サイト内検索|page:3

検索結果 合計:2928件 表示位置:41 - 60

41.

米国がん協会のガイドライン遵守はがんサバイバーの寿命を延ばす

 喫煙習慣のない肥満関連のがんサバイバーは、米国がん協会(ACS)が推奨する食事と身体活動に関するガイドラインを遵守することで死亡リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ACS疫学研究の主任科学者であるYing Wang氏らによるこの研究結果は、「Journal of the National Cancer Institute」に4月3日掲載された。 Wang氏は、「がんの診断がきっかけで、どうすれば生活習慣をより健康的にできるかを考える人は多い。多くのがんサバイバーは、長生きする可能性を高めるためにできる生活習慣の是正について知りたがっている」とACSのニュースリリースで述べている。 ACSは2022年にがんサバイバー向けの栄養と身体活動に関するガイドラインを改訂した。改訂ガイドラインでは、健康的な体重の維持、定期的な身体活動、健康的な食生活、飲酒の制限が強調されている。具体的な推奨事項は以下の通り。・毎週、中強度の身体活動を150~300分、または高強度の身体活動を70~150分、あるいはこれらを組み合わせて行うこと。・座って過ごす時間を減らすこと。・野菜、果物、全粒穀物を豊富に摂取すること。・赤肉や加工肉、甘い飲み物、高度に加工された食品、精製された穀物の摂取を制限するか、摂取しないこと。・飲酒量を制限、または禁酒すること。・健康的な体重を維持すること。 Wang氏らは今回、1992年に始まったがんリスクに関する長期研究(Cancer Prevention Study-II Nutrition Cohort)に参加した喫煙習慣のないがんサバイバー3,742人(平均年齢67.6歳)の生活習慣を分析し、ガイドラインの推奨事項の有効性を検討した。これらのがんサバイバーは、1992年から2002年の間に、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、乳がん、子宮がん、腎臓がん、甲状腺がん、神経系のがん、血液がんなどの肥満関連のがんの診断を受けていた。追跡は2020年まで行われた(追跡期間中央値15.6年)。がん診断後のBMI、身体活動、食生活、飲酒の4つの領域に関するガイドライン遵守度は、それぞれに0〜2点の合計0〜8点で評価された。 追跡期間中に2,430人が死亡していた。解析の結果、ガイドラインの遵守度のスコアが6〜8点だった人は、0〜3点だった人に比べて全死亡リスクが24%(ハザード比0.76、95%信頼区間0.68〜0.85)、心血管疾患による死亡リスクが33%(同0.67、0.54〜0.83)、がん特異的死亡リスクが21%(同0.79、0.64〜0.97)低いことが明らかになった。 領域別に見ると、BMIの遵守度が最も高い人(2点)では最も低い人(0点)に比べて、全死亡リスクが10%、心血管疾患による死亡リスクが27%低かったが、がん特異的死亡リスクについては統計学的に有意な差は認められなかった。同様に、身体活動の遵守度が最も高い人(2点)では最も低い人(0点)に比べて、全死亡リスクが22%、心血管疾患による死亡リスクが26%低かった。 Wang氏は、「これらの結果は、生活習慣を適切にすることが、がんサバイバーの生存に影響することを明示している」と述べている。

42.

週3の摂取エネルギー減、毎日のカロリー制限より効果大

 週7日のうち3日の摂取エネルギー量を8割減らし、残りの4日間は自由に摂取する「4:3断続的断食」という方法は、毎日の摂取エネルギー量を少しずつ減らすよりも、減量効果が大きいとする研究結果が報告された。米テネシー大学ノックスビル校のDanielle Ostendorf氏らの研究であり、詳細は「Annals of Internal Medicine」に4月1日掲載された。 Ostendorf氏は本研究の背景を、「毎日のカロリー制限を長期間続けるのは、多くの人にとって困難である」と説明。得られた結果を基に、「身体活動を組み込んだ総合的な減量プログラムの一環としての4:3断続的断食は、毎日のカロリー制限に比較して優れた減量効果をもたらし、新たな減量戦略となり得る」としている。 この研究は、BMIが27~46で年齢18~60歳の成人を対象とする、ランダム化比較試験として実施された。4:3の断続的断食(intermittent fasting)を行う「4:3IMF群」は、1週間のうち連続していない3日の摂取エネルギー量を80%制限し、残りの4日は自由摂取(制限なし)とした。一方、カロリー制限(daily caloric restriction)を連日行う「DCR群」は、1週間の総摂取エネルギー量が4:3IMF群と一致するように、毎日の摂取エネルギー量を34%カットすることとした。なお、両群ともに、グループ単位での行動変容サポートを受け、中強度の身体活動を週300分(米国の身体活動ガイドラインの推奨である150分の2倍)実施するよう指示された。 4:3IMF群84人、DCR群81人、計165人(ベースライン時点において、平均年齢42±9歳、女性73.9%、BMI34.1±4.4)のうち、125人が介入を終了した。ITT解析(介入意図からの逸脱や脱落も含めた事前割り付けどおりの解析)の結果、12カ月時点で4:3IMF群の減量幅はDCR群よりも有意に大きかった(平均差2.89kg〔95%信頼区間0.14~5.65kg〕、P=0.040)。 このほかにも、12カ月間で10%以上の減量を達成した割合は、DCR群は16%であったのに対して4:3IMF群は38%と多かった。また、DCR群は12カ月間の介入中に約30%が脱落したのに対して、4:3IMF群では19%と脱落が少なかった。さらに、4:3IMF群は全体的に摂取エネルギー量がより少なくなる傾向が見られ、血圧やコレステロール値、血糖値の改善も認められた。 研究者らは、「カロリー制限を毎日続けるのは難しく、その代替として断続的断食が注目を集めている。断続的断食の魅力は、カロリー計算が不要で、かつ摂取制限を連日続ける必要がないことだ。さらに、毎日のカロリー制限で生じることのある絶え間ない空腹感が、断続的断食では軽減される可能性がある」と話している。

43.

5月5日 熱中症対策の日【今日は何の日?】

【5月5日 熱中症対策の日】〔由来〕「立夏」(5月5日頃)の頃から熱中症患者の報道が出始めることから、早期の注意と熱中症予防にはこまめな水分補給が大切であることの啓発を目的に「熱中症ゼロへ」プロジェクト(日本気象協会)と日本コカ・コーラが共同で2014年に制定。関連コンテンツ熱中症、初動が大事!【救急診療の基礎知識】第226回 医療従事者の熱中症リスク、アンケートでみえてきたこと【バズった金曜日】番外編(1):熱中症の重症度分類【一目でわかる診療ビフォーアフター】3秒の自己診断でみつける脱水症【患者説明用スライド】最重症群「IV度」を追加、熱中症診療ガイドライン2024公開

44.

マバカムテンの適正使用に関するステートメントを公表/日本循環器学会

 日本循環器学会が閉塞性肥大型心筋症治療薬マバカムテンの適正使用に関するステートメント(第1版、2025年)を作成し、4月24日に同学会ホームページで公表した。マバカムテン(商品名:カムザイオス)は3月27日にブリストル マイヤーズ スクイブが製造販売承認を取得しており、年内の国内販売が見込まれている。 肥大型心筋症におけるマバカムテンの位置付けは、2025年3月に発刊された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』の治療フローチャート(p.130)や推奨表(閉塞性肥大型心筋症の圧較差軽減のための治療薬の推奨とエビデンスレベル、p.131)にも、対象患者や処方目的などが明記されているが、投与対象者の選定や用量調整、中止/休薬の基準に注意を要することから、ステートメントにてマバカムテンを導入できる施設要件と医師要件が示された。<マバカムテンを安全に導入するための体制>1.施設要件以下の条件を満たす施設で導入および維持量が決定するまで管理を行うこと(1)日本循環器学会認定循環器研修施設(2)心臓超音波検査を専門とする循環器専門医が在籍する施設(日本心エコー図学会認定心エコー図専門医もしくは日本超音波医学会認定超音波専門医を持つ循環器専門医が在籍することが好ましい)で、心臓超音波検査を4週おきに行い、肥大型心筋症評価に必要な検査(左室駆出率および安静時およびバルサルバ負荷時の圧較差)を適切に実施できること(3)年間20例以上の肥大型心筋症患者を診療している施設(4)カムザイオスカプセル E-Learningを受講した医師が在籍していること2.医師要件以下の条件を満たす医師により導入および維持量が決定するまでの管理を行うこと(1)最新の診断基準に則り診断された肥大型心筋症患者を継続的に5例/年以上診療している医師(2)循環器専門医の資格を有していること(3)カムザイオスカプセル E-Learningを受講していること維持量が決定し、病状の安定している患者への継続処方については、患者さんの利便性を考慮して、後方病院(循環器研修関連施設もしくは循環器専門医資格を有する医師の在籍するクリニック、処方する医師はカムザイオスカプセル E-Learningを受講済みであることは必須)でも可である。また、増量中の処方も、通院が頻回になるため、後方病院(前記)でも可とする。しかし、増量、減量、中止の判断に重要な心エコー検査は、循環器研修施設で行う。維持量の変更もあるために、導入した施設は、可能なら定期的モニタリングと臨床経過の追跡調査が可能な状態を維持すること。

45.

無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?【とことん極める!腎盂腎炎】第15回

無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?Teaching point(1)無症候性細菌尿を有している患者は意外と多い(2)無症候性細菌尿は一部の例外を除けば治療不要である(3)無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は難しいため総合内科医/総合診療医の腕の見せ所であるはじめに本連載をここまで読み進めた読者の方は、尿路感染症をマスターしつつあると思うが、そんな「尿路感染症マスター」でも無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別をすることは容易ではない。特殊なセッティングを除けば、そもそも無症状の患者の尿培養を採取することがないため、われわれは一般的に熱源精査の過程で無症候性細菌尿かどうかを判断しなければならないからである。尿路感染症は除外診断(第1回:問診参照)であるため、発熱患者が膿尿や細菌尿を呈していたとしても尿路感染症と安易に診断せず、ほかに熱源がないか病歴・身体所見をもとに検索し、場合によっては血液検査・画像検査を組み合わせて診断することが大切である。このように無症候性細菌尿と尿路感染症の区別は一筋縄ではいかないが、本項で無症候性細菌尿という概念について詳しく知り、その誤解をなくすことで、少しでも区別しやすくなっていただくことを目標とする。1.無症候性細菌尿とは無症候性細菌尿とはその名の通り、「尿路感染症の症状がないにもかかわらず細菌尿を呈している状態」である。米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)のガイドライン1)では105CFU/mLの細菌数が尿から検出されることが、細菌尿の条件として挙げられている(厳密にいえば、女性の場合は2回連続で検出されなければならない)。無症候性細菌尿を有している割合(表)は加齢とともに上昇し、女性の場合、閉経前は1〜5%と低値だが、閉経後は2.8〜8.6%、70歳以上に限定すると10.8〜16%、施設入所者に至っては25〜50%と非常に高値となる。男性の場合も同様で、若年の場合は極めてまれであるが、70歳以上に限定すると3.6〜19%、施設入所者では15〜50%となり、女性とほぼ同頻度となることが知られている1)。また糖尿病があると無症候性細菌尿を呈する頻度がさらに上昇するとされている。さらに膀胱留置カテーテルを使用中の場合、細菌尿を呈する割合は1日3〜5%ずつ上昇するため、1ヵ月間留置していると細菌尿はほぼ必発となることも知られている2)。表 無症候性細菌尿を有する頻度画像を拡大するつまり「何も症状はないがもともと細菌尿を有している患者」は意外と多いのである。熱源精査を行う際はこれを踏まえ、「もともと無症候性細菌尿を有していた人が何か別の感染症に罹患している」のか「膀胱刺激徴候やCVA叩打痛のない腎盂腎炎を発症している」のか毎回頭を悩ませなければならない。とくに入院中の高齢者に関しては、尿路感染症と診断されたうちの40%程度が不適切な診断だったという研究3)もあり、ここの区別は総合内科医/総合診療医の腕の見せ所といえる。2.無症候性細菌尿と尿検査結論からいうと、尿検査で無症候性細菌尿と尿路感染症を区別することはできない。「第5回:尿検体の迅速検査」に記載があるように、尿中白血球や尿中亜硝酸塩は尿中に白血球や腸内細菌が存在すれば陽性になるため、無症候性細菌尿であっても、尿路感染症であっても同じ結果になってしまうのである。亜硝酸塩が陽性とならない細菌(腸球菌など)の存在や亜硝酸塩の偽陽性(ビリルビン高値や試験紙の空気への曝露)にも注意が必要である。「膿尿もあれば無症候性細菌尿ではなく尿路感染症を疑う」という誤解も多いが、実際はそんなことはなく、たとえば糖尿病患者では無症候性細菌尿の80%で膿尿も認めていたという報告がある4)。つまり、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることがあり、それが尿路感染症の診断を難しくしているのである。高齢者の発熱で尿中白血球と尿中亜硝酸塩が陽性のため腎盂腎炎として治療開始されたが、総合内科/総合診療科入院後に偽痛風や蜂窩織炎と診断される…というパターンは比較的よく経験する。尿検査所見に飛びつき、思考停止になってしまわないように注意したい。3.無症候性細菌尿の治療の原則無症候性細菌尿の治療は原則として必要ない。抗菌薬適正使用の観点からも「かぜに抗菌薬を投与しない」の次に重要なのが「無症候性細菌尿は治療しない」であると考えられている5)。無症候性細菌尿を治療しても尿路感染症のリスクは減らすことができず、それどころか中長期的には尿路感染症のリスクが上昇するとされている6,7)。また下痢や皮疹などの副作用のリスクは当然上昇し、耐性菌の出現にも関与することが知られている1,7)。不必要どころか害になる可能性があるため、原則として無症候性細菌尿は治療しないということをぜひ覚えていただきたい。4.無症候性細菌尿の例外的な治療適応何事も原則を知ったうえで例外を知ることが大切である。この項では無症候性細菌尿でも治療すべき状況を概説する。<妊婦>妊婦が無症候性細菌尿を有する割合は2〜15%とされており8)、治療を行うことで腎盂腎炎への進展リスクや、低出生体重児のリスクが有意に低下することがわかっている9)。このため妊婦ではスクリーニングで無症候性細菌尿があった場合、例外的に治療をすべきとされている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに決定すればよいが、ST合剤を避けてアモキシシリンやセファレキシンを選択するのが望ましいと考える。治療期間は4〜7日間が推奨されている1)。治療閾値は無症候性細菌尿の定義通り、尿培養から尿路感染症の起炎菌が105CFU/mL以上検出された場合となっているが、105CFU/mL未満でも治療している施設も往々にしてあると思われるためローカルルールを確認していただきたい。なお米国予防医学専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force:USPSTF)は、妊婦の尿培養からGroup B Streptococcus(S. agalactiae)が検出された場合、S. agalactiaeの膣内定着が示唆され、胎児への感染を予防するため例外的に104CFU/mLでも治療適応としていることに注意が必要である10)。<泌尿器科処置前>厳密にいうと、「粘膜の損傷や出血を伴うような泌尿器科処置前」である。これは無症候性細菌尿の治療というより、術前の抗菌薬予防投与と考えたほうがイメージしやすいだろう。経尿道的前立腺切除術や経尿道的膀胱腫瘍切除術などの術前にスクリーニングを行い、無症候性細菌尿がある場合は術後感染症の予防のため治療が推奨されている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに、できるだけ狭域なものを選択する。治療期間は術後創部感染の予防と同様に、手術の30〜60分前に初回投与し、当日で終了すればよい1)。なお膀胱鏡検査だけの場合や、膀胱がんに対するBCG注入療法のみの場合は粘膜の損傷や出血リスクが低く、感染予防効果が乏しいため無症候性細菌尿の治療は不要と考えられる1,11)。意外かもしれないが無症候性細菌尿の治療適応はこの2つだけである。厳密にいうと「腎移植直後の無症候性細菌尿の治療」などは意見が分かれるところであるが、少なくとも腎移植後2ヵ月以上経過した患者に対する無症候性細菌尿の治療効果はないとされる12)。さすがに腎移植後2ヵ月以内に患者を外来フォローすることはほぼないと思われるため、総合内科医/総合診療医が覚えておくべきなのは上述の2つだけであるといってよいだろう。5.無症候性細菌尿と尿路感染症の区別繰り返しになるが、熱源精査の過程で発見された無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は一筋縄ではいかない。とくに後期高齢者ではもともと無症候性細菌尿を有している率が高くなり、認知症などがあれば真の尿路感染症のときでも発熱以外に症状が乏しいこともあるため、両者の区別がより一層難しくなる。区別に有用な単一の検査も存在しないため、病歴・身体所見・血液検査所見・画像所見などを組み合わせ総合的な評価を行う必要があるといえる。大切なことは尿路感染症と診断する前にほかの熱源をできるだけ否定するということである。無症候性細菌尿を治療してしまう動機としては以下13)のようなものがあげられている。(1)臨床像を考慮せず検査異常を治療するという誤った考え(2)過剰な不安や警戒心という心理的要因(3)適切な意思決定を妨げる組織文化(2)や(3)に関しては状態悪化時のバックアップ体制などにも左右されると考えられるため、個人でなく科全体や病院全体で取り組んでいかなければならないテーマだといえる。1)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:1611-1615.2)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.3)Woodford HJ, George J. J Am Geriatr Soc. 2009;57:107-114.4)Zhanel GG, et al. Clin Infect Dis. 1995;21:316-322.5)Choosing Wisely. Infectious Diseases Society of America : Five Things Physicians and Patients Should Question. 2015.(Last reviewed 2021.)6)Zalmanovici Trestioreanu A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;4:CD009534.7)Cai T, et al. Clin Infect Dis. 55:771-777.8)Smaill FM, Vazquez JC. Cochrane Database Syst Rev. 2019;CD000490.9)Henderson JT, et al. JAMA. 2019;322:1195-1205.10)US Preventive Services Task Force. JAMA. 2019;322:1188-1194.11)Herr HW. BJU Int. 2012;110:E658-660.12)Coussement J, et al. Clin Microbiol Infect. 2021;27:398-405.13)Eyer MM, et al. J Hosp Infect. 2016;93:297-303.

46.

エサキセレノンは、高齢のコントロール不良高血圧患者にも有効(EXCITE-HTサブ解析)/日本循環器学会

 高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。 「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。 本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg 群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg 群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-28.3%vs.−38.1% 65歳以上:-46.8%vs.-45.0%【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL 65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。 エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 有害事象:35.1%vs.37.6% 試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:4.4%vs.14.0% 65歳以上:1.9%vs.9.5%【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:2.2%vs.0.8% 65歳以上:1.9%vs.0.6% 苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。(ケアネット 古賀 公子)■参考文献はこちら1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.そのほかのJCS2025記事はこちら

47.

撤回論文がメタ解析やガイドラインに及ぼす影響/BMJ

 撤回された臨床試験論文は、エビデンスの統合、臨床診療ガイドライン、エビデンスに基づく臨床診療を含むエビデンスエコシステムに大きな影響を与えることを、中国・Second Military Medical UniversityのChang Xu氏らが、前方引用検索に基づく後ろ向きコホート研究「VITALITY Study I」の結果で示した。エビデンスに基づく医療において、信頼できる意思決定は、信頼できるエビデンスエコシステムの確立に依存し、エビデンスの生成と統合はこのようなエコシステムの確立に重要な要素である。過去10年間で問題のある研究や撤回された研究の数が増加しており、科学研究のデータや結論の信頼性に対し深刻な懸念が高まっている。著者は、「エビデンスを生成、統合および利用する者はこの問題に注意する必要があり、このような潜在的な汚染(contamination)を容易に特定し是正できる実現可能なアプローチが必要である」とまとめている。BMJ誌2025年4月23日号掲載報告。Retraction Watchで撤回論文を特定、医療のエビデンスエコシステムに与える影響を検証 研究グループは、2024年11月5日にRetraction Watchデータベースを用いて何らかの理由で撤回されたヒトを対象とした無作為化比較試験を検索した。その後、Google ScholarおよびScopusを用いて前方引用検索を行い、撤回された臨床試験論文を定量的に組み込んだエビデンス統合研究(2024年11月21日時点)を特定した。 2つの研究者グループが独立してデータを抽出し、撤回された論文を除外した後にメタ解析の結果を更新した。 統合効果の方向性および/またはp値の有意性が変化したメタ解析の割合を推定するとともに、一般化線形混合モデルを用い組み入れられた研究数と影響との関連をオッズ比および95%信頼区間(CI)で示した。また、歪められたエビデンスが臨床診療ガイドラインに与える影響についても、引用文献検索に基づいて調査した。撤回論文で結論が歪められたエビデンスをガイドラインで利用 検索の結果、撤回された臨床試験論文1,330件と、それらを定量的に統合していたシステマティックレビュー847件が特定され、再現可能なメタ解析は合計3,902件であった。 クラスタリング効果を考慮した後、撤回された臨床試験論文を除外すると、統合効果の方向性の変化が8.4%(95%CI:6.8~10.1)、統計学的有意性の変化が16.0%(14.2~17.9)、方向性と有意性の両方の変化が3.9%(2.5~5.2)、効果量の50%以上の変化が15.7%(13.5~17.9)認められた。 組み入れられた研究数と結果への影響の間には明らかな非線形の相関が認められ、研究数が少ないほど影響が大きいことが示された(例:研究数が10件vs.20件以上で、方向性の変化のオッズ比は2.63[95%CI:1.29~5.38]、p<0.001)。 撤回された臨床試験論文によって結論が歪められていた68件のシステマティックレビューのエビデンスが、157のガイドラインで用いられていた。

48.

国内DOAC研究が色濃く反映!肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症ガイドライン改訂/日本循環器学会

