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脳出血再発予防における積極的降圧の可能性(解説:有馬 久富 氏)-442

 脳出血再発予防における血圧コントロールの重要性を示す報告が、JAMA誌に掲載された。本研究は、脳出血生存者を対象とした前向きコホート研究である。1994~2013年にマサチューセッツ総合病院へ入院した脳出血患者のうち、90日以上生存した1,145例を平均約3年間追跡し、血圧コントロール状況および到達血圧と脳出血再発との関連を検討している。その結果、治療中の血圧が140/90mmHg以上(非糖尿病)あるいは130/80mmHg以上(糖尿病)であったコントロール不良例では、脳出血再発のリスクが3.5~4.2倍上昇していた。到達血圧と脳出血再発の検討では、再発の最も少ない至適血圧レベルは120/80mmHg未満であった。 本研究は、脳出血生存者に限定して血圧と再発との関連を検討した研究の中では、対象者数が最も多い。また、追跡不能例も約2%と少ないため、精度の高い研究といえるであろう。 しかしながら、本研究には、さまざまなlimitationがある。まず、マサチューセッツ総合病院へ入院した者のみを対象としているため、本研究の結果が米国内外の脳出血患者全般に当てはまるかどうかはわからない。次に、リクルート期間が1994~2013年と長期間にわたっているが、この間に脳出血の急性期治療および再発予防対策は、大きな変遷を遂げている。このような時代の影響は、解析の中で考慮されていない。また、血圧は、統一された方法で測定されておらず、通院中の医療機関で測定した血圧値を解析に用いている。追跡期間が10ヵ月から20年までばらついていることも、結果に影響を与えているかもしれない。さらに、多変量解析において調整項目を数学的に選択しているが、このようなアプローチに対しては近年批判も多い。 このようなlimitationはあるものの、本研究から得られた結果は過去の研究結果と一致しているため、外的妥当性が保たれていると考えられる。脳卒中2次予防における降圧療法の有用性を確立した無作為化比較試験PROGRESSのサブ解析では、治療中の血圧レベルと脳出血再発との間に直線的な関係を認め、脳出血再発が最も少ない至適血圧レベルは115/75mmHg以下であった1)。ラクナ梗塞生存者において、収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする積極的降圧療法の効果を検討した無作為化比較試験SPS3では、積極的降圧療法により脳出血再発が有意に63%減少した2)。 「高血圧治療ガイドライン2014」および「脳卒中治療ガイドライン2015」は、脳出血生存者における再発予防のための降圧目標として、140/90mmHg未満(可能であれば130/80mmHg未満)を推奨している。しかし、本研究および過去の研究結果を考え合わせると、収縮期血圧120mmHg未満を目標とする積極的降圧療法により、脳出血再発をさらに抑制することができるかもしれない。   このような仮説を基に、わが国では、脳卒中2次予防において降圧目標を120/80mmHg未満とする積極的降圧療法の効果を検討する、無作為化比較試験RESPECTが進行中である。また、ヨーロッパでは、脳卒中2次予防における積極的降圧療法、および積極的脂質低下療法の効果を検討する無作為化比較試験ESH-CHL-SHOTも進行中である。さらに、脳出血生存者のみに対象者を限定して、降圧薬トリプル合剤を用いた積極的降圧療法の再発予防効果を検討する無作為化比較試験TRIDENTも、オーストラリアで開始される予定である。これらの臨床試験により、脳出血再発予防における至適降圧目標が明らかになるものと期待される。

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CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博 氏)-440

 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)はありふれた医療関連感染であり、死亡率も高いことが知られている。カテーテル挿入時の皮膚消毒は感染予防に重要であり、今までも適切な皮膚消毒薬について議論されてきた。米国疾病予防管理センター(CDC)は、カテーテル挿入時の皮膚消毒に、0.5%を超えるクロルヘキシジンを含むクロルヘキシジン・アルコールを推奨しているが、クロルヘキシジン・アルコールとポビドンヨード・アルコールをhead-to-headで比較した大規模試験は存在しなかった。 本研究は、血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒薬として、2%クロルヘキシジン・70%イソプロピルアルコールと5%ポビドンヨード・69%エタノールの有効性を比較した、ランダム化比較試験である。両群をさらに消毒前の皮膚洗浄(scrubbing)の有無で1:1:1:1の4群に割り付けした(2×2要因デザイン)。動脈カテーテル、血液透析カテーテル、中心静脈カテーテルの留置が48時間以上必要な18歳以上の成人2,546例を対象とし、カテーテル関連感染症の発生率を主要評価項目とした。カテーテル関連感染症の定義は、菌血症を伴わないカテーテル関連敗血症、あるいはCRBSI(血液培養が陽性)とした。 カテーテル関連感染症の発生率は、クロルヘキシジン・アルコール群で0.28/1,000カテーテル日、ポビドンヨード・アルコール群で1.77/1,000カテーテル日であり、クロルヘキシジン・アルコール群が有意に低率だった(ハザード比:0.15、95%信頼区間:0.05~0.41、p=0.0002)。CRBSIの発生率もクロルヘキシジン・アルコール群で低率だった(0.28 vs.1.32/1,000カテーテル日)。消毒前の皮膚洗浄の有無では、カテーテル関連感染症、CRBSIの発生率に差はなかった。 また、全身性の有害事象は認めなかったが、クロルヘキシジン・アルコール群で重篤な皮膚反応を多く認めた(3% vs.1%)。 カテーテル挿入部位や手術部位など皮膚の消毒には、クロルヘキシジンの有効性が報告されてきており、本研究でもポビドンヨードと比較してクロルヘキシジンの有効性が示された。過去の研究では、カテーテルコロニゼーション(カテーテルへの菌の定着)を主要評価項目としているものが多く、もともとCRBSIの発生率が低い集団において、カテーテル関連感染症の発生率を大きく低下させることを示した意義は大きい。今後さらに、クロルヘキシジン・アルコールを皮膚消毒に使用する流れが加速するだろう。 現時点で、日本では2%クロルヘキシジン製剤が発売されておらず、使用することはできない。多くの施設では、CDCガイドラインで推奨されている「0.5%を超える濃度のクロルヘキシジン」という文言を参考に、1%クロルヘキシジン・アルコール製剤を使用していると思われる。今後も1%クロルヘキシジン・アルコールを使用するのであれば、1%製剤はポビドンヨードより有効なのか、2%クロルヘキシジン・アルコールと効果は同等なのか、有害事象の発生率に差はないのか、といった疑問を解決してくれるような研究が必要と考える。

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常染色体優性多発性嚢胞腎〔ADPKD : autosomal dominant polycystic kidney disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義PKD1またはPKD2遺伝子の変異により、両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する疾患。■ 診断基準ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎ガイドライン(第2版)」)1)家族内発生が確認されている場合(1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの(2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの2)家族内発生が確認されていない場合(1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合(2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合※除外すべき疾患多発性単純性腎嚢胞(multiple simple renal cyst)腎尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)多嚢胞腎(multicystic kidney 〔多嚢胞性異形成腎 multicystic dysplastic kidney〕)多房性腎嚢胞(multilocular cysts of the kidney)髄質嚢胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney〔若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis〕)多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)【Ravineの診断基準】(表)(家族歴がある場合の画像診断基準)画像を拡大する■ 疫学一般人口中に占める多発性嚢胞腎患者数(有病率)は、病院受診者数を基に調査した結果では一般人口3,000~7,000人に1人である。病院患者数に占める多発性嚢胞腎患者数は3,500~5,000人に1人、病院での剖検結果では被剖検患者約400人に1人である。メイヨー病院があるオルムステッド郡(米国)で1年間に新たに診断された患者数(発症率)は、一般人口1,000~1,250人あたり1人である。調査方法、調査年代、調査場所などにより、結果に差異が認められる。今後、治療薬が利用可能になると受療する患者数が増加し、有病率も増える可能性がある。■ 病因(図を参照)画像を拡大するPKD1またはPKD2遺伝子の変異による。PKD1は16p13.3、PKD2は4q21-23に位置する。PKD1とPKD2の遺伝子産物 polycystin 1(PC 1)とPC2はtransient receptor potential channel for polycystin(TRPP)subfamilyで、Caチャネルである。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在する。PCは腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞などの繊毛に存在する。尿細管腔の内側に存在する繊毛は、尿細管液の流れに反応して屈曲する。屈曲によるshear stressはPCや繊毛機能に関係する蛋白を活性化し、細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高める。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患をもたらすことが明らかとなり、繊毛疾患(ciliopathy)として概括されている。PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値である。細胞内Ca濃度が低下すると、cyclicAMP(cAMP)分解酵素(PDE)活性が低下し、またcAMPを産生するadenyl cyclase(AC)活性が高まり、細胞内cAMP濃度が高まる。その結果、cAMP依存性protein kinase A(PKA)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR、Wnt、Raf/MEK/ERK、JAK/STAT、mTORなど)が活性化され細胞増殖が起きる。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)に関与しており、細胞極性機能を失った細胞増殖が起きる結果、嚢胞が形成される。また、PKAはcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を刺激し、嚢胞内へのCl分泌を高める。腎尿細管(集合管)に存在するバソプレシン(AVP)V2受容体は、AVPの作用を受け、ACおよびcAMP、PKAを介して水透過性を高める。この過程でcAMPは嚢胞を増大させる。ソマトスタチンはACを抑制するので、治療薬として期待される。■ 症状多くの患者は30~40代までは無症状で経過する。1)腎機能低下腎機能の低下と総腎容積は相関し、総腎容積が3,000mLを超えると腎不全になる確率が高い。しかし、3,000mLを超えない場合でも腎不全になる場合もある。腎不全による症状(疲労、貧血、食欲低下、皮膚搔痒など)は、他疾患による腎不全症状と同じである。透析導入平均年齢は55歳位であったが、最近では60歳近くになっている。患者全体では70歳で約50%が終末期腎不全になる。2)高血圧血管内皮機能の異常により高血圧を来すと考えられ、腎機能が低下する以前から発症する。60~80%の患者が高血圧に罹患している。高血圧になっている患者では腎臓腫大と腎機能低下の進行が速い。3)圧迫症状腎臓や肝臓の嚢胞(60~80%の患者に嚢胞肝が併存)が腫大するにつれて、腹部膨満感、少し食べるとお腹が張る、前屈が困難になる、背腰部痛、腹部痛などの圧迫症状が出現する。腎嚢胞は平均年5~6%の割合で増大するので、加齢とともに症状は進行する。4)脳血管障害脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症頻度が高い。脳出血の原因として高血圧がある。脳動脈瘤の発生頻度(約8%)は一般より高い。5)血尿・尿路感染症血管の構築異常により血管が裂け、嚢胞内に出血し、疼痛を引き起こす。出血巣と尿路が交通すると血尿になる。また、変形した尿路のために尿路感染症を起こしやすい。嚢胞感染が起きると抗菌薬が嚢胞内に移行しにくいので難治性になることがある。6)その他尿路結石、鼠径ヘルニア、大腸憩室、心臓弁膜機能異常などの頻度が高い。■ 分類遺伝子の変異部位に応じて、PKD1とPKD2に分かれる。約85%はPKD1である。PKD1の方が症状は強く、腎不全になる平均年齢も若い。■ 予後生命予後に関するデータはない。腎機能に関しては症状の項参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断基準に準ずる。家族歴と画像検査(超音波、CT、MRIなど)で比較的正確に診断できるが、中には診断に迷う症例もあり、遺伝子診断が有用な場合もある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)トルバプタン(商品名: サムスカ)による治療AVP V2受容体拮抗薬トルバプタンは、ナトリウム利尿をあまり伴わない水利尿作用があり、低ナトリウム血症、体液貯留の治療薬として開発され、わが国では、2010年に心不全による体液貯留、2013年に肝硬変による体液貯留への治療薬として承認を受けている。2003年にモザバプタン(トルバプタンの前段階の薬)が、多発性嚢胞腎モデル動物に有効であると発表され、2007年から多発性嚢胞腎患者1,445名を対象として、トルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同治験が行われた。腎臓容積増大速度を約50%、腎機能低下速度を約30%緩和する結果が2012年秋に発表され、わが国において2014年3月に多発性嚢胞腎治療薬として承認され、臨床使用が始まっている。わが国での投薬適応基準は、総腎容積≧750mL、総腎容積増大速度≧年5%、eGFR≧15 mL/min/1.73m2などである。服用開始時には入院が必要で、その後月1回の血液検査で肝機能(5%程度に肝機能障害が発生する)、血清Na値(飲水不足で高Na血症になる)、尿酸値(上昇する)などのモニターが必要である。また、トルバプタンの処方医はWeb講習を受講し、登録する必要がある。2)高血圧の治療ARBが第1選択薬として推奨される。標準的降圧目標(120/70~130/80)とより低い降圧目標(95/60~110/75)との2群を5年間追跡したところ、より低い降圧群での総腎容積増大速度が低かったことが報告されているので、可能なら収縮期血圧を110未満にコントロールすることが望ましい。3)Na摂取制限Na摂取と腎嚢胞増大速度は相関するので、Na摂取は制限したほうがよい。4)飲水動物実験では飲水によって嚢胞の増大抑制効果が認められているが、人で飲水を奨励した結果では、逆に嚢胞増大速度とeGFR低下速度が増大したことが報告されている。水道水では、消毒用塩素の副産物ジクロロ酢酸に嚢胞増大作用があることが報告されている。多発性嚢胞腎患者では、腎機能が低下するにしたがい血清浸透圧とAVPが高くなることが報告されている。人における飲水効果には疑問があるが、脱水によるAVP上昇は避けるべきである。5)カフェインや抗うつ薬カフェインはPDEを抑制しcAMP濃度を上昇させ、嚢胞増大を促進する可能性がある。SSRI、三環系抗うつ薬などはAVPの放出を促進するため、多発性嚢胞腎では嚢胞増大を促進することが考えられる。6)開発中の薬剤(1)トルバプタン〔AVP V2受容体阻害薬〕は、大規模な臨床試験で腎嚢胞増大と腎機能悪化を抑制する効果が示され1)、わが国では2014年3月、カナダ、ヨーロッパでは2015年3月に認可が下りている。(2)ソマトスタチンアナログは小規模な臨床試験で肝臓と腎臓の嚢胞増大に有効と報告されているが、当局への申請を目的とする大規模な臨床試験は行われていない。(3)mTOR阻害薬であるシロリムスとエベロリムスの臨床試験が行われたが、副作用が強く臨床効果が認められなかった。7)腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)腎動脈を塞栓し、腎臓を縮小させることで症状の緩和をもたらす。すでに透析が導入され、尿量が1日500mL以下の患者が対象となる。8)腹腔鏡下腎嚢胞開創術、腎摘除術抗菌薬抵抗性または反復感染の原因になっている嚢胞が特定される場合、あるいは数個の嚢胞が特別に大きくなり圧迫症状が強い場合、腹腔鏡下に特定の嚢胞を開窓する手術が適応となる。出血が強い場合や、反復する嚢胞感染がある場合、患者に腎機能の予後をよく説明したうえで同意を前提として腎摘除術(腹腔鏡下腎摘除術も行われる)が選択肢となる。4 今後の展望1)最近の研究では、総腎容積増大速度が5%/年以下でも、腎不全に進行することが示されている。トルバプタン適応基準となった総腎容積増大速度≧5%/年の基準では、これら腎不全に進行する患者を除外することになる。2)トルバプタンの作用として利尿作用があるが、利尿作用を少なくする薬剤が望まれる。3)多発性嚢胞腎の進展機序は、cAMP-PKAを介する経路のみではないので、cAMP-PKA非依存性経路を抑制する薬剤開発が望まれる。4)肝臓嚢胞に有効なソマトスタチンアナログの臨床開発が望まれる。5 主たる診療科腎臓内科、泌尿器科、脳動脈瘤があれば脳外科(多発性嚢胞腎に関心の高い医師の存在)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報多発性嚢胞腎啓発ウエブサイト(杏林大学多発性嚢胞腎研究講座)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発性嚢胞腎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)常染色体多発性嚢胞腎(順天堂大学医学部泌尿器科)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ADPKD.JP (~多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト~/大塚製薬株式会社)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PKDの会(患者と患者家族の会)1)Torres VE,et al.N Engl J Med.2012;367:2407-2418.2)東原英二 編著.多発性嚢胞腎~進化する治療最前線~.医薬ジャーナル;2015.3)Irazabal MV, et al. J Am Soc Nephrol.2015;26:160-172.公開履歴初回2013年04月18日更新2015年10月27日

