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ブロークンハート症候群による死者数は依然として多い

 「ブロークンハート症候群」と聞くと、深い喪失感から心が打ちひしがれるといったロマンチックなおとぎ話をイメージするかもしれない。しかし、正式には「たこつぼ型心筋症(Takotsubo cardiomyopathy;TC)」と呼ばれるこの疾患は、高い死亡率や合併症の発生率に関連しており、こうした状況は改善していないことが、米アリゾナ大学サーバー心臓センター臨床教授のMohammad Reza Movahed氏らによる研究で示された。詳細は、「Journal of the American Heart Association」に5月14日掲載された。 TCは、大切な存在との死別や離婚などの精神的あるいは肉体的にストレスフルな出来事がきっかけでストレスホルモンの分泌量が急増し、それに対する反応として発症すると考えられている。研究グループによると、TCでは心臓の一部が一時的に肥大してポンプ機能が十分に働かなくなるため、短期的な心不全や心臓に関連した死亡のリスクが高まるという。 Movahed氏らは今回、全米の病院の医療記録を用いて、2016年から2020年にTCにより入院した18歳以上の患者の死亡率と合併症について調べた。 その結果、この期間に19万9,890人がTCにより入院していたと推定された。発症時の平均年齢は67.09歳で、83%が女性であった。TCの発症率は61歳以上の人で最も高く、また46~60歳の人では31~45歳の人と比べて3倍もリスクが高かった。診断件数が継続的に増加している傾向は見られなかったが、全体的には2016年の3万9,015例から2020年には4万1,290例に増加していた。 TCの主な合併症のうち発生頻度が高かったのは、うっ血性心不全(35.93%)、心房細動(20.79%)、心原性ショック(6.66%)、脳卒中(5.38%)、心停止(3.42%)であった。また、TCのない患者と比べて、TC患者では合併症発生のオッズが、心原性ショックで12.71倍、心停止で4.79倍、心不全で3.52倍、脳卒中で2倍、心房細動で1.43倍高いことも示された。 死亡率については、TCがない患者の2.41%に対してTC患者では6.58%と約3倍高かった。さらに、TC患者は女性が大多数を占めるものの、この疾患は特に男性に重い負担を強いており、TCによる死亡率は、女性が5.5%であるのに対し男性では11.2%と女性の2倍以上であることが示された。 Movahed氏は、「TCによる死亡率は比較的高く、5年間の研究期間中に有意な変化はなかった。また、院内合併症の発生率も高かった。これらの結果にはわれわれも驚いた。死亡率が高い状態が続いていることは気がかりであり、より良い治療法と新たな治療アプローチを明らかにするため、さらなる研究を行う必要がある」と米国心臓協会(AHA)のニュースリリースの中で述べている。

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多疾患併存はうつ病リスクを高める?

 慢性疾患との闘いは人を疲弊させ、うつ病になりやすくするようだ。新たな研究で、長期にわたり複数の慢性疾患を抱えている状態(多疾患併存)は、うつ病リスクの上昇と関連することが明らかにされた。リスクの大きさは慢性疾患の組み合わせにより異なり、一部の組み合わせでは特にリスクが高くなることも示されたという。英エディンバラ大学一般診療学分野教授のBruce Guthrie氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に5月13日掲載された。 Guthrie氏らは、UKバイオバンク研究参加者のうち、ベースライン時に1つ以上の慢性疾患を有していた37〜73歳の成人14万2,005人のデータを、69種類の慢性疾患の有無に基づき分類した。次いで、4種類のクラスタリング手法を比較検討し、最適と判断されたモデルを選定した。その後、ベースライン時にうつ病の既往のなかった14万1,011人(うち3万551人はベースライン時に身体疾患のなかった対照)を対象に、多疾患併存の特徴による分類(クラスター)ごとに、その後のうつ病発症との関連を比較検討した。 平均6.8年に及ぶ追跡期間中に、5,904人(4.2%)がうつ病を発症していた。心疾患や糖尿病などの心代謝疾患を多く含むクラスターは全対象者に占める割合が特に高く、全体の15.5%、女性では19.7%、男性では24.2%に上った。うつ病発症のハザード比は、加齢黄斑変性・糖尿病での1.29から、極めて多岐にわたる慢性疾患での2.42(女性2.67、男性2.65)までの範囲であり、ほとんどのクラスターで身体疾患のない人と比べて高かった。対象者全体で顕著なリスク上昇が見られたのは、片頭痛(同1.96)、呼吸器疾患(同1.95)、心血管疾患・糖尿病(同1.78)などであった。男女別で分けて見ると、セリアック病などの消化器疾患は男女の双方で(男性:同2.06、女性:同1.83)、心血管疾患・慢性腎臓病・痛風は男性において(同1.87)うつ病リスクを大幅に上昇させていた。一方、女性では、関節や骨の健康問題がうつ病リスクを大幅に上昇させていた(同1.81)。 Guthrie氏は、「医療では身体的健康と精神的健康を全く別のものとして扱うことが多いが、この研究は、身体疾患を持つ人におけるうつ病の発症をより適切に予測し、管理する必要があることを示している」と述べている。 一方、論文の筆頭著者であるエディンバラ大学のLauren DeLong氏は、「身体的健康状態とうつ病の発症の間には明確な関連が見られたが、この研究はまだ始まりに過ぎない。本研究結果が他の研究者にも刺激を与え、身体的健康状態と精神的健康状態の関連性を調査・解明するきっかけになることを期待する」と述べている。

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降圧薬で腎臓がんリスク上昇、薬剤による違いは?

 降圧薬が腎臓がんのリスク上昇と関連するというエビデンスが出てきている。さらに降圧薬の降圧作用とは関係なく腎臓がんリスクを上昇させる可能性が示唆されているが、腎臓がんの危険因子である高血圧と降圧薬の腎臓がんへの影響を切り離して評価したエビデンスは限られている。今回、米国・スタンフォード大学医療センターのMinji Jung氏らのメタ解析で、降圧薬と腎臓がんリスクが高血圧とは関係なく関連を示し、そのリスクはCa拮抗薬において最も高いことが示唆された。BMC Cancer誌2025年6月6日号に掲載。 本研究では、2025年1月までの降圧薬使用と腎臓がんとの関連を調査した観察研究を検索した。高血圧とは独立した降圧薬の影響を明らかにするため、高血圧を考慮した群と考慮しない群で層別解析を実施した。ロバスト分散推定を用いたランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、統合相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・39研究が適格研究とされた。・高血圧を考慮した推定値に基づいた場合、降圧薬は腎臓がんリスク上昇と関連していた。・高血圧を考慮した場合の降圧薬のクラス別のRR(95%CI)は、ARBが1.15(1.00~1.31)、β遮断薬が1.09(1.03~1.16)、Ca拮抗薬が1.40(1.12~1.75)、利尿薬が1.36(1.20~1.55)と、腎臓がんリスク上昇と関連し、Ca拮抗薬が最もリスクが高かった。ACE阻害薬は1.19(0.93~1.52)と有意な関連は認められなかった。

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うつ病予防に対するカフェインの作用メカニズム

 疫学研究において、カフェイン摂取はうつ病と逆相関しており、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。中国・重慶医学大学のWentao Wu氏らは、うつ病と腸内細菌叢との関連に着目し、予防的なカフェイン摂取が腸脳軸に作用することでうつ病発症に影響を及ぼすかを調査するため、本研究を実施した。European Journal of Pharmacology誌2025年8月5日号の報告。 オスC57BL/6Jマウスを対照群、慢性予測不能ストレス(CUS)を負荷した群(CUS群)、カフェイン(CAF)を腹腔内投与後、CUSを負荷した群(CAF群)にランダムに割り付けた。うつ病様行動および不安様行動を評価し、腸脳軸関連分子を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較し、CUS群は、体重、スクロール嗜好、中心距離(%)が有意に低く、不動時間が長かった。しかし、対照群とCAF群では、これらの指標に差は認められなかった。・CUS群で有意な減少がみられた腸管バリア完全性関連因子(ZO-1、claudin-1、MUC2)は、CAF群では認められなかった。また、CUS群で認められた2つの血漿中炎症因子(LPS、NLRP3)の変動、4つの海馬中炎症関連因子(TNF-α、IL-1β、AC、BDNF)の変動は、CAF群では認められなかった。・対照群とCUS群との間で6つの分化遺伝子が同定されたが、対照群とCAF群との間では同定されず、これら6つの鑑別疾患のうち、5つとスクロール嗜好との有意な相関が確認された。 著者らは「これらの結果は、早期カフェイン介入が、腸内細菌叢、腸管バリアの完全性、神経炎症を調節することで、うつ病予防につながる可能性を示唆している」と結論付けている。

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術前化療後の乳房温存術、断端陽性で再発リスク3倍~日本人1,813例での研究

 術前化学療法後に乳房温存療法(乳房温存手術および放射線療法)を受けた乳がん患者において、切除断端陽性例では温存乳房内再発リスクが3.1倍であったことが、1,813例を対象にした日本の多施設共同後ろ向き研究で示された。大阪はびきの医療センターの石飛 真人氏らがBreast Cancer誌オンライン版2025年6月9日号で発表した。 本研究の対象は、新たにStageI~III乳がんと診断され、術前化学療法後に乳房温存療法を受けた1,813例で、切除断端の状態が温存乳房内再発に与える影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値8.0年(範囲:0.1~17.0)において、8年温存乳房内無再発生存率は95.9%であった。切除断端陽性例(87.6%)は陰性例(96.2%)と比べて有意に低かった(p=0.010)。・多変量解析では、切除断端の状態が温存乳房内無再発生存率と有意に関連することが示された(ハザード比:3.1、95%信頼区間:1.3~7.2、p=0.0081)。 今回の結果は、術前化学療法を受けずに最初から手術を行った症例での結果と一致する結果であった。

