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1.

代謝異常を伴う脂肪肝「MASLD」、慢性腎臓病の独立リスクに

 新しい脂肪肝の概念「MASLD;代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」が、慢性腎臓病(CKD)の独立したリスク因子であることが国内研究で示された。単一施設の約1.6万人の健康診断データを解析したもので、MASLDの早期発見や管理の重要性が改めて示された。研究は京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の大野友倫子氏、濱口真英氏、福井道明氏、朝日大学病院の大洞昭博氏、小島孝雄氏らによるもので、詳細は10月17日付で「PLOS One」に掲載された。 日本では食生活の欧米化に伴い肥満が増加し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病率も上昇している。NAFLDは主に内臓脂肪やインスリン抵抗性と関連し、糖尿病や心血管疾患などの代謝異常を伴うことが多い。2020年には、こうした代謝背景を重視する形でNAFLDはMAFLDとして再定義され、日本の大規模コホート研究ではCKDの独立したリスク因子であることが報告された。さらに2023年、国際的専門家パネル(Delphiコンセンサス)により、より包括的でスティグマの少ない概念としてMASLDへと名称が変更され、少なくとも1つの心血管代謝リスク(BMI、血糖値、HDL-C値など)を伴う脂肪肝と定義された。本研究は、この新しい定義によるMASLDがCKD発症の独立したリスク因子となるかを明らかにすることを目的に、人間ドック受診者を対象とした縦断的コホート解析として実施された。 本研究では、岐阜県の朝日大学病院で実施されているNAFLDの縦断的解析(NAGALA Study)に基づき、1994~2023年の間に人間ドックを受けた1万5,873人を解析対象とした。ベースライン時点で肝疾患を有する者、またはCKD(推算糸球体濾過量〔eGFR〕<60mL/分/1.73m2、もしくはタンパク尿〔+1~+3〕が少なくとも3か月持続)と診断された者は除外した。参加者はアルコール摂取量、心血管代謝リスク、脂肪肝の有無によりグループ1~8までのカテゴリーに分類された。主要評価項目は、5年間の追跡期間中におけるCKDの新規発症率とし、ロジスティック回帰分析によりMASLDとCKD発症との関連を評価した。 解析対象の9,318人(58.7%)が男性で、平均年齢は43.7歳だった。追跡期間中のCKD新規発症率は、アルコール摂取が閾値以下で心血管代謝リスクおよび脂肪肝を認めないグループ1で最も低く(4.7%)、MASLDと診断されたグループ8で最も高かった(9.5%)。 次に、ベースライン時の年齢、性別、eGFR、喫煙習慣、運動習慣で調整した多変量解析を実施した。その結果、グループ1と比較して、MASLDと診断されたグループ8でのみCKD新規発症のオッズ比(OR)が有意に上昇した(OR 1.37、95%信頼区間〔CI〕1.12~1.67、P=0.002)。さらに、年齢(OR 1.04、95%CI 1.03~1.05、P<0.001)およびベースライン時のeGFR(OR 0.88、95%CI 0.87~0.89、P<0.001)も、CKDの有意な予測因子として同定された。 著者らは、「MASLDは、これまでのNAFLDを包含する新しい疾患概念として、CKD発症リスクを独立して高める可能性がある。特に日本に多い『非肥満型MASLD』では、腎機能低下リスクに注意が必要だ。今後は、筋肉量の影響を受けない腎機能指標を用いたリスク評価や、個別化された介入の検討が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界点としては、参加者が岐阜県の人間ドック受診者に限られ、選択バイアスの可能性があること、食事内容や食後血糖などのデータが欠如している点などを挙げている。

2.

糖尿病を予防するにはランニングよりも筋トレの方が効果的?

 糖尿病の発症予防のために運動をするなら、ランニングよりもウエートリフティングの方が適しているのかもしれない。その可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Sport and Health Science」に10月30日掲載された。米バージニア工科大学運動医学研究センターのZhen Yan氏らが行った動物実験の結果であり、高脂肪食で飼育しながらランニングをさせたマウスよりもウエートリフティングをさせたマウスで、より好ましい影響が確認されたという。 論文の上席著者であるYan氏は、「私たちは誰でも長く健康な人生を送りたいと願っている。そして、運動を習慣的に続けることが、その願いの実現のためにメリットをもたらすことは誰もが知っている。ランニングなどの持久力をつける運動と、ウエートリフティングなどのレジスタンス運動(筋トレ)は、どちらもインスリン感受性を高めるというエビデンスが、ヒトを対象として行われた数多くの研究で示されてきている」と話す。 しかし、糖尿病の発症を防ぐという点で、それらの運動のどちらが優れているのかという疑問に対しては、まだ明確な答えが得られていない。そこでYan氏らは、これら二つのタイプの運動の効果を直接的に比較するため、マウスを用いた研究を行った。 ウエートリフティングをさせる1群は、餌の容器に蓋をして、その上に重りを載せたゲージ内で飼育した。この群のマウスが餌を食べるためには、肩の部分に取り付けられた小さな首輪を使って重りをどかす必要があり、その動作がヒトのウエートリフティングのトレーニングに相当するという仕組み。著者らによると、この方法はマウスにウエートリフティングをさせるために開発された初の手法だという。なお、研究期間中に蓋の重りを徐々に重くしていった。 別の1群は回転ホイールのあるゲージで飼育し、ランニングをさせる群とした。このほかに、特に運動をさせない1群も設けた。これら3群は、高脂肪食で飼育した。 8週間後、運動をさせた2群のマウスは、運動をさせなかった群に比較して、ともに脂肪量の増加が少なかった。ただし、ウエートリフティングをさせたマウスの方が、その抑制効果がより大きかった。また、ウエートリフティングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスよりも低く(インスリンの感受性が高く)、血糖値が高くなりにくい状態だった。これに対して、ランニングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスと同程度に高かった。 Yan氏は、「健康上のメリットを最大化するには、『できるだけ持久力を高める運動と筋トレの両方を行うべき』というのが、われわれの研究からの重要なメッセージだ」と述べている。また、「本研究の結果は、何らかの理由で持久力を高める運動ができない人にとって朗報と言える。筋トレは糖尿病予防という点で、持久力のための運動と同等、あるいはそれ以上の効果を期待できる」と付け加えている。

3.

認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、認知症でない4万人以上の成人2型糖尿病患者を対象に、認知症の遺伝的リスクと、心臓や血管の健康状態を調査した。後者の「心臓や血管の健康状態」の調査では、AHAが提唱している「Life’s Essential 8(健康に欠かせない8項目)」の遵守状況を調べた。具体的には、Life’s Essential 8に含まれている4項目の生活習慣と4項目の検査値をそれぞれスコア化した上で、不良、中程度、良好という3群に分類した。なお、Life’s Essential 8の8項目は以下のとおり。1. 健康に良い食習慣2. 積極的な身体活動3. タバコを吸わない4. 健康的な睡眠5. 適正体重の維持6. コレステロールのコントロール7. 血糖値のコントロール8. 血圧のコントロール この研究参加者の健康状態を13年間にわたって追跡したところ、840人が軽度認知障害となり、1,013人が認知症を発症していた。心臓や血管の健康状態が中程度または良好な人は不良の人に比べて、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが15%低かった。また、心臓や血管の健康状態は、認知機能にとって重要な脳の灰白質という部分の体積と強い関連があった。 これらの関連は、対象者の遺伝的な認知症リスクを考慮に入れた解析により、いっそう明確に示された。つまり、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、そのリスクが低い、または中程度の人に比べて、心臓や血管の健康状態が良好であることで、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが顕著に抑制されていた。より具体的には、心臓や血管の健康状態が不良の同世代の人に比べた場合に、軽度認知障害のリスクは27%低く、認知症のリスクは23%低かった。 研究グループの一員である同大学のXiu Wu氏は、「運命は遺伝子で規定されるものではない。心臓と血管の健康を最適な状態に維持することで、遺伝的に認知症リスクが高い2型糖尿病患者であっても、脳の健康を守ることができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

4.

1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理にクローズドループ療法は有効である(解説:小川大輔氏)

 1型糖尿病の治療法として、インスリン頻回注射やインスリンポンプが使用されているが、近年は持続血糖モニタリングのデータを利用してインスリンの注入量を自動的に調節するクローズドループ型のインスリン注入システム(クローズドループ療法)が用いられるようになっている。クローズドループ療法は、成人や小児の1型糖尿病の血糖管理に有効であることが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病に対しては報告が少なく一定の見解が得られていない。今回1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の効果を検討したCIRCUIT試験の結果が発表された1)。 妊娠中の血糖のコントロール目標は、空腹時血糖値95mg/dL未満、かつ食後2時間値120mg/dL未満と、通常より厳格な管理が求められている2)。そして妊娠中の糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本となり、それでも血糖コントロールが不十分な場合はインスリン療法を行う。妊娠糖尿病(妊娠中に初めて発見された糖代謝異常)は食事療法と運動療法のみで血糖値を管理できることが多いが、薬物療法が必要となった場合は通常の糖尿病治療と異なり、経口血糖降下薬を用いることはなく直ちにインスリン療法を行う。1型糖尿病合併妊娠の場合、ペンによるインスリン注射やインスリンポンプを継続し、妊娠週数と共にインスリン需要量が増加するため、血糖値をモニタリングしながらインスリン投与量の調節を行うことになる。 このCIRCUIT試験は、1型糖尿病で妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性を検討した試験である。クローズドループ療法は標準治療と比較して、妊娠16週から34週までの妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが報告された。通常のクローズドループ療法ではTIRが70~180mg/dLに設定されているが、この試験は対象が妊娠中ということで通常より厳格な目標が設定されている。それでもクローズドループ療法ではTIRが65.4%と良好な血糖コントロールが得られていたことは注目に値する。主な有害事象としては、重症低血糖がクローズドループ療法で1例、糖尿病性ケトアシドーシスがクローズドループ療法で2例、標準治療で1例報告されたが、対象の症例数が少なく(クローズドループ療法44例、標準治療44例)今後の検討が必要である。 今回の研究により、1型糖尿病患者の妊娠中の血糖管理におけるクローズドループ療法の有効性が示された。今後、1型糖尿病合併妊娠の血糖管理にクローズドループ療法を用いる頻度が増え、妊娠に伴う合併症の発生が低減することを期待したい。ただ本試験では、日本では未承認のタンデム社製Control-IQインスリンポンプが使用されている点には注意が必要である。

5.

1型糖尿病の高リスク乳児、経口インスリンの1次予防効果は?/Lancet

 膵島関連自己抗体発現リスクが高い乳児において、ヒト亜鉛インスリン結晶から製造された経口インスリンの高用量投与はプラセボと比較し、膵島関連自己抗体の発現を予防しなかった。ドイツ・Helmholtz MunichのAnette-Gabriele Ziegler氏らが、Global Platform for the Prevention of Autoimmune Diabetes(GPPAD)の7施設(ドイツ3施設、ポーランド・スウェーデン・ベルギー・英国各1施設)で実施した研究者主導の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Primary Oral Insulin Trial:POInT試験」の結果を報告した。1型糖尿病はインスリンを含む膵島抗原に対する自己免疫反応により発症するが、膵島関連自己抗体や疾患症状発現前の自己免疫反応予防を目的とした経口自己抗原免疫療法の有効性を評価する臨床試験は行われていなかった。Lancet誌オンライン版2025年11月11日号掲載の報告。主要アウトカムは、膵島関連自己抗体発現(2種類以上)または糖尿病発症 研究グループは、GPPAD遺伝子スクリーニングプログラムにより6歳までに2種類以上の膵島関連自己抗体発現リスクが10%超の、離乳食を開始している生後4~7ヵ月の乳児を特定し、経口インスリン群またはプラセボ群に、1対1の割合で、施設で層別化して無作為に割り付けた。すべての参加者とその家族、研究者、検査室スタッフは、研究期間中割り付けを盲検化された。 参加者には経口インスリンまたはプラセボが1日1回、7.5mgを2ヵ月間、その後22.5mgを2ヵ月間、その後67.5mgを3歳時まで投与し、ベースライン、投与開始後2ヵ月時、4ヵ月時、8ヵ月時、生後18ヵ月時、その後2024年6月28日の最終外来受診日まで6ヵ月ごとに検査を実施した。 主要アウトカムは、2種類以上の膵島関連自己抗体(IAA、GADA、IA-2A、ZnT8A)の発現(2つの中央検査施設において2回連続で陽性および少なくとも1検体で2種類目の自己抗体が確認された場合に陽性と定義)または糖尿病発症とした。副次アウトカムは、糖代謝異常または糖尿病発症であった。 適格基準を満たし割り付けられた全参加者のうち、ベースラインで主要アウトカムの要件を満たさなかった参加者を主要解析の対象とした。試験薬を少なくとも1回投与された参加者を安全性解析に含めた。経口インスリン群とプラセボ群で主要アウトカムの有意差なし 2017年7月24日~2021年2月2日に乳児24万1,977例がスクリーニング検査を受け、2,750例(1.14%)で膵島関連自己抗体発現リスクの上昇がみられ、このうち適格基準を満たした1,050例(38.2%)が2018年2月7日~2021年3月24日に無作為化された(経口インスリン群528例、プラセボ群522例)。年齢中央値6.0ヵ月(範囲:4.0~7.0)、男児531例(51%)、女児519例(49%)であった。 経口インスリン群で2例(1型糖尿病の家族歴に関する情報の誤り1例、ベースラインで2種類以上の膵島関連自己抗体を保有していた1例)が除外され、主要解析対象集団は経口インスリン群526例、プラセボ群522例であった。 主要アウトカムのイベントは経口インスリン群で52例(10%)、プラセボ群で46例(9%)に発現した。ハザード比(HR)は1.12(95%信頼区間[CI]:0.76~1.67)で両群間に有意差は認められなかった(p=0.57)。 事前に規定されたサブ解析の結果、主要アウトカムおよび副次アウトカムに関して治療とINS rs1004446遺伝子型の相互作用が認められた。非感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、主要アウトカムのイベントが増加し(HR:2.10、95%CI:1.08~4.09)、感受性INS遺伝子型を保有する経口インスリン群の参加者はプラセボ群と比較して、糖尿病または糖代謝異常の発症が低下した(HR:0.38、95%CI:0.17~0.86)。 安全性については、血糖値50mg/dL未満は、インスリン群で7,210検体中2件(0.03%)、プラセボ群で7,070検体中6件(0.08%)に観察された。有害事象は、インスリン群で96.0%(507/528例)に5,076件、プラセボ群で95.8%(500/522例)に5,176件発現した。インスリン群で死亡が1例認められたが、独立評価により試験薬との関連はなしと判定された。

6.

