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小林製薬サプリ摂取者、経過観察で注意すべき検査項目・フォローの目安

 小林製薬が販売する機能性表示食品のサプリメント『紅麹コレステヘルプ(以下、サプリ)』による腎機能障害の発生が明らかとなってから約2週間が経過した。先生の下にも本サプリに関する相談が寄せられているだろうか。日本腎臓学会が独自で行った本サプリと腎障害の関連について調査したアンケートの中間報告1)から、少しずつサプリ摂取患者の臨床像が明らかになってきている。 そこで今回、日本腎臓学会副理事長である猪阪 善隆氏(大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学 教授)に、摂取患者を診療する際に注意すべき点、患者から相談を受けた場合の対応について緊急取材した。猪阪氏は全国の医師に対し、「医師が診療する際に注意すべき点として、電解質異常や腎機能障害が改善されない症例は専門医へ紹介してほしい。また、患者に対して、“過度な心配は不要”であることを伝えてほしい」と呼び掛ける。その理由は―。Fanconi(ファンコニー)症候群 日本腎臓学会のアンケート中間報告によると、今回報告された症例の多くにFanconi症候群を疑う所見が目立っていたと示唆されている。このFanconi症候群とは、腎臓専門医でも診療経験を有する医師は少ない、比較的まれな疾患だという。本疾患の概要を以下に示す。◆疾患概念・定義:近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により、本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中への過度の喪失を来す疾患群で、ブドウ糖(グルコース)、重炭酸塩、リン、尿酸、カリウム、一部のアミノ酸などの溶質再吸収が障害され、その結果として代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水、くる病などを呈する2)。◆原因:原因は多岐にわたり、発症年齢も乳児期から成人と多様。先天性のものではDent病、ミトコンドリア脳筋症をはじめ、原因不明の症例が国内では多く、後天性(二次性)のものとしては悪性腫瘍やネフローゼ症候群のほか、一部の抗腫瘍薬(シスプラチンなど)、バルプロ酸、抗ウイルス薬などの薬剤の使用が起因している2)。近年ではNSAIDsによる報告もみられる。◆主な症状:代謝性アシドーシスの特徴ともいえる疲労や頭痛のほか、筋力低下や骨の痛みなど。 猪阪氏は本病態とアンケートの中間報告を総合し、「今回寄せられた症例の場合、1/4の患者にステロイドが使用されていた。今回は専門医による対応であったことから、間質性腎炎の診断・治療に準じて腎生検を行い、炎症レベルを考慮しての治療であった。一般内科の医師の場合には、まず被疑薬の中止を行い、注意深く経過観察を続けてもらいたい」と治療方法について説明した。中間報告後に明らかになった電解質異常 上述したFanconi症候群のような所見を疑うには、日常診療で行っている尿検査や生化学検査、血液学検査をオーダーするなかで、電解質の項目に注意を払う必要があると同氏は強調した。「集まった症例をみると電解質異常が多くみられた。カリウム(K)値は本疾患においても低K血症による不整脈発症の観点から重要ではあるが、今回とくに注意が必要なのは、一般的な血液検査に含まれないリン(P)や重炭酸イオン(HCO3-)の変化」と同氏は話した。その理由として「ナトリウム(Na)値やK値は日頃から注意すべき項目として目が行きがちだが、血清P値や血液ガス分析によるHCO3-濃度の測定は、非専門科では日常的に行う検査ではないので、ぜひ意識してオーダーし、経過を診ていただきたい」と述べ、「サプリの摂取を中止しても代謝性アシドーシスの状態が続いている場合もあるため、その場合には専門医の診断が必要」と説明した。また、「電解質異常がどこまで完全に回復してくるのかは今後の検証が待たれる」ともコメントした。電解質異常が残るような症例は専門医へ 専門医へ紹介するタイミングについて、同氏は「本サプリの問題が報道される前の時点では、腹痛などの症状を訴える→症状に応じた検査を実施→問診でサプリ摂取が判明→腎機能検査という診断の流れもあったようだ。しかし、今はサプリの影響が強く疑われ、すでに不安を抱えた患者さんは一通り受診を終えられているかと思う」と前置きをしたうえで、「被疑薬を中止した場合、約2週間で改善する傾向にある。中止したことで腎機能の改善がみられる場合は、そのままかかりつけ医での経過観察で問題ないため、正常値まで改善するのをフォローしてほしい。しかし、腎機能が十分改善しない場合や、上述のとおり電解質異常が残る場合には、早めに専門医へ紹介してほしい。また、症状が重症と考えられる患者についても同様」と紹介すべき患者の見極め方を説明した。 このほか、アンケート結果では尿の異常として血尿が報告されているが、これについては「サプリ摂取による腎障害が原因で生じたものではなく、潜在的にあった原疾患による可能性も考えられる」と説明した。また、本サプリを服用して来院した患者であっても、それ以外のサプリや薬剤を服用している可能性の高い患者も多いため、「原因をサプリに絞り込まずに鑑別していくことが必要」とも補足した。 なお、アンケート結果は5月に取りまとめて報告する予定であり、今年6月28~30日に横浜で開催される第67回日本腎臓学会学術総会でも緊急シンポジウムの開催が検討されている。

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第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

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日本における頭痛に対する処方パターンと特徴

 長野県・諏訪赤十字病院の勝木 将人氏らは、メディカルビッグデータであるREZULTを用いて、日本の成人頭痛患者(17歳以上)に対する処方パターンの調査を行った。Cephalalgia誌2024年1月号の報告。 Study1では、2020年に頭痛と診断された患者における急性期治療薬の過剰処方の割合を横断的に調査した。過剰処方は、トリプタンとNSAIDs(30錠/90日以上)、NSAIDs単剤(45錠/90日以上)と定義した。Study2では、最初の頭痛診断から2年超の処方パターンを縦断的に調査した。処方薬剤数は、90日ごとにカウントした。 主な結果は以下のとおり。・Study1では、363万8,125例中20万55例(5.5%)が頭痛と診断されており、そのうち1万3,651例(6.8%)に対し急性期治療薬が処方されていた。・NSAIDs単独処方は、1万2,297例(90.1%)でみられ、トリプタンは1,710例(12.5%)に処方されていた。・過剰処方は、2,262例(16.6%)でみられ、1,200例(8.8%)には頭痛の予防治療薬が処方されていた。・Study2では、684万618例中40万8,183例(6.0%)は、頭痛と診断され、その後2年以上継続していた。・時間の経過とともに、急性期治療薬の過剰処方の割合が増加していた。・2年間で急性期治療薬が過剰処方を経験した患者は3万7,617例(9.2%)、2万9,313例(7.2%)において、予防治療薬の処方経験が認められた。 著者らは「実臨床データより、予防治療薬の処方が依然として不十分であることが示唆されており、頭痛に対する急性期治療薬および予防治療薬の処方の割合は、いずれも時間の経過とともに増加している」とまとめている。

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ERCP後膵炎の予防におけるインドメタシン坐剤の役割は?(解説:上村直実氏)

 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は、胆道および膵臓疾患にとって重要な診断法・治療法である。厚生労働省の2007年から2011年のアンケート調査によると、ERCP後の膵炎発症頻度は0.96%、重症例は0.12%と報告されており、重症膵炎の発症頻度は低いが、一度生ずると患者負担が大きいため膵炎の予防法が課題となっている。今回、米国とカナダで行われた無作為化非劣性試験の結果、ERCP後膵炎の高危険群における膵炎の予防に関して、欧米の標準治療である非ステロイド性抗炎症薬インドメタシン直腸投与+予防的膵管ステント留置の併用と比較して、インドメタシン単独投与は予防効果が劣ることが2024年1月のLancet誌に掲載された。 わが国のERCP後膵炎ガイドラインを見ると、膵炎高危険群に対する予防策として最も強く推奨されているのは一時的膵管ステント留置であるが、本邦では、治療目的以外の予防的膵管ステントとしての保険適用を取得していないことが大きな課題となっている。一方、インドメタシンなどNSAIDsの抗炎症作用が膵炎の発生を抑えることができる可能性と多くの臨床試験の結果から「ERCPの検査前もしくは直後の直腸内投与」が提案されているが、膵管ステント留置とNSAIDs併用に関するエビデンスが不足していることから両者の併用に関する記載はない。わが国の胆膵内視鏡診療は世界でも最高峰のレベルと思われるが、この分野で日本発のレベルの高いエビデンスが輩出されることが期待される。 わが国の臨床研究における大きな問題は、エビデンスレベルの高い研究デザインでの臨床試験を施行するための財源や人材も含めた体制がきわめて不十分な点である。一般の臨床現場において、欧米と異なる国民皆保険制度により最善と思われる診療を享受できることから、プラセボを用いた臨床試験や新たな薬剤を用いた臨床研究を施行する場合、被験者としてエントリーしてもらうこと自体が困難であることが多く、今後、レベルの高い臨床研究を推進するために産官学で協力した体制の確立が必要であろう。

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外傷の処置(7)消化管出血へのトラネキサム酸【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q97

外傷の処置(7)消化管出血へのトラネキサム酸Q97前回に続き、トラネキサム酸関連で話題をもう1つ。外勤先の診療所に黒色便を主訴として76歳男性が受診した。ピロリ菌除菌歴があるが、その後の内視鏡フォローはされていない。最近、元々の腰痛が増悪し、近医でNSAIDs定期内服が始まっていたようだ。粘膜保護薬程度で、制酸薬の内服はない。バイタルサインは安定しており、身体所見上貧血を示唆する所見はないようだ。後方医療機関に送る上で、前投薬はどうしようか。

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変形性手関節症の症状軽減に効果的な治療法とは?

