減っているが、身の回りのことは自立している。G8は11点、Charlson Comorbidity Index(CCI)は慢性心不全1点、糖尿病1点の計2点であった。本人は「また畑に出られるようになりたい。治る可能性があるなら、できる治療は受けたい」と話している。一方、家族は「年齢も心臓も心配なので、強い治療は避けたほうが良いのではないか」と不安を示している。高齢者DLBCLの治療方針悪性リンパ腫は高齢者に好発する代表的な造血器腫瘍であり、本邦では年間約3万6,000人が新たに診断され、その多くを70代から80代の患者が占めます1)。組織型としてはDLBCLが最も多く、高齢DLBCL患者を診療する機会は年々増加しています。DLBCLは高齢者であっても、薬物療法によって治癒が目指せる疾患ですが、若年者に比べて予後が不良であることが多く、その背景には生物学的要因や臨床的要因が複雑に絡み合っていると考えられています。『造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版(2024年版)』には、高齢者DLBCLに対する標準治療として、80歳未満に対しては若年者と同様の治療法が、80歳以上の高齢者に対しては、用量あるいはコース数を減らしたR-CHOP療法が妥当な治療選択肢の一つであると記載されています2)。高齢者機能評価(GA)に基づく治療強度の決定高齢者DLBCLでは、暦年齢のみで治療強度を決定するのではなく、患者個々の予備能を評価したうえで治療方針を定めることが重要です。『高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版』でも、初発高齢者DLBCLの治療方針の判断にGAを行うことが弱く推奨されています3)。GAは、身体機能(ADL・IADL)、併存症、認知機能、栄養状態、社会的サポートなどを多面的に評価する手法であり、これにより患者をfit(標準治療に忍容性がある)、unfit(標準治療は困難だが減量治療は可能)、frail(緩和的対応が中心)に層別化します。簡便なスクリーニングには本症例でも用いられているG8などが、より包括的な評価には総合的なGAが活用されます。fitと判断される患者には、若年者と同様に治癒を目指した標準治療が推奨されます。一方、unfitやfrailと判断される患者では、毒性を軽減しつつ一定の有効性を確保する目的で減量レジメンが選択され、なかでもR-miniCHOP療法が代表的な選択肢です。Peyradeらによる第II相試験では、80歳以上のDLBCL患者に対し、標準量の約半量に減量したR-miniCHOP療法が、忍容性良好でありながら治癒も期待できることが示され、高齢者に対する標準的選択肢の一つとして位置付けられています4)。Pola-R-CHP療法という新たな選択肢近年、初発DLBCLに対する治療は大きく変化しました。第III相POLARIX試験では、R-CHOP療法のビンクリスチンを抗体薬物複合体であるポラツズマブ ベドチン(商品名:ポライビー)に置き換えたPola-R-CHP療法が、従来のR-CHOP療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、本邦でも初発DLBCLに対する標準治療の一つとして位置付けられるようになりました5)。サブグループ解析では、60歳以上の高齢者やIPI高リスク群、Non-GCB(ABC)型などでPola-R-CHP療法の相対的な有用性が示唆されています。本症例のような高齢・Non-GCB型のDLBCLは、Pola-R-CHP療法の効果が期待される集団と考えられます。ただし、POLARIX試験の対象は18〜80歳であり、80歳を超える高齢者は含まれていません。したがって、本症例のような80歳を超える患者にどこまで適応を広げてよいかは、現時点で明確なエビデンスがありません。近年は80歳以上を含む実臨床でのデータ(リアルワールドデータ)が少しずつ報告されつつあり6)、ポラツズマブ ベドチンに併用するCHPを適切に減量することで、80歳以上でもPola-R-CHP療法を安全に実施しうる可能性が示されています。一方で、心機能低下例などアントラサイクリンの使用が難しい症例も少なくなく、適応は個々の予備能と併存症を踏まえて慎重に判断する必要があります。本症例への治療方針本症例を改めて整理すると、82歳と高齢であり、PS 1、ADLは自立していますが、G8 11点、CCI 2点で、機能的にはおおむねunfitに近い状態と評価できます。本人は治癒を目指した治療を希望していますが、持続性心房細動や慢性心不全といった心疾患を有し、ドキソルビシンによる心毒性のリスクには十分な注意が必要です。また、組織型はNon-GCB型であり、Pola-R-CHP療法の上乗せ効果が期待しやすい点は、治療選択の後押しとなります。