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ドイツにおける教授とは【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第30回

日本では「教授」といえば大学におけるヒエラルキーのトップである役職ですが、ドイツにおける“Professor”というのは意味合いが少し変わってきます。ドイツでは教授というのは役職ではなく、称号(Titel)を指します。ドイツでは男性は“Herr”、女性には“Frau”という敬称を付けるのですが、これが教授になると、“Herr prof.”とか、“Frau prof. ”と変わります。どのくらい変わるのかというと、パスポートの表記から役所の住所登録まで、公の書類も含めて全部書き換えるそうです。このProfessorという称号は、あくまで学術的な仕事に対して与えられます。ですから、実際の職場での役職とは関係がないことになります。極端な例になりますが、ごくまれに研修医の中に教授がいたりします。研修医の中に教授がいて、上級医に怒られたりしているなんて、日本で考えると奇妙な現象です。とは言っても、施設の長となる人はおおむねProfessorであることがほとんどです。Professorへの道のりProfessorになるためにはまず医学博士号を取得する必要があります。その後、数年にわたり学術活動を続け、ある程度論文が溜まったところで“Habilitation”という大学教授になるための資格取得をするための手続きを行います。そして“Verteidigung”、英語だと“defense”(日本語だと「防御」の意味でしょうか)と呼ばれる、学位審査みたいな論文の発表会に挑むことになります。自分の研究テーマについて発表を行い、あちこちから飛んでくる質問から、自分の論文を「守る」ことになります。Habilitationの際のVerteidigungのプレッシャーは相当なものらしく、発表前はβブロッカーを内服して緊張の症状を和らげたりするそうです。発表終了後、内服を中断して飲み歩いていたらリバウンドが発生して救急車で運ばれた、っていうのが教授の鉄板ネタで、術中に3~4回聞かされました。Habilitationを終えれば晴れて教授になるのかといえば、それも違います。まずは“Privatdozent”という称号を貰います。正直、何度説明を聞いてもいまいち理解できないのですが、どうやら「教授になることができる」という証明のような称号らしいです。Privatdozentになった後、どこかしらの大学がその学術的業績を認めた際に、ようやく教授を拝命できるらしいです。このPrivatdozentは、ドイツ特有の制度と聞いたことがあります。東欧から来ている同僚たちも「いまいちよく分からん」と言っていました。 Klinikum Karlsburgのホームページより。2020年1月より着任した心臓外科の主任が、Privatdozentでした。Professorとどう違うの? と同僚に聞いても、みんなフワッとしか理解していませんでした。実は現在も、(私が知っているだけでも)数名の日本人の先生がドイツで教授の称号を得て働いておられます。長い長い道のりを乗り越えて辿り着かれたんだろうな、と頭が下がる思いです。

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特発性門脈圧亢進症〔IPH:Idiopathic portal hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性門脈圧亢進症(idiopathic portal hypertension:IPH)とは、肝硬変、肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞、およびその他の原因となるべき疾患を認めずに門脈圧亢進症を呈するもので、肝内末梢門脈枝の閉塞、狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。なお、門脈圧亢進症とは門脈系の血行動態の変化により、門脈圧(正常値100~150mmH2O)が常に200mmH2O(14.7mmHg)以上に上昇した状態である。■ 疫学IPHは比較的まれな疾患で、年間受療患者数(2004年)は640~1,070人と推定され、人口100万人当たり7.3人の有病率と推定されている(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:2.7と女性に多く、発症のピークは40~50歳代で平均年齢は49歳である。欧米より日本にやや多い傾向があり、また都会より農村に多い傾向がある。■ 病因本症の病因はいまだ不明であるが、肝内末梢門脈血栓説、脾原説、自己免疫異常説などがある。中年女性に多発し、血清学的検査で自己免疫疾患と類似した特徴が認められ、自己免疫疾患を合併する頻度も高いことからその病因として自己免疫異常、特にT細胞の自己認識機構に問題があると考えられている。■ 症状重症度に応じ食道胃静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、汎血球減少、脾腫、貧血、肝機能障害などの症候、つまり門脈圧亢進症の症状を呈す。通常、肝硬変に至ることはなく、肝細胞がんの母地にはならない。■ 予後IPH患者の予後は静脈瘤(出血)のコントロールによって規定され、コントロール良好ならば肝がんの発生や肝不全死はほとんどなく、5年および10年累積生存率は80~90%と極めて良好である。また、長期観察例での肝実質の変化は少なく、肝機能異常も軽度である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ IPH診断のガイドラインIPHの診断基準は、厚生労働省特定疾患:門脈血行異常症調査研究班の定めた「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)のIPH診断のガイドラインに則る。1)一般検査所見(1)血液検査 1つ以上の血球成分の減少を示し、特に血小板数減少は顕著である。(2)肝機能検査正常または軽度異常が多い。(3)内視鏡検査食道胃静脈瘤を認めることが多い。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることもある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査a)巨脾を認めることが多い。b)肝臓は病期の進行とともに、辺縁萎縮と代償性中心性腫大となる。c)肝臓の表面は平滑なことが多いが、全体に波打ち状(大きな隆起と陥凹)を呈するときもある。d)結節性再生性過形成や限局性結節性過形成などの肝内結節を認めることがある。e)脾動静脈は著明に拡張している。f)著しい門脈・脾静脈血流量の増加を認める。g)二次的に門脈に血栓を認めることがある。(2)上腸間膜動脈造影門脈相ないし経皮経肝門脈造影肝内末梢門脈枝の走行異常、分岐異常を認め、その造影能は不良で、時に門脈血栓を認めることがある。(3)肝静脈造影しばしば肝静脈枝相互間吻合と「しだれ柳様」所見を認める。閉塞肝静脈圧は正常または軽度上昇にとどまる。(4)Scintiphotosplenoportography (SSP)SSPは経皮的に脾臓より放射性物質を注入し、その動態で最も生理的に近い脾静 脈血行動態のdynamic imageが得られるだけではなく、そのデータ処理にてさまざまな情報が得られる検査法である。SSPにより門脈血に占める脾静脈血の割合を求めると、正常では18.6%、慢性肝炎では48.0%、肝硬変では47.8%、IPHでは73.8%であった2)。つまりIPHでは、脾静脈血流が著明に増加している。3)病理検査所見(1)肝臓の肉眼所見時に萎縮を認める。表面平滑な場合、波打ち状や凹凸不整を示す場合、変形を示す場合がある。割面は被膜下の実質の脱落をしばしば認める。門脈に二次性の血栓を認める例がある。また、過形成結節を認める症例がある。肝硬変の所見はない。(2)肝臓の組織所見肝内末梢門脈枝の潰れ・狭小化、肝内門脈枝の硬化症および側副血行路を呈する例が多い。門脈域の緻密な線維化を認め、しばしば円形の線維性拡大を呈する。肝細胞の過形成像がみられ結節状過形成を呈することがあるが、周囲に線維化はなく、肝硬変の再生結節とは異なる。(3)脾臓の肉眼所見著しい腫大を認める。(4)脾臓の組織所見赤脾髄における脾洞(静脈洞)の増生、細網線維や膠原線維の増加、脾柱におけるGamna-Gandy結節を認める。本症は症候群であり、また病期により病態が異なることから、一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は肝臓の病理組織学的所見の合致が望ましい。除外疾患は肝硬変症、肝外門脈閉塞症、バッド・キアリ症候群、血液疾患、寄生虫疾患、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症、慢性ウイルス性肝炎、非硬変期の原発性胆汁性胆管炎などが挙げられる。■ 重症度分類「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)ではIPHの重症度分類も定められている。重症度I  診断可能だが、所見は認めない。重症度II 所見は認めるものの、治療を要しない。重症度III所見を認め、治療を要する。重症度IV身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V 肝不全ないし消化管出血を認め、集中治療を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療適応IPHの治療対象は、門脈圧亢進症に伴う食道胃静脈瘤、脾機能亢進に伴う汎血球滅少症、脾腫である。治療法としては、食道胃静脈瘤症例では内視鏡的治療、塞栓術、手術療法など、内科的治療が難しい脾腫・脾機能亢進症例では塞栓術または手術療法を施行する。■ 食道静脈瘤1)食道静脈瘤破裂では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的静脈瘤結紮術(または内視鏡的硬化療法)にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療や待期手術を考慮する。3)未出血の症例(予防例)では、「門脈圧亢進症取扱い規約【第3版】」3)に従って静脈瘤所見を判定し、F2、3またはRC陽性の場合、内視鏡的治療や手術を考慮する。4)手術療法としては、選択的シャント手術として選択的遠位脾腎静脈吻合術(DSRS)や、直達手術として下部食道離断+脾摘+下部食道・胃上部血行郭清を加えた食道離断術または内視鏡的治療と併用して脾摘術+下部食道・胃上部の血行郭清(ハッサブ手術)を行う。■ 胃静脈瘤1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部静脈瘤に対しては食道静脈瘤の治療に準じて対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂例では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的硬化療法にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合はバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの塞栓術や緊急手術も検討する。 3)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療追加やB-RTO などの塞栓術、待期手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。4)未出血症例(予防例)では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、塞栓術、手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。■ 脾腫、脾機能亢進症巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しい場合および脾機能亢進症(汎血球減少)による高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向を認める場合は部分的脾動脈塞栓術(PSE)または脾摘術を検討する。PSEは施行後に血小板数は12~24時間後に上昇し始め、ピークは1~2週間後である。2ヵ月後に安定し、長期的には前値の平均2倍を維持する。4 今後の展望IPHの原因はいまだ解明されていない。しかし、静脈瘤のコントロールが良好ならば、予後は良好であるため静脈瘤のコントロールが重要である。予後が良いため長期的に効果が持続する手術療法が施行されている。近年、低侵襲手術として腹腔鏡下手術が行われており、食道胃静脈瘤に対する手術も腹腔鏡下手術が中心となっていくであろう。5 主たる診療科消化器外科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター 特発性門脈亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 門脈血行異常症ガイドライン 2018年改訂版. 2018.2)吉田寛. 日消誌. 1991;88:2763-2770.3)日本門脈圧亢進症学会. 門脈圧亢進症取扱い規約 第3版. 金原出版.2013.公開履歴初回2021年03月29日

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産科救急マニュアル―産科婦人科ベストセレクション

不意打ちのように遭遇する母体・胎児の急変に対応不意打ちのように遭遇する母体・胎児の急変に対し、3つの構成で解説。1)基本手技編:周産期救急にスポットを当てたバイタルサイン・検査・救急蘇生、2)症候編:産科臨床における前景疑問(起こり得る疑問)に対する回答・検査・初期対応・フローチャートによる診断までの流れを図解、3)疾患編:妊産婦の状態と施設の状況に応じた対応の要点について、エビデンスを基に紹介。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    産科救急マニュアル―産科婦人科ベストセレクション定価9,900 円(税込)判型B5判頁数256頁 写真・図・表:205点発行2021年3月監修藤井 知行(山王病院)編集永松 健(東京大学)

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ほむほむ先生の小児アレルギー教室

ほむほむ先生が、親御さんから寄せられた小児アレルギー関連の実際のご質問にお答えしま~す!授業形式の本書、ほむほむ先生の授業はとってもわかりやすく、漫画家の青鹿ユウさんの漫画やイラストもとてもかわいいですよ!全国の小児アレルギーに悩むお子さんや親御さんのために、ほむほむ先生が、アレルギーの仕組みや検査、お薬のお話などをやさしく教えてくれます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    ほむほむ先生の小児アレルギー教室定価2,420円(税込)判型B5判変型頁数278頁発行2021年3月著者堀向 健太画青鹿 ユウ

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pirtobrutinib(LOXO-305)、既治療のB細胞性悪性腫瘍に有望/Lancet

