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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?【見落とさない!がんの心毒性】第15回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別50代・女性主訴動悸、労作時息切れ現病歴約10年前に健診で不整脈を指摘されていた。2ヵ月前に労作時息切れが出現し、慢性心不全と診断された。カルベジロールを開始すると心不全症状の改善を認めた。1ヵ月前に汎血球減少が出現し精査が行われ、急性前骨髄性白血病(APL)と診断された。化学療法前の心エコーでは左室拡張末期径64mm、左室駆出率53%、軽度僧帽弁閉鎖不全症を認めた。イダルビシン(48mg/m2)、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)投与による寛解導入療法が施行され、治療開始後6週目に寛解となった。続いて、ダウノルビシン(100mg/m2)、ATRA投与による地固め療法が1コース施行された後、動悸、労作時息切れが出現し、心電図で心室期外収縮(PVC:premature ventricular contraction)頻発、心エコーで左室収縮能低下を認め、精査加療のため入院となった。現症血圧 90/52mmHg、脈拍数 70bpm 不整、SpO2 98%(酸素投与なし)、結膜貧血なし、頚静脈怒張なし、心音I音減弱、III音あり、心雑音なし、呼吸音清、下腿浮腫なし採血BNP 570.7pg/mL胸部X線CTR 57%、肺うっ血なし、胸水なし心電図洞調律、II・III・aVF・V4-6誘導でST低下・平坦〜陰性T波、PVC頻発(左脚ブロック型・正常軸、右脚ブロック型・右軸偏位の2種類)(図1上)心エコーびまん性左室壁運動低下 (左室拡張末期径/収縮末期径 66/56 mm、左室駆出率 28%)、中等度僧帽弁閉鎖不全症、肺高血圧症疑い (三尖弁圧較差 39 mmHg、下大静脈径 13 mm、呼吸性変動良好)ホルター心電図総心拍数12万6,988拍/日、心室期外収縮(PVC)4万8,780拍/日 (総心拍数の38%、うち最多波形20%、2番目に多い波形18%、最長12連発)、上室期外収縮22拍/日 (総心拍数の0.1%未満)(図1下)(図1)画像を拡大する画像を拡大する上)12誘導心電図における2種類のPVC。赤枠:左脚ブロック型・正常軸、青枠:右脚ブロック型・右軸偏位下)ホルター心電図におけるPVCのパターン。赤枠と青枠はそれぞれ12誘導心電図におけるPVCに一致する。【問題】今後の治療に関する下記の選択肢について、正しいものはどれか?a. β遮断薬を減量する。b. ATRAを中止する。c. アントラサイクリンを減量し継続する。d. 血清K+4.0mEq/L以下を目標に調整する。e. PVCに対しカテーテルアブレーションを施行する。1)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022 Aug 26.[Epub ahead of print]2)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン3)Fonarow GC, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;52:190-199.4)Buza V, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2017;10:e005443.5)Montesinos P, et al. Blood. 2009;113:775-783.6)Dubois C, et al. Blood. 1994;83:3264-3270.7)Lacasse Y, et al. Can J Cardiol. 1992;8:53-56.8)Kishi S, et al. Int J Hematol. 2000;71:172-179.9)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2018年改訂版 不整脈非薬物治療ガイドライン講師紹介

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心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】第1回

第1回 心不全の分類とそれぞれの治療法UpdateKey Points心不全の分類として、まずはStage分類とLVEFによる分類を理解しよう心不全発症予防(Stage Aからの早期介入)の重要性を理解しようRAS阻害薬/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の偉大さを理解しようはじめに心不全の国際定義(universal definition)が日米欧の3つの心不全学会から昨年合同で提唱され、「器質的または機能的な心臓の異常を原因とする症候を呈し、Na利尿ペプチド上昇または肺・体うっ血の客観的エビデンスが認められる臨床症候群」とされた1)(図1)。また心不全のStage分類もそれぞれAt-risk for HF(Stage A)、Pre-HF(Stage B)、HF(Stage C)、Advanced HF(Stage D)と分かりやすく表現された(図1)。この心不全の予防、治療を理解する上で役立つ心不全の分類について、本稿では考えてみたい。画像を拡大する予防と治療を意識した心不全の分類まず覚えておくべき分類が、上記で記載した心不全Stage分類である(図1)。この分類は適切な治療介入を早期から行うことを目的にされており、とくにStage Aの段階からさらなるStage進展予防(心不全発症予防)を意識して、高血圧などのリスク因子に対する積極的な介入を行うことが極めて重要となる2)。次に、一番シンプルで有名な治療に関わる分類が、検査施行時の左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類で、HFrEF(LVEF<40%、HF with reduced EF)、HFmrEF(LVEF 40~49%、HF with mildly reduced EF)、HFpEF(LVEF≧50%、HF with preserved EF)に分類される(図1)。またLVEFは経時的に変化し得るということも忘れてはならない。とくにLVEFが40%未満であった患者が治療経過で40%以上に改善した患者群は予後が良く、これをHFimpEF (HF with improved EF)と呼ぶ3)。つまり、同じLVEF40%台でも、HFimpHFは、LVEFの改善がないHFmrEFとは生物学的にも臨床的にも同義ではないのである4)。そもそもLVEFとは…と語りたいところではあるが、字数が足りずまたの機会とする。慢性心不全治療のエッセンス慢性心不全治療は大きく2つに分類される。1つはうっ血治療、もう1つは予後改善のための治療である。まず、うっ血に対しては利尿薬が必要不可欠であるが、ループ利尿薬は慢性心不全患者において神経体液性因子を活性化させる5)など予後不良因子の1つでもあり、うっ血の程度をマルチモダリティで適正に評価し、利尿薬はできる限り減らす努力が重要である6)。次に予後改善のための治療について考えていく。1. HFrEFに対する治療生命予後改善効果が示されている治療法の多くは、HFrEFに対するものであり、それには深い歴史がある。1984年に発表された慢性心不全に対するエナラプリルの有効性を検証した無作為化比較試験(RCT)を皮切りに、その後30年以上をかけて数多くのRCTが行われ(図2)、現在のエビデンスが構築された(図3)7-9)。偉大な先人達へ心からの敬意を表しつつ、詳細を説明していく。画像を拡大する画像を拡大するまず、すべてのHFrEF患者に対して生命予後改善効果が証明されている薬剤は、ACE阻害薬/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬である(図3)。とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は、米国の映画に擬えて“the Fantastic Four”と呼ばれるようになって久しい10)。この4剤はすべて投与後早期から心不全入院抑制効果があるため、診断後早期に開始すべき薬剤である。また、一見安定しているように見える慢性心不全患者でも突然死が少なくないことをご存知だろうか11,12)。この“Fantastic Four”すべてに突然死予防効果もあり、症状がごく軽度(NYHA IIs)であってもぜひ積極的に投与を検討いただきたい13)。そして、この4剤を基本に、うっ血、心房細動、鉄欠乏、虚血、弁膜症の有無、QRS幅、心拍数に合わせて、さらなる治療を検討していくこととなる(図3)。2. HFmrEFに対する治療HFmrEFの発症機序や治療法に関する知識は、まだ完全に解明されているとはいえないが、現時点では、HFrEFにおいて予後改善効果のある4剤がHFmrEFにもある程度の効果を示すことから、この4剤を投与するという姿勢で良いと考えられる14-19)。では、LVEFがどれくらいまでこの4剤の効果が期待されるのか。HFmrEF/HFpEFを含めた慢性心不全に対するARB/ARNI、β遮断薬、MRAの有効性を検証したRCTの結果からは、LVEFが55%くらいまでは予後改善効果が期待される20)(図4)。つまり、左室収縮障害が少しでも伴えば、神経体液性因子が心不全の病態形成に重要な役割を果たしているものと考えられ、これらの薬剤が有用なのであろう。なお、SGLT2阻害薬においては、最近発表されたEmpagliflozinのLVEF>40%の慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Preserved試験の結果、心血管死または心不全入院の複合リスク(主に心不全による入院リスク)を有意に低下させることが報告された。ただし、LVEFが65%を超えるとその効果は認めなかった19)(図4)。画像を拡大する3. HFpEFに対する治療HFpEFは、2000年代前半までは「拡張期心不全」と呼ばれ、小さな左心室に著しい左心室肥大があり、拡張機能不全が主要な病態生理学的異常であると考えられていた。しかし、2000年代初頭からHFpEFはより複雑で複数の病態生理を持ち、多臓器の機能障害があることが明らかになってきた。現在HFpEFは、高血圧性リモデリング、心室・血管の硬化、肥満、代謝ストレス、加齢、座りがちな生活習慣などが関与する多面的な多臓器疾患であり、その結果として心臓、血管、および骨格筋の予備能低下につながると考えられている21)。このことからHFpEFの治療法が一筋縄では行かないことは容易に想像できるであろう。実際、本邦の心不全ガイドラインにおいても、うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療しか明記されていない3)。ただ最新のACC/AHAガイドラインでは、上記EMPEROR-Preserved試験の結果も含めSGLT2阻害薬が推奨クラスIIa、ARNI、MRA、ARBが推奨クラスIIbとなっている2)。ARNI、MRA、ARBについては「LVEFが50%に近い患者でより大きな効果が期待できる」との文言付であり、その背景は上記で説明した通りである20)。よって、今後はこの潜在性左室収縮障害をいかに早期にわれわれが認識できるかが鍵となるであろう。以上の通り、HFpEFに対してはまだ確立した治療法がなく、この複雑な症候群であるHFpEFを比較的均一なサブグループに分類するPhenotypingが今後のHFpEF治療の鍵であり、これについては今後さらに深堀していく予定である。1)Bozkurt B,et al. J Card Fail. 2021 Mar 1:S1071-9164. 00050-6.2)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.3)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019 Sep 25;83:2084-2184.4)Wilcox JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76:719-734.5)Bayliss J, et al. Br Heart J. 1987 Jan;57:17-22.6)Mullens W,et al. Eur J Heart Fail. 2019 Feb;21:137-155.7)Sharpe DN, et al. Circulation. 1984 Aug;70:271-8.8)Sharma A,et al. JACC Basic Transl Sci. 2022 Mar 2;7:504-517.9)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42:3599-3726.10)Bauersachs J. et al. Eur Heart J. 2021 Feb 11;42:681-683.11)Lancet.1999 Jun 12;353:2001-7.12)Kitai T, et al. JAMA Netw Open. 2020 May 1;3:e204296.13)Varshney AS, et al. Eur J Heart Fail. 2022 Mar;24:562-564.14)Vaduganathan M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2356-2362.15)Solomon SD, et al. Circulation. 2020 Feb 4;141:352-361.16)Solomon SD, et al. Eur Heart J. 2016 Feb 1;37:455-62.17)Cleland JGF, et al. Eur Heart J. 2018 Jan 1;39:26-35.18)Lund LH, et al. Eur J Heart Fail. 2018 Aug;20:1230-1239.19)Butler J, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 3;43:416-426.20)Böhm M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2363-2365.21)Shah SJ. J Cardiovasc Transl Res. 2017 Jun;10:233-244.

