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COVID-19疑い例の来院時、具体的手順は?

 日本国内で新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が増えつつあり、大きな懸念の一つとされているのが院内での感染の疑いが出ていることだ。中国国内でも14日までに1,716人の医療従事者が感染し、6人の死亡が報告されている。 2月7日に行われた日本感染症学会・日本環境感染学会主催の緊急セミナー(司会は日本感染症学会理事長 館田 一博氏、日本環境感染学会理事長 吉田 正樹氏)において、菅原 えりさ氏(東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科感染制御学 教授)が「感染対策の再確認」と題し発表を行った。 菅原氏は「感染対策は基本の徹底が重要。だが、状況が刻々と変わる中で現場に応じた柔軟な対応も必要となるだろう」と説明。接触感染予防・飛沫感染予防を中心に、場合によっては空気感染予防が必要となり、その標準予防策は手指衛生と咳エチケットになる、という基本を確認した後、「疑い患者が来院した場合」を想定したシミュレーションを提示し、重要な以下のポイントを伝えた。外来診察時・帰国者、接触者を中心とした疑い患者と一般患者は受付から動線を分け、その旨を入口のポスターでしっかり注意喚起する。中国語・韓国語・英語表記も必要。・受付で症状を訴えた患者には、すぐにマスクを着用させる。・外来診察は個室を確保。窓があって換気のできる部屋がよい。・近距離で対応する医療者はPPE(個人用防護具)着用。PPEは着脱が難しいので事前にトレーニングを。とくに脱ぐときの感染防止が重要。・検体採取時にはN95マスク・アイシールドを着用。・診察後はしっかりと換気を行う。入院時・個室を確保。陰圧管理はできればベスト。・気管内装管などエアロゾルが発生する場合は、医療者は空気感染の可能性も踏まえたフルPPEを着用。・ICU管理の場合は、相当の負荷がかかる医療者へのケア(シフト等)も必要。環境衛生管理・院内の消毒。WHO(世界保健機関)推奨は通常の環境消毒薬、CDC(米国疾病管理予防センター)推奨はCOVID-19に効果のある消毒薬、となっているが、現状では院内で通常使っている消毒薬でよいだろう。その他・勤務先が「特定感染症指定医療機関」「第一種感染症指定医療機関」「第二種感染症指定医療機関」に当てはまる場合は、それぞれの役割を確認する(厚労省の指定医療機関一覧)。・厚労省や医師会の情報から「患者届け出基準」の最新動向を確認する。・院内モニタリング体制を確認する。・医療従事者の健康チェック体制を見直す。・面会ルールを見直す。・高齢者施設等を行き来する医療者がいる場合は、立ち入りルールを見直す。 菅原氏が理事を務める日本環境感染学会では、オリンピック・パラリンピック前の輸入感染症対策教育を目的としたDVDを制作しており、動画の一部を公開している。「COVID-19を想定したものではないが、感染対策の基本は共通なのでこれも参考にしてほしい」と述べた。

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12年ぶりの新規キノロン系経口抗菌薬「ラスビック錠75mg」【下平博士のDIノート】第43回

12年ぶりの新規キノロン系経口抗菌薬「ラスビック錠75mg」今回は、「ラスクフロキサシン塩酸塩錠」(商品名:ラスビック錠75mg、製造販売元:杏林製薬)を紹介します。本剤は、呼吸器と耳鼻咽喉科領域の感染症治療に特化し、低い血中濃度ながらも、口腔レンサ球菌や嫌気性菌に対して良好な活性を示します。<効能・効果>本剤は、咽頭・喉頭炎、扁桃炎(扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍を含む)、急性気管支炎、肺炎、慢性呼吸器病変の2次感染、中耳炎、副鼻腔炎の適応で、2019年9月20日に承認され、2020年1月8日より発売されています。《適応菌種》本剤に感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、クレブシエラ属、エンテロバクター属、インフルエンザ菌、レジオネラ・ニューモフィラ、プレボテラ属、肺炎マイコプラズマ(マイコプラズマ・ニューモニエ)<用法・用量>通常、成人にはラスクフロキサシンとして1回75mgを1日1回経口投与します。<副作用>感染症患者を対象とした国内臨床試験における安全性評価対象の531例中62例(11.7%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、下痢、好酸球数増加各7例(1.3%)、ALT上昇5例(0.9%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、白血球減少症(0.2%)、間質性肺炎(0.2%)、ショック、アナフィラキシー、QT延長、心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、低血糖、偽膜性大腸炎、アキレス腱炎・腱断裂などの腱障害、肝機能障害、横紋筋融解症、痙攣、錯乱・せん妄などの精神症状、重症筋無力症の悪化、大動脈瘤、大動脈解離(いずれも頻度不明)が注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、細菌の増殖を抑えることで感染症を治療します。2.腹部、胸部、背部の痛み、空咳、息切れ、息苦しさなどが続く場合は、すぐに受診してください。3.冷汗が出る、寒気、動悸、手足の震え、疲れやすいなど、いつもと異なる症状がみられた場合は、すぐに医師または薬剤師にご連絡ください。<Shimo's eyes>12年ぶりに新しいキノロン系経口抗菌薬が登場しました。本剤は、肺炎球菌への抗菌活性と肺への組織移行を強化したレスピラトリーキノロンであり、適応症は呼吸器と耳鼻咽喉科領域に特化しています。誤嚥性肺炎の原因菌として知られている嫌気性菌のプレボテラ属にも適応を有しています。投与方法は1日1回1錠とシンプルで、腎機能低下患者に対する用量制限もありません。初期のニューキノロン系抗菌薬は、DNAジャイレース阻害作用が主でしたが、本剤はDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVを同程度阻害するデュアルインヒビターであり、これらは殺菌作用の強さと耐性変異の起こしにくさを併せ持つといわれています。既存のニューキノロン系抗菌薬と同様に、重大な副作用であるQT延長、心室頻拍、低血糖、偽膜性大腸炎、アキレス腱炎、痙攣などには注意が必要です。とくに、本剤は世界に先駆けてわが国で承認されていますので、市販後の安全性情報の収集に注力しましょう。参考1)PMDA ラスビック錠75mg

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神経疾患は自殺死のリスクを高めるか/JAMA

 1980~2016年のデンマークでは、神経疾患の診断を受けた集団は、これを受けていない集団に比べ、自殺率が統計学的に有意に高いものの、その絶対リスクの差は小さいことが、同国Mental Health Centre CopenhagenのAnnette Erlangsen氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年2月4日号に掲載された。神経学的障害は自殺と関連することが示されているが、広範な神経学的障害全体の自殺リスクの評価は十分に行われていないという。約730万人で、神経疾患の有無別の自殺死を評価 研究グループは、神経疾患を有する集団は他の集団に比べ、自殺による死亡のリスクが高いかを検証し、経時的な関連性を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(デンマーク・Psychiatric Research Foundationの助成による)。 1980~2016年に、デンマークに居住していた15歳以上の730万395人を対象とした。1977~2016年に、頭部外傷、脳卒中、てんかん、多発ニューロパチー、筋神経接合部疾患、パーキンソン病、多発性硬化症、中枢神経系感染症、髄膜炎、脳炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、認知症、知的障害、その他の脳疾患で受診した124万8,252例のデータを用いた。 主要アウトカムは、1980~2016年の期間に発生した自殺死とした。Poisson回帰を用い、社会人口学的因子、併存疾患、精神医学的診断、自傷行為で補正した発生率比(IRR)を推算した。ALSとハンチントン病で自殺死率が最も高い 1億6,193万5,233人年の期間に、730万人以上の集団(男性49.1%)で3万5,483人(追跡期間中央値:23.6年、IQR:10.0~37.0、平均年齢:51.9[SD 17.9]歳)が自殺死した。 自殺死の77.4%が男性で、14.7%(5,141人)が神経疾患の診断を受けていた。自殺死の割合は、神経疾患群が10万人年当たり44.0、非神経疾患群は10万人年当たり20.1で、補正後IRRは1.8(95%信頼区間[CI]:1.7~1.8)であり、神経疾患群で有意に高かった。診断からの期間によって、補正後IRRには違いがみられ、診断後1~3ヵ月が3.1(95%CI:2.7~3.6)と最も高く、10年以降は1.5(1.4~1.6)であった。 自殺死の補正後IRRが最も大きい疾患は、ALS(補正後IRR:4.9、95%CI:3.5~6.9)およびハンチントン病(4.9、3.1~7.7)であった。多発性硬化症の補正後IRRは2.2(1.9~2.6)、頭部外傷は1.7(1.6~1.7)、脳卒中は1.3(1.2~1.3)、てんかんは1.7(1.6~1.8)だった。 非神経疾患群と比較して、認知症(補正後IRR:0.8、95%CI:0.7~0.9)、アルツハイマー病(0.2、0.2~0.3)、知的障害(0.6、0.5~0.8)は、自殺死の補正後IRRが低かったが、認知症では診断から1ヵ月以内の補正後IRRは3.0(1.9~4.6)と高い値を示した。 また、神経疾患群では、神経疾患による受診回数が増えるに従って自殺率が上昇した(受診回数1回の補正後IRR:1.7[95%CI:1.6~1.7]、2~3回:1.8[1.7~1.9]、4回以上:2.1[1.9~2.2]、p<0.001)。 神経疾患群の自殺死は、1980~99年の10万人年当たり78.6から、2000~16年には10万人年当たり27.3に減少し、同様に非神経疾患群では26.3から12.7に低下した。 他の死因による競合リスクを考慮すると、アルツハイマー病を除く神経疾患群は非神経疾患群に比し、診断から1~3ヵ月に自殺死の累積発生率(絶対リスク)が増加していた。神経疾患群における30年間の自殺死の絶対リスクは0.64%(95%CI:0.62~0.66)であり、そのうちハンチントン病は1.62%(1.04~2.52)、筋神経接合部/筋疾患は1.19%(1.11~1.27)だった。 著者は、「ALSとハンチントン病の自殺死リスクが最も高いが、より頻度の高い疾患である頭部外傷や脳卒中、てんかんでも高い値を示した。認知症の診断直後のリスク増加は、引き続き注目に値する」としている。

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「COVID-19、世界は収束の方向だが日本の状況を不安視」WHO進藤氏

 2月14日の第35回日本環境感染学会総会・学術集会では、冒頭の会長講演に代わり、「新型コロナウイルス感染症の対策を考える」と題した緊急セミナーが開催された。この中で、WHO(世界保健機関)のメディカルオフィサーとして危険感染症対策に当たる進藤 奈邦子氏が、これまでのWHOの取り組みと世界からの最新情報、そして日本への期待について語った。 冒頭、進藤氏は「現在、WHOは新型コロナウイルス(COVID-19)根絶を目指したオペレーションを展開中だ。中国では既に新たな症例数が減りつつあり、その他の国からの報告例も減っている。その中で唯一、新たな症例数が増えているのが日本だ」と懸念を示した。 これまでの中国の対策については、「SARS・鳥インフルエンザ流行を経験し、対策を積み重ねてきた結果、現在の中国の呼吸器感染症対策は世界トップレベル。今回も情報提供の速さや科学者のオープンネスに信頼を寄せている」と評価した。さらに、武漢を中心とした中国の最新情報として、中国CDCのサイトのデータを参照し、「疑い例も確定診断例も減少の方向にある。武漢に入っている医師からも『新たな病院も完成し、状況をコントロールできつつある』という報告をもらっている」と述べた。続けてCOVID-19の死亡率について、「最新のモデリングを使った計算によると、臨床症状のある人を母数として1%、確定診断の人を母数として4%を切りつつある」、ウイルスの感染しやすさを示す基本再生産数(R0)について、「これまでに発表された論文を総覧するとおおむね2以上となっており、インフルエンザよりは高そうだ。排菌は発症から3、4日後がピークではないかと見ている」と説明した。 日本の状況について、「世界中が収束に向かう中で、新規の感染者が出続けていることを不安視している。とくにクルーズ船の問題は世界の関心を集めている。患者の人権を守り、拡大を食い止める医療を行うことは前提として、臨床とアカデミアが協力し、得られた貴重なデータを世界に報告してほしい」と述べた。最後に、会場を埋めた医療者に向け、「ここで日本が感染を食い止められなければWHOはCOVID-19根絶を諦めねばならない。日本は2009/10年の新型インフルエンザ流行に最もうまく対応した国。今回もできるはずと信じている。専門家の皆さんに期待している」と激励した。 WHOサイトでは、世界から集まったCOVID-19の症例情報等を集約して毎朝9時にレポートを更新、関連する論文データベースを構築するなど、COVID-19の関連情報をまとめ、発信している。

