ウォーキング中に心停止に陥った男性をサイクリストがCPRで救命―AHAニュース

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/09/07

 

 昨年8月の土曜日、米国メリーランド州に住む、元ユースフットボールのコーチで52歳の男性、Christopher Holtonさんは、樹木が生い茂る小道を早足で歩いていた。彼は健康診断後に医師から勧められて、毎日のようにトレイルウォークを続けていた。ふだんは友人と一緒に歩くのだが、その日はたまたま一人だった。

 そこは、散歩をする人やサイクリングを楽しむ人、ランナーなどに人気のコースだった。Bryan Buckleyさんと友人のIsang Isangさんもその日、その道をサイクリングしていた。すると、一人の男性がよろめきながら倒れこむ姿が目に入った。Holtonさんだった。

 「われわれはスピードを上げ、男性のもとにたどり着くと自転車から飛び降りた」と語るのは、公衆衛生学の研究者で心肺蘇生(CPR)のトレーニングを受けていたBuckleyさんだ。倒れていた男性は唇から血を流し、手先が震えていた。BuckleyさんはIsangさんに911番通報を指示する一方で、男性の手首で脈拍を把握し続けた。

 救急車を待つ間、男性の呼吸が荒くなり、あたかも最後の瞬間を迎えるかのように思えた。Buckleyさんは男性の脈拍が感知できなくなりそうになった時、スマホのストップウォッチ機能をスタートさせ、胸骨圧迫を開始した。

 やがて周囲に人だかりができた。その中にCPRを知っているという女性がいたため、Buckleyさんはその女性に対してCPRの方法をほかの人々へ教えるように指示。Buckleyさんが疲れると、やり方を習った人のうちの一人に交替し、救急車が到着するまでの20分間、代わるがわるCPRを続けた。

 「救急車の到着は安堵の瞬間だった。私は『生き延びろ!』と、名前も知らない男性に向かって心の中で叫んだ」とBuckleyさんは語る。救急隊は自動体外式除細動器(AED)を作動させた後、病院へと走り去った。その男性の心臓の鼓動が再開したのかどうか、Buckleyさんたちには分からなかった。二人は黙ったまま自転車を漕ぎ始めた。Buckleyさんには、男性が生き延びることができたと思えず、その夜、妻と母親に「見知らぬ人が亡くなる瞬間を目の当たりにした」と話した。「本当に悲しい夜だった」。

 翌週になり、救急隊員からBuckleyさんのもとに電話がかかってきた。あの日の男性は生きていた。「私は心底うれしかった」と彼は言う。

 一方、Holtonさんはその頃まだ入院中で、自分に何が起きたのかを頭の中で整理しようとしていた。覚えていたのは家を出て歩き始めたことまでで、目が覚めたのはICUのベッドの中だった。Holtonさんの冠動脈に閉塞部位はなく、心停止の原因は不明だった。2週間の入院中に植込み型除細動器が留置され、その後さらに2週間、別の病院で経過が観察された。「あの日、自分に何が起こったのか、いまだに思い出せない。しかしBuckleyさんとIsangさんには本当に、本当に感謝している。私にはまだたくさんの享受すべき人生があるように感じた」。

 Holtonさんは10月の第1週に帰宅。今年1月、救急隊の計らいで、HoltonさんとBuckleyさんのビデオ通話の機会が設けられた。その時の感想をBuckleyさんは、「素晴らしい体験だった。人生で安心して冗談を言い合える人はあまり多くないものだが、Holtonさんはその一人だ。私たちはすぐに絆を深めた。かけがえのない時間だった」と語る。その後、2月にはBuckleyさんとIsangさんがボランティア救助隊救命賞を受賞したのを機に、直接会うことができた。

 現在、Holtonさんは以前のトレイルウォークを再開している。アクティブなライフスタイルのおかげで、回復が速いのではないかと感じている。もちろん心臓専門医の受診を続けているし、Buckleyさん、Isangさんとの音信も欠かさない。

 Buckleyさんは、米国心臓協会(AHA)の地域担当理事でもある。あの日以来、「誰もがCPRを学ぶべきだ」と人々に言い、トレーニング受講を勧めている。人生を新たな視点で見るようにもなった。「何かを始めるのをためらったり恐れたりすることがあったが、人生は短いということに気付いた。また、Holtonさんの救命にかかわった経験から、ある瞬間に人々が団結し、素晴らしいパワーを発揮するということを学んだ。あの時の体験は、多くの点でチームスポーツと同じだった」。

[2022年7月12日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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