サイト内検索

検索結果 合計:850件 表示位置:1 - 20

1.

ダイエット飲料より水の方が血糖・体重管理に有利

 体重を減らして血糖コントロールを良好にしたいなら、ダイエット飲料ではなく、水を飲むべきかもしれない。米国糖尿病学会学術集会(ADA2025、6月20~23日、シカゴ)で発表された小規模な研究の結果であり、水を飲むように割り当てられた女性はダイエット飲料を飲むように割り当てられた女性よりも、体重が大きく減り、糖尿病が寛解した患者も多かったという。主任研究者であり、糖尿病治療サポートツールなどを手掛けるD2Type Health社のCEOであるHamid Farshchi氏は、「われわれの研究結果は、ダイエット飲料は体重や血糖値の管理に悪影響を及ぼさないとする、これまでの米国での一般的な考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約5人に1人が毎日ダイエット飲料を飲んでいるという。ダイエット飲料はカロリーについてはほぼゼロだが、本研究の発表者らは、健康への影響という点ではゼロとは言えない可能性があることを、研究の背景として指摘している。例えば、2023年7月に「Diabetes Care」誌に掲載された研究によると、人工甘味料を多く摂取している人は2型糖尿病を発症する可能性の高いことが明らかにされている。その論文の著者らは、人工甘味料が糖や脂質の代謝を妨げたり、腸内細菌叢を変化させたり、食欲を刺激したりする可能性があると推測していた。 今回報告された研究の対象は、過体重で2型糖尿病の女性81人。その半数は週に5回、昼食後に水を飲む群、残りの半数は水ではなくダイエット飲料を飲む群に割り当てられ、6カ月間の減量プログラムと、その後1年間の体重維持プログラムに参加した。 介入終了時点で、水を飲んだ群の女性は体重が6.82±2.73kg減少していたのに対して、ダイエット飲料を飲んだ群の女性の減量幅は4.85±2.07kgと有意に少なかった(P<0.001)。さらに、水を飲んだ群の女性の90%が糖尿病の寛解を達成したのに対し、ダイエット飲料を飲んだ群でのその割合は45%にとどまっていた(P<0.0001)。また、インスリン抵抗性や中性脂肪などの検査値も、水を飲んだ群では有意に改善していた。 Farshchi氏は、「水を飲むように割り当てられた女性の大半が、糖尿病の寛解を達成した。この結果は、血糖値と体重を効果的に管理しようとする場合、甘味飲料の代わりにダイエット飲料を飲むのではなく、水を摂取することの重要性を浮き彫りにしている。わずかな行動変化であっても、長期的には健康状態に大きな差を生む可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

2.

第275回 食べても太らない体が脂肪細胞の一工夫で可能になるかも

食べても太らない体が脂肪細胞の一工夫で可能になるかも飽食の時代にあって食べ過ぎないようにすることは至難の業で、いまや世界の8人に1人ほどが肥満と推定されています1)。いっそのこと、いくら食べても太らない体になりたいと思ったことがある人は少なくないでしょう。そんな夢のような体になることが、FGF21というタンパク質を作るように脂肪細胞をあつらえる治療でやがては可能になるかもしれません。内分泌ホルモンとしてのFGF21は、細胞へのさまざまな負荷に応じて主に肝細胞から分泌されて全身を巡ります。FGF21は2型糖尿病や脂肪肝などの代謝疾患への有望な効果が示されていることから、治療薬としてかなり期待されています。FGF21の信号はFGF受容体1c(FGFR1c)とβ-Klothoが組み合わさったヘテロ二量体受容体を介して伝わります。FGFR1cは体中の組織で広く発現します。一方、FGFR1cと対を成すβ-Klothoの発現は主に脳、肝臓、脂肪組織に限られ、それらの組織がFGF21の主な職場のようです。実際、体内を巡るFGF21の中枢神経系(CNS)や脂肪組織での作用は、エネルギー消費の向上やインスリン感受性の改善に不可欠なことがマウスでの検討で示されています。また、FGF21が老化関連経路を繕う効果の裏付けは膨大で、それゆえFGF21は長寿促進ホルモン(pro-longevity hormone)とも呼ばれます。たとえば肝臓でFGF21を発現し続けるようにしたマウスがより長生きになることが示されています。どうやらFGF21は飢えへの順応に携わるさまざまな反応に貢献して長生きできるようにします。飢えへの順応はより長生きになることと関連することが知られており、FGF21を省くとタンパク質制限食の寿命延長効果が失われます。世界のほとんどの人々の代謝の老化が飢えとは対極の食べ過ぎ絡みであることを踏まえると、FGF21の肥満環境での役割を調べる価値は大きいようです。そこで米国のテキサス州の大学UT Southwestern Medical Centerの研究者らは、必要に応じて脂肪組織でFGF21を多く発現させることができるマウスを使い、現代人の食生活を模す高脂肪食の負荷の下での代謝や寿命へのFGF21の作用を調べました2,3)。そのマウスが成体期になってから脂肪細胞でのFGF21を増やしたところ、寿命がより長くなって2.2年ほどになりました。手を加えていない対照群マウスの寿命は1.8年ほどでした。加えて、FGF21発現マウスはどうやらエネルギー消費上昇のおかげで食べても太らない体になっており、体重をより増やした対照群マウスに比べて少食になってはいないのに痩身を維持しました。FGF21発現マウスは血糖制御、インスリン感受性、コレステロール値の改善も示しました。FGF21の増加は内蔵脂肪の炎症を防ぐ効果もあるらしく、炎症性の免疫細胞や炎症性の脂質のセラミドが内蔵脂肪に蓄積するのを防ぎました。成体期のFGF21を増やすことが健全な脂肪組織を醸成してセラミドを減らしてマウスが健康に歳を取ってより長生きできるようになることを示したそれらの結果は、寿命を延ばすのみならずより生きやすくもする治療を目指す取り組みの基礎となると著者は言っています。内臓脂肪組織狙いのFGF21遺伝子治療の代謝改善などの効果がマウスでの検討ですでに示されており4)、案外近い将来に臨床試験での検討が始まるかもしれません2)。 参考 1) One in eight people are now living with obesity / WHO 2) Gliniak CM, et al. Cell Metab. 2025;37:1547-1567. 3) Hormone may hold key to longer life, improved metabolic health / UT Southwestern Medical Center 4) Queen NJ, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2020;20:409-422.

3.

