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COVID-19、重症患者で皮膚粘膜疾患が顕著

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の皮膚症状に関する報告が寄せられた。これまで皮膚粘膜疾患とCOVID-19の臨床経過との関連についての情報は限定的であったが、米国・Donald and Barbara Zucker School of Medicine at Hofstra/NorthwellのSergey Rekhtman氏らが、COVID-19入院成人患者296例における発疹症状と関連する臨床経過との関連を調べた結果、同患者で明らかな皮膚粘膜疾患のパターンが認められ、皮膚粘膜疾患があるとより重症の臨床経過をたどる可能性が示されたという。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年12月24日号掲載の報告。COVID-19入院成人患者296例のうち35例が少なくとも1つの疾患関連の発疹 研究グループは2020年5月11日~6月15日に、HMO組織Northwell Health傘下の2つの3次医療機能病院で前向きコホート研究を行い、COVID-19入院成人患者における、皮膚粘膜疾患の有病率を推算し、形態学的パターンを特徴付け、臨床経過との関連を描出した。ただし本検討では、皮膚生検は行われていない。 COVID-19入院成人患者の発疹症状と臨床経過との関連を調べた主な結果は以下のとおり。・COVID-19入院成人患者296例のうち、35例(11.8%)が少なくとも1つの疾患関連の発疹を呈した。・形態学的パターンとして、潰瘍(13/35例、37.1%)、紫斑(9/35例、25.7%)、壊死(5/35例、14.3%)、非特異的紅斑(4/35例、11.4%)、麻疹様発疹(4/35例、11.4%)、紫斑様病変(4/35例、11.4%)、小水疱(1/35例、2.9%)などが認められた。・解剖学的部位特異性も認められ、潰瘍(13例)は顔・口唇または舌に、紫斑病変(9例)は四肢に、壊死(5例)は爪先に認められた。・皮膚粘膜症状を有する患者は有さない患者と比較して、人工呼吸器使用(61% vs.30%)、昇圧薬使用(77% vs.33%)、透析導入(31% vs.9%)、血栓症あり(17% vs.11%)、院内死亡(34% vs.12%)において、より割合が高かった。・皮膚粘膜疾患を有する患者は、人工呼吸器使用率が有意に高率であった(補正後有病率比[PR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.37~2.86、p<0.001)。・その他のアウトカムに関する差異は、共変量補正後は減弱し、統計的有意性は認められなかった。

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Dr.田中和豊の血液検査指南 総論・血算編

【総論】 第1回 検査の目的 第2回 検査の指標 第3回 診断過程における検査の役割 第4回 検査の選択とマネジメント 第5回 Bayes統計学【血算編】 第1回 白血球1 白血球増加症 第2回 白血球2 白血球分画異常症 第3回 白血球3 白血球減少症 第4回 赤血球1 多血症 第5回 赤血球2 貧血 第6回 赤血球3 正球性貧血・小球性貧血 第7回 血小板1 血小板増加症 第8回 血小板2 血小板減少症 第9回 血小板3 汎血球減少症 第10回 血小板4 TTP・HUS・HIT 【総論】すべてのベースとなる検査の基本からスタート。日々の診療で検査を行うことが目的になっていませんか?念のための検査をやっていませんか?何のために検査を行うのか、どのような検査をどのように行えばよいのか、また、その結果をどのように解釈し、マネジメントを行うのか。Dr.田中和豊流の“血液検査学”を理解するための前提の講義です。【血算編】白血球・赤血球・血小板の検査値をどのように解釈し、治療を行うのか。Dr.田中和豊式“鉄則”や、鑑別診断や経験的治療の“フローチャート”を用い、やるべきことをシンプルにレクチャーします。この番組を見ると、血液検査の数値を見たときに、実臨床で何をすべきかをしっかりと理解できるようになるはずです。※この番組をご覧になる際に、「問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)」ご参考いただくと、より理解が深まります。書籍はこちら ↓【問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)】【総論】第1回 検査の目的医学生、初期研修医 の皆さん!その検査は何のためにやっていますか?検査を行うことが目的になっていませんか?念のための検査をやっていませんか? そんな検査に、田中和豊先生が喝を入れます! 日々の診療で行う検査について、今一度、考え直してみましょう。【総論】第2回 検査の指標検査を行うためには、それぞれの検査の特性を知らなければなりません。傷病を診断するための検査の特性を示すいくつかの指標があります。例えば、有病率と罹患率、感度と特異度、精密度・再現性・信頼度、尤度比などです。それらの指標の考え方と意義、そしてそれらをどのように用いるのか?田中和豊先生が医学生・初期研修医向けにシンプルにわかりやすく解説します。【総論】第3回 診断過程における検査の役割診療において検査を行うとき、検査前にその疾患である確率と検査を行い、その結果による検査後の確率の変化について考えていきましょう。検査前確率と検査後の確率の関係はBayesの定理によってその関係式が導き出されます。また、検査前の確率から、検査後の確率を算出する方法は2つあり、それにはオッズ比と尤度比という指標を用います。今回は、これらの関係について、そして検査後確率の算出方法について、詳しく解説します。医学生・初期研修医の方は必見です。【総論】第4回 検査の選択とマネジメント今回は、検査の選択、検査計画、検査の解釈、診断、マネジメントについて解説します。 それぞれの場面において何を優先して考えるべきか、その結果から何を導き出すのか、Dr.田中和豊が示す“鉄則”を確認していきましょう!【総論】第5回 Bayes統計学今回はBayes統計学について考えます。Bayes統計学は、原因から結果という自然な時間の流れに逆行する“逆確率”であるということ、事前確率を推定する“主観確率”であるということから、異端の統計学とのレッテルを貼られ、一統計学の世界から抹殺されていた時期もありました。そして、現在どのようにBayes統計学をEBMに応用しているのか、その歴史と意義について詳しく解説します。【血算編】第1回 白血球1 白血球増加症血液検査の原則から確認しましょう。採血は痛い!だから患者のためには、きちんとした計画そして評価が必要です。 そして、いよいよ血算編。まずは3回にわたって白血球についてみていきます。今回は、白血球増加症について。白血球が増加しているとき、確認すべきステップと鉄則は?Dr.田中和豊がシンプルかつわかりやすくにお教えします。【血算編】第2回 白血球2 白血球分画異常症今回は、白血球分画の異常について取り上げます。白血球の分画の基準値は%で示されますが、実際の異常を診る場合には絶対数を計算して確認しましょう。 好中球増加症、リンパ球増加症、異形リンパ球、単球増加症、好酸球増加症についてぞれぞれの異常値とその原因についてシンプルにわかりやすく解説します。 好中球増加症で用いられる左方移動や右方移動についてもその命名の歴史からご説明します。【血算編】第3回 白血球3 白血球減少症今回は白血球減少症についてです。白血球減少症の原因は、産生低下と破壊亢進の2つ。そのため、通常、問診や診察で簡単に判断できます。 すなわち白血球減少症では、鑑別よりも、マネジメントが問題となります。 その中でもとくに重要な発熱性好中球減少症について詳しく解説します。 Dr.田中和豊式フローチャートに沿って対応すれば、慌てずに対処できます。【血算編】第4回 赤血球1 多血症今回から3回にわたって赤血球について解説します。 まずは、赤血球の基本から。 赤血球の指標には、RBC、Hb 、Hctがありますが、実は、この3つの指標はほぼ同じもので、どれを使用してもかまいません。 しかし、実際には、Hbを使用することが多いのではないでしょうか。 それは、赤血球を評価するためには、赤血球の機能である酸素運搬能を評価することとなり、その動脈酸素運搬能DO2を算出する際に直接比例するHbを多血症や貧血の指標として用いるのです。 Hbの指標を用いて、基準値、多血症について、考えていきましょう。※スライドの文字に修正があります。誤)多血症 polycythermia⇒ 正)多血症 polycythemiaとなります。【血算編】第5回 赤血球2 貧血臨床上、最も多く遭遇する病態である「貧血」について解説します。血液単位容積あたりのヘモグロビン量の減少を貧血と呼びます。 まずは、その貧血の定義と鑑別診断について考えていきましょう。MCV(平均赤血球容積)で貧血を分類し、その中で大球性貧血について詳しくみていきます。田中和豊式鑑別診断のフローチャートで体系立てて診断・治療をすすめていきましょう。【血算編】第6回 赤血球3 正球性貧血・小球性貧血赤血球の最終話は、正球性貧血と小球性貧血について解説します。 それぞれの鑑別診断とその後の対応について、田中和豊式フローチャートで解説します。小球性貧血の中でも頻度の高い、鉄欠乏性貧血については、著量なども含め、詳しく見ていきます。最後には赤血球に関するまとめまで。しっかりと確認してください。【血算編】第7回 血小板1 血小板増加症今回から4回にわたって血小板について解説します。血小板の異常は、数の異常と、機能異常がありますが、このシリーズでは、数の異常について取り上げていきます。まずは、血小板増加症から。血小板増加症は、一次性と2次性に分類されます。それらをどのような順番で鑑別していくのか、田中和豊式フローチャートで確認していきましょう。【血算編】第8回 血小板2 血小板減少症今回は血小板減少症を取り上げます。血小板減少症は、プライマリケアにおいて、遭遇することが多い疾患です。そのため、マネジメントを身に付けておくことが重要となります。Dr.田中和豊式フローチャートで手順をしっかりと確認しましょう。対応するうえで重要なポイントとなる「血小板輸血」、「敗血症」などについても詳しく解説します。最後に、Dr.田中和豊が実際に経験した症例「血小板数3,000/μLの29歳女性」について振り返ります。その時のDr.田中のマネジメントはどうだったのか!【血算編】第9回 血小板3 汎血球減少症今回は汎血球減少症、無効造血、溶血性貧血について取り上げます。それぞれの疾患の定義と鑑別疾患をシンプルにわかりやすく解説します。いずれも、鑑別疾患が限られる疾患ですので、しっかりと覚えておきましょう。【血算編】第10回 血小板4 TTP・HUS・HIT最終回の今回は、TTP:血栓性血小板減少性紫斑病、HUS:溶血性尿毒症症候群 、HIT:ヘパリン起因性血小板減少症について取り上げます。それぞれの診断のポイントと、治療例を解説します。 また、血小板に関してこれまでを総括します。重要なポイントをおさらいしましょう!

