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第227回 いわば毒をもって毒を制す斬新なHIV治療手段がサルで有効

いわば毒をもって毒を制す斬新なHIV治療手段がサルで有効いわば毒をもって毒を制す新たなHIV治療手段がサルを使った検討1,2)で有望な成績を収め、ヒトに投与する試験の計画が進められています。HIV感染をHIV投与によって封じるというその斬新な手段はさかのぼること15年以上も前にカリフォルニア大学サンフランシスコ校の生物物理学者Leor Weinberger氏が思い付きました3)。Weinberger氏はインフルエンザウイルスがときに不完全なウイルスを生み出し、それが正常ウイルス(野生型ウイルス)の邪魔をするということを大学院のときに知ってその手段を思いつきました。欠損変異のせいで半端なそのようなウイルスは自力では複製できませんが他力本願で増えることができます。半端ウイルスは感染細胞内の野生型ウイルスに押し入り、複製や身繕いに不可欠なタンパク質を奪って野生型ウイルスを減らします。ゆえに都合よく増えるように仕立てた半端ウイルスは一回きりの投与で長く治療効果を発揮すると予想され、Weinberger氏らは2007年に研究に取り掛かり、それから約10年を経た2018年に求める特徴を備えた治療用の半端HIV(以下、治療用HIV)を手にしました。Weinberger氏らは複製を助ける配列を残しつつHIV遺伝子一揃いを切り詰めることで治療用HIVのゲノムを作製しました。治療用HIVは構造がより単純なため、野生型HIVの先を越してより早く複製することができます。治療用HIVの効果は幼いサルを使った検討で検証されました。6匹にはまず治療用HIVが投与され、その24時間後にサルのHIV同等ウイルス(SHIV)が投与されました。4匹にはSHIVのみ投与されました。30ヵ月後の様子を調べたところ、治療用HIVが投与されたサル6匹中5匹は健康で、SHIV濃度はピーク時のおよそ1万分の1で済んでいました3)。一方、治療用HIVが投与されなかった4匹のうち3匹は病んで16週時点で安楽死させられました。治療用HIVは増えずに居続けることもでき、いざとなれば復活して潜伏感染HIVの再現を封じうることも患者細胞などを使った検討で確認されています。また野生型HIVと同様に治療用HIVはヒトからヒトに伝播することができます。その特徴は望まないのに治療用HIVをもらってしまうという倫理的懸念を孕みます。しかし経口ポリオワクチンの弱毒化ウイルスが他のヒトに移って免疫を助けるのと同じように、治療用HIVの伝播はHIV感染の世界的な蔓延を減らす助けになるかもしれません。今後の予定としてWeinberger氏らは治療用HIVをサルでさらに検討するつもりです。また、カリフォルニア州からの助成により実施される臨床試験に関する米国FDAとの話し合いも進んでいます3)。HIV感染に加えてその他の末期の病気も患う患者が被験者として想定されています。それら被験者にまず治療用HIVを投与し、次に抗レトロウイルス薬を中止してウイルス量がどう推移するかが検討される見込みです。被験者が亡くなったらその組織を解析し、治療法HIVと関連する炎症やその他の問題が生じていないかどうかが調べられる予定です。試験が来年早々に始まることをWeinberger氏は期待しています。参考1)Pitchai FNN, et al. Science. 2024;385:eadn5866. 2)Study: Single experimental shot reduces HIV levels 1,000-fold / Oregon Health & Science University 3)Bold new strategy to suppress HIV passes first test / Science

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腎細胞がんに対するエベロリムスの術後療法は無再発生存期間を改善する可能性(EVEREST)/ASCO2022

 腎細胞がん(RCC)の術後療法としてのmTOR阻害薬のエベロリムスは無再発生存期間(RFS)を改善する可能性があることが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2022 ASCO Annual Meeting)において米国・Oregon Health & Science UniversityのChristopher W. Ryan氏から発表された。米国で行われた無作為化比較の第III相試験であるEVEREST試験(SWOG S0931)の最終解析結果である。・対象:腎部分または完全切除術を施行されたRCC症例1,545例登録症例のリスクカテゴリーは([中高リスク]pT1bではGrade3~4でN0、pT2では全GradeでN0、pT3aではGrade1~2でN0と定義、[超高リスク]pT3aではGrade3~4でN0、pT3b-c/T4では全GradeでN0、N+の場合は全pTで全Gradeと定義)・試験群:エベロリムス10mg/日連日投与54週 (Evero群:775例)・対照群:プラセボ連日投与54週 (Pla群:770例)・評価項目:[主要評価項目] RFS[副次評価項目] 全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・登録期間は2011年4月~2016年9月、追跡期間中央値は76ヵ月であった。・年齢中央値は両群共に約58歳、男性が約70%であり、中高リスクが両群ともに45%、超高リスクは55%、非淡明細胞型が16-17%であった。・治療期間中央値はEvero群で9.3ヵ月、Pla群で12.6ヵ月で、減量はEvero群で37%、Pla群で7%にあった。・病勢進行や死亡ではない治療中止は、Evero群で47%、Pla群で17%であった。・RFSは両群共に中央値未到達。5年RFS率はEvero群67%、Pla群63%、ハザード比(HR)は0.85(95%信頼区間[CI]:0.72~1.00、片側検定p=0.025)であったが、事前に設定された片側有意水準0.022を満たさなかった。・リスク別のRFSでは、超高リスク群ではHR0.79(95%CI:0.65~0.97)、片側検p=0.011であった。中高リスク群ではHR0.99(95%CI:0.73~1.35)、片側検定p=0.48であった。・5年OS率はEvero群87%、Pla群85%、HRは0.90(95%CI:0.71~1.13)、片側検定p=0.178で、カプランマイヤー曲線も重なっていた。・Evero群における新たなる安全性の懸念はなかったが、Grade3以上の有害事象は、Evero群46%で、Pla群は11%であった。主なGrade3以上の有害事象は口内炎で、Evero群14%、Pla群0%、高トリグリセリド血症が11%と2%、肺炎が1%と0%であった。 演者は最後に「RCCの術後療法としてのエベロリムスは、RFSの改善は示したが、統計学的な有意差を出すところまでは至らなかった。しかしその有効性は超高リスク症例群においては特に顕著だった。」と述べた。

