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COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

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第267回 GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい

GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい先週11~14日のスペインでの欧州肥満学会で取り上げられたイスラエルの研究者の発表によると、GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は体重減少がもたらす以上のがん予防効果を有するようです1,2)。GLP-1薬と肥満手術はどちらも糖尿病や肥満の治療として確立としています。肥満手術は糖尿病や肥満と関連するいわゆる肥満関連がん(ORC)を生じ難くすることが長期の試験やメタ解析で裏付けられており、発生率の32~45%の低下をもたらします。一方、肥満治療薬(肥満薬)のがん予防効果のほどはよくわかっていませんが、2型糖尿病、肥満、それらの合併症を制しうるGLP-1薬も肥満手術と同様にORCを生じ難くするかもしれません。実際、米国の2型糖尿病患者およそ165万例の最長15年間の経過を解析したレトロスペクティブ試験でGLP-1薬とORCの発生率低下の関連が示されています。GLP-1薬投与群は調べた13種のORCうち10種(食道、大腸、子宮内膜、胆嚢、腎臓、肝臓、卵巣、膵臓のがん、髄膜腫、多発性骨髄腫)の発生率がインスリン投与群に比べて低くて済んでいました3)。同試験の著者はいくつかの課題の1つとして、GLP-1薬とがんの発生率の関連を肥満手術と比べる必要があると述べていました。イスラエルの人口の半数超が加入している保健組合Clalitの研究者らはまさにその課題に取り組み、GLP-1薬と肥満手術のORCを減らす効果を同組合の患者の電子カルテを使って比較しました。比較されたのは24歳以上で、肥満かつ糖尿病の患者の第一世代GLP-1薬開始後と肥満手術後のORCの発生率です。2010~18年にGLP-1薬を開始した群と肥満手術を受けた群の患者はどちらも同数の3,178例で、性別、年齢、BMIが一致するように1対1の割合で選定されました。2023年12月までの追跡期間中央値7.5年のあいだに298例にORCが生じました。最も多かったのは閉経後乳がんで77例に生じました。その次に多かったのは大腸がんで49例、3番目に多かった子宮がんは45例に生じました。肥満手術群のほうが体重はより減ったものの、ORCの発生率は肥満手術群とGLP-1薬投与群で似たりよったりで、それぞれ1,000人年当たり5.76と5.64でした。肥満手術群のBMI低下は31%で、GLP-1薬のBMI低下14%を2倍以上上回りました。そのような体重減少の効果を差し引くと、GLP-1薬の体重減少以外の作用によるORC発生率低下は肥満手術に比べて41%高いと推定されました。GLP-1薬がORCを防ぐ効果は炎症の抑制などのいくつかの仕組みによるのかもしれません。より用を成し、より体重を減らす新世代のGLP-1薬のORC予防効果はさらに高いと期待できそうですが、無作為化試験やより大人数の観察試験でORCの予防効果をさらに検証し、その効果の仕組みの理解に取り組む必要があります。また、新世代のGLP-1薬がORC以外のがんを増やさないことの確認が必要と研究リーダーの1人Dror Dicker氏は言っています2)。幸い、10試験の7万例超を調べた最近のメタ解析では、2型糖尿病患者のGLP-1薬使用のがん全般の発生率はプラセボに比べて高くないことが示されています4,5)。 参考 1) Wolff Sagy Y, et al. eClinicalMedicine. 2025 May 11. [Epub ahead of print] 2) GLP-1 receptor agonists show anti-cancer benefits beyond weight loss / Eurekalert 3) Wang L, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2421305. 4) Lee MMY, et al. Diabetes Care. 2025;48:846-859. 5) expert reaction to conference poster about GLP-1 obesity drugs (compared with bariatric surgery) and obesity-related cancer / Science Media Centre

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2型糖尿病患者においてもインスリン自動投与システム AIDは有効である(解説:住谷哲氏)

 インスリン自動投与システムautomated insulin delivery(AID)の有効性は1型糖尿病患者においては確立されている1)。AIDにはいくつかの種類があるが、本試験で使用されたのはTandem Diabetes CareのControl-IQ+である。Control-IQ+は、基礎インスリン分泌に加えて高血糖時の補正インスリンcorrection bolusも自動化した新しいclosed-loop systemである。本試験は、すでに米国食品医薬品局(FDA)から1型糖尿病患者に対して承認されているControl-IQ+の、2型糖尿病患者への承認を目指しての臨床試験と思われる。 試験参加者をインスリン頻回注射療法MDIにDexcom G6を併用する群(対照群)とControl-IQ+にDexcom G6を併用する群(AID群)に振り分けて、試験開始13週後のHbA1cを主要評価項目とした。結果は、主要評価項目のHbA1cは対照群で8.1%から7.7%に低下したのに対し、AID群では8.2%から7.3%に低下した。さらに副次評価項目のTIRは対照群で51%から52%に上昇したのに対し、AID群では48%から64%に上昇した。両指標ともにAID群で対照群に比較して有意な改善を認め、AIDは2型糖尿病患者においてもMDIに比較して血糖コントロールの改善に有効であることが示された。 FDAはInsuletのAIDであるOmnipod 5をSECURE-T2D試験2)の結果に基づいて、2型糖尿病患者への使用をすでに承認している。Control-IQ+も本年2月に2型糖尿病患者に対して承認された。2型糖尿病患者に対するAIDが普及するのも時間の問題である。しかしインスリン分泌が保たれている2型糖尿病患者において、AIDを用いてHbA1cをわずかに低下させることが患者の予後を改善するかは、筆者には少々疑問である。2型糖尿病患者におけるAIDの使用については、医療資源の観点も含めた議論が必要であると思われる。

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にんにくは糖尿病のリスクを減らす【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第281回

にんにくは糖尿病のリスクを減らすにんにく摂取と糖尿病発症リスクとの関連を検討した10年間の前向きコホート研究が発表されました!2008年時点で糖尿病を有していない高齢者を登録し、その後10年間にわたって追跡し、にんにく摂取頻度と糖尿病新規発症の関連を解析…構造になっており、曝露(にんにく摂取)を基準に将来のアウトカム(糖尿病発症)を観察した前向きデザインですが、そんな研究を立案しちゃうんだ…。すごい。Du J, et al. Garlic consumption and risk of diabetes mellitus in the Chinese elderly: A population-based cohort study. Asia Pac J Clin Nutr. 2025 Apr;34(2):165-173.動物実験や細胞レベルの研究において、にんにくが血糖降下作用を示すことが確認されていますが、ヒトを対象とした疫学的研究、とくに高齢者に焦点を当てた前向き研究は少なく、その因果関係の証明は不十分です。この研究では、中国高齢者健康長寿調査(CLHLS)を用いて、にんにくの摂取頻度と糖尿病発症との関連性を検証しています。研究対象は2008~18年にかけて追跡された1,927人の中国人高齢者です。ベースライン時に糖尿病の既往がない人を対象に、にんにく摂取頻度(毎日、時々、ほとんどまたは全く摂取しない)と自己申告による糖尿病診断の有無を記録し、多変量Cox比例ハザードモデルにより解析を行いました。対象者のうち、24.1%が毎日、55.1%が時々にんにくを摂取しており、糖尿病の発症率は全体で20.08%でした。4~5人に1人が毎日にんにくを摂取しているんですね、たしかに僕もそのくらいの頻度でにんにくを食べている気もします。にんにく大好きマンです。さて、毎日摂取していた群は、にんにくをほとんど摂らない群に比べて糖尿病のリスクが42%低下していました(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.80)。この関連は、年齢、性別、居住地、教育、BMI、食事の多様性、喫煙・飲酒習慣、運動、婚姻状況、収入源、職業、慢性疾患の既往などの共変量で調整した後も、有意に認められました。サブグループ解析において、65~79歳、農村在住者、非飲酒者、教育水準が高くない人、経済的援助が必要な人、農業従事者では、にんにく摂取による糖尿病リスクの有意な低下が示されました。一方で、80歳以上、都市部在住者、飲酒者、教育水準が高い人、経済的自立者ではその影響は有意ではありませんでした。にんにくの糖尿病に対する効果は、インスリン分泌の促進、インスリン感受性の改善、DPP-4阻害による血糖調節、脂質代謝の改善、抗酸化・抗炎症作用などが報告されています。とくに、アリシンなどの含硫化合物はインスリンの不活化を防ぎ、炎症を抑制することでインスリン抵抗性の改善に寄与すると考えられています。また、酸化ストレスの抑制、非酵素的糖化反応の抑制といった作用もあり、糖尿病の合併症予防にもつながる可能性があります。この研究、調理方法や妥当なにんにくの量がわからないという点がリミテーションです。ただ、過去のメタアナリシスでは、にんにく摂取量1.5g/日というのがおおよその目安となっています1)。よし、明日から毎日にんにくを食べよう!1)Shabani E, et al. The effect of garlic on lipid profile and glucose parameters in diabetic patients:A systematic review and meta-analysis. Prim Care Diabetes. 2019;13(1):28-42.