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血圧コントロールのため慢性心不全治療の見直しを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第47回

 今回は、心不全患者の降圧薬の処方提案について紹介します。高血圧が理由でデイサービスの利用に影響が生じた場合は降圧だけに着目しがちですが、慢性心不全の標準治療薬を見直して心不全そのものをコントロールすることで、血圧やうっ血などの改善も兼ねられます。患者情報70歳、女性(グループホーム入居)基礎疾患慢性心不全(HFrEF)、心房細動、狭心症、高血圧服薬管理施設管理処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.ジゴキシン錠0.125mg 1錠 朝食後3.ランソプラゾール口腔内崩壊錠15mg 1錠 朝食後4.カンデサルタン錠4mg 1錠 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 朝食後6.アトルバスタチン錠5mg 1錠 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 1錠 朝食後8.スピロノラクトン錠25mg 1錠 朝食後本症例のポイントこの患者さんは、最近は収縮期血圧が170~180台と高値が持続するようになり、下腿浮腫も増強したことからフロセミド錠20mgが開始となりました。下腿浮腫は軽減しましたが、血圧は高値で横ばいの状態が続き、デイサービスの利用や入浴の制限などがかかったことから、施設スタッフより医師に降圧薬追加の依頼がありました。そこで、医師よりCa拮抗薬を追加しようと思っているがどの薬がいいか、と相談がありました。確かに血圧だけを下げるのであればCa拮抗薬が妥当ですが、現在の患者さんの状態や治療薬などから、ほかの薬剤でうまくコントロールできないか検討することにしました。まず、基礎疾患とその治療をみると、HFrEFの治療として標準治療薬であるARBのカンデサルタン、β遮断薬のカルベジロール、MR拮抗薬のスピロノラクトンを服用しています。また、下腿のうっ血治療として直近でフロセミド錠が追加されています。現行の薬剤の増量やCa拮抗薬の追加によって降圧を図るという方法もありますが、うっ血症状が最近現れるようになったことから心不全治療薬の再考も選択肢となります。「2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」の治療アルゴリズムのとおり、ARBからARNIへ基本薬の変更を行うことは、血圧のコントロールに加え、心不全の管理としても有効ではないかと考えました。処方提案と経過医師に、「Ca拮抗薬の追加も選択肢の1つですが、降圧とともにうっ血症状の管理が必要なため、心不全管理の観点からカンデサルタンをARNIのサクビトリルバルサルタンに変更してみるのはどうですか」と提案しました。心不全診療ガイドラインの改訂についてはPDFファイルでその場で医師と共有してARNIの位置づけを再確認し、提案内容で2週間様子をみようと承諾を得ることができました。翌日の朝よりカンデサルタンからサクビトリルバルサルタン100mg 朝食後に切り替えとなり、開始4日目から血圧は130/80台で安定するようになりました。その後も過度に血圧が下がることはなく、下腿浮腫の増悪や体重増加もなく経過は安定しています。日本循環器学会 / 日本心不全学会.2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版

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甲状腺クリーゼ〔Thyrotoxic storm or crisis〕

1 疾患概要■ 概念・定義甲状腺クリーゼ(Thyrotoxic storm or crisis)とは、甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これに何らかの強いストレスが加わったときに、甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果、生命の危機に直面した緊急治療を要する病態をいう。■ 疫学甲状腺クリーゼはまれな病態で、入院した甲状腺中毒症の1~2%を超えないと言われている。日本甲状腺学会と日本内分泌学会の共同委員会(赤水班)による2009年の全国調査では、わが国での発生率は入院患者10万人あたり0.2人であり、推計患者数は確実例が約150人/年、疑い例が約40人/年と算出された。致死率は約11%である。■ 病因病因は不明であり、クリーゼの発症は必ずしも甲状腺ホルモンの血中濃度によらない。急激な甲状腺ホルモンの放出や、交感神経系の活性化、重症疾患でみられる甲状腺ホルモンの感受性上昇や蛋白結合能の低下などの関与が考えられている。甲状腺疾患としてバセドウ病が最も頻度が高いが、機能性甲状腺腫瘍、アイソトープ治療、甲状腺手術、破壊性甲状腺疾患などでも報告されている。甲状腺外の誘因としては、感染症、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、虚血性心疾患、ヨード系造影剤の投与、強いストレスなど多岐にわたる。■ 症状甲状腺クリーゼでは複数臓器の機能不全が起きるが、代表的な症状は以下の通りである。1)甲状腺腫バセドウ病ではびまん性腫大を示すことが多く、結節性の甲状腺機能亢進症では、結節を触知することがある。亜急性甲状腺炎では局所の圧痛を示す。2)中枢神経症状甲状腺クリーゼの中心的な症状であり、意識障害、不穏、譫妄、精神異常、傾眠、痙攣、昏睡がある。3)発熱基礎代謝亢進にともない、発熱(38℃以上)とともに多汗を生じる。4)循環器症状高度の頻脈、心房細動、心不全症状、ショックを起こすことがある。5)消化器症状腸管蠕動運動亢進による下痢、嘔気・嘔吐、肝障害に伴う黄疸を示すことがある。また、肝機能不全による肝障害・黄疸を呈することがある。■ 予後現在においても致死率は高く、10~75%と言われていたが、わが国での全国疫学調査の結果では致死率10%以上であった。死因は、多臓器不全、腎不全、呼吸不全などで、また不可逆的な神経学的障害が残存することもある。予後規定因子として、ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全があり、入院時に重症度に応じて予後が不良となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)甲状腺クリーゼの診断には、古くからのBurch-Wartofskyの診断スコアが使用されてきたが、必ずしも科学的エビデンスに裏付けされたものではなかった。より一層科学的根拠に基づく診断基準を求めて、わが国では、赤水らによる甲状腺クリーゼの診断基準が策定された。必須項目は甲状腺中毒症の存在であり、(1)中枢神経症状、(2)発熱、(3)頻脈、(4)心不全症状、(5)消化器症状の5項目が主要な症状・症候として選択された(表1)。表1 甲状腺クリーゼの診断基準画像を拡大する甲状腺中毒症の存在下に、「中枢神経症状+他の症状項目が1つ以上あるもの」か、「中枢神経症状以外の症状項目が3つ以上あるもの」を、甲状腺クリーゼ確実例とする。中枢神経症状以外の症状項目2つ、または夜間・休日など甲状腺中毒症が確認できない状況下で、甲状腺疾患の既往、眼球突出、甲状腺腫の存在があり、確実例の条件を示す者を疑い例とする。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)診断基準の確定の後、甲状腺クリーゼの予後改善を目指して、診療ガイドライン2017年版が作成された。甲状腺クリーゼと診断された場合、二次ABCDE評価(Airway, Breathing, Circulation, Dysfunction of central nervous system, and Exposure & environmental control)を行ない、Acute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアに基づき集中治療の要否を判断する。冷却・解熱剤の投与とともに抗甲状腺薬、無機ヨードならびに副腎皮質ステロイドを開始する(図)。また、APACHEIIスコア9以上では集中治療室(ICU)での管理が勧められる。図 甲状腺クリーゼ治療のアルゴリズム画像を拡大する甲状腺クリーゼに至った誘因の除去を行い、感染症などの合併に関しては個別に治療を行なう。中枢神経症状に対する治療は精神科救急医療ガイドラインなどに準じて行うが、器質的疾患(脳血管障害・髄膜炎・代謝異常・中毒など)がクリーゼの誘因となりうるので鑑別診断を必ず行う。心拍数150/分以上の洞性頻脈や頻拍性心房細動を認める場合、β1選択性短時間作動型β遮断薬やジギタリス製剤で心拍数を管理し、必要に応じて電気的除細動も考慮する(表2)。表2 甲状腺クリーゼの各々の病態に対する治療の概要画像を拡大するその他、うっ血性心不全、急性肝不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性腎不全、横紋筋融解症、成人型呼吸促拍症候群(ARDS)などがみられる場合があり、予後不良となるので、各々の病態に応じた集学的治療が必要とされる。甲状腺クリーゼにおける治療的血漿交換の絶対的適応は、急性肝不全合併例で、相対的適応はクリーゼに対する治療開始24~48時間後においてもコントロール不能の甲状腺中毒症である。APACHEIIスコアならびにSOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment)スコアが予後と関連する。4 今後の展望今回のガイドライン作成にあたり、国内の多くの施設に症例報告収集の支援をいただいたが、ガイドライン発行後、治療の方法ならびに生存率なども変化しているため、現在日本甲状腺学会により前向きの全国調査が行われている。5 主たる診療科内分泌・代謝内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会 甲状腺クリーゼ(一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター 甲状腺中毒クリーゼ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)(医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017年版Digest版(医療従事者向けのまとまった情報)1)Akamizu T, et al. Thyroid. 2012;22:661-679.2)Burch HB, et al. Endocrinol Metab Clin North Am. 1993;22:263-277.3)Isozaki O, et al. Clin Endocrinol(Oxf). 2016;84: 912-918.4)Satoh T, et al. Endocr J. 2016;63:1025-1064.5)日本甲状腺学会・日本内分泌学会. 甲状腺クリーゼガイドライン2017.南江堂,2017.公開履歴初回2022年5月26日

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2型DMの新規発症リスクを低下・増加させる降圧薬は?/Lancet

 降圧治療は2型糖尿病の新規発症予防に効果的な戦略であるが、その効果は降圧薬のクラスにより異なっており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で良好な結果が得られることが、英国・オックスフォード大学のMilad Nazarzadeh氏らBlood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration(BPLTTC)のメタ解析で示された。降圧治療は、糖尿病の細小血管および大血管合併症を予防する戦略として確立されているが、糖尿病そのものの予防に寄与するかは不明であった。著者は、「降圧薬のクラスによる差はおそらくオフターゲット作用の違いによるものと考えられる。今回のエビデンスは、糖尿病発症予防のために降圧薬のクラスを選択する必要があることを支持するものであり、個々の臨床的な糖尿病リスクに応じた薬剤選択の改善に結び付くだろう」と述べている。Lancet誌2021年11月13日号掲載の報告。RCT 19件・約14万6千例をメタ解析 BPLTTC研究グループは、降圧治療が新規2型糖尿病の発症リスクに及ぼす影響を評価するとともに、5つの主要なクラスの降圧薬の新規2型糖尿病発症リスクに対する効果の違いを検討する目的で、無作為化試験の参加者個々のデータを用い、1段階法によるメタ解析ならびにネットワークメタ解析を行った。 対象は、1次予防および2次予防の効果について特定クラスの降圧薬とプラセボまたは他のクラスの降圧薬との比較を行い、各群1,000人年以上追跡した無作為化比較試験とした。ベースラインにおいて糖尿病と診断されている患者、および糖尿病既往の患者を対象とした試験はすべて除外した。 1段階法による個人データのメタ解析は層別Cox比例ハザードモデルを、個人データのネットワークメタ解析はロジスティック回帰モデルを用い、薬剤クラスの比較に関して相対リスク(RR)を算出した。 全体では、1973~2008年に実施された22件の臨床試験のデータが解析対象となった。1段階法による個人データのメタ解析には、このうち19件の無作為化比較試験から得られた14万5,939例(男性8万8,500例[60.6%]、女性5万7,429例[39.4%])が組み込まれ、個人データのネットワークメタ解析には全22試験が組み込まれた。全体では収縮期血圧5mmHg低下で2型DMの発症リスクが11%低下 追跡期間中央値4.5年(IQR:2.0)において、9,883例が新たに2型糖尿病と診断された。収縮期血圧が5mmHg低下した場合、追跡期間中の2型糖尿病の発症リスクは、全体で11%低下した(ハザード比:0.89、95%信頼区間[CI]:0.84~0.95)。 5つの主要なクラスの降圧薬の効果に関する検討では、プラセボと比較してACEI(RR:0.84、95%CI:0.76~0.93)、ARB(0.84、0.76~0.92)は、2型糖尿病の新規発症リスクを減少することが示された。一方、β遮断薬(1.48、1.27~1.72)、およびサイアザイド系利尿薬(1.20、1.07~1.35)は2型糖尿病の新規発症リスクを増加することが示され、カルシウム拮抗薬(1.02、0.92~1.13)についてはマテリアルな影響が見つからなかった。

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甲状腺ホルモン不応症〔RTH:Syndrome of Resistance to Thyroid Hormone〕

