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すべての1型糖尿病患者にインスリンポンプ療法を施行すべきか?(解説:住谷 哲 氏)-387

 1型糖尿病患者は、インスリン分泌が枯渇しているため、インスリン投与が必須となる。現在では基礎インスリンとボーラスインスリンを組み合わせた、インスリン頻回注射療法[MDI:Multiple daily injections、(BBT [Basal-bolus treatment]ともいう)]を用いたインスリン強化療法が主流である。しかし、生理的インスリン補充のために必要となる基礎インスリンの調節は、MDIにおいては困難である。一方、インスリンポンプ療法(CSII [continuous subcutaneous insulin infusion]ともいう)は、自由に基礎インスリン量を調節できるために、MDIと比較して低血糖の少ない、より変動の少ない血糖コントロールが可能であるとされる。 これまでに、血糖コントロール指標や低血糖の頻度などの代用アウトカム(surrogate outcomes)を両治療法において比較した報告は多数あるが、心血管イベントや総死亡などの真のアウトカム(true outcomes)を比較した報告はほとんどなく、本論文は貴重である。その結果、インスリンポンプ療法によりMDIと比較して、総死亡が27%減少することが示され、衝撃的である。 本論文の結果が真実であれば、すべての1型糖尿病患者にインスリンポンプ療法を行うことが正当化されると思われるが、そうだろうか。 まず、本研究は観察研究であり、厳密には因果関係を証明することはできない。観察研究での因果関係の強さを推定する際には、介入の生物学的妥当性を考える必要があるが、この論文ではインスリンポンプ療法による重症低血糖の減少が可能性の1つとして挙げられている。 これまでに本論文の著者らにより、1型糖尿病患者における重症低血糖の頻度と、その後の心血管死との関連が報告されていることから、この推論は支持されると思われる1)。加えて、仮想的交絡因子(hypothetical confounders)を用いた統計学的解析により、治療選択によるバイアス(treatment allocation bias)も可能な限り排除されている。さらに、スウェーデンではほぼ100%の1型糖尿病患者が本研究で用いられたレジストリに登録されており、選択バイアス(selection bias)の可能性もほとんどない。以上から、本論文で示されたインスリンポンプ療法と総死亡も含めた心血管イベントリスクの減少との間には、因果関係がかなりの確率で存在すると考えられる。 筆者の外来にも多数の1型糖尿病患者さんが通院しているが、インスリンポンプ療法を施行しているのはごく一部である。わが国ではスウェーデンとは異なり治療費の問題もあるが、現実的にはインスリンポンプ療法に移行するには大きな壁があるように感じている。さらに、いったんインスリンポンプ療法に移行しても、その後にMDIに戻る患者も存在する。 本論文によれば、インスリンポンプ療法の壁が小さいと考えられるスウェーデンにおいても、インスリンポンプ療法を行っている患者は全体のわずか13.4%であり、きわめて少ない。つまり、現実にはインスリンポンプ療法が継続できる患者とできない患者が存在しており、後者が大部分を占めている。この両患者群の違いは単純ではなく、患者側のみならず、医療者側も含めた多数の複雑に絡み合った要因に依存していると思われる。 著者らも述べているが、インスリンポンプ療法の生理学的作用のみによる結果と単純に考えることはできず、インスリンポンプ療法が長期にわたって継続できることこそが、総死亡を含めた心血管イベントのリスク減少につながるとするのが正しい解釈であろう。 今後はインスリンポンプ療法の可否について、すべての1型糖尿病患者と医療提供者との間のshared decision makingが必要になると思われる。

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ウーロン茶は骨密度を増加させる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第46回

ウーロン茶は骨密度を増加させる Wikipediaより使用 うちは子供が麦茶が好きなので、滅多にウーロン茶は飲まない家族なんですが、ウーロン茶の定義って皆さんご存じですか? Wikipediaによれば、「茶葉を発酵途中で加熱して発酵を止め、半発酵させた茶」とのことです。完全に発酵させると紅茶になるそうです。フムフム。 そんなウーロン茶が、骨にいいとする研究結果があります。ほんまかいな。 Wang G, et al. Oolong tea drinking could help prevent bone loss in postmenopausal Han Chinese women. Cell Biochem Biophys. 2014;70:1289-1293. この研究は中国で行われた、ウーロン茶と骨密度の関係を調べたものです。閉経後女性が対象になりました。124人がウーロン茶を普段から飲用している群、556人がお茶をそもそも飲まない群として2群に分けて解析されました。被験者の年齢、ライフスタイル、食生活、既往歴、骨密度のデータが採取されました。その結果、大腿骨転子部の骨密度はウーロン茶群で有意に高かったそうです(0.793±0.119 kg/cm2 vs.0.759±0.116kg/cm2、F=6.248、p=0.013)。同様に、ワード三角部(大転子と大腿骨頸部の間の部分)の骨密度もウーロン茶群で高いという結果でした(0.668±0.133 kg/cm2 vs.0.637±0.135 kg/cm2、F=6.152、p=0.013)。疫学的にいろいろ突っ込みたいところはありますが、こういった報告もあるんだな~、というくらいに留めて置いてください。ウーロン茶だけが健康的かというとそういうワケではなく、どのお茶も変わらず健康的であるとされています(Heber D, et al. J Nutr. 2014;144:1385-1393.)。ちなみにウーロン茶を英語で書くと「Oolong tea」です。コレは意外に知られていない。インデックスページへ戻る

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VADT試験:厳格な血糖管理は2型糖尿病患者の心血管イベントの抑制に有用なのか(解説:吉岡 成人 氏)-374

厳格な血糖管理と血管障害の阻止 糖尿病の治療の目的は、血糖、血圧、血中脂質などの代謝指標を良好に管理することによって、糖尿病に特有な細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)および動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患)の発症・進展を阻止し、糖尿病ではない人と同様な日常生活の質(QOL:quality of life)を維持して、充実した「健康寿命」を確保することである。この点に関し、1型糖尿病患者を対象としたDCCT試験(Diabetes Control and Complications Trial)、2型糖尿病を対象としたUKPDS試験(United Kingdom Prospective Diabetes Study)などの長期にわたる大規模前向き介入試験で、HbA1c 7.0%前後の厳格な血糖コントロールを目指すことで、細小血管障害のみならず、大血管障害の発症・進展が抑止されうることが示唆された。しかし、動脈硬化性疾患のリスクが集積した2型糖尿病患者にHbA1cの正常化を目指すことの臨床的意義を検証したACCORD試験 (Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)、ADVANCE試験 (Action in Diabetes and Vascular Disease:Preterax and Diamicron Modified Release Controlled Evaluation )、VADT 試験(Veterans Affairs Diabetes Trial)では、数年間にわたって厳格な血糖管理を目指すことの有用性は確認できず、とくにACCORD試験では厳格な血糖管理を目指した群で死亡率が上昇するという予想外の結果が得られた。その理由として、厳格な血糖管理を目指すことで引き起こされる低血糖によって、炎症反応、好中球や血小板の活性化、凝固系の異常、心電図におけるQT間隔の延長と不整脈の惹起、血管内皮機能への影響などがあいまって心血管イベントに結び付く可能性が示唆された。観察期間も重要な要素 このようなランダム化試験(RCT)で問題になることの1つに観察期間がある。ほんのわずかの差であっても、長期間にわたって経過を観察することで、イベントの発症頻度に差が出てくるのではないかという考えである。 確かに、1型糖尿病患者を対象としたDCCT-EDIC試験(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)であっても、2型糖尿病を対象としたUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)80試験でも、試験終了後10年を経過した時点で代謝指標に差がなくなったにもかかわらず、厳格な血糖管理を目指した群で、心血管イベントの発症が有意に少なく、病初期の厳格な血糖管理の影響が「metabolic memory」、「legacy effect」として、20年先に福音をもたらすことが確認されている。VADT試験終了後5年間の長期追跡 退役軍人の2型糖尿病患者、1,791例(男性が97%)を強化療法と標準療法の2群に分け、厳格な血糖管理を5.6年にわたって目指すことの有用性を検討したVADT試験では、虚血性心疾患や脳卒中などの心血管イベントに有意な差を示すことができなかった。そこで、その後通常の治療に移行し、1,391例の患者を対象として、中央値で9.8年間追跡した際の主要心血管イベント(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、うっ血性心不全の新規発症または増悪、虚血性壊疽による下肢切断、心血管関連死)の初回発生までの期間を主要評価項目とし、心血管死亡率およびすべての死亡率を副次評価項目として再検討したのがこの論文である。 強化療法群と標準治療群のHbA1cの差は試験期間中で平均1.5%(中央値6.9% vs. 8.4%)だったが、試験終了1年時には平均0.5%(中央値7.8% vs.8.3%)に、2~3年時には0.2~0.3%にまで減少した。両群間で脂質や血圧に差はなかった。介入開始後9.8年時において、主要血管イベントの発症率は強化療法群で28.4%(892例中253例)、標準療法群では32.0%(899例中288例)で、強化療法群でリスクが減少しており(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.70~0.99、p=0.04)、絶対リスクでも1,000例/年当たり8.6イベント(116例/年当たり1イベント)の減少をしていた。しかし、Supplementary Appendixに添付されているデータでは心筋梗塞、脳卒中、心不全、壊疽による下肢切断のそれぞれの発生頻度には群間で有意な差はない。心血管死亡率(HR:0.88、95%CI:0.64~1.20、p=0.42)、全死因死亡(HR:1.05、95%CI:0.89~1.25、p=0.54)にも差は認められていない。 主要心血管イベントに包括される個々のイベントで発症頻度に差はなく、また、心血管死の頻度にも差はないものの、いくつかの項目をまとめてみると有意な差が生じている。このデータをもって、厳格な血糖管理群では長期間の観察によって心血管イベントが抑止しうると結論付けてよいのかどうか疑問が残る。統計学的に有意なことが必ずしも臨床的にも有意であるとは限らない。

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TECOS試験:DPP-4阻害薬は心血管イベントを抑止しうるか(解説:吉岡 成人 氏)-375

