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若年層での脳梗塞、意外な疾患がリスクに?

 片頭痛、静脈血栓、腎臓病や肝臓病、がんなどは、一般に脳梗塞リスクを高めるとは考えられていない。しかし、一般的な心臓の構造的異常を有する50歳未満の人においては、このような因子が脳梗塞リスクを2倍以上に高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)脳卒中ユニットの責任者であるJukka Putaala氏らによるこの研究の詳細は、「Stroke」に4月17日掲載された。 Putaala氏は、「われわれは、これまで脳梗塞のリスク因子と見なされていなかった因子(以下、非伝統的リスク因子)、特に片頭痛がもたらす影響に驚かされた。片頭痛は、若年成人の脳卒中発症の主なリスク因子の1つであると思われる」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、原因不明の脳梗塞である潜因性脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)を発症して間もない患者を対象に、修正可能な伝統的リスク因子、非伝統的リスク因子、および女性特有のリスク因子の影響の大きさと、それらと若年発症型CISとの関連を検討した。対象は、ヨーロッパの19施設の18〜49歳のCIS患者523人(平均年齢41歳、女性47.3%)と対照523人とした。CIS患者の37.5%には、卵円孔開存(PFO)が認められた。PFOは、胎児期に右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)に開いていた孔(卵円孔)が出生後も閉じずに残存している状態を指す。解析は、臨床的に意義のあるPFO(心房中隔瘤または大きな右左シャントを伴う場合と定義)の有無で層別化して行った。 伝統的なリスク因子としては、高血圧、糖尿病、高コレステロール、喫煙、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、不健康な食事、運動不足、大量飲酒、ストレス、うつ病の12項目、非伝統的なリスク因子としては、慢性的な他臓器不全(炎症性腸疾患、慢性腎臓病、慢性肝炎、自己免疫疾患、血液疾患/血栓傾向)、静脈血栓症の既往、悪性腫瘍の既往、前兆を伴う片頭痛、違法薬物の現在の使用の10項目、女性特有のリスク因子としては、妊娠糖尿病の既往、妊娠高血圧の既往、妊娠合併症の既往など5項目が検討された。 PFOのないCIS患者では、対照群に比べて、リスク因子が1つ増えるごとにCISリスクが有意に上昇していた。CIS発症リスクは、伝統的なリスク因子で約40%(オッズ比1.417、95%信頼区間1.282〜1.568)、非伝統的なリスク因子で約70%(同1.702、1.338〜2.164)、女性特有のリスク因子で約70%(同1.700、1.107〜2.611)高かった。一方、PFOのあるCIS患者では、非伝統的なリスク因子についてのみ有意なリスク上昇が見られ、リスク因子が1つ増えるごとのCISの発症リスクは165%(同2.656、2.036〜3.464)上昇していた。 さらに、人口寄与危険割合(PAR)を算出して、当該リスクがなければどの程度のCISを防げたかを推定したところ、PFOがないCISでは、伝統的リスク因子が64.7%、非伝統的リスク因子が26.5%、女性特有のリスク因子が18.9%のCIS発症に寄与していると推定された。一方、PFOがあるCISでは、それぞれ33.8%、49.4%、21.8%がCIS発症に寄与していると推定された。CISの最も強い寄与因子は前兆を伴う片頭痛であり、PFOありのCISの45.8%、PFOなしのCISの22.7%は前兆を伴う片頭痛により説明されると推定された。前兆を伴う片頭痛の影響は、特に女性で顕著であった。 Putaala氏は、「これらの結果は、医療専門家が、より個別化されたリスク評価と管理の方法を考えるべきであることを示している。また、若い女性には、片頭痛の既往歴やその他の非伝統的なリスク因子の有無について確認するべきだ」と述べている。

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キウイを毎日食べると心が健康になる

 キウイフルーツは身近なフルーツとして日常で食す機会も多い。では、このキウイフルーツの摂取は、われわれの健康にどのような影響を与えるのであろうか。オーストラリア・アデレード大学の心理学研究科のMichael Billows氏らの研究グループは、ビタミンCが豊富なキウイフルーツの摂取が、高度気分障害の人に対し心理的ウェルビーイングを改善するか検討した。その結果、キウイフルーツは、気分障害の軽減に潜在的に有益性があることが示唆された。この結果は、Nutrients誌2025年4月18日号に掲載された。4週間のキウイフルーツの摂取で気分障害が改善 研究グループは、軽度~中等度の気分障害を有する18~60歳の成人26例を無作為に割り付け、2週間の休薬期間を設けた。各4週間の期間中、参加者はキウイフルーツを1日2個、または通常の食事を摂取した。主要アウトカムは、キウイフルーツ摂取期間と通常食摂取期間との気分障害総スコアの平均変化とした。副次的アウトカムは、血中ビタミンC濃度、ウェルビーイング、活力、消化器症状。2期にわたり非盲検クロスオーバー試験を実施した。 主な結果は以下のとおり。・各スコアは、通常の食事と比較しキウイフルーツ摂取時のほうが有意に改善した。気分障害の総スコアは65.2%(p<0.001)、ウェルビーイングは10.5%(p<0.01)、活力は17.3%(p=0.001)改善した。 ・血中ビタミンC濃度は27.5%(p=0.002)改善し、消化器症状は16.2%(p=0.003)軽減した。・重篤な有害事象は認められなかった。 ・キウイフルーツの摂取により、気分障害の総スコアが有意に低下し、ウェルビーイング、活力、ビタミンC濃度が改善した。 ・消化器症状の重症度も有意に減少した。 これらの結果から研究グループは、「この結果は、成人集団におけるキウイフルーツの気分障害の軽減に対する潜在的な有益性の予備的証拠を提供するもので、臨床集団を含む多様なグループにおけるさらなる研究が必要」と結論付けている。

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第85回 健康寿命はどうやって算出する?【統計のそこが知りたい!】

第85回 健康寿命はどうやって算出する?近年、平均寿命の延伸だけでなく、「健康寿命」の重要性が増しています。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均を指し、生活の質(QOL)を考慮した指標」です。今回は、健康寿命が注目される背景、その算出方法と評価、延伸目標、日本の現状、そして、健康寿命に関する注意点について解説します。■なぜ健康寿命が注目されるのか平均寿命の延びは喜ばしいことですが、健康上の問題を抱えたまま長生きすることは、本人や家族、社会にとって大きな負担となります。そのため、健康で自立した生活を過ごすことができる期間、すなわち健康寿命を延ばすことが、近年、重要視されるようになりました。とくに、わが国が世界一の長寿国となった2000年以降、健康寿命の延伸が政府の主要な健康目標として掲げられています。■健康寿命の算出方法と評価わが国では、3年ごとに実施される「国民生活基礎調査」のデータを基に、健康寿命を算出しています。具体的には、以下の手順で行われます。1)健康状態の定義調査では、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問が行われます。「ない」と回答した人を「健康」とし、「ある」と回答した人を「不健康」と分類します。2)サリバン法(Sullivan法)による算出年齢別の死亡率と、各年齢層における「健康」と「不健康」の割合を組み合わせ、サリバン法という方法で健康寿命を計算します。これは各年齢層の「健康な人の定常人口*」を求め、それを基に健康寿命を導き出す方法です。*x歳における生存数Lx人について、これらのおのおのがx歳からx+n歳に達するまでの間に生存する年数の和、または、常に10万人の出生があって、こられの者が上記の死亡率に従って死亡すると仮定すると究極において一定の人口集団が得られるが、その集団のx歳以上x+n歳未満の人口を、年齢階級[x、x+n]における「定常人口」という。■サリバン法サリバン法では、以下の手順で健康寿命を算出します。(1)定常人口の仮定:毎年10万人が誕生し、年齢別の死亡率に従って死亡する定常人口を仮定します。(2)年齢別の健康割合の適用:各年齢層における「健康」と「不健康」の割合を、この定常人口に適用します。(3)健康な人の定常人口の算出:各年齢層で「健康」と分類された人々の数を合計し、「健康な人の定常人口」を求めます。(4)健康寿命の計算:「健康な人の定常人口」を10万で除し、健康寿命を算出します。この方法により、平均寿命と健康寿命を比較し、健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均を求めることができます。■健康寿命の延伸目標政府は、「健康日本21」の第2次や第3次の取り組みにおいて、健康寿命の延伸を主要な目標としています。具体的には、平均寿命と健康寿命の差を縮めること、すなわち不健康な期間を短縮することを目指しています。これにより、高齢者がより長く健康で自立した生活を過ごすことができる社会の実現を図っています。日本人の健康寿命の現状(2022年時点)ですが、2022年の日本人の健康寿命は、男性で72.57歳、女性で75.45歳と報告されています。これは、前回の2019年の調査と比較して、男性は短縮、女性は延伸していますが、いずれも統計的に有意な差ではありません。一方、平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳であり、健康寿命との差、すなわち日常生活に制限のある期間は、男性で約8.48年、女性で約11.64年となっています。■健康寿命の注意点健康寿命は有用な指標ですが、以下の点に注意が必要です。(1)主観的評価の影響:健康状態の自己申告に基づくため、個人の主観や認識の違いが結果に影響を与える可能性があります。(2)測定方法の限界:「健康」と「不健康」の定義が明確でない場合や、調査方法によっては結果が変動する可能性があります。(3)地域差の存在:地域や社会経済的要因によって、健康寿命に差異が生じることがあります。健康寿命の向上には、個人の健康管理だけでなく、社会全体での取り組みが求められています。政府は、「健康日本21」や「健康寿命延伸プラン」などの政策を通じて、国民の健康増進を推進しています。これらの取り組みは、生活習慣病の予防や高齢者の介護予防、地域社会での健康作り活動の推進など、多岐にわたります。たとえば、「健康寿命延伸プラン」では、2040年までに健康寿命を男女ともに2016年に比べて3年以上延伸し、75歳以上とすることを目指しています。この目標を達成するため、次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣の形成、疾病予防・重症化の予防、介護予防・フレイル対策、認知症予防の3分野を中心に取り組みを推進しています。また、地域レベルでの取り組みも重要です。各自治体は、地域の実情に応じた健康増進計画を策定し、住民の健康作りを支援しています。これには、健康教育や運動プログラムの提供、健康診断の推進などが含まれます。さらに、企業や団体も従業員の健康管理や職場環境の改善を通じて、健康寿命の延伸に寄与しています。健康経営の推進や職場での健康作り活動は、労働生産性の向上にもつながります。これらの多面的な取り組みを通じて、国民一人ひとりが健康で質の高い生活を過ごすことができる社会の実現を目指しています。健康寿命の延伸は、個人の幸福だけでなく、社会全体の持続可能性にも寄与する重要な課題です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?

