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第120回 滋賀医大生3人を強制性交で逮捕・起訴、“エリート”たちがいつまでたってもパーティーを止めない理由とは?

全国知事会、新型コロナを「2類相当」から引き下げるよう訴えこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のオールスターゲームもコロナ感染による出場辞退が続出しものの、なんとか無事終わりました。個人的に楽しめたのは、7月27日に松山で行われた第2戦に登場した日本ハムファイターズの伊藤 大海投手です。伊藤投手は全パの8番手として8回から登板、スピードガンでも計測不能の超スローボールを投げ球場を沸かせました。とくに3人目に対戦した中日ドラゴンズの主砲ダヤン・ビシエド選手には、3球連続でスローボールを投げ、最後は見事レフトフライに打ち取りました。伊藤投手はオールスター選出時、千葉ロッテマリーンズの佐々木 朗希投手の超豪速球を意識してか、「オールスター“最遅”を狙う」と予告していたそうです。マウンドが白煙で見えないくらいになる、マシマシのロジンバックでも有名な伊藤投手の後半戦での好投に期待したいと思います。ちなみに、かつて超スローボールでMLBと日本球界を沸かせた多田野 数人投手は現在、伊藤投手の所属する日ハムで2軍投手コーチを務めています。そんなオールスターが終わったら案の定、「第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ」でも書いたように、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げようという議論が本格化してきました。7月28日から奈良市で始まった全国知事会では、複数の知事が新型コロナウイルスについて感染症法上の分類を「2類相当」から引き下げるよう訴えました。神奈川県の黒岩 祐治知事は「いつまでも2類相当なら保健所は入院調整や健康観察などをやらねばならない。社会経済活動が止まろうとしている」と述べ、北海道の鈴木 直道知事も「オミクロン型は大半が軽症か無症状。感染者の全数把握について(見直しの)議論を進めることが重要だ」と訴えたとのことです。全国知事会は29日、新型コロナウイルスの感染防止策の緊急提言をまとめ、感染症法上の扱いを見直す方向を示す「ロードマップを早期に示すこと」を政府に求めました。こうした動きを受け、岸田 文雄首相は7月31日、感染症法上の分類を季節性インフルエンザの「5類」に近い扱いへ変える案について、時期や変異の可能性を見極めたうえで「2類(相当)として規定される項目について丁寧に検討していく」と述べました。第7波収束後の2類相当への見直しは、規定路線になりそうです。全国ニュースになりやすい医師のわいせつ事件さて今回は、医師や医学生によるわいせつ事件について書いてみたいと思います。厚生労働省は7月21日、刑事事件で有罪判決を受けるなどした医師と歯科医師計25人の処分を決め、公表しました。医道審議会の答申を受け決定したもので、1人を免許取り消し、計13人を業務停止3年~3ヵ月としました。最も重い免許取り消しの岡山市の医師(70)は非現住建造物等放火罪で既に有罪判決を受けています。医道審議会の処分には例年わいせつ関連の事件を起こした医師が入っていますが、今回は業務停止3年の処分を受けた4人のうち1人が準強制わいせつなどで有罪となった福岡市の医師(46)でした。最近もいくつかのわいせつ関連事件で医師が逮捕されています。警視庁新宿署は7月7日までに、強制性交の疑いで東京・歌舞伎町のクリニック院長で精神科医(52)を再逮捕しています。報道等によれば、20代の女性患者にわいせつな行為をしたとのことです。この精神科医は別の女性患者への傷害罪などで既に起訴されており、逮捕は6回目とのことです。また、7月25日には岡山市で内科・小児科を標榜するクリニックの院長(47)が、小学校でも盗撮をしていた疑いで再逮捕されています。この院長は中学校での健康診断中に女子生徒を盗撮したとして逮捕・起訴されていました。報道等によりますと、押収されたカメラなどからは児童・生徒約280人分の盗撮とみられる動画が見つかったとのことです。ちなみに再逮捕の罪状は、岡山県迷惑行為防止条例違反と、児童ポルノ禁止法違反の疑いです。こうしたニュースを読んで思うのは、医師がこうしたわいせつ事件を起こす比率は非医師に比べ決して高いわけではないのに、いったん事件を起こしてしまえば大きなニュースになるということです。聖職とまでは言いませんが、相当な税金を使って養成される医師ゆえに、世間が求める倫理観や高潔さも高いということなのでしょう。滋賀医大生3人が集団レイプ、一部始終を動画撮影医師になり時間が経つにつれ、その倫理観や高潔さが徐々に損なわれていくのはなんとなく理解できますが、医師の卵(医学生)の段階から高潔さが微塵もないのは大きな問題と言えます。2022年5月には国立大学法人・滋賀医科大学でこんな事件が起きました。滋賀県警大津署は2022年5月19日、滋賀医科大学・医学部6年生のA容疑者(24)と同6年生のB容疑者(24)が、知人の女子大生(21)に強制性交をした疑いで逮捕しました。同月26日には同大学6年生C容疑者(26)も強制性交をした疑いで逮捕しました。その後、大津地方検察庁は6月9日、容疑者3人を女子大生に集団で性的暴行を加えたとして起訴しました。起訴状によると、3人は共謀して女子大生に性的暴行を加え、さらにその一部始終をスマートフォンで動画撮影していたとのことです。役割分担などから事前の計画性が疑われる産経新聞などの報道によれば、事件のあらましは以下のようなものでした。3人は2022年3月15日夜、ほかの大学に通う女子大学生2人と飲食。その後、飲み直すためA被告の自宅マンションに向かいました。途中、B被告と女子大学生1人が飲み物などを買い出しに行きました。2人が買い出しに店に向かったあとの同日午後11時44分ごろ、A被告の自宅マンションのエレベーター内で、被害に遭った女子大学生にA被告が性交に応じるように脅迫。その様子をC被告が携帯電話で動画撮影していたとのことです。さらに、A被告は拒否する女子大学生に対し「身体および自由にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して脅迫し」(起訴状記述)、室内に連れ込んで性的暴行を加え、その様子もC被告が動画撮影していたとのことです。買い出しに行っていた2人が戻り、その後、もう一人の女子大学生がA被告のマンションを離れた後も、翌16日午前2時半ごろまで3人の卑劣な犯行は続いたとのことです。報道では、被害者が警察に届け出て、犯行が明らかになったとのことです。また、3人の被告の役割分担などが行われていることから、事前の計画性が疑われるとしています。ちなみに、滋賀医大の3人の学生の容疑である強制性交罪は、かつて強姦罪と呼ばれていたものです(2017年6月に性犯罪に関する刑法の大幅改正で名称変更)。この時の改正で被害者の告訴がなくても起訴することができるようになり(非親告罪化)、法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げられています。滋賀医大はホームページで3度のお詫び滋賀医大は、学生2人の逮捕後、もう1人の逮捕後、そして3人の起訴後の計3回、ホームページに上本 伸二学長のコメントを掲載しています。起訴後の6月9日のホームページのコメントは以下のようなものです。被害に遭われた方とそのご家族、関係の皆様には、あらためて深くお詫び申し上げます。また、学生及び保護者、卒業生、本学関係者の皆さまにおかれましても、ご迷惑とご心配をおかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。本学は、引き続き、司法手続に全面的に協力する所存です。また、本日起訴された本学学生3名につきましては、規程に則り、すでに謹慎処分に付し、調査委員会による調査を進めているところであり、今後、裁判の動向を注視しながら、確認できた事実に基づき厳正に対処いたします。本学は、今回の事件を極めて重く受け止めており、二度とこのような事件が起きないよう、再発防止の徹底に全力を挙げて取り組んで参ります。しかし、その後、2ヵ月近く経ちますが、調査委員会による調査結果や再発防止策は公表されていません。常識的に考えれば、謹慎どころか退学処分が妥当と考えられますが、果たして滋賀医大が今後どんな正式処分を下すのか、注目されます。繰り返される医学生による集団レイプ事件それにしてもひどい事件です。この事件については、週刊女性が2022年6月14日号で『起訴状で発覚した“動画撮影” 滋賀・医大生3人が21歳女子大生に性的暴行!エリートたちの「裏の顔」』のタイトルで詳細をレポートしています。同記事よれば、A被告の父親は医師、B被告の両親も医師とのことです。エリート層の子弟の医学生が犯した同様の犯罪ということで思い出したのが2016年に起こった千葉大医学部レイプ事件です。2016年9月に起こったこの事件では、千葉大学医学部5年生(当時)の3人が飲み会で酩酊した女性に集団で性的暴行を加えたとして、集団強姦致傷容疑で逮捕されました。後日、彼らを指導すべき立場だった千葉大学附属病院の研修医も準強制わいせつ容疑で逮捕されています。この事件は、彼らが超有名進学校出身であったことや、犯人の1人が4代続く弁護士家系の出身者だったこともあり、世間の注目を集めました。翌2017年1月に千葉地方裁判所で大学生3人の初公判が開かれ、5月には集団強姦罪で起訴された2人の大学生に懲役4年の有罪判決、準強姦罪で起訴された1人の大学生に懲役3年の有罪判決、準強姦罪で起訴された研修医に懲役2年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。その後、千葉大学は3人の大学生を放学処分としています。『彼女は頭が悪いから』を学生のテキストに医学部生による類似の事件は慶應義塾大学医学部(1995年)、三重大学医学部(1999年)、東邦大学医学部(2016年)などでも起こっています。刑事事件として表沙汰になったのがこれだけあるということは、被害者が泣き寝入りしたり、お金で解決したりした事件はもっとあるに違いありません。医学部のエリートたちはなぜ、このような事件を繰り返すのでしょう。あるいは医学部だから事件が大きく報じられているのでしょうか。仮にそうだとしても、医学部生による強制性交(強姦)事件は、相当数起こっているのは事実です。「俺たちは女の子にモテて当然の医学部生」というエリート意識が、繰り返されるおぞましいパーティーの根底に流れているのかもしれません。医学部入試の小論文などで、医の倫理に関する問題をいくら出題しても、面接で人柄を見極めようとしても、邪悪で驕り高ぶったこうした若者を完全に排除することは不可能でしょう。滋賀医大が今回の事件を機に、同大で学ぶ医学生に向けて今後どのような教育や指導を行うかわかりませんが、一案として、姫野 カオルコ氏の小説『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)をテキストにするというのはどうでしょう。2016年に起きた東大生5人による強制わいせつ事件をモチーフにしたこの小説は、差別意識の強い東大生の若者たちが、自分より「下位」とみなす女性になぜ性暴力をふるうに至ったかを克明に描いています。若者たち一人ひとりの問題というより、そうした若者を生み出している社会の構造や背景を細かく描いているのが印象的です。滋賀医大の上本学長だけでなく、全国の医学部の学長の皆さんも、ぜひご一読されることをおすすめします。ちなみに姫野氏は滋賀県の出身です。