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「フラジール」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第15回

第15回 「フラジール」の名称の由来は?販売名フラジール®内服錠250mg一般名(和名[命名法])メトロニダゾール(JAN)[日局]効能又は効果◯ トリコモナス症(腟トリコモナスによる感染症) ◯ 嫌気性菌感染症 <適応菌種>本剤に感性のペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス属、プレボテラ属、ポルフィロモナス属、フソバクテリウム属、クロストリジウム属、ユーバクテリウム属<適応症>深在性皮膚感染症外傷・熱傷及び手術創等の二次感染骨髄炎肺炎、肺膿瘍骨盤内炎症性疾患腹膜炎、腹腔内膿瘍肝膿瘍脳膿瘍◯ 感染性腸炎<適応菌種>本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシル<適応症>感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)◯ 細菌性腟症<適応菌種>本剤に感性のペプトストレプトコッカス属、バクテロイデス・フラジリス、プレボテラ・ビビア、モビルンカス属、ガードネラ・バジナリス<適応症>細菌性腟症◯ ヘリコバクター・ピロリ感染症胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃MALT リンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病・早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃におけるヘリコバクター・ピロリ感染症、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎◯ アメーバ赤痢◯ ランブル鞭毛虫感染症用法及び用量<トリコモナス症(腟トリコモナスによる感染症)>通常、成人にはメトロニダゾールとして、1クールとして、1回250mgを1日2回、10 日間経口投与する。<嫌気性菌感染症>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回500mgを1日3回又は4回経口投与する。<感染性腸炎>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回250mgを1日4回又は1回500mgを1日3回、10~14日間経口投与する。<細菌性腟症>通常、成人にはメトロニダゾールとして、1回250mgを1日3回又は1回500mgを1日2回7日間経口投与する。<ヘリコバクター・ピロリ感染症>アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン及びプロトンポンプインヒビター併用によるヘリコバクター・ピロリの除菌治療が不成功の場合通常、成人にはメトロニダゾールとして1回250mg、アモキシシリン水和物として1回750mg(力価)及びプロトンポンプインヒビターの3剤を同時に1日2回、7日間経口投与する。<アメーバ赤痢>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回500mgを1日3回10日間経口投与する。なお、症状に応じて1回750mgを1日3回経口投与する。<ランブル鞭毛虫感染症>通常、成人にはメトロニダゾールとして1回250mgを1日3回5~7日間経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由1.既往に本剤の成分に対する過敏症を起こした患者2.脳、脊髄に器質的疾患のある患者(脳膿瘍の患者を除く)[中枢神経系症状があらわれる ことがある。]3.妊娠3ヵ月以内の女性(有益性が危険性を上回ると判断される疾患の場合は除く)※本内容は2020年9月2日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2020年7月改訂(改訂第17版)医薬品インタビューフォーム「フラジール®内服錠250mg」2)塩野義製薬:製品情報一覧

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「トランサミン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第6回

第6回 「トランサミン」の名称の由来は?販売名トランサミン®錠250mg/500mg、トランサミン®カプセル250mg、トランサミン®散50%、トランサミン®シロップ5%※注射剤は内服薬のインタビューフォームと異なるため、今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])トラネキサム酸(JAN)効能又は効果○全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向(白血病、再生不良性貧血、紫斑病等、及び手術中・術後の異常出血)○局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血(肺出血、鼻出血、性器出血、腎出血、前立腺手術中・術後の異常出血)○下記疾患における紅斑・腫脹・そう痒等の症状湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹○下記疾患における咽頭痛・発赤・充血・腫脹等の症状扁桃炎、咽喉頭炎○口内炎における口内痛及び口内粘膜アフター用法及び用量トランサミン錠 250mg、トランサミン錠 500mg、トランサミンカプセル 250mg、トランサミン散 50%トラネキサム酸として、通常成人1日750~2,000mgを3~4回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。トランサミンシロップ 5%トラネキサム酸として通常下記1日量を3~4回に分割経口投与する。なお、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)【禁忌(次の患者には投与しないこと)】トロンビンを投与中の患者※本内容は2020年7月1日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2018年2月改訂(改訂第11版)医薬品インタビューフォーム「トランサミン®錠250mg/500mg、トランサミン®カプセル250mg、トランサミン®散50%、トランサミン®シロップ5%」2)第一三共:製品情報

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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2月4日は「風疹の日」、風疹排除のために医療者ができること

 2月4日は日本産婦人科医会などが定めた「風疹(予防)の日」。長年、感染症対策に取り組んでいる多屋 馨子氏(国立感染症研究所 感染症疫学センター[感染研]第三室 室長)に「風疹排除のために医療者ができること」をテーマに話を聞いた。子供の風疹はワクチン接種により激減――風疹の流行は、国のワクチン接種戦略と密接に関わりあっています。風疹の定期接種が始まったのは1977年のことで、対象は女子中学生でした。妊娠中の胎児への影響、いわゆる先天性風疹症候群(CRS)予防を最大の目的としたためです。しかし、女性限定の接種では流行をコントールできず、定期接種の開始後も数年ごとに大きな流行を繰り返しました。このため、1995年4月からは1~7歳半の男女を対象にワクチン接種が行われるようになり、接種歴のない中学生男女への経過措置もとられました。こうした施策によって、長く風疹患者の多数を占めていた小児の感染は激減したのです。今では風疹患者の95%が成人――ここ20年ほどのあいだ、小児に代わって風疹患者の大半を占めているのは成人です。中でも、ワクチン接種制度の狭間となり、1回もワクチンを接種したことのない「1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性」が新規罹患者の大きな割合を占めています。この世代の男性は、自身がワクチンを受ける機会がなかったうえ、同世代の女性はワクチンを受けているために、上の世代に比べ風疹の罹患を免れた人が多く、十分な抗体価を有しないままの人がほかの年代よりも多いのです。具体的には、この世代の男性の約20%、5人に1人が十分な抗体価を持ちません。女性の6%と比べるとその比率の高さがわかりますいったん減少も2018年から再度増加――抗体価の低い成人が中心となった風疹の流行は繰り返し起こっています。とくに2012~2013年は計1万6,730人の患者を出す大流行となり、45人のCRSが報告される事態になりました。厚労省と感染研は「次の流行はなんとしても食い止めたい」と対策を講じ、2014年以降の患者数は減少を続けました。しかし、2018年に再び増加に転じ、2019年も約3,000人と再び増加の傾向にあり、この事態を憂慮しています。患者の内訳を見ると95%が成人、男性が女性の4倍近くと2013年の大流行時から状況は何ら変わっていないことを歯がゆく感じます。 こうした状況を受け、2019年に厚労省は「風しんの追加的対策」を発表しました。これまで「抗体検査のみ無料」としていたターゲット世代に対し、ワクチン接種まで公費で賄う、という内容です。 以下、今回の対策の具体的な内容です。・対象:1962年(昭和37年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれの男性・期間:2019年~2022年3月末・方法:居住自治体から、抗体検査とワクチン接種が無料で受けられるクーポン券を郵送。医療機関の混雑を避けるため、クーポン発送は年齢別に2回に分けて実施。但し、クーポンが届かなくても自治体に請求することで入手可。2019年度/1972年(昭和47年)4月2日~1979年(昭和54年)4月1日生まれ2020年度/1962年(昭和37年)4月2日~1972年(昭和47年)4月1日生まれ「全額無料」でも伸びない受診率――数千円の抗体検査と1万円程度のMRワクチンを全額無料にするのですから、「今度こそ受診率が一気に伸びるだろう」と期待していたのですが、残念ながらまだそこまでの成果は出ていません。 2019 年度内にクーポン券を発送予定の約 646 万人のうち、2019年4~11月に抗体検査を受けた人は 97万8,422 人(対象者の約 15.1%)、ワクチン接種を受けた人は 19万7,572 人(同約 3.1%)でした。厚労省は東京オリンピック・パラリンピックが行われる2020年7月までに現状79%程度のターゲット世代の抗体保有率を85%に、2022年3月までに90%程度に引き上げることを目標としていますが、このままの受診ペースでは難しいのが現状です。患者に「クーポン来るから受けてね」と伝えてください――この状況を踏まえ、医療者の皆様にお願いです。診療した男性患者さんの生年月日を見て、対象世代の男性であれば「風疹のクーポンは来ましたか? ぜひ抗体検査を受けてくださいね」と一言伝えていただきたいのです。もちろん、医療者の皆さん自身も率先して抗体検査とワクチン接種をお願いします。私は仕事でもプライベートでも、男性と会うたびクーポン券の紹介をしています。受診率が低い理由は、ひとえに風疹の怖さと今回の対策が知られていないことに尽きるかと思います。信頼する医療者から聞いた情報であれば、患者さんも「それなら行ってみようか」と考えることでしょう。国の予算を割いて実施された今回の対策が成果に結びつくよう、ぜひともご協力をお願い致します。成人男性に多い誤解について――成人男性の皆さんと風疹について話していると、よく出てくる誤解があります。誤解1)風疹は子供のときにかかったから大丈夫だよ すでに風疹にかかったとの記憶のある人達に血液検査を行ったところ、約半分は抗体陰性で、風疹は記憶違い、または風疹に似た他の病気にかかっていたという調査結果があります。風疹はよく似た症状の病気が非常に多いです。「かかったから」と言う方にこそ、「過去の記憶に頼らず、しっかり抗体検査を受けて」とアドバイスしてください。誤解2)風疹って死ぬような病気じゃないからいいんじゃない? 風疹は通常あまり重くない病気ですが、まれに脳炎、血小板減少性紫斑病などの軽視できない合併症を起こすことがあり、実際、毎年入院する人も出ています。そして、もっとも怖いのがCRSです。感染者が免疫の不十分な妊娠初期の女性と飛沫が飛ぶ範囲(1~2m以内)で接触することで感染が生じ、高確率でお腹の赤ちゃんに障害を負わせてしまいます。この「自分が加害者になる怖さ」をしっかり説明することで、納得して受診くださる方が多くいます。誤解3)風疹になったら家にいるから他人には伝染させないよ 風疹は発症する1週間前から他人に感染します。自覚症状のないまま職場や公共の場に出ることがどれだけ危険なことか、これも直接伝えると理解していただけます。 最近は、企業単位で風疹対策取り組む例も出ています。先日、ある企業で全社員対象に風疹の講演をしてきました。こうした企業からの発信もぜひ広げていただきたいと思います。ターゲット世代の男性が多く集まる場所、たとえば献血ルームなどの場所での情報提供や予防啓発にも力を入れていきたいと考えています。志を同じくする医療者の方のご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

