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第304回 iPS細胞治療の心筋シートとドパミン神経前駆細胞に「仮免許」、承認期限7年、待ち受ける有効性証明の高くて険しい壁

マスコミの多くは「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。冬季オリンピックが終わってしまいましたね。日本時間では深夜から早朝にかけての競技が多く、テレビ観戦するにはなかなか大変でしたが、スピードスケートの高木 美帆選手の試合を中心にいくつかの競技をライブで観ました。個人的に興味があり応援していたのは女子のチームパシュート(団体追い抜き)です。3人で走る姿が競輪のラインに似ているのと、1周ごとに相手チームとの差が目視できてハラハラするのがこの競技の魅力です。準決勝でオランダにわずか0.11秒差で負けましたが、3位決定戦では米国に完勝、「銅だ!すごい!」とマスコミはこぞって高木選手らを祝福しました。しかし、そうした祝福の陰で厳しい批評もありました。2月20日付の日本経済新聞朝刊スポーツ面のコラム「透視線」で日体大教授の青柳 徹氏(高木選手の日体大時代の恩師)は銅メダルについて「もっといい色にできるはずだし、やれることがあったのではないか」と書き、「最後の3人目のライン通過時が記録となるため、縦一列に並ぶより、最後の直線で後ろの選手が横に出て先頭に詰めた方がわずかでもタイムは縮まるはずだ」と縦一列ゴールに疑問を投げ掛けていました(優勝したカナダは確かにこの方式でした)。メダルを取っても厳しい言葉を掛けられるのは、恩師だからこそと言えそうです。それにしても、後ろの2人の選手が前の選手のお尻を押すプッシュ戦術や、ゴール前にバラける戦術など、チームパシュートという競技の面白さの一端を知ることができた冬のオリンピックでした。さて、今回は先週、製造販売が了承されたiPS細胞製品について書いてみたいと思います。厚生労働省の薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会は2月19日、iPS細胞から作った心臓病とパーキンソン病の再生医療製品2製品について、条件及び期限付きで製造販売を承認することを了承しました。2製品は近日中(1〜2ヵ月以内)に厚労相が正式に承認する予定です。承認されればiPS細胞として世界初、ES細胞を含む多能性幹細胞としても世界初の承認となるそうです。マスコミの多く(とくに民放のニュース)は、「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるなど、まるで金メダルを取ったかのような大騒ぎぶりでした。果たして、そんなに大きな期待を抱いてもよい「承認」なのでしょうか。左室駆出率が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例のリハート製造販売が了承されたのは、大阪大学発のベンチャー、クオリプスが重症心不全を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来心筋細胞シートの「リハート」と、住友ファーマがパーキンソン病を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」です。リハートは京都大学iPS細胞研究財団が提供している他家iPS細胞株を心筋細胞に分化誘導し、未分化細胞を除去した上でシート状に成形した製品。標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全の治療を効能・効果または性能としています。開胸手術によって、シート3枚を患者の心臓表面に移植して使います。大阪大学大学院医学系研究科の澤 芳樹名誉教授の研究成果を基にしており、昨年の大阪・関西万博での展示でも大きな話題となりました。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、主要評価項目である、移植後26週時点の心エコー図検査によるLVEF(左室駆出率)が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例でした。その他の項目も踏まえ有効性を評価した結果、「有効性が示唆されると判断された」ものの、被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限は7年で、「正式承認を申請するまでの期間、リハートを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」、「正式承認を申請するまでの期間、リハートの作用機序を反映する生物学的特性に関して情報収集すること」などの条件が付けられ、「リハート群75例と対照群150例を比較する臨床研究として使用成績調査を行う」などの市販後調査も求められました。6例について主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したアムシェプリ一方、アムシェプリは京都大学iPS細胞研究財団の髙橋 淳所長が開発を主導した薬剤です。同財団が提供している他家iPS細胞株からドパミン神経前駆細胞を誘導して作製します。「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」を効能・効果または性能としています。ドパミン神経前駆細胞を定位脳手術により、両側の被殻に移植(大脳被殻片側あたり5.4×10^6個を目標)して使います。ドパミン神経前駆細胞が患者の脳に生着し、ドパミンを産生して治療効果を示すことが期待されています。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、7例を対象とし、片側にしか投与しなかった患者を除いた6例について、主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したとのことです。また、6例全例で、移植後12ヵ月・24ヵ月時点で他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞が大脳被殻に生着していました。こちらも被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限も同じく7年で、「正式承認申請までの期間、アムシェプリを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」などの条件が付けられ、「既存の薬物治療で十分な効果が得られなかったパーキンソン病患者に対してアムシェプリの有効性と安全性を評価する製造販売後臨床試験」、「アムシェプリが移植された全ての患者に対する使用成績調査」などの市販後調査も求められました。なおリハートと異なり、ドパミンの作用がすでに明確であることから、作用機序の解明は承認条件に含まれませんでした。日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげ日本経済新聞や朝日新聞などの報道では、記事の見出しに「仮免許」という言葉が使われています。リハート、アムシェプリともに被験者は1桁と少なく、「症状が改善した」と言っても比較対象試験が行われているわけではないので「効果あり」と科学的に判定されたわけではありません。7年以内にそこを証明しないと「仮免許」は取り上げられてしまいます。「承認」とは言え、なかなかに厳しい「条件及び期限」と言えます。そんな不十分な成績なのに「承認」されたのは、日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげと言えます。2014年11月、薬事法が改正されて薬機法となった際に新たに導入された同制度は、対象患者が少なかったり対照群の設定が難しかったりなどで一般的な規模の第III相臨床試験を実施できない場合などに活用される仕組みです。有効性の確認前でも、早期の臨床試験データから有効性が推定されれば、条件や期限付きで承認が与えられますが、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証した上で、再度承認申請して正式承認を取得する必要があります。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つ、正式承認に至った製品はなく2つは撤退資金、労力、時間がかかる第III相臨床試験を実施しなくても製品を販売できる仕組みとして、再生医療等製品の開発に取り組む製薬メーカーは大きな期待をかけ、活用してきた同制度ですが、10年以上を経てその結果は芳しくありません。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つあるものの、有効性を確認して正式承認に至った製品はゼロです。「厚労省部会、他家iPS細胞由来のクオリプスの心筋細胞シートと住友ファーマのドパミン神経前駆細胞の条件及び期限付承認を了承」のタイトルで2月22日、今回の期限付承認を報じた日経バイオテクは、同制度について「近年は、条件及び期限付承認を取得しても、開発企業は安心できない実情が浮き彫りになってきた。というのも、条件及び期限付承認を取得して本承認を目指していた、アンジェスの『コラテジェン』(ベペルミノゲンペルプラスミド)とテルモの『ハートシート』(ヒト[自己]骨格筋由来細胞シート)が、それぞれの承認期限近くの2024年6~7月、相次いで市場から撤退したためだ。(中略)2製品が撤退したのは、市販後調査で良好なデータを示せなかったことの影響が大きい」と書いています。国としては、今のタイミングでiPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢はなかったのかもiPS細胞治療については、本連載の「第282回 なかなか実用化にこぎつけられないiPS細胞治療、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療について『先進医療』とするのは『不適』の判断」で、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療が昨年8月、厚生労働省の先進医療技術審査部会において「先進医療」とするのは「不適」であると判断されたというニュースを取り上げました。この時は、「治っているかどうか患者が実感できない高額な治療法に、先進医療とは言え、保険診療を併用させることはNG」という判断だったわけですが、今回については「治っているかどうかよくわからないが、とりあえず承認しておくから7年で有効性をちゃんと証明しろ」ということのようです。随分無責任な「仮免許」と言えますが、うがった見方をすれば、これも高市政権の成長戦略の影響ということができるかもしれません。政府の「日本成長戦略会議」において「直ちに実行すべき重要施策」として挙げられた17項目の戦略分野の中には「合成生物学・バイオ」と「創薬・先端医療」が入っており、「さあこれから」という時に、iPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢は国としてはなかった、と見る向きもあります。テルモのハートシートに比べ、リハートの市販後調査のエンドポイントはなぜだか緩いiPS細胞治療の業界に詳しい知人に、リハート・アムシェプリの正式承認の可能性について尋ねたところ、「リハートと類似の製品で、骨格筋由来細胞シートだったテルモのハートシートが良好なデータを示せず撤退を余儀なくされた理由の1つは、市販後調査において心臓疾患関連死までの期間など、かなりハードなエンドポイントを課せられていたためだ。リハートの市販後調査のエンドポイントは、なぜかそこまでハードに設定されておらず、とても緩い印象だ。本当に効くかどうかは別にして、ハートシートに比べると承認のハードルは低いと言える。一方、アムシェプリは、パーキンソン病の重症度を評価する国際尺度がエンドポイントに課せられているので、そこそこハードルは高い印象だ」と話していました。エンドポイントを低くして、承認を容易くしたとしても、実際の効きが悪ければ医師は使用しませんし、世界でも売れないでしょう。オリンピックと同様、世界標準で戦う必要がある製品だとしたら、手心(かどうかはわかりませんが)は結局はマイナスに働くのではないでしょうか。iPS細胞治療の実用化に向けては、長く険しくゴールが見えないレースがまだまだ続きそうです。