 変形性手関節症に対する一般的な治療法であるステロイド薬やヒアルロン酸の注射は、ガイドラインでも推奨されているにもかかわらず、実際には症状を緩和する効果がないとする研究結果が報告された。Parker研究所(デンマーク)リウマチ科のAnna Døssing氏らによるこの研究結果は、「RMD Open」に9月21日掲載された。 Døssing氏らは、MEDLINE、Embase、およびCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)を検索して、2021年12月26日までに発表された、変形性手関節症の患者に対する薬物療法の効果に関するランダム化比較試験(RCT)を65件選出。これらの研究結果から痛みに対する治療の効果量を計算し、それぞれの治療法の効果をネットワークメタアナリシスおよびペアワイズメタアナリシスで評価した。これらのRCTでは、総計5,975人を対象に、29種類の治療法について検討されていた。 解析の結果、プラセボに比べて、経口非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と経口糖質コルチコイドには変形性手関節症の痛みを軽減する効果のあることが示された〔効果量はNSAIDsで−0.18(95%信頼区間−0.36〜0.02)、経口糖質コルチコイドで−0.54(同−0.83〜−0.24)〕。また、NSAIDsでは、手の機能、患者全般評価、握力に改善が、糖質コルチコイドでは、手の機能、患者全般評価、健康関連QOLに改善が認められた。 これに対して、研究対象者の多くが母指手根中手関節症(母指CM関節症)に対する治療として受けていたヒアルロン酸や糖質コルチコイドの関節内注射、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどに使用されるヒドロキシクロロキン、および局所NSAIDsがプラセボよりも変形性手関節症の症状軽減に有効であることを示す結果は得られなかった。また、痛みに対する局所クリームやジェルの有効性に関する明確なエビデンスは得られなかった。 この研究報告を受けて、米レノックス・ヒル病院ニューヨーク手関節センターの共同ディレクターであるDaniel Polatsch氏は、「変形性手関節症、特に母指CM関節症に対しては、以前より糖質コルチコイドの関節内注射が基本的な治療法として実施されている。しかし、今回の研究により、この治療法の有効性に対するエビデンスが驚くほど欠如していることが明らかになった」と話し、「自分も含めた多くの手外科医が共有している考え方や、臨床現場で経験していることとは真逆の結果だ」と驚きを表す。 Polatsch氏は、変形性手関節症の治療は個別化されるべきだとの考えを示す。「私は常に、最もリスクの低い選択肢から治療を開始するべきことを提唱している。経口NSAIDsや経口糖質コルチコイドの短期使用は、その意味で合理的なアプローチだと言える」と話す。とはいえ、これらの薬の長期使用は副作用を引き起こす可能性があることにも留意すべきだ。例えば、NSAIDsの長期使用は、出血性潰瘍と関連することが指摘されている。また、経口ステロイド薬の長期間の服用は、高血圧、体重増加、皮膚の菲薄化、感染症を招く可能性がある。 Polatsch氏は、「変形性手関節症の患者は、医療従事者とさまざまな治療法について話し合い、一緒に計画を立てるべきだ」と助言する。また、「症状が長引く患者は、薬物療法、スプリント療法、ハンドセラピー、注射、そして最終手段として手術など、あらゆる選択肢を徹底的に評価できる手外科医に診てもらうのも良いだろう」と話している。

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アセトアミノフェンの処方拡大へ、心不全などの禁忌解除で添付文書改訂/厚労省

 アセトアミノフェン含有製剤の添付文書について、2023年10月12日、厚生労働省が改訂を指示し、「重篤な腎障害のある患者」「重篤な心機能不全のある患者」「消化性潰瘍のある患者」「重篤な血液の異常のある患者」及び「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」の5集団に対する禁忌解除を行った。添付文書における禁忌への記載が、成書やガイドラインで推奨される適切な薬物治療の妨げになっていたことから、今年3月に日本運動器疼痛学会が禁忌解除の要望を厚生労働省に提出していた。 対象製剤は以下のとおり。・アセトアミノフェン[経口剤、商品名:カロナール原末ほか]・アセトアミノフェン[坐剤、同:カロナール坐剤小児用50ほか]・アセトアミノフェン[注射剤、同:アセリオ静注液1000mgバッグ]・トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤[同:トラムセット配合錠ほか]・ジプロフィリン・アセトアミノフェン等配合剤[同:カフコデN配合錠] 具体的な変更点として、5集団のうち「重篤な心機能不全」「消化性潰瘍」「重篤な血液異常」の3集団を禁忌の項から削除し、『特定の背景を有する患者に関する注意』(慎重投与)の項で注意喚起する。「重篤な腎障害のある患者」は禁忌解除に伴い、投与量・投与間隔の調節を考慮する旨を追記した。「アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者」については、1回あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして300mg以下とすることが注意喚起として追記された。 また、トラマドール塩酸塩・アセトアミノフェン配合剤については、添付文書の用法・用量に関連する使用上の注意の項に、慢性疼痛患者で、アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に対して本剤を投与する場合は、1回1錠とすることという記載が加わった。鎮咳薬ジプロフィリン・アセトアミノフェン等配合剤については、アスピリン喘息(非ステロイド性消炎鎮痛剤による喘息発作の誘発)又はその既往歴のある患者/アスピリン喘息の発症にプロスタグランジン合成阻害作用が関与していると考えられ、症状が悪化又は再発を促すおそれがあると記された。 なお、今回の検討はアセトアミノフェン単剤に加え、アセトアミノフェンを含有する配合剤も併せて行われたが、以下の配合剤はNSAIDsを含有することから今般の禁忌解除の対象品目には含まれていないので、注意が必要である。・サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩配合剤(商品名:PL配合顆粒)・サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・クロルフェニラミンマレイン酸塩配合剤(同:ペレックス配合顆粒)・イソプロピルアンチピリン・アセトアミノフェン・アリルイソプロピルアセチル尿素・無水カフェイン配合剤(同:SG配合顆粒)

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NSAIDなどを服用している高齢者、運転に注意

 認知機能が正常な高齢者の服用薬と、長期にわたる運転パフォーマンスとの関連を調査した前向きコホート研究の結果、抗うつ薬や睡眠導入薬、NSAIDsなどを服用していた高齢者は、非服用者と比べて時間の経過とともに運転パフォーマンスが有意に低下していたことを、米国・ワシントン大学のDavid B. Carr氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2023年9月29日号掲載の報告。 米国運輸省と米国道路交通安全局は、90種類以上の薬剤が高齢ドライバーの自動車事故と関連していることを報告している。しかし、自動車事故リスクの上昇が薬剤の副作用によるものなのか、治療中の疾患によるものなのか、ほかの薬剤や併存疾患によるものなのかを判断することは難しい。そこで研究グループは、認知機能が正常な高齢者において、特定の薬剤が路上試験における運転パフォーマンスと関連しているかどうかを前向きに調査した。 参加者は、有効な運転免許証を持ち、ベースライン時およびその後の来院時の臨床的認知症尺度のスコアが0(認知機能障害がない)で、臨床検査、神経心理学的検査、路上試験、投薬データが入手可能であった65歳以上の198人(平均年齢72.6[SD 4.6]歳、女性43.9%)であった。データは、2012年8月28日~2023年3月14日に収集され、2023年4月1~25日に分析された。 主要アウトカムは、Washington University Road Testによる路上試験の成績(合格または限界/不合格)であった。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、運転に支障を来す可能性のある薬剤の服用と、路上試験の成績との関連性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間5.7(SD 2.45)年で、70人(35%)が路上試験で限界/不合格の評価を受けた。・非服用者と比べて、すべての抗うつ薬(調整ハザード比[aHR]:2.82、95%信頼区間[CI]:1.69~4.71)、SSRI/SNRI(aHR:2.68、95%CI:1.54~4.64)、鎮静薬/睡眠導入薬(aHR:2.72、95%CI:1.41~5.22)、NSAIDs/アセトアミノフェン(aHR:2.72、95%CI:1.31~5.63)の服用は、路上試験で限界/不合格となるリスクの増加と有意に関連していた。・脂質異常症治療薬を服用している参加者は、非服用者に比べて限界/不合格となるリスクが低かった。・抗コリン薬や抗ヒスタミン薬と成績不良との間に統計学的に有意な関連は認められなかった。 これらの結果より、研究グループは「この前向きコホート研究では、特定の薬剤の服用が経時的な路上試験の運転パフォーマンスの低下と関連していた。臨床医はこれらの薬剤を処方する際には、この情報を考慮して患者に適宜カウンセリングを行うべきである」とまとめた。

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北欧の臨床データベースは堅牢?(解説:後藤信哉氏)

 本研究は、デンマークにおける15~49歳の約200万例の女性の約2,100万人年のデータである。観察期間内に、8,710例に退院時の診断として深部静脈血栓または肺塞栓症が起こっていた。症例を集めてバイアスを排除して、しっかり観察しようとの態度は学ぶべきである。 観察データから仮説の検証は基本的にできない。本研究では、いわゆる避妊ピルとNSAIDsが深部静脈血栓または肺塞栓症に及ぼすインパクトの有無を調べようとしている。多数の交絡因子が寄与するので統計学的モデリングが必要になる。NSAIDsの使用が深部静脈血栓または肺塞栓症を増やすと報告しているが、モデリングの結果なので、あくまでも将来検証すべき仮説を提示したと理解する必要がある。とくに避妊ピルを用いている症例でのNSAIDsの使用が、深部静脈血栓または肺塞栓症の発症と関連しているかもしれない。観察研究は科学研究の第一歩であるが、今後さらなる研究が必須である。

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慢性便秘症ガイドライン改訂、非専門医向けに診療フローを明確に

 慢性便秘症は、2010年代にルビプロストン(商品名:アミティーザ)、リナクロチド(同:リンゼス)、エロビキシバット(同:グーフィス)、ポリエチレングリコール(PEG)製剤(同:モビコール)、ラクツロース(同:ラグノス)といった新たな治療薬が開発されている。このように、治療の進歩とエビデンスの蓄積が進む慢性便秘症について、約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が2023年7月に発刊された。そこで、本ガイドラインの作成委員長を務める伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学)に改訂のポイントを聞いた。生命予後にも関わる慢性便秘症、待望のガイドライン改訂 慢性便秘症は、QOLが低下するだけでなく、長期生命予後に影響するコモンディジーズである1)。慢性便秘症には、結腸運動機能(便の運搬機能)障害(排便回数減少型)と直腸肛門機能(便の排泄機能)障害(排便困難型)の2つの病態が存在するため、病態に基づいた治療が必要となる。また、2010年代には新たな慢性便秘症治療薬が複数開発されており、これらのエビデンスをまとめ、非専門医向けに診療フローチャートを作成する必要があった。さらに、オピオイド誘発性便秘症の治療法も明らかにする必要もあった。これらの背景から、新たなガイドラインの作成が求められており、今回『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が作成された。また、便秘は下痢と表裏一体であることから、慢性下痢症のガイドラインも新しく作成することになり、『便通異常症診療ガイドライン』という形で、「慢性便秘症」と「慢性下痢症」に分けて作成された。2つの病型を考慮した定義、診断基準を策定 慢性便秘症には、上述のとおり「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が存在する。伊原氏は「前版の慢性便秘症診療ガイドライン20172)では、排便困難型に重点が置かれていたため、バランスを取った便秘の定義を作成する必要があった」と述べた。そこで、今回の改訂では、これら2つの病態が考慮され、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態(下線部が排便回数減少型に該当)」と新たに定義された。また、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために日常生活に支障をきたしたり、身体にも種々の支障をきたしうる病態」と定義された。なお、便秘は状態名であり、(慢性)便秘症は疾患名である。つまり、「便秘のために日常生活に支障をきたしているものが便秘症(疾患)である」と伊原氏は述べた。 慢性便秘症の診断基準は、前版の『慢性便秘症診療ガイドライン2017』に準じており、内容には変更がない。しかし、ここでも「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つの病態が考慮され、従来の6項目が排便中核症状(排便回数減少型に相当)と排便周辺症状(排便困難型に相当)に分けて記載された。 慢性便秘症の診療について、今回のガイドラインではフローチャートが作成されている。そこにも記載されているが、腫瘍性疾患や炎症性疾患が隠れている可能性もあるため、警告症状や徴候の有無を調べることの重要性を伊原氏は強調した。「警告症状にあてはまるものがあれば、大腸内視鏡検査などを実施してほしい。そこで、機能性便秘症であることがわかってから、慢性便秘症の治療に進んでいただきたい」と述べた。警告症状・徴候の詳細については、「CQ4-1:慢性便秘症における警告症状・徴候は何か?(p.55)」を参考にされたい。フローチャートで診療の流れが明確に、刺激性下剤はオンデマンド治療 伊原氏によると、機能性便秘症の多くが排便回数減少型であるという。そこで、排便回数減少型の治療について解説いただいた。 便秘症の治療薬について、今回のガイドラインで強い推奨(エビデンスレベルA)となったのは、「浸透圧性下剤(塩類下剤、糖類下剤、高分子化合物[PEG])」「上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド)」「胆汁酸トランスポーター阻害薬(エロビキシバット)」であった。そこで、これらの薬剤を中心に機能性便秘症治療のフローチャートが作成された。ここでの基本的な治療の流れは「生活習慣の改善→浸透圧性下剤→上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬」である。エビデンスが十分でないと判断された「プロバイオティクス」「膨張性下剤」「消化管運動機能改善薬」「漢方薬」は代替・補助治療薬として記載され、「刺激性下剤」「外用薬(坐剤、浣腸)、摘便」はオンデマンド治療であることが明記された。また、このフローチャートは、2023年5月にAmerican Gastroenterological Association(AGA)およびAmerican College of Gastroenterology(ACG)によって発表された『AGA/ACG Clinical Practice Guideline3)』と細かな違いはあるものの、おおむね同様の内容となっている。 新規作用機序の治療薬の使い分けについても、関心が高いのではないだろうか。そこで、今回のガイドラインでは「FRQ 5-1:ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は何か?(p103、104)」が設定された。回答は「ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットを用いるべき臨床的特徴は明らかになっておらず、今後のさらなる検討が必要と考えられる」となっており、ガイドライン上では使い分けについて明確には示されなかった。しかし、「少しずつわかってきたこともある」と伊原氏は述べた。「ルビプロストンは若い女性で嘔気が起こりやすいため、若い女性にはエロビキシバットやPEG製剤を選択する」「痛みを伴う便秘症にはリナクロチドを選択する」「PPIを用いている患者は酸化マグネシウムの効果が落ちること、ルビプロストンには粘膜バリアを修復する機能があることから、NSAIDsやPPIを服用している患者にはルビプロストンを選択する」「糖尿病患者など、腸の運動が落ちている可能性がある患者には、腸の運動を亢進させるエロビキシバットを選択する」といった使い分けも考えられるとのことである。ただし、「実際に使用して、効果を判定しながら治療を行ってほしい」とも述べた。 今回、オピオイド誘発性便秘症に対する治療のフローチャートも作成された。ガイドラインには「オピオイド誘発性便秘症が疑われる患者には、浸透圧性下剤、刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効である」と記載されているが、伊原氏は「ナルデメジンについては、オピオイドの副作用としての便秘に対する効果はあるが、それ以外の機能性便秘症には効果がないので、どちらが主体の便秘症であるか考えて選択する必要がある」と付け加えた。詳細については、「CQ5-4:オピオイド誘発性便秘症に対する治療法は何か?(p.101)」と「フローチャート5」を参考にされたい。病態評価は、まず排便回数減少型と排便困難型の分類を 慢性便秘症の病態評価において、放射線不透過マーカー法やMRI/CTの有用性が報告されており、今回のガイドラインにも取り上げられている(CQ4-3、4-4)。しかし、日常診療での実施は難しいのが現状である。そこで、注目されるのが直腸エコー検査(CQ4-2)であると伊原氏は述べた。「直腸エコーで直腸内に便の貯留がみられない場合は直腸感覚閾値の異常、柔らかい便がみられた場合は便排出障害、三日月状の固い便がみられた場合は坐剤や摘便により改善する可能性が考えられる」と解説した。また、「浣腸を行う前に直腸エコーを行うことで、浣腸の必要性がわかるのではないか」とも述べた。 また、病態評価について「病態評価が難しい現状にあるため、症状分類で構わないので『排便回数減少型』『排便困難型』の分類を行い、排便困難型で症状が重い場合は直腸視診や直腸エコーを実施してほしい。そこで明らかな便排出障害が認められる場合は、専門医への紹介を検討していただきたい」とまとめた。改訂のポイントのまとめ 伊原氏は、今回の改訂のポイントを以下のようにまとめた。(1)便秘と慢性便秘症の定義を改訂した(状態名を便秘、病態[疾患名]を[慢性]便秘症とした)(2)「病態(疾患名)」は、「症」を語尾につけることで、病気ではない「状態名」と区別した(3)定義、分類、診断、治療とすべてにわたり、便が直腸へ運搬できない結腸運動機能障害型(排便回数減少型)、直腸に貯留した便が排泄できない直腸肛門機能障害型(排便困難型)の2つの病態を念頭にいれて作成した(4)慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)の有用性を初めて記載した(5)オピオイド誘発性便秘症の治療法を初めて記載した(6)診療のフローチャートを初めて作成した

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DOAC内服AF患者の出血リスク、DOACスコアで回避可能か/ESC2023

 心房細動患者における出血リスクの評価には、HAS-BLEDスコアが多く用いられているが、このスコアはワルファリンを用いる患者を対象として開発されたものであり、その性能には限界がある。そこで、米国・ハーバード大学医学大学院のRahul Aggarwal氏らは直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血リスクを予測する「DOACスコア」を開発・検証した。その結果、大出血リスクの判別能はDOACスコアがHAS-BLEDスコアよりも優れていた。本研究結果は、オランダ・アムステルダムで2023年8月25日~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology 2023(ESC2023、欧州心臓病学会)で発表され、Circulation誌オンライン版2023年8月25日号に同時掲載された。 RE-LY試験1)のダビガトラン(150mgを1日2回)投与患者5,684例、GARFIELD-AFレジストリ2)のDOAC投与患者1万2,296例を対象として、DOACスコアを開発した。その後、一般化可能性を検討するため、COMBINE-AF3)データベースのDOAC投与患者2万5,586例、RAMQデータベース4)のリバーロキサバン(20mg/日)投与患者、アピキサバン(5mgを1日2回)投与患者1万1,1945例を対象に、DOACスコアの有用性を検証した。 以下の10項目の合計点(DOACスコア)に基づき、0~3点:非常に低リスク、4~5点:低リスク、6~7点:中リスク、8~9点:高リスク、10点以上:非常に高リスクに患者を分類し、DOACスコアの大出血リスクの判別能を検討した。また、DOACスコアとHAS-BLEDスコアの大出血リスクの判別能を比較した。【DOACスコア】<年齢> 65~69歳:2点 70~74歳:3点 75~79歳:4点 80歳以上:5点<クレアチニンクリアランス/推算糸球体濾過量(eGFR)> 30~60mL/分:1点 30mL/分未満:2点<BMI> 18.5kg/m2未満:1点<脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、塞栓症の既往> あり:1点<糖尿病の既往> あり:1点<高血圧症の既往> あり:1点<抗血小板薬の使用> アスピリン:2点 2剤併用療法(DAPT):3点<NSAIDsの使用> あり:1点<出血イベントの既往> あり:3点<肝疾患※> あり:2点※ AST、ALT、ALPが正常値上限の3倍以上、ALPが正常値上限の2倍以上、肝硬変のいずれかが認められる場合 主な結果は以下のとおり。・RE-LY試験の対象患者5,684例中386例(6.8%)に大出血が認められた(追跡期間中央値:1.74年)。・ブートストラップ法による内部検証後において、DOACスコアは大出血について中等度の判別能を示した(C統計量=0.73)。・DOACスコアが1点増加すると、大出血リスクは48.7%上昇した。・いずれの集団においても、DOACスコアはHAS-BLEDスコアよりも優れた判別能を有していた。 -RE-LY(C統計量:0.73 vs.0.60、p<0.001) -GARFIELD-AF(同:0.71 vs.0.66、p=0.025) -COMBINE-AF(同:0.67 vs.0.63、p<0.001) -RAMQ(同:0.65 vs.0.58、p<0.001) 本研究結果について、著者らは「DOACスコアを用いることで、DOACを使用する心房細動患者の出血リスクの層別化が可能となる。出血リスクを予測することで、心房細動患者の抗凝固療法に関する共同意思決定(SDM)に役立てることができるだろう」とまとめた。

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NSAIDsがC. difficile感染症を悪化させる機序とは

 多くの人々に鎮痛薬や抗炎症薬として使用されている非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)は、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile;C. difficile)への感染により生じる消化管感染症(C. difficile感染症;CDI)を悪化させることが報告されている。こうした中、マウスを用いた研究でこの機序の解明につながる結果が得られたことを、米ペンシルベニア大学のJoshua Soto Ocana氏らのグループが発表した。詳細は、「Science Advances」に7月21日号に掲載された。 C. difficileは世界の抗菌薬関連下痢症の主要な原因菌である。CDIは、軽度の下痢から複雑な感染症まで多様な症状を引き起こし、死亡の原因になることもある。先行研究では、インドメタシンやアスピリン、ナプロキセンといったNSAIDsが、CDI患者だけでなく、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)の患者の消化管に有害な影響を与えることが示されていた。 また、長期間のNSAIDsの使用は、胃潰瘍や小腸壁の出血および穿孔といったさまざまな問題を引き起こすことがある。その理由には、NSAIDsによるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害が関与しており、そのプロセスによって炎症や痛みが抑制される一方で、上部消化管の粘膜機能が障害される可能性が示唆されている。さらに、NSAIDsが、本来の標的とは異なる細胞内小器官のミトコンドリアと相互作用して脱共役を起こし、ATP産生を低下させるなど、ミトコンドリアの機能を阻害するオフターゲット効果を持つことを示した研究報告もあるという。 研究グループは今回、in vitroおよびCDIマウスを用いた研究で、NSAIDsの一種であるインドメタシンの存在下で大腸上皮細胞の透過性を評価し、NSAIDsがどのようにCDIを悪化させるのかを明らかにしようと試みた。 その結果、インドメタシンとC. difficile由来の毒素の両方が上皮細胞のバリア透過性と炎症性細胞死を増加させることが明らかになった。この効果は相乗的であり、毒素とインドメタシンの両方が細胞透過性を高める作用は、それぞれ単独で作用した場合よりも大きかった。また、インドメタシンは、大腸の粘膜細胞のミトコンドリアにオフターゲット効果を与えて、C. difficile由来の毒性によるダメージを大きくする可能性のあることも示された。ただし、動物実験の結果が必ずヒトに当てはまるとは限らない。 論文の上席著者で、米ペンシルベニア大学病理診断学助教のJoseph Zackular氏は、「われわれの研究は、CDI患者にとってNSAIDsが臨床的に問題となることをさらに示したものだ。なぜNSAIDsとC. difficileの二つが組み合わさるとこのような有害な影響がもたらされるのか、その理由を解明するための一助となる知見が得られた」と述べている。 Zackular氏はさらに、「この知見は、C. difficile感染時のミトコンドリアの機能への影響について理解を深めるための研究の第一歩となるものだ。今回の研究から得られたデータはまた、NSAIDsを介したミトコンドリア脱共役が、小腸損傷やIBD、大腸がんといった他の疾患に与える影響についての有用な情報となる可能性がある」との見方を示している。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。

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熱中症【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第4回

今回は「熱中症」についてです。夏場では熱中症はCommonな疾患で、さまざまな原因によって生じます。地球温暖化も相まって、熱中症は気象の影響による死亡の中で最も多いという報告があり1)、すべてのかかりつけ医にとって必修の疾患と言えるでしょう。私も救命センターで働いていると、熱中症患者の搬送や受診が年々増えていることを実感しています。熱中症の診療を若手医師に教える機会は多いのですが、しばしば「言葉の定義や治療方法があやふやだな」と感じることがあります。これは自分が研修医のときに上級医に言われたことでもありますが、系統立てて熱中症を勉強した経験が少ないことが影響しているのではないかと思います。今回は熱中症の定義や臨床像を整理し、かかりつけ医が熱中症患者を診る際のポイントや対処法をお伝えし、さらに帰宅時に「暑い中で作業する時は水分をしっかり取ってね」と指導する「しっかり」がどの程度かを解説します。熱中症の診断熱中症の診断で重要なのは「病歴の聴取」です。熱中症以外の疾患を見落とさないために、どんな場所で何をしていたか、随伴症状がないか、など聞ける範囲でしっかりと聴取しましょう。私が以前経験した苦い症例を挙げます。公園で遊んでいた母親と2人の子供が救急外来を受診。トリアージには一言「熱中症」と記載があり、体温は3人とも37.5℃程度であった。救急外来が混雑しており、3人ともぐったりしていたため、すぐに冷たい点滴を施行した。子供はすぐに元気になったが、母親はガタガタ震え、体温は39℃になり、嘔吐し始めた。よくよく聞くと、公園に着いたあたりから母親は倦怠感を感じて木陰で休んでいたとのことで、実は胃腸炎であった。この母親は運動性(労作性)熱中症にアンカリング(先に与えられた数字や情報を基に検討を始めることにより、その後の意思決定に影響を及ぼすこと)され、病歴をしっかりと聴取できていませんでした。熱中症診断の難しさを再確認した反省症例です。なお、古典的(非労作性)熱中症では、認知症や意識障害などにより病歴聴取が困難なことが多く、高温の環境から離れられなかった理由(図1)をしっかりと調べる必要があります2)。図1 熱中症と鑑別が必要な疾患例画像を拡大する熱中症の治療古典的熱中症は死亡率が高く、ほとんどの症例が総合病院に搬送されるため、ここからは、一般外来でもよく出会う運動性熱中症を中心にお話しします。目の前に熱中症患者がいた場合、まず現場で対応できるかどうかの判断が求められます。つまり、総合病院に搬送すべきかどうかという判断です。III度熱中症でジャパン・コーマ・スケール(JCS)2以上(見当識障害があり場所、日付、周囲の状況が正確に言えない)であれば、すぐに総合病院に搬送すべきです。JCS2程度であっても急性腎不全や横紋筋融解症など早期加療が必要な疾患を合併する可能性は高くなります。I度熱中症とII度熱中症の違いは、JCS0かJCS1かの違い、つまり意識清明か、見当識障害はないがぼーっとしているかの違いです。両方とも高温の環境から涼しい環境に移し、経口補水液を摂取させることが重要な治療です。ただし、II度熱中症で加療を開始して30分経っても意識が清明にならない場合は総合病院への搬送を検討しましょう3)。I度熱中症でも失神した場合はしっかりと鑑別を行い、病院での検査が必要になることがあるため搬送を検討します。熱痙攣(こむら返り)が収まらない場合は痛みで満足に水分摂取ができないことがあり、その際も搬送を検討します。私は熱痙攣が治まらず満足な水分摂取が困難な場合、生理食塩水の点滴と除痛目的のアセトアミノフェンを投与します。脱水による急性腎不全を合併していることがあるためNSAIDsの使用は控えます。また、報告は限られますが、芍薬甘草湯は熱中症に伴うこむら返りに効果があるという報告があり、頑張って1包(2.5g)を服薬してもらっています4)。これらの処置により1時間ほどで症状が改善することがしばしばあります。基本的にII度熱中症までは体温中枢が働いていて深部体温の上昇は軽度であるため、体表面の冷却が推奨されます。一般外来や院外でできることは、うちわや扇風機を使用する氷嚢を頸部、腋下、鼠経に設置する(直接では凍傷を生じることがあるので、必要に応じて間にタオルなどをはさむ)体に霧吹きで水をかけるなどがあります。氷水のプールに全身を浸して冷却するという方法が最も効果的だという報告がありますが、実行できる設備が少ないので現実的ではありません5)。霧吹きにはよく冷えた水を入れたほうがよいと思われがちですが、実はこれはお勧めできません。霧吹きによる体温降下は、水が蒸発する際に周囲の熱を奪うことで体内の熱を空気中に逃がすことができます(気化熱)。よって、常温~温かい水を使用するのがベストです。熱中症のピットフォール熱中症診療で注意しなければならないのが横紋筋融解症です。国家試験などにも出るほどメジャーな疾患ですが、診断が難しい疾患の1つでもあります。適切に治療しないと電解質異常や腎不全などを合併する恐れがあるため、早期診断・加療が必要です。熱中症の後に横紋筋融解症を合併した場合、尿がコーラ色になることがあります。これはミオグロビン尿と言われ、赤血球が尿沈渣では陰性で、尿定性では陽性になるのが特徴です。しかし、横紋筋融解症でミオグロビン尿が発現するのは19%程度であまり高くはありません6)。そこで診断基準に多く使われるのがクレアチニンキナーゼ(CK)です。多くの文献では正常値の5倍(1,000U/L)超を診断基準にしています。5,000U/L以下であれば横紋筋融解症の発症率は低いとされていますが、遅れて上がってくることもあるため注意が必要です7,8)。これらを聞くと「結局どうすればいいの?」となると思います。I度・II度熱中症であれば基本的に重症の横紋筋融解症は合併しないため、患者全員を病院に搬送して血液検査を行うというのは現実的ではありません。横紋筋融解症の治療は水分摂取が第1であり、認知症や意識レベルが低下している患者など水分摂取に懸念がある場合は積極的に病院受診を促すべきと考えます。私は患者を自宅に帰すときには、尿が出ない、尿が黒くなるなどの症状が現れた場合はすぐに病院を受診するよう指導しています。熱中症の予防最後に熱中症の予防です。環境省は熱中症の予防として、涼しい服装日陰の利用日傘・帽子の使用水分摂取を推奨しています。私も熱中症の患者さんは、水分摂取が少ないなと感じます。私が熱中症になった方に「水分を取りましたか?」と聞くと、多くの人が「取っている」と答えますが、よくよく聞くと「暑い環境で5時間働いていたのにコーヒー牛乳500mLを1本だけ」だったという経験があり、その量はさまざまです。では、よく言われる「こまめな水分摂取」とはどの程度でしょうか? 私が探した範囲では日本語で具体的に水分摂取量を記載しているものは見つかりませんでしたが、米国CDCによると、暑い環境で作業するときは水を15~20分ごとに8ounces(240mLくらい)、1時間で1Lくらいが摂取の目安となっています。この際、糖分の多いジュースなどは控えてもらいます。スポーツドリンクも糖分が多いので長時間継続的に摂取することは勧められませんが、状況に応じて活用しましょう。気温や活動の負荷によって異なりますが、最低基準としてこちらを患者へ説明してはいかがでしょうか。今回は、熱中症の診断、治療、予防について紹介しました。熱中症はCommonな病気であり、しっかりと治療し、適切に予防することが重要です。これからさらに暑くなると熱中症患者さんが増えてくるため、復習になれば幸いです。先生自身の熱中症対策もお忘れなく!熱中症の基礎知識<発熱と高体温>発熱とは体温中枢による調整によって体温が上昇することを指し、高体温は体温中枢のコントロールが破綻してしまっている状態を指します。前者の代表は感染症であり、後者は熱中症や甲状腺機能亢進症などが挙げられます。前者による体温上昇であればアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬は効果がありますが、後者は解熱鎮痛薬で体温低下は期待できず、原因を解除する必要があります9)。<運動性(労作性)熱中症と古典的(非労作性)熱中症>運動性熱中症とは読んで字のごとく、屋外や炎天下で活動して水分摂取が足りないときに生じます。数時間以内で急激に発症し、発汗と脱水が必ず伴います。一方、古典的熱中症とは、小児や高齢者が安静時であっても高温の環境に置かれたときに生じます。毎年夏になると親がパチンコに行き子供を車に放置して熱中症で亡くなる、高齢者がクーラーをつけずに自宅にいて熱中症で亡くなるというニュースを聞くと思います。これらが古典的熱中症で、体温が急速に上がった結果、中枢神経の機能が破綻して発症します。発汗がないのが特徴であり、高度の脱水を伴わないこともあります3)。運動性熱中症は、若年~中年に多いということもあり死亡率は低く、5%未満ですが、古典的熱中症は高齢者が多く、また室内で発生することが多いため発見が遅れることもあり、死亡率は約50%と非常に高いです10)。<重症度分類>熱中症の重症度分類であるI度、II度、III度は日本救急学会の定義であり、日本オリジナルの分類です。従来から言われている熱失神(Heat syncope)、熱痙攣(Heat cramp)、熱疲労(Heat exhaustion)、熱射病(Heat stroke)では重症度のイメージがつきにくいため作成されました(図2)。ちなみに、熱痙攣は痙攣発作のことではなくこむら返りのことを指し、熱失神は立ち眩み~失神を指します。図2 日本救急学会提唱の熱中症重症度分類画像を拡大する 1)Summary of Natural Hazard Statistics for 2017 in the United States2)Epstein Y, et al. NEJM;380:2449-2459.3)Glazer JL. Am Fam Physician. 2005;71:2133-2140.4)中永 士師明. 日本東洋医学雑誌. 2013;64:177-183.5)Ito C, et al. Acute Medicine & Surgery. 2021;8:e635.6)Melli G, et al. Medicine. 2005;84:377-385.7)Stahl K, et al. J Neurol. 2020;267:8778-8782.8)Giannoglou GD, et al. Eur J Intern Med. 2007;18:90-100.9)Stitt JT. Fed Proc. 1979;38:39-43.10)Bouchama A, et al. NEJM. 2002;346:1978-1988.

