消化器科の海外論文・最新ニュースアーカイブ

手術不能胃がんに対する2次治療:抗HER2抗体薬物複合体vs.ラムシルマブ+パクリタキセル併用療法(解説:上村直実氏)

日本における胃がんはピロリ菌感染率の低下および除菌治療の普及と共に、患者数および死亡者数が著明に低下しているが、世界的には依然として予後不良な疾患とされており、手術不能胃がんに対する薬物療法の開発が急務となっている。手術不能または転移を有する胃がんに対する化学療法に関しては、HER2遺伝子の有無により決定されている。全体の20%弱を占めるHER2陽性胃がんに対しては、従来の化学療法に抗HER2抗体のトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用療法が標準的1次治療として推奨されている。1次治療が奏効しないもしくは効果不十分な症例に対する2次治療としては、現在、ヒト型抗VEGFR-2モノクローナル抗体ラムシルマブとパクリタキセルの併用療法が標準治療とされているが、最近、トポイソメラーゼI阻害薬を搭載した抗HER2抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の有用性を示す研究結果が相次いで報告されている。

潰瘍性大腸炎の予後因子、思考を説明できるAIで特定

 潰瘍性大腸炎(UC)は慢性の炎症性腸疾患であり、その病態生理は多岐にわたる。そのため、症例ごとに最適な治療法を選択することが大切だ。今回、全国規模のレジストリを説明可能な人工知能(日立製作所)を用いて解析することで、難治性UCの予後因子を特定できることが報告された。レジストリ登録時の偽ポリープが存在することが、寛解と有意に負の相関を示したという。研究は東海大学医学部消化器内科の佐野正弥氏らによるもので、詳細は「Annals of Medicine」に5月5日掲載された。  UCは、重度の下痢、血便、激しい腹痛、発熱を特徴とし、再発と寛解を繰り返す難治性の炎症性腸疾患だ。UCの寛解を目指す場合、コルチコステロイド(CS)の導入が有効とされるが、CSには長期使用による有害事象のリスクがあり、早晩にCSに依存しない薬剤への切り替えが不可欠と考えられる。そのため、従来の研究では、どの治療がどの疾患型に対してより高い寛解率をもたらすかが検討されてきた。しかし、UCの疾患の多様性が影響し、包括的な予測モデルの開発は困難となっている。このような背景を踏まえ、著者らは、全国の医療記録に基づく機械学習モデルを用いて、難治性UCの予後因子を特定することとした。

進行肛門扁平上皮がん、標準治療vs. retifanlimab上乗せ/Lancet

 プラチナ製剤化学療法中に病勢進行した進行肛門管扁平上皮がん(SCAC)において、retifanlimabは抗腫瘍活性を示すことが報告されている。英国・Royal Marsden Hospital NHS Foundation TrustのSheela Rao氏らPOD1UM-303/InterAACT-2 study investigatorsは、本疾患の初回治療における、カルボプラチン+パクリタキセル療法へのretifanlimab上乗せを前向きに評価する、第III相の国際多施設共同二重盲検無作為化対照試験「POD1UM-303/InterAACT-2試験」を行い、臨床的ベネフィットが示され、安全性プロファイルは管理可能であったことを報告した。著者は、「結果は、retifanlimab+カルボプラチン+パクリタキセル併用療法が、進行SCAC患者に対する新たな標準治療と見なすべきであることを示すものであった」とまとめている。Lancet誌2025年6月14日号掲載の報告。

既治療進行胃がんに対するCLDN18.2特異的CAR-T細胞療法(satri-cel)と医師選択治療との比較:第II相試験(解説:上村直実氏)

切除不能な進行胃がんおよび食道胃接合部がん(以下、胃がん)に対する化学療法のレジメはHER2陽性(20%以下)とHER2陰性(約80%)に区別されている。HER2陰性の進行胃がんに対する標準的1次治療はフルオロピリミジンとプラチナベースの化学療法であるFOLFOXやCAPOXなどが推奨されてきたが、全生存期間(OS)の中央値が12ヵ月未満であり、無増悪生存期間(PFS)の中央値は約6ヵ月程度と満足できる成績ではなかった。最近になって、標準化学療法にドセタキセルを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体のゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。しかしながら、これらのレジメを用いた国際的共同試験におけるOSの中央値は12~18ヵ月程度にとどまっているのが現状である。