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スタチンによる好ましくない作用、多くは過大評価~メタ解析/Lancet

 スタチン製剤の製品ラベル(たとえば、製品特性概要[SmPC])には、治療関連の可能性がある作用として特定の有害なアウトカムが記載されているが、これらは主に非無作為化・非盲検試験に基づくため、バイアスの影響を受けている可能性があるとされる。英国・オックスフォード大学のChristina Reith氏らCholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationは、このようなスタチン製剤の好ましくない作用(undesirable effect)のエビデンスをより高い信頼性をもって評価することを目的に、大規模な二重盲検試験の個別の参加者データを用いたメタ解析を実施した。研究の成果は、Lancet誌2026年2月14日号で発表された。5つのスタチン製剤の有害作用をメタ解析で評価 CTT Collaborationは、二重盲検無作為化試験の個別の参加者データを用いたメタ解析において、5つのスタチン製剤(アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン)について電子医薬品集(electronic medicines compendium:EMC)を検索し、スタチンのSmPCに記載されている好ましくない作用の用語のリストを作成した(本解析は英国心臓財団などの助成を受けた)。 メタ解析の対象とした無作為化試験は、(1)参加者数が1,000例以上、(2)予定された投与期間が2年以上、(3)スタチンとプラセボ、あるいは高強度と低強度スタチン療法の二重盲検比較試験であった。 イベント発生の率比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、偽発見率(FDR)を5%で調整して統計学的有意性を評価した。66項目中62項目は有害作用ではない 19件がスタチン療法とプラセボを比較した二重盲検試験であった(合計12万3,940例、追跡期間中央値4.5年[四分位範囲[IQR]:3.1~5.4])。参加者の平均年齢は63(SD 9)歳、3万4,533例(28%)が女性であり、5万9,610例(48%)に血管疾患の既往歴があり、2万2,925例(18%)が糖尿病の病歴を有していた。 筋肉関連アウトカムや糖尿病への有害な作用に加えて、スタチンに起因するとされた66項目の追加的な好ましくないアウトカムのうち、FDR有意水準を満たしたのは、わずかに次の4項目のみであった。・肝トランスアミナーゼ値異常:スタチン群783例(0.30%/年)vs.プラセボ群556例(0.22%/年)、RR:1.41(95%CI:1.26~1.57)・その他の肝機能検査値異常:スタチン群651例(0.25%/年)vs.プラセボ群518例(0.20%/年)、RR:1.26(95%CI:1.12~1.41)、肝機能検査値異常の合計における絶対的な年間超過率:0.13%・尿組成の変化:スタチン群556例(0.21%/年)vs.プラセボ群472例(0.18%/年)、RR:1.18(95%CI:1.04~1.33)・浮腫:スタチン群3,495例(1.38%/年)vs.プラセボ群3,299例(1.31%/年)、RR:1.07(95%CI:1.02~1.12)従来の結論を強化する知見 4件の高強度と低強度スタチン療法を比較した二重盲検試験(合計3万724例、追跡期間中央値:5.0年[IQR:2.3~6.6]、平均年齢:62[SD 10]歳、全例に血管疾患の既往歴)でも、用量依存性の肝トランスアミナーゼ値異常およびその他の肝機能検査値異常の有意な過剰発生を認めた。一方、尿組成の変化や浮腫については、有意な過剰発生はみられなかった。 これらの知見について、著者は「スタチン療法の既報の有害作用(筋肉関連アウトカム、糖尿病への影響)以外では、肝臓の生化学的異常のわずかな絶対的増加と、臨床的な意義不明の尿組成の異常および浮腫への潜在的な有害作用と関連するのみで、スタチン製剤のSmPCに記載されたその他のアウトカムとは関連しないことを示している」「スタチン療法が心血管系に及ぼす有益性は、スタチン関連のあらゆるリスクを大きく上回るという従来の結論を強化するものである」としている。 また、「スタチン製剤の製品ラベルの好ましくない作用の項はリスクを過大評価しており、臨床医と患者の誤解を招く恐れがあるため、有益な情報に依拠したエビデンスに基づく意思決定をより適切に支援するよう改訂すべきである」と主張している。

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テゼペルマブ、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の適応追加/AZ

 アストラゼネカは2026年2月19日、テゼペルマブ(商品名:テゼスパイア)について「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」に対する適応追加の承認を取得したことを発表した。 本承認は、既存治療で効果不十分な18歳以上の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「WAYPOINT試験」の結果に基づくものである。WAYPOINT試験では、共主要評価項目の鼻茸スコア(NPS)と鼻閉重症度スコア(NCS)が、いずれも有意に改善したことが報告されている。なお、NPSは投与4週時、NCSは投与2週時から改善が認められ、投与52週時まで改善が維持された。 電子化された添付文書の「効能又は効果」「効能又は効果に関連する注意」「用法及び用量」「用法及び用量に関連する注意」「重要な基本的注意」の改訂箇所の記載は、以下のとおり(下線部が追記または変更箇所)。4. 効能又は効果○気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の患者に限る)○鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)5. 効能又は効果に関連する注意〈気管支喘息〉5.1 最新のガイドライン等を参考に、中用量又は高用量の吸入ステロイド薬とその他の長期管理薬を併用しても、全身性ステロイド薬の投与等が必要な喘息増悪をきたす患者に本剤を追加して投与すること。5.2 本剤は既に起きている気管支喘息の発作や症状を速やかに軽減する薬剤ではないため、急性の発作に対しては使用しないこと。〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉5.3 本剤は全身性ステロイド薬、手術等ではコントロールが不十分な患者に用いること。6. 用法及び用量〈気管支喘息〉通常、成人及び12歳以上の小児にはテゼペルマブ(遺伝子組換え)として1回210mgを4週間隔で皮下に注射する。〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉通常、成人にはテゼペルマブ(遺伝子組換え)として1回210mgを4週間隔で皮下に注射する。7. 用法及び用量に関連する注意〈鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎〉本剤による治療反応は、通常投与開始から24週までには得られる。24週までに治療反応が得られない場合は、漫然と投与を続けないよう注意すること。8. 重要な基本的注意〈効能共通〉8.1 本剤投与中の生ワクチンの接種は、安全性が確認されていないので避けること。8.2 本剤の投与によって合併する他のアレルギー疾患の症状が変化する可能性があり、当該アレルギー疾患に対する適切な治療を怠った場合、症状が急激に悪化し、喘息等では死亡に至るおそれもある。本剤の投与中止後の疾患管理も含めて、本剤投与中から、合併するアレルギー疾患を担当する医師と適切に連携すること。患者に対して、医師の指示なく、それらの疾患に対する治療内容を変更しないよう指導すること。8.3 本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師によるか、医師の直接の監督のもとで投与を行うこと。自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認した上で、医師の管理指導のもとで実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、直ちに自己投与を中止させ、医師の管理のもとで慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。〈気管支喘息〉8.4 本剤の投与開始後に喘息症状がコントロール不良であったり、悪化した場合には、医師の診療を受けるように患者に指導すること。