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健康寿命の延伸は自立した排尿から!

 10月19日、株式会社リリアム大塚(大塚グループ)は、膀胱内の尿量を連続的に測定するセンサー「リリアムα-200」の製品発表会と排尿ケアに関するプレスセミナーを都内にて開催した。使いやすい機能で排尿支援 「リリアムα-200」は、4つのAモード超音波で得た情報から膀胱内の尿量を推定する測定器である。尿意を失った患者さんに対し、適切に導尿のタイミングを通知する機能を有し、尿道留置カテーテルの抜去やオムツからの離脱など、患者さんの排尿自立につながることが予想されている。 基本機能として、次の機能が搭載されている。 1)残尿測定:位置決めモードにより簡便に膀胱内の尿量測定を行う 2)排尿タイミングモード:任意に設定した膀胱内尿量で患者に通知 3)定時測定モード:連続的尿量測定により蓄尿・排尿状態を把握 4)排尿日誌機能:排尿時にボタンを押すことで排尿日誌の作成が可能 同社では、本製品の普及により、排尿で問題を抱えている多くの方々のQOLの向上や患者ADLの向上、看護・介護に携わる方々の労力の軽減と効率化、さらには患者さんの尊厳に関わる医療ケアに大きく貢献できるものと、期待を膨らませている。 希望小売価格は税抜35万円(初回に同包する各種アクセサリを含むセット価格)。11月2日より発売。非専門医ももっと泌尿器診療へ プレスセミナーでは、高橋 悟氏(日本大学医学部泌尿器科学系 主任教授)が、「超高齢社会に於ける排尿ケアの課題と対策」と題しレクチャーを行った。 尿意切迫感、切迫性尿失禁などの排尿トラブルは、健康な人でも40歳を超えると年齢とともにその数は増加する。まして、脳血管障害、運動器障害、認知症などの基礎疾患がある要介護状態では、半数以上で何らかの排尿障害があると報告されている。わが国では、要介護認定者は600万人を超えており、排泄介護は今後も大きな問題になる。そして、排泄介護は、負担が非常に大きく、自宅復帰を阻害する要因となっている。 これら排尿障害の臨床では、「過活動膀胱診療ガイドライン」をはじめ、多数のガイドラインが使用されている。それらで取り上げられている残尿測定と排尿日誌は、基礎的評価として重要な項目であり、一般の外来でも行われることが期待されている(現在、残尿測定検査は超音波検査で55点、導尿で45点の保険適用)。 しかし、残尿測定検査は、特別に機器が必要とされ、外来でも煩雑であり、排尿日誌は、自立排尿できない患者さんや介護者の負担などの理由でなかなか記録されないという課題がある。 診断後は、頻尿、尿失禁、排出障害などに対して、排尿障害治療薬も発売されている。しかし、十分な治療効果がない場合は、成人用オムツが多用されており、また、在宅介護では、留置カテーテルも少なくないという。排尿予測が患者、介護者の負担を軽減する このように課題の多いわが国の排尿管理において、高齢者80名に反復的尿量測定と排尿誘導を行った結果、オムツ使用の軽症化、身体機能の改善、認知機能の改善、介護ストレスの軽減に有用であったとする研究がある(Iwatsubo E, et al. Int J Urol. 2014;21:1253-1257.)。 今後の排尿ケアにおいては、膀胱機能アセスメントとして、残尿(尿量)測定と排尿日誌、行動療法統合プログラムの実施が望まれる。また、回復期リハビリテーションや地域包括ケアでの積極的な介入が重要となる。 その際に、「リリアムα-200」のような携帯型の残尿測定器があれば、排尿ケア・プランの立案ができ、適切な排尿誘導が可能となる。これにより、必要のないオムツの取り外しや留置カテーテルの抜去ができ、患者さんの尊厳回復やQOLの向上、介護者の負担軽減につながり、ひいては高齢者の健康寿命の延伸に期待が持たれる、とレクチャーを終えた。「リリアムα-200」の製品紹介はこちら関連リンクケアネット・ドットコム 特集「排尿障害」

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高齢者の服薬、併存疾患の組み合わせの確認を/BMJ

 米国・イェール大学医学部のMary E Tinetti氏らは複数の慢性疾患を有する高齢者の、ガイドラインに基づく服薬と死亡の関連を調べた。その結果、とくに心血管薬の生存への影響は、無作為化試験の報告と類似していたが、β遮断薬とワルファリンについて併存疾患によりばらつきがみられたことを報告した。また、クロピドグレル、メトホルミン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は、生存ベネフィットとの関連がみられなかったという。結果を踏まえて著者は、「併存疾患の組み合わせによる治療効果を明らかにすることが、複数慢性疾患を有する患者の処方せんガイドになるだろう」とまとめている。BMJ誌オンライン版2015年10月2日号掲載の報告より。頻度の高い4疾患併存の高齢者の服薬と死亡の関連を調査 研究グループは、65歳以上の代表的サンプルを全米から集約した住民ベースコホート研究Medicare Current Beneficiary Surveyで、複数慢性疾患を有する高齢者のガイドライン推奨による服薬と死亡を調べる検討を行った。 被験者は、2つ以上の慢性疾患(心房細動、冠動脈疾患、慢性腎臓病、うつ病、糖尿病、心不全、脂質異常症、高血圧症、血栓塞栓症)を有する高齢者8,578例で、2005~2009年に登録、2011年まで追跡した。 被験者は、β遮断薬、Ca拮抗薬、クロピドグレル、メトホルミン、RAS系阻害薬、SSRI、SNRI、スタチン薬、サイアザイド系利尿薬、ワルファリンを服用していた。 主要評価項目は、疾患を有しガイドライン推奨薬を服用していた患者の、非服用患者と比較した死亡に関する補正後ハザード比で、頻度の高い4疾患を有していた患者における死亡補正後ハザード比とした。単疾患では抑制効果が高くても4併存疾患では減弱があることを確認 全体で、各疾患を有する患者の50%以上が、併存疾患にかかわらずガイドライン推奨薬を服用していた。 3年間の追跡期間中の死亡例は、1,287/8,578例(15%)であった。 心血管薬では、β遮断薬、Ca拮抗薬、RAS系阻害薬、スタチンは、対象疾患に関する死亡を抑制することが認められた。たとえば、β遮断薬の補正後ハザード比は、心房細動を有する患者では0.59(95%信頼区間[CI]:0.48~0.72)、心不全患者では0.68(同0.57~0.81)であった。 これら心血管薬の補正後ハザード比は、4つの併存疾患を有する被験者でも類似した値がみられたが、β遮断薬は4併存疾患の組み合わせによりばらつきがみられた。0.48(心房細動/冠動脈疾患/脂質異常症/高血圧)から、0.88(うつ病/冠動脈疾患/脂質異常症/高血圧)にわたっていた。 一方、クロピドグレル、メトホルミン、SSRI、SNRIでは、死亡の抑制効果はみられなかった。 また、ワルファリンは、心房細動(補正ハザード比:0.69、95%CI:0.56~0.85)、血栓塞栓症(0.44、0.30~0.62)を有する患者で、死亡リスクの抑制が認められたが、頻度の高い4併存疾患患者では、その抑制効果が減弱することが確認された。0.85(心房細動/冠動脈疾患/脂質異常症/高血圧)から、0.98(心房細動/うつ病/脂質異常症/高血圧)の範囲にみられた。