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アレキサンダー病〔Alexander disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義最初の報告は1949年にAlexanderが記載した精神遅滞、難治性痙攣、および水頭症を認めた生後15ヵ月の乳児剖検例である。この症例の病理学的特徴は、大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に認められた多数のフィブリノイド変性で、後にこれはローゼンタル線維と同一であることが判明した。以後約50年間にわたりアレキサンダー病は「病理学的にアストロサイト細胞質にローゼンタル線維を認める乳児期発症の予後不良の進行性大脳白質疾患」と認識されてきた。しかし、2001年にBrennerらによりローゼンタル線維の構成成分の1つであるグリア線維性酸性タンパク(GFAP)をコードする遺伝子GFAPが病因遺伝子として報告されて以降、乳児期発症例とは臨床像がまったく異なる成人期発症で緩徐進行性の経過を示す症例が相次いで報告された。現在ではアレキサンダー病は「乳児期から成人期まで幅広い年齢層で発症するGFAP遺伝子変異による一次性アストロサイト疾患で、病理学的にはアストロサイト細胞質のローゼンタル線維を特徴的所見とする」と定義される。■ 疫学新生児期から70歳以上の高齢者まで幅広い年齢層で発症がみられる。わが国の有病者率は270万人あたり1人と推定される。しかし、未診断の症例や他の神経変性疾患(パーキンソン症候群や脊髄小脳変性症など)と診断されている症例が、少なからず存在すると思われる。臨床病型別頻度は、延髄・脊髄優位型が約半数と最も多く、大脳優位型が1/4強、中間型が1/4弱である(臨床病型については後述の「症状・分類」を参照)。わが国での全国調査によると延髄・脊髄優位型の約65%で常染色体優性遺伝形式を示唆する家族内発症がみられるが、遺伝学的あるいは病理学的検査により確定診断された家系の報告は非常に少なく、浸透率も不明である。一方、大脳優位型はほぼ全例がde novo変異である。■ 病因GFAP遺伝子変異による機能獲得性機序が考えられているが、病態には変異GFAPの発現量増加が重要と考えられている。これは、(1)ヒト野生型GFAPを過剰発現させたトランスジェニックマウスにおいてGFAP発現量に比例した寿命の短縮とローゼンタル線維の出現を認める、(2)変異GFAP遺伝子を単一コピーのみ導入したモデルマウスは臨床表現型を十分に示さない、という動物モデルの知見に基づく。ヒトのアレキサンダー病においてはGFAP遺伝子のmultiplicationの報告はなく、変異GFAPの量的変化に影響を与える遺伝的および環境因子の存在が示唆される。変異GFAPによるアストロサイトの機能障害としてプロテアソーム系の機能低下、ストレス経路への影響、異常なカルシウムシグナル変化、炎症性サイトカインの増加、グルタミン酸トランスポーターの発現低下と機能異常などが報告されている。もう1つの病理学的特徴である脱髄については、モデルマウスの研究からK緩衝系の異常によるミエリン形成や維持の障害が推測されているが詳細な機序は不明である。■ 症状・分類発症年齢により乳児型(2歳未満の発症)、若年型(2~12歳未満の発症)および成人型(12歳以上の発症)に分類されるが、近年、神経症状および画像所見に基づいた病型分類が提唱されており、本稿ではこの新しい病型分類を記載する。1)大脳優位型(1型)主に乳幼児期発症で、機能予後不良の重症例が多い。痙攣、大頭症、精神運動発達遅延が主な症状である。痙攣は難治性とされるが、コントロール良好で学童期ごろには軽減する症例も散見される。大頭症は乳児期に目立つ。経過とともに痙性麻痺、構音障害、発声障害、嚥下障害などの延髄・脊髄症状が顕在化する。新生児期発症例では水頭症、頭蓋内圧亢進、難治性痙攣を来し、生命予後は不良である。2)延髄・脊髄優位型(2型)四肢筋力低下、痙性麻痺、四肢・体幹失調、構音障害、発声障害、嚥下障害、自律神経障害(起立性低血圧、膀胱直腸障害、睡眠時無呼吸)といった延髄・脊髄症状が、種々の組み合わせで認められる。筋力低下にはしばしば左右差が認められる。上記以外の症候として約20%に筋強剛、約15%に口蓋振戦を認める(自施設解析データ)。大頭症、精神運動発達遅延は通常認めない。前頭側頭型認知症に類似した認知症を呈する症例もある。一過性の「反復性嘔吐」が唯一の症状で、MRIにて両側延髄背側に結節状病変を示す小児の報告がある。3)中間型(3型)発症時期は幼児期から成人期まで幅広い。大脳優位型および延髄・脊髄優位型の両者の特徴を有する。大脳優位型の長期生存例、および精神運動発達遅延を伴う延髄脊髄優位型のパターンが含まれる。精神運動発達遅延については、初診時まで医療機関で評価されず、小学生時に学力低下により支援学級に編入したなどの経歴をもつ症例がある。また、熱性痙攣やてんかんの既往歴をもつ症例も少なからず存在する。複視や側彎などの脊柱異常を伴うことも多い。■ 予後大脳優位型の生命予後は約14年と報告されている。新生児期発症例は、生後数週~数ヵ月で死亡することが多い。難治性痙攣や栄養障害、感染症などのため学童期までに死亡する症例が多いが、一方で学童期までに痙攣などが消失するなど、大脳症状が安定化する症例も少なからず認められる。このような症例は、学童期以降に歩行障害や嚥下障害などの延髄・脊髄症状が緩徐に進行して中間型に移行する。延髄・脊髄優位型の生命予後は、約25年と大脳優位型と比較すると良好だが、無症候あるいは非常に軽微な異常にとどまる症例から運動麻痺・球症状・呼吸症状が急激に増悪する症例まで症例差が大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)頭部および脊髄MRI検査による特徴的な所見がアレキサンダー病を疑う手がかりとなる。確定診断は遺伝子検査および病理学的検査による。近年は、遺伝子検査にて確定診断が行われる傾向にあるが、新規変異や非典型例では慎重な判定が必要となる。■ MRI検査1)大脳優位型前頭部優位の広範な大脳白質異常が特徴的である。その他、脳室周囲の縁取り(T2強調画像で低信号、T1強調画像で高信号を示す)、基底核と視床の異常、脳幹の異常(特に中脳と延髄)、造影効果がみられうる。2)延髄・脊髄優位型延髄・頸髄の萎縮・異常信号が特徴的である。典型的には橋が保たれた延髄・上位頸髄の著明な萎縮が認められ、その形状はオタマジャクシ様の特徴的な所見を示す(tadpole appearance)。高齢者や軽症例では延髄・頸髄の萎縮が目立たないことがあるが、このような症例では延髄錐体の異常信号と延髄外側および最後野付近の萎縮を伴い、水平断にて延髄にメダマチョウの眼状紋様の所見がみられる(eye spot sign)。大脳・中脳・橋の錘体路の異常信号は通常認めない。10代前半から20歳代の若年例では延髄の結節・腫瘤様異常がみられることが多い。その他、小脳歯状核門の信号異常やFLAIR像にて中脳の縁取り(midbrain periventricular rim)も高率にみられる所見である。大脳MRIではT2強調画像にて“periventricular garland”と表現される側脳室壁に沿った花弁状の高信号が認められる。この病変は造影効果を示すこともあり、この部分にはローゼンタル線維が多いとされる。3)中間型大脳優位型と延髄脊髄優位型の両者の特徴をもつ型と定義した通り、比較的広範な大脳白質病変と延髄・頸髄の萎縮・異常信号を認める。成人症例では大脳白質病変は嚢胞化を伴う傾向があり、延髄・頸髄の萎縮は高度である。■ 遺伝子検査これまで100種類以上のGFAP遺伝子変異が報告されている。大多数がミスセンス変異であるが、インフレーム挿入/欠失変異、終止コドン近傍のフレームシフト変異およびスプライス変異の報告もある。CpGが関与するR79、R88、R239、R416が置換される変異は、人種を越えて認められる。前3者が置換される変異は、大脳優位型および中間型に認められ、R416が置換される変異はすべての型で報告されている。一方、延髄・脊髄優位型において頻度の高い変異は特に存在しない。■ 病理学的検査大脳白質、上衣下および軟膜下のアストロサイト細胞質内に特徴的なローゼンタル線維を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では対症療法にとどまる。痙攣に対する抗てんかん薬の投与、栄養管理、併発する感染症に対する抗菌薬の投与、学習障害や認知機能障害に対する療育・ケアが行われる。痙性麻痺に対して抗痙縮薬や抗てんかん薬の投与が使用されることがある。4 今後の展望変異GFAP発現抑制を治療標的としたアンチセンス核酸とドラッグリポジショニングに関する動物実験レベルの報告がある。アンチセンス核酸を投与したモデルマウスの報告では安全性、髄液中のGFAP蛋白量の劇的な減少、ローゼンタル線維の消失が確認されている。近年、核酸医薬の技術発展は目覚ましく、神経難病領域においても脊髄性筋萎縮症では実用化されている現状を鑑みると、本症に対する治療開発も期待される。一方、ドラッグリポジショニングの候補薬剤としてセフトリアキソン、クルクミン、リチウムが報告されているが、いずれも現時点では臨床応用には至っていない。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 「遺伝性白質疾患・知的障害をきたす疾患の診断・治療・研究システム構築」班 ホームページ(診断基準や典型的な画像所見なども掲載)難病情報センター アレキサンダー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Alexander WS. Brain. 1949;72:373-381.2)Brenner M, et al. Nat Genet. 2001;27:117-120.3)Yoshida T, et al. J Neurol. 2011;258:1998-2008.4)Prust M, et al. Neurology. 2011;77:1287-1294.5)Messing A, et al. Am J Pathol. 1998;152:391-398.6)Hagemann TL, et al. Ann Neurol. 2018;83:27-39.公開履歴初回2020年02月17日

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ASCO- GI 2020レポート 消化器がん

インデックスページへ戻るレポーター紹介今回、2020年1月23日~25日に米国・サンフランシスコにおいて開催されたASCO GI 2020に参加し、すでに現地速報という形で注目演題を報告させていただいているが、音声などが乱れたこともあり、補足とともにそこで取り上げることができなかった演題を報告させていただきます。DAY1 Cancers of the Esophagus and StomachOral SessionRESONANCE試験:The Randomized, Multicenter, Controlled Evaluation of S-1 and Oxaliplatin (SOX) as Neoadjuvant Chemotherapy for Chinese Advanced Gastric Cancer Patients.(abstract #280)Chen L, et al.中国から発表された局所進行胃がんに対する術前S-1/オキサリプラチン併用療法(SOX)の有効性に関する無作為化第III相試験である。本試験はStageII/IIIの切除可能胃がんおよび接合部がんを対象とし、手術+術後SOX療法(AC群:adjuvant group)に対する術前SOX療法+手術+術後補助化学療法(NC群:Neoadjuvant group)の優越性を検証した。AC群は術後補助化学療法としてSOX療法を8サイクル施行し、一方NC群は術前SOX療法を2~4サイクル施行後に手術を行い、術後SOX療法は術前投与を含め計8サイクル施行する。SOX療法は共にS-1(80~120mg/day、day1~14、3週ごと)およびオキサリプラチン(130mg/m2、day1、3週ごと)である。主要評価項目は3年間の無病生存割合(3y-DFS)であった。772例が登録され、各群に386例が割り付けられた。両群間の患者背景に偏りはなく、cT3はNC群:AC群=64%:66%、cT4はNC群:AC群=12%:13%であり、cStageIIはNC群:AC群=39%:42%、cStageIIIはNC群:AC群=61%:58%であった。NC群において術前SOX療法は91.9%において投与完遂し、術後補助化学療法を含め8サイクル投与が53.2%において完遂可能であったのに比し、AC群における8サイクル投与完遂率は47.7%であった。R0切除率はNC群においてAC群よりも有意に良好であり(94.8% vs.83.8%)、NC群では46.4%にダウンステージングを認め、術後病理学的完全奏効(pCR)を23.6%に認めた。コメント中国で実施された局所進行胃がんに対する術前SOX療法の有効性を検証した第III相試験の第1報である。主要評価項目である3y-DFSの結果はいまだ不明であるが、術前SOX療法を施行することによりR0切除率の向上とダウンステージングが示唆された。ただし、抄録とR0切除率や治療奏効割合(pRR)の結果が異なるなどいくつか気になる点があり、評価には最終的な報告を待つ必要があると考える。POSTER SessionAPOLLO-11試験:Feasibility and pathological response of TAS-118 + oxaliplatin as perioperative chemotherapy for patients with locally advanced gastric cancer(abstract #351)Takahari D, et al.進行胃がんに対するTAS-118(S-1+ロイコボリン)とオキサリプラチンの併用療法(TAS-118/L-OHP)は、2019世界消化器がん会議(WCGC)においてS-1/CDDP併用療法との比較第III相試験(SOLAR試験)として公表されているが、今回、局所進行胃がん症例に対する周術期化学療法での忍容性を検討する単群第II相試験であるAPOLLO-11試験(UMIN000024688)の第1報が報告された。本試験はリンパ節転移を伴うcT3-4局所進行胃がんを対象とし、術前治療としてTAS-118(80~120mg/日、day1~7、2週ごと)およびL-OHP(85mg/m2、day1、2週ごと)併用療法を4コース施行後、胃切除+D2郭清が実施され、術後補助化学療法としてTAS-118単剤x12コース(Step1)もしくはTAS-118/L-OHP併用療法x8コース(Step2)が行われた。主要評価項目は(1)術前TAS-118/L-OHP併用療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性と(2)術後補助化学療法の忍容性であり、今回の報告では(1)術前TAS-118/L-OHP併用療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性結果が報告された。45例が登録され、術前TAS-118/L-OHP併用療法4コースが完遂されたのが40例(89%)であり、最終的に43例(96%)において外科的切除が完遂可能であった。患者背景は年齢中央値=64歳、男性=82%、胃原発/接合部がん=89%/11%、腸型/びまん型=69%/31%、cT3/4a=29%/71%、cN1/2/3=56%/38%/7%、臨床病期IIB/IIIA/IIIB/IIIC=24%/36%/33%/7%であった。術前化学療法における各薬剤の相対薬物濃度(RDI)中央値はTAS-118=91.7%、L-OHP=100.0%であった。術前TAS-118/L-OHP併用療法におけるGrade3以上の有害事象として、下痢(17.8%)、好中球減少症(8.9%)、食欲不振(4.4%)、口腔粘膜炎(4.4%)、白血球減少症(2.2%)、悪心(2.2%)、倦怠感(2.2%)を認めた。R0切除率は95.6%(90%CI:86.7~99.2%)であった。術後標本による病理学的治療効果(Grade1b-3)を62.2%(90%CI:48.9~74.3%)に認め、うち病理学的完全奏効割合(pCR)は13.3%であり、ダウンステージが68.9%(90%CI:55.7~80.1%)の症例において得られた。コメント局所進行胃がんに対する術前TAS-118/L-OHP併用療法に関する初めての報告であり、術前化学療法およびその後の胃切除+D2郭清術の忍容性が確認された。今後、術後補助化学療法パートの忍容性結果が報告予定であり、長期予後と合わせてその結果が期待される。EPOC1706試験:An open label phase 2 study of lenvatinib plus pembrolizumab in patients with advanced gastric cancer(abstract #374)Kawazoe A, et al.KN-061試験(胃がん2次治療)やKN-062試験(胃がん1次治療)の結果よりPD-L1陽性胃がんに対するペムブロリズマブ単剤療法の奏効割合は約15%と報告されている。一方、マルチキナーゼ阻害薬であるレンバチニブは腫瘍関連マクロファージを減少させ、CD8陽性T細胞の浸潤を増強することによる抗PD-1抗体の抗腫瘍効果増強が報告されており、進行胃がんに対するレンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法の単群第II相試験であるEPOC1706試験(NCT03609359)の結果が報告された。本試験は進行胃がんを対象とし、レンバチニブ(20mg/日内服)とペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)の併用療法を病勢進行や毒性などの理由による治療中止まで継続するスケジュールで実施された。主要評価項目は担当医判定による全奏効割合(ORR)である。29例が登録され、患者背景は年齢中央値=70歳、男性=90%、腸型/びまん型=52/48%、初回治療/2次治療=48/52%、HER2陽性=17%、dMMR/pMMR=7/93%、EBV陽性=3%、PD-L1 CPS≧1/<1=66/34%であった。腫瘍縮小効果は非常に良好であり、主要評価項目である担当医判定によるORRはCR1例を含む69%(95%CI:48~85%)、病勢制御割合(DCR)は100%(95%CI:88~100%)であった。無増悪生存期間中央値は7.1ヵ月(95%CI:4.2~10.0)、生存期間中央値には至っていなかった。レンバチニブによる有害事象としてGrade3以上の高血圧(38%)、蛋白尿(17%)を認め、ほとんどの症例においてレンバチニブの1段階以上の減量が必要であったが、減量により毒性はマネジメント可能であった。コメント進行胃がんに対する、非常に切れ味良好な腫瘍縮小効果を認める新規併用療法である一方、immatureではあるがその効果の継続が治療継続期間中央値6.9ヵ月(範囲:2.8~12.0)、PFS 7.1ヵ月と限られており、今後の追加報告が期待される。ATTRACTION-2試験 3年フォローアップ:A phase 3 Study of Nivolumab in Previously Treated Advanced Gastric or Gastric Esophageal Junction Cancer(abstract #383)Chen LT, et al.2レジメン以上の化学療法に対して不応の切除不能進行再発胃がん・接合部がんを対象にニボルマブの有効性をプラセボ比較で検証した第III相試験であるATTRACTION-2試験の3年追跡結果報告である。2017年のLancet誌報告時のニボルマブ投与群の生存期間中央値(mOS)は5.26ヵ月、1年生存割合(1y-OS)は26%であり、2018年のESMOで発表された2年追跡結果における2y-OSは10.6%、2年無増悪生存割合(2y-PFS)は3.8%であった。今回新たに1年間の追加観察期間を設けた報告において、ニボルマブ群の3y-OSは5.6%、3y-PFSは2.4%であった。ニボルマブ群の15例とプラセボ群の3例が3年以上の長期生存を認めており、プラセボ群の3例のうち2例は病勢進行後にニボルマブによる加療を受けていた。ニボルマブ群のうち、最良効果(BOR:best overall response)がCRもしくはPRであった32例(9.7%)の生存期間中央値は26.88ヵ月であり、1y-OSは87.1%、2y-OSは61.3%、3y-OSは35.5%であった。BORがSDであった76例(23%)の生存期間中央値は8.87ヵ月であり、1y-OSは36.1%、2y-OSは7.4%、3y-OSは3.0%であった。ニボルマブ群のうち55.5%の症例において免疫関連の有害事象を認め、これら免疫関連有害事象を認めた症例のmOSは7.95ヵ月であり、認めなかった症例のmOSは3.81ヵ月であった(HR=0.49)。コメント今回、3年の観察期間を設けた報告によりニボルマブ投与によって3年以上の長期生存を得られる症例が5%程度いることが示唆され、またBORがCRもしくはPRとなりえる約10%程度の症例においては、約3分の1において3年以上の生存が得られる可能性が示唆された。毒性に関して、ほとんどの場合、既報のごとくニボルマブによる治療開始後3ヵ月以内に発生していたが、なかには治療開始後2年以上の経過の後に免疫関連有害事象として肺障害や腎障害が出現したケースも認め、ニボルマブ投与に当たってはその投与終了後にも免疫関連有害事象の出現に関して引き続き注意が必要であることが示唆された。MSI status in > 18,000 Japanese pts:Nationwide large-scale investigation of microsatellite instability status in more than 18,000 patients with various advanced solid cancers.(abstract #803)Akagi K, et al.本邦におけるMSI-Hの頻度に関して、2018年12月~2019年11月の1年間にMSI検査キット(FALCO)による解析が実施された2万5,789例を対象に検討。2万5,563例(99.1%)で解析可能であり、うち959例(3.75%)がMSI-Hであった。MSI-Hは10~20代の若年者(7.43%)および80代以上の超高齢者(5.77%)において認める傾向が強く、また既報のごとく早期病期(StageI~III)に比べ進行期(StageIV)においてその頻度は少なかった(StageI~III:StageIV=6.02%:3.05%)。がん種別のMSI-Hの頻度は子宮体がん(17.00%)、小腸がん(9.23%)、胃がん(6.73%)、十二指腸がん(5.79%)、大腸がん(3.83%)、NET/NEC(3.60%)、前立腺がん(3.04%)、胆管がん(2.26%)、胆嚢がん(1.55%)、肝がん(1.15%)、食道がん(1.00%)、膵がん(0.74%)であった。コメントMSI-H腫瘍に関して、既報と照らし合わせても最も多くの対象で検討した非常に貴重な報告であり、日本人MSI-H腫瘍の状況を反映していると考える。DAY2 Cancers of the Pancreas, Small Bowel, and Hepatobiliary TractOral SessionPROs from IMbrave150試験:Patient-reported Outcomes From the Phase 3 IMbrave150 Trial of Atezolizumab + Bevacizumab Versus Sorafenib as First-line Treatment for Patients With Unresectable Hepatocellular Carcinoma.(abstract #476)Galle PR, et al.切除不能肝細胞がんの1次治療例を対象に、標準治療であるソラフェニブに対するアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)/ベバシズマブ(抗VEGF抗体)併用療法の優越性がESMO-Asia 2019において報告されており、主要評価項目である生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)の両エンドポイントにおいてアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法が有意に良好であった(OS-HR:0.58、p=0.0006、PFS-HR:0.59、p<0.0001)。今回、副次評価項目である患者報告(PRO:patient-reported outcomes)によるQOL評価、身体機能評価、症状評価(疲労感、疼痛、食欲低下、下痢、黄疸)の結果が発表された。評価はEORTC QLQ-C30およびQLQ-HCC18により行われ、治療中は3週ごとに、治療中止後は3ヵ月ごとに1年間実施された。92%以上の症例においてアンケートが回収可能であり、QOL、身体機能、症状の悪化までの期間(TTD:time to deterioration)はいずれもアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法においてソラフェニブより良好であった。コメント切除不能肝細胞がんに対する1次化学療法において、新たな標準療法であるアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法のソラフェニブに対する有効性および安全性が報告された。本邦においても早期の臨床導入に期待したい。Poster SessionStudy117:A Phase 1b Study of Lenvatinib Plus Nivolumab in Patients With Unresectable Hepatocellular Carcinoma(abstract #513)Kudo M, et al.切除不能肝臓がんに対する標準治療の一つであるレンバチニブと、ソラフェニブ治療後の治療選択肢であるニボルマブの併用療法の至適投与量を検討した第Ib相試験である。本試験はBCLC(Barcelona Clinic Liver Cancer) Stage B(肝動脈化学塞栓療法が不応)またはStage C、Child-Pugh分類Aの切除不能肝臓がん症例を対象に、レンバチニブ(12mgもしくは8mg/day)+ニボルマブ(240mg、2週ごと)併用療法を投与した。本試験はPart1とPart2で構成され、Part1では用量制限毒性(DLT:dose-limiting toxicities)を評価目的に6例登録し、Part2はexpansion cohortとして全身化学療法歴のない切除不能肝臓がん患者が24例登録された。主要評価項目は忍容性および併用療法の安全性である。患者背景は年齢中央値=70歳、男性=80%、BCLC Stage B/C=57%/43%、Child-Pugh 5/6=77%/23%、B型肝炎/C型肝炎/アルコール性/不明/その他=20%/20%/30%/23%/6.7%、肝外病変あり/なし=43%/57%である。レンバチニブによる毒性中止を2例(6.7%)に認め、ニボルマブによる毒性中止を4例(13.3%)に認めた。頻度の高い有害事象として手足症候群(60%)、発声障害(53%)、食欲低下(47%)、下痢(47%)、蛋白尿(40%)を認めたが、Grade3以上の有害事象は手足症候群(3.3%)、発声障害(3.3%)、食欲低下(3.3%)、下痢(3.3%)、蛋白尿(6.7%)であった。担当医評価による腫瘍縮小割合(ORR)は76.7%であり、Part2登録例における腫瘍縮小が得られるまでの期間は1.87ヵ月であり、無増悪生存期間(PFS)中央値は7.39ヵ月であった。コメント切除不能肝臓がんの治療に関して、マルチキナーゼ阻害薬(レゴラフェニブ、レンバチニブ)と免疫check point阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)の併用療法が検討されており、本学会においてもほかにレゴラフェニブ/ペムブロリズマブ併用療法に関する発表があった(#564)。その中でもレンバチニブ/ペムブロリズマブ併用療法に関しては、AACR2019で発表された第Ib相試験であるKEYNOTE-524/Study 116試験(#CT061/18)の中間解析結果に基づき、切除不能肝臓がんの1次治療としてFDAよりBreakthrough Therapy指定を受けており、今後の追加報告が期待される。PACS-1 study:A Multicenter Clinical Randomized Phase II Study of Investigating Duration of Adjuvant Chemotherapy with S-1 (6 versus 12 months) for Patients with Resected Pancreatic Cancer. (abstract #669)Yamashita Y, et al.本邦における膵がん術後補助化学療法としてのS-1至適投与期間を検討した無作為化第II相試験。本試験は膵がん切除後例(T1-4、N0-1、M0)を対象とし、術後補助化学療法としてS-1内服を半年間投与する群と1年間投与する群に1:1の割合で割り付けされた。主要評価項目は2年間の生存割合(2y-OS)である。両群間の患者背景に偏りはなかった。術後S-1半年投与群は64.7%において治療完遂が可能であったが、1年間投与群においては44.0%が完遂可能であった。生存期間(OS)および無病生存期間(DFS)において、統計学的有意差はないものの術後S-1投与期間は半年間群のほうが1年間群より良好な傾向であった。(2年OS:半年間群 vs.1年間=71% vs.65% [HR=1.239、 p=0.3776 ])、( 2年DFS:半年間群 vs.1年間=57% vs.51%[HR=1.182、p=0.3952]) コメント膵がん術後補助化学療法としてのS-1至適投与期間は6ヵ月と考える。DAY3 Cancers of the Colon, Rectum, and AnusOral SessionJCOG1007(iPACS):A randomized phase III trial comparing primary tumor resection plus chemotherapy with chemotherapy alone in incurable stage IV colorectal cancer:JCOG1007 study(abstract #7)Kanemitsu Y, et al.切除不能StageIV大腸がんのうち無症状症例に対して、原発切除を化学療法に先行して行うことの優越性を検証した無作為化第III相試験である。本試験は腫瘍による狭窄などの症状を有さず、待機手術としての原発切除を予定できる治癒切除不能のStageIV大腸がん初回治療例を対象とし、標準治療であるA群:オキサリプラチンベース(FOLFOX/CapeOX)+ベバシズマブ併用療法群とB群:原発切除後にオキサリプラチンベース(FOLFOX/CapeOX)+ベバシズマブ併用療法を受ける群に無作為割り付けされた。主要評価項目は全生存期間である。当初770例を目標に試験が開始されたが、症例登録が伸びなかったために統計設定が見直され280例を登録目標とされたが、160例登録時の初回中間解析の結果、試験群であるB群の生存曲線が対照群であるA群を下回っていたため途中中止となり今回結果が発表された。両群間の患者背景に偏りはなかった。主要評価項目である全生存期間においてA群:B群=26.7ヵ月:25.9ヵ月(HR=1.10、one-sided p=0.69)であり、B群の優越性は認めなかった。副次評価項目であるPFSはA群:B群=12.1ヵ月:10.4ヵ月(HR=1.08)であり、原発切除先行群(B群)において術後死亡例を3例(4%)に認めた。コメント今回の結果より、腫瘍随伴症状を有さないStageIV大腸がんに対して、一律に原発切除を化学療法に先行して行うことは推奨されず、同症例に対しては化学療法の先行を検討すべきと考える。同様の対象に対して、欧州において無作為化比較試験(SYNCHRONOUS試験-ISRCTN30964555、CAIRO4試験)が進行中であり、今後これらの報告にも注意が必要と考える。BEACON CRC QoL:Encorafenib plus cetuximab with or without binimetinib for BRAF V600E-mutant metastatic colorectal cancer:Quality-of-life results from a randomized, three-arm, phase III study versus the choice of either irinotecan or FOLFIRI plus cetuximab(abstract #8)Kopetz S, et al.治療歴を有するBRAF V600E遺伝子変異陽性進行再発大腸がん例に対する治療としてMEK阻害薬であるビニメチニブ、BRAF阻害薬であるエンコラフェニブおよび抗EGFR抗体であるセツキシマブの3剤併用療法と、エンコラフェニブとセツキシマブの2剤併用療法、セツキシマブと化学療法の併用(対照群)を比較する第III相試験であるBEACON CRC試験における患者報告によるQOL評価と最新の生存データが発表された。本試験の結果はすでに2019年9月にNEJM誌において報告されており、全生存期間の中央値は対照群で5.4ヵ月、3剤併用群で9.0ヵ月(HR=0.52、pレポーター紹介インデックスページへ戻る

