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抗結核薬耐性の最大リスク因子は「2次抗結核薬の投与歴」

 超多剤耐性結核(XDR-TB)を含む抗結核薬耐性の最大のリスク因子は、「2次抗結核薬の投与歴」であることが、米国疾病対策予防センター(CDC)のTracy Dalton氏らの調査(Global PETTS)で示された。多剤耐性結核(MDR-TB)は、Mycobacterium tuberculosisを原因菌とし、少なくともイソニアジドとリファンピシンに対する耐性を獲得した結核で、XDR-TBはこれら2つの1次抗結核薬に加え、2次抗結核薬であるフルオロキノロン系抗菌薬および注射薬の各1剤以上に耐性となった結核と定義される。XDR-TBの世界的発生は実質的に治療不能な結核の到来を告げるものとされ、MDR-TBに対する2次抗結核薬の使用拡大によりXDR-TBの有病率が増大しつつあるという。Lancet誌2012年10月20日号(オンライン版2012年8月30日号)掲載の報告。2次抗結核薬の耐性を前向きコホート試験で評価Global PETTS(Preserving Effective TB Treatment Study)の研究グループは、8ヵ国における2次抗結核薬に対する耐性の発現状況を評価するプロスペクティブなコホート試験を実施した。2005年1月1日~2008年12月31日までに、エストニア、ラトビア、ペルー、フィリピン、ロシア、南アフリカ、韓国、タイにおいて、MDR-TBが確認され、2次抗結核薬治療を開始した成人患者を登録した。CDCの中央検査室で、以下の11種の抗結核薬の薬剤感受性試験を行った。1次抗結核薬であるエタンブトール、ストレプトマイシン、イソニアジド、リファンピシン、2次抗結核薬としてのフルオロキノロン系経口薬(オフロキサシン、シプロフロキサシン)、注射薬(カナマイシン、カプレオマイシン、アミカシン)、その他の経口薬(アミノサリチル酸、エチオナミド)。2次抗結核薬に対する耐性のリスク因子およびXDR-TBを同定するために、得られた結果を臨床データや疫学データと比較した。2次抗結核薬耐性率43.7%、XDR-TB感染率6.7%解析の対象となった1,278例のうち、1つ以上の2次抗結核薬に耐性を示したのは43.7%(559例)であった。20.0%(255例)が1つ以上の注射薬に、12.9%(165例)は1つ以上のフルオロキノロン系経口抗結核薬に耐性を示した。XDR-TBの感染率は6.7%(86例)だった。これらの薬剤に対する耐性発現の最大のリスク因子は「2次抗結核薬の投与歴」で、XDR-TB感染のリスクが4倍以上に増大した(フルオロキノロン系経口薬:リスク比4.21、p<0.0001、注射薬:4.75、p<0.0001、その他の経口薬:4.05、p<0.0001)。フルオロキノロン系抗菌薬耐性(p<0.0072)およびXDR-TB感染(p<0.0002)は男性よりも女性で高頻度であった。2次抗結核注射薬に対する耐性は、失業、アルコール依存、喫煙との間に関連を認めた。その他のリスク因子については、各薬剤間、各国間でばらつきがみられた。著者は、「XDR-TBを含む抗結核薬耐性の一貫性のある最大のリスク因子は、2次抗結核薬の投与歴であった」と結論し、「今回の特定の国における調査結果は、検査体制に関する国内的な施策や、MDR-TBの効果的な治療に関する勧告の策定の参考として他国にも外挿が可能と考えられる」と考察している。

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過体重・肥満の青少年にノンカロリー飲料宅配、体重減少への効果は?

 過体重で肥満の青少年(学校に通う9~10年生、15歳前後)に、ノンカロリー飲料の宅配を行い砂糖入り飲料の摂取量を減らす介入を行ったところ、1年時点では介入群のほうがBMIの増加が低く効果がみられたが、主要転帰とした2年時点では有意差はみられなかったことが報告された。ただし、ヒスパニック系の被験者では、試験開始2年時点でも介入効果が認められたという。米国・New Balance Foundation Obesity Prevention CenterのCara B. Ebbeling氏らが、200人超について行った試験で明らかにしたもので、NEJM誌2012年10月11日号(オンライン版2012年9月21日号)で発表した。砂糖入り飲料の摂取は過剰な体重増加の原因になっている可能性がある。本研究では、ノンカロリー飲料提供が体重増加にどのような影響をもたらすかを調べた。ノンカロリー飲料を隔週で宅配研究グループは、過体重で肥満の青少年で、普段砂糖入り飲料を摂取している224人を無作為に2群に分け、一方には、1年間、ノンカロリー飲料を隔週で各家庭に宅配することに加え、月1回親への電話でモチベーションの維持を試み、被験者とともに3回の面談を行った。もう一方の群は、コントロール群だった。被験者のうち、男子は124人で、BMIは年齢・性別カテゴリーの中で85パーセンタイル以上だった。全員が1日12オンス(1回量、約360mL)以上の砂糖入り飲料または100%ジュースを摂取していた。介入期間は1年間で、追跡期間は2年間だった。同介入による、BMIや体重増加幅の軽減効果の有無を分析した。介入1年時点で97%が、2年時点で93%が試験を継続していた。2年後の砂糖入り飲料摂取量は減少、体重・BMIの増加幅軽減効果はみられず試験開始時点での砂糖入り飲料平均摂取量は、両群ともに同程度で1日1.7回量だった。1年後、介入群では1日平均0.2回量まで減少し、2年後も1日平均0.4回量だった。一方でコントロール群では、1年後は1日平均0.9回量、2年後は1日平均0.8回量と、いずれも介入群より摂取量が多かった。主要アウトカムであるBMIの変化の平均値については、試験開始2年後の時点では、介入群0.71に対し、コントロール群1.00であり、両群で有意差はなかった(p=0.46)。ただし、1年後のBMIの変化については、介入群が0.06に対し、コントロール群が0.63と、介入群でその増加幅が有意に小さかった(増加幅格差:-0.57、p=0.045)。また体重増加も1年後は、介入群が1.6kgに対し、コントロール群が3.5kgと、介入群でその増加幅が有意に小さかった(同:-1.9、p=0.04)。また人種別にみると、ヒスパニック系の被験者で、介入によるBMI増加幅の減少が認められ、1年後は-1.79(p=0.007)、2年後は-2.35(p=0.01)だった。試験参加に関連する有害事象は認められなかった。

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(28)〕 大動脈バルーン・パンピングは心原性ショックを合併した急性心筋梗塞患者の30日生存率を改善させない

心原性ショックを合併した急性心筋梗塞患者の予後は不良であり、いかに生存率を向上させるかは循環器救急医療の大きな課題である。 ACC/AHAガイドラインでは心原性ショックに対する治療法として大動脈バルーン・パンピング(IntraAortic Balloon Pumping; IABP)を用いることを推奨している。本試験はIABPの有効性を証明すべくドイツで行われた多施設・無作為試験であったが、その結果は当初の仮説とは相反するものとなった。 早期に血行再建(PCIまたはCABG)を行ったショックを伴う急性心筋梗塞患者600例をIABP使用群と非使用群に無作為に割り付けた。IABP群の患者には血行再建術の前か直後にIABPを挿入し、1:1の心電図トリガーで作動させ、強心薬なしに30分以上、収縮期血圧 90mmHg以上を維持できるようになるまで作動させ続けた。両群ともに至適薬物療法が施された。 患者背景やIABP以外に施行した治療内容は両群で同等であったが、発症から30日以内の死亡率はIABP群で39.7%、非IABP群で41.3% (p=0.69)と両群で差がなかった。さらにIABPの使用は血圧、心拍数、炎症反応、組織の酸素化、入院中の再梗塞、ステント血栓症、脳梗塞・脳出血のいずれにも改善効果を示さなかった。これまで動物実験や小規模な臨床試験ではIABPが後負荷を軽減させ、冠血流を増加させる、と報告されてきたが、本試験結果はこれらの効果が患者の予後改善にはつながらないことを示すものであった。 本試験の結果は、現在行われている急性心筋梗塞に対する集中治療のあり方に抜本的な見直しを迫る重要なメッセージを含んでいる。本邦でも治療指針を早急に見直す必要が出てきそうである。

