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コロナPCR検査等の誤判定、日本での要因は?

 新型コロナウイルス感染症の診断において、PCRをはじめとする核酸検査には高い信頼性が求められており、厚生労働省では、その測定性能や施設の能力の違いの実態把握と改善を目的として、2年にわたり「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等にかかる精度管理調査業務」委託事業を行っている。今回、令和3年度調査結果について報告書がまとめられ、日本臨床検査薬協会(臨薬協)と日本分析機器工業会(分析工)がメディア勉強会を開催。同調査を実施、報告をとりまとめた宮地 勇人氏(新渡戸文化短期大学 副学長)が講演した。<外部精度管理調査の概要>実施期間:2021年11月7~25日参加施設(1,191施設):病院74.1%、衛生検査所14.7%、診療所3.8%、保健所3.1%、地方衛生研究所2.0%、検疫所1.6%など(自費検査の実施は、診療所 [93.3%]および臨時衛生検査所[80%]で多く、陰性証明書の発行を行っている施設は診療所[88.9%]で多い傾向がみられた。測定原理はリアルタイム PCR 法 が73.9%と最も多く、その他LAMP法、SmartAmp法などさまざまな等温核酸増幅法が用いられていた。プール法の実施施設は6.4%だった)。評価方法:陰性を含む濃度の異なる6試料について正答率を評価し、施設カテゴリーや測定法(機器・試薬およびその組み合わせで10施設以上で実施されていた21パターン)ごとに解析、誤判定要因の特定を行った。PCR等の偽陰性は医療機関で多い傾向、要因として挙がったのは 全体として、試料別にみた正答率は93.0~99.4%と総じて良好だったが、98施設(延べ139検体)で誤判定(偽陽性・偽陰性)があり、主に医療機関(病院・診療所)であった。試料別正答率を施設カテゴリー別にみると、地方衛生研究所や検疫所(100%)、保健所(96.7~100%)で高かったのに対し、病院(91.9~99.7%)や診療所(83.3~100%)で低かった。とくに診療所では、PCR検査等の偽陰性結果が比較的多くみられた。 偽陰性結果について詳細をみると、測定機器に依存する傾向がみられ、SmartGene(19施設)、TRCReady(26施設)、ミュータスワコーg1(19施設)使用施設に多く認められた(計64施設)。その他の要因を検討するため、上記測定機器を使用していた64施設を除く34施設で特性をみると、測定者に臨床検査技師や認定微生物検査技師等の認定資格なしの施設の割合が高く、導入時の性能評価未実施の施設の割合が高かった。 さらに34施設に対して誤判定要因についてヒアリング調査を行ったところ、「検出限界の未確認・再現性不良の可能性」といった試薬・機器に依存するものが22施設と最も多かった一方、測定前後の作業手順等に関わる下記5点も要因となっていることが明らかになった。・試料の取り違い(5施設15件)・陽性/陰性の判定指標の不適切さの可能性(3施設4件)・キャリーオーバー汚染(2施設2件)・測定試薬の管理の不適切さの可能性(1施設2件)・判定結果の転記ミスの可能性(1施設1件) 上記のうちとくに試料の取り違いについて、宮地氏は「1つの取り違いで必ず複数の誤判定が生じてしまう。今回の調査のように、事前に準備をしている状況でも起きているということは、大量検体が舞い込むような状況下ではさらに誤判定リスクが増していると懸念される」と指摘した。 そのほか今回の調査では、輸送培地に含まれる塩酸グアニジンが偽陰性リスクにつながりうることが示された。検査の拡大により、輸送培地として塩酸グアニジン溶液を含有して感染リスクを最小化した製品(SARS-CoV-2不活化試薬、PCRメディアSG、輸送用スワブキットなど)が使用されるようになっており、塩酸グアニジンが残存しているとPCR反応阻害による偽陰性リスクがあるため、使用している核酸抽出法がその影響を除外することを確認する必要がある。コロナ誤判定にスワブの種類は日本では影響なし スワブの素材により、ウイルス回収量が異なるということが世界的に指摘されている。今回の調査では、ウイルス回収量が最も高く臨床的感度が高いと報告されているナイロン製をはじめ、ポリアミド製、ポリウレタン製、ポリエステル製などの多様な素材の綿球が使用されていたが、明らかな差は認められなかった。宮地氏はこの結果から、「日本で一般的に使われているものは広く支障なく使えることが明らかになった。サプライ停滞時には、代替製品を使うことが可能」とした。 プール法の精度については、54施設を対象に3試料(5プール)の外部精度管理調査が実施された。正答率は94.4~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。プールの個別試料の正答率は96.1~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。計6施設で誤判定があり、その施設カテゴリーとしては病院等が多く、要因としては、・測定性能の確保(検出限界、再現性)・作業手順(検体の取り違い)・測定システム(ダイレクトPCRの使用)のほか、上述の6試料についての外部精度管理調査での誤判定ありの施設と、プール法での誤判定ありの施設に重複がみられた。 厚労省では、令和2年度調査の結果を踏まえて「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等における精度管理マニュアル」を公開しているが、今回の調査で同マニュアルを利用していると答えた施設は39.2%と低く、とくに病院(32.6%)、診療所(28.9%)で低かった。マニュアルは今回の調査結果も反映して改訂されており、誤判定要因とその対策についてもまとめられている。

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1回の接種で効果が期待できる新型コロナワクチン「ジェコビデン筋注」【下平博士のDIノート】第102回

1回の接種で効果が期待できる新型コロナワクチン「ジェコビデン筋注」今回は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組換えアデノウイルスベクター)(商品名:ジェコビデン筋注、製造販売元:ヤンセンファーマ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目として承認されたウイルスベクターワクチンであり、1回の接種で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を予防することが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2022年5月30日に承認されました。なお、現時点では本剤の予防効果の持続期間は確立していません。本剤の接種は18歳以上が対象です。<用法・用量>通常、1回0.5mLを筋肉内に接種します。追加免疫については、本剤の初回接種から少なくとも2ヵ月経過した後に2回目の接種を行うことができます。<安全性>主な副反応として、注射部位疼痛(57.9%)、疲労(46.1%)、頭痛(44.7%)、筋肉痛(40.4%)などが報告されています。また、重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、血栓症・血栓塞栓症(脳静脈血栓症・脳静脈洞血栓症、内臓静脈血栓症等)、ギラン・バレー症候群(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.このワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。3.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。4.1回の接種で予防できるワクチンです。初回接種から2ヵ月以上経過した後に2回目の接種(追加免疫)を受けることができます。追加免疫の要否は医師により判断されます。5.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.ワクチン接種後に、鼻血、青あざができる、出血が止まりにくい、ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛みなどが起こった場合には、血栓症の恐れがありますので、すぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で5番目の新型コロナウイルスワクチンとして承認された1回接種で予防効果が期待できるワクチンです。これまで承認されているワクチンは、mRNAワクチンであるコミナティ筋注/同5~11歳用、スパイクバックス筋注と、アデノウイルスベクターワクチンであるバキスゼブリア筋注、および組み換えスパイクタンパクを抗原としたヌバキソビッド筋注がありました。本剤はバキスゼブリア筋注に続く2剤目のウイルスベクターワクチンです。本剤は新型コロナウイルスワクチンとして初めての1回接種型です。ワクチンを1回接種した場合、中等症や重症になるリスクを、未接種群と比較して約66%低減させたと報告されています。なお、予防効果を高めるために、2ヵ月以上経過してからの追加免疫が認められています。ただし、ほかのワクチンとの交互接種についての有効性および安全性は評価されていません。1回接種は0.5mLで、本剤1バイアルには5回接種分が含まれています。特徴としては、発熱の副反応の頻度が少ないことが挙げられます。一方、「重要な基本的注意」に血小板減少を伴う血栓症(TTS)について注意喚起されています。本症の多くは接種後3週間以内に発現し、致死的転帰の症例も報告されているため、血栓塞栓症もしくは血小板減少症のリスク因子を有する者への接種には注意が必要です。なお、本剤について現時点では公費負担での接種とはならないため、接種希望者は自費での接種が想定されています。参考1)PMDA 添付文書 ジェコビデン筋注

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米国、人種-民族間の健康格差、地域ごとに違いはあるか/Lancet