1型糖尿病薬zimislecelが膵島機能を回復/NEJM

 1型糖尿病の患者において、同種多能性幹細胞由来の完全分化型膵島細胞療法薬zimislecel(VX-880)は、生理的膵島機能の回復をもたらし、血糖コントロールを改善し、治療関連有害事象やインスリン投与量管理の負担などのインスリン補充療法の短所を解消する可能性があることが、カナダ・トロント大学のTrevor W. Reichman氏らVX-880-101 FORWARD Study Groupが実施した「VX-880-101 FORWARD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月20日号に掲載された。第I/II相試験の予定外の中間解析結果 VX-880-101 FORWARD試験は、1型糖尿病患者におけるzimislecelの安全性と有効性の評価を目的とする、北米と欧州の施設が参加した進行中の第I/II/III相試験であり、今回は事前に予定されていなかった第I/II相部分の中間解析の結果が報告された(Vertex Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~65歳の1型糖尿病で、低血糖を自覚しにくく(低血糖の発症を感知する能力が低下している)、過去1年間に少なくとも2回の重症低血糖イベントを経験し、5年以上インスリン依存状態にある患者を対象とした。 パートAでは、zimislecelの半量(0.4×109細胞)を門脈へ単回投与し、必要な場合は初回投与から2年以内に残りの半量を単回投与することとした。パートBとパートCでは、zimislecelの全量(0.8×109細胞)を単回投与した。全例に、グルココルチコイドを含まない免疫抑制療法を行った。 パートAの主要エンドポイントは安全性であった。パートCの主要エンドポイントは、zimislecel投与後90~365日に重症低血糖イベントの発生がなく、180~365日における複数回の受診時にHbA1c値が7%未満であること、またはHbA1c値がベースラインから1%ポイント以上低下していることとした。被験薬関連の重篤な有害事象はない 少なくとも12ヵ月の追跡期間を終了した14例(平均糖尿病罹患期間22.8年[範囲:7.8~47.4]、平均総インスリン投与量/日39.3単位[範囲:19.8~52.0])を解析の対象とした。2例がzimislecelの半量投与を受け(パートA)、12例(平均年齢42.7歳、女性4例)は全量投与を受けた(パートB:4例、パートC:8例)。パートAの1例は、初回投与後9ヵ月の時点で2回目の半量投与を受け、その約3ヵ月後に同意を撤回した(有害事象が原因ではない)。 C-ペプチドは、ベースラインでは14例全例が検出不能であったが、zimislecel投与後は全例で検出されたことから、移植細胞の生着と膵島機能の回復が証明された。 有害事象の重症度はほとんどが軽度または中等度であった。頻度の高い有害事象は、下痢(11例[79%])、頭痛(10例[71%])、悪心(9例[64%])、新型コロナウイルス感染症(7例[50%])、口腔内潰瘍形成(7例[50%])、好中球数減少(6例[43%])、皮疹(6例[43%])であった。 試験の中止に至った有害事象は認めなかった。経過観察のために入院期間の延長に至った重篤な有害事象として好中球数減少が3例に発現し、重篤な急性腎障害が2例にみられた。担当医によってzimislecel関連またはその可能性が高いと判定された重篤な有害事象はなかった。 2例が死亡した。1例(パートB)は、手術に伴う頭蓋底損傷に起因する重篤なクリプトコッカス髄膜炎が原因で、担当医により免疫抑制薬関連死と判定された。もう1例(パートA)は、既存の神経認知障害の進行に起因するアジテーションを伴う重度認知症が原因であった。この症例には、試験登録前の交通事故による重度の外傷性脳損傷の既往歴があり、この事故は重症低血糖イベントが原因だった。全量単回投与の全例でHbA1c値<7%、10例でインスリン非依存 パートB/Cの12例では、重症低血糖イベントは発現せず、365日目の受診時にすべての患者でHbA1c値が7%未満であった。ベースラインから365日目までに、HbA1c値は平均1.81%ポイント低下した。 持続血糖測定器(CGM)を用いて、血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間の割合を評価したところ、ベースラインで70%を超える患者はなく、平均値は49.5%(範囲:19.0~66.2)であった。これに対し、150日目には全例が70%以上を達成し、その後の追跡期間を通じて全例でこの良好な血糖コントロールの状態が持続した。365日時の血糖値が目標範囲内にある時間の割合の平均値は93.3%(範囲:79.5~96.9)だった。 外因性インスリンの使用は、追跡期間中に12例全例で減量または中止されていた。ベースラインから365日目までに、インスリン使用量の平均値は92%低下した。150日目までに10例(83%)がインスリン非依存を達成し、この10例は365日の時点で外因性インスリンを使用していなかった。 著者は、「この結果は、多様な患者集団を対象とする、より大規模で長期にわたる試験においてzimislecelのさらなる検討を進めることを支持する」「これらの知見は、多能性幹細胞から膵島を作製し、1型糖尿病の治療に使用することは実質的に可能であるとのエビデンスを提供するものである」としている。

4.

基礎インスリン治療中の2型糖尿病、efsitoraはデグルデクに非劣性/Lancet

 基礎インスリンを投与中の2型糖尿病成人患者において、insulin efsitora alfa(efsitora)週1回投与はインスリン デグルデク(デグルデク)1日1回投与と比較し、HbA1c値の改善に関して非劣性であることが示された。米国・Scripps Whittier Diabetes InstituteのAthena Philis-Tsimikas氏らが、日本を含む9ヵ国127施設で実施された78週間の第III相無作為化非盲検treat-to-target非劣性試験「QWINT-3試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「2型糖尿病成人患者の治療において、efsitoraは週1回投与と注射回数が少なく、忍容性と有効性は良好であり、1日1回投与の基礎インスリンの代わりとなるインスリン製剤である」とまとめている。Lancet誌2025年6月28日号掲載の報告。26週時のHbA1c変化量に関し、efsitoraのデグルデクに対する非劣性を評価 QWINT-3試験の対象は、基礎インスリン製剤による安定した治療を受けているが食事インスリンによる治療は受けていない2型糖尿病の成人(18歳以上)患者で、スクリーニング時のHbA1c値が6.5~10.0%、インスリン以外の糖尿病治療薬を最大3種類まで投与されている患者とした。 研究グループは、適格患者をefsitora群またはデグルデク群に、2対1の割合に無作為に割り付けた。 efsitora群では、空腹時血糖値が120mg/dL以下の患者には通常の1日基礎インスリン量の7倍(10単位未満は四捨五入)のefsitora週1回投与に切り替え、空腹時血糖値が120mg/dL超の患者には、初回のみ、1日基礎インスリン量×7の3倍量のefsitoraを投与した後、efsitora週1回投与に切り替えた。 両群とも、最初の12週間は、前週の直近3回の空腹時血糖値の中央値と低血糖エピソードを考慮して目標空腹時血糖値80~120mg/dLを達成するよう毎週用量調整を行った。その後は78週目まで少なくとも毎月、用量評価を行った。 主要エンドポイントは、26週時のHbA1c値のベースラインからの変化量の非劣性で、非劣性マージンは、最小二乗平均変化量の群間差の95%信頼区間(CI)の上限が0.4%とした。 重要な副次エンドポイントは、efsitoraのデグルデクに対する優越性で、26週時のHbA1c値のベースラインからの変化量、78週目までの患者報告による臨床的に重要(レベル2[<54mg/dL])または重症(レベル3[治療のために介助を必要とする])の夜間低血糖の複合、22~26週の持続血糖モニタリング(CGM)測定血糖値70~180mg/dL内の時間とした。最小二乗平均変化量は-0.81%ポイントvs.-0.72%ポイント、群間差-0.09%ポイント 2022年3月8日~2024年5月15日に1,229例が登録され、適格基準を満たした986例が無作為化された(efsitora群655例、デグルデク群331例)。全例が少なくとも1回の試験薬を投与された。患者背景は、女性431例(44%)、男性555例(56%)、年齢中央値は62.0歳(四分位範囲:54.0~68.0)、ベースラインのBMI中央値は29.65(26.32~34.12)、HbA1c中央値7.7%(7.1~8.4)で、871例(88%)が78週間の治療を完了した。 26週時のHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、efsitora群-0.81%ポイント(標準誤差0.03)、デグルデク群-0.72%ポイント(標準誤差0.04)であり、efsitoraのデグルデクに対する非劣性が検証された(推定群間差:-0.09%ポイント、95%CI:-0.19~0.01)。 臨床的に重要または重症の低血糖イベントは、efsitora群で268例に754件(41%、発現頻度0.84件/人年)、デグルデク群で123例に346件(37%、発現頻度0.74件/人年)認められ、推定発生率比は1.14(95%CI:0.83~1.56、p=0.43)と同程度であった。 重篤な有害事象は、efsitora群103例(16%、治療関連7例[1%])、デグルデク群37例(11%、治療関連1例[<1%])に発現し、両群とも最も多かったのは主に心血管関連事象であった(約1%)。 試験中に9例(efsitora群7例、デグルデク群2例)が死亡したが、いずれも試験治療とは関連していなかった。

5.

