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SU薬とメトホルミン、単独服用時の低血糖リスクを比較/BMJ

 血糖降下薬SU薬単独服用者は、メトホルミン単独服用者と比べて、低血糖発症リスクが約2.5倍と有意に高く、同リスクは、グリベンクラミド服用者や、腎機能が低下している人では、さらなる増大が認められた。オランダ・マーストリヒト大学のJudith van Dalem氏らが、12万例超を対象に行ったコホート試験の結果、明らかにした。低血糖リスクの増大は、すべてのSU薬服用者で観察されたという。現行のガイドラインの中には、低血糖リスクがより低いとして、SU薬の中でもグリクラジドを第1選択薬とするものがあるが、今回の試験結果は相反するものとなった。そのため著者は、「さらなる検討が必要である」と述べている。BMJ誌オンライン版2016年7月13日号掲載の報告。1,100万人超の患者データベースを基に試験 研究グループは、英国内674ヵ所の医療機関からの1,100万例超の診療録データを包含する「Clinical Practice Research Datalink」(CPRD)を基に、2004~12年に非インスリン抗糖尿病薬の処方を受けた18歳以上の患者12万803例を対象に、コホート試験を行った。 SU薬の服用量や、腎障害、SU薬のタイプと低血糖症リスクについて、Cox比例ハザードモデルで解析を行った。年齢や性別、ライフスタイル、併存疾患、使用薬剤については補正を行った。低血糖症リスク、グリベンクラミドはメトホルミンに比べ7.48倍 その結果、低血糖症の発症リスクは、メトホルミンのみを服用している人に比べ、SU薬のみを服用している人では約2.5倍の有意な増大が認められた(補正後ハザード比[HR]:2.50、95%信頼区間[CI]:2.23~2.82)。グリクラジド服用患者の同ハザード比も2.50(同:2.21~2.83)だった。 SU薬単独服用者の中でも、糸球体濾過量(GFR)が30mL/分/1.73m2未満の人で、低血糖症リスクはさらに増大した(同:4.96、同:3.76~6.55)。また、SU薬服用量が多い人(グリベンクラミド10mg同等量超)や、グリベンクラミド服用患者では、よりリスクの増大がみられた。それぞれの補正後HRは、3.12(95%CI:2.68~3.62)、7.48(同:4.89~11.44)だった。なお、SU薬の第1選択薬であるグリクラジドの補正後HRは2.50(同:2.21~2.83)で、その他のSU薬(グリメピリド:1.97[1.35~2.87]、glipizide:2.11[1.24~3.58]、トルブタミド:1.24[0.40~3.87])も同程度だった。

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アジソン病〔Addison's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)、コルチゾール(グルココルチコイド)、デヒドロエピアンドロステロンとデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(副腎アンドロゲン)の分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態である。アジソン病は、副腎皮質自体の病変による原発性副腎皮質機能低下症であり、その病因として、副腎皮質ステロイド合成酵素欠損症による先天性副腎過形成症、先天性副腎低形成(X連鎖性、常染色体性)、ACTH不応症などの責任遺伝子が明らかとされた先天性のものはアジソン病とは独立した疾患として扱われるため、アジソン病は後天性の病因による慢性副腎皮質機能低下症を指して用いられる。■ 疫学わが国における全国調査(厚生労働省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)によるとアジソン病の患者は1年間で660例と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代とともに特発性の比率が増加している。先天性副腎低形成症は約12,500人出生に1人である。副腎不全症としては、10,000人に5人程度(3人が下垂体性副腎不全、1人がアジソン病、1人が先天性副腎過形成症)の割合である。■ 病因病因としては、感染症、その他の原因によるものと特発性がある。感染症では結核性が代表的であるが、真菌性、後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えている。 特発性アジソン病は、抗副腎抗体陽性の例が多く(60~70%)、21-水酸化酵素、17α-水酸化酵素などに対する自己抗体が原因となる自己免疫性副腎皮質炎であり、その他の自己免疫性内分泌疾患を合併する多腺性自己免疫症候群と呼ばれる。I型は特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するHAM症候群、II型は橋本病などを合併するシュミット症候群などがある。その他の原因によるものとしては、がんの副腎転移、副腎白質ジストロフィーなどがある。また、最近使用される頻度が増えている免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)として内分泌障害があり、副腎炎によるアジソン病もみられる(約0.6%)。■ 症状コルチゾールの欠乏により、易疲労感、脱力感、食欲不振、体重減少、消化器症状(悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛など)、血圧低下、精神症状(無気力、嗜眠、不安、性格変化)、発熱、低血糖症状、関節痛などを認める。副腎アンドロゲン欠乏により女性の腋毛、恥毛の脱落、ACTHの上昇により、歯肉、関節、手掌の皮溝、爪床、乳輪、手術痕などに色素沈着が顕著となる。■ 分類副腎皮質の90%以上が障害されて起きる原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)と続発性副腎皮質機能低下症にまず大きく分類できる。続発性副腎皮質機能低下症には、下垂体性(ACTH分泌不全)と視床下部性(CRH分泌不全)に分けられる。■ 予後欧州の大規模疫学研究によると、原発性副腎不全症患者の全死亡リスクは、男性で2.19、女性では2.86との報告がある。長期予後が悪い理由は、グルココルチコイドの過剰投与によるQOLの低下、心血管イベントや骨粗鬆症のリスクの増加などが、生存率の低下につながると考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般検査では、低血糖(血糖値が70mg/dL以下)、低ナトリウム血症(135mEq/L以下)、正球性正色素性貧血(男性13g/dL以下、女性12g/dL以下)、血中総コレステロール値低値(150mg/dL以下)、末梢血の好酸球増多(8%以上)、相対的好中球減少、リンパ球増多、高カリウム血症を示す。内分泌学的検査では、非ストレス下で早朝ACTHとコルチゾール値を測定する(絶食で9時までに)。早朝コルチゾール値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、4μg/dL未満であれば副腎不全症の可能性が高いが、4~18μg/dLでは可能性を否定できない。血中コルチゾール基礎値が18μg/dL未満のときは、迅速ACTH負荷試験(合成1-24 ACTHテトラコサクチド[商品名:コートロシン]250μg静注)を施行する。血中コルチゾール頂値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、18μg/dL未満であれば副腎不全症を疑うほか、15μg/dL未満では原発性副腎不全症の可能性が高い。迅速ACTH負荷試験では、原発性と続発性副腎皮質機能低下症の鑑別ができないため、ACTH連続負荷試験、CRH負荷試験、インスリン低血糖試験などを組み合わせて行う(図)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)可能な限り、生理的コルチゾールの分泌量と日内変動に近い至適な補充療法が望まれる。コルチゾールを1日当たり10~20mg補充するのが生理的補充量の目安である。日本人は食塩摂取量が多いので、ヒドロコルチゾン(同:コートリル)10~20mg/日を2~3回に分割服用する(2分割投与の場合は、朝2:夕1、3分割投与では朝:昼:夕=3:2:1)。4 今後の展望現在、使用されているヒドロコルチゾンは放出が早く、内因性コルチゾールの日内リズムを完全に再現できない。わが国では使用できないが、欧州を中心にヒドロコルチゾン放出時間を遅らせる徐放型ヒドロコルチゾンの開発研究が進んでおり、生理的補充に近い薬理動態を再現できることが期待される。5 主たる診療科内科(とくに内分泌代謝内科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会臨床重要課題(副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断基準作成と治療指針作成)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アジソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Charmandari E, et al. Lancet.2014;383:2152-2167.2)南学正臣 総編集.内科学書 改訂第9版.中山書店; 2019. p.153-160.3)矢崎義雄 総編集.内科学 第11版.朝倉書店; 2017. p.1630-1633.公開履歴初回2015年01月08日更新2016年07月19日更新2022年02月28日

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リラグルチドはインクレチン関連薬のLEADERとなりうるか?(解説:住谷 哲 氏)-564

 インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)は、血糖依存性インスリン分泌作用を有することから低血糖の少ない血糖降下薬と位置付けられ、とくにDPP-4阻害薬は経口薬であることから、わが国で多用されている。心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する安全性を確認する目的でこれまでに報告されたCVOTs(CardioVascular Outcomes Trials)は、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME試験を除くと、SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)、ELIXA(リキシセナチド)とも、すべてインクレチン関連薬を用いた試験であった。しかし、これら4試験においてはプラセボに対する有益性を示すことができず、インクレチン関連薬は2型糖尿病患者の心血管イベントを減らすことはできないだろうと考えられていた時に、今回のLEADER試験が発表された。  その結果は、リラグルチド投与量の中央値1.78mg/日(わが国の投与量の上限は0.9mg/日)、観察期間3年において、主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる3-point MACEが、リラグルチド投与により13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、p=0.01)、さらに全死亡も15%減少する(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)との結果であった。 主要評価項目を個別にみると、有意な減少を示したのは心血管死(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)のみであり、非致死性心筋梗塞(0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死性脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)には有意な減少が認められなかった。3-point MACEの中で心血管死のみが有意な減少を示した点は、SGLT2阻害薬を用いたEMPA-REG OUTCOME試験と同様である。 この結果は、心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する包括的心血管リスクの減少を目指した現時点での標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)により、非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症がほぼ限界まで抑制されている可能性を示唆している。したがって、本試験の結果もEMPA-REG OUTCOME試験と同じく、リラグルチドの標準的治療への上乗せの効果であることを再認識しておく必要がある。 ADA/EASD2015年高血糖管理ガイドライン1)では、メトホルミンへの追加薬剤としてSU薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリンの6種類を横並びに提示してある。どの薬剤を選択するかの判断基準として提示されているのは、有効性(HbA1c低下作用)、低血糖リスク、体重への影響、副作用、費用であり、アウトカムに基づいた判断基準は含まれていない。今後も多くのCVOTsの結果が発表される予定であるが2)、将来的にはガイドラインにもアウトカムに基づいた判断基準が含まれることになるのだろうか? ここで、CVOTsから得られるエビデンスについて、あらためて考えてみよう。本来CVOTsは、新規血糖降下薬が心血管イベントのリスクを、既存の標準的治療に比べて増加しないことを確認するための試験である。そこで、新規血糖降下薬が有する可能性のある血糖降下作用以外のリスクを検出するために、新規血糖降下薬群とプラセボ群とがほぼ同等の血糖コントロール状態になるよう最初からデザインされている。つまり、血糖降下薬に関する試験でありながら、得られた結果は血糖降下作用とは無関係であるという、ある意味矛盾した試験デザインとなっている。さらに、対象には心血管イベントをすでに発症した、または発症のリスクがきわめて高い患者、かつ糖尿病罹病歴の長い患者が含まれることになる。したがってCVOTsで得られたエビデンスは、厳密には糖尿病罹病歴の長い2次予防患者にのみ適用されるエビデンスといってよい。 一方、ADA/EASDをはじめとした各種ガイドラインは、初回治療initial therapyを示したものであり、その対象患者はCVOTsが対象とする患者とは大きく異なっている。したがって、ここではEBMに内包されている外的妥当性 external validity(一般化可能性 generalizability)の問題を避けて通れないことになる。換言すれば、糖尿病罹病歴の長い2次予防患者で得られたCVOTsのエビデンスを、ガイドラインが対象とする初回治療患者に適用できるのだろうか?教科書的には2次予防のエビデンスと1次予防のエビデンスははっきり区別しなければならない。つまり、CVOTsで得られたエビデンスは、厳密には1次予防には適用できないことになる。しかし、2次予防のエビデンスのない薬剤と2次予防のエビデンスのある薬剤との、二者のいずれかを選択しなくてはならない場合には、眼前の患者におけるリスクとベネフィットを十分に考慮したうえで、2次予防のエビデンスのある薬剤を選択するのは妥当と思われる。この点でリラグルチドは、インクレチン関連薬のLEADERとしての資格はあるだろう。ただし、部下の標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)に支えられてのLEADERであるのを忘れてはならない。 ADA/EASDのガイドラインには、治療にかかる費用も薬剤選択判断基準の1つに含まれている。本試験における全死亡のNNTは3年間で98であり、0.9mg/日の投与で同様の結果が得られると仮定すると(大きな仮定かもしれない)、薬剤費のみで約5,500万円の医療費を3年間に使用することで、1人の死亡が防げる計算になる。これが、高いか安いかの判断は筆者にはつきかねるが、この点も患者とのshared decision makingには必要な情報であろう。

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第2回 薬物療法のキホン(総論)【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第2回】薬物療法のキホン(総論)-薬物療法のポイントを教えてください。 糖尿病では、血糖のみならず、体重、血圧、脂質の良好なコントロール状態を維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を抑制し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、寿命を確保することが求められます1)。そのために、まず、食事・運動療法から開始し、効果がなければ薬物療法を開始しますが、そのときも重要なのは“食事・運動療法”です。 第1回でもお話ししましたが、糖尿病では、食事・運動療法は治療の大前提です(第1回 食事療法・運動療法のキホン)。食事・運動療法、とくに食事療法が守られなければ、薬物療法の効果が十分に得られないからです。薬物治療を開始する際には、患者さんに“食事療法の代わりになる薬はない”こと、“食事療法が守られないと、どんな薬を使っても十分な効果が得られない”ことをお伝えするとよいでしょう。また、薬物療法で期待できる効果が得られないときには、食事・運動療法が守られていない可能性があるので、生活習慣が乱れていないかを確認してください。-経口血糖降下薬のファーストチョイスは?DPP-4阻害薬かメトホルミンかで迷っています。 DPP-4阻害薬、メトホルミンのいずれの薬剤も単独で低血糖を来しにくく、体重増加を来さないという点で使いやすい薬剤です。 DPP-4阻害薬は、腎機能、あるいは肝機能障害に注意が必要ですが、薬剤によって異なるので、各薬剤の腎・肝機能障害のある患者さんに対する適応を確認して選択します。メトホルミンは、高齢者や腎機能低下進行例注)では注意が必要ですが、薬価が安いというメリットがあります。糖尿病患者さんは他の薬剤を服用していることも多いため、経済的事情を考慮するのも大切な視点です。 私は、メトホルミンを最初に処方することが比較的多く、メトホルミンが使えない場合はDPP-4阻害薬を選択することがあります。また、メトホルミンで治療を開始するも、副作用である消化器症状のために治療が継続できない場合には、DPP-4阻害薬に切り替えることがあります。 DPP-4阻害薬はインスリン分泌促進系の薬剤で、メトホルミンはインスリン抵抗性改善系の薬剤ですので、若くて肥満があり、食事療法が守れない方であればメトホルミン、非肥満、高齢であればDPP-4阻害薬という考え方もよいと思います。それぞれの薬剤の特性や副作用、禁忌などを考慮し、患者さんに適した薬剤を選択するとよいでしょう。注:メトグルコを除くビグアナイド薬は、腎機能障害患者に禁忌となっています。-機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。 日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」1)では、病態に合わせた経口血糖降下薬の選択が示されています。病態で分けるとすれば、インスリン分泌能低下、あるいはインスリン抵抗性のどちらが優位かによって薬剤を選択できます。いずれかを使っても目標とする血糖コントロールが得られなければ、異なる作用機序の薬剤を組み合わせるのも有用です。 もう1つは、「平均血糖」と「血糖変動」という考え方です。診断、あるいは治療開始後の血糖コントロール状況の確認のために、空腹時血糖値とHbA1cでみることが多いと思いますが、HbA1cは、過去1~2ヵ月の血糖値の平均をみているものです。しかし、血糖値は1日の中で常に変動していて、その変動する血糖値をならした「平均血糖」を反映しているのがHbA1cであり、そこに大きく影響するのは基本的には空腹時血糖値です。 血糖値は、食事のたびに上昇し、食後1時間半~2時間の間にピークを迎えますが(食後血糖値)、糖尿病、あるいは予備軍であるIGT(境界型)で、食後高血糖が心血管疾患のリスクになることが、幾つかの大規模臨床試験で示されています2,3)。しかし、食後高血糖をHbA1cでみることはむずかしく、空腹時血糖値やHbA1cで良好な血糖コントロールが得られている患者さんで、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続血糖測定)により24時間の血糖変動をみたところ、空腹時血糖値は正常範囲でしたが、食後高血糖が認められたというケースも少なくありません。 糖尿病で血糖値を下げる目的は、合併症の予防です。生命予後を左右する心血管疾患などの大血管障害予防のために、空腹時血糖のみならず、食後の急激な血糖上昇を抑制し、血糖変動幅を縮小させる治療が重要だと私は考えています。血糖変動幅の縮小によりHbA1cが低下することを、われわれは「“上質”なHbA1cの低下」と呼んでいます。 平均血糖、つまり主に空腹時血糖値を低下させる薬剤には、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬、BG薬、SGLT2阻害薬があります。対して、食後高血糖を抑制し、血糖変動幅を縮小させる薬剤には、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)があります。DPP-4阻害薬はいずれの作用も持ちます。空腹時血糖値、食後血糖値ともに高い患者さんであれば、空腹時血糖値を低下させる薬剤と食後高血糖を改善する薬剤を組み合わせるのもよいでしょう。 このように病態や血糖日内変動幅などの観点から患者さんに適した薬剤を選択しますが、加えて年齢や肝・腎などの生理機能、肥満の有無や低血糖を起こしにくい、といった視点も合わせて、最適な治療を決めていきます。-同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。 いざ、薬剤を選択しようとすると、同種・同効の薬剤が多いものもあり、どれを選べばよいか迷うこともあると思います。とくに比較的新しい薬剤はそうですね。 DPP-4阻害薬は血糖低下作用についてはおおむね同等ですが、排出経路が薬剤によって異なります。主に腎で排泄される薬剤と肝で排泄される薬剤があるので、腎機能、もしくは肝機能障害がある患者さんで使い分けるとよいでしょう。また、半減期の違いから、1日1回投与のものと2回投与のものがあるので、服薬回数で選択するというのもよいでしょう。 最も新しい薬剤であるSGLT2阻害薬は、腎の近位尿細管で糖の再吸収を担うSGLT2を阻害することで、腎における糖の再吸収を抑制し、尿中への糖排泄を促進させて血糖を低下させます。SGLT2阻害薬の血糖低下作用についてもおおむね同等と思っていますが、私は、SGLT2以外に腎でブドウ糖の再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 腎における糖の再吸収の90%はSGLT2によるものですが、残り10%を担っているのがSGLT1です4)。このSGLT1は主に小腸に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています5)。SGLT2に選択性が高い場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追い付かないという問題が出てきます。SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、その場合、食後の消化管における糖の吸収遅延が期待できます。実際に、カナグリフロジン(商品名:カナグル)で、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したというデータもあります6)。α-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。 インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンに着目し、7年前にその関連薬として臨床応用できるようになったのがDPP-4阻害薬と、もう1つGLP-1受容体作動薬があります。間接的に作用するのがDPP-4阻害薬であるのに対し、直接作用するのがGLP-1受容体作動薬です。GLP-1受容体作動薬は注射ですので、インスリン療法のようにきめ細やかな用量設定の必要はないものの、患者さんの注射に対する心理的障壁もあって、導入は容易ではないかもしれません。GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に体重減少が期待できますが、これは、中枢神経系にも作用して食欲を抑制する以外に、胃の内容物の排出を遅らせることで、内容物が胃にとどまっている時間が長くなり、満腹感を感じやすいことにもよります。 GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型[リラグルチド(商品名:ビクトーザ)、持続性エキセナチド(同:ビデュリオン)、デュラグルチド(同:トルリシティ)]と、半減期の短い短時間作用型[エキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)]があり、短時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少効果が期待でき、さらに、食後高血糖の抑制作用が期待できます。対して、長時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2015-2016. 文光堂;2016. 2)DECODE Study Group, the European Diabetes Epidemiology Group. Arch Intern Med 2001;161:397-405.3)Tominaga M et al. Diabetes Care 1999;22:920-924.4)Fujita Y, et al . J Diabetes Investig. 2014;5:265-275.5)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014. 6)Polidori D et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.