 米国の2000~19年の健康格差を体系的に分析したところ、5つの人種-民族別にみた平均余命の格差は広範かつ永続的に存在していたことを、米国・ワシントン大学のLaura Dwyer-Lindgren氏らGBD US Health Disparities Collaboratorsが報告した。米国の人種-民族間の平均余命には大きく永続的な格差が存在するとされていたが、これまでそのパターンが地域規模でどの程度異なるかは明らかになっていなかったという。今回、研究グループは、米国3,110郡について20年間にわたり、5つの人種-民族の平均余命を推定し、平均余命の時空間でみた変動および人種-民族間の格差を明らかにする解析を行った。Lancet誌2022年7月2日号掲載の報告。5つの人種-民族別に2000~19年の平均余命の変化を推定し評価 研究グループは、US National Vital Statistics Systemからの死亡登録データとUS National Center for Health Statisticsからの人口統計データを、新規の小規模エリア推定モデルに適用し、2000~19年の郡および5つの人種-民族(非ラテン・非ヒスパニック系白人[白人グループ]、非ラテン・非ヒスパニック系黒人[黒人グループ]、非ラテン・非ヒスパニック系アメリカ先住民/アラスカ先住民[AIANグループ]、非ラテン・非ヒスパニック系アジア・太平洋諸島系アメリカ人[APIグループ]、ラテン・ヒスパニック系アメリカ人[ラテン系グループ])で層別化した、年間性別死亡率と年間年齢別死亡率を推定した。 これらの死亡率について、死亡診断書で人種および民族の誤りを修正し、その後に簡易生命表を作成して出生時の平均余命を推定した。健康格差をなくし寿命を延伸するには、地域がカギ 2000~19年の平均余命の変動傾向は、人種-民族グループおよび郡で異なっていた。米国全体で平均余命の伸長が認められたのは、黒人グループ(変化:3.9歳[95%不確定区間[UI]:3.8~4.0]、2019年の平均余命:75.3歳[75.2~75.4])、APIグループ(2.9歳[2.7~3.0]、85.7歳[85.3~86.0])、ラテン系グループ(2.7歳[2.6~2.8]、82.2歳[82.0~82.5])、そして白人グループ(1.7歳[1.6~1.7]、78.9歳[78.9~79.0])だった。一方、AIANグループは変化が認められなかった(0.0歳[-0.3~0.4]、73.1歳[71.5~74.8])。 全米レベルでは、黒人グループと白人グループの平均余命の格差は対象期間中に縮小していた。しかしAIANグループと白人グループの同差は拡大していた。これらのパターンは、郡レベルにおいても広く認められた。 APIおよびラテン系グループと白人グループの平均余命の格差(白人グループのほうが平均余命は下回る)は、全米レベルでは2000~19年に拡大していた。しかし、郡レベルでみると、ラテン系グループは少数とはいえかなりの数(615/1,465郡[42.0%])でその差が縮小しており、APIグループは多数(401/666郡[60.2%])でその差が縮小していた。 すべての人種-民族グループで、平均余命の改善は対象期間の後期10年(2010~19年)よりも前期10年(2000~10年)のほうが郡全体にわたっており、大きかった。 結果を踏まえて著者は、「米国における社会的弱者の健康状態悪化と早期死亡の根本的原因に対処し、健康格差をなくして、すべての人の寿命を延伸するには、地域レベルのデータが不可欠である」と述べている。

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医師の生活を破壊するインフレ!「あの方法」で乗り越えよう【医師のためのお金の話】第58回

ついにインフレが到来しました。バブル崩壊後30年もの長きにわたって続いたデフレがいよいよ終わろうとしています。持続的に物価が上昇するインフレの世界では、「これまでの常識」がまったく通用しません。数年単位の欧米への留学経験のある医師以外は、リアルなインフレ経験のある人はほとんどいないのではないでしょうか。私も含めて、ほとんどの日本人はデフレの世界が永遠に続くと思っていたはずです…。インフレになっても収入が増えれば問題ありません。ところが医師の収入は医療財政で規定されています。つまりインフレに連動して収入が増えるわけではないのです。収入が増えないのに支出が増える…。このピンチを乗り切るための対策を考えてみましょう。インフレの持つすべてを轢き潰す破壊力インフレの世界では、あらゆるモノが値上がりしていきます。しかも今年だけ2%上昇して終わりというわけではありません。来年も2%、再来年も2%というように物価が持続的に上昇します。投資の世界では「複利」が重要視されています。毎年の利子が少しずつ増加して雪だるま式に資産が増えていく複利効果は、長期投資が推奨される理由の1つです。物理学者のアインシュタインが「複利は人類最大の発明」と呼んだことでも有名ですね。毎年2%の利子が続くと雪だるま式に資産が増えていきますが、インフレではこれと逆の状況が発生します。つまり、年率2%のインフレが持続すると「雪だるま式に」物価が上昇していくのです。米国の物価は、私たち日本人の感覚からすると驚くほど高いです。2022年度版のビックマック指数(ビッグマック1個の価格を比較して各国の経済力を測るための指数)は、米国5.81ドルに対して、日本3.38ドルでした。3月以降の急激な円安進行のために、足元では差はさらに開いています。おおむね2倍程度と思ってよいでしょう。1990年のバブル経済絶頂期では日本の物価の方が高かったのです。その後30年の間、米国では毎年2~3%のインフレが続きました。一方、日本はデフレ経済が続いていたため、平均すると物価上昇率は0%台でした。わずかなインフレ率の差で、30年後の物価は2倍近くも開きました。2~3%のインフレでさえ、これほどの影響力があります。現在欧米で進行中の10%近いインフレが、いかに深刻な問題かがわかりますね。医師がインフレに弱い理由医師の収入は医療財政から捻出されています。しかし周知のように日本の財政は火の車。インフレに連動して診療報酬がアップするとは考え難いですね。つまり、医師の収入は増えないのにモノの価格だけ上昇する、という悪夢のような状況が現実化するのです。医師はバブル経済崩壊後で唯一の勝ち組でした。なぜ医師は勝ち組になれたのでしょうか。その理由は医師の収入が“減少しなかった”からです。決して収入が大幅に増加したからではないのがポイントです。大して収入が増加したわけではないのに医師が勝ち組と目されるのは、その他の職種の収入が減少したからです。さらにデフレが続いたために、医師の実質的購買力は増加しました。まさに医師にとってはわが世の春だったのです。ところが、デフレからインフレに転換するとすべてが逆回転し始めます。収入は増加しないのに物価は上昇する。しかも他の職種の場合、収入は上昇する余地があります。彼らの多くは国家財政に収入が規定されているわけではないからです。マーケットの海賊、インフレに打ち克つ方法インフレは投資の世界にも大きな影響を及ぼします。比較的インフレに強いと思われている投資の世界でさえ、インフレによって手痛いダメージを受けてしまいます。インフレは“マーケットの海賊”といわれるほどです。米国の研究では、株式投資の収益率は10%、債券投資の収益率は5%程度といわれています。ところがインフレが年率3%の場合、株式投資の収益率は7%、債券投資にいたっては2%にまで低下してしまいます。収入が減って購買力が低下した分を投資で補おうとしても意味がないのでしょうか? 私はそうではないと思います。確かにインフレは投資成果にも悪影響を及ぼしますが、それでもプラスを維持していることに注目すべきです。インフレ率が2%の状況では、何も対策を打たなければマイナス2%です。一方、米国のケースでは株式投資なら7%、債券投資でも2%と、立派にインフレに対抗できています。もちろん、日本株や日本国債ではもう少し収益率は低い可能性が高くはなります。とくに債券投資はマイナス圏に沈んでいる可能性も否定できません。しかし、株式投資であれば、インフレに対抗できる可能性が高いでしょう。そして、株式投資が一般的になっているのは喜ばしいことです。私たちの生活を破壊するインフレに対抗するには、何らかのアクションを起こさなければいけません。株式投資はその候補の筆頭といえるでしょう。今からでも遅くありません。しっかり勉強してインフレの世界に備えましょう。