月1回投与の肥満治療薬maridebart cafraglutide、体重を大幅減/NEJM

 月1回投与のmaridebart cafraglutide(MariTideとして知られる)は、2型糖尿病の有無にかかわらず肥満者の体重を大幅に減少させたことが、米国・イェール大学のAnia M. Jastreboff氏らMariTide Phase 2 Obesity Trial Investigatorsによる第II相試験で示された。maridebart cafraglutideは、GLP-1受容体アゴニスト作用とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体アンタゴニスト作用を組み合わせた長時間作用型ペプチド抗体複合体で、肥満症の治療を目的として開発が進められている。第II相試験では、2型糖尿病の有無を問わない肥満成人を対象に、maridebart cafraglutideのさまざまな用量、用量漸増の有無における有効性、副作用プロファイルおよび安全性が評価された。NEJM誌オンライン版2025年6月23日号掲載の報告。2型糖尿病の有無別に肥満者を11群に無作為化、52週の体重変化率を評価 研究グループは、11グループを含む2コホートを対象に、第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照用量範囲試験を実施した。 18歳以上の肥満者(BMI値30以上または27以上で少なくとも1つの肥満関連合併症を有しHbA1c値6.5%未満、肥満コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群、420mg(8週ごと漸増なし投与)群、420mg(4週ごと投与で4週ごとに用量漸増)群、420mg(4週ごと投与で12週ごとに用量漸増)群またはプラセボ群に3対3対3対2対2対2対3の割合で無作為に割り付けた。 また、2型糖尿病を有する肥満者(肥満・糖尿病コホート)を、maridebart cafraglutideの140mg、280mg、420mg(いずれも4週ごと漸増なし投与)群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインから52週までの体重変化率とした。体重変化、2型糖尿病なしは-12.3~-16.2%、2型糖尿病ありも-8.4~-12.3% 2023年1月~2024年9月に592例が登録された(肥満コホート465例、肥満・糖尿病コホート127例)。両コホートの各投与群間のベースライン特性は類似していた。 肥満コホート(女性63%、平均年齢47.9歳、平均BMI値37.9)において、treatment policy estimand(ITTアプローチ法)に基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-12.3%(95%信頼区間[CI]:-15.0~-9.7)~-16.2%(-18.9~-13.5)の範囲にわたり、プラセボ群は-2.5%(-4.2~-0.7)であった。 肥満・糖尿病コホート(女性42%、平均年齢55.1歳、BMI値36.5)において、treatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからの平均体重変化率は、maridebart cafraglutide投与群が-8.4%(95%CI:-11.0~-5.7)~-12.3%(-15.3~-9.2)の範囲にわたり、プラセボ群は-1.7%(-2.9~-0.6)であった。また、本コホートにおけるtreatment policy estimandに基づく52週時におけるベースラインからのHbA1c値の平均変化(%ポイント)は、maridebart cafraglutide投与群が-1.2~-1.6%ポイントの範囲にわたり、プラセボ群は0.1%ポイントであった。 消化器系の有害事象がmaridebart cafraglutide群で多くみられたが、用量漸増および開始用量の低減により発現頻度は低下した。 安全性に関する新たな懸念はみられなかった。

6.

食事インスリン併用2型DM、efsitora vs.グラルギン/Lancet

 食事インスリンを併用している2型糖尿病患者の基礎インスリンとして、insulin efsitora alfa(efsitora)の週1回投与はインスリン グラルギンU100の1日1回連日投与と比較して、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の低下効果に関して非劣性で、臨床的に重要または重症の低血糖の発生率も同程度であり、連日投与に代わる基礎インスリンとして忍容性が良好で有効な治療法であることが、米国・Texas Diabetes & EndocrinologyのThomas Blevins氏らが実施した「QWINT-4試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年6月22日号で報告された。7ヵ国の第III相無作為化非劣性試験 QWINT-4試験は、7ヵ国78施設が参加した26週間の第III相並行デザイン非盲検無作為化treat-to-target非劣性試験であり、2022年8月~2024年2月に患者のスクリーニングを行った(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、2型糖尿病(HbA1c値7.0~10.0%)と診断され、基礎インスリンと食事インスリンを併用し、0~3種のインスリン製剤以外の血糖降下薬を使用している患者を対象とした。これらの患者を、基礎インスリンとしてefsitora(500単位/mL、週1回、efsitora群)またはグラルギンU100(100単位/mL、1日1回連日、グラルギン群)を投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。全例に、食事インスリンとしてインスリン リスプロを投与した。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週目までのHbA1c値の変化量とし、非劣性マージンを0.4%に設定した。低血糖は、全体、夜間とも差がない 730例(平均年齢58.9[SD 10.5]歳、女性369例[51%]、平均BMI値31.85[SD 5.47])を登録し、efsitora群に365例、グラルギン群にも365例を割り付けた。試験治療レジメン推定値を用いたベースラインの最小二乗平均HbA1c値は、それぞれ8.18(SE 0.04)%および8.18(0.04)%だった。 26週時点での最小二乗平均HbA1c値は、efsitora群7.17(SD 0.05)%、グラルギン群7.18(0.05)%であった。試験治療レジメン推定値を用いたベースラインから26週目までの変化量はそれぞれ-1.01%ポイントおよび-1.00%ポイントであり、変化量の推定群間差は-0.01%ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.14~0.12)と、efsitora群のグラルギン群に対する非劣性が示された。 投与期間中に発生した臨床的に重要(レベル2:血糖値<54mg/dL)または重症(レベル3:治療に他者の介助を要する精神的、身体的状態)の低血糖は、全体(efsitora群6.6件/人年vs.グラルギン群5.9件/人年、推定率比:1.11[95%CI:0.85~1.44]、p=0.44)および夜間(0.67 vs.1.00、0.67[0.44~1.01]、p=0.058)のいずれにおいても両群間に有意な差を認めなかった。 レベル1(血糖値<70mg/dL、≧54mg/dL)の低血糖は、全体(efsitora群25.3件/人年vs.グラルギン群19.0件/人年、推定率比:1.33[95%CI:1.13~1.55]、p=0.0004)ではefsitora群で高率に発生したが、夜間(1.8 vs.2.4、0.75[0.57~0.98]、p=0.037)ではefsitora群で低率だった。また、ベースラインから26週目までの体重の変化量(efsitora群2.67kg vs.グラルギン群2.53kg、p=0.54)は両群で同程度であった。鼻咽頭炎と尿路感染症が多い 試験薬投与期間中の有害事象の発現は、efsitora群で196例(54%)、グラルギン群で189例(52%)と両群で同程度だった。重篤な有害事象は、それぞれ25例(7%)および23例(6%)にみられた。最も頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(efsitora群23例[6%]vs.グラルギン群21例[6%])と尿路感染症(17例[5%]vs.19例[5%])であった。 注目すべき有害事象のうち、糖尿病性ケトアシドーシスは両群とも発現せず、過敏反応はefsitora群の11例(3%)およびグラルギン群の4例(1%)に、注射部位反応はefsitora群の1例(<1%)にのみ認めた。また、efsitoraの週1回投与を受けた337例中312例(93%)は、試験前の連日の治療よりも本試験の治療を「好む」「強く好む」と回答し、334例中274例(82%)は、efsitora週1回投与の日常的な治療への導入について「可能性が高い」「可能性がたいへん高い」と答えた。 著者は、「持続血糖測定器(CGM)による評価では、ベースラインから26週目までに、24時間における血糖値が目標範囲(70~180mg/dL)内にある時間が両群とも約4時間増加したのに対し、目標範囲外の低血糖域(<70mg/mL)にある時間は約10分増加しただけだった」「他の第II・III相試験の結果と合わせて、今回の結果は2型糖尿病の治療におけるefsitoraの有効性と安全性を強調するとともに、週1回投与の基礎インスリンが糖尿病患者の負担を軽減する可能性を強く示唆するものである」としている。

7.

SGLT2阻害薬で糖尿病患者の転倒リスク上昇

 SGLT2阻害薬(SGLT2-i)が、2型糖尿病患者の転倒リスクを高めることを示唆するデータが報告された。筑波大学システム情報系の鈴木康裕氏らが行った研究の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に3月17日掲載された。 転倒やそれに伴う骨折や傷害は、生活の質(QOL)低下や種々の健康リスクおよび死亡リスクの増大につながる。糖尿病患者は一般的に転倒リスクが高く、その理由として従来、神経障害や網膜症といった合併症の影響とともに、血糖降下薬使用による低血糖の影響が指摘されていた。さらに比較的近年になり、血糖降下以外の多面的作用が注目され多用されるようになった、SGLT2-iやGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)に関しては、体重減少とともに筋肉量を減少させることがあり、その作用を介して転倒リスクを高める可能性も考えられる。ただし、実際にそのようなリスクが生じているか否かはこれまで検証されていなかった。 鈴木氏らは、同大学附属病院内分泌代謝・糖尿病内科に血糖管理のために入院した2型糖尿病患者471人を中央値2年(四分位範囲1~3)追跡し、転倒発生率を比較した。解析対象者の主な特徴は、年齢中央値63歳(四分位範囲51~71)、女性42.3%、HbA1c9.6±1.9%、転倒の既往あり21.2%で、退院時に全体の19.3%に対してSGLT2-i、14.9%に対してGLP-1RAが処方されていた。 1,013人年の追跡で1回以上の転倒を報告した患者は173人で、15人が転倒により骨折を来していた。転倒発生率は100人年当たり17.1であり、年齢、性別、身長、BMI、転倒の既往、処方薬、握力、体重変化、下肢筋力、増殖網膜症の存在などを調整後、転倒の独立したリスク因子として、SGLT2-iの使用と年齢、転倒の既往が特定された。 SGLT2-i、GLP-1RAがともに処方されていなかった群を基準とする転倒発生オッズ比(OR)は以下の通り。SGLT2-iの処方(GLP-1RAの併用なし)では1.90(1.13~3.15)、SGLT2-iとGLP-1RAの併用は3.13(1.29~7.55)。また年齢は1歳高齢であるごとに1.02(1.00~1.04)、転倒の既往は2.19(1.50~3.20)だった。 一方、GLP-1RAの処方(SGLT2-iの併用なし)は1.69(0.89~3.09)であり、転倒リスクの有意な上昇は認められなかった。また、インスリン、SU薬/グリニド薬、ビグアナイド薬、DPP-4阻害薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬についても、転倒リスクへの有意な影響は認められなかった。 著者らは、「SGLT2-iの処方は転倒の独立したリスク因子であり、一方でGLP-1RAの処方の影響は統計的に非有意だった。ただし、SGLT2-iとGLP-1RAが併用されていた場合の転倒リスクは、SGLT2-i単独よりも高かった。従って、2型糖尿病患者にこれらの薬剤を処方する際には、転倒リスクを考慮することが重要である」と述べている。

8.

1日1回の経口orforglipron、早期2型DMのHbA1c改善/NEJM

 早期の2型糖尿病成人患者において、GLP-1受容体作動薬orforglipronの1日1回40週間経口投与はプラセボと比較して、HbA1c値を有意に低下させた。米国・Velocity Clinical Research Center at Medical City DallasのJulio Rosenstock氏らACHIEVE-1 Trial Investigatorsが、中国、インド、日本、メキシコおよび米国で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ACHIEVE-1試験」の結果を報告した。orforglipronは、2型糖尿病および体重管理を適応症として臨床開発中の、経口投与可能な低分子非ペプチドGLP-1受容体作動薬であり、有効性と安全性に関する追加データが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年6月21日号掲載の報告。orforglipronの3用量をプラセボと比較、1日1回40週間投与 研究グループは、食事療法および運動療法のみでは血糖コントロールが不十分な2型糖尿病を有し、登録前3ヵ月以内に他の血糖降下薬(経口または注射)の投与を受けていない18歳以上の患者(インスリン未治療、HbA1c値7.0~9.5%、BMI値23.0以上)を、orforglipron 3mg群、12mg群、36mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、1日1回40週間投与した。 orforglipron群は、いずれも1mgより投与を開始し、4週ごとに各群の規定用量まで漸増(3mg、6mg、12mg、24mg、36mg)した。 主要エンドポイントは、40週時におけるHbA1c値のベースラインからの変化量、重要な副次エンドポイントは、40週時における体重のベースラインからの変化率とした。HbA1c値の推定平均変化量、orforglipron群は-1.48~-1.24%ポイント 2023年8月9日~2025年4月3日に559例が無作為化された(orforglipron 3mg群143例、12mg群137例、36mg群141例、プラセボ群138例)。患者背景は、平均罹病期間4.4年、平均HbA1c値8.0%、平均体重90.2kg、女性が48.1%であった。 40週時におけるHbA1c値のベースラインからの推定平均変化量は、3mg群-1.24%ポイント、12mg群-1.47%ポイント、36mg群-1.48%ポイント、プラセボ群-0.41%ポイントであり、orforglipronの3群すべてでプラセボ群よりもHbA1c値が有意に低下した。 推定平均変化量のプラセボ群との差は、3mg群-0.83%ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.10~-0.56)、12mg群-1.06%ポイント(-1.33~-0.79)、36mg群-1.07%ポイント(-1.33~-0.81)であり(すべてp<0.001)、40週時の平均HbA1c値はorforglipron群で6.5~6.7%であった。 40週時における体重のベースラインからの変化率は、3mg群-4.5%、12mg群-5.8%、36mg群-7.6%、プラセボ群-1.7%であった。 主な有害事象は軽度~中等度の胃腸障害で、そのほとんどは用量漸増中に発現した。重症低血糖は報告されなかった。投与中止に至った有害事象は、orforglipron群4.4~7.8%、プラセボ群1.4%であった。

9.

インスリン未治療の2型糖尿病、efsitora vs.グラルギン/NEJM

 インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において、insulin efsitora alfa(efsitora)週1回固定用量投与はインスリン グラルギン(グラルギン)1日1回投与と比較し、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善に関して非劣性であることが示された。米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らQWINT-1 trial investigatorsが、米国、アルゼンチン、メキシコの71施設で実施した52週間の第III相無作為化非盲検treat-to-target試験「QWINT-1試験」の結果を報告した。これまでのtreat-to-target試験では、基礎インスリンの用量調整は少なくとも週1回、空腹時血糖値に基づいて行われてきたが、efsitoraは週1回投与の基礎インスリンであり、インスリン治療歴のない2型糖尿病成人患者において有用である可能性があった。NEJM誌オンライン版2025年6月22日号掲載の報告。52週時のHbA1c変化量に関し、efsitoraのグラルギンに対する非劣性を評価 研究グループは、インスリン治療歴のない2型糖尿病の成人患者(18歳以上、HbA1c値7.0~10.0%、BMI値45.0以下)を、efsitora週1回皮下投与群(efsitora群)またはインスリン グラルギンU100の1日1回皮下投与群(グラルギン群)に1対1の割合で無作為に割り付け、52週間投与した。 efsitora群では、週1回100Uから投与を開始し、目標空腹時血糖値を80~130mg/dLとして、必要に応じて4週間ごとに150U、250U、400Uのいずれかの固定用量に調整した。グラルギン群では、同様の目標血糖値で、従来の投与アルゴリズムに従って週1回以上の頻度で用量調整を行った。 主要エンドポイントは、52週時のHbA1c値のベースラインからの変化量で、非劣性マージンは群間差の両側95%信頼区間(CI)の上限が0.4%とした。最小二乗平均変化量は-1.19%vs.-1.16%、群間差-0.03%(95%CI:-0.18~0.12) 2023年1月14日~2024年7月17日に1,148例がスクリーニングされ、適格基準を満たした795例が無作為化された(efsitora群397例、グラルギン群398例)。 HbA1c値は、efsitora群ではベースラインの8.20%から52週時には7.05%に低下し(最小二乗平均変化量:-1.19%)、グラルギン群では8.28%から7.08%に低下した(最小二乗平均変化量:-1.16%)。推定群間差は-0.03%(95%CI:-0.18~0.12)であり、efsitoraのグラルギンに対する非劣性が示されたが、優越性は示されなかった(p=0.68)。 臨床的に重要な低血糖(54mg/dL未満)または重症低血糖(レベル3:治療のために介助を必要とする)の発現頻度は、efsitora群のほうがグラルギン群に比べて低かった(efsitora群0.50件/人年vs.グラルギン群0.88件/人年、推定発生率比:0.57[95%CI:0.39~0.84])。 52週時における平均インスリン総投与量は、efsitora群で289.1U/週、グラルギン群で332.8U/週(推定群間差:-43.7U/週、95%CI:-62.4~-25.0)、用量調整回数の中央値はそれぞれ2回および8回であった。

10.

精神疾患を併存している肥満者は減量治療抵抗性/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 肥満や肥満症の患者では、うつ病、不眠などの精神疾患を併存しているケースが多い。こうした併存症は診療の際にアドヒアランスなどに影響するなど、臨床現場では治療の上で課題となっている。また、精神疾患が体重の増加などにも影響することが指摘されている。 そこで本稿では「口演153 境界型糖尿病6」から「精神疾患合併が肥満患者の体重変化および糖代謝に与える影響」(演者:石川 実里氏[国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部])をお届けする。精神疾患併存の肥満症患者にはチームで診療にあたる 石川 実里氏、浅原 哲子氏らの研究グループは、自院の「肥満・メタボリック外来」に来院した患者で、精神疾患を併存している肥満症患者の体重変化とインスリン抵抗性に与える影響を検討した。 心血管疾患のハイリスク群である肥満症患者では、精神疾患を併存していることが多く、精神疾患の併存は、その心理ストレスや精神疾患治療薬の影響から、減量治療を困難にし、同時にストレスによるコルチゾール分泌増加は、内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性増悪に寄与している可能性がある。 そこで、2004~19年に京都医療センター肥満・メタボリック外来を初診で受診した174例(減量入院実施などで14例除外)を対象に、6ヵ月後、12ヵ月後の体重・糖代謝関連指標の変化と精神疾患合併の関連を検討した。 対象の中で精神疾患を併存している患者は30例、併存していない患者は144例だった。また、合併する精神疾患の種類としては、「うつ病」「不眠症」「統合失調症」「双極性障害」の順に多くみられた。患者の39%が男性、61%が女性だった。平均BMIは33.8であった。糖尿病合併例は28.2%と約3割に見受けられた。 主な結果として、精神疾患合併群の体重減少率は12ヵ月時点で非合併群より有意に低かった。さらに、体重減少とHbA1cの改善に相関がみられ、非糖尿病合併群でも同様の結果がみられた。糖尿病非合併の肥満患者において、精神疾患非合併群のみ、6ヵ月後、12ヵ月後ともに、初診時よりHbA1cは有意に減少していたが、群間差はみられなかった。 考察として、肥満症の患者では脳内炎症が惹起され、セロトニン産生が抑制されることから、うつ状態が進み、また同時に肥満が進行する可能性が示唆されている。さらに、心理ストレスは、食欲を制御する視床下部や報酬系を介して摂食量を増加させる可能性がある。 石川氏は研究結果から、「精神疾患を併存した肥満患者は、減量治療抵抗性であることが多く、精神科などとの連携を含めたチーム医療が減量成功と患者のQOL向上に寄与すると考えられる」と述べ、口演を終えた。

11.

災害時にLINEを活用し糖尿病患者の命を守る/糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 地震や洪水などの自然災害が発生した場合、糖尿病患者、とくにインスリン依存状態の患者はインスリンの入手などに困難を来し、生命の危機に直面するケースが予想され、災害時に患者の様子や不足する薬剤をいかに把握するかが、課題となっている。 そこで本稿では「口演62 災害医学」から「糖尿病患者に対するLINEによる双方向性の情報伝達システムの構築」(演者:西田 健朗氏[熊本中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科])をお届けする。災害時に困る患者の居場所、健康状態の把握の一助となるLINE 2016年に発生した熊本地震を経験した熊本中央病院の西田氏が JADEC DiaMAT推進委員会を代表して、災害時に役立てることができるLINEを利用した双方向情報伝達システムの構築について口演を行った。 日本糖尿病協会(JADEC)と日本糖尿病学会は協働して、自然災害などから糖尿病患者を守る取り組みを強化している。具体的には、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT:Diabetes Medical Assistance Team)を創設し、災害発生時に災害派遣医療チーム(DMAT)などの後方支援や被災者への直接支援などを行う体制の構築を目指している。 この災害時の情報伝達体制構築の一環として、わが国で普段から広く使用されている通信アプリ“LINE”を基盤にしてシステムを構築した。システムでは、アカウント管理の簡便性からJADEC本部のアカウントのみを作成し、患者が登録していく方式で双方向の情報伝達を行っている。LINEにはインスリン依存状態の患者などから登録をしてもらい、氏名や住所などの個人情報や自分の病状、かかりつけ医療機関や処方薬局などを細かく入力してもらうようにした。 2025年5月28日現在で1,517人の患者などが登録しており、登録に際しては使用しているインスリンの入力ができる。災害時には、必要なインスリンやデバイスなどの情報をJADEC事務局に連絡することができ、JADEC事務局は位置情報で患者の位置を把握、インスリンやデバイスの搬送での活用が期待されている。 実際にこうした情報システムが稼働するのか、患者のニーズを満たしているのかの検証を西田氏らは、2024年9月1日(防災の日)に訓練として行った。 LINE登録者約300人中87人、医師5人が訓練に参加し、登録者が事務局との双方向通信を行った。訓練では、登録者のLINE操作や事務局の内容確認が行われたほか、必要により個別の質問には医師が対応した。 訓練後のアンケートについて、「登録者の満足度」は5点中4.15点であり、「このLINEを紹介したい」は5点中4.44点であり、肯定的な意見が多数を占めていた。また、登録者の自由記載では、「使われている言葉が難しい」「インスリンの入手について安心材料になった」などの課題や感想を聞くことができた。 西田氏は、「今後はさらにLINEシステムを向上させ患者の位置情報から、災害時に患者へ必要なインスリンや治療薬を届けることができるようにシステム構築を進めていく」と展望を語った。

12.

COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

13.

