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エキスパートに聞く!「関節リウマチ」Q&A part1

CareNet.comでは4月の関節リウマチ特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より関節リウマチ診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、慶應義塾大学 花岡 洋成先生にご回答いただきました。2回に分けて掲載します。プライマリ・ケア医がリウマチを疑うポイント、実施したほうがよい検査、専門医へ紹介するタイミングを教えてください。関節リウマチは骨破壊性の多発関節炎を主徴とする疾患である。発症早期に骨破壊が進行することが報告されて以来、早期診断・早期治療の重要性が認識されている。しかし、その早期診断は容易でなく、専門的知識と経験が要求される。現在、2010年の米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会新分類基準(Arthritis Rheum. 2010; 62: 2569-2581)(表)に基づき、分類(診断)を行うのが一般的である。この新分類基準ではおおまかに、罹患関節の種類と数、持続期間、血液検査所見(リウマトイド因子、抗CCP抗体、CRP、ESR)をスコア化し、分類する手法をとっている。血液検査所見のみでは診断できないことがポイントで、必ず1つ以上の関節炎の存在が必要である。しかし、プライマリ・ケア医が関節炎(滑膜炎)を識別することは困難であるため、以下のポイントを参考にしていただきたい。このスコアリング法では、とくに小関節の関節炎が多いほうが高くスコア化される。関節リウマチの好発罹患関節が小関節だからである。ここでの小関節とは、第2~5中手指節関節(metacarpophalangeal joint:MCP関節)、近位指節間関節(proximal interphalangeal joint:PIP関節)、第2~5中足指節関節(metatarsophalangeal joint:MTP関節)、第1指節間関節(interphalangeal joint:IP関節)、手関節を含む。簡単に言うと、指の第2・第3関節、手首、足趾の関節である。ここに何らかの症状がある場合は、専門医に紹介が必要である。さらに、上記血液検査で異常がある場合は積極的に紹介していただきたい。表画像を拡大するリウマトイド因子陽性でも、関節痛やほかの症状がなければ問題ないでしょうか? もしくは、リウマトイド因子陽性の場合はすべて、専門医に紹介したほうがよいのでしょうか?リウマトイド因子(RF)は、関節リウマチの診断において頻繁に測定されるバイオマーカーの1つである。1987年の米国リウマチ学会の関節リウマチ分類基準に唯一採択されていた血清マーカーであるが、その感度は60~70%、特異度は70~80%と必ずしも高くない。重要なことは、たとえRFが陽性であっても、それだけでは関節リウマチとは診断されない点にある。2010年の米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会新分類基準では、1つ以上の関節炎の存在が関節リウマチと診断する必要最低限の条件となっている。よって、RF陽性かつ1ヵ所以上の関節の腫脹・圧痛がある場合は専門医に紹介すべきである。一方、RAを発症する1.5年前からRFが陽性である患者が約30%存在するとの報告(Arthritis Rheum. 2003; 48: 2741-2749)もあるとおり、発症前からRFが陽性になることが知られている。よって、RF陽性で関節炎がない場合でも、患者さんに、1ヵ所以上の関節の腫れ・痛みが出現した際には再来院するよう伝えておくことが必要である。外来診療での治療効果(疾患活動性)の“簡単な”評価法があれば教えてください。昨今、関節リウマチの診療においてもTreat to Target(T2T)の概念が広く流布され、実臨床でも応用されている(Ann Rheum Dis. 2011; 70: 1999-2002)。T2Tとは目標達成に向けた治療のことである。1~3ヵ月毎に疾患活動性を評価し、寛解(長期罹患例は低疾患活動性)を達成・維持することを目標とするものである。疾患活動性の評価方法として、いくつかの指標が存在する。DAS28、SDAI、CDAI(Clin Exp Rheumatol. 2005; 23: s100-108)などが代表的なものである。DAS28は複雑な計算式により算出される指標(Ann Rheum Dis. 1990; 49: 916-920)で、計算機がないと日常診療では使用しづらいという難点がある。質問にある“簡単な”指標としてはCDAIが候補になる。採血結果も不要で、VAS(Visual Analogue Scale)の測定さえできれば簡便に行える。これは腫脹関節数、圧痛関節数、医師のVAS値、患者のVAS値を純粋に足し算したものである。10以下が低疾患活動性、~22が中等度疾患活動性、23以上が高疾患活動性、2.8以下が寛解である。メトトレキサートの増量の基準や方法について教えてください。関節リウマチの診療において、メトトレキサート(MTX)はアンカードラッグである。2011年2月より、日本でも第一選択薬として使用可能となり、用量も1週間に16mgまで増量可能となった。増量の基準は、T2T(Ann Rheum Dis. 2011; 70: 1999-2002)の概念から、低疾患活動性・寛解に至っていなければ、安全性を配慮しながら増量する。日本リウマチ学会MTX診療ガイドラインに基づくと、6mg/週から開始し、4~8週経過しても効果が不十分であれば適宜増量する、とある。ただし、これはあくまで推奨であり、初期投与量についても患者の保有する副作用危険因子や疾患活動性、予後不良因子を考慮して、適宜増減する、と付記されている。昨今、Intensive treatmentやRapid dose escalationと呼ばれるMTXの増量方法の有効性が検証されつつある。これは欧州を中心に行われた研究だが、早期関節リウマチを対象にMTX7.5mg/週から開始し、寛解を達成するまで5mg/週ずつ1ヵ月毎に増量するプロトコールである。このプロトコールで治療された群は、3ヵ月毎での診療群と比較して治療成績がよい(Ann Rheum Dis. 2007; 66: 1443-1449)。ただし、MTXによる有害事象での脱落例は強化治療群でより多く(39 vs 24%)、この強化治療の有益性がどこまであるか、世界規模での検証が必要かもしれない。専門医からの紹介で、引き続きメトトレキサートを処方する場合の注意点、専門医への受診間隔、専門医に紹介すべき所見(副作用出現や症状増悪の目安など)を教えてください。この患者さんが、メトトレキサート(MTX)内服によって低疾患活動性や寛解など、安定している状態と想定してお答えする。T2Tリコメンデーション(Ann Rheum Dis. 2011; 70: 1999-2002)によると、低疾患活動性もしくは寛解であっても、3~6ヵ月での活動性の評価が推奨されている。さらに治療方針の決定には、総合的疾患活動性の評価に加えて、関節破壊などの構造的変化および身体機能障害も併せて考慮すべきだと記載されている。つまり、関節X線も半年~1年に1回は撮影し、骨破壊の程度を詳細に評価することが望ましいとされている。これら「疾患活動性の評価」や「関節X線の読影」は専門的知識と経験が要求される。よって現実的には、状態が安定しているのであれば1年に1回程度の専門医への受診間隔が望ましいのではないかと考える。次に、副作用出現についてである。MTXの代表的な副作用は、肝酵素上昇、口内炎、消化管障害、血球減少と感染症である。日本におけるMTX承認以降、3年毎の副作用死亡例の内訳をみると、間質性肺炎は減少し、感染症とリンパ増殖性疾患の割合が増している。骨髄障害は減少していない。消化管障害、肝酵素上昇は葉酸の予防効果が確実であり、血球減少についても葉酸依存的との報告があるため、これらが出現した際には葉酸の追加や増量が必要である。骨髄障害の背景には腎機能障害などのハイリスク例があり、脱水を契機に突然、骨髄障害を発症することも経験する。よって、葉酸補充によって改善が見込まれる肝酵素上昇や口内炎などであれば、葉酸投与量を増加し改善するか確認する。改善しない例や、重篤な骨髄障害を認めた際などには、専門医受診を勧めるのが妥当であろう。また、長期MTX内服例でリンパ節腫脹が出現した場合も専門医へ戻すほうがよい。

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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-急性期のPCI/薬物療法

