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ベンゾジアゼピンと認知症リスクの関連:PAQUID試験

 ベンゾジアゼピンの新規使用により認知症リスクが増大することが、フランス・ボルドー・セガレン大学のSophie Billioti de Gage氏らが実施したPAQUID試験で示された。多くの先進国では、診療ガイドラインの有無にかかわらず、高齢者へのベンゾジアゼピンの処方が広く行われ、習慣化している場合も多いという。ベンゾジアゼピンの短期投与の効果はよく知られているが長期投与の有害作用は明確ではなく、認知機能に対する遅発性の有害作用(認知機能低下、認知症)をもたらす可能性が、症例対照試験やコホート試験で指摘されている。BMJ誌2012年10月27日号(オンライン版2012年9月27日号)掲載の報告。認知症リスクを前向きコホート試験で評価 PAQUID試験は、加齢に伴う脳の変化の検討を目的に、南フランスで実施されたプロスペクティブなコホート試験。1987~1989年に、ジロンド県とドルドーニュ県に居住する65歳以上の一般住民から無作為に選ばれた3,777人が登録された。 今回の検討では、登録開始から3年間はベンゾジアゼピン系薬剤を使用しておらず、5年目までに認知症を発症していない住民1,063人(平均年齢78.2歳)を解析の対象とした。フォローアップ期間15年、ハザード比は1.60 15年のフォローアップ期間中に253人が認知症と診断された。ベンゾジアゼピンの新規使用により認知症のリスクが有意に増大した[多変量調整後ハザード比(HR):1.60、95%信頼区間(CI):1.08~2.38]。うつ症状の存在を考慮した感度分析でも同様の関連を認めた(HR:1.62、95%CI:1.08~2.43)。 フォローアップ期間中にベンゾジアゼピンの使用を開始した参加者のプール解析では、認知症の発症との有意な関連が認められた(HR:1.46、95%CI:1.10~1.94)。補足的なコホート内症例対照研究を行ったところ、ベンゾジアゼピン使用者は非使用者に比べ認知症のリスクが50%以上増大していた[調整オッズ比(OR):1.55、95%CI:1.24~1.95]。 使用歴があるが現在は使用していない者(OR:1.56、95%CI:1.23~1.98)と、現在使用中の者(OR:1.48、95%CI:0.83~2.63)の認知症リスクはほぼ同じだったが、有意差は前者にのみ確認された。 著者は、「ベンゾジアゼピンの新規使用により認知症リスクが増大することが示された」と結論し、「医師は有害事象の可能性を考慮しつつ、過度な頻用は慎むよう患者に注意をうながすべき」と指摘する。

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倫敦通信(第2回)~医療と護身術

星槎大学客員研究員インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院客員研究員越智 小枝(おち さえ)2012年11月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。先日一時帰国した際、薩摩の野太刀自顕流の伝承者である島津義秀さんとお話しさせていただく機会がありました。攻撃してくる相手を倒すための実践的なお話を色々聞けたので、「看護学部でも是非教えてあげたいですね」と言ったところ、「そんなに必要ですか?」とすこし驚かれたご様子でした。病院で起こる暴力行為は世間ではまだあまり認識されていないのかな、という印象を受けました。女性のスタッフが増えた昨今、夜間休日の病院で暴力行為に対応する管理職も男性とは限りません。私自身、当直中に病棟からこんな電話を受けたことがあります。「先生、○号室の意識障害の患者さんがボールペンを持って暴れていて…でも担当の先生が帰ってしまって…」確かに問題ですが、女医の私にどうしろと、という状況です。半ばやけくそで「つまり私にとり押さえてほしいってこと?」と聞くと、「はい。」とのお返事。さすがに苦笑しながら病棟まで行き、患者さんからボールペンを取り上げて転落防止を確認した上でご家族へ連絡しました。その後の署名などは全てフェルトペンを使いました。意識障害で病室から走り出してきた患者さんを「膝カックン」で転ばせ、看護師さんが噛みつかれている間にとり押さえたこともありますし、裸で暴れる若い男性を女性看護師と4人がかりでベッドに押し倒した(!)こともあります。この時は妊娠中の看護師さんが危うくお腹を蹴られるところでした。やり返すことは言語道断ですが、力の差がある上に防戦一方、という状況には辛いものがあります。ここで大事なことは、これらはいずれも一般病棟で起こったということ、患者さんは心神喪失状態であり、こちらの態度などで避けられる事件ではなかったということです。救急外来になると喧嘩の負傷者や酔っぱらい患者も多いため、状況はさらに悪化します。私の同僚だけでも救急外来で患者さんに殴られた女医さんが何人かいます。日本看護協会の調査では、身体的暴力・言葉の暴力を合わせると4人に1人の看護師が「暴力を受けたことがある」と回答しており、身体的暴力の96%は患者さんからの暴力だったとのことです(参照1)。英国でも状況は同様です。2000年に英国で行われた職種別の犯罪調査(British Crime Survey)によると、看護師が暴力行為を受ける確率は5.0%で、警備職(11.4%)の約半分のリスク。介護士は2.6%でこれも全職業の平均値の2倍以上となっており、医療関係者のリスクの高さがわかります(参照2)。言葉の暴力にいたると50%の病院職員が経験しており、暴力行為による医療費の喪失は年間6900万ポンドになるそうです(参照3)。英国NHS(参照4)では2001年からNHS Protectというプロジェクトを立ち上げてこれに当たっていますが(参照5)、驚くことに、その英国においても医療機関での迷惑行為が犯罪として認定されたのはつい最近の2009年であり、医療従事者が患者の暴力から保護されていない実情がうかがわれます。ではなぜ医療機関では暴力行為が多いのでしょうか?1つには、患者・医療者両方の精神的ストレスが挙げられます。入院生活や外来での待ち時間は、体調が悪い患者さんにとっては大変な精神的苦痛です。また、医療行為への恐怖が高まった結果、逆に医療に対する過剰な期待が裏切られた結果、暴力行為に至ってしまうこともあるそうです。それに対して医療関係者側でも、長時間勤務の過労状態の時に不適切な発言が増えるため、特に体力のないスタッフが衝突してしまう例が多い、と感じます。もう1つの原因は患者さんの意識状態の変容です。例えば急性アルコール中毒や急性薬物中毒による酩酊状態がこれにあたります。しかしこの「酩酊状態」はなにも中毒でなくとも起こり得ます。例えば痴呆、重症の肝臓疾患や甲状腺機能異常などの患者さんの意識障害は時折みられるケースです。また、24時間外に対して開けている病院という施設では、患者さん以外の方が乱入して暴力をふるう、という事件も起こり得ます。以前の勤務先では患者さんの家族が刃物を持って暴れている所を医師が確保した、などという話も聞きました。ではこのような行為に対して、どのような対策が取られているのでしょうか。多くのガイドラインで提示されているのは・相談窓口、報告システムの設置・警備員による巡回・診察室や待合室の間取りや物の配置・暴力行為を起こさないような環境作りといったものです。しかし、暴力行為の現場でスタッフ自身が身を守る方法については、あまり詳しく述べられていません。護身術の教育が病院単位でなされているところもありますが、学校教育としては導入されていないのが現状です。これについてNHSは「トレーニングと教育は重要だが、どのようなトレーニングが有効かというエビデンスは確立されていない」という大変英国らしいコメントを添えています。要するに費用対効果がよいかどうか分からない、ということでしょう。エビデンスを待つまでもなく、実際の現場では、一人ひとりが身を守る知識を持つことは最低限の職業訓練だと思います。腕や肩をつかまれた時に振り払う方法、暴れている患者さんから危険物(点滴台、置時計、ペンなど)を遠ざけること、横になっている人は額を押さえると暴れにくいこと、など。実践しないまでも、これらを知っているだけでもスタッフ自身の態度が変わります。怯えたり立ちすくむ新任スタッフはどうしても攻撃されることが多いため、これはとても大切なことなのです。また管理職の方は、看護師さんに暴力を振るう患者が、男性や医師(性別に関わらず)の前で急におとなしくなることも多い、ということも知っておく必要があります。これを把握していないと、「スタッフの態度が悪かったのだ」と解釈したり、暴力行為の危険性を低く見積もってしまうことがあるからです。暴力行為の危険は、専門・階級に関わらず、医療者にとって他人事ではありません。中学校では武道が必修化されましたが、医療系の学校でも、武道でなくとも最低限の護身術は教育してほしいな、というのが個人的な感想です。<参照>1.http://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/bouryokusisin.pdf2.http://www.publications.parliament.uk/pa/cm200203/cmselect/cmpubacc/641/641.pdf3.http://www.designcouncil.org.uk/Documents/Documents/OurWork/AandE/ReducingViolenceAndAggressionInAandE.pdf4.NHS:National Health Service。イギリスの国営医療サービス5.http://www.nhsbsa.nhs.uk/Protect.aspx略歴:越智小枝(おち さえ)星槎大学客員研究員、インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院客員研究員。1999年東京医科歯科大学医学部医学科卒業。国保旭中央病院で研修後、2002年東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科入局。医学博士を取得後、2007年より東京都立墨東病院リウマチ膠原病科医院・医長を経て、2011年10月インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に入学、2012年9月卒業・MPH取得後、現職。リウマチ専門医、日本体育協会認定スポーツ医。剣道6段、元・剣道世界大会強化合宿帯同医・三菱武道大会救護医。留学の決まった直後に東日本大震災に遭い、現在は日本の被災地を度々訪問しつつ英国の災害研究部門との橋渡しを目指し活動を行っている。

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精神科薬物治療の身体リスクを考える

司会染矢俊幸氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)森隆夫氏(日本精神科病院協会 愛精会あいせい紀年病院)演者鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)菅原典夫氏(弘前大学大学院神経精神医学講座)須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)稲村雪子氏(新潟医療福祉大学健康栄養学科)松田公子氏(静和会浅井病院薬剤部)古郡規雄氏(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座) 2011年より、日本臨床精神神経薬理学会と日本精神科病院協会との合同プロジェクト「精神科薬物治療の身体リスクを考える―統合失調症患者さんの命と健康を守るために」が開始され、日本における統合失調症患者の肥満やメタボリックシンドローム(MetS)の実態、患者や医療者の意識を調査する研究が行われている。第22回日本臨床精神神経薬理学会・第42回日本神経精神薬理学会合同年会のシンポジウム「精神科薬物治療の身体リスクを考える」において、本プロジェクトの意義や調査結果、今後の介入試験などについて紹介された。人種差や精神科医療の違い、第2世代薬の臨床導入の差を考慮した調査が必要鈴木雄太郎氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)はまず、抗精神病薬による糖脂質代謝関連の副作用について、これまでの知見をまとめ、本プロジェクトの意義を紹介した。一般人口の平均寿命76歳と比較して、統合失調症患者では61歳と15年も寿命が短く、その死亡原因は自殺(10%)のほか、虚血性心疾患が50~75%を占める(Hennekens CH, et al. Am Heart J. 2005; 150: 1115-1121)。また、ハロペリドールやチオリダジンなどの定型抗精神病薬服用により心臓突然死のリスクは1.99倍に、クロザピンやオランザピン、クエチアピンをはじめとする非定型抗精神病薬服用では2.26倍に高まることが報告されている(Ray WA, et al. N Engl J Med. 2009; 360: 225-235)。その理由として、とくにオランザピンやクエチアピン、リスペリドンなどの第2世代薬は体重増加をもたらし(Casey DE, et al. Am J Med. 2005; 118 Suppl 2: 15S-22S)、肥満やMetSの合併が心血管疾患による死亡リスクを上昇させている可能性がある。一方、Body Mass Index(BMI)と死亡リスクの関係は、欧米ではBMIが25以上ではBMIの増加とともに死亡リスクも上昇するが、日本や韓国、中国などのアジア諸国ではBMI 27.6の時に死亡リスクが最低となるU字型を呈する。また、日本人の膵β細胞機能は欧米人に比べて脆弱であり、糖尿病患者のBMIも日本人では欧米人よりも低い。こうした人種差を考慮した日本人患者の詳細なデータはまだない。鈴木氏は日本の精神科医療の特徴にも言及した。日本では統合失調症や妄想性障害患者の入院の平均在院日数が543.4日と、欧米に比べてはるかに長期にわたる。こうした精神科病棟入院患者と外来患者との身体リスクの比較も重要な課題である。さらに、日本と欧米の抗精神病薬の使い方にも差がある。日本では欧米に比べて単剤治療よりも多剤併用が多く、多剤併用が身体リスクに及ぼす影響の検証が必要である。また、日本では第2世代薬の臨床導入が遅れ、今後これらの薬剤の副作用が身体リスクや死亡リスクに及ぼす影響を検証することが課題となっている。そこで、統合失調症の日本人患者の身体リスクに関する詳細なデータを得て、これらの課題に回答を得ることを目的に本プロジェクトが開始された。患者の身体リスクに対して精神科医はどう認識しているのか抗精神病薬の身体リスクに及ぼす影響について、診療にあたる精神科医はどのように認識し治療しているのか、菅原典夫氏(弘前大学大学院神経精神医学講座)は、2012年3月~5月に実施した「統合失調症患者の抗精神病薬治療と身体リスクに関するモニタリング調査」の結果を報告した。本調査は、日本精神科病院協会の会員病院に勤務する精神科医師を対象とした無記名式のアンケート調査である。有効回答数は2,583名(男性2,039名、女性544名)であり、平均年齢48.8歳、平均病院勤続年数10.0年、平均精神科経験年数19.2年であった。どのくらいの医師が抗精神病薬のMetSリスクに不安を感じているのかを問う、「血糖値上昇リスクのある薬剤の処方に不安があるか」との質問に85.2%が「不安がある」と答えた。「不安がない」という14.8%の医師にその理由を尋ねたところ(複数回答可)、「体重管理や栄養指導を行っているから」が52.8%、「血糖値の異常を来した例を経験していない」が21.5%、「定期的なモニタリングを実施しているから」が13.1%などの回答であった。体重測定の実態を調べるため「どのような患者で体重を測定しているのか」との質問に対して、「血糖値上昇や体重増加リスクのある薬剤を服用している患者」が25.3%、「すべての患者」が24.4%、「定期的ではなく、気がついたときだけ測定している」が21.0%、「BMIの大きい患者」が16.8%、「糖尿病の合併や家族歴のある高リスクの患者」11.1%、「全く体重測定をしていない」は1.3%であった。体重測定をしている医師にその頻度を尋ねたところ、入院では月1回(76.3%)が最も多く、週1回(17.8%)、半年に1回(5.2%)、年に1回(0.7%)であった。外来では受診毎(29.1%)、最低3ヵ月に1回(24.6%)、最低半年に1回(24.4%)、最低年に1回(21.9%)の順であった。体重以外で定期的にモニタリングしている検査について調べたところ、空腹時血糖値77.9%、血清脂質70.0%、血圧61.5%、食生活(食事内容、食欲)58.2%、HbA1c 56.5%、清涼飲料水などの多飲40.5%、心電図37.6%、ウエスト径4.5%などであった。これらのモニタリングの頻度の根拠を聞いたところ、「自分自身の経験に基づいて」が47.6%、「とくに根拠はなく、何となく決めている」が18.9%、「ガイドラインを参考にして」が14.5%、「専門医の意見を参考として」が10.1%、「とくに決まりはない」が8.9%であった。「これらの体重測定や血液生化学検査のモニタリングは、身体リスクを減少させるために適切な頻度だと思うか」との質問に対しては、「適切だと思うが、あまり自信がない」が最も多く54.2%、「適切がどうか分からない」が25.2%、「適切であり、十分だと考える」が20.6%であった。患者へのインフォームド・コンセントの状況を調べるために、「血糖値上昇リスクのある薬剤を処方する際にそれについて説明を行いますか」との質問には、「口頭にて質問を行っている」が69.7%、「高リスクの患者には説明している」が24.1%、「説明していない」が4.9%、「書面にて説明している」が1.2%の回答だった。菅原氏はこれらの結果をまとめて、「血糖値上昇リスクのある抗精神病薬の処方に関して80%以上の医師が不安を認識している実態が浮かびあがった」と述べた。不安がないと回答した医師の過半数は、体重管理や栄養指導またはモニタリングを行っているからとしているが、多くの医師がそれらのモニタリング頻度について自信がないと回答しており、日本の医療実態に即した管理方法について検討する必要があると指摘した。外来の統合失調症患者が抱える身体リスクの現状須貝拓朗氏(新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野)は、外来通院中の統合失調症患者を対象として、患者の意識と身体リスクの実態を調べるために行った無記名式アンケート調査の結果を報告した。日本精神科病院協会加盟の523施設より8,310件の回答が得られた。平均年齢は46.8±14.7歳であり、服用中の抗精神病薬は単剤が50.0%、2剤が25.4%、3剤以上が8.2%であった。主要な薬剤は、リスペリドン(2,455名)、オランザピン(1,515名)、アリピプラゾール(919名)、クエチアピン(739名)、ブロナンセリン(504名)、ペロスピロン(403名)、パリペリドン(273名)、そして定型抗精神病薬(2,907名)であった。MetS関連パラメータの分布状況は、BMI 25以上が48.0%、ウエスト径85cm以上(男性)が68.0%、中性脂肪150mg/dL以上が32.9%、HDLコレステロール40mg/dL未満が22.3%、LDLコレステロール140mg/dL以上が37.2%、収縮期血圧130mmHg以上が44.1%、拡張期血圧85mmHg以上が29.1%、空腹時血糖値110mg/dL以上が44.8%であった。これらの検査値を日本のMetS診断基準にあてはめると24.9%がMetSとなった。また、アジア人向けのNCEP-ATP III基準では29.8%がMetSと診断された。単剤と多剤併用でMetSの有病率を比較したところ差はみられなかった。薬剤毎のMetSの有病率においても有意な差はなかった。BMI毎のMetSの有病率の比較では、標準体重(18.5≦BMI<25.0)でもJASSO基準では9.7%、NCEP-ATP III基準では15.5%がMetSであった。アンケートによる患者意識調査では、43.7%の患者が「最近1年間で体重が増えたと思う」と回答した。現在通院している病院での体重測定の頻度は、受診毎が24.2%、3ヵ月に1回が16.0%、半年に1回が5.7%、1年に1回が8.9%、体重測定をしたことがないのは31.1%であった。血液検査の頻度は、受診毎が6.3%、3ヵ月に1回が23.6%、半年に1回が21.3%、1年に1回が21.4%、血液検査をしたことがないのは14.5%であった。「メタボ」という言葉を知っていると答えた患者は68.0%、BMIを知っていたのは20.7%であった。また、定期的な血液検査を希望すると答えた患者は55.5%、定期的に体重測定を希望するとした患者は57.3%であった。以上のアンケート調査の結果から、須貝氏は「日本人の外来通院統合失調症患者におけるMetS有病率は一般人口よりは高いが、これまでの欧米の疫学研究の結果に比べて低い値であった。単剤・併用療法、または薬剤によるMetSの有病率には差はなかった」と述べた。また、患者の意識調査から6割近い患者が定期的な体重測定や血液検査を希望していることを指摘した。今後は精神科病棟入院患者についても同様なアンケート調査を実施し、外来患者の結果と比較する予定である。栄養士と薬剤師の立場からみた統合失調症患者の健康問題稲村雪子氏(新潟医療福祉大学健康栄養学科)は栄養士の立場より、退院後および外来通院の統合失調症患者の食生活の実態調査を行い、「間食」が肥満をもたらす大きな要因であることを明らかにし、肥満防止には間食に焦点をあてた教育が必要であると述べた。また、稲村氏は2010年7月~12月に全国の統合失調症の入院患者15,171名を対象として、低体重(BMI<18.5)、標準体重(18.5≦BMI<25)、肥満(BMI≧25)の分布を調べる大規模調査を行った。その結果、各BMIの分布状況は、それぞれ20.2%、58.2%、21.6%であった。先行する研究と比べて、肥満の割合が低く、低体重が多いという結果であったと報告した。松田公子氏(静和会浅井病院薬剤部)は、抗精神病薬の薬理学的作用機序の違いによる副作用プロファイルの差について紹介し、体重増加や耐糖能異常からMetSをひき起こすのはH1受容体遮断が関与しているものと思われる。また松田氏は、こうした副作用に対してチーム医療で対応し、精神疾患に対して糖尿病療養指導士が介入することによりHbA1cの低下に効果があったことを紹介した。その他、精神科慢性期病棟における抗精神病薬の減量や単剤化への取り組みなどについても紹介した。統合失調症患者のMetSをいかに予防するか古郡規雄氏(弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座)は、抗精神病薬治療の身体リスクに関する合同プロジェクト委員会にて取り組む介入試験について紹介した。本試験は、統合失調症患者のMetS予防に関する研究であり、来年4月頃より開始を予定している。BMI≧25以上の外来統合失調症患者を対象として、①無介入群(現状維持)、②低介入群(体重測定)、③高介入群(食事・運動療法)の3群にランダム化割り付けを行い、1年間追跡するものである。主要評価項目はMetS有病率および体重の変化であり、副次評価項目は血圧、血糖値、血清脂質の改善などである。日本の医療に則した介入を評価するうえで、その結果が期待される。関連リンク

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(28)〕 大動脈バルーン・パンピングは心原性ショックを合併した急性心筋梗塞患者の30日生存率を改善させない

心原性ショックを合併した急性心筋梗塞患者の予後は不良であり、いかに生存率を向上させるかは循環器救急医療の大きな課題である。 ACC/AHAガイドラインでは心原性ショックに対する治療法として大動脈バルーン・パンピング(IntraAortic Balloon Pumping; IABP)を用いることを推奨している。本試験はIABPの有効性を証明すべくドイツで行われた多施設・無作為試験であったが、その結果は当初の仮説とは相反するものとなった。 早期に血行再建(PCIまたはCABG)を行ったショックを伴う急性心筋梗塞患者600例をIABP使用群と非使用群に無作為に割り付けた。IABP群の患者には血行再建術の前か直後にIABPを挿入し、1:1の心電図トリガーで作動させ、強心薬なしに30分以上、収縮期血圧 90mmHg以上を維持できるようになるまで作動させ続けた。両群ともに至適薬物療法が施された。 患者背景やIABP以外に施行した治療内容は両群で同等であったが、発症から30日以内の死亡率はIABP群で39.7%、非IABP群で41.3% (p=0.69)と両群で差がなかった。さらにIABPの使用は血圧、心拍数、炎症反応、組織の酸素化、入院中の再梗塞、ステント血栓症、脳梗塞・脳出血のいずれにも改善効果を示さなかった。これまで動物実験や小規模な臨床試験ではIABPが後負荷を軽減させ、冠血流を増加させる、と報告されてきたが、本試験結果はこれらの効果が患者の予後改善にはつながらないことを示すものであった。 本試験の結果は、現在行われている急性心筋梗塞に対する集中治療のあり方に抜本的な見直しを迫る重要なメッセージを含んでいる。本邦でも治療指針を早急に見直す必要が出てきそうである。

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スマホ、タブレット…医師の半数以上が、一台以上スマートデバイスを所有している!