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MGHでのフェローシップを終えて、日本のカテーテル治療の強みと米国の医療システム 【臨床留学通信 from Boston】第12回

MGHでのフェローシップを終えて、日本のカテーテル治療の強みと米国の医療システム早いもので、マサチューセッツ総合病院(MGH)でのフェローとしての仕事も終わりに近づいています。世界トップランクといわれるMGHの循環器カテーテル室で働けたことは非常に光栄な経験でした。同時に、日本でのインターベンションのレベルが米国のトップの病院にも引けを取らないことを再確認し、これまで培ってきた技術と経験にさらなる自信を持つことができました。米国の医療システムは、レジデント、フェロー、アテンディングが目まぐるしく変わるため、一人の医者が一人の患者さんを継続して診る日本のシステムとは大きく異なります。これにより人為的ミスが発生しやすい傾向にありますが、MGHはニューヨークの病院と比較して、それぞれのカバー範囲を柔軟に広げることで、漏れなくミスを減らす仕組みが機能していると感じました。もちろん、心臓移植やLVAD(左心補助人工心臓)などを含む高度な治療においては、日本が真似しにくい部分があるのも事実です。しかし、カテーテルを用いた患者さんへの医療という点では、日本がかなり最先端をいっていると認識できました。ただ、11ヵ月を過ぎると正直なところ、かなり疲弊したのも事実です。午前7時前に患者さんを診察し始め、カテーテル室につきっきりで6~8時頃まで働き、月曜から木曜までの平日で週に一度のオンコール、そして金曜夜から月曜朝までをセットにした週末コールが月に1度ありました。フェローの間はオンコールで呼ばれてもインセンティブがないため、アテンディングとの間で緊急対応への「温度差」を感じることもありました。しかし、日本循環器学会1)や日本心血管カテーテル治療学会2)が提言しているように、循環器内科医のなり手不足は国民的危機であり、外科治療などを含めた緊急治療に対するインセンティブは必要不可欠でしょう。QOLを犠牲にして給料が変わらないのであれば、なり手が減る一方だと考えます。一方で、米国では内科の中でも循環器科、とくに心血管カテーテル分野は最も人気で競争率が高く、誰もがなれるわけではありません。米国では、循環器や心血管フェローに進める人数に制限を設け、人気の科への参入をコントロールしています。なぜこれほど忙しいにもかかわらず人気があるのかというと、給料に差があるからです。「病院が儲かればいい」という米国的な考え方だといわれるかもしれませんが、そうではなく、緊急治療の価値をより高く評価し、そこに税金を投入すべきだと私は考えます。また日本においても、名ばかりの専門医ではなく、多少複雑になっても専門医の診察によって報酬が増えるような、より価値を置いた制度になってほしいと願います。話がやや脱線しましたが、高い競争率の中、MGHで働けたことは大変光栄なことでした。この11ヵ月で冠動脈カテーテル治療を300件、そのほかに下肢末梢血管、TAVI/PFO、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、腎デナベーションなどのカテーテル治療を含めると約350件を経験しました。正直なところ、心臓カテーテル治療よりもほかのカテーテル治療に重点を置きたかったのですが、メインは冠動脈治療であったため、そこは致し方ありません。7月からはBeth Israel Deaconess Medical Center/Harvard Medical Schoolでの最後のフェローとしての1年をエンジョイしたいと思います。 1) 日本循環器学会. 国民の皆様へ:『循環器医不足が深刻な状況です』 2) 時事メディカル. 循環器内科医の減少に危機感~学会提言「経済的インセンティブ整備を」~ Column日本では初期研修医の卒業式はありますが、米国ではフェロー(後期研修医)の修了時にもセレモニーがあります。厳格なマッチングプロセスを経て選ばれ、あらかじめ定められた研修期間を終えるフェローには、修了証が授与されます。こちらの写真は、先日のMGHのフェローの卒業式です。会場となったのは近隣のホテルで、ディナーが用意され、フェロー一人ひとりがスライドで紹介される形式でした。フェローシップのプログラムディレクターは、米国心臓病学会(ACC)の元プレジデントのDouglas Drachman先生です。彼には面接で採用していただいただけでなく、この1年間大変お世話になりました。いつかまたMGHで働く機会があれば、ぜひ彼と一緒に仕事がしたいと願っています。画像を拡大する

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軽症の免疫チェックポイント阻害薬関連肺臓炎へのステロイド、3週vs.6週(PROTECT)/ASCO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が広く使用されるようになり、免疫関連有害事象(irAE)マネジメントの重要性が高まっている。irAEのなかで比較的多いものの1つに、薬剤性肺障害(免疫関連肺臓炎)がある。免疫関連肺臓炎の治療としては、一般的にステロイドが用いられるが、適切な治療期間は明らかになっていない。そこで、免疫関連肺臓炎に対するステロイド治療の期間を検討する無作為化比較試験「PROTECT試験」が本邦で実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、藤本 大智氏(兵庫医科大学)が本試験の結果を報告した。本試験において、ステロイド治療期間を3週間とする治療レジメンは、6週間の治療レジメンに対する非劣性が示されなかった。 軽症の免疫関連肺臓炎に対する治療について、各種ガイドラインに記載されているステロイド治療期間は無作為化比較試験によって評価されたものではなく、専門家の意見により4~6週間と設定されている。また、軽症の免疫関連肺臓炎は死亡率が低く、長期のステロイド治療はICIの効果を損なう可能性が考えられ、有害事象を増加させる懸念がある。そこで、PROTECT試験では、ステロイド治療期間を3週間に短縮することが可能であるか検討した。・試験デザイン:国内無作為化比較試験・対象:ICIを投与中または投与後に、Grade1/2の免疫関連肺臓炎(CTCAE第5版)が認められた患者・試験群(3週群):プレドニゾロンを3週間かけて漸減・中止 51例・対照群(6週群):プレドニゾロンを6週間かけて漸減・中止 55例(1例は解析から除外)・評価項目:[主要評価項目]治療成功割合(ステロイド治療開始から8週後までSpO2≧90%[room air]、かつステロイドの増量・延長が必要な免疫関連肺臓炎の悪化・再燃なし)[副次評価項目]ステロイド中止までの期間、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体として男性の割合が高く、3週群76%、6週群85%であった。喫煙歴のある患者も多く、過去喫煙または現喫煙の割合は、それぞれ88%、83%であった。PS0/1/2の割合は、それぞれ27%/65%/8%、20%/72%/7%であった。肺がんの割合は、それぞれ59%、56%であった。・主要評価項目の治療成功割合は、3週群66.7%、6週群85.2%であり、3週群の6週群に対する非劣性は検証されなかった(群間差:-18.5%、80%信頼区間[CI]:-29.0~-7.9、非劣性のp=0.629[非劣性マージン:-16%])。・試験全体期間中における肺臓炎の再燃または悪化割合は、3週群41.1%、6週群24.1%であり、3週群が多かった(p=0.046)。・ステロイド治療中止までの期間中央値は、3週群25日(95%CI:21~30)、6週群41日(同:41~42)であり、有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%CI:0.63~1.52)。3週群では肺臓炎の再燃や悪化により、ステロイドの再開や増量に至った患者が多く、両群の生存曲線は交差した。・OS中央値は両群共に未到達で、有意差はみられなかった(HR:1.03、95%CI:0.46~2.29)。・Grade3以上の有害事象の発現割合は、3週群12%、6週群24%であり、3週群のほうが少ない傾向にあった。ステロイドの中止や減量に至った有害事象、死亡に至った有害事象はいずれの群にも認められなかった。高血糖(35%vs.50%)、皮膚障害(2%vs.13%)は6週群に多い傾向にあった。・間質性肺疾患に関する簡易健康状態質問票「K-BILD(King’s Brief Intestinal Lung Disease)質問票」に基づくQOLは、3週群と比べて6週群のほうが良好な傾向にあった。 本結果について、藤本氏は「ガイドラインに採用されている6週間のステロイド治療レジメンは、エビデンスに基づく免疫関連肺臓炎に対する標準治療であることを支持するものである」とまとめた。

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PCI後DAPT例の維持療法、P2Y12阻害薬が主要有害心・脳血管イベント抑制に有効/BMJ

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終了した患者では、アスピリン単剤療法と比較してP2Y12阻害薬単剤療法(チカグレロルまたはクロピドグレル)は、大出血のリスク増加を伴わずに、心筋梗塞と脳卒中のリスク低下に基づく主要有害心・脳血管イベント(MACCE)の発生率の低下をもたらすことが、イタリア・University of CataniaのDaniele Giacoppo氏らによるメタ解析で明らかになった。研究の成果は、BMJ誌2025年6月4日号で報告された。5件の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、PCI施行後のDAPTを終了した患者におけるP2Y12阻害薬単剤療法とアスピリン単剤療法の有効性の比較を目的に、無作為化臨床試験の個々の参加者のデータを用いてメタ解析を行った(スイス・Cardiocentro Ticino Instituteなどの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、冠動脈疾患患者でPCI施行後の虚血性イベントの2次予防として、P2Y12阻害薬またはアスピリンの単剤療法について検討した無作為化試験を検索した。 主要アウトカムはMACCE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)とし、主要複合アウトカムとして大出血(BARC type 3または5)も評価した。副次アウトカムは有害心・脳血管イベントの複合(NACCE、主要アウトカムと主要複合アウトカムの組み合わせ、および個々のアウトカム[全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、definiteまたはprobableステント血栓症、消化管出血など])とした。 PCI施行後に、推奨されたDAPTレジメン(期間中央値12ヵ月)を終了した患者を、P2Y12阻害薬単剤療法またはアスピリン単剤療法に割り付けた5件(ASCET、CAPRIE、GLASSY、HOST-EXAM[韓国の37施設5,438例]、STOPDAPT-2[日本の90施設3,009例])の無作為化試験(合計1万6,117例)を解析の対象とした。治療必要数は45.5例 ベースラインの年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~73)、23.8%が女性、28.6%が糖尿病、14.6%が中等症~重症の慢性腎臓病を有していた。P2Y12阻害薬は、58.7%がクロピドグレル、41.3%がチカグレロルであった。また、患者の48.9%が欧州または北米の試験の参加者で、51.1%は東アジアの試験の参加者だった。 追跡期間中央値1,351日(IQR:373~1,791)の時点で、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群はMACCEのリスクが有意に低かった(混合効果モデルよる1段階解析のハザード比[HR]:0.77[95%信頼区間[CI]:0.67~0.89、p<0.001]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:0.77[0.67~0.89、p<0.001]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.77[0.67~0.89、p<0.001])。有益性を得るための治療必要数は45.5例(95%CI:31.4~93.6)だった。NACCEのリスクも有意に低い 大出血は両群間で有意な差を認めなかった(混合効果モデルよる1段階解析のHR:1.26[95%CI:0.78~2.04、p=0.35]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:1.12[0.74~1.70、p=0.60]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:1.15[0.69~1.92、p=0.59])。 また、NACCE(変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.84[95%CI:0.73~0.98]、p=0.03)、心筋梗塞(0.69[0.55~0.86]、p=0.001)、脳卒中(0.67[0.51~0.88]、p=0.003)は、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群で発生リスクが低かった。 著者は、「これらの結果は、複数の感度分析で確認され、P2Y12阻害薬単剤群の有効性は心筋梗塞と脳卒中の有意な減少に起因していた」「大出血と全出血は、両群間で有意差を認めなかったが、試験間で著明な異質性が検出された」としている。