石井 秀樹 氏名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に対する急性期の治療として血栓溶解療法と経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の出現、それらの技術向上は、患者の予後改善に大きく寄与している。東京都CCUネットワーク(http://www.ccunet-tokyo.jp/)の統計では、急性心筋梗塞の死亡率は1982年には20.4%であったものが、2010年にはわずか6.0%にまで低下している(図:本誌p15参照)。安静が治療の主体であった冠動脈の再疎通療法以前の院内死亡率が3割強であったことを考えると、治療法の変遷と治療成績には極めて密接な関連があることがわかる。わが国では、医療保険制度をはじめとし、交通網や救急搬送システムなどの点で欧米とは異なることから、ACS、特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)の治療法としてPCIを第1選択とする施設が多い。10年ほど前のデータではあるが、欧米のデータベースのよる統計ではAMIに対するprimary PCI施行率は5.5~49.6%であったが、わが国では日本の施行率は75~94%と高率であり、さらに年間施行件数の少ない施設においてもPCIを選択することが多いという特徴がある1)。これは欧米では広大な医療圏内の中にPCIを行える施設が限られているため、AMI患者には血栓溶解療法が行われることが多いが、わが国ではかなりの地域でPCIを行うことができる施設に収容可能であることにも起因する。そして、このことはわが国のACS患者の予後改善に対して大きな貢献をしている要因と考えられている。これまでの知見で、ST上昇型のAMI(STEMI)に対するPCIの有効性は確立している。しかしながら、現在でも非ST上昇型AMIや不安定狭心症では、早期のPCIを含む侵略的戦術がよいのか、保存的加療を経てから症例を選んで冠動脈造影などの処置を行うのがよいのか、一定の見解は得られていない。わが国ではそのような症例に対してもSTEMI症例同様に侵略的戦術にシフトしていると考えられている。PCIなどによる再灌流は非常に有用な手段であるが、再灌流自体が再灌流障害という新たな心筋障害を生じさせることも知られており、薬物の併用などが検討されるべきである。急性心筋梗塞に対する再灌流療法ACS、特にAMIの治療において、冠血流の途絶を早期に開通、すなわち再灌流を得ることが重要なことである。このことにより、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。再灌流の手段としては、PCIが確実な方法であるが、PCIを行う施設まで搬送時間がかかる場合またはPCIまでに時間がかかると判断される場合には、血栓溶解療法単独あるいは血栓溶解療法とPCIのハイブリッド治療法であるfacilitated PCIを選択肢とするべきであるとされる2)。現在ACSに対して行うPCIは、血栓吸引のみあるいはバルーン単独での治療で終了することは少なく、ステントによる治療がほとんどの場合に行われており、PCI後の急性閉塞の低減や、再狭窄率の減少など心血管イベントの低減に貢献している。その際に考慮すべき問題として、ACSに対してbare metal stent(BMS)を使用するか、drug eluting stent(DES)を使用するのかという問題がある。ACSに対しても、安定狭心症症例同様に、本邦ならず世界的に見てもDESの使用が増加している。一時、ACSに対するDES使用は、血栓閉塞のリスクが高まるのではないかと論議されたものの、近年はDES留置も安全であるとする報告が相次いでいる3)。確かにDESは再血行再建術などに対してはBMSよりも有用であることは間違いない。しかしながら、DESが内皮障害やspasm発生に関与していることを示唆する報告があり4, 5)、spasmが多いと考えられる日本人の使用に対しては、今後も有効性と副作用の十分な検討を行うべきである。また筆者は、DES留置後の長期の予後改善が未だ不明であり、2剤併用抗血小板療法(dual anti-platelet therapy:DAPT)をいつまで行うかがまだ確立されていないことや、ACSという緊急の対応が必要ななかで出血の素因があるのかどうかを判断したり、近いうちに手術が必要なのかどうかなど確認することが困難な状況のなかで、DESを安易に使用すべきではないと考えている。加えて、近い将来に吸収性ステントや薬剤溶出性バルーンなどが日常診療において使用可能になりそうな状況において、特に年齢が若い症例に対しては、急性閉塞などには十分な注意を払いながら、バルーン単独でのPCIも考慮するべきとも考えている。再灌流療法と再灌流障害再灌流療法により、梗塞心筋の縮小効果や、左室リモデリングを抑制し、結果として長期的な予後改善効果が得られる。しかしその一方で、再灌流自体が新たな心筋障害を生じさせる。これを再灌流障害といい、PCIなどによる再灌流療法のメリットを減弱させてしまうものである。最近の知見では、1.no-reflow phenomenon:no-reflow現象(血管内皮などの障害による血管性障害)→TIMI flow grade、TIMI frame countなどによる造影所見からの判断、myocardial blush grade(造影剤による心筋染影度)、心電図によるS Tresolution(ST上昇の改善の程度)などで判断可能2.reperfusion arrhythmia:再灌流性不整脈→心電図によるモニターで判断可能3.lethal reperfusion injury:致死的心筋障害(不可逆的な細胞障害)→核医学検査法などによりにより評価可能4.Myocardial stunning:心筋スタンニング(虚血解除後に生存心筋で認められる機能低下で気絶心筋ともいわれる)→核医学検査法などにより評価可能6)に分類される。再灌流障害の発生を抑えるため、PCIの際に工夫することや、薬物を追加で使用することが重要と考えられる。特に虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニングのメカニズムを応用することが近年注目されている(図)。虚血プレコンディショニングとは、本格的な虚血に先行して起きる短時間の虚血が心筋ダメージを軽減することであり、臨床の場でも、梗塞前に狭心症がある患者ではそれがなかった患者と比較して予後が良いことが知られている7)。また、ポストコンディショニングとは、心筋梗塞症例に対して、冠動脈再灌流直後に虚血と再灌流を短時間・複数回繰り返すことで、梗塞範囲の縮小効果など再灌流障害による心筋ダメージが軽減する現象のことをいう8)。図 プレコンディショニングとポストコンディショニングの概念画像を拡大する再灌流障害に対する戦略1.段階的再灌流 一気に再灌流するのではなく、虚血と再灌流を複数回繰り返すことで細胞内Ca2+ overloadを予防し、再灌流障害が低減する。臨床試験で良好な結果が認められているが、数十秒から数分間での冠動脈内におけるバルーンのinflation、deflationが必要で、血栓吸引療法が行われた場合にはこの機序による心筋保護は難しい可能性がある。2.血栓吸引カテーテル、末梢保護デバイス ACSの発症のほとんどに血栓が関与している。血栓のある冠動脈病変をバルーンで拡張した場合、破砕された血栓が微小循環において塞栓を生じ、再灌流障害の原因になることがある。そのため、バルーン拡張の前にあらかじめ血栓を吸引する方法や、末梢で血栓やデブリスをtrapする方法が開発された。 早い時期に発表されたEMERALD研究では、末梢保護デバイスの有用性が示されなかったが、2008年発表のわが国から報告されたVAMPIRE trialでは、TVAC™による血栓吸引をSTEMI患者に対して行うことにより、行わない群と比較して、brush gradeの有意な改善と8か月後のMACEの有意な低下を示した9)。また、TAPAS研究でも血栓吸引カテーテルがmyocardial blush gradeの有意な改善が示された。 わが国では血栓吸引療法は他国と比較しても汎用されている手技と考えられ、以下に示すような薬物の追加療法を行うことで、より質の高い再灌流が得られるものと考えられる。3.再灌流障害に対する薬物による追加的保護療法 再灌流障害に対して、さまざまな薬剤がこれまで試みられてきた10)。アデノシンはプレコンディショニング作用を持つ薬物として海外から多くの報告がなされている。また、ポストコンディショニング作用を持つ薬物もさまざまある(表)。 近年、わが国からも再灌流障害の予防、慢性期の左室リモデリング抑制と予後改善を目的とし、さまざまな検討がなされている。そのなかでもニコランジルとカルペリチドは本邦で開発、臨床の場で幅広く使用され、それらを使用した研究成果報告はわが国からの報告が極めて多い。以下一部を紹介する。表 RISK pathwayの活性化とmPTP開口阻害(文献6, 10より)画像を拡大するa.ニコランジル ニコランジルは、低血糖治療薬であるジアゾキサイドなどのK-ATPチャネル開口薬とは異なる、NOドナーである点が大きな特徴である。K-ATPチャネルは先に述べた虚血プレコンディショニングに関与しており、K-ATPチャネル開口薬であるニコランジルが薬理学的プレコンディショニングを生じるということがIONA試験などで証明されてきた。 AMIにおける再灌流障害に関する研究として、コントラストエコーによるno reflow現象の抑制効果や、左室梗塞部位における壁運動改善効果が1999年に発表され11)、その後もACSをはじめとした虚血性心疾患に対するニコランジルの有用性が数多く発表された。我われは、STEMI患者に対してPCIによる再灌流を行う直前にニコランジルを静注で約30分かけて12mg投与することにより、PCI後の微小循環障害予防、慢性期の左室リモデリング抑制と心不全発症予防などの効果があることを報告した12)。その後、J-WIND-KATP研究(ニコランジル0.067mg/kgボーラス投与後、24時間1.67μg/kg/min静注)13)では、ニコランジルの有効性は示されなかったものの、用量や投与法などのさらなる検討が必要であると考えられる。また、現在は、ニコランジルは急性心不全の適応が認められ、用量もより高用量の使用が可能となっている。 また、冠動脈内注(冠動脈注は緩やかな投与が重要!)による冠微小血管抵抗指数改善作用も報告されており14)、slow flow等の改善などに対しても臨床的に幅広く使用されている。筆者の見解であるが、ACSまた待機的な症例に対してもニコランジルはPCI前から投与しておくことがコツであり、再灌流障害やslow flowを発症しないためには、予防的な投与が極めて重要であると考えている。 最近のニコランジルのトピックとして、2011年のAHAで、岐阜大学より造影剤腎症の予防効果が発表され、世界的にも注目を集めた15)。b.カルペリチド(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド:hANP) カルペリチドは血管拡張作用、利尿作用があり、急性心不全に対する治療薬として広く使用されているが、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系の抑制効果、交感神経系の拮抗作用、そして虚血プレコンディショニング、ポストコンディショニング効果と同様の作用をすると考えられているreperfusion injury salvage kinase(RISK)を活性化させる作用もあることが報告されている。この効果により、再灌流障害や左室リモデリングが抑制され、急性心筋梗塞に対して有効であるとする報告が数多く報告されている。J-WIND-ANP(AMI患者にカルペリチド0.025μg/kg/minで3日間投与)13)では、AMI患者の梗塞サイズがプラセボ投与群に比べ、14.7%の有意な減少と、慢性期の左室駆出率で、プラセボ群と比較して5.1%の有意な増加が見られ、長期にわたって心臓死・心不全による再入院も、有意に減少させることが報告されている。また、カルペリチドにも造影剤腎症予防効果の報告もある16)。c.その他 スタチンの中には、ポストコンディショニング様の作用があることがわかっている。海外のARMYDA-ACS研究では、PCI前のアトルバスタチンの投与により心筋障害が予防できることがわかっていた。本邦からは弘前大学より、AMI患者に対するdirect PCIの直前にプラバスタチンを投与することで再灌流障害が予防されたとする大変興味深い結果が報告されている17)。 また、本邦で開発され、脳梗塞治療薬として使用されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンが、direct PCIに伴う再灌流障害を抑制したとする報告がある18)。4.ACS患者に対する抗血小板療法の重要性 ACSの急性期では、血小板活性・凝固能の亢進と線溶能低下が起こっているため、血栓が非常に形成されやすい状況である。血小板が活性化すると膜表面の糖蛋白が発現し、血小板からADP、トロンボキサンA2などの生理活性化物質が放出され、血栓形成がさらに強まる。本邦では使用できないが、GP IIb/III阻害薬はその流れのなかで効果を示す薬剤である。 急性期ではアスピリン162-200mgの咀嚼投与が行われているが、PCIでステント治療となる場合には治療直前からチエノピリジンの投与が推奨される。特にクロピドグレルの場合には初期にローディングとして300mgの投与、以降75mgの投与が必要である2)。韓国からのデータではあるが、DESを用いたPCIを施行したSTEMI患者の検討では、抗血小板薬3剤(アスピリン+クロピドグレル+シロスタゾール)の投与が、2剤群(アスピリン+クロピドグレル)と比較して、8か月における主要心血管イベントを有意に低下させた(図:本誌p19参照)19)。ACSによる入院30日以内の消化管出血があると予後が悪化することも知られているが20)、わが国においても、出血に注意をしながら抗血小板剤の3剤投与も検討されてもよいかもしれない。おわりに日本ではSTEMIをはじめとするACS症例に広くPCIが行われている。特にSTEMI症例に対しては、ガイドラインでdoor-to-balloon timeは90分以内にすることが求められているが、わが国全体でもかなりの割合でそれがクリアされているものと考えられる。ACS治療が海外と比較して、日本で良好な成績を上げているのもそれが大きく起因していることは間違いない。また、多くの施設が24時間体制で緊急カテーテル・PCIに対応し、夜間や休日でも質の高いPCIを常に心がけており、循環器医療に携わるわが国の医師・パラメディカル・関係者の意識が高いことも寄与しているものと考えられる。さらに、薬物の使用においても、急性期には症例ごとにきめ細かな対応がなされ、慢性期にはエビデンスが構築された薬剤が高い比率で投与されているものと考えられる。これらのことはACSに限ったことでなく、わが国の医療レベルが非常に高い要因とも考えられる(図:本誌p19参照)21)。最近ACS症例に対しては、PCIや薬剤のみでなくremote ischemic conditioningや、再生医療に関する話題も豊富である。わが国からACS患者の予後改善に関する新たなエビデンスが構築されることが期待される。文献1)Ui S, Chino M, Isshiki T. Rates of primary percutaneous coronary intervention worldwide; Circ J 2005; 698(1): 95-1002)日本循環器学会ほか. 急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告). Circ J 2008; 72(supplIV): 1347-14643)Mauri L, Silbaugh TS, Garg P, et al. Drug-eluting or bare-metal stents for acute myocardial infarction. N Engl J Med 2008; 359 (13): 1330-13424)Yoshida T, Kobayashi Y, Nakayama T, et al. Stent deformity caused by coronary artery spasm. Circ J 2006; 70(6): 800-8015)Lerman A, Eeckhout E. Coronary endothelial dysfunction following sirolimus-eluting stent placement: should we worry about it? Eur Heart J 2006; 27(2): 125-1266)Yellon DM, Hausenloy DJ. Myocardial reperfusion injury. N Engl J Med 2007; 357 (11): 1121-11357)Ishihara M, Sato H, Tateishi H, et al. Implications of prodromal angina pectoris in anterior wall acute myocardial infarction. Acute angiographic findings and long-term prognosis. J Am Coll Cardiol 1997; 30(4): 970-9758)Yang XM, Proctor JB, Cui L, et al. Multiple, brief coronary occlusions during early reperfusion protect rabbit hearts by targeting cell signaling pathways. J Am Coll Cardiol 2004; 44(5): 1103-11109)Ikari Y, Sakurada M, Kozuma K, et al. VAMPIRE Investigators. Upfront thrombus aspiration in primary coronary intervention for patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction: report of the VAMPIRE (VAcuuM asPIration thrombus Removal) trial. JACC Cardiovasc Interv 2008; 1(4): 424-43110)Ishii H, Amano T, Matsubara et al. Pharmacological intervention for prevention of left ventricular remodeling and improving prognosis in myocardial infarction. Circulation 2008: 118(25): 2710-271811)Ito H, Taniyama Y, Iwakura K, et al. Hori M, Higashino Y, Fujii K, Minamino T. Intravenous nicorandil can preserve microvascular integrity and myocardial viability in patients with reperfused anterior wall myocardial infarction. J Am Coll Cardiol 1999; 33(3): 654-66012)Ishii H, Ichimiya S, Kanashiro M, et al. 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Early statin treatment before coronary intervention protects against reperfusion injury and reduces infarct size in patients with acute myocardial infarction. Circulation 2005; 112: II-569 Abstract.18)Tsujita K, Shimomura H, Kaikita K, et al. Long-term efficacy of edaravone in patients with acute myocardial infarction. Circ J 2006; 70(7): 832-83719)Chen KY, Rha SW, Li YJ, et al. Korea Acute Myocardial Infarction Registry Investigators. Triple versus dual antiplatelet therapy in patients with acute ST-segment elevation myocardial infarction undergoing primary percutaneous coronary intervention. Circulation 2009; 119(25): 3207-321420)Nikolsky E, Stone GW, Kirtane AJ, et al. Gastrointestinal bleeding in patients with acute coronary syndromes: incidence, predictors, and clinical implications: analysis from the ACUITY(Acute Catheterization and Urgent Intervention Triage Strategy)trial. J Am Coll Cardiol 2010; 54(14): 1293-130221)Bhatt DL, Eagle KA, Ohman EM, et al. REACH Registry Investigators. Comparative determinants of 4-year cardiovascular event rates in stable outpatients at risk of or with atherothrombosis. JAMA 2010; 304(12): 1350-1357