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事例42 在宅酸素療法の査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の「C103 2 在宅酸素療法指導管理料(その他の場合)」と使用した機材などの加算すべてに対して、A事由(医学的に適応と認められないもの)が適用されて査定となりました。在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)の対象は、同療法の留意事項(4)にて「高度慢性呼吸不全例、肺高血圧症の患者、慢性心不全の患者のうち安定した病態にある退院患者(その他省略)」と通知されています。病名欄をみると、適応がないことがわかります。カルテを参照したところ、「間質性肺炎が経時的に増悪したことによる呼吸症状が全面的に出てきている状態であることから在宅酸素療法を導入」と記録されていました。「急性呼吸不全」ではなく、「慢性呼吸不全」の病名で請求すべきでした。査定点数が大きいため患者の状態やレセプトに記載が必須となる項目ならびに規定を満たしているSPO2の結果を医師に記載していただき再審査請求をしたところ復活しました。在宅酸素療法指導管理料は、高点数であるとともに、3ヵ月間に3回算定できるため査定となった場合の収入への影響は著しく大きくなります。他院において、レセプトに記載が必須の項目の漏れでの査定・返戻を確認しています。事例では、レセプトチェックシステムに、適用病名と必要補記がない場合には警告を表示させるよう改修して査定対策としています。

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いますぐ使える!在宅医療 小ワザ 離れワザ

現場の声から生まれた“すぐ使える”在宅医療ハック集在宅医療の最前線で奮闘する医師や看護師が、試行錯誤の中で培ってきた“現場の知恵”を1冊に凝縮。身近な日用品を活用するアイデアや、解決が難しいケースへのアプローチ方法まで、患者に寄り添う小ワザ離れワザを多数紹介。「そうそう、あるある!」と思わずうなずいてしまう現場の悩みを、わかりやすい解説と豊富な写真・イラストでスッキリ解決。在宅医療の奥深さと可能性を再発見できる実用書です。読者対象:在宅医療を行っている(これから行おうとしている)医師、訪問看護師、介護士、ケアマネージャー、薬剤師画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するいますぐ使える!在宅医療 小ワザ 離れワザ定価2,970円(税込)判型A5判(並製)頁数192頁発行2026年2月編集一瀬 直日(総合病院岡山協立病院 総合診療科部長 臨床研修センター長)草場 鉄周(北海道家庭医療学センター理事長、日本プライマリ・ケア連合学会理事長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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GLP-1受容体作動薬が2型糖尿病患者の椎体骨折リスクを低下させる可能性

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が処方されている2型糖尿病患者は、椎体骨折のリスクが低いことを示すデータが報告された。国立成功大学(台湾)のWei-Thing Khor氏らの研究によるもので、「JAMA Surgery」に12月10日、レターとして掲載された。 近年、GLP-1RAが血糖降下以外のさまざまな副次的作用を有することを示す臨床データが報告されてきているが、2型糖尿病がリスク因子となり得る椎体骨折への影響についてはデータがまだ十分でない。この点についてKhor氏らは、世界各地の医療機関の電子医療記録を統合したリアルワールドのデータベースである「TriNetX」を用いて検討した。 2015年1月1日~2022年1月1日に2型糖尿病と診断され、診断後6カ月以内にGLP-1RA(セマグルチド、リラグルチド、デュラグルチドのいずれか)の処方記録のある患者25万9,162人と、GLP-1RA処方の記録のない患者128万9,637人を特定。その患者群から傾向スコアマッチングにより、GLP-1RA処方群と非処方群を1対1で抽出し、それぞれ19万3,563人から成るコホートを作成した。なお、2型糖尿病診断前に椎体骨折、脊椎腫瘍、椎体形成術などの既往のある患者、および、心理・社会的要因による潜在的健康リスクを有する患者は除外されている。 GLP-1RA処方群において、デュラグルチドの処方が9万2,757人、リラグルチドが9万399人、セマグルチドが3万3,187人に記録されていた。平均年齢は58.1±11.3歳、女性52.5%、BMI35.9±8.0、HbA1c8.4±2.2%であり、その他の臨床検査値、および糖尿病や骨粗鬆症に対する薬剤の処方状況も、GLP-1RA非処方群とよく一致していた。 評価項目を、椎体骨折の発生、および、椎体形成術などの外科的介入の記録とし、GLP-1RAの処方開始(非処方群については2型糖尿病の診断)から最長10年間追跡した。その結果、椎体骨折はGLP-1RA処方群で2,826件(発生率1.5%)、非処方群で3,402件(同1.8%)発生しており、オッズ比(OR)0.83(95%信頼区間0.79~0.87)と、処方群のオッズが有意に低かった。また、外科的介入についても、同順に156件(0.08%)、195件(0.10%)、OR0.80(0.65~0.99)であり、やはり処方群のオッズが有意に低かった。 著者らは、「これらの研究結果は、GLP-1RAが骨折リスク抑制作用を有する可能性を裏付けるものと言える。因果関係の検証と、この関係の根底にあるメカニズムを解明するため、前向き研究が必要とされる」と述べている。

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食事の影響を受けない子宮筋腫治療薬「イセルティ錠100mg」【最新!DI情報】第57回