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心不全患者とポリファーマシーの本質を考える【心不全診療Up to Date】第8回

第8回 心不全患者とポリファーマシーの本質を考えるKey Pointsポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーへの対策潜在的不適切処方、有害事象を起こす可能性のある薬剤はないか?本気の多職種連携で各施設・地域に合った効率良い対策を考えるはじめにこれまで、心不全患者において、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)を行うことの重要性を詳しく説明してきた。ただ、その際、常に議論となるのが、ポリファーマシー(多剤併用)問題である。この問題の本質は何か、そしてその対策としてすぐにできることは何か、本稿ではこのポリファーマシーを取り上げてみたい。 ポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーを考える上で大切になってくるのが、「質」と「量」という視点である。「質」的なポリファーマシーとは、臨床的に必要とされる以上に多くの薬剤を処方されている状態であり、「量」的なポリファーマシーとは、5種類以上の薬剤内服と定義される。「量」的なポリファーマシーの中でも、10種類以上を内服している場合を“ハイパーポリファーマシー”と呼ぶが、TOPCAT試験(EF≥45%、平均69歳)のサブ解析1)にて、このような症例では入院のリスクが1.2倍であったという報告もあり(図1)、数が多いということも予後に大きく関連することがわかっている。つまり、「質」と「量」の両面から、このポリファーマシーというものをしっかり考えることが、薬剤数を適切に減らすうえで、極めて重要となる。(図1)心不全患者のポリファーマシー画像を拡大するでは、「質」的なポリファーマシーを考えるうえで何が一番重要となるか。それは、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼす疾患・病態をしっかり把握し、薬剤の中でもできる限りの優先順位をつけておくことであろう。この連載のテーマは、心不全診療であるので、今回は、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼすものが心不全である場合を考えていきたい。たとえば、駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者においては、第1回で説明した通り、生命予後・QOL改善のために、原則4剤(RAS阻害薬/ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)の投与が推奨されており、どれだけ薬剤数が多くて何かを減らしたいとしても、この4剤は原則最後まで残しておくべきである。もちろん、食事摂取状況やADLなどの患者背景、腎機能などの検査所見などから、この4剤のうちどれかを中止せざるを得ない場面に遭遇することもあるが、安易な中断はかえって予後を悪化させるリスクもあり、注意が必要である。さらに例えて言うと、高カリウム血症よりも心不全予後改善薬を中止するほうが、長期的には予後やQOLを悪化させる可能性もあり2)、一旦中止してもその後に再開できないかを常に検討することが重要と考えられる。そして、もしその4剤の中のどれか1つでも投与開始や再開を見送る場合は、その薬剤を『投与しないリスク』についても患者側としっかり共有しておくことも忘れてはならない。そして、ポリファーマシーを考える上で、もう一つのキーとなる言葉が、『服薬アドヒアランス』である。この大きな原因は、患者自身がなぜその薬剤を飲んでいるか理解していないことが挙げられる。ある研究では、心不全患者の41%において、服薬アドヒアランスの低下を認め、この群では、アドヒアランス良好な群と比較して、心不全入院または死亡のリスクが2.2倍に上昇していたと報告されている3) 。つまり、ポリファーマシー対策を考える上で、患者といかに共同意思決定(Shared Decision Making)を行うか、など服薬アドヒアランス向上のための戦略もセットで、それぞれの施設や地域に適した形で考えることも大変意義のあることである。では少し具体的な対策について考えてみたい。ポリファーマシーへの対策1. 潜在的不適切処方(Potentially inappropriate medications:PIMs)、有害事象を起こす可能性がある薬剤(Potentially harmful drug:PHD)はないか?ポリファーマシー改善の第一歩は、PIMsがないか、適宜、処方されているすべての薬剤の見直しを行うことである。とくに、外来主治医が一人ではない場合、システム上それが漏れてしまうことが多く、年に1回でもよいので、総点検を実施することが大切である(できれば病院のシステムとして)。その際に参考となるプロトコル、アルゴリズムを表と図2に示す。(表)処方中止プロトコル画像を拡大する(図2)処方薬の中止/継続を判断するためのアルゴリズム画像を拡大するこのようなものをベースに、それぞれの施設に合った形で実施していただければ、大変効果的であると考える。そして、もう一つ重要なのが、心不全患者で注意すべき有害事象を起こす可能性がある薬剤(PHD)を服用していないか、ということにも注意を払うことである。その薬剤については、米国のガイドラインに明記されており、(1)抗不整脈薬、(2)Ca拮抗薬(アムロジピン以外)、(3)NSAIDs、(4)チアゾリジン薬(商品名:アクトスほか)である10)。とくに、抗不整脈薬は、加齢に伴い生理・代謝機能が低下することで、体内の薬物動態が変化し、本来の目的ではない催不整脈作用や併用薬の相互作用が顕在化するリスクがあるので、きわめて注意が必要である。また、NSAIDsは、腎臓の血管拡張を抑制(低下)させる腎プロスタグランジンの合成を阻害し、太いヘンレ係蹄上行脚や集合管でのナトリウム再吸収を直接阻害することで、ナトリウムと水分の貯留を引き起こし、利尿薬の効果を鈍らせる可能性がある4-9)。いくつかのコホート研究にて、心不全患者がNSAIDsを使用することで罹患率、死亡率が増加すること、また2型糖尿病患者のデータで、1ヵ月以内の短期のNSAIDsの使用であっても、その後の心不全新規発症率上昇と有意に関連していたという報告も最近されており、たとえ短期の使用であっても定期内服はかなり注意が必要と言える11)。 なお、心不全入院からの退院後90日以内に処方された潜在的有害薬物と再入院・死亡との関連をみた観察研究によると、潜在的有害薬物が実際に処方されていた割合は約12%で、最も頻繁に処方されていた薬剤はNSAIDs(6.7%)であった。次に多かったのが、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(4.7%)で、Ca拮抗薬はその後の再入院とも有意に関連していた12)。これらのことから、とくに高齢心不全患者では、上記4種の薬剤のなかでも、抗不整脈薬、NSAIDsの定期投与は、必要最小限に留め、処方する場合も常に中止を検討することが望ましいと考える。2. 本気の多職種連携で、それぞれの施設、地域に合った効率良い対策を考えるこれまで述べてきたポリファーマシー対策を効率よく実施し、それを長続きさせるには、医師だけでできることは時間的にも大変限られており、薬剤師、看護師、心不全療養指導士の皆さまにも積極的に介入してもらえるようなシステム作りが重要と考える。薬剤師による介入は、高齢者における薬剤有害事象のリスクを軽減することに有用であるという報告もあるし13)、これらのスタッフ全員がうまく役割分担をして、尊重し合い、サポートし合いながら、ポリファーマシー対策を実施することが、高齢心不全患者が増加しているわが国ではとくに必要であり、今後その重要性はますます増してくるであろう。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムの重要性は本邦の心不全診療ガイドラインでも明記されており14)、ぜひ、年に1回は、『処方薬、総点検週間』を設けるなど、積極的なポリファーマシーへの介入を実施していただければ幸いである。1)Minamisawa M, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e008293.2)Rossignol P, et al. Eur Heart Fail. 2020;22:1378-1389.3)Wu JR, et al. J Cardiovasc Nurs. 2018;33:40-46.4)Gislason GH, et al. Arch Intern Med. 2009;169:141-149.5)Heerdink ER, et al. Arch Intern Med. 1998;158:1108-1112.6)Hudson M, et al. BMJ. 2005;330:1370.7)Page J, et al. Arch Intern Med. 2000;160:777-784.8)Feenstra J, et al. Arch Intern Med. 2002;162:265-270.9)Mamdani M, et al. Lancet. 2004;363:1751-1756.10)Yancy CW, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;62:e147-239.11)Holt A, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1459–1470.12)Alvarez PA, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:1862-1871.13)Vinks THAM, et al. Drugs Aging. 2009;26:123-133.14)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