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CHA2DS2-VAScスコアの応用って?~JAMA掲載に値するか~(解説:西垣 和彦 氏)-430

JAMAって? 世の中には、あまた医学雑誌がある。その中でも最高峰に位置するのが、このJAMA(The Journal of the American Medical Association:米国医師会雑誌)である。インパクトファクター(impact factor: IF)は、2014年には54.420と上昇し、臨床医学総合誌では第1位の座を堅持している。しかしながら、インパクトファクターは、自然科学・社会科学分野の学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標であるが、あくまでWeb of Scienceに収録された、特定のジャーナルの「平均的な論文」の被引用回数にすぎない。JAMA誌の記事の採択率は、依頼した記事も依頼していない記事もまとめて、年間6,000本受け取るうちのおおよそ8%であり、最難関の雑誌であることは間違いない。しかし、しょせん米国医師会雑誌であり、専門性がない臨床医学総合誌であるので、読者層はおのずから幅広くなり、インパクトファクターが高くなることは必然である。最近、このJAMA誌において、その独自性と総合雑誌であるがゆえに、頭を抱えたくなるような論文が掲載される例が多々目に付く。この論文もその範囲にあるのかもしれない。CHA2DS2-VAScスコアの真意 心房細動は、発作性であっても持続性~慢性であっても、また、心房細動の持続時間とも関係なく、心原性脳血栓塞栓症を発症させるに十分な血栓塞栓(フィブリン血栓)を生成させる可能性がある。しかも、心原性脳血栓塞栓症がいったん発症すると、ほかのアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞の予後とは比較にならないほど重症となり、20%が死亡、40%が要介護4度あるいは5度の寝たきりの状態となる。さらに、急性期に命を取り留めたとしてもその後の5年生存率は30%と、がんなどの予後に匹敵するほど著しく予後不良なため、心原性脳血栓塞栓症は“ノック・アウト型脳梗塞”と呼ばれる。よって、心原性脳血栓塞栓症の最も重要なポイントは、心原性脳血栓塞栓症をいかに発症させないようにするかであるが、これまで心原性脳血栓塞栓症予防のための抗凝固薬は、約50年前の1962年に発売されたワルファリンのみで、ほかに選択の余地がなかった。しかも、このワルファリンは、経験豊富な循環器専門医でさえもその副作用である出血の点で安心して処方できない、非常にハードルの高い薬剤である。よって、ワルファリン投与により、副作用を上回る有効性を担保する患者を層別化する目的で、心房細動患者の血栓塞栓症リスクを評価しスコア化したのがCHA2DS2-VAScスコアなのである。 本論文の臨床的な意義は? 本論文は、デンマークのレジストリデータを用い、心房細動のない心不全患者の場合でもCHA2DS2-VAScが虚血性脳卒中、血栓塞栓症、心不全診断後1年以内の死亡を推定することができるかどうか、心不全患者4万2,987例を対象にして検討された研究である。その結果、CHA2DS2-VAScスコアの高い(≧4)患者では、血栓塞栓症の絶対リスクは心房細動の存在にかかわらず高値であった。 しかし、この結果は、CHA2DS2-VAScスコアの中に心不全の項目が要素として入っていることと臨床的な見地から、当然といえば当然の結果であり、予期された結論であったと考える。しかも、CHA2DS2-VAScスコアという使用目的が異なるスコアを心房細動のない心不全患者の層別化に用いるには、推定精度は中等度であったことからも無理があり、臨床的に使用する意義は少ない。結論として 今回のこの論文を通じて、次の3点が結論としてみえてくる。1)心房細動のない心不全患者に対し、抗凝固療法を行うべきか否かは、出血のリスク層別化スコアであるHAS-BLED等も考慮すべきであり、この論文ではCHA2DS2-VAScスコアで層別化できるかやってみたにすぎない。したがって、今後ガイドラインに何ら影響するほどの論文ではない。2)今後、あらためて心房細動のない心不全患者の虚血性脳卒中や血栓塞栓症の因子を分析し、より精度の高いスコアを考案したうえで、新規スコアを使って層別化された患者群に対して、抗凝固薬投与で虚血性脳卒中や血栓塞栓症、死亡が減らせるかどうかの大規模無作為化比較試験の実施が必要である。3)JAMA誌の採択基準は依然不明であり、その臨床的意義すら窮する論文も存在する。

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発作性夜間血色素尿症〔PNH : paroxysmal nocturnal Hemoglobinuria〕

発作性夜間血色素尿症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義発作性夜間血色素尿症(発作性夜間ヘモグロビン尿症、paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)は、血管内溶血を特徴とする後天性の血液疾患で、PIG-A遺伝子に変異を有する造血幹細胞がクローン性に増加するために発症する。■ 疫学欧米におけるPNHの発症頻度は100万人あたり15.9人とされているが、わが国では100万人あたり3.6人ときわめてまれである〔1998年(平成10年)度の厚生労働省の疫学調査研究班による〕。男女比はほぼ1:1で、わが国における診断時年齢は20~60代(平均年齢45.1歳)と、広く分布する。欧米例では血栓症の合併が多いのに対し、わが国では造血不全症状が主体になることが多い。■ 病因PIG-A遺伝子に変異があると、GPIアンカー型の膜蛋白の発現が低下する。補体制御蛋白CD55やCD59もGPIアンカー型膜蛋白であり、PIG-A遺伝子の変異があるとその発現が低下する。このように、PIG-A遺伝子変異のためにCD55やCD59の発現を欠失した血球をPNH型血球と呼ぶ。PNH型血球は補体に対する感受性が高まっており、血管内溶血を生じやすい。PNH型血球が選択されて増加する機序は完全には解明されていないが、まずPIG-A遺伝子変異の入った造血幹細胞が免疫学的な攻撃を免れて相対的に増加し、さらに何らかの別な遺伝子異常が加わってクローン性に増加するものと考えられている。■ 症状典型的には、血管内溶血による貧血と褐色尿(ヘモグロビン尿)が症状の主体となる。溶血性貧血に伴い、全身倦怠感、労作時の息切れ、黄疸がみられる。ウイルス感染などによって補体が活性化されると溶血発作が生じ、急激な貧血の進行をみる。溶血で生じたヘモグロビン尿は、腎障害を引き起こし、むくみなどが生じる。また、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの血栓症をしばしば合併する。わが国のPNH患者は造血不全を合併する頻度が高く、貧血に加えて白血球や血小板数の減少がみられることがある(汎血球減少)。汎血球減少がみられる患者においては、感染症や出血のリスクも増加している。■ 分類1)臨床的PNH:溶血所見がみられるもの古典的PNH:末梢血のPNH型血球の比率が高く、溶血症状あるいは血栓症状が顕著。骨髄不全型PNH:骨髄が低形成で汎血球減少を呈する型。再生不良性貧血―PNH症候群とも呼ばれる。混合型PNH2)PNH型血球を有する骨髄不全症:明らかな溶血所見を欠くが、末梢血に少数のPNH型血球が検出され、再生不良性貧血あるいは骨髄異形成症候群の診断基準を満たすもの。PNH型血球陽性の骨髄不全症では、抗胸腺免疫グロブリンやシクロスポリンなどによる免疫抑制療法に反応して血球が増加することが多い。■ 予後わが国におけるPNH患者の診断後の平均生存期間は32.1年、50%生存期間も25.0年と長く、慢性の疾患といえる。この間、溶血発作を反復したり、造血不全、腎障害などが徐々に進行したりするため、QOLは必ずしもよくない。死亡原因としては出血、感染、血栓症が多く、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍への移行、腎障害、および血栓症が予後を大きく左右する。近年、中等症以上の患者に対して、補体C5に対するヒト化モノクローナル抗体のエクリズマブ(商品名:ソリリス)が積極的に用いられるようになった。こういった治療法の進歩によって、患者のQOLと生命予後の改善が期待されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 主な検査と診断血液検査、尿検査によって血管内溶血の所見を確認する。貧血、網状赤血球数増加、血清LDH値上昇、血清間接ビリルビン値上昇、血清ハプトグロビン値低下、尿潜血(ヘモグロビン)反応陽性は、血管内溶血を疑う所見である。PNHの診断には、フローサイトメトリーを用いたPNH型血球(CD55、CD59を欠損する血球)の検出が不可欠である。古典的なHam試験と砂糖水試験は、最近ではフローサイトメトリーにとって代わられている。FLAER法を用いたフローサイトメトリーでは、非常に高感度にPNH型血球を定量できる(保険診療外)。さらに骨髄検査によって、PNH型血球陽性の造血不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群)との鑑別や、PNHの病型分類を行う。■ 重症度分類と指定難病特発性造血障害に関する調査研究班では、溶血所見に基づいた重症度分類を作成している。これによると、ヘモグロビン7g/dL未満または定期的な赤血球輸血を必要とする貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の8~10倍程度の高度な溶血を認める場合を「重症」、ヘモグロビン10g/dL未満の貧血か、あるいは血清LDHが正常上限の4~5倍程度の中等度の溶血を認める場合を「中等症」とし、これに該当しない場合を「軽症」としている。ただし、血栓症の既往があれば、溶血の程度に関わらず「重症」とされる。平成27年1月から、PNHは「難病患者に対する医療等の法律」による指定難病となった。これにより、中等症以上の患者の医療費負担が大幅に軽減されるようになった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)PNHの根治を目指す治療法は同種造血幹細胞移植(骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植)のみであるが、この治療法自体のリスクが大きいために、適応は若年で、かつ重症の骨髄不全症を伴う場合に限られる。さまざまな感染症が溶血発作の引き金になるため、日常生活では感染症の予防が重要である。溶血が長期にわたると、尿から鉄が失われるために鉄欠乏になったり、需要の増大のために葉酸欠乏になったりするので、血清フェリチン値や葉酸値をみながら鉄や葉酸の補充を検討する。溶血発作時には少量の副腎皮質ステロイドを用いることがあるが、糖尿病の発症や易感染性などの副作用のため、長期的な使用の有用性については意見が分かれる。貧血が高度の場合は赤血球輸血を行う。溶血により生じた遊離ヘモグロビンによる腎障害を防止するためには、輸液や利尿剤を用いるほか、高度の溶血発作時には人ハプトグロビン(商品名:ハプトグロビン)を投与することもある。血栓症の予防と治療には、ヘパリンやワーファリン製剤による抗血栓療法を行う。骨髄不全型PNHでは、蛋白同化ホルモンや免疫抑制剤が用いられる。最近、保険適用となったエクリズマブ(同:ソリリス)は、補体溶血を抑制することによって、貧血をはじめとするさまざまな臨床症状を劇的に改善する。この薬剤には血栓症の予防効果もみられる。重症例では積極的適応、中等症では相対的適応とされる。ただし、エクリズマブ治療導入の際には、点滴治療を定期的、継続的に行う必要があること、エクリズマブを中止する際には高度の溶血発作が生じうること、髄膜炎菌など一部の感染症に対する免疫能の低下が起こりうること、および高額な薬剤であることを十分に説明し、髄膜炎菌に対するワクチンの接種を行ってから開始する。エクリズマブ治療開始後に、LDHが低下したにもかかわらず貧血の改善が乏しい場合には、赤血球の膜上に蓄積した補体による血管外溶血あるいは骨髄不全の合併を考える。エクリズマブ治療には、PNHに合併した骨髄不全の改善効果は期待できない。PNH患者の妊娠に関しては、血栓症による流産のリスクが高く、また貧血もしばしば高度になる。平成26年度に、特発性造血障害調査に関する調査研究班および日本PNH研究会によって「妊娠ガイドライン」が作成された。このガイドラインでは、妊娠前の治療状況や血栓症の既往の有無によって、ヘパリンあるいはエクリズマブの使用が推奨されている。4 今後の展望病態面では、PNH型血球クローン増加の機序、血栓症がみられる機序などに関し、さらなる研究の進展が期待される。治療に関しては、エクリズマブの登場によってPNHの治療戦略が刷新された。今後、エクリズマブ不応例への対応や、血管外溶血が顕在化してくる症例に対する治療、妊娠管理などに関して、さらなる知見の集積と指針の充実が待たれる。現在、エクリズマブ以外にも補体系を標的とした新薬の開発が進んでおり、今後、PNH患者のQOLや予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 発作性夜間ヘモグロビン尿症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)特発性造血障害調査に関する調査研究班(診療の参照ガイドがダウンロードできる)日本血液学会(血液専門医研修施設マップで紹介先の候補を検索できる)日本PNH研究会(患者向けと医療者向けのかなり詳しい情報)患者会情報NPO法人PNH倶楽部(PNH患者と家族の会)公開履歴初回2013年02月28日更新2015年10月13日

