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慢性膵炎の疼痛緩和、早期外科治療vs.内視鏡/JAMA

 慢性膵炎患者の治療では、早期の外科治療は内視鏡による初期治療と比較して、1.5年の期間を通じて疼痛の緩和効果が優れることが、オランダ・アムステルダム大学のYama Issa氏らDutch Pancreatitis Study Groupが行った「ESCAPE試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年1月21日号に掲載された。疼痛を伴う慢性膵炎患者では、薬物治療および内視鏡治療が不成功となるまで、外科治療は延期される。一方、観察研究では、より早期の外科治療によって、疾患の進行が抑制され、より良好な疼痛管理と膵機能の保持が可能と報告されている。疼痛緩和効果を評価するオランダの無作為化試験 本研究は、オランダの30施設が参加した無作為化優越性試験であり、2011年4月~2016年9月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構などの助成による)。 対象は、膵管拡張を伴う閉塞性慢性膵炎による重度の疼痛がみられ、非オピオイド鎮痛薬では疼痛の進行を抑制できないため、オピオイド鎮痛薬の使用(強オピオイド≦2ヵ月、弱オピオイド≦6ヵ月)を開始した成人患者であった。 被験者は、無作為割り付けから6週間以内に外科的ドレナージ術を行う早期外科治療群、または至適な薬物療法が無効または許容できない有害事象が発現したため、内視鏡による初期治療を行う群(必要に応じて、体外衝撃波結石破砕術や外科治療を併用)に割り付けられた。 主要アウトカムは、18ヵ月間の追跡期間におけるIzbicki疼痛スコア(0~100点、点数が高いほど疼痛の重症度が高い)とした。副次アウトカムは、追跡期間終了時の疼痛消失、介入・合併症・入院の回数、膵機能、QOL(36-Item Short Form Health Survey[SF-36])、死亡であった。18ヵ月間の平均Izbicki疼痛スコア:37点vs.49点 88例(平均年齢52歳、女性21例[24%]、早期外科治療群44例、内視鏡治療群44例)が登録され、85例(97%)が試験を完遂した。ベースラインの平均年齢は早期外科治療群が7歳若かった(49歳、56歳)。全体の膵管径中央値は8mm(IQR:6~10)であり、16%で膵石と膵管狭窄が、74%で膵石のみ、10%で膵管狭窄のみが認められた。 早期外科治療群の44例中41例が手術を受けた(割り付けから手術までの期間中央値40日[IQR:32~65])。一方、内視鏡治療群の44例中2例で薬物療法が成功し、42例は成功しなかった。このうち39例(89%)が内視鏡治療を受け(施行回数中央値3回[1~4])、24例(62%)は不成功であった。22例で体外衝撃波結石破砕術が行われ、13例(30%)が外科治療を受けた。 18ヵ月の追跡期間中の平均Izbicki疼痛スコアは、早期外科治療群が37点と、内視鏡治療群の49点に比べ有意に低かった(群間差:-12点、95%信頼区間[CI]:-22~-2、p=0.02)。 追跡期間終了時に、疼痛の完全消失(Izbicki疼痛スコア≦10点)または部分消失(同>10点、かつベースラインに比べ50%以上の低下)は、早期外科治療群が40例中23例(58%)、内視鏡治療群は41例中16例(39%)で達成され、両群間に有意な差はなかった(群間差:19%、95%CI:-4~41、p=0.10)。 介入の回数は早期外科治療群で少なかった(群間差:-2回、95%CI:-3~-1、p<0.001)。一方、死亡(0%、0~0)、入院回数(0、-1~0、p=0.15)、膵外分泌機能不全(3、-10~15、p>0.99)、膵内分泌機能不全(-16、-36~4、p=0.12)、QOL(身体機能:3、-2~8、p=0.21、心の健康:3、-2~8、p=0.21)には、両群間に有意な差はみられなかった。 有害事象は、早期外科治療群で12例(27%)、内視鏡治療群では11例(25%)に認められた。早期外科治療群の有害事象はすべて術後の合併症であり、内視鏡治療群は7例(16%)が内視鏡治療後の合併症で、5例(38%)は外科治療後の合併症だった。 著者は、「この差の長期の持続性を評価し、これらの知見の再現性を確認するために、さらなる検討を行う必要がある」としている。

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「がん免疫」ってわかりにくい?【そこからですか!?のがん免疫講座】第1回

はじめに約1世紀前にW. Coleyが「感染症によりがんが縮む」と報告したことが「がん免疫」の最初とされています1)。その後、20世紀初頭にP. Ehrlichが「免疫ががんから生体を防御している」という考えを唱え、M. BurnetとL. Thomasにより「がん免疫監視機構」としてまとめられました2)。がん免疫療法は期待されつつも長らく臨床応用されないままで、懐疑的に見られた時代もありましたが、近年ついに免疫チェックポイント阻害薬の効果がさまざまながんで証明されたことから、がん治療にパラダイムシフトをもたらしています3,4)。従来の抗がん剤やEGFR阻害薬といった分子標的薬は、一部の薬剤を除き、がん細胞を直接標的にすることでがん細胞の増殖を止めたり殺したりしています。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、薬剤ががん細胞に直接作用するわけではなく、免疫細胞に作用することでがんを治療しています。さらに免疫細胞にもさまざまな種類が存在しており、これらのことががん免疫療法の理解を難しくしてしまっています。本連載では、あまり「がん免疫」に詳しくない方にも理解しやすい内容で、5回にわたってがん免疫の基礎から今後の展望まで紹介します。そもそも免疫って何しているの?「がんに対する免疫」について書く前に、「普通の免疫」について簡単に触れたいと思います。現在の死因第1位は皆さんご存じのように「悪性新生物」ですが、過去には死因第1位は「感染症」でした。これは、感染症が生物の生きていくうえで大きな問題になってきたことを示しています。現代でも肺炎は死因として大きなウエイトを占めていますし、悪性新生物という死因であっても最終的には感染症が原因で亡くなる方は非常に多く、常に問題になっています。その感染症の原因となる細菌やウイルスといった病原体から、自分の身を守るために身体に備わっているシステムが「免疫」です。つまり免疫とは、細菌やウイルスといった自分とは違う外来の異物(非自己)を排除し、自分の身体(自己)を守るためのシステムです。皆さんがインフルエンザにかかれば高熱が出ますが、あれは免疫が頑張ってインフルエンザウイルスを排除しようとしている証拠です。「自然免疫」と「獲得免疫」があるヒトの免疫は、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けられます(図1)。画像を拡大する自然免疫とは、病原体をいち早く感知し、それを排除する仕組みで、身体を守る最前線に位置しています。主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といったものがこの役割を担っており、獲得免疫へ情報を伝達する橋渡しの役割も果たしています。獲得免疫とは、病原体を特異的に見分け、それを「記憶」することで同じ病原体に出会ったときに効率的に病原体を排除できる仕組みです。自然免疫に比べると、応答までにかかる時間は数日と長いですが、一度病原体を「記憶」してしまえば効率よく反応することができます。主にT細胞やB細胞といったリンパ球がこの役割を担っています。自然免疫は特定の病原体に繰り返し感染しても増強することはなく、この点が獲得免疫と異なります。「自己」を免疫が攻撃すると大変なことになる免疫は細菌やウイルスのような「非自己」を攻撃して自分の身体である「自己」を守る、と述べました。ですので、免疫はさまざまな仕組みで「自己」を攻撃しないようにしています。たとえば、われわれの身体ではT細胞ができてくる過程で「自己」を攻撃するようなT細胞を身体の中に極力残さないようにしています。さらに、万が一そういったT細胞が身体の中に残ってしまっても、それらが「自己」を攻撃しないようにする「免疫寛容」というセーフティーネットの仕組みを持っていたりもします。もし、これらの仕組みが働かず、免疫が「自己」を攻撃してしまうと、関節リウマチやSLEに代表される「自己免疫疾患」になってしまいます。このことはがん免疫療法特有の副作用につながってきますので、また次回以降に述べたいと思います。がん細胞も「非自己」として認識されれば免疫系が作用するさて、話をがんに戻します。段々おわかりかと思いますが、がん細胞も細菌やウイルスなどと同じように「非自己」として認識されれば、免疫にとっては排除の対象となるわけなのです。それが「がん免疫」です。「高齢の方は免疫系が落ちていてがんになりやすい」だとか「免疫抑制薬を使用している患者さんはがんになりやすい」といった事実から、「がん細胞に対しても免疫系が働いている」というのは感覚的には理解できるかと思います。それを証明したのがマウスの実験です。遺伝子改変で免疫不全状態になったマウスは、普通の野生型マウスに比べて、明らかに発がんしやすいことが報告されました。一時はがん免疫に対して懐疑的な時代もありましたが、これにより「やはりがん免疫は存在する」ということが徐々に受け入れられ、ついにはがん免疫療法の効果が証明されたのです。がん免疫に大事な「がん免疫編集」という考え方われわれ人間の身体では、1日3,000個くらいのがん細胞ができているといわれます。それが、そう簡単に「がん」になってしまったら大変です。今まで述べてきたように、免疫系が正常に働き、がん細胞を「非自己」として認識して排除することで臨床的な「がん」にはならないとされ、その段階を「排除相」と呼んでいます。一方で、がん細胞の中でも排除されにくいものが残ってしまい、完全には排除されていないものの進展が抑制されている平衡状態の「平衡相」になり、最終的には生存に適したがん細胞が選択され、積極的に免疫を抑制する環境を作り上げて免疫系から逃避してしまう「逃避相」として、臨床的な「がん」になるといわれています。がん細胞と免疫系の関係性をこの「排除相」「平衡相」「逃避相」の3つにまとめた考え方は「がん免疫編集」と呼ばれ5)、現代のがん免疫・がん免疫療法を考えるうえで非常に重要な概念です(図2)。英語ではそれぞれ“exclude”、“equivalent”、“escape”となるので、頭文字をとって“3E”とも呼ばれています。画像を拡大する基本的な話はこの辺にして、次回以降はもう少し臨床に近い話をしたいと思います。1)Wiemann B, et al. Pharmacol Ther. 1994;64:529-564.2)BURNET M. Br Med J. 1957;1:779-786.3)Topalian SL, et al. N Engl J Med. 2012;366:2443-2454.4)Brahmer JR, et al. N Engl J Med. 2012;366:2455-2465.5)Schreiber RD, et al. Science. 2011;331:1565-1570.