食事の影響を受けない子宮筋腫治療薬「イセルティ錠100mg」今回はGnRHアンタゴニスト「リンザゴリクスコリン(商品名:イセルティ錠100mg、製造販売元:キッセイ薬品工業)」を紹介します。本剤は、食事の影響を受けることなく経口投与が可能なGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アンタゴニストであり、子宮筋腫の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善の適応で、2025年12月22日に製造販売承認を取得しました。なお、本剤による治療は根治療法ではないことに留意し、手術が適応となる患者の手術までの保存療法並びに閉経前の保存療法としての適用を原則とします。<用法・用量>通常、成人にはリンザゴリクスとして200mgを1日1回経口投与します。なお、初回投与は月経周期1~5日目に行います。<安全性>重大な副作用として、うつ状態(1%未満)があります。その他の副作用として、ほてり(52.4%)、不正出血(38.2%)、多汗症、頭痛、関節痛、手指などのこわばり、生化学的骨代謝マーカー上昇、倦怠感(いずれも5%以上)、閉経期症状、めまい、月経異常、骨密度減少、脱毛症、傾眠、不眠、AST、ALT、γGTPの上昇、肝機能異常、悪心、便秘、血中コレステロール増加、血中トリグリセリド増加、低比重リポ蛋白増加、脂質異常症、動悸、浮腫(いずれも1~5%未満)、乳房不快感、易刺激性、食欲減退(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などの子宮筋腫に基づく症状を改善します。2.この薬は、GnRHの働きを抑えることで、黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンの分泌を阻害し、卵巣からのエストラジオールやプロゲステロンなどの性ホルモン濃度を低下させます。3.症状が良くなったと感じても、自己判断で使用を中止したり、服用量を減らしたりしないでください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人はこの薬を使用することはできません。5.エストロゲン低下作用により骨塩量の低下が現れることがあるため、6ヵ月を超える継続使用は原則として行われません。<ここがポイント!>子宮筋腫は、子宮筋層を構成する平滑筋に発生する良性腫瘍であり、幅広い年代の女性に認められる疾患です。多くは無症状で経過し、健康診断などで偶然発見されることも少なくありません。症状の有無や程度は、筋腫の発生部位や大きさによって異なりますが、代表的なものとして過多月経、過長月経、月経痛、貧血などがあります。さらに、筋腫のサイズが大きくなると、頻尿、排尿困難、便秘といった周囲臓器の圧迫症状もみられることがあります。子宮筋腫の発生原因は未だ明らかになっていませんが、エストロゲンおよびプロゲステロンが筋腫の増大に関与していると考えられています。そのため、閉経後にはこれらのホルモン分泌の低下に伴い、筋腫は自然に縮小する傾向があります。無症状で筋腫が小さい場合は治療を必要とせず、定期的な健診による経過観察が選択されます。しかし、筋腫が大きい場合や症状により日常生活に支障を来す場合には、治療を検討します。治療法は大きく手術療法と薬物療法に分けられます。手術療法には、子宮全摘術、子宮筋腫核出術、子宮鏡下子宮筋腫摘出術などがあり、年齢や妊娠希望の有無、筋腫の性状に応じて選択されます。薬物療法は根治を目指すものではありませんが、GnRHアゴニストまたはアンタゴニストを用いた偽閉経療法が行われています。これにより、子宮筋腫による症状の改善、筋腫縮小による手術時のリスクや侵襲性の軽減、あるいは閉経までの症状コントロール(逃げ込み療法)を目的とした治療が可能となります。現在、GnRHアゴニストとしてはリュープロレリン酢酸塩などの皮下注射が、GnRHアンタゴニストとしては経口製剤であるレルゴリクスが使用されています。リンザゴリクスは、GnRHアンタゴニストに分類される薬であり、GnRH受容体においてGnRHと拮抗することで、性腺刺激ホルモンであるゴナドトロピンの分泌を抑制し、卵巣におけるエストロゲン産生を低下させます。本剤はGnRHアゴニスト製剤で認められる治療開始初期のフレアアップ現象(ホルモン分泌の一過性上昇)がなく、速やかに効果が発現する点が特徴です。また、同じ経口GnRHアンタゴニストであるレルゴリクスと異なり、食事の影響を受けることなく経口投与が可能な点も特徴の1つです。過多月経を有する子宮筋腫患者を対象とした国内第III相臨床試験(KLH2301試験)において、主要評価項目である治験薬投与6週後から12週後までのPictorial Blood Loss Assessment Chart(PBAC)スコアの合計点が10点未満である症例の割合は、本剤200mg群で89.9%(95%信頼区間[CI]:83.7~94.4)、リュープロレリン酢酸塩群で90.8%(95%CI:84.7~95.0)で、投与群間差は-0.9%(両側95%CI:-8.6~6.9)であり、両側95%CIの下限が非劣性マージンである-15%以上であることから、本剤のリュープロレリン酢酸塩に対する非劣性が検証されました(非劣性検定、p<0.001)。また、副次評価項目であるPBACスコアの合計点が10点未満となる症例の割合が50%になる期間は6日、75%になる期間は19日でした。

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若手医師は帰属意識が高い?首都圏出身者も移住希望?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省が2025年12月23日、『令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』1)を公表し、都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数などが明らかになった(参考:「医師数公表、人口当たり医師数が最も多い県・少ない県/厚労省」)。厚生労働省ではこれを基盤として医師偏在をさらに客観的に把握するため、2018年度より「医師偏在指数」*も公表している。また、2025年11月に行われた医師偏在対策に関する検討会では、労働時間などの違い、地域ごとの医療需要(医療ニーズ)などといった考慮すべき5つの要素が示され、2027年度からの次期医師確保計画に向けて必要な見直しが検討されるという2)。*計算式は、標準化医師数÷[地域の人口(10万×地域の標準化受療率比)]で、数値が低いほど医師不足を表す。現行は「医師の性別・年齢分布」が考慮されているが、2027年度より5つの要素(医療需要[ニーズ]及び将来の人口・人口構成の変化、患者の流出入等、へき地等の地理的条件、医師の性別・年齢分布、医師偏在の種別[区域、診療科、入院/外来])が考慮される予定。 そこで、このような状況を踏まえ、ケアネットでは医師が勤務地選択の際にどのような条件を重視するのかなどを調査。20~60代の会員医師1,018名を対象に、移住(Iターン・Jターン・Uターン)3)希望の有無、将来的に希望する勤務地・定住先とその理由、勤務地を決定したタイミングについて、アンケートを行った。若手の地方出身者は帰属意識が高い?首都圏出身者は? まず、回答者の出身エリアと主な勤務エリアは以下のとおりであった。―――――――――――――――――――<出身エリア>北海道:5.8%  東北:7.2%  関東:22.3%  中部:16.7%  近畿:21.3%  中国:8.3%   四国:4.3%  九州・沖縄:12.8%  海外:0.6%<現在の主な勤務エリア>北海道:5.3%  東北:6.1%  関東:30.1%  中部:16.1%  近畿:19.6%中国:8.3%   四国:3.9%  九州・沖縄:10.3%  海外:0.2%――――――――――――――――――― 将来的な勤務希望地(出身地や実家[義実家を含む]のある地域での勤務希望)について、全体の60%超が「はい(いつか戻りたい)」「現在、出身地・実家のある地域で働いている」と回答。また、すでに地元などで勤務している医師は40代以上では4割を超えていた。 今回、本アンケート結果のp.12では、参考までに年代・出身地別の移住意向率も示した。現在、県外に勤務し将来的に移住を希望する割合は20代で高く(47.7%)、首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)を除外した場合にも高い傾向であった。また、驚いたことに、首都圏出身者(263人)のうち85人が首都圏外で勤務していたが、そのうちの7割は戻る意向を示さなかった。一方で、東北エリア、中国エリア出身者の県外勤務者の移住意向は低かった(それぞれ9.1%、7.4%)。 なお、診療科別(内科・外科・その他)での希望有無の違いを比較すると、外科系医師の移住希望はやや少ない傾向であった。希望地の選択理由、20代と60代で共通する理由 本結果から各年代での勤務地選択理由の傾向が明らかになった。20代は「地域/へき地医療への貢献」(18.5%)、30~40代は「子育て・教育環境」(各25.0%、14.9%)を重視する傾向にあった。50代以降では、「親の介護/実家管理」などの問題もやや増加した。60代以降でも約2割の医師は「地域/へき地医療への貢献」を選択していた。 各年代の選択理由については、以下のようなコメントも寄せられた。<20代>・地域枠(山梨県出身/山梨県勤務・糖尿病・代謝・内分泌内科)・出世するためにどこへでも行きたいから(兵庫県出身/千葉県勤務・病理診断科)・家賃が高い(大阪府出身/東京都勤務・眼科)<30代>・義務だったため(新潟県出身/新潟県勤務・内科)・医局を辞め新しい居住地を探す際に、地元が便利なため(神奈川県出身/兵庫県勤務・神経内科)<40代>該当コメントなし<50代>・子を保育園に預けられないとき(感染症など)、実家にみてもらうため。教授から「実家がないと復帰は無理」と言われ、辞めることを暗に勧められた(岩手県出身/岩手県勤務・心療内科)・需要と供給、利便性、将来性などのバランス(東京都出身/山口県勤務・精神科)<60代>長女だから仕方ない(大阪府出身/大阪府勤務・小児科)将来の勤務先、20~30代が意識する時期は… 将来の勤務地を意識する/した時期については、各年代ともに「意識したことがない」医師が最も多かったものの、その傾向は若手になるほど減少に転じている。年代別でみると、20~30代は「前期研修時」(各25.0%、16.2 %)、40代は「医学部入学時」(10.9%)、50代は「親の健康状態の変化」(9.3%)、60代は「入局時」(12.6%)という結果であった。 このほかのアンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。『将来の希望勤務地は?いつ決めた?/医師1,000人アンケート』

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第94回 システマティックレビュー? メタアナリシス?【統計のそこが知りたい!】

第94回 システマティックレビュー? メタアナリシス?臨床試験や医学研究を読む際に「システマティックレビュー」と「メタアナリシス」という用語を目にすることがよくあります。しかし、これらの言葉はしばしば同じ意味で使われることが多いものの、本来は異なる意味を持っています。今回は、その違いを正確に説明するとともに、論文を読む際の注意点について解説します。■システマティックレビューとは?システマティックレビューは、「ある特定の研究課題に対する既存のエビデンスをあらかじめ定めた基準にしたがって、体系的かつ包括的に論文を収集、評価する研究」を指します。その主な目的は、研究結果の全体像を把握することで、最後に結果を統合して、効果ありや効果なしとかの結論は出さなくてもシステマティックレビューは成り立ちます。【システマティックレビューの手順】明確な研究課題や目的を設定する。定義された基準に従って、関連するすべての研究を検索する。収集した研究を厳密に評価し、有用性や信頼性を判断する。各研究の結果をまとめ、全体的な総括を提示する。【特徴】定性的(質的)な分析が中心。データの統計的統合を必ずしも含まない。システマティックレビューは、質の高いエビデンスを提供するために不可欠であり、特定の治療や介入の有効性を評価する際に重要な基盤を提供します。■メタアナリシスとは?メタアナリシスは、システマティックレビューの一部または拡張として行われる場合が多く、これは「統計的手法を用いて複数の研究結果を統合し、定量的な結論を導き出すプロセス」です。【メタアナリシスの手順】システマティックレビューによって収集されたデータを使用する。各研究の効果サイズ(例:リスク比や平均差)を計算する。効果サイズを統合して、全体の効果を推定する。【特徴】定量的(数値的)な分析が中心。統合された結果を視覚化するためのフォレストプロット*が一般的。*フォレストプロット同じ問題を扱った多数の科学的研究から得られた推定結果を、全体の結果とともにグラフ化したもの。■論文を読む際の注意点1)研究の質を確認するシステマティックレビューやメタアナリシスの信頼性は、元となる研究の質に依存します。バイアスの有無や研究デザインの適切性を確認します。2)異質性の検定複数の研究を統合するメタアナリシスなどでは,研究間の結果にばらつきがあるかどうかを異質性の検定を用いて確認します。3)結果の解釈に注意メタアナリシスの統合結果が有意であっても、実際の臨床的意義を慎重に判断する必要があります。システマティックレビューとメタアナリシスは、医学研究のエビデンスレベルを評価する上で非常に重要です。ただし、それぞれの役割や特徴を理解し、適切に解釈することが求められます。とくにメタアナリシスの結果を過信せず、研究の質や臨床的意義を考慮することが大切です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第83回 「中間解析」のメリット、デメリットは第84回 臨床研究で用いられる“PICO”と“PECO”とは?第85回 健康寿命はどうやって算出する?

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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ミノサイクリンは急性期脳梗塞に有益か/Lancet

 急性期虚血性脳卒中に対する発症後72時間以内に開始したミノサイクリン療法は、プラセボとの比較において、安全性への懸念なく90日時点で有意な機能的アウトカムの改善をもたらしたことが示された。中国・首都医科大学のYao Lu氏らEMPHASIS Investigatorsが、同国58病院で行った多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「EMPHASIS試験」の結果を報告した。ミノサイクリンは、広く使用されている忍容性が良好で安価なテトラサイクリン系の抗菌薬で、さまざまな神経疾患に対する有望な薬剤として注目されており、前臨床モデルおよび小規模臨床試験で虚血性脳卒中に対する潜在的なベネフィットが示されていた。著者は、「さらなる研究を行い、今回示された知見を確認し、より重症または軽症の脳卒中患者にも同様のベネフィットが及ぶかどうかを明らかにする必要がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2026年1月30日号掲載の報告。発症後72時間以内に投与開始、90日時点の優れた機能的アウトカムを評価 EMPHASIS試験の対象は、18~80歳、脳CTまたはMRIで虚血性脳卒中が確認された、発症から72時間以内、National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア範囲4~25、意識レベルスコア(NIHSSのサブスケール1a)≦1の患者であった。 被験者は、ルーチンに行われていた治療に加えてミノサイクリンの経口投与を受ける群(初回投与量200mg、その後12時間ごとに100mgを4日間)またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。コンピュータ生成無作為化シークエンス法によるブロック無作為化(試験施設により層別化された固定4ブロックサイズ)が用いられた。 主要アウトカムは、90日時点の優れた機能的アウトカム(修正Rankinスケール[mRS]スコア:0~1)であり、無作為化され試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者を対象に、欠損データの補完を行うことなく解析した。 安全性のアウトカムは、試験薬を少なくとも1回投与され、少なくとも1回安全性の評価を受けた患者を対象とし、24時間時点および6日時点の症候性頭蓋内出血などを評価した。主要アウトカム、ミノサイクリン群52.6%、プラセボ群47.4% 2023年5月19日~2024年5月20日に、1,724例がミノサイクリン群(862例)またはプラセボ群(862例)に無作為化された。年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~71)、男性が1,151例(66.8%)、女性が573例(33.2%)であり、ベースラインのNIHSSスコア中央値は5(IQR:4~7)であった。 4例(ミノサイクリン群3例、プラセボ群1例)が同意を取り下げ、19例(9例、10例)が追跡不能であった。 90日時点でmRSスコアが0~1の被験者は、ミノサイクリン群で447/850例(52.6%)、プラセボ群で403/851例(47.4%)であった(補正後リスク比:1.11、95%信頼区間[CI]:1.03~1.20、p=0.0061)。 mRSスコアの全範囲にわたる順序解析でもミノサイクリン群が優れ、補正後共通オッズ比は1.19(95%CI:1.03~1.38、p=0.018)であった。 症候性頭蓋内出血の発生はミノサイクリン群とプラセボ群で、24時間時点(1/860例[0.1%]vs.0/861例[0%])、6日時点(3/859例[0.3%]vs.0/861例[0%])でいずれも同程度であった。重篤な有害事象(ミノサイクリン群40/862例[4.6%]vs.プラセボ群51/862例[5.9%]、p=0.24)を含むその他の安全性アウトカムについて有意差は認められなかった。

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うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法、不安レベルにより有効性に違いはあるか

 うつ病患者でよくみられる不安症状は、治療反応の低下と関連している。ブレクスピプラゾールの8週間第IV相オープンラベル試験「ENGAGE試験」において、抗うつ薬への治療反応が不十分なうつ病患者に対するブレクスピプラゾール0.5~2mg/日補助療法により、ライフ・エンゲージメント、抑うつ症状、不安症状の改善が認められた。大塚カナダファーマシューティカルのFrancois Therrien氏らは、臨床的に関連するサブグループにおけるブレクスピプラゾール補助療法の有用性を、ベースライン不安レベル別に明らかにするため、ENGAGE試験の事後解析を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2025年12月29日号の報告。 ベースラインの不安に関するサブグループは、7項目の全般性不安障害評価尺度(GAD-7)の総スコアに基づき、なし/軽度(10未満)、中等度(10~14)、重度(14超)に分類した。各サブグループにおいて、10項目の自己記入式うつ症状尺度(IDS-SR10)のライフ・エンゲージメントサブスケールスコア、IDS-SR総スコア、その他の有効性アウトカムの変化を評価した。安全性についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール補助療法を受けた患者120例のうち、ベースライン時点での不安症状が、なし/軽度は30例(25.0%)、中等度は43例(35.8%)、重度は47例(39.2%)であった。・IDS-SR10ライフ・エンゲージメントサブスケールスコアおよびIDS-SR総スコアは、ベースラインから8週目までの全サブグループにおいて改善が認められた(nominal p<0.001)。・その他の有効性エンドポイントについても改善が認められた(全サブグループでnominal p<0.05)。・治療下での有害事象の発現率は、76.7%(なし/軽度)、72.1%(中等度)、57.4%(重度)であった。・新たな安全性シグナルは認められなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾール補助療法は、ベースラインの不安レベルにかかわらず、患者のライフ・エンゲージメントおよび抑うつ症状の8週間にわたる改善と関連していた。この観察結果は、不安症状の有無にかかわらず、うつ病患者の治療におけるブレクスピプラゾール補助療法の臨床的意思決定を支持している」としている。

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第302回 衆院選で自民党が歴史的勝利、消費税減税で世の中と医療・介護はどうなる?

過激派、左翼も衰退し、ノンポリの若者、国民が増えつつあった時代の映画こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。1月31日、映画監督の長谷川 和彦氏が亡くなりました。いくつかの報道では、1970年代にわずか2本の長編映画しか撮っていなかったにもかかわらず、生涯「映画監督」と呼ばれ続けたことが話題になっていました。私もデビュー作『青春の殺人者』、第2作『太陽を盗んだ男』を封切りの映画館で観て、大きな衝撃を受けた1人です。親殺しがテーマの『青春の殺人者』(1976年度・キネマ旬報邦画1位)は、水谷豊と原田 美枝子の迫真の演技と真っ赤ではないリアルな血の色に映画館で震えた記憶があります。中学の理科教師が原発から液体プルトニウムを盗み出し、原爆を自宅で作って政府を脅迫するという『太陽を盗んだ男』(1979年度・キネマ旬報邦画2位)は、その現実離れしたストーリー展開に加え、お金をかけたアクションシーンや教師役の沢田 研二のスターらしからぬ軽妙な演技に引き込まれました。というわけで、日曜日の夜は開票速報をテレビで観るのは止めにして、長谷川監督追悼の意味も込めて、『太陽を盗んだ男』を鑑賞しました(Amazonプライム・ビデオにありました)。久しぶりに観て感じたのは、1979年という時代の曖昧さです。過激派、左翼も衰退し、ノンポリの若者、国民が増えつつあった時代です。原爆を作った教師は政府に「プロ野球の中継時間を伸ばせ」「ローリング・ストーンズを来日させろ」という、どうでもいいような要求を突きつけるだけです。右でも左でもなく、西でも東でもないその政治性のなさに、当時の時代の空気が感じられて興味深かったです。それにしても、「一市民が原爆を作る」という内容の映画、今なら企画会議で即NGになっていたでしょうね。医療、介護にも影響大きい消費税減税さて、『太陽を盗んだ男』の公開から約半世紀、左翼どころか中道すら完全に衰退モードに入ったようです。日曜日の衆議院選挙は、自民党の圧勝に終わりました。高市 早苗首相は解散前に与党過半数(233議席)を割り込めば「退陣する」と明言していましたので、その目標を大きくクリアしたことになります。一方、中道改革連合は惨敗しました。「中道」という言葉自体に加え、代表2人が写ったポスターもなにやら古臭く、若者に訴求しなかったのかもしれません。選挙の翌日、2月9日に開かれた記者会見で、共同代表の1人、野田 佳彦氏は「われわれ2人の共同代表には時代遅れ感が付きまとっていた」と語っていましたが、その「時代遅れ感」に選挙前に気が付いていなかったこと自体が、大きな敗因と言えそうです。高市首相は「飲食料品については2年間に限り消費税の対象としない」公約を掲げ、選挙後は減税「実現に向けた検討を加速する」としていましたので、消費税減税がいよいよ現実味を帯びてきました。それにしても、今回の衆院選での与野党含めての減税公約にはほとほと呆れました(「チームみらい」以外)。本当に消費税減税が実現した場合、日本はどうなるのでしょうか。医療、介護にも影響大きい消費税減税について、考えてみます。日本経済新聞コラム「大機小機」、消費税減税後の未来を予測2月3日付の日本経済新聞に掲載された経済コラム「大機小機」が、消費税減税後の世界について興味深い予測を行っていたので、その内容を簡単に紹介します。この日の「大機小機」は、「自分が10年後の日本にいると仮定して、現在の消費税減税の提案を評価してみよう」という前提で、「今後10年間のことが過去形」で語られるというSFのようなユニークな内容でした。それによれば、「2026年2月の衆議院選挙の結果を受けて、食料品にかかる消費税が2年間限定で、27年4月からゼロになった。実際にやってみると次のようなことがわかった」として、10年間に起きたことを3点挙げています。「第1に経済活動に不規則な変動が起きた。(減税直前に)買い控えが起き、(減税終了前に)買い急ぎが起き、(中略)(GDPの前期比は)マイナスになったり、プラスになったりし、そのたびに経済論議が混乱した」「第2に、期待されていた消費の活性化と成長率の底上げはほとんど起きなかった」「第3に、減税に伴う5兆円の税収減を埋め合わせるほどの財源は確保できず、財源赤字が拡大した。減税で経済が活性化して税収が増えるという効果も小さかった。よく考えると、そんな手品のようなことが実現するはずなかったのだ」。以上の3点を指摘した上で、同コラムは「日本経済低迷の救世主であるかのごとく祭りあげられていた消費税減税は、(中略)実施に際しての混乱と将来への負の遺産を残しただけに終わった。その後、消費税減税を主張する議論はほとんどみられなくなった」と結んでいます。消費税を下げ、社会保険料も下げれば、医療・介護サービスの給付削減、質の低下が進むあくまでも「10年後から振り返る」というSF的予測記事なので、この通りにこれから進むかはわかりませんが、各党の消費税減税の目的やその財源策などを聞いていると、「大機小機」の予想する未来は、相当程度の確度で当たるような気がします。消費税は年金・医療・介護・子育て支援などの社会保障4分野の「基礎的財源」と位置付けられています。単純に消費税を減税し、その穴を埋めない場合、社会保障費全体の伸び抑制や給付水準の見直しが必要になります。それは、診療報酬や介護報酬にも影響が及ぶことを意味します。今回の衆院選、多くの党は社会保険料の削減も主張していました。消費税を下げ、社会保険料(健康保険料、介護保険料等)も下げれば、ますます社会保障の財源は逼迫し、医療・介護サービスの給付削減、質の低下が進むことになります。それは自明の理と言えますが、今回、給付削減や医療や介護のサービスの質低下の可能性について言及する党がまったくなかったのがとても心配です。ちなみに、「減税による減収は赤字国債で賄う」という公約の党もありましたが、その分だけ政府の債務が増え、将来世代が所得税などで負担することになります。「国債で」という時点で、その政治家は将来の日本は二の次で、今の自分のこと(=当落)しか考えていないことになります。2月9日に開かれた記者会見で、高市首相は消費税減税について実施時期は明言しなかったものの、「給付付き税額控除」の導入までの経過措置として2年間に限定して減税すると発言、財源について「特例公債には頼らない」と付け加えました。2年限定で、しかも「特例公債には頼らない」なんてことができるのでしょうか。「第300回 東大皮膚科教授、高級クラブやソープランドで約30回、約180万円の接待受け収賄で逮捕、国際卓越研究大学の認定に黄信号」の冒頭でも書いたように、自民党内にも消費税減税反対を唱える議員は少なくありません。前途は相当多難と言えます。「高負担で高福祉」の国を目指すのか、「低負担・低福祉」の国を目指すのかところで、欧米を見渡せば、「高負担・高福祉(フランス、デンマークなど)」、「低負担で低福祉(米国など)」と、国によってそのタイプはさまざまです。日本は税負担と福祉支出の両方でOECD平均に近く、高負担高福祉モデルと低負担低福祉モデルの中間に位置するとされています。つまり、「中負担・中(あるいは高)福祉」が今の日本です。今回の衆院選の各党の主張を聞いていると、「低負担・高福祉」という現実にはあり得ないモデルを提案しているように見えます。「低負担」を目指せば、当然、「低福祉」「低医療」になってしまうのに、なんと無責任な政治家たちでしょう。高市首相は、超党派の国民会議を開き、社会保障と税の一体改革や給付付き税額控除、消費税減税を議論する、としています。国民会議は「超党派」かつ「有識者も交えた」形で設置するとのことですが、「消費税減税ありき」のイエスマンばかりで構成することなく、日本が今後「高負担・高福祉」を目指すのか、「低負担・低福祉」を目指すのかという、国の方向性についてもしっかり議論してもらいたいと思います。