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アラート付き血糖モニタリングにより糖尿病患者の交通事故が軽減か

 インスリン治療を受けている糖尿病患者では、治療に起因する低血糖症が起こることがある。低血糖症が車の運転時に起こった場合、意識障害などから交通事故につながりかねない。この度、インスリン治療を受けている糖尿病患者で、アラート付きの持続血糖モニタリングシステム(CGM)の装着により、運転中の低血糖の発生率が低下するという研究結果が報告された。名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の前田龍太郎氏らが行った研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」に2月28日掲載された。 2014年の実態調査では、糖尿病治療中の患者の52%が日常生活で低血糖を経験し、そのうちの10%で運転中に低血糖エピソードを生じ、結果としてその2%が交通事故にあった、と報告されている。無自覚の低血糖を加味すれば、運転中の低血糖エピソードの頻度はさらに高い可能性があり、切迫した低血糖を予測してドライバーに警告できる信頼性の高いシステムが必要とされていた。このような背景から、研究グループは、インスリン治療を受けているドライバーを対象に、低血糖アラート機能付きのCGMの有用性を評価する単施設の非盲検ランダム化クロスオーバー試験を実施した。 対象には、2021年7月6日から2023年2月27日の間に名古屋大学医学部附属病院でインスリン治療を受け、週3回以上車を運転する成人の糖尿病患者30名が含まれた。30名の参加者は、アラート機能付きCGM群(アラート群)、アラート機能なしCGM群(非アラート群)に1対1で割り付けられた。参加者は、4週の試験期間の後、8週間おいて、群を入れ替えて再度4週間の試験期間に組み入れられた。CGMは皮膚に貼り付けるパッチ式を採用し、期間中の低血糖警告の閾値は80mg/dL(4.4mmol/L)と設定された。主要評価項目は血糖値が基準値(70mg/dL〔3.9mmol/L〕)を下回っていた時間(TBR)の割合とした。 最終的にCGMの解析に含まれた参加者は27名(平均年齢;61.9±12.6歳、女性;8名)だった。27名には、1型糖尿病8名(30%)、2型糖尿病13名(50%)、その他6名(20%)が含まれた。 2つの試験期間を統合して解析した結果、試験全体でのTBRはアラート群(中央値2.0%〔四分位範囲1.0~7.0〕)と非アラート群(同2.0%〔1.0~6.5〕)で有意な差はみられなかった(P=0.169)。しかし、事前に規定された1型糖尿病のサブグループ解析では、非アラート群と比較したアラート群のTBRは有意に減少していた(群間差-4.4%〔95%信頼区間-8.7~-0.1〕、P=0.047)。また、車を運転するときの低血糖エピソードの発生率は、非アラート群(33%)と比較し、アラート群(19%)で有意な減少が認められた(P=0.041)。 本研究の結果について、研究グループは、「今回のCGMはアラートの閾値が80mg/dL(4.4mmol/L)に設定されており、参加者は血糖が基準値以下(<70mg/dL〔<3.9mmol/L〕)になる前にブドウ糖摂取などの予防的措置をとることができた。今回示された結果は、低血糖アラート機能を備えたCGMが、インスリン治療を受けているドライバーの安全性をさらに高め、糖尿病患者の運転制限の緩和に役立つ可能性があることを示唆している」と述べた。 なお、本研究の限界については、CGMで測定した皮下組織中のグルコース濃度は、近似しているが血糖値と同一のものでないこと、CGMの使用により意識が変わり、血糖管理がより慎重になった可能性があったことなどを挙げている。

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人工甘味料スクラロースの摂取は空腹感を高める

 スプレンダのようなカロリーなしの人工甘味料の使用により食事のカロリーが増えることはないが、体重増加につながる可能性はあるようだ。新たな研究で、砂糖の代替品は食欲と空腹感を刺激し、食べ過ぎにつながる可能性のあることが明らかになった。米南カリフォルニア大学(USC)糖尿病・肥満研究センター所長のKathleen Page氏らによるこの研究結果は、「Nature Metabolism」に3月26日掲載された。 Page氏は、「スプレンダの主成分であるスクラロースは、摂取してもその甘さから予想されるカロリーを伴わないため脳を混乱させるようだ。体が、摂取した甘さに見合うカロリーを期待しているのにそれを得られない場合、時間の経過とともに、脳がそれらの物質を求める仕組みに変化が生じる可能性がある」とUSCのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、米国人の約40%が砂糖の摂取量を減らす手段として、定期的に砂糖の代替品を摂取しているという。「しかし、このような砂糖の代替品は、本当に体重の調整に役立つのだろうか。それらの摂取は、体と脳にどのような影響を与えるのだろうか。また、その影響は人によって異なるのだろうか」とPage氏は疑問を呈する。 今回の研究では、18〜35歳の試験参加者75人(女性43人)を対象にクロスオーバー試験を実施し、スクラロースの摂取が、食欲のコントロールに関与する脳視床下部の活動、ホルモンレベル、空腹感に及ぼす影響を調査した。試験参加者は、ショ糖(砂糖の主成分)で甘くした飲み物、スクラロースでショ糖と同程度に甘くした飲み物、および水をランダムな順序で2日から2カ月の間隔を空けて摂取した。飲み物の摂取前と摂取後には、採血、MRIスキャン、空腹感の評価が行われた。 その結果、ショ糖摂取後に比べてスクラロース摂取後には、視床下部の血流が有意に増加し、空腹感も有意に高まることが示された。また、水の摂取後との比較でも、視床下部の血流は有意に増加したが、空腹感のスコアに有意な差は認められなかった。一方、ショ糖の摂取後にはインスリンやグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)など、血糖値を調節するホルモンレベルの上昇が認められたが、この上昇は視床下部の血流低下と関連していた。さらに、スクラロースの摂取後には、視床下部と動機付けや身体感覚処理に関わる脳領域との機能的な結び付きが強まることも確認された。Page氏は、「この結果は、スクラロースが渇望や摂食行動に影響を与える可能性があることを示唆している」と述べている。 Page氏は、「体はインスリンなどのホルモンを使ってカロリーを摂取したことを脳に伝え、空腹感を軽減させる。しかし、スクラロースにそのような効果は認められなかった。肥満の試験参加者では、このようなスクラロース摂取後とショ糖摂取後のホルモン反応の違いはより顕著だった」と述べている。 研究グループは、「今後の研究では、脳とホルモンの活動のこうした変化が人の体重に長期的な影響を及ぼすかどうかを調べるべきだ」と述べている。