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B細胞NHLへのR-CHOP、4サイクルvs.6サイクル/Lancet

 60歳以下の低リスク中悪性度(アグレッシブ)B細胞非ホジキンリンパ腫患者の治療において、リツキシマブとシクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+prednisone(R-CHOP)併用療法の4サイクル投与は6サイクル(標準治療)に対し、有効性が非劣性で、毒性作用は治療サイクルが少ない分、抑制されることが、ドイツ・ザールラント大学のViola Poeschel氏らGerman Lymphoma Allianceが行った「FLYER試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2019年12月21/28日合併号に掲載された。国際予後指標(IPI)の年齢調整リスク因子がなく、非bulky病変(腫瘍最大径<7.5cm)を有するアグレッシブB細胞非ホジキンリンパ腫患者では、6サイクルのR-CHOP様レジメンの予後はきわめて良好と報告されている。一方、多くの患者にとって、このレジメンに含まれる6サイクルの細胞傷害性薬剤の併用療法(CHOP様)は過剰治療となっている可能性があるという。5ヵ国が参加した非劣性試験 本研究は、5ヵ国(デンマーク、イスラエル、イタリア、ノルウェー、ドイツ)の138施設が参加した多施設共同非盲検無作為化第III相非劣性試験であり、2005年12月2日~2016年10月7日の期間に患者登録が行われた(Deutsche Krebshilfeの助成による)。 対象は、年齢18~60歳で、StageI/II、血清乳酸脱水素酵素(LDH)濃度が正常、全身状態(ECOG PS)が0/1であり、非bulky病変(腫瘍最大径<7.5cm)を有するB細胞非ホジキンリンパ腫患者であった。 被験者は、R-CHOP 4サイクルに加えリツキシマブを単独で2回投与する群(4サイクル群)、またはR-CHOPを6サイクル投与する群(6サイクル群)に無作為に割り付けられた。1サイクルは21日であった。リツキシマブの用量は375mg/m2(体表面積)とした。精巣リンパ腫を除き、放射線治療は計画されなかった。 主要評価項目は、3年時の無増悪生存(PFS)率とし、intention-to-treat集団で解析が行われた。非劣性マージンは-5.5%とした。安全性の評価は、1回以上の投与を受けた患者を対象とした。3年PFS率:96% vs.94%、完全寛解率:91% vs.92% 592例が登録され、588例(4サイクル群293例[年齢中央値 49歳、女性 40%]、6サイクル群295例[47歳、39%])がintention-to-treat解析の対象となった。B症状が4サイクル群で多かった(9% vs.3%)。588例中499例(85%)がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)であった。 追跡期間中央値66ヵ月(IQR:42~100)の時点における3年PFS率は、4サイクル群が96%(95%信頼区間[CI]:94~99)、6サイクル群は94%(91~97)であった。群間差は3%で、95%CIの下限値は0%であり、非劣性マージン(-5.5%)よりも高く、4サイクル群の6サイクル群に対する非劣性が確認された。 治療終了時に、4サイクル群267例(91%)、6サイクル群271例(92%)が完全寛解を達成し、それぞれ8例(3%)および11例(4%)が部分寛解で、6サイクル群の1例(<1%)が不変であった。治療中の増悪は両群3例(1%)ずつで認められた。 3年無イベント生存率は、4サイクル群が89%、6サイクル群も89%であり、3年全生存率はそれぞれ99%および98%だった。 また、事後解析では、5年PFS率は4サイクル群94%、6サイクル群94%、5年無イベント生存率はそれぞれ87%および88%、5年全生存率は97%および98%であった。 全体で40例が増悪または再発した。治療終了時の完全寛解/不確定完全寛解例での再発は、4サイクル群が11例(4%)、6サイクル群は13例(5%)であり、部分寛解例の再発はそれぞれ2例(25%)および2例(18%)だった。完全寛解/不確定完全寛解の再発例24例のうち、4例(17%)は登録から1年以内に、8例(33%)は2年以内に再発した。 4サイクル群(293例)では血液学的有害事象が294件、非血液学的有害事象が1,036件発現したのに比べ、6サイクル群(295例)ではそれぞれ426件および1,280件であり、4サイクル群で少ない傾向が認められた。重篤な有害事象は、4サイクル群48例、6サイクル群45例にみられた。感染症は、それぞれ116例(Grade3/4は22例)および156例(同23例)で発現した。6サイクル群で治療関連死が2例認められた。 著者は、「R-CHOP療法は、有効性を損なわずに、化学療法の施行数を減らすことができる」としている。

