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sacubitril-バルサルタンでも崩せなかったHFpEFの堅い牙城(解説:絹川弘一郎氏)-1126

 sacubitril-バルサルタンのHFpEFに対する大規模臨床試験PARAGON-HFがESC2019のlate breakingで発表されると聞いて、5月のESC HFのミーティングで米国の友人と食事していた時、結果の予想をした記憶がある。私はESCで出てくるんだから有意だったんじゃないの、と言い、別の人はHFpEFには非心臓死が多いからmortalityの差は出ないよね、と言ったりしたものであった。相変わらず私の予想は外れ、ただ外れ方としてp=0.059という悩ましいprimary endpointの差であった。7つイベントが入れ替わったら有意だったそうである。ただ、入れ替わりってどういうこと?とも言え、読み方としてはやはりこれだけ大規模にやって有意でないものは有意でないとしか言えない。さらに言うと、CHARM-preservedでもTOPCATでも心不全再入院だけでいうと有意に抑制しているというデータもあり、心血管死亡に対して一定の(有意でないにしても)抑制がないと、これまでカンデサルタンもスピロノラクトンもダメと烙印を押してきた経緯に反する。 PARAGON-HFでは心血管死亡はそれこそ1本の線に見えるほど2群に差がなく、やはり有効でないと結論付けるのが妥当であろう。Solomon氏は対照群にバルサルタンを選ばなきゃよかったみたいなことを言い訳がましく言っていたが、まさにそれはそのとおりかと思う。HFpEFの中にRAS阻害薬がよく効くサブグループがいるようで、それがCHARM-preservedやTOPCATの一定の結果に関係しているかもしれない。一方で対プラセボでもまったく有効性のかけらもなかったI-preserveがどうしてなのかも考える必要がある。そのヒントは平均のLVEFと虚血性心疾患の割合である。平均のLVEFはCHARM-preserved 54%、I-preserve 60%、TOPCAT 56%、PARAGON-HF 57%、虚血性心疾患の割合はCHARM-preserved 56%、I-preserve 24%、TOPCAT 58%、PARAGON-HF 35%。つまり虚血性心疾患の割合が多く、またLVEFが低めの患者が多く含まれているほど実薬の有効性が高くなっている。CHARM-preservedでHFmrEF(昔はmid-rangeを分けてなかった)はHFrEF同様カンデサルタンが有効であったと報じられているし、このPARAGON-HFでもEF<57%では有意にsacubitril-バルサルタンが有効であった。 私は、虚血性心疾患からHFrEFに至る途中のmid-rangeに近いHFpEFはRAS阻害薬が有効であろうし、そしてその場合はPARADIGM-HFと同じくACE阻害薬よりsacubitril-バルサルタンがもっと有効であると思う。真のHFpEFとは何なのか、という議論が本当は必要であるが、虚血でないLVEF>60%のHFpEFに対して、もうHFrEFに対するGDMTの外挿では歯が立たないことが決まったような気がしている。

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SGLT2阻害薬は糖尿病薬から心不全治療薬に進化した(解説:絹川弘一郎氏)-1125

 ESC2019にはPARAGON-HF目当てで参加を決めていたが、直前になってDAPA-HFの結果が同じ日に発表されることとなり、パリまでの旅費もむしろ安いくらいの気持ちになった。もう少し発表まで時間がかかると思っていたのでESCでの発表は若干驚きであったが、プレスリリースで聞こえてきたprimary endpoint達成ということ自体は想定内であったので、焦点は非糖尿病患者での振る舞い一点といってもよかった。 なぜ、HFrEFに有効であることに驚きがなかったか、それはDECLAREのACC.19で発表された2つのサブ解析による。1つが陳旧性心筋梗塞の有無による層別化、もう1つがHFrEF/HF w/o known EF/no history of HFの3群間の比較である。ともに心血管死亡と心不全再入院というDECLAREのco-primary endpointに対する解析である。陳旧性心筋梗塞を有する群で明らかに早期からイベント抑制効果が認められ、EMPA-REG OUTCOMEやCANVASで心血管疾患の既往を有する患者で知られてきたSGLT2阻害薬の心不全予防効果が投与早期から現れるということは、言い換えると大半が虚血性心疾患であり、そしてそれは陳旧性心筋梗塞の患者であるということである。 心筋梗塞からHFrEFへ至る遠心性リモデリングは以前から研究された心不全モデルであり、β遮断薬やRAS阻害薬、MRAの有効性の根拠を与えるものである。そして、それはもう1つのサブ解析でHFrEFの患者だけ取り出すとより明確な形で示された。HFrEF患者のイベント発生数は他と比較して群を抜いて多く、そしてダパグリフロジンはHFrEF患者でやはり早期からきわめて明確にイベント抑制を果たした一方で、HFrEF以外の群では早期からカプランマイヤーが分離することはなかった。 この2つのサブ解析を見ると、今まで報じられてきたSGLT2阻害薬の投与初期からのイベント抑制は、実は大半陳旧性心筋梗塞またはHFrEFあるいはその両方を有する患者からの導出とすら言えるのではないかと思われる。DECLAREのサブ解析ではno history of HFの患者の、すなわちstage A/Bの患者ではほとんどイベントが起きておらず、また(とてもたくさんの患者がエントリーされて比較的長期間フォローされているにもかかわらず)ダパグリフロジンの効果は目に見えないほどである。EMPA-REG OUTCOMEでは心不全の既往がある患者でエンパグリフロジンの有効性が有意でなかったが、その後のCANVASではむしろ心不全の既往がある患者のほうでカナグリフロジンがはっきり有効であった。DECLAREの結果を合わせたメタ解析の結果を見れば、心不全患者に対する治療効果はすでに異論のないところであろう。 ここまで見てくると、SGLT2阻害薬はβ遮断薬やRAS阻害薬と同じカテゴリーで論じる必要がある薬剤と考えるべきであるし、そのメカニズムについていまだ明確ではないものの心筋梗塞から虚血性心筋症に至るHFrEFモデルでの解析が待たれる。こうして、ESC2019の前からHFrEFでは間違いなくダパグリフロジンが効くという確信があった。そして事実そうなったのであるが、これが糖尿病患者に限定した効果でないことも今回DAPA-HFで示されたことの意義は絶大である。非糖尿病患者でもSGLT2は近位尿細管に存在するわけで、とくにup-regulateされていない状況でもSGLT2阻害薬による浸透圧利尿効果は有用であるということのようである。 一方で、これまでの結果からやや予想し難いデータがあり、それは腎保護作用である。DAPA-HFにおいてはworsening renal functionについてプラセボより少なめではあったが有意差がなかった。これまでSGLT2阻害薬による腎保護作用は一貫して認められてきたところであり、ここは糖尿病性腎症の進展予防という観点で腎保護作用があると考えれば非糖尿病患者ではその有効性が認め難いのかもしれず、この辺りに関しては今後出てくるサブ解析を待ちたい。いずれにせよ、わが国の心不全ガイドラインのHFrEF治療薬にsacubitril-バルサルタンとイバブラジンと、そしてSGLT2阻害薬を書き加える日が近い。この余勢を駆ってHFpEFまで攻め込めるかどうか、今までのデータからは微妙であるが、これも今後続々と出てくる結果に期待したい。陳旧性心筋梗塞を有するEF<60%くらいまでは、PARAGON-HFと同様にSGLT2阻害薬が有用であろうと予想する。

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悪い芽は早めに摘んでとりあえずコンプリートしておきますか!?:多枝病変を有するSTEMIへの戦略(解説:中野明彦氏)-1123

