HER2陽性(HER2+)早期乳がんに対し、パクリタキセル+抗HER2抗体薬による12週の術前補助療法は有効性と忍容性に優れ、5年生存率も極めて良好であった。さらにStageI~IIの患者においては、ほかの臨床的・分子的因子を考慮したうえで、化学療法省略もしくは抗体薬物複合体(ADC)による治療を考慮できる可能性が示唆された。de-escalation戦略を検討したWest German Study Group(WSG)による3件の無作為化比較試験(ADAPT-HR-/HER2+試験、ADAPT-HR+/HER2+試験、TP-II試験)の統合解析結果を、ドイツ・ハンブルグ大学のMonika Karla Graeser氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。
<各試験の概要>
■ADAPT-HR-/HER2+試験(134例)
遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(T+P群)、トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(T+P+pac群)に5:2の割合で無作為に割り付け
■ADAPT-HR+/HER2+試験(375例)
遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1群)、T-DM1+内分泌療法(T-DM1+ET群)、T+ET群に1:1:1の割合で無作為に割り付け
■TP-II試験(207例)
遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてT+P+ET群、T+P+pac群に1:1の割合で無作為に割り付け
主要評価項目はいずれも病理学的完全奏効(pCR)で、生存成績は副次評価項目であった。
主な結果は以下のとおり。
・3つの試験から計713例のデータが集められ、術前全身化学療法あり(sCTx群)149例、術前全身化学療法なし/ADC(sCTx-free/ADC群)564例であった。
・ベースラインの患者特性は、>50歳がsCTx群59.7%vs.sCTx-free/ADC群52.7%、StageI が74.5%vs.76.6%、HR+が71.8%vs.84.3%、cT2~4が56.4%vs.55.1%、cN1~3が28.2%vs.32.1%、Grade3が55.7%vs.74.3%であった。
・術後pCR達成症例がsCTx群66.4%vs.sCTx-free/ADC群31.4%、術後化学療法ありが47.1%vs.88.4%であった。
・追跡期間中央値60.7ヵ月における生存成績は以下のとおり。
[5年無浸潤疾患生存(iDFS)率]
sCTx群96.4%vs.sCTx-free/ADC群88.2%(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.29~1.08、p=0. 083)
[5年全生存(OS)率]
97.8%vs.96.8%(HR:0.88、95%CI:0.36~2.11、p=0.775)
・pCR達成状況別にみた生存成績は以下のとおり。
[5年iDFS率]
-pCR例:sCTx群97.8%vs.sCTx-free/ADC群93.7%(HR:0.76、95%CI:0.27~2.12、p=0.609)
-non-pCR例:93.3%vs.85.5%(HR:0.77、95%CI:0.31~1.94、p=0.587)
[5年OS率]
-pCR例:98.9%vs.98.7%(HR:1.10、95%CI:0.28~4.32、p=0.895)
-non-pCR例:95.5%vs.95.8%(HR:1.49、95%CI:0.44~5.03、p=0.523)
・iDFSと関連する臨床的因子を検討した多変量解析の結果、sCTx群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.14、p=0.013)、sCTx-free/ADC群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.51、p=0.026)、cN1([vs.cN0]HR:2.31、p<0.001)と有意に関連していた。
・sCTx-free/ADC群における、pCR後の5年iDFS率に対する術後化学療法実施の有意なベネフィットは確認されなかった(5年iDFS率:術後化学療法あり94.0%vs.なし93.2%、HR:1.25、95%CI:0.39~4.00、p=0.712)。
Graeser氏は、化学療法を省略した術前補助療法群において、pCR達成例で良好な生存成績が得られたことは、さらなるde-escalation戦略検討の基盤となるとし、術前補助療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価する現在進行中のADAPT-HER2-IV試験への期待を示した。
(ケアネット 遊佐 なつみ)