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健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

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高齢糖尿病患者へのインスリン イコデク使用Recommendation公開/糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])は、4月18日に「高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」(高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会作成)を公開した。 週1回持効型インスリン製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ注)は、注射回数を減少させ、持続的なインスリン作用をもたらすことから、ADLや認知機能の低下により自己注射が困難な高齢患者に血糖管理が可能になると期待される。 その一方で、週1回投与という特徴から、投与調節の柔軟性には制限があり、一部の患者では低血糖が重篤化する懸念がある。 学会では使用に際し、高齢者における使用に際してはカテゴリー分類を行った上で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」に基づき目標値を設定すること、さらに高齢者では低血糖の症状が乏しく重症低血糖を来しやすいことから『高齢者糖尿病治療ガイド』『インスリン イコデク投与ガイド』などを参考に、下記の5つの事項に留意するように示している。【高齢糖尿病患者への使用でのRecommendation】(1)適切な治療目標を設定する ADLや認知機能が低下した高齢者においては、高血糖緊急症や低血糖を避けることが優先的な目標となる。低血糖になった場合、遷延することが予想されるため、HbA1c値の治療目標は厳格すぎないよう柔軟に設定する。(2)適切なタイミングで血糖モニタリングを実施する 安全性の確保のため何らかの血糖測定が必要である。家族や介護者への教育を徹底し、低血糖時の対応や投与スケジュールの管理を習得してもらう。投与量が安定するまでの期間や、シックデイなど血糖の変動が予想される場合には持続血糖測定(CGM)や遠隔血糖モニタリングも検討する。投与後2~4日目の食前血糖値が最も下がりやすいことから、この日の血糖測定は用量調整の参考になる。(3)訪問看護や介護環境では慎重に計画する 週1回~数回の訪問看護などに依存する患者では、血糖変動を把握する機会が限られるため、慎重な投与計画が必要である。訪問看護師や介護者との連携を強化し、緊急時の対応手段を準備する。(4)感染症、術前の血糖管理など 適宜(超)速効型インスリンを併用する。連日投与のBasalインスリンに変更する場合、最後にイコデクを打ってから1~2週間の間で、朝食前血糖が180mg/dLを超えた時点でイコデクの1/7量を開始する。(5)低血糖予防の注意事項と対応 低血糖時の対応方法に習熟してもらう(必要に応じグルカゴン投与も含む)。予定外の運動をした後は低血糖に注意する。低血糖症状が1度おさまっても再発や遷延の可能性がある。食事量や質にむらがある高齢者では慎重に適応を検討する。持効型インスリンからの切り替え投与時のみ1.5倍に増量することが推奨されているが、この場合は2回目以降も増量を続けないよう注意する。高齢者においては1.5倍の初回投与を必ずしも行わない、という選択肢も考慮される。

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カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起/日本糖尿病学会

 「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を適応症として2024年5月に発売された経口AKT阻害薬カピバセルチブについて、日本糖尿病学会では2025年4月15日、高血糖・糖尿病ケトアシドーシス(DKA)発現についての注意喚起1)を発出した。以下に抜粋するとともに、これを受けて同日発表された日本乳癌学会からの見解2)についても紹介する。 インスリンシグナル伝達のマスターレギュレーターであるAKTを阻害するカピバセルチブにより、インスリン抵抗性が誘導され高血糖を発現するリスクが想定される。実際に臨床試験(CAPItello-291試験)3)では有害事象として16.9%に高血糖を認めており、わが国における市販直後調査(2024月5月22日~2024年11月21日)でも高血糖関連事象が33例報告され、そのうち1例がDKAにより死亡している(推定使用患者数約350例)。 臨床成績を踏まえ、適正使用ガイド4)においては、投与開始後1ヵ月間は2週間ごと、その後も1ヵ月ごとの空腹時血糖値の測定、3ヵ月ごとのHbA1cの測定が推奨されていた。しかしながらとくに注意すべき点として、投与開始1日目から高血糖の発現の可能性があること(高血糖発現の中央値:15日、範囲:1~367日)、一部の症例でDKAを発症すること、また、国内市販後ではもともと非糖尿病者であったにもかかわらず、カピバセルチブ投与を開始後、DKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で死亡に至った症例が報告されていることが挙げられる。 CAPItello-291試験では、1型糖尿病またはインスリンの投与を必要とする2型糖尿病患者およびHbA1c 8.0%以上の患者は除外されていたことから、インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ投与の際には、投与初日からのより綿密な血糖値などのモニタリング、食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察、ならびに原疾患治療にあたる医師と糖尿病を専門とする医師(不在の場合は担当内科医)の適切な連携が重要であると思われる。急激な血糖値上昇のリスクや大量のインスリン投与を要する可能性も想定し、診療にあたっていただきたい。 日本糖尿病学会からの注意喚起発出を受け、日本乳癌学会からも補足事項として見解が発表された。補足事項では、上記下線部分の症例に加え、同様にDKAを発症した症例がもう1症例あるとし、これらの症例はそれぞれ再発病変に対する10次治療、8次治療としてカピバセルチブが投与されているとした。乳がん診療医においては、CAPItello-291試験の適応基準(主に2次治療から3次治療での使用)に沿った治療を行うよう注意喚起するとともに、以下の見解を示している。・CAPItello-291試験の適応基準を守った場合でも高血糖やDKAが発生する可能性はあり、注意深い経過観察が必要であることには変わりないが、その場合の検査スケジュールは推奨されているものでよいと思われる。・やむを得ずCAPItello-291試験の適応基準外の投与となった場合には、検査や診察を含め厳重な経過観察が必要。・また、高血糖に関してGrade2以上の有害事象が発生した場合は、関係各科と緊密に連絡をとりながら厳重な経過観察が必要。

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FDAへの医療機器メーカーの有害事象報告、3分の1が遅延/BMJ