以上を踏まえると、治療開始前に心エコーなどで心機能を評価し、ドキソルビシンの使用が許容される場合には、CHPを適切に減量したPola-R-CHP療法も選択肢となります。ただし、80歳を超える患者はPOLARIX試験の対象外であることから、現時点では実臨床データに基づく慎重な判断が必要です。もし心機能低下が明らかな場合には、ドキソルビシンを含まないレジメンも検討する必要があります。いずれの場合も、本人・家族の意向と予備能を共有しながら、治療強度を個別に最適化していく姿勢が重要です。G-POWER研究:日本の高齢DLBCLに合ったGAを目指して高齢DLBCLに対するGAの活用は国際的に進んでいますが、海外のデータをそのまま日本の実臨床に当てはめることには限界があります。生活環境、家族支援、医療アクセス、入院・外来治療の体制、介護保険を含む社会制度は国によって異なるためです。現在、国内において70歳以上の高齢DLBCL患者を対象に、GAの意義を明らかにする多施設前向き観察研究(G-POWER研究)が進められています7)。本研究では、G8、ADL、IADL、認知機能、うつ状態、併存症、Clinical Frailty Scaleなどを評価し、初回治療の内容、有害事象、治療完遂、予後との関連を検討します。日本の高齢DLBCL患者において、どのGA項目が治療選択や有害事象予測に本当に役立つのかを明らかにすることは、今後の実臨床に直結する課題です。GAを「評価して終わり」にせず、治療を支える具体的な介入につなげるためにも、本邦独自のエビデンス構築が期待されます。 1) がん情報サービス:全国がん登録 2) 日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン第3.1版 2024年版. 金原出版. 2024. 3) 日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会編. 高齢者のがん薬物療法ガイドライン 改訂第2版. 南江堂. 2026. 4) Peyrade F, et al. Lancet Oncol. 2011;12:460-468. 5) Tilly H, et al. N Engl J Med. 2022;386:351-363. 6) Yamada T, et al. Ann Hematol. 2025;104:5191-5200. 7) UMIN-CTR:臨床登録試験情報(G-POWER研究)

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ベンゾジアゼピンやZ薬を安全に減量するためのポイント

 英国・North East London NHS Foundation TrustのMark Horowitz氏らは、ベンゾジアゼピン(BZD)やZ薬を安全に減量するための薬理学的原則についての最新レビューを報告した。Psychological Medicine誌2026年6月18日号掲載の報告。 主な内容は以下のとおり。・多くのガイドラインにおいて、BZDおよびZ薬の減薬は、長期服用患者の大半に対して推奨されている。・嗜癖とは異なる身体的依存が生じている場合、とくに長期服用後では離脱症状が重度かつ遷延する可能性があるため、中止は困難であり、失敗リスクが高まる。・不快感を最小限に抑えつつ、患者が許容できる方法でどのように減量すべきかについては、明確な指針が不足している。・現在のガイドラインもさまざまであり、直線的な減量(例:1~4週間ごとに1mgずつ減量)を推奨するものもあれば、比例的な減量(例:直近の用量の5~10%を毎月減量し、低用量になるにつれて減量幅も小さくする)を推奨するものもある。・BZDの用量とGABA-A受容体における活性との関係は双曲線である。すなわち、低用量域では急激に上昇し、高用量域では平坦化する。・その結果、直線的な減量を行うと、受容体占有率の変化が徐々に大きくなり、離脱症状の増悪が予測される。一方、双曲線的または比例的な減量を行えば、薬理作用は直線的に減少する。・数日または数週間かけて減量するよりも、数ヵ月や数年かけてゆっくり減量するほうが、成功する可能性が高いと考えられる。・実際は、離脱症状の重症度に応じて減量速度を調整すべきである。・最終段階でBZDおよびZ薬を中止する際の「一段階の減量」が、薬理作用の観点からそれまで許容できていた減量幅よりも大きくならないように注意する必要がある。そのため、一部の患者では最終的な用量をきわめて少量(例:ジアゼパム換算量0.2mg以下)にするなどの調整が必要となる。・低用量域で微量な減量を行う際には、液剤や調剤による製剤が有用になる場合もある。・直線的な減量と双曲線的な減量を比較するランダム化比較試験が行われているが、その結果を待つ間も、ガイドラインにおいては双曲線的な減量法が推奨されるべきである。

