医師によるうつ病の重症度評価と患者本人の苦痛の乖離に、幼少期の逆境体験などが関与

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/07/11

 

 医師が臨床的に評価した重症度よりも強い苦痛を感じているうつ病患者には、幼少期の逆境体験や自閉症傾向などが多く見られるとする、国立精神・神経医療研究センターの山田理沙氏、功刀浩氏(現在の所属は帝京大学医学部精神神経科学講座)らの研究結果が、「Clinical Psychopharmacology and Neuroscience」に5月30日掲載された。著者らは、「うつ病の重症度評価において、患者の主観的な苦痛の強さを把握することが、より重要なケースが存在する」と述べている。

 近年、患者中心の医療の重要性が認識されるようになり、精神科医療でも治療計画の決定などに患者本人の関与が推奨されるようになってきた。これに伴い、うつ病の重症度についても、医師が評価スケールなどを用いて判定した結果と、患者への質問票による評価結果が一致しないケースのあることが分かってきた。ただ、そのような評価の不一致に関連する因子はまだ明らかにされていない。

 研究の対象は、2017年10月~2020年2月に国立精神・神経医療研究センター病院気分障害センターの外来を受診した、17歳以上の大うつ病性障害(MDD)患者60人および双極性障害(BD)患者40人、計100人〔年齢中央値33歳(四分位範囲24~46)、男性52%〕。診断は、米国精神医学会の診断基準の第4版(DSM-4)に即して行われた。

 医師によるうつ病の重症度評価には「ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)」、患者自身の主観的評価には「ベック抑うつ質問票(BDI)」を用いた。両者の評価結果の関連を検討したところ、有意な正相関(r=0.624、P<0.001)が認められた。

 次に、HAMD-17とBDIの回帰直線からBDIスコアまでの乖離の程度の四分位数で、全体を以下の3群に分類。BDIスコアが回帰直線より高値であり、その乖離幅の大きい25%の群を、医師の評価よりも主観的な苦痛の大きい群(BO群)とした。反対に、BDIスコアが回帰直線より低値であり、その乖離幅の大きい25%の群を、医師の評価よりも主観的な苦痛が少ない群(BU群)とし、残りの50%は両者の評価が一致している群(BC群)とした。これら3群間に、年齢、性別や疾患(MMD、BD)の分布、自殺未遂の既往、治療薬、教育歴、およびHAMD-17などに有意差はなかった。

 医師の重症度評価と患者の主観的評価に関連する可能性のある因子としては、幼少期の逆境体験(CTQ-6)、成人用対人応答性尺度(SRS-A)、問題への対処行動の傾向(WCCL)を評価した。それらの評価結果をBO群、BU群、BC群で比較すると、一部のスコアに有意な群間差が認められた。

 例えばCTQ-6については、合計スコア、および精神的虐待を表す下位尺度が、BU群よりBO群の方が高値だった。下位尺度のうち身体的虐待および情緒的ネグレクトについては、3群間に有意差がなかった。また、SRS-Aについては、合計スコアと自閉症傾向を表す下位尺度などが、BC群やBU群よりBO群の方が高値だった。WCCLに関しては、自責スコアはBC群やBU群よりBO群が高く、希望的観測と回逃・避避のスコアはBC群よりBU群の方が低かった。

 著者らは本研究の限界点として、サンプル数が十分でなく比較的若年の患者が多いこと、大半の患者が既に薬物療法が開始された状態で検討していること、BD患者の躁症状については主観的評価を行っていないことなどを挙げている。その上で、「幼少期の逆境体験や自閉症傾向、問題に対して自責の念を抱きやすい傾向などを有するうつ病患者は、臨床医が客観的に評価するよりも大きな苦痛を感じている可能性がある」と結論付け、「そのような懸念のある患者では、主観的評価を積極的に行うべきではないか」と提言している。

[2023年6月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら