CLEAR!ジャーナル四天王

血糖値や体重のコントロールに最も有効なGLP-1受容体作動薬は? (解説:小川大輔氏)

GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病に対して血糖降下作用や体重減少効果のある優れた治療薬である。セマグルチドやチルゼパチドのほか、日本では発売されていないGLP-1受容体作動薬も含めて、数多くあるGLP-1受容体作動薬の中で血糖コントロールや体重減少効果に対して、最も有効な製剤は何か? その問いに答える論文がBMJ誌に発表された。著者らは成人2型糖尿病患者を対象とし、12週間以上プラセボあるいは他のGLP-1受容体作動薬と比較した無作為化対照試験を抽出した。そのうちクロスオーバー試験、非劣性試験、現在使用されていない薬剤との比較試験などは除外し、基準を満たした76試験のネットワークメタ解析を行った。

論文執筆における生成AIの利用範囲はどこまでか?(解説:折笠秀樹氏)

ChatGPTなどの生成AI(GAIと呼ぶ)に関する、指針に関する調査報告です。ChatGPTは2022年に生まれ、急拡大したのは周知のとおりです。英文校正や翻訳作業の利用にとどまらず、論文執筆や図表作成にも使われ始めたようです。こうした生成AIの利用に関する指針が出てきたのは見聞きしていましたが、それに関する大々的な調査結果です。当然ながら、著名な雑誌ほど投稿規定などにいち早く盛り込んでいました。トップジャーナルではすでに87%に及んでいますが、全体で見るとまだ24%しかないようです。生成AIを共著者とすることは、95%以上で禁止しているようです。しかし、生成AIを利用すること自体を禁止しているわけではありません。その範囲はどこまでにすべきかについて、雑誌ごとにばらばらのようです。コンセンサスが得られていないということなのでしょう。

電子タバコは本来の目的を逸脱せず禁煙目的に限定して代替タバコ(禁煙補助剤)として使用、盲目的に長期使用するのは時期尚早で危険!―(解説:島田俊夫氏)

広義の電子タバコは、加熱式タバコと狭義の電子タバコの総称です。わが国の特徴は加熱式タバコ使用者が多い。“電子タバコ”は元来タバコがやめられない、いわゆる紙巻きタバコ中毒患者用の代替タバコ(禁煙補助剤)として開発。その本来の目的を逸脱して使用する傾向に、懸念を抱かざるを得ません。タバコメーカーの広告情報から毒性が低いと信じ込んでいる喫煙者が、電子タバコを文字どおり安全だと疑うこともなく飛びつくのは危険です。目下のところ、毒性を含む安全性確認のためのエビデンスが乏しいと考えるのが妥当ではないでしょうか。

小児インフルワクチン接種は10月がおすすめ?(解説:栗原宏氏)

人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、気管挿管後48~72時間以上経過して発生する肺炎を指す。報告によって幅があるが全挿管患者の5~40%に発生するとされ、ICUでしばしばみられる感染性合併症である。死亡率は約10~30%と院内肺炎の中でもかなり高い。気管チューブから侵入した細菌が気管チューブ、気管支肺胞系、肺実質で増殖することがVAPの原因となる。抗菌薬吸入療法はこれらの部位に直接高濃度の抗菌薬が可能であり、小規模試験のメタ解析によればVAP予防に有効であることが示されている。これを踏まえて、著者らは人工呼吸器導入後3日目以降に、1日1回3日間、理想体重1kg当たり20mgのアミカシン吸入療法を行い、VAPの発生率が減少するかを検討した。

認知症になる前に頭の中で何が起きているのか(解説:岡村毅氏)

アルツハイマー型認知症になる前に頭の中で何が起きているのだろうか? もうすぐ新学期だから、医学生・看護学生に話すつもりでわかりやすく説明しよう。かつてはアルツハイマー型認知症のことは何もわかっていなかったが、亡くなった人の脳を調べることで、重症になればなるほどアミロイドが溜まり、タウが溜まり、脳が小さくなっている(萎縮という)ということがわかっていた。しかし脳は、たとえば肝臓のように、バイオプシーができないため、実際に生きている人の脳の中で何が起きているのかはわからないという大問題があった。診断に関しても、血液検査や画像検査(こういうのをバイオマーカーという)ではわからないので、臨床診断しかなかったのだ。われわれがいつも使ってきたDSM4やICD10はバイオマーカーを用いない臨床診断である。