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睡眠時間の増減が子どもの情緒・落ち着きに与える影響

 カナダのGruber氏らは、睡眠時間の延長と短縮が及ぼす学校での子どもの振る舞いへの影響について報告した。Pediatrics誌オンライン版 2012年10月15日掲載報告。本試験は二重盲検で行われ、実験的に睡眠時間を平日の一般的な睡眠時間より1時間延長する群と、1時間短縮する群に無作為に割り付けて比較した。対象は7歳から11歳までの睡眠障害がなく、行動、健康状態、学業的な問題がない34人。主要アウトカムの評価は、学校の教師がConners' Global Index Scaleを用いて行った。主な結果は以下のとおり・睡眠時間の延長は累計27.36分で、Conners' Global Index Scaleによる情緒不安定、落ち着きのなさの改善と、有意な日中の眠気の減少が示された。・睡眠時間の短縮は累計54.04分で、Conners' Global Index Scaleの悪化が示された。・適度な睡眠時間の延長は注意力と感情の調節の改善に有意に寄与する一方で、睡眠時間の短縮は逆の効果を示した。関連医療トピックス ・ロタウイルスの血清型と流行【動画】 ・小児臨床試験の潮流、感染症/ワクチン試験が23%と最も多くを占める ・妊娠前の身体活動と母乳育児が、乳児の体重増加・肥満に及ぼす影響

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アルツハイマー病にビタミンD不足が関連

 認知症の予防に食生活や栄養が関連していることが、多くの研究より報告されている。Balion氏らはビタミンDの摂取が認知機能や認知症発症に与える影響をメタアナリシスにより検討した。Neurology誌2012年9月25日号の報告。 2010年8月までに公表された英語文献を5つのデータベースから検索した(すべての報告は比較群を有する)。認知機能、認知機能障害は全体または領域の認知機能テストにより定義し、認知症は定められた基準に従って診断された。ビタミンDの測定は必須とした。2名のレビュアーによりデータ抽出後、事前に定義された基準を用い研究の質を評価した。異質性の評価にはQ検定、I(2)統計量を用いた。加重平均差(WMD)、Hedge's gによるランダム効果モデルを用いたメタアナリシスを行った。主な結果は以下のとおり。・37報が基準を満たし、8報はビタミンDが50nmol/L未満/50nmol/L以上によって比較可能な平均MMSE(ミニメンタルステート検査)スコアを含んでいた。・MMSEの加重平均差を比較した研究では有意な異質性が認められたが、高ビタミンD群では全体的に肯定的な結果であった(1.2、95%CI=0.5 ~1.9、I(2)=0.65、p=0.002)。・複数の感度分析の結果、肯定的な効果は小さいながらも持続した。・アルツハイマー病をコントロール群と比較した報告は6報。そのうち、商用的利用のため排除した2報を除いた4報では、アルツハイマー病群ではコントロール群と比較しビタミンD濃度が低かった(WMD= -6.2nmol/L、95%CI= -10.6 ~ -1.8)。また、異質性は認められなかった(I(2)

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ナイアシン/laropiprant併用の忍容性に疑問符。導入期間を含めおよそ1万5千例が脱落:HPS2-THRIVE試験

8月26日の「クリニカルトライアル&レジストリ・アップデート I」セッションでは、HPS2-THRIVE試験の安全性中間解析が報告された。今回の発表は主に安全性に関する中間解析報告であり、忍容性に疑問を投げかけるものとなった。オックスフォード大学(英国)のJane Armitage氏が報告した。本試験は、ナイアシンによる動脈硬化性イベント抑制効果を検討する試験である。「LDL-C低下療法+ナイアシン」による心血管系イベント抑制作用は、昨年のAHAで報告された二重盲検試験AIM-HIGH (Atherothrombosis Intervention in Metabolic Syndrome with Low HDL/High Triglycerides and Impact on Global Health Outcomes)で、すでに否定されている。しかしAIM-HIGHの試験規模は登録数3,424例であり、HPS2-THRIVEに比べると小さい。またナイアシンによる顔面潮紅で二重盲検化が破られぬよう、対照群にも低用量のナイアシンを服用させていた。一方、HPS2-THRIVEは、laropiprant(ナイアシンによる顔面潮紅抑制剤)で潮紅抑制を図っているため、プラセボ群はナイアシンを全く服用していない。AIM-HIGHと異なり、純粋な「ナイアシン vs プラセボ」の比較が企図されている。HPS2-THRIVE試験の対象は、心筋梗塞、脳卒中、PVDあるいは冠動脈疾患合併糖尿病例である。ナイアシン/laropiprant(2g/日)群とプラセボ群に無作為化された。HDLコレステロール(HDL-C)を増加させるナイアシンが血管系イベントを抑制させるか、現在も二重盲検法で追跡中である(ただし全例、シンバスタチン 40mg/日(±エゼチミブ 10mg/日)によるLDLコレステロール(LDL-C)低下療法を受けている)。本試験では無作為化前、適格となった38,369例に、導入期間として8週間ナイアシン療法(ナイアシン/laropiprant)を行った。その結果、33.1%にあたる12,696例が脱落(服用中止)していた。うち76.9%(9,762例)は、薬剤が脱落の原因とされた。脱落理由として明らかな症状は、皮膚症状、消化管症状、筋症状などである。上記を経て、最終的に25,673例が無作為化された。42.6%は中国からの登録である。平均年齢は64.4歳、83%が男性だった。78%に冠動脈疾患、32%に脳血管障害、13%に末梢動脈疾患を認め、33%が糖尿病例(重複あり)だった。今回、「中間安全性解析」として報告されたのは、無作為化後平均3.4年間における試験薬服用中止例の割合とその理由である。ナイアシン療法群では、無作為化後さらに、24.0%(3,084例)が新たに脱落していた(15.7%が服用薬関連)。プラセボ群は15.4%である(服用薬関連は7.5%)。群間差の検定なし。ナイアシン療法群で発現率の高かった有害事象は、「皮膚症状」(5.1%)、「消化器症状」(3.6%)、「骨格筋症状」(1.6%)、「糖尿病関連」(0.9%)、「肝障害」(0.7%)である。いずれもプラセボ群よりも高い数値だった。ただし「肝障害」には一過性のものが含まれている。そのため重篤な肝障害に限れば、ナイアシン療法群、プラセボ群とも発現率は0.1%となった。また、ナイアシン療法群では「筋障害」発現率が0.54%と、プラセボ群の0.09%に比べ有意に高かった(リスク比:5.8、95%信頼区間:3.1~10.7)。この「筋障害」の増加は、主として中国人におけるリスク増加の結果だった(ナイアシン療法群:1.13% vs プラセボ群:0.18%)。Armitage氏によれば、2013年には臨床転帰を含む最終報告が行われるという。来年の結果報告が待たれる。関連リンク

