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072)ピュアガールと皮膚科医【Dr.デルぽんの診察室観察日記】(ブログより転載)

第72回 ピュアガールと皮膚科医(『デルマな日常』より転載)おっはよ~☆今日も元気なデルぽんでーす!デルぽんこないだね、お母さんに連れられた高校生を診たんだけどね、とっても明るくてピュアな子だったよ☆今日はそんなピュアガールとの外来の一コマです!どうぞ〜☆同じところで何年も皮膚科をやっていると、何年かぶりに会う人や、1年ぶり、ってひとがたまに来るよー梅雨になると水虫で来るひととか。夏になると汗疹で来るひととか。冬だけ乾燥肌で来るひとなどなど。たまにだけで良いというのは皮膚が健康で良い証拠。だがしかし。来るべき必要があるのに、年一回のひとも、いるよォォ圧倒的外用不足ッ口惜しや…とくにアトピーなんかは定期的な通院がとっても大事。きちんと適切に塗れば良くなるのにな…と思いながら口を酸っぱくして1ヶ月後に来るよう言ったんだけど来月来てくれるかなー!?いいともーーーーーーーってみんなが言ってくれたらいいのにな。ハイ、本日のデル日はこれにておしまいっバイチャーお☆※この記事は、Dr.デルぽんのご厚意により『デルマな日常』から転載させていただきました。(転載元:『デルマな日常』2016年08月02日 ピュアガールと皮膚科医)

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英語で「医療に絶対はありません」は?【1分★医療英語】第63回

第63回 英語で「医療に絶対はありません」は?Do you think this treatment will be safe for sure?(この治療法は確実に安全ですか?)I never say "never", but it is most likely safe for you.(医療に絶対はありません[絶対にないとは言えません]。ただし、あなたにとっては、ほぼ間違いなく安全だと思います)《例文1》I never say "never" and never say "always".(絶対にないとも、絶対にあるとも言えません)《例文2》I never say "never". Any medical treatment has potential side effects.(絶対にないとは言い切れません。どんな治療法でも副作用の可能性はあります)《解説》新たな治療法を開始する場合には、医師に、確実な効果・安全性を保証してほしいと言うことは、一般的な患者心理だと思います。日本でも同様ですが、米国でもこの種の質問はとても多く、適切な返答方法を知っておくことが重要です。医療への過度の期待はトラブルの元であり、健全な医師患者関係の構築にも悪影響を及ぼす可能性があるので、「医療に絶対はない」という事実を明確に伝えることも重要になります。相手に冷たい印象を与えない工夫としては、“I wish I could tell you this is 100% effective”(100%有効だと、お伝えできればよいのですが…)と言ったり、“I wish I had a crystal ball”([占い師が使う未来がわかる]水晶玉があればよいのですが…)という表現を付け加えたりします。また、単純に“unfortunately, I can never say never”という表現でも、与える印象は柔らかくなると思います。講師紹介

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第130回 コロナ病床確保の補助金で医療機関の黒字が拡大/会計検査院

<先週の動き>1.コロナ病床確保の補助金で医療機関の黒字が拡大/会計検査院2.新型コロナウイルス「5類」移行について段階的移行を検討/厚労省3.搬送困難事例が急増、過去最高の7,558件に/総務省4.医療広告のネットパトロールで監視指導体制の強化を/厚労省5.患者の同意なく電話診察の音声をツイキャスで生配信/埼玉県6.処方箋を捏造して向精神薬を不正入手の開業医を逮捕/千葉県警1.コロナ病床確保の補助金で医療機関の黒字が拡大/会計検査院会計検査院は、新型コロナウイルス対策に国が実施した新型コロナウイルス感染症対策の補助金事業について、検査を行ったところ、病床確保基金によって、医療機関の黒字幅が大幅に拡大していることを明らかにした。検査対象となった独立行政法人が運営する病院などで、感染拡大前の平均収支は2019年度は約4億円の赤字が、感染拡大後の2021年度に約7億円の黒字と経営状態が改善していた。一方、検査によって、医療機関が病床確保基金を受け取っていながら、患者受け入れの要請を断っていた事例もあり、検査員は事業の見直しや検証を求めた。(参考)新型コロナウイルス感染症患者受入れのための病床確保事業等の実施状況等について(会計検査院)コロナ補助金で赤字4億→黒字7億 病院平均、患者拒否で受給も(毎日新聞)コロナ病床確保、制度不備で補助金膨張3兆円 検査院(日経新聞)2.新型コロナウイルス「5類」移行について段階的移行を検討/厚労省厚生労働省は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策アドバイザリーボードを1月11日に開き、感染症法で2類相当とされている新型コロナウイルスについて、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」への移行について検討を開始した。国内で新型コロナウイルスが確認されてから3年、現在も第8波の感染拡大が続いているが、感染対策費の財政負担も大きくなっており、経済活性化の視点から、今後、類型変更について慎重に検討を重ねていく模様。なお5類への見直しに伴って、予防接種体制や病床確保の維持や患者の費用負担などについても合わせて検討を行うため、慎重な対応を求めている医師会などとの調整が必要となるとみられる。(参考)第113回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(厚労省)屋内もマスク不要案浮上 コロナ「5類」移行で政府 屋内でのマスク着用の判断基準(共同通信)専門家組織、5類引き下げで見解公表 「段階的移行」指摘(産経新聞)“コロナの位置づけ変更は必要な準備を進めながら”専門家会合(NHK)尾身会長インタビュー 新型コロナ第8波 状況は? 今後は?(同)3.搬送困難事例が急増、過去最高の7,558件に/総務省総務省消防庁は1月11日、救急車が到着しても、「医療機関への受入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」のため、搬送先がみつからず搬送困難とされた事例について発表した。これによると、1月2日~8日の1週間に、全国の主要な消防本部からの報告が7,558件寄せられていた。3週連続で過去最高となっており、消防庁は救急車の適時適切な利用を呼びかけたいとしている。(参考)各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査(抽出)の結果(消防庁)救急搬送困難7,558件、3週連続で最多更新 コロナ疑い増加(産経新聞)救急患者「搬送が困難な事例」1週間に7,558件 過去最多を更新(NHK)急患受け入れ3回以上断られる「搬送困難事案」、1週間で7,558件…3週連続で最多(読売新聞)4.医療広告のネットパトロールで監視指導体制の強化を/厚労省厚生労働省は、医療広告の規制について検討する「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」を1月12日に開催した。この中で、2021年度のネットパトロール事業について報告を行った。ここ数年、美容医療を提供する医療機関のウェブサイトを中心として消費者トラブルが発生しており、2017年より厚生労働省はウェブサイトの医療広告について実施している。2021年度は1,123サイト(1,521施設)が医療広告規制の審査対象となり、うち847サイトで違反が認められた。このため、広告ガイドラインに違反するウェブサイトを運営する医療機関に厚生労働省が通知したところ、742サイトは改善か掲載中止が認められたが、2021年3月末時点では、71サイトは改善が十分でなかったりした。今後も、厚生労働省は医療機関のウェブサイトの監視指導体制の強化するため、引き続きネットパトロール事業を進めるとともに、医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書を作成し、医療機関の情報提供について指導を行なっていくこととした。(参考)ネットパトロール事業について(厚労省)医療広告規制におけるウェブサイトの事例解説書(案)(同)医療広告違反サイト「改善に半年以上」が1割「行政の怠慢」との指摘も、厚労省検討会(CB news)5.患者の同意なく電話診察の音声をツイキャスで生配信/埼玉県2023年1月7日、埼玉県の「こうのす共生病院」の発熱外来の診察の音声が、常勤医の携帯電話を介して、動画のライブ配信サイト「ツイキャス」から配信されていることが明らかになった。原因について同院の発表によると、医師がプライベートで使用しているスマートフォンにインストールされたアプリを介して、外来診療の音声が配信されたことが判明した。病院側は詳細な事実関係が確認され次第、改めてホームページ上にて報告することを明らかにした。(参考)病院内の音声が生配信されていた件に関するご報告(こうのす共生病院)電話診察の音声を生配信、埼玉 患者の情報流れる(共同通信)発熱外来の電話診療、ツイキャスで無断ネット配信…常勤医の動機は「調査中」(読売新聞)6.処方箋を捏造して向精神薬を不正入手の開業医を逮捕/千葉県警千葉県警は、向精神薬を入手するために処方箋を捏造して2万錠以上を不正に入手したとして千葉県の開業医を有印私文書偽造などの疑いで逮捕した。警察によると、逮捕されたのは大網白里市の53歳の開業医。2020年までの2年間に渡り、市内の医療機関で同僚の名前などを使って、偽の処方箋を発行し、薬局から不正に向精神薬を2万錠手に入れたとして、有印私文書偽造などの疑いがもたれている。他にも、自身と他の医師の名義で、架空の処方箋を作成して、4万5千錠余りも不正に入手しているとみられている。調べに対して、医師は「処方箋の偽造はしていません」と容疑を否認している。(参考)向精神薬2万錠余不正入手か 処方箋偽造疑い 千葉の医師逮捕(NHK)処方箋を偽造、不正に薬を入手 容疑で開業医を逮捕 千葉県警(産経新聞)

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検査中は「PHS対応は看護師」で業務効率化【今日から始める「医師の働き方改革」】第14回