 『2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症ガイドライン』が3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会の会期中に発刊され、本学術集会プログラム「ガイドラインに学ぶ2」において田村 雄一氏(国際医療福祉大学医学部 循環器内科学 教授/国際医療福祉大学三田病院 肺高血圧症センター)が改訂点を解説した。本稿では肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の項について触れる。DOACの国内エビデンスの功績、ガイドラインへ反映 静脈血栓塞栓症(VTE)と肺高血圧症(PH)の治療には、直接経口抗凝固薬(DOAC)の使用や急性期から慢性期疾患へ移行していくことに留意しながら患者評価を行う点が共通している。そのため、今回よりVTEの慢性期疾患への移行についての注意喚起のために、「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」「肺高血圧症治療ガイドライン」「慢性肺動脈血栓塞栓症に対するballoon pulmonary angioplastyの適応と実施法に関するステートメント」の3つが統合された。 肺血栓塞栓症(PTE)・深部静脈血栓症(DVT)のガイドライン改訂は2018年3月以来の7年ぶりで、当時は抗凝固療法におけるDOACのエビデンスが不足していたが、この7年の歳月を経て、DOACを用いたVTEの治療は飛躍的に進歩。DOAC単独での外来治療、誘因のないVTEや担がん患者の管理、長期治療などの国内の結果が明らかになり、改訂に大きく反映された。田村氏は、「本ガイドラインは、循環器専門医のみならず、呼吸器科、膠原病内科など多彩な診療科の協力の基に作成された。本領域は日本からのエビデンスが多いため、本邦独自の診断・治療アルゴリズムと推奨を検討した」とコメントした。VTE予後予測、PESIスコアや誘因因子評価を推奨 四肢の深筋膜より深部を走行する深部静脈に生じた血栓症を示すDVTと深部静脈血栓が遊離し肺動脈へ流入することで発症するPTEを、一連の疾患群と捉えてVTEと総称する。これらの予後に関しては推奨表2「VTEの予後に関する推奨とエビデンスレベル」(p.20)に示され、とくに急性期PTEでは治療方針の検討のために、近年普及している肺塞栓症重症度指数(PESI)ならびにsPESIを用いた患者層別化が推奨された(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)。また、国内の観察研究JAVA(Japan VTE Treatment Registry)やCOMMAND VTE Registryに基づくVTE再発予後についてもガイドライン内に示されている(p.21-22)。前者の研究によると、ワルファリン治療中のVTE再発率は2.8例/100患者・年であったが、治療終了後には8.1例/100患者・年に増加したという。そして、後者の研究からは、VTE診断後1年時点での再発率は、一過性の誘因のある患者群では4.6%、誘因のない患者群では3.1%、活動性のがんの患者群では11.8%であることが明らかになった。PTE診断と治療、判断に悩む中リスク群を拾えるように 急性PTEの診断については、「低血圧やショックがみられる場合には早期にヘパリン投与を考慮する、検査前臨床的確率を推定する際にWellsスコアあるいはジュネーブスコアを用いる、ルールアウトにはDダイマー測定を行う、最終的な確定診断にゴールドスタンダードの造影CT検査/緊急時の心エコー評価、ECMO導入後診断は肺動脈造影も考慮する(p.32)」と述べた。重症度別治療戦略については、前ガイドラインで曖昧であった2つの指標を挙げ、「右心機能不全では(1)右室/左室比が0.9 or 1.0以上、(2)右室自由壁運動低下、(3)三尖弁逆流血流速上昇を、心臓バイオマーカーについてはトロポニンI/TやBNP/NT-proBNPの評価を明確化したことで、判断が難しい中リスク群における血栓溶解療法と抗凝固療法との切り分けができるフローを作成した(p.36)」と解説。治療開始後の血栓溶解療法に関する推奨においては、「循環動態の悪化徴候がみられた場合には、血栓溶解療法を考慮する」点が追記(p.39)されたことにも触れた。 PTEの治療については、DOAC3剤の大規模臨床試験によるエビデンスが多数そろったことでDOACによるVTE治療は推奨クラスI、エビデンスレベルAが示され(p.40)、「低リスク群で“入院理由がない、家族や社会的サポートがある、医療機関の受診が容易である”といった条件がそろえば、DOACによる外来治療も可能となったことも非常に大きな改訂点」と説明した。DVT治療、中枢型と末梢型でアプローチに違い DVTにおいてもPTE同様に検査前臨床的確率の推定や下肢静脈超音波検査/造影CT検査を実施するが、今回の改訂ポイントは「中枢性・末梢性で治療アプローチが異なる点を明確に定義した」ことだと同氏は説明。「中枢性DVTの場合は初期(0~7日)または維持治療期(8日~3ヵ月)に関しては、PTE同様にワルファリンとDOACの使用とともに、すべての中枢性DVTに対して、抗凝固薬の禁忌や継続困難な出血がない場合には少なくとも3ヵ月の抗凝固療法を行うことが推奨されている(いずれも推奨クラスI、エビデンスレベルA、p.47)。一方で、末梢型DVTにおいては、「画一的な抗凝固療法を推奨するものではなく、症候性で治療を行う場合には3ヵ月までの治療を原則とし、無症候性でも活動性がん合併の患者においてはリスクベネフィットを考慮しながらの抗凝固療法が推奨される(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)」と説明した。カテ治療、血栓溶解薬併用と非併用に大別 急性PTEに対するカテーテル治療は、末梢でのコントロールが難渋する例、国内でのデバイスラグなども考慮したうえで、血栓溶解薬併用と非併用に大別している。非併用について、「全身血栓溶解療法が禁忌、無効あるいは抗凝固療法禁忌の高リスクPTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する。また、抗凝固療法により病態が悪化し、全身血栓溶解療法が禁忌の中リスク急性PTEに対し、熟練した術者、専門施設にて血栓溶解薬非併用カテーテル治療を行うことを考慮する(いずれも推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)」と示されている。 このほか、冒頭で触れた慢性疾患への移行については「慢性期疾患患者が急性期VTEを発症することもあるが、PTEが血栓後症候群(PTS)へ、DVTがPTS(血栓後症候群)へ移行するリスクを念頭に治療を行い、発症3~6ヵ月後の評価の必要性を提示していること(推奨表3、p.22)が示された。またCOVID-19での血栓症として、中等症I以下では画一的な抗凝固療法は推奨しない(推奨表1:推奨クラスIII[No benefit]、エビデンスレベルB)ことについて触れた。 最後に同氏は「誘因のないVTEや持続性の誘因によるVTEに対する抗凝固療法の長期投与の際に、未承認ではあるが長期的なリスクベネフィットを考慮したDOACの減量投与などを、今後の課題として検討していきたい」とコメントした。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

49.

第261回 ほぼほぼ生き残り確定の零売薬局(後編) 憲法違反の指摘や「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」導入の提案など零売規制への反対相次ぐ

衆議院厚生委員会の附帯決議で法律の方針が180度転換こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。前回、久しぶりに零売について書いたので、以前利用した零売薬局を久しぶりに訪れてみました(「第127回 アマゾン処方薬ネット販売と零売薬局、デジタルとアナログ、その落差と共通点(後編)」参照)。以前と同様、腰痛用にロコアテープを購入、ついでに「零売薬局が規制でなくなる、と聞いたのですが?」と店頭の薬剤師(女性)に聞いてみました。すると、「そういう話は我々も聞いていますが、法律やルールに則ってやっていますので、なくならないと思います。実際、ニーズも高く都内の店舗もここ数年で増やしていますし」との答え。国会での細かな議論については知らないようでしたが、最前線の薬剤師に規制への危機感は感じられませんでした。さて、厚生労働省が今回の薬機法等改正法案で「原則禁止」にしようと目論んでいた零売が、衆議院厚生委員会において「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」といった附帯決議が採択されたことで法律の方針が180度転換、生き残りに向けて光が見えてきました。その背景にはいったい何があったのでしょうか。「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と立民議員まず考えられるのは「憲法違反」の可能性です。前回書いたように、今年1月、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしました。原告の薬剤師の一人は記者会見で、裁判で「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。担当弁護士も「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」と説明しました。また、4月11日付の薬事日報によれば、4月9日の衆院厚労委員会において立憲民主党の早稲田 夕季議員は、零売は「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」と訴えるとともに、零売に関する行政訴訟を5月に控えていることを踏まえ、「法改正が将来にわたり違憲のそしりを受けないか慎重に審議すべき」と話したそうです。こうした意見に対して、福岡 資麿厚生労働相は「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」、「施行に向けて関係者の意見を聞きながら、省令やガイドライン等の策定により周知を図りたい」、「零売は国民の緊急時に医薬品へのアクセスを確保するために必要な制度だ。改正法が成立した際にはこの考えのもとで運用し、求められる対応も分かりやすい形で示したい」などと答えたとのことです。法案提出時の「原則禁止」の“勢い”が完全に削がれた答弁と言えます。うがった見方をすれば、法案提出後に内閣法制局に再確認して、「憲法違反」の可能性を指摘されたのかもしれません。厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは2005年厚労省が処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売、いわゆる零売を公式に認めたのは、2005年とそんなに昔のことではありません。それ以前は法令上での明確な規定がなく、一部薬局では医療用医薬品の販売がごく普通に行われていました。零売を容認するきっかけとなったのが2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「処方箋医薬品以外」の医療用医薬品の薬局での販売を条件付きで認める通知を発出しました。同年3月30日の厚労省から発出された「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号 厚生労働省医薬食品局長通知)は、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」は、「処方せんに基づく薬剤の交付を原則」とするものであるが、「一般用医薬品」の販売による対応を考慮したにもかかわらず、「やむを得ず販売せざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で」、薬剤師が患者に対面販売できるとしました。零売に当たっては、1)必要最小限の数量に限定、2)調剤室での保管と分割、3)販売記録の作成、4)薬歴管理の実施、5)薬剤師による対面販売――の順守も求められることになりました。2005年4月施行の薬事法改正は、処方箋医薬品の零売を防ぐことも目的の一つでした。それまでの「要指示医薬品」と、全ての注射剤、麻薬、向精神薬など、医療用医薬の約半分以上が新たに「処方箋医薬品」に分類されたわけですが、逆に使用経験が豊富だったり副作用リスクが少なかったりなど、比較的安全性が高い残りの医薬品が「処方箋医薬品以外の医薬品」(ただし原則処方箋必要)に分類され、零売可能となったわけです。現在、日本で使われる医療用医薬品は約1万5,000種類あり、このうち半分の約7,500種類は処方箋なしでの零売が認められています。鎮痛剤、抗アレルギー薬、胃腸薬、便秘薬、ステロイド塗布剤、水虫薬など、コモンディジーズの薬剤が中心で、抗生剤や注射剤はありません。また、比較的新しい、薬効が強めの薬剤も含まれません(H2ブロッカーはあるがPPIはない等)。その後、通知によって不適切な広告・販売等で零売を行う薬局を牽制2005年の通知の内容は2014年3月18日に厚労省から発出された「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 厚生労働省医薬食品局長通知)に引き継がれました。しかし、本通知の趣旨を逸脱した不適切な広告・販売方法が散見されるとして、2022年8月5日、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)が発出され、「処方箋がなくても買える」、「病院や診療所に行かなくても買える」といった不適切な広告・販売方法等で零売を行う薬局を問題視、牽制してきました。その延長線にあるのが今回の薬機法等改正案というわけです。とはいうものの、そもそも明確な法規制がなく、昔から“既得権”として行われ、薬の販売方法として一定の役割を担っていた零売を、原則禁止としてしまうのは無理があるように感じます。厚労省もそのことは重々わかっていたからこそ、これまで法律ではなく通知による“緩い”コントロールに留めてきたのでしょう。重大な健康被害があったわけでもないのに、法規制は明らかに“行き過ぎ”の感は否めません。今年に入って零売規制への批判高まる零売生き残りの光が見えてきたもう一つの背景として考えられるのは、マスコミなど世間からの批判の声です。薬機法等改正案が国会に提出される直前の2月5日、日本総研は調査部主任研究員の成瀬 道紀氏によるレポート「零売規制の妥当性を問う」を公表しました。同レポートは、「零売は、病院や診療所を受診せずとも処方箋医薬品以外の医療用医薬品を入手でき、患者にとって利点がある。とりわけ、処方箋医薬品以外の医療用医薬品は、OTC医薬品(市販薬)よりも費用対効果が高い製品が多い」とそのメリットを説く一方、「零売は販売時に医師の関与がないため、薬剤師による患者指導が不十分な場合は、患者の健康に悪影響を与え得る懸念が指摘されている」と問題点にも言及、その上で、「今求められるのは、第1に、薬剤師の職能の尊重である。もちろん、薬剤師自身が自己変革に取り組む努力も不可欠である。第2に、医療用医薬品というわが国特有の区分を廃止してダブルスタンダードを解消し、処方箋医薬品以外の医薬品はOTC医薬品として薬局で薬剤師が堂々と販売できるようにすることである」と提言しました。ちなみに、日本総研の成瀬氏は3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会に公述人として出席、「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べています。「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」3月17日付の日本経済新聞朝刊も、「自分の病は自分でも診よう」と題する大林 尚編集委員の記事を掲載、処方箋医薬品以外の医療用医薬品(いわゆる現在、零売可能な医薬品)について、「7千種類の類似薬は原則、処方箋不要にしてOTC薬にひっくるめる」という成瀬氏の改革案を紹介しています。それによって、「患者は安くて効き目のよい薬を身近に入手できる。これは、類似薬を健康保険の適用から外す保険制度改革と表裏の関係にある。最大の効用は年間1兆円の保険医療費の節約だ。医師はその資格にふさわしい病の治療に専念し、患者は処方箋目的の『お薬受診』をやめる。医療機関に入る初診・再診料や処方箋料、また調剤薬局に取られる技術料のムダも省ける」と書くとともに、「ところが厚労省は供給側重視を鮮明にしている。類似薬に処方箋を求める規制について行政指導から法で縛る制度への格上げをもくろみ、今国会に関連法案を出した。与野党を問わず、政治家がこの規制強化の不合理さを主体的に理解すれば法案修正は可能である。硬い岩盤をうがつべく、立法府の力をみせてほしい」と、零売規制が時代に逆行した政策だと指摘しています。さらにAERA DIGITALも3月20日、「『零売薬局』なら処方箋ナシで『病院の薬』が買える ニーズがあるのになぜ『規制強化』が進むのか」と題する記事を配信しています。同記事は零売が規制強化に向かう現状をリポートするとともに、「零売という言葉は明治時代には存在し、当時は薬局間での薬の売買の方法だった」という歴史についても言及、金城学院大薬学部の大嶋 耐之教授の「昔の薬剤師は、街のお医者さん的な存在で、薬だけではなく病気や健康に関するさまざまな相談を聞いてアドバイスをしてくれた。利用者のセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てすること)にも貢献していたんです。そうした関係が成り立っているなら、零売は『患者にとって良いこと』とも言えると思います」というコメントを紹介、「規制強化の動きの一方で、零売のメリットを訴える声もある。▽医療費削減につながる▽病院で処方される薬より安い場合があり、経済的負担が軽減する▽どうしても医療機関に行けないときに助けてもらえる、など」と零売擁護を訴えています。日本総研は「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」を提案こう見てくると、零売規制は、単に「薬局に処方箋医薬品以外の医療用医薬品を売らせるかどうか」という単純な問題ではなく、医師や薬剤師の役割分担、国民のセルフメディケーションの意識改革、無駄な医療費削減等にも関わる大きな問題だということがわかります。ことは、OTC類似薬の保険適用外しとも関連してきます。前述したように日本総研の成瀬氏は、レポート「零売規制の妥当性を問う」で医療用医薬品という日本特有の区分を廃止し、処方箋医薬品以外はOTC医薬品とする諸外国と同様のシンプルな制度とすることを提案、「医療用医薬品という区分が廃止され、ダブルスタンダードが解消されれば、零売という概念そのものがなくなる」と書いています。もっとも、それが実現した時に重要な役割を担うはずの薬剤師の団体、日本薬剤師会自体は薬機法等改正法案に賛成し、零売にも否定的で弱腰な点が気になりますが……。「処方箋医薬品以外はOTC医薬品とするシンプルな制度」は一見大胆なようですが、とても理にかなった提案だと思います。薬機法等改正案成立後の政省令や通知類、そして社会保障改革に関する自民党、公明党、日本維新の会の3党協議で検討が進められるOTC類似薬の保険外しなど(「第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット」参照)、医薬品を巡る今後の議論の行方に注目したいと思います。

