複雑化する薬剤・治療を横断的に概説、『がん免疫療法ガイドライン』改訂/日本臨床腫瘍学会

提供元:ケアネット

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公開日:2023/03/24

 

 がんに対する免疫を介在した治療方法(がん免疫療法)は、新しい薬剤の開発および臨床試験の蓄積により近年急速に発展している。CTLA-4やPD-1/PD-L1といった免疫チェックポイントを標的とした免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ががん種横断的に承認されているほか、エフェクターT細胞療法や、複数のICIを組み合わせて使う併用療法、ICIと従来の抗がん剤、分子標的薬、血管新生阻害薬、放射線治療等とを組み合わせた治療法も続々と登場している。

 これらのがん免疫療法の基本と指針をまとめた『がん免疫療法ガイドライン』(日本臨床腫瘍学会編)が2023年3月に刊行された。2016年12月の初版、2019年3月の第2版に続く第3版となる。2023年3月16~18日に行われた第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)上では、二宮 貴一朗氏(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)が「第3版改訂のポイント/がん種横断的評価とステートメント」と題した講演で改訂ポイントを解説した。

 「ガイドライン委員会で2021年4月から改訂の議論をはじめ、30名を超える専門医のご協力により2年かけて刊行に至った。本版の特徴としては、新たな治療レジメンを踏まえ、有害事象及びその対処法の改訂を行ったこと、がん種別システマティックレビューを行い、がん種・臓器横断的な臨床疑問を設定し、ステートメントを提示したことだ。第2版にあったがん種別のエビデンスに対する推奨の提示は止め、『エビデンスの強さ』のみを提示することにした。これはがん種ごとに推奨される治療法やレジメンが多岐にわたり、かつ頻繁に改訂されており、臓器別ガイドラインと異なる推奨になることは臨床上望ましくないと判断したためだ」(二宮氏)。

 個別項目における主な改訂点は以下のとおり。

I がん免疫療法の分類と作用機序

・免疫チェックポイント阻害薬→新規薬剤である抗LAG-3抗体薬の解説を追加。
・エフェクターT細胞療法→造血器腫瘍分野で新たに承認されたCAR-T細胞療法に関する解説を改訂。
・複合免疫療法→項目を追加。免疫療法と従来の抗がん薬との組み合わせによる効果などを記載。

II 免疫チェックポイント阻害薬の副作用管理

 医師以外の医療者も読者対象に想定し、新たなエビデンスに基づいた解説に更新。最近注目されており、より重症化する傾向のあるサイトカイン放出症候群の項目を追加。

III がん免疫療法のがん種別エビデンス

 「がんワクチン」など否定的な見解が多い療法についてもシステマティックレビューによるエビデンスの確実性に基づいて解説。各療法の歴史などもあわせて解説。

Ⅳ がん免疫療法における背景疑問(Background Question:BQ)

 BQごとに、がん種によって異なる治療ラインやレジメンを解説。具体的なBQは下記のとおり。
BQ1:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は有効か?
BQ2:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬併用療法は有効か?
BQ3:進行期悪性腫瘍に対して、免疫チェックポイント阻害薬と他剤を併用した複合免疫療法は有効か?
BQ4:悪性腫瘍の根治術後の治療において、免疫チェックポイント阻害薬は有効か?
BQ5:免疫チェックポイント阻害薬の効果予測バイオマーカーとして、PD-L1検査は有用か?

 二宮氏は「他のガイドラインとは異なり、がん種横断的なアプローチを深く知ることのできる1冊となっている。治療や薬剤の増加に伴って多様化してきた有害事象にも紙幅を多く割いた。この分野は現在進行中の臨床試験も数多く、読者と共に情報をアップデートしていきたい」とした。

がん免疫療法ガイドライン』第3版(金原出版)
編集:日本臨床腫瘍学会
定価:3,300円
発行日:2023年3月20日
B5判・264頁・図数:29枚・カラー図数:5枚

(ケアネット 杉崎 真名)