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ブリナツモマブは、1~30歳の初回再発B-ALLの無病生存を改善するか/JAMA

 高または中リスクの初回再発B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の小児・青年・若年成人の再寛解導入療法後の治療において、ブリナツモマブ投与後の造血幹細胞移植(HSCT)と、化学療法施行後のHSCTでは、無病生存割合に関して統計学的に有意な差はないことが、米国・ジョンズ・ホプキンズ大学のPatrick A. Brown氏らChildren's Oncology Group(COG)が行った「AALL1331試験」で示された。試験の早期中止による検出力不足の可能性があるため、結果の解釈には限界があるという。研究の詳細は、JAMA誌2021年3月2日号で報告された。小児・青年・若年成人B-ALLの初回再発に対する標準的な化学療法は、とくに早期再発(高リスク)または再導入化学療法後の残存病変の晩期再発(中リスク)の患者において、重度の毒性、その後の再発、および死亡の発生率が高いとされる。ブリナツモマブは、CD3/CD19を標的とする二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体で、再発・難治性B-ALLに有効であり、良好な毒性プロファイルを有すると報告されている。4ヵ国155施設の無作為化第III相試験 研究グループは、高/中リスクの初回再発B-ALLの小児・青年・若年成人の地固め療法において、強化化学療法をブリナツモマブで代替することで生存率が改善するかの検証を目的に、無作為化第III相試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]/国立がん研究所[NCI]などの助成を受けた)。 2014年12月~2019年9月の期間に、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの155施設で患者登録が行われ、フォローアップは2020年9月30日まで実施された。 対象は、年齢1~30歳の初回再発B-ALL患者であり、ダウン症候群、フィラデルフィア染色体陽性ALL、HSCTやブリナツモマブ治療の施行歴のある患者は除外された。 全例が、4週間の再導入化学療法を受けた後、ブリナツモマブ(15μg/m2/日、28日)を1週の休薬期間を置いて2サイクル投与する群または多剤併用化学療法を2サイクル(1サイクルは4週)施行する群に無作為に割り付けられた。引き続き、HSCTが施行された。 主要エンドポイントは無病生存割合、副次エンドポイントは全生存割合とした。統計学的有意差の閾値は、片側検定のp値が<0.025と設定された。2年全生存やMRD陰性化、HSCT施行の割合は良好 最終解析には208例(年齢中央値9歳、女性97例[47%])が含まれ、このうち105例がブリナツモマブ群、103例は化学療法群であった。118例(57%)が試験薬の投与を完遂した。中間解析時に、予測されていた131件のイベントのうち実際に発生したのは80件(61%)で、有効性または無益性の中止規則を満たさなかったが、安全性・データ監視委員会の勧告により無作為化が中止された。 フォローアップ期間中央値2.9年の時点で、2年無病生存割合はブリナツモマブ群が54.4%、化学療法群は39.0%と、両群間に有意な差は認められなかった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.47~1.03、片側検定のp=0.03)。 2年全生存割合は、ブリナツモマブ群が71.3%と、化学療法群の58.4%に比べ有意に良好であった(死亡のHR:0.62、95%CI:0.39~0.98、片側検定のp=0.02)。 探索的エンドポイントである微小残存病変(MRD)の陰性例の割合は、無作為化の時点で両群間に差はなかった(ブリナツモマブ群26例[25%]vs.化学療法群31例[30%]、群間差:-5%、95%CI:-17~7、p=0.39)。これに対し、1サイクル施行後(79例[75%]vs.33例[32%]、43%、31~55、p<0.001)および2サイクル施行後(69例[66%]vs.33例[32%]、34%、21~46、p<0.001)のMRD陰性例の割合はいずれも、ブリナツモマブ群で有意に良好であった。 HSCTは、ブリナツモマブ群は74例(70%)で実施され、化学療法群の44例(43%)に比し施行割合が高かった(群間差:27%、95%CI:15~41、p<0.001)。 とくに注目すべき重篤な有害事象として、ブリナツモマブ群では感染症が15%、発熱性好中球減少が5%、敗血症が2%に、化学療法群では感染症が65%、発熱性好中球減少が58%、敗血症が27%、口腔粘膜炎が28%にみられた。 著者は、「この試験の解釈については、早期中止による主要エンドポイントの検出力不足の可能性があるため限界がある」とまとめ、「安全性・データ監視委員会の中止勧告の理由は、『両群間の臨床的均衡(clinical equipoise)の喪失』であった」としている。

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EGFR変異肺がん2次治療、オシメルチニブ+ベバシズマブの評価は?【肺がんインタビュー】 第60回

第60回 EGFR変異肺がん2次治療、オシメルチニブ+ベバシズマブの評価は?出演:和歌山県立医科大学 内科学第3講座 赤松 弘朗氏EGFR変異非小細胞肺がんにおけるEGFR-TKIとVEGF阻害薬の併用による有効性の向上が報告されている。そこで2次治療のT790 M変異陽性例に対するオシメルチニブ+ベバシズマブを評価するWJOG8715L試験が行われ、その結果がJAMA Oncology誌で発表された。筆頭著者である和歌山県立医科大学の赤松 弘朗氏に同研究の内容と結果について聞いた。参考Akamatsu H, et al. Efficacy of Osimertinib Plus Bevacizumab vs Osimertinib in Patients With EGFR T790M-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer Previously Treated With Epidermal Growth Factor Receptor-Tyrosine Kinase Inhibitor: West Japan Oncology Group 8715L Phase 2 Randomized Clinical Trial.JAMA Oncol. 2021 Jan.[Epub ahead of print]

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双極性障害のうつ病エピソード再発に対する光曝露の影響

 光線療法は、双極性うつ病に対する効果が示唆されている治療方法であるが、うつ病エピソードに対する予防効果が認められるかは、よくわかっていない。桶狭間病院の江崎 悠一氏らは、実生活環境における光曝露が、双極性障害患者のうつ病エピソードの再発に対する予防効果と関連しているかについて、評価を行った。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2021年2月15日号の報告。 本研究は、2017年8月~2020年6月に日本で行われたプロスペクティブ自然主義的観察研究である。双極性障害外来患者202例を対象に、ベースラインから7日間連続して日中の光曝露を客観的に評価し、その後の気分エピソードの再発について、12ヵ月間フォローアップを行った。光曝露の測定には、周囲の光を測定できるアクチグラフを用いた。 主な結果は以下のとおり。・202例中198例(98%)が12ヵ月間のフォローアップを完了した。・フォローアップ期間中に、うつ病エピソードの再発が認められた患者は、78例(38%)であった。・潜在的な交絡因子で調整したCox比例ハザードモデルでは、日中の光曝露が1,000luxを超える時間の増加と、うつ病エピソードの再発の減少との間に有意な関連が認められた([log min]ハザード比:0.66、95%CI:0.50~0.91)。・朝の平均照度が高く([log lux]ハザード比:0.65、95%CI:0.49~0.86)、1,000luxを超える時間が増加すると([log min]ハザード比:0.61、95%CI:0.47~0.78)、うつ病エピソードの再発に有意な減少が認められた。・日中の光曝露と躁、軽躁、混合エピソードの再発との間に有意な関連は認められなかった。 著者らは「日中の光曝露の増加とうつ病エピソードの再発の減少との間に有意な関連が認められた。これは、主に朝の光曝露と関連していることが示唆された」としている。

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がん治療、臨床的に意味のあるQOL改善のエビデンスはほとんど提示なし/JAMA Netw Open

 カナダ・Sunnybrook Research InstituteのVanessa Arciero氏らがシステマティックレビューを行い、がん治療においてQOLの重要性が認識されているにもかかわらず、QOLの改善を示唆するエビデンスが公表されていないことを明らかにした。緩和治療を受けるがん患者にとって、QOLは生存と並び治療意思決定の重要な側面であるが、規制当局はQOL改善のエビデンスがなくても生存期間延長または抗腫瘍効果だけに基づいて承認することがある。著者は、「統計学的な改善に関するエビデンスがある適応症のうち、臨床的に意味のあるQOL改善を示したものはほとんどなかった」と述べている。JAMA Network Open誌2021年2月1日号掲載の報告。 研究グループは、近年承認されたがん治療が臨床的に意味のあるQOL改善効果を示すかどうかを調査する目的で、2006年1月~2017年12月に米国食品医薬品局(FDA)ならびに欧州医薬品庁(EMA)の承認を得たがん治療の適応症と、それを裏付ける臨床試験(2019年10月までに特定できたQOLに関する公表論文)を特定し、公表されたQOLに関するエビデンスについて評価した。 QOLに関するエビデンスとは、米国臨床腫瘍学会Value Framework(ASCO-VF)バージョン2.0および欧州臨床腫瘍学会Magnitude of Clinical Benefit Scale(ESMO-MCBS)バージョン1.1のQOL bonus criteriaに従ったQOLの有益性、および臨床的に意義のある最小変化量を超えた臨床的に意味のあるQOL改善とした。 QOLのエビデンスと承認年との関連を、ロジスティック回帰モデルを用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間に承認されたがん治療の適応症は、FDAで214(血液学的腫瘍77[36%])、EMAで170(同52[31%])であった ・カットオフ日までにQOLに関するエビデンスが公開されていたのは、FDA承認適応症40%、EMA承認適応症58%であった。・ASCO-VFおよびESMO-MCBSのQOL bonus criteriaを満たしていたのは、FDA承認適応症ではそれぞれ13%および17%、EMA承認適応症では21%および24%であった。・臨床的に意義のある最小変化量を超えた臨床的に意味のあるQOL改善が認められたのは、FDA承認適応症では6%、EMA承認適応症では11%であった。・EMAでは経年的に承認時におけるQOLに関するエビデンスの公開が増加したが(オッズ比[OR]:1.13、p=0.03)、FDAでは増加はみられなかった(OR:1.10、p=0.12)。・QOL bonus の増加や臨床的に意味のあるQOL改善について、経年的な増大は認められなかった。