50.

AYA世代がん治療後の妊孕性予測モデル構築に向け、クラウドファンディング実施/大阪急性期・総合医療センター

 「小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2024年12月改訂 第2版」の外部評価委員を務めた森重 健一郎氏(大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター生殖医療センター長)が、AYA世代の妊孕性予測ツールを開発する目的でクラウドファンディングを開始しており、5月16日まで寄付を募集している。AYA世代への妊孕性介入の課題 現在、国が進める「第4期がん対策推進基本計画」では目標3本柱として、1)がん予防、2)がん医療、3)がんとの共生を掲げており、2)がん医療のがん医療提供体制において妊孕性温存療法の対策の推進が触れられている。厚生労働省の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」1)に携わる森重氏は、「がん医療の進歩により、AYA世代(思春期・若年成人、15~39歳)のがんサバイバー数は増加傾向にある。一方で、AYA世代の患者やその家族には、治療開始のタイミングで卵子の温存までは考えが及ばないことが多いため、医療者による妊孕性温存法の選択に関する情報提供が求められる。彼女らの将来の選択肢を残すためにも、AYA世代の罹患率が高い乳がん、造血器腫瘍、希少がんを扱う医療者への周知はもちろんだが、高齢化が進んだ地方ではAYA世代のがん患者への対応が不十分なところもあり、格差の解消が必要」とコメント。妊孕性温存法には患者の環境や年代に応じて3つの選択肢(胚[受精卵]凍結、未受精卵子凍結、卵巣組織凍結)があり、2021年4月より補助制度1)がスタートしている。生殖医療の対象要件をバイオマーカーで解決させたい この補助制度における対象者の選定については、ガイドライン第2版の内容が反映されているが、そこにはエビデンス不足による課題が残っていると同氏は話した。「米国臨床腫瘍学会や欧州臨床腫瘍学会のガイドラインに基づいて、国内のガイドライン第2版でも女性患者の場合“無月経の発生をもとに卵巣機能不全”と定義して対象患者の選定基準を設けているが、この根拠は薄弱で評価方法については検討の余地がある。対象患者の要件をより適正にするためには、卵巣機能低下を正確な指標で評価する必要がある」と述べ、「そこで、妊孕性の正確なパラメータとして有用とされる抗ミュラー管ホルモン(AMH)*を用いた前向きコホート研究を行い、そのための寄付を募集している」とクラウドファンディングを始めた経緯を説明した。研究実施体制としては、大阪府のみならず、全国のがん診療連携拠点病院やがん患者妊孕性温存治療費助成事業指定病院に協力を仰ぎ、森重氏らが研究統括として、データ管理や解析を担っている。*現在、既婚・パートナーがいる不妊症患者については保険適用だが、未婚のAYA世代には保険適用外。 クラウドファンディングで得られる寄付金は検査費用、データ分析や予測モデルの作成、Webツール開発などの費用の一部に充てる予定で、「AYA世代のがん患者さんが将来の赤ちゃんを諦めずに済むよう、妊孕性について十分納得してがん治療に取り組むことができるような社会創生のために研究を行っている。1人でも多くの方々にプロジェクトの意義を知ってもらい、参加いただきたい」と話した。【プロジェクト概要】・目標金額:650万円・募集期間:5月16日(金)午後11時まで・プロジェクトの目的:AYA世代女性がん患者の治療後の卵巣機能評価に関する前向きコホート研究を実施し、AMH、FSH(卵胞刺激ホルモン)、月経の有無などから判断される卵巣機能不全の予測モデルを構築し、補助医療の対象者の適正化などを図る・寄付金の使途:AMH/FSH/胞状卵胞数測定費用、データ分析、予測モデルの作成、Webツールの開発の費用、クラウドファンディング手数料など

51.

日本と海外の診療ガイドライン比較を効率化するプロンプト【誰でも使えるChatGPT】第3回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。前回は、ChatGPTを「病態把握と鑑別診断」のブレーンストーミング・パートナーとして活用するプロンプトをご紹介しました。患者さんの症状から考えられる疾患をリストアップさせ、見落としを防ぐ一助とする使い方でしたが、診断プロセスを検討する際のお役に立てたでしょうか。さて、シリーズ第3回となる今回は、診断後の「治療方針決定」に関わる場面での活用法です。とくに「日本と海外の診療ガイドラインの違い」を、効率的に把握するためのプロンプトをご紹介します。ご存じのとおり、多くの疾患には国内外で作成された診療ガイドラインが存在します。日本のガイドラインは、国内の保険制度や医療実態、日本人におけるエビデンスに基づいて最適化されていますが、一方で、海外のガイドライン、とくに欧米のものは、新薬の承認状況や治療アルゴリズムの考え方に違いが見られることがあります。最新の国際的な治療動向を把握し、自らの診療の参考にしたり、患者さんへの説明に役立てたりするためには、これらのガイドラインを比較検討することが非常に有益です。しかし、複数の言語で書かれた長大なガイドラインを読み込み、比較点を抽出するのは、多忙な日常診療の中ではなかなか骨の折れる作業ですよね。そこで役立つのが、今回のプロンプトです。関連サイトChatGPT(疾患名)における日本と海外(例:米国、欧州など)の診療ガイドラインを比較し、とくに治療法の推奨に関する主な相違点を解説してください。ここで(疾患名)には、比較したい具体的な疾患名、たとえば「アトピー性皮膚炎」や「尋常性乾癬」などを入力します。必要であれば、比較対象にしたい海外の地域(米国皮膚科学会[AAD]、欧州皮膚科学性病学会[EADV]など)を指定すると、より的確な情報が得られやすくなります。アトピー性皮膚炎における日本皮膚科学会の診療ガイドラインと、欧州皮膚科フォーラム(European Dermatology Forum)のガイドライン(またはAADガイドライン)を比較し、とくに中等症~重症例に対する全身療法の推奨(生物学的製剤やJAK阻害薬の位置付けなど)に関する主な相違点を簡潔に解説してください。ChatGPTからの回答例以下に、日本皮膚科学会(JDA)診療ガイドライン(2021年改訂)と、欧州皮膚科フォーラム(EDF 2022)および米国皮膚科学会(AAD 2023)の中等症~重症アトピー性皮膚炎に対する全身療法の位置付けを比較し、主な相違点を簡潔にまとめます。◆比較の焦点:中等症〜重症アトピー性皮膚炎の全身療法(生物学的製剤・JAK阻害薬)画像を拡大する◆解説・まとめ日本(JDA)は依然としてシクロスポリンを中心にした従来の免疫抑制薬を重視しつつ、デュピルマブやJAK阻害薬は新たな選択肢として位置付ける慎重な姿勢が見られます。欧州(EDF)はdupilumabを最も標準的な治療と認識しており、JAK阻害薬は代替的選択肢にとどまります。米国(AAD)はdupilumabとJAK阻害薬の両方を初回治療の選択肢としており、より柔軟な治療戦略を示しています。ご要望があれば、それぞれのガイドラインの具体的な記述や推奨グレードもご紹介いたします。その際は、お知らせください。このように、ChatGPTに尋ねることで、膨大なガイドラインの中から比較すべきポイントや主な違いを短時間でリストアップさせることが可能です。これにより、「どこに注目して原文を読み込むべきか」という当たりをつけることができます。ただし、今回も重要な注意点があります。1.情報の鮮度と正確性ChatGPTが参照しているガイドラインのバージョンが最新であるとは限りません。必ず、回答で示されたガイドライン名や発行年を確認し、必要であれば最新版の原文を参照してください。2.最終判断は医師自身でAIが示す比較・解説はあくまで「要約」や「たたき台」です。治療方針の最終決定は、必ず一次情報であるガイドライン本文や関連論文を確認し、個々の患者さんの状況に合わせて医師自身が行う必要があります。3.解釈のニュアンスガイドラインの推奨度(強く推奨、条件付き推奨など)の微妙なニュアンスは、AIの要約だけではつかみきれない場合があります。重要な判断に関わる場合は、原文での確認が不可欠です。このプロンプトは、国際的な標準治療や最新の考え方を効率的にキャッチアップし、日々の診療に深みを持たせるための「情報収集アシスタント」として活用できるでしょう。次回は、患者さんへの説明資料作成をサポートするプロンプトなど、また別の角度からの活用法をご紹介できればと考えています。どうぞお楽しみに。

52.

健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

53.

