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第11回 高齢者でも!注射剤の活用法【高齢者糖尿病診療のコツ】

第11回 高齢者でも!注射剤の活用法高齢者は個人差が大きく、ひとくくりに高齢者といっても、認知機能が保たれており、予後が10年以上見込まれる75歳の方と、認知症など多くの並存疾患があり、予後不良が予想される65歳の方では治療方針が異なります。注射剤の使用で問題となるのは自己管理が困難な高齢者だと思いますので、そうした方々を念頭に、私が普段の診療で行っていることを中心に記述します。なお、インスリン依存状態や、注射製剤(とくにインスリン)の導入や中止の判断に迷う場合には専門医への紹介をぜひご検討ください。また、GLP-1受容体作動薬とインスリンは同じ注射薬ではありますが、効果や使用目的が根本的に異なるため、分けて考える必要があります。Q1 高齢者でのインスリン注射のはじめどきは?高齢者でも、インスリン注射の適応は非高齢者と同様です1)。(1) インスリン分泌能の低下、(2)抗GAD抗体陽性あるいは抗IA-2抗体陽性、(3) 経口血糖降下薬3剤でも血糖コントロール不良、(4) 重度の肝障害、腎症4期以降で使用できる経口血糖降下薬が少なく、血糖コントロール不良、(5) ステロイドの使用、(6)感染症などの急性期、(7)高血糖が持続し、積極的に糖毒性の解除を行うときなどの場合に、インスリン注射を検討します。インスリン療法では、超即効型製剤を各食前と持効型製剤による強化インスリン療法が血糖管理のうえでは理想的ですが、インスリン分泌能や本人・介護者の能力・実行力に応じて、注射回数を決定し、それに応じたインスリン製剤を選択します。頻回注射は難しいことが多く、持効型製剤を1回、介護者が可能な時間帯に打つか、本人の注射手技を確認してもらいます。インスリン グラルギン(商品名:ランタスXR)では±3時間、インスリン デグルデク(商品名:トレシーバ)では±8時間の注射時刻のずれは効果・安全性に影響しないことが示されており、日による注射時刻の変動は許容できます。Q2 高齢者でのGLP-1受容体作動薬のはじめどきは?(1)インスリン分泌は保たれているが、経口血糖降下薬3剤でも血糖コントロール不良、(2)高齢者でも減量のメリットが得られる場合、(3)腎症4期以降で使用できる経口血糖降下薬が少なく、血糖コントロール不良、(4)認知機能障害などで服薬アドヒアランス不良、かつサポート不足があるなどの場合に、GLP-1受容体作動薬を検討します。とくに(4)の場合はアドヒアランスを重視し、週1回製剤を選択することが多いです。週1回の注射を介護者あるいは訪問看護師、デイケアなどの施設看護師が打つようにすると打ち忘れることもなく、複数回の経口薬と比べ、アドヒアランスが上がる場合があり、独居で注射手技の獲得が困難な高齢者でも使用できます。Q3 インスリンの注射の減量・中止を考えるとき注射製剤の中止を考える場合は、良好なコントロールが持続し、かつ注射管理が困難となった場合や、患者あるいは家族の強い希望があった場合などです。インスリンを中止する場合には、たとえ少量のインスリン使用で良好なコントロールが得られている場合でも、インスリン分泌能や抗GAD抗体を測定したうえで、中止を検討します。インスリン分泌能が保持されている場合は、経口薬を調整しながらインスリンを漸減し、インスリンの中止を試みます。一方、インスリン分泌能が高度に低下している場合には、インスリンを中止することは難しいため、介護サービスなどを利用し、持効型製剤1回でもどうにか注射できる体制を構築する必要がありますが、実際には外来診療ではなかなか時間がとれず、入院していただき環境調整を行うことも多くあります。入院ではまず、強化インスリン療法で糖毒性を解除します。インスリン依存状態でなければインスリンの中止、あるいは持効型1回打ちへの変更を目標として、忍容性があれば入院早期からメトホルミンを投与し、経過に応じてDPP-4阻害薬あるいはGLP-1受容体作動薬を検討します。GLP-1受容体作動薬を追加しても食後血糖がコントロールできない場合はグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)を考慮します。外来でのインスリン治療の簡略化は米国糖尿病学会のposition statementが参考になります(図)2)。強化インスリン療法を行っている場合には基礎インスリン(持効型・中間型インスリン)は継続し、空腹時血糖値が目標内(90~150mg/dL、個々の症例に応じて要調整)に入るように調整。SMBGにおける空腹時血糖値の半数が150mg/dL以上の場合は基礎インスリンを2単位増加し、血糖が80mg/dL以下の場合は2単位減量。食前インスリン(速攻型・超速効型インスリン)については、経口薬を追加し、10単位以下であればそのまま中止、10単位より多い場合は半量とするとされています。画像を拡大する本邦では、3単位以下ぐらいが追加インスリン中止の目安であろうと思います。追加する経口薬は、eGFR≧45mL/minで忍容性があればメトホルミン500mg分2を、すでにメトホルミンが投与されているか使用できない場合にはDPP-4阻害薬などを使用し、追加インスリンの中止を検討。混合型インスリンを使用している場合には総インスリン投与量の7割の持効型製剤に変更し、インスリン量、経口薬を調整するようにしています。Q4 GLP-1受容体作動薬の中止を考えるときGLP-1受容体作動薬もインスリンと同様に良好なコントロールが持続し、かつ注射管理が困難となったときに、DPP-4阻害薬等に変更し、中止を検討します。週1回のGLP-1受容体作動薬を使用している場合にはかえってアドヒアランスが落ちる場合もありますので、経口薬の管理が可能かを介護者や、場合によってはケアマネージャーに確認して中止しています。本人が自己管理困難になってきた場合には、連日投与から週1回製剤への切り替えを行います。また、GLP-1受容体作動薬の作用である食欲低下作用が強く出過ぎてしまい、過度の体重減少をきたし、サルコペニアが懸念される場合にも中止します。1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2018-2019.文光堂;2018.2)American Diabetes Association.Diabetes Care.2019;42:S139-147.

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GLP-1受容体作動薬は注射薬から経口薬へシフトするのか?(解説:住谷哲氏)-1090

 われわれが使用できるインクレチン関連薬には、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬がある。これまでに報告された心血管アウトカム試験(CVOT)の結果から考えると、GLP-1受容体作動薬がDPP-4阻害薬に比べて、動脈硬化性心血管病(ASCVD)の再発予防に関しては積極的に選択される薬剤であるのは異論がないだろう。しかし注射薬のハードルは高く、とくにわが国ではGLP-1受容体作動薬が十分に使用されていないのが現状である。経口セマグルチドは経口GLP-1受容体作動薬であり、この状況を大きく変化させる可能性がある。 PIONEER programは経口セマグルチドの第III相臨床試験プログラムでありPIONEER 1から10までの10試験、組み込み総数9,543人(8,845人と記載しているものもあるが約9,000人と理解しておいて支障ない)から構成される。グローバル開発プログラムであるが対象患者が日本人のみの試験が2試験(PIONEER 9、PIONEER 10)含まれている。各試験の概略を列記すると、PIONEER 1は vs.プラセボ、PIONEER 2は vs.エンパグリフロジン、PIONEER 3(「経口セマグルチドは注射薬と同様にHbA1cを改善し体重を減少させる」)は vs.シタグリプチン(投与量固定)、PIONEER 4が本試験で vs.リラグルチド、PIONEER 5は対象がCKD合併患者、PIONEER 6(経口GLP-1受容体作動薬の心血管安全性を確認[解説:吉岡 成人氏])はCVOT、PIONEER 7は vs.シタグリプチン(投与量調節可)、PIONEER 8は対象がインスリン投与患者、PIONEER 9は日本人対象のPIONEER 4、PIONEER 10は日本人対象の vs.デュラグルチドである。これを見ると開発メーカーであるNovo社の経口セマグルチドに対する期待と、日本市場への戦略が見て取れる。 結果であるが主要評価項目である26週後のHbA1c低下量は、経口セマグルチド14mg群はリラグルチド1.8mg群に対して非劣性であった(非劣性のp<0.0001)。また副次評価項目である26週後の体重減少量は、経口セマグルチド14mg群4.4kgに対して、リラグルチド群3.1kgであり経口セマグルチド群で有意に減少した(p=0.0003)。有害事象の発生率は経口セマグルチド群80%、リラグルチド群74%でありプラセボ群67%に比べて高率であった。 比較対象であるGLP-1受容体作動薬注射製剤がリラグルチドとデュラグルチドであり、なぜセマグルチド注射薬ではないのかという点には少し疑問がある。しかしGLP-1受容体作動薬としての使用頻度はこの2剤が他を凌駕していると思われるので現実的な選択ともいえる。PIONEER programにより経口セマグルチドのエビデンスは強固なものとなり、GLP-1受容体作動薬が注射薬から経口薬へと大きくシフトする可能性は十分にある。最後に、日本人における安全性を考慮してわが国での経口セマグルチド投与量が最大7mgに制限されて、PIONEER programで得られたエビデンスが日本人糖尿病患者において活用されないような状況(これは多くのCVOTで認められている問題である)にならないことを期待している。

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DPP-4阻害薬関連の心血管リスクを他剤と比較~日本人コホート

 わが国の糖尿病患者270万人のコホート研究で、DPP-4阻害薬の単剤治療に関連した、入院を要する心筋梗塞および心不全のリスクは、ビグアナイド(BG)より高く、スルホニル尿素(SU)より低く、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)と同等であったことを、医薬品医療機器総合機構の駒嶺 真希氏らが報告した。Pharmacoepidemiology and Drug Safety氏オンライン版2019年7月23日号に掲載。 本研究は、国内の糖尿病患者271万6,000例による全国規模のコホート研究で、2010年4月1日~2014年10月31日に新たに糖尿病治療薬単剤で治療された患者が対象。DPP-4阻害薬投与に関連した入院を要する心筋梗塞、心不全、脳卒中の発生を、BG、SU、α-GIと比較した。Cox比例ハザードモデルを用いて調整ハザード比(aHR)を推定し、傾向スコアによる標準化により交絡を調整した。 主な結果は以下のとおり。・各薬剤の使用患者は、DPP-4阻害薬110万5,103例、BG 27万8,280例、SU 27万3,449例、α-GI 21万7,026例を同定した。・DPP-4阻害薬使用者の心筋梗塞および心不全リスクは、BG使用者より有意に高かった(心筋梗塞のaHR:1.48[95%CI:1.20~1.82]、心不全のaHR:1.46[同:1.31~1.62])が、SU使用者より有意に低かった(心筋梗塞のaHR:0.84[同:0.72~0.98]、心不全のaHR:0.86[同:0.81~0.92])。・DPP-4阻害薬使用者の心筋梗塞リスクはα-GI使用者と同様だった(aHR:0.98[95%CI:0.82~1.17])が、心不全リスクはわずかに高かった(aHR:1.12[同:1.04~1.21])。

