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SSI診療の最新動向を探る!

最新の知見を初学者にもわかりやすく解説「整形・災害外科」68巻5号(2025年4月臨時増刊号)整形外科の手術部位感染(SSI)の予防と治療について、「The International Consensus Meeting on Infection」の改訂作業メンバーも執筆者に加わり、最新のエビデンスを紹介しながら初学者にもわかりやすく解説している。抗菌薬については、整形外科感染症診療で頻用するものに厳選して正しい知識と使い方を紹介した。外科的アプローチについては、治療法が確立しつつある骨折関連感染症と股関節の人工関節周囲感染に絞り、治療方針、治療の実際についてまとめた。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するSSI診療の最新動向を探る!定価8,800円(税込)判型B5判頁数224頁発行2025年4月編集山田 浩司ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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研修医の自殺、研修開始後3ヵ月が最多

 米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)が行った以前の調査によると、2000~14年の米国における研修医・フェローの主な死亡原因は自殺とがんであった1)。後続研究としてACGMEは2015~21年のデータを分析し、以前の結果と比較した。Nicholas A. Yaghmour氏らによる本研究の結果は、JAMA Network Open誌2025年5月14日号に掲載された。 主要アウトカムは前回(2000~14年)と今回(2015~21年)の2つの期間における研修医・フェローの死亡率の差であった。副次的アウトカムは一般の同年代との死亡率の比較、専門分野別の死亡原因の差異だった。 主な結果は以下のとおり。・2015~21年に370万778人の研修医・フェローが96万1,755人年分の研修に参加した。この期間に161人(女性50人[31.1%]、年齢中央値31[SD 29~35]歳)が研修中に死亡した。・47人(29.2%)が自殺、28人(17.4%)ががん、22人(13.7%)がその他の疾患、22人(13.7%)が事故、21人(13.0%)が事故による中毒で死亡した。・がんによる死亡率は、前回から今回にかけて減少した。一方、自殺を含むその他の全原因による死亡率には変化がなかった。・両期間とも、自殺による死亡は研修1年目の最初の3ヵ月間に最も多く発生し(今回:9/47人)、研修の最初の1年間での発生が3割(同:14/47人)を占めた。・今回の研修医・フェローの全原因による死亡率(自殺含む)は、同年代の比較対象群と比べて低かった。・専門分野別では、自殺の死亡率が最も高かったのは病理診断科(10万人年当たり19.76人)、がんの死亡率が高かったのは精神科(10万人年当たり9.67人)、中毒の死亡率が高かったのは麻酔科(10万人年当たり15.46人)だった。 研究者らは「両期間を比較すると、がんによる死亡率が減少した一方、全原因による死亡率は変化しなかった。両期間中に観察された、研修直後の3ヵ月における自殺数は依然として懸念される。研修医支援に向けた今後の取り組みは、とくに初期のストレスの要因と軽減に焦点を当てる必要がある」としている。

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nerandomilast、IPFとPPFの呼吸機能低下を抑制(FIBRONEER-IPF、ILD)/ATS2025

 ホスホジエステラーゼ4B(PDE4B)阻害薬nerandomilastについて、国際共同第III相試験が2試験実施されている。特発性肺線維症(IPF)患者を対象とした「FIBRONEER-IPF試験」1)、進行性肺線維症(PPF)患者を対象とした「FIBRONEER-ILD試験」2)の結果が米国胸部学会国際会議(ATS2025 International Conference)で発表され、それぞれ2025年5月18、19日にNEJM誌へ同時掲載された。両試験において、nerandomilastは努力肺活量(FVC)の低下を有意に抑制した。【FIBRONEER-IPF試験】・試験デザイン:国際共同第III相無作為化プラセボ対照試験・対象:%FVC(FVCの予測値に対する実測値の割合)が45%以上で、%DLco(一酸化炭素肺拡散能の予測値に対する実測値の割合)が25%以上の40歳以上のIPF(12ヵ月以内のHRCTに基づく診断を受け、UIP[通常型間質性肺炎]またはprobable UIPパターンを有する)患者1,177例試験群1(低用量群):nerandomilast低用量(9mg、1日2回) 392例試験群2(高用量群):nerandomilast高用量(18mg、1日2回) 392例対照群(プラセボ群):プラセボ 393例・評価項目[主要評価項目]52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量[主要な副次評価項目]初回急性増悪、呼吸器疾患による入院、死亡のいずれかの発生 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は70.2歳、%FVC平均値は78.2%、%DLco平均値は50.9%であった。・抗線維化薬の併用状況は、ニンテダニブが45.5%、ピルフェニドンが32.3%、併用なしが22.3%であった。・抗線維化薬の併用ありの集団は、併用なしの集団と比べて、IPF診断から試験組み入れまでの期間が長い(3.7年vs.2.8年)、%FVCが低い(77.1% vs.82.2%)、%DLcoが低い(49.6% vs.55.2%)、酸素補給の実施割合が高い(22.5% vs.16.0%)傾向にあった。・主要評価項目の52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量は、プラセボ群が-183.5mLであったのに対し、低用量群が-138.6mL、高用量群が-114.7mLであり、いずれもプラセボ群と比較して有意にFVCの低下を抑制した(それぞれp=0.02、p<0.001)。nerandomilast投与群では、治療開始早期からFVCの低下が抑制され、76週時まで良好な傾向にあった。・抗線維化薬の併用の有無別にみると、抗線維化薬の併用なしの集団では、52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量は、プラセボ群が-148.7mLであったのに対し、低用量群が-70.4mL、高用量群が-79.2mLであり、FVCの低下が抑制される傾向にあった。・ニンテダニブを併用する集団では、プラセボ群が-191.6mLであったのに対し、低用量群が-130.7mL、高用量群が-118.5mLであり、FVCの低下が抑制される傾向にあった。・ピルフェニドンを併用する集団では、プラセボ群が-197.0mLであったのに対し、低用量群が-201.8mL、高用量群が-133.7mLであり、低用量群ではFVCの低下抑制はみられなかった。この要因として、ピルフェニドンを併用する集団ではnerandimilastの血漿中濃度が低く、薬物相互作用が考えられた。・主要な副次評価項目については、低用量群、高用量群のいずれもプラセボ群と比較して有意な改善はみられなかった。ただし、高用量群で全死亡が減少する傾向がみられた。・nerandimilast投与群で最も多く発現した有害事象は下痢であった(プラセボ群16.0%、低用量群31.1%、高用量群41.3%)。下痢は、とくにニンテダニブを併用する集団で多く(それぞれ26.6%、49.5%、61.8%)、下痢による投与中止は33例にみられたが、そのうち29例がニンテダニブを併用する集団であった。【FIBRONEER-ILD試験】・試験デザイン:国際共同第III相無作為化プラセボ対照試験・対象:%FVCが45%以上で、%DLcoが25%以上の18歳以上のPPF(12ヵ月以内のHRCTに基づき10%以上の線維化が認められたIPF以外の間質性肺疾患[ILD])患者1,176例試験群1(低用量群):nerandomilast低用量(9mg、1日2回) 393例試験群2(高用量群):nerandomilast高用量(18mg、1日2回) 391例対照群(プラセボ群):プラセボ 392例・評価項目[主要評価項目]52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量[主要な副次評価項目]初回急性増悪、呼吸器疾患による入院、死亡のいずれかの発生 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は66.4歳、%FVC平均値は70.1%、%DLco平均値は49.3%であった。UIPパターンまたはUIP-likeパターンを有する割合は71.4%であった。・抗線維化薬の併用状況は、ニンテダニブが43.7%であった。・PPFの分類は、自己免疫性ILDが27.6%、線維性過敏性肺炎が19.8%、分類不能型特発性間質性肺炎が19.6%、特発性非特異性間質性肺炎が19.4%、その他が13.5%であった。・主要評価項目の52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量は、プラセボ群が-165.8mLであったのに対し、低用量群が-84.6mL、高用量群が-98.6mLであり、いずれもプラセボ群と比較して有意にFVCの低下を抑制した(いずれもp<0.001)。nerandomilast投与群では、治療開始早期からFVCの低下が抑制され、52週時まで良好な傾向にあった。・抗線維化薬の併用の有無別にみると、抗線維化薬の併用なしの集団では、52週時におけるFVCのベースラインからの絶対変化量は、プラセボ群が-154.1mLであったのに対し、低用量群が-82.3mL、高用量群が-95.2mLであり、FVCの低下が抑制される傾向にあった。・ニンテダニブを併用する集団では、プラセボ群が-180.9mLであったのに対し、低用量群が-87.8mL、高用量群が-102.9mLであり、FVCの低下が抑制される傾向にあった。・初回データベースロック時点において、主要な副次評価項目のイベント発生割合は、プラセボ群31.1%、低用量群28.0%、高用量群24.3%であり、低用量群(ハザード比:0.88、95%信頼区間:0.68~1.14)、高用量群(同:0.77、0.59~1.01)のいずれもプラセボ群と比較して数値的な改善傾向はみられたが、統計学的有意差はみられなかった。全死亡は低用量群(同:0.60、0.38~0.95)、高用量群(同:0.48、0.30~0.79)のいずれも減少する傾向がみられた。・nerandimilast投与群で最も多く発現した有害事象は下痢であり、とくにニンテダニブを併用する集団で多かった(プラセボ群36.5%、低用量群48.0%、高用量群49.1%)。