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治療抵抗性高血圧、スピロノラクトン追加が有効/Lancet

 スピロノラクトン(商品名:アルダクトンAほか)は、通常の降圧治療を受けている治療抵抗性高血圧患者への追加薬剤として高い効果を発揮することが、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのBryan Williams氏らが実施したPATHWAY-2試験で確認された。国際的なガイドラインでは、3つの推奨降圧薬(ACE阻害薬/ARB、カルシウム拮抗薬、サイアザイド系利尿薬)の最大耐用量による治療でも、目標血圧でコントロールができない場合を治療抵抗性高血圧と定義している。スピロノラクトンは治療抵抗性高血圧に有効であることが、メタ解析で示唆されているが、既存のエビデンスの質は低いとされ、他の降圧薬と比較した試験はこれまでなかったという。Lancet誌オンライン版2015年9月20日号掲載の報告。3剤とプラセボを切り換えて上乗せするクロスオーバー試験 PATHWAY-2試験は、「治療抵抗性高血圧の多くは過度のナトリウム貯留によって引き起こされ、それゆえスピロノラクトンは利尿薬以外の薬剤を追加するよりも降圧に有効である」との仮説を検証する二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験(英国心臓財団/国立衛生研究所の助成による)。 対象は、年齢18~79歳、最大耐用量の3剤併用療法(ACE阻害薬/ARB+カルシウム拮抗薬+サイアザイド系利尿薬)を3ヵ月以上継続しても、座位収縮期血圧≧140mmHg(糖尿病罹患者は≧135mmHg)、家庭収縮期血圧(4日で18回測定)≧130mmHgの患者とした。 これらの患者は、ベースライン時に投与されていた降圧薬に加え、スピロノラクトン(25~50mg)、ビソプロロール(5~10mg)、放出調節型ドキサゾシン(4~8mg)、プラセボの1日1回経口投与を、クロスオーバーデザインであらかじめ決められた順に施行する群に無作為に割り付けられた。 各薬剤は12週ずつ投与。低用量を6週間投与し、倍量に増量してさらに6週間投与した。耐用不能な患者は次の薬剤に移行した。ウォッシュアウト期間は設けず、試験期間はプラセボ導入期間を含め1年であった。 階層的主要評価項目として、スピロノラクトンとプラセボ間の平均家庭収縮期血圧の差を評価し、有意差がある場合はスピロノラクトンと他の2剤の投与期を合わせた家庭収縮期血圧の差を、次いでスピロノラクトンと他の個々の2剤との家庭収縮期血圧の差の評価を行った。 2009年5月15日~14年7月8日の間に、英国12ヵ所の2次医療機関および2つのプライマリケア施設で335例が登録。ベースラインの平均年齢は61.4±9.6歳、男性が69%で、家庭血圧は収縮期が147.6±13.2mmHg、拡張期が84.2±10.9mmHg、心拍数は73.3±9.9拍/分、診察室血圧はそれぞれ157.0±14.3mmHg、90.0±1.5mmHg、心拍数は77.2±12.2拍/分であった。すべての比較で良好な降圧効果、高用量で効果が高い フォローアップ不能であった21例を除く314例をintention-to-treat集団とした。285例がスピロノラクトン、282例がドキサゾシン、285例がビソプロロール、274例がプラセボの投与を受け、全治療を完遂したのは230例だった。 スピロノラクトンは、平均家庭収縮期血圧をプラセボよりもさらに8.70mmHg(95%信頼区間[CI]:7.69~9.72、p<0.0001)低下させ、有意差が認められた。 また、スピロノラクトンによる家庭収縮期血圧の降圧効果は、ドキサゾシンとビソプロロール投与期よりも4.26mmHg(95%CI:3.38~5.13、p<0.0001)大きかった。個々の薬剤との比較では、スピロノラクトンはドキサゾシンよりも4.03mmHg(同:3.02~5.04、p<0.0001)、ビソプロロールよりも4.48mmHg(同:3.46~5.50、p<0.0001)有意に低下させた。 スピロノラクトンの降圧効果は、前投与薬の種類にかかわらず、低用量よりも高用量でさらに3.86mmHg(p<0.0001)大きかった。また、全体で、219例(68.9%)が目標血圧(家庭収縮期血圧<135mmHg)を達成した。 最も有効な4th-lineの薬剤を予測するために、血漿レニン値と家庭収縮期血圧低下の関連を評価したところ、ベースラインの血漿レニン値にかかわらずスピロノラクトンの降圧効果が最も優れ、レニン値が低いほど個々の患者における降圧効果が優れる可能性が高い(逆相関)ことが示された。 スピロノラクトンによる有害事象の発現率は19%で、重篤な有害事象は2%に認められた。有害事象による治療中止は1%にみられたが、腎機能障害、高カリウム血症、女性化乳房による治療中止の頻度は他の薬剤やプラセボとの間に差はなかった。6例(2%)で、血清カリウム値が6.0mmol/Lを超えた(最大値は6.5mmol/L)が、いずれも1回のみであった。 著者は、「血漿レニン値とスピロノラクトンの降圧効果の逆相関の関係は、治療抵抗性高血圧の発症におけるナトリウム貯留の関与を示唆する」と指摘し、「本試験の知見は、今後、世界的にガイドラインの改訂や実地臨床に影響を及ぼすと考えられる」としている。

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中高年高血圧症例では足関節上腕血圧比測定を考慮する必要はあるか?(解説:冨山 博史 氏)-429

概要とコメント 本研究は、英国において1990年から2013年までプライマリケアで電子媒体に登録された、30~90歳の成人422万例の医療記録データを、前向き研究(平均観察期間7年)として解析した。前向き研究開始時に、末梢動脈疾患(PAD)非合併例は420万4,190例であり、PAD合併例は1万8,296例であった。前者では、経過中に4万4,239例(1.1%)でPADを発症し、収縮期血圧20mmHg上昇に伴い、PAD発症リスクは63%高まることが示された。 これまで血圧とPADの関係は、断面研究で検討した報告が多く1)、大規模な前向き研究が少ないため、PAD発症に対する血圧上昇のリスクとしての重要性は十分明らかでなかった。422万例を対象とした本前向き研究にて、血圧上昇がPAD発症の独立したリスクであることが示された。高血圧のPAD発症リスクとしての重要性を示す結果である。 一方、PAD合併例(1万8,296例)では、7年の経過観察中に7,760例(42.5%)で心血管イベント発症を認めた。その内訳では、従来の冠動脈疾患、脳卒中に加え、慢性腎臓病(24.4%)、心不全(14.7%)、心房細動(13.2%)の発症が多いことが新たに示された。PADでは、わが国の検討も含め20~40%の症例に腎動脈狭窄を合併することが報告されている2)。今後、こうした腎動脈狭窄のCKD発症への影響を検証する必要がある。また、PADでは血管床全体が硬化しており、中心血行動態異常が生じていると推察される。中心血行動態異常は心不全発症のリスクであり3)、今後、PADで心不全が発症する機序を明確にする必要がある。研究成果の臨床応用と限界 2007年に発表されたTASC IIでは、PAD発症リスクとしての高血圧の相対危険度(オッズ比:1.5~2)は、DM/喫煙(オッズ比:3前後)より弱いと述べている4)。本研究における重要な知見は、血圧上昇に伴うPAD発症のハザード比は70歳以上では1.4であるのに対し、40~69歳では1.8前後と上昇することである。さらに、本研究ではオッズ比は算出していないが、考察においてサブグループ解析の結果より、収縮期血圧20mmHg上昇によるPAD発症のリスクは、喫煙と同等と推察している。 一般に、PAD合併を考慮する(足関節上腕血圧比測定を考慮する)症例として、70歳以上、50~69歳でかつ喫煙または糖尿病を合併する症例が挙げられる4)。2013年、日本循環器学会「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」では、高血圧症例において足関節上腕血圧比測定を考慮する症例として、65歳以上、またはJSH2009脳心血管リスク層別化で高リスクの症例を推奨している5)。しかし、最近のガイドラインを踏まえても6)、どのような病態の高血圧症例で足関節上腕血圧比測定を考慮すべきか、十分に明確ではなかった。本研究の結果は、50~69歳で未治療高血圧例および血圧コントロール不良の症例においてもPAD合併を考慮し、適切な問診、下肢動脈触診を実施し、可能であれば足関節上腕血圧比を測定することの有用性を示唆する。 TASC IIでは、PAD症例は40~50%に冠動脈疾患、20~40%に脳卒中を合併すると報告している4)。本研究では7年の経過観察中に1万8,296例中3,415例(19%)で冠動脈疾患、脳卒中または心不全の発症を認めた。本結果は、PAD診断時にほかの心血管疾患合併のない症例でも、慎重な経過観察が重要であることを支持する。 本研究の限界として以下が挙げられる。 (1)PADの診断は間欠跛行で実施されているが、無症候性PAD(足関節上腕血圧比0.90未満だが無症状)の頻度は間欠跛行を有する症例の3~4倍とされる。近年、わが国を中心に、オシロメトリック法を用いて足関節上腕血圧比が簡便に測定されるようになり、無症候性PADを診断する機会が多くなってきた7)。本研究の結果をこうした無症候性PADに応用できるかは不明であり、また、疾患診断が電子記録媒体での評価であることも研究の限界である。 (2)本研究では、収縮期血圧・拡張期血圧上昇とPAD発症の関連は、正常血圧域から認められた。本研究の著者らは、血圧低下がPAD発症を予防すると推論を述べている。しかし、研究対象症例で降圧薬服用は観察開始時9.9%、終了時28.7%であり、積極的な血圧治療がPAD発症予防に有用であるかは検証できない。参考文献はこちら1)Meijer WT, et al. Arch Intern Med. 2000;160:2934-2938.2)Endo M, et al. Hypertens Res. 2010;33:911-915.3)Chirinos JA, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;60:2170-2177.4)Norgren L, et al. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2007;33 Suppl 1:S1-75.5)日本循環器学会ほか.循環器病の診断と治療に関するガイドライン2013(2011-2012年度合同研究班報告)血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン(JCS 2013).6)Vlachopoulos C, et al. Atherosclerosis. 2015;241:507-532.7)Koji Y, et al. Am J Cardiol. 2004;94:868-872.