 共有結合型ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬などによる前治療歴のあるB細胞性悪性腫瘍(慢性リンパ性白血病[CLL]/小リンパ球性リンパ腫[SLL]など)の治療において、非共有結合型BTK阻害薬pirtobrutinib(LOXO-305)は、良好な安全性と耐用性を示し、全奏効率も優れることが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのAnthony R. Mato氏らが実施した「BRUIN試験」で確認された。研究の成果は、Lancet誌2021年3月6日号で報告された。共有結合型BTK阻害薬は、B細胞性悪性腫瘍に有効だが、抵抗性や不耐性のため患者は治療を継続できない。pirtobrutinib(LOXO-305)は、この問題の解決を目標に開発が進められており、経口投与が可能で、高選択性の可逆的BTK阻害薬である。pirtobrutinib(LOXO-305)の非盲検第I/II相試験 本研究は、6ヵ国(オーストラリア、フランス、イタリア、ポーランド、英国、米国)の27施設が参加したヒトで最初の(first-in-human)非盲検第I/II相試験であり、2019年3月~2020年9月の期間に患者登録が行われた(Loxo Oncologyの助成による)。 対象は既治療のB細胞性悪性腫瘍の患者であった。第I相試験では、pirtobrutinib(LOXO-305)の7段階(25mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg)の用量が、28日を1サイクルとして1日1回経口投与された。投与は、病勢進行、許容できない毒性、患者の希望で中止となるまで継続された。引き続き、第I相試験の推奨用量を用いて第II相試験が実施された。 主要評価項目は、第I相試験が最大耐用量、第II相試験は全奏効割合(ORR)とした。pirtobrutinib(LOXO-305)最大耐用量に到達せず、ORRは63% 第I相試験203例、第II相試験120例の合計323例(年齢中央値68歳[IQR:62~74])が登録された。CLL/SLLが170例、マントル細胞リンパ腫(MCL)が61例、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(WM)が26例、その他のB細胞性リンパ腫が66例であった。 第I相試験では、pirtobrutinib(LOXO-305)の25~300mgの全用量範囲を通じて線形の用量比例性(最大血漿中濃度、曲線下面積)が認められ、個体間変動は小さかった。用量制限毒性はみられず、最大耐用量には到達しなかった。第II相試験のpirtobrutinib(LOXO-305)推奨用量は200mg/日に設定された。 323例の10%以上で発現した有害事象は、疲労(65例[20%])、下痢(55例[17%])、挫傷(42例[13%])であった。最も頻度の高いGrade3以上の有害事象は、好中球減少(32例[10%])だった。pirtobrutinib(LOXO-305)の曝露量とGrade3以上の治療関連有害事象には関連がなかった。 Grade3の心房細動および粗動は観察されず、Grade3の出血が1例(自転車事故時のくも膜下出血、pirtobrutinibとの関連はないと判定)で認められた。5例(1%)が、治療関連有害事象のため治療を中止した。 CLL/SLL患者(前治療ライン数中央値:3)におけるpirtobrutinib(LOXO-305)のORRは63%(88/139例)(95%信頼区間[CI]:55~71)であった。また、共有結合型BTK阻害薬による前治療歴のあるCLL/SLL患者(前治療ライン数中央値:4)のORRは62%(75/121例)(95%CI:53~71)だった。 CLL/SLL患者のORRは、共有結合型BTK阻害薬抵抗性(67%[53/79例])、同不耐性(52%[22/42例])、BTK C481変異陽性(71%[17/24例])、BTK野生型(66%[43/65例])でほぼ同様であった。また、共有結合型BTK阻害薬による前治療歴のあるMCL患者のORRは52%(27/52例)(95%CI:38~66)だった。 解析の時点で、奏効が得られたCLL、SLL、MCL患者117例のうち8例を除くすべてが、無増悪生存を維持していた。 著者は、「pirtobrutinib(LOXO-305)に固有の特性によるBTK阻害効果は、共有結合型と非共有結合型のBTK阻害薬を逐次的に使用することで、B細胞性悪性腫瘍患者における臨床的有益性をさらに高める可能性がある」としている。

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診察日記で綴る あたしの外来診療

医師という職能の果てにある「明察」と「decadence」治らない患者、納得しない患者。もしかしたら、病気がないかもしれない患者…。そんな患者たちが訪れる場末の診療所には「あたし」という1人の女性医師がいた。再診、再診、再診の繰り返し。その日記に綴られた吐露には….。鬼才・國松 淳和医師が目論む「日記ノベル」。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    診察日記で綴る あたしの外来診療定価2,640円(税込)判型四六版頁数242頁発行2021年3月著者國松 淳和

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相次ぐ後発医薬品の不祥事に薬剤師として思うこと【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第65回

この20年ほどの間に後発医薬品市場は急激に成長し、患者さんにも広く受け入れられるようになりました。しかし、昨年から残念な事件が立て続けに起こっています。2020年12月に福井県の小林化工において、経口抗真菌薬に睡眠薬の成分が混入し、死亡を含む多数の健康被害が発生しました。また、富山県の日医工は、承認されていない工程で医薬品を製造したとして、昨年から本年1月にかけて75品目を相次いで自主回収しました。どちらも医薬品の見た目では瑕疵を判断ができないこともあり、後発医薬品全体の信頼を失うことになりました。結果として、小林化工・日医工ともに、業務停止命令が出されました。小林化工は医薬品史上最長となる116日間の業務停止となり、日医工は主力の富山第一工場での製造は32日間、全社での販売業務は24日間の停止となりました。どちらも非常に重い行政処分であり、医療者や患者さんからの信頼を回復するのは簡単ではないでしょう。事件の背景や原因に関しては徐々に明らかになってきていますが、その要因の1つとして、市場の急拡大と社内の体制整備に乖離があったのではないかと思います。小林化工においては、製造手順の不正は2005年ごろから行われ、試験結果の捏造に至っては1970年代から続いていたといいます。小林 広幸社長は、記者会見で「ルールより作業効率を優先してしまった」と述べています。人の健康に寄与しているという自覚が足りないと言わざるを得ないひどい話です。また、新しい品目の承認を得る際に、製造販売業および製造業の許可権者である都道府県の実地や書面の調査が入っていたはずですが、許可権者である行政がその不正を見抜けなかったことにも重大な責任があると思います。今後、他の都道府県においても、行政からの抜き打ち検査が増えることは間違いないでしょう。薬局業務を省みても他人事と言えるのか?代替医薬品の確保に奔走している方は、「社内工程に問題があるなんて信じられない」と怒り心頭だと思いますが、かくいう私たちの薬局はどうでしょうか。どんどん店舗が増えていき、既存店舗の人が減らされ、店舗のシフトや運用がうまくいかない、となった経験がある人もいるでしょう。そんな場合に、「ちょっとくらい…」と思って手順を飛ばす、薬剤師でないスタッフに薬剤師の業務を依頼するなど、認められていないことを行ってはいないでしょうか。どのような状況であっても、法令順守違反をしてもよいという言い訳はありません。なぜ薬局開設や医薬品販売に許可が必要なのか、なぜ手順を定めなければならないのかを改めて考えて、すべての方が安心・安全に医療を受けられるように襟を正したいものです。

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第52回 南ア変異株を取り入れたCOVID-19ワクチンはより心強い

