CLEAR!ジャーナル四天王|page:18

6時間以上経過した脳主幹動脈閉塞患者に対する血管内治療の有効性について、さらに強いエビデンスとなる結果(解説:高梨成彦氏)

本研究は発症から6~24時間経過した主幹動脈閉塞患者に対する経皮的脳血栓回収術についての6試験のデータを対象としたメタアナリシスである。505症例のデータが解析され、主要評価項目である90日後のmRSの改善について血管内治療の有効性が確認され、調整済みオッズ比は2.54と高いものであった。また副次評価項目である90日後の死亡率および症候性頭蓋内出血の発生率には差はなかった。本試験の意義はサブグループにおいても均一な結果が示されたことで、年齢(<70/70~80/>80)、性別、脳卒中の重症度(NIHSS ≦17/≧18)、閉塞部位(ICA/M1)、ASPECTS(≦7/≧8)、発症形態(眼前発症/wake-up stroke)、いずれの群でも血管内治療の有効性が示された。すでに脳卒中ガイドラインにもあるように、発症から6時間以上経過した患者についての血管内治療は実施されているものの、高齢者や重症患者であっても治療をためらう必要はないということが明確に示された意義は大きい。ただし、軽症群にNIHSS 5点以下の患者は含まれておらず、ASPECTSが低値の群に0~5点は含まれていないことは留意する必要がある。

尽きることのない話題PCI vs.CABG、FAME 3試験をめぐって(解説:中川義久氏)

虚血性心疾患の治療において、PCI vs.CABGは尽きることのない話題である。欧米などの48施設で実施したFractional Flow Reserve versus Angiography for Multivessel Evaluation(FAME)3試験の結果を米国Stanford大学の Fearon氏がTCT 2021で発表した。その結果は、NEJM誌オンライン版2021年11月4日号に報告された(Fearon WF, et.al. N Engl J Med. 2021 Nov 4. [Epub ahead of print])。3枝冠動脈疾患患者においてPCIの適応を判断するにあたり、冠血流予備量比(FFR)のガイド下とすることで予後が改善し、PCIがCABGに劣らない成績を達成することが期待されていた。つまりPCIがCABGに劣っていないことを証明しようという非劣性試験である。結果は、1年時点の死亡・心筋梗塞・脳卒中・再血行再建術の複合イベントの発生で、FFRガイド下のPCIは、CABGに対する非劣性を示すことができなかった。3枝冠動脈疾患患者においてはCABGが依然として最適な治療法といえることが再確認されたのである。

コンセンサスベースとエビデンスベース診療ガイドラインの比較(解説:折笠秀樹氏)

診療ガイドラインの質に関する調査結果である。エビデンスベースの土俵で比較したら、エビデンスベースの診療ガイドライン(GL)のほうがコンセンサスベースGLよりも良かった、という当然の結果であった。循環器関係のACC/AHAガイドラインが12本(1,434推奨)、がん関係のASCOガイドラインが69本(1,094推奨)、合計2,528推奨を研究対象とした。各推奨について、著者の2人がペアとなり、次のことを調べた。コンセンサスベースGLかエビデンスベースGLかの別、用いたグレーディングシステム、推奨度(強・弱)、エビデンスの質(高・中・低)である。推奨度の付け方としては、GRADEシステムというのが有名である。日本の診療ガイドラインは、近年では、ほぼそれに準拠して作られているのではないかと思う。

良かれと思うことも確かめてみる価値あり(解説:折笠秀樹氏)

表題の「Bah humbug!」は何だろうかと思った。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』の中で、主人公が放った有名な言葉らしい。「当てにならない、ばかばかしい」といった意味のようだ。何が当てにならないかというと、「クリスマスカードを臨床試験の被験者へ送ると脱落が減る」だ。クリスマスカードが届くと意識が高まると思いがちだが、実はそんなことはなかったのだ。当然といえば当然。うちにも保険会社から季節のあいさつ状が届くが、開封するも、中身はほとんど読まないままにごみ箱行き。ダイレクトメールもしかり。1%でも反応してくれたら御の字なのだろう。ということは、クリスマスカードを送付しても、せいぜい1%しか来院率が上がる効果はないのかもしれない。

心肺停止時にカルシウム投与は無効(解説:香坂俊氏)