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第15回 高齢糖尿病患者の高血圧、どこまで厳格に管理する?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第15回 高齢糖尿病患者の高血圧、どこまで厳格に管理する?Q1 やや高め?厳密?高齢糖尿病患者での降圧目標の目安日本高血圧学会は、5年ぶりの改訂となる「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」を2019年4月に発表しました1)。その中で後期高齢者(75歳以上)の降圧目標は、従来の150/90mmHg未満から140/90mmHg未満に引き下げられています。また、忍容性があれば個人の症状や検査所見の変化に注意しながら、最終的には130/80mmHg未満を目標に治療することを求めています。さまざまな介入試験のメタ解析の評価・検討が行われた結果、高齢者においても高血圧治療によって心血管イベントや脳卒中イベントリスクが有意に低くなり、予後の改善が見込めると示唆されたためです。一方、糖尿病合併患者や蛋白尿陽性の慢性腎臓病(CKD)患者の降圧目標は、従来の130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)に据え置かれました。血圧が140/90mmHg以上を示した場合には、ただちに降圧薬を開始するとなっています(図)。欧米のガイドラインでは、糖尿病を合併した患者の場合、降圧目標は「140/80mmHg未満」や「140/85mmHg未満」と、比較的緩やかに設定されています2,3)。しかし日本では厳格な管理目標を維持することになりました。その理由の1つは、ACCORD-BP試験において厳格降圧群(目標収縮期血圧120mmHg未満)では通常降圧群(140mmHg未満)に比べて脳卒中が41%有意に減少したと報告されたためです4)。日本では欧米と比較して脳卒中の発症率が高いことから、脳卒中の発症予防に重きを置いた降圧目標を設定すべきと考えられ、「130/80mmHg未満」とされたのです。なお、JSH2019で設定された降圧目標は年齢と合併症に基づいて決められているため、降圧目標の設定基準を複数持つ状態が生じます。たとえば、75歳以上の高齢糖尿病患者の場合、糖尿病患者としてみると130/80mmHg未満ですが、後期高齢者としてみると140/90mmHg未満となり、2つの降圧目標が出来てしまいます。このように年齢と合併症の存在によって降圧目標が異なる場合、忍容性があれば130/80mmHg未満を目指すとされました。ただし高齢者では極端な降圧により臓器への血流障害を来す可能性も危惧されます。そのため、まずは140/90mmHgを目指し、達成できればその後緩徐に130/80mmHg未満を目指していけば良いと思われます。Q2 目標値にいかないことが多い・・・強化のタイミングや注意点は?糖尿病に合併した高血圧の降圧療法での第一選択は、微量アルブミン尿またはタンパク尿がある場合にはARBやACE阻害薬を考慮し、それ以外ではARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、少量のサイアザイド系利尿薬が推奨されています5)。高齢糖尿病患者さんでは腎機能障害を呈していることが多く、ARBやACE阻害薬のみでは十分な降圧効果が得られないこともあります。Ca拮抗薬や利尿薬等を併用したり用量を増加したりして血圧をコントロールします。この場合、多剤併用に至り、服薬管理が困難になることもありますので、薬物療法の単純化を行う必要があります。薬物療法の単純化には、1)1日1回の薬剤に変更して服薬回数を減らす2)薬剤を一包化して服薬を単純化する3)服薬管理の比較的簡単な合剤を使用して調整するなどの対策も有効です。高血圧症の多くは自覚症状がないため、治療に積極的になれないことが服薬管理困難の一因と思われます。ただし、高血圧を有する糖尿病患者では動脈硬化が進行しやすくなります。UKPDSの結果では、糖尿病患者において通常の血圧コントロール(154/87mmHg以下を目標)を行った群と、厳格な血圧コントロール(144/82mmHg以下を目標)を行った群で比較すると、厳格な血圧コントロールを行った群の方が糖尿病合併症発症リスクの有意な減少を認めました6)。患者さんは「透析はしたくない」等、腎障害に対して危機感を抱く方が多いため、腎機能を保持するには血圧コントロールが重要であることを説明すると、服薬に理解を示される場合が多いです。高齢糖尿病患者さんでは、神経障害の進行に伴い起立性低血圧を来すことも珍しくありません。そのため、家庭での収縮期血圧は少なくとも100mmHg以上を維持している方が安全でしょう。さらに、めまいやふらつきの訴えが増える場合には、降圧薬の減量や中止にて対応した方がADLやQOLを維持できると考えられます。起立性低血圧について、患者さんや家族、介護スタッフには、「悪性の病態ではないこと」「注意によって予防可能であること」「転倒打撲のリスクの方が問題であること」を説明し、急激な体位変換や頭位変換を避けるよう指導します。排便後は深呼吸後に立ち上がること、めまいが強い場合には一度仰臥位に戻り、状態が安定してから緩徐に起き上がることなどを実行すると、起立性低血圧に伴う転倒予防に役立ちます。また、状態の改善には血糖コントロールが重要であることも理解していただくと良いでしょう。病態の原因について説明を行い、具体的な対策を指導することで、恐怖感が軽減され、適切に対応できるようになります。高血圧を合併する高齢糖尿病患者さんに食事療法を行う際は、厳格な塩分制限による食欲低下や低栄養に注意が必要です。そのため、まずは「現在の摂取量の8割程度の摂取にとどめる」といった実行可能な塩分制限から開始することが重要です。Q3 80代や90代の超高齢者でも同じように管理しますか?SPRINTのサブ解析では、75歳以上の高齢者において、収縮期血圧の目標を120mmHg未満とした方が、心血管疾患の発症率が低いことが示されました。また、フレイルの程度に関わらず積極的降圧治療が予後を改善させるとも報告しています7)。この研究では非糖尿病患者を対象としていますが、80代や90代の超高齢糖尿病患者においても、降圧が予後改善につながる可能性があります。ただし、寝たきりなど身体能力の極めて低下した高血圧患者に対しては、降圧療法による予後改善効果は示されておらず、逆に予後が悪化することも懸念されています。高度の認知症や身体機能低下を来している場合には、従来通り個別判断での対応が望ましいと考えられます。とくに新規に降圧薬を開始する場合には、通常の半量程度から開始し、数ヵ月かけて徐々に降圧を図るなど、柔軟性のある対応で臨むことが良いと思われます。高齢糖尿病患者では、降圧薬増量による他臓器への影響や経済的負担増も考慮する必要があります。家族や介護スタッフの協力が得られればより良い調整が期待できますが、難しい場合には服薬アドヒアランスを考慮し、一包化や合剤の使用も検討が必要です。認知症が強い場合には、薬剤師と連携を取り、服薬カレンダーの設置や服薬支援のロボットを導入することなども効果的です。しかし、90歳以上の超高齢糖尿病患者さんでもADLが自立しており、元気な方も増えています。加齢と共に個人差は大きくなるため、あまり年齢にこだわる必要はないと考えられます。JSH 2019でも、提示した降圧目標はすべての患者における降圧目標ということではないと強調されていました。ガイドラインや最近の大規模試験の結果などを参考にしながら、個別に降圧目標を設定し対応することが重要です。1)日本高血圧学会.高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版;2019.2)American Diabetes Association. Standards of medical care in diabetes—2013. Diabetes Care. 2013;36: S11-66.3)Mancia G, et al.The Task Force for the management of arterial hypertension of the European Society of Hypertension(ESH) and of the European. 2013 ESH/ESC Guidelines for the management of arterial hypertension Society of Cardiology (ESC). J Hypertens. 2013;31:1281-1357.4)Cushman WC, et al. N Eng J Med. 2010;362:1575-1585.5)日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,245-260, 2019.6)Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38. UK prospective diabetes study group.BMJ.1998;317: 703-713.7)Williamson JD, et al. JAMA.315: 2673-2682, 2016.

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AFIRE試験を複数形で祝福しよう!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第17回

第17回 AFIRE試験を複数形で祝福しよう!この日がやってきました。夢ではなく現実の出来事として、夢のような吉報がもたらされました。世界中の医学雑誌の中でも頂点に位置するNEJM誌に、日本からの臨床研究が紹介されたのです。その名も「AFIRE試験」です。2019年9月2日、フランスのパリで開催されたヨーロッパ心臓病学会(ESC)の満員のHot Line Session会場で、国立循環器病研究センター病院の安田 聡先生により発表され、同時にエンバーゴが解除されてNEJM誌掲載となりました(N Engl J Med 2019; 381:1103-1113)。エンバーゴの意味を知りたい方は、「第3回 エンバーゴ・ポリシーで言えませんと言ってみたい!」を参考にしてください。心房細動を合併した安定冠動脈疾患では、これまでは複数の抗血栓薬が必要と考えられてきました。この研究は、むしろ薬剤を減らして単剤とする治療のほうが、心血管イベントの発生を増加させることなく、出血性イベントを有意に減らすことを明らかにしました。病態に応じて複数の薬剤を組み合わせることで濃厚な治療になりがちな中で、"薬剤を減らす"という選択肢の意義を証明したのです。数多くの医療機関によるAll Japan体制の結果として成果が得られたことも、特筆すべきことです。発表会場では、満場の拍手が贈られました。私自身も、パリの会場で快挙の場に立ち会った瞬間の高揚感と、日本人としての誇らしい気持ちを忘れることができません。座長の先生の第一声は「Congratulations!」で、その後のディスカッションでも「Congratulations!」が飛び交っておりました。ここで注意すべきは、Congratulationは複数形であることです。「コングラッチュレーション!」と叫びたくなりますが、コングラッチュレーション”ズ”が正解です。単数形では単に「祝い」という意味になり、複数形にすることではじめて、「おめでとう!」と祝福の気持ちを伝える言葉になるそうです。正しい英語を使いたいものです。さらには、「Congratulations!」は、同じ「おめでとう!」でも、努力の対価として得られた成果を祝福する際に用いる言葉で、大学受験合格・就職・昇進などの場面で使うのが適切な言葉です。この「AFIRE試験」は、研究の立案から遂行、そしてNEJM誌編集部の厳しい査読、これらすべての難題を克服した成果ですから、まさに「Congratulations!」が相応しいといえます。「新年おめでとう!」「誕生日おめでとう!」などは季節が巡れば自然とやってくる事象ですから、「Congratulations」は使わないようです。この場合は「Happy」が使われます。「Happy New Year!」、「Happy Birthday!」です。この世で、最も努力や苦労という言葉とは無縁の世界にいるのが、ノウノウと暮らす家猫です。猫は気まぐれで気難しく、風来坊で横着です。我が家の愛すべき猫様も勤勉とは無縁の生き物です。「びよーん」と尻尾を伸ばしたまま、日当たりの良い場所で寝て過ごします。野生ネコのように身体に尻尾を巻き付ける緊張感はありません。思わず尻尾を踏みつけそうになります。一度だけ思い切り踏んでしまったことがあるのですが、悲鳴を上げて1m以上も猫が飛び上がった姿は忘れられません。「足元に注意」です。これは「Watch your step.」です。日本人的にはなぜstepがstepsではないのか気になるところです。本当に英語は難しいですね。最後に改めて「AFIRE試験」に関与した皆様に心から祝福と敬意を表します。「Congratulations!」