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国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」【下平博士のDIノート】第103回

国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」今回は、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害剤「バルベナジントシル酸塩カプセル(商品名:ジスバルカプセル40mg、製造販売元:田辺三菱製薬)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて遅発性ジスキネジア治療薬として承認されました。これまで治療法がなかった遅発性ジスキネジアによる不随意運動の改善効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、遅発性ジスキネジアの適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月1日に発売されました。なお、「遅発性ジスキネジア」の診断は、米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』および『統合失調症治療ガイドライン第3版』が参考とされます。<用法・用量>通常、成人にはバルベナジンとして1日1回40mgを経口投与します。なお、症状により1日1回80mgを超えない範囲で適宜増減できます。増量については、1日1回40mgを1週間以上投与し、忍容性が確認され、効果不十分な場合にのみ検討します。<安全性>遅発性ジスキネジア患者を対象とした国内第II/III相試験で認められた主な副作用は、傾眠、流涎過多、アカシジア、倦怠感などでした。重大な副作用として、傾眠(16.9%)、流涎過多(11.2%)、振戦(7.2%)、アカシジア(6.8%)、パーキンソニズム(2.4%)、錐体外路障害(2.0%)、鎮静、運動緩慢(いずれも1.2%)、落ち着きのなさ、姿勢異常(いずれも0.8%)、重篤な発疹、ジストニア、表情減少、筋固縮、筋骨格硬直、歩行障害、突進性歩行、運動障害(いずれも0.4%)、悪性症候群、蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫(いずれも頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過剰になった脳内の神経刺激伝達を抑えることで、自分の意志とは無関係に体が動いてしまう、または無意識に口や舌を動かしてしまうなどの症状が出る遅発性ジスキネジアを改善します。2.眠くなったり、ふらついたりすることがあるので、自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は行わないでください。3.抑うつや不安などの精神症状が現れることがあるので、体調の変化に気が付いた場合には連絡してください。4.飲み合わせに注意が必要な薬があるため、ほかの薬を使用している場合や新しい薬を使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。5.不整脈が起きていないか確認するために、心電図検査が行われることがあります。<Shimo's eyes>画像:重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚労省)より本剤は、わが国初の遅発性ジスキネジア治療薬であり、1日1回服用の経口剤です。遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬などを長期間服用することで起こる不随意運動を特徴とした神経障害であり、ドパミン受容体の感受性増加などが原因と考えられています。症状は、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせるなど、顔面に主に現れますが、手や足が動いてしまうなど四肢や体幹部でも認められます。また、重症になれば嚥下障害や呼吸困難を引き起こす可能性もあります。本剤は、神経終末に存在する小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)を阻害することにより、ドパミンなど神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に関わるドパミン神経系の機能を正常化させます。遅発性ジスキネジアを有する統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害または抑うつ障害の患者を対象とした国内第II/III相プラセボ対照二重盲検比較試験(MT-5199-J02)において、本剤40mg/日または80mg/日を投与した結果、両群で用量依存的な異常不随意運動の改善効果が認められました。本剤は重症度を問わず処方が可能です。ただし、遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬の長期使用に関連して発現するとされているため、原因薬剤の減量または中止を検討する必要があります。したがって、本剤の投与対象となるのは抗精神病薬など原因薬剤の減量や中止ができない、あるいは減量や中止を行っても遅発性ジスキネジアが改善しない患者さんとなります。投与に関しては相互作用が多いため併用薬の厳格なチェックが欠かせません。本剤はプロドラッグであり、未変化体はP糖タンパク質(P-gp)を阻害します。また、体内では主にCYP3Aによって代謝された後、活性代謝物は主にCYP2D6およびCYP3Aで代謝されます。本剤とパロキセチンを併用したとき、未変化体の変化は認められませんでしたが、活性代謝産物のCmaxおよびAUCはそれぞれ1.4倍、1.9倍に上昇したことが報告されています。本剤は、強いCYP2D6阻害剤(パロキセチン、キニジン、ダコミチニブ等)や、強いCYP3A阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、エリスロマイシン等)を使用中、または遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さんなどでは、投与量を1日40mgから増量しないこととされています。なお、これらの条件が2つ以上重なる場合は、活性代謝物の血中濃度が上昇し、過度なQT延長などの副作用を発現する恐れがあるため、本剤との併用は避けることとされています。一方、中程度以上のCYP3A誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)を使用中の場合には、作用が弱まることを考慮して投与量を検討します。また、P-gpの基質薬剤(ジゴキシン、アリスキレン、ダビガトラン等)と併用するとこれらの血中濃度が上昇する恐れがあるので注意しましょう。中等度、あるいは高度の肝機能障害患者についても投与量に制限がかけられています。活性代謝産物の血中濃度が上昇した場合にはQT延長を引き起こす恐れがあるので、遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さん、QT延長を起こしやすい患者さん、相互作用に注意すべき薬剤を併用している患者さんでは定期的に心電図検査を行う必要があります。これまで、遅発性ジスキネジアについては原因薬の中止や他薬剤への変更に代わる対処法がありませんでした。よって、本剤の臨床的意義は高いと考えられます。なお、本剤は食事の影響を受けやすく、空腹時に服用すると食後投与と比較して血中濃度が上昇する恐れがあるため、副作用モニタリングと共に服用タイミングについても順守できているか確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ジスバルカプセル40mg

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英語で「自然によくなります」は?【1分★医療英語】第39回

第39回 英語で「自然によくなります」は?My daughter has got chickenpox.(娘が水疱瘡にかかりました)Please be assured that it will resolve itself without any treatment.(治療せずに自然によくなりますので安心してください)《例文1》Most of the common colds are self-limiting.(ほとんどの風邪は自然によくなります)《例文2》The pain in your arm after the injection will get better by itself.(注射後の腕の痛みは自然によくなります)《解説》治療を行わなくても自然に回復する疾患を“a self-limiting disease”といいます。これらの疾患が「自然に回復する」と説明したい場合には、「そのままで回復する」という意味で“resolve itself” “go away on its own” “get better by itself”などの言い方をします。“Tonsilitis tends to go away on its own.”(扁桃腺炎は自然によくなることが多いです)といった具合です。自然に回復する疾患や状態が落ち着いている場合、「治療せずに経過を見ましょう」「様子を見ましょう」と伝える場合には、“wait and see”を使って、“Let’s wait and see as it often resolves on its own.”(自然軽快することが多いので様子を見ましょう)ということができます。また、もっとしっかり経過を見守る必要がある場合には、“We’ll keep an eye on the patient.”(その患者さんを注意深く観察します)という言い方をします。講師紹介

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COVID-19パンデミックのロックダウンと不安、うつ、自殺リスク

 COVID-19パンデミックにより、世界各国でさまざまなロックダウンが行われた。このような対策はメンタルヘルスに悪影響を及ぼすと考えられるが、対策の強度とメンタルヘルスへの影響との関係については、十分に研究されていない。ギリシャ・アリストテレス大学のKonstantinos N. Fountoulakis氏らは、大規模COMET-G研究のデータを用いて、これらの関連性を調査した。その結果、ロックダウンとメンタルヘルスとの間にほぼ線形の関係が認められ、脆弱なグループの特定とより具体的なメンタルヘルス介入の必要性があらためて明らかとなった。Psychiatry Research誌オンライン版2022年7月1日号の報告。 COVID-19パンデミック期間中に40ヵ国5万5,589人の参加者よりオンラインアンケートでデータを収集した。メンタルヘルスの評価尺度として、不安にはSTAI、うつ病にはCES-D、自殺リスクにはRASSを用いた。不快なストレス(Distress)とうつ病疑いは、すでに開発済みのカットオフ値とアルゴリズムを用いて特定した。相対リスク(RR)の算出には、ANOVA分析およびマルチプル後方ステップワイズ線形回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・参加者の内訳は以下のとおりであった。 【女性】割合:64.85%、平均年齢:35.80±13.61歳 【男性】割合:34.05%、平均年齢:34.90±13.29歳 【その他】割合:1.10%、平均年齢:31.64±13.15歳・現時点でロックダウンによる重大な制限下で生活している人の割合は、参加者の約3分の2であった。・男女ともに、臨床的うつ病の発症リスクは、ロックダウンレベルの上昇と有意な相関が認められた(男性:RR=1.72、女性:RR=1.90)。・ロックダウンと精神疾患歴を組み合わせた場合のRRは、6.88まで増加した。・ロックダウンとうつ病重症度との全体的な関係に有意な差は認められなかった。

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第110回 コロナ感染拡大の影響で、平均寿命が短く/厚労省

