クロピドグレル治療中の虚血イベント再発リスクが高い患者とは?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/10/28

 



ABCB1遺伝子3435TTホモ接合体を持つ者は抗血小板能が低下しており、特に経皮的インターベンションを施行された急性冠症候群(ACS)患者ではクロピドグレル(商品名:プラビックス)治療中の虚血イベントの再発リスクが高いことが、米国ブリガム&ウィメンズ病院循環器科のJessica L Mega氏らが実施したTRITON-TIMI 38試験の薬理遺伝学的解析で示された。クロピドグレルおよびprasugrelはP糖蛋白(P-gp)を介して細胞外に排出される。P-gpはABCB1遺伝子(MDR1遺伝子とも呼ばれる)によってコードされ、ABCB1遺伝子多型(特に3435C→T)は薬剤の輸送や効果に影響を及ぼす可能性があるという。Lancet誌2010年10月16日号(オンライン版2010年8月29日号)掲載の報告。

TRITON-TIMI 38試験のACS患者と他の7試験に参加した健常者を評価




TRITON-TIMI 38試験の研究グループは、クロピドグレルあるいはprasugrelによる治療を受けた患者の心血管アウトカムに及ぼすABCB1遺伝子多型およびCYP2C19遺伝子変異の影響を評価した。また、健常者を対象に、これらの薬剤の薬力学/薬物動態学的(PK/PD)特性に及ぼす遺伝子型の影響について検討した。

TRITON-TIMI 38試験で経皮的インターベンションを施行され、クロピドグレル(1,471例)あるいはprasugrel(1,461例)による治療を受けた急性冠症候群(ACS)患者2,932例についてABCB1遺伝子型の解析を行った。

ABCB1遺伝子の3435C→T多型と治療15ヵ月までの効果に関する主要エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)の発現率の関連を解析し、ABCB1遺伝子3435C→T多型とCYP2C19機能低下型対立遺伝子の複合的な影響について評価した。

さらに、他の7試験に参加した健常者321人の遺伝子型を解析し、遺伝子変異と最大血小板凝集率の関連および薬剤の活性代謝産物の血漿濃度を測定した。

約半数が、クロピドグレル治療中に心血管系の有害事象の発現リスクが高い




クロピドグレル群のうち、ABCB1遺伝子3435C→T多型の患者は心血管死、心筋梗塞、脳卒中のリスクが有意に高かった(p=0.0064)。Kaplan-Meier 法で算出した主要エンドポイントのイベント発生率は、3435C→T多型がTTホモ接合体の患者が12.9%(52/414例)と、3435CT/CCの患者の7.8%(80/1,057例)に比べリスクが有意に高かった(ハザード比:1.72、95%信頼区間:1.22~2.44、p=0.002)。

ABCB1遺伝子3435C→T多型かつCYP2C19遺伝子のキャリアであることは、主要エンドポイント発現の独立の予測因子であり、クロピドグレルを投与されたCYP2C19機能低下型対立遺伝子、ABCB1遺伝子3435TTホモ接合体あるいはその両方を持つ患者1,454例のうち681例(47%)においてリスクが有意に上昇していた(ハザード比:1.97、95%信頼区間:1.38~2.82、p=0.0002)。

健常者の検討では、3435TTホモ接合体の者は3435CT/CCの者に比べクロピドグレル投与による最大血小板凝集率の絶対低下率が7.3%劣っていた(p=0.0127)。

prasugrelを投与されたACS患者および健常者では、ABCB1遺伝子型と臨床的および薬理学的なアウトカムに有意な相関は認めなかった。

著者は、「ABCB1遺伝子3435TTホモ接合体を持つ者は抗血小板能が低下しており、クロピドグレル治療中の虚血イベントの再発リスクが高い」と結論し、「ABCB1遺伝子およびCYP2C19遺伝子の双方を考慮すると、経皮的インターベンションを施行されたACS患者の約半数は、標準用量のクロピドグレル治療中に心血管系の重篤な有害事象を発現するリスクの高い遺伝子型を有すると考えられる」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)