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1.

心房細動患者へのNOAC、間質性肺疾患リスクに影響か

 近年、非弁膜性心房細動(NVAF)患者の脳卒中予防のため、ワルファリンの代替として経口抗凝固薬(NOAC)の使用が推奨されている。しかし、第Xa因子(FXa)阻害薬の使用に関連する間質性肺疾患(ILD)リスクの可能性が報告されている。今回、台湾・長庚記念病院国際医療センターのYi-Hsin Chan氏らがFXa阻害薬による治療がNVAF患者の肺損傷と関連していたことを明らかにした。JAMA Network Open誌11月1日号掲載の報告。 研究者らは、NVAF患者におけるNOAC使用に関連するILDリスクを評価することを目的として、台湾国民健康保険研究データベースを使用し後ろ向きコホート研究を実施した。対象者は2012年6月1日~2017年12月31日までにNOACによる治療を受け、既存の肺疾患のないNVAF患者が含まれた。傾向スコアで安定化重み(PSSW:Propensity score stabilized weighting)を用いて、投薬群(FXa阻害薬、ダビガトランまたはワルファリン、参照をワルファリン)間で共変量のバランスを取った。患者は服薬開始日からILDの発症/死亡、または研究終了(2019年12月31日)のいずれか早い期間まで追跡され、データ分析は2021年9月11日~2022年8月3日に行われた。 主な結果は以下のとおり。 ・10万6,044例(平均年齢±SD:73.4±11.9歳、男性:5万9,995例[56.6%])のうち、ベースライン時点で6万4,555例(60.9%)がFXa阻害薬(内訳:アピキサバン[1万5,386例]、エドキサバン[1万2,413例]、リバーロキサバン[3万6,756例])、2万2,501例(21.2%)がダビガトランを、1万8,988例(17.9%)がワルファリンを使用した。・FXa阻害薬群はワルファリン群と比較して、ILDの発生リスクが高かった(100人年当たり0.29 vs.0.17、ハザード比[HR]:1.54、95%信頼区間[CI]:1.22~1.94、p<0.001)。・一方、ダビガトラン群はワルファリン群と比較して、ILD発生リスクに有意差は見られなかった(同0.22 vs.0.17、HR:1.26、95%CI:0.96~1.65、p=0.09)。・FXa阻害薬とワルファリンのILD発症リスクの高さは、いくつかの高リスクサブグループと一致していた。

2.

ワルファリンは揺るぎない経口抗凝固薬の本流!(解説:後藤信哉氏)

 抗凝固薬の重篤な出血合併症は怖い。ワルファリンの有効性は確実であるが、重篤な出血合併症が怖いため血栓イベントリスクの高い症例に絞って使用してきた。経口のトロンビン、Xa阻害薬ではワルファリンに勝る有効性は期待できない。ワルファリンの至適PT-INRを2~3と高めに設定して、辛うじて非弁膜症性心房細動にて適応を取得した。リウマチ性の僧帽弁狭窄症など、血栓リスクの高い症例の血栓イベントは単一の凝固因子の選択的阻害薬ではとても予防できないと想定されていた。高齢社会にて非弁膜症性心房細動の数は多い。経口のトロンビン、Xa阻害薬をごっちゃにしてNOAC/DOACなどの軽い名前のイメージで特許期間内に売りまくった。血栓イベントリスクの高い機械弁では、NOAC/DOACがワルファリンにとても勝てないことはすでに解明されていた(Eikelboom JW, et al. N Engl J Med. 2013;369:1206-1214.)。今回は弁口面積2cm2以下の僧帽弁狭窄症を含むリウマチ性の心房細動の症例をNOAC/DOACのリバーロキサバンとワルファリンに割り付け、両者の有効性・安全性を検証した。 非弁膜症性の心房細動の各種ランダム化比較試験と本試験では、有効性エンドポイントが同一ではない。本試験では脳卒中・全身塞栓症に加え、心筋梗塞、心血管死亡、原因不明の死亡が有効性のエンドポイントとされた。症例は50歳前後と典型的な非弁膜症性心房細動よりも若い。観察期間内の有効性エンドポイントしては脳梗塞・全身塞栓症よりも死亡が圧倒的に多い。非弁膜症性心房細動におけるNOAC/DOAC開発試験でも、脳卒中・全身塞栓症よりも死亡が多かった。心房細動の症例をみたら、近未来の死亡こそ警戒されるべきである! 脳卒中・全身塞栓症、死亡ともに、リバーロキサバン群よりもワルファリン群が少なかった。試験がオープンラベルでPT-INRは2~3を目標とされたが、各施設に任された部分が多かった。重篤な出血、頭蓋内出血ともに数の上ではワルファリン群に多いように見えるが、若年のこともあり絶対数は少ない。 リウマチ性心疾患の心房細動など、血栓リスクの高い症例ではワルファリンが必要であることが改めて示された。ワルファリンは古典的で使い方はNOAC/DOACより難しい。しかし、本当に血栓が心配な症例ではワルファリンが必要である。難しいけど若手には頑張って勉強してほしい!

3.