<先週の動き>1.コロナ感染拡大の影響で、平均寿命が短く/厚労省2.解熱鎮痛剤「カロナール」出荷調整、厚労相が買い占めの自粛要請3.全国知事会が新型コロナで緊急提言、岸田総理は第7波の収束後に見直しを表明4.新型コロナ感染の「検査証明書」の取得を求めないよう要請/厚労省5.来年度の概算要求、社会保障の自然増を圧縮、デジタル投資/政府6.診療報酬改定、急性期病院の看護必要度に大きな影響/WAM1.コロナ感染拡大の影響で、平均寿命が短く/厚労省厚生労働省は、7月29日に2021年の日本人の平均寿命を発表した。男性、女性ともに前年度よりそれぞれ、0.09歳、0.14歳短くなり、男性81.47歳、女性87.57歳となり、10年ぶりに前年度を下回った。男女とも悪性新生物、肺炎、交通事故などの死亡率減少が平均寿命を延ばしていたが、新型コロナウイルス感染症の死亡者の増加の影響と見られる。(参考)令和3年簡易生命表の概況コロナ影響で10年ぶり平均寿命縮む…男性が0.09歳、女性0.14歳短く(読売新聞)日本人の平均寿命10年ぶりに前年下回る。コロナ要因の1つか(NHK)2.解熱鎮痛剤「カロナール」出荷調整、厚労相が買い占めの自粛要請新型コロナウイルス感染者の急増に伴って、解熱鎮痛剤の「カロナール」の製造メーカの「あゆみ製薬」は医療機関からの発注に対応が困難難となったため。カロナール主錠剤を出荷調整に乗り出し、一部製品の出荷停止を発表した。このため、後藤茂之厚生労働相は7月29日に一部の病院や薬局が品切れを懸念して、過度な買い占めに走ることがないように自粛を要請した。(参考)解熱鎮痛薬「カロナール」出荷調整へ 新型コロナで需要急増(NHK)カロナール 出荷調整 あゆみ製薬、コロナ感染急増で(日経新聞)解熱剤の買い占め自粛要請 医療機関で不足、厚労相(産経新聞)3.全国知事会が新型コロナで緊急提言、岸田総理は第7波の収束後に見直しを表明7月29日に奈良市で開催された全国知事会は、新型コロナウイルスの感染防止策の緊急提言を行い、感染症法での新型コロナウイルス感染症の取り扱いについて、早期に2類から5類へと見直すことを求めている、一方、岸田総理大臣は7月31日の記者のインタビューに対して、新型コロナ感染症法上の扱いについて、感染拡大が続く現時点では季節性インフルエンザと同等に引き下げることはせず、第7波の収束後に見直しをすると発言した。(参考)コロナ分類見直し「工程提示を」 全国知事会が緊急提言(日経新聞)感染急拡大に対する新たな対策について (全国知事会)コロナ「2類相当」運用、「第7波」収束後に見直しへ…岸田首相「時期見極め丁寧に検討」(読売新聞)岸田首相 コロナの感染症法上の扱い“現時点で引き下げない“(NHK)4.新型コロナ感染の「検査証明書」の取得を求めないよう要請/厚労省政府は新型コロナウイルス感染拡大による、発熱外来の検査目的受診が増えたことに対して、事業所側に検査結果の証明を求めないように要請した。発熱外来を設けている医療機関には、仕事を休む際に発熱外来での検査の証明書を求めるために、検査結果を希望する発熱患者が殺到し、救急患者の受け入れに支障が出ており、このため東京都は8月から検査キットの無料配布を行い、発熱外来を経由しない形で、発生届を代わって提出する「陽性者登録センター」を設置するなど対策を進めている。(参考)「発熱外来での検査証明求めないで」厚労省が事業所などに要請(NHK)東京都 有症状者にも検査キット無料配布へ 来月1日から(同)5.来年度の概算要求、社会保障の自然増を圧縮、デジタル投資/政府政府は、7月29日に2023年度の省庁が要求するルールを定めた概算要求水準を閣議了解した。昨年の基準で例外扱いとなっていた社会保障費について、社会保障費の自然増は、合理化・効率化に最大限に取り組み、22年度の6,100億円から5,600億円に圧縮する一方、GDP比2%の防衛費の実現のために増額を認める方針だ。また、マイナンバーの利活用を促進して医療・介護など公的給付のデジタルトランスフォーメーションを進めるとしている。(参考)社保費自然増5,600億円に圧縮、23年度予算 概算要求基準で、薬価改定が焦点(CB news)医療・介護など公的給付のDX化推進へ 23年度予算の全体像、政府(同)第10回経済財政諮問会議(内閣府)6.診療報酬改定、急性期病院の看護必要度に大きな影響/WAM今年の春の診療報酬改定で、急性期病院へのアンケート調査結果で、「心電図モニターの管理」の項目廃止により、約半数の49.2%の急性期病院で「経営に影響あり」と回答したことが明らかとなった。現在は、経過措置期間であるが、9月末でこれらの措置期間が終了するため、10月以降は一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」のうち、経営にもっとも影響が大きいものとして「心電図モニター管理の項目の廃止」を挙げた病院が49.2%に上っており、今後、急性期病院の収益に影響が出るとみられる。(参考)急性期病院半数に影響、看護必要度心電図モニター削除 WAM調査、急性期一般入院料1から転換は3%程度か(CB news)2022年度診療報酬改定の影響等に関するアンケート調査の結果(WAM:福祉医療機構)

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下書き編:上手さより迅速性と内容を重視~腹腔鏡下下行結腸切除術~【誰も教えてくれない手術記録 】第17回

第17回 下書き編:上手さより迅速性と内容を重視~腹腔鏡下下行結腸切除術~こんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。これまでの記事では、主に若手外科医の皆さんに向けて手術記録の描き方やその活用方法、時短テクニックなど、さまざまな話題を提供してきましたが、具体的なコツについてはあまり深く紹介できていなかったと思います。実は過去に手術イラストの作成方法をまとめて紹介したことがありましたが(第3、4回)、内容はデジタルイラストツールの使用方法が中心でした。そこで今回から全4回に分けて、皆さんの手術イラストがより伝わりやすく身になるものになるよう、「下書き」「線画」「着色」「仕上げ」の各工程において、僕が重要と考えており皆さんにぜひ実践していただきたいポイントを詳しく紹介していきたいと思います。さて、早速今回は「下書き」のパートについて解説します。時間がないからと下書きをせず、いきなり線画から描き始めてはいませんか? 慣れた術式であれば下書きも不要かもしれませんが、イラスト作成に不慣れな先生は、下書きを描くことを強くおすすめします。僕は今もほぼすべての手術イラストで下書きを描いています。下書きの段階では、イラストの巧拙はまったく問いません。それよりも重要なのは、描くタイミングと内容だと僕は考えます。描くタイミング:下書きだけでも手術直後に取り組む!複数の手術記録を週末や休日にまとめて描いていませんか? 当然のことですが、手術記録には正確性が求められますので、もっとも大事なのは迅速性です。下書きだけでも手術直後に描くと、後で振り返る手間を大幅に削減できますよ。一方、手術から時間が経てば経つほど手術内容が曖昧になり、描きたかったはずのことが描けなくなってしまうかもしれません。(イラストだけでなくテキストも同様です。できれば当日、遅くても翌日にメモ程度でも書けるといいですね!)画像を拡大する例:手術直後の下書き(腹腔鏡下下行結腸切除術)こちらは僕が普段描く下書きのイメージです。当然手術によってイラストのページ数やカット数はまちまちですが、このくらいの下書きであれば15分ほどで描けます。荒削りでよいので、思い出せるままにざっと描いてしまいましょう。必要に応じて、別レイヤ―にメモを書き加えておいてもいいですね。描く内容:キーポイントとなる術野を意識する!下書きで手術イラストの構成の大半が決まります。僕が日頃より描いている消化器外科手術のイラストには、以下の記載が必須と考えていますが、これらを記載するだけではどの手術イラストも似通ってしまうので工夫が必要です。・体位/皮膚切開 ・術中所見 ・切除/郭清範囲 ・再建完成図 ・閉創図一つとして同じ手術はありません。手術を振り返る中で、その手術から得られた学びが必ずあるはずです。そんな“今回の執刀経験”を象徴するような術野を最低1枚はイラストに描き起こしておけるとよいでしょう。そういうイラストを執刀のたびに積み重ねていくことこそが、「手術手技向上の効果」を最大に引き出すための秘訣だと考えています。上に例示した下書きに、基本事項と押さえておきたい内容を「キーポイント」として描き足してみました。画像を拡大する参考:下書きの内容とキーポイントまとめ繰り返しになりますが、手術記録の正確な記載し、手術記録を自身の糧とするためには、下書きをできるだけ手術直後に描くことが肝要です! 翌日にはまた別の手術を控えていることでしょう。仕事に追われるうちに、手術内容だけでなく貴重な学びや反省点をどんどん忘れてしまいます。とてももったいないことですよ!次回は線画のパートに移ります。自身の手術動画を見直しつつ、手術書を片手にイラストの詳細をじっくり突き詰めていく作業はすごく楽しいですよ。お楽しみに!

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利尿薬の処方カスケードを発見し、高尿酸血症薬の中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第49回

 今回は、処方カスケードを起こしやすい薬剤の代表である利尿薬と高尿酸血症治療薬に関する提案です。処方カスケードを発見するには処方順序や経緯を知ることが重要です。薬歴に処方開始の理由やその後のフォロー内容をまとめておくことで、処方カスケードを食い止めるきっかけになります。患者情報90歳、男性(施設入居)基礎疾患左放線冠脳梗塞、認知症、高血圧服薬管理施設職員処方内容1.オルメサルタンメドキソミル・アゼルニジピン配合錠HD 1錠 朝食後2.クロピドグレル錠50mg 1錠 朝食後3.ラベプラゾール錠10mg 1錠 朝食後4.アトルバスタチン錠10mg 1錠 朝食後5.フェブキソスタット錠10mg 1錠 朝食後本症例のポイントこの患者さんは脳梗塞の既往があるものの、施設内独歩が可能で、排泄や食事も自立していて、ADLは良好でした。血圧の推移は130〜140/70〜80であり、現行の治療薬で安定していました。高尿酸血症治療薬を服用していますが、痛風発作の既往はありません。代理で訪問診療に同行することになったため、担当薬剤師の薬歴を確認したところ、「OP:尿酸値のフォロー、過去にアゾセミド服用」とありました。記録をさかのぼって確認すると、過去に下腿浮腫のためアゾセミド錠30mgを服用していたことがわかりました。その1ヵ月後の血液検査では尿酸値:11.3mg/dLと高値であったことから、フェブキソスタット10mgが追加されていました。その2週間後には下腿浮腫は消失したため、アゾセミドは中止となっていました。<薬歴から考察したこと>(1)アゾセミドによる尿酸値上昇→フェブキソスタット追加アゾセミドなどのループ利尿薬は、尿酸と同じトランスポーターを競合的に阻害するため、尿酸排泄が低下したと考えられる。利尿作用により腎糸球体ろ過量が減少し、尿酸排泄が低下した可能性もある1)。これらの作用により尿酸値が上昇し、フェブキソスタットが追加されたのではないか。(2)アゾセミド中止後の高尿酸血症の治療評価が必要今回の尿酸値上昇は、原発の高尿酸血症の可能性は低く、アゾセミドによる二次性の高尿酸血症と考察した。そのためアゾセミド中止後の尿酸値のフォローは重要であり、純粋なフェブキソスタットの治療評価とはせずに、継続の必要性を検討する必要がある。以上のことから、高尿酸血症の治療評価を医師に直接提案することとしました。処方提案と経過医師に、上記の(1)(2)の考察を共有し、都合のよいタイミングで採血を行って高尿酸血症の治療評価ができないか相談しました。ちょうど定期採血のタイミングであったことから、すぐに尿酸値や腎機能を評価することとなりました。2週間後の診療で共有された血液検査の結果は、尿酸値:3.6mg/dL、Scr:0.89mg/dL、BUN:17.5mg/dLであり、フェブキソスタットは中止となりました。その後の定期採血結果でも、尿酸値:6.7mg/dLと基準値内を推移していて、関節痛の症状や母趾の腫脹などの痛風症状もなく、無症状で経過しています。薬歴には、「OP:高尿酸血症治療管理 ●月●日〜フェブキソスタット中止(中止時の尿酸値:3.6mg/dL→中止後の尿酸値:6.7mg/dL)。再上昇に注意して要モニタリング」と変更の経緯とその後のフォロー内容を残しました。1)ダイアート錠 インタビューフォーム