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臨床試験における患者・市民参画(解説:景山茂氏)

 臨床試験における患者・市民参画(patient and public involvement)は、臨床試験に患者あるいは一般市民が被験者として参加するだけでなく、試験の計画段階から参加することにより、試験計画書をより現場のニーズに合ったものとして、エンドポイントの設定についても患者の視点を踏まえたものとし、得られるエビデンスがより有用なものになるようにしようとする考え方である。 臨床試験における患者・市民参画は比較的最近の動きであって、CIOMS(Council for International Organizations of Medical Sciences、国際医学団体協議会)の報告書でも2014年の「医薬品リスク最小化のための実践的アプローチ」では、ごく簡単に触れられただけであったが、2022年の「医薬品の開発、規制、安全な使用への患者参画」において、ようやく詳しく取り上げられた。 本論文では、BMJ誌の他にN Engl J Med、JAMA、Lancetの4誌を対象に調査しているが、投稿規定で患者・市民参画を記載しているのはBMJ誌のみである。結果として、調査対象とした360論文のうち、患者・市民参画が報告されていたのは論文では64件(18%)、プロトコルでは56件(19%)のみであった。また、患者・市民参画の主な活動は各種の試験委員会への参画であった(64件の論文中44件、56件のプロトコル中39件)。 ランダム化比較試験を報告する為のチェックリストとフローチャートからなるCONSORT声明は従来、患者・市民参画に言及していなかったが、2025年版で初めてこれに言及している。一方、ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors、医学雑誌編集者国際委員会)は臨床研究の計画、実施、報告等の各段階での在り方について声明を発出し、とくに臨床試験の登録やdata sharingという先進的な考え方を提唱してきた。また、医学雑誌への投稿規定についてはICMJEの声明が国際的な標準となっている。しかし、ICMJEは現在のところ患者・市民参画については言及していない。 さて、患者や一般市民が臨床試験に参画するためには、臨床試験に関連した事柄をある程度以上理解しなければならない。上記のCIOMS報告書では患者および参画を希望する者は以下の研修が必要と述べている。(1)医薬品関連の科学、(2)健康関連の研究における倫理、(3)臨床試験の方法論や解釈、医薬品に関わる法律や規制。 患者・市民参画を実践することには課題も多いが、臨床試験計画書の改善や被験者のリクルートの視点のみでなく、人間を対象とする臨床試験をよりオープンな透明性の高い形で実践していくには、今後大いに検討すべき課題であるといえる。EBMにおいても、EBMはexternal evidenceのみに基づくのではなく、患者のpreference、および主治医の意見を統合して最善の医療を判断するとされている。患者のpreferenceを取り入れるために臨床試験への患者・市民参画は有用と考えられる。 AMED(日本医療研究開発機構)は昨年度より研究申請書に患者・市民参画に関する記載を求めている。また、PMDA(医薬品医療機器総合機構)も患者参画ガイダンスを2021年に発出しており、わが国においても患者・市民参画という考え方は徐々にではあるが確実に広がってきている。

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ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】

ケアネットDVD 販売終了のお知らせ【2025年6月20日 公開】 日頃よりケアネットをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。ケアネットDVDは、2025年6月20日を以て販売を終了いたしました。これまでにケアネットDVDで販売していたタイトルにつきましては、臨床医学チャンネルCareNeTVにて引き続き配信しておりますので、今後はCareNeTVをご利用いただけますと幸いです。※一部、CareNeTVでの配信が終了しているタイトルもございます。今後ともケアネットをご愛顧のほどお願い申し上げます。本件に関するご質問、ご不明な点はこちらよりご連絡ください。

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「がんと栄養」に正しい情報を!がん患者さんのための栄養治療ガイドライン発刊