ACLSのプロトコールには「低カルシウム血症や高カリウム血症、さらにカルシウム拮抗薬のoverdose」といった、ごく限られた状況でカルシウム製剤の静注投与が推奨されている。今回デンマークで行われたRCTでは、このカルシウム製剤の有効性をより広範囲の一般的な院外心肺停止症例で検証したが、残念ながらその結果はカルシウム製剤側に害がある可能性が高いということで(ROSC[return of spontaneous circulation]がカルシウム製剤投与群で19%であったのに対し、プラセボ群で27%[リスク比:0.72、p=0.09])、途中で試験中止が勧告されるという結果となった。

コロナに感染してもワクチン接種していると、コロナ入院リスクも重症化リスクも死亡リスクも低い(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による第5波の後、日本では感染者は激減して、多くの医療機関では今後押し寄せるだろう第6波に向けて、粛々と感染対策の見直しやコロナワクチンのブースター接種の業務を進めていることだろう。日本では水際対策が功を奏しているからかどうかはわからないが、世界で話題になっているSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統、通称オミクロン株の大きな流行は12月中旬現在では認められていない。ただし米国の一部の地域や英国などでは冬になりオミクロン株が猛威を振るっている状況であり、日本でも感染対策の手を緩め過ぎることのないようにされたい。

オミクロン株時代における未成年者に対するRNAワクチン接種の意義は?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

本邦にあっては、2022年4月1日をもって民法第4条で定められた成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それ故、2022年4月以降、他の多くの先進国と同様に本邦においても18歳未満を未成年者と定義することになる。未成年者の内訳は複雑で種々の言葉が使用されるが、児童福祉法第4条と旅客及び荷物運送規則第9条の定義に従えば、1歳未満は乳児、1~6歳未満は幼児、6~12歳未満(小学生)は小児、6~18歳未満(小学生、中学生、高校生)は包括的に児童と呼称される。しかしながら、12~18歳未満(中学生、高校生)に該当する名称は定義されていない。未成年者に対するRNAワクチンの海外治験は生後6ヵ月以上の乳児を含めた対象に対して施行されている。これらの海外治験では、本邦の幼児、小児の定義とは少し異なり5歳児は小児として取り扱われている。そこで、本論評では、海外治験の結果を正しく解釈するため、5~12歳未満を小児、12~18歳未満を(狭義の)児童と定義し、オミクロン株時代におけるこれらの世代に対するRNAワクチン2回接種ならびに3回目Booster接種の意義について考察する。

CKDの早期透析導入の意義は?(解説:浦信行氏)

末期腎不全(ESKD)では、その時点での腎移植が望めない場合には生命維持のための透析導入は必須である。あまりに導入が遅ければ、導入後の病状改善に時間を必要とし、また、回復にたどり着く以前に重症感染症や心血管事故などで不幸な転機を取る危険性も増加する。しかし、ほとんどすべての症例は透析導入には抵抗感が大きく、可能な限りの先延ばしを望む。20年ほど前なので数字の記憶は曖昧であるが、実際に経験した症例では透析導入の必要性をお話ししたところ、了解を頂けずに間もなく連絡先不明となった。1年後に重度の倦怠感のため再診された時のBUNが230mg/dL程度であったと思うが、低Na血症が少し血清浸透圧上昇に代償的に働いたのと、若い男性であったので何とかイベントもなく経過したと考えられる。緊急透析はきわめて低い血流量と透析液流量で始めたが、一過性に脳浮腫を発症したか、中程度の意識障害を来した苦い経験がある。このような危険を避ける意味でも透析導入時期の適正化が必要であるが、明らかな臨床指標はないのが現状で、症例の病態、自覚症状、臨床検査値を総合的に勘案して開始時期を決定する。

COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチン同時接種における安全性と免疫原性(解説:小金丸博氏)

 COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチンの同時接種における安全性や免疫原性を検討した研究がLancet誌オンライン版(2021年11月11日号)に報告された。英国で行われた多施設共同ランダム化比較第IV相試験であり、2種類のCOVID-19ワクチン(アストラゼネカ社製とファイザー社製)と3種類の季節性インフルエンザワクチンによる6通りの組み合わせで検討された。その結果、同時接種によって接種後7日間以内の全身反応(発熱、悪寒、関節痛、筋肉痛、疲労、頭痛、倦怠感、嘔気など)の有意な増加はなく、両ワクチンに対する抗体反応も維持されることが示された。2通りのワクチンの組み合わせで95%信頼区間の上限があらかじめ規定された非劣性マージンをわずかに超える全身反応を認めたものの、許容できる範囲と考察されている。