糖尿病治療薬がアルツハイマー病初期の進行を抑制する可能性

 糖尿病治療薬がアルツハイマー病の初期段階の進行を抑制する可能性のあることが報告された。米ウェイクフォレスト大学アルツハイマー病研究センターのSuzanne Craft氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer’s & Dementia」に10月7日掲載された。この研究では、既に広く使われているSGLT2阻害薬(SGLT2-i)のエンパグリフロジンと、開発が続けられているインスリン点鼻スプレー(経鼻インスリン)という2種類の薬剤が、記憶力や脳への血流、および脳機能の検査値などの点で、有望な結果を示したという。 論文の上席著者であるCraft氏は、「糖尿病や心臓病の治療薬としての役割が確立されているエンパグリフロジンが、脳の重要な領域の血流を回復させ、かつ、脳のダメージを意味する検査指標の値を低下させることを初めて見いだした。われわれのこの研究の成果は、代謝に対する治療によって、アルツハイマー病の進行速度を変えることができることを示唆している」と解説。また経鼻インスリンについては、「新開発の機器を用いてインスリンを鼻から投与することで、インスリンが脳に直接的に送り届けられ、認知機能、神経血管の健康状態、そして免疫機能が向上することも確認された」と述べ、「これらの知見を合わせて考えると、代謝への働きかけという視点が、アルツハイマー病治療における、有力な新しい展開につながり得るのではないか」と期待を表している。 この研究で示された結果が、今後の研究でも確認されたとしたら、アルツハイマー病の進行抑制に効果的な治療法がないという現状の打開につながる可能性がある。最近、アルツハイマー病の原因と目されている、脳内に蓄積するタンパク質(アミロイドβ)を除去する薬が登場したものの、研究者らによると、その効果は限定的だという。また、副作用のためにその薬を服用できない人も少なくなく、さらに、アミロイドβの蓄積以外のアルツハイマー病進行のメカニズムとされている、代謝異常や血流低下の問題は残されたままだとしている。 報告された研究では、軽度認知障害または初期のアルツハイマー病の高齢者47人(平均年齢70歳)を無作為に、インスリン点鼻スプレー、エンパグリフロジン、それらの併用、およびプラセボのいずれかの群に割り付けた。なお、エンパグリフロジンはSGLT2-iの一種で、腎臓での血糖の吸収を阻害して尿の中に排泄することで血糖値を下げる薬。 研究参加者の97%が、4週間の試験期間を通じて、割り付けられた通りに薬を使用した。解析の結果、インスリン点鼻スプレーを使用した群では、記憶や思考の検査指標の改善が見られ、画像検査からは、脳の白質という部分の構造を保ったり、認知機能にとって重要な領域への血流低下を防いだりする効果が示唆された。またエンパグリフロジンを服用した群でも、アルツハイマー病に関連するアミロイドβとは別のタンパク質(タウ)が減少し、病気の進行を反映する神経・血管関連の指標も低下して、さらに脳の主要な領域の血流が変化し、善玉コレステロールが上昇した。 全体として、両薬剤によって生じる変化は炎症の軽減と免疫反応の活性化につながることを示唆しており、どちらも脳の健康をサポートする可能性が考えられた。Craft氏は、「これらの有望な結果に基づき、より大規模で長期にわたる臨床試験を実施していきたい」と述べている。

7.

抗胸腺細胞グロブリンは発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能低下を抑制する(解説:住谷哲氏)

 膵島関連自己抗体が陽性の1型糖尿病は正常耐糖能であるステージ1、耐糖能異常はあるが糖尿病を発症していないステージ2、そして糖尿病を発症してインスリン投与が必要となるステージ3に進行する1)。抗CD3抗体であるteplizumabはステージ2からステージ3への進行を抑制することから、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者への投与が2022年FDAで承認された。現在わが国でも承認のための臨床試験が進行中である。さらにステージ3に相当する発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能の低下もteplizumabの投与により抑制されることが報告された2)。 抗胸腺細胞グロブリンantithymocyte globulin(ATG)は、わが国でも、抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン製剤が商品名アトガム、抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン製剤が商品名サイモグロブリンとして薬価収載されて使用可能である。アトガムの適応は中等症以上の再生不良貧血のみであるが、サイモグロブリンはそれに加えて種々の臓器移植後のGVHDに対して適応を有している。ATGは通常の投与量では免疫抑制作用 immunosuppressionを発揮するが、低用量では免疫調節作用immunomodulationを発揮し、発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能低下を抑制する可能性が示唆されている3)。 そこでATGの適切な投与量を決定するために第II相用量設定試験である本試験が実施された。本試験ではadaptive designが用いられたが、adaptive designは中間解析の結果に基づき、各群への被験者の割り付け割合の変更、特定の群の中止、目標症例数の見直しなど、進行中の臨床試験のデザインに変更を加える多段階試験の総称である4)。試験の結果、これまでの臨床試験に主として用いられてきた2.5mg/kgと比較して、低用量である0.5mg/kgは同様に有効であり有害事象の発生がより少ないことが明らかにされた。 今回の第II相の結果に基づいて第III相試験が遠からず実施されることになると思われる。ATGは異種抗体であり、頻回投与による効果の減弱や有害事象としての種々のアレルギー反応は避けられない。コストとベネフィット、およびリスクとベネフィットとのバランスの追求が今後の課題となるだろう。

8.

1型糖尿病妊婦、クローズドループ療法は有効/JAMA

 1型糖尿病の妊婦において、クローズドループ型インスリン注入システムの利用(クローズドループ療法)は標準治療と比較して、妊娠中の目標血糖値(63~140mg/dL)達成時間の割合(TIR)を有意に改善させたことが、カナダ・カルガリー大学のLois E. Donovan氏らCIRCUIT Collaborative Groupが行った非盲検無作為化試験「CIRCUIT試験」の結果で示された。高血糖に関連した妊娠合併症は、1型糖尿病妊婦では発生が半数に上る。クローズドループ療法による血糖コントロールの改善は妊娠中以外では確認されているが、妊娠中の試験は限られていた。著者は、「今回の結果は、1型糖尿病妊婦へのクローズドループ療法の実施を支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年10月24日号掲載の報告。妊娠16~34週における妊娠特異的TIRを評価 CIRCUIT試験は、妊娠中のクローズドループ療法の有効性の評価を目的とし、2021年6月~2024年7月に、カナダとオーストラリアにある妊娠糖尿病専門クリニック14施設で1型糖尿病妊婦を登録して行われた(追跡調査は2025年3月に完了)。 被験者は、クローズドループ療法群または標準治療群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 クローズドループ療法群には、Control-IQインスリンポンプ(Tandem製)が提供され、妊娠中の使用の推奨事項(1日24時間の最低目標血糖値[112.5~120mg/dL:睡眠時]の使用、運動時のより高値のオプション値の使用など)が提示された。妊娠20週後は、それより1~2週間前の平均的な自動基礎インスリン投与量よりも約20%高い基礎インスリン投与量をプログラムすることが推奨された。 標準治療群には、持続血糖モニタリングに関する教育と機器が提供され、無作為化前のインスリン投与法(従来インスリンポンプ[Medtronic製MiniMed、Tandem製Basal-IQ]やインスリン頻回注射療法)が継続された。 両群の被験者は全員、妊娠糖尿病ケアチームからインスリン投与量に関するサポートを、試験地の標準治療に従って受けた。 主要アウトカムは、妊娠16~34週に持続血糖モニタリングで計測された妊娠特異的TIR(目標血糖値は63~140mg/dL)とした。クローズドループ療法群65.4%、標準治療群50.3%で有意差 94例が登録され、無作為化前に妊娠喪失を経験した3例を除く91例が無作為化された。主要解析には、クローズドループ療法に割り付けられた2例(妊娠20週未満で流産)と標準治療群に割り付けられた1例(無作為化後に試験離脱・データ提出拒否)を除く88例(平均年齢31.7[SD 5.2]歳、妊娠初期のHbA1c値7.4%[SD 1.0])が包含された。 妊娠16~34週における妊娠特異的TIR(平均値)は、クローズドループ療法群65.4%、標準治療群50.3%であった(補正後平均群間差:12.5%ポイント、95%信頼区間:9.5~15.6、p<0.001)。 妊娠中の重症低血糖エピソードはクローズドループ療法群1例で報告された。糖尿病性ケトアシドーシスはクローズドループ療法群で2例、標準治療群で1例が報告された。

9.

2型糖尿病の低血糖入院が減少傾向、その背景を紐解く

 近年、2型糖尿病患者の低血糖入院が漸減傾向であることが明らかになった―。2017年に日本糖尿病学会の糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会が調査報告1)を行ってから8年、この間に低血糖による入院が減少したのには、いったいどんな対策や社会変化が功を奏したのだろうか。今回、この研究結果を報告し、日本糖尿病学会第9回医療スタッフ優秀演題賞を受賞した社会人大学院生の影山 美穂氏(東京薬科大学薬学部 医療薬物薬学科)と指導教官の堀井 剛史氏(武蔵野大学薬学部臨床薬学センター)から研究に至った経緯や考察などを聞いた。重症低血糖の現状、患者指導の影響は? 本研究のきっかけについて、影山氏は「薬剤師として糖尿病患者への低血糖予防指導はごく当たり前のこと。だがその一方で、低血糖発症リスクの現状や日頃の患者指導の効果が不明瞭であったため、薬剤師をはじめ医療者が頑張っている患者指導の可視化を目指した」と説明した。 実際、この20年における2型糖尿病治療薬や血糖コントロール目標値の変化は著しい。たとえば、治療薬に関しては、2009年よりDPP-4阻害薬が、2014年よりSGLT2阻害薬が発売され、2021年以降はGLP-1受容体作動薬の経口薬発売や肥満症治療薬としての適応拡大などが糖尿病治療薬市場の地殻変動を起こしている。それ故、低血糖リスクが高いとされるスルホニル尿素(SU)などの処方率は減少傾向にある。血糖目標値においては、2013年の糖尿病合併症予防のための血糖コントロール目標値に関する「熊本宣言」(HbA1c 7%未満)や2017年の高齢者糖尿病ガイドライン発刊(高齢者糖尿病の目標値が患者の特徴や健康状態を考慮した目標値「7.0~8.5%未満」)、「重症低血糖への提言」が周知されてきたことで、非専門医にも血糖値を下げ過ぎるリスクへの理解が進んできている。これについて堀井氏は「高齢者糖尿病ガイドライン2)において、HbA1cの具体的数値のみならず下限値も示されたことで糖尿病専門医ではなくても、患者へリスクをわかりやすく伝えることができるようになったのではないか。さらに、2024年の診療報酬改定では糖尿病治療薬の適正使用推進の観点から“調剤後薬剤管理指導加算”が新設されたことで、薬剤師の立場からもインスリンやSU薬服用中のフォローアップが手厚くなり、重症低血糖の減少につながっている可能性がある」と推測した。 ここで補足するが、「重症低血糖」とは、“回復に他者の援助を必要とする低血糖”と定義され、70歳以上、慢性腎臓病(CKD)ステージ3~5、SU薬内服中などの特徴を有する患者で発症しやすいとされる。その発症は主要心血管イベントや認知症の発症リスク増加にも関連することから、以前より日本糖尿病学会は警鐘を鳴らし、前述の調査委員会報告でも重症低血糖で救急搬送されるのは2型糖尿病が60%を占め、1型糖尿病患者よりも多く、処方薬剤別では、インスリン使用が約60%、SU薬使用が約30%であった3)。重症低血糖の患者推移、影響度が高い因子とは そこで、治療薬や血糖目標値の変遷、薬剤師指導の教育変化による“低血糖入院患者数推移や患者像”を捉えるために、同氏らはメディカル・データ・ビジョンの2009年1月1日~2022年12月31日までの診療データベースを活用し、2型糖尿病かつ初発低血糖患者を対象とした入院加療が必要な低血糖の発症リスクや使用薬剤について調査。主要評価項目は入院を必要とする低血糖発症に関連する要因の探索で、副次評価項目は夜間・早朝低血糖入院に関する要因、救急搬送による低血糖入院に関連する要因であった。 その結果、入院加療を必要とする低血糖発症率は、2型糖尿病患者全体では0.4→0.2%、75歳以上では0.85→0.3%、75歳未満では約0.2%微減、で推移していることが明らかになった。とはいえ、とくに高齢者では長期にDo処方が継続され、SU剤を使用している患者も一定数みられる。HBA1cが悪化すると他剤併用よりSU薬の増量が検討されるケースもあるため、「薬剤師も患者の低血糖リスクを意識して対応することで、重症低血糖の回避につながるのではないか」と影山氏はコメントした。 そして、低血糖入院の約6割が75歳以上であったことや低BMI患者(18.5kg/m2未満)での発症率の高さも示唆された。これについて、同氏は「低BMI患者にはインスリン分泌能低下者が多い、糖尿病歴が長い、グルカゴンの働きが悪くなっていることなどが推測される」と述べ、「高齢により低血糖の対応を自身ができない」「糖尿病歴が長くなることで痩せが生じ、インスリン分泌能が低下する。加えてフレイルにより低血糖を来しやすい」ことなどを挙げ、低BMI・低体重の関連性を考察した。 なお、本研究にはDPCデータを活用していることから、患者を夜間入院や救急入院などで層別化をすることができたものの、研究限界として「継続性が長くない、施設が代わると患者を追えなくなる」などを示し、「入院前データがない患者は除外」などの注意を払ったと堀井氏は説明した。 最後に両氏は「将来的に低血糖入院の因果関係を統計学的に示していきたい。そして、在宅ケアを受けている患者、低血糖を訴えられないような患者まで研究対象を掘り下げて解析していきたい」と今後の展望を語った。

10.

ダイエット飲料と加糖飲料はどちらもMASLDリスク

 人工甘味料を用いた低糖・無糖飲料と加糖飲料は、どちらも代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)のリスクを高めることを示唆するデータが、欧州消化器病週間(UEG Week 2025、10月4~7日、ドイツ・ベルリン)で発表された。蘇州大学附属第一医院(中国)のLihe Liu氏らの研究によるもので、人工甘味料を用いた飲料や加糖飲料を水に置き換えることでMASLDリスクが低下する可能性も報告されている。 Liu氏は、「加糖飲料は長い間、厳しい監視の目にさらされてきたが、その代替品として広まった人工甘味料を用いた飲料は、健康的な『ダイエット飲料』と見なされることが多かった。しかしわれわれの研究結果は、それらの飲料を無害であるとする一般的な認識に疑問を投げかけ、肝臓の健康への影響を再考する必要性を強調している」と述べている。 MASLDは肝臓に脂肪が蓄積することで発症し、時間の経過とともに肝障害を引き起こしてくる。研究者によるとMASLDは最も一般的な慢性肝疾患であり、世界中で30%以上の人々が罹患しているという。 Liu氏らの研究では、英国の一般住民対象大規模疫学研究であるUKバイオバンクの参加者12万3,788人を解析対象とした。24時間思い出し法による食事調査が複数回行われ、各種飲料の摂取量が把握された。 中央値10.3年の追跡期間中に、1,178人がMASLDを発症し、108人が肝臓関連の疾患で死亡していた。解析の結果、人工甘味料入り飲料を毎日約250mL以上飲んでいると、MASLDのリスクが60%増加することが分かった(ハザード比〔HR〕1.599)。また加糖飲料を同量飲んでいる場合には、50%近くのリスク上昇が認められた(HR1.469)。Liu氏は、「1日1缶程度という少量の低糖または無糖の甘味飲料を摂取している場合でも、MASLDのリスクが高まることが示された」と話している。 一方、人工甘味料入り飲料の代わりに水を飲んだ場合、MASLDのリスクが15.2%低下すると推算された。同様に、加糖飲料の代わりに水を飲んだ場合は、リスクが12.8%低下すると予想された。 Liu氏によると、加糖飲料は血糖値の急上昇を引き起こし、体重を増加させ、尿酸値を上昇させる可能性があり、これらは全て肝臓への過剰な脂肪の蓄積に関連してくるという。一方の人工甘味料入り飲料は、腸内細菌叢を変化させ、甘いものへの欲求を刺激し、またインスリン分泌を刺激する可能性があり、それらを介して肝臓の健康に悪影響を及ぼし得るとのことだ。そして同氏は、「最善の方法は、加糖飲料と人工甘味料入り飲料の双方を制限して水に置き換えることだ」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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すでに承認されている経口薬が1型糖尿病の進行を抑制