先生はスマートフォン、タブレット型端末をお持ちでしょうか。どこでもニュースをチェックできる、いつでもメールに返信できる、重い書籍を持ち歩かずに済む…今やこれがないと仕事にならないという先生も多いかと思います。ケアネットでは2010年以来毎年、先生方のスマートデバイス所有率調査を実施してきましたが、2012年現在、とうとうその所有率が半数を超えました!年代で所有率は違うのか?スマホとタブレット、それぞれの使い方は?活用している先生、利用していない先生それぞれのコメントも必見です。結果概要はこちらコメントはこちら設問詳細スマートフォン・タブレット型端末についてお尋ねします。iPhone5の発売に注目が集まり、20代のスマートフォン所有率は既に半数を超えているといわれています。 また、昨年ケアネットで実施した調査では、医師のスマートフォン所有率は28%という結果でした。そこで先生にお尋ねします。Q1. 先生は現在スマートフォン/タブレット型端末を所有していますか。(両者それぞれに対して回答)※スマートフォンとは、「iPhone」のような、携帯情報端末(PDA)と携帯電話が融合した携帯端末を指します。※タブレット型端末とは、「iPad」のような、スクリーンをタッチして操作する携帯型コンピュータを指します。スマートフォンより大型。所有している(長期貸与も含む)所有していないが、いずれ購入したい購入するつもりはないQ2/3 (Q1で「スマートフォン/タブレット型端末を所有している」を選択した人のみ)先生はスマートフォン/タブレット型端末を、医療の用途においてどのようなことに利用していますか。医学・医療に関する書籍・論文閲覧医薬品・治療法に関する情報収集(書籍・論文以外)医学・医療関連のニュース閲覧臨床に役立つアプリの利用患者とのコミュニケーション医師・医療従事者とのコミュニケーション医療をテーマにしたゲームその他(       )特に利用しているものはないQ4. コメントをお願いいたします(ライフスタイルで変化した点、院内・移動中・プライベートでどのように利用されているか、所有していない方はその理由など、どういったことでも結構です)。アンケート結果Q1. 先生は現在スマートフォン/タブレット型端末を所有していますか。(両者それぞれに対して回答)年代別Q2/3 (Q1で「スマートフォン/タブレット型端末を所有している」を選択した人のみ)先生はスマートフォン/タブレット型端末を、医療の用途においてどのようなことに利用していますか。2012年9月21日(金)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員結果概要医師の半数以上がスマートデバイスを所有している全体では、スマホ・タブレット両方の所有者が15.7%、いずれかを所有している医師が36.4%、いずれも所有していない医師が47.9%となり、医師の半数以上が一台あるいは複数のスマートデバイスを所有しているという結果となった。医師の約4割がスマートフォンを所有、30代以下では半数以上が利用中スマホ所有者に関しては、2010年の調査開始当初22.4%、2011年では28.0%と年々上がってきたが、2012年の今回は10ポイント以上伸びて38.6%。一般市民の28.2%※と比較すると、10ポイント以上上回る所有率であった。年代別では若い世代の医師ほど利用率が高く、40代で42.5%、30代以下では54.2%と実に半数を超える結果となった。※日経BPコンサルティング「携帯電話・スマートフォン"個人利用"実態調査2012」より。一台あるいは複数所有する回答者タブレット型端末の所有者は2年前に比較して倍増。年代に比例せず60代でも約3割が利用一方タブレット型端末に関しては、初代iPadが発売された2010年時で所有率13.1%と、医師のスマートデバイスに対する関心度の高さが既に見られていた。その後2011年で20.3%と伸び、2012年の今回は29.2%と約3割の医師が所有していることが明らかとなった。またスマホと異なり、年代による偏りがあまり見られず、30代以下で31.3%、60代以上で29.2%となった。60代以上の医師では タブレット型端末の所有者が スマートフォン所有者を上回る30代以下ではスマートフォン所有者は54.2%、タブレットで31.1%と、ほぼ全ての年代においてスマホ所有率がタブレットのそれを上回っているが、60代以上になるとスマホで25.8%、タブレットで29.2%と逆転。『移動中、学会など調べ物にタブレットを使う。スマホの画面では小さく見にくいので』といった声も寄せられた。タブレット型端末のほうが医療面での活用度が高く、所有者の4人に3人が利用中所有者に対し医療での用途を尋ねたところ、スマホで最も高かったのは「医薬品・治療法に関する情報収集(書籍・論文以外)」(37.0%)、同じくタブレットでは「書籍・論文閲覧」(47.6%)。特に違いが見られたのが「患者とのコミュニケーション」で、スマホでは4.1%、タブレットでは14.7%となり『インフォームドコンセントの際、立体的で具体的な説明ができ、患者の理解が深まっている』といった活用法が寄せられた。「特に利用しているものはない」との回答はスマホで35.5%、タブレットで26.7%となった。CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「業務連絡の一斉連絡に使っていて便利に感じています。」(40代男性,その他)「ipadでカルテを書いたり、レントゲンを見たりする時代がすぐそこまで来ている。」(40代男性,小児科)「Facebookで他の医師からの情報が逐次入るようになり、役に立ったり、煩わしかったりしています。スケジュール管理にはパソコンと連動させると非常に便利。iCloudでプレゼンや文書ファイルのやりとりをしている。」(50代男性,小児科)「日本はアメリカに比べて5年以上遅れています。日本語で提供できる、安いコンテンツの提供が必要」(60代以上男性,内科)「スマートフォンは思うところあって手放した。 手放してみると結構不要だったことに気づいた。」(30代以下男性,腎臓内科)「常時携帯する簡易コンピュータとして利用。日本医薬品集(の内容を収録したアプリ)などが常に手元にあり、いつでも参照できるので、仕事の効率が上がったと思う。」(40代男性,精神・神経科)「携帯が必要な書籍はほぼ全てスマートフォン・タブレットに入っているため、ポケットに本を詰め込むことがなくなった。大変スマート。」(30代以下男性,内科)「院内でも使えるアプリ開発を期待します。 患者IC用のスライドのようなもの」(40代男性,循環器科)「患者へのインフォームドコンセントの際に、より立体的で具体的な説明ができ、患者の理解が深まっている。」(40代男性,循環器科)「所属医師会では、役員全員にiPadを支給しています。 役員就任中は医師会で通信費を負担していただけます。 用途は、主に (1)iPad上の連絡網として使用 (2)ペーパーレス会議とし、役員会資料をすべて電子化してiPadで閲覧・検索とする」(50代男性,内科)「PCやiPadを持っていれば、スマートフォンは必要ない。 iPadは現在、訪問診療患者の基本情報を自宅でも見られるように使っており、画像を訪問時に見せて説明している。医療現場においても使用価値はますます高くなっていくと思う。」(50代男性,内科)「移動中や外出先でも仕事ができるようになった」(30代以下女性,内科)「スマートフォンは病棟に持ち込めないので病棟ではiPodを使用し、医療に役立つアプリを臨床に役立てています。」(40代男性,消化器科)「院内でも情報を以前より早く得られるようになった気がする。」(40代男性,消化器科)「地方都市では車で通勤なので使用しない。自宅や勤務先にはパソコンがネットでつながっており、さらに、スマートフォンに料金を支払う必要はない」(50代男性,内科)「情報収集時にPCを使う頻度が減った。Wi-Fi環境が整っている場合に、ペンを使ってメモを取ったりノートを書くことが減った。」(50代男性,総合診療科)「写真を撮ってiCloudでコンピューターに転送。自動車内で行先の情報を得る。 見知らぬ地でのナビとして。」(50代男性,整形外科)「iPadでプレゼン資料のチェック」(60代以上男性,内科)「院内では電波環境がよくないので使用しづらい」(30代以下男性,その他)「紹介病院など直ぐに患者に情報を提供できる」(40代男性,小児科)「電話は電話機能だけでいいと考えている。 また、出先で様々な機能を使う必要を感じていない。 時代に付き合う気持ちもない。」(60代以上男性,内科)「医学書を持ち歩くのが大変なので、主に電子書籍として利用しています。検索が早いのが利点です。」(40代男性,内科)「ハンドブックをPDF化しての閲覧、電子辞書の検索にとても便利です。」(50代男性,内科)「スマホはもう無ければやっていけないほど。ガラケーとは得られる情報量も違うし。タブレット端末もノートパソコンより小回りがきくので便利。ちょっとしたプレゼンもタブレット端末で済ませています。」(50代男性,内科)「スケジュール管理」(30代以下男性,精神・神経科)「医学雑誌を読むために購入予定。」(50代男性,麻酔科)「タブレット型端末はいつでも身近にある辞書として活用したい スマートフォンは便利すぎて危険に思えるので、普通の携帯で良い 」(60代以上男性,内科)「evernoteにPDFいれてガイドラインなど見ています。」(30代以下男性,アレルギー科)「漢方の本を読んだり、エヴァーノートに医療テキストなどを載せて、読みたいときに自由に読んでいる。」(50代男性,消化器科)「書籍や文献を持ち歩かなくて済む」(50代男性,神経内科)「医薬品情報・学会情報を手軽に入手できるようになった。」(50代男性,循環器科)「通勤時間を利用してニュースの閲覧」(30代以下男性,その他)「医療用サイト、メールマガジンを手軽に閲覧できるので最近の専門以外の情報が得られる」(60代以上男性,循環器科)「移動中の暇つぶしには最適。メールチェックや返信などが楽になった。出張などでも基本PCは不要である。」(40代男性,外科)「パソコンと違って持ち運べるし、常に電源が入っているので、咄嗟の調べ物に強いと思います。」(40代男性,消化器科)「医療現場での医療情報収集が容易になった。」(50代男性,小児科)「カンファレンス等、ガイドラインや文献のない場所でも調べることができる。」(50代男性,その他)「持つまでは不要と考えていたが、実際使用してみると 便利。しかしこれでゲームをしようとは思えない。」(30代以下男性,形成外科)「単にきっかけがないから、購入していないです。災害時など情報入手手段として用意しておきたいと思います。」(50代女性,小児科)「持っているが飛行機の予約や宿の手配、ゴルフのエントリーやショッピングばかり」(50代男性,内科)「旅行先でNaviを使う。レストランを探す。Googleで医薬品や疾患の診断基準を調べる。」(50代男性,内科)「携帯電話で,電話機能以外(メール,imodeなど)を使用することはほとんどありません.したがって,スマートフォンに関しても必要性を感じません.」(40代男性,呼吸器科)「職場では医局のPCでチェックして、移動中に情報をチェックする必要性が低いため。移動中やあちこちに移動する必要がある職場に異動すれば所有を検討するかもしれません。」(40代男性,内科)「電車の中で皆が見ている姿を見ていると寂しくなってきます。会話が減りますね」(30代以下女性,耳鼻咽喉科)

