デング熱媒介蚊コントロール戦略、幼虫よりも成虫標的のほうが費用対効果に優れる

提供元:ケアネット

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公開日:2011/05/26

 



都市部におけるデング熱の媒介蚊(ベクター)コントロール戦略では、高い駆除効果を有する殺虫剤の年6回散布による成虫コントロールが、費用対効果に優れる介入と考えられることが、米国・エール大学のPaula Mendes Luz氏らの検討で示された。世界で推定25億人がデング熱罹患リスクにさらされ、とくに医療資源に制約のある国で罹患率が高い。毎年約5,000万人が感染し、ベクターと人口の密度上昇により特に都市部で増加している。デング熱コントロールは、主にベクターの幼虫あるいは成虫を標的とした殺虫剤散布に依存するが、殺虫剤抵抗性の進化によりコントロール・プログラムが失敗に終わる可能性があるという。Lancet誌2011年5月14日号(オンライン版2011年5月3日号)掲載の報告。

43の殺虫剤ベースのベクター・コントロール戦略の費用対効果を評価




研究グループは、デング熱ベクターのコントロール戦略について疫学的および経済的評価を行った。

ヒトにおけるデング熱感染抑制の進化的、免疫学的な長期効果を評価する動的モデルを開発した。デング熱による健康負担を障害調整生存年数(disability-adjusted life-years; DALY)の損失で評価した。

43の殺虫剤ベースのベクター・コントロール戦略(成虫または幼虫を標的とした戦略など)について、駆除効果(高:駆除率90%、中:同60%、低:同30%)および年間殺虫剤散布回数(1~6回)に基づいて費用対効果分析を行った。

得られた結果に対するパラメータ不確実性の影響を評価するために、確率的感度分析および閾値分析を行った。

幼虫を標的とするコントロールは逆効果を招く可能性も





すべての介入において、集団免疫の喪失に伴って、将来的なデング熱流行の強度を増強すると考えられる殺虫剤抵抗性の発現がみられた。

モデル分析では、高駆除効果の殺虫剤を年1回以上散布する幼虫コントロールによってデング熱による健康負担が最高で2年まで低下した。これに対し、高駆除効果殺虫剤の年3回以上散布による成虫コントロールでは健康負担が最高4年間低下した。

高駆除効果殺虫剤の年2回散布による成虫コントロール戦略の増分費用対効果比は615米ドル/DALYの節減となり、年6回散布による成虫コントロールでは1,267米ドル/DALYが節減された。

感度分析では、成虫コントロールの費用が幼虫コントロールの8.2倍以上に達すると、成虫コントロールに基づくすべての戦略が優位になることが示された。

著者は、「高駆除効果殺虫剤の年6回散布による成虫コントロールはWHOの基準を満たす費用対効果比を示し、それゆえ費用対効果に優れた介入と考えられる。幼虫コントロールは、殺虫剤抵抗性の進化や集団免疫の喪失によって後年のデング熱流行に悪影響を及ぼし、逆効果を招く可能性がある」と結論し、幼虫に限定したベクター・コントロール対策の再評価を提言している。

(菅野守:医学ライター)