サイト内検索|page:16

検索結果 合計:2848件 表示位置:301 - 320

301.

インターネットの使用はメンタルヘルスに有害か

 ネットサーフィンはメンタルヘルスに悪影響を与えると考えられがちだが、インターネットの使用が心理的ウェルビーイングやメンタルヘルスに大きな脅威を与えることはないことを明らかにした、画期的な研究結果が報告された。これは、国レベルでのインターネットおよびブロードバンドの利用状況を、世界各国の数百万人の心理的ウェルビーイングやメンタルヘルスと比較した上で導き出された結果であるという。英オックスフォード大学インターネット研究所のAndrew Przybylski氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Psychological Science」に11月27日掲載された。 この研究は、インターネットの使用と心理的ウェルビーイングおよびメンタルヘルスとの関連を二つの研究で検討したもの。一つ目の研究では、まず2005年から2022年の間に実施された調査データを基に、168カ国、243万4,203人(15〜89歳)の心理的ウェルビーイングを、人生に対する満足度、ポジティブな経験、およびネガティブな経験の3つの側面から評価。得られた結果を、国民1人当たりのインターネット利用者数とモバイルブロードバンドの契約者数の時系列データと照らし合わせ、過去20年におけるインターネットとモバイルブロードバンドの使用が心理的ウェルビーイングにどのような影響を与えたのかを検討した。 その結果、インターネット技術の使用が広がるにつれ、心理的ウェルビーイングが経時的に変化したことを支持するエビデンスはほとんど/まったく認められないことが明らかになった。ポジティブな経験とネガティブな経験は経時的に増加していたが、この変化は統計学的には、ほぼゼロに等しいことが示された。 二つ目の研究では、保健指標評価研究所(Institute for Health Metrics and Evaluation;IHME)のGBD(疾病負荷研究)2019で報告されている、2000年から2019年における世界204カ国での不安障害とうつ病、自傷行為の有病率に関するデータを用いて、これらとインターネットおよびモバイルブロードバンドの使用との関連について検討された。その結果、不安障害の有病率には増加が、うつ病と自傷行為の有病率には低下が認められたものの、統計学的には、こうした変化はほぼゼロに等しいことが明らかになった。 Przybylski氏は、「われわれは、年齢や性別によって結果が異なる可能性を考えて詳細に検証したが、特定のグループでよりリスクが高いとする一般的な考えを支持する証拠は見つからなかった」と同大学のニュースリリースで述べている。 このような結果が得られたとはいえ、研究グループは、インターネット利用の影響についての理解を深めるためには、テクノロジー企業からより多くのデータを提供してもらう必要があると主張している。また、「インターネット技術が与える影響に関する研究が停滞している原因は、そのような研究に欠かせない重要なデータが、テクノロジー企業やオンラインプラットフォームによって収集され、非公開で保管されているせいだ」と指摘する。そして、「人々がインターネット技術をどの程度取り入れ、使用しているかに関するデータを、全ての関係者がより詳細に、より透明性をもって研究することが極めて重要だ。これらのデータは、世界的なテクノロジー企業によって、マーケティングや製品改良のために収集され、継続的に分析されてはいるが、残念ながら、個々の研究のために利用することはできないのが現状だ」と述べている。

302.

糖尿病とうつ病の併存で死亡リスクがより高まる

 2型糖尿病患者はうつ病を併発していることが少なくないこと、そして両者の併存により死亡リスクが4倍以上高くなることを示すデータが報告された。米ニューメキシコ州立大学のJagdish Khubchandani氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes & Metabolic Syndrome: Clinical Research & Reviews」11月号に掲載された。 Khubchandani氏によると、「米国では3500万人以上が糖尿病に罹患し、9500万人以上が前糖尿病状態にあって、糖尿病は米国における主要な死因の一つに挙げられる」という。また同氏は、「残念ながら、これらの人の多くがうつ病や不安症などのメンタルヘルス上の問題を抱えている。しかし、2型糖尿病とうつ病を併発した場合の死亡リスクに及ぼす影響は、これまでのところ十分に検討されていない」と、研究の背景を説明している。 研究では、2005~2010年の米国国民健康栄養調査(NHANES)と2019年までの同国の死亡統計のデータが解析に用いられた。NHANESの解析対象は1万4,920人の米国人成人であり、そのうち約10人に1人がうつ病(9.08%)または2型糖尿病(10%)に罹患していた。うつ病患者は、女性、喫煙者、肥満者、低所得者、および教育歴の短い人に多く、また2型糖尿病患者や心血管疾患の有病率が有意に高かった。 交絡因子調整後、2型糖尿病患者は糖尿病でない人に比べて死亡リスクが1.70倍高いことが明らかになった。この結果をうつ病の併発の有無別に見ると、うつ病のない2型糖尿病患者では1.55倍のリスク上昇であるのに対して、うつ病と2型糖尿病を併発している患者は死亡リスクが4.24倍であることが示された。 このような結果の背景をKhubchandani氏は、「糖尿病という病気は衰弱をもたらしやすい病気だが、うつ病を併発するとその状態がより悪化しやすくなる。さらに不運なことに、糖尿病を患う多くの米国人は、経済的にも精神的にも負担の生じやすい生活を強いられており、そのために病気の治療が困難な状況にある」と解説。また著者らは、「心理・社会的因子や生物学的メカニズムが、うつ病と糖尿病の併発の原因となっている可能性がある」と述べている。 具体的には、不十分な治療、遺伝的背景、ライフスタイル関連因子、うつ病や2型糖尿病以外の疾患を併発するリスクの高さ、ストレス、医療アクセスの低下、経済的負担の増加、免疫や血管系の機能不全などが、共通の原因として挙げられるとのことだ。実際、今回の研究では、うつ病と糖尿病を併発している人には、いくつかの共通する特徴があることも示された。例えば、収入が少ないことや教育歴が短いこと、人種/民族的マイノリティーであること、および不健康なライフスタイルであること、その他の慢性疾患の併存などが認められた。 先進国では、一般的に糖尿病患者の約75%が血糖管理のための治療を受けているとされる。しかし、何らかのメンタルヘルス上の問題を抱えている患者の50%以上が、その適切なケアを受けられていないと、著者らは指摘している。Khubchandani氏も、「糖尿病と併発することの多いメンタルヘルス上の問題に関するケアの質を向上させることで、糖尿病とともに生きる人々の幸福感の向上とともに、寿命を延長できる可能性がある」と語っている。

303.