 日本栄養治療学会(JSPEN)は2025年2月、『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』(金原出版)を刊行した。JSPENが患者向けガイドラインを作成するのは初めての試みだ。5月14日には刊行記念のプレスセミナーが開催され、比企 直樹氏(北里大学医学部 上部消化管外科学)と犬飼 道雄氏(岡山済生会総合病院 内科・がん化学療法センター)が登壇し、ガイドライン作成の経緯や狙いを解説した。【比企氏】 世の中には「〇〇を食べると健康に良い」といった根拠の乏しい情報があふれている。とくにがんに関しては、科学的根拠のない栄養療法や補助食品の情報があふれており、患者や家族が正しい情報を得ることに苦労している。一方で、最近ではがん治療と栄養療法に関連した研究が増え、「どの栄養素を、どれだけ摂取すれば、どんな効果があるか」に関するエビデンスが蓄積されてきた。実際、がんの薬物療法や手術治療において、栄養治療が副作用の軽減や合併症の予防に寄与することが明らかになっている。こうした背景から、患者さんが正しい情報を得られるよう、情報を整理するために作成されたのがこのガイドラインだ。 JSPENは約2万4,000名の会員を抱える世界最大級の臨床栄養学の学会であり、会員の職種は医師、看護師、薬剤師、管理栄養士など多岐にわたる。実際、医療現場において栄養治療はNST(栄養サポートチーム)として多職種で担うことが多く、こうした医療者向けに昨年10月に『がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 総論編』(金原出版)を刊行した。入院期間中はNSTが支援できるだろうが、外来治療中や退院後に不安になったときに、今回の患者向けガイドラインを使ってもらえればと考えている。患者さんの目に留まりやすいようポップな雰囲気の表紙にし、イラストを使うなどの工夫をした。全国のがん診療連携拠点病院を中心に1,000冊以上を寄付する取り組みも行っており、ぜひ手にとっていただきたい。【犬飼氏】 本ガイドライン作成に先立ち、がん患者へのアンケートを行った。334人から回答があり、Webアンケートだったこともあり、乳がんや血液がんの比較的若年層が多かった。「がん治療中の悩み」として多く挙がった項目としては、「リハビリテーションや運動療法、生活の仕方」が最多で29%、「食事のメニュー」が23%、「薬物療法の際の食事や栄養」が20%だった。口腔状態(9%)や手術後の栄養(5%)の項目は挙げる人が比較的少なかった。術後の栄養指導は診療報酬加算があり、医療機関が一般的に行っていることが不安解消につながったのではと分析している。 栄養に関するアンケートのつもりが、「リハビリに関する悩み」が最多という結果を受け、ガイドラインでは46のQ&Aのうち、リハビリに関するものを9つ設定した。また、口腔に関する悩みは少なかったものの、口腔環境が食欲不振や味覚障害に影響することを知らない人も多いと考え、口腔関連で7つのQ&Aを設定した。その他が栄養に関するQ&Aという構成だ。 がん薬物療法では、副作用の重症度を評価する指標であるCTCAEを使って、副作用の程度にかかわらず、それに応じた栄養治療の必要性が示されている。「がんになると体重が減って当たり前」と考える患者や家族も多いが、体重を維持することでQOL向上や副作用の軽減、治療の成績や予後の改善につながることがわかっている。こうした背景から、「がん治療中、体重は維持したほうがよいですか?」というQ&Aを設け、体重維持の重要性を強調している。がんによる体重減少には「食べられないで痩せる」と「食べていても痩せる」という2つの要因があり、前者はうつや吐き気、味覚障害、口内炎などが原因であることも多く、介入による改善が期待できる。ただし、「体重を減らすな、しっかり食べろ」と言うだけでは、食欲不振などで食べられず、ストレスを感じる患者・家族もいるだろう。そうした場合にお勧めの食品や調理法を提示し、栄養剤や点滴などの方法もあることを紹介した。 がん治療前に口腔ケアをすることで、手術の合併症や口内炎の悪化を防ぐことも知ってほしい。体力低下には有酸素運動が有効で、患者には「栄養・運動・社会参加」のバランスが大切であることを伝えている。「がん治療のさまざまな場面で、多職種が適切に栄養治療をサポートする」というメッセージを込めた。このガイドラインが、患者や家族が医療者に悩みを相談するきっかけになればと考えている。『がん患者さんのための栄養治療ガイドライン 2025年版』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:144頁(カラー図数:34枚)発行:2025年2月編集:日本栄養治療学会目次・1章 がんにならないために・2章 がんになったら・3章 薬物療法が始まったら・4章 手術が決まったら・手術をしたら・5章 がん治療後について・6章 緩和医療において書籍情報はこちら

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サイアザイドに重大な副作用追加、ループ利尿薬は見送り/厚労省

 2025年5月20日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、該当医薬品の副作用の項などに追記がなされる。サイアザイド系、ループ利尿薬の全16製品を検討 スルホンアミド構造を有する炭酸脱水酵素阻害薬(経口剤、注射剤)、サイアザイド系利尿薬について、「急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出」に関する国内外の副作用症例や公表文献の評価などから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。これまで海外では、サイアザイド系利尿薬(サイアザイド類似利尿薬含む)およびアセタゾラミドを含む利尿薬について、急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出に関するリスク評価または措置が行われており、スルホンアミド構造を有する医薬品と急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出のリスクとの関連性を示唆する報告が挙がっていた。なお、ループ利尿薬3製品(フロセミド、トラセミド、アゾセミド)については、改訂が検討されたが指示には至らなかった。※2025年5月26日20時、本文中に誤りがあり、一部修正(フロセミド、トラセミド、アゾセミドを削除)しました。 改訂の対象医薬品は全13製品(サイアザイド系利尿剤、同成分とARBの配合剤)で、9製品の添付文書の「重要な基本的注意」の項目に「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」に関する注意を、また、「副作用」の重大な副作用の項に「脈絡膜滲出」あるいは「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」が追記される。その他の4製品については、ほかのサイアザイド系薬剤で副作用が現れた旨の報告が追記される。<対象医薬品>※2025年5月26日20時、フロセミド、トラセミド、アゾセミドを削除しました。・アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス錠ほか)・アセタゾラミドナトリウム(同:ダイアモックス注射用)・インダパミド(同:ナトリックス錠ほか)・メフルシド(同:バイカロン錠ほか)・ヒドロクロロチアジド(同:ヒドロクロロチアジド錠)・ベンチルヒドロクロロチアジド(同:ベハイド錠)・トリクロルメチアジド(同:フルイトラン錠ほか)・カンデサルタン シレキセチル・ヒドロクロロチアジド(同:エカード配合錠LD/HDほか)・テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:ミコンビ配合錠AP/BPほか)・テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド(同:ミカトリオ配合錠)・バルサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:コディオ配合錠MD/EXほか)・ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド(同:プレミネント配合錠LD/HDほか)・イルベサルタン・トリクロルメチアジド(同:イルトラ配合錠LD/HD)ドンペリドン、妊婦禁忌が削除 このほか改訂指示が出されたものとして、ドンペリドンの「禁忌」から妊婦または妊娠している可能性のある女性が削除される。 厚生労働省の妊婦・授乳婦を対象とした薬の適正使用推進事業の情報提供ワーキンググループ(WG)は、「女性が妊娠に気付いていなかった場合に、結果的に妊婦に対して本薬を処方される事例が一定数存在しており、そのような事例において、妊娠判明後に本薬が妊婦禁忌であることを知った女性が妊娠を継続するかどうか不安を抱え、人工妊娠中絶を選択する可能性がある」ことを指摘。また、『産婦人科診療ガイドライン-産科編2023』において、「妊娠初期のみに使用された場合、臨床的に有意な胎児への影響はないと判断してよい医薬品」として本薬の記載があること、当該ガイドラインにて本薬の服用により奇形発生の頻度や危険度が上昇するとは考えられない旨の根拠が示されている点などを踏まえて、今回の判断に至った。

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降圧薬の心血管リスク低減効果、朝服用vs.就寝前服用/JAMA