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第325回  「地域医療構想策定ガイドライン」やっと公表(前編) 国の人口減少と高齢患者急増に対する強い危機感あらわ、「再編・集約化」の取り組みに最重点

今年春にも公表される予定も、延びに延びて7月にやっと公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ワールドカップ、終わってしまいましたね。日本でのテレビ観戦は、寝不足との戦いでなかなかハードでしたが、無料で観ることができるのですから贅沢は言えません。商業主義的過ぎるとの批判や、トランプ大統領のFIFAへの異例の介入騒動などもありましたが、サッカー素人の私でもいろいろな意味で楽しめた大会でした。日本経済新聞を購読している方はご存知だとは思いますが、大会期間中、同紙はほぼサッカー専門紙の趣で、下手なスポーツ新聞より詳しいワールドカップの記事を載せていました。同紙は経済紙にもかかわらず、武智 幸徳記者、阿刀田 寛記者という2人の著名なサッカー記者がいます。彼らの記事(戦評)はもはや文芸評論(あるいは文学)の域に達しており、感心しながらも逆に笑ってしまう記事も多々ありました。武智記者は7月11日付の同紙記事で、アルゼンチン対エジプト戦でのエジプトの得点がVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で取り消された件について触れ、「VARという制度が導入されてから、ピッチ上のプレーは区切りをつけた一つひとつの固まりとして分類されるようになった。文章に例えるなら、段落が変わるごとに付箋をつけて文頭と文末を示すようなものである。(中略)文頭に得点をした側の反則があれば文末の得点が取り消されるのはやむを得ない」と独自の解釈を披露。一方の阿刀田記者は、アルゼンチン対イングランド戦を評した7月17日付の同紙記事で、この試合をマラドーナの神話が生まれた1986年の試合と比較、「今回の試合はそれともひと味違う。何しろ彼らは、メッシの美技という美酒に酔っただけではなく、先制した後のイングランドの弱腰を末代まで笑う権利を手にしたのだから」と、文学的過ぎる戦評を書いていました。7月21日付の決勝を報じた記事でも、「牙が折れてもスペインにかみついて歯形を残したアルゼンチンの散りざまは、まことにアルゼンチンらしかった」と最後までアルゼンチン礼賛のトーンは不変でした。ちなみに阿刀田記者は作家・阿刀田 高氏の息子さんです。さて、今回は7月3日に厚生労働省がようやく公表した「地域医療構想策定ガイドライン」について書いてみたいと思います。今年春にも公表される予定でしたが、延びに延びて7月になってしまいました。厚労省は遅れの原因について説明していません。一説には、医政局の担当課が中東情勢に伴う医療資材不足の対応に追われたことが一因と言われています。仮にそれが本当だとしたら、厚労省、人手不足過ぎるのでは、と心配になります。2028年度中に策定、2035年度を目途に一定の成果を確保2025年12月に成立した改正医療法で定められた「新たな地域医療構想」をどう策定するかについては、2026年3月まで開かれた地域医療構想及び医療計画等に関する検討会で議論が続けられてきました。公表された「地域医療構想策定ガイドライン」は、この検討会の「とりまとめ」を基に、基本的な考え方や具体的な策定の手順を厚労省が整理したものです。このガイドラインを基に、各都道府県は2027年度上半期頃までに、地域医療構想調整会議において課題の整理や構想区域の点検・見直しなどを行います。そして2028年度までに、各都道府県において急性期拠点機能を担う医療機関の具体的な医療機関名の決定も含めて「地域医療構想」として策定し、「2040年を見据えた医療提供体制について、2035年度を目途に、一定の成果を確保する」としています。つまり、2029年3月までに新たな地域医療構想を策定し、地域の医療機関の役割分担、棲み分けの方向性を決定、2035年度までに構想を一定程度進め、2040年頃に必要とされる医療提供体制にできるだけ近づけておく、という流れになります。地域医療構想の見直し8つのポイント新たな地域医療構想の概要については、本連載の「第294回 改正医療法やっと成立、医療機関の集約化、統合・再編、病床削減さらに加速へ 『地域医療構想の見直し』 8つのポイント」でも解説しました。そこでも書いた8つのポイントをおさらいしておきましょう。