1 疾患概要■ 定義甲状腺ホルモン不応症は、甲状腺ホルモンに対する標的臓器の反応性が減弱している家族性症候群として、1967年にRefetoffらによって初めて報告された。そのため、かつては「レフェトフ症候群」という名称が一般的であった。本疾患における甲状腺ホルモンに対する反応性の低下は、甲状腺ホルモン受容体を介した作用の低下が主な原因である。甲状腺ホルモン受容体はα型とβ型の二つがあるが、本疾患は先天性・家族性のβ型甲状腺ホルモン受容体異常症である。■ 疫学わが国と米国で別個に行われたスクリーニング調査の結果、いずれの調査でも、甲状腺ホルモン不応症の発症頻度は約40,000人に1人と推定された。もし、この数字をそのまま日本の総人口に当てはめると、わが国には約3,000人の症例が存在することになる。しかし、わが国でこれまでに報告されているのは100例程度で、現状では大部分の症例がきちんと診断されていないという可能性もある。■ 病因本疾患は常染色体顕性(優性)遺伝形式の先天性・家族性疾患であり、50%の確率で遺伝する。甲状腺ホルモン不応症家系の約85%にβ型受容体遺伝子変異が認められる。残りの約15%の家系も同様の遺伝形式となり、その病因は明らかではないが、遺伝子変異を伴う家系と変異が認められない家系との臨床症状は区別がつかないことから、何らかの原因でβ型受容体の機能が障害され発症するものと考えられている。β型甲状腺ホルモン受容体は視床下部・下垂体におけるネガティブフィードバック機構を制御しており、甲状腺ホルモンが多くなると、甲状腺刺激ホルモン(TSH)およびTSH放出ホルモン(TRH)の産生を抑制して、甲状腺ホルモンが過剰になるのを防いでいる。そのため、本疾患では、フィードバック機構が障害され、甲状腺ホルモン高値にもかかわらずTSH値が抑制されない「不適切TSH分泌症候群」(syndrome of inappropriate secretion of TSH:SITSH)となる。■ 症状前述のSITSHにより高値となった甲状腺ホルモンに対する反応性の程度によって、甲状腺機能亢進症症状から低下症の症状まで症例によって多様である。各臓器では変異のないα型およびβ型甲状腺ホルモン受容体がさまざまな程度で発現しており、その作用を変異β型受容体がさまざまな程度で阻害するため、ホルモンに対する反応性は各臓器および個体で異なる。このことが症状の多様性の大きな理由の一つと考えられる。甲状腺ホルモンに対する反応性の減弱が過剰な甲状腺ホルモンにより代償された状態となるため、結果としてほとんど自覚症状がない症例や軽度の頻脈のみを呈する症例が多い。ただし、甲状腺機能亢進症症状が強く注意欠如・多動症や著しい頻脈を示す症例や、先天性甲状腺機能低下症の症状である知能発達遅延や低身長、難聴などを伴う症例も存在する。一方、甲状腺腫大は、TSHによる刺激が原因で生じる所見であり、比較的頻度が高い。■ 分類かつては、甲状腺機能亢進症症状が強い症例を下垂体型、その他の症例を全身型と分類していたが、現在ではあまり用いられていない。■ 予後一般的に生命予後は健常人と変わらないとされているが、そのエビデンスは確立されていない。女性症例が変異を持たない児を妊娠した場合、母体から移行してくる過剰な甲状腺ホルモンによって児が甲状腺中毒症になり、流産や低出生体重児となることがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血清遊離サイロキシン(T4)が高値でTSHが基準値下限以上であればSITSHと判断され、甲状腺ホルモン不応症診断の出発点となる。これまでに、研究班によって診断のためのアルゴリズムが策定されており、後述する日本甲状腺学会臨床重要課題ウェブサイト上で、診断基準ならびに重症度分類第2次案の一部として公開されている。1回の血液検査でSITSHの所見が得られた場合も、単に「見かけ上のSITSH」を呈していることが多い。たとえば、TSHの変動はT4の変動に遅れるため、破壊性甲状腺炎やバセドウ病など甲状腺中毒症の初期に、TSHの抑制がT4の上昇に一時的に追いついていない場合がある。また、患者(被検者)が抗T4抗体や抗マウス抗体を持っていた場合にT4測定系やTSH測定系に干渉するアーチファクト、T4製剤(商品名:チラーヂンS)補充療法に伴うT4高値、アミオダロンなどヨウ素を含有する薬剤の影響などでも見かけ上のSITSHを呈することがある。「真の」あるいは「確からしい」SITSHであることを示すために、再検査を1ヵ月後以降に、さらに3ヵ月後に行い、これら再検査の際、可能なら検査方法を変えて測定することが推奨される。真のSITSHを来す疾患は、甲状腺ホルモン不応症とTSH産生下垂体腺腫であり、これらの鑑別が重要である。TSH産生下垂体腺腫症例では、画像検査で明らかな下垂体腫瘍(マクロアデノーマ)を認めることが多い。画像検査でマクロアデノーマを認めない症例では鑑別が困難である。確定診断にはβ型甲状腺ホルモン受容体遺伝子検査が有用である。ただし、甲状腺ホルモン不応症家系の15%は遺伝子変異を持たず、病因も不明である。現在、β型甲状腺ホルモン受容体遺伝子検査は保険収載となっており、倫理面に配慮して施行する。指定難病および小児慢性特定疾病となっており、診断された場合は医療費助成の申請を検討する。指定難病制度では重症度分類中等度以上が助成の対象となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SITSHに対して、抗甲状腺薬や放射性ヨウ素内用療法、甲状腺摘出術などのバセドウ病に対する治療を行うと、TSH分泌が促進されて甲状腺腫増大(摘出術の場合を除く)や下垂体のTSH産生細胞の過形成をまねく可能性があり、推奨できない。多くの症例では、甲状腺ホルモンに対する標的臓器の反応性の低下がホルモン高値になることで代償されており、治療を必要としない。頻脈を呈する症例では、β遮断薬による対症療法が有効であることが多い。先天性甲状腺機能低下症の症状を示す症例では、血清甲状腺ホルモンは高値だが、甲状腺ホルモン製剤の投与により症状が緩和される。4 今後の展望診断基準ならびに重症度分類について、日本甲状腺学会臨床重要課題のウェブサイト上では第2次案が公開されているが、厚生労働省および難病情報センターでは改訂前の第1次案が使用されており、現在第2次案に変更する手続きを行なっている。また、現在診療ガイドラインを策定中である。エビデンスに乏しい中での策定であるが、公開されれば今後の診療に寄与することが期待される。これらはいずれも2021年10月時点の情報であり、遠くないうちに実現することが予想される。一方、α型甲状腺ホルモン受容体遺伝子異常症も存在し、β型受容体異常症とは表現型が異なることが知られている。2012年に初めて報告された疾患であり、関連疾患として今後の研究の発展が期待される。5 主たる診療科内分泌内科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本甲状腺学会臨床重要課題 甲状腺ホルモン不応症診断基準(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 甲状腺ホルモン不応症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 甲状腺ホルモン不応症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)Thyroid Disease Manager(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2021年11月25日

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DAPA-CKD試験の新たなサブ解析結果/AstraZeneca

 AstraZeneca(本社:英国ケンブリッジ)は、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬であるダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)を対象とした第III相DAPA-CKD試験の3つの新たなサブ解析の結果を発表した。DAPA-CKD試験のサブ解析でダパグリフロジンのベネフィットをさらに裏付け DAPA-CKD試験の新たなサブ解析の結果、2型糖尿病の有無にかかわらず、慢性腎臓病(CKD)患者の治療で、ダパグリフロジンの心腎および死亡率に対するベネフィットが一貫して認められることをさらに裏付けた。また、リアルワールドエビデンス研究となるREVEAL-CKDでは、世界的にステージ3のCKD診断率が著しく低いことが明らとなった。 DAPA-CKD試験は、2型糖尿病合併の有無に関わらず、CKDステージの2~4、かつ、アルブミン尿の増加が確認された4,304例を対象に、ダパグリフロジン10mg投与による有効性と安全性をプラセボと比較検討した国際多施設共同無作為化二重盲検第III相試験。本剤は1日1回、標準治療と併用された。複合主要評価項目は、腎機能の悪化もしくは死亡リスクで、副次評価項目は、腎機能の複合評価項目、心血管死もしくは心不全による入院、および全死因死亡のいずれかの初発までの期間。DAPA-CKD試験は日本を含む21ヵ国で実施された。DAPA-CKD試験での死亡の相対リスク減少率は4地域で30~49% DAPA-CKD試験における腎臓、心血管(CV)および死亡率のアウトカムに関する地域別の解析データから、CKD患者におけるダパグリフロジンの有益性は、北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパおよびアジアを含む事前に規定された地理的地域間においても同程度であることが示された。複合主要評価項目である推定糸球体濾過量(eGFR、腎機能の重要な指標)の50%以上の持続的低下、末期腎疾患(ESKD)の発症および、心血管または腎不全による死亡の相対リスク減少率は、4つの地域で一貫して30~49%(プラセボと比較したダパグリフロジンの絶対リスク減少率は3.3~8.0%)だった。 また、別のDAPA-CKD試験のサブ解析では、ベースラインの心血管系併用薬がCKD患者におけるダパグリフロジンの効果に影響を与えるかが評価され、その結果、さまざまな心血管系併用薬使用の有無にかかわらず、CKD患者における腎臓、心血管評価項目および死亡率に対する本剤の明らかな有益性が示された。 具体的には、主要複合アウトカムの最初のイベント発生までの時間におけるダパグリフロジンの効果は、プラセボとの比較で、ベースライン時にアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用していた患者(ハザード比[HR]0.61、95%信頼区間[CI]0.51-0.74)と使用していない患者(HR0.54、95%CI0.20-1.46;交互作用のp=0.69)で同程度だった。また、利尿薬、カルシウム拮抗薬およびβ遮断薬など、解析された他の心血管系併用薬使用の有無にかかわらず、本剤の一貫した効果が示された。 そのほかのDAPA-CKD試験のサブ解析では、治療開始後早期のeGFRの低下は、ダパグリフロジンで治療した患者により多いことが示された。この早期のeGFRの変化は、本剤の作用機序と関連し、糸球体における好ましい血行動態変化を反映していると考えられる。なお、低下の程度にかかわらず、この早期におけるeGFRの低下は、重篤な有害事象、有害事象による治療中止、腎臓関連事象または体液量減少事象のリスク増加とは関連していなかった。 なお、これらのDAPA-CKD試験の解析データは2021年の米国腎臓学会(ASN)腎臓週間で発表された。

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新しい作用機序で心血管イベントを抑制するHFrEF治療薬「ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第86回