 医療機器の有害事象に関する製造業者からの報告は、約3分の1が規制期限内に米国食品医薬品局(FDA)へ提出されておらず、遅延報告の多くは6ヵ月後以降の報告であり、また、遅延報告の半数以上が少数の製造業者に集中していたことが、米国・ワシントン大学のAlexander O. Everhart氏らによるFDAの医療機器有害事象報告(Manufacturer And User Facility Device Experience:MAUDE)データベースを用いた横断研究の結果、明らかとなった。米国FDAの主要な市販後調査データベースでの医療機器の有害事象報告は、信頼性に懸念があることが知られており、複数のメディア報道によると、医療機器製造業者からの有害事象報告が連邦規制で定められた30日の期限内にFDAへ提出されていない可能性が指摘されていた。著者は、「有害事象の報告の遅れは、患者の安全性に関する懸念の早期発見を妨げる可能性があるが、MAUDEは医療機器の安全問題を理解するには不完全なデータ源である」と述べている。BMJ誌2025年3月12日号掲載の報告。FDA MAUDEデータベースの有害事象報告について解析 研究グループは、FDAのMAUDEデータベースを用い、2019年9月1日~2022年12月31日の報告書について解析した。対象は、初回報告書、すなわち製造業者が初めて有害事象を知った記録に限定した。 主要アウトカムは報告時期(製造業者がイベント発現の報告受領日からFDAが報告を受理した日までの期間)。報告時期は、0~30日(規制で義務付けられている)、31~180日、181日以上、0日未満(無効な日付による報告ミス)、または製造業者報告受領日欠測(報告時期欠測)に分類し、報告時期が30日を超える場合を遅延とした。期限内の報告は約7割、遅延報告の半数以上は製造業者3社による 2019年9月1日~2022年12月31日に、製造業者から452万8,153件の初回報告書が提出された。このうち要約報告書(2019年9月1日以前は複数の報告書を1つにまとめた要約報告書をMAUDEに提出することができた)であったものなどを除外した443万2,548件(全初回報告書の98%)が解析対象となった。これらの報告は、製造業者3,028社、8万8,448個の医療機器に関連したもので、死亡に関する報告1万3,587件、負傷に関する報告155万2,268件、故障に関する報告286万6,693件が含まれた。 443万2,548件の報告のうち、30日以内(期限内)の報告は71.0%(314万6,957件)であり、31~180日(遅延)の報告が4.5%(19万7,606件)、180日以降(遅延)が9.1%(40万2,891件)、15.5%(68万5,094件)は無効または欠測であった。全遅延報告の66.9%は180日以降の報告であった。 報告の遅延は少数の製造業者に集中しており、3社で遅延報告の54.8%を占めた。同様に報告の遅延は少数の医療機器に集中しており、13の医療機器で遅延報告の50.4%を占めた。 遅延報告総数ランキングの上位10機器には、輸液ポンプ(Becton Dickinson)、フラッシュグルコースモニター(Abbott)、インスリンポンプ(Medtronic)、歯科用インプラント(Biohorizons Implant Systems)、持続グルコースモニター(Dexcom)などが含まれていた。

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2型DMへの自動インスリン投与システム、HbA1c値を改善/NEJM

 自動インスリン投与(AID)システムの有用性は、1型糖尿病では十分に確立されているが、2型糖尿病における有効性と安全性は確立されていない。米国・メイヨークリニックのYogish C. Kudva氏ら2IQP Study Groupは「2IQP試験」において、インスリン治療を受けている成人2型糖尿病患者では、従来法のインスリン投与と持続血糖測定器(CGM)の併用と比較して、AIDとCGMの併用は、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の有意な低下をもたらし、CGMで測定した低血糖の頻度は両群とも低いことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年3月19日号で報告された。北米の無作為化対照比較試験 2IQP試験は、2型糖尿病患者におけるAIDの有用性の評価を目的とする無作為化対照比較試験であり、2023年6月~2024年6月に米国とカナダの21施設で患者を登録した(Tandem Diabetes Careの助成を受けた)。 年齢18歳以上、2型糖尿病の罹患期間が6ヵ月以上で、1日に複数回のインスリン注射を受け、このうち少なくとも1回は超速効型インスリン製剤であるか、試験登録の3ヵ月以上前からインスリンポンプを使用している患者を対象とした。これらの患者を、AIDを使用する群(AID群)または試験前のインスリン投与法を継続する群(対照群)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。両群ともCGMを使用した。 主要アウトカムは13週の時点でのHbA1c値とした。目標血糖値達成時間も有意に改善 319例を登録し、AID群に215例(平均[±SD]年齢59[±12]歳、女性49%、罹患期間中央値18年[四分位範囲:11~26]、平均HbA1c値8.2[±1.4]%)、対照群に104例(57[±12]歳、47%、18年[11~24]、8.1[±1.2]%)を割り付けた。 HbA1c値は、対照群ではベースラインの8.1(±1.2)%から13週目には7.7(±1.1)%へと0.3%ポイント減少したのに対し、AID群では8.2(±1.4)%から7.3(±0.9)%へと0.9%ポイント減少し有意な改善を示した(平均補正後群間差:-0.6%ポイント[95%信頼区間[CI]:-0.8~-0.4]、p<0.001)。 患者が目標血糖値(70~180mg/dL)の範囲内にあった時間割合の平均値は、対照群ではベースラインの51(±21)%から13週目には52(±21)%に増加したのに比べ、AID群では48(±24)%から64(±16)%に増加し有意に良好であった(平均群間差:14%ポイント[95%CI:11~17]、p<0.001)。1例で重篤な低血糖、13例でデバイス関連高血糖 平均血糖値、血糖値>180mg/dLの時間の割合、同>250mg/dLの時間の割合、週当たりの遷延化高血糖イベント数は、いずれもAID群で優れた(すべてp<0.001)。また、CGMで測定した週当たりの低血糖イベント数は、両群とも低値であり群間に有意差を認めなかった。AID群では、1例で重篤な低血糖が発現し、13例(20件)でデバイス関連の高血糖がみられた。 著者は、「多くの2型糖尿病患者は、GLP-1受容体作動薬や他の非インスリン血糖降下薬による治療を受けており、今回の試験結果は、これらの薬剤を含む糖尿病管理レジメンにAIDを追加した場合にはHbA1c値をさらに低下させる可能性があることを示している」とし、「インスリン治療を受けている2型糖尿病の多様な患者集団において、従来法のインスリン投与とCGMの併用と比較して、AIDとCGMの併用は低血糖を増加させることなく安全にHbA1c値と高血糖を減少させた」とまとめている。

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肥満症に対するチルゼパチド、4月11日に発売/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド皮下注アテオス)について、3月19日に「肥満症」を効能または効果として薬価収載されたことを受け、4月11日に発売すると発表した。 チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子が、GLP-1受容体にも結合するように改変され、選択的に長時間作用するため週1回投与が可能。 本剤は、1回使い切りのオートインジェクター型注入器アテオスにより、週1回皮下注射で投与される。あらかじめ取り付けられている注射針が、注入ボタンを押すことで自動的に皮下にささり、1回量が充填されている薬液が注入される。患者さんが注射針を扱ったり、用量を設定したりする必要はない。 また、本剤の用量は2.5mg、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgの6規格が用意され、患者さんの状態に応じ使い分けができる。通常、成人にはチルゼパチドとして週1回2.5mgの用量から開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射する。なお、患者さんの状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量できる。<製品概要>一般名:チルゼパチド販売名:ゼップバウンド皮下注 2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス効能または効果:肥満症。ただし、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上用法および用量:通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量できる。薬価:ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス 0.5mL1キット 3,067円同5mgアテオス 同 5,797円同7.5mgアテオス 同 7,721円同10mgアテオス 同 8,999円同12.5mgアテオス 同 10,180円同15mgアテオス 同 11,242円製造販売承認日:2024年12月27日薬価基準収載日:2025年3月19日発売予定日:2025年4月11日製造販売元:日本イーライリリー株式会社販売元:田辺三菱製薬株式会社

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免疫チェックポイント阻害薬治療中の生存率にインスリン分泌能が独立して関連