南アフリカでの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症流行第二波で台頭した変異株(南ア変異株)B.1.351の感染はSARS-CoV-2の古参も新顔も手広く相手する抗体一揃いを生み出すようで、その配列を取り入れたワクチンはどうやらより頼りがいがあるようです。同国での去年9月初めまでの流行第一波の後の10月に見つかって瞬く間に広まった1)B.1.351は回復者血漿(convalescent plasma)やモノクローナル抗体を効き難くするかまったく効かなくする変異を有し、取り急ぎ認可されたワクチンの効果にも差し障るのではないかと懸念されました。その懸念は杞憂ではなく、AstraZenecaのSARS-CoV-2ワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)の試験ではB.1.351感染者の発症を防げませんでした2)。それに、Pfizer-BioNTechやModernaのワクチン接種者の血清(抗体)のB.1.351中和はかなり劣りました3)。その結果を踏まえてModernaはB.1.351の配列を取り入れたワクチンmRNA-1273.351を仕立てており、早くも今月前半には第II相試験でその投与が始まっています4)。mRNA-1273.351はB.1.351を含むSARS-CoV-2変異株も相手できるように免疫反応の幅を広げることを目指します。南アフリカの中心都市ヨハネスブルグのウィットウォータースランド大学の ペニー・ムーア(Penny Moore)氏のチームが今月11日にbiorxivに発表した報告5)によるとmRNA-1273.351はその狙い通りの効果をもたらしてくれそうです。ムーア氏等はB.1.351が免疫の網をかいくぐることなく強力な免疫反応を引き出しうると期待し6)、ケープタウンの病院にB.1.351感染で入院した89人の血清(抗体)のSARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)阻止効果を調べました。代理ウイルスはSARS-CoV-2スパイクタンパク質を使って細胞に感染するように加工したHIVです6)。結果はムーア氏等の期待に沿うもので、B.1.351感染者の抗体はB.1.351変異を有する代理ウイルスの阻止のみならずB.1.351台頭前の流行第一波の代理ウイルスやブラジルで見つかった変異株501Y.V3 (P.1)代理ウイルスも食い止めました5)。P.1もB.1.351と同様に手強く、抗体が効きにくいことが知られています。B.1.351も相手しうるワクチンの取り組みはModernaのみならずPfizer-BioNTechやその他のワクチン開発会社も進めています。それらのワクチンはおそらくより高性能であろうとムーア氏は言っています6)。変異株感染は総じてSARS-CoV-2を手広く相手する免疫反応を引き出すかというとそうではなさそうです。たとえば英国で見つかった変異株B.1.1.7感染で備わる抗体は南ア変異株や先立って流行したウイルスの面々の認識や抑制がより不得手です7)。南ア変異株B.1.351感染でSARS-CoV-2あれこれへの手広い免疫反応が備わる仕組みは不明で、これから調べる必要があります。もしかするとB.1.351は変異株の間で共通するスパイクタンパク質特徴を認識する抗体を引き出すのかもしれません6)。参考1)Emergence and rapid spread of a new severe acute respiratory syndrome-related coronavirus 2 (SARS-CoV-2) lineage with multiple spike mutations in South Africa. medRxiv. December 22, 20202)Madhi SA,et al, N Engl J Med.2021 Mar 16. [Epub ahead of print]3)Wang P, et al.Nature.2021 Mar 8. [Epub ahead of print]4)Moderna Announces First Participants Dosed in Study Evaluating COVID-19 Booster Vaccine Candidates / businesswire5)SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies. bioRxiv. March 11, 20216)Rare COVID reactions might hold key to variant-proof vaccines / Nature7)Reduced antibody cross-reactivity following infection with B.1.1.7 than with parental SARS-CoV-2 strains. bioRxiv. March 01, 2021.

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日本人高齢者の認知症リスクと近隣歩道環境~日本老年学的評価研究コホート

 日常生活に欠かせない環境資源の1つである歩道は、身体活動を促進するうえで重要なポイントとなる。しかし、先進国においても歩道の設置率は十分とはいえない。東京医科歯科大学の谷 友香子氏らは、日本における近隣の歩道環境と認知症リスクとの関連を調査した。American Journal of Epidemiology誌オンライン版2021年2月19日号の報告。 地域在住の高齢者の人口ベースコホート研究である日本老年学的評価研究の参加者を対象に、3年間のフォローアップ調査(2010~13年)を実施した。公的介護保険制度のデータより高齢者7万6,053人の認知症発症率を調査した。436ヵ所の住宅近隣ユニットの道路面積に対する歩道の割合を、地理情報システムを用いて算出した。認知症発症率のハザード比(HR)は、マルチレベル生存モデルを用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に認知症を発症した高齢者は5,310人であった。・都市部では、歩道割合が最低四分位の地域と比較し、最高四分位の地域における認知症のHRは0.42(95%CI:0.33~0.54)であった(共変量で調整後)。・土地の傾斜、病院数、食料品店数、公園数、駅数、バス停数、教育レベル、失業率などのその他の近隣要因で連続調整した後でも、HR(0.75、95%CI:0.59~0.94)は統計学的に有意なままであった。 著者らは「都市部においては、歩道の割合が高い地域に住むことと認知症発症率の低さとの関連が認められた」としている。

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書類仕事は苦手…、そんなこと言ってると痛い目に遭いますよ、という話【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第14回

第14回 書類仕事は苦手…、そんなこと言ってると痛い目に遭いますよ、という話漫画・イラスト:かたぎりもとこ医業承継や開業においては、多くの契約が発生します。これらの契約について「固い文書は苦手だから」「業者を信頼しているから」といった理由から、十分な確認をしないまま契約を締結するケースが散見します。医業承継における主な契約には下記のようなものがあります。業務委任契約(医業承継仲介契約)秘密保持契約基本合意契約最終契約(譲渡契約)融資契約テナント賃貸借契約不動産仲介契約リース契約雇用契約今回はテナント賃貸借契約のトラブル例を紹介しました。テナント賃貸借契約は、立地がよい物件ほど多くの入居相談があり、必然的にオーナー(貸主)側の交渉力が高い傾向があります。そうした際には、貸主に有利となる条項が盛り込まれている場合があり、十分に確認をして契約を締結する必要があります。今回のケースでも、テナント賃貸借契約に「診療所を第三者に承継する場合は不動産オーナーの許可が必要となり、さらにその際には不動産オーナーに対し『承諾金』を支払う」という条項が盛り込まれていました。これは実際に私たちが手掛けた案件にあった例です。さらに、「承諾金」の200万円のほか、買い手側が不動産オーナーに賃料の2ヵ月分の礼金、不動産仲介会社に賃料1ヵ月分の仲介手数料を支払う、という内容まで盛り込まれていました。旧院長がしっかり内容を確認しなかったために、貸し手にかなり有利な契約となっていたのです。実際のところ、不動産仲介会社が不動産オーナーにこうした条項を入れるように提案するケースが多いようです。こうしたケースでは、当初の契約内容に従って案件を進めざるを得ませんが、交渉によって当初の条件が緩和されることもあるため、まずは再度きちんと契約内容を確認したうえで、交渉のステージに上がることが重要です。

