心肺蘇生で帰還した5人に1人が臨死体験?――米英の多施設共同研究

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/12/16

 

 心停止に至り心肺蘇生(CPR)により蘇生した人を対象とする研究から、それらの人が死の淵にある時、全く意識がなかったとは言えないとする研究結果が、米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)で発表された。米国と英国の医療機関が参加して行われた多施設共同研究の結果であり、米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のSam Parnia氏らが報告した。

 臨死体験は古くから人々の興味の的とされてきた。例えば、瀕死の状態から回復した人が、自分を救おうとしている人たちの姿を見下ろしていたといった体験が語られることがある。今回のParnia氏らの発表によると、死の淵に立ち、一見無意識の状態と思われる患者の約20%が、回復後にそのような明確な記憶を報告したという。同氏は、「さらなる研究が必要ではあるが、これを脳のトリックとして片付けることはできない。昏睡状態や死の瀬戸際にある人が、内なる意識を持ち得ることを意味しているのではないか」と述べている。

 この研究の対象者は、米国と英国の25の病院に2017年5月~2020年3月に入院し、入院中に心停止となった567人。このうち10%未満の患者がCPRにより蘇生し生存退院した。また、この対象とは別に、心停止から生還しその際の記憶があると自己報告した、126人を対象とするインタビュー調査が行われた。

 これらの人々が説明した体験には、自分の身体から自分が離脱するという感覚も含まれていて、それらの体験では、痛みや苦悩を伴うことなく事態を観察できたと報告された。また、自分の人生を振り返るという体験もあった。研究者らは、「これらの報告された体験は、幻覚や妄想、夢、またはCPRによって意識が誘発された結果とは異なるものである」と語っている。

 本研究の対象には、脳波測定が行われていた患者も含まれていた。それらの記録には、CPRが施行される1時間前まで、ガンマ波、デルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波を含む、脳活動スパイクが認められるケースもあった。そのような脳波の一部は、通常は意識があって、高度な精神活動を行っている時に発生するものだという。Parnia氏は、「このような脳波の変化は、いわゆる臨死体験の最初の兆候である可能性があり、大規模な研究で初めてそのサインを捉えることができた」としている。また、「これは、人間の意識が他の生体機能と同じように、死の前後で完全には停止しない可能性があることを示唆している」という。

 研究者らは、臨死体験のメカニズムを、「命が尽きる時は、脳に備わっている衝動を抑えるブレーキシステムから解放される『脱抑制』が起き、幼い頃の記憶から現実に起きている事態に関することまで、さまざまな意識が生じるのではないか」と考察。その上で、「われわれの報告は、人間の意識というものについて興味深い疑問を投げかけるものであり、さらなる研究を必要としている」と述べている。

 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

[2022年11月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら