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新しい血糖コントロール目標値を発表! 第56回日本糖尿病学会年次集会を開催

5月16日より3日間、熊本市で開催された第56回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:荒木栄一氏/熊本大学大学院 生命科学研究部代謝内科学分野 教授)において、新しい血糖コントロールの目標値(以下「新目標値」と略す)が発表された。新目標値は、HbA1cに集約され、次の3段階とされる。HbA1c 8%未満→治療強化が困難な際の目標HbA1c 7%未満→合併症予防のための目標HbA1c 6%未満→血糖正常化を目指す際の目標図1 「血糖コントロール目標値」改訂図画像を拡大する図2 2型糖尿病治療の目標と指針画像を拡大する新しい評価分類の策定にあたっては、従来の5段階分類が複雑な目標設定であること、EBMの理念にそぐわない「不可」などの否定的な言葉が使われていること、「優」という呼称にはリスクを考慮せずにHbA1cを下げるべきとの誤解を生む恐れがあることなどを鑑み、学会内で検討が行われた。さらに、近年発表されたACCORD、ADVANCEなどの大規模臨床試験に基づき「低血糖を起こさない血糖管理」を考慮した内容も加味され、策定されたものである。その中には、新目標値を患者と医療者が共に目指す糖尿病治療の目標とすること、HbA1cの国際標準化との整合性、非専門医にも理解・活用しやすいようにできる限り簡素化することというコンセプトが込められている。新目標値は6月1日より運用開始となる。会長の荒木氏は「早期から治療を開始し、HbA1c値7%未満を目指してほしい」と期待を語った。DPP-4阻害薬投与時は、体重増加に注意「低血糖を起こさない血糖管理」といえば、DPP-4阻害薬がすでに欠かせない存在だ。本学会でも多くの使用経験が発表され、効果的な併用薬や症例像が明らかになった。「相性の良い併用薬」への関心も高い。シンポジウム14「インクレチン関連薬の長期展望」では、BG、α-GIとの併用がSU薬と比較して血糖改善効果が高いことなどが報告された。「レスポンダー/ノンレスポンダー」という観点では、シタグリプチンの2年間の追跡調査から血糖コントロール不良群で体重が増加していたことが明らかになった。DPP-4阻害薬の治療効果を得るには、体重増加を来さないことが重要であり、体重増加が認められた際には、速やかな食事指導が有効といえそうだ。DPP-4阻害薬+インスリンで、一定の治療効果同様に、DPP-4阻害薬とインスリンの併用に関する検討結果も発表され、一定の治療効果が報告された。強化インスリン療法、混合製剤2回注射、BOT(Basal Oral Therapy)のいずれのインスリンレジメンにおいても、DPP-4阻害薬であるシタグリプチンの上乗せによりHbA1c値低下効果やCPI改善効果が高まるとの報告も挙がった。ただし、DPP-4 阻害薬がどのインスリンレジメンと相性が良いかに関してはさらなる検討が必要とされた。インスリンからの切り替えカットオフ値は?また、インスリンからGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)への切り替え試験の結果から、効果不十分な場合の主な原因として内因性インスリン分泌能低下が推測されることが明らかになった。同試験においてデルタC-ペプチド値 1.34ng/mLがカットオフ値として算出されており、今後も継続した検討が期待される。なお、会期中にGLP-1受容体作動薬のエキセナチド(同:バイエッタ)の週1回製剤「ビデュリオン」が発売となった。代表的な副作用である「嘔気・嘔吐」の発現率はバイエッタと比べて少ないとの報告も挙がっており、週1回投与によるアドヒアランス改善とともに臨床での活用が期待される。新薬も期待!SGLT2阻害薬、GPR40作動薬、GK活性化薬このほか、新規作用機序をもった薬剤も次々と登場予定だ。シンポジウム2「今後期待される新規糖尿病治療薬」においても複数の新薬が取り上げられた。原尿からのブドウ糖再吸収を減らし、ブドウ糖を尿から排泄させる、「SGLT2選択的阻害薬」は、国内申請中のイプラグリフロジン(アステラス製薬/寿製薬)、ルセオグリフロジン(大正富山)を筆頭に6品目が後期開発段階にある。その後に続く薬剤としてGPR40作動薬にも注目が集まる。G蛋白質共役型受容体(GPCR)の一つであるGPR40に作用し、グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促す特性をもつ薬剤である。GPR40作動薬は低血糖の誘発リスクが低いインスリン分泌促進薬として期待されており、現在開発中の薬剤にTAK-875(武田)がある。そのほか、膵β細胞でのインスリン分泌能増強作用と肝での糖利用亢進作用を有するGK(グルコキナーゼ)活性化薬も研究が進んでいる。編集後記インクレチン関連薬の発売、ACCORDの結果などを経て、「低血糖を来さない糖尿病治療」の重要性は臨床現場でも一般化した。今回発表されたHbA1cの新目標値も、この考えに基づいている。すでに、血糖値はひたすら下げるものではなくなった。今後は、患者さん一人ひとりに合った治療目標を設定し、薬剤を効果的に使いながら血糖をコントロールしていく必要がある。会長の荒木氏は、「あなたとあなたの大切な人のために~Keep your A1c below 7%~」を合言葉に糖尿病の予防と治療の向上に取り組む、とする「熊本宣言2013」を発表した。われわれも、医療情報メディアの一端を担う者として、最新かつ適切な情報伝達を通じ、糖尿病治療の発展に貢献していくことをあらためて宣言したい。(ケアネット 佐藤 寿美/稲川 進)

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シタグリプチンの安全性評価-入院および死亡のリスクを検討(コメンテーター:吉岡 成人 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(100)より-

2型糖尿病は、膵β細胞からのインスリン分泌の低下と、末梢組織におけるインスリン抵抗性の増大の双方の病態によってもたらされる疾患である。日本人の2型糖尿病にあっては、食事や運動などの生活習慣の改善によってインスリン抵抗性は改善するものの、インスリン分泌は改善しないことが知られている。そのため、糖尿病の薬物治療においては、病態の進展とともにタイミングよくインスリン分泌促進系の薬剤を併用する必要があることが少なくない。 インスリン分泌薬として広く用いられているスルホニル尿素薬(SU薬)は、膵β細胞のK-ATPチャネルを刺激してインスリン分泌を持続的に促す薬剤であり、その副作用としての「低血糖」が常に問題となる。そのため、単剤では低血糖をひきおこすことなく血糖値に応じてインスリン分泌を促進するインクレチン薬として、DPP-4阻害薬が発売以来おおくの糖尿病患者に用いられている。 この論文は、DPP-4阻害薬として最も広く用いられているシタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)の安全性について、地域住民ベースの後ろ向きコホート研究で検討した成績である。米国における医療保険申請に関連した商業的なデータベースを用い、2004年から2009年の間に新規に経口糖尿病治療薬の投与が開始された2型糖尿病患者を抽出して、死亡、医療保険の終了となった場合はそれまでの期間、それ以外の場合は2010年12月まで追跡をしている。 解析の対象となったのは72,738人、平均年齢52歳、男性54%、虚血性心疾患の既往は9%、糖尿病に関連した合併症の併発率は9%であった。シタグリプチンの投与患者は8,032人(11%)で、平均年齢52歳、男性57%、虚血性心疾患の既往は11%、糖尿病に関連した合併症の併発率は10%であった。そのうち、7,293人(シタグリプチン投与患者の91%)は他の経口薬の追加治療としてシタグリプチンが用いられていた。 すべての原因に起因する入院および死亡をエンドポイントとしてCox比例ハザードモデルで解析した結果、シタグリプチン使用者の入院および死亡率はシタグリプチン非使用者と同等であった(調整ハザード比0.98、95%信頼区間0.91~1.06)と報告されている。虚血性心疾患の既往を有する患者でも調整ハザード比1.10、95%信頼区間0.94~1.28、推定GFR 60mL/分未満の腎機能低下患者においても調整ハザード比1.11、95%信頼区間0.88~1.41であり、シタグリプチン投与によって入院や死亡のリスクは増大しないと結論づけている。 本論文はシタグリプチンの安全性を評価するものであるが、DPP-4阻害薬の安全性に関しては、シタグリプチンないしはエキセナチドを投与した脳死ドナー8例の膵病理所見において3例にグルカゴンの発現を認める微小腺腫、神経内分泌腫瘍が認められたとの報告もあり(Butler AE et al. Diabetes. 2013 Mar 22.)、今後も慎重な姿勢で見守る必要があると考えられる。

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リハビリテーション中の転倒事故で死亡したケース

リハビリテーション科最終判決平成14年6月28日 東京地方裁判所 平成12年(ワ)第3569号 損害賠償請求事件概要脳梗塞によるてんかん発作を起こして入院し、リハビリテーションを行っていた63歳男性。場所についての見当識障害がみられたが、食事は自力摂取し、病院スタッフとのコミュニケーションは良好であった。ところが椅子坐位姿勢の訓練中、看護師が目を離したすきに立ち上がろうとして後方へ転倒して急性硬膜下血腫を受傷。緊急開頭血腫除去手術が行われたが、3日後に死亡した。詳細な経過患者情報既往症として糖尿病(インスリン療法中)、糖尿病性網膜症による高度の視力障害、陳旧性脳梗塞などのある63歳男性経過1997年1月から某大学病院に通院開始。1998年9月14日自らが購入したドイツ製の脳梗塞治療薬を服用した後、顔面蒼白、嘔吐、痙攣、左半身麻痺などが出現。9月15日00:13救急車で大学病院に搬送。意識レベルはジャパンコーマスケール(JCS)で300。血圧232/120mmHg、脈拍120、顔面、下腿の浮腫著明。鎮静処置後に気管内挿管し、頭部CTスキャンでは右後頭葉の陳旧性脳梗塞、年齢に比べ高度な脳萎縮を認めた。02:00その後徐々に意識レベルは上昇し(JCS:3)抜管したが、拘禁症候群のためと思われる「夜間せん妄」、「ごきぶりがいる」などの幻覚症状、意味不明の言動、暴言、意識混濁状態、覚醒不良などがあり、活動性の上昇がなかなかみられなかった。9月19日ベッド上ギャッジ・アップ開始。9月20日椅子坐位姿勢によるリハビリテーション開始。場所についての見当識障害がみられたものの、意識レベルはJCS 1~2。「あいさつはしっかりとね、しますよ。今日は天気いいね」という会話あり。看護記録によれば、21:00頃覚醒す。その後不明言動きかれ、失見当識あり夜間時に覚醒、朝方に入眠する。意味不明なことをいう時もある朝方入眠したのは、低血糖のためか?BSコントロールつかず要注意ES自力摂取可も手元おぼつかないかんじあり。呂律回らないような、もぐもぐした口調。イスに移る時めまいあるも、ほぼ自力で移動可ES時、自力摂取せず、食べていてもそしゃくをやめてしまう。ボオーッとしてしまう。左側に倒れてしまうため、途中でベッドへ戻す時々ボーッとするのは、てんかんか?「ここはどこだっけ」会話成立するも失見当識ありES取りこぼし多く、ほとんど介助にて摂取す9月21日09:00全身清拭後しばらくベッド上ギャッジ・アップ。10:30ベッド上姿勢保持のリハビリテーション開始。場所についての見当識障害あり「俺は息子がいるんだ。でもね、ずっと会っていないんだ」「家のトイレ新しいんだよ。新しいトイレになってから1週間だから、早くそれを使いたいなあ。まだ駄目なの?仕方ないねえ。今家じゃないの?そう。病院なの。じゃあ仕方ないねえ」11:00担当医師の回診、前日よりも姿勢保持の時間を延ばし、食事も椅子坐位姿勢でとるよう指示。ベッドから下ろしてリハビリ用の椅子(パラマウント社製:鉄パイプ製の脚、肘置きのついた折り畳み式、背もたれの高さは比較的低い)に座らせた。その前に長テーブルを置いて挟むように固定し、テーブルの脚には左右各5kgの砂嚢をおいた。12:00看護師は「食事を取ってくるので動かないでね」との声かけに頷いたことを確認し、数メートル先の配膳車から食事を取ってきた。準備された食事は自力でほぼ全部摂取。食事終了後、看護師は患者に動かないよう声をかけ、数メートル先の配膳車に下膳。12:30食後の服薬および歯磨き。このときも看護師は「歯磨きの用意をしてくるから動かないでね」、「薬のお水を持ってくるから動かないでね」と声をかけ、患者の顔や表情を観察して、頷いたり、「大丈夫」などと答えたりするのを確認したうえでその場を離れた。13:00椅子坐位での姿勢保持リハビリが約2時間経過。「その姿勢で辛くないですか」との問いに患者は「大丈夫」と答えた。13:10午後の検査予定をナース・ステーションで確認するため、「動かないようにしてね」と声をかけ、廊下を隔て斜め向かい、数メートル先のナース・ステーションへ向かった。その直後、背後でガタンという音がし、患者は床に仰向けで後ろ側に転倒。ただちに看護師が駆けつけると、頭をさすりながらはっきりした口調で「頭打っちゃった」と返答。ところが意識レベルは徐々に低下、頭部CTスキャンで急性硬膜下血腫と診断し、緊急開頭血腫除去術を施行。9月24日20:53死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.予見可能性坐位保持リハビリテーションはまだ2日目であり、長時間のリハビリテーションは患者にとって負担になることが予見できた。さらに場所についての見当識障害があるため、リハビリテーション中に椅子から立ち上がるなどの危険行動を起こして転倒する可能性は予見できた2.結果回避義務違反病院側は下記のうちのいずれかの措置をとれば転倒を回避できた(1)リハビリテーション中は看護師が終始付き添う(2)看護師が付添いを中断する際、リハビリテーションを中断する(3)長時間の坐位保持のリハビリテーションを回避する(4)車椅子や背丈の高い背もたれ付きの椅子を利用する、あるいは壁に近接して椅子を置くなど、椅子の後方に転倒しないための措置をとる(5)リハビリテーション中に立ち上がれないように、身体を椅子にベルトなどで固定する病院側(被告)の主張事故当時、患者は担当看護師と十分なコミュニケーションがとれており、「動かないようにしてね」という声かけにも頷いて看護師のいうことを十分理解し、その指示に従った行動を取ることができた。そして、少なくとも、担当看護師がナース・ステーションに午後の検査予定を確認しにいき戻ってくるまでの間、椅子坐位姿勢を保持するのに十分な状態であった。当時みられた見当識障害は場所についてのみであり、この見当識障害と立ち上がる動作をすることとは関係はない。したがって本件事故は予測不可能なものであり、病院側には過失はない。裁判所の判断1. 予見可能性事故当時、少なくとも看護師に挟まれた状態では自分で立っていることが可能であったため、自ら立ち上がり、または立ち上がろうとする運動機能を有していたことが認められる。そして、看護師の指示に対して頷くなどの行動をとったとしても、場所的見当識障害などが原因で指示の内容を理解せず、あるいはいったん理解しても失念して、立ち上がろうとするなどの行動をとること、その際に体のバランスを失って転倒するような事故が生じる可能性があることは、担当医師は予見可能であった。2. 結果回避義務違反転倒による受傷の可能性を予見し得たのであるから、担当医師ないし看護師は、テーブルを設置して前方への転倒を防ぐ方策だけではなく、椅子の後ろに壁を近接させたり、付添いを中断する時は椅子から立ち上がれないように身体を固定したり、転倒を防止するために常時看護師が付き添うなどの通常取り得る措置によって、転倒防止を図ることが可能であった(現に5kgの砂嚢2個を脚に乗せたテーブルを設置して前方への転倒防止策を講じていながら後方への転倒防止策は欠如していた)ので、医療行為を行う上で過失、債務不履行があった。2,949万の請求に対し、1,590万円の支払命令考察病院内の転倒事故はすべて医療過誤?今回の患者は、インスリンを使用するほどの糖尿病に加えて、糖尿病性網膜症による視力障害も高度であり、以前から脳梗塞を起こしていた比較的重症のケースです。そして、医師の許可なく服用したドイツ製の治療薬によって、顔面蒼白、嘔吐、左半身麻痺、てんかん発作を発症し、大学病院に緊急入院となりました。幸いにも発作はすぐに沈静化し、担当医師や看護師は何とか早く日常生活動作が自立するように、離床に向けた積極的なリハビリテーションを行ないました。このような中で起きたリハビリ用椅子からの転倒事故です。その直前の状況は、「ここはどこだっけ」といった場所に関する見当識障害はあったものの、担当医師や看護師とはスムーズに会話し、食事も自力で全量摂取していました。はたして、このような患者を担当した場合に、四六時中看護師が付き添って看視するのが一般的でしょうか。ましてや、看護師が離れる時は患者が転倒しないように椅子に縛り付けるのでしょうか?もし今回の転倒前にもしばしば立ち上がろうとしたり、病院スタッフの指示をきちんと守ることができず事故が心配される患者の場合には、上記のような配慮をするのが当然だと思います。しかし、今回の患者は、とてもそのような危険が迫っていたとはいえなかったと思います。ところが、判決では「場所に関する見当識障害」があったことを重要視し、この患者の転倒事故は予見可能である、そして、予見可能であるのなら転倒防止のための方策を講じなければならない、という単純な考え方により、100%担当医師の責任と判断しました。実際に転倒現場に立ち会わなかった医師の責任が問われているのですから、きわめて厳しい判決であると思いますし、このような考え方が標準とされるならば、軽度の認知症の患者はすべて椅子やベッドに縛り付けなければならない、などという極論にまで発展してしまうと思います。最近では、高齢者ケアにかかわるすべてのスタッフに「身体拘束ゼロ作戦」という厚生労働省の指導が行われていて、身体拘束は、「事故防止の対策を尽くしたうえでなお必要となるような場合、すなわち切迫性、非代替性、一時性の三つの要件を満たし、「緊急やむを得ない場合」のみに許容される」としています。確かに、身体拘束を減らすことは、患者の身体的弊害(関節拘縮や褥瘡など)、精神的弊害(認知障害や譫妄)、社会的弊害をなくすことにつながります。ところが実際の医療現場で、このような比較的軽症の患者に対し一時的にせよ(看護師が目を離す数秒~数十秒)身体拘束をしなかったことを問題視されると、それでなくても多忙な日常業務に大きな支障を来たすようになると思います。ただ法的な問題としては、「利用者のアセスメントに始まるケアのマネジメント過程において、身体拘束以外の事故発生防止のための対策を尽くしたか否かが重要」と判断されます。つまり、入院患者の「転倒」に対してどの程度の配慮を行っていたのか、という点が問われることになります。その意味では、患者側が提起した、(1)リハビリテーション中は看護師が終始付き添う(2)看護師が付添いを中断する際、リハビリテーションを中断する(3)長時間の坐位保持のリハビリテーションを回避する(4)車椅子や背丈の高い背もたれ付きの椅子を利用する、あるいは壁に近接して椅子を置くなど、椅子の後方に転倒しないための措置をとる(5)リハビリテーション中に立ち上がれないように、身体を椅子にベルトなどで固定するという主張も(若干の行き過ぎの感は否めませんが)抗弁しがたい内容になると思います。事故後の対応そのような考え方をしてもなお、このケースは不可抗力という側面が強いのではないかという印象を持ちます。今回事故が起きたのは大学病院であり、それなりに看護計画もしっかりしていたと思いますし、これが一般病院であればなおさら目の行き届かないケースがあり、事故発生のリスクはかなり高いと思います。そして、今回のケースが院内転倒事故に対する標準的な裁判所の判断になりますので、今後転倒事故で医事紛争にまで発展すると、ほとんどのケースで病院側の過失が認められることになるでしょう。とはいうものの、同様の転倒事故で裁判にまでいたらずに解決できるケースもあり、やはり事故前の対策づくりと同様に、事故後の対応がきわめて重要な意味をもちます。まずは入院時に患者および家族を教育し理解を得ることが肝心であり、転倒が少しでも心配されるケースにはあらかじめ家族にその旨を告知し、病院側でも転倒の可能性を念頭に置いた対応を行うことが望まれます。と同時に、高齢者を多く扱う施設では賠責保険を担当する損害保険会社との連携も重要でしょう。たとえば、小さな子供を扱う保育園や幼稚園では、子供同士がぶつかったり転倒したりなどといった事故が頻繁に発生します。その多くがかすり傷程度で済むと思いますが、中には重度の傷害を負って病院に入院となるケースもあります。そのような場合、保護者から必ずといって良いほど園の管理責任を問うクレームがきますが、保母さんにそこまで完璧な対応を求めるのは困難ではないかと思います。そこで施設によっては、治療費や慰謝料を「傷害保険」でまかなう契約を保険会社と交わして事故に備えるとともに、場合によってはその保険料を家族と折半するなどのやり方もあると思います。このような方法をそのまま病院に応用できるかどうかは難しい面もありますが、結局のところ最終的な解決は「金銭」に委ねられるわけですから、「医療過誤」ではなく不慮の傷害事故として解決する方が、無用なトラブルを避ける意味でも重要ではないかと思います。リハビリテーション科

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(91)〕 IL-1の阻害は1型糖尿病患者のβ細胞機能の低下を遅らせることができるか?

この研究は、発症して間もない1型糖尿病における免疫学的機序によるβ細胞の破壊を、IL-1を阻害する2つの薬剤で防止できるかどうかを、プラセボを用いたRCT研究で検討したものである。 1つはヒト抗IL-1モノクローナル抗体のカナキヌマブ(canakinumab)の1ヵ月毎、12ヵ月の皮下注射であり、もう1つはIL-1拮抗薬であるアナキンラ(anakinra)の9ヵ月間、毎日の注射である。 いずれも、食事負荷によるインスリン反応で評価したβ細胞機能の減少を抑制することはできなかった。アナキンラの方はプラセボと比べて注射部位の皮膚反応の増加が認められている。 1型糖尿病患者は、病気の発症後もβ細胞機能、すなわちインスリン分泌が減少し、頻回のインスリン注射やインスリンポンプ治療を行っても、最終的には枯渇状態になることが多い。インスリンが枯渇すると、高血糖と低血糖を繰り返し、血糖変動が大きくなり、血糖コントロールが困難になることが多く、合併症もより起こりやすくなる。このβ細胞の破壊と機能の減少にIL-1が関与していることが考えられている。IL-1は高血糖の時に放出され、直接にインスリンの合成、放出を阻害し、β細胞のアポトーシスを誘導する。 この1型糖尿病患のβ細胞機能の減少を、抗IL-1抗体でも、IL-1拮抗薬でも防ぐことができなかったことは、β細胞の破壊の機序がIL-1などのinnate immunityだけではなく、もっと複雑であることを示していると考えられる。この研究はネガティブな結果であるが、次に進むべき2つのステップを示してくれる重要な論文である。 1つはもっと早い段階、1型糖尿病が臨床的に発症する以前、自己抗体のみが陽性の段階でIL-1阻害の治療を試みる必要があることである。もう1つは抗CD-3抗体やT細胞選択的共刺激調整薬のabetaceptが1型糖尿病患者のインスリン分泌低下を遅延させたという報告や、動物実験では抗CD-3抗体とIL-1阻害の併用により糖尿病の寛解が得られたという報告より、抗CD-3抗体と抗IL-1抗体の併用を試みる価値があることである。 2型糖尿病患者はアナキンラを投与すると血糖が改善し、インスリン分泌が増加し、β細胞機能が改善することが報告されている。したがって、1型糖尿病におけるβ細胞機能の低下には、2型糖尿病とは異なり、もっと複雑で重篤な機序が関与してことがわかる。また、最近は1型糖尿病も、劇症1型糖尿病、緩徐進行1型糖尿病とヘテロであることがわかっている。したがって、それらの1型糖尿病の発症機序も異なっている可能性があり、将来はそれぞれ異なった免疫療法が必要となるのかもしれない。

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非定型抗精神病薬治療、忍容性の差を検証

 英国・UCLスクール・オブ・ファーマシーのNoor B. Almandil氏らは、小児と青年期若者の非定型抗精神病薬治療による体重増加とその他の代謝への影響について、システマティックレビューとメタ解析を行った。解析に組み込まれたのは、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾールの3剤であった。Pediatric Drugs誌2013年4月15日号の掲載報告。 本解析では、体重増加への影響を主要目的とし、その他の代謝への影響を副次目的とした。EMBASE、PubMed、BIOSIS、International Pharmaceutical Abstractsなどのデータソース、および特定された試験の参考文献リストも対象として文献の検索を行った。適格としたのは、二重盲検無作為化対照試験であり、小児および若者(18歳以下)における非定型抗精神病薬使用と、代謝への有害作用(体重増加、脂質、グルコース、プロラクチン値異常)との関連を調べた試験とした。有害作用の検討は、主要エンドポイントあるいは副次エンドポイントであるかを問わなかった。 主な結果は以下のとおり。・プラセボと各試験薬を比較した、21試験・被験者2,455例が解析に組み込まれた。リスペリドンとの比較は14試験・1,331例、オランザピンは3試験・276例、アリピプラゾールは4試験・848例であった。・解析の結果、プラセボと比較して、各試験薬の体重増加の平均値は、オランザピン3.45kg(95%CI:2.93~3.98)、リスペリドン1.77kg(同:1.35~2.20)、アリピプラゾール0.94kg(同:0.65~1.24)であった。・その他代謝については、8試験において、リスペリドン治療群におけるプロラクチン値の統計的に有意な上昇が報告されていた。・また、2試験において、オランザピン治療群のグルコース、総コレステロール、プロラクチン値の統計的に有意な上昇が報告されていた。・一方でアリピプラゾール群について、プロラクチン値の統計的に有意な減少が3試験で報告されていた。・脂質、グルコース、プロラクチン値の変化については、メタ解析を行うにはデータが非常に限定的であった。・以上から、3剤とも体重増加との関連が統計学的に有意であること、最も体重増加が大きいのはオランザピンであり、アリピプラゾールはわずかであった。副次アウトカムについては、比較可能な複数試験は特定されたが、データはメタ解析の実施および確定的な結論を導き出すにはあまりにも不十分であった。関連医療ニュース ・薬剤誘発性高プロラクチン血症への対処は? ・第二世代抗精神病薬によるインスリン分泌障害の独立した予測因子は・・・ ・第二世代抗精神病薬、QT延長に及ぼす影響:新潟大学