第240回 百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省

<先週の動き> 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省 1.百日咳感染者、過去最多を更新 10代と乳幼児中心に拡大/厚労省百日咳の流行が全国で急拡大している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)と厚生労働省によると、4月7~13日の1週間で全国の感染者数は1,222人に達し、現在の統計(2018年~)開始以降で最多を記録している。10代が694人、0~9歳が350人と、若年層中心に広がっている。今シーズンの累積患者数は7,084人となり、すでに昨年(4,054人)を大幅に上回った。百日咳は、激しいけいれん性の咳が特徴。とくに生後6ヵ月未満の乳児では無呼吸や肺炎、脳症を併発し、致死率は0.6%と高い。3月以降感染者数は急増し続け、全国で耐性菌(MRBP株)の報告も増加。中国、韓国などで流行中の株と類似しており、コロナ後の国際往来再開が一因とみられる。地域別では新潟県(99人)、東京都(89人)、兵庫県(86人)などで多発。新潟や大阪、福岡でも過去最多水準を更新している。新潟県ではすでに年間最多だった2019年(499人)を超え、今年550人を報告。大阪府では1週間で110人、福岡県でも102人と、感染拡大が止まらない。対策としては、生後2ヵ月からの定期ワクチン接種の徹底に加え、11~12歳での追加接種が推奨される。日本小児科学会は、乳児への感染を防ぐため、兄姉や家族、とくに妊婦のワクチン接種も勧めている。妊婦が接種すれば胎児に抗体が移行し、生後数ヵ月間は防御効果が期待できる。感染対策はワクチンに加え、手洗いやマスク着用、咳エチケットの徹底が基本となる。長引く咳症状があれば、早期受診を促し、適切な診断と対応が求められる。耐性株による感染拡大にも注意が必要であり、今後も動向を注視した上で地域の流行状況に応じた柔軟な対応が望まれる。 参考 1)百日せき 感染状況MAP(NHK) 2)百日せき患者数 4月13日までの1週間1,222人 3週連続で過去最多(同) 3)「百日ぜき」急増 乳児死亡例も 妊婦や家族はワクチン接種も選択肢(毎日新聞) 4)「百日せき」の感染者数、3週連続で過去最多 直近は1,222人 中国からの流入か(産経新聞) 2.2週間以上咳なら早期受診を、マンガ喫茶で結核集団感染の注意喚起/千葉県千葉県は4月25日、習志野保健所管内の漫画喫茶において、利用者と従業員計6人が結核に感染し、うち4人が発病した集団感染事例を確認、厚生労働省に報告した。発端は昨年7月、長期利用していた40代男性が肺結核と診断されたことに始まる。その後、接触者15人を対象に健康診断を実施したところ、今年1月以降に感染者5人、発病者3人が確認された。さらに調査を拡大し、新たに感染者1人、発病者1人がみつかり、合計6人の感染、4人の発病に至った。発病者のうち1人は救急搬送され、現在も入院中であるが、全員適切な治療を受け、快方に向かっている。結核は、同一感染源により2家族以上、または20人以上に感染が広がった場合、発病者1人を感染者6人分と換算して集団感染と認定される。今回の事例はこの基準に該当した。千葉県内では令和6年に493人が新規に結核登録されており、集団感染は昨年に続き2年連続となる。県では、結核の初期症状が風邪に似ているため、2週間以上咳が続く場合には速やかな医療機関受診を呼びかけている。 参考 1)漫画喫茶で結核の集団感染、長期利用の40代男性ら5人確認…千葉・習志野保健所管内(読売新聞) 2)千葉で結核集団感染 昨年に漫画喫茶で広がり6人感染 2週間以上続く咳は医療機関へ(産経新聞) 3)漫画喫茶で結核集団感染 習志野保健所管内、利用者と従業員の計6人(千葉日報) 3.肺がん検診指針19年ぶり改訂、重喫煙者には低線量CTを推奨/国立がん研究センター国立がん研究センターは2025年4月25日、19年ぶりに改訂した「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公表した。改訂では、喫煙指数600以上(1日平均喫煙本数×喫煙年数)の50~74歳の重喫煙者を対象に、年1回の低線量CT検査を推奨、従来の胸部X線検査と喀痰細胞診の併用は、任意型検診も含め非推奨とされた。改訂の背景には、欧米でのランダム化比較試験(RCT)やメタ解析により、低線量CT検査が肺がんによる死亡リスクを約16%低下させる効果が確認されたことがある。一方、被曝によるがんリスク増加は否定され、標準体型の被験者に対しては線量2.5mGy以下と定義された。胸部X線検査は引き続き、40~79歳の非喫煙者、および40~49歳・75~79歳の重喫煙者に推奨される。なお、喀痰細胞診については、標的である肺門部扁平上皮がんの罹患率が国内で低下していることや、死亡率減少への寄与が証明できなかったため、検診としての併用は推奨されない。ただし診療行為としての喀痰細胞診は否定されていない。加熱式たばこについても、カートリッジ1本を紙巻きたばこ1本と換算して喫煙指数に加算される。禁煙して15年以内の者も対象とする。なお、非重喫煙者に対する低線量CT検診は、死亡率低減効果が不明確なため対策型検診では推奨されず、個人の判断による任意型検診に委ねることとされた。国立がん研究センターは、今後、低線量CT検診の導入にはマニュアル整備、検診体制(読影医や機器確保)、過剰診断・過剰治療への対応策が必要と指摘している。厚生労働省はこのガイドラインを踏まえ、市町村が行う住民検診への反映を検討する予定。肺がんは国内で年間約12万人が診断され、約7万5千人が死亡しており、がんによる死因の中では最多。 参考 1)有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン(2025年度版)(国立がん研究センター) 2)「重喫煙者」は年1回低線量CT検査を…国立がん研究センター、肺がん検診の指針改訂(読売新聞) 3)喫煙者は低線量CT推奨 肺がん検診指針を改定 死亡率減、06年度版以来(共同通信) 4)国がん「肺がん検診ガイドライン 2025年度版」を公開、50~74歳の重喫煙者に低線量CT検査を推奨(日経メディカル) 4.無床診療所の高利益にメス、2026年度報酬改定に向けて提言/財政審財政制度等審議会は4月23日、2026年度の診療報酬改定に向けた議論を行い、医師の都市部集中を是正するための報酬体系見直しを提言した。診療所が過剰な地域では、診療報酬を減額する一方、医療機関が不足する地域では加算措置を講じる「メリハリある改定」を求めた。とくに、無床診療所の利益率が8.6%と高水準にある点を指摘し、病院との経営状況の違いを踏まえた適正化を強調した。また、慢性疾患患者を継続的に診療する「かかりつけ医」機能を持つ医療機関への報酬体系も見直し、より質の高い医療提供を評価する仕組みを構築するよう求めた。現在一律に算定できる機能強化加算についても、廃止を含めた見直しを検討すべきと提言している。さらに、外来診療医師が過剰な地域で新規開業を希望する医師に対し、都道府県が要件を課す仕組みの強化や、要請に従わない場合の診療報酬減額措置も視野に入れる。医薬分業についても、医療機関内で薬を受け取る方が薬局より高くなる現行制度の見直しや、薬剤師による減薬提案など対人業務の評価拡充を求めた。人材紹介会社については、医療機関が高額手数料を負担している実態に懸念を示し、紹介会社の選別・規制強化も提言。持続可能な社会保障制度構築のため、限られた財源下で医療・介護費用の効率化と適正化を強く求めた。 参考 1) 財政制度等審議会財政制度分科会(財務省) 2) 財政制度等審議会 来年度の診療報酬改定に向けて議論(NHK) 3) 医師偏在「診療報酬改定で対応を」 財制審、都市部は報酬減も(日経新聞) 4) 診療所に照準、財務省「無床の利益率8.6%」めりはりある診療報酬改定求める(CB news) 5) 不適正な人材紹介会社の「排除を徹底」財務省提言 同一建物減算の強化も(同) 5.病床削減支援、民間優先へ方針転換 自治体病院は対象外に/厚労省厚生労働省は、病床削減を行う医療機関に対する医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)において、申請数が想定(約7,000床)の7.7倍に当たる5万4,000床に達したことを受け、支援対象の条件を急遽厳格化する内示を通知した。1床当たり410万4,000円が支給されるこの制度は、地域医療の効率化を目指して病床削減を促すもので、当初は広範な適用を予定していたが、財源不足を背景に民間医療機関を優先する方針に転換し、公立病院など一般会計から繰り入れを受ける医療機関は対象外とされた。厚労省は第1次内示として7,170床分(約294億円)の配分を決定。1医療機関当たり50床を上限とし、経常赤字が続く民間医療機関を支援対象とした。公立病院などの自治体病院は大半が対象外となり、北海道では143医療機関・4,862床の申請のうち、採択は352床に止まった。留萌市立病院や室蘭総合病院など、補助金を前提に病床削減を計画していた自治体病院では、財源確保に向けた再検討が迫られている。自治体側からは「はしごを外された」「地域医療軽視だ」との反発が相次ぎ、支援対象からの排除が地域医療体制に深刻な影響を及ぼす懸念が広がっている。厚労省は6月中旬を目処に第2次内示を予定しているが、補助対象の拡大は不透明な状況だ。医療経済に詳しい識者からは「制度設計の甘さ」と「自治体病院の補助金依存体質」の両方に問題があると指摘され、地域医療のあり方を再考する契機とするべきとの声も上がっている。 参考 1) 令和7年度医療施設等経営強化緊急支援事業(病床数適正化支援事業)の内示について(厚労省) 2) 5万床超の返上申請に対して病床削減の支援対象は7,170床(日経メディカル) 3) 病床削減の申請5.4万床、想定の7.7倍に 福岡厚生労働相(日経新聞) 4) 病床減への補助 支給条件を厳格化 全国から応募殺到で厚労省 自治体病院、実質対象外に(北海道新聞) 5) 「はしごを外された」 国の唐突な補助金方針転換 憤る北海道の自治体病院(同) 6.大学病院への財政支援強化へ、医師養成・研究支援策を整理/文科省文部科学省は、4月23日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開き、大学病院の位置付けを明確化し、財政的支援を検討する整理案を示した。物価高騰による経営悪化や建設費増大に対応するため、大学病院の診療・教育・研究機能の重要性を改めて位置付け、これに応じた財政措置を求めた。また、特定機能病院の承認要件見直しに関し、地域医療を支える医師の養成・派遣体制の整備が重要と提言した。さらに、総合的な診療能力を持つ医師養成を推進するため、モデル・コア・カリキュラムの改訂により「総合的に患者・生活者をみる姿勢」を新たに資質・能力項目に追加した。一方、日本医学会連合は、大学病院教員の研究時間減少に危機感を示し、研究支援制度の拡充を求める要望書を文科省に提出した。医師の働き方改革により診療や教育の負担が増え、研究時間がさらに削減されていると指摘。バイアウト制度活用による研究時間確保や、研究補助員の充実などの支援策強化を求めた。加えて、医学生や若手医師が研究に取り組みやすくするため、早期大学院進学促進と給与保障、海外留学制度の柔軟化・拡充も提案された。これらの議論を受け、文科省は、大学病院を中心とした医師養成・地域医療強化、医学研究基盤の再構築に向けた支援策の具体化を進める方針。持続可能な医療提供体制と国際競争力ある医学研究体制の構築が急務となっている。 参考 1)第13回 今後の医学教育の在り方に関する検討会 配布資料(文科省) 2)大学病院、「位置付け明確化し財政支援」文科省が整理案(MEDIFAX) 3)大学病院での研究時間大幅減少 支援制度の整備を要望「働き方改革で拍車」医学会連合が指摘(CB news) 4)わが国の医学研究力の向上へ向けての要望書(日本医学会連合)

54.

