メトホルミンが高齢糖尿病患者の脳を守る?

提供元:HealthDay News

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公開日:2020/10/29

 

 2型糖尿病の治療に使われるメトホルミンに、意外な“良い副作用”がある可能性が報告された。論文の筆頭著者であるGarvan Institute of Medical Research(オーストラリア)のKatherine Samaras氏は、「2型糖尿病の高齢オーストラリア人を対象とした6年間の研究の結果、メトホルミンの使用と認知機能低下の抑制、および認知症発症率の低下との関連が明らかになった」と述べている。

 「Diabetes Care」9月23日オンライン版に掲載された論文によると、この研究では70~90歳の高齢者1,037人の経過を6年間追跡した。研究の開始時点では調査対象者は全員、自宅で生活しており認知症の兆候は見られなかった。その後の研究期間中は、2年ごとに認知機能テストが実施された。

 対象者のうち123人が糖尿病で、そのうちの67人がメトホルミンを服用していた。メトホルミンを服用していなかった糖尿病患者は、研究期間中に認知症を発症する割合がメトホルミン服用患者に比べて約5倍高いことが明らかになった。またメトホルミン服用患者では、認知機能テストでの思考や記憶能力のスコアの低下速度が遅いことも確認された。Samaras氏によると、この結果は「メトホルミンが2型糖尿病の患者だけでなく、糖尿病でない人の認知症リスクを抑制する手段にもなる可能性を示し、新たな期待を抱かせるものだ」という。

 2型糖尿病患者の多くには、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効果的に作用しない「インスリン抵抗性」が存在する。インスリンは、血液中の糖を細胞が取り込むときに使われ、細胞内に取り込まれた糖はエネルギー源となるが、インスリン抵抗性のためにこの流れが滞ると高血糖になる。そのような状態に対してメトホルミンは、インスリンに対する体の感受性を高めるように働く。ただしメトホルミンの働きはインスリン抵抗性の改善だけでなく、他にも多くの副次的な作用のあることが報告されている。

 Samaras氏は、2型糖尿病またはインスリン抵抗性が血管を障害したり、脳や神経組織の変性に関与する可能性があることに注目している。メトホルミンは、このような血管や神経組織の障害を抑制するように働く可能性があるという。また同氏は、「メトホルミンは安価であり、長い使用経験があるため安全性が高い。服用開始後に見られることのある消化器系の副作用も通常、数週間たつと治まる」としている。

 今回の研究により、糖尿病患者ではメトホルミンが認知機能低下を防ぐ可能性が示された。Samaras氏は現在、同薬が糖尿病でない高齢者全般の認知機能低下を抑制するかを明らかにするため、認知症リスクの高い非糖尿病高齢者を対象とした3年間のランダム化比較臨床試験を計画中という。

 米国アルツハイマー病協会のHeather Snyder氏は、今回の報告について、「メトホルミンの認知機能低下抑制作用を示した研究は、これが初めてというわけではない。しかし、これまでの研究とは異なる背景をもつ対象者でも、既報と同様の結果が得られたことは、この領域の研究を進める上で励みになる」と述べている。

 Snyder氏は、「メトホルミンが記憶や思考能力の低下を抑制する機序を、正確に理解するのは難しい」としている。しかし機序の解明とは別に、同薬の認知症発症抑制作用を検証する多くの臨床試験が進行している現状を紹介。それらの試験の結果が判明するまでは、「定期的な運動、健康的な食事、社会活動への参加などの、認知症リスク低下につながる可能性のある生活習慣を守ることだ。今、自分が何をできるかについて、医師に相談して実行してほしい」と述べている。

[2020年9月23日/HealthDayNews]Copyright (c) 2020 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら