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PCI後DAPTにCHADS2-VASc/HAS-BLEDは成立するか?~抗血小板剤も個別化の時代に~(解説:中野 明彦 氏)-519

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の、適正DAPT期間の議論が続いている。多くの、とくに新しいDESが(おそらくメーカーの思惑も手伝って)、short DAPTに舵を切るべくその安全性検証に躍起になっているが、そこに水を差したと騒がれているのが「DAPT試験」1)である。しかし、考えてみればナンセンスな話で、前者はステント留置直後からの検討、後者は1年間MACEや出血性合併症・TLRを免れた症例のみをエントリーしている。例えは悪いが、1次災害と2次災害に対して同じ対処法で優劣を競うようなものである。 PCI後のDAPT継続期間を考える際には、2つの視点が必要ではないかと思う。1つは対象病変局所の安全性確保(ステント血栓症の予防)、もう1つは冠動脈疾患を含めた動脈硬化性疾患(polyvascular disease)の2次予防という視点である。DESが進化し、ステント血栓症のリスクが低減されている現状においては、長期DAPT継続の議論には後者の視点が重視されるべきである。実際「DAPT試験」では、ステント血栓症以外の心筋梗塞や虚血性脳卒中が実薬群で30~40%減少していた。【本論文について】 「DAPT試験」の2次解析である本論文は、PCI後のDAPT継続による虚血・出血リスクを予測するモデル“DAPT score”を提唱した。さながらPCI版CHADS2-VASc/HAS-BLEDスコアである。PCI後12~30ヵ月間の虚血イベント(ステント血栓症と心筋梗塞)、出血性イベントの有意なリスク因子を抽出しポイント化したが、相反する事象を同一の方程式で解こうとしたため、一般的には高齢者ほど発症頻度が高いと予想される虚血イベントへのポイントが、“マイナス”に振り分けられるなど奇妙な点もある。 また、AFに関するスコアと異なり、特定のDES(今は亡きPaclitaxel-eluting stent)やステント径、SVGへのPCIなどの局所因子が含まれているのが特徴的である。有意差のあるリスク因子を並べ、中央値である2点をカットオフに設定した「後出しジャンケン」なだけに、算出されたポイントで線引きできるのは当然の結果ともいえるが、問題はその精度である。 虚血イベント・出血性イベントに関するC-統計量・NNTは各々0.70・34、0.68・64だった。これは、CHADS2-VASc/HAS-BLEDスコアの0.62/0.61、NOACにおけるCHADS2-VAScスコア≧2のNNT;78~87を上回る2)。しかし、繰り返しになるが、これはあくまで自作自演のスコアである。論文では、同時にPROTECT試験を用いてその信憑性を検証しているが、より低リスク症例を対象とした同試験に適応すると、虚血イベントのC-統計量は0.64だったがNNTは125、出血性イベントでは有意差がつかず、汎用性にはいささか疑問が残る。 さらに本スコアは、カットオフ値を示したに過ぎず、CHADS2-VASc/HAS-BLEDスコアのようにポイントによるリスクの増減を示していない、虚血性イベントと出血性イベントを同じ比重で扱っている、予後に結び付くスコアではないなどの点は、臨床現場で適用する際に留意すべきであろう。【本論文の位置付け】 折しも、ここにきて第1世代以降のDES留置後のDAPT期間に関するシステマティックレビュー3)が発表され、DAPT期間にフォーカスしたACC/AHAのガイドライン改訂4)が行われた。システマティックレビューは、12ヵ月DAPT群と3~6ヵ月DAPT群との間に死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・大出血での差がないこと、prolonged DAPT(18~48ヵ月)はbasic DAPT(6~12ヵ月)に比して心筋梗塞・ステント血栓症は低減し大出血は増加させるがその差は軽微で、全死亡には影響しないことを示した。また、改訂ガイドラインでは安定型虚血症例に対するDES留置後の推奨DAPT期間を12ヵ月から6ヵ月に短縮するとともに、本“DAPT score”を取り上げ、虚血/出血リスク層別化の重要性も示唆している。 われわれは、一例一例のPCIに際し、患者背景や既往歴・リスク因子・心機能を検討し、病変局所もIVUSやOCTで細かく観察して、そのstrategyを決定している。一方、術後のDAPT期間は、EBMやガイドラインがACSか安定虚血か? /DESかBMSか? だけでバッサリと容易(安易?)に決めてくれる。これってどうなんだろうか? 他の領域にもそうした動きがあるが、PCI後DAPT期間もガイドライン一辺倒ではなく個別化の時代に入るべき、と思う。short DAPTは、出血リスク回避や医療経済的側面からは意義深いが、polyvascular diseaseの2次予防という観点からはprolonged DAPTが選択されるべき症例も少なくないはずである。 もちろん、DES(stent)の場合は、malappositionやneoatherosclerosisなどの局所的要因が遠隔期のステント血栓症(VLST)の要因となる5)ため、AFの塞栓予防ほど、事は単純ではないし、新世代DESや生体吸収スキャフォールド(BVS)が登場すれば、さらに局所リスク因子が変わってくるかもしれない。また、併用する抗血小板剤も様変わりしていくかもしれない。したがって、方程式(スコア)の中身はさらに吟味されることになろうが、まずは、層別化・個別化の議論が盛り上がれば、それこそが本論文の1番の意義になる。参考文献1)Mauri L, et. al. N Engl J Med. 2014;371;2155-21662)Banerjee A, et al. Thromb Haemost. 2012;107;584-5893)Bittl JA, et al. J Am Coll Cardiol. 2016 Mar 22. [Epub ahead of print] 4)Levine GN, et al. J Am Call Cardiol. 2016 Mar 23. [Epub ahead of print]5)Taniwaki M, et al. Circulation. 2016;133;650-660

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DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者における重度腎不全のリスクを増加させる可能性がある(解説:住谷 哲 氏)-520

 DPP-4阻害薬は、わが国で最も多く処方されている血糖降下薬である。しかし、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントを抑制する可能性は、TECOS試験1)などの3つのランダム化比較試験(RCT)の結果からほぼ否定された。同時に、これら3つのRCTにおいて、DPP-4阻害薬が他の血糖降下薬に比較して心血管イベントを増加させる可能性もほぼ否定された。つまり、少なくとも心血管イベント発症に対する安全性は担保されたことになる。しかし、DPP-4阻害薬が細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)に及ぼす影響については、これまでほとんど報告されていない。そこで著者らは、real worldにおいてDPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の細小血管障害のリスクを減少させるか否かを検討した。その結果は、DPP-4阻害薬がメトホルミンと比較して重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆しており、DPP-4阻害薬が多用されているわが国の2型糖尿病診療に及ぼす影響は少なくない。 英国プライマリケアのデータベースであるQResearchデータベースを用いて、2007年4月1日から2015年1月31日の間に、2型糖尿病と診断された患者46万9,688例(25~84歳)をオープンコホートに組み込み、DPP-4阻害薬(80%はシタグリプチン)、チアゾリジン薬(90%はピオグリタゾン)、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他の血糖降下薬(αGI薬、グリニド薬、SGLT2阻害薬)と5つの臨床アウトカム(失明、高血糖、低血糖、下肢切断、重度腎不全)との関連を検討した(ここで下肢切断は神経障害と考えられている点に注意が必要である)。血糖降下薬は、単剤、2剤併用、3剤併用のすべての組み合わせについてそれぞれ検討した。重度腎不全は、透析導入、腎移植、CKD ステージ5(eGFR<15 mL/min/1.73m2)のいずれかと定義した。それぞれのアウトカムに対するハザード比(HR)を、Cox比例ハザードモデルにより計算した。それぞれの薬剤への暴露(exposure)は、たとえば、ある患者がコホートに組み込まれた最初12ヵ月間はメトホルミンのみ、その後メトホルミンとチアゾリジン薬との併用24ヵ月、その後投薬なし6ヵ月の時点でイベントを発症した場合はメトホルミン単剤12ヵ月、メトホルミン+チアゾリジン薬24ヵ月、無投薬6ヵ月としてモデルに組み込まれた。 観察期間中に、27万4,324例(58.4%)が何らかの血糖降下薬を処方された。そのうちメトホルミンが25万6,024例(投薬群の93.3%)に処方された。一方、DPP-4阻害薬は3万2,533例(投薬群の11.9%)に処方された。その結果は表3に示されているように、メトホルミンのみが失明(HR:0.70、95%信頼区間:0.66~0.75、以下同様)、高血糖(0.65、0.62~0.67)、低血糖(0.58、0.55~0.61)、下肢切断(0.70、0.64~0.77)、重度腎不全(0.41、0.37~0.46)とすべてのアウトカムのリスクを減少させた。 これに基づいて、各薬剤群(単剤、2剤併用、3剤併用)および無投薬群のメトホルミン単剤投与群に対する、それぞれの5つのアウトカムの調整HRが表5にまとめられている。DPP-4阻害薬単剤投与群においては、失明(1.39、0.66~2.93)、高血糖(1.44、0.85~2.43)、低血糖(0.83、0.21~3.33)、下肢切断(1.03、0.33~3.20)、重度腎不全(3.52、2.04~6.07)であり、重度腎不全のリスクのみがメトホルミン単剤投与群に比較して3.52倍増加していた。この重度腎不全のリスク増加は、メトホルミン+DPP-4阻害薬の2剤併用群では消失(0.59、0.28~1.25)していたが、SU薬+DPP-4阻害薬の2剤併用群では残存(3.21、2.08~4.93)していた。さらに、メトホルミン+DPP-4阻害薬+SU薬の3剤併用群においては重度腎不全リスクの増加は認められなかった(0.68、0.39~1.20)。 本論文の結果は、DPP-4阻害薬単剤投与は2型糖尿病患者において重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆する。しかし、本論文はRCTではなくコホート研究であるため、因果関係を厳密に証明することは困難である。糖尿病罹病期間、血清クレアチニン値、HbA1c、合併症の有無をはじめとした26の潜在的交絡因子で調整した結果であるが、未知の交絡因子の残存は否定できない。著者らも本論文の限界として、recall bias、indication bias、channelling biasについて論じているが、DPP-4阻害薬を単剤投与された患者(おそらく何らかの理由でメトホルミンが投与できなかった患者)が、重度腎不全発症の高リスク群であった可能性が残るであろう。 単純には、これらの患者は最初から腎機能が悪かったのではないかと考えられるが、表2のbaseline characteristicsを見る限り、血清クレアチニン値はメトホルミン投与群(84.8 μmol/L、0.96 mg/dL)、DPP-4阻害薬投与群(84.9 μmol/L、0.96 mg/dL)であり、両群に差は認められていない。さらに、コホートに組み込まれた時点ですでに腎疾患(kidney diseaseと記載されているが詳細は不明)を有する患者から発症した重度腎不全は解析から除外されている。 DPP-4阻害薬が、尿中アルブミン排泄量を減少させるとの報告は散見されるが2)、病態生理学的および薬理学的にDPP-4阻害薬が重度腎不全を来すメカニズムは説明困難であると思われる。しかし、シタグリプチンの添付文書には重大な副作用に急性腎不全(頻度不明)が記載されている3)4)。したがって、本論文の結果は医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の観点から解釈される必要がある。つまり、real worldで発生するDPP-4阻害薬の有害事象シグナルは微小であり、本論文のような膨大なデータの解析によって初めて明らかになったと考えられる。 英国においてはメトホルミンが第1選択薬とされていることから、DPP-4阻害薬の単剤投与はきわめて例外的であるが、わが国においては、メトホルミンではなくDPP-4阻害薬のみを投与されている患者はきわめて多く存在している。メトホルミンとの併用では重度腎不全の発症リスクが増加しないことから、DPP-4阻害薬は第1選択薬ではなく、メトホルミンへの追加薬剤としての位置付けが適切である。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第29回