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専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話

忽那賢志氏が解説する新型コロナの正体と正しい対処法「新興再興感染症に気を付けろッ!」や「診療よろず相談TV」、最近ではYAHOOニュースでもお馴染みの忽那 賢志氏の新刊です。世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症。症状はどんな経過をたどり、どんな治療が行われるのか?他の感染症と比べてどんなところが怖く厄介か? 感染はどうしたら防げるか? ワクチンはどのぐらい有効なのか? そもそも感染症とは何か?新型コロナの日本上陸直後から最前線で治療にあたる感染症専門医が、自身の現場での経験と最新の科学データをもとにやさしく解説。新型コロナの正体と正しい対処法に加えて、コロナ禍を乗り切り、次のパンデミックに備えるための知識も身につく、必読の教科書です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話定価900円 + 税判型新書判頁数264頁発行2021年3月著者忽那 賢志Amazonでご購入の場合はこちら

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第49回 新型コロナ変異株報道が悲劇を生む前に伝えたいこと

最近、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に関して、ワクチンと並んで報道量が多いのが、変異株関連である。すでに多くの方がご存じのように日本国内では英国型(B.1.1.7系統:VOC 202012/01)、南アフリカ型(B.1.351系統:VOC 501Y.V2)、ブラジル型(P.1系統)が確認されている。これに加え、最近ではフィリピン型、PCR検査で検出しにくいと言われる仏・ブルゴーニュ型などの報告もある。ただ、先日この変異株に関連したある報道を見て、私はかなり違和感を覚えてしまった。その違和感を紹介する前に、これら変異株についての現時点までの情報を改めて整理しておきたい。現在、日本で一定数の感染者が報告されているのは英国型、南アフリカ型、ブラジル型の3つである。いずれもが感染力が増強するN501Y変異、加えて南アフリカ型、ブラジル型では免疫逃避のE484K変異を持っていることがわかっている。感染性については英国型では最大40%、南アフリカ型では最大50%、ブラジル型では1.4~2.2倍、増強していると報告されている。死亡率に関しては英国型で64%上昇するとの報告があるものの、その他の変異株については不明である。厚生労働省の発表では3月16日時点で、26都道府県の399人の変異株感染事例が判明しており、変異株別では英国型が374人、南アフリカ型が8人、ブラジル型が17人。都道府県別の報告数を見ると、多くの都道府県が英国型のみの報告で兵庫県が94人、大阪府が72人、新潟県が32人、京都府が24人、東京都が14人、北海道が13人、広島県が12人など。また埼玉県は57人が報告され、うち英国型が42人、ブラジル型が15人。神奈川県は28人で、うち英国型が24人、南アフリカ型が4人。岐阜県が南アフリカ型のみ4人、山梨県がブラジル型のみ2人となっている。さて私が疑問に思った報道とは、昨今神奈川県が発表した変異株感染者2人の死亡事例に関してである。国内で初の変異株感染者の死亡例であるため、各紙が一斉に報じた。「コロナ変異株で国内初の死者 神奈川の50代と70代」(朝日新聞)「変異ウイルスに感染、初の死亡事例…神奈川の70代と50代男性」(読売新聞)「コロナ変異株で男性2人死亡 国内で初確認 神奈川県が発表」(毎日新聞)「変異株で国内初の死者 神奈川の男性2人」(産経新聞)「変異ウイルス感染の2人死亡 神奈川県、国内初確認」(日本経済新聞)「変異株で国内初の死者、神奈川 70代と50代の男性」(共同通信)いつもと違い共同通信を加えたのは、地方紙各社などがこの記事を掲載することが多いためだ。さて私見で恐縮だが、この中で私が報じ方として不合格と考えるのが読売新聞と毎日新聞であり、一番高く評価できるのは日本経済新聞。この評価の軸は、死亡した感染者の医学的なバックグラウンドをどれだけ丁寧に報じたかどうかにある。より具体的に説明すると、読売新聞、毎日新聞では報じなかった、死亡者の50代男性は高血圧・脂肪肝の基礎疾患あり、70代男性は基礎疾患なし、さらに日本経済新聞で記述している70代男性は新型コロナの症状で入院に至っていたという情報はいずれも極めて重要である。端的に言ってしまえば、この情報からは、そもそもこの2人は野生株での感染でも重症化や死亡のリスクが高い事例と分かるからである。前述のように変異株での致死性に関しては、英国型で高いとのBMJに掲載された報告があるものの、それ以外は目立った報告はなく、現時点でほぼ不明と言わざるを得ない。ところが新聞報道で基礎疾患の有無などの情報がなければ、「変異株に感染したから死亡した=変異株はただただ恐ろしい」という誤解を与えかねない。この誤解が問題なのは、差別・偏見の温床になるからである。新型コロナパンデミックが始まった当初、感染者や感染者に接する医療従事者に対する差別・偏見事例が数多く報告されたことは記憶に新しい。今でも同様の差別・偏見はなくなっていないが、徐々に減っていると私は感じている。その根拠の一つは例えば匿名性の低いSNSのFacebookでは、最近は感染をカミングアウトする人が増えていることである。それだけ市中感染が広がったということでもあり、誰かが新型コロナウイルスに感染したという事実だけならば、かなりの人が慣れ始めている。ところがそうした状況では、新たに登場した異質なものに多くの人はギョッとする。まさに「変異株」はそうした存在である。余談になるが、慣れっこの世界で新たに感じた異質さは時に悲劇を生む。今は一時休業しているが、私は戦争現場の取材もしている。その中でも最も取材期間が長かった「ボスニア内戦」がまさに新たに感じた異質さが生み出した悲劇の典型である。旧ユーゴスラビアの一構成共和国だったボスニア・ヘルツェゴビナは1992年に独立を宣言するが、その直後から国内では血で血を洗うかのような過酷な内戦が始まった。ボスニア国内の民族宗教に基づく人口構成が、イスラム教徒のボスニャック人が5割強、キリスト教正教徒のセルビア人が3割強、カトリック教徒のクロアチア人が1割という民族宗教のモザイク状態であったため、この3民族が三つ巴戦を繰り広げたというのが内戦に関する通説である。この通説は間違いではないが、私の口からより具体的に説明するならば、「独立を巡って権力闘争を繰り広げた政治家たちが、たまたま民族・宗教の違いを持っており、それぞれが自らを有利にさせるためにその違いを利用して自らの勢力確保と敵対勢力への憎悪をあおり、殺し合いが始まった」となる。短くまとめるなら、民族という皮をかぶった政治家同士の権力闘争である。そしてその実相は、従来はとくに民族や宗教の違いなど意識せずに暮らしてきた者同士が、突如互いが違う、しかも相手は怖いやつらだと宣伝され、顔の見える者同士で殺し合った戦争なのである。私はこの戦争の取材を通じて、「違い」の気づき方次第で人は取り返しのつかない結果を招くという現実を学んだ。話を元に戻すと、変異株については感染性が増強していることはほぼ確実視されている。そのことは正確に伝えなければならず、それだけでも今後感染者の中でも変異株感染者を危険視する風潮が起こる可能性は高い。だが、だからこそ致死性に関しては、意図しなかったものだったとしても過剰な印象を与えるような報道をしてはならない。そのことが実態以上に変異株を危険視させ、差別・偏見を助長させる可能性が高いからである。今回紹介したような「変異株感染者が死亡した」というだけの一部の報道は誤報ではない。しかし、時として解釈のない事実のみを報じることは、正確性を欠く典型事例である。自分もこの報道に接して改めて気を引き締め始めている。最後にこの件に関する地元紙・神奈川新聞の報道は、地元紙という特性も影響したのか、かなり丁寧で正確かつ不安を助長させないよう心がけていると感じた。