広い範囲で有効なアスピリンでもCOVID-19には効かないみたい(解説:後藤信哉氏)

アスピリンには抗炎症効果がある。また、アスピリンは心筋梗塞などの血栓イベント予防効果もある。COVID-19はウイルス感染なので炎症が起こる。COVID-19では血栓症も増える。抗炎症効果、抗血栓効果のあるアスピリンはCOVID-19の予後改善効果があると期待された。話は変わるが筆者はOxford大学と密接に共同研究している数少ない日本の研究者であると思う。Oxford大学は多くのカレッジからなる。臨床研究を主導するのはNuffield Department of Population Health(旧称 Clinical Trial Service Unit:CTSU)である。彼らの臨床医学における実証的ポリシーは揺るがない。

DOAC時代の終わりの始まり(解説:後藤信哉氏)

製薬企業というのは戦略的な情報企業だと思う。経口Xa阻害薬アピキサバン、リバーロキサバンが世界で毎年1兆円以上売れている。現状をつくるために、製薬企業はきわめて巧みな情報統制を行った。非弁膜症性心房細動は、心不全、突然死などのリスクのマーカーである。しかし、「非弁膜症性心房細動=脳血栓塞栓症」と徹底的に宣伝した。確かに、心房細動症例に脳卒中が多いことはFramingham研究が示した事実である。しかし、脳血栓塞栓症が多いことは誰も示していない。部分的に真実を入れた広報はプロパガンダの初歩である。将来を見越してしっかりとストーリーをつくった能力には敬服する。

サクビトリル・バルサルタン:ステージBにエビデンスが出なかったけど、日本だけはステージAから使えてしまう矛盾(解説:絹川弘一郎氏)

サクビトリル・バルサルタンはとても良い心不全治療薬である。もう少し正確に言うと素晴らしい軽症心不全治療薬である。Paradigm-HFやLifeのデータを見てもNYHA 4度には効かないし、自分の臨床経験でもその通りである。サクビトリル・バルサルタンは重症テスターともいえ、この薬剤に忍容性がない(=血圧が下がりすぎる、ないしは腎機能が悪化する)場合、NYHA 4度と認定しても構わないのではとすら、最近思う。しかし、血行動態が安定しているNYHA 2度のHFrEFには実によく効くし、リバースリモデリングも大いに期待できる。

ダプロデュスタットの透析患者での有効性と初発の主要有害心血管系イベントはESAと同等(解説:浦信行氏)

CKDにおける腎性貧血の治療薬として低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬が透析の有無にかかわらず使用可能となり、これまでにロキサデュスタットをはじめとして5剤が使用可能となっている。HIF-PH阻害薬は転写因子であるHIF-αの分解を抑制して蓄積させ、HIF経路を活性化させる。その結果、生体が低酸素状態に曝露されたときに生じる赤血球造血反応と同様に、正常酸素状態でも赤血球造血が刺激され、貧血が改善する。これまでの臨床試験は5剤いずれも赤血球造血刺激因子(ESA)を対象とした非劣性試験であり、いずれも有効性と有害事象の頻度には非劣性が確認されている。少なくとも有効性に関しては5剤間で大きな違いはないようである。今回はダプロデュスタットの貧血改善効果や有害事象のESAに対する非劣性評価に加えて、初発の主要有害心血管イベント(MACE:全死因死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)に対する評価が行われ、主な副次評価項目は、初発のMACEに加えて入院あるいは血栓塞栓イベントの発症であり、5月に発表されたバダデュスタットとほぼ同様の解析がなされている。

妊娠高血圧腎症pre-eclampsiaとメトホルミン(解説:住谷哲氏)