薬剤推奨不要を示す臨床試験(解説:後藤信哉氏)

欧米人は各種疾病、合併症のリスク層別化がうまい。抗凝固薬は確実に重篤な出血合併症リスクを増加させるので、メリットの明確な症例に限局して使用することには価値がある。私は、本研究のThrombosis Risk Prediction for Patients with Cast Immobilisation (TRiP)スコアを知らなかった。私同様知らないヒトはhttps://doi.org/10.1016/j.eclinm.2020.100270を読むとよい。臨床的に比較的簡便に血栓リスクの層別化が可能である。本研究では、急性期を過ぎたのちに、low risk群(TRiP(cast)スコア<7)には抗凝固薬療法を施行せず、high risk群に抗凝固薬療法を施行した。

脳の血栓溶解は24時間まで大丈夫?(解説:後藤信哉氏)

 灌流動脈の血栓性閉塞により臓器の虚血性障害が始まる。血液灌流の再開時には再灌流障害も起こるが、酸素化再開により機能を修復できる部分が大きければ血栓溶解療法の適応となる。循環器では心筋梗塞後6時間までが、当初再灌流の有効時間と考えられた。その後、灌流直後に動き始めない冬眠心筋(hibernation myocardium)、気絶心筋(stunned myocardium)など再灌流後長時間経過しても機能回復する心筋がみつからず、再灌流可能時間は発症後12時間、24時間と延びていった。  直感的に、脳の神経機能は心筋より虚血性障害に弱そうにみえる。また、再灌流後の脳出血リスクも心配であった。

やはり高頻度だったデノスマブの透析高齢女性への投与における重症低Ca血症(解説:浦信行氏)

 デノスマブは、破骨細胞の活性化に関与すると考えられているNF-κB活性化受容体リガンドと結合することによって、骨破壊に起因する病的骨折等の骨関連事象の発現を抑制する、ヒト型モノクローナル抗体である。  腎不全の病態では腸管からのCa吸収が低下するため、そのCaの濃度を維持しようとして、二次性副甲状腺機能亢進を来した状態である。そのような高回転骨の状態にデノスマブを使用すると、破骨細胞性骨吸収が抑制されるが、その一方で類骨での一次石灰化は続くため、細胞外液から骨にCaが一方的に流入し、高度の低Ca血症が引き起こされると考えられる。

5歳から17歳の小児および青年に対する2価新型コロナワクチンの有効性(解説:寺田教彦氏)

本研究は、米国で行われた3つの前向きコホート研究のうち、2022年9月4日から2023年1月31日までの期間のデータを統合して、オミクロン株BA.4/5亜系統が主に流行していた時期の小児および青年期におけるCOVID-19に対する2価mRNAワクチンの有効性を推定している。本研究結果の要約は「小児・思春期の2価コロナワクチン、有効性は?/JAMA」にもまとめられているように、SARS-CoV-2感染症(COVID-19 RT-PCR陽性)に対するワクチンの有効性は54.0%(95%信頼区間[CI]:36.6~69.1)で、症候性COVID-19に対する同有効性は49.4%(95%CI:22.2~70.7)だった。本論文の著者らは、2価新型コロナワクチンは小児および青年に対して有効性を示し、対象となるすべての小児と青年は推奨されるCOVID-19ワクチン接種を最新の状況とする必要があると結論づけている。

CRT-DはNYHA分類II/III度心不全の全死亡を14年後まで減少させる(解説:原田和昌氏)

心臓再同期療法(CRT)は、QRS幅が広いHFrEF患者にベネフィットがある。それら患者の大半が植込み型除細動器(ICD)適応患者でもあることから、ICD+CRTにより死亡、心不全入院が低下するかを、2010年に多施設共同二重盲検無作為化試験のRAFT試験は調べた。ICDにCRTを追加すると平均追跡期間40±20ヵ月時点で、ICD単独よりも死亡または心不全によるあらゆる入院の割合が減少した。試験に参加した施設のうち、被験者数が多かった8施設の1,050例を長期追跡し、ICD+CRTの有効性が持続するかを評価した結果が、カナダ・アルバータ大学のSapp氏らによりRAFT長期アウトカム試験として報告された。

1型糖尿病に対する週1回の基礎インスリン補充の効果と安全性は(解説:安孫子亜津子氏)

