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1.

すでに承認されている経口薬が1型糖尿病の進行を抑制

 関節リウマチや脱毛症などの自己免疫疾患の治療薬としてすでに承認されている経口薬であるバリシチニブが、1型糖尿病の進行抑制に役立つのではないかとする研究結果が、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表された。 この報告は、セントビンセント医学研究所(オーストラリア)のMichaela Waibel氏らの研究によるもので、新たに1型糖尿病と診断された人がバリシチニブを連日服用すると、インスリン分泌が維持され血糖変動が安定したという。さらに、同薬の服用を中止した後は、インスリン分泌量が減少して血糖変動の安定性が失われ、糖尿病が進行し始めるという変化が見られたとのことだ。 Waibel氏は、「これは本当に素晴らしい前進だ。これまでの1型糖尿病の治療はインスリン療法に大きく依存していたが、その依存度を軽減し、患者が日常の治療から解放される時間を提供できる、初めての経口での疾患修飾療法と言える。さらにこの薬は、長期合併症のリスクを低下させる可能性もある」と話している。 1型糖尿病は、免疫系が膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)を誤って攻撃することで発症する。発症とともにインスリン分泌量が低下し、最終的には分泌が停止するため、患者は生涯にわたって、血糖値を管理するためインスリン療法を続ける必要がある。一方、バリシチニブは、免疫系を刺激する信号を抑制する作用があり、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、脱毛症などの自己免疫疾患の治療薬としてすでに承認されている。これらの理論的な背景を基に研究チームは、バリシチニブが1型糖尿病の診断後早期の患者のβ細胞を保護する可能性があるのではないかと考えた。 今回の研究には、過去100日以内に1型糖尿病と診断された10~30歳の91人が参加。無作為にバリシチニブ群またはプラセボ群に割り付けられ、48週間にわたり毎日服用した。その結果、バリシチニブ群では対照群に比べてβ細胞機能が維持され、血糖値の変動が少なく、インスリンの必要量も少なかった。さらに、48週が経過しバリシチニブの服用を中止すると、血糖コントロールは72~96週目にプラセボ群とほぼ同じレベルまで悪化した。また、バリシチニブ群の患者も最終的には、プラセボ群と同量のインスリンを必要とする状態となった。 これらの結果からWaibel氏は、「1型糖尿病患者のβ細胞機能を維持することが示された有望な薬剤はいくつかあるが、それらの中でバリシチニブは経口投与が可能という点で小児を含む多くの患者が使用しやすく、明らかに有効であるという点で際立っている」と解説。「この薬の効果が長年にわたって持続するか、また、より早期に治療を開始することで1型糖尿病の診断を回避または遅らせることができるかを判断するため、さらなる試験を継続することが正当化される」と述べている。さらに、「この薬の有効性が証明されれば、遺伝的に1型糖尿病のリスクがある人を特定し予防的介入を行うことで、1型糖尿病発症を抑止できるようになるかもしれない」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第289回 植物抽出物の育毛剤が無作為化試験で目に見えて効果あり

植物抽出物の育毛剤が無作為化試験で目に見えて効果ありスキンケア化粧水によく使われる熱帯原産の植物ツボクサ(Centella asiatica)抽出物、インスリン増殖因子1(IGF-1)、線維芽細胞増殖因子7(FGF-7)、カフェイン、ビタミンを含む育毛液のわずか2ヵ月足らずの使用による有望な効果が、健康な成人60人が参加したプラセボ対照無作為化試験で示されました1,2)。抜け毛や薄毛の悩みは万国共通で、多ければ男性の2人に1人、女性の3~4割が生涯に少なくともいくらかの男性型脱毛症(AGA)を呈するようです。日本では全年齢の男性のおよそ10人に3人にAGAが生じ、50歳以上になると半数近い40%ほどに認められるようになります3)。AGAは単なる見た目の問題にとどまらず、心理的な負担、不安、自信低下と関連し、生きづらさや人付き合いの困難さえ招くことがあります。ミノキシジルやフィナステリドがAGA治療の定番として広く使われていますが、効果を得るには長期の投与を必要とします。毛髪の成長期を引き伸ばすミノキシジルの投与をやめることは、しばしば数ヵ月以内にしっぺ返しの脱毛をもたらします。フィナステリドは性機能障害、ホルモン関連の害を引き起こすことがあり、妊婦が曝露すると胎児に奇形が生じる恐れがあります。そのような欠点があるミノキシジルやフィナステリドに代わるAGA治療として、毛包を刺激する増殖因子の研究が始まっています。なかでも真皮乳頭細胞の増殖、毛髪成長期の延長、毛包再生を促すIGF-1とFGF-7は主要な生理活性因子と目されています。身近な植物成分のカフェインはそのIGF-1活性を促し、毛髪成長期を長くして毛がより長く丈夫に生えるのを助けることが知られています。カフェインは脱毛予防を謳うシャンプーによく含まれています。やはり植物成分のパントテン酸(ビタミンB5)やその派生物Dパンテノールも発毛調節作用があるらしく、前者は毛包の成長を促し、後者は毛乳頭細胞の増殖を促進することが示されています。市販の頭皮ローションの成分にもなっているツボクサ抽出物は毛根を丈夫にする働きが報告されています。また、毛包を好調にし、毛乳頭細胞を発生させる働きもあるようです。さらには、発毛を促す化合物アラリアジオール(araliadiol)がツボクサから精製されてもいます。台湾・Schweitzer Biotech Companyの研究者は幾重もの仕組みで発毛を促すことを目指してそれら成分をひとまとめにした育毛液を開発し、まずは健康な成人を募った無作為化試験でその効果のほどを検討しました。被験者60人にはプラセボか4種類のローションのいずれかが投与されました。4種類のローションはいずれも下地としてカフェインとパンテノールを含み、その1つは他に有効成分を加えず、あとの2つには長時間作用するようにしたIGF-1/FGF-7かツボクサ由来の細胞外小胞(EV)も加えられました。残りの1つはIGF-1/FGF-7とツボクサ由来EVのどちらも含むSchweitzer Biotech Companyにとって本命の全部込み育毛液です。いずれも1mLが晩の洗髪後の頭皮に56日間1日1回塗布され、プラセボを含むどの投与群も頭髪の状態の改善を示しました。なかでも全部込みの育毛液が同社の狙いどおり最も効果的で、調べた指標のどれも有意に改善しました。たとえば、頭髪の密度が目に見えて改善し、プラセボ群を2倍くらい上回って25%ほど上昇しました。60人ばかりの小規模試験結果であり、より長期の大人数の試験での検討が今後必要です。そのような今後の検討次第で植物由来EVと増殖因子IGF-1/FGF-7の組み合わせは頭皮や毛髪の調子を維持する普段使いの手当てとなりうるかもしれません1)。 参考 1) Chang TM, et al. A 56-Day Randomized, Double-Blinded, and Placebo-Controlled Clinical Assessment of Scalp Health and Hair Growth Parameters with a Centella asiatica Extracellular Vesicle and Growth Factor-Based Essence. medRxiv. 2025 Sep 12. 2) Serum based on plant extracts boosts hair growth in weeks / NewScientist 3) Tsuboi R, et al. J Dermatol. 2012;39:113-120.

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若年2型糖尿病に対するチルゼパチドの検討(解説:小川大輔氏)

 若年発症の2型糖尿病は、成人発症と比べて早期に糖尿病合併症を発症することが知られている。そのため食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせて適切な糖尿病治療を行うことが必要とされる。今回、10歳から18歳までに2型糖尿病を発症した患者99例を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの効果を検討した第III相試験の結果が発表された1)。従来の治療で血糖コントロール不十分であった若年発症の2型糖尿病患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、血糖コントロールや肥満を改善することが報告された。 若年発症の糖尿病といえば1型糖尿病やMODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young)、ミトコンドリア糖尿病など遺伝性糖尿病が知られているが、今回の試験では対象が2型糖尿病に限定されている。患者背景を確認すると、BMIの平均値が35.4であり、高度の肥満を合併している症例が多く含まれていたことがわかる。試験前の治療としては、メトホルミンが92%、インスリンが31%の症例で使用されていた。しかしベースラインのヘモグロビンA1c値は8.04%とコントロール不十分の状態で、チルゼパチドあるいはプラセボを30週間投与し効果を検討した。その結果、チルゼパチド投与群では30週時のヘモグロビンA1c値変化量は-2.23%、BMI変化率は-9.3%であり、プラセボ群より有意な減少を認めた。主な有害事象は胃腸障害であったが軽度から中等度であった。 若年発症2型糖尿病患者の治療法を比較検討した研究(TODAY2追跡試験)の参加者では、2型糖尿病診断後15年以内に60%が糖尿病関連合併症を発症し、約3分の1が複数の合併症を発症していたと報告された2)。つまり若年発症例は成人発症例と比べてより早期に複数の糖尿病合併症を発症することが明らかになり、合併症の予防や進行抑制のために発症時から厳格な血糖コントロールが重要であることが示唆された。今回の研究により、チルゼパチドが若年2型糖尿病に対する治療の選択肢の1つとなりうることが報告された。今後さらにGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の検討が進むことを期待したい。

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喫煙は2型糖尿病のリスクを高める

 喫煙者は2型糖尿病のリスクが高く、特に糖尿病になりやすい遺伝的背景がある場合には、喫煙のためにリスクがより高くなることを示すデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のEmmy Keysendal氏らが、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表した。Keysendal氏は、「インスリン作用不足の主因がインスリン抵抗性の場合と分泌不全の場合、および、肥満や加齢が関与している場合のいずれにおいても、喫煙が2型糖尿病のリスクを高めることは明らかだ」と語っている。 この研究では、ノルウェーとスウェーデンで実施された2件の研究のデータを統合して解析が行われた。対象は2型糖尿病群3,325人と糖尿病でない対照群3,897人であり、前者は、インスリン分泌不全型糖尿病(495人)、インスリン抵抗性型糖尿病(477人)、肥満に伴う軽度の糖尿病(肥満関連糖尿病〔693人〕)、加齢に伴う軽度の糖尿病(高齢者糖尿病〔1,660人〕)という4タイプに分類された。 解析の結果、喫煙歴のある人(現喫煙者および元喫煙者)は、喫煙歴のない人よりも前記4種類のタイプ全ての糖尿病リスクが高く、特にインスリン抵抗性型糖尿病との関連が強固だった。具体的には、インスリン分泌不全型糖尿病は喫煙によりリスクが20%上昇し、肥満関連糖尿病は29%、高齢者糖尿病は27%のリスク上昇であったのに対して、インスリン抵抗性型糖尿病に関しては2倍以上(2.15倍)のリスク上昇が認められた。また、インスリン抵抗性型糖尿病の3分の1以上は、喫煙が発症に関与していると考えられた。その他の3タイプでは、発症に喫煙の関与が考えられる割合は15%未満だった。 さらに、ヘビースモーカー(タバコを1日20本以上、15年間以上吸っていることで定義)ではより関連が顕著であり、インスリン抵抗性型糖尿病は喫煙によって2.35倍にリスクが高まり、インスリン分泌不全型糖尿病は52%、肥満関連糖尿病は57%、高齢者糖尿病は45%のリスク上昇が認められた。このほかに、遺伝的にインスリン分泌が低下しやすい体質の人でヘビースモーカーの場合は、喫煙によりインスリン抵抗性型糖尿病のリスクが3.52倍に高まることも示された。 これらの結果についてKeysendal氏は、「われわれの研究結果は2型糖尿病の予防における禁煙の重要性を強調するものである。喫煙と最も強い関連性が認められた糖尿病のタイプは、インスリン抵抗性を特徴とするタイプだった。これは、喫煙がインスリンに対する体の反応を低下させることで、糖尿病の一因となり得ることを示唆している」と述べている。また、「禁煙によって糖尿病リスクをより大きく抑制することのできる個人を特定する際に、遺伝的背景に関する情報が役立つと考えられる」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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チルゼパチド、血糖コントロール不良の若年2型糖尿病患者に有効/Lancet

 メトホルミンや基礎インスリンで血糖コントロール不十分の若年発症2型糖尿病患者において、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの週1回投与はプラセボと比較し、血糖コントロールおよびBMIを有意に改善し、その効果は1年間持続した。米国・Indiana University School of MedicineのTamara S. Hannon氏らがオーストラリア、ブラジル、インド、イスラエル、イタリア、メキシコ、英国および米国の39施設で実施した、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURPASS-PEDS試験」の結果で示された。若年発症2型糖尿病に対する治療選択肢は限られており、成人発症2型糖尿病と比較し血糖降下作用が低いことが知られている。若年発症2型糖尿病患者に対するチルゼパチドの臨床エビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2025年9月17日号掲載の報告。チルゼパチド(5mg、10mg)群とプラセボ群を比較 SURPASS-PEDS試験の対象は、10歳以上18歳未満、体重50kg以上、BMI値が当該国または地域の年齢・性別集団の85パーセンタイル超の2型糖尿病患者で、メトホルミン(1,000mg/日以上)や基礎インスリンによる治療で血糖コントロールが不十分(スクリーニング時のHbA1c値6.5%超11%以下)の患者であった。 研究グループは、最長4週間のスクリーニング期の後、適格患者をチルゼパチド5mg群、10mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、30週間の二重盲検投与期にそれぞれ週1回皮下投与した。無作為化では、年齢層(14歳以下、14歳超)および血糖降下薬使用状況(メトホルミン、基礎インスリン、その両方)で層別化した。 チルゼパチドは2.5mgから開始し、割り付けられた用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。二重盲検投与期に引き続き、22週間の非盲検延長期に移行し、プラセボ群の患者にはチルゼパチド5mgを投与した。 主要エンドポイントは、チルゼパチド併合(5mgおよび10mg)群とプラセボ群との比較におけるベースラインから30週時までのHbA1c値の変化量であった。 主要な副次エンドポイント(第1種過誤を制御)は同HbA1c値の変化量のチルゼパチド各用量群とプラセボ群の比較、ベースラインから30週時までのBMI値の変化率(チルゼパチド各用量群および併合群とプラセボ群との比較)などであった。主要エンドポイントおよび副次エンドポイントは52週時においても評価した。30週時のHbA1c値変化量は-2.23%vs.+0.05%、BMI値変化率は-9.3%vs.-0.4% 2022年4月12日~2023年12月27日に146例がスクリーニングされ、99例が無作為化された(チルゼパチド5mg群32例、10mg群33例、プラセボ群34例)。患者背景は、女性60例(61%)、男性39例(39%)、平均年齢14.7歳(SD 1.8)、ベースラインの平均HbA1c値は8.04%(SD 1.23)であった。 30週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド併合群で平均-2.23%に対し、プラセボ群では+0.05%であり、チルゼパチド併合群の優越性が検証された(推定群間差:-2.28%、95%信頼区間:-2.87~-1.69、p<0.0001)。チルゼパチドの血糖降下作用は52週まで持続し、52週時におけるHbA1c値の変化量は、チルゼパチド5mg群で-2.1%、10mg群で-2.3%であった。 30週時におけるBMI値の変化率は、チルゼパチド併合群-9.3%、5mg群で-7.4%、10mg群で-11.2%、プラセボ群-0.4%であり、チルゼパチド群はいずれもプラセボ群より有意な減少であった(対プラセボ群の併合群のp<0.0001、5mg群のp=0.0001、10mg群のp<0.0001)。 二重盲検期における有害事象の発現率は、プラセボ群44%(15/34例)、チルゼパチド5mg群66%(21/32例)、10mg群70%(23/33例)であった。チルゼパチド群で最も頻度の高かった有害事象は胃腸障害で、いずれも軽度~中等度であり、用量漸増期に発現し、経時的に減少した。投与中止に至った有害事象はチルゼパチド5mg群で2例(6%)に認められた。チルゼパチドの安全性プロファイルは成人での報告と一致した。試験期間中の死亡例は報告されなかった。