筆者は内科医で産科は専門外なのではじめに用語を整理したい。2018年に発表された日本産科婦人科学会の「妊娠高血圧症候群の定義分類」によると、「妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群とする。妊娠高血圧症候群は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠に分類される」とあり、病型分類から子癇eclampsiaを除外し、高血圧に母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を認める場合は蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症とする、とされている。妊娠高血圧腎症が以前の妊娠中毒症であり、本論文のpre-eclampsiaと同一概念である。HELLP(Hemolysis, Elevated Liver enzymes, and Low Platelet count)症候群のような腎症を伴わない病態を妊娠高血圧腎症の訳語に含めるのは何となく違和感があるが、本稿でもpre-eclampsiaの訳語として妊娠高血圧腎症を使用する。 妊娠高血圧腎症の病態は現在も明らかではないが、何らかの胎盤機能異常が存在するとされている。胎盤機能異常があるので、最も確実な治療法は分娩または中絶による妊娠終了であるが現実的には妊娠継続を選択する場合がほとんどである。妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦に対する低用量アスピリン投与が発症予防に有効であるとのエビデンスがあるが、発症した妊娠高血圧腎症に対する治療薬は現在存在しない。そこでこれまで、drug-repurposingの観点から、プラバスタチン、プロトンポンプ阻害薬、それとメトホルミンなどの投与が試みられてきた。本論文はメトホルミンの有効性を検証するためのproof-of-concept trialである。

抗血小板薬抵抗性などの問題(解説:後藤信哉氏)

心筋梗塞、脳梗塞などの疾病予防のため降圧、糖尿病管理などが行われる。降圧薬の効果は血圧で簡便・正確に計測できる。血糖もしかりである。アスピリン、クロピドグレルなどの抗血小板薬の効果を簡便・正確に計測する方法は確立されていない。このため、新薬が開発されるごとに古い薬の「抵抗性」などが強調された。クロピドグレルの特許切れ前には「アスピリン抵抗性」などが喧伝された。簡便・正確な薬効指標がないため、反論は困難であった。一世を風靡したクロピドグレルも特許切れした。同一の薬効標的に対してプラスグレル、チカグレロルが開発された。しかし、臨床家が実感できるクロピドグレルの欠点を探すのは困難であった。多くの医師は自らが処方する多く薬剤の代謝経路など理解していない。しかし、クロピドグレルについてはCYP2C19という肝酵素により活生体が産生されることが強調された。CYP2C19の遺伝子型も解明され、代謝の速いヒト、遅いヒトがいるとされた。代謝の遅いヒトではクロピドグレルの効果が発現しないように喧伝された。日本人を含むアジア人では代謝の遅いpoor metabolizerが多いのでクロピドグレルが効きにくいとされた。クロピドグレルの臨床開発に寄与して、日本人はむしろ効き過ぎて出血が増える懸念があるとして50mgの減量を承認したプロセスを熟知する筆者には世の中の風の変化が驚きであった。

新型コロナウイルスワクチン接種者のブレークスルー感染(既感染者と未感染者の比較)(解説:小金丸博氏)

新型コロナウイルスワクチン接種後にブレークスルー感染が起こることはすでに知られた事実である。今回、mRNAワクチンである「BNT162b2」(Pfizer-BioNTech製)または「mRNA-1273」(Moderna製)の接種者を対象に、ブレークスルー感染発生率を既感染者と未感染者で比較した観察研究がJAMA誌に報告された。BNT162b2接種群の累積感染発生率(追跡期間120日)は既感染者で0.15%(95%信頼区間[CI]:0.12~0.18)、未感染者で0.83%(同:0.79~0.87)、mRNA-1273接種群では既感染者で0.11%(同:0.08~0.15)、未感染者で0.35%(同:0.25~0.48)だった。既感染者は感染により自然免疫を獲得できているため、感染発生率が低いのは予想できる結果である。今回の研究では、既感染者の中でワクチン接種群と非接種群を比較したデータはなく、既感染者にワクチンを接種することによるワクチン免疫の上乗せ効果がどれだけあったかは不明である。また、既感染者のうち、初回ワクチン接種が感染後6ヵ月以上経過していた人の方が6ヵ月未満だった人よりも、ブレークスルー感染率が低いという結果が得られた。興味深い結果ではあるが、このような結果が得られた理由は説明できていない。既感染者に対するワクチンの適切な接種時期、スケジュールは確立されておらず、今後の課題の1つである。 本研究はカタールで実施された全国レベルの大規模なコホート研究である。注意すべきLimitationとしては、未感染者の中に見逃された感染者が含まれている可能性があること、対象に小児や高齢者の割合が少なく一般化できないこと、基礎疾患に関してマッチングをできていないこと、2種類のワクチンの直接比較はできなかったこと、などが挙げられる。