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けているがん患者において、インスリン分泌能が良好であることが、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)の延長に独立して関連しているとする研究結果が報告された。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科の渡邉真由氏、江口潤氏らが行った前向きコホート研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に12月11日掲載された。 ICIは種々のがんに対してしばしば著効を示すが、従来の抗がん剤とは異なる副作用があり、糖尿病を有する場合はインスリン分泌能低下リスクのあることが知られている。ただし、糖尿病でないがん患者に関しては、まれに劇症1型糖尿病を引き起こすリスクがあることを除き、糖代謝へどのような影響が生じるのかという点の知見は限られている。 渡邉氏らはこの点について、同大学病院の患者を対象とする前向きコホート研究により検討した。解析対象は、2017年6月~2019年8月に進行がんと診断され、ICIによる初回治療が行われた87人。ベースライン以前および研究期間中に糖尿病と診断・治療された患者、および糖代謝に影響を及ぼし得るステロイドが処方された患者などは除外されている。 主な特徴は、年齢中央値(以下、連続変数は全て中央値)が65歳(四分位範囲56~72)、男性67.8%、BMI19.2。がん種は頭頸部がん52人、胃がん19人、その他16人であり、全身状態を0~4で表すECOG PSは0~1(比較的良好なパフォーマンス)が80.5%を占めていた。糖代謝に関しては、HbA1c5.6%、空腹時血糖値97mg/dL、インスリン分泌能を表すHOMA-βが59.4(四分位範囲37.1~85.3)、Cペプチドが1.52ng/dL(同1.01~2.24)、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRが1.11(0.72~2.34)であり、腎機能(eGFR)は70.9mL/分/1.73m2(63.5~87.2)と良好だった。投与されたICIは、ニボルマブが78人、ペムブロリズマブが10人、イピリムマブが1人だった(2人は2剤併用)。 ICI投与開始1カ月後、HbA1cの有意な低下(P=0.018)とCペプチドの有意な上昇(P=0.022)が観察され、ICIは非糖尿病患者の糖代謝にも影響を及ぼし得ることが示唆された。 観察期間中に82人(94.3%)が死亡し、OSは中央値7カ月、PFSは同3カ月だった。OSの中央値で2群に分けて比較すると、HOMA-βはベースラインおよび投与1カ月後の両時点で有意差があり、OSが7カ月以上の群のほうが高値だった。その他の糖代謝関連指標の群間差は非有意だった。ROC解析により、OSが7カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は64.24と計算され、AUCは0.665だった。また、PFSが3カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は66.43、AUCは0.582だった。 次に、年齢、性別、BMI(最適なカットオフ値である18.58以上)、eGFRおよびHOMA-β(64.24以上)を独立変数、OSの短縮(中央値である7カ月未満)を従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析を施行。その結果、BMI(ハザード比〔HR〕0.481〔95%信頼区間0.299~0.772〕)とHOMA-β(HR0.623〔同0.393~0.989〕)の2項目が、OS延長に独立して関連していることが明らかになった。続いて行ったPFSの短縮(中央値である3カ月未満)を従属変数とする解析からは、HOMA-β(66.43以上の場合にHR0.557〔0.339~0.916〕)のみが、PFS延長に独立して関連していることが明らかになった。 著者らは本研究が単施設の患者データに基づく解析であり、サンプルサイズも十分でないことなどを限界点として挙げた上で、「得られた結果は、ICI治療を受ける非糖尿病患者において、インスリン分泌能の高さがOSやPFSの延長に独立して関連することを示している。HOMA-βは、ICI投与が予定されるがん患者の予後予測指標となり得るのではないか」と結論。また、「ICIが膵β細胞機能に影響を及ぼすメカニズムの解明が期待される」と付け加えている。

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歯周病治療で糖尿病患者における人工透析リスクが低下か

 歯周病を治療している糖尿病患者では、人工透析に移行するリスクが32~44%低いことが明らかになった。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏、同センターの竹内研時氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Periodontology」に1月5日掲載された。 慢性腎臓病は糖尿病の重大な合併症の一つであり、進行した場合、死亡リスクも高まり人工透析や腎移植といった高額な介入が必要となる。したがって、患者の疾病負荷と医療経済の両方の観点から、慢性腎臓病を進行させるリスク因子の同定が待たれている。 歯周病は糖尿病の合併症であるだけでなく、糖尿病自体の発症やその他の合併症の要因でもあることが示唆されている。また、歯周病と腎機能低下との関連を示唆する報告もされていることから、研究グループは糖尿病患者における定期的な歯周病ケアが腎機能低下のリスクを軽減または進行を遅らせる可能性を想定し、大規模な糖尿病患者のデータを追跡した。具体的には、歯周病治療を伴う歯科受診を曝露変数として、人工透析に移行するリスクを後ろ向きに検討した。 本研究では、40~74歳までの2型糖尿病患者9万9,273人の医療受診データ、特定健診データが用いられた。2016年1月1日~2022年2月28日までの期間に、2型糖尿病を主傷病としていた患者を登録した。 9万9,273人の参加者(平均年齢は54.4±7.8歳、男性71.9%)における人工透析の発生率は1,000人あたり1年間で0.92人だった。交絡因子については、年齢、性別、被保険者の種類、チャールソン併存疾患指数、糖尿病の治療状況(外来の頻度、経口糖尿病治療薬の種類、インスリン製剤使用の有無、治療期間)、健診結果(高血圧、高脂血症、蛋白尿、HbA1c)、喫煙・飲酒といった生活習慣などが共変量として調整された。 交絡因子を調整後、人工透析開始のハザード比(HR)を分析した結果、歯科受診をしていなかった患者と比較して、1年に1回以上歯周病治療を受けている患者で32%(HR 0.68〔95%信頼区間0.51~0.91〕、P<0.05)、半年に1回以上治療を受けている患者で44%(同0.56〔0.41~0.77〕、P<0.001)、人工透析開始のリスクが低いことが示された。 研究グループは本研究の結果について、「これらの結果は、糖尿病性の腎疾患の進行を緩和し、患者の転帰を改善するためには、糖尿病治療に日常的な歯周病治療を組み込むことが重要であることを示唆している。また糖尿病患者の管理における専門医と歯科の連携欠如は以前より報告されており、本研究でも患者の半数以上が歯周病ケアを受けていなかった。今後、糖尿病患者の健康を維持するためには、専門医と歯科のさらなる連携が必要と考える」と総括した。なお、本研究の限界について、登録データは企業が提供する雇用保険に加入する個人のみが含まれていたことから、研究の参加者は日本人全体の特徴を表していない点などを挙げている。

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ダイエットの繰り返しは1型糖尿病患者の腎臓にも悪影響

 減量とリバウンドを繰り返すことは、1型糖尿病患者の腎臓にも悪影響を及ぼすことが明らかになった。ボルドー大学病院(フランス)のMarion Camoin氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に2月4日掲載された。 減量とその後のリバウンドを繰り返す“ヨーヨーダイエット”と呼ばれるような体重の増減は、2型糖尿病患者や一般人口においてよく見られる。Camoin氏らの論文の研究背景には、一般人口におけるヨーヨーダイエットをしたことのある人の割合は、男性は35%、女性では55%に上ると記されている。一方、1型糖尿病患者は従来、やせた人に多い病気であって肥満やダイエットはあまり関係ないと考えられていた。しかし著者らは、1型糖尿病患者の間でも肥満が増えているとしている。 一般人口においては、体重の増減を繰り返すことが慢性腎臓病(CKD)リスクの上昇と関連していることが知られている。しかし、1型糖尿病患者ではその関連の有無が明らかにされていないことから著者らは、1型糖尿病患者対象の大規模臨床研究であるDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)と、DCCT終了後の追跡観察研究であるEDIC(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)のデータを用いた検討を行った。 DCCT/EDICの参加者1,432人を、DCCTの追跡期間(6±2年)に生じていた体重変動の激しさの指標であるVIM(variability independent of the mean)で分類し、EDICを含めた追跡期間(21±4年)に生じていた、6種類のCKD関連指標の変化との関係を検討。その結果、他のCKDリスク因子や腎保護薬の使用の影響を統計学的に調整した後、VIMが高く体重変動が激しかった群で、CKD関連指標がより悪化していた。具体的には、高VIM群は、eGFRがベースラインから40%低下するリスクが25%高く(ハザード比〔HR〕1.25〔95%信頼区間1.09~1.41〕)、血清クレアチニンの倍化(HR1.34〔同1.13~1.57〕)、CKDステージ3への進行(HR1.36〔1.12~1.63〕)などのリスクも有意に高かった。 Camoin氏によると、1型糖尿病患者の体重変動の大きさとCKDリスクとの関連を明らかにした研究は、本研究が初めてだという。得られた結果に基づき同氏は、「1型糖尿病患者の体重変動は、既知のCKDリスク因子とは独立して腎臓に悪影響を及ぼすようだ」と述べている。 1型糖尿病患者の減量とリバウンドの繰り返しが、なぜ腎臓に悪影響を及ぼすのかというメカニズムの詳細は、まだ明らかになっていない。一つの可能性として研究者らは、血糖管理に用いるインスリンが体重変動を大きくすることがあり、そのことが腎機能の悪化に関係しているのではないかと指摘している。また、ヨーヨーダイエットは心臓に負担をかけ、それが腎臓や血管のダメージにつながるのではないかとする研究者もいる。一方で著者らは、「1型糖尿病患者の減量そのものは、体重の安定を通じて健康状態に良い影響を与える可能性がある」とし、「体重を長期間にわたって維持することに重点を置くべきだ」と総括している。

