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地中海食で女性の全死亡リスクが23%低下

 地中海式ダイエットを遵守している女性は全死亡リスク、がんや心血管疾患による死亡リスクが低く、この関連にはホモシステインなどの低分子代謝物質の多寡が寄与していることが明らかにされた。米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のSamia Mora氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月31日掲載された。 地中海式ダイエットは、植物性食品(ナッツ、種子、果物、野菜、全粒穀物、豆類)を中心に、魚、鶏肉、乳製品、卵などのタンパク源とアルコールを適度に取り、油脂類はオリーブオイルから摂取し、赤肉、加工食品、菓子などは控えるという食事スタイル。既に多くの研究によって、地中海式ダイエットが健康リスクの抑制に有用であることが示されているが、全死亡リスクに関する長期間の追跡データは限られている。また、地中海食がどのように健康リスクを抑制するのかというメカニズムの理解はまだ不足している。これらの疑問点を明らかにするためMora氏らは、同院と米ハーバード大学により女性医療従事者対象に行われている疫学研究(Women's Health Study;WHS)のデータを用いた解析を行った。 解析対象はWHS参加者のうちデータ欠落などのない2万5,315人(平均年齢54.6±7.1歳、白人94.9%)。地中海式ダイエットの遵守状況は、131項目の質問から成る食物摂取頻度調査票の回答を基に0~9点の範囲にスコア化し、0~3点の群(39.0%)を低遵守、4~5点の群(36.3%)を中遵守、6~9点の群(24.7%)を高遵守と判定した。対象全体のスコアの中央値は4.0(四分位範囲3.0~5.0)だった。24.7±4.8年の追跡期間中に、心血管死935人、がん死1,531人を含む3,879人が死亡していた。 年齢と摂取エネルギー量、および、WHSの初期段階で実施された介入に用いた薬剤の影響を調整後、低遵守群を基準とする全死亡リスクは中遵守群〔ハザード比(HR)0.84(95%信頼区間0.78~0.90)〕、高遵守群〔HR0.77(同0.70~0.84)〕ともに有意に低く、遵守率が高いほど全死亡リスクが低いという関連が認められた(傾向性P<0.001)。また、高遵守群では心血管死〔HR0.86(0.69~0.99)、傾向性P=0.033〕、がん死〔HR0.80(0.69~0.92)、傾向性P=0.002〕のリスク低下も認められた。調整因子に喫煙・飲酒・運動習慣、閉経前/後、ホルモン補充療法の施行を追加すると関連性はやや弱くなったが、全死亡リスクについては引き続き有意な関連があった〔中遵守群がHR0.92(同0.85~0.99)、高遵守群はHR0.89(0.82~0.98)、傾向性P=0.001〕。 次に、地中海式ダイエットと全死亡リスク低下の関連に対する各種バイオマーカーの寄与度を検討。その結果、低分子代謝物質(ホモシステインやアラニンなど)と炎症マーカーの寄与が大きく、それぞれの寄与割合は14.8%、13.0%と計算された。その他の寄与因子としては、トリグリセライドが豊富なリポ蛋白(寄与割合は10.2%)、BMI(同10.2%)、インスリン抵抗性(7.4%)などが抽出された。 この結果についてMora氏は、「われわれの研究結果は、長生きをしたい女性は食生活に気をつける必要があることを示している」と話している。

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抗菌薬持続間欠の比較(解説:栗原宏氏)

特長・6つの最新試験を含む大規模なメタアナリシスを使用しているため、最新かつ信頼性の高い結果である・ベイズ解析と頻度主義分析を併用し、治療効果の包括的評価と信頼性を高めている・持続投与は間欠投与に対し、90日間の死亡リスクを14%減少させる効果が確認されている。NNTは26であり、持続投与の高い有効性が示唆される。また、ICU死亡率の低下と臨床的治癒率の向上にも寄与している研究上の制約・敗血症および敗血症性ショックの定義が一定していないため、結果の比較にばらつきがある・試験ごとに治癒の定義が異なり、治癒判断が主観的である可能性がある βラクタム系抗菌薬は、最小発育阻止濃度以上の時間(time above MIC)が長いほど効果がある時間依存性であり、頻回投与、長時間投与が望ましいとされている。そのため、究極的に持続投与ならばMIC以上の最適な状態が維持され、より高い治療効果が得られるのではないかと推論される。 この推論に基づき、これまで多数の間欠投与と持続投与の比較試験が行われてきた。最近発表されたものとしては、重症患者におけるメロペネムの持続投与と間欠投与を比較した多国間ランダム化臨床試験であるMERCY試験、BLING III試験が知られている。持続投与は理論上間欠投与より有効であるが、実際に患者の転帰を改善するかどうかについては、有効であったとする研究と差がなかったとする研究があり、結果が分かれている。 本調査では持続投与と間欠投与の比較に関して、敗血症、敗血症性ショックを患う成人患者を対象に、90日間での全死亡率をメインアウトカム、ICU死亡率、臨床的治癒率、微生物学的治癒率、有害事象、ICU滞在期間を2次アウトカムとして検討を行っている。 参考までに使用された抗菌薬は、メロペネム8件、セフェピム3件、チカルシリン-クラブラン酸2件、アンピシリン-スルバクタム、セフトリアアキソン、イミペネム-シラスタチン各1件であった。 サブグループ分析は7項目で行われているが、いずれも差がなかった。1)メロペネム対ピペラシリン・タゾバクタム(相対リスク比 [RRR], 1.00; 95%信用区間 [CrI], 0.75-1.29)2)培養陽性対培養陰性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.91-1.72)3)グラム陰性対グラム陽性感染(RRR, 1.13; 95%CrI, 0.85-1.79)4)腎置換療法対非腎置換療法(RRR, 1.08; 95%CrI, 0.82-1.53)5)肺感染対その他の感染(RRR, 0.90; 95%CrI, 0.64-1.15)6)敗血症対敗血症性ショック(RRR, 0.97; 95%CrI, 0.75-1.23)7)男性対女性(RRR, 0.91; 95%CrI, 0.71-1.12) 敗血症、敗血症性ショックという重篤な状態の患者を対象とし、90日間の全死亡をメインアウトカムとしている本調査は臨床的に現実的な調査である。敗血症治療に抗菌薬は不可欠であるが、信頼性の高い調査で投与方法の選択次第で死亡リスクを減少できることが示された意義は大きい。二次アウトカムとしてICU死亡率の減少と臨床的治癒率向上に関連していることが示されたことも臨床的に有益な情報である。 NNT(1人の死亡を防ぐために必要な治療人数)が26と治療効果は高く、サブグループ分析の結果を踏まえても、敗血症治療にβラクタム系抗菌薬を使用する際は持続投与を選択するのがよいと思われる。

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「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」発行/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日に東京国際フォーラムなどで開催された。 2024年1月1日に石川県をはじめとする北陸地方を襲った「能登半島地震」は記憶に新しい。災害時に糖尿病患者やその家族へのサポートなどはどのようにあるべきであろう。 本稿では「災害時の糖尿病診療支援と糖尿病対策推進会議の活動」より「災害時糖尿病診療マニュアル2024の概要 総論」(講演者:荒木 栄一氏[熊本大学名誉教授/菊池郡市医師会立病院/熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター 特任教授])をお届けする。災害で糖尿病患者は簡単に弱者になる 地震、洪水などわが国は災害が多く、1,000人以上の犠牲者が発生した災害が多数ある。現在では南海トラフ地震や首都直下型地震、線状降水帯による水害などへの備えがなされている。しかし、それでもこうした災害時には、糖尿病患者は容易に代謝失調やインスリンの不足などにより災害弱者となりうる。 とくに食事療法での栄養の偏りや治療薬の確保が懸念されている。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の2つの学会は『糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024』を制作し、発行した。これは2014年に日本糖尿病学会「東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究」委員会が作成した災害時の診療マニュアルを10年ぶりに改訂したもので、熊本地震での知見の追加のほか、新規糖尿病治療薬など最新の診療状況にも対応し、「糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)」についても触れたもので、今回日本糖尿病協会も参画し、広く知見が記述されている。4章立てで災害時の糖尿病診療、平時の準備を説明 本マニュアルは大きく4章立てで構成され、荒木氏が説明した総論部分は下記のとおりである。〔I 総論 災害に対する備え〕「1 ライフラインと情報の整備」では、ライフラインの確保、災害時の連絡体制、バックアップを記載している。「2 食量や医薬品の備蓄」では、平時からの備蓄食料のローテーション消費や主治医と医薬品の備蓄や調達方法の相談を記載している。「3 医療機関の災害対応マニュアル、訓練」では、マニュアル整備とその見直し、災害時の人材の確保、院内の備品や食品の管理、地域との連携や訓練などを記載している。「4 地域の医療連携」では、連携の問題点と課題、災害時の医療連携を記載している。「5 災害時糖尿病医療従事者の教育」では、医療者への教育、平時の備えの指導(とくにシックデイ)、薬の調整や防災教育を記載している。「6 糖尿病患者への啓発」では、平時からの備えの啓発としてリーフレットの活用や正しい情報を得るための教育が記載されている。 また、総論以降の内容は次のとおりである。〔II 害時の糖尿病医療者の役割〕 災害派遣医療チーム(DMAT)、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)や医師やそのほかの医療従事者の役割などが記されている。〔III 個々の糖尿病病態への対応〕 全体的な注意事項、各治療(インスリン、経口薬、食事・運動療法のみ)での注意事項、合併症のある患者での対応、特別な配慮が必要な患者(妊婦、高齢者など)へのサポートが記されている。〔IV 患者の備え〕 避難所の確認や薬剤の備蓄、妊婦・高齢者などの特殊な患者への対応などが記されている。 その他コラムでは「シックデイ対策/インスリンポンプ使用者/COVID-19」などが記されている。 将来発生が危惧される大災害に対応するためにも、一読し、今できることから備えておきたい。