 関節リウマチや脱毛症などの自己免疫疾患の治療薬としてすでに承認されている経口薬であるバリシチニブが、1型糖尿病の進行抑制に役立つのではないかとする研究結果が、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表された。 この報告は、セントビンセント医学研究所(オーストラリア)のMichaela Waibel氏らの研究によるもので、新たに1型糖尿病と診断された人がバリシチニブを連日服用すると、インスリン分泌が維持され血糖変動が安定したという。さらに、同薬の服用を中止した後は、インスリン分泌量が減少して血糖変動の安定性が失われ、糖尿病が進行し始めるという変化が見られたとのことだ。 Waibel氏は、「これは本当に素晴らしい前進だ。これまでの1型糖尿病の治療はインスリン療法に大きく依存していたが、その依存度を軽減し、患者が日常の治療から解放される時間を提供できる、初めての経口での疾患修飾療法と言える。さらにこの薬は、長期合併症のリスクを低下させる可能性もある」と話している。 1型糖尿病は、免疫系が膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)を誤って攻撃することで発症する。発症とともにインスリン分泌量が低下し、最終的には分泌が停止するため、患者は生涯にわたって、血糖値を管理するためインスリン療法を続ける必要がある。一方、バリシチニブは、免疫系を刺激する信号を抑制する作用があり、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、脱毛症などの自己免疫疾患の治療薬としてすでに承認されている。これらの理論的な背景を基に研究チームは、バリシチニブが1型糖尿病の診断後早期の患者のβ細胞を保護する可能性があるのではないかと考えた。 今回の研究には、過去100日以内に1型糖尿病と診断された10~30歳の91人が参加。無作為にバリシチニブ群またはプラセボ群に割り付けられ、48週間にわたり毎日服用した。その結果、バリシチニブ群では対照群に比べてβ細胞機能が維持され、血糖値の変動が少なく、インスリンの必要量も少なかった。さらに、48週が経過しバリシチニブの服用を中止すると、血糖コントロールは72~96週目にプラセボ群とほぼ同じレベルまで悪化した。また、バリシチニブ群の患者も最終的には、プラセボ群と同量のインスリンを必要とする状態となった。 これらの結果からWaibel氏は、「1型糖尿病患者のβ細胞機能を維持することが示された有望な薬剤はいくつかあるが、それらの中でバリシチニブは経口投与が可能という点で小児を含む多くの患者が使用しやすく、明らかに有効であるという点で際立っている」と解説。「この薬の効果が長年にわたって持続するか、また、より早期に治療を開始することで1型糖尿病の診断を回避または遅らせることができるかを判断するため、さらなる試験を継続することが正当化される」と述べている。さらに、「この薬の有効性が証明されれば、遺伝的に1型糖尿病のリスクがある人を特定し予防的介入を行うことで、1型糖尿病発症を抑止できるようになるかもしれない」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第289回 植物抽出物の育毛剤が無作為化試験で目に見えて効果あり

植物抽出物の育毛剤が無作為化試験で目に見えて効果ありスキンケア化粧水によく使われる熱帯原産の植物ツボクサ(Centella asiatica)抽出物、インスリン増殖因子1(IGF-1)、線維芽細胞増殖因子7(FGF-7)、カフェイン、ビタミンを含む育毛液のわずか2ヵ月足らずの使用による有望な効果が、健康な成人60人が参加したプラセボ対照無作為化試験で示されました1,2)。抜け毛や薄毛の悩みは万国共通で、多ければ男性の2人に1人、女性の3~4割が生涯に少なくともいくらかの男性型脱毛症(AGA)を呈するようです。日本では全年齢の男性のおよそ10人に3人にAGAが生じ、50歳以上になると半数近い40%ほどに認められるようになります3)。AGAは単なる見た目の問題にとどまらず、心理的な負担、不安、自信低下と関連し、生きづらさや人付き合いの困難さえ招くことがあります。ミノキシジルやフィナステリドがAGA治療の定番として広く使われていますが、効果を得るには長期の投与を必要とします。毛髪の成長期を引き伸ばすミノキシジルの投与をやめることは、しばしば数ヵ月以内にしっぺ返しの脱毛をもたらします。フィナステリドは性機能障害、ホルモン関連の害を引き起こすことがあり、妊婦が曝露すると胎児に奇形が生じる恐れがあります。そのような欠点があるミノキシジルやフィナステリドに代わるAGA治療として、毛包を刺激する増殖因子の研究が始まっています。なかでも真皮乳頭細胞の増殖、毛髪成長期の延長、毛包再生を促すIGF-1とFGF-7は主要な生理活性因子と目されています。身近な植物成分のカフェインはそのIGF-1活性を促し、毛髪成長期を長くして毛がより長く丈夫に生えるのを助けることが知られています。カフェインは脱毛予防を謳うシャンプーによく含まれています。やはり植物成分のパントテン酸(ビタミンB5)やその派生物Dパンテノールも発毛調節作用があるらしく、前者は毛包の成長を促し、後者は毛乳頭細胞の増殖を促進することが示されています。市販の頭皮ローションの成分にもなっているツボクサ抽出物は毛根を丈夫にする働きが報告されています。また、毛包を好調にし、毛乳頭細胞を発生させる働きもあるようです。さらには、発毛を促す化合物アラリアジオール(araliadiol)がツボクサから精製されてもいます。台湾・Schweitzer Biotech Companyの研究者は幾重もの仕組みで発毛を促すことを目指してそれら成分をひとまとめにした育毛液を開発し、まずは健康な成人を募った無作為化試験でその効果のほどを検討しました。被験者60人にはプラセボか4種類のローションのいずれかが投与されました。4種類のローションはいずれも下地としてカフェインとパンテノールを含み、その1つは他に有効成分を加えず、あとの2つには長時間作用するようにしたIGF-1/FGF-7かツボクサ由来の細胞外小胞(EV)も加えられました。残りの1つはIGF-1/FGF-7とツボクサ由来EVのどちらも含むSchweitzer Biotech Companyにとって本命の全部込み育毛液です。いずれも1mLが晩の洗髪後の頭皮に56日間1日1回塗布され、プラセボを含むどの投与群も頭髪の状態の改善を示しました。なかでも全部込みの育毛液が同社の狙いどおり最も効果的で、調べた指標のどれも有意に改善しました。たとえば、頭髪の密度が目に見えて改善し、プラセボ群を2倍くらい上回って25%ほど上昇しました。60人ばかりの小規模試験結果であり、より長期の大人数の試験での検討が今後必要です。そのような今後の検討次第で植物由来EVと増殖因子IGF-1/FGF-7の組み合わせは頭皮や毛髪の調子を維持する普段使いの手当てとなりうるかもしれません1)。 参考 1) Chang TM, et al. A 56-Day Randomized, Double-Blinded, and Placebo-Controlled Clinical Assessment of Scalp Health and Hair Growth Parameters with a Centella asiatica Extracellular Vesicle and Growth Factor-Based Essence. medRxiv. 2025 Sep 12. 2) Serum based on plant extracts boosts hair growth in weeks / NewScientist 3) Tsuboi R, et al. J Dermatol. 2012;39:113-120.

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若年2型糖尿病に対するチルゼパチドの検討(解説:小川大輔氏)

 若年発症の2型糖尿病は、成人発症と比べて早期に糖尿病合併症を発症することが知られている。そのため食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせて適切な糖尿病治療を行うことが必要とされる。今回、10歳から18歳までに2型糖尿病を発症した患者99例を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの効果を検討した第III相試験の結果が発表された1)。従来の治療で血糖コントロール不十分であった若年発症の2型糖尿病患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、血糖コントロールや肥満を改善することが報告された。 若年発症の糖尿病といえば1型糖尿病やMODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young)、ミトコンドリア糖尿病など遺伝性糖尿病が知られているが、今回の試験では対象が2型糖尿病に限定されている。患者背景を確認すると、BMIの平均値が35.4であり、高度の肥満を合併している症例が多く含まれていたことがわかる。試験前の治療としては、メトホルミンが92%、インスリンが31%の症例で使用されていた。しかしベースラインのヘモグロビンA1c値は8.04%とコントロール不十分の状態で、チルゼパチドあるいはプラセボを30週間投与し効果を検討した。その結果、チルゼパチド投与群では30週時のヘモグロビンA1c値変化量は-2.23%、BMI変化率は-9.3%であり、プラセボ群より有意な減少を認めた。主な有害事象は胃腸障害であったが軽度から中等度であった。 若年発症2型糖尿病患者の治療法を比較検討した研究(TODAY2追跡試験)の参加者では、2型糖尿病診断後15年以内に60%が糖尿病関連合併症を発症し、約3分の1が複数の合併症を発症していたと報告された2)。つまり若年発症例は成人発症例と比べてより早期に複数の糖尿病合併症を発症することが明らかになり、合併症の予防や進行抑制のために発症時から厳格な血糖コントロールが重要であることが示唆された。今回の研究により、チルゼパチドが若年2型糖尿病に対する治療の選択肢の1つとなりうることが報告された。今後さらにGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の検討が進むことを期待したい。