急性期脳梗塞へのアルテプラーゼ、発症前NOAC服用でもリスク増大なし/JAMA

 アルテプラーゼ静注治療を受けた急性虚血性脳卒中患者において、発症前7日以内の非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)服用者の頭蓋内出血リスクは、抗凝固薬非服用者と比べて大きく増大しないことが示された。米国・デューク大学のWayneho Kam氏らが、16万例超の患者を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果を報告した。現行のガイドラインでは、急性虚血性脳卒中発症前にNOACを服用していた場合、原則的にはアルテプラーゼ静注を使用しないよう勧告されている。JAMA誌オンライン版2022年2月10日号掲載の報告。米国内1,752ヵ所の医療機関、約16万3,000例を対象に試験 研究グループは2015年4月~2020年3月に、脳卒中診療の質改善プログラム「Get With The Guidelines-Stroke」(GWTG-Stroke)に登録する米国内1,752ヵ所の医療機関で、急性虚血性脳卒中発症後4.5時間以内にアルテプラーゼ静注治療を受けた16万3,038例を対象に、後ろ向きコホート試験を行った。 被験者は、脳卒中発症前のNOAC服用者、抗凝固薬の非服用者であった。補完的に、抗凝固薬服用中に急性虚血性脳卒中や頭蓋内出血を発症した患者レジストリ「Addressing Real-world Anticoagulant Management Issues in Stroke」(ARAMIS)のデータも活用。脳卒中発症前NOAC服用患者への、アルテプラーゼ静注治療の安全性と機能性アウトカムについて、抗凝固薬の非服用者と比較した。 主要アウトカムは、アルテプラーゼ静注後36時間以内の症候性頭蓋内出血の発生だった。副次アウトカムは、院内死亡を含む安全性に関する4項目と、自宅への退院率を含む退院時に評価した機能性アウトカム7項目だった。症候性頭蓋内出血の発生率、NOAC服用群3.7%、抗凝固薬非服用群3.2% 被験者16万3,038例の年齢中央値は70歳(IQR:59~81)、女性は49.1%だった。このうち、脳卒中発症前のNOAC服用者(NOAC服用群)は2,207例(1.4%)、抗凝固薬の非服用者(非服用群)は16万831例(98.6%)だった。 NOAC服用群の年齢中央値は75歳(IQR:64~82)で、非服用群(同70歳、58~81)よりも高齢で、心血管系の併存疾患の罹患率が高く、脳卒中の程度もより重症だった(NIH脳卒中スケールの中央値、NOAC服用群:10[IQR:5~17]vs.非服用群:7[4~14])。 症候性頭蓋内出血の補正前発生率は、NOAC服用群3.7%(95%信頼区間[CI]:2.9~4.5)、非服用群3.2%(3.1~3.3)だった。ベースラインの臨床要因で補正後の症候性頭蓋内出血の発生リスクは、両群で同等だった(補正後オッズ比[OR]:0.88[95%CI:0.70~1.10]、補正後群間リスク差[RD]:-0.51%[95%CI:-1.36~0.34)。 副次アウトカムの安全性に関する項目は、院内死亡率(NOAC服用群6.3% vs.非服用群4.9%、補正後OR:0.84[95%CI:0.69~1.01]、補正後RD:-1.20%[-2.39~-0])を含めいずれも有意差はなかった。 機能性アウトカムについては、自宅への補正後退院率(NOAC服用群53.6% vs.非服用群45.9%、補正後OR:1.17[95%CI:1.06~1.29]、補正後RD:3.84%[1.46~6.22])など、7項目中4項目でNOAC服用群がより良好だった。

4.

アジア人がん関連VTE、NOAC vs.低分子ヘパリン

 これまで不明であった、アジア人のがん関連静脈血栓塞栓症(VTE)に対する非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)と低分子ヘパリン(LMWH)の臨床的有益性は、同等であることが示された。台湾・長庚大学のDong-Yi Chen氏らが、台湾のデータベースを用いたコホート研究により、実臨床下でがん関連VTE患者におけるVTE再発および大出血のリスクはNOACとLMWHで同等であり、さらにNOACでは胃腸出血のリスクが有意に低いことを明らかにした。なお著者は、「今回の解析結果を確認するためには、前向き研究が必要である」としている。JAMA Network Open誌2021年2月1日号掲載の報告。 研究グループは、台湾の多施設電子カルテデータベースであるChang Gung Research Databaseを用い、2012年1月1日~2019年1月31日に新たに診断されたがん関連VTE患者1,109例を特定し解析した。 主要評価項目は、VTE/肺塞栓症(PE)再発または大出血。対象患者を、インデックス日(NOACまたはLMWHの最初の処方日)から初回イベント発生、1年間、死亡または追跡終了(2019年1月)のいずれか早い時点まで追跡した。Cox比例ハザードモデルを用い、NOAC(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、ダビガトラン)またはLMWHのエノキサパリン投与におけるVTE再発または大出血のリスクを比較。加えて、死亡を競合リスクと見なしたFine-Gray部分分布ハザードモデルを用いた解析も行った。 解析は、2019年3月~2020年12月に実施された。 主な結果は以下のとおり。・1,109例の患者背景は、女性578例(52.1%)、インデックス日の平均年齢66.0歳、NOAC投与が529例(47.7%)、エノキサパリン投与が580例(52.3%)であった。・VTE再発または大出血は、NOAC群75例(14.1%)、エノキサパリン群101例(17.4%)に認められた(加重ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.56~1.07、p=0.11)。・両群で、12ヵ月時点でのVTE再発(HR:0.62、95%CI:0.39~1.01、p=0.05)ならびに大出血(HR:0.80、95%CI:0.52~1.24、p=0.32)のリスクも同様であった。・ただし、NOAC群はエノキサパリン群と比較して、胃腸出血のリスクが有意に低かった(10例[1.9%]vs.41例[7.1%]、HR:0.29、95%CI:0.15~0.59、p<0.001)。・主要評価項目の結果はいずれも、競合リスク解析と一致していた(VTE再発のHR:0.68[95%CI:0.45~1.01、p=0.05]、大出血のHR:0.77[95%CI:0.51~1.16、p=0.21])。

5.

ドイツ流のサマリーの作成法【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第22回

当院では手術に入らないとき、病棟での業務を行うことになります。病棟の回診と共に重大な業務となるのが、「サマリーの作成」です。先日は朝から夕方にかけて、患者12人分の退院サマリーを作成しました。ずっとドイツ語で文章を考えているので、最後の方はずっと頭痛がしていました。ドイツ語の名詞には、男性名詞・女性名詞・中性名詞(例:vater[父/男性名詞]、mutter[母/女性名詞]、kind[子供/中性名詞])があって、それぞれに違った冠詞(der/die/dasなど)がつきます。さらにこれらが、それぞれ4種類の格変化をするし、中には語尾が変化する名詞なんかもあったりして、正式文書を書く際にはかなり頭を悩ませることになります。実際にふだんの会話の中では多少間違えても問題なく意味は通じるんですけどね~。文章にするとなると、きっちりしておかないと格好悪いです。ドイツ流の医療文書の作成法外国籍の医療者が多い当院では、正式な文書はすべて画像にある機械を使って、口述で作成します。この手前の機械に向かってレコーディングをして、元の親機(奥の機器)にはめ込むと、自動的にデータが専門部署に送られます。専門部署では1日中、担当のドイツ語ネイティブのスタッフが文書に打ち込んでくれます。細かい文法の誤りはもちろんのこと、ダサい言い回しをスマートなドイツ語へ意訳・変換してくれたりもします。初めの頃は全部の文章をドイツ語で書いてから読んでいたので、非常に時間がかかっていましたが、最近ではよく使う定型文をスマホのメモ帳に入れておいて、それらを組み合わせていく方法で、ググッと時間が短縮されるようになりました。ある症例のサマリーを作成してみた一番厄介な事例として「術後に一過性の心房細動を発症した患者が、アミオダロン投与して戻った症例」があります。退院時処方に抗凝固をどうするか、アミオダロンをいつまで投与するかは、術者やコンサルトしたときの循環器内科の先生の見解で複雑に変わってきます。「生体弁を使用した症例だから、3ヵ月はワルファリンを投与してください。それで、3ヵ月後までに不整脈の再発がなければ、アスピリンだけ継続して、再発があるようならばNOACに切り替えてください。アミオダロンは最初の1週間は600mg投与で、以降は200mgで。入院中からトータルで投与量が10gに達したら中止してもらって、再度心電図検査を行って、問題があれば循環器専門医に送って評価してもらってください」という文章を、短く切ってグダグダな文章を繋いで繋いで完成させたのですが…機械を通せばプロの文章作成係(“Schreiber”って呼ばれています)がスマートなドイツ語に仕上げてくれるという仕組みです。もちろん完成した文章は早速、スマホのメモに登録しておきました。外国人の医療者が多い病院なので、こういったネイティブのチェックが入るシステムで、上手く対応しています。