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認知症有病率の日本のコミュニティにおける20年間の推移

 認知症患者数は世界的に増加しており、とくに世界で最も高齢化が進む日本において、その傾向は顕著である。認知症高齢者の増加は、予防が必要な医学的および社会経済的な問題であるが、実情について十分に把握できているとはいえない。愛媛県・平成病院の清水 秀明氏らは、1997~2016年に4回実施した愛媛県中山町における認知症サブタイプ横断研究の結果を解析し、認知症有病率の経年的傾向について報告した。その結果、認知症の有病率は、人口の高齢化以上に増加しており、高齢化だけでない因子が関与している可能性が示唆された。著者らは、認知症高齢者の増加を食い止めるためには、認知症発症率、死亡率、予後の経年的傾向や認知症の増進・予防に関連する因子の解明および予防戦略の策定が必要であるとしている。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年6月26日号の報告。認知症有病率は年齢標準化すると有意に増加 愛媛県中山町に在住する65歳以上のすべての住民を対象とし、1997年、2004年、2012年、2016年の4回にわたり、認知症に関する横断的研究を実施した。すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、その他/分類不能の認知症の有病率について、経年的傾向を調査した。 アルツハイマー病など認知症の有病率について経年的傾向を調査した主な結果は以下のとおり。・すべての原因による認知症の年齢標準化有病率は、有意に増加していた。・アルツハイマー病、その他/分類不能の認知症においても同様の傾向が認められたが、血管性認知症では有意な変化が認められなかった。【すべての原因による認知症の有病率】1997年:4.5%、2004年:5.7%、2012年:5.3%、2016年:9.5%(P for trend<0.05)【アルツハイマー病の有病率】1997年:1.7%、2004年:3.0%、2012年:2.5%、2016年:4.9%(P for trend<0.05)【血管性認知症の有病率】1997年:2.1%、2004年:1.8%、2012年:1.8%、2016年:2.4%(P for trend=0.77)【その他/分類不能の認知症の有病率】1997年:0.8%、2004年:1.0%、2012年:1.0%、2016年:2.2%(P for trend<0.05)・すべての原因による認知症とアルツハイマー病の粗有病率は、75~79歳および85歳以上の高齢者において、1997年から2016年に増加が認められた(すべてのP for trend<0.05)。・同様の傾向は、80歳以上の高齢者において、その他/分類不能の認知症で認められたが(すべてのP for trend<0.05)、血管性認知症では認められなかった。

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同時懸濁による配合変化が生じたため最適処方を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第48回

 今回は、経管投与のトラブルを解決した処方提案を紹介します。薬剤を経管投薬する際は簡易懸濁法がとても便利ですが、崩壊・懸濁の可否に加えて、同時懸濁による配合変化も事前に確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患アテローム血栓性脳梗塞、右内頚動脈狭窄症、認知症、膀胱がん術後服薬管理施設職員処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 朝食後3.イルソグラジン口腔内崩壊錠4mg 1錠 朝食後4.ロスバスタチン口腔内崩壊錠2.5mg 1錠 朝食後5.酸化マグネシウム錠330mg 4錠 朝夕食後6.センナ・センナ実顆粒 1g 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、直近で脳梗塞を急性発症して入院し、内服調整ののち退院しました。退院処方では抗血小板薬が2剤追加されていました。大脳が広範囲にわたって梗塞していたことから意識障害があり、むせこみも強いことから、経鼻胃管を挿入して経管投薬を継続する指示となっていました。退院してまもなく、施設看護師より経鼻チューブが詰まりやすいのでどうにかならないかという相談がありました。施設を訪問し、退院処方の内容を確認していると、簡易懸濁法による薬剤投与にいくつか問題があることに気付きました。<簡易懸濁法での薬剤投与の問題1)>(1)簡易懸濁法に適していない薬剤があるセンナ・センナ実顆粒(商品名:アローゼン顆粒)は簡易懸濁法で崩壊・懸濁しづらく、通過困難から経鼻チューブを詰まらせていた可能性がある。(2)複数薬の同時懸濁で配合変化の問題がある酸化マグネシウムは崩壊・懸濁後の液性が強アルカリ(pHが約10)となり、配合変化において問題となる薬剤の代表格である。本事例においては、クロピドグレルが酸化マグネシウムとの同時懸濁によりクロピドグレル(イオン形)から水に難溶性で粘性のあるクロピドグレル(分子形)に変化したことで、チューブを閉塞させた可能性がある。また、経管投与量自体が減少している可能性もある。2)そこで、簡易懸濁法による投与を最適化するための提案をトレーシングレポートと電話で実施することにしました。処方提案と経過医師に、上記の問題(1)(2)より、現行の処方薬では簡易懸濁法による投与が困難であること説明しました。改善策として、(1)簡易懸濁が困難なセンナ・センナ実顆粒を、簡易懸濁可能なピコスルファートナトリウム錠2.5mgに変更することを提案しました。また、(2)クロピドグレル錠と酸化マグネシウム錠に関しては、同時懸濁による配合変化を避けるため、酸化マグネシウム錠の処方コメントとして、別包にして同時に懸濁しない旨を処方箋に追記するよう依頼しました。医師より、その場で承認が得られたため、当日中に変更内容を反映した対応を開始しました。その後は、経鼻チューブの閉塞もなく、排便コントロールも安定していることを確認し、現在もモニタリングしています。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック 〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第3版. じほう;2015.2)Aoki M, et al. J Pharm Health Care Sci. 7;18: 2021.

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063)「あと5分」の駆け込み受診あるある【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第63回 「あと5分」の駆け込み受診あるあるゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆連日暑い日が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。梅雨も明け、皮膚科の繁忙期(夏)がいよいよ本番といった今日この頃ですが、これを書いているいま現在は、暑過ぎるせいか意外と外来の患者数は控えめな印象です。家から出られないほどの暑さ…!? 熱中症、要注意ですね。それはさておき、先日の外来のお話。スタッフと「ここのところ外来が落ちついていますねー」などと言いながら、半ば休憩の支度をしつつ受付終了時間を待っていた時のこと。もうあと数分、「午前診はこれでおしまい!」と確信したその瞬間、まさかの飛び込み受診が入り、しかも顔面挫創。聞くと、先行する友達の自転車とぶつかり、転倒してしまったのだとか。未来ある若者の顔面、傷を残すわけにいきません。結局そのまま処置に入り、30分ほど超過して午前の外来を終えました。受付終了間際の飛び込み処置、外来あるあるですね。お久しぶりな患者さんの重症例や、重めの新患も飛び込みで来がち~~!(時間外で来ることもある…)「最後の最後まで気が抜けないな!」と、あらためて思ったのでした。それでは、また〜!

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英語で「1日の排尿回数」は?【1分★医療英語】第36回

第36回 英語で「1日の排尿回数」は?I think my child does not have an appetite recently.(最近、うちの子の食欲があまりないような気がします) I see. Do you remember how many times a day he/she had a wet diaper yesterday?(なるほど、昨日は1日に何回くらいおしっこをしたか覚えていますか?)《例文》患者She had only four wet diapers today. Is it normal?(私の娘は今日4回しかおしっこをしていません。これって普通ですか?)医師Yes, it is totally normal for her age!(娘さんの年齢でしたら、まったく問題ないですよ!)《解説》今回は小児特有の英語表現をお伝えします。日本語に直訳しづらいのですが、“a wet diaper”で「オムツをしているお子さんのおしっこ」を示します。“two wet diapers”は「2回おしっこをした」(直訳では「オムツが2回濡れた」)というように、排尿回数を表すことができます。生後から3歳前後まではオムツをしている子が多いかと思いますが、赤ちゃんや幼児が陥りやすい脱水症状の指標として“wet diaper”の回数を聞くことは医療者にとって必須です。上記の表現のように“How many times a day does your baby have a wet diaper?”と聞く以外にも、“How many wet diapers does your baby have every day?”という表現も使われ、同様の意味となります。いずれも聞きたいのは「オムツをしている赤ちゃんの排尿回数」です。オムツを卒業した子どもの場合は、“pee”を用いて“How many times did you pee yesterday?”(昨日何回おしっこをしましたか?)と聞きます。さらに大きくなった青少年期や大人に対してはいろいろな表現がありますが、“go to the bathroom”を用いて、“How many times a day do you go to the bathroom?” で「1日に何回排尿しますか?」と聞くことが多い印象です。「排尿する」には“urinate”という単語がありますが、子どもの患者さんや家族に対して使うとかなり仰々しい印象になるので、医療者同士の会話以外ではあまり使われません。小児領域では医療者同士の会話でも“wet diaper”や“pee”を使う人が多いです。上記の表現をマスターし、子どもの患者さんが来た際にはぜひ使ってみてください。講師紹介