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軽度熱傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第1回

はじめまして!聖マリアンナ医科大学病院 救急医学の沼田と申します。主に救急科で勤務しながら、総合診療医、小児救急、集中治療を勉強してきました。最近は緩和ケアを勉強しています。オフ・ザ・ジョブトレーニングでは、外科系救急初期診療を学ぶ「T&Aマイナーエマージェンシーコース」のコアメンバーとして活動しています。このコラムでは、かかりつけ医が診る機会の多い軽症救急疾患の治療を、救急医の視点でわかりやすく解説していきます。初回は熱傷の中でもI、II度の軽度熱傷の治療についてです。熱傷にはさまざまな原因がありますよね。天ぷらを揚げていた、子供が電気ケトルを倒した、カセットコンロが爆発した…など。熱傷の加療の方向性はほぼ同一ですが、医師によって使用する薬剤や被覆材にはばらつきがあると感じています。大まかな治療に関してはAmerican family physicianの「Outpatient burns: prevention and care」と日本熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン(改訂第3版)」を基に、私の経験も交えながらポイントを解説します1,2)。22歳男性。夜間にカップラーメンを食べようとして、カップに熱湯を入れて移動した際に転倒し、熱湯が両腕にかかり受診。既往歴なし、内服歴なし、アレルギー歴なし、バイタル特記事項なし。右前腕に5cm程度の発赤、左前腕に3cm程度の発赤と水疱が2ヵ所ある。水疱の1つは1cm程度、もう1つは3cm程度で破れている。これは、私が近くに皮膚科がない地方の内科外来で働いていたときに経験した症例です。熱傷の治療は、ステップを踏んで診察をしていくことが重要ですので、今回はこの症例を基にどういう判断や対応を行ったかお話しします。1. すぐに入院が必要かどうかの判断(1)受傷部位私の専門が救急であり、火災などによる熱傷に遭遇することもありますが、その場合に最も警戒するのは気道熱傷です。火災が関連している熱傷では、顔面熱傷がないかどうかを確認し、気道熱傷がある場合は人工呼吸管理を行うため入院が必要です。今回の症例は、両腕に熱湯がかかったことによる熱傷ですので気道熱傷はありません。(2)熱傷面積熱傷の面積によっては病院や熱傷センターなどへの搬送が必要になりますので、熱傷の範囲を把握します。よく使われるのが「9の法則」です。頭部、右上肢、左上肢をそれぞれ9%、体幹部の前面、後面をそれぞれ18%、右下肢、左下肢をそれぞれ18%、陰部を1%として熱傷面積を推定します。画像を拡大するまた、熱傷面積が小さく、散在しているときは「手掌法」を用います。これは、手のひらの大きさを体表面積の1%と換算して熱傷面積を推定します。患者の入院の必要性を判断するにあたっては、「Artzの基準」がよく用いられます。II度熱傷の面積が15~30%、III度熱傷の面積が2~10%で一般病院での入院加療が必要とされています。逆に言えば、この面積以下であれば外来通院でよいでしょう。今回の症例の熱傷範囲は1~2%程度ですので、外来通院としました。2. 後日専門医への相談が必要かどうかの判断(1)受傷部位受傷部位で専門的な加療が必要かどうか変わってきます。顔面、手指、肛門、陰部の熱傷や、大関節(肩、膝、股関節)を超える熱傷は、美容や機能予後に影響を与えるので、可能であればなるべく早く専門医に診察してもらいましょう。(2)深達度熱傷には、I度、II度、III度があります。I度は発赤のみ、II度(浅達)は水疱を形成して水疱底の真皮が赤色、II度(深達)は水疱を形成して水疱底の真皮が白色、III度は白色皮革様もしくは褐色皮革様で感覚が消失します。III度熱傷は、適切に治療したとしても拘縮して植皮が必要になる可能性が高いため、専門医に紹介するべきです。II度の浅達か深達かの判別は専門医でなくては困難ですが、治療もとくに変わらないので必ずしも判別する必要性はないと考えます。この患者は、右前腕は発赤のみでI度、左前腕は水疱を形成していてII度熱傷となります。3. 治療(1)冷水での洗浄ここからは、症例のような軽症熱傷を通院加療する流れを記載します。どこで受傷したとしてもまず推奨されるのが冷水での洗浄です。実は強いエビデンスはないと言われていますが、熱傷を負った人の治療で「水で洗う vs.水で洗わない」の検証は倫理的に問題があり行えないため、実際の効果を検証することは困難です。どこでも、すぐに、安価にできるので、受傷後なるべく早く10分程度洗ってもらいましょう。ただし、20分以上の冷水での洗浄や氷水の使用は組織障害や低体温を起こすことがあるため控えます。●右腕(I度)右腕のI度熱傷の治療は、基本的には適切な鎮痛薬の内服のみで完了します。しかし、熱傷は時間とともに進行することがあり、今日はI度であったとしても翌日には水疱を形成してII度に進行していることはしばしば経験するので、進行する可能性があることをしっかりと説明しましょう。進行した場合はII度として治療を行います。●左腕(II度)II 度熱傷の場合は、まずは水疱が保たれているかどうかを確認しましょう。水疱内は清潔ですので、破れていなければ基本的には保存的に加療します。American Family physicianでは水疱のサイズが6mmを超える場合は破膜するよう指導されていますが、私は2~3cmでも保存的に加療しています。重要なのは、患者自身が水疱を保護できるかどうかで、難しいようであれば破膜します。保存的に加療する場合は、ガーゼをかぶせて保護し、もし破れてしまった場合は受診するよう指導します。この症例では、3cmの大きいほうの水疱が破れていました。水疱が破けている場合や、水疱を破膜した場合の治療はどうでしょうか? 私はまずリドカイン塩酸塩ゼリー(商品名:キシロカインゼリー)を塗布してから創部を洗浄しています。その後、破れた水疱の膜を残しておくと感染のリスクがあるため除去します。なお、アルコールやポビドンヨード液などによる消毒は組織障害が生じるため、参考文献2つはいずれも推奨していません。私も創部がよほど汚染されていない限り使用はしません。(2)創部の被覆被覆材にはさまざまなものがあります。メディカルオンラインで「創傷・熱傷被覆材(ドレッシング材)」と検索すると、サイズや用途はさまざまですが130個ほど出てきます。これらの有意性に関する報告は限られていますが、元々熱傷にはスルファジアジン銀が使用されており、それに対する非劣性や有意性を示した論文はあるため、どれを選択しても大きくは変わらないと考えます。その中で、私は基本的には白色ワセリン+ガーゼを使用しています。理由はどこの施設でも置いていて、安価で簡便だからです。患者には、ワセリンをたっぷりと塗って、最低1日1回交換するよう指導して帰宅とします。私がインストラクターとして参加しているT&Aマイナーエマージェンシーコースでは、ガーゼ1枚の範囲を覆う場合、約20gの白色ワセリンの使用を推奨しています。画像のとおり「ぷにゅっとする」くらい厚塗りします。画像を拡大する熱傷の範囲に合わせて調節しますが、熱傷の初期は浸出液が多く、頻回にガーゼ交換が必要ですので、私は患者に白色ワセリンを最低100g渡しています。以前、とある外来で、軟膏がすぐになくなったのでガーゼのみを張って、乾燥して創部に引っ付いてしまった患者がいて、剥ぐのに苦労したことがありました。必ず「軟膏なしでガーゼのみを張るのは控えましょう」と伝えてください。ちなみに、白色ワセリンはドラッグストアでも販売しているので、必ずしも病院を受診して受け取る必要はありません。(4)ステロイド軟膏ステロイド軟膏は、有用性を示すエビデンスに乏しく、安易に使用するべきではないという意見がある一方で、局所の炎症兆候に対して推奨する意見もあるのが現状です。American Family physicianでは使用を推奨せず、本邦の熱傷診療ガイドラインでは「専門医が抗炎症効果を期待して使用する際は、ステロイドの副作用に十分注意しながら、受傷早期(2日間程度)に使用することが望ましい」とされているので、非専門医である私は原則使用しません。(5)外来フォロー推奨された通院間隔はなく、あくまで私のプラクティスを紹介させていただきます。I度熱傷であれば通院の必要はなく、鎮痛薬の処方で終診です。しかし、II度へ移行した場合は再診するよう指導しています。II度熱傷は状況により通院間隔が異なります。その見極めは自力で被覆交換ができるかどうかです。自力で被覆交換が可能であれば、患者の症状に合わせて3~7日程度のサイクルで通院してもらいます。自力での被覆交換が難しい場合は1~3日ごとに通院してもらいます。被覆終了のタイミングは、「ガーゼに浸出液が付かなくなったとき」と伝えています。フォロー中に患者からよく訴えられる症状は、疼痛と掻痒感です。疼痛は初期から生じますので、私は初めからNSAIDsかアセトアミノフェンで対応しています。ただし、数日経って急激に痛みが増悪する、創部に熱感が生じる場合は感染した可能性があるため受診するよう指導します。かゆみが出た場合は抗ヒスタミン薬の有効性が示されているため処方します。今回は、軽度熱傷の症例を例に挙げながら、どういう判断や対応を行ったかお話ししました。軽度熱傷はかかりつけ医が診る機会がありますが、美容や機能予後に影響を与えることも多々あるので、重症度や受傷部位によっては専門医へ相談しましょう。これから定期的に非専門医向けの軽症救急処置のコラムを連載いたします。可能な限り根拠に基づきながら、自身の経験を織り交ぜていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!1)Lanham JS, et al. Am Fam Physician. 2020;101:463-470.2)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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社会的苦痛って何だろう【非専門医のための緩和ケアTips】第43回