第14回 検査中は「PHS対応は看護師」で業務効率化自分や組織が「当たり前」としてきたことに対し、少し違った見方をしてみることで変化が起こります。今回はJA新潟厚生連 糸魚川総合病院(以下、糸魚川総合病院)の内視鏡チームでの取り組みから、「当たり前」を変えた事例を紹介します。糸魚川総合病院は、新潟県糸魚川市に位置する総合病院で、病床数261床、21の診療科、外来延べ患者数は年間約14万人、総スタッフ数は400名以上と、地域の医療・健康を支える拠点病院です。全国の地方病院の例に漏れず、医師をはじめとした医療スタッフの確保が長年の大きな課題となっていました。2008年に副院長として赴任し、2021年より病院長を務める山岸 文範氏が看護師不足に大きな危機感を感じていたことから、「新潟県一働きやすい病院をつくろう」と、働き方改革をスタートさせました。いくつかの部門のチームがモデルケースとして働き方改革に取り組みました。私たちが伴走したのは「内視鏡チーム」です。複数の部門に在籍するスタッフの混成チームで、医師2名、病棟看護師3名、内視鏡看護師2名、外来看護師1名の計8人の構成です。業務の効率化に取り組んだ糸魚川総合病院・内視鏡チームのメンバー私たちが働き方改革を支援する際には、スタート時のキックオフ会議を行い、ここで「働き方改革後にありたい姿」を話し合ってもらいます。内視鏡チームの場合もこれを行い、出てきた意見を取りまとめました。結果、「皆が笑顔で生き生きと時間を大切にして助け合うチーム」「安心・安全で患者さんに寄り添った医療が提供できるチーム」という2つの「ありたい姿」が決まり、取り組みを進めました。次に、取り組むべき具体的な課題を話し合いました。複数のスタッフから出たのは「患者さんとスタッフのために、内視鏡検査の待ち時間を減らしたい」というものでした。待ち時間の延びる一因として挙げられたのは、検査中に医師の院内PHSに頻繁に問い合わせの電話が入り、その対応で一時手が止まることがありました。チームは、これまで「仕方がない」と当然視されてきたこの点を見直そうと話し合いを続けました。結果、医師が集中できるよう、「検査中は看護師がPHSを預かる」という新たなルールを決めました。とはいえ、急に開始しては混乱するため、時間帯を決め、院内に周知しました。さらに、リアルタイムでなくてもよい場合は電話ではなく院内の掲示板を使うことにしました。院内連絡に看護師が一次対応することで、医師は集中力を切らすことなく、検査を終わらせることができ、待ち時間の短縮につながりました。看護師がPHSを預かることで医師が検査に集中できる環境をつくった〈解説〉この取り組みがうまくいったのには、いくつかのポイントがあります。1)事前にしっかりと院内に周知する2)最初は時間帯を区切って実施する3)成果が出るまでしっかりと続ける1)事前の院内周知は非常に重要です。あるチームの課題解決のために別の部門の業務が滞ると、組織全体の働き方改革の流れが止まってしまいます。「この取り組みは、医師だけ、自分のチームだけがラクになるのではなく、患者さんのため、ひいては組織全体のためになる」と十分に説明し、納得してもらう必要があります。電話は緊急性の高い連絡が多い医療機関に必須の連絡手段ですが、リアルタイムでなくてもよいコミュニケーションにも使われる機会が多く、お互いの時間を奪います。どういうときは電話にして、どういうときは掲示板など他の手段を使うのか、チームや組織内での話し合いが重要です。2)看護師のPHS対応を、終日ではなく検査中に限って実施したこともポイントです。1日中となると、滞る業務やコミュニケーションミスが発生する可能性があるため、最初は範囲を絞り、様子を見ながら対象者や時間帯を拡充するとよいでしょう。試験的に行うことで、大きな問題点に早く気付くことができます。3)施策がスタートすると、これまでと異なる行動によって戸惑うスタッフが必ず出ます。とくに職位の高いベテランスタッフが否定的な意見を出すと、他のスタッフも不安になります。こうしたときは早めに振り返りを行い、それぞれの不安や感想を口に出して検証を重ねます。他のスタッフの捉え方を知り、変化に気が付くことが重要です。今回のように効率化に取り組むのであれば、実施前後の検査時間を調べ、変化が出ているかを検証することが必要でしょう。内視鏡チームのメンバーからは、取り組みの実施後、「職種が違うメンバーと感覚の違いを感じた。タスクシフトで他職種の業務が増えることもあった。うまくWIN-WINな状態にするのが大変だと思った」という感想が寄せられました。タスクシフティングは有効な施策ですが、単にスタッフ間の仕事の付け替えでは、病院全体で考えたときの業務量は減っていません。内視鏡チームでは、次のステップとして、一定期間PHSの通話内容を調べ、分類し、通話相手が自己解決できる支援をするなど、さらなる情報連携を図ることを目指しています。

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ここで差が付く!単位・参考文献の表記統一【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第7回

ここで差が付く!単位・参考文献の表記統一1)単位の大文字/小文字、半角/全角、スペースに注意する2)参考文献の表記を統一する3)スライド作成後に全体を通して確認するこれまで、文字の大きさやフォント、色使いを統一することについて述べてきましたが、油断しているとバラバラになってしまいがちなのが、単位と参考文献の表記です。これらがバラバラになっていると読みにくいスライドになり、聴衆に発表内容に集中してもらえません。なお、学会によって使用する単位や参考文献の記載方法については指定がある場合があるので、まずは学会の規定を確認しておきましょう。単位がバラバラになっている悪いスライドの例を〈図1〉に示します。Lの大文字・小文字や半角と全角のスラッシュが入り交ざっており、また文字と単位のスペースの間もバラバラです。〈図1〉症例報告の場合には、血液検査結果などで単位の記載が多くなるため、単位が間違っていないか、大文字/小文字が統一されているかどうか、半角になっているかなどを注意深く確認します。また、一般的に数字と単位の間は半角スペースを空けるのが通例となっているため、「2.5 mg/dL」のように記載しましょう。ただし、%は半角を空けず「10%」のように記載します。ちなみに、日本とアメリカで血液検査の単位が違うものがいくつかあり、下に例を示しています。日本語では10,000ごと(4桁)で単位が変わりますが、英語では1,000ごと(3桁、thousand、million)で単位が変わるため混同しないようにしましょう。●CRP 15 mg/dL(日本)→ 150 mg/L(米国)●白血球2万4000/μL(日本)→ 24 x 103/μL(米国)●血小板38万/μL(日本)→ 380 x 103/μL(米国)参考文献は、IntroductionやDiscussionで使用することが多いと思います。各スライドに番号で記載し最後にReferenceのスライドで詳細を提示するパターンと、各スライドに短く挿入するパターンの大きく2つがありますが、学会の指定や個人・上司・医局の好みに合わせましょう。各スライドに挿入した場合の悪い例を〈図2〉に示します。〈図2〉記載方法、文字のフォントや大きさがバラバラで見づらいスライドになっています。本文と同様、フォントと文字の大きさをそろえるようにしましょう。参考文献の記載方法は、たとえば「筆頭著者名 et al. ジャーナル名,巻,号,ページ,出版年」といった形式でまとめます(例:Harada K, et al. Clin Infect Dis. 73, 2, e321-e326, 2021)。全体を通して表記方法を統一することが何より大事です。また、PubMedで文献を検索したときに「Cite」のボタンをクリックすると簡単に参考文献の情報をコピーできます〈図3〉。引用する形式も選ぶことができ、「AMA」や「MLA」などがおすすめです。〈図3〉画像を拡大するスライドを作成している最中は単位や参考文献の統一まで気を配ることが難しいかもしれません。一通りスライド作成を終えた後、スライド全体で統一されているかどうかを確認することをお勧めします。講師紹介

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モルヌピラビル、ワクチン接種済み患者の入院・死亡への効果は?/Lancet

 SARS-CoV-2の経口抗ウイルス薬モルヌピラビルは、地域で暮らす高リスクのワクチン接種済み成人集団における、COVID-19関連の入院または死亡の発生を減少しなかった。英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らが、約2万6,000例を対象とした非盲検プラットフォームアダプティブ無作為化対照試験「PANORAMIC試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2022年12月22日号掲載の報告。28日以内の原因を問わない入院または死亡を比較 PANORAMIC試験は2021年12月8日~2022年4月27日に、50歳以上、または18歳以上で関連併存疾患のある体調不良で在宅療養5日以内のCOVID-19確定患者を適格対象として行われた。被験者を無作為に2群に分け、一方にはモルヌピラビル(800mg、1日2回、5日間)+通常ケアを、もう一方の群には通常ケアのみを行った。 無作為化はウェブベースシステムを用いて行い、年齢(50歳超、50歳未満)と、SARS-CoV-2ワクチン接種の有無による層別化も行った。 COVID-19アウトカムは、無作為化後28日間、患者自身が記録したオンライン日誌で追跡された。主要アウトカムは、無作為化から28日以内の原因を問わない入院または死亡。解析は、無作為化を受けた適格全被験者を包含したベイズモデルを用いて行われた。入院・死亡率はモルヌピラビル投与群、通常ケアのみ群ともに1% 2万6,411例が無作為化を受けた(モルヌピラビル+通常ケア群1万2,821例、通常ケアのみ群1万2,962例、その他の治療628例)。主要解析には、モルヌピラビル+通常ケア群1万2,529例、通常ケアのみ群1万2,525例が包含された。 被験者の平均年齢は56.6歳(SD 12.6)、SARS-CoV-2ワクチンの3回以上接種者は94%(2万5,708例中2万4,290例)だった。 入院または死亡が記録されたのは、モルヌピラビル+通常ケア群105例(1%)、通常ケアのみ群98例(1%)だった(補正後オッズ比[OR]:1.06、95%ベイズ信用区間[CrI]:0.81~1.41、優越性の確率:0.33)。サブグループ間で治療相互作用のエビデンスはみられなかった。 重篤な有害事象は、モルヌピラビル+通常ケア群で50例(0.4%)、通常ケアのみ群で45例(0.3%)が記録されたが、モルヌピラビルに関連すると判定された有害事象はなかった。

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071)医者の不養生…【Dr.デルぽんの診察室観察日記】(ブログより転載)

第71回 医者の不養生…(『デルマな日常』より転載)おっはよ~☆ オフの爽やかなデルぽんだよ〜☆当ブログは皮膚科医デルぽんのさりげない日常を日夜漫画にしてお送りする徒然絵日記です☆以後、お見知りおきを!さて本日のデル日は。『医師だけど自分の病気はないがしろになりがち』あるある(たぶん)でーす!どうぞ〜☆デルぽんお肌は弱い方じゃないんだけど、じつは耳の後ろと両膝・肘にあやしい湿疹が長年つづいているよ☆あやしいってどう怪しいかっていうとね。見た目が乾癬(かんせん)そのものだよ…☆ウフフ。※乾癬っていうのは、ガサガサした赤い局面ができる病気だよ☆痒みもあるので、イライラしたときにかいてしまったりしてるんだけど。(※痒みはストレスで悪化しやすいよ☆)これがなかなか、治りません。時々薬は塗ってるんだけど、、、時々だから、治らない…塗り薬っていうのは、治りかけがかんじんで、あっ良くなった〜でやめるとすぐぶり返す。そしてまた塗って良くなって止めてぶり返す。と、そのうち同じランクの薬が効きにくくなる(※長年続けた場合)。という具合に怠け半分にやると全然治らない訳ですが。(デルぽん身を持って知る!)きれいになった頃合いが特に大事で、きっちり塗りきって治しきるのが治療のコツだよ☆っと人には言うくせに自分が出来てないっ!けしからん!とお怒りのアナタ、ごもっともです。だからデルぽん、患者さんの『塗り薬めんど』って気持ち、すごくわかるよ、、、そんなデルぽんから。つい塗るのを忘れがちなアナタに送るオススメな方法はというと。洗面所の超目立つ場所に置いておいて、風呂上がり可及的速やかに塗る。朝は顔洗ったらすぐに塗る。これです。めっちゃ見えるとこにこれみよがしに置いとくのがポイント。忙しかったり余裕がないとなかなか塗れないのが塗り薬のむずかしいところ。出来れば5分でも、軟膏タイムをつくってね。デルぽんも今日からがんばるから!いっしょに塗り薬がんばろっ!!っと何故かいい話風に持って行ったところで今日のデル日はこれにておしまい!でわねー☆ばいちゃー!!※この記事は、Dr.デルぽんのご厚意により『デルマな日常』から転載させていただきました。(転載元:『デルマな日常』2016年07月10日 医者の不養生…)