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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第10回 高齢者糖尿病の薬物療法(メトホルミン、SGLT2阻害薬)Q1 腎機能低下を考慮した薬剤選択・切り替え(とくにメトホルミンの使用法)について教えてくださいeGFR 30mL/分/1.73m2未満の腎機能低下例では、メトホルミン、SU薬、SGLT2阻害薬は使用しないようにします。腎機能の指標としては血清クレアチニン値を用いたeGFRcreがよく用いられますが、筋肉量の影響を受けやすく、やせた高齢者では過大評価されてしまうことに注意が必要です。このため、われわれは筋肉量の影響を受けにくいシスタチンC (cys)を用いたeGFRcysにより評価するようにしています。メトホルミンの重大な副作用として乳酸アシドーシスが知られており、eGFR 30mL/分/1.73m2未満でその頻度が増えることが報告されています1)。したがって、本邦を含めた各国のガイドラインでは、eGFR 30未満でメトホルミンは禁忌となっています。しかし30以上であれば、高齢者でも定期的に腎機能を正確に評価しながら投与することで、安全に使用できると考えています。各腎機能別のメトホルミンの具体的な使用量は、eGFR 60以上であれば常用量を投与可能、eGFR 45~60では500mgより開始・漸増し最大1,000mg/日、eGFR 30~45では最大500mg/日とし、eGFR 30未満では投与禁忌としています。なお、重篤な肝機能障害の患者への使用は避け、手術前後やヨード造影剤検査前後の使用も中止するようにします。心不全に関しては、メトホルミン使用の患者では死亡のリスクが減少することが報告されており、FDAでは禁忌ではなくなっています。ただし、本邦ではまだ禁忌となっているので注意する必要があります。また腎機能は定期的にモニターし、eGFRが低下するような場合には、上記の原則に従って減量する必要があります。また経口摂取不良、嘔気嘔吐など脱水のリスクがある場合(シックデイ時)には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが重要です2)。SGLT2阻害薬については、次のQ2で解説します。Q2 高齢者でのSGLT2阻害薬の適否の考え方は?近年、心血管リスクの高い糖尿病患者に対する、SGLT2阻害薬の心血管イベント抑制作用や腎保護作用が相次いで報告されています。SGLT2阻害薬は腎機能が高度に低下しておらず(eGFR≧30 mL/分/1.73m2が目安)、肥満・インスリン抵抗性が疑われる患者には適しており、これらの患者には、メトホルミンと同様に治療早期から使用しているケースも多いです。ただし、下記に挙げるさまざまな注意点があり、通常は75歳まで、最高でも80歳前後までの患者への投与を原則とし、80歳以上の患者にはとくに慎重に投与しています。75歳未満の患者では下記に留意し、対象患者を定めています:1.脱水や脳梗塞のリスクがあるため、認知機能やADLが保たれており飲水が自主的に十分できる患者かどうか(利尿薬投与中の患者ではとくに注意が必要)2.性器・尿路感染のリスクがあるため、これらの明らかな既往がないかどうか3.明らかなエビデンスはないが、筋肉量減少の懸念があるため、サルコペニアが否定的で定期的な運動を行えるかどうかそのほか、メトホルミンと同様に、シックデイ時には投与中止するようにあらかじめ指導しておくことが非常に重要です3)。Q3 認知症で服薬アドヒアランスが低下、投薬の工夫があれば教えてください認知症患者の服薬管理においては、認知機能の評価とともに、社会サポートがあるかどうかの確認が重要です。家族のサポートが得られるか、介護保険の申請はしてあるか、要支援・要介護認定を受けているかを確認し、服薬管理のために利用できるサービスを検討します。実際の投薬の工夫としては、以下に示すような方法があります。1.服薬回数を減らし、タイミングをそろえるたとえば食前内服のグリニド薬やαグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)にあわせて、他の薬剤も食直前にまとめる方法がありますが、そもそも1日3回投与薬の管理が難しい場合は、1日1回にそろえてしまうことも考えます。最近、DPP-4阻害薬で週1回投与薬が登場しており、単独で投与する患者にはとくに有用ですが、他疾患の薬剤も併用している場合にはむしろ服薬忘れの原因となることもあるので、注意が必要です。なお、最近ではGLP-1受容体作動薬の週1回製剤も利用できますが、これはDPP-4阻害薬よりも血糖降下作用が強く、さらに訪問や施設看護師による注射が可能なため、われわれは認知症患者に積極的に使用しています。2.配合薬を利用するDPP-4阻害薬とメトホルミンなど、複数の成分をまとめた薬剤が次々登場しています。配合薬は、服薬錠数を減らし、服用間違いや負担感を減らすと考えられますが、たとえば経口摂取不能時や脱水時などシックデイの状態のときにSU薬やメトホルミンなど特定の薬剤だけを減量・中止したいときに扱いづらいという欠点があり、リスクの高い患者にはあえて使用しないこともあります。3.一包化する服薬タイミングごとの一包化も服薬忘れの軽減に有用ですが、配合薬と同様、シックデイ時にSU薬などを減量・中止することが難しくなるため、リスクの高い患者には当該薬剤だけを別包にするケースもあります。2、3ともに、シックデイ時にどの薬剤を減量・中止するのか、医療機関に連絡させ受診させるのか、という点について、介護者を含めて事前に話し合い、伝えておくことが重要です。4.配薬、服薬確認の方法を工夫するカレンダーや服薬ボックスにセットする方法が一般的であり、家族のほか、訪問看護師や訪問薬剤師にセットを依頼することもあります。しかしセットしても患者が飲むことを忘れてしまっては意味がありません。内服タイミングに連日家族に電話をしてもらい服薬を促す方法もありますが、それでも難しい場合、たとえば連日デイサービスに行く方であれば、昼1回に服薬をそろえて、平日は施設看護師に確認してもらい、休日のみ家族にきてもらって投薬するという方法も考えられます。 1)Lazarus B et al. JAMA Intern Med. 2018; 178:903-910.2)日本糖尿病学会.メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)3)日本糖尿病学会.SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation(2016年改訂)

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第9回 高齢者糖尿病の薬物療法(総論、SU薬)【高齢者糖尿病診療のコツ】

第9回 高齢者糖尿病の薬物療法(総論、SU薬)Q1 低血糖リスクを考慮した薬剤選択の原則について教えてください高齢者の糖尿病治療では、まずは患者ごとに適正な血糖コントロール目標値を設定することが重要です(第4回参照)。そのうえで、低血糖リスクを考慮しつつ各薬剤をどのように使い分けるか、考え方を以下にご紹介します。DPP-4阻害薬は、単独では低血糖リスクがきわめて低く、腎障害があっても使用できる薬剤があります。またSU薬に加えることで、SU薬の減薬や中止をする際に非常に有用です。また、同じインクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬の使用も考慮されることがあります。フレイルの高齢者で、SU薬以外の内服薬±GLP-1受容体作動薬が、SU薬やインスリンを中心とした場合に比べ低血糖の発症が1/5になったというデータもあります(図)1)。画像を拡大するメトホルミンは高齢者で唯一投与できるビグアナイド薬です。高齢者でもメトホルミンの使用は心血管疾患、死亡のリスクを減らし、サルコペニア、フレイルなどへの好影響を及ぼすという報告があります。したがって、海外のガイドラインでは高齢者でもメトホルミンは第一選択薬とされており、低血糖リスクを考慮すると、DPP-4阻害薬とともに高齢者でまず選択すべき薬剤の1つとなります。メトホルミンはeGFR 30mL/分/1.73m2以上を確認して使用します(第10回、Q1で詳述)。DPP-4阻害薬、メトホルミンでも血糖コントロールが不良の場合には、少量のSU薬、SGLT2阻害薬、グリニド薬、αグルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)、チアゾリジン薬のいずれかを選択します。SU薬は高用量で投与すると低血糖の重大なリスクとなるため、SU薬使用者では血糖コントロール目標値に下限値が設けられています(第6回参照)。したがって、SU薬はなるべく使わず、使用したとしても少量の使用にとどめることにしています。グリクラジドで20mg(できれば10mg)/日、グリメピリドで0.5mg(できれば0.25mg)/日以下にとどめます。肥満がなくインスリン分泌が軽度低下している場合、少量のSU薬が血糖コントロールに有用なケースもあります。この場合の投与量は空腹時血糖が低血糖にならないレベルに設定するべきであり、可能であればCGM(Continuous Glucose Monitoring)を行って、夜間・空腹時低血糖がないことを確認することが望まれます。なお、グリニド薬はSU薬に比べ重症低血糖のリスクは少ないものの、やはり注意が必要です。α‐GIは腸閉塞など腹部症状のリスクがあり、開腹歴のある患者では使用を控えます。チアゾリジン薬は浮腫・心不全、またとくに女性において骨折のリスクが知られており、心不全患者には投与しないようにします。女性では少量(たとえば7.5 mg)から開始し、慎重に投与します。Q2 SU薬の減量と他剤への切り替えのポイントは?SU薬は腎排泄なので、腎機能低下例(eGFR<45mL/分/1.73m2)では減量、 eGFR<30では原則中止して、DPP-4阻害薬などの他剤へ切り替えます。しかし、SU薬をDPP-4阻害薬にいきなり切り替えると高血糖になることが少なくありません。そのため、まずはSU薬の用量を半分に減らし、DPP-4阻害薬を追加することをおすすめします。さらに、腎機能低下が軽度にとどまる場合は、メトホルミン、また肥満・インスリン抵抗性が疑われる場合はSGLT2阻害薬へ切り替えるケースもありますが、それぞれ第10回で後述する注意点があります。このほか、グリニド薬、α‐GI、チアゾリジン薬などのいずれかを追加することで、徐々にSU薬を減らしていくといいと思います。しかし、これらの薬剤のアドヒアランス低下がある場合や使用できない場合は、DPP-4阻害薬をGLP-1受容体作動薬に変更するとうまくいく場合があります(第10回、Q3)。食事量にムラがある場合は、インスリン分泌に影響のある薬剤を投与すると低血糖を起こしやすいため、やはりDPP-4阻害薬を中心としたレジメンとなります。また、中等度以上の認知症で食事量が不規則な場合、体重減少が著しい場合、HbA1c値が目標下限値を下回った場合(たとえばHbA1c 6.0%未満または6.5%未満)には低血糖リスクが高い薬剤から減薬を試みます。1)Heller SR, et al. Diabetes Obes Metab. 2018;20:148-156.