統合失調症外来患者におけるアリピプラゾール月1回製剤治療のフォローアップ結果

 統合失調症治療における重要な目標は、症状、心理社会的機能、ウェルビーイングなどのさまざまな問題を寛解状態に導くことである。米国・ザッカーヒルサイド病院のChristoph U. Correll氏らは、ドイツの75施設で実施されたアリピプラゾール月1回製剤を用いた6ヵ月間の非介入研究に登録された安定期統合失調症の外来患者を対象に、臨床アウトカムデータの事後分析を実施した。Schizophrenia(Heidelberg、Germany)誌2023年11月8日号の報告。 主要アウトカムは次の3つ。(1)症状寛解(横断的Andreasenらの基準:BPRSにおける陽性・陰性主要症状が軽度以下)、(2)機能的寛解(GAFスコア70超)、(3)24週目のウェルビーイングの寛解(WHO-5スコア13以上)。登録患者242例中、完全なデータを有する194例(80.2%)を分析した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象患者194例は、平均年齢43.9±15.3歳、男性の割合51.5%、平均罹病期間14.0±12.0年であった。・症状寛解達成患者は61.3%、ウェルビーイングの寛解達成患者は76.8%であったが、6ヵ月時点で心理社会的機能寛解達成患者は24.7%であった。・寛解率は、男女ともに同様であり、罹病期間の階層別でも同様であったが、平均罹病期間が長い患者ほど寛解率は低かった。・BPRSとGAFの改善の相関は弱かった。BPRSの抑うつ症状とGAFスコアとの相関が最も低かったが、BPRS下位尺度および抑うつ症状とウェルビーイングとの相関は高かった。 著者らは「アリピプラゾール月1回製剤による治療は、症状やウェルビーイングの寛解につながるが、機能的寛解を達成するためには、心理社会療法や雇用支援、教育などの追加介入が必要になる可能性が示唆された」としている。

304.

治療抵抗性うつ病患者の自殺リスクに対する衝動性の影響~FACE-DR研究

 自殺は重大な問題である。うつ病患者ではとくに自殺発生率が高いことから、うつ病は自殺関連リスク因子の1つとされている。重度のうつ病患者における自殺企図は、衝動性や制御不能などの症状と関連していると考えられる。しかし、治療抵抗性うつ病における衝動性と自殺リスクとの関連を具体的に調査したデータは、ほとんどない。フランス・トゥールーズ大学病院のJuliette Salles氏らは、治療抵抗性うつ病患者の自殺リスクに対する衝動性の影響を再検討するため、本研究を実施した。その結果、治療抵抗性うつ病患者における衝動性は、自尊心、抑うつ症状、不安への間接的な影響と関連し、自殺リスクに影響を及ぼしている可能性が示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年11月20日号の報告。 プロスペクティブコホートとして患者を募集した。自殺リスクの評価には精神疾患構造化面接法、衝動性の評価にはBarratt Impulsiveness Scaleバージョン10を用いた。うつ病の症状重症度、不安症状、小児期虐待の評価には、それぞれモントゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)、状態-特性不安尺度(STAI)、Childhood Trauma Questionnaireを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、治療抵抗性うつ病患者220例。・衝動性スコアは、自尊心、婚姻状況、職業上の地位、不安との相関が認められたが、自殺リスクとの直接的な関連は認められなかった。・衝動性は、自尊心(係数:-0.24、p=0.043)および抑うつ症状重症度(係数:0、p=0.045)と関連していた。・自殺リスクは、抑うつ症状重症度(係数:0.38、p<0.001)および自尊心(係数:-0.34、p=0.01)との相関が認められた。・これらの相関を考慮すると、衝動性が自殺リスクに及ぼす影響は、抑うつ症状重症との観点からみられる自尊心により媒介される可能性があると仮説が立てられた。最終的に、共変数として重要な影響を来す自尊心や不安を伴う抑うつ症状に影響を与えることで、自殺リスクに間接的に影響を及ぼす衝動性に関連する媒介モデルを発見した。

305.

猫を飼うと統合失調症などの精神疾患になるのは本当か

 猫の飼育は、統合失調症関連障害および精神病症状様体験(PLE)のリスク修飾因子であるといわれている。この可能性についてオーストラリア・クイーンズランド大学脳研究所のJohn J McGrath氏らの研究グループは、猫の飼育と統合失調症関連の転帰との関係を報告した文献の系統的レビューおよびメタ解析を行った。その結果、猫の飼育(猫への曝露)は広義の統合失調症関連障害のリスク増加との関連を支持するものであった。Schizophrenia Bulletin誌オンライン版2023年12月2日号の報告。猫の飼育と統合失調症関連障害の発症オッズの上昇との関係 方法として、Medline、Embase、CINAHL、Web of Science、および灰色文献のうち1980年1月1日~2023年5月30日の出版物について、地域や言語に関係なく検索。追加論文の検索では後方引用検索法を用いた。研究対象は、猫の飼育と統合失調症関連の転帰に関するオリジナルデータを報告している研究。広義の定義(猫の所有、猫の咬傷、猫との接触)に基づく推定値を、共変量調整の有無にかかわらずメタ解析し、ランダム効果モデルを用いて比較可能な推定値をプールし、バイアスリスク、異質性、研究の質を評価した。 猫の飼育と統合失調症関連障害のリスクとの関連を評価した主な結果は以下のとおり。・1,915件の研究を同定し、そのうち106件をフルテキスト・レビューに選択。最終的に17件の研究を組み入れた。・広義の猫の飼育と統合失調症関連障害の発症オッズの上昇との間に関連が認められた。・調整前のプールされたオッズ比(OR)は2.35(95%信頼区間[CI]:1.38~4.01)であり、調整後のプールされた推定値は2.24(95%CI:1.61~3.12)だった。・PLEアウトカムの推定値は、測定範囲が広いため集計できなかった。 これらの結果からMcGrath氏は「猫への曝露と広義の統合失調症関連障害のリスク増加との関連を支持するものだったが、転帰としてのPLEに関する知見はさまざまだった」と結論付けている。

306.