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予後が改善されつつある難病LAL-D

 アレクシオンファーマ合同会社は、6月23日都内において、5月25日に発売されたライソゾーム酸性リパーゼ欠損症治療薬「カヌマ点滴静注液20mg」[一般名:セベリパーゼ アルファ(遺伝子組み換え)]に関するプレスセミナーを開催した。「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症」(以下「LAL-D」と略す)は、遺伝子変異が原因でライソゾーム酸性リパーゼという酵素活性が低下または欠損することで発症するまれな代謝性疾患であり、患者の多くが肝硬変から肝不全、死亡へと至る予後不良の希少疾患である。セミナーでは、本症の最新知見について2人の研究者が講演を行った。「ちょっと気になる脂肪肝」への意識が大事 はじめに、「LAL-Dの疾患概要と自験例紹介」というテーマで、村上 潤氏(鳥取大学医学部附属病院 小児科 講師)が、診断の視点から自験例を交え、レクチャーを行った。 通常「脂肪肝」は、栄養性、薬剤性、先天代謝異常症などが原因で起こり、腹部エコーやCT、MRI、肝生検などで詳しく診断が行われる。しかし、小児の脂肪肝では、一定頻度で先天性代謝異常が存在し、注意が必要であるという。たとえば、小児で肥満がなく、肝腫大の程度が強く、体重増加不良、低血糖、発達遅滞などの症状や、乳酸、アンモニア高値などを伴う脂肪肝を見かけたら、先天代謝異常症を疑う必要がある。 この先天代謝異常症の一つにLAL-Dがあり、LAL-DにはLAL活性が完全欠損している乳児型のWolman病(WD)と、部分欠損している遅発型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)の2つの表現型がある。 WDでは、顕著な肝・脾腫大や肝不全を観察し、持続性の嘔吐・下痢、腹部膨満、腸管の吸収不良、胆汁うっ滞などの症状があり、急速進行性で致死的である。一方、CESDでは、同じく肝・脾腫大が観察され、一般に肥満はないとされる。臨床所見では、ALT>正常上限の1.5倍以上、LDL-C≧182mg/dL、HDL-C<50mg/dLなどが見られ、肝生検では、小滴性脂肪沈着も観察される。患者の89%が12歳未満で発症、50%が21歳未満で死亡している。 LAL-Dの正確な罹患率は、疫学調査が行われていないため不明であるが、2013年までに全国でWDが12例、CESDが13例報告されている。 自験例として、11歳・男児について、小学校の健診で高脂血症を指摘されたことで精査へとつながり、LAL-Dと診断された例を紹介した。一見、一般的な脂肪肝と見なしがちで、臨床検査や画像診断ではなかなか見分けがつきにくいところが、本症の診断の難しい点であるという。 本症のスクリーニングについては、肝臓関連所見では持続性肝腫大、原因不明のトランスアミナーゼ値上昇、顕著な小滴性脂肪沈着、潜在性肝硬変、インスリン耐性がないメタボリックシンドロームと思われる患者が挙げられ、脂質関連所見では、高LDL-C値および/または低HDL-C値、家族歴不明の家族性高コレステロール血症(FH)疑い、LDLR、APO BおよびPCSK9をコードする遺伝子の検査結果陰性のFH疑いが挙げられる。 確定診断は、非侵襲的で簡便な方法である血中酵素活性測定によって診断される。 補充療法が予後を改善 続いて、「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の臨床像と治療」と題して、天野 克之氏(東京慈恵会医科大学附属病院 消化器肝臓内科 診療医長)が、治療の視点から本症と新治療薬について解説を行った。 従来、LAL-Dは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などと同じ治療法で、支持療法が行われてきた。また、臓器移植を行ってもその治療効果は弱いものであったという。 今回、本症の治療薬として発売されたセベリパーゼ アルファ(商品名:カヌマ)は、遺伝子組換えヒトライソゾーム酸性リパーゼ製剤であり、細胞内に取り込まれた後、ライソゾームに運ばれ、コレステロールエステル(CE)およびトリグリセリド(TG)を加水分解する作用を持つ。これにより脂肪量の減少、LDL-CやTGの低下、HDL-Cの上昇、脂質減少による成長障害の改善が期待されている。 臨床試験は、2歳未満の小児(n=9)と4歳以上の小児/成人(n=66)に分かれて実施され、報告された。 2歳未満の小児では、カヌマを週1回、最大5mg/kgまでを最長208週間投与した結果、生後12ヵ月で9例中6例が生存していたほか、ALT/ASTの顕著な減少、体重増加、リンパ節腫脹、血清アルブミン値の改善が認められた(II/III相試験)。 4歳以上の小児/成人では、30例をプラセボに、36例をカヌマ(1mg/kg、2週に1回投与)に割り付けて、20週の効果を比較した。その結果、ALTの正常化が認められた患者がプラセボ7%に対し、カヌマでは31%、同様にASTでプラセボ3%に対し、カヌマでは42%だった。また、肝脂肪量の減少(ベースラインからの平均変化率)では、プラセボ-4%に対し、カヌマでは-32%だったほか、LDL-C低下、脂質プロファイルの改善なども見られた(III相試験/20週後はオープンラベルで実施)。ALTのベースラインからの平均変化率推移では、投与後4週までに急激に下がり、肝機能が改善されることで以後はフラットに維持される。報告された有害事象は、尿路感染症、アナフィラキシー反応、不安症などで、いずれも重篤なものではないが、投与1年後までみられる場合があるという。 自験例として21歳・女性の例を紹介し、13歳でLAL-Dと診断されて以降、高脂血症などの対症療法が行われてきたが、カヌマによる治療で速やかに肝機能、脂質異常が改善し、対症療法の常用薬の中止も検討されていることを報告し、レクチャーを終えた。関連コンテンツ待望の治療薬登場、希少疾患に福音新薬情報:カヌマ点滴静注液20mg

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ビタミンDで抗精神病薬誘発性高血糖が低減か:京都大学

 非定型抗精神病薬は、高血糖リスク増加と関連しているため、臨床使用が制限される。京都大学の長島 卓也氏らは、抗精神病薬誘発性高血糖の根本的な分子メカニズムについて検討を行った。Scientific reports誌2016年5月20日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・FAERS(FDA Adverse Event Reporting System)データベースにおける薬剤の組み合わせを検索したところ、非定型抗精神病薬の高血糖リスクを低減した併用薬として、ビタミンD類似体との組み合わせが、クエチアピン誘発性糖尿病関連有害事象の発生を有意に減少させることが示された。・マウスを用いた実験検証では、クエチアピンは急性インスリン抵抗性を引き起こすことが認められ、これは、コレカルシフェロールの食事補充により軽減された。・シグナル伝達経路や遺伝子発現に関連するデータベース解析では、インスリン受容体の下流で働く重要な遺伝子であるPik3r1のクエチアピン誘発性のダウンレギュレーションを予測した。・PI3Kシグナル伝達経路に焦点を当て、Pik3r1 mRNAの発現低下は、骨格筋のコレカルシフェロール補充により逆転することが認められた。C2C12筋管へのインスリン刺激グルコースの取り込みは、クエチアピン存在下で阻害され、これは、PI3K依存的に付随するカルシトリオールにより逆転した。 結果を踏まえ、著者らは「ビタミンDの同時投与は、PI3K機能のアップレギュレーションにより、抗精神病薬誘発性高血糖およびインスリン抵抗性を防ぐことが示唆された」としている。関連医療ニュース オランザピン誘発性体重増加を事前に予測するには:新潟大学 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 抗精神病薬誘発性の体重増加に関連するオレキシン受容体

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CKD患者のナトリウム排泄量増加は心血管疾患発症リスク増大と関連する(解説:木村 健二郎 氏)-545

 21~74歳のCKD(慢性腎臓病)(eGFR:20~70mL/min/1.73m2)の住民3,757例を6.8年経過を追って、尿中の24時間ナトリウム排泄量と心血管疾患発症の関係をみた前向き観察研究。 尿中ナトリウム排泄量は、3日間蓄尿して男女別の24時間平均クレアチニン排泄量で補正している。尿中ナトリウムの排泄量の四分位でみると、最少量(2,894mg/日未満、食塩排泄量7.4g/日未満)から最大量(4,548mg/日以上、食塩排泄量11.6g/日以上)まで、心血管疾患の累積発症率はそれぞれ18.4%、16.5%、20.6%および29.3%と上昇した。しかし、心血管疾患リスクはナトリウム排泄量の三分位以下(食塩排泄量11.6g/日未満)の各群間には有意差はみられなかった。このことは、食塩摂取量の多いCKD患者では、少しの食塩摂取制限で心血管疾患リスクを減らせる可能性を示唆している。本研究の結果は、血圧やその他の心血管疾患リスクで補正しても変わらなかった。したがって、食塩摂取量が多いことによる心血管疾患リスクの上昇は、血圧を介するというよりは、食塩摂取過多による血管内皮障害、酸化ストレス、インスリン抵抗性などによる血管障害を介している可能性がある、としている。CKDにおける食塩摂取量と心血管疾患リスクの関係をみた初めてのコホート研究として注目される。