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ESR1変異のER+/HER2-進行乳がん、vepdegestrant vs.フルベストラント(VERITAC-2)/NEJM

 既治療のエストロゲン受容体(ER)陽性・HER2陰性の進行乳がん患者において、フルベストラントと比較してvepdegestrant(ユビキチン・プロテアソーム系を利用した標的タンパク質分解誘導キメラ分子[PROTAC]、経口ER分解薬)は、全患者では無増悪生存期間(PFS)の改善を認めなかったものの、エストロゲン受容体遺伝子(ESR1)変異を有するサブグループではPFSの有意な延長が認められ、安全性プロファイルも良好であることが、フランス・Institut de Cancerologie de l'Ouest Angers-NantesのMario Campone氏らVERITAC-2 Study Groupが実施した「VERITAC-2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月31日号に掲載された。25ヵ国の非盲検無作為化第III相試験 VERITAC-2試験は、日本を含む25ヵ国213施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2023年3月~2024年10月に患者を登録した(PfizerとArvinasの助成を受けた)。 年齢18歳以上、外科的切除や放射線治療の適応がないER陽性、HER2陰性の局所・領域再発または転移を有する乳がんで、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬(CDK4/6阻害薬)療法1ライン+内分泌療法1ライン(1ラインの追加まで可)の治療歴のある患者を対象とした。 被験者を、vepdegestrant(200mg、28日を1サイクルとし、毎日1回)を経口投与する群、またはフルベストラント(500mg、1サイクル目は1および15日目、2サイクル目以降は1日目)を筋肉内注射する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目はPFSとし、ESR1変異を有する患者と全患者について、盲検下独立中央判定で評価した。OS中央値は両群とも未到達 624例を登録し、vepdegestrant群に313例、フルベストラント群に311例を割り付けた。全体の99.5%が女性で、年齢中央値は60.0歳であり、63.1%が臓器障害を伴う内臓転移を有し、全例が進行または転移を認める病変に対する治療を受けており、前治療ライン数は1が79.0%、2が20.4%であった。また、270例(43.3%)がESR1変異を有していた(vepdegestrant群136例、フルベストラント134例)。 ESR1変異例におけるPFS中央値は、フルベストラント群が2.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.9~3.5)であったのに対し、vepdegestrant群は5.0ヵ月(3.7~7.4)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.58[95%CI:0.43~0.78]、p<0.001)。 一方、全患者のPFS中央値は、vepdegestrant群が3.8ヵ月(95%CI:3.7~5.3)、フルベストラント群は3.6ヵ月(2.6~4.0)であり、両群間に有意な差を認めなかった(HR:0.83[95%CI:0.69~1.01]、p=0.07)。 全生存期間(OS)中央値は、両群とも未到達であった。また、盲検下独立中央判定によるESR1変異例の奏効率(完全奏効、部分奏効)は、vepdegestrant群18.6%、フルベストラント群4.0%であり、試験担当医師判定の値とほぼ一致していた。Grade3/4の有害事象23.4%、投与中止2.9% vepdegestrant群で頻度の高い有害事象は、疲労感(26.6%)、ALT値上昇(14.4%)、AST値上昇(14.4%)、悪心(13.5%)、貧血(12.2%)であり、ほとんどがGrade1または2であった。消化器関連有害事象の発現率は低かった。 Grade3/4の有害事象は、vepdegestrant群で23.4%、フルベストラント群で17.6%に発現し、このうち最も頻度が高かったのは、それぞれ好中球減少(1.9%)と低カリウム血症(1.9%)、および貧血(3.3%)とAST値上昇(2.6%)であった。担当医によって治療関連と判定された有害事象は、vepdegestrant群で56.7%、フルベストラント群で40.4%に発現し、このうちGrade3/4はそれぞれ7.7%および2.9%だった。 重篤な有害事象は、vepdegestrant群で10.3%、フルベストラント群で9.1%に発現した。有害事象による死亡は、vepdegestrant群で8例、フルベストラント群で2例にみられたが、担当医が治療関連と判定したものはなかった。また、QT延長を、それぞれ9.9%および1.3%に認めたが、臨床的続発症は発生しなかった。恒久的な投与中止に至った有害事象は、それぞれ2.9%および0.7%に発現した。 著者は、「本試験の知見は、現在、治療選択肢が限られているこれらの患者において、異なる作用機序と、良好な安全性プロファイルを有する新たな内分泌療法としてのvepdegestrantを支持するものである」としている。

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HER2+早期乳がん術前療法、de-escalation戦略3試験の統合解析結果/ASCO2025

 HER2陽性(HER2+)早期乳がんに対し、パクリタキセル+抗HER2抗体薬による12週の術前補助療法は有効性と忍容性に優れ、5年生存率も極めて良好であった。さらにStageI~IIの患者においては、ほかの臨床的・分子的因子を考慮したうえで、化学療法省略もしくは抗体薬物複合体(ADC)による治療を考慮できる可能性が示唆された。de-escalation戦略を検討したWest German Study Group(WSG)による3件の無作為化比較試験(ADAPT-HR-/HER2+試験、ADAPT-HR+/HER2+試験、TP-II試験)の統合解析結果を、ドイツ・ハンブルグ大学のMonika Karla Graeser氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。<各試験の概要>■ADAPT-HR-/HER2+試験(134例)遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(T+P群)、トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(T+P+pac群)に5:2の割合で無作為に割り付け■ADAPT-HR+/HER2+試験(375例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1群)、T-DM1+内分泌療法(T-DM1+ET群)、T+ET群に1:1:1の割合で無作為に割り付け■TP-II試験(207例)遠隔転移のないHR+/HER2+乳がん患者を対象に、12週間の術前補助療法としてT+P+ET群、T+P+pac群に1:1の割合で無作為に割り付け 主要評価項目はいずれも病理学的完全奏効(pCR)で、生存成績は副次評価項目であった。 主な結果は以下のとおり。・3つの試験から計713例のデータが集められ、術前全身化学療法あり(sCTx群)149例、術前全身化学療法なし/ADC(sCTx-free/ADC群)564例であった。・ベースラインの患者特性は、>50歳がsCTx群59.7%vs.sCTx-free/ADC群52.7%、StageI が74.5%vs.76.6%、HR+が71.8%vs.84.3%、cT2~4が56.4%vs.55.1%、cN1~3が28.2%vs.32.1%、Grade3が55.7%vs.74.3%であった。・術後pCR達成症例がsCTx群66.4%vs.sCTx-free/ADC群31.4%、術後化学療法ありが47.1%vs.88.4%であった。・追跡期間中央値60.7ヵ月における生存成績は以下のとおり。[5年無浸潤疾患生存(iDFS)率]sCTx群96.4%vs.sCTx-free/ADC群88.2%(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.29~1.08、p=0. 083)[5年全生存(OS)率]97.8%vs.96.8%(HR:0.88、95%CI:0.36~2.11、p=0.775)・pCR達成状況別にみた生存成績は以下のとおり。[5年iDFS率]-pCR例:sCTx群97.8%vs.sCTx-free/ADC群93.7%(HR:0.76、95%CI:0.27~2.12、p=0.609)-non-pCR例:93.3%vs.85.5%(HR:0.77、95%CI:0.31~1.94、p=0.587)[5年OS率]-pCR例:98.9%vs.98.7%(HR:1.10、95%CI:0.28~4.32、p=0.895)-non-pCR例:95.5%vs.95.8%(HR:1.49、95%CI:0.44~5.03、p=0.523)・iDFSと関連する臨床的因子を検討した多変量解析の結果、sCTx群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.14、p=0.013)、sCTx-free/ADC群ではpCR([vs.non- pCR]HR:0.51、p=0.026)、cN1([vs.cN0]HR:2.31、p<0.001)と有意に関連していた。・sCTx-free/ADC群における、pCR後の5年iDFS率に対する術後化学療法実施の有意なベネフィットは確認されなかった(5年iDFS率:術後化学療法あり94.0%vs.なし93.2%、HR:1.25、95%CI:0.39~4.00、p=0.712)。 Graeser氏は、化学療法を省略した術前補助療法群において、pCR達成例で良好な生存成績が得られたことは、さらなるde-escalation戦略検討の基盤となるとし、術前補助療法としてのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を評価する現在進行中のADAPT-HER2-IV試験への期待を示した。