第267回 GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい

GLP-1薬は体重減少効果以外の仕組みのがん予防効果を有するらしい先週11~14日のスペインでの欧州肥満学会で取り上げられたイスラエルの研究者の発表によると、GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は体重減少がもたらす以上のがん予防効果を有するようです1,2)。GLP-1薬と肥満手術はどちらも糖尿病や肥満の治療として確立としています。肥満手術は糖尿病や肥満と関連するいわゆる肥満関連がん(ORC)を生じ難くすることが長期の試験やメタ解析で裏付けられており、発生率の32~45%の低下をもたらします。一方、肥満治療薬(肥満薬)のがん予防効果のほどはよくわかっていませんが、2型糖尿病、肥満、それらの合併症を制しうるGLP-1薬も肥満手術と同様にORCを生じ難くするかもしれません。実際、米国の2型糖尿病患者およそ165万例の最長15年間の経過を解析したレトロスペクティブ試験でGLP-1薬とORCの発生率低下の関連が示されています。GLP-1薬投与群は調べた13種のORCうち10種(食道、大腸、子宮内膜、胆嚢、腎臓、肝臓、卵巣、膵臓のがん、髄膜腫、多発性骨髄腫)の発生率がインスリン投与群に比べて低くて済んでいました3)。同試験の著者はいくつかの課題の1つとして、GLP-1薬とがんの発生率の関連を肥満手術と比べる必要があると述べていました。イスラエルの人口の半数超が加入している保健組合Clalitの研究者らはまさにその課題に取り組み、GLP-1薬と肥満手術のORCを減らす効果を同組合の患者の電子カルテを使って比較しました。比較されたのは24歳以上で、肥満かつ糖尿病の患者の第一世代GLP-1薬開始後と肥満手術後のORCの発生率です。2010~18年にGLP-1薬を開始した群と肥満手術を受けた群の患者はどちらも同数の3,178例で、性別、年齢、BMIが一致するように1対1の割合で選定されました。2023年12月までの追跡期間中央値7.5年のあいだに298例にORCが生じました。最も多かったのは閉経後乳がんで77例に生じました。その次に多かったのは大腸がんで49例、3番目に多かった子宮がんは45例に生じました。肥満手術群のほうが体重はより減ったものの、ORCの発生率は肥満手術群とGLP-1薬投与群で似たりよったりで、それぞれ1,000人年当たり5.76と5.64でした。肥満手術群のBMI低下は31%で、GLP-1薬のBMI低下14%を2倍以上上回りました。そのような体重減少の効果を差し引くと、GLP-1薬の体重減少以外の作用によるORC発生率低下は肥満手術に比べて41%高いと推定されました。GLP-1薬がORCを防ぐ効果は炎症の抑制などのいくつかの仕組みによるのかもしれません。より用を成し、より体重を減らす新世代のGLP-1薬のORC予防効果はさらに高いと期待できそうですが、無作為化試験やより大人数の観察試験でORCの予防効果をさらに検証し、その効果の仕組みの理解に取り組む必要があります。また、新世代のGLP-1薬がORC以外のがんを増やさないことの確認が必要と研究リーダーの1人Dror Dicker氏は言っています2)。幸い、10試験の7万例超を調べた最近のメタ解析では、2型糖尿病患者のGLP-1薬使用のがん全般の発生率はプラセボに比べて高くないことが示されています4,5)。 参考 1) Wolff Sagy Y, et al. eClinicalMedicine. 2025 May 11. [Epub ahead of print] 2) GLP-1 receptor agonists show anti-cancer benefits beyond weight loss / Eurekalert 3) Wang L, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2421305. 4) Lee MMY, et al. Diabetes Care. 2025;48:846-859. 5) expert reaction to conference poster about GLP-1 obesity drugs (compared with bariatric surgery) and obesity-related cancer / Science Media Centre

14.

2型糖尿病患者においてもインスリン自動投与システム AIDは有効である(解説:住谷哲氏)

 インスリン自動投与システムautomated insulin delivery(AID)の有効性は1型糖尿病患者においては確立されている1)。AIDにはいくつかの種類があるが、本試験で使用されたのはTandem Diabetes CareのControl-IQ+である。Control-IQ+は、基礎インスリン分泌に加えて高血糖時の補正インスリンcorrection bolusも自動化した新しいclosed-loop systemである。本試験は、すでに米国食品医薬品局(FDA)から1型糖尿病患者に対して承認されているControl-IQ+の、2型糖尿病患者への承認を目指しての臨床試験と思われる。 試験参加者をインスリン頻回注射療法MDIにDexcom G6を併用する群(対照群)とControl-IQ+にDexcom G6を併用する群(AID群)に振り分けて、試験開始13週後のHbA1cを主要評価項目とした。結果は、主要評価項目のHbA1cは対照群で8.1%から7.7%に低下したのに対し、AID群では8.2%から7.3%に低下した。さらに副次評価項目のTIRは対照群で51%から52%に上昇したのに対し、AID群では48%から64%に上昇した。両指標ともにAID群で対照群に比較して有意な改善を認め、AIDは2型糖尿病患者においてもMDIに比較して血糖コントロールの改善に有効であることが示された。 FDAはInsuletのAIDであるOmnipod 5をSECURE-T2D試験2)の結果に基づいて、2型糖尿病患者への使用をすでに承認している。Control-IQ+も本年2月に2型糖尿病患者に対して承認された。2型糖尿病患者に対するAIDが普及するのも時間の問題である。しかしインスリン分泌が保たれている2型糖尿病患者において、AIDを用いてHbA1cをわずかに低下させることが患者の予後を改善するかは、筆者には少々疑問である。2型糖尿病患者におけるAIDの使用については、医療資源の観点も含めた議論が必要であると思われる。

15.

にんにくは糖尿病のリスクを減らす【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第281回

にんにくは糖尿病のリスクを減らすにんにく摂取と糖尿病発症リスクとの関連を検討した10年間の前向きコホート研究が発表されました!2008年時点で糖尿病を有していない高齢者を登録し、その後10年間にわたって追跡し、にんにく摂取頻度と糖尿病新規発症の関連を解析…構造になっており、曝露(にんにく摂取)を基準に将来のアウトカム(糖尿病発症)を観察した前向きデザインですが、そんな研究を立案しちゃうんだ…。すごい。Du J, et al. Garlic consumption and risk of diabetes mellitus in the Chinese elderly: A population-based cohort study. Asia Pac J Clin Nutr. 2025 Apr;34(2):165-173.動物実験や細胞レベルの研究において、にんにくが血糖降下作用を示すことが確認されていますが、ヒトを対象とした疫学的研究、とくに高齢者に焦点を当てた前向き研究は少なく、その因果関係の証明は不十分です。この研究では、中国高齢者健康長寿調査(CLHLS)を用いて、にんにくの摂取頻度と糖尿病発症との関連性を検証しています。研究対象は2008~18年にかけて追跡された1,927人の中国人高齢者です。ベースライン時に糖尿病の既往がない人を対象に、にんにく摂取頻度(毎日、時々、ほとんどまたは全く摂取しない)と自己申告による糖尿病診断の有無を記録し、多変量Cox比例ハザードモデルにより解析を行いました。対象者のうち、24.1%が毎日、55.1%が時々にんにくを摂取しており、糖尿病の発症率は全体で20.08%でした。4~5人に1人が毎日にんにくを摂取しているんですね、たしかに僕もそのくらいの頻度でにんにくを食べている気もします。にんにく大好きマンです。さて、毎日摂取していた群は、にんにくをほとんど摂らない群に比べて糖尿病のリスクが42%低下していました(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.80)。この関連は、年齢、性別、居住地、教育、BMI、食事の多様性、喫煙・飲酒習慣、運動、婚姻状況、収入源、職業、慢性疾患の既往などの共変量で調整した後も、有意に認められました。サブグループ解析において、65~79歳、農村在住者、非飲酒者、教育水準が高くない人、経済的援助が必要な人、農業従事者では、にんにく摂取による糖尿病リスクの有意な低下が示されました。一方で、80歳以上、都市部在住者、飲酒者、教育水準が高い人、経済的自立者ではその影響は有意ではありませんでした。にんにくの糖尿病に対する効果は、インスリン分泌の促進、インスリン感受性の改善、DPP-4阻害による血糖調節、脂質代謝の改善、抗酸化・抗炎症作用などが報告されています。とくに、アリシンなどの含硫化合物はインスリンの不活化を防ぎ、炎症を抑制することでインスリン抵抗性の改善に寄与すると考えられています。また、酸化ストレスの抑制、非酵素的糖化反応の抑制といった作用もあり、糖尿病の合併症予防にもつながる可能性があります。この研究、調理方法や妥当なにんにくの量がわからないという点がリミテーションです。ただ、過去のメタアナリシスでは、にんにく摂取量1.5g/日というのがおおよその目安となっています1)。よし、明日から毎日にんにくを食べよう!1)Shabani E, et al. The effect of garlic on lipid profile and glucose parameters in diabetic patients:A systematic review and meta-analysis. Prim Care Diabetes. 2019;13(1):28-42.

16.