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経口の糞便移植で死亡例、その原因は?/NEJM

 糞便微生物移植(FMT)の臨床試験に参加した被験者で、死亡1例を含む4例のグラム陰性菌血症が発生していたことが明らかにされた。米国・ハーバード大学医学大学院のZachariah DeFilipp氏らによる報告で、そのうち術後にESBL産生大腸菌(Escherichia coli)血症を発症した2例(1例は死亡)は、別々の臨床試験に参加していた被験者であったが、ゲノムシークエンスで同一ドナーのFMTカプセルが使用されていたことが判明したという。著者は、「有害感染症イベントを招く微生物伝播を限定するためにもドナースクリーニングを強化するとともに、異なる患者集団でのFMTのベネフィットとリスクを明らかにするための警戒を怠らない重要性が示された」と述べている。FMTは、再発性/難知性クロストリジウム・ディフィシル感染症の新たな治療法で、その有効性・安全性は無作為化試験で支持されている。他の病態への研究が活発に行われており、ClinicalTrials.govを検索すると300超の評価試験がリストアップされるという。NEJM誌オンライン版2019年10月30日号掲載の報告。使用されていたのは検査強化前の冷凍FMTカプセル 研究グループは、術後にESBL産生大腸菌血症を発症した2例(1例は死亡)について詳細な調査報告を行った。 まずドナースクリーニングと、カプセル製剤手順を検証したところ、ドナースクリーニングは施設内レビューボードと米国食品医薬品局(FDA)による承認の下で行われており、集められたドナー便はブレンダーでの液化や遠心分離などの処置を経て懸濁化され、熱処理などを受けて製剤化が行われていた。ただし、2019年1月にFDAの規制レビューを受けてドナースクリーニングを強化していたが、件の2例に使用されたFMTカプセルは2018年11月に製造されたものであったという。この時に強化された内容は、ESBL産生菌、ノロウイルス、アデノウイルス、ヒトTリンパ親和性ウイルス タイプ1およびタイプ2抗体を検査するというものであった。規制レビューを受けた後も、それ以前に製剤化・冷凍保存されていたFMTカプセルについて、追加の検査や廃棄はせず試験に使用されていた。FMT前の被験者の便検体からはESBL産生菌は未検出 患者(1)は、C型肝炎ウイルス感染症による肝硬変の69歳男性で、難治性肝性脳症の経口カプセルFMT治療に関する非盲検試験に参加した被験者であった。2019年3月~4月に、15個のFMTカプセルを3週間に5回にわたって移植。術後17日(2019年5月)までは有害事象は認められなかったが、発熱(38.9度)と咳を呈し、胸部X線で肺浸潤を認めレボフロキサシンによる肺炎治療が行われた。しかし、臨床的改善が認められず2日後に再受診。患者(1)は、その際に前回受診時での採血の血液培養の結果でグラム陰性桿菌が確認されたことを指摘され、ピペラシリン・タゾバクタムによる治療を開始し入院した。培養されたグラム陰性桿菌を調べた結果、ESBL産生大腸菌であると同定された。患者(1)の治療はその後カルバペネムに切り替えられ、さらに14日間のメロペネム投与(入院治療)、さらにertapenem投与(外来治療)を完了後、臨床的安定性を維持している。フォローアップ便検体のスクリーニングでは、ESBL産生菌は検出されなかった。 患者(2)は、骨髄異形成症候群の73歳男性で、同種異系造血幹細胞移植の前後に経口カプセルFMTを行う第II相試験に参加していた。15個のFMTカプセルを、造血幹細胞移植の4日前と3日前に移植。造血幹細胞移植の前日に、グラム陰性菌血症リスクを最小化するためのセフポドキシム予防投与を開始した。しかし、造血幹細胞移植後5日目(最終FMT後8日目)に発熱(39.7度)、悪寒、精神症状の異変を呈した。血液培養の採血後、ただちに発熱性好中球減少症のためのセフェピム治療を開始したが、その晩にICU入室、人工呼吸器装着となる。予備血液培養の結果、グラム陰性桿菌の存在が示され、メロペネムなど広域抗菌薬を投与するが、患者の状態はさらに悪化し、2日後に重篤な敗血症で死亡した。最終血液培養の結果、ESBL産生大腸菌が検出された。 なお患者(1)(2)とも、FMT前の便検体からESBL産生菌は検出されなかったという。

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早産児、主要併存疾患なし生存の割合は?/JAMA

 スウェーデンにおいて、1973~97年に生まれた早産児のほとんどは、成人期初期から中年期まで主要併存疾患を伴わず生存していたが、超早産児については予後不良であった。米国・マウントサイナイ医科大学のCasey Crump氏らが、スウェーデンのコホート研究の結果を報告した。早産は、成人期における心代謝疾患、呼吸器疾患および神経精神障害との関連が示唆されてきたが、主要併存疾患を有さない生存者の割合については、これまで不明であった。JAMA誌2019年10月22日号掲載の報告。1973~97年に生まれた約260万人を18~43歳まで追跡 研究グループは、1973年1月1日~1997年12月31日の期間にスウェーデンで生まれ、妊娠週数のデータがあり、2015年12月31日(18~43歳)まで生存と併存疾患に関する追跡調査を受けた全国住民256万6,699例について解析した。 主要評価項目は、超早産(22~27週)、極早産(28~33週)、後期早産(34~36週)、早期正期産(37~38週)で生まれた人と、満期正期産(39~41週)で生まれた人の主要併存疾患のない生存率であった。 併存疾患は、思春期および若年成人に一般的に現れる神経精神障害等を評価するAdolescent and Young Adult Health Outcomes and Patient Experience(AYA HOPE:思春期および若年成人の健康転帰と患者の体験)Comorbidity Indexを用いて定義するとともに、成人期の死亡率を予測する主要慢性疾患等を評価するCharlson Comorbidity Index(CCI)を用いて定義した。AYA HOPE併存疾患なし54.6%、CCI併存疾患なし73.1% 解析対象集団のうち、48.6%が女性、5.8%が早産で、追跡期間終了時の年齢中央値は29.8歳(四分位範囲12.6歳)であった。 追跡期間終了時でのAYA HOPE併存疾患なしの生存者の割合は、全早産出生者で54.6%(超早産22.3%、極早産48.5%、後期早産58.0%)、早期正期産で61.2%、満期正期産で63.0%であった。この割合は、満期正期産出生者と比較して全早産出生者で有意に低下した(補正後率比:超早産0.35[95%信頼区間[CI]:0.33~0.36、p<0.001]、全早産0.86[95%CI:0.85~0.86、p<0.001]、補正率比の差:超早産-0.41[95%CI:-0.42~-0.40、p<0.001]、全早産-0.09[95%CI:-0.09~-0.09、p<0.001])。 また、CCIで評価した併存疾患を有することなく生存していた人の割合は、全早産73.1%、超早産32.5%、極早産66.4%、後期早産77.1%、早期正期産80.4%、満期正期産81.8%であった(補正後率比 超早産:0.39[95%CI:0.38~0.41、p<0.001]、全早産:0.89[95%CI:0.89~0.89、p<0.001]、補正後率比の差 超早産:-0.50[95%CI:-0.51~-0.49、p<0.001]、全早産:-0.09[95%CI:-0.09~-0.09、p<0.001])。

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国内初の白内障3焦点眼内レンズ、生活の質向上に寄与

 日本アルコン株式会社(以下、日本アルコン)は10月25日、国内初承認の白内障治療向け老視矯正3焦点眼内レンズPanOptix®を発売。これは既存の多焦点眼内レンズ(2焦点)の見え方に中間距離での見やすさを加えたレンズで、“若い頃のような自然な見え方を追求したい”患者に対し、新たな選択肢となるよう開発された。 この発売に先駆け、日本アルコンは2019年10月17日にプレスセミナーを開催。ビッセン 宮島 弘子氏(東京歯科大学水道橋病院眼科 教授)が「最新白内障治療と適切な眼内レンズ選択のためのポイント」について解説した。日常の見え方と3焦点眼内レンズの特徴 人間の見え方は、近方(40cm:読書やスマートフォン使用などに適する)、中間(60cm:パソコンや料理などに適する)、遠方(5m以遠:テレビ視聴や運転、ゴルフなどのスポーツに適する)の3つに主に分類される。これまで日本で薬事承認を受けていたのは単焦点眼内レンズ(遠方あるいは近方の1か所のみ)と2焦点眼内レンズ(近方と遠方、または遠方と中間の2か所に焦点が合うレンズ)のみであったが、3焦点眼内レンズのPanOptix®が発売されたことで、より実生活での作業に適した見え方を提供できるようになったという。今回、乱視を矯正できるトーリックタイプも国内承認を受け、同時発売となった。また、PanOptix®を用いた白内障手術は、2焦点眼内レンズと同様に、厚生労働省が承認する先進医療に該当する。 3焦点眼内レンズの特徴として、“どの距離でも、安定した見え方を実現”、“手術後に眼鏡の必要性が減る”などが挙げられる。ビッセン 宮島氏は「中間距離というのはスーパーで値札を見たり、料理をしたりと生活で重要な視点」とコメント。さらに、適した利用者として「眼鏡を使用したくない人、そのための費用負担に納得できる人」を挙げた。海外と日本での利用状況 多焦点レンズの普及に積極的なESCRS(ヨーロッパ白内障屈折矯正手術学会)会員に対し、“老眼矯正を望む患者にどの眼内レンズを主に使用しているか”というアンケートを行ったところ、2018年時点で約56%が3焦点レンズを使用していた。このことからも同氏は「ヨーロッパでは2019年度に3焦点眼内レンズのシェアが70%を占めるのではないか。今後、日本でもこのレンズが主流になることが予想される」と語った。 国内においては、PanOptix®の治験として同氏の所属する施設と林眼科病院(福岡県福岡市)共同で臨床試験を実施。その結果、手術後の遠方・中間・近方の3焦点が眼鏡なしでよく見える、グレア・ハローを感じるが日常生活への不自由はなし、コントラスト感度の低下は自覚していないなどの結果が得られた。これを踏まえ同氏は、「眼鏡装用ありなしの希望やライフスタイルによって、最も適したレンズを選択する時代になった」と述べた。 最後に、レーシックを受けた患者への白内障手術について、「『レーシックを受けた方は白内障手術ができない』という情報が流布していたが、手術そのものはまったく問題なく、眼内レンズの度数決定が問題であった。テクノロジーの進化により角膜カーブ計測、術中の眼内レンズ予測などの精度向上に伴い、現在はレーシックを受けた患者への白内障手術はレーシックを受けていない方と同じレベルに達している」とコメントした。