血糖管理と心血管イベント 2型糖尿病患者において、病初期から厳格な血糖管理を目指すことで心血管イベントや死亡のリスクを有意に低減できる可能性を示したUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)80試験は、legacy effectという言葉を生み出した1)。しかし、糖尿病の罹病期間が長く大血管障害のリスクが高い患者や、すでに大血管障害を引き起こした患者に厳格な血糖管理を試みた大規模臨床試験であるACCORD試験(Action to control Cardiovascular Risk in Diabetes)、ADVANCE試験(Action in Diabetes and Vascular Disease:Preterax and diamicron Modified Release Controlled Evaluation)、VADT試験(Veterans Affairs Diabetes Trial)では、厳格な血糖管理を目指すことの有用性は確認できず、とくに、ACCORD試験では低血糖による死亡率の上昇が大きな懸念として取り上げられた。メタアナリシスと臨床試験の乖離 このような背景の下、低血糖を引き起こさずに、良好な血糖管理を得ることができる薬剤としてDPP-4阻害薬が広く用いられるようになり、ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスからは心血管イベントを抑止する可能性が示唆された2)。しかし、DPP-4阻害薬であるサキサグリプチン、アログリプチンを使用した大規模臨床試験であるSAVOR(Saxagliptin Assessment of Vascular Outcomes Recorded in Patients with Diabetes Mellitus) TIMI 53試験、EXAMINE試験(Examination of Cardiovascular Outcomes with Alogliptin versus Standard of Care in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus and Acute Coronary Syndrome)では、心血管イベントに対する薬剤の安全性(非劣性)を確認することができたが、HbA1cがプラセボ群に比較して0.2~0.3%低下したことのメリットは証明されず、SAVOR-TIMI53試験では心不全による入院のリスクが27%ほど高まったという、理解に悩む結果のみが残された。2015年3月に発表されたEXAMINE試験の事後解析の結果では、複合評価項目(全死亡+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中+不安定狭心症による緊急血行再建術+心不全による入院)において、アログリプチン群とプラセボ群で差はなく、心不全による入院の発生率もアログリプチン群3.0%、プラセボ群2.9%(ハザード比[HR]1.07、95%信頼区間[CI]0.79~1.46、p=0.657)で差はなかったと報告されている。しかし、心不全の既往がない患者では、アログリプチン群で心不全による入院が有意に多かった(2.2% vs.1.3% p=0.026)ことが確認されている。期待されていたTECOS試験 このような背景を受けて、2015年6月8日、米国糖尿病学会でシタグリプチンを使用した臨床試験であるTECOS試験(The Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after Treatment with Sitagliptin)のデータが公表され、即日、New England Journal of Medicine誌にオンライン版で掲載された。1万4,671例(シタグリプチン群7,332例、プラセボ群7,339例)の患者を対象とした、中央値で3.0年の観察期間に及ぶRCTであり、SAVOR-TIMI53試験、EXAMINE試験よりも観察期間が長く、多くの患者を対象とした試験であり、大きな期待を持って発表が待たれた試験である。 主要アウトカムは複合心血管イベントであり、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、不安定狭心症による入院のいずれかの発症と定義され、2次アウトカムとして主要アウトカムの構成要素、そのほかに急性膵炎、がんの発症などが包括された。血糖管理は試験開始後4ヵ月の時点で、シタグリプチン群においてHbA1cが0.4%低下しており、試験期間中に差は小さくなったものの有意な差が確認された。しかし、主要エンドポイント、心不全による入院、死亡についてはシタグリプチン群においてもプラセボ群においても差はなく、感染症、重症低血糖にも差はなかった。急性膵炎はシタグリプチン群で多い傾向を示したものの有意な差はなかった(p=0.07)。 HbA1cを0.2~0.4%低下させ、DPP-4阻害薬によって期待された心血管イベントの抑止効果は確認されなかった。3年という研究期間が短すぎるという考えもあるかもしれない。糖尿病患者において心血管イベントを抑止するために 血糖値の管理によって心血管イベントを抑制できるパワーと、スタチンによって脂質管理を向上させることで得られる心血管イベントの抑制には大きな差がある。「食後高血糖の管理によって血管イベントを抑止する」、「DPP-4阻害薬の使用によって心血管イベントを抑えることができる可能性がある」というのは、「商業主義に基づく医療」(commercial based medicine:CBM )の世界でのキャッチコピーである。糖尿病患者において心血管イベントを抑止するうえで重要なのは、血糖の厳格な管理ではなく、脂質や血圧などの標準的な心血管リスクの管理である3)という意見は傾聴に値するのではないかと思われる。

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雌との遭遇意欲低下、うつモデルマウス:大阪大学

 大阪大学の吾郷 由希夫氏らは、うつ病を含む精神障害の重要な指標である意欲低下を評価する新たな手段として、雄マウスの雌マウスとの遭遇テストを検討した。その結果、雄マウスのうつ病モデルでは雌マウスとの遭遇を好む傾向が低下すること、この低下はフルボキサミンなどで軽減されることを報告し、本手法が雄マウスの意欲の評価に有用である可能性を報告した。International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2015年5月29日号の掲載報告。 意欲低下は、うつ病を含む精神障害の重要な指標である。研究グループは、マウスにおける報酬探索(reward-seeking)行動の新しい評価法である、雌との遭遇テスト(encounter test)について検討を行った。試験装置はパーテーションで区切られた3つのオープンな部屋で構成され、実験動物は1つの部屋から別の部屋に自由に行き来できるようにした。1匹の試験用の雄マウスはこの装置に前もって慣らしておき、その後、雌マウスと雄マウスを1匹ずつそれぞれ、左と右の部屋に設置した網の箱に入れた。雄のテストマウスが雌のあるいは雄のエリアで費やす時間は10分間とした。 主な結果は以下のとおり。・テストを実施した6系統のマウスすべてにおいて、雌との遭遇を有意に好むという結果を示した。・この嗜好傾向は、生後7~30週のマウスに認められた。・装置に慣らされていた雄のテストマウスのこの傾向は、去勢により阻害された。・また、後から侵入した雌マウスの月経周期のフェーズに影響されることはなかった。・この傾向は単独飼育、コルチコステロン投与、リポ多糖投与マウスを含む、うつ病モデルのマウスにおいて低下した。・示された意欲の低下は、単独飼育およびリポ多糖投与マウスではフルボキサミンの投与により軽減し、コルチコステロン投与マウスでは代謝型グルタミン酸受容体2/3アンタゴニストのLY341495投与により改善した。・雄でなく雌マウスとの遭遇により、雄のテストマウスの側坐核シェル部でのc-Fos発現が増加した。・さらに、この嗜好傾向と、遭遇により誘発されるc-Fos発現増加はどちらもドーパミンD1およびD2受容体アンタゴニストにより遮断された。・以上のように、成熟雄マウスの意欲は、雌との遭遇を定量化することで容易に評価できることが示された。関連医療ニュース うつ病のリスク遺伝子判明:藤田保健衛生大 NIRS、抗うつ効果の予測マーカーとなりうるか:昭和大 学歴とうつ病の関連は、遺伝か、環境か  担当者へのご意見箱はこちら

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糖尿病合併CKD、降圧薬治療は有益か/Lancet

 糖尿病合併慢性腎臓病(CKD)患者に対する降圧薬治療について、生存を延長するとのエビデンスがあるレジメンはないことが、ニュージーランド・オタゴ大学のSuetonia C Palmer氏らによるネットワークメタ解析の結果、明らかにされた。また、ACE阻害薬とARBの単独または2剤併用療法は、末期腎不全に対して最も効果的な治療戦略であること、一方でACE阻害薬とARBの併用療法は、レジメンの中で高カリウム血症や急性腎不全を増大する傾向が最も高いことも示され、著者は「リスクベネフィットを考慮して用いる必要がある」と報告している。糖尿病合併CKD患者への、降圧薬治療の有効性と安全性については議論の余地が残されたままで、研究グループは、同患者への降圧薬治療の有益性と有害性を明らかにするため本検討を行った。Lancet誌2015年5月23日号掲載の報告より。すべての降圧薬治療戦略とプラセボをSUCRAでランク付け 解析は、世界各地で行われた18歳以上の糖尿病とCKDを有する患者が参加した経口降圧薬治療に関する無作為化試験を対象に、2014年1月時点で電子データベース(Cochrane Collaboration、Medline、Embase)を系統的に検索して行われた。 主要アウトカムは、全死因死亡および末期腎不全。副次アウトカムとして安全性および心血管アウトカムについても評価した。 主要および副次アウトカムに関する推定値を入手し、ランダム効果ネットワークメタ解析を行い、オッズ比または標準化平均差を95%信頼区間[CI]値と共に算出した。surface under the cumulative ranking(SUCRA)を用いて、すべての降圧薬治療戦略とプラセボの効果を比較し、ランク付けした。ACE+ARB併用は、末期腎不全を減少するがリスク増大も ネットワークメタ解析には、157試験、4万3,256例のデータが組み込まれた。被験者の大半は、2型糖尿病合併CKD患者で、平均年齢は52.5歳(SD 12.0)であった。 結果、各レジメンの全死因死亡のオッズ比は、0.36(ACE阻害薬+Ca拮抗薬)から5.13(βブロッカー)にわたってランク付けされたが、抑制効果についてプラセボより有意に良好なレジメンはなかった。 しかしながら末期腎不全については、ARB+ACE阻害薬の併用療法(オッズ比:0.62、95%信頼区間[CI]:0.43~0.90)と、ARB単独療法(同:0.77、0.65~0.92)において、プラセボと比較した有意な抑制効果が認められた。 高カリウム血症または急性腎不全を有意に増大したレジメンはなかったが、その中でランク付けにおいて、ARB+ACE阻害薬併用の推定リスクが最も高かった。(高カリウム血症のオッズ比:2.69、95%CI:0.97~7.47、急性腎不全:2.69、0.98~7.38)。

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急性期重症患者、経腸栄養の至適目標量は?/NEJM

 急性期重症患者の経腸栄養療法について、非タンパクカロリー量を制限する低栄養許容(permissive underfeeding)の補給戦略は、標準量の補給法と比較して90日死亡率の低下について有意な差はなかったことが示された。サウジアラビア・King Saud Bin Abdulaziz大学のYaseen M. Arabi氏らが、同国およびカナダの7施設のICU入室患者894例を対象とした無作為化試験の結果、報告した。急性期重症患者の至適目標栄養量については明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2015年5月20日号掲載の報告より。894例を対象に無作為化試験 検討は2009年11月~2014年9月に、内科的、外科的および外傷により入院した急性期重症の成人894例を対象に行われた。 被験者を、低栄養許容群(必要カロリー量の40~60%)または標準経腸栄養群(同70~100%)に無作為に割り付けて14日間治療を行った。両群ともタンパク質の摂取は同量とした。 主要アウトカムは、90日時点の死亡率であった。90日死亡率、低栄養許容群と標準経腸栄養群で有意差なし ベースラインの両群患者の特性は類似していた。被験者の96.8%が機械的人工換気法を受けていた。 介入期間中、低栄養許容群のほうが標準経腸栄養群と比べて、補給を受けた平均(±SD)カロリーが有意に低かった(835±297 kcal/日vs. 1,299±467 kcal/日、p<0.001、必要カロリー量の46±14% vs. 71±22%、p<0.001)。両群のタンパク質の摂取量は同等であった(57±24 g/日vs. 59±25 g/日、p=0.29)。 結果、90日死亡率は同程度であった。低栄養許容群は121/445例(27.2%)、標準経腸栄養群は127/440(28.9%)であった(低栄養許容群の相対リスク:0.94、95%信頼区間[CI]:0.76~1.16、p=0.58)。 重篤な有害事象は報告されなかった。栄養補給の忍容性や、下痢症状、感染症の発生に関して、ICU入室中や入院中において両群で有意な差はなかった。