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ASCO2024 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2024の年次総会(5月31日~6月4日)は、今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年までと同様に現地参加はパスして(円安と米国のインフレ問題があり、現地参加は費用的に無理があります)、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年は14演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫関連4演題、多発性骨髄腫関連6演題、白血病/骨髄増殖性腫瘍(MPN)関連4演題を紹介します。悪性リンパ腫関連Upfront allo-HSCT after intensive chemotherapy for untreated aggressive ATL: JCOG0907, a single-arm, phase 3 trial. (Abstract #7001)本演題は日本のJCOGからの発表で、ATLに対するアップフロントの同種移植の前向き試験の成績をまとめたものである。研究開始当初は、55歳以下で骨髄破壊的前処置(MAST)を行う患者のみをエントリー基準としたが、2014年9月以降は56~65歳の患者に対し骨髄非破壊的前処置(RIST)も許容された。2010年9月~2020年6月に110例の患者(72例:急性型、27例:リンパ腫型、10例:予後不良慢性型、1例:その他)がエントリーされ、92例が移植を受けた。41例がプロトコルどおりの治療を受け、51例はプロトコル治療外での移植であった(アップフロント同種移植は76例となった)。主要評価項目の3年OS(110例)は44.0%(90%CI:36.0~51.6)であり、仮説にメットした。プロトコル治療を受けた41例のうち、治療関連死(TRD)は血縁ドナー16.7%、非血縁ドナー20.7%であった。また、死亡した70例の死亡原因は、ATL 34例、TRD 30例、その他6例であった。結論として、ATLに対するアップフロント同種移植はアグレッシブATLに対し1つの治療オプションとなりうるが、生存期間の延長に関しては不明とされた。以下の3題はマントル細胞リンパ腫(MCL)に関する演題です。MCLは、悪性リンパ腫の中では比較的まれな疾患で、中悪性度に分類されますが、インドレントな経過を示す症例もあります。また、従来の免疫化学療法だけでは治癒が難しく、最近では、分子標的薬のBTK阻害薬やBCL-2阻害薬の有用性が示されています。Benefit of rituximab maintenance after first-line bendamustine-rituximab in mantle cell lymphoma. (Abstract #7006)初発MCLに対し、BR(ベンダムスチン-リツキシマブ)療法の後のR維持療法(RM)の意義については、PFS・OSを延長しない(Rummel, et al. ASCO 2016)、PFS・OSを延長する(Martin, et al. JCO 2023)という異なるデータが示されてきた。本研究では、米国で大規模な観察研究が実施され、RMの意義が検証された。BR療法(自家移植なし)後3ヵ月時点でPRあるいはCRの患者がエントリーされ、RM実施の有無で、無イベント(再発、次治療開始、死亡)率(EFS)が比較された。さらに、次治療開始例の無イベント率(EFS2)も比較された。613例がエントリーされ、318例がRMを受け、295例がRMを受けなかった。RM群では年齢が若く(69歳vs.71歳)、男性の割合が高く(78% vs.69%)、進展期の割合が高かった(95.2% vs.89.0%)が、リスク因子(MIPI)、組織型、Ki-67、TP53変異、複雑型染色体異常、BR療法の実施年代、BR療法の効果には差を認めなかった。追跡期間中央値が61.3ヵ月の時点で、RM群で有意にEFS(47.1ヵ月vs.29.7ヵ月)、EFS2(89.1ヵ月vs.48.3ヵ月)、OS(136.1ヵ月vs.74.3ヵ月)の延長を認めた。BR療法によりCRが得られた患者においても、RMにより有意にEFS、EFS2、OSの延長が示された。以上より、初発MCLに対するBR療法後のRMの有用性が明らかとなった。Efficacy and safety of ibrutinib plus venetoclax in patients with mantle cell lymphoma (MCL) and TP53 mutations in the SYMPATICO study. (Abstract #7007)SYMPATICO試験はMCL患者に対するイブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)の効果を検証した試験であり、再発・難治(R/R)MCLに対しイブルチニブ+プラセボと比較した第III相試験では、有意にI-VのPFSがI単剤よりも延長することが報告されている(Wang M, et al. ASH 2023)。本発表では、R/R MCLに対するI-V療法の第I相試験、上記の第III相試験、また、初発MCLに対する第II相試験にエントリーされたTP53変異を有するMCL患者に対するI-V療法の効果が報告された。合計74例の患者(初発:29例、R/R:45例)が解析対象となり、年齢中央値67歳、HighリスクMIPI 43%、bulky 36%、骨髄浸潤64%、脾腫39%であった。治療期間中央値が40.1ヵ月時点で、PFS中央値20.9ヵ月、全奏効率84%、CR率57%、OS中央値47.1ヵ月であった。PFSは初発とR/Rにて差を認めなかった。I-V併用療法は、TP53変異陽性のHighリスクMCL患者にも有用であることが示された。Glofitamab monotherapy in patients with heavily pretreated relapsed/refractory (R/R) mantle cell lymphoma (MCL): Updated analysis from a phase I/II study. (Abstract #7008)CD20XCD3の二重特異性抗体であるglofitamab(Glof)単剤でのR/R MCLに対する臨床試験のフォローアップ(中央値:19.6ヵ月)のデータが報告された。Glofは固定期間(約8.5ヵ月間)の治療である。Glof治療を受けた60例のR/R MCL患者が解析された。前治療のライン数は2(1~5)、73.3%が最終治療に抵抗性、前治療にBTK阻害薬の投与を受けた31例中29例がBTK阻害薬に抵抗性であった。Glofは、中央値12サイクル投与され、全奏効率85.0%、CR率78.3%であり、CRが得られた患者の治療奏効期間(DOCR)の中央値は15.4ヵ月であった。とくに、BTK阻害薬の前治療歴のある患者の全奏効率は74.2%、CR率71.0%であり、DOCRは12.6ヵ月であった。R/R MCLの治療、とくにBTK阻害薬に抵抗性の患者に対し、Glofは有望な治療薬であることが示された。多発性骨髄腫関連今年の多発性骨髄腫(MM)の演題は、初発MMに対する4剤併用の試験の3演題とR/R MMに対するCAR-T細胞治療の3演題を紹介します。Phase 3 study results of isatuximab, bortezomib, lenalidomide, and dexamethasone (Isa-VRd) versus VRd for transplant-ineligible patients with newly diagnosed multiple myeloma (IMROZ). (Abstract #7500)移植非適応初発MM患者に対するVRd-Rd療法とIsaVRd-IsaRd療法を比較した第III相試験(IMROZ試験)の結果が報告された。80歳以上は除外され、VRd-Rd療法に181例、IsaVRd-IsaRd療法に265例が割り当てられた。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はCR率、MRD陰性率、VGPR以上率、OSであった。追跡期間中央値59.7ヵ月時点でのPFSは、54.3ヵ月vs.未達(HR:0.596)、CR率は64.1% vs.74.7%、MRD陰性CR率は40.9% vs.55.5%と、いずれもIsaVRd-IsaRd療法の有効性が優れた。Isa併用によりVRdのRDIの低下は認めず、安全性も問題とはならなかった。Phase 3 randomized study of isatuximab (Isa) plus lenalidomide and dexamethasone (Rd) with bortezomib versus IsaRd in patients with newly diagnosed transplant ineligible multiple myeloma (NDMM TI). (Abstract #7501)移植非適応初発MM患者に対するIsaRd(12サイクル)-IsaR療法とIsaVRd(12サイクル)-IsaVR(6サイクル)-IsaR療法を比較した第III相試験(BENEFIT/IFM2020-05試験)の結果が報告された。対象患者は65~79歳のnon-frail患者であった。両群135例ずつの患者が割り当てられた。主要評価項目は18ヵ月時点のMRD陰性率(NGS:10-5)であった。結果、MRD陰性率は26% vs.53%と、有意にボルテゾミブを追加した治療の効果が優れた。ただし、24ヵ月時点のPFS、OSは差を認めなかった。また、治療継続率には差を認めず安全性には問題がなかった。本研究では、主要評価項目でIsaVRd-IsaVR-IsaR療法が優れたため、対象の患者には本治療法が新たな標準療法となる可能性が示された。Daratumumab (DARA) + bortezomib/lenalidomide/dexamethasone (VRd) in transplant-eligible (TE) patients (pts) with newly diagnosed multiple myeloma (NDMM): Analysis of minimal residual disease (MRD) in the PERSEUS trial. (Abstract #7502)移植適応初発MM患者に対するDVRd療法とVRd療法、その後、DRとRによる維持療法を比較したPERSEUS試験の維持療法期のMRD陰性率についての結果が報告された。