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ミニストローク後に持続的な疲労感を経験する人は多い

 一過性脳虚血発作(TIA)を経験した人では、その後、最長で1年間にわたり疲労感が持続する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。オールボー大学病院(デンマーク)のBoris Modrau氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に5月14日掲載された。 TIAでは、脳への血流が一時的に途絶えるが、本格的な脳卒中のように永久的な脳障害には至らない。このため、TIAはしばしば「ミニストローク」とも呼ばれる。Modrau氏は、「TIAを発症すると、顔面や腕の筋力低下や麻痺、言語不明瞭などの症状が現れることがあるが、通常は24時間以内に回復する。しかし、生活の質(QOL)の低下、思考障害、抑うつ、不安、疲労感などの問題となる症状が持続していることを報告する人もいる」と話す。 Modrau氏らは今回、TIAと診断された患者のうち、ベースライン時(退院の14日後)に疲労感の評価を受けた287人(平均年齢70.0歳、女性42.5%)を対象に、TIA患者における疲労感の推移とその予測因子について検討した。疲労感は、ベースライン時と退院の3、6、12カ月後にMultidimensional Fatigue Inventory(MFI-20)とFatigue Severity Scale(FSS)により評価した。MFI-20は、全般的疲労感、身体的疲労感、活動性の低下、意欲の低下、精神的疲労感の5つの尺度で構成される自記式の疲労感評価尺度である。 その結果、MFI-20で評価した全般的疲労感のスコアの平均値は、ベースライン時で12.3点、退院の3カ月後で11.9点、6カ月後で11.4点、12カ月後で11.1点であった。また、病的疲労感(MFI-20の全般的疲労感スコアが12点以上)が認められた対象者の割合は、それぞれ61.3%、53.5%、54.0%、53.8%であり、退院から12カ月が経過しても半数以上が病的な疲労感を報告していたことが明らかになった。 脳画像検査の結果からは、疲労感のある患者とない患者の間で急性梗塞の有病率は同程度であった。しかし、持続的な疲労感のある人ではない人に比べて、TIA発症前の不安やうつ病の出現頻度が2倍高かった。さらに、疲労感を予測する上では、ベースライン時の疲労感レベルが最も強い予測因子であることも示された。 Modrau氏は、「われわれの研究参加者のうち、退院後2週間以内に疲労感を感じていた人の多くで、最長で1年間にわたり疲労感が持続する可能性の高いことが分かった」と述べている。 さらにModrau氏は、「今後の研究では、TIAと診断された患者を数週間から数カ月にわたって追跡調査し、持続する疲労感の有無を評価する必要がある。これにより、長期的な疲労感に苦しみ、さらなるケアが必要となる可能性のある患者をより深く理解できる可能性がある」と話している。

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昭和医科大学 腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

堀池 篤 氏(教授)大熊 遼太朗 氏(講師)村 英美子 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴昭和医科大学腫瘍内科は、肺がんや消化器がんはもちろん、軟部肉腫や原発不明がんといった希少がんも含め、あらゆる固形がんの治療を担う国内有数の腫瘍内科講座です。最新の薬物療法に加え、患者さんに寄り添う緩和ケア・支持療法にも力を注いでいます。腸内細菌やバイオマーカーを用いた独自の臨床研究や、医師主導治験を企画・実施するなど、学際的な活動も精力的に行っています。生成AIの活用により、診療・研究の質と効率の向上を図るとともに、週休3日制や夏季2週間の休暇など、働きやすさにも配慮した環境を整備しています。日々の診療から教育・研究へとつなげる体制を構築し、がん医療のさらなる発展に貢献しています。医師の育成方針私たちは、「がんを診る」総合診療医、そして臨床に根ざした研究者の育成を目指しています。入局1年目から主治医として診療に携わり、患者さんと向き合う中で実践力を養っていただきます。カンファレンスやCancer Boardにも主体的に参加し、若手のうちから診療の中心を担える環境が整っています。がん薬物療法専門医や総合内科専門医の取得に加え、大学院進学や海外留学など、それぞれの希望に応じた幅広いキャリア形成にも対応しています。多様な価値観や働き方を尊重し、ライフワークバランスにも配慮した体制のもと、安心してキャリアを築ける環境を整えています。がん医療に誠実に、前向きに取り組みたい方を、私たちは心より歓迎します。力を入れている治療/研究テーマ昭和医科大学腫瘍内科では、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に関する研究を中心に、がん免疫のメカニズム解明や、治療効果を予測するバイオマーカーの探索、さらに新規免疫療法の開発に取り組んでいます。2022~24年にかけてフランスに留学し、子宮頸がんや悪性黒色腫を対象としたトランスレーショナル研究を遂行した経験も活かし、国内外で通用する研究の実施を目指しています。大学院進学や海外留学など、個々のキャリアに応じた柔軟な研究支援体制が整っています。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力腫瘍内科は、臓器横断的に固形がん全般の薬物療法を担う、がん診療の中核的存在です。周術期から進行・再発症例まで幅広く関わり、生命予後を延ばすだけでなく、患者さんが元気に過ごす時間や大切な人と過ごす時間を支えることを重視しています。昭和医科大学は4つの大学病院を有し、多くのがん腫・希少がんに触れられる豊富な症例経験に加え、がん診療に関する情報を統括することにより、臨床データを活用した研究活動にも積極的に関わることができる環境が整っています。診療と研究の両方をバランス良く学べる環境で、腫瘍内科医としての専門性を着実に高めることが可能です。医学生/初期研修医へのメッセージ腫瘍内科では、専門的な知識とともに人間性も求められる場面が多く、緩和ケアから看取りまで患者さんと深く向き合えるのが特徴です。医局内は風通しがよく、若手の意見を歓迎する文化が根付いており、丁寧な指導と柔軟なキャリア支援が受けられる点も魅力です。腫瘍内科医を目指す先生方と出会える日を楽しみにしています。これまでの経歴都内の高校を卒業後、山形大学に進学し、3年生の実習で腫瘍内科の存在を知りました。もともとがん診療や総合内科に興味があった私にとって、臓器の垣根を越えてStageIVの患者さんたちに真剣に向き合う先生方の姿は非常に印象的でした。腫瘍内科のある病院で初期研修をしようと思い、卒後は地元の昭和医科大学病院に就職しました。同医局を選んだ理由カンファレンスで若手の先生方が活躍しているのを見て、風通しの良い医局だと思いました。出身大学もさまざまで、これまでの経歴も人それぞれで多様性があるため、いろいろなロールモデルがあって魅力的に感じました。また、それほど大所帯ではないので指導医や症例を独り占めできる環境です。学びやすい環境は人それぞれですが、私にはそういった環境が合っていると思い入局を決めました。実際、2年間の研修で患者さんの治療方針の決定、副作用のマネジメント、病状説明や終末期のケアなど、非常に多くの経験を積むことができました。現在学んでいること現在は内科専門研修の一環として、連携施設での研修を行っています。通常は医局の指定した連携施設に行くことがほとんどですが、昭和医科大学病院腫瘍内科では自分の学びたい施設・診療科を自由に選ぶことができます。私はこの機会に以前から興味のあった緩和ケアと総合診療を学びたいと思い、茨城の市中病院で研修をしています。こういった自由が利くところもこの医局の良いところです。ご興味のある方はぜひ見学にいらしてください!昭和医科大学 腫瘍内科住所〒142-8666 東京都品川区旗の台1-5-8問い合わせ先reikosawa@cnt.showa-u.ac.jp医局ホームページ昭和医科大学病院 腫瘍内科腫瘍内科プライベートサイト専門医取得実績のある学会日本内科学会(内科専門医)日本臨床腫瘍学会(がん薬物療法専門医)研修プログラムの特徴(1)臓器横断的ながん診療と専門医資格の取得あらゆる固形がんに対する薬物療法を主軸とし、幅広いがん診療のスキルが習得できますがん薬物療法専門医の取得に必要な症例を、当院だけで網羅的に経験可能経験豊富な専門医・指導医による丁寧なサポートのもと、専門医取得を着実に目指せます(2)活発なトランスレーショナルリサーチと学位取得企業治験に加え、大学主導の医師主導治験にも積極的に取り組んでいます昭和医科大学臨床薬理研究所と連携し、臨床と基礎をつなぐ研究活動が可能な環境です大学院進学による学位取得のためのサポート体制も充実しています(3)出身や経歴を問わないオープンな職場環境昭和医科大学の中でも最も新しい科の1つであり、学閥のない自由な雰囲気です初期研修後はもちろん、他科で専門医取得後の入局実績も豊富で、多様なキャリアに柔軟に対応しています

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副作用編:悪心(抗がん剤治療中の食欲不振対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第1回