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ALT・AST上昇例へのスタチン【日常診療アップグレード】第49回

ALT・AST上昇例へのスタチン問題75歳男性。現在、症状はない。狭心症と2型糖尿病、高血圧、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease:MASLD)による代償性肝硬変の既往がある。処方薬はアスピリン、クロピドグレル、カルベジロール、リシノプリル、デュラグルチド、ピタバスタチンである。過去1年間に薬剤の変更はない。身体診察では、バイタルサインおよびその他の所見は正常である。1年前と同様の軽度の肝トランスアミナーゼ上昇がある(AST 55U/L、ALT 65U/L)。肝トランスアミナーゼ値が上昇しているが、ピタバスタチンを継続した。

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6月から薬剤師による投薬量の削減判断が可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第165回

「薬剤師」という文字が、日本経済新聞の一面を飾りました! しかも良い意味で!薬の過剰処方に歯止め、薬剤師が削減判断 6月運用変更薬の過剰処方にメスが入る。厚生労働省は6月から、飲み忘れや飲み残しがある患者への投薬量を薬剤師の判断で減らしやすくする。薬剤費は日本の医療費の2割ほどを占め、国の社会保障費が膨らむ一因となっている。無駄を減らして患者の負担を抑えるとともに公的医療保険制度の持続性を高める。(2026年2月3日付 日本経済新聞)先日、1年後には電子カルテ共有サービスによって、薬局にも傷病名が共有される時代が来る! と小躍りしたばかりですが、6月から薬の飲み残しなどの残薬がある場合の日数変更が薬剤師の判断でできるようになります。私、感激しております!クリニックからの処方箋については日数変更の疑義照会はスムーズかと思いますが、大きめの病院になると、薬剤部に連絡し、その連絡を受けた薬剤部の方が処方医を探して日数変更を確認する…という流れになることが多いでしょう。せっかく残薬を申告してくれた患者さんを待たせてしまうだけでなく、処方医がつかまらないなどのまさかの理由で「次回の受診時に患者さんから医師に残薬数を報告してもらってください」と言われてしまうことも…。薬局の薬剤師に言っても意味がないと思われるリスクもあり、正直「日数変更、しかも減薬だけなのに…」と思うこともたびたびありました。しかし、処方箋に記載されている事項はある種“絶対”です。医療の中には既存の規制による非効率な作業というのは山ほどあります。とはいえ、その中には他の立場になって考えると残しておいたほうがよいものから、サクッとシステムに置き換わるものまでさまざまですが、この日数変更に関しては、医師がその経緯を確認できるのであれば三方良しの改定ではないでしょうか。事前に話題になっていなかったような気がしますが(私だけ…?)、これほどまでに迅速にルールが変わるとは思っていませんでした。すごい!では、少し落ち着いて具体的にどのようになるのか見ていきましょう。次の診療報酬改定から、処方箋に「薬を減らしたうえで医療機関に情報提供」という欄が新設されます。この欄に医師がチェックしていて、薬剤師が残薬を確認した場合は薬剤師の判断で薬の量が減らせるようになります。減薬をした場合に、事後的に医師や医療機関へ減薬について連絡すればよいので双方の負担は軽減されますが、欲を言えばチェック欄にチェックする医師の手間もなくしてほしかったなと思います。まぁここは仕方ないでしょうか。今回の急展開には驚きましたが、国民医療費の削減は待ったなしの状況なのだなと改めて痛感します。そして、医師が薬を処方したら、そのあとは薬局薬剤師も責任を持つという大きな流れも感じ、身の引き締まる思いもします。医師や行政、そして一番大事な患者さんがこの変更にメリットを感じてほしいなと思います。

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泌尿器科ロボット支援手術、遠隔手術が現地手術に非劣性/BMJ

 泌尿器科領域のロボット支援手術(根治的前立腺全摘除術、腎部分切除術)では、遠隔手術は現地手術に対し成功率に関して非劣性であり、遠隔手術システムは1,000~2,800kmの距離で安定して稼働し、合併症や早期回復、腫瘍学的アウトカム、医療チームの作業負担などにも有意差を認めないことが、中国・Chinese PLA General HospitalのYe Wang氏らTeleS Research Groupが実施した「TeleS研究」で示された。研究の成果は、BMJ誌2026年1月28日号で報告された。中国の無作為化対照比較非劣性試験 TeleS研究は、2023年12月~2024年6月に、中国の5施設で実施した単盲検無作為化対照比較非劣性試験(中国・国家自然科学基金などの助成を受けた)。北京と他の4つの地域(ウルムチ[北京とのおおよその距離2,800km]、杭州[1,300km]、ハルビン[1,250km]、合肥[1,000km])の施設の間に遠隔手術システムを構築した。 ロボット手術による根治的前立腺全摘除術および腎部分切除術を予定している患者72例(ITT集団)を対象とした。これらの患者を、北京からの遠隔手術を受ける群(36例、年齢中央値61.0歳[四分位範囲[IQR]:57.5~68.0])または各地域で現地手術を受ける群(36例、65.0歳[IQR:56.5~70.0])に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、手術成功率(医療チームが事前に設定した基準で判定)。手術および早期回復に関連した13の臨床的副次アウトカム、医療チームの作業負担に関連した1つの副次アウトカムなどを評価した。また、手術システムに関する4つの技術的副次アウトカム(ネットワーク通信の遅延、表示の遅延、遠隔手術中のフレームロス、システム故障)も探索的に評価した。副次アウトカムの回復と合併症について、被験者は術後4週間および6週間に追跡評価された。ITT、PP集団とも高確率で非劣性を示す 遠隔手術群の32例(根治的前立腺全摘除術17例、腎部分切除術15例)および現地手術群の31例(16例、15例)が実際に手術を受け(per protocol[PP]集団)、それぞれ31例および28例が6週間の追跡調査を完了した。 ITT集団における手術成功率は、遠隔手術群が100%(36/36例)、現地手術群は94.44%(34/36例)であり、PP集団ではそれぞれ100%(32/32例)および96.77%(30/31例)であった。 ベイズの混合効果ロジスティック回帰分析では、ITT集団の手術成功率の推定群間差は0.02(95%信用区間[CrI]:-0.03~0.15、非劣性の事後確率:0.99)であり、PP集団は0.003(95%CrI:-0.001~0.03、非劣性の事後確率:>0.99)であった。 いずれの集団でも、95%CrIの下限値が事前に規定された非劣性マージン(-0.1)を上回り、非劣性の事後確率が0.98を超えていることから、高い確率で遠隔手術の現地手術に対する非劣性が示された。さまざまな問題の実現可能な解決策となる可能性 遠隔手術システムは、北京と4地域の1,000~2,800kmの距離で安定しており、ネットワークの平均往復遅延時間は20.1~47.5ミリ秒、フレーム損失は1回の遠隔手術当たり0~1.5フレームであった。その他の副次アウトカム(手術基本データ、合併症、早期回復、腫瘍学的アウトカム、医療チームの作業負担など)は、両群間で有意差を認めなかった。 著者は、「本研究は、遠隔手術分野における初の無作為化対照比較試験として、その信頼性が従来の現地手術に劣らないことを立証した」「この知見は、今後の大規模臨床試験のデザインや実施に向けた基本的なエビデンスの基盤を提供する」「中国では、質の高い医療資源が大都市に集中するため、病床待ち時間の長期化、長距離移動、地方の総医療費の増加などの問題が生じ、同時に国際社会は高齢化とがんの早期発症傾向という二重の圧力に直面している。遠隔手術は、これらの問題に対する実現可能な解決策となるだろう」としている。