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トシリズマブとサリルマブ、重症COVID-19患者に有効/NEJM

 集中治療室(ICU)で臓器補助(organ support)を受けた重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、インターロイキン6(IL-6)受容体拮抗薬のトシリズマブとサリルマブによる治療は、生存を含むアウトカムを改善することが認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C. Gordon氏らが、現在進行中の国際共同アダプティブプラットフォーム試験である「Randomized, Embedded, Multifactorial Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia:REMAP-CAP試験」の結果を報告した。重症COVID-19に対するIL-6受容体拮抗薬の有効性は、これまで不明であった。NEJM誌オンライン版2021年2月25日号掲載の報告。アダプティブプラットフォーム臨床試験でトシリズマブとサリルマブの有効性を評価 研究グループは、ICUで臓器補助開始後24時間以内のCOVID-19成人患者を、トシリズマブ(8mg/kg体重)群、サリルマブ(400mg)群、または標準治療(対照群)のいずれかに無作為に割り付けた。 主要評価項目は、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を要しない日数)で、患者が死亡した場合は-1日とした。 統計にはベイズ統計モデルを用い、優越性、有効性、同等性または無益性の事前基準を設定。オッズ比>1は、生存期間の改善、非臓器補助期間の延長、あるいはその両方を示すものとした。標準治療と比較しトシリズマブ、サリルマブで非補助日数が増加、90日生存も改善 トシリズマブ群およびサリルマブ群のいずれも、事前に定義された有効性の基準を満たした。 解析対象は、トシリズマブ群353例、サリルマブ群48例、対照群402例であった。非臓器補助期間の中央値は、トシリズマブ群10日(四分位範囲:-1~16)、サリルマブ群11日(0~16)、対照群0日(-1~15)であった。対照群に対する補正後累積オッズ比中央値は、トシリズマブ群1.64(95%信頼区間[CI]:1.25~2.14)、サリルマブ群1.76(1.17~2.91)で、対照群に対する優越性の事後確率はそれぞれ99.9%、99.5%であった。 90日生存についても、トシリズマブ群とサリルマブ群のプール解析群で改善が認められ、対照群に対するハザード比は1.61(95%CI:1.25~2.08)、優越性の事後確率は99.9%超であった。 その他のすべての副次評価項目についても、これらIL-6受容体拮抗薬の有効性が支持された。

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アミロイド低減治療、認知機能改善は認められず/BMJ

 アミロイド値の低下と認知機能の変化について報告されている入手可能な試験データをプール解析した結果、薬物治療によりアミロイド値低下は、実質的に認知機能を改善しないことが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のSarah F. Ackley氏らが14の無作為化比較試験を対象としたメタ解析の結果、明らかにした。これまで行われたアルツハイマー病におけるアミロイドを標的とした薬物治療の試験の大半で、認知機能についての統計的に優位な有益性は示されていない。一方で、個々の試験では、アミロイド値低下の認知機能低下への潜在的な影響について決定的となるエビデンスも示されておらず、アミロイドを標的とした複数試験のエビデンスは体系的に評価されていなかった。BMJ誌2021年2月25日号掲載の報告。14試験についてメタ解析 研究グループは、アミロイド値の低下が認知機能を改善するかどうかを確認するため、アミロイドを標的とした薬物療法の試験を評価する操作変数メタ解析を行った。 「ClinicalTrials.gov」を基に検索し、アミロイド値のコントロールとアルツハイマー病の予防または治療に関する14の無作為化比較試験を特定し評価した。 被験者の条件は各試験によって異なるが、典型的なものとしては、ベースラインで50歳以上、軽度認知機能障害またはアルツハイマー病の診断を受け、アミロイド陽性だった。 主要アウトカムは、アミロイドPETで測定した脳内アミロイド値の変化と、各治療群について1回以上行われた認知機能テストスコアの変化で、解析は情報が入手できた試験を包含して行われた。アミロイド値の標準取込値率減少とMMSEスコア改善は関連なし 14の無作為化試験のプール解析の結果は、個々の試験の推定値より精度が高かった。 アミロイド値の標準取込値率(SUVR)が0.1標準偏差減少することによるミニメンタルステート検査(MMSE)スコアの改善は、0.03ポイント(95%信頼区間[CI]:-0.06~0.1)だった。 なお同研究グループは、ウェブ上でアプリケーションを公開し、アミロイド値とアルツハイマー病に関する新たな試験結果が出た際には、その結果を入力し新たな推定値の算定を可能にしている。また、プール解析による推定値によって、アミロイド値低下と認知機能改善の関連を示すために必要となる新たなエビデンスについても解説している。

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第48回 新型コロナと東日本大震災(前編) あの時の経験は今、医療現場でどう役に立っているか?