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バレンタインに学ぶ「コスパのよいサプライズ」【医師のためのお金の話】第29回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。いよいよバレンタインデーが近づいてきました。義理チョコをもらうだけの私にとっては、お返しを考えなければならないメンドーなイベントです。しかし、よく考えてみると義理チョコとはいえ、家族以外からプレゼントをもらう機会はバレンタインデーくらいかもしれません。何を隠そう、私は人に食事をおごったり、プレゼントを贈ったりすることが大好きな人間です。普段はおごったり贈ったりする側になることが圧倒的に多いので、逆の立場になると、とても勉強になります。なるほど、こういうものをもらうとうれしくなるんだ…。「人をもてなす」ことが資産形成に通じる?私が食事をおごることが大好きな理由の1つに、「回り回って資産形成に役立つことがある」というものがあります。そうはいっても、直接的な恩恵を期待しているわけではなく、食事を共にすることで人間関係が良くなり、ひいてはビジネス上のやりとりがスムーズになる、という社会人であれば誰もが経験することを期待してのことです。お互いの警戒心がなくなると、その後に良質な情報が入ってくることも。人は何かをしてもらうと本能的に「お返し」をしたくなる生き物です。周囲の人をもてなし続けていると、良いことがたくさん起こるのです。投資においても、人との関わり合いが重要です。株式投資などはそこまでではありませんが、不動産投資となればリアルビジネスとあまり変わりません。ビジネス要素が大きくなるにつれ、円滑な人間関係を築くための「おもてなし」が重要になってくるのです。「非日常」でサプライズしよう!しかし、やみくもにおごっているだけでは高いコスパは期待できません(笑)。相手の琴線に触れる「サプライズ」があって初めて、効果が期待できるのです。たとえば、40代の医師を料亭に連れて行くとしましょう。「医師は料亭に行き慣れている」とまでは言いませんが、40代になれば「一度くらいは行ったことがある」という方が多くなります。実際、値が張る高級料亭にお招きしても、感動されることは少ないのです。しかし、もてなす相手が若い女性であればどうでしょう?以前、仕事で関わりのあるベンチャー企業の若い女性スタッフ数名を、料亭にお招きしたことがありますが、40代の医師とは比べものにならないくらい、喜んでいただけました。この時にお招きした料亭はやや郊外の立地で、中心地にある料亭と比べると予算は半分程度で済みます。料亭の「格」は立地も含めた総合力で決まるので、料亭に行き慣れた人にとってはやや物足りないお店かもしれません。しかし「料亭は初めて」という若い彼女たちにとっては、内装や献立など見るべきところがたくさんあったようです。若い女性が料亭に行く機会は少ないと考え、「彼女たちを驚かせるポイントは何なのか?」を事前にシミュレーションしたことで、コスパの高い「おもてなし」ができました。相手にとっての「非日常」は何か?では、料亭では十分に喜んでくれない相手をもてなすには、どうすればよいのでしょうか? ここでも原則に戻って、どうすれば相手にとっての「サプライズ」になるのかを考えます。サプライズにおけるキーワードは「非日常」です。高級なお店に行き慣れた方に対して高級路線で攻めても、なかなかインパクトを与えることができません。私は以前、こうした方へのおもてなしに、プレミアム焼酎を置いている店にお連れしたことがあります。私の家の近所に「百年の孤独」という、やや手に入りにくい麦焼酎を置いている店があります。ホテルのバーなどで飲むと1杯2,000円くらいするお酒ですが、この店では800円で提供しています。お酒好きな方だったので、「『百年の孤独』をこれでもか!とガンガン頼む」ことでぜいたくとサプライズを味わっていただけました。チョコをもらうことが勉強になる!?おごったりプレゼントしたりすることで、他人に喜ばれるのは気持ちの良いものです。しかし、「お金さえかければ確実に喜んでもらえる」わけではないのが難しいところ。私は、普段から「この人には何をすればサプライズになるんだろう?」と観察しながら人と接しています。とくに何らかのプロジェクトに取り組んでいたり、不動産投資やビジネスを実践したりしている方は、 関係するキーパーソンにサプライズを与える方法を常に考えておくといいでしょう。そして、効率的なサプライズのためには、バレンタイン/ホワイトデーや誕生日のように「自分がプレゼントをもらう時」がまたとない勉強の機会となります。「どんなものをもらうとうれしいのか」「渡す時にどんな言葉を添えるといいのか」などと考えながら、ありがたくいただきましょう。義理チョコが資産形成に役立てば、1粒で2度おいしい!?