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学歴とうつ病の関連は、遺伝か、環境か

  うつ病と低学歴の関連には、遺伝的多面発現効果(pleiotropy)の影響は認められないが、社会経済的状況などの環境因子が関わっている可能性が示唆された。Major Depressive Disorder Working Group of the Psychiatric GWAS ConsortiumのW J Peyrot氏らがドイツ人、エストニア人のうつ病患者のデータを解析し報告した。Molecular Psychiatry誌2015年6月号の掲載報告。 低学歴とうつ病リスク増加との関連は、西欧諸国において確認されている。研究グループは、この関連に遺伝的pleiotropyが寄与しているか否かを検討した。ドイツ人およびエストニア人のデータを加えたPsychiatric Genomics Consortiumから、うつ病9,662例と対照1万4,949例(生涯にわたりうつ病の診断歴なし)のデータを解析した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,138例において、低学歴とうつ病の関連をロジスティック回帰により評価したところ、有意な負の関連が示された。・低学歴のうつ病に対する標準偏差(SD)増加当たりのオッズ比は、0.78(0.75~0.82)であった。・常染色体性の主な一塩基多型(SNP)88万4,105件のデータを用いて、うつ病と低学歴のpleiotropyを、次の3つの方法で検証した。(1)低学歴(メタ解析とは独立した被験者12万例)とうつ病(現在のサンプルについて10分割交差確認法としてleave-one-out法を使用)の集合データに基づく遺伝子プロファイルリスクスコア(GPRS)で検証。→低学歴のGPRSはうつ病の状況を予測せず、またうつ病のGPRSは低学歴を予測しなかった。(2)二変量genomic-relationship-matrix restricted maximum likelihood(GREML)法で検証。→弱い負の遺伝学的関連が認められたが、この関連は一貫して有意ではなかった。(3)SNP effect concordance analysis(SECA)法で検証。→うつ病と低学歴のSNPの影響が一致するというエビデンスは確認されなかった。・以上より、低学歴とうつ病リスクとの関連は認められたものの、これは測定可能な遺伝的多面発現効果によるものではなく、たとえば社会経済的状況といった環境因子が関与している可能性が示唆された。関連医療ニュース うつ病のリスク遺伝子判明:藤田保健衛生大 うつ病患者の自殺企図、遺伝的な関連性は アルツハイマー病治療、学歴により疾患への対処に違いあり

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テーブル回診LIVE@神戸大学感染症内科 問題の本質を探究するカンファレンス (第1版)

カンファレンスの臨場感たっぷり。感染症医の考え方、対応が丸わかり神戸大学感染症内科で日々行われている「テ-ブル回診」を書籍化。前作「神戸大学感染症内科版TBL」と同じく、ライブ形式で収録いたしました。刻々と変化していく臨床現場で、プロはどのように思考過程でdecision makingをしていくのか、学生・研修医・フェロ-は何を学んでいくのか。診断のプロセス、議論のポイント、展開されていくロジック―「感染症診療とはなにか」を追体験できます。さらに付録として研修医へのレクチャ-、「病棟で困ったらシリーズ」も同時収載し、医局の教材としても使えます。感染症診療に携わる医師、医療従事者必読の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。   テーブル回診LIVE@神戸大学感染症内科問題の本質を探究するカンファレンス (第1版) 定価 4,500円 + 税判型 A5判頁数 424頁発行 2015年4月著者 岩田 健太郎Amazonでご購入の場合はこちら

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新しい結論がないことが結論(解説:野間 重孝 氏)-343

 多くの循環器科医師たちが、薬物溶出ステント(DES)と抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)とその持続期間に関するコンセンサスとして考えていることは、以下のようなものではないかと思う。(1)適切なDAPTを行うことにより、DESにおける遅発性ステント血栓症をある程度確実に抑制することができる。(2)DAPTを長期にわたって行うことと一連の出血性合併症の発生は、いわばトレードオフの関係にある。(3)そこで、臨床医は各患者の年齢、病変形態、合併症、全身状態などを勘案し、(一応の指針はあるものの)DESの期間については各患者について適宜判断する必要がある。  本論文は、最近発表された10の論文を取り上げてメタアナリシスを行うことにより、上記の内容をほぼ追認した形になっている。ただし(2)については単純なトレードオフとはいえず、長期DAPT群では心臓死の減少分を非心臓死の増大分が上回るため、長期DAPT群では死亡率にわずかではあるが上昇がみられるという知見を付け加えた。 これまでもDAPTの継続期間に関する論文が数多く出版されているが、いまだに決定的な回答が得られるには至っていない。その理由としては次のようなものが挙げられると思う。1. 最大の原因はまず母集団が均等でないことである。使用されたステントの薬物、薬物放出プログラム、ステントデザインはさまざまであり、かつステント以外の要素(年齢、病変形態、使用薬剤、合併症など)も一様ではない。また、PCIに関する臨床研究はその性格上無作為二重盲検は不可能である。2. silentに発生しているものまで含めたステント血栓症の、真の発生頻度は不明であること。なぜなら、ステント血栓症は臨床的に何らかの合併症を起こして初めて認識されるものだからである。3. 治療の進歩により心筋梗塞、脳卒中の急性期の臨床成績は向上しているため、心血管事故がただちに死亡に結び付くことが少なくなった。同様のことが他の死亡原因についてもいえる。4. 対比される非心臓死についての分析がどうしても不十分になる。とくにメタアナリシスではほぼ無視されている。たとえば、この論文でもがん患者において長期DAPTの死亡率が高いことが挙げられているが、理由は不明である。 高齢者、抗凝固療法が必要な患者、他の重大な合併症を有する患者では、当然DAPTの期間は短いほうが望ましいため、いわゆる第2世代ステントが主流になって以来、さまざまな形でDAPT期間の短縮が図れないかと、研究が行われている。しかし、上記のコンセンサスをはっきり越える結論は得られていないのが実情である。実際私は、この分野で現在進行中のいくつかの研究についても、正直多くを期待していない。 私は、この問題にははっきりした結論が出ないまま、時代は次世代の治療法へと移行していくのではないかと予想している。少し乱暴な言い方に聞こえる向きもあるかと思うが、医学では疾病や治療法の枠組みが変わるときによく起こることなのである。そして、私たちはいつまでも同じ地点に立ち止まって、同じような議論を繰り返していてはいけないのである。 現在ざっと考えてみても、まず生体吸収型ポリマーの開発があり、これはすでに一部で実用化されている。さらに、ポリマーを溶着させる際に下塗りに使っているパリレンなどを使用せずに、ポリマーを溶着させる技術が考えられる。これはまだ実用化には至っていないが、技術的には可能な段階に来ている。生体吸収型ステントはすでに製品化されているが、現在のステントに取って代わるにはまだ少し時間がかかりそうである。さらに、術後にステントを使用しなくても再狭窄を来さないような新しいdebulking device開発の問題があるが、これはまだ端緒についていない。もちろん、今考えつきもしないような治療法が登場する可能性も十分にあるだろう。 本論文の内容は、ほとんどの循環器科医がコンセンサスとしている事柄を確認したに過ぎないため、一種のnegative studyのように思われるかもしれない。しかし、私はこの問題には、結局1つだけの正解はないことを示したことに意義があると考え、むしろ積極的に評価したい。最近、インターベンションの世界に一種の閉塞感のようなものが漂っているように感じるのは、私だけではないと思う。しかし、明日は必ずやってくる。そうしたとき振り返ってみて、本研究が1つの道標となっているならば、著者たちにとって、これこそが最高の喜びなのではないだろうか。

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PROMISE試験:冠動脈疾患に対する解剖的評価と機能評価検査の予後比較(解説:近森 大志郎 氏)-328

 安定した胸部症状を主訴とする患者に対する診断アプローチとして、まず非侵襲的検査によって冠動脈疾患を鑑別することが重要である。従来は運動負荷心電図が日常診療で用いられてきたが、その後、負荷心筋シンチグラフィ(SPECT)検査、負荷心エコー図検査が臨床に応用され、近年では冠動脈CT(CTCA)も広く実施されるようになっている。しかしながら、これらの検査の中でいずれを用いればよいか、という検査アプローチを実証する大規模臨床試験は実施されてはいなかった。 今回、San Diegoで開催された米国心臓病学会(ACC.15)のLate-Breaking Clinical Trialsの先頭を切って、上記に関するPROMISE試験が報告され、同時にNew England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された。なお、ACCで発表される大規模臨床試験の質の高さには定評があり、NEJM誌に掲載される比率では同じ循環器分野のAHA、ESCを凌いでいる。 Duke大学のPamela Douglas氏らは、従来の生理機能を評価する運動負荷心電図・負荷心筋SPECT・負荷心エコー図に対して、冠動脈の解剖学的評価法であるCTCAの有効性を比較するために、有症状で冠動脈疾患が疑われる10,003例を無作為に2群(CTCA群対機能評価群)に割り付けた。試験のエンドポイントは従来のほとんどの研究で用いられた冠動脈疾患の診断精度ではなく、全死亡・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・検査による重大合併症からなる、複合エンドポイントとしての心血管事故が設定されている。対象症例の平均年齢は61歳で、女性が52~53%と多く、高血圧65%、糖尿病21%、脂質異常症67%という冠危険因子の頻度であった。なお、症状として胸痛を訴えてはいるが、狭心症としては非典型的胸痛が78%と高率であることは銘記すべきであろう。 実際に機能評価群で実施された非侵襲的検査については、負荷心筋SPECT検査67.5%、負荷心エコー図22.4%、運動負荷心電図10.2%、と核医学検査の比率が高かった。また、負荷心電図以外での負荷方法については、薬剤負荷が29.4%と低率であった。そして、これらの検査法に基づいて冠動脈疾患が陽性と診断されたのは、CTCA群で10.7%、生理機能評価群では11.7%であった。3ヵ月以内に侵襲的心臓カテーテル検査が実施されたのはCTCA群で12.2%、生理機能検査群では8.1%であった。この中で、有意狭窄病変を認めなかったのはCTCA群で27.9%、生理機能検査群で52.5%であったため、全体からの比率では3.4%対4.3%となりCTCA群で偽陽性率が低いといえる(p=0.02)。なお、3ヵ月以内に冠血行再建術が実施されたのはCTCA群で6.2%と、生理機能検査群の3.2%よりも有意に高率であった(p<0.001)。 1次エンドポイントである予後に影響する内科的治療ついては、β遮断薬が25%の症例で使用されており、RAS系阻害薬・スタチン・アスピリンについても各々約45%の症例で投与されていた。そして、中央値25ヵ月の経過観察中の心血管事故発生率についてはCTCA群で3.3%、生理機能評価群では3.0%と有意差を認めなかった。 本研究は循環器疾患の治療法ではなく、冠動脈疾患に対する検査アプローチが予後に及ぼす影響から検査法の妥当性を評価するという、従来の臨床試験ではあまり用いられていない斬新な研究デザインを用いている。そして、1万例に及ぶ大規模な臨床試験データを収集することによって、日常臨床に直結する重要な結果を示したという意味で特筆に値する。 しかしながら、基本的にはnegative dataである研究結果の受け止め方については、同じDuke大学の研究チームでも異なっていた。ACCの発表に際してDouglas氏は、PROMISE試験の結果に基づき、狭心症が疑われる患者に対して、CTCAはクラスIの適応となるようにガイドラインが修正されるエビデンスであることを主張していた。これに対して、PROMISE試験の経済的評価を発表したDaniel Mark氏は、イギリスの伝説である「アーサー王物語」を引き合いに出して、CTCAは長年探し求めていたHoly Grail(聖杯)ではなかった、と落胆を隠さなかった。 循環器の臨床において、対象とする患者の冠動脈病変の情報があれば、最適な医療が実施できるという考え方は根強い。しかし、PROMISE試験が準備された時期には、狭心症の生理機能として重要な心筋虚血が、予後改善の指標として重要であることを実証したFAME試験が報告されている。その後、FAME 2試験においても同様の結果が報告されている。さらに、重症心筋虚血患者に対する介入治療の有無により予後の改善が実証されるか否かについて、ISCHEMIA試験という大規模試験が進行中である。今後はこれらの大規模試験の結果を評価することによって、冠動脈疾患の治療目標は「解剖か、虚血か」という議論に決着がつくかもしれない。それまでは、日常臨床において狭心症が疑われる患者に対しては、まず本試験の対象群の特徴を十分に把握したうえで、CTCAあるいは生理機能検査を実施する必要があると思われる。