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福島の病院が、初めての研修医を迎えて

南相馬市立総合病院・神経内科小鷹 昌明2012年8月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。福島県南相馬市の病院が、はじめて研修医を受け入れたのは、震災後500日が経過しようとする頃だった。当院の研修シラバスには、次のような文言が謳われている(これは、昨年より亀田総合病院から出向してきた“原澤慶太郎・在宅診療科医師”の掲げた目的である)。まずは一読してもらいたい。~なぜ、今、南相馬なのか。研修医諸君に改めて問いたい。これから医師として羽ばたいてゆく君たちにとって、はたして南相馬は対岸の火事と言えるだろうか。少なくとも私たちは、そうは思っていません。むしろ若い医師たちに、この現場を伝えていく責務を感じています。原発事故に伴う被曝の問題に、私たちがどのようにして課題を乗り越えていくのか、世界が注視しています。有史以来、未曾有の超高齢化社会、いわゆる2025年問題が叫ばれて久しいですが、世界もまたglobal agingへと突き進んでいます。そうした時代を医師として生きる君たちにとって、“高齢者医療”は避けては通れない問題です。眼前に突きつけられた現実から目を背けてはいけません。南相馬に広がっているのは、20年後の日本の紛れもない姿です。地域医療の抱えるさまざまな社会的問題に対して、solutionを模索する姿は、これからのひとつの医師像ではないでしょうか。Scientistとしての視点を保持しながら、さまざまなスタッフとの恊働から生まれる集合知で問題解決を図って行く。その過程を是非とも共に体験してもらいたいのです。~私は、「そうか、そういうことだったのか」と思った。これまで散々、ここへ来た自分自身の目的や意味を考えてきた。本メディアにおいても、想いと葛藤とを綴ってきた。それが、このような形で簡単に明文化されていた。常勤医17人の、この私たちの被災地病院が、復興のために次の手を打った。それは臨床研修指定を取得することであった。亀田総合病院(神戸大学医学部出身)にて初期研修中の2年次医師が、「希望で当院にも研修に来る」と知らされたのが5月だった。私たちはその日のために、付け焼き刃かもしれないが、場当たり的かもしれないが、準備を行った。大急ぎで研修プログラムを作成したり、各部署にお伺いを立てて周知させたり、日程表を作って吟味したりした。それは突貫工事に近いものであった。私も、「神経内科科長(ひとりだが)」として、元、大学病院准教授として、そのプログラム作りに参画した。ハッタリに近いかもしれないし、大風呂敷を広げ過ぎた感はあるが、手作り的なシラバスが一通り完成した。その矢先の7月に、彼はやってきた。循環器志望の、この若者は、被災地診療を体験したくて訪れた。私たちが、研修医に伝えられることは何であろうか。有意義な研修システムというのは、果たしてどういうものであろうか。原発事故が暗い影を落としているこの地で、私たちは、日々目の前の患者の診療に追われている。20キロメートルの警戒線が解除された今でも、答えの見出せない問題を抱えたまま、この市には4万5千人が暮らしている。そうした患者の悩みや不安に応えている。食料品目や産地に気を配ることで、低線量被曝は増加しないことが示されたにも関わらず、子供たちの帰還率は4割にも満たない。若い世帯が県外に避難したことから家族は離散し、作付けや漁を禁じられた住民は、生きがいを失い、目標を絶っている。多くの高齢者世帯が取り残され、仮設や借上住宅に住む人々の間には、疎外感によるひきこもりや、孤独死の問題が徐々に色濃くなっている。メディアでは到底伝えきれない根深く、執拗な問題が、この地を覆っている。きちんとした研修を受けられる病院は、指導医の教育に対するスキルが高く、症例が豊富で、検査や治療のためのツールが揃っていることである。多様な人材と潤沢な資金とで、研修医を一手に引き受けている大学病院や基幹病院は、全国にたくさんある。そういう病院におけるカリキュラムやマニュアルは、きっと明確なものであろう。「当院では、一定期間にこういうことが学べます」とか、「優秀なスタッフが、それを支援いたします」とか、いうものではないか。正直、そのようなものは、この病院にはない。私たちが与えられる研修システムは、他とは少し違うかもしれない。なぜなら、この病院で感じる何かを学びに変える手立てに、マニュアルなど作成しようがないからである。私たちの現場では、「この地で寝たきりになったら、分かりますよね・・・」、「脳梗塞や心筋梗塞の危険性を減らすのではなく、なってはダメなのです」、「最後まで介護する人にしか、病状の説明はできません」、「福祉や介護の充実のためには、生きるのも仕事です」、「障害は何ともできないけど、生涯なら何とかできるかもしれない」というようなことを言っていかなければならないのである。この地でひとりの患者を自律させるには、さまざまな職種や人種を巻き込まなければ成り立たない。NPOやボランティア団体、事業所や協会、行政やメディアなどとタッグを組む必要がある。充分であろうはずはないが、それでもあらゆるリソースを動員して、支援体制を布く必要がある。私たちの医療には解答がない。だから、正解を学ぶことはできないし、規範を教える術もない。ここで学ぶことは、もちろん、医療技術を向上させるとか、医学的知識を増幅させるとか、そういうことを目指すことに異論はないが、それよりも“自分は何ができないか”を理解し、自分にできないことは、誰にどのように支援されればそれが達成できるのか。「そういう人に支持されなければ、有効に自分の学びが活かされることはない」ということを体感することなのである。一手先、二手先を見据えて「自分にできないこと」と、「自分にできること」とを、きちんとリンケージすることなのである。日本の医療は世界最高レベルなのに、「満足度は最低ランクである」と揶揄される。やるせない思いがする。日本の医療は、なぜそうなってしまったのだろうか。それは、「医療費の公的支出が他国と比べて少なく、診療報酬が全体的に低く抑えられている。医師が、数多くの業務をこなして長時間働くという現状があり、現在の医療レベルは、医師の滅私奉公によって支えられているからだ」という、もっともらしい解答が用意されている。「ベルトコンベア式診療」、「クレーム患者の存在」、「患者たらい回し」、「医師不足」、「効率化医療」、「コンビニ受診」など原因はさまざまであろうが、身も蓋もない結論を言うならば、「医療者が医療に不快感を示している」からである。だから、この病院での研修では、せめてその一点だけでも払拭させたいと願う。ここでの研修というのは、症例を経験することだけではなく、どういう患者を、どういう上級医と、どういうふうに考えるかで、限られた情報と資源との中で、いかに愉快に、かつ有意義に過ごすかを追求することなのである。そういうことを探り当てるのも、重要な知的技術だし、意欲的思考だと思う。及川先生(当院脳外科医・副院長)が臨終を告げる現場に遭遇した。「今から、じいちゃんにしてあげられる最後のことをすっから。いいかい、じいちゃんの胸と口に手を当てて、よーく耳と掌で感じるんだよ。がんばってきたけんど、心臓と呼吸が止まってしまったんだよ」「自分以外の人間に最後にしてあげられること」、言葉にすれば単純なことかもしれないが、それは死の確認作業だった。当たり前のことかもしれないし、私が言うのもおこがましいが、先生は、かつて私が所属していた大学病院医師が束になっても教えられなかった看取りを、一瞬で示してくれていた。私は、「医療はこうあるべきだ」というようなことをずっと考えてきた。大学病院なのだから、最後の砦なのだから、という気持ちで使命を果たそうとした時期もあった。そして、それが叶わなければ、勝手に憤り、利己的にやる気をなくしていた。今になって思えば、そういう態度だった理由は、「資源を度外視する大学診療が正論だ」と考えていたからである。ここでの医療の正論は、患者の中にあった。持てる能力を駆使して、医療という現場を生き抜いてこられたことに大きな自信と誇りとを持っている。しかし、厳しさの中での経験が、自信過剰で鼻持ちならない傲慢な医師、あるいは逆に虚無的で無機質な医師を生む可能性があることも、同時に自覚している。20代の私は、自己欺瞞と傲岸不遜とで自分が何者かも分からず、ましてや他人も、そして世の中も分からなかった。他人を振り回し、他人に振り回されていた。30代になっても落ち着くことはなく、精神はますます偏狭に、態度はますます狷介となった。思慮が足りず、早合点しがちで、行動がときに上滑りし、ちょっとしたことで自己嫌悪し、短気で気難しく、過信と煩慮とで迷走していた。英国に留学し、苦労したことで、35歳を過ぎた頃から少しずつ世間を知り、40歳を超えたあたりで、ようやく深遠でも高慢でもなく、ごく日常的な次元で物事を客観的に捉えられるようになってきた。個別的、具体的なことよりも、普遍的、抽象的なことに関心が向くようになった。移り変わる物事を追いかけるよりも、変わらない事柄を考えている時間の方が長くなり、自分が何者で、何ができ、何ができないかが、ようやく理解できるようになった。そして私は、この地で、再び翻弄されている。被災地での取り組みに刺激され、触発され、身もだえしている。ここには、キャリアを積んだ医師たちが迷っている現実があり、いい大人たちが逡巡している現場がある。そういう私たちの“ためらいの行動”というものに、どうか共鳴してもらいたい。研修医にとって、ここはある意味、異質な空間かもしれない。「あるようでいて、それすらもないもの」、「ないようでいて、実は見えていないだけ」というものがたくさんある。医療者として患者の治療はもちろんだが、住民の生活にも入り込んでもらいたい。そして、たとえば、仮設住宅に住む人々の健康管理の一端を担ってもらい、彼らの身体情報を次の研修医へと伝え、バトンを渡すように申し送り、受け継いでいってもらいたい。実際、亀田総合病院からやって来た研修医の彼は、仮設を1区画ごとに回り、“熱中症予防”に関する講話を展開している。高齢者からも、「孫が来たようだ」と大変評判が良いようだ。当院の研修カリキュラムは、(少なくとも私にとっては)研修医のためのものではなかった。恥ずかしいことだが、私自身の目標を改めて自覚させるものであった。卒後研修医たちは、明確化されたシラバスを吟味して、研修病院を探すことであろう。医師が、医療以外のさまざまな行事やボランティアに参画していることから、ここには、シラバスに乗せられない何かがある。研修カリキュラムは予め存在するものではなく、これからの研修医たちと創っていくものであった。私は、人と付き合うことが愉しくなり、人に任せることが頼もしくなった。そして、少しずつだが、自分のやりたいことが分かってきた。

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アジアの臨床腫瘍学のエピセンターを目指すJSMO2012 第10回日本臨床腫瘍学会学術集会プレスセミナーより

今年の日本臨床腫瘍学会(以下、JSMO)学術集会は10周年記念大会として、"Beyond the Global Standard of Medical Oncology 縲弃erspectives from Asia縲鰀"をテーマとして掲げ 、7月26日~28日の3日間、大阪国際会議場で開催される。10ヵ所の講演会場とポスター会場を使い、1,000題を超えるプレゼンテーションが行われる。今年の学術集会の見どころを、13日に行われたプレスセミナーで、会長である近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門 教授 中川和彦氏が紹介した。設立10周年記念企画 7月26日、10周年記念企画「わが国における臨床腫瘍学の歩みと今後の展望」が開かれる。ここではJSMOがこの10年間どのように成長したか、今後どのような方向に向かっていくのか、歴代会長と現役会員がそれぞれの観点からディスカッションを行う。国際化への取り組みJSMOは、“アジアの臨床腫瘍学のエピセンターを目指す”と宣言しているが、その宣言を反映するように、海外から一般演題を募集するという初めての試みを行っている。その結果、今回の1,135演題のうち122演題が海外からの応募演題となった。これら海外からの演題は12のインターナショナルセッションに配置しているが、予定以上の演題数に、急遽6のミニインターナショナルセッションも設け、プレゼンテーションの機会を与えている。 7月26日にはASCO、27日にはESMO、28日にはCSCO(中国)およびKACO(韓国)の各臨床腫瘍学会とのジョイントシンポジウムが行われる。ASCOからは次期ASCO会長であるDr.Swain、ESMO からは機関誌Annal of Oncologyの編集者でもあるDr.Vermorken、また、CSCO、KACOからもそれぞれClinical oncologyの第一人者が出席する。これらのシンポジウムでは、国内外の最先端の研究報告が期待される。また、このような活動を通し、JSMOは今後、海外、とくにアジアでのコンセンサスを形成する活動を目指していくという。プレナリーセッションすべての演題の中から重要度の高い7演題をプレナリーセッションに取り上げている。腎がん、乳がん、胃がん、大腸がん2題、肺がん2題の演題はすべてPhase3であり、いずれも非常にインパクトが高く臨床に直結した発表である。また、プレナリーセッション開催時は、その他の会場でのプログラムがなく、同セッションだけに集中できるスケジュールとなっている。プレナリーセッション演題は下記のとおり。1:「Phase III AXIS trial of axitinib vs sorafenib in patients with metastatic renal cell carcinoma: Asian subgroup analysis」Hirotsugu Uemura (Department of Urology, Kinki University School of Medicine, Osaka2:「A Phase III, Multicenter, Randomized Trial of Maintenance Versus Observation After Achieving Clinical Response in Patients With Metastatic Breast Cancer Who Received 6 Cycles of Gemcitabine Plus Paclitaxel as First-line Chemotherapy (KCSG-BR 0702, NCT00561119) 」Young-Hyuck Im (Samsung Medical Center)3: 「Randomized phase III study of irinotecan (CPT-11) vs. weekly paclitaxel (wPTX) for advanced gastric cancer (AGC) refractory to combination chemotherapy (CT) of fluoropyrimidine plus platinum (FP) : WJOG4007 trial」Nozomu Machida (Division of Gastrointestinal Oncology, Shizuoka Cancer Center)4: 「Results of a phase III randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial (CORRECT) of regorafenib plus best supportive care (BSC) versus placebo plus BSC in patients (pts) with metastatic colorectal cancer (mCRC) who have progressed after standard therapies.」Takayuki Yoshino (National Cancer Center Hospital East)5: 「Results of ML18147: A phase III study of bevacizumab in 2nd line mCRC for patients pretreated with bevacizumab in 1st line」Stefan Kubicka (District Clinic Reutlingen)6: 「LUX-Lung 3: afatinib vs cisplatin and pemetrexed in Japanese patients with adenocarcinoma of the lung harboring an EGFR mutation」Nobuyuki Yamamoto (Thoracic Oncology Division, Shizuoka Cancer Center)7: 「Maintenance pemetrexed (pem) plus best supportive care (BSC) vs placebo plus BSC after pem plus cisplatin for advanced nonsquamous NSCLC」C. K. Obasaju (Eli Lilly and Company, Indianapolis, IN, USA)学会へ行こうプログラム今回は、市民との対話の機会を設けるなど、アカデミックなプログラム以外の活動も企画している。具体的には「学会へ行こうプログラム」を企画。市民の学会への参加を呼びかけるとともに、市民公開講座、ペイシェント・アドボケイト・プログラムなどを実施する。今まで当学会への市民参加は行ったことがなかったが、がん診療のあり方を変える取り組みとして、市民に参加してもらう機会を作りたいという意図から実施に至った。 この中で、最も注目されるイベントは7月26日14時30分から開催される公開シンポジウムである。「がん患者の必要としているがん医療縲恍n域でがん患者を支えるためには縲怐vと題し、司会に田原総一朗氏を招き、学会・マスコミの第一人者を集めて2部構成で開催される。第1部では、がん対策基本法が制定されてから、これまでどのようなことが変わってきたか? 第2部では、政府の新たな指針に対する検証、各方面からの要望などを議論する。教育講演今回の大会の目玉の一つとして、充実した教育講演がある。具体的には、日本の第一人者による32の教育講演を3日間続けて行う。内容は支持療法から臓器各論、標準治療、分子標的治療薬に至るまでさまざまなテーマで開催される。今年は、海外からの参加者も念頭に置き、同時通訳と英語スライドを使用するとのこと。また、7月27日8時からは、JSMO専門医会がケースカンファレンスを行う。乳がん、原発不明がん、大腸がんを取り上げ、どのように専門医が有効に働いていくのかを知る良い機会となる。今回の大会では、今年6月のASCOで発表された注目の演題も数多く取り上げられているが、それだけでなく、日本での臨床応用についてのディスカッションも行われる。これは日本の臨床腫瘍学にとって、非常に有益なことであり、将来はJSMOから世界に発信するということを目標としたい、と中川氏は語った。 (ケアネット細田雅之)

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ルートロニックジャパン株式会社

第111回日本皮膚科学会総会では、スキンケア製品、医療機器など多数のメーカーのブースが設けられていた。そのうちの1つ、ルートロニックジャパン株式会社を紹介する。医療用レーザーを開発し、韓国で最もR&Dに力を注いできたレーザー医療機器Globalメーカーとしてアジアナンバー1のシェアを誇るルートロニック。市場の変化に迅速に対応していきながら国際的発展を遂げている企業である。北米、日本、欧州、中国に現地法人を設立しており、世界60ヵ国以上に輸出販売するなど、ルートロニックの提供するサービスは全世界における認知度も高い。アメリカのFDA(アメリカ食品医薬品局)承認を受けているルートロニックの製品群はスキンタイプに捉われず、多くの国で使用され、臨床効果、品質、操作性、良質なアフターサービスなどについてユーザーの高い満足度を得ているそうだ。製品紹介以下、今回の学会にて出展された製品を紹介する。※以下にご紹介する製品は国内未承認機器が含まれています。Q-switched YAG Laser スペクトラ短いパルス幅と整ったビームで肝斑をより安全に、より確実に治療する。ロングパルスモードによるノーダウンタイムのニキビ治療も可能。ニキビの出来にくい肌質に変えていく。高いピークパワーでシミ、母斑の治療も最小限のダメージで治療可能とのこと。炭酸ガスフラクショナルレーザー エコツーニキビ跡、毛穴、皺、たるみを改善。マイルドな治療からハードな治療まで自在にコントロールすることができ、特許技術によりダウンタイムを最小限に抑制。先端のチップが可変で、3種類のレーザーを使い分け照射することができ、患者さんのあらゆる幅広い治療に効果をもたらす。新世代光治療器 ソラリレーザーメーカーとして開発した次世代の光治療機。6つのフィルターを標準搭載。ブロードバンド波長により、ニキビ、シミ、そばかす、赤ら顔、脱毛などの症状に改善をもたらす。人工知能冷却がマイナス5℃ まで設定可能で無痛かつ冷却ジェル無しでも治療していくことが可能。(ケアネット)