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ビューティフルマインド【統合失調症】

ジョン・ナッシュ―統合失調症のノーベル経済学賞受賞者私たちは、統合失調症の人に接する時、つい身構えてしまうことはありませんか?「頭がおかしい」「何をするか分からない」という先入観にとらわれていることはありませんか?確かに、かつて「精神分裂病」と言われ、治療が難しい時代には、暗い過去がありました。しかし、現在、薬物療法の大きな進歩により、状況は変わってきており、将来的な見通しは明るくなってきていると言えます。今回は、私たちが統合失調症の人たちのことをもっとよく知るために、映画「ビューティフルマインド」を取り上げます。主人公の天才数学者ジョン・ナッシュは、統合失調症を発症しますが、家族や友人の支えによって回復し、そして、晩年には、かつての功績が認められ、ノーベル経済学賞(1994年)を受賞するという実話に基づいたストーリーです。統合失調症の世界が主人公の視点で描かれているため、この病気のつらさや支えられるありがたさが、見ている私たちに生々しく伝わってきます。そこから、私たちが統合失調症の人を目の前にして、どう寄り添っていくことができるか気付かされます。さらには、統合失調症を詳しく知ることを通して、「なぜ統合失調症という病気が存在するのか?」という文化人類学的な謎解きに、みなさんといっしょに迫っていきたいと思います。統合失調型パーソナリティ―奇妙で神秘主義的な性格時代は、第二次世界大戦直後。主人公のナッシュがプリンストン大学に入学した時から、ストーリーは始まります。野外パーティで、ナッシュは、独りでグラスを光にかざして、その分光を目の前の初対面のクラスメートのネクタイに重ね合わして、突拍子もなく「君のネクタイの趣味の悪さを数学的に説明できそうだ」と言い放ちます。関係性やパターンを見抜くという彼ならでは天才的なひらめきが描かれたワンシーンです。また、「全てを支配する真理、真に独創的なアイデアを見つけたい」という発言からは、彼の直感的で神秘主義的な一面が見えます。しかし、同時に、周りのクラスメートたちの目には、発言も行動もあまりにも独特すぎて、風変わりで奇妙に映っています。その後もナッシュは、授業にほとんど出席せず、友達付き合いも悪く、恋人もつくらず、部屋にこもって独学を続けます。マイペースなだけに、非社交的で非社会的であることが伺えます。彼は自ら打ち明けます。「小学生の時に『脳みそは2倍だが、心は半分』と担任教師から言われた」と。彼は、自分が無感情で冷淡な一面があることをよく分かっており、孤立していることを好んでいます。周りも彼を数学の天才として一目置いています。このような、奇妙で神秘主義的な性格(統合失調型パーソナリティ)は、統合失調症を発症する前のくすぶった状態の性格(病前性格)として見受けられることがよくあります。そして、この特徴は、同時に、ミステリアスな魅力を醸し出すこともあります。これが、後に妻となるアリシアのハートを射止めたとも言えそうです。つまり、ナッシュの性格には、以下(表1)のような二面性があると言えます。困った面良い面「無感情」「冷淡さ」「孤立」「非社交性」「非社会性」「奇妙」「独りよがり」「エキセントリック」「ミステリアス」「孤高」「マイペース」「神秘主義」「独特」「独創性」「創造性」「直感」「ひらめき」幻覚妄想―真に迫る生々しい世界ナッシュは、論文で功績をつくり、卒業後は、エリートとして政府機関の研究所で、暗号解読などの極秘任務に就きます。この頃から、徐々に、彼の周りでは、奇妙なことが起こり始めます。アリシアとのデートでも、怪しげな男たちに監視され、国際スパイ組織の接触があり、不特定の雑誌の記事に隠された暗号の解読の極秘任務を本業とは別に受けるようになります。その後、命を狙われ、カーチェイスの末に、銃撃戦があり、敵の車は川に沈んでしまうというエピソードもあります。極秘任務だけに、彼は妻のアリシアに打ち明けることができず、妻にとっては、彼の言動はますます奇妙で突飛になっていきます。見ている私たちは、主人公はとんでもない事件に巻き込まれたとハラハラし、アリシアに状況がうまく伝わらないもどかしさにヤキモキしてしまいます。しかし、やがて、精神科医と名乗る男の登場により、ナッシュが強制入院してから、事態は急展開します。実は、彼が体験していた様々な奇妙な出来事は、全て彼の幻覚や妄想の産物だったのでした。幻覚とは、見えないものが見えて(幻視)、聞こえないものが聞こえること(幻聴)です。妄想とは、理屈に合わないこと(不合理)をかたくなに思い込むことです。実際に、膨大な雑誌の文字と隠されたわずかな暗号を関係付けることはあまりに不合理です(関係妄想)。また、ロシアのスパイ組織の陰謀により、理屈に合わない身の危険を感じることです(被害妄想)。ちなみに、実際の統合失調症の症状として幻聴はよくみられますが、幻視はあまりみられません。この映画で幻視の症状が描かれているのは、やはり、ナッシュの視点に立って、彼が感じている真に迫る生々しい世界を私たちに伝えたいという映画製作者の意図があったからではないかと思います。だからこそ、見ている私たちも彼といっしょに、「事件」に巻き込まれる恐怖を味わうことができました。自傷他害行為―幻覚妄想が現実を乗っ取ってしまうナッシュの入院後、画面の視点はナッシュからアリシアに移っていきます。精神科医は彼女に「彼は現実を見失っている」と説明し、ナッシュの精神状態が徐々に明らかになっていきます。アリシアは、ナッシュが幻覚妄想に陥っている証拠を探し出し、突き付けます。それは、すでにスパイ組織に行き渡っているはずの暗号解読入りの封筒の束です。ナッシュが思い込んでいた「秘密」のポストに未開封のままで貯まっていたのでした。しかし、彼はその現物を目の当たりにしても、現実を受け入れようとはしません。それどころか、幻覚妄想の中で腕に埋め込まれたダイオードのチップを探すため、爪で手首を掻き分けるという流血騒ぎを起こします。このシーンで、彼にどんなに説得しても無理であることを私たちも悟ります。これがまさに精神科医が言う「妄想が現実を乗っ取ってしまう」ということなのです。退院して自宅療養している時期、こっそり薬を飲むのをやめたために、幻覚妄想が再び現れるシーンがあります。ナッシュは銃口を突き付けられたのに反応して、とっさに赤ん坊を抱いているアリシアを突き飛ばしてしまいますが、彼女はわけが分からず、身の危険を感じてしまい、精神科医に助けを呼ぶのでした。このように、幻覚妄想に振り回されて自分を見失い(心神喪失)、自分を傷付けたり他人を害したりすること(自傷他害)のおそれがある場合は、速やかに保護のために警察通報する必要があります。身体療法―インスリンショック療法から電気けいれん療法へ入院中に自傷行為に至ったナッシュの心の状態は、かなり切迫していることが分かります。もはや薬の治療(薬物療法)の効果を待っている猶予はなく、体への直接的な治療(身体療法)が行われます。それは、インスリンを体内に投与することで、人工的に低血糖によるけいれん発作を引き起こすものです(インスリンショック療法)。けいれんが起きることで、頭の中がリセットされ安定するという仕組みです。この治療により、彼は幻覚妄想による危機(急性期)を脱していきます。このインスリンショック療法は脳へのダメージのリスクが高いために、現在は治療方法として認められていません。現在行われている身体療法は、頭に電気を流してけいれん発作を引き起こす治療方法(電気けいれん療法)です。さらには、麻酔科医の立会いのもと筋弛緩薬を使用して体のけいれんを起こさせず、頭の中だけけいれんを起こさせる治療方法(無けいれん電気療法)も確立しています。頭に電気を流すと聞くと、みなさんはびっくりされるかもしれませんが、適切な電気の量を流すため副作用や後遺症はほとんどありません。かつて懲罰的に使用された歴史があったこともあり、一時期は治療法として忌み嫌われ廃れていましたが、現在は、見直されてきています。薬物療法―予防薬としても大事退院後、自宅療養しているナッシュは、尋ねてきた元同僚に「薬を飲んでると頭がぼうっとして(数学の問題を解こうとしても)答えが見えない」と漏らし(集中力低下)、落ち込んで引きこもってしまいます。精神科医には、「(薬のせいで)夜に妻を愛せない」と嘆いてもいました(性機能障害)。一方で、妻も日常生活や夫婦生活がうまく行かないことでいら立ち、苦しんでいる様子が率直に描かれています。この彼らの葛藤があったからこそ、乗り越えた後の支え合う穏やかな生活のありがたみも自ずと私たちに伝わってきます。再発予防のために、薬は長期的に飲む必要がありますが、当時の薬は、効果はあるものの、副作用もいろいろありました。現在は、薬の飛躍的な進歩により、副作用も少なくなり、内服を続けることに抵抗感がなくなってきています。もはや予防薬として薬を飲み続けていれば、症状が落ち着いて生活に支障をきたすことなく、かなりの人が社会復帰しているという点では、糖尿病や高血圧などの治療とほとんど変わりはありません。治療可能な心の病というふうに見方が変わってきています。周りのかかわり―説教から支持へ自宅療養をし続けているナッシュは、アリシアと精神科医に打ち明けます。「仕事ができない」「赤ん坊の世話もできない」「夜に妻を愛せない」「それでも生きる価値があるのか」と。ナッシュは、何もすることもなく(無為)、家に閉じこもってばかりいる状況(自閉)の情けなさに気付いていくのです。ナッシュが薬を一時期こっそりやめて幻覚妄想が悪化したことで、アリシアは家を出ていこうと思い立った時がありましたが、最終的には、彼を支え続けることを決意し、接し方も変わっていきます。口うるさく説教する(高い感情表出)のではなく、彼の気持ちの揺れに粘り強く寄り添っていくのです(支持)。すると、彼も変わっていきます。ナッシュは一大決意して、なんと思い切って母校の教官になっているかつてのライバルの所に行き、大学の出入りの許可をもらうのです。彼は元ライバルに言います。「アリシアと相談して、社会の一員として生活するのがいいんじゃないかって」「慣れ親しんだ場所で親しい人たちと付き合うことで病気を癒していきたいと。そして、この元ライバルの友情にも支えられて、彼は、毎日、大学の図書館に通い、研究を続け、学生とかかわり、慕ってくれる教え子ができるようになったのです。これは、現代にも通じる統合失調症の精神科リハビリテーションです。ナッシュの性格は、もともと前向きでひたむきでしたが、妻や友人に支えられることにありがたみや喜びを素直に感じることができ、ユーモアも加わっていきます。この心のあり方こそが、タイトルでもある「ビューティフルマインド(すばらしい心)」と言えます。さらには、支えることに喜びを感じることができる妻や友人も、「ビューティフルマインド(すばらしい心)」の持ち主であると言えそうです。これらの周りのかかわりや本人の心のあり方は、病気が回復していくための大きな強み(ストレングス)となります。レジリエンス―心の回復力ナッシュは、日々の生活において、研究を続けること、学生たちなどの周りとかかわることをとても大事にしています。これこそが、彼が人生で望んでいること(アスピレーション)です。妻を始めとする周りは、この彼の姿勢を尊重し、支えています。実際、統合失調症の人が、具体的に、最終的にどんな仕事を望むのか、どんな人間関係(友人やパートナーなど)を望むのかは人それぞれです(生活特性)。だからこそ、私たちがこれらを本人といっしょに見極めていくことです。そして、本人が「自分にはやることがある」という役割や「自分を認めてくれる場所がある」という居場所を見いだしていくことです。そこには、日課や目標という心のメリハリが生まれ、日々の生活が生き生きとしていきます。そして、日課をこなして目標に向かうことが、病状の回復や安定に大きくつながっていくのです。この病状を回復させていく力(レジリエンス)の源は、病気に対する本人や周りの強み(ストレングス)や本人が人生で何を望んでいるかはっきりしていること(アスピレーション)です(表2)。ちなみに、現代の精神科リハビリテーションの核となるデイケアや作業所も、日課をこなす点、仲間とつながる点で大きな強み(ストレングス)であると言えます。人生で望んでいること(アスピレーション) 強み(ストレングス)本人周り研究を続ける学生とかかわる数学の能力前向きでひたむきな性格ユーモアがある妻アリシアの支え友人の支え母校の受け入れ慕う教え子がいる際立ち(サリエンス)仮説―ワクワク感やハラハラ感の正体晩年、ナッシュは、かつての功績が認められてノーベル経済学賞を受賞します。その授賞式の壇上でのスピーチで彼は言います。「私はいつも方程式や論理の中に『答え(reason)』を求めてきました」「そして、ついに、人生で最大の発見をしました」「それは愛の方程式です」「今夜、私がここにいるのは君のおかげだ」「君がいてくれたからこそ僕がいるんだ」「君が僕の全ての『答え』だ」と。支えてくれた妻アリシアへの感謝のメッセージを込めた彼らしい言い回しです。とても感動的なラストシーンでした。ナッシュの若い頃からの究極的な「答え」を求めようとする心構えは、ものごとパターン化して、関係付けを見いだそうとする人間本来の特性と言えます。そこには、気になって意味付けし、特別視する好奇心の心理(新奇希求性)があります。この人間本来の本能的な心理モデルから、統合失調症のメカニズムを説明する仮説があります。「際立ち(サリエンス)仮説です。人間はそもそも、いつもと違う状況(新奇)に遭遇すると、ドパミンという神経伝達物質が脳内で分泌され、感覚が研ぎ澄まされて覚醒します。それはまさに、私たちが新しく何かを経験したり珍しいものを見たりした時に感じるワクワク感や、普段にはない怪しいものを見たり身の危険が迫った時に感じるハラハラ感です。そして、この心理に衝き動かされ(動機付け)、特別であると意味付け(価値観)、その正体である「答えを突き止めることで、原因と結果の関係付け(因果関係)をします。いつもと違う状況には、いつもと違う行動ができるようになります。そうやって、原始時代から、よりワクワク感で新しい獲物を見つけ、よりハラハラ感で危険から身を守った種が、より生き延びてきました(適者生存)。また、いつもと違う状況には、いつもと違う原因や理由があります。この因果関係をより見抜くことで(パターン認識)、様々な関係付けができるようになるわけです(パターン学習)。 そこから、世界をよりいっそう認識していくのです(学習)。ナッシュは、酒場で、女性グループと自分たち男性グループがいかにカップリングできるかという状況に好奇心を抱き、「最良の結果は、自分とグループの利益を同時に考えることである」という新しいパターン(因果関係)がひらめきました。これは、「自分の利益を考えることこそのみがグループ全体の利益につながる」という当時常識であった理論を根底から覆すものでした。彼は、酒場のこの状況に際立ち(サリエンス)を感じたからこそ「自分とグループの利益を同時に考える →「最良の結果」という因果関係を導いたのでした。ちなみに、この考え方は、日本で今をときめく人気アイドルグループの組織作りにも応用されています。また、別の例として、多くの登山家は、「なぜエベレストに登るのか?」と問われたら、「そこに山があるから」と答えるでしょう。それはまさに、エベレストが世界で最も高い山であり、その登山家にとってエベレストは特別に際立っており(サリエンス)、命を預ける価値があるからだと言えます。こうして、ドパミンによって衝き動かされた私たちの行動による学習の積み重ねが、現在の私たちの高度な文明であり、豊かな文化であると言えます。サリエンスの異常―統合失調症のメカニズムサリエンスのメカニズムは、私たち人類の繁栄になくてはならないものだったということが分かりました。それでは、もし先ほど登場したドパミンが誤作動して出すぎてしまうと(ドパミン過剰分泌)、どうなるでしょうか?新奇な状況とドパミン分泌はセットで連動しています。よって、もしもドパミンが勝手に分泌しすぎて溢れてしまうと、逆に、いつもと同じ状況がいつもと違う状況(新奇)に勝手に際立って感じてしまいます(サリエンスの異常)。何気なかった物音や人込みの雑踏がうるさく聞こえ、景色が鮮やかに眩しく見えるなど過敏に感じ、考え過ぎで深読みや裏読みをしてしまいます(神経過敏)。実際、ナッシュは、自分の家の前に黒い車が止まっただけでビクビクしています。そして、その車から子どもたちが出てきて、ホッとするシーンが分かりやすいです。さらにドーパミンの分泌が暴走してしまうと、頭の中で出てくる声(「内なる声」)や思い描くイメージが、敏感な知覚として幻覚になってしまいます。また、何かとんでもないことが起きてしまうと思い込み、関係があるかどうかの確かさが勝手に高まってしまい、あり得ない関係付け(関係妄想)やあり得ない嫌がらせや陰謀(被害妄想)に発展し、敏感な思考として妄想になっていくのです。幻覚妄想と創造性―人類の進化の必然の産物ノーベル賞受賞の候補に上がっていると聞かされた時にナッシュは言います。「いまだにないものが見えてしまうから」「薬で頭のダイエットをしている」「そして、パターン(因果関係)の発見や自由な想像や夢に対しての『食欲』を抑えている」と。サリエンスのメカニズムを考えると、文化人類学的には、創造性を発揮するかあるいは幻覚妄想を発症するかは、言わば紙一重であるとも言えそうです。ナッシュは、創造性を発揮して功績を残した一方で、幻覚妄想は長らく続いてしまいました。そして、最終的には、薬物療法と妻アリシアを始めとする周りの支えで、回復することができました。統合失調症という病は、私たちの進化の中で生まれてしまった必然の産物とも言えます。そして、この病気のメカニズムである「際立ち(サリエンス)」は、私たちの文明や文化に恩恵をもたらしています。だからこそ、私たちも、この統合失調症の人たちを支えることによって、ビューティフルマインド(素晴らしい心)であり続けて、いっしょに乗り越えていく必然もあるのではないでしょうか?1)「ビューティフルマインド」(新潮社) シルヴィア・ナサー 塩川優(訳)2)「天才と分裂病の進化論」(新潮社) デイヴィッド・ホロボン 金沢泰子(訳)3)「統合失調症を生きる」(新興医学出版社) 長嶺敬彦4)「生活臨床の基本」(日本評論社) 伊勢田尭