認知症の評価に視覚活用、アイトラッキングシステムとは

 早期認知症発見のためのアイトラッキング技術を用いた「汎用タブレット型アイトラッキング式認知機能評価アプリ」の神経心理検査用プログラム『ミレボ』が2023年10月に日本で初めて医療機器製造販売承認を取得した。発売は24年春を予定している。この医療機器は日本抗加齢協会が主催する第1回ヘルスケアベンチャー大賞最終審査会(2019年開催)で大賞を取った武田 朱公氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学)の技術開発を基盤として同第5回大賞(10月27日開催)を受賞した高村 健太郎氏(株式会社アイ・ブレインサイエンス)らが産業化に成功したもの。 本稿では第5回ヘルスケアベンチャー大賞最終審査会での高村氏のプレゼンテーション、第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナーでの武田氏の講演内容を踏まえ、このプログラムの開発経緯や今後の展望について紐解いていく。アイトラッキング式認知機能評価アプリとは 認知症疑い患者に対し従来行われているMMSEや改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)といった認知機能検査では、患者の心理的負担(緊張、焦り、落胆、怒りなど自尊心を傷付け心理的ストレスを招きやすい)、医療者負担(時間的制約、専門スタッフの在籍)、検査者間変動(採点のバラツキ)が課題になっているが、近年、AIを活用した新たな認知症診断技術として、脳波、視線、表情、音声、体動などのデータをAIによって定量化することで鑑別診断や予後予測ができるまで研究が進んでいる。また、現代では認知症の危険因子のなかに回避可能なものが多く存在することが医学的にも解明したこと、アルツハイマー病の根本的治療法が臨床応用されつつあることから、早期認知症患者の早期発見・治療導入のためのスクリーニング方法に注目が集まっている。 そこで、高村・武田両氏らは現場での課題を解決するべく新たなスクリーニング法の開発に着目し、認知症領域に一筋の光をもたらした。それがアイトラッキング式認知機能評価アプリである。両氏によると、認知症検査には▽安価▽特殊な機器が不要▽短時間(3分以内)▽言語依存性が低いなどの条件が求められるが、本アプリは「目の動きを利用した『眺めるだけの認知機能検査』技術。使用方法は簡便で、患者は“画面に表示される質問に沿ってタブレット画面を3分間見るだけ”。データを自動的にスコア化し、定量的かつ検査者の知識や経験に依存せず客観的に評価することが可能であり、まさに『短時間・簡易・低コスト』を実現した製品」と高村氏は話した。 さらに、認知症は非専門医による診断も難しい点が臨床課題であったが、臨床的に認知症と診断された被験者およびそれ以外の被験者(認知機能健常者および軽度認知障害[MCI]が疑われる被験者含む)を対象に実施した臨床試験において、主要評価項目である本アプリによる検査スコアとMMSEの総合点において高い相関が認められた。加えて、副次評価項目である検査者に対する使用評価調査において検査者の負担軽減が確認されたことから、認知症を診断できる施設数の増加にも寄与できる可能性がある。このほか、本アプリは多言語対応も可能であることから、将来展望として認知症患者が増加傾向のアジア圏をはじめ、欧米にも日本発の技術を輸出・展開し世界進出を図る予定だという。“技術の産業化”を果たし、ヘルスケア産業・医療界に参入 なお、薬機法に規制されない一般向けアプリとして認知機能評価法『MIRUDAKE』による事業化も進めており、公的機関(高齢者の免許更新時の検査など)、検診サービス(住民健診など)、介護サービス事業(デイサービスでの重点見守りなど)への提供をスタートさせている。 第1回大賞受賞時の宿題であった“技術の産業化”を見事に果たした両氏。アイトラッキング技術をさらに応用して認知症のみならず、本アプリからの情報をAI解析することで高い精度でMCIの発見を行う、ADHDや大うつ病の検査補助、認知症の予防/治療を行うDTxの実用化などさらなるSaMD創出に意欲を示している。認知症領域の現状 国内65歳以上の5人に2人は認知症またはMCIと推算されている。世界規模では開発途上国(とくにアジア圏)での患者数が増加傾向で、2050年には認知症患者数は1億3,150万例になることが予想されている。今秋には国内でもレカネマブの承認が報道されたことで、物忘れ外来の受診患者が増えている病院もあるそうだが、外来での診察時間は1人あたり10~15分程度と限られ、認知機能検査に時間を割くことが厳しく、診断や治療へコストをかけることができないのが現状である。ヘルスケアベンチャー大賞とは アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げたもの。第5回の受賞者は以下のとおり。〇大賞株式会社アイ・ブレインサイエンス「認知症の早期診断を実現する医療機器の実用化」〇学会賞(企業)株式会社AutoPhagyGO 「健康寿命延伸を目指したオートファジー活性評価事業」〇ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞(企業)エピクロノス株式会社「日本人に最適化されたエピゲノム年齢測定によるアンチエイジングの見える化」株式会社TrichoSeeds「男性型脱毛症治療のための毛髪の再生医療」株式会社プリメディカ「日本人腸内細菌叢データベースを活用した腸内環境評価システムの開発」〇アイデア賞(個人)市川 寛氏(同志社大学大学院)「超音波照射による酸化ストレス耐性誘導を介した老化関連疾患予防法の開発」楠 博氏(大阪歯科大学)「オーラルフレイルの新規診断法と治療薬の探索-医科からのアプローチ」

307.

尋常性ざ瘡へのisotretinoin、自殺・精神疾患リスクと関連せず

 isotretinoinは、海外では重症の尋常性ざ瘡(にきび)に対して用いられており、本邦では未承認であるが自由診療での処方やインターネット販売で入手が可能である。isotretinoinは、尋常性ざ瘡に対する有効性が示されている一方、自殺やうつ病などさまざまな精神疾患との関連が報告されている。しかし、isotretinoinと精神疾患の関連について、文献によって相反する結果が報告されており、議論の的となっている。そこで、シンガポール国立大学のNicole Kye Wen Tan氏らは、両者の関連を明らかにすることを目的として、システマティック・レビューおよびメタ解析を実施した。その結果、住民レベルではisotretinoin使用と自殺などとの関連はみられず、治療2~4年時点の自殺企図のリスクを低下させる可能性が示された。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年11月29日号掲載の報告。 2023年1月24日までにPubMed、Embase、Web of Science、Scopusに登録された文献を検索し、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク、相対リスク、リスク因子を報告している無作為化試験および観察研究に関する文献を抽出した。関連データを逆分散加重メタ解析法により統合し、バイアスリスクはNewcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。メタ回帰分析を行い、不均一性はI2統計量で評価した。 主要アウトカムは、isotretinoin使用者における自殺および精神疾患の絶対リスク(%)、相対リスク(リスク比[RR])、リスク因子であった。 主な結果は以下のとおり。・システマティック・レビューにより、合計25研究(162万5,891例)が特定され、そのうち24研究がメタ解析に含まれた。・全25件が観察研究で、内訳は前向きコホート研究10件、後ろ向きコホート研究13件、ケースクロスオーバー研究1件、ケースコントロール研究1件であった。各研究の対象患者の平均年齢の範囲は16~38歳、男性の割合は0~100%であった。・1年絶対リスクは、自殺既遂0.07%(95%信頼区間[CI]:0.02~0.31、I2=91%、対象:7研究8コホートの78万6,498例)、自殺企図0.14%(同:0.04~0.49、I2=99%、7研究88万5,925例)、自殺念慮0.47%(同:0.07~3.12、I2=100%、5研究52万773例)、自傷行為0.35%(同:0.29~0.42、I2=0%、2研究3万2,805例)であったのに対し、うつ病は3.83%(同:2.45~5.93、I2=77%、11研究8万485例)であった。・isotretinoin使用者は、非使用者と比べて自殺企図のリスクが、治療2年時点(RR:0.92、95%CI:0.84~1.00、I2=0%)、3年時点(同:0.86、0.77~0.95、I2=0%)、4年時点(同:0.85、0.72~1.00、I2=23%)のいずれにおいても低い傾向がみられた(いずれも対象は2研究44万9,570例)。・isotretinoin使用と全精神疾患との関連はみられなかった(RR:1.08、95%CI:0.99~1.19、I2=0%、対象:4研究5万9,247例)。・試験レベルのメタ回帰分析において、高齢であるほどうつ病の1年絶対リスクが低い傾向にあった。一方、男性は自殺既遂の1年絶対リスクが高い傾向にあった。 著者は、「今回の所見は心強いものだが、引き続き臨床医は統合的な精神皮膚科ケア(holistic psychodermatologic care)を実践し、isotretinoin治療中に精神的ストレスの徴候がみられないか観察する必要がある」とまとめている。

308.