DVRd-DR群に355例、VRd-R群に354例が割り付けられた。治療開始後、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点のMRD陰性率(10-5)は、それぞれ65.1% vs.38.7%、72.1% vs.44.9%、74.6% vs.46.9%とDara併用群で有意に高い割合であり、また、経時的に陰性率の上昇を認めた。移植適応MM患者に対するDRによる維持療法の意義が示された。MRD陰性を持続できた患者のPFS、OSがどうなるか本試験の長期フォローアップの結果が注目される。Efficacy and safety of ciltacabtagene autoleucel±lenalidomide maintenance in newly diagnosed multiple myeloma with suboptimal response to frontline autologous stem cell transplant: CARTITUDE-2 cohort D. (Abstract #7505)自家移植治療(±地固め)を受けた後CRに到達しなかったMM患者を対象に、Cilta-Cel治療単独(最初の5例)とCilta-Cel治療21日以降から最長2年間レナリドミドを併用した12例の安全性、有効性が検証された。主要評価項目はMRD陰性率(10-5)であった。MRD評価が行えた15例中12例(80%)でMRD陰性が達成され、MRD陰性達成までの期間の中央値は1ヵ月であった。追跡期間の中央値が22ヵ月時点で、奏効期間の中央値は未到達、18ヵ月時点のPFSは94%(17例中16例)であった。CRSは14例でみられたが、すべてG1/2であった。ICANSは1例(G1)でみられた。また、レナリドミド併用による遷延する血球減少の有害事象の増加はみられていない。自家移植後にCRが得られない患者へのCilta-Celの投与は深い奏効が望める治療法である。Ciltacabtagene autoleucel vs standard of care in patients with functional high-risk multiple myeloma: CARTITUDE-4 subgroup analysis. (Abstract #7504)1~3ラインの前治療歴のあるR/R MM患者に対するCilta-Celと標準治療を比較したCARTITUDE-4試験に参加した患者(初期治療開始後18ヵ月以内に再発を認めたFunctional Highリスク患者を含む)の中で、セカンドラインでの治療効果を post hoc解析し、PFS、CR率、MRD陰性率を比較している。全体では、未到達vs.17ヵ月、71% vs.35%、63% vs.19%であり、Functional Highリスク患者では、未到達vs.12ヵ月、68% vs.39%、65% vs.10%であった。標準治療と比較し、Cilta-Celの有意な有効性が示された。R/R MM患者(とくにFunctional Highリスク患者)に対する早いラインでのCilta-Celの有用性が認められた。Impact of extramedullary multiple myeloma on outcomes with idecabtagene vicleucel. (Abstract #7508)髄外腫瘤(EMD)を有するMM患者に対するIde-Celの効果は不明である。Ide-Cel治療を受けた351例のR/R MM患者のうち、84例(24%)にEMDを認めた。EMD患者とEMDを有さない(Non-EMD)患者での患者背景で差を認めた因子は、年齢(62歳 vs.66歳)、PS 0-1(78% vs.89%)、ペンタドラッグ抵抗性(46% vs.32%)、リンパ球除去前の血清フェリチン値(591 vs.242)、CRP(2.1 vs.1.0)であった。治療効果は、全奏効率(@Day30)58% vs.69%(p=0.1)、全奏効率(@Day90)52% vs.82%(p<0.001)、PFS 5.3ヵ月vs.11.1ヵ月(p<0.0001)、OS 14.8ヵ月 vs.26.9ヵ月(p=0.0064)であった。また、EMD患者では、血球減少が多く認められた。EMDはIde-Cel治療の効果がNon-EMD患者と比較し、明らかに不良であることが示された。白血病/MPN関連Ponatinib (PON) in patients (pts) with chronic-phase chronic myeloid leukemia (CP-CML) and the T315I mutation (mut): 4-year results from OPTIC. (Abstract #6501)OPTIC試験の4年のフォローアップが報告された。OPTIC試験は、2剤以上のTKI治療抵抗性を有するか、T315I変異を有するCP-CML患者をポナチニブ45/30/15mgで開始し、IS-PCRが1%以下で45/30mg開始群は15mgに減量する治療法の有効性、安全性を検討した試験である。23.8%の患者がT315I変異を有していた。4年時点でのIS-PCRが1%以下率、PFS、OSを比較した。45mg→15mgの投与法で、T315I変異を有する患者で最も、IS-PCRの低下、PFSの延長がみられた。動脈閉塞の合併症率は同等であり、本試験の対象となった患者(とくにT315I変異を有する患者)に対しては、有効性、安全性の面から45mg→15mgのポナチニブの投与法が推奨される。A retrospective comparison of abbreviated course “7+7” vs standard hypomethylating agent plus venetoclax doublets in older/unfit patients with newly diagnosed acute myeloid leukemia. (Abstract #6507)メチル化阻害薬+ベネトクラクス(VEN)の併用治療は、通常の化学療法の実施が難しいfrail AML患者の標準療法となっている。VENの投与期間を28日/サイクルから短縮することで骨髄抑制は軽減されるが、有効性が失われないかどうかは不明である。VENの投与期間を7日間に短縮した7+7を実施したフランスの患者82例と通常の21~28日で投与したMDACC(USA)の患者166例をレトロスペクティブに比較した。CR+CRi率、CR率は両治療法で差を認めなかったが、CRに到達するためのサイクル数は7+7治療で、1サイクル多かった(2 vs.1サイクル)。OS中央値は11.2ヵ月 vs.10.3ヵ月、2年OSは28% vs.34%で差を認めなかった。8週時点での死亡率は6%と16%で有意に7+7で少なく、また、血小板輸血も少なかった。以上より、7+7の投与期間は、有効性、安全性の面でも十分に許容されると思われた。Updated safety and efficacy data from the phase 3 MANIFEST-2 study of pelabresib in combination with ruxolitinib for JAK inhibitor treatment-naive patients with myelofibrosis. (Abstract #6502)pelabresib(PELA)は新規のBET阻害薬であり、骨髄線維症(MF)の遺伝子発現を抑制する。MANIFEST-2試験はJAK阻害薬治療を受けたことがないMF患者に対するルキソリチニブ(Rux)+PELA(214例)とRux+プラセボ(216例)を比較した第III相比較試験である。DIPSSスコアがInt-1以上のMF患者が対象であり、主要評価項目は24週時点での脾臓体積の35%減少(SVR35)率であり、副次評価項目として症状スコア(TSS)の改善を検討している。結果、Rux+PELA群でSVR35率が65.9%(vs.35.2%)と、有意に多くの患者で脾腫の縮小が認められた。また、Rux+PELA群で、脾腫の縮小は早くみられ、その効果は長く維持された。TSSの改善も、Rux+PELA群で良い傾向が示された。また、貧血、骨髄線維化の改善がRux+PELA群で有意に多くみられた。有害事象としては、血小板減少と下痢がやや多かったが、総じてRux単独と変わりなかった。MFに対し、Rux単独と比較し、Rux+PELA併用が有効であることが示されている。ASC4FIRST, a pivotal phase 3 study of asciminib (ASC) vs investigator-selected tyrosine kinase inhibitors (IS TKIs) in newly diagnosed patients (pts) with chronic myeloid leukemia (CML): Primary results. (Abstract #LBA6500)初発CML患者に対し、既存のTKIとアシミニブ(ASC)を比較した第III相試験(ASC4FIRST試験)の最初の解析結果がLBAにて報告された。TKIの種類はランダム化前に主治医と患者の判断で選択された(IS-TKI)。また、ランダム化前に2週間以内であれば、TKIの服用が許容された。本試験の目的は、48週時点でのASC群のMMR達成率がIS-TKI群と比較して優れていることを示すことであった。ASC群に201例、IS-TKI群に204例(IM:102、第2世代[2G]:102[NI:48%、DA:41%、BO:11%])がエントリーされた。結果、48週時点のMMR達成率はASC群67.7%、IS-TKI群49.0%であり、有意にASC群で優れた。データカットオフ時点での治療薬の継続率は、ASC群86%、IM群62%、2G群75%であり、中止理由として、効果不十分が6%、21%、10%、有害事象が5%、11%、10%であった。以上の結果より、ASCは既存のTKIと比較し、初発CML患者に対する有効性、安全性に優れていることが示された。おわりに以上、ASCO2024で発表された血液腫瘍領域の演題の中から14演題を紹介しました。過去3年間のASCO2021、2022、2023では10演題ずつを紹介しましたが、今年発表された演題もこれまでと同様に、今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2025にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、さらに円安が続く今日この頃[笑])。