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第108回 大規模通信障害を受け、医療機関に代替手段確保を呼び掛け/厚労省

<先週の動き>1.大規模通信障害を受け、医療機関に代替手段確保を呼び掛け/厚労省2.コロナワクチン支援事業、期限を9月まで延長/厚労省3.テクノロジーの活用で、介護の生産性の向上あるか検証へ/厚労省4.診療報酬改定に加え、インフレが病院経営に直撃か/福祉医療機構5.電子処方箋発行にHPKIカードが必須、医薬関係者は早期取得を/厚労省1.大規模通信障害を受け、医療機関に代替手段確保を呼び掛け/厚労省2日に発生したKDDIの大規模な通信障害が長期化し、復旧まで3日ほどかかったことから、厚生労働省医政局は4日、全国の自治体ならびに医療機関に向けて、通信障害が発生した場合でも、診療などに影響が生じることがないよう平時から体制を整備していく必要性を呼び掛けた。医療施設における休日夜間の診療体制を維持するため、職員との連絡手段を確保すること患者からの電話を受信できるよう複数の通信手段を確保し、受信可能な電話番号をホームページに掲載するなどの体制を整備すること在宅医療や訪問看護などを実施している医療施設等において、当該医療施設等が利用している連絡手段が使用できない場合は、固定電話等の代替的な連絡先を患者等に伝えること特にリスクの高い在宅患者等について、患者等との連絡がとれない場合には、別の連絡手段を確保することや、頻回な訪問等による安否確認を行うこと以上を参考に、通信障害が発生した場合であっても診療を継続できるよう周知を求めている。(参考)通信障害時にも診療継続が可能となるよう、在宅患者への「代替的な連絡先」提示などの体制を確保せよ―厚労省(Gem Med)通信障害発生時における通信手段の確保について(厚労省)2.コロナワクチン支援事業、期限を9月まで延長/厚労省厚労省は6日、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の期限を7月末までから9月末まで延長することを各都道府県に通知した。延長されたのは、「時間外・休日のワクチン接種会場への医療従事者派遣事業」「新型コロナウイルスワクチン接種体制支援事業」。病院への支援として、1日50回以上ワクチン接種を行った場合、1日当たり10万円が交付される。また、1日50回以上の接種を週1日以上達成する週が4週間以上ある場合、追加で医師1人1時間当たり7,550円などが交付される(集団接種会場への医療従事者派遣と同額)。診療所への支援としては、期間中に週100回以上の接種を4週間以上行った場合、達成した週における接種1回当たり2,000円を、同様に150回以上を4週間以上行った場合は1回当たり3,000円を交付する。この要件を満たさずとも、1日50回以上の接種を行った場合には、1日当たり定額で10万円が交付される。(参考)コロナワクチン接種推進に向けた補助(緊急包括支援事業)、期限を「9月」まで延長—厚労省(Gem Med)医療機関のワクチン接種、財政支援の期間延長 9月末まで、10月以降は今後判断(CB news)令和4年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)の実施に当たっての取扱いについて(厚労省)3.テクノロジーの活用で、介護の生産性の向上あるか検証へ/厚労省厚労省は、持ち回り開催の社会保障審議会介護給付費分科会において、テクノロジーの活用により介護サービスの質の向上および業務効率化を推進していく観点から、実証研究の結果なども踏まえ、見直しを行うことを明らかにした。具体的には、見守り機器等を活用した夜間見守り、介護ロボットの活用などを実際に実証事業から得られたデータの分析を行い、次期介護報酬改定の検討に向けた、エビデンスの収集を行う。これらのテクノロジーの導入によって、ケアの質が適切に確保されているかどうか、介護職員の働き方や職場環境がどう改善したかなどについて10月以降に事後検討を行う。(参考)テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(厚労省)見守り機器活用など4つのテーマで効果実証へ 次期介護報酬改定の検討材料に、厚労省(CB news)4.診療報酬改定に加え、インフレが病院経営に直撃か/福祉医療機構福祉医療機構が2022年6月に行った病院経営動向調査の結果によると、一般病院における医業収益のDI(増加病院と減少病院の割合の差:%ポイント)は、前回調査から15%ポイント低下した。一方、医業費用のDIは前回調査から15%ポイント上昇、人件費増減のDIは前回調査から10%ポイント上昇しているなど、医療機関が診療報酬改定の影響だけでなく、物価高の影響を受けていることが明らかとなった。医療機関にとっては、電気代、水道代に加え、病院食の材料費の値上げが続いており、経営に対する影響が強まっていると考えられる。(参考)病院経営動向調査の概要(福祉医療機構)一般病院の医業収益、診療報酬改定で減収病院が多数に 福祉医療機構調査、改定直前の見込み下回るも費用増(CB news)コスト圧縮限界、病院給食明らかに赤字 物価高騰が委託先も直撃(同)5.電子処方箋発行にHPKIカードが必須、医薬関係者は早期取得を/厚労省厚労省は、ホームページに電子処方箋の概要案内を掲載した。電子処方箋の導入は2023年1月からで、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬チェックなどができるようになる。患者はマイナンバーカードがなくとも、従来の健康保険証を利用して電子処方箋の発行を受けられるが、医療機関が発行するためには、医療機関において顔認証付きカードリーダーの準備が必要(オンライン資格確認の仕組みを活用するため)であり、日本医師会 電子認証センターでHPKIカードの発行手続きが必要となる。このため厚労省は、HPKIカードの早期取得を医師や薬剤師に働きかけると共に、医療機関側にオンライン資格確認のために顔認証付きカードリーダーの補助金を活用して整備を求めていく。なお、HPKIカードの申請には、申請書と住民票、身分証のコピー(運転免許証、マイナンバーカード)、医師・薬剤師免許のコピー、顔写真が必要だ。(参考)電子処方箋 概要案内【病院・診療所】(厚労省)オンライン資格確認導入に向けた準備作業の手引き(同)医師資格証(HPKIカード)新規お申込み(日本医師会 電子認証センター)電子処方箋導入補助金、1施設当たり7.7万-162.2万円 厚労省、HPKIの早期取得・オンライン資格確認導入促す(CB news)

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第51回 期待度数がわかれば簡単! クラメール連関係数の計算法【統計のそこが知りたい!】

第51回 期待度数がわかれば簡単! クラメール連関係数の計算法今回は、前回第50回で学んだ、クロス集計表の表側・表頭の2項目の関連性の強さを表す指標であるクラメール連関係数(Cramer's coefficient of association)の計算方法について解析します。■期待度数医師の所属する施設形態とある循環器疾患治療薬の処方の集計表(表1)において回答人数の横計と縦計を掛け、全回答人数で割った値を「期待度数」と言います。表1 事例の集計表■クラメール連関係数まず、表2のように期待度数の横%を算出します。表2 期待度数の横%期待度数の横%表はどの医師の所属施設の経営形態も全体と一致します。このような集計結果が得られた場合、医師の所属施設の経営形態と処方薬剤は「関連性がまったくない」と言え、クラメール連関係数は0となります。調査より得られたクロス集計表の回答人数を「実測度数」と言います。実測度数と期待度数の値を比べ、値が一致すればクラメール連関係数は0、値の差が大きくなるほどクラメール連関係数は大きくなると考えます。この考えに基づき、表3に示す式で各セルの値を計算します。表3 係数計算の一覧表 セルの値を合計して得られた値をカイ二乗値といいます。クラメール連関係数は“r”は、カイ二乗値を用いた次の計算式で求められます。※kはクロス集計表2項目のカテゴリー数で小さいほうの値(この事例の場合はどちらもカテゴリー数は3つなので3となります)上記の計算式に数値を代入することで、この場合のクラメール連関係数は、下記の通り求めることができます。クラメール連関係数はいくつ以上あれば関連性があるという統計学的基準はありません。クロス集計表を見る限り関連性があるように思えても、クラメール連関係数の値は大きな値を示さないことを考慮して、一般的には、“0.1”を境目にして「“0.1以上”であれば関連がある」と解釈します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その1)質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その2)質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その3)