新規統合失調症患者に使用される抗精神病薬の有効性と忍容性~メタ解析

 英国・ウルバーハンプトン大学のZina Sherzad Qadir氏らは、PRISMA-P声明に従って、統合失調症治療に使用される経口抗精神病薬の有効性および忍容性を比較するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Pharmacy(Basel、Switzerland)誌2023年11月10日号の報告。 主要アウトカムは、症状の改善、副作用に対する忍容性、治療中止理由により測定された臨床反応とした。 主な結果は以下のとおり。・21件の研究を分析に含めた。・個々の患者における治療反応は、アリピプラゾールvs.ziprasidoneおよびクエチアピン(CDSS:p=0.04、BPRS:p=0.02、YMRS:p=0.001)、ziprasidone vs.クエチアピン(CGI:p=0.02、CDSS:p=0.02)で認められた。・アリピプラゾールは、リスペリドン、ziprasidone、クエチアピンよりも忍容性が高かった(p<0.05)。・クエチアピンは、アリピプラゾール、ziprasidone、リスペリドンよりも忍容性が高かった(p<0.05)。・ziprasidoneは、クエチアピン、ハロペリドール、オランザピンよりも忍容性が高かった(p<0.05)。・リスペリドンは、オランザピンよりも忍容性が高かった(p=0.03)。・ハロペリドールは、オランザピン、クエチアピンよりも忍容性が高かった(p<0.05)。・オランザピンは、クエチアピンよりも治療中止リスクが低かった(p<0.05)。・クエチアピンは、ziprasidone、アリピプラゾール、ハロペリドールよりも治療中止リスクが低かった(p<0.05)。・ziprasidoneは、クエチアピン、アリピプラゾール、ハロペリドールよりも治療中止リスクが低かった(p<0.05)。・アリピプラゾールは、クエチアピン、ziprasidone、オランザピンよりも治療中止リスクが低かった(p<0.05)。・オランザピンは、ziprasidone、ハロペリドールよりも治療中止リスクが低かった(p<0.05)。 著者らは「個々の患者の臨床反応、副作用に対する忍容性、生命を脅かす可能性のある副作用は、経口抗精神病薬の選択および継続において最も信頼できる根拠であると結論付けられる」としている。

309.

第175回 研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院

<先週の動き>1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院東京大学医学部付属病院の臨床研修医2人が、病気ではないにも関わらず、互いに処方箋を発行し、GLP-1受容体作動薬を入手していたことが明らかになった。この報道に対して、病院側は「自己使用目的であって転売目的ではなく、常習性もなかった」と判断し、病院長から厳正な指導を行ったことを明らかにした。GLP-1受容体作動薬は、インターネット上で「やせ薬」として紹介されており、自由診療目的で処方を行う医療機関が急増している。一方、日本糖尿病学会は、11月28日に「2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」を発表しており、本来は糖尿病治療薬であるのに、美容、痩身、ダイエット目的での自由診療による処方が一部のクリニックで行われており、需要増加による供給不足が生じている。糖尿病治療薬の適切使用は重要であり、医療専門家による不適切な薬剤使用は、専門医の信頼を損なう行為であり、日本糖尿病学会はこれを厳しく警告している。参考1)GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(日糖会)2)研修医、病気装い糖尿病薬入手=供給不足の「やせ薬」-東大病院(時事通信)3)東大病院の研修医2人、病気装って糖尿病薬を入手 「やせ薬」と話題(朝日新聞)2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省厚生労働省は、2023年12月15日に全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの感染者数が1医療機関当たり33.72人となり、警報レベル(30人超)に達したことを発表した。警報は2019年1月以来、5シーズンぶりの事態で、とくに北海道では60.97人と最多。全国で33道県が警報レベルを超え、1週間で6,382ヵ所の保育所や学校が休校や学級閉鎖に追い込まれた。慶應義塾大学の菅谷 憲夫客員教授は、「新型コロナウイルス感染症の流行中にインフルエンザの流行が抑えられたことで、とくに子どもを中心に免疫が落ちている」と指摘。基本的な感染対策の継続と、症状があれば早期受診を呼びかけている。また、菅谷教授は、2つのタイプのA型インフルエンザウイルスが同時に流行していることや、約3年間に大規模な流行がなかったことを、早期警報の要因として挙げている。高齢者や妊婦、基礎疾患を持つ人は、とくに注意が必要であり、発熱などの異常を感じたら早期受診が推奨されている。冬休みに小児のピークが過ぎる可能性があるが、年末年始の休暇シーズンで全国的な感染拡大の恐れもあるため、手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な感染対策の徹底が求められている。参考1)インフルエンザ、全国で「警報レベル」…コロナ禍の感染対策で識者「免疫落ちている」(読売新聞)2)インフルエンザ、今季初の警報レベル 1医療機関33.72人 厚労省(毎日新聞)3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省厚生労働省は、12月15日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、オンラインで患者を診療した際に医療機関が算定する初・再診料の要件を2024年度の診療報酬改定で厳格化する案を了承した。新たな要件には、「初診では向精神薬を処方しないこと」を医療機関のホームページに掲示することが含まれている。さらに、遠方の患者を多く診療する医療機関に対しては、対面診療の連携先を報告させることも検討されている。厚労省は、新型コロナウイルス禍を経て、オンライン診療は重要であるとして、保険診療だけでなく自由診療も対象にガイドラインを策定し、規制緩和を行なってきたが、初診時に向精神薬の処方を行ったり、メールやチャットだけで診察や薬の処方を行うなど、ガイドラインで認めていない方法で診療を行っている医療機関が問題視されてきた。今後、厚労省では、オンライン診療を行っている医療機関がガイドラインを遵守しているか実態調査を行うため、スケジュールや調査方法などを検討するほか、患者がオンライン診療を適切に行っている医療機関を選択できるよう、情報発信の強化に乗り出すことにした。一方、慶應義塾大学などの研究グループは、うつ病や不安症などの精神科診療において、オンライン診療が対面診療と同等の治療効果があることを発表した。この研究結果は、オンライン診療の普及に向けた政策的議論に貢献するもので、さらに、オンライン診療は、通院に要する時間の短縮や費用の削減といった副次的効果もあり、今後もデジタルトランスフォームを通して医療現場に浸透していくとみられる。参考1)オンラインの初・再診料要件、厳格化案を了承「向精神薬初診で処方せず」の掲示必須に(CB news)2)オンライン診療 不適切な医療機関の実態調査へ 厚労省(NHK)3)オンライン診療、対面と遜色なし 普及に弾み(日経新聞)4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省厚生労働省は、処方箋なしで医療用医薬品を販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を固めた。不適切な販売方法や広告が増加していることに対応するために打ち出されたもの。2022年時点で60店舗以上の零売薬局が存在し、例外的に処方箋なしで医療用医薬品を販売できるが、これまで大規模災害時など「正当な理由」がある場合に限られていた。しかし、一部の薬局が通知を逸脱し、やむを得ない状況ではないにも関わらず日常的に医療用医薬品を販売する薬局が増加していることや、不適切な広告などが確認されており、重大な疾患や副作用が見過ごされるリスクが高まっていた。厚労省は、処方箋に基づく販売を原則とし、やむを得ない場合に限って認めることを法令で明記する方針。また、医療用医薬品の販売を強調する広告も禁止する方向で調整している。厚労省は12月18日に開かれる医薬品の販売制度に関する検討会で取りまとめを行い、医薬品医療機器制度部会に報告した後、厚生労働省から正式に通知が発出される見込み。参考1)医薬品の販売制度に関する検討会(厚労省)2)「零売薬局」の販売規制へ 処方箋なしで医療用医薬品-認める条件明確化・厚労省(時事通信)3)特例のはずが…処方箋なし薬「零売」横行 副作用や疾患見逃す恐れ(毎日新聞)5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省厚生労働省は、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」を公的医療保険の適用対象とし、体重50kgの患者の1回当たりの価格を約11万4千円、年間約298万円と設定した。この薬は、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ(Aβ)」を取り除くことを目的とした初の治療薬で、軽度認知障害や軽度の認知症の人が対象。投与は2週に1度の点滴で行われる。レカネマブの投与は、副作用のリスクを考慮し、限られた医療機関でのみ行われる予定で、副作用には脳内の微小出血やむくみが含まれ、安全性を重視するため、認知症専門医が複数いる施設でMRIやPETを備えていることなどの条件に合致する限られた医療機関で処方される。臨床治験では、レカネマブを1年半投与したグループは、偽薬を投与したグループより病気の悪化を27%抑える結果が得られた。レカネマブの市場規模は、ピーク時に年間986億円に上ると予測されており、医療保険財政への影響が懸念されている。また、薬価の決定に際しては、社会的価値の反映が議論されたが、最終的には製造費や薬の新規性を考慮した通常の算定方法で算出された。専門家や関係者からは、新薬の保険適用により治療が前進することへの期待とともに、検査費用や治療に関する不安の意見も上がっている。また、効果が見込める患者の適切な選別や、新しい治療薬に対応できる認知症医療システムの構築が今後の課題とされている。参考1)新医薬品の薬価収載について(厚労省)2)認知症薬エーザイ「レカネマブ」 年298万円 中医協、保険適用を承認(日経新聞)3)見えぬ全体像、処方可能な医療機関は限定的 アルツハイマー病新薬(毎日新聞)4)アルツハイマー病新薬 年間約298万円で保険適用対象に 中医協(NHK)6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府政府は来年度の診療報酬改定において、医療従事者の人件費に相当する「本体」部分を0.88%引き上げる方針を固めた。今回の診療報酬の改定をめぐっては、各医療団体から物価高騰や医療従事者の賃上げに対応する意見が上がっていた。一方、薬の公定価格である「薬価」は約1%引き下げとなり、全体としてはマイナス改定となる見通し。岸田 文雄首相は、財務省と厚生労働省の間での議論を経て、賃上げ方針を医療従事者にも波及させるために、最終的に引き上げを決定した。診療報酬改定は原則2年に1度行われ、今回の改定は前回2022年度の0.43%引き上げを上回る水準となる。今回の改定により、医療従事者の処遇改善が期待される一方で、国民の保険料負担の増加が懸念される。また、診療所の利益剰余金の増加や医療費の抑制が課題となっており、国民負担の抑制が今後の大きな課題になっている。参考1)「本体」0.88%引き上げ=賃上げ対応、全体ではマイナス-24年度診療報酬改定(時事通信)2)診療報酬「本体」0.88%上げ、政府方針…「薬価」は1%引き下げで調整し全体ではマイナス改定(読売新聞)3)診療報酬改定 人件費など「本体」0.88%引き上げで調整 政府(NHK)