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喫煙は2型糖尿病のリスクを高める

 喫煙者は2型糖尿病のリスクが高く、特に糖尿病になりやすい遺伝的背景がある場合には、喫煙のためにリスクがより高くなることを示すデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のEmmy Keysendal氏らが、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表した。Keysendal氏は、「インスリン作用不足の主因がインスリン抵抗性の場合と分泌不全の場合、および、肥満や加齢が関与している場合のいずれにおいても、喫煙が2型糖尿病のリスクを高めることは明らかだ」と語っている。 この研究では、ノルウェーとスウェーデンで実施された2件の研究のデータを統合して解析が行われた。対象は2型糖尿病群3,325人と糖尿病でない対照群3,897人であり、前者は、インスリン分泌不全型糖尿病(495人)、インスリン抵抗性型糖尿病(477人)、肥満に伴う軽度の糖尿病(肥満関連糖尿病〔693人〕)、加齢に伴う軽度の糖尿病(高齢者糖尿病〔1,660人〕)という4タイプに分類された。 解析の結果、喫煙歴のある人(現喫煙者および元喫煙者)は、喫煙歴のない人よりも前記4種類のタイプ全ての糖尿病リスクが高く、特にインスリン抵抗性型糖尿病との関連が強固だった。具体的には、インスリン分泌不全型糖尿病は喫煙によりリスクが20%上昇し、肥満関連糖尿病は29%、高齢者糖尿病は27%のリスク上昇であったのに対して、インスリン抵抗性型糖尿病に関しては2倍以上(2.15倍)のリスク上昇が認められた。また、インスリン抵抗性型糖尿病の3分の1以上は、喫煙が発症に関与していると考えられた。その他の3タイプでは、発症に喫煙の関与が考えられる割合は15%未満だった。 さらに、ヘビースモーカー(タバコを1日20本以上、15年間以上吸っていることで定義)ではより関連が顕著であり、インスリン抵抗性型糖尿病は喫煙によって2.35倍にリスクが高まり、インスリン分泌不全型糖尿病は52%、肥満関連糖尿病は57%、高齢者糖尿病は45%のリスク上昇が認められた。このほかに、遺伝的にインスリン分泌が低下しやすい体質の人でヘビースモーカーの場合は、喫煙によりインスリン抵抗性型糖尿病のリスクが3.52倍に高まることも示された。 これらの結果についてKeysendal氏は、「われわれの研究結果は2型糖尿病の予防における禁煙の重要性を強調するものである。喫煙と最も強い関連性が認められた糖尿病のタイプは、インスリン抵抗性を特徴とするタイプだった。これは、喫煙がインスリンに対する体の反応を低下させることで、糖尿病の一因となり得ることを示唆している」と述べている。また、「禁煙によって糖尿病リスクをより大きく抑制することのできる個人を特定する際に、遺伝的背景に関する情報が役立つと考えられる」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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チルゼパチド、血糖コントロール不良の若年2型糖尿病患者に有効/Lancet

 メトホルミンや基礎インスリンで血糖コントロール不十分の若年発症2型糖尿病患者において、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの週1回投与はプラセボと比較し、血糖コントロールおよびBMIを有意に改善し、その効果は1年間持続した。米国・Indiana University School of MedicineのTamara S. Hannon氏らがオーストラリア、ブラジル、インド、イスラエル、イタリア、メキシコ、英国および米国の39施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURPASS-PEDS試験」の結果で示された。若年発症2型糖尿病に対する治療選択肢は限られており、成人発症2型糖尿病と比較し血糖降下作用が低いことが知られている。若年発症2型糖尿病患者に対するチルゼパチドの臨床エビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2025年9月17日号掲載の報告。チルゼパチド(5mg、10mg)群とプラセボ群を比較 SURPASS-PEDS試験の対象は、10歳以上18歳未満、体重50kg以上、BMI値が当該国または地域の年齢・性別集団の85パーセンタイル超の2型糖尿病患者で、メトホルミン(1,000mg/日以上)や基礎インスリンによる治療で血糖コントロールが不十分(スクリーニング時のHbA1c値6.5%超11%以下)の患者であった。 研究グループは、最長4週間のスクリーニング期の後、適格患者をチルゼパチド5mg群、10mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、30週間の二重盲検投与期にそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化では、年齢層(14歳以下、14歳超)および血糖降下薬使用状況(メトホルミン、基礎インスリン、その両方)で層別化した。 チルゼパチドは2.5mgから開始し、割り付けられた用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。二重盲検投与期に引き続き、22週間の非盲検延長期に移行し、プラセボ群の患者にはチルゼパチド5mgを投与した。 主要エンドポイントは、チルゼパチド併合(5mgおよび10mg)群とプラセボ群との比較におけるベースラインから30週時までのHbA1c値の変化量であった。 主要な副次エンドポイント(第1種過誤を制御)は同HbA1c値の変化量のチルゼパチド各用量群とプラセボ群の比較、ベースラインから30週時までのBMI値の変化率(チルゼパチド各用量群および併合群とプラセボ群との比較)などであった。主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは52週時においても評価した。30週時のHbA1c値変化量は-2.23%vs.+0.05%、BMI値変化率は-9.3%vs.-0.4% 2022年4月12日~2023年12月27日に146例がスクリーニングされ、99例が無作為化された(チルゼパチド5mg群32例、10mg群33例、プラセボ群34例)。患者背景は、女性60例(61%)、男性39例(39%)、平均年齢14.7歳(SD 1.8)、ベースラインの平均HbA1c値は8.04%(SD 1.23)であった。 30週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド併合群で平均-2.23%に対し、プラセボ群では+0.05%であり、チルゼパチド併合群の優越性が検証された(推定群間差:-2.28%、95%信頼区間:-2.87~-1.69、p<0.0001)。チルゼパチドの血糖降下作用は52週まで持続し、52週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド5mg群で-2.1%、10mg群で-2.3%であった。 30週時におけるBMI値の変化率は、チルゼパチド併合群-9.3%、5mg群で-7.4%、10mg群で-11.2%、プラセボ群-0.4%であり、チルゼパチド群はいずれもプラセボ群より有意な減少であった(対プラセボ群の併合群のp<0.0001、5mg群のp=0.0001、10mg群のp<0.0001)。 二重盲検期における有害事象の発現率は、プラセボ群44%(15/34例)、チルゼパチド5mg群66%(21/32例)、10mg群70%(23/33例)であった。チルゼパチド群で最も頻度の高かった有害事象は胃腸障害で、いずれも軽度~中等度であり、用量漸増期に発現し、経時的に減少した。投与中止に至った有害事象はチルゼパチド5mg群で2例(6%)に認められた。チルゼパチドの安全性プロファイルは成人での報告と一致した。試験期間中の死亡例は報告されなかった。

