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2型糖尿病患者のフレイルリスクに地域差

 高齢2型糖尿病患者のフレイルリスクが、居住地域によって異なるという実態が報告された。農村部では都市部よりリスクが高く、また農村部居住患者は手段的日常生活活動(IADL)と社会的日常生活活動(SADL)の低下も認められるという。香川大学医学部看護学科慢性期成人看護学の西村亜希子氏、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の原島伸一氏らによる論文が、「BMC Geriatrics」に8月17日掲載された。 糖尿病は、ストレス耐性が低下した状態であるフレイルのリスク因子であり、両者が併存する場合、身体障害や死亡のリスクがより上昇する可能性があるため、早期介入が特に重要と考えられる。また、フレイルリスクを高める因子として居住地域も該当し、都市部よりも農村部でリスクが高いことが示唆されている。ただし、糖尿病とフレイルの併発に居住地域の影響があるのかという点は未だ検討されていない。西村氏らは、糖尿病患者のフレイル予防に関する多機関共同研究(f-PPOD研究)のデータを用いた横断的解析により、この点を検討した。 f-PPOD研究は国内の糖尿病専門外来のある医療機関8施設が参加。分布の偏りを避けるために各施設の外来患者数の10%を上限として、2017年3月~2020年2月に患者登録が行われた。適格基準は、基本的な日常生活活動(ADL)に支障がなく、重度の糖尿病合併症や併存疾患、身体障害、精神疾患のない、60~80歳の2型糖尿病患者。フレイルの判定には介護予防・日常生活支援総合事業で使用されている「基本チェックリスト」を用い、スコア8点以上をフレイル、4~7点をプレフレイルとした。 解析対象は417人で、このうち64.5%が都市部(人口100万人以上の都市とそれに隣接する通勤圏内)、35.5%が農村部(前記以外の地域)に居住していた。両群を比較すると、都市部の患者の方が、高齢(70.6±5.5対69.0±5.2歳、P=0.003)でHbA1c高値(7.33±1.00対7.04±0.91%、P=0.003)であり、罹病期間が長かった(16.6±10.9対12.0±10.3年、P<0.001)。握力は農村部の患者の方が高かった(26.8±8.0対29.6±8.2kg、P=0.001)。性別の分布には有意差がなかった(女性の割合が48.0対43.2%、P=0.356)。 フレイルの該当者率は、都市部では18.6%、農村部では23.0%、プレフレイルは同順に37.5%、47.3%であり、農村部で高かった(P=0.018)。居住地域、年齢、性別、HbA1c、糖尿病罹病期間を説明変数とするロジスティック回帰分析の結果、農村部への居住(オッズ比〔OR〕2.554〔95%信頼区間1.384~4.711〕)とHbA1c値(OR1.453〔同1.095~1.926〕)の二つが、フレイルに独立して関連のある因子として抽出された。また、プレフレイルに独立した関連のある因子は、農村部への居住(OR2.102〔同1.296~3.408〕)のみが抽出された。 次に、基本チェックリストのサブスケールのスコアと、前記の解析で独立変数とした各因子との関連を多重線形回帰分析で検討。すると、農村部に居住している糖尿病患者は、IADL(B=0.279、P<0.001)およびSADL(B=0.265、P=0.006)のスコアが有意に低いという関連が示された。なお、その他のサブスケール(運動器機能、栄養状態、口腔機能、認知機能、抑うつ)については、居住地域との有意な関連は見られなかった。 基本チェックリストの各質問の回答を比較すると、「バスや電車で1人で外出しているか」、「友人の家を訪ねているか」、「家族や友人の相談にのっているか」、「15分くらい続けて歩いているか」という4項目に有意差があり、いずれも都市部居住者の方が「はい」の割合が高かった。 以上を基に著者らは、「農村部の高齢2型糖尿病患者は、都市部の患者に比べてフレイルリスクが高く、IADLやSADLの低下が認められる」と結論。その理由として、「公共交通機関を利用しての外出が少なく歩行時間が短いこと、他者との交流が少なく孤立しやすいことなどの影響が想定される」とし、また既報研究を基に「ヘルスリテラシーの差異も関与しているのではないか」と考察を述べた上で、「フレイル予防のためには個人のリスク評価とともに、社会参加とコミュニケーションを促すような介入戦略が必要と考えられる」と総括している。

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肥厚性皮膚骨膜症〔PDP:pachydermoperiostosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥厚性皮膚骨膜症(pachydermoperiostosis:PDP)は、ばち指、長管骨を主とする骨膜性骨肥厚、皮膚肥厚性変化(頭部脳回転状皮膚を含む)を3主徴とする単一遺伝性疾患である。特発性肥大性骨関節症(primary hypertrophic osteoarthropathy:PHO)と原因遺伝子が同一の疾患である。■ 疫学2011年の厚生労働省研究班による全国調査では、全国推定患者数42例であった。その後、遺伝子診断により確定診断できた症例のみを渉猟した44例の集計ではHPGD変異は1例のみ、女性例は1例のみであった。SLCO2A1遺伝子変異例43例中、変異の種類は17種類検出された。これら変異の頻度を日本人集団のゲノムデータベースより集計したところ、0.5%(1/200)だった。したがって、日本人SLCO2A1遺伝子変異によるPDP患者は、(1/200)×(1/200)×(1/4)=1/160,000と推定された。2023年発表の全国調査でのわが国の人口は1億2,200万人であることより、推計患者数は762.5人であった。患者のほとんどが男性であり、日本人男女比1:1から推計患者数は388人であった。■ 病因2つの原因遺伝子が知られている。HPGD(プロスタグランジンE2分解酵素)遺伝子、およびSLCO2A1(プロスタグランジンE2輸送蛋白)遺伝子による常染色体潜性(劣性)遺伝形式が報告されている。両者の確定診断時の臨床症状には大きな差はないが、いくつか経過、検査値、合併症に違いがある(表1)。また、両者ともばち指のみの症例が報告されている(isolated digital clubbing)。表1 肥厚性皮膚骨膜症における原因遺伝子による比較画像を拡大する■ 症状(図)1)皮膚症状手足の太鼓ばち指(ばち指)、皮膚肥厚性変化(皮膚肥厚;主に前額に生じるが進行すると顔全体にみられ、獅子様顔貌を呈する)、頭部脳回転状皮膚(cutis verticis gyrata[CVG];ばち指や皮膚肥厚に続いて生じる症例がある。CVGのみ生じる症例はPDPと鑑別する)は診断基準になっている。その他、(広義の皮膚症状として)掌蹠多汗症、眼瞼下垂、脱毛斑に加え、皮膚症状というより結合組織の症状として下腿肥大(膝から足関節までが肥大し、正座ができなくなる)、下腿潰瘍などがある。2)骨・関節症状主に長管骨を主体とした骨膜性骨肥厚および骨関節炎を生じる。前者はPDPの診断基準の1つであり、後者はPHOの診断基準となっている3)皮膚外症状低カリウム血症、貧血、骨髄線維症、胃・十二指腸巨大皺襞、SLCO2A1遺伝子関連腸症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene:CEAS)などがある。症状(図)画像を拡大する■ 分類(後掲表2:診断のカテゴリー)(1)完全型(complete form)後述の診断基準4症状をすべて発症した症例。(2)不全型(incomplete form)診断基準のうちCVGを欠く症例を指す。(3)初期型(fruste form)骨変化が欠如または軽度で(ばち指と)皮膚肥厚のみを有する■ 予後いまだ予後を確実に改善する治療法は確立されていない。20代をピークとし30代になると活動性が低下するといった報告もあるが40代以降の経過について記載はみられない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)表2に厚生労働省科学研究班で策定した診断基準を示す。確定診断は3主徴をみたすことにより可能である。2項目の場合は除外診断と皮膚生検、遺伝子診断を組み合わせることにより正確な診断に近付けることができる。同じく表2、3に鑑別すべき疾患を示した。鑑別の手順を以下に記す。1)完全型鑑別すべき疾患がない(特異度が高い)ので4つの症状を正確に診断していけば確定できる。今のところ厚生労働省科学研究班で渉猟した完全型症例の内HPGD、SLCO2A1遺伝子変異がみつからなかった症例は経験していない。2)不全型診断基準項目1~3のみが該当する症例には、2次性肥大性骨関節症が含まれてしまうため除外診断が必要である。ただし、女性例では閉経以降に不全型で発症する例があるので、遺伝子診断が有用である。3)診断基準2項目以下(probable, possible)これらの症例には前述の初期型を含んでいるが、鑑別診断に挙げた他の疾患である可能性が高いので丁寧に確認していく必要がある。初期型の場合には、次第に不全型または完全型に移行する。ただし、完全型は必ず不全型を経るとは限らない。除外診断が完了すれば遺伝子診断が有用である。表2 厚生労働省による肥厚性皮膚骨膜症の診断基準(2015)Definite、Probableを対象とする。■ 肥厚性皮膚骨膜症の診断基準A 症状1.太鼓ばち状指(ばち指)2.長管骨を主とする骨膜性骨肥厚3.皮膚肥厚性変化4.頭部脳回転状皮膚B 鑑別診断以下の疾患を鑑別する。(1)2次性肥大性骨関節症(secondary hypertrophic osteoarthropathy):疾患リストは別掲表3を参照(2)成長ホルモン過剰症および先端肥大症(3)骨系統疾患(3)-1高アルカリフォスファターゼ血症(3)-2骨幹異形成症(Camurati-Engelmann病)C 遺伝学的検査1.HPGD、SLCO2A1遺伝子の変異D 合併症(括弧内は2011年全国調査結果より)【皮膚症状】脂漏・油性光沢(69%)、ざ瘡(65.5%)、多汗症(34,5%)、脂漏性湿疹(16.7%)【関節症状】関節痛(51.7%)[運動時関節痛(30.3%)、安静時関節痛(9.1%)]、関節腫脹(42.4%)、関節水腫(24.2%)、関節の熱感(9.1%)、骨折歴(6.3%)【その他】貧血(18.2%)、発熱(15.6%)、胃・十二指腸潰瘍(9.4%)、低カリウム血症(9.1%)、自律神経症状(9.1%)、易疲労性(6.1%)、思考力減退(3%) <診断のカテゴリー>Definite完全型Aのうち4項目すべてを満たすもの不全型A1~3がみられ、B(1)に該当する基礎疾患を除外したものProbable初期型A1、3を満たしBの鑑別すべき疾患を除外し、Cを満たすものPossibleAのうち2項目以上を満たしBの鑑別すべき疾患を除外したもの診断に際しての諸注意「不全型」「初期型」は年余にわたり進行し、「完全型」に移行することがあるため遺伝子診断が有用であるが、症状がそろうまで「完全型」とは呼ばない。D合併症は診断の参考になるが確定診断に用いてはならない。表3 二次性肥大性骨関節症の原因疾患画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)発熱や関節痛などの急性期症状については非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)が奏効する。最近では、皮膚肥厚に選択的COX-2阻害薬が奏効したとの報告が複数ある。ただし、長期服用例の報告にはいたっていない。顔面皮膚皺襞、眼瞼下垂、CVGには形成外科的なアプローチが試みられている。4 今後の展望選択的COX-2阻害薬の長期使用例や家族歴のある患者での早期介入試験などが待たれる。5 主たる診療科ばち指の鑑別診断:内分泌内科、小児科骨膜性骨肥厚:整形外科、小児放射線診断医皮膚肥厚、頭部脳回転状皮膚:皮膚科(皮膚生検のため)消化器症状:消化器内科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥厚性皮膚骨膜症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 肥厚性皮膚骨膜症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)新関寛徳. 新薬と臨牀. 2018;67:1117-1123.2)三森経世. 日本内科会誌. 1994;83:1943-1947.3)Shakya P, et al. J Dermatol Sci. 2018;90:21-26.4)Yuan L, et al. J Orthop Translat. 2018;18:109-118.公開履歴初回2024年10月17日

