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第175回 研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院

<先週の動き>1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院東京大学医学部付属病院の臨床研修医2人が、病気ではないにも関わらず、互いに処方箋を発行し、GLP-1受容体作動薬を入手していたことが明らかになった。この報道に対して、病院側は「自己使用目的であって転売目的ではなく、常習性もなかった」と判断し、病院長から厳正な指導を行ったことを明らかにした。GLP-1受容体作動薬は、インターネット上で「やせ薬」として紹介されており、自由診療目的で処方を行う医療機関が急増している。一方、日本糖尿病学会は、11月28日に「2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」を発表しており、本来は糖尿病治療薬であるのに、美容、痩身、ダイエット目的での自由診療による処方が一部のクリニックで行われており、需要増加による供給不足が生じている。糖尿病治療薬の適切使用は重要であり、医療専門家による不適切な薬剤使用は、専門医の信頼を損なう行為であり、日本糖尿病学会はこれを厳しく警告している。参考1)GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(日糖会)2)研修医、病気装い糖尿病薬入手=供給不足の「やせ薬」-東大病院(時事通信)3)東大病院の研修医2人、病気装って糖尿病薬を入手 「やせ薬」と話題(朝日新聞)2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省厚生労働省は、2023年12月15日に全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの感染者数が1医療機関当たり33.72人となり、警報レベル(30人超)に達したことを発表した。警報は2019年1月以来、5シーズンぶりの事態で、とくに北海道では60.97人と最多。全国で33道県が警報レベルを超え、1週間で6,382ヵ所の保育所や学校が休校や学級閉鎖に追い込まれた。慶應義塾大学の菅谷 憲夫客員教授は、「新型コロナウイルス感染症の流行中にインフルエンザの流行が抑えられたことで、とくに子どもを中心に免疫が落ちている」と指摘。基本的な感染対策の継続と、症状があれば早期受診を呼びかけている。また、菅谷教授は、2つのタイプのA型インフルエンザウイルスが同時に流行していることや、約3年間に大規模な流行がなかったことを、早期警報の要因として挙げている。高齢者や妊婦、基礎疾患を持つ人は、とくに注意が必要であり、発熱などの異常を感じたら早期受診が推奨されている。冬休みに小児のピークが過ぎる可能性があるが、年末年始の休暇シーズンで全国的な感染拡大の恐れもあるため、手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な感染対策の徹底が求められている。参考1)インフルエンザ、全国で「警報レベル」…コロナ禍の感染対策で識者「免疫落ちている」(読売新聞)2)インフルエンザ、今季初の警報レベル 1医療機関33.72人 厚労省(毎日新聞)3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省厚生労働省は、12月15日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、オンラインで患者を診療した際に医療機関が算定する初・再診料の要件を2024年度の診療報酬改定で厳格化する案を了承した。新たな要件には、「初診では向精神薬を処方しないこと」を医療機関のホームページに掲示することが含まれている。さらに、遠方の患者を多く診療する医療機関に対しては、対面診療の連携先を報告させることも検討されている。厚労省は、新型コロナウイルス禍を経て、オンライン診療は重要であるとして、保険診療だけでなく自由診療も対象にガイドラインを策定し、規制緩和を行なってきたが、初診時に向精神薬の処方を行ったり、メールやチャットだけで診察や薬の処方を行うなど、ガイドラインで認めていない方法で診療を行っている医療機関が問題視されてきた。今後、厚労省では、オンライン診療を行っている医療機関がガイドラインを遵守しているか実態調査を行うため、スケジュールや調査方法などを検討するほか、患者がオンライン診療を適切に行っている医療機関を選択できるよう、情報発信の強化に乗り出すことにした。一方、慶應義塾大学などの研究グループは、うつ病や不安症などの精神科診療において、オンライン診療が対面診療と同等の治療効果があることを発表した。この研究結果は、オンライン診療の普及に向けた政策的議論に貢献するもので、さらに、オンライン診療は、通院に要する時間の短縮や費用の削減といった副次的効果もあり、今後もデジタルトランスフォームを通して医療現場に浸透していくとみられる。参考1)オンラインの初・再診料要件、厳格化案を了承「向精神薬初診で処方せず」の掲示必須に(CB news)2)オンライン診療 不適切な医療機関の実態調査へ 厚労省(NHK)3)オンライン診療、対面と遜色なし 普及に弾み(日経新聞)4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省厚生労働省は、処方箋なしで医療用医薬品を販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を固めた。不適切な販売方法や広告が増加していることに対応するために打ち出されたもの。2022年時点で60店舗以上の零売薬局が存在し、例外的に処方箋なしで医療用医薬品を販売できるが、これまで大規模災害時など「正当な理由」がある場合に限られていた。しかし、一部の薬局が通知を逸脱し、やむを得ない状況ではないにも関わらず日常的に医療用医薬品を販売する薬局が増加していることや、不適切な広告などが確認されており、重大な疾患や副作用が見過ごされるリスクが高まっていた。厚労省は、処方箋に基づく販売を原則とし、やむを得ない場合に限って認めることを法令で明記する方針。また、医療用医薬品の販売を強調する広告も禁止する方向で調整している。厚労省は12月18日に開かれる医薬品の販売制度に関する検討会で取りまとめを行い、医薬品医療機器制度部会に報告した後、厚生労働省から正式に通知が発出される見込み。参考1)医薬品の販売制度に関する検討会(厚労省)2)「零売薬局」の販売規制へ 処方箋なしで医療用医薬品-認める条件明確化・厚労省(時事通信)3)特例のはずが…処方箋なし薬「零売」横行 副作用や疾患見逃す恐れ(毎日新聞)5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省厚生労働省は、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」を公的医療保険の適用対象とし、体重50kgの患者の1回当たりの価格を約11万4千円、年間約298万円と設定した。この薬は、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ(Aβ)」を取り除くことを目的とした初の治療薬で、軽度認知障害や軽度の認知症の人が対象。投与は2週に1度の点滴で行われる。レカネマブの投与は、副作用のリスクを考慮し、限られた医療機関でのみ行われる予定で、副作用には脳内の微小出血やむくみが含まれ、安全性を重視するため、認知症専門医が複数いる施設でMRIやPETを備えていることなどの条件に合致する限られた医療機関で処方される。臨床治験では、レカネマブを1年半投与したグループは、偽薬を投与したグループより病気の悪化を27%抑える結果が得られた。レカネマブの市場規模は、ピーク時に年間986億円に上ると予測されており、医療保険財政への影響が懸念されている。また、薬価の決定に際しては、社会的価値の反映が議論されたが、最終的には製造費や薬の新規性を考慮した通常の算定方法で算出された。専門家や関係者からは、新薬の保険適用により治療が前進することへの期待とともに、検査費用や治療に関する不安の意見も上がっている。また、効果が見込める患者の適切な選別や、新しい治療薬に対応できる認知症医療システムの構築が今後の課題とされている。参考1)新医薬品の薬価収載について(厚労省)2)認知症薬エーザイ「レカネマブ」 年298万円 中医協、保険適用を承認(日経新聞)3)見えぬ全体像、処方可能な医療機関は限定的 アルツハイマー病新薬(毎日新聞)4)アルツハイマー病新薬 年間約298万円で保険適用対象に 中医協(NHK)6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府政府は来年度の診療報酬改定において、医療従事者の人件費に相当する「本体」部分を0.88%引き上げる方針を固めた。今回の診療報酬の改定をめぐっては、各医療団体から物価高騰や医療従事者の賃上げに対応する意見が上がっていた。一方、薬の公定価格である「薬価」は約1%引き下げとなり、全体としてはマイナス改定となる見通し。岸田 文雄首相は、財務省と厚生労働省の間での議論を経て、賃上げ方針を医療従事者にも波及させるために、最終的に引き上げを決定した。診療報酬改定は原則2年に1度行われ、今回の改定は前回2022年度の0.43%引き上げを上回る水準となる。今回の改定により、医療従事者の処遇改善が期待される一方で、国民の保険料負担の増加が懸念される。また、診療所の利益剰余金の増加や医療費の抑制が課題となっており、国民負担の抑制が今後の大きな課題になっている。参考1)「本体」0.88%引き上げ=賃上げ対応、全体ではマイナス-24年度診療報酬改定(時事通信)2)診療報酬「本体」0.88%上げ、政府方針…「薬価」は1%引き下げで調整し全体ではマイナス改定(読売新聞)3)診療報酬改定 人件費など「本体」0.88%引き上げで調整 政府(NHK)

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肥満2型糖尿病患者に強化インスリン療法は必要か?(解説:住谷哲氏)

 本試験では基礎インスリンを投与しても、血糖コントロール目標が達成できない肥満2型糖尿病患者に対するチルゼパチド週1回投与と毎食前リスプロ投与による強化インスリン療法との有効性が比較された。結果は予想通り、HbA1c低下、体重減少、目標血糖値達成率、低血糖の回避のすべてでチルゼパチドが優れていた。 経口血糖降下薬のみでは血糖コントロール目標が達成できない場合の治療選択肢として、以前は基礎インスリンを併用するBOT basal-supported oral therapyが金科玉条であったが、現在では基礎インスリンを投与する前にGLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬を含む)を追加投与することが推奨されている1)。しかし現在でもfirst injectionにGLP-1受容体作動薬ではなく基礎インスリンが選択されることが少なくない。その場合、まずは基礎インスリンを0.5U/kgまで増量する。それでも血糖コントロール目標が達成できない場合には、GLP-1受容体作動薬を併用しないのであれば、強化インスリン療法へ移行することになる。しかし肥満2型糖尿病患者における強化インスリン療法はもろ刃の剣であり、肥満の助長は避けては通れない。 本試験では、FBGはチルゼパチド群およびリスプロ群の両群で100-125mg/dLを目指してグラルギンを増量し、さらにリスプロ群では毎食前BG100-125mg/dLを目指してリスプロを増量するようにデザインされた。試験開始時のグラルギン投与量は両群で46U/日(0.5U/kg)であったが、チルゼパチド群ではグラルギン投与量は試験終了時52週後に13U/日(0.15U/kg)まで減少した。さらに15mg投与群では、19%の患者においてグラルギン投与が不要となった。一方、リスプロ群の52週でのグラルギン投与量は42U/日(0.45U/kg)、リスプロ投与量は62U/日(0.67U/kg)、1日総インスリン投与量は112U/日(1.2U/kg)となった。 筆者も強化インスリン療法で治療中の肥満2型糖尿病患者に、セマグルチドを併用することでインスリン投与から離脱した症例を経験したことがある。病態生理から考えても、高インスリン血症を伴っている可能性の高い肥満2型糖尿患者における強化インスリン療法には疑問がある。コストや有害事象などを考慮することが当然必要であるが、肥満2型糖尿病患者における強化インスリン療法は、基礎インスリンにGLP-1受容体作動薬を併用しても血糖コントロール目標が達成できない患者に対する最後の選択肢としての位置付けが適切だろう。

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2型糖尿病治療薬としてのGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutide(解説:住谷哲氏)

 筆者はこれまで、血糖降下薬多剤併用でも血糖管理目標が達成できない患者を少なからず経験したが、その多くは食欲がコントロールできない肥満合併患者であった。しかしGLP-1受容体作動薬の登場で、食欲抑制を介して体重を減少させることが可能となり、2型糖尿病治療は大きく前進した。最新のADA/EASDの血糖降下薬使用アルゴリズムにおいて、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬と同様に臓器保護薬として位置付けられている1)。しかし、GLP-1受容体作動薬はcardiovascular disease dominoのより上流に位置する肥満を制御することが可能な薬剤であり、この点がSGLT2阻害薬とは異なっている。 本試験は、GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの血糖降下薬としての有効性を検証した第II相臨床試験であるが、肥満症治療薬としての有効性を検証した試験の結果がほぼ同時に報告されている2)。そこでは約1年(48週)投与後の体重減少率が24%と、驚くべき効果が示されている。これはセマグルチド、チルゼパチドの体重減少作用を凌駕している。GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)が登場するまでは、最強のGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:オゼンピック)であった。しかしretatrutideが投与可能となれば、チルゼパチドは最強のGLP-1受容体作動薬の座をretatrutideに明け渡すことになるだろう。 開発企業のEli Lillyは、すでにretatrutideの臨床開発プログラムであるTRIUMPH programを開始しており、対象には肥満を合併した2型糖尿病だけではなく、睡眠時無呼吸症候群、変形性膝関節症の患者も含まれている。つまり、肥満を基礎とする広範な疾患に対する治療薬としての位置付けを目指しているようだ。 わが国で肥満症治療薬として認可されているGLP-1受容体作動薬はセマグルチド(同:ウゴービ)だけであるが、近い将来にチルゼパチドもretatrutideも認可されるだろう。わが国でも増加し続けている肥満症患者のすべてに、これらの薬剤を投与することが医療経済的に正当化されるか否かは議論が必要だろう。英国のNICEのガイダンスのように3)、対象患者、投薬期間を明確にして無制限な使用に歯止めをかけることも必要かもしれない。

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第162回 2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省

<先週の動き>1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2022年度の日本の概算医療費が46兆円に達し、2年連続で過去最高を更新したことが厚生労働省から発表された。前年度に比べて4.0%増加しており、新型コロナウイルスの感染拡大と高齢化が主な影響因子とされている。厚労省によると、新型コロナウイルスのオミクロン株の流行が、とくに影響を与え、発熱外来などの患者数が大幅に増加した。コロナ患者の医療費は前年度の倍近い8,600億円に上った。また、75歳以上の人々が全体の医療費の約39.1%(18兆円)を占め、その1人当たりの医療費が95万6千円であり、75歳未満の24万5千円に比べ3.9倍だった。診療種類別では、医科が34.3兆円(4.5%増)、歯科が3.2兆円(2.6%増)、調剤が7.9兆円(1.7%増)といずれも増加。とくに、医科の外来や在宅などの入院外が16.2兆円(6.3%増)と目立つ伸びをみせた。診療所においては、不妊治療の保険適用が拡大したことで、産婦人科が前年度比41.7%増と大幅に伸びた。このような背景から、医療費の増加が持続している現状において、その抑制方法が課題となっている。とくに新型コロナウイルスの影響と高齢化が相まって、今後も医療費の増加が予想される。参考1)令和4年度 医療費の動向-MEDIAS-(厚労省)2)医療費が過去最大46兆円 4年度概算、コロナ影響(産経新聞)3)医療費1.8兆円増の46兆円 2年連続過去最高 新型コロナが影響(朝日新聞)4)22年度概算医療費46兆円、2年連続で過去最高 前年度比4%増(CB news)2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省厚生労働省によると、全国の新型コロナの患者数は前週比で1.07倍増となり、とくに岩手、青森、宮城の患者数が多い状況が明らかとなった。新たな入院者数は全国で1万3,501人と、前週よりは減少しているものの、重症患者数は増加している。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、学校における影響も顕著になっており、とくに新学期が始まった地域で学級閉鎖が相次いでいる。日本学校保健会によると、全国の小中高校と幼稚園、保育園で149クラスが閉鎖されている。長野県では、新学期が始まったばかりで31クラスが閉鎖され、これは5月以降で最多。感染症の専門家は、学校が再開されることで、子供たちでの感染がさらに広がる可能性を指摘している。また、ワクチン接種から時間が経過すると効果が下がるため、高齢者や基礎疾患のある人は、次の接種が必要になると警告している。自治体や学校は、発熱や倦怠感などがある場合には、無理に登校しないよう呼びかけており、基本的な感染対策の徹底を求めている。参考1)新型コロナで学級閉鎖相次ぐ 「5類移行」後、最多更新の地域も(毎日新聞)2)新型コロナ 全国の感染状況 前週の1.07倍 2週連続の増加(NHK)3)コロナ感染者数、2週続けて増加 前週比1.07倍 5類後最多に(朝日新聞)3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省厚生労働省は、9月1日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を開き、自治体が管理している予防接種の記録や、国が保有する副反応の情報などをまとめた全国的なデータベースを作成する方針を明らかにした。これまでの手書きでの報告を改訂し、効率的に情報収集を行う予定。データベースには、接種記録や副反応疑い報告などが匿名化されて格納され、他のデータベースと連携し、予防接種の有効性・安全性の調査・研究が可能となるため、大学研究機関などに第三者提供も行われる予定。これらの取り組みで、ワクチン接種後の副反応や重篤な有害事象の発生について、副反応の情報と接種歴を結びつけて詳細な分析を可能になる見込み。また、データベースの情報は、レセプト(診療報酬明細書)とも結びつけられ、接種した人としていない人の間で副反応が疑われる症状が起きる割合に差があるかを調査することも計画されている。厚労省は、このデータベースを令和8年度中に稼働させ、ワクチンの有効性や安全性の分析に役立てる方針としている。参考1)予防接種データベースについて(厚労省)2)予防接種データベース「整備イメージ」提示 厚労省、報告様式改訂し情報収集を効率化(CB news)3)ワクチン分析 自治体や国保有の情報データベース作成へ 厚労省(NHK)4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省今春、肥満症治療の新薬「セマグルチド(商品名:ウゴービ)」が承認され、1992年に承認されたマジンドール(同:マサノレックス)以来、約30年ぶりの肥満症治療の新薬の登場で、肥満症の治療は大きく進歩している。さらに糖尿病治療薬として承認された持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(同:マンジャロ)」は20%の体重減少効果が確認されており、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、糖尿病の治療だけでなく、肥満症の治療としても注目されている。その一方、近年、痩せるために糖尿病薬を処方する「メディカルダイエット」が横行し、その弊害として欠品が問題となっている。厚生労働省は、この問題に対処するために、医療機関や卸業者に対してGLP-1受容体作動薬について「買い込みを控え適正使用」を呼びかけ、適正な使用と供給の優先を求めている。メーカー側は「医師の処方権」や「独占禁止法」により、適応外処方を厳しく規制することができないとしている。しかし、GLP-1受容体作動薬が適応外使用での処方や適応外でありながら大量に広告されていることから有害事象の発生など懸念が広がっている。参考1)GLP-1 受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(厚労省)2)30年ぶりの肥満症新薬と、「メディカルダイエット」が招く弊害(毎日新聞)3)“体重20%減”のダイエット効果があだに、糖尿病薬「空前の品不足」で診療に支障も(ダイヤモンド・オンライン)5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会は、生殖補助医療の倫理的課題やデータ管理に対応するための公的機関設立の準備を始めたと発表した。医療技術の進展に伴い、第三者からの精子や卵子の提供など、新たな治療法が増加している一方で、倫理的な議論や法制度の整備が遅れている現状に対処するよう国側に強く働きかけたいとして同学会が決定した。1978年に世界で初めて体外受精が成功して以降、多くの国では親子関係や提供者の情報管理に関する法制度が整備されているのに対し、わが国では、生殖補助医療に関する法整備が世界に比べて遅れており、法整備が進まず、議論が始まったのは比較的最近であり、その結果としての法制度も不十分な状態が続いている。2020年には「生殖補助医療法」が成立し、一定の規定は確立されたが、提供者と子の「出自を知る権利」などがいまだに十分に考慮されていないのが現状。この法には2年以内に詳細を検討するという付則があったが、その期限が過ぎても議論は進展していない状態となっている。具体的には、新たな改正案で提案されている公的機関(独立行政法人)は、提供者の氏名や住所、生年月日などを100年間保存するよう求められている。しかし、この機関が情報を開示するかどうかは、提供者の同意に依存しており、その点が問題視されている。また、法案では提供を受けられるのは法律上の夫婦に限定されているなど、性的マイノリティーや代理出産に対する規定も不明確となっている。これらの課題を解決するためには、公的機関の設立だけでなく、広範な倫理的、法的議論が必要であり、産婦人科学会は国や関連団体に対して、専門の調査委員会を設けて、これらの課題に十分に議論を重ねることを求めている。参考1)“生殖補助医療の課題対応” 学会 公的機関の設立準備委(NHK)2)世界から遅れ 生殖補助医療法の必要性を指摘してきた識者の憂い(毎日新聞)3)生殖補助医療法、2年の改正期限過ぎるも議論混迷、次期国会どうなる(朝日新聞)6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省厚生労働省は、2021年度の介護費用(保険給付と自己負担を含む)が11兆2,838億円に達し、過去最大を更新したと発表した。この額は2年連続で11兆円を超え、高齢化に伴い、介護サービスの利用者が増加している。同時に、介護保険の給付費(利用者負担を除く)も前年度比2.0%増の10兆4,317億円となり、これもまた過去最高を更新した。介護や支援が必要とされる人々も、21年度末時点で前年度比1.1%増の690万人となり、うち601万人が75歳以上であることが明らかとなり、これも過去最多の数値。給付費の内訳については、訪問介護などの「居宅サービス」が4兆9,604億円で最も多く、次いで特別養護老人ホームなどの「施設サービス」が3兆1,938億円となっている。高齢化が進む中で、介護費用と給付費の増加は持続的な問題となっている。とくに、75歳以上の高齢者が多くを占めていることから、今後もこの傾向は続くと予想される。参考1)令和3年度 介護保険事業状況報告(厚労省)2)介護費、最大の11兆円 21年度(日経新聞)3)介護給付費、10兆4千億円 21年度、高齢化で更新続く(共同通信)