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植物性食品中心の食事は慢性疾患の併発を予防する

 植物性食品中心の食生活が、がん、心血管疾患、2型糖尿病のいずれか二つ以上を併発する状態の予防につながることを示唆するデータが報告された。ウィーン大学(オーストリア)のReynalda Cordova氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」8月号に掲載された。 この研究では、欧州6カ国で行われている「欧州がん・栄養前向き調査(EPIC)」と英国で行われている「UKバイオバンク」という二つの大規模疫学研究のデータが解析に用いられた。年齢35~70歳で、がん、心血管疾患、2型糖尿病の既往のない40万7,618人を解析対象とした。食事スタイルの評価には、全粒穀物や果物、野菜、ナッツ、豆類などの健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す「hPDI」と、精製穀物やジャガイモ(フライドポテトなど)といった健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す「uPDI」という、二つの指標を用いた。 EPICでは中央値10.9年、UKバイオバンクでは同11.4年の追跡期間中に、合計で6,604人が、前記3疾患のうち二つ以上を併発していた。解析の結果、hPDIスコアが10ポイント高いごとに、複数疾患併発リスクが約1~2割低いことが示された(EPICではハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.83~0.96〕、UKバイオバンクではHR0.81〔同0.76~0.86〕)。 年齢で層別化すると、高齢者よりも中年成人の方が、食事スタイルによる複数疾患併発リスクへの影響がより強く認められた。具体的には、EPICでは60歳未満ではhPDIスコアが10ポイント高いごとに14%のリスク低下が認められたのに対し(HR0.86〔0.78~0.95〕)、60歳以上では有意なリスク低下が示されなかった(HR0.92〔0.84~1.02〕)。UKバイオバンクでは60歳未満は29%のリスク低下(HR0.71〔0.65~0.79〕)、60歳以上では14%のリスク低下だった(HR0.86〔0.80~0.92〕)。 一方、uPDIスコアとの関連については、UKバイオバンクにおいて、10ポイント高いごとに複数疾患併発リスクが22%高いことが示された(HR1.22〔1.16~1.29〕)。EPICでは有意な関連は示されなかった(HR1.00〔0.94~1.08〕)。 論文の筆頭著者であるCordova氏は、「われわれの研究結果は、健康的な植物性食品中心の食事が、個々の慢性疾患の発症抑制につながるだけでなく、複数の慢性疾患を併発するリスクも抑制することを示している」と総括している。この関連の機序について著者らは、「健康的な植物性食品中心の食生活を続けていると、体重が増えにくく、全身の慢性炎症やインスリン抵抗性が生じにくい。これらはいずれも、2型糖尿病、心血管疾患、がんのリスク上昇を抑制すると考えられる」と解説。さらに、「植物性食品は食物繊維が豊富であり、免疫機能を高めたり腸の炎症を抑えたりする」と指摘している なお、Cordova氏によると、「動物性食品を完全に排除する必要はない」という。研究者らは、「健康的な植物性食品を中心としつつ、少量の動物性食品を加えた食生活が、老後の健康を維持するのに役立つ」と付け加えている。

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透析患者が被災したら?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第6回

透析患者が被災したら?豪雨の後の水害で多くの家屋が浸水し、停電、断水のため医療機関も機能不全になっています。避難所のスタッフから、維持透析を週3回行っていて明日が透析日という避難者がいて、対応について相談を受けました。どうすればよいでしょうか?血液透析には、1人当たり1回の透析で100L以上の大量の水が必要であり、装置を動かすには当然電気が必要です。大災害で施設や設備が損傷したり、断水や停電が起きたりすると血液透析ができなくなり、透析患者の生命は危険にさらされます。事実、東日本大震災では、一時は数百施設が透析不能となり、1,300名以上の患者さんが一時的に被災県外に移動しました。熊本地震でも約30施設で透析ができなくなったことが報告されています。普段からの備え透析施設は、支援透析施設が使えるように、患者カードや手帳、透析記録のコピーなど災害時に必要な情報を患者に提供します。他施設で透析をするうえで必要な情報ドライウェイト氏名・年齢アレルギーがあればその内容感染症の有無(慢性肝炎など)処方されている薬の種類とその飲み方人工血管の場合血流の向き普段透析を受けている施設の連絡先普段から患者さんに対して、災害時は透析時間が短くなったり、次の透析までの間隔が長くなったりする場合があることを説明し、自分で自分の身を守ることの大切さを強調しましょう。避難所に避難した場合は、透析患者であることを自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師に申し出るよう指導をしておくことが必要です。また、透析スタッフもしっかり訓練しておくことも重要です。災害時には、基本的には各自治体が透析災害対策本部のネットワークを利用して、行政・透析関連企業および該当都道府県下のすべての透析施設間の連絡ができるようになっています。日本透析医会の災害時情報ネットワークのウェブサイトも参考にしてください1)。アメリカでは、ハリケーンに備え、前もって透析をしておくことで透析患者の予後を改善することに成功しています。台風など、あらかじめ災害が起こることが予期できる場合には、前倒しをして透析をしておくことも考慮してもいいかもしれません2,3)。避難所での対応【食事】避難所では、非常食や配給食が提供されることが多く、透析患者にとっては平常時よりも尿素窒素やカリウムの数値が高くなる危険性があります。避難所では、水分は日常の3分の2程度に減らすように指導されている患者さんが多いですが、過度な脱水は血栓症の原因にもなります。水分制限は食事摂取の低下の原因にもなります。一方で、食事量が不足してカロリーが減ると、体内のタンパク質が壊れて尿素窒素やカリウムが上昇するため、栄養は十分に摂る必要があります。災害時に透析患者が食事面で留意すべき点食塩、タンパク質、カリウム、リンを平時より大幅に制限する1日の水分量は「尿量+300~400mL以下」に抑えるエネルギー(カロリー)をしっかり確保するカロリー確保には、白米、麺類、パンなど炭水化物が有効です。ただし、麺類やパンには意外に多くの塩分が含まれているため注意が必要です4)。そこで、「カロリーメイト」のようなバランス栄養食品が勧められます。カロリーメイトは、十分なカロリーが摂れ、カルシウム、ビタミン、食物繊維などを多く含む一方、塩分やタンパク質、リン、カリウムの摂取量を比較的抑えやすいというメリットがあります。参考カロリーメイト(ブロックタイプ:1箱4本入り)の場合、カロリー400kcal、カルシウム200mg、食物繊維2g、タンパク質8~9g、カリウム90~100mg、リン80~100mg、食塩相当量約0.7~0.9gです(大塚製薬「カロリーメイト」サイトより)。【応急処置】避難所の医療資源と環境でできることは限られていますが、透析患者の生命を奪うのは主にうっ血性心不全と高カリウムです。危険な高カリウム血症に対しては、内服薬としては陽イオン交換樹脂製剤のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート)が使われることがあります。陽イオン交換樹脂製剤は大腸でナトリウムとカリウムを交換しますが、カルシウムも吸着するため、カリウムに対する選択性は乏しいといわれています。ケイキサレート30gを20%ソルビトール50mLに溶解して内服してもらいます。非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤であるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(商品名:ロケルマ)は、胃で吸収され、カリウムに対する選択性が比較的高いのですが、災害時の使用については即効性の面を考慮し、薬剤師や製造元への確認が必要です。避難所では難しいかもしれませんが、血糖値を測定しながらインスリン+グルコース療法を行い、透析までの緊急回避を行う場合もあります。ヒューマリンR注10単位+50%ブドウ糖550mLを静脈注射し、その後は10%ブドウ糖液を50mL/hで投与する方法が提唱されています5,6)。災害時要配慮者である透析患者の被災時の対応について概説しました。災害医療は、あくまで日常の救急医療の延長であり、普段から「もしも」のことを意識しておくことが必要なことは言うまでもありません。 1) 日本透析医会 災害時情報ネットワーク 2) Lurie N, et al. Early dialysis and adverse outcomes after Hurricane Sandy. Am J Kidney Dis. 2015;66: 507-512. 3) Foster M, et al. Personal disaster preparedness of dialysis patients in North Carolina. Clin J Am Soc Nephrol. 2011;6:2478-2484. 4) Inoue T, Nakao A, Kuboyama K, Hashimoto A, Masutani M, Ueda T, Kotani J. Gastrointestinal symptoms and food/nutrition concerns after the great East Japan earthquake in March 2011: survey of evacuees in a temporary shelter. Prehosp Disaster Med. 2014;29:303-306. 5) Fadel E, et al. Scoping Review of Kidney Patients and Providers Perspectives on Disaster Management. Kidney Int Rep. 2025;10:1346-1359. 6) Lempert KD, et al. Renal failure patients in disasters. Disaster Med Public Health Prep. 2019;13:782-790.

