去勢感受性前立腺がんで生化学的再発リスクが高く、従来型の画像検査で転移の証拠を認めない患者において、エンザルタミド+リュープロレリン併用療法はリュープロレリン単独療法と比較して、8年後の全生存期間(OS)を有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現は認められなかった。また、エンザルタミド単独療法はリュープロレリン単独療法と比較して、OSに関する優越性は認められなかった。米国・START CarolinasのNeal D. Shore氏らが、第III相試験「EMBARK試験」の最終解析の結果を発表した。すでに、エンザルタミド+リュープロレリン併用療法およびエンザルタミド単独療法は、リュープロレリン単独療法と比較して、無転移生存期間(主要評価項目)を有意に延長し、前立腺特異抗原(PSA)進行、新たながん治療薬の使用開始、遠隔転移、症候性の病勢進行までの期間も有意に優れることが報告されている。今回は、主な副次評価項目であるOSと共に長期の安全性の最終解析の結果が公表された。NEJM誌オンライン版2025年10月19日号掲載の報告。
17ヵ国244施設で実施した国際的な無作為化試験
EMBARK試験は、17ヵ国244施設で実施した無作為化試験であり、2015年1月~2018年8月に参加者を募集した(PfizerとAstellas Pharmaの助成を受けた)。
前立腺がんと診断され、生化学的再発のリスクが高く(PSA値の倍加時間≦9ヵ月など)、去勢感受性病変を有し、従来型の画像検査で転移の証拠がなく、血清テストステロン値が150ng/dL以上で、前立腺全摘除術または放射線療法(あるいはこれら双方)を施行後にPSA値の上昇を認めた患者1,068例を登録した。
これらの患者を、エンザルタミド+リュープロレリン併用群(355例、二重盲検下)、リュープロレリン単独群(358例、二重盲検下)、エンザルタミド単独群(355例、非盲検下)に無作為に割り付けた。
8年OS率:併用群78.9%、単独群それぞれ69.5%、73.1%
OSは、リュープロレリン単独群に比べ併用群で有意に延長した。8年OS率は、リュープロレリン単独群が69.5%(95%信頼区間[CI]:64.0~74.3)であったのに対し、併用群は78.9%(95%CI:73.9~83.1)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.60、95%CI:0.44~0.80、p<0.001)。また、エンザルタミド単独群の8年OS率は73.1%(95%CI:67.6~77.9)であり、リュープロレリン単独群との間に有意差を認めなかった(0.83、0.63~1.10、p=0.19)。
他の副次評価項目の最新データの解析では、新たながん治療薬の使用開始については、リュープロレリン単独群と比較した併用群のHRは0.37(95%CI:0.29~0.49)、リュープロレリン単独群と比較したエンザルタミド単独群のHRは0.57(0.45~0.72)であった。
また、症候性骨関連イベントの発生については、リュープロレリン単独群と比較した併用群のHRは0.40(95%CI:0.22~0.72)、リュープロレリン単独群と比較したエンザルタミド単独群のHRは0.49(0.28~0.86)であり、初回の後治療の無増悪生存期間については、それぞれの比較のHRは0.56(0.42~0.76)および0.76(0.58~1.00)だった。
安全性所見は主解析時と一致
安全性に関する所見は、無転移生存期間の主解析時と一貫性を認め、新たな安全性シグナルの報告はなかった。乳房関連有害事象はエンザルタミド単独群で多く、このうち女性化乳房は併用群の8.8%、リュープロレリン単独群の9.0%、エンザルタミド単独群の46.0%で報告された。試験薬関連の有害事象は、それぞれ87.0%、80.8%、89.3%に発現した。
重篤な有害事象は、併用群の40.5%、リュープロレリン単独群の37.6%、エンザルタミド単独群の43.5%で発生した。このうち試験薬関連は、それぞれ8.5%、2.5%、7.6%であった。また、有害事象による投与中止は、27.5%、12.7%、20.6%に認めた。死亡に至った有害事象は、2.8%、1.4%、3.4%で発生したが、いずれも試験薬との関連はなかった。
著者は、「これらの知見は、生化学的再発のリスクが高い前立腺がん患者の標準治療として、エンザルタミドとリュープロレリンの併用を支持するもの」「エンザルタミド単独は、リュープロレリン単独とOSに有意差がなかったが、先行研究では主な副次評価項目が優れていることから、とくに性機能の保持に懸念を持つ患者の治療選択肢として残されるだろう」としている。
(医学ライター 菅野 守)