 降圧薬の就寝前服用は安全であるが、朝の服用と比較して心血管リスクを有意に低減しなかったことが、カナダ・University of AlbertaのScott R. Garrison氏らが、プライマリケアの外来成人高血圧症患者を対象として実施した無作為化試験で示された。降圧薬を朝ではなく就寝前に服用することが心血管リスクを低減させるかどうかについては、先行研究の大規模臨床試験における知見が一致しておらず不明のままである。また、降圧薬の就寝前服用については、緑内障による視力低下やその他の低血圧症/虚血性の副作用を引き起こす可能性が懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「降圧薬の服用時間は、降圧治療のリスクやベネフィットに影響を与えない。むしろ患者の希望に即して決めるべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月12日号掲載の報告。カナダのプライマリケアで試験、朝服用vs.就寝前服用を評価 研究グループは、降圧薬の朝服用と就寝前服用の、死亡および主要心血管イベント(MACE)に与える影響を、プラグマティックな多施設共同非盲検無作為化・エンドポイント評価者盲検化試験で調べた。被験者は、カナダの5つの州にある436人のプライマリケア臨床医を通じて集めた、少なくとも1種類の1日1回投与の降圧薬の投与を受けている地域在住の成人高血圧症患者であった。募集期間は2017年3月31日~2022年5月26日、最終追跡調査は2023年12月22日であった。 被験者は、すべての1日1回投与の降圧薬を朝に服用する群(朝服用群)もしくは就寝前に服用する群(就寝前服用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、全死因死亡またはMACE(脳卒中、急性冠症候群または心不全による入院/救急外来[ED]受診)の初回発生までの期間であった。あらゆる予定外入院/ED受診、視覚機能、認知機能、転倒および/または骨折に関連した安全性アウトカムも評価した。主要複合アウトカムイベントの発生、安全性に有意差なし 計3,357例が無作為化された(就寝前服用群1,677例、朝服用群1,680例)。被験者は全体で女性56%、年齢中央値67歳であり、併存疾患は糖尿病が18%、冠動脈疾患既往が11%、慢性腎臓病が7%であった。また、単剤治療を受けている被験者が53.7%であり、降圧薬の種類はACE阻害薬36%、ARB 30%、Ca阻害薬29%などであった。 全体として追跡調査期間中央値4.6年において、主要複合アウトカムイベントの発生率は、100患者年当たりで就寝前服用群2.30、朝服用群2.44であった(補正後ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.77~1.19、p=0.70)。 100患者年当たりの主要アウトカムの項目別発生率(死亡:就寝前服用群1.11 vs.朝服用群1.28[補正後HR:0.90、95%CI:0.67~1.22、p=0.50]など)、あらゆる予定外入院/ED受診の発生率(23.26 vs.25.15[0.93、0.85~1.02、p=0.10])および安全性について、両群間で差は認められなかった。とくに、転倒の自己申告率(4.9%vs.5.0%、p=0.47)や100患者年当たりの骨折(非脊椎骨折:2.18 vs.2.40[0.92、0.74~1.14、p=0.44]、大腿骨近位部骨折:0.27 vs.0.43[0.65、0.37~1.15、p=0.14])、緑内障の新規診断(0.60 vs.0.54[1.13、0.73~1.74、p=0.58])、18ヵ月間の認知機能低下(26.0%vs.26.5%、p=0.82)について差はみられなかった。

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COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

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第264回 日本の診療報酬改定の財源確保はますます困難に?米国のトランプ大統領の医薬品価格引き下げ政策の影響を考える

消費税が社会保障の重要財源になっていることを軽視・無視する政治家たちこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の参院選をにらみ、消費税の扱いについて各党幹部からの発言が相次いでいます。とくに野党からの消費税減税・撤廃の声は強く、立憲民主党は来年4月から原則1年間、食料品の消費税をゼロにするよう求め、日本維新の会は食品にかかる消費税を再来年4月まで時限的に撤廃するよう求めています。この他、国民民主党は時限的に一律5%下げることを提案、共産党も将来的な廃止を目指して緊急で一律5%に引き下げるよう求めています。れいわ新選組は従来からの主張通り、消費税そのものを廃止するよう求めています。これに対し、自民党は社会保障などの財源になっていることを理由に、税率引き下げに依然否定的な考えを示しています。ただ、これも党執行部の意見であり、一部からは税率引き下げの声も出ているようです。不思議なのは、どの政党も消費税が社会保障の重要な財源になっていることを軽視(あるいは無視)しており、代替財源について大した案を示していないことです。私の自宅のポストに入っていた共産党のチラシなどは、「いますぐ消費税減税を」と書く一方、「国費投入で医療・介護の危機打開」とも書かれており、もはやわけがわかりません。「消費税率を下げる=社会保障財源を減らす」なのですから。さて、「わけがわからない」と言えば、米国のトランプ大統領が、米国内の医療用医薬品価格を引き下げる指示をする大統領令に署名したというニュースもある意味「わけがわからない」です。同様の政策をトランプ大統領は第1次政権の時にも敢行しようとしましたが、製薬会社の抵抗や連邦裁判所の大統領令一時差し止めにより頓挫しています。改めて打ち出された米国の医薬品価格引き下げ政策は、日本の医療にどんな影響を与えるのでしょうか。「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きた」トランプ大統領は5月11日(現地時間)、自身のSNSに医療用医薬品の価格について、「最恵国待遇(most favored nation:MFN)」政策を導入する大統領令に署名すると表明、翌12日に署名しました。このニュースを報じた5月12日付の日経バイオテクは、「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きたといっても過言ではない」と書いています。最恵国待遇とは、世界貿易機関(WTO)協定の基本原則の1つで、ある国に与えた貿易上の優遇措置をその他の加盟国にも同様に適用し、平等に扱うというルールです。トランプ大統領はこのルールを米国の医薬品価格に適用、米連邦政府が支払っている特定の医薬品の価格を、ほかの先進国が支払っている最も低い医薬品価格に連動させるとしています。各紙報道によれば、トランプ大統領は最恵国待遇政策の導入によって「医薬品価格を59%引き下げる」と主張したとのことです。「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきた」とトランプ大統領大統領令に署名する前に開いた記者会見の席上、トランプ大統領は、「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきたが、実際には他国が低い価格を設定しており、米国が不当に高い価格を支払ってきた」と主張、「この政策により、他国が医薬品の研究開発費を公正に負担するよう促され、米国と他国の薬価が同等になる。製薬企業が他国での不公平な価格交渉からも保護される仕組みだ」と語ったとのことです。今回の大統領令の対象となるのは、連邦政府が提供する公的医療保険制度のうち、65歳以上の高齢者や障がい者などを対象としたメディケア(Medicare)と、低所得者向けのメディケイド(Medicaid)で使用される医薬品とみられていますが、一部の医薬品に留まるのか、より広範な医薬品が対象になるのかは未定です。なお、製薬企業に対しては、大統領令の日から30日以内に、米保健福祉省長官が米メディケア・メディケイドサービスセンター管理者や関連する行政機関などの職員と連携し、製薬企業に最恵国待遇価格の目標値を伝達するとしています。「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」とPhRMAこうした動きに対し、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は同日、声明を発表しています。日経バイオテクなどの報道によれば、PhRMAは米国で医薬品の価格が高い「本当の理由」として、「他国が正当な負担を負っていない」「中間業者が米国の医薬品価格を押し上げている」と指摘。米国で医薬品にかかる費用の50%は薬剤給付管理業者、保険会社、病院が受け取っているとして、「これらのお金を患者に直接渡すことで、患者負担が軽減し、欧州との価格差が大幅に縮まる」と主張したとのことです。またPhRMAは、政府が貿易交渉によって「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」と支持した一方で、医薬品価格の引き下げは「米国の患者や労働者の治療機会や治療の選択肢を減らすことになる」と反論もしています。トランプ大統領の考えを全面否定はせず、「他国が正当な負担を負っていない」、「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」などと、どちらかと言えばすり寄ったコメントをしている点はなかなか興味深いです。この段階でトランプ大統領を怒らせて、“業界いじめ”がさらに加速することを嫌ったためと考えられます。他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」就任以来、さまざまな政策を打ち出すものの、なかなか米国民のプラスが見えてこない状況で、「医薬品の価格を大幅に下げる」という政策は、確かに国民の共感を呼びそうです。米国は世界最大の創薬大国と言われていますが、創薬のための巨額の研究開発費が医薬品の価格に上乗せされていることで成立しているとの見方があります。ちなみに日本と異なり、米国では原則、製薬会社が独自に医薬品の価格を決めています。というわけで、他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」というのがトランプ大統領の考え方なのです。今後の具体的な政策としては、前述したようにメディケア、メディケイドで使用される医薬品の価格を下げることや、PhRMAも賛同している薬剤給付管理業者、保険会社、病院など中間業者の“取り分”を減らす施策を講じること、そして国外で製造された薬剤を米国で販売するメーカーには、薬価引き下げを要求するという流れになります。薬価引き下げに応じない国には追加関税を課す考えもトランプ大統領は示しています。そうした意味では、グローバルに展開する日本の製薬メーカーにとっては、米国の医薬品価格下げは大きなダメージとなるでしょう。日本の薬価はこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まるこの政策、第1次トランプ政権のときは頓挫しており、今回も実現するかどうかはまだわかりませんが、仮に実現した場合、日本の医療現場にはどんな影響が出るのでしょうか。約1ヵ月前、本連載「第259回 トランプ関税で2026年度診療報酬改定の財源確保に暗雲?国内では消費税率の減税論もくすぶり、医療費削減圧力はさらに増大の予感」では、トランプ大統領が4月2日に発表した全世界を対象とした相互関税について取り上げました。この時は、「仮に薬価改定による診療報酬財源の捻出法も税率低減のためのカードに使われることになれば、来年以降の診療報酬改定の財源確保に大きな影響が出ることになります」と書きました。日本の薬価についてはこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まりそうです。なぜならば、米国内での医薬品価格を下げれば米国の製薬企業の収益を圧迫するので、製薬企業には海外市場でその分稼いでもらわなければならないからです。トランプ政権が米国の医薬品開発に「ただ乗り」を許さない姿勢を強めてくれば、石破政権後の方針転換によって、2025年度中間年改定で革新的医薬品の薬価引き下げのルールを拡大するなどしてきた日本の薬価制度について大幅な見直しを迫ってくる可能性もあります。PhRMAは昨年末に欧州製薬団体連合会(EFPIA)と出した共同声明で、「予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性がある」と中間年改定の政策を強く批判していました。ポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民というわけで、2026年度診療報酬改定の財源確保はますます厳しいものとなりそうです。そして国内では、相変わらずの「消費税減税・撤廃」の議論。目先のことしか考えない国内外の政治家たちによるポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民(とくに現役世代や子供たち)です。日本でも与野党含めた政治家たちがトランプ政権のやり方を批判していますが、少なくとも「消費税減税・撤廃」を叫ぶ政治家にその資格はまったくないのではないか、と考える今日この頃です。