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置かれている状況を的確に把握する【国試のトリセツ】第46回

§4 実臨床リアリティ置かれている状況を的確に把握するQuestion〈108H23〉3歳の男児。嗄声と喘鳴とを主訴に母親に連れられて来院した。2日前から発熱、鼻汁および嗄声が出現し、本日夕方から吸気性喘鳴と犬吠様咳嗽を認めたため小児科を受診し、その後耳鼻咽喉科を紹介された。陥没呼吸やチアノーゼは認めない。SpO298%(room air)。まず行うべき検査はどれか。(a)頸部CT(b)後鼻鏡検査(c)頸部超音波検査(d)喉頭内視鏡検査(e)副鼻腔X線撮影

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「生活習慣病管理料」算定に適した指導・効率的な方法は?

 6月の診療報酬改定後もなお話題になっている、生活習慣病に係る医学管理料の見直し。今回の改定では、▽生活習慣病管理料(II)の新設(検査などを包括しない生活習慣病管理料 II[330点、月1回])▽生活習慣病管理料の評価および要件の見直し(療養計画書の簡素化、電子カルテ情報共有サービスの活用など)▽特定疾患療養管理料の見直し(対象疾患から生活習慣病である糖尿病、脂質異常症、高血圧症が除外)といった点が変更された1)。とくに高血圧症などの生活習慣病患者に対し、これまでの特定疾患療養管理料に近い点数を生活習慣病管理料で算定していくためには、療養計画書の作成、診療ガイドラインに基づいた疾患管理、リフィル処方箋に関する掲示、多職種連携推奨…といった要件が多く、今回の改定による医師の負担増は免れない。そこで今回、谷川 朋幸氏(CureAppメディカル統括取締役/聖路加国際病院 医師)は患者を効果的な生活改善へと導き、医師が効率的に療養計画書を作成するために、高血圧治療補助アプリを活用した打開策をCureApp主催メディアセミナーにて紹介した。生活習慣病患者への算定、改訂前より10点減点 これまでも生活習慣病管理料自体は存在していたが、特定疾患療養管理料と違い、療養計画書の作成や患者へ署名を求める点などがハードルとなり、生活習慣病管理料の算定件数割合は特定疾患療養管理料に比してたった数%に留まっていた。それが今回の改定では、政府が“効率的で効果的な疾患管理”を推進するために、従来の療養計画書を簡素化させたり、毎月受診の要件を廃止したりといった歩み寄りをしたうえで、生活習慣病患者の管理料を新たな生活習慣病管理料(I)および(II)へと変更した。その結果、200床未満の施設で生活習慣病管理料を算定する場合、以下のような追加業務が発生することになる。・療養計画書により丁寧な説明を行い、同意を得た証拠として患者から署名をもらうこと・計画書の写しを診療録に添付しておくこと・継続して算定する場合、内容に変更がなくともおおむね4ヵ月に1回以上は計画書を交付すること そして、診療報酬改定後に生活習慣病管理料(II)を算定すると、1診療につき333点(オンライン診療は290点)と改訂前に比べ10点近くもの減点となるため、これまでの生活習慣病患者への算定に対し発生するマイナス部分をどのように補填するかは大きな問題である。ここで谷川氏は「CureApp HT高血圧治療補助アプリ(以下、本アプリ)を活用することで、新設したプログラム医療機器等指導管理料(90点)などを算定2)できるため、むしろプラスに転じることが可能。また、患者さんにとっても指導内容が充実するため、本アプリの活用は医療者・患者さん双方にとって生活習慣病管理料(II)の穴埋め以上の効果をもたらすことができる」と説明した。電カルとの連携、患者の生活習慣見える化とカルテ入力に効果 本アプリに関連するその他のメリットとして、「患者さんに対し、生活習慣病の管理記録を簡単に作成できるツールを提供できると共に、生活習慣の改善(減量・減塩ができる、薄味に慣れるなど)が患者さんのみならず家族にも影響を及ぼし、降圧作用以外のベネフィットとなる」とコメントした。一方で、医師にとっては本アプリと電子カルテを連携させることでカルテ入力の負担軽減につながる点がポイントになる。「生活習慣指導について、内科系医師の86.0%は必須と考える一方で“うまくいっている”と回答したのは39.5%と半数に留まっていた。このギャップが生まれた理由として、患者さんの生活習慣を見える化することができない点が医師らの課題として挙がったが、本アプリを導入している医師らはアプリが生活習慣管理の動機付けにぴったりであり、なおかつ生活習慣の見える化にも有効と回答している」と話した。生活習慣改善の継続に寄り添える だが、生活習慣の改善は口で言うほど実際にその継続は容易ではない。患者が自力で改善させるとなると2人に1人は継続できないという報告3)もあるようだ。このような現状を踏まえ、CureAppは健康的な生活習慣を身に付けながら高血圧治療に取り組むためのプログラム『CureApp HT 血圧チャレンジプログラム』*を6月から新たにスタートさせている。このプログラムを開始するにあたり、患者アプリの情報を基に療養計画書(患者レポート)を作成できる機能を医師側のアプリに実装させており、「これまで敬遠されがちな事務作業の効率化はもちろん、医師の指導内容が可視化されて患者さんにとってもわかりやすいレポートが作成される」と同氏はコメントした。*高血圧治療補助アプリと医師による診察のほか、アプリで入力した取り組み内容を可視化できる患者レポート・療養計画書の同時作成や『血圧チャレンジキット』と称した「みんなのレシピ集(減塩レシピ)」や「CureApp血圧チャレンジプログラム スタートブック」の配布に加え、血圧計購入支援などのカスタマーサポートサービスを受けることができるプログラム4) 最後に谷川氏は、「今回の取り組みが患者さんと医療現場の双方にとって価値のあるものになることを目指している。次回2026年の診療報酬改定に向けて、医療DX推進の流れは強化されるだろう。日常診療により溶け込み、なくてはならないシステムとなるよう進化を続けたい」とも説明した。

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男女平等が進むと男性の肉の摂取頻度が増える?

 男女平等が進んでいる国では、男性の肉の摂取頻度が女性よりも増える傾向にあることが、新たな研究で明らかになった。この現象は、主に北米とヨーロッパの豊かな国で見られ、中国やインド、インドネシアのような、国土は広いが経済的に豊かではない国では見られなかったという。工場式畜産の撲滅を目指す非営利家畜保護団体のMercy for Animalsから資金提供を受けてチューリッヒ大学(スイス)心理学教授のChristopher Hopwood氏らが実施したこの研究の詳細は、「Scientific Reports」に6月13日掲載された。 Hopwood氏らは今回、長年の統計データをベースに研究に着手した。そのデータとは、「ほぼどの国でも、男性は女性よりもよく肉を食べる傾向がある」というものである。しかし、男女間の平等が進めば肉の摂取に見られる男女差も縮まるのだろうか? この答えを得るためにHopwood氏らは、2021年に北米、南米、ヨーロッパ、およびアジアの23カ国から2万802人が参加した調査データの分析を行った。調査では、参加者が自分のジェンダーと肉の摂取頻度を報告していた。 その結果、中国、インド、インドネシアを除くその他の国では、男性の肉の摂取頻度は女性よりも高いことが明らかになった。また、その国の平均所得水準が上がるにつれて、男女ともに、肉の摂取頻度が高くなることも示された。これらの結果についてHopwood氏らは、「肉は植物性食品に比べ、生産・購入コストが高いので、この結果は理にかなっている」と述べている。 しかし、驚くべきことに、男女間の肉の摂取頻度の差は、男女間の平等が縮まるにつれて広がることも示された。この理由について研究グループは、「より裕福で男女が平等な国では、男性が食事の選択をコントロールできる機会が増え、その結果、肉を選ぶことが増えているのではないか」との考えを示している。そして、この傾向について、「先進国では、経済力の豊かさから男性が肉を選ぶ機会が増え、それが男性での肉の消費量の増加につながっているのであり、女性の肉の消費量が少ないことが原因ではない可能性が高い」と述べている。研究グループはさらに、「男女間の平等が進んだ裕福な国の男女は、自分の好みに従って肉を多く食べたり、あるいは控え目に食べるようにしたりしている可能性がある」との見方も示している。 Hopwood氏らは、これらの新たな知見に基づき、肉の消費量を減らす努力は、ジェンダーや性自認を考慮し、「男性の肉の消費量削減に焦点を当てる」ことが望ましいとの考えを示している。

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超加工食品の利便性・時短性のとりこになる危険に警鐘を鳴らす!(大規模コホート研究)―(解説:島田俊夫氏)

超加工食品に関する論文の見解の流れ 超加工食品に関する報告によれば、総じて全死因死亡(全死亡)リスクを高めるとの結論で一致しています1,2)。ただし、これまでのところ心血管疾患に関しては、リスクを高めることは全面的に肯定されているわけではありません(当論文において有意差を認めていないが否定するものではありません)。 食事を楽しむことができないような忙しい生活の中で、利便性や時短性に優れた超加工食品が重宝される傾向はわからないわけではありませんが、超加工食品への極端な嗜好は健康長寿と相反しており、将来の健康に懸念を抱かざるを得ません。 最近、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のZhe Fang氏らが、30年超えの長期にわたる医療従事者対象の男女別の2コホート研究から超加工食品の問題点を取り上げました。食事評価を繰り返したデータを担保する大規模コホート研究に基づく、超加工食品の全死亡への影響を仔細に検討した論文がBMJ誌2024年5月8日号に掲載されました。大規模かつ長期間にわたり追跡されたコホートデータに基づく信頼性の高い論文は数少なく、本論文についてコメントします。本論文概要 本研究では、米国11州の女性正看護師コホートと同国50州の男性医療従事者コホート中、心血管疾患・糖尿病歴のない女性7万4,563例と男性3万9,501例(計:11万4,064例、男/女比:0.53)を対象として、超加工食品摂取(4年ごとに実施された食物摂取頻度調査を使用)と死亡の関係を中心に調査・検討した。主要アウトカム:全死亡、副次アウトカム:がん、心血管死、その他による死亡として、多変量Cox比例ハザードモデルを用い超加工食品摂取量との関連を分析した。超加工食品の最低四分位数群vs.最高四分位数群比較では、全死亡リスクは最高四分位数群で4%有意に高かった。がん、心血管疾患に関しては、有意差はなかった。その他の死亡に関しては9%有意に高かった。 超加工食品サブグループ別解析では、肉/鶏肉/魚介類ベースの調理済みインスタント食品(加工肉)が全死亡と最も強い関連(HR:1.13、95%CI:1.10~1.16、傾向のp<0.001)を示し、砂糖または人工甘味料入り飲料(1.09、1.07~1.12)、乳製品ベースのデザート(1.07、1.04~1.10)、超加工パン・朝食用食品(1.04、1.02~1.07)(ただし、全粒穀物を除く)も、全死亡リスクの増加に関連していた。コメント 超加工食品は利便性と時短性から多忙な生活の中では重宝され、多くの人に愛され、利用されていると考えると恐ろしい気持ちがします。食事による健康被害が超加工食品により起こっていることが多数報告されており、その評価の信ぴょう性も高まっています。食物は自然の状態に近い形(whole food)で食べるのが健康的であると考えるのがごく自然です。健康を犠牲にする可能性が高い超加工食品の持つ利便・時短といった魅力のとりこになるのはきわめて危険です。ただちにやれることは、超加工食品の魅力のとりこになることを回避する理解・努力が必要だと考えます。命を削って利便性や時短性の犠牲になるのを回避する努力がいかに大事か、自問自答してください。この論文は超加工食品の利便性・時短性の背後に潜む健康被害に警鐘を鳴らす論文として素直に受け止めましょう。

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第218回 2040年に向けさまざまな改革が本格始動、「骨太の方針2024」から見えてくる医療提供体制の近未来像