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カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連

 アルツハイマー病は、世界的な健康問題として深刻化しており、疾患進行に影響を及ぼす可能性のある改善可能な生活習慣因子への関心が高まっている。この生活習慣因子の中でも、カフェイン摂取は潜在的な予防因子として期待されているものの、そのエビデンスは依然として複雑であり、完全に解明されていない。パキスタン・Rehman Medical InstituteのZarbakhta Ashfaq氏らは、カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連性についてのエビデンスをシステマティックにレビューし、評価した。Cureus誌2025年3月20日号の報告。 2024年10月までに公表された研究をPubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryなどの主要データベースより、包括的に検索した。ヒトを対象にカフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関係を検証した研究をレビューに含めた。品質評価では、観察研究にはニューカッスル・オタワ尺度、その他の研究には適切なツールを用いた。 主な内容は以下のとおり。・カフェイン摂取量が多い(1日当たり200mg超)場合と認知機能低下およびアルツハイマー病進行のリスク低下との間に一貫した関連性が示唆された。・血漿カフェイン濃度が1,200ng/ml超の場合、軽度認知障害(MCI)から認知症への移行リスクの低下と顕著な関連が認められた。・メンデルランダム化試験では、遺伝的に予測される血漿カフェイン高濃度がアルツハイマー病に対する保護作用を有することが示唆された。オッズ比は0.87(95%信頼区間:0.76〜1.00)であったが、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「全体として、現在のエビデンスは、とくにMCI患者において、適度なカフェイン摂取がアルツハイマー病への移行に対し保護的に働く可能性があることを示している。この関係は、用量依存的であると考えられ、遺伝的要因や摂取時期の影響も関係している可能性がある。適切なカフェイン摂取戦略を確立し、最も効果が得られる可能性の高い集団を特定するためにも、適切に設定されたプロスペクティブ研究や臨床試験などが必要であろう」としている。

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第262回 救急車利用で徴収されたケース、最も多い症状や年代は?

2024年2月、能登半島地震の関連取材で石川県小松市を訪れた時のことだ。小松駅のトイレに入ると妙な掲示が目についた。「救急車はタクシーではありません!」この後に以下のような記述が続いていた。「命にかかわる傷病者が救急車を待っています。このような症状での気軽な119番はお控えください。しゃっくりが止まらない歯が痛い蚊にさされた掲示の主は小松市消防本部である。この時は「そんなことで救急車を呼ぶ人がいるのか?」と驚き呆れたものだ。ここまでひどくはなくとも、従来から救急車による搬送事例に軽症者が多いことはよく知られている。総務省消防庁が先月発表した2024年度の「救急出動件数等(速報値)」1)によると、全国での救急車による救急出動件数は771万7,123件(対前年比1.0%増)、搬送された人の数は676万4,838人(同1.9%増)となり、いずれも1963年の集計開始以来、過去最高を記録した。これら搬送された人の受け入れ医療機関での傷病程度の判定結果では、軽症(外来診療)が316万7,205人で、搬送された人の約半数に当たる 46.8%を占めている。これらの人の多くは、救急車が出動する必要はなかったと言えるだろう。こうした必要性の低い救急搬送はリソースの無駄使いという問題とともに、医療機関の救急診療部門の疲弊によって救える命が救えなくなるという、より深刻な問題を引き起こす。こうした実情を受け、一部の自治体では緊急性が認められなかった救急搬送ケースで搬送された人から選定療養費を徴収するという動きも始まった。全国初のケースは三重県松坂市で、同市の地域医療支援病院である厚生連松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院に救急搬送され、入院に至らなかった軽症例では7,700円の選定療養費を徴収する制度を2024年6月1日からスタートした。また、都道府県単位では、茨城県が初めて2024年12月2日から県内の22病院に搬送された人のうち、救急車要請時に緊急性が認められなかったと判断された場合には選定療養費を徴収する制度を始めた。徴収される選定療養費は病院ごとに1,100~1万3,200円まで幅があり、22病院中18病院が7,700円。なお、最低の1,100円は白十字総合病院(神栖市)のみ、最高額の1万3,200円は特定機能病院でもある筑波大学附属病院(つくば市)。両地域の制度とも該当者から一律徴収するのではなく、現場で医師の判断に基づき徴収の是非が決定される。こうした制度の導入時に最も懸念されるのが、救急車の呼び控えによる重症化だ。こうした懸念に加え、制度導入が実際の軽症者の救急車の出動要請の抑制につながるかも注目されるところ。この点について、松坂市、茨城県がともに検証調査結果を発表している2)。茨城県の1回目の検証調査結果は3月末に発表されたばかり。そこで今回、茨城県の検証結果を概観してみた。徴収されたケース、患者の症状や年齢、搬送時間は?茨城県は緊急性の判断目安を「搬送後の入院の有無や軽症かどうかではなく、救急車要請時の緊急性が認められないと判断された場合」と定義している。たとえば、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時に改善し「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当し、徴収の対象とはならない。検証結果によると、制度導入から3ヵ月間(2024年12月〜2025年2月)に対象22病院が受け入れた救急搬送件数は2万2,362件。うち選定療養費が徴収されたのは全体の4.2%に当たる940件である。選定療養費が徴収された事例の主症状で最多は「風邪の症状」が8.8%(83件)、次いで「腹痛」が8.5%(80件)、「発熱」が7.2%(68件)、「打撲」が6.3%(59件)、「めまい・ふらつき」が5.6%(53件)など。検証期間中の1日(全時間帯)当たりの徴収件数は平日(月〜金)が9.6件、土日・祝日は12.3件で、休日に多い傾向が見られる。1時間刻みの時間帯別の徴収件数は平日が0.2~0.8件。最も多い0.8件は「22~23時」「0〜1時」の深夜帯。土日・祝日の場合は0.2~0.9件で、最多の0.9件は「15~16時」、これに次ぐ0.8件は「18~19時」、0.7件が「17~18時」「20~21時」「23~0時」で夕方から深夜にかけて多い傾向があった。年齢別の徴収率は、18歳未満が6.5%(徴収件数103件)、18歳以上65歳未満が6.6%(同408件)、65歳以上の高齢者が3.0%(同429件)。ちなみに18歳未満をより細分化すると、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)が6.2%(同56件)、少年(満7歳以上満18歳未満)が7.0%(同47件)だった。このことから、若年層や中年層が比較的軽症で救急車の出動要請をしている実態が浮かび上がる。一方、検証期間中の茨城県全体での救急搬送件数は3万8,041件で、前年同期比で0.5%減少。選定療養費徴収の対象22病院のみの救急搬送件数は前述のように2万2,188件だが、こちらも前年同期比1.6%減となり、搬送全体に占める22病院への救急搬送の割合の58.3% も前年同期比0.7%減となった。他県の救急搬送の状況は?ちなみに参考として近隣の福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の同時期の救急搬送件数を調査した結果では、対前年同期比で3.8〜8.6%増加していたという。また、検証期間中の県全体の救急搬送で「軽症等」*と判断されたものは1万6,162件で前年同期比9.2%減となった一方、「中等症以上」**は2万1,879件で前年同期比7.1%増。対象22病院での軽症等はこれら病院への救急搬送件数の38.7%に当たる8,577件で、この割合は前年同期比で5.3%も減少した。*総務省消防庁統計での「軽症(入院加療を必要とせず外来診療で対応可)」と「その他(医師の診断がないものなど)」の合計**「中等症(入院診療が必要なものの重症ではない)と「重症(3週間以上の入院加療が必要)」と「死亡」の合計結果を概観すると、茨城県の救急搬送での選定療養費制度導入は、救急搬送件数全体や軽症者の救急搬送件数の抑制に一定の効果があり、本当に緊急性の高いケースへの搬送集中が進んだ可能性が示唆される。運用は成功か、救急電話相談の導入も相まる茨城県の制度導入の効果は、今回の検証調査で明らかになった茨城県運営の救急電話相談(おとな:#7119、こども:#8000)の利用状況からもうかがえる。検証期間中の救急電話相談は3万8,493件あり、前年同期に比べ6.9%増。同時に応答率も前年同期の82.2%から92.1%にまで改善された。ちなみに応答率の改善について茨城県では今回の選定療養費徴収開始に合わせて回線数を増設した影響と分析している。前述の救急電話相談のうち救急車の要請を助言した割合は、おとな相談で前年同期の10.2%から16.4%に上昇した一方で、こども相談では4.9%から3.6%に微減。この実態は救急電話相談を経由して必要な場合のみ救急車を呼ぶ行動が定着しつつあると解釈できる。なお、選定療養費徴収制度の導入開始後1週間で、県民から「救急電話相談に電話したが繋がりづらい」という声が複数寄せられたことを受けて調査した結果、平日16時台の応答率が5割ほどに低下していたことが判明。茨城県は検証期間中の2024年12月12日から該当時間帯の回線数を従前の2回線から順次増設し、12月23日からは6回線に増設した。さらに時間帯別で土曜日の17時~24時台、平日の7時台~16時台に応答率が6割~7割ほどに低下したため、2025年1月14日からはこれら時間帯でも2回線を増設したという。茨城県保健医療部医療局医療政策課では、応答率は随時調査をしながら回線増設などの対応を現在も行っているとしている。そして最も懸念された救急車の呼び控えによる重症化ついては、県内の医療機関、消防本部などに該当事例があれば報告するように要請したものの、これまで報告はなかったという。また、制度開始後、県の医療政策課に寄せられた問い合わせ・意見は計91件。内訳は、「制度への質問」が最多の54件(59.3%)、「肯定的な意見」が7件(7.7%)、「否定的な意見」と「徴収に関する不満の申し立」が各6件(6.6%)、「その他(県への提案等)」が18件(19.8%)。徴収に対する不満の中には「救急電話相談から救急車を呼ぶよう助言されたが徴収された」という事例が報告されている。検証結果の報告書では、この件について「県が個別対応として、病院に事情を説明する対応を行った」と記述されていたが、同課に問い合わせたところ、この事例では患者が病院に救急電話相談で助言があった旨を伝えていなかったことが後に明らかとなり、病院が最終的に徴収した選定療養費の返金対応をしたという。今後、こうしたケースの対応について、同課では「救急電話相談で救急車要請があったことを最大限考慮して病院側が最終判断する」としている。概観すると、全体として制度自体は問題なく運用できていると映る。おそらく各自治体はこうした状況を横目で眺めていることだろう。個人的には今年度この動きが拡大していくか否か、また症例の蓄積により運用基準が今後変更されるかについて注目している。参考 1) 総務省:令和6年中の救急出動件数等(速報値) 2) 茨城県保健医療部:救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について (2024年12月~2025年2月)