東日本大震災から10年こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月11日で東日本大震災から10年になります。テレビではいろいろな特集を組んでいるようですが、NHKは例年よりドラマが多い印象です。実際の災害に基づくドラマは、「リアリティに欠ける」場合、視聴者が敬遠する恐れがあります。また、被災地以外の人たちが、このコロナ禍の中、どれだけ東日本大震災に関心を寄せるかという問題もあります。3月7日の夜にNHKで放送されたドラマ「星影のワルツ」は、遠藤 憲一の抑えた演技もよく、シンプルで見応えがあるドラマでした。南相馬市の自宅で津波にのまれ、3日間海を屋根に乗って漂流した男性の実話を基につくられたものです。過度に感傷的にも感動的にもならず、かといって説明的でもなく、海の上を漂流し、ただひたすら生き延びようとする様を淡々と描いていたのが印象的でした。それにしても、10年という時間が経過したことで、東日本大震災については、記事を含めた報道も、ドラマや映画も、つくるのが難しい局面になってきているのかもしれません。私自身、10年前は医療媒体の記者として、被災地に何度か足を運び、医療現場の奮闘や復興の足取りなどを報道しました。震災の1ヵ月後にレンタカーを借りて周った時に見た、三陸沿岸の街の惨状は今でも忘れられません。今回はあの時の現場を思い出しながら、東日本大震災における災害保健医療や医療支援が、今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大にどんな形で役立っているか、について考えてみたいと思います。津波による溺死9割、やることがなかったDMAT新型コロナウイルス感染症の感染拡大は「感染災害」だ、という考え方が定着してきています。実際、各都道府県の対策本部の中枢には各地域のDMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)のメンバーたちが充てられ、活動しています。DMATがこのコロナ禍の中、各地で重宝されるのは東日本大震災での経験があったからだ、という見方がもっぱらです。DMATは1995年の阪神・淡路大震災での初期医療体制の遅れの反省を踏まえ、2005年に発足しました。ただ、そのDMAT、東日本大震災では活躍の場が限られました。その理由は、亡くなった方の死因の9割が大津波による溺死だったためです。元々「発災から概ね48時間以内、急性期での活動を想定」し、重症患者の救援が主たる目的だったDMATは、被災地に到着してもやることがほとんどなかった、と言われています。大規模な自然災害においては、超急性期や急性期だけではなく、亜急性期や慢性期の医療や、避難所の衛生環境などを保つための保健活動も重要であること、多種多様な支援チームの調整が必須であることが、東日本大震災によってクローズアップされたのです。こうした教訓から、2012年3月の厚生労働省医政局長通知では「救護班(医療チーム)の派遣調整等を行うために、災害対策本部の下に派遣調整本部を迅速に設置できるよう事前に計画を策定」することが求められました。さらに2016年の熊本地震の教訓を踏まえ、2017年7月には厚労省は各都道府県知事宛に「大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備について」という通知を発出、「各都道府県における大規模災害時の保健医療活動を行う体制に関して、保健医療活動チームの派遣調整、保健医療活動に関する情報の連携、整理及び分析等全体的な調整を行うための保健医療調整本部の整備」を求めるに至っています。こうした調整本部の中核を担うことが期待されたのが「統括DMAT」(厚労省が実施する統括DMAT研修を修了し、登録された者)と呼ばれる災害保健医療の専門家たちです。阪神・淡路、東日本、そして熊本と大きな地震を経験し、超急性期対応だけでなく、さまざまな局面でのコーディネートの経験積を積んできたDMATが、新たな災害である「感染災害」として今直面しているのが新型コロナ、というわけです。「感染災害」にDMAT出動コロナでのDMATの関与は中国・武漢からの邦人退避チャーター便での活動を政府から要請されたことにはじまり、その流れでクルーズ船ダイヤモンド・ プリンセス号における活動につながったとされています。厚労省の第21回「救急・災害医療提供体制の在り方に関する検討会(検討会)」(2020年8月21日)では、コロナでのDMATの活動が報告されています。それによれば、中国の武漢市からの邦人退避チャーター便について、厚労省からDMATの派遣要請がなされ、邦人の宿泊場所で健康チェックや感染管理に当たっています。この時の活動期間は1月31日~3月3日、全国から医師、看護師ら151人が集まっています。その後、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号にも派遣要請がされ、DMATと他医療チームの調整、熱発外来、患者の搬送トリアージなどを行っています。この時の活動期間は2月8日~3月1日、全国から医師、看護師ら472人が集まりました。ダイヤモンド・プリンセス号という、コロナ医療の最前線において感染管理やクラスター対策を学んだDMATのメンバーたちは、活動終了後にはそれぞれが所属する病院に戻り、今度は地元でコロナと対峙することになりました。患者搬送コーディネーターに統括DMATをダイヤモンド・プリンセス号での活動実績などを評価した厚労省は2020年3月26日、「新型コロナウイルス感染症の患者数が大幅に増えたときに備えた入院医療提供体制等の整備について(改訂)」と題する事務連絡で、コロナ対応におけるDMATの最大限の活用を各都道府県に要請しました。事務連絡は、「都道府県調整本部には、集中治療、呼吸器内科治療、救急医療、感染症医療の専門家、災害医療コーディネーター等に必要に応じて参加を要請するとともに、搬送調整の中心となる『患者搬送コーディネーター』を配置すること。(中略)その際、円滑な搬送調整実施のために、患者搬送コーディネーターのうち少なくとも1人は、自然災害発生時における『統括DMAT』の資格を有する者であることが望ましい」とし、「都道府県調整本部については、統括DMATなどの関係者との協議の上、都道府県の実情を踏まえてDMATメンバーの参画も考えられる」としています。45都道府県でDMAT登録者が調整本部に参画そういった経緯から、ダイヤモンド・プリンセス号以降も、DMATは「厚労省本部地域支援班」として各地のクラスターの現場対応にあたったり、各都道府県の調整本部において現場の指揮や患者搬送のコーディネートにあたったりしています。第22回検討会(2020年12月4日)の資料によれば、45都道府県でDMAT登録者が調整本部に参画し、27都道府県に常駐(最大時)しているとのことです。東日本大震災とその後のさまざまな災害対応で得られた教訓を糧に調整力や対応力を高めてきたDMATが、このコロナ禍の中、全国でその役割を存分に発揮しているわけです。ただ、震災などの自然災害との大きな違いは、コロナは災害が局所的ではなく、全国で起きていることです。あるDMATの医師はこんなことを話していました。「大災害が起こると、各地のDMATの仲間の間で色んな情報が飛び交うのだが、今回はそれがほとんどない。それだけ、それぞれの地域でDMATがいっぱいいっぱいで頑張っているからだろう」。東日本大震災以来の大災害とも言える新型コロナ。この「感染災害」を乗り越えたとき、日本の災害保健医療は、またもう一皮剥けているに違いありません。

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診療に役立つLGBTQsの基礎知識

 LGBTという言葉を聞いたことはありますか? これは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉で、セクシュアルマイノリティの総称として使われています。多様性を強調するためにQuestioningを加えて、LGBTQsと表現することもあります。 性の多様性に関する知識は診療にも必要不可欠です。当事者が声を上げ始め、各自治体による同性パートナーシップ制度の成立などの社会変化もある今、知らないでは済まされない時代になりつつあります。今回はCareNeTVで配信中の「診療に役立つLGBTQsの基礎知識」講師で、川崎協同病院総合診療科・にじいろドクターズの吉田 絵理子氏に医師が知っておくべきことを聞きました。なぜ性的マイノリティの人々についての理解が必要なのでしょうか? 性的マイノリティの人々は、差別や偏見、いじめといった社会的困難に遭遇しやすいことを背景として、国内外においてさまざまな疾患リスクが高いことが報告されています。例えば、性的マイノリティ全般においてうつ病や自殺企図、物質依存のリスクが高い1)ことが報告されています。また、男性と性交渉する男性のHIV感染リスクが高い2)ことは広く知られていますが、学校での性教育は異性愛を前提としているため、同性間でのセーファーセックスに関する知識を得る機会が限られているといった課題があります。さらに安心して定期的に性感染症のチェックを受けられるような医療機関は非常に限られているのではないでしょうか。日常診療でLGBTQsの方々に出会っているのでしょうか? 電通ダイバーシティ・ラボが2018年に行った調査結果では、回答者の約9%がLGBTQsに相当したと報告しています3)。この数値をそのまま当てはめられるわけではありませんが、外来では1コマあたり1人以上のLGBTQsの患者さんを診ているかもしれないということです。何科の医師であっても、診療している患者さんの中にはLGBTQs当事者の方がいると考えられます。LGBTQsの人を診たことがないのではなく、診ていることに気付いていないのです。すべての人にかかわるSOGIという概念とは? SOGIとは、Sexual Orientation(性的指向)とGender Identity(性自認) の頭文字をとった言葉です。性的指向は性愛・恋愛の対象、性自認は自分の性をどう認識しているか、です。SOGIはLGBTQsの人だけではなく、すべての人にかかわる概念です。あらゆるSOGIの人が受診しやすい環境を整えること大切です。また職員の中にも性的マイノリティの人はいますので、あらゆるSOGIの人が働きやすい環境作りも同様に重要です。問診で必要な情報を聴取するには? 当事者の中には、医療者から差別的対応を受けたことをきっかけに、セクシュアリティに関係する事柄を医師に話さない・話せない・話したくない、と思う方もいらっしゃいます4)。さらに深刻な場合は、受診自体を控えるケースもあります5)。 例えばうつ病で通院していても性的指向・性自認についての悩みを話せていないという声もありますし、同性・異性それぞれのパートナーがいる患者が性感染症を心配して受診した際に、性行為についての正確な情報を医師に開示できないために、適切な診断や予防医療の提供、セーファーセックスの指導が行われていない、といったことも起きています。セクシュアリティにかかわらず使える問いかけは? こういったことを防ぐには、多様なセクシュアリティの人が受診しているということを前提とした問診の基本を知っておく必要があります。 例えば、「結婚していますか」「(女性に対して)彼氏はいますか」という質問は異性愛を前提としていますが、「パートナーの方はいますか」というジェンダーに中立的な聞き方であれば異性・同性どちらも含まれます。セクシュアルヒストリーについて聴取する際にも異性間の性交渉を前提とはせずに、「正確な診断をする上で必要なので皆さんに伺っているのですが、性行為の相手は男性ですか女性ですかそれとも両方ですか」といった問いかけ方をするとよいでしょう。 性的指向、性自認、性行動について決めつけてしまうことが診療の妨げになりうるということもぜひ押さえてほしい事柄です。例えばトランス男性(出生時に割当てられた性別が女性で、性自認が男性)の人が、女性を好きになるとは限りません。トランス男性でゲイという人もいますし、男性との性交渉で妊娠することもありえます。 問診には技術も必要ですが、最も大切なことは、個人的な感情がどうあれ、医師として患者さんのあり方を尊重しサポーティブな態度で接することだと思います。施設単位で受診ハードルを下げる工夫は? 施設単位で行えることもあります。トランスジェンダーの方が受診しやすくなるように、問診票の性別欄を男女の二択ではなく自由記載ができるようにする、呼び入れを番号で行う、または通称名の使用ができることをわかりやすく伝えるといったことができます。トイレや入院着などもジェンダーで分けずに使えるものを準備することも大切です。 ハード面の工夫もさることながら、とくに重要なのは、スタッフの守秘義務の徹底です。セクシュアリティについて、患者の家族であっても本人の同意なく開示しないこと。どこまで自身のセクシュアリティを開示するかはあくまで本人が決めることです。関係するスタッフの間で対応が統一されるよう、とくに注意を要する事柄です。今後の展望をお聞かせください LGBTQsといってもセクシュアリティごとに健康リスクは異なります。あらゆるセクシュアリティの人が、日本全国どこででも、予防も含めた適切な医療サービスを安心して受けられるよう、そうした知識も広げていきたいと思っています。今までLGBTQsに馴染みがなかった先生方が、多様なセクシュアリティに配慮した環境を整備するのはハードルが高いと思われるかもしれません。すべてではなく、できること1つでも取り組むことから始めていただければ、それは多くの方の安心につながっていきます。ぜひ、一緒に取り組んでいきましょう。吉田 絵理子氏(川崎協同病院総合診療科・にじいろドクターズ)2003年京大理学部卒後、阪大医学部に学士編入。07年卒業。川崎協同病院での初期研修、聖隷三方原病院で後期研修ののち、11年より現職。総合診療医を中心とした「にじいろドクターズ」では、主に医療従事者を対象に性の多様性と医療に関する学びの場などを提供している。■関連コンテンツCareNeTV「診療に役立つLGBTQsの基礎知識」■参考文献・参考サイトはこちら1) King.M, et al. BMC Psychiatry. 2008;8:e1-17.  Haas AP, et al. J Homosex. 2011;58:10-51. .2) 厚生労働省エイズ動向委員会.2018年エイズ発生動向年報.2018.3) 株式会社電通コーポレートコミュニケ―ション局広報部. dentsu NEWS RELEASE 2019. 4) 性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会. 性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト(第3版). 2019.5) 浅沼智也ら.GID/トランスジェンダーの医療機関に関するアンケート調査結果. GID学会 第21回研究大会・総会プログラム・抄録集; 43. 2019.