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患者安全文化が向上すれば「看護ケアの未実施」は減る?【論文から学ぶ看護の新常識】第15回

患者安全文化が向上すれば「看護ケアの未実施」は減る?患者安全文化と「看護ケアの未実施」の関連を調べた最新の研究で、両者に明確な負の相関(安全文化が良いほど「看護ケアの未実施」が少ない)が示された。Leodoro J. Labrague氏らの研究で、Journal of Advanced Nursing誌オンライン版2025年1月23日で報告した。医療現場における患者安全文化と看護ケアの未実施との関連:システマティックレビューとメタアナリシス研究者らは、患者安全文化と「看護ケアの未実施(Missed Nursing Care:MNC)」との関連性に関する既存研究を評価・統合することを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。2010年以降に出版された査読付き論文を対象に、5つのデータベース(CINAHL、ProQuest、PubMed、ScienceDirect、Web of Science)で検索を行った。その結果、合計9件の研究が特定され、うち7件の研究(対象者総計1661例)がメタアナリシスの対象となった。主な結果は以下の通り。メタアナリシスの結果、全体の患者安全文化と看護ケアの未実施との間には有意な負の相関が認められ、プールされた相関係数は −0.205(95%信頼区間[CI]:−0.251~−0.158、p<0.001)であった。異質性は低度から中程度(I2=13.18%、95%CI:0.00~78.60)であり、出版バイアスの検定でも有意なバイアスは示されなかった(Eggerテスト:p=0.0603、Beggテスト:p=0.3476)。本研究の結果は、患者安全文化と看護ケアの未実施との間に有意な負の相関関係があることを強調している。とくに管理職のサポート、組織学習、および部署レベルの安全文化が、看護ケア未実施の予測因子としての役割を果たすことが示された。したがって、医療組織内における患者安全文化の強化は、看護ケアの未実施を軽減するための戦略的アプローチとなり得る。医療現場における患者安全文化と「看護ケアの未実施」の関係性を検証した本メタ分析は、看護の質と患者安全における重要な課題に光を当てるものです。研究の結果、患者安全文化が良好であるほど、必要な看護ケアが実施されない状態、すなわち「看護ケアの未実施」が少ないという明確な負の相関が確認されました。とくに、管理職による安全へのサポート、組織全体での学習の推進、そして病棟単位での安全文化の醸成が、「看護ケアの未実施」を防ぐ上で極めて重要であることが示されています。これは、看護師個人の努力や能力だけでなく、組織全体の文化とシステムが、日々の看護実践の質に深く関わっていることを強く示唆しています。「看護ケアの未実施」は、患者の回復遅延、感染リスクの増加、転倒や褥瘡の発生といった、多様な有害事象を引き起こす可能性があります。それに加え、必要なケアを十分に提供できない状況は、看護師の倫理的な苦痛や燃え尽き症候群の一因ともなり得ます。本研究の結果が示すように、組織的に患者安全文化を強化することは、こうした課題を軽減するための有効な方策となり得ます。具体的には、風通しの良い組織風土のもと、リーダーが安全確保に対する強い責任感を示し、発生したインシデントから学び改善に繋げる仕組みを構築すること、そして病棟単位で職員間の円滑なコミュニケーションと相互支援を推進する取り組みが不可欠です。これらの取り組みを通じて、看護師が質の高いケアを自信を持って提供できる環境が整備され、結果として患者の安全確保と看護ケア全体の質の向上に貢献できると考えられます。この研究は、患者安全文化への組織的な投資の重要性を裏付ける、強力なエビデンスを示すものです。論文はこちらLabrague LJ, Cayaban AR. J Adv Nurs. 2025 Jan 23. [Epub ahead of print]

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若年層での脳梗塞、意外な疾患がリスクに?