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リフィル処方箋を応需した薬局は約半数、さらなる普及は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第103回

リフィル処方箋は2022年4月に始まりました。まだまだ手探り段階だと思っていましたが、実は意外と(?)普及しつつあるようです。しかし、不安や疑問があるのは私だけではないと思いますので、今回は日本保険薬局協会(NPhA)が行ったアンケートから、現状の普及具合や課題を探っていきましょう。このアンケートは、リフィル処方箋の応需実績と薬局における対応の実態を調査するために、2022年11月に会員薬局を対象として行われました。そして、12月15日にその結果が公表されました(回答4,352件)。NPhAは2004年の設立で、保険薬局の団体といえばNPhA!といった印象が根付いてきたな…と長年この業界にいる身としては嬉しく思います。以前はアンケート結果を会員だけに知らせることが多かったような気がしますが、ホームページで広く公表することは業界内外にとって良いことだと思うのでぜひ続けてほしいですね。手順書の整備ができている薬局は92.4%調査結果について見ていきましょう。まず、「リフィル処方箋応需の手順書整備や従業員への周知などの体制が整っているか?」という問いについて、「はい」と答えた薬局は92.4%でした。NPhAは2022年9月に手順書作成の手引きを公表するなど、業界全体としての底上げをしてきました。結果として90%以上の薬局が手順書を整備できているというのは素晴らしいと思うと同時にホッとしています。このコラムを読んでいる薬剤師は勉強熱心な方が多いと想像しますのですでに整備済みかと思いますが、もしまだであればNPhAの手引きを参考にして作成することをお勧めします。リフィル処方箋に反対の医療機関は32%「薬局が主に応需する医療機関のリフィル処方箋のスタンス」について尋ねたところ、「積極的に活用」「活用」「患者の希望があれば検討」を合わせて70%程度で、「活用に反対」は32%でした。これは、私が思っていたよりも悪くない数字で、希望がある結果ではないでしょうか。まだ様子見の医療機関も多くありますが、薬局の整備が進み、患者さんも希望し、利便性などを評価する声が増えていくことで、反対の声は少なくなってくると思います。問い合わせは少ないが、応需実績のある薬局は42%ちょっと気になったのは、「リフィル処方箋について患者さんから問い合わせがあったか?」という問いです。結果は「ない」が68%で、あまり知られていないようです。患者さんの病態にもよるので、大々的に紹介するのは難しいかもしれませんが、この患者さんならまず問題ないと思った場合は、「こういう制度もありますよ」とアナウンスするなどの地道な活動が必要かもしれません。「2022年4月から10月までにリフィル処方箋を受けたことがありますか?」という問いについて、42%の薬局が「はい」と回答しています。意外と多くてこの結果には驚きです。枚数はまだ少ないかもしれませんが、リフィル処方箋を出す側も受ける側も、1回でも経験したことがあるかどうかは大きな差ですので、リフィル処方箋という選択肢が根付くのに良いペースである気がします。個人的な感想としては、リフィル処方箋に関しては、この1年で想像を超える実績が得られていて、新しい制度導入の成功例になり得るような気配がしています。この調査結果には、薬局における困った事例や業務負担などについても数多くの意見が寄せられていますので、ぜひ皆さんの薬局の今後の対応のためにご一読ください。

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子供の冬季スポーツ外傷のリスク因子は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第225回

子供の冬季スポーツ外傷のリスク因子は?Pixabayより使用私の子供も小学校高学年になりましたが、お子さんが大きくなって、スノボやスキーをやりたいというご家庭も多いでしょう。冬季にこういったスポーツを行う場合のリスクを調べた報告があったので、ご紹介しましょう。McLoughlin RJ, et al.The risk of snow sport injury in pediatric patients.Am J Emerg Med. 2019 Mar;37(3):439-443.2005~15年にアメリカの外傷センターで、スノースポーツ関連外傷で受診した10~17歳の子供を対象に、後ろ向きに検討を行いました。対象者を10~13歳と14~17歳の2群に分けて解析しました。合計235人の児童が対象となりました。14~17歳群は10~13歳群より女性の割合が高かった(17.5% vs.7.4%、p=0.03)以外、背景は両群バランスが取れていました。ヘルメット着用率は14~17歳群のほうが10~13歳群よりも有意に低いという結果でした(51.6% vs.76.5%、p<0.01)。お兄ちゃん・お姉ちゃんは、なかなかヘルメットを被りたがらないようです。まぁ、これはわかります。以前も書きましたが、ヘルメットを首から掛けて“なんちゃってヘルメット装着”をしている中高生は、首に顎ヒモが掛からないように注意してください。また、10~13歳群は午後4時以降に頭部損傷(調整オッズ比[aOR]:4.66、95%信頼区間[CI]:1.70~12.8)や意識消失(aOR:5.56、95%CI:1.76~17.6)に陥る傾向が強いことがわかりました。ジャンプやトリックを行う14~17歳は、そういう技をやらない同級生と比べて、あらゆる頭部損傷のリスクが2.79倍高いことが示されました(aOR:2.79、95%CI:1.18~6.57)。ヘンな技やったらダメ、絶対! ちゃんと教えてもらってから、大人のいるところでやりましょう。以上のことから、年齢を重ねるほどヘルメット着用率が下がっていき、ジャンプやトリックをやっていると頭部外傷のリスクが高くなることが示されました。ヘルメットの着用は確かに大事なのですが、ヘルメットを着用すると頭部のかわりに別の内臓損傷のリスクが高くなるので、こういったアクロバティックなスポーツをする場合、その他のサポーターの存在も重要と考えられています。北国に住んでいる医師の皆さん、子供のウィンタースポーツにはご注意を。

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第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?【統計のそこが知りたい!】

第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?今回は、前回の学習からさらに進んで正規分布(Normal distribution)の面積(確率)の求め方を解説します。■正規分布の性質正規分布の形状はデータの平均値(m)、標準偏差(σ)によって決まります。図1は平均値m=60点、標準偏差σ=10点の正規分布です。図を見ながら正規分布の性質を考えてみましょう。図1図1から読み取れることは、以下のとおりです。平均値(60点)を中心に、左右対称である。曲線は平均値で最も高くなり、左右に広がるにつれて低くなる。曲線と横軸で囲まれた面積を100%とすると、曲線の中の区間の面積は表のようになる。表(面積を「確率」と表現することがあります)横軸m-1σ(図では 50 点)とm+1σ(図では70点)に対応する曲線上の点を「変曲点」と言い、変曲点に囲まれた部分の曲線は上に凸、変曲点の外側は下に凸となる。正規分布のデータは、平均点と中央値が一致する■正規分布の面積(確率)の求め方正規分布の面積(確率)は Excel の関数を使って図2や図3のように求めることができます。図2画像を拡大する図3画像を拡大する■正規分布の活用次の事例で、Excel 関数を使って正規分布の面積(確率)を求めてみましょう。進学塾10,000人の数学の偏差値は正規分布に近いことがわかっています。250番以内に入るには偏差値を何点以上とればよいかを求めてみます。10,000人中、250 番以内となる割合をAとするとA=250÷10,000=0.025よって累積割合=1-0.025=0.975 ←図4の下側の面積p値のこと図4割合が0.975となる横軸の値をxとします。xが求める得点です。偏差値の平均値は50点、標準偏差は10点です。平均値50点、標準偏差10点の正規分布におけるxの値は次のExcel関数によって求められます。図5以上から、点数を70点以上とれば250番以内に入れることがわかります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第41回 外れ値とは?第54回 スピアマン順位相関係数とは?第55回 スピアマン順位相関係数の計算方法は?