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注射時間を問わず一定の有効性と安全性―持効型インスリン デグルデク

 従来の基礎インスリンは注射時間の制限があったが、1日1回投与のインスリン デグルデク(IDeg、商品名:トレシーバ)は、1日のうちどのタイミングで注射しても有効性と安全性を損なうことなく、良好な血糖コントロールが可能であることがベルギー・ルーベン大学Chantal Mathieu氏らの報告で明らかになった。患者さん一人ひとりの多様なニーズに合わせて注射時間を調整できるため、基礎インスリンのアドヒアランス向上につながると考えられる。The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌2013年3月号(オンライン版2013年2月7日号)の報告。 本研究は、大規模臨床プログラム「BEGINTM」の1型糖尿病患者を対象に行われた26週間のオープンラベル、treat to target、非劣性試験である(BEGIN:Flex T1)。最小8時間、最大40時間の間隔で故意にIDegの注射時間を変えた群(IDeg Forced-Flex群)について、定時にIDegを注射した群(定時IDeg群)および定時にインスリン グラルギン(IGlar、商品名:ランタス)を注射した群(定時IGlar群)と比較することで、非劣性を検討した。さらに、その後に26週間の延長試験を行い、IDeg投与を行っている全症例において、投与時間を自由に決められるレジメン(IDeg Free-Flex)に変更し、定時IGlar群と比較した。 主な結果は以下のとおり。<26週後>・26週目のHbA1c値はIDeg Forced-Flex群で0.40%、定時IDeg群で0.41%、定時IGlar群0.58%低下し、IDeg Forced-Flex群の非劣性が認められた。・26週目の空腹時血糖値は、IDeg Forced-Flex群で1.28 mmol/L、定時IDeg群で2.54 mmol/L低下し、定時IDeg群のほうが有意に低下した(p=0.021)。定時IGlar群はIDeg Forced-Flex群と同程度低下した。<26週の延長試験後>・52週目のHbA1c値は、IDeg Free-Flex群と定時IGlar群で同程度であった。・IDeg Free-Flex群の52週目の空腹時血糖値は定時IGlar群よりも有意に低下した(p=0.005)。<安全性>・低血糖発現率(<3.1 mmol/Lまたは重度の低血糖)は26週と52週で同程度であった。・IDeg Forced-Flex群の26週目までの夜間低血糖発現頻度は、定時IDeg群より37%(p=0.003)、定時IGlar群より40%少なかった(p=0.001)。・IDeg Free-Flex群の52週目までの夜間低血糖発現頻度は、定時IGlar群より25%少なかった(p=0.026)。※BEGINTMプログラムノボ ノルディスク社が実施した第3相臨床試験プログラム。日本、米国、欧州の規制当局へ相談し計画された。1型および2型糖尿病患者約1万人を対象に行われ、インスリン療法の領域で実施された試験の中では最大の試験となる。