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ARDSに対するサルブタモール治療により死亡率が増加

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に対する早期のサルブタモール静脈内投与による治療は、プラセボに比べ28日死亡率が有意に高く、転帰を悪化させると考えられることが、英国・Warwick大学のFang Gao Smith氏らが行ったBALTI-2試験で示された。人工呼吸器装着患者の約14%にARDSがみられ、その死亡率は40~60%に達し、生存例もQOLが大きく損なわれることが報告されている。ARDSの治療では、短時間作用性β2アドレナリン受容体刺激薬であるサルブタモールの最大7日間の静脈内投与により、肺血管外水分量やプラトー気道内圧が低下することが、無作為化対照比較第II相試験で示されている。Lancet誌2012年1月21日号(オンライン版2011年12月12日号)掲載の報告。サルブタモールの死亡率抑制効果を評価する無作為化試験BALTI-2試験の研究グループは、ARDSに対するサルブタモールの最大7日間静脈内投与の死亡率の抑制効果を評価する多施設共同無作為化プラセボ対照試験を実施した。2006年12月~2010年3月までに、イギリスの46の集中治療施設からARDS発症後72時間以内の16歳以上の人工呼吸器装着患者が登録され、サルブタモール(15μg/kg標準体重/時)あるいはプラセボを最大7日間投与する群に無作為に割り付けられた。患者、介護士、担当医には治療割り付け情報がマスクされた。主要評価項目は、無作為割り付けから28日以内の死亡とした。中間解析で28日死亡率が有意に高く、試験中止に326例が登録され、サルブタモール群に162例が、プラセボ群には164例割り付けられた。両群で1例ずつが同意を取り消したため、それぞれ161例、163例で評価が可能だった。2回目の中間解析の結果、安全性に関する懸念により登録は中止された。28日死亡率は、サルブタモール群が34%(55/161例)と、プラセボ群の23%(38/163例)に比べ有意に高かった(リスク比:1.47、95%信頼区間:1.03~2.08)。著者は、「ARDSに対する早期のサルブタモール静脈内投与による治療は忍容性が不良であった。効果が得られる可能性は低く、転帰を悪化させると考えられた」と結論し、「人工呼吸器装着ARDS患者に対するβ2作動薬によるルーチン治療は推奨されない」としている。(菅野守:医学ライター)

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OKI、「救急医療搬送支援システム」の販売を開始

OKIは16日、救急患者の疾患情報と病院の受け入れ状況をリアルタイムで情報収集し、最適な医療機関への搬送支援を行う「救急医療搬送支援システム」を開発したと発表した。同システムは2012年3月より販売開始される予定。救急搬送における医療機関の受け入れ困難は社会問題になっているが、この問題の解消には、救急患者の処置ができる専門医の受け入れ可能状況を把握し、救急車が適切な医療機関への搬送を行う仕組みづくりが重要となる。救急医療体制支援システム構築の「GEMITS」プロジェクト(注1)は、2009年度から経済産業省の委託事業として岐阜大学が取り組み、2010年度からはNPO岐阜救急災害研究開発機構が総務省の委託事業としても実施している。同社はこれまで「GEMITS」プロジェクトに参画し、救急患者の疾患情報の共有や最適な医療機関への搬送を支援するシステムを構築、実証実験に参加してきた。また、企業や関係団体と連携して「GEMITS」の普及・推進を図るために設立されたGEMITSアライアンスパートナーズ(GEMAP〔注2〕)の設立発起人の一員として、「GEMITS」の普及に努めているという。今回、同社はGEMITSプロジェクト参画の経験をいかし、また、これまで様々な分野で培ってきた通信技術やシステム開発力を組み合わせ「救急医療搬送支援システム」を開発した。コンセプトは、救急患者に「最適な病院に、最適の時間で搬送し、最適な処置ができる」こと。同システムは、エンジン機能にあたる「統合エージェント」を中核に7つのシステムから構成されている。中心となる機能は、医師がICタグを装備することで病院での位置情報などから繁忙度を判断する機能。また、救急隊員が所持するタッチパネル式の専門端末(Android搭載)を使って患者の疾患情報や搬送状況を送信することもできる。リアルタイムで収集した医師の繁忙度と患者の疾患および搬送状況をもとに「統合エージェント」が、受け入れ病院の候補を選定する。これらの機能のほかに、受け入れ病院の医療スタッフを支援する機能や、テレビ会議で救急隊員と病院が患者情報を共有できる機能を備えている。注1:GEMITS(Global Emergency Medical supporting Intelligent Transport System)岐阜大学を中心とした産学連携事業体が国の事業との連携を図り、救急医療体制支援システムを構築するプロジェクト。現在、困難な状況にある救急医療体制を医療資源の育成、最適化利用を図ることで、再生できることを実証し、救急医療体制のロールモデルとして全国に展開することを目的に活動を行っている。注2:GEMAP:GEMITSアライアンスパートナーズ(GEMITS Alliance Partners)2011年6月に設立された幅広い分野の企業や関係団体と連携して、「GEMITS」の普及・推進を図るために設立されたコンソーシアム形式の機関。詳細はプレスリリースへhttp://www.oki.com/jp/press/2011/11/z11074.html

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STEMI患者でDIDO時間が30分超は、30分以下に比べ院内死亡率が約1.6倍に

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)のために、別の病院に転送されたST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者で、最初の病院に着いてから他院に向けて出発するまでの時間(door-in to door-out:DIDO)が30分以下の人は、全体の1割強にとどまるが、そうした人のPCI実施までの所要時間は短く、院内死亡率は低率であることが明らかにされた。米国・デューク大学のTracy Y. Wang氏らが、1万5,000人弱について行った試験で明らかにしたもので、JAMA誌2011年6月22・29日号で発表した。米国病院の約75%は、緊急PCIに対応できないため、STEMI患者の多くが、最初に訪れた病院から他の病院へ転送されているのが現状という。DIDOは新たな臨床パフォーマンスの指標とされ、適切な再灌流治療のためには、DIDO時間30分以下が推奨されている。DIDO時間中央値は68分、30分以下は11%研究グループは、ACTION Registry-Get With the Guidelines登録患者で、2007年1月~2010年3月に、STEMIで病院を訪れ、プライマリPCIのために別の298ヵ所の病院に転送された、合わせて1万4,821人について後ろ向きコホート試験を行った。主要アウトカムは、DIDO時間とそれに関連する因子、来院から初回バルーン拡張までの時間(door-to-balloon:DTB)、補正後院内死亡率であった。その結果、DIDO時間の中央値は68分(四分位範囲:43~120)だった。また、DIDO時間が30分以下だったのは、1,627人(11%)にとどまった。DIDO時間が30分超だと、30分以下に比べ院内死亡率が1.56倍にDIDO時間が30分以下だった人のうち、DTB時間が90分以下だった人の割合は60%(95%信頼区間:57~62)と、DIDO時間が30分超だった人の同13%(同:12~13)に比べ、有意に低率だった(p<0.001)。また院内死亡率も、DIDO時間が30分以下の人は2.7%(同:1.9~3.5)であったのに対し、同30分超の人は5.9%(同:5.5~6.3)と、有意に高率だった(p<0.001、補正後オッズ比:1.56、95%信頼区間:1.15~2.12)。DIDO時間が30分超の関連因子は、高齢、女性、時間外の来院、最初の来院が救急車ではないなどであった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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10~24歳の若年人口の世界疾病負担がWHOの調査で明らかに