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ICI既治療の進行腎細胞がん、tivozanib単独vs.ニボルマブ併用(TiNivo-2)/Lancet

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療歴を有する進行腎細胞がん患者の2次または3次治療において、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1/2/3選択的な経口チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるtivozanibにニボルマブを併用しても、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の改善は示されなかった。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のToni K. Choueiri氏らが、オーストラリア、欧州、北米、南米の16ヵ国190施設で実施した無作為化非盲検第III相試験「TiNivo-2試験」の結果を報告した。ICIおよびVEGFR-TKIは進行腎細胞がんに対する1次治療の基本となっているが、進行後の最適な治療順序は不明であった。著者は、「今回の結果は、進行腎細胞がん患者では、ICIの再投与を控えるべきであることを裏付けるものであった。さらには、ICI投与後はtivozanib単独療法が有効であることを示唆するものである」とまとめている。Lancet誌2024年10月5日掲載の報告。tivozanib+ニボルマブvs.tivozanib単独で、PFSを評価 TiNivo-2試験の対象は、ICIを含む1~2ラインの治療歴があり、治療中または治療後に増悪した18歳以上、ECOG PSが0または1の進行腎細胞がん患者である。研究グループは適格患者を、1サイクルを28日として、tivozanib 0.89mgを1日1回21日間経口投与+ニボルマブ480mgを1日目に静脈内投与する群(tivozanib+ニボルマブ群)、またはtivozanib 1.34mgを1日1回21日間経口投与する群(tivozanib単独群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 層別因子は、直近の治療(ICI、非ICI)およびIMDCリスク分類(低、中、高)であった。 主要評価項目はPFSで、無作為化後、独立画像判定によるRECIST 1.1に基づく客観的な病勢進行または全死亡のいずれか早い記録までの期間と定義した。重要な副次評価項目は全生存期間(OS)、その他の副次評価項目は治験責任医師評価によるPFSなどで、有効性の評価はITT解析にて行われた。安全性は、治験薬を1回以上投与された患者を対象に評価した。追跡期間中央値12.0ヵ月時点の評価で、PFSの改善認められず 2021年11月4日~2023年6月16日に、343例が無作為に割り付けられた(tivozanib+ニボルマブ群171例、tivozanib単独群172例)。追跡期間中央値は12.0ヵ月であった。  独立画像判定によるPFS中央値は、tivozanib+ニボルマブ群5.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.0~7.4)、tivozanib単独群7.4ヵ月(5.6~9.2)、ハザード比は1.10(95%CI:0.84~1.43、p=0.49)であった。 事前に規定された直近の治療別のサブグループ解析におけるPFS中央値は、直近の治療がICIの患者集団(244例)でtivozanib+ニボルマブ群7.4ヵ月(95%CI:5.6~9.6)、tivozanib単独群9.2ヵ月(7.4~10.0)であり、非ICIの患者集団(99例)ではそれぞれ3.7ヵ月(2.7~5.4)、3.7ヵ月(1.9~7.2)であり、いずれも両群間に差は認められなかった。 OSは、データが未成熟であったが、データカットオフ時点の中央値はtivozanib+ニボルマブ群17.7ヵ月(95%CI:15.1~NR)、tivozanib単独群22.1ヵ月(15.2~NR)であった。 安全性解析対象集団(339例)において、重篤な有害事象はtivozanib+ニボルマブ群で168例中54例(32%)、tivozanib単独群で171例中64例(37%)に認められた。死亡に至った有害事象はそれぞれ7例および5例が報告され、うちtivozanib単独群の1例は治療に関連すると判断された。

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がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編

がん栄養治療に関する、エビデンスに基づいた初の指針を刊行がん患者の多くは、侵襲的な治療による栄養障害や、がんそのものの炎症や異化亢進などによる栄養障害を経験する。栄養障害は合併症の増加やQOL低下などさまざまな影響を及ぼすが、がん種やステージなどによって必要となる栄養治療は多様であり標準化に課題がある。本診療ガイドラインではMindsの方式に準拠し、4件の臨床疑問(CQ)についてエビデンスに基づく推奨を提示した。また、「背景知識」の章ではがん患者に対する栄養治療の基礎知識から最新の知見までを解説し、患者・家族向けのQ&Aもコラムとして収載している。本診療ガイドラインは、それぞれのがん種ではなく、さまざまながん種を広く対象とし、栄養治療に関する推奨、知識、情報を提供する。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編定価2,970円(税込)判型B5判頁数184頁発行2024年9月編集日本栄養治療学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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抗凝固薬の服用理由の仮説を立てて中止提案、そのまま続いていたら…【うまくいく!処方提案プラクティス】第62回

 今回は、直接経口抗凝固薬(DOAC)の服薬理由を検討し、医師との連携によって中止した事例を紹介します。心房細動や脳梗塞の2次予防で服薬しているケースでは、出血リスクなどで一時的に中止できることはあるかと思います。皆さんは新患対応時に、服用薬の理由をどのように確認していますか? 現病歴や既往歴など情報収集を丁寧に行うことで、エンドポイントや目標ラインに合わせて治療を最適化することが可能です。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患認知症(病型は不明)、右大腿骨近位部骨折介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは右大腿骨頸部骨折の手術後にリハビリ調整なども完了して施設入居となりました。持参薬確認と契約のタイミングが合ったため、訪問時に施設スタッフに情報連携をとりました。施設スタッフからは、施設内は歩行器補助を利用しながら移動していて、さらに夜間にベッドから滑り落ちることが続いていると聴取しました。転倒・転落のリスクがあることから抗凝固薬の出血リスクが懸念されます。入居時の情報連携文書としては、診療情報提供書と看護サマリがありましたが、エドキサバンの服用理由がなく、基礎疾患にある右大腿骨遠位部の骨折後の疼痛コントロールのためにアセトアミノフェンの服用を続けていることだけが記録されていました。服用理由の不明な抗凝固薬が“もやもやポイント”であったことから、仮説として近位部骨折手術時に深部静脈血栓症を予防するためにDOACを服用開始したのではないかと想定しました。大腿骨近位部骨折は、深部静脈血栓症の高リスク群に位置付けられている1)ことから、DOACによる抗凝固療法の予防内服が推奨されています。投与期間は、手術後12時間を経過し、出血がないことを確認して11〜14日間の経口投与が推奨1)されており、15日間以上投与した場合の有効性および安全性は検討されていません。この患者さんは施設入居1ヵ月前に手術をしており、15日を超えて服用している状況であることから、仮説どおりの深部静脈血栓症の予防投与であれば有効性・安全性の観点からも中止してよいのではないかと考えました。医師への相談と経過訪問診療時に医師に同席し、エドキサバン服用理由について前医からの情報提供などがあったかどうか確認しました。前医からのDOAC服用理由についての詳細な情報提供がなく、心房細動の既往もないので疑問に思っていたと医師から返答がありました。そこで医師と協力し、入院していた医療機関に問い合わせを行ったところ、薬剤部担当者から深部静脈血栓症予防が終了せずにそのまま服用を続けていたことが発覚しました。前医からは、術後の血管エコーなどの結果からもDOAC終了で問題ないとの返答があり、エドキサバンは終了することとなりました。患者さんは疼痛も安定していたこともあり(可動時の膝関節周りの疼痛なし:NRS0/10)、医師と相談してアセトアミノフェン200mg 4錠 分2 朝夕食後のみに減量することとなりました。1週間後のモニタリングで疼痛悪化はなく、体動時の疼痛もなかったことから、1週間後の診察で再度医師に相談してアセトアミノフェンは頓用に変更しました。その後、疼痛増悪や頓用の使用もなく経過安定しています。1)日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)