がん診断後の運動習慣が生存率と関連

 がんと診断された後の運動習慣が、生存率と関連しているとする研究結果が報告された。年齢やがんのステージなどの影響を考慮しても、運動量が多いほど生存率が高いという。米国がん協会(ACS)のErika Rees-Punia氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the National Cancer Institute」に5月21日掲載された。  運動が健康に良いことは古くから知られている。しかしがん診断後には、がん自体や治療の影響で体力が低下しやすく、運動が困難になることも少なくない。たとえそうであっても習慣的な運動が予後にとって重要なようだ。Rees-Punia氏は、「われわれの研究結果は、がん診断後に活動的に過ごすことが生存の確率を有意に高める可能性を示唆する、重要なエビデンスだ」と述べている。

術後大腸がん患者への運動療法、DFSとOSを改善/NEJM

 前臨床研究および観察研究では、運動が大腸がんを含むがんのアウトカムを改善する可能性が示唆されている。カナダ・アルバータ大学のKerry S. Courneya氏らCHALLENGE Investigatorsは「CHALLENGE試験」において、大腸がんに対する術後補助化学療法終了から6ヵ月以内に開始した3年間の構造化された運動プログラムは、これを行わない場合と比較して、無病生存期間(DFS)を有意に改善し、全生存期間(OS)の有意な延長をもたらすことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年6月1日号に掲載された。

心筋梗塞後の便秘、心不全入院リスクが上昇~日本人データ

 心筋梗塞患者において、退院後6ヵ月間における便秘は心不全による入院リスクの上昇と強く関連していることを、仙台市医療センター仙台オープン病院の浪打 成人氏らによる研究の結果、示唆された。浪打氏らは以前、急性心不全後に便秘のある患者は心不全による再入院リスクが高いことを報告しており、今回、便秘による心筋梗塞患者の予後への影響を心不全入院で評価し、BMC Cardiovascular Disorders誌2025年5月28日号に報告した。

重症患者の経腸栄養、タンパク質を増量しても予後は改善せず/JAMA

 集中治療室(ICU)入室中の重症患者にタンパク質含有量の高い経腸栄養剤(100g/L)を用いても、通常(63g/L)と比較して90日時点の生存期間などは改善されなかった。オーストラリア・アデレード大学のMatthew J. Summers氏らが、同国およびニュージーランドの8施設のICUにて実施したクラスター無作為化非盲検クロスオーバー試験の結果を報告した。ガイドラインでは、重症患者におけるタンパク質含有量の高い経腸栄養が推奨されているが、患者のアウトカムに及ぼす影響は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年6月11日号掲載の報告。

血中循環腫瘍DNA検査は大腸がんスクリーニングに有用か/JAMA

 平均的リスクの大腸がんスクリーニング集団において、血液ベースの検査(血中循環腫瘍DNA[ctDNA]検査)は大腸がん検出の精度は許容範囲であることが実証されたが、前がん病変の検出にはなお課題が残ることが、米国・NYU Grossman School of MedicineのAasma Shaukat氏らPREEMPT CRC Investigatorsによる検討で示された。大腸がん検診は広く推奨されているが十分に活用されていない。研究グループは、血液ベースの検査は内視鏡検査や糞便ベースの検査に比べて受診率を高める可能性はあるものの、検診対象の集団において臨床的に実証される必要があるとして本検討を行った。結果を踏まえて著者は、「引き続き感度の改善に取り組む必要がある」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。

MASH代償性肝硬変に対するefruxiferminの有用性(解説:相澤良夫氏)

臨床肝臓病学の関心は、HCVを含む慢性ウイルス肝炎からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)の治療に移りつつある。慢性C型肝炎/肝硬変は、抗ウイルス薬の進歩により激減しHCVの根絶も視野に入っているが、わが国に相当数存在するMASHに対し直接的に作用する治療薬は、今のところ保険収載されていない。しかし、中等度以上の線維化を伴うMASHは進行性の病態であり、MASH治療薬の登場が待ち望まれている。このアンメットニーズに対して、米国FDAは肝硬変以外の中等度から高度の肝線維化を伴うMASH に対し、食事療法や運動療法と共に使用する肝臓指向性THR-βアゴニストのresmetirom(1日1回経口投与)を承認し、MASHの成因に根差した新たな治療戦略が確立されつつある。