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植物性食品中心の食事は慢性疾患の併発を予防する

 植物性食品中心の食生活が、がん、心血管疾患、2型糖尿病のいずれか二つ以上を併発する状態の予防につながることを示唆するデータが報告された。ウィーン大学(オーストリア)のReynalda Cordova氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」8月号に掲載された。 この研究では、欧州6カ国で行われている「欧州がん・栄養前向き調査(EPIC)」と英国で行われている「UKバイオバンク」という二つの大規模疫学研究のデータが解析に用いられた。年齢35~70歳で、がん、心血管疾患、2型糖尿病の既往のない40万7,618人を解析対象とした。食事スタイルの評価には、全粒穀物や果物、野菜、ナッツ、豆類などの健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す「hPDI」と、精製穀物やジャガイモ(フライドポテトなど)といった健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す「uPDI」という、二つの指標を用いた。 EPICでは中央値10.9年、UKバイオバンクでは同11.4年の追跡期間中に、合計で6,604人が、前記3疾患のうち二つ以上を併発していた。解析の結果、hPDIスコアが10ポイント高いごとに、複数疾患併発リスクが約1~2割低いことが示された(EPICではハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.83~0.96〕、UKバイオバンクではHR0.81〔同0.76~0.86〕)。 年齢で層別化すると、高齢者よりも中年成人の方が、食事スタイルによる複数疾患併発リスクへの影響がより強く認められた。具体的には、EPICでは60歳未満ではhPDIスコアが10ポイント高いごとに14%のリスク低下が認められたのに対し(HR0.86〔0.78~0.95〕)、60歳以上では有意なリスク低下が示されなかった(HR0.92〔0.84~1.02〕)。UKバイオバンクでは60歳未満は29%のリスク低下(HR0.71〔0.65~0.79〕)、60歳以上では14%のリスク低下だった(HR0.86〔0.80~0.92〕)。 一方、uPDIスコアとの関連については、UKバイオバンクにおいて、10ポイント高いごとに複数疾患併発リスクが22%高いことが示された(HR1.22〔1.16~1.29〕)。EPICでは有意な関連は示されなかった(HR1.00〔0.94~1.08〕)。 論文の筆頭著者であるCordova氏は、「われわれの研究結果は、健康的な植物性食品中心の食事が、個々の慢性疾患の発症抑制につながるだけでなく、複数の慢性疾患を併発するリスクも抑制することを示している」と総括している。この関連の機序について著者らは、「健康的な植物性食品中心の食生活を続けていると、体重が増えにくく、全身の慢性炎症やインスリン抵抗性が生じにくい。これらはいずれも、2型糖尿病、心血管疾患、がんのリスク上昇を抑制すると考えられる」と解説。さらに、「植物性食品は食物繊維が豊富であり、免疫機能を高めたり腸の炎症を抑えたりする」と指摘している なお、Cordova氏によると、「動物性食品を完全に排除する必要はない」という。研究者らは、「健康的な植物性食品を中心としつつ、少量の動物性食品を加えた食生活が、老後の健康を維持するのに役立つ」と付け加えている。

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透析患者が被災したら?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第6回

透析患者が被災したら?豪雨の後の水害で多くの家屋が浸水し、停電、断水のため医療機関も機能不全になっています。避難所のスタッフから、維持透析を週3回行っていて明日が透析日という避難者がいて、対応について相談を受けました。どうすればよいでしょうか?血液透析には、1人当たり1回の透析で100L以上の大量の水が必要であり、装置を動かすには当然電気が必要です。大災害で施設や設備が損傷したり、断水や停電が起きたりすると血液透析ができなくなり、透析患者の生命は危険にさらされます。事実、東日本大震災では、一時は数百施設が透析不能となり、1,300名以上の患者さんが一時的に被災県外に移動しました。熊本地震でも約30施設で透析ができなくなったことが報告されています。普段からの備え透析施設は、支援透析施設が使えるように、患者カードや手帳、透析記録のコピーなど災害時に必要な情報を患者に提供します。他施設で透析をするうえで必要な情報ドライウェイト氏名・年齢アレルギーがあればその内容感染症の有無(慢性肝炎など)処方されている薬の種類とその飲み方人工血管の場合血流の向き普段透析を受けている施設の連絡先普段から患者さんに対して、災害時は透析時間が短くなったり、次の透析までの間隔が長くなったりする場合があることを説明し、自分で自分の身を守ることの大切さを強調しましょう。避難所に避難した場合は、透析患者であることを自治体の職員やボランティア、巡回の医師・看護師に申し出るよう指導をしておくことが必要です。また、透析スタッフもしっかり訓練しておくことも重要です。災害時には、基本的には各自治体が透析災害対策本部のネットワークを利用して、行政・透析関連企業および該当都道府県下のすべての透析施設間の連絡ができるようになっています。日本透析医会の災害時情報ネットワークのウェブサイトも参考にしてください1)。アメリカでは、ハリケーンに備え、前もって透析をしておくことで透析患者の予後を改善することに成功しています。台風など、あらかじめ災害が起こることが予期できる場合には、前倒しをして透析をしておくことも考慮してもいいかもしれません2,3)。避難所での対応【食事】避難所では、非常食や配給食が提供されることが多く、透析患者にとっては平常時よりも尿素窒素やカリウムの数値が高くなる危険性があります。避難所では、水分は日常の3分の2程度に減らすように指導されている患者さんが多いですが、過度な脱水は血栓症の原因にもなります。水分制限は食事摂取の低下の原因にもなります。一方で、食事量が不足してカロリーが減ると、体内のタンパク質が壊れて尿素窒素やカリウムが上昇するため、栄養は十分に摂る必要があります。災害時に透析患者が食事面で留意すべき点食塩、タンパク質、カリウム、リンを平時より大幅に制限する1日の水分量は「尿量+300~400mL以下」に抑えるエネルギー(カロリー)をしっかり確保するカロリー確保には、白米、麺類、パンなど炭水化物が有効です。ただし、麺類やパンには意外に多くの塩分が含まれているため注意が必要です4)。そこで、「カロリーメイト」のようなバランス栄養食品が勧められます。カロリーメイトは、十分なカロリーが摂れ、カルシウム、ビタミン、食物繊維などを多く含む一方、塩分やタンパク質、リン、カリウムの摂取量を比較的抑えやすいというメリットがあります。参考カロリーメイト(ブロックタイプ:1箱4本入り)の場合、カロリー400kcal、カルシウム200mg、食物繊維2g、タンパク質8~9g、カリウム90~100mg、リン80~100mg、食塩相当量約0.7~0.9gです(大塚製薬「カロリーメイト」サイトより)。【応急処置】避難所の医療資源と環境でできることは限られていますが、透析患者の生命を奪うのは主にうっ血性心不全と高カリウムです。危険な高カリウム血症に対しては、内服薬としては陽イオン交換樹脂製剤のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート)が使われることがあります。陽イオン交換樹脂製剤は大腸でナトリウムとカリウムを交換しますが、カルシウムも吸着するため、カリウムに対する選択性は乏しいといわれています。ケイキサレート30gを20%ソルビトール50mLに溶解して内服してもらいます。非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤であるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(商品名:ロケルマ)は、胃で吸収され、カリウムに対する選択性が比較的高いのですが、災害時の使用については即効性の面を考慮し、薬剤師や製造元への確認が必要です。避難所では難しいかもしれませんが、血糖値を測定しながらインスリン+グルコース療法を行い、透析までの緊急回避を行う場合もあります。ヒューマリンR注10単位+50%ブドウ糖550mLを静脈注射し、その後は10%ブドウ糖液を50mL/hで投与する方法が提唱されています5,6)。災害時要配慮者である透析患者の被災時の対応について概説しました。災害医療は、あくまで日常の救急医療の延長であり、普段から「もしも」のことを意識しておくことが必要なことは言うまでもありません。 1) 日本透析医会 災害時情報ネットワーク 2) Lurie N, et al. Early dialysis and adverse outcomes after Hurricane Sandy. Am J Kidney Dis. 2015;66: 507-512. 3) Foster M, et al. Personal disaster preparedness of dialysis patients in North Carolina. Clin J Am Soc Nephrol. 2011;6:2478-2484. 4) Inoue T, Nakao A, Kuboyama K, Hashimoto A, Masutani M, Ueda T, Kotani J. Gastrointestinal symptoms and food/nutrition concerns after the great East Japan earthquake in March 2011: survey of evacuees in a temporary shelter. Prehosp Disaster Med. 2014;29:303-306. 5) Fadel E, et al. Scoping Review of Kidney Patients and Providers Perspectives on Disaster Management. Kidney Int Rep. 2025;10:1346-1359. 6) Lempert KD, et al. Renal failure patients in disasters. Disaster Med Public Health Prep. 2019;13:782-790.