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第1回 食事療法・運動療法のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第1回】食事療法・運動療法のキホン-糖尿病の食事・運動療法のポイントを教えてください。 糖尿病では、食事・運動療法は治療の大前提です。食事・運動療法を行っても目標とする血糖コントロールが達成できない場合は薬物療法を行いますが、その場合でも、食事・運動療法、とくに食事療法が守られなければ、薬剤の十分な効果を得ることはできません。食事療法が薬物療法の効果を左右する、といっても過言ではありません。ですので、私は患者さんに、“食事療法の代わりになる薬はない”こと、“食事療法が守られないと、どんな薬を使っても十分な効果が得られない”ことを必ず伝えています。 患者さんの血糖値にもよりますが、まず、食事・運動療法を数ヵ月行います。最初は1ヵ月に1回来院していただき、こまめに効果を確認します。HbA1cの低下が認められる間は、食事・運動療法のみで十分効果が得られていますので、そのまま継続します。HbA1cの低下が横ばい状態になり、低下する様子が2~3ヵ月みられなくなったら、食事・運動療法のみではこれ以上改善しないと判断し、薬物療法を開始します。-食事・運動療法を継続してもらうのが困難です。外来で短時間に行うことができる指導のコツはありますか。 最初に頑張りすぎてしまう人の場合、すぐに息切れしてダメになってしまうということは往々にしてあることです。食事・運動療法は糖尿病治療の根幹で、治療を続ける限りやっていく必要があります。そのために、“無理なく続けられる食事・運動療法”をやっていく、ということが大切です。食事・運動療法は、患者さんの欲求や嗜好、年齢や健康状態、生活スタイルが大きく影響します。そのため、いずれも通り一遍の方法を指導するのではなく、患者さんの置かれている環境の中で継続できる方法を一緒に考え、選んでいきます。効果が出ると、動機付けにもなります。 血糖コントロールが悪化した場合には、生活習慣が乱れている可能性があるので、食事・運動療法の状況を確認し、問題点を見つけて、是正する方法を一緒に考えます。また、そのときに「できていないですね」などと否定するのではなく、きちんとできているところを見つけて「ここはよくできていますね」などと褒め、「一緒に頑張りましょう」というのもよいでしょう。-高齢者にも、厳密な食事管理・運動を行ってもらうべきでしょうか。 高齢患者さんは、高齢になって発症した場合と、青壮年発症で高齢になった場合に分けて考えます。後者はとくに問題がなければ、それまでの食事・運動療法を続けていただきます。 高齢者の血糖コントロールについて、2015年4月に設置された「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」で、まずその目標値について議論され、2016年5月20日に、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が発表されました1)。 基本的な考え方として、 1.血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態年齢、認知機能、身体機能(基本的ADLや手段的ADL)、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定すること、2.重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと、 としたうえで、 3.高齢者ではこれらの目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性を重視した治療を行う観点から、今回新たに設定された目標値を下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことを可能としたこと、 を挙げています。具体的には、患者を認知機能やADL、併存疾患や機能障害によって、カテゴリーI~IIIに分類し、それぞれ重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU薬、グリニド薬など)の使用有無で分けて考えます。これら薬剤を使用していない場合は、カテゴリIおよびIIとも7.0%未満、カテゴリIIIでは8.0%未満が目標値となります。一方、これら薬剤を使用している場合は、カテゴリIでは65歳以上75歳未満7.5%未満(下限6.5%)/ 75歳以上8.0%未満(下限7.0%)、カテゴリIIは8.0%(下限7.0%)、カテゴリIIIは8.5%未満(下限7.5%)となっています。 高齢患者さんの場合、上述の高齢者糖尿病の血糖コントロール目標にあるように、年齢や余命、合併症、ADL、腎・肝機能を中心とした生理機能の低下、運動能力の低下といった身体的特徴や、うつ状態やストレス状態といった心理的特徴、さらに家族との関わりや経済状態といった社会的特徴を考慮する必要があります。私は、これらを考慮しながら、まず、HbA1c 8%以下を目指します。しかし、いずれにしても、食事・運動療法は治療の大前提で、薬物治療の効果にも大きく影響しますので、個々の高齢患者さんのできる範囲で守っていただくようにします。-食事・運動療法は個人差が大きく、効果がばらばらです。患者の性別や体格、年齢によって運動と食事の指導をきめ細かに行うべきでしょうか。 前述したように、食事・運動療法は、患者さんの欲求や嗜好、年齢や健康状態、生活スタイルが大きく影響します。そのため、すべての患者さんに対して同じように指導しても、思うような効果が得られません。とくに、生活スタイルは非常に重要で、すでにリタイアされていて時間があり、食事・運動療法にかける時間が取れる方と、お仕事をされていらっしゃる方とでは異なります。その患者さんの生活の中で、できることを考えていく必要があります。また、合併症の有無や、高齢者であれば生理機能や運動能力の低下、家族の有無なども影響します。性別に関しては、私は、女性は男性に比べて比較的真面目に取り組むという印象を持っています。-糖質制限食を患者さんに勧めてよいでしょうか。本当に有効なのか教えてください。 近年、炭水化物(糖質)の摂取制限の体重減少が注目されており、私も患者さんから聞かれることがあります。糖質制限に関しては、これまでにさまざまに議論されており、現時点で糖尿病に関して有効であるという明確な根拠は見いだせていません。 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」2)では、糖尿病の食事として、三大栄養素の摂取比率を定めており、炭水化物の摂取比率を50~60%エネルギーとしたうえで、1日摂取量150g/日以上を目安とすることを勧めています3)。 しかし、夜遅く摂取した炭水化物は翌朝の空腹時血糖値に影響し、それが続けば、ひいてはHbA1cの値に影響します。そのため、私は、朝・昼の炭水化物は普通に摂取し、夕食の炭水化物は少し控え目にするよう(子供用茶碗に軽く一杯程度)、指導しています。昼食の炭水化物を制限してしまうと、どうしても、夕食までにおなかが空き過ぎてしまい、強い空腹感から、かえって炭水化物を多く取ってしまいかねません。「昼間の炭水化物は、夜の炭水化物摂取を抑えるための薬だと思って、しっかり食べてください」と患者さんに指導しています。 夕食は早めに、寝るまでに時間を空けること、とよくいわれますが、働いている方の場合、どうしても帰宅してからの遅い夕食になり、食べてからすぐ寝てしまいがちです。また、昼食と夕食の間に時間が空いてしまうと、空腹感から、炭水化物を多く摂取してしまう可能性があるため、そのような方の場合は、職場で午後6~7時くらいに、軽く炭水化物を取り(おにぎり1~2個程度)、帰宅してからは、海藻類やきのこ類、緑黄色野菜、豆類などを食べるよう、指導するとよいでしょう。 「糖質を制限したら、後は何を食べてもよい」ということをよく聞きますが、糖尿病患者さんの場合、合併症として腎症がありますので、タンパク質の量は非常に重要になってきます。また、脂質を取り過ぎれば、動脈硬化や脂肪毒性※の問題も出てきます。 ※脂肪毒性:脂肪細胞から遊離される脂肪酸によってインスリン抵抗性が生じ、血糖が上昇する、また、インスリン分泌が減少し、膵β細胞が障害されること。-患者さんの何を指標に、どれくらいの負荷の運動をどれだけ勧めればいいのか、教えてください。 一般的に、健康状態に問題がなければ、中等度の強度の有酸素運動が勧められており、強度の目安として、最大酸素摂取量の50%前後、運動時の心拍数が50歳未満では1分間100~120拍、50歳以上は100拍以内とされています1)。しかし、適切な強度を見極めるのは難しいと思いますので、「ちょっときつい」と思う程度、少し息切れする程度・汗ばむ程度を目安としていただければと思います。 また、運動の頻度、負荷量としては、できれば毎日、少なくとも週に3~5回、強度が中等度の有酸素運動を20~60分間、計150分以上運動をすることが勧められています。また、同時に、腹筋や腕立て伏せ、スクワット、ダンベルを使ったレジスタンス運動、いわゆる筋トレですが、これを週に2~3回行うことが推奨されています。歩行運動であれば1回15~30分を1日2回、1日の運動量として、歩行は約1万歩(消費エネルギー約160~240kcal)が適当とされています1)。 これらを踏まえたうえで、患者さんの年齢や身体能力、合併症の有無や生活スタイルに合わせ、その方の日常生活に組み入れ、継続できる運動を一緒に考えていくとよいと思います。 私は、リタイアされて時間に余裕がある方であれば、毎食後のウオーキング(速歩)をお勧めしています。食事の食べ始めを0とし、1~2時間の間に、20分程度のウオーキングをします。食後1時間半~2時間で血糖値がピークを迎えますが、食後に20分程度のウオーキングをすることによって、食後の急激な血糖上昇を抑え、緩やかにするという効果が得られます。 働いている方であれば、このような運動を取り入れるのは難しいので、たとえば、電車で通勤されている方ならば一駅分歩く、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使うなど、普段の生活の中でできる運動を考えます。1)日本糖尿病学会編・著.糖尿病治療ガイド2016-2017.文光堂;2016.2)健康局がん対策・健康増進課栄養指導室.「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書.2014年3月28日.3)日本糖尿病学会.日本人の糖尿病食事療法に関する日本糖尿病学会の提言.2013年3月.