1)病床の機能分化だけでなく、外来・在宅、介護との連携、人材確保等の計画も2)医療法の規定で「地域医療構想」が「医療計画」よりも上位の概念に3)基準病床数は「新たな地域医療構想」における将来(2040年)の病床必要量の範囲内に4)病床機能の区分、「回復期」は「包括期」に名称変更5)新たに「医療機関機能報告」の制度が創設6)人口規模が小さ過ぎる構想区域は合併、大き過ぎる構想区域は分割7)精神医療も地域医療構想で位置付け8)病床数の削減を支援する事業を都道府県が実施できるように人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の非常に強い危機感以上の8ポイントを念頭にガイドラインを読んでみたのですが、一読して伝わってくるのは、人口減少と高齢患者急増に対する国、厚労省の強い危機感です。ガイドラインは冒頭の「I.地域医療構想の考え方」の「1.2040年に向けた医療提供体制について」中で、「背景」について、我が国においては、今後、人口構造や疾病構造の変化に伴い、医療の需要が量的、質的に大きく変化することが見込まれている。特に、団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降、2040年に向けて、高齢者人口の増加に伴い、高齢者救急や在宅医療の需要が増加する一方、急性期医療の需要が多くの地域で減少することが見込まれる。また、生産年齢人口の減少に伴い、医療機関における医師や看護職員等の担い手の確保がますます困難となることが想定される。このため、地域において必要な医療提供体制を将来にわたり確保していく観点から、2040年頃の医療需要を見据えつつ、医療機関の役割分担や連携のあり方を整理し、地域全体として適切な医療提供体制を構築することを目的として、地域医療構想を推進する必要がある。──と記しています。各地で人口減少が急激に進む中、地域の急性期拠点機能を集約化などによって維持するとともに、急性期拠点機能から“落ちこぼれていく”医療機関を生き長らえさせ、需要が急増する高齢者救急や在宅医療に対応できる医療機関に再編していくことが、地域医療構想の主眼であることがわかります。急性期医療については広域での集約化をそのため、ガイドラインの複数の項目において、「再編・集約化」を強く意識した文言があるのが大きな特徴です。「I.地域医療構想の考え方」の「3.医療機関機能の確保について」の中では、「医療機関の連携・再編・集約化」について、「大都市型の地域においては、医療需要の総量としては大きく減少はしないが、手術等の集学的な医療は相対的に減少し、高齢者救急等の包括期の医療需要や慢性期の需要が相対的に増加していく」ため「それぞれの地域ごとに当該状況に応じた医療機関の連携・再編・集約化の取組が求められる」としています。加えて、「急性期医療については、構想区域ごとに、緊急性の高い疾患や頻度の高い疾患等に対応できる体制の確保が必要となる。がん手術やその他の高度な外科手術については、症例数が多い医療機関ほど、医療の質が高いことが一般的に知られており、こうした高度な手術等については、地域の医療資源に応じて、構想区域よりも広域な単位で集約して実施することを検討する必要がある」と、広域での機能の集約化の検討も要請しています。また、「救急車の受入や手術の実施を行う医療機関の集約化や役割分担、夜間に緊急手術を行う医療機関の集約化等も取組として検討が必要である」と急性期拠点機能や急性期病床の集約化以外の連携・再編・集約化の必要性についても言及しています。市町村には自治体病院の経営は二の次にダウンサイジング、再編・集約化求めるさらに、「I.地域医療構想の考え方」の「2.地域医療構想について」の中の「関係者に期待される役割等」でも再編・集約化の必要性を強調しています。関係者の中で、とくに市町村等に求められる役割について、「病院開設者としては、人口の少ない地域における自治体立病院は、当該地域での唯一の基幹的な医療機関として地域を支えている医療機関でもある一方で、都市部においては、他の医療機関と機能が競合している医療機関もあるなど、地域における役割は様々」とした上で、「自治体立病院の開設者としての観点だけではなく、他の医療機関と同様に、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」と、自治体病院の経営を優先させるのではなく、周辺医療機関との棲み分けの中でダウンサイジング、再編・集約化に取り組むよう要請しています。同様に公立・公的病院等に対しても、「県立病院や公的病院等、その設置主体である都道府県、日本赤十字社、済生会、厚生連、国立病院機構、労働者健康安全機構等においても、病床数の適正化(ダウンサイズ)や提供する医療内容の見直し等を行い、地域全体の医療提供体制の構築・維持や連携・再編・集約化の取組への協力が求められる」とダウンサイジング、再編・集約化の検討を迫っています。こうした流れを受けて、公立病院を管轄する総務省の公立病院改革は、経営改善というよりも、ダウンサイジング、再編・集約化に軸足を移していくでしょう。