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「肥満症」というスティグマが診療を遅らせる/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、2024年12月に持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)について、「肥満症」を効能・効果として国内製造販売承認を取得した。この新たな効能・効果の取得につき、両社の合同で「『肥満症』-正しい理解と治療の重要性」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の基礎情報、要因、社会的スティグマ(偏見や差別)や診療についてのレクチャーのほか、医療経済の観点から肥満症治療の社会的な意義について講演された。肥満症へのスティグマが診療を萎縮させる 「肥満症が正しく理解される未来に向けて-肥満症のアンメットニーズと現在地の理解-肥満症当事者、医師、一般消費者を対象とした意識調査の結果を受けて」をテーマに益崎 裕章氏(琉球大学大学院医学研究科内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授)が、肥満症の疫学、定義と診療、アンケート調査結果の説明を行った。 世界中に18歳以上の過体重および肥満とされる人口は約25億例と推定され、わが国ではBMI≧25の肥満人口は約2,800万例とされ、男性や小児の肥満が増加傾向にある。また、わが国の肥満症の定義は、BMI≧25で、耐糖能障害(2型糖尿病など)、脂質異常症、高血圧などの11の疾患のうち1つ以上を併存している人とされている。 肥満症の発症には、環境因子や生活習慣因子に加え、遺伝的因子や心理的因子など、さまざまな要因が複合的に関与して発症する1)。肥満症では、内臓脂肪の過剰蓄積も肥満関連健康障害(糖尿病、脂質異常症および高血圧症など)のリスク因子となり、とくに東アジア人では肥満の有無にかかわらず内臓脂肪を蓄積しやすい傾向であり、日本人はBMIが高くなくても肥満関連健康障害を伴いやすい特徴がある。この余剰な脂肪蓄積から始まるメタボリックドミノはインスリン抵抗性や高血圧などのリスクとなる。 そこで、こうしたリスク回避には体重の減少が重要となるが、肥満を治療することで、肥満に起因ないし関連する健康障害の発症や進行を予防できる可能性があるとするさまざまな研究報告が出されている。 肥満症治療の基本は食事療法や運動療法であり、治療により肥満に起因ないし関連する健康障害の改善が期待できる。英国で行われた“DiRECT試験”は、BMI27~45で2型糖尿病を伴う20~65歳、306例を対象とした非盲検クラスターランダム化試験であり、食事療法・運動療法により24%の対象者が15kg以上の減量を達成。そのうちの86%が2型糖尿病の寛解に近い状態(HbA1c6.5%未満)を達成したとの報告がなされている2)。 一方で、人体には恒常性の維持機能があり、「ダイエットで、ある程度体重減少があっても、長期にわたり同じ体重を維持することは困難なケースもあり、生活習慣の介入だけでは不十分な可能性もある」と益崎氏は指摘する。 肥満や肥満症は、複合的な要因が関与するにもかかわらず、「食べ過ぎ」など個人の生活上の要因に帰せられる傾向にあり、「自己管理の問題」と考えられがちである。そして、肥満・肥満症のある人は、職場や教育現場のみならず、医療現場においてもスティグマに直面することがあるという。同時に、肥満・肥満症のある人が自分自身の責任であると考えてしまう「セルフ・スティグマ」もある。こうした肥満・肥満症のある人へのスティグマは、心理的負担や社会的不利益をもたらすだけでなく、適切な治療の機会までも奪ってしまう場合があり、医療者に相談するまで約3年必要だったという報告もある3)。同氏は「肥満や肥満症を持つ人が適切な治療を受け、QOLの改善を達成するためには、スティグマの解消が不可欠」と語る。肥満症患者の9割が「肥満は自己責任」と意識 肥満症の治療では、先述のように食事・運動・行動療法による減量を図り、改善が得られなかった場合に、薬物療法や外科療法の導入が検討される。その目的は、減量により健康障害・健康障害リスクを改善し、QOLの改善につなげることであり、このため「社会全体で取り組んでいく必要がある」と同氏は語る。 では、社会や医療者は肥満・肥満症の人をどのように見ているのか。日本イーライリリーと田辺三菱製薬が共同で行った「肥満症患者・医師・一般の人を対象にした肥満・肥満症に関する意識調査」の結果について説明を行った。この調査は、肥満症患者300人、医師300人、一般の人1,000人を対象に調査を行ったもので、結果の概要は以下のとおりだった(一部抜粋)。・一般の人の7割、肥満症患者の9割が「肥満は自己責任」と考えていた。患者の自己責任意識は一般の人よりも強かった。・科学的な根拠を示され「肥満や肥満症は複合要因で起こる」と知っても、肥満症患者3.4割、一般の人の4.1割が「自分の努力だけでは解決が難しい」に「同意」しなかった。・肥満症は「治療が必要」という人が肥満症患者・医師・一般の人ともに約7割以上いた。しかし、いざ保険診療で治療するとなると、一部の回答者には抵抗感がみられる結果だった。・肥満症患者も医師も、体重について「話したいが話題にしにくい」現状。話しにくさの根源にはスティグマが存在している。 終わりに同氏は、「肥満症は治療が必要な慢性疾患であること、オベシティ・スティグマ(肥満への偏見)の存在が適切な治療介入を妨げている可能性があること、新たな治療選択肢の登場により、肥満症治療はアプローチや支援を見直すとき」と述べ、レクチャーを終えた。治療のコストだけでない肥満症のコスト 「肥満症の疾病負担・疾病費用治療の価値は、どこにある?」をテーマに五十嵐 中氏(東京大学大学院薬学系研究科 医療政策・公衆衛生学 特任准教授)が、肥満症治療の社会的な意義について説明した。 肥満症の疾病負担は、世界の傾向とわが国の傾向は同一ではなく、独自の傾向をみせているという。その理由として、世界のレベルと比較すると高度な肥満者が少ないこと、非感染性疾患(NCD)が多いことなどが挙げられる。また、がん、希少疾病、認知症の財政影響を比較し、「患者数、投与期間によってコストは変化するが、認知症や肥満症などの慢性化する疾患では、患者数や治療薬の投与期間が長いので財政的な検討が必要」と同氏は今後の課題を提起した。 肥満症のコストについて、医療費が0.7~2.8兆円、生産性損失について就労の中断などで1.1兆円、業務の遅滞などで0.9兆円、死亡で2.8兆円と総額4.8兆円のコストを示すとともに、最近は患者などの介助者の負担も計算する傾向にあるという。そのほか、「こうした介助者の健康悪化も今後はコストの検討が必要であり、広くさまざまな価値をみていく必要がある」と同氏は指摘した。 肥満症当事者と医師によるトークセッションでは、患者さんの肥満になったきっかけやスティグマにより生活をしていくうえで苦しいこと、医療者の視点で今後の肥満症診療の在り方などが、先述のアンケート調査の内容を基に語られた。