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DPP-4阻害薬の適正使用を再認識する(解説:吉岡 成人 氏)-538

糖尿病患者の半数以上がDPP-4阻害薬を使用している 日本では、糖尿病受療患者の半数を超える300万例以上にDPP-4阻害薬が投与されており、多くの医師により糖尿病治療の第1選択薬として広く使われている。 2009年12月にシタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)が上市され、現在では、ビルダグリプチン(同:エクア)、アログリプチン(同:ネシーナ)、リナグリプチン(同:トラゼンタ)、テネリグリプチン(同:テネリア)、アナグリプチン(同:スイニー)、サキサグリプチン(同:オングリザ)、さらには週1回製剤としてトレラグリプチン(同:ザファテック)、オマリグリプチン(同:マリゼブ)の9製剤が使用可能となっている。DPP-4阻害薬とSU薬の併用による低血糖 DPP-4阻害薬は、消化管ホルモンであるGLP-1(glucagon-like peptide-1)、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の作用を高めることによって、膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進する。DPP-4阻害薬のインスリン分泌促進作用は血糖依存性であり、単独投与で低血糖を引き起こすことはまれである。しかし、シタグリプチンの販売後、SU薬にDPP-4阻害薬を追加投与した患者で重篤な低血糖症例が報告され、2010年4月には「インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会」から、SU薬を減量したうえでDPP-4阻害薬を使用するよう勧告が出された1)。その後、医薬品医療機器総合機構に報告された副作用報告症例や診療報酬明細データを利用した調査では、SU薬の使用量の適正化、低血糖症例の減少が報告されている2)。 血糖値が上昇すると、膵β細胞に取り込まれたグルコースは代謝されATPが産生される。膵β細胞内で増加したATPは、細胞膜のATP感受性K+チャネル(KATP)チャネルを閉鎖し、細胞膜の脱分極を起こし電位依存性Ca2+チャネルを開口し、細胞内のCa濃度が上昇することでインスリン分泌顆粒からインスリンが動員され、分泌が促進される。SU薬はグルコース濃度にかかわらず、KATPチャネルに直接作用してインスリン分泌を促進する。 一方、インクレチンはインクレチン受容体に結合した後、アデニル酸シクラーゼを活性化することでcAMPを産生し、膵β細胞内のグルコース代謝に依存したインスリン分泌作用を増強する。高血糖が持続している状態では膵β細胞内の代謝が著しく低下し、細胞内のATP産生が低下する。細胞内のATP濃度が低い状態ではSU薬のチャネル閉鎖が障害され、SU薬を使用してもインスリン分泌が促進されないという状態を引き起こす。 しかし、インクレチンはcAMPの上昇を介してインスリン分泌を促進するのみならずATP産生を回復させるため、グルコースによるインスリン分泌にとどまらず、SU薬によるインスリン分泌も改善させる。この相乗効果が低血糖を引き起こす原因と考えられる。メタアナリシスによる臨床試験の解析論文 2型糖尿病患者で、SU薬とDPP-4阻害薬の併用を行っている患者とプラセボを比較した無作為化試験10件(6,546例)を対象として、試験ごとに低血糖のリスク比とその95%信頼区間を算出し、統合解析を行った試験がBMJ誌に報告されている。ビルダグリプチン、アログリプチンを用いた日本における臨床試験も2件含まれている。 本論文の解析結果では、SU薬とDPP-4阻害薬の併用による低血糖のリスク比は1.52(95%信頼区間:1.29~1.80)、何人の患者を治療すると1人が低血糖を引き起こすかを示す指標である有害必要数(number needed to harm:NNH)は治療後6ヵ月で17(95%信頼区間:11~30)、6~ 12ヵ月で15(同:9~26)、1年以降で8(同:5~15)であった。また、サブグループ解析では、DPP-4阻害薬の常用量(最大投与量を含む)を投与している場合の低血糖リスクは1.66(95%信頼区間:1.34~2.06)であったが、半量投与群では1.33(同:0.92~1.94)と有意差を示さなかったことも報告されている。 日本においては「インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会」では、グリメピリド(商品名:アマリール)2mg以下、グリベンクラミド(同:オイグルコン、ダオニール)1.25mg以下、グリクラジド(同:グリミクロン)40mg以下に減量したうえでDPP-4阻害薬の併用を行うことを2010年に推奨している。きわめて妥当性のある推奨で、勧告後はSU薬とDPP-4阻害薬の併用による低血糖の頻度は減少している。 しかし、低血糖を引き起こす背景には、SU薬を漫然と高用量で処方しているという背景がある。臨床効果という点では、SU薬に用量依存性はないことを認識すべきである。一般医としては、DPP-4阻害薬の併用にかかわらず、SU薬を使用する場合には、グリメピリドであれば1mgまで、グリクラジドであれば40mgまでとし、作用時間が長いグリベンクラミドは使用しないというスタンスで糖尿病患者の治療に当たることが望ましいと考えられる。

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統合失調症患者への抗精神病薬と気分安定薬併用、注意すべきポイントは

 統合失調症患者は心血管疾患リスクが高く、全死亡率は一般集団と比較して高い。抗精神病薬の代謝系副作用は広く研究されているが、抗精神病薬にリチウムやバルプロ酸など従来の気分安定薬を併用した場合の、代謝系リスクへの影響という観点からの評価はない。米国・マサチューセッツ総合病院のBrenda Vincenzi氏らは、第2世代抗精神病薬とリチウムまたはバルプロ酸との併用治療が、併用しない場合と比較し、代謝アウトカムの不良と関連しているかを検討した。Journal of psychiatric practice誌2016年5月号の報告。 3件の研究からのベースラインデータ、BMI、胴囲、空腹時血糖、インスリン、HOMA-IR(ホメオスタシスモデル評価によるインスリン抵抗性指数)、インスリン感受性指数、グルコース消費、グルコースへの急性インスリン反応に関する測定データを用い分析を行った。主な結果は以下のとおり。・リチウムまたはバルプロ酸の併用は、併用しない場合と比較して、空腹時血糖、空腹時インスリン、HOMA-IRの差は認められなかった。・インスリン感受性は、リチウムまたはバルプロ酸併用患者で低かった。・リチウムまたはバルプロ酸を併用している患者では、従来の気分安定薬を併用していない患者と比較し、BMIが高かったが、統計学的に有意な差は認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「第2世代抗精神病薬とリチウムまたはバルプロ酸を併用している患者では、インスリン感受性やBMIをモニタリングすることが有益である」としている。関連医療ニュース 抗精神病薬による体重増加や代謝異常への有用な対処法は:慶應義塾大学 アリピプラゾールと気分安定薬の併用、双極性障害患者の体重増加はどの程度 オランザピンの代謝異常、アリピプラゾール切替で改善されるのか

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高齢糖尿病患者の血糖値目標は3カテゴリー

 日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会である「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」は、5月20日に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」を発表した。 これはわが国の超高齢化社会に鑑み、高齢糖尿病患者の抱えるさまざまな問題(たとえば心身機能の個人差、重症低血糖を来しやすいなど)に対応するために昨年「高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」が設置され、「高齢者糖尿病診療ガイドライン」の策定を目指す過程で、今回発表されたものである。 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」は、次の3つの基本的な考え方で構成されている。(1)血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態:年齢、認知機能、身体機能(基本的ADLや手段的ADL)、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定すること。(2) 重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと。(3)高齢者ではこれらの目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性を重視した治療を行う観点から、表(別表省略)に示す目標値を下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことを可能としたこと。 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)では、まず患者の特徴・健康状態に応じて大きく3つのカテゴリーに分類、その中でも重症低血糖が危惧される薬剤(例:インスリン、SU薬、グリニド薬など)の使用の有無で2つに分類(カテゴリーIでは年齢でも2つに分類)して血糖コントロールの目標値を定めている。高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)・カテゴリーI(認知機能正常かつADL自立) 薬剤使用なし→ 7.0%未満   薬剤使用あり: 65歳以上75歳未満→ 7.5%未満(下限6.5%) 75歳以上→ 8.0%未満(下限7.0%)・カテゴリーII(軽度認知障害~軽度認知症または手段的ADL低下、基本的ADL自立) 薬剤使用なし→ 7.0%未満   薬剤使用あり→ 8.0%未満(下限7.0%)・カテゴリーIII(中等度以上の認知症または基本的ADL低下または多くの併存疾患や機能障害) 薬剤使用なし→ 8.0%未満   薬剤使用あり→ 8.5%未満(下限7.5%)  治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。 なお、注記して認知機能や基本的ADLなどの評価では、 日本老年医学会ホームページを参照するほか、合併症予防のための目標値を7.0%未満としつつも、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とするなどの内容が定められている。そのほか、患者の状態に応じ、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、患者個別に目標や下限を設定してもよいことやグリニド薬の注釈なども記載されている。 「重要な注意事項」として、糖尿病治療薬の使用では、日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照とすること、薬剤使用時には多剤併用を避け、副作用の出現に十分に注意することが謳われている。詳しくは、日本糖尿病学会「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」まで。