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ARNi【心不全診療Up to Date】第4回

第4回 ARNiKey PointsARNi誕生までの長い歴史をプレイバック!ARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめ!ARNiの認知機能への影響は?はじめに第4回となる今回は、第1回で説明した“Fantastic Four”の1人に当たる、ARNiを取り上げる。第3回でSGLT2阻害薬の歴史を振り返ったが、実はこのARNiも彗星のごとく現れたのではなく、レニンの発見(1898年)から110年以上にわたる輝かしい一連の研究があってこその興味深い歴史がある。その歴史を簡単に振り返りつつ、この薬剤の作用機序、エビデンス、使用上の懸念点をまとめていきたい。ARNi開発の歴史:なぜ2つの薬剤の複合体である必要があるのか?ARNiとは、Angiotensin Receptor-Neprilysin inhibitorの略であり、アンジオテンシンII受容体とネプリライシンを阻害する新しいクラスの薬剤である。この薬剤を理解するには、心不全の病態において重要なシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド系(NPS)を理解することが重要である(図1)。アンジオテンシンII受容体は説明するまでもないと思われるが、ネプリライシン(NEP)はあまり馴染みのない先生もおられるのではないだろうか。画像を拡大するネプリライシンとは、さまざまな心保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、 CNP)をはじめ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、アンジオテンシンIおよびII、エンドセリンなどのさまざまな血管作動性ペプチドを分解するエンドペプチダーゼ(酵素)のことである。その血管作動性ペプチドにはそれぞれに多様な作用があり、ネプリライシンを阻害することによるリスクとベネフィットがある(図2)。つまり、このNEP阻害によるリスクの部分(アンジオテンシンIIの上昇など)を補うために、アンジオテンシン受容体も合わせて阻害する必要があるというわけである。画像を拡大するそこでまずはACEとNEPの両方を阻害する薬剤が開発され1)、このクラスの薬剤の中で最も大規模な臨床試験が行われた薬剤がomapatrilatである。この薬剤の心不全への効果を比較検証した第III相試験OVERTURE(Omapatrilat Versus Enalapril Randomized Trial of Utility in Reducing Events)、高血圧への効果を比較検証したOCTAVE(Omapatrilat Cardiovascular Treatment Versus Enalapril)にて、それぞれ心血管死または入院(副次評価項目)、血圧をエナラプリルと比較して有意に減少させたが、血管性浮腫の発生率が有意に多いことが報告され、市場に出回ることはなかった。これはomapatrilatが複数のブラジキニンの分解に関与する酵素(ACE、アミノペプチダーゼP、NEP)を同時に阻害し、ブラジキニン濃度が上昇することが原因と考えられた。このような背景を受けて誕生したのが、血管性浮腫のリスクが低いARB(バルサルタン)とNEP阻害薬(サクビトリル)との複合体であるARNi(サクビトリルバルサルタン)である。この薬剤の慢性心不全(HFrEF)への効果をエナラプリル(慢性心不全治療薬のGold Standard)と比較検証した第III相試験がPARADIGM-HF (Prospective Comparison of ARNi With ACE Inhibitors to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in HF)2)である(図3、表1)。この試験は、明確な有効性と主要評価項目が達成されたことに基づき、早期終了となった。つまり、ARNiは、長らく新薬の登場がなかったHFrEF治療に大きな”PARADIGM SHIFT”を起こすきっかけとなった薬剤なのである。画像を拡大する画像を拡大するARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめARNiの心不全患者を対象とした主な臨床試験は表1のとおりで、実に多くの無作為化比較試験(RCT)が実施されてきた。2010年、まずARNiの心血管系疾患に対する有効性と安全性を検証する試験(proof-of-concept trial)が1,328例の高血圧患者を対象に行われた3)。その結果、バルサルタンと比較してARNiが有意に血圧を低下させ、咳や血管浮腫増加もなく、ARNiは安全かつ良好な忍容性を示した。その後301人のHFpEF患者を対象にARNiとバルサルタンを比較するRCTであるPARAMOUNT試験が実施された(表1)4)。主要評価項目である投与開始12週後のNT-proBNP低下量は、ARNi群で有意に大きかった。36週後の左室充満圧を反映する左房容積もARNiでより低下し、NYHA機能分類もARNiでより改善された。そして満を持してHFrEF患者を対象に実施された大規模RCTが、上記で述べたPARADIGM-HF試験である2)。この試験は、8,442例の症候性HFrEF患者が参加し、エナラプリルと比較して利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したARNi群で主要評価項目である心血管死または心不全による入院だけでなく、全死亡、突然死(とくに非虚血性心筋症)も有意に減少させた(ハザード比:主要評価項目 0.80、全死亡 0.84、突然死 0.80)。本試験の結果を受け、2015年にARNiは米国および欧州で慢性心不全患者の死亡と入院リスクを低下させる薬剤として承認された。このPARADIGM-HF試験のサブ解析は50本以上論文化されており、ARNiのHFrEFへの有効性がさまざまな角度から証明されているが、1つ注意すべき点がある。それは、サブグループ解析にてNYHA機能分類 III~IV症状の患者で主要評価項目に対する有効性が認められなかった点である(交互作用に対するp値=0.03)。その後、NYHA機能分類IVの症状を有する進行性HFrEF患者を対象としたLIFE(LCZ696 in Advanced Heart Failure)試験において、統計的有意性は認められなかったものの、ARNi群では心不全イベント率が数値的に高く、進行性HF患者ではARNiが有効でない可能性をさらに高めることになった5)。この結果を受けて、米国心不全診療ガイドラインではARNiの使用がNYHA機能分類II~IIIの心不全患者にのみClass Iで推奨されている(文献6の [7.3.1. Renin-Angiotensin System Inhibition With ACEi or ARB or ARNi])。つまり、早期診断、早期治療がきわめて重要であり、too lateとなる前にARNiを心不全患者へ投与すべきということを示唆しているように思う。ではHFpEFに対するARNiの予後改善効果はどうか。そのことを検証した第III相試験が、PARAGON-HF(Prospective Comparison of ARNi With ARB Global Outcomes in HF With Preserved Ejection Fraction)である7)。本試験では、日本人を含む4,822例の症候性HFpEF患者を対象に、ARNiとバルサルタンとのHFpEFに対する有効性が比較検討された。その結果、ARNiはバルサルタンと比較して主要評価項目(心血管死または心不全による入院)を有意に減少させなかった(ハザード比:0.87、p値=0.06)。ただ、サブグループ解析において、女性とEF57%(中央値)以下の患者群については、ARNiの有効性が期待できる結果(交互作用に有意差あり)が報告され、大変話題となった。性差については、循環器領域でも大変重要なテーマとして現在もさまざまな研究が進行中である8,9)。EFについては、その後PARADIGM-HF試験と統合したプール解析によりさらに検証され、LVEFが正常値(約55%)以下の心不全症例でARNiが有用であることが報告された10)。これらの知見に基づき、FDA(米国食品医薬品局)は、ARNiのHFpEF(とくにEFが正常値以下の症例)を含めた慢性心不全患者への適応拡大を承認した(わが国でも承認済)。このPARAGON-HF試験のサブ解析も多数論文化されており、それらから自分自身の診療での経験も交えてHFpEFにおけるARNiの”Sweet Spot”をまとめてみた(図4)。とくに自分自身がHFpEF患者にARNiを処方していて一番喜ばれることの1つが息切れ改善効果である11)。最近労作時息切れの原因として、HFpEFを鑑別疾患にあげる重要性が叫ばれているが、BNP(NT-proBNP)がまだ上昇していない段階であっても、労作時には左室充満圧が上がり、息切れを発症することもあり、運動負荷検査をしないと診断が難しい症例も多く経験する。そのような症例は、だいたい高血圧を合併しており、もちろんすぐに運動負荷検査が施行できる施設が近くにある環境であればよいが、そうでなければ、ARNiは高血圧症にも使用できることもあり、今まで使用している降圧薬をARNiに変更もしくは追加するという選択肢もぜひご活用いただきたい。なお、ACE阻害薬から変更する場合は、上記で述べた血管浮腫のリスクがあることから、36時間以上間隔を空けるということには注意が必要である。それ以外にも興味深いRCTは多数あり、表1を参照されたい。画像を拡大するARNi使用上の懸念点ARNiは血管拡張作用が強く、それが心保護作用をもたらす理由の1つであるわけだが、その分血圧が下がりすぎることがあり、その点には注意が必要である。実際、PARADIGM-HF試験でも、スクリーニング時点で収縮期血圧が100未満の症例は除外されており、なおかつ試験開始後も血圧低下でARNiの減量が必要と判断された患者の割合が22%であったと報告されている12)。ただ、そのうち、36%は再度増量に成功したとのことであった。実臨床でも、少量(ARNi 50mg 2錠分2)から投与を開始し、その結果リバースリモデリングが得られ、心拍出量が増加し、血圧が上昇、そのおかげでさらにARNiが増量でき、さらにリバースリモデリングを得ることができたということも経験されるので、いったん減量しても、さらに増量できるタイミングを常に探るという姿勢はきわめて重要である。その他、腎機能障害、高カリウム血症もACE阻害薬より起こりにくいとはいえ13,14)、注意は必要であり、リスクのある症例では初回投与開始2~3週間後には腎機能や電解質、血圧等を確認した方が安全と考える。最後に、時々話題にあがるARNiの認知機能への懸念に関する最新の話題を提供して終わりたい。改めて図2を見ていただくと、アミロイドβの記載があるが、NEPは、アルツハイマー病の初期病因因子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の責任分解酵素でもある。そのため、NEPを持続的に阻害する間にそれらが脳に蓄積し、認知障害を引き起こす、あるいは悪化させることが懸念されていた。その懸念を詳細に検証したPERSPECTIVE試験15)の初期結果が、昨年のヨーロッパ心臓病学会(ESC2022)にて発表された16)。本試験は、592例のEF40%以上の心不全患者を対象に、バルサルタン単独投与と比較してARNi長期投与の認知機能への影響を検証した最初のRCTである(平均年齢72歳)。主要評価項目であるベースラインから36ヵ月後までの認知機能(global cognitive composite score)の変化は両群間に差はなく(Diff. -0.0180、95%信頼区間[CI]:-0.1230~0.0870、p=0.74)、3年間のフォローアップ期間中、各時点で両群は互いに類似していた。主要な副次評価項目は、PETおよびMRIを用いて測定した脳内アミロイドβの沈着量の18ヵ月時および36ヵ月時のベースラインからの変化で、有意差はないものの、ARNi群の方がアミロイドβの沈着が少ない傾向があった(Diff. -0.0292、95%CI:0.0593~0.0010、p=0.058)。これは単なる偶然の産物かもしれない。ただ、全体としてNEP阻害がHFpEF患者の脳内のβアミロイド蓄積による認知障害リスクを高めるという証拠はなかったというのは間違いない。よって、認知機能障害を理由に心不全患者へのARNi投与を躊躇する必要はないと言えるであろう。1)Fournie-Zaluski MC, et.al. J Med Chem. 1994;37:1070-83.2)McMurray JJ, et.al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.3)Ruilope LM, et.al. Lancet. 2010;375:1255-66.4)Solomon SD, et.al. Lancet. 2012;380:1387-95.5)Mann DL, et.al. JAMA Cardiol. 2022;7:17-25.6)Heidenreich PA, et.al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.7)Solomon SD, et.al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.8)McMurray JJ, et.al. Circulation. 2020;141:338-351.9)Beale AL, et.al. Circulation. 2018;138:198-205.10)Solomon SD, et.al. Circulation. 2020;141:352-361.11)Jering K, et.al. JACC Heart Fail. 2021;9:386-397.12)Vardeny O, et.al. Eur J Heart Fail. 2016;18:1228-1234.13)Damman K, et.al. JACC Heart Fail. 2018;6:489-498.14)Desai AS, et.al. JAMA Cardiol. 2017 Jan 1;2:79-85.15)PERSPECTIVE試験(ClinicalTrials.gov)16)McMurray JJV, et al. PERSPECTIVE - Sacubitril/valsartan and cognitive function in HFmrEF and HFpEF. Hot Line Session 1, ESC Congress 2022, Barcelona, Spain, 26–29 August.