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先進医療技術の普及により1型糖尿病患者の血糖管理が大きく改善

 先進的テクノロジーを用いた医療機器の普及によって、1型糖尿病患者の血糖管理状態が顕著に改善しているとする研究結果が、「JAMA Network Open」に8月11日掲載された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のMichael Fang氏らの研究によるもので、血糖コントロールが良好(HbA1c7%未満)の18歳未満の患者の割合は、2009年は7%であったものが2023年には19%となり、成人患者では同期間に21%から28%に増加したという。 研究者らによると、これらの改善は、持続血糖モニターやインスリンポンプの技術革新によるところが大きいという。Fang氏は、「かつて、1型糖尿病患者の血糖コントロールは困難なことが多かった。こうした顕著な改善は喜ばしい変化だ」と述べている。ただし一方で、1型糖尿病患者の多くが、いまだに十分な血糖コントロールができていないことを、研究者らは指摘している。 米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の1型糖尿病患者数は約200万人であり、そのうち30万4,000人は小児や10代の若者で占めている。1型糖尿病は膵臓のインスリン産生細胞が破壊されてしまう自己免疫疾患で、発症後は生存のためにインスリン療法が必須となる。従来のインスリン療法は、指先穿刺による血糖測定とインスリン注射を頻回に行う必要があり、また低血糖対策のための甘い物を常に身に着けておくことが欠かせない。一方、近年になり、持続血糖モニター、および、その測定結果を利用するアルゴリズムに基づき必要なインスリンを自動的に注入するポンプが普及し、安定した血糖値を維持できるようになってきた。 今回報告された研究には、約16万人の成人患者および約2万7,000人の18歳未満の小児・若年患者の医療記録が用いられた。分析の結果、2009~2023年の間に、前述のように血糖管理が良好な患者の割合が顕著に増加していた。その背景として、持続血糖モニターを使用している患者の割合は、小児・若年患者では4%から82%へと20倍以上に増加し、成人患者では5%から57%へと10倍以上に増加していた。また、インスリンポンプを使用している患者の割合は同順に、16%から50%、11%から29%に増加していた。2023年には双方のデバイスを利用している患者が、小児・若年者の47%、成人の22%を占めていた。 ただし、論文の上席著者で同大学院のJung-Im Shin氏は、「このような改善は喜ぶべきことだが、1型糖尿病患者の大半はいまだ最適な血糖コントロールを達成できておらず、改善の余地が残されていることを忘れてはならない」と話している。また、医療格差も認められ、先進的医療機器を利用し良好な血糖コントロールを維持しているのは、白人や民間保険に加入している患者に多いという。例えば18歳未満の患者の中で、良好な血糖コントロールを維持している割合は、白人では21%であるのに対し、ヒスパニック系では17%、黒人では12%にとどまっていた。 なお、研究グループでは今後さらに詳しい調査を続け、心臓病や腎臓病などの糖尿病に多い合併症の罹患率の変化も明らかにすることを計画している。

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長らく日の目を見なかったアミリンが抗肥満薬として復活した(解説:住谷哲氏)

 アミリン(amylin)、別名膵島アミロイドポリペプチド(islet amyloid polypeptide:IAPP)は、インスリンと同時に膵β細胞から分泌されるホルモンである。アミリンには消化管運動調節作用があり食後の血糖上昇を抑制することから、すでに20年前にアミリンアナログであるpramlintideが商品名SymlinとしてFDAに血糖降下薬として承認されている(日本では未承認)。しかしpramlintideは半減期が短く、1日3回の注射が必要であるためほとんど使用されていない。 アミリンは当初から食欲中枢に作用して食欲を低下させることが知られていた1)。そこでアミリンの分子構造を変化させることで週1回投与を可能にしたcagrilintideが抗肥満薬として開発された。プラセボと比較した第II相試験では、cagrilintide 2.4mgはプラセボと比較して9.7%の体重減少をもたらした2)。さらに本試験の前段階である第Ib相の臨床試験において、cagrilintide 2.4mg+セマグルチド2.4mg(CagriSema)の投与は17.1%の体重減少をもたらすことが報告されている3)。 本論文は2型糖尿病を合併していない肥満患者に対するCagriSemaの体重減少作用をプラセボおよびcagrilintide、セマグルチドそれぞれ単剤と比較した第IIIa相試験の報告である(2型糖尿病合併肥満患者に対する試験はREDEFINE 2として同誌に同時掲載されている)。その結果はCagriSemaの最大投与量2.4mgで53.6%の患者に20%以上の体重減少が認められた。この結果は、CagriSemaがGLP-1受容体作動薬を含めた抗肥満薬のなかでは最も強力であることを示している。有害事象もcagrilintideとセマグルチド単剤と同様に消化器症状が中心であり、CagriSemaによる新たな有害事象は認められなかった。唯一の懸念材料はCagriSema群で2例の死亡があり、そのうち1例が自殺とされている点である。 わが国では現在セマグルチド(商品名:ウゴービ)およびチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)が抗肥満薬として使用可能である。随時服用可能な経口GLP-1受容体作動薬であるorforglipronも近々抗肥満薬として承認申請予定であり、GIP/GLP-1/Glucagonのトリプルアゴニストであるretatrutideも抗肥満薬として遠からず申請されると思われる。まさに抗肥満薬の百花繚乱時代であるが、専門医としては体重減少の先にある臨床アウトカムの改善を見据えて、適切な薬剤を適切な患者に選択するという基本を忘れてはならない。

10.