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ワクチン接種における副反応、副反応疑い報告制度と救済制度【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第2回

はじめにワクチンの予防接種は、個人と集団(社会)を感染症から守るために重要な予防的措置である。しかし、ほかの医薬品と同様に副作用が起こるリスクはゼロではなく、極めてまれではあるが、不可避的に健康被害が起こり得る。そのため、私たち医療者はワクチン接種における副作用(副反応)とその報告制度、健康被害時の救済制度について理解し、ワクチン接種を受ける方(被接種者)やその保護者に対して予診の際にこれらについて説明し、副反応や健康被害が発生した際にはサポートできるようにしておく必要がある。「有害事象」「副作用」「副反応」は何が違う?「有害事象」「副作用」「副反応」、これらはワクチン接種に関連して使用される用語だが、使い分けができているだろうか(表1)。「有害事象」や「副作用」は、ワクチンを含む医薬品や手術などの医療行為に関連して使用され、「副反応」はワクチン接種に関連した事象に限定して使用される。いずれも「ワクチン接種をしたあとに起こった症状」に対して使用される用語だが、しばしば混同されている。とくに一般の方やマスメディアでは、誤解して使用や理解されていることがあり、医療者として注意が必要である。(図1)1)有害事象因果関係の有無を問わず、ワクチン接種など医薬品の投与や手術や放射線治療など医療行為を受けたあと患者(被接種者)に生じた医療上のあらゆる好ましくない出来事のこと。医療行為と有害事象との間に時間的に関連がある、前後関係はあるが、因果関係の有無は問わないということになる。そのため有害事象には、ワクチン接種後に偶然あるいは別の原因で生じた出来事も含まれる。しばしば、この時間的な前後関係をただちに因果関係であるかのようにメディアが報じたり、一般の方がそのように誤解していることに注意する。2)副作用治療や予防のために用いる医薬品の主な作用を主作用といい、主作用と異なる作用を副作用という。広義の副作用(side effect)には、人体にとって有害な作用と有害でない(好ましい、肯定的な)作用の両方が含まれる。一般的には医薬品による副作用に対しては、有害な作用である狭義の副作用(adverse drug reaction)が用いられる。医薬品と副作用の間には前後関係があり、また、副作用は医薬品の「作用」であるため、医薬品と副作用(による症状)の間には、因果関係があるということになる。3)副反応ワクチン接種の主作用(ワクチン接種の目的)は、ワクチン接種によって免疫反応を起こし、ワクチンが対象とするVPD(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで防げる病気)に対する免疫を付与することである。一方、ワクチン接種に伴う、免疫の付与以外の反応や接種行為による有害事象を副反応という。言い換えると副反応とは「ワクチン接種による(狭義の)副作用と接種行為が誘因となった有害事象」のことである。そのため、ワクチン接種と副反応の間には前後関係があり、因果関係があるということになる。表1 有害事象、副作用、副反応の違い画像を拡大する図1 有害事象、副作用、副反応の概念図画像を拡大する副反応・有害事象の要因と症状副反応・有害事象の主な要因と症状を表2に示す。表2 副反応・有害事象の主な要因と症状画像を拡大する1)不活化ワクチン一般的な副反応として、接種した抗原・アジュバンドやワクチン構成成分などで誘起された炎症による局所反応(発赤、硬結、疼痛など)や全身反応(発熱、発疹など)がある。また、数10万〜100万分の1の確率とまれではあるが重篤な副反応として、アナフィラキシーや血小板減少性紫斑病、脳炎・脳症などがある。医療者はこれらの副反応について、事前に被接種者や保護者に説明を行う。とくに頻度の高い一般的な副反応については、症状出現時の対応(表3)まで含めて説明する。また、接種後のアナフィラキシーなどに対応するため、接種後30分は院内で経過観察を行う。2)生ワクチン弱毒化したワクチン株による感染、つまり病原性の再獲得によって生じる副反応がある。なお、局所の発赤や発熱などの高頻度な副反応は、軽微な症状であるため、単独では予防接種後副反応疑い報告基準(後述)における医療者の報告義務規定にはあたらない。表3 高頻度な副反応の経過と対応画像を拡大する予防接種後副反応疑い報告制度とは予防接種後副反応疑い報告制度とは、予防接種法に基づき、「医師などが予防接種を受けた者が一定の症状を呈していると知った場合に厚生労働大臣に報告しなければならない(報告義務がある)制度」である。この制度は、予防接種後に生じる種々の身体的反応や副反応疑いについて情報を収集し、ワクチンの安全性について管理・検討を行い、国民に情報を提供すること、および今後の予防接種行政の推進に資することを目的としている。本制度は、2013年の法改正により大幅に変更され、2014年11月から副反応疑い報告(予防接種法)と医薬品・医療機器等安全性情報報告(医薬品医療機器等法)の報告先は独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)に一元化され、報告の方法が簡素化された。報告基準1)定期接種の場合予防接種法に基づいて報告基準があり、ワクチン(対象疾患)ごとに報告すべき症状、症状発生までの時間(期間)が規定されている(表4)。この報告基準にある症状(「その他の反応」を除く)について、それぞれに定められている時間までに発症した場合は、因果関係の有無を問わず、医師などは報告する義務がある。「その他の反応」については(1)入院、(2)死亡または永続的な機能不全に陥るおそれがある場合で、それが予防接種との因果関係が疑われる症状について報告する。また、報告基準にある症状でこの時間を超えて発生した場合でも、因果関係が疑われるものについては「その他の反応」として報告する。2)任意接種の場合定期接種の場合のような報告基準はなく、医師などは予防接種後副反応疑い報告書に症状名を記載する。表4 報告基準の例(一部抜粋)画像を拡大する報告方法予防接種後副反応疑い報告書を厚生労働省のWebサイトよりダウンロードし記入、または国立感染症研究所のWebサイトより入力アプリをダウンロードし、報告書PDFを作成、印刷し、PMDAへFAX(FAX番号:0120-176-146)にて送信する。これら報告の流れを図2に示す。図2 予防接種後副反応疑い報告の流れ画像を拡大する救済制度についてきちんと説明していますか?インフルエンザワクチンの任意接種用の予診票の医師記入欄には「本人又は、保護者に対して、予防接種の効果、副反応及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済について説明しました。」と記載がある。あなたは被接種者や保護者に対して、ワクチン接種における救済制度についてきちんと説明ができているだろうか。予防接種後の健康被害に対する救済制度前述のとおり、予防接種は感染症から個人と社会を守るための重要な施策であるが、極めてまれに健康被害が起こり得る。そのため、予防接種によって健康被害を受けた方に対する特別な配慮が必要であり、公的な救済制度が設けられている。救済制度は一律ではなく、定期接種、任意接種によって異なることに注意する。いずれの場合も給付の請求者は健康被害を受けた本人や家族であるため、医師は救済制度を紹介し、診断書や証明書の作成に協力する。ワクチン接種と健康被害との間に因果関係が認められた場合に救済給付が実施される(表5)。表5 予防接種後の健康被害救済制度の違い画像を拡大する給付の種類には、(1)医療機関での治療に要した医療費や医療手当(医療を受けるために要した諸費用)、(2)障害が残った場合の障害児養育年金または障害年金、(3)死亡時の葬祭料および一時金、遺族年金があるが、各制度によって給付額は大きく異なる。なお、国内未承認ワクチン(いわゆる輸入ワクチン)に対しては、輸入業者が独自の補償制度を設定している場合もあるが、これらの公的な制度は適応されないことにも注意する。1)定期接種の場合:予防接種健康被害救済制度予防接種健康被害救済制度は、予防接種法に基づく定期の予防接種(定期接種)により健康被害を受けた方を救済するための公的な制度である。定期接種を受けた方に健康被害が生じた場合、対象となる予防接種と健康被害との因果関係があるかどうかを疾病・障害認定審査会で個別に審査し、厚生労働大臣が因果関係を認定した場合は、市町村長は健康被害に対する給付を行う。給付の内容は、定期接種のうちA類疾病(B型肝炎、Hib感染症、小児の肺炎球菌感染症、ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ、結核、麻しん・風しん、水痘、日本脳炎、ヒトパピローマウイルス感染症)とB類疾病(インフルエンザ、高齢者の肺炎球菌感染症)で異なる。B類疾病による健康被害の請求の期限は、その内容によって2年または5年となっているため、とくに留意する。なお、健康被害について賠償責任が生じた場合であっても、その責任は市町村、都道府県または国が負うものであり、当該医師は故意または重大な過失がない限り、責任を問われるものではない。2)任意接種の場合:医薬品副作用被害救済制度および生物由来製品感染等被害救済制度医薬品副作用被害救済制度および生物由来製品感染等被害救済制度は、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構法(PMDA法)に基づく公的な制度である。これらの制度は、医薬品などを適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による入院が必要な程度の疾病や日常生活が著しく制限される程度の障害などの健康被害を受けた方に対して、医療費などの給付を行い、被害を受けた方の迅速な救済(民事責任との切り離し)を図ることを目的としている。どちらの制度が適用されるかは、健康被害の内容や原因によって異なるが、申請窓口はいずれもPMDAであるため、患者や家族から健康被害の相談を受けた際にはPMDAの相談窓口(電話番号:0120-149-931)を紹介する。被接種者・保護者への説明資料以下のような一般の方向けの資料を活用する。日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」〔予防接種の副反応と有害事象〕医薬品副作用被害救済制度リーフレットまとめ「有害事象」「副作用」「副反応」はしばしば混同されて使用されており、医療者としてこれらの違いを理解する。医師などには予防接種後の副反応を疑った際に報告する義務がある。報告制度は定期接種、任意接種によって異なるが、報告先はPMDAに一元化されている。予防接種後の健康被害に対する公的な救済制度は、定期接種、任意接種によって異なるが、いずれもその請求は本人・家族が行うため、医療者はこれらの制度を紹介しサポートする。副反応疑い報告制度と救済制度制度の詳細については、「参考になるサイト」に示した、それぞれ厚生労働省やPMDAのWebサイトおよび『予防接種必携』1)を参照していただきたい。1)予防接種実施者のための予防接種必携 令和元年度(2019).公益財団法人予防接種リサーチセンター.2019.2)藤岡雅司ほか. 予防接種マネジメント. 中山書店;2013.3)中山久仁子編集. おとなのワクチン. 南山堂;2019.参考になるサイト1)予防接種後の有害事象.予防接種基礎講座〔2017年3月開催資料〕(厚生労働省)2)予防接種後副反応疑い報告制度(厚生労働省)[予防接種法に基づく医師等の報告のお願い][予防接種法に基づく副反応疑い報告(医療従事者向け)]3)予防接種後副反応疑い報告書〔別紙様式1〕(厚生労働省)4)「予防接種後副反応疑い報告書」入力アプリ(国立感染症研究所)5)予防接種健康被害救済制度(厚生労働省)6)医薬品副作用被害救済制度(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構〔PMDA〕).[制度の概要][医療関係者向け][一般の方向け]7)日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」予防接種の副反応と有害事象(日本小児科学会)講師紹介