日本医師会会長選、松本氏大勝で2期目に突入こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。任期満了に伴う日本医師会の会長選は6月22日に投開票が行われ、現職の松本 吉郎氏が元副会長の松原 謙二氏を破り、再選を果たしました。投票総数378票で、松本氏334票、松原氏38票という、前回を上回る圧勝でした。エムスリーなどの報道によれば、選挙後に都内で開いた報告会で松本氏は、「財務省などから本当に強大な圧力がかかっており、多くの課題を抱えている。それに打ち勝つには、これまで以上に私ども役員がもっとしっかりと頑張って、先生方とも共闘して事に当たらなければ、本当に日本の医療が壊れてしまうと思う」と述べたとのことです。本連載の前回「第217回 迫る日医会長選、『もう日医の力は昔ほどではない』と元自民党医系議員、松本会長は再選後も“茨の道”か?」でも書いたように、財務省が提案してくるさまざまな政策に加え、秋にかけて激しさを増す政局にも翻弄される、まさに“茨の道”のスタートと言えそうです。2040年ころまでの医療政策の中心課題が盛り込まれた「骨太の方針2024」さて、今回は、6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太の方針2024)1)について書いてみたいと思います。今国会で成立した改正政治資金規制法を巡る与野党の激しい攻防の陰に隠れる形となり、例年に比べ、一般紙の報道は地味な印象でした。しかし、診療報酬・介護報酬の同時改定も終わり、新たな地域医療構想の検討も進む中、今回の「骨太」には、2040年頃までの医療政策の重点課題が盛り込まれています。ここでは医療提供体制関連の項目を中心に見てみたいと思います。かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及、連携推進法人は4年連続で記述「骨太の方針2024」において医療や社会保障関連の内容は、主に「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「主要分野ごとの基本方針と重要課題(1)全世代型社会保障の構築」に書かれています。医療提供体制については、「国民目線に立ったかかりつけ医機能が発揮される制度整備、地域医療連携推進法人・社会福祉連携推進法人の活用、救急医療体制の確保、持続可能なドクターヘリ運航の推進や、居住地によらず安全に分べんできる周産期医療の確保、都道府県のガバナンスの強化を図る。地域医療構想について、2025年に向けて国がアウトリーチの伴走支援に取り組む」と、かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及。本連載の「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」でも予想したように、地域医療連携推進法人については4年連続の記述となり、同制度に対する国の期待を改めて感じ取ることができます。2040年頃を見据えた新たな“地域医療構想”の概要を年末までに現在検討が進む次なる地域医療構想については、「2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病床機能の分化・連携に加えて、医療機関機能の明確化、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方等について、法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得る」と明記、2040年頃を次の目標年に置いて、かかりつけ医機能や医療・介護連携についても盛り込んだ新たな”地域医療構想”(仮称)の概要を2024年末までに決めるとしています。かかりつけ医機能が発揮される制度整備に加え、次なる地域医療構想も2024年中にその概要が固まるわけで、医療関係団体にとって、今年がとても重要な年となることがこうした記述からも見て取れます。医師の偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージも年末までに策定昨年の「骨太の方針」と比べた大きな変化は、医師の偏在解消対策についての記述が以下のような長文で入ったことでしょう(昨年は「実効性のある医師偏在対策」という文言のみ)。「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため、医師確保計画を深化させるとともに、医師養成過程での地域枠の活用、大学病院からの医師の派遣、総合的な診療能力を有する医師の育成、リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組、経済的インセンティブによる偏在是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など、総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する」。医師偏在については、本連載の「第208回 『地域ごとの医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代に入ってきた』と武見厚労大臣、地域偏在、診療科偏在の解消に向け抜本策の検討スタート」で、武見 敬三厚生労働大臣が、規制の導入も視野に入れて医師偏在解消の具体策をまとめる方針を示した、と書きましたが、その意気込みがそのままこの長文につながった感じです。「骨太」に書かれた対策は“ごった煮”感もありますが、とにかくあらゆる手立てを尽くして医師偏在を解消するということのようです。これもまた「2024年末までに策定する」となっているのもポイントです。なお、1点気になったのは、「経済的インセンティブによる偏在是正」の文言が入っていることです。こちらは、本連載の「第209回 これぞ財務省の執念?財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」で書いた、診療報酬への地域別単価導入と思われますが、財務省が(言葉を少し変えて)するりと潜り込ませたのでしょう。2024年末までにまとめられるという「総合的な対策のパッケージ」の内容に注目したいと思います。医療・介護DXについてはマイナ保険証を柱とする従来方針を改めて強調その他の医療関連の重要項目としては「DX」があります。「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現」の中の「3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応」の「(1)DX」で、医療・介護DXについて言及、「政府を挙げて医療・介護DXを確実かつ着実に推進する。このため、マイナ保険証の利用の促進を図るとともに現行の健康保険証について2024年12月2日からの発行を終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する。『医療DXの推進に関する工程表』に基づき、『全国医療情報プラットフォーム』を構築するほか、電子カルテの導入や電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、PHRの整備・普及を強力に進める。調剤録等の薬局情報のDX・標準化の検討を進める」と、マイナ保険証をベースとして、全国医療情報プラットフォームを構築するという従来方針を改めて強調しています。今年の「骨太の方針」は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという目標を盛り込みつつも、具体的な数値目標は設けられておらず、踏み込みが甘いとの見方がもっぱらです。また、岸田 文雄首相は「骨太の方針」を閣議決定した直後の記者会見で、物価高対策として電気・ガス代の補助や年金世帯への給付金支給を表明、「政府の歳出改革は一貫性を欠く」(6月22日付日本経済新聞)との批判もあります。とは言え、医療提供体制に関する項目については、「かかりつけ医機能」「次期地域構想」「医師偏在対策」「医療介護DX」とそれぞれの整合性が取れており、近未来を俯瞰する上では参考になる内容となっています。時間があれば、ご一読をお勧めします。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2024/内閣府

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新たな男性用避妊ジェル、第2相試験で有望な結果

 新しいジェル状のホルモン剤が男性用の避妊法として有望な可能性を示した第2相試験の結果が報告された。2種類のホルモン剤を組み合わせたこの避妊ジェルは、ホルモン剤をベースにした他の実験的な男性用避妊薬よりも短期間で精子の生産を抑制することが示されたという。米国立衛生研究所(NIH)の避妊薬開発プログラム主任であるDiana Blithe氏らによるこの研究は、米国内分泌学会(ENDO 2024、6月1〜4日、米ボストン)で発表された。Blithe氏は、「男性にとって、安全で効果が高く、可逆的であることが確実な避妊法の開発は、アンメットニーズである」と述べている。 この試験では、222人の男性がこの新しい避妊ジェル5mLを1日1回、3週間以上にわたって両肩甲骨に塗布した。このジェルは、プロゲスチン(合成黄体ホルモン)の一種であるセゲステロン酢酸エステル8mgと、男性ホルモンのテストステロン74mgを含有する。セゲステロン酢酸エステルは、避妊リングのAnnoveraの成分である。研究グループは、4週間ごとに検査で精子濃度を調べ、精子生産の抑制を評価した。避妊効果があると見なされる精子濃度の閾値は100万個/mL以下であるという。 その結果、86%の男性が、ジェルの使用開始から15週目までに避妊効果のある精子濃度を達成したことが明らかになった。この濃度を達成するまでの期間中央値は8週間であり、研究グループの予想よりも早かったという。Blithe氏は、注射による男性ホルモン避妊薬に関する先行研究では、精子の生産が抑制されるまでの期間中央値は9週間から15週間だったと説明している。 以上の結果を踏まえてBlithe氏は、「精子生産抑制までの期間が短くなれば、潜在的なユーザーがこの避妊薬に対して抱く魅力が増し、受容性も高まるかもしれない」と述べている。 Blithe氏は、「いくつかのホルモン剤が男性の避妊に有効であることは示されているが、精子生産抑制の開始が遅いことが問題だった」と指摘し、本研究で用いたジェルには2種類のホルモン剤が配合されているため、効果がより速く現れ、必要なテストステロンの量も少なくて済むと説明している。同氏によると、この避妊ジェルを毎日使用しても、血中のテストステロン濃度は生理的範囲内に保たれ、性機能やその他のアンドロゲン依存の活動は正常なままで維持されるという。 Blithe氏らは今後も研究を続け、この避妊ジェルの有効性と安全性、受容性、治療中止後の生殖能力の回復についての調査を進める予定であると話している。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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昔と変わったメーカーや卸とのお付き合い【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第133回

薬局で関わる人といえば、医療機関のスタッフさんや患者さん、医薬品卸さんや製薬メーカーのMRさんなどがいますよね。医療機関のスタッフさんや患者さんは、薬局にとってはお客さんでもあるので、大事に丁寧に対応する薬局が多いと思いますが、卸さんや製薬メーカーのMRさんへの対応というのが、薬局の本性が出るというか、社会人としての対応が試される場面ではないかと思います。その卸さんや製薬会社との関係や対応について、昨今変化が生じています。今回は、直近で話題になった2件を紹介します。まず、「1社流通」についてです。製薬企業による取引卸の絞り込みや1社流通をめぐり、新たな「流通改善ガイドライン」で丁寧な情報提供の必要性が盛り込まれたのちも、現場の不満は止まらない状況だ。日本病院薬剤師会が15日に都内で開いた通常総会では、そもそも取引卸を限定することが医療機関へ十分に伝わっていないうえ、製品ごとの取扱卸が「わかりにくい」と訴える声が噴出。どこに注文すればいいかウェブで検索できるよう、メーカーが取扱卸の情報を「自社サイトですみやかに公表してほしい」と求める意見が出た。(2024年6月17日付 RISFAX)2019年ごろから、外資の製薬メーカーを中心に、製薬メーカー主導による卸の絞り込みが始まっています。実際にその影響を受けている薬局や医療機関もあるでしょう。薬局としては、リスクヘッジになったり価格交渉の手段になったりするので、複数の卸さんから購入できたほうがよいに決まっています。このような状況を受け、厚生労働省は2024年3月に流通改善ガイドラインを改訂しました。1社流通を禁止するとはなりませんでしたが、「1社流通を行うメーカーは、自らまたは卸と協力して医療機関や薬局に対して丁寧に情報提供を行うこと」と注意を呼びかけました。しかしながら、昨今の医薬品供給不安も重なり、医療機関や薬局からは「わかりにくい」「調べるのに時間がかかっている」などと不満の声が上がっています。どの卸からでも買えるという状況は、メーカー側にとっては負担があるため、1社流通がなくなるとは思えませんが、情報提供体制の整備などはぜひ進めてほしいなと思います。次に、公正競争規約(公競規)違反についてです。医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(卸公取協)より、2023年度に2件の違反があったことが発表されました(2024年6月3日付 日刊薬業より)。卸社長が知人の医療従事者を利害関係者として認識できずにコンサートチケットの無償提供を行った。卸のMSが、無償で医療機関に対し開業支援や勉強会などのコンサルティング業務に当たった。この2つの事例は、6段階ある措置のうち最も軽い「注意」とされ、協議会が当該企業に注意が行われました。また、この他にも、薬局などが医薬品の返品時に備え、どの卸から購入した製品かを分別する「シール貼り」をMSにやらせたという報告、お中元やお歳暮の買い出しの手伝い、輸液などの棚上げなどについて、MSやMRに依頼したという報告も上がっているようです。これらは依頼された側が断ったことで措置を講ずるまでには至りませんでした。いわゆる、薬局と卸さんとの関係、薬局と製薬メーカーとの関係において、無理な取引やお願いを強いていることなどはありませんか? 薬局での対応は、実はいろんな人に見られていて、公競規違反として罰せられることがありますので注意が必要です。