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第13回 介護用具にリフォームまで!若き薬局社長の挑戦【噂の狭研ラヂオ】

動画解説町の電気屋さんを薬剤師として受け継いだ藤井伸昌社長。株式会社パナドームではホンキの在宅医療を掲げる5店舗のパナプラス薬局のほか、介護する側される側が暮らしやすい住宅環境の整備、福祉用具の提供サービスなどを行っています。処方箋なしでも利用してくれる薬局ファンをつくっていきたい!若き社長のチャレンジをご紹介します。

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3年B組金八先生(続編)【令和の金八先生になるには? わがままにさせない!(同調させるスキル)】Part 3

「手」―調整力ある男子生徒が、金八先生の娘に恋をするエピソードがあります。金八先生は、その男子生徒の母親から彼が高校に合格したら彼女と交際させてほしいと懇願され、苦々しい顔をします。その後、金八先生は、亡き妻の遺影に「坂本金八、講師になって22年。初めてあいつだけは高校落ちろと心から願ってしまう」と漏らします。金八先生の人柄のダークな部分が分かりやすく描かれています。3つ目の部位は、「手」です。これは、調整力です。一般的に、調整力とは、リーダーが集団の内と外との利害関係の調整やメンバー同士の人間関係の調整であると思われています。今回注目するのは、さらにリーダーとメンバーとの人間関係の距離を調整することです。この真逆は、リーダーが、誰に対しても平等に同じ距離で接する状況です。そうなると、現場は良く言えば居心地良くなりますが、悪く言えば、ナメてきます。なぜなら、そのようなリーダーは、良く言えば聖人君子ですが、悪く言えばロボットです。やがてメンバーの自己主張が強まっていき、だんだんとリーダーの存在感が薄まり、リーダーシップは危うくなります。かと言って、リーダーがただ厳しく感情的にしていれば良いかというと、それだけでもうまく行かないです。大事なのは、メンバーや状況によってリーダーの機嫌が変わるということをメンバーに感じ取らせることです。それは、「歯向かうと私が何かするわよ」という力強いメッセージです。それでは、普段から調整力を高めるための具体的なスキルを3つ紹介しましょう。(1)手のひらを返す―温度差1つ目は、手のひらを返すことです。これは、メンバーや状況によってリーダーが態度を変えることです。この時のポイントは、個人的に接している時は、誰に対してもあくまで興味津々になり、細かく褒めるのは変わらないことです。これは、すでに観察力の説明で触れました。一方、集団の場では、手のひらを返して、優等生タイプには温かく接して、不適応なメンバーには冷たく接して、対応にあえて温度差をつくります。好き嫌いを見せて、感情的で人間臭い演出をします。ここで誤解がないようにしたいのは、温度差をつくると言っても、単にこちらが本当に感情的になってそうしないことです。逆に、メンバーに優劣の差がないと思っても、あえて温度差をつくる必要もあるでしょう。なぜなら、ここでは、温度差は目的ではなく手段だからです。温度差という戦略(手段)によって得られる成果(目的)が3つあります。まず、リーダーが一筋縄ではいかな手強い「ボスザル」であると印象付けられます。次に、その「サル山」のメンバーの優劣の序列ができあがります。最後に、劣位の不適応なメンバーを際立たせます。人は本質的には社会的な「動物」であり、序列がある状況で安心するという心理をうまく利用しています。さらに、今回特別に、この手のひら返しの大技を紹介しましょう。名付けて、「あえて気分屋」です。これは、コンピュータのように一貫して正確にメンバーを評価しないことで、メンバーにもっとがんばろうという動機付けを高めさせるスキルです。たとえば、優等生タイプにいつも温かく接するのではなく、10回に1回くらい不機嫌を装い、あえて冷たくすることです。すると、そのメンバーは、「いつも褒められるはずなのに、なぜ今は褒められないの?」「自分の何がまずかったのかな?」と不安になり、次にもっと褒められるように努力するようになります。逆に、不適応なメンバーにいつも冷たく接するのではなく、10回に1回くらい上機嫌を装い、あえて暖かく接することです。たとえ褒めることがまったくなくても、「良い線行ってるね」「惜しいなあ」「もったいないなあ」「あともう少しなんだけどなあ」などの言い方が使えます。すると、そのメンバーは、「いつもは褒められないのに、なぜ今は褒められるの?」「自分の何が良かったのかな?」とうれしくなり、次にもっと褒められるように努力するようになります。ポイントは、いくら優等生タイプでも、100点にしないことです。なぜなら、人はゴールに達すると努力を怠るからです。また、いくら不適応なメンバーでも、100点になるかもしれないと思わせることです。なぜなら、人はゴールが見えると努力を始めるからです。つまり、人はもともと狩りをする動物であり、あとちょっとで獲物を仕留められるという状況でやる気が高まるという心理(ギャンブル脳)をうまく利用しています。ただし、やりすぎると、理不尽に思われるので、ほどほどが肝心でしょう。(2)手を増やす―温度差の同調2つ目は、手(フォロワーの手のひら返し)を増やすことです。全員(集団)に向けて、発信力を持って批判を繰り返しつつ、不適応なメンバーへの冷たい態度を繰り返し見せることで、その態度が集団のお手本(集団規範)になります。こうして、フォロワーたちが不適応なメンバーに冷たい態度をするように仕向けることができます。さらに、フォロワーたちには、自分も身勝手なことをして従わなければ周りから冷遇されると思い込ませることもできます。人は本質的には社会的な「動物」であり、自分に味方がいない状況を一番恐れているという心理をうまく利用しています。ただし、集団的な冷遇は、やりすぎると、不適応なメンバーが集団心理のスケープゴート(いけにえ)になってしまい、いじめのリスクが高まります。よって、リーダーとしては、不適応なメンバーがわがままにならずに従うようになれば、また手のひらを返して集団場面でも温かく接するように仕向けることも重要です。逆に、不適応なメンバーが心を入れ替えて従っているのに、スケープゴートとして集団の結束に好都合だからと野放しにするのは、不適切と言えます。また、歓送迎会、納涼会、忘年会などの仕事以外の集まりを有効活用できます。このような集まりは、もちろんメンバーにとっては楽しむ場です。しかし、リーダーにとっては楽しむ場とは限りません。ましてやリーダーが酔っ払って、ふんぞり返って、一方的にメンバーに説教話を聞かせるというのは、リーダーシップとしてはNG行為です。もちろん結果的に楽しい場になれば良いですが、楽しさよりも優先することが3つあります。まず、メンバーの話を親身になってよく聞くことです。そうすることで、ガス抜きと同時に情報収集が果たせます。次に、リーダーが自分から動き、盛り上げ役を担うことです。そうすることで、集団の同調の心理を高めることができます。最後に、リーダーは一貫して良い人を演じて、人間味が溢れることを印象付けることです。そうすることで、特に不適応なメンバーに「職場でみんなの前では冷たいけど、私のことを理解してくれていて悪い人じゃない」と理解してもらえます。(3)手を出す―威嚇3つ目は、手を出すことです。これは、本当に手を出して暴力を振るうわけではもちろんないです。あくまで、リーダーがカンカンに怒っている様を実際にメンバーたちに定期的に見せることです。こうして、リーダーは怒らせると怖いというイメージをメンバーに植え付けられます。さらには、「いざと言う時は刺し違えるよ」というくらいの気迫もあればなお良いでしょう。大事なのは、リーダーはロボットではなく、生臭い人間であると思わせることです。この時のポイントは、3つあります。まず、ブチ切れる状況は、個人的に接している時ではなく、数人以上いる時であることです。次に、ブチ切れる内容は、隣の職場(集団)からひどい目に遭った話とか、ひいきのスポーツチームが負けたなど、集団内とは直接関係のないことであることです。最後に、ブチ切れた後にすぐに、「我を失っちゃったわ」と状況を振り返り、自覚していることをメンバーに分からせることです。これらは、パワーハラスメントのリスクを低めることにもなります。ここで誤解がないようにしたいのは、ブチ切れると言っても、単にこちらが本当に感情的になってそうしないことです。逆に、ブチ切れることがないと思っても、あえてブチ切れるネタを探す必要もあるでしょう。なぜなら、ここでは、ブチ切れるのは目的ではなく、威嚇という手段だからです。人は本質的には社会的な動物であり、威嚇されると大人しくなるという心理をうまく利用しています。その他、「昔はやんちゃだった」「昔はもっと怖かった」などの武勇伝を時々に織り交ぜて、ナメられないように伝説をねつ造するのも良いでしょう。金八先生が「27年間の教師生活で、殴った生徒は3人です。・・・でもね、本当に殴って良かったかどうか、ときどき手のひらじっと見つめながら、いまだに考え込むことがあります」と生徒全員の前で打ち明けるシーンがあります。令和の金八先生になるには?金八先生をモデルに、同調させるスキルを、3つの体の部位になぞらえて、それぞれ3つのスキルをまとめました。今回学んだことを踏まえると、リーダーはメンバーからどう思われたら良いかという冒頭の問いへの答えは、「恐い人だ」と常に恐れられるのではなく、「優しい人だ」と常に慕われるのでもないです。それは、「熱い人だ」と付いていきたいと思われることです。ただ、リーダーの皆さんの中には「褒めるところがないのに褒めるのは、うそ臭くなるから言いたくない」「わざと不機嫌なふりをするのは心苦しい」と思う人もいるでしょう。もちろんこのようなスキルを使わないで済むならそれに越したことはありません。むしろ、このような演出が行き過ぎると、友人関係(フレンドシップ)や恋人関係(パートナーシップ)などの二者関係においては不誠実に思われるでしょう。しかし、リーダーシップにおいては別です。なぜならそもそもリーダーシップにおいては、相手が多すぎて、そのすべての相手が納得する「正解」がないからです。それでも、リーダーは、不適応なメンバーをまとめて最大限の結果を出すことで前に進まなければならないからです。よって、皆さんのリーダーシップが危うくなっているのであれば、そして皆さんがまだリーダーをやり続けたいと思うのであれば、何を優先すべきかがおのずと分かるでしょう。つまり、リーダーシップにおいて大事なことは、「個人として何が正しいか」ではなく、「リーダーとして何が使えるか」ということです。このことに気付いた時、今回紹介したその使える何かによって、皆さんのリーダーシップをもっと高めていくことができるのではないでしょうか? そして、金八先生の「熱血」さの普遍的な意味を理解することができるのではないでしょうか?<< 前のページへ