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患者自身が申告するアドヒアランスと血糖コントロールの関係-インスリン治療における検討-

 2型糖尿病患者のインスリン療法において、患者自身が申告するアドヒアランスと血糖コントロールとの関係が検討された。この結果、患者の自己申告であっても、アドヒアランスが高ければ良好な血糖コントロールを示すという相関関係が明らかになった。ただし、65歳以上の高齢者ではこの相関はみられなかった。本研究から、若年層の患者では自己申告によるアドヒアランスの報告も適切なインスリン投与量を判断するうえでは有用となる可能性が示唆された。 本研究は、日本人の2型糖尿病患者を対象にした検討で、天理よろづ相談所病院・増谷 剛氏らによってDiabetes Research and Clinical Practice誌オンライン版2013年3月20日号に報告された。 対象患者はインスリン治療中の2型糖尿病患者1,441例。インスリンレジメンに対する患者の自己申告によるアドヒアランスに関する情報を集積した。人口統計学的要因と良好な血糖コントロール(HbA1c値<7.0% [53 mmol/mol])との独立した関連性を評価するために、相対リスク回帰分析を用いて交絡因子を調整した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は65.4歳、BMIは24.7kg/m2、インスリン注射の本数は2.3本/日であった。・全患者の70.6%が自己のインスリンレジメンに対してアドヒアランスが高いと報告していた。・アドヒアランスの高い群と良好な血糖コントロールとの相関を1としたとき、アドヒアランスが中程度の群での相関係数は0.82(95%CI:0.67~1.00)、アドヒアランスが低い群では0.64(95%CI:0.31~1.31)であった(p for trend =0.029)。・年齢によるサブグループ解析の結果、65歳未満の患者では前述の相関関係がみられたが、65歳以上では相関はみられなかった。

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新規グルコキナーゼ活性剤の有効性-本邦での報告

 新規の2型糖尿病治療薬として開発段階にあるグルコキナーゼ活性剤 「AZD1656」 の血糖降下作用に関するデータが発表された。本研究は日本国内で行われた無作為化二重盲検、プラセボ対照比較試験。東京駅センタービルクリニックの清末 有宏氏らにより、Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2013年3月22日号で報告された。【グルコキナーゼ活性剤について】 グルコキナーゼは、解糖系の最初のステップに関与する酵素であり、肝臓と膵β細胞に発現してグルコース恒常性を保つ役割を担う。グルコキナーゼ活性剤は、このグルコキナーゼを活性化させ、肝臓での糖取り込みを促進し、膵β細胞でのインスリン分泌を促進することで血糖降下作用を示すと期待され、開発が進んでいる。 対象患者(n = 224)は、AZD1656(40~200mg、20~140mg、10~80 mg)またはプラセボの4群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は4ヵ月後におけるベースラインからのHbA1c変化量(プラセボ補正後)。空腹時血糖値や安全面への影響も評価した。 主な結果は以下のとおり。・治療2ヵ月時点におけるベースラインからのHbA1c変化量は、プラセボ群で0.1%、AZD1656群で0.3~0.8%の減少が認められた。・治療4ヵ月時点におけるベースラインからのHbA1c変化量は、AZD1656(40~200mg)群は、プラセボ群と比較して有意差は認められなかった(p=0.30、平均値:-0.22 [プラセボ補正後95%CI:-0.65~0.20] )・治療4ヵ月時点においてHbA1c ≤ 7%を達成した患者の割合は、プラセボ群と比較して、AZD1656投与群で高かったが、レスポンダーレートは低かった。・低血糖発現は、AZD1656投与群で1症例であった。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(86)〕 メラトニンの分泌低下は糖尿病の発症を促進するか

概日リズム(サーカディアンリズム)と2型糖尿病の発症との間に関連があることが、この数年の研究で明らかになっている。 睡眠覚醒のサイクルを調節するメラトニンは、夜間に松果体から産生され、睡眠後3~5時間でピークとなり、起床時には低下する。メラトニン受容体の1つであるメラトニン受容体1B(MTNR1B:MT2)遺伝子は、インスリン抵抗性と関連しており、受容体の変異によりメラトニンのシグナル伝達が阻害された場合にはインスリン抵抗性が増強し、2型糖尿病の発症リスクが高まることが報告されている(Bonnefond A, et al. Nat Genet. 2012; 44 297-301.)。 サーカディアンリズムの障害と糖尿病の発症との関連が注目されているなかで、コホート研究というデザインでメラトニンの分泌の低下と2型糖尿病の発症リスクとの関連を示唆する研究が発表された。米国の大規模臨床試験の1つであるNurses' Health Studyをデータベースとした症例対照研究である。 2000年の時点で糖尿病を発症しておらず、尿および血液サンプルがそろっている登録者のうち、2000年から2012年に2型糖尿病を発症した370人を抽出し、年齢・採血時期・人種をマッチさせた糖尿病を発症していない370人を対照群として設定している。ベースラインのメラトニン分泌と2型糖尿病の発症の相関について、ライフスタイル、睡眠の質、炎症マーカー、内皮機能などについて多変量ロジスティック回帰がなされている。夜間におけるメラトニンの分泌を推定する指標として、代謝産物である尿中メラトニン分泌(6-sulfatoxymelatonin)/クレアチニン(Cr)比を測定している。 その結果、糖尿病を発症した群のメラトニン分泌/Cr比は28.2ng/mg(95%信頼区間:5.5~84.2ng/mg)、対照群は36.3ng/mg(95%信頼区間:6.9~110.8ng/mg)であり、メラトニン分泌/Cr比が低い場合には糖尿病の発症リスクが1.48倍(95%信頼区間:1.11~1.98)、メラトニン分泌/Cr比が26.1以下の群では2.17倍(95%信頼区間:1.18~3.98)になるという。また、糖尿病の推定発症率はメラトニン分泌/Cr比が49.1ng/mg以上の場合は4.72人/1,000人年、26.1ng/mg以下では9.27人/1,000人年と報告されている。 メラトニンの分泌低下が2型糖尿病の発症における独立したリスク因子であるとの結論であるが、前向きのデザインでのさらなる臨床研究の積み重ねが必要であろう。

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メラトニン分泌の低下が2型糖尿病発症リスクを増大/JAMA

 メラトニン分泌の低下と2型糖尿病発症リスクの増大が独立して関連していることが明らかにされた。米国・ハーバード公衆衛生大学院のCiaran J. McMullan氏らが行った症例対照研究の結果で、夜間のメラトニン分泌低下とインスリン抵抗性の増大との関連も明らかになったという。メラトニンは体内時計のコントロール下にあり、一般的には夜間の就寝後3~5時間で分泌はピークに達し日中はほとんど産生されない。先行研究において、メラトニンの糖代謝における役割の可能性が示唆され、またゲノムワイド研究ではメラトニン受容体の機能喪失と2型糖尿病発症率との関連などが報告されていたが、メラトニン分泌と2型糖尿病との関連を前向きに検討した報告はなかった。JAMA誌2013年4月3日号掲載の報告。ベースライン時と2型糖尿病発症時とのメラトニン分泌の関連について評価 本検討は、看護師健康スタディ(Nurses' Health Study)コホートを対象とし、2000年のベースライン時に糖尿病を発症しておらず、尿および血液検体を提供しており、その後2000~2012年の間に2型糖尿病を発症した女性参加者を特定して行われた。 ベースライン時と2型糖尿病発症時とのメラトニン分泌の関連について、人口統計学的特性、生活習慣、睡眠の質、炎症性と内皮機能障害のバイオマーカーで調整後に多変量条件付きロジスティック回帰分析にて評価を行った。 症例群370例を特定し、リスク適合対照群として特定した370例と比較検討した。メラトニン分泌低値群の糖尿病発症率は高値群の2.17倍 ベースラインでのクレアチニン値は両群で同程度であった(p=0.20)。しかし、尿中メラトニン分泌(6-sulfatoxymelatonin)/クレアチニン比の中央値は、症例群28.2ng/mg(5~95%範囲:5.5~84.2ng/mg)に対し、対照群36.3ng/mg(同:6.9~110.8ng/mg)だった(p<0.001)。 メラトニン分泌/クレアチニンの推定ログ比率三分位(低中高)に階層化し検討した結果、同値が低い被験者のほうが、2型糖尿病のリスクが増大する関連が認められた。調整後のリスクは同比率1低下につき1.48倍であった(多変量オッズ比:1.48、95%信頼区間:1.11~1.98)。 また、同比率低下三分位の高値群(≧49.1ng/mg)と比べて、低値群(≦26.1ng/mg)の2型糖尿病の発症率は2.17倍であった(多変量オッズ比:2.17、95%信頼区間:1.18~3.98)。 メラトニン分泌高値群の2型糖尿病発症率は4.27/1,000人・年に対し、同低値群は9.27/1,000人・年と推定された。 著者は、「メラトニン分泌低下と2型糖尿病発症の高リスクに独立した関連が認められた。メラトニン分泌が一般集団における糖尿病の修正可能なリスク因子であるか、今後のさらなる研究が求められる」とまとめている。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(84)〕 「先生、禁煙すると太るからいやです!」 この患者さんにどう説明しますか?