6.

再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第30回

第30回 再び複数形で祝福だ!高齢者を国の宝とするために日本で行われた素晴らしい臨床研究であるELDERCARE-AF試験の結果がNEJM誌に掲載されました(N Engl J Med 2020;383:1735-1745)。心房細動があるとはいえ、通常用量の抗凝固療法がためらわれるような、出血リスクが高い80歳以上の高齢日本人を対象とした試験です。低用量NOACによる抗凝固療法が、大出血を増やすことなく脳卒中/全身性塞栓症を抑制することを示しました。この研究の参加者の平均年齢は86.6歳で、過半数の54.6%が85歳超えでした。このような高齢者は、ランダマイズ研究の除外基準に該当するのが常でした。高齢者に適応可能なエビデンスが存在しない中で、現場の医師は高齢の心房細動患者への対応を迫られています。脳卒中の減少と出血増加のバランスにおいて、試験の結果を慎重に解釈する必要がありますが、高齢者を対象としたエビデンスが登場したことは高く評価されます。日本社会は、高齢化において世界のトップランナーです。65歳以上の高齢者が全人口に占める割合である高齢化率が、7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされます。日本は1970年に高齢化社会、1994年に高齢社会、2007年に超高齢社会へと突入しました。高齢化社会から高齢社会となるまでの期間は、ドイツは42年、フランスは114年を要したのに対し、日本はわずか24年で到達しています。今後も高齢化率は上昇し、2025年には約30%、2060年には約40%に達すると予測されます。ある日の小生の外来診察室の風景です。「昨日、誕生日だったんですね。おめでとうございます!」電子カルテの年齢欄に、87歳0ヵ月と表示された女性患者さんに誕生祝いの声がけをしたのです。電子カルテは、誕生日を迎えたばかりの方や、間もなく誕生日の方が簡単にわかるので便利です。「87歳にもなって、めでたくなんかないですよ。これ以上、年はとりたくない」患者さんは、一見ネガティブな返答をしますが満面の笑みです。「今日まで長生きできてよかったね。年をとれることは素晴らしいことですね。おめでとう」外来では、誕生日の患者さんに必ず祝意を伝えることにしています。誕生日を祝福する意味はなんでしょうか。その意味は、その方の存在を肯定することにあります。子供の誕生日に成長を祝うこととは、少し意味合いが違います。自己の存在を肯定されることは、人間にとって最も満足度の高いことで、その節目が誕生日です。高齢人口が急速に増加する中で、医療、福祉などをどのように運用していくかは喫緊の課題です。逃げることなく正確に現状を把握し、次の方策を練ることは大切です。その議論の過程で、負の側面を捉えて嘆いていてもはじまりません。歴史上に類を見ない超高齢化社会の日本を世界が注目しています。対応に過ちがあれば同じ轍を踏むことがないようにするためです。今、必要なのは高齢者の存在を肯定する前向き思考です。高齢者を国の宝として活用するのです。その具体的成功例が、このELDERCARE-AF試験ではないでしょうか。高齢者医療のエビデンスを創出し、世界に向けて発信していくことは、高齢化社会のトップランナーである日本であるからこそ可能であり、むしろ責務です。あらためて、ELDERCARE-AF試験に関与された皆様に敬意を表し、複数形で祝福させていただきます。Congratulations!

7.

RCTの評価はどこで行うか? ELDERCARE-AF試験の場合(解説:香坂俊氏)-1302

今回解説させていただくELDERCARE-AFはわが国で実施された試験であるが、出血ハイリスクの心房細動患者に対して抗凝固療法(ただし低用量)の有用性を確立させたという点で画期的であった。高齢者で基礎疾患のある心房細動患者には抗凝固療法(最近ではワルファリンよりもNOACと呼ばれるクラスの薬剤が使われることが多くなっている)を用いた脳梗塞予防が広く行われているが、抗凝固を行えばそれだけ出血するリスクも高くなるわけであり、そこのバランスをどう保つかということは大きな課題であった。この試験では従来からの基準ではNOACを用いることができない「出血ハイリスク」患者を対象として、何もしないか(プラセボ投与)あるいは低用量のエドキサバン(NOACの1つ、通常の1日量が60㎎ 1xであるところを15mg 1xとして用いた)を用いるかというところの比較を行った。出血ハイリスクというところをどう規定するかというところに工夫があり、この試験では80歳以上ということをまず組み入れ基準とし、そのうえで以下のうちのいずれか1つ以上を満たす患者を対象とするとした(かなり条件は厳しい):・低腎機能(creatinine clearanceが15から30mL/min)・出血の既往・低体重(45kg以下)・NSAIDを使用・抗血小板剤を使用ただこの条件の設定の仕方はなかなか見事であり、これならば誰もが「出血ハイリスク」であることに納得がいき、かつ現場で抗凝固薬の処方をためらうというところに異論がないのではないかと思われる([1])。試験の結果として、脳卒中/全身性塞栓症の発生は低用量のエドキサバン群で少なく(the annualized rate of stroke or systemic embolism was 2.3% in the edoxaban group and 6.7% in the placebo group (hazard ratio, 0.34; 95% confidence interval [CI], 0.19 to 0.61; P

8.