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第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第6回 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」をどう使う?Q1 なぜ、高齢者の血糖コントロール目標が発表されたのですか?糖尿病の血糖コントロールに関しては、かつては下げれば下げるほどよいという考え方でした。ところが、ACCORD試験などの高齢者を一部含む大規模な介入試験によって、厳格すぎる血糖コントロールは細小血管症を減らすものの、重症低血糖の頻度を増やし、死亡に関してはリスクを減らさずに、むしろ増やすことが明らかになりました。さらに、重症低血糖は、死亡だけでなく、認知症、転倒・骨折、ADL低下、心血管疾患の発症リスクになることがわかってきました。また、軽症の低血糖でもうつ状態やQOL低下をきたすことも報告されています。すなわち、低血糖は老年症候群の一部を引き起こすのです。また、低血糖は高齢者で起こりやすくなり、とくに重症低血糖は80歳以上の高齢者でさらに増えることがわかっており、低血糖の弊害の影響を大きく受けるのは高齢者ということになります。生物学的には高齢者においても血糖コントロールは糖尿病合併症を減らすと考えられますが、心血管を含めた合併症を予防するためには少なくとも10年間以上の良好な血糖コントロールを要すると思われます。とすると、平均余命が短い高齢者では厳格な血糖コントロールの意義が相対的に小さくなることになります。平均余命の推定は困難なことが少なくありませんが、高齢者の死亡リスクは疾患やそのコントロール状況よりもむしろ機能状態、すなわち認知機能やADLの状態によって決まることがわかっています。認知機能、ADL、併存疾患などで糖尿病を3つの段階に分けると、機能低下の段階が進むほど、死亡リスクが段階的に増えていくので、血糖コントロール目標は柔軟に考えていく必要があるのです。また、高齢者に厳格なコントロールを行うと、重症低血糖のリスクだけでなく、多剤併用や治療の負担も増えることになります。一方、血糖コントロール不良(HbA1c 8.0%以上)は網膜症、腎症、心血管死亡だけなく、認知症、転倒・骨折、サルコペニア、フレイルなどの老年症候群のリスクにもなることにより、高齢者でもある程度はコントロールしたほうがいいことも事実です。こうしたことから、米国糖尿病学会(ADA)、国際糖尿病連合(IDF)は平均余命や機能分類を3段階に分けて設定する高齢者糖尿病の血糖コントロール目標を発表しました。本邦でもこうした高齢者糖尿病の種々の問題から、高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が発足し、2016年に高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)が発表されました(第4回参照)。Q2 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」のわかりやすい見かたとその意味について教えてください。日常臨床において、上記の図を見ながら高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)を設定するのは複雑で大変であるという意見もあります。そこで、私たちが行っている方法を紹介します。図1の簡単な血糖コントロール目標の設定を参照してください。1)まず、75歳以上の後期高齢者でインスリン、SU薬など低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合を考えます。この場合、カテゴリーIの認知機能正常で、ADLが自立している元気な患者と、カテゴリーIIの軽度認知障害または手段的ADL低下の患者の目標値は全く同じで、HbA1c 8.0%未満、目標下限値はHbA1c 7.0%。この数字だけでも覚えておくといいと思います。目標下限値がHbA1c7.0%というのはIDFの基準と全く同じであり、HbA1c 7.0%をきると重症低血糖、脳卒中、転倒・骨折、フレイル、ADL低下または死亡のリスクが高くなるという疫学データに基づいています。2)つぎに中等度以上の認知症または基本的ADL低下があるカテゴリーIIIの患者の場合は、(1)に+0.5%で、HbA1c 8.5%未満で目標下限値はHbA1c 7.5%です。中等度以上の認知症とは、場所の見当識、季節に合った服が着れないなどの判断力、食事、トイレ、移動などの基本的ADLが障害されている場合で、誰がみても認知症と判断できる状態の患者です。HbA1c 8.5%未満としているのは、8.5%以上だと、肺炎、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症のリスクが上昇し、さらに上がると高浸透圧高血糖状態(糖尿病性昏睡)のリスクが高くなるからです(第3回参照)。3)65~75歳未満の前期高齢者で、低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用している場合は、まず元気なカテゴリーIの場合を考えます。この場合は(1)から-0.5%で、HbA1c 7.5%未満、目標下限値はHbA1c 6.5%となります。すなわち、7.0%±0.5%前後です。前期高齢者では、カテゴリーが進むにつれて0.5%ずつ目標値が上昇していき、カテゴリーIIIでは後期高齢者と同じHbA1c 8.5%未満、目標下限値はHbA1c 7.5%です。4)つぎは低血糖のリスクが危惧される薬剤を使用していない場合で、DPP-4阻害薬、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬などで治療している場合です。この場合、血糖コントロール目標は従来の熊本宣言のときに出された目標値と同様で、カテゴリーIとIIの場合はHbA1c 7.0%未満、カテゴリーIIIの場合はHbA1c 8.0%未満で、目標下限値はなしです。このように、低血糖のリスクの有無で目標値が異なるのはわが国独自のものです。わが国では医療保険などでDPP-4阻害薬などが使用できる環境にあるので、低血糖のリスクが問題にならない場合は、「高齢者でも良好なコントロールによって合併症や老年症候群を防ごう」という意味だと解釈できます。

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肺がんのニボルマブ治療、スタチン使用者で効果高い

 既治療進行非小細胞肺がん(NSCLC)におけるニボルマブの臨床的な効果予測因子の報告は多いが、ニボルマブの有効性を予測できる単一の因子を決定する十分なエビデンスはない。今回、がん・感染症センター都立駒込病院/日本医科大学の大森 美和子氏らによる前向き調査の結果、既治療進行NSCLCに対してニボルマブを受けた患者において、スタチン使用群で奏効割合が高く、治療成功期間(TTF)の延長も示された。なお、全生存期間(OS)の有意な延長は示されなかった。Molecular and Clinical Oncology誌2019年1月号に掲載。 2016~17年にニボルマブを受けた計67例の既治療進行NSCLC患者を前向きに観察調査した。臨床的因子として、年齢、性別、ECOG PS、組織型、EGFR変異、化学療法歴、喫煙状態、スタチン使用、フィブラート使用、DPP-4阻害薬使用、メトホルミン使用について検討した。統計分析はKaplan-Meier法およびリスク因子を調整したCox回帰を用いた。ニボルマブの奏効はRECIST version1.1により評価した。 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は67歳(範囲:36~87歳)で、男性46例、女性21例が登録された。PS0/1は59例であった。・腺がん(41例)、扁平上皮がん(17例)、その他(9例)に分類され、EGFR変異は13例(19.4%)に認められた。・検討した臨床的因子に関して、OSで統計学的に有意な因子はなかった。・奏効割合は、スタチンを使用した患者群について統計学的に有意であった(p=0.02)。・TTFは、スタチン使用群が未達(95%信頼区間[CI]:1.9~NR)、スタチン非使用群が4.0ヵ月(95%CI:2.0~5.4)であった(p=0.039)。・OS中央値は、スタチン使用群が未達(95%CI:8.7~NR)、スタチン非使用群が16.5ヵ月(95%CI:7.5~NR)であった(p=0.058)。・本研究の限界として、スタチン投与患者が少数(10例)であること、スタチン投与量と期間、末梢血中のコレステロール値が不明なこと、治療前の腫瘍細胞のPD-L1発現が不明なことが挙げられる。

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第5回 糖尿病患者とフレイル・ADL【高齢者糖尿病診療のコツ】

第5回 糖尿病患者とフレイル・ADLQ1 実際、糖尿病患者でどのようにフレイルを評価しますか?高齢糖尿病患者ではフレイル・サルコペニア、手段的/基本的ADL、視力、聴力などの身体機能を評価することが大切です。その中で、フレイルは要介護になることを防ぐという意味で重要な評価項目の1つでしょう。フレイルは加齢に伴って予備能が低下し、ストレスによって要介護や死亡に陥りやすい状態と定義されます(図1)。本邦ではフレイルは健康と要介護の中間の状態とされていますが、海外では要介護を含む場合もあります。運動や食事介入によって一部健康な状態に戻る場合があるという可逆性も、フレイルの特徴です。もう1つの大きな特徴は多面性で、身体的フレイルだけでなく、認知機能低下やうつなどの精神・心理的フレイル、閉じこもりなどの社会的フレイルも含めた広い意味で、フレイルを評価することが大切です。フレイルにはさまざまな指標がありますが、ここでは大きく分けて3つのタイプを紹介します。1つ目は身体的フレイルで、評価法としてCHS基準があります。この基準はL.P.Friedらが提唱したもので、体重減少、疲労感、筋力低下、身体活動量低下、歩行速度低下の5項目のうち3項目以上当てはまる場合をフレイルとします。体重減少は低栄養、筋力低下と歩行速度低下はサルコペニアの症状なので、Friedらによる身体的フレイルは、低栄養やサルコペニアを含む概念とも言えます。本邦ではCHS基準のそれぞれの項目のカットオフ値や質問を修正したJ-CHS基準があります(表1)。2つ目はdeficit accumulation model(障害蓄積モデル)によるフレイルで、高齢者に多い機能障害や疾患の集積によって定義されます。36項目からなるFrailty Indexが代表的な基準です。障害が多く重なることで予備能が低下し、死亡のリスクが大きくなるという考えに基づいて作成されていますが、項目数が多く、臨床的に使いにくいのが現状です。3つ目は高齢者総合機能評価(CGA)に基づいたフレイルであり、身体機能、認知機能、うつ状態、低栄養などを総合的に評価した結果に基づいて評価するものです。本邦では介護予防検診で使用されている「基本チェックリスト」がCGAに基づいたフレイルといえるでしょう。ADL、サルコペニア関連、低栄養、口腔機能、閉じこもり、認知、うつなどの25項目を評価し、8項目以上当てはまる場合をフレイルとします1)(表2)。画像を拡大する(表上部)画像を拡大する(表下部)外来通院の高齢糖尿病患者でまず簡単に実施できるのはJ-CHSでしょう。基本チェックリストを行うことができれば、広い意味でフレイルの評価ができます。基本チェックリストを行うのが難しい場合にはDASC-8を行って、(高齢者糖尿病の血糖コントロール目標における)カテゴリーIIの患者を対象にフレイル対策を行うという方法もあります(第4回参照)。Q2 糖尿病とフレイル・ADL低下の関係、危険因子は?糖尿病患者は、高齢者だけでなく中年者でもフレイルをきたしやすいことがわかっています。糖尿病がない人と比べて、糖尿病患者ではフレイルのリスクが約5倍、プレフレイルのリスクも約2.3倍と報告されています2)。また、糖尿病患者では手段的ADL低下を1.65倍、基本的ADL低下を1.82倍きたしやすいというメタ解析結果があります3)。高齢糖尿病患者では、特に高血糖、重症低血糖、動脈硬化性疾患の合併がフレイルの危険因子として重要です。HbA1c 8.0%以上の患者はフレイル、歩行速度低下、転倒、骨折を起こしやすくなります(図2)。もう一つ重要なことは、糖尿病にフレイルを合併すると死亡リスクが大きくなることです。点数化して重症度が評価できるフレイルでは、フレイルが重症であるほど死亡のリスクが高まることがわかっています。英国の調査では、糖尿病にフレイルを合併した患者では平均余命(中央値)は23ヵ月という、極端な報告もあります4)。Q3 フレイルを合併した患者への運動療法、介入のタイミングや内容をどうやって決めますか?フレイルがあるとわかったら、運動療法と食事療法を見直します。運動療法については、まず身体活動量が低下していないかをチェックします。家に閉じこもっていないか、家で寝ている時間が多くないかを質問し、当てはまる場合は坐位または臥位の時間を短くし、外出の機会を増やすように助言をすることが大切です。フレイル対策で有効とされているのが、レジスタンス運動と多要素の運動です。レジスタンス運動は負荷をかけて筋力トレーニングを行うものです。市町村の運動教室、介護保険で利用可能なデイケア、ジムでのマシントレーニング、椅子を使ってのスクワット、ロコトレ、ヨガ、太極拳などがあり、エルゴメーターや水中歩行などもレジスタンス運動の要素があります。これらは少なくとも週2回以上行うことを勧めています。多要素の運動は、レジスタンス運動ができないフレイルの高齢者に対して、ストレッチ運動から始まり、軽度のレジスタンス運動、バランス運動、有酸素運動を組み合わせて、レジスタンス運動の負荷を大きくしていく運動です。この多要素の運動も身体機能を高め、フレイル進行予防に有効であるとされています。Q4 フレイルを合併した患者への食事療法、エネルギーアップのコツや腎機能低下例での対応を教えてくださいフレイルを考慮した食事療法は十分なエネルギー量を確保し、タンパク質の摂取を増やすことがポイントです。欧州栄養代謝学会(ESPEN)では高齢者の筋肉の量と機能を維持するためには実体重当たり少なくとも1.0~1.2g/日のタンパク質をとることが推奨されています5)。つまり、体重60㎏の人は70g/日のタンパク質摂取が必要になります。フレイルのような低栄養または低栄養リスクがある場合には、さらに多く、体重当たり1.2~1.5g/日のタンパク質をとることが勧められます。フレイルがある場合、腎症3期まではタンパク質を十分にとり、腎症4期では病状によって個別に判断するのがいいと思います。腎機能悪化の速度が速い場合や高リン血症の場合はタンパク質制限を優先し、体重減少、筋力低下などでフレイルが進行しやすい状態の場合はタンパク質摂取を増やすことを優先させてはどうかと考えています。高齢者は肉をとることが苦手な場合もあるので、魚、乳製品、卵、大豆製品などを組み合わせてとることを勧めます。また、タンパク質の中でも特にロイシンの多い食品、例えば「魚肉ソーセージを一品加える」といった助言もいいのではないでしょうか。朝食でタンパク質を必ずとるようにすると、1日の摂取量を増やすことにつながります。エネルギー量は従来、高齢者は体重×25~30kcalとして計算することが多かったと思いますが、フレイル予防を考えた場合、体重当たり30~35kcalとして十分なエネルギー量を確保し、極端なエネルギー制限を避けることが大切です。例えば体重50㎏の女性では、1,600kcalの食事となります。Q5 フレイルを合併した糖尿病患者への薬物療法、考慮すべきポイントは?フレイルがある糖尿病患者の薬物療法のポイントは1)低血糖などの有害事象のリスクを減らすような選択をする2)フレイルの原因となる併存疾患の治療も行う3)服薬アドヒアランス低下の対策を立てることです。特に重症低血糖には注意が必要で、フレイルだけでなく認知機能障害、転倒・骨折、ADL低下、うつ状態、QOL低下につながる可能性があります。したがって、フレイルの患者では低血糖を起こしにくい薬剤を中心とした治療を行います。メトホルミンやDPP-4阻害薬などをまず使用します。SU薬を使用する場合は、できるだけ少量、例えばグリクラジド10~20㎎/日で使用します。フレイルの患者では、体重減少をきたしうるSGLT2阻害薬や高用量のメトホルミンの使用には注意を要します。特に腎機能は定期的にeGFRで評価し、結果に応じて、メトホルミンやSU薬の用量を調整する必要があります。SU薬はeGFR45mL/分/1.73m2未満で減量、eGFR30mL/分/1.73m2未満で中止します。フレイルの糖尿病患者は心不全、COPD、PADなど複数の併存疾患を有していることが多く、それがフレイルの原因となっている場合もあります。したがって、フレイルの原因となる疾患を治療することも大切です。心機能、呼吸機能、歩行機能を少しでも改善することが、フレイルの進行防止につながります。また、軽度の認知機能障害を伴うことも少なくなく、服薬アドヒアランスの低下をきたしやすくなります。多剤併用も問題となります。両者は双方向の関係があると考えられており、併存疾患の多さや運動療法の不十分さなどが多剤併用の原因となりえますが、多剤併用がフレイルにつながる可能性もあります。したがって、こうした患者では治療の単純化を行うことが必要です。服薬数を減らすことだけでなく、服薬回数を減らすことや服薬のタイミングを統一することも単純化の手段として重要です。例えば、α-GIやグリニド薬を使用する場合には、すべての内服薬を食直前に統一するようにしています。ADL低下や認知症がある場合には、重症低血糖のリスクが高いので、減量・減薬を考慮すべき場合もあります。Q6 他にどのような治療上の注意点がありますか?フレイルがある患者では、認知機能障害、手段的ADL低下、身体活動量低下、うつ状態、低栄養、服薬アドヒアランス低下、社会的サポート不足などを伴っている場合が少なくありません。したがって、状態を包括的に評価できるCGAを行い、その結果に基づき、運動/食事/薬物療法だけでなく、社会的サポートを行うことが大切になります。介護保険を申請し、要介護と認定されれば、デイケアなどのサービスを受けることもできます。認定されない場合でも、老人会、地域の行事、講演会などの社会参加を促して、閉じこもりを防ぐことが社会的なフレイルを防ぐために重要だと考えています。1)Satake S, et al.Geriatr Gerontol Int.2016;16:709-715.2)Hanlon, et al. Lancet Public Health. 2018 Jun 13. [Epub ahead of print]3)Wong E et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2013 ;1: 106–14.4)Hubbard RE, et al. Diabet Med. 2010 ;27:603-606.5)Deutz NE, et al.Clin Nutr 2014;33:929-936.6)Kalyani RR, et al. J Am Geriatr Soc. 2012;60:1701-7.7)Park SW et al. Diabetes. 2006;55:1813-8.8)Yau RK, et al. Diabetes Care. 2013;36:3985-91.9)Schneider AL et al. Diabetes Care. 2013;36:1153-8.

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リナグリプチンのCARMELINA試験を通して血糖降下薬の非劣性試験を再考する(解説:住谷哲氏)-991

 eGFRの低下を伴う腎機能異常を合併した2型糖尿病患者における血糖降下薬の選択は、日常臨床で頭を悩ます問題の1つである。血糖降下薬の多くは腎排泄型であるため腎機能に応じて投与量の調節が必要となる。DPP-4阻害薬の1つであるリナグリプチンは数少ない胆汁排泄型の薬剤であり、腎機能に応じた投与量の調節が不要であるため腎機能異常を合併した患者に投与されることが多い。 これまでにDPP-4阻害薬の安全性を評価した心血管アウトカム試験CVOTでは、サキサグリプチンのSAVOR-TIMI 53、アログリプチンのEXAMINE、シタグリプチンのTECOSが発表されている。リナグリプチンの安全性を評価した本試験の報告により、DPP-4阻害薬の安全性を評価したすべてのCVOTが出そろったことになる。本試験の最大の特徴は、リナグリプチンが胆汁排泄型であることに基づいて、これまで報告されたCVOTの中で最多の腎機能異常合併2型糖尿病患者を組み入れた点にある。 6,979例がエントリーされたが、その半数以上がeGFR<60mL/min/1.73m2であり、eGFR<30mL/min/1.73m2の患者も約15%含まれていた。主要評価項目は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中からなる3-point MACEであったが、副次評価項目にはESRDへの移行、腎関連死、ベースラインから40%以上のeGFRの低下の持続からなる腎複合エンドポイントが含まれている。中央値2.2年の観察期間において、プラセボ群の3-point MACE発症率は5.63/100人年であり、これまで実施されたCVOTの中で最も高リスクであった。このことは腎機能異常合併2型糖尿病患者の心血管リスクがきわめて高いことを示している。既報のDPP-4阻害薬のCVOTと同様に、主要評価項目ではプラセボ群に対する非劣性が証明されたが優越性は証明されなかった。期待された腎複合エンドポイントでも優越性は証明されなかった。多くの探索的アウトカムexploratory outcomeの中でプラセボ群と有意差を認めたのはアルブミン尿の進展HR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)、複合細小血管エンドポイントHR 0.86(0.78~0.95、p=0.003)のみであった。重症低血糖の頻度もプラセボ群との間に有意差を認めなかった。また観察期間中のHbA1cはリナグリプチン群で0.36%有意に低下した。 本試験も含めて既報のCVOTはすべて非劣性試験non-inferiority trialであり、その結果をどのように解釈して日常臨床に適用すればよいのだろうか? 確かにすべての非劣性試験は製薬企業が新たな薬剤を販売するための臨床試験であり、われわれ臨床家にとっても患者にとってもメリットはないとの指摘にも一理ある1)。非劣性試験で証明されるのは、対象である新たな血糖降下薬(試験薬)が既存の血糖降下薬と比較して3-point MACEなどの心血管イベントを非劣性マージン(多くはハザード比の95%信頼区間の上限が1.3に設定される)を超えて増加させないことのみである。これをクリアすればその試験薬は「安全な血糖降下薬」としてのお墨付きを当局から得られる。つまり心血管イベントを29%増加させる可能性があっても血糖降下薬としては許容されることになる(この点については議論があるが本稿では割愛する)。そうであれば何も高価な新薬(試験薬)を使う必要はなく、プラセボ群で使用された従来の安価な血糖降下薬を使えばよいではないか、との反論も当然あるだろう。 血糖降下薬を投与する目的は心血管イベントなどの真のアウトカムを改善することにあり、HbA1cなどはあくまで代用のアウトカムsurrogate outcomeである。HbA1cを低下させれば腎症を含めた細小血管障害リスクが低下することはこれまでに証明されている。つまり将来の細小血管障害リスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは正当化される。本試験においてリナグリプチンは代用のアウトカムであるHbA1cと、同じく代用のアウトカムである尿アルブミンを有意に減少させたが、これはHbA1cの低下による可能性が高い。一方、心血管イベントについては、RCTのメタ解析によると厳格な血糖管理により非致死性心筋梗塞を含めた冠動脈疾患は減少するが、脳卒中、全死亡は減少しないと報告されている2)。つまり将来の心血管イベントリスクを低下させるためにHbA1cを低下させることは、細小血管障害の場合と同じ程度に正当化されるとは言い難い。 CVOTでは、血糖降下作用とは独立した心血管イベントリスクの上昇の有無を検証するために、試験デザインとしてプラセボ群と試験薬群とのglycemic equipoise(血糖コントロールつまりHbA1cが両群で試験期間中に同等であること)が要求されている。しかし本試験も含めた既報のすべてのCVOTにおいては試験薬群のHbA1cが有意に低下している。この点について、プラセボ群で血糖管理が強化されなかったのは倫理的に問題であるとの意見もあるが、筆者の見解は少しく異なる。実際にはCVOTに組み入れられたようなきわめて心血管イベント高リスクの患者で、かつ、すでに複数の血糖降下薬を併用してHbA1cが8.0%程度の患者において、インスリンを増量、SU薬を増量、他の血糖降下薬を追加することはACCORDの結果が報告されて以降、容易ではないのが現実ではないだろうか。血糖降下薬を増量、追加して血糖管理を強化するbenefitとharmを天秤に掛けると、clinical inertiaとの批判もあるが、現状維持を選択する判断になることが多い。さらに本試験に組み入れられたような腎機能異常を合併した患者においては、より一層その傾向が顕著である。つまりプラセボ群では血糖管理を強化しなかったのではなく、従来の血糖降下薬では強化できなかったのが事実に近いだろう。言い方を変えれば、試験薬により血糖管理を少しではあるが強化できたと言ってよい。そのような条件下においても、リナグリプチンが心血管イベントリスクを増加させずに血糖降下作用を発揮できることは本試験において証明されたと考えてよい。 非劣性試験は前述したように、患者にとって真のアウトカムの改善をもたらす薬剤を生み出す試験ではない。CVOTにおいて優越性を示した血糖降下薬はこれまでに複数存在するが、特殊な対象患者群、短い観察期間を考えるとすべての2型糖尿病患者にbenefitをもたらすかは不明である。今後はCVOTで優越性を示した薬剤を用いて、幅広い患者群に対する長期間の優越性試験superiority trialが実施されることを期待したい3)。