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各抗うつ薬中断後の離脱症候群~WHO自発報告データベース

 各抗うつ薬中断に関連する離脱症候群や重度の副反応の危険因子に関する情報は、不足している。イタリア・ベローナ大学のChiara Gastaldon氏らは、抗うつ薬が他の薬剤と比較し、離脱症候群の報告増加と関連しているかを評価し、重度の副反応の危険因子について調査を行った。その結果、抗うつ薬は、他の薬剤よりも離脱症候群の報告が多かった。著者らは、各抗うつ薬により離脱症候群の傾向が異なることや重篤な離脱症候群を引き起こす可能性のある患者の特徴を理解したうえで、抗うつ薬の使用および中止を検討する必要があるとしている。Drug Safety誌2022年12月号の報告。 個別症例安全性報告を集めたWHOグローバルデータベースであるVigiBaseを用いて、症例/非症例ファーマコビジランス研究を実施した。抗うつ薬に関連する離脱症候群の報告について、不均衡分析(報告オッズ比[ROR]、ベイジアン情報コンポーネント[IC]の算出)を行った。ブプレノルフィンを対照薬とし、抗うつ薬の各クラス内(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]、三環系抗うつ薬、その他の抗うつ薬)で相互に比較した。有意な不均衡が報告された抗うつ薬は、臨床的優先度の観点よりランク付けした。重度の副反応と重度でない副反応を比較した。 主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬関連の離脱症候群の報告は、3万1,688件であった。・23種類の抗うつ薬について、不均衡な報告が検出された。・すべての他の薬剤と比較した抗うつ薬の推定RORは、以下のとおりであった。 ●抗うつ薬全体:14.26(95%信頼区間[CI]:14.08~14.45) ●SSRI:13.65(95%CI:13.41~13.90) ●三環系抗うつ薬:2.8(95%CI:2.59~3.02) ●その他の抗うつ薬:17.01(95%CI:16.73~17.29)・臨床的優先度ランキングに基づくと、パロキセチン、デュロキセチン、ベンラファキシン、desvenlafaxineで最も強い不均衡な報告が認められ、これらはブプレノルフィンと同程度であった。・離脱症候群の頻度および重症度と関連していた因子は、男性、思春期、多剤併用、抗うつ薬治療期間の長さであった(p<0.05)。

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若年発症2型DMは世界的な健康問題-30年で1.5倍超に/BMJ

 1990年以降、若年発症2型糖尿病は、世界的に増大している青少年・若年成人(15~39歳)の健康問題であり、とくに社会人口統計学的指標(SDI)低中・中の国で疾病負担は大きく、また30歳未満の女性で疾病負担が大きいことを、中国・ハルピン医科大学のJinchi Xie氏らが世界疾病負担研究2019(Global Burden of Disease Study 2019)のデータを解析し報告した。これまで若年発症2型糖尿病の世界的疾病負担や長期傾向、および性別やSDI分類別にみた違い、さらに国別の若年発症2型糖尿病寄与リスク因子の違いなどは調査されていなかった。BMJ誌2022年12月7日号掲載の報告。1990~2019年の204ヵ国15~39歳のデータを解析 研究グループは、青少年・若年成人(15~39歳)の2型糖尿病の世界的負担を推計するため、1990~2019年に204ヵ国の15~39歳が参加した世界疾病負担研究2019のデータを用いてシステマティックな解析を行った。 主要評価項目は、1990~2019年の15~39歳2型糖尿病者の年齢標準化罹患率、年齢標準化障害調整生存年(DALY)率、年齢標準化死亡率、および各リスク因子の寄与率(因子別寄与DALY÷総計DALYで算出)であった。罹患率、DALY率、死亡率とも有意に増加 1990~2019年に、青少年・若年成人の2型糖尿病の年齢標準化罹患率、年齢標準化DALY率は、有意に増加していた(p<0.001)。年齢標準化罹患率(10万人当たり)は、1990年の117.22(95%信頼区間[CI]:117.07~117.36)から2019年は183.36(183.21~183.51)に、年齢標準化DALY率は同106.34(106.20~106.48)から149.61(149.47~149.75)へとそれぞれ増加していた。年齢標準化死亡率は、同0.74(95%CI:0.72~0.75)から0.77(0.76~0.78)へとわずかだが有意に増加していた(p<0.001)。 SDIでグループ化した国別では、2019年では、SDI低中・中の国で年齢標準化罹患率、年齢標準化DALY率が最も高く、SDI低の国は年齢標準化罹患率が最も低い一方で年齢標準化死亡率が最も高かった。 性別では、30歳未満では女性が男性よりも概して死亡率とDALY率が高かった。30歳以上では、SDI低の国以外は男女差が逆転していた。 若年発症2型糖尿病DALYの主な寄与リスク因子は、すべてのSDI分類地域でBMI高値であった。その他のリスク因子の寄与率は地域によって異なっており、SDI高の国では、室外環境中の粒子状物質による大気汚染および喫煙の割合が高く、SDI低の国では、室内の固形燃料による大気汚染や果物が不足気味の食事の割合が高かった。 これらの結果を踏まえて著者は、「若年発症2型糖尿病の負担の軽減には体重管理が欠かせないが、この問題へのより効果的な対応には、各国で個別に政策を確立する必要がある」と述べている。

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ドイツで医療活動を行うために医師の資格を証明するもの【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第21回

前回の記事で書いた通り、ドイツで医療活動を行うには、まず前提としてヨーロッパ言語共通参考枠(CEFR)のドイツ語のB2に合格しておく必要があります。そして、B2合格後に、ヨーロッパ連合(EU)外の医学部を卒業した医師が、ドイツで医療活動を行うには2つの方法があります。1つはドイツで医師免許を取得すること。もう1つは期間限定の医療活動許可証を取得することです。ドイツ国内では前者の医師免許のことを“Approbation”、後者の期間限定の医療活動許可証のことを“Berufserlaubnis”と呼んでいます。医療活動許可証は、医師免許を取るまでの救済処置のような位置付けで、州によっては採用していないところもあります。大体2年間限定であることが多く、「この2年の間に医師免許を取りなさいよ」と言うことです。発行基準は割と曖昧です。基本的にはちゃんとした試験を課して、合格の後に発行されるのですが、州によっては偉い先生の一筆があれば融通がきいたりすることもあるようです。これまたすべての州で同じというわけではないのですが、ほとんどの州ではBerufserlaubnisを取得するために専門用語試験(Fachsprachpruefung)に合格する必要があります。これは模擬患者を加えたOSCE形式の面接試験です。実際に病院で本物の患者に協力してもらって身体診察まで行う州もあるそうです。日本の医学部卒でも落とされるケースもあるApprobation取得のためにはさらに“Kenntnispruefung”という知識試験に合格する必要があります。知識試験と言ってもドイツ語の口頭試問ですので、かなりドイツ語コミュニケーション力が必要とされます。担当教官の専門についての諮問となるので「この担当者は専門が〇〇だから、この内容を勉強しておけ」などと言った情報がネット上で飛び交っています。図 ドイツで医療を行うための段階と必要な免許このKenntnispruefungは非常に難関な試験となりますが、「ドイツの医学部卒業と同程度の医学教育を受けてきた」ことが証明できれば免除されます。背景には医学部のない国でお金で医師免許取った人たちがドイツに来て、ドイツで医療活動を行っていることが問題になったからだそうです。免除申請のためには出身大学で受けたカリキュラムや初期研修の内容などを書いた正式書類を英語またはドイツ語で提出する必要があります。日本の大学医学部を卒業していても落とされる可能性がありますので、書類提出には慎重を期する必要があります。いくつかポイントがありまして、「内科全般を研修している」や「精神科の実習をしっかり行っている」などをしっかりアピールした内容にする必要があります。次回は“Fachsprachpruefung”の内容についてまとめてみたいと思います。

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英語で「皮下注射」は?【1分★医療英語】第61回

第61回 英語で「皮下注射」は?Insulin is administered by subcutaneous injection.(インスリンは皮下注射します)Oh no… I'm scared of needles.(えぇ、針が怖いです…)《例文1》How to make subcutaneous injections less painful?(どうすれば、皮下注射の痛みを軽減できますか?)《例文2》What are the best subcutaneous injection sites?(どの部位に皮下注射するのがよいですか?)《解説》医療者であれば毎日のように使っている用語ですね。皮下注射は“subcutaneous”(略語:SQあるいはSub Q)、筋肉注射は“intramuscular injection”(同:IM)と言います。皮下注射の場合、手順について、パンフレット等を見せながら実演することも多いかと思います。《例文》のように、患者さんから質問が出ることがありますので、回答の準備や、“abdomen”(腹部)、“upper arms”(上腕)、“thighs”(太もも)、“buttocks”(臀部)等の身体の部位を示す単語も、一緒に覚えておくとよいでしょう。加えて、“self-monitoring of blood glucose”(血糖値自己測定)の説明をする機会も多くあります。テクニカルな方法(手技)だけでなく、“motivational interview”(患者さんに治療への理解を促し、やる気を引き出す面談)等のコミュニケーションスキルを用い、「何のためにインスリン注射や血糖値測定が必要なのか」という十分な説明が必要です。たとえば、次のようなフレーズを使ってみましょう。“I understand your fear and concerns.”(不安なのはわかります)“However, self-monitoring helps protect you by allowing them to immediately confirm acute hypoglycemia or hyperglycemia.”(ただ、自己測定によって、急な血糖の上昇や低下がすぐにわかり、対処することができるんですよ)講師紹介

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第142回 帚木蓬生氏の新作『花散る里の病棟』を読んで医師という仕事について考える

九州で四代百年続く「医家」の物語こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2023年が始まりました。年始年末は愛知の実家に帰っていたのですが、帰省する直前の年末、セ・リーグのY軍本社で働く(選手ではありません)知人と、パ・リーグのS軍本社で働く知人(同)を呼んで、その他野球好きを交えての野球飲みを行いました。いろいろ興味深い話ばかりだった中、特に話題となったのは、日本ハムからソフトバンクに移籍した近藤 健介選手の年俸(1年あたりだと村上 宗隆選手の方が安い)の妥当性と、オリックスからMLBのレッドソックスに移籍した吉田 正尚選手は活躍できるか、そしてマスコットキャラクターたちの年俸についてでした。ちなみに、一部のマスコットキャラクターは、この年末も各地のディナーショーに引っ張りだこだったようです。最後に、来年の各リーグの優勝チームを予想して飲み会を終えたのですが、Y軍、S軍両者とも自軍を優勝候補にせず、最後に「まじか」と思った次第です。さて、今回は年末に読んだある本を紹介します。それは、帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい)氏の『花散る里の病棟』(新潮社、2022年刊)です。九州で四代百年続く「医家」のそれぞれの世代の医師の医療に携わる姿を短編で描きながら、全体を通して読むと日本の医療の歴史が浮かび上がってくるという、とても凝ったつくりの短編集です。4代目がパンデミックに遭遇し至る結論とはご存知の方も多いと思いますが、帚木氏は福岡で精神科のクリニックも営む医師兼作家です。本の帯には「この小説では、時代と人の営みを凝縮しようと試みました。こうした小説は1、2年では書けず、やはり10年かかったという重みを感じます」という著者の言葉があります。本書は短編集で、小説新潮に2012〜2021年まで連載した短編10作品が収められています。登場する医師は、1代目公立病院副院長を経て野北医院を開業、蛔虫治療で評判を取り「虫医者」と呼ばれる2代目軍医としてルソン島の兵站病院で従事、戦後は町立病院や山あいの診療所に勤務3代目市立病院勤務を経て内科医院を開業、老健施設も開設し高齢者医療に注力4代目米国で糖尿病治療の最先端を学び、帰国して市立病院で肥満症外科手術を手掛ける――の4人です。それぞれの時代の医師が、その時代、その時代の医療問題に真摯に取り組む姿が描かれています。最後の短編、「パンデミック」は開業医である3代目と、勤務医の4代目が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中、それぞれの現場で奮闘する姿が描かれています。最後の場面で4代目はある”結論”に至ります。その“結論”は、現役の医師である帚木氏だからこそ書けることであり、一連の連作で読者(そして日本の医師たち)に伝えたかったことではないかと思いました。さまざまな立場・診療科の医師が登場する「風花病棟」もお薦め帚木氏の作品で本書と同類とも言える短編集に『風花病棟』(新潮社、2009年刊)があります。こちらには、さまざまな立場・診療科の医師が登場します。イソミタール・インタビュー(短時間麻酔薬で半眠状態に置き、被験者の本音を聞き出す手法)を行った精神科医と被検者、乳がんを患い抗がん剤治療を受ける女性医師、田舎の父親の診療所を継がず都会で働く眼科医、治療費を払えない婦人科患者に遭遇する後期研修中の女性医師、古希を迎えクリニックを閉院する医師など、そこに描かれている等身大の医師の姿は、とかくヒーローとして描きがちな医療ドラマに辟易している医師(や一般の人)の共感を呼ぶのではないでしょうか。限りなくノンフィクションに近く、事件の記録的な側面も強い作品ところで、帚木氏の作品で私が個人的に好きなのは、『悲素』(新潮社、2015年刊)、『沙林 偽りの王国』(新潮社、2021年刊)などの実際の事件を題材にした小説です。この2作はそれぞれ、和歌山毒物カレー事件、松本サリン事件・地下鉄サリン事件の実像について、限りなくノンフィクションに近い手法で、医学的観点から全体像をわかりやすく解き明かした小説です。どちらも主人公は化学物質中毒症研究の第一人者である九州大学医学部衛生学教室の沢井 直尚教授(架空の人物です)。「報告書」ではなく、あえて「小説」というスタイルを取っているため、沢井教授の考えや主観がダイレクトに伝わってきます。ちなみに、沢井教授のモデルとなったのは神経内科医で中毒学が専門の井上 尚英・九州大名誉教授です。井上名誉教授は、和歌山毒物カレー事件、松本サリン事件・地下鉄サリン事件などで被害者の症状分析などを行い、捜査や裁判に関わった人物です。帚木氏は、井上名誉教授への取材や論文、裁判記録などに基づいて、この2作を完成させています。小説ではありますが、事実に基づいた記述は説得力もあり、事件の記録的な側面も強い貴重な作品だと言えるでしょう。以上、冬休みも終わってしまいましたが、今後の休暇の読書の助けになるよう、帚木氏のいくつかの作品を紹介しました。

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第141回 医師免許を持った映画監督、大森一樹氏を偲ぶ。青春映画の名作『ヒポクラテスたち』を今観て思うこと

1980年度「キネ旬」日本映画第3位の名作こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いよいよ年末です。年始年末の休暇、毎年私はシリーズものの古い映画をまとめて観直すことにしています。『ゴッドファーザー』(監督:フランシス・F・コッポラ)、『インファナル・アフェア』(監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック)、『仁義なき戦い』(監督:深作 欣二)などをこれまで観てきました。今年は何を観直そうかと思案しているのですが、ディズニープラスで配信していた『マンダロリアン』(『スター・ウォーズ』シリーズの外伝です)が意外と面白かったので、『スター・ウォーズ』のエピソード4〜5(最初に発表されたシリーズ。監督:ジョージ・ルーカス他)を観直してみようかと思っています。ちなみに『マンダロリアン』は、日本の昔の時代劇ドラマ『子連れ狼』のようで、西部劇、時代劇好きにもお薦めです。ということで、今回は11月12日に急性骨髄性白血病のため死去した映画監督、大森 一樹氏について書いてみたいと思います。大森氏は1952年生まれ、京都府立医科大学を卒業し医師免許を持った映画監督でした。日本の映画監督で医師出身というのは、私が知る限り大森氏だけだと思います。その大森氏、高校時代から映画制作を開始し、京都府立医大在学中には映画自主上映グループを結成、本格的に映画を作っていました。1978年、26歳の時に『オレンジロード急行』で商業映画デビューを果たし、1980年の『ヒポクラテスたち』で評価を確立しました。1981年には村上 春樹の処女作『風の歌を聴け』を小林 薫主演で映画化しています。なお、『ヒポクラテスたち』は1980年度キネマ旬報ベストテン日本映画部門第3位に輝いています。大森氏は比較的若い世代には、『ゴジラvsビオランテ』(1989年)や『ゴジラvsキングギドラ』(1991年)の監督・脚本を担当したことでも知られますが、私は個人的には『ヒポクラテスたち』が大森氏の代表作だと思います。70年代後半の医学生を描いた青春群像劇『ヒポクラテスたち』は大森氏自身の青春時代、70年代後半の医学生を描いた群像劇です。簡単にあらすじを紹介しましょう。京都の洛北医科大学の最終年に在学している荻野 愛作(古尾谷 雅人)はポリクリと呼ばれる臨床実習の真っ最中。同じ班には既に妻子持ちの加藤 健二(柄本 明)、有名産婦人科病院の息子、河本 一郎(光田 昌弘)、秀才の大場修(狩場 勉)、野球少年の王 龍明(西塚 肇)、紅一点の木村 みどり(伊藤 蘭)がいます。彼の住まう寮には、留年を続ける牢名主のような本田 俊平(斎藤 洋介)をはじめとした一癖も二癖もある先輩後輩がくすぶっています。学生運動は既に下火ですが、森永砒素ミルク事件や医師の税優遇問題などで左翼社会運動に身を染める南田 慎太郎(内藤 剛志)が印象的です。舞鶴出身の荻野は、中原 順子(真喜志 きさ子)という大学の図書館で働く高校時代の同級生と付き合っています。産婦人科の実習真っ最中に、順子は妊娠に気づきます。研究室から妊娠検査薬を盗み出し確認後、京都市内の小さな産院で堕胎をします。しかしその後、順子の容態は急変し、結局、郷里に帰ることを余儀なくされます。手術の見学や出産の実習、妊婦への問診や患者への直診など、彼らは医師になるための階段を一歩一歩上っていきますが、愛作はまだ自分がどんな医師になるのか、何科を専門とするのかさえ明確に決められません。また、木村 みどりは現場での体験に耐えられず、医師になることをやめると宣言します。それでも国家試験を目指す愛作に、ある知らせがもたらされ、愛作は次第に精神的に追い詰められて行きます。出世作となったこの映画のこの役が彼の将来を予言かこの映画、その後、映画やテレビで活躍する多くのバイプレーヤーがたくさん出演し、映画全体を引き締めています。さらに、病院専門の盗人役に鈴木 清順氏(映画監督)、小児科の教授に手塚 治虫氏(漫画家、大阪大学医学部出身)、精神科の先生に北山 修氏(精神科医でミュージシャン、京都府立医大出身)と特別出演もバラエティーに富んでいます。ロケ地は大森氏の母校である京都府立医大や同校の橘井寮などが使われています。70年代半ば~後半頃の雰囲気が色濃く漂っており、今見ると古臭さも感じられますが、モラトリアム期の若者に特有の一瞬の狂気や挫折感は、40年以上経った今観ても、共感するところが多いと思います。伊藤 蘭は、1978年にキャンディーズが解散してからしばらく沈黙しており、本作が芸能界復帰作となり、本格的に女優の道を歩むきっかけとなりました。なお、彼女が「蘭」というタバコを吸うシーンもあります。主役の古尾谷 雅人は70年代、日活ロマンポルノなどで活躍していましたが、この作品でメジャーな存在となりました。堂本 剛が主演したテレビドラマ、『金田一少年の事件簿』(1995年)の剣持 勇警部役はハマリ役でした。この映画では、図体ばかりでかくて気持ちが優しい青年を好演していますが、出世作となったこの役が彼の将来を予言したかのように、2003年、自ら命を断っています。鴨川の川べりで青春に苦悩していた医師たちの末路は?この映画には無資格堕胎、森永砒素ミルク訴訟、24時間年中無休診療で医療界に旋風を巻き起こしていた徳洲会など、1980年前後の医療事件ネタも盛り込まれています。京都府立医大については、本連載では今年、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」などで、同大出身元理事長によるパワーハラスメント事件を取り上げました。前理事長は大森氏が大学に在籍していた時代より若干後の世代と思われますが、仮に鴨川の川べりで青春に苦悩していた医師たちの末路があの事件だとすると、少々情けなさ過ぎるオチだなとこの映画を観直して思った次第です。『ヒポクラテスたち』は、amazonプライムなどの配信サービスで観ることができます。日本の医療映画としても歴史に残る名作です。未見の方はぜひ観てみて下さい。

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070)皮膚科外来を通して感じる季節感【Dr.デルぽんの診察室観察日記】(ブログより転載)

第70回 皮膚科外来を通して感じる季節感(『デルマな日常』より転載)デルにちは〜☆ 今日も元気なデルぽんでーす!今日も皮膚科勤務医のさり気ない日常風景を漫画にしたよ!本日のデル日は…!『皮膚科外来で感じる四季の移り変わり』です☆どうぞ〜〜〜↓↓えー他科も多少あるかと思いますが、皮膚科はかなーり季節と天候の影響を受けます!!汗とか!乾燥とか!湿気とか!虫とか紫外線の影響を、たぶんに受けまくる皮膚という臓器。耳鼻科・眼科も花粉の季節は忙しいかな?泌尿器は年中変わらないのかな、、、精神科は春かな?ニュースでへんな事件ふえる季節、春…皮膚科はいつが忙しいかっていうとね、がぜん夏!!!!皮膚科の夏ッ!!!夏の環境って皮膚にはあんまり宜しくないんだよね。ムレたりなんだり。あと虫とか活発になるねん。蜂刺され虫刺され等々。プールが始まると水イボが流行り(と言うかこの時期になると幼稚園・保育園に言われて連れてくる親多し。出来たらすぐ取る、これ秘訣)水虫も湿気を味方に水を得た魚のように息を吹き返し。蚊に刺されては掻きむしりとびひになって病院へ来るという(爪は短く・清潔にね☆)。えー。夏場は汗をかいてじっとりするから保湿は要らないかっていうと実はそんなことはない。汗っていうのは乾燥肌には刺激になるのです。ほらしょっぱいでしょ。痒くなるでしょ。夏場こそシャワーの後にはさっぱり保湿してほしいなとデルぽんはおもいます。肌弱い子はね。夏は行水!そして保湿!これに限る。夏は紫外線も強いし夏休みレジャーで日焼けしすぎたとか。蕁麻疹が増えるのも夏。沖縄でシュノーケリング一時間したって言って両足けっこうな潰瘍作ってきたひといたよね…みんな沖縄レジャーはちゃんと日焼け止めしような。そいで気候が落ち着き秋になると少しホッとした時間が持て、冬場になると今度は乾燥で悪化した老人やアトピーが増えるという、そんな仕組みになっております。あとなんか年末年始は帯状疱疹が多い!!一年の疲れが出るのか?!とまあそんな具合に。外来やってると、四季の移り変わりを感じますよというお話でしたーん☆ではでは。まったねー!アデュー!※この記事は、Dr.デルぽんのご厚意により『デルマな日常』から転載させていただきました。(転載元:『デルマな日常』2016年06月30日 皮膚科外来を通して感じる季節感)