2型糖尿病治療薬、国際的持続評価システムの最新結果/BMJ

 中国・四川大学のKailei Nong氏らは、2型糖尿病治療薬の無作為化比較試験についてリビングシステマティックレビュー(living systematic review:LSR)とネットワークメタ解析(NMA)を用いて評価するシステムを開発。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)、フィネレノンおよびチルゼパチドは、死亡、心血管疾患、慢性腎臓病および体重減少に関してリスク依存的に異なる有益性をもたらすが、薬剤特有の有害事象があることを明らかにした。著者は、「本評価システムは、最新のエビデンスを随時統合できるよう設計されている。エビデンスを持続的に更新する国際的なシステムとして、政策立案者、臨床医および患者の情報に基づく意思決定を支援し、研究の無駄を減らす可能性がある」と述べている。BMJ誌2025年8月14日号掲載の報告。869試験、49万3,168例のデータを解析 研究グループは、MedlineおよびEmbaseを用い、2型糖尿病治療薬を相互に、またはプラセボあるいは標準治療と比較した24週以上の無作為化並行群間比較試験について、毎月検索を実施し(本報告では2024年7月31日までの検索を対象)、頻度(frequentist)ランダム効果モデルとGRADEアプローチを用いたLSRおよびNMAを行った。 LSRとNMAは、少なくとも年2回更新。本報告のLSRとNMAには、869試験(2022年10月以降に53試験を追加)の計49万3,168例の患者が含まれ、13の薬剤クラス(63種類の薬剤)と26の重要なアウトカムに関するデータが報告された。薬剤ごとに有益性が異なり、薬剤特有の有害事象も確認 有益性は、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、およびフィネレノン(慢性腎臓病を有する患者に限る)について、心血管および腎臓へのベネフィットが確認された(エビデンスの確実性:中~高)。 体重減少に最も有効な薬剤は、チルゼパチド(平均差[MD]:-8.63kg[95%信頼区間[CI]:-9.34~-7.93]、エビデンスの確実性:中)、およびorforglipron(-7.87kg[-10.24~-5.50]、エビデンスの確実性:低)の順で、次いで他の8種類のGLP-1受容体作動薬(エビデンスの確実性:高~中)であった。 薬剤の絶対的有益性は、心血管および腎アウトカムに対するベースラインのリスクによって大きく異なっていた。リスク層別化された薬剤の絶対効果は、インタラクティブツールにまとめている。 薬剤特有の有害事象については、SGLT2阻害薬は性器感染症(オッズ比[OR]:3.29[95%CI:2.88~3.77]、エビデンスの確実性:高)、糖尿病性ケトアシドーシス(2.08[1.45~2.99]、エビデンスの確実性:高)、切断(1.27[1.01~1.61]、エビデンスの確実性:中)を、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬は重度胃腸障害(チルゼパチドで最もリスクが増加、OR:4.21[95%CI:1.87~9.49]、エビデンスの確実性:中)、フィネレノンは重度高カリウム血症(OR:5.92[95%CI:3.02~11.62]、エビデンスの確実性:高)を、チアゾリジン系薬剤は主要な骨粗鬆症性骨折および心不全による入院、スルホニル尿素薬とインスリンおよびDPP-4阻害薬は重度低血糖のリスクをそれぞれ増加させる可能性が示された。 神経障害や視覚障害などその他の糖尿病関連合併症に対する効果については、エビデンスの確実性が低または非常に低の結果しか得られなかった。また、関心が高い認知症に関しても、GLP-1受容体作動薬が認知症を軽減するかどうかは不確実であった(OR:0.92[95%CI:0.83~1.02]、エビデンスの確実性:低)。

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高齢者の内服薬がわからないとき、避難所の医師が迫られる判断【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第4回

災害現場の声「薬を自宅に忘れた、どうすれば?」大規模災害発生から2日目。避難所では、生活環境が破壊され、多くの高齢者が「普段飲んでいる薬がない」と訴えていました。お薬手帳もなく、内服薬の種類も不明。病院も被災し、通常受診は困難です。被災者からは「せめて、普段飲んでいる薬を少しでも欲しい」と切実な声が聞かれました。近年、大規模地震や水害など、インフラが寸断される自然災害が頻発しています。こうした災害時には医薬品の供給が滞り、とくに高齢者は被災ストレスに加え、普段から内服する薬を失うことで健康被害のリスクと不安が著しく高まります。このような切迫した状況下で、医療者はどう対応すべきなのか、以下に対応例と、その際に知っておくと役立つかもしれない内容を解説します。実際にどう対応したか? 限られた情報で判断高齢者の多くは慢性疾患を抱え、日常的な内服薬が必要ですが、大規模災害発生時には、避難するのが精一杯で、内服薬を持参する余裕がなく、自宅に忘れることがあります。実際の現場では、電子お薬手帳を使いこなす高齢者はまれで、紙のお薬手帳なしでは飲んでいる薬剤名を特定することが困難です。こうした被災者の状況を理解し、「薬がないので、薬が欲しい」という訴えに対応するため、内服薬の特定と代替薬の検討を進める必要があります。お薬手帳や口頭で薬剤名が特定できれば代替薬の調整は容易ですし、内服薬が不明でも、既往症が判明した場合(高血圧、糖尿病、心疾患など)、応急的に代替薬を提供することができます。しかし、内服薬・既往症ともに不明なことが大半です。糖尿病や高血圧の既往、ステロイド服用などは生命に直結する可能性もあるため、かかりつけ医に連絡を取るなど、情報を得る努力が必要です。災害時特有のストレスによるリスクと薬剤選択の原則災害時には、薬の中断により急性増悪のリスクがあることに加え、災害時特有のストレスが加わるため、いくつかの注意点があります。循環器系疾患では、災害発生後には急性心不全やたこつぼ型心筋症など、交感神経の活性化によるストレス誘発性の疾患が増加します1~3)。また、糖尿病患者においては、米国での2005年のハリケーン・カトリーナ後の調査でHbA1c上昇が報告されており4)、避難所の炭水化物中心の食事により高血糖が起こりやすくなることが指摘されています。さらに、食欲低下によるシックデイも想定され、血糖管理には注意が必要です5,6)。次に、災害時の薬剤選択も重要です。処方や在庫、服薬管理の煩雑化を防ぐため、可能な限り単純な治療計画を立て、多剤併用を避ける必要があります。長時間作用型で安全性の高い薬を選ぶことも重要です。たとえば高血圧に対しては、頻回服薬が困難な避難所環境に適した、長時間作用型カルシウム拮抗薬が有用です。そして、物資が限られる中では、「少ない薬で最大の効果を狙う」処方が求められるため、薬剤の種類は絞り、個別の患者状態を見ながら調整が必要です。災害時の慢性疾患管理、限られた状況下での判断力と実践力災害時の慢性疾患管理は、日本に限らず世界的にも共通の課題です。薬を忘れて避難した高齢者への対応は、災害発生後の緊急状況における医療者の判断と具体的な行動が重要になります。災害時には物資の供給が滞るため、薬剤不足は命に直結するリスクがあることを留意しておく必要があります。だからこそ、限られた資源の中で最大限の対応ができるよう、目の前の患者から得られる情報に基づき、迅速かつ実践的な判断を下す能力が、災害対応を担う医療者には不可欠です。日常から、外来に通う患者さんには、お薬手帳と内服薬は災害時に必ず一緒に持って避難するように指導し、可能ならば数日分の備蓄を避難用バッグに入れておくように勧めるのもよいでしょう。 1) 循環器病研究振興財団. 災害時における循環器病~エコノミークラス症候群とたこつぼ心筋症~. 2) 坂田泰彦, 下川宏明. 災害と心不全. 心臓. 2014;46:550-555. 3) Babaie J, et al. Cardiovascular Diseases in Natural Disasters; a Systematic Review. Arch Acad Emerg Med. 2021;9:e36. 4) Fonseca VA, et al. Impact of a natural disaster on diabetes: exacerbation of disparities and long-term consequences. Diabetes Care. 2009;32:1632-1638. 5) 日本糖尿病教育・看護学会. 改訂版 災害時の糖尿病看護マニュアル. 2020年. 6) 日本糖尿病協会. インスリンが必要な糖尿病患者さんのための災害時サポートマニュアル. 2012年.

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1型糖尿病への同種β細胞移植、拒絶反応なく生着/NEJM

 同種細胞移植では、術後に免疫系の抑制を要するが、これにはさまざまな副作用が伴う。スウェーデン・ウプサラ大学のPer-Ola Carlsson氏らの研究チームは、拒絶反応を回避するよう遺伝子編集されたヒト低免疫化プラットフォーム(hypoimmune platform:HIP)膵島細胞製剤(UP421)を、罹病期間が長期に及ぶ1型糖尿病患者の前腕の筋肉に移植した。免疫抑制薬は投与しなかったが、12週の時点で拒絶反応は発現しなかった。本研究は、Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustの助成を受けて行われ、NEJM誌オンライン版2025年8月4日号で報告された。症例:罹病期間37年の42歳・男性 本研究は、UP421(遺伝子編集ヒトHIP膵島細胞製剤)の安全性と有効性の評価を目的とする研究者主導の非盲検first-in-human研究である。対象は1例のみで、症例の追加登録はしなかった。 患者は、1型糖尿病の罹病期間が37年に達する42歳の男性であった。ベースラインの糖化ヘモグロビン値は10.9%(96mmol/mol)、内因性インスリンの産生は検出限界未満(Cペプチドは測定不能)であり、疾患の自己免疫性の指標となるグルタミン酸脱炭酸酵素と膵島抗原2自己抗体は検出可能であった。被験者は、1日32単位のインスリンの連日投与を受けていた。B2M遺伝子とCIITA遺伝子を不活化、CD47相補的DNAを導入 糖化ヘモグロビン値6.0%(42mmol/mol)の60歳のドナーから血液型O型適合膵臓を得た。拒絶反応を回避するための遺伝子編集として、ヌクレアーゼCas12b(CRISPR-CRISPR関連タンパク質12b)とガイドRNAを用いてドナー膵島細胞のB2M遺伝子(HLAクラスIの構成要素をコード)とCIITA遺伝子(HLAクラスIIの転写のマスターレギュレータをコード)を不活化した後、CD47の相補的DNAを含むレンチウイルスベクターを導入した。 最終的な細胞製剤(UP421)には次の3種類の細胞が含まれた。(1)CD47が高発現しHLAが完全に除去されたHIP膵島細胞、(2)CD47が内因性CD47の水準を保持したHLAクラスIおよびIIダブルノックアウト細胞、(3)CD47レベルが変動しHLAの発現が保持された膵島細胞(野生型)。また、この研究で使用された膵島細胞の約66%はβ細胞だった。 全身麻酔下に、被験者の左腕橈骨筋の部分の皮膚を切開し、合計7,960万個のHIP膵島細胞を17回に分けて筋肉内に注入、移植した。被験者は合併症の観察のため一晩入院し、翌日退院した。グルココルチコイド、抗炎症薬、免疫抑制薬の投与は行わなかった。HIP膵島細胞への免疫反応や試験薬関連有害事象はない 野生型細胞とダブルノックアウト細胞に対する免疫反応が継続している間も、HIP膵島細胞は被験者の免疫細胞によって殺傷されず、抗体の誘導も認めなかった。また、被験者の末梢血単核細胞(PBMC)や血清(抗体、補体を含む)と混ざり合っても、HIP膵島細胞はあらゆる免疫コンポーネントから逃れ、生存した。したがって、研究期間中に、HIP膵島細胞を標的とした免疫反応は発現しなかった。 移植後12週の時点で、糖化ヘモグロビン値が約42%低下した。これは、おそらく外因性インスリンへの反応と考えられた。また、4週目および8週目のMRI検査で、膵島移植片の残存が確認された。 12週時にも遺伝子編集細胞に対する拒絶反応はみられず、Cペプチド測定では安定したグルコース反応性のインスリン分泌を認めた。被験者の容体は良好で、有害事象は4件発現したが、重篤なものはなく、試験薬との関連もなかった。 著者は、「早期の移植片機能は長期的な臨床アウトカムと関連するとの報告があり、これを考慮すると、今回の研究結果は有望と考えられる」「同種移植における免疫寛容の誘導は、長らく困難な探求の対象とされてきた。本研究は予備的なものではあるが、免疫回避は同種拒絶反応を避けるための新たな考え方となる可能性を示唆する」としている。

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インスリン点鼻スプレー、アルツハイマー治療に新アプローチ

 点鼻スプレーによるインスリンの投与が、アルツハイマー病の治療法の一つになる可能性のあることが、新たな研究で示された。小規模な高齢者の集団において、点鼻スプレーで投与されたインスリンが、脳内の記憶に関わる重要な領域に到達したことが確認されたという。米ウェイクフォレスト大学医学部老年医学教授のSuzanne Craft氏らによるこの研究の詳細は、「Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions」に7月23日掲載された。 ホルモンの一種であるインスリンは脳の働きを増強する可能性があることから、アルツハイマー病の新たな治療法として使える可能性が注目されている。Craft氏らによると、インスリン抵抗性はアルツハイマー病の既知のリスク因子でもあるという。しかしこれまでの研究では、鼻から投与されたインスリンが本当に脳の標的領域に到達しているのか確認できていなかった。 そこでCraft氏らは、平均年齢72歳の高齢者16人を対象に、点鼻インスリン投与後に脳のPET検査を行った。参加者のうち7人は認知機能が正常で、9人に軽度認知障害があった。脳PETを撮像後に全身PET/CT撮像も行った。これらの画像と、さらに研究参加から1年以内に実施された脳MRI画像を統合することで、インスリンの脳内取り込み量(SUV)およびその時間変化(動的SUV)を解析した。 その結果、インスリン投与後40分間は、海馬、扁桃体、側頭葉、嗅皮質など、記憶や思考に関係する重要な11の脳領域でインスリンのSUVが増加していることが明らかになった。また、認知機能が正常な人では軽度認知障害がある人と比べて、インスリンのSUVが高い傾向が認められた。さらに、アルツハイマー病リスクの指標であるアミロイドβのマーカーが高値の人では、複数の脳領域でSUVが低下していた。点鼻スプレーを使用し、脳の検査を受けた後に軽度の頭痛を報告した参加者が2人いたが、全体的に治療の忍容性は良好であることも示された。 Craft氏は、「この研究によって、点鼻投与されたインスリンがどのように脳に到達するのかについて解明されていなかった重要な点が明らかになった」とウェイクフォレスト大学のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「われわれは、薬が実際に脳の標的領域に届いていることを示す直接的な証拠を必要としていた。予想外だったのは、軽度認知障害のある人ではインスリンの吸収のされ方が異なっていたことだ。われわれは今までのように手探りで進んでいるわけではない。脳への明確な“道筋”が手に入ったのだ」と付言している。 Craft氏はまた、「脳疾患の治療薬を開発する上での最大の課題の一つは、薬を脳に届ける方法だ。今回の研究では、経鼻デリバリーシステム(薬剤送達システム)を効率的に検証できることを示すことができた。これは治験を開始する前の重要なステップになる」と強調している。なお、この点鼻スプレーを使った感想について、参加者は「驚くほど簡単だった」と話したという。 Craft氏らは、今後1〜2年以内に脳へのインスリン送達に影響を与える可能性のある血管の健康状態やアミロイドβの蓄積、性差といった他の要因を調べることを目的とした、より大規模な研究を計画している。同氏は、「まだ解明すべきことは多く残されているが、今回の研究によって経鼻投与による脳への薬剤送達を検証するためのツールを手に入れることができた。これは、アルツハイマー病に対する、より効果的でアクセスしやすい治療法の開発において、有望なニュースだ」と述べている。