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維持期統合失調症に対するアリピプラゾール月1回製剤と経口剤との比較~メタ解析

 藤田医科大学の岸 太郎氏らは、成人の維持期統合失調症治療においてアリピプラゾールの長時間作用型注射剤(アリピプラゾール月1回製剤、AOM)が経口剤(OARI)より有益であるかを検討するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。その結果、維持期統合失調症患者に対するAOMとOARIによる治療は、どちらも有効であったが、AOMのほうがより受容性が高いことが示唆された。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2022年7月5日号の報告。 AOM、OARI、プラセボのうち2つを含む二重盲検ランダム化比較試験のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・4研究(1,830例)を解析に含めた。・26週間での再発率は、プラセボ群と比較し、AOM群(オッズ比[OR]:0.240、95%信頼区間[CI]:0.169~0.341)およびOARI群(OR:0.306、95%CI:0.217~0.431)ともに低かったが、AOMとOARIの間に有意な差は認められなかった(OR:0.786、95%CI:0.529~1.168)。・すべての原因による治療中止率も、プラセボ群と比較し、AOM群(OR:0.300、95%CI:0.227~0.396)およびOARI群(OR:0.441、95%CI:0.333~0.582)ともに低かった。・AOM群におけるすべての原因による治療中止率は、OARI群よりも低かった(OR:0.681、95%CI:0.529~0.877)。・その他のアウトカムでは、AOMとOARIの間に有意な差は認められなかった。

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第119回 「加点による合格は賄賂」、東京医大入試裁判で文科省元局長に有罪判決

第7波の今の混乱は政治の責任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルスのBA.5株が猛威を振るっています。ここにきて、政府は4回目のワクチン接種の促進、濃厚接触者の待機期間を7日間から5日間に短縮、抗原検査キットの無料配布など、新しい対策を続々と打ち出し始めています。しかし、どれも付け焼き刃的で、医療機関や保健所の業務の逼迫度合いは増すばかりです。第5波、第6波で問題となったことが再び繰り返されているわけで、もうこうなると明らかに政治の責任と言えるでしょう。第6波収束後に、風邪やインフルエンザと同様、健康で重症化しなさそうな人や自力で治そうと思う人は、検査は不要かつ医療機関を受診しなくてもいい、というルールに変えて国民に周知しておけば、今回の現場の混乱を多少は防げたはずです。あるいは、第4回目のワクチン接種を早めに進めておいたり、抗原検査キットを事前に国民に配布しておいたりすることもできたはずです。第6波収束後、感染症法上の扱いを「5類並み」に変更するチャンスも十分にあったと思います。しかし、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではないですが、参議院選挙を前にして、その検討を真剣に行わなかった岸田 文雄首相の責任は重いと言えます。感染症ですから患者が増えていること自体は仕方ありませんが、以前と同じように医療現場があたふたとしている状況を見ると、この2年余りのあいだ国は一体何をしていたんだ、と思います。私の周囲の“医療提供の仕組み”がわかった友人の中には、「重症化はほぼしないのだから、もし罹っても医療機関には行かず自力で治す。それが世のため」という人もいます。そもそも風邪やインフルエンザは、医療機関を受診しても療養期間がそう短くならない病気です。「熱っぽい時は医者へ」という日本人の固定観念自体も、今後変えて行く必要がありそうです。さて、今回は事件発覚から実に4年、先週やっと判決が出た、東京医大入試裁判について書いてみたいと思います。元局長に懲役2年6カ月、執行猶予5年の判決文部科学省の私立大学支援事業で東京医科大に便宜を図る見返りに、自分の息子を東京医科大に合格させてもらったとして、受託収賄罪に問われた同省の元科学技術・学術政策局長、佐野 太被告(62)ら4人の判決公判が7月20日、東京地裁でありました。東京地裁(西野 吾一裁判長)は「入試の公平性をないがしろにする甚だしい利益を収受した。賄賂に該当するのは明らか」として、佐野被告に懲役2年6ヵ月、執行猶予5年(求刑懲役2年6ヵ月)を言い渡しました。佐野被告の退職金の支払いが差し止められるなど社会的制裁も受けている点を考慮し、判決は執行猶予付となりました。一方、贈賄罪に問われた東京医科大元理事長の臼井 正彦被告(81)は懲役1年6ヵ月、執行猶予4年(同1年6ヵ月)、元学長の鈴木 衛被告(73)は懲役1年、執行猶予2年(同1年)、受託収賄ほう助罪などに問われた医療コンサルタント会社元役員、谷口 浩司被告(51)は懲役2年、執行猶予5年(同2年)としました。「私立大学研究ブランディング事業」の選定で便宜判決によると、佐野被告は官房長だった2017年5月、臼井被告から、独自色がある私大を支援する「私立大学研究ブランディング事業」の選定で便宜を図ってほしいと依頼され、医療コンサルタント会社元役員だった谷口被告を通して事業計画書の書き方などを助言。その謝礼として、臼井、鈴木両被告から、2018年2月に同大を受験した息子の試験結果に加点してもらい合格させてもらったとのことです。佐野被告は「不正をしてまで息子を合格させてもらおうと思ったことは一度もない」として無罪を主張。臼井、鈴木両被告らも起訴事実を否認していました。判決は、佐野被告と臼井被告が2017年5月に会食した際の音声データを基に、臼井被告が「来年は、絶対大丈夫だと思いますので」などと発言したと認定。佐野被告が、息子に加点などの優遇措置がとられることを認識した上で私大支援事業への助言などの依頼を受け、承諾したと判断しました。ちなみに東京医大は「私立大学研究ブランディング事業」の対象校に選ばれ、2017年度に3,500万円が交付されています。判決では「事業の公平性や補助金の適正な交付を妨げてはならないという職務に反した」と佐野被告を強く非難しています。「加点による合格は賄賂」と結論付ける公判では、不正に得点を加えた大学側の優遇措置が佐野被告への賄賂に当たるかどうかが争点でした。佐野被告の息子は、2018年2月に実施されたマークシート方式の1次試験(400点満点)で大学側から本来の得点に10点の加算を受けたことで、2次試験の小論文や面接を踏まえた最終順位が74位となり、75人の正規合格の枠に入り、合格しました。佐野被告側は公判で「加点がなくても補欠として合格でき、賄賂にはあたらない」と訴えていました。判決理由も「加点がなくても補欠合格していた」ことを認めていますが、「補欠合格は正規合格者の辞退という偶然の事情に左右される。早期に正規合格者の地位を得ることは、他の大学への高額な入学金の納付を避けられ、経済的な利益もある」と指摘。会食の録音データなども踏まえ、佐野被告は「加点などの優遇措置が講じられ、正規合格の地位を受ける可能性を認識していた」として、加点による合格が賄賂に当たると結論付けました。判決後、佐野被告は弁護人を通じ「不当な判決」などとコメントし、控訴する意向を示しました。医学部入試の透明性改善のきっかけとなった事件2018年7月に発覚したこの事件は、日本の医学部入試にも多大な影響を及ぼしました。当初は一般的な贈収賄事件として扱われていましたが、その後の東京医大の内部調査で、同大が行っていた点数操作が佐野被告の息子だけでなく、女性や3浪以上の男性にも一律に不利になるように行われていたことが判明、事件は一気に社会問題化しました。文科省は医学部医学科がある全国81大学の入学者選抜の過去6年間の実態を緊急調査し、2018年9月に2013年〜2018年度の男女別の合格率を公表しました。これらの調査結果と各大学へのヒアリングを基に、東京医大を含む10大学の医学部医学科においても「不適切である可能性が高い」選抜や「疑惑を招きかねない」選抜が行われていた事実が明らかになったのです。同省は2019年6月、「大学入学者選抜実施要項」を見直し、差別を禁止する具体的なルールを設定。各大学では受験生の名前や性別、年齢を伏せて合否を決めたり、女性面接官を増やしたりする対策がとられるようになりました。元受験生による集団訴訟も継続中実際、こうした対策の効果は大きく、本連載の「第94回 昨年の医学部入試で男女別合格率が逆転!医師が『An Unsuitable Job for a Woman』でなくなる日は本当に来るか」でも詳しく書いたように、国公私立81大学における2021年度の医学部入試での女性の平均合格率は13.60%と、男性の13.51%を上回り、データのある2013年度以降で初めて男女の合格率が逆転しています。もしこの事件が発覚しなかったら、女性や複数年浪人生への不当な差別がその後も続いていたと思うと、恐ろしいことです。ちなみに、文科省の調査で不適切入試が指摘された大学については、元受験生が損害賠償を求めて提訴する動きも広まりました。東京医大のほか昭和大や聖マリアンナ医科大などに対する集団訴訟が続いています。2022年5月には、東京地裁が順天堂大に対し、医学部で不合格となった元受験生の女性13人に計約805万円の支払いを命じる判決を言い渡しています。順大については判決が確定し、元受験生と大学側は和解しています。いくつかの集団訴訟はまだ続いており、佐野元被告も控訴する方針なので、今回の有罪判決もまだ確定しません。東京医大入試事件をきっかけに全国の医学部を揺るがせた不正入試の余波は、まだまだ収まりそうにありません。