新たな週1回製剤であるインスリンicodecは、世界で第III相の臨床試験が行われており、1型糖尿病に対する52週間の無作為化非盲検第IIIa相試験である「ONWARDS 6試験」の結果が、2023年10月号のLancet誌で報告された。この試験は日本を含む12ヵ国99施設で行われ、基礎インスリンとして週1回投与のicodecと、1日1回投与のデグルデクを比較したものであり、両群ともにボーラスインスリンとしてはアスパルトを併用している。主要評価項目はベースラインから26週時におけるヘモグロビン値(HbA1c)の変化量であり、その他の有効性評価項目としては52週時におけるHbA1cの変化量、26週時の空腹時血糖値の変化、22~26週における血糖日内変動におけるTime in range(TIR)など。安全性の評価項目としては体重変化、平均インスリン週投与量、54mg/dL未満の臨床的に重大な低血糖、夜間低血糖、重症低血糖などである。

高親和性TTR安定化薬acoramidisはATTR心アミロイドーシスの予後を改善する(解説:原田和昌氏)

ATTR心アミロイドーシスは、単量体がミスフォールドされたトランスサイレチン(TTR)がアミロイド線維として心臓、神経、消化管、筋骨格組織に沈着することで引き起こされる疾患で、心臓への沈着により心筋症が進行する。ATTR心アミロイドーシスの治療薬としては、TTR安定化薬であるタファミジスがすでに承認されている(ATTR-ACT試験)。また、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの適応をすでに取得しているsiRNA静脈注射剤のパチシラン(3週に1回投与)により、ATTR心アミロイドーシス患者の12ヵ月時の機能的能力が維持されることが報告された(APOLLO-B試験)。acoramidisは四量体TTRの解離をより強力に阻害する高親和性TTR安定化薬であり、第II相試験でその有効性が示唆されていた。

やはりワルファリンとの比較でないとDOACは対抗できない?(解説:後藤信哉氏)

心房細動の脳卒中予防には、アピキサバンなどのDOACが多く使用されている。根拠となったランダム化比較試験では、PT-INR 2~3のワルファリンが対照薬であった。ワルファリン治療は心房細動の脳卒中予防の実態的な過去の標準治療ではなかった。さらに、PT-INR 2~3を標的とするのは実態医療とも乖離していた。今回は、心房の筋肉にcardiomyopathyを認めるが、心房細動ではない症例を対象として、奇異性塞栓によるアピキサバンの脳梗塞再発予防効果をアスピリンと比較した。心房筋に障害があるので、病態は心房細動に近い。心房細動例の脳卒中再発予防であれば、過去の標準治療(PT-INR 2~3を標的としたワルファリン)にDOACは有効性で劣らず安全性に勝った。しかし、本研究対象のように心房細動ではないとアピキサバンはアスピリンと有効性・安全性に差がなかった。心房細動の有無というリズムが結果に与えた影響が大きかったのだろうか? 筆者は見かけの差異は対象の差異によると考える。

ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対する次世代治療薬repotrectinib(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がんの約2%に認められるドライバー遺伝子変異である。現在、本邦でもROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対し、クリゾチニブおよびエヌトレクチニブが承認されている。「PROFILE 1001試験」においてROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対してクリゾチニブはORR 72%、PFS中央値19.2ヵ月、OS中央値51.4ヵ月という有効性を示した(Shaw AT, et al. N Engl J Med. 2014;371:1963-1971., Shaw AT, et al. Ann Oncol. 2019;30:1121-1126.)。また同じくROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対するエヌトレクチニブ単剤療法を評価した「ALKA-372-001試験」と「STARTRK-1試験」「STARTRK-2試験」の3つの臨床試験の統合解析では、ORR 77%、PFS中央値19.0ヵ月という結果が示された。いずれも『肺癌診療ガイドライン2023年版』では推奨度「1C」という位置付けとなっている。

末期腎不全治療選択(ETC)モデル導入で人種格差・地域格差などの解消になるのか?(解説:浦信行氏)