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医師の飲酒状況、ALT30超は何割?年齢が上がるほど量も頻度も増える?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省は2024年2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」1)を発表し、国民に向けて、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を推進している。こうした状況を踏まえ、日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについて、CareNet.com会員医師1,025人を対象に『医師の飲酒状況に関するアンケート』で聞いた。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。本ガイドラインの認知度や、自身の飲酒量や頻度、飲酒に関する医師ならではのエピソードが寄せられた。「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度 Q1では、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度について4段階で聞いた。全体では、認知度が高い順に「内容を詳細に知っている」が7%、「概要は知っている」が27%、「発表されたことは知っているが内容は知らない」が23%、「発表されたことを知らない」が43%であり、約60%が本ガイドラインについて認知していた。各年代別でもおおむね同様の傾向だった。診療科別でみると、認知度が高かったのは、外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、消化器科、精神科、循環器内科/心臓血管外科、内科、腎臓内科の順だった。ALT値が30U/L超の医師は16% Q2では、医師自身の直近の健康診断で、肝機能を示すALT値について、基準値の30U/L以下か、30U/L超かを聞いた。日本肝臓学会の「奈良宣言」により、ALT値が30U/Lを超えていたら、かかりつけ医を受診する指標とされている2)。「ALT値30U/L超」は167人で、全体の16%を占めていた。年代別の結果として、30U/L超の人の割合が多い順に、50代で22%、60代以上で21%、40代で17%、30代で14%、20代で7%となり、年齢が上がるにつれて30U/L超の人の割合が多くなる傾向にあった。年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加 Q3では、1回の飲酒量について、単位数(1単位:純アルコール20g相当)を聞いた。お酒の1単位の目安は、ビール(5度)500mL、日本酒(15度)180mL、焼酎(25度)110mL、ウイスキー(43度)60mL、ワイン(14度)180mL、缶チューハイ(5度)500mL3)。 年代別では、「飲まない」と答えたのが、多い順に50代で32%、40代で30%、30代で26%、60代で22%、20代で15%だった。各年代で最も多く占めたのは、20代、30代、60代では「1単位未満」で、それぞれ36%、36%、32%であった。40代と50代では「1~2単位」が多くを占め、それぞれ32%と26%だった。 ALT値が30U/L超の人の場合では、「飲まない」と答えたのが、多い順に30代で33%、50代で23%、40代で22%、60代で9%、20代で0%だった。また、1回に「5単位以上」飲む人の割合は、30 U/L以下と30 U/L超を合わせた全体では5%だったが、30U/L超の人のみの場合では2倍以上の12%となり、顕著な差がみられた。30U/L超の人では、年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加する傾向がみられた。年齢が上がるにつれて、飲酒頻度が増加 Q4では、現在の飲酒頻度を7段階(毎日、週に5・6回、週に3・4回、週に1・2回、月に1~3回、年に数回、飲まない)で聞いた。全体で最も割合が多かったのは「飲まない」で22%であり、次いで「月に1~3回」で16%であった。ALT値が30U/L超の人の場合では、最も割合が多かったのは「週に3・4回」で19%、次いで「飲まない」と「毎日」が同率で16%だった。 全体の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「月に1~3回」で37%、次いで「週に1・2回」が20%、30代では「飲まない」が21%、「年に数回」が19%、40代では「飲まない」が25%、「週に5・6回」と「週に3・4回」が同率で15%、50代では「飲まない」が29%、「週に1・2回」が15%、60代以上では「毎日」が24%、「飲まない」が21%であった。とくに60代以上の頻度の高さが顕著だった。 ALT値30U/L超の人の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「週に1・2回」と「月に1~3回」で同率の36%、30代では「週に3・4回」と「飲まない」が同率の23%、40代では「週に3・4回」が25%、50代では「毎日」と「飲まない」が同率で23%、60代では「毎日」が28%、次いで「週に1・2回」が21%であった。20代と60代以上では「飲まなない」の割合の低さがみられ、30代と50代では「飲まない」が23%となり節制する人の割合が比較的多く、50代と60代以上で「毎日」の人の割合が20~30%となり、飲酒頻度が上がっている状況がみられた。 ALT値30U/L超の人においてQ3とQ4の結果を総合的にみると、20代は飲まない人の割合が低いものの、飲酒量と飲酒頻度は比較的高くない。また、30代は量と頻度を共に節制している人の割合が高い。60代以上と50代で、量と頻度が共に高い傾向がみられた。30~40代は飲酒の制限に積極的 Q5では、現状の飲酒を制限しようと思うかを聞いた。全体では、「制限したい」は21%に対し、「制限しない」は49%で2倍以上の差が付いた。ALT値30U/L超の人では、「制限したい」は28%に対し、「制限しない」は53%であった。ALT値30U/L超の人で「制限したい」が高かったのは、40代で42%、次いで20代で36%だった。また、30代はすでに飲酒していない人が37%で、年代別で最も多かった。 Q6では、Q5で「飲酒を制限したい」と答えた217人のうち、どのような方法で飲酒を制限するかを4つの選択肢から当てはまるものすべてを選んでもらった。人気が高い順に、「飲酒の量を減らす」が56%、「飲酒の頻度を減らす」が55%、「ノンアルコール飲料に代える」が36%、「低アルコール飲料に代える」が27%となり、量と頻度を減らすことを重視する人が多かった。自身が経験した飲酒のトラブルなど Q7では、自由回答として、飲酒に関するご意見や、自身が経験した飲酒のトラブルなどを聞いた。多くみられるトラブルとして、「記憶をなくした」が最多で15件寄せられ、「二日酔いで翌日に支障が出た」「屋外で寝た」「転倒してけがした」「嘔吐した」「暴れた」「救急搬送された」「アルコール依存症の治療をした」などが年齢にかかわらず複数みられた。自身の飲酒習慣について、「なかなかやめられない」「飲み過ぎてしまう」といった意見も複数あった。そのほか、医師ならではの飲酒に関するエピソードや社会的な側面からの意見も寄せられた。【医師ならではのエピソード】・研修医の時に指導医と潰れた(30代、その他)・医師でアルコール依存になる人が多いため、飲まなくなりました(30代、皮膚科)・アルコール依存症の患者さんをみているととても飲む気にはなれない(30代、麻酔科)・正月の救急外来は地獄(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・科の飲み会の際に病院で緊急事態が発生すると、下戸の人間がいると非常に重宝されます(40代、循環器内科)・飲酒をすると呼び出しに対応できない(60代、内科)・雨の中、帰宅途中、転倒し意識がなくなり、自分の病院に搬送され大騒ぎでした(60代、脳神経外科)・勤務医時代は飲まないと仲間が働いてくれなかったが、開業して、健康に悪いものはもちろんやめた(70代以上、内科)【社会的な側面や他人への影響】・喫煙があれだけ批判されるなら飲酒も同じぐらい批判されるべきと考える(20代、臨床研修医)・日本では以前は飲酒を強要されることがあったが、米国留学中は飲酒を強要されることはなく、とても快適な時間だった(40代、病理診断科)・日本人は酔っぱらうことが多く、見苦しいし、隙もできる。グローバルスタンダードではありえない(50代、泌尿器科)・テレビCMでアルコール飲料が放映されていることに違和感がある(60代、神経内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の飲酒状況/医師1,000人アンケート

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ESMO2024レポート 乳がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日まで5日間にわたり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)がハイブリッド形式で開催された。COVID-19の流行以降、多くの国際学会がハイブリッド形式を維持しており、日本にいながら最新情報を得られるようになったのは非常に喜ばしい。その一方で、参加費は年々上がる一方で、今回はバーチャル参加のみの会員価格で1,160ユーロ(なんと日本円では18万円超え)。日本から参加された多くの先生方がいらっしゃったが、渡航費含めると相当の金額がかかったと思われる…。それはさておき、今年のESMOは「ガイドラインが書き換わる発表です」と前置きされる発表など、臨床に大きなインパクトを与えるものが多かった。日本からもオーラル、そしてAnnals of Oncology(ESMO/JSMOの機関誌)に同時掲載の演題があるなど、非常に充実していた。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。KEYNOTE-522試験本試験は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を対象とした術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を見た二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。カルボプラチン+パクリタキセル4コースのち、ACまたはEC 4コースが行われ、ペムブロリズマブもしくはプラセボが併用された。病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存(EFS)でペムブロリズマブ群が有意に優れ、すでに標準治療となっている。今回は全生存(OS)の結果が発表された。アップデートされたEFSは、両群ともに中央値には到達せず、ハザード比(HR):0.75、95%信頼区間(CI):0.51~0.83、5年目のEFSがペムブロリズマブ群で81.2%、プラセボ群で72.2%であり、これまでの結果と変わりなかった。OSも中央値には到達せず、HR:0.66(95%CI:0.50~0.87、p=0.00150)、5年OSが86.6% vs.81.7%と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった(有意水準α=0.00503)。また、pCRの有無によるOSもこれまでに発表されたEFSと同様であり、non-pCRであってもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。この結果から、StageII以上のTNBCに対してはペムブロリズマブを併用した術前化学療法を行うことが強固たるものとなった。 DESTINY-Breast12試験本試験は脳転移を有する/有さないHER2陽性転移乳がん患者に対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の有効性を確認した第IIIb/IV相試験である。脳転移を有するアームと脳転移を有さないアームが独立して収集され、主に脳転移を有する症例におけるT-DXdの有効性の結果が発表された。脳転移アームには263例の患者が登録され、うち157例が安定した脳転移、106例が活動性の脳転移を有した。活動性の脳転移のうち治療歴のない患者が39例、治療歴があり増悪した患者が67例であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、その他の評価項目として脳転移のPFS(CNS PFS)などが含まれた。脳転移を有する症例のPFS中央値は17.3ヵ月(95%CI:13.7~22.1)、12ヵ月PFSは61.6%と非常に良好な成績であり、これまでの臨床試験と遜色なかった。活動性の脳転移を有するサブグループでも同等の成績であったが、治療歴のないグループでは12ヵ月PFSが47.0%とやや劣る可能性が示唆された。12ヵ月時点のCNS PFSは58.9%(95%CI:51.9~65.3)とこちらも良好な結果であった。安定した脳転移/活動性の脳転移の間で差は見られなかった。測定可能病変を有する症例における奏効率は64.1%(95%CI:57.5~70.8)、測定可能な脳転移を有する症例における奏効率は71.7%(95%CI:64.2~79.3)であった。OSは脳転移のある症例とない症例で差を認めなかった。この結果からT-DXdの脳転移に対する有効性は確立したものと言ってよいであろう。これまで(とくに活動性の)脳転移に対する治療は手術/放射線の局所治療が基本であったが、今後はT-DXdによる全身薬物療法が積極的な選択肢になりうる。 CAPItello-290試験カピバセルチブは、すでにPI3K-AKT経路の遺伝子変化を有するホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)転移乳がんに対して、フルベストラントとの併用において有効性が示され、実臨床下で使用されている。本試験は転移TNBCを対象として、1次治療としてパクリタキセルにカピバセルチブを併用することの有効性を検証した二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。818例の患者が登録され、主要評価項目は全体集団におけるOSならびにPIK3CA/AKT1/PTEN変異のある集団におけるOSであった。結果はそれぞれ17.7ヵ月(カピバセルチブ群)vs. 18.0ヵ月(プラセボ群)(HR:0.92、95%CI:0.78~1.08、p=0.3239)、20.4ヵ月vs. 20.4ヵ月(HR:1.05、95%CI:0.77~1.43、p=0.7602)であった。PFSはそれぞれ5.6ヵ月vs. 5.1ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.61~0.84)、7.5ヵ月vs. 5.6ヵ月(HR:0.70、95%CI:0.52~0.95)と、カピバセルチブ群で良好な傾向を認めた。奏効率もカピバセルチブ群で10%程度良好であった。しかしながら、主要評価項目を達成できなかったことで、IPATunity130試験(ipatasertibのTNBC1次治療における上乗せ効果を見た試験で、PFSを達成できなかった)と同様の結果となり、TNBCにおけるAKT阻害薬の開発は困難であることが再確認された。ICARUS-BREAST01試験本試験は抗HER3抗体であるpatritumabにderuxtecanを結合した抗体医薬複合体(ADC)であるpatritumab deruxtecan(HER3-ADC)の有効性をHR+/HER2-転移乳がんを対象に検討した第II相試験である。本試験はCDK4/6阻害薬、1ラインの化学療法歴があり、T-DXdによる治療歴のないHR+/HER2-転移乳がんを対象として行われた単アームの試験であり、主治医判定の奏効率が主要評価項目とされた。99例の患者が登録され、HER2ステータスは約40%で0であった。HER3の発現が測定され、約50%の症例で75%以上の染色が認められた。主要評価項目の奏効率は53.5%(95%CI:43.2~63.6)であり、内訳はCR:2%(0.2~7.1)、PR:51.5%(41.3~61.7)、SD:37.4%(27.8~47.7)、PD:7.1%(2.9~14.0)であった。SDを含めた臨床的有用率は62.6%(52.3~72.1)と、高い有効性を認めた。有害事象は倦怠感、悪心、下痢、好中球減少が10%以上でG3となり、それなりの毒性を認めた。探索的な項目でHER3の発現との相関が検討されたが、HER3の発現とHER3-DXdの有効性の間に相関は認められなかった。肺がん、乳がんでの開発が進められており、目の離せない薬剤の1つである。ERICA試験(WJOG14320B)最後に昭和大学先端がん治療研究所の酒井 瞳先生が発表した、T-DXdの悪心に対するオランザピンの有効性を証明した二重盲検化プラセボ対象第II相試験であるERICA試験を紹介する。T-DXdは悪心、嘔吐のコントロールに難渋することのある薬剤である(個人差が非常に大きいとは思うが…)。本試験では、5-HT3拮抗薬、デキサメタゾンをday1に投与し、オランザピン5mgまたはプラセボをday1から6まで投与するデザインとして、166例の患者が登録された。主要評価項目は遅発期(投与後24時間から120時間まで)におけるCR率(悪心・嘔吐ならびに制吐薬のレスキュー使用がない)とされた。両群で80%の症例が5-HT3拮抗薬としてパロノセトロンが使用され、残りはグラニセトロンが使用された。遅発期CR率はオランザピン70.0%、プラセボ56.1%で、その差は13.9%(95%CI:6.9~20.7、p=0.047)と、統計学的有意にオランザピン群で良好であった。有害事象として眠気、高血糖がオランザピン群で多かったが、G3以上は認めずコントロール可能と考えられる。制吐薬としてのオランザピンの使用はT-DXdの制吐療法における標準治療になったと言えるだろう。