第29回:多関節炎の鑑別監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 関節炎の訴えは、日常生活でよく目にするものです。 アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の統計によると、外来で医師に関節炎と診断される割合は18~44歳の7.3%、45~64歳の30.3%、65歳以上の49.7%となっており、より高齢者に多くみられる訴えです1) 。その影響は移動能力にも関わり、高齢者のADL低下の原因にもなります。急速に高齢化が進む日本でも、関節炎は日常外来で重要な問題です。 多関節炎の原因は、プライマリケアで管理ができる変形性関節症などから、頻度が低く、専門医に紹介を必要とすることが多い膠原病(強直性脊椎炎、関節リウマチなど)、感染症(B型肝炎、C型肝炎)までさまざまです。 適切な診断が肝要ですが、診断における病歴、身体所見、検査所見のポイントを列挙しています。もしアクセス可能であれば、表1の多関節炎の一覧表は必見です。 以下、American Family Physician 2015年 7月1日号2) より多関節炎は一般臨床現場で遭遇し、複数の病因を有しています。ここでは、5関節以上に所見を認めるものを多関節炎としています。多関節痛の診断プロセスは以下の順に行います。1)真の関節炎か関節周囲炎か2)炎症性か非炎症性か3)炎症性であれば罹患関節の状態(対称性、数、発症様式)で分類し、適切な身体所見評価や各種検査を行い、適宜専門家にコンサルトします。診断における病歴、身体所見、検査所見の重要項目を以下にまとめます。I.病歴のポイント罹患関節の対称性、罹患関節数、罹患関節部位を評価します。罹患関節数は2~4関節の少関節罹患パターン、5関節以上の多関節罹患パターンに分かれます。強直性脊椎炎、反応性関節炎、乾癬性関節炎を含む脊椎関節症は、古典的には少関節罹患パターン、関節リウマチは通常多関節罹患パターンとなります。脊椎関節症は脊椎、仙腸関節、肩関節、股関節、膝関節などが障害されます。関節リウマチや全身性エリテマトーデスは手関節、指関節、足趾関節などが障害されます。II.身体所見のポイント1)真の関節炎か関節周囲炎か両者とも自動運動にて痛みや運動制限が生じます。他動運動でも全方向性に痛みが生じるときは、真の関節炎を示唆します。関節周囲の構造物として、腱・靭帯・関節包が挙げられます。2)炎症性か非炎症性か安静時において、腫脹、発赤、長時間の朝のこわばり(1時間以上)、および対称性の疼痛の存在は、炎症所見を示唆します。(推奨レベルC※)ただし、非炎症性でも腫脹と圧痛は呈します。朝のこわばりが1時間未満で、非対称性のパターンを取るとき、非炎症性を考慮します。3)炎症性であれば罹患関節の状態(対称性、数、発症様式)で分類し、適切な身体所見評価や各種検査を行い、適宜専門家にコンサルトします。各関節炎における評価項目として、罹患関節の対称性・数・部位(頸胸腰椎、仙腸部、小関節(手、足、各指趾関節)、中大関節(肩、肘、股、膝)、全身症状(発熱、発疹、消化器症状など)が挙げられます。III.検査項目のポイント抗核抗体陰性の全身性エリテマトーデスは2%未満であり、ほかの診断基準の項目に乏しい時は測るべきではありません。ただし、抗核抗体は高力価であるほど自己免疫性疾患の可能性が高いです。非炎症性と炎症性の鑑別の際にCRPとESRは有用で、急性期においてはCRPの方が有用です。(推奨レベルC)ESRの正常上限は、女性では (年齢+10)÷2、男性では年齢÷2です。ESRが基準範囲内の関節リウマチ患者は3%存在します。RF(リウマチ因子)は特異性に乏しいですが、対称多発性関節炎で高力価だった場合、関節リウマチを高率に予測できます。痛風関節炎の発作時に、血清尿酸値は基準範囲や低値でも構いません。6mg/dlを目標に3~6ヵ月おきにフォローします。非炎症性とされる滑液所見は、一般的に白血球数2,000/mm3未満、多核白血球割合75%未満です。感染症では、第一に細菌性を考慮し、次にボレリア、B型肝炎、C型肝炎、パルボウイルスを想定します。強直性脊椎炎など仙腸関節の異常は、レントゲンよりもMRIのほうが早期に異常を確認できます。関節の小さなびらんは、超音波検査やMRIで可視化されます。関節リウマチでは、慢性痛風でみられるOverhanging edgeは認めません。組織生検:巨細胞性動脈炎(側頭動脈生検)、皮膚ループスまたは皮膚血管炎(皮膚生検)、糸球体腎炎(腎生検)、および肺血管炎(肺生検)を診断するために不可欠です。滑膜生検:肉芽腫(例えば、サルコイドーシス、真菌感染症、結核)疾患、ヘモクロマトーシス、ウィップル病、リウマチ結節といったとらえどころのない症例に役立つことがあります。※推奨レベルはSORT evidence rating systemに基づくA:一貫した、質の高いエビデンスB:不整合、または限定したエビデンスC:直接的なエビデンスを欠く※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Barbour KE,et al. Morb Mortal Wkly Rep. 2013;62:869-873. 2) Geurge GA,et al. Am Fam Physician. 2015;92:35-41.

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心臓手術後の心房細動、心拍数調節か?洞調律維持か?/NEJM

 心臓手術後の心房細動の治療において、心拍数調節(heart-rate control)と洞調律維持(rhythm control)の効果に差はないことが、米国・クリーブランド・クリニックのA. Marc Gillinov氏らCardiothoracic Surgical Trials Network(CTSN)の検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2016年4月4日号に掲載された。心房細動は、心臓手術後にみられる最も頻度の高い合併症で(20~50%)、死亡や他の合併症、入院の発生を増加させることが知られている。術後心房細動の予防を目指した種々の研究が進められているが、有効な方法は確立されておらず、病態が安定した患者の初回治療では、心拍数調節と洞調律維持のどちらが優れるかの議論が続いている。2つの治療アプローチを無作為化試験で比較 CTSNの研究グループは、心臓手術後の新規の心房細動または心房粗動に対する心拍数調節と洞調律維持の効果および安全性を評価する無作為化試験を行った(米国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 対象は、冠動脈疾患または心臓弁膜症で待機的心臓手術を受け、血行動態が安定し、心房細動の既往歴がない成人患者であった。術後の入院期間中(7日以内)に60分以上持続する心房細動または心房細動再発のエピソードを認めた患者を登録し、心拍数調節群または洞調律維持群に無作為に割り付けた。 心拍数調節群では、安静時心拍数<100拍/分を目標に、心拍数を抑制する薬物療法が行われた。効果がみられない場合は、洞調律維持群に転換することとした。 洞調律維持群では、アミオダロンを投与し、必要に応じて心拍数低下薬を併用した。割り付け後に24~48時間持続する心房細動がみられる場合は、直流除細動(direct-current cardioversion)が推奨された。 2014年5月~15年5月までに、米国とカナダの23施設に2,109例が登録され、695例(33.0%)が心房細動を発症した。このうち523例が無作為化割り付けの対象となり、心拍数調節群に262例、洞調律維持群には261例が割り付けられた。総入院日数、合併症、心房細動消失に差はない ベースラインの患者背景は両群で類似していた。全体の平均年齢は68.8±9.1歳で、女性が24.3%含まれた。冠動脈バイパス術(CABG)が約40%、心臓弁手術(修復、置換)が約40%に行われ、約20%にはこれら双方が施行されていた。 主要評価項目である割り付けから60日までの総入院日数中央値は、心拍数調節群が5.1日、洞調律維持群は5.0日であり、両群で同等であった(p=0.76)。 死亡率にも両群間に差はみられなかった(p=0.64)。また、血栓塞栓症や出血を含む重篤な有害事象の発生率は、心拍数調節群が100人月当たり24.8件、洞調律維持群は26.4件/100人月であり、有意な差は認めなかった(p=0.61)。 両群とも約25%の患者が、割り付けられた治療から脱落した。その主な理由は、心拍数調節群が「薬剤が無効」、洞調律維持群は「アミオダロンの副作用」であった。 手術から心房細動の発現までの平均日数は2.4(0~7)日であった。退院時に、心拍数調節群の42.7%、洞調律維持群の43.3%がワルファリンの投与を受けていた。 術後の初回入院の退院時に、心房細動のない安定した心臓の調律が達成された患者の割合は、心拍数調節群が89.9%、洞調律維持群は93.5%であった(p=0.14)。 発症から60日の時点で、心房細動が消失した患者のうち、これが30日までに達成された患者の割合は、心拍数調節群が93.8%と、洞調律維持群の97.9%に比べ有意に低かった(p=0.02)。一方、初回入院の退院から60日の時点での心房細動のない患者の割合には両群間に差はなかった(84.2 vs.86.9%、p=0.41)。 著者は、「2つの治療戦略の一方が他方に勝ることはないことが示された」とまとめ、「このような場合、直流除細動の併用の有無にかかわらず、アミオダロンを用いた洞調律維持が心拍数調節のベネフィットを上回るか否には、患者や医師の嗜好が影響を及ぼす」と指摘している。