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うつ病の再発予防に対する非薬理学的介入~ネットワークメタ解析

 うつ病に対する予防的介入を発見することは、臨床診療において重要な課題である。中国・重慶医科大学のDongdong Zhou氏らは、成人うつ病患者における再発予防に対する非薬理学的介入の相対的有効性の比較検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2021年3月1日号の報告。 再発予防に対する非薬理学的介入を調査したランダム化比較試験を検索し、ベイジアンネットワークメタ解析を実施した。95%信頼区間(CI)のエフェクトサイズをハザード比(HR)として算出した。非一貫性(globalとlocal)、異質性、推移性を評価した。積極的な治療群と対照群または抗うつ薬(ADM)治療群とを比較した結果について、信頼性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・36件の研究をメタ解析に含めた。・非薬理学的介入のほとんどは、さまざまな心理療法であり、その他は非侵襲的神経刺激療法(電気痙攣療法:3件、経頭蓋磁気刺激法:1件)であった。・ADM治療または心理療法後の単独での心理療法によるアウトカムは、対照群より有意に良好であり、ADM治療群との間に有意な差は認められなかった。・心理療法とADM治療との併用は、どちらか一方の単独療法よりも優れていた。・3つ以上前のエピソードを有する患者においても、結果は同様であった。・神経刺激療法は、単独療法またはADM併用療法において、対照群よりも優れていた。 著者らは「ADM治療または心理療法後の単独での心理療法は効果的であり、再発予防においてADM治療と同様に有用である。神経刺激療法も有望ではあるが、その有効性を確認するためにはさらなる研究が必要である」としている。

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飲酒と乳がんリスク~日本人16万人の解析

 欧米の研究から、飲酒が乳がんリスクを上昇させることが報告されている。しかし、日本人女性は欧米人女性より飲酒習慣が少なく、またアセトアルデヒドの代謝酵素の働きが弱い人が多いなど、飲酒関連の背景が欧米とは異なる。これまで日本人を対象とした大規模な研究は実施されていなかったが、今回、愛知県がんセンターや国立がん研究センターなどが共同で日本の8つの大規模コホート研究から約16 万人以上を統合したプール解析を行い、乳がんリスクと飲酒との関連を検討した。その結果、閉経前女性では飲酒により乳がん罹患リスクが上昇したことを愛知県がんセンターの岩瀬 まどか氏らが報告した。International Journal of Cancer誌オンライン版2021年1月26日号に掲載。 本研究には、国内の大規模コホート研究である多目的コホート研究(JPHC-I, JPHC-II)、JACC研究、大崎国保コホート研究、宮城県コホート研究、三府県宮城コホート研究、三府県愛知コホート研究、放影研寿命研究の8コホート研究が参加。それぞれのコホート研究で使用している飲酒習慣のアンケート調査結果から、飲酒習慣を頻度と量に分けて検討し、頻度は「現在非飲酒」「機会飲酒(週1日以下)」「ときどき(週1日以上4日以下)」「ほとんど毎日(週5日以上)」の4つ、量は1日飲酒量で「0g」「0~11.5g」「11.5~23g」「23g以上」の 4つのカテゴリーに分類した。年齢、地域、閉経状況、喫煙、BMI、初経年齢、出産数、女性ホルモン薬の使用、余暇の運動を調整後、非飲酒に対するその他の飲酒カテゴリーの乳がん罹患リスクを算出し、プール解析を行った。また乳がんの罹患は、閉経状態に基づき閉経前乳がんと閉経後乳がんに分け、それぞれに対する飲酒の影響を検討した。  主な結果は以下のとおり。・計15万8,164人の女性を平均14年追跡し、2,208例が新規に乳がんと診断された。・調査時の閉経状態に基づく閉経前乳がんにおいて、飲酒頻度別では非飲酒者に対する最も頻度の高い飲酒者のハザード比(HR)は1.37(1.04~1.81)、飲酒量別では1日0gの群に対する23g以上の群のHRは1.74(1.25~2.43)であった。・診断時の閉経状態に基づく閉経前乳がんにおいて、飲酒量別で1日0gの群に対する23g以上の群のHRは1.89(1.04~3.43)であった。・一方、調査時もしくは診断時での閉経状態に基づく閉経後乳がんでは、飲酒頻度、飲酒量ともに乳がんリスクとの有意な関連は認められなかった。 これらの結果から、日本人においても欧米での報告と同様に、閉経前乳がんでは飲酒が乳がんの罹患リスクを上昇させることが明らかとなった。一方、閉経後乳がんでは日本人では有意な関連が認められず、海外の結果と異なり閉経状態によって乖離がみられた。

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膵がん末期患者の下痢をコデインリン酸塩でコントロール【うまくいく!処方提案プラクティス】第34回