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クリプトコッカス髄膜炎に対する抗真菌薬併用療法の有効性を確認/NEJM

 クリプトコッカス髄膜炎に対し、治療ガイドラインではアムホテリシンBデオキシコール酸(商品名:ファンギゾンほか)とフルシトシン(同:アンコチル)による抗真菌薬併用療法が推奨されている。しかしアムホテリシンB単独療法と比べて同療法による死亡率の低下は示されなかった。その後の検討で、高用量アムホテリシンBおよび高用量フルコナゾールの各単独療法の有効性は示され、ベトナム・オックスフォード大学臨床研究ユニットのJeremy N. Day氏らは、未検討であった高用量アムホテリシンB+フルシトシンあるいは高用量フルコナゾール(商品名:ジフルカンほか)との併用療法の有効性について無作為化オープンラベル試験を行った。その結果、高用量アムホテリシンB+フルシトシンの併用療法による生存改善は認められたが、高用量アムホテリシンB+高用量フルコナゾールについては有効性が認められなかったことを報告した。NEJM誌2013年4月4日号掲載の報告より。高用量アムホテリシンB単独、+フルシトシン、+高用量フルコナゾールを比較 研究グループは、クリプトコッカス髄膜炎に対する、高用量アムホテリシンB+フルシトシンあるいは高用量アムホテリシンB+高用量フルコナゾールが、14日時点、70日時点の生存を改善するかについて検討した。 299例が登録され、被験者は3群に分けられ、グループ1は4週間にわたる高用量アムホテリシンB(1mg/kg体重/日)単独療法を、グループ2は高用量アムホテリシンBを2週間投与後、フルシトシン(100mg/kg体重/日)の同時投与を2週間受けた。グループ3は高用量アムホテリシンBを2週間投与後、高用量フルコナゾール(1日2回400mg)の同時投与を2週間受けた。高用量アムホテリシンB+フルシトシンの14日、70日生存改善を確認 アムホテリシンB+フルシトシン群の死亡発生は、単独療法群と比べて有意な減少が認められた。14日時点の死亡発生は15例vs. 25例[ハザード比:0.57、95%信頼区間(CI):0.30~1.08、未補正p=0.08]、70日時点は同30例vs. 44例(同:0.61、0.39~0.97、p=0.04)だった。 一方、アムホテリシンB+フルコナゾール群については、単独療法との比較で有意な生存への効果が認められなかった。14日時点の死亡ハザード比は0.78(95%CI:0.44~1.41、p=0.42)、70日時点は同0.71(同:0.45~1.11、p=0.13)だった。 また、アムホテリシンB+フルシトシン群では、脳脊髄液の酵母のクリアランス速度の有意な上昇[-0.42 log10コロニー形成単位(CFU)/mL/日]も認められた(vs.単独療法群:-0.31 log10CFU/mL/日、アムホテリシンB+フルコナゾール群:-0.32 log10CFU/mL/日、両比較のp<0.001)。 有害事象発生率は、全群で同程度であったが、好中球減少症が併用療法群で高頻度に認められた。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(83)〕 運動療法の効果:深層を読む

本研究は、重度の精神疾患の患者(統合失調症あるいは統合失調感情障害58.1%、双極性感情障害22.0%、大うつ病12.0%)で地域の精神科リハビリテーションに外来で参加している291名を対象とし、無作為に介入群(グループでの体重管理のセッション、個人での体重管理のセッション、グループでの運動セッション)と対照群(健康一般の講義)に分け、体重減少をメインアウトカムとして6、12、18ヵ月で評価したものである。 結果は、もちろん介入群での優位が示されている。18ヵ月の時点での両群の体重減少の差は3.2kgであったらしい。 確かに、一部の非定形抗精神病薬(上記全ての疾患で高い確率で使用される)においては、肥満や糖尿病が最も注意するべき有害事象である。高度に肥満した精神疾患患者を診察したことのある各科医師は多いのではないかと思う。 そのような危険な薬は使わなければいい、という意見もあるかもしれないので背景を説明すると、統合失調症は、脳内のドパミン過剰が病態と関連しているという古典的仮説があり、その治療薬として開発(発見)されたハロペリドールなどの定型抗精神病薬(Typical Antipsychotics;第1世代抗精神病薬(First Generation Antipsychotics)ともいう )は強力なドパミン遮断作用を持っていた。しかし脳内のドパミン受容体を遮断すれば、まさにパーキンソン病と同じ病態になるので、薬剤性パーキンソン症候群が出現する。かつて精神病の治療は、このパーキンソン症候群との闘いであった。パーキンソン症候群は、誤嚥・転倒リスクを高めるのみならず、独特の歩行障害や顔貌を呈するため、偏見を助長するという悪影響もあり、きわめて有害である。 パーキンソン症候群のリスクを少なくしたものが、非定型抗精神病薬(Atypical Antipsychotics;第2世代抗精神病薬(Second Generation Antipsychotics)ともいう )である。当初は肥満や糖尿病に関してはそれほど注目されていなかったが、徐々に致死的な有害事象であることが判明した。しかし両者の全般的な安全性の差は明らかであり、今ではほぼすべてのガイドラインの選択肢が非定型薬に置き換わったといっても過言ではない。これにより肥満が精神科臨床のきわめて重要な論点となったのである。肥満がなぜこのように重大なこととして取り上げられたのか、お分かりいただけただろうか。 さて、以上で一般的な解説は終わりであるが、はたしてこの論文は「薬剤の有害事象と関連して注目されている肥満が、行動療法で治った」というだけのものなのであろうか?それに、この介入は激しすぎないか?個人の特性に合わせた個別のセッションをして、さらに部活まですれば、何もしない対照に比べて痩せるのが当たり前ではないだろうか?また、著者らも書いているが、現実的にこのプログラムを行うのは経済的にも無理だろう。 ここからは私個人の意見だが、この論文の隠れた重要知見は、「一般人口での類似プログラムと比較すると、一般人口では6ヵ月で効果が無くなるのに対して、重度精神疾患では18ヵ月減少し続けた」という部分ではないかと思う。 つまりこの論文は社会的排除と健康格差の論文として劇的に読み替えることができるのではないか。一般人口では6ヵ月で息切れした効果が18ヵ月も続いているのは、伸び代が大きいということである。これは精神疾患という偏見によって社会的に排除された集団においては、失われた健康も大きいと考えられないか。 イメージしてみよう、精神疾患が重度で働くことができず(経済的貧困、社会参加の減少)、住居も不安定となり、偏見のため外出機会も減り、運動機会も失われ、肥満が悪化し、生活習慣病に罹患し、人的ネットワークが小さくなり、(青年期に発症したものは)教育機会も制限されていて、遺伝負因もあり、これらは世代間で再生産される・・・まさにこれは「複合的不利」(英国ブレア政権の社会的排除対策室の定義等より)である。だからこそ、介入はとても効いたのではないか。 つまりこの集団の方が、専門家と自分の健康について語り合い、仲間とスポーツをするということは、とても貴重な、前向きな体験(大きく言えば社会的包摂)であったのではないだろうか。 そう考えると、この介入前後の主観的ソーシャルサポートの変化などは測定されていないであろうか、とても気になる。(研究全体ではなく本文のみを読んでのコメントです)  この論文から、小生は現代文明の大きな潮流を感じた。論文は深読みするのもまた面白い。

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タバコの煙に対する感受性と歯周病に関係はあるのか?