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DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬は胆管がんリスクを大幅増/BMJ

 インクレチンベースのDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、それ以外の抗糖尿病薬の第2・第3選択薬と比べて、胆管がんリスクを大幅に増大する可能性があることが明らかにされた。カナダ・Jewish General HospitalのDevin Abrahami氏らが、糖尿病患者15万例超を対象とした集団ベースのコホート試験で明らかにし、BMJ誌2018年12月5日号で発表した。アンバランスな胆道系がんの発症が、インクレチンベースの抗糖尿病薬の大規模無作為化試験においてみられているが、リアルワールドでの観察試験では調査されていなかった。DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬と、それ以外の抗糖尿病薬と比較 研究グループは、英国の臨床データベース「Clinical Practice Research Datalink(CPRD)」を基に、2007年1月1日~2017年3月31日の間に新たに糖尿病の診断を受けた成人15万4,162例について、2018年3月31日まで追跡を行った。 DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の使用を時変共変数としてモデル化し、それ以外の第2・第3選択薬の抗糖尿病薬と比較。がん潜伏期間と逆の因果関係を最小化するために、すべての曝露から1年間の遅延期間を設定した。 Cox比例ハザードモデルを用いて、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬の使用に関連した胆管がん発生のハザード比(HR)を95%信頼区間(CI)とともに、それぞれについて算出した。また、世界保健機関(WHO)の個別症例安全性報告のデータベース「VigiBase」を使って、事後のファーマコビジランス解析を行い、胆管がんの報告オッズ比(ROR)を推算した。DPP-4阻害薬、胆管がんリスク1.77倍増大 61万4,274人年の追跡期間中に発生した胆管がんは、105例(17.1/10万人年)だった。 DPP-4阻害薬の服用は、胆管がんリスクを77%増大した(HR:1.77、95%CI:1.04~3.01)。また、GLP-1受容体作動薬の服用も胆管がんリスクの増大が示されたが、95%CI値は広範囲にわたった(HR:1.97、95%CI:0.83~4.66)。 ファーマコビジランス解析では、DPP-4阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の使用は、SU薬やチアゾリジン系薬の使用と比べて、いずれも胆管がんのRORは増大と関連していた(DPP-4阻害薬のROR:1.63[95%CI:1.00~2.66]、GLP-1受容体作動薬のROR:4.73[同:2.95~7.58])。

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ダパグリフロジンによる心血管イベントの抑止-RCTとリアルワールド・データとの差異(解説:吉岡成人氏)-967

オリジナルニュースCV高リスク2型DMへのSGLT2iのCV死・MI・脳卒中はプラセボに非劣性:DECLARE-TIMI58/AHA(2018/11/13掲載)はじめに SGLT2阻害薬の投与によって2型糖尿病における心血管リスクが低下することが、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Programの2つの大規模臨床試験で示されている。それぞれ、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジン、カナグリフロジンが用いられ、心血管イベントの既往者およびハイリスク患者において、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を総合して「主要心血管イベント」とした際に、SGLT2阻害薬を使用した患者における統計学的に有意なイベント抑制効果が確認された。さらに、副次評価項目として、アルブミン尿の進展やeGFRの低下をも抑制し、腎保護作用を示唆するデータも示された。DECLARE-TIMI58 SGLT2阻害による心血管イベントの抑制効果がクラスエフェクトであることを確認すべく、ダパグリフロジンのプラセボに対する有用性を確認すべく実施されたDECLARE-TIMI58(Dapagliflozin Effect on Cardiovascular Events-Thrombolysis in Myocardial Infarction 58)の結果が、2018年11月に米国心臓協会学術集会で公表され、NEJM誌に同時掲載された。対象となったのは1万7,160例の2型糖尿病患者で、平均年齢64歳、41%は心血管疾患の既往がある2次予防群、残りの59%は複数の心血管危険因子を有するものの心血管疾患の既往がない1次予防群である。 中央値4.2年間の追跡期間において、ダパグリフロジン群では8.8%に主要心血管イベントが発生し、プラセボ群の9.4%よりも少なかったが、統計学的には有意な差ではなかった(ハザード比:0.93、95%信頼区間:0.84~1.03)。しかし、試験開始後に追加された、心血管死または心不全による入院という複合評価項目においては、ダパグリフロジン群4.9%、プラセボ群5.8%(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.73~0.95)と有意な減少を認めた。とはいえ、個別の評価項目では、心血管死の頻度は2.9%と差がなく、心不全による入院の減少がダパグリフロジンで2.5%と少なかったこと(プラセボ群:3.3%、ハザード比:0.73、95%信頼区間:0.61~0.88)が複合評価での優位性を示したといえる。 副次評価項目としての、腎複合アウトカム(eGRFが40%以上低下して60mL/min/1.73m2となる末期腎不全の新規発症、腎疾患ないしは心血管疾患による死亡)の減少も確認されている。 有害事象としては、ダパグリフロジン投与群で、糖尿病ケトアシドーシス、性器感染症の頻度が高かった。リアルワールド・データとの差異 ダパグリフロジンを含むSGLT2阻害薬の心血管イベント抑止効果に関しては、リアルワールドでの観察研究としてCVD-REALおよびCVD-REAL 2のデータが公表され、SGLT2阻害薬の追加投与群はDPP-4阻害薬を追加した群に比較して、全死亡、心不全による入院、心筋梗塞、脳卒中のリスクを低下させると報告している。とくに、日本を含むアジア太平洋、中東、北米の6ヵ国を対象として実施したCVD-REAL 2では全死亡のリスクを49%も低下させる(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.54~0.69)ことが注目された。 RCTであるDECLARE-TIMI58の結果と、リアルワールドのデータに著しい違いがあるのはなぜであろうか? リアルワールドのデータが過大に評価される原因としてバイアスの関与が示唆されている。ひとつは、選択バイアスである。実診療の現場で、患者の予後がはかばかしくない場合に、新たな薬剤としてSGLT2阻害薬が追加されるかどうかにはバイアスが入り込むと考えられる。また、生存・死亡に関するバイアス(immortal timeバイアス)*の関与も示唆されており、SGLT2阻害薬が追加投与されるまでの期間が考慮されない場合の解析では、生存期間が過大に評価されてしまう(Suissa S. Diabetes Care. 2018;41:6-10.)。*生存・死亡に関するバイアス(immortal timeバイアス) 追跡ないしは観察中に対象者が死亡しない期間をimmortal timeという。コホート研究においては登録時から薬剤の投与が開始されるまでの期間は対象者が必ず生存している。そのため、薬剤の影響を評価するときに、immortal time を含めて解析すると、解析対象の薬剤を投与した群で生存期間を長く評価してしまうというバイアスが生じる。おわりに EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Programと違い、DECLARE-TIMI58において、ダパグリフロジンの投与で主要心血管イベントが統計学的に有意な減少を示さなかったのは、対象患者における心血管イベントの既往などの差異によるのかもしれない。とはいえ、SGLT2阻害薬の心不全に対する優位な効果は薬剤のクラスエフェクトとして十分に評価される。しかし、リアルワールドのデータとの乖離が大きいことを勘案すると、リアルワールドのデータを安易に評価せず、RCTを適切に解釈し、臨床の現場に生かす姿勢が重要なのではないかと思われる。

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リナグリプチン、高リスク2型DMでのCV・腎アウトカムは/JAMA

 心血管および腎リスクが高い2型糖尿病の成人患者では、通常治療と選択的DPP-4阻害薬リナグリプチンの併用療法は、主要な心血管イベントのリスクがプラセボに対し非劣性であることが、米国・Dallas Diabetes Research Center at Medical CityのJulio Rosenstock氏らが行ったCARMELINA試験で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2018年11月9日号に掲載された。2型糖尿病は心血管リスクの増加と関連する。これまでに実施された3つのDPP-4阻害薬の臨床試験では、心血管への安全性が示されているが、これらの試験に含まれる高い心血管リスクおよび慢性腎臓病を有する患者の数は限定的だという。心血管・腎アウトカムへの影響を評価するプラセボ対照非劣性試験 研究グループは、心血管および腎イベントのリスクが高い2型糖尿病患者において、心血管および腎アウトカムに及ぼすリナグリプチンの影響の評価を目的に、プラセボ対照無作為化非劣性試験を行った(Boehringer IngelheimとEli Lillyの助成による)。 対象は、HbA1cが6.5~10.0%で、高い心血管リスク(冠動脈疾患、脳卒中、末梢血管疾患の既往、微量・顕性アルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>30mg/g])および腎リスク(推定糸球体濾過量[eGFR]が45~75mL/分/1.73m2かつUACR>200mg/g、またはUACRにかかわらずeGFRが15~45mL/分/1.73m2)を有する2型糖尿病患者であった。末期腎不全(ESRD)患者は除外された。 被験者は、通常治療に加え、リナグリプチン(5mg、1日1回)を投与する群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。臨床的必要性および参加施設のガイドラインに基づき、他の血糖降下薬およびインスリンの使用は可能とされた。 主要心血管アウトカムは、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合の初回発生までの期間とした。非劣性の判定基準は、リナグリプチンのプラセボに対するハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)の上限値が1.3未満の場合とした。副次腎アウトカムは、腎不全による死亡、ESRD、eGFRのベースラインから40%以上の低下の持続とした。 2013年8月~2016年8月の期間に、27ヵ国605施設に6,991例が登録され、6,979例(リナグリプチン群3,494例、プラセボ群3,485例)が1回以上の試験薬の投与を受けた。このうち98.7%が試験を完遂した。主要心血管アウトカム:12.4% vs.12.1%、副次腎アウトカム:9.4% vs.8.8% ベースラインの全体の平均年齢は65.9歳、eGFRは54.6mL/分/1.73m2、UACR>30mg/gの患者の割合は80.1%であった。57%が心血管疾患を有し、74%が腎臓病(eGFR<60mL/分/1.73m2あるいはUACR>300mg/gCr)であり、33%が心血管疾患と腎臓病の双方に罹患しており、15.2%はeGFR<30mL/分/1.73m2であった。 フォローアップ期間中央値2.2年における主要心血管アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が12.4%(434/3,494例)、プラセボ群は12.1%(420/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.13(95%CI:-0.63~0.90)であり、リナグリプチン群はプラセボ群に対し非劣性であった(HR:1.02、95%CI:0.89~1.17、非劣性のp<0.001)。優越性には、統計学的に有意な差はなかった(p=0.74)。 副次腎アウトカムの発生率は、リナグリプチン群が9.4%(327/3,494例)、プラセボ群は8.8%(306/3,485例)で、100人年当たりの絶対発生率差は0.22(95%CI:-0.52~0.97)であり、優越性に関して統計学的に有意な差は認めなかった(HR:1.04、95%CI:0.89~1.22、p=0.62)。 有害事象の発生率は、リナグリプチン群が77.2%(2,697/3,494例)、プラセボ群は78.1%(2,723/3,485例)であった。低血糖エピソードが1回以上発現した患者の割合は、それぞれ29.7%(1,036例)、29.4%(1,024例)であり、急性膵炎は0.3%(9例)、0.1%(5例)に認められた。 著者は、「本試験全体の高い主要心血管イベントの発生率(5.63/100人年)は、これまでの血糖降下薬の心血管アウトカムに関する検討の中でも最もリスクの高いコホートの1つを登録したこの試験が、2型糖尿病治療薬の心血管安全性の評価に関するFDAの必要条件に従って実施され、腎障害への臨床的影響を明らかにしたことを示すものである」としている。