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ファンコニ貧血〔FA:Fanconi Anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義ファンコニ貧血(Fanconi Anemia:FA)は、染色体の不安定性を背景に、(1)進行性汎血球減少、(2)骨髄異形性症候群や白血病への移行、(3)身体奇形、(4)固型がんの合併を特徴とする遺伝病である。わが国の年間発生数は5〜10例で、出生100万人あたり5人前後である。臨床像としては、1)汎血球減少、2)皮膚の色素沈着、3)身体奇形、4)低身長、5)性腺機能不全を伴うが、その表現型は多様で、汎血球減少のみで、その他の臨床症状がみられないことや、汎血球減少が先行することなく、骨髄異形性症候群や白血病あるいは固型がんを初発症状とすることもある。それゆえ、臨床像のみで本疾患を確定診断するのは困難である。小児や青年期に発症した再生不良性貧血患者に対しては、全例に染色体脆弱試験を行い、FAを除外する必要がある。また、若年者において、頭頸部や食道、婦人科領域での扁平上皮がんや肝がんの発生がみられた場合や、骨髄異形性症候群や白血病の治療経過中に過度の薬剤や放射線に対する毒性がみられた場合にも、本疾患を疑い染色体脆弱試験を行う必要がある。 ■ 病因、病態FAは遺伝的に多様な疾患であり、現在までに、22の責任遺伝子が同定されている。わが国ではFANCA変異が全体の60%を占め、FANCG変異の25%がそれに続き、その他の変異は数%以下にすぎない。FANCD1、FANCJ、FANCNはそれぞれ家族性乳がん遺伝子のBRCA2、BRIP1、PALB2と同一であり、ヘテロ接合体はFAを発症しないが、家族性乳がん発症のリスクを持つ。遺伝形式は、FANCB、FANCRを除いて、常染色体劣勢遺伝形式を示す。FA蛋白質は、他のDNA損傷応答蛋白質と相互作用し、DNA二重鎖架橋を修復し、ゲノムの安定化を図っている。しかし、DNA修復障害と骨髄不全発症との関係は解明されていない。■ 臨床症状、合併症、予後FAの臨床像は、多様で種々の合併奇形を伴うが、まったく身体奇形がみられない場合も25%ほど存在する。色黒の肌、カフェオーレ斑のような皮膚の色素沈着、低身長、上肢の母指低形成、多指症などが最もよくみられる合併奇形である。国際ファンコニ貧血登録の調査によると10歳までに80%、40歳までに90%の患者は、再生不良性貧血を発症する。悪性腫瘍の合併も年齢とともに増加し、30歳までに20%、40歳までに30%の患者が骨髄異形性症候群や白血病に罹患する。同様に、40歳までに30%の患者は、頭頸部や食道、婦人科領域の扁平上皮がんなどの固型がんを発症する。発症10年、15年後の生存率は、それぞれ、85%、63%であった。わが国の小児血液・がん学会の統計では、移植を受けなかった30例の診断後10年生存率は63%であった。造血幹細胞移植を受けた患者は、非移植群と比較して、発がんのリスクが有意に高く、移植前治療としての放射線の照射歴や慢性GVHDの発症がリスク因子であった。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)FAを疑った場合には、図のように末梢血リンパ球を用いてマイトマイシンC(MMC)やジエポキシブタン(DEB)などのDNA架橋剤を添加した染色体断裂試験を行う。わが国においては検査会社でも実施可能である。また、FANCD2産物に対する抗体を用い、ウェスタンブロット法でモノユビキチン化を確認する方法もスクリーニング法として優れており、国内では名古屋大学小児科で実施している。上記のスクリーニング法では、リンパ球でリバージョンを起こした細胞が増殖している(体細胞モザイク)ために偽陰性例や判定困難例が生ずる。このときには100個あたりの染色体断裂総数だけでなく、染色体断裂数ごとの細胞数のヒストグラムが有用である。この場合の診断には、皮膚線維芽細胞を用いた染色体脆弱試験が必要となる。図 ファンコニ貧血を疑った場合の診断スキーム画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAには、免疫抑制療法の効果は期待できないが、蛋白同化ホルモンは、約半数の患者において有効である。しかし、男性化や肝障害などの副作用があり、造血幹細胞移植の成績の悪化を招くという報告もある。わが国で使用可能な蛋白同化ホルモン製剤としては、酢酸メテノロン(商品名:プリモボラン)のみである。現時点では、FAの患者にとって、造血幹細胞移植のみが唯一治癒の期待できる治療法である。通常の移植前処置で使用される放射線照射や大量シクロホスファミドの投与では移植関連毒性が強いので、従来は少量のシクロホスファミドと局所放射線照射の併用が標準的な前治療法として用いられてきた。しかし、非血縁者間骨髄移植や臍帯血移植は、拒絶や急性移植片対宿主病(GVHD)の頻度が高く、十分な治療成績は得られていなかった。しかし、最近になって、フルダラビンを含む前治療法が開発され、その予後は著明に改善がみられている。 最近、わが国から報告されたFAに対するHLA一致同胞あるいは代替ドナーからの移植成績は、2年全生存率がそれぞれ100%、96%に達している。4 今後の展望フルダラビンを含む前治療による造血幹細胞移植の開発により、造血能の回復は得られるようになったが、扁平上皮がんを中心とした2次がんのリスクが増大している。すでに、海外では遺伝子治療が実施されており、今後の発展が期待されている。5 主たる診療科小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター ファンコニ貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働科学研究費補助金 特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

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法に反し、薬剤師以外の者に調剤させた薬局【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第17回

先日、大阪府が府内の薬局開設者に対して、業務改善を命じたと発表されました。事案の概要は以下のとおりです。当該薬局において、薬局の開設者及び管理者である徳野吉輝が薬剤師以外の者に対し、散剤の医薬品の直接計量、混合の調剤を行わせていた。当該行為に対しては、薬剤師が途中で確認を行っていたものの、健康被害の発生が否定できないことから、業務改善を命じた。※引用:薬局開設者に対する改善命令について(大阪府 報道発表資料)ご存じのとおり、昨年示された「調剤業務のあり方について」(薬生総発0402第1号平成31年4月2日厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長)を機に、調剤に関する業務に薬剤師以外の者の関わりが増え、今後の業務について検討している薬局も多いと思います。そのようなタイミングでの今回の処分に対し、驚きましたし、残念にも思います。違反として、0402通知に明記されている行為今回の事案がどのような経緯だったのかはわかりませんが、前記通知においては、「薬剤師以外の者が軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、引き続き、薬剤師法第19条に違反すること。」と明記されており、このような処分はやむを得ないと考えられます。本通知については、これまでも述べてきたとおり、これによって薬剤師以外の者の活用が可能となったわけではありません(実際にこれまでも行っていた薬局もありました)。これまではっきりしていなかった行政の法解釈が示され、薬剤師以外の者に実施させることが可能な業務の基本的な考え方について整理したものです。ここに記載のない業務は行えないという趣旨ではありませんが、行政の見解が示された以上、少なくともこの通知の内容に従って業務を実施する必要があります。今回のように、散剤の直接計量や混合を薬剤師以外の者が行うことは、明確に否定されていますので、これに反することは言うまでもありません。薬剤師以外による取り揃えも要件を充足する必要があるもちろん、錠剤などの取り揃えであっても、通知の示す要件などを充足した運用をする必要があります。これらの要件などを無視して、単に薬剤師以外の者による取り揃えが可能となったと解釈して、やみくもに運用することは問題があります。なお、業務改善命令の内容は以下のとおりです。調剤を行うために必要な体制の確保(薬剤師の確保)保健衛生上支障が生ずるおそれがないよう、法令遵守体制を整備する観点から、調剤及び薬剤師以外の者の業務の実施に係る手順書の整備薬局に従事する薬剤師等に対する法令遵守及び上記手順書内容を含む研修の実施薬剤師以外の者が調剤した医薬品による健康被害がないことの確認通知に記載のある薬剤師以外の者への研修だけでなく、薬剤師などに対しても、研修の実施を命じています。今回の事例は、薬局の運用を検討する際には、当然ながら通知の内容を必ず確認し、通知に沿った運用をしなければいけないことを、あらためて実感する出来事でした。この通知による業界への影響が大きいからこそ、よりそう感じたようにも思います。参考資料1)薬局開設者に対する改善命令について(大阪府 報道発表資料)2)調剤業務のあり方について(薬生総発0402第1号平成31年4月2日厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長)

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低用量アスピリン、早産と周産期死亡を抑制/Lancet

 低~中間所得国の未経産妊婦では、妊娠早期(6週0日~13週6日)に低用量アスピリンを投与することで、妊娠37週未満と34週未満の早産および胎児の周産期死亡の発生が改善されることが、米国・Christiana CareのMatthew K. Hoffman氏らが行った二重盲検プラセボ対照無作為化試験「ASPIRIN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2020年1月25日号に掲載された。低~中間所得国では、早産は新生児死亡の原因として頻度が高い状態が続き、その負担は過度に大きいという。低用量アスピリンの妊娠高血圧腎症の予防に関するメタ解析により、とくに妊娠16週未満の時期に投与を開始すると早産の発生が低下する可能性が示唆されている。6つの低~中間所得国の無作為化試験 本研究は、6ヵ国(インド、コンゴ、グアテマラ、ケニア、パキスタン、ザンビア)の7施設が参加し、2016年3月23日~2018年6月30日の期間に患者登録が行われた(米国Eunice Kennedy Shriver国立小児保健発達研究所[NICHD]の助成による)。 対象は、18~40歳(コンゴ、ケニア、ザンビアは倫理審査委員会の許可があれば≧14歳の未成年者を含めた)の未経産の単胎妊娠女性であった。 被験者は、妊娠6週0日~13週6日の期間に、低用量アスピリン(81mg/日)またはプラセボの錠剤を投与される群に無作為に割り付けられた。妊娠36週7日または分娩まで、研究者、医療従事者、患者には治療割り付け情報がマスクされた。 主要アウトカムは、早産(妊娠≧20週0日~<37週0日の分娩数)の発生とした。早産11%、34週未満の早産25%、周産期死亡14%のリスク低減 1万1,976例(低用量アスピリン群5,990例、プラセボ群5,986例)の妊婦が登録され、1万1,544例(5,780例、5,764例)が主要アウトカムの解析に含まれた。>29歳は全体の2.2%であり、ベースラインの患者背景や国別の患者の割合は両群でほぼ同様であった。アドヒアランス(服薬順守率90%以上の患者の割合)は、低用量アスピリン群85.3%、プラセボ群84.4%であり、両群とも高かった。 妊娠37週未満の早産の割合は、低用量アスピリン群が11.6%(668/5,780例)と、プラセボ群の13.1%(754/5,764例)に比べ有意に低かった(リスク比[RR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.81~0.98、p=0.012)。 胎児の副次アウトカムのうち、周産期死亡(周産期[妊娠20週~産後7日以内]の死亡、1,000出産当たりの死亡数:45.7件vs.53.6件、RR:0.86、95%CI:0.73~1.00、p=0.048)、胎児消失(fetal loss、妊娠16~20週の死産と妊娠20週~産後7日以内の周産期死亡、1,000妊娠当たりの死亡数:52.1件vs.60.8件、0.86、0.74~1.00、p=0.039)、妊娠34週未満の早産(3.3% vs.4.0%、0.75、0.61~0.93、p=0.039)の割合は、いずれも低用量アスピリン群で有意に良好であった。 また、母親の副次アウトカムでは、高血圧性疾患(妊娠高血圧腎症、子癇、妊娠高血圧)を有する妊娠34週未満の早産(0.1% vs.0.4%、0.38、0.17~0.85、p=0.015)が、低用量アスピリン群で有意に良好だった。その他の副次アウトカムの発生は両群間で類似していた。 1つ以上の重篤な有害事象を発症した患者の割合(低用量アスピリン群14.0% vs.プラセボ群14.4%、p=0.568)には、両群間で差は認められなかった。母親の出血性合併症(分娩前の出血[0.6% vs.0.6%、p=0.815]、分娩後の出血[0.8% vs.0.7%、p=0.481]、上部消化管出血[0.1% vs.<0.1%、p=0.216])や、貧血(0.4% vs.0.4%、p=0.893)の発生にも差はみられなかった。また、母親の死亡(0.2% vs.0.2%、p=0.514)および新生児の生後28日以内の死亡(2.7% vs.3.2%、p=0.138)の頻度にも差はなかった。 著者は、「これらの知見は、既報のメタ解析の結果と一致する。今回の試験はサンプルサイズが大きいため、さまざまな低~中間所得国の多様な女性集団で、利益を明確に示すことができた」とし、「アスピリンは低コストで忍容性も高く、われわれのレジメンは世界のさまざまな臨床現場で容易かつ安全に導入が可能と示唆される」と指摘している。