ガリレオもびっくり!(解説:後藤信哉氏)-1149

 大動脈弁狭窄症の標準治療としてTAVIが普及している。TAVIも人工弁なので、抗血小板薬併用療法よりも抗凝固薬療法のほうが適しているのではないかと思っていた。しかし、GALILEO試験の結果は予測を覆した。1,644例のTAVI症例を対象としたオープンラベルではあるが、ランダム化比較試験である。試験に参加した医師たちも私と同様抗凝固薬群の予後が良いと予想したのではないだろうか? 死亡・血栓イベントは抗血小板薬併用療法群よりもリバーロキサバン10mg群で多かった。重篤な出血には差はなかった。 年齢、心不全の合併には差はなかった。死亡率がリバーロキサバン群にて倍に近かったのは偶然かもしれない。しかし、脳卒中も心筋梗塞も同じ方向性であった。 心房細動の脳卒中予防試験をなんとかくぐり抜けたものの、NOACは他の症例群では振るわない。直接的な凝固因子阻害薬ではよい出血・抗凝固バランスがアチーブできないというのが特許切れ後の常識になるかもしれない。

9.

PCI後の心房細動、エドキサバンベース治療の安全性は?/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心房細動患者では、抗血栓薬による出血のリスクに関して、エドキサバンベースのレジメンはビタミンK拮抗薬(VKA)ベースのレジメンに対し非劣性であることが、ベルギー・ハッセルト大学のPascal Vranckx氏らが行ったENTRUST-AF PCI試験で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年9月3日号に掲載された。エドキサバンは、心房細動患者において、脳卒中および全身性塞栓症の予防効果がVKAと同等であり、出血や心血管死の発生率は有意に低いと報告されている。また、患者の観点からは、VKAよりも使用が簡便とされる。一方、PCI施行例におけるエドキサバンとP2Y12阻害薬の併用治療の効果は検討されていないという。18ヵ国186施設が参加した非劣性試験 本研究は、PCI施行心房細動患者におけるエドキサバン+P2Y12阻害薬の安全性の評価を目的に、18ヵ国186施設で実施された多施設共同非盲検無作為化非劣性第IIIb相試験であり、2017年2月24日~2018年5月7日の期間に患者登録が行われた(Daiichi Sankyoの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、安定冠動脈疾患または急性冠症候群でPCIを受け、経口抗凝固薬の投与を要する心房細動患者であった。 被験者は、PCI施行後4時間~5日の間に、エドキサバン(60mg、1日1回)+P2Y12阻害薬を12ヵ月間投与する群、またはVKA+P2Y12阻害薬+アスピリン(100mg、1日1回、1~12ヵ月)を投与する群に無作為に割り付けられた。エドキサバンの用量は、クレアチニンクリアランス15~50mL/分、体重≦60kg、特定の強力なP糖タンパク質阻害薬(シクロスポリン、dronedarone、エリスロマイシン、ケトコナゾール)の併用のうち1つ以上がみられる場合は、1日30mgに減量された。 主要エンドポイントは、12ヵ月以内の大出血または臨床的に重要な非大出血(ISTH基準)の複合とし、非劣性マージンは1.20であった。主解析はintention-to-treat集団で行い、安全性の評価は1回以上の薬剤投与を受けたすべての患者で実施した。大出血/臨床的に重要な非大出血:17% vs.20%、優越性は認めず 1,506例が登録され、エドキサバンレジメン群に751例、VKAレジメン群には755例が割り付けられた。全体の年齢中央値は70歳(IQR:63~77)で、386例(26%)が女性であった。 ベースラインで189例(13%)が脳卒中の既往歴を有しており、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4.0(IQR:3.0~5.0)、HAS-BLEDスコア中央値は3.0(2.0~3.0)であった。456例(30%)にVKA投与歴があり、365例(24%)には新規経口抗凝固薬(NOAC)の投与歴があった。PCI施行から無作為割り付けまでの期間中央値は45.1時間(IQR:22.2~76.2)だった。 12ヵ月時の大出血または臨床的に重要な非大出血イベントの発生は、エドキサバンレジメン群が751例中128例(17%、年間イベント発生率20.7%)、VKAレジメン群は755例中152例(20%、年間イベント発生率25.6%)に認められた。ハザード比は0.83(95%信頼区間[CI]:0.65~1.05、非劣性のp=0.0010、優越性のp=0.1154)であり、エドキサバンレジメン群のVKAレジメン群に対する非劣性が確認され、優越性は認められなかった。 大出血の発生は、エドキサバンレジメン群が751例中45例(6%、年間イベント発生率6.7%)、VKAレジメン群は755例中48例(6%、年間イベント発生率7.2%)であり、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.95、95CI:0.63~1.42)。 致死的出血は、エドキサバンレジメン群が1例(<1%)、VKAレジメン群は7例(1%)に認められた。頭蓋内出血は、それぞれ4例(1%、年間イベント発生率0.6%)および9例(1%、年間イベント発生率1.3%)にみられた。 12ヵ月時の主要な有効性アウトカム(心血管死、脳卒中、全身性塞栓イベント、心筋梗塞、ステント血栓症[definite]の複合)は、エドキサバンレジメン群が49例(7%、年間イベント発生率7.3%)、VKAレジメン群は46例(6%、年間イベント発生率6.9%)に認められ、両群間に有意な差はなかった(エドキサバンのHR:1.06、95%CI:0.71~1.69)。 著者は「大出血/臨床的に重要な非大出血の発生に関して、エドキサバンベースの2剤併用抗血栓療法(DAT)は、VKAベースの3剤併用抗血栓療法(TAT)に対し非劣性であることが示された」とまとめている。

10.

脳クレアチン欠乏症候群〔CCDSs:cerebral creatine deficiency syndromes〕

1 疾患概要■ 概念・定義脳クレアチン欠乏症(cerebral creatine deficiency syndromes:CCDSs)は、脳内クレアチンが欠乏することにより発症し、知的障害、言語発達遅滞、痙攣、自閉症スペクトラム、筋緊張低下を特徴とする遺伝性疾患である。CCDSsは、クレアチン産生障害によるアルギニン:グリシンアミジノ基転移酵素(AGAT)欠損症(MIM#612718)と、グアニジノ酢酸メチル基転移酵素(GAMT)欠損症(MIM#612736)、およびクレアチン輸送障害によるクレアチントランスポーター(SLC6A8)欠損症(MIM#300352)の3疾患からなる。とくに、AGAT欠損症、およびGAMT欠損症はクレアチン投与が症状改善に有効であり、治療法のある知的障害として、見逃してはいけない疾患である。 本症は2018年4月に小児慢性特定疾病に登録されている。■ 疫学SLC6A8欠損症は、男性の知的障害(IQ<70)の0.3〜3.5%の原因と推定され、知的障害の単一遺伝子疾患として頻度の高い疾患の1つであるが、国内における症例の報告は10家系未満であり、わが国では未診断症例が多いと推測されている。AGAT欠損症は、世界でも極めてまれである。GAMT欠損症は、SLC6A8欠損症についで頻度が高く、110例以上の報告があるが、国内では1例のみ報告されている。■ 病因クレアチンは、グアニジノ基(HN=C(NH2)2)を持つグアニジノ化合物の1つである。クレアチンとATPは、クレアチンキナーゼにより可逆的にクレアチンリン酸とADPに変換する。脳におけるクレアチンの役割は不明な点も多いが、脳の機能や発達においてATPを的確に供給するための貯蔵庫としての機能以外に、神経修飾物質、神経伝達物質、抗酸化作用、細胞保護作用、骨や筋の成長促進作用、神経保護作用、視床下部に働き食欲や体重を調節する作用が報告されている。クレアチンは、食事の摂取によるものと、体内で生成されるものとがある。体内でのクレアチン生成は、グリシンアミジノ基転移酵素(L-arginine:glycine amindinotransferase:AGAT)とグアニジノ酢酸メチル基転移酵素(guanidinoacetate methyltransferase:GAMT)の2つの酵素により生成される。グリシン(glycine)はAGATによりアルギニン(L-arginine)のグアニジノ基を受け取り、グアニジノ酢酸(guanidinoacetate)とオルニチンになり、グアニジノ酢酸はGAMTによってメチル化され、クレアチンとなる。血液中のクレアチンの組織への取り込みやクレアチンの尿細管での再吸収はクレアチントランスポーター(SLC6A8)を介している(図1)。AGATとGAMTはそれぞれ、GATM遺伝子(15q21.1)とGAMT遺伝子(19p13.3)にコードされ、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で男女とも発症する。SLC6A8は、SLC6A8遺伝子(Xq28)にコードされ、X連鎖性遺伝形式で主に男性に発症する。女性も男性に比べると一般に軽症ではあるが、さまざまな程度の症状を呈する。図1 クレアチン代謝経路画像を拡大する■ 症状知的障害(軽度〜重度)を主症状に、言語発達遅滞、痙攣、自閉症スペクトラム、筋緊張低下を特徴とする。運動異常(錐体外路症状)や行動異常を呈することもある。■ 予後合併症の程度によるが、生命予後は悪くないと推測される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)プロトン-MRスペクトロスコピー(1H-MRS)(図2)3疾患に共通の所見として、Crピークの低下を認める。2)尿・血清・髄液中のグアニジノ酢酸、クレアチン、クレアチニンの測定(表)スクリーニングとして有用である。とくに、知的障害のある男性患者では、尿中クレアチン/クレアチニン比上昇(mg/dL換算で、2以上)により、SLC6A8欠損症が強く疑われる。尿・血清のクレアチン、クレアチニンは検査会社で測定可能である。LC-MS/MSあるいはGC-MSを用いたグアニジノ酢酸を含めたグアニジノ化合物の代謝産物は研究室レベルで測定可能である。図2 脳クレアチン欠乏症候群の診断画像を拡大する表 脳クレアチン欠乏症の診断画像を拡大する3)遺伝子検査検査会社(かずさDNA研究所など)で解析可能である(本稿公開の時点では、保険収載されておらず、自費診療となる)。とくに、女性のSLC6A8欠損症では、唯一の診断方法である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)AGAT欠損症およびGAMT欠損症には、クレアチン補充療法が有効である。後者では、神経細胞毒性のあるグアニジノ酢酸の産生を抑えるために、オルニチン、安息香酸ナトリウムの併用、アルギニン摂取制限を行う。SLC6A8欠損症に対しては、クレアチン投与は有効ではないが、酵素活性が残存している可能性がある患者(とくに女児)ではクレアチン単独、あるいはアルギニンやグリシンとの併用が有効であるかもしれない。4 今後の展望SLC6A8欠損症に対しては、海外においては、サイクロクレアチンの臨床研究が始まっている。ホスホクレアチン、クレアミド(クレアチルグリシンメチルエステル)、クレアチンエチルエステル、ドデシルクレアチンエステル、S-アデノシルメチオニンなども可能性がある。また、タンパクの折りたたみに影響を与える遺伝子変異の場合、シャペロン療法が有効な可能性がある。5 主たる診療科小児科(小児神経内科)、児童精神科、神経内科、遺伝子診療部門(遺伝カウンセリング)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病 脳クレアチン欠乏症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)遺伝子医療実施施設検索システム(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本小児神経学会認定小児神経専門医(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ATR-X症候群研究班&脳クレアチン欠乏症候群研究班(医療従事者向けのまとまった情報)Association for Creatine Deficiencies(クレアチン欠乏症協会の英文による医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(「遺伝性疾患情報サイト」英文による医療従事者向けのまとまった情報)Treatable Intellectual Disability(「治療できる知的障害について」英文による医療従事者向けのまとまった情報)1)van de Kamp JM, et al. J Med Genet. 2013;50:463-472.2)Kato H, et al. Brain Dev. 2014;36:630-633.3)野崎章仁ほか. 脳と発達. 2015;47:49-52.4)Mercimek-Mahmutoglu S, et al. GeneReviews. December 10;2015.5)Curt MJC, et al. Biochimie. 2015;119:146-165.公開履歴初回2019年09月10日