「急性腹症診療ガイドライン2025」、ポイント学習動画など新たな試みも

 2025年3月「急性腹症診療ガイドライン2025 第2版」が刊行された。2015年の初版から10年ぶりの改訂となる。Minds作成マニュアル(以下、マニュアル)に則って作成され、初版の全CQに対して再度のシステマティックレビューを行い、BQ81個、FRQ6個、CQ14個の構成となっている。8学会の合同制作で広範な疾患、検査を網羅する。診療のポイントをシナリオで確認できる動画を作成、システマティックレビューの検索式や結果をWeb上で公開するなど、新たな試みも行われた。改訂出版委員会の主要委員である札幌医科大学・三原 弘氏に、改訂版のポイントや特徴を聞いた。 ガイドライン自体の評価はMindsなどが行っているが、私たちはさらにマニュアルに従ってガイドラインが実臨床や社会に与えた影響を評価しようと考えた。具体的には、初版刊行の前後、2014年と2022年に日本腹部救急医学会と日本プライマリ・ケア連合学会の会員を対象にアンケート調査を行った。ガイドラインの認知度と実臨床の変化を調べ、改訂につなげることが目的だ。 そこでわかった課題は2つ。1つめは、初版では急性腹症の初回のスクリーニング検査として超音波検査(エコー)を推奨していたにもかかわらず、発刊後にはエコーの実施率が下がり、CT検査の実施率が上がっていた。コロナ禍の影響が大きいだろうが、初版における超音波の推奨を十分伝え切れていなかった可能性がある。2つめは、初版の認知度が6割だったことだ。学会員であり、かつアンケートに回答してくれるような熱心な医師であっても4割はガイドラインの存在自体を知らない、という結果は衝撃だった。一方、ガイドラインを認知している医師は診療内容が確実に変わっており、「知ってもらう」ことの重要性を痛感した。 この結果を受け、2版は「最初の画像検査はエコーが第1選択と強調」、「とにかく知ってもらう」ことの2点に注力した。 そして、「急性腹症の検査」の章では、「$アプローチ」と「6アプローチ」という具体的な走査法の図を掲載し、「急性腹症の教育プログラム」の章に最近一般的になっているPOCUS(ベッドサイドで行う超音波検査)について、「各部位50例程度の経験を積むことを提案する」という具体的な数値目標を記載し、エコー動画を含めたシナリオ学習動画を新規に作成・公開した。これはパブリックコメントなどに寄せられた「エコーが重要なのはわかったが、どう当てればいいのか、どのくらい練習すればいいのかわからない」という声に応えたものだ。 さらに、初版で記載した「2 step methods」(バイタルサインを確認するステップ1、その異常の有無で医療面接・身体所見などから病態を評価する対応を変えるステップ2を順番に行う診療アルゴリズム)がわかりにくいという声を受け、上記のシナリオで内容を理解する動画を5本作成した。若手医師を中心に、書籍ではなく動画で学ぶことが一般化しており、そのニーズに応えたものだ。1本10分程度の動画で、症例提示や検査画像から診療の流れとポイントを確認し、視聴前後にチェックテストを行うことで理解度を確認することができる。動画はYouTubeに上げ、版権もガイドライン改訂出版委員会が所持しつつもクリエイティブ・コモンズとして公開しているので、医学部の授業や研修病院のセミナーでそのまま、または一部改変して使っていただくことも可能だ。 さらに、本編に入り切らなかった補足的コンテンツや、改訂に際して行ったシステマティックレビューの結果もWeb上で公開している。これまで、システマティックレビューの検索式や結果は事務局等のパソコン上に静かに保管している、などのケースが多かった。ガイドラインとその改訂作業を、オープンかつ公的で参考となるものとし、そして永続的な活動としていくために、さまざまなトライアルをした1冊だ。ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。【新版に収録されたBQ・CQ/一部抜粋】BQ2 腸閉塞症とイレウスはどう定義されるか?腸管の閉塞症状を呈する病態において、「腸管の機械的閉塞を伴う病態を腸閉塞症」と「腸管の機械的閉塞を伴わない、腸蠕動または腸運動の欠如に起因する病態をイレウス」とを明確に分けて定義する。BQ3 急性虫垂炎はどう分類されるか?急性虫垂炎は、組織学的にカタル性、蜂窩織炎、壊疽性と分類され、臨床的に単純性、複雑性、汎発性腹膜炎を伴う虫垂炎に分けられるが、これらを術前に正確に分類することは困難である。BQ44 急性腹症の画像診断で最初に行う(形態学的)検査(または画像診断法)は何か?非侵襲性、簡便性、機器の普及度などからも超音波検査(US)がスクリーニング目的での画像診断法では第1選択であり、特に妊婦や小児においては勧められる。BQ78 急性腹症の腹痛にはどのような鎮痛薬を使用するか?原因にかかわらず診断前の早期の鎮痛剤使用を推奨する。痛みの強さによらずアセトアミノフェン1,000mg静脈投与が推奨される。痛みの強さにより麻薬性鎮痛薬の静脈投与を追加する。またブチルスコポラミンのような鎮痙剤は腹痛の第1選択薬というよりは疝痛に対して補助療法として使用される。急性腹症ではモルヒネ、フェンタニルのようなオピオイドやペンタゾシン、ブブレノルフィンのような拮抗性鎮痛薬を使用することもできる。NSAIDsは胆道疾患の疝痛に対しオピオイド類と同等の効果があり第1選択薬となりうる。尿管結石の疝痛にはNSAIDsを用いる。NSAIDsが使用できない場合にオピオイド類の使用を勧める。CQ8 急性腹症のどのような場合に造影CT検査を追加するか?臓器虚血の有無、血管性病変、急性膵炎の重症度判定、急性胆管炎・胆嚢炎、複雑性虫垂炎などでは単純CTだけでは詳細な評価が困難なことがあり、造影CT検査が推奨される。CQ14 臨床医に対する急性腹症の超音波訓練は有用か?臨床医自らが患者の傍らで関心部分に焦点を絞って実施する point-of-care ultrasonography(POCUS)の診断精度は、各部位50例程度の経験を積むことで超音波検査の専門家と同等になることが報告されており、急性腹症を診療する医師は50例程度の超音波訓練を行うことを提案する。

55.

第35回 尿管結石をどう見抜き、どう診るか【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)尿管結石らしさを的確に見積もれるようになろう!2)ベッドサイドで診断をつけよう!3)血管病変は常に意識することは忘れないようにしよう!【症例】52歳男性。高血圧、脂肪肝で近医のクリニックに受診している。朝方左側腹部の痛みがあり、目が覚めてしまった。その後、痛みが改善せず救急外来を独歩受診した。待合室で1度嘔吐あり。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧152/96mmHg脈拍96回/分(整)呼吸20回/分SpO299%(RA)体温36.4℃瞳孔3/3mm+/+尿管結石はいつ疑うかみなさんは、どんなときに尿管結石を疑いますか?たとえば、中年男性が「身の置き所のない」側腹部痛を訴えていたら、まず疑うでしょう。私自身は経験がありませんが、友人の何人かが本症にかかったことがあり、詳しく話を聞いてみると、みんな口を揃えて「あれは死ぬほど痛い!」と言っていました。救急外来では、尿管結石の症例によく遭遇しますが、本当に患者さんつらそうですよね。冷や汗をかきながら腰に手を当て、何とか楽な姿勢を探そうとするけれども、結局みつからない…そんな様子が典型的です。以前紹介したSTONE score(表1)にもあるように、嘔気や嘔吐、血尿、そして数時間以内に症状がピークに達することが尿管結石らしさを示す特徴です1)。表1 STONE score画像を拡大するただしその際、「尿管結石らしい症状」を示す、見逃してはならない他の疾患も同時に鑑別する必要があります(参考リンク:第19回 侮ってはいけない尿路結石)2)。鑑別すべき疾患については図にまとめましたが、とくに血管病変には注意が必要であることは、ぜひ意識しておきたいポイントです。図 尿管結石の鑑別診断尿検査は施行するかみなさんは、尿管結石を疑った際に尿検査を提出するでしょうか。尿管結石における尿潜血の感度・特異度は、それぞれ84%・48%とされており3)、尿検査のみで診断を確定できる「絶対的な指標」とは言えません。全国の医師を対象にしたあるアンケート調査によると、8,549人の医師の回答者のうち、82%の医師が「尿管結石を疑った際に尿検査を提出する」と回答しています4)。ただし、この設問では「尿管結石を疑った際に尿検査を提出しますか?」とだけ問われており、具体的な臨床状況の設定がなかったため、結果の解釈には注意が必要です。それでも、多くの医師が尿管結石を疑った際に尿検査を施行していることがうかがえます。尿検査は簡便で、かつ迅速に結果が得られるため、診断の補助として行われることが多いでしょう。ただし、重要なのは検査結果そのものよりも、検査前確率(pre-test probability)です。また、尿検査よりも優先して実施すべき、より有用な検査も存在します。腹痛診療における検査腹痛を訴える患者に対して実施すべき検査は何でしょうか。救急外来ではCT検査が多くオーダーされているのが実状ですが、これは決して悪いことではありません。ただし、超音波検査(US)が可能な環境であれば、まずはUSを行うべきでしょう。ベッドサイドで簡便に施行でき、被曝のリスクもありません。2025年に発表された『急性腹症ガイドライン2025第2版』でも、「急性腹症の画像診断で最初に行うべき形態学的検査は何か?」という問いに対して、「非侵襲性、簡便性、機器の普及度などの観点から、スクリーニング目的での超音波検査が第1選択であり、とくに妊婦や小児において推奨される」と記載されています5)。また、急性腹症に対して造影CT検査の適応を判断する上でも、まずUSを実施し、具体的な疾患を想起できるかどうかを評価することが重要です。目的意識なくCT検査を施行しても、その結果を適切に解釈することは困難です。造影剤アナフィラキシーは、以前に問題がなかった造影剤でも起こり得るため、無用な造影剤の使用は避けるべきです。検査は常に明確な目的を持って選択する必要があります。CHOKAI scoreの勧めSTONE scoreよりもお勧めしたいのが、日本発のscoreである「CHOKAI score」です(表2)6)。これはUS所見を含む7項目から構成されており、実臨床に即した評価が可能です。なかでも注目すべきは、US所見に重みが置かれている点であり、その点数配分からもその重要性がうかがえます。表2 CHOKAI score精度の高さも報告されており、実際の診療での有用性は高いと考えられます。ぜひ積極的に活用していただきたいscoreです。水腎症の有無を確認しつつ、大動脈の評価も併せて行えば、血管病変の見逃しも防げて万全でしょう。早期に尿管結石と判断できれば、除痛も迅速に行えるはずです。 1) Moore CL, et al. BMJ. 2014;348:g2191. 2) 坂本壮. 第19回 侮ってはいけない尿路結石【救急診療の基礎知識】 3) Luchs JS, et al. Urology. 2002;59:839-842. 4) 坂本壮. 臨床何でもコントラバシー. 日経メディカル. 2024. 5) 急性腹症診療ガイドライン2025 改訂出版委員会 編集. 急性腹症ガイドライン 2025 第2版. 医学書院.2025. 6) Fukuhara H, et al. Am J Emerg Med. 2017;35:1859-1866.

56.