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悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

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医師が年収アップのために行っていることは?/医師1,000人アンケート

 ケアネットでは、2月20日(火)に会員医師1,004人を対象に、「年収に関するアンケート」を実施した。その中で、自身のワークライフバランスの希望や、年収を増やすために行ったこと/行っていることについて尋ねた。 調査では、年収とワークライフバランスの希望について、(1)勤務時間は大きく増えてもよいので、年収を大きく増やしたい、(2)勤務時間は少し増えてもよいので、年収を少し増やしたい、(3)年収は少し減ってもよいので、勤務時間を少し減らしたい、(4)年収は大きく減ってもよいので、勤務時間を大きく減らしたい、の4つから最も近いものを選んでもらった(以下、それぞれ「勤務時間大きく増/年収大きく増」、「勤務時間やや増/年収やや増」、「勤務時間やや減/年収やや減」、「勤務時間大きく減/年収大きく減」)。年収を増やすために行ったこと/行っていることはフリーコメントで記載してもらった。年収3,000万円以上はさらに大きく年収アップを希望 全体では、「勤務時間大きく増/年収大きく増」が11%、「勤務時間やや増/年収やや増」が47%、「勤務時間やや減/年収やや減」が38%、「勤務時間大きく減/年収大きく減」が3%で、約60%の医師が年収アップを優先していた。「勤務時間大きく増/年収大きく増」を最も多く希望していたのは、最高年収帯であった年収3,000万円以上の医師(20%)であった。年代別では、年代が上がるほど勤務時間の減少を希望していた。「勤務時間大きく増/年収大きく増」は男性で顕著 男女別にみると、男性では「勤務時間大きく増/年収大きく増」が12%、「勤務時間やや増/年収やや増」が48%、「勤務時間やや減/年収やや減」が36%、「勤務時間大きく減/年収大きく減」が4%であった一方、女性ではそれぞれ5%、43%、49%、3%であり、男女差が明確になった。男性のほうが「勤務時間大きく増/年収大きく増」を望む傾向は、どの年代でも同様であった。「勤務時間大きく増/年収大きく増」を最も希望するのは総合診療科 病床数別では、「勤務時間大きく増/年収大きく増」および「勤務時間やや増/年収やや増」と回答したのは、20床未満が51%、20床以上が61%であった。勤務先別では、一般診療所が55%、一般病院が57%、大学病院が73%であった。「勤務時間大きく増/年収大きく増」と回答した割合が多かった診療科は、総合診療科(36%)、呼吸器外科(25%)、耳鼻咽喉科(24%)であった。年収を増やすために行ったこと/行っていることは? 最後に、これまで年収アップのために行ったこと/行っていることをフリーコメントで回答してもらった。残業やアルバイトが圧倒的に多かったが、長期的な年収アップを目指して資格取得や留学、技術習得に励むなど、多岐にわたる回答が寄せられた。また、人脈を広げたり、外勤先のスタッフ/職員との関係を良好に保ったりするなど、人間関係の重要性も伺えた。 その他、年代ごとの男女別、病床数別、勤務先別などの詳細な年収分布については、以下のページで結果を発表している。医師の年収に関するアンケート2024【第5回】ワークライフバランス

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米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)※は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。全166ページの報告書となっている。本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。 本定義によると、「Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する」としている。 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。主な症状は以下のように記載されている。・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。 報告書によると、新たなLong COVIDの定義は、臨床ケアと診断、医療サービス、保険適用、障害給付、学校や職場の宿泊施設の適格性、公衆衛生、社会サービス、政策立案、疫学とサーベイランス、民間および公的研究、とくに患者とその家族や介護者に対する一般の認識と教育など、多くの目的に適用できるという。※NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

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第199回 帯状疱疹ワクチン、接種費用を公費補助で定期接種へ/厚労省