「たばこを止めたら太っちゃった!先生それでも大丈夫なんですか?」と尋ねられた経験が一度ならずある、という医師は多いであろう。メタボの怖さを患者に説得している医師にとって、この手の質問に「太っても心配ない」と自信を持って答えられるだけの資料はこれまで無かった。 本論文は、患者からの詰問に自信をもって「多少太ってもよいから禁煙してください!」と言えるだけの科学的根拠を示してくれる、貴重な研究である。しかもフラミンガム研究という25年にわたる追跡観察研究であり、世界第一級の資料である。 糖尿病が無い例では、たばこを止めると4年間で2.7kgの体重増加がみられるが、脳血管合併症のリスク因子で補正したハザード比は0.47とほぼ半減して、元々の非喫煙例とほぼ同じレベルになるという結果であった。糖尿病がある例でも、禁煙により3.6kgの増加がみられるが、やはりハザード比は0.49と半減する。しかしながら、統計学的には有意に到らなかった。これは糖尿病例で禁煙した例が少なかったためだろう。 喫煙は、血小板凝集能を亢進したり、血管内膜を損傷させアテロームを形成しやすくすることが知られている。また、HDL-Cを減少させ、インスリン抵抗性を亢進させるが、これらの動脈硬化促進因子は可逆的であり、禁煙によって修復可能なこともこの研究は示唆している。 この論文を読んだ医師は、明日から自信をもって「少しくらい体重は増えてもよいから、絶対禁煙してください!」と言えるだろう。ただし5kg以上の体重増加に関しては、本論文でもリスクの減少は保証していないことも付け加えておく。

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ペンニードル 32Gテーパーが内径を広くする改良を発表

 ノボ ノルディスク ファーマは4日、糖尿病治療や成長ホルモン治療などの自己注射に使用する「ペンニードル 32Gテーパー」を改良したと発表した。針の細さ(外径)を32G(ゲージ)に維持しつつ、内径を30Gの針と同程度に広くすることで、注入時に必要な力が約30%減少した。ペンニードル 32Gテーパーは2006年に針の根元の構造を改良 ペンニードル 32Gテーパーは、2005年、世界で最も細いペン型注入器用注射針として発売された。ペンニードル 32Gテーパーは現在、インスリン製剤やGLP-1製剤、成長ホルモン製剤などの自己注射に使用されている。インスリン注射においては1日に数回注射する必要がある患者もいるため、自己注射の痛みを軽減する必要がある。そのためは針の細さが重要となるが、針を細くすることで強度が損なわれたり、内径が狭まることにより流入量が少なくなり、注入時に強い力が必要になったり、痛みが増したりする。同社ではペンニードル 32Gテーパーに2006年、針折れを防ぐために針の根元の構造を改良し、今回はさらに、内径を広くする改良を加えたという。詳細はプレスリリースへhttp://www.novonordisk.co.jp/documents/article_page/document/PR_13_06.asp

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抗精神病薬によるプロラクチン濃度上昇と関連する鉄欠乏状態

 小児および思春期患者への使用が増加している非定型抗精神病薬は、脳内ドーパミンを修飾する。ドーパミン作動性シグナル伝達において、鉄は重要な役割を果たしている。米国・アイオワ大学のChadi Albert Calarge氏らは、体内の鉄含量が精神症状の重症度、治療反応性、引き続き行われる抗精神病薬療法の忍容性と関連するか否かについて検討を行った。その結果、対象の45%が鉄枯渇、14%が鉄欠乏状態にあること、また鉄欠乏症を認める患者では血清プロラクチン濃度の上昇が強まることを報告した。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2013年3月12日号の掲載報告。 対象は、2005年11月~2009年8月に、リスペリドンの長期安全性を検討する横断研究に登録された内科的には健康な7~17歳のリスペリドン投与中の患者であった。身体所見により精神症状の重症度および食事摂取量を評価し、また、血清中のフェリチン、トランスフェリン受容体、およびプロラクチン濃度を測定した。多変量線形回帰分析により体内鉄含量と症状の重症度、リスペリドンおよび精神刺激薬の用量、血清プロラクチン濃度との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・115例(男性87%、平均年齢11.6±2.8歳)を対象とした。・大半が外在化障害を有しており、リスペリドン服用歴は2.4±1.7年であった。・体内鉄含量は低く、45%が鉄枯渇、14%が鉄欠乏症であった。・体内鉄含量とリスペリドン治療中の体重増加、インターロイキン-6濃度との間に負の関係がみられた。・体内鉄含量と精神症状の重症度、リスペリドンおよび精神刺激薬の1日投与量との間に関連は認められなかった。・一方、体内鉄含量とプロラクチン濃度との間には負の関係が認められ、鉄欠乏症のグループではプロラクチン濃度が約50%高かった。・慢性的にリスペリドンによる治療を受けている小児や思春期患者では、鉄枯渇および鉄欠乏症がしばしばみられ、鉄欠乏状態に伴って、抗精神病薬に起因するプロラクチン濃度の上昇が強まることが示された。・さらなる研究により本知見を確認するとともに、抗精神病薬治療中の患者における鉄補給の潜在的ベネフィットを検討すべきである。関連医療ニュース ・抗精神病薬と抗コリン薬の併用、心機能に及ぼす影響 ・小児双極I型障害に対するアリピプラゾールの効果は? ・第二世代抗精神病薬によるインスリン分泌障害の独立した予測因子は

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より確実な血糖値管理を目指すなら、インスリンの早期導入を!

 3月2日、サノフィは「インスリン全国講演会2013」と題し、医師向けのセミナーを開催した。このセミナーは、同社の代表製品であるインスリン グラルギン(商品名:ランタス)の発売10年を記念して開催されたもので、糖尿病診療に従事する医師が参集した。 はじめにOpening Remarksとして渥美義仁氏(永寿総合病院)が、インスリンの発見と製薬の歴史を振り返るとともに、「持効型溶解インスリンの登場は、糖尿病治療に新しい選択肢をもたらした」とその役割を評価した。そして、今回のセミナーのテーマであるBOT(basal supported oral therapy)などにも触れ、今日の講演の意義を述べた。 第1部では経口血糖降下薬との併用療法について講演が行われた。はじめに「BOTの有用性」をテーマに鈴木大輔氏(東海大学医学部)が、外来でのBOTについて講演し、経口血糖降下薬とインスリンの併用で確実な血糖降下ができる反面、体重増加への配慮やSU薬併用時の低血糖に注意が必要であると語った。 次に「Basal Plus、B2Bの有用性」をテーマに大工原裕之氏(坂出市立病院)が、基礎インスリン補充の意義を自院のデータで示し、追加インスリンをいかに安全に増やしていくかを説明した。とくにBOTでも効果が弱い患者には、朝夕の追加インスリンの導入などが効果的と自験例を述べた。 続いて「Basal Bolusの有用性」をテーマに横山宏樹氏(自由が丘横山内科クリニック)が、初期診療後のインスリン導入とSU薬減薬への取り組みや自院の取り組みを講演した。とくに教科書的な処方だけではなく、「低血糖 しないさせない 絶対に」を合言葉に、食事と患者の運動量や生活環境も見据えてインスリン量を決定していること、クリニックスタッフが電話で患者フォローをする取り組みを行っていることを述べた。 第2部では主に1型糖尿病について、「1型糖尿病治療 Basal Bolus療法におけるインスリン製剤の使い方-内科の立場から-」をテーマに柳澤克之氏(市立札幌病院)が、講演を行った。「札幌では雪かきによる低血糖が多いこと」がレポートされ、超速効型インスリンで低血糖発生を防止していることや患者満足度調査も良好なことが報告された。 次に「1型糖尿病治療 BasalBolus療法におけるインスリン製剤の使い方-小児科の立場から-」をテーマに浦上達彦氏(駿河台日本大学病院)が、小児糖尿病のインスリン治療について講演した。小児の治療では、成人と異なる生活習慣のために幼児期、学童期、思春期に合わせたインスリン提供のスケジューリングや低血糖予防の指導が必要であると語った。 最後にClosing Remarksとして河盛隆造氏(順天堂大学大学院スポートロジーセンター)が登壇し、「より効果的にインスリンが用いられるようになることが今後の課題であり、2型糖尿病の患者であれば、インスリン分泌ができなくなる前に早期に導入し、分泌の回復につとめることが大きな目標となる。その後インスリンからの離脱を期すのが次の目標である」と述べ、講演会は終了した。サノフィ 医療関係者向け製品情報サイトケアネット特集「糖尿病」のバックナンバーはこちら

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10年先を見据えた抗精神病薬選択のポイント

 米国・コロンビア大学のT Scott Stroup氏らは、オランザピン、クエチアピン、リスペリドンからアリピプラゾールへの切り替えについて、フラミンガムリスクスコア(FRS)およびメタボリックシンドローム(MetS)に基づいた心血管疾患(CVD)発症リスクの影響を調査し、その臨床的意義を検討した。Schizophrenia research誌2013年2月21日号の報告。 現在の治療(オランザピン、クエチアピン、リスペリドン)で安定している患者を、現在治療継続群とアリピプラゾール切り替え群(24週間のフォローアップ)に無作為に割り付け、BMI 27以上とnon-HDL-C 130mg/dL以上の患者間でのFRSとMetSの変化を比較した。FRSは心筋梗塞や冠動脈死といった重篤な冠動脈性心疾患(CHD)アウトカムの10年リスクを予測できる。また、MetSは脳卒中、糖尿病などCVDリスクの増加に関連している。すべての対象者には健康的な食事と運動を推進するプログラムを実施していた。 主な結果は以下のとおり。・現在治療継続群98例、アリピプラゾール切り替え群89例を含む患者から、あらかじめ分析に必要なベースライン値の値を測定した。・CHD10年リスクの最小二乗平均推定値は、現在治療継続群(7.4%→6.4%)と比較し、アリピプラゾール切り替え群(7.0%→5.2%)でより多く減少した(p=0.0429)。・最終観察時にメタボリックシンドロームを有するオッズ比は1.748であった(現在治療継続群 vs アリピプラゾール切り替え群、95%Cl:0.919~3.324、p=0.0885)。・メタボリックシンドローム発症に関しては、統計学的に有意な差は認められなかった。・アリピプラゾールに切り替えた上で、健康的な食事と運動を推進するプログラムを実施することで、CHD10年リスクをより軽減させることが期待できる。・切り替え時には治療中止などのリスクを考慮する必要があるが、本研究では症状の増悪や入院の有意な増加は認められなかった。関連医療ニュース ・抗精神病薬の高用量投与で心血管イベントリスク上昇:横浜市立大 ・第二世代抗精神病薬によるインスリン分泌障害の独立した予測因子は・・・ ・抗精神病薬投与前に予後予測は可能か?

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抗精神病薬多剤併用による代謝関連への影響は?

 統合失調症患者の治療において、2剤以上の抗精神病薬を併用することは少なくない。しかし、多剤併用による治療は単剤治療と比較し、副作用発現率の上昇などデメリットも大きい。このデメリットには、耐糖能異常やインスリン抵抗性などの薬剤性代謝関連の副作用も多く含まれるが、その生理メカニズムは十分に解明されていない。Heidi N. Boyda氏らは、抗精神病薬の多剤併用と代謝関連副作用との関係を検討するにあたり、動物実験での結果が実臨床に結び付くかを検証した。Experimental and clinical psychopharmacology誌オンライン版2013年1月28日号の報告。 試験には、成熟した雌ラットを用いた。第1試験では、クロザピン(5㎎/kg)群、リスペリドン(1㎎/kg)群、対照群、クロザピン+リスペリドン群を比較し、第2試験では、クロザピン(5㎎/kg)群、ハロペリドール(0.1㎎/kg)群、対照群、クロザピン+ハロペリドール群を比較した。各薬剤投与後、ブドウ糖負荷試験を行った。主な結果は以下のとおり。・リスペリドン、ハロペリドール各単独投与群は、対照群と比較し、代謝指標に影響を及ぼさなかった。・クロザピン+リスペリドン群では、クロザピン単独投与群と比較し、空腹時血糖、空腹時インスリンインスリン抵抗性が有意に増加した。・クロザピン+ハロペリドール群では、クロザピン単独投与群と比較し、空腹時インスリンレベル、インスリン抵抗性、耐糖能異常が有意に増加した。・これらの動物実験の結果は臨床研究と一致していることから、抗精神病薬の代謝系副作用の研究は動物モデルにより正常に実施可能であることが示された。・今後の研究により、抗精神病薬と生理メカニズムの関係がさらに解明されることが望まれる。関連医療ニュース ・SSRI、インスリン抵抗性から糖尿病への移行を加速! ・第二世代抗精神病薬によるインスリン分泌障害の独立した予測因子は・・・ ・学会レポート:抗精神病薬と副作用―肥満、糖代謝異常、インスリン分泌に与える影響

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抗うつ薬を使いこなす! 種類、性、年齢を考慮

 抗うつ薬の血中濃度は種類ごとに、性および年齢の影響を有意に受けている。このことが、ドイツ・ヴュルツブルク大学病院のS. Unterecker氏らによる自然条件下にて評価した治療薬物モニタリング(TDM)の結果、明らかにされた。抗うつ薬のTDMデータの評価は多くの場合、精神疾患の既往や身体的合併症のない均一サンプルを選択して行われており、日常診療では限界を有する可能性があることから、研究グループは自然条件下にての評価を行った。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2012年12月20日号の掲載報告。 研究グループは、自然条件下にて抗うつ薬のTDMデータを評価し、すべての臨床的関連を明らかにすることを目的とした。TDM解析はレトロスペクティブの手法にて、2008~2010年の3年間を対象とし、標準的な臨床設定における抗うつ薬の用量補正後血中濃度について、性と年齢の影響を調べた。 主な結果は以下のとおり。・TDM解析に組み込まれたサンプルおよび数は下記であった。  アミトリプチリンとノルトリプチリン(AMI+NOR)693例  シタロプラム(CIT)160例  クロミプラミンとN-クロミプラミン(CLO+N-CLO)152例  ドキセピンとN-ドキセピン(DOX+N-DOX)272例  エスシタロプラム(ESC)359例  フルオキセチンとN-フルオキセチン(FLU+N-FLU)198例  マプロチリン(MAP)92例  ミルタザピン(MIR)888例  セルトラリン(SER)77例・女性では、AMI+NOR(32%)、CIT(29%)、DOX+N-DOX(29%)、MIR(20%)の用量補正後血中濃度が有意に高かった。・60歳超では、AMI+NOR(21%)、CIT(40%)、DOX+N-DOX(48%)、MAP(46%)、MIR(24%)とSER(67%)の用量補正後血中濃度が有意に高かった。・両方の極値群の比較において、女性60歳超群の用量補正後血中濃度が、男性60歳以下群と比較してAMI+NOR(52%)、CIT(78%)、DOX+N-DOX(86%)、MIR(41%)と顕著に高いことが示された。・抗うつ薬の血中濃度は種類ごとに、性および年齢の影響を有意に受けており、相加効果を考慮しなければならない。・TDMは、自然な臨床設定下でも高用量治療による副作用リスクを低下するために推奨される。関連医療ニュース ・【ポール・ヤンセン賞2012】うつ病に対するミルタザピンvs他の抗うつ薬 ・SSRI、インスリン抵抗性から糖尿病への移行を加速! ・【学会レポート】抗うつ効果の予測と最適な薬剤選択

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SSRI、インスリン抵抗性から糖尿病への移行を加速!

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の長期使用では、肥満症および糖尿病のリスク増大が知られているが、これまで、SSRIがインスリン抵抗性の直接的な誘発因子であるのかといった病態生理学的意義については、ほとんど明らかとなっていなかった。今回、イスラエル・ワイツマン科学研究所のRoi Isaac氏らによるマウス試験の結果、SSRIが膵臓のβ細胞におけるインスリン・シグナル伝達を直接的に阻害している所見が示された。著者は、「SSRIはインスリン抵抗性の状態から顕性糖尿病への移行を加速している可能性がある」と結論している。SSRIがインスリン分泌を阻害 実証試験は、マウス膵島あるいはMin6β細胞の培養株(2時間)で、SSRIがインスリン受容体基質(IRS)-2のインスリン誘発チロシン・リン酸化反応を阻害し、その下流に位置するAktおよびS6K1の活性阻害が示されるかについて検証した。SSRIは、パロキセチン、フルオキセチン、セルトラリンが用いられた。 SSRIに関する実証実験の主な結果は以下のとおり。・阻害は、用量依存的(最大半減期効果:~15-20μM)であり、IRSキナーゼGSK3βの急速リン酸化および活性との相関を示した。・GSK3β-siRNAsの投与により、SSRIの阻害効果は消失した。・30μMのSSRIによるIRS-2活性の阻害は、マウスおよびヒトの膵島からのグルコース刺激インスリン分泌の顕著な阻害と関連していた。・ベーシックなインスリン分泌促進薬(KCI、Arg)は、これらの薬品による影響を受けなかった。・Min6細胞のセルトラリン長期治療(16時間)は、iNOSを誘発した。すなわち、ERストレスの活性と小胞体ストレス応答(unfolded protein response:UPR)の惹起であり、それらはATF4とCHOPの転写の亢進によって示される。これによってアポトーシスが惹起され、カスパーゼ3/7を亢進し、β細胞死に至る。・以上の所見は、SSRIは、GSK3βの活性化によりIRSの機能とインスリン活性を阻害することを意味する。さらには、SSRIが、インスリン分泌を阻害し、UPRを惹起し、アポトーシスを引き起こして、β細胞の死滅を誘発することを示唆する。・SSRIは、インスリン抵抗性を促進する一方でインスリン分泌を阻害しており、インスリン抵抗性の状態から顕性糖尿病への移行を加速している可能性がある。

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