フェリチン値から必要のない鉄剤を見極めて中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第66回

 鉄欠乏性貧血の治療において、「いつまで鉄剤を続けるべきか」「どのような投与方法が最適か」というのは薬剤師による処方提案の重要なポイントです。今回の症例では、高齢患者さんの鉄剤服用の必要性を血液検査データから見極め、さらに適切な投与スケジュールについて最新の英国ガイドラインを参考に提案しました。とくに注目すべきは、鉄剤投与後のヘプシジン上昇が次の鉄吸収を阻害するメカニズムに基づいた「1日1回投与」や「隔日投与」の有効性です。新しい知見では、従来の「分2投与」から「隔日投与」へ変更することで、患者さんの服薬負担を減らしながらも同等かそれ以上の治療効果が期待できることが示されています。貧血が改善し、フェリチン値が十分な状態であれば、鉄剤の中止も視野に入れることができます。患者情報95歳、女性(外来患者)ADL自立、要介護1、デイサービスなど利用なし身長:145cm、体重:40kg基礎疾患高血圧、鉄欠乏性貧血、低カリウム血症服薬管理通院時は娘と来局、自己管理可能処方内容1.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.エチゾラム0.5mg 1錠 分1 就寝前3.クエン酸第一鉄錠50mg 2錠 分2 朝夕食後4.アスパラカリウム錠 1錠 分1 朝食後処方提案までの経過この患者さんは、鉄欠乏性貧血に対してクエン酸第一鉄を服用中でしたが、「薬の粒が大きく服薬が困難」との相談があり、評価を実施しました。お薬手帳から少なくとも半年以上の鉄剤服用が確認できましたが、客観的な血液検査値による貧血状態は不明でした。検査データを確認したところ、以下の結果が得られました。<介入当初の採血結果>ヘモグロビン:12.8mg/dL(正常範囲内)平均赤血球容積:97.5(正常範囲内)フェリチン:203.5ng/mL(十分量の鉄貯蔵を示す)血清鉄:71μg/mL(正常範囲内)総鉄結合能:277(正常範囲内)これらの検査結果から、患者さんの鉄欠乏性貧血は改善し、貯蔵鉄も十分蓄積されていることが明らかになりました。なお、消化器症状(嘔気や便秘悪化)などの鉄剤による副作用はありませんでした。鉄剤の服用方法について調査したところ、英国消化器学会のガイドラインでは、分2投与より分1投与が推奨され、隔日投与も許容されていることも確認しました1)。鉄投与後にヘプシジンが上昇し、約24時間鉄吸収が低下するため、1日1回投与や隔日投与のほうが吸収効率が高いという新たな知見に基づく推奨です。処方提案とその後の経過服薬情報提供書を用いて、医師に以下の内容を提案しました。1.検査結果に基づく客観的評価フェリチン値が203.5ng/mLと鉄貯蔵が十分であるヘモグロビン値も12.8mg/dLと正常範囲内である2.服薬アドヒアランスの問題粒子径が大きく服用困難である患者の服薬負担軽減の必要性がある3.提案内容鉄欠乏性貧血の改善が認められるため、鉄剤の服用を中止または隔日投与に変更することで、服薬回数を減らして負担を軽減医師の診察で、提案内容と検査結果を踏まえ、フェリチン値も充足していることから鉄剤の服用継続の必要性がないと判断され、処方中止となりました。その後、患者さんからは動悸や息切れ、倦怠感などの貧血症状は報告されず、経過は良好です。服薬回数減少とともに服薬負担が軽減され、QOL向上に繋がりました。1)Snook J, et al. Gut. 2021;70:2030-2051.

57.

間質性肺炎合併肺がん、薬物療法のポイント~ステートメント改訂/日本呼吸器学会

 2017年10月に初版が発行された『間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント』について、2025年4月に改訂第2版が発行された。肺がんの薬物療法は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場するなど、目覚ましい進歩を遂げている。そのなかで、間質性肺炎(IP)を合併する肺がんの治療では、IPの急性増悪が問題となる。そこで、近年はIP合併肺がんに関する研究も実施され、エビデンスが蓄積されつつある。これらのエビデンスを含めて、本ステートメントの薬物療法のポイントについて、池田 慧氏(神奈川県立循環器呼吸器病センター)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。NSCLCへの細胞傷害性抗がん薬 細胞傷害性抗がん薬によるIP合併非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療の中心は、カルボプラチンに(nab-)パクリタキセルまたはS-1を併用するレジメンである。これは、本邦で実施された複数の前向き研究や後ろ向き研究の多数例の報告に基づき、比較的安全に投与可能と判断されることによるものである。一方で2次治療以降の検討は少なく、標準治療は確立していない。これについて、池田氏は「後ろ向きの報告から、S-1が比較的安全に投与可能と判断され、用いられているのではないか」と述べた。 IP合併肺がん患者への細胞傷害性抗がん薬の使用について、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では投与を提案しているが(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:C[低])、「一部の患者には合理的な選択肢でない可能性がある」ことも記載されている。そのため、池田氏は急性増悪のリスク評価が重要であると述べる。リスク評価については、後ろ向き研究においてHRCTでの線維化範囲の広さ、UIP(通常型間質性肺炎)パターン、%FVC(努力肺活量の予測値に対する実測値の割合)低値、%DLco≦50%などが急性増悪のリスク因子として挙げられている。また、ILD-NSCLC-GAPスコア/modified GAPスコア、Glasgow Prognostic Scaleが急性増悪のリスク評価に有用である可能性も報告されている。ただし、確立されたリスク評価方法は存在せず、本ステートメントでは「治療前に急性増悪発症リスクを評価する方法は複数提案されているが確立していない」としている。SCLCへの細胞傷害性抗がん薬 IP合併小細胞肺がん(SCLC)について、本ステートメントの作成にあたり検索に含まれた介入研究は、国内の17例を対象としたカルボプラチン+エトポシドのパイロット試験のみである。本試験では、急性増悪の発現割合は5.9%と比較的低かったことが報告されている。また「びまん性肺疾患に関する調査研究」班(びまん班)の調査では、急性増悪の発現割合がカルボプラチン+エトポシドで3.7%、シスプラチン+エトポシドで11.0%であったことも報告されている。以上から、本ステートメントでは「プラチナ製剤とエトポシド併用療法がIP合併症例においても標準的治療とするコンセンサスが得られている」としている。分子標的薬 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブは、既存肺のIPが肺臓炎発現のリスク因子となることが報告されている。これらのことから、『特発性肺線維症の治療ガイドライン2023(改訂第2版)』では、IP合併肺がんに対して分子標的薬を投与しないことを推奨または提案するとされている。ただし、池田氏は「実際のところ、EGFR-TKI以外の分子標的薬については、既存肺のIPと肺臓炎リスクの関連は十分に検討されていない」と指摘する。近年では、KRAS、BRAF、METなどを標的とする分子標的薬が登場しており、これらの分子の遺伝子異常を有する患者には喫煙者が多いことから、肺気腫や間質性肺炎の合併が多い可能性も考えられる。そこで、びまん班が「間質性肺炎合併非小細胞肺癌におけるドライバー遺伝子変異/転座検索の実態と分子標的治療薬の安全性・有効性に関する多施設共同後方視的研究」を実施しており、すでに1,250例を超える症例が集積されているとのことである。池田氏は「かなり興味深い結果になっていることが期待され、近いうちに学会でデータを示し、IP合併肺がん患者でもドライバー遺伝子変異を調べることの意義を共有したい」と述べた。抗線維化薬 特発性肺線維症(IPF)合併NSCLC患者を対象に、カルボプラチン+nab-パクリタキセルへのニンテダニブの上乗せ効果を検討した国内第III相無作為化比較試験「J SONIC試験」では、主要評価項目であるIPF無増悪生存期間(PFS)の優越性は示せなかったものの、非扁平上皮がんに限定するとPFSとOSの延長傾向がみられた。また、IPF合併SCLC患者を対象とした国内第II相試験「NEXT SHIP試験」では、カルボプラチン+エトポシドにニンテダニブを上乗せすることで、間質性肺炎の急性増悪の発現割合を3.0%に抑制したことが報告されている。以上から、ニンテダニブはIP合併の非扁平上皮NSCLC、SCLCにおいて抗線維化作用と抗腫瘍作用の双方を期待でき、1次治療の選択肢の1つになる可能性がある。ADC、モノクローナル抗体 HER2を標的とするADCのトラスツズマブ デルクステカンは肺臓炎の発現が多く、胃がんの市販後調査では既存肺のIPが肺臓炎リスク因子となることが報告されている。そのため、本ステートメントではIP合併肺がんでの使用に際して注意が必要であることが記載されている。ICI ICIは、予後不良なIP合併進行肺がん患者に長期生存をもたらしうる現状で唯一の治療選択肢である。しかし、複数の観察研究において、既存肺に間質性肺疾患を有する場合は免疫関連有害事象(irAE)としての肺臓炎の発現割合が高いことが報告されている。そのため、IP合併肺がん患者へICIを投与する場合は肺臓炎リスクの低い患者の絞り込みが重要となる。 そこで、本邦では複数の介入研究が実施されている。HAVクライテリア(蜂巣肺なし、自己抗体なし、%VC[肺活量の予測値に対する実測値の割合]≧80%)を満たす軽症のIPを合併した肺がん患者に対してICIを投与することで、肺臓炎の発現が抑制されることが示唆されている。一方、HAVクライテリアより緩い基準(蜂巣肺を許容、%FVC≧70%など)で実施した試験では、Grade3以上の肺臓炎が23.5%に認められている。これらの結果を受け、本ステートメントでは「既存肺に蜂巣肺を有すると判断された症例に関しては、とくに肺臓炎のリスクが高いものとして慎重な姿勢で臨むべきである」ことが記載されている。また、これらの結果について、池田氏は「軽症のIPであれば比較的安全な可能性があるが、蜂巣肺を有している場合は、現状の介入研究のデータをみると肺臓炎リスクが高い可能性が示唆されている。ただし、有効性に関する良好なデータも示されており、細胞傷害性抗がん薬では長期生存が見込めない予後不良な集団であることも考慮すると、現状ではICIはIP合併肺がんに対して長期生存をもたらしうる唯一の選択肢であるため、リスクベネフィットを患者に共有し、一緒に考えながら治療を選択していく必要がある」と述べた。

58.

花粉症時のアイウォッシュ、その使用傾向が調査で明らかに

 アイウォッシュ(洗眼)は花粉症シーズンの目のトラブル対策として有効な手段だが、洗眼剤の使用傾向は年齢、既往歴、生活習慣などの違いによって異なる、とする研究結果が報告された。若年層、精神疾患の既往、コンタクトレンズ(CL)利用者などが洗眼剤使用に関連する因子であったという。研究は順天堂大学医学部眼科学講座の猪俣武範氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月10日掲載された。 洗眼剤の使用はアレルギー性結膜炎の初期症状の軽減に効果的であるとされるが、現在、花粉症患者における洗眼剤使用の疫学的特徴に関しては知識のギャップが存在している。このギャップを埋めることは、花粉症管理において包括的でエビデンスに基づいた洗眼剤のガイドラインを作成するために不可欠である。そのような背景から、研究グループは花粉症患者における洗眼剤使用者と非使用者を総合的にプロファイリングし、花粉症とセルフケアの習慣に関連するパターンと特徴を特定することを目的とした大規模疫学研究を実施した。 花粉症患者の人口統計、既往歴、ライフスタイル、花粉症の症状などの疫学情報は、順天堂大学が花粉症研究のために開発したスマートフォンアプリケーション「アレルサーチ」より収集された。収集された1万7,597人のうち、研究に同意し、花粉症を有していた9,041人が最終的な解析対象に含まれた。 解析対象9,041人のうち、3,683人(40.7%)が洗眼剤を使用しており、年齢層は20歳未満(47.6%)の割合が最も多かった。洗眼剤使用群では非使用群に比べ、年齢が若く、体格指数(BMI)が高く、薬による高血圧の割合が低く、精神疾患の既往、ドライアイ(DE)診断、腎臓病の既往の割合が高いことが観察された。さらに、洗眼剤使用群ではCLの使用頻度が高く、花粉症シーズンでその使用を中止している割合は低かった。喫煙は洗眼剤使用群で非使用群より有意に高かった。また、ヨーグルトの摂取は、洗眼剤使用群で多かった。 次に単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実施し、花粉症患者における洗眼剤使用の関連要因を検討した。その結果、年齢が若い、BMIが高い、精神疾患の既往歴あり、CL使用歴あり、現在のCL使用、1日当たりの睡眠時間が短い(6時間未満)、喫煙歴あり、ヨーグルトの頻繁な摂取、鼻症状スコアが低い、非鼻症状スコアが高い、DE症状がある(軽度~重度)などが、洗眼剤使用の独立した関連因子であることが明らかになった。 また、花粉症関連の眼症状を有する患者の洗眼剤非使用に関連する独立因子は、高齢であること、BMIの低さ、1日当たりの睡眠時間の短さ、DE症状がある(中等度~重度)であった。 本研究の結果について著者らは、「今回の解析結果から、高齢者や重度のDE患者が花粉症の眼症状に洗眼剤を使用していない可能性があることが浮き彫りにされた。これは、花粉症の予防と管理に対する市販の洗眼薬の有効性、副作用、安全性プロファイルについて、今後の花粉症対策や社会的な取り組みを考える上で重要な意味をもつかもしれない」と述べている。 本研究の限界点については、選択バイアスの影響を受け一般化が制限されている可能性があること、自記式調査を採用していることから、想起バイアスや過剰報告の可能性があること、横断研究であるため、洗眼とBMIやヨーグルト摂取などの要因との因果関係を評価できないことなどを挙げている。

59.