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REACT試験:クローン病に対する早期複合免疫療法の有用性~集団無作為化試験(解説:上村 直実 氏)-427

 クローン病は原因不明で根治的治療が確立していない炎症性腸疾患であり、わが国では医療費補助の対象である特定疾患に指定されている。しかし、抗TNF受容体拮抗薬の出現とともに、本疾患に対する薬物療法が大きく変わりつつある。欧米では、症状や炎症の程度によって、5-ASA製剤、ステロイド、代謝拮抗薬、抗TNF受容体拮抗薬と段階的にステップアップする従来型の薬物療法に対して、代謝拮抗薬と抗TNF-α受容体拮抗薬を早期から使用する早期複合免疫療法の有効性と安全性を比較検証する臨床研究が、盛んに行われている。 今回、カナダやベルギーの60施設(対象患者1,982例)が参加して行われた非盲検クラスター無作為化試験(REACT試験)の結果、早期複合免疫療法は、12ヵ月間の寛解維持効果に関しては従来療法と差を認めなかったものの、2年以内の外科的手術、入院回数、重篤な疾患の合併などの重大な有害事象の発生率は、従来療法に比べて有意に低かった(27.7% vs.35.1%、95%CI:0.62~0.86、p=0.0003)。なお、両群における薬剤関連有害事象の発生率には差を認めていない。この結果から、早期複合免疫療法は薬物関連の有害事象を増加することはなく、今後、さらなる比較試験での有用性の検証が期待できると結論されている。 わが国では、日本消化器病学会による「クローン病診療ガイドライン(GL)」が2010年に刊行されているが、本邦での大規模な介入試験はほとんどなく、GLにおけるステートメントの基になるエビデンスのレベルは、非常に低いものばかりとなっている。確かに、クローン病は患者個々の病態に応じた取り扱いが千差万別であり、エビデンスに加えて経験に即した治療法を選択することが重要となる疾患であるが、今後、わが国のクローン病患者を対象として、最適とされる治療方針を導く臨床研究が遂行できる体制が構築されることが待望される。

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Dr.香坂のすぐ行動できる心電図 ECG for the Action!

第1回  左室肥大の真実 第2回  縁の下の力持ち 心房の心電図変化 第3回  脚ブロックを使いこなすには 第4回  外科医と内科医の心電図 第5回  心電図の本丸 STの上昇 第6回  ST低下はどこまで信用できる? 第7回  上室性頻拍(1) 心房粗動から紐解く不整脈へのアプローチ 第8回  上室性頻拍(2) 本当に必要か?AVRTとAVNRTの鑑別 第9回  なぜ心室から来る不整脈は怖いのか?VTとVFへの対応 第10回 5分で語る心房細動のエッセンス 第11回 心電図最後の山場 QT部分 第12回 声に出して読みたい心電図 心電図の目的は、波形から所見を読み取ることだけではありません。いま心臓に何が起こっているかを把握し、次の行動へとつなげ、患者にその情報を還元することができてはじめて心電図を十全に活用できたと言えるでしょう。本DVDでは、Dr.香坂のこだわりである、「読める」だけでなく「次のアクションにつなげる」ことに徹底フォーカス。心電図から読み取る所見をどう診療に役立てていくか?大切なのは、読影の先にあります。第1回 左室肥大の真実 心電図をどう次のアクションにつなげるか?まずは、心電図からわかる左室肥大の算出方法をDr.香坂が詳しくレクチャーします。心臓の大きさを見るときに、どことどこに注目するべきか?そういった基準は実ははっきりしてきています。でもそこで満足してはいけません。左室肥大の所見をどう役に立てていくか。大切なのはその先にあります。第2回 縁の下の力持ち 心房の心電図変化 今回は、心房拡大のメカニズムをP波の第2誘導を通してレクチャーしていきます。P波が120sec(3マス)以上伸びていると左房の拡大所見です。なぜそうなるのか、Dr.香坂の解説を聞くと、左房の拡大所見は、「実は伝導異常と言った方が正確だ」ということがわかります。左房の大きさを見ることで、心臓にかかっている負荷の経年的な評価をすることができます。左室異常よりも左房異常の患者の方が将来心不全になっていく可能性が高いので、きめ細かくみていく必要があるでしょう。第3回 脚ブロックを使いこなすには 心電図上で脚ブロックを見破るためには、V1誘導に注目します。深い谷のように切れ込んだパターンが出たら左脚ブロック、大きな「M」のような形で現れたら右脚ブロックの心電図パターンです。今回はさらに突っ込んで、不完全ブロックのパターンである「左脚前枝・後枝ブロック」についても細かく解説していきます。予後の指標になりにくい脚ブロックですが、限られた状況ではかなりの力を発揮します。そういった状況を的確にピックアップしていく力を身に着けましょう。第4回 外科医と内科医の心電図 今回は箸休めの話題です。日本は年に1回健康診断を行わなければならないと労働安全衛生法で定められており、その検査の中に心電図が必須項目として含まれています。ただしそれは世界的には例外なことで、アメリカやカナダなどのガイドラインではルーチーンの心電図を推奨していません。それはなぜなのでしょうか?また、横の変化に強いが縦の変化には弱い機械読みの話、内科医と外科医心電図の読み方の違いなど、ちょっと知っておきたい話題について解説します。第5回 心電図の本丸 STの上昇今回のテーマは心電図の中でもっとも注目を集める“ST”部分についてです。STは心筋の虚血や心筋梗塞に鋭敏に反映する指標となり、心電図の本丸と言っても過言ではありません。STが上昇している心電図は、ほぼ間違いなく急性心筋梗塞ということができます。ではなぜSTが上がるのか?そのメカニズムはもちろん、さらにもっと詳細に心電図を読み解き、波形と梗塞している箇所についてのつながりなど、徹底的に解説します。第6回 ST低下はどこまで信用できる?今回は、臨床的な状況判断が求められる“ST低下”“T波変化”“異常Q波”について取り上げます。Dr.香坂曰く 「ST低下は嘘ばかり」、「T波変化はもっと嘘ばかり」、「時代遅れの異常Q波」。さてその真意とは?そして臨床的な状況判断と言っても具体的にどう行動すればよいか。現在の支流について語ります。第7回 上室性頻拍(1) 心房粗動から紐解く不整脈へのアプローチ不整脈のパターンにはいくつかありますが、分類するとMacro-ReentryとMicro-Reentryに分けられます。Macro-Reentryの大きな特徴は「肉眼的に目で見える」「カテーテルで灼ける」。今回はMacro-Reentryの理解を深めるための題材として、心房粗動を取り上げます。これらは心電図のパターン認識だけでなく、患者の治療にも結びつくので、ぜひ押さえておいてください。第8回 上室性頻拍(2) 本当に必要か?AVRTとAVNRTの鑑別今回は、AVNRTとAVRTのエッセンスをお教えします。AVNRTの特徴はP波が見えにくい、AVRTはQ波とP波が離れているということが挙げられますが、それぞれがなぜそのような波形を示すのか、その原理をわかりやすい図解を用いて解説。Dr.香坂いわく、「心電図を深読みすることが重要ではなく、“治療にどうつなげるべきか”が大切」です。Macro-Reentry型不整脈の治療についての理解が深まります。第9回 なぜ心室から来る不整脈は怖いのか?VTとVFへの対応今回は心室頻拍(VT)と心室細動(VF)について解説します。これらはポンプである“心室”に直接影響します。そのため、不安定徴候を来しやすく、すぐに、直接的に、対応することが必要となります。ゆっくり考えながら、心電図を読んでいる時間はありません。短時間で見るポイントと、その対応について学んでください。第10回 5分で語る心房細動のエッセンス今回は心房細動(AF)の解説です。心房細動は診療の中で一番多く見かける不整脈ではないでしょうか。心房細動は一言で言えば、「絶対的に不整」。QRSのリズムにパターンがないことが特徴です。この心電図を見たら、次のアクションは?!他の不整脈とは異なる対応が必要となる心房細動のエッセンスを5分でお教えします。第11回 心電図最後の山場 QT部分今回はQTについての解説です。QT間隔は実は測定が難しく、循環器の専門医であっても正確に測れるのは半分ほどと言われています。「QT間隔の基準値」というのもありますが、人種差や個人差があって非常に難しいところです。Dr.香坂が勧めるのは、「過去の心電図と見比べる」こと。QTが過去と比べて延長していたら、非常に重篤な不整脈を起こす恐れがあります。機械読みも必ずしも正確ではないので、重篤な不整脈を避けるためにも、QTの計測は正確に確実に行う必要があります。第12回 声に出して読みたい心電図最終回は「心電図一発診断!」。心電図から“カッコよく”診断を導き出していきましょう。でもちょっと待って!それは本当に臨床現場で役立つ読み方なのでしょうか?現実的な心電図の読み方はまず、「その心電図を読んで何の役に立つのか」を考えることです。パッとみて決めない。自分なりの見る順番を作ってきちんと守ること。過去の心電図があったら必ず見比べる。臨床の現場で心電図を読むときの心がけとポイントを、Dr.香坂が熱く語ります。

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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脳出血再発抑制に降圧は有効。それでもRCTは必要(解説:石上 友章 氏)-425

 マサチューセッツ総合病院のAlessandro Biffi氏らは、脳出血のサバイバー(90日以上生存者)を対象にして、その再発抑制に関する降圧治療の影響を調べて報告した。その結果、『降圧治療』および『血圧管理の質』が、脳葉型(lobular type)脳出血、非脳葉型(non-lobular type)脳出血のいずれのタイプの脳出血においても、再発抑制に有効であることが明らかになった。『血圧管理の質』については、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)による脳出血の2次予防の推奨血圧(非糖尿病者:SBP<140mmHg、DBP<90mmHg、糖尿病者:SBP<130mmHg、DBP<80mmHg)を基準にして、二項変数として「適切」、「不十分」とした。 この結果は、ガイドライン遵守による降圧治療の正当性をリアルワールドの実臨床データで証明するとともに、細動脈硬化によらない脳葉型の脳アミロイド血管障害(Cerebral Amyloid Angiopathy:CAA)によるとされる脳出血であっても、降圧治療が有効であることを示すことができた。 脳内出血サバイバーを対象にした単施設のコホート試験であることから、本研究は著者らが本文中に明言するように、試験結果の解釈は仮説提示に留まっている。観察研究は、さまざまなバイアスリスク(選択バイアス、実行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス)を持っている。本研究では、『小脳出血』を脳葉型、非脳葉型に分類できないという理由から除外しているが、もしデータ化しているのであれば、重要な情報となりうることから、解析に含めることが望ましかった。量反応関係の証明については、『降圧・アウトカム』間に、図に示すような関係が認められているが、降圧に限定した解析では、交絡因子をどれだけ解消することができたのか疑問が残る。本研究を仮説提示に留めるとするのであれば、より多くの情報を用いて仮説化していく試みがあってもよかった。本邦でも、MINDSの診療ガイドライン作成マニュアルでは、観察研究のエビデンスの強さの評価にあたっては、『弱(C)』から始めることが推奨されている。したがって、本研究によって明らかにされたCQに対する回答は、本論文の掉尾を飾る下記の一文に集約されるだろう。“These data suggest that randomized clinical trials are needed to address the benefits and risks of stricter BP control in ICH survivor.”画像を拡大する

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EMPA-REG OUTCOME試験:リンゴのもたらした福音(解説:住谷 哲 氏)-422