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2度目の改訂版を発表-SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。SGLT2阻害薬は、新しい作用機序を有する2型糖尿病薬で、現在は6成分7製剤が臨床使用されている。 Recommendationでは、75歳以上の高齢者への投与を慎重投与とするほか、65歳以上でも老年症候群の患者には同様としている、また、利尿薬との併用については、「推奨されない」から「脱水に注意する」に変更された。そのほか、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くともケトアシドーシスの可能性を考慮し、血中ケトン体の確認を推奨している。 今回の改訂は、1年9ヵ月ぶりの改訂となるが、その間に報告された副作用情報や高齢者(65歳以上)に投与する場合の全例特定使用成績調査による、高齢者糖尿病における副作用や有害事象の発生率や注意点について、一定のデータが得られたことから、改訂されたものである。 本委員会では、「これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるよう、Recommendationをアップデートする」と表明している。Recommendation1)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。2)75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。3)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合にはとくに脱水に注意する。4)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。5)全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があるので、血中ケトン体を確認すること。6)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、必ず副作用報告を行うこと。7)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。副作用の事例と対策(抜粋)重症低血糖 重症低血糖の発生では、インスリン併用例が多く、SU薬などのインスリン分泌促進薬との併用が次いでいる。DPP-4阻害薬の重症低血糖の場合にSU薬との併用が多かったことに比し、本剤ではインスリンとの併用例が多いという特徴がある。SGLT2阻害薬による糖毒性改善などによりインスリンの効きが急に良くなり低血糖が起こっている可能性がある。このように、インスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬を投与中の患者へのSGLT2阻害薬の追加は、重症低血糖を起こす恐れがあり、あらかじめインスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬の減量を検討することが必要である。また、これらの低血糖は、比較的若年者にも生じていることに注意すべきである。 インスリン製剤と併用する場合には、低血糖に万全の注意を払い、インスリンをあらかじめ相当量減量して行うべきである。また、SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下のとおりSU薬の減量を検討することが必要である。 ・グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる ・グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる ・グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じるケトアシドーシス インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などが原因となっている。血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性がある。とくに、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には血中ケトン体を確認する。SGLT2阻害薬の投与に際し、インスリン分泌能が低下している症例への投与では、ケトアシドーシスの発現に厳重な注意が必要である。同時に、栄養不良状態、飢餓状態の患者や極端な糖質制限を行っている患者に対するSGLT2阻害薬投与開始やSGLT2阻害薬投与時の口渇に伴う清涼飲料水多飲は、ケトアシドーシスを発症させうることにいっそうの注意が必要である。脱水・脳梗塞など 循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されている。脳梗塞発症者の年齢は50~80代である。脳梗塞はSGLT2阻害薬投与後数週間以内に起こることが大部分で、調査された例ではヘマトクリットの著明な上昇を認める場合があり、SGLT2阻害薬による脱水との関連が疑われる。また、SGLT2阻害薬投与後に心筋梗塞・狭心症も報告されている。SGLT2阻害薬投与により通常体液量が減少するので、適度な水分補給を行うよう指導すること、脱水が脳梗塞など血栓・塞栓症の発現に至りうることに改めて注意を喚起する。75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合や利尿薬併用患者などの体液量減少を起こしやすい患者に対するSGLT2阻害薬投与は、注意して慎重に行う、とくに投与の初期には体液量減少に対する十分な観察と適切な水分補給を必ず行い、投与中はその注意を継続する。脱水と関連して、高血糖高浸透圧性非ケトン性症候群も報告されている。また、脱水や脳梗塞は高齢者以外でも認められているので、非高齢者であっても十分な注意が必要である。脱水に対する注意は、SGLT2阻害薬投与開始時のみならず、発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には万全の注意が必要であり、SGLT2阻害薬は必ず休薬する。この点を患者にもあらかじめよく教育する。また、脱水がビグアナイド薬による乳酸アシドーシスの重大な危険因子であることに鑑み、ビグアナイド薬使用患者にSGLT2阻害薬を併用する場合には、脱水と乳酸アシドーシスに対する十分な注意を払う必要がある(「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」)。皮膚症状 皮膚症状は掻痒症、薬疹、発疹、皮疹、紅斑などが副作用として多数例報告されているが、非重篤のものが大半を占める。すべての種類のSGLT2阻害薬で皮膚症状の報告がある。皮膚症状が全身に及んでいるなど症状の重症度やステロイド治療がなされたことなどから重篤と判定されたものも報告されている。皮膚症状はSGLT2阻害薬投与後1日目からおよそ2週間以内に発症している。SGLT2阻害薬投与に際しては、投与日を含め投与後早期より十分な注意が必要である。あるSGLT2阻害薬で皮疹を生じた症例で、別のSGLT2阻害薬に変更しても皮疹が生じる可能性があるため、SGLT2阻害薬以外の薬剤への変更を考慮する。いずれにせよ皮疹を認めた場合には、速やかに皮膚科医にコンサルトすることが重要である。とくに粘膜(眼結膜、口唇、外陰部)に皮疹(発赤、びらん)を認めた場合には、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症薬疹の可能性があり、可及的速やかに皮膚科医にコンサルトするべきである。尿路・性器感染症 治験時よりSGLT2阻害薬使用との関連が認められている。これまで、多数例の尿路感染症、性器感染症が報告されている。尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎など、性器感染症は外陰部膣カンジダ症などである。全体として、女性に多いが男性でも報告されている。投与開始から2、3日および1週間以内に起こる例もあれば2ヵ月程度経って起こる例もある。腎盂腎炎など重篤な尿路感染症も引き続き報告されている。尿路感染・性器感染については、質問紙の活用を含め適宜問診・検査を行って、発見に努めること、発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすることが重要である。 本委員会では、SGLT2阻害薬の使用にあたっては、「特定使用成績調査の結果、75歳以上では安全性への一定の留意が必要と思われる結果であった。本薬剤は適応やエビデンスを十分に考慮したうえで、添付文書に示されている安全性情報に十分な注意を払い、また本Recommendationを十分に踏まえて、適正使用されるべきである」と注意を喚起している。「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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肥満女性のインスリン抵抗性改善に骨格筋が重要

 女性肥満患者がインスリン抵抗性を改善するには、骨格筋量の維持が必要であることを、関西医科大学の福島 八枝子氏らが報告した。Diabetes & metabolism journal誌2016年4月号に掲載。 近年、運動耐容能および脂肪指数に加えて、骨格筋が肥満者におけるインスリン抵抗性に重要な役割を持つことが示唆されている。著者らは、女性肥満患者の減量時において、インスリン抵抗性の改善に寄与する体組成因子を調査した。 著者らは、食事療法、運動療法、認知行動療法を含む介入プログラム後に、体重が5%以上減少した女性肥満患者92例(年齢:40.9±10.4歳、BMI:33.2±4.6)を調査した。骨格筋量の変化を調べるために、介入の前後の体組成を、DEXA(X線二重エネルギー法)で評価した。インスリン抵抗性の指標として、HOMA-IR(ホメオスタシスモデル評価によるインスリン抵抗性指数)を測定した。心肺運動負荷試験もすべての患者で実施した。 主な結果は以下のとおり。・体重(-10.3±4.5%)、運動耐容能(無酸素性代謝閾値:9.1±18.4%、最高酸素摂取量:11.0±14.2%)、HOMA-IR(-20.2±38.3%)が有意に改善した。・体組成については、総体脂肪量(-19.3±9.6%)、総除脂肪量(-2.7±4.3%)、体脂肪率(-10.1±7.5%)が有意に減少し、骨格筋率(8.9±7.2%)は有意に増加した。・従属変数としてのHOMA-IRの変化をみたステップワイズ法による線形重回帰分析では、骨格筋率の変化が独立した予測因子として同定された(β=-0.280、R2=0.068、p<0.01)。

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DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者における重度腎不全のリスクを増加させる可能性がある(解説:住谷 哲 氏)-520

 DPP-4阻害薬は、わが国で最も多く処方されている血糖降下薬である。しかし、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントを抑制する可能性は、TECOS試験1)などの3つのランダム化比較試験(RCT)の結果からほぼ否定された。同時に、これら3つのRCTにおいて、DPP-4阻害薬が他の血糖降下薬に比較して心血管イベントを増加させる可能性もほぼ否定された。つまり、少なくとも心血管イベント発症に対する安全性は担保されたことになる。しかし、DPP-4阻害薬が細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)に及ぼす影響については、これまでほとんど報告されていない。そこで著者らは、real worldにおいてDPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の細小血管障害のリスクを減少させるか否かを検討した。その結果は、DPP-4阻害薬がメトホルミンと比較して重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆しており、DPP-4阻害薬が多用されているわが国の2型糖尿病診療に及ぼす影響は少なくない。 英国プライマリケアのデータベースであるQResearchデータベースを用いて、2007年4月1日から2015年1月31日の間に、2型糖尿病と診断された患者46万9,688例(25~84歳)をオープンコホートに組み込み、DPP-4阻害薬(80%はシタグリプチン)、チアゾリジン薬(90%はピオグリタゾン)、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他の血糖降下薬(αGI薬、グリニド薬、SGLT2阻害薬)と5つの臨床アウトカム(失明、高血糖、低血糖、下肢切断、重度腎不全)との関連を検討した(ここで下肢切断は神経障害と考えられている点に注意が必要である)。血糖降下薬は、単剤、2剤併用、3剤併用のすべての組み合わせについてそれぞれ検討した。重度腎不全は、透析導入、腎移植、CKD ステージ5(eGFR<15 mL/min/1.73m2)のいずれかと定義した。それぞれのアウトカムに対するハザード比(HR)を、Cox比例ハザードモデルにより計算した。それぞれの薬剤への暴露(exposure)は、たとえば、ある患者がコホートに組み込まれた最初12ヵ月間はメトホルミンのみ、その後メトホルミンとチアゾリジン薬との併用24ヵ月、その後投薬なし6ヵ月の時点でイベントを発症した場合はメトホルミン単剤12ヵ月、メトホルミン+チアゾリジン薬24ヵ月、無投薬6ヵ月としてモデルに組み込まれた。 観察期間中に、27万4,324例(58.4%)が何らかの血糖降下薬を処方された。そのうちメトホルミンが25万6,024例(投薬群の93.3%)に処方された。一方、DPP-4阻害薬は3万2,533例(投薬群の11.9%)に処方された。その結果は表3に示されているように、メトホルミンのみが失明(HR:0.70、95%信頼区間:0.66~0.75、以下同様)、高血糖(0.65、0.62~0.67)、低血糖(0.58、0.55~0.61)、下肢切断(0.70、0.64~0.77)、重度腎不全(0.41、0.37~0.46)とすべてのアウトカムのリスクを減少させた。 これに基づいて、各薬剤群(単剤、2剤併用、3剤併用)および無投薬群のメトホルミン単剤投与群に対する、それぞれの5つのアウトカムの調整HRが表5にまとめられている。DPP-4阻害薬単剤投与群においては、失明(1.39、0.66~2.93)、高血糖(1.44、0.85~2.43)、低血糖(0.83、0.21~3.33)、下肢切断(1.03、0.33~3.20)、重度腎不全(3.52、2.04~6.07)であり、重度腎不全のリスクのみがメトホルミン単剤投与群に比較して3.52倍増加していた。この重度腎不全のリスク増加は、メトホルミン+DPP-4阻害薬の2剤併用群では消失(0.59、0.28~1.25)していたが、SU薬+DPP-4阻害薬の2剤併用群では残存(3.21、2.08~4.93)していた。さらに、メトホルミン+DPP-4阻害薬+SU薬の3剤併用群においては重度腎不全リスクの増加は認められなかった(0.68、0.39~1.20)。 本論文の結果は、DPP-4阻害薬単剤投与は2型糖尿病患者において重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆する。しかし、本論文はRCTではなくコホート研究であるため、因果関係を厳密に証明することは困難である。糖尿病罹病期間、血清クレアチニン値、HbA1c、合併症の有無をはじめとした26の潜在的交絡因子で調整した結果であるが、未知の交絡因子の残存は否定できない。著者らも本論文の限界として、recall bias、indication bias、channelling biasについて論じているが、DPP-4阻害薬を単剤投与された患者(おそらく何らかの理由でメトホルミンが投与できなかった患者)が、重度腎不全発症の高リスク群であった可能性が残るであろう。 単純には、これらの患者は最初から腎機能が悪かったのではないかと考えられるが、表2のbaseline characteristicsを見る限り、血清クレアチニン値はメトホルミン投与群(84.8 μmol/L、0.96 mg/dL)、DPP-4阻害薬投与群(84.9 μmol/L、0.96 mg/dL)であり、両群に差は認められていない。さらに、コホートに組み込まれた時点ですでに腎疾患(kidney diseaseと記載されているが詳細は不明)を有する患者から発症した重度腎不全は解析から除外されている。 DPP-4阻害薬が、尿中アルブミン排泄量を減少させるとの報告は散見されるが2)、病態生理学的および薬理学的にDPP-4阻害薬が重度腎不全を来すメカニズムは説明困難であると思われる。しかし、シタグリプチンの添付文書には重大な副作用に急性腎不全(頻度不明)が記載されている3)4)。したがって、本論文の結果は医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の観点から解釈される必要がある。つまり、real worldで発生するDPP-4阻害薬の有害事象シグナルは微小であり、本論文のような膨大なデータの解析によって初めて明らかになったと考えられる。 英国においてはメトホルミンが第1選択薬とされていることから、DPP-4阻害薬の単剤投与はきわめて例外的であるが、わが国においては、メトホルミンではなくDPP-4阻害薬のみを投与されている患者はきわめて多く存在している。メトホルミンとの併用では重度腎不全の発症リスクが増加しないことから、DPP-4阻害薬は第1選択薬ではなく、メトホルミンへの追加薬剤としての位置付けが適切である。