欧州人では血管内治療前の血栓溶解療法は必要か?(解説:内山真一郎氏)

前方循環系の脳内主幹動脈閉塞による急性虚血性脳卒中において血管内治療(EVT)前のアルテプラーゼ静注療法の有無を比較した無作為化比較試験はいずれもアジア(中国と日本)で行われており、欧州で行われた本試験(MR CLEAN-NO IV)はアジア以外では初めての試験であった。EVTが可能で、かつアルテプラーゼ静注療法の適応がある539例を対象に行われた本試験では、主要評価項目であった90日後の転帰に両群間で有意差はなく、EVT単独療法の非劣性は証明されず、安全性の評価項目であった症候性頭蓋内出血もEVT単独群とアルテプラーゼ併用群の間に有意差がなかった。これまでに行われた同様の試験としては、中国で行われたDIRECT-MT試験とDEPT試験、および日本で行われたSKIP試験の3試験があり、それらのメタ解析によれば、血管内治療単独群と血栓溶解橋渡し療法群の間に3ヵ月後の転帰は有意差がなく、症候性頭蓋内出血も有意差がないという結果が示されている。本試験の結果もこのメタ解析と同様であり、この論争に決着をつけるには、さらなるエビデンスの集積が必要になる。

併用療法の有効性が示唆される結果となった(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術では、血栓吸引カテーテルとステントリトリーバーの2種類のデバイスが使用される。基本的にはそれぞれ単独で使用するが、効率的な回収を期待して両者を組み合わせた併用療法も行われている。  本研究は併用療法がステントリトリーバー単独療法よりも有効性が高いという作業仮説を証明するために組まれた、オープンラベルのランダム化比較試験である。  主要評価項目は手術終了時のTICI 2c/3の有効再開通率と設定され、最終的に408例の患者が参加した。年間100例以上の脳血栓回収術を行っている施設のみが参加しており、術者は血栓吸引法とステントリトリーバー法をそれぞれ10例以上経験していることが条件である。

降圧薬の心血管イベント抑制効果 年齢やベースラインの血圧で異なるか (解説:江口和男氏)

わが国の高血圧ガイドラインでは、高齢者における降圧目標を65~74歳については非高齢者と同様の130/80mmHg未満、75歳以上では原則として140/90mmHg未満としている(JSH2019ガイドライン)。同様に、ESHガイドラインでは60~79歳では140/90mmHg以上、80歳以上では160/90mmHg以上と年齢により降圧薬開始の基準を分けている。英国のNICEガイドラインでは80歳以上の高齢者で血圧が150/90mmHg以下であれば降圧治療を推奨しないとし、ISH2020ガイドラインでは冠動脈疾患、脳卒中などの併存疾患がある際の各降圧目標について、通常の130/80mmHgでなく高齢者は140/80mmHg未満と記載している。一方、米国ACC/AHA2017ガイドラインでは65歳以上のすべての外来通院可能な高齢者かつ収縮期血圧(SBP)≧130mmHgではSBPゴール130mmHg未満を目標とした降圧治療を推奨している。このようにわが国および国際的高血圧ガイドラインにおいて高齢者高血圧に対する降圧治療の考え方が異なっている。では、高齢者において積極的降圧療法を行う場合、降圧療法の開始基準や降圧目標を年齢で分けなければならないのだろうか? 高齢者における降圧療法では過降圧が危惧されるが、血圧レベルがさほど高くない場合(たとえば130/80mmHg)では、低血圧などの有害事象が出るだけでイベント抑制効果はないのであろうか?

国・地域により評価が分かれる研究(解説:野間重孝氏)

チカグレロルはcyclo pentyl triazolo pyrimidine (CPTP)系の薬剤に分類される抗血小板薬である。クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系の薬剤がプロドラッグであり肝臓で代謝されることにより活性体となるのに対し、チカグレロルは自身が活性体であるためその作用の出現が速やかであるとともに肝代謝による影響を受けることがない。いずれの系統の薬剤も血小板のP2P12受容体に結合することによりその作用を発揮するが、チエノピリジン系の結合が非可逆的なものであるのに対し、チカグレロルの結合は可逆的である。そのため中止後の効果消失も速やかであるが、その反面作用時間が短いため1日2回の服用が必要である。