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慢性特発性蕁麻疹へのオマリズマブ、最も有効な用法・用量は?

 著者は「本メタ解析の結果は、慢性特発性蕁麻疹に対するオマリズマブ4週間に1回300mg投与の有効性および安全性に関して質の高いエビデンスとなり得る」とまとめている。Journal of Allergy and Clinical Immunology誌オンライン版2016年3月31日号の掲載報告。 研究グループは、PubMed、MEDLINE、EmbaseおよびWeb of Scienceでデータを検索するとともに、オマリズマブ製造会社の協力を得て、慢性特発性蕁麻疹に対するオマリズマブの有効性および安全性をプラセボと比較した無作為化二重盲検比較試験を特定し、メタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・解析に組み込まれた無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、7試験(合計1,312例)であった。・オマリズマブ群(75~600mgを4週間に1回投与)では、週単位で評価したかゆみや膨疹のスコアが、プラセボ群より有意に低下した。・オマリズマブの有効性は用量依存的で、週単位で評価したかゆみや膨疹のスコアが最も大きく低下したのは300mg投与であった。・完全寛解率は、オマリズマブ群がプラセボ群より有意に高く、300mg投与群で最も高かった。・有害事象の発現率は、オマリズマブ群とプラセボ群で同程度であった。

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124)DASH食で高血圧を予防【高血圧患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者先生、高血圧の予防には、どんな食事がいいですか? 医師アメリカでは高血圧予防には ダッシュ食(DASH食)が用いられています。 患者ダッシュ食!? 医師そうです。野菜、果物、魚介類、海藻類、豆類、低脂肪の乳製品など、健康に良さそうなもの、カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維や良質のたんぱく質などを摂って…。 患者ええと、野菜、果物、魚介類…ですね。 医師そして、肉類、卵、マヨネーズ、生クリーム、バターなどは控えます。お菓子や菓子パンなどにも含まれていますね 患者私、それが多いんですね。これから気をつけます(気づきの言葉)。●ポイント一品をたくさん摂るのではなく、総合的に健康によい食品を提示します DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension;高血圧予防の食事アプローチ) 1) Schwingshackl L, et al. J Acad Nutr Diet.2015;115:780-800.e5. 2) Saneei P, et al. Nutr Metab Cardiovasc Dis.2014;24:1253-1261. 3) Siervo M, et al. Br J Nutr.2014:1-15.

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循環器内科 米国臨床留学記 第8回

第8回 肺動脈圧ワイヤレス・モニタリングデバイスCardioMEMs心不全患者の再入院を減らすことは、日米を問わず重要な課題です。CardioMEMsは、近年FDAに承認された、心不全患者の肺動脈圧をモニタリングする植込み型のデバイスです。肺動脈圧は心不全と相関があると考えられており、CardioMEMsが測定した患者の肺動脈圧のデータを基に利尿薬などを調整することが可能となります。2011年にLancet誌に報告されたCardioMEMS Heart Sensor Allows Monitoring of Pressure to Improve Outcomes in NYHA Class III Heart Failure Patients(CHAMPION)試験のデータに基づき、2014年にFDAの承認を取得しました(図1、2)。CHAMPION試験は、NYHAクラス3以上の心不全かつ12ヵ月以内に入院歴がある患者を対象とした、多施設共同前向き無作為化試験ですが、CardioMEMs植込み群は対照群に比べて、入院が37%も減るという良好な結果を示しました(Lancet誌2016年1月30日号に発表された論文では、31ヵ月のフォローアップで心不全の入院は48%の減少)。St. Jude Medical社のウェブサイトによると、再入院が78%減少し、死亡率も57%減少となっています(ただし、データはAHA、ACCのabstractに基づく)。 図1 画像を拡大する 図1 CardioMEMs(米国の25セント硬貨と比較) 図2 画像を拡大する 図2 CardioMEMs植込み前の肺動脈造影(左)と植込み後のCardioMEMs(右)素晴らしい技術と成績なのですが、問題となっているのがコストで、1台当たり1万8,000ドル(約200万円)と高額です。先日、高齢者や一部の障害者に対する公的な医療保険制度であるメディケアは、11州(とVA病院)でCardioMEMsを保険適応外とすることを発表しました。われわれの施設でのCardioMEMs植込み実施例は、過去1年間で数例にとどまっています。その理由として考えられるのが、コストと患者のコンプライアンスの低さです。米国では日本と比べて、内服や食事療法を含めた生活習慣の改善に対するコンプライアンスの悪い患者が多くみられます。米国の循環器内科医も、CardioMEMsで再入院を減らすことができるとわかっていても、内服遵守や食事制限、体重測定などの生活習慣改善に対する努力を行わない患者に高額なデバイスを植え込むことには抵抗があるようです。前述のCHAMPION試験のデータでは、対象患者の平均BMIが30です。平均で30ですから、大半が肥満患者です。彼らが食事制限を守れないのは容易に想像できます。ご存じのとおり、体重管理は心不全の治療にきわめて重要です。米国でも日本でも同じなのかもしれませんが、心不全で入退院を繰り返す患者の多くは体重をこまめに測ってくれませんし、こちらでは体重計を持っていないと言う患者もよく見受けられます。コンプライアンスが悪くても、肺動脈圧の上昇を感知できれば、心不全を早めに検知できるのは理解できます。ただ、個人的には高額なデバイスを植え込む前に、患者には体重計を買ってもらい体重がある程度増えれば医師に連絡するくらいの努力はしてもらいたいと思ってしまいます。また、CardioMEMsを断る患者さんもいます。ペースメーカーやICDと違い、CardioMEMsは治療を行うデバイスではありません。モニタリング目的のデバイスは患者の症状を改善するわけではありませんから、患者側も抵抗があるようです。いずれにしても、今後CardioMEMsがどれぐらい普及していくかは、公的保険や保険会社がどの程度償還してくれるかにかかっているのかもしれません。

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中等度虚血性MRへのCABG+僧帽弁形成術、2年時点の結果/NEJM

 中等度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する冠動脈バイパス移植術(CABG)単独手術vs.CABG+僧帽弁形成の併用手術について検討したCTSN(Cardiothoracic Surgical Trial Network)による無作為化試験の、2年アウトカムの結果が米国・マウントサイナイ医科大学のR.E. Michler氏らにより発表された。左室逆リモデリングの有意差は認められず、併用群ではより多くの弁修復が認められたが、単独群と比較して生存の改善、全有害事象や再入院の減少に関する有意差は認められず、一方で神経学的合併症や上室性不整脈の早期発生リスク増大が確認された。本検討については1年時点の評価報告でも、左室収縮終末期容積係数(LVESVI)や生存率の有意差はみられず、有害事象も併用群で多かったが中等度~重度MRの有病率低下がみられ、長期アウトカムの結果における変化が期待されていた(冠動脈バイパス術に僧帽弁形成術併用は有用か/NEJM)。NEJM誌オンライン版2016年4月3日号掲載の報告。301例を対象に無作為化試験、2年時点のアウトカムを報告 検討は、301例をCABG単独群(151例)と併用手術群(150例)に無作為に割り付けて行われた。オリジナル試験での主要エンドポイントは、無作為化後1年時点のLVESVIで評価した左室逆リモデリングの程度であった。 本論文では、追跡2年時点での臨床的および心エコー像のアウトカムを評価した結果が報告された。LVESVI、死亡率に有意差なし、遺残MRは併用群で有意に低率 結果、LVESVIの平均値(±SD)は、単独群41.2±20.0mL/m2、併用群43.2±20.6mL/m2で、ベースラインからの変化はそれぞれ-14.1mL/m2、-14.6mL/m2であった。 死亡率は、単独群10.6%、併用群10.0%で、併用群のハザード比(HR)は0.90(95%信頼区間[CI]:0.45~1.83)で有意差はみられなかった(p=0.78)。LVESVIのランク分類でみた死亡率など両群間の差について、有意差は認められなかった(zスコア0.38、p=0.71)。 一方で、中等度~重度の遺残MRについて、併用群よりも単独群で有意に高率であった(32.3% vs.11.2%、p<0.001)。 再入院、重大有害事象の発生は両群で同程度であった。しかし、神経学的イベント、上室性不整脈の発生頻度は、併用群で高率のままであった。 これらの結果を踏まえて著者は、「個々の治療決定には、今回の検討でみられた有害事象リスクと、術後の中等度~重度の遺残MR低下という不確かなベネフィットのバランスを推し量ることが必要である。血行再建術の有効性は、局所的および全体的な左室機能改善で捉え、僧帽弁修復とは切り離して重要な役割を演じると考えるべきであろう」とまとめている。

