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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規感染者数が1日10万人を超えているのに伴い、重症者数や救急搬送件数も増え、医療現場の負荷は段々限界に近付いている。ましてこの時期は、感染症だけでなく脳卒中や心筋梗塞などによる救急搬送も増える時期。コロナ対応シフトのしわ寄せは通常医療にも及んでいる。このような状況下、日本慢性期医療協会(日慢協)の武久 洋三会長は1月13日の定例記者会見で、重症患者は高度急性期病院で、軽~中等症患者は地域多機能病院でと、症状に応じて受け入れる医療機関を分けることを提案した。慢性期多機能病院の基となる「慢性期救急」の概念は、医療法人社団永生会の安藤 高夫理事長(前自民党衆議院議員、日慢協副会長)が2005年に提唱したもの。在宅や施設で慢性期療養中の患者が、誤嚥性肺炎や尿路感染症、低栄養、脱水、褥瘡、その他の感染症などで急性増悪した場合、慢性期治療病棟で入院治療を行うというもの。ただし、心筋梗塞や脳卒中発作、骨折、急性腹症、悪性新生物などは急性期救急で受け入れるとした。救急搬送された高齢者の9割は軽症・中等症消防庁が2021年に公表した「令和3年版 救急・救助の現状」によると、事故種別の搬送人員のトップは「急病」(65.2%)で、2位の「一般負傷」(16.4%)を大きく引き離している。「急病」の中身を傷病程度別・年齢区分別に見てみると、「高齢者(65歳以上)」では87.2%が軽症(外来診療)・中等症(入院診療)だった。年齢区分別の搬送人員の推移を見ても、平成12年の37.3%から令和2年の62.3%へと高齢者の割合は増加している。成年以下がこの20年間で20%減少する一方、高齢者は25%も増加している。この傾向に関して、武久会長は「高齢者の軽度救急患者が増えたのは、運転免許返納制度が大きく影響している」と話す。内閣府の令和3年版高齢社会白書によると、65歳以上の単独世帯もしくは夫婦のみの世帯は61.1%で、その割合は40年間で倍増。運転免許の返納により、軽症でも救急車を呼ぶようになったと考えられるわけだ。高齢者の軽症患者が救命救急センターに押し寄せたら、重症患者の受け入れに影響を及ぼすことになるのは必至だ。診療報酬は医療機関の救急受け入れの現状を反映せず救急に関する加算に、救急医療管理加算がある。救急搬送された重篤な患者を受け入れ、早期検査や治療の必要性を踏まえた入院基本料加算で、加算1(950点)と加算2(350点)がある。同加算は一般病床しか算定できないが、実際には救急指定を受けている療養病床を中心とした地域多機能病院(急性期多機能病院、慢性期多機能病院)でも地域の救急患者を受け入れている。しかし、療養病床では同加算は算定できない。算定対象患者以外の患者でも、数多くの急変症状の患者が24時間365日間、救急指定病院を受診している。同加算は「入院時に重篤な状態の患者に対してのみ算定できるもの」とされているが、算定対象患者の状態や判断基準にばらつきがあるといったことが問題視されてきた。そこで、2020年度診療報酬改定の際、レセプト摘要欄に該当する状態や、それぞれの入院時の状態に関する指標として、意識レベル(JCS)や血圧など、該当する状態を算定根拠として記載することなどが要件化された。2021年11月に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の資料から同加算の内訳を見てみると、加算1の場合、10の該当項目のうち、「呼吸不全又は心不全で重篤な状態」と「緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA療法を必要とする状態」の2項目で全体の約半数を占めていた。加算2の場合、「その他の重篤な状態」が最も多く、60%以上を占めていた。救急患者別の受け入れを提案する武久日慢協会長このような結果から、武久会長は「軽~中等度の緊急処置が必要な高齢患者や、高度な技術を要する手術の必要がない軽症患者は、地域の中で、地域多機能病院で解決できる問題だ」と指摘。救急の二極分化に対処するため、本来の重症緊急救急患者は高度急性期病院に、軽~中等度の緊急処置が必要な高齢患者や、手術が不要な患者は地域多機能病院で受け入れるという方法を提案した。救急医療提供体制別に年間救急搬送件数を見ると、高度救命救急センターや救命救急センターは5,000件以上が最も多かったが、2次救急医療機関は分布がばらついていた(2019年開催の中医協資料より)。救急部門はあるが、いずれにも該当しない医療機関は500件未満が最も多かった。2020年度診療報酬改定で新設された加算に、地域医療体制確保加算がある。地域で救急患者を受け入れている2次救急病院などで医師の長時間労働が懸念されていることを受け、適切な労務管理の実施を前提に、「年間2,000件以上の救急搬送患者の受け入れ」など一定の実績を有する医療機関を評価する加算だ。医療機関のインセンティブになる制度改正をこれに対し武久会長は、「要件を緩和して1,000件以上にすべきではないか」と提案する。似たような救急搬送看護体制加算1の施設基準が年間1,000件以上であること、地域の急性期病院は1日3件程度であることが背景にある。このようにして、病床規模が200床未満の中小病院を中心とした「地域救急」患者の受け入れ病院に対する手厚い評価をすれば、軽~中等症患者を積極的に受け入れるインセンティブになる。オミクロン株の感染拡大に伴い、COVID-19患者が急増しているなか、軽~中等症患者までもが3次救命救急センターに押し寄せたら、本当に緊急処置が必要な患者に対応できない事態が起こり得る。救急の機能分化はそれを防ぐ手立てとなるだろう。