抗がん剤治療中に悪心を生じた患者さんが、食欲不振などを主訴に紹介元であるかかりつけ医を受診する、というのはときに経験されるかと思います。今回は、診察の際に有用な抗がん剤治療中の悪心の鑑別のポイントや患者さんへの対応について紹介します。症例78歳、女性主訴食欲不振病歴1ヵ月前より進行胃がん(StageIV)に対して大学病院で緩和的化学療法が開始された。数日前から悪心が強く、1日の食事摂取量が半分程度となり、食欲不振を主訴にかかりつけ医(クリニック)を受診。ステップ1 悪心・嘔吐の原因は?がん患者の悪心の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、「抗がん剤のせいかも?」とすぐに考えてしまいがちですが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)CINV:Chemotherapy Induced Nausea and Vomiting薬物療法に起因する悪心は患者が最も苦痛と感じる代表的な副作用の1つです。軽度の悪心でも食欲不振につながり、QOLは著しく低下します。悪心・嘔吐の発現時期や状態により以下の定義があり、機序や背景を考慮した制吐療法が行われます。最近はガイドライン1)に沿ってリスクに応じた予防薬や頓服の制吐薬を処方されていることが多くなっています。画像を拡大する(2)腫瘍に起因する悪心腫瘍の局所進展による消化管閉塞(腹膜播種など)、幽門狭窄、胆汁逆流なども悪心・嘔吐の原因となります。これらは機械的刺激により胃内容物の排出障害を来し、食後悪心や胆汁性嘔吐を呈することがあります。とくに胃がんでは胃壁内伸展などによる胃の拡張不良を引き起こすことで、悪心・嘔吐を呈することがあります。鑑別にあたり、嘔吐の有無や吐物の性状、排便排ガスの有無が重要な所見となります。(3)電解質異常による悪心がん患者では、腫瘍随伴症候群、化学療法、脱水、腎機能障害などにより電解質異常を来しやすく、中枢性あるいは消化器機能の異常を介して悪心・嘔吐を引き起こすこともあります。とくに高Ca血症はがん患者の最大15~20%に認められる重要な腫瘍随伴症候群であり、しばしば「原因不明の悪心」の背景に潜んでいます2-4)。血清Ca値が11.0mg/dLを超えると症状が出やすくなり、13~14mg/dL以上では悪心、意識障害、脱水などの症候が顕著となります。画像を拡大する(4)中枢性要因(脳転移・頭蓋内圧亢進)による悪心がん患者における悪心の中で、中枢神経系の病変によるものは見逃されやすいものの、迅速な対応が必要な病態です。とくに、脳転移や髄膜播種は頭蓋内圧亢進や嘔吐中枢の直接刺激を介して、持続性の悪心や突発的な嘔吐を引き起こします。悪心以外にも頭痛やめまい、痺れや麻痺などの神経症状が伴うことがあり問診や身体診察が重要となります。ステップ2 評価ポイントは?前述のように、さまざまな要因が悪心・嘔吐の原因となります。クリニックなどの限られた検査環境では精緻な診断を行うことは難しいと思います。「これ!」といった正解はありませんが、私は以下のポイントで診察しています。画像を拡大するステップ3 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「つらいけど内服の抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談がある場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも「食事が半分以上食べられない場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関(大学病院や高次医療機関)へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただければ助かります。悪心に伴う食欲不振に対して輸液や制吐薬を投与してもよいか?軽度の悪心・食欲不振であれば輸液やメトクロプラミドの投与での支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の悪心のみでも十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため治療機関へご紹介ください。また、輸液を実施する場合、翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。最後に患者さんの心理として、軽い症状で治療機関を受診することはハードルが高いと感じる方が多くいらっしゃいます。要因としては自宅から治療施設への移動距離や長い待ち時間があると思います(主治医に相談しにくいなどもあるかもしれませんが…)。今後、高齢化が進むことで交通手段が限られる患者さんが増え、抗がん剤治療も地域との連携が不可欠になってきます。当院においても地域のクリニックと医療連携を実施して軽症の副作用対応を実施いただくことで、うまく治療を継続できた症例やスムーズな緩和ケア移行に繋がるケースも少しずつ増えてきました。そのため、がん治療医である私達も詳細な診療情報の提供や綿密な医療連携を心がけています。かかりつけ医の先生にサポートしていただける「安心感」は闘病中のがん患者さんにとって大きな支えになります。抗がん剤の副作用症状を訴える患者さんの受診時にこのコラムが少しでも参考になれば幸いです。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版. 2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.

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「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

 近年新規薬剤の発売が相次ぐアトピー性皮膚炎について、2024年10月に3年ぶりの改訂版となる「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」が発表された。外用薬のホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬ジファミラスト、注射薬の抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブおよび抗IL-13受容体抗体トラロキヌマブ、経口JAK阻害薬ウパダシチニブおよびアブロシチニブの5剤が、今版で新たに掲載されている。ガイドライン策定委員会メンバーである常深 祐一郎氏(埼玉医科大学皮膚科)に、新薬5剤を含めた治療アルゴリズムの考え方について話を聞いた。いかに寛解導入に持っていくか、アトピー治療のPDCAサイクルの回し方 前版である2021年版のガイドラインで、治療アルゴリズムの骨格が大きく変更された。全身療法(注射薬と経口薬)の位置付けについて、寛解維持療法の選択肢に一部が加えられたほか、使用対象がその前の2018年版アルゴリズムの「重症・最重症・難治性状態」から「中等症以上の難治状態」に変更されている。そして各段階で「寛解導入できたか」という問いが加えられ、そのyes/noに応じて治療のPDCAサイクルを回していく構成となっている。この背景には、使用できる薬剤が増えたことが何よりも大きいと常深氏は話し、PDCAサイクルを回してこれらの薬剤を活用し、必ず寛解導入すること(Treat to Target)が重要とした。 アルゴリズムでは診断と重症度評価に続いて、「疾患と治療の目標(ゴール)の説明・共有」を行うことが推奨されており、末尾の“共有”という言葉が2024年版で追記された。常深氏は「説明は医療者から患者さんへの一方的なものだが共有は違う。この言葉が入ったことにはとても大きな意味があり、“とりあえず治療を始めてみましょう”ではなく“どんな状態をゴールとして目指すか”を共有したうえで治療をスタートしてほしい」とこの言葉の意図を説明した。寛解導入のメインはまず“ステロイドの適切な使用”で変わりない ジファミラストを含む非ステロイド系外用薬の選択肢が増えている。寛解導入での位置付けについて常深氏は「軽い皮疹の場合に非ステロイド系で寛解導入もありうるが、メインはやはりステロイド系外用薬」と話し、ランクの選択を含めてステロイドをどう適切に使えるかが非常に重要とした。「顔だから、年齢が低いからという理由で皮疹の重症度に見合わない弱いランクを選んでしまうケースがみられるが、重症度評価に応じたランクのステロイドを自信をもって選択してほしい」とし、落ち着いたらランクを下げるもしくは非ステロイド系に切り替えるといった使い方が望ましいと話した。  一方、ステロイド系外用薬は局所的な副作用が出るなど長期使用には向かないため、寛解維持の外用療法のメインとしては非ステロイド系外用薬が適しているが、常深氏は「非ステロイド系外用薬のなかでどの薬剤をどのタイミングで行うとよいかは明確になっていない」とし、「患者さんごとに使ってみて使いやすいものを選ぶといった考え方もよいのではないか」と柔軟な対応を提案した。全身療法の使いどころ、使い分けは? 全身療法は中等症以上の多くのアトピー性皮膚炎患者に対して推奨されており、「決してしきいの高いもの・最後の切り札ではない」と常深氏。「必ずしもとことん外用療法をやりきってから全身療法という考え方ではなく、患者さんが外用療法に疲れてしまったり時間をかけてQOLが下がってしまったりという状況になる前に、使用ガイダンスで示された条件を満たしたうえで1,2)早めに全身療法に切り替えるのも1つの選択肢」と私見を交えて解説した。 注射薬である抗体製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ、ガイドライン改訂後に登場したレブリキズマブ)の特徴として、常深氏は、投与前後の検査不要で安全性が高いこと、幅広い患者に有効性があることを挙げた。それに対して経口JAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)は、使用ガイダンス2)に示されるように投与後も画像を含めた検査が必要であり、効き始めは早いがレスポンダーとノンレスポンダーが分かれる傾向があるという。「経口がやはり楽という患者さんもいるし、数週間おきの注射のほうがむしろ楽という患者さんもいる」とし、上記の特徴も踏まえた選択が重要と話した。 抗体製剤やJAK阻害薬には治療費の問題がある。同氏は治療費がハードルになるケースでは、従来からの全身療法薬であるシクロスポリンをしっかりと使っていくことも大事と指摘。「悪くなりかけた際にシクロスポリンを使うという使い方で、短期の使用であれば副作用の可能性も低い」とした。アトピーはいまや“すごくよくなる”疾患、患者も医療者もイメージを変えていく必要 アトピー性皮膚炎には以前から“なかなか治らない疾患”というイメージが根強くあり、そもそも医療機関にかかっていない患者も多い。しかし有効な薬剤が複数登場し、適切な治療により、アルゴリズムで治療のゴールとして示された「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」状況を実現することができるようになっている。  常深氏は、医師を含む医療者が“アトピーは外用薬しかない”、あるいは“改善の難しい疾患だからあまりよくならなくても仕方がない”と思っていたらそこで治療は止まってしまうとし、「抗体製剤使用のハードルは決して高くなく、要件を満たせば1)クリニックでも使用できる。また自院で使用しなくても、必要性を感じた場合は専門医に積極的につないでほしい」と話した。

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統合失調症に対するコリン作動薬の有用性~RCTメタ解析

 統合失調症患者の3人に1人は、副作用や限られた有効性のため、従来の抗精神病薬による治療反応が不十分である。ムスカリン受容体とニコチン受容体を標的とし、統合失調症の病態生理に関連するコリン作動薬の機能不全を活用した、新たな治療法が注目されている。インド・All India Institute of Medical SciencesのAmiya Shaju氏らは、統合失調症に対するコリン作動薬の有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を実施した。The British Journal of Psychiatry誌オンライン版2025年5月2日号の報告。 MEDLINE/PubMed、Embase、Scopus、Cochraneのデータベースおよびレジストリから得られた臨床試験データをレビュー担当者が抽出した。研究の質は、バイアスリスクツールとランダム効果モデルによるエフェクトサイズの推定により評価した。PRISMAガイドラインに従い、必要に応じてサブグループ解析、メタ回帰分析、感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・30件のRCT(3,128例)において、コリン作動薬の単剤療法または併用療法の検討が行われていた。・コリン作動薬は、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の総スコアに有意な改善は認められなかったが(標準化平均差[SMD]:-0.38、95%信頼区間[CI]:-0.93~0.18、エビデンスの確実性:中)、陰性症状スコアの改善が認められた(SMD:-0.42、95%CI:-0.59~-0.25、エビデンスの確実性:中)。・ムスカリン作動薬は、PANSSの総スコア(SMD:-0.57、95%CI:-0.72~-0.42)、陽性症状スコア(SMD:-0.58、95%CI:-0.73~-0.43)、陰性症状スコア(SMD:-0.40、95%CI:-0.59~-0.21)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア(SMD:-0.48、95%CI:-0.65~-0.31)の改善を示した。・ニコチン作動薬は、PANSSの陰性症状スコア(SMD:-0.28、95%CI:-0.47~-0.09)およびCGI-Sスコア(SMD:-1.31、95%CI:-2.38~-0.24)の改善に寄与した。・有害事象の発生は、実薬群でより高かった(オッズ比:1.21、95%CI:0.94~1.56)。・多くの研究はバイアスリスクが低く、エビデンスの質は非常に低~中の範囲であった。 著者らは「コリン作動薬は陰性症状を改善し、ムスカリン作動薬は症状全体および重症度の改善に有効であり、安全性においてもプラセボと比較し、有害事象の大きな差は認められなかった」と結論付けている。