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成人期まで持続するADHD、その予測因子は

 注意欠如・多動症(ADHD)は、診断された症例の半数において成人期まで症状が持続する神経発達障害と考えられている。現在、疾患の経過に関連する因子を明らかにするエビデンスは得られていない。ブラジル・リオグランデドスール連邦大学のArthur Caye氏らは、ADHD症状の成人期までの持続を予測するため、小児期のリスクマーカーに関する文献を検索し、システマティックレビューを行った。European child & adolescent psychiatry誌オンライン版2016年3月28日号の報告。 著者らは、2万6,168件のアブストラクトを検討し、72件のフルテキストレビューを選択した。6件の集団ベースのレトロスペクティブサンプルと10件の臨床フォローアップ研究を含む16件の研究データを同定した。少なくとも3件の研究により評価された要因について、メタ分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ADHD症状の成人期までの持続を予測する小児期の因子は、ADHD重症度(OR:2.33、95%CI:1.6~3.39、p<0.001)、ADHD治療(OR:2.09、95%CI:1.04~4.18、p=0.037)、素行症の併存(OR:1.85、95%CI:1.06~3.24、p=0.030)、うつ病の併存(OR:1.8、95%CI:1.1~2.95、p=0.019)であった。関連医療ニュース 成人ADHDをどう見極める 9割の成人ADHD、小児期の病歴とは無関係 ADHDに対するメチルフェニデートは有益なのか

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心房細動患者の出血リスク予測に有用な新規スコア/Lancet

 心房細動患者の抗凝固薬治療に伴う出血リスクを予測するのに有用な新たなスコアが開発された。バイオマーカーベースの「ABC出血リスクスコア」と名付けられたこのスコアは、年齢(Age)、バイオマーカー(Biomarkers)、病歴(Clinical history)の、5つの予測変数(年齢、cTnT-hs、GDF-15[growth differentiation factor-15]、ヘモグロビン、出血歴)から成る。スウェーデン・ウプサラ大学のZiad Hijazi氏らが開発したもので、検証試験の結果、これまでのHAS-BLEDスコアやORBITスコアよりもパフォーマンスに優れていることが示された。著者は「ABC出血リスクスコアを、心房細動患者の抗凝固薬治療に関する意思決定支援に活用すべきである」と報告している。Lancet誌オンライン版2016年4月4日号掲載の報告。バイオマーカーベースのリスクスコアを開発、5つの予測変数を組み込む 心房細動の経口抗凝固薬治療のベネフィットは、虚血性脳卒中の減少と重大出血の増大のバランス下でもたらされることから、研究グループは、心房細動患者の重大出血予測を改善する新たなバイオマーカーベースのリスクスコアを開発し検証する試験を行った。 アピキサバン vs.ワルファリンの無作為化試験ARISTOTLE試験に参加した心房細動患者1万4,537例(抽出コホート)でスコアの開発と内的妥当性検証を行い、ダビガトラン vs.ワルファリンの無作為化試験RE-LY試験に参加した心房細動患者8,468例(検証コホート)で外的妥当性検証を行った。 無作為化時に採取した血液検体で候補バイオマーカー値を測定。重大出血イベント発生の判定は中央にて行い、Cox回帰モデルを用いてバイオマーカーおよび臨床変数の適中率を評価した。 新たなバイオマーカーベースの出血リスクスコアは、抽出コホートの総計2万5,150人年、重大出血イベント662件を基に開発された。最初にすべての候補予測因子を包含したモデルを作成し、その後、最も予測が強力であった5つの変数(cTnT-hs、GDF-15、ヘモグロビン、出血歴、年齢)を包含し最終モデルとしてABC出血リスクモデルを作り上げた。また、代替バイオマーカー(cTnT-hsをcTnI-hs、ヘモグロビンをヘマトクリット、GDF-15をシスタチンCまたはCKD-EPI式を用いて算出したeGFRにそれぞれ置き換えた)を用いた3つの追加モデルを作成してスコアの評価を行った。HAS-BLEDスコア、ORBITスコアよりも予測能にすぐれる 抽出コホートにおいて、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.68(95%信頼区間[CI]:0.66~0.70)であった。HAS-BLEDスコアは0.61(0.59~0.63)、ORBITスコアは0.65(0.62~0.67)で、ABC出血リスクスコアの予測が有意にすぐれていた(それぞれp<0.0001、p=0.0008)。 検証コホートでも、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.71(95%CI:0.68~0.73)で、HAS-BLEDスコア0.62(0.59~0.64)、ORBITスコア0.68(0.65~0.70)との有意差が認められた(それぞれp<0.0001、p=0.0016)。 代替バイオマーカーを用いた修正ABC出血リスクスコアも(抽出コホートでのC統計値は3モデルとも0.67、検証コホートでは0.68~0.71)、HAS-BLEDスコア、ORBITスコアよりも予測能が上回っていた。

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日本での2型糖尿病に関連するがんを2030年まで予測

 2010~30年の間、わが国の2型糖尿病によるがんの人口寄与割合は着実に増加すると予測され、その増加は肝がん、膵がん、結腸がんで著明であることが、東京大学の齋藤 英子氏らの研究で示唆された。Cancer Science誌2016年4月号に掲載。 糖尿病は世界的に主要な疾病負荷であり、その有病率は増加し続けている。著者らは、日本における2010~30年の2型糖尿病に関連するがんの負荷を推定した。本研究では、1990~2030年の2型糖尿病の有病率の推定値、国内の8つの大規模コホート研究のプール解析での糖尿病およびがんリスクの要約ハザード比、2010年のがん罹患率/死亡率、age-period-cohort(APC)モデルで予測した2030年の罹患率/死亡率を用いて、2010年と2030年における2型糖尿病に関連するがんリスクの人口寄与割合を推定した。 主な結果は以下のとおり。・20歳以上の成人において、2010年から2030年の間にがん罹患率と死亡率はそれぞれ38.9%と10.5%増加することが予測された。・2型糖尿病により過剰に発症するがん症例は、2010年から2030年の間に、男性で26.5%、女性で53.2%それぞれ増加することが予測された。・肝がん、膵がん、結腸がんで著明な増加が予測された。・2型糖尿病によるがんの人口寄与割合は、60歳以上ではこの期間にわたり増加するが、20~59歳では変化しないことが、年齢別の分析で示唆された。

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黄熱に気を付けろッ!その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第20回となる今回は、蚊媒介感染症の古参、黄熱ですッ! 黄熱といえば誰もが一度はその病名を聞いたことがあるでしょう。英語で言うと“イエロー・フィーバー”という、まるでルー大柴のようなノリですが、実際そうなんだから仕方ありません。その黄熱が、今世界を騒がせているのですッ!そもそも黄熱ってどういう病気?黄熱という感染症は超有名ですが、おそらく黄熱の患者さんを実際に診られたことのある臨床医は、日本にはほとんどいないのではないでしょうか。自称・希少感染症ハンターの忽那も、黄熱の患者さんは診たことはありません。黄熱は、今世間を騒がせているデングウイルスやジカウイルスと同じ、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスによる感染症です。黄熱もデング熱やジカ熱と同じくシマカ(ネッタイシマカやヒトスジシマカ)によって媒介されます。黄熱という名前は、感染すると黄色くなる、すなわち黄疸を呈することが由来です。しかし、黄熱に感染しても必ずしも黄疸を呈するわけではなく、黄熱患者の約85%は非特異的な発熱(頭痛、関節痛、嘔気、下痢など)を呈し、1週間以内に改善します。この辺は同じフラビウイルスであるデング熱に似ていますね。しかし、残りの約15%の患者が黄疸、腎不全、出血症状などを呈する重症型に移行するとされています。重症型に移行した患者の20~50%が死亡するとされています。黄熱、恐るべしッ!黄熱の流行地域は限られている黄熱がアウトブレイクしている地域は、アフリカと南米の一部に限られています。図1が黄熱の流行地域です。アフリカはサハラ以南と呼ばれる地域(マラリアと流行地域が重複しています)、図2の南米では内陸側のアマゾン川流域の地域です1)。南米よりもアフリカのほうが、感染者数が圧倒的に多く、アフリカでは年間13万人が感染し7万8千人が亡くなっていると推計されています2)。今回アウトブレイクが起こっているのは、アフリカのアンゴラという国です。3月30日までの時点で1,794人が黄熱と診断され、そのうち198人が亡くなっています3)。感染者が最も多く出ているのは首都のルアンダです。これまで黄熱の輸入例というのは10例程度しか報告されていなかったのですが、今回のアウトブレイクではすでに中国で6例、ケニアで2例、モーリタニアで1例の輸入例が報告されているのですッ! かつてない規模ッ! そしてさらには、コンゴ民主共和国でも疑い例を含めて151人の感染者と21人の死亡者が出ています。画像を拡大する画像を拡大する日本に黄熱患者が発生する可能性は!?さて、中国で輸入例が出ているので、日本にも輸入例が発生する可能性はあるのでしょうか? 可能性があるかないかということになると「ある」ということになりますが、決してその確率は高くはないと思われます。通常、アンゴラやコンゴ民主共和国に入国する際には、黄熱ワクチンの接種証明書の提示が求められますので、日本人が渡航する前には黄熱ワクチンを接種しているはずです(ごく一部の人は、免疫不全を理由に黄熱ワクチンを接種せずに、禁忌証明書を持って入国しているかもしれません)。ですので、日本人が現地で黄熱に感染して、黄熱ウイルスを持ち帰る可能性はきわめて低いと思われます(アンゴラで黄熱に感染した中国人は、なぜか黄熱ワクチンの接種歴がない人が大半とのことで…どうやってアンゴラに入国したんでしょうね…)。しかし、アンゴラやコンゴ民主共和国の人が日本に来て黄熱を発症する、という可能性はあるかもしれません。アンゴラ、コンゴ民主共和国渡航後に発熱を呈する患者さんに遭遇したら、とくに外国人では黄熱を想起するようにしましょう。ちなみに黄熱ウイルスはヒトスジシマカでも媒介されるので、ひとたび黄熱ウイルスが夏季に日本に持ち込まれれば、日本国内で流行する可能性はなくはありません。しかし、これまで黄熱の流行地域はこの数十年ほとんど変化がなく、その他の地域で流行したことがありません。同じフラビウイルスであるデングウイルスやジカウイルスが、これだけ流行地域を広げまくっているのに対して、なぜ黄熱は流行地域が広がらないのか不思議ではありますが、渡航者のワクチン接種などが関係しているのかもしれません。というわけで、アンゴラやコンゴ民主共和国に渡航する際は、普段にも増して黄熱ワクチン接種を推奨し(というか接種しないと入国できないんですけどね)、免疫不全のためにどうしても接種できないという方には、防蚊対策(チクングニア熱に気を付けろッ! その2参照)を徹底してもらうよう懇切丁寧に説明をしましょう。1)Yellow Book. Chapter 3 Infectious Diseases Related to Travel. Yellow Fever. Centers for Disease Control and Prevention. (accessed 2016-04-14).2)Garske T, et al. PLoS Med.2014;11:e1001638.3)Epidemiological update: outbreak of yellow fever in Angola 01 Apr 2016. European Centre for Disease Prevention and Control. (accessed 2016-04-14).4)Yellow Fever-Democratic Republic of the Congo. Disease Outbreak News 11 April 2016. World Health Organization. (accessed 2016-04-14).

