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1 疾患概要2 診断3 治療4 今後の展望5 主たる診療科6 各論7 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)1 疾患概要■ 概念・定義hnRNP(ヘテロ核リボヌクレオプロテイン、Heterogeneous Nuclear Ribonucleoproteins)は、RNAのスプライシング、輸送、安定性、翻訳などに関わるRNA結合タンパク質のファミリーである。このhnRNPの異常は、さまざまな先天異常症候群、神経発達症、成人の神経筋疾患、がん、自己免疫疾患などと関係する。本稿では主に神経疾患との関連について記載する。遺伝子名の場合、HNRNPと大文字・斜体で記載する。■ HNRNP関連疾患の疫学正確な疾患頻度は不明であるが、数万出生に1人程度の希少疾患と考えられる。遺伝子別にみるとHNRNPH2、HNRNPU、HNRNPK関連疾患が多い。海外では多数の報告がある1)。筆者は10例以上の診断に関与しているが、国内未診断例も多いと思われる。■ HNRNP関連疾患の病因遺伝情報がDNA→RNA→タンパク質という経路で、DNAがRNAをコードし、RNAがタンパク質に翻訳されるという基本原則を「セントラルドグマ」と呼ぶ。生物では核内でDNAから遺伝情報を写し取ったmRNA前駆体(pre-mRNA)が、修飾を受けて成熟mRNAとなる。その後、細胞質に輸送され、適切な時期にタンパク質に翻訳される。この一連の過程には、さまざまなRNA結合タンパク質が関与している。hnRNPは、核内でmRNA前駆体やその他のRNA分子に結合するタンパク質ファミリーである。hnRNPは、mRNA前駆体のスプライシング(イントロン除去とエクソン結合)に関与する。一部のhnRNPはスプライシング部位の選択に影響を与え、選択的スプライシングを調節する。hnRNPは、核内でRNAを輸送する際に誘導する役割を持つ。とくにRNA分子が核膜を通過して細胞質に移動する際に重要である。また、hnRNPはRNA分子を安定化し、分解から保護する役割を持つ。一部のhnRNPは、mRNAの翻訳効率に影響を与え、遺伝子発現を調節する。hnRNPはRNA分子の二次構造形成や構造変化を助ける。このように、hnRNPの異常により、さまざまなレベルでRNAに異常が生じることが病態の背景にある。ヒトでは30種類以上のhnRNPが知られており、それぞれが異なる機能やRNA結合特性を持つ。■ 症状後述の「6 HNRNP関連疾患の各論」で各疾患ごとに述べる。■ 分類主なHNRNP関連疾患を表に示す。まだ、メンデル遺伝病として確立していないものも存在する。表 疾患との関連が判明しているHNRNP遺伝子画像を拡大する■ 予後遺伝子タイプで異なるが、ALSの場合は人工呼吸管理が必要になる。先天異常症候群の場合は成人期以降も精神運動発達遅滞が持続する。2 HNRNP関連疾患の診断後述するような臨床所見を持つ症例において、責任遺伝子の病的バリアントを検出することが基本である。微細欠失例が存在するので、マイクロアレイ染色体検査が最初に必要である。マイクロアレイ染色体検査で異常がない場合は、エクソーム解析などの網羅的遺伝子解析の適応となる。最初から診断を疑って遺伝子診断を行うことは難しい。ただし、筆者の経験ではHNRNPK異常(Au-Kline-Okamoto症候群)は特徴的所見により、臨床的に疑うことが可能である。遺伝形式は常染色体顕性遺伝によるが、HNRNPH2はX連鎖性である。基本的に両親にバリアントはなく、生殖細胞系列の新生突然変異である。染色体の微細欠失でHNRNP関連遺伝子が欠失する場合、近傍の遺伝子も同時に欠失することで、症状が修飾される可能性がある。3 HNRNP関連疾患の治療 現在のところ、根本的な治療方法はなく、対症療法に留まる。精神運動発達遅滞に対しては療育訓練が必要である。てんかんを合併した場合は一般的なてんかん治療を行う。4 HNRNP関連疾患の今後の展望HNRNPH2などでASO(Anti-sense Oligonucleotide)を用いた遺伝子治療が海外で研究的に実施されている。5 HNRNP関連疾患の主たる診療科HNRNPA1、HNRNPA2/B1遺伝子関連疾患は脳神経内科の領域であるが、他のものは小児科ないし小児神経科が関わる例が多い。合併症によっては多くの分野の医療が必要となる。遺伝学的検査や遺伝カウンセリングについては、臨床遺伝学の領域となる。6 HNRNP関連疾患の各論■ HNRNPA1、HNRNPA2/B1関連疾患ALS(筋萎縮性側索硬化症)、FTD(前頭側頭型認知症)、MSP(多系統タンパク質症)などの原因となる。ALSではSOD1など多くの責任遺伝子が知られているが、HNRNPA1、HNRNPA2/B1も原因の1つである。HNRNPA1は、mRNAのスプライシング、輸送、安定性調節などに関わる。ストレス顆粒(stress granule)形成にも関与する。この遺伝子のバリアントにより産生タンパク質の構造が変化し、異常な凝集(aggregation)や細胞質移行が起こることで神経細胞や筋細胞の機能障害が生じる。なお、HNRNPA2とHNRNPB1は、同じ遺伝子から由来する。家族性ALSの発症は中年期以降に多いが、若年例も報告がある。上位運動神経および下位運動神経の障害による進行性筋力低下、嚥下障害、呼吸筋障害がみられる。現時点で根治療法はない。ALS例では呼吸管理、リハビリ、栄養管理を行う。多発性筋炎様筋疾患(Inclusion Body Myopathy with early-onset Paget disease and Frontotemporal Dementia:IBMPFD)類似病態では筋力低下、骨疾患、認知症の組み合わせを呈する例がある。筋病理ではリムドボディを含む封入体筋炎の所見がみられる。筋疾患例では理学療法と補助具使用を考慮する。■ HNRNPH2異常によるBain症候群(Bain型X連鎖性知的障害)Bain症候群は、HNRNPH2遺伝子(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein H2)における機能喪失型または機能異常型バリアントによって生じる先天異常症候群である。2016年にBainらが報告した2)。X連鎖顕性であり、女性患者に多く、男性では知的障害の程度が強く、重症例は新生児期に死亡する。HNRNPH2に病的バリアントが存在すると、スプライシング制御異常やRNA代謝障害を引き起こし、神経発達に影響する。とくに神経細胞の成熟やシナプス形成が阻害される。症状として、中等度~重度の精神運動発達遅滞、知的障害を認める。言語発達は遅れ、重度の例では言語獲得ができない。自閉症スペクトラム障害や行動異常の例もある。筋緊張低下、運動発達遅滞がみられ、重度の例では独歩獲得ができない。てんかんを発症する場合があり、脳波検査や脳MRI検査が必要である。MRI検査では脳梁形成不全や大脳白質異常を認める。小頭症や軽顔貌特徴を認める場合がある。レット症候群に類似した常同運動などの症状を認める例もある。確定診断は遺伝学的検査(全エクソーム解析、遺伝子パネルなど)でHNRNPH2の病的バリアントを同定することが必要である。さまざまなバリアントの報告があるが、p.Arg206Trpが最も多い。現時点では根本的な治療方法はなく、療育訓練やてんかん治療など、対症療法が中心となる。また、能力に応じた特別支援教育が必要となる。■ HNRNPH1関連疾患“Neurodevelopmental disorder with craniofacial dysmorphism and skeletal defects”の原因疾患である。主な症状は精神運動発達遅滞、知的障害、特徴的顔貌、乳児期の哺乳栄養障害、胃食道逆流症、低身長、小頭症などである。眼科的には斜視、近視などを認める。頭部MRI検査では側脳室拡大、脳梁異常、小脳虫部低形成などを認める。■ HNRNPK関連疾患(Au-Kline-Okamoto症候群)Au-Kline-Okamoto症候群は染色体9q21にあるHNRNPK遺伝子の病的バリアントないし欠失による先天異常症候群である3)。Okamoto症候群として知られていた先天異常症候群において、HNRNPKのバリアントが同定され、Au-Kline症候群とOkamoto症候群は同一疾患であることが判明した4)。神経系の症状として精神運動発達遅滞、知的障害、筋緊張低下などを認める。頭部が長頭などの変形を認める場合、頭蓋縫合早期癒合症を鑑別する必要があり、3D-CT検査が有用である。脳MRI検査では髄鞘化遅延、脳梁低形成ないし欠損、異所性灰白質などの所見を認める。特異顔貌は診断の参考となる。眼瞼裂斜下、長い眼瞼裂、眼瞼下垂、眼球突出傾向、大きい耳、耳輪低形成、耳介低位、広い鼻梁、鼻翼低形成、鼻根部平低、開口、高口蓋、口蓋裂、軟口蓋裂、舌の中央線などを認める。歌舞伎症候群が鑑別に上がる。泌尿器系では停留精巣、膀胱尿管逆流症、水腎症、神経因性膀胱の例がある。心室中隔欠損や心房中隔欠損症など先天性心疾患の精査も必要である。骨格系では股関節脱臼、側彎症などを認める例がある。根本的な治療法はなく、合併症に合わせた治療を行う。また、精神運動発達遅滞に対しては療育が必要である。■ HNRNPU関連神経発達症染色体1q44に座位するHNRNPUの病的バリアントや欠失が原因である5)。神経発達に必要な多くの遺伝子の発現制御に関わるHNRNPUの機能喪失により、神経発生やシナプス形成に必要な多くの遺伝子の転写・スプライシング制御に異常が生じる。多くは常染色体顕性の突然変異である。精神運動の発達遅滞、中等度~重度の知的障害、筋緊張低下がみられる。言語表出の遅れもみられる。HNRNP関連疾患の中でもてんかんの合併が多いことが特徴である。乳児早期てんかん脳症の形態をとる場合がある。West症候群やLennox-Gastaut様などの報告もある。頭囲については軽度小頭症や巨頭症の報告がある。顔貌特徴(非特異的だが、やや長い顔、広い前額部など)が報告される。脳MRI検査異常として、脳梁低形成、白質異常などを認める。滲出性中耳炎や斜視にも注意が必要である。マイクロアレイ染色体検査でHNRNPUを含む、1q44領域の欠失を同定する場合もある。この場合は1q44微細欠失症候群として確立した症候群となる。根本的治療法は未確立であり、てんかんに対する治療、療育訓練が必要である。てんかんは薬剤抵抗性に経過する場合がある。7 参考になるサイト診療、研究に関する情報HNRNP Family Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報HNRNP疾患患者家族会(患者とその家族向けのまとまった情報) 1) Gillentine MA, et al. Genome Medicine. 2021;13:63. 2) Bain JM, et al. Am J Hum Genet. 2016;99:728-734. 3) Au PYB, et al. Hum Mut. 2015;36:1009-1014. 4) Okamoto N. Am J Med Genet. 2019;179A:822-826. 5) Carvill GL, et al. Nature Genet. 2013;45:825-830. 公開履歴初回2025年12月25日