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救急でのてんかん重積状態に対するベンゾジアゼピン投与戦略の評価

 全身痙攣重積状態(GCSE)の治療に特定のベンゾジアゼピンを投与することがガイドラインで推奨されているが、一般的には少用量で投与されている。米国・サウスカロライナ大学のKyle A. Weant氏らは、救急受診したGCSE患者の初期マネジメントにおけるベンゾジアゼピン投与戦略について、評価を行った。The American Journal of Emergency Medicine誌オンライン版2021年2月6日号の報告。 GCSE治療のために救急科でベンゾジアゼピン投与を受けた患者を対象に、レトロスペクティブにレビューした。初回ベンゾジアゼピン治療後に発作の改善を達成した患者の特徴を評価した。救急受診した患者222例に対し、ベンゾジアゼピンは403回投与されていた。そのうち、推奨事項を順守していた割合は1.5%であった。 主な結果は以下のとおり。・1次治療では、ベンゾジアゼピン平均投与量1.6mg(0.02mg/kg)であり、患者の86.8%に良好な反応が認められた。・早期に発作が改善した患者とそうでない患者との間に、投与量の差は認められなかった(p=0.132)。・早期に発作が改善した患者では、以下の割合が有意に低かった(各々、p<0.05)。 ●ベンゾジアゼピン追加投与 ●挿管 ●集中治療室または病院への入院・早期に抗てんかん薬治療を受けた患者では、以下の割合が有意に低かった(各々、p<0.05)。 ●ベンゾジアゼピンの追加投与 ●挿管 ●集中治療室または病院への入院 著者らは「入院前や救急受診環境におけるベンゾジアゼピン投与は、ガイドラインで推奨されているよりも少用量であった。早期の発作改善や早期に抗てんかん薬を投与された患者では、いくつかの重要な臨床アウトカムと関連していることが明らかとなった。今後は、ベンゾジアゼピンの最適な投与戦略や早期の抗てんかん薬投与の影響を調査する必要性がある」としている。

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第50回 COVID-19ワクチン接種後数日してからの皮膚反応

接種後の遅れ馳せ(Delayed)の皮膚反応への心づもりが必要新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質を作るmRNAが成分のModerna(モデルナ)社のワクチンmRNA-1273を接種した12人に接種後すぐではなく何日か(4~11日;中央値8日)してから生じた遅れ馳せの皮膚反応を米国ボストン市の著名病院・Massachusetts General HospitalのチームがNEJM誌に報告し1)、皮膚感染症と混同して抗生物質で無闇に治療してはいけないと注意を促しています2)。提供:Massachusetts General Hospital腫れ、痒み、痛みなどを伴う上の写真のようなそれら皮膚反応は接種後すぐの局所や全身の症状が解消した後に注射部位近くに広く生じ、5人の病変の直径は10cm以上ありました。主に冷やすか抗ヒスタミン薬で治療され、何人かにはステロイド(グルココルチコイド)が使われました。また1人は蜂巣炎と推定されて抗生物質が投与されました。症状は発生から2~11日(中央値6日)で解消しました。そのような皮膚反応が遅延型かT細胞を介した過敏反応らしいとの著者等の見立ては報告された12人と同様に遅れ馳せの広域皮膚反応を呈した別の1人の皮膚検体の解析で支持されています。検体の表層血管周囲や毛胞周囲には好酸球や肥満細胞(マスト細胞)を含むリンパ球浸潤が認められました。遅延型過敏反応や注射部位反応を呈した人への2回目接種は禁忌ではないことから12人には2回目の接種を案内し、全員が2回目の接種を済ませました。2回目の接種後に半数の6人は1回目と同様か1回目より軽度の反応を再び被りました。2回目の接種後の皮膚症状はより早く、接種から1~3日(中央値2日)後に発生しています。mRNA-1273ワクチンへの遅れ馳せの局所反応に心づもりができていない医師がいるかもしれませんが、今回の報告はそれらの反応がおよそ恐れるに足るものではないことを改めて示しています2)。著者によると遅れ馳せの皮膚反応は免疫が良好に働いていることをどうやら意味しており、ワクチン接種の妨げにはなりません。今回の報告が不必要な抗生物質使用を減らしてワクチン接種の全うを助けることを著者は望んでいます。皮膚病変はSARS-CoV-2感染でも生じうるワクチンのみならずCOVID-19と種々の皮膚異変の関連も示唆されており、たとえば足のつま先によく生じる3)ことから”COVID toes”として知られる凍瘡(しもやけ)様病変がCOVID-19流行に伴って小児や若い成人患者にとくに多く認められています4)。COVID toes患者の鼻や喉の拭い液のPCR検査でSARS-CoV-2が検出されることは少なく4)、まったく検出できなかった報告5,6)ではSARS-CoV-2感染との関連はなさそうと結論されています。しかし組織を生検した幾つかの試験ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質が検出されており、それらの断片が皮膚の内皮細胞のACE2に結合して取り込まれて血管内皮炎を誘発するのかもしれません7)。スパイクタンパク質はPfizerやModerna 社のワクチンが体内で作り出す成分でもあり、スパイクタンパクと内皮細胞のACE2の相互作用がどういう顛末をもたらすのかをさらに調査する必要があります。参考1)Blumenthal KG,et al. N Engl J Med. 2021 Mar 3. [Epub ahead of print]2)MGH researchers call for greater awareness of delayed skin reactions after Moderna COVID-19 vaccine / MGH3)Magro CM, et al.Br J Dermatol . 2021 Jan;184:141-150. 4)Colmenero I, et al.Br J Dermatol. 2020 Oct;183:729-737. 5)Herman A, et al. JAMA Dermatol. 2020 Sep 1;156:998-1003.6)Roca-Gines J, et al. JAMA Dermatol.2020 Sep 1;156:992-997.7)Ko CJ, et al. J Cutan Pathol. 2021 Jan;48:47-52.

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サルコペニアの高齢者は死亡・要介護リスク増加、予備群は?/東京都健康長寿医療センター