米国では1972年の社会保障法の改正により、翌年から慢性腎不全治療としての透析や腎移植がメディケアの給付対象となり、連邦政府が総費用の80%を負担することとなった。その後、負担軽減の幾度かの改正を経て、2010年のヘルスケア改革法に基づき、数年の準備を経て2014年に本格的に、この改革法が実行された。いわゆるオバマケアである。基本骨格は低所得者を対象としたメディケイドと基本的に高齢者を対象としたメディケアであり、両方の有資格者をメディケア・メディケイド二重資格者としている。末期腎不全(ESRD)はすべての年齢でメディケアの対象であるが、日本と違い一定の保険料を払う義務がある。これを改良し、利用者負担に保険料納付の上限を設けて、より低負担でより広範囲な医療を受けられるようにしたのが、メディケアアドバンテージプランである。しかしESRD患者は、その医療費負担が自治体や保険会社に過大であると判断され、2020年までは適応対象とはならなかった。2021年1月に、ようやく適応対象とされ、ESRDの患者にとって必要な医療がより受けやすくなった。

ERCP後膵炎の予防におけるインドメタシン坐剤の役割は?(解説:上村直実氏)

 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、胆道および膵臓疾患にとって重要な診断法・治療法である。厚生労働省の2007年から2011年のアンケート調査によると、ERCP後の膵炎発症頻度は0.96%、重症例は0.12%と報告されており、重症膵炎の発症頻度は低いが、一度生ずると患者負担が大きいため膵炎の予防法が課題となっている。今回、米国とカナダで行われた無作為化非劣性試験の結果、ERCP後膵炎の高危険群における膵炎の予防に関して、欧米の標準治療である非ステロイド性抗炎症薬インドメタシン直腸投与+予防的膵管ステント留置の併用と比較して、インドメタシン単独投与は予防効果が劣ることが2024年1月のLancet誌に掲載された。

GLP-1受容体作動薬の投与には適切な患者をSELECTするのが肝要だろう(解説:住谷哲氏)

注射薬であるGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:オゼンピック)が心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者の心血管イベント発症を26%減少させることが、SUSTAIN-6試験で報告されている。一方で、経口セマグルチド(同:リベルサス)はPIONEER 6試験において心血管イベントハイリスク2型糖尿病患者の心血管イベント発症を増加させないこと、つまり既存の治療に対する非劣性は示されたが優越性は証明されなかった。したがって、同じセマグルチドではあるが、心血管イベント抑制を目標とするのであれば経口薬ではなく注射薬を選択するのが妥当だろう。

COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている。  同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。

症候性の重症大動脈弁狭窄症に対する新しい非侵襲的超音波治療(NIUT)の可能性(解説:原田和昌氏)

TAVIが開発されたおかげで、手術困難な高齢者の大動脈弁狭窄症も治療が可能となったが、それでも重症大動脈弁狭窄症を有する高齢者の16%程度は治療対象から外れるといわれている。したがって、併存症の多い寿命の限られた高齢の石灰化大動脈弁狭窄症に対する真に非侵襲的な治療の開発が求められている。非侵襲的超音波治療(NIUT)は、超音波を集中させて正確な位置に当て、石灰化した大動脈弁尖を軟らかくして大動脈弁の動きを良くするものである。Valvosoftデバイス(Cardiawave社、ルバロワ・ペレ、フランス)はリアルタイムの超音波画像で位置決めをし、泌尿器科で使う体外衝撃波結石破砕治療よりも低いエネルギー密度の超音波パルスで治療を行うものであり、これを用いたNIUTの安全性と実現可能性(有効性ではない)を多施設共同、シングルアームで検証した。新しいデバイスの少数例のパイロット試験である。

インスリン療法を行っている妊娠中の糖尿病に、メトホルミンを追加することの意義は?(解説:小川大輔氏)

妊娠前から2型糖尿病と診断されている方でも、妊娠後に糖尿病と診断された方でも、妊娠中の糖尿病の管理は食事療法とインスリン療法が基本となる。日本では妊婦に対するメトホルミンの投与は禁忌とされているが、海外では使用が可能となっている。糖尿病合併妊娠あるいは妊娠糖尿病患者を対象に、インスリン療法に加えてメトホルミンを追加した際の新生児期の有害事象に対する効果を検討した結果がJAMA誌に発表された。米国17ヵ所の医療機関で、妊娠前に2型糖尿病と診断されている、または妊娠23週以前に妊娠糖尿病と診断されたインスリン治療中の被検者831症例を対象に、メトホルミン1,000mgを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは周産期死亡、早産、新生児低血糖、在胎不当過大児あるいは在胎不当過少児、光線療法を必要とする高ビリルビン血症といった新生児複合有害事象であった。