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 医療関連感染症編

第1回 医療関連感染症診療の原則と基本第2回 カテーテル関連血流感染症第3回 カテーテル関連尿路感染症第4回 院内肺炎第5回 手術部位感染第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症第7回 免疫不全と感染症第8回 発熱性好中球減少症第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染 あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」のレクチャー版!岡秀昭氏による大人気番組「感染症プラチナレクチャー」の第2弾は医療関連感染症編です。医療関連感染症は、どの施設でも避けることのできない感染症であり、その対策にはすべての医療者が取り組まなくてはなりません。この番組では、医療関連感染症診療の原則と、その診断・治療・予防について臨床の現場で必要なポイントに絞って岡秀昭氏が解説していきます。2019年4月の診療報酬改定で、抗菌薬適正使用を推進するため、入院患者を対象とした「抗菌薬適正使用支援加算」が新設されています。その中心を担うAST(抗菌薬適正使用推進チーム)やICTはもちろん、その他の医療者の教育ツールとしてもご活用ください。さあ、ぜひ「感染症プラチナマニュアル2019」を片手に本番組をご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。該当書籍は以下でご確認ください。amazon購入リンクはこちら ↓【感染症プラチナマニュアル2019】第1回 医療関連感染症診療の原則と基本初回は、医療関連感染症診療の原則と基本について解説します。基本的に原則は市中感染症編と“いっしょ”です。この番組を見る前にDr.岡の感染症プラチナレクチャー市中感染症編 第1回「感染症診療の8大原則」をご覧いただくとより理解が深まります。ぜひご覧ください。入院患者の感染症は鑑別診断が限られるため、一つひとつ確認しながら進めていけば、診断は比較的容易です。まずは、その鑑別診断について、考えていきましょう。第2回 カテーテル関連血流感染症今回のテーマはカテーテル関連血流感染症(CRBSI:catheter related blood stream infection)です。重要なことは、医療関連感染のCRBSIは「カテーテル感染」ではなく、「血流感染」であるということです。そのことをしっかりと頭に入れておきましょう。番組では、CRBSIの定義、診断、治療そして予防について詳しく解説します。第3回 カテーテル関連尿路感染症今回のテーマはカテーテル関連尿路感染症(CAUTI:Catheter-associated Urinary Tract Infection)です。院内感染が疑われた患者さんに膿尿・細菌尿がみられたら尿路感染症と診断していませんか?とくに医療関連感染で起こる尿路感染症は、特異的な症状を呈さないことも多く、Dr.岡でさえ、悩みながら、自問しながら、診断する大変難しい感染症です。その感染症にどう立ち向かうか!明快なレクチャーでしっかりと確認してください。第4回 院内肺炎今回のテーマは院内肺炎(HAP:hospital-acquired pneumonia)です。医療関連感染である院内肺炎は診断が非常に難しく、また、死亡率が高く、予後の悪い疾患です。その中で、どのように診断をつけ、治療を行っていくのか、診断の指針と治療戦略を明快かつ、詳細に解説します。また、医療ケア関連肺炎(HCAP:Healthcare-associated pneumonia)に関するDr.岡の考えについてもご説明します。第5回 手術部位感染今回のテーマは手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)です。手術部位感染の診断は簡単でしょうか?確かに、手術創の感染であれば、見た目ですぐに感染を判断することができますが、実は「深い」感染はかなり診断が難しく、手術部位や手術の種類によって対応も異なります。もちろん、手術を行った科の医師が対応すべきことですが、基本的なことについて理解しておきましょう。第6回 クロストリジウム・ディフィシル感染症今回はクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium Difficile Infection)です。院内発症の感染性腸炎はほとんどがCDIであり、それ以外だと非感染性(薬剤、経管栄養など)になります。CDIの診断と抗菌薬治療、そして感染予防について、明快にレクチャーします。とくに抗菌薬選択に関しては、アメリカのガイドラインだけに頼らない、岡秀昭先生の経験を基にした臨床での対応方法をお教えします。第7回 免疫不全と感染症免疫不全だからといって、ひとくくりにして、一律に広域抗菌薬を開始したり、やみくもにβ-Dグルカンやアスペルギルス抗原をリスクのない患者で測定するようなプラクティスをしていませんか?本当に重要なのは、まずは、どのような免疫不全かを判断すること。そのうえで、起こりうる病態、病原微生物を考えていきましょう。第8回 発熱性好中球減少症今回は発熱性好中球減少症(FN: Febrile Neutropenia)についてです。発熱性好中球減少症は診断名ではなく、好中球が減少しているときにおこる発熱の状態のことです。白血病やがんの化学療法中に起こることがほとんどです。FNは感染症エマージェンシーの疾患ですので、原因微生物や、臓器を特定できなくても、経験的治療を開始します。どの抗菌薬で治療を開始すべきか、またどのように診断をつけていくのか、治療効果の判断は?そして、また、その治療過程についてなど、岡秀昭先生の経験を交え、詳しく解説します。第9回 細胞性免疫不全と呼吸器感染最終回!今回は細胞性免疫不全者の呼吸器感染(肺炎)について、解説します。細胞性免疫不全者の呼吸器感染は、多様な微生物が原因となりうるため、安易に経験的治療を行わず、まずは微生物のターゲットを絞ることが重要となります。番組では、原因となる微生物の分類、そして、臨床像やCT画像で微生物を鑑別するポイントや、必要となる検査など、臨床で必要となる知識をぎゅっとまとめて、しっかりとお教えします。

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2020調剤報酬改定 「対物」点数はどこまで下がるのか?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第41回

2020年度の診療報酬・調剤報酬改定の議論が着々と進んでいます。1月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)より、「個別改定項目について」(いわゆる短冊)が公表されました。これで何を変えるかという大枠が決まったことになります。今後は具体的な個別項目の議論に移り、要件や点数などの詳細が決まっていきます。薬局に関しては、やはり「患者のための薬局ビジョン」に掲げられた対物業務から対人業務へのシフトが改定の核になっているという印象があります。今回は、うさこ的に気になったいくつかのポイントを紹介します。1.薬局からの情報提供2018年度の改定において、重複投薬の解消を目的として服用薬剤調整支援料が新設されました。算定要件のハードルの高さが話題になりましたが、今回はもう少しマイルドな「服用薬剤調整支援料2」が新設されます。要件としては、複数の医療機関において6種類以上の内服薬が処方されている場合に、重複投薬などの状況を含めた一元的把握を行い、医師に重複投薬解消に係る提案を行った場合に算定することができます。残薬への対応としては、薬剤服用歴管理指導料の要件にお薬手帳による医療機関への情報提供を推進する規定が追加されます。重複投薬でも残薬対応でも、薬局が一元的に情報を集めて、医師へ効率的に情報提供する流れを整えたいという意図が読み取れます。2.地域への貢献、連携地域への貢献や連携は今までも求められていましたが、医療機関と薬局との連携、地域と薬局との連携、他職種と薬剤師との連携など、さまざまな連携が複数の加算の要件として具体的な数字で求められます。たとえば、地域支援体制加算の要件として「研修認定薬剤師が地域の多職種と連携する会議に●回以上出席」「在宅患者に対する薬学的管理および指導の回数●回以上」「患者の服薬情報等を文書で医療機関に提供した実績●回以上」など、より具体的な貢献や連携が必要とされます。年度末に慌てることのないようにスケジュールを立てて日々取り組みたいものです。※●はいずれも数字未定3.専門領域における服薬後のフォローがん領域、呼吸器領域、糖尿病領域、経管投与で薬学的な支援を行った場合に、それぞれ「薬剤服用歴管理指導料 特定薬剤管理指導加算2」「同 吸入薬指導加算」「同 調剤後薬剤管理指導加算」「経管投薬支援料」が算定できるようになります。薬剤師は薬剤師にしかできない対人業務に専念してね、といった感じでしょうか。これらはいわゆる「服薬後のフォロー」に対して算定できるものですが、その結果を医師に報告することが要件となりそうですので、医師への報告方法について事前に確認する必要がありそうです。4.対物業務の減点ここまでは新設される要件を紹介してきましたが、明確に点数を減らされるなという予感がするものもあります。それは、おそらく対物業務に分類されている調剤基本料と調剤料です。調剤料は、現状では14日分以下の場合は「7日目以下の部分(1日分につき5点)」「8日目以上の部分(1日分につき4点)」に小さく分かれていて、15日分以上の場合は段階的に点数が上がっていくという構造です。まだ具体的な点数は決まっていませんが、今回の改定では14日分以下であっても「7日分以下の場合」と「8日分以上14日分以下の場合」の2段階に分かれます。調剤料の改定箇所に「対物業務から対人業務への構造的な転換の観点から見直しを行う」と記されていることから、これは対人業務の点数は上げますが対物業務の点数は減らしますよという予告で、確実に点数が減らされると思っています。2019年4月2日付で発出された「調剤業務のあり方について」(いわゆる0402通知)によって、薬剤師以外の薬局従事者による調剤ができることになったことも後押ししているのでしょう。先日の薬機法改正において、「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」という新たな認定薬局制度を設ける旨が定められました。2020年度の報酬改定にこの認定制度は間に合いませんが、次回の改定では何らかの点数に絡んでくるものと思われます。点数ゲットだけを目標とするのはいかがなものかと思いますが、対人業務による加算を確実に押さえていかないといけないのだとひしひし感じます。対物業務から対人業務への足音は、実は既存の調剤業務の点数を減らす足音でもあったようです。

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肺がんuncommon EGFR変異に対するアファチニブの有効性/JTO

 uncommon EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)に対するアファチニブの有効性を検討した知見が示された。uncommon EGFR遺伝子変異陽性のNSCLC患者におけるEGFR-TKIの有効性に関する臨床データは限られている。国立台湾大学病院のJames Chih-Hsin Yang氏らは、さまざまな臨床試験のプール解析から、アファチニブは、主要なuncommon EGFR遺伝子変異および複合変異を有するNSCLCに対して有効性を示すことを明らかにした。Journal of Thoracic Oncology誌オンライン版2020年1月10日号掲載の報告。 研究グループは、無作為化臨床試験、拡大治験(人道的使用および拡張アクセスプログラム)、第IIIb相試験、非介入試験および症例集積研究においてアファチニブによる治療を受けたuncommon EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者計693例のプール解析を行った。 対象患者は、EGFR遺伝子変異により次のように分類された。(1)T790M、(2)exon 20挿入、(3)主要uncommon遺伝子変異(T790Mおよびexon 20挿入を除くG719X、L861Q、S768I、その他)、(4)複合変異、(5)その他のuncommon遺伝子変異である。 主要評価項目は、全奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、治療成功期間(TTF)であった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象のEGFR-TKI未治療患者は315例であった。・主要uncommon遺伝子変異群では、TTF中央値は10.8ヵ月、ORRは60.0%、DoR中央値は17.1ヵ月であった。・複合変異群では、TTF 14.7ヵ月、ORR 77.1%、DoR 16.6ヵ月であった。・その他のuncommon遺伝子変異群では、TTF 4.5ヵ月、ORR 65.2%、DoR 9.0ヵ月であった。・exon 20挿入群では、TTF 4.2ヵ月、ORR 24.3%、DoR 11.9ヵ月であった。

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新型コロナウイルス感染症、“疑い例”の定義について/日本医師会