 リンゴを手に取ったために、アダムとイブは楽園から追放された。ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した。どうやら、リンゴは人類にとって大きな変化をもたらす契機であるらしい。今回報告されたEMPA-REG OUTCOME試験の結果も、現行の2型糖尿病薬物療法に変革をもたらすだろう。 優れた臨床試験は、設定された疑問に明確な解答を与えるだけではなく、より多くの疑問を提出するものであるが、この点においても本試験はきわめて優れた試験といえる。本試験は、FDAが新たな血糖降下薬の認可に際して求めている心血管アウトカム試験(cardiovascular outcome trial:CVOT)の一環として行われた。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントリスクを増加しないか、増加しないならば減少させるか、が本試験に設定された疑問である。短期間で結果を出すために、対象患者は、ほぼ100%が心血管疾患を有する2型糖尿病患者が選択された。かつ、心血管疾患を有する2型糖尿病患者に対する標準治療に加えて、プラセボとエンパグリフロジンが投与された。その結果、3年間の治療により心血管死が38%減少し、さらに、総死亡が32%減少する驚くべき結果となった。しかし、奇妙なことに、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中には有意な減少が認められず、心不全による入院の減少が、心血管死ならびに総死亡の減少と密接に関連していることを示唆する結果であった。さらに、心血管死の減少は、治療開始3ヵ月後にはすでに認められていることから、血糖、血圧、体重、内臓脂肪量などのmetabolic parameterの改善のみによっては説明できないことも明らかになった。つまり、インスリン非依存性に血糖を降下させるエンパグリフロジンが、血糖降下作用とは無関係に患者の予後を大きく改善したことになる。この結果の意味するところを、われわれはじっくりと咀嚼する必要があるだろう。 エンパグリフロジンが心血管死を減少させたメカニズムは何か? これが本試験の提出した最大の疑問である。残念ながら本試験は、この疑問に解答を与えるようにはデザインされておらず、新たなexplanatory studyが必要となろう。科学史における多くの偉大な発見は、瞥見すると突然もたらされたようにみえるが、実際はそこに至るまでに多くの知見が集積されており、そこに最後の一歩が加えられたものがほとんどである。したがって本試験の結果も、これまでに蓄積された科学的知見の文脈において理解される必要がある。ニュートンも、過去の多くの巨人達の肩の上に立ったからこそ、はるか遠くを見通せたのである。この点において、われわれは糖尿病と心不全との関係を再認識する必要がある。 糖尿病と心不全との関係は古くから知られているが、従来の糖尿病治療に関する臨床試験においては、システマティックに評価されてきたとは言い難い1)。これは、FDAの規定する3-point MACE(Major adverse cardiac event:心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および4-point MACE(3-point MACEに不安定狭心症による入院を加えたもの)に、心不全による入院が含まれていないことから明らかである。糖尿病と心不全との関係は病態生理学的にも血糖降下薬との関係においても複雑であり、かつ現時点でも不明な点が多く、ここに詳述することはできない(興味ある読者は文献2)を参照されたい)。血糖降下薬については、唯一メトホルミンが3万4,000例の観察研究のメタ解析から心不全患者の総死亡を抑制する可能性のあることが報告されているだけである3)。 本試験においては、ベースラインですでに心不全と診断されていた患者が約10%含まれていたが、平均年齢が60歳以上であること、すべての患者が心血管病を有していること、糖尿病罹病期間が10年以上の患者が半数を占めること、約半数の患者にインスリンが投与されていたことから、多くの潜在性心不全患者または左室機能不全(収縮不全または拡張不全)患者が含まれていた可能性が高い。筆者が考えるに、これらの患者に対して、エンパグリフロジンによる浸透圧利尿が心不全の増悪による入院を減少させたと考えるのが現時点での最も単純な推論であろう。これは、軽症心不全患者に対するエプレレノン(選択的アルドステロン拮抗薬)の有用性を検討したEMPHASIS-HF試験4)において、総死亡の減少が治療開始3ヵ月後の早期から認められている点からも支持されると思われる。興味深いことに、ベースラインで約40%の患者がすでに利尿薬を投与されており、エンパグリフロジンには既存の利尿薬とは異なる作用がある可能性も否定できない。 本試験の結果から、エンパグリフロジンは2型糖尿病薬物療法の第1選択薬となりうるだろうか? 筆者の答えは否である。EBMのStep4は「得られた情報の患者への適用」とされている。Step1-3は情報の吟味であるが、本論文の内的妥当性internal validityにはほとんど問題がない。しいて言えば、研究資金が製薬会社によって提供されている点であろう。したがって、この論文の結果はきわめて高い確率で正しい。ただし、本論文のpatient populationにおいて正しいのであって、明日外来で目前の診察室の椅子に座っている患者にそのまま適用できるかはまったく別である。つまり、外的妥当性applicabilityの問題である。そこでは医療者であるわれわれの技量が問われる。その意味において、本論文は糖尿病診療におけるEBMを考えるうえでの格好の教材だろう。 薬剤の作用は多くの交互作用のうえに成立する。そこで注意すべきは、本試験が心血管病の既往を有する2型糖尿病患者における2次予防試験であることである。2次予防で有益性の確立した治療法が1次予防においては有益でないことは、心血管イベント予防におけるアスピリンを考えると理解しやすい。心血管イベント発症絶対リスクの小さい1次予防患者群においては、消化管出血などの不利益が心血管イベント抑制に対する有益性を相殺してしまうためである。同様に、心不全発症絶対リスクの小さい1次予防患者においては、性器感染症やvolume depletionなどの不利益が、心不全発症抑制に対する有益性を相殺してしまう可能性は十分に考えられる。さらに、エンパグリフロジンの長期安全性については現時点ではまったく未知である。 薬剤間の交互作用については、メトホルミン、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬、β遮断薬、スタチン、アスピリンなどの標準治療に追加することで、エンパグリフロジンの作用が発揮されている可能性があり、本試験の結果がエンパグリフロジン単剤での作用であるか否かは不明である。それを証明するためには、同様の患者群においてエンパグリフロジン単剤での試験を実施することが必要であるが、その実現可能性は倫理的な観点からもほとんどないと思われる。 糖尿病治療における基礎治療薬(cornerstone)に求められるのは、(1)確実な血糖降下作用、(2)低血糖を生じない、(3)体重を増加しない、(4)真のアウトカムを改善する、(5)長期の安全性が担保されている、(6)安価である、と筆者は考えている。現時点で、このすべての要件を満たすのはメトホルミンのみであり、これが多くのガイドラインでメトホルミンが基礎治療薬に位置付けられている理由である。本試験においても、約75%の患者はベースラインでメトホルミンが投与されており、エンパグリフロジンの総死亡抑制効果は、前述したメトホルミンの持つ心不全患者における総死亡抑制効果との相乗作用であった可能性は否定できない。 ADA/EASDの高血糖管理ガイドライン2015では、メトホルミンに追加する薬剤として6種類の薬剤が横並びで提示されている。メトホルミン以外に、総死亡を減少させるエビデンスのある薬剤のないのがその理由である。最近の大規模臨床試験の結果から、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)の心血管イベント抑制作用は、残念ながら期待できないと思われる。本試験の結果から、心血管イベント、とりわけ心不全発症のハイリスク2型糖尿病患者に対して、エンパグリフロジンがメトホルミンに追加する有用な選択肢としてガイドラインに記載される可能性は十分にある。EMPA-REG OUTCOME試験は、2型糖尿病患者の予後を改善するために実施された多くの大規模臨床試験が期待した成果を出せずにいる中で、ようやく届いたgood newsであろう。参考文献はこちら1)McMurray JJ, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2014;2:843-851.2)Gilbert RE, et al. Lancet. 2015;385:2107-2117.3)Eurich DT, et al. Circ Heart Fail. 2013;6:395-402.4)Zannad F, et al. N Engl J Med. 2011;364:11-21.関連コメントEMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:SGLT2阻害薬はこれまでの糖尿病治療薬と何が違うのか?(解説:小川 大輔 氏)EMPA-REG OUTCOME試験:それでも安易な処方は禁物(解説:桑島 巌 氏)

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アレルギー高リスク乳児でも、急性気管支炎にアドレナリン吸入は効果なし

 乳児の急性細気管支炎に対する気管支拡張薬の吸入療法は、ガイドラインで支持されていないにもかかわらず、アトピー性疾患のある個人には有効と信じられ、しばしば用いられている。しかし、細気管支炎後にアトピー性皮膚炎、アレルギー感作または気管支閉塞を発症した乳児について解析したところ、急性細気管支炎による入院期間はエピネフリン(アドレナリン)吸入によって減少していなかったことが、ノルウェー・オスロ大学のHavard Ove Skjerven氏らによる無作為化二重盲検試験の追跡調査で明らかになった。著者は、「仮説に反し、本研究の結果、アレルギー疾患のリスクが高い小児における急性細気管支炎に対しアドレナリン吸入の試みは支持されない」とまとめている。Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2015年8月25日号の掲載報告。 研究グループは、乳児の急性細気管支炎に対するアドレナリン吸入療法が、後に気管支閉塞を発症した患者、あるいはアトピー性皮膚炎やアレルギー感作を有する患者に有用であったかどうかを評価する目的で、中等症~重症の急性細気管支炎の乳児(生後12ヵ月未満)404例を対象とした無作為化二重盲検試験の追跡調査を行った。 急性細気管支炎による入院期間中、アドレナリン吸入(ラセミ体アドレナリン20mg/mL)または食塩水吸入(0.9%食塩水)が最高で2時間ごとに行われた。投与量は乳児の体重に応じ、5kg未満は0.10mL、5~6.9kgは0.15mL、7~9.9kgは0.2mL、10kg以上は0.25mLとし、すべて0.9%食塩水2mLに溶解して吸入した。 主要評価項目は入院期間であった。 追跡調査では、2歳時に問診、臨床検査および17種のアレルゲンに関する皮膚プリックテストを行い、気管支閉塞、アトピー性皮膚炎およびアレルギー感作の有無を確認し、サブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2歳時の追跡調査を実施できたのは294例であった。・2歳までに気管支閉塞を発症した乳児のサブグループ(143例、48.6%)では、アドレナリン吸入群と食塩水吸入群とで入院期間に差はなかった(相互作用のp=0.40)。・2歳までのアトピー性皮膚炎またはアレルギー感作発症例(77例)では、アドレナリン吸入の効果と有意な相互作用を認めた(相互作用のp=0.02)。・すなわち、2歳までにアトピー性皮膚炎またはアレルギー感作を認めなかった患者では、食塩水群と比較しアドレナリン吸入群で、入院期間が有意に短かったが(-19.9時間、p=0.003)、2歳までにアトピー性皮膚炎またはアレルギー感作を認めた患者では、アドレナリン吸入群と食塩水吸入群で、入院期間に有意差はなかった(相互作用のp=0.24)。

