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Vol. 1 No. 3 超高齢者の心房細動管理

小田倉 弘典 氏土橋内科医院1. はじめに本章で扱う「超高齢者」についての学会や行政上の明確な定義は現時点でない。老年医学の成書などを参考にすると「85歳以上または90歳以上から超高齢者と呼ぶ」ことが妥当であると思われる。2. 超高齢者の心房細動管理をする上で、まず押さえるべきこと筆者は、循環器専門医からプライマリーケア医に転身して8年になる。プライマリーケアの現場では、病院の循環器外来では決して遭うことのできないさまざまな高齢者を診ることが多い。患者の症状は全身の多岐にわたり、高齢者の場合、自覚・他覚とも症状の発現には個人差があり多様性が大きい。さらに高齢者では、複数の健康問題を併せ持ちそれらが複雑に関係しあっていることが多い。「心房細動は心臓だけを見ていてもダメ」とはよくいわれる言葉であるが、高齢者こそ、このような多様性と複雑性を踏まえた上での包括的な視点が求められる。では具体的にどのような視点を持てばよいのか?高齢者の多様性を理解する場合、「自立高齢者」「虚弱高齢者」「要介護高齢者」の3つに分けると、理解しやすい1)。自立高齢者とは、何らかの疾患を持っているが、壮年期とほぼ同様の生活を行える人たちを指す。虚弱高齢者(frail elderly)とは、要介護の状態ではないが、心身機能の低下や疾患のために日常生活の一部に介助を必要とする高齢者である。要介護高齢者とは、寝たきり・介護を要する認知症などのため、日常生活の一部に介護を必要とする高齢者を指す。自立高齢者においては、壮年者と同様に、予後とQOLの改善という視点から心房細動の適切な管理を行うべきである。しかし超高齢者の場合、虚弱高齢者または要介護高齢者がほとんどであり、むしろ生活機能やQOLの維持の視点を優先すべき例が多いであろう。しかしながら、実際には自立高齢者から虚弱高齢者への移行は緩徐に進行することが多く、その区別をつけることは困難な場合も多い。両者の錯綜する部分を明らかにし、高齢者の持つ複雑性を“見える化”する上で役に立つのが、高齢者総合的機能評価(compre-hensive geriatric assessment : CGA)2)である。CGAにはさまざまなものがあるが、当院では簡便さから日本老年医学会によるCGA7(本誌p20表1を参照)を用いてスクリーニングを行っている。このとき、高齢者に立ちはだかる代表的な問題であるgeriatric giant(老年医学の巨人)、すなわち転倒、うつ、物忘れ、尿失禁、移動困難などについて注意深く評価するようにしている。特に心房細動の場合は服薬管理が重要であり、うつや物忘れの評価は必須である。また転倒リスクの評価は抗凝固薬投与の意思決定や管理においても有用な情報となる。超高齢者においては、このように全身を包括的に評価し、構造的に把握することが、心房細動管理を成功に導く第一歩である。3. 超高齢者の心房細動の診断超高齢者は、自覚症状に乏しく心房細動に気づかないことも多い。毎月受診しているにもかかわらず、ずっと前から心房細動だったことに気づかず、脳塞栓症を発症してしまったケースを経験している医師も少なくないと思われる。最近発表された欧州心臓学会の心房細動管理ガイドライン3)では、「65歳以上の患者における時々の脈拍触診と、脈不整の場合それに続く心電図記録は、初回脳卒中に先立って心房細動を同定するので重要(推奨度Ⅰ/エビデンスレベルB)」であると強調されている。抗凝固療法も抗不整脈処方も、まず診断することから始まる。脈は3秒で測定可能である。「3秒で救える命がある」と考え、厭わずに脈を取ることを、まずお勧めしたい。4. 超高齢者の抗凝固療法抗凝固療法の意思決定は、以下の式(表)が成り立つ場合になされると考えられる。表 抗凝固療法における意思決定1)リスク/ベネフィットまずX、Yを知るにはクリニカルエビデンスを紐解く必要がある。抗凝固療法においては、塞栓予防のベネフィットが大きい場合ほど出血リスクも大きいというジレンマがあり、高齢者においては特に顕著である。また超高齢者を対象とした研究は大変少ない。デンマークの大規模コホート研究では、CHADS2スコアの各因子の中で、75歳以上が他の因子より著明に大きいことが示された(本誌p23図1を参照)4)。この研究は欧州心臓学会のガイドラインにも反映され、同学会で推奨しているCHA2DS2-VAScスコアでは75歳以上を2点と、他より重い危険因子として評価している。また75歳以上の973人(平均81歳)を対象としたBAFTA研究5)では、アスピリン群の年間塞栓率3.8%に比べ、ワルファリンが1.8%と有意に減少しており、出血率は同等で塞栓率を下回った。一方で人工弁、心筋梗塞後などの高齢者4,202人を対象とした研究6)では、80歳を超えた人のワルファリン投与による血栓塞栓症発症率は、60歳未満の2.7倍であったのに対し、出血率は2.9倍だった。スウェーデンの大規模研究7)では、抗凝固薬服用患者において出血率は年齢とともに増加したが、血栓塞栓率は変化がなかった。また80歳以上でCHADS2スコア1点以上の人を対象にしたワルファリンの出血リスクと忍容性の検討8)では、80歳未満の人に比べ、2.8倍の大出血を認め、CHADS2スコア3点以上の人でより高率であった。最近、80歳以上の非弁膜症性心房細動の人のみを対象とした前向きコホート研究9)が報告されたが、それによると平均年齢83~84歳、CHADS2スコア2.2~2.6点という高リスクな集団において、PT-INR2.0~3.0を目標としたワルファリン治療群は、非治療群に比べ塞栓症、死亡率ともに有意に減少し、大出血の出現に有意差はなかった。このように、高齢者では出血率が懸念される一方、抗凝固薬の有効性を示す報告もあり、判断に迷うところである。ひとつの判断材料として、出血を規定する因子がある。80歳以上の退院後の心房細動患者323人を29か月追跡した研究10)によると、出血を増加させる因子として、(1)抗凝固薬に対する不十分な教育(オッズ比8.8)(2)7種類以上の併用薬(オッズ比6.1)(3)INR3.0を超えた管理(オッズ比1.08)が挙げられた。ワルファリン服用下で頭蓋内出血を起こした症例と、各因子をマッチさせた対照とを比較した研究11)では、平均年齢75~78歳の心房細動例でINRを2.0~3.0にコントロールした群に比べ、3.5~3.9の値を示した群は頭蓋内出血が4.6倍であったが、2.0未満で管理した群では同等のリスクであった。さらにEPICA研究12)では、80歳以上のワルファリン患者(平均84歳、最高102歳)において、大出血率は1.87/100人年と、従来の報告よりかなり低いことが示された。この研究は、抗凝固療法専門クリニックに通院し、ワルファリンのtime to therapeutic range(TTR)が平均62%と良好な症例を対象としていることが注目される。ただし85歳以上の人は、それ以外に比べ1.3倍出血が多いことも指摘されている。HAS-BLEDスコア(本誌p24表3を参照)は、抗凝固療法下での大出血の予測スコアとして近年注目されており13)、同スコアが3点以上から出血が顕著に増加することが知られている。このようにINRを2.0~3.0に厳格に管理すること、出血リスクを適切に把握することがリスク/ベネフィットを考える上でポイントとなる。2)負担(Burden)超高齢者においては、上記のような抗凝固薬のリスクとベネフィット以外のγの要素、すなわち抗凝固薬を服薬する上で生じる各種の負担(=burden)を十分考慮する必要がある。(1)ワルファリンに対する感受性 高齢者ほどワルファリンの抗凝固作用に対する感受性が高いことはよく知られている。ワルファリン導入期における大出血を比べた研究8)では、80歳以上の例では、80歳未満に比べはるかに高い大出血率を認めている(本誌p25図2を参照)。また、高齢者ではワルファリン投与量の変更に伴うINRの変動が大きく、若年者に比べワルファリンの至適用量は少ないことが多い。前述のスウェーデンにおける大規模研究7)では、50歳代のワルファリン至適用量は5.6mg/日であったのに対し、80歳代は3.4mg/日、90歳代は3mg/日であった。(2)併用薬剤 ワルファリンは、各種併用薬剤の影響を大きく受けることが知られているが、その傾向は高齢者において特に顕著である。抗菌薬14)、抗血小板薬15)をワルファリンと併用した高齢者での出血リスク増加の報告もある。(3)転倒リスク 高齢者の転倒リスクは高く、転倒に伴う急性硬膜下血腫などへの懸念から、抗凝固薬投与を控える医師も多いかもしれない。しかし抗凝固療法中の高齢者における転倒と出血リスクの関係について述べた総説16)によると、転倒例と非転倒例で比較しても出血イベントに差がなかったとするコホート研究17)などの結果から、高齢者における転倒リスクはワルファリン開始の禁忌とはならないとしている。また最近の観察研究18)でも、転倒の高リスクを有する人は、低リスク例と比較して特に大出血が多くないことが報告された。エビデンスレベルはいずれも高くはないが、懸念されるほどのリスクはない可能性が示唆される。(4)服薬アドヒアランス ときに、INRが毎回のように目標域を逸脱する例を経験する。INRの変動を規定する因子として遺伝的要因、併用薬剤、食物などが挙げられるが、最も大きく影響するのは服薬アドヒアランスである。高齢者でINR変動の大きい人を診たら、まず服薬管理状況を詳しく問診すべきである。ワルファリン管理に影響する未知の因子を検討した報告19)では、認知機能低下、うつ気分、不適切な健康リテラシーが、ワルファリンによる出血リスクを増加させた。 はじめに述べたように、超高齢者では特にアドヒアランスを維持するにあたって、認知機能低下およびうつの有無と程度をしっかり把握する必要がある。その結果からアドヒアランスの低下が懸念される場合には、家族や他の医療スタッフなどと連携を密に取り、飲み忘れや過剰服薬をできる限り避けるような体制づくりをすべきである。また、認知機能低下のない場合の飲み忘れに関しては、抗凝固薬に対する重要性の認識が低いことが考えられる。服薬開始時に、抗凝固薬の必要性と不適切な服薬の危険性について、患者、家族、医療者間で共通認識をしっかり作っておくことが第一である。3)新規抗凝固薬新規抗凝固薬は、超高齢者に対する経験の蓄積がほとんどないため大規模試験のデータに頼らなければならない。RE-LY試験20)では平均年齢は63~64歳であり、75歳を超えるとダビガトランの塞栓症リスクはワルファリンと同等にもかかわらず、大出血リスクはむしろ増加傾向を認めた21)。一方、リバーロキサバンに関するROCKET-AF試験22)は、CHADS2スコア2点以上であるため、年齢の中央値は73歳であり、1/4が78歳以上であった。ただし超高齢者対象のサブ解析は明らかにされていない。4)まとめと推奨これまで見たように、80歳以上を対象にしたエビデンスは散見されるが85歳以上に関する情報は非常に少なく、一定のエビデンス、コンセンサスはない。筆者は開業後8年間、原則として虚弱高齢者にも抗凝固療法を施行し、85歳以上の方にも13例に新規導入と維持療法を行ってきたが、大出血は1例も経験していない。こうした経験や前述の知見を総合し、超高齢者における抗凝固療法に関しての私見をまとめておく。■自立高齢者では、壮年者と同じように抗凝固療法を適応する■虚弱高齢者でもなるべく抗凝固療法を考えるが、以下の点を考慮する現時点ではワルファリンを用いるINRの変動状況、服薬アドヒアランスを適切に把握し、INRの厳格な管理を心がける併用薬剤は可能な限り少なくする導入初期に、家族を交えた患者教育を行い、服薬の意義を十分理解してもらう導入初期は、通院を頻回にし、きめ細かいINR管理を行う転倒リスクも患者さんごとに、適切に把握するHAS-BLEDスコア3点以上の例は特に出血に注意し、場合により抗凝固療法は控える5. 超高齢者のリズムコントロールとレートコントロール超高齢者においては、発作性心房細動の症状が強く、直流除細動やカテーテルアブレーションを考慮する場合はほとんどない。また発作予防のための長期抗不整脈薬投与は、永続性心房細動が多い、薬物の催不整脈作用に対する感受性が強い、などの理由で勧められていない23)。したがって超高齢者においては、心拍数調節治療、いわゆるレートコントロールを第一に考えてよいと思われる。レートコントロールの目標については、近年RACEII試験24,25)において目標心拍数を110/分未満にした緩徐コントロール群と、80/分未満にした厳格コントロール群とで予後やQOLに差がないことが示され注目されている。同試験の対象は80歳以下であるが、薬剤の併用や高用量投与を避ける点から考えると、超高齢者にも適応して問題ないと思われる。レートコントロールに用いる薬剤としてはβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のどちらも有効である。β遮断薬は、半減期が長い、COPD患者には慎重投与が必要である、などの理由から、超高齢者には半減期の短いベラパミルが使用されることが多い。使用に際しては、潜在化していた洞不全症候群、心不全が症候性になる可能性があるため、投与初期のホルター心電図等による心拍数確認や心不全徴候に十分注意する。6. 超高齢者の心房細動有病率米国の一般人口における有病率については、4つの疫学調査をまとめた報告26)によると、80歳以上では約10%とされており、85歳以上の人では男9.1%、女11.1%と報告されている27)。日本においては、日本循環器学会の2003年の健康診断症例による研究28)によると、80歳以上の有病率は男4.4%、女2.2%であった。また、2012年に報告された最新の久山町研究29)では、2007年時80歳以上の有病率は6.1%であった。今後高齢化に伴い、超高齢者の有病率は増加するものと思われる。7. おわりにこれまで見てきたように、超高齢者の心房細動管理に関してはエビデンスが非常に少なく、特に抗凝固療法においてはリスク、ベネフィットともに大きいというジレンマがある。一方、そうしたリスク、ベネフィット以外にさまざまな「負担」を加味し、包括的に状態を評価し意思決定につなげていく必要に迫られる。このような状況では、その意思決定に特有の「不確実性」がつきまとうことは避けられないことである。その際、「正しい意思決定」をすることよりももっと大切なことは、患者さん、家族、医療者間で、問題点、目標、それぞれの役割を明確にし、それを共有し合うこと。いわゆる信頼関係に基づいた共通基盤を構築すること1)であると考える。そしてそれこそが超高齢者医療の最終目標であると考える。文献1)井上真智子. 高齢者ケアにおける家庭医の役割. 新・総合診療医学(家庭医療学編) . 藤沼康樹編, カイ書林, 東京, 2012.2)鳥羽研二ら. 高齢者総合的機能評価簡易版CGA7の開発. 日本老年医学会雑誌2010; 41: 124.3)Camm J et al. 2012 focused update of the ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation.An update of the 2010 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation Developed withthe special contribution of the European Heart Rhythm Association. 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受診ごとに血圧が変動する症例では認知機能が低下している(コメンテーター:桑島 巌 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(125)より-