 片頭痛、静脈血栓、腎臓病や肝臓病、がんなどは、一般に脳梗塞リスクを高めるとは考えられていない。しかし、一般的な心臓の構造的異常を有する50歳未満の人においては、このような因子が脳梗塞リスクを2倍以上に高める可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。ヘルシンキ大学病院(フィンランド)脳卒中ユニットの責任者であるJukka Putaala氏らによるこの研究の詳細は、「Stroke」に4月17日掲載された。 Putaala氏は、「われわれは、これまで脳梗塞のリスク因子と見なされていなかった因子(以下、非伝統的リスク因子)、特に片頭痛がもたらす影響に驚かされた。片頭痛は、若年成人の脳卒中発症の主なリスク因子の1つであると思われる」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、原因不明の脳梗塞である潜因性脳梗塞(cryptogenic ischemic stroke;CIS)を発症して間もない患者を対象に、修正可能な伝統的リスク因子、非伝統的リスク因子、および女性特有のリスク因子の影響の大きさと、それらと若年発症型CISとの関連を検討した。対象は、ヨーロッパの19施設の18〜49歳のCIS患者523人(平均年齢41歳、女性47.3%)と対照523人とした。CIS患者の37.5%には、卵円孔開存(PFO)が認められた。PFOは、胎児期に右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)に開いていた孔(卵円孔)が出生後も閉じずに残存している状態を指す。解析は、臨床的に意義のあるPFO(心房中隔瘤または大きな右左シャントを伴う場合と定義)の有無で層別化して行った。 伝統的なリスク因子としては、高血圧、糖尿病、高コレステロール、喫煙、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、肥満、不健康な食事、運動不足、大量飲酒、ストレス、うつ病の12項目、非伝統的なリスク因子としては、慢性的な他臓器不全(炎症性腸疾患、慢性腎臓病、慢性肝炎、自己免疫疾患、血液疾患/血栓傾向)、静脈血栓症の既往、悪性腫瘍の既往、前兆を伴う片頭痛、違法薬物の現在の使用の10項目、女性特有のリスク因子としては、妊娠糖尿病の既往、妊娠高血圧の既往、妊娠合併症の既往など5項目が検討された。 PFOのないCIS患者では、対照群に比べて、リスク因子が1つ増えるごとにCISリスクが有意に上昇していた。CIS発症リスクは、伝統的なリスク因子で約40%(オッズ比1.417、95%信頼区間1.282〜1.568)、非伝統的なリスク因子で約70%(同1.702、1.338〜2.164)、女性特有のリスク因子で約70%(同1.700、1.107〜2.611)高かった。一方、PFOのあるCIS患者では、非伝統的なリスク因子についてのみ有意なリスク上昇が見られ、リスク因子が1つ増えるごとのCISの発症リスクは165%(同2.656、2.036〜3.464)上昇していた。 さらに、人口寄与危険割合(PAR)を算出して、当該リスクがなければどの程度のCISを防げたかを推定したところ、PFOがないCISでは、伝統的リスク因子が64.7%、非伝統的リスク因子が26.5%、女性特有のリスク因子が18.9%のCIS発症に寄与していると推定された。一方、PFOがあるCISでは、それぞれ33.8%、49.4%、21.8%がCIS発症に寄与していると推定された。CISの最も強い寄与因子は前兆を伴う片頭痛であり、PFOありのCISの45.8%、PFOなしのCISの22.7%は前兆を伴う片頭痛により説明されると推定された。前兆を伴う片頭痛の影響は、特に女性で顕著であった。 Putaala氏は、「これらの結果は、医療専門家が、より個別化されたリスク評価と管理の方法を考えるべきであることを示している。また、若い女性には、片頭痛の既往歴やその他の非伝統的なリスク因子の有無について確認するべきだ」と述べている。

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キウイを毎日食べると心が健康になる

 キウイフルーツは身近なフルーツとして日常で食す機会も多い。では、このキウイフルーツの摂取は、われわれの健康にどのような影響を与えるのであろうか。オーストラリア・アデレード大学の心理学研究科のMichael Billows氏らの研究グループは、ビタミンCが豊富なキウイフルーツの摂取が、高度気分障害の人に対し心理的ウェルビーイングを改善するか検討した。その結果、キウイフルーツは、気分障害の軽減に潜在的に有益性があることが示唆された。この結果は、Nutrients誌2025年4月18日号に掲載された。4週間のキウイフルーツの摂取で気分障害が改善 研究グループは、軽度~中等度の気分障害を有する18~60歳の成人26例を無作為に割り付け、2週間の休薬期間を設けた。各4週間の期間中、参加者はキウイフルーツを1日2個、または通常の食事を摂取した。主要アウトカムは、キウイフルーツ摂取期間と通常食摂取期間との気分障害総スコアの平均変化とした。副次的アウトカムは、血中ビタミンC濃度、ウェルビーイング、活力、消化器症状。2期にわたり非盲検クロスオーバー試験を実施した。 主な結果は以下のとおり。・各スコアは、通常の食事と比較しキウイフルーツ摂取時のほうが有意に改善した。気分障害の総スコアは65.2%(p<0.001)、ウェルビーイングは10.5%(p<0.01)、活力は17.3%(p=0.001)改善した。 ・血中ビタミンC濃度は27.5%(p=0.002)改善し、消化器症状は16.2%(p=0.003)軽減した。・重篤な有害事象は認められなかった。 ・キウイフルーツの摂取により、気分障害の総スコアが有意に低下し、ウェルビーイング、活力、ビタミンC濃度が改善した。 ・消化器症状の重症度も有意に減少した。 これらの結果から研究グループは、「この結果は、成人集団におけるキウイフルーツの気分障害の軽減に対する潜在的な有益性の予備的証拠を提供するもので、臨床集団を含む多様なグループにおけるさらなる研究が必要」と結論付けている。

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第85回 健康寿命はどうやって算出する?【統計のそこが知りたい!】