 健康のバロメーターとして「筋肉」が注目される中で、高齢者におけるサルコペニアの予防・改善は、健康長寿を実現するためにも重要である。東京都健康長寿医療センター研究所・北村 明彦氏らの研究グループは、日本人の一般高齢者1,851人におけるサルコペニアの有病率、関連因子、死亡・要介護化リスクについて約6年間の追跡調査を行い、その結果をプレスリリースで発表した。75~79歳では男女ともに約2割、80歳以上では男性の約3割と女性の約半数がサルコペニアに該当し、サルコペニアになると死亡、要介護化のリスクがいずれも約2倍高まることが示された。Journal of Cachexia, Sarcopenia Muscle誌2021年2月号に掲載。サルコペニア予備群に3割が該当したが、死亡リスク・要介護リスクは高くない 研究グループは、群馬県と埼玉県において、健康診査を受けた65歳以上の日本人計1,851人(女性50.5%、平均年齢72.0±5.9歳)を対象に、平均5.8年間(最大9.5年)の追跡研究を行った。サルコペニア診断基準(AWGS 2019)に基づき定義されたサルコペニアは、筋肉量の一定の減少(四肢骨格筋指数:男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満)に加えて、筋力・身体機能の一定の低下(握力低値:男性28kg未満、女性18kg未満、または歩行速度の低値:男女ともに毎秒1m未満)が認められた場合に「有り」と判定された。 サルコペニアの有病率、関連因子、死亡・要介護化リスクについて調査した主な結果は以下のとおり。・サルコペニアの有病率は、男性で11.5%(105/917例)、女性で16.7%(156/934例)だった。有病率は年齢とともに上昇し、75~79歳では男女ともに約22%、80歳以上では男性の32%、女性の48%がサルコペニアに該当していた。・サルコペニアの人はそうでない人に比べて、男性では「身体活動が少ない」「血液中のアルブミン濃度が低い」「喫煙者が多い」「最近1年以内の入院が多い」(いずれもp<0.05)、女性では「うつ症状が多い」(p<0.001)、「認知機能の低下が多い」(p=0.004)ことがわかった。・サルコペニアの人は、筋肉量、筋力ともに低下していない人に比べて、男女共に総死亡リスクが高かった(男性:ハザード比[HR]=2.0、95%CI:1.2~3.5/女性:HR=2.3、95%CI:1.1~4.9)。また、要介護発生リスクも高くなる可能性が明らかになった(男性:HR=1.6、95%CI:1.0~2.7/女性:HR=1.7、95%CI:1.1~2.7)。・サルコペニア予備群(筋肉量は少なくても筋力・身体機能が一定維持されている人、および筋力・身体機能が弱くても筋肉量が一定維持されている人)には、男性で29.7%(272/917例)、女性で31.6%(295/934例)が該当したが、総死亡リスク、要介護発生リスクは共に高くならなかった。 研究者らは、「サルコペニアの高齢者は、死亡および要介護発生のリスクが高く、いわゆる自立喪失の危険性が高いことが明らかとなった。したがって、サルコペニアを早期発見し、その進行を食い止めることは健康寿命の延伸に貢献すると考えられる」と結論している。

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多発性骨髄腫へのide-celのCAR-T細胞療法、奏効率70%超/NEJM

 3種のクラスの薬剤による前治療歴のある再発・難治性多発性骨髄腫の治療において、イデカブタジェン ビクルユーセル(ide-cel、bb2121)は高い全奏効割合をもたらし、微小残存病変(MRD)の陰性化の割合も良好であるが、多くの患者でGrade3/4の血液毒性やサイトカイン放出症候群などの有害事象が発現することが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のNikhil C. Munshi氏らが実施した「KarMMa試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年2月25日号に掲載された。3種の主要クラスの骨髄腫治療薬(免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38抗体製剤)による治療を行っても、病勢が進行した多発性骨髄腫患者では、標準治療が確立されておらず、完全奏効(CR)はまれで、無増悪生存(PFS)期間中央値は3~4ヵ月、全生存(OS)期間中央値は8~9ヵ月と転帰は不良である。ide-celは、B細胞成熟抗原(BCMA)を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であり、再発・難治性多発性骨髄腫の第I相試験で有望な有効性が報告されている。3つの用量の単群第II相試験 研究グループは、再発・難治性多発性骨髄腫患者における3つの用量のide-celの有効性と安全性を評価する目的で、単群第II相試験を行った(bluebird bioとCelgeneの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上で、免疫調節薬、プロテアソーム阻害薬、抗CD38抗体製剤を含む少なくとも3レジメンの治療を受け、最終レジメンの最終投与から60日以内に再発した多発性骨髄腫の患者であった。 被験者は、3つのCAR陽性T細胞の目標用量(150×106、300×106、450×106)のうち1つの投与を受け、少なくとも24ヵ月の経過観察が行われた。 主要エンドポイントは、全奏効(部分奏効[PR]以上)とした。重要な副次エンドポイントは、CR以上(CRおよび厳格なCR[sCR])であった。全奏効割合は73%、MRD陰性化割合は26% 2017年12月~2018年11月の期間に140例が登録され、白血球アフェレーシスを受けた。このうち128例がide-celの投与を受けた。150×106群が4例、300×106群が70例、450×106群は54例であった。全体の年齢中央値は61歳(範囲:33~78)、男性が76例(59%)で、診断からの経過期間中央値は6年(範囲:1~18)、前治療レジメン数中央値は6レジメン(範囲:3~16)だった。 フォローアップ期間中央値13.3ヵ月の時点で、73%(94/128例)でPR以上の奏効が得られ、このうち33%(42例)がCR以上で、最良部分奏効(VGPR)以上は52%(67例)であった。用量別の内訳は、全奏効割合は150×106群が50%(2/4例)、300×106群が69%(48/70例)、450×106群は81%(44/54例)であり、CR以上の割合はそれぞれ25%(1/4例)、29%(20/70例)、39%(21/54例)だった。 MRD陰性(有核細胞<10-5個)は128例中33例で得られ、陰性化の割合は26%であり、PR以上の42例では79%(33例)で陰性化が達成された。また、初回奏効までの期間中央値は1.0ヵ月(範囲:0.5~8.8)、CR以上達成までの期間中央値は2.8ヵ月(1.0~11.8)で、全体の奏効期間中央値は10.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.0~11.3)、450×106群では11.3ヵ月(10.3~11.4)であった。 全体のPFS期間中央値は8.8ヵ月(95%CI:5.6~11.6)であり、450×106群では12.1ヵ月(8.8~12.3)、CR以上では20.2ヵ月であった。また、OS期間中央値は19.4ヵ月(18.2~評価不能)で、1年OS率は78%だった。 頻度の高い毒性として、好中球減少が117例(91%)、貧血が89例(70%)、血小板減少が81例(63%)認められ、このうちGrade3/4はそれぞれ114例(89%)、77例(60%)、67例(52%)であった。サイトカイン放出症候群は107例(84%)で報告され、このうち7例(5%)でGrade3/4のイベントがみられた。神経毒性は23例(18%)で発現し、4例(3%)はGrade3であったが、Grade3を超える神経毒性はなかった。 また、細胞動態解析では、CAR陽性T細胞は、投与後6ヵ月の時点で49例中29例(59%)で、12ヵ月時には11例中4例(36%)で確認された。 著者は、「これらの知見は、CAR陽性T細胞の目標用量範囲150×106~450×106におけるide-celの実質的な抗腫瘍活性を支持するものであり、450×106は他の用量に比べ有効性がわずかに高かった」としている。