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第16回 その腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)発症様式に要注意! 安易に胃腸炎と診断するな!2)お腹が軟らかくても安心するな! 血管病変を見逃すな!3)陥りやすいエラーを知り、常に意識して対応を!【症例】66歳女性。来院当日の就寝前に下腹部痛を自覚した。自宅で様子をみていたが、症状改善せず救急外来を受診。担当した医師は、お腹は軟らかいので消化管穿孔はないと判断し一安心。しかし、痛みの訴えが強いためルートを確保し、アセトアミノフェンを点滴から投与し、まずは腹部単純CT検査をオーダーし、ほかの患者を診ることとしたが…。●搬送時のバイタルサイン意識1/JCS血圧148/92mmHg 脈拍102回/分(整) 呼吸24回/分 SpO298%(RA)体温35.9℃ 瞳孔3/3mm+/+既往歴高血圧、脂質異常症内服薬アムロジピン(商品名:アムロジン)、アトルバスタチン(同:リピトール)腹痛診療は難しい!?腹痛は、救急外来、一般外来どちらでも頻度の高い症候です。ところが、問題なく帰宅とした患者さんが再受診することも珍しくありません。救急外来を受診し、72時間以内に再受診した患者のうち、最も頻度の高い症候が「腹痛」であったと報告されています1)。「心窩部痛で来院して、その後虫垂炎と判明した」「胃腸炎だと思ったら糖尿病ケトアシドーシスだった」「急性膵炎だと思ったらアルコール性ケトアシドーシスだった」など、誰もが経験あるでしょう。さらに、急性心筋梗塞、大動脈解離、腹部大動脈瘤切迫破裂、上腸間膜動脈塞栓症、精巣捻転、女性であれば異所性妊娠や卵巣捻転など、見逃してはならない疾患も複数存在するため、心して診療する必要があります。重篤な腹痛の見極め方救急外来など、発症早期に受診する場において、確定診断するのは簡単ではありませんが、目の前の患者が重篤なのか、緊急性が高いのかを判断することは、意外と難しくありません。危険な疼痛を見逃さないために着目するポイントは、表の6つです。腹痛を例に1つずつ確認していきましょう。表 危険な疼痛を見逃すな ―常に意識すべき6つのこと―1)痛みの訴えが強い場合は要注意!患者さんが痛みを強く訴えている場合には、慎重に対応する必要があります。当たり前のようですが、バイタルサインが安定しているケースで、検査で異常を見いだせない場合は、「大げさだなぁ」と思ってしまいがちです。また、発症早期の場合には検査上、異常がないことはよくあることです。さらに、今回の症例のように、単純CT検査ではなかなか腸管や血管の病変の詳細な評価が困難なことは容易に想像がつくでしょう。初療をしつつ、痛みはなるべく早期に取り除くようにしましょう。苦痛を取り除き、詳細な病歴を聴取し、十分な身体所見をとるのです。鎮痛薬を使用することで診断が遅れることはありません。むしろ適切な判断ができるでしょう2,3)。絞扼性腸閉塞、上腸間膜動脈塞栓症は、単純CTや造影CT検査で異常がなく問題なしと判断され、見逃される典型です。患者さんの訴えを重視し、対応しましょう。2)突然発症の疼痛は要注意!Sudden onsetの病歴はきわめて重要です。腹痛では大動脈解離、上腸間膜動脈閉塞症、腹部大動脈瘤切迫破裂などが代表的です。来院時にバイタルサインや痛みが安定しているようでも、発症様式が“突然”であった場合には、注意する必要があることはあらためて理解しておきましょう。大動脈解離や腹部大動脈瘤切迫破裂では、失神を主訴に来院することもあります。失神は瞬間的な意識消失発作でしたね(第13~15回を参照)。どちらの疾患も裂け止まっていると、バイタルサインも症状も落ち着いているものです。発症様式から具体的な疾患を想起し、意識して所見をとりにいきましょう。鑑別に挙げなければ、血圧の左右差を確認することもないですし、腹部の拍動、さらにはエコーで見るべきところを見忘れてしまいます。3)増強する疼痛は要注意!アセトアミノフェンの静注薬が使用可能となり、来院早期から鎮痛薬を使用することが多くなったのではないでしょうか。患者さんの痛みを早期に取り除くことは、望ましい対応ですが、1つ注意点があります。“鎮痛薬の使用は原則1回まで!”、これを意識しておきましょう。使いやすく投与時間が短い(15分)ため、繰り返し使用したくなりますが、一度使用し効果が乏しい場合には、その時点で“まずい”と判断し、対応する必要があります。もちろん、鎮痛薬使用前に評価は行いますが、同時に複数の患者を診ることが多いのが通常でしょうから、痛みは速やかにとりつつ、効果が乏しければ1時間様子をみるなどせず、次のアクションに移りましょう。絞扼性腸閉塞や上腸間膜動脈閉塞症では、痛みが持続し、増強していきます。時間が経てば誰でも判断可能ですが、その前の状態で拾い上げるためには、「経静脈的な鎮痛薬でも効果が乏しい」ということを意識しておくとよいでしょう。4)非典型的な経過は要注意!腹痛で見逃されやすい代表疾患の1つに虫垂炎があります。発症早期で疑いながらも診断へ至らないことも多いですが、胃腸炎と誤診されることも少なくありません。異所性妊娠も同様に胃腸炎と誤診されやすいことも合わせて覚えておいてください。これを防ぐのは意外と簡単です。胃腸炎の典型例を知ること、これだけでだいぶ違うでしょう。胃腸炎には満たすべき条件が3つ存在します。それが(1)嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり、(2)上から下の順に(1)の症状が出現、(3)摂取してからの時間経過が合致、です4)。虫垂炎は心窩部痛→嘔気・嘔吐→右下腹部痛が典型的です。異所性妊娠も腹痛の後に嘔吐を認めることが多いでしょう。その他、腸閉塞や急性膵炎、胆管炎や尿管結石などなど、意識すれば拾い上げられる疾患は多岐にわたります。(3)は中毒との鑑別に有用です。食べた物によって消化管の症状が生じるには最低でも30分、通常数時間のタイムラグが生じます。食事中に、または食べてすぐに嘔吐などの症状を認める場合には、中毒を疑い、混入物などに気を配ったほうがいいでしょう。5)Common is common!腹痛を訴える30代の女性が、顔面に蝶形紅斑様、四肢の関節痛の症状を認めたら何を考えるでしょうか。蝶形紅斑とくれば全身性エリテマトーデス(SLE)と考えがちですが、それ以上に頻度の高い疾患が存在します。それが伝染性紅斑、いわゆる「りんご病」です。疫学は非常に重要であり、それを無視してしまうと、診療は複雑化し、さらに患者は不安をあおられます。頻度の高い疾患の非典型的症状と、頻度の低い疾患の典型的症状は、どちらが遭遇する頻度が高いかといえば、一般的には前者です。今回の例でいえば、伝染性紅斑は成人に起こると、発熱、関節痛がメインに出て、小児で認められるようなレース状皮疹を認める頻度は下がります。子供の間で流行していると、そこから接触時間の長い母親や保育士さんへ感染するのです。それに対して、SLEは名前こそ有名ですが、救急外来でSLEの初発症状に出くわすことはまれです。頻度の高い疾患から考え、対応し、確定できれば、重篤な疾患もルールアウトできるのですから、きちんと“common disease”を理解しておくことは重要なのです。「お子さんの学校で、りんご病流行っていませんか?」「息子さん、最近りんご病にかかりませんでしたか?」と問診し、「YES」と回答があればその時点で診断確定でしょう。抗核抗体をとりあえず提出、膠原病の可能性を患者に伝えてしまうと、患者は不安で仕方なくなってしまうでしょう。腹痛患者に皮疹を認める場合には、網状皮斑(livedo)であれば、ショックと考え焦る必要があります。その他、腹痛に加え関節痛、紫斑を認めれば、IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)も考えましょう。6)病歴・身体診察・Vital signsは超重要!病歴(History)、身体診察(Physical)、Vital signs、これらは常に超重要です。Hi-Phy-Vi(ハイ・ファイ・バイ)を軽視し、検査を行うとまず見逃します。意識すべき病歴は前述のとおりであり、ここでは身体診察、Vital signsのポイントをコメントしておきましょう。(1)身体診察診察上、腹膜炎を示唆するカッチカチの腹部所見であれば、悩むことは少ないでしょう。それに対して、本症例のように腹部が軟らかい場合には判断を誤りがちです。漏れているのが消化液の場合(消化管穿孔など)には腹部がカッチカチとなりますが、血液の場合(腹部大動脈瘤切迫破裂や異所性妊娠)には軟らかいままです。腹部が軟らかいのに反跳痛を認める場合には、これらの疾患を積極的に疑い、エコーなど精査を迅速に進めましょう。(2)Vital signs呼吸数、意識にとくに注目しましょう。発熱がないから、頻脈でないから、血圧が保たれているからと、重症度を見誤ることがあります。内服薬の影響、糖尿病・アルコール多飲者・パーキンソン病などでは、自律神経障害の影響などによって、見た目の重症度がマスクされることがあります。呼吸数や意識状態に影響する薬剤を常時内服している人はまれであるため、頻呼吸を認める、意識障害を認める場合には“まずい”サインと認識し、精査を進めましょう。本症例の66歳の女性は、突然発症ではなかったものの、痛みの程度は強く、アセトアミノフェン投与後も症状は大きく変化しませんでした。単純CT検査では明らかな閉塞機転は見いだすことができず、対応に困って研修医から相談があった一例です。エコーでは、初診時に認めなかった少量の腹水を認め、その他腹痛を説明しうる所見が認められなかったため、来院後の経過から「絞扼性腸閉塞の疑い」として外科へコンサルトし緊急手術となりました。検査は以前と比較しオーダーしやすくなりました。しかしそのために、検査で異常を見いだせないと患者の訴えを無視してしまいがちです。Hi-Phy-Viに重きを置き、検査前確率を意識して適切な検査のオーダーと解釈を心掛けましょう。1)Soh CHW, et al. Medicina (Kaunas). 2019;55. pii:E457. doi:10.3390/medicina55080457.2)Ranji SR, et al. JAMA. 2006;296:1764-1774.3)坂本 壮. medicina.2019;56:1620-1623.4)坂本 壮. 見逃せない救急・見逃さない救急. プライマリ・ケア. 2019;4.(in press)

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後天性血栓性血小板減少性紫斑病の治療にcaplacizumabが有望/NEJM

 後天性血栓性血小板減少性紫斑病(aTTP)の治療において、caplacizumabはプラセボに比べ、迅速に血小板数を正常化し、再発率を抑制することが、英国・University College London HospitalsのMarie Scully氏らが行ったHERCULES試験で示された。aTTPでは、von Willebrand因子の切断酵素であるADAMTS13の免疫介在性の欠損により、von Willebrand因子マルチマーが血小板や微小血栓に無制限に粘着可能となり、その結果として血小板減少、溶血性貧血、組織虚血が引き起こされる。caplacizumabは、抗von Willebrand因子ヒト化二価単一可変領域免疫グロブリンフラグメントであり、von Willebrand因子マルチマーと血小板の相互作用を阻害するという。NEJM誌オンライン版2018年1月9日号掲載の報告。血漿交換中止を伴う血小板数の正常化を検討 本研究は、aTTP患者の治療におけるcaplacizumabの有用性を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2015年11月~2017年4月の期間に、世界92施設で145例が登録された(Ablynx社の助成による)。 被験者は、標準治療(血漿交換療法、グルココルチコイド)に加え、血漿交換療法中とその後30日間にcaplacizumab(初回は10mgを静脈内投与、その後は毎日1回皮下投与)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、血小板数の正常化(15万/mm3以上)までの期間(その後5日以内に血漿交換療法を中止できた場合)とした。副次アウトカムには、試験治療期間中のTTP関連死、TTP再発、血栓塞栓イベントの複合、フォローアップ期間を含む試験期間中のTTP再発、難治性TTP(治療開始4日目以降も血小板数が倍加せず、乳酸脱水素酵素が正常上限値を超えた状態)、臓器障害マーカー(乳酸脱水素酵素、心筋トロポニンI、血清クレアチニン)の正常化が含まれた。血小板数正常化の可能性が1.55倍に caplacizumab群に72例、プラセボ群には73例が割り付けられ、caplacizumab群の1例を除き1回以上の投与を受けた。全体で108例が試験を完遂した。平均年齢は46歳(範囲:18~79歳)で、69%が女性であった。 血小板数正常化までの期間中央値は、caplacizumab群が2.69日(95%信頼区間[CI]:1.89~2.83)と、プラセボ群の2.88日(2.68~3.56)に比べ有意に短く(p=0.01)、血小板数正常化の可能性はcaplacizumab群がプラセボ群の1.55倍(率比:1.55、1.09~2.19、p=0.01)であった。 試験治療期間中のTTP関連死、TTP再発、血栓塞栓イベントの複合の発生率は、caplacizumab群が12%(9例)であり、プラセボ群の49%(36例)よりも74%低下した(p<0.001)。試験期間中のTTP再発率は、caplacizumab群が12%(9例)と、プラセボ群の38%(28例)に比し67%低かった(p<0.001)。 難治性病変は、caplacizumab群では発現しなかったが、プラセボ群では4%(3例)に認められた(p=0.06)。臓器障害マーカーの正常化までの期間は、caplacizumab群がわずかに早かった(中央値、2.86日vs.3.36日)。また、caplacizumab群の患者は、プラセボ群に比べ血漿交換療法を要する日数(中央値、5.0日vs.7.0日)が短く、血漿量(中央値、18.1L vs.26.9L)が少なく、入院期間(中央値、9.0日vs.12.0日)が短かった。 最も頻度が高い有害事象は皮膚粘膜出血であり、caplacizumab群の65%、プラセボ群の48%にみられた。試験治療期間中にプラセボ群の3例が、治療期間終了後にcaplacizumab群の1例(脳虚血)が死亡し、いずれもTTPと関連した。 著者は、「caplacizumabによる血小板数の正常化は、おそらく本薬が微小血栓における血小板の消費を抑制するためと考えられる」としている。

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顕微鏡的多発血管炎〔MPA:microscopic polyangiitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)は、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性となる中小型血管炎である。欧米と比べ、わが国ではプロテイナーゼ3(proteinase3:PR3)ANCA陽性患者が少なく、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)陽性患者が多く、欧米よりも高齢患者が多いのが特徴である1,2)。多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis:GPA、旧ウェゲナー肉芽腫症)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA、旧チャーグ・ストラウス症候群)とともに、ANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)に分類される。■ 疫学平成28年度の指定難病受給者は9,610人であった。Fujimotoらは、AAV発症の地理的な相違を明らかにするために、日本と英国でのAAV罹患率の比較を行った。AAVとしては、100万人当たりの年間罹患率は、日本22.6、英国21.8で同等であったが、日本ではAAVの約80%をMPAが占める一方で、英国では6.5%のみであり、GPAが最も多く約65%であった3)。男女比は1:1~1:1.2とされている。■ 病因1)遺伝的背景日本人のMPAでは、HLA-DRB1*09:01陽性例が50%にみられ、健康対照群に比べて有意に多いことが報告されている1,4)。このHLA-DRB1*09:01は日本人の29%に認められるなどアジア系集団で高頻度に認められるが、欧州系集団やアフリカ系集団にはほとんど存在しない1,4,5)。このことが、日本でMPAやMPO-ANCA陽性例が多い遺伝的背景の1つと考えられる。さらにその後、DRB1*09:01とDQB1*03:03の間に強い連鎖不平衡が認められ、この両者がMPAと関連すること、逆に、DRB1*13:02はMPAとMPO-ANCA陽性血管炎の発症に対し抵抗性に関与している(MPO-ANCA陽性血管炎群に有意に減少している)ことが明らかとなった5,6)。2)血管炎発症のメカニズムBrinkmannらは、phorbol myristate acetate(PMA)で刺激された好中球が細胞死に至る際に、DNAを網状の構造にし、MPOやPR3などの抗菌タンパクやヒストンとともに放出する現象を見出し、その構造物を好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps:NETs)と呼んだ7,8)。NETsは細菌などを殺し、自然免疫に関与しているが、その後ANCA関連血管炎患者の糸球体の半月体の部分に存在することが確認された8,9)。Nakazawaらは、プロピルチオウラシル(抗甲状腺剤)添加により生成されたNETsが、NETsの分解酵素であるDNase Iで分解されにくいこと、さらにこれを投与したラットがMPO-ANCA陽性の細胞増殖性糸球体腎炎を発症することを報告した8,10)。さらに、MPO-ANCAを有するMPA患者のIgGは、全身性エリテマトーデス患者や健常者よりも強くNETsを誘導すること、NETs誘導の強さは疾患活動性やMPO-ANCAのMPOへの結合性と相関していること、MPA患者血清のDNase I活性が低下していることが報告された8,11)。これらをまとめ、岩崎らは、MPA患者はDNase I活性低下などNETsを分解しにくい素因があり、感染や薬剤(プロピルチオウラシル、ミノサイクリン、ヒドラジンなど)1)が加わり、NETsの分解障害が起こり、NETsの構成成分であるMPOに対する抗体(MPO-ANCA)が産生されること、さらにANCAがサイトカインや補体第2経路によりプライミングされた好中球表面のMPOに強固に結合し、Fcγ受容体を介してさらに好中球を活性化させてNETsを放出し、血管壁を壊死させるメカニズムを提唱している8)。■ 分類腎型、肺腎型、全身型に分類されるが、わが国では、肺病変のみの症例も多数認められる。■ 症状発熱、食思不振などの全身症状、紫斑などの皮膚症状、関節痛、間質性肺炎、急速進行性糸球体腎炎などを来す。わが国では、欧米に比べ間質性肺炎の合併頻度が高い12)。EGPAほど頻度は高くないが、神経障害も認められる。■ 予後初回治療時の寛解率は90%以上で、24ヵ月時点での生存率も80%以上である。わが国では高齢患者が多いため、感染症死が多く、治療では免疫抑制をどこまで強くかけるかというのが常に問題になる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見としては、炎症所見、血尿、蛋白尿、円柱尿、血清クレアチニン上昇、MPO-ANCA陽性などを認める。診断には、厚生労働省の診断基準(1998年)が使用される(表)。表 MPAの診断基準〈診断基準〉確実、疑い例を対象とする【主要項目】1) 主要症候(1)急速進行性糸球体腎炎(2)肺出血、もしくは間質性肺炎(3)腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など2) 主要組織所見細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤3) 主要検査所見(1)MPO-ANCA陽性(2)CRP陽性(3)蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇(4)胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎4) 判定(1)確実(definite)(a)主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性の例(b)主要症候の(1)および(2)を含め2 項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例(2)疑い(probable)(a)主要症候の3項目以上を満たす例(b)主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例5) 鑑別診断(1)結節性多発動脈炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)(4)川崎動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)【参考事項】1)主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。2)主要症候(1)、(2)は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。3)多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。4)治療を早期に中止すると、再発する例がある。5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。(吉田雅治ほか. 中・小型血管炎の臨床に関する小委員会報告.厚生省特定疾患免疫疾患調査研究班難治性血管炎分科会.平成10年度研究報告書.1999:239-246.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)わが国では厚生労働省の血管炎に関わる3研究班合同のAAV診療ガイドラインと13,14)、腎障害を伴うAAVについての厚生労働省難治性腎疾患研究班によるエビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドがあり15)、欧米では、英国リウマチ学会(BSR)によるAAV診療ガイドラインがある16,17)。■ 寛解導入療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでのMPAの治療アルゴリズムを図に示す。基本的には、ステロイド(GC)とシクロホスファミド(CY、[商品名:エンドキサン])の併用療法であるが、経口CYよりも静注CY(IVCY)が推奨されている。CYは年齢、腎機能などで減量を考慮する。欧米では、リツキシマブ(RTX、[同:リツキサン])がIVCYと同じポジションであるが、わが国では高齢患者が多いためにIVCYが推奨された。また、患者の状態によりメトトレキサート(MTX、[同:リウマトレックス])、ミコフェノール酸モフェチル(MMF、[同:セルセプト])、血漿交換なども推奨されている。GCの減量速度はAAVの再発に大きく関わっており、あまりに急速な減量は避けるべきである18)。図 MPA治療アルゴリズム(厚生労働省3班AAV診療ガイドライン)画像を拡大する*1:GC+IVCYがGC+POCYよりも優先される。*2:ANCA関連血管炎の治療に対して十分な知識・経験をもつ医師のもとで、RTXの使用が適切と判断される症例においては、GC+CYの代替として、GC+RTXを用いてもよい。*3:GC+IVCY/POCYがGC+RTXよりも優先される。*4:POCYではなくIVCYが用いられる場合がある。*5:AZA以外の薬剤として、RTX、MTX*、MMF*が選択肢となりうる。*:保険適用外■ 寛解維持療法厚生労働省3班のAAV診療ガイドラインでは、GC+アザチオプリン(AZA、[同:イムラン、アザニン])を推奨しており、そのほかの免疫抑制薬としてRTX、MTX、MMFが推奨されている。一方、難治性腎疾患研究班のRPGNガイドラインではRTXのかわりにミゾリビン(MZR、[同:ブレディニン])が推奨されている。やはりわが国のAAVは高齢者が多いこと、腎機能が低下するとMZRの血中濃度が上昇し、よい効果が得られることなどがその理由として考えられる。4 今後の展望補体C5aレセプターアンタゴニストのavacopan(CCX168)の研究、すでに関節リウマチで実績のあるIL-6レセプター抗体のトシリズマブ[同:アクテムラ]の本症への研究が進行中である。また、わが国では高齢患者が多いため、厚生労働省の研究班では、GC単独、あるいはGC+IVCYで、GCの適切な減量速度を確立するための研究を計画している。5 主たる診療科膠原病内科、リウマチ科、腎臓内科、呼吸器内科、皮膚科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 顕微鏡的多発血管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本循環器学会. 血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版). 2018;54-60.2)佐田憲映.ANCA関連血管炎 顕微鏡的多発血管炎.日本リウマチ財団 教育研修委員会編. リウマチ病学テキスト 改訂第2版. 診断と治療社;2016.p.265-267.3)Fujimoto S, et al. Rheumatology. 2011;50:1916-1920.4)Tsuchiya N, et al. J Rheumatol. 2003;30:1534-1540.5)川崎 綾.顕微鏡的多発血管炎(1)疫学・遺伝疫学.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.215-219.6)Kawasaki A, et al. PLoS ONE. 2016;11:e0154393.7)Brinkmann V, et al. Science. 2004;303:1532-1535.8)岩崎沙理ほか.小型血管炎(2)顕微鏡的多発血管炎の病理・病態.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―. 日本臨牀社;2018.p.220-225.9)Kessenbrock k, et al. Nat Med. 2009;15:623-625.10)Nakazawa D, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:3779-3787.11)Nakazawa D, et al. J Am Soc Nephrol. 2014;25:990-997.12)Sada KE, et al. Arthritis Res Ther. 2014;16:R101.13)有村義宏ほか 編. ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017. 診断と治療社;2017.14)Nagasaka K, et al. Mod Rheumatol. 2018 Sep 25.[Epub ahead of print]15)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 難治性腎疾患に関する調査研究班 編. エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2017. 東京医学社;2017.16)Ntatsaki E, et al. Rheumatology. 2014;53:2306-2309.17)駒形嘉紀.顕微鏡的多発血管炎(4)治療.有村義宏 監. 日本臨牀 増刊号 血管炎(第2版)―基礎と臨床のクロストーク―.日本臨牀社;2018.p.232-237.18)Hara A, et al. J Rheumatol.2018;45:521-528.公開履歴初回2018年12月25日

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マクロファージ免疫CP阻害薬、再発・難治性リンパ腫に有望/NEJM

 中悪性度および低悪性度のリンパ腫の治療において、マクロファージ免疫チェックポイント阻害薬Hu5F9-G4(以下、5F9)は、リツキシマブとの併用で有望な抗腫瘍活性をもたらし、臨床的に安全に投与できることが、米国と英国の共同研究で示された。米国・スタンフォード大学のRanjana Advani氏らが、NEJM誌2018年11月1日号で報告した。5F9は、マクロファージ活性化抗CD47抗体であり、腫瘍細胞の貪食を誘導する。CD47は、ほぼすべてのがんで過剰発現している抗貪食作用(“do not eat me[私を食べないで]”)シグナルであり、マクロファージなどの食細胞からの免疫回避を引き起こす。5F9は、リツキシマブと相乗的に作用してマクロファージが介在する抗体依存性の細胞貪食を増強し、B細胞非ホジキンリンパ腫細胞を除去するとされる。3+3デザインを用い3種の用量で漸増する第Ib相試験 研究グループは、再発または難治性の非ホジキンリンパ腫患者を対象に、5F9+リツキシマブの安全性と有効性を明らかにし、第II相試験の推奨用量の提示を目的とする第Ib相試験を行った(Forty Sevenと米国白血病・リンパ腫協会の助成による)。 対象は、CD20の発現がみられるB細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫[DLBCL]または濾胞性リンパ腫)で、再発または2ライン以上の前治療歴のある難治性の患者であった。全身状態(ECOG PS)は0~2とした。3+3デザインを用いて、3種の用量にそれぞれ最少3例を登録した。用量制限毒性の評価は投与開始から28日まで行った。 5F9は、全例に初回用量1mg/kg体重を静脈内投与し、1週間後からの維持用量を10、20、30mg/kg(週1回)と増量した。リツキシマブは、1サイクル目は第2週から毎週375mg/m2体表面積を静脈内投与し、2~6サイクル目は毎月1回投与した。推奨維持用量は30mg/kg、36%で完全奏効 2016年11月~2017年10月の期間に、再発・難治性のDLBCL患者15例と、濾胞性リンパ腫患者7例の合計22例が登録された。5F9の維持用量別の症例数は、10mg/kgが3例、20mg/kgが6例、30mg/kgが13例となった。 全体の年齢中央値は、59歳(範囲:44~82)、男性が12例(55%)で、21例(95%)がECOG PS 0/1、4例(18%)が自家幹細胞移植を受けていた。前治療数中央値は4(範囲:2~10)であり、21例(95%)がリツキシマブ抵抗性で、14例(64%)は直近の治療レジメンに抵抗性であった。 治療期間中央値は22週(範囲:1.7~70.7、治療中の患者を含む)で、22例全例が2剤の投与を受けた。1例が、治療開始から約2週時に有害事象(特発性血小板減少性紫斑病)により投与中止となり、有効性の評価ができなかったが、非奏効例として解析に含まれた。3例が死亡し、全死因死亡率は14%だった。 有害事象は、主としてGrade1または2であった。頻度の高い有害事象は、悪寒、頭痛、貧血、およびinfusion-related reactionsであった。貧血(予測された標的作用)は、5F9の初回投与と維持投与を調節することで軽減された。 用量制限副作用は3例(20mg/kg群の1例[Grade3の肺塞栓症]、30mg/kg群の2例[Grade4の好中球減少、Grade3の特発性血小板減少性紫斑病])に認められたが、最大耐用量には到達せず、第II相試験の5F9の推奨用量は30mg/kgとした。 5F9の初回用量1mg/kgと維持用量30mg/kgにより、循環血中の白血球と赤血球のCD47受容体占有率はほぼ100%となった。 11例(50%)で客観的奏効(完全奏効+部分奏効)が得られ、8例(36%)で完全奏効が達成された。客観的奏効率と完全奏効率は、DLBCL患者でそれぞれ40%と33%、濾胞性リンパ腫患者では71%と43%であった。奏効までの期間中央値は1.7ヵ月(範囲:1.6~6.6)で、フォローアップ期間中央値がDLBCL患者6.2ヵ月、濾胞性リンパ腫患者8.1ヵ月の時点で、奏効例の91%(10/11例)で奏効が持続しており、奏効期間中央値には未到達だった。 著者は、「新たなマクロファージ活性化抗CD47抗体は、リツキシマブとの併用で安全に投与が可能であり、持続的な完全奏効をもたらすことが示された」としている。現在、第II相試験が進行中だという。

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2017年度 総合内科専門医試験、直前対策ダイジェスト(後編)

【第1回】~【第6回】は こちら【第7回 消化器(消化管)】 全5問消化管領域で最も出題される可能性が高いのは、(1)相次ぐ新薬の上市、(2)胃がんガイドライン改訂に向けた動き、(3)消化器がんの化学療法、である。治療の進歩が著しい炎症性腸疾患、2016年にRome IV基準が発表された過敏性腸症候群と機能性胃腸症については、必ず押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)上部消化管疾患に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)食道粘膜傷害の内視鏡的重症度と自覚症状の間には相関を認める(b)食道アカラシアは高い非同期性収縮を認めることが多い(c)食道静脈瘤出血時にバソプレシン、テルリプレシン、オクトレオチドは有効であるが、ソマトスタチンは無効である(d)好酸球性胃腸炎の診断基準の1つに、「腹水が存在し腹水中に多数の好酸球が存在している」がある(e)ボノプラザンは、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌治療には保険適用となっていない例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第8回 消化器(肝胆膵)】 全5問肝臓の領域では、B型肝炎をはじめ、体質性黄疸、肝膿瘍、自己免疫性肝炎などのマイナー疾患からの出題も予想される。膵臓では嚢胞腫瘍、自己免疫性膵炎、膵がんの化学療法などがポイントとなる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)HBV感染に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)B型慢性肝炎の治療対象は、HBe抗原の陽性・陰性にかかわらずALT 31U/L以上かつHBV DNA 2,000IU/mL以上である(b)本邦におけるB型肝硬変は、代償性/非代償性肝硬変にかかわらずIFN治療が第1選択となる(c)HBV持続感染者に対する抗ウイルス療法の長期目標は、ALT持続正常化・HBe抗原陰性かつHBe抗体陽性・HBV DNA増加抑制の3項目である(d)テノホビルの長期投与では、腎機能障害・高リン血症・骨密度低下に注意する必要があり、定期的に腎機能と血清リンの測定を行うことが推奨される(e)テノホビルアラフェミナド(TAF)はテノホビル(TFV)の新規プロドラッグであり、テノホビルジソプロキシル(TDF)に比べ少ない用量で同等の高い抗ウイルス効果を示すが、TDFと比較して腎機能障害および骨密度低下を来しやすいと報告されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第9回 血液】 全7問血液領域は、認定内科医試験では出題比率が低いものの、総合内科専門医試験では高い傾向がある。本試験の対策としては、個々の薬剤名とその適応をしっかり覚えることがポイントとなる。頻出テーマは、鉄過剰症、悪性リンパ腫の治療前感染症スクリーニング、特発性血小板減少性紫斑病など。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)貧血に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)鉄欠乏性貧血では、生体内鉄制御を担う血中ヘプシジン増加を認めることが報告されている(b)鉄欠乏性貧血の原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関与している可能性が指摘されている(c)鉄欠乏性貧血の診断基準は(1)ヘモグロビン12g/dL未満(2)血清鉄30µg/dL未満(3)血清フェリチン12ng/mL未満である(d)温式自己免疫性溶血性貧血(温式AIHA)は、全例直接クームス試験陽性である(e)特発性温式AIHAの治療は、副腎皮質ステロイドを第1選択とするが、ステロイド無効の場合にはリツキシマブ(ヒト化抗CD20モノクローナル抗体)が保険適用となっている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第10回 神経】 全5問神経領域では、総合内科専門医試験特有のテーマとして、抗NMDA受容体抗体脳炎、多発性硬化症と神経脊髄炎との違い、筋強直性ジストロフィーがある。この3つのテーマは、毎年複数題出題されているので、確実に押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)末梢神経障害に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)膝蓋腱反射とアキレス腱反射の反射中枢は同じである(b)起床時に手首に力が入らず、垂れてしまう。これは睡眠中の尺骨神経麻痺が原因である(c)フローマンサイン陽性は、橈骨神経麻痺の診断に有用である(d)手根管症候群の診断に有用な所見として、ファレンテスト陽性・ティネル様サイン陽性がある(e)足を組んで寝ていたら、翌朝足首(足関節)と足の指(趾)が背屈できなくなり受診。診察所見で下垂足(drop foot)を認める。脛骨神経麻痺が原因である例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第11回 循環器】 全7問循環器領域では、心筋梗塞、心不全治療に加えて、心アミロイドーシス、心サルコイドーシス、大動脈炎症候群が、本試験における特徴的なテーマといえる。また、新しいデバイスが登場すると出題される傾向がある。今年要注意なのは、リードレスペースメーカー、最近適応拡大されたループレコーダーなど。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)心不全について正しいものはどれか?1つ選べ(a)NYHA分類I度は「軽度の身体活動の制限があるが、安静時には無症状」の状態である(b)NYHA分類II度はAHA/ACC心不全ステージBに相当する(c)クリニカルシナリオ(CS)は急性心不全患者の入院早期管理に用いられる指標で、CS4は右心不全、CS5は急性冠症候群に分類されている(d)NT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心筋細胞内のproBNPがBNPに分解される際に産生され、心不全診断の基準値はBNPと同じ値である(e)日本循環器学会/日本心不全学会のステートメント(心不全症例におけるASV適正使用に関するステートメント第2報)に、中枢型有意の睡眠時無呼吸を伴い、安定状態にある左室収縮機能低下に基づく心不全患者に対しては、ASVの導入・継続は禁忌ではないが、慎重を期する必要があると記載されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第12回 総合内科/救急】 全3問総合内科/救急の領域で確実に出題されるのは「意識レベル」。JCSとGCSについては、どちらも確実に解答できるようにしておきたい。また、JMECCに関する問題と脳死判定基準も出題のヤマとなると思われる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)救急・脳死に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)覚醒しているが、見当識障害を認めればJapan Coma Scale(JCS)は3とする(b)「痛み刺激で開眼・不適当な発語・指示には従えないが痛み刺激から逃避する」でGlasgow Coma Scale(GCS)は8点となる(c)病歴聴取で使用されるSAMPLE historyの「M」は「Meal(最終食事時間)」である(d)脳死判定基準の除外基準では、深昏睡および自発呼吸の消失が「低体温によるもの」「代謝/内分泌障害によるもの」とともに「急性薬物中毒によるもの」が含まれている(e)脳死判定基準の1つに「前庭反射の消失」があり、聴性脳幹誘発反応にて確認することとなっている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第7回~第12回の解答】第7回:(d)、第8回:(a)、第9回:(b)、第10回:(d)、第11回:(e)、第12回:(d)【第1回】~【第6回】は こちら