<先週の動き>1.帯状疱疹ワクチン、接種費用を公費補助で定期接種へ/厚労省2.マイナ保険証利用促進のため、一時金を20万円から40万円に倍増/厚労省3.骨太方針2024、医師偏在解消へ具体策を年内策定へ/内閣府4.電子処方箋の導入促進に向けて新たな支援策を提案/厚労省5.佐世保市の救急病院が負債11億7,000万円で破産/長崎県6.教員採用や推薦入試にも寄付金が影響か/東京女子医大1.帯状疱疹ワクチン、接種費用を公費補助で定期接種へ/厚労省厚生労働省は、6月20日に開かれた厚生科学審議会のワクチン評価に関する小委員会で、帯状疱疹ワクチンを定期接種に含め、接種費用を公費で補助する方針を決定した。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)ウイルスが加齢や免疫力の低下により再活性化して発症する皮膚疾患で、50歳以上の患者に多くみられる。症状には痛みを伴う水ぶくれが含まれ、長引く神経痛などの合併症を引き起こす可能性がある。現在、帯状疱疹の予防には生ワクチンや不活化ワクチンが用いられているが、これらは任意接種であり、費用は生ワクチンが約1万円、不活化ワクチンが約4万4,000円と高額で、普及の妨げとなっていた。厚生労働省の専門家会議では、生ワクチンと不活化ワクチンの有効性と安全性が確認され、費用対効果も期待できると評価、これを受け、ワクチンを定期接種に含めることが了承された。今後、接種の対象年齢や具体的な運用方法について専門家会議で議論が行われ、正式に決定される予定。参考1)第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン、定期接種化に異論なし 厚労省小委(MEDIFAX)3)帯状ほう疹のワクチン 接種費用を公費補助の定期接種へ 厚労省(NHK)2.マイナ保険証利用促進のため、一時金を20万円から40万円に倍増/厚労省厚生労働省は、6月21日に社会保障審議会医療保険部会を開き、マイナ保険証の利用促進などについて議論を行った。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の5月時点での利用率は7.73%にとどまっているため、さらに利用の促進を図るため、医療機関や薬局に支給する一時金の上限を倍増し、最大40万円に引き上げる方針を発表した。これにより病院には最大40万円、診療所や薬局には最大20万円が支給される。一時金の支給条件としては、マイナ保険証の利用を促すポスターの掲示や患者への声掛け、チラシの配布が必須となっている。具体的には、2023年10月時点の利用実績と比較して、5~7月のいずれかの月で利用人数が増加した場合に支給される。また、小規模な医療機関や薬局にも対応した区分が設けられており、規模に応じた支援が行われる。マイナ保険証の利用率は過去最高の7.73%に達したものの、依然として低迷しており、とくに富山県(12.52%)や石川県(12.17%)など一部地域で高い利用率がみられる一方、沖縄県(3.42%)や和歌山県(5.02%)などでは低い利用率が続いている。日本医師会からは、一時金の支給を目的に利用率を上げることへの懸念が示され、日本経済団体連合会も利用が少ない医療機関への対策の必要性を指摘している。厚労省では、今後も利用促進策を強化し、マイナ保険証の普及を目指していく。参考1)第179回社会保障審議会医療保険部会 資料(厚労省)2)マイナ保険証利用促進、医療機関への一時金最大20万円→40万円に(朝日新聞)3)マイナ保険証促進で一時金を倍増、最大40万円に 厚労省(CB news)3.骨太方針2024、医師偏在解消へ具体策を年内策定へ/内閣府政府は、2024年の経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針」を6月21日に閣議決定した。「骨太方針2024」には、医師の地域間・診療科間の偏在を解消するための包括的な対策が盛り込まれている。厚生労働省は、地方で働く医師の養成を目的とした大学医学部の地域枠の活用や診療科を問わず対応できる総合診療医の育成を推進する方針。これにより、医療過疎地での医療提供体制の強化を図ることを目指している。厚労省は、地方勤務経験を条件とする病院院長の要件を大幅に拡大することも検討している。現行制度では、地域医療支援病院の院長は地方勤務経験が必要だが、これを全国約700施設から1,500施設以上に拡大することが計画されている。この拡大により、地域医療に精通した病院経営者が増え、周辺医療機関との連携が強化される見込みである。厚労省は、この新たな要件を2020年度から導入し、地域医療に貢献した医師が認定される仕組みを整えた。これにより、多くの医師が地域医療の経験を積み、地方での医療提供に寄与することが期待されている。また、地域医療の充実には経済的インセンティブも重要である。特定地域での診療報酬の引き上げや地域医療に貢献する医師に対する補助金の導入が検討されている。この取り組みにより、医師が地方での勤務を選択する動機付けが強化される。さらに、厚労省は都道府県に対し、医療機関ごとの必要医師数を把握する義務を課す制度を検討している。この制度が実現すれば、医師の需給バランスを適切に管理し、地域医療のニーズに応じた効果的な医師配置が可能となる。その他、2024年末までに総合的な医師偏在対策パッケージが策定される予定である。このパッケージには、地域枠の拡大、総合診療医の育成、経済的インセンティブの提供、地方勤務経験のある院長の要件拡大など、多岐にわたる施策が含まれる。日本医師会もこの動きを歓迎しつつ、地域の実情に応じた細やかな支援と、医師が働きやすい環境の整備が重要であると指摘している。また、財務省が提案する診療報酬の地域差設定には慎重な姿勢を示している。医師の地域偏在を解消するためには、インセンティブを中心としたアプローチが必要であり、ディスインセンティブは避けるべきだとの立場である。政府の骨太方針2024は、医師偏在の是正に向けた重要な一歩を踏み出すものであり、これにより、全国各地で質の高い医療が提供されることが期待される。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2024(内閣府)2)政府、医師偏り是正へ総合対策 骨太方針、21日に決定へ(共同通信)3)「歳出改革の努力」27年度まで継続、骨太方針 政府が閣議決定、経済・物価動向にも配慮(CB news)4)骨太の方針2024(原案)について(日医オンライン)5)院長条件に「地方経験」拡大 対象の病院2倍以上に厚労省、医師偏在の解消狙う 地域医療知る経営者増へ(日経新聞)4.電子処方箋の導入促進に向けて新たな支援策を提案/厚労省厚生労働省は6月19日、健康・医療・介護情報利活用検討会の「電子処方箋等検討ワーキンググループ」において、電子処方箋の導入促進とチェック機能の拡充に向けた新たな提案を行った。電子処方箋は、2023年1月から運用が開始されたが、導入が進んでいないのが現状。2024年6月時点で全国の医療機関や薬局での導入率はわずか9.3%で、とくに病院での導入は低迷している。岸田 文雄首相は、前日18日のデジタル行財政改革会議で、電子処方箋とリフィル処方の普及を強調し、医療DXプロジェクトのKPI設定と進捗モニタリングを指示した。厚労省は電子処方箋のチェック機能を拡充し、薬剤の併用注意を対象に含めることを提案。併用注意のチェックは重複投薬などと同様に行い、チェック結果を医療機関に返却することを想定している。また、2025年度を目標に、電子カルテ情報共有サービスを通じて薬剤アレルギー情報などをチェックする機能に追加する計画。日本医師会の長島 公之理事は、「電子処方箋導入を希望する医療機関や薬局が円滑に導入できる環境整備が国の責務である」と強調し、システムベンダーへの支援を求めた。さらに、厚労省は電子処方箋の導入補助金の拡充や、都道府県別・病院、診療所、薬局別の導入状況の公表を進め、地域一体での普及を図る方針。とくに導入が低調な都道府県には、関係団体や中核的な医療機関への働きかけを強化する。電子処方箋の利便性向上に向けて、患者が「かかりつけ薬局」を設定し、電子処方箋が自動的に送付される仕組みの実現も検討されている。これにより、患者の待ち時間の短縮が期待されるが、大手薬局チェーンによる抱え込み防止も必要になる。その他、電子処方箋に蓄積されるデータの利活用についても議論されており、感染症流行状況の分析や医薬品流通量の把握などに役立てることが検討されている。厚労省は、こうした取り組みを通じて、電子処方箋の普及と機能改善を進め、医療の質向上と効率化を目指すとしている。参考1)厚生労働分野におけるデジタル行財政改革(厚労省)2)第5回電子処方箋等検討ワーキンググループ資料(厚労省)3)電子処方箋、チェック機能拡充など提案 厚労省(CB news)4)岸田首相「電子処方箋の導入促進、リフィル処方の普及を実行」 KPI設定と進捗モニタリング・改善を(ミクスオンライン)5)電子処方箋、併用注意や院内処方、長期収載品の選定療養への対応など進めるが、「医療機関等への普及促進」が大前提-電子処方箋ワーキング(Gem Med)5.佐世保市の救急病院が負債11億7,000万円で破産/長崎県長崎県佐世保市の医療法人「篤信会」が運営する杏林病院が20日、長崎地裁佐世保支部に破産手続きを申請した。負債総額は約11億7,000万円で、外来患者や入院患者の減少により、資金繰りが悪化したことが原因。杏林病院は1974年に開業し、地域医療の一翼を担ってきたが、今後は約90人の入院患者を他の医療機関に転院させる手続きが進められる。同病院は市内の救急告示病院の1つであり、夜間や休日に患者を受け入れる2次救急輪番病院としても機能していた。そのため、地域医療に与える影響は大きく、佐世保市の保健所長も「地域にとっては非常に大きな影響」と述べ、救急患者の受け入れ態勢の再構築が急務となっている。佐世保市医師会は、スムーズな入院患者の転院が行えるように各病院の受け入れ態勢を調整しており、市民の医療への不安を解消するために努力している。同法人は、1974年に個人経営病院としてスタートし、1982年に杏林病院に改称、2017年には医療法人化したが、経営難により破産に至った。近年、全国で医療機関の破産が増加しており、帝国データバンクによれば2023年度には55件の医療機関が破産している。県内でも昨年、長崎市内の病院が破産しており、地域医療の継続に向けた課題が浮き彫りとなっている。参考1)「180のベッドがこつ然と無くなった…」 地域医療を担った病院の破産に波紋広がる(テレビ長崎)2)杏林病院が破産申請 佐世保市の救急告示病院…入院患者の転院進める(長崎新聞)3)長崎県佐世保市の杏林病院「篤信会」が破産手続き…1974年開業、負債11億7,000万円(読売新聞)6.教員採用や推薦入試にも寄付金が影響か/東京女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)が、推薦入試および教員の採用・昇格において同窓会組織「至誠会」への寄付金を評価対象としていたことが明らかになり、文部科学省は同大学に詳細な報告を求めている。推薦入試では、卒業生や在校生の親族から寄付金を受け取る仕組みがあり、2018~2022年の間に少なくとも3,400万円の寄付金が集まっていた。寄付金は受験生の合格率を左右する「貢献度」として点数化されており、最終的に推薦を受けた生徒の約95%が合格していた。また、教員の採用や昇格においても、寄付金が評価基準に含まれていたことが判明した。至誠会の活動状況報告書には、寄付金や研修会への出席状況が記載され、それらがポイント制で評価されていた。同大学の広報は「至誠会の活動は公益的であり、寄付は社会貢献とみなしていた」と説明し、寄付を強要した事実はないと主張しているが、文科省は運用実態の調査を指示した。一方で、至誠会の幹部からは「金品が絡む対応は倫理的に問題がある」との声が上がっている。さらに、同大学をめぐる不正給与疑惑も浮上し、至誠会元代表理事である岩本 絹子氏の自宅が警視庁により家宅捜索されている。この一連の問題を受け、文科省は私立大学における入試や人事に関する寄付金の収受を禁止する通知を再確認し、同大に対して詳細な調査と報告を求めている。文科省の担当者は「社会の理解を得るためには業績での評価が必要」と述べ、大学側の対応に厳しい目を向けている。今回の問題は、大学の運営や教育機関としての信頼性に大きな影響を及ぼす可能性があり、今後の動向が注目される。参考1)東京女子医科大、推薦入試で受験生の親族から寄付金受ける…文科省が報告求める(読売新聞)2)東京女子医大が卒業生の教員採用で寄付額評価 同窓会組織「至誠会」に 文科省報告求める(産経新聞)3)学内人事、寄付が評価に 教員採用や昇格 東京女子医大 文科省、報告求める(朝日新聞)

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米国てんかんセンター協会がガイドライン改訂

 米国てんかんセンター協会(National Association of Epilepsy Centers;NAEC)はこのほど、てんかんセンターが提供する医療に関するガイドラインを改訂。米ホフストラ大学ザッカー医学部のFred A. Lado氏らが作成したガイドラインの要約版が、「Neurology」に2月2日掲載された。 NAECは米国内の260以上のてんかんセンターが加盟している非営利団体で、1990年に初のガイドラインを発行。初版発行以降、約10年サイクルで改訂を重ねてきており、前回の改訂は2010年だった。今回の改訂に際してはPubMedとEmbaseを用いたシステマティックレビューが行われ、重複削除後の5,937報から197報を抽出。医師、患者、介護者、看護師、検査技師などさまざまなバックグランドを持つ41人から成る委員会が、それらの報告に基づき推奨の草案を作成。その後、修正デルファイ法によって最終的な合意を得るという手法により、信頼できるコンセンサスベースの推奨(trustworthy consensus-based statements;TCBS)として52項目がまとめられた。 52項目の推奨事項は、診断、外来、入院および脳波モニタリングユニット(epilepsy monitoring unit;EMU)、手術に大別され、外来については、診療、薬物管理、患者教育、食事療法、リハビリテーション、心理社会的支援などに細分化されている。推奨事項のいくつかを具体的に挙げると、例えば診断の項目では、全てのてんかんセンターは遺伝子検査が有用と思われる患者を選別するための確立されたプロトコールを持つべきであり、認定カウンセラーによる遺伝カウンセリングを提供する必要があるとしている。また外来での心理社会的支援としては、てんかん患者に生じ得る教育的、社会的、感情的、職業的な障害を把握し対処するために、全てのてんかんセンターには臨床ソーシャルワーカーを配置すべきとの項目が掲げられている。 今回のガイドライン改訂の背景について、筆頭著者であるLado氏は、「医学が進歩していることに加え、近年では発作の管理にとどまらず、患者の総合的な健康や幸福について介入が求められるように環境が変化してきた。不安症やうつ病などの併存疾患のケア、患者-ケアチーム間のコミュニケーションの強化なども、今では欠くことができない。てんかんセンターやその他の医療機関が、質の高い包括的ケアを提供する上で必要なリソースを確保するためにも、ガイドラインの拡充が切に必要とされていた」と語っている。 なお、2人の著者が製薬企業および医療テクノロジー関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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再発難治性多発性骨髄腫、belantamab mafodotin上乗せの有用性/NEJM