10~24歳の若年人口は、世界的に保健医療の対象としては概して看過されてきたが、障害調整生存年数(disability-adjusted life-years; DALY)で評価した世界疾病負担(global burden of disease)は全人口の15.5%に及ぶことが、世界保健機構(WHO)のFiona M Gore氏らの調査で示された。2008年、世界の10~24歳の若年者人口は18億人を超え、全人口の27%という最大規模の集団を形成するに至った。2032年にはピークに達し約20億人にまで増加すると予測されるが、その90%は低~中所得国の住民だという。最近になって、この年齢層の壮年以降の健康問題や疾患リスク因子の重要性が浮上しているが、世界疾病負担に及ぼす影響は不明だという。Lancet誌2011年6月18日号(オンライン版2011年6月7日号)掲載の報告。WHOデータを用いて若年者の疾病負担を系統的に解析研究グループは、若年者における疾病負担の現況およびリスク因子がその負担に及ぼす影響について系統的な解析を行った。解析には、WHOの「2004年度世界疾病負担研究」のデータを用いた。疾患の罹患率、有病率、重症度、死亡率のデータを基に、10~24歳における原因別のDALYを地域別、低~高所得国別に評価した。比較リスク評価法(comparative risk assessment method)を用いて、特定の健康リスク因子に起因するDALYを算出した。DALYは、早死による損失生存年数(YLL)と障害による損失生存年数(YLD)に分け、年齢層別、地域別に検討した。精神神経疾患、不慮の外傷、感染症/寄生虫症がYLDの3大原因10~24歳の罹患率に関するDALYの総計は約2億3,600万年で、これは全年齢の総DALYの15.5%に相当する。この年齢層ではアフリカのDALYが最も高く、高所得国に比べ約2.5倍に達した(1,000人当たりのDALY:208 vs. 82)。全地域を合わせると、15~19歳の年齢層では男性に比べ女性のDALYが約12%高かった(1,000人当たりのDALY:137 vs. 153)。世界的にみて、10~24歳の年齢層におけるYLDの3大原因として、精神神経疾患(45%)、不慮の外傷(12%)、感染症/寄生虫症(10%)が挙げられた。この年齢層の罹患率DALYの主なリスク因子は、アルコール飲用(総DALYの7%)、危険な性交渉(同4%)、鉄欠乏症(同3%)、避妊の不履行(同2%)、非合法薬物の使用(同2%)であった。著者は、「これまで、若年層は比較的健康であるとみなされ、世界的に保健医療の対象としては概して看過されてきた。一方、この年齢層の疾患や外傷の予防機会は十分には活かされていない」とまとめ、「今回のデータは、青少年の健康は保健医療への関心の高まりによって改善される可能性があることを示唆する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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2015年へのカウントダウンに向け、妊婦、子どもの健康関連ODAは改善されたか?

2003~2008年の6年間で、開発途上国への妊婦、新生児、子どもの健康に関する政府開発援助(ODA)の供与額は増加したが、他の健康領域を含む総額も増加したため相対的に優先度には変化がないことが、イギリス・ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のCatherine Pitt氏らの調査で明らかとなった。効果的な介入を広範に行ってミレニアム開発目標(MDG)4(2015年までに5歳未満児の死亡率を1990年の水準の3分の1に削減する)およびMDG5A(2015年までに妊産婦の死亡率を1990年の水準の4分の1に削減する)を達成するには十分な資金が必要だが、2015年へのカウントダウンに向けた支援の優先国68ヵ国の多くがODAに依存しているのが現状だという。Lancet誌2010年10月30日号(オンライン版2010年9月17日号)掲載の報告。ニーズが最も高い被援助国に対して供与すべきODAを調査研究グループは、2007年と2008年の妊婦、新生児、子どもの健康に対する援助の流れ、および以前に実施された2003~2006年の予測の達成度を解析した。研究グループが開発したODAの追跡法を用いて、2007年と2008年の経済協力開発機構(OECD)の援助活動の完全データベースを手作業でコード化して解析を行った。援助供与額および推定人口の新たなデータを用いて、2003~2006年のデータを改訂。妊婦および子どもの健康に関するニーズが最も高い被援助国に対して、援助国はどの程度のODA供与の対象とすべきかを解析し、2003~2008年の6年間の傾向を調査した。2007、2008年の妊婦、子どもの健康関連OADの70%以上が優先国へ全開発途上国における妊婦、新生児、子どもの健康関連の活動への支援として、2007年に47億米ドル、2008年には54億米ドルが供与されていた(2008年の不変ドル換算)。これらの総額は2003年から2008年までに105%増加したが、健康関連ODAの総額も同じく105%増加したため相対的には不変であった。2015年へのカウントダウンの優先国は、2007年に34億米ドル、2008年には41億米ドルを受け取っており、これは妊婦、新生児、子どもの健康に対する全供与額のそれぞれ71.6%、75.6%に相当するものだった。妊婦および子どもの死亡率が高い国へのODAは6年間で改善されていたが、この期間を通じて、死亡率がより低く所得が高い国に比べ一人当たりのODAがはるかに低い国もあった。2003~2008年のワクチン予防接種世界同盟(GAVI Alliance)の基金および世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)は、各国機関による中核的基金を上回っており、二国間共同基金も特にイギリスとアメリカによるものが著明に増加していた。著者は、「2003~2008年の妊婦、新生児、子どもの健康に対するODAの増加は歓迎すべきであり、より多くのニーズのある国へのODAの配分も多少改善している。にもかかわらず、これらの供与額の増加は他の健康分野に比べて優先順位が高くなったことを示すわけではない」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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大人のADHD患者には、服薬治療とともに認知行動療法を

注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、成人においてもみられるようになっている。成人期ADHDは薬物療法だけでの治療は難しく、一方で心理社会的治療のエビデンスは十分ではない。そこで米国マサチューセッツ総合病院のSteven A. Safren氏らは、認知行動療法の有効性を検討する無作為化試験を行った。JAMA誌2010年8月25日号より。認知行動療法かリラクセーション法を受けてもらい追跡研究グループは、薬物療法を受けているが臨床症状が改善していないADHD成人患者86例を対象に、認知行動療法の有効性を評価する無作為化比較対照試験を行った。被験者は、認知行動療法または問題行動に対して教育的支援で行動修正を図っていくリラクセーション法のいずれかの治療を受ける群に無作為化され、12回の個別セッションを受けた。試験は2004年11月から2008年6月(追跡調査は2009年7月まで)にかけて実施された。無作為化された86例のうち治療を完了したのは79例、追跡評価まで完了したのは70例だった。主要評価項目は、ベースライン時、治療後、6~12ヵ月時点でのADHD症状(ADHD評価スケールとClinical Global Impressionスケールによる)とされた。なお評価者には、どちらの治療を受けたかは知らされなかった。副次評価項目は、ADHD症状の自己報告とした。認知行動療法の方がADHD症状を改善認知行動療法群の治療後スコアは、リラクセーション法群と比較して、Clinical Global Impressionスケール(-0.0531、95%信頼区間:-1.01~-0.05、P=0.03)、ADHD評価スケール(-4.631、95%CI -8.30~-0.963、P=0.02)のいずれも低かった。治療全体を通して、自己申告による症状は、認知行動療法群がより有意に改善されていた(β=-0.41、-0.64~-0.17、P

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STEMI患者へのPCI、システム1時間遅延ごとに死亡率1割上昇

ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者の、救急通報を受けてからの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)実施までの所要時間(システム遅延)が、1時間増すごとに、死亡率が1割上昇することが明らかにされた。デンマークAarhus大学病院循環器部門のChristian Juhl Terkelsen氏らが、6,000人超を対象に行った試験で明らかにしたもので、JAMA誌2010年8月18日号で発表した。STEMI患者が、医療機関に到着してから再潅流治療を受けるまでの、いわゆる「ドアからバルーンまで」(door-to-balloon)の遅延とアウトカムに関する研究はこれまでにも発表されているが、救急通報時点から医療機関到着までの時間を含む、システム遅延とアウトカムに関する研究は、これが初めてという。6,209人を中央値3.4年追跡研究グループは、2002年1月1日~2008年12月31日にかけて、デンマーク内で多数の症例数をこなす3ヵ所のプライマリPCIセンターで、発症から12時間以内にPCIを実施した、合わせて6,209人を対象に試験を行った。救急通報を受けてからPCIのガイド・カテーテル挿入までの所要時間を「システム遅延」、通報からPCIセンター到着までの所要時間を「前病院遅延」、PCIセンター到着からカテーテル挿入までの所要時間を、「ドアからバルーンまで遅延」と定義した。追跡期間の中央値は、3.4年(四分位範囲:1.8~5.2)だった。システム遅延、前病院遅延、ドアからバルーンまで遅延のそれぞれが長期死亡の独立因子結果、システム遅延が0~60分までの群(347人)では、長期死亡率が15.4%(43人)だった。システム遅延が増大するにしたがって同死亡率も増加し、61~120分(2,643人)では23.3%(380人)、121~180分(2,092人)では28.1%(378人)、181~360分(1,127人)では30.8%(275人)だった(p

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利尿薬ベースの降圧療法、セカンドライン選択は?:住民ベースの症例対照研究

米国ワシントン大学心血管ヘルス研究ユニットのInbal Boger-Megiddo氏らは、利尿薬を第一選択薬とし降圧療法を受けている高血圧患者の、併用療法移行時の選択薬は、β遮断薬、Ca拮抗薬、RA系阻害薬いずれが至適かを明らかにするため、心筋梗塞および脳卒中の発生率を主要評価項目に、住民ベースの症例対照研究を行った。結果、Ca拮抗薬追加群の心筋梗塞発生リスクが、他の2群よりも高いことが明らかになったという。BMJ誌2010年2月6日号(オンライン版2010年1月25日号)より。症例群353例、対照群952例で検討研究グループは本研究を実施した背景について、「ALLHAT試験で、低用量利尿薬が第一選択薬としてCa拮抗薬やRA系阻害薬よりも優れていることが示唆され、そのエビデンスを踏まえたガイドラインが米英で作成されている。一方で、降圧療法を受ける高血圧患者の半数は併用療法を要する。だが利尿薬ベースの患者の心血管疾患予防を見据えたセカンドラインの選択薬はどれが至適か明らかになっておらず、米国NHLBI(National Heart, Lung, and Blood Institute)は、試験実施の勧告を出しているが、いまだ実施されていない」と述べている。試験は、ワシントン州シアトル市に拠点を置くヘルスケアシステム「Group Health Cooperative」の加入者データから、症例群353例、対照群952例の被験者を選定し行われた。症例群は、30~79歳の降圧療法を受けていた高血圧患者で、1989~2005年に致死性または非致死性の初回の心筋梗塞か脳卒中を発症したと診断記録があった人だった。対照群は、降圧療法を受けていた高血圧患者が無作為にGroup Health Cooperative加入者から選ばれた。なお、心不全、冠動脈疾患、糖尿病、慢性腎不全患者は除外された。+Ca拮抗薬は心筋梗塞リスクを増大する結果、心筋梗塞リスクについて、利尿薬+Ca拮抗薬群が、+RA系阻害薬群、+β遮断薬群よりも高いことが認められた。+β遮断薬群を基準とした、+Ca拮抗薬群の心筋梗塞リスクの補正後(年齢、性、服薬期間、喫煙、飲酒)オッズ比は、1.98(95%信頼区間:1.37~2.87)だった。脳卒中リスクについては、増大は認められず、オッズ比は1.02(同:0.63~1.64)だった。一方、+RA系阻害薬群の心筋梗塞および脳卒中リスクは、ともに有意ではなかったものの低く、心筋梗塞リスクの同オッズ比は0.76(同:0.52~1.11)、脳卒中は0.71(同:0.46~1.10)だった。研究グループは結果を踏まえ、「低リスクの高血圧患者を対象とした本試験で、セカンドラインにCa拮抗薬を選択することは、他の薬剤を選択するよりも心筋梗塞リスクが高いことが明らかになった。この結果はNIHCE(National Institute for Health and Clinical Excellence)ガイドラインを支持するもので、米国NHLBIが勧告する大規模試験を行うべきであろう」とまとめている。

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双極性障害の再発予防、リチウム+バルプロ酸の併用が有効:BALANCE試験

長期的な治療を要すると考えられる双極性I型障害患者の再発予防には、リチウム(商品名:リーマスなど)とバルプロ酸(同:デパケンなど)の併用がバルプロ酸単剤よりも有効なことが、イギリス・オックスフォード大学精神科のJohn R Geddes氏らが行った無作為化試験(BALANCE試験)で示された。双極性障害は寛解が得られても多くが再発、慢性化し、世界的に15~44歳の障害の原因として最も重要な疾患の一つとされる。炭酸リチウムとバルプロ酸セミナトリウムはいずれも単剤で双極性障害の再発予防薬として推奨されているが、十分な効果が得られない患者も多い。再発例には、エビデンスがほとんどないにもかかわらず両薬剤の併用療法が推奨されているのが現状だという。Lancet誌2010年1月30日号(オンライン版2009年12月23日号)掲載の報告。単剤と併用を比較するオープンラベル無作為化試験BALANCE試験の研究グループは、リチウムとバルプロ酸の併用療法がそれぞれの単剤療法よりも双極性I型障害の再発予防に有効か否かを検討する、オープンラベル無作為化試験を実施した。イギリス、フランス、アメリカ、イタリアの41施設から16歳以上の双極性I型障害患者330例が登録され、リチウム単剤群(血漿濃度0.4~1.0mmol/L、110例)、バルプロ酸単剤群(同750~1,250mg、110例)、両薬剤併用群(110例)に無作為に割り付けられた。患者と医師には治療割り付け情報が伝えられたが、予後イベントの評価を行う試験管理チームには知らされなかった。最長で24ヵ月間のフォローアップが行われた。主要評価項目は「緊急の気分障害エピソードに対する新たな介入の開始」とし、intention-to-treat解析を行った。併用がリチウム単剤より優れるかは確証できない緊急の気分障害エピソードで介入を受けた患者は、併用群が54%(59/110例)、リチウム単剤群が59%(65/110例)、バルプロ酸単剤群は69%(76/110例)であった。併用群は、バルプロ酸単剤群よりもエピソードに対する介入が有意に低減した(ハザード比:0.59、p=0.0023)が、リチウム単剤群との比較では有意な差は認めなかった(ハザード比:0.82、p=0.27)。リチウム単剤群はバルプロ酸単剤群よりも介入の低減効果が高かった(ハザード比:0.71、p=0.0472)。16例に重篤な有害事象がみられた。そのうち7例がバルプロ酸単剤群で、3例が死亡した。5例がリチウム単剤群で2例が死亡、4例は併用群で死亡は1例であった。著者は、「臨床的に長期の治療を要すると考えられる双極性I型障害患者の再発予防には、リチウムとバルプロ酸の併用あるいはリチウム単剤がバルプロ酸単剤よりも有効なことが示唆される。このベネフィットは、試験開始時の重症度とは関連せずに認められ、2年間持続した。併用がリチウム単剤より優れるかは確証できない」と結論している。さらに、「アメリカやイギリスの双極性障害治療ガイドラインでは、長期的治療の1次治療としてバルプロ酸単剤を推奨しているが、リチウムとの併用あるいはリチウム単剤を考慮すべきである。また、リチウム単剤療法中に再発を繰り返す患者にはバルプロ酸単剤への切り替えが推奨されているが、この場合は併用療法がより有効であろう」と考察している。(菅野守:医学ライター)

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ticagrelorは、急性冠症候群の予後をクロピドグレルに比べ有意に改善:PLATO試験