第260回 ほぼ生き残り確定の零売薬局(前編) 「セルフメディケーション推進」のためと薬機法等改正案が180度方針転換の謎

薬機法等改正法、衆院で可決も19項目の附帯決議こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手、なかなか勝てないですね。4月19日(現地時間)、テキサス・レンジャーズ戦に登板した佐々木投手は6回2失点と好投、リードしたまま降板するも、抑えの投手がサヨナラホームランを打たれ、またしても勝ち投手になれませんでした。球速は最速155キロ前後と今ひとつでしたが、スプリット、スライダーの制球が良くなってきただけに残念でした。勝てないと言えば、今シーズンからロサンゼルス・エンゼルスの先発陣にいる菊池 雄星投手もまだ0勝です。今年のエンゼルスは例年より調子がいい(4月22日現在、勝率5割2分)のですが、なぜか菊池投手が投げる時だけ打線が沈黙、勝ちにつながりません。それでも腐らずに淡々と投げる姿には頭が下がります。岩手県出身のこの2投手に早く勝ち星が付きますように。今回は、本連載でも度々書いてきた、処方箋なしで一部の医療用医薬品が購入できる「零売薬局」を巡る奇妙な動きについて書いてみたいと思います。衆議院厚生委員会は4月16日、薬機法等改正法案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)を与野党の賛成多数で可決しました。自民、公明、立民、維新、国民の各党が賛成、れいわ、共産が反対しました。採決後に19項目の附帯決議が採択されました。附帯決議は自民、立民、維新、国民、公明の5派共同提案によるものです。そして翌17日、薬機法等改正案は衆院本会議で与党などの賛成多数で可決され参議院に送られました。薬機法等改正法案は、「1)医薬品等の品質及び安全性の確保の強化」「2)医療用医薬品等の安定供給体制の強化等」「3)より活発な創薬が行われる環境の整備」「4)国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等」の4つの柱で構成、医療機関にとくに関係の深いのが4番目の柱で、この中に零売の原則禁止や濫用リスクのある医薬品の分類・販売方法見直しなどが盛り込まれていました。「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」と附帯決議さて、19項目の附帯決議ですが、この中にいわゆる「零売」に関する項目が含まれています。以下のような一文です。「十三:処方箋なしでの医療品医薬品の販売について、いわゆる零売規制の具体的な運用を定める厚生労働省令やガイドライン等の策定にあたっては、処方箋医薬品以外の医療品医薬品の積極的なOTC化推進及び薬剤師との相談を通じて、患者が主体的に医薬品を選択購入するセルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないように留意し、処方箋の交付を受けたもの以外のものに対して医療用医薬品の販売が認められるやむを得ない場合の範囲運用については、国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう十分に配慮すること」つまり、今回の法改正で「原則禁止」となるはずだった零売が、「セルフメディケーション推進の政策方針に逆行することがないよう」「国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう」という附帯決議が付いたことで、生き残りがほぼ確定したのです。国会提出時の法律の方針を180度転換させる内容です。医療用医薬品は処方箋に基づく販売を基本とすることを明確化、リスクの低い医療用医薬品、「やむを得ない場合」に限り薬局での販売を認める零売薬局については、「第197回 強引過ぎる零売薬局規制とやる気のないスイッチラグ対策で実感する厚労省の守旧派ぶり、GLP-1ダイエット処方規制の方が最優先では?」でも詳しく書きました。この回では、厚生労働省が2024年1月にまとめた「医薬品の販売制度に関する検討会とりまとめ」の内容を紹介しました。「とりまとめ」では、日常的に零売を行う薬局や、「処方箋なしで病院の薬が購入できる」とうたう薬局が存在することなど、かねてから問題視されてきた零売について、「やむを得ない場合」のみ販売可能であることを法令で明記し、販売可能時の条件も法令で定める方針を打ち出しました。それについて私は「零売という販売システムにおいて甚大な健康被害があったわけでもなく、単に広告表現に不適切な事例が散見されただけで、零売という薬剤販売のユニークな仕組みを一律に法律で規制してしまうというのは、相当強引なやり方ではないか」と疑問を呈しました。その後、「とりまとめ」に書かれた零売規制の方針はそのまま厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会(福井 次矢部会長)の議論のとりまとめに引き継がれ、今回の薬機法等改正案(附帯決議採択前の当初案)に盛り込まれることになったのです。具体的には、医療用医薬品については処方箋に基づく販売を基本とすることを法律で明確化、リスクの低い医療用医薬品については例外として「やむを得ない場合」に限り、薬局での販売を認めることとなりました。この「やむを得ない場合」は省令で定めることになり、一般用医薬品で代用できない場合が該当するとされました。さらに販売に際しては、「販売量は最小限」「原則、患者の状況を把握している薬局が対応」「薬歴状況・販売状況の記録義務付け」といった厳しいルールも課されることになっていました。日常的に「患者の状況を把握している」のは調剤料で生きている薬局と考えられます。そういった薬局が零売を積極的に行うとは思えないので、非現実的なルールと言えます。零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして薬剤師らが国を相手取り訴訟こうした零売規制を盛り込んだ薬機法等改正案を政府は2月12日に閣議決定し、国会に提出しました。日本医師会はもちろん賛成、零売自体は薬剤師の役割・職能向上につながると考えられるのに、日本薬剤師会もなぜか賛成しました。しかし、国会提出前後から零売規制を巡ってはさまざまな動きがありました。その代表的な出来事が1月17日、零売規制が薬剤師の権利を侵害するなどとして、薬剤師らが国を相手取り訴訟を起こしたことです。1月20日付の日経ドラッグインフォメーションによれば、原告の一人である長澤薬品(東京都豊島区)の長澤 育弘氏は記者会見で、「『薬剤師の職能を脅かす法改正がいま進められようとしている』との強い危機感により、今回の提訴に至った」と説明、裁判において「これまで国から出された通知には法的根拠がないことの確認を求める。さらに、零売の規制は憲法上の『職業選択の自由』や『表現の自由』を侵害し、国民の医薬品アクセスも阻害するものと主張」するとしていました。また担当弁護士は「当該改正法が憲法違反に該当すると考える余地がある」とも説明しました。国会に提出後も各方面から規制に反対意見そんな中、国会に提出された薬機法等改正案ですが、零売規制には各方面から反対意見も聞かれるようになりました。3月13日に開かれた参議院予算委員会公聴会では、日本総研調査部の成瀬 道紀主任研究員が公述人として出席、零売規制について発言しています。3月17日付の薬事日報によれば、成瀬氏は「零売の原則禁止は改正案から削除すべき項目であり、改正すべきは関連通知」と述べ、その理由として、「プライマリケアの中に薬剤師を位置付けること」と「医療保険財政の持続性確保」を挙げたとのことです。一方、審議に入った衆院厚労委員会では、立憲民主党の議員などから零売規制に疑問が投げられました。4月11日付けの薬事日報によれば、早稲田 夕季議員は零売規制について「緊急時の手段として非常に有益で、法制化してまで対処する必要があるのか疑問」とし、やむを得ない場合について「現場の薬剤師にとって判断が難しく、萎縮したり結果的に零売が大きく制限される懸念があってはならない」、「薬剤師の判断に一定の裁量を残す制度が不可欠。過度な指導や規制により営業継続が困難とならないよう、必要最小限かつ合理的な規制措置にとどめてほしい」と訴えたとのことです。これに対し福岡 資麿厚生労働相は、「緊急時等のやむを得ない場合に薬剤師と相談した上で、必要最小量の数量を販売する本来の趣旨に則って経営している薬局はこれまで通り継続できる。必要最小限かつ合理的な規制措置で行っていきたい」との考えを示しました。この考えがそのまま、先に紹介した附帯決議の文面につながったと考えられます。法案提出後の急な、そして謎の方針転換…。背景には一体何があったのでしょうか?(この項続く)

60.

吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ【論文から学ぶ看護の新常識】第12回

吸引前アセスメントの実施率は36% 看護師の知識と実践のギャップ看護師の吸引前アセスメントの実施率や適切な吸引圧の使用率はいずれも50%未満であり、吸引に関する知識と実践との間にギャップがあることが、研究結果から明らかとなった。Halita J Pinto氏らの研究で、Indian Journal of Critical Care Medicine誌2020年1月号に掲載された。看護師の気管内吸引に関する知識と実践:システマティックレビュー研究グループは、看護師の現行の実践におけるギャップを明らかにし、安全な実践に向けた包括的なガイドラインを提案することを目的として、システマティックレビューを実施した。2002年から2016年の期間に、あらかじめ定義されたキーワードを用いて論文データベースから論文を抽出した。レビューはPRISMAに従って実施した。質的データはメタ統合の手法で記述し、気管内吸引に関する知識と実践を明らかにするために、信頼性の高い量的エビデンスを統合する量的分析を実施した。最終的に30件の研究がメタ統合の対象となり、そのうち6件が量的分析に適した情報を提供した。量的分析によって明らかとなった、看護師の実施率に関する主な結果は以下の通り。吸引前の患者状態の評価:36%(2件の研究、対象者70人、実施者25人)必要時のみ吸引を実施:62%(3件の研究、対象者146人、実施者91人)吸引前の患者への説明:65%(5件の研究、対象者175人、実施者113人)吸引前の手洗い:62%(4件の研究、対象者148人、実施者92人)適切な吸引カテーテルサイズの使用:36%(3件の研究、対象者140人、実施者50人)適切な吸引圧(80~150mmHg)の使用:46%(4件の研究、対象者191人、実施者87人)吸引時間(15秒未満):59%(4件の研究、対象者150人、実施者88人)吸引後の再評価:100%(1件の研究、対象者30人、実施者30人)吸引後の手洗:91%(3件の研究、対象者82人、実施者75人)合併症の可能性についての認識があるにもかかわらず、推奨されている診療ガイドラインを順守していないことが報告された。臨床現場で日常的に行われる気管内吸引ですが、私たち看護師の知識と実践の間にはしばしばギャップがあることをご存知でしょうか。本レビューは、少し前のものにはなりますが、このギャップに注目し、気管内吸引の安全性と効果を高めるための重要なポイントを示した面白い研究です。日常的なケアになっている分、意外と答えられる項目が多いのかなと思いました。本文を読むと、吸引後のアセスメントの実施率は100%でしたが、吸引前にアセスメントを実施している看護師はわずか36%とかなり低い結果でした。意外にも見落とされがちなのが、吸引前の患者への説明です。吸引は患者にとって不快で痛みを伴う処置ですが、適切な説明と疼痛管理を行うことで、患者の不安やストレスを軽減できることが指摘されています。忙しい業務の中で作業的になり、つい説明を忘れてしまう気持ちもわかりますが、忘れないようにしたいものです。また、吸引は必要な時にのみ行い、15秒以内に留めるなど、最小限の侵襲で最大の効果を得るよう心がけましょう。と言いながらも、理想的なケアと現実的なケアの中でギャップはかなり生じると思います。日本では、『気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための)』1)が出ていますので、今一度、自分自身の知識と実践を確認してみてはいかがでしょうか?論文はこちらPinto HJ, et al. Indian J Crit Care Med. 2020;24(1):23-32.1)日本呼吸療法医学会. 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための). Jpn J Respir Care. 2024;41(1):1-47.

検索結果 合計:2928件 表示位置:41 - 60