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膵神経内分泌腫瘍〔P-NET : pancreatic neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor: NET)は、神経内分泌細胞に由来する腫瘍の総称で、膵臓、下垂体、消化管、肺、子宮頸部など全身のさまざまな臓器に発生する。NETは比較的まれで進行も緩徐と考えられているが、基本的に悪性のポテンシャルを有する腫瘍である。ホルモンやアミンの過剰分泌を伴う機能性と非機能性に大別される。■ 疫学1)pNETの発症数欧米では膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor: pNET)は膵腫瘍全体の1~2%、年間有病数は人口10万人あたり1人以下と報告されている。日本における2005年の1年間のpNETの受療者数は約2,845人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.23人、新規発症率は人口10万人あたり約1.01人と推定された。発症平均年齢は57.6歳で、60代にピークがあり、全体の15.8%を占めている。一方、2010年1年間のpNETの受療者数は約3,379人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.69人、新規発症率は人口10万人あたり約1.27人と推定され、増加傾向がみられた。2)疾患別頻度2005年のわが国の疫学調査では、非機能性pNETが全体の47.4%を占め、機能性は49.4%を占めていた。2010年では、非機能性・機能性pNETの割合はそれぞれ34.5%と65.5%であり、非機能性腫瘍の割合が増えた。インスリノーマ20.9%、ガストリノーマ8.2%、グルカゴノーマ3.2%、ソマトスタチノーマ0.3%であった。機能性・非機能性腫瘍の割合は、欧米の報告に近づいたが、わが国では機能性腫瘍においてインスリノーマが多い傾向にある。■ 病因NETの発生にPI3K (phosphoinositide 3-kinase)-Akt経路が関わっていると考えられている。NETでは家族性発症するものが知られており、多発性内分泌腫瘍症I型(MEN-1)では原因遺伝子が同定され、下垂体腫瘍、副甲状腺腫瘍やpNETを来す。また、結節性硬化症、神経線維症、Von Hippel-Lindau(VHL)病を含む遺伝性腫瘍性疾患ではpNETの発生にmTOR経路が関連していると考えられているが、病因の詳細はいまだ不明である。■ 症状2005年のわが国における全国疫学調査によると、「症状あり」で来院した症例が全体の60%で、最も頻度が高いのは低血糖由来の症状であった。一方、無症状で検診にて偶然発見された症例は全体の24%であった。また、有症状例において何らかの症状が出現してからpNETと診断されるまで、平均約22ヵ月を要している。1)機能性腫瘍の症状機能性pNETは腫瘍が放出するホルモンによる内分泌症状をもたらすが、転移性のものは悪性腫瘍として生命予後に関わるという別の側面も持つ。また、ホルモン分泌も単一ではなく、複数のホルモンを分泌する腫瘍も認められる。主な内分泌症状を表1に示した。画像を拡大する2)非機能性腫瘍の症状非機能性腫瘍では特異的症状を呈さず、腫瘍増大による症状(周囲への圧迫・浸潤)や遠隔転移によって発見されることが多い。初発症状は腹痛、体重減少、食欲低下、嘔気などであるが、いずれも非特異的である。有肝転移例の進行例では、肝機能障害・黄疸が認められる。■ 分類上述したとおり、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に大別される。遺伝性疾患(MEN-1、VHL)を合併するものもある。わが国においてはMEN-1合併の頻度は、2010年の調査ではpNET全体で4.3%であった。その中で、ガストリノーマは16.3%と最も高率にMEN-1を合併しており、非機能性pNETでは 4.0%であった。欧米の報告では非機能性pNETのMEN-1合併頻度は約30%であり、日本と大きな差を認めた。pNETの病理組織学的診断は、とくに切除不能腫瘍の治療方針決定に重要な情報となる。WHO 2010年分類を表2に示す。画像を拡大する■ 予後予後に与える因子は複数認められ、遠隔転移(肝転移)の有無、遺伝性疾患の有無、組織学的分類が影響を与える。欧米の報告によると5年生存率は、腫瘍が局所に留まっている症例で71%、局所浸潤が認められる症例で55%、遠隔転移を有する症例で23%とされる。インスリノーマ以外は遠隔転移を有する率が高く、予後不良である。単発例で転移がなく、治癒切除が施行できた症例の予後は良好である。WHO 2010分類でNECと診断された症例は、進行が早く、予後はさらに不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 存在診断症状や画像所見よりpNETが疑われた場合、各種膵ホルモンの基礎値を測定する。MEN-1を合併する頻度が高いことから、初診時に副甲状腺機能亢進症のスクリーニングで血清Ca、P値、intact-PTHを測定する。腫瘍マーカーとして神経内分泌細胞から合成・分泌されるクロモグラニンA(CgA)の有用性が知られているが、わが国ではいまだに保険適用がない。ほかに腫瘍マーカーとしてはNSEも用いられるが感度は低い。症状、検査などからインスリノーマやガストリノーマが疑われた場合、負荷試験(絶食試験、カルチコール負荷試験)を加えることで存在診断を進める。■ 局在診断pNETの多くは、多血性で内部均一な腫瘍であり、典型例では診断は容易であるが、乏血性を示すものや嚢胞変性を伴うような非典型例では、膵がんや嚢胞性膵腫瘍など他の膵腫瘍との鑑別が問題となる。インスリノーマやガストリノーマでは腫瘍径が小さいものも多く、正確な局在診断が重要である。症例に応じて各種modalityを組み合わせて診断する。1)腹部超音波検査内部均一な低エコー腫瘤として描出される。最も低侵襲であり、スクリーニングとして重要である。2)腹部CTダイナミックCTにて動脈相で非常に強く造影される。肝転移やリンパ節転移の検出にも優れており、ステージングの診断の際に必須である。3)腹部MRIT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を呈する。CT同様、造影MRIでは腫瘍濃染を呈する。4)超音波内視鏡(EUS)辺縁整、内部均一な低エコー腫瘤として描出される。膵全体を観察でき、1cm以下の小病変も同定できる。診断率は80~95%程度とCTやMRIより優れており、原発巣の局在診断において非常に有用である。さらにEUS-FNAを併用することで組織診断が可能である。 5)選択的動脈内刺激薬注入法(SASI TEST)〔図1〕機能性腫瘍の局在診断に有用なmodalityである。腹部動脈造影の際に肝静脈内にカテーテルを留置し、膵の各領域を支配する動脈から刺激薬(カルシウム)を注入後、肝静脈血中のインスリン(ガストリン)値を測定し、その上昇から腫瘍の局在を判定する方法である。腫瘍の栄養動脈を同定することで他のmodalityでは描出困難な腫瘍の存在領域診断が可能であり、インスリノーマやガストリノーマの術前検査としてとくに有用である。画像を拡大する6)ソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)pNETではソマトスタチンレセプター(SSTR)、とくにSSTR2が高率に発現している。SSTR2に強い結合能を持つオクトレオチドを用いたソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)が、海外では広く行われており、転移巣を含めた全身検索に有用である。わが国では保険適用がないため、臨床試験として限られた施設でしか施行されていない。早期の国内承認が期待される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療pNETの治療法の第1選択は外科治療であり、小さな単発の腫瘍に対しては、腫瘍核出術が標準術式である。多発性腫瘍、膵実質内の腫瘍など核出困難例は膵頭十二指腸切除術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、または膵体尾部切除術、膵分節切除術が行われる。肝転移を有する症例でも切除可能なものは積極的に切除する。1)分子標的薬近年、pNETに対するさまざまな分子標的薬を用いた臨床試験が行われてきた。その結果、mTOR阻害薬であるエベロリムス(商品名:アフィニトール)とマルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブ(同:スーテント)が進行性pNET (NET G1/G2)に有効であることが示された。米国NCCNガイドラインでも推奨され(図2)、最近わが国でもpNETに対して保険適用が追加承認された(表3)。2015年の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNETに対するエベロリムスやスニチニブ療法はグレードBで推奨されているが、さまざまな有害事象に対する注意や対策が必要である(表3)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2)全身化学療法(殺細胞性抗腫瘍療法)進行性pNETに対する全身化学療法は、わが国においてはいまだコンセンサスがなく、保険適用外のレジメンが多い。(1)NET G1/G2に対する全身化学療法進行性の高分化型pNET(NET G1/G2相当)に対し、欧米で使用されてきた化学療法剤の中ではストレプトゾシン(STZ[同: ザノサー点滴静注])が代表的であるが、わが国ではこれまで製造販売されていなかった。国内でpNETおよび消化管NETに対するSTZの第I/II相試験が多施設共同で行われ、2014年にわが国でも保険適用され、2015年2月より国内販売された。膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNET に対するSTZ療法はグレードC1と位置づけられている。他ではアルキル化剤であるダカルバジン(同: ダカルバジン)の報告もあるが保険承認されていない。(2)NECに対する全身化学療法pNETのうち低分化型腫瘍(WHO分類2010でNEC)は病理学的に小細胞肺がんに類似しており、進行も非常に速いことから、小細胞肺がんに準じた治療が行われている。肝胆道・膵由来のNECに対するエトポシド/CDDP併用療法の結果をretrospectiveに解析した報告では、奏効率14%、PFS中央値 1.8ヵ月、OS中央値が5.8ヵ月であった。わが国で実施された小細胞肺がんに対する第III相試験においてイリノテカン/CDDP併用療法がエトポシド/CDDP併用療法より効果を示したことを受けて、肺外のNECに対しても期待されている。現在、膵・消化管NECに対し、エトポシド/CDDP併用療法 vs. イリノテカン/CDDP併用療法の国内比較第III相試験が行われている。3)ソマトスタチンアナログ(SA)SAは広範な神経内分泌細胞でのペプチドホルモンの合成・分泌を阻害する作用を有している。オクトレオチド(同:サンドスタチン)を含むSAが持つ機能性NETに対する効果について、症候に対するresponseが平均73%(50~100%)といわれている。2009年に中腸由来の転移性高分化型NET(NET G1/G2相当)に対するオクトレオチドLARの抗腫瘍効果が示された(PROMID study)。pNETに対するSAの抗腫瘍効果に関しては、これまで十分なエビデンスは得られてこなかったが、2014年にランレオチド・オートゲル(同:ソマチュリン)のpNET・消化管NETに対する無増悪生存期間延長効果が報告された(CLARINET study)。それを受けてNCCNガイドラインでは、pNETに対するSAの位置づけが変わったが(図2)、わが国のガイドラインでは抗腫瘍効果を目的とした、NETに対するSAの明確な推奨はない。現在、わが国での承認を目的に、ランレオチド・オートゲルの国内第II相試験が進行中である。■ 肝転移に対する治療pNETの肝転移は疼痛や腫瘍浸潤による症状、もしくは内分泌症状が認められるまで気が付かれないことも多く、肝転移を伴った症例の80~90%は診断時すでに治癒切除が困難である。pNETの肝転移は血流が豊富であり、腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されていることから、肝細胞がんと同様に動脈塞栓療法(transarterial embolization: TAE)や動脈塞栓化学療法(transarterial chemoembolization: TACE)がpNETの肝転移(とくに高腫瘍量)の局所治療として有用である。TAE後の生存率に関する報告はさまざまで5年生存率が0~71%(中央値50%)、生存期間中央値も20~80ヵ月と幅がある。腫瘍数が限られている症例では、ラジオ波焼灼術(RFA)が有用とする報告もある。わが国の診療ガイドラインでは、肝転移巣に対する局所療法はグレードC1と位置付けされている。4 今後の展望今までpNETに関しての診断・治療に関する明確な指針が、わが国にはなかったが、2013年にweb上でガイドラインが公開され、2015年には「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」として発刊された。今後、わが国におけるpNET診療の向上が期待される。pNETに対する薬物療法の臨床試験としては、進行性のG1/G2 pNETを対象に新規SAであるSOM230(パシレオチド)/RAD001(エベロリムス)併用療法とRAD001単独療法を比較したランダム化第II相試験がGlobal治験として行われ、現在解析中である。テモゾロミド(同: テモダール)は、副作用が軽減されたダカルバジンの経口抗がん剤であり、国内では悪性神経膠腫に保険適用を得ている薬剤であるが、進行性NET患者に対する他薬剤との併用療法の臨床試験が行われており、サリドマイド(同: サレド)やカペシタビン(同: ゼローダ)やベバシズマブ(同: アバスチン)などの薬剤との併用療法が期待されている。最近の話題の1つとして、WHO分類でNECに分類される腫瘍の中に、高分化なものと低分化なものが含まれている可能性が指摘されている。高分化NECに対する分子標的薬治療の可能性も提案されているが、今後の検討が待たれる。診断ツールとして有用な、血中クロモグラニンAの測定や、SRSが1日も早くわが国でも保険承認されることを希望するとともに、海外で臨床試験として施行されているPRRT(peptide receptor radionuclide therapy)の国内導入も今後の希望である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、内分泌内科、内分泌外科、腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報日本神経内分泌腫瘍研究会(Japan NeuroEndocrine Tumor Society: JNETS)(医療従事者(専門医)向けのまとまった情報)独立行政法人 国立がん研究センター「がん情報サービス」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NET Links(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト(Cancer Information Japan)(患者向けの情報)がんを学ぶ(患者向け情報)(患者向けの情報)患者会情報NPOパンキャンジャパン(pNET患者と家族の会)1)日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS) 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン; 2015.2)Ito T, et al. J Gastroenterol. 2010; 45:234-243.3)Yao JC, et al. N Eng J Med. 2012; 364:514-523.4)Raymond E, et al. N Eng J Med. 2011; 364:501-513.公開履歴初回2013年02月28日更新2015年09月18日