受診ごとの血圧変動が大きい高齢者は、認知機能が低下しており、MRIで海馬の萎縮や皮質梗塞が多いという臨床研究である。 本試験はPROSPER試験という、高齢者に対するプラバスタチンの心血管合併症予防効果を検討した試験の後付解析として行われたものである。 日常、高齢者の高血圧患者を診療する場合、受診ごとに血圧が変動したり、家庭血圧でも測定ごとの血圧変動が大きい症例はよく見かけるが、多くはすでに冠動脈疾患、脳血管障害などの動脈硬化性合併症を併発しているという印象をもっている臨床医は多いと思う。実際そのことはいくつかの観察研究でも確認されている1,2)。しかし、本試験では認知機能の障害を示唆し、かつ海馬というアルツハイマー型認知症と関連の深い部位の萎縮を認めたという点で興味深い。 本試験は、血圧変動が、血管障害や認知機能障害の、原因であるのかあるいは結果であるのかを示すものではない。本試験で示された認知機能マーカやMRIは、3.2年間の試験終了時のデータであり、追跡前後の比較は示していない。そのため血圧変動が認知機能障害を低下させたのか、あるいは血管障害や海馬病変の結果として血圧変動が大きいのかは確認できない。 高齢者では収縮期血圧の絶対値が大きいほど、また脈圧が大きいほど予後が不良であることはすでに知られているが、本試験はさらに受診ごとの血圧変動が大きいことも予後不良のサインであることを示唆している。 また本試験には明記されていないが、多くは降圧薬を服用していると思われる。降圧薬自体にも血圧変動、すなわち降圧効果の安定性が異なるという報告もみられる。Ca拮抗薬やクロルタリドンなどの非ループ利尿薬などは受診ごとの血圧変動が少なく、ARBやβ遮断薬などは血圧変動が多いという3)。 高齢者高血圧を診療する場合、安定した降圧が得られるような降圧薬を選択することが重要である。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD: duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義筋ジストロフィーは、骨格筋の変性・壊死を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下をみる遺伝性の筋疾患の総称である。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はその中でも最も頻度が高く、しかも重症な病型である。■ 疫学欧米ならびにわが国におけるDMDの発症頻度は、新生男児3,500人当たり1人とされている。有病率は人口10万人当たり3人程度である。このうち約2/3は母親がX染色体の異常を有する保因者であることが原因で発症し、残りの1/3は突然変異によるものとされている。まれに染色体転座などによる女児または女性のDMD患者が存在する。ジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失により発症するベッカー型筋ジストロフィー(BMD:becker muscular dystrophy)はDMDと比べ、比較的軽症であり、BMDの有病率はDMDの1/10である。■ 病因DMDはX連鎖性の遺伝形式をとり、Xp21にあるジストロフィン遺伝子の異常により発症する。ジストロフィン遺伝子の産物であるジストロフィンは、筋形質膜直下に存在し、N端ではF-アクチンと結合し、C端側では筋形質膜においてジストロフィン・糖タンパク質と結合し、ジストロフィン・糖タンパク質複合体を形成している(図1)。ジストロフィン・糖タンパク質複合体に含まれるα-ジストログリカンは、基底膜のラミニンと結合する。したがって、ジストロフィンは、細胞内で細胞骨格タンパク質と、一方ではジストロフィン・糖タンパク質複合体を介して筋線維を取り巻く基底膜と結合することにより、筋細胞(筋線維)を安定させ、筋収縮による形質膜のダメージを防いでいると考えられている。DMDではジストロフィンが完全に欠損するが、そのためにジストロフィン結合糖タンパク質もまた形質膜から欠損する。その結果、筋線維の形質膜が脆弱になり、筋収縮に際して膜が破綻して壊死に陥り、筋再生を繰り返しながらも、徐々に筋線維組織が脂肪組織へと置き換わっていく特徴を持っている。画像を拡大する■ 症状乳児期に軽度の発育・発達の遅れにより、処女歩行が1歳6ヵ月を過ぎる例も30~50%いる。しかしながら、通常、異常はない。2~5歳の間に転びやすい、走るのが遅い、階段が上れないなど、歩行に関する異常で発症が明らかになる。初期より腰帯部が強く侵されるため、蹲踞(そんきょ)の姿勢から立ち上がるとき、臀部を高く上げ、次に体を起こす。進行すると、膝に手を当て自分の体をよじ登るようにして立つので、登はん性起立(Gowers徴候)といわれる。筋力低下が進行してくると脊柱前弯が強くなり、体を左右に揺するようにして歩く(動揺性歩行:waddling gait)。筋組織が減少し、結合組織で置換するため、筋の伸展性が無くなり、関節の可動域が減り、関節の拘縮をみる。関節拘縮はまず、足関節に出現し、尖足歩行となる。10~12歳前後で歩行不能となるが、それ以降急速に膝、股関節が拘縮し、脊柱の変形(脊柱後側弯症:kyphoscoliosis)、上肢の関節拘縮もみるようになる。顔面筋は初期には侵されないが、末期には侵され、咬合不全をみる。10代半ばから左心不全症状が顕性化することがあり、急性胃拡張、イレウス、便通異常、排尿困難などを呈することもある。外見的な筋萎縮は初期にはあまり目立たないが、次第に躯幹近位筋が細くなる。本症では、しばしば下腿のふくらはぎなどが正常よりも大きくなる。これは一部筋線維が肥大することにもよるが、主に脂肪や結合組織が増えることによるもので、偽(仮)性肥大(pseudohypertrophy)と呼ばれる。知能の軽度ないし中等度低下をみることがまれでなく、平均IQは80前後といわれている。しかし、病理学的に中枢神経系に異常はない。最終的に呼吸障害や心障害を合併するが、近年の人工呼吸器の進歩により40歳位まで寿命を保つことが可能となっている。■ 分類X連鎖性の遺伝形式をとる筋ジストロフィーとしては、DMDやジストロフィン遺伝子のインフレーム欠失によって発症するBMDのほかにX染色体長腕のエメリン遺伝子異常によって発症するエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー(EDMD:emery-dreifuss muscular dystrophy)がある。■ 予後発症年齢は2~5歳、症状は常に進行し10~12歳前後で歩行不能となる。自然経過では20代前半までに死亡する。わが国では呼吸不全、感染症などに対する対策が進み、40歳以上の生存例も増えている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断本症が強く疑われる場合は、遺伝子検査を遺伝カウンセリングの下に行う。MLPA(Multiplex ligation-dependent probe amplification)法では、比較的大きな欠失/重複(DMD/BMD患者の約70%)が検出できる。微細な欠失/重複・挿入・一塩基置換による変異(ミスセンス・ナンセンス変異)の検出には、ダイレクトシークエンス法が必要となる。遺伝子検査で異常がみつからない場合も、筋生検で免疫組織学的にジストロフィン染色の異常が証明されれば診断できる。■ 検査1)一般生化学的検査血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase: CK)が中程度~高度上昇(そのほか、ミオグロビン、アルドラーゼ、AST、ALT、LDHなども上昇)する。発症前に高CK血症で気付かれるケースがある。そのほか、血清クレアチンの上昇、尿中クレアチンの上昇、尿中クレアチニンの減少をみる。2)筋電図筋原性変化(低振幅・単持続・多相性活動電位、干渉波の形成)を確認する。3)骨格筋CTおよびMRI検査4歳以降に大臀筋の脂肪変性、引き続き大腿、下腿の障害がみられる。大腿直筋、薄筋、縫工筋、半腱様筋は比較的保たれる。4)筋生検筋線維の変性・壊死、大小不同像、円形化、中心核線維の増加、再生筋線維、間質結合組織増加、脂肪浸潤の有無を確認する(図2(A))。ジストロフィン抗体染色で筋形質膜の染色性の消失(DMD)(図2(B))、低下がみられる。また、骨格筋のイムノブロット法で、DMDでは427kDaのジストロフィンのバンドの消失、BMDでは正常より分子量の小さい(もしくは大きい)バンドが確認される。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DMDに対するステロイド治療以外は、対症的な補助治療にとどまっているが、医療の進歩と専門医の努力、社会的なサポート体制の整備などにより、DMDの寿命は平均で約10年延長した。このことはQOLや社会への参加など、患者の人生全体を見据えた取り組みが必要なことを強く示唆している。1)根本治療開発の状況遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療など精力的に基礎・臨床研究が進められている。モルフォリノや2'O-メチルなどのアンチセンス化合物を用いたエクソン・スキップ薬の開発に期待が集まっている。2011年初頭から、エクソン51スキップ薬開発のための国際共同治験に日本も参加し、これ以外のエクソンをターゲットにした治療も開発研究が進んでいる。また、リードスルー薬、遺伝子治療や幹細胞移植治療も北米・欧州を中心に、臨床研究がすでに始まっており、早期の臨床応用が望まれる。2)ステロイド治療DMDにおいてステロイド治療は筋力、運動能力、呼吸機能の面で有効性を認める。一般に5~15歳の患者に対して、プレドニゾロンの投与を行う。事前に水痘ワクチンを含む予防接種は済ませておくように指導する。ADL(日常生活動作)や運動機能、心機能、呼吸機能の評価と共に、ステロイドの副作用(体重増加、満月様顔貌、白内障、低身長、尋常性ざ瘡、多毛、消化器症状、精神症状、糖尿病、感染症、凝固異常など)についても十分評価を行う。ステロイドの投与量は必要に応じて増減する。なお、DMDに対するプレドニゾロンの効能・効果については、2013年2月に公知申請に係る事前評価が終了し、薬事承認上は適応外であっても保険適用となっている。3)呼吸療法DMDの呼吸障害の病態は、一義的には呼吸筋の筋力低下や側弯などの骨格変形による拘束性障害である。肺活量は9~14歳でプラトーに達し、以降低下する。深呼吸ができないため肺・胸郭の可動性(コンプライアンス)の低下によって肺の拡張障害と、さらに排痰困難のため気道閉塞による窒息のリスクが生じる。進行に応じ、呼吸のコンプライアンスを保つことが重要である。(1)舌咽頭呼吸による最大強制呼吸量の維持訓練に加え(2)気道クリアランスの確保(徒手的咳介助、機械的咳介助、呼吸筋トレーニングなど)を行うことは、換気効率の維持や有効な咳による喀痰排出につながる(3)車いす生活者もしくは12歳以降に車いす生活になった患者は定期的に(年に2回)呼吸機能評価を行う(4)必要に応じ、夜間・日中・終日の非侵襲的陽圧換気療法の導入を検討する4)心合併症対策1970年代には死因の70%近くが呼吸不全や呼吸器感染症であったが、人工呼吸療法と呼吸リハビリテーションの進歩により、現在では60%近くが心不全へと変化した。心不全のコントロールがDMD患者の生命予後を左右する。特徴的な心臓の病理所見は線維化であり、左室後側壁外側から心筋全体に広がる。進行すると心室壁は菲薄化、内腔は拡大し、拡張型心筋症様の状態となる。定期的な評価が重要で、身体所見、胸部X線、心電図、心エコー(胸郭の変形を念頭におく)、血漿BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)測定、心筋シンチグラフィー、心臓MRIなどを行う。薬物治療としては、心筋リモデリング予防効果を期待してACE阻害薬、β遮断薬の投与が広く行われている。5)栄養幼少期から学童初期は、運動機能低下と骨格筋減少によるエネルギー消費の低下、偏食による栄養障害の助長、ステロイド治療などによる肥満が問題となることが多い。体重のコントロールがとくに重要であり、体重グラフをつけることが推奨される。呼吸不全が顕著化する時期に急激な体重減少を認める場合、努力呼吸によるエネルギー消費量の増加、摂食量の減少など複数の要因の関与が考えられる。咬合・咀嚼力の低下に対しては、栄養効率の良い食品(チーズなど)や濃厚流動食を利用し、嚥下障害が疑われる場合は、嚥下造影などを行い状態を評価して対応を検討する。経鼻経管栄養は、鼻マスク併用時にエアーリークや皮膚トラブルの原因になることがある。必要に応じて経皮内視鏡的胃瘻造設術などによる胃瘻の造設を検討する。6)リハビリテーション早期からのリハビリテーションが重要である。筋力の不均衡や姿勢異常による四肢・脊柱・胸郭変形によるADLの障害、座位保持困難や呼吸障害の増悪、関節可動域制限を予防する。適切な時期にできる限り歩行・立位保持、座位の安定、呼吸機能の維持、臥位姿勢の安定を目指す。7)外科治療病気の進行とともに脊柱の側弯と四肢の関節拘縮を呈する頻度が高くなる。これにより姿勢保持が困難になるのみならず、心肺機能の低下を助長する要因となる。脊柱側弯に対して外科治療の適用が検討される。側弯の発症早期に進行予防的な外科手術が推奨され、Cobb角が30°を超えると適応と考えられる。脊柱後方固定術が一般的で、術後早期から座位姿勢をとるように努める。関節拘縮に対する手術も、拘縮早期に行うと効果的である。8)認知機能DMD患者の平均IQは80~90前後である。学習障害、広汎性発達障害、注意欠陥多動障害(ADHD)など、軽度の発達障害の合併が一般頻度より高い。健常者と比較して言語性短期記憶の低下がみられる傾向があり、社会生活能力、コミュニケーション能力に乏しい傾向も指摘されている。精神・心理療法的アプローチも重要である。4 今後の展望DMDの根本的治療法の開発を目指し、遺伝子治療、幹細胞移植治療、薬物治療などの基礎・臨床研究が進められているが、ここではとくに2013年現在、治験が行われているエクソン・スキップとストップコドン・リードスルーについて取り上げる。1)エクソン・スキップエクソン欠失によるフレームシフトで発症するDMDに対し、欠失領域に隣接するエクソンのスプライシングを阻害(スキップ)してフレームシフトを解消し、短縮形ジストロフィンを発現させる手法である。スキップ標的となるエクソンに相補的な20~30塩基の核酸医薬品が用いられ、グラクソ・スミスクライン社とProsensa社が共同開発中のDrisapersen(PRO051/GSK2402968)は2'O-メチル製剤のエクソン51スキップ治療薬として、現在日本も含め世界23ヵ国で第3相試験が進行中である。副作用として蛋白尿を認めるが、48週間投与の結果、6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://prosensa.eu/technology-and-products/exon-skipping)また、Sarepta therapeutics社が開発中のEteplirsen(AVI-4658)はモルフォリノ製剤のエクソン51スキップ治療薬で、現在米国で第2a相試験が進行中である。これまで投与された被験者数はDrisapersenより少ないものの臨床的に有意な副作用は認めず、74週投与の時点で6分間歩行距離の延長が報告されている。(http://investorrelations.sareptatherapeutics.com/phoenix.zhtml?c=64231&p=irol-newsArticle&id=1803701)2)ストップコドン・リードスルーナンセンス点変異により発症するDMDに対し、リボゾームが中途停止コドンだけを読み飛ばす(リードスルー)ように誘導し、完全長ジストロフィンを発現させる手法である(http://www.ptcbio.com/ataluren)。アミノグリコシド系化合物にはこのような作用があることが知られており、PTC therapeutics社のAtaluren(PTC124)は、世界11ヵ国で行われた第2b相試験の結果、統計的に有意ではないもののプラセボよりも歩行機能の低下を抑制する作用を示した。現在欧州での条件付き承認を目的とした第3相試験が計画されている。なお、日本ではアルベカシン硫酸塩のリードスルー作用を検証する医師主導治験が計画されている。5 主たる診療科小児科、神経内科、リハビリテーション科、循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児科学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本小児神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)日本神経学会(医療従事者向けの診療、研究情報)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部(研究情報)国立精神・神経医療研究センター TMC Remudy 患者情報登録部門(一般利用者向けと医療従事者向けの神経・筋疾患患者登録制度)筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク(一般利用者向けと医療従事者向けの筋ジストロフィー臨床試験に向けてのネットワーク)患者会情報日本筋ジストロフィー協会(筋ジストロフィー患者と家族の会)

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(93)〕 すべての非心臓手術症例でのβ遮断薬投与は必須か?

これまで心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の投与はClass Iとされてきたが、すべての患者に投与することによる有用性は無いという報告がされるようになった。また、降圧薬としてのβ遮断薬も欧州のガイドラインからは除外された。さらに、β遮断薬間でも、心不全患者の予後改善効果に差があることがメタ解析から報告されている。  このようにβ遮断薬をめぐる種々の問題があるなかで、非心臓手術患者周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は、現在も結論が得られていない。メタ解析やコホート研究では、周術期のβ遮断薬の有効性を示した報告も数多くあるが、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACC(米国心臓協会/米国心臓病学会)ガイドラインでは、すでに他の疾患のためにβ遮断薬が投与されている患者に限って、周術期も継続投与すべき、とされるにとどまっている。  本研究では、米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例を対象に、β遮断薬の投与の有無でみた30日全死因死亡、副次的評価項目である心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率を調べ、後ろ向きにβ遮断薬の有効性について検討された。β遮断薬の投与は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子(うっ血性心不全、心血管疾患、糖尿病、虚血性心疾患、高リスク手術、慢性腎臓病)数が増えるに従ってリスクを低下させることが示され、今後ランダム化試験が必要とされるものの、術前にRCRIを評価したうえでβ遮断薬の投与を考慮すべき、と本論文では結論付けられている。  ただ、わが国では多くの施設で術前の心疾患のスクリーニングがなされ、かつ心機能を含めた評価のうえで手術が行われている。このようにRCRI以上のリスク評価のうえで手術が行われている現状を考慮すれば、β遮断薬投与の新たな必要性が問題となることは少ないであろう。ただ、β遮断薬の投与量や薬剤の選択を含め、β遮断薬の投与の是非を検討することは今後とも必要である。

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Vol. 1 No. 1 ACSの治療-2次予防を考えた長期治療

大倉 宏之 氏川崎医科大学循環器内科はじめに急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の慢性期治療には、責任病変での再発防止と非責任病変の新規発症防止、すなわち2次予防が含まれる。責任病変の再発予防には、薬剤溶出ステント(DES)による再狭窄抑制と、適切な抗血小板療法によるステント血栓症の予防が重要である。一方、非責任病変の新規発症を防ぐには、抗血小板薬を含むさまざまな薬物による長期にわたる2次予防が必要である。ACSの予後:欧米と日本の違いACS患者の予後は不良である。欧米のデータでは、その20%は1年以内に再入院し、男性の18%、40歳以上の女性の23%が死亡するとの報告がある1)。また、心筋梗塞(AMI)後の患者は退院後1年以内にその8~10%がAMIを再発するとも報告されている2)。ただ、その再発率は保有するリスクによって異なる。Finnish studyでは、糖尿病例(年率7.8%)は非糖尿病例(年率3%)と比較して心筋梗塞再発が高率であることが示されている3)。ランダム化試験のデータでは、AMIの再発率は1~5%程度とおおむねレジストリーよりも低めである。AMIに対するDESと金属ステント(BMS)を比較したランダム化試験のメタ解析によると、AMI再発はDES留置例で3.1%、BMS留置例で3.3%であった4)。日本のデータでも非ACS症例と比較すると、ACS例の予後は不良であるが(図:本誌p21参照)5, 6)、ACS発症後のAMI再発率は、日本や韓国では1%以下と欧米と比較すると低率である7, 8)。もともとAMIの発症自体が少ないことに加えて、急性期に速やかに経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)による治療がなされていることと、その後も主治医によるきめ細やかな2次予防が行われていることがその理由かもしれない。至適薬物療法によるACSの2次予防欧米では、ACSの予後は経年的に改善していることが示されている。The Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)レジストリーに登録されたACS患者約4万例のデータ(図:本誌p21参照)において、入院中の死亡や心不全、6か月後のAMI新規発症が2000年から2005年にかけて有意に減少していることが示された9)。これは、エビデンスに基づいた薬物治療の浸透と、急性期のPCI施行率が高くなってきた結果である(図:本誌p22参照)。ACS後の2次予防を目指した薬物療法についてはガイドラインに詳細に述べられており10-15)、β遮断薬、ACE阻害薬(またはARB)、アルドステロン阻害薬、スタチン等の有用性が示されている。これらの薬物療法が、日本の臨床の現場にどの程度浸透しており、その結果、日本人のACS患者の予後が実際に改善しているのかどうかについては今後検証すべき課題である。ACS患者では、非責任病変の血管内超音波所見によって、ハイリスク病変を予測可能との報告がなされている16)。もともとイベント発生率の低い日本人でも、同様の予測が可能であるのかについても明らかにすべきである。抗血小板薬によるACSの2次予防薬物による2次予防のうちでも、特に重要な役割を果たしているのが抗血小板療法である。表に日本、米国、欧州の各ガイドライン10-15)に記載されている抗血栓療法の推奨をまとめた(Class I、Class IIaのみ記載)(表:本誌p23参照)。アスピリンが第1選択である点はすべてのガイドラインに共通である。欧州、米国のガイドラインでは、アスピリンに加えてクロピドグレル(または他のP2Y12阻害薬)を12か月間投与することが推奨されている。日本のガイドラインにはその期間は特定されていない11)。抗血小板薬2剤併用療法の至適期間抗血小板薬2剤併用療法(dual anti-platelet therapy: DAPT)の至適投与期間は、ステントの種類(BMSかDESか)と病型(安定狭心症かACSか)により異なる。一般に、DESの場合は12か月間以上のDAPTが推奨されているが20)、至適期間についてのエビデンスは十分ではない。j-Cypherレジストリーでは、ACS例において6か月以上DAPTを継続していた例と、DAPTを6か月時点で中止していた例との間には、その後2年間のイベント発生率に差を認めなかったことが示されている5)。日本では、患者背景や病変背景を考慮した至適な抗血小板薬療法が行われていることが反映されているのかもしれない。ACSの研究ではないが、韓国からはステント留置後12か月以上イベントのなかった2,701例を、DAPT群とアスピリン単剤群にランダム化した試験が報告されている18)。2年間の観察期間中、両群間に心筋梗塞+心臓死の頻度に差はなく、ステント血栓症にも差はなかった(図:本誌p24参照)。EXCELLENT試験は、CypherもしくはXience/Promusステント留置例1,443例のDAPT期間を、6か月間と12か月間にランダム化したものである19)。12か月後のTVF(target vessel failure)や死亡もしくは心筋梗塞の発生には両群間に差を認めなかったが、ステント血栓症はDAPT6か月間群で多い傾向にあった。ただし、6か月間群のステント血栓症発症例6例中5例は6か月以内の発生であり、DAPTの期間が影響した可能性は低い。Prolonging Dual Antiplatelet Treatment after Grading Stent-induced Intimal Hyperplasia study(PRODIGY)では、ステント留置例約2,000例を対象にランダム化し、DAPTの期間を6か月間と24か月間で比較したものである。2年間の追跡期間中に全死亡+心筋梗塞+脳血管障害+ステント血栓症の頻度は6か月間群と24か月間群は同等であったが(10.0% vs. 10.1%, p=0.91)、出血は6か月間群で少なかったとの結果であった(ESC2011で報告)。The Dual Antiplatelet Therapy(DAPT)study20)は、15,000例のDES留置例と5,400例のBMS留置例を登録し、DAPTの投与期間を12か月間と30か月間にランダム化して両者を比較する大規模臨床試験である。すでに患者登録は終了し、現在フォローアップが進行中である。本邦においても、Optimal Duration of DAPT Following Treatment with Endeavor in Real-world Japanese Patients: A Prospective Multicenter Registry (OPERA) studyやNobori Dual antiplatelet therapy as appropriate duration (NIPPON) studyが現在進行中である。これらの研究にはACSも含まれており、日本人独自のエビデンスが得られるものと期待される。抗血小板薬投与と出血性合併症抗血小板薬投与に関連した問題点には出血性合併症がある。ACSに出血性合併症を発生した場合には、その長期予後は不良である21)。DAPT継続にあたっては、そのベネフィットのみならず出血のリスクも考慮せねばならない。ACSにおいて、出血のリスクが特に問題となるのが心房細動合併例である。欧州心臓病学会の心房細動ガイドライン22)では、心房細動合併例に対するステント留置術後の抗血栓療法は表のごとく推奨されている(Class IIa)(表:本誌p25参照)。注目すべき点は、塞栓症のリスクを有する心房細動例では最後的には抗血小板薬は中止し、ワルファリンのみを一生継続することが推奨されている点である。日本でも、心房細動合併ACS例に対する至適抗血栓療法をいかにすべきかは重要な検討課題である。おわりにACSの予後改善には、急性期治療に加えて、抗血小板薬を中心とした長期にわたる2次予防が重要な役割を演じている。ただし、これら多くは欧米のデータに基づいたものであるため、今後、日本人における検証はぜひとも行われるべきである。文献1)Menzin J et al. 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非心臓手術の周術期β遮断薬投与、死亡率を抑制/JAMA

 心リスクが高い非心臓/非血管手術患者では、周術期早期のβ遮断薬投与により全死因死亡や心合併症の発生率が低下することが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMartin J London氏らの検討で示された。非心臓手術患者における周術期β遮断薬投与の有効性や安全性は現在も結論が得られておらず、現行の非心臓手術周術期の評価と治療に関するAHA/ACCガイドラインでは、他の疾患のためにすでにβ遮断薬が投与されている患者に限って周術期も継続投与すべきとされる(class I)。JAMA誌2013年4月24日号掲載の報告。周術期β遮断薬投与と術後転帰の関連を後ろ向きコホート試験で評価 研究グループは、非心臓手術を施行された患者における周術期早期のβ遮断薬投与と術後の転帰の関連について評価するレトロスペクティブなコホート試験を行った。 2005年1月~2010年8月までに米国の104の退役軍人医療センターで非心臓手術を受けた患者13万6,745例[手術当日または術後にβ遮断薬を投与された患者5万5,138例(40.3%)、非投与患者8万1,607例]および傾向スコアをマッチさせたコホート7万5,610例(β遮断薬投与患者、非投与患者それぞれ3万7,805例)を解析の対象とした。 主要評価項目は30日全死因死亡、副次的評価項目は心合併症(非致死的な心停止、Q波心筋梗塞)の発生率とした。無作為化試験による妥当性の検証が必要 β遮断薬は、血管手術を施行された患者(1万3,863例)の66.7%に投与され、非血管手術患者(12万2,882例)の37.4%に比べると有意に高かった(p<0.001)。 β遮断薬投与率は、改訂版心リスク指標(Revised Cardiac Risk Index:RCRI)のリスク因子数が増えるに従って上昇し、リスク因子なしの患者は25.3%、4つ以上の場合は71.3%であった(p<0.001)。 全体で術後30日までに1,568例(1.1%)が死亡し、心合併症は1,196例(0.9%)に認められた。 傾向スコアをマッチさせた群では、β遮断薬の投与により死亡率が有意に低下した(相対リスク(RR):0.73、95%信頼区間(CI):0.65~0.83、p<0.001、治療必要数(NNT):241、95%CI:173~397)。 RCRIのリスク因子数で層別化すると、リスク因子が2つ以上の患者でβ遮断薬による死亡率の有意な低下が認められ、リスク因子数が増えるほど死亡抑制効果が高い傾向がみられた。リスク因子2つはRR:0.63(95%CI:0.50~0.80、p<0.001)、NNT:105(同:69~212)、同3つではRR:0.54(同:0.39~0.73、p<0.001)、NNT:41(同:28~80)、4つ以上ではRR:0.40(同:0.25~0.73、p<0.001)、NNT:18(同:12~34)であった。ただし、この関連は非血管手術患者に限定された。 β遮断薬の投与は非致死的なQ波心筋梗塞または心停止も有意に抑制した(RR:0.67、95%CI:0.57~0.79、p<0.001、NNT:339、95%CI:240~582)。この関連も非血管手術患者に限られた。 著者は、「ベースラインの心リスクが高い非心臓/非血管手術施行患者では、周術期早期のβ遮断薬投与により30日全死因死亡や心合併症の発生率が有意に低下した」とまとめ、「RCRIのリスク因子数の評価は周術期β遮断薬の使用の意思決定に有用な可能性があるが、これらの観察的知見の妥当性を検証するために、RCRIで低~中等度のリスクの患者を対象に周術期β遮断薬投与の多施設共同無作為化試験を行う必要がある」と指摘している。

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心不全への標準治療に加えたアリスキレン投与、長期アウトカム改善せず/JAMA

 心不全入院患者に対し、利尿薬やβ遮断薬などの標準的治療に加え、直接的レニン阻害薬の降圧薬アリスキレン(商品名:ラジレス)の投与を行っても、6ヵ月、12ヵ月後のアウトカム改善は認められなかったことが、米国・ノースウェスタン大学のMihai Gheorghiade氏らによるプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果、報告された。研究グループは、先行研究における、心不全患者に対するアリスキレン投与は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有意に低下し良好な血行動態をもたらすといった報告を踏まえて、アリスキレンの長期アウトカム改善の可能性に関する本検討を行った。JAMA誌2013年3月20日号掲載の報告より。世界316ヵ所で、心不全入院患者1,639例を無作為化 研究グループは2009年5月~2011年12月にかけて、南・北米、ヨーロッパ、アジアの316ヵ所の医療機関を通じ、心不全で入院した患者1,639例を対象に無作為化試験を行った。アリスキレンを、標準的な治療に加え投与した場合のアウトカムについて比較した。 被験者は18歳以上で、左室駆出率(LVEF)40%以下、BNP値400pg/mL以上、またはN末端プロBNP(NT-proBNP)値1,600pg/mL以上であった。また、水分過負荷の徴候や症状も認められた。 主要アウトカムは、6ヵ月後および12ヵ月後の心血管死または心不全による再入院とした。心血管死または心不全のイベント発生率、両群で同程度 被験者のうち最終的に分析対象に組み込まれたのは1,615例だった。平均年齢は65歳、平均LVEFは28%、平均推定糸球体濾過量(eGFR)は67mL/分/1.73m2だった。また被験者のうち41%が糖尿病を有していた。無作為化時点で利尿薬を服用していたのは95.9%、β遮断薬は82.5%、ACE阻害薬またはARBは84.2%、アルドステロン受容体拮抗薬は57.0%だった。 6ヵ月後の主要エンドポイント発生率は、アリスキレン群24.9%(心血管死:77例、心不全による再入院:153例)に対し、プラセボ群は26.5%(同:85例、同:166例)であり、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.76~1.12、p=0.41)。 12ヵ月後の同イベント発生率についても、アリスキレン群35.0%に対しプラセボ群37.3%と、両群で有意差はなかった(同:0.93、0.79~1.09、p=0.36)。 なお、高カリウム血症、低血圧症、腎機能障害や腎不全の発症率は、いずれもアリスキレン群で高率だった。