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閉経前HR+乳がんの術後補助療法、EXE+OFSとTAM+OFSの15年追跡結果(SOFT/TEXT)/ASCO2025

 閉経前のHR+早期乳がんにおいて、術後補助内分泌療法+卵巣機能抑制(OFS)による再発抑制の持続および再発リスクが高い患者における全生存期間(OS)の改善が、SOFT試験とTEXT試験ですでに報告されている。今回、これらの試験の最終報告として、SOFT試験(追跡期間中央値:15年)およびSOFT試験とTEXT試験の統合解析(同:16年)の結果について、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのPrudence A. Francis氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。<各試験の概要>■SOFT試験(登録期間:2003年11月~2011年1月、3,066例)閉経前のHR+乳がん患者を対象に、5年間の術後補助化学療法としてタモキシフェン(TAM)単独群、TAM+卵巣機能抑制(OFS)群、エキセメスタン(EXE)+OFS群に無作為に割り付け ■TEXT試験(登録期間:2003年11月~2011年4月、2,672例)閉経前のHR+乳がん患者を対象に、5年間の術後補助療法としてTAM+OFS群、EXE+OFS群に無作為に割り付け■TEXT試験とSOFT試験の統合解析(4,670例) TEXT試験とSOFT試験のEXE+OFS群とTAM+OFS群を統合して比較 主な結果は以下のとおり。■SOFT試験・浸潤性乳がん無発症期間(BCFI)は、TAM単独群に対するTAM+OFS群のハザード比(HR)が0.82(95%信頼区間[CI]:0.69~0.98)、EXE+OFS群では0.70(95%CI:0.58~0.84)だった。15年BCFI率は、TAM単独群に比べ、TAM+OFS群で3.7%高く、EXE+OFS群で6.5%高かった。 ・化学療法を受けていない低リスク患者における15年BCFI率は、TAM単独群(79.4%)に比べてTAM+OFS群(84.8%)、EXE+OFS群(87.8%)で改善した一方、15年無遠隔再発(DRFI)率は、TAM単独群(94.7%)、TAM+OFS群(94.7%)、EXE+OFS群(96.8%)でほぼ同様だった。 ・35歳未満で診断されたHER2-患者において、OFSを追加された群でBCFI(15年BCFI率:TAM単独群51.3%、TAM+OFS群64.1%、EXE+OFS群69.6%)、OS(15年OS率:TAM単独群68.1%、TAM+OFS群77.9%、EXE+OFS群82.5%)が大きく改善していた。■TEXT試験およびSOFT試験の統合解析(HER2-患者のみを解析)・EXE+OFS群のほうがTAM+OFS群より、DRFI(HR:0.75、95%CI:0.63~0.90)およびOS(HR:0.89、96%CI:0.74~1.06)ともに改善していた。 ・年齢別の解析では、40歳未満でEXE+OFS群とTAM+OFS群の差が大きかった。・腫瘍グレード別の解析では、15年BCFI率がグレード1/2の患者に比べてグレード3の患者で差が大きかった(EXE+OFS群73.1%、TAM+OFS群61.0%)。 この長期追跡の結果、内分泌療法にOFSを追加することで高い再発抑制効果が示され、その効果はEXE+OFSでより高かったが、OSにおける臨床的に意味のある改善は若年者や高グレードの高リスク患者に限られていた。35歳未満ではOFSの併用により再発を大幅に減少させ、持続的なOS延長につながることが示唆された。

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神経線維腫症1型の叢状神経線維腫、成人にもセルメチニブ有効/Lancet

 手術不能な症候性の叢状神経線維腫(PN)を有する神経線維腫症1型(NF1)の成人患者を対象とした初めての国際共同無作為化プラセボ対照試験において、セルメチニブはプラセボと比較して奏効率(ORR)が有意に高く、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。米国国立がん研究所のAlice P. Chen氏らKOMET study investigatorsが、13ヵ国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ポーランド、ロシア、スペイン、英国、米国)の33施設で実施した第III相国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「KOMET試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「さらに、16サイクル時までの腫瘍容積の減少、慢性疼痛および突出痛の軽減、鎮痛薬使用の減少、ならびに疼痛支障度の減少が示されており、PNを有する成人NF1患者の治療にセルメチニブは有効である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。ORRを主要エンドポイントにセルメチニブとプラセボを比較 研究グループは、測定可能で手術不能の症候性PNを1つ以上有する18歳以上のNF1患者を、セルメチニブ(1回25mg/m2)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、1日2回投与した。 28日を1サイクルとして、セルメチニブ群では中止基準を満たすまでまたは最終データカットオフ日まで投与を継続し、プラセボ群では12サイクル終了後または独立中央判定により放射線学的進行が確認された場合、セルメチニブへのクロスオーバーが許容された。両群とも、13サイクル目以降は非盲検下で投与が継続された。 主要エンドポイントは、16サイクル終了時のResponse Evaluation in Neurofibromatosis and Schwannomatosis(REiNS)基準に基づくvolumetric MRI評価を用いた盲検下独立中央判定によるORRであった。副次エンドポイントは、ベースラインの標的PNの慢性疼痛強度スコアが3以上の患者における、ベースラインから12サイクル終了時(約11ヵ月)までの慢性疼痛強度スコアの変化量、ならびに健康関連QOL(Plexiform Neurofibroma Quality of Life scale[PlexiQoL]総スコア)のベースラインから12サイクル時までの変化量とした。ORRは20%vs.5%、慢性疼痛強度スコアも臨床的に意義のある改善 2021年11月19日~2024年8月5日(主要解析のデータカットオフ日)に、登録された184例のうち145例がセルメチニブ群(71例)またはプラセボ群(74例)に無作為化され、試験薬の投与を受けた。 16サイクル終了時のORRは、セルメチニブ群20%(14/71例、95%信頼区間[CI]:11.2~30.9)であったのに対し、プラセボ群では5%(4/74例、1.5~13.3)であった(p=0.011)。セルメチニブ群の奏効までの期間中央値は3.7ヵ月と、速やかな効果の発現が観察された。 ベースラインの慢性疼痛強度スコアが3以上の患者において、ベースラインから12サイクル時までの慢性疼痛強度スコアの減少(最小二乗平均値±標準誤差)は、セルメチニブ群がプラセボ群と比べて大きく(-2.0±0.30[95%CI:-2.6~-1.4]vs.-1.3±0.29[-1.8~-0.7]、p=0.070)、有意差は認められなかったものの臨床的に意義のある改善が認められた。 PlexiQoL総スコアのベースラインから12サイクル時までの変化量は、セルメチニブ群とプラセボ群で有意差はなかった。 有害事象は、セルメチニブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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外国人がやってきた【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第7回