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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週1回投与のinsulin efsitoraはインスリン頻回注射療法中の2型糖尿病患者においても有効である(解説:住谷哲氏)

 BantingとBestによってインスリンが発見されたのは1921年である。翌1922年にイーライリリー社がブタ膵臓の抽出物からインスリンの製剤化に成功し、その翌年には大量生産にも成功して「アイレチン(Iletin)」として販売を開始した。販売当初は力価も安定せず不純物も多かったが、その後の種々の改良により現在のレギュラーインスリンが市場に登場した。その後の100年間はレギュラーインスリン改良の歴史であるが、1つの方向はブタインスリンからヒトインスリンへの変換であり、いまひとつはその作用時間の延長であった。 レギュラーインスリンの作用時間は約6時間と短く、インスリン分泌の枯渇している1型糖尿病患者では1日数回の注射が必要になる。その後の改良により中間型インスリン、持効型インスリンと作用時間が延長し、現在は週1回投与可能なインスリンアナログであるアウィクリ(一般名:インスリン イコデク)が使用可能である。ノボ ノルディスク社のアウィクリに対して、イーライリリー社が開発しているのが本試験で用いられたinsulin efsitora alfa(以下efsitora)である。 QWINT試験はefsitoraの臨床開発プログラムであり、QWINT-1~5の5試験が実施され結果はすべて論文化されている1-4)。ちなみにQWINTはQW(quaque week, once-weekly)insulin therapyの略である。本試験QWINT-4はインスリン頻回注射療法を受けている2型糖尿病患者を対象としている。基礎インスリンをグラルギンU-100とefsitoraとに無作為化し、食事インスリン(prandial insulin)は両群ともリスプロを用いた。主要評価項目は26週後のHbA1c変化量であり、efsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性を検証した。結果はefsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性が証明された。 筆者も週1回投与のインスリンアナログであるアウィクリを使用しているが、現時点ではインスリンを毎日投与することが不可能な患者に限定されている。やはりシックデイへの対応が困難である点がその理由の1つである。しかし日常臨床では毎日の注射は不可能であり、週1回投与のGLP-1受容体作動薬投与でもコントロールが不良でインスリン投与が必要な患者、フレイルがありGLP-1受容体作動薬ではなくインスリン投与が適切な患者が一定数存在している。これらの患者に対する週1回投与のインスリンアナログの有用性を評価する試験が実施されることが望まれる。

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セマグルチドやペムブロリズマブなど、重大な副作用追加/厚労省

 厚生労働省は7月30日、セマグルチドやペムブロリズマブなどに対して、添付文書の改訂指示を発出。該当医薬品の添付文書の副作用の項に、重大な副作用が追記されることとなった。 該当医薬品と改訂内容は以下のとおり。GLP-1受容体作動薬:セマグルチド(商品名:ウゴービ、オゼンピック、リベルサス)GIP/GLP-1受容体作動薬:チルゼパチド(同:マンジャロ、ゼップバウンド)インスリン/GLP-1受容体作動薬配合薬:インスリン グラルギン/リキシセナチド(同:ソリクア配合注ソロスター) イレウス関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「イレウス」(腸閉塞を含むイレウスを起こすおそれがある。高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと)を追記。また、合併症・既往歴等のある患者の項に「腹部手術の既往又はイレウスの既往のある患者」を追記した。抗PD-1抗体:ペムブロリズマブ(同:キイトルーダ) 血管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「血管炎」(大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎[ANCA関連血管炎、IgA血管炎を含む]があらわれることがある)を追記した。抗PD-L1抗体:アベルマブ(同:バベンチオ) 硬化性胆管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に「硬化性胆管炎」を追記した。また、重要な基本的注意の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に関する記載に「硬化性胆管炎」に関する注意を追記した。チロシンキナーゼ阻害薬:アファチニブマレイン酸塩(同:ジオトリフ)抗エストロゲン薬:フルベストラント(同:フェソロデックス) 各製剤においてアナフィラキシー関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「アナフィラキシー」を追記した。キナーゼ阻害薬:スニチニブリンゴ酸塩(同:スーテント) 高アンモニア血症関連症例を評価、専門委員の意見も聴取した結果、肝機能異常を伴わずに発現する高アンモニア血症の症例が認められ、本剤との因果関係が否定できない症例が集積したことから、重大な副作用の項に「高アンモニア血症」を追記した。

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2型糖尿病に対する週1回インスリン製剤の検討 (解説:小川大輔氏)

 週1回投与のインスリン製剤インスリン イコデクが2025年1月に発売され、現在日本で使用されている。これとは別の週1回注射のinsulin efsitora alfa(efsitora)の2型糖尿病患者を対象とした第III相試験の結果が発表された1)。これまでにインスリン治療を行ったことのない2型糖尿病患者において、1日1回投与のインスリン グラルギンと比較し、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の改善について非劣性であることが確認された。 インスリン治療歴のない成人2型糖尿病患者795例を、efsitoraを週1回投与する群とインスリン グラルギンを1日1回投与する群に無作為に割り付け、52週間投与した。その結果、ベースラインから52週目までのHbA1cの変化量は両群に差がなく、efsitoraのグラルギンに対する非劣性が確認されたが、優越性は認められなかった。 efsitoraの第III相試験(QWINT)は5つの試験から構成されている。QWINT-1~4は2型糖尿病、QWINT-5は1型糖尿病を対象とした臨床試験である。QWINT-1と2はインスリン治療歴のない2型糖尿病患者、QWINT-3と4はインスリン治療歴のある2型糖尿病患者を対象としている。今回発表された論文はQWINT-1で、対照薬がインスリン グラルギンであるのに対し、昨年発表されたQWINT-22)は対照薬がインスリン デグルデクという違いがある。 1型糖尿病患者を対象としたQWINT-5では、1日1回投与のインスリン デグルデクと比較し、重症低血糖の頻度はむしろ増えることが示されたが3)、今回の試験では対象が2型糖尿病患者という違いもあり重症低血糖の発現頻度は低かった。週1回投与のインスリン イコデクは日本で上市されてから日が浅く、efsitoraはまだ承認されていない。週1回投与のインスリン製剤は患者の負担を軽減することが期待されており、効果的な使用方法など実臨床でのエビデンスの集積を待ちたい。

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非HIVニューモシスチス肺炎、全身性ステロイドの有用性は?