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薬剤師の店舗常駐義務が緩和、なぜかオンライン面談は求められる【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第102回

副作用リスクが高い第1類医薬品の販売では、店舗における薬剤師の常駐が義務付けられていますが、その常駐義務を2024年6月までに緩和し、オンライン面談による販売を可能とする方針が明らかになりました。政府は、副作用リスクの高い一般用医薬品の販売について、店舗における薬剤師の常駐義務を緩和する方針を固めた。テレビ電話やオンライン会議で薬剤師が面談することで販売を認める。都市部に偏在する薬剤師が遠隔で対応できれば、薬剤師不足に直面する地方などでも幅広い薬を購入できるようになる。(中略)都市部の利用者にとっても、薬剤師不在の時間帯でも購入できる利点がある。厚労省は過剰購入などを防ぐため、今後、在庫管理のあり方などを検討する。(2022年12月19日付 読売新聞オンライン)第1類医薬品は、第2類や第3類医薬品と比べてとくに副作用のリスクが高く、安全性において注意を要する医薬品であり、店舗における薬剤師の常駐・情報提供が義務付けられています。ドラッグストアのような薬剤師がいない店舗販売業の店舗では、そもそも第1類医薬品を販売することはできません。薬剤師不在時間の対応ルールはありますが、それは「第2類や第3類医薬品であれば登録販売者が販売できますよ」というものです。第1類医薬品は薬剤師の不在時には販売できず、第1類医薬品の陳列棚のシャッターを下ろしたり、販売できない旨を掲示したりするなどの対応が求められています。しかし、薬剤師の地域偏在が問題になって久しく、地方では薬剤師不足により第1類医薬品を販売するドラッグストアが少ないという問題があります。市場規模でいうと、要指導医薬品を含む市販薬のうち、第1類医薬品が占める割合は約5%程度です。量としては少なくても、地方だからといって医薬品の入手が困難という状況は改善すべきでしょう。とはいえ、都市部で働く薬剤師を移動させるということも難しいので、デジタル技術が発展した今、対面や駐在といった「アナログ規制」を見直してルールを変更する運びになりました。インターネット販売ならオンライン面談不要なのに…今回の規制緩和によって、オンライン面談で薬剤師が情報提供することで、地方や薬剤師の不在時間でも幅広い薬剤を購入できるようになることが期待されています。すでにインターネットでは適正使用の確認だけで第1類医薬品が購入可能なのに、なぜ店舗販売の場合はオンライン面談が求められるのだろうという疑問も若干感じますが、それでも購入者の利便性は向上するでしょう。オンライン面談であっても情報提供をしっかりと行えばさほど大きな問題は起きないとは思いますが、第1類医薬品は医療用医薬品から要指導医薬品にスイッチし、その後第1類医薬品にリスク区分が変更されたものなどもあります。また、副作用のリスクが高いからこそ、販売する薬局などに薬剤師の常駐を求めていたという経緯があります。個人的には規制緩和賛成派ですが、それによって一般の方に健康被害が生じることのないよう、きちんと法整備するとともに、対応・周知方法の検討を徹底していかなければならないと思います。

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乳がん領域、Practice changeにつながる重要な発表【Oncology主要トピックス2022 乳がん編】【Oncologyインタビュー】第43回