【背景】 STEMIにおける多枝病変の確率は40~50%で、STEMI責任病変のみの一枝疾患に比べ予後不良かつその後の非致死性心筋梗塞が多いことが報告されている。心原性ショックを合併していないSTEMI急性期に責任病変以外の“病変”に手を加えるべきかどうか、一定の見解は得られていても明確な回答が得られていない命題である。急性期介入の期待される利点は、STEMIによる血行動態の悪化が他病変灌流域の局所収縮性を障害することへの予防的措置、あるいはhibernation(冬眠心筋)を来している領域の心機能改善が結果としてSTEMIの予後を改善する可能性、などが挙げられる。一方その弊害として想定されるのは、他枝へのPCIが側枝閉塞や遠位塞栓を合併した場合の余計な心筋障害や造影剤増量による心負荷、腎障害などであろう。 これまでこの命題に挑んだランダム化試験は、知る限り2013年から2017年に報告されたPRAMI(n=465)、CvLPRIT(n=296)、DANAMI-3-PRIMULTI(n=627)、Compare-Acute(n=885)の4つである。多くの試験で観察期間中の再血行再建術が有意に減少、これらを包括した最新の日本循環器学会・ESCガイドラインでは入院中の非梗塞責任血管へのPCIをクラスI~IIaに設定している。しかし期待された予後改善効果は全試験で否定され、また多くの試験で新規MI発症も抑制されなかった。【COMPLETE試験について】 本試験は同じ命題に取り組んだ最新かつ最大規模(n=4,041)、さらに最長の観察期間(約3年)を設定したランダム化試験で、議論決着への期待も大きかった。残枝PCIの適応は虚血の有無にはこだわらず視覚的な70%狭窄以上に設定(70%未満+FFR≦0.80でのエントリーは1%以下とわずか)、PCIのタイミングはad-hoc(single-stage)やimmediate(multi-stage)だったこれまでの試験と異なり、入院中および45日以内までのdelayed PCIを許容し、サブ解析で両者の差異も検証した。 主たるエンドポイントの結果は、心血管死亡に差はなく、MI発症・虚血による血行再建(IDR)は血行再建群で有意に抑制された。懸念された大出血や腎障害などの弊害は増えなかった。 これらの結果をどう解釈すべきか:少し単純化して考えてみる。心血管死亡(2.9% vs.3.2%、HR:0.93)を「STEMIの重症度」、MI(自然発症は3.9% vs.7.0%)を「非責任病変以外の不安定プラーク」、IDR(1.4% vs.7.9%、HR:0.18)を「残存病変の重症度」に置き換えてみると…。・予後への影響:今回もまた他枝へのPCIがSTEMIの重症度を覆すほどのインパクトはないことが示された。immediateでもdelayed PCIでも差がなかったことが象徴的である。・MI発症抑制:ACS症例ではほかにも多くの不安定プラークを有し、特に急性期は内皮障害や炎症が亢進しやすいこと、他方でMIは非有意狭窄から発症する確率が高いことは以前から指摘されている。本試験では有意差はついたものの、70%以上の狭窄性病変を処理してもMI発症が半減すらしなかったことは、lesion severityとlesion instabilityが別物と改めて印象付けた。一方、有意差がつかなかった他の試験(CvLPRIT、Compare-Acute)でのHRは実は本試験より小さい。少ない症例数が影響した可能性が大きく、狭窄病変を潰しておけばある程度のMIは予防できるとも言える。・IDR:非血行再建群で多いのは当然だが、基準がさほど厳しいとも思えないのに非血行再建群のIDRが年率3%に満たない理由は不明である。他試験と比較しても明らかに低率で「そもそもホントに多枝病変?」と突っ込みたくもなる。やはり血管造影では残存病変の重症度を規定するのは難しいと言わざるを得ない。【議論に決着は着いたのか?】 一方は“yes”である。やはり予後は変えないのである。 他方、MI発症抑制・IDR予防についてはどうだろうか? 多枝病変を血管造影で定義した本試験において、完全血行再建が防いだのは1年間で1%のMIと2.3%のIDA…。果たしてコンプリートを目指す“preventive-PCI”は許容されるかどうか。 次のガイドラインはこの試験をどう解釈するだろう?

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心房細動合併安定CAD、リバーロキサバン単剤 vs.2剤併用/NEJM

 血行再建術後1年以上が経過した心房細動を合併する安定冠動脈疾患患者の治療において、リバーロキサバン単剤による抗血栓療法は、心血管イベントおよび全死因死亡に関してリバーロキサバン+抗血小板薬の2剤併用療法に対し非劣性であり、大出血のリスクは有意に低いことが、国立循環器病研究センターの安田 聡氏らが行ったAFIRE試験で示された。研究の成果は2019年9月2日、欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日のNEJM誌オンライン版に掲載された。心房細動と安定冠動脈疾患が併存する患者における最も効果的な抗血栓治療の選択は、個々の患者の虚血と出血のリスクの注意深い評価が求められる臨床的な課題とされている。日本の294施設が参加、単剤の非劣性を検証する無作為化試験 本研究は、日本の294施設が参加した多施設共同非盲検無作為化試験であり、2015年2月23日~2017年9月30日の期間に患者登録が行われた(バイエル薬品との契約を介して循環器病研究振興財団の助成を受けた)。 対象は、年齢20歳以上、心房細動と診断され、登録の1年以上前に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス手術(CABG)を受けた患者、または冠動脈造影で血行再建術の必要がない冠動脈疾患(狭窄≧50%)と判定された患者であった。 被験者は、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬であるリバーロキサバン(クレアチニンクリアランス15~49mL/分の患者は10mgを1日1回、同≧50mL/分の患者は15mgを1日1回)の単剤療法を受ける群、またはリバーロキサバン+抗血小板薬(治療医の裁量でアスピリンまたはP2Y12阻害薬から選択)の2剤併用療法を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を要する不安定狭心症、全死因死亡の複合とし、非劣性の評価が行われた(非劣性マージンは1.46)。安全性の主要エンドポイントは、国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血とし、優越性の評価が行われた。 なお、本研究は、併用群で全死因死亡のリスクが高かったため、独立データ安全性監視委員会の勧告により2018年7月、早期中止となった。事後解析では有効性の優越性を確認 2,215例(修正intention-to-treat集団)が登録され、単剤群に1,107例が、併用群には1,108例が割り付けられた。全体の平均年齢は74歳、男性が79%であった。1,564例(70.6%)がPCI、252例(11.4%)がCABGを受けていた。 ベースラインのCHADS2スコア中央値は2、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4、HAS-BLEDスコア中央値は2であった。併用群の778例(70.2%)がアスピリン、297例(26.8%)はP2Y12阻害薬の投与を受けていた。治療期間中央値は23.0ヵ月(IQR:15.8~31.0)、フォローアップ期間中央値は24.1ヵ月(17.3~31.5)だった。 有効性の主要エンドポイントは、単剤群が89例、併用群は121例で発生し、人年当たり発生率はそれぞれ4.14%および5.75%であり、単剤群の併用群に対する非劣性が確認された(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.55~0.95、非劣性のp<0.001)。 また、安全性の主要エンドポイントの人年当たり発生率は、単剤群が1.62%(35例)と、併用群の2.76%(58例)に比べ有意に優れ(HR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.01)、単剤群の優越性が確証された。 副次エンドポイントである全死因死亡の人年当たりの発生率は、単剤群は1.85%であり、併用群の3.37%と比較して有意に良好であった(HR:0.55、95%CI:0.38~0.81)。このうち、心血管死(1.17% vs.1.99%、0.59、0.36~0.96)および非心血管死(0.68% vs.1.39%、0.49、0.27~0.92)のいずれにおいても、単剤群が有意に優れた。 事前に規定されたサブグループ(性別、年齢、脳卒中リスク、出血リスク、腎機能など)の解析では、有効性の主要エンドポイントは全般に単剤群で一致して良好な傾向が認められ、大出血イベントに関しても、同様の効果が観察された。 著者は、「事前に規定されていない解析では、有効性の主要エンドポイントに関して、単剤群の併用群に対する優越性が確認された」としている。

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ダパグリフロジン、HFrEF患者でCV死・心不全悪化リスク26%低下(DAPA-HF)/ESC2019

 2型糖尿病合併の有無を問わず、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者における心血管死と心不全悪化の発現率を有意に低下させた。フランス・パリで開催された欧州心臓病学会(ESC2019)で、グラスゴー大学循環器リサーチセンターのJohn McMurray氏が、第III相DAPA-HF試験の結果を発表した。 DAPA-HF試験は、2型糖尿病合併および非合併の成人HFrEF患者を対象に、心不全の標準治療(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]およびネプライシン阻害薬を含む薬剤)への追加療法としてのダパグリフロジンの有効性を検討した、国際多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験。 HFrEF患者(NYHA心機能分類IIからIV、LVEF;40%以下、NT-proBNP≧ 600pg/mL)に対し、標準治療への追加療法としてダパグリフロジン10mgを1日1回投与し、その有効性をプラセボとの比較で評価した。主要複合評価項目は、心不全イベント発生(入院または心不全による緊急受診)までの期間、または心血管死であった。 主な結果は以下のとおり。・ダパグリフロジン群に2,373例、プラセボ群に2,371例が無作為に割り付けられた。・ベースライン特性は、両群ともに平均LVEF:31%、平均eGFR:66mL/分/1.73m2、2型糖尿病罹患率:45%でバランスがとれていた。・心不全治療薬の使用状況は、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬:ダパグリフロジン群94% vs.プラセボ群93%、β遮断薬:両群ともに96%、MRA:両群ともに71%。・心血管死または心不全悪化の主要複合評価項目は、ダパグリフロジン群において有意に低下した(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.85、p=0.00001)。各項目の解析をみると、心不全悪化の初回発現リスク(HR:0.70、95%CI:0.59~0.83、p=0.00003)、心血管死のリスク(HR:0.82、95%CI:0.69~0.98、p=0.029)ともにダパグリフロジン群で低下した。主要複合評価項目におけるダパグリフロジンの影響は、2型糖尿病の有無を含む、検討された主要サブグループ全体でおおむね一貫していた。・全死亡率においても、100患者・年当たり1イベント換算で患者7.9例 vs.9.5例とダパグリフロジンで名目上有意な低下を示した(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97、p=0.022)。・Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire (カンザスシティ心筋症質問票:KCCQ)の総合症状スコアに基づいた、患者報告アウトカムの有意な改善が確認された。・安全性プロファイルについて、心不全治療において一般的な懸念事項である体液減少の発現率は7.5% vs.6.8%、腎有害事象の発現率は6.5% vs.7.2%、重症低血糖の発現率はともに0.2%であった。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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米国の必須医薬品年間支出額、2011~15年で2倍以上に/BMJ

 米国のWHO必須医薬品関連の支出額は、2011年の119億ドルから2015年には258億ドルへと増加し、その多くを2つの高価なC型肝炎ウイルスの新規治療薬(ソホスブビル、レジパスビル/ソホスブビル配合剤)が占め、この期間に増加した支出総額の約22%は既存薬の単位当たりの費用の増加による可能性があることが、米国・ハーバード大学医学大学院のDavid G. Li氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年7月17日号に掲載された。WHO必須医薬品モデルリストは、基本的な保健医療システムに必要最小限の医薬品を構成する重要な医薬品類と定義される。米国の後発医薬品市場は競争が激しいが、2008~15年に競争が不十分な状況となり、約400種の後発薬の価格が100倍以上に値上がりした。そのため、治療のアドヒアランスが低下し、患者アウトカムへの悪影響や、保健医療費の長期的な高騰を招く恐れがあるという。2011~15年のメディケア・パートD受給者の後ろ向き費用分析 研究グループは、WHOが必須とする医薬品に関して、米国のメディケア受給者の支出増加の傾向、主要因、潜在的な修飾因子を明らかにする目的で、後ろ向きに費用分析を行った(米国国立衛生研究所 国立先進トランスレーショナル科学センター[NIH-NCATS]などの助成による)。 解析には、Medicare Part D Prescriber Public Use Fileのデータを用いた。このデータベースから、2011~15年に、WHO必須医薬品を処方されたメディケア・パートD(外来処方薬給付)の受給者における、後発薬および先発薬の年間の処方および支出の詳細な記録を抽出した。 主要アウトカムは、全体および受給者ごとのメディケア支出額、全体および受給者ごとの自己負担費用、累積受給者数、単位当たりの薬剤費などとした。すべての支出措置はインフレーション(物価上昇)に合わせて調整され、2015年の米ドル換算で報告された。年間支出額が116%、自己負担費用が47%、処方総数が33%、それぞれ増加 2011~15年のWHO必須医薬品265品目のメディケア・パートD支出総額は、22億処方による872億ドル(684億ポンド、765億ユーロ)で、年間支出額は2011年の119億ドルから2015年には258億ドルへと116%増加した。 また、同一期間の必須医薬品の自己負担費用の支出総額は121億ドルであった。年間の自己負担費用は、20億ドルから29億ドルへと47%増加し、受給者ごとの年間自己負担費用は20.42ドルから21.17ドルへと4%増加した。処方総数は3億7,610万件から4億9,890万件へ33%増加し、累積受給者数は9,590万人から1億3,580万人へと42%増加した。 必須医薬品のうち、133品目(50%)の薬剤の単位当たりの費用(per unit cost)は、2011~15年の期間の平均インフレーション率よりも急速に上昇した。9品目(3%)の単位当たりの費用は、この期間のインフレーション率の100倍以上に持続的に上昇し、11品目(4%)は50~100倍に上昇した。 2011~15年の期間に、新薬導入および既存薬の単位当たりの費用と単位当たりの総用量(unit count)の変動により、支出総額が157億ドル増加した(支出額の低下が持続した薬剤は除外)。このうち22%(35億ドル)が既存の必須医薬品の単位当たりの費用の上昇、20%(32億ドル)は単位当たりの総用量の上昇によるもので、残りの91億ドルのうち83億5,000万ドル(92%)を、新規C型肝炎治療薬であるソホスブビルとレジパスビル/ソホスブビル配合剤が占めた。全体として、この期間における支出総額増加の約58%が、新薬の導入によるものだった。 著者は、「このような傾向によって、患者の必須医薬品へのアクセスが制限され、保健医療システムの費用が増加する可能性がある」とし、「高額な医薬品価格はアドヒアランスの低下を招く可能性がある。それゆえ政策立案者は、米国だけでなく世界中で、人々が必要とする必須医薬品にアクセスできるよう注意を払うべきだろう」と指摘している。

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労力に比して得るものが少なかった研究(解説:野間重孝氏)-1094

 本論文は年齢・性別・狭心症のタイプ・pretest probability・CTの列数の観点から冠動脈造影CT(CTA)の有用性を、65本の既出論文のメタアナリシス(一部著者らが集めた未出版データも含む)によって検討したものである。 ご存じのように現在、世界のCTの10台に1台はわが国にある。高性能なものに限ればこの数はもっと多くなると推察される。これは他国とはかなり異なった医療状況を生み出しているのではないかと思う。SCCTが発表しているデータによれば、CTAの診断能は感度86%~99%、特異度95%~97%であるものの、陽性適中率は66%~87%にとどまる。本論文中では前者で97.2%~100%、後者で87.4%~89%との数字を別のメタアナリシスデータから引用している。しかし陰性適中率が98%~100%と、とてつもなく高い数字になることには言及していない。考えていただきたいのだが、ここに比較的安全でかつ陰性適中率がきわめて高い検査が比較的容易に行えるとしたら、疾病の確率が何パーセントかと論ずる前に、さっさとその検査を行ってしまうのではないだろうか。それが現在のわが国の実情なのだと思う。もっともこの論文も警告しているように、安易な検査のやり過ぎは国家医療財政に大きな負担となる。これも現在のわが国の現状そのものといえる。 本論文ではpretest probabilityが重要な要素として論じられている。しかし、その算出方法についてはdiscussionの中でDiamond and Forester modelを利用したこと、ESCのガイドラインも参照していること、また運動負荷の成績から見積もったものもあると述べるにとどまっており、methodsの中で詳細に論じられてはいない。評者も評者の周囲も日常診療においてあまりこのような数字の議論をしないので、これが一部の医師たちの間では常識になっているものかどうか言及できない。著者の中に日本人も含まれていることを考えると、欧米とわが国の違いだけとはいえないとも考えられるが、評者には論評できない。ただし、重要な構成要素について説明不足であることは指摘しておきたい。 また、年齢や性別がなぜ診断成績に影響を与えるかについても考察されていない。これについては近年、雑誌が推測による記述を抑制するようになったからだという見方もできるが、結論部分に書かれている内容について十分なdiscussionをしないというのはいかがなものなのだろうか。これに関連して考えるのは、本論文では石灰化指数(カルシウムスコア)が検討されていないことである。性別については何ともいえないが、年齢と石灰化指数には強い相関が認められることはよく知られており、年齢による診断能の低下の有力な説明になったのではないだろうか。この問題から離れても、CTの診断能を議論する場合、石灰化指数は重要な要素であり、本論文でこの議論が抜けていることには非常に不満を感じる。 CTの列数の議論には違和感を感じた。これは原理的な問題であり、実際の開発においては実験・実証によって議論されるべき問題であって、臨床データのメタアナリシスが利用される余地はない問題だと考えるからである。ちなみに、旧式のCTでも意外に診断に有効利用できるといったデータなら、統計を利用する意味がある。この辺は統計をとるという行為をどう考えるかにかかっている。 結論を言えば、多くの国の多くの学者たちが交流を持ったことに意義を感じるものの、大変な労力をかけた論文としては得るものが少なかったと言わざるをえない。

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日本における青年期うつ病のマネジメント

 日本において、小児うつ病患者に対し承認されている抗うつ薬治療は、今のところ存在しない。北海道大学の齊藤 卓弥氏らは、日本で治療を受けている青年期うつ病の有病率を推定し、その際に使用される薬理学的治療、さらに小児うつ病治療の専門医の中で満たされていないニーズについて調査を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2019年7月3日号の報告。 本調査は、臨床診療における医師間のインターネット調査として、2014年11月に実施した。青年期うつ病患者を治療する可能性のある医師731人と、過去12ヵ月間で青年期うつ病患者に対し薬物療法を行った医師161人を対象とした。青年期うつ病患者に対し薬物療法を行った医師161人の内訳は、内科医60人、精神科医73人、日本児童青年精神医学会、日本小児心身医学会、日本小児精神神経学会のいずれかの認定専門医28人であった。対象者は、うつ病患者、薬物療法、処方薬に関するアンケートに回答した。 主な結果は以下のとおり。・有病率データの推定では、日本には異なる医療専門分野に約55万人の青年期うつ病患者がおり(うつ病患者全体の10%)、これらの患者の約64%が薬物療法を受けていた。・青年期うつ病に対する薬物療法は、主に精神科医により行われていた(62%)。・最も一般的な第1選択薬は、セルトラリン(23%)であり、次いで抗不安薬(17%)、フルボキサミン(13%)であった。また、抗精神病薬は7%であった。 著者らは「日本における青年期うつ病の有病率は、高いことが示唆された。青年期うつ病患者は多くの医療分野で診察されており、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬を含むさまざまな薬物療法が一般的に行われている。日本人青年期うつ病に対し承認された治療法の医学的ニーズがあると考えられる」としている。

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ソーシャルメディア使用時間とうつ病や大量飲酒との関連

 思春期のソーシャルメディアの使用は、さまざまな否定的なアウトカムにつながっているが、この関連性については明らかとなっていない。ノルウェー・Norwegian Institute of Public HealthのGeir Scott Brunborg氏らは、ソーシャルメディアに費やされた時間の変化が、思春期のうつ病、問題行動、一過性の大量飲酒と関連しているかを、一階差分(first-differencing:FD)モデルを用いて検討を行った。Journal of Adolescence誌7月号の報告。 ノルウェーの青年763人(男性の割合:45.1%、平均年齢:15.22±1.44歳)を対象に、6ヵ月間隔で2つのアンケートを実施した。ソーシャルメディアに費やされた時間の変化とうつ症状、問題行動、一過性の大量飲酒との関連性は、すべての時系列の要因を効果的にコントロールする統計手法であるFDモデルを用いて推定した。また、スポーツの頻度、教師不在でのレジャーの頻度、友人関係の問題の3つを経時的推定交絡因子として検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・3つの推定交絡因子で調整した後、ソーシャルメディアに費やされた時間の増加は、うつ症状(b=0.13、95%CI:0.01~0.24、p=0.038)、問題行動(b=0.07、95%CI:0.02~0.10、p=0.007)、一過性の大量飲酒(b=0.10、95%CI:0.06~0.15、p<0.001)の増加と関連が認められた。・しかし、これらの関連に対するエフェクトサイズは、あまり大きくはなかった。 著者らは「思春期においてソーシャルメディアに費やされた時間が増加すると、うつ症状、問題行動、一過性の大量飲酒の増加と、わずかではあるが関連することが示唆された」としている。

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非難されても致し方がない偏った論文(解説:野間重孝氏)-1081

 今回の論文評では少々極端な意見を申し述べると思うので、もし私の思い違い・読み違いだったとしたら、ご意見を賜りたくお願いしてから本題に入らせていただく。 本研究は虚血性心筋障害が疑われる患者に対して高感度トロポニンT/Iが心筋梗塞の正確な診断に利用されうるだけでなく、その予後情報としても利用できることを示そうと行われた研究である。具体的には救急外来受診時すぐに採血された値とその後一定時間をおいてから採血された2回目の採血結果を比較し、初回値だけを見るのではなく、2回目の数値を採血の間隔とも統合して見ることにより、より正確な診断のみでなく、その後の心血管イベントの発生リスクまでも予測できるとしたものである。 ここでまず重要なことは、典型的な症状を示し、心電図上明らかなST上昇が認められた症例は除外されていることである。この論文評をお読みの方の中には研修医の方もいらっしゃるのではないかと考えるので一言しておくと、2012年のESC/ACCF/AHA/WHFによる“Third Universal Definition of Myocardial Infarction”で心筋マーカーの上昇が心筋梗塞診断要件の1つとして位置付けられたことから、急性心筋梗塞の診断には心筋マーカーの上昇が必要と考え、臨床検査の結果を待とうという向きがありはしないかと懸念される。典型的症状+心電図上のST上昇は最も確実な心筋梗塞の診断であり、血液検査結果の到着を待つことなくただちに急性期治療を開始しなければならない。若い先生方、このあたりは絶対に過たないように声を大にしてお願いしたいと思う。 さて、問題は非典型例である。わが国においては、心電図変化が非典型的であったとしても心エコー図所見からasynergyがみられれば、緊急カテーテル検査を行うという方が多数派なのではないだろうか。かくいう私もそうしたほうなのだが、現在、海外では非典型例については(処置の準備をしておくことはもちろんだが)、まず検査結果をみようという向きが結構多いように感じられる。もちろんこれには純粋な科学的な理由ばかりではなく、保健医療などの問題も関係しているのではないかと推察するが…。 そこで本題であるが、そうした医療事情等の議論はさておいて、評者にはこの論文について、2つの重大な不満点がある。 第1はトロポニン測定に関する考え方がまったく述べられていないことである。 トロポニンT/IはトロポニンCとともに結合体を作り、アクチン・ミオシンへのカルシウムのコントロールをつかさどっている。これは骨格筋と同様であるのだが、トロポニンT/Iはその立体構造(conformation)が心筋固有のもの(isoform)であるため、健常時には血中にほとんど存在せず、心筋逸脱物質として取り扱うことができる。心筋に虚血性損傷が起こるとまず細胞膜に損傷が起こり、細胞液内可溶成分画内物質が逸脱する。代表的なのがCK、CK-MB、H-FABPなどである。これらがearly markerと呼ばれる。損傷がさらに進むと心筋の損傷から筋原線維タンパクが逸脱する。これらがlate markerと呼ばれ、その代表がトロポニン、ミオシン軽鎖である。すると、なぜトロポニンが早期反応物質として使用できるのかという疑問が起こるが、これには二通りの考え方がある。実はトロポニンはその6~7%が細胞質内に浮遊しており、それが測定されるのだという考え方。もう1つはmyocardiumの損傷は早期からトロポニン複合体の剥離を起こすため、測定が可能になるという考え方である。実際、トロポニンの上昇は厳密に測定すれば2層性なのだと主張する学者もいる。ちなみにearly markerといっても、必ずしもごく早期から測定できるわけではないのはCK-MBが良い例で、損傷が起こってから3~4時間を必要とする。高感度トロポニンがなぜ2時間程度から測定できるのか正確な機序はまだわかっていない。いずれにしても逸脱物質である以上、その値から心筋損傷の程度や予後を推定しようとするなら何度か測定し、AUC(area under curve)の積分値を考える必要がある。いつ起こったともわからない心筋損傷に対して、2点、それもその間隔が比較的ゆるく決められた2点の測定で代用できるというのなら、その根拠をしっかり示し、考察する必要がある。本論文ではこの点についてまったく述べられていない。学術論文では結果だけ示せばよいというものではないし、実際たまたまそうなったという可能性も否定できないのである。 なお、さきほど研修医の皆さんについて述べたが、生体内微量物質の定量とカットオフ値についての統計学的な知識については整理しておかれることを勧める。微量物質の正常値やカットオフ値の求め方について知っておくことは重要だからである。 第2点はさらに重要である。 こうしてトロポニン測定が行われた患者たちが、具体的にどのように治療されたのかという点についてまったく言及されていないのである。この論文は異常ともいえる長さのSupplementary Appendixが付けられているが、そのどこにもこうした問題についてのプロトコールが書かれていないのである(少なくともわかりやすいかたちで明記されていない)。というより、臨床試験で実患者を対象とした試験においてはこうした項目に対する記述は論文の倫理面からも結果解釈からも最重要項目の1つであるはずであるから、本文に明記されなくてはならないはずなのだが、まったく触れられていないのである。トロポニンを測定してみて、これはかなり危ないと考えられた患者もそのまま内科的に経過観察され、30日間のイベント発生に加えられたのだろうか? 加えて、本論文では心エコー図など他の検査所見についてもまったく言及されていないのである。当たり前だが、心筋梗塞の診断は血液検査のみで行うものではない。現在心筋梗塞の急性期の患者に対しては急性期インターベンションが施行されることにより、その予後が大幅に改善されることが証明されている。高名な臨床研究施設でそれぞれの倫理委員会を通った臨床研究なのだから、いい加減なやり方ではあろうはずがないと信じるが、このままの記述では人体実験が行われたと揶揄されても仕方のない論文構成ではないだろうか。 言い方は悪くなるのだが、いくつかの施設がそれぞれ自分たちのやり方で血液検査と予後調査をして、後から全体に通用させられるプロトコールを作って無理やりまとめたような印象があると言ったら少し言い過ぎだろうか? たとえば、現時点において臨床の場でトロポニンT、トロポニンIが並列的に測定されていることが多いが、それぞれの得失についての議論はまだ定まったとは言えない。実際、上昇までの時間、持続時間が微妙に異なることが知られている。また測定系の問題から、トロポニンT値からトロポニンI値を計算したり推定したりすることはできない。なぜトロポニンの研究をしようとしてトロポニンT/Iを混用したのか。各組織の都合に合わせたということではないのかというのは邪推だろうか。研究の全体像がつかみにくく、評価が難しい論文ではないかと思う。

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若年世代のがん啓発・患者支援チャリティーライブ「Remember Girl’s Power!! 2019」開催