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Vol. 3 No. 2 AF患者の脳卒中にどう対応するか? NOAC服用患者への対応を中心に

矢坂 正弘 氏国立病院機構九州医療センター脳血管センター脳血管・神経内科はじめに非弁膜症性心房細動において新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulant : NOAC)の「脳卒中と全身塞栓症予防」効果はワルファリンと同等かそれ以上である1-3)。大出血や頭蓋内出血が少なく、管理が容易であることを合わせて考慮し、ガイドラインではNOACでもワルファリンでも選択できる状況下では、まずNOACを考慮するように勧めている4)。しかし、NOACはワルファリンより脳梗塞や頭蓋内出血の発症頻度が低いとはいえ、その発症をゼロに封じ込める薬剤ではないため、治療中の脳梗塞や頭蓋内出血への対応を考慮しておく必要がある。本稿では、NOACの療法中の脳梗塞や頭蓋内出血時の現実的な対応を検討する。NOAC療法中の急性脳梗塞NOAC療法中の症例が脳梗塞を発症した場合、一般的な脳梗塞の治療に加えてNOAC療法中であるがゆえにさらに2つの点、rt-PA血栓溶解療法施行の可否と急性期抗凝固療法の実際を考慮しなくてはならない。(1) rt-PA血栓溶解療法の可否ワルファリン療法中は適正使用指針にしたがってPTINRが1.7以下であればrt-PA血栓溶解療法を考慮できる5)。しかし、ダビガトラン、リバーロキサバンおよびアピキサバン療法中の効果と安全性は確立しておらず、明確な指針はない。表1にこれまで発表されたダビガトラン療法中のrt-PA血栓溶解療法例を示す6-8)。ダビガトラン療法中の9例のうち中大脳動脈広範囲虚血で190分後にrt-PAが投与された1例を除き、8例で良い結果が得られている。それらに共通するのは、ダビガトラン内服から7時間以後でrt-PAが投与され、投与前APTTが40秒未満であった。ダビガトランの食後内服時のTmaxが4時間であることを考慮すると、rt-PA投与が内服後4時間以降であり、APTTが40秒以下(もしくは前値の1.5倍以下)であることがひとつの目安かもしれない。内服時間が不明な症例では来院時のAPTTと時間を空けてのAPTTを比較し、上昇傾向にあるか、低下傾向にあるかを見極めてTmaxを過ぎているかどうかを判断することも一法であろう。NOAC療法症例でrt-PA血栓溶解療法を考慮する場合は、少なくとも各薬剤のTmax 30分から4時間程度、ダビガトランではAPTTが40秒以下、抗Xa薬ではプロトロンビン時間が1.7以下であることを確認し、論文を含む最新情報に十分に精通した上で施設ごとに判断をせざるを得ないであろう5)。アピキサバンはAPTTやPT-INRと十分に相関しないことに注意する。抗Xa薬では、血中濃度と相関する抗Xa活性を図る方法も今後検討されるかもしれない。表1 ダビガトラン療法中のtPA血栓溶解療法に関する症例報告画像を拡大する(2) 急性期抗凝固療法心原性脳塞栓症急性期は脳塞栓症の再発率が高いため、この時期に抗凝固療法を行えば、再発率を低下させることが期待されるが、一方で栓子溶解による閉塞血管の再開通現象と関連した出血性梗塞もこの時期に高頻度にみられる。したがって、抗凝固療法がかえって病態を悪化させるのではないかという懸念もある。この問題はまだ解決されていないため、現時点では、脳塞栓症急性期の再発助長因子(発症後早期、脱水、利尿薬視床、人工弁、心内血栓、アンチトロンビン活性低下、D-dimer値上昇など)や、抗凝固療法による出血性合併症に関連する因子(高齢者、高血圧、大梗塞、過度の抗凝固療法など)を考慮して、個々の症例ごとに脳塞栓症急性期における抗凝固療法の適応を判断せざるを得ない。われわれの施設では症例ごとに再発の起こりやすさと出血性合併症の可能性を検討して、抗凝固療法の適応を決定している。具体的には感染性心内膜炎、著しい高血圧および出血性素因がないことを確認し、画像上の梗塞巣の大きさや部位で抗凝固療法開始時期を調整している(表2)9)。表2 脳塞栓症急性期の抗凝固療法マニュアル(九州医療センター2013年4月1日版)画像を拡大する(別タブが開きます)出血性梗塞の発現は神経所見とCTでモニタリングする。軽度の出血性梗塞では抗凝固療法を継続し、血腫型や広範囲な出血性梗塞では抗凝固薬投与量を減じたり、数日中止し、増悪がなければ再開する10)。新規経口抗凝固薬、ヘパリン、およびワルファリン(ワーファリン®)の投与量および切り替え方法の詳細も表2に示す。ワルファリンで開始する場合は即効性のヘパリンを必ず併用し、PT-INRが治療域に入ったらヘパリンを中止する。再発と出血のリスクがともに高い場合、心内血栓成長因子である脱水を避けること,低容量ヘパリンや出血性副作用がなく抗凝血作用のあるantithrombin III製剤の使用が考えられる11)。NOAC療法中に脳梗塞を発症した症例で、NOAC投与を考慮する場合、リバーロキサバンとアピキサバンは第III相試験が低用量選択基準を採用した一用量で実施されているので、脳梗塞を発症したからといって用量を増量したり、調節することは適切ではない2,3)。他剤に変更するか、脳梗塞が軽症であれば、あるいは不十分なアドヒアランスで発症したのであれば、継続を考慮することが現実的な対応であろう。一方ダビガトランは第III相試験が2用量で行われ、各々の用量がエビデンスを有しているので、低用量で脳梗塞を発症した場合、通常用量の可否を考慮することは可能である1)。NOAC療法中の頭蓋内出血ここではNOAC療法中の頭蓋内出血の発症頻度や特徴をグローバルやアジアでの解析結果を参照にワルファリン療法中のそれらと対比しながら概説する。(1) グローバルでの比較結果非弁膜症性心房細動を対象に脳梗塞の予防効果をワルファリンと対比したNOAC(ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)の4つの研究(RE-LY、ROCKET AF、ARISTOTLE、ENGAGE-AF)においてワルファリン群と比較してNOAC群の頭蓋内出血は大幅に減少した(本誌p.24図1を参照)1-3,12)。(2) アジアでの比較結果各第III相試験サブ解析から読み取れるアジアや東アジアの人々の特徴は、小柄であり、それに伴いクレアチニンクリアランス値が低く、脳卒中の既往や脳卒中発症率が高いことである13-16)。またワルファリンコントロールにおけるtime in therapeutic range(TTR)が低く、PT-INRが低めで管理されている症例が多いにもかかわらず、ワルファリン療法中の頭蓋内出血発症率は極めて高い特徴がある(本誌p.24図2を参照)13-16)。しかし、NOACの頭蓋内出血発症率はワルファリン群より大幅に低く抑えられており、NOACはアジアや東アジアの人々には一層使いやすい抗凝固薬といえよう。(3) NOAC療法中に少ない理由NOACで頭蓋内出血が少ない一番の理由は、脳に組織因子が多いことと関連する16-18)。組織が損傷されると組織因子が血中に含まれる第VII因子と結びつき凝固カスケードが発動する。NOAC療法中の場合は第VII因子が血液中に十分にあるので、この反応は起こりやすい。しかし、ワルファリン療法中は第VII因子濃度が大幅に下がるのでこの反応は起こりにくくなり止血し難い。次にワルファリンと比較して凝固カスケードにおける凝固阻止ポイントが少ないことが挙げられる。ワルファリンは凝固第II、VII、IX、X因子の4つの凝固因子へ作用するが、抗トロンビン薬や抗Xa薬はひとつの凝固因子活性にのみ阻害作用を発揮するため、ワルファリンよりも出血が少ない可能性がある。さらに安全域の差異を考慮できる。ある薬剤が抗凝固作用を示す薬物血中濃度(A)と出血を示す薬剤の血中濃度(B)の比B/Aが大きければ安全域は広く、小さければ安全域は狭い。ワルファリンはこの比が小さく、NOACは大きいことが示されている19)。最後に薬物血中濃度の推移も影響するだろう。ワルファリンはその効果に大きな日内変動はみられないが、ダビガトランは半減期が12時間で血中濃度にピークとトラフがある。ピークではNOAC自身の薬理作用が、トラフでは生理的凝固阻止因子が主となり、2系統で抗凝固作用を発揮し、見事に病的血栓形成を抑制しているものと理解される(Hybrid Anticoagulation)(図)16,17)。トラフ時には生理的止血への抑制作用は強くないため、それが出血を減らすことと関連するものと推測される。図 ハイブリッド抗凝固療法画像を拡大する(4) 特徴NOAC療法中は頭蓋内出血の頻度が低いのみならず、一度出血した際に血腫が大きくなり難い傾向も有するようだ。われわれはダビガトラン療法中の頭蓋内出血8例9回を経験しケースシリーズ解析を行い報告した20)。対象者は高齢で9回中7回は外傷と関連する慢性硬膜下出血や外傷性くも膜下出血などで、脳内出血は2例のみであった。緊急開頭が必要な大出血はなく、入院後血腫が増大した例もなく、多くの転帰は良好であった。もちろん、大血腫の否定はできず、血圧、血糖、多量の飲酒、喫煙といった脳内出血関連因子の徹底的な管理は重要であるが、ダビガトラン療法中の頭蓋内出血が大きくなりにくい機序としては、前述の頻度が低い機序が同様に関連しているものと推定される。(5) 出血への対応1.必ず行うべき4項目基本的な対応として、まず(1)休薬を行うこと、そして外科的な手技を含めて(2)止血操作を行うことである。(3)点滴によるバイタルの安定は基本であるが、NOACでは点滴しバイタルを安定させることで、半日程度で相当量の薬物を代謝できるので極めて重要である。(4)脳内出血やくも膜下出血などの頭蓋内出血時には十分な降圧を行う。2.場合によって考慮すること急速是正が必要な場合、ワルファリンではビタミンK投与や新鮮凍結血漿投与が行われてきたが、第IX因子複合体500~1,000IU投与(保険適応外)が最も早くPT-INRを是正できる。NOACの場合は、食後のTmaxが最長で4時間程度なので、4時間以内の場合は胃洗浄や活性炭を投与し吸収を抑制する。ダビガトランは透析で除去されるが、リバーロキサバンやアピキサバンは蛋白結合率が高いため困難と予測される。NOAC療法中に第IX因子複合体を投与することで抗凝固作用が是正させる可能性が示されている21)。今後の症例の蓄積とデータ解析に基づく緊急是正方法の開発が急務である。抗体製剤や低分子化合物も緊急リバース方法の1つとして開発が進められている。おわりにNOACは非常に有用な抗凝固薬であるが、実臨床における諸問題も少なくない。登録研究や観察研究を積極的に行い、安全なNOAC療法を確立する必要があろう。文献1)Connolly SJ et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-1151 and Erratum in. N Engl J Med 2010; 363: 1877.2)Patel MR et al. Rivaroxaban versus Warfarin in Nonvalvular Atrial Fibrillation. N Engl J Med 2011;365: 883-891.3)Granger CB et al. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-992.4)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf5)日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法指針改訂部会: rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版 http://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA02.pdf6)矢坂正弘ほか. 新規経口抗凝固薬に関する諸問題.脳卒中2013; 35: 121-127.7)Tabata E et al. Recombinant tissue-type plasminogen activator (rt-PA) therapy in an acute stroke patient taking dabigatran etexilate: A case report and literature review, in press.8)稲石 淳ほか. ダビガトラン内服中に出血合併症なく血栓溶解療法を施行しえた心原性脳塞栓症の1例―症例報告と文献的考察. 臨床神経, 2014; 54:238-240.9)中西泰之ほか. 心房細動と脳梗塞. 臨牀と研究 2013;90: 1215-1220.10)Pessin MS et al. Safety of anticoagulation after hemorrhagic infarction. Neurology 1993; 43:1298-1303.11)Yasaka M et al. Antithrombin III and Low Dose Heparin in Acute Cardioembolic Stroke. Cerebrovasc Dis 1995; 5: 35-42.12)Giugliano RP et al. Edoxaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2013;369: 2093-2104.13)Hori M et al. Dabigatran versus warfarin: effects on ischemic and hemorrhagic strokes and bleeding in Asians and non-Asians with atrial fibrillation. Stroke 2013; 44: 1891-1896.14)Goto S et al. Efficacy and safety of apixaban compared with warfarin for stroke prevention in atrial fibrillation in East Asia with atrial fibrillation. Eur Heart J 2013; 34 (abstract supplement):1039.15)Wong KS et al. Rivaroxaban for stroke prevention in East Asian patients from the ROCKET AF trial. Stroke 2014, in press.16)Yasaka M et al. Stroke Prevention in Asian Patients with Atrial Fibrillation. Stroke 2014, in press.17)Yasaka M et al. J-ROCKET AF trial increased expectation of lower-dose rivaroxaban made for Japan. Circ J 2012; 76: 2086-2087.18)Drake TA et al. Selective cellular expression of tissue factor in human tissues. Implications for disorders of hemostasis and thrombosis. Am J Pathol 1989; 134: 1087-1097.19)大村剛史ほか. 抗凝固薬ダビガトランエテキシラートのA-Vシャントモデルにおける抗血栓および出血に対する作用ならびに抗血栓作用に対するビタミンKの影響. Pharma Medica 2011; 29: 137-142.20)Komori M et al. Intracranial hemorrhage during dabigatran treatment: Case series of eight patients. Circ J, in press.21)Kaatz S et al. Guidance on the emergent reversal of oral thrombin and factor Xa inhibitors. Am J Hematol 2012; 87 Suppl 1: S141-S145.

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Vol. 3 No. 1 食後高血糖は悪か? 悪者だとすればそれはなぜか?

熊代 尚記 氏東邦大学医療センター大森病院 糖尿病・代謝・内分泌センターはじめに前項にて血糖コントロールが心血管イベント抑制につながる可能性について解説されたが、どのような高血糖が危険なのか、そしてどのように血糖コントロールを行えば心血管イベントを抑制できるのか、未だ多くの謎が残されている。本稿では、食後の高血糖が心血管疾患のリスクファクターである可能性、および食後高血糖の是正が心血管イベントを抑制する可能性について、これまでの報告をもとに解説する。病的な食後高血糖とはそもそも食後血糖値が食前血糖値より高いことは生理学的にごく自然なことである。いったいどの程度の血糖値が食後高血糖として問題になるのであろうか。最新の国際糖尿病連合(International Diabetes Federation : IDF)の食後血糖値の管理に関するガイドライン1)によると、正常耐糖能者の食後の血糖値は、一般的に食後2〜3時間で基礎値に戻るとされ、食後高血糖は摂食1〜2時間後の血糖値が140mg/dLを上回る場合と定義されている。そして、食後血糖値を160mg/dL以下に維持することを管理目標に掲げている。2013年5月に発表された日本糖尿病学会の熊本宣言2013では、糖尿病合併症予防のためのHbA1c目標値は7.0%とされ、対応する血糖値の目安は空腹時血糖値130mg/dL、食後2時間血糖値180mg/dL程度となっている。食前より食後の高血糖が心血管イベントにとって悪である食前と食後の血糖値は連動して上下するはずであるが、これまでの報告をまとめると、興味深いことに、食前の血糖値よりも食後ないし糖負荷後の血糖値のほうがより感度高く心血管イベントの発症を予測することがわかってきた。また、やみくもに血糖値を下げることは食前の低血糖を引き起こす恐れがあり、低血糖が心血管イベントのリスクファクターであることが近年明らかとなってきたことも合わせて2-6)、食後の高血糖をターゲットとした治療ないし血糖変動を抑えるような治療が心血管イベント抑制に大切ではないかと注目されてきている。以下、食後の高血糖が悪であることを支持する報告、食後の高血糖是正が心血管イベント抑制につながる可能性を示唆する報告を具体的に挙げながら解説する。食後高血糖が心血管イベント発症を強く予測する新規発症2型糖尿病患者1,139名を11年間観察したDiabetes Intervention Study(DIS)7)では、空腹時血糖値が110mg/dL以下にコントロールされていても、朝食後1時間値が180mg/dLを超える場合は、140mg/dL以下の者と比べて心筋梗塞の発症率が3倍に増加した。心血管疾患死亡の相対リスクは、最も高い高血圧に次いで食後高血糖が高かったが、空腹時血糖値は死亡の予測因子やリスク因子にはならなかった。イタリアの2型糖尿病患者505名を14年間観察したSan Luigi Gonzaga Diabetes Study8)では、朝食前、朝食2時間後、昼食2時間後、夕食前の各血糖値を評価したところ、心血管イベントと最も関与していたのは昼食後の血糖値であった。ヨーロッパ系住民を対象とした前向きコホート試験20件のメタ解析であるThe Diabetes Epidemiology Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Europe(DECODE)試験は、一般住民29,108名のグルコース負荷試験データをもとに、空腹時血糖値のみによる糖尿病診断では感度が不十分であることを示し9)、負荷後2時間血糖値が心血管イベントや全死亡と強く関連することを示した10)。また、アジア系住民(n=6,817)のデータをもとにメタ解析されたThe Diabetes Epidemiology Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Asia(DECODA)試験11)でも、負荷後2時間血糖値が空腹時血糖値よりも心血管イベントと強く関連することが示された。山形県舟形町の住民2,651名のブドウ糖負荷試験を含む健診データを解析した前向きコホート試験(Funagata study)では、耐糖能正常者に比べて、境界型、糖尿病型となるほど心血管イベントが発症しやすく、同じ境界型であっても、IFG(空腹時血糖異常)ではなくIGT(負荷後血糖異常)で有意な心血管イベントの増加が見られることが示された12)。食後高血糖が血管内皮機能を悪化させる血管内皮は、血管最内層に位置する一層の細胞層(血管内皮細胞)より成る。血管内皮は血管内腔と血管壁を隔てるバリアーとなるばかりでなく、血管の拡張と収縮の調節、血管平滑筋の増殖調節、凝固調節、炎症の調節、酸化の調節に関与しており、これらは血管内皮機能と総称される。これらの血管内皮機能がバランスよく発揮されることで血管トーヌスが調節され、血管構造が維持される。血管内皮機能が保たれないと血管トーヌスの異常をきたし、血管構造が変化する(血管リモデリング)。この変化に内皮へのマクロファージの接着とアテローム病変の増大が合わさり、血栓・塞栓が誘発されて、心血管イベントが発症すると考えられる。Cerielloらはグルコースクランプを用いて、5mMと15mMの6時間ごとに血糖を変動させると、持続高血糖よりも血中のニトロチロシン(ニトロ化の修飾を受けたチロシン残基)が上昇し、それがflow-mediated dilatation(FMD)で測定される血管拡張能の低下と相関することを報告している13)。また、アセチルコリンに対する前腕血流増加反応で見た血管内皮機能が、2型糖尿病患者では食後に低下しており、αGIやグリニド系薬剤、超速効型インスリンの投与により改善することが報告されている14-16)。われわれは現在、もう1つの食後高血糖治療薬であるDPP-4阻害薬(リナグリプチン)が血管内皮機能を改善するかどうか、FMDを用いて検討中である。マウスの食後高血糖モデルでは、内皮へのマクロファージの接着とアテローム病変の増大が惹起され、この現象がαGIやグリニド系薬剤、インスリンによって予防できることが報告されている17-19)。今後、このような食後高血糖是正による血管内皮の保護が心血管イベントの抑制につながるかどうか、十分な検討が必要である。食後高血糖是正が心血管イベント発症を抑制するかもしれない以上の報告を踏まえて、食後高血糖が心血管イベントのリスクファクターであり、食後高血糖の是正が心血管イベントの発症を抑制するのではないかと期待されるようになった。しかし、結論的には、現状ではその効果は十分に証明されていない。以下、検証している報告について解説する。急性心筋梗塞後21日以内の2型糖尿病患者1,115名を、(1)超速効型インスリンアナログ(インスリンリスプロ)3回を注射して食後2時間血糖値135mg/dL未満を目指す食後介入群と(2)持効型インスリンアナログ(インスリングラルギン)1回またはNPHインスリン2回を注射して空腹時血糖値121mg/dL未満を目指す食前介入群とに無作為に割り付けて比較検討したHyperglycaemia and Its Effect After Acute Myocardial Infarction on Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus(HEART2D)試験では、平均963日の観察後、HbA1cに群間差がなく、食後血糖値はリスプロ群が、食前血糖値はグラルギン群が有意に低かったが、主要血管イベントのリスクは両群で同程度であった(食後介入群31.2%、食前介入群32.4%、ハザード比0.98)20)。心血管ハイリスクのIGT患者9,306名を対象に、ナテグリニドとバルサルタンを用いた2×2 factorialデザインで実施された無作為化比較試験であるThe Nateglinide and Valsartan in Impaired Glucose Tolerance Outcomes Research(NAVIGATOR)試験では、中央値5年間のナテグリニド毎食前60mgの介入は、プラセボと比較して、糖尿病の発症(36% vs. 34%、ハザード比1.07)でも心血管疾患の発症(7.9% vs. 8.3%、ハザード比0.94)でも、予防効果を示すことはできなかった。なお、ナテグリニドは低血糖を増加させていた21)。したがって、前述のとおり低血糖が心血管イベントのリスクファクターであることから、低血糖を起こさずに血糖コントロールを行っていれば、心血管イベントの予防効果を示すことができたかもしれない。この点に関して、Mitaらは、早期2型糖尿病患者を対象にナテグリニドを投与し、低血糖の出現や有意な体重増加を認めなかったうえで、心血管イベントのサロゲートマーカーである頸動脈の内膜中膜複合体厚(intima media thickness : IMT)を抑制することができたことを報告している(本誌p.16図1を参照)22)。IGT患者1,429名を対象にアカルボースを用いて糖尿病発症予防を試みたStudy to Prevent Non-Insulin-Dependent Diabetes Mellitus(STOP-NIDDM)試験では、アカルボース毎食前100mgによる介入が糖尿病の発症を予防した(32% vs. 42%、ハザード比0.75、p=0.0015)23)。さらに、post-hoc解析によって高血圧(ハザード比0.66、p=0.006)や心血管イベントの発症(ハザード比0.51、p=0.03)も予防できたことが報告されている24)。このことは、1年以上継続したアカルボースの介入試験7件のメタ解析(Meta-analysis of Risk Improvement with Acarbose 7: MeRIA7、n=2,180)において、心筋梗塞(ハザード比0.36、p=0.0120)や全心血管イベント(ハザード比0.65、p=0.0061)が抑制されたこととも一致している25)。しかしながら、これらの報告には解釈において注意すべき点がいくつか存在する。まずSTOP-NIDDMにおいては、大血管障害の評価が2次エンドポイントであった。統計解析において、2次エンドポイントや後付解析は仮説を実証するものではなく、示唆するデータに過ぎないことを理解しておかなければならない26, 27)。さらに、心血管イベントの抑制効果(絶対的なリスクの低下)は数%程度であり、ごくわずかであった。服薬中断率も24%であり、これらを大きく差し引いて解釈する必要がある。MeRIA7については、対象となった7件の無作為化比較試験のうち、3件は未発表(2件は製薬企業がデータを提供)であることから、その妥当性は低い28, 29)。実際、日本糖尿病学会の『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』では、エビデンスレベル「なし」と位置づけられており、玉石混交のメタ解析の評価には注意が必要である。以上から、αGIを用いた食後高血糖治療が心血管イベントを抑制するかどうかの判断には、更なる検討が必要である。最後に、食後高血糖改善効果があり、体重増加と低血糖をきたしにくいDPP-4阻害薬の大血管障害予防効果に関して、最近2件のエビデンスが発表された。Saxagliptin Assessment of Vascular Outcomes Recorded in Patients with Diabetes Mellitus(SAVOR-TIMI)53研究30)では、約16,000人の大血管障害の既往または高リスクの2型糖尿病患者(アジア人を含む)が無作為にサキサグリプチン投与群とプラセボ投与群に割り付けられたが、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の発症リスクに有意差を認めなかった(本誌p.17図2、表を参照)。同時に発表されたExamination of Cardiovascular Outcomes with Alogliptin(EXAMINE)研究31)では、急性冠動脈症候群を発症した2型糖尿病患者(日本人を含む)約5,000人が無作為にアログリプチン投与群とプラセボ投与群に割り付けられ、アログリプチンのプラセボに対する非劣性を証明することを1次エンドポイントとして実施されたが、この研究でも心血管死・心筋梗塞・脳梗塞の発症リスクに有意差を認めなかった。両者ともRCTではあるが、服薬中断率が高いこと、追跡期間が2~3年と比較的短いこと、筆者・解析者に試験薬の製薬会社員が含まれていることなどの限界・バイアスがあるため、これらを差し引いて解釈する必要がある。現時点ではDPP-4阻害薬の大血管障害予防効果については明確な答えを出せず、進行中の残りのDPP-4阻害薬の試験結果を待っている状態である。以上、食後高血糖是正が心血管イベントを抑制する期待は高いのであるが、実際のところは十分に証明されておらず、低血糖を回避した血糖コントロールなど、工夫をしながらデータを蓄積して検討を続けることが必要である。私見としては、UKPDS80やEDIC studyで早期からの血糖コントロールが心血管イベントの抑制につながると報告されているにもかかわらず、食後高血糖をターゲットにした上述の試験では心血管イベントを抑制できなかった理由として、食後のみの高血糖のような軽症の状態での血糖値が心血管イベントに与える悪影響が、脂質や血圧などの他のリスクファクターに比べて影響が小さく、食後血糖値のみを穏やかに数年間改善させても十分な心血管イベントの抑制ができなかっただけなのではないかと推測している。