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原因不明の小児急性肝炎、英国44例の臨床像/NEJM

 2022年1月~3月に、英国・スコットランドの中部地域で小児の原因不明の急性肝炎が10例報告され、世界保健機関(WHO)は4月15日、Disease Outbreak Newsでこれに言及した。WHOはさらに、4月5日~5月26日までに33ヵ国で診断された同疾患の可能性例が少なくとも650例存在するとし、このうち222例(34.2%)は英国の症例であった。同国・Birmingham Women’s and Children’s NHS Foundation TrustのChayarani Kelgeri氏らは、今回、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎44例の臨床像、疾患の経過、初期のアウトカムについて報告した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年7月13日号に掲載された。3つのカテゴリーの臨床アウトカムを評価 研究グループは、2022年1月1日~4月11日の期間に、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎の小児について後ろ向きに検討を行った。 対象は、年齢10歳以下で、英国健康安全保障庁(UKHSA)による確定例の定義(2022年1月1日以降に10歳以下の小児で発症し、A~E型肝炎ウイルスや代謝性・遺伝性・先天性・機械的な原因に起因しない肝炎で、血清アミノトランスフェラーゼ値>500 IU/L)を満たした急性肝炎の患児であった。 これらの患児の医療記録が精査され、人口統計学的特性や臨床的特徴のほか、肝生化学検査、血清検査、肝臓指向性およびその他のウイルスの分子検査の結果と共に、画像上のアウトカムと臨床アウトカムが記録された。 治療は、同施設の急性肝不全プロトコールに準拠して実施され、広域スペクトル抗菌薬、抗真菌薬、プロトンポンプ阻害薬、ビタミンKの投与などが行われた。 臨床アウトカムは、(1)病態の改善(ビリルビン値およびアミノトランスフェラーゼ値の持続的な低下と、血液凝固能の正常化)、(2)肝移植、(3)死亡の3つのカテゴリーについて評価が行われた。90%でヒトアデノウイルスを検出、14%で肝移植、死亡例はない 急性肝炎で紹介された50例のうち、44例(年齢中央値4歳[範囲:1~7]、女児24例[55%])が確定例の定義を満たす肝炎を有していた。このうち13例が同施設に転院し、残りの患児は地元の施設で治療を受けた。2022年1月~4月の同施設への原因不明の急性肝炎による入院数および原因不明の急性肝不全による肝移植数は、いずれも2012~21年における年間症例数よりも多かった。 医療記録が入手できた患児(80%)は全例が白人であった。受診の主な理由は黄疸(93%[41/44例])が最も多く、次いで嘔吐(54%[24例])、下痢(32%[14例])、白色便(30%[13例])、腹痛(27%[12例])、嗜眠(23%[10例])の順だった。 ヒトアデノウイルスの分子検査を受けた30例では、27例(90%)が陽性であった。サイトメガロウイルス(CMV)は全例が陰性で、エプスタイン-バーウイルス(EBV)のカプシド抗原は2例が陽性で、核抗原は1例が陽性だった。 腹部超音波検査では、胆嚢壁肥厚が45%(20例)、軽度肝腫大が27%(12例)、軽度脾腫が18%(8例)で認められた。 38例(86%)は自然回復した。残りの6例(14%)は肝機能が持続的に悪化して急性肝不全に進展し、全例が肝移植を受けた。この6例中5例は急速に進行性の脳症を来し、黄疸発生から脳症発現までの間隔は6~7日だった。死亡例はなかった。肝移植を受けた6例を含む全例が自宅退院した。 UKHSAは、血液と肝組織のメタゲノム解析を行い、アデノ随伴ウイルス2やヘルペスウイルスを検出した。これらの所見の重要性については、現在、さらなる評価が進められている。 著者は、「多くの患児でヒトアデノウイルスが分離されたが、この疾患の病因におけるその役割は確立されていない」としている。

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薬剤師の名札「姓のみ」「本名以外」の記載も可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第93回

薬局ではフルネームの名札をつけて業務を行っていると思いますが、名札の記載ルールが緩和され、「姓のみ」「本名以外」などの記載も可能になったことをご存じでしょうか。これまで名札がフルネーム表記だったのは、2009年の厚生労働省医薬食品局長通知で以下のように「資格+氏名」を記載した名札を付けることが求められていたためです。「薬剤師又は登録販売者には、氏名に加えて「薬剤師」又は「登録販売者」と記載した名札を付けさせるか、氏名を記載した名札に加えて薬剤師又は登録販売者の別を記載したバッジ等を付けさせることとし、一般従事者には、氏名のみを記載した名札又は氏名に加えて「一般従事者」と記載した名札を付けさせること。」6月27日の事務連絡により、上記に続いて以下の文言が追加されました。「なお、ストーカー被害やカスタマーハラスメントの防止等の観点から、薬局開設者が適切に判断し、薬剤師、登録販売者又は一般従事者が氏名に代わって、姓のみ又は氏名以外の呼称を記載した名札を付けることを認めても差し支えないこと。姓のみ又は氏名以外の呼称を記載することとする場合は、薬局開設者は、薬局の営業時間中に従事する薬剤師、登録販売者又は一般従事者の特定のため、名札への記載名について実名と照合できるよう把握及び管理すること。」昨今、ストーカー被害やカスタマーハラスメントが社会問題となっている中、薬局開設者の判断により、名札の氏名記載はフルネームでなくてもよいとされました。同日に公表されたQ&Aでは、「姓のみ」「氏名以外の呼称」を記載した名札を付けることを認め、氏名以外の呼称の例として「旧姓」「ビジネスネーム」など、社会通念上不適当でない呼称を用いることが可能と説明しています。なお、薬局開設者は、名札の記載名と実名を照合できるようにする必要があります。おそらく、資格+姓のみを記載する薬局が増えるのではないかと思いますが、薬局や薬剤師の業務の信頼性を担保するにはそれで十分なのではないでしょうか。フルネームではさらなる個人情報やプライベートな情報に到達される可能性もあります。私も危険を感じる場面に遭遇したことがありますし、親身に服薬指導していた患者さんが好意と勘違いしてストーカー化し、異動せざるを得なくなったという薬剤師の話も聞きます。そのような状況に陥ること自体も恐怖ですし、異動先でスタッフや患者さんと一から関係を構築しなければならないため、負担はかなり大きいものになります。ルールの緩和で薬剤師がより安全に働くことができるようになればいいなと思います。フルネームがわからないと資格確認検索システムで調べられない一方、名札にフルネームを記載しないことのデメリットとして、本当に薬剤師資格を有しているかどうかを患者さんが調べにくくなるという問題があります。厚生労働省が作成している薬剤師資格確認検索システムでは、フルネームを入力することで、厚生労働省に登録している薬剤師かどうかを調べることができます。登録年や行政処分に関する情報も調べることができるため、かかりつけ薬剤師を選ぶ際の参考になるかもしれません。この検索システムが存在する理由は、「薬剤師の情報を開示することで国民が享受できる利益」と「不開示とすることで保護される利益」を比較した場合、薬剤師でない者からの調剤を避けて国民の生命・健康の保護に寄与することができるという前者の利益のほうが上回るためです。医師や多くの国家資格でも同様に開示されています。「自称薬剤師」から調剤を受けたり薬を勧められたりすることなどあってはならないので、資格者かどうか確認するための方法は必要だと思います。しかし、登録年からおおまかな年齢を推測することができるため、個人情報により到達されやすくなりますし、検索結果に表示される性別を知られたくない薬剤師もいるかもしれません。この数年で状況は大きく変化していますので、薬剤師の個人情報を保護するために、表示項目や確認方法などの議論が必要な時代になってきているのかもしれません。

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第122回 コロナは細胞間“トンネル”を伝って脳で広まるのかもしれない

すでによく知られている通り新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は脳のもやもや(brain fog)や混乱などの種々の神経症状と関連し、どうやら脳に直接影響するらしく、感染者の死後脳からウイルスが検出されています。SARS-CoV-2は感染の取っ掛かりでACE2受容体に結合することが知られますが、ACE2受容体がおよそ非常に乏しい脳でSARS-CoV-2がどうやって広まるのかはよく分かっていません。フランスの研究者による新たな実験の結果、SARS-CoV-2は感染細胞から伸ばした細い管を伝ってACE2受容体なしでも別の細胞に乗り移りうることが示されました1)。いわばトンネルのようなその仕組みのおかげでSARS-CoV-2は脳内で広まるのかもしれません。同国のパスツール研究所のチームはACE2を発現する上皮細胞(Vero E6細胞)とACE2を欠く神経細胞(SH-SY5Y細胞)それぞれとSARS-CoV-2をまずは一緒にしてみました。すると予想通りSARS-CoV-2は上皮細胞には感染し、神経細胞には感染できませんでした。しかしSARS-CoV-2感染上皮細胞と神経細胞を一緒にしたところ神経細胞へのSARS-CoV-2の感染が認められました。とりわけ高性能の顕微鏡で観察したところ細胞間を繋ぐ細い管が見て取れ、細胞膜ナノチューブ(tunneling nanotube;TNT)と呼ばれるその管の中にSARS-CoV-2のタンパク質やRNAがありました。また、ウイルスRNAを量産する二重膜小胞も認められました。すなわちSARS-CoV-2は感染細胞にTNTを作らせ、TNTと連結したよその非感染細胞にTNTを伝ってまんまと侵入しうることが裏付けられました。TNTがウイルスの通り道になることを示したのは今回が初めてではありません。酸素不足や感染などで負荷がかかった細胞が伸ばしたTNTが別の細胞と繋がり、ウイルス粒子がその通路を介して細胞間を行き来しうることがこれまでの研究で示されています。たとえばインフルエンザウイルス、HIV、ヘルペスウイルスはTNTを使って己のゲノムを非感染細胞へ輸送可能であり、その経路であれば免疫や抗ウイルス薬は手出しできそうにありません。今回の研究でTNTはSARS-CoV-2結合の足場がない細胞への侵入ルートになりうることが示されましたが、足場がある細胞間のSARS-CoV-2伝播さえも促しているかもしれません。TNTを構成するアクチンの重合や脱重合は素早く、ウイルスは他の経路よりTNTを介した方がより早く広まれる可能性があるからです。今後の課題として動物やヒトの脳内でTNTを介したSARS-CoV-2細胞感染が存在するかどうかを検討する必要があります2,3)。もしヒトの脳内やその他の体内でTNTを介したSARS-CoV-2感染があるならウイルスの広まりを早くに封じて感染の重症化を防ぐのにTNT形成阻止薬が役立つかもしれません。今のところTNTに限って阻害する化合物は存在しませんがパスツール研究所のチームはその同定を目指して化合物の選別に取り組んでいます3)。参考1)Pepe A, et al. Sci Adv. 2022 Jul 22;8:eabo0171. 2)SARS-CoV-2 Could Use Nanotubes to Infect the Brain / TheScientist3)Coronavirus may enter the brain by building tiny tunnels from the nose / NewScientist