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虚血性心筋症、CABG+薬物治療で生存ベネフィット改善/NEJM

 虚血性心筋症の患者に対し、冠動脈バイパス術(CABG)と薬物治療を併用することで、薬物治療のみの場合に比べ、約10年間の全死因死亡率(主要アウトカム)、心血管死亡率や全死因死亡または心血管系が原因の入院の発生率(副次アウトカム)は、いずれも2~3割有意に減少することが示された。米国・デューク大学のEric J. Velazquez氏らが、約1,200例の患者を対象に行った無作為化比較試験STICHESの結果、明らかにしNEJM誌オンライン版2016年4月3日号で発表した。薬物治療のみと比較したCABG+薬物治療の生存ベネフィットは、冠動脈疾患、心不全、および重篤な左室収縮機能障害を有する患者については不明であった。虚血性心筋症の患者を対象に、中央値9.8年で追跡 研究グループは、2002年7月~07年5月にかけて、駆出分画率が35%以下で、CABGにより改善が見込まれる冠動脈疾患を有する患者1,212例を対象に試験を行った。無作為に2群に分け、一方にはCABGと薬物治療を(610例)、もう一方には薬物治療のみを(602例)、それぞれ行いアウトカムを比較した。 主要評価項目は、全死因死亡率だった。主な副次評価項目は、心血管死、全死因死亡または心血管が原因の入院などだった。 追跡期間の中央値(延長追跡調査期間を含む)は、9.8年だった。全死因死亡または心血管が原因の入院、CABGにより3割減少 その結果、全死因死亡率は薬物治療群66.1%(398例)だったのに対し、CABG群は58.9%(359例)と有意に低率だった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.73~0.97、log-rank検定によるp=0.02)。 心血管死も、薬物治療群49.3%(297例)に対し、CABG群は40.5%(247例)と、発生比は約8割にとどまった(HR:0.79、95%CI:0.66~0.93、log-rank検定によるp=0.006)。 全死因死亡または心血管が原因の入院の発生率も、薬物治療群87.0%(524例)に対し、CABG群は76.6%(467例)と約7割にとどまった(HR:0.72、95%CI:0.64~0.82、log-rank検定によるp<0.001)。

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ニーマン・ピック病C型〔NPC : Niemann-Pick disease type C〕