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経口セマグルチド(リベルサス)の最大投与量は50mgで決着か?(解説:住谷哲氏)

 現在(2023年8月)、わが国ではGLP-1受容体作動薬の注射製剤の供給に問題が生じており、使いやすい週1回製剤であるトルリシティ、オゼンピック、マンジャロ(厳密にはGIP/GLP-1受容体作動薬)の新規処方はできず、使用できるのは毎日注射製剤のビクトーザ、リキスミアとバイエッタのみとなっている。経口セマグルチドであるリベルサスに関しては処方制限の噂は聞かないので、当面は新規処方に問題は生じないと信じたい。 セマグルチド注射薬は血糖降下薬としての最大投与量は1.0mg/週であるが、肥満症治療薬としては2.4mg/週までの投与が、わが国でも製造承認されている。つまり、肥満症治療薬としては血糖降下薬よりも投与量を増やす必要があることになる。経口セマグルチドは現時点で血糖降下薬としてのみ承認されているが、同じセマグルチドなので当然肥満症治療薬として使用可能である。すでにそのための臨床試験であるOASIS 1の結果が報告されて、経口セマグルチド50mg/日が肥満症治療薬として有効であることが示された1)。 経口セマグルチドの第II相臨床試験では、経口セマグルチドの血糖降下作用には40mgまで用量依存性のあることが報告されている2)。しかしリベルサスの最大投与量は14mgに設定されて、40mgではない。それでは、なぜ今になって25mgと50mgとの有効性を検証する本試験が実施されたのだろうか? セマグルチドの血糖降下作用および体重減少作用は、注射薬および経口薬を問わず、達成されたセマグルチドの血中濃度に依存する3)。その論文では、経口セマグルチド14mg投与患者の血中セマグルチド濃度には最大で10倍程度の個人差があることが示されている。単純に言えば、14mg投与しても1.4mg投与したのと同様の効果しか出ない患者が存在することになる。したがって、血中セマグルチド濃度の上昇が少ない患者では50mg投与すれば、血中濃度の増加に伴って血糖降下作用および体重減少作用が増大することが期待される。それを証明するのが本試験の目的だったのだろうと筆者は推測している。 経口薬であれ注射薬であれ、GLP-1受容体作動薬の有用性は確立している。供給問題の一刻も早い収束を期待したい。

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GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの有効性・安全性/Lancet

 2型糖尿病患者の治療において、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴンの3つの受容体の作動活性を有する新規単一ペプチドretatrutideは、プラセボと比較して、血糖コントロールについて有意かつ臨床的に意義のある改善を示すとともに、頑健な体重減少をもたらし、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬とほぼ同様であることが、米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月26日号で報告された。米国の無作為化プラセボ/実薬対照第II相試験 本研究は、米国の42施設が参加した二重盲検無作為化ダブルダミー・プラセボ/実薬対照第II相試験であり、2021年5月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングと無作為化が行われた(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18~75歳、HbA1c値7.0~10.5%(53.0~91.3mmol/mol)、BMI値25~50の2型糖尿病患者が、スクリーニング前の少なくとも3ヵ月間、食事療法と運動療法のみの治療、または安定用量のメトホルミン(≧1,000mg、1日1回)による治療を受けた後、次の8つの群(いずれも週1回皮下投与)に、2対2対2対1対1対1対1対2の割合で無作為に割り付けられた。 (1)プラセボ、(2)デュラグルチド1.5mg、(3)retatrutide 0.5mg、(4)同4mg(開始用量2mg)、(5)同4mg(漸増せず)、(6)同8mg(開始用量2mg)、(7)同8mg(開始用量4mg)、(8)同12mg(開始用量2mg)。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週時点までのHbA1cの変化であり、副次エンドポイントには、36週時点までのHbA1cおよび体重の変化が含まれた。 281例が登録され、プラセボ群に45例、デュラグルチド1.5mg群に46例、retatrutide 0.5mg群に47例、同4mg漸増群に23例、同4mg群に24例、同8mg緩徐漸増群に26例、同8mg急速漸増群に24例、同12mg漸増群に46例が割り付けられた。全体の平均年齢は56.2(SD 9.7)歳、女性が156例(56%)で、平均糖尿病罹患期間は8.1(SD 7.0)年、白人が235例(84%)であり、平均HbA1cは8.3%(SD 1.1)、平均BMI値は35.0(SD 6.3)、平均体重は98.2kg(SD 21.1)であった。脂質プロファイルを改善し、血圧を低下させる効果も 24週時におけるHbA1cのベースラインからの最小二乗平均変化は、プラセボ群が-0.01%(SE 0.21)、デュラグルチド1.5mg群が-1.41%(0.12)であったのに対し、retatrutide 0.5mg群は-0.43%(0.20)、4mg漸増群は-1.39%(0.14)、4mg群は-1.30%(0.22)、8mg緩徐漸増群は-1.99%(0.15)、8mg急速漸増群は-1.88%(0.21)、12mg漸増群は-2.02%(0.11)であった。 retatrutideによるHbA1cの低下は、プラセボ群と比較して0.5mg群を除く5つの群で有意に大きく(いずれもp<0.0001)、デュラグルチド1.5mg群との比較では8mg緩徐漸増群(p=0.0019)と12mg漸増群(p=0.0002)で有意に大きかった。36週時にも、これらと一致した知見が得られた。 また、体重は36週の時点でretatrutideの用量依存性に減少し、減少率は0.5mg群3.19%(SE 0.61)、4mg漸増群7.92%(1.28)、4mg群10.37%(1.56)、8mg緩徐漸増群16.81%(1.59)、8mg急速漸増群16.34%(1.65)、12mg漸増群16.94%(1.30)であった。プラセボ群の体重減少率は3.00%(0.86)、デュラグルチド1.5mg群は2.02%(0.72)だった。 体重減少は、プラセボ群と比較してretatrutideの用量が4mg以上の群ではいずれも有意に大きく(4mg漸増群:p=0.0017、これ以外のすべての群:p<0.0001)、デュラグルチド1.5mg群との比較でも4mg以上の群で有意に大きかった(いずれもp<0.0001)。 軽度~中等度の消化器系の有害事象(吐き気、下痢、嘔吐、便秘など)が、retatrutide群の35%(67/190例、0.5mg群の13%[6/47例]から8mg急速漸増群の50%[12/24例]までの範囲)、プラセボ群の13%(6/45例)、デュラグルチド1.5mg群の35%(16/46例)で発現した。試験期間中に重篤な低血糖の報告はなく、死亡例もなかった。 著者は、「同時に、retatrutideは脂質プロファイルを改善し、血圧を低下させ、心代謝系のアウトカムを全般的に改善した」とし、「これら第II相試験の知見は、2型糖尿病および他の肥満関連合併症を有する肥満患者を対象とする第III相試験において、retatrutideの有効性と安全性をさらに検討することを支持するものである」と指摘している。

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肥満2型DMでのチルゼパチド、体重減少にも有効/Lancet