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副腎白質ジストロフィー〔ALD:adrenoleukodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy:ALD)は、1923年に副腎萎縮を伴う進行性脱髄疾患として報告された。X連鎖性遺伝形式をとり、臨床的には男性患者で大脳半球の進行性の炎症性脱髄を特徴として、5〜10歳に発症して数年で寝たきりになる小児大脳型や、思春期以降に痙性歩行で発症するadrenomyeloneuropathy(AMN)など、遺伝子型と相関しない複数の臨床型を有している。大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植であり、予後改善には早期診断が極めて重要である。また、女性保因者でも加齢とともにAMN類似の脊髄症を発症することがある。■ 疫学2016年度に厚生労働省難治性疾患政策研究班において実施した全国調査で260人程度の国内患者の存在が推測されている。一方、米国・ニューヨーク州の3年間の新生児スクリーニングからは男女15,000出生に1人の患者が報告されている。■ 病因ペルオキシソーム膜に存在するトランスポータータンパク質をコードするABCD1の遺伝子異常によるX連鎖性の遺伝性疾患である。ABCD1タンパクは飽和極長鎖脂肪酸のペルオキシソーム内への輸送に関与し、患者では極長鎖脂肪酸のβ酸化が障害され、全身の臓器に蓄積を認める。しかし、病態はほとんど解明されておらず、脱髄の発症機序や飽和極長鎖脂肪酸蓄積による病態への関与も不明である。■ 病型分類と症状男性患者では遺伝子型や極長鎖脂肪酸値と相関しない複数の臨床病型を有している。また女性保因者発症も相関せず、いずれも同一家系内であっても発症前の予後の予測は難しい。1)小児大脳型(CCALD)発症年齢は3~10歳で、6、7歳にピークがある。性格・行動変化、視力・聴力低下、知能の障害、歩行障害などで発症し、数年で寝たきりに至ることが多い。最も多い臨床病型である。2)思春期大脳型(AdolCALD)発症年齢は11~21歳。小児大脳型に類似も、やや緩徐に進行する傾向にある。3)adrenomyeloneuropathy(AMN)10代後半~成人。痙性対麻痺で発症し、緩徐に進行する。軽度の感覚障害を伴うことがある。軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎を伴うこともある。4)成人大脳型(ACALD)性格変化、認知機能低下、精神症状で発症し、小児型と同様に急速に進行して植物状態に至る。精神病、脳腫瘍、他の白質ジストロフィー、多発性硬化症などの脱髄疾患との鑑別が必要。AMNや小脳・脳幹型からACALDに進展する場合もある。5)小脳・脳幹型小脳失調、下肢の痙性などを示し、脊髄小脳変性症様の臨床症状を呈する。6)アジソン型無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など副腎不全症状のみを呈する。神経症状は示さない。大脳型やAMNに進展する場合もある。7)女性発症者女性保因者の一部は加齢とともにAMNに似た臨床症状を呈する場合があり、下肢の痙縮、痛みから歩行障害を来すこともある。また、末梢神経障害や尿・便失禁の症状を呈することもある。8)発症前男性生下時より極長鎖脂肪酸は増加しており、診断は可能であるが、予後予測は不可能である。■ 予後男性大脳型患者では無治療の場合、急速に進行して数年で寝たきりになることもあるため、早く疑い、診断して、速やかに移植を実施することがその後のQOLの向上につながる。一方、AMNは緩徐に進行するが一部で大脳型に進展して急速に進行する。すべての男性ALD患者では、副腎機能を定期的に評価し、早期にステロイド補充計画を進めることは生命予後に重要である。女性保因者では、加齢とともに脊髄症状を来すことがあり、オランダの報告では軽微な症状を含めると60歳以上では80%の女性保因者で神経症状を来しているとの報告もある。一方で、副腎不全や大脳型を来すことはほとんどまれである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)男性患者では病型ごとに発症時期や症状も多彩であるため、以下の臨床所見に留意した上で、早期に診断検査を行うことが重要である。■ 臨床所見1)高次脳機能障害小児・思春期大脳型では幼稚園や学校等での落ち着きのなさや行動異常、成績低下、書字やしゃべり方の異常から注意欠陥/多動性障害(ADHD)や学習困難として対応されている症例がみられる。成人大脳型では社会性の欠如や性格変化、行動異常、認知機能低下などの症状で発症する。2)眼科的症状(視知覚異常)小児大脳型では途中から気付く斜視や、見づらそうな様子から眼科を受診する症例もみられる。斜視や視線が合わない、見えにくそうにしている以外に、物や人にぶつかりやすい、転びやすいなどの視覚性注意障害としての症状がみられることもある。3)耳鼻科的症状(聴覚異常)聞き返しが多い、電話などでは会話が理解できないなどの症状から耳鼻科を受診する症例もみられる。4)歩行障害歩行障害は大脳型やAMN、女性発症者など比較的広くみられる。錐体路症状としての痙性麻痺以外に、視覚性注意障害として転びやすいなどの症状や小脳・脳幹型では両下肢の痙性歩行や小脳失調によるふらつき歩行がみられる。5)自律神経障害AMNや女性発症者では排尿・排便障害、AMNでは陰萎がみられることがある。6)副腎不全症状非特異的な症状である易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などさまざまな症状を訴える。■ 検査1)脳MRI検査大脳型では脳MRIで異常が検出される。典型例ではT2強調、またはFLAIR法にて後頭葉の側脳室周囲の白質から脳梁膨大部に左右対称の病変が確認される。また、ガドリニウム造影にて病変境界部が線状に造影される。一方、前頭葉から後方に進展する例も10%程度みられる。2)副腎機能検査副腎不全症状がなくても男性ALD患者の80%に副腎皮質機能不全を認めるとの報告もあり、非ストレス刺激下での早朝ACTH、コルチゾール値と迅速ACTH負荷試験を行う。3)血中極長鎖脂肪酸検査(保険収載)副腎白質ジストロフィー男性患者では血中極長鎖脂肪酸の増加を認める。一方、女性保因者では10%程度は正常範囲に入るため、極長鎖脂肪酸検査が正常だけでは保因者を否定することはできず、発端者で同定されたABCD1遺伝子変異の有無を確認する必要がある。2020年度の保険診療の改定により衛生検査所でも保険診療による検査が可能である。4)ABCD1遺伝子検査(保険収載)2020年度より副腎白質ジストロフィー遺伝学的検査が保険収載されている。かずさ遺伝子検査室などの衛生検査所以外に、岐阜大学でも「ALDペルオキシソーム病ホームページ」にて極長鎖脂肪酸検査とABCD1遺伝学的検査を病的意義などのコメントを添えて保険診療で受託しており、大脳型発症早期疑い例では数日で解析結果を提供して迅速な治療に繋げている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、移植の可否や時期は知的・生命予後を左右する。また、アジソン型でも早期のステロイド補充療法が予後に繋がるため早期介入が重要である。1)ステロイド補充療法副腎不全は病状や生命予後にも深くかかわるため、負荷試験も実施して定期的に副腎機能を評価しながら治療を管理していく必要がある。これは移植施行後も含めたすべてのALD男性患者に対して必要である。2)造血幹細胞移植現在、大脳型ALDに対して、唯一有効な治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、小児・思春期以外に成人大脳型にも有効との報告がある。また、骨髄非破壊的前処置による低リスクの移植や、臍帯血による移植例も比較的良好な治療成績を挙げている。その機序はドナー由来の単球から分化したマクロファージ系細胞が脳内で機能する可能性が示唆されている。3)遺伝子改変造血幹細胞移植2009年にフランスのグループが、適合する移植ドナーが得られなかった2例の大脳型ALD患者に対して、患者本人から血液幹細胞を採取して、レンチウィルスベクターにより正常ABCD1遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植を施行し、その後の観察にて進行停止を確認し、従来の造血幹細胞移植と同等の効果を得たことを報告した。その後、米国Bluebird bio社の支援により治験が実施されている。4 今後の展望■ 新生児スクリーニングの導入大脳型や副腎不全の進行を阻止して予後改善に繋げるにはできる限り早期の診断が望まれる。海外では新生児スクリーニングがすでに実施されており、米国・ニューヨーク州では2013年末から新生児スクリーニングが開始され全米に広がりつつあり、オランダも2019年10月より男児のみのパイロット研究が開始されている。国内でも令和3年度より一部の自治体で有償での選択的スクリーニングがパイロット研究として開始が検討されている。■ 予後予測法の開発大脳型発症の病態はほとんど解明されておらず、発症前患者の予後予測が不可能なため、定期的なMRI検査で異常を確認してから治療を施行している現状にあり、確実な発症阻止に繋げるためには、大脳型発症因子の探索から発症予測法の開発、さらには大脳型発症動物モデルの開発が重要になる。5 主たる診療科小児科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ALD info(医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学ALD&ペルオキシソーム病ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 副腎白質ジストロフィー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ALDの未来を考える会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会編. 副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2019. 診断と治療社.東京.2019.2)Kato K, al. Mol Genet Metab Rep. 2018;18:1-6.3)Cartier N, et al. Science. 2009;326:818-823.公開履歴初回2021年03月08日

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認知症リスクの人種差~メタ解析

 世界の認知症患者数は、約5,000万人といわれている。高血圧や糖尿病などの認知症のリスク因子は、黒人、アジア人、その他の少数民族においても一般的に認められるが、認知症のケア、診断、治療においては、人種間で不平等なこともある。そこで、英国・London School of Hygiene & Tropical MedicineのSuhail Ismail Shiekh氏らは、認知症の発生率や有病率に関する民族的な差異について、調査を行った。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2021年1月30日号の報告。 2019年9月1日に、人種、認知症、発生率、有病率の検索ワードを用いて、7つのデータベースより検索した。18歳以上の成人を対象とし、2つ以上の人種の年齢を考慮した後、認知症の発生率または有病率を比較した人口ベースの研究を抽出した。適切な人種間の比較を行うため、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・コホート研究12件、横断研究7件をメタ解析に含めた。・米国での研究が13件、英国、シンガポール、中国の新疆ウイグル自治区での研究が各2件であった。・黒人と白人を比較した4件の研究では、認知症発生率のプールされたリスク比は、1.33(95%CI:1.07~1.65、I2:58.0%)であった。・アジア人と白人を比較した研究では、認知症発生率のプールされたリスク比は、0.86(95%CI:0.728~1.01、I2:43.9%)であった。・ラテン系と白人では、認知症発生率に差は認められなかった。 著者らは「認知症リスクに、人種的な違いがあることが示唆された。これらの違いの要因を明らかにすることは、認知症の予防や治療に役立つ可能性がある」としている。

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2年ごとの乳房視触診、50歳以上の乳がん死3割減/BMJ