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募集した質問にエキスパートが答える!心房細動診療 Q&A (Part.2)

今回も、4つの質問に回答します。「抗凝固薬服薬者が出血した時の対処法」「抗血小板薬と抗凝固薬の併用」「レートコントロールの具体的方法」「アブレーションの適応患者と予後」ワルファリンまたは新規抗凝固薬を服薬中に出血した場合、どのように対処すべきでしょうか?中和方法等を含めて教えてください。緊急の止血を要する場合の処置法は図5のとおりです。まずは、投与中止し、バイタルサインを見ながら止血と補液を行います。脳出血やくも膜下出血の場合には十分な降圧を行います。最近、Xa阻害剤の中和剤(PRT4445)が開発され、健常人を対象に臨床研究が始まることが報告されました。今後の結果が待たれます。ダビガトランは透析可能とされておりますが、臨床データは十分ではなく、また出血の起きているときに太い透析用のカテーテルを留置するのはあまり現実的ではないでしょう。図5.中等度~重度の出血(緊急の止血を要する場合)画像を拡大する虚血性心疾患既往例など抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合、どのような点に注意すべきでしょうか?抗血小板薬2剤+抗凝固薬1剤という処方パターンなどは許されますでしょうか?大変悩ましい質問です。抗血小板薬と抗凝固療法の併用は、出血事故を増加させます。このため併用者が受診した時には、出血がなかったかどうかを毎回問診します。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の2010年ガイドラインには、虚血性心疾患で抗血小板薬と抗凝固療法を併用する場合の治療方針が掲載されております(表2)。その指針には、(1)HAS-BLED出血スコアを考慮し、次に(2)待機的に加療する狭心症か、あるいは緊急で治療を要する急性冠症候群か、そして(3)ステント性状がベアメタルか薬剤溶出性か、の3つのステップを踏んで薬剤の種類と投与期間を決定すると示されています。確かに合理的と思いますが、これには十分なエビデンスがないことより、今後の検証を待つべきでしょう。しかしながら、個人差があると思いますが、原則としてステント留置後1年が経過したらワルファリン単剤で様子を見たいと思います。ただし、新規抗凝固薬についての言及はありません。表2.心房細動+ステント症例の抗血栓療法画像を拡大するレートコントロールを具体的にどのように行えばよろしいでしょうか?(薬剤の選択、β遮断薬の使い方、目指すべき脈拍数等)レートコントロールは洞調律の維持を切望しない、すなわち心房細動症状があまり強くない人に行うことが主です。しかしながら、リズムコントロール薬と併用することもありますし、反対にリズムコントロール薬よりもレートコントロール薬の方が有効である症例も経験します。まず、心機能別の薬剤使い分けを表示します(表3)。高齢者は薬物の代謝能力が落ちていることがありますので、投与前には肝・腎機能を調べるとともに、併用薬がないかどうかも確認します。まず表3に記載された薬剤は少量から使用すべきでしょう。たとえばジギタリスは常用量の半量から使用し、β遮断薬は(分割や粉砕などの手間がかかりますが)常用量の1/4 ~1/2量から開始します(最近は低用量製剤も使用可能です)。ベラパミルは朝と日中の2回のみ使用します。投与後は過度な徐脈になっていないかどうかを、自覚症状とホルター心電図で検討します。私は、夜間の最低脈拍数は40台まで、また、3秒までのポーズは良しとしております。動いたときに息切れがひどくなったと言われれば中止することもあります。喘息のある場合はジギタリスかCa拮抗薬がお勧めですが、ベータ1選択性の強いビソプロロールは投与可能とされます。目標心拍数についてはRACE II試験が参考になります(NEJM 2010)。この試験では、レートコントロールは厳密に行うべきか(安静時心拍数が80/分未満で、かつ日常活動時に110/分未満)、あるいは緩徐でよいか(安静時心拍数が110/分未満であれば良しとする)の2群に分けて3年間の予後を比べました。その結果、2群間に死亡や入院、およびペースメーカ植込みなどの複合エンドポイントに有意差はなかったことより、レートコントロールは緩めで良いと結論付けられました。その後のサブ解析(JACC 2011)、左房径や左室径のりモデリング(拡大)は、レートコントロールの程度で差はないことが報告されました。白衣高血圧と同様の現象で、診察時や心電図をとるときに緊張すると、心拍数はすぐに増加します。しかしながら、いつも頻脈が続く場合や、頻脈による症状が強い時には、何か疾患が隠れていることもありますので注意が必要です。たとえば、COPD、貧血、甲状腺機能亢進症、および、頻度は低いのですがWPW症候群に合併した心房細動(頻脈時にQRS幅が広い)のこともありますのでレートコントロールがうまくいかない場合には専門医を受診させるとよいでしょう。薬剤によるレートコントロールがうまくいかない場合には、房室結節をカテーテルアブレーションによって離断し、同時にペースメーカを植込むこともあります。表3.心機能別にみた薬剤の使い分け画像を拡大するアブレーションはどのような患者に適応されますか?また、長期予後はどうでしょうか?教えてください。機器の改良と経験の積み重ねによってアブレーションの成功率は高くなってきました。この結果、適応範囲は拡大し、治療のエビデンスレベルは向上しております。日本循環器学会のガイドラインでは年間50例以上の心房細動アブレーションを行っている施設に限ってはClass Iになりました。すなわち内服治療の段階を経ることなく、アブレーションを第一選択治療法として良いとしました。しかながら、心房細動そのものは緊急治療を要する致死性不整脈ではありません。このため、アブレーションの良い適応は心房細動が出ると動悸症状が強くてQOLが低下する患者さんでしょう。心房細動がでると心不全に進展する場合も適応です。最近は、マラソンブームをうけて一般ランナーやジムでトレーニングを続けるアスリートなどが心房細動を自覚して紹介来院される人が増えてきたように思います。心房細動がでるとパフォーマンスが落ちて気分が落ちるためにアブレーションを希望されるようです。現時点では、心房細動アブレーションに生命予後の改善や脳梗塞の予防効果があるかどうかのエビデンスがそろったわけではありません。図6のようにアブレーションを一回のみ施行した場合は5年間の追跡で約半数が再発します(左)。再発に気付いて追加アブレーションを行うことにより洞調律維持効果が上がります(右)。発生から1年以上持続した持続性心房細動や左房径が5cmを超えている場合は再発率が高いため、最初から複数回のアブレーションを行うことも説明します。また、合併症は0ではありません。危険性を十分説明し、患者さんが納得したところで施行すべきです。アブレーションが成功したと思ってもその後に無症候性の心房細動が発生していることも報告されておりますので、CHADS2スコアにしたがって抗凝固療法を継続することも必要でしょう。また、最近は図7のようにCHADS2スコアが心房細動アブレーションの効果を予測するとする報告がなされました。CHADS2スコアが1を超えると再発率が高く、追加アブレーションが必要とされるようです。図6.洞調律維持効果(中期)画像を拡大する図7.CHADS2スコアと洞調律維持効果(長期)画像を拡大する

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(60)〕 The WOEST study:長期間抗凝固療法を受けている患者にPCIを行う際には、アスピリンは不要でクロピドグレルのみの併用で良い

PCIを施行する際には、血栓症を予防するためにアスピリンとチエノピリジン系の抗血小板薬を併用することが標準とされてきた。 一方、65歳以上の年齢層の8%に非弁膜症性の心房細動が発症することが知られている。心房細動の治療は、心原性血栓による脳塞栓症と心房細動性頻拍症の持続による心不全の予防が基本であり、抗凝固薬とβ遮断薬の併用が標準治療とされている。抗凝固薬を服用中の患者にPCIを行う際の抗血小板薬の組み合わせは、臨床上きわめて重要な問題である。 本研究は、ベルギーとオランダの15の施設で抗凝固療法を受けている573人の患者をクロピドグレルとアスピリンの3剤併用群とクロピドグレルだけの2剤併用群に無作為に割り付けた。試験期間は3年で主要評価項目はPCI後1年以内の出血の合併症である。 PCI後1年のデータが得られた症例数は、2剤併用群で279例(98.2%)、3剤併用群で284例(98.3%)であった。出血の合併症の頻度は2剤併用群で54例(19.4%)で、3剤併用群の126例(44.4%)よりも有意(p<0.0001)に低かった。また、多発性出血と輸血の頻度についても、2剤併用群は3剤併用群よりも有意(p=0.011)に低いことが示され、また血栓症の増加もなかった。 以上の結果から、抗凝固療法を長期にわたって受けている患者にPCIを行う際には、アスピリンを併用せずにクロピドグレルのみを抗凝固薬と併用することが効果は同等で安全性に優れているという、臨床上きわめて有用な薬の使い方が示唆された。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(42)〕 リアルワールドでのRAS阻害薬投与は左室駆出率保持の心不全の予後を改善する可能性

左室駆出率保持の心不全(HFPEF)患者の予後を改善する薬剤は見つかっていない。J-DHF試験はβ遮断薬の有用性を示唆したが、ACE阻害薬のPEP-CHF試験、ARBのCHARM-Preserved試験やI-PRESERVE試験などの無作為化大規模試験で有用性は示されなかった。しかし、臨床試験における患者の年齢や疾患分布がリアルワールドと異なるため、パワー不足となった可能性が示唆されていた。 今回の研究は、大規模前向きコホート研究でRAS阻害薬投与がHFPEF 患者の1年生存率を有意に低下することが示されたという貴重な報告である。 スウェーデンの心不全登録において、EF40%以上で定義したHFPEFの1万6,216例(平均75歳)のうち77%がRAS阻害薬投与を受けていた(ACE阻害薬:ARB=3:1)。Propensity(傾向)スコアをマッチさせたコホートでは、RAS阻害薬治療群で非投与群と比べて9%死亡が有意に低下し、年齢補正のみを行ったコホートでも同様であった。また、目標投与量50%超群でのみ有意な死亡率の低下がみられた。 従来の結果との違いは拡張不全の定義に起因する。収縮機能障害と拡張機能障害は(とくにEF40~49%で)併存するため、HFPEFはEFのみで定義される雑多な病因の集合体である。しかし、HFPEFの試験は割り付けが難しいため弁膜症を除外してきた。本研究は弁膜症を3割程度、虚血性心疾患を45%含んでいた。また、予想通り全体の4~5割を占めるEF40~49%の患者でのみRAS阻害薬投与が有効で、EF50%以上では有効ではなかった。 著者らは同様の手法でARB同士の比較をして物議をかもしたが、患者背景に差はないかが問題となった。Propensityスコア解析でバイアスを完全に除外することは不可能であるため、HFPEFの予後を改善する薬が見つかったと結論付けることはできない。

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ARBの長期使用はがんのリスクを増大させるか?

 アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の長期使用とがんとの関連については、ランダム化比較試験や観察研究のメタアナリシスで矛盾した結果が報じられており、物議を醸している。 カナダのLaurent Azoulay氏らは、ARBが4つのがん(肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん)全体のリスク増大に関連するかどうかを判断し、さらにそれぞれのがん種への影響を調べるため、United Kingdom General Practice Research Databaseにおいてコホート内症例対照解析を用いて後ろ向きコホート研究を行った。その結果、ARBの使用は4つのがん全体およびがん種ごとのいずれにおいても、リスクを増大させなかったと報告した。PLoS One 誌オンライン版2012年12月12日号に掲載。 本研究では、1995年(英国において最初のARBであるロサルタンの発売年)から2008年の間に降圧薬を処方された患者コホートを2010年12月31日まで追跡調査した。 症例は、追跡調査中に新たに肺がん、大腸がん、乳がん、前立腺がんと診断された患者とした。ARBの使用と利尿薬やβ遮断薬(両方またはどちらか)の使用とを比較して、条件付きロジスティック回帰分析を行い、がんの調整発生率比(RR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・コホートには116万5,781人の患者が含まれ、4万1,059人の患者が4つのがん種のうちの1つに診断されていた(554/100,000人年)。・ARBの使用とがんの増加率は、利尿薬やβ遮断薬(両方またはどちらか)の使用と比較し、4つのがん全体(RR:1.00、95%CI:0.96~1.03)、およびがん種ごとのどちらにおいても関連が認められなかった。・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(RR:1.13、95%CI:1.06~1.20)とCa拮抗薬(RR:1.19、95%CI:1.12~1.27)の使用が、それぞれ肺がんの増加率と関連していた。 著者は、「ACE阻害薬とCa拮抗薬による肺がんの潜在的なリスクを評価するためにさらなる研究が必要」としている。

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【速報!AHA2012】心筋梗塞後慢性期に対するキレート療法、有用性を確立するには至らず

 米国では、理由は不明だが、冠動脈疾患に対するキレート療法の施行数が増加しているという。しかしながら、その有用性は確認されていない。驚いたことに、有用性を示唆する機序さえ未確定だという。そのため、心筋梗塞後慢性期を対象とする無作為化試験TACT(Trial to Assess Chelation Therapy)が、NIH(国立衛生研究所)の出資により行われた。その結果、有意差はついたものの、キレート療法がプラセボに勝る有用性を確立するには至らなかったようだ。3日のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、マウントサイナイ・メディカルセンター(米国)のGervasio A. Lamasが報告した。 TACTの対象は、心筋梗塞発症後6ヶ月以上経過した、50歳以上の1,708例である。およそ4分の3は、β遮断薬など心筋梗塞後に対する標準的薬物治療を受けていた。これらはキレート療法群(839例)とプラセボ群(869例)に無作為化され、二重盲検法で追跡された。キレート療法にはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)とアスコルビン酸を中心に10剤を用いるレジメンが用いられた。  その結果、一次評価項目である「死亡、心筋梗塞、脳卒中、冠血行再建術、狭心症による入院」はキレート療法群で相対的に18%の有意な減少が認められた(ハザード比:0.82、95%信頼区間:0.69~0.99)。加えて、上記イベントを個別に検討しても、一様にキレート療法群で減少傾向を示した。  試験中止につながる有害事象の発現は、両群で同等だった。  このような成績にもかかわらずLama氏は、この有用性を確認する別の研究が必要だと主張した。と言うのも、キレート療法群におけるイベントリスク・ハザード比の、95%信頼区間上限は0.99と「1」に近いうえ、本試験では17%が無作為化後に同意を撤回し試験から脱落している。これら17%が残っていた場合に有意差となる保証はない。 また、キレート療法群における一次評価項目減少数の半分弱を「冠血行再建術施行」が占めていた。二重盲検試験とは言え「主観的」な評価項目に結果が大きな影響を受けている点に、Lama氏は問題を感じたようだ。なお、「冠血行再建術施行」は「狭心症による入院」と並び、後から加えられた評価項目である。当初の一次評価項目は、「死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全入院」だった(心不全データは、今回報告されなかった)。  指定討論者であるアルバート大学(カナダ)のPaul W. Armstrong氏も、本試験は虚血性心疾患に対するキレート療法の有用性を確認したものではないと強調した。根拠として同氏は、まず、キレート療法により著明なイベント減少が認められたのは、全体の30%を占める糖尿病例のみだと指摘。非糖尿病例では、キレート療法群とプラセボ群の一次評価項目発生率に全く差はない。同氏はまた記者会見にて、キレート療法の有用性を評価するには、「腎毒性」に関するデータを見る必要があるとも述べた。取材協力:宇津貴史(医学レポーター)「他の演題はこちら」

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(29)〕 抗血栓薬やスタチン薬時代においてβ遮断薬の有用性は証明されず

心筋梗塞後の症例に対するβ遮断薬処方は、すでに標準治療として定着している。これは多数のエビデンスに基づいているが、その多くはすでに10年以上以前のものである。はたして、今日のようにPCIが一般的になり、かつスタチン薬や抗血小板薬治療などが普及した今日においてもなお、β遮断薬の有用性はあるのであろうか。またβ遮断薬は、冠動脈疾患症例や高リスク症例に対しても有用と思われがちだが、その有用性は必ずしも証明されている訳ではない。それが本論文におけるメタ解析のアンチテーゼである。 たしかに上記の問題点は臨床上非常に重要であり、興味のあるところである。 本研究は、国際的な観察研究REACH登録での後ろ向き解析である。その結果は予想に反して、心筋梗塞後症例、心筋梗塞を有しない冠動脈疾患および高リスク症例のいずれにおいても、β遮断薬治療群の心血管系予後は非使用群と差がないことを示した。 この結果は、以下のような見方ができる。つまり、現代では一般的になった抗血栓薬や高脂血症治療の普及が大きくイベント発症を抑制し、また、降圧薬も広く普及したためにβ遮断薬の相対的有用性は減少したということである。 ただし、本試験には大きなリミテーションがあることも事実である。後ろ向き解析において、さまざまな交絡因子の影響を調整する、近年頻用されるPropensity scoreという手法が用いられているが、β遮断薬の種類や用量、そしてその既往など、調整しきれない部分も存在していることも考慮する必要があるだろう。また、対象となった症例の年齢層が70歳という高齢者であることも、β遮断薬の効果を発揮させにくくしている要因であるかもしれない。 よって、本試験の結果をもって実臨床に応用するには時期尚早であり、冠動脈疾患に対するβ遮断薬の適応は、個々の病態をみながら判断するべきである。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(24)〕 安定狭心症に対する最適治療法の決定に冠血流予備量比(FFR)は有用な検査法である

経皮的冠動脈インターベンション治療(PCI)が、急性冠症候群の予後改善に有効な治療法であることについては異論のないところである。しかしながら、安定狭心症に対するPCIの適用に関しては未解決な問題が多い。歴史的には選択的冠動脈造影手技が確立されたことにより、冠動脈疾患の診断・治療が長足の進歩を遂げたことは周知の事実である。しかし、冠動脈造影では、X線シネ血管撮影装置と造影剤を使用してイメージインテンシファイアー上に冠動脈イメージを映し出し、狭窄の程度を判読している。それゆえ、狭窄の程度を正確に評価するうえで、冠動脈造影だけでは必ずしも十分でない症例も存在する。 FFR測定は、冠動脈狭窄病変が心筋虚血を引き起こすか否かを機能的に評価することを可能にした有用な検査である。心筋虚血を生じない程度の狭窄病変に対して、むやみやたらにPCIを実施することの有害性を十分に認識することは、治療方針を正しく決定するために必要である。本研究では、安定狭心症で冠動脈造影所見からPCI治療が適用であると判断された患者について、FFR値が少なくとも1つの狭窄病変において0.80以下であれば無作為に対象症例を2群[薬物治療群(最適薬物療法のみ)、PCI群(PCI+最適薬物療法)]に振り分けた。すべての狭窄を有する冠動脈病変のFFR値が0.80を超えている症例については、PCIを実施せず最適薬物療法のみを行い、試験に登録のうえ、その50%が無作為に抽出された2群と同様にフォローアップされた。 倫理的理由により追跡期間が短いのが気になるが、この期間での一次複合エンドポイント発生率(死亡率、非致死性心筋梗塞発症、2年以内に起こる予期せぬ緊急血行再建のための入院)は薬物治療群で12.7%、PCI群で4.3%であり、PCI群で有意に低かった。とりわけ、緊急血行再建術実施率がPCI群で有意に低率であった(薬物治療群 11.1% vs PCI群 1.6%)。FFR値が0.80を超えていた群での複合イベント発生率は3.0%と最も低値であったが、PCI群との間には有意差はなかった。 短期のフォローアップのみの成績であるために、長期的PCI治療の成績を保証するデータでないことを考慮することも重要である。また、FFR値が0.80超の狭窄病変に対して、最適薬物療法のみで治療した群で複合イベント発生率が低かった事実は大きな意味を持つ。つまり、心筋虚血を引き起こさない程度の狭窄病変に対して、むやみやたらにPCIを実施すべきではないことを肝に銘じるべきである。本研究は、少なくとも1ヵ所以上の主冠動脈狭窄病変でFFR値が0.80以下である場合について、PCI施行後とりわけ8日以降から追跡終了までの期間で一次複合エンドポイント(とくに緊急血行再建)に関して、PCI+最適薬物療法の併用が最適薬物療法単独よりも優れているとの結果であった。安定狭心症では無用なPCIを行わないよう心がけることを頭に叩き込んでおいてほしい。メモ1.PCIには第2世代の薬物溶出ステントが使用された。2.最適薬物療法は、アスピリン、β遮断薬(メトプロロールほか)、Ca拮抗薬/長時間作用型亜硝酸製剤、RA系阻害薬(リシノプリルほかACE阻害薬、副作用があればARB)、スタチン(アトルバスタチン)、エゼチミブの多剤併用投与を意味していると理解できる。3.クロピドグレルはステントを植え込み群でのみ使用された。4.本研究では最適薬物療法の中に看護ケア、生活習慣の改善は含まれていなかった。5.すべての群で喫煙者は至適禁煙指導を受け、糖尿病を有する患者は専門的至適治療が行われた。