新しい作用機序で心血管イベントを抑制するHFrEF治療薬「ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg」今回は、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬「ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg、製造販売元:バイエル薬品)」を紹介します。本剤は、標準治療を受けている左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者に対して、新しい作用機序で心血管イベントリスクを低減させることが期待されています。<効能・効果>本剤は、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)の適応で、2021年6月23日に承認され、9月15日に発売されました。なお、左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していません。<用法・用量>通常、成人にはベルイシグアトとして、1回2.5mgを1日1回食後経口投与から開始し、2週間間隔で1回投与量を5mgおよび10mgに段階的に増量します。なお、血圧など患者の状態に応じて適宜減量します。<安全性>国際共同第III相試験(VICTORIA、試験16493)において、副作用は本剤投与群2,519例中367例(14.6%)で報告されました。主な副作用は、低血圧172例(6.8%)、浮動性めまい37例(1.5%)、悪心19例(0.8%)、起立性低血圧、消化不良各14例(0.6%)、疲労11例(0.4%)、頭痛10例(0.4%)などでした。なお、重大な副作用として、低血圧(7.4%)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は心臓や血管の機能を調節し、慢性心不全が悪くなるのを抑えます。2.血管を拡張させる作用によって、めまい・ふらつきが現れることがあります。高い所での作業、自動車の運転や機械の操作には注意してください。3.(女性に対して)本剤を服用中および服用終了後一定期間は確実な方法で避妊してください。妊娠を希望する場合は医師に伝え、今後の方針について相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、慢性心不全の適応で承認された初の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬です。既存のsGC刺激薬としてはリオシグアト(商品名:アデムパス)が肺動脈性肺高血圧症などの適応で承認されています。慢性心不全の病態では、内皮細胞機能不全による一酸化窒素(NO)産生の低下やsGCの機能不全により、cGMPシグナルの低下が引き起こり、その結果として心筋および血管の機能不全の一因、さらには心不全の悪化に寄与していると考えられます。本剤は、NO受容体であるsGCを直接刺激する作用と、内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用の2つの機序により、心血管系の重要なシグナル伝達経路であるNO-sGC-cGMP経路を活性化して、慢性心不全の進行を抑制します。日本人を含む国際共同第III相試験(VICTORIA、試験16493)では、慢性心不全の標準的な治療を受けているHFrEF患者に対して本剤またはプラセボが投与されました。前治療として、β遮断薬、ACE阻害薬またはARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の3剤併用療法を受けていた患者が59.7%を占めていました。その結果、本剤群では、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイント発現の相対リスクが10%減少しました(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.82~0.98)。本剤と既存のsGC刺激薬であるリオシグアトは、降圧作用を増強する恐れがあるため併用禁忌であり、シルデナフィルを含むPDE5阻害薬、一硝酸イソソルビドなどの硝酸剤およびNO供与剤も同様の理由から併用注意となっています。なお、本剤投与前の収縮期血圧が100mmHg未満の患者では過度の血圧低下が起こる恐れがあるため血圧の確認も必要です。近年、HFrEFに対する新しい治療薬として、HCNチャネル阻害薬のイバブラジン(商品名:コララン)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のサクビトリルバルサルタン(同:エンレスト)、SGLT2阻害薬のダパグリフロジン(同:フォシーガ)などが使用できるようになりました。本剤は既存の治療薬とは異なる作用機序であり、標準治療が効果不十分な患者であっても心血管イベントリスクが低減する可能性があります。参考1)PMDA 添付文書 ベリキューボ錠2.5mg/5mg/10mg

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肥大型心筋症〔HCM:hypertrophic cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、主に遺伝的変異を原因として不均一な心肥大を左室や右室に来し、心機能低下をもたらすとされる特発性心筋症であり、わが国では指定難病とされている。臨床的には左室流出路閉塞を来す閉塞性obstructive HCMと来さない非閉塞性non-obstructive HCMに分類され、前者では収縮期に左室内圧較差が生じることが臨床的に問題となることが多いのに対し、後者は予後が比較的安定しているとされている。■ 疫学日本全国に推計患者数が2万1,900人、有病率は人口10万人あたり17.3人と報告されている(1998年の全国疫学調査)。男女比は2.3:1と男性に多い。■ 病因心筋収縮関連蛋白の遺伝子異常が主な病因であり、2019年時点では11の原因遺伝子と、サルコメアを構成するタンパク質をコードする遺伝子の1,500以上の変異が報告されている。しかし、遺伝子異常が特定されない症例も多くみられ(20~50%)、病因に関しては不明な点も多い。 ■ 症状閉塞性肥大型心筋症では胸部症状(労作時呼吸困難や相対的心筋虚血による胸痛・胸部絞扼感)や神経学的症状(起立時のめまい・ふらつき、眼前暗黒感、失神)が認められる。非閉塞性肥大型心筋症患者は無症候であることも多く、健康診断での心電図などを契機にわが国では発見される場合も多い。■ 分類肥大型心筋症は以下の5つのタイプに分類される:1.閉塞性肥大型心筋症(HOCM)HOCM(basal obstruction):安静時に30mmHg以上の左室流出路圧較差を認める。HOCM(labile/provocable obstruction):安静時に圧較差は30mmHg未満であるが、運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の圧較差を認める。2.非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM):安静時および誘発時に30mmHg以上の圧較差を認めない。3.心室中部閉塞性心筋症(MVO):肥大に伴う心室中部での30mmHg以上の圧較差を認める。4.心尖部肥大型心筋症(apical HCM):心尖部に限局して肥大を認める。5.拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM; D-HCM):肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50%未満)を来し、拡張型心筋症様病態を呈する。■ 予後1982年の厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の報告では肥大型心筋症の5年生存率および10年生存率は、それぞれ91.5%と81.8%であった。死因として若年者では心臓突然死が多く、致死性不整脈、失神・心停止の既往、突然死の家族歴、左室最大壁厚>30mmのうち2項目以上で突然死リスクが高いとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 心エコー検査心室中隔の肥大、非対称性中隔肥厚(拡張期の心室中隔厚/後壁厚≧1.3)など心筋の限局性肥大、左室拡張能障害(左室流入血流速波形での拡張障害パターン、僧帽弁輪部拡張早期運動速度低下)を認める。閉塞性肥大型心筋症では、僧帽弁の収縮期前方運動、左室流出路狭窄を認める。■ 心臓MRI検査ガドリニウム造影剤を用いた遅延相でのガドリニウム増強効果(Late Gadolinium Effect)は心筋線維化の存在を反映する。■ 心臓カテーテル検査圧測定で左室拡張末期圧上昇、左室−大動脈間圧較差(閉塞性)、Brockenbrough現象(期外収縮発生後の脈圧減少)が認められる。■ 心内膜下心筋生検他の原因による心筋肥大を鑑別する上で重要であり、病理検体で肥大心筋細胞、心筋線維化(線維犯行および間質線維化)、心筋細胞の錯綜配列などが認められる。■ 運動負荷検査心肺運動負荷試験により、肥大型心筋症症例では症状の出現閾値、Peak VO2を評価することで適切な運動制限を設定することが可能となる。■ 遺伝子検査ルーチンでの遺伝子検査は推奨されていないが、左室肥大を引き起こすことが知られている他の遺伝的疾患(ファブリー病、ライソゾーム蓄積病など)の除外診断のため、あるいは患者の一等親血縁者などを対象として希望があれば実施されることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性肥大型心筋症に対する現在の治療は、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジソピラミドなどによる対症療法が中心であるが、後述のmavacamtenが近い将来使用可能になることが予想される。薬物療法に抵抗性を示す症例では、外科的中隔切除術やアルコールを用いた中隔焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation:PTSMA)などの侵襲的中隔縮小療法を検討するが、リスクを伴うことから事前に入念な評価を要する。また、心臓突然死リスクを評価することは重要であり、心停止の既往、持続性心室頻拍、原因不明の失神、左室壁30mm以上、2014ESCガイドライン計算式(HCM Risk-SCD Calculator)でハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大きい)、第1度近親者の突然死、運動時の血圧反応異常などが認められる場合には致死的不整脈による心臓突然死リスクが高く、植込み型除細動器の植え込みを検討する。4 今後の展望肥大型心筋症に対しての根本的治療として世界初の疾患特異的治療薬であるmavacamtenの登場によってパラダイム・シフトを迎えている。mavacamtenは、肥大型心筋症筋組織のアクチン・ミオシンの架橋形成を抑制する低分子選択的アロステリック阻害剤であり、心筋の過剰収縮を低下させ、心筋エネルギー消費を改善するまったく新しい機序の経口薬である。EXPLORER-HCM試験では、症候性の閉塞性肥大型心筋症(左室流出路における圧較差50mmHg以上)の成人患者を対象とし、mavacamtenまたはプラセボに1対1で無作為に割り付け、それぞれを30週間投与し、主要評価項目である(1)最高酸素摂取量(peak VO2)が1.5mL/kg/分以上増加し、かつNYHAクラスが1つ以上低下した場合、または(2)NYHAクラスの悪化を伴わずにpeak VO2が3.0mL/kg/分以上の増加が、プラセボ投与128例中22例(17%)に対し、mavacamten投与123例中45例(37%)で達成し、有意な改善を認めており、2022年以降米国などで市販が望まれている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥大型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)(医療従事者向けのまとまった情報)2014 ESC HCM Risk-SCD Calculator(医療従事者向けのまとまった情報)1)Maron BJ. N Engl J Med. 2018;379:655-668.2)Ommen SR, et al. Circulation. 2020;142:e533-e557.3)Olivotto I,et al. Lancet. 2020;396:759-769.公開履歴初回2021年10月14日

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β遮断薬投与のLVEF 50%未満の予後、人工知能が予測可能か/Lancet

 左室駆出率(LVEF)の低下が認められる心不全患者において、人工知能を用いたクラスタリング法は、β遮断薬の投与がもたらす予後に関して、洞調律の心不全のうち効果が不十分な集団や、心房細動を伴う心不全のうち死亡率が低い集団などの予測が可能であり、この手法は有害な転帰の回避につながる可能性があることが、英国・バーミンガム大学のAndreas Karwath氏らcardAIcグループの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。9試験の患者データを統合、階層的クラスタリング法で解析 研究グループは、新たな人工知能を用いたアプローチは、併存症の多次元およびより高次元の相互作用を適切に評価し、洞調律や心房細動を有する心不全患者において、β遮断薬の有効性が異なる集団の分類が可能との仮説を立て、これを検証する目的で機械学習を用いたクラスター分析を行った(英国医学研究審議会[MRC]などの助成による)。 β遮断薬に関する9件の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の個々の患者データが統合され、これにニューラルネットワークを用いた変分オートエンコーダおよび階層的クラスタリング法が適用された。 追跡期間中央値1.3年における全死因死亡が、intention to treat法で評価され、心電図上の心拍のリズムで層別化された。これまでは研究者の裁量に任されることが多かった集団(cluster)および次元(dimension)の数が客観的に選択され、階層的クラスタリング法で反復的に検証され、さらに試験の1つ抜き法(leave-one-trial-out)を用いて外的妥当性の反復的検証が行われた。日常診療での有用性を評価する無作為化試験が必要 LVEFが50%未満の心不全患者1万5,659例(年齢中央値64歳、女性24%、LVEF中央値27%)が解析に含まれた。このうち洞調律の心不全患者が1万2,822例、心房細動の心不全患者は2,837例であった。 洞調律の心不全患者では、全死因死亡に関して、全体としてプラセボと比較したβ遮断薬の利益が示され(補正後オッズ比[OR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.67~0.81、p<0.001)、各集団のORの範囲は0.54~0.74であった。一方、症状が重度でない高齢の洞調律心不全の集団では、β遮断薬の有効性に有意な差は認められなかった(OR:0.86、95%CI:0.67~1.10、p=0.22)。 心房細動がみられる心不全患者では、5つの集団のうち4集団で、プラセボと比較したβ遮断薬の中間的な有効性が一貫してみられた(全体のOR:0.92、95%CI:0.77~1.10、p=0.37)。一方、死亡リスクは低いがLVEFが平均値と同程度の若年心房細動の集団では、β遮断薬の投与により死亡率が有意に低下した(0.57、0.35~0.93、p=0.023)。 すべてのモデルで、クラスタリング法の頑健性と一貫性が確認され(無作為割り付けとの比較のp<0.0001)、9件の独立の臨床試験の全体で、クラスターメンバシップ(cluster membership)の外的妥当性が検証された。 著者は、「人工知能を用いたクラスタリング法は、複数の併存症を組み込み、同時に調整することが可能であり、一般的な治療への応答をより精緻に層別化できるため、有害な転帰の回避につながる可能性がある。とくに心不全のような、高額な医療費や不良な患者QOLの主な要因となっている疾患の予後の改善において、この手法が日常診療で有用かを評価するために、無作為化試験による前向きの評価が求められる」としている。

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新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~【見落とさない!がんの心毒性】第6回