 2年ごとの医療従事者による乳房の視触診(clinical breast examination:CBE)は、CBEを行わない場合と比べ、乳がん診断時の病期を軽減し(downstaging)、50歳以上の女性の乳がんによる死亡率を約3割抑制することが、インド・Homi Bhabha National InstituteのIndraneel Mittra氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月24日号で報告された。マンモグラフィによる乳がんスクリーニングは、50歳以上の女性では死亡率を抑制するが、50歳未満の女性における有効性には疑問があるとされる。また、乳がん自己検診(breast self-examination)の、乳がんの早期検出法としての有効性は証明されておらず、CBEが乳がんによる死亡を低減するかについても明らかではないという。ムンバイ市の15万人のクラスター無作為化対照比較試験 研究グループは、CBEによるスクリーニングが、CBEを行わない場合と比較して、乳がん診断時の病期を軽減させるかを検証する目的で、プロスペクティブなクラスター無作為化対照比較試験を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 インド・ムンバイ市の地理的な境界で定義された20のクラスターを、CBEによるスクリーニングを行う群またはCBEを行わない対照群に、10クラスターずつ無作為に割り付けた。登録は1998年5月に開始され、2019年3月、解析のためにデータベースがロックされた。乳がん歴のない35~64歳の女性15万1,538人が試験に参加した。 スクリーニング群(7万5,360人)は、2年ごとに、訓練を受けた女性のプライマリケア医療従事者によるCBEを4回と、がん啓発情報の提供を受け、その後は2年ごとの自宅訪問による積極的サーベイランス(active surveillance)を5回受けた。対照群(7万6,178人)は、がん啓発情報の提供を1回受け、その後は2年ごとに積極的サーベイランスを8回受けた。 主要アウトカムは、診断時における乳がんの病期の軽減および乳がん死の低減とした。50歳未満の乳がん死、全死因死亡には差がない 登録時の平均年齢は、スクリーニング群が44.84(SD 7.90)歳、対照群は44.92(8.00)歳であった。試験開始から20年(フォローアップ期間中央値18年)の時点で、スクリーニング群の640人、対照群の655人が乳がんと診断され、それぞれ213人および251人が乳がんによって死亡した。 乳がん検出時の年齢は、スクリーニング群が対照群よりも若かった(55.18[SD 9.10]歳vs.56.50[9.10]歳、p=0.01)。また、乳がん診断時の病期は、スクリーニング群でStageIII/IVの割合が有意に低かった(37%[220人]vs.47%[271人]、p=0.001)。この病期の軽減は、50歳未満(診断時StageIII/IVの割合:37%[161人]vs.47%[183人]、p=0.005)および50歳以上(35%[59人]vs.46%[88人]、p=0.05)のいずれにおいても認められた。 全体(35~64歳)では、スクリーニング群は対照群に比べ、乳がん死の割合が15%低下したが、有意な差は認められなかった(10万人年当たり20.82人[95%信頼区間[CI]:18.25~23.97]vs.24.62人[21.71~28.04]、率比[RR]:0.85[95%CI:0.71~1.01]、p=0.07)。 一方、事後的サブセット解析では、50歳以上の女性における乳がん死は、スクリーニング群で有意に約30%低下した(10万人年当たり24.62人[95%CI:20.62~29.76]vs.34.68人[27.54~44.37]、RR:0.71[95%CI:0.54~0.94]、p=0.02)。これに対し、50歳未満の女性では有意な差はみられなかった(19.53人[17.24~22.29]vs.21.03人[18.97~23.44]、0.93[0.79~1.09]、p=0.37)。 また、全死因死亡は、スクリーニング群で5%低下したが、有意差はなかった(RR:0.95[95%CI:0.81~1.10]、p=0.49)。 著者は、「低・中所得国では、乳がんのスクリーニング法としてCBEを考慮すべきと考えられる」としている。

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自宅で超重症COVID-19を診きった1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第182回

自宅で超重症COVID-19を診きった1例pixabayより使用日本でCOVID-19を診療する場合、基本的に肺炎があったりSpO2が低かったりすると、入院適応になります。当然、両肺に肺炎があって呼吸不全があろうものなら、即入院なわけですが……。エクアドルで報告された、自宅療養で重症例を診きった超絶症例報告を紹介しましょう。Cherrez-Ojeda I, et al.The unusual experience of managing a severe COVID-19 case at home: what can we do and where do we go?BMC Infect Dis . 2020 Nov 19;20(1):862.主人公は、60歳のエクアドル人女性です。7日前から咳と息切れが見られており、救急外来のトリアージでSpO2 86%(室内気)と両側肺炎が見られ、SARS-CoV-2 PCRが陽性になりました。呼吸数が32回/分とかなり厳しい状態だったのですが、入院する部屋がなく、外来治療を余儀なくされました。イヤ、無理でしょ…PaO2が47.70Torrと書いてあるんですが……。――とはいえ、部屋がないものはない。適切な治療プランを立て、自宅に帰さなければいけません。メチルプレドニゾロン、低分子ヘパリン、ニタゾキサニド(抗ウイルス薬)を看護師の往診で投与するよう指示しました。酸素濃縮器も自宅に設置し、鼻カニューレで酸素投与を開始しました。PubMedなどからこの論文の元文献を見てほしいのですが、両肺真っ白です。本当に真っ白のARDSです。日本だといろいろと問題視されそうですが、自宅で急死することもなく、この女性患者さんは次第に回復していきました。治療開始4日目に、危うくSpO2が80%を切るところまでいきましたが、その後復活しています。治療開始14日後の胸部CTでは、陰影の大部分が軽快しました。日本でここまでの医療逼迫に陥ることはないと信じたいですが、自宅やホテルでマネジメントする方法も考えるべき時期が来るもしれません。SpO2が低い症例に、ステロイド錠を手渡すことを検討してもよいかもしれませんが、国内の診療常識ではちょっと難しいでしょうね。

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うつ病治療アプリに対する医師や患者の期待

 スマートフォンアプリが増加し続けている現代社会において、アプリによる治療ツールの有効性は十分に実証されておらず、導入率も依然として不十分である。フランス・クレルモン・オーベルニュ大学のMarie-Camille Patoz氏らは、アドヒアランス向上に関連する効率的なアプリ開発を行うため、ユーザー中心のアプローチを通じて設計した架空のうつ病治療アプリに対する患者および医師の期待を特定することを目的とし、本研究を行った。BMC Psychiatry誌2021年1月29日号の報告。 精神科医および一般開業医、過去12ヵ月間でうつ病を経験した患者を対象に、フォーカスグループ法を用いて、半構造化面接を実施した。録音したインタビューの音声を文字起こしし、定性的な内容分析を用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、医師26人および患者24人。・フォーカスグループは、性別と年齢のバランスの取れた分布を示した。・対象者のほとんどはスマートフォンを所有しており(医師:96.1%、患者:83.3%)、アプリも使用していた(医師:96.1%、患者:79.2%)。・定性的な内容分析では、内容、操作特性、アプリ使用に対する障壁といった3つの主なテーマが明らかとなった。それぞれの内容は、以下のとおりであった。【期待される内容】 ●アプリにより収集された患者情報に関するデータ ●心理教育に関する情報提供 ●治療ツールに関する情報提供 ●日常生活のマネジメントを支援する機能 ●このツールに期待される機能【操作特性】 ●アプリの目的 ●潜在的なターゲットユーザー ●使用方法 ●アクセシビリティ ●セキュリティ【アプリ使用に対する障壁】 ●潜在的なアプリユーザーに関する懸念 ●潜在的なユーザーのアクセシビリティ ●安全性、副反応、有用性 ●機能性・テーマやカテゴリに関しては、医師と患者で共通であった。 著者らは「架空のうつ病治療アプリは、医師、患者ともに期待値が高く、うつ病治療において重要な役割を担う可能性がある。このようなツールにユーザーが期待する重要なポイントとして、簡単かつ直感的な使い方とパーソナライズされたコンテンツが挙げられる。うつ病治療においては、うつ病に関する情報提供、自己モニタリング機能、緊急時の支援を可能とするアプリが求められている」としている。

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老年精神薬理学の最近の進展に関する専門家の意見

 高齢化社会が進むにつれ、老年精神疾患への対応に関する重要性が高まっている。米国・ケース・ウェスタン・リザーブ大学のAwais Aftab氏らは、アルツハイマー病(AD)、重度または難治性のうつ病、がんおよび終末期ケアに焦点を当て、老年精神医学に関連する最近の進展についてレビューを行った。Expert Review of Clinical Pharmacology誌オンライン版2021年2月5日号の報告。 ADの疾患修飾療法、診断用放射線トレーサ、認知症の神経精神症状に対する薬剤、ケタミン、esketamine、サイケデリックス薬、カンナビノイドについて、PubMed、Google Scholar、Medscape、ClinicalTrials.govより過去6年間の文献を非システマティックに検索し、レビューを行った。 主なレビューは以下のとおり。・非常に早期のADを対象とした抗アミロイド薬の試験が注目されており、aducanumabはFDAで審査中、いくつかの薬剤は第III相試験が進行中であった。・AD診断のためのアミロイドおよびタウ蛋白のPETスキャンは、FDAにより承認されている。・認知症の神経精神症状に対する有望な薬剤として、pimavanserin、ブレクスピプラゾール、エスシタロプラム、デキストロメトルファン/キニジン配合剤、リチウムが挙げられる。・esketamineは、一般成人の治療抵抗性うつ病治療に対し承認されているが、高齢患者を対象とした第III相試験において有効性を示すことができなかった。・終末期およびがん関連のうつ病および不安症に対するサイケデリックス支援療法のベネフィットに関する予備的なエビデンスが報告されている。・カンナビノイドに関するエビデンスは、不十分であった。