第85回 健康寿命はどうやって算出する?近年、平均寿命の延伸だけでなく、「健康寿命」の重要性が増しています。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均を指し、生活の質(QOL)を考慮した指標」です。今回は、健康寿命が注目される背景、その算出方法と評価、延伸目標、日本の現状、そして、健康寿命に関する注意点について解説します。■なぜ健康寿命が注目されるのか平均寿命の延びは喜ばしいことですが、健康上の問題を抱えたまま長生きすることは、本人や家族、社会にとって大きな負担となります。そのため、健康で自立した生活を過ごすことができる期間、すなわち健康寿命を延ばすことが、近年、重要視されるようになりました。とくに、わが国が世界一の長寿国となった2000年以降、健康寿命の延伸が政府の主要な健康目標として掲げられています。■健康寿命の算出方法と評価わが国では、3年ごとに実施される「国民生活基礎調査」のデータを基に、健康寿命を算出しています。具体的には、以下の手順で行われます。1)健康状態の定義調査では、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問が行われます。「ない」と回答した人を「健康」とし、「ある」と回答した人を「不健康」と分類します。2)サリバン法(Sullivan法)による算出年齢別の死亡率と、各年齢層における「健康」と「不健康」の割合を組み合わせ、サリバン法という方法で健康寿命を計算します。これは各年齢層の「健康な人の定常人口*」を求め、それを基に健康寿命を導き出す方法です。*x歳における生存数Lx人について、これらのおのおのがx歳からx+n歳に達するまでの間に生存する年数の和、または、常に10万人の出生があって、こられの者が上記の死亡率に従って死亡すると仮定すると究極において一定の人口集団が得られるが、その集団のx歳以上x+n歳未満の人口を、年齢階級[x、x+n]における「定常人口」という。■サリバン法サリバン法では、以下の手順で健康寿命を算出します。(1)定常人口の仮定:毎年10万人が誕生し、年齢別の死亡率に従って死亡する定常人口を仮定します。(2)年齢別の健康割合の適用:各年齢層における「健康」と「不健康」の割合を、この定常人口に適用します。(3)健康な人の定常人口の算出:各年齢層で「健康」と分類された人々の数を合計し、「健康な人の定常人口」を求めます。(4)健康寿命の計算:「健康な人の定常人口」を10万で除し、健康寿命を算出します。この方法により、平均寿命と健康寿命を比較し、健康上の問題で日常生活に制限のない期間の平均を求めることができます。■健康寿命の延伸目標政府は、「健康日本21」の第2次や第3次の取り組みにおいて、健康寿命の延伸を主要な目標としています。具体的には、平均寿命と健康寿命の差を縮めること、すなわち不健康な期間を短縮することを目指しています。これにより、高齢者がより長く健康で自立した生活を過ごすことができる社会の実現を図っています。日本人の健康寿命の現状(2022年時点)ですが、2022年の日本人の健康寿命は、男性で72.57歳、女性で75.45歳と報告されています。これは、前回の2019年の調査と比較して、男性は短縮、女性は延伸していますが、いずれも統計的に有意な差ではありません。一方、平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳であり、健康寿命との差、すなわち日常生活に制限のある期間は、男性で約8.48年、女性で約11.64年となっています。■健康寿命の注意点健康寿命は有用な指標ですが、以下の点に注意が必要です。(1)主観的評価の影響:健康状態の自己申告に基づくため、個人の主観や認識の違いが結果に影響を与える可能性があります。(2)測定方法の限界:「健康」と「不健康」の定義が明確でない場合や、調査方法によっては結果が変動する可能性があります。(3)地域差の存在:地域や社会経済的要因によって、健康寿命に差異が生じることがあります。健康寿命の向上には、個人の健康管理だけでなく、社会全体での取り組みが求められています。政府は、「健康日本21」や「健康寿命延伸プラン」などの政策を通じて、国民の健康増進を推進しています。これらの取り組みは、生活習慣病の予防や高齢者の介護予防、地域社会での健康作り活動の推進など、多岐にわたります。たとえば、「健康寿命延伸プラン」では、2040年までに健康寿命を男女ともに2016年に比べて3年以上延伸し、75歳以上とすることを目指しています。この目標を達成するため、次世代を含めたすべての人の健やかな生活習慣の形成、疾病予防・重症化の予防、介護予防・フレイル対策、認知症予防の3分野を中心に取り組みを推進しています。また、地域レベルでの取り組みも重要です。各自治体は、地域の実情に応じた健康増進計画を策定し、住民の健康作りを支援しています。これには、健康教育や運動プログラムの提供、健康診断の推進などが含まれます。さらに、企業や団体も従業員の健康管理や職場環境の改善を通じて、健康寿命の延伸に寄与しています。健康経営の推進や職場での健康作り活動は、労働生産性の向上にもつながります。これらの多面的な取り組みを通じて、国民一人ひとりが健康で質の高い生活を過ごすことができる社会の実現を目指しています。健康寿命の延伸は、個人の幸福だけでなく、社会全体の持続可能性にも寄与する重要な課題です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?

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カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連

 アルツハイマー病は、世界的な健康問題として深刻化しており、疾患進行に影響を及ぼす可能性のある改善可能な生活習慣因子への関心が高まっている。この生活習慣因子の中でも、カフェイン摂取は潜在的な予防因子として期待されているものの、そのエビデンスは依然として複雑であり、完全に解明されていない。パキスタン・Rehman Medical InstituteのZarbakhta Ashfaq氏らは、カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連性についてのエビデンスをシステマティックにレビューし、評価した。Cureus誌2025年3月20日号の報告。 2024年10月までに公表された研究をPubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryなどの主要データベースより、包括的に検索した。ヒトを対象にカフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関係を検証した研究をレビューに含めた。品質評価では、観察研究にはニューカッスル・オタワ尺度、その他の研究には適切なツールを用いた。 主な内容は以下のとおり。・カフェイン摂取量が多い(1日当たり200mg超)場合と認知機能低下およびアルツハイマー病進行のリスク低下との間に一貫した関連性が示唆された。・血漿カフェイン濃度が1,200ng/ml超の場合、軽度認知障害(MCI)から認知症への移行リスクの低下と顕著な関連が認められた。・メンデルランダム化試験では、遺伝的に予測される血漿カフェイン高濃度がアルツハイマー病に対する保護作用を有することが示唆された。オッズ比は0.87(95%信頼区間:0.76〜1.00)であったが、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「全体として、現在のエビデンスは、とくにMCI患者において、適度なカフェイン摂取がアルツハイマー病への移行に対し保護的に働く可能性があることを示している。この関係は、用量依存的であると考えられ、遺伝的要因や摂取時期の影響も関係している可能性がある。適切なカフェイン摂取戦略を確立し、最も効果が得られる可能性の高い集団を特定するためにも、適切に設定されたプロスペクティブ研究や臨床試験などが必要であろう」としている。

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第262回 救急車利用で徴収されたケース、最も多い症状や年代は?