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sacubitril-バルサルタンでも崩せなかったHFpEFの堅い牙城(解説:絹川弘一郎氏)-1126

 sacubitril-バルサルタンのHFpEFに対する大規模臨床試験PARAGON-HFがESC2019のlate breakingで発表されると聞いて、5月のESC HFのミーティングで米国の友人と食事していた時、結果の予想をした記憶がある。私はESCで出てくるんだから有意だったんじゃないの、と言い、別の人はHFpEFには非心臓死が多いからmortalityの差は出ないよね、と言ったりしたものであった。相変わらず私の予想は外れ、ただ外れ方としてp=0.059という悩ましいprimary endpointの差であった。7つイベントが入れ替わったら有意だったそうである。ただ、入れ替わりってどういうこと?とも言え、読み方としてはやはりこれだけ大規模にやって有意でないものは有意でないとしか言えない。さらに言うと、CHARM-preservedでもTOPCATでも心不全再入院だけでいうと有意に抑制しているというデータもあり、心血管死亡に対して一定の(有意でないにしても)抑制がないと、これまでカンデサルタンもスピロノラクトンもダメと烙印を押してきた経緯に反する。 PARAGON-HFでは心血管死亡はそれこそ1本の線に見えるほど2群に差がなく、やはり有効でないと結論付けるのが妥当であろう。Solomon氏は対照群にバルサルタンを選ばなきゃよかったみたいなことを言い訳がましく言っていたが、まさにそれはそのとおりかと思う。HFpEFの中にRAS阻害薬がよく効くサブグループがいるようで、それがCHARM-preservedやTOPCATの一定の結果に関係しているかもしれない。一方で対プラセボでもまったく有効性のかけらもなかったI-preserveがどうしてなのかも考える必要がある。そのヒントは平均のLVEFと虚血性心疾患の割合である。平均のLVEFはCHARM-preserved 54%、I-preserve 60%、TOPCAT 56%、PARAGON-HF 57%、虚血性心疾患の割合はCHARM-preserved 56%、I-preserve 24%、TOPCAT 58%、PARAGON-HF 35%。つまり虚血性心疾患の割合が多く、またLVEFが低めの患者が多く含まれているほど実薬の有効性が高くなっている。CHARM-preservedでHFmrEF(昔はmid-rangeを分けてなかった)はHFrEF同様カンデサルタンが有効であったと報じられているし、このPARAGON-HFでもEF<57%では有意にsacubitril-バルサルタンが有効であった。 私は、虚血性心疾患からHFrEFに至る途中のmid-rangeに近いHFpEFはRAS阻害薬が有効であろうし、そしてその場合はPARADIGM-HFと同じくACE阻害薬よりsacubitril-バルサルタンがもっと有効であると思う。真のHFpEFとは何なのか、という議論が本当は必要であるが、虚血でないLVEF>60%のHFpEFに対して、もうHFrEFに対するGDMTの外挿では歯が立たないことが決まったような気がしている。

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SGLT2阻害薬は糖尿病薬から心不全治療薬に進化した(解説:絹川弘一郎氏)-1125

 ESC2019にはPARAGON-HF目当てで参加を決めていたが、直前になってDAPA-HFの結果が同じ日に発表されることとなり、パリまでの旅費もむしろ安いくらいの気持ちになった。もう少し発表まで時間がかかると思っていたのでESCでの発表は若干驚きであったが、プレスリリースで聞こえてきたprimary endpoint達成ということ自体は想定内であったので、焦点は非糖尿病患者での振る舞い一点といってもよかった。 なぜ、HFrEFに有効であることに驚きがなかったか、それはDECLAREのACC.19で発表された2つのサブ解析による。1つが陳旧性心筋梗塞の有無による層別化、もう1つがHFrEF/HF w/o known EF/no history of HFの3群間の比較である。ともに心血管死亡と心不全再入院というDECLAREのco-primary endpointに対する解析である。陳旧性心筋梗塞を有する群で明らかに早期からイベント抑制効果が認められ、EMPA-REG OUTCOMEやCANVASで心血管疾患の既往を有する患者で知られてきたSGLT2阻害薬の心不全予防効果が投与早期から現れるということは、言い換えると大半が虚血性心疾患であり、そしてそれは陳旧性心筋梗塞の患者であるということである。 心筋梗塞からHFrEFへ至る遠心性リモデリングは以前から研究された心不全モデルであり、β遮断薬やRAS阻害薬、MRAの有効性の根拠を与えるものである。そして、それはもう1つのサブ解析でHFrEFの患者だけ取り出すとより明確な形で示された。HFrEF患者のイベント発生数は他と比較して群を抜いて多く、そしてダパグリフロジンはHFrEF患者でやはり早期からきわめて明確にイベント抑制を果たした一方で、HFrEF以外の群では早期からカプランマイヤーが分離することはなかった。 この2つのサブ解析を見ると、今まで報じられてきたSGLT2阻害薬の投与初期からのイベント抑制は、実は大半陳旧性心筋梗塞またはHFrEFあるいはその両方を有する患者からの導出とすら言えるのではないかと思われる。DECLAREのサブ解析ではno history of HFの患者の、すなわちstage A/Bの患者ではほとんどイベントが起きておらず、また(とてもたくさんの患者がエントリーされて比較的長期間フォローされているにもかかわらず)ダパグリフロジンの効果は目に見えないほどである。EMPA-REG OUTCOMEでは心不全の既往がある患者でエンパグリフロジンの有効性が有意でなかったが、その後のCANVASではむしろ心不全の既往がある患者のほうでカナグリフロジンがはっきり有効であった。DECLAREの結果を合わせたメタ解析の結果を見れば、心不全患者に対する治療効果はすでに異論のないところであろう。 ここまで見てくると、SGLT2阻害薬はβ遮断薬やRAS阻害薬と同じカテゴリーで論じる必要がある薬剤と考えるべきであるし、そのメカニズムについていまだ明確ではないものの心筋梗塞から虚血性心筋症に至るHFrEFモデルでの解析が待たれる。こうして、ESC2019の前からHFrEFでは間違いなくダパグリフロジンが効くという確信があった。そして事実そうなったのであるが、これが糖尿病患者に限定した効果でないことも今回DAPA-HFで示されたことの意義は絶大である。非糖尿病患者でもSGLT2は近位尿細管に存在するわけで、とくにup-regulateされていない状況でもSGLT2阻害薬による浸透圧利尿効果は有用であるということのようである。 一方で、これまでの結果からやや予想し難いデータがあり、それは腎保護作用である。DAPA-HFにおいてはworsening renal functionについてプラセボより少なめではあったが有意差がなかった。これまでSGLT2阻害薬による腎保護作用は一貫して認められてきたところであり、ここは糖尿病性腎症の進展予防という観点で腎保護作用があると考えれば非糖尿病患者ではその有効性が認め難いのかもしれず、この辺りに関しては今後出てくるサブ解析を待ちたい。いずれにせよ、わが国の心不全ガイドラインのHFrEF治療薬にsacubitril-バルサルタンとイバブラジンと、そしてSGLT2阻害薬を書き加える日が近い。この余勢を駆ってHFpEFまで攻め込めるかどうか、今までのデータからは微妙であるが、これも今後続々と出てくる結果に期待したい。陳旧性心筋梗塞を有するEF<60%くらいまでは、PARAGON-HFと同様にSGLT2阻害薬が有用であろうと予想する。

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悪い芽は早めに摘んでとりあえずコンプリートしておきますか!?:多枝病変を有するSTEMIへの戦略(解説:中野明彦氏)-1123