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急性虚血性脳卒中の血栓除去術、Solitaireデバイスの有用性を確認:SWIFT試験

 神経障害を伴う急性虚血性脳卒中の治療では、Solitaire血流回復デバイスは従来のMerci血栓回収デバイスに比べ安全性および臨床転帰が実質的に良好なことが、米国カリフォルニア大学ロサンジェルス校のJeffrey L Saver氏らによる検討(SWIFT試験)で示された。欧米の虚血性脳卒中の治療ガイドラインでは、発症後4.5時間までは遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA)、6時間までは動脈内線溶療法、8時間までは機械的血栓除去術が推奨されている。Solitaireは、主幹動脈閉塞による急性虚血性脳卒中における迅速な血流回復を目指して開発された、自己拡張型ステント式の血栓回収デバイスである。Lancet誌2012年10月6日号(オンライン版2012年8月26日号)掲載の報告。Solitaireデバイスの有効性と安全性を無作為化非劣性試験で評価SWIFT(Solitaire With the Intention For Thrombectomy)試験は、Solitaireデバイスの有効性と安全性を、従来の標準的な機械的血栓除去法であるMerciデバイスと比較する並行群間無作為化非劣性試験。対象は、中等度~重度の神経障害を伴う急性虚血性脳卒中で、症状発現後8時間以内に血栓除去術が可能な症例とした。これらの患者が、SolitaireデバイスまたはMerciデバイスによる血栓除去術を施行する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、中央検査室での独立評価による割り付けデバイス通過3回までの症候性頭蓋内出血を伴わない再開通率[心筋梗塞血栓溶解(TIMI)スケールで2~3フロー]とした。治療割り付け情報はマスクされた。再開通率:61% vs 24%、良好な神経学的転帰:58% vs 33%2010年2月~2011年2月までに、米国の17施設およびフランスの1施設から113例が登録され、Solitaire群に58例(平均年齢67.1歳、男性48%、NIHSSスコア中央値18.0、rt-PA無効例33%、動脈穿刺開始までの時間293.5分)、Merci群には55例(同:67.1歳、51%、18.0、47%、319.9分)が割り付けられた。再開通率はSolitaire群が61%(34/56例)と、Merci群の24%(13/54例)に比べ有意に優れた[オッズ比(OR):4.87、95%信頼区間(CI):2.14~11.10、非劣性検定:p<0.0001、優越性検定:p=0.0001]。90日後の神経学的転帰が良好(good)であったのは、Solitaire群が58%(32/55例)であり、Merci群の33%(16/48例)よりも有意に優れた(OR:2.78、95%CI:1.25~6.22、非劣性検定:p=0.0001、優越性検定:p=0.017)。90日後の修正Rankinスケールで評価した全般的な障害(p=0.035)、NIHSSに基づく神経障害(p=0.007)は、いずれもSolitaire群が有意に良好だった。90日後の死亡率はSolitaire群が17%(10/58例)であり、Merci群の38%(21/55例)に比べ有意に低かった(OR:0.34、95%CI:0.14~0.81、非劣性検定:p=0.0001、優越性検定:p=0.02)。著者は、「Solitaire血流回復デバイスは、Merci血栓回収デバイスに比べ血管造影画像上の安全性および臨床転帰が実質的に良好であった」と結論し、「Solitaireデバイスは、今後、急性虚血性脳卒中における血管内再開通術の治療選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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心原性ショック合併の急性心筋梗塞、IABPでも死亡率減少できず

 心原性ショックを合併する急性心筋梗塞の患者に対し、大動脈内カウンターパルセイション(IABP)を行っても、30日死亡率はおよそ4割と、行わない場合と比べ有意な低下はみられなかったことが報告された。ドイツ・ライプチヒ大学心臓センターのHolger Thiele氏らが、約600例を対象とした多施設共同オープンラベル無作為化対照試験の結果、明らかにしたもので、NEJM誌2012年10月4日号で発表した。現行の国際臨床ガイドラインでは、心原性ショック合併の急性心筋梗塞に対し、IABPがクラスIの治療法に位置づけられている。だが、裏付けとなるエビデンスは患者登録データによるものが多く、無作為化試験に基づくものは少なかったという。598例を無作為化、IABP実施と非実施で30日死亡率を比較研究グループは、心原性ショックを合併症に持つ急性心筋梗塞の患者598例を、無作為に2群に分け、一方にはIABPを行い(300例)、もう一方は対照群としてIABPを実施しなかった(298例)。被験者は全員、早期血行再建術と至適薬物治療が予定されていた。主要有効性エンドポイントは、30日全死因死亡率だった。安全性に関する評価項目は、重大出血、末梢虚血性合併症、敗血症、脳卒中だった。30日死亡率、血流安定やICU滞在期間、大出血率などいずれも両群で同等その結果、試験開始30日時点での死亡は、IABP群119人(39.7%)に対し、対照群123人(41.3%)と、両群間で死亡率に有意な差はみられなかった(IABP群の対照群に対する相対リスク;0.96、95%信頼区間:0.79~1.17、p=0.69)。血流安定までの時間、ICU滞在期間、血清乳酸値、カテコールアミン療法の用量や期間、腎機能などの副次エンドポイントについても、両群間で有意差はなかった。重大出血の発生は、IABP群3.3%に対して対照群4.4%(p=0.51)、末梢虚血性合併症の発生はそれぞれ4.3%と3.4%(p=0.53)、敗血症は15.7%と20.5%(p=0.15)、脳卒中は0.7%と1.7%(p=0.28)と、いずれも両群間で有意な差は認められなかった。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(25)〕 糖尿病患者の降圧目標値:エビデンスの質を見極める

糖尿病患者における降圧目標値に関しての議論が盛んになっている。 わが国のガイドラインでは、糖尿病患者の降圧目標は130/80mmHgと厳格な降圧を推奨している。その根拠となったトライアルはUKPDS試験とHOT試験であるが、前者では厳格治療群とはいっても144/82mmHgであり、後者のHOT試験ではサブ解析で拡張期血圧が80mmHgまでの降圧達成群が85mmHg群や90mmHg群よりも心血管イベントが少なかったというものである。ガイドラインで示すような130/80mmHgという低いレベルがイベントを抑制するというエビデンスはなく、上記の2つのトライアル結果を演繹したにすぎない。 一方、2年前に発表されたACCORD試験は、収縮期血圧<140mmHgの緩和降圧群と<120mmHgの厳格降圧群との間で心血管イベント発症に有意差は認めず、糖尿病患者に対する積極的降圧に疑義をなげかけた最初のトライアルとなった。 しかし、本試験では致死的および非致死的脳卒中に関しては、積極的降圧群の方が予防効果は有意に優れるという結果も示しており、むしろ脳卒中の多い日本人では、積極的降圧を推奨したガイドラインを支持する解釈も可能であった。 今回のretrospective cohort研究は2型糖尿病患者では、厳格な降圧、収縮期血圧<130/80mmHg群は収縮期血圧が130~139mmHgの群に比べて死亡率の減少を示さなかったというものである。さらに110mmHg以下の降圧群では死亡率は有意に上昇するという結果を示した。 本試験の問題点は多い。まずretrospective研究の常として試験開始時の症例の臨床的背景が一律ではない可能性があること。心血管死ではなく総死亡をアウトカムとしており、死因の分析までできていないこと。そして、これもcohort研究の常として因果の逆転の可能性があること。すなわち血圧が低いから死亡したのではなく、心機能が低下したような症例が早期に死亡した可能性があること。そして何よりも、収縮期血圧が160mmHg以上の群ですら死亡率の上昇が認められていないことである。つまり、糖尿病患者の死亡率は血圧がかなり高くても増加しないという読み方ができるのである。 このような結果が出た背景には、糖尿病患者の大部分がスタチン薬や抗血小板薬など心血管予防薬を服用しているために、本当の意味での心血管合併症発症あるいは心血管死と血圧レベルとの関連が評価しにくくなっていると考えられる。多くのlimitationを含有する本試験の結果は、わが国のガイドラインを変更する根拠とはならない。

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ジプレキサ筋注用10mg、承認取得

 日本イーライリリー株式会社は9月28日、統合失調症の急性期治療のための非定型抗精神病薬の注射剤「ジプレキサ筋注用10mg(一般名:オランザピン)」の承認を取得したと発表した。 統合失調症の急性期には、リスクが高い危険な行動につながるような過度の興奮、焦躁、激越などの精神症状を速やかに鎮静させるために、経口投与が困難な場合には注射剤が使用される場合がある。統合失調症治療ガイドラインによると、急性期治療の薬物治療においては非定型抗精神病薬が第一選択薬とされている。しかし、日本では速効性の非定型抗精神病薬の注射剤が承認されていなかった。今回承認されたジプレキサ筋注用10mgは、「統合失調症における精神運動興奮」に適応が認められた最初の非定型抗精神病薬の速効性筋注製剤となる。 オランザピンは非定型抗精神病薬と呼ばれる統合失調症治療薬であり、1996年に米国で発売された。日本では2001年6月にジプレキサ錠(フィルムコート錠)の販売を開始した。現在は、ジプレキサ細粒、ジプレキサザイディス錠(口腔内崩壊錠)と剤型もそろっている。今回承認されたジプレキサ筋注用10mgは、非経口的治療が必要となる統合失調症の急性期治療薬として開発され、世界では、約83ヵ国または地域で承認されている(2012年8月現在)。詳細はプレスリリースへhttps://www.lilly.co.jp/pressrelease/2012/news_2012_129.aspx

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2型糖尿病患者に対する厳格な降圧、全死因死亡のリスクを低下させない