そういった点では、早期から低血糖を予防しながら食後血糖値を抑制しつつ、全体的に血糖値がよくなるように厳格な血糖コントロールを行うことが大切なのではないかと考える。おわりに以上、本稿では食後高血糖が心血管イベント発症のリスクファクターであること、食後高血糖をターゲットとした血糖コントロールが心血管イベントの発症抑制につながるかもしれないことについて解説した。本稿が、本誌の主な読者である循環器専門医、脳血管、末梢血管疾患を担当される専門医の方々の糖尿病診療に役立ち、メタボリックシンドロームや糖尿病患者の心血管イベントの抑制に少しでも貢献すれば幸甚である。文献1)International Diabetes Federation Guideline Development G: Guideline for management of postmeal glucose in diabetes. Diabetes Res Clin Pract 2013. pii: S0168-8227(12)00282-3.2)Bonds DE et al. The association between symptomatic, severe hypoglycaemia and mortality in type 2 diabetes: retrospective epidemiological analysis of the ACCORD study. BMJ 2010; 340: b4909.3)Hemmingsen B et al. Intensive glycaemic control for patients with type 2 diabetes: systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis of randomised clinical trials. BMJ 2011; 343: d6898.4)Boussageon R et al. Effect of intensive glucose lowering treatment on all cause mortality, cardiovascular death, and microvascular events in type 2 diabetes: meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2011; 343: d4169.5)Zoungas S et al. Severe hypoglycemia and risks of vascular events and death. N Engl J Med 2010; 363: 1410-1418.6)Johnston SS et al. Evidence linking hypoglycemic events to an increased risk of acute cardiovascular events in patients with type 2 diabetes. Diabetes Care 2011; 34: 1164-1170.7)Hanefeld M et al. Risk factors for myocardial infarction and death in newly detected NIDDM: the Diabetes Intervention Study, 11-year followup. Diabetologia 1996; 39: 1577-1583.8)Cavalot F et al. Postprandial blood glucose is a stronger predictor of cardiovascular events than fasting blood glucose in type 2 diabetes mellitus, particularly in women: lessons from the San Luigi Gonzaga Diabetes Study. J Clin Endocrinol Metab 2006; 91: 813-819.9)Is fasting glucose sufficient to define diabetes? Epidemiological data from 20 European studies. The DECODE-study group. European Diabetes Epidemiology Group. Diabetes Epidemiology: Collaborative analysis of Diagnostic Criteria in Europe. Diabetologia 1999; 42: 647-654.10)Qiao Q et al. Post-challenge hyperglycaemia is associated with premature death and macrovascular complications. Diabetologia 2003; 46: M17-21.11)Nakagami T, Group DS. Hyperglycaemia and mortality from all causes and from cardiovascular disease in five populations of Asian origin. Diabetologia 2004; 47: 385-394.12)Tominaga M et al. Impaired glucose tolerance is a risk factor for cardiovascular disease, but not impaired fasting glucose. The Funagata Diabetes Study. Diabetes Care 1999; 22: 920-924.13)Ceriello A et al. Oscillating glucose is more deleterious to endothelial function and oxidative stress than mean glucose in normal and type 2 diabetic patients. Diabetes 2008; 57: 1349-1354.14)Evans M et al. Effects of insulin lispro and chronic vitamin C therapy on postprandial lipaemia, oxidative stress and endothelial function in patients with type 2 diabetes mellitus. Eur J Clin Invest 2003; 33: 231-238.15)Shimabukuro M et al. A single dose of nateglinide improves post-challenge glucose metabolism and endothelial dysfunction in Type 2 diabetic patients. Diabet Med 2004; 21: 983-986.16)Shimabukuro M et al. Effects of a single administration of acarbose on postprandial glucose excursion and endothelial dysfunction in type 2 diabetic patients: a randomized crossover study. J Clin Endocrinol Metab 2006; 91: 837-842.17)Van Bruaene N et al. Inflammation and remodelling patterns in early stage chronic rhinosinusitis. Clin Exp Allergy 2012; 42: 883-890.18)Azuma K et al. Acarbose, an alpha-glucosidase inhibitor, improves endothelial dysfunction in Goto-Kakizaki rats exhibiting repetitive blood glucose fluctuation. Biochem Biophys Res Commun 2006; 345: 688-693.19)Mita T et al. Swings in blood glucose levels accelerate atherogenesis in apolipoprotein E-deficient mice. Biochem Biophys Res Commun 2007; 358: 679-685.20)Raz I et al. Effects of prandial versus fasting glycemia on cardiovascular outcomes in type 2 diabetes: the HEART2D trial. Diabetes Care 2009; 32: 381-386.21)Group NS et al. Effect of nateglinide on the incidence of diabetes and cardiovascular events. N Engl J Med 2010; 362: 1463-1476.22)Mita T et al. Nateglinide reduces carotid intimamedia thickening in type 2 diabetic patients under good glycemic control. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2007; 27: 2456-2462.23)Chiasson JL et al. Acarbose for prevention of type 2 diabetes mellitus: the STOP-NIDDM randomised trial. Lancet 2002; 359: 2072-2077.24)Chiasson JL et al. Acarbose treatment and the risk of cardiovascular disease and hypertension in patients with impaired glucose tolerance: the STOP-NIDDM trial. JAMA 2003; 290: 486-494.25)Hanefeld M et al. Acarbose reduces the risk for myocardial infarction in type 2 diabetic patients: meta-analysis of seven long-term studies. Eur Heart J 2004; 25: 10-16.26)Freemantle N. Interpreting the results of secondary end points and subgroup analyses in clinical trials: should we lock the crazy aunt in the attic? BMJ 2001; 322: 989-991.27)Freemantle N. How well does the evidence on pioglitazone back up researchers' claims for a reduction in macrovascular events? BMJ 2005; 331: 836-838.28)Lexchin J et al. Pharmaceutical industry sponsorship and research outcome and quality: systematic review. BMJ 2003; 326: 1167-1170.29)Pocock SJ, Ware JH. Translating statistical findings into plain English. Lancet 2009; 373: 1926-1928.30)Scirica BM et al. Saxagliptin and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med 2013; 369: 1317-1326.31)White WB et al. Alogliptin after acute coronary syndrome in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med 2013; 369: 1327-1335.

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Low Dose AspirinにNet Clinical Benefitはない! ~Negativeな結果、しかし、わが国にとってはPositiveな試験(解説:平山 篤志 氏)-282

 先日、シカゴで行われたAHAにて日本発の大規模臨床試験がLate Clinical Braking Trialで取り上げられた。高血圧、脂質異常症、あるいは糖尿病を持つ65~85歳の高齢者1万4464人を対象に、平均5年間のアスピリンの1次予防効果を検討した試験であった。オープンラベル試験ではあったが、データ解析がブラインドで行われ、1次エンドポイントである心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の発症には差がなかったという結果であった。 ただ、TIAや非致死性心筋梗塞の発症はアスピリンで有意に抑えられていたことが反映されなかったのは、平均5年間でのイベント発症率が両群それぞれ2.77%(アスピリン群)、2.96%(非投与群)ときわめて低いという背景があったことが考えられる。わが国では高齢のハイリスク群であっても低イベントであることから、効果よりアスピリンに伴う出血のリスクがより増加することによるデメリットが反映された結果だったと考えられる。非致死的ではないが頭蓋内出血やくも膜下出血がアスピリン群で増加しており、さらに胃潰瘍、消化管出血の副作用も有意にアスピリン群で多かった。このことから、わが国ではハイリスクであっても1次予防のLDAのNet Clinical Benefitはないとしたことは大きな意義がある。 ただ、この試験の持つ意味は結果より1万4000人という対象を5年間Follow Upしたこと、さらにイベントをブラインドで評価したこと、さらに現在のわが国での正確なイベント発生率を明らかにしたことが意義ある論文として、JAMA誌に掲載されたことである。 ただ、Lost to Follow-Upが各群で10%以上認めたことは低いイベント発症率からすると結果に影響が出る可能性もあり、今後わが国の臨床試験で精度を高めるためのシステムの構築が必要と考えられる。いずれにしろ、本研究を達成されたグループ(Japan Primary Prevention Project:JPPP)に敬意を表するとともに、今後さらなる解析が行われてアスピリンの有効な集団が明らかにされることを期待するものである。

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64)患者さんにインスリン分泌能を聞かれた時の回答法【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者先生、私頑張っているのに、以前のようになかなか血糖値が下がらなくて・・・。 医師それでは、一度、身体の中から血糖値を下げるインスリンというホルモンが、どのくらい出ているかを計算してみましょう。 患者よろしくお願いします。 医師正常な人の平均を100とすると、半分くらい(50~60%)になった時点で糖尿病と診断され、15%くらいになるとインスリン療法が必要となったという報告があります。 患者なるほど。私は何%くらいですか? 医師最初は50%近くあったんですが、今は25%前後ですね。 患者なるほど。前よりも頑張っているのに、血糖値が上がるわけですね。 医師頑張っておられるので、薬も少なめでコントロールできています。この調子でお願いします。 患者はい。わかりました(嬉しそうな顔)。●ポイントインスリン分泌能と血糖コントロールの関係を、上手に説明できるといいですね●解説2型糖尿病を対象に行われた英国のUKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)によると、糖尿病と診断された時点ですでにインスリン分泌能の50%前後、年間で約4%の割合で減少し、15%前後となった時点でインスリン治療が必要となったという経過が報告されています。これはC-ペプチドからSUITO指数も算出できます。・HOMA-β指数=[(空腹時インスリン(U/mL)/(空腹時血糖(mg/dL)-63)×360]・SUITO指数=[(空腹時C-ペプチド(ng/mL)/(空腹時血糖(mg/dL)-63)×1,500] 1) Tabak AG, et al. Lancet. 2006; 373: 2215-2221. 2) U.K.prospective study 16. Diabetes. 1995; 44: 1249-1258. 3) Matsumoto S, et al. Transplant Proc. 2011; 43: 3246-3249.

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2型糖尿病患者におけるエンパワーメントと治療意思決定支援ツール(decision aids)(解説:住谷 哲 氏)-271

高血糖、高血圧、高コレステロール血症、喫煙のすべてに介入する多因子介入治療(multifactorial approach)が2型糖尿病治療において重要であることは論を俟たない1)。 しかし、この治療が成功するか否かは、患者自身が治療の意義を理解し、多くの治療介入に積極的に参加することに依存している。われわれ医療従事者が患者と向き合うのは診察室におけるごく短時間のみであり、その他の時間はすべて患者の自己管理下にある。この患者の自己管理能力を向上させることで治療を成功に導こうとする考えがエンパワーメント(適切な日本語訳がない)である。 ここでの自己管理能力とは、医療従事者の指示に従うだけではなく、医療従事者との対話を通じて、治療法そのものを自己決定する(shared decision making)ことをも含む広い概念である。本論文は治療意思決定支援ツール(decision aids)が、2型糖尿病患者のエンパワーメントに及ぼす影響を検討したものである。 方法はオランダ北部の18のプライマリケアクリニックに通院中の344例の2型糖尿病患者を通常診療群と治療意思決定支援ツール提供群に無作為に振り分け、1次エンドポイントとしては、治療ゴール達成への意思決定およびゴール達成に対する患者のエンパワーメントの程度をエンパワーメントスコアにより評価した。2次エンドポイントは経過を通じての高血糖、高血圧、高脂血症およびアルブミン尿に対する処方強化および禁煙とした。治療意思決定支援ツールは4つの領域(血糖、血圧、コレステロール、喫煙)から構成されており、それぞれHbA1c<7.0%、収縮期血圧<140mmHg、LDLコレステロール<2.5mmol/L(100mg/dL)、禁煙がゴールに設定されていた。さらに個々の患者のリスクをUKPDS risk engine2)を用いて計算し、たとえば「あなたと同じ年齢、性別の2型糖尿病患者さん100人の中で、16人が今後5年間に心筋梗塞になり、84人は心筋梗塞になりません。しかし、現時点ではあなたが、そのどちらに属しているかはわれわれにはわかりません。」のような説明が提供された。 さらに、4つの領域のいずれがゴール未達成であるか、それに対する治療を受けることによるbenefit およびharm、さらに治療の有効性に関する不確実性についても説明された。探索的検討として、情報提供がパソコンの画面上で提供される群と印刷された紙媒体で提供される群、および詳細情報がすべて提供される群と簡略化された情報が提供される群が2x2要因デザインを用いて比較された。 結果は1次エンドポイントには両群に差を認めなかった。2次エンドポイントについても、紙媒体を用いた治療意思決定支援ツール提供群において高脂血症薬の投与が強化されたのみであった。これらの結果は、2型糖尿病患者に、通常の診療に加えて治療意思決定支援ツールを追加してもエンパワーメントには結びつかないこと示している。しかし、治療意思決定支援ツールによる介入を実際に受けたのが同ツール提供群の46%に過ぎず、結果の解釈には慎重を要する。 世界中で最も多数の患者からの相談を受けている医療従事者はGoogleである、と皮肉まじりにいわれるように医療においてインターネットは必要不可欠になりつつある。もし今回の検討で用いられた治療意思決定支援ツールが有効であったならば、インターネットを通じてすべての2型糖尿病患者に情報が提供され、われわれの日常診療も大きな影響を受けたかもしれない。その点で、今回の結果はわれわれの日常診療の継続に少しの安心感を与えるといえよう。 さらに、論文の主旨とは離れるが、欧米におけるエンパワーメントとわが国のそれとの違いが浮き彫りにされている点も注目してよい。わが国でのエンパワーメントは、「いかにして患者のやる気を引き出すか?」のように情緒的な点に比重が置かれており、具体的な治療目標(HbA1c<7.0%のような数値目標)と、それを達成することによるアウトカム改善のエビデンスとを医療従事者と患者との間で共有したうえでのshared decision makingが行われているとはいい難い状況にある。エンパワーメントもEBMから無縁ではないことを再認識する必要があるだろう。

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58)ストップ!泳いでいるのに体重増加【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者膝が悪くて、運動したいと思っているんですが、プールで運動すると、余計にお腹が空いて、食べ過ぎて・・・ 医師どんなパターンか、教えて頂けますか? 患者朝食を食べて、午前中にプールにいきます。お昼を少し回って、お腹ペコペコで家に帰るので、どうしても食べ過ぎてしまって・・・ 医師なるほど。 患者そして、今日は運動したからっておやつも食べて・・・ 医師確かに、運動するとお腹が空きますからね。それなら良い方法がありますよ。 患者それは何ですか?(興味津々) 医師食べるタイミングです。運動した直後は、それほどお腹が空いていませんから、そこで軽く食べるんです。そうすると、その後の食べ過ぎにつながりません。 患者なるほど! タイミングですね。一度、試してみます。●ポイント運動後に食べ過ぎるパターンを聴取し、食事を摂るタイミングについてアドバイスをします 1) King JA, et al. J Obes. 2011;2011.