310.

統合失調症患者の服薬順守の予測因子~大規模コホート

 統合失調症は、重度の精神疾患の中で最も顕著な服薬アドヒアランスの課題を有する疾患であるが、患者の服薬アドヒアランスの予測や改善に関する利用可能なプロスペクティブ研究のデータは限られている。フランス・ボルドー大学のDavid Misdrahi氏らは、大規模コホートにおける1年間の服薬アドヒアランスの予測因子を特定するため、クラスタリング分析を用いた検討を行った。Translational Psychiatry誌2023年11月7日号の報告。 統合失調症を専門とする10施設より募集した外来患者を対象に、臨床医と患者による服薬アドヒアランス測定を含む1日の標準化バッテリーで評価を行った。2段階クラスタリング分析および多変量ロジスティック回帰を用いて、服薬アドヒアランス評価スケール(MARS)とベースラインの予測因子に基づいた服薬アドヒアランスのプロファイルを特定した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は485例。・1年間のフォローアップ調査で、服薬アドヒアランスの有意な改善が認められた。・1年後のアドヒアランス低下と関連していた因子は、抑うつ症状スコアの高さ、洞察力の低さ、自殺企図歴、若年、アルコール使用障害であった。・開始時にアドヒアランスが不良であった患者203例のうち、86例(42%)は1年間のフォローアップ調査でアドヒアランスが良好に変化したが、117例(58%)はアドヒアランスが不良のままであった。 著者らは、「洞察力が低く、自殺企図歴、アルコール使用障害、抑うつ症状を有する若年の統合失調症患者に対し、識字能力や教育的療法プログラムを通じた介入を優先すべきである。統合失調症患者のアドヒアランスは年ごとに大きく変化するため、改善のための介入が受け入れられる可能性がある」としたうえで、「最初はアドヒアランスが良好であった患者でも、1年後には5人に1人が不良となることに注意する必要がある」としている。

311.

寝溜めの健康リスクへの影響は?

 睡眠不足は心血管疾患(CVD)の発生や認知機能の低下、うつ病などさまざまな疾患のリスクとなる。週末の寝溜め(キャッチアップ睡眠)は、週末に長時間の睡眠をとることで平日の睡眠不足を補うものであるが、この寝溜めがCVD発生のリスク因子である肥満、高血圧などの発生リスクを低下させたことが報告されている。そこで中国・南京医科大学のHong Zhu氏らの研究グループは週末の寝溜めとCVDの関連を検討した。その結果、平日の睡眠時間が6時間未満の集団において、週末の寝溜めが2時間以上であると、CVD発生のリスクが低下した。本研究結果は、Sleep Health誌オンライン版2023年11月23日号で報告された。寝溜めをしている人で心血管疾患の有病率が低下 本研究は、2017~18年に実施された米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)に参加した20歳以上の3,400例を対象とし、週末の寝溜めとCVDの関連を検討した。週末の寝溜めは、週末の睡眠時間が平日より1時間以上長いことと定義した。 週末の寝溜めとCVDの関連を検討した主な結果は以下のとおり。・対象3,400例(男性:1,650例、女性:1,750例)のうち、333例(9.8%)がCVDを有していた。・CVDを有している参加者は、CVDを有さない参加者と比べて週末の寝溜めが短かった(p<0.01)。・週末の寝溜めがある参加者は、寝溜めのない参加者と比べてCVDの有病率が低かった(p<0.01)。・多変量解析において、週末の寝溜め時間は狭心症(p=0.04)、脳卒中(p<0.01)、冠動脈性心疾患(p=0.01)の有病率と関連していた。・平日の睡眠時間が6時間未満の集団では、週末の寝溜めがCVDの有病率の低下と関連し(p<0.01)、この集団において週末の寝溜めの時間とCVDの有病率の関連を検討した結果、週末の寝溜めの時間が2時間以上であるとCVDの有病率が低下した(p=0.01)。

312.

統合失調症患者の入院期間・回数に対する抗精神病薬治療順守の影響

 統合失調症治療における長期的アウトアカムの最適化には、効果的な薬理学的介入が必要とされる。また、服薬アドヒアランスは、統合失調症患者のウェルビーイングにどのような影響を及ぼすかを示す重要な指標の1つである。この服薬アドヒアランスが統合失調症患者の臨床アウトカムに影響することは知られているが、入院期間や再入院の頻度といった因子とどのように関連しているかを調査した研究は十分ではない。インドネシア・パジャジャラン大学のMelisa Intan Barliana氏らは、統合失調症患者の入院期間と入院回数に対する服薬アドヒアランスの影響を調査するため、横断的レトロスペクティブ研究を実施した。その結果、治療アドヒアランスと治療計画は統合失調症患者の性別と有意に関連し、男性患者と女性患者の間に統計学的な有意差があることが示された。Patient Preference and Adherence誌2023年11月1日号の報告。 対象は、インドネシア・West Java Psychiatric Hospitalの統合失調症患者157例。人口統計、併存疾患、罹病期間、抗精神病薬のアドヒアランス、入院期間、入院回数などのデータを患者の医療記録より収集した。すべてのデータの分析には、カイ二乗検定を用いた(有意水準:p<0.05)。 主な結果は以下のとおり。・対象となったすべての統合失調症入院患者のうち、アドヒアランス不良であった患者の割合は88%であった。・治療中断/中止を伴うアドヒアランス不良の患者では、30日以上の入院期間の割合が最も高かった(40.7%)。一方、アドヒアランスが良好で定期的な治療を行っていた患者では、入院回数が5回未満の患者の割合が最も高かった(94.4%)。・統計学的結果では、治療アドヒアランス(p=0.043)および治療計画(p=0.014)と性別との間に有意な関連が認められた。・統合失調症の男性患者と女性患者の違いには、統計学的に有意な差が認められた(p=0.000)。・他の変数が臨床的関連性を示す可能性があるものの、それらの統計学的有意性は認められなかった。

313.

抗うつ薬治療抵抗性うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法~国内第II/III相ランダム化比較試験

 抗うつ薬への治療反応が不十分であることは、効果的なうつ病治療の妨げとなる。関西医科大学の加藤 正樹氏らは、抗うつ薬治療で効果不十分な日本人うつ病患者を対象に、ブレクスピプラゾール補助療法の投与量、有効性、安全性を評価するため、国内第II/III相ランダム化比較試験であるBLESS試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年11月7日号の報告。 BLESS試験は、8週間の単盲検期間では抗うつ薬治療で効果不十分であった日本人治療抵抗性うつ病患者を対象としたプラセボ対照ランダム化多施設共同並行群間第II/III相試験である。SSRI/SNRI治療で効果不十分なうつ病患者を対象に、6週間のブレクスピプラゾール1mg、2mgまたはプラセボの補助療法を行う群にランダムに割り付けられた。治療抵抗性うつ病患者の定義は、1~3の抗うつ薬治療では、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)合計スコア14以上と効果不十分であった患者とした。主要エンドポイントは、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアのベースラインからの変化とした。副次的エンドポイントは、MADRSによる治療反応、寛解率、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)スコアとした。安全性は、とくに抗精神病薬の有害事象に関して包括的に評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニング対象患者1,194例中740例をランダム化した。・ベースライン時およびベースライン後のMADRS合計スコアは、1以上であった。・対象患者の内訳は、ブレクスピプラゾール1mg群248例、ブレクスピプラゾール2mg群245例、プラセボ群243例であった。・MMRM分析では、6週目のMADRS合計スコアのベースラインからのLSM(SE)変化は、ブレクスピプラゾール1mg群で-8.5±0.47(調整済み対プラセボ群変化量の差:-1.7、95%信頼区間[CI]:-3.0~-0.4、p=0.0089)、ブレクスピプラゾール2mg群で-8.2±0.47(同:-1.4、95%CI:-2.7~-0.1、p=0.0312)、プラセボ群で-6.7±0.47であった。・副次的有効性の結果は、主要エンドポイントを裏付けていた。・ブレクスピプラゾール補助療法の忍容性は、良好であった。 著者らは「抗うつ薬治療で効果不十分な日本人治療抵抗性うつ病患者に対するブレクスピプラゾール補助療法は、1mg/日および2mg/日のいずれも有用であり、忍容性も良好であり、ブレクスピプラゾール補助療法における開始用量は、1mg/日が適切であることが示唆された」としている。

314.

統合失調症患者に対する心血管リスク最適化プログラム

 心血管疾患は、統合失調症患者の早期死亡の主な原因の1つである。関連する修正可能なリスク因子には、不健全なライフスタイル、薬剤性副作用、身体的併存疾患などが含まれる。スペイン・ビック大学のNuria Riera-Molist氏らは、統合失調症患者の心血管リスク(CVR)低下のための6ヵ月間にわたる多因子CVR介入の有効性を評価する目的で本研究を実施した。その結果、患者中心の多因子CVR介入は統合失調症患者の6ヵ月後のCVRを改善し、それは主に脂質プロファイルの改善によりもたらされていたという。Journal of Psychiatric Practice誌2023年11月1日号の報告。 地域の精神保健センターにおいて、2群間並行ランダム化臨床試験を実施した。1つ以上のCVR因子(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)のマネジメントが不十分な統合失調症患者46例を、介入群または対照群にランダムに割り付けた。介入群では、健康的なライフスタイルの促進、CVR因子の薬理学的管理、向精神薬の最適化、動機付けフォローアップなどの患者中心のアプローチ(心血管リスク最適化プログラム[Programa d'optimitzacio del RISc CArdiovascular:PRISCA])を行った。主要アウトカムは、両群のベースライン時と比較した6ヵ月後のCVRの変化とし、Framingham-REGICOR関数を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、介入群23例、対照群23例にランダムに割り付けられた。・ベースライン時に最も高頻度で認められたCVR因子は、高コレステロール血症(84.8%)であり、次いで喫煙(39.1%)であった。・介入群では、6ヵ月後のREGICORスコアの有意な低下が認められたが(相対リスクの低減率:20.9%)、対照群では有意な変化が認められなかった。 【介入群】REGICORスコア:-0.96%、95%信頼区間(CI):-1.60~-0.32、p=0.011 【対象群】REGICORスコア:0.21%、95%CI:-0.47~0.89、p=0.706・介入群では、LDLコレステロールの有意な低下も確認された(-27.14mg/dL、95%CI:-46.28~-8.00、p=0.008)。

315.

精神科医の統合失調症薬物治療ガイドライン順守と患者の労働時間

 統合失調症は社会的機能不全を伴う精神障害であり、患者の労働時間の短縮などさまざまな課題を引き起こす。国立精神・神経医療研究センターの伊藤 颯姫氏らは、精神科医のガイドライン順守と統合失調症患者の労働時間との関連を調査した。統合失調症の薬物治療ガイドラインを精神科医がどの程度順守しているかを測定するため、本研究の研究者らは患者ごとの精神科医のアドヒアランスに関する治療適合度(individual fitness score:IFS)を最近開発した。しかし、精神科医のアドヒアランス向上が、労働時間などの患者の社会的機能アウトカムの改善にどの程度関連しているかは、依然としてよくわかっていなかった。Schizophrenia (Heidelberg, Germany)誌2023年11月7日号の報告。 自身が治療中の統合失調症患者に対する精神科医の統合失調症薬物治療ガイドライン順守と、同患者の労働時間との関連を評価するため、研究者らは統合失調症患者286例を対象に、IFSと社会的活動評価を用いてデータを収集し、IFS値と労働時間との相関関係を調査した。 主な結果は以下のとおり。・精神科医のガイドライン順守は、統合失調症患者の労働時間との有意かつ正の相関を示した(rho=0.18、p=0.00215)。・患者を治療抵抗性統合失調症(TRS)群(40例)と非TRS群(246例)に分類した場合、TRS群の多くで労働時間の短縮が認められた(1週間当たり0~15時間)。・TRS患者を除外した後でも、非TRS患者における精神科医のガイドライン順守と患者の労働時間との間には正の相関が認められ、依然として有意なままであった(rho=0.19、p=0.00332)。・ガイドラインで推奨されている薬物治療が実施されていた患者では、より長い労働時間が認められた。 結果を踏まえ、著者らは「統合失調症患者の機能的アウトカムを改善するためには、精神科医に対する広範な教育およびトレーニングが必要である可能性が示唆された」とまとめている。

316.

コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。 大学生の抑うつ状態にある割合は、一般人口に比べて高いことが知られている。例えば一般人口におけるうつ病の有病率は13%という報告があるのに対して、大学生では32%という報告が見られる。COVID-19パンデミックが人々に強いストレスを与えたことが多くの研究から明らかになっており、大学生のうつレベルもより高まっていた可能性が考えられる。白石氏らは、緊急事態宣言発出時に講義がリモートで行われるなど特異な環境にあったタイミングで、大学生の抑うつレベルが特に上昇していたのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。学年度が切り替わる新年度のタイミングの抑うつレベルへの影響も、併せて検討した。 この研究は、大学生のメンタルヘルス上の問題を、モバイルアプリを用いた認知行動療法(CBT)で予防し得るかを検証するために、パンデミック前からスタートしていた無作為化比較試験「ヘルシーキャンパストライアル(HCT)」のデータを二次的に解析するという手法で行われた。HCTでは、国内5大学の学生が参加し、2018年度後期(秋)に最初のコホートが設定され、その後、2019年度前期(春)/後期(秋)、2020年度前期/後期、2021年度後期という計6件のコホートが組まれた。各コホートの最初の8週間はアプリを用いたCBTによる介入が行われ、その後52週目まで(スタートから1年間)は追跡期間とされた。 HCT参加者は、介入期間は毎週、追跡期間は4週ごとにPHQ-9という指標(27点満点でスコアが高いほど抑うつ症状が強いと判定される)により、抑うつレベルの経時的な変化が評価された。なお、研究参加の適格基準は、年齢が18~39歳の大学生または大学院生でスマートフォンを所有していること。PHQ-9スコアが15点以上または10~14点で希死念慮がある学生、およびメンタルヘルス上の問題のため受療中の学生は除外されている。6件のコホート全体の参加者数は1,626人であり、平均年齢は21.5歳で男子学生がやや少なかった(性比0.74)。 研究ではまず、パンデミック下の緊急事態宣言に着目した検討が行われた。4回の緊急事態宣言発出後に顕著なPHQ-9スコアの上昇が認められたのは、2020年度後期コホートにおける28~32週時点(3回目の緊急事態宣言発出後)のみであり、24週目が5.3点であるのに対して28週目は5.8点、32週目は6.0点と推移していた。ただ、各年度の後期にスタートしたコホートの28~32週は、翌年の4月ごろに該当する。よってこのタイミングでのPHQ-9スコアの上昇は、緊急事態宣言発出の影響のみでなく、新年度がスタートした直後であることの影響も考えられた。 次に、前期スタートのコホート3件(1,104人)、後期スタートの3件(522人)をそれぞれ統合して全体を2群に分け、PHQ-9スコアの推移を解析。その結果、前期スタート群のPHQ-9スコアは、全期間を通して4週ごとに0.02点(95%信頼区間―0.03~―0.01)ずつ有意に低下していた(P=0.008)。それに対して後期スタート群では、中断時系列分析により、新年度スタート時期の28週目までは4週ごとに0.07点(同0.02~0.11)ずつ上昇する傾向が見られた(P=0.12)。ところが、その傾向は急に中断され、28週目時点で0.60点(0.42~0.78)抑うつレベルが悪化したことが推定された(P<0.001)。28週を超えると4週ごとに0.16(―0.21~―0.10)ずつ低下していた(P=0.003)。 以上の結果から著者らは、「当初の仮説に反して、緊急事態宣言発出による大学生のうつレベル上昇は確認されなかった。一方で学年度が切り替わるタイミングで、大学生のメンタルに大きなストレスが加わることが示唆された」と総括している。 なお、COVID-19パンデミックが大学生のメンタルヘルスを悪化させたとする国内発の先行研究が複数存在する。緊急事態宣言発出の影響に焦点を当てた今回の研究が、それらとは異なる解釈が可能な結果となった理由について、以下のような考察が述べられている。先行研究では同一対象への継続的な調査でなく、パンデミック後の調査にはメンタルへの影響を強く感じた学生がより積極的に回答していた可能性があり、また、調査を行うタイミングが年度替わりを考慮せずに設定されていたことの影響もあるのではないかとのことだ。一方、本研究にも、交絡因子の調整が十分でないことや、新年度のスタートは花粉症の時期であるため、その症状がメンタルに影響を及ぼしていた可能性も否定できないといった限界点があるとしている。

317.

女性統合失調症に対する治療~エビデンスに基づく推奨事項

 性差は、抗精神病薬の有効性や忍容性に大きな影響を及ぼすことが示唆されているにもかかわらず、現在の統合失調症スペクトラム障害(SDD)の治療ガイドラインでは、男女間の区別は行われていない。オランダ・フローニンゲン大学のBodyl A. Brand氏らは、女性に対する薬物療法の改善に寄与する可能性のある戦略について、入手可能なエビデンスを要約し、女性統合失調症患者の治療を最適化するためのエビデンスに基づいた推奨事項を報告した。Current Psychiatry Reports誌オンライン版2023年10月21日号の報告。 次の3つのトピックスに関する査読済みの研究をPubMed、Embaseよりシステマティックに検索した。トピックスは、(1)用量調節した抗精神病薬の血中濃度に関する性差、(2)症状の重症度を改善するためのエストロゲンおよびエストロゲン様化合物によるホルモン増強療法、(3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための戦略とした。 主な結果は以下のとおり。・データベース研究3件、ランダム化比較試験(RCT)1件に基づくと、ほとんどの抗精神病薬は、男性と比較し、女性において用量調節濃度が高かった。・クエチアピンは、とくに高齢女性で高濃度であった。・最近の2つのメタ解析に基づくと、エストロゲンおよびラロキシフェンにおいて全体的な症状改善が認められた。・閉経後女性におけるラロキシフェン増強療法に関する最も一貫した所見が確認された。・症状に対するエストロゲン性避妊薬の効果を評価した研究は見当たらなかった。・メタ解析2件、RCT1件に基づくと、抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症を軽減するための研究として、アリピプラゾール補助療法が最も研究されており、最も安全な戦略であることが示唆された。 女性SSDに対する薬物療法について、エビデンスに基づく推奨事項は次のとおりであった。 (1)治療薬のモニタリングに基づく女性特有の抗精神病薬の投与量 (2)閉経後の女性におけるラロキシフェンによるホルモン増強療法 (3)抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に際するアリピプラゾール補助療法 著者らは「これらの戦略を組み合わせることで、女性SSD患者の副作用を軽減し、アウトカムを改善できる可能性がある」とし、「これらの効果を今後の縦断的RCTで明らかにしていく必要がある」とまとめている。

318.