その結果、人口減少地域では閉院する医療機関もこれまで以上に増えていくと予想されます。高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については併存できず新たに創設される「医療機関機能報告」は新たな地域医療構想の最大の“肝”と言えますが、「とりまとめ」までの議論では言われていなかった新たなルールが盛り込まれました。以前は、医療機関は複数の機能を報告することもできるとされていましたが、「高齢者救急・地域急性期機能と急性期拠点機能については、医療資源を多く要する医療や高齢者救急の役割分担を明確化するためのものであり、両機能を一つの医療機関が報告することはしない」と明示されたのです。このルールは、地域包括医療病棟や地域包括ケア病棟入院料を持つ急性期病院には、少なからぬ影響が出ると考えられます。(この項続く)

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慢性便秘の高齢者、見直すべき処方は?【高齢者処方のデザイン】第4回

以下の症例に対する前医の処方箋には「替えるべきポイント」が3つ隠れている。あなたは見抜けるか?【症例】患者78歳・女性高血圧、胃食道逆流症(GERD)、過活動膀胱、アレルギー性鼻炎で通院中。慢性便秘に対し酸化マグネシウムが長期処方され、近年は1日3g(1g×3回)まで増量されている。直近の血液検査でeGFR 35と中等度の腎機能低下を認め、血清マグネシウムは3.2mg/dL(基準上限超)であった。最近、全身の倦怠感と食欲低下を訴えて来院した。便通については「酸化マグネシウムを飲んでもすっきり出ない」とのことで、頓用のはずのセンノシドを自己判断で連用しており、服用のたびに強い腹痛・差し込むような便意を自覚している。診察上、明らかな腹部膨満や腸閉塞所見はなく、浮腫も乏しい。バイタルは安定しているが、深部腱反射はやや減弱している。【Before:前医の処方箋】A)ロサルタン 25mg 1日1回 朝食後B)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後C)ソリフェナシン 5mg 1日1回 朝食後D)ジフェンヒドラミン 50mg 1日1回 就寝前(鼻炎・かゆみに対して)E)酸化マグネシウム 1g 1日3回 毎食後F)センノシド 12mg 便秘時頓用(実際には連日服用)A)ロサルタン 25mg 1日1回 朝食後B)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後C)ソリフェナシン 5mg 1日1回 朝食後D)ジフェンヒドラミン 50mg 1日1回 就寝前(鼻炎・かゆみに対して)E)酸化マグネシウム 1g 1日3回 毎食後F)センノシド 12mg 便秘時頓用(実際には連日服用) 1) Mori H, et al. Nutrients. 2021;13(2):421. 2) Wagg A, et al. Curr Med Res Opin. 2016;32(4):621-638. 3) Saad R, et al. Expert Rev Gastroenterol Hepatol. 2008;2:497-508. 4) 日本消化管学会編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症. 南江堂; 2023. 5) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023 Jul;71:2052-2081. 講師紹介

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早朝の収縮期血圧、新築マンションへの引越しで◯mmHg低下

 高断熱・高気密および省エネ・創エネ性能を備えた新築マンション「ZEH-M(Net Zero Energy House Mansion)」への転居前後での冬季の家庭血圧について、同一被験者で前後比較を行った結果、高血圧治療中の患者や血圧高値者において、早朝収縮期血圧が最大で約7mmHg有意に低下した。本結果は大阪大学の中神 啓徳氏らの研究グループの研究によって明らかになり、Hypertension Research誌2026年7月13日号に掲載、第26回日本抗加齢医学会総会で報告された(2026年6月26〜28日開催)。 日本の多くの家屋は冬季の室温が低く、WHOが健康維持のために勧告している最低室温18℃を満たさない住宅が約9割に上る。早朝に血圧が急上昇するモーニングサージは、とくに冬季において脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントを引き起こす強力なトリガーとして知られており、室温を高く保つことがリスク低減に重要であると考えられている。 