新しい抗がん剤が続々と臨床に登場しています。厚生労働大臣によって承認された新医薬品のうち、抗悪性腫瘍用薬の数はこの3年で36もありました1)。効能追加は85もあり、新しい治療薬が増え、それらの適応も拡大しています。しかし、そのほとんどの薬剤は循環器疾患に注意して使う必要があり、そのうえで拠り所になるのが添付文書です。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページの医療用医薬品情報検索画面2)から誰でもダウンロードできます。警告、禁忌、使用上の注意…と読み進めます。さらに、作用機序や警告、禁忌の理由を詳しく知りたいときは、インタビューフォーム(IF)を開きます。循環器医ががん診療に参加する際には、患者背景や治療薬のことをサッと頭に入れる必要がありますが、そんな時に便利です。前置きが長くなりましたが、今回は時間のない皆さまのために、添付文書の『警告』『禁忌』『重要な基本的注意』に循環器疾患を含んでいる抗がん剤をピックアップしてみました。『警告』に書かれていること(表1)の薬剤では重篤例や死亡例が報告されていることから、投与前に既往や危険因子の有無を確認のうえ、投与の可否を慎重に判断することを警告しています。infusion reaction、静脈血栓症、心不全、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症、QT延長、高血圧性クリーゼなどが記載されています。副作用に備え観察し、副作用が起きたら適切な処置をし、重篤な場合は投与を中止するように警告しています。(表1)画像を拡大するこうした副作用でがん治療が中止になれば予後に影響するので、予防に努めます。『警告』で最も多かったのはinfusion reactionですが、主にモノクローナル抗体薬の投与中や投与後24時間以内に発症します。時に心筋梗塞様の心電図や血行動態を呈することもあり、循環器医へ鑑別診断を求めることもあります。これらの中には用法上、予防策が講じられているものもあり、推奨投与速度を遵守し、抗ヒスタミン薬やアセトアミノフェン、副腎皮質ステロイドをあらかじめ投与して予防します。過敏症とは似て非なる病態であり、発症しても『禁忌』にはならず、適切な処置により症状が治まったら、点滴速度を遅くするなどして再開します。学会によってはガイドラインで副作用の予防を推奨してるところもあります。日本血液学会の場合、サリドマイド、ポマリドミド、レナリドミドを含む免疫調節薬(iMiDs:immunomodulatory drugs)による治療では、深部静脈血栓症の予防のために低用量アスピリンの内服を推奨しています3)。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、アントラサイクリンやトラスツズマブを含む治療では、心不全の進行予防に心保護薬(ACE阻害薬、ARB、および/またはβ遮断薬)を推奨しています。スニチニブ、ベバシズマブ、ラムシルマブなどの抗VEGF薬を含む治療では、血圧の管理を推奨しています4)。『禁忌』に書かれていること『禁忌』には、「本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者」が必ず記されています。禁忌に「心機能異常又はその既往歴のある患者」が記されているのは、アントラサイクリン系の抗がん剤です。QT延長や、血栓症が禁忌になるものもあります。(表2)画像を拡大するここで少し注意したいのは、それぞれの副作用の定義です。たとえば「心機能異常」とは何か?ということです。しばしば、がん医療の現場では、左室駆出率(LVEF)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値だけが、一人歩きをはじめ、患者の実態とかけ離れた判断が行われることがあります。循環器医ががん患者の心機能を検討する場合、LVEFやBNPだけではなく、症状や心電図・心エコー所見や運動耐容能などを多角的に捉えています5)。心機能は単独で評価できる指標はないので、LVEFやBNP値だけで判断せず、心機能を厳密かつ多面的に測定して総合的に評価することをお勧めします。添付文書によく記載されている「心機能異常」。漠然としていますが、これの意味するところを「心不全入院や死亡のリスクが高い状態」と、私は理解しています。そこで、「心機能異常」診断の乱発を減らし、患者ががん治療から不必要に疎外されないよう努めます。その一方で、心保護薬でがん治療による心不全のリスクを最小限に抑えるチャンスを逃さないようにもします。上述の定義のことは「血栓症」にも当てはまります。血栓症では下腿静脈の小血栓と肺動脈本管の血栓を一様には扱いません。また、下肢エコーで見つかる米粒ほどの小血栓をもって血栓症とは診断しません。そこそこの大きさの血栓がDOACなどで制御されていれば、血栓症と言えるのかもしれませんが、それでも抗がん剤を継続することもあります。QT延長は次項で触れます。『重要な基本的注意』に書かれていることー意外に多いQT延長『重要な基本的注意』で多かったのは、心機能低下・心不全でした。アントラサイクリン系薬剤、チロシンキナーゼ阻害薬、抗HER2薬など25の抗がん剤で記載がありました。これらの対応策については既に本連載企画の第1~4回で取り上げられていますので割愛します。(表3)その1画像を拡大する(表3)その2画像を拡大する意外に多かったのは、QT延長です。21種類もありました。QT間隔(QTc)は男性で450ms、女性で460ms以上をQT延長と診断します。添付文書では「投与開始前及び投与中は定期的に心電図検査及び電解質検査 (カリウム、マグネシウム、カルシウム等)を行い、 患者の状態を十分に観察する」などと明記され、血清の電解質の補正が求められます。とくに分子標的薬で治療中の患者の心電図でたびたび遭遇します。それでも重度の延長(QTc>500ms)は稀ですし、torsade de pointes(TdP)や心臓突然死はもっと稀です。高頻度にQT延長が認められる薬剤でも、新薬を待ち望むがん患者は多いため、臨床試験で有効性が確認されれば、QT延長による心臓突然死の回避策が講じられた上で承認されています。測定法はQTcF(Fridericia法)だったりQTcB(Bazett法)だったり、薬剤によって異なりますが、FMS様チロシンキナーゼ3-遺伝子内縦列重複(FLT3-ITD)変異陽性の急性骨髄性白血病治療薬のキザルチニブのように、QTcFで480msを超えると減量、500msを超えると中止、450ms以下に正常化すると再開など、QT時間次第で用量・用法が変わる薬剤があるので、測定する側の責任も重大です。詳細は添付文書で確認してみてください。抗がん剤による心臓突然死のリスクを予測するスコアは残念ながら存在しません。添付文書に指示は無くても、循環器医はQTが延長した心電図ではT波の面構えも見ます。QT dispersion(12誘導心電図での最大QT間隔と最小QT間隔の差)は心室筋の再分極時間の不均一性を、T peak-end時間(T波頂点から終末点までの時間)は、その誘導が反映する心室筋の貫壁性(心内膜から心外膜)の再分極時間のバラツキ(TDR:transmural dispersion of repolarization)を反映しています。電気的不均一性がTdP/心室細動の発生源になるので注意しています。詳細については、本編の参考文献6)~8)をぜひ読んでみてください。3つ目に多かったのはinfusion reactionで、該当する抗がん剤は17もありました。抗体薬の中には用法及び用量の項でinfusion reaction対策を明記しているものの、『重要な基本注的意』に記載がないものがあるので、実際にはもっと多くの抗がん剤でinfusion reactionに注意喚起がなされているのではないでしょうか。血圧上昇/高血圧もかなりありますが、適正使用ガイドの中に対処法が示されているので、各薬剤のものを参考にしてみてください。そのほかの心臓病についても同様です。なお、適正使用ガイドとは、医薬品リスク管理計画(RPM:Risk Management Plan)に基づいて専門医の監修のもとに製薬会社が作成している資料のことです。抗がん剤だけではない、注目の新薬にもある循環器疾患についての『禁忌』今年1月、経口グレリン様作用薬アナモレリン(商品名:エドルミズ)が初の「がん悪液質」治療薬としてわが国で承認されました。がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。その本質はタンパク質の異常な異化亢進であり、“病的なるい痩”が、がん患者のQOLやがん薬物療法への忍容性を低下させ、予後を悪化させます。アナモレリンは内服によりグレリン様作用を発揮し、がん悪液質患者の食欲を亢進させ、消耗に対抗します。切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質患者のうち、いくつかの基準をクリアすると使用できるので、対象となる患者が多いのが特徴です。一方、添付文書やインタビューフォームを見ると、『禁忌』には以下のように心不全・虚血・不整脈に関する注意事項が明記されています。「アナモレリンはナトリウムチャネル阻害作用を有しており、うっ血性心不全、心筋梗塞、狭心症又は高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者では、重篤な副作用を起こすおそれがあることから、これらの患者を禁忌に設定した」9)。また、『重要な基本的注意』には、「心電図異常(顕著なPR間隔又はQRS幅の延長、QT間隔の延長等)があらわれることがあるので注意すること」とあります。ピルシカイニド投与時のように心電図に注意が必要です。実際、当院では「アナモレリン投与中」と書かれた心電図の依頼が最近増えています。薬だけではない!?注目の新治療にもある循環器疾患につながる『警告』免疫の知識が今日ほど国民に浸透した時代はありません。私たちの体は、病原体やがん細胞など、本来、体の中にあるべきでないものを見つけると、攻撃して排除する免疫によって守られていることを日常から学んでいます。昨今のパンデミックにおいては、遺伝子工学の技術を用いてワクチンを作り、免疫力で災禍に対抗しています。がん医療でも遺伝子工学の技術を用いて創薬された抗体薬を使って、目覚ましい効果を挙げる一方で、アナフィラキシーやinfusion reaction、サイトカイン放出症候群(CRS:cytokine release syndrome)などの副作用への対応に迫られています。免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大に伴い、自己免疫性心筋炎など重篤な副作用も報告されており、循環器医も対応に駆り出されることが増えてきました(第5回参照)。チサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア)は、採取した患者さんのT細胞を遺伝子操作によって、がん細胞を攻撃する腫瘍特異的T細胞(CAR-T細胞)に改変して再投与する「ヒト体細胞加工製品」です。PMDAホームページからの検索では、医療用「医薬品」とは別に設けてある再生医療等「製品」のバナーから入ると見つかります。「再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病」と「再発又は難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の一部に効果があります。ノバルティスファーマ株式会社のホームページで分かりやすく説明されています10)。この添付文書で警告しているのはCRSです。高頻度に現れ、頻脈、心房細動、心不全が発症することがあります。緊急時に備えて管理アルゴリズムがあらかじめ決められており、トシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体、商品名:アクテムラ)を用意しておきます。AlviらはCAR-T細胞治療を受けた137例において、81名(59%)にCRSを認め、そのうち54例(39%)がグレード2以上で、56例(41%)にトシリズマブが投与されたと報告しています11)(図)。(図)画像を拡大するトロポニンの上昇は、測定患者53例中29例(54%)で発生し、LVEFの低下は29例中8例(28%)で発生しました。いずれもグレード2以上の患者でのみ発生しました。17例(12%)に心血管イベントが発生し、すべてがグレード2以上の患者で発生しました。その内訳は、心血管死が6例、非代償性心不全が6例、および不整脈が5例でした。CRSの発症から、トシリズマブ投与までの時間が短いほど、心血管イベントの発生率が低く抑えられました。これらの結果は、炎症が心血管イベントのトリガーになることを改めて世に知らしめました。おわりに本来であれば添付文書の『重大な副作用』なども参考にする必要がありますが、紙面の都合で割愛しました。腫瘍循環器診療ハンドブックにコンパクトにまとめてありますので、そちらをご覧ください12)13)。さまざまな新薬が登場しているがん医療の現場ですが、心電図は最も手軽に行える検査であるため、腫瘍科と循環器科の出会いの場になっています。QT延長等の心電図異常に遭遇した時、循環器医はさまざまな医療情報から適切な判断を試みます。しかし、新薬の使用経験は浅く、根拠となるのは臨床試験の数百人のデータだけです。そこへ来て私は自分の薄っぺらな知識と経験で患者さんを守れるのか不安になります。患者さんの一路平安を祈る時、腫瘍科医と循環器医の思いは一つになります。1)独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)新医薬品の承認品目一覧2)PMDA医療用医薬品 添付文書等情報検索3)日本血液学会編.造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版. 金原出版.2018.p.366.4)Curigliano G, et al. Ann Oncol. 2020;31:171-190. 5)日本循環器学会編. 急性・慢性心不全診療ガイドライン2017年改訂版(班長:筒井裕之).6)Porta-Sanchez A, et al. J Am Heart Assoc. 2017;6:e007724.7)日本循環器学会編. 遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン2017 年改訂版(班長:青沼和隆)8)呼吸と循環. 医学書院. 2016;64.(庄司 正昭. がん診療における不整脈-心房細動、QT時間延長を中心に)9)医薬品インタビューフォーム:エドルミズ®錠50mg(2021年4月 第2版)10)ノバルティスファーマ:CAR-T細胞療法11)Alvi RM, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;74:3099-3108. 12)腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社. 2020.p.207-210.(森本 竜太. がん治療薬による心血管合併症一覧)13)腫瘍循環器診療ハンドブック.メジカルビュー社. 2020.p.18-20.(岩佐 健史. 心機能障害/心不全 その他[アルキル化薬、微小管阻害薬、代謝拮抗薬など])講師紹介