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超低カロリー食+体重管理で2型糖尿病が寛解?

 新たな研究によると、2型糖尿病患者のうち超低カロリー食療法(very-low-calorie diet)のレスポンダーが、少なくとも6ヵ月間、糖尿病寛解の状態にあったという。通常、不可逆性の慢性疾患と見なされることが多い2型糖尿病だが、この研究結果が希望の光になるかもしれない。英国・ニューカッスル大学のSarah Steven氏らによるDiabetes Care誌オンライン版2016年3月21日号掲載の報告。 対象の2型糖尿病患者30例(罹病期間0.5~23年)は、8週間の超低カロリー食療法を実行した。すべての経口剤とインスリンはベースライン時に中止された。段階的に等カロリー食に戻した後、個人に合わせた体系的な体重維持プログラムが実施された。血糖コントロール、インスリン感受性、インスリン分泌、肝臓および膵臓の脂肪含量は、ベースライン時、等カロリー食に戻した後、6ヵ月時点に定量化した。等カロリー食に戻した後、空腹時血漿グルコースが7mmol/L未満に到達した患者をレスポンダーと定義した。 結果は以下のとおり。・体重は、98.0±2.6kgから83.8±2.4kgに低下し、6ヵ月間にわたり安定していた(84.7±2.5 kg)。・等カロリー食に戻した後に空腹時血漿グルコース7mmol/L未満に到達した患者(=レスポンダ―)は12例であり、6ヵ月後の時点での到達者は13例であった。・レスポンダーは非レスポンダーに比べて、糖尿病の罹病期間が短く、当初の空腹時血漿インスリン濃度が高かった。・HbA1cは、レスポンダーの場合7.1±0.3から5.8±0.2%(55±4から40±2mmol/mol、p<0.001)に、非レスポンダーの場合8.4±0.3から8.0±0.5%(68±3から64±5mmol/mol)に低下し、6ヵ月時点でも一定に保たれていた(それぞれ5.9±0.2%と7.8±0.3% [41±2mmol/molと62±3mmol/mol])。

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ピオグリタゾンと膀胱がんリスク~約15万人のコホート研究/BMJ

 ピオグリタゾンの使用は膀胱がんのリスクを高め、使用期間や累積用量の増加に伴いリスクが増大することが、カナダ・ジューイッシュ総合病院のMarco Tuccori氏らの、約15万人を対象とした大規模コホート研究の結果、明らかにされた。また、同じチアゾリジン系(TZD)薬のロシグリタゾンでは関連が認められず、膀胱がんのリスク増大はピオグリタゾンに特有で、クラス効果ではないことが示唆されると結論している。ピオグリタゾンと膀胱がんとの関連については、多くの研究で矛盾する結果が報告されており、より長期間追跡する観察研究が求められていた。BMJ誌オンライン版2016年3月30日号掲載の報告。ピオグリタゾンと膀胱がん発症リスクとの関連を14万5,806例で追跡 研究グループは、英国プライマリケアの1,300万例以上の医療記録が含まれるデータベースClinical Practice Research Datalinkを用い、2000年1月1日~13年7月31日に非インスリン糖尿病治療薬による治療を新たに開始した2型糖尿病患者14万5,806例のデータを解析した(追跡調査期間は2014年7月31日まで)。 解析では、治療開始時にすでにがんが発症していた可能性、ピオグリタゾンによるがん発症までの時間を考慮し、初回処方1年後時点からを使用開始とみなし使用期間を算出。Cox比例ハザードモデルを用い、ピオグリタゾン使用の有無ならびに累積使用期間と累積使用量別に、膀胱がん発症の補正ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算した(年齢、登録年、性別、アルコール関連障害、喫煙状況、BMI、HbA1c、がんの既往歴、膀胱炎や膀胱結石の有無、チャールソン併存疾患指数:CCI、糖尿病治療期間、蛋白尿の有無で補正)。 また、先行研究で膀胱がんのリスク増大とは関連がないとされるTZD薬であるロシグリタゾンでも、同様の解析を実施した。ピオグリタゾンの使用期間が長いほど膀胱がんリスクが増大 追跡調査期間平均4.7(SD 3.4)年、計68万9,616人年において、622例が新たに膀胱がんと診断された(粗発症率[/10万人年]90.2)。 他の糖尿病治療薬と比較し、ピオグリタゾンは膀胱がんのリスク増大と関連していた(粗発症率88.9 vs 121.0、補正後HR:1.63、95%CI:1.22~2.19)。一方、ロシグリタゾンでは膀胱がんのリスク増大との関連は認められなかった(粗発症率88.9 vs 86.2、補正HR:1.10、95%CI:0.83~1.47)。使用期間反応関係および用量反応関係は、ロシグリタゾンでは認められなかったが、ピオグリタゾンでは観察された(補正後HR:>2年:1.78、>2万8,000mg:1.70)。

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糖尿病治療薬、効果の高い組み合わせは?/BMJ

 成人2型糖尿病患者に対し、メトホルミン単剤療法に比べ、メトホルミン+グリプチン、またはグリタゾンの2剤併用療法は、高血糖症リスクを2~4割低下すること、またグリタゾンもしくはグリプチンの単剤療法は、メトホルミン単剤療法に比べ、重度腎不全リスクが約2.6倍高いことなどが明らかにされた。英国・ノッティンガム大学のJulia Hippisley-Cox氏らが、約47万例の2型糖尿病患者を対象に行ったコホート試験の結果で、BMJ誌オンライン版2016年3月30日号で発表した。グリタゾンやグリプチンの臨床試験エビデンスの多くは、HbA1c値といった代替エンドポイントをベースとしたもので、合併症を減らすといった臨床的エンドポイントを評価するものではなかったという。研究グループは、2型糖尿病で長期間投薬治療を受ける大規模集団を対象に、臨床的アウトカムのリスクを定量化する検討を行った。英国1,200ヵ所以上のプライマリケア診療所で約47万例を追跡 2007年4月1日~15年1月31日の間に、英国プライマリケアのデータベース「QResearchデータベース」に参加する診療所1,243ヵ所を通じて、46万9,688例の2型糖尿病患者について前向きコホート試験を行った。被験者の年齢は25~84歳だった。 血糖降下薬(グリタゾン、グリプチン、メトホルミン、SU薬、インスリンその他)の単剤または組み合わせ投与と、切断術、失明、重度腎不全、高血糖症、低血糖症の初発診断記録との関連、および死亡、入院記録との関連を、潜在的交絡因子を補正後、Coxモデルを用いてハザード比(HR)を算出して調べた。単剤、2剤または3剤併用のメリット、リスクが明らかに 追跡期間中にグリタゾンの処方を受けたのは2万1,308例(4.5%)、グリプチンの処方を受けたのは3万2,533例(6.9%)だった。 グリタゾン使用は、非使用に比べ、失明リスクが約3割低かった(補正後ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.57~0.89、発症率:14.4件/1万人年)。一方で低血糖症リスクは約2割増大した(同:1.22、1.10~1.37、65.1件/1万人年)。 グリプチン使用では、低血糖症リスク低下との関連が認められた(同:0.86、0.77~0.96、45.8件/1万人年)。 一方で、被験者のうちグリタゾンやグリプチン単剤療法を行った割合は低かったものの、メトホルミン単剤療法に比べ、重度腎不全リスクは約2.6倍の増大がみられた(補正後HR:2.55、95%CI:1.13~5.74)。 併用に関しては、メトホルミン+グリプチン、またはメトホルミン+グリタゾンの2剤併用療法は、メトホルミン単剤療法に比べ、いずれも高血糖症リスクは低下した(それぞれの補正後HRは0.78と0.60)。 メトホルミン+SU薬+グリタゾンの3剤併用療法は、メトホルミン単剤療法に比べ、失明リスクを3割強減少した(同:0.67、同:0.48~0.94)。 メトホルミン+SU薬+グリタゾンまたはグリプチンの各3剤併用療法は、メトホルミン単剤療法に比べ、低血糖症リスクを5~6倍に増大したものの(それぞれ補正後HR:5.07、6.32)、同リスクはメトホルミン+SU薬の2剤併用療法と同程度だった(同:6.03)。

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妊娠中のカフェイン摂りすぎが子供の体脂肪を増やす?