新たな経口P2Y12受容体阻害薬であるticagrelorは、侵襲的治療が適用とされる急性冠症候群(ACS)患者の抗血小板療法において、クロピドグレル(商品名:プラビックス)に比べ有意に予後を改善することが、米国Brigham and Women’s病院TIMI study groupのChristopher P Cannon氏らが実施したplatelet inhibition and patient outcomes(PLATO)試験で示された。クロピドグレルの抗血小板作用には個人差がみられ、不可逆的であるため、ACS患者における至適な用量や投与のタイミングについては議論がある。ticagrelorはクロピドグレルと同じP2Y12受容体阻害薬であるが、その作用は可逆的で、より強力かつ長期に持続するという。Lancet誌2010年1月23日号(オンライン版2010年1月14日号)掲載の報告。約13,000例を対象とした二重盲検ダブルダミー無作為化試験PLATO試験の研究グループは、入院後できるだけ早期に治療を開始する必要があるため侵襲的治療が計画されたACS患者を対象に、ticagrelorとクロピドグレルの予後改善効果および出血リスクを比較する二重盲検ダブルダミー無作為化試験を実施した。ST上昇あるいは非上昇ACSで入院中の患者18,624例が登録され、そのうち侵襲的治療が計画された13,408(72.0%)例が、ticagrelorとプラセボを投与する群(負荷用量180mg投与後、90mg×2回/日を投与)あるいはクロピドグレルとプラセボを投与する群(負荷用量あるいは維持用量として300~600mgを投与後、75mg/日を投与)に無作為に割り付けられ、6~12ヵ月の治療が行われた。全例にアスピリンが投与された。主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントとし、intention-to-treat解析を実施した。1,000例当たり年間11例の死亡、13例の心筋梗塞、6例のステント血栓症を防止ticagrelor群に6,732例が、クロピドグレル群には6,676例が割り付けられた。治療開始後360日における複合エンドポイントのイベント発生率は、ticagrelor群が9.0%とクロピドグレル群の10.7%に比べ有意に低かった(ハザード比:0.84、p=0.0025)。大出血の発生率は、ticagrelor群が11.5%、クロピドグレル群は11.6%と両群間に差を認めなかった(ハザード比:0.99、p=0.8803)。GUSTO(Global Use of Strategies To Open occluded coronary arteries)の出血基準に基づく重篤な出血についても、それぞれ2.9%、3.2%と同等であった(ハザード比:0.91、p=0.3785)。著者は、「薬物療法開始時に侵襲的治療が計画されているACS患者に対する抗血小板療法としては、ticagrelorがより有用な選択肢と考えられる」と結論している。これらの知見に基づいて推算すると、ticagrelorはクロピドグレルに比べ大出血や輸血の頻度を上昇させずに、年間にACS患者1,000例当たり11例の死亡を回避し、13例の心筋梗塞および6例のステント血栓症を防止するという。また、今回の結果は、「血小板P2Y12受容体の阻害を増強すれば、大出血を増加させずに死亡率を低減させることが可能との考え方を支持するもの」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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防げる子宮頸がん…防がないのは罪 ~HPVワクチンの接種により73%の子宮頸がんが減少。社会・経済的効果も190憶円~

諸外国に遅れをとりながらわが国でも子宮頸がんの予防ワクチンが承認された。そのような中『子宮頸がんと予防ワクチン』と題し、国立がんセンター中央病院にて講演会が開催された。講演会では、主催者の国立がんセンター中央病院院長土屋了介氏に加え3名の演者が製薬企業、医療者、患者それぞれの立場でHPVワクチンを日本の医療環境に取り入れていく中での課題や問題点について発表した。そのなかから自治医大埼玉医療センター産婦人科今野良氏の講演内容を中心に紹介する。日本と世界に於ける子宮頸がんの状況世界では、子宮頸がんにより毎年50万人が亡くなっている。日本での子宮頸がん発生率は人口10万人当たり約8人、死亡率は2.6人であり、世界的にみても少ないといえる。これは、日本の子宮頸がん検診は導入、充実が世界的にも早かったためである。しかし、近年は若年者での発生率が増加しているという問題が発生している。実際、20~29歳の浸潤がんの発生率は1984年に比べ1996年で4倍である。その原因としては若年者の子宮頸がん検診受診率が極めて低いことが挙げられる。欧米先進国の子宮頸がん検診受診率は80%以上であるが、日本の受診率は既に24%と極端に低くなっている。これは若い世代に検診の重要性を伝えきれていない結果である。このまま若年者の検診受診の習慣付けをしないと患者数が大幅に増加すると予想される。検診での過ちをワクチンでも繰り返すべきではないと考える。成人女性であれば特別なこととはいえないHPVの感染HPV(Human Papiloma Virus)感染は子宮頸がん発生の必要条件として報告されており、HPV感染の有無は500倍のodds比であり関連度は99%である。HPV感染は通常の性交渉によって起こる。HPVは子宮頸部の非常に微細な上皮の傷から感染し増殖する。そのため、成人女性であれば大部分の方が一度は感染しているといえ、非常にありふれたものといってもおかしくない。いまだ一部誤解があるようだが、問題がある性交渉を行ったから発生するというものではない。また、HPV感染の90%は一過性感染である。残りの10%が持続感染になり、その中からがんに至るものがでてくる。HPVワクチンの効果は非常に高く日本での臨床試験ではHPV16、18感染に関して共に100%予防可能であった。HPVワクチンと検診の両輪で子宮頸がんを克服する子宮頸がんは、リスクファクターもその前がん病変も明らかである。前がん病変は検診時の細胞診で従来から判定が可能である。それに加えリスクファクターであるHPV感染を予防するワクチンが出現した。つまり、子宮頸がんは、一次予防のHPVワクチンと二次予防の検診の両輪で予防可能な疾患なのである。*HPVワクチンについて会場質問と回答も追記・HPVワクチンは成人に接種しても意味がない:現在HPV16、18に感染している方には効果がないが、過去に感染があっても現在陰性であれば年齢に関係なく有効。90%の方は陰性であり成人に対する接種も医学的には有効である。 ・HPV感染者への接種で抗体価が上がる:抗体価は上がらない。また、感染者に接種しても良くも悪くもならない・腺がんの対策:腺がんは検診では鑑別できないため現状の対策はHPVがワクチンしかないHPVワクチン導入による社会・経済的効果本邦におけるHPVワクチン接種による医学的効果と経済評価を行った。その結果、12歳の女児全員に接種すると子宮頸がんの発生率、死亡率ともに73%抑えることが推計された。経済的には、治療費用、機会費用を合せ400億円が削減され、ワクチン費用約210億円(ワクチン1コース36,000円と仮定)を差し引くと社会全体で約190億円の費用削減効果が期待された。さらに、10~45歳の女性全員にワクチンを接種させた場合、約430億円の社会的費用が削減さると推計された。増分費用効果比からみても45歳までの接種が許容されるという計算になる。 子宮頸がん後進国にならないためにHPVがワクチン接種の公費負担をHPVワクチンは100ヵ国以上の国で承認され、約30ヵ国で公費負担により12歳前後の女子に対し接種が行われている。そして、オーストラリア、欧州、米国でも医療保険、民間保険で費用の一部あるいは全額がカバーされている。WHOからも今年の4月にPositionPaperが提示され、世界の多くの国や機関でワクチン政策に組み入れることを推奨している。検診率が高い欧州は、更にHPVワクチン接種を組み込むことによって子宮頸がんを根絶しようという戦略である。一方、経済資源がなく検診の充実が期待できないアフリカなどでもGAVI(Global Alliance for Vaccines and Immunization)のような世界的支援機関の援助でHPVワクチン接種が始められている。日本では、発売されたものの公費負担は認可されていない。公費負担がないとワクチン接種率は5%程度と予想される。前出の費用効果分析の手法でシミュレーションしても、それでは子宮頸がんの発症抑制は全く期待できないことになる。このままだと日本は子宮頸がん対策に取り残されることになるのである。ワクチンの普及には行政がイニシアチブをとることが必要である。まずは11~14歳のHPVワクチンの全額公費負担を、次に15~45歳の保険償還での補助などでHPVワクチン接種の費用負担を実現させたい。 最後に座長の土屋了介氏は、HPVがワクチン公費負担についての会場署名およびWebサイト公募署名を長妻大臣に届けることを会場で宣言し会を締めくくった。(ケアネット 細田 雅之)

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