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アントラサイクリンベース化療中の乳がん、心保護薬の併用でLVEF低下を予防

 イタリア・フィレンツェ大学Lorenzo Livi氏らがアントラサイクリンベースの化学療法で治療を受けている乳がん患者の無症候性の心臓損傷を軽減できるかどうかを調査した結果、β遮断薬のビソプロロールやACE阻害薬のラミプリル(日本未承認)を投与することで、がん治療に関連するLVEF低下や心臓リモデリングから保護する可能性を示唆した。JAMA Oncology誌2021年8月26日号オンライン版ブリーフレポートでの報告。 本研究であるSAFE試験は、イタリアの8施設の腫瘍科で実施された多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験で、12ヵ月で心臓評価を完了した最初の174例に関する中間分析。対象者の募集は2015年7月~2020年6月の期間で、中間分析は2020年に実施された。対象者はアントラサイクリンベースのレジメンを使用し、一次または術後の全身療法を受ける兆候があった患者で、事前に心血管疾患の診断を有していた患者は除外された。心臓保護薬としてビソプロロール、ラミプリル、ラミプリルとビソプロロール併用に割り付け、プラセボ群と比較。化学療法の開始から1年間、またはERBB2陽性者はトラスツズマブ療法の終了まで投与を行った。全グループの用量について、ビソプロロール(1日1回5mg)、ラミプリル(1日1回5mg)、プラセボを可能な範囲で体系的に漸増した。 主要評価項目は、無症状(10%以上悪化)の心筋機能(左心室駆出率[LVEF])と歪み(長軸方向の歪み[GLS:global longitudinal strain])で、2Dおよび3Dの心エコー法で検出した。 主な結果は以下のとおり。・対象者は174例の女性(年齢中央値48歳、範囲24〜75歳)だった。・12ヵ月間の3D心エコーでLVEFの低下状況を確認したところ、プラセボ群で4.4%、ラミプリル群、ビソプロロール群、併用群でそれぞれ3.0%、1.9%、1.3%の低下だった(p=0.01)。・全体的な長軸方向の歪みは、プラセボ群で6.0%、ラミプリル群とビソプロロール群でそれぞれ1.5%と0.6%悪化したが、併用群では変化しなかった(0.1%の改善、p<0.001)。・3D心エコーでLVEFが10%以上低下した患者数は、プラセボ群で8例(19%)、ラミプリル群で5例(11.5%)、ビソプロロール群で5例(11.4%)、併用群で3例(6.8%)だった。 ・プラセボ群15例(35.7%)は、ラミプリル群(7例:15.9%)、ビソプロロール(6例:13.6%)、および併用群(6例:13.6%)と比較して、GLSが10%以上も悪化を示した(p=0.03)。

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ビソプロロール錠0.625mg供給不足に伴う対応/日本心不全学会

 16日、ビソプロロール錠の供給が多くの地域で不足する事態となっていることを受け、日本心不全学会が提言を公表した。本剤は、左室駆出率が低下した心不全の標準治療薬として重要な役割を果たすものであり、供給が安定するまでの間の対応策として以下が提案された。 (1)供給不足に伴いβ遮断薬の投薬を中止することは避ける。(2)ビソプロロール錠0.625mgを処方する場合、できる限り長期処方を避ける。(3)ビソプロロール錠2.5mgの供給がある場合は、用量に応じて0.25錠(0.625mg)あるいは0.5錠(1.25mg)として同用量を継続する。(4)投与継続が困難な場合、以下を参考にカルベジロール錠へ切り替える。 ただし、下記の対比を参考に気管支喘息/肝障害の合併等の有無には注意を要する。・選択性:ビソプロロールはβ1選択性(β1:β2=75:1)、カルベジロールはαβ(β:非選択性)・陰性変力作用:ビソプロロール>カルベジロール※β1選択性および inverse agonism 作用の相違による・陰性変時作用:ビソプロロール>カルベジロール・気管支喘息:ビソプロロールは慎重投与、カルベジロールは禁忌・重度末梢循環障害:ビソプロロールは禁忌、カルベジロールは慎重投与・排泄:ビソプロロールは腎排泄(中等度以上の腎機能障害で血中濃度上昇あり)、カルベジロールは胆汁排泄型(腎機能障害の影響が少ない)・最大用量:ビソプロロールは5mg/日、カルベジロールは20mg/日・用量対比:ビソプロロール0.625mg/日⇔カルベジロール2.5mg/日・半減期(健康成人):ビソプロロールは8.6時間(5mg単回投与)、カルベジロールは7.72時間(20mg単回投与)(5)ビソノテープへの切り替えにおいては、心不全には適応がなく、本態性高血圧および頻脈性心房細動のみの適応であり、心不全治療薬としてそのまま切り替えることは推奨できない。 ただし、適応があり切り替える場合の用量の対比は以下のとおり。・ビソプロロール錠0.625mg/日⇒ビソノテープ1mg/日・ビソプロロール錠1.25mg/日⇒ビソノテープ2mg/日・ビソプロロール錠2.5mg/日⇒ビソノテープ4mg/日・ビソプロロール錠5mg/日⇒ビソノテープ8mg/日 なお、7月には日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会から、エルデカルシトールおよびアルファカルシドール供給不足に伴う骨粗鬆症患者への対応に関して、同様の提言が発出されている。

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介護負担を考慮しβ遮断薬貼付薬の内服への切り替えを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第40回

 今回は、貼付薬から内服薬へ切り替えた事例を紹介します。貼付薬は、内服薬の拒否・困難なケースでも治療が継続できて便利ですが、ほかの薬剤を問題なく内服できている場合は、貼付薬が1つ入っていることが返って手間になることもあります。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患発作性心房細動、心不全、高血圧症、脂質異常症、骨粗鬆症介護度要介護1服薬管理施設職員が管理処方内容1.エプレレノン錠25mg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ジゴキシン錠0.125mg 0.5錠 分1 朝食後4.ワルファリンカリウム錠1mg 3錠 分1 朝食後5.エナラプリル錠5mg 1錠 分1 朝食後6.エルデカルシトールカプセル0.5μg 1カプセル 分1 朝食後7.ピタバスタチン錠1mg 1錠 分1 朝食後8.ニコランジル錠5mg 2錠 分2 朝夕食後9.酸化マグネシウム錠330mg 2錠 分2 朝夕食後10.ビソプロロールテープ剤4mg 1枚 夕に貼付本症例のポイントこの患者さんは、服用薬剤は多いものの、「長生きは薬のおかげ」と服薬負担は感じていませんでした。しかし、貼付薬の交換時に、皮膚の掻痒感を我慢している様子があることを介護職員より聴取しました。そこで患者さんに話を聞いたところ、「かゆみはあるけれど、先生から勝手にやめないように言われているから我慢している」と考えていたことを聞き出すことができました。また、介護職員からは、職員配置の少ない夕方の貼付薬の介助は負担が大きいということも聞きました。そこで、本人と介護職員の負担を軽減するため、貼付薬を内服にまとめる提案をすることにしました。ビソプロロール貼付薬と内服薬の換算目安下記表の頻脈性心房細動を対象とした第III相検証試験(二重盲検並行群間比較試験)において、ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mgとビソプロロール貼付薬4mg、ビソプロロールフマル酸塩錠5mgとビソプロロール貼付薬8mgの比較が行われています。この試験結果によると、ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg≒ビソプロロール貼付薬4mgですので、内服薬への切り替えは可能と考えました。画像を拡大する処方提案と経過本人および介護者の負担状況をトレーシングレポートにまとめて医師に提出し、現行のビソプロロール貼付薬4mgからビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg内服への切り替えを提案しました。その際、換算の根拠として、上記の試験結果の表を共有しました。訪問診療の開始前に、医師よりトレーシングレポートの内容に処方を変更すると回答を得ました。そこで、翌日より内服薬に変更し、看護師と血圧・心拍数の変動についてモニタリングすることにしました。切り替えてから14日経過しても大きな変動はなく状態は安定しており、現在も内服薬として継続中です。ビソノテープインタビューフォームビソノテープ トーアエイヨー医療関係者向け情報

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VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月【見落とさない!がんの心毒性】第4回

第4回はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI:Tyrosine Kinase Inhibitor)の心毒性メカニズムと管理法に、草場と森山が解説します。はじめに血管は、酸素や栄養素の供給、炎症部位への細胞輸送など、ヒトのからだにとって必要不可欠な組織です。血管形成は胎生期より始まり、出生後には創傷治癒や月経などの生理的機能、がんや糖尿病などの疾病と深くかかわっています。VEGFR-TKIとは?血管内皮細胞増殖因子VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)のファミリーにはVEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E、 胎盤増殖因子(PIGF)-1、PIGF-2があり、これらは細胞表面に発現するVEGF受容体(VEGFR)-1、VEGFR-2、VEGFR-3、 NRP(neuropilin)1、NRP2のチロシンキナーゼ型受容体と結合して、下流のシグナル伝達経路を活性化することにより、血管内皮細胞の増殖・分化・遊走や血管透過性の調整など血管新生において中心的な働きをします(図1)。(図1)VEGFRシグナルとVEGFR-TKI画像を拡大する多くのがんにおいて、VEGFRを介したシグナル伝達経路の活性化は、がんの増殖や進展に促進的に働きます。VEGFRなどのチロシンキナーゼ型受容体のリン酸化を阻害するTKIは「血管新生阻害薬」の一つとして、様々ながんの治療に用いられています。VEGFR-TKIの種類VEGFR-TKI は、主な標的分子であるVEGFR以外にも複数の分子の機能を阻害します。以下に各薬剤の主な標的分子、本邦での適応疾患を(表1)に示します。(表1) VEGFR-TKI の主な標的分子と適応疾患主な心毒性とリスク因子VEGFは、血管拡張作用を有する一酸化窒素とプロスタサイクリンを増加させ、血管収縮作用を有するエンドセリン-1産生を抑制するため、VEGFの機能が阻害されると血圧が上昇すると考えられています1)。そのため、VEGFR-TKIでは高血圧の頻度が高く(15~40%)、治療開始後2ヵ月以内に発症・増悪する場合が多いのが特徴です。また、微小血管の毛細血管床の密度低下や腎臓におけるメサンギウム細胞・内皮細胞障害なども高血圧発症に関与するとされています1)。リスク因子として、高血圧症の既往、NSAIDsやエリスロポエチン製剤との併用が報告されており2)、時に高血圧緊急症に至る場合があるため、適切な治療が必要です。また、心筋障害・心不全(~5%)、血栓塞栓症(0.6~11.5%)、QT延長(0.6~13.4%)などの心血管毒性も見られます3)。がん患者を対象とした研究のメタ解析でもVEGFR-TKIは、心不全、血栓塞栓症のリスク因子と報告されているのです4)5)。そのほか、倦怠感(35~50%)、下痢(30~70%)、手足症候群などの皮膚毒性(15~70%)、肝機能障害(5~50%)の頻度が高いです。管理法予防・治療の基本は、がん治療の効果を維持しながら、毒性のリスクを減らすことを目指します。VEGFR-TKIのみを対象とした心血管毒性の管理法の研究は少なく、特異的な管理法は未確立のため、通常の心血管リスク管理が重要です。高血圧診療の目標は、早期診断と血圧管理であり、リスク因子(高血圧の既往と現在の血圧など)の評価と既存の高血圧の治療は、VEGFR-TKI投与前に開始しましょう。投与開始後は、重篤な合併症を避けるために血圧上昇の早期発見と治療が重要で、通常の高血圧治療と同様に、ACE阻害薬、ARB、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が推奨されています6)。VEGFR-TKIはCYP3A4により代謝されるため、CYP3A4阻害作用を有する降圧剤(非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)との併用は避ける必要があります。心機能の低下した心不全患者では、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬を第一選択とします6)また、VEGFR-TKIは下痢の頻度が高く、利尿剤による脱水を助長する危険性もあります。利尿剤には電解質異常、二次性QT延長のリスクがあるため慎重に用います。重症高血圧があらわれた場合は、循環器専門医と連携して、頻繁なモニタリングと治療効果の評価を行うとともに、VEGFR-TKIの休薬・減量・再開について検討しましょう。心不全診療では、心不全症状発現前の心機能低下を早期発見する為に定期的な心エコー評価を行います。がん治療関連心筋障害を合併した場合は循環器専門医と相談しレニン・アンギオテンシン系阻害薬、β遮断薬などを開始します6)。血栓塞栓症診療では、下肢の浮腫やD-dimer上昇などの血栓症を疑う所見が見られた際に下肢静脈エコーで深部静脈血栓症の評価を行い、臨床的に肺塞栓症を疑う場合は胸部造影CTを行います。静脈血栓塞栓症の診断に至った際は、症例ごとに出血・血栓症のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断します。腎機能正常例では、ワルファリンよりも出血リスクが低い直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されます6)。心不全や血栓塞栓症の症例において、がん治療を休止・中止すべきかどうかはがん治療医と循環器専門医が連携して判断する必要があります。おわりに近年、悪性腫瘍の領域において、精力的な薬剤開発と良好な抗腫瘍効果から、VEGFR-TKIはがん治療に広く用いられるようになってきました。それに伴い、心血管毒性の管理の重要性が増しており、がん治療医と循環器専門医との緊密な連携がより重要になっているのです。1)Li W, et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:1160-1178. 2)Robinson ES ,et al . Semin Nephrol. 2010;30:591-601.3)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.4)Ghatalia P, et al. Crit Rev Oncol Hematol. 2015;94:228 -237.5)Abdel-Qadir H, et al. Cancer Treat Rev. 2017;53:120-127.6)Zamorano JL, et al. Eur Heart J. 2016;37:2768-2801.講師紹介