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いよいよ多変量解析 その1【「実践的」臨床研究入門】第48回

対数変換を行い、新たな変数を作成する前回まで、仮想データ・セットを用い、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順も交えて、変数の型とデータ・セット記述方法の使い分け(連載第46回参照)、表1(患者背景表)の作成方法(連載第47回参照)について解説しました。今回からは、いよいよ多変量解析の実践的な手法について、EZR(Eazy R)の操作手順を含めて解説していきたいと思います。これまでに、われわれのResearch Question(RQ)の交絡因子として下記の要因を挙げることにしました(連載第45回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値これらの要因のうち、蛋白尿定量(UP)は連続変数データですが、その分布は右に裾を引いたような歪んだ分布であることを、ヒストグラム(度数分布図)を描いて示しました(連載第46回参照)。このような分布が歪んだデータは、対数変換を行って正規分布に近似させることができます。多変量解析において、対数変換は重要な前準備の1つです。変数を必要に応じて対数変換することにより、外れ値の影響を減らし多変量解析モデルが安定化する、などの意義があります。ここでは、EZRを用いて1.対数変換を実行2.新たな変数を作成3.対数変換後のデータ分布を比較する方法について説明します。はじめに、オリジナルの仮想データ・セットを以下の手順でEZRに取り込みます。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に「アクティブデータセット」→「変数の操作」→「連続変数を対数変換する」を選択そうすると下記のポップアップウィンドウが開きます。「変数(1つ以上選択)」では「UP」を選択します。「対数変換の底」は「自然対数(底はe)」を選んでください(詳細は省略しますが、生物統計学の領域では常用対数より自然対数を用いることが多いようです)。「新しい変数名または複数の変数に対する接頭文字列」には、たとえば「Loge_UP」と入力してみましょう。そして、「OK」ボタンをクリックすると、下図の出力ウィンドウで、新しい変数として「Loge_UP」が作成されたことが示されます。Rコマンダーの画面(下図)からデータセットの「表示」をクリックし、「Loge_UP」が追加されたことも確認してみてください。それでは、歪んだ分布であったUPを対数変換したLoge_UPのヒストグラムをEZRの以下の手順で比較してみましょう(連載第46回参照)。「グラフと表」→「ヒストグラム」を選択下記のポップアップウィンドウが開きますので、「変数(1つ選択)」はそれぞれ「UP」と「Loge_UP」を、「群別する変数(0~1つ選択)」は「treat」を指定してください。その他はデフォルト設定のままで「OK」をクリックしてみましょう。画像を拡大する下のようなUP、Loge_UPのヒストグラム(比較群分けごと)が描けたでしょうか。右に裾を引いたような歪んだUPの分布が、対数変換(Loge_UP)することにより正規分布に近似したものとなりました。画像を拡大する

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金融詐欺に遭うのはアルツハイマー病の初期兆候?

 金融詐欺に引っかかりやすくなっている高齢者では、アルツハイマー病発症の高リスクと関連付けられている脳領域に変化が生じている可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。論文の上席著者である、米南カリフォルニア大学心理学および家庭医学教授のDuke Han氏は、「高齢者の金銭的搾取に対する脆弱性を評価することは、軽度認知障害やアルツハイマー病などの認知症の初期段階にある人の特定に役立つ可能性がある」と述べている。この研究の詳細は、「Cerebral Cortex」9月号に掲載された。 米国のアルツハイマー病の患者数は700万人近くに上り、アルツハイマー病は65歳以上の成人における死因としては5番目に多い。米アルツハイマー病協会によると、2024年だけでアルツハイマー病にかかる医療費は3600億ドル(1ドル140円換算で50兆4000億円)に達すると推定されている。 Han氏らは今回、高性能MRIを用いて、認知障害の明らかな兆候は認められない52〜83歳の試験参加者97人の脳を調査し、初期のアルツハイマー病と金銭的搾取に対する脆弱性の関連を検討した。MRIでは、脳の「嗅内皮質」に焦点が当てられた。嗅内皮質は、学習や記憶を司る海馬と、感情や動機付けなどの認知機能を調整する内側前頭前皮質の間の中継点として機能する脳領域であるが、アルツハイマー病において最初に変化が現れる部分でもあり、通常、病気の進行とともに菲薄化していくことが知られている。さらに、「Perceived Financial Exploitation Vulnerability Scale(PFVS)」と呼ばれる標準化されたツールを用いて、参加者の金銭的な認識力や金銭に関わる不適切な判断に対する脆弱性(財務的搾取脆弱性〔financial exploitation vulnerability;FEV〕)を評価した。 Han氏らが、FEVと嗅内皮質の厚さを比較した結果、金融詐欺に遭いやすい人ほど、嗅内皮質の薄いことが明らかになった。この結果は、特に70歳以上の人で顕著だった。 過去の研究では、FEVは軽度認知障害、認知症およびアルツハイマー病と関連する脳内の分子レベルの変化と関連付けられている。Han氏は、「過去の研究結果を踏まえて実施された本研究結果は、FEVが、高齢者の認知機能の変化を見つけ出すための新たな臨床ツールになり得るという考えを支持する重要なエビデンスとなるものだ」との見方を示している。さらに同氏は、「金銭的搾取に対する脆弱性だけが、アルツハイマー病やその他の認知機能低下の決定的な指標となるわけではない。しかし、FEVの評価は、さまざまなリスクプロファイルの一部となり得る」と付け加えている。 その一方でHan氏は、本研究は嗅内皮質の厚さとFEVとの関連を示したが、因果関係を証明するものではない点も強調している。同氏は、より多様な人を対象に、より長期的に追跡する研究を実施して、FEVが認知機能の評価において信用できるツールとなり得るかを検討する必要があるとしている。

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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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GNEミオパチー〔GNE myopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義GNEミオパチーは、常染色体潜性遺伝形式をとる進行性の筋疾患である。主に遠位筋から障害されるため、遠位型ミオパチーに分類される。筋病理所見では、縁取り空胞(図1)が特徴的に認められる。図1 GNEミオパチー患者でみられる縁取り空胞を伴う筋線維(mGT染色)画像を拡大する1981年にわが国で「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV)」として最初に報告された。同じ頃、欧米では「遺伝性封入体ミオパチー(hereditary inclusion body myopathy:hIBM)」として報告された。2001年にはGNE遺伝子の変異が原因であることを特定され、「GNEミオパチー」という名称に統一された。■ 疫学わが国には約400人の患者がいると推定されるまれな疾患である。本症は世界的にも珍しいが、日本人、中東のペルシャ系ユダヤ人、インド人、中国人、北アイルランド人、ブルガリアのロマ人など、特定の民族や地域で高頻度の遺伝子変異(創始者バリアント)がみつかっており、これらの集団で患者が多くみられる。■ 病因GNE遺伝子の変異(アロステリック部位以外)が原因であり、9割以上がミスセンス変異である。GNE遺伝子は、シアル酸生合成経路の律速酵素であるウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)2-エピメラーゼ/N-アセチルマンノサミンキナーゼ(GNE/MNK)をコードしている。GNE遺伝子変異によりこれらの酵素活性が低下し、シアル酸の産生が減少する。これにより、組織中の糖タンパク質や糖脂質の低シアル化を引き起こされ、筋力が低下すると考えられる(図2)。図2 GNE遺伝子変異によるシアル酸生合成の低下画像を拡大する■ 症状平均発症年齢は28歳で、多くの患者は20~30歳代で発症する。ただし、一部若年発症例や高齢発症例も存在し、国内の患者登録データによれば、発症年齢は12~62歳にわたる。初期症状としては、歩き方の変化やつまずき易さ、スリッパが履けないなどの症状が多くみられる。中殿筋や内転筋の筋力低下による腰椎前彎や股関節外転、前脛骨筋の筋力低下による下垂足が特徴的な歩容として現れる。病気の進行に伴い、下腿全体、手指、頸部前屈の筋力が低下し、その後上肢全体や体幹の筋力も低下する。大腿四頭筋の筋力は長期間よく保たれ、歩行不能となってからも膝を伸なす力が保たれることが特徴的である。疾患の進行速度は患者によってさまざまであるが、全体としては、発症年齢が若いほど進行が速い傾向がある。たとえば、10歳代で発症した患者の歩行喪失までの平均期間は9年、20歳代では15年、30歳代では27年と報告されている。わが国の患者の9割は、p.D207Vとp.V603Lという2つの創始者変異のいずれかまたは両方を有している。p.D207V保有例は比較的軽症であり、p.V603L保有例はやや重症の臨床経過をたどる傾向がある。たとえば、p.V603Lのホモ接合体では平均10年で歩行能力を失うのに対し、p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体では発症から20年経過しても90%以上が歩行可能であると推定されている。p.D207Vホモ接合例はこれまで数例しかみつかっておらず、大半が無症状のまま生涯を終えるのではないかと推定されている。また、歩行喪失してから呼吸機能が低下する例がみられるため、呼吸機能の定期的な評価が重要である。とくにp.V603Lホモ接合体の患者では呼吸機能障害のリスクが高く、一方でp.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体ではほとんどみられない。近年の研究では、GNEミオパチー患者において血小板減少症や睡眠時無呼吸症候群の合併が一般集団より高頻度で報告されている。血小板減少症の機序として、血小板膜はシアル酸に富んでいるが、患者の血小板は脱シアリル化した糖鎖を発現しており、肝臓で除去されるためと考えられている。睡眠時無呼吸症候群については、その病態メカニズムはまだ解明されていない。妊娠・出産に関しては、GNEミオパチー患者でもおおむね良好な経過をたどることが報告されている。しかし、切迫流産のリスクがやや高く、約2割の患者が出産後に筋力低下の進行を自覚している。また、出産後1年以内に発症した例も報告されており、出産が病気の進行に影響を与える可能性も示唆されている。ただし、育児による身体的負担の増加が症状の自覚を促した可能性もあり、さらなる研究が必要である。■ 予後呼吸機能障害も比較的軽症で、重症例でも夜間の非侵襲的人工呼吸のみで維持できる例がほとんどであり、その他、明らかな心機能障害や嚥下障害の合併はみられず、生命予後は良好と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GNE遺伝子にホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異があり、臨床的特徴が一致する場合、もしくは筋生検所見で縁取り空胞を伴う筋線維を認めた場合、診断が確定する。遺伝子診断がついていない例に関しては、通常の遺伝学的診断では検出できない変異を有する可能性があることから、臨床的特徴および筋生検所見の両方が本症と一致した場合はGNEミオパチー疑い例とする。■ 各種検査所見(1)血液検査クレアチンキナーゼ(CK)上昇が症状の自覚がない時点から観察され、2,500IU/L以下の軽度高値を示すことが多い。筋肉の萎縮に伴い低下し、歩行喪失後はむしろ低値となる。(2)針筋電図筋原性変化を示す。ただし、随意収縮では一見神経原性を思わせる高振幅の運動単位がみられることがある。(3)骨格筋画像中殿筋・大腿屈筋群の脂肪置換が著明な一方、大腿四頭筋が保たれる。体幹では肩甲下筋が早期から脂肪置換される。(4)筋生検縁取り空胞を伴う大小不同の萎縮筋線維が特徴的である(図1)。筋線維内のβアミロイド沈着、ユビキチン陽性封入体、p62陽性凝集体、リン酸化タウなどの所見も認めるが、通常強い炎症反応は伴わない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ シアル酸補充療法(シアル酸徐放錠承認、ManNAc/シアリル乳糖海外治験実施中)モデルマウスへの実験で、シアル酸の経口投与が発症前から行われると発症が予防され、発症後からの投与でも筋症状が改善することが明らかになった。この結果を受け、シアル酸補充療法の臨床試験が各国で実施された。まず、シアル酸は速やかに尿中に排泄されるため、その効果を持続させるために徐放錠が開発された。シアル酸徐放錠の第III相国際共同治験では有意な差が得られず、海外では開発が中止されたが、同様の臨床試験デザインで実施された国内第II/III相試験では上肢筋力の維持が確認された。その結果、2024年3月、アセノイラミン酸(商品名:アセノベル徐放錠500mg)がわが国で承認され、GNEミオパチーに対する世界初の承認薬となった。また、海外ではシアル酸代謝産物のManNAcやシアリル乳糖の臨床試験が行われており、筋力低下や筋の脂肪置換に対する一定の効果が認められ、今後の臨床応用が期待されている。■ 抗酸化剤(モデルマウスで効果実証)モデルマウスへの実験で、低シアリル化により活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の産生が増加すること、シアリル化が改善することでROSやプロテインS-ニトロシル化が減少すること、さらには抗酸化剤であるN-アセチルシステインをモデルマウスに経口投与することで筋萎縮が改善することが報告され、酸化ストレスの軽減が治療ターゲットとなりうることが明らかになった。■ 遺伝子治療(研究中)本症は、1種類の遺伝子の変異により発症する単一遺伝子疾患であり、遺伝子治療による治癒が期待されている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター8型を用いたモデルマウスへの治療では、シアル酸の増加が確認されており、その有効性が期待されている。しかし、本症の患者の約半数がAAV中和抗体を持っているとの報告があり、その場合、AAVベクターの治療効果が得られない可能性が懸念されている。さらに、本症の標的臓器が全身の骨格筋という広範囲にわたるため、遺伝子治療においては染色体への遺伝子挿入のリスクや増殖性ウイルスの出現の可能性を最大限に減らす工夫が必要である。このため、低用量で骨格筋特異的なベクターの開発が試みられている。4 今後の展望GNEミオパチーの治療において、重要な進展があった。先述のシアル酸徐放錠であるアセノイラミン酸が世界初の治療薬として承認され、これにより早期診断・治療介入の重要性が高まっている。しかし、この治療薬の効果は十分とは言えず、より効果的な治療法の開発が進められている。具体的には、より効果的なシアル酸補充療法の研究に加え、抗酸化薬や遺伝子治療などのシアル酸補充療法以外のアプローチも試みられている。これらの新しい治療法の開発により、GNEミオパチー患者のためのさらなる治療法選択肢が増えることが期待されている。また、GNEミオパチーの患者レポジトリを用いた実態調査研究により、本症の理解が深まってきた。今後は、長期的な経過の解明や合併症の病態メカニズムの解明が期待されている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 遠位型ミオパチー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会 GNEミオパチー 診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)国内レジストリ 神経筋疾患患者登録Remudy(GNEミオパチー)(医療従事者向けのまとまった情報。国内患者登録サイトおよび最新情報のニュースレター)患者会情報遠位型ミオパチー患者会(患者とその家族及び支援者の会)遠位型ミオパチーガイドブック(2018年8月刊行)(患者会が作成したガイドブック)1)難治性疾患等政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班編集. GNEミオパチー診療の手引き.2)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024;271:4453-4461.3)Yoshioka W, et al. Curr Opin Neurol. 2022;35:629-636.4)Suzuki N, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2024:jnnp-2024-333853.5)Yoshioka W, et al. Sci Rep. 2022;12:21806.公開履歴初回2024年10月10日

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後発品使用(調剤)加算の特例措置、7回目の延長へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第139回

まだまだ後発医薬品の流通が適正化されません。2024年9月24日付事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が出され、いわゆる後発医薬品使用(調剤)体制加算などにおける臨時的な取り扱いが半年間延長されました。後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて(抜粋)一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品について、後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に除外しても差し支えないものとする。2025年3月31日を終期とする。除外対象となる医薬品は102成分825品目。この通知は半年ごとに出されており、もう7回目になります。もうそんなになるのか…と遠い目をしている人も少なくないでしょう。後発医薬品製造会社である小林化工(現在は業を廃止)のGMP違反が発覚したのが2020年末で、後発医薬品の欠品や出荷調整などの供給不安が薬局運営に影を落とし始めたのが2021年春ごろでした。そのような状況を受け、2021年9月21日に最初の通知が出され、一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品は、後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に除外してもよいとされました。新たな通知を出すことでこの臨時的な取り扱いを半年間延ばし続けています。もう3年以上もこの通知が出続けているということは、後発医薬品の在庫が足りず、薬局において在庫を確保する負担がゆうに3年以上かかり続けているということです。そろそろいい加減にしてくれよと言いたくなります。一番大変だったときと比べると少しは改善している気もしますが、来年の3月末までに解消している気はしないので、また半年延長になるんでしょ…という半ばあきらめの予測をせざるを得ません。一方で、10月から選定療養が始まりました。後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)を希望した場合、その後発医薬品の差額の4分の1相当を患者さんが自己負担する仕組みです。長期収載品を希望する理由は人それぞれですが、患者さんの中には「なんとなく安全そうだから」というざっくりとしたイメージから希望している人も少なくなく、「では、差額を頂戴します」と言われると「じゃあ後発医薬品で」となることは安易に想像できます。結果として後発医薬品の使用割合がさらに上がり、後発医薬品の在庫調達問題はより厳しくなることは間違いないでしょう。また半年後にしれっと延長の通知が出るのか、何か根本的に改善されるような一手が打たれるのか。後者を期待しながら、日々の在庫調達に励むしかないのかな…と思うところです。

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肺がん診療のリアル

肺がん診療の現在(リアル)がわかる! 肺がん診療が面白くなる!!呼吸器専門医・がん治療認定医である経験豊富な著者が実際に肺がん患者さんに対して行っている診療を1冊の書籍にまとめました。本書は著者が発信している肺がん患者さん向けのYouTube『呼吸器ドクターNの肺がんチャンネル』とも連動しており、QRコードで関連動画に簡単にアクセスできます。本書とあわせて動画をご視聴いただくと、肺がん診療についてさらに理解を深めていただくことができるはずです。本書を通じて肺がん診療のリアルを感じてください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する肺がん診療のリアル定価4,950円(税込)判型A5判頁数250頁発行2024年10月著者野口 哲男(市立長浜病院呼吸器内科/呼吸器ドクターN)ご購入はこちらご購入はこちら

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ESMO2024レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのバルセロナで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)が、現地時間9月13~17日にハイブリッド開催で行われた。注目の演題が多数報告されていたが、今回は消化器がん(消化管がん)の注目演題について、実臨床に影響してきそうなものを含め、いくつか取り上げていきたい。胃がんと食道胃接合部がん、術前化学放射線療法は有用性を示せず(TOPGEAR試験)LBA58 - A randomized phase III trial of perioperative chemotherapy (periop CT) with or without preoperative chemoradiotherapy (preop CRT) for resectable gastric cancer (AGITG TOPGEAR): Final results from an intergroup trial of AGITG, TROG, EORTC and CCTG.TOPGEAR試験は、切除可能胃がんもしくは食道胃接合部がんに対して、周術期化学療法群(3サイクルのECF療法もしくは4サイクルのFLOT療法を術前・術後に行う)と術前化学療法群(2サイクルのECF療法もしくは3サイクルのFLOT療法を行った後、5-FU静注+45Gy/25照射の術前化学放射線療法を施行し、術後化学療法は術前と同じものを行う)を比較した第III相試験である。術前化学放射線療法の優越性を検証する試験であり、主要評価項目は全生存期間(OS)で、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、病理学的完全奏効率(pCR rate)、毒性と手術合併症およびQOLであった。2009年9月~2021年5月に15ヵ国70施設から574例が登録され、周術期化学療法群に288例、術前化学放射線療法群に286例が登録された。患者背景はT3/4が88%、リンパ節転移ありもしくは不明が61~62%およびECF使用例が67%、FLOT使用例が33%であった。pCR率は16.8% vs.8.0%と術前化学放射線療法群で有意に高かったが(p<0.0001)、R0切除率は92.4% vs.87.7%で有意差を認めなかった(p=0.09)。術後化学療法を受けられた症例は全ランダム化群で比較すると、56% vs.66%と術前化学放射線療法群で有意に低かった(p=0.01)。術前化学放射線療法群と周術期化学療法群で比較すると、OSは46.4ヵ月vs.49.4ヵ月(ハザード比[HR]:1.05、p=0.70)で術前化学放射線療法の優越性は示せず、5年OS率も44.4% vs.45.7%であった。PFSも31.4ヵ月vs.31.8ヵ月(HR:0.98、p=0.86)で優越性は示せなかった。サブグループ解析においても、とくに術前化学放射線療法の有効なグループははっきりしなかった。以上の結果より、切除可能な胃がんもしくは食道胃接合部がんに対して術前化学放射線療法の有効性は証明できなかった。今後は、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の周術期試験の結果が待たれるところである。HER2陽性胃がんに対する化学療法+トラスツズマブ+ペムブロリズマブ、OSを延長(KEYNOTE-811試験)1400O - Final overall survival for the phase III, KEYNOTE-811 study of pembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ advanced, unresectable or metastatic G/GEJ adenocarcinoma.KEYNOTE-811試験はHER2陽性胃がんに対する1次治療として化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するプラセボ使用ランダム化第III相試験で、奏効率などのデータはすでに報告されていた。今回はOSの最終解析結果が報告された。698例がランダム化され、350例がペムブロリズマブ群に、348例がプラセボ群に登録された。OSはペムブロリズマブ群vs.プラセボ群で20.0ヵ月vs.16.8ヵ月と、有意に延長した(HR:0.80、p=0.0040)。PFSも10.0ヵ月vs.8.1ヵ月(HR:0.73)、奏効率も72.6% vs.60.1%と、ペムブロリズマブ群で良好であった。サブグループ解析では、PD-L1発現がCPS1以上の場合にはOSが20.1 vs.15.7ヵ月(HR:0.79)、PFSが10.9 vs.7.3ヵ月(HR:0.72)かつ奏効率が73.2% vs.58.4%とより良好な結果であったのに対し、CPS1未満ではOSが18.2ヵ月vs.20.4ヵ月(HR:1.10)かつPFSが9.5ヵ月vs.9.5ヵ月(HR:0.99)と、ペムブロリズマブの効果が弱まる傾向があった。CPS1未満は本試験では15%に認められており、現在欧米ではHER2陽性かつPD-L1がCPS1以上の症例に対してペムブロリズマブの使用が推奨されているが、本邦でどのような条件で保険承認されるのかが注目される。肛門管がんに新たな治療選択肢の可能性が現れる(POD1UM-303試験)LBA2 - POD1UM-303/InterAACT 2: Phase III study of retifanlimab with carboplatin-paclitaxel (c-p) in patients (Pts) with inoperable locally recurrent or metastatic squamous cell carcinoma of the anal canal (SCAC) not previously treated with systemic chemotherapy (Chemo).肛門管の扁平上皮がんに対しては、局所進行例でマイトマイシン+5-FU+放射線療法が行われることが多かったが、切除不能局所再発例や転移を有する症例に対する標準治療は長らく確立されていなかった。今回、カルボプラチン+パクリタキセルを標準治療とし、抗PD-1抗体薬であるretifanlimabの上乗せ効果を検証する二重盲検プラセボランダム化第III相試験が行われ、その結果が報告された。主要評価項目はPFS、副次評価項目がOSであった。2024年4月までに308例が登録され、retifanlimab群に154例とプラセボ群に154例が登録された。年齢中央値は62歳で女性が72%、HIV感染陽性が4%、36%が肝転移を有していた。主要評価項目であるPFSは9.30ヵ月vs.7.39ヵ月とretifanlimab群で有意に延長を認めた(HR:0.63、p=0.0006)。OSは29.2ヵ月vs.23.0ヵ月、奏効率は55.8% vs.44.2%であった。本試験はPFSの観察期間中央値が約7ヵ月かつOSの観察期間中央値が約14ヵ月程度とまだ短い試験であるが、希少がんである肛門管がんの全身化学療法の標準治療はエビデンスに乏しいのが現状であった。本試験のディスカッサントも触れていたが、カルボプラチン+パクリタキセル+プラセボ群の治療成績は、従来の5-FU+シスプラチンと比較して良好であった。患者や医療者にとって、カルボプラチン+パクリタキセルおよびカルボプラチン+パクリタキセル+retifanlimabは有望な治療になりうると考えられ、本邦でも使用可能になることが待たれる状況である。局所進行直腸がんに対する臓器温存治療の可能性(NO-CUT試験)509O - Total neoadjuvant treatment (TNT) with non-operative management (NOM) for proficient mismatch repair locally advanced rectal cancer (pMMR LARC): First results of NO-CUT trial.現在、局所進行直腸がんに対する化学療法と放射線療法を用いたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)は、非常に重要な戦略として世界中で研究が進んでいる。TNTを行った後に臨床的完全奏効(cCR)となった症例では、切除を避けて手術なしの経過観察であるNon Operative Monitoring(NOM)に持ち込める可能性も示唆されている。今回、pMMR局所進行直腸がんに対してTNTを行いcCRとなった症例に対して無遠隔再発生存期間(DRFS)を損なわないかを検証し、かつ腫瘍および血液のマルチオミクス解析を行う単群第II相試験であるNO-CUT試験の初回報告が行われた。4つのがんセンターからcT3-4N0/cTxN1-2の下部/中部pMMR局所進行直腸がん症例を対象に、4サイクルのCAPOX療法に続いて5週間にわたる化学放射線療法(カペシタビン+IMRT)を行うTNTが実施された。主要評価項目は30ヵ月の無遠隔再発生存率で、副次評価項目はpCR率、NOM群における臓器温存率であった。TNT終了後、cCRパラメータに基づくプロトコルアルゴリズム(Siena S, et al. ASCO 2023.)に従って、患者は手術群またはNOM群に割り付けられた。2018~24年に、180例がTNTを受け、164例(91%)がプロトコルどおりに治療を完了し、46例(25.5%)がpCRを達成し、NOMに割り当てられた。治療効果がincomplete response(IR)であった群(134例)では手術が行われた。30ヵ月無遠隔再発生存率はNOM群で96.9%と主要評価項目を達成した。IR群も含めた全体集団での30ヵ月無遠隔再発生存率は77%であった。NOM群の臓器温存率は85%で、局所再発は46例中7例発生し、全症例で救済手術が行われた。局所再発はすべて治療後4~18ヵ月で発生した。2024年4月1日時点で、12例の死亡(6.6%)が報告された(有害事象1例、腫瘍関連9例、その他2例)。マルチオミクス相関解析が進行中で、TNT後のctDNAはcCR例では8%で陽性であったがそれ以外では31%で陽性であり、陽性例では有意に遠隔転移再発が多く認められた。またTNTでpCRに至らなかった症例の手術後のctDNA陽性例で有意に遠隔転移再発が多いことも報告された。治療前の検体解析ではRNAシーケンスに基づく白血球スコアはcCRと関連し、Paneth細胞様表現型(CRIS-E)は遠隔転移再発と関連した。本結果より、TNTによるcCRを得られた症例では臓器温存の可能性が示唆された。本試験はまだ初回報告であること、本邦でも局所進行直腸がんに対する複数のTNTの試験が進行していることから、これらの結果が明らかになり、本邦で適切に患者に届けられる時代が来ることが待ち望まれる。MSI-H(dMMR)結腸がんの術前イピリムマブ+ニボルマブ(NICHE-2試験)LBA24 - Neoadjuvant immunotherapy in locally advanced MMR-deficient colon cancer: 3-year disease-free survival from NICHE-2.MSI-High(dMMR)の直腸がんについては、術前治療が非常に奏効することが複数報告されている。結腸がんについては転移のあるdMMR結腸がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬の有用性が報告されており、本邦でも現在切除不能dMMR結腸がんの1次治療の標準治療はペムブロリズマブであり、今後イピリムマブ+ニボルマブの登場が待たれている状況である。NICHE-2試験は局所進行dMMR結腸がんに対する術前治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ療法の有効性を探索する単群第II相試験であり、1コース目にイピリムマブ+ニボルマブを行い、2コース目にニボルマブ単剤療法を行った後、手術を行う試験デザインである。主要評価項目は安全性と3年無病生存(DFS)率、副次評価項目はpCR率、translational research・ctDNAの変動であった。すでに高い病理学的奏効率と安全性が報告されていたが、今回3年DFS率とctDNAのデータが報告された。115例が登録され、女性が58%、T4が65%でT4bが29%、リンパ節転移ありが67%かつ33%がLynch症候群といった対象であった。既報のとおりpCR率は68%であり、3年DFS率は100%であった。ctDNAは治療前の段階では92%で陽性であったが、1コース後に45%が陰性となり、2コース後には83%が陰性となった。術前の段階でctDNA陽性であった16例のうち、術後のリンパ節転移が陽性であったのは14例中8例であった。また、術後のctDNAを用いたminimal residual diseaseの探索では、全例がctDNA陰性であった。本試験より局所進行dMMR結腸がんにおいて、イピリムマブ+ニボルマブは非常に魅力的な結果であった。本試験は2コースで術前治療が終わり、手術まで6週と定義されており、短期間で有効性が示されていることも魅力である。ESMO2024では同様の局所進行dMMR結腸がんに対してペムブロリズマブの有効性を探索したIMHOTEP試験や、ニボルマブ+relatlimab(抗LAG-3抗体)の併用療法の有効性を探索したNICHE-3試験も報告があった。局所進行MSI-H結腸がんの術前治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性はおそらく確実であるが、どの対象にどの薬剤をどの期間使用するのがよいのかは、今後の研究が待たれる状況である。

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北海道大学 血液内科学教室【大学医局紹介~がん診療編】

豊嶋 崇徳 氏(教授)白鳥 聡一 氏(助教)杉村 駿介 氏(後期研修医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちの使命は、1人ひとりの患者さんの診療を大切にし、地域の医療を守りながら、同時に世界的な医療の発展に貢献するような高いレベルの臨床研究、基礎研究を推進していくことです。そのために、患者さんの味方として、心・人生を支える確固たる姿勢を持ち、同時に疾患を科学的に徹底して分析する姿勢を持ち、尊敬され感動を与える医師を育てたいと考えています。臨床研究にあたっては、北大の40床では世界に太刀打ちできません。そこでスケールメリットを生み出すために北日本血液研究会を設立し、500床以上の大規模な臨床研究を実施し、世界に対しエビデンスを創出しています。血液疾患ではほかの多くの疾患と異なり、診断・治療の大部分が血液内科医1人の双肩にかかってきます。責任重大ですが、患者さんとの強い信頼感、連帯感が生まれ、医師としての達成感、生きがいを強く感じることができます。 さらに最も高いレベルでの全身管理、トータルケア能力が要求され、臓器別診療の垣根を越えた総合内科医としての実力も身に付きます。 また分子標的療法、移植療法など、基礎研究の成果の臨床応用を目の当たりできるのも血液内科ならではです。明るく、自由度が高く、外に開かれ、1人ひとりのスタッフの夢を実現できるような“新生”血液内科を目指しています。若き情熱にあふれた皆様の教室への参加を心よりお待ちしています。力を入れている治療/研究テーマ当科では、基礎、臨床共に精力的に研究を行っています。臨床研究の分野では、「同種造血幹細胞移植」を主なテーマとして取り組んでおり、代表的な研究として、移植後の重篤な合併症である「移植片対宿主病(GVHD)」の新たな予防法を開発してきました。「移植後シクロホスファミド法」は、GVHDのリスクが高いHLA半合致移植(親子間移植等)における有効性が、当科を中心とした全国試験で証明され、国内のガイドラインで推奨されるに至り、現在では保険診療下で使用可能となりました。また「低用量抗ヒト胸腺細胞グロブリン法」も、当科を中心とした全国試験で高いGVHD予防効果が証明され、こちらもガイドラインへの掲載に至りました。さらに、同じく重篤な移植後合併症である「肝類洞閉塞症候群」に対し、当院の超音波センターとの共同研究で、超音波検査を用いて早期に診断する「HokUS-10スコアリングシステム」を開発しました。こちらのシステムも、国内のガイドライン、さらには最新の国際診断基準に掲載される等、国内外から高い評価を得ています。医局の魅力、医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種造血幹細胞移植やキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や治験等、最先端の血液内科診療に触れる環境が整っており、研究への高いモチベーションにつながっています。当科はフロンティア精神に溢れた教室で、これからも活気ある教室を目指して臨床、教育、研究を精力的に進めていきますので、興味のある方はいつでもご連絡をお待ちしています。カンファレンス風景入局した理由私が北海道大学病院血液内科に入局した理由は、学生時代に受講した臨床講義で血液内科に強い興味を持ち、全身管理を必要とする内科的診療に魅力を感じたからです。さらに、道内各都市に関連施設があるため、地域との強いネットワークが構築されており、地域医療に貢献する意義を実感できることも大きな動機となりました。現在学んでいること大学病院における最先端の医療技術や、地域医療でのリアルワールドな診療を通じて、血液内科疾患について幅広く学んでいます。これらの経験は、理論と実践を結びつける貴重な機会となり、医療の多様な側面を理解する助けとなっています。また、上級医からの指導を受けることで、最新の治療法や研究動向について常に学び、日々成長を実感しています。今後のキャリアプラン来年度からは院生として研究活動にも取り組む予定です。臨床と研究の両面から血液内科を学ぶことで深みのある医師を目指しています。将来的には、専門医としての知識を深め、教育や地域医療への貢献も視野に入れたキャリアを築いていきたいと考えています。北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室住所〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目問い合わせ先s.shiratori@med.hokudai.ac.jp医局ホームページ北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本検査血液学会日本血栓止血学会日本臨床検査医学会日本エイズ学会研修プログラムの特徴(1)同種造血幹細胞移植、CAR-T療法等、最先端の血液内科医療に携わることができます。(2)チームによる診療体制を組んでおり、常に上級医からの指導・サポートを受けることができます。(3)北海道全域に関連病院を有しており、幅広い血液内科診療を経験できます。

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やりがい?ワークライフバランス?若手医師が専攻領域を選んだ理由・変更した理由

 医師の総数は増加をしている中、外科などの一部診療科の増加が乏しいことに対して、どのような対策が考えられるか。9月20日に開催された厚生労働省の「第6回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」では、これらの課題を考えるうえでの参考資料として、厚生労働科学特別研究「日本専門医機構における医師専門研修シーリングによる医師偏在対策の効果検証」から、「現在の基本領域を選択した理由」や「希望していた基本領域を選択しなかった理由」について聞いた専攻医へのアンケート結果が示された。本稿では、その内容の一部を紹介する。 同研究では、2020~23年度に19基本領域の専門研修プログラムに登録した専攻医3万6,427人を対象に、2024年2月27日~2024年3月22日にWEB形式によるアンケート調査を実施した。有効回答数は1万5,857件で、有効回答率は46.3%であった。基本領域を選んだ理由は“やりがい”が最も多いが、領域による違いも 現在の専門研修プログラムの基本領域を選択した理由としては、全体でみると「やりがいを感じるから」(62.6%)が最も多く、次いで「将来にわたって専門性を維持しやすいから」(36.6%)となったが、選択した基本領域によって、その選択理由は異なっていた。「やりがいを感じるから」が理由として最も多かった領域が多数を占めたが、小児科(86.0%)、産婦人科(81.5%)、外科(77.7%)、脳神経外科(75.8%)ではこの割合がとくに高かった。 皮膚科(52.7%)、放射線科(61.9%)、麻酔科(59.7%)、病理(53.4%)、臨床検査(51.0%)、リハビリテーション科(62.8%)では「ワークライフバランスの確保ができるから」が最も多く、総合診療科では「総合的な診療能力を獲得しやすいと思ったから」(63.9%)、耳鼻咽喉科は「手技が多いから」(53.5%)、眼科は「将来にわたって専門性を維持しやすいから」(52.8%)が最も多かった。希望していた基本領域を選択しなかった理由は 希望していた基本領域を選択しなかった理由としては、全体でみると「将来的に専門性を維持しづらいから」が17.2%で最も多く、次いで「仕事の内容が想像と違ったから」(14.9%)、「ワークライフバランスの確保が難しいから」(14.8%)であった(n=1,118)。各領域ごとの回答上位3つは以下の通り。内科:ワークライフバランスの確保が難しいから(27.0%)、仕事の内容が想像と違ったから(16.9%)、専門医が取得しづらいから(16.9%)小児科:ワークライフバランスの確保が難しいから(24.2%)、その他(22.6%)、医師が不足していて過酷なイメージがあるから(16.1%)皮膚科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(34.5%)、専門医が取得しづらいから(16.1%)、医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(12.6%)精神科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(25.9%)、医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(24.1%)、仕事の内容が想像と違ったから/その他(17.2%)外科:ワークライフバランスの確保が難しいから(33.9%)、将来的に専門性を維持しづらいから(24.8%)、医師が不足していて過酷なイメージがあるから(21.1%)整形外科:仕事の内容が想像と違ったから(28.2%)、適性・才能がないから/医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(15.4%)産婦人科:訴訟リスクが大きいから/その他(22.0%)、医師が不足していて過酷なイメージがあるから(17.1%)眼科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(33.3%)、医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(17.5%)、その他(12.7%)泌尿器科:その他(17.2%)、適性・才能がないから/継続したキャリアプランが見えづらいから(13.8%)脳神経外科:ワークライフバランスの確保が難しいから(41.4%)、将来的に専門性を維持しづらいから/医師が不足していて過酷なイメージがあるから(27.6%)放射線科:専門領域の将来性に不安を感じたから/その他(23.1%)、仕事の内容が想像と違ったから/開業しにくいから(15.4%)麻酔科:その他(18.3%)、将来的に専門性を維持しづらいから/開業しにくいから(15.0%)救急科:将来的に専門性を維持しづらいから(27.7%)、仕事の内容が想像と違ったから(22.9%)、継続したキャリアプランが見えづらいから(18.1%)形成外科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(25.3%)、その他(17.7%)、ワークライフバランスの確保が難しいから(12.7%)リハビリテーション科:将来的に専門性を維持しづらいから(30.0%)、やりがいを感じないから/継続したキャリアプランが見えづらいから(26.7%)総合診療:将来的に専門性を維持しづらいから(39.8%)、継続したキャリアプランが見えづらいから(20.5%)、仕事の内容が想像と違ったから(17.0%)※回答数が20人以下の耳鼻咽喉科、病理、臨床検査の結果は割愛

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症候性心房細動への肺静脈隔離術vs.シャム/JAMA

 症候性心房細動に対する肺静脈隔離術(PVI)はシャム(偽手技)との比較において、6ヵ月時の心房細動負荷が統計学的に有意に減少し、症状と生活の質は大幅に改善した。英国・Eastbourne District General HospitalのRajdip Dulai氏らが、無作為化二重盲検比較試験「SHAM-PVI試験」の結果を報告した。心房細動の治療において、PVIには大きなプラセボ効果があるかもしれないとの懸念があるが、これまで無作為化二重盲検比較試験は実施されていなかった。JAMA誌オンライン版2024年9月2日号掲載の報告。埋込み型ループレコーダーで心房細動負荷を評価 研究グループは、2020年1月~2024年3月に英国の3次医療機関2施設で、クラスIまたはIIIの抗不整脈薬(β遮断薬を含む)による治療にもかかわらず症候性の発作性または持続性心房細動を有し、カテーテルアブレーションのため紹介された患者を登録し、クライオバルーンカテーテルを用いたPVI群または横隔神経ペーシングのみのシャム群に無作為に割り付けた。 主な除外基準は、長期(1年以上)にわたる持続性心房細動、左心房アブレーションまたは外科的アブレーション既往の患者、アブレーションを必要とするその他の不整脈を有する患者、左房径5.5cm以上、駆出率35%未満の患者などであった。 登録時に未装着の患者全例に埋込み型ループレコーダーが装着され、主要手技の2週間以上前には装着が完了し、心房細動負荷(心房細動累積時間)が評価された。 主要エンドポイントは、最初の3ヵ月間(ブランキング期間)を除く6ヵ月時の心房細動負荷(3ヵ月時~6ヵ月時の心房細動累積時間)であった。副次エンドポイントには、心房細動の症状やQOL(Atrial Fibrillation Effect on Quality of Life[AFEQT]質問票、Mayo AF-Specific Symptom Inventory[MAFSI]、European Heart Rhythm Association[EHRA]スコア、SF-36)、イベント発生までの時間、安全性などが含まれた。心房細動負荷、プラセボと比較してPVIで有意に減少 2020年1月~2023年8月に(2020年3月~2021年7月はCOVID-19のため一時中断)、126例が無作為化され(平均年齢66.8歳、男性89例[70.63%]、発作性心房細動20.63%)、123例が主要評価の解析対象集団となった。 6ヵ月時の心房細動負荷はベースラインからの絶対平均変化量としてPVI群で60.31%、シャム群で35.0%低下した(幾何平均群間差:0.25、95%信頼区間[CI]:0.15~0.42、p<0.001)。 6ヵ月時のAFEQT要約スコア(範囲:0~100、高スコアほど心房細動関連障害が軽度)の推定群間差は、PVI群が18.39ポイント(95%CI:11.48~25.30)高かった。MAFSIの頻度スコアおよび重症度スコアについても、PVI群が良好であった。また、SF-36で評価した健康関連QOLはPVIによる改善が示され、6ヵ月時の推定群間差は9.27ポイント(95%CI:3.78~14.76)とPVI群が良好であった。 なお、著者は研究の限界として、試験期間が6ヵ月と短かったこと、PVIに限定されていたこと、2施設のみの実施であったことなどを挙げている。

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高齢者NSTEMI治療における標準的治療法確立の難しさを示した研究(解説:野間重孝氏)

 本研究は英国心臓財団の助成によって行われ、結果は本年9月にロンドンで行われた欧州心臓病学会で発表された。その内容はInterventional Cardiology誌9月号に速報のかたちで掲載された。NEJM誌に掲載の論文が同じ9月に掲載されていること、また本文中にSENIOR-RITAという名称が付いても「はじめに」の部分で簡単に触れられているのみで論文の題名からも外されていることから、戸惑われた方も多かったのではないかと推察する。通常、正式発表の論文は学会発表からいくらか遅れるかたちで出版されるのが普通なのであるが、このあたり、研究グループが本研究成果を大きく報じたいと考えた意図がうかがえる。 急性冠症候群はST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、不安定狭心症に大別される。STEMIの場合は、可能な限り早急なprimary PCIが施行される必要があり、これは超高齢者であっても、大きな禁忌事項がない限り同様の治療方針が取られる。これに対してNSTEMIの治療方針は、年齢に関係なく二通りが考えられ、場合により選択されてきた。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し急性期の侵襲的治療を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。この場合、リスク評価をいかに適切に行うかが重要となるが、近年ではリスク評価うんぬんを論じる以前に、大きな禁忌事項がない限り早期に侵襲的治療を行うべきであるという考え方が一般的となっている。実際、これをお読みの皆さんの関係施設においても、早期の侵襲的対応が可能な施設においては、特別な問題がない限り侵襲的治療が選択されているのではないだろうか。そして、この「特別な問題」として最も頻繁に問題になるのが年齢、それも75歳を超える超高齢の問題なのである。 NSTEMIをどう治療することが適切かについては、多くの研究がなされてきた。しかし、そもそもそういったエビデンスを構築するための研究から高齢者は除外されるのが常だった。このため、高齢者のNSTEMIの治療戦略についてはエビデンスがなく、事実上現場の医師の判断に委ねられてきたのが実態であった。もちろんいくつかの臨床研究はなされたが、どれもサンプル数や患者選択の問題から広く受け入れられる結果を出すには到らなかった。 この問題について初めてまとまった結果を発表したのが、2020年に発表されたSENIOR-NSTEMI試験であった。この研究では超高齢者であったとしても、侵襲的治療戦略のほうが保存的治療戦略よりも優れていると結論された。この論文は2020年8月のLancet誌に掲載され、このジャーナル四天王でも取り上げられたので(「NSTEMI、80歳以上でも侵襲的治療が優位/Lancet」)、ご記憶の向きも多いと思う。ただ、この試験はランダマイズ研究ではなく、日常診療の登録データからプロペンシティ・スコアを用いて解析したものであった。このため、この分野に関心のある医師たちは大規模ランダマイズ研究がなされることを待ち望んでいた。そこに発表されたのが本研究(SENIOR-RITA試験)だったのである。 本研究では患者を完全にランダマイズするとともに、STEMI、不安定狭心症、心原性ショック、余命1年未満の患者、侵襲的冠動脈造影を受けることができないと考えられたもの以外はすべて対象とした。つまり、いわゆる虚弱(フレイル)や認知障害があっても侵襲的検査・治療を受けられないと判断されたもの以外は対象とされた。そして1次複合エンドポイントを心血管死と非致死性心筋梗塞に絞った。これにより、単にランダマイズを行った以上に高齢者NSTEMI治療成績を明確にしようとした。 本試験では1,518例の患者が、侵襲的戦略群753例、非侵襲的治療戦略群765例にランダマイズされたかたちで割り振られた。平均年齢は82歳で、男女比もほぼ等しかった。中央値4.1年の追跡の結果、両群間で1次エンドポイントには差がないことが示された。つまり、NSTEMIの治療は症例の選択を誤ることがなければ、侵襲的、非侵襲的治療戦略で治療成績に差がないことが示された。 本研究はきわめて周到に計画・実行された大規模ランダマイズ試験であり、長年の問題について1つの結論を出したと考えられなくもない。しかし、いくつかの問題点も指摘されなければならないと思う。 上記「症例の選択を誤ることがなければ」と書いたが、この部分が大変に重要で、実際本試験ではスクリーニング対象になった患者の5人に1人だけが登録された。研究の目的から考えてSTEMI、心原性ショックは除外されて当然であるが、この数字からはその他でも多くの患者が高齢者の抱えるさまざまな問題により試験登録が適当ではないと判断されたことが推察される。この中には、高齢による強度の虚弱や認知障害、加えて本人の意向、家族の反対などさまざまな原因が考えられる。実は高齢者のNSTEMI治療において、この患者選択の問題こそが本質的な問題であり、本研究がその点に言及していないのは残念であるとともに、本研究の1つの限界となっていると思う。 また、その後に冠動脈造影や血行再建術を受けた患者数は非侵襲的戦略群で有意に多かった。ただし、この問題は保存的治療を選択した場合、時期を見て侵襲的検査・治療を行うか至適内科治療で経過を見るかという問題で、別途論じられるべき問題だろう。 治療合併症が少なかったことは評価されるべきではあるものの、現在のprimary PCIの技術レベルを考えれば、症例の選択を誤らなければ大きな合併症は起こらないことは当然予想されたと考えるが、合併症の問題は研究の信頼性を高める要因としては評価されなければならないだろう。ただし、ここでも患者選択の問題があることには注意してほしいと思う。 評者の結論を述べるならば、結局今回の研究はNSTEMIをどのように治療すべきかという一般的な問題に、高齢者において個別化医療の重要性を強調したこと、また現在の治療技術レベルにおいては、症例のリスク評価が慎重かつ十分に行われれば、高齢であるというだけの理由で特別な治療方針を考える必要はないことを示したものと考える。一方で、高齢者医療においては極端な虚弱や認知症、合併症のリスク、患者・家族の意向などを十分に考慮する医学的、倫理的視点の重要性が再確認されたといえる。本論文の限界を述べたように思われるかもしれないが、そうではない。さまざまに議論されてきた高齢者NSTEMIの治療を考える場合、保存的治療戦略でも十分な結果が得られることを示したことは十分に価値があると同時に、これだけ周到な準備をしてもこの分野の研究に明解な結論を出すことが困難であることを示したことがむしろ大きな成果であったと思う。

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乳がん術前療法でのDato-DXdからの逐次治療、HR・免疫反応・DRD全陰性例で対照群より優れる(I-SPY2.2)/ESMO2024

 StageII/IIIの高リスクHER2-乳がんの術前療法において、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)単独治療で始める3ブロックの逐次治療戦略により、38.1%で病理学的完全奏効(pCR)を達成し、その約半数がDato-DXd単独治療後に達成したことが第II相I-SPY2.2試験で示された。また、ホルモン受容体(HR)・免疫反応・DNA修復欠損(DRD)がすべて陰性のサブタイプでpCR率が対照群を上回ったという。米国・University of Alabama at BirminghamのKatia Khoury氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。本結果はNature Medicine誌オンライン版2024年9月14日号に同時掲載された。 I-SPY2.2試験は、外科的切除時のpCR達成のために術前療法を個別化・最適化することを目的とし、反応予測サブタイプ(RPS)に基づいて治療ブロックを割り当て、ブロックAでは新規薬剤を投与、ブロックBとCでは従来の標準療法を行う連続多段階ランダム割り付け試験である。治療は標準療法とマッチングされ、RPSは免疫療法の有用性、DRD、HRの有無、HER2の有無により分類された。 本試験の適格患者は、70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIのHER2-乳がんである。Dato-DXdアームにおける治療は、ブロックAではDato-DXdを3週ごと4サイクル静注、ブロックBはタキサンを含む化学療法(±ペムブロリズマブ)、ブロックCはアントラサイクリンを含む化学療法(±ペンブロリズマブ)とした。ブロックAまたはBの終了時にpCRが予測された患者は手術に移行し、予測されない場合はブロックB±ブロックCに進む。予測残存腫瘍量の評価のために治療への反応を乳房MRIと生検で評価し、治療方針は担当医師が決定した。主要評価項目はpCRで、以前のI-SPYデータから得られた各サブタイプの対照群と比較した。 ASCO2024ではブロックAの結果が報告され、今回はDato-DXdアーム全体の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・2022年6月~2023年9月に103例がDato-DXd群に無作為に割り付けられた。・年齢中央値は46歳、腫瘍サイズ5cm以上が29%、リンパ節転移ありが64%、トリプルネガティブが48.5%、免疫+が45%であった。・pCRを達成したのは全体で38.1%(37例)で、ブロックA後に達成したのは18例、ブロックB後は13例、ブロックC後は6例であり、48.7%がブロックAのみで達成した。・感度分析において、すべて陰性(HR-/免疫-/DRD-)のサブタイプでDato-DXd のpCR率が対照群を上回った。その他のサブタイプでは上回らなかったが、治療戦略に従った患者のpCR率は対照群と同様であった。・ブロックAで最も多かった有害事象は、悪心、疲労、発疹であった。口内炎と眼毒性はそれほど多くはなく、ほとんどが低Gradeだった。

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ALK陽性肺がん5年PFS中央値未達のロルラチニブ、アジア人に対する成績(CROWN)/ESMO2024

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした第III相「CROWN試験」の5年フォローアップ1)におけるアジア人サブグループ解析の結果、全体集団と同じくロルラチニブが無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、頭蓋内病変の進行も抑えることが示された。中国・Guangdong Lung Cancer InstituteのYi-Long Wu氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IVのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者(無症状の中枢神経系[CNS]転移は許容)・試験群:ロルラチニブ(100mg/日)・対照群:クリゾチニブ(250mg×2/日)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、頭蓋内奏効率(IC-ORR)、奏効期間(DOR)、頭蓋内奏効期間(IC-DOR)、頭蓋内病変進行までの期間(IC-TTP)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体集団296例のうち、120例(日本48例、中国48例、韓国21例、その他3例)がアジア人サブグループとして解析された。試験群は59例(年齢中央値:61歳[範囲:49~70])、対照群は61例(55歳[47~66])であった。ベースライン時に脳転移を認めたのは、試験群で13例、対照群で16例であった。・データカットオフ時点(2023年10月31日)で、治験担当医師評価によるPFS中央値は試験群未到達、対照群9.2ヵ月であり(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.13~0.37)、5年PFS率は試験群63%、対照群7%であった。・試験群ではEML4-ALKのバリアントサブタイプ(バリアント1または3)やTP53変異の有無にかかわらず、PFS中央値は未到達であった。・ORRは試験群81.4%、対照群59.0%で、ベースライン時に脳転移を認めた集団のIC-ORRは試験群69.2%、対照群6.3%であった。・IC-TTP中央値は試験群未到達、対照群14.6ヵ月であった(HR:0.01、95%CI:<0.01~0.1)。・試験群におけるGrade3/4の有害事象(AE)は81.4%に発現し、その内訳は高トリグリセライド血症(33.9%)、高コレステロール血症(22.0%)、体重増加(22.0%)などであった。・試験群における中枢神経系・精神系のAEとして、認知障害(25.4%)、気分障害(11.9%)などが認められた。・AEにより投与中止に至った割合は試験群で5.1%、対照群で8.3%であった。 Wu氏は、今回の結果をCROWN試験の全体集団の結果と一致しているとしたうえで「ALK陽性NSCLCのアジア人患者に対し、1次治療としてロルラチニブを用いることを支持するデータである」とまとめた。

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