1 疾患概要■ 概念・定義1, 2)ニーマン・ピック病は、多様な臨床症状と発病時期を示すがスフィンゴミエリンの蓄積する疾患として、1961年CrockerによりA型からD型に分類された。A型とB型はライソゾーム内の酸性スフィンゴミエリナーゼ遺伝子の欠陥による常染色体性劣性遺伝性疾患で、ニーマン・ピック病C型は細胞内脂質輸送に関与する分子の欠陥で起こる常染色体性劣性遺伝性疾患である。D型は、カナダのNova Scotia地方に集積するG992W変異を特徴とする若年型のC型である。■ 疫学C型の頻度は人種差がないといわれ、出生10~12万人に1人といわれている。発病時期は新生児期から成人期までと幅が広い。2015年12月の時点で日本では34例の患者の生存が確認されている。同時点での人口8,170万人のドイツでは101人、人口6,500万人の英国では86例で、人口比からすると日本では現在確認されている数の約5倍の患者が存在する可能性がある。■ 病因遺伝的原因は、細胞内脂質輸送小胞の膜タンパク質であるNPC1タンパク質をコードするNPC1遺伝子、またはライソゾーム内の可溶性たんぱく質でライソゾーム内のコレステロールと結合し、NPC1タンパク質に引き渡す機能を持つNPC2タンパク質をコードするNPC2遺伝子の欠陥による。その結果、細胞内の脂質輸送の障害を生じ、ライソゾーム/後期エンドソームにスフィンゴミエリン、コレステロールや糖脂質などの蓄積を起こし、内臓症状や神経症状を引き起こす。95%の患者はNPC1遺伝子変異による。NPC2遺伝子変異によるものは5%以下であり、わが国ではNPC2変異による患者はみつかっていない。■ 症状1)周産期型出生後まもなくから数週で、肝脾腫を伴う遷延性新生児胆汁うっ滞型の黄疸がみられる。通常は生後2~4ヵ月で改善するが、10%くらいでは、肝不全に移行し、6ヵ月までに死亡する例がある。2)乳児早期型生後間もなくか1ヵ月までに肝脾腫が気付かれ、6~8ヵ月頃に発達の遅れと筋緊張低下がみられる。1~2歳で発達の遅れが明らかになり、運動機能の退行、痙性麻痺が出現する。歩行を獲得できる例は少ない。眼球運動の異常は認められないことが多い。5歳以降まで生存することはまれである。3)乳児後期型通常は3~5歳ごろ、失調による転びやすさ、歩行障害で気付かれ、笑うと力が抜けるカタプレキシーが認められることが多い。神経症状が出る前に肝脾腫を指摘されていることがある。また、検査に協力できる場合には、垂直性核上性注視麻痺を認めることもある。知的な退行、けいれんを合併する。けいれんはコントロールしづらいこともある。その後、嚥下障害、構音障害、知的障害が進行し、痙性麻痺が進行して寝たきりになる。早期に嚥下障害が起こりやすく、胃瘻、気管切開を行うことが多い。7~15歳で死亡することが多い。わが国ではこの乳児後期型が比較的多い。また、この型では早期にまばたきが消失し、眼球の乾燥を防ぐケアが必要となる。4)若年型軽度の脾腫を乳幼児期に指摘されていることがあるが、神経症状が出現する6~15歳には脾腫を認めないこともある。書字困難や集中力の低下などによる学習面の困難さに気付かれ、発達障害や学習障害と診断されることもある。垂直性核上性注視麻痺はほとんどの例で認められ、初発症状のこともある。カタプレキシーを認めることもある。不器用さ、学習の困難さに続き、失調による歩行の不安定さがみられる。歩行が可能な時期に嚥下障害によるむせやすさ、構語障害を認めることが多く、発語が少なくなる。ジストニア、けいれんがみられることが多く、進行すると痙性麻痺を合併する。30歳かそれ以上まで生存することが多い。わが国でも比較的多く認められる。5)成人型成人になって神経症状がなく、脾腫のみで診断される例もまれながら存在するが、通常は脾腫はみられないことが多い。妄想、幻視、幻聴などの精神症状、攻撃性やひきこもりなどの行動異常を示すことが多い。精神症状や行動異常がみられ、数年後に小脳失調(76%)、垂直性核上性注視麻痺(75%)、構語障害(63%)、認知障害(61%)、運動障害(58%)、脾腫(54%)、精神症状(45%)、嚥下障害(37%)などがみられる。運動障害はジストニア、コレア(舞踏病)、パーキンソン症候群などを認める。■ 予後乳児早期型は5歳前後、乳児後期型は7~15歳、若年型は30~40歳、成人型は中年までの寿命といわれているが、気管切開、喉頭気管分離術などによる誤嚥性肺炎の防止と良好なケアで寿命は延長している。また、2012年に承認になったミグルスタット(商品名: ブレーザベス)によって予後が大きく変化する可能性がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ニーマン・ピック病C型の診断の補助のためにSuspicion Indexが開発されている。これらはC型とフィリピン染色で確定した71例、フィリピン染色が陰性であった64例、少なくとも症状が1つある対照群81例について、内臓症状、神経症状、精神症状について検討し、特異性の高い症状に高いスコアを与えたスクリーニングのための指標である。この指標は便利であるが、4歳以下で神経症状の出現の少ない例では誤診する可能性のあることに注意して使用していただきたい。現在、4歳以下で使えるSuspicion Indexが開発されつつある。このSuspicion Indexは、(http://www.npc-si.jp/public/)にアクセスして使用でき、評価が可能である。一般血液生化学で特異な異常所見はない。骨髄に泡沫細胞の出現をみることが多い。皮膚の培養線維芽細胞のフィリピン染色によって、細胞内の遊離型コレステロールの蓄積を明らかにすることで診断する。LDLコレステロールが多く含まれる血清(培地)を用いることが重要である。成人型では蓄積が少なく、明らかな蓄積があるようにみえない場合もあり注意が必要である。骨髄の泡沫細胞にも遊離型コレステロールの蓄積があり、フィリピン染色で遊離型コレステロールの蓄積が確認できれば診断できる。線維芽細胞のフィリピン染色は、秋田大学医学部附属病院小児科(担当:高橋 勉、tomy@med.akita-u.ac.jp)、大阪大学大学院医学系研究科生育小児科学(担当:酒井 規夫、norio@ped.med.osaka-u.ac.jp)、鳥取大学医学部附属病院脱神経小児科(担当:成田 綾、aya.luce@nifty.com)で対応が可能である。確定診断のためにはNPC1遺伝子、NPC2遺伝子の変異を同定する。95%以上の患者はNPC1遺伝子に変異があり、NPC2遺伝子に変異のある患者のわが国での報告はまだない。NPC1/NPC2遺伝子解析は鳥取大学生命機能研究支援エンター(担当:難波 栄二、ngmc@med.tottori-u.ac.jp)で対応が可能である。近年、遊離型コレステロールが非酵素反応で形成される酸化型ステロール(7-ケトコレステロール、コレスタン-3β、5α、6βトリオール)が、C型の血清で特異的に上昇していることが知られ、迅速な診断ができるようになっている1、2)。わが国では、一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療センター(担当者:藤崎 美和、衞藤 義勝、sentanken@mt.strins.or.jp、電話044-322-0654 電子音後、内線2758)で測定可能であり、連絡して承諾が得られるようであれば、凍結血清1~2mLを送る。さらに尿に異常な胆汁酸が出現することが東北大学医学部附属病院薬剤部から報告され9)、この異常も診断的価値が高い特異的な検査の可能性があり、現在精度の検証が進められている。診断的価値が高いと考えられる場合、また精度の検証のためにも、東北大学医学部附属病院へ連絡(担当者:前川 正充、m-maekawa@hosp.tohoku.ac.jp)して、凍結尿5mLを送っていただきたい。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ミグルスタット の治療効果C型の肝臓や脾臓には、遊離型コレステロール、スフィンゴミエリン、糖脂質(グルコシルセラミド、ラクトシルセラミド)、遊離スフィンゴシン、スフィンガニンが蓄積している。一方、脳では、コレステロールやスフィンゴミエリンの蓄積はほとんどなく、スフィンゴ糖脂質、とくにガングリオシッドGM2とGM3の蓄積が顕著である。このような背景から、グルコシルセラミド合成酵素の阻害剤であるn-butyl-deoxynojirimycin(ミグルスタット)を用いてグルコシルセラミド合成を可逆的に阻害し、中枢神経系のグルコシルセラミドを基質とする糖脂質の合成を減少させることで、治療効果があることが動物で確認された。さらに若年型と成人型のC型患者で、嚥下障害と眼球運動が改善することが報告され、2009年EUで、2012年わが国でC型の神経症状の治療薬として承認された。ミグルスタットは、乳児後期型、若年型、成人型の嚥下機能の改善・安定化に効果があり、誤嚥を少なくし、乳児後期型から成人型C型の延命効果に大きく影響することが報告されている。また、若年型のカタプレキシーや乳児後期型の発達の改善がみられ、歩行機能、上肢機能、言語機能、核上性注視麻痺の安定化がみられることが報告されている。乳児早期型では、神経症状の出現前の早い時期に治療を開始すると効果がある可能性が指摘されているが、乳児後期型、若年型、成人型の神経症状の安定化に比較して効果が乏しい。また、脾腫や肝腫大などの内臓症状には、効果がないと報告されている。ミグルスタットの副作用として、下痢、鼓腸、腹痛などの消化器症状が、とくに治療開始後の数週間に多いと報告されている。この副作用はミグルスタットによる二糖分解酵素の阻害によって、炭水化物の分解・吸収が障害され、浸透圧性下痢、結腸発酵の結果起こると考えられている。ほとんどの場合ミグルスタット継続中に軽快することが多く、ロペラミド塩酸塩(商品名:ロペミンほか)によく反応する。また、食事中の二糖(ショ糖、乳糖、麦芽糖)の摂取を減らすことでミグルスタットの副作用を減らすことができる。さらには、ミグルスタットを少量から開始して、増量していくことで副作用を軽減できる。■ ニーマン・ピック病C型患者のその他の治療について2)C型のモデルマウスでは、細菌内毒素受容体Toll様受容体4の恒常的活性化によって、IL-6やIL-8が過剰に産生され、脳内の炎症反応が起こり、IL-6を遺伝的に抑制することで、マウスの寿命が延長することが示唆されている5)。また、モデルマウスに非ステロイド性抗炎症薬を投与すると神経症状の発症が遅延し、寿命が延長することが報告されており6)、C型患者で細菌感染を予防し、感染時の早期の抗菌薬投与と抗炎症薬の投与によって炎症を抑えることが勧められる。また、教科書には記載されていないが、C型患者では早期に瞬目反射が減弱・消失し、まばたきが減少し、この結果眼球が乾燥する。この瞬目反射の異常に対するミグルスタットの効果は不明である。C型患者のケアにあたっては、瞬目反射の減弱に注意し、減弱がある場合には、眼球の乾燥を防ぐために点眼薬を使用することが大切である。4 今後の展望シクロデキストリンは、細胞内コレステロール輸送を改善し、遊離型コレステロールの蓄積を軽減させると、静脈投与での効果が報告されている3)。シクロデキストリンは、髄液の移行が乏しく、人道的使用で髄注を行っている家族もあるが、今後アメリカを中心に臨床試験が行われる可能性がある。また、組み換えヒト熱ショックタンパク質70がニーマン・ピック病C型治療薬として開発されている。そのほか、FDAで承認された薬剤のなかでヒストン脱アセチル化阻害剤(トリコスタチンやLBH589)が、細胞レベルでコレステロールの蓄積を軽減させること4, 7)や筋小胞体からCaの遊離を抑制し、筋弛緩剤として用いられているダントロレンが変異したNPCタンパク質を安定化する8)ことなどが報告され、ミグルスタット以外の治療薬の臨床試験が始まる可能性が高い。5 主たる診療科小児科(小児神経科)、神経内科、精神科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患克服事業 ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究班 ライソゾーム病に関して(各論)ニーマン・ピック病C型(医療従事者向けのまとまった情報)鳥取大学医学部N教授Website(ニーマン・ピック病C型の研究情報を多数記載。医療従事者向けのまとまった情報)NP-C Suspicion Index ツール(NPCを疑う症状のスコア化ができる。提供: アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン株式会社)The NPC-info.com Information for healthcare professionals に入り、Symptoms of niemann pick type C diseaseにて動画公開(ニーマン・ピック病C型に特徴的な症状のビデオ視聴が可能。提供: アクテリオン株式会社)患者会情報ニーマン・ピック病C型患者家族の会(患者とその患者家族の情報)1)大野耕策(編). ニーマン・ピック病C型の診断と治療.医薬ジャーナル社;2015.2)Vanier MT. Orphanet J Rare Dis.2010;5:16.3)Matsuo M, et al. Mol Genet Metab.2013;108:76-81.4)Pipalia NH, et al. Proc Natl Acad Sci USA.2011;108:5620-5625.5)Suzuki M, et al. J Neurosci.2007;27:1879-1891.6)Smith D, et al. Neurobiol Dis.2009;36:242-251.7)Maceyka M, et al. FEBS J.2013;280:6367-6372.8)Yu T, et al. Hum Mol Genet.2012;21:3205-3214.9)Maekawa M, et al. Steroids.2013;78:967-972.公開履歴初回2013年10月10日更新2016年04月19日

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双極性障害の簡便な症状把握のために

 双極性障害(BD)患者の安定性と生活リズムのマーカーとして臨床的に検証されたソーシャル・リズム・メトリック(SRM)を、スマートフォンから受動検知したデータを用いて自動評価する仕組みの実現可能性について、米国・コーネル大学のSaeed Abdullah氏らが評価した。Journal of the American Medical Informatics Association誌オンライン版2016年3月14日号の報告。 BD患者7例に、行動および状況パターンを推測する目的で、加速度計、マイク、位置、コミュニケーションといった情報のデータを受動的に収集するスマートフォンを4週間使用させた。参加者は、スマートフォンアプリを用いてSRMエントリーを完了した。 主な結果は以下のとおり。・自動感知は、SRMスコアを推定するために使用可能であった。・ロケーション、移動距離、会話の頻度、非定常の時間を入力項目として用いた、この一般化モデルの二乗誤差(RMSE)は1.40であった。なお、適正パフォーマンスの範囲は、SRMスコア(0-7)である。・個別化モデルは、さらに向上し、ユーザー全体での平均RMSEは0.92であった。・センサーストリームを用いた分類は、高精度に安定状態(SRMスコア3.5以上)、不安定状態(SRMスコア3.5未満)を予測することが可能である(適合率:0.85、再現率:0.86)。 著者らは「自動スマートフォン感知は、リズムを推定するための実行可能なアプローチであり、BD患者のウェルビーイングの重要なマーカーである」とまとめている。関連医療ニュース 双極性障害の症状把握へ、初の質問票が登場 双極性障害の診断、DSM-IV-TRでは不十分 スマホ版うつ病スクリーニングアプリの精度は