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血液凝固の難しいところ(解説:後藤信哉氏)-1011

 血液凝固、血栓の非専門医は、Xa阻害はトロンビン阻害の上流程度の認識をしている。Xa阻害薬とトロンビン阻害薬が商業的にNOAC、DOACなどと包括されたことも誤解を増した。実際にはトロンビン阻害薬とXa阻害薬には本質的な差異がある。Xaは活性化血小板などの細胞膜上にて、他の凝固因子、リン脂質とプロトロンビナーゼ複合体を形成してトロンビン産生速度を上昇させる。トロンビン阻害薬の効果を阻害するためには、液相のトロンビンの酵素阻害作用を解除させればよかった。Xaは、液相に存在するものよりも、細胞膜上にてプロトロンビナーゼ複合体を構成している役割のほうが大きい。トロンビン阻害薬の効果は抗体により阻害できた。Xa阻害薬では、細胞膜上のプロトロンビナーゼ複合体中のXaの機能も阻害されているため液相のXa阻害の中和に加えて細胞膜上のXa阻害の中和の工夫が必要である。 andexanet alfaはXa阻害薬の効果を中和する薬剤であるが、トロンビン阻害薬の効果を阻害する抗体とはまったく異なる。トロンビン阻害薬の中和薬の効果は凝固マーカーの計測により臨床効果を予測できた。しかし、Xa阻害薬の中和薬であるandexanet alfaの出血イベント予防効果は血液凝固マーカーにより予測できないことが本研究により示唆された。Xa阻害薬の中和薬としてXaのおとりを使用するとのコンセプトは科学的に革新的であった。しかし、血液凝固マーカーにより臨床イベント予測ができないことは当初から懸念された。本研究は当初の懸念が事実であることを示唆した。凝固マーカーにより臨床イベントを予測できないとなると、イベント発症率を比較するランダム化比較試験が必要となる。 本研究は重要である。血液凝固における「cell based coagulation」まで考慮すると薬剤の効果予測が困難となる。andexanet alfaの臨床開発が困難との解釈もできるし、これまで血液凝固マーカーを指標に薬剤スクリーニングを行ってきたが、意外なところに血栓イベントを予防可能な「cell based coagulation」阻害薬が隠れている可能性も示唆している。比較的単純な生体現象である「血液凝固の難しいところ」を示す貴重な研究であった。

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これはいける!と思ったのに:ESUSの意外な失敗(解説:後藤信哉氏)-864

 薬剤として経口抗Xa薬が開発された当時、標的疾患としては「脳梗塞2次予防がよい」と各社にアドバイスした。冠動脈疾患、心房細動より、脳梗塞中の再発リスクが高く、新規の抗血栓薬が必要と思ったからである。脳梗塞の病態は複雑である。微小血管病と想定されるラクナ梗塞、抗血小板薬が有効なアテローム血栓性閉塞では、抗凝固薬は役立たないのではないかとの意見もあった。心房細動の脳卒中予防試験も、予防対象は「脳卒中・全身塞栓症」で心原性塞栓ではなかった。 心房細動の脳卒中予防試験が成功したので、「心房細動以外の脳塞栓予防」にも抗凝固薬が有効と考えてESUSという疾患概念が提案されたのであろう。「抗凝固薬より抗血小板薬」といわれていた急性冠症候群、ステント血栓症、心筋梗塞、末梢血管疾患では、2.5mg 1日2回の少量リバーロキサバンのイベント予防効果がランダム化比較試験により示された。比較対象をワルファリンより抗血栓効果・出血イベントリスクの少ないアスピリンとして、ESUSではリバーロキサバンの容量15mgの優越性を示すことができなかった。本試験はDSMBにより中止勧告されているとはいえ、当初予定の74%に相当する332例もの有効性1次エンドポイントが起きている。ESUS症例では年間5%近く血栓イベントが起こることが確認され、ESUS予防の重要性は再確認された。15mg/日のリバーロキサバンによる重篤な出血イベント発症リスクは、アスピリンの2倍を超える。ESUSという疾患概念をつくって、抗凝固薬の適応拡大を目指した戦略は失敗に終わった。各種NOACsの心房細動症例の試験も、「INR 2~3を標的とした出血しやすいワルファリン」との比較において「出血性梗塞を含む脳卒中」にて非劣性、優劣性を示したにすぎない。もっとも有効性を期待できると想定されたESUSでの試験の失敗は、心房細動における脳卒中予防試験の人工性(ワルファリンのPT-INRによる縛り、出血を含む脳卒中という有効性1次エンドポイントなど)について再度真剣に考える機会を提供している。容認できる出血イベントの範囲での脳卒中予防を考えるのであれば、COMPASSの2.5mg×2/日がベストなのかもしれない。 ランダム化比較試験は試験管の実験に近い。ランダム化比較試験に基づいた適応症どおりにのみ薬剤が実臨床でも使用されるようになれば、最適な患者集団を選定する「育薬」が不可能になる。患者集団に対する薬剤の有効性、安全性の事前予測の困難性があらためて確認された。

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NOACで頭蓋内出血は少なくなる?(解説:後藤信哉氏)-810

 各種NOACの第III相ランダム化比較試験にて、INR 2-3を標的としたワルファリン群に比較してNOAC群にて頭蓋内出血が少ないとされても、筆者の心には響かなかった。INR 1.9であればワルファリンを増量し、INR 2.9であってもワルファリンを減量しないような治療は、自らの日常診療と大きく乖離していたためである。また、NOAC登場前の観察研究にて、日本も世界もワルファリン使用時の頭蓋内出血発現率は0.2%程度とされていたので、その3倍も頭蓋内出血が起こることを示した第III相試験のメッセージは「INR 2-3を標的としたワルファリン治療は頭蓋内出血を増やす」のみであった。 米国には各種registryがある。本研究はAHAが主導するGet With The Guidelines-Strokeのデータベースを用いた。第一著者はDuke大学に留学している日本人である。データベースはしっかり構築されており、Duke大学の解析チームのデータ解析は信頼できる。後ろ向きの解析であるためN Engl J Med, Circulationには届かない。JAMAではデータベースの大きさと質、トピックの重要性が重視されたと考える。 頭蓋内出血にて入院した141,311例の対象症例のうち、15%弱は抗凝固薬使用中の症例であった。抗凝固薬使用中の症例のほうが高齢で、心房細動の合併も多かった。しかし、これらのリスク因子を補正しても、院内死亡率は抗凝固療法使用歴のある患者で高かった。ワルファリン使用歴の長い私はINR 2-3を標的としたワルファリン治療をしたことがない。多くの症例はINR 1.7前後で2を超える症例も少ない。ワルファリン群に比較してNOAC群のほうが、院内死亡率が低いとしているが、私のように低いINRにコントロールしている場合はNOACと差がない。 4つのNOACの開発試験に強く寄与して、また実臨床においてNOACが広く使用されていく現状を観察して、一貫して自らの中で変化しなかったNOACの評価は「NOACは頭蓋内出血を増加させる」「INR 2-3を標的としたワルファリン治療では容認できない重篤な出血リスクをもたらす」の2つであった。抗凝固療法は、重篤な出血リスクを増やす怖い介入である。禁煙して運動習慣をつけ、各種リスク因子を補正して総合的に脳卒中、血栓塞栓イベントを減らす努力を継続すべきである。