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「乳癌診療ガイドライン」4年ぶり全面改訂、ポイントは?/日本乳癌学会

 4年ぶりに乳癌診療ガイドラインが全面改訂され、第30回日本乳癌学会学術総会で「乳癌診療ガイドライン2022年版 改定のポイント」と題したプログラムが開催された。本稿では、乳癌診療ガイドライン2022年版の治療編(薬物療法、外科療法、放射線療法)の主な改訂点について紹介する。治療編全体における改訂点として、乳癌診療ガイドライン2022年版では冒頭に「総説」を追加。病気/サブタイプ別の治療方針のシェーマや各CQ/BQ/FRQの治療における位置付けを解説し、治療全体の流れを理解できる構成となっている。乳癌診療ガイドライン2022「薬物療法」の変更点 乳癌診療ガイドライン2022年版の「薬物療法」については遠山 竜也氏(名古屋市立大学)が登壇し、6つの新設CQを中心に解説。まず、早期乳がんに対するエスカレーション治療として、術後のアベマシクリブとS-1について、乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設された。アベマシクリブはmonarchE試験の結果から、ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの患者に対する術後療法として「内分泌療法にアベマシクリブを2年間併用することを強く推奨」(CQ6)。S-1は現在承認申請中であるものの、POTENT試験の結果に基づき「内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨」した(CQ5)。両療法における“再発高リスク”の考え方についてはそれぞれ適格基準の表を乳癌診療ガイドライン2022年版では挿入したほか、総説でその位置づけを解説。遠山氏は「POTENT試験のほうが対象が広いので、そちらにしか該当しない症例にはS-1を、両基準に合致する症例は副作用のプロファイルや投与期間を考慮して使っていくことになるのではないか」と述べた。 周術期の免疫療法として、現在承認申請中ではあるが、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブについても乳癌診療ガイドライン2022年版ではCQが新設された。KEYNOTE-522試験の結果に基づき、周術期TNBCに対して「ペムブロリズマブの投与を弱く推奨」している(CQ16)。“弱く”という表現になった理由について同氏は、有害事象があること、どのような患者に対して投与すべきかに充分なコンセンサスがないことを指摘。「今回は先取りして取り上げ、このような表現となっているが、承認されたときには改めてディスカッションが必要」とした。 閉経前のホルモン受容体陽性/HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次治療としてのCDK4/6阻害薬について、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版で初めてCQが設けられた。日本で承認済のパルボシクリブ・アベマシクリブについては閉経後患者対象の試験でPFS改善が報告されているが、リボシクリブについてのMONALEESA-7試験では閉経前の患者でPFSおよびOSが改善している。併用薬については、タモキシフェンとの併用群でQT延長がみられたことでFDA承認が見送られていることから、乳癌診療ガイドライン2022年版においても非ステロイド性アロマターゼ阻害薬との併用が推奨された(CQ18)。 その他、「残存病変に基づく治療選択」として、術後のカペシタビン(HER2陰性)とT-DM1(HER2陽性)について乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設されている(CQ10、CQ13)。乳癌診療ガイドライン2022年版「外科療法」の変更点 九冨 五郎氏(札幌医科大学)は外科療法における今回の乳癌診療ガイドライン2022年版改訂の目玉としてCQ2を挙げた。まずCQ2aでは、術前化学療法(NAC)前後の臨床的リンパ節転移陰性(cN0)乳がんに対する腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検について、2018年版では“弱く”推奨していたものを、乳癌診療ガイドライン2022年版では“強く”推奨に変更している。理由について同氏は、「新しい強力なデータが出たわけではないが、日常診療で9割近い先生が実施しているのなら、それはもう“強い”推奨ではないか、というボードでの議論を経て、変更している」と解説した。 臨床的リンパ節転移陽性(cN+)でNAC 後cN0の症例に対しては、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版では新たにtailored axillary surgery (TAS)を行う場合について推奨を追加。「TASによる腋窩リンパ節郭清省略を行うことを弱く推奨」とされた(CQ2b)。九冨氏は、現在targeted axillary dissection (TAD)の妥当性を検討する前向き試験が国内で進行中であることに触れ、「こういったデータが出てくれば、またガイドラインの記述も変わってくる可能性がある」とした。 Stage IV乳がんに対する原発巣切除については、乳癌診療ガイドライン2022年版ではメタ解析の結果を考慮して「予後の改善を目的とした原発巣切除は行わないことを強く推奨(CQ4a)」としたほか、「局所制御を目的とした原発巣切除は行うことを弱く推奨(CQ4b)」とされた。 また、今後保険収載される可能性を考慮し、乳房再建法としての脂肪注入について乳癌診療ガイドライン2022年版では新規のFRQが追加された。「細心の注意のもとに行ってもよい」という記述となっている(FRQ6)。 2018年版で8つあったCQは乳癌診療ガイドライン2022年版では4つとなり、それぞれFRQやBQに変更して取り上げられている。例えば低リスクDCISに対する非切除の意義については、日本も含め現在複数の無作為化試験や観察研究が進行中であることから、乳癌診療ガイドライン2022年版ではFRQとして記述された(FRQ1)。九冨氏は外科領域では大規模な無作為化試験が組みづらくエビデンスレベルが低いのが現状としたうえで、日本での試験もいくつか進行中で、日本からの発信が増えていくことに期待したいと締めくくった。乳癌診療ガイドライン2022年版「放射線療法」の変更点 放射線療法における乳癌診療ガイドライン2022年版での改訂・新設事項は以下の通り。吉村 通央氏(京都大学)がそれぞれの根拠となったデータとともに解説した。改訂:CQ1 寡分割全乳房照射/CQ3 APBI/ CQ5 腋窩LN転移1~3個のPMRT新設:BQ7 腫瘍径大および断端陽性のPMRT/FRQ2 RNI or PMRTの寡分割照射/ FRQ6オリゴ転移に対するSBRT 寡分割全乳房照射については、メタアナリシスの結果、局所再発率や全生存率、整容性に有意差はなく、急性皮膚障害についてはむしろ寡分割で低下しており、乳癌診療ガイドライン2022年版では「50歳以上、T1-2、化学療法を行っていない」という3条件以外の患者、これまで記載のなかったDCIS症例に対しても、寡分割照射を強く推奨している(CQ1)。 APBIの治療成績については4年間で長期の報告が複数出ており、それらのメタアナリシス結果から、乳癌診療ガイドライン2022年版では若年ではない低リスク症例に十分な精度管理のもとで行うなどの条件付きで、非推奨から弱い推奨へ変更された(CQ3)。なお術中照射については、「全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明した上で希望する患者に行うこと」とされた。 腋窩LN転移1~3個の患者に対するPMRTについては、EBCTCGや観察研究のメタアナリシスが行われている。それらを基に、ASCO/ASTRO/SSO PMRTガイドライン2016では、局所・領域再発率や乳がん死亡率を低下させるが、再発リスクの低い患者では害が益を上回る症例もあり、患者ごとに適応を決めるべきとされている。2018年版では、推奨の強さが合意に至らなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版では合意率は71%ではあったが「弱い推奨」に変更された。 リンパ節転移陰性で腫瘍径が大きい場合もしくは術後断端陽性の場合について、2018年版までは明記がなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版で初めて明記され、「PMRTを行うことが望ましい」とされた(BQ7)。 その他、2つのFRQが新設されている。1つ目は領域リンパ節照射あるいはPMRTにおける寡分割照射についてで、無作為化試験では治療効果・有害事象に有意差はなく、急性期皮膚炎は軽いことが報告されており、「エビデンスは十分ではないが総合的に検討して、行うことを考慮してもよい」とされた(FRQ2)。吉村氏は、新型コロナ流行の影響で、実際多くの施設でこの2年間は16回照射としていた状況があるとし、とくに有害事象は報告されていないと話した。 もう1つはオリゴ転移に対するSBRTについてで、無作為化第II相試験(SABR-COMET)の結果SBRTの追加で治療成績が良好との報告がある。同試験における乳がん症例は18%であることに注意が必要ではあるが、St Gallen2021でも80%以上のパネル医師がT2N1M1で根治を目指して局所治療を加えると回答している。そこで乳癌診療ガイドライン2022年版では、「症例を選択した上で考慮してもよい」とされている。ただし、今年のASCOで発表されたBR002試験の結果がネガティブだったことから、吉村氏は「今後の方向性に注意が必要」と指摘した。