2024年2月、能登半島地震の関連取材で石川県小松市を訪れた時のことだ。小松駅のトイレに入ると妙な掲示が目についた。「救急車はタクシーではありません!」この後に以下のような記述が続いていた。「命にかかわる傷病者が救急車を待っています。このような症状での気軽な119番はお控えください。しゃっくりが止まらない歯が痛い蚊にさされた掲示の主は小松市消防本部である。この時は「そんなことで救急車を呼ぶ人がいるのか?」と驚き呆れたものだ。ここまでひどくはなくとも、従来から救急車による搬送事例に軽症者が多いことはよく知られている。総務省消防庁が先月発表した2024年度の「救急出動件数等(速報値)」1)によると、全国での救急車による救急出動件数は771万7,123件(対前年比1.0%増)、搬送された人の数は676万4,838人(同1.9%増)となり、いずれも1963年の集計開始以来、過去最高を記録した。これら搬送された人の受け入れ医療機関での傷病程度の判定結果では、軽症(外来診療)が316万7,205人で、搬送された人の約半数に当たる 46.8%を占めている。これらの人の多くは、救急車が出動する必要はなかったと言えるだろう。こうした必要性の低い救急搬送はリソースの無駄使いという問題とともに、医療機関の救急診療部門の疲弊によって救える命が救えなくなるという、より深刻な問題を引き起こす。こうした実情を受け、一部の自治体では緊急性が認められなかった救急搬送ケースで搬送された人から選定療養費を徴収するという動きも始まった。全国初のケースは三重県松坂市で、同市の地域医療支援病院である厚生連松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院に救急搬送され、入院に至らなかった軽症例では7,700円の選定療養費を徴収する制度を2024年6月1日からスタートした。また、都道府県単位では、茨城県が初めて2024年12月2日から県内の22病院に搬送された人のうち、救急車要請時に緊急性が認められなかったと判断された場合には選定療養費を徴収する制度を始めた。徴収される選定療養費は病院ごとに1,100~1万3,200円まで幅があり、22病院中18病院が7,700円。なお、最低の1,100円は白十字総合病院(神栖市)のみ、最高額の1万3,200円は特定機能病院でもある筑波大学附属病院(つくば市)。両地域の制度とも該当者から一律徴収するのではなく、現場で医師の判断に基づき徴収の是非が決定される。こうした制度の導入時に最も懸念されるのが、救急車の呼び控えによる重症化だ。こうした懸念に加え、制度導入が実際の軽症者の救急車の出動要請の抑制につながるかも注目されるところ。この点について、松坂市、茨城県がともに検証調査結果を発表している2)。茨城県の1回目の検証調査結果は3月末に発表されたばかり。そこで今回、茨城県の検証結果を概観してみた。徴収されたケース、患者の症状や年齢、搬送時間は?茨城県は緊急性の判断目安を「搬送後の入院の有無や軽症かどうかではなく、救急車要請時の緊急性が認められないと判断された場合」と定義している。たとえば、熱中症、小児の熱性けいれん、てんかん発作などの症状は、病院到着時に改善し「軽症」と診断された場合でも、救急車を呼んだ時点での緊急性が認められるケースに該当し、徴収の対象とはならない。検証結果によると、制度導入から3ヵ月間(2024年12月〜2025年2月)に対象22病院が受け入れた救急搬送件数は2万2,362件。うち選定療養費が徴収されたのは全体の4.2%に当たる940件である。選定療養費が徴収された事例の主症状で最多は「風邪の症状」が8.8%(83件)、次いで「腹痛」が8.5%(80件)、「発熱」が7.2%(68件)、「打撲」が6.3%(59件)、「めまい・ふらつき」が5.6%(53件)など。検証期間中の1日(全時間帯)当たりの徴収件数は平日(月〜金)が9.6件、土日・祝日は12.3件で、休日に多い傾向が見られる。1時間刻みの時間帯別の徴収件数は平日が0.2~0.8件。最も多い0.8件は「22~23時」「0〜1時」の深夜帯。土日・祝日の場合は0.2~0.9件で、最多の0.9件は「15~16時」、これに次ぐ0.8件は「18~19時」、0.7件が「17~18時」「20~21時」「23~0時」で夕方から深夜にかけて多い傾向があった。年齢別の徴収率は、18歳未満が6.5%(徴収件数103件)、18歳以上65歳未満が6.6%(同408件)、65歳以上の高齢者が3.0%(同429件)。ちなみに18歳未満をより細分化すると、乳幼児(生後28日以上満7歳未満)が6.2%(同56件)、少年(満7歳以上満18歳未満)が7.0%(同47件)だった。このことから、若年層や中年層が比較的軽症で救急車の出動要請をしている実態が浮かび上がる。一方、検証期間中の茨城県全体での救急搬送件数は3万8,041件で、前年同期比で0.5%減少。選定療養費徴収の対象22病院のみの救急搬送件数は前述のように2万2,188件だが、こちらも前年同期比1.6%減となり、搬送全体に占める22病院への救急搬送の割合の58.3% も前年同期比0.7%減となった。他県の救急搬送の状況は?ちなみに参考として近隣の福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の同時期の救急搬送件数を調査した結果では、対前年同期比で3.8〜8.6%増加していたという。また、検証期間中の県全体の救急搬送で「軽症等」*と判断されたものは1万6,162件で前年同期比9.2%減となった一方、「中等症以上」**は2万1,879件で前年同期比7.1%増。対象22病院での軽症等はこれら病院への救急搬送件数の38.7%に当たる8,577件で、この割合は前年同期比で5.3%も減少した。*総務省消防庁統計での「軽症(入院加療を必要とせず外来診療で対応可)」と「その他(医師の診断がないものなど)」の合計**「中等症(入院診療が必要なものの重症ではない)と「重症(3週間以上の入院加療が必要)」と「死亡」の合計結果を概観すると、茨城県の救急搬送での選定療養費制度導入は、救急搬送件数全体や軽症者の救急搬送件数の抑制に一定の効果があり、本当に緊急性の高いケースへの搬送集中が進んだ可能性が示唆される。運用は成功か、救急電話相談の導入も相まる茨城県の制度導入の効果は、今回の検証調査で明らかになった茨城県運営の救急電話相談(おとな:#7119、こども:#8000)の利用状況からもうかがえる。検証期間中の救急電話相談は3万8,493件あり、前年同期に比べ6.9%増。同時に応答率も前年同期の82.2%から92.1%にまで改善された。ちなみに応答率の改善について茨城県では今回の選定療養費徴収開始に合わせて回線数を増設した影響と分析している。前述の救急電話相談のうち救急車の要請を助言した割合は、おとな相談で前年同期の10.2%から16.4%に上昇した一方で、こども相談では4.9%から3.6%に微減。この実態は救急電話相談を経由して必要な場合のみ救急車を呼ぶ行動が定着しつつあると解釈できる。なお、選定療養費徴収制度の導入開始後1週間で、県民から「救急電話相談に電話したが繋がりづらい」という声が複数寄せられたことを受けて調査した結果、平日16時台の応答率が5割ほどに低下していたことが判明。茨城県は検証期間中の2024年12月12日から該当時間帯の回線数を従前の2回線から順次増設し、12月23日からは6回線に増設した。さらに時間帯別で土曜日の17時~24時台、平日の7時台~16時台に応答率が6割~7割ほどに低下したため、2025年1月14日からはこれら時間帯でも2回線を増設したという。茨城県保健医療部医療局医療政策課では、応答率は随時調査をしながら回線増設などの対応を現在も行っているとしている。そして最も懸念された救急車の呼び控えによる重症化ついては、県内の医療機関、消防本部などに該当事例があれば報告するように要請したものの、これまで報告はなかったという。また、制度開始後、県の医療政策課に寄せられた問い合わせ・意見は計91件。内訳は、「制度への質問」が最多の54件(59.3%)、「肯定的な意見」が7件(7.7%)、「否定的な意見」と「徴収に関する不満の申し立」が各6件(6.6%)、「その他(県への提案等)」が18件(19.8%)。徴収に対する不満の中には「救急電話相談から救急車を呼ぶよう助言されたが徴収された」という事例が報告されている。検証結果の報告書では、この件について「県が個別対応として、病院に事情を説明する対応を行った」と記述されていたが、同課に問い合わせたところ、この事例では患者が病院に救急電話相談で助言があった旨を伝えていなかったことが後に明らかとなり、病院が最終的に徴収した選定療養費の返金対応をしたという。今後、こうしたケースの対応について、同課では「救急電話相談で救急車要請があったことを最大限考慮して病院側が最終判断する」としている。概観すると、全体として制度自体は問題なく運用できていると映る。おそらく各自治体はこうした状況を横目で眺めていることだろう。個人的には今年度この動きが拡大していくか否か、また症例の蓄積により運用基準が今後変更されるかについて注目している。参考 1) 総務省:令和6年中の救急出動件数等(速報値) 2) 茨城県保健医療部:救急搬送における選定療養費の徴収に関する検証の結果について (2024年12月~2025年2月)

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