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心不全患者へのASV陽圧換気療法は死亡を増大/NEJM

 左室駆出率が低下し、多くが中枢性睡眠時無呼吸症候群を有する心不全患者を対象とした無作為化試験において、Adaptive servo-ventilation(ASV)陽圧換気療法の死亡や予後不良改善の有意な効果は認められず、同治療群の全死因死亡および心血管系による死亡の増大がみられたことが報告された。英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのMartin R. Cowie氏らが、1,325例を対象とした試験の結果、明らかにした。心不全患者において、中枢性睡眠時無呼吸症候群は予後不良や死亡との関連があることが知られており、ASV陽圧換気療法は、非侵襲的な睡眠時無呼吸症候群の治療法であり、心不全患者に対する有効性が期待されていた。NEJM誌オンライン版2015年9月1日号掲載の報告。ASV陽圧換気療法 vs.薬物療法の無作為化試験 試験は、左室駆出率45%以下、主に中枢性睡眠時無呼吸症候群(無呼吸低呼吸指数[AHI]15回/時以上で中枢性無呼吸低呼吸50%超、中枢性AHI 10回/時以上)を有する患者を対象に行われた。被験者は、ガイドラインに基づいたASV陽圧換気療法群もしくは薬物治療単独(対照)群に無作為に割り付けられ追跡を受けた。 主要エンドポイントは、時間イベント分析で評価した初回イベントで、全死因死亡、心血管系への救命介入(心臓移植、補助人工心臓の植込み、心停止後の蘇生、至適救命ショック)、または心不全悪化による予定外の入院とした。12ヵ月時点、平均AHIは6.6回/時、全死因死亡1.28倍、心血管系による死亡1.34倍 2008年2月~2013年5月に91施設で、合計1,325例の被験者が登録されintention-to-treatに包含された。ASV群に666例、対照群に659例が割り付けられた。両群被験者の特性は類似しており、年齢はASV群69.6歳、対照群69.3歳、男性が89.9%、90.9%、左室駆出率は32.2%、32.5%などであった。追跡期間中央値は31ヵ月であった。 結果、12ヵ月時点の評価において、ASV群の平均AHIは6.6回/時であった。 主要エンドポイントの発生率は、ASV群54.1%、対照群50.8%であり、ハザード比は1.13(95%信頼区間[CI]:0.97~1.31、p=0.10)であった。 また、全死因死亡および心血管系による死亡が、ASV群で有意に高率であった。ハザード比は、全死因死亡が1.28(95%CI:1.06~1.55、p=0.01)、心血管系による死亡1.34(1.09~1.65、p=0.006)であった。

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特発性肺線維症(IPF)初の分子標的薬ニンテダニブ発売

 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:青野吉晃、以下、日本ベーリンガーインゲルハイム)は8 月31 日、チロシンキナーゼ阻害剤/抗線維化剤ニンテダニブエタンスルホン酸塩(商品名:オフェブ カプセル100mg、同カプセル150 mg、以下オフェブ)を、特発性肺線維症の効能・効果で発売したと発表。 オフェブは特発性肺線維症(Idiopathic Pulmonary Fibrosis: IPF)における7 年ぶりの新薬であるとともに初の分子標的薬。肺線維症の発症機序への関与が示唆されている増殖因子受容体、特に血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)を標的にする。 オフェブは第III相国際共同臨床試験(INPULSIS-1 試験、INPULSIS-2試験)において、一貫して主要評価項目である努力肺活量(FVC)の年間減少率をプラセボに比べて統計学的に有意に抑制することを示した。また、中央判定された急性増悪の発現リスクを抑制したことが示されている。 本年7 月、オフェブはその治療価値が評価され、米国胸部学会(ATS)、欧州呼吸器学会議(ERS)、日本呼吸器学会(JRS)、南米胸部学会(ALAT)の4 学会が合同で策定し、2011 年の公表以来4 年ぶりに改定された最新の国際治療ガイドライン「特発性肺線維症の治療」において、IPF の推奨治療薬の一つとして新たに追加された。 特発性肺線維症(IPF)は慢性かつ進行性の経過をたどり、最終的には死に至る肺線維化疾患だが、現時点で利用できる治療選択肢は限られている。IPF 患者の有病率は、世界で100,000 人あたり14~43 人と推定される。日本ベーリンガーインゲルハイムのプレスリリースはこちら(PDFがダウンロードされます)

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不適切なベンゾジアゼピン処方、どうやって検出する

 慢性的な不眠症への治療は重要であり、一般に睡眠薬の処方が行われている。しかし、常用や長期使用は、耐性や依存性のリスクや有害事象のリスクを増大するため避けるべきとされ、2012年にアップデートされたBeers criteria(高齢者で不適切な薬物治療)では、高齢者の不眠症治療ではすべてのベンゾジアゼピン系薬を回避するよう示されている。イタリア・CRS4のSilvana Anna Maria Urru氏らは、地域薬局のサーベイデータを用いることで、不眠症に対するベンゾジアゼピン系薬の不適切な処方に関する情報を入手できることを報告した。International Journal of Clinical Pharmacy誌オンライン版2015年7月22日号の掲載報告。 研究グループは、イタリアの8つの地域薬局における観察研究を行い、不眠症に対するベンゾジアゼピン系薬処方の適切さを調べ、地域薬局が不適切な処方のサインを識別できるのか調べた。各薬剤師に、ベンゾジアゼピン系薬が1回以上処方された患者サンプルについてインタビューを行った。最小限のデータセットとして、社会人口統計学的情報、処方薬の適応症、処方期間、睡眠薬の数量、これまでに試みられた投薬中断、ベンゾジアゼピン系薬離脱に関する患者の希望、漸減方法に関する情報を集めた。主要評価項目は、適応症、治療期間、投薬量、投薬中断の試みと方法とした。 主な結果は以下のとおり。・計181例にインタビューが行われた。・約半数の回答者(81例)が、不眠症の治療を受けていることを報告し、62%が高齢者であった(平均年齢68歳、範囲27~93歳)。・52例(64%)が長期投与(>3年)を受けていた。13例(16%)の治療期間は1~3年にわたっていた。・33例がベンゾジアゼピンの服薬中止を支持していたが、全例が中止不成功であった。 今回の結果を踏まえ、著者らは「エビデンスベースのガイドラインをより厳しく遵守することが睡眠薬、鎮静薬の理に適った使用の基本である」と指摘している。関連医療ニュース ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか 長期ベンゾジアゼピン使用は認知症発症に影響するか  担当者へのご意見箱はこちら

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トランス脂肪酸だけが健康に悪いのか/BMJ

 飽和脂肪酸の摂取と、全死因死亡、心血管疾患(CVD)、冠動脈疾患(CHD)、虚血性脳卒中、2型糖尿病との関連は認められなかったが、そのエビデンスは限定的であることが示された。一方、トランス脂肪酸の摂取は、全死因死亡、総CHD発生、CHD死と関連していたが、それは工業型トランス脂肪酸の摂取が反すう動物由来トランス脂肪酸の摂取よりも多いためであることが示唆された。カナダ・マックマスター大学のRussell J de Souza氏らが、観察試験のシステマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。BMJ誌オンライン版2015年8月11日号掲載の報告より。飽和脂肪酸、トランス脂肪酸の健康アウトカムとの関連を評価 食事のアドバイスに関して、直近のシステマティックレビューおよびメタ解析の著者らは、飽和脂肪酸の摂取と過剰な心血管リスクとの関連性はないと主張している。また米国では最近、加工食品に部分水素添加植物性油脂を使用しないよう求めるポリシーアクションを採択した。一方で健康ガイドラインでは、これら栄養素の有害性エビデンスについて、代替栄養素にも焦点を当てて慎重にレビューと評価を行うことを定めており、今回研究グループは、飽和脂肪酸とトランス不飽和脂肪酸(すべて、工業型、反すう動物由来)の摂取と全死因死亡、CVD(発生および死亡)、CHD(発生および死亡)、虚血性脳卒中、2型糖尿病との関連を調べるシステマティックレビューとメタ解析を行った。 発行開始から2015年5月1日時点までのMedline、Embase、Cochrane Central Registry of Controlled Trials、Evidence-Based Medicine Reviews、CINAHLを検索。検索論文および既往レビューの参考文献も検索対象に含め、上記の関連について報告していた観察試験を選択した。2人のレビュワーがそれぞれデータを抽出し、試験のバイアスリスクを評価。多変量相対リスクをプールして、不均一性を評価し定量化した。潜在的出版バイアスを評価し、サブグループ解析も行った。エビデンスの質および結論の確実性の評価にはGRADEアプローチを用いた。飽和脂肪酸の低リスクエビデンスは「非常に低い」 飽和脂肪酸について適格基準を満たしプールされた前向きコホート試験は、3件(CVD死との関連試験)~12件(総CHDおよび虚血性脳卒中との関連試験)にわたっていた。比較検討は5件(CVD死との関連試験)~17件(総CHDとの関連試験)、被験者数は9万501例(CVD死との関連試験)~33万9,090例(虚血性脳卒中との関連試験)であった。 結果、飽和脂肪酸摂取と、全死因死亡(相対リスク:0.99、95%信頼区間[CI]:0.91~1.09)、CVD死(0.97、0.84~1.12)、総CHD(1.06、0.95~1.17)、虚血性脳卒中(1.02、0.90~1.15)、2型糖尿病(0.95、0.88~1.03)との関連はいずれも認められなかった。CHD死との関連は説得力がないとは言えないものであった(1.15、0.97~1.36、p=0.10)。 トランス脂肪酸についてプールされた前向きコホート試験は、1件(反すう動物由来の全死因死亡との関連試験)~6件(すべてのトランス脂肪酸の2型糖尿病との関連試験)。比較検討は2件~7件、被験者数は1万2,942例(反すう動物由来の2型糖尿病との関連試験)~23万135例(すべてのトランス脂肪酸の2型糖尿病との関連試験)であった。なお、工業型トランス脂肪酸と虚血性脳卒中および2型糖尿病との関連、また反すう動物由来トランス脂肪酸と虚血性脳卒中との関連については、プール可能な試験が得られなかった。 分析の結果、すべてのトランス脂肪酸摂取と、全死因死亡(1.34、1.16~1.56、p<0.001)、CHD死(1.28、1.09~1.50、p=0.003)、総CHD(1.21、1.10~1.33、p<0.001)との関係が認められた一方、虚血性脳卒中(1.07、0.88~1.28、p=0.50)、2型糖尿病(1.10、0.95~1.27、p=0.21)との関連は認められなかった。 工業型トランス脂肪酸との関連は認められたが反すう動物由来トランス脂肪酸との関連は認められなかったのは、CHD死(1.18[1.04~1.33、p=0.009] vs.1.01[0.71~1.43、p=0.95])、CHD(1.42[1.05~1.92、p=0.02] vs.0.93[0.73~1.18、p=0.55])であった。 一方で、反すう動物由来トランス脂肪酸と2型糖尿病では逆相関の関連がみられた(0.58、0.46~0.74、p<0.001)。 しかし、GRADEによる検討の結果、飽和脂肪酸とすべてのアウトカムとの関連の確実性は「非常に低い」もので、トランス脂肪酸とCHDアウトカムとの関連性の確実性は「中程度」であり、その他の関連については「非常に低い」か「低い」ものであった。 これらの結果を踏まえて著者は、「食事ガイドラインは、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸に代わる推奨主要栄養素が、健康に与える影響を十分に考慮すべきである」と述べている。

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