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第66回 ModernaやPfizerのCOVID-19ワクチン説明書に心筋炎/心膜炎の警告をFDAが追加

米国疾病予防管理センター(CDC)会議での検討結果を受け、心筋炎や心膜炎(心臓を包む組織の炎症)がどうやら生じやすくなるとの警告(Warning)をModernaとPfizerの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチンそれぞれの説明書(Fact Sheet)1,2)に米国FDAが追加しました3)。心筋炎や心膜炎はそれらワクチンの2回目の接種後にとくに生じやすいらしく、ほとんどの場合接種から数日以内に発症するようです。CDC検討会議の資料4)によるとmRNAワクチン2回目接種者100万人当たり約13人(12.6人)の割合で心筋炎/心膜炎が発生しています。接種を受ける人やその保護者向けの説明書(Fact Sheets for Recipients and Caregiver)も変更され、胸痛、息切れ、心臓の動悸(心拍の亢進、動揺、高ぶり)が接種後に生じたらすぐに診てもらう必要があるとの指示が付け加えられています。心筋炎や心膜炎の症状はほとんどの場合短期で解消するようですが、長期の転帰はまだ不明です。FDAとCDCは報告を検討し、より多くの情報を集め、数ヵ月の長期転帰を追跡する予定です。心筋炎や心膜炎がワクチンの説明書の警告に加えられたとはいえ、米国のワクチン接種支持に変わりはありません。ワクチン後の心筋炎や心膜炎は非常に稀であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で生じることのほうがずっと多いことが知られています。それに、COVID-19の心臓への害は重症化する恐れがあります。米国保健行政代表や家庭・小児科・産婦人科・心臓・内科・看護・公衆衛生・地域医療・感染症の専門家たちは恩恵が害を遥かに上回るワクチンを許容可能な12歳以上の誰もが接種することを強く望んでいます5,6)。また、COVID-19ワクチンに伴う心筋炎様病態で入院した19~39歳の患者7例をCirculation誌に最近報告した著者らも接種の価値は害を引き続きだいぶ上回ると結論しています7)。それらのうち6例はModernaかPfizer/BioNTechのmRNAワクチン接種後、1例はJohnson & Johnson社のアデノウイルス仕様のCOVID-19ワクチン接種後のものでした。今月初めにPediatrics誌に報告された別の7例8)と同様に経過は概ね良好であり、治療にはβ遮断薬や抗炎症薬などが使われ、全員が症状解消の上で入院から2~4日以内に退院できました7,9)。参考1)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE PFIZER-BIONTECH COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) 2)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE MODERNA COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) 3)Coronavirus (COVID-19) Update: June 25, 2021 / FDA4)Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) June 23, 2021 / CDC5)Statement Following CDC ACIP Meeting from Nation’s Leading Doctors, Nurses and Public Health Leaders on Benefits of Vaccination / AAP 6)Health officials, AAP urge COVID-19 vaccination despite rare myocarditis cases / AAP7)Rosner CM, et al. Circulation. 2021 Jun 16. [Epub ahead of print] 8)Marshall M,et al,. Pediatrics. 2021 Jun 4:e2021052478.9)Symptoms resolved in 7 patients with myocarditis-like illness after COVID-19 vaccination.AMERICAN HEART ASSOCIATION / EurekAlert

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HER2阻害薬の心毒性、そのリスク因子や管理は? 【見落とさない!がんの心毒性】第3回

今回のおはなし連載の第2回は、大倉先生によるアントラサイクリン心筋症についての解説でした。今回のテーマはHER2阻害薬の心毒性です。なかでもトラスツズマブが有名ですが、それ以外にもHER2阻害薬はあるんですよ。今回はその心毒性が起こる機序や病態の特徴について、概要を説明します。HER2阻害薬では、日頃からの心血管リスク因子の適切な管理がとても大事になります。HER2ってそもそも何?HER2はヒト上皮成長因子受容体(EGFR:human epidermal growth factor receptor)に似た受容体型チロシンキナーゼで、ヒトEGFR関連物質2 (human EGFR-related protein 2)を略してHER2と命名されました。別名でErbB2とも表現され、こちらはヒト以外に齧歯類なども含めた対象となります。正常細胞においてHER2は細胞増殖や分化の調節に関わる重要なシグナル伝達分子として働いており、そのHER2遺伝子発現の増幅、遺伝子変異ががん化に関わります。HER2遺伝子は唾液腺がん、胃がん、乳がん、卵巣がんで発現が見られ、現在ではHER2陽性タイプの乳がん、胃がんに対してHER2阻害薬が臨床で使われています。一方、HER2は心臓や神経にも存在します。これらの臓器でもHER2は細胞分化や増殖に関わり、HER2阻害薬により心臓では心筋細胞障害が生じ心毒性を発症する事になります。心筋特異的にErbB2を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスでは、出生するものの拡張型心筋症様の病態を呈し、心筋細胞のアポトーシスが観察され、大動脈縮窄術による後負荷増大で容易に心不全に陥り、高率に死亡する事が報告されています。そして、このコンディショナルノックアウトマウス由来の心筋細胞はアントラサイクリンへの感受性が亢進していたことから、ErbB2が生体において病的ストレスからの心保護に必須な分子と考えられています1)。つまり、乳がん治療でのアントラサイクリンとトラスツズマブとの逐次治療において、アントラサイクリンによりダメージを受けた心筋細胞がトラスツズマブによりその修復が阻害されると言う仕組みが考えられています(図1)2)。(図1)アントラサイクリンおよびトラスツズマブの逐次療法における心筋障害のイメージ画像を拡大するHER2阻害薬の種類分子標的薬に属するHER2阻害薬は、HER2タンパクを持つがんに対して投与され、とくに乳がん治療でよく用いられていますが、胃がんなどでも使われています。中でも抗体薬のトラスツマブが有名ですが、それ以外にも抗体薬のペルツズマブ、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)かつ二標的キナーゼ阻害薬(EGFRおよびHER2)のラパチニブ、そしてトラスツズマブと殺細胞性抗がん剤との抗体薬物複合体(ADC)のトラスツズマブ-エムタンシン(T-DM1)やトラスツズマブ-デルクステカンも最近登場しています。T-DM1はトラスツズマブによるHER2シグナル伝達阻害作用だけでなく、化学療法薬であるエムタンシン(DM1)をがん細胞内部に直接送達させ、がん細胞を破壊する作用も併せ持ちます。これらADCである新規のHER2阻害薬は従来のものと比較して、心毒性の発生頻度が少ない事が報告されています3)。(表1)HER2陽性乳がんで使用できる分子標的薬画像を拡大するHER2阻害薬による心毒性の機序HER2阻害薬が心筋細胞上のHER2(ErbB2)受容体を選択的にブロックする事で、いわゆる“心筋細胞の栄養”とも言えるneureglin(NRG)のErbB4-ErbB2二量体を介した心筋細胞への結合を阻害します。その結果、心筋細胞の生存や保護に関わるシグナル伝達を阻害し細胞ダメージを来すと言われています。とくに、HER2受容体はアントラサイクリン投与後の心筋細胞に代償的にアップレギュレートして発現する事が報告されており、その発現はアントラサイクリン投与後の心筋細胞のダメージへの保護、生存に寄与すると言われています。それゆえ、とくにアントラサイクリン投与後の心筋細胞修復機構の障害が生じ、心筋傷害が助長されると言われています(図1、図2)4)。(図2)HER2阻害薬による心毒性の機序画像を拡大するHER2阻害薬関連心毒性のリスク因子は?HER2阻害薬関連心毒性のリスク因子を下の表に示しています(表2)5)。アントラサイクリンの併用または治療歴、心不全の既往、高血圧や虚血性心疾患の合併、胸部放射線治療の併用により心毒性発現のリスクが高まります。この表から、通常の心血管リスク因子がHER2阻害薬関連心毒性にも重大なリスク因子となる事が分かります。そのため、通常の心血管リスク管理が薬剤性心毒性管理においてものすごく重要です。(表2)HER2阻害薬のリスク因子HER2阻害薬による心毒性の特徴と病態管理HER2阻害薬による心不全の発生頻度について、初期の解析によるとアントラサイクリンやシクロホスファミドとトラスツズマブを同時投与すると27%と高率であると報告されました6)。そして、逐次療法では1~4.1%で心不全症状、4.4~18.6%で左室駆出率(LVEF)の低下を来すと言われています。報告によれば逐次療法でも8.7%でNYHAIII度からIV度の心不全が発症しており、およそ3ヵ月毎の定期的な心機能評価が推奨されます7)。HER2阻害薬による心毒性の特徴は、左室機能低下後のHER2阻害薬の休薬により約2~4ヵ月程度で左室機能の改善がみられる事が多く、LVEF回復後にはHER2阻害薬の再投与検討も可能と考えられています。ただし、ここで注意が必要です。トラスツズマブ投与後に心不全症状を認めた患者の71%で半年後も左室機能の回復が得られなかったと言う報告もあります8)。われわれ臨床家の間では、約20~30%の症例で心機能低下が遷延すると考えられています。HER2阻害薬の休薬で左室機能の回復が得られる可能性はあるものの、心毒性がみられた際にはACE阻害薬(エナラプリル)やβ遮断薬(アーチストなど)による心保護薬の投与を行うことが望ましいと考えます。しかし、心保護薬の長期的継続について、とくに心機能が回復した症例に対する長期的心保護治療継続の妥当性については明らかにはされていません。筆者の個人的な対策ではありますが、左室機能低下を来していた時のトロポニン上昇度や心エコーにおける低心機能の程度などの患者病態、そして心血管リスク因子の保有状況などを考慮し、患者に応じて長期的な心保護管理の継続を行っています。スクリーニングのタイミング最後に、ヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO)から2020年に発表されたESMO consensus recommendationsを紹介します(図3)9)。がん治療前から心機能を確認し、高リスクであれば循環器医へ相談、がん治療開始後も3ヵ月毎に心機能をフォローし心配な所見があれば適宜循環器医に相談をすると良いと思います。がん治療中の心血管毒性の管理において、がん治療医と循環器医との良好な連携は欠かせません。(図3)CTRCD[がん治療関連心機能障害]の管理アルゴリズム―ESMO consensus recommendations 2020―画像を拡大する1)Crone SA, et al. Nat Med. 2002;8:459-465.2)Ewer MS, et al. Nat Rev Cardiol. 2015;12:547-558.3)Verma S, et al. New Engl J Med. 2012;367:1783-1791.4)Lenneman CG, et al. Circ Res. 2016;118:1008-1020.5)Lyon AR, et al. Eur J Heart fail. 2020;22:1945-1960.6)Nemeth BT, et al. Br J Pharmacol. 2017;174:3727-3748.7)日本腫瘍循環器学会編集委員会編. 腫瘍循環器診療ハンドブック. メジカルビュー社;2020.8)Tan-Chiu E, et al. J Clin Oncol. 2005;23:7811-7819.9)Curigliano G, et al. Ann Oncol. 2020;31:171-190.講師紹介