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エキスパートに聞く!「高血圧」Q&A

CareNet.comでは9月の高血圧特集企画を行う中で、会員の先生より「高血圧」に関する質問を募集しました。その中から、特に多くいただいた質問に対し、下澤達雄先生にご回答いただきます。家庭血圧を用いる際の留意点について教えてください。昨年8月に発表された英国の高血圧ガイドラインでは、24時間血圧あるいは家庭血圧を高血圧の確定診断ならびに降圧治療の効果判定に用いることが強く推奨されました。わが国でも家庭血圧測定の指針が高血圧学会より出されており、実臨床でも多くの先生がお使いになっていることが、今回たくさんのご質問をいただいたことからも推察されます。そこで、家庭血圧を用いる際の留意点をいくつか挙げたいと思います。1.信頼性機械そのものの信頼性は診察室で同時に用手法と比較することで確認することができますが、血圧手帳を用いた自己申告による血圧値は必ずしも信頼できません。高知県で行われた調査では実測値と自己申告値には開きがあり、患者は低めに申告することが報告されています。よって、家庭血圧が低い場合でも臓器障害がある場合にはとくに診察室血圧を参考にした降圧治療が必要となります。あるいはメモリー機能をもった家庭血圧計を用い、実測値を医療側が把握できるようにする工夫が必要です。2.家庭血圧の測定方法血圧は複数回測れば必ず異なった値を示します。一般的には数回測ると徐々に低い値となります。高血圧学会の家庭血圧の指針では1日1回でよいと書かれていますが、これはまず患者に家庭血圧を測定させるために簡便な最低限の方法が記載されていると理解しています。すでに家庭血圧を日常的に測定できる患者においては複数回測定し、一番高い値と一番低い値、あるいは平均値を記載してもらうのがいいかと思います。測定時間は服薬直前が望ましいですが、日常生活にあわせてほぼ同じタイミングで測定できる時間を指導しています。3.夜間血圧を反映するか?何がわかるのか?残念ながら夜間血圧は夜間に測定する必要があり、家庭血圧では知ることができません。正しく測定でき、正直に申告された家庭血圧で白衣性高血圧、仮面高血圧がわかることはもちろんですが、曜日による血圧変動(週末ストレスがない場合に血圧が下がる)や睡眠状態との関連を知ることもできます。4.診察室血圧との乖離前述のように白衣性高血圧、仮面高血圧と診断されますが、臓器障害がある場合は高いほうの血圧を目安に治療を行うべきです。血圧変動について教えてください。外来診察毎の血圧変動が大きいと脳血管イベントが多くなることが報告されました。以来、糖尿病の際の血糖の変動が臓器障害と関連づけられています。動物実験でも交感神経を切除して血圧変動を大きくすると、レニン・アンジオテンシン系が亢進して臓器障害が進行することが報告されています。ヒトにおいては長期にわたる一拍ごとの血圧変動をみることは困難であり確立したエビデンスはありませんが、血圧変動は少なくする方が望ましいでしょう。血圧変動が大きい原因として自律神経障害、褐色細胞腫のような器質的な異常のほかに服薬アドヒアランス不良、精神的ストレス、不眠(睡眠時無呼吸)といった要因もあり、医師のみならず看護師、薬剤師などからの患者の病歴、生活歴聴取が必要となります。服薬は管理されているにもかかわらず認知症患者ではとくに血圧変動が大きいことが問題になりますが、多くの場合は多発性脳梗塞を合併している例です。転倒のリスクがなければ認知症の進行、脳梗塞の再発予防を考えて血圧は低い値にコントロールしたいところです。実際には服薬数を増やせないなどの制限があり、合剤を積極的に使ってのコントロールとなります。食塩感受性について教えてください。塩分摂取により血圧が上昇する食塩感受性患者は、上昇しない非感受性患者にくらべ血圧値が同等でも心血管イベントが多いことから、食塩感受性の診断についての質問を多くいただきました。しかし、食塩感受性を診断するには現在のところ入院にて食塩負荷、減塩食を食べさせ、その間の血圧を測定することのほかには確実な方法はないのが現状です。実臨床においては早朝第二尿のナトリウムとクレアチニンを測定することで食塩摂取量を知ることができる(「日本高血圧学会減塩ワーキンググループ報告」日本高血圧学会より入手可能)ので塩分摂取量が多い患者について経時的に観察したり減塩指導の動機付けとして用いることもできます。あるいはサイアザイド系利尿薬に対する血圧反応性も食塩感受性を知る一つの方法です。効果的な減塩指導について教えてください。日本の食文化はみそ、塩、しょうゆの上に成り立っているので、減塩指導はともすれば日本の食文化を否定することにもなりかねません。しかし、現在の一般的食生活を見てみると加工食品がふんだんに使われており、この点を改善指導することで減塩は可能となります。たとえばソーセージ100gに塩は約2g、プロセスチーズでは約3g含まれており、こういった加工食品を減らすことを指導できるでしょう。また、加齢に伴い味覚は低下するため減塩が難しくなります。そこはワサビ、生姜、茗荷、唐辛子、胡椒といったスパイスをうまく使うように指導します。そして、食卓に出された食材に塩、しょうゆを追加でかけないよう、食卓には塩、しょうゆを置かないなどの細かな指導が必要となります。男性患者の場合、食事を実際に作る配偶者への指導も重要で、医師だけでなく看護師、栄養士、薬剤師、検査技師、保健婦など患者に関わるすべての医療従事者の協力体制が有効です。塩分過剰摂取は血圧上昇のみならず血圧が上昇しない場合でも酸化ストレスを増加させ耐糖能異常につながることが動物実験では示されており、摂取量を6g/日程度まで下げることは高血圧の有無にかかわらず有用であると思われます。降圧薬の減量、中止方法について教えてください。血圧のコントロールが良好で、臓器障害がないような場合、また尿中ナトリウムも低めの場合は降圧薬を中止できることもあります。その場合、4~5月位に中止し、夏の暑い間を経過観察し、10~11月から冬の寒い間に血圧が再上昇しないことを確認します。その後も家庭血圧で血圧を経過観察し、年に一回の臓器障害の進展のチェックを行います。多剤併用しており血圧が良好なコントロールの場合、薬剤の減量が可能です。長期にβ遮断薬を使っている場合は心筋虚血のリスクがあるのでβ遮断薬は漸減します。便秘、浮腫、歯肉腫脹、起立性低血圧がある場合はカルシウム拮抗薬の副作用の可能性もあるためカルシウム拮抗薬から減量します。昨今の酷暑ではとくに高齢者や腎機能低下例においては、レニン・アンジオテンシン系抑制剤や利尿薬の減量が必要となる例があります。早朝高血圧の対処方法について教えてください。家庭血圧を測定あるいは24時間血圧にて早朝高血圧が明らかになった場合、最近の研究では夜間高血圧ほどのリスクはないとの報告もありますが、降圧薬の服用時間を調整することでコントロール可能となることがあります。レニン・アンジオテンシン系阻害薬は夕方服用に適した薬剤といえます。ただし、夜間の過度の降圧に注意して少量より開始するのが好ましいでしょう。α遮断薬も有効とする報告もありますが、α遮断薬自体の臓器保護効果が疑問視されており、α遮断薬を追加投与するよりは現在服用しているレニン・アンジオテンシン系阻害薬の服用時間をずらすことが適切と考えます。難治性高血圧の対処方法について教えてください。異なる三系統の降圧薬を十分量を内服しても血圧のコントロールがつかない場合、難治性高血圧と呼ばれます。このような例では服薬アドヒアランス、二次性高血圧の再評価、睡眠時無呼吸の評価をまず行います。服薬アドヒアランスが不良の場合は合剤を用いること、服薬の必要性を再教育すること、服薬想起の道具(ピルボックスなど)が有効といわれており、医師だけでなく薬剤師、看護師、保健婦の協力が必要となります。すでに薬剤を服用している場合、ホルモン検査は薬剤の影響を受けるので評価が難しくなります。実臨床では副腎のCTを先行させてもいいと思います。あるいは十分量の抗アルドステロン薬(スピロノラクトンで75~100mg)を投与し治療的診断を行うことも有用です。腎血管性高血圧についてはMR angiographyが有用でしょう。以上のような精査で問題がない場合、中枢性の降圧薬(レセルピン)を少量朝1回追加することが有用である例を経験しています。あるいはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬をかんきつ類と一緒に服用させる、あるいはヘルベッサーと併用しジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の血中濃度を高めることも有用でしょう。白衣性高血圧の対処方法について教えてください。イギリスのガイドラインでは診察室血圧と24時間血圧、あるいは家庭血圧を用いて高血圧の診断を行い、臓器障害がない場合は白衣性高血圧は薬物介入をせずに年に1回の経過観察をするとしています。24時間血圧を用いて病院来院時のみ高血圧でその他の日常生活の中では全くの正常血圧であり、アルブミン尿も含め臓器障害が認められず、糖尿病などのリスク因子がない場合は薬物介入は必要ないと考えます。しかし、経過観察は必要で、患者には日常生活の中で突然の来客などストレスがかかると血圧が上がっている可能性を話し、徐々に臓器障害が出てくる可能性を説明する必要があるでしょう。白衣性高血圧で患者が薬物介入を希望する場合、抗不安薬も有効です。また、臓器障害がある場合はJSH2009に則って合併する臓器障害に応じて薬物を選択します。その際、心拍数が上昇するといった副作用のない薬物をまず選択します。拡張期血圧の対処方法について教えてください。収縮期血圧が大動脈のコンプライアンスと心拍出量で規定されるのに対し、拡張期血圧は全身の末梢血管抵抗と心拍出量で規定されます。よって高齢者で大血管の硬化が明らかになると収縮期血圧が上昇し脈圧が増大します。心臓の仕事量は収縮期血圧と心拍数の積に比例するため、収縮期血圧が高くなると心筋酸素消費量が増え、心虚血と心不全のリスクが増えます。一方冠動脈は拡張期に灌流されるので、拡張期血圧を下げすぎると、冠血流が低下する危険があります。実際、大規模臨床試験をみても拡張期血圧と心血管イベントにはJカーブに近い現象が認められます。拡張期のみ高い例は若年者に多く認められますが、治療の第一歩は減塩にあります。また個人的経験ですが、10年ほど前にARBが発売された当初、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬にくらべ拡張期血圧がよく下がる印象がありましたが、統計的処理はされていません。また当時は利尿薬の使用頻度が低かったというバイアスもあります。現状では拡張期血圧のみを下げるための有効な治療法は生活習慣の改善のほかには確立されていないといえます。合剤の有用性について教えてください。いかなる服薬介入治療もその効果は服薬アドヒアランスに依存することは明白です。それゆえ、われわれは服薬アドヒアランスをよくする努力は惜しむべきではありません。アドヒアランスに関わる因子は複数ありますが、処方する立場として最も簡便にできることは服薬数を減らすことであり、その点において合剤はきわめて有効といえます。現在降圧薬に限らずぜんそく薬、糖尿病薬、高脂血症薬の合剤が日本でも使用可能ですが、海外の現状をみるとまだまだ立ち遅れています。私は実臨床の中で合剤の併用も行いARBの最大容量を合剤として処方し、3種の薬剤を2錠ですませ、患者の経済的負担も軽減するよう努力しています。

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メインテート錠、慢性心房細動に係る追加適応を申請

 田辺三菱製薬株式会社は13日、選択的β1アンタゴニスト「メインテート錠(一般名:日本薬局方ビソプロロールフマル酸塩錠)」について9月10日に「慢性心房細動」の効能・効果の追加に係る承認事項一部変更を申請したことを発表した。 現在、国内の心房細動の患者は100万人以上と言われ、加齢に伴い有病率が上昇するため、社会の高齢化によって患者数はさらに増加することが予測されている。その治療は、脳塞栓の予防と、症状・QOLの改善に大別されるが、後者においては近年の大規模臨床研究の結果に基づき、β遮断薬による心拍数コントロール療法が注目されているという。 ビソプロロールフマル酸塩は、世界100ヵ国以上で使用されている代表的なβ1遮断薬で、欧州ではNo.1のβ遮断薬として地位を確立している。高いβ1選択性と優れた薬物動態を示し、血圧および心拍数を良好にコントロールする。また、豊富なエビデンスに基づいた心保護効果を有するという。日本国内では、高血圧症、狭心症、不整脈に加え、厚生労働省が進めている医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬の取り組みにより、昨年5月に慢性心不全の効能・効果が追加承認された。さらに、関連学会からの要望を受け、同社は昨年より慢性心房細動を適応症として同剤の開発を進め、このたび追加承認申請を行った。詳細はプレスリリースへhttp://www.mt-pharma.co.jp/shared/show.php?url=../release/nr/2012/MTPC120913_M.html