 新規診断2型糖尿病患者に対する厳格な降圧(<130/80mmHg)は、心血管疾患合併の有無にかかわらず全死因死亡のリスクを低下させず、低血圧は不良な予後のリスクを増大させることが、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのEszter Panna Vamos氏らの検討で確認された。欧米のガイドラインでは、心血管疾患のリスクが高い患者の血圧は<130/85mmHgに維持することが推奨されている。一方、糖尿病患者における正常血圧の維持が、心血管リスクにベネフィットをもたらすことを示す信頼性の高いエビデンスはなく、積極的な降圧の有害性を示唆する知見もあるという。BMJ誌2012年9月22日号(オンライン版8月30日号)掲載の報告。全死因死亡に及ぼす血圧の影響を後ろ向きコホート試験で評価研究グループは、新規に診断された2型糖尿病患者において血圧が全死因死亡に及ぼす影響を評価するために、レトロスペクティブなコホート試験を行った。1990~2005年にUnited Kingdom General Practice Research Databaseに登録された治療期間1年以上の新規診断2型糖尿病患者(18歳以上)12万6,092例を対象とした。“the lower the better”の指針は適用されない可能性が2型糖尿病の診断時に、1万2,379例(9.8%)が心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)を合併していた。フォローアップ期間中央値3.5年の時点における全体の死亡率は20.2%(2万5,495例)で、心血管疾患合併患者の死亡率は28.6%(3,535例)、非合併患者は19.3%(2万1,960例)だった。心血管疾患合併糖尿病患者に対する厳格な降圧(<130/80mmHg)は、ベースラインの背景因子(診断時年齢、性別、BMI、喫煙状況、HbA1c、コレステロール値、血圧など)で調整すると生存を改善しなかった。低血圧は全死因死亡のリスクを増大させた。すなわち、収縮期血圧を130~139mmHgでコントロールされた患者に比べ、110mmHgで維持された患者の全死因死亡のハザード比(HR)は2.79(95%信頼区間[CI]:1.74~4.48、p<0.001)であった。また、拡張期血圧を80~84mmHgでコントロールされた患者に比し、70~74mmHgに維持された患者のHRは1.32(95%CI:1.02~1.78、p=0.04)、70mmHg未満に維持された患者のHRは1.89(95%CI:1.40~2.56、p<0.001)と、やはり有意な差を認めた。同様の関連が、心血管疾患を合併していない2型糖尿病患者にもみられた。ベースライン時に高血圧と診断され、降圧治療を受けている患者においても同様の関連を認めた。著者は、「新規診断2型糖尿病患者に対する<130/80mmHgの降圧治療は、心血管疾患合併の有無にかかわらず、全死因死亡のリスクを低下させなかった。低血圧(とくに、<110/75mmHg)は不良な予後のリスクを増大させた」と結論し、「これらの知見により、高リスク患者の血圧コントロールでは“the lower the better”の指針は適用されない可能性が示唆される。現時点では、糖尿病患者における<130/80mmHgの降圧治療を支持する頑健なエビデンスが存在しないため、血圧を130~139/80~85mmHgにコントロールしつつ、他の治療法やライフスタイル介入を併用するアプローチが、糖尿病患者の心血管疾患アウトカムの改善につながると考えられる」と指摘する。

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Cochraneレビューには、対象試験の利益相反情報の記載が少ない

 Cochraneレビューの多くが、解析対象の試験の資金源や、著者と製薬企業の金銭的な関係の情報を記載していない実態が、カナダMcGill大学(モントリオール)のMichelle Roseman氏らの調査で明らかとなった。系統的レビューとメタ解析のガイドラインでは、解析対象試験の利益相反の記載は求められていないという。最近の研究では、強い影響力を持つ生物医学誌に掲載された薬剤の臨床試験に関する29編のメタ解析のうち、対象試験の資金源の記述があったのは2編のみで、著者と製薬企業の金銭的な関係の情報を提供するものは1編もなかった。一方、質の高いエビデンスに基づくレビューの基準を定めるCochraneレビューに、これらの情報がどの程度記載されているかは不明だった。BMJ誌2012年9月14日号(オンライン版2012年8月21日号)掲載の報告。利益相反の情報提供を横断的研究で調査研究グループは、2010年に発表された薬物療法に関するCochraneレビューが、解析の対象となった試験の利益相反の情報をどの程度報告しているかを調査し、報告がある場合はレビュー中のどこにその記載があるかについて検討するために横断的研究を行った。対象は、2010年に「系統的レビューに関するCochraneデータベース(Cochrane Database of Systematic Reviews)」で公表された薬物療法に関する系統的レビューで、2008年以降の最新の内容を扱い、複数の無作為化対照比較試験の結果を含むものとした。資金源情報の記載は3分の1に過ぎない対象となった151編のCochraneレビューのうち、解析対象の試験の資金源の情報を報告していたのは46編(30%、95%信頼区間[CI]:24~38)であった。このうち、全試験の資金源の情報を公開していたのは30編(20%、95%CI:14~27)で、16編(11%、95%CI:7~17)は一部の試験の資金源のみを記載していた。151編のうち、著者と製薬企業の金銭的な関係または雇用関係の情報を提供していたのは16編(11%、95%CI:7~17)のみだった。試験の資金源や、著者と製薬企業の関係の情報の記載場所は、バイアスのリスク評価(本文、図、表)のほか対象試験の背景因子の表など多岐にわたり、一貫性がなかった。抄録中に資金源の記載があったのは1編だけだった。著者は、「2010年に発表されたCochraneレビューの多くが試験の資金源や、著者と製薬企業の金銭的な関係の情報を提供していなかった」とまとめ、「利益相反の情報はレビュー中の特定の場所に記述することとし、バイアスのリスク評価に含めるのが望ましいと考えられる。抄録にも記載すべきだろう」と指摘している。

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普段見えない患者さんの実態がここに!高血圧患者調査2012 CONTENTS

1.調査目的と方法本調査の目的は、高血圧症患者において治療に対する意識を調べ、その実態を把握することである。2012年8月31日~9月4日に、高血圧症で「定期的に医療機関に通院している」500名を対象にオンラインにて実施した。2.結果1)回答患者の背景回答患者500人の性別は、男性が414名(82.8%)に対して女性が86名(17.2%)。年齢は50歳未満が122名(24.4%)、50歳代が215名(43.0%)、60歳以上が163名(32.6%)。不眠症を自覚している患者さんは500名のうち100名(20.0%)(表1)。表1画像を拡大する減塩意識がある患者さんは242名(48.4%)、1週間に1回以上の家庭血圧測定習慣がある患者さんは266名(53.2%)(表2)。表2画像を拡大する家庭血圧をより重視する患者さんが159名(31.8%)いる一方で、診察室血圧をより重視する患者さんが144名(28.8%)、どちらとも言えないと回答した患者さんも174名(34.8%)いた。降圧目標値は、最も多いのが130mmHgで282名(56.4%)。聞いたと思うが忘れたと回答した患者さんも143名(28.6%)いた(表3)。表3画像を拡大する2)高血圧患者調査結果高血圧患者の診察室血圧と家庭血圧から見た血圧コントロール状況回答者の血圧コントロール状況を「家庭収縮期血圧135mmHg」、「診察室収縮期血圧140mmHg」で区切り、4区分に分類した。家庭血圧135mmHg以上かつ診察室血圧140mmHg以上の「高血圧」が18.4%、家庭血圧135mmHg以上かつ診察室血圧140mmHg未満の「仮面高血圧」が24.0%、家庭血圧135mmHg未満かつ診察室血圧140mmHg以上の「白衣高血圧」が7.9%、家庭血圧135mmHg未満かつ診察室血圧140mmHg未満の「正常血圧」が49.7%という結果が得られた(図1)。図1画像を拡大する減塩意識が血圧コントロール状況に及ぼす影響「減塩を心がけている」高血圧患者では血圧コントロール良好者の割合が52.3%であり、「減塩を心がけていない」または「どちらとも言えない」患者さんの47.1%より血圧コントロール良好者の割合が高かった(図2)。図2画像を拡大する家庭血圧測定習慣が血圧コントロール状況に及ぼす影響「家庭血圧測定習慣がある」高血圧患者では血圧コントロール良好者の割合が53.8%であり、「家庭血圧測定習慣がない」患者さんの43.5%より血圧コントロール良好者の割合が高かった(図3)。図3画像を拡大する家庭血圧測定値の重視度が血圧コントロール状況に及ぼす影響「家庭血圧測定値をより重要と考えている」患者さんの54.2%が血圧コントロール良好であったのに対し、重要視していない患者さんでは血圧コントロールが良好者の割合は47.4%にとどまった(図4)。図4画像を拡大する不眠症が血圧コントロール状況に及ぼす影響高血圧患者の血圧コントロール状況を不眠症の有無別でみると、不眠症がある患者さんでは血圧コントロール良好者の割合が44.4%と低き、「不眠症なし」「どちらとも言えない」を選択した患者さんより血圧コントロールは不良であった(図5)。図5画像を拡大する血圧コントロール状況(降圧目標認識別)「降圧目標を覚えている」患者さんの中で血圧コントロール良好者の割合は47.5%、一方「覚えていない」患者さんにおける割合は48.0%とほぼ変わらない(図6)。図6画像を拡大する家庭血圧測定習慣と減塩意識の関係「家庭血圧測定習慣のある」患者さんでは「減塩を心がけている」割合が56.0%。一方、「習慣のない」患者さんでは39.9%と約16%の開きがあり、「家庭血圧測定習慣のある」患者さんは減塩意識が高いことがうかがえる(図7)。図7画像を拡大する3)医師と患者さんのギャップ前述の患者調査とは別に、高血圧症患者を診療している全国の医師600人を対象に、CareNet.comにて、アンケート調査への協力を依頼し、2012年9月4日~9月11日に得られた結果を患者調査の結果と比較した。重要視する血圧(患者と医師の比較)より重要視する血圧を医師と患者さんに尋ねたところ、「家庭血圧」と答えた割合が医師では80.2%であるのに対し、患者さんでは31.8%と半分以下であった。「診察室血圧」を選択した患者さんが28.8%、「どちらとも言えない」を選択した患者さんが34.8%という結果からも、医師自身は家庭血圧値の重要性を認識しているが、必ずしもそれが患者さんに十分に伝わっていないことがうかがえる(図8)。図8画像を拡大する苅尾 七臣氏(自治医科大学 内科学講座 循環器内科 主任教授)のコメント今回の調査で、高血圧患者の約30%が、さらに高血圧を診療している医師の約80%が、家庭血圧を重要視しているのを見て安心した。実際に、我々が約10年前に実施したJ-MORE研究では、診察室血圧が140/90mmHg未満の患者さんのうち、50%以上が家庭血圧のコントロールが135/85mmHgを超えている仮面高血圧であったが、インターネット調査の特性上、若年者が多く、比較的真面目な方が回答しているなどその限界はあるものの、今回の調査ではその頻度は1/3程度にとどまっている。この10年間で、医療現場では、かなり家庭血圧重視の高血圧診療が浸透し、実際に家庭血圧のコントロールが良好になってきたと推測される。また、家庭血圧測定習慣がある患者さんでは減塩意識が高いことより、家庭血圧測定は、医師任せにせず、生活習慣の改善に自己責任を持たせる第一歩と位置付けられる。いわゆる、「バイオフィードバック」がかかっていると言える。現在、「高血圧治療学会ガイドライン(JSH2014)」の作成が始まっているが、その中でも家庭血圧重視の高血圧診療はますます強調されることになるであろう。インデックスページへ戻る