 15歳以下の小児期に発症するがんや、15~39歳のいわゆる“AYA(Adolescent and Young Adult)世代”のがんについての啓発および患者支援を目的としたチャリティーライブ「Remember Girl’s Power!!」が、本年9月に東京で開催される。主催は、がんに関連する治験・臨床試験など情報を発信するwebサイト「オンコロ」で、現在、チケットを一般先行発売中。 チャリティーライブ「Remember Girl’s Power!!」は、39歳までの主に若年世代のがんについて、広く理解と支援を呼びかけることを目的に、2016年から毎年、同世代のがん啓発月間である9月に開催され、今年で4回目。ライブゲストは、自身ががん体験者や啓発活動に積極的なアイドルグループなどで、今回は、麻美ゆまさんや夢見るアドレセンスなど、計7組の女性アーティストのほか、スペシャルゲストとして、「home」などのヒット曲で知られる歌手・木山裕策さんの出演が予定されている。 本チャリティーライブは、9月1日(日)、東京の渋谷ストリームホールで開催される。7月21日(日)まで、チケットぴあにて先行チケット販売中で、27日(土)より一般発売開始。なお、本イベントには、がん体験者は無料招待される。<Remember Girl’s Power!! 2019 概要>日時:2019年9月1日(日) 15:00開場/16:00開演会場:渋谷ストリームホール(東京・渋谷駅16b出口直結)料金:5,500円(税込)  ※すべての参加者に1ドリンク代(500円)が別途必要(3歳以上) ※がん体験者は無料招待。詳細および応募フォームはこちらからRemember Girl’s Power!! 2019公式ホームページ

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非左脚ブロックに対するCRT-Dの効果【Dr.河田pick up】

 非左脚ブロックに対する心臓再同期療法(CRT)の有効性については、賛否両論があり、いまだ結論が出ていない。本研究では、米国のナショナルデータベースである、全米心血管データ登録(NCDR)の植込み型除細動器(ICD)レジストリを用いて、非左脚ブロック患者を右脚ブロック群と非特異的心室内伝導障害群に分け、除細動器を伴った心臓再同期ペースメーカー(CRT-D)の有効性を評価した。 この論文は、私(Hiro Kawata)とJonathan Hsu氏らがJournal of the American College of Cardiology誌6月号に発表した。非左脚ブロック患者11,505例を多変量解析 メディケアは主に65歳以上の高齢者を対象とする保険制度である。NCDRは、メディケア対象患者のエビデンスを構築するために作られ、米国心臓病学会(ACC)が管理するNCDRのデータにICD患者の情報を登録することが義務付けられている。この種のデータでは世界でも最大規模である。今回の研究は、そのNCDR-ICDデータベースを用いて、2010年~13年にICDが植込まれた患者のうち、CRTの植込みの適応がある11,505例が対象。ICDが植込まれた患者とCRT-Dが植込まれた患者の予後を、右脚ブロック群と非特異的心室内伝導障害群に分けて多変量解析を行った。右脚ブロック群、QRS幅に関わらず、CRT-D(ICDと比べて)で予後は改善せず このうち右脚ブロック群においては、QRSの長さにかかわらず、ICDと比較しても予後の改善が見られなかった。一方、非特異的心室内伝導障害群においては、QRSが150ms以上の患者で、3年後における死亡率低下との関連が認められた(ハザード比[HR]:0.602、95%信頼区間[CI]:0.416~0.871、p=0.0071)。非特異的心室内伝導障害、QRS≧150ならCRT-Dが有用 今回の研究において、右脚ブロック群では、QRSの長さにかかわらずCRT-DはICDを上回る効果を示すことができなかった。つまり、右脚ブロックへのCRT-D移植を支持するエビデンスはなく、やみくもにCRT-Dを植え込むことは避けるべきであると思われる。一方、非特異的心室内伝導障害を有するケースでは、QRSが150ms以上であればCRT-Dが有用な可能性がある。 右脚ブロックでCRT-D適応が不明確なケースにおいては、最近では行われなくなってはいるものの、心エコーでの同期不全による評価も有用との報告もある1)。現在、非特異的心室内伝導障害に対するCRT-D移植を評価する無作為試験が進行中であり、今後その報告が待たれる2)。1)Hara H,et al.European heart journal. 2012 Nov;33(21);2680-91. doi: 10.1093/eurheartj/ehs013.2)Eschalier R,et al. BMJ open. 2016 11 11;6(11);e012383. doi: 10.1136/bmjopen-2016-012383.(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)

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ASCO2019レポート 消化器がん(Lower GI)