 今回は、末期がんの患者さんの下痢に対して、コデインリン酸塩錠で対処した症例を紹介します。代表的な副作用である便秘を活用することで、最終的には疼痛・排便の両方がコントロールできましたが、もっと早くから介入できていたら…という後悔が残った事例です。患者情報87歳、女性基礎疾患膵体部がん(c Stage4b、本人へは未告知)、左加齢性黄斑変性症既往歴子宮筋腫手術、腰椎圧迫骨折、左大腿部頸部骨折診察間隔毎週訪問処方内容1.トラセミド錠4mg 1錠 分1 朝食後2.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後3.ナイキサン錠100mg 2錠 分2 朝食後・就寝前4.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝食後・就寝前5.パンクレリパーゼカプセル150mg 2カプセル 分2 朝食後・就寝前6.乾燥硫酸鉄徐放錠 2錠 分2 朝食後・就寝前7.ポラプレジンク錠75mg 2錠 分2 朝食後・就寝前8.ロペラミドカプセル1mg 2カプセル 分2 朝食後・就寝前9.スボレキサント錠15mg 1錠 分1 就寝前10.ロフラゼプ酸エチル錠1mg 1錠 分1 就寝前本症例のポイントこの患者さんは、膵体部がんの進行による疼痛と頻回の下痢で体力消耗が激しく、その便処理のために同居する長女の介護負担が非常に大きい状態でした。内服薬の管理も本人では難しく、出勤前と帰宅後に内服支援をする長女のために朝食後と就寝前で統一していました。下痢に関しては以前から悩みの種で、過去の治療において半夏瀉心湯やタンニン酸アルブミンで治療をするも抑えることはできず、現在の治療でも整腸薬のみではまったく効果はありませんでした。ロペラミドも追加しましたがコントロールには至らず、本人と長女の精神的・身体的な疲弊が限界に達していました。そのような中、医師より、どうにか今の服薬管理環境で下痢をコントロールできる内服薬はないかという電話相談がありました。この患者さんは、過去に子宮筋腫の手術歴があり、イレウスのリスクもあることから止瀉作用の過剰発現には注意を払う必要があります。しかし、今も疼痛があり、今後も病勢が進行する可能性から、オピオイド導入のタイミングと考えて、腸管内のオピオイド受容体を刺激して腸管蠕動を抑制するコデインリン酸塩錠の投与について検討しました。処方提案と経過医師に、疼痛と排便コントロールの両方を兼ねて、現行のロペラミドに加えて、弱オピオイドのコデインリン酸塩錠の追加を提案しました。用法については、長女より夜間から明け方の便失禁で困っているという話があったため、20mg錠を朝・夕食後(長女帰宅時に服用)・就寝前の分3で服用する方法を伝えました。医師からは、強オピオイドの導入も考えていたが段階を踏んで治療をしよう、と承認を得ることができ、早速当日の夜より服用開始となりました。投与開始3日目にフォローアップのため訪問したところ、夜間の便失禁が減り、本人と長女の心身の負担が軽減できていました。しかしその後、これまでの度重なる便失禁や病状悪化が影響してか、食事がほとんど摂れずに水分摂取がやっとの状態になっていきました。そして、病状悪化から内服も困難な状態となり、フェンタニルクエン酸塩貼付薬とモルヒネ塩酸塩水和物液での緩和医療へ切り替えることになりました。複数の止瀉薬を検討していた段階で提案することができず、医師から相談を受けるまでなかなか知恵を絞りきれなかったことを反省する事例となりました。

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研修医の勤務時間と自習時間に関連は?

 4月から医師の初期・後期臨床研修をひかえ、研修医の成長に必要なことは何であろう。研修医にとって十分な自習時間は、専門能力開発にとって重要であり、臨床知識の習得と自習時間は正の関係にあるとされている。2024年以降、わが国で研修医の義務勤務時間が制限されることもあり、水戸協同病院総合診療科の長崎 一哉氏らのグループは、研修医の勤務時間と学習習慣との関連を初期臨床研修医の基本的臨床能力評価試験(GM-ITE)を基に評価を行った。調査方法 2020年1月20日~26日までGM-ITEを受講した全国5,590人の研修医を対象に横断研究にて実施。参加者へは、平均勤務時間と自習時間、および性別、卒後学年、当直回数、平均担当入院患者数を含む共変量についてアンケートで質問した。従属変数は1日あたりの自習時間であり、独立変数は1週間あたりの勤務時間とした。比例オッズ回帰分析を用いて、自習時間と勤務時間の間の関連を調べた。約8割の研修医の自習時間は60分未満 6,164人の研修医のうち5,590人(528病院)を分析した。これら研修医のうち2,837人(50.8%)は初期研修医で、1,769人(31.6%)は女性医師だった。 自習時間は、1~30分が2,067人(37.0%)、31~60分が2,330人(41.7%)、61~90分が788人(14.1%)、91分以上が166人(3.0%)、なしが239人(4.3%)だった。 勤務時間については、カテゴリー1(45時間未満)が133人(2.4%)、カテゴリー2(45〜50時間未満)が514人(9.2%)、カテゴリー3(50〜55時間未満)が827人(14.8%)、カテゴリー4(55〜60時間未満)が832人(14.9%)、カテゴリー5(60〜65時間未満)が1,047人(18.7%)、カテゴリー6(65〜70時間未満)が754人(13.5%)、カテゴリー7(70〜80時間未満)が676人(12.1%)、カテゴリー8(80時間以上)が807人(14.4%)だった。 性別、卒後学年、当直回数、および平均担当入院患者数を調整した後、研修医の自習時間はカテゴリー5よりもカテゴリー1~4の方が短かった。対照的にカテゴリー6~8とカテゴリー5の間で自習時間にほとんど、またはまったく違いはみられなかった。質を維持するための今後の課題 この研究では、勤務時間が週60時間未満の研修医は、週60~65時間の研修医よりも自習時間が短かった。この結果は、研修期間中の自由時間が必ずしも、より多くの自習時間に関連しているとは限らないことを示唆している。また、モチベーションの低い研修医が勤務時間の短い病院を選んでいるかもしれない。これらの結果は、本邦における勤務時間制限は、研修医の自習時間を短縮する可能性を示している。よって、研修病院は、オンライン教育と有益な学習環境などを提供することで、研修医の学習習慣を改善させる方策を取る必要がある。2024年以降勤務時間制限がされる中で研修医の質を維持するために、研修プログラムは研修医の自習時間を低下させないような方策(オンライン教育と院内学習環境の構築など)をとる必要がある。

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1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第70回