 レナリドミド治療歴のある再発または難治性の多発性骨髄腫患者において、belantamab mafodotin+ポマリドミド+デキサメタゾン(BPd)併用療法はポマリドミド+ボルテゾミブ+デキサメタゾン(PVd)併用療法と比較し、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善と、より深く持続的な奏効が得られることが示された。眼関連有害事象の発現率は高かったが、belantamab mafodotinの用量変更によって管理可能であった。ギリシャ・アテネ大学のMeletios Athanasios Dimopoulos氏らDREAMM-8 Investigatorsが、18ヵ国95施設で実施された無作為化非盲検第III相試験「DREAMM-8試験」の結果を報告した。プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体を組み合わせた3剤または4剤併用療法により、未治療多発性骨髄腫患者の生存期間は延長したが、初回治療におけるレナリドミドの使用により初回再発時にレナリドミド耐性患者が増加していた。NEJM誌オンライン版2024年6月2日号掲載の報告。主要評価項目はPFS 研究グループは、レナリドミドを含む少なくとも1種類以上の治療歴があり、直近の治療中または治療後に病勢進行が確認された再発または難治性の多発性骨髄腫患者を、BPd併用療法群およびPVd併用療法群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 BPd併用療法群では28日間を1サイクルとしてポマリドミドおよびデキサメタゾンとの併用で、belantamab mafodotinをサイクル1のDay1に2.5mg/kgを、サイクル2以降は各サイクルのDay1に1.9 mg/kgを静脈内投与した。PVd併用療法群では21日間を1サイクルとしてポマリドミドおよびデキサメタゾンとの併用で、ボルテゾミブ1.3mg/m2をサイクル1~8はDay1、Day4、Day8、Day11に、サイクル9以降はDay1およびDay8に皮下投与した。 主要評価項目はPFSで、無作為化した日からInternational Myeloma Working Group 2016に基づく独立評価委員会による評価で、最初に病勢の進行が確認された日または全死因死亡までの期間と定義した。重要な副次評価項目は全生存期間(OS)、微小残存病変(MRD)陰性率、奏効期間、その他の副次評価項目は患者報告の健康関連QOL、安全性などであった。12ヵ月PFS推定率BPd併用療法群71% vs.PVd併用療法群51% 2020年10月~2022年12月に302例が無作為に割り付けられた(BPd併用療法群155例、PVd併用療法群147例)。 追跡期間中央値21.8ヵ月(範囲:<0.1~39.2)において、BPd併用療法群はPVd併用療法群と比較しPFSの有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.37~0.73、両側p<0.001)。PFS中央値はBPd併用療法群では未到達、PVd併用療法群では12.7ヵ月(95%CI:9.1~18.5)であり、12ヵ月PFS率推定値はBPd併用療法群71%(95%CI:63~78)、PVd併用療法群51%(42~60)であった。 OSのデータは未成熟であった。全奏効率(部分奏効[PR]以上)はBPd併用療法群77%(95%CI:70~84)、PVd併用療法群72%(64~79)であり、完全奏効(CR)以上はそれぞれ40%(95%CI:32~48)、16%(11~23)で認められた。CR以上の患者におけるMRD陰性化率はBPd併用療法群24%(95%CI:17~31)に対し、PVd併用療法群は5%(95%CI:2~10)であった。 Grade3以上の有害事象はBPd併用療法群94%、PVd併用療法群76%に発現した。眼関連有害事象の発現率はそれぞれ89%(Grade3/4は43%)、30%(同2%)であった。BPd併用療法群の眼関連有害事象はbelantamab mafodotinの用量変更により管理可能であったが、9%の患者が眼関連有害事象により治療を中止した。

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疫学的な頻度を意識する【国試のトリセツ】第45回

§4 実臨床リアリティ疫学的な頻度を意識するQuestion〈104A44〉48歳の男性。動悸、頭痛および発汗を主訴に来院した。1年前の健康診断で高血圧を指摘されたが、放置していた。身長168cm、体重69kg。体温36.8℃。脈拍88/分、整。血圧168/104mmHg。血液生化学所見Na142mEq/L、K4.5mEq/L、尿中アドレナリン102μg/日(基準1~23)。腹部単純CTで副腎部に4×6cmの腫瘤を認める。検査として有用なのはどれか。2つ選べ。(a)血清Ca測定(b)副腎静脈造影(c)フロセミド負荷試験(d)デキサメサゾン抑制試験(e)131I-MIBGシンチグラフィ

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塩分摂取のタイミングが悪いと熱中症のリスクが上昇

 塩分の摂取は熱中症の予防に重要である。しかし、日本の消防士を対象とした新たな研究の結果、不適切なタイミングで塩分を摂取することにより、熱中症のリスクが高まる可能性のあることが明らかとなった。これは福島県立医科大学衛生学・予防医学講座の各務竹康氏らによる研究の結果であり、「PLOS ONE」に1月2日掲載された。 地球温暖化や気候変動により、熱中症のリスクは高まりつつある。特に労働災害の対策は重要であり、厚生労働省は職場における熱中症予防対策を徹底するために毎年キャンペーンを実施しているが、熱中症による死亡者数は過去10年間、減少していない。塩分摂取は熱中症のリスクを下げることが報告されているが、塩分摂取のタイミングが及ぼす影響についてはこれまで明らかになっていない。 そこで著者らの研究グループは、福島県の消防署で24時間勤務を行う20歳以上の男性消防士28人(平均年齢31.0±7.7歳、平均BMI 25.0±3.1kg/m2)を対象として、塩分摂取のタイミングと熱中症の関連を検討する研究を行った。熱中症のリスクを高める高血圧や糖尿病の既往歴のある人は対象者から除外した。 対象者は2021年7月~9月の間に屋外訓練を行った。訓練中、水および市販の塩分タブレット(塩分量0.108g)を自由に摂取し、摂取量とタイミングを記録した。訓練前後に体重測定を行った。その他、質問紙にて、熱中症の自覚症状(手足の筋肉痛、筋けいれん、強い口渇、尿量減少、頭痛など)、睡眠、飲酒量などを評価した。 延べ訓練日数250日間に、熱中症症状は28件発生した。多く見られた症状の発生数は、1.5%以上の体重減少が10件、強い口喝が9件、めまいが8件、不快感が7件、頭痛が5件、手足の筋肉痛が2件だった。塩分摂取量の中央値(四分位範囲)は12.6(10.2~14.7)g/日だったが、塩分摂取量は熱中症症状の発生とは関連していなかった。 次に、塩分摂取のタイミングとの関連を分析した結果、塩分摂取なしと比較して、訓練前の塩分摂取(オッズ比5.893、95%信頼区間1.407~24.675)および訓練前+訓練中の塩分摂取(同22.889、4.276~122.516)は、熱中症症状の発生と有意に関連していることが明らかとなった。一方、訓練中のみの塩分摂取や、睡眠、飲酒、水分摂取については、熱中症症状との有意な関連は認められなかった。 以上の研究結果について著者らは、特殊な勤務シフトで日常的に重労働を行う消防士を対象としていることから、一般化には注意を要するとした上で、「塩分摂取の不適切なタイミングが熱中症のリスクを上昇させる可能性がある」と結論。塩分摂取の適切なタイミングや摂取量について、さらなる研究が必要だとしている。

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統合失調症に対する抗精神病薬の有効性および安全性の性差

 抗精神病薬は、精神疾患患者にとって中心的な治療薬であるが、有効性と安全性のバランスをとることが求められる。治療アウトカムを改善するためにも、抗精神病薬の有効性および安全性に影響を及ぼす個別の因子を理解することは重要である。オーストラリア・モナシュ大学のMegan Galbally氏らは、抗精神病薬に関連する有効性および忍容性における性差について、調査を行った。CNS Drugs誌オンライン版2024年5月7日号の報告。 大規模抗精神病薬比較試験であるClinical Antipsychotic Trials of Intervention Effectiveness(CATIE)の第IおよびIa相試験のデータを2次分析した。CATIE試験では、統合失調症患者を経口オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ziprasidone、ペルフェナジンによる治療にランダムに割り付け、二重盲検治療を行った。評価基準には、陽性陰性症状評価尺度(PANSS)、臨床全般印象度(CGI)、Calgary Depression Rating Scale、自己報告による副作用、服薬コンプライアンス、投与量、体重、さまざまな血液パラメータを含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は1,460例(女性:380例、男性:1,080例)であった。・治療反応、副作用、コンプライアンス、抗精神病薬の投与量は、男女間でほとんど差が認められなかった。・便秘(28% vs.16%)、口渇(50% vs.38%)、女性化乳房/乳汁漏出(11% vs.3%)、失禁/夜間頻尿(16% vs.8%)、自己報告による体重増加(37% vs.24%)は、女性において男性よりも有意に多く報告された(各々、p<0.001)。・リスペリドン治療群では、女性(61例)において男性(159例)よりもプロラクチンレベルの有意な上昇が認められた(p<0.001)。・臨床医の評価による測定値、体重増加、その他の臨床検査値は、全体として差が認められなかった。 著者らは「抗精神病薬の有効性および忍容性は、全体としての性差は限られていたが、リスペリドンについては、いくつかの特定の知見がみられた。抗精神病薬の試験において性差を評価することは、統合失調症患者に対する個別化治療だけでなく、有効性の向上や副作用の軽減にとっても重要である」としている。

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