今年も乳がん領域では今後の標準治療を変え得る重要な研究結果が報告された。大きく分類すると1)HER2低発現と新規薬物療法、2)CDK4/6阻害薬のOS結果、3)CDK4/6阻害薬耐性後の治療戦略となる。その他の話題も少し加えてまとめてみたい。1)HER2低発現に対する新規薬物療法:DESTINY-Breast04試験・TROPiCS-02試験DESTINY-Breast04試験トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はHER2 抗体薬物複合体(ADC)製剤であり、DESTINY-Breast01、02、03試験の結果から、HER2陽性で転移を有する乳がんの2次治療以降の標準治療である。ASCO2022のプレナリーセッションでHER2低発現に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告された。HER2低発現は今回新たに注目された新たな分類であり、IHC2+/ISH-またはIHC1+と定義され、全乳がんの約50%程度を占めると考えられる。T-DXdはBystander effectの結果、HER2低発現の腫瘍に対しても効果を示す。DESTINY-Breast04試験は1~2ラインの化学療法を受けたHER2低発現の転移を有する乳がん患者(N=557)を対象に、T-DXd群と治験医師選択治療(TPC)群(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択)が比較された。主要評価項目は、ホルモン受容体陽性(HR)陽性患者における盲検下独立中央判定による無増悪生存期間(PFS)で、副次評価項目は全体集団におけるPFS、HR陽性患者および全体集団における全生存期間(OS)などだった。T-DXd群(N=373、HR陽性89%)、TPC群(N=184、HR陽性90%)で、脳転移は約5%であった。転移乳がんとして前治療化学療法レジメン中央値は1で、HR陽性乳がんでは内分泌療法は前治療で中央値2レジメン、CDK4/6阻害薬は約65%で使用されていた。主要評価項目であるHR陽性患者におけるPFS中央値は、T-DXd群10.1ヵ月、TPC群5.4ヵ月でT-DXd投与群で有意に延長していた。全体集団でもPFS中央値はT-DXd群、TPC群それぞれ9.9ヵ月vs. 5.1ヵ月でありT-DXd群で有意に延長していた。OSも同様にHR陽性(23.9ヵ月vs. 17.5ヵ月)、全体集団(23.4ヵ月vs. 16.8ヵ月)であり、T-DXd群で有意に延長していた。全体の約1割程度の患者であるがHR陰性集団(N=58:トリプルネガティブ乳がん)の解析も探索的解析として行われたがPFS(8.5ヵ月vs. 2.9ヵ月)、OS(18.2ヵ月vs. 8.3ヵ月)ともにT-DXd群で良好であった。奏効率に関してはHR陽性で52.6%vs. 16.3%、HR陰性で50.0%vs. 16.7%であった。またHER2発現(IHC1+vs IHC2+/ISH-)で奏効率に差はなかった。薬剤性肺障害(ILD)はT-DXd群の12.1%に認められたが、ほとんどがGrade2以下で10.0%、Grade5は0.8%(3/371)だった。これらの結果より新たな乳がんカテゴリーであるHER2低発現に対してT-DXdは標準治療となり、プレナリーセッション発表後は盛大なスタンディングオベーションが起こった。このようにADC製剤の登場により新たなサブタイプとしてHER2低発現が脚光を浴びることとなった。HER2低発現(とくにHER2 0と1+の境界について)の定義についても今後の検討課題である。TROPiCS-02試験Trop-2は腫瘍増殖に関連している分子で、乳がんではサブタイプによらず約80%に発現している。Sacituzumab Govitecan(SG)は抗Trop-2抗体にトポイソメラーゼI阻害剤をペイロードとしたTrop-2 ADCである。転移を有するトリプルネガティブ乳がんではASCENT試験の結果を受け米国ではすでに承認されている。転移を有するHR陽性乳がんを対象としてはTROPiCS-02試験が行われ、ASCO2022でPFS最終解析とESMO2022でOS第2回中間解析の結果が報告された。転移を有するHR陽性乳がん患者で内分泌療法、CDK4/6阻害薬、タキサン既治療、転移乳がんとして2~4ラインの化学療法を受けた543例を対象に、SG群(272人)とTPC群(271人:カペシタビン、ビノレルビン、ゲムシタビン、エリブリンから選択)が比較された。主要評価項目は、盲検下独立中央判定(BICR)によるPFSでSG群が5.5ヵ月、TPC群が4.0ヵ月でありSG群で有意に延長した。OS第2回中間解析の結果、中央値はSG群14.4ヵ月vs. TPC群11.2ヵ月で統計学的に有意な延長がみられた。奏効率はSG群21%、TPC群が14%であった。SG群で多くみられた有害事象は好中球減少、貧血、白血球減少、下痢、嘔気、脱毛などであった。これらの結果からSGは前治療としてCDK4/6阻害薬を含む内分泌療法、少なくとも2レジメン以上の化学療法などを濃厚に受けたHR乳がんに対して臨床的に意味のある治療選択肢となり得ると思われる。対象としては上記のDESTINY Breast 04試験と重なる部分もあるが、TROPiCS-02試験の方がやや前治療が多く入っており、またHER2 0も含み一致はしていない。今後この標的分子の異なる両ADC製剤をどのように使い分け、どの順に使っていくのか、またその耐性機序についても解明が必要となる。画像を拡大する2)CDK4/6阻害薬のOS結果:PALOMA-2試験・MONARCH 3試験PALOMA-2試験PALOMA-2は、閉経後転移を有するHR陽性乳がんに対する1次治療としてCDK4/6阻害薬であるパルボシクリブとアロマターゼ阻害薬であるレトロゾール併用群(併用群:N=444)と、プラセボとレトロゾールの群(単独群N=222)にランダム化されたフェーズ第III相試験である。これまでにパルボシクリブ併用でPFSが有意に延長することが示されている。ASCO2022でPALOMA-2試験のOS結果が報告された。OS中央値は併用群53.9ヵ月 vs単独群51.2ヵ月、HR 0.956(95% CI:0.777~1.177)p=0.3378で有意差を認めなかった。OSサブグループ解析では、PS 1/2、無病生存期間(DFI)12ヵ月超、内分泌療法既治療、骨転移のみの患者で併用群が良好な傾向を示した。本邦未承認薬ribociclibのMONALEESA-2では、併用群のOSの有意な延長が既に示されており、PALOMA-2の結果とは大きく異なった。その違いについては1)CDK4/6阻害薬としての薬効の違い、2)後治療の影響、3)対象とする集団の違いなどが考えられる。1)についてはPFSに関してどのCDK4/6阻害薬もほぼ同様の結果が示されているが、生物学的活性、阻害作用を示す分子が異なるとの報告もある。2)の後治療が影響した可能性については増悪後のCDK4/6阻害薬の使用はMONALEESA-2では併用群で21.7%、単独群で34.4%とPALOMA-2より高かった。HR陽性乳がんでは増悪後の生存期間が長く、後治療がOS結果に影響を及ぼした可能性はあるが、今回のPALOMA-2の報告では詳細は不明で今後の報告を待つ必要がある。3)に関して、2つの試験は同じ1次治療の試験であるが、大きく異なっている。PALOMA-2では術後内分泌療法中または終了後1年以下での再発症例が22%含まれていたのに対し、MONALEESA-2では全員術後内分泌療法終了後1年超経過した症例が対象であった。この術後内分泌療法中または終了後1年以下の集団は内分泌療法感受性が低い集団であり、パルボシクリブは内分泌療法抵抗性に対しては効果が弱い可能性が示唆されているため、PALOMA-2でこの内分泌療法抵抗性の集団を一部含んだことにより、効果の差が薄まった可能性がある。今回の発表では、ほぼ同様の患者を対象とした第II相試験のPALOMA-1試験とPALOMA-2試験の統合解析でDFI 12ヵ月超でのOSサブグループ結果も示されたが、併用群64.0ヵ月、単独群44.6ヵ月であり、HR:0.736、 95%CI:0.780~1.120であり、MONALEESA-2のOSハザード比0.76に近似する値であった。しかしこれは統合解析のサブグループ解析であり、あくまで参考値の評価である。MONARCH 3試験本邦では別のCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブも承認されているが、この薬剤の1次治療試験であるMONARCH 3の第2回OS中間解析結果がESMO2022で報告された。まだ中間解析であり、残念ながら統計学的有意差は示されなかったが、OS中央値は併用群で67.1ヵ月、単独郡で54.4ヵ月(HR:0.754、95%CI:0.584~0.974)であった。この結果は前述のMONALEESA-2とほぼ同様であり、来年解析予定のOS最終解析が非常に楽しみな結果であった。MONARCH 3はMONALEESA-2と同じく、術後内分泌療法終了後1年超経過した患者が対象であった。以上より、これまでPFSでは差を認めなかったCDK4/6阻害薬であるが、異なるOSの結果が得られたことは今後の処方に少なからず影響することが予想される。薬剤選択の際には効果のみならず、有害事象(骨髄抑制、下痢など)、患者の価値観などの情報を共有し、ともに薬剤選択をする(Shared decision making: SDM)が重要となる。画像を拡大する3)CDK4/6阻害薬耐性後の治療戦略:AKT阻害薬、経口SERD、CDK4/6阻害薬継続CDK4/6阻害薬増悪後の治療に関してこれまでエビデンスはなく、「乳癌診療ガイドライン2022年版」のFRQ10aでは、「一次内分泌療法として、アロマターゼ阻害薬とサイクリン依存性キナーゼ4/6阻害薬の併用療法を行った場合、閉経後ホルモン受容体陽性HER2陰性転移・再発乳がんの二次内分泌療法として何が推奨されるか?」に対して、二次内分泌療法として、・最適な治療法は確立しておらず、耐性機序を考慮した臨床試験が進行中である、との記載がある。主なものとしては1)CDK4/6阻害薬既治療例に対するPTEN/PI3K/AKT/mTOR経路、2)AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のESR1変異、3)AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のその他の機序、4)AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のCDK4/6阻害薬の継続の治療開発が行われている。3)-1)CDK4/6阻害薬既治療例に対するPTEN/PI3K/AKT/mTOR経路阻害:AKT阻害薬capivasertib(CAPItello-291試験)今年のSABCSではこのうちAKT阻害薬capivasertibの第III相試験であるCAPItello-291試験の報告があった。閉経前/後のホルモン受容体陽性進行・再発乳がん患者を対象(AI投与中/後に再発・進行、転移再発に対する治療歴として2ライン以下の内分泌療法、1ライン以下の化学療法、CDK4/6阻害薬治療歴ありも許容)として、試験治療群capivasertib+フルベストラント、対照群プラセボ+フルベストラントが比較された。主要評価項目は全体集団およびAKT経路に変異(≧1のPIK3CA、AKT1、PTEN遺伝子変異)を有する患者におけるPFSであった。約69%でCDK4/6阻害薬が前治療として使用されていた。AKT経路に変異を有する患者は44%vs. 38%だった。全体集団におけるPFS中央値は、プラセボ群3.6ヵ月に対しcapivasertib群7.2ヵ月で有意に改善した。またAKT経路に変異を有する患者でもPFS中央値は、プラセボ群3.1ヵ月に対しcapivasertib群は7.3ヵ月で有意に改善した。capivasertibで多く報告されたGrade3以上以上の有害事象は、下痢(9.3% vs. 0.3%)、斑状丘疹(6.2%vs. 0%)、発疹(5.4%vs. 0.3%)、高血糖(2.3%vs. 0.3%)だった。治療中止につながる有害事象の発生は、13.0% vs. 2.3%であり、効果と有害事象のバランスは考慮しなければならないものの、CDK4/6阻害薬治療後の新たな治療選択肢として期待できる結果であった。3)-2) AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のESR1変異:経口SERD (SERENA-2試験・EMERALD試験)これまで選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)は臀部筋肉注射のフルベストラントが標準治療として使用されているが、ESR変異に対して抗腫瘍効果を発揮することが期待される経口SERDが複数開発されている。このうちcamizestrantとelacestrantの報告があった。経口SERDであるcamizestrantの第II相SERENA-2試験の結果がSABCS2022で報告された。HR陽性の閉経後進行乳がん患者(1ライン以上の内分泌療法後の再発または進行で内分泌療法・化学療法は1ライン以下)を対象に試験群:camizestrant75mg(C75)群74例、camizestrant150mg(C150)群73例と対照群:フルベストラント(F)群73例が比較された。術後内分泌療法歴ありが66.7%、転移再発乳がんに対して化学療法ありが19.2%、内分泌療法ありが68.8%、CDK4/6阻害薬による治療歴ありは49.6%だった。ESR1変異ありが36.7%だった。主要評価項目のPFS中央値は、F群3.7ヵ月に対しC75群7.2ヵ月、C150群7.7ヵ月で、camizestrantの両用量群で有意に改善した。camizestrantのGrade3以上の有害事象は、血圧上昇、倦怠感・貧血・関節痛・ALT上昇・四肢痛・低ナトリウム血症であった。現在、SERENA-4およびSERENA-6の2つの第III相試験が進行中となっている。上記治験はいずれも日本からも参加している。もう1つ、経口SERDとしてelacestrantの第III相EMERALD試験のUpdate結果もSABCS2022で報告された。EMERALD試験は、HR陽性でCDK4/6阻害薬治療後に進行した男性および女性の閉経後乳がん患者(1~2ラインの内分泌療法歴[うち1ラインはCDK4/6阻害薬との併用]と1ライン以下の化学療法歴有)を対象としてelacestrantとフルベストラントが比較された初めての第III相試験であり、これまで主要評価項目であるPFSはelacestrant群で有意な延長が報告されていた。今回のSABCS2022では前治療におけるCDK4/6阻害薬の治療期間別の治療成績が報告された。CDK4/6阻害薬の投与期間を6ヵ月未満、6~12ヵ月、12~18ヵ月、18ヵ月以上と細かく分けてもelacestrant群でPFSは延長することが示された。elacestrantの主な有害事象は悪心、倦怠感、嘔吐、食欲不振、関節痛である。ESR1変異は転移再発治療としてCDK4/6阻害薬+AIを治療中に起こってくる耐性機序の1つであるが、新たに開発された経口SERDはその解決策として非常に有望である。長期の治療成績については今後の続報を待つ必要がある。3)-3) AIとCDK4/6阻害薬併用療法後のCDK4/6阻害薬の継続(MAINTAIN試験)今回初めて前向き試験であるMAINTAIN試験の結果が報告された。MAINTAIN試験はHR陽性転移乳がんに対してCDK4/6阻害薬と内分泌療法後に増悪した症例に対してフルベストラントまたはエキセメスタンとribociclibを併用投与する群(併用群)と、フルベストラントまたはエキセメスタンとプラセボを投与する群(プラセボ群)が比較された。初回CDK4/6阻害薬としてパルボシクリブが86%で使われておりribociclibは10%強であった。主要評価項目のPFS中央値は併用群5.29ヵ月、プラセボ群2.76ヵ月で、HR:0.57(95%CI:0.39~0.95)、p=0.006と有意に併用群のPFSが延長した。奏効率は併用群20%、プラセボ群11%、臨床的有用率は併用群43%、プラセボ群25%でどちらも併用群で良好な結果であった。ESR1変異有無別では非常に症例数の少ないサブグループ解析ではあるがESR1変異なしでは併用群が優れている傾向を示したが、ESR1変異ありでは両群間に差を認めなかった。本試験は小規模な第II相試験であり、標準治療をすぐに変えるものではないが、CDK4/6阻害薬増悪後の後治療として、併用するホルモン治療を変更することでCDK4/6阻害薬の効果を維持できる可能性が示唆された。妊娠希望のあるHR陽性乳がん患者の新たなエビデンスPOSITIVE試験若年乳がん患者にとって妊孕性温存は重要な問題であり、特にHR陽性においては長期に術後補助内分泌療法が必要なため、内分泌療法を一時中断した場合のアウトカムが待望されていた。今回、SABCSにて内分泌療法を2年間中断した場合の乳がん再発の観点から見た安全性について、前向き単群試験のPOSITIVE試験の結果が報告された。対象は術後補助内分泌療法を18~30ヵ月間受けたStage I~IIIのHR陽性乳がん患者で、妊娠を希望し内分泌療法を中断する42歳以下の閉経前女性。内分泌療法を、wash out期間(3ヵ月)を含み、妊娠企図、妊娠、出産、授乳で2年間中断し、再開後5~10年追跡された。主要評価項目は乳がん無発症期間(BCFI)、副次評価項目は妊娠および出生児のアウトカムなどであった。2014年12月~2019年12月に518例が登録され、登録時の年齢中央値は37歳、75%が出産歴がなく、94%がStage I/IIであった。内分泌療法はタモキシフェン単独が最も多く(42%)、次いでタモキシフェン+卵巣機能抑制(36%)で、62%が術前もしくは術後化学療法を受けていた。追跡期間中央値41ヵ月においてBCFIイベントが44例に発生し、3年間累積発生率は8.9%だった。これはSOFT/TEXT試験(Breast. 2020)の対照コホートで算出した9.2%と同様だった。妊娠アウトカムを評価した497例中368例(74%)が1回以上妊娠し、317例(64%)が1回以上出産し、365児が誕生した。その後の内分泌療法は、競合リスク分析によると76%が再開し、8%は再開前に再発/死亡し、15%は再開していなかった。この結果はHR陽性乳がんとしてはフォローアップがまだ短いものの、妊娠を希望する若い乳がん患者が安全に内分泌療法を中断し、出産可能であることを示した重要な結果である。

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