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多量飲酒と3個以上の心代謝リスク因子は肝疾患リスクを上昇させる

 腹部肥満や糖尿病、高血圧などを有する人の飲酒は肝疾患リスクを高める可能性があるようだ。飲酒量の多い人では、3個以上の心血管代謝疾患のリスク因子(cardiometabolic risk factor;CMRF)が肝線維化の進行リスクを顕著に高めることが、新たな研究で示唆された。米南カリフォルニア大学ケック医学校のBrian Lee氏らによるこの研究結果は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に2月3日掲載された。 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、脂肪肝に加え、肥満や高血圧、高コレステロールなどのCMRFを1つ以上併発している状態を指す。MASLDがあり、かつアルコール摂取量が多い場合には、代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)として分類される。しかし、飲酒自体がCMRFを引き起こす可能性があることから、この定義は議論を呼んでいる。 今回Lee氏らは、米国国民健康栄養調査(NHANES)参加者から抽出した、飲酒量とCMRFの状態が判明している20歳以上の参加者4万898人を対象に、飲酒者におけるCMRFの数と肝疾患関連アウトカムとの関連を調べた。CMRFはNCEP-ATP IIIの基準に基づき、腹部肥満、中性脂肪高値、HDL-C低値、高血圧、空腹時血糖高値と定義した。対象者の飲酒量は、純アルコール量換算で男性は210g/週、女性は140g/週を基準とし、これを超える場合は「飲酒量が多い」と判断された。主要評価項目は、FIB-4インデックス>2.67とした。FIB-4インデックスは、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、血小板数、年齢の4つの指標からスコアを算出して肝線維化を予測するもので、>2.67は「肝硬変、もしくはそれに近い状態で線維化が進んでいる可能性」があることを意味する。 対象者のうち、2,282人が飲酒量の多い「多量飲酒群」、残る3万8,616人は「非多量飲酒群」とされた。多量飲酒群および非多量飲酒群において、FIB-4>2.67に該当する対象者の割合はCMRFの数が増えるにつれ増加し、常に多量飲酒群の方が高かった。具体的には、CMRFが0個の場合では多量飲酒群2.3%、非多量飲酒群0.7%、1個では3.0%と1.7%、2個では3.3%と2.1%、3個では5.9%と2.5%、4または5個では6.1%と4.0%であった。多量飲酒群においてFIB-4>2.67になる調整オッズ比(0個の場合との比較)は、1個で1.24(95%信頼区間0.41〜3.69)、2個で1.39(同0.56〜3.50)、3個で2.57(同0.93〜7.08)、4または5個では2.64(同1.05〜6.67)であり、CMRFが3個以上になるとリスクが2倍以上高くなり、特に4〜5個では統計学的に有意なリスク上昇が認められた。 Lee氏は、「この研究結果は、肝疾患リスクが高い集団を特定するとともに、既存の健康問題が、飲酒が肝臓に与える影響に大きく関与する可能性があることを示唆している」と述べている。 本研究には関与していない、南カリフォルニア大学ケック医学校のAndrew Freeman氏は、人々は自分の飲酒量を過小評価していると指摘する。同氏は、「レストランで、5オンス(150mL)に相当するワイン(米国での1杯あたりの純アルコール量〔14gm〕に相当)を注いでもらったら、量が少ないと不満に思うはずだ。人々は自分が思っているよりもずっと多くのアルコールを摂取している可能性がある」と話す。 また、Freeman氏は、高度に加工された高脂肪、高糖質の食品の摂取によりインスリンが過剰に分泌され、インスリン抵抗性が生じて血糖値が過剰になり、脂肪肝になると説明する。そこにアルコールが加わると、「リスクはさらに増大するだけだ」と語る。さらに、アルコールは単独でも肝細胞にダメージを与え、炎症や瘢痕化を引き起こし、長期的には肝硬変や肝臓がんに進行する可能性があるという。 なお、今年の1月、当時、米国公衆衛生局長官であったVivek Murthy氏は、飲酒によるがんリスクについて強い警告を発している。同氏は、「アルコールは、がんの予防可能な原因として確立されており、米国では年間約10万人のがん患者と2万人のがんによる死亡の原因となっている。これは、米国における年間1万3,500人のアルコールに関連する交通事故による死者数よりも多い。それにもかかわらず、米国人の大半はこのリスクを認識していない」と述べている。

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妊娠糖尿病とメトホルミン―「非劣性試験で有意差なし」の解釈は難しい(解説:住谷哲氏)

 妊娠糖尿病患者が食事療法のみで血糖管理が困難になれば、インスリンを投与するのがゴールドスタンダードである。わが国では妊娠糖尿病に対するメトホルミン投与は禁忌であるが、米国での妊娠糖尿病患者の69%はメトホルミンまたはグリブリド(グリベンクラミドと同じ)が投与され1)、英国では薬物療法が必要となった妊娠糖尿病患者の59%にメトホルミンが投与されているとのデータがある2)。さらに英国のNICEガイドラインではメトホルミンが妊娠糖尿病に対する第一選択薬に推奨されている3)。 妊娠糖尿病に対するメトホルミンの有効性を検討した試験にMiG試験がある4)。同試験の主要評価項目は新生児複合アウトカムであり、メトホルミン群は必要であればインスリンが追加投与されている。Discussionに“a methodologic limitation”として記載されているが、試験デザインはインスリンのメトホルミンに対する優越性を検証する優越性試験であった。しかし、事後解析として実施された非劣性デザインを用いた解析において、メトホルミンのインスリンに対する非劣性が証明された。ちなみに同論文の付属論説では明確にnon-inferiority trialとしている。 本試験はMiG試験とは異なり、メトホルミン投与で血糖が管理できなかった際にインスリンではなくグリブリドを投与する群と、最初からインスリンを投与する群との比較である。また主要評価項目は、LGA(large for gestational age)の発生率である。さらに試験デザインはインスリン群に対するメトホルミン群の非劣性を検証する非劣性試験である。結果は絶対リスク差4.0%(95%信頼区間[CI]:-1.7~9.8、p=0.09)であり、95%CIの上限が設定した非劣性マージンの8%を超えており、結論は「非劣性が証明されなかった」となった。 「非劣性が証明されなかった」試験の正しい解釈は、有効性に関して介入群は対照群と比較して「優越 superior」でも「同等 equivalent」でも「劣性 inferior」でもなく、統計学的に「判定不能」である。つまり本試験の結果からは、群間差について統計学的には何も言えないことになる。 近年、非劣性試験は多用される傾向にある。糖尿病領域でもほとんどのCVOTは非劣性試験であり、循環器領域でのワルファリンに対するDOACの有用性を検討した試験も同様である5)。冒頭に述べたように、妊娠糖尿病患者にメトホルミンの使用ができないわが国ではリスクとベネフィットを天秤に掛ける必要はないが、メトホルミンへの追加薬剤としてはインスリンが無難だろう。

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認知症リスク因子のニューフェイス【外来で役立つ!認知症Topics】第26回

Lancetが報告した修正可能な14のリスク因子世界的な医学雑誌Lancetは、2017年から認知症のリスク因子について最先端のデータを発表してきた。第2報告は2020年、そして最新報告は2024年に発表された1)。これら3回の報告の内容は少しずつ変化してきた。なお、示された結果は、この作業部会が継続的に最新の報告などを吟味してその結果をまとめたものである。それだけに古典的なリスク因子、たとえば運動不足、教育不足、飲酒や喫煙といったもの以外に、いわばニューフェイスが現れてきた。そのようなものとして最も有名なのは2017年の発表2)でデビューした「中年期からの難聴」だろう。また、大気汚染、最新の報告では視力低下と低密度リポタンパク質(LDL;Low Density Lipoprotein)コレステロールの高値が加わった。そして2024年の報告にある14のリスク因子のすべてに対応できたら、認知症発症は45%抑制できるとされる。画像を拡大する本稿では、こうしたリスク因子がなぜ悪いのかに注目してみる。古典リスク因子として、まず若年期の教育不足。これは基本的な神経回路の成長が十分なされないということだろう。中年期のリスク因子については、頭部外傷と難聴以外は、脳血管に悪影響を及ぼすとまとめられるだろう。頭部外傷に関しては、ボクサー脳などさまざまなスポーツ外傷や交通事故による後年の害が知られてきた。外傷から10年以上も後に、認知症が発症してくるとされる。また老年期のうつ、社会的交流の乏しさについては、社会的な存在である人間がそれらしい活動を失うということかもしれない。運動不足については、神経細胞や脳血管の新生につながらないことが大きいのだろう。さらに糖尿病では、インスリンとアミロイドβの両方を分解するインスリン分解酵素が注目されてきた。大気汚染比較的新しいリスク因子の大気汚染については、PM2.5(PM;Particulate Matter)が注目されている。これは大気中を浮遊する径2.5ミクロン以下の微粒子であり、従来は呼吸器系や循環器系への悪影響が注目された。これは脳にも悪影響を及ぼすとされる。また近年では大気汚染は、地球の温暖化や緑地の減少などと相乗的な悪循環を形成するといわれる。中年期からの難聴さて2017年にいわば衝撃のデビューをした「中年期からの難聴」だが、この発表中の全リスク因子のうちで最も影響が大きいと報告された。2024年の報告でも影響力7%とやはり最強である。このような難聴がなぜリスク因子になるかについての考え方は、以下のようにまとめられている3)。(1)蝸牛とその上行経路(難聴)および海馬など側頭葉内側(認知症)のいずれもアルツハイマー病病理で侵される。(2)難聴による音刺激の欠乏が1次聴覚野と海馬の形態変化をもたらし認知予備能を減らすことで準備状態を作る。(3)本来記憶などの認知機能に費やすべき知的エネルギーを、難聴者は聴覚理解に回す必要がある。(4)聴覚的理解用のエネルギー増加がシナプスに悪影響する。より単純ながら、聴覚刺激が入らないことは、たとえば社会交流をしても脳に対する重要な刺激が届かないことになるという考えもある。高LDLコレステロール2024年には新たなリスク因子についても報告された1)。まず生化学的な知見として、中年期からの「悪玉コレステロール」といわれるLDLコレステロールの高値である。これは以前から脳動脈硬化の促進因子として有名であった。つまり動脈を詰まらせ、柔軟性を低下させる堆積物であるプラークの構築に寄与するため悪玉と呼ばれる。このLDLコレステロールが100以上、また「善玉コレステロール」といわれるHDL(High Density Lipoprotein)コレステロールのレベルが40以下の場合、アルツハイマー病(AD)発症の可能性が増加するとされる。AD発症のリスクを高めるだけでなく、「悪玉コレステロール」は脳の一般的な認知機能を損なうこともわかっている。またLDLコレステロール値が高いと、そうでない人に比べて記憶に障害がありがちで、脳動脈がアテローム性動脈硬化症を発症して脳卒中のリスクを高める。さらにLDLコレステロール値が高くなることで、脳内の血流が減少し、白質の密度が低下する状態につながる可能性もある。視力低下次に老年期の視力低下である。その原因では、白内障と糖尿病性網膜症が重視され、緑内障と加齢性黄斑変性症は関連しないとされる。英国では200万人が視力低下していると推定される。加齢とともに視力障害は多くなるだけに、視力障害を持つ人々のほぼ80%は65歳以上である。視力低下の程度と認知症のリスクは相関する。もっともこれは未矯正・未治療の視力喪失者には当てはまり、矯正・治療すればリスクは高まらない。たとえば、白内障の手術をした人は、しない人に比べて認知症になる可能性が30%低いとした報告もある。ところで、ヒトの情報の80%は目から入る、それに対して耳からは20%以下だといわれる。だから筆者には、視力喪失がリスク因子とされたのが遅いとも思われるのだが、聴覚と視覚が認知症という大脳の変化にもたらす影響は、それぞれが持つ情報量とは別なのかもしれない。参考1)Livingstone G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.2)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017;390:2673-2734.3)Ray M, et al. Dementia and hearing loss: A narrative review. Maturitas. 2019;128:64-69.

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2型糖尿病患者はビタミン、ミネラルが不足している

 2型糖尿病患者の半数近くが、微量栄養素不足の状態にあるとする論文が、「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に1月29日掲載された。国際健康管理研究所(インド)のDaya Krishan Mangal氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、特に、ビタミンD、マグネシウム、鉄、ビタミンB12の不足の有病率が高いという。研究を主導した同氏は、「この結果は2型糖尿病患者における、栄養不良の二重負荷の実態を表している」と述べ、糖尿病治療のための食事療法が栄養不良につながるリスクを指摘している。 この研究では、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、Embase、ProQuest、PubMed、Scopus、コクランライブラリ、およびGoogle Scholarといった文献データベースを用いた検索が行われた。また、灰色文献(学術的ジャーナルに正式に発表されていない報告書や資料など)も、包括基準(2型糖尿病患者〔合併症の有無は問わない〕でのランダム化比較試験、縦断研究、横断研究、コホート研究)に照らし合わせて採用した。なお、1型糖尿病や妊娠糖尿病、18歳未満の2型糖尿病での研究、症例報告、レビュー論文などは除外した。 2人の研究者が独立してスクリーニング等を行い、最終的に132件(研究対象者数は合計5万2,501人)の報告を抽出した。メタ解析の結果、2型糖尿病患者における微量栄養素不足の有病率は45.30%(95%信頼区間40.35~50.30)と計算された。性別にみると、男性の42.53%(同36.34~48.72)に対して女性は48.62%(42.55~54.70)であり、女性の方が高値を示した。 微量栄養素不足の分布を正規分布に近づけるための統計学的処理の後、不足の有病率が最も高い微量栄養素はビタミンD(60.45%〔55.17~65.60〕)で、次いでマグネシウムが(41.95%〔27.68~56.93〕)であり、鉄が27.81%(7.04~55.57)、ビタミンB12が22.01%(16.93~27.57)だった。これらのうちビタミンB12については、メトホルミンが処方されている患者に限ると、26.85%(19.32~35.12)とより高値となった。 以上の結果に基づき著者らは、「2型糖尿病の食事療法では、エネルギー出納や主要栄養素の摂取量を重視する傾向がある。しかし本研究によって、いくつかの微量栄養素不足の有病率が高いことが明らかになった。栄養バランスを総合的に把握した上での最適化が、常に優先されるべきであることを再認識する必要がある」と総括している。 また、代謝にはさまざまな栄養素が関わっているため、微量栄養素の不足が糖尿病を悪化させたり、糖尿病以外の健康問題を引き起こしたりすることもあるという。さらに、「微量栄養素の不足は糖代謝とインスリンシグナル伝達経路に影響を及ぼし、2型糖尿病の発症と進行につながることも考えられる」と述べ、栄養不良自体が2型糖尿病の潜在的なリスク因子である可能性を指摘している。

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