そこで同氏らは、近年の新築マンションにおいてZEH-Mの普及による室内環境の改善が急速に進んでいることに着目し、ZEH-Mへの転居が居住者の室内温熱環境および家庭血圧に及ぼす影響を明らかにすることを目的として検証を行った。研究の詳細とその結果 本研究は、全国のZEH-M仕様の新築マンション(大京および穴吹工務店が供給・分譲)を契約した人を対象に実験モニターを募集。対象は、治療中の重大な疾患がない健康な複数人世帯とした。同一被験者において、転居前(一般的な旧居:2024年2〜3月)と転居後(新築ZEH-M:2025年2月)に、洗面所の室温測定および上腕式血圧計を用いた家庭血圧・脈拍の測定(1日4回:起床後30分以内2回、就寝前2回)を3週間実施した。このうち、14日以上の血圧測定データがそろった起床後データ179例分、就寝前データ178例分を最終解析対象とした。 主な結果は以下のとおり。・被験者の平均年齢は42.5±11.4歳、このうち高血圧(降圧薬内服中)は16例(9%)、血圧高値(早朝収縮期血圧125mmHg以上)は32例(18%)であった。・179例の早朝収縮期血圧の解析では、転居前後に有意な変化は認められなかった(転居前113.9mmHg vs. 転居後114.4mmHg、p=0.403)。・高血圧(降圧薬内服)群では、早朝の収縮期血圧が転居前から転居後に約7mmHgの有意な低下を認め(130.3±13.0mmHg vs.122.9±11.9mmHg、p=0.018)、血圧高値(早朝収縮期血圧125mmHg以上)の群でも約5mmHgの有意な低下を認めた(135.9±9.9mmHg vs.131.3±14.4mmHg、p=0.020)。・年齢別解析において、60歳以上のサブグループ(18例)では早朝収縮期血圧が有意に低下した(125.7±17.4mmHg vs.119.5±14.7mmHg、p=0.032)。ただし、BMI 25以上の肥満者(30例)では、血圧が高いにもかかわらず転居前後で血圧に有意な変化はみられなかった。・高血圧群や血圧高値群において、早朝拡張期血圧(高血圧群で-5.4mmHg、p=0.003)および就寝前の収縮期血圧(高血圧群で-7.3mmHg、p=0.017)も転居後に有意な低下を認めた。・転居後の実測洗面室温は、日中・夜間ともに多くの家庭で15℃以上を保っており、夜間でも室温が下がりにくい良好な温熱環境が確認された。・アンケートによる主観的な寝室の温熱環境評価(寒さの感覚)も、高血圧群を中心に大幅に改善した一方で、肥満者では室温変化に対する主観的な影響が少ない傾向が示唆された。居住空間の変化、7mmHgの降圧を実現 中神氏は、循環器内科の立場から冬季の血圧変動の危険性に触れ、「モーニングサージの時間帯、とくに冬の朝は危険だと昔から言われている。血圧にはさまざまな急性リスク因子があるが、それらが重積して血圧が跳ね上がったときに心血管イベントが発生する。だからこそ、室温を適温に保つことは非常に重要な要素になる」と説明。また、転居後の洗面室温のデータを示しながら、ZEH-M仕様のマンションでは、夜間であってもそれほど室温が下がることがなかったことに触れ、アンケート結果からも主観的な寒さが大幅に改善している点を強調した。 一方で、対象者全体の解析で有意差が出なかった点については、「新築マンション購入者を対象としたため、平均年齢が42.5歳と若く全体の平均血圧も低かった。本研究で(全体での)差が出なかった要因の1つはここにある」と分析。BMI 25以上の肥満者で血圧や主観的温感の変化がみられなかったことに対しては、「肥満傾向の人は寒さへの耐性があるのではないか」と言及した。 最後に、高血圧群で認められた約7mmHgという降圧効果の大きさについて、「高血圧ガイドラインの生活習慣修正において、体重を1kg減らすと血圧が約1mmHg下がると言われている。今回のように室温によって収縮期血圧を7mmHg下げようと思うと、7kgも減量しなければならない計算になる。そのように考えると、住環境の室温を高く保つことによる今回の降圧効果は、非常に大きなインパクトを与える結果だ」と締めくくった。

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患者説明に使う資料や情報源は?~がん専門医500人に聞く