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「後継者採用」という甘い誘いに乗ったら…【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第41回

第41回 「後継者採用」という甘い誘いに乗ったら…漫画・イラスト:かたぎりもとこ「後継者採用」というキーワードをご存じですか?企業経営者の年齢が上がっている昨今、「後継者を採用によって広く募ろう」というこの言葉をメディアで見掛けることが増えています。医療機関も例外ではありません。診療所の院長が高齢になっているのに後継者が見つからず、「まずは従業員として雇用して、その後お互いに問題がなければ承継する」という取り組みが多く行われています。採用される側からすれば、まずは従業員として経験を積んだうえで経営を任せてもらえるのですから、将来開業したい人・経営したい人にとって魅力的なプランです。しかし、“うまい話”には必ず落とし穴があるものです。後継者採用のよくある条件は、「5年後を目処に後継者に譲りたいが、それまでは従業員として働いてほしい」というものです。採用される医師側は「5年働いたら、無償で診療所を譲り受けられる」と考え、現院長に気に入られようと頑張ったり、相場より低い給料で甘んじて働いたりします。しかし、そこに次のような落とし穴が待っています。5年経っても、なかなか後継の話が具体化しない引き継ぎたい意向を伝えると、「あと3年待ってほしい」と先延ばしされる引き継ぎたい意向を伝えると、高額な譲渡額を言い渡される現院長側の事情としてよくあるのは下記のようなものです。採用当初は「5年で引退する」と決めていたものの、実際にそのタイミングになってみると踏ん切りがつかないこれまで引き継ぐ意向のなかった息子・娘が、急に引き継ぎたいと言ってきた医業承継の仲介会社から営業を受けて話を聞くと、3,000万円の売値がつくことがわかって欲が出た「後継者採用」にはこのような落とし穴があることを知ったうえで、基本合意書を締結し、「言った言わない」になることを防ぐ約束事は書面で取り交わし、お互いの本気度を確認するお金の問題(売値の価格目線)を事前に確認するといったトラブル予防策を取りながら、話を進めるとよいでしょう。

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先天性心疾患、術後の人工心肺装置を介したNO吸入療法は有効か/JAMA

 先天性心疾患に対する心肺バイパス術を受けた2歳未満の小児において、人工心肺装置を介してのNO(一酸化窒素)吸入療法は、人工呼吸器使用日数に有意な影響を与えなかった。オーストラリア・クイーンズランド大学のLuregn J. Schlapbach氏らが、多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Nitric Oxide During Cardiopulmonary Bypass to Improve Recovery in Infants With Congenital Heart Defects trial:NITRIC試験」の結果を報告した。心臓手術を受ける小児において、人工心肺装置を介した一酸化窒素吸入療法は、術後の低心拍出量症候群を軽減し、回復の改善や呼吸補助期間の短縮につながる可能性があるが、人工呼吸器離脱期間(人工換気を使用しない生存日数)を改善するかどうかについては不明であった。JAMA誌2022年7月5日号掲載の報告。人工心肺を介した一酸化窒素20ppm投与と標準治療を比較 研究グループは、オーストラリア、ニュージーランド、オランダの小児心臓外科センター6施設において、2017年7月~2021年4月の期間に先天性心疾患手術を受けた2歳未満児1,371例を対象として無作為化試験を行った。最終追跡調査日は2021年5月24日。 適格患児は、人工心肺装置を介して一酸化窒素20ppmを投与する一酸化窒素群(679例)、または一酸化窒素を含まない人工心肺装置による標準治療群(685例)に、無作為に割り付けられた。 主要評価項目は人工心肺開始後28日目までの人工呼吸器離脱日数、副次評価項目は低心拍出量症候群・体外式生命維持装置の使用・死亡の複合、集中治療室(ICU)在室期間、入院期間、術後トロポニン値であった。人工呼吸器離脱期間に両群で有意差なし 無作為化された1,371例(平均[±SD]生後21.2±23.5週、女児587例[42.8%])のうち、1,364例(99.5%)が試験を完遂した。 人工心肺開始後28日目までの人工呼吸器離脱日数の中央値は、一酸化窒素群26.6日(IQR:24.4~27.4)、標準治療群26.4日(24.0~27.2)で、両群に有意差は認められなかった(絶対群間差:-0.01日、95%信頼区間[CI]:-0.25~0.22、p=0.92)。 一酸化窒素群で22.5%、標準治療群で20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外式生命維持装置を必要としたか、28日目までに死亡した(補正後オッズ比:1.12、95%CI:0.85~1.47)。その他の副次評価項目は、両群間に有意差はなかった。 著者は、研究の限界として、技術的な理由により人工心肺装置の技術者(灌流技師)は盲検化されていないこと、一酸化窒素の投与量が固定用量であったこと、ニトロソチオール値は計測されていなかったこと、両群の中に非盲検の一酸化窒素吸入療法を受けた患者がいたことなどを挙げ、そのうえで「今回の結果は、心臓手術中に人工心肺装置を介した一酸化窒素の投与を支持するものではない」とまとめている。

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調剤の外部委託に反対しているのは薬剤師会だけ?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第92回

前回のコラムで、日本薬剤師会から出された2022年版の政策提言を紹介しました。その提言の1つに調剤の外部委託に関する項目があり、日本薬剤師会は「その行為の一部をほかの薬局などに委受託することは薬物治療全体の責任が果たせないので、絶対に認められない」と明確な反対を表しています。調剤の外部委託については、今年の2月から7回にわたって「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」(以下WG)で議論され、7月にこの親検討会である「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」で結論が報告される予定です。現時点のWGの「とりまとめ(案)」では、「対物業務の効率化を図り、対人業務に注力できるよう調剤業務の一部外部委託を検討する」とあります。おそらく7月に報告される結論においてもそのように記載されるのだろうと思います。日本薬剤師会とはまったく逆の意見が出されることになりそうです。ここで、その外部委託について、現在の論点を整理したいと思います。まずは規制に関する問題です。現時点では調剤の外部委託は法律で認められておらず、1つの薬局の中で調剤、監査、服薬指導を行う必要があります。薬局の運用を変えることで外部委託ができるという状況ではなく、規制緩和などの対応が必要になります。調剤の何を委託するのか、そしてその委託先は誰なのかという点についても議論されています。WGにおいては、一包化に限るべきというとりまとめ案になっていますが、議論の中では高齢者施設の入所者をはじめとする在宅医療に関する調剤を含めるべきという意見も出ています。委託先の距離制限の議論もあり、当面の間は同一の3次医療圏内とすることを示しています。個人的には、これだけ物流が盛んになっている現代において距離制限って必要? と疑問に思います。そのほか、安全性の確保も当然論点の1つです。患者さんの医療安全が確保されるよう、手順書の整備や教育訓練の実施、情報連携体制の構築、記録の保存などが挙げられています。私は薬局以外の仕事で医薬品のOEM(委受託による製造)に関する業務の経験がありますが、その際は委託先がきちんと業務を行っているかについて、契約はもちろん、先方の手順書の確認や実地調査、書面調査などを定期的に行うことで委託業務の信頼性を確保していました。これらはかなりの手間と慣れの時間を要しますが、必要な基準ですので最重要課題として議論してほしいと思います。次の規制緩和は処方箋40枚ルール?この調剤の外部委託の議論には、必ず付いて回る問題があります。それが「処方箋40枚あたり1人以上の薬剤師配置基準」の見直しです。これは2022年の経団連からの要望にも明記されており、機械化や効率化、対人業務へのシフトにより薬局の業務が大きく変化するため、調剤の外部委託とともにこの40枚ルールを撤廃も含めて柔軟な基準に見直してはどうか、とあります。ただし、この2つを同時に議論するとややこしくなるため、とりあえず40枚ルールは横に置いておいて、外部委託の問題を優先しているのではないでしょうか。それぞれに感情論もあるので、別で議論するほうが賢明だと私も思います。調剤の外部委託の議論を追っていくと、もしかして完全に反対という姿勢を取っているのは日本薬剤師会だけなのでは? と思えてきました。既得権益を守るというのが職能団体の原則なのかもしれませんが、こんなにも世論が薬剤師を次のステージへ向かわせるために背中を押してくれているときに本当にそれでいいのか? という違和感を覚えずにはいられません。