レポーター紹介2019年5月31日~6月4日まで、イリノイ州シカゴにあるMcCormick Placeにて2019 ASCO Annual Meetingが開催された。本稿では、その中から大腸がん関連の演題をいくつか紹介したい。進行再発大腸がんに対する新しい薬剤はここ数年登場しておらず、残念ながら今年のASCOでも、すぐに臨床現場に登場するような新規薬剤の発表はなかった。しかし、臨床家として興味深い演題は多数みられ、そのうちのいくつかを周術期化学療法、進行再発大腸がんに対する化学療法、手術手技のそれぞれに分けて紹介する。周術期化学療法ASCOにおける大腸がんに対する周術期化学療法の発表としては、2017年のIDEA collaborationが記憶に新しい。StageIII結腸がんに対する術後補助化学療法の至適投与期間についての検討である。標準治療であるオキサリプラチン併用レジメ(FOLFOXもしくはCAPOX)の6ヵ月投与に対して、試験治療である3ヵ月投与の非劣性が検証された。試験全体の結果はnegativeであったものの、リスク、治療レジメによる差がみられ、その後の各ガイドラインの記載、日常診療に影響を与えた。#3501:Prospective pooled analysis of four randomized trials investigating duration of adjuvant (adj) oxaliplatin-based therapy (3 vs 6 months {m}) for patients (pts) with high-risk stage II colorectal cancer (CC).IDEA collaborationに参加した6つの臨床試験のうち、4つの試験(SCOT、TOSCA、ACHIEVE-2、HORG)ではStageIIIとともにハイリスクStageII症例も登録されており、その結果が報告された。ハイリスクの因子として挙げられたのは、T4、低分化、不十分なリンパ節郭清、血管・神経浸潤、閉塞、穿孔である。統計学的にはオキサリプラチンの上乗せ効果が60%まで低下することを許容し、非劣性マージンは1.2、80%の検出力で542イベントが必要との仮説であった。ハイリスクStageII症例3,273例が、試験治療である3ヵ月群と標準治療である6ヵ月群に無作為割り付けされ、3ヵ月群では有意に有害事象の低減がみられたものの(p<0.0001)、主要評価項目である5年無病生存率(DFS)は3ヵ月群80.7% vs.6ヵ月群83.9%であり非劣性は証明されず、試験全体としてはnegative studyであった(HR:1.18、80%CI:1.05~1.31、p=0.3851)。レジメと期間ごとの5年DFSはCAPOX 3ヵ月81.7% vs.6ヵ月82.0%、FOLFOX 3ヵ月79.2% vs.6ヵ月86.5%であり、CAPOXにおいてその差は小さい傾向にあった。これらの結果から発表者は、ハイリスクStageII症例の術後補助化学療法を行う場合、CAPOXなら3ヵ月、FOLFOXなら6ヵ月と結論付けていた。#3504:FOxTROT: an international randomised controlled trial in 1052 patients (pts) evaluating neoadjuvant chemotherapy (NAC) for colon cancer.切除可能大腸がんに対しては術後補助化学療法が標準治療であるが、術前化学療法は切除前に化学療法を行うことにより腫瘍縮小による切除率の向上、微小転移の抑制などが期待される。FoxTROT試験は、切除可能大腸がんにおいて術前化学療法が治療成績を改善するか、を検証した第III相試験である。T3-4、N0-2、M0かつFOLFOX療法、手術が可能と考えられる1,052例が、試験治療である術前化学療法群(FOLFOX 3コース→手術→FOLFOX 9コース:NAC群)、もしくは標準治療である術後補助化学療法群(手術→FOLFOX 12コース:術後治療群)に2:1で無作為割り付けされた。NAC群においてRAS野生型であればパニツムマブの併用が許容された。2点において主治医の裁量での変更が可能であり、治療全体の期間が高齢者や再発リスクの低い症例では全体の投与期間が24週ではなく12週でもよい、FOLFOXの代わりにCAPOXでもよい、という設定であった。術前化学療法は安全に施行され全体として大きな合併症の増加はみられなかった。不完全切除率(R1、R2もしくは非切除)はNAC群4.8%、術後治療群11.1%であり、NAC群において有意に低かった(p=0.0001)。病理組織学的検討では、pT0は4.1% vs.0%、pN0は59.4% vs.48.8%で、いずれもNAC群においてdown stagingが得られていた(p<0.0001)。NACによる病理組織学的効果は59%の症例で確認され、pCRの症例を3.5%認めた。主要評価項目である2年後の再発もしくは腫瘍残存はNAC群13.6%、術後治療群17.2%であり、NAC群において予後良好な傾向を認めたものの有意差を認めなかった(HR:0.75、p=0.08)。NAC群におけるパニツムマブの上乗せ効果は認めなかった(p=0.30)。主要評価項目では統計学的有意差を認めなかったものの、大腸がんに対するNACは新たな概念であり、今後の続報を待ちたい発表であった。進行再発大腸がんに対する化学療法ここ数年のASCOでは免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor: ICI)が大きな話題である。大腸がんにおいてはマイクロサテライト不安定性を認める症例(MSI-high)ではICIの効果が期待されるものの、その割合は大腸がん症例全体の数%にすぎず、大腸がんの多くを占めるMSS症例に対する効果は期待できなかった。#2522:Regorafenib plus nivolumab in patients with advanced gastric (GC) or colorectal cancer (CRC): An open-label, dose-finding, and dose-expansion phase 1b trial (REGONIVO, EPOC1603).制御性T細胞(regulatory T cells:Tregs)や腫瘍関連貪食細胞(tumor-associated macrophages:TAMs)は抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体治療に対する抵抗性に関与すると考えられている。レゴラフェニブは大腸がんにおいていわゆるLate lineで使用される薬剤であるが、血管新生阻害作用や腫瘍関連キナーゼ阻害作用を持ち、TAMsを減らすことが腫瘍モデルにて示されている。本試験は、標準治療に不応・不耐となった進行・再発胃がん、大腸がん症例を対象としたレゴラフェニブとニボルマブの併用療法の第Ib相試験である。主要評価項目は用量制限毒性(DLT)、最大耐用量(MTD)と推奨用量(RD)であり、副次評価項目は奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、病勢コントロール率(DCR)であった。レゴラフェニブの1日1回で21日間内服・7日間休薬とニボルマブの3mg/kgを2週ごとに点滴静注を併用する投与スケジュールであった。レゴラフェニブの用量は80mg/day、120mg/day、160mg/dayの3レベルが設定され、低いほうから3例ずつ投与し有害事象がなければ増量していくdose-escalation cohortと、求められたRDで治療を行うexpansion cohortが設定された。胃がん25例、大腸がん25例が登録され、MSI-highは1例(2%)、MSSが49例(98%)であった。レゴラフェニブのdose-escalation cohortにおいて80mg/day、120mg/day、160mg/dayにそれぞれ4例、7例、3例が登録され、160mg/dayのレベルにてGrade3の発疹、蛋白尿、結腸穿孔を認めた。この結果から推奨用量は120mg/dayとなったが、その後Grade3の皮膚症状の頻度が多かったため最終的にレゴラフェニブの用量は80mg/dayとされた。胃がん、大腸がんを合わせた50例全体のORRは40%(95%CI:26~55)、DCRは88%(95%CI:76~96)であった。レゴラフェニブの用量別のORRの検討では、80mgは45%、120mgは36%、160mgは33%であった。大腸がん全体のORRは36%であり、MSSだけに限ると33%であった。胃がんのORRは44%であり全例がMSSであった。全体のPFS中央値は6.3ヵ月であった。消化器がんにおいて今までICIの効果が期待できなかったMSS症例で、レゴラフェニブとの併用においてICIの効果を認めたことは特筆すべきと考える。レゴラフェニブをTregsやTAMsを抑えるために使用するという発想も興味深く、今後の第II相、第III相試験の結果が待たれる。手術手技ASCOは化学療法のみの学会ではなく手術手技、放射線治療、支持療法、緩和ケア、予防、早期発見、医療経済、サバイバーシップなど多岐にわたる発表が行われる。本邦からの大腸がん手術手技に関する演題がPoster Discussion Sessionにおいて発表された。#3515:A randomized controlled trial of the conventional technique versus the no-touch isolation technique for primary tumor resection in patients with colon cancer: Primary analysis of Japan Clinical Oncology Group study JCOG1006.大腸がん手術時に最初に血管の結紮を行うno-touch isolation technique(NTIT)は、手術手技による腫瘍細胞の血行性転移を防ぐことに有効と考えられていたが、大規模な有効性のデータは存在しなかった。JCOG1006はこのNTITの有効性を検証した第III相試験である。主な適格症例は組織学的に確認された大腸がん(回盲部~Rs直腸まで)、T3-4、N0-2、M0などである。症例はconventional technique(CoT:[1]腸管の剥離・授動→[2]辺縁血管の結紮→[3]腸管切離→[4]脈管根部での結紮)もしくはNTIT([1]脈管根部での結紮→[2]辺縁血管の結紮→[3]腸管切離→[4]腸管の剥離・授動)に無作為化された。手術はすべて開腹手術であり、術後病理組織学的にStageIIIと診断された症例はカペシタビンによる術後補助化学療法を受けた。主要評価項目は無病生存期間(DFS)であった。2011年1月~2015年11月に853例が登録され、CoT 427例、NTIT 426例に無作為化された。3年DFSはCoT 77.3%、NTIT 76.2%であり、NTITの優越性は証明されなかった(HR:1.029、95%CI:0.800~1.324、p=0.59)。3年OSはCoT 94.8%、NTIT 93.4%であった(HR:1.006、95%CI:0.674~1.501)。これらの結果からNTITは術後再発率、生存率に寄与しないと結論付けられた。本試験は結果としてnegative studyであったが、臨床現場のClinical Questionに対してきちんとした第III相試験を立案、実施、解析、発表するその姿勢は素晴らしく、そのことが評価されてのPoster Discussionへの採択であったと感じられた。最後に今年のASCO大腸がん領域の演題からいくつかを紹介したが、上記演題のほかにも進行再発がんに対するTripletレジメや、抗PD-1抗体+抗CTL-4抗体、抗PD-1抗体+放射線治療など、さまざまな興味深い演題の発表があった。ASCO2019のテーマは“Caring for Every Patient, Learning from Every Patient”であり、上記のようなさまざまなエビデンスを理解したうえで、患者一人ひとりから学び、患者一人ひとりに最良の治療、ケアを提供していくことが大切であると考えられた。

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症候性AFの第一選択にアブレーション加わる/不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)

 「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」が、2019年3月29日に発表された。本ガイドラインは2011年改訂の「不整脈非薬物治療ガイドライン」、および2012年発表の「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」の統合・改訂版。第83回日本循環器学会学術集会(3月29~31日、横浜)で、ガイドライン作成の合同研究班班長である栗田 隆志氏(近畿大学病院 心臓血管センター)、野上 昭彦氏(筑波大学医学医療系 循環器不整脈学)が、植込み型心臓電気デバイス(CIED)とカテーテルアブレーションの主な改訂点についてそれぞれ講演した。ICD適応を日本のエビデンスで裏付け CIEDでは、虚血性の冠動脈疾患および非虚血性心筋症に対する植込み型除細動器(ICD)の適応を、フローチャートの形で整理。ともに考え方や推奨度そのものは、2011年版から大きな変化はない。しかし非虚血性心筋症に対する一次予防では、DANISH試験を含むメタ解析や日本発のエビデンスなど、最新試験結果による推奨度の裏付けがなされた。 栗田氏は、「とくに2つの日本のデータから、非虚血性心筋症の一次予防におけるICD適応の根拠を得ることができたことは大きい。2015年発表のCHART-2試験によって示された、1次予防適応のクラスIならびにクラスIIa相当の患者における致死的不整脈の発生率はこの推奨度を支持する。また、2018年発表のNippon Stormからは、非虚血性の一次予防における適切作動率が、虚血性の二次予防と同程度という結果が得られており、有用性が示されている」と述べた。ESCではQRS幅130ms未満はCRT禁忌、しかし日本では? 心臓再同期療法(CRT)の適応は非常に複雑なため、NYHA心機能分類、薬物治療の施行、LVEF、QRS波形、QRS幅、調律に応じた推奨度を一覧化した表を不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)で初めて掲載している。この中で議論となったのが、CRT 適応とするQRS幅の下限値だ。2013年のEchoCRT試験の結果を受けて、ESC(欧州心臓病学会)の2016年のガイドラインでは、130ms未満はクラスIII(禁忌)となっている。 しかし、日本では120~130msの心筋症患者でもCRTレスポンダーの報告があること、またEchoCRT試験のサブ解析では、左室拡張末期容量(LVEDV)の小さな症例ではCRTの有用性が示されていることなどから、本改訂版では変更なく、下限値を120msとしている。 その他、旧版以降に登場した、リードレスペースメーカ、ヒス束ペーシング、経皮的リード抜去術などの新たな治療法についてもガイドラインでは項目立てされ、エビデンスが整理されている。症候性AFでは、薬物治療とカテーテルアブレーションが第一選択に 野上氏は、まず大前提として甲状腺機能亢進症、肥満、高血圧、糖尿病といった心房細動(AF)のリスク因子の適切な治療なくして、カテーテルアブレーションの施行はないことを強調。そのうえで、症候性AFにおいては、近年発表された3つのRCTやメタ解析でその有用性が示されたことから、抗不整脈薬の投与を経ないカテーテルアブレーションの施行を、抗不整脈薬投与とともに第一選択としてガイドラインでは推奨したと説明した。発作性/持続性AFでは、第一選択としてクラスIIaの推奨度が示されている。長期持続性AFについてはエビデンスが十分ではないが、抗不整脈薬による治療効果が乏しいため、同じくIIbの推奨度がガイドラインでは示されている。 一方、無症候性AFでは、長期予後を改善するというエビデンスは十分ではない。そのため不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では2012年版と変更なく、推奨度はIIbのままとなっている。周術期の抗凝固療法についての改訂点は まず、ワルファリンとダビガトランを投薬中の患者については、休薬なしでAFアブレーションを施行することにクラスI、その他のDOACについてはクラスIIaの推奨度が不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では示された。一方、多くの病院で行われている、DOACの術前1回ないし2回の休薬についても、ABRIDGE-J試験の結果などからIIaの推奨度となっている。 その他、単形性持続性心室頻拍(VT)におけるアミオダロン投与有の患者、右室流出路あるいは末梢プルキンエ線維起源の心室期外収縮(PVC)契機の多形性VT・心室細動(VF)に対するアブレーションに、クラスIの推奨度が示されている。■関連記事「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」発表/日本循環器学会急性冠症候群ガイドラインの改定点は?/日本循環器学会