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パーキンソン病治療はどう変わっていくか

 パーキンソン病は「予後が悪い」と説明する医師もいる。しかし、パーキンソン病の予後は決して悪くなく、さらに最近の治療法の進歩によってより良い方向へ変化しつつある。 2016年4月6日、アッヴィ合同会社主催のプレスセミナー「パーキンソン病治療の現状と将来への期待」が行われた。講師は順天堂大学脳神経内科 服部 信孝氏と、全国パーキンソン病友の会常務理事の高本 久氏だ。パーキンソン病治療は今どのような課題があり、今後どう変わっていくのか。セミナーの内容から解説していく。パーキンソン病治療の抱える課題 パーキンソン病の主症状は「手足のふるえ」「筋肉のこわばり」「動作の鈍化」「バランスが取りづらさ」といった運動症状である。一方で、パーキンソン病では「便秘」「睡眠障害」「抑うつ」「関節の変性」「嗅覚障害」といった症状もみられ、これらは非運動症状と呼ばれる。非運動症状は、患者にとってパーキンソン病の症状だとわかりにくいことがある。そのため、受診先に内科・精神科・整形外科を選んでしまい、5~6年間も適切な診断・治療を受けられない患者もいるという。このような患者を「正しい受診先へと導く」ことは今後の大きな課題である。 また、治療法についても課題が挙げられる。全国パーキンソン病友の会が行ったアンケートでは、半分以上の患者が現在の治療に満足しておらず、とくに重症例ではその割合が多い(図1)。また、新しい治療法に対する意識についての質問では、90%以上の患者が「新しい治療法を試したい」という意向を示した(図2)。このことから、パーキンソン病の患者、とくに重症例の患者ではより良い治療法へのニーズが高いという現状がうかがえる。  図1画像を拡大する  図2画像を拡大するパーキンソン病治療はどう変わっていくのか では、今後どのような治療法が期待されているか。現在、薬物治療の中心はL-dopa内服療法であり、多くの患者が症状の改善を実感している。しかし、薬剤が過剰であると「ジスキネジア※1」に、薬剤が効かない・不足していると「オフ※2」になってしまうこと、そして「薬が適切に効いている時間(オン※3)」は病状の進行につれて狭まっていくことが問題になっている。そのためジスキネジアやオフ時間が出にくい薬物療法、または薬物療法以外の治療法に期待が集まっている。 ジスキネジアやオフ時間が出にくいと期待される治療法が「持続性ドパミン刺激療法」だ。ドパミン刺激が持続的になされ、ドパミンの血中濃度が安定することでジスキネジア、wearing off※4といった運動合併症を緩和・発現防止すると考えられている。現在、日本ではレボドパ/カルビドパ合剤を、携帯型注入ポンプ・チューブを介して直接的に十二指腸へ投与する「持続的十二指腸内投与」の治療薬の承認申請も進んでいる。また、薬物療法で症状の改善に限界がある場合には、「脳深部刺激療法」が治療選択肢となる。脳深部に電極を、胸部に小型刺激電源を埋め込み、両者をリード線でつないで脳の奥深くに電流を持続的に流し刺激を与える。この治療法によりジスキネジアやwearing-offの改善が期待でき、薬剤増量が困難な患者における有用な一手となりうる。 「持続的十二指腸内投与」、「脳深部刺激療法」は双方ともパーキンソン病患者のより良い症状改善につながる治療法であるが、手術が必要になるなど、患者と医師にとってはややハードルが高いといえる。服部氏は「海外では治療効果が優先されるが、日本では安全性が重要視される。これらの治療法を行う際、患者や医師のフォローをどのように充実させていくかが課題だ」と述べた。  また、その他の新規治療法として「水素水飲用」「COQ10服用」によるUPDRS※5の改善といったトピックスが注目を浴び、研究が進められている。(図3参照)  図3画像を拡大する パーキンソン病は症状が進行すると非常に多くの薬剤を服薬する必要があり、患者に大きな負担がかかる。また高齢化社会に伴い、パーキンソン病患者は増加すると予想されている。患者により良い治療の選択肢を提案していくためにも、新規治療法の研究には関心が高まっていくだろう。※1 ジスキネジア:体や手足がくねくねと勝手に動くなどの症状(不随意運動)※2 オフ:薬の効果が切れている時間※3 オン:薬が適切に効いている時間※4 wearing off:薬剤の薬効時間が短縮して、薬剤服用前に症状が悪化する現象※5 UPDRS:パーキンソン病統一スケール(Unified Parkinoson's Disease Rating Scale)、パーキンソン病の重症度を点数で表す指標

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deferredステント留置はSTEMIの予後を改善するか/Lancet

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において、ステント留置を即座には行わないdeferredステント留置と呼ばれるアプローチは、従来の即時的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に比べて、死亡や心不全、再発心筋梗塞、再血行再建術を抑制しないことが、デンマーク・ロスキレ病院のHenning Kelbaek氏らが行ったDANAMI 3-DEFER試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月3日号に掲載された。STEMI患者では、ステント留置を用いたPCIによって責任動脈病変の治療に成功しても、遺残血栓に起因する血栓塞栓症で予後が損なわれる可能性がある。これに対し、梗塞関連動脈の血流が安定した後に行われるdeferredまたはdelayedステント留置は、冠動脈の血流を保持し、血栓塞栓症のリスクを低減することで、臨床転帰の改善をもたらす可能性が示唆され、種々の臨床試験が行われている。deferredステント留置の有用性を無作為試験で評価 DANAMI 3-DEFER試験は、デンマークの4つのPCIセンターが参加する3つのDANAMI 3プログラムの1つで、STEMI患者においてdeferredステント留置と標準的PCIの臨床転帰を比較する非盲検無作為化対照比較試験(デンマーク科学技術革新庁などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、胸痛発症から12時間以内で、心電図の2つ以上の隣接する誘導で0.1mV以上のST上昇または新規の左脚ブロックの発現がみられる患者であった。 被験者は、deferredステント留置または即時的に標準的なプライマリPCIを施行する群に無作為に割り付けられた。プライマリPCIは薬剤溶出ステント留置が望ましいとされた。 deferred群では、病院到着時の冠動脈造影で梗塞関連動脈の血流が安定化する可能性がある場合は約48時間(最短でも24時間以上、この間にGP IIb/IIIa受容体拮抗薬などを4時間以上静脈内投与)後に再造影を行い、血流の安定化が確認されればステント留置を行わないこととした。 主要評価項目は、2年以内の全死因死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、予定外の標的血管の血行再建術の複合エンドポイントとした。 2011年3月1日~14年2月28日までに1,215例が登録され、deferred群に603例、標準的PCI群には612例が割り付けられた。予定外の標的血管血行再建術はdeferred群で高頻度 年齢中央値はdeferred群が61歳、標準的PCI群は62歳、男性がそれぞれ76%、74%であった。糖尿病がそれぞれ9%、9%、高血圧が41%、41%、喫煙者が54%、51%、心筋梗塞の既往歴ありが6%、7%含まれた。多枝病変は41%、39%であった。 発症から施術までの期間中央値は両群とも168分であり、フォローアップ期間中央値は42ヵ月(四分位範囲:33~49)だった。 主要エンドポイントの発生率は、deferred群が17%(105/603例)、標準的PCI群は18%(109/612例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.75~1.29、p=0.92)。 主要エンドポイントの個々の項目のうち、全死因死亡(p=0.37)、心不全による入院(p=0.49)、非致死的心筋梗塞の再発(p=0.49)には差がなかったが、予定外の標的血管の血行再建術はdeferred群のほうが有意に多かった(HR:1.70、95%CI:1.04~2.92、p=0.0342)。 また、心臓死(p=0.58)、PCIによる標的血管の血行再建術(p=0.11)、冠動脈バイパス・グラフト術(CABG)による標的血管の血行再建術(p=0.15)にも差はみられなかった。18ヵ月時の左室駆出率は、deferred群がわずかに良好だった(54.8 vs.53.5%、p=0.0431) 手技関連の心筋梗塞、輸血または手術を要する出血、造影剤誘発性腎症、脳卒中を合わせた発生率は、deferred群が4%(27/603例)、標準的PCI群は5%(28/612例)であり、両群間に差を認めず、個々の項目にも差はなかった。 著者は、「現在、類似の3つの臨床試験(MIMI試験、INNOVATION試験、PRIMACY試験)が進行中であり、これらの試験の結果がSTEMIにおけるdeferredステント留置の概念にさらなる光を投げかける可能性がある」としている。

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気を付けたい食事のポイント

【食事療法】食事のポイントについて、教えてください【骨粗鬆症】骨を作る成分、カルシウムとタンパク質を含む食品をバランスよく、規則正しく摂ることが大切です。痩せすぎは、骨粗鬆症の原因ともなりますので、無理なダイエットは止めましょう!監修:習志野台整形外科内科 院長 宮川一郎 氏Copyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第31回 特別編「医療事故調査制度」の概要と展望