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ワクチン接種後アナフィラキシー発症例、その特徴は/厚労省

 2021年2月17日~4月4日までに、日本国内で新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーとして医療機関から報告されたのは350例。これらの事例について専門家評価が行われ、実際にブライトン分類1~3に該当しアナフィラキシーとして判断されたのは79例であった。4月9日に開催された厚生労働省第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会1)では、この詳細が公開された2)。現時点での報告頻度は100万回当たり72 件 350例についての専門家評価の結果、ブライトン分類1*が14件(1回目接種:14件)、2が57件(1回目接種:53件/2回目接種:4件)、3が8件(1回目接種:8件)該当したことが報告された。 ブライトン分類レベル1~3の報告頻度は79 件/109万6,698 回接種(72 件/100万回)。米国での報告(4.7件/100万回)や英国での報告(17.7回/100万回)と比較すると高いようにもみられるが、米国の医療従事者調査では247回/100万回という報告も出ており、被接種対象者の違い、報告制度の違い等の理由から、単純な比較は難しい状況にあると検討部会では位置づけている。年齢別・性別・アレルギー歴別の報告数 ブライトン分類レベル1~3に該当した79例について年齢別・性別・アレルギー歴別に報告件数をみた結果は以下のとおり。[年齢別・性別]20~29歳:15件(男性6件/女性9件)30~39歳:20件(男性2件/女性18件)40~49歳:28件(男性0件/女性28件)50~59歳:13件(男性0件/女性13件)60~69歳:3件(男性0件/女性3件)[アレルギーの既往歴別(アナフィラキシーおよび薬剤アレルギーの既往歴の有無別)]ブライトン分類レベル1:既往歴有4件/既往歴なし9件/不明1件(計14件)ブライトン分類レベル2:既往歴有23件/既往歴なし32件/不明2件(計57件)ブライトン分類レベル3:既往歴有1件/既往歴なし7件/不明0件(計8件) なお、アナフィラキシーとして報告されたほぼ全ての症例で軽快したことが判明していると報告され、各症例の転帰や転帰日のほか基礎疾患などについての情報が、資料2)にまとめられている。日本アレルギー学会の専門委員による評価結果 今回の部会では、参考人として日本アレルギー学会理事の中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)を招聘。中村氏は、日本アレルギー学会 Anaphylaxis 対策委員会での検討結果3)について報告した。この検討は、3月11日までに医療機関からアナフィラキシーとして報告された35件について行われたもの(このうちブライトン分類1~3に該当とされたのは10件)。 11名の同委員会委員によるアレルギー学会ガイドラインに基づく重症度分類で、グレード1(軽症)としての評価が最も多かった事例は16例、グレード2(中等症)としての評価が最も多かった事例は10例、グレード3(重症)が9例となった。全体として重症度は低かったことになるが、アドレナリンを中心とする治療により重症への進展を防ぐことができた症例が含まれている可能性があると指摘している。β遮断薬使用者や高血圧患者でのアドレナリン使用の注意点 アドレナリン筋注の使用に関して、報告では使用された20例中「使用は適切であった」が15例、 使用されなかった11例は全て「使用しなかったのは適切であった」という結果であった。なお、4例ではアドレナリン使用の有無に関する記載がなかった。「アドレナリンの使用に関する記載が不十分ではあったものの、その使用については概ね適切な対応がなされていたのではなかったかと推察された」とまとめられている。世界的にもアナフィラキシーガイドラインでは一般的に、「現場の医師がアナフィラキシーと判断した場合はアドレナリン筋注を実施すべきであり、適切な実施がなされなかったために致命的となるリスクは過剰使用のリスクよりもはるかに大きい」と考えられている。 委員からは、β遮断薬使用者や高血圧患者でのアドレナリン使用、高齢者での接種開始にまつわる注意点についての質問が上がった。中村氏は、「β遮断薬使用者ではアドレナリンが効かない場合が多いので、グルカゴンの使用など、通常のルールに従って行われるべきではないか」と回答。「高血圧患者に対しては、例えば血圧が200近い場合などはアドレナリンの投与に躊躇するのではないかと思う。その場合、投与量を減らすのが一般的なアナフィラキシーに対する救急の処置になる。具体的には、通常、成人には0.3mgのところを0.2mgとするなどが考えられる」と説明した。投与量が少ないためにアナフィラキシーに対する効果が薄い場合には、例えば15分後に再投与するなどの工夫が必要になるとした。そのうえで、アナフィラキシーはその場で命に関わるものであり、高血圧はアドレナリン投与の絶対的な禁忌ではないことを補足した。 また高齢者の接種開始にまつわる注意点については、「コントロール不良の喘息患者さんでは、アナフィラキシーが重症化しやすい。そして重症喘息は高齢者に比較的多いので、注意が必要」と指摘した。*:ブライトン分類については、第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2021年3月21日)配布資料「国内でのアナフィラキシーの発生状況について」9ページ目に詳細が解説されている。

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新型コロナワクチンによるアナフィラキシー、高齢者での管理は?

 COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの発生頻度は10万回に1回~100万回に5回程度と稀であるものの、高齢者のアナフィラキシーの管理はとくに慎重に対応する必要がある。欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)、欧州老年医学会(EuGMS)らは合同のワーキンググループを発足、COVID-19ワクチンによる高齢者のアナフィラキシーの管理に関する公式見解(position paper)を、Allergy誌オンライン版2021年 4月2日号に報告した。 position paperは下記5項目で構成され、それぞれ推奨事項が提案されている。1.COVID-19ワクチンとアナフィラキシー2.高齢者におけるアナフィラキシー症状3.高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子4.高齢者におけるアナフィラキシーの管理5.臨床でのアナフィラキシー反応の予防と管理 本稿では、一部内容を抜粋して紹介する。「COVID-19ワクチンとアナフィラキシー」、頻度や傾向は? 米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)で報告されたデータの最初の分析では、ファイザー社のmRNAワクチン100万回投与当たり11.1例のアナフィラキシーが報告された。続く2021年1月18日のVAERSレポートでは、ファイザー社ワクチン接種者で100万回投与当たり5回、モデルナ社ワクチン接種者100万回投与当たり2.8回のアナフィラキシーが報告されている。ワクチンに使用されているポリエチレングリコール(PEG)がアレルギー反応を引き起こす可能性があると指摘されている。 ファイザー社ワクチンでのアナフィラキシー症例の年齢中央値は40歳(27~60歳)で、報告された症例の90%は女性。アレルギー反応は、常にではないものの、多くの場合、重度のアレルギー反応の既往歴のある人に発生した。 また、mRNAワクチンの臨床試験段階では、痛み、倦怠感、頭痛、発熱などの局所および全身性反応の発生数は、若年者よりも高齢者で少なかった。「高齢者におけるアナフィラキシー症状」、若年者との違い 2019年に報告がまとめられた欧州のアナフィラキシーレジストリでは、昆虫毒や鎮痛薬、抗生物資などによりアナフィラキシーを発症した65歳以上1,123人のデータが解析されている。発現したアナフィラキシー症状は若年成人と高齢者で類似していたが頻度は異なり、高齢者では心血管症状がより頻繁に発生していた(若年成人の75%に対して80%)。 主な心血管症状は意識喪失(33%)で、めまいと頻脈については若年成人に多くみられた。心停止は、高齢者の3%と若年成人の2%で発生。皮膚症状は最も頻繁にみられ、蕁麻疹と血管性浮腫は通常は他の症状の前に現れる。皮膚症状のない高齢患者のアナフィラキシー反応の重症度は、若年成人と比較して増加した。消化器症状は、両方のグループで同様の割合で発生していた。 呼吸器症状、とくに呼吸困難は、高齢者で頻繁にはみられていない(若年成人の70%に対して63%)。ただし、チアノーゼ、失神、めまいは、高齢者のショック発症を高度に予測していた。Ring and Messmer 分類のGrade III(47%)およびGrade IV(4%)を含む重度のアナフィラキシー反応は、65歳以上で多くみられた。 高齢患者の30%でアドレナリンが投与され、60%で入院が必要であり、19%が集中治療室(ICU)で治療された。Grade IIおよびIIIの症例では、若年および中年の成人と比較して、有意に多くの高齢者が入院およびICUケアを必要としていた。「高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子」 高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子として、「併存疾患」と「服用薬と多剤併用」を挙げている。併存疾患として、上述のレジストリでは高齢であることと肥満細胞症の併存が重度のアナフィラキシーのリスク増加の最も重要な予測因子であった。遺伝性α-トリプトファン血症もリスク因子となる。虚血性心筋症ではアナフィラキシーの重症化および死亡リスクが高くなる。アテローム性動脈硬化症の病変により、アナフィラキシー中の低酸素症および低血圧に対する耐性が低下することも報告されている。レジストリでは、心血管疾患、甲状腺疾患、およびがんが若年成人よりも多くみられた。 服用薬については、レジストリでは重度のアナフィラキシーリスクの補因子となる薬剤(ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、アセチルコリン、プロトンポンプ阻害薬など)は、若年成人(18%)よりも高齢者(57%)で有意に多く処方されていた。年齢とは独立して、アレルゲン曝露と近い時期に投与されたβ遮断薬とACE阻害薬は、重度のアナフィラキシー発症リスクとの関連がみられたが、アスピリンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬では確認されなかった。 そのほか、抗不安薬、抗うつ薬、催眠薬等中枢神経系に作用する薬で治療されており、アナフィラキシー症状や兆候に対する認識に影響を与えている可能性のある高齢者には、注意を払うことが重要となる。「高齢者におけるアナフィラキシーの管理」、アドレナリン使用の注意点は? EAACI および世界アレルギー機構のガイドラインでは、アナフィラキシーの第一選択療法としてアドレナリンの迅速な筋肉内注射が推奨されており、高齢者においてもアドレナリンが重度のアナフィラキシーに作用することが報告されている。ただし、アドレナリンの多くの心血管系有害事象は血管内経路を介して発生すると考えられ、血管内投与は原則として避ける必要がある。 心血管疾患の併存は、アナフィラキシー発症時のアドレナリンの使用を制限するものではない。これは、この救急措置において他の薬剤が救命効果を発揮しないためである。高齢患者やアナフィラキシーリスクがある心血管疾患のある患者においても、アドレナリン投与に絶対的な禁忌はない。アドレナリン投与後、心室性不整脈、高血圧、心筋虚血などの重篤な副作用は報告されていない。ただし、アナフィラキシー発症の高齢患者では、アドレナリン注射後に有害心イベントを経験する可能性が高く、80歳以上の患者が最もリスクが高いという報告がある。そのため、心血管疾患併存患者がアナフィラキシーを発症した場合、アドレナリン投与のリスクとベネフィットを迅速・慎重に比較検討する必要がある。

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