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第14回 ヒト胚のCRISPR遺伝子編集はいらぬ大異変を誘発しうる

1年半ほど前の2018年11月、世界初となる“遺伝子編集ベビー”が誕生したというニュースが世間を騒がせました。HIVに感染し難くすることを意図したCRISPR遺伝子編集を経た胚が、双子として出産まで至ったことを中国の研究者He Jiankui氏が香港の遺伝子編集学会で発表し、物議を醸したのです1)。ロシアの科学者Denis Rebrikov氏は、世界の科学者の反対をよそにJiankui氏の後に続いてCRISPR遺伝子編集胚を女性に移植すること計画しています2)。ただしロシアの保健省は時期尚早との見解を表明していて、計画の実行は容易ではなさそうです。ロシア保健省の見解はおそらく正しく、ヒト胚のCRISPR遺伝子編集が下手をすると染色体まるごと1本を失うほど大規模な、いらぬ異変を招きうることが最近立て続けに発表された研究3報で示されました3)。3つの研究チームはいずれもたった1つの遺伝子の編集を試みたのですが、結果的にその目当ての一帯がDNAの大欠損や入れ替え等を被りました。英国・ロンドンのFrancis Crick Instituteの生物学者Kathy Niakan氏等は胚の発達や多能性に必要なPOU5F1遺伝子を変異させるCRISPR-Cas9編集を18の胚細胞に施しました。その結果、4つ(22%)の胚のPOU5F1遺伝子一帯に、広範囲に及ぶ欠損や増幅が生じました4)。ニューヨーク市・コロンビア大学の幹細胞学者Dieter Egli氏等による2つ目の試験では、胚細胞の6番染色体のEYS遺伝子失明変異をCRISPR-Cas9編集で正すことが試みられました。その結果、23の胚の約半分が6番染色体の大規模欠損を呈し、極端な場合には染色体がまるごと欠如していました5)。3つ目の研究はオレゴン州ポートランドのOregon Health & Science Universityの生殖生物学者Shoukhrat Mitalipov氏のチームによるもので、心臓病を引き起こすMYBPC3遺伝子変異をCRISPR-Cas9編集で正すことを試みたところ、その変異を含む染色体領域にやはり大規模な異変が生じました6)。上記3つの報告はいずれも研究目的であり、女性への移植を見越して実施されたわけではありません。使われた胚はいずれも研究で使われた後に尽き果てています。CRISPRで切断されたゲノムに生体がどう対処するのかは、実はほとんど分かっていないことを今回の3報告は浮き彫りにしました3)。CRISPR編集で生じた新たなDNA切断面はあっさり元通りになるとは限らず、でたらめな修復のせいでDNA損壊に至ることもあるのです。体内へゲノム編集成分を直接投与する試験7)がすでに始まっていますが、CRISPR標的部位一帯の大規模な異変についてこれまで以上に慎重を期す必要があるとカリフォルニア大学バークレー校の遺伝学者にしてCRISPR研究者でもあるFyodor Urnov氏は言っています。また、胚の編集には絶対取り掛かってはいけないとUrnov氏は警告しています8)。参考1)CRISPR Scientists Slam Methods Used on Gene-Edited Babies / TheScientist 2)Russian ‘CRISPR-baby’ scientist has started editing genes in human eggs with goal of altering deaf gene / Nature 3)CRISPR gene editing in human embryos wreaks chromosomal mayhem / Nature 4)Frequent loss-of-heterozygosity in CRISPR-Cas9-edited early human embryos. biorxiv. June 05, 20205)Reading frame restoration at the EYS locus, and allele-specific chromosome removal after Cas9 cleavage in human embryos. bioRxiv. June 18, 20206)FREQUENT GENE CONVERSION IN HUMAN EMBRYOS INDUCED BY DOUBLE STRAND BREAKS. bioRxiv. June 20, 20207)Allergan and Editas Medicine Announce Dosing of First Patient in Landmark Phase 1/2 Clinical Trial of CRISPR Medicine AGN-151587 (EDIT-101) for the Treatment of LCA10 8)CRISPR Gene Editing Prompts Chaos in DNA of Human Embryos / TheScientist

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マンモ検診は、過剰診断を増やしただけ?/NEJM

 米国では1980年代からマンモグラフィによるスクリーニングが始まっており、その後の実施率増加とともに早期乳がん罹患率は大幅に増加したが、一方で進行期乳がん罹患率の減少は、ごくわずかであったことが報告された。また、マンモグラフィにより検出された早期乳がんの中には、その後臨床的症状を発症することがなかった、いわゆる過剰診断も多く、その数は過去30年間で130万人に上ると推定されたという。米国・Oregon Health and Science UniversityのArchie Bleyer氏らの調べで明らかになったもので、NEJM誌11月22日号で発表した。30年間で初期乳がん罹患率は10万人中122人増加 研究グループは、マンモグラフィ実施の乳がん発生率への影響を調べるため、サーベイランスや疫学調査などを元に、1976~2008年に40歳以上で乳がんの診断を受けた人について、早期乳がん(非浸潤性乳管がんと限局性がん)と進行期乳がん(局所性と遠隔転移)の罹患率を算出した。 その結果、早期乳がん罹患率は、1976年の女性10万人中112人から同234人へと、大幅に増大した(絶対増加幅:女性10万人中122人)。なかでも、1980年代から90年代初めにかけて、マンモグラフィによるスクリーニング実施率が増加するに伴い、早期乳がん罹患率も増加した。 一方で、進行期乳がんの罹患率は、女性10万人中102人から同94人へと、同期間で約8%の減少に留まった(絶対減少幅:女性10万人中8人)。乳がんの過剰診断、過去30年間で130万人 潜在的な疾病負担が変化していないと仮定すると、スクリーニングによりみつかるようになった早期乳がんのうち進行がんに進展したものの割合は、122人中8人に留まると考えられた。 ホルモン補充療法に関連した一時的な過剰罹患率などを補正した後、スクリーニングで検出されながらも、その後臨床的症状を発症しなかったであろうと考えられる、いわゆる乳がんの過剰診断を受けた人の数は、米国過去30年間で130万人に上ると見積もられた。また、2008年には、米国で乳がんの過剰診断を受けた女性は7万人で、乳がんの診断を受けた人の31%に上った。 これらの結果を踏まえて著者は「マンモグラフィ検診で早期乳がんの発見は大幅に増加したにもかかわらず、進行がんの受診率はわずかしか低下しないというアンバランスな状況が示された。どの状態の女性が影響を受けたのかは明らかではないが、新たに診断された乳がんのほぼ3分の1で大幅な過剰診断があり、マンモグラフィ検診の乳がん死亡率への影響はあったとしてもわずかであることが示唆された」と結論している。

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親に医療保険がありながら子どもが無保険の割合は3%:米国

米国で、少なくとも片方の親が医療保険に加入している場合でも、その子ども(19歳未満)の約3.3%(95%信頼区間:3.0~3.6)が無保険であることがわかった。これは、米国Oregon Health and Science大学のJennifer E. DeVoe氏らが、2002~2005年の全米の医療費に関するデータベース、Medical Expenditure Panel Survey(MEPS)の約4万人について、横断研究を行い明らかにしたもの。これまでの研究で、親が無保険の場合に、子どもが無保険になる割合が極めて高いことは知られているが、親に保険がある場合に子どもが無保険である割合についての研究は珍しい。JAMA誌2008年10月22日号より。低・中間所得者層や1人親の子どもに高率親に保険がありながら子どもが無保険だったグループについて、詳しく調べてみると、低所得者層では同割合は高所得者層の2.02倍(95%信頼区間:1.42~2.88)、中間所得者層では同1.48倍(同:1.09~2.03)と高かった。1人親の家庭でも、両親のいる家庭に比べ、同割合は1.99倍(同:1.59~2.49)だった。また親の教育レベルについて見てみると、少なくとも親の1人が高校を卒業している家庭に比べ、そうでない家庭では同割合が1.44倍(同:1.10~1.89)となっている。人種別では、ヒスパニック系がそうでない場合に比べ、同割合が1.58倍(同:1.23~2.03)と高かった。一方で、親が公的医療保険に加入している場合には、私的保険に加入している場合と比べ、子どもが無保険の割合は0.64倍(同:0.43~0.96)と少なかった。全米で推定300万人の子どもが親に保険がありながら無保険こうした結果を元に推定すると、親に保険がありながら、一時的にでも保険がない状態に陥った子どもは、全米で約300万人にも上ることがわかった。このうち、1年を通じて保険がない子どもは100万人超と予想される。同氏らは、こうした実態の原因として、親の収入が、公的保険を受けられるほど低くはないものの、私的保険の子どもの保険料を支払う余裕があるほど高くはないグループが少なくないことなどを挙げている。なお、全米の無保険の子どもの数は、900万人を超えるという。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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