 タバコの煙に対する感受性と歯周病に特徴的な関係はみられないことが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJan Bergstrom氏らにより報告された。しかしながら、喫煙者において、歯周病の進行と肺が破壊される病理的プロセスには共変動がみられたとも言及している。これまで、タバコに対する感受性が高いことで発症するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と歯周病の関係についてはあまり検討されていなかった。 本研究は、喫煙をする28人のCOPD罹患群(GOLDのガイドラインでII 期またはIII期)、COPDに罹患していない喫煙群29人、非喫煙群23人の3つの群を対象に行われた。喫煙者のグループは、タバコの煙への累積曝露量でマッチされた。評価は胸部X線とCT、一般歯科臨床検査、肺機能測定と健康関連QOL(SF-36)で行われた。 主な結果は、以下のとおり。・肺機能検査において、COPDに罹患していない喫煙者と非喫煙者とでは、一酸化炭素拡散能のみに有意差が認められた(p<0.001)。・胸部X線とCTにより評価された、気管支壁の厚さと肺気腫のスコアは他の2つのグループと比べてCOPD罹患群で高かった。・喫煙をするCOPD罹患者と非喫煙者について、歯垢、歯肉出血、歯周ポケットの深さ、残存歯数を比較すると、すべてにおいて有意差が認められた(それぞれ、p<0.01、p<0.001、p<0.0001、p<0.001)。・喫煙をするCOPD罹患者とCOPDに罹患していない喫煙者では、歯周ポケットの深さ、残存歯でのみ有意差が認められた(それぞれ、p<0.05)。・SF-36の身体的側面のQOLサマリースコア(PCS)は2つのグループと比べてCOPD群で有意に低かった(p<0.001)。・SF-36の精神的側面のQOLサマリースコア(MCS)は非喫煙群と比べ、喫煙をする2つのグル―プで有意に低かった(p<0.001)。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(82)〕 2型糖尿病患者に対して冠動脈カルシウム・スコアは有用な検査か?

従来の冠危険因子の中でも糖尿病の危険度は高く、高血圧や脂質異常症の治療ガイドラインのリスク層別化でも糖尿病のリスク比重はより重く設定されている。すなわち、糖尿病である対象者は心血管疾患発症の一次予防よりも二次予防に近い治療管理の適応となる。このような状況で、糖尿病患者の中でもより高リスクのグループを同定できないかとの数多くの試みがなされている。 Kramerらは比較的侵襲度の少ない画像診断である冠動脈カルシウム・スコアに着目して、2011年と2012年に論文出版あるいは米国心臓病学会などで発表された質の高い8つの前向き観察試験のメタ解析を行なった。総計6,521名の2型糖尿病患者が対象であり、平均観察期間は5.2年、総死亡・致死性おおよび非致死性心血管イベントで評価したエンドポイントを12.3%に認めた。そして、カルシウム・スコアが10以上の症例(71.5%)は10未満の症例(28.5%)と比較して相対危険度は5.47と有意に高値であった。しかしながら、カルシウム・スコア10以上による予後予測の感度は94%と高いが、特異度は34%と低い。さらに、カルシウム・スコア10以上・10未満による陽性尤度比および陰性尤度比は1.67と0.11であった。以上より、Kramerらは冠動脈カルシウム・スコアが2型糖尿病患者の総死亡あるいは心血管イベント発生の予測に有用であると結論付けている。 抄録およびデータだけを表面的に見れば、Kramerらの見解は妥当であるようにも思われる。しかしながら、本論文の本質はカルシウム・スコア<10の陰性尤度比が非常に低いことに尽きる。10~20年単位での長期治療が基本である糖尿病患者に対して、5年間の予後について患者を安心させることが良いのかどうかは、糖尿病専門医ではない筆者には分からない。けれども本来ならば、糖尿病患者でもより高リスクであることを見出して、2~3年以内にかなりの確率で重大イベントを起こす危険性のあるグループを同定することが、引用された各々の研究の目的であったはずである。そして、この高リスク群に対する重大イベント発生前の治療介入に結びつけることが、新たなバイオマーカーや画像診断に求められている役割である。本メタ解析の対象群の大多数はカルシウム・スコアが10以上であり、この群の更なるリスク層別化ができなかったことは、カルシウム・スコアの臨床的役割に疑問を投掛けるものである。 Kramerらによるメタ解析の結果は日本の実臨床に応用可能であろうか?以下に挙げる理由で筆者は否定的見解を取る。まず、カルシウム・スコアの計測は放射線被曝の少ないエレクトロン・ビームCTで実施するのが基本であるが(本論文でも8研究中7研究)、日本においてこの医療機器は限られた研究施設に設置されているだけである。また、日本での主流のマルチ・スライスCTではカルシウム・スコアだけの検査は保健医療で認められていない。現状では、冠動脈造影CT検査が適応となる症例に対して、造影検査と合せてカルシウム・スコアを算出しているのがそれぞれの施設の対応と考えられる。また、無症状の糖尿病患者にルーチン検査としてCTを行っても、罹病期間・年齢・腎機能などがスコアに強い影響を及ぼす。事実Kramerらも8つの研究におけるheterogeneityが非常に強いために、統計解析を繰り返して上記の結論に至っている。以上に加えて、本当に冠動脈CTが糖尿病患者のルーチン検査として有用か否かは、前向きの大規模比較試験によってCT実施群と通常フォロー群を割り付けて、CT実施群の予後が改善されることが実証される必要がある。それまでは、従来のリスク因子の丁寧な評価が糖尿病患者のマネジメントにおいては最重要項目であると思われる。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(79)〕 非緊急PCI:心臓外科がなくてもアウトカムは劣らない(マサチューセッツ州の場合)

1977年Gruentzigが世界で初めて臨床応用して以来、経カテーテル冠動脈インターベンション(PCI)の進歩は留まるところを知らないように見える。しかしながら、いわゆる「質の保証(Quality assurance)」の観点から、本治療法の急速な普及と適応拡大には、懸念を示す論議も少なくない。PCIには一定の技術的修練が必要なこと、その合併症が直ちに生命を危うくしうること、そして緊急に外科的処置を行う必要がありうることが、術者や施設のあり方についての議論の根底にある。 本論文は「心臓外科部門の有無」と「非緊急PCIの予後」の関係について検証しようとする前向き無作為化非劣性試験である。主たる結果は「心臓外科部門のない施設における非緊急PCIの1年までの予後は、同部門を有する施設に対して劣らない」とするものである。こうしたメッセージはさらなるPCI施設の広がりに繋がるようにも見えるが、本邦への外挿については困難が多い。つまり、こうした「医療手順」の比較試験では、1) 極端な患者組み入れバイアスが生じやすいこと、2) 実施地域の「医療システム」から大きく影響を受けること、に注意すべきである。この要素の理解のためには、Supplementary Appendix(本論文の電子版では28ページにおよぶ)をも通読する必要があるかも知れない。 本試験の期間中、心臓外科部門のない施設で6,694例がスクリーニングされ、5,392例が組み入れ基準を満たしていたが、実際にランダム化されたのは3,691例である。組み入れ可能症例の31.5%にあたる1,701例がランダム化されなかったわけだが、彼らがどのように扱われ、どういった転帰であったか、本論文は語っていない。「行間に除外基準がある」ことは、本試験結果の解釈を曖昧にし、現場適用を難しくするだろう。 本論文は「施設」の差異とPCIのアウトカムの関係にフォーカスしているわけだが、「術者」の状況は本邦とかなり異なっている。この試験には経験に富んだ68人の「術者」が参加しているが、そのうち34人は外科のある施設のみでPCIを行ない、残りの34名は両方のタイプの施設でPCIすると記載されている。つまり外科のない施設のみでPCIをしている「術者」は1人もいないことになる。通常、「施設」と「術者」が一体である本邦では、本論文の結果を「外科のない施設でもPCIは大丈夫」などと単純に解釈出来ないことは自明であろう。 上述のごとく、いくつかの試験デザイン上の限界があり、またマサチューセッツ州以外のエリアへの外挿の困難さはあるにしても、こうした「医療手順」の適切性を検討するという、いわば「高い視点」の論文が出版される意義は大きい。本論文では施設間の治療成績のばらつきを指摘し、モニタリングやベンチマークの重要性にも言及している。残念ながら本邦では、医療の質を担保するための、医師個人や施設の資格について記載した診療ガイドラインは殆どない。

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Vol. 1 No. 1 ACSの実態-PACIFIC Registry からわかったこと

宮内 克己 氏順天堂大学医学部循環器内科はじめに本邦における急性冠症候群(ACS)を含めた虚血性心疾患は、生活習慣の欧米化に伴い増加している。その予防や、発症した場合の急性期治療、および2次予防治療は日々実践されている。しかし、この領域における技術革新や薬剤開発は目覚ましく、診断法や治療法は日々変化し、薬剤あるいは治療法の有効性を検証する大規模臨床試験も世界中で施行されている。このような試験をまとめるかたちでevidence based medicine(EBM)は形成され、やがてガイドラインが作成される。したがって、進歩する医療から形成されたガイドラインを、そのときどきの治療実態や結果である予後を調査することで検証し、現状の問題点や今後の課題を見いだすことがわれわれには求められている。一方、ACSは冠動脈の不安定プラークの破綻とそれに続く血栓形成が主因となるが、こうした病態は全身の血管で発症しうることであり、脳血管で発現すれば脳梗塞、末梢動脈であれば急性動脈閉塞と診断される。すなわち、これらの疾患はそれぞれ独立の疾患ではなく、全身の血管に広がり、生涯進行するアテローム血栓症という臨床的症候(アテローム血栓性イベント)としての概念が確立してきた。従来、ACSに限定した調査は行われているが、他臓器のアテローム血栓性イベント再発の実態まで捉える報告は少ない。そこでアテローム血栓性イベントとその危険因子に焦点を当てた国際観察研究REACH Registryが施行され、わが国からも約5,000症例が登録され、世界との比較において新たな知見が得られた。また、日本の実臨床におけるACSの治療実態と、アテローム血栓性イベントの再発の実情を把握する目的で施行された観察研究がPACIFIC Registryである。本稿では、わが国におけるアテローム血栓性イベントの発症に関する前向き観察研究であるPACIFIC(Prevention of AtherothrombotiC Incidents Following Ischemic Coronary attack)について概説する。日本における急性冠症候群(ACS)を対象に、2年間の観察期間での治療実績や予後を観察するものである。日本人の予後-REACH Registry国際大規模観察研究1)で、対象疾患は45歳以上の確定した冠疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患(2次予防患者と文中では定義する)、または1次予防ハイリスク患者で、登録時の背景、治療内容、予後を追跡した。対象患者は6万人を超える大規模なもので、登録期間は7か月、44の国、参加医師は5,587名に及んだ。2003年12月から2004年6月までの間に67,888名(うち55,499名が2次予防、12,389名が1次ハイリスク患者)が登録され、5年追跡まで学会報告されている。登録時の患者背景をみると、冠硬化症単独が59.3%と大半を占めるが、冠・脳・末梢動脈疾患単独例は全体の80.8%であり、3者の合併は1.6%であった2)。1年後の予後を心血管死、心筋梗塞、脳卒中、またはこのイベントに入院を加えたものをエンドポイントにすると、2次予防患者は1次予防患者に比べ、1年、2年ともに有意に発症率が高率であった(4.7% vs 2.3%, p