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脳内出血後の院内死亡、ワルファリンvs. NOAC/JAMA

 脳内出血(ICH)患者の院内死亡リスクを、発症前の経口抗凝固薬(OAC)で比較したところ、OAC未使用群に比べ非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)あるいはワルファリンの使用群で高く、また、NOAC使用群はワルファリン使用群に比べ低いことが示された。米国・デューク大学メディカルセンターの猪原拓氏らが、米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)による登録研究Get With The Guidelines-Stroke(GWTG-Stroke)のデータを用いた後ろ向きコホート研究の結果、明らかにした。NOACは血栓塞栓症予防としての使用が増加しているが、NOAC関連のICHに関するデータは限られていた。JAMA誌オンライン版2018年1月25日号掲載の報告。脳内出血患者約14万1,000例で、抗凝固療法と院内死亡率との関連を解析 研究グループはGWTG-Strokeに参加している1,662施設において、2013年10月~2016年12月にICHで入院した患者を対象に、ICH発症前(病院到着前7日以内)の抗凝固療法による院内死亡率について解析した。 抗凝固療法は、ワルファリン群・NOAC群・OAC未使用群に分類し、2種類の抗凝固薬(ワルファリンとNOACなど)を用いていた患者は解析から除外した。また、抗血小板療法については、抗血小板薬未使用・単剤群・2剤併用(DAPT)群に分類し、3群のいずれにも該当しない患者は解析から除外した。 解析対象は14万1,311例(平均[±SD]68.3±15.3歳、女性48.1%)で、ワルファリン群1万5,036例(10.6%)、NOAC群4,918例(3.5%)。抗血小板薬(単剤またはDAPT)を併用していた患者は、それぞれ3万9,585例(28.0%)および5,783例(4.1%)であった。ワルファリン群とNOAC群は、OAC未使用群より高齢で、心房細動や脳梗塞の既往歴を有する患者の割合が高かった。NOAC群は、未使用群よりは高いがワルファリン群よりも低い 急性ICHの重症度(NIHSSスコア)は、3群間で有意差は確認されなかった(中央値[四分位範囲]:ワルファリン群9[2~21]、NOAC群8[2~20]、OAC未使用群8[2~19])。 補正前院内死亡率は、ワルファリン群32.6%、NOAC群26.5%、OAC未使用群22.5%であった。OAC未使用群と比較した院内死亡リスクは、ワルファリン群で補正後リスク差(ARD)9.0%(97.5%信頼区間[CI]:7.9~10.1)、補正後オッズ比(AOR)1.62(97.5%CI:1.53~1.71)、NOAC群でARDは3.3%(97.5%CI:1.7~4.8)、AORは1.21(97.5%CI:1.11~1.32)であった。 ワルファリン群と比較して、NOAC群の院内死亡リスクは低かった(ARD:-5.7%[97.5%CI:-7.3~-4.2]、AOR:0.75[97.5%CI:0.69~0.81])。 NOAC群とワルファリン群の死亡率の差は、DAPT群(NOAC併用群32.7% vs.ワルファリン併用群47.1%、ARD:-15.0%[95.5%CI:-26.3~-3.8]、AOR:0.50[97.5%CI:0.29~0.86])において、抗血小板薬未使用群(NOAC併用群26.4% vs.ワルファリン併用群31.7%、ARD:-5.0%[97.5%CI:-6.8%~-3.2%]、AOR:0.77[97.5%CI:0.70~0.85])より数値上では大きかったが、交互作用p値は0.07で統計的有意差は認められなかった。 なお、著者は、GWTG-Strokeの登録データに限定していることや、NOAC群の症例が少なく検出力不足の可能性があることなどを、研究の限界として挙げている。

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出血と血栓:原病が重ければバランスも難しい(解説:後藤信哉氏)-793

 自分の身の周りにもがん死が多いので、がんは特筆に重要な疾患である。日本人は幸いにして静脈血栓塞栓症が少ない。静脈血栓塞栓症を契機にがんが見つかることも多い。本論文の対象であるCancer Associated Thrombosis (CAT)は日本ではとくに重要である。がん細胞が血栓性の組織因子を産生する場合、がん組織が血管を圧迫して血流うっ滞が起こった場合など、血栓にはがんと直結する理由がある。CATでは、血栓の原因となるがんの因子の除去が第一に重要である。 抗凝固薬により血栓の再発予防はできるかもしれないが、出血は増える。本論文は、抗凝固薬が出血合併症を増やして血栓を減らす治療であることを再確認した。ヘパリンであろうがNOACであろうが、抗凝固とされる以上、効果に応じた副作用は避け難い。原病が重篤であるほど出血と血栓のバランスは難しい。血栓症を予防するが、血小板、凝固系に影響を与えない薬物のような新規の発想が必要である。

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抗血栓治療でPPAPは成立するか?(解説:香坂俊氏)-777