アラート付き血糖モニタリングにより糖尿病患者の交通事故が軽減か

 インスリン治療を受けている糖尿病患者では、治療に起因する低血糖症が起こることがある。低血糖症が車の運転時に起こった場合、意識障害などから交通事故につながりかねない。この度、インスリン治療を受けている糖尿病患者で、アラート付きの持続血糖モニタリングシステム(CGM)の装着により、運転中の低血糖の発生率が低下するという研究結果が報告された。名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の前田龍太郎氏らが行った研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」に2月28日掲載された。 2014年の実態調査では、糖尿病治療中の患者の52%が日常生活で低血糖を経験し、そのうちの10%で運転中に低血糖エピソードを生じ、結果としてその2%が交通事故にあった、と報告されている。無自覚の低血糖を加味すれば、運転中の低血糖エピソードの頻度はさらに高い可能性があり、切迫した低血糖を予測してドライバーに警告できる信頼性の高いシステムが必要とされていた。このような背景から、研究グループは、インスリン治療を受けているドライバーを対象に、低血糖アラート機能付きのCGMの有用性を評価する単施設の非盲検ランダム化クロスオーバー試験を実施した。 対象には、2021年7月6日から2023年2月27日の間に名古屋大学医学部附属病院でインスリン治療を受け、週3回以上車を運転する成人の糖尿病患者30名が含まれた。30名の参加者は、アラート機能付きCGM群(アラート群)、アラート機能なしCGM群(非アラート群)に1対1で割り付けられた。参加者は、4週の試験期間の後、8週間おいて、群を入れ替えて再度4週間の試験期間に組み入れられた。CGMは皮膚に貼り付けるパッチ式を採用し、期間中の低血糖警告の閾値は80mg/dL(4.4mmol/L)と設定された。主要評価項目は血糖値が基準値(70mg/dL〔3.9mmol/L〕)を下回っていた時間(TBR)の割合とした。 最終的にCGMの解析に含まれた参加者は27名(平均年齢;61.9±12.6歳、女性;8名)だった。27名には、1型糖尿病8名(30%)、2型糖尿病13名(50%)、その他6名(20%)が含まれた。 2つの試験期間を統合して解析した結果、試験全体でのTBRはアラート群(中央値2.0%〔四分位範囲1.0~7.0〕)と非アラート群(同2.0%〔1.0~6.5〕)で有意な差はみられなかった(P=0.169)。しかし、事前に規定された1型糖尿病のサブグループ解析では、非アラート群と比較したアラート群のTBRは有意に減少していた(群間差-4.4%〔95%信頼区間-8.7~-0.1〕、P=0.047)。また、車を運転するときの低血糖エピソードの発生率は、非アラート群(33%)と比較し、アラート群(19%)で有意な減少が認められた(P=0.041)。 本研究の結果について、研究グループは、「今回のCGMはアラートの閾値が80mg/dL(4.4mmol/L)に設定されており、参加者は血糖が基準値以下(<70mg/dL〔<3.9mmol/L〕)になる前にブドウ糖摂取などの予防的措置をとることができた。今回示された結果は、低血糖アラート機能を備えたCGMが、インスリン治療を受けているドライバーの安全性をさらに高め、糖尿病患者の運転制限の緩和に役立つ可能性があることを示唆している」と述べた。 なお、本研究の限界については、CGMで測定した皮下組織中のグルコース濃度は、近似しているが血糖値と同一のものでないこと、CGMの使用により意識が変わり、血糖管理がより慎重になった可能性があったことなどを挙げている。

17.

人工甘味料スクラロースの摂取は空腹感を高める

 スプレンダのようなカロリーなしの人工甘味料の使用により食事のカロリーが増えることはないが、体重増加につながる可能性はあるようだ。新たな研究で、砂糖の代替品は食欲と空腹感を刺激し、食べ過ぎにつながる可能性のあることが明らかになった。米南カリフォルニア大学(USC)糖尿病・肥満研究センター所長のKathleen Page氏らによるこの研究結果は、「Nature Metabolism」に3月26日掲載された。 Page氏は、「スプレンダの主成分であるスクラロースは、摂取してもその甘さから予想されるカロリーを伴わないため脳を混乱させるようだ。体が、摂取した甘さに見合うカロリーを期待しているのにそれを得られない場合、時間の経過とともに、脳がそれらの物質を求める仕組みに変化が生じる可能性がある」とUSCのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、米国人の約40%が砂糖の摂取量を減らす手段として、定期的に砂糖の代替品を摂取しているという。「しかし、このような砂糖の代替品は、本当に体重の調整に役立つのだろうか。それらの摂取は、体と脳にどのような影響を与えるのだろうか。また、その影響は人によって異なるのだろうか」とPage氏は疑問を呈する。 今回の研究では、18〜35歳の試験参加者75人(女性43人)を対象にクロスオーバー試験を実施し、スクラロースの摂取が、食欲のコントロールに関与する脳視床下部の活動、ホルモンレベル、空腹感に及ぼす影響を調査した。試験参加者は、ショ糖(砂糖の主成分)で甘くした飲み物、スクラロースでショ糖と同程度に甘くした飲み物、および水をランダムな順序で2日から2カ月の間隔を空けて摂取した。飲み物の摂取前と摂取後には、採血、MRIスキャン、空腹感の評価が行われた。 その結果、ショ糖摂取後に比べてスクラロース摂取後には、視床下部の血流が有意に増加し、空腹感も有意に高まることが示された。また、水の摂取後との比較でも、視床下部の血流は有意に増加したが、空腹感のスコアに有意な差は認められなかった。一方、ショ糖の摂取後にはインスリンやグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)など、血糖値を調節するホルモンレベルの上昇が認められたが、この上昇は視床下部の血流低下と関連していた。さらに、スクラロースの摂取後には、視床下部と動機付けや身体感覚処理に関わる脳領域との機能的な結び付きが強まることも確認された。Page氏は、「この結果は、スクラロースが渇望や摂食行動に影響を与える可能性があることを示唆している」と述べている。 Page氏は、「体はインスリンなどのホルモンを使ってカロリーを摂取したことを脳に伝え、空腹感を軽減させる。しかし、スクラロースにそのような効果は認められなかった。肥満の試験参加者では、このようなスクラロース摂取後とショ糖摂取後のホルモン反応の違いはより顕著だった」と述べている。 研究グループは、「今後の研究では、脳とホルモンの活動のこうした変化が人の体重に長期的な影響を及ぼすかどうかを調べるべきだ」と述べている。

18.