 妊娠中のカフェイン摂取と低体重児出産との関連性は以前から指摘されており、出生時の低体重は、後の体脂肪分布とインスリン抵抗性に悪影響を与えることが示唆されている。これを踏まえ、オランダ・エラスムス医療センターのEllis Voerman氏らは、母親の妊娠中のカフェイン摂取と、その子供の初期生育、就学年齢時の体脂肪分布との関連性を調査した。その結果、妊娠中のカフェイン多量摂取は、子供の成長パターンや後の体脂肪分布へ悪影響を及ぼす可能性が示唆されたという。Obesity (Silver Spring)誌オンライン版2016年3月26日号掲載の報告。 本研究は人口ベースの出生コホートで、7,857人の母親とその子供が対象となった。母親の妊娠中のカフェイン摂取量については、アンケート調査によって評価を行った。また、子供の出生時からの成長特性、6歳時点での体脂肪とインスリン値を測定した。 結果は以下のとおり。・妊娠中の1日当たりのカフェイン摂取量が2単位未満(1単位=コーヒー1杯に含まれるカフェイン量90mgに相当)の母親の子供に比べて、6単位以上の母親の子供では、出生時の体重が低く、出生時から6歳までの体重増加が大きく、6ヵ月から6歳までのBMIが高い傾向にあった。・(妊娠中の1日当たりのカフェイン摂取量が)4~5.9単位および6単位以上の母親の子供は共に、幼児期のBMIと総体脂肪量がより高い傾向にあった。・(妊娠中の1日当たりのカフェイン摂取量が)6単位以上の母親の子供は、アンドロイド/ガイノイド脂肪量比がより高かった。

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乾癬治療、メタボリックシンドロームの及ぼす影響は

 2016年3月10日、都内にて「気をつけたい 乾癬の併存疾患とその臨床」をテーマにセミナーが開催された(主催:日本イーライリリー株式会社)。演者は多田 弥生氏(帝京大学医学部 皮膚科 准教授)。 乾癬は、皮膚に生じる厚い銀白色の鱗屑を伴った紅斑が特徴の、慢性・再発性の炎症性角化症である。青年~中年期に好発し、皮膚症状だけでなく何らかの疾患を併発することが多い。とくに頻度の高い併存疾患として、メタボリックシンドローム、高尿酸血症、心血管障害、脂肪肝、関節炎、ぶどう膜炎がある。今回は、乾癬とメタボリックシンドロームの関係を中心に、セミナーの概要を紹介する。乾癬とメタボを結び付ける鍵は「アディポカイン」 乾癬はメタボリックシンドロームが加わることで、慢性的な全身の炎症が促進され、インスリンの抵抗性が増す。この結果、血管内皮細胞障害を経て動脈硬化が進行し、心筋梗塞のリスクが増加する。これら一連の現象は「乾癬マーチ1)」と呼ばれ、広く知られている。それに加えて、近年、脂肪細胞が分泌している「アディポカイン」が乾癬の炎症に関わると注目されている。 アディポカイン(アディポサイトカイン)は、脂肪細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称である。肥満が亢進すると、TNF-αに代表される炎症性アディポカインの生産が過剰になり、アディポネクチンなどの抗炎症性アディポカインの生産が減少する。肥満によって、このアディポカインの分泌異常により体内のインスリン抵抗性が増加することで、メタボリックシンドロームをはじめ、さまざまな併存疾患が生じる。乾癬は炎症性アディポカインによって症状が悪化するため、メタボリックシンドロームは、それ自体が乾癬をより悪化させる方向に働く。減量すると、乾癬症状が軽快する 乾癬の病勢が強いほど高血圧、高トリグリセライド血症、高血糖、肥満などメタボリックシンドロームの各要素との併存率が高い2)。そのため、肥満は乾癬を悪化させ、乾癬の悪化がメタボリックシンドロームにつながるという悪循環に陥る。 しかし、減量して、脂肪細胞を健常時に近い状態に戻せば、乾癬の症状が改善することもあるという。実際に、多田氏は体重の大幅な減量を達成することで、乾癬が改善した例を数例経験している。また、減量による治療効果の出やすさも実感している。よって、乾癬の患者はメタボリックシンドロームの改善を行う必要がある。とりわけ肥満患者については、治療開始に当たって、まず体重の減量を指導することが大切である。 また、痩せ型患者であっても、隠れメタボの存在を考慮し、患者の状態に合った適切な指導を行う必要がある。併存疾患の早期治療には、他科との連携が必要 メタボリックシンドロームをはじめとした併存疾患を放置していると、乾癬患者は非常に重篤な状態に陥ることがある。そのため、多田氏は、皮膚科医が具体的な問診を行うことで早期に併存疾患を発見し、時には他科と相談しながら早期治療を行うことが重要である、と主張した。「皮膚科医が、適切な問診で乾癬患者の併存疾患を早期に発見し、適切な診療科に早期に紹介し、専門的な治療につなげていくことで患者のリスクを軽減できる」と強調した。 また、乾癬の重篤化が併存疾患のリスクを高めることを述べたうえで、重症例では生物学的製剤導入による炎症抑制が併存疾患の予後改善につながる可能性がある、と治療強化の重要性も訴え、セミナーを結んだ。参考文献1)Boehncke WH,et al. Exp Dermatol. 2011;20:303 -307.2)Langan SM,et al. J Invest Dermatol. 2012;132:556-562.

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2型糖尿病における基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤の有用性は…(解説:吉岡 成人 氏)-506

基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の併用 米国糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)の推奨する2型糖尿病の治療アルゴリズムでは、第1選択薬はメトホルミンであり、単剤→2剤併用(注射薬であるインスリン、GLP-1受容体作動薬との併用も可)→3剤併用とステップアップして、最終的な注射薬との併用療法として、メトホルミンをベースに基礎インスリンと食事の際の(超)速効型インスリン製剤の併用(強化インスリン療法)、または、基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の併用が勧められている。肥満が多い欧米の糖尿病患者においては、肥満を助長せず、食欲を亢進させないGLP-1受容体作動薬が広く使用されている。基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤の有用性を検討 現在、Novo Nordisk社では持効型溶解インスリンアナログ製剤であるインスリンデグルデク(商品名:トレシーバ)とGLP-1受容体作動薬であるリラグルチド(同:ビクトーザ)の固定用量配合剤(3ml中に300単位のインスリンデグルデク、10.8mgのリラグルチドを含むプレフィルドタイプのペン製剤;one dose stepにインスリンデグルデク1単位、リラグルチド0.036mgを含有)に関する臨床試験を行っており、本論文は、配合剤と持効型溶解インスリン製剤であるグラルギン(同:ランタス)を使用してタイトレーションを行った際の有用性を比較検討した試験である。 10ヵ国、75施設から患者をリクルートした多施設国際共同試験であり、ランダム化、オープンラベルの第III相試験である。グラルギン20~50Uと1,500mg以上のメトホルミンの併用でも血糖コントロールが不十分(HbA1c>7.0~10.0%)な2型糖尿病患者557例(平均年齢58.8歳、男性が51,3%、平均BMI:31.7kg/m2)を対象として、空腹時血糖値72~90mg/dLをターゲットに、週に2回、デグルデク/リラグルチドないしはグラルギンでタイトレーションを行う2群に分け、26週にわたって経過を観察した試験である。デグルデク/リラグルチド群(278例)では、16 dose steps(デグルデク16単位、リラグルチド0.6mg)から開始し、50 dose steps(デグルデク50単位、リラグルチド1.8mg)まで増量し、グラルギン群(279例)では最大投与量に上限値を設けずに増量するというプロトコルを採用している。デグルデク/リラグルチド群ではHbA1c、体重が有意に低下、低血糖の頻度も減少 その結果、デグルデク/リラグルチド群ではHbA1cが-1.81%(8.4→6.6%)、グラルギン群-1.13%(8.2→7.1%)となり、推定治療差(ETD)は-0.59%(95%信頼区間:-0.74~-0.45)と非劣性基準を満たし、統計的な優越性基準も満たした(p<0.001)。また、体重についてもデグルデク/リラグルチド群では1.4kg減少し(グラルギン群では1.8kg増加)、低血糖はデグルデク/リラグルチド群で2.23件/患者年(ランタス群では5.05件/患者年)と有意に少なかった。非重篤な胃腸障害はデグルデク/リラグルチド群で79件、グラルギン群で18件とデグルデク/リラグルチド群で多かったが、重篤な有害事象の頻度に差はなかった。日本におけるデグルデク/リラグルチド配合剤の有用性は… 日本ではリラグルチド(商品名:ビクトーザ)、エキセナチド(同:バイエッタ)、エキセナチド持続性注射剤(ビデュリオン)、リキシセナチド(リキスミア)、デュラグルチド(トルリシティ・アテオス)の5種類のGLP-1受容体作動薬が発売されている。インスリンや経口糖尿病治療薬との併用についての保険適用で、薬剤間に若干の差はあるものの、副作用としての嘔気などの消化管機能障害のため、適正な用量までの増量が難しい患者が少なくない。また、発売当初に期待されていた膵β細胞の保護機能に関する臨床データは得られておらず、体重減少や血糖管理が長期間にわたり持続する症例は期待されたほど多くはなく、薬剤の有用性を実感しにくいことも事実である。しかし、週1回製剤のデュラグルチドは注射の操作も簡単であり、認知機能が低下した高齢者などに対して、患者や家族ではなく訪問看護師や地域の一般医が週に1回の注射を行うことで安定した血糖管理が得られる症例もあり、今後幅広く医療の現場で使用される可能性も示唆されている。 いずれにしても、欧米人ほどは大量のインスリンを必要とせず、BMI30kg/m2を超える肥満2型糖尿病患者がさほど多くない日本において、インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合剤がどの程度の価格で発売され、どのようなタイプの患者にとって福音となるのか、慎重な検討が必要であろう。

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