【背景】 STEMIにおける多枝病変の確率は40~50%で、STEMI責任病変のみの一枝疾患に比べ予後不良かつその後の非致死性心筋梗塞が多いことが報告されている。心原性ショックを合併していないSTEMI急性期に責任病変以外の“病変”に手を加えるべきかどうか、一定の見解は得られていても明確な回答が得られていない命題である。急性期介入の期待される利点は、STEMIによる血行動態の悪化が他病変灌流域の局所収縮性を障害することへの予防的措置、あるいはhibernation(冬眠心筋)を来している領域の心機能改善が結果としてSTEMIの予後を改善する可能性、などが挙げられる。一方その弊害として想定されるのは、他枝へのPCIが側枝閉塞や遠位塞栓を合併した場合の余計な心筋障害や造影剤増量による心負荷、腎障害などであろう。 これまでこの命題に挑んだランダム化試験は、知る限り2013年から2017年に報告されたPRAMI(n=465)、CvLPRIT(n=296)、DANAMI-3-PRIMULTI(n=627)、Compare-Acute(n=885)の4つである。多くの試験で観察期間中の再血行再建術が有意に減少、これらを包括した最新の日本循環器学会・ESCガイドラインでは入院中の非梗塞責任血管へのPCIをクラスI~IIaに設定している。しかし期待された予後改善効果は全試験で否定され、また多くの試験で新規MI発症も抑制されなかった。【COMPLETE試験について】 本試験は同じ命題に取り組んだ最新かつ最大規模(n=4,041)、さらに最長の観察期間(約3年)を設定したランダム化試験で、議論決着への期待も大きかった。残枝PCIの適応は虚血の有無にはこだわらず視覚的な70%狭窄以上に設定(70%未満+FFR≦0.80でのエントリーは1%以下とわずか)、PCIのタイミングはad-hoc(single-stage)やimmediate(multi-stage)だったこれまでの試験と異なり、入院中および45日以内までのdelayed PCIを許容し、サブ解析で両者の差異も検証した。 主たるエンドポイントの結果は、心血管死亡に差はなく、MI発症・虚血による血行再建(IDR)は血行再建群で有意に抑制された。懸念された大出血や腎障害などの弊害は増えなかった。 これらの結果をどう解釈すべきか:少し単純化して考えてみる。心血管死亡(2.9% vs.3.2%、HR:0.93)を「STEMIの重症度」、MI(自然発症は3.9% vs.7.0%)を「非責任病変以外の不安定プラーク」、IDR(1.4% vs.7.9%、HR:0.18)を「残存病変の重症度」に置き換えてみると…。・予後への影響:今回もまた他枝へのPCIがSTEMIの重症度を覆すほどのインパクトはないことが示された。immediateでもdelayed PCIでも差がなかったことが象徴的である。・MI発症抑制:ACS症例ではほかにも多くの不安定プラークを有し、特に急性期は内皮障害や炎症が亢進しやすいこと、他方でMIは非有意狭窄から発症する確率が高いことは以前から指摘されている。本試験では有意差はついたものの、70%以上の狭窄性病変を処理してもMI発症が半減すらしなかったことは、lesion severityとlesion instabilityが別物と改めて印象付けた。一方、有意差がつかなかった他の試験(CvLPRIT、Compare-Acute)でのHRは実は本試験より小さい。少ない症例数が影響した可能性が大きく、狭窄病変を潰しておけばある程度のMIは予防できるとも言える。・IDR:非血行再建群で多いのは当然だが、基準がさほど厳しいとも思えないのに非血行再建群のIDRが年率3%に満たない理由は不明である。他試験と比較しても明らかに低率で「そもそもホントに多枝病変?」と突っ込みたくもなる。やはり血管造影では残存病変の重症度を規定するのは難しいと言わざるを得ない。【議論に決着は着いたのか?】 一方は“yes”である。やはり予後は変えないのである。 他方、MI発症抑制・IDR予防についてはどうだろうか? 多枝病変を血管造影で定義した本試験において、完全血行再建が防いだのは1年間で1%のMIと2.3%のIDA…。果たしてコンプリートを目指す“preventive-PCI”は許容されるかどうか。 次のガイドラインはこの試験をどう解釈するだろう?

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心房細動合併安定CAD、リバーロキサバン単剤 vs.2剤併用/NEJM

 血行再建術後1年以上が経過した心房細動を合併する安定冠動脈疾患患者の治療において、リバーロキサバン単剤による抗血栓療法は、心血管イベントおよび全死因死亡に関してリバーロキサバン+抗血小板薬の2剤併用療法に対し非劣性であり、大出血のリスクは有意に低いことが、国立循環器病研究センターの安田 聡氏らが行ったAFIRE試験で示された。研究の成果は2019年9月2日、欧州心臓病学会(ESC)で報告され、同日のNEJM誌オンライン版に掲載された。心房細動と安定冠動脈疾患が併存する患者における最も効果的な抗血栓治療の選択は、個々の患者の虚血と出血のリスクの注意深い評価が求められる臨床的な課題とされている。日本の294施設が参加、単剤の非劣性を検証する無作為化試験 本研究は、日本の294施設が参加した多施設共同非盲検無作為化試験であり、2015年2月23日~2017年9月30日の期間に患者登録が行われた(バイエル薬品との契約を介して循環器病研究振興財団の助成を受けた)。 対象は、年齢20歳以上、心房細動と診断され、登録の1年以上前に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)または冠動脈バイパス手術(CABG)を受けた患者、または冠動脈造影で血行再建術の必要がない冠動脈疾患(狭窄≧50%)と判定された患者であった。 被験者は、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬であるリバーロキサバン(クレアチニンクリアランス15~49mL/分の患者は10mgを1日1回、同≧50mL/分の患者は15mgを1日1回)の単剤療法を受ける群、またはリバーロキサバン+抗血小板薬(治療医の裁量でアスピリンまたはP2Y12阻害薬から選択)の2剤併用療法を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を要する不安定狭心症、全死因死亡の複合とし、非劣性の評価が行われた(非劣性マージンは1.46)。安全性の主要エンドポイントは、国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血とし、優越性の評価が行われた。 なお、本研究は、併用群で全死因死亡のリスクが高かったため、独立データ安全性監視委員会の勧告により2018年7月、早期中止となった。事後解析では有効性の優越性を確認 2,215例(修正intention-to-treat集団)が登録され、単剤群に1,107例が、併用群には1,108例が割り付けられた。全体の平均年齢は74歳、男性が79%であった。1,564例(70.6%)がPCI、252例(11.4%)がCABGを受けていた。 ベースラインのCHADS2スコア中央値は2、CHA2DS2-VAScスコア中央値は4、HAS-BLEDスコア中央値は2であった。併用群の778例(70.2%)がアスピリン、297例(26.8%)はP2Y12阻害薬の投与を受けていた。治療期間中央値は23.0ヵ月(IQR:15.8~31.0)、フォローアップ期間中央値は24.1ヵ月(17.3~31.5)だった。 有効性の主要エンドポイントは、単剤群が89例、併用群は121例で発生し、人年当たり発生率はそれぞれ4.14%および5.75%であり、単剤群の併用群に対する非劣性が確認された(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.55~0.95、非劣性のp<0.001)。 また、安全性の主要エンドポイントの人年当たり発生率は、単剤群が1.62%(35例)と、併用群の2.76%(58例)に比べ有意に優れ(HR:0.59、95%CI:0.39~0.89、p=0.01)、単剤群の優越性が確証された。 副次エンドポイントである全死因死亡の人年当たりの発生率は、単剤群は1.85%であり、併用群の3.37%と比較して有意に良好であった(HR:0.55、95%CI:0.38~0.81)。このうち、心血管死(1.17% vs.1.99%、0.59、0.36~0.96)および非心血管死(0.68% vs.1.39%、0.49、0.27~0.92)のいずれにおいても、単剤群が有意に優れた。 事前に規定されたサブグループ(性別、年齢、脳卒中リスク、出血リスク、腎機能など)の解析では、有効性の主要エンドポイントは全般に単剤群で一致して良好な傾向が認められ、大出血イベントに関しても、同様の効果が観察された。 著者は、「事前に規定されていない解析では、有効性の主要エンドポイントに関して、単剤群の併用群に対する優越性が確認された」としている。

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ダパグリフロジン、HFrEF患者でCV死・心不全悪化リスク26%低下(DAPA-HF)/ESC2019

 2型糖尿病合併の有無を問わず、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者における心血管死と心不全悪化の発現率を有意に低下させた。フランス・パリで開催された欧州心臓病学会(ESC2019)で、グラスゴー大学循環器リサーチセンターのJohn McMurray氏が、第III相DAPA-HF試験の結果を発表した。 DAPA-HF試験は、2型糖尿病合併および非合併の成人HFrEF患者を対象に、心不全の標準治療(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]およびネプライシン阻害薬を含む薬剤)への追加療法としてのダパグリフロジンの有効性を検討した、国際多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験。 HFrEF患者(NYHA心機能分類IIからIV、LVEF;40%以下、NT-proBNP≧ 600pg/mL)に対し、標準治療への追加療法としてダパグリフロジン10mgを1日1回投与し、その有効性をプラセボとの比較で評価した。主要複合評価項目は、心不全イベント発生(入院または心不全による緊急受診)までの期間、または心血管死であった。 主な結果は以下のとおり。・ダパグリフロジン群に2,373例、プラセボ群に2,371例が無作為に割り付けられた。・ベースライン特性は、両群ともに平均LVEF:31%、平均eGFR:66mL/分/1.73m2、2型糖尿病罹患率:45%でバランスがとれていた。・心不全治療薬の使用状況は、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬:ダパグリフロジン群94% vs.プラセボ群93%、β遮断薬:両群ともに96%、MRA:両群ともに71%。・心血管死または心不全悪化の主要複合評価項目は、ダパグリフロジン群において有意に低下した(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.65~0.85、p=0.00001)。各項目の解析をみると、心不全悪化の初回発現リスク(HR:0.70、95%CI:0.59~0.83、p=0.00003)、心血管死のリスク(HR:0.82、95%CI:0.69~0.98、p=0.029)ともにダパグリフロジン群で低下した。主要複合評価項目におけるダパグリフロジンの影響は、2型糖尿病の有無を含む、検討された主要サブグループ全体でおおむね一貫していた。・全死亡率においても、100患者・年当たり1イベント換算で患者7.9例 vs.9.5例とダパグリフロジンで名目上有意な低下を示した(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97、p=0.022)。・Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire (カンザスシティ心筋症質問票:KCCQ)の総合症状スコアに基づいた、患者報告アウトカムの有意な改善が確認された。・安全性プロファイルについて、心不全治療において一般的な懸念事項である体液減少の発現率は7.5% vs.6.8%、腎有害事象の発現率は6.5% vs.7.2%、重症低血糖の発現率はともに0.2%であった。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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米国の必須医薬品年間支出額、2011~15年で2倍以上に/BMJ