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Follow-up tests to detect recurrent disease: Patient’s reassurance or medical need? (Ian Smith, UK)

経過観察中に再発を発見するための検査:患者の安心のため?それとも医学的必要性?現在“多くの新しい治療が再発乳がんに対して利用可能となり、早く見つけることが治療において重要である“という定説がある。経過観察の理由として考えられるものは、早期発見により予後を改善する、QOLを改善する、治療の長期的な効果をみる、長期経過観察データを集める、BRCAのようなハイリスクにおける新規病変を検出する、である。集中的な経過観察は利益があるかということに関して3つの無作為化比較試験があり、3,055名の女性が登録されたが、生存率、無再発生存率に差はなく、年齢や腫瘍径、リンパ節転移状況によっても5年の死亡率に差がなく、QOLにも違いがなかった。Pelliら(1999年)は1,243名の患者からなる比較試験で、10年生存率にまったく差がないことを示した。Kokkoら(2005年)はフィンランドにおいて472名の患者を4群(i.3ヵ月毎受診+定期検査、ii.3ヵ月毎受診、iii.6ヵ月毎受診+定期検査、iv.6ヵ月毎受診)、に分けて経過観察したところ(定期検査の内容は、来院毎に血算/生化学/CA15-3、6ヵ毎月に胸部レントゲン、肝USと骨シンチを2年毎)、無再発生存率、全生存率ともに差はなく、コストは3ヵ月と6ヵ月で1,050から2,269ユーロへ、定期検査なしとありとで、1つの再発を見つけるのに4,166から9,149ユーロへ上昇した。それでは患者の安心のために定期検査を行うのか。QOLには差はなく、定期検査で10~15%の偽陽性があり、患者は検査による不安を増していて、むしろ余計な資金を用いることなく必要に応じて受けることを希望している。それにもかかわらず、なぜ患者は定期的な経過観察と検査を行いたがるのか。それは、医師、慈善活動、あるいはメディアがそうするのがよいと言っているからである。しかし、適切に説明したらそうはならないだろう。Pennantら(2010年)は、早期乳がんにおいてPET-CTのステージングについて28の研究をレビューしているが、診断精度は改善したものの、患者の予後が改善したというエビデンスはなかった。Augusteら(2010年)は2つの経済研究から1QALYあたり50,000ユーロ上昇するとした。現在ASCO、ESMO、St Gallenのいずれのガイドラインも、注意深い病歴の聴取、身体検査、定期的なマンモグラフィが、乳がん再発の適切な発見のために推奨されるとしている。身体検査は最初の3年は3~6ヵ月、4~5年は6~12ヵ月毎であり、マンモグラフィは1年毎である。血算、生化学、骨シンチ、胸部レントゲン、肝臓超音波、CT、18FDG-PET、MRI、腫瘍マーカー(CEA、CA15-3、CA27.29)は、無症状の患者に対して定期的に行うことは推奨されていない。それでは誰が経過観察をすることが大切であろうか。Grunfeldら(2006年)は、968名の患者を腫瘍専門医と家庭内科医による経過観察に無作為に割り付け、中央値で3.5年追跡したところ、再発、死亡、QOLともに有意な差はみられなかった。Koinbergら(2004年)は、264名の患者を腫瘍専門医と看護師による経過観察に割り付け5年追跡したが、やはり再発、死亡、QOLともに差がなかった。Meyerら(2012年)は、Dana Farberにおいて547名中218名の早期乳がん患者で、少なくとも診断から2年以上経過している方に質問票に答えてもらったところ、腫瘍内科医による経過観察を好む傾向にはあったものの、家庭内科医やナースプラクティショナーともに問題はなかった。ほとんどの方は電話相談を好んでおらず、ナースプラクティショナーによる経過観察はQOLとサバイバーケアを改善させる1つの方法であることを示した。Royal Marsden病院の経験では、ほとんどの再発は患者自身が自覚し、通常定期的な予約の間であった。より多くの女性は以前よりも乳がんから生存するようになり、経過観察のクリニックも大きくなっており、患者はこれらのクリニックで若い医師が診るようになっている。定期的な経過観察は、しばしば心配を引き起こし、予約がそれほど先でなければ患者からの症状の報告は遅れるかもしれない。最初の2年に2,232名の患者から問い合わせがあり、月平均で55回の電話があり、乳房の症状が40%、更年期症状が20%、再建のことが15%、精神社会的サポートが15%であった。そのうち10~15%がクリニックへの来訪を必要とし、多くが乳房の腫瘤であった。現在、より感度の高い検査法として末梢血中の腫瘍細胞や血清中の腫瘍由来DNAの検出があり、また標的治療が臨床応用されている。Dielら(2008年)らは、大腸がん18名で術後に血中変異DNAを測定し、検出されたものはされなかったものより、有意に無再発生存率が不良であることを示した。分子標的治療の時代に高い技術による経過観察ははたして利益があるだろうか。それを証明するためには次世代の無作為化試験が必要である。レポート一覧

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(72)〕 腹部大動脈瘤の瘤径に応じた適切なサーベイランス間隔は?

この論文は腹部大動脈瘤のサーベイランス18論文を、1万5,471例の患者データを、瘤径はランダム効果モデル、破裂率は比例ハザード回帰を用いて統合解析したものである。 結果は、男性で瘤径3.0㎝では平均1.28㎜/年、5.0cmでは平均3.61mm /年拡大する。女性は4倍破裂率が高く、喫煙者と非糖尿病患者の拡大速度が大きいという文献より、解剖学的構造、性ホルモン、喫煙歴が関与した結果と推察される。男性4.5㎝の破裂率は女性5.5㎝と同等であり、女性の4.5~5.5㎝の自然経過を調べる必要がある。男性で破裂率を1%以下にするには3.0~3.9㎝で36ヵ月毎、4.0~4.4㎝では24ヵ月毎、4.5~5.4㎝では12ヵ月毎の超音波検査で十分であるという結論である。 各国のサーベイランス間隔は、英国が最短で3.0~3.4㎝は12ヵ月毎、4.5~5.4㎝で3ヵ月毎、米国が最長で3.0~3.4㎝は36ヵ月毎、3.5~4.4㎝は12ヵ月毎、4.5~5.4㎝は6ヵ月毎であり、米国より間隔が長くても良いということになる。日本では、最大横径>5cm、拡張速度5mm/6ヵ月、腹痛背部痛の症状、感染性動脈瘤に対して手術を行うことが多い(2011年大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインではエビデンスレベルC)。体格を考慮して欧米より0.5cm径が小さい5cmで手術としているがエビデンスはなく、サーベイランス間隔も前出の英国に類似して頻回であるのが現状である。 この研究の強みは、大規模データを1つの解析にまとめた点であるが、解釈上の問題点は破裂がすべて捉えられているか不明な点、また費用と心配によるQOL低下の評価が抜けている点である。今後、性別やリスクに応じた個別サーベイランス間隔の解明が待たれる。

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第1位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内1位 多学会、多科、多職種にまたがる連携がますます必要にこれまで見てきたように、とくに抗凝固療法においては、循環器系の学会だけでなく、神経内科、血液内科、消化器内科、歯科など多科にわたる連携の動きが見られるようになっています。前述の消化器内視鏡診療ガイドラインの策定メンバーもそうですが、たとえば日本循環器学会、日本脳卒中学会、日本血栓止血学会などでは、それぞれの分野のエキスパートが出席してのシンポジウムが増えています。心房細動患者の増加とともに、プライマリ・ケア医の抗凝固療法に占める役割はますます大きくなり、プライマリ・ケア医と専門医との連携もさらに重要さを増していくでしょう。血栓と出血というリスクのバランスをどう考え、どう対処するか。この問題は単に医師間で調整する問題ではなく、もちろん患者さんと医師、医療者との間でどう合意形成をするかの問題です。そこに看護師、薬剤師も含めた多職種で関わって行くことが、今後ますます必要になってくると思われます。海外1位 ESCガイドラインの改定~抗凝固薬の敷居を明確に規定1位は何といっても、昨年(2012年)8月に欧州心臓病学会(ESC)の心房細動マネジメントガイドライン1)がアップデートされたことです。このガイドラインの最大の特徴は、抗凝固療法の敷居が低く設定されたということです。従来頻用されていたCHADS2スコアは姿を消し、CHA2DS2-VAScスコア1点以上の患者のほとんどに抗凝固薬が推され、しかもより新規抗凝固薬に推奨度の重みが付けられたものとなっています。一方で同スコア0点(女性のみが該当する例も含む)には抗凝固療法は推奨されないことも明確に述べられています。もうひとつ同ガイドラインの特徴は、今回も「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要」と改めて強調するなど、プライマリ・ケア医の視点に立ったものであるということです。新規抗凝固薬を推し過ぎの感もありますが、今後の抗凝固療法の方向性を明確に示した、必読のガイドラインと思われます。 また米国胸部専門医学会(American College of Chest Physicians ;ACCP)の抗血栓療法ガイドラインやカナダの心血管協会(CCS)のガイドラインも改訂されていますが、いずれも抗凝固薬の適応を拡大する内容になっています。 来年度はいよいよ日本のガイドライン改訂が待たれるところです。1)Camm AJ, et al. Europace. 2012; 14: 1385-1413.

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募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

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新品の靴が原因の接触皮膚炎、アレルゲンは?

 スロバキア・コメニウス大学のDanka Svecova氏らは、重症のアレルギー性接触皮膚炎(ACD)を呈した9例の患者の原因調査を行った結果、全員に共通することとして新品の靴を履いていたことが浮かび上がり、アレルゲンについて調べた結果、防カビ剤の小袋に含まれていたフマル酸ジメチル(DMF)が特定されたことを報告した。欧州では、フマル酸ジメチルを防カビ剤として使用することを禁じる予防対策がすでに講じられており、著者は「症例数を増やさないためにも、同対策を徹底する必要がある」と警告を発した。International Journal of Dermatology誌オンライン版2013年2月22日の掲載報告。 DMFは防カビ剤として有用である一方、強力な感作性物質であり、低濃度でも重症ACDを引き起こす可能性があることが知られる。欧州では、家具等の接触皮膚炎の原因物質として特定されており、防カビ剤としてDMFを使用する禁止措置が勧告されているという。 本研究では、靴の接触皮膚炎がみられた患者について、DMFとの関連を調べることを目的とした。 パッチテストとアレルゲンの特定調査を行い(試料は履いていた靴、DMF製品、欧州ベースライン、靴のスクリーニング、織物・皮革の染色材スクリーニング、工業用殺虫剤シリーズ)、得られた結果は国際ガイドラインに即して記録した。靴および防カビ剤の小袋中のDMF含有量の分析については、ガスクロマトグラフィと質量分析によって行った。 主な結果は以下のとおり。・被験者は、重症ACDを呈し靴の接触皮膚炎が疑われた9例のスロバキア人(コーカサソイド)であり、全員が女性であった。・陽性パッチテストにおいて、靴の内張りに使われていた布について検証した際に、全患者が遅延型のアレルギー反応を呈した。・7例の患者が0.1%DMFのパッチテストを受け、全員が陽性反応を示した。・入手した被験者の靴を化学分析した結果、DMFが非常に高濃度に含有されていること(25~80mg/kg)が明らかになった。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(69)〕 慢性心不全と貧血を考える際のlandmark studyとなるか?!