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エキスパートに聞く!「高血圧」Q&A

CareNet.comでは9月の高血圧特集企画を行う中で、会員の先生より「高血圧」に関する質問を募集しました。その中から、特に多くいただいた質問に対し、下澤達雄先生にご回答いただきます。家庭血圧を用いる際の留意点について教えてください。昨年8月に発表された英国の高血圧ガイドラインでは、24時間血圧あるいは家庭血圧を高血圧の確定診断ならびに降圧治療の効果判定に用いることが強く推奨されました。わが国でも家庭血圧測定の指針が高血圧学会より出されており、実臨床でも多くの先生がお使いになっていることが、今回たくさんのご質問をいただいたことからも推察されます。そこで、家庭血圧を用いる際の留意点をいくつか挙げたいと思います。1.信頼性機械そのものの信頼性は診察室で同時に用手法と比較することで確認することができますが、血圧手帳を用いた自己申告による血圧値は必ずしも信頼できません。高知県で行われた調査では実測値と自己申告値には開きがあり、患者は低めに申告することが報告されています。よって、家庭血圧が低い場合でも臓器障害がある場合にはとくに診察室血圧を参考にした降圧治療が必要となります。あるいはメモリー機能をもった家庭血圧計を用い、実測値を医療側が把握できるようにする工夫が必要です。2.家庭血圧の測定方法血圧は複数回測れば必ず異なった値を示します。一般的には数回測ると徐々に低い値となります。高血圧学会の家庭血圧の指針では1日1回でよいと書かれていますが、これはまず患者に家庭血圧を測定させるために簡便な最低限の方法が記載されていると理解しています。すでに家庭血圧を日常的に測定できる患者においては複数回測定し、一番高い値と一番低い値、あるいは平均値を記載してもらうのがいいかと思います。測定時間は服薬直前が望ましいですが、日常生活にあわせてほぼ同じタイミングで測定できる時間を指導しています。3.夜間血圧を反映するか?何がわかるのか?残念ながら夜間血圧は夜間に測定する必要があり、家庭血圧では知ることができません。正しく測定でき、正直に申告された家庭血圧で白衣性高血圧、仮面高血圧がわかることはもちろんですが、曜日による血圧変動(週末ストレスがない場合に血圧が下がる)や睡眠状態との関連を知ることもできます。4.診察室血圧との乖離前述のように白衣性高血圧、仮面高血圧と診断されますが、臓器障害がある場合は高いほうの血圧を目安に治療を行うべきです。血圧変動について教えてください。外来診察毎の血圧変動が大きいと脳血管イベントが多くなることが報告されました。以来、糖尿病の際の血糖の変動が臓器障害と関連づけられています。動物実験でも交感神経を切除して血圧変動を大きくすると、レニン・アンジオテンシン系が亢進して臓器障害が進行することが報告されています。ヒトにおいては長期にわたる一拍ごとの血圧変動をみることは困難であり確立したエビデンスはありませんが、血圧変動は少なくする方が望ましいでしょう。血圧変動が大きい原因として自律神経障害、褐色細胞腫のような器質的な異常のほかに服薬アドヒアランス不良、精神的ストレス、不眠(睡眠時無呼吸)といった要因もあり、医師のみならず看護師、薬剤師などからの患者の病歴、生活歴聴取が必要となります。服薬は管理されているにもかかわらず認知症患者ではとくに血圧変動が大きいことが問題になりますが、多くの場合は多発性脳梗塞を合併している例です。転倒のリスクがなければ認知症の進行、脳梗塞の再発予防を考えて血圧は低い値にコントロールしたいところです。実際には服薬数を増やせないなどの制限があり、合剤を積極的に使ってのコントロールとなります。食塩感受性について教えてください。塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性患者は、上昇しない非感受性患者にくらべ血圧値が同等でも心血管イベントが多いことから、食塩感受性の診断についての質問を多くいただきました。しかし、食塩感受性を診断するには現在のところ入院にて食塩負荷、減塩食を食べさせ、その間の血圧を測定することのほかには確実な方法はないのが現状です。実臨床においては早朝第二尿のナトリウムとクレアチニンを測定することで食塩摂取量を知ることができる(「日本高血圧学会減塩ワーキンググループ報告」日本高血圧学会より入手可能)ので塩分摂取量が多い患者について経時的に観察したり減塩指導の動機付けとして用いることもできます。あるいはサイアザイド系利尿薬に対する血圧反応性も食塩感受性を知る一つの方法です。効果的な減塩指導について教えてください。日本の食文化はみそ、塩、しょうゆの上に成り立っているので、減塩指導はともすれば日本の食文化を否定することにもなりかねません。しかし、現在の一般的食生活を見てみると加工食品がふんだんに使われており、この点を改善指導することで減塩は可能となります。たとえばソーセージ100gに塩は約2g、プロセスチーズでは約3g含まれており、こういった加工食品を減らすことを指導できるでしょう。また、加齢に伴い味覚は低下するため減塩が難しくなります。そこはワサビ、生姜、茗荷、唐辛子、胡椒といったスパイスをうまく使うように指導します。そして、食卓に出された食材に塩、しょうゆを追加でかけないよう、食卓には塩、しょうゆを置かないなどの細かな指導が必要となります。男性患者の場合、食事を実際に作る配偶者への指導も重要で、医師だけでなく看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、保健婦など患者に関わるすべての医療従事者の協力体制が有効です。塩分過剰摂取は血圧上昇のみならず血圧が上昇しない場合でも酸化ストレスを増加させ耐糖能異常につながることが動物実験では示されており、摂取量を6g/日程度まで下げることは高血圧の有無にかかわらず有用であると思われます。降圧薬の減量、中止方法について教えてください。血圧のコントロールが良好で、臓器障害がないような場合、また尿中ナトリウムも低めの場合は降圧薬を中止できることもあります。その場合、4~5月位に中止し、夏の暑い間を経過観察し、10~11月から冬の寒い間に血圧が再上昇しないことを確認します。その後も家庭血圧で血圧を経過観察し、年に一回の臓器障害の進展のチェックを行います。多剤併用しており血圧が良好なコントロールの場合、薬剤の減量が可能です。長期にβ遮断薬を使っている場合は心筋虚血のリスクがあるのでβ遮断薬は漸減します。便秘、浮腫、歯肉腫脹、起立性低血圧がある場合はカルシウム拮抗薬の副作用の可能性もあるためカルシウム拮抗薬から減量します。昨今の酷暑ではとくに高齢者や腎機能低下例においては、レニン・アンジオテンシン系抑制剤や利尿薬の減量が必要となる例があります。早朝高血圧の対処方法について教えてください。家庭血圧を測定あるいは24時間血圧にて早朝高血圧が明らかになった場合、最近の研究では夜間高血圧ほどのリスクはないとの報告もありますが、降圧薬の服用時間を調整することでコントロール可能となることがあります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬は夕方服用に適した薬剤といえます。ただし、夜間の過度の降圧に注意して少量より開始するのが好ましいでしょう。α遮断薬も有効とする報告もありますが、α遮断薬自体の臓器保護効果が疑問視されており、α遮断薬を追加投与するよりは現在服用しているレニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用時間をずらすことが適切と考えます。難治性高血圧の対処方法について教えてください。異なる三系統の降圧薬を十分量を内服しても血圧のコントロールがつかない場合、難治性高血圧と呼ばれます。このような例では服薬アドヒアランス、二次性高血圧の再評価、睡眠時無呼吸の評価をまず行います。服薬アドヒアランスが不良の場合は合剤を用いること、服薬の必要性を再教育すること、服薬想起の道具(ピルボックスなど)が有効といわれており、医師だけでなく薬剤師、看護師、保健婦の協力が必要となります。すでに薬剤を服用している場合、ホルモン検査は薬剤の影響を受けるので評価が難しくなります。実臨床では副腎のCTを先行させてもいいと思います。あるいは十分量の抗アルドステロン薬(スピロノラクトンで75~100mg)を投与し治療的診断を行うことも有用です。腎血管性高血圧についてはMR angiographyが有用でしょう。以上のような精査で問題がない場合、中枢性の降圧薬(レセルピン)を少量朝1回追加することが有用である例を経験しています。あるいはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬をかんきつ類と一緒に服用させる、あるいはヘルベッサーと併用しジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の血中濃度を高めることも有用でしょう。白衣性高血圧の対処方法について教えてください。イギリスのガイドラインでは診察室血圧と24時間血圧、あるいは家庭血圧を用いて高血圧の診断を行い、臓器障害がない場合は白衣性高血圧は薬物介入をせずに年に1回の経過観察をするとしています。24時間血圧を用いて病院来院時のみ高血圧でその他の日常生活の中では全くの正常血圧であり、アルブミン尿も含め臓器障害が認められず、糖尿病などのリスク因子がない場合は薬物介入は必要ないと考えます。しかし、経過観察は必要で、患者には日常生活の中で突然の来客などストレスがかかると血圧が上がっている可能性を話し、徐々に臓器障害が出てくる可能性を説明する必要があるでしょう。白衣性高血圧で患者が薬物介入を希望する場合、抗不安薬も有効です。また、臓器障害がある場合はJSH2009に則って合併する臓器障害に応じて薬物を選択します。その際、心拍数が上昇するといった副作用のない薬物をまず選択します。拡張期血圧の対処方法について教えてください。収縮期血圧が大動脈のコンプライアンスと心拍出量で規定されるのに対し、拡張期血圧は全身の末梢血管抵抗と心拍出量で規定されます。よって高齢者で大血管の硬化が明らかになると収縮期血圧が上昇し脈圧が増大します。心臓の仕事量は収縮期血圧と心拍数の積に比例するため、収縮期血圧が高くなると心筋酸素消費量が増え、心虚血と心不全のリスクが増えます。一方冠動脈は拡張期に灌流されるので、拡張期血圧を下げすぎると、冠血流が低下する危険があります。実際、大規模臨床試験をみても拡張期血圧と心血管イベントにはJカーブに近い現象が認められます。拡張期のみ高い例は若年者に多く認められますが、治療の第一歩は減塩にあります。また個人的経験ですが、10年ほど前にARBが発売された当初、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬にくらべ拡張期血圧がよく下がる印象がありましたが、統計的処理はされていません。また当時は利尿薬の使用頻度が低かったというバイアスもあります。現状では拡張期血圧のみを下げるための有効な治療法は生活習慣の改善のほかには確立されていないといえます。合剤の有用性について教えてください。いかなる服薬介入治療もその効果は服薬アドヒアランスに依存することは明白です。それゆえ、われわれは服薬アドヒアランスをよくする努力は惜しむべきではありません。アドヒアランスに関わる因子は複数ありますが、処方する立場として最も簡便にできることは服薬数を減らすことであり、その点において合剤はきわめて有効といえます。現在降圧薬に限らずぜんそく薬、糖尿病薬、高脂血症薬の合剤が日本でも使用可能ですが、海外の現状をみるとまだまだ立ち遅れています。私は実臨床の中で合剤の併用も行いARBの最大容量を合剤として処方し、3種の薬剤を2錠ですませ、患者の経済的負担も軽減するよう努力しています。

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扁桃摘出術後のステロイド全身投与、出血リスクに影響はないが・・・

