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1月20日のNEJM誌に乳がんリスク遺伝子を網羅的に解析した大規模試験が2本掲載された。そのうちの1つは英国からの報告であり、11万3,000例以上のBreast Cancer Association Consortiumに参加した乳がん患者と対象者において34遺伝子を搭載したパネルで5つ(ATM、BRCA1、BRCA2、CHEK2、PALB2)の乳がんリスク遺伝子を同定した。また4つの遺伝子(BARD1、RAD51C、RAD51D、TP53)におけるタンパク切断型変異も乳がんリスクと関連した。 もう1つは米国からの同様の研究であり、こちらは6万5,000例以上を解析し、BRCA1、BRCA2、PALB2、BARD1、RAD51C、RAD51D、ATM、CDH1、CHEK2の9遺伝子がリスクを増加させる遺伝子として報告され、またそれぞれの遺伝子ごとにリスクの高い乳がんのサブタイプが示された。 これらの遺伝子のほとんどは相同組み換え修復に関わるものであり、よく知られたものである。また、TP53はLi-Fraumeni症候群の原因遺伝子として知られており、若年乳がん(30歳以下)ではTP53の遺伝学的検査が考慮される。CDH1はびまん性胃がん症候群の原因遺伝子として知られており、小葉がんの発症が多いことが知られている(つまり、エストロゲン受容体陽性が多い)。 これらの研究の画期的である点は、パネル検査を用いて生殖細胞系列の遺伝子変異を網羅的に測定している点である。両者共通の10遺伝子を搭載したカスタムパネルを作ることで、乳がん発症リスクが高い人を同定し、サーベイランスやリスク低減手術などの健康管理に役立てることが可能になる。今後は網羅的に生殖細胞系列を測定する時代が訪れるのであろう。その一方でBRCA1、2やTP53以外の遺伝子に対してはサーベイランスやリスク低減手術のエビデンスは十分ではない。これらのハイリスクの集団に対する対策プログラムを構築し、エビデンスを作っていくことが重要である。 なお、これらの研究では家族歴が不明の症例が多く含まれていたり、第1度近親者までしか家族歴がわかっていない症例がほとんどであることに注意が必要である。すなわち、原因遺伝子として見つかっているものの多くは遺伝性腫瘍の原因遺伝子であり、家族歴で検査の対象を絞り込むことが可能になるかもしれない。日本から発表された研究では対照群をがんの罹患歴も家族歴もない人に絞っており、11遺伝子を網羅的に調べてそのうち8遺伝子(BRCA2、BRCA1、PALB2、TP53、PTEN、CHEK2、NF1、ATM)の頻度が乳がん患者で高いことを示している(Momozawa Y, et al. Nat Commun. 2018;9:4083.)。リスク因子となっている遺伝子が今回提示した2報と異なっていることが家族歴によるものなのか、それとも人種によるものなのか、など今回の結果を臨床に役立てるうえで確認すべきデータは多いであろう。