 米国のWHO必須医薬品関連の支出額は、2011年の119億ドルから2015年には258億ドルへと増加し、その多くを2つの高価なC型肝炎ウイルスの新規治療薬(ソホスブビル、レジパスビル/ソホスブビル配合剤)が占め、この期間に増加した支出総額の約22%は既存薬の単位当たりの費用の増加による可能性があることが、米国・ハーバード大学医学大学院のDavid G. Li氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2019年7月17日号に掲載された。WHO必須医薬品モデルリストは、基本的な保健医療システムに必要最小限の医薬品を構成する重要な医薬品類と定義される。米国の後発医薬品市場は競争が激しいが、2008~15年に競争が不十分な状況となり、約400種の後発薬の価格が100倍以上に値上がりした。そのため、治療のアドヒアランスが低下し、患者アウトカムへの悪影響や、保健医療費の長期的な高騰を招く恐れがあるという。2011~15年のメディケア・パートD受給者の後ろ向き費用分析 研究グループは、WHOが必須とする医薬品に関して、米国のメディケア受給者の支出増加の傾向、主要因、潜在的な修飾因子を明らかにする目的で、後ろ向きに費用分析を行った(米国国立衛生研究所 国立先進トランスレーショナル科学センター[NIH-NCATS]などの助成による)。 解析には、Medicare Part D Prescriber Public Use Fileのデータを用いた。このデータベースから、2011~15年に、WHO必須医薬品を処方されたメディケア・パートD(外来処方薬給付)の受給者における、後発薬および先発薬の年間の処方および支出の詳細な記録を抽出した。 主要アウトカムは、全体および受給者ごとのメディケア支出額、全体および受給者ごとの自己負担費用、累積受給者数、単位当たりの薬剤費などとした。すべての支出措置はインフレーション(物価上昇)に合わせて調整され、2015年の米ドル換算で報告された。年間支出額が116%、自己負担費用が47%、処方総数が33%、それぞれ増加 2011~15年のWHO必須医薬品265品目のメディケア・パートD支出総額は、22億処方による872億ドル(684億ポンド、765億ユーロ)で、年間支出額は2011年の119億ドルから2015年には258億ドルへと116%増加した。 また、同一期間の必須医薬品の自己負担費用の支出総額は121億ドルであった。年間の自己負担費用は、20億ドルから29億ドルへと47%増加し、受給者ごとの年間自己負担費用は20.42ドルから21.17ドルへと4%増加した。処方総数は3億7,610万件から4億9,890万件へ33%増加し、累積受給者数は9,590万人から1億3,580万人へと42%増加した。 必須医薬品のうち、133品目(50%)の薬剤の単位当たりの費用(per unit cost)は、2011~15年の期間の平均インフレーション率よりも急速に上昇した。9品目(3%)の単位当たりの費用は、この期間のインフレーション率の100倍以上に持続的に上昇し、11品目(4%)は50~100倍に上昇した。 2011~15年の期間に、新薬導入および既存薬の単位当たりの費用と単位当たりの総用量(unit count)の変動により、支出総額が157億ドル増加した(支出額の低下が持続した薬剤は除外)。このうち22%(35億ドル)が既存の必須医薬品の単位当たりの費用の上昇、20%(32億ドル)は単位当たりの総用量の上昇によるもので、残りの91億ドルのうち83億5,000万ドル(92%)を、新規C型肝炎治療薬であるソホスブビルとレジパスビル/ソホスブビル配合剤が占めた。全体として、この期間における支出総額増加の約58%が、新薬の導入によるものだった。 著者は、「このような傾向によって、患者の必須医薬品へのアクセスが制限され、保健医療システムの費用が増加する可能性がある」とし、「高額な医薬品価格はアドヒアランスの低下を招く可能性がある。それゆえ政策立案者は、米国だけでなく世界中で、人々が必要とする必須医薬品にアクセスできるよう注意を払うべきだろう」と指摘している。

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労力に比して得るものが少なかった研究(解説:野間重孝氏)-1094

 本論文は年齢・性別・狭心症のタイプ・pretest probability・CTの列数の観点から冠動脈造影CT(CTA)の有用性を、65本の既出論文のメタアナリシス(一部著者らが集めた未出版データも含む)によって検討したものである。 ご存じのように現在、世界のCTの10台に1台はわが国にある。高性能なものに限ればこの数はもっと多くなると推察される。これは他国とはかなり異なった医療状況を生み出しているのではないかと思う。SCCTが発表しているデータによれば、CTAの診断能は感度86%~99%、特異度95%~97%であるものの、陽性適中率は66%~87%にとどまる。本論文中では前者で97.2%~100%、後者で87.4%~89%との数字を別のメタアナリシスデータから引用している。しかし陰性適中率が98%~100%と、とてつもなく高い数字になることには言及していない。考えていただきたいのだが、ここに比較的安全でかつ陰性適中率がきわめて高い検査が比較的容易に行えるとしたら、疾病の確率が何パーセントかと論ずる前に、さっさとその検査を行ってしまうのではないだろうか。それが現在のわが国の実情なのだと思う。もっともこの論文も警告しているように、安易な検査のやり過ぎは国家医療財政に大きな負担となる。これも現在のわが国の現状そのものといえる。 本論文ではpretest probabilityが重要な要素として論じられている。しかし、その算出方法についてはdiscussionの中でDiamond and Forester modelを利用したこと、ESCのガイドラインも参照していること、また運動負荷の成績から見積もったものもあると述べるにとどまっており、methodsの中で詳細に論じられてはいない。評者も評者の周囲も日常診療においてあまりこのような数字の議論をしないので、これが一部の医師たちの間では常識になっているものかどうか言及できない。著者の中に日本人も含まれていることを考えると、欧米とわが国の違いだけとはいえないとも考えられるが、評者には論評できない。ただし、重要な構成要素について説明不足であることは指摘しておきたい。 また、年齢や性別がなぜ診断成績に影響を与えるかについても考察されていない。これについては近年、雑誌が推測による記述を抑制するようになったからだという見方もできるが、結論部分に書かれている内容について十分なdiscussionをしないというのはいかがなものなのだろうか。これに関連して考えるのは、本論文では石灰化指数(カルシウムスコア)が検討されていないことである。性別については何ともいえないが、年齢と石灰化指数には強い相関が認められることはよく知られており、年齢による診断能の低下の有力な説明になったのではないだろうか。この問題から離れても、CTの診断能を議論する場合、石灰化指数は重要な要素であり、本論文でこの議論が抜けていることには非常に不満を感じる。 CTの列数の議論には違和感を感じた。これは原理的な問題であり、実際の開発においては実験・実証によって議論されるべき問題であって、臨床データのメタアナリシスが利用される余地はない問題だと考えるからである。ちなみに、旧式のCTでも意外に診断に有効利用できるといったデータなら、統計を利用する意味がある。この辺は統計をとるという行為をどう考えるかにかかっている。 結論を言えば、多くの国の多くの学者たちが交流を持ったことに意義を感じるものの、大変な労力をかけた論文としては得るものが少なかったと言わざるをえない。

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日本における青年期うつ病のマネジメント

 日本において、小児うつ病患者に対し承認されている抗うつ薬治療は、今のところ存在しない。北海道大学の齊藤 卓弥氏らは、日本で治療を受けている青年期うつ病の有病率を推定し、その際に使用される薬理学的治療、さらに小児うつ病治療の専門医の中で満たされていないニーズについて調査を行った。Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology誌オンライン版2019年7月3日号の報告。 本調査は、臨床診療における医師間のインターネット調査として、2014年11月に実施した。青年期うつ病患者を治療する可能性のある医師731人と、過去12ヵ月間で青年期うつ病患者に対し薬物療法を行った医師161人を対象とした。青年期うつ病患者に対し薬物療法を行った医師161人の内訳は、内科医60人、精神科医73人、日本児童青年精神医学会、日本小児心身医学会、日本小児精神神経学会のいずれかの認定専門医28人であった。対象者は、うつ病患者、薬物療法、処方薬に関するアンケートに回答した。 主な結果は以下のとおり。・有病率データの推定では、日本には異なる医療専門分野に約55万人の青年期うつ病患者がおり(うつ病患者全体の10%)、これらの患者の約64%が薬物療法を受けていた。・青年期うつ病に対する薬物療法は、主に精神科医により行われていた(62%)。・最も一般的な第1選択薬は、セルトラリン(23%)であり、次いで抗不安薬(17%)、フルボキサミン(13%)であった。また、抗精神病薬は7%であった。 著者らは「日本における青年期うつ病の有病率は、高いことが示唆された。青年期うつ病患者は多くの医療分野で診察されており、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬を含むさまざまな薬物療法が一般的に行われている。日本人青年期うつ病に対し承認された治療法の医学的ニーズがあると考えられる」としている。

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ソーシャルメディア使用時間とうつ病や大量飲酒との関連

 思春期のソーシャルメディアの使用は、さまざまな否定的なアウトカムにつながっているが、この関連性については明らかとなっていない。ノルウェー・Norwegian Institute of Public HealthのGeir Scott Brunborg氏らは、ソーシャルメディアに費やされた時間の変化が、思春期のうつ病、問題行動、一過性の大量飲酒と関連しているかを、一階差分(first-differencing:FD)モデルを用いて検討を行った。Journal of Adolescence誌7月号の報告。 ノルウェーの青年763人(男性の割合:45.1%、平均年齢:15.22±1.44歳)を対象に、6ヵ月間隔で2つのアンケートを実施した。ソーシャルメディアに費やされた時間の変化とうつ症状、問題行動、一過性の大量飲酒との関連性は、すべての時系列の要因を効果的にコントロールする統計手法であるFDモデルを用いて推定した。また、スポーツの頻度、教師不在でのレジャーの頻度、友人関係の問題の3つを経時的推定交絡因子として検討を行った。 主な結果は以下のとおり。・3つの推定交絡因子で調整した後、ソーシャルメディアに費やされた時間の増加は、うつ症状(b=0.13、95%CI:0.01~0.24、p=0.038)、問題行動(b=0.07、95%CI:0.02~0.10、p=0.007)、一過性の大量飲酒(b=0.10、95%CI:0.06~0.15、p<0.001)の増加と関連が認められた。・しかし、これらの関連に対するエフェクトサイズは、あまり大きくはなかった。 著者らは「思春期においてソーシャルメディアに費やされた時間が増加すると、うつ症状、問題行動、一過性の大量飲酒の増加と、わずかではあるが関連することが示唆された」としている。

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非難されても致し方がない偏った論文(解説:野間重孝氏)-1081

 今回の論文評では少々極端な意見を申し述べると思うので、もし私の思い違い・読み違いだったとしたら、ご意見を賜りたくお願いしてから本題に入らせていただく。 本研究は虚血性心筋障害が疑われる患者に対して高感度トロポニンT/Iが心筋梗塞の正確な診断に利用されうるだけでなく、その予後情報としても利用できることを示そうと行われた研究である。具体的には救急外来受診時すぐに採血された値とその後一定時間をおいてから採血された2回目の採血結果を比較し、初回値だけを見るのではなく、2回目の数値を採血の間隔とも統合して見ることにより、より正確な診断のみでなく、その後の心血管イベントの発生リスクまでも予測できるとしたものである。 ここでまず重要なことは、典型的な症状を示し、心電図上明らかなST上昇が認められた症例は除外されていることである。この論文評をお読みの方の中には研修医の方もいらっしゃるのではないかと考えるので一言しておくと、2012年のESC/ACCF/AHA/WHFによる“Third Universal Definition of Myocardial Infarction”で心筋マーカーの上昇が心筋梗塞診断要件の1つとして位置付けられたことから、急性心筋梗塞の診断には心筋マーカーの上昇が必要と考え、臨床検査の結果を待とうという向きがありはしないかと懸念される。典型的症状+心電図上のST上昇は最も確実な心筋梗塞の診断であり、血液検査結果の到着を待つことなくただちに急性期治療を開始しなければならない。若い先生方、このあたりは絶対に過たないように声を大にしてお願いしたいと思う。 さて、問題は非典型例である。わが国においては、心電図変化が非典型的であったとしても心エコー図所見からasynergyがみられれば、緊急カテーテル検査を行うという方が多数派なのではないだろうか。かくいう私もそうしたほうなのだが、現在、海外では非典型例については(処置の準備をしておくことはもちろんだが)、まず検査結果をみようという向きが結構多いように感じられる。もちろんこれには純粋な科学的な理由ばかりではなく、保健医療などの問題も関係しているのではないかと推察するが…。 そこで本題であるが、そうした医療事情等の議論はさておいて、評者にはこの論文について、2つの重大な不満点がある。 第1はトロポニン測定に関する考え方がまったく述べられていないことである。 トロポニンT/IはトロポニンCとともに結合体を作り、アクチン・ミオシンへのカルシウムのコントロールをつかさどっている。これは骨格筋と同様であるのだが、トロポニンT/Iはその立体構造(conformation)が心筋固有のもの(isoform)であるため、健常時には血中にほとんど存在せず、心筋逸脱物質として取り扱うことができる。心筋に虚血性損傷が起こるとまず細胞膜に損傷が起こり、細胞液内可溶成分画内物質が逸脱する。代表的なのがCK、CK-MB、H-FABPなどである。これらがearly markerと呼ばれる。損傷がさらに進むと心筋の損傷から筋原線維タンパクが逸脱する。これらがlate markerと呼ばれ、その代表がトロポニン、ミオシン軽鎖である。すると、なぜトロポニンが早期反応物質として使用できるのかという疑問が起こるが、これには二通りの考え方がある。実はトロポニンはその6~7%が細胞質内に浮遊しており、それが測定されるのだという考え方。もう1つはmyocardiumの損傷は早期からトロポニン複合体の剥離を起こすため、測定が可能になるという考え方である。実際、トロポニンの上昇は厳密に測定すれば2層性なのだと主張する学者もいる。ちなみにearly markerといっても、必ずしもごく早期から測定できるわけではないのはCK-MBが良い例で、損傷が起こってから3~4時間を必要とする。高感度トロポニンがなぜ2時間程度から測定できるのか正確な機序はまだわかっていない。いずれにしても逸脱物質である以上、その値から心筋損傷の程度や予後を推定しようとするなら何度か測定し、AUC(area under curve)の積分値を考える必要がある。いつ起こったともわからない心筋損傷に対して、2点、それもその間隔が比較的ゆるく決められた2点の測定で代用できるというのなら、その根拠をしっかり示し、考察する必要がある。本論文ではこの点についてまったく述べられていない。学術論文では結果だけ示せばよいというものではないし、実際たまたまそうなったという可能性も否定できないのである。 なお、さきほど研修医の皆さんについて述べたが、生体内微量物質の定量とカットオフ値についての統計学的な知識については整理しておかれることを勧める。微量物質の正常値やカットオフ値の求め方について知っておくことは重要だからである。 第2点はさらに重要である。 こうしてトロポニン測定が行われた患者たちが、具体的にどのように治療されたのかという点についてまったく言及されていないのである。この論文は異常ともいえる長さのSupplementary Appendixが付けられているが、そのどこにもこうした問題についてのプロトコールが書かれていないのである(少なくともわかりやすいかたちで明記されていない)。というより、臨床試験で実患者を対象とした試験においてはこうした項目に対する記述は論文の倫理面からも結果解釈からも最重要項目の1つであるはずであるから、本文に明記されなくてはならないはずなのだが、まったく触れられていないのである。トロポニンを測定してみて、これはかなり危ないと考えられた患者もそのまま内科的に経過観察され、30日間のイベント発生に加えられたのだろうか? 加えて、本論文では心エコー図など他の検査所見についてもまったく言及されていないのである。当たり前だが、心筋梗塞の診断は血液検査のみで行うものではない。現在心筋梗塞の急性期の患者に対しては急性期インターベンションが施行されることにより、その予後が大幅に改善されることが証明されている。高名な臨床研究施設でそれぞれの倫理委員会を通った臨床研究なのだから、いい加減なやり方ではあろうはずがないと信じるが、このままの記述では人体実験が行われたと揶揄されても仕方のない論文構成ではないだろうか。 言い方は悪くなるのだが、いくつかの施設がそれぞれ自分たちのやり方で血液検査と予後調査をして、後から全体に通用させられるプロトコールを作って無理やりまとめたような印象があると言ったら少し言い過ぎだろうか? たとえば、現時点において臨床の場でトロポニンT、トロポニンIが並列的に測定されていることが多いが、それぞれの得失についての議論はまだ定まったとは言えない。実際、上昇までの時間、持続時間が微妙に異なることが知られている。また測定系の問題から、トロポニンT値からトロポニンI値を計算したり推定したりすることはできない。なぜトロポニンの研究をしようとしてトロポニンT/Iを混用したのか。各組織の都合に合わせたということではないのかというのは邪推だろうか。研究の全体像がつかみにくく、評価が難しい論文ではないかと思う。

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若年世代のがん啓発・患者支援チャリティーライブ「Remember Girl’s Power!! 2019」開催

 15歳以下の小児期に発症するがんや、15~39歳のいわゆる“AYA(Adolescent and Young Adult)世代”のがんについての啓発および患者支援を目的としたチャリティーライブ「Remember Girl’s Power!!」が、本年9月に東京で開催される。主催は、がんに関連する治験・臨床試験など情報を発信するwebサイト「オンコロ」で、現在、チケットを一般先行発売中。 チャリティーライブ「Remember Girl’s Power!!」は、39歳までの主に若年世代のがんについて、広く理解と支援を呼びかけることを目的に、2016年から毎年、同世代のがん啓発月間である9月に開催され、今年で4回目。ライブゲストは、自身ががん体験者や啓発活動に積極的なアイドルグループなどで、今回は、麻美ゆまさんや夢見るアドレセンスなど、計7組の女性アーティストのほか、スペシャルゲストとして、「home」などのヒット曲で知られる歌手・木山裕策さんの出演が予定されている。 本チャリティーライブは、9月1日(日)、東京の渋谷ストリームホールで開催される。7月21日(日)まで、チケットぴあにて先行チケット販売中で、27日(土)より一般発売開始。なお、本イベントには、がん体験者は無料招待される。<Remember Girl’s Power!! 2019 概要>日時:2019年9月1日(日) 15:00開場/16:00開演会場:渋谷ストリームホール(東京・渋谷駅16b出口直結)料金:5,500円(税込)  ※すべての参加者に1ドリンク代(500円)が別途必要(3歳以上) ※がん体験者は無料招待。詳細および応募フォームはこちらからRemember Girl’s Power!! 2019公式ホームページ

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