第43回 社会的苦痛って何だろう緩和ケアについては、医師でもあまり聞き慣れない言葉や分野が出てくるかと思います。今日のテーマ「社会的苦痛」というのも、わかりにくい例の1つではないでしょうか。今日の質問緩和ケアについて勉強していると必ず出てくる「社会的苦痛」という単語。医療者としては具体的に何をすればよいのでしょうか?「社会的苦痛」、少なくとも私の年代の医学部教育では出てこなかった用語です。しかし、緩和ケアを実践していく中では非常に大切な概念なのです。イメージしやすいよう具体的な例を見ていきましょう。――80歳で骨転移を伴う肺がん患者さん。骨転移部の痛みを訴えます。医師のあなたは外来で診察、評価して鎮痛薬を処方します。腎機能などをチェックした上で、NSAIDsや症状によってはオピオイドも必要になるでしょう。こういった身体症状に対する症状の緩和はイメージしやすいですよね。でも、この患者さんが置かれた状況に対して、薬剤の処方だけで十分な支援が提供できているでしょうか?聞けばこの患者さん、年の近い高齢の奥さんと二人暮らしだそうです。もともと家の中では伝い歩きで生活していましたが、痛みが強くなって排泄のたびに手助けが必要となり、奥さんの負担が急激に重くなっています。ご本人たちは自宅で過ごしたいと考えていますが、介護の負担がさらに大きくなるようなら、在宅療養は諦めざるを得ないでしょう…。こうした状況は、皆さんも日常的に目にするでしょう。このような、「疾患によって引き起こされる、生活や社会活動に対する影響」を「社会的苦痛」と呼んでいます。医師としては介護保険の活用や見直しを勧め、今後の病状変化や介護負担の予測をケアマネジャーと共有することが重要です。今回のような高齢者の場合、社会的苦痛の議論は要介護状態に対する支援や介護者の負担軽減が中心になります。一方、若年者の場合、たとえばまだ幼いお子さんがいる終末期がん患者さんであれば、家事・育児支援やお子さんとのコミュニケーション支援が必要でしょう。一家の稼ぎ手であれば休職や退職による家計の困窮状態を避ける支援が必要です。家計だけでなく、社会とのつながりを保つ意味でも、患者さんの就労支援はとても重視されるようになっています。このように解きほぐしていくと、社会的苦痛に対して医師が担う役割を認識しやすくなります。患者さんごとの状況に合わせ、病気の見通しや注意点を共有することで、さまざまな支援の可能性が見出せます。具体的なケアプラン作成などは介護職が対応してくれるでしょうが、専門職と情報を共有し、しっかり連携することが大切です。「社会的苦痛」の概念を知ると、多職種で取り組むことの必然性も理解できるでしょう。今回のTips今回のTips「社会的苦痛」の概念を理解することで、緩和ケアの実践の幅が広がります。

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12~20歳のmRNAコロナワクチン接種後の心筋炎をメタ解析、男性が9割

 12~20歳の若年者へのCOVID-19mRNAワクチン接種後の心筋炎に関連する臨床的特徴および早期転帰を評価するため、米国The Abigail Wexner Research and Heart Center、Nationwide Children’s Hospitalの安原 潤氏ら日米研究グループにより、系統的レビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種後の心筋炎発生率は男性のほうが女性よりも高く、15.6%の患者に左室収縮障害があったが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)は1.3%にとどまり、若年者のワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であることが明らかとなった。JAMA Pediatrics誌オンライン版2022年12月5日号に掲載の報告。 本研究では、2022年8月25日までに報告された、12~20歳のCOVID-19ワクチン関連心筋炎の臨床的特徴と早期転帰の観察研究および症例集積研究を、PubMedとEMBASEのデータベースより23件抽出し、ランダム効果モデルメタ解析を行った。抽出されたのは、前向きまたは後ろ向きコホート研究12件(米国、イスラエル、香港、韓国、デンマーク、欧州)、および症例集積研究11件(米国、ポーランド、イタリア、ドイツ、イラク)の計23件の研究で、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎患者の合計は854例であった。被験者のベースラインは、平均年齢15.9歳(95%信頼区間[CI]:15.5~16.2)、SARS-CoV-2感染既往者3.8%(1.1~6.4)。心筋炎の既往や心筋症を含む心血管疾患を有する者はいなかった。 本系統レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドライン、およびMOOSEガイドラインに従った。バイアスリスクについて、観察研究はAssessing Risk of Bias in Prevalence Studies、症例集積研究はJoanna Briggs Instituteチェックリスト、各研究の全体的品質はGRADEを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・接種したワクチンは、ファイザー製(BNT162b2)97.5%、モデルナ製(mRNA-1273)2.2%であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、男性が90.3%(87.3~93.2)であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、1回目接種後(20.7%、95%CI:58.2~90.5)よりも2回目接種後(74.4%、58.2~90.5)のほうが多く、心筋炎の発生率は、1回目接種後が100万人あたり0.6~10.0例、2回目接種後が100万人あたり12.7~118.7例であった。・ワクチン接種から心筋炎発症までの平均間隔のプールされた推定値は2.6日(95%CI:1.9~3.3)であった。・左室収縮障害(LVEF<55%)は患者の15.6%(95%CI:11.7~19.5)に認められたが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)を有する患者は1.3%(0~2.6)にすぎなかった。・心臓MRI検査(CMR)では、87.2%の患者にガドリニウム遅延造影(LGE)所見が認められた。・92.6%(95%CI:87.8~97.3)の患者が入院し、23.2%(11.7~34.7)の患者がICUに収容されたが、昇圧薬投与は1.3%(0~2.7)にとどまり、入院期間は2.8日(2.1~3.5)で、入院中の死亡や医療機器の支援を必要とした患者はいなかった。・最もよく見られた心筋炎の臨床的特徴は、胸痛83.7%(95%CI:72.7~94.6)、発熱44.5%(16.9~72.0)、頭痛33.3%(8.6~58.0)、呼吸困難/呼吸窮迫25.2%(17.2~33.1)だった。・心筋炎の治療に使用された薬剤は、NSAIDsが81.8%(95%CI:75.3~88.3)、グルココルチコイド13.8%(6.7~20.9)、免疫グロブリン静注12.0%(3.8~20.2)、コルヒチン7.3%(4.1~10.4)であった。 著者によると、SARS-CoV-2感染後の心筋炎発症リスクは、mRNAワクチン接種後の心筋炎発症リスクよりも有意に高いという。本結果は、複数の国や地域の多様な若年者の集団において、ワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であり、ワクチン接種による利益は潜在的リスクを上回ることを裏付けるとしている。

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アスピリン潰瘍出血、ピロリ除菌での予防は一時的?/Lancet