慢性心不全の定義は研究者により異なるが、「慢性心疾患のため心臓のポンプ機能が低下し、結果として容易にうっ血性心不全状態に陥ったり重症不整脈の発生がみられる予後不良の状態」というコアな部分においては異論がないと思われる。 心血管系の第一の役割は諸臓器に酸素を送り届けることである。したがって、その運搬媒体であるヘモグロビンの不足(=貧血)の存在は、脆弱化した循環系に対して慢性的に過運動を強いるものであり、予後不良因子になると推測されたのは一見自然なことであったように思われるであろう。 ところが、実際にはこの問題については専門家の間でも意見が長く分かれ、Groenveldらがメタアナリシスにより貧血が慢性心不全患者の予後不良を予測する因子であることを示すには2008年を待たねばならなかった(Groenveld HF et al. J Am Coll Cardiol. 2008; 52: 818-827.)。彼らは1966~2007年に発表された34試験、15万3,180例を分析することにより、収縮不全型、拡張不全型いずれの慢性心不全においても、貧血が予後不良の予測因子であることを明らかにした。 しかし彼らは、貧血の治療が慢性心不全の予後改善に結びつくか否かについては慎重に発言を控えた。その時RED-HF試験、つまり本試験が進行中であり、その結果が発表されることで、結論が出されるだろうと考えたからだった。一般的に、ある因子を予後規定因子と断定するには、その因子を持っていると予後が悪いということを示すだけでは不十分で、その因子を改善もしくは除去することにより予後の改善が得られることを証明する必要があるからである。 本試験は、収縮不全型の慢性心不全を対象として、第2世代の持続型赤血球造血刺激因子製剤であるダルベポエチンアルファを用いてHbレベルを上げることにより、その予後を改善できるかどうかを検討したものである。以下に整理しておくと、1) 対象 NYHAII~IVの症状を有し、LVEF≦40%であり、血中Hbレベルが9.0~12.0g/dLの収縮障害型の慢性心不全患者でガイドラインに準じた適正な治療を受けている2,278例。2) 除外基準 ・鉄欠乏性貧血 ・クレアチニン3mg/dL以上の中等症・重症腎不全患者 ・160/100 mmHg以上の高血圧を有する患者3) 方法 患者を無作為二重盲検的に2グループに分け、1,136例に対してはダルベポエチンアルファを投与し、Hbレベルを13.0g/dLまで上げる。残り1,142例に対しては偽薬を投与する。4) 観察期間 2006年6月~2012年5月5) エンドポイント 一次エンドポイント:全死亡(原因を問わない)・心不全悪化による入院の複合 二次エンドポイント:心血管系による死亡・心不全悪化による初回入院の複合6) 結果 ・一次エンドポイント、二次エンドポイントともに差がみられなかった ・ダルベポエチンアルファ投与群で血栓性のイベントが有意に多かった 以上より著者らは、(1) 慢性心不全患者に頻繁にみられる軽症~中等症の貧血の改善は慢性心不全の予後を改善しない(2) 持続型赤血球造血刺激因子製剤により貧血の改善をはかることは、かえって血栓性イベントを増加させる危険がある(3) 慢性心不全患者に見られる軽症~中等症の貧血は慢性心不全の予後を予測できるという意味からはsurrogate markerではあるが、true risk factorではないと結論した。 本研究は統計的に周到にデザインされ、かつ現段階における倫理問題の制約もないため、偽薬との完全二重盲検試験が実施されたもので、そのデータは大変説得力のあるものになっている。読者の皆さんは日常の臨床の感覚と照らし合わせて、どのように感じられただろうか。 筆者は本研究を、慢性心不全と貧血を考える際の重要な研究として位置づけられるものであると考え、将来landmark studyとして振り返られる試験となるのではないかと予想する。

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第2位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内2位 第2、第3の新規経口抗凝固薬の発売~プライマリ・ケアへのさらなる普及はなるか2011年のダビガトラン(商品名:プラザキサ)に続き、新規抗凝固薬として2012年5月にリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)が上市されました。同薬は初のXa因子阻害薬であり、1日1回投与である点、日本独自の臨床試験を経て他国にはない用量設定がなされている点、代謝や半減期の点などで先行のダビガトランとの間に性格の違いがあります。また12月には第3の新規抗凝固薬アピキサバン(商品名:エリキュース)が製造承認されました。同薬もXa因子阻害薬であり、腎排泄率が低い点やARISTOTLE試験での優れた成績などが特徴です。このように抗凝固薬は、さらに選択肢が広がってきたわけですが、反面、使い分けをどうするか、それぞれの薬剤でのモニタリングや使用上の注意点、出血リスクへの対処法など習熟すべき知識は増える一方です。プライマリ・ケアの現場では、いまだに腎機能等の評価なく漫然と新規抗凝固薬が投与されているケースがあるように思われます。選択肢が増えるにつれ、ますます使うべきケース、使ってはならないケースなどに関する知識の共有が不可欠になると思われます。海外2位 心房細動の早期診断ツールの開発が進む~unmet needsに答えられるか?抗凝固薬の重要性はうるさいほど喧伝されていますが、一方、心房細動には無症候性のものが10~25%も存在すると言われており、その中にはCHADS2スコアの高い人も含まれているはずです。また、脳卒中の4分の1は原因のわからない、いわゆる“cryptogenic”strokeであり、その多くは事前に診断されていない心房細動からの心原性脳塞栓と推測されます。よって、抗凝固療法早期開始、そして心原性脳塞栓の発症抑制につなげるための無症候性心房細動の早期診断の必要性から、いくつかの診断ツールに関するエビデンスが、今年度次々に出されました。ひとつめは、30日程度装着し、イベント発生時にのみ記録されるイベントトリガー型のホルター心電計です。今年の国際脳卒中学会でEMBRACE試験の結果が公表され、通常のホルター心電図に比べて検出率が高いことが報告されました。2つ目は、日本の現場でも頻用されている携帯型心電計です。症状のないときでも1日2回、30日程度記録し続けることの有用性が示されました。3つ目はカテーテルアブレーション後の再発同定などに使われる植込み型のループレコーダーです。皮下植込み型で侵襲を伴いますが、検出率は非常に高いです。これらのツールを使わずとも、プライマリ・ケア医として強力な武器があります。そう、「脈を取る」ことです。前述したようにESCガイドラインでもその重要性が改めて強調されています。さて、そうして苦労して無症候性心房細動を見つけたとき、最後に残った問題は、まったく症状のない患者さんと抗凝固療法の合意をどう形成するかという難題です。今後このようなツールが開発されればされるほど、コミュニケーションの重要性が増していきます。1)Prevalence of unknown atrial fibrillation in patients with risk factors. Europace (2012)doi: 10.1093/europace/eus366

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腰痛患者の椎体骨折スクリーニングで“レッドフラッグ”の診断精度は低い

 各国の腰痛診療ガイドラインでは、椎体骨折など追加検査や特別な治療を要する病変を有している可能性が高い患者を特定するため“レッドフラッグ”の使用を勧告している。しかし、オーストラリア・シドニー大学のChristopher M Williams氏らによるシステマティックレビューの結果、ほとんどのレッドフラッグが椎体骨折のスクリーニングには役に立たないことが明らかとなった。レッドフラッグを複数組み合わせた場合は有用性が改善する可能性はあるものの、多くは偽陽性率が高く、レッドフラッグに基づいた腰痛の診療は医療費と治療成績に影響するだろうとまとめている。Cochrane database of systematic reviews 2013年1月31日掲載の報告。 腰痛患者における椎体骨折のスクリーニングに関する“レッドフラッグ”の診断精度を評価することを目的とした。 電子データベースから主要な研究論文ならびに被引用・引用論文を検索し(最も初期から2012年3月7日まで)、腰痛患者の既往歴や検査結果を参照基準(画像診断)の結果と比較した研究を2名のレビュアーが別々に選択した。 3名のレビュアーがそれぞれ、11項目からなる診断精度研究の質評価(QUADAS)ツールを用いてバイアスリスクを評価するとともに、研究デザインの特性、患者、指標検査および参照基準に関するデータを抽出して各検査に関する尤度比を算出し、臨床的有用性の指標とした。 主な結果は以下のとおり。・8件の研究(プライマリ・ケア4件、二次医療1件、三次医療[救命救急]3件)がレビューに組み込まれた。・バイアスリスクは中等度で、指標検査と参照基準の報告は不良であった。・椎体骨折の有病率は、プライマリ・ケアで0.7~4.5%、3次医療で6.5~11%であった。・指標検査は29種あったが、2件以上の研究で採用されたのは2種だけであった。・陽性尤度比が得られた“レッドフラッグ”は、プライマリ・ケアでは3項目あったものの大部分は不正確であった(著しい外傷、年齢[高齢]、ステロイド使用:尤度比推定値範囲はそれぞれ3.42~12.85、3.69~9.39、3.97~48.50)。一方、3次医療では1項目であった(挫傷/擦過傷:尤度比推定値31.09、95%CI:18.25~52.96)。・複数の“レッドフラッグ”の組み合わせは、陽性尤度比が大きく単独より有用と思われた。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケース解説

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第3位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内3位 ダビガトランの使用法に関する知の集積が進む〜このまま安住してよいのか?ダビガトラン(商品名:プラザキサ)は発売から2年近くが経過し、現場での使用経験がある程度蓄積されてきたように思われます。とくに日本では、心臓血管研究所からaPTTがモニタリング(チェック)に有効であるとの論文1)が発表され、施設基準上限の2倍を超えない範囲での使用が浸透されつつあります。またRE-LY試験のサブ解析が数多く発表されるようになり、とくにアジア人を対象としたRE-LY ASIA試験2)では、アジア人のダビガトランによる消化管出血は少ないことが報告されています。このように比較的安全に使用できるようになってきたダビガトランですが、aPTTよりもより施設間のばらつきが少なく、血中濃度との相関がよい指標の登場が望まれます。またダビガトランが使用できない腎機能低下例、高齢者などにおいて、むしろワルファリンのありがたみを実感する場面も多くなりました。抗凝固薬の世界は、ワルファリンの使い方を知って初めて新規抗凝固薬も使いこなすことができる、いわゆる温故知新であると同時に「温新知故」というべき状況でもあると思われます。1)Suzuki S,et al.. Circ J. 2012;76:755-757.2)Hori M, et al. Efficacy and safety of dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation: Analysis in Asian population in RE-LY trial. Presented at the 2nd Asia Pacific Stroke Conference, 11 September 2012.海外3位 WOEST試験~トリプルテラピーは避けられるか?抗凝固薬服用中の心房細動患者さんにPCIを施行することになった。あるいは薬剤溶出ステント後、抗血小板薬2剤服用中の方が心房細動になった。このようなケースが年々増えていますが、抗凝固薬+抗血小板薬2剤併用のいわゆるトリプルテラピーは出血合併症が多く、現場での悩みの種でした。「抗血小板薬1剤だけのダブルテラピーでもよいのでは?」といった臨床上の疑問に答えるべくデザインされたWOEST試験1)の結果が最近発表されました。トリプルテラピーの方がクロピドグレルとの併用であるダブルテラピーより出血合併症は有意に多く、塞栓症は同等という結果でした。薬剤溶出ステントに特化したものではなく、オープンラベル試験であるなどの制約はありますが、今後ガイドラインなどに影響を与える試験として注目したいと思います。1)Dewilde WJ, et al. Lancet. 2013 Feb 12. [Epub ahead of print]

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第12回 添付文書 その1:「添付文書」の解釈、司法と臨床現場の大きな乖離!