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LH-RHアゴニスト5年後も閉経前のリンパ節陽性早期乳がん、ET延長は再発抑制と関連するか?/JCO

 5年間のLH-RHアゴニストベースの術後内分泌療法(ET)を完了後も閉経前であったリンパ節転移陽性のHR陽性早期乳がん患者に対するETの延長は、浸潤性乳がん再発および遠隔再発のいずれにおいても臨床的に意義のある減少と関連していたことが、米国・ハーバード大学のCarmine Valenza氏らによって示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2026年1月15日号掲載の報告。 閉経前および閉経後のER陽性早期乳がん患者では、タモキシフェンによる術後療法を10年に延長すると、乳がん死亡率が低下することが報告されている(ATLAS試験)。LH-RHアゴニストによる5年間の術後療法を完了した後も閉経前である患者に対するETの延長を支持するエビデンスはないが、実臨床では多くの患者でタモキシフェン単独療法への切り替えまたはLH-RHアゴニスト(+タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬)によるETの延長が実施されている。そこで研究グループは、2つの前向きに収集されたデータセット(Young Women's Breast Cancer StudyおよびEuropean Institute of Oncology Breast Cancer Cohort)を用いたコホート研究の解析を実施して、ET延長のベネフィットを調査した。 対象は、2005~16年に40歳以下で早期乳がんと診断され、リンパ節転移陽性かつHR陽性で、LH-RHアゴニストベースの術後療法を開始して5年経過後も再発を認めない閉経前の女性であった。なお、閉経前の定義は、45歳未満、LH-RHアゴニスト中止後のエストラジオール値が閉経前の範囲内または月経再開のいずれかとした。主要評価項目は浸潤性乳がんのない生存期間(IBCFS)、その他の評価項目は無遠隔再発生存期間(DRFS)、骨折や主要な心血管イベントなどで、傾向スコア重み付け法を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は合計501例で、延長のETを受けたのは287例(57%)、受けなかったのは214例(43%)であった。年齢中央値は両群ともに37歳であった。延長群では、非延長群と比較して、pT3/4(14%vs.7%)、pN2/3(36%vs.26%)、組織学的グレード3(49%vs.42%)の患者が多かった。・延長群における延長後のET期間中央値は3.7年(四分位範囲[IQR]:2.3~5.0)であった。延長後のETとしてタモキシフェン単独療法を受けた患者が48%、LH-RHアゴニストとタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬の併用療法を受けた患者が52%であった。・追跡期間中央値7.3年(IQR:4.8~10.3)で、IBCFSイベントは延長群で53件(19%)、非延長群で74件(34%)発生した。5年IBCFS率はそれぞれ85%および78%であり、ET延長と再発リスク低下との関連が示唆された(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.44~0.89、p=0.0135)。この傾向はpT1症例を除くほとんどのサブグループで一貫していた。・DRFSイベントは延長群で28件(10%)、非延長群で44件(21%)発生した。5年DRFS率はそれぞれ91%および83%であった(HR:0.49、95%CI:0.31~0.79)。・両群において、骨折および主要な心血管イベントは患者の1%に発現した。

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最新科学が覆す 体にいいのはどっち?

ニューヨークの専門医×最新論文で解き明かす本書では、ニューヨークの老年医療の最高峰であるマウントサイナイ医科大学に勤める山田 悠史氏が、「白湯は体にいい?」「バリウム検査は受けたほうがいい?」「グルテンフリーは健康にいいの?」など、多くの人が気になる健康神話を、食事・健康・運動・睡眠・民間療法などといったジャンルごとに分類し、最新の論文をもとに「本当に正しいのはどちらか」を解説します。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する最新科学が覆す 体にいいのはどっち?定価1,870円(税込)判型四六判頁数272頁発行2025年12月著者山田 悠史ご購入はこちらご購入はこちら

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AIで脂肪吸引手術の安全性が向上する可能性

 人工知能(AI)が脂肪吸引手術の安全性向上に役立つのではないかとする論文が、「Plastic and Reconstructive Surgery」1月号に掲載された。米メイヨー・クリニックのMauricio Perez Pachon氏らの研究によるもので、AIを活用することで脂肪吸引手術に伴う出血量を正確に予測でき、その精度は94%に及ぶという。 脂肪吸引手術は世界で毎年230万人以上が受けており、手術件数として美容外科手術全体の15~20%を占める。この手術は一般的に安全とされているが、脂肪吸引量が多い場合などに、大量出血という深刻な合併症が起きることがある。大量出血が発生すると輸血が必要になることや、時に患者が死亡に至ることもある。このようなリスクに対して近年、AIを用いて出血量を術前に予測する試みが行われている。Pachon氏は、「脂肪吸引手術における出血量を予測するAIモデルの開発と実装は、患者の安全と手術アウトカムの改善につながる画期的な進歩だ」と述べている。また、研究チームでは、「AIは常に進化しているという特徴を生かすことで、手術がよりスマートで安全になっていき、患者ごとのニーズに合わせてカスタマイズされた未来に近づけるのではないか」としている。 この研究では、コロンビアとエクアドルのクリニック2施設で大容量の脂肪吸引手術を受けた、721人(年齢中央値37歳、女性79.2%)の患者データが用いられた。このうち621人をAIのトレーニング用データとして用い、他の100人を構築されたモデルの検証用データとして用いた。AIのトレーニングには「教師あり学習」と呼ばれる手法を利用し、出血量を予測するためのパラメーターとして、年齢、性別、BMI、脂肪吸引量、ヘモグロビン値などを使用した。 構築されたモデルを検証用に割り当てられた100人に適用した結果、AIが予測した出血量は実際の出血量とよく一致していた。具体的には、平均絶対誤差が22.09mLであり、予測精度は94.1%と算出された。 研究者らによると、「美容外科手術では、患者の安全と最適な手術計画の立案のために、手術中の出血量をできるだけ正確に予測することが重要。本研究で示された予測精度は、術前の意思決定支援ツールとしての高い潜在的能力を示している」とのことだ。また、「高精度の予測がなされることによって、外科医は、輸血の必要性、体液管理、その他の集中治療措置などの周術期管理について、データに基づいた決定を下すことができる」としている。 研究チームでは現在、世界各地の外科医から提供されたデータを使ってトレーニングを行うなど、このAIモデルをさらに改良するための研究を進めていくことを予定している。Pachon氏は、「AIテクノロジーの発展は患者の安全性を高める無限の可能性があると、われわれは信じている。この分野での継続的な発展を期待している」と語っている。

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