外国人がやってきたPoint自らの偏見を自覚しよう。医師である前に、人間であれ。家族の支援を上手に活かそう。外国人を迎える環境を整えよう。症例「先生、患者さんのトリアージをしてきたのですが…」と、看護師さんが険しい表情で報告に来た。何でも患者さんはブラジル出身の労働者らしく、まったく日本語が話せないという。職場の友人が付き添いに来ているが、その人の日本語も覚束ない。身振り手振りを交え、辛うじて頭痛が主訴であることを突き止めたとのことだった。それを聞いた研修医は、俄然燃えてきた。「ブラジルの人ならサッカーの話とか盛り上がるだろうな。ちょうどブラジル代表のユニフォームが手元にあるから着ていこう。そして、ブラジルといえばサンバ! 故郷の音楽で迎えればきっと喜ぶぞ。問題はポルトガル語だけど、翻訳アプリもあるし、まぁ何とかなるだろう」。準備万端で患者さんを診察室へ案内すると、面食らった様子を見せたのも束の間、すぐに悲壮な表情で何かを叫び出した。ど、どうしたんだ? 早速翻訳アプリを起動! えーっと、何々? 「片頭痛の私にどぎつい色を見せたり、騒音を聞かせたり。一体何の嫌がらせだ!」なるほどねぇ…。おさえておきたい基本のアプローチ法務省出入国在留管理庁の統計によると、2020年6月現在でわが国に居住する外国人は289万人。日本の人口の2.3%を占める。100人とすれ違えば2人は外国人という割合だから、今やどの医療機関でも外国人の診療は避けては通れぬ課題だろう。そして、必ずといっていいほど立ちはだかるのがコミュニケーションの障壁だ。しかし、そもそもなぜわれわれはコミュニケーションがとれないとストレスを感じるのだろうか? それはとりもなおさず、良質な医療を提供できないからだ。すでに多くの研究で、理解度や満足度のような短期的効果から、意思決定や自己管理のような長期的効果、さらには費用対効果に至るまで、コミュニケーションは医療の質と密接に関連することが示されている。つまり、日々外国人の診療にストレスを感じているあなたは偉い! なぜなら、それは常に良質な医療を提供しようと努めている証拠だからだ。そして、そんな課題を克服すべく、外国語や異文化を積極的に学ぼうとしているあなたは、もっと偉い!とはいえ、独りよがりな学習に陥っていないかどうか注意が必要だ。Curtisらによると、安易な異文化学習はかえって偏見を助長するという。本来、患者一人ひとりには個別の対応が必要であるにもかかわらず、付け焼刃の知識をつけてしまうと、過度に単純化した見方をしてしまうためだ。外国人診療でも、患者中心の医療を忘れてはならないとの戒めと受け止めたい。何よりもまず大事なことは、1人の人間として患者を扱うことだ。患者の立場に立って考えてみよう。すると、患者も試行錯誤を重ねていることに思い至る。まず、異国の病院という未知の空間に勇気を振り絞って足を踏み入れる。そこで症状を伝えようとするが、今ひとつニュアンスが伝わらない。身振り手振りでようやく伝わったかと安堵する間もなく、母国の慣習とは相容れない対処法を提案されて仰天する。しかし、そこをこらえて甘んじて受け入れることもあるだろう。まして入院が必要となれば、煩雑な手続きに目を回しながら、職場にどう報告したものかと悩むことになり、そのストレスたるや想像するに余りある。このような患者の煩悶に注意を払い、理解に努め、解決に向かって適切に導こうと勤しむ姿勢こそが最も重要だ。患者の努力に無頓着では、信頼関係の構築など望むべくもない。診療とは、価値観が異なる患者と医療者の歩み寄りの過程である。そこに正解もゴールもない。相互理解へのたゆまぬ努力こそが意味ある治療体験へつながる鍵なのだ。外国人のケアは骨が折れるが、素晴らしくも喜びに満ちた得難い経験にもなりうる。ぜひとも前向きに取り組んでみよう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「あの外国人、何を説明してもいちいち異論を挟むんだよ。まったく、清濁併せ呑む寛容さがあってほしいよね」はたして、寛容さが足りないのはどちらだろう。異文化に臨む態度や考え方の総体を、異文化適応力(cultural competency)という。その異文化適応力に最も必要なのは、異文化に関する知識でもなければ技術でもない。自らに内在する先入観や思い込みに気付き対処する力だ。考えてみれば、われわれは沢山の「当たり前」のなかで生きている。ただでさえ察しと思いやりの文化といわれ、数々の「当たり前」を求めることの多い日本社会。まして医療現場では、医療界独特のさまざまな「常識」を患者に強要していることは、外国人相手でなくても日々痛感していることだろう。せっかく身につけたコミュニケーション能力も、手前勝手な「当たり前」を患者に押しつけるための手段になっているようでは残念だ。患者は耐え難きを耐えながら、異国の医療と何とか折り合おうと必死なのだ。そこへ医療者が片務的な努力を押しつけているようでは相互尊重など夢のまた夢。素人の患者と専門家の医療者では、どうしても患者側の立場が弱くなりがちなのだから、医療者側がより多く譲歩すべきなのはいうまでもない。異文化よりもまず、自分の文化が及ぼす影響力を自覚すべきだ。そのためには、徹底的に自身を客観視する必要がある。自分自身が偏見を抱いていないか常に問いかけ、無自覚な「当たり前」の構造に敏感になろう。この現在進行形の内省過程が異文化適応力を醸成するのだ。Pointまず、自らの偏見に批判的であるべし「え、娘さんが近々ご結婚なさる? そんなことより、治療について説明させてください」異文化コミュニケーションで次に大事なのは、人間性だ。親切さや真摯さといった、人間として基本的な態度が欠かせない。患者を人として見ず、病のみに注目しているようでは逆効果。患者をかけがえのない1人の人間として敬い接するならば、あいさつはもちろん、笑顔を絶やさず、何気ない雑談にも共感し、文化の違いに触れた際には驚きと関心をもって傾聴したり質問したりすることになるだろう。些細な経験も共有し、患者のために時間を使い、積極的に患者から学ぼうとする。そんな医療者の心意気に触れたとき、患者は真剣に治療してもらえていると感じるものだ。Point医師である前に、人間であれワンポイントレッスン言語能力当然ながら、言語能力はコミュニケーションの重要な位置を占める。その言語能力でとくに注目すべき要素は、正確さ、明瞭さ、巧みさの3つだ。流暢に思えても内容が支離滅裂な場合もあるため、TOEFLなどの実力判定試験で客観的に正確さを評価しておくことが望ましい。明瞭さでは、ゆっくりと簡潔に話すことを心がけよう。巧みさとは、専門用語を使わずに話す、問題点を整理して説明する、さまざまな角度から表現するといった技術だ。スマホアプリの翻訳ツールを活用しようやっぱりきちんと会話したいよね。情報技術の長足の進歩により、今や手軽に翻訳ツールを利用できるようになった。スマホアプリの「Google翻訳」は100種類以上の言語を瞬時に翻訳できる代物だが、これが無料でインストールできるからありがたい。早口だったり複雑な文章だったりすると誤訳も起こりやすいが、前項で述べた明瞭さを心がければ、さほど問題なく使用できるだろう。Google翻訳話しかけてもよいし、カメラで言語に照らし合わせるだけで翻訳してくれるVoiceTra話しかけるだけで翻訳してくれる視聴ツール視聴覚に訴えるのも有効な手段だ。その場でイラストを描いて説明するのもよいし、今やインターネットを開けば、患者教育目的に有志が作成したパンフレットや動画が簡単に手に入る。これらを利用しない手はないだろう。非言語コミュニケーション表情や身振り手振りも情報伝達に欠かせない要素だ。ただ、同じ動作でも文化によって意味合いが異なることがあるので注意。たとえば適切な言葉が思い浮かばないときに宙を見上げたり手をグルグル回したりするのはわれわれ日本人にありがちな仕草だが、会話の内容と全く関係ないこれらの挙動は、外国人の目にはとても奇怪に映るという。場数を重ねて何度でも失敗しながら、少しずつ学んでは修正していきたい。teach-back患者の理解度を確かめる方法として、よく推奨されるのがteach-backだ。患者に、理解できたことを自分の言葉で説明してもらう。もし誤解があれば、その都度修正して説明し直してもらう。時間はかかるものの、効果は絶大だ。IAT(Implicit Association Test:潜在連合テスト)無意識の先入観を自覚するためのツールとして、異文化適応力の分野でしばしば取り上げられるのがIATだ。日本語版の無料サイトもあり、1テーマ当たり10分程度で判定できる。時間のあるときにでも挑戦してみてはいかが?チェックリスト残念ながら現段階では、異文化適応力のガイドラインもなければ、標準的な評価法も存在しない。しかしながら、独自のチェックリストを発案した論文があったので表に示した。ただし、これらすべてを完璧に実行するのは難しく、あくまでも努力目標だ。状況に応じて参照し、1つでも多く実践できるように頑張ろう。表 異文化適応力向上のためのチェックリスト1.まず、手を洗おう2.患者を1人の人間として扱おう3.自分自身が抱く無意識の先入観に気付こう4.患者に、自分の言葉で理解したことを説明してもらおう5.患者が自分自身の病状をより深く理解できるように支援しよう6.患者の家族・友人を歓迎しよう7.当該言語のキーフレーズを学ぼう8.可能な限り良質の翻訳をしよう9.流暢さよりも正確さを重視しよう10.翻訳者とともに働き学んでいこう11.患者の理解力に配慮しよう12.患者の権利と責任を知ろう13.質問を励行しよう14.患者の不満には真摯に向き合おう15.セカンドオピニオンを提案しよう16.異文化適応力に長けた施設環境を維持しよう17.患者満足度や転帰のデータを解析し、具体的な行動につなげよう18.患者満足度アンケートを漏れなく記入するよう励行しようWhite AA 3rd, Stubblefield-Tave B. J Racial Ethn Health Disparities. 2017;4:472-479. より作成知らなかったは落とし穴! こんな仕草はNGだところ変われば、ジェスチャー1つとっても大きく意味が変わる。誤解を生まないように、外国人との会話では、ジェスチャーは控えたほうがいいかもね。ブラジルでは親指を人差し指と中指の間にはさむ握りこぶしは「幸運を」という意味だけど、日本では性的な意味になってしまい、どっちもどっちなんだけどね。ピースサイン・逆ピースサイン「高校生か!」とツッコミを入れたくなるような写真の嬉しそうなポーズのピースサイン。日本や米国では平和のサインだけど、ギリシャでは「くたばれ!」という意味。掌を自分に向けた逆ピースサインは、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドでは「侮辱」の意味なんだ。いいねサイン親指をあげるサインはFacebookなどでも使われる「いいね」サイン。でも中南米、ギリシャ、イタリア、中東、西アフリカなどの一部では、中指を立てるのと同じ「侮辱」の意味になっちゃうのでやらないほうがいい。中東では「おまえの肛門に突っ込んでやる」という非常に下品な意味になっちゃう。親指を下向きにするのは、ブーイングのときにする侮辱の意味がある。元々は競技場で敗者を殺せの意味だったというから恐ろしい。OKサイン米国でのOKサインは、日本ではOKのみならず、お金を意味することがあるよね。ところが、ブラジル、スペイン、イタリア、ギリシャ、トルコ、ロシアなどでは、性的な侮辱になる。フランスでは「役立たず、価値がない」という意味になる。そんなぁ、知らないよねぇ。小指を立てるサイン日本では「彼女」や「恋人」の意味になるが、中国では「出来の悪い奴」という意味になってしまう。それと対比して親指は「立派な人」という意味になる。手をあげる「おーい」、「はーい」など手をまっすぐあげる動作は日本ではよくするものの、ドイツではナチスドイツを想起させるため、子供のころから絶対やってはいけないポーズなんだ。勉強するための推奨文献自治体国際化協会. 多言語指さしボード.多言語指差しボードを置いておけば、外国人がどの言語を話すのか確認できる。英語、中国語(簡体字)、韓国語、ベトナム語、ネパール語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ロシア語、タガログ語、インドネシア語、中国語(繁体字)、タイ語、ミャンマー語に対応。ピクトグラムもありわかりやすい。A4用紙にプリントアウトしておくと便利。厚生労働省. 「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」について.厚生労働省. 外国人向け多言語説明資料 一覧.厚生労働省, メディフォン. 外国人患者受け入れ情報サイト.Filler T, BMC Public Health. 2020;20:1013.Elana Curtis, et al. Int J Equity Health. 2019;18:174.Degrie L, et al. BMC Medical Ethics. 2017;18:2.White AA, Stubblefield-Tave B. J Racial Ethn Health Disparities. 2017;4:472-479.執筆