 過体重または肥満の2型糖尿病患者において、チルゼパチド10mgおよび15mgの週1回72週間皮下投与は、体重管理を目的とした他のインクレチン関連薬と同様の安全性プロファイルを示し、臨床的に意義のある大幅な体重減少をもたらしたことが示された。米国・アラバマ大学バーミンガム校のW Timothy Garvey氏らが、7ヵ国の77施設で実施された第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「SURMOUNT-2試験」の結果を報告した。肥満2型糖尿病患者の健康状態を改善するためには、体重減少が不可欠である。チルゼパチドは持続性のGIP/GLP-1受容体作動薬で、非2型糖尿病の肥満患者を対象としたSURMOUNT-1試験では、72週間のチルゼパチドによる治療で体重が最大20.9%減少することが認められていた。Lancet誌オンライン版2023年6月24日号掲載の報告。BMI 27以上の2型DM患者で、チルゼパチド10mgまたは15mgをプラセボと比較 研究グループは、BMI値27以上、HbA1c 7~10%の2型糖尿病成人患者(18歳以上)を、チルゼパチド10mg群、15mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、週1回72週間皮下投与した(週1回2.5mgから投与を開始し、4週ごとに2.5mgずつ増量)。スクリーニング前3ヵ月以内に体重が5kg以上変化した患者、肥満に対する外科的治療を受けたことがあるまたは予定されている患者、抗肥満薬、DPP-4阻害薬、経口GLP-1受容体作動薬または2型糖尿病の注射薬を投与されていた患者は除外した。すべての試験参加患者、研究者およびスポンサーは治療割り付けをマスクされた。 主要エンドポイントは2つで、ベースラインから72週までの体重変化率および72週時点のベースラインからの体重減少が5%以上を達成した患者の割合とした。治療レジメンの推定は、治療の中止または抗高血糖レスキュー治療開始を問わず有効性を評価した。 有効性と安全性のエンドポイントの解析評価は、無作為化されたすべての患者のデータを用いて行われた。72週間で体重減少最大14.7%、5%以上体重減少の達成率は79~83% 2021年3月29日~2023年4月10日に1,514例が適格性の評価を受け、938例が無作為化された(チルゼパチド10mg群312例、15mg群311例、プラセボ群315例)。患者背景は、平均年齢54.2±10.6歳、女性476例(51%)、白人710例(76%)、ヒスパニック系/ラテン系561例(60%)であった。また、ベースラインの平均体重は100.7±21.1kg、BMIは36.1±6.6、HbA1cは8.02±0.89%であった。 72週時の体重のベースラインからの最小二乗平均変化率はチルゼパチド10mg群-12.8%(標準誤差[SE]0.6)、15mg群-14.7%(0.5)、プラセボ群-3.2%(0.5)であり、プラセボとの群間差はチルゼパチド10mg群-9.6ポイント(95%信頼区間[CI]:-11.1~-8.1)、15mg群-11.6ポイント(95%CI:-13.0~-10.1)であった(いずれもp<0.0001)。また、72週時の5%以上体重減少達成率は、プラセボ群32%に対し、チルゼパチド10mg群79%、15mg群83%であり、チルゼパチド群で高かった(いずれもp<0.0001)。 チルゼパチドの主な有害事象は、悪心、嘔吐、下痢などの胃腸障害で、多くが軽度~中等度であり、治療中止に至った有害事象はほとんどなかった(<5%)。重篤な有害事象は、全体で68例(7%)が報告された。チルゼパチド10mg群で死亡が2例確認されたが、治験責任医師によりチルゼパチドとの関連はないと判断された。

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糖尿病の正しい理解と持続性GIP/GLP-1受容体作動薬マンジャロへの期待

 2023年6月8日、日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、「2型糖尿病治療におけるアンメットニーズと展望」をテーマに、メディアラウンドテーブルを開催した。マンジャロのHbA1c低下効果について検証されたSURPASS J-mono試験 前半では日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部の今岡 丈士氏が、イーライリリー・アンド・カンパニー(米国)による世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」(一般名:チルゼパチド、以下「マンジャロ」)の特徴を紹介した。 イーライリリー・アンド・カンパニーは米国において、マンジャロを2022年6月7日より販売した。日本においては、マンジャロの全6規格のうち、2023年4月18日に開始用量、維持用量の2規格(2.5mg、5mg)を先行で、6月12日には高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)を販売開始した。 マンジャロは、天然GIPペプチド配列をベースに、GLP-1受容体にも結合するように構造を改変した薬剤である。GIPとGLP-1の両受容体に結合して活性化することで、グルコース濃度依存的にインスリン分泌を促進させる働きを有する。 国内第III相臨床試験であるSURPASS J-mono試験は、HbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量を指標として、チルゼパチド5mg/10mg/15mgを週1回投与したときのデュラグルチド0.75mg投与に対する優越性の検討を目的として実施された。対象は食事療法および運動療法のみ、またはチアゾリジン薬を除く経口血糖降下薬の単独療法で血糖管理が不十分な日本人2型糖尿病患者636例(平均年齢56.6歳)で、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群およびデュラグルチド0.75mg投与群に、ほぼ同数となるように無作為に割り当てられた。チルゼパチドの各投与群では、2.5mgから投与を開始し、その後目的の用量まで2.5mgずつ増量していった。 主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの変化量は、チルゼパチド5mg、10mg、15mg投与群でそれぞれ-2.4%、-2.6%、-2.8%であり、デュラグルチド0.75mg投与群の-1.3%と比較して有意なHbA1c低下量が認められた(p<0.0001)。発現が認められた有害事象にチルゼパチド各投与群とデュラグルチド投与群で大きな差はなく、主な有害事象は上咽頭炎、悪心、便秘などであった。重篤な有害事象はチルゼパチド投与群で前立腺がん、デュラグルチド投与群でCOVID-19肺炎などが認められた。糖尿病のスティグマを払拭するためには 後半では国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長の門脇 孝氏により、「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL達成」について語られた。 糖尿病の遺伝・環境因子の包括的な解析のために、3万6千人以上の日本人糖尿病患者を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)が実施され、2019年にはβ細胞の遺伝子発現調節やインスリン分泌制御に関与する日本人特有の遺伝子が報告された。さらにGWASの結果を基にして、個人の糖尿病に関連する一塩基多型を調べ、高い精度で糖尿病の発症リスクを予測するという臨床応用も検討されているという。 このように糖尿病治療は進んでいる一方、40~50年前の糖尿病のイメージの定着による誤解、糖尿病患者は自己管理が欠如しているという偏見が払拭されていないという。日本人の糖尿病は高度経済成長期に増加し、当時は網膜症による失明が多く治療も限られており、悲惨な病気というイメージが強く、この頃のイメージが社会に定着し、その後の誤解や偏見につながっているとされる。一方で、2022年の調査では糖尿病患者と非糖尿病患者では平均死亡時年齢は2.6歳の差にすぎないという結果が報告されている。また、2型糖尿病は約50%を遺伝子、残りの約50%を、社会環境要因を主とした環境要因により決定するとされており、「糖尿病は性格の欠点、個人の責任感の欠如のせいという自己責任論は二重、三重に誤りである」と門脇氏は語った。 スティグマとは「誤った知識や情報が拡散することにより、対象となった者が精神的、物理的に困難な状況に陥ることを指す」とされる。糖尿病のスティグマは社会や医療従事者から発信され、自分の病気を周囲に隠す、社会生活への参加を避けるなどのネガティブな影響を糖尿病患者に与えてしまう。そうした中、2019年に日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の合同によるアドボカシー委員会が設立され、糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指し、糖尿病の正しい理解を促進する活動が展開されている。門脇氏は「糖尿病のある人に対するさまざまな誤解や偏見を払拭していくアドボカシー活動が大事であり、そのような治療環境を整えることが糖尿病治療の目標達成のうえでとても重要である」とし、「糖尿病治療目標である糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLを達成するために、チルゼパチドへの期待が高まっている」と締めくくった。

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日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」【下平博士のDIノート】第120回