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東北大学医学部 臨床腫瘍学分野【大学医局紹介~がん診療編】

川上 尚人 氏(教授)西條 憲 氏(講師)石川 史織 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴東北大学は、国際卓越研究大学として創薬を重点戦略に掲げており、腫瘍内科はその出口となる治療開発の最前線を担います。当科では「患者さんから教わり、学び、患者さんに還元する」をモットーに、がん診療に根ざした臨床的疑問を起点として、新たな治療法やエビデンスを創出できる腫瘍内科医の育成を目指しています。こうした目標のもと、当科では診療に加えて治験や特定臨床研究への関与を通じた実践的な学びを重視しています。とくに、専攻医の段階から症例報告や原著論文の執筆に取り組み、学会参加や発表を積極的に支援することで、将来の専門性・研究力へとつなげます。地域のがん診療における医局の役割宮城県内のすべてのがん診療連携拠点病院が当科の関連施設であり、診療と教育の両面で地域医療の中核的役割を果たしています。腫瘍救急、緩和ケア、ゲノム医療まで幅広い領域に対応できる環境が整っており、多様な臨床力を実地で身につけることができます。今後医局をどのように発展させていきたいか今後は、キャリア支援やメンター制度をさらに充実させていきます。一人ひとりの挑戦を後押しし、それぞれの強みが活かされる組織をつくることで、地域に根ざしながらも世界と勝負できる腫瘍内科医を輩出してまいります。同医局でのがん診療・研究のやりがいと魅力腫瘍内科医には、2つの重要な側面が求められます。進行がんの患者さんとそのご家族に寄り添う人間味あふれる臨床医としての側面と、病態や治療法について客観的かつ論理的に考察する科学者としての側面です。がん薬物療法の分野では、臨床と基礎研究が密接に連携しており、日々の診療で感じる課題や疑問が、研究の出発点となり、新たなシーズとなります。われわれは臨床と基礎の双方の視点から得られたデータをもとに、こうした課題の解決に取り組んでいます。このように、臨床医と科学者としての両側面が融合することが、腫瘍内科の大きな魅力です。そして、その視点を養うことは、医師としての視野を広げ、より高いレベルへと成長するための原動力となります。当科では、腫瘍内科医としての診療スキルはもちろんのこと、この多角的な視点を磨くことを重視しています。ともに世界に向けて、新たなエビデンスを発信していきましょう!力を入れている治療/研究テーマ当科では、多くの治験を含む臨床試験に参加しているほか、独自の特定臨床研究も展開しております。それだけでなく、新規バイオマーカー開発などのトランスレーショナル研究、そしてアンメットメディカルニーズに基づいたまったく新しい作用機序を持った新規抗がん薬開発の前臨床研究にも取り組んでいます。カンファレンスの様子これまでの経歴2020年に東北大学医学部を卒業後、宮城県の大崎市民病院で初期研修を2年間行いました。初期研修修了後に当科に入局し、大崎市民病院で1年半専攻医として診療に携わったのちに東北大学病院に戻ってきました。現在は内科専門研修プログラムを修了し、大学院生として研究を行っています。同医局を選んだ理由元々がんに興味があり医学部を志したこともあり、がん診療に携わることのできる科を希望していました。初期研修で腫瘍内科をローテートした際、積極的な化学療法のみならず、病棟での全身管理や緩和医療の大切さを学びました。そして双方が必要とされる腫瘍内科にやりがいを感じ、腫瘍内科を志望しました。私は岩手県出身であり、東北地方のがん診療を支えたいと思い、母校である東北大学の腫瘍内科への入局を決意しました。現在学んでいること大学院生として研究室に所属し、大腸がんの研究を行っています。データを用いた後方視的な臨床研究から細胞やマウスを用いた基礎研究まで、自分の興味に沿った幅広い研究ができるため非常に取り組み甲斐があります。学会発表や論文作成についても上級医の手厚い指導のおかげで多くの機会をいただきました。ぜひ「BedsideからBenchへ、BenchからBedsideへ」を掲げる腫瘍内科で、一緒にがん治療を発展させていきましょう!東北大学大学院医学系研究科・医学部 臨床腫瘍学分野住所〒980-8575 仙台市青葉区星陵町4-1問い合わせ先dco@grp.tohoku.ac.jp医局ホームページ東北大学大学院医学系研究科 臨床腫瘍学分野専門医取得実績のある学会日本内科学会(内科専門医、総合内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)日本がん治療認定医機構(がん治療認定医)研修プログラムの特徴(1)患者さん一人ひとりと向き合う、実践的な腫瘍内科研修固形がんを中心に、主治医グループの一員として実際の診療を担当し、知識・技術だけでなく「寄り添う力」を育てます。(2)臨床と研究を両立し、世界と戦える医師へ「BedsideからBenchへ、BenchからBedsideへ」の理念のもと、臨床経験を積みながら大学院での研究活動にも取り組み、医学の発展に貢献できる力を養います。(3)国内外で学びを深める、充実の学会支援制度若手医師の学会発表・国際交流を積極的に支援し、新たな知見を取り入れながら成長できる環境を整えています。詳細はこちら(初期研修/後期研修)

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β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

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気管内吸引前の生理食塩水注入は非推奨【論文から学ぶ看護の新常識】第14回

気管内吸引前の生理食塩水注入は非推奨Sun Ju Chang氏らの研究により、人工呼吸器装着患者への気管内吸引前の生理食塩水注入は、利点よりも有害な影響が上回る可能性が示唆された。Intensive and Critical Care Nursing誌2023年10月号に掲載された。集中治療室の人工呼吸器装着成人患者における気管吸引前の生理食塩水注入の利点と有害性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、人工呼吸器装着患者において、気管吸引前の生理食塩水注入が臨床的アウトカムに及ぼす影響を明らかにすることを目的として、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。関連文献の検索には6つの主要な論文データベースに加え、特定された研究の参考文献リストや過去のシステマティックレビューなども対象とし、最終的に16件の研究(ランダム化比較試験13件、準実験研究3件)が分析対象となった。データ分析には、ナラティブ・シンセシスとメタアナリシスの手法が用いられた。主な結果は以下の通り。ナラティブ・シンセシスの結果:気管内吸引前に生理食塩水を注入することは、酸素飽和度の低下、酸素飽和度が基準値(ベースライン)に回復するまでの時間の延長、動脈血pHの低下、分泌物量の増加、人工呼吸器関連肺炎の発生率の減少、心拍数の増加、および収縮期血圧の上昇と関連していた。メタアナリシスの結果:吸引後5分時点の心拍数に有意な差が認められたが、吸引後2分および5分の酸素飽和度、および吸引後2分の心拍数については有意差は認められなかった。本研究の結果から、気管内吸引前に生理食塩水を注入することは、利点よりも有害な影響が上回る可能性が示唆された。人工呼吸器管理中の成人患者に対する気管内吸引前の生理食塩水注入に関する最新のシステマティックレビューが発表されました。この研究では、生理食塩水注入の利点と害について包括的に検討しています。生理食塩水注入は、分泌物の粘性を下げ、咳嗽反射を刺激し、吸引量を増やすといった効果を期待して行われる手技です。海外では日常的に行われている施設もあるようです。しかし、今回の研究では、生理食塩水注入により酸素飽和度の低下、回復時間の延長、動脈血pHの低下、心拍数や収縮期血圧の上昇といった有害な影響が示唆されました。これらのエビデンスを踏まえて、臨床現場では生理食塩水注入の適応をより慎重に判断する必要があります。ルーチン手技として行うのではなく、個々の患者の状態に応じて必要性を評価し、選択的に実施することが望ましいでしょう。特に循環動態が不安定な患者や、酸素化が悪化しやすい患者には注意が必要です。気管内吸引の目的は、気道の開存性を維持し、肺コンプライアンスや酸素化を改善することです。しかし、同時に侵襲的な手技であり、合併症のリスクも伴うため理論や根拠をしっかり把握した上で実施する必要があります。日本では生理食塩水注入はあまり行われていませんが、海外ではローカルルールとして実施されている現状があるようです。しかし、ローカルルールに基づく医療行為は、最新エビデンスとの間に乖離が生じ、リスクが伴う可能性があります。今回の研究結果は、そうしたローカルルールの危険性を再考するきっかけにもなるでしょう。論文はこちらChang SJ, et al. Intensive Crit Care Nurs.2023;78:103477.

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急がば回れ。実習では手を抜かない【研修医ケンスケのM6カレンダー】第2回

急がば回れ。実習では手を抜かないさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年4月28日夜の21時、GWの休みに福岡へ帰省して、明日の日直に向けて名古屋へ戻る新幹線車内でカタカタしています。今年は飛び石連休のGW、皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は前回の皆さんのご感想、評価が気になってソワソワしています。5月にやるべきこと(イチゴ狩りの季節到来。先端が甘いので、ヘタの方から食べるのがマイルール)さて、5月ですが、4月に続いて講義や実習がある大学が多いと聞いています。この連載では国家試験対策を想定していますが、それまでの間に控えるマッチング、OSCE、卒業試験と、医学部6年生は忙しない毎日ですよね。私の出身大学も5月は臨床実習が普通に毎日ありましたが、よく「実習なんかやっている場合じゃない」「病院見学に行きたい」「国家試験対策に思うように身が入らない」といった声を耳にしたものです。先月は"走り出す準備"として"勉強会のすゝめ"をテーマに記しましたが、今月、5月にぜひ準備してほしいことは2つです。1.どうせやるなら実習はしっかりやる2.志望病院のマッチングに必要なものを揃え始める実習は国試対策に大いに役に立つおそらくこのタイトルを見た時に多くの方が「そりゃないでしょ」と感じると思います。しかし私はこの時期の実習こそ、しっかり臨むべきだと今日お伝えしたいです。そのワケとして強調したいのは「臨床現場の勘を養うことができるから」です。医師国家試験自体が、ペーパー試験なので、試験対策となるとデスクワーク中心になるのは当然です。実習だと机に向き合う時間がないから、試験対策が進まないと感じるのも無理ありません。しかし、ここ数年での医師国家試験、とくに臨床問題では判断力を問われる問題や臨床現場では常識と考えられている問題の出題が増えており、そのような問題こそ得点差がつく傾向にあります。「器具を問われる問題が出たから、実習をしっかり」と感じている教育担当の先生方のお心もお察ししますが、せいぜい出ても2問=2点ほどで、かなり運の要素が強いので、失ったとしても割り切ることができる内容だと私は思います。一方で、判断力や現場の常識を問うような問題は各ブロックで出題され得るため、総合力が合否を分ける医師国家試験では、その対策に時間をかけることに意義を見出すことができます。何より国家試験以上に、卒業試験での多くの学生が苦しむのがこのような問題ではないでしょうか。これらはただ過去問を演習しているだけでは十分な対策になりません。現場での判断力や現場の常識はやはり現場で学ぶのが自然で、最もコスパが良いです。(救急ローテにて。間近で見るドクターヘリってカッコいい!)各検査や治療の温度感を体感するでは具体的に実習では何に注目すべきなのか、が次に気になることと思います。それはズバリ「各検査や治療の温度感を体感する」です。よく試験の総評で「こんなの、いきなりやらないのにな」と耳にするのは、まさに受験生と現場の間での温度感のズレがあるからだと思います。私自身は5月に大学の救命救急センター(=3次救急)、7月に市中病院の救急外来(=2次救急)を実習させていただきました。1つの例だと私は実習を通して「気管挿管」に対する温度感がまるで変わりました。大学の救急に来るような症例は重症であることがほとんどで、挿管されている症例をたくさん学びました。ところが市中病院の2次救急のERでは挿管した症例には出合うことがありませんでした。医療圏ごとの事情はもちろんありますが、当時救命救急センターの実習では日課のように見ていた、あるいは選択肢の1つとしてよく見かけていた「気管挿管」が決して当たり前でないと気づいたのです。研修医や先生方からすると、上記の私のエピソードなんて鼻で笑うほどのことですが、本質的には同じような経験をされた学生は少なくはないはず。しっかり実習に取り組むことが一番の対策になります。実習で手を抜かないことはマッチングにも有利さて、国家試験対策の話をしてきましたが、実習での頑張りはマッチング、とくに人気市中病院での競争にも関わることがあります。6年生で実習に行く各病院には、皆さんが研修医になった時に一緒に働く未来の2年目の先輩方が揃っています。大学病院内はもちろん、関連の市中病院に実習に行く場合にも、そこには1つ上の先輩方がすでに働いています。実習は毎日病院見学をしているようなもので、1つ上の先輩方はどうしても「一緒に働きたいか」という目線で見てしまうものです。さらに不思議なもので、実習先で出会った先生が、実は志望する病院の研修医の同期や先輩後輩関係だった、なんてことがあるんです。「毎日、病院見学のような緊張感をもって」とまでは言いませんが、決して手抜きせず、そこで得られた信用がマッチングで有利に働くと信じて取り組みましょう!マッチングに必要な書類を整える(大学を出て見えた景色はとても新鮮でした!)マッチングの話題に触れましたが、6月にはマッチング登録が始まります。5月にもなれば志望病院もなんとなく定まっている方が多いはずですが、どの病院を受験するにしても採用に必要な書類があります。履歴書や小論文では、志望理由や自身の医療観を必ず書くことでしょう。病院ごとに表現を変える、視点を変えることは必要なことですが、自分の持つ軸があるはずです。「こんな研修生活を送りたい」「現状の医療に対してはこんなことを感じているから、将来的には…」など。これらは実際の書面に落とさずとも、何かに書き出して言語化することは始めておきましょう。必ず書く、あるいは発表することですし、取り組み始めることでマッチング対策の助走になります。何より自分の医療に対する価値観を見つめようという気持ちになります。そしてマッチングで一番初めにふるいにかけられるのは書類です。書類を提出して初めて採用試験の受験資格を得ることができます。つまり、律速段階、というわけです。早目に取り掛かることで「あー、やらなきゃな」というストレスから解放され、試験対策にもプライベートにも注力できます。今月のまとめいかがだったでしょうか。今月は実習では手を抜かず、マッチングの書類は早目に取り組むべし、というお話でした。5月の現在、2月の国家試験までは意外と時間があります。試験対策に焦りを感じること自体は悪いとは思いませんが、それ以上に注力することがあります。「急がば回れ」、まずは今だからこそ取り組むべきことをしっかりやれば大丈夫ですし、なんだかんだで早いです。次回もまたお楽しみに!