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H. pylori検査と除菌後胃がん、知っておくべき7つのQ&A

 胃がんの罹患者・死亡者数は減少傾向にあるものの、依然として日本人の主要ながんであり、2022年の罹患数は約12万例、死亡数は約4万例と報告されている1)。胃がんはその大部分がHelicobacter pylori(H. pylori)感染に起因するとされ、H. pyloriの診断と除菌治療は胃がんの1次予防として極めて重要である。日本では2013年より陽性判定者の除菌治療が保険適用となり、広く行われるようになっている。そして、H. pylori感染診断・除菌治療が一般的になった今、H. pylori検査や胃がんを巡る新たな問題が生じているという。H. pylori研究の第一人者である大分大学・兒玉 雅明氏に、今医療者が知っておくべきポイントを聞いた。Q1. 日本においてH. pylori感染率は低下しているか? 若年層においてH. pylori感染率は著しく低下している。30代でも20%を下回り、さらに10歳未満では10%を下回るなど欧米並みの水準だ。これは親世代も未感染または除菌済みであること、衛生状態の改善などによるものと考えられる。一方、60代以上では除菌例を含めた陽性率は7~8割と非常に高率で、2極化が進んでいる2)。Q2. H. pylori検査はどの方法を選ぶべきか? H. pylori感染検査には多くの方法があるが、目的に応じて使い分ける。 感染診断: 尿素呼気試験(UBT)、便中抗原測定法、迅速ウレアーゼ検査(RUT)、抗H. pylori抗体検査、血清ペプシノゲン検査(PG:補助的)など 除菌判定:UBT、便中抗原測定法、PG(補助的)など このうち、UBT、RUT、PGはPPI服用による偽陰性の可能性があるので検査の2週間前から休薬する必要がある。逆に言えばほかの検査ではPPI休薬の必要はない。この点は近年エビデンスが更新されており、昨年刊行した「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会 編)にも明記された。Q3. H. pylori除菌治療は全員に必要か? 基本的に、陽性判定者全員に除菌治療が推奨される。日本では2013年以降、陽性者全員に保険適用で除菌治療ができるようになった。高齢であっても併存疾患により薬剤が服用できないなどの事情がない限り、除菌治療が推奨される。若年者の場合、何歳から除菌治療をすべきかについてはエビデンスが少なく、現時点で確定した推奨はできない。すでに複数の自治体が独自に中学生を対象に感染検査、除菌治療を行っている例もあり、こうした研究のエビデンスが蓄積されてゆけば、若年者の推奨年齢も定まってくるだろう。Q4. 除菌治療はどのレジメンを使うべきか? 現在の標準治療は、PPIもしくはPCAB(例:ボノプラザン)+アモキシシリン+クラリスロマイシン、2次除菌はPPIもしくはPCAB+アモキシシリン+メトロニダゾールの3剤併用療法となっている。PPIは現在4種類が存在しているが、直接比較で除菌率に差がないことが報告されている。一方で、PCABはPPIと比較して酸分泌抑制効果が有意に高いことが報告されており3)、こちらを優先して使っている医師が多いと考えられる。Q5. 除菌すれば胃がんリスクはなくなるか? 除菌が胃の活動性胃炎を抑え、胃粘膜萎縮と腸上皮化生を改善し、胃がん抑制効果を示すことは明らかになっている。しかし、リスクは低下するものの、ゼロにはならない。すでに萎縮や腸上皮化生が進行している場合、除菌後も発がんリスクが残存する。除菌後に胃がんが抑えられる割合は3分の1から4分の1という研究報告がある4)。よって、除菌後も定期的に内視鏡検査を受けることが必要だ。医師側も、除菌後の患者には除菌後も胃がんリスクがあることを説明し、定期的な受診を促してほしい。Q6. 除菌後胃がんのリスク因子は? ここ5年ほどで、胃がんにおけるH. pylori陽性胃がんと除菌後胃がんの割合が逆転し、すでに除菌後胃がんが大半を占めるようになっている。とくに除菌時に萎縮が認められた例、萎縮が強かった例において、除菌後胃がんのリスクが高いことがわかっている5)。除菌後10年が経過しても軽度から中等度の萎縮の症例において、悪性度の高いびまん型(diffuse-type)症例のリスク増も報告されている。しかし、萎縮の認められない症例であっても胃がんリスクを排除することはできないため、「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」では除菌後の全症例に対し、長期的なサーベイランスを行うことを推奨している。私の行った研究でも、フォローアップをしていなかった症例は、悪性度の高い胃がんの罹患リスクが高いことがわかっている6)。Q7. 除菌後胃がんの特徴は? H. pylori菌感染で胃粘膜にメチル化異常が生じる。除菌によりある程度低下するものの、完全にはなくならず、残ったメチル化異常の程度が発がんリスクと相関すると考えられる。時間が経ってからがん化した症例には、悪性度の高いものも含まれる。また、除菌後の胃がんは病変が小さく表層の胃炎様所見、腫瘍の境界が不明瞭など、内視鏡診断が難しいという特徴もあり、経験のある内視鏡医による診断が必要になる。まとめ・メッセージ H. pyloriの感染診断、除菌治療が一般化し、胃がんを取り巻く状況は大きく変わっている。年齢調整後の胃がんの罹患数・死亡数は減少傾向にあるものの、患者の多数を占める高齢者が増える状況においては、まだまだ油断のできない疾患だ。「除菌後」の時代を見据え、メチル化などのバイオマーカーを使ったリスク層別化、耐性菌対策、AIによる画像診断補助などの関連研究も進んでいる。ぜひ、ガイドラインや学会で、最新の情報をキャッチアップいただきたい。■参考文献 1)がんの統計2024/公益財団法人がん研究振興財団 2)Inoue M, Gastric Cancer. 2017;20:3-7. 3)Murakami K, et al. Gut. 2016;65:1439-1446. 4)Fukase K, et al. Lancet. 2008;372:392-397. 5)Take S, et al. J Gastroenterol. 2020;55:281-288. 6)Kodama M, et al. PLoS One. 2023;18:e0282341.

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早期TN乳がんの術前療法、SG+ペムブロリズマブでpCRが32%(NeoSTAR)/ASCO2025

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前サシツズマブ ゴビテカン(SG)+ペムブロリズマブ併用療法を評価した初の試験である第II相NeoSTAR試験において、SG+ペムブロリズマブ 4サイクルによる病理学的完全奏効(pCR)率は32%であり、非アントラサイクリン系レジメンを用いた術前化学療法が追加された患者を含めると50%がpCRを達成した。米国・Massachusetts General Hospital Cancer CenterのRachel Occhiogrosso Abelman氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 SGは転移TNBCおよびHR+HER2-転移乳がんに承認されており、ペムブロリズマブは早期TNBCおよびPD-L1陽性転移乳がんに承認されている。本試験のArm A1では、早期TNBCへのSG単剤療法4サイクルにより、30%のpCR率が得られたことが確認されている。今回は、Arm A2において早期TNBCへのSG+ペムブロリズマブ併用を評価した結果が報告された。・対象:T2以上もしくはリンパ節転移陽性の早期TNBC患者・方法:SG(1、8日目に投与、開始用量10mg/kg)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg)を21日ごと4サイクル投与→ 画像診断で残存病変が疑われなかった患者は手術を実施、疑われた患者は生検を実施し、担当医の裁量で術前化学療法を追加し手術を実施→ pCRを達成した患者は術後補助療法としてペムブロリズマブ+タキサン/カルボプラチンを4サイクル投与し、達成しなかった患者は担当医の裁量で術後補助化学療法を実施・評価項目:[主要評価項目]術前SG+ペムブロリズマブ後のpCR[副次評価項目]術前化学療法追加の必要性、放射線学的奏効、安全性および忍容性、無イベント生存期間(EFS)など 主な結果は以下のとおり。・2023年5月19日~2024年8月13日に50例(年齢中央値:57歳)が登録された。診断時、96%がStageIIで、生殖細胞系列BRCAの病的バリアントが5例(10%)に認められた。・50例がSG+ペムブロリズマブを完了し、うち24例が完了後に残存病変が疑われず、16例はSG+ペムブロリズマブのみでpCRを達成した。26例は残存病変が疑われ、術前化学療法が追加された。うち9例はSG+ペムブロリズマブおよび追加の術前化学療法(アントラサイクリン含有レジメンなし)後にpCRを達成した。・SG+ペムブロリズマブのみでの術後のpCR率は32.0%(95%信頼区間[CI]:19.5~46.7)であり、術前化学療法を追加した患者を含めると50%(50例中25例)であった。・BRCAの病的バリアントを有する5例のうち、3例がSG+ペムブロリズマブ後にpCRが得られ(pCR率60%)、1例が術前化学療法追加後にpCRが得られた。・18ヵ月EFS率は90.6%(95%CI:89.2~100)で、放射線学的奏効(完全または部分奏効)率は66%(95%CI:50~78)であった。・予期せぬ毒性や新たな毒性は認められず、88%が試験レジメンを完了した。  現在、SGとペムブロリズマブへの反応に関連するメカニズムとバイオマーカーを同定するため、本試験のトランスレーショナル解析が進行中という。

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