日本初の肥満症治療薬「ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD」今回は、肥満症治療薬「セマグルチド(遺伝子組換え)(商品名:ウゴービ皮下注0.25mg/0.5mg/1.0mg/1.7mg/2.4mgSD、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は肥満症を適応として承認された日本で初めてのGLP-1受容体作動薬であり、高血圧などを有し、食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない肥満症患者の体重減少効果が期待されています。<効能・効果>肥満症の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する患者、あるいはBMIが35kg/m2以上の患者に処方されます。<用法・用量>通常、成人には、セマグルチド(遺伝子組換え)として0.25mgから投与を開始し、週1回皮下注射します。その後は4週間の間隔で、週1回0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgの順に増量し、以降は2.4mgを週1回皮下注射します。患者さんの状態に応じて適宜減量します。<安全性>日本人被験者が参加した第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験、NN9536-4382試験)において、2,008例中1,359例(67.7%)に副作用が発現しました。主なものは、悪心(36.4%)、下痢(23.5%)、嘔吐(19.1%)、便秘(19.0%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖、急性膵炎(0.1%)、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸が設定されています(発現率の記載のないものは頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬には、脳に作用して食欲を抑えることで、体重を減らす作用があります。2.血糖値を下げる作用があるため、脱力感、倦怠感、高度の空腹感、めまいなどの低血糖症状が現れた場合は糖質を含む食品を取ってください。また、高所作業、自動車の運転などに注意してください。3.1週間に1回、同一曜日に皮下に注射してください。適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんまたはご家族は自己注射することができます。注射は、腹部、ふともも、上腕に行います。注射箇所は毎回変更し、少なくとも前回の場所から2~3cm離して注射してください。4.1回使い切りの注射薬です。5.嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などの症状が現れた場合は、使用を中止して速やかに医師の診察を受けてください。6.次回の投与日を忘れないように、カレンダーなどに書き留めることをお勧めします。7.凍結を避けて冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。<Shimo's eyes>本剤は、肥満症治療薬として承認された唯一のGLP-1受容体作動薬です。固定注射針付きシリンジを注入器にセットした単回使用のコンビネーション製品で、週1回皮下投与します。名称の「SD」は、単回投与を意味するSingle Doseの頭文字に由来します。GLP-1は小腸のL細胞から分泌されるインクレチンホルモンであり、血糖降下作用のほか、中枢における摂食抑制作用を有するため、体重を減少させる効果があります。本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体を介した血糖降下作用を有しているため、2型糖尿病を有する患者において両剤が併用された際の有効性および安全性は確認されていません。投与する対象患者については厳しい条件が課せられていて、(1)高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有していること、(2)食事療法・運動療法を行っても効果が不十分であること、(3-1)BMIが27kg/m2以上かつ2つ以上の肥満に関連する健康障害を有していること、または(3-2)BMIが35kg/m2以上であることが求められます。日本人が参加した国際共同第III相試験(NN9536-4373試験、NN9536-4374試験)および国際共同第III相試験(NN9536-4382試験)において、投与68週時までの体重変化率および5%以上の体重減少達成率でプラセボに対する優越性を示しました。重大な副作用として、低血糖、急性膵炎が現れることがあります。嘔吐を伴う持続的な激しい腹痛などが現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、使用を中止して速やかに医師の診察を受けるように指導しましょう。本剤と同じセマグルチドを有効成分とする薬剤として、週1回投与の注射剤であるオゼンピック皮下注が2018年3月に、1回使い切りの同SD製剤が2020年3月に、1日1回投与の経口薬であるリベルサス錠が2020年6月に、それぞれ2型糖尿病を効能・効果として承認されています。自由診療において、これらの薬剤がダイエット・美容目的で適応外処方されることが問題となっています。ウゴービ皮下注の臨床試験では、BMIならびに肥満に関連する健康障害の参加基準が厳格に定められていたことから、これらの薬剤の不適正使用について日本糖尿病学会から注意喚起されており、健康被害の防止と適正使用の推進が求められています。なお、本剤は「最適使用推進ガイドライン対象品目」であり、処方には条件が付く可能性があります。関連サイトGLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解

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2型糖尿病の薬物療法で最適な追加オプションは?(解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の登場により、近年2型糖尿病の薬物療法が大きく変わった。既存の糖尿病治療薬では認められなかった、心血管イベントや腎不全を抑制する効果が数多く報告されたからだ。さまざまな糖尿病治療薬の中からどの薬剤を選択するか、その判断の一助になるネットワークメタ解析の論文がBMJ誌に発表された1)。 この論文の背景として、2年前の2021年に同じBMJ誌に掲載された論文について少し触れたい。この当時すでにGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬のエビデンスは集積しており、これら2製剤がこれまでの糖尿病治療薬と比較して全死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全、体重減少などのベネフィットがあることがネットワークメタ解析により明らかになった2)。また桑島 巖先生(J-CLEAR理事長)がこの論文に対するコメントを執筆しているのでご一読いただきたい3)。 今回の論文の新しい点は、従来治療薬に追加するオプションとして、最近登場したGIP/GLP-1受容体作動薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)の2製剤が加わったことである。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、MR拮抗薬を含む13種類の薬剤の中から追加投与した場合の、死亡や心血管系および腎臓系の有害アウトカムの減少、体重減少などについてシステマティックレビューとネットワークメタ解析が実施された。 解析の結果、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬については全死亡、心血管死、非致死性心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全の抑制に有効であることが示されたが、これまでのRCTやネットワークメタ解析の結果と同様であり新規性はない。一方、MR拮抗薬のフィネレノンが全死亡、心不全による入院、末期腎不全の減少に効果的である可能性が示された点は新しい知見である。MR拮抗薬は糖尿病治療薬ではないが、腎臓系の有害アウトカムについてはSGLT2阻害薬より劣るものの効果がある可能性があり、心不全による入院や全死亡も低下させる可能性が示されたため、今後日常診療で使用される頻度が増えるだろう。 今回の解析で、13種類の製剤の中でGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が心血管系および腎臓系の有害アウトカムや死亡の減少、さらにQOLの改善に最も効果があることが確認された。一方、GIP/GLP-1受容体作動薬については、体重減少効果は最も大きかったが、GLP-1受容体作動薬で認められる死亡や心血管・腎イベントの抑制効果は認められなかった。新しい薬剤のため解析対象となった試験が少ないことが影響しているのかもしれない。今後のGIP/GLP-1受容体作動薬の臨床研究に期待したい。 有害事象については、SGLT2阻害薬では性器感染症、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬では胃腸障害、MR拮抗薬では入院を要する高カリウム血症のリスクが高かった。いずれも薬剤クラス固有のものであり、とくに目新しい有害事象の報告はなかった。 近年、ネットワークメタ解析を用いた臨床研究の論文が増えていると感じる。従来のメタ解析では2種類の治療薬の比較しかできないが、今回の論文のように3種類以上の比較を行うことができるのがネットワークメタ解析のメリットである。しかし、このネットワークメタ解析により、新たに大きなエビデンスが生み出されるというわけではないことに注意しなければならない4)。ネットワークメタ解析は、RCTよりエビデンスレベルは下がるものの、今回のように比較したい糖尿病治療薬が多数あるような場合には、治療の「次の一手」を選択する際に参考となるデータを提供してくれる手法である。

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世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」発売/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、4月18日付のプレスリリースで、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注2.5mgアテオス」「同皮下注5mgアテオス」(一般名:チルゼパチド、以下「マンジャロ」)の販売を同日より開始したことを発表した。 マンジャロは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬である。天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子の構造だが、GLP-1受容体にも結合するように改変されており、選択的に長時間作用し血糖値を改善させる。本剤は、1回使い切りのオートインジェクター型注入器(「アテオス」)によって、週1回皮下注射する薬剤である。あらかじめ注射針が取り付けられた専用ペン型注入器により、注入ボタンを押すことで自動的に注射針が皮下に刺さり、1回量が充填されている薬液が注入されるため、患者が用量を設定したり、注射針を扱ったりする必要がない。 また、本剤は通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgの開始用量から開始し、4週間投与した後、週1回5mgの維持用量に増量する。患者の状態に応じて適宜増減が可能な薬剤であり、5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量ができ、最大で週1回15mgまで使用が可能である。6つの用量規格のうち、開始用量(2.5mg)と維持用量(5mg)の2規格が先行して4月18日より発売され、高用量の4規格(7.5mg、10mg、12.5mg、15mg)は、6月12日に発売予定である。 日本イーライリリーの糖尿病・成長ホルモン事業本部長メアリー・トーマス氏は、「このたびのマンジャロの発売を大変うれしく思います。2型糖尿病と共に歩む多くの方々へ、新しいクラスの治療選択肢としてマンジャロをお届けできるように適正な情報提供に努めてまいります」と述べている。 また、田辺三菱製薬の営業本部長である吉永 克則氏は、「当社は、『病と向き合うすべての人に、希望ある選択肢を。』をMISSIONとして掲げております。新発売を迎えたマンジャロが2型糖尿病と共に歩む人々にとって希望ある選択肢となるよう、情報提供活動を通じてマンジャロの適正使用を推進してまいります」としている。 なお、本剤は、イーライリリー・アンド・カンパニーが米国において2022年5月13日、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬として承認を取得し、同年6月7日より「Mounjaro」の製品名で販売を開始している。日本では、同年9月26日に承認を取得した。マンジャロの製造販売承認は日本イーライリリーが有し、販売・流通は田辺三菱製薬が行う。医療従事者への情報提供活動は日本イーライリリーと田辺三菱製薬が共同で実施する。

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2型DMの追加処方に有益なのは?~816試験をメタ解析/BMJ