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2017年度認定内科医試験、直前対策ダイジェスト(前編)

【第1回 膠原病/アレルギー】 全13問膠原病/アレルギー領域は、アップデートが頻繁な分野でキャッチアップしていくのが大変だが、それだけに基本的なところで確実に得点することが重要となってくる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)これらの疾患とCoombsとGell分類の組み合わせで正しいものはどれか?1つ選べ(a)血清病 ― I型(b)クリオグロブリン血症 ― II型(c)特発性血小板減少性紫斑病 ― III型(d)アレルギー性接触皮膚炎 ― IV型(e)過敏性肺臓炎 ― I+IV型例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第2回 感染症】 全9問感染症領域については、時事問題や感染対策、予防に関する問題がよく出題される傾向がある。代表的な感染症に加え、新興・再興感染症の感染対策についてもしっかり押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)感染症について正しいものは次のうちどれか?1つ選べ(a)中東呼吸器症候群(MERS)は2類感染症であり、致死率は50%を超えるとされている(b)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は4類感染症に指定されており、マダニを媒介としヒト-ヒト感染の報告はない(c)デング熱は4類感染症に指定されており、前回と異なる血清型のデングウイルスに感染した場合、交差免疫により不顕性感染となることが多いと報告されている(d)ジカ熱は4類感染症に指定されており、デングウイルス同様ネッタイシマカやヒトスジシマカを媒介とし、ギラン・バレー症候群のリスクとなる(e)カルバぺネム耐性腸内細菌科細菌は5類全数把握疾患に指定されており、保菌者も届出が必要とされる例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第3回 呼吸器】 全10問呼吸器の分野については、レントゲンやCTなどの画像から診断を回答させる問題が増えている。アトラス等で疾患別の画像所見をしっかりと確認しておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)次の記載で正しいものはどれか?1つ選べ(a)成人の急性上気道炎の原因として最も多いものはRSウイルスである(b)Centor criteriaは次の通りである1)38℃以上の発熱、2)基礎疾患なし、3)圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、4)白苔を伴う扁桃腫脹で行う溶連菌感染スコアリング(c)Ludwig’s anginaは菌血症による感染性血栓性頸静脈炎のことである(d)レミエール症候群は、Fusobacterium necrophorumなど嫌気性菌によるものが多い(e)初診外来で白苔を認める急性化膿性扁桃腺炎患者にアモキシシリンで治療した例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第4回 腎臓】 全7問腎臓領域については、ネフローゼ症候群に関する出題が多く、細部まで問われる傾向がある。とくにネフローゼ症候群に関してはしっかりと押さえておきたいところである。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)急性腎不全(ARF)と急性腎障害(AKI)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)「急性腎障害のためのKDIGO診療ガイドライン」ではAKIの定義として、24時間以内に血清Cr値が0.3mg/dL以上上昇、尿量<0.5mL/kg/時の状態が12時間以上持続する、という項目がある(b)FENa(Na排泄率)2.0%は腎前性腎不全を考える(c)急性尿細管壊死では、多尿が1~2週間持続し、尿中Naは20mEq/L以下であることが多い(d)急性尿細管壊死は消化管出血を合併することが多く、貧血になりやすい(e)尿中好酸球は、薬剤性急性尿細管間質性腎炎で検出され、その診断に有用なバイオマーカーである例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第5回 内分泌】 全10問内分泌領域については、診断のための検査についての出題が多い。とくに甲状腺と副腎について問われることが多く、知識の整理が必要である。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)グレーブス病(バセドウ病)について正しいものはどれか?1つ選べ(a)バセドウ病に認めるMerseburg3徴は、甲状腺腫・眼球突出・限局性粘液水腫である(b)アミオダロン、インターフェロン製剤は、誘発因子として報告されている(c)甲状腺眼症を合併している患者の治療の第1選択は131I内用療法である(d)抗甲状腺薬にはチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)があり、妊娠・授乳中の患者はMMIの使用が推奨されている(e)131I内用療法の効果は早く、開始後1週間以内に治療効果を認める例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第6回 代謝】 全10問代謝領域については、治療薬について細部まで聞かれる傾向がある。メタボリックシンドロームとアディポカインは毎年出題されるので、しっかり押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)1型糖尿病について正しいものはどれか?1つ選べ(a)家族歴は2型糖尿病より1型糖尿病に多く認める(b)1型糖尿病の死因で最多は感染症によるものである(c)緩徐進行1型糖尿病は、できるかぎり経口糖尿病薬で治療を行い、インスリン導入を遅らせるべきである(d)劇症1型糖尿病は、膵島関連自己抗体陽性の小児に発症することが多い(e)劇症1型糖尿病は、血中膵外分泌酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)の上昇を認めることが多い例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【例題の解答】第1回:(d)、第2回:(d)、第3回:(d)、第4回:(d)、第5回:(b)、第6回:(e)

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自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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認定内科医試験完全対策 総合内科専門医ベーシック vol.4

第10回 血液 第11回 神経第12回 循環器 第13回 総合内科/救急(※正誤表) 日本内科学会の認定内科医試験を受験する先生方、必見です。出題基準ランクAの疾患を中心に各領域の予想問題を作成、出題意図と関連知識を解説していく“完全対策”DVDができました(全4巻)。講師は、若手育成に定評があり数々の資格試験を突破してきた、聖マリア病院の長門直先生。総合内科専門医試験を受ける先生方にとっては、基礎固め、総復習に最適。これを見れば、勉強するポイント、頻出のトピックがわかります!第10回 血液 治療のアップデートが頻繁な血液領域は、必ず出題されるところが決まっています。そこを落とさないようにすることが得点を上げるカギです。AMLとALLの分類・検査・治療の比較や血栓性血小板減少性紫斑病の5徴など、頻出のポイントをしっかり押さえて試験に臨んでください。第11回 神経神経領域では、似た症状を持つ疾患でも使う薬剤や検査が異なる場合がよくあり、出題のポイントになることが多いようです。また、試験に出題されそうな箇所をまとめた脳卒中治療ガイドライン2009と2015の改訂点についても、しっかり確認してください。第12回 循環器 各疾患の検査所見に関する出題が多い循環器領域。中でも、弁膜症、心筋症、狭心症、心筋梗塞などの代表的な心疾患については、しっかりと整理をしておく必要があります。必ず出題されるポイントを押さえて、試験に挑んでください。第13回 総合内科/救急 最終回の総合内科/救急は、出題数は少ないですが、とくに確率統計に関する計算は毎年のように出題されているので必ず得点できるようにしておきましょう。また、心肺蘇生ガイドライン2010から2015への変更点についてもよく確認しておいてください。

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