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DPP-4阻害薬で胆嚢炎リスク増、とくに注意が必要な患者は/BMJ

 2型糖尿病患者において、DPP-4阻害薬は胆嚢炎リスクを増大することが、中国・北京連合医科大学病院のLiyun He氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。無作為化試験の被験者で、とくに医師の注意がより必要となる治療期間が長期の患者でその傾向が認められたという。先行研究で、GLP-1は胆嚢の運動性の障害に関与していることが示唆されており、主要なGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、胆嚢または胆道疾患リスクとの増大と関連していることが報告されていた。また、GIPも胆嚢の運動性に影響を及ぼすことが報告されていた。BMJ誌2022年6月28日掲載の報告。エビデンスの質はGRADEフレームワークで評価 研究グループは、DPP-4阻害薬と胆嚢または胆道疾患の関連を調べるため、PubMed、EMBASE、Web of Science、CENTRALをデータソースとして、各媒体創刊から2021年7月31日までに発表されたDPP4阻害薬に関する無作為化対照試験について、システマティック・レビューとネットワーク・メタ解析を行った。適格とした試験は、2型糖尿病の成人患者を対象に、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬と、プラセボまたはその他の糖尿病治療薬について比較した無作為化対照試験だった。 主要アウトカムは、胆嚢疾患または胆道疾患、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合とした。2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。各アウトカムのエビデンスの質を、GRADEフレームワークを用いて評価した。メタ解析は、プールオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を用いた。胆嚢/胆道疾患、胆嚢炎リスク増加、長期服用で関連増大 82件の無作為化対照試験、被験者総数10万4,833例を対象にペアワイズ・メタ解析を行った。 プラセボまたは非インクレチン製剤に比べ、DPP-4阻害薬は、胆嚢/胆道疾患の発症リスク増大(OR:1.22[95%CI:1.04~1.43]、群間リスク差:11[95%CI:2~21]/1万人年)および胆嚢炎リスク増大(1.43[1.14~1.79]、15[5~27]/1万人年)と有意に関連していた。 一方、胆石症の発症リスク(OR:1.08[95%CI:0.83~1.39])、胆道疾患の発症リスク(1.00[0.68~1.47])との関連は認められなかった。 DPP-4阻害薬と胆嚢/胆道疾患および胆嚢炎発症リスクの関連は、服用期間が長い患者で観察される傾向が認められた。 また、184試験を対象にネットワーク・メタ解析を行ったところ、DPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬に比べ、胆嚢/胆道疾患リスクおよび胆嚢炎リスクをいずれも増大させたが、GLP-1受容体作動薬との比較では、同増大は認められなかった。

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国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」【下平博士のDIノート】第101回

国内初、2型DM合併CKDの進行を防ぐMR拮抗薬「ケレンディア錠10mg/20mg」今回は、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬「フィネレノン(商品名:ケレンディア錠10mg/20mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)の進行を防ぐMR拮抗薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月2日に発売されています。なお、原則としてACE阻害薬またはARBが投与されている患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはフィネレノンとして20mgを1日1回経口投与します。ただし、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の場合は10mgから投与を開始し、血清カリウム値・eGFRに応じて、投与開始から4週間後を目安に20mgへ増量します。なお、血清カリウム値が4.8mEq/L以下の場合は、投与量が10mgでもeGFRが前回の測定から30%を超えて低下していない限り20mgに増量します。一方、血清カリウム値が5.5mEq/L超える場合は投与を中止し、中止後に5.0mEq/Lを下回った場合には、10mgから投与を再開することができます。<安全性>2つの国際共同第III相試験(FIGARO-DKDおよびFIDELIO-DKD)では、安全性解析対象6,510例中1,206例(18.5%)において、臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。主な副作用は、高カリウム血症496例(7.6%)、低血圧92例(1.4%)、血中カリウム増加85例(1.3%)、血中クレアチニン増加69例(1.1%)、糸球体ろ過率減少67例(1.0%)などでした。また、重大な副作用として、高カリウム血症(8.8%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と呼ばれ、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病患者における心臓や腎臓の機能低下を防ぎます。2.血圧が下がることにより、めまいやふらつきが現れることがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には注意してください。3.飲み合わせに注意が必要な薬剤が多数あります。服用している薬剤や健康食品、サプリメントがあれば報告してください。4.グレープフルーツやグレープフルーツジュースは、薬の効果を強めてしまう恐れがあるため、摂取を避けてください。5.この薬の服用により、血中のカリウム値が上昇することがあります。手や唇がしびれる、手足に力が入らない、吐き気などの症状が現れた場合はすぐに相談してください。また、カリウムの摂り過ぎや脱水、便秘には注意してください。6.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>近年、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が心腎保護作用の点から注目されています。既存のMR拮抗薬としては、スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)、エプレレノン(同:セララ錠)、エサキセレノン(同:ミネブロ)が発売されています。スピロノラクトンは女性化乳房などの副作用の課題があり、比較的それらの副作用が少ないエプレレノンも、中等度以上の腎機能障害患者(Ccr:50mL/min未満)や、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者への投与は禁忌となっています。一方で、エサキセレノンは本剤と同様にステロイド骨格を持たないという特徴がありますが、適応は高血圧症のみとなっています。2つの臨床試験では、CKDステージが軽度~比較的進行した糖尿病性腎症の患者さんに、ACE阻害薬・ARBによる既存の治療を行った上で本剤を投与した結果、主要評価項目である心血管複合エンドポイントの発現リスクは13%、腎複合エンドポイントの発現リスクは18%、プラセボ群に比べ有意に低下させました。こういった結果をもたらした国内で初めてのMR拮抗薬であり、2型糖尿病合併CKDの適応を持つ唯一のMR拮抗薬です。相互作用で注意すべき点として、本剤は主にCYP3A4により代謝されるため、強力なCYP3A4阻害作用を持つ薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)を投与中の患者さんには禁忌となっています。また、併用注意の薬剤も多数あるので、併用薬はサプリメント等を含め、細やかに聞き取りましょう。MR拮抗薬といえば血清カリウム値上昇に注意が必要ですが、本剤はACE阻害薬あるいはARBとの併用が原則となっていることから、血清カリウム値のモニタリングが必須となります。対象患者の腎機能について、eGFRが60mL/min/1.73m2未満では投与量に制限があります。また、eGFRが25mL/min/1.73m2未満の場合は、本剤投与によりeGFRが低下することがあるため、リスクとベネフィットを考慮し投与の適否を慎重に判断することとされています。なお、SGLT2阻害薬であるダパグリフロジン(同:フォシーガ)が2021年8月にCKDの適応を取得し、カナグリフロジン(同:カナグル)も、2022年6月に本剤と同じ2型糖尿病を合併するCKDに対する適応を取得しています。参考1)PMDA 添付文書 ケレンディア錠10mg/ケレンディア錠20mg

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命懸けの断食 ラマダーン【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第15回

一昔前は、ドイツへの移民と言えばトルコからというのが一般的でした。しかし、不安定な中東情勢に対し「難民を断らない」という姿勢を貫いたメルケル政権の影響もあり、現在は中東地域からの移民が大多数になっています。病院で勤務をしていても、中東からきた医師たちが日に日に多くなっていった印象が残っています。言わずとも、中東からきている医師たちはムスリム(ムスリマ)であることがほとんどですので、わりと身近にイスラム教の生活を感じることができました。「酒を飲んだらダメ」とか、「豚肉は食べちゃダメ」などと合わせ、厳しい戒律として有名なのが「ラマダーン」と呼ばれる宗教行事でいわゆる「断食」です。(Mohamed Hassan、Pixabayより出典)ラマダーン中の医療行為は危険!?イスラム暦の9月が「ラマダーンの月」と言われ、約30日間、「日の出ている間は飲食を行わない」と言うルールです。2022年は3月から4月にかけて行われたそうですが、私がドイツにいた頃は最も日照時間の長い6月頃に行われていたと記憶しています。そもそも、このラマダーンは赤道に近い中東地域で行われることを前提としているので、私が勤務していた北ドイツで実行することはかなり厳しいと言わざるを得ませんでした。と言うのもサマータイムで22時に日没して朝4時には日が昇っていましたから、この短い時間の間に1日分のカロリーを摂らなくてはなりません。元来、ラマダーン期間中は心穏やかに過ごし、あまりエネルギーを使わないようにするらしいのですが…ドイツで勤務している場合はそうも言ってられません(断食の例外として妊婦や病人、高齢者や旅人は免除されます)。同僚のムスリム医師は、手術に入っていても夕方になれば明らかに集中力が落ちていましたし、当直にも当たろうものなら日没直前は低血糖で冷や汗をかいているような状態でした。夕方ごろになると、呼びかけても返事が鈍くなっていましたから、だいぶ危ない状態だったと思います。病棟のベテラン・ナースは無理やり押さえつけてブドウ糖をショットするか悩んでいて、それがラマダーンで許されるのかネットで検索していたこともありました。そして、日没とともにドカ食いしていましたが、他人事ながら糖尿病のこととか、ちょっと心配になってしまいます。世界人口の4人に1人はイスラム教徒と言われています。今はまだまだ少数ですが、おそらく近い将来、日本でもイスラム教徒のドクターが増えていくことでしょう。異文化圏からきた同僚達も快適に働ける環境作りができればいいですね。