 扁桃摘出術後の悪心・嘔吐の予防を目的に行われるステロイド全身投与は、出血イベントを増加させないが、出血が起きた場合の重症度が上がり、出血に対する再手術の施行率が高くなることが、カナダLaval大学(ケベックシティ)のJennifer Plante氏らの検討で示された。扁桃摘出術は耳鼻咽喉科領域で世界的に最もよく行われている手術だが、根本的な術後の有害事象として悪心・嘔吐が高頻度にみられる。対策としてステロイドの全身投与が行われ、最近のガイドラインでは5-HT3受容体拮抗薬の併用が推奨されている。ステロイドの全身投与により扁桃摘出術後の出血の発生率が増加するとの指摘があるという。BMJ誌2012年9月8日号(オンライン版2012年8月28日号)掲載の報告。術後出血、再介入のリスクをメタ解析で評価研究グループは、扁桃摘出術施行患者に対するステロイド全身投与の術後出血および再介入のリスクを評価するために、無作為化対照比較試験の系統的レビューを行い、メタ解析を実施した。データベースを検索し、得られたレビュー論文や臨床試験論文の参考文献も精査した。対象は、扁桃摘出術時のステロイド全身投与と対照を比較した無作為化対照比較試験とした。主要評価項目は術後出血、副次的評価項目は出血による入院、出血による再介入、輸血、死亡とした。リスクとベネフィットのバランスを重視すべき29試験(2,674例)が解析の対象となった。7試験はバイアスのリスクが低いと判定されたが、術後出血の系統的な同定を意図してデザインされた試験はなかった。ステロイド全身投与によって扁桃摘出術後出血の発生率が増加することはなかった[29試験、2,674例、オッズ比:0.96、95%信頼区間(CI):0.66~1.40、I2=0%]。ステロイド全身投与で出血がみられた患者では、手術による再介入の頻度が有意に高かった(12試験、1,178例、オッズ比:2.27、95%CI:1.03~4.99、I2=0%)。死亡例の報告はなかった。ステロイド全身投与で出血による入院は増加しなかった(17試験、1,722例、オッズ比:1.16、95%CI:0.68~2.00、I2=19%)。輸血および死亡について検討した試験はなかった。異質性の可能性を把握し、結果の頑健性を評価するために感度分析を行ったところ、得られた知見の整合性が確認された。著者は、「ステロイド全身投与により扁桃摘出術後の出血イベントは増加しないが、出血が起きた場合の重症度が上がり、そのため出血に対する再手術の施行率が上昇する可能性がある」と結論し、「ステロイド全身投与の使用条件を明確化するにはさらなる検討を要する。現時点では、ステロイド全身投与は慎重に行うべきで、扁桃摘出術による術後の悪心・嘔吐の予防ではリスクとベネフィットのバランスを重視し、とくに子どもへのルーチン投与は行うべきではない」と指摘する。

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HIV患者の抗レトロウイルス療法、プライマリ・ケア看護師への移行は可能か?

 HIV患者に対する抗レトロウイルス療法(ART)の導入や再処方を医師に代わって看護師が行うアプローチは安全に遂行可能であり、健康アウトカムやケアの質を改善することが、南アフリカ・ケープタウン大学肺臓研究所のLara Fairall氏らが実施したSTRETCH試験で示された。南アフリカにおけるART普及の主な障壁は治療医の不足であり、ART導入の遅れによりART待機患者の死亡率が上昇することが知られている。ARTの医師から他の医療職への職務移行の可能性に期待が寄せられているが、その有効性に関するエビデンスは十分でないという。Lancet誌2012年9月8日号(オンライン版2012年8月15日号)掲載の報告。STRETCHプログラムの効果をクラスター無作為化試験で評価STRETCH(Streamlining Tasks and Roles to Expand Treatment and Care for HIV)試験は、訓練を受けた看護師がARTの導入および再処方を行って治療の分散化を図るアプローチ(STRETCHプログラム)が、HIV患者の死亡、ウイルス抑制などの健康アウトカムに及ぼす効果を評価するクラスター無作為化試験。2008年1月28日~2009年6月30日までに、南アフリカの31のプライマリ・ケア施設を登録し、STRETCHプログラムを行う群(介入群)あるいは標準治療を継続する群(対照群)に無作為に割り付けた。それぞれの施設で治療を受けた患者を2010年6月30日までフォローアップした。2つのコホートが登録された。コホート1は16歳以上のCD4陽性リンパ球細胞数<350個/μLでARTを受けていない患者で、コホート2は試験開始時にすでに6ヵ月以上のARTを受けていた患者であった。主要評価項目は、コホート1が死亡までの期間、コホート2は登録後12ヵ月におけるウイルス量の検出不能率とした。検出不能は、ウイルス量が<400コピー/mLの場合とした。コホート1の死亡率:20% vs 19%、コホート2の検出不能率:71% vs 70%コホート1の5,390例およびコホート2の3,029例が介入群に、コホート1の3,862例およびコホート2の3,202例が対照群に割り付けられた。フォローアップ期間中央値はコホート1が16.3ヵ月、コホート2は18.0ヵ月だった。コホート1では、試験終了時までに介入群の20%(997/4,943例)、対照群の19%(747/3,862例)が死亡し、死亡までの期間は両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.76~1.15)。ベースラインのCD4陽性リンパ球細胞数が201~350/μLの患者に関する事前に計画されたサブグループ解析では、死亡率が対照群に比べ介入群で低い傾向がみられた(HR:0.73、95%CI:0.54~1.00、p=0.052)。一方、<200/μLの患者では両群間で同等だった(HR:0.94、95%CI:0.76~1.15、p=0.577)。コホート2では、登録後12ヵ月の時点におけるウイルス量の検出不能率は介入群が71%(2,156/3,029例)、対照群は70%(2,230/3,202例)であり、両群間で同等であった(リスク差:1.1%、95%CI:−2.4~4.6)。著者は、「ARTの導入および再処方を含むプライマリ・ケア看護師の職務拡大は安全に遂行可能であり、健康アウトカムやケアの質を改善するが、未治療例のART導入に要する時間や死亡率は改善しないことが示された」と結論し、「このアプローチを南アフリカよりも医師へのアクセスに制限がある地域や無医地区に適用可能かという問題については別の試験を行う必要があるが、われわれの看護師訓練法やガイドライン作成法はすでにガンビアやマラウィに導入されている」という。

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高血圧白書2012 CONTENTS

1.調査目的と方法本調査の目的は、高血圧症診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている降圧薬を評価することである。高血圧症患者を1ヵ月に10人以上診察している全国の医師500人を対象に、CareNet.comにて、アンケート調査への協力を依頼し、2012年6月15日~18日に回答を募った。2.結果1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科(第一標榜科)は、一般内科が51.4%で最も多く、次いで循環器科で14.6%、消化器科で8.0%である。それら医師の所属施設は、病院(20床以上)が63.3%、診療所(19床以下)が36.7%となっている(表1)。表1画像を拡大する医師の年齢層は40-49歳が最も多く37.2%、次いで50-59歳以下が36.2%、39歳以下が21.9%と続く。40代から50代の医師が全体の7割以上を占めている。また62.6%もの医師が高血圧症患者を月100例以上診ている(表2)。表2画像を拡大する2)薬物治療開始血圧/降圧目標の推移年齢別薬物治療開始血圧/降圧目標の推移薬物治療開始血圧と降圧目標を年齢別でみると、一部例外はあるもののともに年々低下傾向がみられ、収縮期血圧については、65歳未満では薬物治療開始が平均146.9mmHg、降圧目標が130.5mmHg。65-74歳が同149.1mmHg、同133.5mmHg。75歳以上が同152.2mmHg、同136.8mmHgとなっている。2010年6月の調査で一時的に高くなっている理由として、Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes (ACCORD)試験、Valsartan in Elderly Isolated Systolic Hypertension(VALISH)試験において、積極的降圧群の結果が通常降圧群とエンドポイントの発生率で差が認められなかった無作為化比較試験の結果が、調査直前に発表されたことが影響していると考えられる。このように、高血圧症患者の年齢層が高くなるにしたがって、薬物療法開始血圧、降圧目標も高くなる傾向がみられている。(図1)図1画像を拡大する糖尿病有無別治療開始血圧/降圧目標の推移薬物治療開始血圧と降圧目標を糖尿病合併の有無別でもみると、同様に年々低下傾向がみられ、収縮期血圧については、合併症なしの場合は薬物治療開始が平均148.2mmHg、降圧目標が132.9mmHg。糖尿病を合併している場合には同132.9mmHg、同128.6mmHg。このように、糖尿病を合併している患者では降圧目標値をより低く設定し、早い段階から薬物治療を開始する傾向がみられる。(図2)図2画像を拡大する3)降圧薬の選択合併症がない高血圧症への第一選択薬合併症がない高血圧症に対する第一選択薬として最も多いのが「Ca拮抗薬」で47.3%、次いで多いのが「ARB」で43.3%と続く。以前と比べると低下しつつあるものの、今なお第一選択薬はCa拮抗薬が最も多いという結果となった(図3)。図3画像を拡大する糖尿病を合併した高血圧症への第一選択薬糖尿病を合併した高血圧症に対する第一選択薬として最も多いのが「ARB」で60.8%、次いで多いのが「Ca拮抗薬」で28.4%と続く。2009年に改訂された「高血圧治療ガイドライン」において、糖尿病合併例における第一選択薬はACE阻害薬、ARBが推奨されているが、Ca拮抗薬を第一選択薬として処方されている患者さんが3割弱いる。(図4)。図4画像を拡大するCa拮抗薬で降圧不十分な場合の選択肢Ca拮抗薬で降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「ARBの追加投与」で50.1%、次いで多いのが「合剤(ARB+CCB)への切り替え」で16.8%と続く。2010年に発売されたARBとCa拮抗薬配合剤の割合が増加傾向にある(図5)。図5画像を拡大するARBで降圧不十分な場合の選択肢ARBで降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「Ca拮抗薬の追加投与」で43.4%、次いで多いのが「合剤(ARB+CCB)への切り替え」で16.2%と続く。また、2006年12月にARBと利尿薬の配合剤が発売されて以来、配合剤への切り換えも含めたARBに利尿薬を追加する処方が増加し、ARBとCa拮抗薬の配合剤が発売された2010年4月以降、配合剤への切り換えも含めたARBにCa拮抗薬を追加する処方が増加してきているのがわかる(図6)。図6画像を拡大するCa拮抗薬+ARBで降圧不十分な場合の選択肢Ca拮抗薬+ARBで降圧不十分な場合の選択肢として最も多いのが「降圧利尿薬の追加投与」で32.6%、「ARBを合剤(ARB+利尿薬)に切り換え」が8.9%であるから、利尿薬成分を追加する処方が41.5%と3剤併用が普及してきている。(図7)。図7画像を拡大する降圧薬選択における重要視項目の推移降圧薬を選択するために重要視している項目を尋ねた(複数選択可)。図8には2005年時点で30%以上の医師より支持されていた項目の推移を示している。2005年に最も多かった「降圧効果に優れる」が7年間でさらに重要視される傾向にあり、90.2%の医師が重要視していた。次いで多いのが「24時間降圧効果が持続する」61.8%、「腎保護作用が期待できる」58.0%と続く。「腎保護作用が期待できる」については慢性腎臓病(CKD)の概念がわが国でも提唱された2007年以降に重要度が増している。一方、「大規模試験で評価できるエビデンスがある」は、2009年をピークに減少傾向にある。これは降圧薬を用いた大規模試験においてポジティブな結果が少なくなっていることと関係していると考えられる。これら8年にわたる重要視項目の変化は、この期間に発表されたエビデンスの多くが、「降圧薬の種類より、治療期間中の降圧度が重要である」ということを反映しているものではないかと推察している。図8画像を拡大するインデックスページへ戻る