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エンパグリフロジンとリナグリプチンの配合剤、トラディアンス発売

 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と日本イーライリリー株式会社は、DPP-4阻害薬リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)と、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)との配合剤である2型糖尿病治療薬「トラディアンス配合錠 AP/BP」を、2018年11月20日発売した。 トラディアンス配合錠APは、トラゼンタ5mgとジャディアンス10mgとの配合、トラディアンス配合錠BPは、トラゼンタ5mgとジャディアンス25mgとの配合剤。 1日1回投与のDPP-4阻害薬トラゼンタは、心血管イベントや腎イベント、またはその両方のリスクが高い成人2型糖尿病患者を対象としたCARMELINA試験において、主要評価項目を達成し、プラセボと同等の心血管安全性を示した。一方、1日1回投与のSGLT2阻害薬ジャディアンスは、心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者を対象としたEMPA-REG OUTCOME試験において、主要評価項目である複合心血管イベント(血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)リスクを14%、心血管死のリスクを38%、全死亡リスクを32%、心不全による入院のリスクを5%有意に減少させている。これら異なる作用機序の2成分を配合し1剤にすることで、患者の服薬負担を軽減し、アドヒアランスを高め、より良好な血糖コントロールが得られることが期待されている。 トラディアンス配合錠は、トラゼンタ、ジャディアンスと同様に、医療機関への情報提供活動については、日本ベーリンガーインゲルハイム、日本イーライリリー両社で行う。製品名:トラディアンス配合錠AP、トラディアンス配合錠BP一般名:エンパグリフロジン、リナグリプチン効能・効果:2型糖尿病。ただし、エンパグリフロジン及びリナグリプチンの併用による治療が適切と判断される場合に限る。用法・用量:通常、成人には1日1回1錠(エンパグリフロジン/リナグリプチンとして 10mg/5mg又は25mg/5mg)を朝食前又は朝食後に経口投与する。薬価:トラディアンス配合錠AP 283.30円、トラディアンス配合錠BP 395.60円

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第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいこと【高齢者糖尿病診療のコツ】

第3回 高齢者の高血糖で気を付けたいことQ1 高齢者では基準が緩和されていますが、血糖値高めでも様子をみる方針でいいのでしょうか? 注意すべき病態はありますか?最近のガイドラインでは、高齢者、とくに認知機能やADLが低下している場合血糖コントロールが甘めに設定されていますが、どんなに高くてもよいというものではありません。高血糖で緊急性を要する病態として、高浸透圧高血糖状態(HHS)と糖尿病ケトアシドーシス(DKA)があり、注意が必要です(表)。画像を拡大するHHSはインスリン分泌が保たれている患者に、何らかの血糖上昇をきたす因子(感染症やステロイド投与、経管栄養など)が加わり、著明な高血糖と高度脱水をきたす病態です。血糖値は通常600mg/dLを超え、重症では意識障害をきたし、死亡率は10~20%とされています。HHSはとくに高齢者で起こりやすく、糖尿病治療中でこれらの因子を伴った場合は、十分な水分摂取を促すこと、こまめに血糖値をチェックすることが大切です。水分摂取困難や意識障害の症例はもちろん、血糖300mg/dL以上が持続する場合も専門医を受診させ、入院を考慮するべきでしょう。以前行った調査1)では、HHS患者では認知症有の患者が86%を占め、要介護3以上、独居または高齢夫婦世帯がそれぞれ半数以上を占めていました。これらの患者ではとくに注意が必要です(図1)。画像を拡大するDKAは、インスリンの絶対的欠乏によって脂肪が分解され、血中のケトン体が上昇し、アシドーシスを呈する病態です。高齢者のDKAの多くは1型糖尿病で治療中の患者さんでの、感染症合併やインスリンの不適切な減量・中断による発症です。体調不良時のインスリンの使用法(シックデイルール)を指導しておく必要があります。食事がとれないような場合でも、安易にインスリン(とくに持効型)を中止しないよう指導することが重要になります。HbA1c9%以上では、HbA1c7~7.9%に比べHHSやDKAなどの急性代謝障害をきたすリスクが2倍以上となります。高齢者ではHbA1c8.5%以上だと肺炎、尿路感染症などの感染症のリスクも高くなります。そのため私たちは、認知機能やADLが低下している患者さんでも、HbA1c8.5%未満を目標としています。HbA1c8.5%以上が持続する症例では、入院での血糖コントロールを行い、その後の環境調整を行っています。Q2 HbA1cが正常なのに、 食後血糖が高い患者へはどのように対応すべきでしょうか?HbA1cは平均血糖の指標であり、HbA1cが正常でも、血糖変動が大きい可能性があります。食後高血糖は血糖変動の大きな要因であるため、外来受診の患者さんでも、空腹時のみでなく、定期的に食後血糖(1、2時間値)を測定するようにしています。食後高血糖は、糖尿病予備軍の患者さんの糖尿病への進展リスクを高めるといわれています。また高齢者のみでの研究ではありませんが、心血管疾患の発症率や死亡率も高いことが知られています(図2) 2)。一方で、SU薬やインスリン使用中で食後高血糖、かつHbA1cが低い場合は、低血糖が隠れていることがあるため、注意が必要です。また早朝の血糖が高値を示す場合、実は夜間に低血糖があり、それに引き続いてインスリン拮抗ホルモンが分泌されて血糖が上昇している場合があります(ソモジー効果)。ソモジー効果が疑われる場合は深夜の血糖を測ることが望ましく、低血糖が疑われる場合は、インスリンやSU薬の減量を行います。画像を拡大する食後高血糖に対しては、まず生活指導を行います。ゆっくり時間をかけて食べる、糖質を食物線維が多いものと一緒にとる、清涼飲料水など糖質が速やかに吸収される食品を避ける、食後1時間後を目安にウォーキングや軽い体操を行うこと、などを勧めます。これらの指導を行ったにもかかわらず、食後血糖が常に200mg/dLを超えている場合は、α-グルコシダーゼ阻害薬(非糖尿病でも使用可能)や、グリニド製剤(糖尿病のみ使用可能)などの食後高血糖改善薬の投与も考慮します。前者は糖質の吸収を緩やかにする薬剤ですが、腹部手術後は慎重投与となっています。後者はインスリン分泌を刺激する薬剤ですので、低血糖への配慮が必要になります。いずれも1日3回食直前の内服が必要なので、服薬アドヒアランスの不良な患者さんには適していません。そのような患者さんには、効果は劣るものの服薬回数の少ないDPP-4阻害薬を考慮しますが、認知機能やADLが低下している患者さんでは食後のみの高血糖であれば、無投薬で様子をみることも多いです。Q3 高血糖に対する認識の低さを感じます。患者指導のポイントがあれば教えてください。まず、年齢、認知機能やADL低下の程度、合併症や併発疾患、生命予後によって、コントロールの目標も変わってきます。認知機能やADLが低下している場合は、厳格なコントロールは必ずしも必要ありません(第6回で詳述予定です)。一方、比較的若く、認知機能やADLが保たれている患者さんには、しっかり指導をしなければなりません。ここではこういった患者さんで病識が低い人への対応を考えます。これらの患者さんでは何よりも、通院を中断してしまうことが問題です。通院しているだけである程度の意欲はあるわけですから、その部分は褒めるようにしています。また、看護師や栄養士にも協力してもらい、治療に対するご本人の考えや感情を十分に傾聴することが大切でしょう。チームとしてのサポートが重要となります。「もう歳だからいい」と言う場合や、配偶者の介護の負担などで治療に向き合えないこともあります。医療スタッフが来院時に悩みを聞きながら、少しずつ治療に向き合えるように粘り強く待つことが大切です。長期間来院しない時はスタッフから連絡してもらい、心配していることやあなたの健康を一緒に支えているということをわかっていただきます。教育面では、休日の糖尿病教室への参加をお勧めしたりしますが、強制はしません。また、診療時間は限られているので、教育資材やビデオを貸し出したりして、合併症予防の重要性を学んでいただくようにしています。そして1つでも合併症を理解していただいたら、褒めるようにします。治療に関しては、同時にいくつものことを要求しないことも重要です。禁煙と運動、食事内容を一度に全て改善しろといってもできません。患者さんの取り組みやすいところから1つずつ、しかも達成しやすいところに目標をおきます。例えばまったく運動していない人では、「まず1日3,000歩歩いてみましょう」とします。この際、目標は具体的に、数値化したものが望ましいでしょう。そして患者さんにはかならず記録をつけてもらうようにしています。たとえ目標が達成できなくても、記録をつけはじめたということについてまず褒めます。とにかく、できないことを責めるのではなく、できたことを褒める、という姿勢です。投薬の面でも、できるだけ負担のないようにし、例えば軽症で連日の投薬に抵抗がある患者さんには、週1回の製剤からはじめたりしています。なお、認知機能やADLが低下している場合でも、著明な高血糖は避ける必要があります。Q1で述べた内容を、家族・介護者に指導します。 1)Yamaoka T, et al. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2017;54:349-355.2)Tominaga M, et al. Diabetes Care. 1999;22:920-924.