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3剤の降圧薬を処方しても降圧できないときの4剤目、5剤目

 利尿薬を含めた3剤併用によっても降圧目標に至らないケースは、わが国の実地医科における報告でも13%、ハイリスク例を数多く含み、プロトコルが順守される大規模臨床試験においてはその割合は30〜50%にまで上る。わが国で最も多く処方されている3剤併用療法は、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬であるが、これら3剤を併用しても目標血圧に到達しない場合の次の処方を選択するエビデンスはほとんど見当たらない。 フランスで行われたオープン無作為化比較試験の結果によると、これら3剤に、4剤目としてアルドステロン拮抗薬、5剤目としてループ利尿薬を追加していく治療計画は、4剤目としてACE阻害薬、5剤目としてβ遮断薬を追加していく治療計画より有意に収縮期血圧を低下させた。この結果はJorunal of Hypertension誌8月号に発表された。 ARB、Ca拮抗薬、利尿薬の3剤併用によってもABPMで評価した昼間血圧が135/85mmHg未満に到達しない治療抵抗性高血圧患者167名が、下記の2つのグループに無作為化割り付けられた。2種の治療は、12週後のABPMで測定した昼間収縮期血圧が主要評価項目として検証された。順次的ネフロン遮断群 (n=85) 4剤目:アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン)25mg/日を追加 4週目未達の場合、5剤目:ループ利尿薬(フロセミド)20mg/日を追加 8週目未達の場合、フロセミドを40mg/日に増量 10週目未達の場合、6剤目:カリウム保持性利尿薬(アミロライド)5mg/日を追加順次的レニン・アンジオテンシン(RA)系遮断群 (n=82) 4剤目:ACE阻害薬(ラミプリル)5mg/日を追加 4週目未達の場合、ラミプリルを10mg/日に増量 8週目未達の場合、5剤目:β遮断薬ビソプロロールを5mg/日を追加 10週目未達の場合、ビソプロロール10mg/日に増量主な結果は下記のとおり。(1) 順次ネフロン遮断群で、順次RA系遮断群より昼間収縮期血圧を10mmHg低く降圧した  (P

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薬剤師主導の介入により、プライマリ・ケアでの投薬過誤が低減

薬剤師の主導による情報技術ベースの介入により、プライマリ・ケアにおける投薬過誤が有意に低減することが、英国・ノッティンガム大学プライマリ・ケア科のAnthony J Avery氏らが実施したPINCER試験で示された。専門医の領域では、投薬の意志決定のサポートや医師の処方オーダーが電子化されるなど、投薬過誤防止における大きな進展がみられるが、プライマリ・ケアの現場では投薬の過誤が生じており、患者に重大な被害をもたらす場合がある。投薬過誤を抑制する有望な方法として、薬剤師主導の介入の有用性が示唆されているという。Lancet誌2012年4月7日号(オンライン版2012年2月21日号)掲載の報告。薬剤師主導の介入の有用性をクラスター無作為化試験で評価PINCER試験は、プライマリ・ケアにおける有害な薬剤処方のリスクの低減を目的に、薬剤師の主導による情報技術ベースの介入(PINCER)の有用性を評価する実践的なクラスター無作為化試験。登録されたプライマリ・ケア施設は、ベースラインのデータ収集後に電子化された投薬過誤のリスクのフィードバックのみを行う群(対照群)あるいはフィードバックに加えPINCERを行う群(PINCER群)に割り付けられた。PINCERでは、薬剤師の主催で、治療チームのメンバー(医師、看護師、管理者、受付)が電子化された投薬過誤情報のフィードバックについて検討する会議が開かれた。プライマリ・ケア医、患者、薬剤師、研究者、統計学者には割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、介入後6ヵ月の時点で、次の3つの臨床的に重大な過誤のいずれかが起きた患者の割合とした。1)消化性潰瘍の既往歴のある患者に、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用せずに非選択的非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を処方、2)喘息の既往歴のある患者にβ遮断薬を処方、3)75歳以上の患者に、投薬前15ヵ月間の腎機能や電解質の評価をせずに、長期的にACE阻害薬やループ利尿薬を処方。いずれの投薬過誤も有意に改善2006年7月11日~2007年8月8日までに英国の72のプライマリ・ケア施設が登録され、48万942人の患者が解析の対象となった。フォローアップ期間6ヵ月の時点で、消化性潰瘍の既往歴のある患者に対する胃保護なしの非選択的NSAIDの処方は、PINCER群で有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.38~0.89)。喘息患者へのβ遮断薬の処方(OR:0.73、95%CI:0.58~0.91)、75歳以上の患者への適切なモニタリングなしのACE阻害薬、ループ利尿薬の長期投与(OR:0.51、95%CI:0.34~0.78)も、PINCER群で有意に低下していた。6ヵ月の時点で1つの投薬過誤の回避に対する最高支払意思額が75ポンドの場合、PINCERは費用効果があることが示された。著者は、「PINCERは、診療記録が電子化されたプライマリ・ケア施設において、投薬過誤を低減する方法として有効である」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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重症型急性アルコール性肝炎に対するプレドニゾロン+N-アセチルシステイン併用療法

 死亡率が高い重症型急性アルコール性肝炎について、プレドニゾロン+N-アセチルシステイン併用療法が生存率を改善するかについて検討した試験が行われた。結果、1ヵ月生存率は上昇したが、主要転帰とした6ヵ月生存率は改善されなかったという。フランス・Picardy大学のEric Nguyen-Khac氏らが、174例を対象とした無作為化試験の結果、報告した。同疾患患者の死亡率は、グルココルチコイド治療を行っても6ヵ月以内の死亡率が35%と高い。NEJM誌2011年11月10日号掲載報告より。プレドニゾロン単独療法と、+N-アセチルシステイン併用療法とを比較 Nguyen-Khac氏らAAH-NAC(Acute Alcoholic Hepatitis–N-Acetylcysteine)研究グループは、2004~2009年にフランスの11大学病院に重症型急性アルコール性肝炎で入院した患者174例を対象に試験を行った。 被験者は無作為に、プレドニゾロン+N-アセチルシステイン併用療法を受ける群(85例)とプレドニゾロン単独療法を受ける群(89例)に無作為に割り付けられた。被験者は全員4週間にわたってプレドニゾロン40mg/日の経口投与を受け、そのうち併用群は最初の5日間にN-アセチルシステイン静注を受けた。同投与量は、1日目は150mg/kg体重を5%ブドウ糖液250mLに溶解したものを30分間、50mg/kgを同500mLに溶解したものを4時間、100mg/kgを同1,000mLに溶解したものを16時間かけて投与。2~5日目は、1日当たり100mg/kgを同1,000mLに溶解したものを投与した。 単独群はその間、5%ブドウ糖液1,000mLのみが投与された。試験中、腹水治療のための利尿薬投与などや門脈圧亢進症のためのβ遮断薬の使用は認められた。飲酒癖は本人任せであった。アセトアミノフェン、ペントキシフィリン、抗TNF-αの使用は禁止された。全患者は標準病院食(1日1,800~2,000kcal)を受けた。主要転帰6ヵ月生存、併用群のほうが低かったが有意差は認められず 主要転帰は6ヵ月での生存とした。結果、併用群(27%)のほうが単独群(38%)よりも低かったが有意ではなかった(P=0.07)。 副次転帰は、1ヵ月、3ヵ月の生存、肝炎の合併症、N-アセチルシステイン使用による有害事象、7~14日のビリルビン値の変化などであった。結果、1ヵ月時点の死亡率は併用群(8%)のほうが単独群(24%)よりも有意に低かったが(P=0.006)、3ヵ月時点では有意差は認められなくなっていた(22%対34%、P=0.06)。6ヵ月時点の肝腎症候群による死亡は、併用群(9%)のほうが単独群(22%)よりも低かった(P=0.02)。 多変量解析の結果、6ヵ月生存に関連する因子は、「年齢がより若いこと」「プロトロンビン時間がより短いこと」「基線のビリルビン値がより低いこと」「14日時点でのビリルビン値低下」であった(いずれもP<0.001)。 感染症は、単独群よりも併用群で頻度が高かった(P=0.001)。その他副作用は両群で同等であった。

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COPDの標準治療へのβ遮断薬追加の有用性が明らかに

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療において、β遮断薬を標準的な段階的吸入薬治療に追加すると、全死因死亡、急性増悪、入院のリスクが改善されることが、イギリス・Dundee大学のPhilip M Short氏らの検討で示された。β遮断薬は、心血管疾患に対する明確なベネフィットが確立されているが、COPDを併発する患者では、気管支攣縮の誘導や吸入β2刺激薬の気管支拡張作用の阻害を理由に使用されていない。一方、β遮断薬がCOPD患者の死亡や増悪を抑制する可能性を示唆する報告があるが、標準的なCOPD治療薬との併用効果を検討した研究はないという。BMJ誌2011年5月14日号(オンライン版2011年5月10日号)掲載の報告。β遮断薬の上乗せ効果を評価する後ろ向きコホート試験研究グループは、COPD管理におけるβ遮断薬の意義を評価するために、標準治療+β遮断薬の効果を検討する後ろ向きコホート試験を実施した。スコットランド、テーサイド州の呼吸器疾患データベースであるTayside Respiratory Disease Information System(TARDIS)を検索して、2001年1月~2010年1月までにCOPDと診断された50歳以上の患者5,977例を抽出した。Cox比例ハザード回帰分析にて、全死因死亡、経口副腎皮質ステロイド薬の緊急投与、呼吸器関連入院のハザード比を算出した。全死因死亡率が有意に22%低下平均フォローアップ期間は4.35年、男性3,048例/女性2,929例、診断時の平均年齢は69.1歳、使用されたβ遮断薬の88%が心臓選択性であった。β遮断薬の追加によって全死因死亡率が22%低下した(ハザード比:0.78、95%信頼区間:0.67~0.92)。β遮断薬追加が全死因死亡にもたらすベネフィットは、治療の全段階で認められた。対照群(1,180例、短時間作用性吸入β2刺激薬、短時間作用性吸入抗コリン薬のいずれか一方のみで治療)との比較における全死因死亡率の調整ハザード比は、吸入ステロイド薬(ICS)+長時間作用性β2刺激薬(LABA)+長時間作用性抗コリン薬チオトロピウム(Tio)併用治療では0.43(95%信頼区間:0.38~0.48)、これにβ遮断薬を追加した場合は0.28(同:0.21~0.39)であり、いずれも有意に改善されたが、ICS+LABA+Tio+β遮断薬併用治療のほうがより良好であった。急性増悪時の経口ステロイド薬の緊急投与および呼吸器関連入院の低減効果についても、全死因死亡と同様の傾向がみられ、β遮断薬追加のベネフィットが示された。長時間作用性気管支拡張薬や吸入ステロイド薬にβ遮断薬を併用しても、肺機能に対する有害な影響は認めなかった。著者は、「β遮断薬は、COPDの確立された段階的吸入薬治療と併用することで、併存する心血管疾患や心臓病薬との相互作用を起こさずに、かつ肺機能へ有害な影響を及ぼすことなく、死亡や増悪を低下させる可能性がある」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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