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統合失調症患者における持効性注射剤:80文献レビュー

 非定型抗精神病薬の持効性注射剤(LAI)は、統合失調症患者の寛解率や予後に好影響を与えることが期待されている。現在のガイドラインにおいて、抗精神病薬の使用に関する経口およびLAIに対する明確な基準が示唆されている。Rossi氏らはLAIの治療を受けた統合失調症患者における人口統計学的・臨床的特徴の典型的なプロファイルを明らかにするため、非ランダム化研究の分析による系統的レビューを行った。BMC Psychiatry誌オンライン版2012年8月21日号の報告。 英語による非ランダム化研究80文献を抽出し、LAI選択に関連する要因や日々のLAI使用に関する分析を行った。非ランダム化研究にはコクランの系統的レビューを用い、人口動態および臨床的特徴を含む変数を用いて分析を行った。入手可能であった文献は、LAIによる治療を行った統合失調症患者の典型的なプロファイルを識別するにあたり、いずれの統計的分析も考慮せず使用することができた。主な結果は以下のとおり。・LAI使用率は4.8%~66%であった。・一貫した評価が可能であった人口統計学的特徴は、年齢(1970年代:38.5歳、1980年代:35.8歳、1990年代:39.3歳、2000年代39.5歳)、性別(男性>女性)であった。・有効性はさまざまな症状スケールと他の間接的な測定法を用いて評価し、安全性は錐体外路症状と抗コリン薬の使用により評価したが、これらのデータは整合性がなく、プール不可能であった。・別の研究で得られた有効性と安全性の結果によると、LAI使用のメリットとして入院が74%減少したと報告されている。またLAI使用による錐体外路症状発現は6ヵ月(35.4%)、8ヵ月(37.1%)、18ヵ月(36.9%)、24ヵ月(41.3%)で一貫して増加した。 最後にRossi氏らは「統合失調症患者に対するLAI使用は、良好な有効性および安全性が期待できることに加え、アドヒアランスの向上が期待できる」という。しかしそれにも増して重要なこととして「最適な治療を行うためには、医療スタッフ、患者、家族が協力する体制(治療同盟)を作ることが何よりも重要であり、LAIのプロファイルが治療同盟構築に寄与する可能性がある」と述べている。関連医療ニュース ・デポ剤使用で寛解率が向上!? ・統合失調症患者における「禁煙」は治療に影響を与えるか? ・検証「グルタミン酸仮説」統合失調症の病態メカニズム

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交代勤務で血管イベントが増加、200万人以上の国際的メタ解析

 交代勤務制の労働形態により、血管イベントが有意に増加することが、カナダ・ウェスタン大学のManav V Vyas氏らの検討で示された。交代勤務は、一般に規則的な日中勤務(おおよそ9~17時の時間帯)以外の勤務時間での雇用と定義され、高血圧、メタボリック症候群、脂質異常症、糖尿病のリスクを増大させることが知られている。さらに、概日リズムの乱れにより血管イベントを起こしやすいとの指摘があるが、相反するデータもあるという。BMJ誌2012年8月25日号(オンライン版2012年7月26日号)掲載の報告。交代勤務と血管イベントの関連をメタ解析で評価研究グループは、交代勤務と主要な血管イベントの関連を文献的に検討するために、系統的なレビューとメタ解析を行った。主な文献データベースを検索し、主要論文、レビュー論文、ガイドラインの文献リストに当たった。解析の対象は、非交代勤務者または一般住民を対照群とし、交代勤務に関連する血管疾患、血管死、全死因死亡のリスク比について検討している観察試験とした。試験の質はDowns and Blackスケールで評価し、主要評価項目は心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈イベントとした。試験の異質性はI2統計量で評価し、メタ解析にはランダム効果モデルを用いた。心筋梗塞23%、虚血性脳卒中5%、冠動脈イベント24%増加、死亡率との関連はない日本の4試験を含む34試験(前向きコホート試験11件、後ろ向きコホート試験13件、症例対照試験10件)に参加した201万1,935人が解析の対象となった。交代時間は早期夜間が4件、不規則で不特定な時間が6件、混合勤務時間が11件、夜間が9件、ローテーション制が10件で、7件は複数のカテゴリーを比較していた。30件は非交代の日中勤務を、4件は一般住民を対照群としていた。心筋梗塞の発生数は6,598件(10試験)、虚血性脳卒中は1,854件(2試験)、冠動脈イベントは1万7,359件(28試験)だった。交代勤務は心筋梗塞[リスク比:1.23、95%信頼区間(CI):1.15~1.31、I2=0%]および虚血性脳卒中(同:1.05、1.01~1.09、I2=0%)と有意な関連があり、試験間に有意な異質性(I2=85%)を認めたものの冠動脈イベント(同:1.24、1.10~1.39)も有意な関連を示した。統合リスク比は、未調整解析およびリスク因子で調整後の解析の双方で有意差を認めた。早期夜間の交代勤務以外の勤務形態はいずれも冠動脈イベントのリスクが有意に高かった。死亡率の上昇と交代勤務には関連はなかった。成人勤労者の有病者の32.8%を交代勤務者が占めるカナダのデータに基づき、交代勤務の人口寄与リスクを算出したところ、心筋梗塞が7.0%、虚血性脳卒中が1.6%、冠動脈イベントは7.3%であった。著者は、「交代勤務は血管イベントを増加させる。これらの知見は社会政策や職業医学に示唆を与えるものだ」と結論し、「交代勤務者には心血管疾患の予防のために最初期の症状に関する教育が行われるべきである。今後、最も罹病しやすいサブグループを同定し、交代時間の改善戦略が全般的な血管の健康に及ぼす効果を検討する研究が求められる」と指摘する。

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t-PA療法後の早期アスピリン静注追加は急性虚血性脳卒中の予後を改善するか?

 アルテプラーゼ(商品名:グルトパ、アクチバシン)静注療法を施行された急性虚血性脳卒中患者に対し、再閉塞予防の目的で早期にアスピリン静注を行うアプローチは有効ではないことが、オランダ・アムステルダム大学のSanne M Zinkstok氏らが行ったARTIS試験で示された。欧米ではt-PAであるアルテプラーゼによる血栓溶解療法は、急性虚血性脳卒中に対する唯一の承認された治療法である。アルテプラーゼによる再疎通の達成後に、患者の14~34%が血小板の活性化によると考えられる再閉塞を来すが、早期に抗血小板療法を行えば再閉塞のリスクが低減し、予後も改善する可能性があるという。Lancet誌2012年8月25日号(オンライン版2012年6月28日号)掲載の報告。早期アスピリン静注追加の再閉塞予防効果を無作為化試験で評価ARTIS(Antiplatelet therapy in combination with Rt-PA Thrombolysis in Ischemic Stroke)試験は、アルテプラーゼ静注療法を受けた急性虚血性脳卒中患者に対する早期アスピリン静注の、再閉塞の予防における有用性を評価する多施設共同非盲検無作為化試験。対象は、症状発症から4.5時間以内に標準的なアルテプラーゼ静注(0.9mg/kg)療法が施行された18歳以上の急性虚血性脳卒中患者とした。これらの患者が、アルテプラーゼ投与開始から90分以内にアスピリン300mgを静脈内投与する群あるいは追加治療は行わない標準治療群に無作為に割り付けられた。国際ガイドラインに従い、全例にアルテプラーゼ投与24時間後から経口薬による抗血小板療法が開始された。担当医と患者には治療割り付け情報が知らされたが、フォローアップを行ったリサーチ看護師にはマスクされた。主要評価項目は3ヵ月後の良好なアウトカム(修正Rankinスケール:0~2点)とした。症候性頭蓋内出血が高発現し、試験は早期中止に2008年7月29日~2011年4月20日までに、オランダの37施設から642例が登録され、アスピリン静注追加群に322例、標準治療群には320例が割り付けられた。当初、800例の登録が目標であったが、症候性頭蓋内出血(SICH)の過度の発現と、アスピリン静注追加群でベネフィットのエビデンスが得られなかったことから試験は早期中止となった。3ヵ月後の良好なアウトカムの達成率は、アスピリン静注追加群が54.0%(174/322例)、標準治療群は57.2%(183/320例)であり、両群間で同等であった(絶対差:-3.2%、95%信頼区間[CI]:-10.8~4.2、粗相対リスク:0.94、95%CI:0.82~1.09、p=0.42)。調整後のオッズ比は0.91(95%CI:0.66~1.26、p=0.58)だった。SICHの頻度は、アスピリン静注追加群が4.3%(14/322例)と、標準治療群の1.6%(5/320例)に比べ有意に高かった(絶対差:2.8%、95%CI:0.2~5.4、p=0.04)。SICHが不良なアウトカムの原因となった患者は、アスピリン静注追加群が11例、標準治療群は1例であり有意差を認めた(p=0.006)。著者は、「アルテプラーゼ静注療法を施行された急性虚血性脳卒中患者に対する早期のアスピリン静注療法は、3ヵ月後のアウトカムを改善せず、SICHのリスクを増大させた」と結論し、「本試験の知見は、現行のガイドライン(アルテプラーゼ療法施行後の抗血小板療法は24時間が経過してから開始すべき)の変更を支持しない」と指摘している。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(13)〕 心房細動診療のピットフォール―心房細動で出血死させないために。CKDに配慮したリスク評価を!

非弁膜症性心房細動(NVAF)に伴う心原性塞栓による脳梗塞は、中大脳動脈などの主要動脈の急性閉塞による発症が多いため、アテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞に比べて梗塞範囲が大きく、救命された場合でも後遺症による著しいADLの低下を招きやすい。周術期の肺血栓塞栓症同様に、予防が重要である。心房細動患者の脳梗塞発症率は、発作性、持続性の病型による差はなく同等であるが、併存疾患や年齢によって梗塞リスクが異なり、リスク定量化の試みがなされている。2010年のESC心房細動管理ガイドラインから、従来のCHADS2スコアの欠点(低リスク例の層別化が不十分)が改善されたCHA2DS2-VAScスコアが採用されている。CHA2DS2-VASCスコアは、0 pointでは脳梗塞発症率が0%で、CHADS2スコアよりも低リスクを判別できて、抗凝固療法を必要としない例を効率よく除外できる。 ワルファリンは、きわめて有用・有効な抗凝固薬であるが、安全治療域が狭く、至適投与量の個人差が大きいうえ、多くの食品、薬物と相互作用があるなどの欠点を持っている。ワルファリンコントロールに繊細なコントロールが要求される理由のひとつとして、アジア人では、白人に比べて頭蓋内出血の頻度が約4倍高い(Shen AY, et al. J Am Coll Cardiol. 2007; 50: 309-315.)ことがあげられる。ESCガイドライン2010では、出血リスクの評価としてHAS-BLEDスコア(Pisters R, et al. Chest. 2010; 138: 1093-1100.)を用いている。 本研究の結果、CKDを合併したNVAFは、梗塞リスクのみならず、出血リスクも高い特徴があることが明らかになった。従来の評価法のうち、HAS-BLEDスコアには腎機能が含有されるが(A)、CHA2DS2-VAScスコアには含有されていない。本研究の詳細を検討すると、CKD合併NVAFでは、梗塞リスクに対する高血圧(H)、心不全(C)、血管疾患(V)、糖尿病(D)の寄与が有意ではなかった(原著Table 3参照)。本邦でダビガトランの市販後に、腎機能低下患者で致死的な出血合併症を認めたことは記憶に新しい。個々の医師がCKDに高い関心を持つとともに、NVAFに対する抗凝固療法の安全性・有効性をさらに高める、より普遍的なリスク評価法の開発が必要であろう。

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