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第49回 米国FDAの大忙しの週末~ネアンデルタール人から授かったCOVID-19防御

米国FDAはこの週末大忙しだったに違いなく、25日木曜日にはPfizer/BioNTechの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)予防ワクチン接種施設を増やしうる保管方法を許可し、25日と翌日26日には稀な病気2つの新薬と運動選手の脳を守る首輪を承認し、27日土曜日には大方の予想通りJohnson & Johnson(J&J)のCOVID-19ワクチンを取り急ぎ許可しました。25日に報告された興味深い研究成果、ネアンデルタール人から授かったと思しきCOVID-19防御因子の発見も併せて紹介します。COVID-19ワクチンをいっそう推進溶解前の冷凍状態のPfizerワクチンの保管温度はこれまで超低温の零下80~60℃とされてきましたが、より一般的な冷凍庫の温度である零下25~15℃で最大2週間保管することが許可されました1,2)。また、零下25~15℃での保管後に一回のみ零下80~60℃に戻すことが可能です。超低温冷凍庫をわざわざ購入する負担が減ってワクチンを扱える場所が増えるだろうとFDAの審査部門(Center for Biologics Evaluation and Research)長Peter Marks氏は言っています1)。Pfizerワクチンと違って受け取り後に冷凍不要のJ&JのCOVID-19ワクチンは26日金曜日の諮問委員会での満場一致の賛成の翌日27日土曜日に18歳以上の成人への使用が早々と取り急ぎ認可されました3)。J&Jのワクチンバイアルの針刺し前の保管温度は2~8℃であり、冷凍してはならず、最大12時間は9~25℃で保管可能です4)。J&Jは接種1回のそのワクチン2,000万人超への投与分を今月末までに出荷できる見込みです5)。また、今年前半には米国人口の約3分の1相当の1億人への投与分が出荷される予定です。稀な病気の新薬FDAは25日に稀な病気・デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬Amondys 45(casimersen)、翌日26日には世界での診断数150人未満の超稀な病気・モリブデン補因子欠損症(MoCD)A型の治療薬Nulibry(fosdenopterin)を承認しました。Amondys 45は筋肉細胞に必要なタンパク質ジストロフィンをエクソン45スキッピングという作用機序を介して増やします。その作用が通用する変異を有するDMD患者への同剤使用が承認されました6)。DMD患者のおよそ8%がその変異を有します。MoCD A型は男児3,600人あたりおよそ1人に生じるDMDよりさらに稀で、世界で確認されている患者数は150人未満です。Nulibry(fosdenopterin)はFDAが承認した初のMoCD A型治療薬となりました7)。10万人あたり0.24~0.29人の発生率と推定されるMoCD A型患者は遺伝子変異のせいでcPMP(環状ピラノプテリン一リン酸)という分子が作れません7,8)。Nulibry はcPMPを供給することで尿中の神経毒Sスルホシステインを減らします。Nulibryの生存改善効果が13人への投与で示されています。それらの患者の84%は3年間生存し、非投与群18人のその割合は55%でした。MoCD A型の患者数は診断数より多いらしく、米国と欧州(EU)で毎年22~26人が診断されないままと推定されています9)。運動選手の脳を守る”首輪”運動選手の頭部の衝撃から脳を守る首輪Q-Collarは26日に米国FDAに承認されました10)。頭部が衝撃を受けると頭蓋内で脳が揺れて神経が捻れたり切れたりして脳が傷みます。首にはめたQ-Collarは頸静脈を圧迫することで頭蓋内の血液量を増やして脳をより固定させ、衝撃を受けてもグラグラと揺れないようにします。米国の13歳以上のフットボールチーム員284人が参加した試験などでQ-Collarの効果や安全性が示されています。その試験でQ-Collarを使用した139人の脳のMRI写真を調べたところおよそ8割(77%)107人の神経信号伝達領域(白質)は無事でした。一方、非使用群145人では逆にほとんどの73%(106/145人)に有意な変化が認められ、Q-Collarの脳保護効果が示唆されました。Q-Collar使用に伴う有意な有害事象は認められませんでした。ネアンデルタール人から授かったらしいCOVID-19防御COVID-19患者最大1万4,134人と対照群最大128万人を調べたところ、RNAウイルスに対する自然免疫の一部を担うオリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)の一つ・OAS1の血中量が多いこととCOVID-19になり難いことやたとえCOVID-19になっても入院、人工呼吸器使用、死に至り難いことが示されました11,12)。さらに504人の経過を調べたところ血漿OAS1量が多いことは後にCOVID-19になり難いことやCOVID-19による入院や重病に至り難いことと関連しました。OAS1はいくつかの種類(アイソフォーム)があります。興味深いことに、数万年前にネアンデルタール人と交わったときに受け継いだp46というアイソフォームがどうやらCOVID-19防御作用を担うと示唆されました。幸いなことにOAS1を増やす前臨床段階の化合物13)が存在するのでそれらを最適化してCOVID-19への効果を臨床試験で調べうると著者は言っています。参考1)Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Allows More Flexible Storage, Transportation Conditions for Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine / PRNewswire2)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE PFIZER-BIONTECH COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) / FDA3)FDA Issues Emergency Use Authorization for Third COVID-19 Vaccine / PRNewswire4)EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF THE JANSSEN COVID-19 VACCINE TO PREVENT CORONAVIRUS DISEASE 2019 (COVID-19) / FDA5)Johnson & Johnson COVID-19 Vaccine Authorized by U.S. FDA For Emergency Use / PRNewswire6)FDA Approves Targeted Treatment for Rare Duchenne Muscular Dystrophy Mutation / PRNewswire7)FDA Approves First Treatment for Molybdenum Cofactor Deficiency Type A / PRNewswire8)Nulibry PRESCRIBING INFORMATION9)BridgeBio Pharma and Affiliate Origin Biosciences Announce FDA Approval of NULIBRYTM (fosdenopterin), the First and Only Approved Therapy to Reduce the Risk of Mortality in Patients with MoCD Type A / GLOBE NEWSWIRE10)FDA Authorizes Marketing of Novel Device to Help Protect Athletes' Brains During Head Impacts / PRNewswire11)Zhou S,et al.Nat Med. 2021 Feb 25. [Epub ahead of print]12)Discovery: Neanderthal-derived protein may reduce the severity of COVID-19 / EurekAlert13)Wood ER, et al. J Biol Chem. 2015 Aug 7;290:19681-96.

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COVID-19重症化防止に抗がん剤ベバシズマブが有効である可能性

 重症のCOVID-19患者に抗がん剤ベバシズマブを投与することで、死亡率が低下し、回復が早まる可能性があることが、イタリアと中国で行われた小規模な試験によって明らかになった。Nature Communication誌2月5日オンライン版掲載の報告。 シングルアームの本試験は、2020年2月15日~4月5日に中国とイタリアの2施設において26例の成人患者が登録され、28日間のフォローアップが行われた。COVD-19感染はPCR検査で判定され、重症度は呼吸数が30回/分以上、安静時の酸素飽和度が93%以上、動脈酸素分圧/吸入酸素濃度(PaO2/FiO2)が100mm~300mmHg、胸部画像のびまん性肺炎によって判断した。適格となった参加者には標準治療に加え、100mLの生理食塩水に溶解したベバシズマブ(500mg)を90分以内に単回投与し、投与後1日目と7日目のデータを比較した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢中央値は62歳、20人(77%)が男性だった。症状発現から入院までの期間中央値は10日、入院からベバシズマブ投与までの期間中央値は7日だった。・ベバシズマブ投与群はPaO2/FiO2が著しく改善し、28日目までに24例(92%)が酸素吸入が不要となり、17例(65%)が退院した。悪化例や死亡例はなかった。・発熱のあった14例のうち、13例(93%)が投与から72時間以内に正常化した。・ベースライン時に人工呼吸器を装着していた6例すべてがフォローアップ期間内に装着を停止し、うち4例は退院した。 ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体であり、VEGFタンパク質を選択的に阻害することで血管形成を阻害し、がん細胞の成長に必要な栄養が供給されるのを妨げる。著者らは、「重症COVID-19患者の多くはVEGFレベルの上昇、肺水腫、肺組織の血管病変など、マーカーに関連する症状があるため、ベバシズマブが重症化防止に有効である可能性があるとの仮説を立てた」としつつ、有効性を実証するためには大規模なランダム化比較試験が必要としている。

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