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がん終末期は減薬を/Cancer

 がん終末期における予防薬の投与はいつまで行われているのか。スウェーデン・カロリンスカ研究所のLucas Morin氏らは、高齢の進行がん患者における降圧薬、抗血小板薬、抗凝固薬、スタチン、経口糖尿病薬などの予防薬の継続について調査を行い、これらは死亡前1年間においても処方され、しばしば最後の数週間まで続けられていたことを明らかにした。著者は、「終末期の患者において、予防薬が臨床的有用性を達成する可能性は低い。死期が近づいたころの臨床的有用性が限られた薬剤の負担を減らすため、適切な減薬(deprescribing)戦略が必要である」と述べている。Cancer誌オンライン版2019年3月25日号掲載の報告。 研究グループは、スウェーデンのデータベースを用い、2007~13年に死亡した65歳以上の高齢固形がん患者について、患者が死亡する前1年間における予防薬の毎月の使用と費用を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は15万1,201例(平均年齢81.3歳)で、死亡前1年間において、平均投与薬剤数は6.9剤から10.1剤に増加していた。・降圧薬、抗血小板薬、抗凝固薬、スタチン、経口糖尿病薬などの予防薬は、しばしば死亡月まで継続されていた。・1人当たりの薬剤費(中央値)は、1,482ドル(四分位範囲[IQR]:700~2,896ドル)に達し、そのうち213ドル(IQR:77~490ドル)が予防薬であった。・予防薬の費用は、肺がんで死亡した高齢患者(1人当たりの薬剤費[中央値]:205ドル、IQR:61~523ドル)と比較して、膵がん患者(補正後群間差:13ドル、95%CI:5~22ドル)、婦人科系がん患者(補正後群間差:27ドル、95%CI:18~36ドル)で高かった。・死亡前1年間を通して、予防薬の費用に関して減少は認められなかった。

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「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」発表/日本循環器学会

 「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」が、2019年3月29日に発表された。本ガイドラインは「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」および2011年発表の「拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン」の統合・改訂版。第83回日本循環器学会学術集会(3月29~31日、横浜)において、心筋症診療ガイドライン作成の合同研究班班長を務めた北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学)が、その内容について講演した。 同氏は、心筋症診療ガイドラインの本改訂において重視した点として下記3つのポイントを挙げたうえで、心筋症全体の定義と分類、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)の診断・治療について、主な改訂点を解説した。1.これまでの心筋症の分類法を参考にしながら、わが国の診療実態に即した心筋症の新しい定義の作成2.HCMは、EBMの十分でない疾患であるため、ACCF/AHA、ESCのガイドラインを参考に、わが国より発信されたエビデンスを盛り込みながら、診療現場での実際の意思決定に有用であること3.DCMにおける病因解明の進歩を折り込み、本症が左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の代表的な疾患であることより、急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)を参照した最新の診療・治療方針を明示すること心筋症診療ガイドラインでは心筋症を4つの基本病態に整理 心筋症の分類としては、米国心臓協会(AHA)の病因による分類(2006年発表)、欧州心臓病学会(ESC)の形態による分類(2008年発表)が知られる。心筋症診療ガイドラインでは、従来通り形態や機能から心筋症を診断する。その際には、“常に病因としての遺伝性/非遺伝性を意識し、心アミロイドーシスやファブリー病など二次性心筋症を鑑別したうえで確定されるべきである”とされた。 原発性(特発性)心筋症としての病名を、肥大型心筋症、拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症、拘束型心筋症の4つに分類している。さらに“これらの病型にOverlapがあることを明示した”ことも重要なポイントである。新ガイドラインでは肥大型心筋症は安静時に圧較差がなくても負荷をかけて心エコー推奨 肥大型心筋症については、近年の報告から「左室壁15mm(家族歴がある場合は13 mm)以上の心肥大」と診断上の定義を心筋症診療ガイドラインでは明記。そして閉塞性肥大型心筋症(HOCM)については、安静時に圧較差がある症例に加えて、負荷によって30mmHg以上の圧較差を認める場合もHOCMとして定義している。北岡氏は、「従来、HOCMは安静時の圧較差30mmHg以上と提唱されてきた。しかしこの10年ほどで、安静時には圧較差が認められなくても、負荷をかけると認められる症例が多く存在し、HCM全体の7割程度で、圧較差が病態と関係するということが分かってきた」とその背景を解説した。HCMと確定診断された患者では、バルサルバ手技などによる負荷を、心エコー検査中に行うことを推奨している。 そのほか新たな心筋症診療ガイドラインでは、MRIは形態学的評価だけでなく、二次性心筋症との鑑別あるいは予後予測において、最も推奨度の高いクラスIに変更された。心筋生検については、MRIの進歩などによりルーチンでの実施は不要と位置付けられている。「ただし、決して心筋生検の重要性が後退したということではなく、不明の場合の最終検査としては非常に重要」と同氏は補足。また、遺伝子診断についての推奨度が2012年版から大きく再整理・変更されていることも説明された。肥大型心筋症の突然死予防にガイドラインでICD植込み適応をフローチャート化 肥大型心筋症の薬物治療については、従来通りで新ガイドラインに大きな変更はない。突然死予防は、ICD植込み適応の考え方が再整理された。2012年度版から5つの主要リスク因子および修飾因子を一部変更。これまで重みづけされていなかった各主要リスク因子についてエビデンスを基に重みづけし、フローチャートの形でICD植込み適応の推奨度を示した。 そのほか、圧較差と不整脈に対する治療法は、近年の知見を盛り込んだ形に一部変更されている。不整脈については、心房細動患者に対する抗凝固療法にクラスIの推奨度とエビデンスレベルが記された。エビデンスの充実からワルファリン使用の推奨が明記され、DOACについても「有用性が期待される」という形で新たに記載された。抗がん剤によるリスクを整理、またクラスIの推奨となった遺伝子検査も(DCM) 新たな心筋症診療ガイドラインでは、DCMの定義に大きな変更はないが、近年左室機能障害を引き起こす重要な原因として指摘されている抗がん剤について、報告されている発症率とともに一覧化された表が初めて掲載された。 検査に関しては、HCM同様二次性心筋症との鑑別や予後予測においてもMRIによる評価に推奨度が記載された。「ただし、HCMほどデータが十分ではないという判断から、クラスIIaの推奨度となっている」と同氏は話した。心筋生検の位置づけはHCMと同様となっている。 DCMにおける遺伝子検査については、「40以上ある原因遺伝子の中で、特にタイチンとラミンについては検査に臨床的意義があると判断された」と述べ、タイチンにIIa、ラミンにIの推奨度が記載されている。MitraClipの COAPT試験の結果を反映 DCMの治療に関しては、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」に基づく内容となっている。加えて、その後の知見としてMitraClipの COAPT試験の結果も反映された。 また、ラミンA/C変異を有する患者は予後が悪いことが、日本人を対象とした試験でも報告されている。そのため、新たな心筋症診療ガイドラインでは“提言”の形で、ESCあるいはAHA/ACC/HRSガイドラインにおけるICD植込み適応(リスク因子と推奨度)を紹介している。

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ACC/AHAガイドライン、ESCガイドラインのエビデンスレベルは?/JAMA