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ケアネット白書~糖尿病編2018

インデックスページへ戻る1.調査概要本調査の目的は、糖尿病診療に対する臨床医の意識を調べ、その実態を把握するとともに、主に使用されている糖尿病治療薬を評価することである。本調査は、2018年2月23日~3月2日に、ケアネットの医師会員約14万人のうち、2型糖尿病患者を1ヵ月に10人以上診察している医師500人を対象にCareNet.com上で実施した。2.結果(1)回答医師の背景回答医師500人の主診療科は、糖尿病・代謝・内分泌科が240人(48.0%)で最も多く、一般内科162人(32.4%)、循環器科41人(8.2%)などが続いた。医師の所属施設は、一般病院が194人(38.8%)で最も多く、以下、医院・診療所・クリニック125人(25.0%)、大学病院93人(18.6%)、国立病院機構・公立病院88人(17.6%)など。医師の年齢層は50代が160人(32.0%)で最も多く、次いで40代(129人、25.8%)、30代(125人、25.0%)が続いた。(2)薬剤の処方状況(1stライン)糖尿病治療薬をSU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、ビグアナイド(BG)薬、チアゾリジン薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド)、DPP-4阻害薬、インスリン、GLP-1、SGLT2阻害薬、その他に分類し、食事・運動療法に加えて薬物療法を実施する際の1stラインの処方状況を聞いた(図1)。図1を拡大する処方が最も多かったのはDPP-4阻害薬で、回答した医師全体の38.3%が1stラインで使っている。昨年と比べると0.1ポイント減少で、ほぼ横ばいといえる。次いで多かったのはBG薬(27.6%)で、昨年と比べて1.3ポイント増加した。そのほか、SGLT2阻害薬(6.4%)は昨年と比べて2.7ポイント増加し、過去5年間において最も多かった。<糖尿病・代謝・内分泌科での1stライン>回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科の場合、1stラインでの処方割合が最も多かったのはDPP-4阻害薬(35.4%)だが、これに続くBG薬が34.8%であり、割合は拮抗している。一方、SU薬は過去5年の推移をみても一貫して減少傾向にあるようだ(図2)。図2を拡大する<その他の診療科(糖尿病・代謝・内分泌科以外)での1stライン>回答医師の属性がその他の診療科の場合、1stラインの処方割合はDPP-4阻害薬が最も多く(41.0%)、昨年と比べて0.3ポイント増とほぼ横ばいであった(図3)。図3を拡大する(3)薬剤の処方状況(2ndライン)●DPP-4阻害薬単剤処方例からの治療変更1stラインでDPP-4阻害薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合、2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.BG薬を追加、5.チアゾリジン薬を追加、6. SGLT2阻害薬を追加、7. BG薬とDPP-4阻害薬の配合剤への切り替え、8. その他配合剤への切り替え、9.他剤への切り替え、10.その他―の分類から処方状況を聞いた(図4)。なお、2018年度は選択肢から「GLP-1を追加」、「インスリンを追加」を削除し、「BG/DPP-4阻害薬配合剤へ切り替え」「その他配合剤へ切り替え」を追加している。図4を拡大する最も多かったのはBG薬の追加で、回答した医師の40.8%に上った。SGLT2阻害薬の追加は過去5年間で年々増加傾向にあり、14.1%と昨年と比べて4.2ポイント増加した。一方、SU薬やα-GIの追加は減少傾向にある。BG/DPP-4阻害薬配合剤への切り替えは10.1%であった。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医ではBG薬の追加が全体平均よりも高い傾向にあり、逆にα-GIの追加を選ぶ医師は少ない傾向があった。専門医以外では、α-GIの追加のほか、BG/DPP-4阻害薬配合剤を選択する割合が多い傾向がみられた(図5)。図5を拡大する●BG薬単剤処方例からの治療変更また、1stラインでBG薬を単剤投与しても血糖コントロールが不十分だった場合2ndラインではどのような治療変更を行うかについて、1.SU薬を追加、2.速効型インスリン分泌促進薬を追加、3.α-GIを追加、4.チアゾリジン薬を追加、5. DPP-4阻害薬を追加、6. SGLT2阻害薬を追加、7. BG薬とDPP-4阻害薬の配合剤への切り替え、8. その他配合剤への切り替え、9. DPP-4阻害薬(配合剤以外)への切り替え、10. DPP-4阻害薬以外の薬剤(配合剤以外)への切り替え、11.その他―の分類から処方状況を聞いた(図6)。図6を拡大する最も多かったのは前年に引き続きDPP-4阻害薬の追加(55.1%)であった。SGLT2阻害薬の追加(13.2%)を選択する医師の割合は、前年比で5.2ポイント増となり、2番目に多い選択肢となっている。回答医師の属性が糖尿病・代謝・内分泌科とその他の診療科を比較すると、専門医で最も多かったのはDPP-4阻害薬の追加(52.2%)で、次いでSGLT2阻害薬の追加(16.3%)となっていた。その他の診療科と比べると、DPP-4阻害薬の追加が少なく、SGLT2阻害薬の追加が多い傾向がみられた(図7)。図7を拡大する(4)薬剤選択の際に重要視する項目本調査では、薬剤を選択する際に重要視する項目についても聞いている(複数回答)。最も多いのは昨年に続き「低血糖をきたしにくい」で、77.8%の医師が挙げている。以下、「重篤な副作用がない」(65.0%)、「血糖降下作用が強い」(64.0%)などが続き(図8)、例年と大きな変化はみられなかった。図8を拡大する(5)配合剤に対する認知状況と処方意向今年度から新たに、配合剤の認知度や処方意向についても聞いている。配合剤がラインナップにあることが薬剤の選択理由のひとつになるかという問いに対しては、「とてもそう思う」、「そう思う」、「まあそう思う」と答えた医師が全体の7割強となった。また、処方したいと思う配合剤の組み合わせについて、1. DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤、2. DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤、3.上記以外の配合剤、4. 配合剤を処方するつもりはない―の4項目について聞いたところ(複数回答)、DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤について63.4%の医師が処方意向を示した(図9)。図9を拡大する開発中、または開発検討中の配合剤の認知度について、1. シタグリプチン/イプラグリフロジンの配合剤、2. リナグリプチン/エンパグリフロジンの配合剤、3. アナグリプチン/メトホルミンの配合剤、4.なし―の4項目を聞いたところ(複数回答)、「なし」と答えたのは47.0%で、5割強の医師が開発中の何らかの配合剤を認知しているという結果となった。さらに、認知している配合剤が今後発売された場合、どのように処方したいかという問いに対しては、リナグリプチン/エンパグリフロジンの配合剤について52.0%の医師が「発売時より処方を検討していきたい」と回答し、処方意向が比較的高い傾向がみられた(図10)。図10を拡大するインデックスページへ戻るなお、本データはアンケートを用いた集計結果であり、処方実態を反映しているものではございません。

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DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」【下平博士のDIノート】第8回

DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤「スージャヌ配合錠」今回は、「シタグリプチンリン酸塩水和物/イプラグリフロジンL-プロリン配合錠(商品名:スージャヌ配合錠)」を紹介します。本剤は、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤であり、異なるアプローチにより血糖コントロールの継続・改善が期待されます。<効能・効果>2型糖尿病の適応で、2018年3月23日に承認され、2018年5月22日より販売されています。配合成分のシタグリプチンは、選択的にDPP-4を阻害し、活性型インクレチンを増加させることで、血糖依存的にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制して血糖低下作用を示します。一方、イプラグリフロジンは選択的にSGLT2を阻害し、腎臓でのブドウ糖再取り込みを抑制することで、尿と共に糖を排出してインスリン非依存的な血糖低下作用を示します。なお、本剤を2型糖尿病治療の第1選択薬として用いることはできません。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(シタグリプチン/イプラグリフロジンとして50mg/50mg)を朝食前または朝食後に経口投与します。<副作用>国内臨床試験(シタグリプチン50mgおよびイプラグリフロジン50mgを1日1回併用投与)において、220例中28例(12.7%)に副作用が認められています。主なものは頻尿13例(5.9%)、口渇6例(2.7%)、便秘6例(2.7%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.このお薬は、2種類の成分の配合剤で、体内のインスリン分泌を促す作用と、尿中に糖分を排泄させる作用により血糖値を下げます。2.低血糖症状(ふらつき、冷や汗、めまい、動悸、空腹感、手足のふるえ、意識が薄れるなど)が現れた場合は、十分量の糖分(砂糖、ブドウ糖、清涼飲料水など)を取るようにしてください。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、ブドウ糖を取るようにしてください。3.過剰な糖が尿で排出されるため、尿路感染症(尿が近い、残尿感、排尿時の痛みなど)が生じることがあります。このような症状が現れた場合は、医師に相談してください。4.尿の量や排尿回数が増えることにより、脱水が生じることがあるので、多めに水分を補給してください。<Shimo's eyes>本剤の名称は、配合成分であるイプラグリフロジンの商品名「スーグラ」とシタグリプチンの商品名「ジャヌビア」が由来となっています。SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬という作用機序の異なる2つの薬剤を配合したことで、相補的な血糖降下作用が期待されます。それぞれの薬剤を単剤で服用した場合の薬価が、スーグラ錠50mg(200.20円/錠)とジャヌビア錠50mg(129.50円/錠)で合計329.70円なのに対し、スージャヌ配合錠は263.80円/錠なので、1日薬価を80%程度に抑えることができます※。本剤は、シタグリプチン50mgまたはイプラグリフロジン50mgの単剤治療で効果不十分な場合、あるいはすでにシタグリプチン50mgとイプラグリフロジン50mgを併用し、状態が安定している場合に切り替えて使用します。各単剤で効果不十分の場合は錠数を増やさず併用療法に移行でき、すでにそれぞれの薬剤を併用している場合は、薬剤数を削減できることから服薬アドヒアランスが向上し、長期にわたる安定した血糖コントロールが期待できます。なお、本剤はシタグリプチンおよびイプラグリフロジンと同様の効能・効果、用法・用量の組み合わせであり、実質的に既収載品によって1年以上の臨床使用経験があると認められました。そのため、新医薬品に係る通常14日間の処方日数制限は設けられていません。※2018年8月時点

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日本人2型糖尿病でのエンパグリフロジン+リナグリプチン合剤の上乗せ効果

 SGLT2阻害薬エンパグリフロジンと、DPP-4阻害薬リナグリプチンの配合剤による併用療法が、エンパグリフロジン単剤による治療で効果不十分な日本人2型糖尿病患者における治療選択肢として有用であることが示された。川崎医科大学の加来 浩平氏らによる、Diabetes, obesity & metabolism誌オンライン版2018年8月9日号に掲載の報告。 本試験は、エンパグリフロジン10mgまたは25mgと、リナグリプチン5mgの用量固定配合剤(FDC)の有効性および安全性の評価を目的に実施された、2パートの無作為化二重盲検ダブルダミープラセボ対照試験(83施設)。 抗糖尿病薬未投与または、12週以上の経口抗糖尿病薬1剤の投与を受けた患者を対象に、オープンラベルの服用安定化期間(16週)として、エンパグリフロジン10mg[パートA]または25mg[パートB]がそれぞれ投与された。 その後、パートAではエンパグリフロジン10mg+プラセボが、パートBではエンパグリフロジン25mg +プラセボが2週間投与された。 HbA1c 7.5~10.0%の患者が、パートAではエンパグリフロジン10mg +リナグリプチン5mg群(107例)またはエンパグリフロジン10mg +プラセボ群(108例)に、パートBではエンパグリフロジン25mg +リナグリプチン5mg群(116例)またはエンパグリフロジン25mg +プラセボ群(116例)にそれぞれ1:1の割合で無作為に割り付けられた(24週の1日1回投与)。なお、パートBでは28週間投与期間が延長された。 主な結果は以下のとおり。・24週時点のHbA1cのベースラインからの変化は、プラセボ群と比較して、リナグリプチン群で大きかった(p<0.0001);エンパグリフロジン10mg +リナグリプチン5mg群:-0.94% vs.-0.12%(調整後の平均値の差:-0.82%)、エンパグリフロジン25mg+リナグリプチン5mg群:-0.91% vs.-0.33%(調整後の平均値の差:-0.59%)。・24週および52週後、プラセボ群と比較して、リナグリプチン群でHbA1c<7.0%および空腹時血糖の著明な減少がみられた患者の割合が高かった。・エンパグリフロジン+リナグリプチンFDCでは、予期せぬ有害事象や糖尿病性ケトアシドーシスの発症は確認されず、良好な忍容性を示した。エンパグリフロジン25mg +リナグリプチン5mg群で、低血糖症が1例報告された。 本邦では、2型糖尿病を適応として(エンパグリフロジンとリナグリプチンによる併用療法が適切と判断される場合に限る)、エンパグリフロジン10mg +リナグリプチン5mgとエンパグリフロジン25mg +リナグリプチン5mgの2種類の配合剤が、厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会(2018年7月28日)を通過し、近く承認が見込まれている。

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DPP-4阻害薬服用で、水疱性類天疱瘡リスクが3倍

 糖尿病患者におけるDPP-4阻害薬の服用と水疱性類天疱瘡(BP)との関連は、最近の話題となっている。リナグリプチンのような新しいDPP-4阻害薬については、BPの発症リスクが明らかになっておらず、DPP-4阻害薬によるBP患者の臨床的特徴や予後予測も確立されていない。イスラエル・Rambam Health Care CampusのKhalaf Kridin氏らはビルダグリプチンやリナグリプチンは、BPのリスク増加と関連していることを明らかにした。著者は、「今回の結果は、イスラエルにおけるBPの発症増加を部分的にだが説明できるものであった。BPと診断された糖尿病患者は、DPP-4阻害薬の治療中止を考慮すべきである」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2018年8月8日号掲載の報告。 研究グループは、主要評価項目をDPP-4阻害薬の服用とBP発症との関連、副次評価項目をBPの発症にDPP-4阻害薬の服用が関連する患者の臨床的特徴や既往歴とし、北イスラエルにある自己免疫水疱性疾患における3次医療機関にて、糖尿病患者の各DPP-4阻害薬およびメトホルミンの服用量と、BPの発症について後ろ向き症例対照研究を行った。 対象は、2011年1月1日~2017年12月31日に、免疫病理学的にBPと確定診断された糖尿病の治療継続患者82例、ならびにこれらと年齢、性別および人種をマッチさせた非BPの糖尿病患者328例であった。 DPP-4阻害薬を服用しBPと診断された糖尿病患者と、DPP-4阻害薬を服用せずBPと診断された糖尿病患者について、臨床的および免疫学的特徴、臨床検査値、治療方法および臨床アウトカムを比較した。追跡期間中央値は2.0年であった。 主な結果は以下のとおり。・年齢、性別をマッチさせて登録したコントロール群328例は平均年齢(±SD)79.1±9.1歳、女性44例(53.7%)だった。・全体で、DPP-4阻害薬服用例はBPのリスクが3倍だった(補正後オッズ比[OR]:3.2、95%信頼区間[CI]:1.9~5.4)。・各補正後ORは、ビルダグリプチン10.7(95%CI:5.1~22.4)、リナグリプチン6.7(95%CI:2.2~19.7)であった。・DPP-4阻害薬の使用とBPとの関連は、メトホルミン服用とは独立して認められ、女性(OR:1.88、95%CI:0.92~3.86)より男性(OR:4.46、95%CI:2.11~9.40)で強く、70歳未満の患者において最も強かった(OR:5.59、95%CI:1.73~18.01)。・BPの発症にDPP-4阻害薬の服用が関連する患者は、未服用のBP患者と比較し、粘膜病変を有する割合が高く(22.2% vs.6.5%、p=0.04)、末梢血中の好酸球数が低かった(平均±SD:399.8±508.0 vs.1117.6±1847.6個/μL、p=0.01)。・DPP-4阻害薬の治療中止後、臨床アウトカムは改善した。

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メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者へのSU薬の上乗せは心血管イベント・総死亡のリスクを増加しない(解説:住谷哲氏)-900

 低血糖と体重増加のリスクはすべてのSU薬に共通であるが、SU薬が2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させるか否かは現在でも議論が続いている。発端は1970年に発表されたUGDP(University Group Diabetes Program)1)において、SU薬であるトルブタミド投与群で総死亡リスクが増加したことにある。その後の研究でこの疑念は研究デザイン上の不備によることが明らかとなり、トルブタミドと総死亡リスク増加との間には関連がないことが証明された。しかし安全性を重視するFDAはUGDPの結果に基づいて、現在においてもすべてのSU薬の添付文書に“increased risk of cardiovascular mortality”と記載している。 1998年に発表されたUKPDS 33が実施された目的の1つは、UGDPで疑われたSU薬の総死亡リスク増加の可能性を再検討することであった。その結果、SU薬は低血糖、体重を増加させるが細小血管合併症を減少し、心血管イベントおよび総死亡のリスクを増加させないことが明らかにされた。それでは低血糖、体重増加のリスクはあるが、心血管イベントおよび総死亡のリスクは増加させないSU薬は血糖降下薬の第1選択薬となりうるかといえば否である。その理由はメトホルミンがUKPDS 34において2型糖尿病患者の総死亡のリスクを減少させることが明らかにされたからである。UKPDS 33/34の結果を合わせて考えると、2型糖尿病患者の心血管イベントおよび総死亡のリスクに関して、SU薬はneutralであり、メトホルミンはbeneficialである、とするのが正しい解釈と思われる。初回治療患者(これまでに一度も血糖降下薬を投与されたことがない患者)に投与することで総死亡を減少させた血糖降下薬は、現在までメトホルミンのみである。したがって、何らかの理由でメトホルミンが投与できない初回治療患者にSU薬を投与することは、低血糖および体重増加のリスクを許容する条件下で正当化される。 ではメトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である場合に、次にどの薬剤を上乗せすべきだろうか? 次々に発表されるCVOT(cardiovascular outcome trial)の結果に基づいて、ASCVD(atherosclerotic cardiovascular disease)を有する患者においてはSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬がメトホルミンへ上乗せすべき薬剤として推奨されつつある。しかし現実には、安価なSU薬がメトホルミンへの上乗せ薬剤として多く使用されている。そこで本論文では、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者において、SU薬への切り替え、または上乗せが、心血管イベント、総死亡、重症低血糖のリスクの増加と関連するか否かを検討した。これまでメトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者のメトホルミンをSU薬に切り替えた際に、心血管イベント、総死亡、重症低血糖のリスクが増加するか否かを検討したランダム化比較試験および観察研究はない。メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分である患者へSU薬を上乗せした際の有効性と安全性を検討したランダム化比較試験には、昨年発表されたTOSCA.IT2)があるが、これはピオグリタゾンとの比較であり、SU薬の有効性および安全性を厳密には評価できない。 リアルワールドエビデンスはランダム化比較試験の短所を補完するエビデンスとして近年脚光を浴びているが、厳密な手法を用いない解析は観察研究であるが故に多くのバイアスを含んでいる可能性がある。本論文の著者であるSuissa博士は著名な疫学者であるが、これまでメトホルミン3)、SU薬4)、SGLT2阻害薬5)に関する観察研究においてバイアスを適切に制御しなかった結果、誤った結論が導かれている可能性を指摘してきた。本研究では彼らが開発したprevalent new-user design6)を用いて、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な患者に対するsecond-line(メトホルミンからの切り替え、またはメトホルミンへの上乗せ)としてのSU薬と心血管イベント、総死亡、重症低血糖との関連を検討した。 テキストでは切り替え群と上乗せ群がまとめて報告されているために理解が困難な点があるので、SupplementのeTable5を参考にする必要がある。eTable5の結果をまとめると、メトホルミンからSU薬への切り替え群では、メトホルミン単独療法継続と比較すると心筋梗塞(HR:1.73、95%CI:1.32~2.26)、心血管死(HR:1.56、1.24~1.97)、全死亡(HR:1.60、1.39~1.84)、重症低血糖(HR:8.14、4.74~13.98)はリスク増加を認めたが、虚血性脳卒中(HR:1.21、0.89~1.65)は増加を認めなかった。一方、SU薬の上乗せ群では、心筋梗塞(HR:1.02、0.79~1.31)、虚血性脳卒中(HR:1.26、0.97~1.63)、心血管死(HR:0.95、0.75~1.20)、全死亡(HR:1.09、0.95~1.25)にリスク増加を認めなかったが、重症低血糖はHR 7.27(4.34~12.16)とリスク増加を認めた。 筆者は、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分なためにSU薬へ切り替えたことはほとんどない。他の血糖降下薬を上乗せするのが常である。英国ではこの目的でメトホルミンからSU薬へ切り替えることが一般的かどうかは不明であるが、メトホルミンからSU薬に切り替えるとすればメトホルミンの継続使用が困難な場合だろう。このような場合は患者の予後が不良なことも多く、その結果、総死亡が増加した可能性は否定できない。またSU薬は初回治療患者において心血管イベントおよび総死亡のリスクに関してneutralであることから、切り替え群のみでリスクの増加が認められたのは、メトホルミンを中止することでメトホルミンの持つ心血管イベント、総死亡リスク減少作用がなくなったからとも考えられる。さらに上乗せ群では切り替え群と同程度の重症低血糖が発生しているにもかかわらず、心血管イベント、総死亡のリスクは増加していない。重症低血糖が心血管イベントおよび総死亡のリスク増加の原因として論じられることが多いが、UKPDS 33およびDEVOTE7)(持効型インスリンアナログであるグラルギンU100とデグルデクのランダム化比較試験)の結果はその考えを支持しておらず、重症低血糖と心血管イベントおよび総死亡との関連はそれほど強いものではないのかもしれない。またはメトホルミンには、重症低血糖から心血管イベントへの流れを遮断する何らかの作用がある可能性も考えられる。最後に、上乗せ群でのHbA1cの変化が記載されていないので不明であるが、上乗せ群ではHbA1cが低下したと考えるのが普通だろう。それにもかかわらず心血管イベント、総死亡のリスクは減少しなかった。SU薬を開始した時点でHbA1c>8.0%の患者が50%以上含まれていること(Table 1)を考えると、心血管イベント、総死亡のリスク減少を目的とするのであればSU薬を上乗せすることなく、HbA1c高値を許容してメトホルミン単独療法を継続するほうが重症低血糖のリスクも増加せず、患者にとってはメリットがあることになる。 それでは、メトホルミン単独療法で血糖コントロールが不十分な場合はどうすればよいのか? SU薬のHbA1c低下作用、細小血管合併症抑制作用は確立されている。本論文の結果から、メトホルミンに上乗せする場合においても心血管イベント、総死亡のリスクは増加しないことが示された。メトホルミンへの上乗せにDPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬を処方せずにSU薬を処方する際に感じるなんとなく後ろめたい気持ちは、これからは持つ必要はなさそうである。■参考文献はこちら1)Meinert CL, et al. Diabetes. 1970;19:Suppl:789-830.2)Vaccaro O, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5:887-897.3)Suissa S, et al. Diabetes Care. 2012;35:2665-2673.4)Azoulay L, et al. Diabetes Care. 2017;40:706-714.5)Suissa S. Diabetes Care. 2018;41:6-10.6)Suissa S, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2017;26:459-468.7)Marso SP, et al. N Engl J Med. 2017;377:723-732.

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