 情報過多の現代、医療情報も多種多様なレベルのものが世の中にあふれている。数十年前と比べ医師と患者の立場がフラットになりつつある昨今、患者自身の学習意欲もあいまって、診療時間中のコミュニケーションに費やす時間は増加傾向にある。診療の効率化が求められる中でも、医師にとっては患者に対し、患者自身の疾患に関する正しい知識を端的に提供したいというニーズは根強いのではないだろうか。 患者の視点に立った情報発信については、若尾 文彦氏(国立がん研究センターがん対策情報センター本部)率いる研究班*や「がん情報の均てん化を目指す会」**をはじめとする多くの団体が検証を重ねている。後者の団体が2024年11月5日に公表したディスカッション・ペーパー『がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~』では、がん患者がオンライン上で情報を入手・活用する際の課題が示された。とくに注目すべきは、患者が情報を入手・精査する際の相談先として、8割が「主治医」を挙げていた点である。*「厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業 _科学的根拠に基づくがん情報の提供及び均てん化に向けた 体制整備に資する研究」**がん患者が適切なタイミングで適切な情報にアクセスすることで、治療や周辺情報に関する知識を高め、適切に治療を受け、がんと共生できる環境を目指すことを目的に2024年4月に発足 そこでCareNet.comでは、患者から相談を受ける医師側が、日常診療でどのような情報源を案内しているかを明らかにするため、日常診療でがん患者の診察を行っている200床以上の施設に勤務する会員医師501人(呼吸器科、消化器科、外科、乳腺外科、血液内科、泌尿器科、腫瘍科)に対し、「医師のがん患者への情報提供方法」に関するアンケートを実施。患者への情報提供資料やその情報源、および活用理由について調査した。告知時の相談内容と使用媒体 まず、回答者の「勤務先施設の区分」(Q1)について、「地域がん診療連携拠点病院」所属の医師が最も多く、「都道府県がん診療連携拠点病院」「いずれも該当しない」と続いた。また、年代別では30~50代が多く、30~40代では「都道府県がん診療連携拠点病院」、その他の年代では「地域がん診療連携拠点病院」に所属する医師の割合が高かった。 「患者や家族への告知時、またはその後の診察で受けることが多い質問・相談」(Q2)については、「病気に関する情報」「病期と治療の選択肢」「予後・余命」が上位を占め、次いで「副作用や対処法」「検査・診断方法」となった。これらは施設区分による大きな差異はみられなかった。なお、前述のディスカッション・ペーパーにおいても、患者側が「十分な情報があった」と回答した項目とほぼ一致しており、患者自身の検索行動だけでなく、医師からの情報提供が一定の影響を与えている可能性が示唆される。 これらの相談に対し「利用する媒体やツール」(Q3)を尋ねたところ、「製薬企業が作成している患者向け資料説明」「自施設で作成している患者向け説明資料」「各学会発行のガイドライン(患者向け含む)」の利用率が高かった。一方で、回答者の約1/3が「手書きの図やメモ」を用いた説明を行っていると回答し、Web媒体系資料の活用頻度は総じて低い傾向にあった。診療科別では、血液内科において製薬企業作成資料の利用が突出しているほか、外科ではガイドラインの利用率が高いという特徴がみられた。 なお、Q3で「患者向けWeb媒体の資料」と回答した医師が利用するサイト(Q4)については、国立がん研究センターの「がん情報サービス」が最多であり、厚生労働省のホームページ、がん関連学会のサイトがそれに続いた。患者の情報収集への意識、医師による「相談支援センター」の活用実態 「病態や治療内容を調べる方法について患者から尋ねられた経験」(Q5)については、全体の60%が「ある」と回答しており、患者側から能動的に調べ方を問うケースは、やはり一定数存在することが伺える。 一方、無料・匿名で利用できる「がん相談支援センターの認知と活用」(Q6)については、ギャップが生じる結果となった。半数以上の医師が存在を認知しているものの、実際に自ら活用を促したことがある医師は2割弱にとどまった。この傾向は診療科や年代によってばらつきがみられ、とくに若年発症が多くサバイバー層も厚い血液内科において、医師からの利用勧奨が少ない結果となっている。これについては、医師による直接の勧奨ではなく、院内の医療連携を通じて看護師やメディカルソーシャルワーカーらが役割を担っている背景も推測される。また年代別では、20〜30代の若手医師の間で認知が浸透している一方、40代以降ではやや認知度が下がる傾向が確認された。 今回の調査では、このほかに自由記入として「患者への説明時に不安を感じること」「説明時に困っていること」「説明時に意識していること」についても回答を得ている。臨床現場におけるコミュニケーションの標準化やリソースの最適化に向け、示唆に富む具体的な声が集まったため、詳細はぜひアンケート結果のデータを参照されたい。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。がん患者への情報提供方法

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