2015年10月より医療事故調査制度が正式に始まった。医療事故調査・支援センターとして指定された「日本医療安全調査機構」には、2016年3月現在、累計で188件の医療事故報告(相談は累計1,012件)が行われている。今後、さらに報告を収集・分析していくことで、同じような医療事故を防ぐ防波堤となり、患者さんの医療安全へつながることが期待されている。本コンテンツでは、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員として、わが国の医療安全を担う新制度の構築に参画してきた医師・弁護士であり、「MediLegal」の執筆者である大磯 義一郎 氏(浜松医科大学医学部医学科医療法学 教授)に新制度の概要を聞いた。2015年10月に発足した医療事故調査制度の概要について教えてください。この医療事故調査制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置付けられているとおり、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」です。また、医療法上、この制度の対象となる医療事故は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされています。そして、新医療事故調査制度では、この「医療事故」については、医療事故調査支援センターへの報告義務と調査義務が各医療機関の管理者(院長や施設長)に課せられています。どのような場合が「報告対象」に当たるかについては、1)「予期しなかった死亡」、かつ、2)「医療に起因する死亡」の2つの要件を満たす必要があります。1)の「予期しなかった死亡」とは、「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」(医療法施行規則1条の十の二 第1項)と定義されており、国語辞典的な「そのようなことが起こるとは想定していなかった」という意味ではありません。省令では、(1)あらかじめ患者さんに説明していた場合、(2)診療録その他の文書等に記録していた場合、(3)管理者が医療従事者や医療安全管理委員会からの意見を聞き、当該死亡が予期できたと認めた場合のいずれにも該当しないと管理者が認めた場合には、本制度における「予期しなかった死亡」となるとしています。医療機関に対し、積極的に患者に情報提供をしたり、記録化を進めることで、報告義務を免除するというインセンティブを与えているのです。2)「医療に起因する死亡」とは、原則的には、侵襲的な医療行為(手術、処置、投薬、検査、輸血など)をいい、単なる療養、転倒や転落、誤嚥などの行為は本制度での「医療」には当たらず、報告の対象外とされています。発生した事故が、1)と2)の要件を満たすかどうかを最終的に管理者が判断することになります。その際、現場の医療従事者個人に過重な責任を負わせてきた過去の苦い反省を踏まえ、「当該医療事故に関わった医療従事者などから十分事情を聴取したうえで、組織として判断する」とされています。新制度では、院内調査が中心となり、その主体、調査手法については、管理者の幅広い裁量に委ねられています。したがって、外部委員を入れることは必須ではありません。最後に、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族または医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができます。調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。画像を拡大する医療安全の議論から新制度発足まで、10年近くを要した経緯を教えてください。医療安全への取り組みは、一般に医療萎縮が始まったとされる大野病院事件が起こる、少し前からあった議論です。ただ、当時は医療安全が主たる目的ではなく、過熱した医療紛争の処理が中心的な課題でした。したがって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、個別事案の医学的評価、すなわち、誰の責任かを明らかにすることが中心的な活動となりました。その後、大野病院事件が発生し、医療領域への司法の過剰介入により医療萎縮が起こり、日本の医療が崩壊しかけました。このままでは日本の医療は本当に崩壊してしまうというところまで来て、ようやくトカゲのしっぽ切り的な責任追及ではなく、真面目に医療安全を行おうという機運が生まれてきました。そこで、ちょうどモデル事業が終了するということで、厚生労働省の支援により「医療安全」を主目的に、さらに発展拡大する本制度、組織の発足へとつながりました。この新しい制度では、医療事故事例を収集・集積し、内容を分析することで、次の事故の発生を防止し、患者さんの安全に役立てようということが理念として掲げられました。事故を起こした個人の責任追及の場には、決してしないということです。ただ、患者訴訟団体やその他の団体のそれぞれの思いもあり、本制度の設計の際には議論が難航しました。しかし、最終的に当初の理念通り、2015年10月に正式にスタートすることとなりました。制度構築の途中でとくに議論された事項は何ですか?新制度構築の中でとくに議論された内容は、その理念と運用です。この制度の理念は「医療安全」です。これについては、審議会でも、ほぼ異論なく受け入れられました。しかし、運用については、議論の途中で「医療事故を起こした個人への責任追及」や「裁判で使える文書作成」などさまざまな意見も出されました。そこで、わが国の医療安全のエキスパートに意見を聞いたり、諸外国の同じような制度との比較・検討により、医療安全のためには『WHOドラフトガイドライン2005』でも示しているように、「非懲罰性」と「秘匿性」を報告システムに盛り込むことが重要となりました。「医療安全」とは、将来の同種事故の発生リスクを低下させることで、患者さんの生命を守ることを目的としています。それに加え、患者さんに直接医療行為を行う頻度が高いことから、「加害者」の立場に立たされやすい未来ある若い医師、看護師など医療従事者を守ることも重要です。そうでないと、再び医療萎縮が再燃し、かえって患者さんの利益を害することになりかねないからです。医療事故は、確率的に何万回かに1回は、必ず起きます。これは人的、物的さまざまな要因により、完全に防ぐことは不可能です。ですから、たまたまそのときに行為者となった医療者だけに責任を負わせるような従来の事故対応では、今後も事故の発生を減少させることはできません。そこで、今回の制度では、個人責任追及ではなく、医療をシステムとして捉え、科学的に検証を行い、医療安全という結果を出していこうということが話し合われました。何よりも大事なことは、これまでの「収集事業」のように、医療事故のデータを収集するだけではだめで、分析、検証し、次のアクションへつなげることが重要です。一例を紹介しますと、米国でも日本と同じように脊髄撮影造影剤での事故が起きています。当初、日本と同じように造影剤の添付文書に警告を入れましたが、また同じような事故が起こった。なぜ同じ事故が起こるのか、分析し、検証することで医療者のダブルチェック体制の構築や薬剤保管場所の分離、臨床現場での啓発など具体的な行動が推奨され、事故を防止する対策が取られています。そして、この間、日本で行われたような個人への責任追及は行われていません。新しい医療事故調査制度では、医療事故データを集め、きちんとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すこと。すなわちデータ収集・分析後、対応策を考え、その効果検証を行い、さらにブラッシュアップし、新しいサイクルを回すことが運用として求められます。日本では、約十数年の間、医療安全対策について何ら結果が出せていない状態でした。そのため、医療事故を科学的に検証し、ブラシュアップしていくことで、アウトカムを出そうということになりました。医療事故発生時の対応やグレーゾーン事案での対応はどうなりますか?医療事故発生時のフローは最初に述べたようになりますが、新制度で重要なことは、事故が起こった場合に、最初に本制度における「医療事故」に該当するか判断しなければなりません。新制度では、予期要件(患者さんへの説明と同意、カルテに記載など)があれば、医療機関へのインセンティブとして報告を免除する仕組みもあり、同じ態様の死亡事故でも、個々のケースで報告するか・しないかが変わってきます。医療起因性があるかどうかも含め、報告事案になるかどうかを、管理者は初めに見極める必要があります。原則として、病院などが患者さんへインフォームドコンセントやカルテへの記載で死亡のリスクを明示していれば、報告の必要はありません。しかし、そうでない場合、当該事故が予期できなかったのかおよびその事故がはたして医療に起因する死亡事故なのかどうか、判断する必要があります。ここで注意しておきたいのが、誤診のようなそもそも事故ではない場合や介助などの医療起因性のない場合は含まないということです。本制度は管理者に幅広い裁量権を認めておりますので、グレーゾーン事案では、管理者の判断に負うところが大きいと言えます。新制度はそのように規定していますので、管理者が判断し、事故の報告をする・しないを決定することになります。ただ、将来的にはグレーゾーン事案も、医療事故調査・支援センターへの報告が望ましいと全国の管理者が考えるようになればと考えています。そのためにも、医療事故調査・支援センターは、これまでのように、個別事案の評価を行い、個人責任の追及を支援していくのではなく、医療安全をサイエンスとして分析・検証し、医療安全という結果を示すことができる組織へと変身していく必要があると考えています。今後の新制度の展望について教えてください。また、個々の医療機関でできることには何があるでしょうか。まず、新制度に望むものとして、医療事故として報告された事例を収集するだけでおしまいではなく、医療安全のために、集めたデータを解析して、対策を立て、それを現場に落とし込んで、その効果を検証するというサイクルを回してほしいということです。検証していくことが、日本の医療をより良くしていきます。その中で医療事故調査・支援センターの役割は、大きくなる可能性があります。センターは、個別具体的な事案に捉われるのではなく、将来の同種事故を防ぐため、サイエンスとして医療安全を行い、結果を出していくことが重要になってくるでしょう。また、個々の医療機関でできることとして、院内でも事故防止のため独自に決めたPDCAサイクルを回しながら、日々の診療に当たることです。その際、患者さんへのインフォームドコンセントやカルテへの記載など、きちんと行うべきことは必ず実施してほしい事項です。関連リンク厚生労働省医療安全対策日本医療安全調査機構

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朝食抜きで全死亡リスク1.3倍以上

 朝食を食べない習慣の人は、食べる習慣の人よりも、男性の循環器疾患による死亡リスクと全死亡リスク、女性の全死亡リスクが有意に上昇することが、鳥取大学の横山 弥枝氏らの研究で明らかになった。Yonago acta medica誌2016年3月号の報告。 朝食を食べる習慣は、食事パターンのマーカーであり、健康的なライフスタイルの有用な予測因子である。朝食を抜くことで不健康な影響があることは、多くの研究で報告されているが、朝食抜きと死亡との関連を検討した研究は少ない。 そのため、本研究では、JACC study(Japan Collaborative Cohort Study)の大規模コホート研究データを用いて、朝食抜きとがん/循環器疾患/すべての原因による死亡との関連を調査した。 対象は、日本人の生活習慣ががんとどのように関連しているのかを明らかにすることを目的に行われた、JACC studyの参加者(男性3万4,128人、女性4万9,282人;40~79歳)。参加者は1988~90年にベースライン調査を完了し、2009年末まで追跡調査が行われた。朝食を食べる習慣の有無で参加者を2群に分け、比較した。COX比例ハザード回帰モデルを用いて、多変量解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・中央値19.4年の追跡期間中に、がんで死亡した人は5,768人、循環器疾患で死亡した人は5,133人、すべての原因により死亡したのは1万7,112人であった。・朝食抜きは、不健康な生活習慣に関連していた。・朝食抜き群は、朝食を食べる群に比べ、男性の循環器疾患による死亡リスク(ハザード比[HR]:1.42)と全死亡リスク(HR:1.43)、女性の全死亡リスク(同:1.34)が有意に上昇した。

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