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男女間で異なる不安症状と食物依存症との関連

 不安は、さまざまなケースでみられる症状であり、摂食障害や肥満とも関連しているといわれている。ドイツ・ライプチヒ大学のFelix S. Hussenoeder氏らは、不安症状と食物依存症との関係を分析し、これらの関連性の評価および性差について検討を行った。その結果、食物依存症には、性別やその他の社会人口統計学的因子と関係なく、不安症状に対する長期的な影響が確認された。また、女性における不安症状は、その後の食物依存症に影響を及ぼす可能性が示唆された。このことから著者らは、食物依存症に対する介入は、男女ともに不安症状の軽減につながる可能性があるものの、不安症状に対する介入は、女性の場合のみで、食物依存症の軽減につながることを報告した。Frontiers in Psychiatry誌2022年6月14日号の報告。 人口ベースのLIFE-Adult-Study(1,474例)のデータを用いて、ベースライン時および初回フォローアップ時における不安症状と食物依存症との関連を分析した。不安症状の評価には一般化不安障害質問票(GAD-7)、食物依存症の評価にはYale食物依存症尺度(YFAS)を用いた。不安症状と食物依存症との関連を評価するため、男女の参加者を含む複数グループにおける潜在交差遅延パネルモデルを用いた。年齢、婚姻状況、社会経済的地位、ソーシャルサポートを調整した。 主な結果は以下のとおり。・不安症状および食物依存症は、男女ともに経時的な安定が認められた。 【不安症状】女性:β=0.50、p≦0.001、男性:β=0.59、p≦0.001 【食物依存症】女性:β=0.37、p≦0.001、男性:β=0.58、p≦0.001・女性において、ベースライン時の不安症状と初回フォローアップ時の食物依存症との有意な関連が認められたが(β=0.25、p≦0.001)、男性では認められなかった(β=0.04、p=0.10)。・ベースライン時の食物依存症と初回フォローアップ時の不安症状については、女性(β=0.23、p≦0.001)および男性(β=0.21、p≦0.001)において有意な関連が確認された。

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医師の働き方改革、武器の「アンケート」はこう使え!【今日から始める「医師の働き方改革」】第12回

第12回 医師の働き方改革、武器の「アンケート」はこう使え!「働き方改革で、何がどう変わるんですか?」。私たち働き方改革コンサルタントはそんな質問をよく受けます。最も一般的な回答は「超過勤務が減ります」ですが、実はそれだけではなく、さまざまな効果が表れます。ですが、施設ごとに抱えている課題はさまざまで、「どこから手を付けてよいのやら」と悩む担当者の方が多くいます。ここで私たちがお勧めしているのが「現状を定量化」することです。そして、そのための有効な手法の一つが「アンケート」です。私たちがご一緒している長崎大学病院の働き方改革でも小児科でアンケートを行い、現状を定量化する試みを行いました。担当された佐々木 理代氏にその狙いなどを振り返っていただきます。長崎大学医学部小児科学教室・佐々木 理代氏(写真右)―長崎大学病院の働き方改革「ワークスタイル・イノベーション」の担当となられて、まず何を考えましたか?初めはどのようなプロジェクトなのかも想像がつかず、手探りの状態でした。「残業しない」ことについては、これまでは個人的に頑張ってきたのですが、今回は組織全体の仕組みや状況へのアプローチが含まれており、長期的に見て大きな価値があると感じました。一方で、すでに超多忙な小児科チームに対し、働き方改革プロジェクトのために多くの時間を割いてもらうのは現実的ではありませんでした。今あるリソースでできることから始めようと、アンケートを行うことにしました。小児科の中でもとくに忙しいNICUに着目し、「NICUの働き方の現状を可視化する」ことを目標としました。長崎大学病院におけるNICUの人数や勤務状況はもちろんわかっていますが、それが私たちに特有のものなのか、他施設と比べてどうなのかがわからなかったため、全国の国立大学系のNICUにアンケート回答を依頼しました。アンケートの設問は「スタッフ数、病床数、当直回数や当直明けの勤務、待遇面」です。その結果、全国の22施設からの回答があり、当院の結果を加え23施設の現状を可視化できました。アンケートによって、当院は他施設と比較してNICUの勤務医数は比較的多いものの、当直数が非常に多く、時間外勤務も多いことが確認できました。定量的な把握ができたことで、人員補充や手当ての拡充について、院長に要望を出すことができました。単に「忙しい」、「人を補充してほしい」と言っても説得力に欠けるので、他施設と比較した数値を可視化できたことは大きかったと感じます。人員増強にすぐにつながることは難しいかもしれませんが、今後も客観的な数値に基づいた、意味ある働き方改革の提案をしていきたいと思います。〈解説〉「忙しいから人が欲しい」というのはどこの職場でも聞く要望ですが、どの程度人員が不足しているのかがわからなければ、実際に配置ができません。長崎大学病院小児科では「忙しさ」を定量化するために、自部門だけでなく全国のネットワークを活用したアンケートを採りました。その結果として自分たちの「忙しさ」を客観視し、他施設と比較した適切な人員数を把握して院長にも要望を出すことができました。このあたりは同種の業務を行う施設が多数存在し、ネットワークもある医療機関の強みでしょう。定量化の最も手軽な方法の1つがアンケートです。今回の小児科の取り組みでは、Googleフォームでアンケートを作成し、メーリングリストで全国の国立大学系病院に回答を依頼しました。このように、デジタルツールの進化によってアンケートは手軽に配布・回答・集計ができるようになっています。【設問をどう作成するか】アンケートの設問は、検証したい内容に基づいて作成します。今回の場合、「長崎大学病院のNICUの医師はどのような状況に置かれているのか、全国平均と比べてどの程度忙しいのか?」というのが検証したい内容でした。アンケート作成に当たっては、「忙しい」という主観的な表現を「病床数と勤務医数の対比」や「当直数」という数値に落とし込みました。こうした指標は1つではなく、複数持っておくことが望ましいでしょう。検証したいことがぼんやりしていると設問設計のハードルが上がり、集計しても導きたいメッセージが見えてきません。目的をしっかり考えたうえで設問に入りましょう。【記名式か無記名式か】アンケートを記名式にするか無記名式にするかも大きな問題です。無記名式のメリットは、直接話しにくい話題でも書きやすく、率直な意見が集まりやすいことです。表に出にくい本音を聞き出したいとき、多くの回答を集めたいときは、無記名式が適しています。記名式のメリットは回答の信ぴょう性の高さです。一方で、記名式はきれいごとばかりで本当に聞きたいことが聞けないことも多い、というデメリットがあります。メリット・デメリットは裏表の関係なので、アンケートの目的をよく考えて設定しましょう。【設問数はどうするか】設問数は、多い方がテーマを多面的に捉えることができる一方で、回答者の負荷が高まります。選択式の設問を多くすることで負荷を軽減しつつ集計もしやすくなるので、自由記述と選択式のバランスをとって設定します。【結果はどうするか】集計結果は可能な限りオープンにしましょう。回答者からすれば「結果がどうだったのか」は気になるものです。全体の結果についてのサマリーを回答のお礼と共に回答者に共有することで、その後の取り組みにも関心が高まります。アンケートは働き方改革の調査における強力な武器です。ぜひ効果的な活用方法を考えてみてください。

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第118回 記者も唖然…塩野義コロナ薬の承認審議で識者が発したガチ発言