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青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾールの短期的有用性〜第III相試験

 青年期の統合失調症に対する現在の治療は、不十分であり、新たな治療オプションが求められている。米国・Otsuka Pharmaceutical Development & CommercializationのCaroline Ward氏らは、青年期統合失調症に対するブレクスピプラゾール治療の短期的有効性および安全性を評価するため、10ヵ国、62施設の外来診療における国際共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。The Lancet Psychiatry誌2025年5月号の報告。 同試験の対象は、DSM-5で統合失調症と診断され、スクリーニング時およびベースライン時に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)合計スコア80以上であった13〜17歳の患者。ブレクスピプラゾール群(2〜4mg/日)、プラセボ群、アリピプラゾール群(10〜20mg/日)のいずれかに1:1:1でランダムに割り付けられた。主要有効性エンドポイントは、PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの変化とした。安全性は無作為に割り付けられ、試験薬を1回以上投与された患者について評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・2017年6月29日〜2023年2月23日にスクリーニングされた376例のうち、316例がランダム化された。内訳は、ブレクスピプラゾール群110例、プラセボ群104例、アリピプラゾール群102例。・対象患者の平均年齢は、15.3±1.5歳。女性は166例(53%)、男性は150例(47%)。・米国国勢調査局分類による人種別では、白人204例(65%)、黒人またはアフリカ系米国人21例(7%)、アメリカ先住民またはアラスカ先住民7例(2%)、アジア人2例(1%)、その他81例(26%)。・最終診察時の平均投与量は、ブレクスピプラゾールで3.0±0.9mg、アリピプラゾールで13.9±4.7mgであった。・PANSS合計スコアのベースラインから6週目までの最小二乗平均値変化は、ブレクスピプラゾール群で−22.8±1.5、プラセボ群で−17.4±1.6(プラセボ群との最小二乗平均値差:−5.33、95%信頼区間[CI]:−9.55〜−1.10、p=0.014)であった。アリピプラゾール群は−24.0±1.6であり、プラセボ群との最小二乗平均値差は−6.53(95%CI:−10.8〜−2.21、p=0.0032、多重検定調整なし)であった。・治療中に発生した有害事象は、ブレクスピプラゾール群で44例(40%)、プラセボ群で42例(40%)、アリピプラゾール群で53例(52%)発現した。・発生率5%以上の有害事象は、ブレクスピプラゾール群では頭痛(7例)、悪心(7例)、アリピプラゾール群で傾眠(11例)、疲労(8例)、アカシジア(7例)。・重篤な有害事象は、ブレクスピプラゾール群で1例(1%)、プラセボ群で3例(3%)、アリピプラゾール群で1例(1%)報告された。・死亡例の報告はなかった。 著者らは「青年期統合失調症において、ブレクスピプラゾール2〜4mg/日は、プラセボと比較し、6週間にわたる症状重症度の大幅な改善に寄与することが示唆された。また、安全性プロファイルは、成人の場合と一致していた。これらの結果は、青年期統合失調症におけるブレクスピプラゾールに関するエビデンスのさらなる充実につながり、臨床現場における治療選択の参考となるであろう」と結論付けている。

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気候変動はアレルギー性鼻炎を悪化させる?

 アレルギー性鼻炎を持つ人にとって、春は、涙目、鼻づまり、絶え間ないくしゃみなどの症状に悩まされる季節だが、近年の地球温暖化はこのようなアレルギー性鼻炎を悪化させる可能性があるようだ。新たな研究で、気候変動が進むにつれ、花粉アレルギーのシーズンはいっそう長くなり、アレルギー性鼻炎の症状もより重症化することが予想された。米ジョージ・ワシントン大学医学部のAlisha Pershad氏らによるこの研究結果は、「The Laryngoscope」に4月9日掲載された。 気候変動が健康にもたらす悪影響は、世界的な問題として深刻化している。地球温暖化は炎症性上気道疾患、中でもアレルギー性鼻炎に影響を与えることが示されており、耳鼻咽喉科領域での影響は特に顕著である。このことを踏まえてPershad氏らは、データベースから選出した30件の研究結果のレビューを実施し、気候変動が世界の成人および小児におけるアレルギー性鼻炎にどのような影響を与え得るかを調査した。 30件の研究のうち16件では、気候変動に関連する花粉シーズンの延長と花粉濃度の上昇のいずれか、またはその両方について報告されていた。このうち、米国で実施された研究では、花粉シーズンが最大19日間長くなり、花粉の年間飛散量は16〜40%増加すると予測されていた。 本研究で判明したその他の主な結果は以下の通りである。・ブタクサは、二酸化炭素などの温室効果ガスの影響が大きい都市部では成長と開花が速く、より多くの花粉を生産する傾向にある。・花粉の飛散量の増加に伴い、アレルギー性鼻炎の症例も増加する。・花粉の飛散量の増加に伴い、アレルギー性鼻炎の症状も重くなる。・医師は花粉シーズンに変化が生じていることと、それがアレルギー性鼻炎の増加につながっていることに気付いている。 Pershad氏らは、「アレルギー性鼻炎は不快で煩わしい症状に過ぎないと思われがちだが、実際には医療資源に深刻な負担をかけており、気候変動が進むにつれてその負担は大きくなるばかりだ」と指摘する。同氏らは、具体的な負担額は年間34億ドル(1ドル140円換算で4340億円)に上り、そのほとんどは、処方薬と外来診療にかかる費用だと説明した上で、「医療専門家には十分に理解されていないかもしれないが、この増加傾向にある疾患の経済的負担は過小評価できるものではない」と述べている。 Pershad氏は、「医師は、アレルギー性鼻炎が患者の転帰に与える影響を直接目にする立場にあり、気候変動の激化に合わせて診療を適応させることができる。地域住民から信頼される立場にある者として、医師は最前線での経験を活かし、気候危機への取り組みにおいて意義ある変化を訴えるべきだ」と述べている。

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医療現場でのコミュニケーションの問題はインシデントの主因

 医療現場でのコミュニケーションの問題は、患者の安全に関わるインシデント(以下、インシデント)の主因であることが、新たな研究で明らかになった。インシデントとは、ニアミスなど患者に実害がなかったものも実害があったものも含めた、標準的な医療から逸脱した行為や事態のことを指す。本研究では、コミュニケーションの問題のみを原因として生じたインシデントは13.2%に上ることが示されたという。英レスター大学医学部のJeremy Howick氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に4月15日掲載された。 Howick氏らは、論文データベースからコミュニケーションの問題が患者の安全に与える影響を定量的に評価した46件の研究を抽出して結果を統合し、医療従事者間(臨床スタッフ間および臨床スタッフと非臨床スタッフ間)、または医療従事者と患者・介護者間のコミュニケーションの問題が患者の安全に与える影響を検討した。これらの研究には総計6万7,826人の患者が含まれていた。 46件中4件の研究では、医療におけるコミュニケーションの問題がインシデントの唯一の原因として認められた割合を検討しており、その中央値は13.2%(四分位範囲6.1〜24.4%)だったことが示されていた。残る42件の研究では、コミュニケーションの問題がインシデントの一因であったかが、他の因子とともに検討されていた。それらの研究からは、中央値で24.0%(同12.0〜46.8%)のインシデントにコミュニケーションの問題が関与していることが明らかになった。 ある症例では、医師がビープ音を発しているポンプを止めるところを誤って心臓病の薬の点滴を止めてしまっていた。医師が看護師にそのことを伝えなかったため、その後、患者に危険な頻脈が生じたという。別の症例では、手術後の患者に腹痛が生じ、内出血の兆候である赤血球数の減少が認められたにもかかわらず、看護師から外科医にそのことが伝達されなかったため、患者が死亡していた。研究グループは、患者の死因となったこの内出血は予防できた可能性があると述べている。 Howick氏らは、「本研究結果は、医療従事者が同僚や患者などとの強い関係を築くために効果的なコミュニケーションスキルを身に付け維持することが、極めて重要であることを浮き彫りにしている」と述べている。 さらにHowick氏らは、このようなコミュニケーションの問題が発生する理由や患者を守るための改善策を解明するには、さらなる研究が必要だとしている。同氏らは、「コミュニケーションスキルの向上を目指す医療従事者は、患者の安全向上を目的としたコミュニケーション介入に関する公開報告書を読むと参考になるだろう。これらの報告書では、医療従事者間、そして医療従事者と患者間の言語コミュニケーションに対する標準化された介入アプローチが紹介されている。しかし、このような介入をさらに最適化・発展させ、患者安全の向上に最も効果的な介入を特定するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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高齢の心不全患者が感染症で再入院にいたる因子とは

 心不全(HF)患者の再入院は、患者の死亡率上昇だけでなく、医療機関に大きな経済的負担をもたらす。高齢HF患者では、しばしば感染症による再入院がみられるが、この度、高齢のHF患者における感染症関連の再入院にフレイルと腎機能の低下が関連しているという研究結果が報告された。徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬学実務実習教育分野の川田敬氏らの研究によるもので、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に3月11日掲載された。 世界でも有数の高齢化社会を擁する日本では、高齢のHF患者が大幅に増加している。高齢者では免疫力が低下することから、高齢HF患者の感染症による再入院率も増加していくと考えられる。これまでの研究では60代や70代のHF患者に焦点が当てられてきたが、実臨床で増加している80代以上の高齢HF患者、特に感染症による再入院に関連する因子については調べられてこなかった。このような背景から、川田氏らは、高齢化が特に進む日本の高知県の急性肥大症性心不全レジストリ(Kochi YOSACOI Study)のデータを使用して、高齢HF患者の感染症による再入院に関連するリスク因子を特定した。 研究には、2017年5月から2019年12月の間に急性非代償性心不全(ADHF)でレジストリに登録された1,061名を含めた。この中から死亡した患者30名、左室駆出率、日本版フレイル基準(J-CHS)スコア、その他の検査結果などが欠落していた302名を除外し、729名を最終的な解析対象に含めた。 解析対象729名のHF患者の平均年齢は81歳(四分位範囲72.0~86.0)であった。患者は退院後2年間の追跡期間中に感染症関連の再入院を経験した121名(17%)と、感染症関連の再入院を経験しなかった患者608名に分けられた。 HF患者の感染症関連再入院に関連する因子はロジスティック回帰分析により決定した。その結果、独立した予測因子として、J-CHSスコア≧3(調整オッズ比1.83〔95%信頼区間1.18~2.83〕、P=0.007)が特定された。 次に感染症関連再入院の確率を予測するために、各患者について勾配ブースティング決定木(GBDT)モデルを構築した。GBDTモデルでは、J-CHSスコアの高さと推算糸球体濾過量(eGFR)の低下が、感染症関連再入院の増加を予測する最も重要な因子であり、それぞれ「スコア≧3」、「eGFR<35mL/min/1.73m2」の場合にリスクの増加が観察された。また、決定木分析より、感染症関連再入院のリスクは高(J-CHSスコア≧3)、中(J-CHSスコア<3、eGFR≦35.0)、低(J-CHSスコア<3、eGFR>35.0)に分類された。 本研究について著者らは、「本解析より、高齢のHF患者に発生する感染症関連の再入院は、フレイルの程度とeGFR値に関連することが示された。これらの知見は、医療提供者が高齢のHF患者の再入院リスクを適切に管理し、患者の転帰を改善するための貴重なインサイトを提供するものである」と述べた。 本研究の限界点については、観察研究でありワクチン接種などの交絡変数が考慮されていないこと、Kochi YOSACOI Studyには平均年齢81歳という高齢の患者集団が含まれており、HF患者全体に一般化することができないことなどを挙げた。

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第262回 “撤退戦”本格化へ 1床削減で410万円補助の「病床数適正化支援事業」、計7,000床程度の想定に全国で計5万4,000床の申請、倍率は7.7倍!

2024年度厚労省補正予算による「病床数適正化支援事業」が第1次内示こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さん、ゴールデンウィークはどのように過ごされましたか。私は前半は大学時代の先輩が営む茨城県の農園に、夏野菜の定植の支援に行ってきました。びっくりしたのは農園で飼っていた犬のジロー(17歳、中型犬、雑種)がついに寝たきりとなり、家のリビングに敷かれた布団の中にいたことです。生まれてから17年間、寒い冬も含めずっと屋外で飼われてきて、最期の最期に家の中に上げてもらったわけで、それはそれで幸せな人(犬?)生だったのだろうと思った次第です。それにしても、歩けず、水晶体も脱臼して目も見えず、おむつをしている身なのに、まだまだ食欲は旺盛で、ドッグフードをばくばく食べているのには驚きました。犬は屋外より室内で飼った方が長生きすると言われていますが、ジローのタフぶりに敬服した次第です。さて今回は、「第256回  “撤退戦”が始まっていることに気付かない人々(後編)長崎大病院全病床の1割以上に当たる98床削減、国も『病床1床減らせば410万円』の補助金用意、“撤退戦”本格化の兆し」で書いた、2024年度厚生労働省補正予算による「医療施設等経営強化緊急支援事業」の中の「病床数適正化支援事業」の第1次内示が公表されたので、それについて書いてみたいと思います。第256回では「知人の医療コンサルタントは『各都道府県ともかなりの申し込みが来ているようだ』と話していました」と書きましたが、実際、相当な申請数になったようです。まさに“撤退戦”本格化と言えるでしょう。第1次内示の配分額は約294億円で、対象病床数は7,170床厚労省は4月11日、病床数適正化支援事業(予算額約428億円)の第1次内示の配分額を都道府県に通知しました。第1次内示の配分額は約294億円で、対象病床数は7,170床です。表に示したように各都道府県に100床分以上配分されています。病床数適正化支援事業(第1次内示額)/厚生労働省資料より画像を拡大する多いのは東京都539床、神奈川県411床、北海道352床、千葉県276床、茨城県260床、新潟県260床、鹿児島県253床です。各地域の病院経営者の切迫度合い、行政動向に対する敏感さ、都道府県担当者の熱心さなどさまざまな要素が影響した結果と言えそうです。なお、経営支援の緊急性が高い医療機関を対象とするため、一般会計からの繰入金のある公立病院などは支給対象から除外し、対象病床の上限数は1医療機関当たり50床とするなどの対応が取られています。約200の公立病院などから8,000床、約1,800の民間病院などから4万6,000床の申請病床数適正化支援事業は「効率的な医療提供体制の確保を図るため、医療需要の急激な変化を受けて病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担について支援を行う」もので、期日内に病床数(一般病床、療養病床及び精神病床)の削減を行う病院又は診療所に対し、削減した病床1床につき410万4,000円が交付される、というものです。同種の補助金としては、すでに地域医療介護総合確保基金の中の病床機能再編支援事業(単独支援給付金支給事業)があります。こちらは制度区分にもよりますが1床当たり200万円程度なので、410万円は実にその倍額です。4月23日付の日本経済新聞の報道などによれば、福岡 資麿厚生労働相は22日の閣議後の記者会見で、過剰な入院用のベッドを減らした場合に支給する補助金への申請が全国で計5万4,000床に上ったことを明らかにしました。当初は計7,000床程度の削減を見込んでおり、想定の7.7倍ほどに達したとしています。また、申請数は約200の公立病院などから8,000床、約1,800の民間病院などから4万6,000床だったとのことです。次期内示は医療施設等経営強化緊急支援事業の他の事業で生じた残余も活用して6月中旬を目処に厚労省は第1次内示の配分額の算定方法について、1)一般会計の繰入等がない医療機関であって、令和4年度から3年連続経常赤字の医療機関又は令和5年度から2年連続経常赤字かつ令和6年度に病床削減済みの医療機関2)給付額(4,104千円×給付対象とする病床数)の上限は、1)の赤字額の平均の半分を目安とする3)1医療機関あたりの給付は50床を上限(次期内示以降の配分額の算定方法については、変更があり得る。との説明をしています。2)3)はより多くの病院が活用できるための配慮と考えられます。なお、期内示以降の配分額の算定方法については変更があり得るとしています。地域医療介護総合確保基金の病床機能再編支援事業(単独支援給付金支給事業)の支給を受けていた場合は、差額のみが支給されます。今回の給付額は294億円であり、約134億円がまだ残っています。次期内示は医療施設等経営強化緊急支援事業の他事業で生じた残余も活用して、6月中旬を目処に実施するとしています。公立病院を対象外としたことについて北海道などから不満も病院の病床削減意欲がこれほど高かったとは驚きですが、「一般会計の繰入等がない医療機関」という条件を付けて第1次内示では公立病院を対象外としたことは、一部で物議を醸したようです。北海道テレビは4月22日に「病床を減らす病院への国の支援事業で自治体病院が適用外になる可能性が高まり現場で困惑拡大」と題するニュースを配信しています。それによれば、「江別市立病院では、この支援事業で病床70床を削減し、およそ2億8,000万円の補助金を見込んでいました」が、第1次内示では一般会計からの繰入金のある公立病院などは支給対象から除外する方針が示されたことで、病院の事業管理者は、「ただちに納得しかねるという点があります。全国の自治体病院8割以上は赤字なのですが、そういった中で私どもも例外ではなく、これを何とかしなければならない」と語ったとのことです。北海道では病床数適正化支援事業の補助金に大きな期待をしていた公立病院が多かった模様で、4月24日付の北海道新聞によれば、鈴木 直道知事は24日の記者会見で、国が病床を削減する医療機関を支援する病床数適正化支援事業で自治体病院を実質的に対象外としたことについて、「希望する全医療機関に確実に支援が行き届くよう、全国知事会や関係団体とも連携して国に要請する」と述べたとのことです。福岡厚労相は22日の閣議後記者会見で、この点について「他の補正予算の事業や融資の拡充と合わせ、必要な支援が行き届くよう取り組む」と述べています。せっかく公立・公的含め全国の病院が「病床を減らす」ことに相当前向きになっているのです。赤字で病床削減やリストラが必要な病院は公立・公的病院が多いだけに、第2次内示や来年度以降の予算化においては、相応の対応が求められるところです。

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AIチャットボットに看護師と同等の効果?不安・抑うつの軽減効果を検証【論文から学ぶ看護の新常識】第13回

AIチャットボットに看護師と同等の効果?不安・抑うつの軽減効果を検証Chen Chen氏らの研究で、香港市民向けに開発したAIチャットボットと従来の看護師ホットライン(電話相談)の効果が比較され、不安や抑うつの軽減において両者が同等の効果を持つ可能性が示された。JMIR Human Factors誌2025年3月号に掲載された。AIチャットボットと看護師ホットラインの不安・抑うつ軽減効果の比較:パイロットランダム化比較試験研究チームは、地域住民向けのAIチャットボットを開発し、香港市民の不安および抑うつの軽減において、AIチャットボットと従来の看護師ホットラインの効果を比較することを目的に、パイロットランダム化比較試験(RCT)を実施した。試験の実施期間は2022年10月から2023年3月であった。対象は香港市民124名で、AIチャットボット群と看護師ホットライン群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。最終的に、AIチャットボット群では62名、看護師ホットライン群では41名が介入前後の調査に参加した。参加者は、介入前後にGAD-7(全般性不安障害尺度)、PHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)、および満足度アンケートを含む質問票に回答した。分析には、独立標本および対応のあるt検定(両側検定)ならびにカイ2乗検定を用いて、不安と抑うつレベルの変化を評価した。主な結果は以下の通り。AIチャットボット群:介入前の抑うつスコアは平均5.13(標準偏差[SD]:4.623)であったのに対し、介入後は平均3.68(SD:4.397)と統計的に有意な低下が認められた(p=0.008)。同様に、不安スコアも介入前は平均4.74(SD:4.742)、介入後は平均3.40(SD:3.748)となり、こちらも統計的に有意な低下が認められた(p=0.005)。看護師ホットライン群:抑うつ(p=0.28)および不安(p=0.63)スコアにおいて、介入前後のスコア差に有意差は認められなかった。両群の比較:介入前における両群間の抑うつ(p=0.76)および不安スコア(p=0.71)にも統計的に有意差はなかった。介入後のスコアは、AIチャットボット群の方がわずかに低かったものの、有意な差は認められなかった(すべてのp値>0.05)。抑うつ(p=0.38)および不安(p=0.19)における介入前後スコアの変化量(差分)を両群間で比較した結果においても、有意な差は認められなかった。両群間におけるサービス満足度にも有意差は認められなかった(p=0.32)。AIチャットボットは、従来の看護師ホットラインと同等に不安や抑うつを軽減する効果があることが示された。さらに、AIチャットボットは短期的な不安や抑うつの軽減に有効である可能性が示された。今回の研究では、AIチャットボットが従来の看護師ホットラインと同程度の効果を持つ可能性を示唆しており、とくに短期的な不安軽減においてはAIチャットボットが優れている可能性も示唆されました。これは、メンタルヘルスサポートの選択肢を広げる上で興味深い結果と言えるでしょう。一方で、看護師による電話相談には、AIでは対応が難しい個別の状況に応じたきめ細やかな対応や、より複雑な相談への対応力が期待されます。本文中でも触れられていますが、AIチャットボットは診断や長期的な治療戦略を提供するものではなく、あくまで初期的な情報提供や一時的な感情のサポートを目的としたツールと考えられます。この点から、将来、看護師の専門性はより複雑なメンタルサポートを行うことにシフトしていく可能性があります。今回の研究はパイロット試験(本格的なRCTを行う前に実施する小規模なRCT)であり、対象者も限られています。今後より大規模な研究によって、AIチャットボットと看護師によるサポートが、それぞれどのような場面で最も有効なのか、また、両者をどのように連携させていくのが望ましいのかが、さらに明らかになることが期待されます。論文はこちらChen C, et al. JMIR Hum Factors. 2025;12:e65785.

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尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」【最新!DI情報】第38回

尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬「ベピオウォッシュゲル5%」今回は、尋常性ざ瘡治療薬「過酸化ベンゾイル(商品名:ベピオウォッシュゲル5%、製造販売元:マルホ)」を紹介します。本剤は、わが国初の尋常性ざ瘡の短時間接触療法薬であり、外用薬の患部への接触を短時間にすることで、副作用を軽減しながら治療効果を発揮することが期待されています。<効能・効果>尋常性ざ瘡の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1回、洗顔後、患部に適量を塗布し、5~10分後に洗い流します。<安全性>副作用として、紅斑(5%以上)、皮膚剥脱(鱗屑・落屑)、刺激感、そう痒、皮膚炎、接触皮膚炎(アレルギー性接触皮膚炎を含む)、びらん、皮脂欠乏性湿疹、AST増加(いずれも5%未満)、乾燥、湿疹、蕁麻疹、間擦疹、乾皮症、脂腺機能亢進、腫脹、ピリピリ感、灼熱感、汗疹、違和感、皮脂欠乏症、ほてり、浮腫、丘疹、疼痛、水疱、口角炎、眼瞼炎、白血球数減少、白血球数増加、血小板数増加、血中ビリルビン増加、ALT増加、血中コレステロール減少、血中尿素減少、呼吸困難感(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、にきび(尋常性ざ瘡)を治療する塗り薬です。2.にきびの原因菌(アクネ菌など)が増えるのを抑え、にきびの原因となる毛穴のつまりを改善します。3.1日1回、洗顔後、患部に塗布し、5~10分後に洗い流してください。眼、口唇、その他の粘膜や傷口は避けてください。4.この薬には漂白作用があるので、髪や衣料などに付着しないように注意してください。5.この薬を使用中は、強い日光に当たるのをなるべく避けるようにしてください。6.過敏反応や強い皮膚刺激症状が現れたときは使用を中止し、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>尋常性ざ瘡は、一般的に「にきび」として知られる炎症性疾患です。好発部位は顔面や胸背部などの脂漏部位で、思春期以降に発生しやすく、病因にはホルモンバランスの乱れ、皮脂の過剰産生、角化異常、Cutibacterium acnes(C. acnes)などの細菌の増殖が複雑に関与しています。過酸化ベンゾイルは強力な酸化作用を持ち、尋常性ざ瘡の原因菌であるC. acnesなどの細菌に対する抗菌作用と、閉塞した毛漏斗部での角層剥離作用を有しています。国内では2.5%のゲルおよびローション製剤が販売されていますが、1日1回洗顔後に患部に塗布する必要があり、刺激やかぶれなどの副作用に加え、衣類に対する脱色作用に注意が必要です。本剤は、国内初の短時間接触療法(Short contact therapy)用ゲル製剤であり、既承認医薬品のゲル製剤(商品名:ベピオゲル2.5%)の新用量医薬品として開発されました。本剤は過酸化ベンゾイルを5%含有しており、外用薬の患部への接触を短時間にすることで副作用を軽減しながら治療効果を発揮します。商品名に「ウォッシュ」とあるように、1日1回、洗顔後に患部に塗布したのち、5~10分後に洗い流すという用法が特徴です。本剤は、高濃度の主薬成分を含む製剤を塗布部位から手早く除去できるように、洗浄力の高いアニオン性界面活性剤2種類を配合しています。顔面に尋常性ざ瘡を有する患者を対象とした第III相プラセボ対照試験(M605110-05試験)において、主要評価項目である治療開始12週後のベースラインからの総皮疹数の減少率(最小二乗平均値)は、本剤群55.90%(両側95%信頼区間:49.89~61.90)であり、プラセボ群の43.85%(38.06~49.64)と比較して統計学的に有意な差が認められました。この結果により、プラセボ群に対する本剤群の優越性が検証されました。

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マリバビルの重要なポイント【1分間で学べる感染症】第25回

画像を拡大するTake home messageマリバビルは難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対する新規抗ウイルス薬。使用に関する重要なポイントを押さえよう。マリバビル(maribavir)は、これまでの治療で反応しない難治性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対して登場した新しい経口抗ウイルス薬です。臓器移植や造血幹細胞移植後の免疫抑制下の患者において、マリバビルはその治療選択肢の1つとして注目されています。1)適応造血幹細胞移植を含む臓器移植を受けた患者において、既存の抗CMV療法に難治性を示すCMV感染症が適応となります。具体的には、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットなどに効果が乏しい、あるいは副作用により継続困難な状態を指します。2)作用機序UL97遺伝子は、CMVがコードするウイルス特有のプロテインキナーゼ(タンパク質リン酸化酵素)を産生します。マリバビルはこのUL97プロテインキナーゼを特異的に阻害することで抗ウイルス効果を発揮します。これまでの抗ウイルス薬(DNAポリメラーゼ阻害)とは異なる作用点を持ちます。また、重要な点としては、ガンシクロビル、バルガンシクロビルとは拮抗関係にあるため、併用は避ける必要があります。3)用量通常400mgを1日2回経口投与します。4)腎機能調整腎機能による用量調整は原則不要です。ただし、透析患者における有効性や安全性は十分に検証されていないことには留意が必要です。5)副作用味覚異常(37%)が最も多く報告されており、患者への十分な説明が必要です。その他、嘔気(21%)、下痢(19%)などの消化器症状がみられることがあります。一方、ガンシクロビル、バルガンシクロビルにおいて問題となる骨髄抑制、ホスカルネットで問題となる腎機能障害がいずれも少ないのは、マリバビルの優れた点だといえます。6)注意点マリバビルはCYP3A4を介した薬物相互作用に注意が必要です。とくにタクロリムス(タクロリムスの血中濃度上昇)や、リファンピシン(マリバビルの血中濃度低下)などとの併用時はモニタリングを行うことが推奨されます。また、マリバビルの耐性獲得にも注意が必要です。7)ほかのウイルスに対する活性マリバビルは、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットとは異なり、単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)には効果がありません。したがって、マリバビルに切り替える際には、HSV、VZVに対する予防的抗ウイルス薬の内服を追加する必要があるかどうかを、ケースごとに検討しなければなりません。まとめマリバビルは、難治性CMV感染症に対する新しい選択肢として、作用機序、副作用の面で従来の抗CMV薬剤と異なる特徴を有します。薬物相互作用や耐性獲得の懸念はあるものの、これまでのCMV治療の追加の一手として今後期待されていることから、皆さんもマリバビルに関する知識を深めましょう。1)Avery RK, et al. Clin Infect Dis. 2022;75:690-701.

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撤回論文がメタ解析やガイドラインに及ぼす影響/BMJ

 撤回された臨床試験論文は、エビデンスの統合、臨床診療ガイドライン、エビデンスに基づく臨床診療を含むエビデンスエコシステムに大きな影響を与えることを、中国・Second Military Medical UniversityのChang Xu氏らが、前方引用検索に基づく後ろ向きコホート研究「VITALITY Study I」の結果で示した。エビデンスに基づく医療において、信頼できる意思決定は、信頼できるエビデンスエコシステムの確立に依存し、エビデンスの生成と統合はこのようなエコシステムの確立に重要な要素である。過去10年間で問題のある研究や撤回された研究の数が増加しており、科学研究のデータや結論の信頼性に対し深刻な懸念が高まっている。著者は、「エビデンスを生成、統合および利用する者はこの問題に注意する必要があり、このような潜在的な汚染(contamination)を容易に特定し是正できる実現可能なアプローチが必要である」とまとめている。BMJ誌2025年4月23日号掲載報告。Retraction Watchで撤回論文を特定、医療のエビデンスエコシステムに与える影響を検証 研究グループは、2024年11月5日にRetraction Watchデータベースを用いて何らかの理由で撤回されたヒトを対象とした無作為化比較試験を検索した。その後、Google ScholarおよびScopusを用いて前方引用検索を行い、撤回された臨床試験論文を定量的に組み込んだエビデンス統合研究(2024年11月21日時点)を特定した。 2つの研究者グループが独立してデータを抽出し、撤回された論文を除外した後にメタ解析の結果を更新した。 統合効果の方向性および/またはp値の有意性が変化したメタ解析の割合を推定するとともに、一般化線形混合モデルを用い組み入れられた研究数と影響との関連をオッズ比および95%信頼区間(CI)で示した。また、歪められたエビデンスが臨床診療ガイドラインに与える影響についても、引用文献検索に基づいて調査した。撤回論文で結論が歪められたエビデンスをガイドラインで利用 検索の結果、撤回された臨床試験論文1,330件と、それらを定量的に統合していたシステマティックレビュー847件が特定され、再現可能なメタ解析は合計3,902件であった。 クラスタリング効果を考慮した後、撤回された臨床試験論文を除外すると、統合効果の方向性の変化が8.4%(95%CI:6.8~10.1)、統計学的有意性の変化が16.0%(14.2~17.9)、方向性と有意性の両方の変化が3.9%(2.5~5.2)、効果量の50%以上の変化が15.7%(13.5~17.9)認められた。 組み入れられた研究数と結果への影響の間には明らかな非線形の相関が認められ、研究数が少ないほど影響が大きいことが示された(例:研究数が10件vs.20件以上で、方向性の変化のオッズ比は2.63[95%CI:1.29~5.38]、p<0.001)。 撤回された臨床試験論文によって結論が歪められていた68件のシステマティックレビューのエビデンスが、157のガイドラインで用いられていた。

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アラート付き血糖モニタリングにより糖尿病患者の交通事故が軽減か

 インスリン治療を受けている糖尿病患者では、治療に起因する低血糖症が起こることがある。低血糖症が車の運転時に起こった場合、意識障害などから交通事故につながりかねない。この度、インスリン治療を受けている糖尿病患者で、アラート付きの持続血糖モニタリングシステム(CGM)の装着により、運転中の低血糖の発生率が低下するという研究結果が報告された。名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の前田龍太郎氏らが行った研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」に2月28日掲載された。 2014年の実態調査では、糖尿病治療中の患者の52%が日常生活で低血糖を経験し、そのうちの10%で運転中に低血糖エピソードを生じ、結果としてその2%が交通事故にあった、と報告されている。無自覚の低血糖を加味すれば、運転中の低血糖エピソードの頻度はさらに高い可能性があり、切迫した低血糖を予測してドライバーに警告できる信頼性の高いシステムが必要とされていた。このような背景から、研究グループは、インスリン治療を受けているドライバーを対象に、低血糖アラート機能付きのCGMの有用性を評価する単施設の非盲検ランダム化クロスオーバー試験を実施した。 対象には、2021年7月6日から2023年2月27日の間に名古屋大学医学部附属病院でインスリン治療を受け、週3回以上車を運転する成人の糖尿病患者30名が含まれた。30名の参加者は、アラート機能付きCGM群(アラート群)、アラート機能なしCGM群(非アラート群)に1対1で割り付けられた。参加者は、4週の試験期間の後、8週間おいて、群を入れ替えて再度4週間の試験期間に組み入れられた。CGMは皮膚に貼り付けるパッチ式を採用し、期間中の低血糖警告の閾値は80mg/dL(4.4mmol/L)と設定された。主要評価項目は血糖値が基準値(70mg/dL〔3.9mmol/L〕)を下回っていた時間(TBR)の割合とした。 最終的にCGMの解析に含まれた参加者は27名(平均年齢;61.9±12.6歳、女性;8名)だった。27名には、1型糖尿病8名(30%)、2型糖尿病13名(50%)、その他6名(20%)が含まれた。 2つの試験期間を統合して解析した結果、試験全体でのTBRはアラート群(中央値2.0%〔四分位範囲1.0~7.0〕)と非アラート群(同2.0%〔1.0~6.5〕)で有意な差はみられなかった(P=0.169)。しかし、事前に規定された1型糖尿病のサブグループ解析では、非アラート群と比較したアラート群のTBRは有意に減少していた(群間差-4.4%〔95%信頼区間-8.7~-0.1〕、P=0.047)。また、車を運転するときの低血糖エピソードの発生率は、非アラート群(33%)と比較し、アラート群(19%)で有意な減少が認められた(P=0.041)。 本研究の結果について、研究グループは、「今回のCGMはアラートの閾値が80mg/dL(4.4mmol/L)に設定されており、参加者は血糖が基準値以下(<70mg/dL〔<3.9mmol/L〕)になる前にブドウ糖摂取などの予防的措置をとることができた。今回示された結果は、低血糖アラート機能を備えたCGMが、インスリン治療を受けているドライバーの安全性をさらに高め、糖尿病患者の運転制限の緩和に役立つ可能性があることを示唆している」と述べた。 なお、本研究の限界については、CGMで測定した皮下組織中のグルコース濃度は、近似しているが血糖値と同一のものでないこと、CGMの使用により意識が変わり、血糖管理がより慎重になった可能性があったことなどを挙げている。

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2026年度改定で「処方箋料」「後発品調剤加算」は終焉か【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第151回

2025年4月は診療報酬・調剤報酬の改定がなく、比較的穏やかな新年度の幕開けでした。とはいえ、長期収載品の選定療養化が始まったのに医薬品の供給がいまだに安定していないということなどもあり、相変わらず大変な状況の薬局も多いと思います。もしここに改定が重なっていたら大変だったでしょう。原則的に診療報酬・調剤報酬の改定は2年に一度行われるため、次回の改定は2026年4月に予定されています。あと1年を切った今、議論が開始されました。財務省が51年目を迎える「医薬分業」のインセンティブに斬り込んでいる。23日の財政制度等審議会財政制度分科会で“医薬分業元年”と呼ばれる74年から実施してきた、医療機関側の処方箋料に対する手厚い評価には「政策的意義を含め、再考の余地がある」と主張。医薬分業率はすでに80%に達しており「相当な進捗を見せている」との認識を示した。そもそも財務省は、すでに数量シェアで80%を達成している後発品の使用促進に関しても「後発品調剤体制加算」のようなインセンティブは役割を終えているとの立場。今回、後発品と同じく政策的に強力な後押しをしてきた医薬分業の根幹のひとつとも言える処方箋料に目を付けた格好だ。(2025年4月24日付 RISFAX)個人的には、「ついにこの議論をするときが来たか」という感想をもっています。医薬分業をめぐっては、1974年にそれまで6点だった医療機関の処方箋料を10点、さらには50点に引き上げることで、医師側へ強力なインセンティブを付加し、処方箋を発行して薬局で調剤するという政策誘導を図ってきました。その経緯から、1974年を医薬分業元年と呼んだりもします。財務省はこうした経緯を示したうえで、医薬分業推進の背景にあった薬価差はすでに縮減傾向が続いており、医療機関が薬価差益を追及するという問題は改善したという認識を示しました。また、薬局の役割についても「広く認識されるに至っている」とし、現在の医薬分業の進捗を踏まえて「院外の処方箋料の適正な水準を検討すべき」と要求したと報じられています。また、後発品使用促進のインセンティブにも言及し、数量シェアが9割に迫る状況を踏まえ、後発品調剤体制加算をはじめとする調剤報酬体系の見直しを行うべきとも提案したとのことです。一方で、薬局の対人業務に対する評価の重点化を進めるべき、という意見も出されました。全体的に、過去を踏襲するのではなく未来に向けて新たに見直すという姿勢が見受けられます。このRISFAXの記事は、2026年度改定が医薬分業のインセンティブを考え直す場になるという内容で書かれていますが、実際はもっと広く議論されており、2026年度改定は「病院と診療所では経営状況や費用構造などが異なる」「高齢化による伸びに抑える」といった過去を踏襲するのではなく、未来に向けたメリハリある改定の実施を目指しているようです。薬局で処方箋を受ければ点数がもらえる時代が本当に終わろうとしています。対人業務が評価されることは間違いなさそうですが、薬局そのものの価値がどの程度評価されるのか。また、この議論の中で薬剤師会などが過去にとらわれず未来に向けた主張をどのように展開するのか、よくよく見ていきたいと思います。

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