 中国・四川大学のQingyang Shi氏らはネットワークメタ解析を行い、2型糖尿病(DM)成人患者に対し、従来治療薬にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を追加投与する場合の実質的な有益性(心血管系および腎臓系の有害アウトカムと死亡の減少)は、フィネレノンとチルゼパチドに関する情報を追加することで、既知を上回るものとなることを明らかにした。著者は、「今回の結果は、2型DM患者の診療ガイドラインの最新アップデートには、科学的進歩の継続的な評価が必要であることを強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年4月6日号掲載の報告。24週以上追跡のRCTを対象に解析 研究グループは、2型DM成人患者に対する薬物治療として、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノンを含む)とチルゼパチド(二重GIP/GLP-1受容体作動薬)を既存の治療オプションに追加する有益性と有害性の比較を目的にシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 Ovid Medline、Embase、Cochrane Centralを用いて、2022年10月14日時点で検索。無作為化比較試験で、追跡期間24週以上を適格とし、クラスの異なる薬物治療と非薬物治療の組み合わせを体系的に比較している試験、無作為化比較試験のサブグループ解析、英語以外の試験論文は除外した。エビデンスの確実性についてはGRADEアプローチで評価した。816試験、被験者総数47万1,038例のデータを解析 解析には816試験、被験者総数47万1,038例、13の薬剤クラスの評価(すべての推定値は、標準治療との比較を参照したもの)が含まれた。 SGLT2阻害薬と、GLP-1受容体作動薬の追加投与は、全死因死亡を抑制した(それぞれオッズ比[OR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.83~0.94]、0.88[0.82~0.93]、いずれも高い確実性)。 非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬については、慢性腎臓病を併存する患者へのフィネレノン投与のみが解析に含まれ、全死因死亡抑制の可能性が示唆された(OR:0.89、95%CI:0.79~1.00、中程度の確実性)。その他の薬剤については、おそらくリスク低減はみられなかった。 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の追加投与については、心血管死、非致死的心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全を抑制する有益性が確認された。フィネレノンは、心不全による入院、末期腎不全をおそらく抑制し、心血管死も抑制する可能性が示された。 GLP-1受容体作動薬のみが、非致死的脳卒中を抑制することが示された。SGLT2阻害薬は他の薬剤に比べ、末期腎不全の抑制に優れていた。GLP-1受容体作動薬は生活の質(QOL)向上に効果を示し、SGLT2阻害薬とチルゼパチドもその可能性が示された。 報告された有害性は主に薬剤クラスに特異的なもので、SGLT2阻害薬による性器感染症、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬による重症胃腸有害イベント、フィネレノンによる高カリウム血症による入院などだった。 また、チルゼパチドは体重減少がおそらく最も顕著で(平均差:-8.57kg、中程度の確実性)、体重増加がおそらく最も顕著なのは基礎インスリン(平均差:2.15kg、中等度の確実性)とチアゾリジンジオン(平均差:2.81kg、中等度の確実性)だった。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、フィネレノンの絶対的有益性は、ベースラインの心血管・腎アウトカムリスクにより異なった。

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GLP-1受容体作動薬・TAZ/PIPC、重大な副作用追加で添文改訂/厚労省

 厚生労働省は2023年2月14日、GLP-1受容体作動薬含有製剤およびGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの添付文書について、改訂を指示した。改訂内容は、『重要な基本的注意』の項への「胆石症、胆嚢炎、胆管炎または胆汁うっ滞性黄疸に関する注意」の追記(チルゼパチドは「急性胆道系疾患に関する注意」からの変更)、『重大な副作用』の項への「胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸」の追加である。本改訂は、GLP-1受容体作動薬含有製剤投与後に発生した「胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸」の国内症例の評価、GLP-1受容体作動薬と急性胆道系疾患との関連性を論じた公表文献の評価に基づくもの。なお、チルゼパチドについては関連する症例集積はないものの、GLP-1受容体に対するアゴニスト作用を有しており、GLP-1受容体作動薬と同様の副作用が生じる可能性が否定できないことから、使用上の注意の改訂が適切と判断された。『重要な基本的注意』が新設・変更<新設>リラグルチド(遺伝子組換え)、エキセナチド、リキシセナチド、デュラグルチド(遺伝子組換え)、セマグルチド(遺伝子組換え)、インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)、インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド<変更>チルゼパチド 改訂後の添付文書において追加された記載、変更後の記載は以下のとおり。8. 重要な基本的注意 胆石症、胆嚢炎、胆管炎又は胆汁うっ滞性黄疸が発現するおそれがあるので、腹痛等の腹部症状がみられた場合には、必要に応じて画像検査等による原因精査を考慮するなど、適切に対応すること。『重大な副作用』が新設 該当医薬品は、リラグルチド(遺伝子組換え)、エキセナチド、リキシセナチド、デュラグルチド(遺伝子組換え)、セマグルチド(遺伝子組換え)、インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)、インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド、チルゼパチド。 改訂後の添付文書において追加された記載は以下のとおり。11. 副作用11.1 重大な副作用胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸「急性胆道系疾患関連症例」*の国内症例の集積状況(1)13例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例8例](2)、(5)3例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例1例](3)4例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例1例](4)23例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例6例](6)、(7)1例[うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例0例](8)0例いずれも死亡例はなかった。(1)リラグルチド(遺伝子組換え)[販売名:ビクトーザ皮下注18mg](2)エキセナチド[販売名:バイエッタ皮下注5/10μgペン300、ビデュリオン皮下注用 2mgペン](3)リキシセナチド[販売名:リキスミア皮下注300μg](4)デュラグルチド(遺伝子組換え)[販売名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス](5)セマグルチド(遺伝子組換え)[販売名:オゼンピック皮下注0.25/0.5/1.0mgSD、同皮下注2mg、リベルサス錠3/7/14mg](6)インスリン デグルデク(遺伝子組換え)/リラグルチド(遺伝子組換え)[販売名:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ](7)インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド[販売名:ソリクア配合注ソロスター](8)チルゼパチド[販売名:マンジャロ皮下注2.5/5/7.5/10/12.5/15mgアテオス]*:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例タゾバクタム・ピペラシリン水和物にも『重大な副作用』が新設 同日、タゾバクタム・ピペラシリン水和物の添付文書についても改訂が指示され、『重大な副作用』の項へ「血球貪食性リンパ組織球症(血球貪食症候群)」が追加された。改訂後の添付文書に追加された記載は以下のとおり。<旧記載要領>4. 副作用(1)重大な副作用(頻度不明)11)血球貪食性リンパ組織球症(血球貪食症候群)血球貪食性リンパ組織球症があらわれることがあるので、観察を十分に行い、発熱、発疹、神経症状、脾腫、リンパ節腫脹、血球減少、LDH上昇、高フェリチン血症、高トリグリセリド血症、肝機能障害、血液凝固障害等の異常が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。<新記載要領>11. 副作用11.1 重大な副作用11.1.11 血球貪食性リンパ組織球症(血球貪食症候群)(頻度不明)発熱、発疹、神経症状、脾腫、リンパ節腫脹、血球減少、LDH上昇、高フェリチン血症、高トリグリセリド血症、肝機能障害、血液凝固障害等の異常が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行うこと。

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世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」【下平博士のDIノート】第111回

世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド注射液(商品名:マンジャロ皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、GIPとGLP-1の2つの受容体に単一分子として作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬であり、選択的かつ長時間にわたる血糖値の改善が期待されています。<効能・効果>本剤は、2型糖尿病の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgを4週間皮下投与した後、維持用量である週1回5mgに増量します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量することができます。最大用量は週1回15mgです。<安全性>日本人および外国人2型糖尿病患者を対象とした国際共同第III相試験、日本人2型糖尿病患者を対象とした国内第III相試験の本剤5mg投与群において、副作用は544例中232例(42.6%)で報告されています。主なものは、悪心60例(11.0%)、下痢48例(8.8%)、食欲減退46例(8.5%)、便秘44例(8.1%)などでした。なお、重大な副作用として、低血糖(頻度不明)、急性膵炎(0.1%未満)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、GIP/GLP-1受容体作動薬と呼ばれる2型糖尿病の治療薬です。血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促進し、またインスリンを効きやすくすることで血糖値を下げます。2.週1回、同じ曜日に投与してください。オートインジェクター型注入器は1回使い切りです。3.めまいやふらつき、動悸、冷や汗などの低血糖症状を起こすことがあるので、高所作業、自動車の運転など危険を伴う作業を行う際は注意してください。これらの症状が認められた場合は、ただちに糖質を含む食品を摂取してください。4.悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退が強い場合はご相談ください。5.嘔吐を伴う激しい腹痛が現れた場合は使用を中止し、速やかに受診してください。6.冷蔵庫内などで光が当たらないように保管してください。凍結は避けて、もし凍結した場合は使用しないでください。室温で保管する場合は、外箱から出さずに保管し、21日以内に使用してください。30℃を超える場所では保管しないでください。<Shimo's eyes>本剤は、39個のアミノ酸を含む合成ペプチドであり、単一分子でグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)受容体およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体の双方に作用する世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。GIPとGLP-1はいずれも食事が小腸を通過することで分泌されるホルモンで、血糖が高い場合には膵臓におけるインスリン分泌を促進するとともに、食欲減退や満腹感亢進による体重増加の抑制作用が期待されています。なお、米国では2022年5月に「成人2型糖尿病治療における血糖コントロール改善のための食事および運動療法の補助療法」として承認を取得しているので、わが国よりも早期のステージでの使用が想定されます。注入器のアテオスは、既存のトルリシティにも使用されているオートインジェクターで、1回使い切りのキットです。注射針付きのシリンジがあらかじめ装填されており、空打ちをすることなく、ボタンを押すだけで自動的に投与することができます。医療機関において、適切な在宅自己注射教育を受けた患者さんやご家族は本剤の自己注射が可能です。国内の実薬対照二重盲検比較試験(SURPASS J-mono試験)では、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与52週時までの平均変化量について、デュラグルチド0.75mg(商品名:トルリシティ)に対する本剤5mg、10mg、15mgの優越性が認められました。また、非盲検長期安全性試験(SURPASS J-combo試験)では、本剤5mg、10mg、15mgを経口血糖降下薬単剤と併用し、安全性および有効性が確認されました。主な副作用として、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退などの消化器症状が報告されており、投与開始時の用量の漸増は、胃腸障害リスクの回避・軽減を目的としています。用量依存的な体重減少も認められているため、過度の体重減少にも注意する必要があります。投与開始時のBody Mass Index(BMI)が23kg/m2未満の患者での有効性および安全性は検討されていません。なお、本剤とDPP-4阻害薬はいずれもGLP-1受容体およびGIP受容体を介した血糖降下作用を有しています。両剤を併用した際の臨床試験成績はないため、併用処方の場合には疑義照会が必要です。