持続性うつ病と関連する要因

 うつ病は、再発・再燃を繰り返す慢性疾患である。うつ病の症状慢性化や双極性障害への診断変化を予測するためにも、患者背景を理解することは、臨床上重要である。関西医科大学の越川 陽介氏らは、持続性うつ病、再発、双極性障害への診断変化と関連する臨床的および社会人口学的特徴を特定するため、本研究を実施した。Heliyon誌2023年10月13日号の報告。 対象は、2年間のフォローアップ調査を伴う6週間のランダム化比較試験に登録されたうつ病患者197例。多重ロジスティック回帰分析を用いて、持続性うつ病(PDD)、再発、双極性障害への診断変化と関連する臨床的および社会人口学的特徴を分析した。 主な結果は以下のとおり。・PDDと有意な関連が認められた因子は、洞察力を含む残存症状、仕事およびアクティビティ、一般的な身体症状であった。・再発または双極性障害への診断変化に影響を及ぼす因子は、特定できなかった。・急性期治療で特定の残存症状が認められる患者では、うつ病の長期治療成績に影響する可能性が示唆された。・本研究の限界として、治療中止に至った患者の中には、PDDが残存している可能性がある、研究期間中に治療が標準化されていないアドヒアランスの確認が聴取により行われている点が挙げられる。 結果を踏まえ、著者らは「うつ病治療の初期段階では、残存症状に注意し、改善策を検討する必要がある」としている。

319.

血液検査が双極性障害の診断に有用か

 双極性障害に関連するバイオマーカーを検出できる簡単な血液検査の開発に関する報告が、「JAMA Psychiatry」に10月25日発表された。論文の筆頭著者である、英ケンブリッジ大学のJakub Tomasik氏は、この検査法により双極性障害の診断が容易になる可能性があると話している。 Tomasik氏は、「双極性障害は、気分が落ち込むうつ状態(うつ病エピソード)と気分が高揚する躁状態(躁病エピソード)を繰り返す精神疾患だ。ただ、双極性障害患者はたいていの場合、うつ病エピソードのときにしか医師の診察を受けない。そのため、間違って大うつ病性障害(以下、うつ病)と診断されている患者は少なくない」と説明する。一方、論文の上席著者であり同大学ニューロテクノロジー分野教授のSabine Bahn氏は、「双極性障害とうつ病は別の疾患として扱う必要がある。双極性障害患者に、気分安定薬を加えずに抗うつ薬のみを処方すると、躁病エピソードを誘発してしまう可能性がある」と同大学のニュースリリースで語っている。 双極性障害は精神医学的評価により正確に診断することができるが、評価を受けるまでの待ち時間が長くなる可能性がある。Tomasik氏は、「精神医学的評価は極めて有効だが、簡単な血液検査で双極性障害を診断できるようになれば、患者が最初から適切な治療を受けられるようになり、専門の医師にかかるプレッシャーも軽減されるだろう」と話す。 Tomasik氏の研究では、過去5年以内にうつ病の診断を受け、現在抑うつ症状を経験している患者を対象に2018年4月27日から2020年2月6日の間に英国で実施された研究(デルタ試験)の検体と患者データを用いて、うつ病エピソード期間中の双極性障害患者をうつ病患者と区別するための代謝バイオマーカーを特定できるかが検討された。患者のデータは、635項目の質問から成るオンライン調査により収集した。また、患者から集めた乾燥した血液検体に含まれる630種類の代謝物質について、特定の分子を標的とする質量分析ベースのプラットフォームを用いて分析した。 発見コホートの総数は241人(平均年齢28.1歳、女性70.5%)で、このうちの67人(27.8%)は後にComposite International Diagnostic Interviewにより双極性障害の診断を受け、174人(72.2%)はうつ病と確定診断された。Tomasik氏らは、発見コホートの代謝物質データを解析し、最終的に双極性障害とうつ病を区別するための17種類のバイオマーカーから成るパネルを構築した。このバイオマーカーパネルを、検証コホート(30人、平均年齢25.4歳、女性53%)で検証したところ、PHQ(Patient Health Questionnaire)-9スコアやMood Disorder Questionnaire(MDQ)スコアなどのオンライン調査で得た患者情報を組み合わせることで診断性能が有意に向上することが確認された。決定曲線分析からは、この血液検査を使用することで、最大30%の双極性障害患者を追加で特定できる可能性が示された。 こうした結果を受けて研究グループは、「まだ概念実証段階の研究ではあるが、この血液検査は、最終的には既存の診断ツールを補完することになるかもしれない。また、研究者が精神疾患の生物学的起源を理解するのにも役立つだろう」との見方を示している。Bahn氏は、「全体として、オンラインアセスメントの方が診断には有効ではあるが、バイオマーカーを用いた血液検査も性能が良く、結果が出るまでにかかる時間がはるかに短い。この2つのアプローチは相補的であるため、両者の併用が理想的だ」と述べている。 なお、同大学の商業部門であるケンブリッジ・エンタープライズは、この研究に関連する特許を申請している。

320.

統合失調症患者における抗精神病薬誘発性糖尿病性ケトアシドーシスのリスク評価~医薬品副作用データベース解析

 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は、生命を脅かす重篤な状態であり、抗精神病薬により引き起こされる可能性がある。アジア人糖尿病患者は、白人と比較し、インスリン抵抗性が低いといわれている。これまでに報告されている抗精神病薬に関連したDKAの研究は、すべて欧米人を対象としているため、これらのデータが日本人でも同様なのかは、不明である。獨協医科大学の菅原 典夫氏らは、自発報告システムデータベースである日本の医薬品副作用データベースを用いて、抗精神病薬とDKAとの関連を分析した。その結果から、統合失調症患者のDKA発現にはオランザピン治療が関連していることが明らかとなった。とくに、男性患者において、DKAリスクが高いことも確認された。Journal of Psychosomatic Research誌オンライン版2023年10月19日号の報告。 2004年4月~2021年3月に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に提出された有害事象報告書を用いて、レトロスペクティブにファーマコビジランスの不均衡分析を行った。対象集団は統合失調症患者7,435例であり、抗精神病薬に関連したDKAの報告は合計55件であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者のDKA症例55例のうち、DKA後の死亡した患者は3例(6%)であった。・DKAの兆候は、オランザピン治療後に報告されており、調整後報告オッズ比は有意であった(aROR:3.26、95%信頼区間[CI]:1.87~5.66)。・準選択法を用いた多変量ロジスティック回帰分析では、オランザピン治療症例1,399例において、DKA発現と関連していた因子は、男性であることだった(aROR:2.72、95%CI:1.07~6.90)。 結果を踏まえ、著者らは「本データは、統合失調症患者の抗精神病薬に関連するDKA発現を減少させるために、リスク管理やモニタリングに役立つであろう」としている。

検索結果 合計:2848件 表示位置:301 - 320