 刻々と状況が変化する中、新型コロナウイルス感染症の「臨床的特徴」や「感染が疑われる患者の要件」について、適時アップデートが行われている。2月5日の日本医師会の定例会見では、厚生労働省発出の文書に基づく現時点での定義や、今後の医療機関での対応の見通しについて、釜萢 敏常任理事が説明した。初めて“濃厚接触”を具体的に定義 厚生労働省では、2月4日付の感染症法に基づく届出基準の一部改正についての都道府県宛通知1)において、同感染症の「臨床的特徴」および「感染が疑われる患者の要件」を下記のように定義している。<臨床的特徴(2020年2月2日時点)> 臨床的な特徴としては、潜伏期間は2~10日であり、その後、発熱、咳、全身倦怠感等の感冒様症状が出現する。一部のものは、主に5~14日間で呼吸困難等の症状を呈し、胸部 X 線写真、胸部 CT などで肺炎像が明らかとなる。高齢者及び基礎疾患を持つものにおいては重症化するリスクが一定程度あると考えられている。<感染が疑われる患者の要件> 患者が次のア、イ、ウ又はエに該当し、かつ、他の感染症又は他の病因によることが明らかでなく、新型コロナウイルス感染症を疑う場合、これを鑑別診断に入れる。ただし、必ずしも次の要件に限定されるものではない。ア)発熱または呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する者であって、新型コロナウイルス感染症であることが確定したものと濃厚接触歴があるものイ)37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、発症前14日以内にWHOの公表内容から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域に渡航又は居住していたものウ)37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、発症前14日以内にWHOの公表内容から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域に渡航又は居住していたものと濃厚接触歴があるものエ)発熱、呼吸器症状その他感染症を疑わせるような症状のうち、医師が一般に認められている医学的知見に基づき、集中治療その他これに準ずるものが必要であり、かつ、直ちに特定の感染症と診断することができないと判断し(法第14条第1項に規定する厚生労働省令で定める疑似症に相当)、新型コロナウイルス感染症の鑑別を要したもの※濃厚接触とは、次の範囲に該当するものである。・ 新型コロナウイルス感染症が疑われるものと同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があったもの・ 適切な感染防護無しに新型コロナウイルス感染症が疑われる患者を診察、看護若しくは介護していたもの・ 新型コロナウイルス感染症が疑われるものの気道分泌液若しくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高いもの 釜萢氏は上記イ、ウで示される「WHOの公表内容から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域」について、中国湖北省が該当と説明。中国の湖北省以外の地域は該当しないのかとの問合せもあるが、検査対象となる疑い例イ、ウの定義としては、現時点では原則として同地域に限定されるとした。「帰国者・接触者相談センター」で受け付け、「帰国者・接触者外来」で受診・検査 また、厚生労働省は2月1日付の事務連絡2)で、都道府県宛に「帰国者・接触者相談センター」ならびに「帰国者・接触者外来」の設置を指示。相談センターは当面主に保健所が担い、帰国者・接触者外来は主に感染症指定医療機関が担う。ただし、今後検体が増加する可能性に備えて、標準予防策を講じられる医療機関については、感染症指定医療機関に限らず医療機関の同意のうえ指定の可能性があるとした。 一般医療機関においては、本来帰国者・接触者外来を受診すべき疑い例であることが判明した場合は、まず相談センターへ連絡のうえ、センターで検体採取が必要と判断された場合に、帰国者・接触者外来の受診という流れとなる。中国からの報告と、国内で診察した医師の印象は乖離か 中国からの報告では、2割強が重症例で、死亡率は2%台とされているが、まず前提としてこれらの報告が感染者のうちの肺炎患者に限られている点を同氏は指摘。一方、まだ数例ではあると前置きしたうえで、国内で症例を診察した医師の印象は中国からの報告から得られる印象とは乖離しているようだと話した。PCR法に代わる簡易検査法や治療薬(タイからの報告はまだエビデンスといえるレベルではない)の開発等にはまだ時間を要すると考えられ、収束の見通しについても正確な見極めはこれからの段階であると強調した。

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抗菌薬が十分量処方されていなかったため上乗せを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第14回

 今回は、動物咬傷による皮膚軟部組織感染に対する抗菌薬の処方提案です。病状の改善や耐性菌を生み出さないためには抗菌薬を十分量投与する必要があります。医師の選択した抗菌薬の種類だけでなく、投与量も適切かどうか確認するクセをつけましょう。患者情報50歳、男性(外来)体  重:60kg基礎疾患:高血圧症、糖尿病、足白癬既 往 歴:とくになし主  訴:ペットの犬に噛まれた右手の疼痛、発熱直近の検査値:血清クレアチニン(Scr)0.9mg/dL推算CCr:83.3mL/min処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.シタグリプチン錠50mg 1錠 分1 朝食後3.テルビナフィンクリーム 10g 1日1回 足全体4.エフィナコナゾール液10% 3.56g 1日1回 爪全体5.アモキシシリン・クラブラン酸配合錠250RS 3錠 分3 毎食後本症例のポイント糖尿病患者さんは、感染症に罹患しやすく、重篤化しやすいため、十分量の抗菌薬が処方されているか慎重に確認する必要があります。今回の患者さんは、糖尿病の基礎疾患があり、動物咬傷による皮膚軟部組織感染と推察できますので、アモキシシリン・クラブラン酸配合錠250RS 3錠/日(アモキシシリンとして750mg/日)では治療効果が十分ではなく、1,500mg/日程度が必要と考ました。しかし、アモキシシリンが治療に有効な力価になるまで配合錠を増量すると、クラブラン酸が高用量になり過ぎてしまいます。高用量のクラブラン酸は下痢や嘔気などの消化器症状が増加する懸念がある一方で、抗菌効果の増強にはならないと指摘されていますので良いところなしです。そのため、アモキシシリンの用量を上げたい場合は、アモキシシリン・クラブラン酸配合錠を増量するのではなく、アモキシシリン単剤を追加してアモキシシリンの力価だけを増やすことがあります。アモキシシリン・クラブラン酸配合錠とアモキシシリン錠の先発品名から「オグサワ」と呼ばれる有名な治療方法です。海外製品のアモキシシリン・クラブラン酸配合錠の標準比は、アモキシシリン:クラブラン酸=4:1だが、日本製品(成人用)は2:1でアモキシシリンの配合比が低い。アモキシシリン・クラブラン酸配合錠250RS 3錠/日にアモキシシリン単剤250mg 3錠/日を追加することでアモキシシリン:クラブラン酸=4:1となり、クラブラン酸を増量せずに十分量のアモキシシリンを投与することができる。処方提案と経過処方医に想定される起炎菌と重症度を確認したところ、傷の深さや発熱などの症状から重症度は高めで、ブドウ球菌や嫌気性菌を考えているとのことでした。核心の用量については、逆に抗菌薬の十分量について質問を受けたので、上記のアモキシシリン250mg/回を追加することで十分な治療効果が見込め、腎機能も推算CCrから問題ない旨をお伝えしました。その結果、処方はアモキシシリン錠250mg 3錠 分3 毎食後をアモキシシリン・クラブラン酸配合錠に同日数分上乗せするよう指示を受けました。数日後、医師より患者さんの体調が回復したというご報告と、オグサワの使用経験がなく不安があったが今後の診療でも活用していきたいというコメントを頂きました。1)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019(第49版). ライフサイエンス出版;2019.2)オーグメンチン配合錠インタビューフォーム

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米国うつ病患者の薬物療法と治療パターン

 ケアの潜在的なギャップを特定するためには、リアルワールドで患者がどのように治療されているか理解することが不可欠である。米国・Janssen Research & DevelopmentのDavid M. Kern氏らは、現在の米国におけるうつ病に対する薬理学的治療パターンについて解析を行った。BMC Psychiatry誌2020年1月3日号の報告。 2014年1月~2019年1月に、4つの大規模な米国レセプトデータベースよりうつ病患者を特定した。対象は2回以上のうつ病診断歴またはうつ病入院患者で、最初のうつ病診断の1年以上前および診断後3年間にデータベースへの登録がある患者を適格とした。対象患者に対する治療パターンは、薬剤クラスレベル(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬、その他の抗うつ薬、抗不安薬、催眠鎮静薬、抗精神病薬)で、利用可能なすべてのフォローアップ期間中に収集した。 主な結果は以下のとおり。・対象のうつ病患者は、26万9,668例であった。・フォローアップ期間中に、薬理学的治療を行っていなかった患者の割合は29~52%であった。・治療を行っていた患者の約半数は、2つ以上の異なるクラスの薬剤で治療が行われていた。また、3クラス以上の薬剤で治療が行われていた患者は4分の1、4クラス以上の薬剤で治療が行われていた患者は10%以上であった。・最も一般的な第1選択薬はSSRIであったが、多くの患者において抗うつ薬治療前に、抗不安薬、催眠鎮静薬または抗精神病薬による治療が行われていた。・クラス間の併用による治療は、第1選択薬での治療の約20%から第4選択薬での治療の40%の範囲内で認められた。 著者らは「うつ病と診断された多くの患者は治療を受けていない。また、治療を受けていた患者の多くは、最初の治療が抗うつ薬以外の薬剤によって行われていた。半数以上の患者は、フォローアップ期間中に複数のタイプの治療を受けており、多くの患者において初回治療が最適ではなかった可能性が示唆された」としている。

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複数のセロトニン受容体への作用を併せ持つ新作用機序抗うつ薬「トリンテリックス錠10mg/20mg」【下平博士のDIノート】第42回

複数のセロトニン受容体への作用を併せ持つ新作用機序抗うつ薬「トリンテリックス錠10mg/20mg」今回は、セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬「ボルチオキセチン臭化水素酸塩錠」(商品名:トリンテリックス錠10mg/20mg、製造販売元:武田薬品工業)を紹介します。本剤は、複数の神経伝達物質を調節することで、うつ病に起因する多様な症状を改善することが期待されています。<効能・効果>本剤は、うつ病・うつ状態の適応で、2019年9月20日に承認され、2019年11月27日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはボルチオキセチンとして10mgを1日1回経口投与します。なお、患者の状態により1日20mgを超えない範囲で適宜増減できますが、増量は1週間以上の間隔を空けて行います。なお、CYP2D6の阻害作用を有する薬剤を投与中の患者または遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者では、本剤の血中濃度が上昇するため10mgが上限となります。<副作用>大うつ病性障害患者を対象とした国内臨床試験および国際共同試験において、1,050例(うち日本人708例)中、499例(47.5%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、悪心200例(19.0%)、傾眠63例(6.0%)、頭痛60例(5.7%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、セロトニン症候群、痙攣、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内の気分に関わる神経伝達をスムーズにして、抑うつ気分や不安などの症状を和らげます。2.自己判断で服薬を中止したり、量を減らしたりすると、症状が悪化することがあるので、医師の指示どおりに飲み続けることが大切です。3.飲み始めや増量時に、吐き気、眠気、頭痛などを感じることがあります。多くの場合、飲み続けると軽減しますが、症状がつらいときには、すぐに医師または薬剤師に連絡してください。4.興奮・混乱、不眠、体の震え、発熱・発汗、嘔吐物や便に血が混じる、めまい、突然の意識低下や片側の手足が動かしにくくなるなどの症状が現れた場合は、すぐに受診してください。5.飲み合わせに注意が必要な薬があるため、他の薬を使用している場合や新たに使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。<Shimo's eyes>わが国で承認されている既存の抗うつ薬には、三環系・四環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)およびノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)があります。 本剤は、複数のセロトニン受容体へのアゴニスト作用とトランスポーター阻害作用を有し、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、ヒスタミンの遊離も調節します。このことから、「セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬」に分類され、複数のアプローチでうつ病・うつ症状を改善することが期待されています。薬物相互作用として、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬のセレギリン塩酸塩(商品名:エフピーほか)と、ラサギリンメシル酸塩(同:アジレクト)を服用中または中止後14日以内の患者では禁忌です。同様に、本剤を服用していて、これらの薬剤を投与する必要が生じた場合には、本剤の服用を中止した後14日以上の間隔を空ける必要があります。また、本剤の作用により血小板凝集能が阻害される恐れがあるため、出血性素因のある患者や出血傾向を増強させる薬剤を服用中の患者は併用注意です。なお、腎機能低下患者、肝機能低下患者に対して、投与量の制限は設定されていません。抗うつ薬の服用中に、急に気分が落ち着かなくなり、振戦・発熱・発汗などが認められた場合は、セロトニン症候群の可能性があります。不安や焦燥が強い場合はうつ病の悪化と判断が難しいこともありますが、振戦や発汗などの身体症状を伴う場合はセロトニン症候群を疑い、速やかに受診勧奨を行いましょう。そのほか、飲み始めや増量時に発現しやすい副作用の症状については、具体的に伝えるようにしてください。なお、24歳以下の患者では自殺念慮・企図のリスクが増加するため、2007年よりすべての抗うつ薬の添付文書においてリスクとベネフィットを考慮して投与するよう注意喚起が記載されています。自傷や気分変動など情緒不安定の発現や増悪が認められる恐れがありますので、患者さんの様子に異変を感じた場合は医師に連絡し、必要に応じて減量もしくは中止について相談しましょう。海外では、2020年1月現在、米国、欧州、カナダを含む計80ヵ国以上で承認されていますが、国内での副作用情報には注目しておくとよいでしょう。参考1)PMDA トリンテリックス錠10mg/20mg

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