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新たなインクレチン関連薬(GIP/GLP-1受容体作動薬)がもたらす効果(解説:安孫子亜津子氏)

 わが国の2型糖尿病は欧米に比較してインスリン分泌能低下がメインの病態である患者が多いことが知られている。以前はSU薬中心であった2型糖尿病の治療が、2009年にDPP-4阻害薬が上梓されてからは、かなり多くの患者で使用され、SU薬の使用量が大きく減少した。さらにGLP-1受容体作動薬はDPP-4阻害薬に比較して、より血糖低下効果が大きく、食欲抑制効果なども併せ持っていることから、その使用患者は増加してきており、とくに週1回注射のGLP-1受容体作動薬の登場後は、幅広い患者で使われるようになってきている。このようにインクレチン関連薬の有用性が認知されている中、新たなインクレチン関連薬としてGIP/GLP-1受容体作動薬「tirzepatide」が登場し、現在次々と臨床試験の結果が報告されてきている。 今回の論文はtirzepatideのインスリンへの追加の有効性、安全性を検証した第III相試験「SURPASS-5」である。40週でのHbA1cの低下効果は2%以上であり、現在使用されているGLP-1受容体作動薬の臨床試験結果と比較しても大きな低下効果である。これまでGIPは脂肪細胞に作用し体重を増加させる方向に働くと考えられていたが、tirzepatideでは用量依存性に5~8kg台の体重減少効果が認められた。もちろんインスリン使用量の減量も認められている。週1回投与であることも本剤の魅力である。消化器症状を主体とした有害事象は、GLP-1特有のものであり、一定数の出現が認められている。投与量増量のタイミングなどをうまく調整することで、より安全に本剤の有効性を引き出せる可能性がある。本論文の結果から、新たなインクレチン関連薬tirzepatideが本邦でも使用できるようになれば、さらに幅広い患者での良好な血糖および体重コントロールに寄与できることが期待できると考える。

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GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatide併用で、血糖コントロール改善/JAMA

 インスリン グラルギンで血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者の治療において、インスリン グラルギンにデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideを追加する治療法はプラセボの追加と比較して、40週後の血糖コントロールが統計学的に有意に改善し、用量により5~9kgの体重減少が得られたとの研究結果が、ドイツ・Gemeinschaftspraxis fur innere Medizin und DiabetologieのDominik Dahl氏らによって報告された(SURPASS-5試験)。研究の成果は、JAMA誌2022年2月8日号に掲載された。8ヵ国45施設のプラセボ対照無作為化第III相試験 研究グループは、血糖コントロールが不良な2型糖尿病患者におけるインスリン グラルギンへのtirzepatide追加の有効性と安全性の評価を目的に、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施し、2019年8月~2020年3月の期間に、日本を含む8ヵ国45施設で患者の登録を行った(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の成人患者で、一定用量のインスリン グラルギン(>20 IU/日または>0.25 IU/kg/日)±メトホルミン(≧1,500mg/日)の投与を受け、ベースラインの糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が7.0~10.5%(53~91mmol/mol)、BMIが≧23の集団であった。 被験者は、tirzepatide 5mg、同10mg、同15mg、プラセボを週1回、40週間皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。tirzepatideの初回投与量は2.5mg/週とされ、割り付けられた用量に達するまで4週ごとに2.5mgずつ増量された。すべての患者が、インスリン グラルギンの1日1回の投与を継続した。 主要エンドポイントは、HbA1c値のベースラインから40週までの変化量とされた。HbA1c値<7%達成率8割以上、インスリン用量も少ない 475例(平均年齢[SD]60.6[9.9]歳、女性211例[44%])が無作為化の対象となり、全例が試験薬の投与を少なくとも1回受けた(tirzepatide 5mg群116例、同10mg群119例、同15mg群120例、プラセボ群120例)。全体のベースラインの平均HbA1c値(SD)は8.31(0.85)%、平均BMIは33.4、平均糖尿病罹患期間は13.3年、インスリン グラルギンの投与量中央値は30.0 IU/日で、394例(82.9%)がメトホルミンの投与を受けていた。 451例(94.9%)が試験を完遂し、424例(89.3%)が試験治療をすべて終了した。早期の投与中止は、tirzepatide 5mg群が10%、同10mg群が12%、同15mg群が18%、プラセボ群は3%で発生した。 40週時の平均HbA1c値のベースラインからの変化量は、tirzepatide 10mg群が-2.40%、同15mg群は-2.34%であり、プラセボ群の-0.86%に比べいずれの用量とも有意に低下した(プラセボ群との差 10mg群:-1.53%[97.5%信頼区間[CI]:-1.80~-1.27]、15mg群:-1.47%[-1.75~-1.20]、いずれもp<0.001)。また、5mg群の平均HbA1c値のベースラインからの変化量は-2.11%であり、プラセボ群に比し有意に改善した(群間差:-1.24%、95%CI:-1.48~-1.01、p<0.001)。 平均体重のベースラインからの変化量は、tirzepatide 5mg群が-5.4kg、同10mgが-7.5kg、同15mg群は-8.8kgであり、プラセボ群の1.6kgに比べいずれも有意に減少した(プラセボ群との差 5mg群:-7.1kg[95%CI:-8.7~-5.4]、10mg群:-9.1kg[-10.7~-7.5]、15mg群:-10.5kg[-12.1~-8.8]、すべてp<0.001)。 40週時にHbA1c値<7%を達成した患者の割合は、tirzepatide 5mg群が87.3%、同10mgが89.6%、同15mgは84.7%であり、プラセボ群の34.5%と比較していずれも有意に高かった(すべてp<0.001)。また、空腹時血糖値のベースラインからの変化量は、tirzepatide群はそれぞれ-58.2mg/dL、-64.0mg/dL、-62.6mg/dLであり、プラセボ群の-39.2mg/dLに比べいずれも有意に低下した(すべてp<0.001)。インスリン グラルギンの用量の変化量も、3つの用量のtirzepatide群で有意に低かった(5mg群:4.4 IU、10mg:2.7 IU、15mg群:-3.8 IU、プラセボ群:25.1 IU、プラセボ群との差は3つの用量群のすべてでp<0.001)。 治療下で発現した有害事象が少なくとも1件認められた患者の割合は、tirzepatide 5mg群が73.3%、同10mg群が68.1%、同15mg群が78.3%、プラセボ群は67.5%であった。 最も頻度が高かったのは消化器症状で、下痢がtirzepatide 5mg群12.1%、同10mg群12.6%、同15mg群20.8%、プラセボ群10.0%で発現し、吐き気がそれぞれ12.9%、17.6%、18.3%、2.5%でみられたが、ほとんどが軽度~中等度であった。 重篤な有害事象は、tirzepatide 5mg群7.8%、同10mg群10.9%、同15mg群7.5%、プラセボ群8.3%で発現した。試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、それぞれ6.0%、8.4%、10.8%、2.5%で認められた。低血糖(血糖値<54mg/dL)の発現率は、15.5%、19.3%、14.2%、12.5%であり、重症低血糖は3例(10mg群2例、15mg群1例)で報告された。 著者は、「本試験の結果は、基礎インスリンとtirzepatideの併用に関する臨床的に重要な情報をもたらし、この治療選択肢を考慮する際に、臨床医にとって有用なものとなるだろう」としている。

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tirzepatideの効果、心血管高リスク2型DMでは?/Lancet

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの週1回投与は、インスリン グラルギンと比較し52週時点のHbA1c値低下について優越性が示され、低血糖の発現頻度も低く、心血管リスクの増加は認められないことが示された。イタリア・ピサ大学のStefano Del Prato氏らが、心血管への安全性評価に重点をおいた第III相無作為化非盲検並行群間比較試験「SURPASS-4試験」の結果を報告した。Lancet誌オンライン版2021年10月18日号掲載の報告。tirzepatideの3用量(5、10、15mg)とインスリン グラルギンを比較 試験は、14ヵ国、187施設において実施された。適格患者は、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬のいずれかの単独または併用投与による治療を受けており、ベースラインのHbA1c値が7.5~10.5%、BMI値25以上、過去3ヵ月間の体重が安定している2型糖尿病の成人患者で、心血管リスクが高い患者とした。心血管リスクが高い患者とは、冠動脈・末梢動脈・脳血管疾患の既往がある患者、または慢性腎臓病の既往がある50歳以上の患者で、推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満またはうっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスII/III)の既往がある患者と定義した。 研究グループは、被験者をtirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群またはインスリン グラルギン(100U/mL)群に1対1対1対3の割合で無作為に割り付け、tirzepatideは週1回、インスリン グラルギンは1日1回皮下投与した。tirzepatideは2.5mgより投与を開始し、設定用量まで4週ごとに2.5mgずつ増量した。インスリン グラルギンは10U/日で開始し、自己報告による空腹時血糖値が100mg/dL未満に達するまで漸増した。52週間投与した時点で有効性の主要評価項目について解析し、その後、心血管疾患に関する追加データを収集するため最大で52週間の追加治療を行った。 有効性の主要評価項目はベースラインから52週までのHbA1c値の変化量で、tirzepatide(10mg、15mg)のインスリン グラルギンに対する非劣性(非劣性マージン 0.3%)および優越性を検証した。安全性として、心血管死、心筋梗塞、脳卒中および不安定狭心症による入院の複合エンドポイント(MACE-4)についても評価した。10、15mg群で血糖降下作用の非劣性・優越性を確認、心血管リスクに差はなし 2018年11月20日~2019年12月30日に、3,045例がスクリーニングされ、2,002例が無作為に割り付けられた。治験薬の投与を1回以上受けた修正ITT集団は1,995例で、tirzepatide 5mg群329例(17%)、10mg群328例(16%)、15mg群338例(17%)、インスリン グラルギン群1,000例(50%)であった。 52週時点におけるHbA1c値のベースラインからの変化量(最小二乗平均値±SE)は、tirzepatide 10mg群-2.43±0.053%、15mg群−2.58±0.053%、グラルギン群-1.44±0.030%であった。グラルギン群に対する推定治療差は、10mg群で−0.99%(97.5%CI:−1.13~−0.86)、15mg群で−1.14%(97.5%CI:−1.28~−1.00)であり、非劣性および優越性が確認された。 有害事象については、tirzepatide群で悪心(12~23%)、下痢(13~22%)、食欲不振(9~11%)、嘔吐(5~9%)の発現頻度がグラルギン群(それぞれ2%、4%、<1%、<2%)より高かったが、ほとんどが軽症~中等度で、用量漸増期に生じた。低血糖(血糖値<54mg/dLまたは重症)の発現頻度は、tirzepatide群(6~9%)がグラルギン群(19%)より低く、とくにSU薬を用いていない患者で顕著であった(tirzepatide群1~3%、グラルギン群16%)。 MACE-4のイベントは全体で109例に認められた。tirzepatide 5mg群19例(6%)、10mg群17例(5%)、15mg群11例(3%)で、tirzepatide群合計で47例(5%)、インスリン グラルギン群では62例(6%)であった。tirzepatide群のグラルギン群に対するMACE-4イベントのハザード比は0.74(95%信頼区間:0.51~1.08)であり、MACE-4のリスク増加は認められなかった。試験期間中の死亡はtirzepatide群で25例(3%)、グラルギン群で35例(4%)、計60例確認されたが、いずれも試験薬との関連性はないと判定された。