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暴力的なゲームが子供の心に与える影響は

 米国・UTHealth公衆衛生院のTortoleroSusan R氏らは、前思春期において、暴力的なビデオゲームを毎日することと、うつ病との関連を調べた。結果、両者間には有意な相関性があることが判明した。著者は、「さらなる検討で、この関連における因果関係を調査し、症状がどれほどの期間持続するのか、また根底にあるメカニズムと臨床的な関連性を調べる必要がある」と報告している。Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking誌オンライン版2014年7月9日号の掲載報告。 検討では前思春期において、ここ1年間に毎日、暴力的なビデオゲームを行っていたことと、うつ症状例増大との関連が認められるかを調べた。5,147人の小学5年生とその保護者から断面調査にて集めたデータを分析した。被験者は、米国3都市で行われたコミュニティベースの縦断調査Healthy PassagesのWave I(2004-2006)の参加者だった。 主な結果は以下のとおり。・線形回帰分析の結果、暴力的なビデオゲームの接触と抑うつ症状が関連していることが認められた。性別、人種/民族、仲間いじめ(peer victimization)、暴力を目撃すること、暴力で脅されていること、攻撃性、家族構成、世帯所得で補正後も変わらなかった。・「非常に暴力的(high-violence)なテレビゲームを1日2時間超する」と回答した児童では、「それほど暴力的ではない(low-violence)テレビゲームを1日2時間未満する」と回答した児童と比べて、抑うつ症状が有意に強いことが判明した(p<0.001)。・この関連性の強さは小さかったが(Cohen's d=0.16)、人種/民族の全サブグループ、および男児で認められた(Cohen's d:0.12~0.25)。関連医療ニュース ゲームのやり過ぎは「うつ病」発症の原因か 大うつ病性障害の若者へのSSRI、本当に投与すべきでないのか 小児および思春期うつ病に対し三環系抗うつ薬の有用性は示されるか  担当者へのご意見箱はこちら

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アポ蛋白C3は動脈硬化性疾患の新たな治療標的か?(解説:山下 静也 氏)-229

APOC3は血清アポリポ蛋白(アポ)C3をコードする遺伝子であり、アポC3はトリグリセライド(TG)リッチリポ蛋白、とくに動脈硬化惹起性の強いレムナントリポ蛋白の蛋白成分の1つである。カイロミクロン、VLDLなどのTGリッチリポ蛋白のTGが、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の働きで分解され、遊離脂肪酸を放出してレムナントリポ蛋白となる過程で、アポC3はLPLによる加水分解を阻害することにより血清TGレベルを上昇させる1)。この作用はアポC2のLPL活性化作用とはまったく逆である。さらに、アポC3はTGリッチレムナントリポ蛋白の肝臓での取り込みを抑制する2)。したがって、アポC3の過剰は高TG血症、高レムナント血症、食後高脂血症を引き起こすことが知られている。 一方、アポC3の細胞内での作用として、アポC3がTG合成を促進し、肝臓でのVLDLのアセンブリーと分泌を増加させることも知られている3)。また、マウスでAPOC3遺伝子を欠損させると血清TGが低下し、食後高脂血症が防御されることも報告されている4)。ヒトではLancaster Amish の約5%がAPOC3遺伝子の欠失変異であるR19Xのヘテロ接合体であり、これらの症例ではアポC3濃度が半減し、空腹時および食後のTG値が有意に低く、冠動脈石灰化の頻度が60%も低いことが示されている5)。 このコペンハーゲン大学のJorgensen氏らの論文では、デンマークの2つの地域住民を対象とした前向き調査、すなわちCopenhagen City Heart Study(CCHS)とCopenhagen General Population Study(CGPS)とに参加した7万5,725人(CCHS:1万333人、CGPS:6万5,392人)のデータが前向きに解析され、APOC3遺伝子変異を保因するため生涯にわたりTGが低値の集団が、虚血性心血管疾患のリスクが低いか否かについて初めて検討された。 この中で虚血性血管疾患とは、虚血性心疾患または虚血性脳血管疾患と定義されている。その結果、虚血性血管疾患および虚血性心疾患のリスクは、ベースラインの非空腹時TG値の低下に伴って減少し、<1.00mmol/L(90mg/dL)の被験者は≧4.00mmol/L(350mg/dL)の場合に比べ発症率が有意に低かった(虚血性血管疾患のHR=0.43、虚血性心疾患のHR=0.40)。 遺伝子解析の結果、APOC3遺伝子の3つのヘテロ接合体の機能欠失変異(R19X、IVS2+1G→A、A43T)の保有者では、変異のない被験者に比べて非空腹時TGが平均44%低値であり、虚血性血管疾患および虚血性心疾患の発症は有意に少なく、リスク減少率はそれぞれ41%、36%であった。したがって、APOC3遺伝子の機能欠失型変異はTG値の低下および虚血性血管疾患のリスク減少と関連し、APOC3は心血管リスクの低減を目的とする薬剤の有望な新たな標的と考えられた。しかしながら、これらのAPOC3遺伝子の変異がなぜ同じようにTG値を低下させるのかは不明である。本報告はこれまでの疫学的な成績をさらに遺伝的なレベルまで詳細に確認した貴重なデータであり、類似論文が別の集団でN Engl J Medに発表されている6)。 本論文では各遺伝子変異に伴う、アポC3の血中レベルの変化と虚血性血管疾患との関係については示されていない。また、non-functionalな変異と考えられるAPOC3遺伝子のV50M変異では低TG血症は認められなかったにもかかわらず、虚血性血管疾患の減少傾向が認められたことから、APOC3遺伝子と虚血性血管疾患の関係は必ずしもアポC3の血中レベルとは関係せず、アポC3の血管壁細胞への直接作用が影響している可能性も考えられる。 また、本論文ではAPOC3遺伝子変異に伴う非空腹時TG値の低下と、虚血性血管疾患との関連性が示されたが、同様にAPOC3遺伝子変異に伴う空腹時TG値の変化と虚血性血管疾患との関連性についてはデータが示されていない。つまり、APOC3遺伝子変異による食後高脂血症の抑制が虚血性血管疾患を減少させたのか、空腹時TG値も減らして虚血性血管疾患を減少させたのかについては今後の検討が必要であろう。さらに、APOC3遺伝子変異が虚血性脳血管疾患単独の発症に及ぼす影響については記載がないが、興味ある点である。 一方、タイトルではアポC3の機能欠失型変異となっているが、R19X、IVS2+1G→A、A43Tの変異のすべてがアポC3の持つさまざまな機能を同様に欠失しているのか否かについても検討が必要であろう。最も重要な点は、Supplemental Figure S14に示されているように、APOC3遺伝子変異が虚血性血管疾患を抑制したにもかかわらず、総死亡率にはまったく影響がなかったという点であろう。今後、アポC3が動脈硬化性疾患の新たな薬物治療の標的となるためには、アポC3の他の多面的作用の解析とこの疑問点に対する真摯な検討がなされることが必要であろう。【参考文献はこちら】1)Ginsberg HN, et al. J Clin Invest. 1986; 78: 1287-1295. 2)Windler E and Havel RJ. J Lipid Res. 1985; 26: 556-565. 3)Qin W, et al. J Biol Chem. 2011; 286: 27769-27780.4)Maeda N, et al. J Biol Chem. 1994; 269: 23610-23616.5)Pollin TI, et al. Science. 2008; 322: 1702-1705.6)TG and HDL Working Group of the Exome Sequencing Project, National Heart, Lung, and Blood Institute, et al. N Engl J Med. 2014; 371: 22-31.

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第10回

第10回:3年間ではMCI患者の25%が悪化する 介護保険制度を利用している自立度II以上の認知症高齢者は、日本では現在約280万人おり、認定を受けていない方も含めると400万人いるといわれています。今後は、2025年に介護保険制度を利用している自立度II以上の認知症高齢者は、470万人に増加すると予測されています1)。認知症の中核症状は脳の老化として捉えると、人口動態からはごく自然な数かもしれません。一方、認知症の前段階と考えられているMCI(Mild Cognitive Impairment)は認知症を除く高齢者の16%に存在するといわれ、発症率は63.6人/千人・年といわれています2)。認知症の早期発見早期治療も叫ばれて、多くの薬剤が発売されていますが、MCIに対する介入も大切かもしれません。この文献の結果から、MCIの75%が安定とみるのか、25%が悪化とみるのか。とても考えさせられた文献でした。 以下、本文 Annals of Family Medicine 2014年3-4月号2)より1.概要プライマリ・ケア医にかかっている75歳以上で、認知症がなく、少なくとも1年に1度はプライマリ・ケア医に通院している方3,215人(ただしナーシングホームや訪問診療を受けている人、3ヵ月以内に生命を脅かすような病気をした人は除いている)の中からMCIの基準を満たす483人を抽出した。そのうち3年間フォローできたMCIの患者357人を分析した。2.診断基準MCIの基準は、International Working Group on Mild Cognitive Impairmentが提唱している方法により診断した。(1)認知症がないこと、(2)客観的な認知力の課題に対して自分や他者からみてうまくできないことを繰り返している確かな証拠があるが、(3)日常生活や道具を使っての最低限の基本生活はできていること。Global Deterioration Scale of Reisberg の4点以上を認知症と診断。3点以下であり、かつ、記憶・見当識・知的活動と高い皮質活動の4領域の項目で、年齢・教育レベル水準から1偏差以上低下していることをMCIとした。MCIのグループは4つに分けた。記憶領域だけが低下している群、記憶領域は正常で他の1領域だけが低下している群、記憶領域は正常で他の2領域以上が低下している群、記憶領域の低下とその他の領域の低下が同時にみられる群である。3.結果経過観察をしつつ、1年半後と3年後に、再度認知機能を評価した。認知機能が改善した群、変わらない群、悪化した群、改善とMCIの行き来をした群の4つに分けた。41.5%の人が1年半と3年で認知機能は正常を示した。21.3%は良くなったり悪くなったり、14.8%は認知機能変わらず、22.4%は認知症へと進行した。抑うつがあったり、記憶領域より他の2領域以上が低下している人、記憶領域とその他の領域も低下している人、より高齢な人は、認知機能が悪化する群に移る傾向が高かった。新たな事柄を覚えて10分後に聞き直すという記憶テストは、MCIが良くなるか、進行するかのもっとも鋭敏なテストであった。4.考察プライマリ・ケアにおいて、3年間の間に、25%のMCIの患者が認知症へと進行した。MCIの臨床診断基準は変わるかもしれないが、75%のMCIの患者は3年の間で、改善したり、変化がなかったりすることを忘れてはならない。ゆえに、MCIの診断を受けたからといって、不必要に不安をあおるべきではない。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 厚生労働省.「認知症高齢者の日常生活自立度」II以上の高齢者数について(2014.8公表) 2) Kaduszkiewicz H, et al. Ann Fam Med. 2014; 12: 158-165.

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