■今回のテーマのポイント1.医薬品の使用において、添付文書の記載に反した場合には、特段の合理的理由がない限り、過失が推定される2.「特段の合理的理由」の該当性判断は、判例により幅があることから、一定のエビデンスを確保したうえで行うことが安全といえる3.その場合においては、インフォームド・コンセントの観点から、患者に対し適切な説明がなされるべきである事件の概要7歳男性(X)。昭和49年9月25日午前0時30分頃、腹痛と発熱を訴え、救急車にてA病院を受診し、経過観察及び加療目的にて入院となりました。その後、同日午後3時40分まで保存的治療を行っていたものの、化膿性ないし壊阻性の虫垂炎と診断されたため、虫垂切除手術を行うこととなりました。Y医師は、自身と看護師3名、看護補助者1名とで、Xに対する虫垂切除術を行うこととしました(麻酔科医不在)。Y医師は、同日午後4時32分頃、Xに対し腰椎麻酔として0.3%のジブカイン(商品名: ペルカミンS)1.2mLを投与しました。Y医師は、A看護師に対しては、Xの脈拍を常時とるとともに、5分ごとに血圧を測定して自身に報告するよう指示し、B看護師に対しては、Xの顔面等の監視にあたるよう指示し、午後4時40分より執刀を開始しました。午後4時45分頃、Xの虫垂の先端が後腹膜に癒着していたため、Y医師が、ペアン鉗子で虫垂根部を挟み、腹膜のあたりまで牽引したところ、Xが「気持ちが悪い」と訴えました。同時に、A看護師が「脈拍が遅く弱くなった」と報告しました。Y医師が、Xに対し、「どうしたぼく、ぼくどうした」と声をかけましたが、返答はなく、Xの顔面は蒼白で唇にはチアノーゼ様のものが認められ、呼吸はやや浅い状態で意識はありませんでした。A看護師から、血圧は触診で最高50mmHgであると報告されました。午後4時47分には、Xは心肺停止となり、Y医師および応援に駆け付けた医師らによる蘇生処置が行われた結果、午後4時55分には、Xの心拍は再開し、自発呼吸も徐々に回復しましたが、残念ながらXの意識が回復することはありませんでした。Xは、その後、長期療養を行いましたが、脳機能低下症のため意思疎通は取れず、寝たきりのため全介助が必要な状態となりました。これに対し、Xおよび両親は、A病院およびY医師らに、9,400万円の損害賠償の請求を行いました。第1審では、検査、腰麻の選択、手術方法、術中の管理、救急措置のいずれにおいても、過失を認めることはできないとして請求を棄却しました。第2審においては、Xの血圧低下は、Y医師が虫垂をペアン鉗子で挟んだことによる迷走神経反射が起因しているとして、その場合、仮にペルカミンS®の添付文書記載通り2分ごとに血圧を測定していたとしても、午後4時45分以前にはXの血圧に異状は認められないことから、添付文書の記載に従わなかったこととXの血圧低下との間には因果関係がないとして原告らの請求を棄却しました。この原審に対し、原告らが上告したところ、最高裁は、午後4時45分に脈拍が低下した時点で、Xの唇にチアノーゼ様のものが認められたことから、Xの血圧低下の原因は、迷走神経反射だけでなく、ペルカミンS®による腰麻ショックも存在していたとし、下記の通り判示し、原判決を破棄し、原審に差し戻しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過7歳男性(X)。昭和49年9月25日午前0時30分頃、腹痛と発熱を訴え、救急車にてA病院を受診し、経過観察および加療目的にて入院となりました。その後、同日午後3時40分まで保存的治療を行っていたものの、化膿性ないし壊阻性の虫垂炎と診断されたため、虫垂切除手術を行うこととなりました。Y医師は、自身と看護師3名、看護補助者1名とで、Xに対する虫垂切除術を行うこととしました(麻酔科医不在)。Y医師は、同日午後4時32分頃、Xに対し腰椎麻酔として0.3%ペルカミンS® 1.2mLを投与しました。 なお、麻酔実施前のXの血圧は112/68mmHg、脈拍は78/分であり、麻酔後3分(午後4時35分)の血圧は124/70mmHg、脈拍は84/分でした。Y医師は、A看護師に対しては、Xの脈拍を常時とるとともに、5分ごとに血圧を測定して自身に報告するよう指示し、B看護師に対しては、Xの顔面等の監視にあたるよう指示し、午後4時40分(40分時点での血圧122/72mmHg)より執刀を開始しました。午後4時45分頃、Xの虫垂の先端が後腹膜に癒着していたため、Y医師が、ペアン鉗子で虫垂根部を挟み、腹膜のあたりまで牽引したところ、Xが「気持ちが悪い」と訴えました。同時に、A看護師が「脈拍が遅く弱くなった」と報告しました。Y医師が、Xに対し、「どうしたぼく、ぼくどうした」と声をかけましたが、返答はなく、Xの顔面は蒼白で唇にはチアノーゼ様のものが認められ、呼吸はやや浅い状態で意識はありませんでした。この時点で、A看護師から、血圧は触診で最高50mmHgであると報告されました。午後4時47分には、Xは心肺停止となり、Y医師および応援に駆け付けた医師らによる蘇生処置が行われた結果、午後4時55分には、Xの心拍は再開し、自発呼吸も徐々に回復しましたが、残念ながらXの意識が回復することはありませんでした。Xは、その後、長期療養を行いましたが、脳機能低下症のため意思疎通は取れず、寝たきりのため全介助が必要な状態となりました。事件の判決「本件麻酔剤の能書には、「副作用とその対策」の項に血圧対策として、麻酔剤注入前に1回、注入後は10ないし15分まで2分間隔に血圧を測定すべきであると記載されているところ、原判決は、能書の右記載にもかかわらず、昭和49年ころは、血圧については少なくとも5分間隔で測るというのが一般開業医の常識であったとして、当時の医療水準を基準にする限り、被上告人に過失があったということはできない、という。しかしながら、医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。そして、前示の事実に照らせば、本件麻酔剤を投与された患者は、ときにその副作用により急激な血圧低下を来し、心停止にまで至る腰麻ショックを起こすことがあり、このようなショックを防ぐために、麻酔剤注入後の頻回の血圧測定が必要となり、その趣旨で本件麻酔剤の能書には、昭和47年から前記の記載がされていたということができ(鑑定人によると、本件麻酔剤を投与し、体位変換後の午後4時35分の血庄が124/70、開腹時の同40分の血圧が122/72であったものが、同45分に最高血圧が50にまで低下することはあり得ることであり、ことに腰麻ショックというのはそのようにして起こることが多く、このような急激な血圧低下は、通常頻繁に、すなわち1ないし2分間隔で血圧を測定することにより発見し得るもので、このようなショックの発現は、「どの教科書にも頻回に血圧を測定し、心電図を観察し、脈拍数の変化に注意して発見すべしと書かれている」というのである)、他面、2分間隔での血圧測定の実施は、何ら高度の知識や技術が要求されるものではなく、血圧測定を行い得る通常の看護婦を配置してさえおけば足りるものであって、本件でもこれを行うことに格別の支障があったわけではないのであるから、Y医師が能書に記載された注意事項に従わなかったことにつき合理的な理由があったとはいえない。すなわち、昭和49年当時であっても、本件麻酔剤を使用する医師は、一般にその能書に記載された5分間隔での血圧測定を実施する注意義務があったというべきであり、仮に当時の一般開業医がこれに記載された注意事項を守らず、血圧の測定は五分間隔で行うのを常識とし、そのように実践していたとしても、それは平均的医師が現に行っていた当時の医療慣行であるというにすぎず、これに従った医療行為を行ったというだけでは、医療機関に要求される医療水準に基づいた注意義務を尽くしたものということはできない」(最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁)ポイント解説今回と次回は添付文書の法的意義について解説いたします。第1回のポイント解説で示したように、民事医療訴訟における過失とは、一般的には「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」に満たない診療のことをいいます。しかし、この文言をいくら眺めたところで、具体的な事例についての線引きの基準を導き出すことはできません。したがって、例えば、本件における腰椎麻酔下での虫垂切除術において血圧測定を何分間隔で行うことが「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」なのかは、個別具体的に判断せざるを得ません。しかし、裁判官は、医学知識を有しているわけではありませんし、当然、医療現場を経験したこともありません(ロースクール制度により、最近、医師として医療現場を経験した裁判官が生まれるようになりましたがわずか数名です)。したがって、民事医療訴訟において、そういった個別具体的な事例における医療水準を決定する際に用いられるのが、今回のテーマとなる添付文書や次々回のテーマであるガイドラインであったり、医学文献、教科書、意見書、鑑定等です。添付文書は、薬事法52条(医療機器については63条の2)によって下記のように定められています。 (添附文書等の記載事項)第52条  医薬品は、これに添附する文書又はその容器若しくは被包に、次の各号に掲げる事項が記載されていなければならない。ただし、厚生労働省令で別段の定めをしたときは、この限りでない。一用法、用量その他使用及び取扱い上の必要な注意二日本薬局方に収められている医薬品にあつては、日本薬局方においてこれに添附する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項三第四十二条第一項の規定によりその基準が定められた医薬品にあつては、その基準においてこれに添附する文書又はその容器若しくは被包に記載するように定められた事項四前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項 そして、添付文書の記載については、「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(薬発第606号平成9年4月25日厚生省薬務局長通知、薬安第59号厚生省薬務安全課長通知)「医療機器の添付文書の記載要領について」(薬食発第0310003号平成17年3月10日厚生労働省医薬食品局長通知)があり、記載内容、方法について詳細に定められています。同通知別添に記載されている添付文書作成の目的は、「医療用医薬品の添付文書は、薬事法第52条第一号の規定に基づき医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために、医師、歯科医師及び薬剤師に対して必要な情報を提供する目的で当該医薬品の製造業者又は輸入販売業者が作成するものであること」となっています。このようなことから、古くから裁判所は、医薬品の使用に関する医療水準の判断について、添付文書の記載を他の証拠と比べ重視していました。そのような背景の中で出された、本判決の特徴は、「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」と示されるとおり、医薬品の使用に関しては、特段の合理的理由がない限り、添付文書の記載がすなわち医療水準となるとしたことです。確かに、高度の専門性を有する医療訴訟の判断をすることは、裁判所にとって非常に困難でありストレスであることは理解できますし、医師がいつでも手に取って読むことができる添付文書の記載さえ遵守していれば、医薬品の使用に関しては違法と問われることがないという意味においては、適法行為の予見可能性を高めるものであり、医師にとって有利なのかもしれません。しかし、皆さんご存知の通り添付文書の記載には、臨床の実情を反映しているとはいえない記載がしばしば見受けられます。そのような場合、医師が、患者に最善の治療を提供しようと添付文書記載に反する治療を行うことに躊躇してしまう(萎縮効果)こととなり問題といえます。特にわが国では、ドラッグラグが問題となっており、世界標準の治療薬の半数程度しか保険適用されていない現状において、未承認薬や適用外処方が原則違法であるとすることは、医学的に不当な結論といえます。このような医療界からの指摘を受け、現在では、例外となる「特段の合理的理由」を広く解することにより適切な判断をするように対応している判例が複数認められます。「添付文書の内容に違反した場合に,医師に過失が推定されるのは,製造業者や輸入販売業者は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有しており,それが添付文書に反映されているという事情に基づくものであるところ,本件においては,ベサコリン散の添付文書に,パーキンソン病の患者に対して禁忌であると記載がされたことについては,販売元の株式会社○○に対する調査嘱託の結果,厚生労働省からの指導によるものであって,株式会社○○自身が裏付けとなる研究結果等に基づいて記載したものではないことが判明しており,禁忌とされた根拠は必ずしも明確ではない。その上,ベサコリン散の成分は血液脳関門を通過しないからパーキンソニズムを悪化させることはないものとの考えが一部の出版物にも掲載されており,また,ベサコリン散のインタビューフォームにも,ベサコリン散の成分は血液脳関門を通過しない旨の記載がある。以上によれば,本件におけるベサコリン散の投与については,添付文書の記載内容には違反しているものの,原告に対してベサコリン散を投与すべき必要性が認められる反面,添付文書上の禁忌の根拠が明確でなく,むしろY医師自身は禁忌の根拠はないものと考えてあえて投与を行っていたものといえる。したがって,添付文書に反していても,本件においてはそこに合理的理由があるものといえ,直ちにY医師に過失があるものということはできない。パーキンソニズムの患者に対し、添付文書においてパーキンソン病の患者には禁忌であると記載されているベサコリン散を投与したとしても、当該患者に対してベサコリン散を投与すべき必要性が認められる反面、添付文書上の禁忌の根拠が明確でなく、当該医師が禁忌の根拠はないものとあえて投与を行っていたときには、当該投与が添付文書に反していても、そこには合理的な理由があるものといえるから、直ちに当該医師に過失があるものということはできない」(横浜地判平成21年3月26日判タ1302号231頁)とした判決や、ステロイド抵抗性の喘息患者に対し、適用外となる免疫抑制剤の投与を行った事案において、「ガイドラインに『難治性喘息に対する治療法として,免疫抑制剤の併用を考慮する場合がある』とされていることや有効性を示す症例報告が複数存在することを理由にただちに違法とはならない」とした判決(京都地判平成19年10月23日)などがあります。とはいえ、本件最高裁判決はまだいきていますので、適用外処方を行う場合には、事前にガイドラインや複数の医学文献等エビデンスを確保したうえで行うことが望ましいといえます。また、適用外処方をする場合には、インフォームド・コンセントの観点から、患者に対し、「(1) 当該治療方法の具体的内容、(2) 当該治療方法がその時点でどの程度の有効性を有するとされているか、(3) 想定される副作用の内容・程度及びその可能性、(4) 当該治療方法を選択した場合と選択しなかった場合とにおける予後の見込み等について、説明を受ける者の理解力に応じ、具体的に説明し、その同意を得た上で実施」(前掲京都地判平成19年10月23日より引用)すべきといえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最判平成8年1月23日民集50号1巻1頁横浜地判平成21年3月26日判タ1302号231頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。 京都地判平成19年10月23日