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デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用および体重減少作用は基礎インスリン デグルデクより優れている(解説:住谷哲氏)

 SURPASS-3はデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの臨床開発プログラムSURPASS seriesの一つであり、基礎インスリンであるデグルデクとのhead-to-head試験である。2018年にADA/EASDの血糖管理アルゴリズムがGLP-1受容体作動薬を最初に投与すべき注射薬として推奨するまでは、経口血糖降下薬のみで目標とする血糖コントロールが達成できない場合には基礎インスリンの投与がgold standardであった。特に持効型インスリンであるグラルギンの登場後は、BOT(basal-supported oral therapy)として広く一般臨床でも用いられるようになっている。 tirzepatideは5mg、10mg、15mgの3用量が設定され、2.5mg/週から開始し4週ごとに増量された。一方デグルデクは10単位/日から開始し、treat-to-target法により自己血糖測定による空腹時血糖値FBG<90mg/dLを目標として1週間ごとに増量された。デグルデクは毎日投与であるがtirzepatideは週1回投与であり、maskingは不可能であるため試験デザインはopen-labelである。 結果は、主要評価項目である52週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてデグルデク群に対する優越性が示された。さらにHbA1c<7.0%、HbA1c<6.5%、HbA1c<5.7%の達成率も、tirzepatideの3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に高値であった。treat-to-target法を用いたことにより、FBGについては、5mg投与群ではデグルデク群に比して有意に高値であったが、10mgおよび15mg群ではデグルデク群との間に有意差は認められなかった。この結果から予想されるように、血糖日内変動における食後2時間後血糖値は、3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも有意に低値であった。有害事象についても、<54mg/dLの低血糖の頻度は3用量のすべてにおいてデグルデク群よりも少なかった。 経口血糖降下薬の多剤併用療法でも目標血糖値が達成されない患者において、次のステップとして基礎インスリン投与によるBOTが開始されることは現在でも少なくない。現時点でBOTは次第にGLP-1受容体作動薬に置き換わりつつあるが、近い将来デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬がGLP-1受容体作動薬に置き換わるのも現実的になってきたと思われる。

39.

GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideの血糖降下作用・体重減少作用はセマグルチドより優れている(解説:住谷哲氏)

 デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬として開発中のLY3298176は第3のインクレチン関連薬として有望である、とのコメントを2018年の本連載第986回で掲載した。それから3年でLY3298176はtirzepatideとして承認目前まで来ている。tirzepatideの2型糖尿病に対する臨床開発プログラムSURPASS ProgramにはSURPASS-1~6、SURPASS-AP-Comb、SURPASS-CVOT、SURPASS-J-Mono、SURPASS-J-Combの10試験があり、本論文はセマグルチドとのhead-to-head試験であるSURPASS-2についての報告である。 tirzepatide 5mg、10mg、15mgの3用量に対してセマグルチドは2型糖尿病に対する最大用量である1mgが用いられた。結果は、主要評価項目である40週後のHbA1c低下量は、3用量のすべてにおいてセマグルチドに対する優越性が示された。副次評価項目である体重減少量も、HbA1cと同様に3用量のすべてにおいてセマグルチドに対する優越性が示された。さらに正常血糖と考えられるHbA1c<5.7%を達成した患者の割合は、tirzepatide 5mg、10mg、15mg、セマグルチド群でそれぞれ27%、40%、46%、19%であり、低血糖(<54mg/dL)の頻度はそれぞれ、0.6%、0.2%、1.7%、0.4%であった。 セマグルチドは、現在2型糖尿病患者に対して使用できるインクレチン関連薬の中でHbA1c低下作用、体重減少作用が最も強い。したがってtirzepatideが登場すれば最も強力なインクレチン関連薬になるのは間違いないだろう。さらにtirzepatide 10mg群でみると、投与前平均HbA1c 8.3%であった患者の40%が低血糖のリスクをほとんど伴わずに血糖正常化を達成しており、2型糖尿病患者の血糖正常化が本薬剤を使用することでさらに容易となる可能性がある。 本薬剤が米国で血糖降下薬として認可されるのはSURPASS-CVOTの結果が出る2024年以降になるだろう。SURPASS-J-Mono、SURPASS-J-Comb(JはJapanの略)はわが国での先行発売を目的としていると思われるが、その結果に基づいて、わが国での投与量のみが国際標準投与量と異なる用量に設定されることのないように望みたい。

40.

新規GIP/GLP-1受容体作動薬、セマグルチドに対し優越性を示す/NEJM

 2型糖尿病患者において、tirzepatideはセマグルチドに対しベースラインから40週までのHbA1c低下が有意に優れていることが認められた。米国・National Research InstituteのJuan P. Frias氏らが、第III相無作為化非盲検試験「SURPASS-2試験」の結果を報告した。tirzepatideは、新規2型糖尿病治療薬として開発中のデュアル・グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)/グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬で、第III相国際臨床開発プログラムであるSURPASSプログラムにおいて、有効性と安全性が検討されている。そのうちSURPASS-2試験では、選択的GLP-1受容体作動薬セマグルチドの承認されている最高用量との比較が行われた。NEJM誌オンライン版2021年6月25日号掲載の報告。メトホルミンで血糖コントロール不良、tirzepatide(3用量)vs.セマグルチド SURPASS-2試験の対象者は、メトホルミン1日1,500mg以上による単独療法で血糖コントロール不十分(HbA1c:7.0~10.5%)の、18歳以上、BMIが25以上の2型糖尿病患者1,879例。tirzepatideの5mg群、10mg群、15mg群、またはセマグルチド(1mg)群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。ベースラインの平均HbA1cは8.28%、平均年齢は56.6歳、平均体重は93.7kgであった。 主要評価項目は、ベースラインから40週までのHbA1c変化量であった。主な副次評価項目は、ベースラインから40週までの体重変化、ならびにHbA1c 7.0%未満および5.7%未満を達成した患者の割合とした。tirzepatide全投与群でセマグルチドよりHbA1cおよび体重低下が有意に低下 HbA1cのベースラインから40週までの推定平均変化量は、tirzepatideの5mg群-2.01ポイント、10mg群-2.24ポイント、15mg群-2.30ポイントで、セマグルチド群は-1.86ポイントであった。5mg群、10mg群、15mg群とセマグルチド群との推定群間差は、それぞれ-0.15ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.28~-0.03、p=0.02)、-0.39ポイント(-0.51~-0.26、p<0.001)、-0.45ポイント(-0.57~-0.32、p<0.001)であった。tirzepatideの全用量群で、セマグルチド群に対する優越性が示された。 体重のベースラインから40週までの推定平均変化量は、5mg群-7.6kg、10mg群-9.3kg、15mg群-11.2kgおよびセマグルチド群-5.7kgであり、tirzepatide群の用量依存的な体重減少が認められ、tirzepatideの全用量群で、セマグルチド群より有意に減少した(最小二乗平均推定群間差はそれぞれ-1.9kg、-3.6kg、-5.5kg、すべてのp<0.001)。 主な有害事象(いずれかの投与群で発現率5%以上)は胃腸障害で、悪心がtirzepatide群17~22%、セマグルチド群18%、下痢が13~16%、12%、嘔吐が6~10%、8%であった。重症度はいずれも軽度から中等度であった。低血糖症(血糖値<54mg/dL)の発現率は、tirzepatideの5mg群0.6%、10mg群0.2%、15mg群1.7%、セマグルチド群0.4%であった。重篤な有害事象は、tirzepatide群で5~7%、セマグルチド群で3%であった。

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