1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」今回は、ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬「ニラパリブトシル酸塩水和物(商品名:ゼジューラカプセル100mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後維持療法として、1日1回の服用で腫瘍細胞の増殖を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、「卵巣癌における初回化学療法後の維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌」の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはニラパリブとして1日1回200mgを経口投与します。ただし、本剤初回投与前の体重が77kg以上かつ血小板数が15万/μL以上の成人には、1日1回300mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量し、本剤投与により副作用が発現した場合は、添付文書の基準を参考にして休薬、減量、中止します。<安全性>国内第II相試験(Niraparib-2001試験、Niraparib-2002試験)において、副作用は39例中39例(100%)で報告されました。主なものは、悪心25例(64.1%)、血小板数減少23例(59.0%)、貧血17例(43.6%)、好中球数減少14例(35.9%)、嘔吐13例(33.3%)、食欲減退11例(28.2%)、白血球数減少10例(25.6%)でした。なお、国内外の臨床試験(上記とNOVA試験、QUADRA試験、PRIMA試験)において、本剤が投与された937例で発現した重大な副作用として、骨髄抑制(78.8%)、高血圧(9.8%)、間質性肺疾患(0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.卵巣がんの初回化学療法後や再発時の維持療法に使われる薬です。1日1回、連日服用します。2.薬によって血液を作る機能が低下するため、あざができやすくなる、鼻をかんだときに血が出る、顔色が悪くなる、心拍数が増える、立ちくらみや息切れ、めまいが起こることがあります。定期的に血液検査が行われますが、気になる症状があったらすぐにご連絡ください。3.血圧が高くなることがあります。自覚症状はほとんどないため、定期的に血圧や心拍数を測定しましょう。4.吐き気や嘔吐、便秘、疲労感などが現れることがあります。小まめに水分を摂り、消化の良い食事を心掛け、疲れを溜めないようにするなど、生活に工夫を取り入れることで対処できる場合もあります。強い症状が続く場合はご相談ください。5.妊娠中の方や妊娠している可能性がある方は服用できません。また、本剤服用中や服用を中止してから一定の期間は適切な方法で避妊を行い、授乳中の方は授乳を中止する必要があります。<Shimo's eyes>卵巣がんは主に閉経後の女性に多く発症するがんですが、初期段階では症状に乏しく、早期の検出が困難であるため、女性生殖器の悪性腫瘍の中では最も死亡者数の多い疾患です。一般的な卵巣がんの治療では、まず手術で可能な限りがんを取り除いてから抗がん剤による化学療法を行い、その後、再発リスクを下げるための維持療法を実施することが多いです。PARP阻害薬は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後の維持療法として用いられます。本剤は、卵巣がんに適応のあるPARP阻害薬として、国内ではオラパリブ(商品名:リムパーザ)に次ぐ2剤目であり、BRCA遺伝子変異の有無によらず使用できます。1日1回の経口投与で食事の影響を受けにくいため、生活リズムに合わせて服用タイミングを選択できるなどのメリットもあります。副作用としては、一般的な抗がん剤と同様に、骨髄抑制、血小板減少、好中球減少などが発現することが多いため、血液検査などによるモニタリングが求められます。また、『NCCN制吐ガイドライン2020年版』において、中等度~高度の嘔吐リスク(頻度30%以上)に分類されており、嘔吐を予防するため、服用前に5-HT3受容体拮抗薬の連日経口投与が推奨されています。重大な副作用として、高血圧クリーゼを含む高血圧などが報告されており、とくに降圧薬を服用中の患者さんは投与前に血圧が適切に管理されていることを確認する必要があります。本剤の貯法は、2~8℃で遮光保存です。患者さんにはPTPシートを冷蔵庫で保管するように指導しますが、持ち運ぶ必要がある場合は専用の保冷遮光ポーチがあるので、MRに相談しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ゼジューラカプセル100mg

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王者であると言うこと【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第29回

延期された東京オリンピック、本当にどうなるかわからなくなってきましたね…。モチベーションを維持しながら調整を続けているアスリートの皆さんは本当に大変だろうな、と思います。私が空手の代表選手をやっていたのは、もう20年近く前になります。この20年の間に、空手は“KARATE”となり、競技としての様相はかなり変わりました。一般の方がみても楽しめるように、派手な技には高いポイントが設定され、どんどん技を出さなければ審判より注意や警告がなされるルールになりました。その結果、選手は休むことなく大技を繰り出し続けることになり、空手は非常にエキサイティングな競技へと変貌を遂げました。2017年にバルセロナで行われた林派糸東流世界大会での、日本チームのアップ風景です。非常に軽やかなステップであることがみて取れます。参考までに、この大会では日本チームが優勝しました。ただ、本来の空手は武道でもあるワケでして。一見、動きがなくても、そこには無数の駆け引きがあったりするのですが…海外の人には、あまり理解してもらえないようです(ちなみにドイツの空手愛好者達は、この「武道の機微」を理解している人が多く、空手のスポーツ化に多少なりとも疑問を持っているようです)。試合でくじけない選手を思い出し人生にいかす空手のスポーツ化の是非は別として、現在のトッププレーヤー達は全身のバネを利用して、コートを所狭しと飛び回っています。このダイナミックさに憧れて、次世代の空手キッズ達が練習に励むんだろうなぁと思います。しかし、20年前、私が憧れた選手は今のトッププレーヤー達とはだいぶ違っていました。その選手は、当時、大学選手権(インカレ)男子個人組手の部で史上2人目となる3連覇を果たした選手でした。大学選手権は無差別級の大会なのですが、その選手は決して大柄ではありませんでした。多分身長は170cm前半だったと思います。では、超人的なスピードで相手を攪乱していたのか? というと、それも違っていました。試合中はステップを踏まず、ベタ足。脚を前後に大きくスライドさせ腰を落とし、腕は力を抜いて腰の高さに。ほぼノーガードの状態で構えていました。ジリジリと摺り足で相手を追い詰めていき、相手が攻撃に入った瞬間に懐に飛び込み、一撃の中段突きで切って落とす、まるで居合抜きのような空手でした。そんなハイリスク・ハイリターンなスタイルであるが故に、逆に強烈な一撃をもらい、前のめりに倒れてしまうシーンを何度もみました。格闘技経験のある方なら分かると思いますが、殴り倒された後に平常心を保つことは並大抵のことではありません。しかし、その選手は倒されてもビビる事も、キレる事もなく・・・いや、ちょくちょくキレてはいましたが・・・試合が再開されると、本当に何もなかったようにもう1度相手の懐に飛び込んで中段突きをブチ込んでいました。決してスマートな空手ではなく、何度も倒されながら、3度王者に輝いた姿は今でも脳裏に残っています。人生でうまくいかないことがあったときは、いつも何となくその選手の姿を思い出します。倒されても怯まない、そんな熱い選手が空手界にはたくさんいます。読者の皆さまも機会があれば、ぜひ空手にも注目してみてください。

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