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2012年度10大ニュース~心房細動編~ 第4位

解説者のブログのご紹介『心房細動な日々』国内海外国内4位 日本消化器内視鏡学会による「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」〜リスク認知の共有はなるか?2012年7月に抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインが発表になりました。これはある意味、今年度1番のトピックかも知れません。筆者のつたないブログ「心房細動な日々」でも常にアクセス数の1、2を誇る話題です。多学会共同の作成であること、各ステートメントのエビデンスレベルは低くコンセンサス重視であること、手技別の出血リスクと休薬による血栓塞栓リスクをそれぞれ層別化したことなど特徴は多々ありますが、何と言っても最大の注目は、「抗凝固薬1剤服用中であれば休薬しなくても生検可能」とした点です。これを遵守すれば、患者さんが2回内視鏡を施行されることもなく、また無根拠な休薬も避けることができます。しかしながら、実際には術者に依存する因子も大きいと予想され、一律な運用は問題があると思われます。むしろ、それまで一見「ツンデレ関係」とも思われた循環器内科医と消化器内科医との間でリスクの捉え方に関し、視野を共有する良い機会と捉えるべきです。1)藤本一眞ほか.日本消化器内視鏡学会雑誌. 2012;54:2075-2102.海外4位 カテーテルアブレーションに関する知の集積~注目すべきエビデンスが続々発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションは、日本も含めたどの国のガイドラインも「薬剤抵抗性」「抗不整脈薬投与下」といったように、薬が効かない場合の二番手の治療という制約のもとで推奨度Iがついています。これに対して「薬剤抵抗性ではない、抗不整脈薬を使っていない心房細動患者にいきなりカテーテルアブレーションを施行して良いか?」という問いに答えるべく設定されたのがMANTRA-AF試験1)です。発作性心房細動294例を、第一選択でカテーテルアブレーションを施行する群と抗不整脈薬群とに振り分け2年間追跡したところ、累積心房細動時間に差はありませんでした。この試験の対象は「70歳未満の基礎心疾患のない人」ですので結論を急ぐのは早急ですが、ある方向性が打ち出された感があります。一方、持続性心房細動が多く含まれる施設での長期成績2)や、1年以上持続する長期持続心房細動に対する成績3)も明らかとなり、予想された以上の成功率が報告されています。さらに、欧州では大規模な登録研究が行われ、発作性心房細動の第1セッション成功率が72%であるなどの成績が報告4)されました。日本でも日本不整脈学会のJ-CARAF登録研究の成績が公表されるなど、各国で知の集積が進んでいます。1)Cosedis Nielsen J, et al. N Engl J Med. 2012;367:1587-1595.2)Sorgente A, et al. Am J Cardiol. 2012;109:1179-1186.3)Tilz RR, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;60:1921-1929.4)Scharf C, et al. Europace 2012;14:1700-1707.

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アピキサバン、VTEの抗凝固療法の延長治療として有用/NEJM

 経口第Xa因子阻害薬アピキサバン(商品名:エリキュース)による抗凝固療法の延長治療は、大出血の発生率を上昇することなく静脈血栓塞栓症(VTE)の再発リスクを低減することが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らによるAMPLIFY-EXT試験で示された。深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)などのVTEは、心疾患や脳卒中後の血管関連死の原因として3番目に頻度が高いという。欧米のガイドラインは3ヵ月以上の抗凝固療法を推奨しているが、標準治療であるワルファリンは、出血リスクのほかモニタリングや食事制限などの問題で治療の継続が難しくなることが多く、延長治療の決定には困難が伴う。アピキサバンは固定用量レジメンでの投与が可能で、モニタリングも不要なため、VTEの延長治療の選択肢となる可能性があった。NEJM誌2013年2月21日号(オンライン版2012年12月8日号)掲載の報告。2つの用量の有効性と安全性をプラセボ対照試験で評価 AMPLIFY-EXT試験は、VTEに対する抗凝固療法の延長治療としてのアピキサバンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化試験。 対象は、年齢18歳以上、症候性のDVTまたはPEの診断で標準的な6~12ヵ月の抗凝固療法を完遂したが、抗凝固療法の継続・中止の判断が臨床的に困難な症例とした。 これらの患者が、アピキサバンの治療用量(5mg、1日2回)、血栓予防用量(2.5mg、1日2回)またはプラセボを与する群のいずれかに無作為に割り付けられ、12ヵ月の治療が行われた。VTE再発/全死因死亡:プラセボ群11.6%、2.5mg群3.8%、5mg群4.2% 2008年5月~2011年7月までに28ヵ国328施設から2,482例(ITT集団)が登録され、アピキサバン2.5mg群に840例(平均年齢56.6歳、男性58.0%、DVT 64.8%)、5mg群に813例(同:56.4歳、57.7%、64.8%)、プラセボ群には829例(同:57.1歳、56.5%、66.5%)が割り付けられた。 有効性に関する主要評価項目である症候性VTEの再発または全死因死亡の発生率は、プラセボ群の11.6%(96例)に比べ2.5mg群は3.8%[32例、相対リスク(RR):0.33、95%信頼区間(CI):0.22~0.48、差:7.8ポイント、95%CI:5.5~10.3、p<0.001]、5mg群は4.2%(34例、0.36、0.25~0.53、7.4、4.8~10.0、p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。 有効性の副次的評価項目である症候性VTEの再発またはVTE関連死の発生率は、プラセボ群の8.8%(73例)に対し2.5mg群が1.7%(14例、RR:0.19、95%CI:0.11~0.33、差:7.2ポイント、95%CI:5.0~9.3、p<0.001)、5mg群も1.7%(14例、0.20、0.11~0.34、7.0、4.9~9.1、p<0.001)と、両群とも有意に優れた。 安全性の主要評価項目である大出血の発生率は、プラセボ群の0.5%(4例)、2.5mg群の0.2%(2例)、5mg群の0.1%(1例)に認められ、大量ではないものの臨床的に重要な出血は、それぞれ2.3%(19例)、3.0%(25例)、4.2%(34例)にみられた。全死因死亡は、プラセボ群の1.7%に比べ2.5mg群は0.8%、5mg群は0.5%だった。 著者は、「アピキサバンの治療用量または血栓予防用量を用いた抗凝固療法の延長治療により、VTEの再発リスクが抑制され、大出血の発生率は上昇しなかった」と結論し、「今後、より長期の治療のリスクとベネフィットを評価する臨床試験を行う必要がある。アピキサバン群で動脈血栓イベントの低下が観察されたことから、VTEの持続的な血栓リスクには動脈血栓も関与している可能性がある」と指摘している。

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