2時間にわたる王者対挑戦者のボクシング・タイトルマッチ。1ラウンド目に挑戦者は王者の軽いジャブの後、アッパーカットをくらいおもむろにダウン。2~4ラウンドは挑戦者のストレートパンチが王者の顔面を捉え、一旦持ち直したかに見えたが、5ラウンド目は王者のジャブが軽く決まりよろける。その後はほぼ王者の一方的な連打がさく裂し、最終12ラウンドまで持ちこたえたものの、3人のジャッジの判定は大差で王者に-。ボクシングにたとえるとそんなところだろうか?何かというと、7月20日に開催された厚生労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会・医薬品第二部会合同会議で行われた塩野義製薬の新型コロナ治療薬候補の3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の緊急承認審議だ。結論から言うと第III相試験を待って議論すべきということで、委員ほぼ全員が一致して継続審議を決定した。過去の連載記事から繰り返しになって恐縮だが、エンシトレルビルに関しては今年5月の薬機法改正で新設された緊急承認制度を使った承認申請が行われている。塩野義製薬が申請に当たって提出したデータは第II/III相試験のうち、軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果。主要評価項目は鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量の2つ。前者については低用量(125mg)群、高用量(250mg)群、ともにプラセボ群と比べて有意な減少を示したものの、後者は有意差が認められなかった。ちなみに塩野義製薬側は、後者については現在主流のオミクロン株に特徴的な4症状に限定して解析すると有意差が認められたことを強調している。すでに6月に行われた医薬品第二部会では、緊急承認に否定的な意見が多かったものの、緊急承認制度では薬事分科会の審議も必要になるため、この日に持ち越した。そして今回の審議はやや異例だった。というのも1つの薬を巡る審議がYoutube Liveを通じて全国にリアルタイムで公開されたからである。新薬の承認審議がここまでガラス張りにされたのは初と言って良い。ちなみに私は報道公開枠で会議場にいた。事務方からの一通りの説明とそれを受け、審議の方向性について医薬品第二部会長の清田 浩氏(井口腎泌尿器科・内科新小岩副院長、元東京慈恵会医科大学教授)に意見が求められた。「まず付け加えたいのは、医薬品第二部会の臨時部会が開かれたのは6月22日。ちょうどコロナの患者数が下げ止まっていた時期です。現在の第7波が来ることもある程度予感していたかもしれませんが、現実にこうなるとは予想し得なかった時期なので、多少議論に危機感が欠けていた印象を持っております。その後、追加の有効性として、Long COVIDの率が減る、ウイルスの再拡散を抑えるというデータがあり、そういったポジティブなデータをどう解釈するかも議論の材料としていただければと思います」これに対して医薬品第二部会委員で山梨大学学長の島田 眞路氏から横やりが入った。「6月22日は確かに感染状況はひどくはなかったですが、諸外国でも出てましたし、日本でも来るんじゃないかという危機感を持って私達は審議したと思っております。清田部会長がどう考えたか知りませんが、危機感がなかったとおっしゃっているのにはびっくりしました。先ほどのいくつかの実験データが追加されたとのことですが、これはすでに塩野義さんは提出されてましたよ。(症状の)期間が短くなるんじゃないかとか。Long COVIDだけは出してなかったかもしれませんけど、あとのデータはだいたい示されていました。しかも、これはエンドポイントが修正されたりしたようなものです。たとえば12症状(合計スコア)ではまったく効果が認められなかったわけなので、われわれとしては効果は認められないと判断したのであって、それが呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って。それをわざわざされて、有効性があるというところをピックアップしてやるのは、臨床試験としてはやっちゃいけないことだと思いますけどね」司会が引き取り、委員ではない独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原 康弘氏が補足的な意見を求められた。この状況を収めようとしたのだろう。藤原氏は、公開された審査報告書内の第IIb相試験でのエンシトレルビル125mg、250mg、プラセボ投与後120時間までの12症状スコアのグラフを参照するように呼び掛けて次のように語った。「この推移を見ていただいたらわかりますが、私も元々呼吸器専門医なので普通にパッと見ると、これ差がないんじゃない? と見えます。PMDAとしても普通の感覚で見たのでしょう。先ほど説明がありましたように確かにRNA量は有意差をもって下がっているものの、臨床効果はこのぐらいかなというのが正直な判断であったと私は類推いたします。また、話題に上がった後付け解析ですが、途中の(事務局の)説明で多重性というお話がありました。今回、塩野義さんが何度も何度も事後解析をしていますが、そうするとby chanceで有意になることはよくあります。p値(統計学的有意差)が0.05ならば、20回に1回は間違った結果になるのは自明の理なので、繰り返し統計解析する時はp値はすごく小さくするとか、事務局が説明した多重性の調整をきちんとやらなければいけないのですが、それをやらずに何度も何度も解析してどこかで有意差が出たから良いんじゃないのと言ってるのが塩野義さんかな、と私は理解しております」さすがにこの発言には驚き、メモを取っていた手を止め、リモート参加していた藤原氏の様子が映し出されたディスプレイを凝視してしまった。周囲を見回すと、数人がやはり目を見開いてディスプレイを見ている。藤原氏は臨床医でありながら、過去には臨床薬理学分野の研究経験もあり、PMDAの前身である国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターで新薬の承認審査を担当していたこともある。しかし、そのキャリアはほぼ一貫して国立の研究機関・医療機関に身を置いてきた公務員だ。その意味ではある種退屈な「お役所言葉」を駆使してきた立場であるはずの藤原氏が衆人環視の中でここまで製薬企業をディスる(若者言葉で失礼)とは思いもしなかった。このあとエンシトレルビルの治験調整医師であった日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)、岩田 敏氏(国立がん研究センター中央病院感染症部長)、大石 和徳氏(富山県衛生研究所長)の3人が参考人として意見陳述。いずれも主要評価項目ではない症状消失までの期間が3日間短縮できたデータなどを援用し、現時点で有効性の推定は可能という立場を取った。しかし、この後、前述の島田氏が再び異議を唱えた。参考人3人のうち2人が塩野義製薬との利益相反があり、なおかつ全員がPMDAの審査に対する塩野義製薬の反論に即した主張をしていると批判し、利益相反なしと申告していた大石氏にも利益相反がないかの確認を求めたのだ。大石氏が「利益相反がない」と伝えると、島田氏は「PMDAが審査した結果に対して、3人が3人、塩野義製薬の意見に同調する方を選ぶのはフェアなやり方ではない」と事務方に要請した。事務方からは「感染症の専門家からのご意見としてこちらからお呼び…」と発言しかけるも、島田氏が遮り、「感染症の専門家なんてごまんといるわけです。にもかかわらず3人中2人が塩野義製薬との利益相反がある方を呼ぶのは。もうちょっとフェアな方を呼んでいただかないと議論がかみ合わない」と苦言を呈した。その後は全体の空気がネガティブになり始める。この空気が完全にネガティブに転換したのは、それまで日本医師会常任理事として薬事分科会委員を務めていた松本 吉郎氏が日本医師会の新会長に就任したことに伴う交代で、今回から薬事分科会委員として出席した日本医師会常任理事の神村 裕子氏の発言だった。過去の本連載でも触れたように、エンシトレルビルには催奇形性があることがすでに報じられており、今回の審議で示された審査報告書にはその詳細が記述されている。それによると、ラットでの胎児の骨格変異、ウサギでの胚・胎児死亡、胎児の軸骨格の奇形・変異、外表に奇形所見で短尾と二分脊椎が認められたという。PMDA側の見解では潜在的な催奇形性リスクがあり、ラットとウサギの無毒性量は、ヒトでの血漿中曝露量基準でそれぞれ約3.8倍と約2.4倍で十分な安全域を有しておらず、承認時には、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とすることが適切というものだった。この点を踏まえて神村氏が次のように述べた。「私は女性の医師ですので、女性の患者さんがたくさんいます。この中でたとえば妊娠の可能性のある患者さんに禁忌という場合、妊娠しているかどうかわからないとなると、とても怖くて使えない。また、錠剤が大きくて飲み難いことはありますが、既に同じような作用機序のニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)があるなかで、なぜそちらではダメなのかと考えている。当然ながら私が臨床の外来で、この程度の呼吸器症状の有効性の差が出たと言われても、『とても使いたくはないな』と、申し訳ないですけれども率直にそう感じました。またCYP3A阻害作用が強いということを考えれば、やはり慢性疾患にかかっていらっしゃる高齢の患者さんたちにも使えない。となると、非常に使える幅が狭くなる。第III相試験ではっきりした結果が出るまで、手を出せないと思っています」この率直な意見は新任委員ならではとも言えるのかもしれない。それ以上に実臨床に携わる医師の意見は非常に臨場感のあるものだった。審議の雰囲気はここで一気に最終結論の方向に傾いたように感じた。神村氏が触れたCYP3A阻害作用については、すでにPMDAから冒頭にニルマトレルビル/リトナビル同様に併用禁忌が多くなる見込みと説明された。かつ、PMDAの審査報告書では、仮に緊急承認するとしても「有効性が示されていない状況で、本剤が承認される場合には、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、治療薬の投与が必要と考えられる患者を対象とし、禁忌等に該当する場合や供給量の関係で入手できない場合等で他の治療薬が使用できない場合に限り本剤を使用することが妥当である」との医薬品第二部会委員の意見が付記されていた。平たく言えば、重症化リスク因子を有し、既存の治療薬が使えない場合のみをエンシトレルビルの適応とすべしというものである。ちなみに今回提出された資料の中で私個人が目を引いたのは、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が提出した資料の中にあった7月19日現在までに使われた新型コロナ治療薬別の患者数である。それによると、モルヌピラビル(同:ラゲブリオ)が23万5,900例、ソトロビマブ(同:ゼビュディ)が15万例、ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)が1万4,100例という数字である。治療必要数の比較で最も抗ウイルス効果が高いと言われているニルマトレルビル/リトナビルはもともとの供給量が少ないと言われているものの、2月の承認から5ヵ月間でこの程度しか使われていないのである。この背景には当然併用禁忌の多さもあるだろう。となると同じように併用禁忌が多くなる見込みで、既存薬が使えない場合のみにエンシトレルビルを使うならば、必要となる患者は極めて少数ではないだろうか? しかも、この日、すでにエンシトレルビルの第III相パート結果は11月中に明らかになるという見通しも示された。この点にも委員の質問が相次いだ。最終的に審議時間終了の午後8時直前、ちょっとした動きがあった。厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長の吉田 易範氏が、医薬品第二部会委員で神村氏と同じ日本医師会常任理事である宮川 政昭氏に近づき耳打ちした。その直後、薬事分科会長である和歌山県立医科大学薬学部教授の太田 茂氏が「ほかの委員からどなたかご発言がありますでしょうか? よろしいようでしたら、本日の議論を取りまとめたいと思いますので、少しお時間をいただければ」と言いかけた瞬間、宮川氏が口を開いた。「今までの議論をお聞きして、先ほどPMDAの方からありましたように第III相試験の組み入れが全部終わったということですから、たぶん第III相試験は、大体時期的に言えば11月初旬(ここで事務方から『11月に総括報告書が提出されるということで聞いております』との声)…。はい。ですからそういうところをしっかりと見定めるということ、つまり緊急承認の枠組みというものが、ここである程度否定されたというわけではないものの、そういうものではないということであれば、第III相試験を待ってしっかりとした薬事としての承認体制を組んでいくというようなことも重要と思いますので、そういうことも含め、お考えいただければと思います」ここで件の島田氏が「宮川先生の意見に賛成です」と発言。これを受けて太田氏が委員に継続審議を打診。オンライン参加の委員も含め次から次に「異議なし」「賛成します」「賛成です」という声が相次ぎ、2時間強の長いようで短い議論は終結した。しかし、あの塩野義製薬を思いっきりディスった藤原氏は、今回の審議公開に同意した塩野義製薬に感謝の意を表していたが、これは私も同感である。ここまで透明性が確保できるならば、医薬品に対する一般人の信頼を勝ち取る一助になるのではないかと改めて感じている。参考薬事分科会・医薬品第二部会 合同会議 資料

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異種ワクチンでのブースター接種、安全性は?/BMJ

 新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種について、「ChAdOx1-S」(アストラゼネカ製)によるプライマリ接種とmRNAワクチン(「BNT162b2」[ファイザー製]または「mRNA-1273」[モデルナ製])によるブースター接種(異種ワクチン接種)は、プライマリ+ブースターをすべてmRNAワクチンで接種した場合(mRNA同種ワクチン3回接種)と比べて、重篤な有害イベントリスクの増大は認められなかったことを、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らが報告した。同国内でワクチン接種をした成人を対象に行ったコホート試験の結果で、これまで異種ワクチンの安全性に関する情報は不十分だった。BMJ誌2022年7月13日号掲載の報告。ワクチン2/3回接種後28日の重篤な心血管・出血/血栓性有害イベントを比較 研究グループは、2021年1月1日~2022年3月26日にかけて、デンマーク国内を対象にコホート試験を行った。COVID-19ワクチンの初回接種に、「ChAdOx1-S」を接種し、その後ブースター接種としてmRNAワクチン(「BNT162b2」または「mRNA-1273」)を1~2回接種した成人(18~65歳)と、「BNT162b2」または「mRNA-1273」のみを2~3回接種した成人について比較検討した。 主要アウトカムは、ワクチン2回または3回接種後28日以内の、広範にわたる心血管・出血/血栓性有害イベント(虚血心イベント、脳血管イベント[梗塞または頭蓋内出血]、動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症[脳静脈血栓塞栓症または肺塞栓]、心筋炎/心膜炎など)による病院受診の発生だった。ポアソン回帰法で、特定の交絡因子を補正し発生率比を推算し評価した。24時間以上入院を要する重篤な有害イベント、両群で同等 計2回接種の異種ワクチン(ChAdOx1-S、mRNA)接種者は13万7,495人、同種ワクチン(mRNA、mRNA)接種者は268万8,142人だった。また、計3回接種の異種ワクチン(ChAdOx1-S、mRNA、mRNA)接種者は12万9,770人、同種ワクチン接種者(mRNA、mRNA、mRNA)は219万7,213人だった。 異種ワクチン群の同種ワクチン群に対する、ワクチン2/3回接種後28日の、心血管・出血/血栓性有害イベントの補正後発生率比は、虚血心イベントは2回接種群で1.22(95%信頼区間[CI]:0.79~1.91)、3回接種群で1.00(0.58~1.72)であった。また、脳血管イベントはそれぞれ0.74(0.40~1.34)と0.72(0.37~1.42)、動脈血栓塞栓症は1.12(0.13~9.58)と4.74(0.94~24.01)、静脈血栓塞栓症が0.79(0.45~1.38)と1.09(0.60~1.98)、心筋炎/心膜炎が0.84(0.18~3.96)と1.04(0.60~4.55)、血小板減少症と血液凝固障害が0.97(0.45~2.10)と0.89(0.21~3.77)、その他出血イベントが1.39(1.01~1.91)と1.02(0.70~1.47)だった。 24時間超の入院を要する重篤な有害イベントに限定した場合も、あらゆるアウトカムとの関連について有意差はなかった。 結果を踏まえて著者は、今回の試験結果は安心を与えるものだとしながらも、稀な有害事象もあるため、関連性を排除するものではないとしている。

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第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ

オールスターゲーム後に気がかりなことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルス感染症の第7波が到来、各地で感染者が急増しています。政府は現時点ではまん延防止措置等重点措置のような行動制限は必要ないとの方針ですが、このまま学校が夏休みに入り、帰省や観光等で人々の動きが活発になると、さらなる患者数の増加が予想されます。実際、街に出てみると、コロナ禍以前のような賑わいで、人々は普通に飲んで騒いでいます。昨年夏のように、医療提供体制が逼迫する恐れも出てきました。米国では、MLBでポストシーズンへの進出が絶望的となったロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手のトレード交渉が、今週開かれるオールスターゲーム後に本格化するのではと、マスコミが騒いでいます(8月2日の米東部時間午後6時、日本時間3日午前7時が今季のトレード期限)。仮にエンジェルスから放出されるとしたら、大谷選手はどのチームに行くのか。ワールドシリーズ進出を狙う強豪チームに行くのか…。その行き先がとても気がかりです。一方、日本においては、プロ野球のオールスターゲームが終わる7月末頃には、コロナ患者激増でまん延防止措置等重点措置が再び出されるのではないか、あるいは感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げる議論が本格化するのではないか……。こちらもとても気がかりです。さて今回は、新型コロナウイルス“ではない”ウイルス、相変わらず各地の病院で被害が頻発している、コンピュータウイルスについて書いてみたいと思います。増える病院のサイバー攻撃報道6月20日、徳島県鳴門市の医療法人久仁会・鳴門山上病院にサイバー攻撃があり、 電子カルテや院内のLANシステムが使えなくなったことが判明し、各紙が報じました。各紙の報道によれば、感染したのは身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」で、 19日午後にパソコンが勝手に再起動し、 プリンターから紙が大量に印刷されたのに職員が気付き、 被害が判明したとのことです。なお、同病院は患者のデータをバックアップしており、22日から通常診療を再開しています。また、7月4日には岐阜市の医療法人幸紀会・安江病院が外部から不正アクセスを受け、病院のコンピュータシステムに保管していた患者や職員、計約11万人分の個人情報が流出した可能性がある、と発表しました。各紙報道によると、流出した可能性があるのは、患者や新型コロナウイルスのワクチン接種者延べ11万1,991人と、職員715人分の名前や住所、電話番号や病歴などで、職員が5月27日朝、電子カルテのシステムが使えないことに気付き、不正アクセスが判明したそうです。翌28日には復旧したものの、29日まで救急患者の受け入れを停止しました。同病院は岐阜県警や厚生労働省に報告し、専門機関に調査を依頼したとのことです。全面復旧まで2カ月かかった徳島県つるぎ町の町立半田病院コンピュータウイルスによる病院の被害については、本連載でも「第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う」、「第91回 年末年始急展開の3事件、『アデュカヌマブ』『三重大汚職』『町立半田病院サイバー攻撃』のその後を読み解く」でも取り上げ、ランサムウェアが病院経営に与えるダメージについて書きました。第86回で詳しく書いた、徳島県つるぎ町の町立半田病院の被害はとくに深刻でした。2021年10月31日、病院システムのメインサーバーとバックアップサーバーが、「LockBit2.0」と名乗る国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアに感染。同病院ではこの攻撃で患者約8万5,000人分の電子カルテが閲覧不能となり、急患や新患の受け付けがができなくなるなど、大きな被害が出ました。最終的にサーバーが復旧し、通常診療に戻ったのはなんと2ヵ月後の2022年1月でした。セキュリティ対策ソフトをわざと稼働させずつるぎ町と同病院は、今年6月7日に「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」を公表しています。調査報告書によれば、電子カルテシステムにアクセスするパソコンの端末が古く、新しいセキュリティ対策ソフトを入れると、システムの動作が遅くなる恐れがあったため、電子カルテの販売事業者の指示で、このソフトの稼働が止められていたとのことです。具体的には、院内にあるパソコン(約200台)のうち、電子カルテシステムに接続する端末について、ウイルス対策ソフト(トレンドマイクロ社のウイルスバスター、マイクロソフト社のウィンドウズ・ディフェンダー)の動作のほか、ウィンドウズの定期更新、電子カルテシステムの動作に必要なマイクロソフト製プログラム(シルバーライト)の最新版への更新などが意図的に無効化されていました。報告書は「電子カルテの動作を優先しセキュリティ対策をないがしろにした」と厳しく指摘しています。さらに、電子カルテのメンテナンス目的で販売業者側が設置したVPN(仮想プラベートネットワーク)装置についても、2019年の設置後、修正プログラムが一度も適用されていませんでした。VPNの提供元であるフォーティネット社は2019年に脆弱性について注意喚起していますが、販売事業者はこれについても病院に説明していませんでした。「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」調査報告書は、同病院にランサムウェアを仕掛けたサイバー犯罪集団により、「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた事案と判断するのが適当」と結論付けています。閉域網とは、外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワークのことです。かつては医療機関のネットワークはインターネットと切り離された閉域網を前提として構築されていました。しかし近年は、医療機関同士が患者情報をネットで共有したり、今回のケースのようにVPN装置を用いて、外部から操作したりと、閉域網ではなくなっているのが実情です。閉域網でないとしたら、それ相応の厳重なセキュリティ対策が必要になるわけですが、そこまでの対応をしている医療機関はまだ多くはありません。なお、事故発生当時は、同病院にはシステム担当者が1人しかおらず、セキュリティ対策に取り掛かる状況ではなかったとのことです。調査報告書は「起きるべくして起きてしまったインシデント」と総括、販売事業者側に対してもセキュリティソフトの停止を伝えず、VPNの修正ソフトも適用しないなど「事業者として責任を果たしていない」と、その問題点を強く非難しています。半田病院の「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」は、同病院のホームページにアップされており、誰でも閲覧し、ダウンロードすることができます1)。調査報告書の本編に加え、「調査報告書-技術編-」と「情報システムにおけるセキュリティ・コントロール・ガイドライン」も掲載されており、ホームページには、病院事業管理者である須藤 泰史氏の次のような言葉もあります。「この報告書には、我々の対応不足な点もたくさん指摘されていますが、広く日本の電子カルテシステムにおける問題も提起されています。本来なら、今後当院が電子カルテシステムをどのようにするのかの具体的な対策も提示して、皆様にご報告するべきだったと思いますが、まずはこれらを世に出して、全国の病院や事業所のセキュリティ強化に貢献できればと考え公開するものです」。同病院の事案で得られた教訓やノウハウを、全国の医療機関でも参考にしてほしいという強い気持ちが伝わってきます。全国の病院や診療所の院長は、この調査報告書の本編だけでも目を通されることをお勧めします。「一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃する」と「LockBit3.0」ところで、半田病院を襲ったランサムウェア「LockBit2.0」ですが、7月8日付の読売新聞の報道によれば「LockBit」は6月下旬、ダークウェブと呼ばれる闇サイトに開設しているホームページを一新。グループ名を「LockBit2.0」から「LockBit3.0」と改めたとのことです。このホームページでは一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃すると宣言。医療機関については、「死者が出る可能性がある」ところは避け、それ以外は、民間で収益を上げていれば攻撃対象にすると明記されているとのことです。ランサムウェアの被害多発を背景に、厚生労働省は今年3月に改定したばかりの「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版」を今年度内に再改定する予定です。また、厚生労働省の協力の下、日本医師会など医療・製薬分野の関係団体が、サイバー情報を平時から独自に収集・分析する新組織を年内にも発足させる方向で作業が進んでいるとのことです。リアルの世界だけではなく、サイバー空間においても、“ウイルス”は収まるどころかその威力をさらに増しているようです。参考1)徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書について

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