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先進医療技術の普及により1型糖尿病患者の血糖管理が大きく改善

 先進的テクノロジーを用いた医療機器の普及によって、1型糖尿病患者の血糖管理状態が顕著に改善しているとする研究結果が、「JAMA Network Open」に8月11日掲載された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のMichael Fang氏らの研究によるもので、血糖コントロールが良好(HbA1c7%未満)の18歳未満の患者の割合は、2009年は7%であったものが2023年には19%となり、成人患者では同期間に21%から28%に増加したという。 研究者らによると、これらの改善は、持続血糖モニターやインスリンポンプの技術革新によるところが大きいという。Fang氏は、「かつて、1型糖尿病患者の血糖コントロールは困難なことが多かった。こうした顕著な改善は喜ばしい変化だ」と述べている。ただし一方で、1型糖尿病患者の多くが、いまだに十分な血糖コントロールができていないことを、研究者らは指摘している。 米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の1型糖尿病患者数は約200万人であり、そのうち30万4,000人は小児や10代の若者で占めている。1型糖尿病は膵臓のインスリン産生細胞が破壊されてしまう自己免疫疾患で、発症後は生存のためにインスリン療法が必須となる。従来のインスリン療法は、指先穿刺による血糖測定とインスリン注射を頻回に行う必要があり、また低血糖対策のための甘い物を常に身に着けておくことが欠かせない。一方、近年になり、持続血糖モニター、および、その測定結果を利用するアルゴリズムに基づき必要なインスリンを自動的に注入するポンプが普及し、安定した血糖値を維持できるようになってきた。 今回報告された研究には、約16万人の成人患者および約2万7,000人の18歳未満の小児・若年患者の医療記録が用いられた。分析の結果、2009~2023年の間に、前述のように血糖管理が良好な患者の割合が顕著に増加していた。その背景として、持続血糖モニターを使用している患者の割合は、小児・若年患者では4%から82%へと20倍以上に増加し、成人患者では5%から57%へと10倍以上に増加していた。また、インスリンポンプを使用している患者の割合は同順に、16%から50%、11%から29%に増加していた。2023年には双方のデバイスを利用している患者が、小児・若年者の47%、成人の22%を占めていた。 ただし、論文の上席著者で同大学院のJung-Im Shin氏は、「このような改善は喜ぶべきことだが、1型糖尿病患者の大半はいまだ最適な血糖コントロールを達成できておらず、改善の余地が残されていることを忘れてはならない」と話している。また、医療格差も認められ、先進的医療機器を利用し良好な血糖コントロールを維持しているのは、白人や民間保険に加入している患者に多いという。例えば18歳未満の患者の中で、良好な血糖コントロールを維持している割合は、白人では21%であるのに対し、ヒスパニック系では17%、黒人では12%にとどまっていた。 なお、研究グループでは今後さらに詳しい調査を続け、心臓病や腎臓病などの糖尿病に多い合併症の罹患率の変化も明らかにすることを計画している。

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長らく日の目を見なかったアミリンが抗肥満薬として復活した(解説:住谷哲氏)

 アミリン(amylin)、別名膵島アミロイドポリペプチド(islet amyloid polypeptide:IAPP)は、インスリンと同時に膵β細胞から分泌されるホルモンである。アミリンには消化管運動調節作用があり食後の血糖上昇を抑制することから、すでに20年前にアミリンアナログであるpramlintideが商品名SymlinとしてFDAに血糖降下薬として承認されている(日本では未承認)。しかしpramlintideは半減期が短く、1日3回の注射が必要であるためほとんど使用されていない。 アミリンは当初から食欲中枢に作用して食欲を低下させることが知られていた1)。そこでアミリンの分子構造を変化させることで週1回投与を可能にしたcagrilintideが抗肥満薬として開発された。プラセボと比較した第II相試験では、cagrilintide 2.4mgはプラセボと比較して9.7%の体重減少をもたらした2)。さらに本試験の前段階である第Ib相の臨床試験において、cagrilintide 2.4mg+セマグルチド2.4mg(CagriSema)の投与は17.1%の体重減少をもたらすことが報告されている3)。 本論文は2型糖尿病を合併していない肥満患者に対するCagriSemaの体重減少作用をプラセボおよびcagrilintide、セマグルチドそれぞれ単剤と比較した第IIIa相試験の報告である(2型糖尿病合併肥満患者に対する試験はREDEFINE 2として同誌に同時掲載されている)。その結果はCagriSemaの最大投与量2.4mgで53.6%の患者に20%以上の体重減少が認められた。この結果は、CagriSemaがGLP-1受容体作動薬を含めた抗肥満薬のなかでは最も強力であることを示している。有害事象もcagrilintideとセマグルチド単剤と同様に消化器症状が中心であり、CagriSemaによる新たな有害事象は認められなかった。唯一の懸念材料はCagriSema群で2例の死亡があり、そのうち1例が自殺とされている点である。 わが国では現在セマグルチド(商品名:ウゴービ)およびチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が抗肥満薬として使用可能である。随時服用可能な経口GLP-1受容体作動薬であるorforglipronも近々抗肥満薬として承認申請予定であり、GIP/GLP-1/Glucagonのトリプルアゴニストであるretatrutideも抗肥満薬として遠からず申請されると思われる。まさに抗肥満薬の百花繚乱時代であるが、専門医としては体重減少の先にある臨床アウトカムの改善を見据えて、適切な薬剤を適切な患者に選択するという基本を忘れてはならない。

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2型糖尿病治療薬、国際的持続評価システムの最新結果/BMJ

 中国・四川大学のKailei Nong氏らは、2型糖尿病治療薬の無作為化比較試験についてリビングシステマティックレビュー(living systematic review:LSR)とネットワークメタ解析(NMA)を用いて評価するシステムを開発。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、フィネレノンおよびチルゼパチドは、死亡、心血管疾患、慢性腎臓病および体重減少に関してリスク依存的に異なる有益性をもたらすが、薬剤特有の有害事象があることを明らかにした。著者は、「本評価システムは、最新のエビデンスを随時統合できるよう設計されている。エビデンスを持続的に更新する国際的なシステムとして、政策立案者、臨床医および患者の情報に基づく意思決定を支援し、研究の無駄を減らす可能性がある」と述べている。BMJ誌2025年8月14日号掲載の報告。869試験、49万3,168例のデータを解析 研究グループは、MedlineおよびEmbaseを用い、2型糖尿病治療薬を相互に、またはプラセボあるいは標準治療と比較した24週以上の無作為化並行群間比較試験について、毎月検索を実施し(本報告では2024年7月31日までの検索を対象)、頻度(frequentist)ランダム効果モデルとGRADEアプローチを用いたLSRおよびNMAを行った。 LSRとNMAは、少なくとも年2回更新。本報告のLSRとNMAには、869試験(2022年10月以降に53試験を追加)の計49万3,168例の患者が含まれ、13の薬剤クラス(63種類の薬剤)と26の重要なアウトカムに関するデータが報告された。薬剤ごとに有益性が異なり、薬剤特有の有害事象も確認 有益性は、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、およびフィネレノン(慢性腎臓病を有する患者に限る)について、心血管および腎臓へのベネフィットが確認された(エビデンスの確実性:中~高)。 体重減少に最も有効な薬剤は、チルゼパチド(平均差[MD]:-8.63kg[95%信頼区間[CI]:-9.34~-7.93]、エビデンスの確実性:中)、およびorforglipron(-7.87kg[-10.24~-5.50]、エビデンスの確実性:低)の順で、次いで他の8種類のGLP-1受容体作動薬(エビデンスの確実性:高~中)であった。 薬剤の絶対的有益性は、心血管および腎アウトカムに対するベースラインのリスクによって大きく異なっていた。リスク層別化された薬剤の絶対効果は、インタラクティブツールにまとめている。 薬剤特有の有害事象については、SGLT2阻害薬は性器感染症(オッズ比[OR]:3.29[95%CI:2.88~3.77]、エビデンスの確実性:高)、糖尿病性ケトアシドーシス(2.08[1.45~2.99]、エビデンスの確実性:高)、切断(1.27[1.01~1.61]、エビデンスの確実性:中)を、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬は重度胃腸障害(チルゼパチドで最もリスクが増加、OR:4.21[95%CI:1.87~9.49]、エビデンスの確実性:中)、フィネレノンは重度高カリウム血症(OR:5.92[95%CI:3.02~11.62]、エビデンスの確実性:高)を、チアゾリジン系薬剤は主要な骨粗鬆症性骨折および心不全による入院、スルホニル尿素薬とインスリンおよびDPP-4阻害薬は重度低血糖のリスクをそれぞれ増加させる可能性が示された。 神経障害や視覚障害などその他の糖尿病関連合併症に対する効果については、エビデンスの確実性が低または非常に低の結果しか得られなかった。また、関心が高い認知症に関しても、GLP-1受容体作動薬が認知症を軽減するかどうかは不確実であった(OR:0.92[95%CI:0.83~1.02]、エビデンスの確実性:低)。

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