日本語でわかる最新の海外医学論文|page:154

低用量アスピリンは肝脂肪を減らすか?~MASLD対象RCT/JAMA

 脂肪性肝疾患の1つであるMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)は、進行すると肝硬変や肝細胞がん、その他の合併症のリスクが高まるとされている。しかし、本邦においてMASLDに対する治療薬として承認されている薬剤はなく、治療法の開発が望まれている。アスピリンは前臨床研究や観察研究において、MASLDから肝線維化や肝細胞がんへの進展を抑制する可能性が示されており、MASLDの治療薬候補の1つと考えられている。そこで、米国・マサチューセッツ総合病院のTracey G. Simon氏らの研究グループは、海外第II相プラセボ対照無作為化比較試験を実施し、肝硬変を伴わないMASLDに対する低用量アスピリンの治療効果を検討した。その結果、低用量アスピリンは肝脂肪量を減少させることが示された。本研究結果は、JAMA誌2024年3月19日号にPreliminary Communicationとして掲載された。

空間ナビゲーション機能の障害はアルツハイマー病の初期兆候か

 バーチャル空間でのナビゲーションが困難な中高年は、将来、アルツハイマー病(Alzheimer disease;AD)を発症するリスクが高まる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)認知神経科学研究所のCoco Newton氏らによるこの研究の詳細は、「Alzheimer's & Dementia: The Journal of the Alzheimer's Association」に2月29日掲載された。  嗅内皮質はADで最初に神経変性が現れる皮質領域であり、その変性は嗅内皮質のグリッド細胞の機能不全と関連することが知られている。グリッド細胞は、経路統合(path integration;PI)能力をベースにした空間行動に関与している。PI能力とはナビゲーション機能の一形態で、自分の運動を手がかりに環境での位置を推定する能力のことである。

「自閉傾向」が高い妊婦ほど、早産などのリスク上昇

 日本全国における8万7,687人の妊婦を対象とする大規模な研究が行われ、自己申告による「自閉傾向」が高いほど、早産や在胎不当過小(small for gestational age;SGA)などのリスクが高いことが明らかとなった。特に、極早産のリスク上昇が顕著だったという。国立国際医療研究センターグローバルヘルス政策研究センターの細澤麻里子氏らによる研究結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に1月23日掲載された。  「自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)」は一定のスペクトラム(幅)を持つ神経発達障害であり、ASDの診断に至らなくても、一般の集団において「自閉傾向」のある人は連続的に分布しているとされる。ASDは社会的コミュニケーションの障害、限定された行動の繰り返しなどを特徴とするが、自閉傾向の高い人もASDと診断された人と同様に、社会的・心理的な困難を伴うことが報告されている。また過去の研究では、ASDと妊娠・出産の転帰不良との関連についても示されている。

コロナ後遺症は月経異常、QOLやメンタルヘルスに影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した人のうち、約3人に1人が悩まされるといわれる「コロナ後遺症(Long COVID)」。新たに、コロナ後遺症のある18~50歳の女性を対象とする研究が行われた。その結果、約20%の女性がさまざまな月経異常を訴え、それに伴いQOLやメンタルヘルスが悪化していることが明らかとなった。岡山大学病院 総合内科・総合診療科の櫻田泰江氏、大塚文男氏らによる研究であり、詳細は「Journal of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology」に1月25日掲載された。  コロナ後遺症の症状は多岐にわたり、オミクロン株の流行期には、倦怠感、頭痛、不眠が増加傾向であると報告されている。また、女性の健康に焦点を当てた最近の研究では、COVID-19の流行が女性の月経にさまざまな悪影響を及ぼしていることなども示されている。そこで著者らは、日本人の女性を対象として、コロナ後遺症としての月経異常の臨床的特徴を明らかにする研究を行った。

医療誤情報の生成、防止できるAIは?/BMJ

 大規模言語モデル(LLM)は、患者の遠隔モニタリング、トリアージ、医学教育、管理業務の自動化を改善する大きな可能性を秘めているが、適切な安全措置(safeguard)が施されていない場合、詐欺的または操作的な意図によるコンテンツの大量生成に悪用される可能性がある。オーストラリア・フリンダース大学のBradley D. Menz氏らは、4つのLLMについて検討し、LLMは健康関連の誤情報の生成に悪用される脆弱性を有しており、これに対する十分な対応を欠いているものの、悪用を防ぐための強固な安全措置は実装可能と考えられることを示した。研究の詳細は、BMJ誌2024年3月20日号で報告された。

HER2過剰発現NSCLCへのT-DXd、第II相試験結果(DESTINY-Lung01)/Lancet Oncol

 抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、既治療のHER2遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした国際共同第II相試験(DESTINY-Lung02)において有用性が認められ、すでに用いられている。既治療のHER2過剰発現またはHER2遺伝子変異陽性の進行・再発NSCLC患者を対象とした国際共同第II相試験(DESTINY-Lung01)も実施されており、HER2過剰発現の集団における結果が、オランダ・Leiden University Medical CenterのEgbert F. Smit氏らによって、Lancet Oncology誌2024年4月号で報告された。なお、HER2遺伝子変異陽性の集団における結果はすでに報告されている。

うつ病に対する17種類の抗うつ薬の治療反応比較

 うつ病に対する抗うつ薬の治療反応を比較した長期的研究は不足している。デンマーク・Psychiatric Center CopenhagenのLars Vedel Kessing氏らは、うつ病患者に対する6つの抗うつ薬クラス17薬剤における2年間の治療反応を比較するため、システマティック人口ベース全国レジストリデータを報告した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2024年2月20日号の報告。  対象は、1995~2018年にデンマークの精神科病院で初めてうつ病と診断され、その後抗うつ薬治療を行った入院患者または外来患者10万6,920例。2年間の研究期間において、最初の抗うつ薬治療に反応しなかった患者の定義は、他の抗うつ薬への切り替え、抗精神病薬・リチウムへの切り替えまたは追加、入院とした。分析では、年齢、性別、社会経済的地位、精神症状・身体症状の併存に従って標準化された集団を対象とした試験を参照した。

活性型ビタミンD3がサルコペニアを予防/産業医大

 前糖尿病と糖尿病はサルコペニアの独立した危険因子であることが報告されている。今回、前糖尿病患者への活性型ビタミンD3投与がサルコペニアを予防するかどうか調べた結果、筋力を増加させることでサルコペニアの発症を抑制し、転倒のリスクを低減させる可能性があることが、産業医科大学病院の河原 哲也氏らによって明らかにされた。Lancet Healthy Longevity誌オンライン版2024年2月29日号掲載の報告。  これまでの観察研究では、血清25-ヒドロキシビタミンD値とサルコペニア発症率との間に逆相関があることも報告されている。しかし、ビタミンDによる治療がサルコペニアの発症を防ぐかどうかは不明である。そこで研究グループは、活性型ビタミンD3製剤エルデカルシトールによる治療が前糖尿病患者のサルコペニアの発症を抑制できるかどうかを評価するため、「Diabetes Prevention with active Vitamin D study(DPVD試験)※」の付随研究を実施した。

抗PD-1抗体dostarlimab+化学療法が進行子宮体がんの生存改善(RUBY)/SGO2024

 新たな抗PD-1抗体dostarlimabと化学療法の併用が進行子宮体がんの全生存期間(OS)を改善した。  10年以上ものあいだ、原発進行または再発子宮体がんに対する1次治療は化学療法であった。しかし、長期成績は不良でOS中央値は3年未満であった。進行または再発子宮体がんに対するdostarlimabと化学療法の併用はミスマッチ修復機能欠損(dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)と全集団のOS傾向を初回の中間解析で改善した。米国婦人科腫瘍学会(SGO2024)では、米国・ワシントン大学のMathew A. Powell氏が2回目の中間解析としてOS、無増悪生存期間(PFS)、PFS2および安全性の結果を発表した。

幼少期に食べ物に強く反応する子は摂食障害のリスクが高い

 幼少期の食べ物に対する関心の強さと、その子どもが10代前半になった時の摂食障害のリスクとの関連性を示すデータが報告された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)疫学・ヘルスケア研究所のIvonne Derks氏らによる、英国とオランダでの縦断的コホート研究の結果であり、詳細は「The Lancet Child & Adolescent Health」に2月20日掲載された。  この研究では、4~5歳の幼児の親に対して、子どもの食欲や摂食行動に関するアンケートを実施して食欲特性を評価。その約10年後の子どもが12〜14歳になった時点で、自己申告により摂食障害の症状の有無を把握した。追跡調査の時点で、対象の約10%が過食性障害の症状を報告し、その半数が一つ以上の代償行動(食事を抜いたり絶食したり、過度の運動をするなど)を報告した。

睡眠中でも心を落ち着かせる言葉は届いている

 眠っているときに他人から心を落ち着かせる言葉をかけられると、それに心が敏感に反応して心拍が遅くなることが、新たな研究で明らかになった。リエージュ大学(ベルギー)GIGAサイクロトロン研究センターのAthena Demertzi氏らによるこの研究は「Journal of Sleep Research」に2月14日掲載された。  Demertzi氏らは2021年に発表した脳波を使った研究で、睡眠中の人に心を落ち着かせる言葉をかけると、深い眠りの時間が増えて睡眠の質が向上することから、重要な意味や価値を持つ言葉が睡眠に良い影響を与えることができる可能性を示唆していた。このような結果から研究グループは、心を落ち着かせる言葉を聞くと、睡眠中でも脳は感覚情報を解釈して体をリラックスさせることができるとの仮説を立てていた。

Long COVIDの原因は高レベルのサイトカイン産生?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状(long COVID)が生じている患者では、通常はウイルスの除去に伴い産生されなくなるサイトカインの一種であるインターフェロン(IFN)-γが、長期にわたって高レベルで産生され続けていることが明らかになった。研究グループは、これがlong COVIDの根本的なメカニズムである可能性があると述べている。英ケンブリッジ大学医学部およびケンブリッジ治療免疫学・感染症研究所のBenjamin Krishna氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に2月21日掲載された。

高齢者への2価コロナワクチン、脳卒中リスクは?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するファイザー製またはモデルナ製のいずれかの2価ワクチンを接種後に脳卒中を発症した65歳以上の米国メディケア受給者において、接種直後(1~21日間)に脳卒中リスクが有意に上昇したことを示すエビデンスは確認されなかった。米国食品医薬品局(FDA)のYun Lu氏らが、自己対照ケースシリーズ研究の結果を報告した。2023年1月、米国疾病予防管理センター(CDC)とFDAは、ファイザー製の「BNT162b2」(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)を接種した65歳以上の高齢者における虚血性脳卒中に関する安全性の懸念を指摘していた。JAMA誌2024年3月19日号掲載の報告。

出生率は世界的に低下、2100年までの予測/Lancet

 世界的に出生率が低下しており、2021年は、半数以上の国・地域で人口置換水準値を下回っていたこと、2000年以降の傾向として出生率の下がり方には大きな不均一性がみられ、最低出生率が観察された後にわずかでも回復した国はごく少数であり、人口置換水準値へと回復した国はなかったことが示された。さらには、世界中の出生数の分布が変化しており、とりわけ低所得国が占める割合が増加していたという。米国・ワシントン大学のSimon I. Hay氏らGBD 2021 Fertility and Forecasting Collaboratorsが解析結果を報告した。今回の結果を踏まえて著者らは、「出生率は、将来的に世界中で低下し続け、出生促進政策の実施が成功したとしても低いままとなるだろう。これらの変化は、高所得国における高齢化の進展と労働力の減少に加え、すでに最貧地域で出生率が増加していることで、広範囲にわたる経済的および社会的な影響をもたらすだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年3月20日号掲載の報告。

新型コロナウイルス感染症の認知機能障害は徐々に軽症化している(解説:岡村毅氏)

イングランドで80万例を対象にした、新型コロナウイルス感染症と認知機能の大規模調査である。まだよくわかっていないことの全体像をつかむための研究であり、規模が大きく、情報の確度も高く、適切な時期に適切な報告がなされたと思う。対象者は、期間(無症状/4週以内に完治/12週以内に完治/12週以上かかったが完治/12週以上かかってまだ症状がある)、感染株(オリジナル/アルファ/デルタ/オミクロン)、医療(救急受診/入院/集中治療室)などで分類している。認知機能は、直後再生、空間記憶、語義、抽象思考、空間操作、遅延再生などをみっちりとられる。なかなか大変である。まず、認知機能の全体を見ると、2020年1月に始まった世界的流行であるが、それから時間がたてばたつほどに感染者の認知機能低下は軽くなっている。古い株ほど、また症状の期間が長いほど、認知機能低下は重度である。常識的な結果といえる。

麻疹ワクチン不足、定期接種を最優先に/日医

 日本医師会常任理事の釜萢 敏氏が、2024年3月27日の定例記者会見で、現在の麻疹(はしか)の流行状況について報告した。  麻疹の届け出は、2019年は744例、2020年は10例、2021年は6例、2022年は6例、2023年は28例であったが、本年は3月17日までに20例あり、海外から持ち込まれる麻疹の感染者が着実に増えてきているという認識を示した。そのような中で、麻疹含有ワクチンの接種を希望する人が増え、それによって定期接種のMR(麻疹風疹混合)ワクチンが入手できないという懸念が寄せられているという。

初発統合失調症の脳ネットワークに対するアリピプラゾールの影響

 アリピプラゾールは、初発統合失調症患者のいくつかの脳内ネットワーク間の機能接続を調節し、臨床症状の改善に影響を及ぼす。しかし、統合失調症患者の広範な脳内ネットワーク間の異常接続に対するアリピプラゾールの作用は、依然として不明である。中国・首都医科大学のSitong Feng氏らは、大規模な脳内ネットワークの機能接続に対するアリピプラゾール12週間投与の影響を調査するため、縦断的研究を実施した。Journal of Psychiatric Research誌2024年3月号の報告。

ファセンラ、小児の難治性気管支喘息で製造販売承認(一部変更)取得/AZ

 アストラゼネカは、2024年3月26日付のプレスリリースで、ファセンラ皮下注30mg/10mgシリンジ(一般名:ベンラリズマブ[遺伝子組換え])が、既存治療によっても喘息症状をコントロールできない、6歳以上の小児の難治の気管支喘息患者に対する治療薬として、日本で製造販売承認を取得したと発表した。  ファセンラは、ヒト化抗IL-5受容体αモノクローナル抗体製剤で、好酸球の表面に発現するインターロイキン-5受容体αに直接結合し、増強された抗体依存性細胞傷害活性によって好酸球を直接的に除去する。  既存治療によっても喘息症状をコントロールできない、小児の難治の気管支喘息患者に対する治療の新たな選択肢として、本剤は貢献できる薬剤になりうると期待される。

日本での大腸がん手術の転帰、月~木曜日vs.金曜日

 英国での大規模な後ろ向き研究で、待機的手術における30日以内の死亡リスクが月曜日で最も低く、週末に向けて増加することが報告されている。平日(月~金曜日)の間でもこのように差が見られる「weekday effect」については、まだ議論の余地がある。今回、広島大学の今岡 洸輝氏らは、StageI~III大腸がんの待機的手術を対象とした多施設共同後ろ向き解析を実施し、手術の曜日と短期アウトカムの関連を検討した。その結果、手術を金曜日に受けた患者は金曜日以外に受けた患者より術後合併症の発生率が高く、術後入院期間も長いことがわかった。Journal of Surgical Research誌2024年4月号に掲載。  本研究は、広島臨床腫瘍外科研究グループに属する15施設において、2017年1月~2019年12月に大腸がんの原発巣切除術を受けた2,574例を対象に解析した。手術日により金曜日と金曜日以外(月~木曜日)の2群に分け、傾向スコアマッチング後、30日死亡率と術後アウトカムを比較した。

院外心停止患者への市民による心肺蘇生、AED使用で生存が2倍以上に/日本循環器学会

 院外心停止(OHCA)患者の予後を改善するためには、市民による質の高い心肺蘇生法(CPR)と自動体外式除細動器(AED)の即時使用率をさらに高める必要がある。総務省消防庁は、1994年に市民を対象としたCPRの認定講習会を全国で開始し、2019年には受講者が年間約200万人に及び、認定者数は増加傾向にある。しかし、市民のCPR普及率やOHCA患者の生存率に及ぼす影響については十分に検討されていなかった。そのため、虎の門病院の山口 徹雄氏らの研究グループは、市民介入によるCPRと、患者の1ヵ月後の転帰との関連を評価した。本結果は、3月8~10日に開催された第88回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies 1にて、山口氏が発表した。なお本研究はResuscitation誌2024年2月号に掲載された。