 Helicobacter pylori(H. pylori)除菌は、アスピリンによる消化性潰瘍出血に対する1次予防効果があるものの、その効果は長期間持続しない可能性があることが、英国・ノッティンガム大学のChris Hawkey氏らが英国のプライマリケア診療所1,208施設で日常的に収集された臨床データを用いて実施した、無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「Helicobacter Eradication Aspirin Trial:HEAT試験」の結果、明らかとなった。アスピリンによる消化性潰瘍は、H. pylori感染と関連していることが知られていた。Lancet誌2022年11月5日号掲載の報告。H. pylori陽性者約5,300例を除菌群とプラセボ群に無作為化 HEAT試験の対象は、アスピリン(1日325mg以下、過去1年で28日分の処方を4回以上)の投与を受けている60歳以上の高齢者で、スクリーニング時にH. pylori C13尿素呼気試験が陽性の患者であった。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)または胃保護薬の投与を受けていた患者は、除外された。 適格患者を、H. pylori除菌群(ランソプラゾール30mg、クラリスロマイシン500mg、メトロニダゾール400mgを1日2回7日間投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、試験終了(2020年6月30日)、同意撤回または死亡まで追跡調査した。試験期間中、患者、担当医師および医療従事者、リサーチナース、試験チーム、判定委員会および解析チームは、治療の割り付けに関して盲検化された。追跡調査は、プライマリケアおよび2次医療施設における電子データを用いて実施された。 主要評価項目は、definite/probable消化性潰瘍出血による入院または死亡までの時間とし、intention-to-treat集団を対象にCox比例ハザードモデルを用いて解析した。 2012年9月14日~2017年11月22日の期間に、計3万166例がH. pyloriの呼気検査を受けた。陽性者は5,367例で、このうち5,352例が無作為化された(除菌群2,677例、プラセボ群2,675例)。追跡期間中央値は、5.0年(四分位範囲[IQR]:3.9~6.4)であった。消化性潰瘍出血による入院/死亡、最初の2.5年未満は除菌群で65%低下 主要評価項目の解析の結果、Schoenfeld検定で比例ハザード性の仮定からの有意な逸脱(p=0.0068)が認められた。すなわち、Kaplan-Meier生存曲線が治療群間で早期に分離したが、その差が時間の経過と共に減少した。そこで、無作為化後2.5年未満と2.5年以降に分けて解析した結果、主要評価項目のイベント発生率は2.5年未満において、対照群と比較し除菌群で有意に低下した。definite/probable消化性潰瘍出血と判定されたエピソードは、除菌群6件(1,000人年当たり0.92[95%信頼区間[CI]:0.41~2.04])vs.対照群17件(2.61[1.62~4.19])だった(ハザード比[HR]:0.35[95%CI:0.14~0.89]、p=0.028)。 この有益性は、死亡の競合リスクで補正後も維持されたが(p=0.028)、追跡期間が長期になると消失した(無作為化後2.5年以降でのHR:1.31[95%CI:0.55~3.11]、p=0.54)。 有害事象は5,307例から報告され、最も多かった有害事象は味覚障害(787例)であった。

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ガイドライン改訂ーアナフィラキシーによる悲劇をなくそう

 アナフィラキシーガイドラインが8年ぶりに改訂され、主に「1.定義と診断基準」が変更になった。そこで、この改訂における背景やアナフィラキシー対応における院内での注意点についてAnaphylaxis対策委員会の委員長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)に話を聞いた。アナフィラキシーガイドライン2022で診断基準が改訂 改訂となったアナフィラキシーガイドライン2022の診断基準では、世界アレルギー機構(WAO)が提唱する項目として3つから2つへ集約された。アナフィラキシーの定義は『重篤な全身性の過敏反応であり、通常は急速に発現し、死に至ることもある。重症のアナフィラキシーは、致死的になり得る気道・呼吸・循環器症状により特徴づけられるが、典型的な皮膚症状や循環性ショックを伴わない場合もある』としている。海老澤氏は「基準はまず皮膚症状の有無で区分されており皮膚症状がなくても、アナフィラキシーを疑う場面では血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状のいずれかを発症していれば診断可能」と説明した。◆診断基準[アナフィラキシーガイドライン2022 p.2]※詳細はガイドライン参照 以下の2つの基準のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーである可能性が非常に高い。1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・下・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間で)発症した場合。さらに、A~Cのうち少なくとも1つを伴う。  A. 気道/呼吸:呼吸不全(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支攣縮、吸気性喘鳴、PEF低下、低酸素血症など)  B. 循環器:血圧低下または臓器不全に伴う症状(筋緊張低下[虚脱]、失神、失禁など)  C. その他:重度の消化器症状(重度の痙攣性腹痛、反復性嘔吐など[特に食物以外のアレルゲンへの曝露後])2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに曝露された後、血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状が急速に(数分~数時間で)発症した場合。 また、アナフィラキシーガイドライン2022はさまざまな国内の研究結果やWAOアナフィラキシーガイダンス2020に基づいて作成されているが、これについて「国内でもアナフィラキシーに関する疫学的な調査が進み、ようやくアナフィラキシーガイドライン2022に反映させることができた」と、前回よりも国内でのアナフィラキシーの誘因に関する調査や症例解析が進んだことを強調した。アナフィラキシーガイドライン2022に盛り込まれた変更点 今回の取材にて、同氏は「アナフィラキシーに対し、アドレナリン筋注を第一選択にする」ことを強く訴えた。その理由の一つとして、「2015年10月1日~2017年9月30日の2年間に医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、アナフィラキシーが死因となる事例が12件もあった。これらの誘因はすべて注射剤で、造影剤、抗生物質、筋弛緩剤などだった。アドレナリン筋注による治療を迅速に行っていれば死亡を防げた可能性が高いにもかかわらず、このような事例が未だに存在する」と、アドレナリン筋注が必要な事例へ適切に行われていないことに警鐘を鳴らした。 ではなぜ、アナフィラキシーに対しアドレナリン筋注が適切に行われないのか? これについて「アドレナリンと聞くと心肺蘇生に用いるイメージが固定化されている医師が一定数いる。また、アドレナリン筋注を経験したことがない医師の場合は最初に抗ヒスタミン薬やステロイドを用いて経過を見ようとする」と述べ、「アドレナリン筋注をプレホスピタルケアとして患者本人や学校の教員ですら投与していることを考えれば、診断が明確でさえあれば躊躇する必要はない」と話した。 アナフィラキシーを生じやすい造影剤や静脈注射、輸血の場合、症状出現までの時間はおよそ5~10分で時間的猶予はない。上記に述べたような症状が出現した場合には、原因を速やかに排除(投与の中止)しアドレナリン筋注を行った上で集中治療の専門家に委ねる必要がある。 また、アドレナリン筋注と並行して行う処置として併せて読んでおきたいのが“補液”の項目(p.24)である。「これまでは初期対応に力を入れて作成していたが、今回はアナフィラキシーの治療に関しても委員より盛り込むことの提案があった」と話した。 以下にはWAOガイダンスでも述べられ、アナフィラキシーガイドライン2022に盛り込まれた点を抜粋する。◆治療 2.薬物治療:第一選択薬(アドレナリン)[アナフィラキシーガイドライン2022 p.21]・心疾患、コントロール不良の高血圧、大動脈瘤などの既往を有する患者、合併症の多い高齢患者では、アドレナリン投与によるベネフィットと潜在的有害事象のリスクのバランスをとる必要があるものの、アナフィラキシー治療におけるアドレナリン使用の絶対禁忌疾患は存在しない1)・アドレナリンを使用しない場合でもアナフィラキシーの症状として急性冠症候群(狭心症、心筋梗塞、不整脈)をきたすことがある、アドレナリンの使用は、既知または疑いのある心血管疾患患者のアナフィラキシー治療においてもその使用は禁忌とされない1)・経静脈投与は心停止もしくは心停止に近い状態では必要であるが、それ以外では不整脈、高血圧などの有害作用を起こす可能性があるので、推奨されない2)◆治療 2.薬物治療:第二選択薬(アドレナリン以外)[アナフィラキシーガイドライン2022 p.23]・H1およびH2抗ヒスタミン薬は皮膚症状を緩和するが、その他の症状への効果は確認されていない3) このほか、同氏は「食物アレルギーの集積調査が進み、国内でも落花生やクルミなどのナッツ類や果物がソバや甲殻類よりも誘因として高い割合を示すことが明らかになった」と話した。さらに「病歴の聞き取りが不十分なことで起こるNSAIDs不耐症への鎮痛薬処方なども問題になっている」と指摘した。 なお、アナフィラキシーガイドライン2022は小児から成人までのアナフィラキシー患者に対する診断・治療・管理のレベル向上と、患者の生活の質の改善を目的にすべての医師向けに作成されている。日本アレルギー学会のWebからPDFが無料でダウンロードできるのでさまざまな場面でのアナフィラキシー対策に役立てて欲しい。

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実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」【非専門医のための緩和ケアTips】第33回

第33回 実は変わってますよ! WHOの「がん疼痛ガイドライン」今日は緩和ケアにおけるメジャートピックである、がん疼痛に対する鎮痛アプローチのお話です。皆さんはWHOの「がん疼痛ガイドライン」って、聞いたことがある方が多いのではないでしょうか?この中の「WHOラダー」は、実際の臨床に活用している方も多いと思います。実は最近このアプローチが大きく変わってきているので、一緒に学んでいきましょう。今日の質問がん疼痛における基本指針といえば、WHOラダーですよね。私も長年、ラダーに従って実践してきたのですが、最近、変更があったと聞きました。どういった点が変更されたんでしょうか?ご質問者のおっしゃる通り、WHOのがん疼痛治療が変更になりました。そして私たち、長年緩和ケアに関わってきた医療者にとって非常になじみ深かった、「WHOラダーの推奨」が削除されることになりました。え! と思われた方も多いかもしれませんので、その背景をお話ししていきましょう。1990年代から2000年代に緩和ケアを学んだ方は「がん疼痛といえばWHOラダー!」と教わったと思います。「がん疼痛を見たら、まずはNSAIDsを使用し、弱オピオイドを導入、その後は強オピオイドを用いる」というアプローチです。この「ステップを踏んでいく」のが、ラダー(梯子)の名称たるゆえんです。ただ、最初から強い痛みを訴えるがん患者さんに対し、ラダー通りに「手順を踏む」よりも、最初から強いオピオイドを使用したほうがよいのでは? というのは長く議論されていた点でした。そして、2019年にがん疼痛のWHOガイドラインが改定され、従来の「がん疼痛の5原則」から「ラダーに基づいて」の項目が削除され、4原則となりました。この変更はわれわれにとってどういった意味を持つのでしょうか? ここからは私見になりますが、「今まで以上に、個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められる」のだと感じます。「ラダーに従えば、次は弱オピオイドなので、とりあえずそれで処方しよう」といった実践ではなく、痛みの程度や経過の予測を踏まえて、適切な介入が求められているのだと思います。緩和ケアに関わるほとんどの方が耳にしてきた「WHOのガイドライン」もこうして時代に合わせて改定されます。目の前の患者さんにベストの治療を提供するためにわれわれもアップデートしていく必要性を感じます。今回のTips今回のTipsWHOのがん疼痛への鎮痛アプローチが変更されています。これまで以上に個別の患者さんごとに、最適ながん疼痛への対応が求められるでしょう。

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