健康長寿を目指すなら、この食事がベスト

 高齢になっても健康を維持するためには、中年期にどのような食生活を送れば良いのだろうか。10万5,000人を超える男女を最長で30年間にわたって追跡し、8つのパターンの食事法について調べた研究からは、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)が明確に優れていることが示された。コペンハーゲン大学(デンマーク)公衆衛生学准教授で、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の栄養学客員准教授でもあるMarta Guasch-Ferre氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月24日掲載された。 AHEIは2002年に、米国農務省(USDA)による米国の食事ガイドラインの遵守度の指標である健康食指数(Healthy Eating Index;HEI)の代替指標として、ハーバード大学の研究者らにより作成された。ハーバード大学によると、HEIとAHEIは似ているが、AHEIの方が慢性疾患のリスクを軽減することにより重点を置いた指標になっているという。AHEIの高い食事とは、果物や野菜、全粒穀物、ナッツ類、豆類、健康的な脂肪を豊富に摂取し、赤肉や加工肉、加糖飲料、塩分、精製穀物の摂取は控えた食事である。 今回の研究では、医療従事者を対象にした2つの長期研究(Nurses’ Health Study、Health Professionals Follow-Up Study)参加者(10万5,015人)が定期的に記入している、食事に関する質問票のデータを分析し、8種類の食事パターンへの遵守度が点数化された。8種類の食事パターンとは、1)AHEI、2)代替地中海食指数(Alternative Mediterranean Index;aMED)、3)DASH食(高血圧予防食)、4)MIND食(地中海食とDASH食を組み合わせた神経変性を遅らせるための食事)、5)健康的な植物性食品ベースの食事指数(Healthful Plant-Based Diet Index;hPDI)、6)プラネタリーヘルスダイエット指数(Planetary Health Diet Index;PHDI)、7)経験的炎症性食事パターン(Empirically Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)、8)高インスリン血症のための経験的食事指標(Empirical Dietary Index for Hyperinsulinemia;EDIH)である。 論文の共著者であるハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のFrank Hu氏は、本研究について、「これまでの研究では、特定の疾患や寿命の観点から食事パターンの調査が行われてきた。これに対し、今回の研究では、『自立した生活や良好な生活の質(QOL)を保つ能力に食事がどのような影響を与えるのか』という疑問について、多面的な観点から検討した」と説明している。 30年間の追跡期間中、全参加者の9,771人(9.3%)が健康的に年を重ねていた。解析からは、全ての食事パターンにおいて、遵守度の高かった人は低かった人に比べて、70歳まで健康的に年を重ねているオッズが有意に高いことが明らかになった。その中でも、特に関連が強かったのはAHEIで、オッズ比は1.86(95%信頼区間1.71〜2.01)と算出された。年齢を75歳まで引き上げた場合でも、AHEI遵守度の高い人は低い人に比べて健康的に年を重ねているオッズが有意に高かった(オッズ比2.24、2.01〜2.50)。 Guasch-Ferre氏は、「この研究結果は、植物性食品が豊富で健康的な動物性食品も適度に取り入れた食事パターンが、全般的なヘルシーエイジング(健康的な加齢)を促す可能性があることを示している。また、今後の食事ガイドラインのあり方を検討する上でも、この研究結果が役立つ可能性がある」との見解をハーバード大学のニュースリリースで示している。 一方、論文の筆頭著者でモントリオール大学(カナダ)栄養学分野のAnne-Julie Tessier氏は、「今回の研究結果は、全ての人に適した食事療法は存在しないことを示している。健康的な食事は、個人のニーズや嗜好に合わせることができる」と同大学のニュースリリースの中で述べている。

19.

高齢糖尿病患者へのインスリン イコデク使用Recommendation公開/糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])は、4月18日に「高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation」(高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会作成)を公開した。 週1回持効型インスリン製剤インスリン イコデク(商品名:アウィクリ注)は、注射回数を減少させ、持続的なインスリン作用をもたらすことから、ADLや認知機能の低下により自己注射が困難な高齢患者に血糖管理が可能になると期待される。 その一方で、週1回投与という特徴から、投与調節の柔軟性には制限があり、一部の患者では低血糖が重篤化する懸念がある。 学会では使用に際し、高齢者における使用に際してはカテゴリー分類を行った上で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」に基づき目標値を設定すること、さらに高齢者では低血糖の症状が乏しく重症低血糖を来しやすいことから『高齢者糖尿病治療ガイド』『インスリン イコデク投与ガイド』などを参考に、下記の5つの事項に留意するように示している。【高齢糖尿病患者への使用でのRecommendation】(1)適切な治療目標を設定する ADLや認知機能が低下した高齢者においては、高血糖緊急症や低血糖を避けることが優先的な目標となる。低血糖になった場合、遷延することが予想されるため、HbA1c値の治療目標は厳格すぎないよう柔軟に設定する。(2)適切なタイミングで血糖モニタリングを実施する 安全性の確保のため何らかの血糖測定が必要である。家族や介護者への教育を徹底し、低血糖時の対応や投与スケジュールの管理を習得してもらう。投与量が安定するまでの期間や、シックデイなど血糖の変動が予想される場合には持続血糖測定(CGM)や遠隔血糖モニタリングも検討する。投与後2~4日目の食前血糖値が最も下がりやすいことから、この日の血糖測定は用量調整の参考になる。(3)訪問看護や介護環境では慎重に計画する 週1回~数回の訪問看護などに依存する患者では、血糖変動を把握する機会が限られるため、慎重な投与計画が必要である。訪問看護師や介護者との連携を強化し、緊急時の対応手段を準備する。(4)感染症、術前の血糖管理など 適宜(超)速効型インスリンを併用する。連日投与のBasalインスリンに変更する場合、最後にイコデクを打ってから1~2週間の間で、朝食前血糖が180mg/dLを超えた時点でイコデクの1/7量を開始する。(5)低血糖予防の注意事項と対応 低血糖時の対応方法に習熟してもらう(必要に応じグルカゴン投与も含む)。予定外の運動をした後は低血糖に注意する。低血糖症状が1度おさまっても再発や遷延の可能性がある。食事量や質にむらがある高齢者では慎重に適応を検討する。持効型インスリンからの切り替え投与時のみ1.5倍に増量することが推奨されているが、この場合は2回目以降も増量を続けないよう注意する。高齢者においては1.5倍の初回投与を必ずしも行わない、という選択肢も考慮される。

20.

カピバセルチブ使用時の高血糖・糖尿病ケトアシドーシス発現についての注意喚起/日本糖尿病学会

 「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」を適応症として2024年5月に発売された経口AKT阻害薬カピバセルチブについて、日本糖尿病学会では2025年4月15日、高血糖・糖尿病ケトアシドーシス(DKA)発現についての注意喚起1)を発出した。以下に抜粋するとともに、これを受けて同日発表された日本乳癌学会からの見解2)についても紹介する。 インスリンシグナル伝達のマスターレギュレーターであるAKTを阻害するカピバセルチブにより、インスリン抵抗性が誘導され高血糖を発現するリスクが想定される。実際に臨床試験(CAPItello-291試験)3)では有害事象として16.9%に高血糖を認めており、わが国における市販直後調査(2024月5月22日~2024年11月21日)でも高血糖関連事象が33例報告され、そのうち1例がDKAにより死亡している(推定使用患者数約350例)。 臨床成績を踏まえ、適正使用ガイド4)においては、投与開始後1ヵ月間は2週間ごと、その後も1ヵ月ごとの空腹時血糖値の測定、3ヵ月ごとのHbA1cの測定が推奨されていた。しかしながらとくに注意すべき点として、投与開始1日目から高血糖の発現の可能性があること(高血糖発現の中央値:15日、範囲:1~367日)、一部の症例でDKAを発症すること、また、国内市販後ではもともと非糖尿病者であったにもかかわらず、カピバセルチブ投与を開始後、DKAを発症し、大量のインスリン(100単位/時間)投与によっても血糖マネジメントが不十分で死亡に至った症例が報告されていることが挙げられる。 CAPItello-291試験では、1型糖尿病またはインスリンの投与を必要とする2型糖尿病患者およびHbA1c 8.0%以上の患者は除外されていたことから、インスリン分泌が高度に低下した症例へのカピバセルチブ投与の際には、投与初日からのより綿密な血糖値などのモニタリング、食欲不振などの消化器症状を含めた問診および診察、ならびに原疾患治療にあたる医師と糖尿病を専門とする医師(不在の場合は担当内科医)の適切な連携が重要であると思われる。急激な血糖値上昇のリスクや大量のインスリン投与を要する可能性も想定し、診療にあたっていただきたい。 日本糖尿病学会からの注意喚起発出を受け、日本乳癌学会からも補足事項として見解が発表された。補足事項では、上記下線部分の症例に加え、同様にDKAを発症した症例がもう1症例あるとし、これらの症例はそれぞれ再発病変に対する10次治療、8次治療としてカピバセルチブが投与されているとした。乳がん診療医においては、CAPItello-291試験の適応基準(主に2次治療から3次治療での使用)に沿った治療を行うよう注意喚起するとともに、以下の見解を示している。・CAPItello-291試験の適応基準を守った場合でも高血糖やDKAが発生する可能性はあり、注意深い経過観察が必要であることには変わりないが、その場合の検査スケジュールは推奨されているものでよいと思われる。・やむを得ずCAPItello-291試験の適応基準外の投与となった場合には、検査や診察を含め厳重な経過観察が必要。・また、高血糖に関してGrade2以上の有害事象が発生した場合は、関係各科と緊密に連絡をとりながら厳重な経過観察が必要。

検索結果 合計:850件 表示位置:1 - 20