 動脈系血栓予防(冠動脈疾患など)に最適とされている薬剤はアスピリンである。静脈系血栓予防(深部静脈血栓や心房細動など)には長らくワルファリンが用いられてきた。では、冠動脈疾患に心房細動が合併したりして、その2つを一度に行わなければならないときはどうするか? 数年前までは何も考えずこの2剤を併用してきた。2016年の流行語にPPAP(PEN-PINAPPLE-APPLE-PEN:ペンパイナッポーアッポーペン)というものがあったが、まさに・動脈系血栓予防にはASPIRIN・静脈系血栓予防にはWARFARIN・それをくっつけASPIRIN-WARFARIN-APPLE-PENといった塩梅である(苦しいですが、年の瀬なので許してください)。 しかし冠動脈疾患の治療にステントが使われるようになると、インターベンション治療(PCI)を行った患者にはアスピリンに2剤目の抗血小板薬(クロピドグレルやプラスグレル)をかぶせなければならなくなった。いわゆるDAPT(Dual AntiPlatelet Therapy:抗血小板2剤併用療法)である。すると、例えばステント治療を行った心房細動患者にはDAPTに加えさらにワルファリンを投与することになり「ちょっと多いかもな」ということになる。これが杞憂でないことはWOESTという医師主導の臨床試験で立証され、3剤で行くよりもアスピリンを抜いた2剤(クロピドグレル+ワルファリン)のほうが出血イベントが半分程度になることがわかった(DOI)。 その後、ワルファリンの代替薬としてNOAC(Non-Vitamin K Oral Anticoagulant:非ビタミンK経口抗凝固薬)が使われる時代になり、メーカーがこうした臨床試験に協力してくれるようになった。そうした流れの中で初代NOACであるダビガトランを用いて行われたのがRE-DUAL PCI試験である(これより前にリバーロキサバンでPIONNEER AF-PCI試験が行われており[DOI、さらにアピキサバンでもAUGUSTUS試験が現在行われている)。 結果の詳細は別記事(CareNet該当記事参照)に譲るが、・ダビガトラン 150mg BID+P2Y12阻害薬単剤(2剤)・ダビガトラン 110mg BID+P2Y12阻害薬単剤(2剤)・ワルファリン+DAPT(3剤併用) の3群で比較され、WOESTとほぼ同様の結果が得られている。 掲載誌のEditorialにはこれまでの3つの試験(WOEST、PIONNEER、RE-DUAL)のメタ解析が掲載されているが、出血イベントに関する安全性はもちろんのこと(OR:0.49、95%CI:0.34~0.72)、2剤のほうが虚血イベント抑制に関しても有利でありそうだ(OR:0.80、95%CI:0.58~1.09)という結果が示されている。これは、出血に伴い血栓傾向が強まることを考え合わせると(以下の3つのメカニズムによる)首肯できる結果である。(1)抗血小板薬や抗凝固薬の中止を余儀なくされる(2)出血そのものが炎症反応を惹起する(3)輸血や止血手技でも同様に炎症反応が惹起される 昨今、効果に差を見出すのではなく(Efficacy Trial)、安全性やQOLの確保に重点をおいた減算型の臨床試験が多く行われているが、RE-DUALもその好例といえる(3剤から2剤に引いても安全ですよということを明示)。今後おそらくこの領域では、安易な足し算の発想(PPAP式?)で3剤併用が行われることは【圧倒的】に少なくなることが予想される。

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昔の日本人は偉かった!(解説:後藤信哉氏)-766

 第2次世界大戦後の荒廃の中でも、研究意欲を持ち続けた日本人研究者は多かった。岡本 彰祐・歌子ご夫妻は特筆されるべき存在である。線溶系に着目して彼らが開発した薬剤にトラネキサム酸がある。開発の経緯は『世界を動かす日本の薬』(岡本 彰祐 編著. 築地書館. 2001年)に詳しい。線溶を担うプラスミンの酵素機能を阻害する画期的薬剤である。筆者の世代の臨床医は、止血にアドナ・トランサミンを使うことが多かった。論理的には止血効果を期待できる薬剤であるためだ。日本は巨大企業が利益を独占するEvidence Based Medicineの論理に乗り遅れた。せっかくの薬剤もエビデンスがないとして広く使用されない現状にある。 英国人は視座が時間的に広い。Antithrombotic Trialists’ Collaboration、Cholesterol Treatment Trialists’ Collaborationにて過去の臨床データを徹底的に集めていることは、読者も広くご存じと思う。今回はAntifibrinolytic Trials Collaborationにて線溶阻害薬の臨床データを徹底して集めた。本研究は止血効果があると想定されたトラネキサム酸に、臨床的にも止血効果があることを40,138例ものメタ解析にて示した。 日本人の記憶は短いとされる。岡本 彰祐・歌子ご夫妻の御功績はトラネキサム酸にとどまらず、現在のNOACのもとになった選択的トロンビン阻害薬アルガトロバンの開発にも及ぶ。日本血栓止血学会では両先生の御功績を記念して岡本賞(Shosuke Award、Utako Award)の顕彰を始めた。こつこつ努力して素晴らしいものづくりをするが、宣伝が下手な日本人研究者の業績を拾い上げた英国は、大英帝国の余力を持った戦略国家である。NOACのみならずスタチンも日本の発明である。医学の世界における日本の貢献は特筆すべきである。あらためて「昔の日本人は偉かった!」

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ワルファリンの可能性(解説:後藤信哉氏)-756

 日本は、非弁膜症性心房細動などにいわゆるNOACsが多く使用されている国である。しかし、世界の抗凝固薬の標準治療は安価なワルファリンである。日本では2mg/日で開始すれば多くの場合、INR 2以下くらいにコントロールできる。 30年ワルファリンを使用している筆者には経験がないが、2mg/日でも過剰でINRが延長してしまう症例がいるらしい。まれに2mg/日ではINRが延長せず、漸増させて10mg/日程度が必要な症例は経験する。圧倒的多数の症例は2mg/日で問題なく、一部に過剰、過小の症例がいる原因にワルファリンの代謝が寄与するとされる。血漿蛋白に結合していないワルファリンが肝臓で活性型に転換する。その酵素はチトクロームP450のCYP2C9とされる。ビタミンK還元酵素複合体にも遺伝子型に応じた酵素活性の差異がある。 この2種の酵素の遺伝子型を事前に知っていれば、ワルファリンの初期投与量、維持量を個人ごとに予測できる、との仮説が過去に臨床的に検証された。2本のNEJM誌の論文の結果は相互に矛盾していた。 今回JAMA誌に発表された論文では対象を膝または腰の置換術にして症例を均質化した。その結果、予想どおり、遺伝子型を考慮に入れたワルファリン治療において重篤な出血が少なく、INR 4以上の過剰投与も避けられた。 疾病一般の予後が改善して、時代は「平均的症例の標準治療」、「One dose fit all」を目指すEBMの時代から、個別症例の最適治療を目指す「Precision Medicine」に転換しようとしている。主作用と副作用イベント発症率相関性のあるバイオマーカーとしてのPT-INRがあるワルファリンは、個別最適化に向いた薬剤である。抗凝固効果のポテンシャルは選択的抗トロンビン薬、抗Xa薬よりも大きく、薬剤の価格は安い。丁寧に使用すれば安全性も高い。安い薬を日本人医師の職人魂にて個別最適化して使用すれば、有効、安全、安価な医療を実現できる。 日本の圧倒的多数は2mg/日にて大きな問題はないと考えるが、遺伝子型により特殊な少数例を弁別できるので日本での応用性もあると考える。

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