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英語で「方針を確認しましょう」は?【1分★医療英語】第35回

第35回 英語で「方針を確認しましょう」は?I feel like I missed something critical during the morning round.(朝の回診中に大事なことを聞き逃した気がします)OK, then let’s run the list.(分かりました、それでは全患者の方針を確認しましょう)《例文1》Let’s run the list to make sure that we are on the same page.(方針が一致しているか確認するために、各患者のやるべきことを順番に見ていきましょう)《例文2》Guys, we’ll meet at 3pm and run the list for any problems.(みんな、午後3時に集まって、問題がないか患者リストを確認しよう)《解説》今回紹介するのは“run the list”という、医療の世界での独特の表現です。 知っていれば決して難しくはない表現ですが、知らないと何を言っているのかさっぱり…、かもしれません。ここでいう“the list”とは「全患者のリスト」のことです。たとえば、あなたのその日の受け持ち患者が10人いるとしたら、その10人が掲載されたリストです。“run”は、皆さまご存じの「走る」を意味する動詞ですが、ここでは「リストを確認していく」といった意味になります。イメージとしては、「日々の入院診療の中、忙しい時間の合間に患者リストを上から順番に走り抜けていく」ような感じです。指導医が研修医に対し、あるいは後期研修医が自分の下に付いている初期研修医に対して“Let’s run the list.”と言った場合、患者リストを上から順番に見ながら、各患者の治療方針やto doリストを確認し、抜けがないか、あればそれを付け足していく作業を行います。具体的には…(研修医)「Aさんには、今日は6時間おきに生化学検査をとって、Naをフォローします」(指導医)「あと、尿検査も忘れないでね」といったようなやりとりを順番にしていくのです。忙しい日ほど“run the list”が大切になるので、まさに「走る」感覚でテンポ良く会話していくのがポイントです。米国の臨床現場にいなければなかなか使うことのない表現かもしれませんが、“run”の面白い使い方としてご紹介しました。講師紹介

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今冬にインフル流行の懸念、ワクチンを強く推奨/日本ワクチン学会

 近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、季節性インフルエンザは影を潜めることになった。しかし、2022-23シーズンはインフルエンザの流行が懸念されている。その理由として、北半球の流行予測をする指標となる南半球のオーストラリアにおいて、2022年4月中旬以降からインフルエンザの流行が報告されているからである。そこで、日本ワクチン学会(理事長:岡田 賢司)は、6月23日に同学会のホームページで、「2022-23 シーズンの季節性インフルエンザワクチンの接種に関する日本ワクチン学会の見解」を公開した。 本見解では、2022-23シーズンのインフルエンザワクチン接種を強く推奨し、とくに接種が推奨される方に、確実にインフルエンザワクチンが接種可能な体制を早期に準備しておくことが重要と示している。2022-23シーズンのインフルエンザ流行の懸念 2021-22シーズンのわが国のインフルエンザ流行状況と感染者は、報告総数は753人(2020-21シーズンは1,107人)でCOVID-19の流行以前と比べると明らかに流行の規模は小さいものの、2022-23シーズンではインフルエンザに対する感受性者のさらなる増加が危惧されるとともに、海外から日本への渡航制限解除の影響による感染者数の増加が懸念される。 今後、インフルエンザが3シーズンぶりに流行した場合、死亡者や重症者の増大、またCOVID-19と時期を同じくして流行することなどによって、医療負荷の増大が心配されるとしている。 また、オーストラリアにおけるインフルエンザ流行状況(2022年6月5日現在)として、インフルエンザ様疾患の報告例が2022年3月以降、増加が報告され、4月中旬から確認されたインフルエンザの週ごとの報告数は、過去5年間の平均を超えている。また、5〜19歳の年齢層と5歳未満の子どもが最も高い報告率であることも示されている。2022-23シーズンのインフルエンザワクチン接種について 学会は「インフルエンザの罹患率や死亡率を低下させるため、生後6ヵ月以上のすべての人に対するインフルエンザワクチンの接種を推奨する」としている。1)日本における2022-23シーズンのインフルエンザHAワクチン インフルエンザHAワクチンは、4価ワクチンであり、2021-22シーズンからA/H3N2株とB/ビクトリア系統株の2株が変更となった。・A型株 A/ビクトリア/1/2020(IVR−217)(H1N1) A/ダーウィン/9/2021(SAN−010)(H3N2)・B型株 B/プーケット/3073/2013(山形系統) B/オーストリア/1359417/2021(BVR−26)(ビクトリア系統)2)特に接種が推奨される方・定期接種対象者:65歳以上の方、60~64歳で、心臓、腎臓、呼吸器の機能に障害があり身の回りの生活を極度に制限される方、60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方・医療従事者、エッセンシャルワーカー:急性期後や長期療養施設のスタッフを含む医療従事者、薬局スタッフ、その他重要インフラの業務従事者の方・インフルエンザの合併症のリスクが高い方:生後6ヵ月以上5歳未満の乳幼児、神経疾患のある子ども、妊娠中の方、その他特定の基礎疾患を持つ方3)接種回数と接種間隔・13歳以上の方は、原則1回接種。ただし、医師が特に必要と認める場合は、1〜4週の間隔で2回接種。・生後6ヵ月以上13歳未満の小児は2〜4週の間隔で2回接種。ただし、世界保健機関(WHO)は、ワクチン(不活化ワクチンに限る)の用法において、9歳以上の小児および健康成人に対しては「1回注射」が適切である旨、見解を示し、米国予防接種諮問委員会(US-ACIP)も、9歳以上の者は「1回注射」とする旨を示している。何らかの事情で2回の接種機会が得られない場合でも少なくとも1回は接種し、未接種のまま、インフルエンザシーズンを迎えないことを推奨する。ワクチンの有効性と安全性1)有効性 現行のインフルエンザワクチン製造において、インフルエンザウイルスの流行株とワクチン株の一致率は毎年異なるために、インフルエンザワクチン推定有効率において年次差がみられる。そのため、インフルエンザワクチンを接種すればインフルエンザに絶対にかからない、というものではなく、インフルエンザの発病予防、発病後の重症化や死亡を予防することに関しては、一定の効果があるとされる。(国内における研究報告)・65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34〜55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があった・6歳未満の小児を対象とした2013/14〜2017/18シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は41〜63%と報告・3歳未満の小児を対象とした2018/19〜2019/20シーズンの研究では、発病防止に対するインフルエンザワクチンの有効率は42〜62%と報告2)安全性 インフルエンザワクチン接種後には、注射部位の発赤、痛み、腫れなどの局所反応や、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛などの全身反応を含む副反応が出現する可能性がある。これらの副反応は、通常、2〜3日以内に消失。また、重い副反応の報告がまれにあるが、報告された副反応の原因がワクチン接種によるものかどうかは、必ずしも明確ではない。インフルエンザワクチンの接種後に報告された副反応が疑われる症状などについては、順次評価が行われ公表される。 日本ワクチン学会では、「今冬の国民の感染症対策と医療体制の維持のため、2022-23シーズンのインフルエンザワクチン接種について、強く推奨いたします」と提言し、「確実にインフルエンザワクチンが接種可能な体制を、早期に準備しておくことが重要」と記している。

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