 非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎は、死亡率が30~50%と高く予後不良である。HIV患者のニューモシスチス肺炎では、全身性ステロイドが有効とされるが、非HIV患者における有用性は明らかになっていない。そこで、フランス・Hopital Saint-LouisのVirginie Lemiale氏らの研究グループは、非HIVニューモシスチス肺炎に対する早期の全身性ステロイド追加の有用性を検討する無作為化比較試験を実施した。その結果、主要評価項目である28日死亡率に有意な改善はみられなかったものの、90日死亡率や侵襲的機械換気の使用率が低下した。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年7月10日号に掲載された。 本試験は、フランスの27施設で実施された。対象は、急性呼吸不全を呈する18歳以上の非HIVニューモシスチス肺炎患者で、すでに抗菌薬による治療が開始されており、その治療期間が7日未満であった226例とした。対象患者を、メチルプレドニゾロンを21日間投与する群(ステロイド群:112例)、プラセボを投与する群(プラセボ群:114例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。ステロイド群は、1~5日目はメチルプレドニゾロン30mgを1日2回、6~10日目は30mgを1日1回、11~21日目は20mgを1日1回投与した。主要評価項目は28日死亡率とし、副次評価項目は90日死亡率、侵襲的機械換気の使用、安全性などとした。解析対象はITT集団(ステロイド群107例、プラセボ群111例)とした。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である28日死亡率は、ステロイド群21.5%、プラセボ群32.4%であったが、両群間に有意差はみられなかった(群間差:10.9%、95%信頼区間[CI]:-0.9~22.5、p=0.069)。・90日死亡率は、ステロイド群28.0%、プラセボ群43.2%であり、ステロイド群が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.37~0.93、p=0.022)。・無作為化時点で非挿管であった患者のうち、28日以内に侵襲的機械換気を要したのは、ステロイド群10.1%、プラセボ群26.1%であり、ステロイド群が有意に低かった(HR:0.36、95%CI:0.14~0.90、p=0.020)。・2次感染(ステロイド群23.4%、プラセボ群34.2%)やインスリン需要増加(30.8%、22.5%)などの有害事象の発現率に、両群間で有意差は認められなかった。 著者らは「非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎に対する全身性ステロイドの追加により、28日死亡率の有意な改善は得られなかったが、有害事象の増加はみられず、90日死亡率や侵襲的機械換気の使用を低下させたことから、有用性が示唆された。全身性ステロイドの追加によってベネフィットが得られる集団や、最適な治療期間を明らかにするために、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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ダイエット飲料より水の方が血糖・体重管理に有利

 体重を減らして血糖コントロールを良好にしたいなら、ダイエット飲料ではなく、水を飲むべきかもしれない。米国糖尿病学会学術集会(ADA2025、6月20~23日、シカゴ)で発表された小規模な研究の結果であり、水を飲むように割り当てられた女性はダイエット飲料を飲むように割り当てられた女性よりも、体重が大きく減り、糖尿病が寛解した患者も多かったという。主任研究者であり、糖尿病治療サポートツールなどを手掛けるD2Type Health社のCEOであるHamid Farshchi氏は、「われわれの研究結果は、ダイエット飲料は体重や血糖値の管理に悪影響を及ぼさないとする、これまでの米国での一般的な考え方に疑問を投げかけるものだ」と述べている。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国人の約5人に1人が毎日ダイエット飲料を飲んでいるという。ダイエット飲料はカロリーについてはほぼゼロだが、本研究の発表者らは、健康への影響という点ではゼロとは言えない可能性があることを、研究の背景として指摘している。例えば、2023年7月に「Diabetes Care」誌に掲載された研究によると、人工甘味料を多く摂取している人は2型糖尿病を発症する可能性の高いことが明らかにされている。その論文の著者らは、人工甘味料が糖や脂質の代謝を妨げたり、腸内細菌叢を変化させたり、食欲を刺激したりする可能性があると推測していた。 今回報告された研究の対象は、過体重で2型糖尿病の女性81人。その半数は週に5回、昼食後に水を飲む群、残りの半数は水ではなくダイエット飲料を飲む群に割り当てられ、6カ月間の減量プログラムと、その後1年間の体重維持プログラムに参加した。 介入終了時点で、水を飲んだ群の女性は体重が6.82±2.73kg減少していたのに対して、ダイエット飲料を飲んだ群の女性の減量幅は4.85±2.07kgと有意に少なかった(P<0.001)。さらに、水を飲んだ群の女性の90%が糖尿病の寛解を達成したのに対し、ダイエット飲料を飲んだ群でのその割合は45%にとどまっていた(P<0.0001)。また、インスリン抵抗性や中性脂肪などの検査値も、水を飲んだ群では有意に改善していた。 Farshchi氏は、「水を飲むように割り当てられた女性の大半が、糖尿病の寛解を達成した。この結果は、血糖値と体重を効果的に管理しようとする場合、甘味飲料の代わりにダイエット飲料を飲むのではなく、水を摂取することの重要性を浮き彫りにしている。わずかな行動変化であっても、長期的には健康状態に大きな差を生む可能性がある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第275回 食べても太らない体が脂肪細胞の一工夫で可能になるかも

食べても太らない体が脂肪細胞の一工夫で可能になるかも飽食の時代にあって食べ過ぎないようにすることは至難の業で、いまや世界の8人に1人ほどが肥満と推定されています1)。いっそのこと、いくら食べても太らない体になりたいと思ったことがある人は少なくないでしょう。そんな夢のような体になることが、FGF21というタンパク質を作るように脂肪細胞をあつらえる治療でやがては可能になるかもしれません。内分泌ホルモンとしてのFGF21は、細胞へのさまざまな負荷に応じて主に肝細胞から分泌されて全身を巡ります。FGF21は2型糖尿病や脂肪肝などの代謝疾患への有望な効果が示されていることから、治療薬としてかなり期待されています。FGF21の信号はFGF受容体1c(FGFR1c)とβ-Klothoが組み合わさったヘテロ二量体受容体を介して伝わります。FGFR1cは体中の組織で広く発現します。一方、FGFR1cと対を成すβ-Klothoの発現は主に脳、肝臓、脂肪組織に限られ、それらの組織がFGF21の主な職場のようです。実際、体内を巡るFGF21の中枢神経系(CNS)や脂肪組織での作用は、エネルギー消費の向上やインスリン感受性の改善に不可欠なことがマウスでの検討で示されています。また、FGF21が老化関連経路を繕う効果の裏付けは膨大で、それゆえFGF21は長寿促進ホルモン(pro-longevity hormone)とも呼ばれます。たとえば肝臓でFGF21を発現し続けるようにしたマウスがより長生きになることが示されています。どうやらFGF21は飢えへの順応に携わるさまざまな反応に貢献して長生きできるようにします。飢えへの順応はより長生きになることと関連することが知られており、FGF21を省くとタンパク質制限食の寿命延長効果が失われます。世界のほとんどの人々の代謝の老化が飢えとは対極の食べ過ぎ絡みであることを踏まえると、FGF21の肥満環境での役割を調べる価値は大きいようです。そこで米国のテキサス州の大学UT Southwestern Medical Centerの研究者らは、必要に応じて脂肪組織でFGF21を多く発現させることができるマウスを使い、現代人の食生活を模す高脂肪食の負荷の下での代謝や寿命へのFGF21の作用を調べました2,3)。そのマウスが成体期になってから脂肪細胞でのFGF21を増やしたところ、寿命がより長くなって2.2年ほどになりました。手を加えていない対照群マウスの寿命は1.8年ほどでした。加えて、FGF21発現マウスはどうやらエネルギー消費上昇のおかげで食べても太らない体になっており、体重をより増やした対照群マウスに比べて少食になってはいないのに痩身を維持しました。FGF21発現マウスは血糖制御、インスリン感受性、コレステロール値の改善も示しました。FGF21の増加は内蔵脂肪の炎症を防ぐ効果もあるらしく、炎症性の免疫細胞や炎症性の脂質のセラミドが内蔵脂肪に蓄積するのを防ぎました。成体期のFGF21を増やすことが健全な脂肪組織を醸成してセラミドを減らしてマウスが健康に歳を取ってより長生きできるようになることを示したそれらの結果は、寿命を延ばすのみならずより生きやすくもする治療を目指す取り組みの基礎となると著者は言っています。内臓脂肪組織狙いのFGF21遺伝子治療の代謝改善などの効果がマウスでの検討ですでに示されており4)、案外近い将来に臨床試験での検討が始まるかもしれません2)。 参考 1) One in eight people are now living with obesity / WHO 2) Gliniak CM, et al. Cell Metab. 2025;37:1547-1567. 3) Hormone may hold key to longer life, improved metabolic health / UT Southwestern Medical Center 4) Queen NJ, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2020;20:409-422.

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