 主要な心臓血管関連学会のガイドラインでは、複数の無作為化臨床試験(RCT)または単一の大規模RCTのエビデンスによって支持される推奨の割合はきわめて低く、このパターンは、2008~18年の改訂でも意義のある改善はなされていないことが、米国・デューク大学のAlexander C. Fanaroff氏らの調査で明らかとなった。研究の詳細は、JAMA誌2019年3月19日号に掲載された。臨床決定は、臨床転帰を評価した複数のRCTによるエビデンスに基づくのが理想だが、歴史的には、この種のエビデンスに完全に基づく臨床ガイドラインの推奨はほとんどないという。ACC/AHAガイドラインおよびESCガイドラインの現行と旧版を調査 研究グループは、現行の主要な心臓血管関連学会のガイドラインの推奨を支持するエビデンスのクラス(I~III)とレベル(LOE、A~C)について解析し、経時的なLOEの割合の変化を調査した。 学会のウェブサイトで同定された現行の米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)および欧州心臓病学会(ESC)の臨床ガイドライン(2008~18年)と、現行のガイドラインが参照した直近の旧版(1999~2014年)のガイドラインを調査の対象とした。 各ガイドラインについて、推奨の数とLOEの分布を検討した(LOE A:複数のRCTまたは単一の大規模RCTのデータによって支持されている、LOE B:観察研究または単一のRCTのデータで支持されている、LOE C:専門家の意見のみ)。主要評価項目は、LOE Aのエビデンスで支持されている推奨の割合とした。LOE A推奨の割合はACC/AHAガイドライン 8.5%、ESCガイドライン 14.2% 現行の26のACC/AHAガイドラインには、推奨が2,930件(1つのガイドライン当たりの中央値121件[四分位範囲:76~155])含まれた。そのうち、248件(8.5%)の推奨がLOE Aに分類され、1,465件(50.0%)がLOE B、1,217件(41.5%)はLOE Cであった。LOE A推奨の割合の中央値は7.9%(四分位範囲:0.9~15.2%)だった。 一方、現行の25のESCガイドラインには推奨が3,399件(1つのガイドライン当たりの中央値130件[四分位範囲:111~154])掲載されていた。484件(14.2%)の推奨がLOE Aに分類され、1,053件(31.0%)がLOE B、1,862件(54.8%)はLOE Cであった。 現行ガイドラインを旧版と比較すると、LOE Aの推奨の割合の中央値は、ACC/AHAガイドライン(現行9.0% vs.旧版11.7%)およびESCガイドライン(15.1% vs.17.6%)のいずれもが、増加していなかった。 下位専門分野別の解析では、LOE A推奨の割合は冠動脈疾患が最も高く、先天性心疾患/心臓弁膜症が最も低かった。また、先天性心疾患/心臓弁膜症を除き、LOE A推奨の割合は、ESCガイドラインがACC/AHAガイドラインよりも高かった。 著者は、「今回の結果は、過去10年にわたる臨床試験の簡略化と促進に向けた努力が、RCTによってより良く支持されたエビデンスに基づく推奨へと転換されていないことを示している」と指摘している。

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学会でツイッター活用、日循の取り組みはどこまでバズったか?

 2019年3月29日から31日まで開催された第83回 日本循環器学会学術集会において、同学会は、日本国内の医学系学会では初めて、学術集会中の発表内容をツイッター上で公開した。 #19JCSのハッシュタグを付けて投稿されたツイート総数は、リツイートも含み、約8,000。公式アカウント@JCIRC_IPRのインプレッション数は期間中だけで77万を超え、フォロワーが約2,000人から4,000人強へ倍増した。 投稿内容は、一般演題を除くシンポジウムをはじめとした講演の全演者の9割・330名以上から事前に撮影の許諾を得た、スライド写真や文字によるサマリ、発表後のインタビュー動画。スライド写真のツイートを行ったのは、同学会情報広報部会および事前に承諾を得た公式サポーターの学会員約20名。公式サポーターは医師を筆頭とした循環器診療に関わる医療者だ。 今回の結果について、同情報広報部会は「予想よりもスムーズだった」と評している。演題の9割をカバーし、同部会と公式サポーターによる専門的見地からコメントを付けた投稿も中には含まれたことで、批判的吟味を含めた議論の土壌を作れたからだ。 また、学術集会初日に合わせて「日本循環器学会ツイッター利用指針」を国内医学系学会で初めて公開し、公式な学会活動としてコンプライアンス体制を整えてツイッターを活用したことも今後につながる成果だ。 一方、今後の課題は学会員へのツイッター活用の普及にある。専門家による適切な医療情報の提供、議論がより多くなされることでより質の高い情報発信が可能となるからだ。 公式アカウントのフォロワーが、学術集会中に2,000人以上増えた結果を踏まえ、今後もメリットが周知されればツイッターを活用する学会員の増加を期待できると同部会は考えている。 この取り組みはほかの診療科へも波及している。#19JCSでのツイートを見ると、救急や整形外科、精神科などの医師がこの活動に共感し、所属学会に問い合わせをしている様子が伺える。 膨大な数の演題が登録される学術集会において、興味があるテーマのすべてを聞くことは不可能だが、SNSは物理的制約を乗り越えて知見を広げる助けになる。またリアルタイムでの専門医・医療関連者同士のディスカッションがSNSを通じて活発になれば、研究・臨床・教育の質向上にも寄与する可能性も広がる。 海外では、欧州心臓病学会(ESC)や米国心臓協会(AHA)のように活発にSNSを使用する学会もあれば、米国糖尿病学会(ADA)のように否定的な立場をとる学会もある。 SNSをどう使うかは学会によって異なる見解があると予想されるが、今回の日本循環器学会の取り組みが国内学術集会におけるSNS活用の在り方に影響を与えることは間違いなさそうだ。■リンク日本循環器学会情報広報部会@JCIRC_IPRハッシュタグ #19JCS■参考文献米国主要循環器系学会で2014年から2016年にかけて急速に進んだSNS活用の現状2018年欧州心臓病学会学術集会でのツイッター活用

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β遮断薬長期投与、肝硬変の代償不全を予防/Lancet

 代償性肝硬変および臨床的に重要な門脈圧亢進症(CSPH)の患者では、β遮断薬の長期投与により代償不全(腹水、胃腸出血、脳症)のない生存が改善されることが、スペイン・バルセロナ自治大学のCandid Villanueva氏らが実施したPREDESCI試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年3月22日号に掲載された。肝硬変における臨床的な代償不全は予後不良とされる。CSPHは、肝静脈圧較差(HVPG)≧10mmHgで定義され、代償不全の最も強力な予測因子だという。代償不全/死亡をプラセボと比較 本研究は、β遮断薬によるHVPG低下が、CSPHを伴う代償性肝硬変における代償不全や死亡のリスクを低減するかを検証する研究者主導の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験である(Spanish Ministries of Health and Economyの助成による)。 高リスクの静脈瘤のない代償性肝硬変およびCSPHで、HVPG≧10mmHgの患者(年齢18~80歳)を登録し、プロプラノロール静脈内投与によるHVPGの急性反応を評価した。レスポンダー(HVPGがベースラインから>10%低下)は、プロプラノロール(40~160mg、1日2回)またはプラセボを投与する群に、非レスポンダーはカルベジロール(≦25mg/日)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、肝硬変の代償不全(腹水、門脈圧亢進症関連の胃腸出血、顕性肝性脳症の発現と定義)または死亡とした。代償性肝硬変では、代償不全が発症する前の死亡は、ほとんどが肝臓とは関連がないため、肝臓非関連死を競合イベントとしたintention-to-treat解析が行われた。主要エンドポイント:16% vs.27%、腹水の発生低下が主要因 2010年1月~2013年7月の期間に、スペインの8施設で201例が登録され、β遮断薬群に100例(平均年齢60歳、男性59%、プロプラノロール67例、カルベジロール33例)、プラセボ群には101例(59歳、63%)が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は37ヵ月だった。 主要エンドポイントの発生率は、β遮断薬群が16%(16/100例)と、プラセボ群の27%(27/101例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.26~0.97、p=0.041)。 この両群の差は、β遮断薬群で腹水の発生が少なかったためであり(9% vs.20%、0.42、0.19~0.92、p=0.0297)、胃腸出血(4% vs.3%、1.52、0.34~6.82、p=0.61)および顕性肝性脳症(4% vs.5%、0.92、0.40~2.21、p=0.98)には差はみられなかった。 全体の有害事象の発生は、両群でほぼ同等であった(β遮断薬群84% vs.プラセボ群87%)。治療に関連する可能性があると判定された有害事象は、それぞれ39%、30%、その可能性が高いと判定された有害事象は16%、15%であった。6例に重度の有害事象が認められ、β遮断薬群が4例、プラセボ群は2例だった。 著者は、「この非選択的β遮断薬の新たな適応は、患者転帰の改善や医療費の抑制に多大な効果をもたらし、今後、臨床ガイドラインに影響を及ぼす可能性がある」としている。

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