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男性乳がんの予後不良因子は?

 男性乳がんは稀な疾患であるものの、近年増加傾向がみられている。認知度の低さなどから進行期になってから診断されるケースが多く、生存に寄与する因子や適切な治療戦略については明確になっていない部分が多い。韓国・忠北大学校病院のSungmin Park氏らは、国民健康保険データベースを用いた男性乳がん患者の転帰に関する後ろ向き解析結果を、Journal of Breast Cancer誌オンライン版2021年12月24日号に報告した。 本研究では、韓国の健康保険データベースを使用して、該当の請求コードをもつ男性乳がん患者を特定、男性乳がんの発生率、生存転帰、およびその予後因子が評価された。最初の請求から1年以内の手術と放射線療法の種類を含む、医療記録と死亡記録がレビューされた。その他、経済状況(≧20パーセンタイル、<20パーセンタイル)、地域(都市部、地方)、チャールソン併存疾患指数(0、1、≧2)、およびBRCA1/2(乳がん遺伝子)テストの実施について情報が収集された。 主な結果は以下のとおり。・2005~16年の間に、新たに男性乳がんと診断された患者838例が特定された。・男性乳がんの診断が最も多かった年齢層は70~74歳で、60〜64歳、65〜69歳が続いた。・患者の約80%が診断後に乳がんの外科手術を受け、50%以上が化学療法、約68%がタモキシフェンの投与を受けており、トラスツズマブは2008年以降約9%が投与を受けていた。・追跡期間中央値約5年間(1,769日)において、268例の死亡が確認され、5年生存率は73.7%だった。・65歳以上の男性は65歳未満の男性よりも全生存期間が短かった(ハザード比:2.454、95%信頼区間:1.909~3.154、p<0.001)。そのほか、併存疾患2つ以上、外科的治療なし、タモキシフェンの投与なし、低所得が、予後不良と関連していた。・多変量解析の結果、予後不良に関連する最も重要な因子は、併存疾患2つ以上だった(HR:4.439、95%CI:2.084~9.453、p=0.001)。

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第90回 新型コロナウイルスはヒトに感染することで弱体化する?国立遺伝研の研究で考えた「ヒト-ウイルス」生態系

デルタ株はワクチン接種によってではなく、ヒトに感染したことで収束かこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年始年末は大学の先輩の住む長野県原村の別荘を訪ねた後、中央線で実家のある愛知に帰り、正月明け、大学時代の友人が住む浜松で新幹線を途中下車、一杯飲んで帰って来ました。原村と実家は例年以上に厳寒で、寒さが苦手な私にはとても堪えました。さて、浜松の友人は、同じ大学の理学部で生物学を学んだ生物学者(専門は発生学)です。卒業後米国に留学し、長年ニワトリの足の発生を研究、15年ほど前に日本に帰ってきました。浜松駅前の焼鳥屋で雑談する中、昨年夏のコロナのデルタ株による感染拡大が突然収束した理由について興味深い話をしてくれました。曰く、「変異株が次々現れても、流行は必ずピークを迎え、収束していくのが不思議だと思っていたが、秋頃、国立遺伝研究所の発表で『デルタ株はゲノムの変異を修復する酵素の変化が起こり、修復能力が低下して死滅し、収束したのでは』という説が報道されていた。マスクなどの感染予防やワクチン接種ではなく、むしろヒトに感染することで弱体化した、という説だが、説得力もあってなるほどと思ったよ」。というわけで、今回は、誰もデルタ株収束の理由を明快に説明してくれませんので、この説について少し考えてみたいと思います(年末にあった、アデュカヌマブ未承認や診療報酬改定率のニュースはまた別の機会に)。ゲノムのエラーを修復する「nsp14」に関わる遺伝子が変化、修復不全に帰京してからニュースを調べてみると、この研究に関する報道を見つけました。それは、国立遺伝学研究所と新潟大のチームが2021年10月に開かれた日本人類遺伝学会で発表した研究成果です。ウイルスは増殖する際にゲノムを複製しますが、時々ミスが起きてエラーが生じます。このエラーが積み重なると、やがて増殖できなくなります。このエラーを修復するのが「nsp14」と呼ばれる酵素で、これが正常に働けばエラーは修復されて増殖は続き、感染の流行も続く、というわけです。10月31日付の中日新聞等の報道によれば、国立遺伝学研究所と新潟大の研究チームは国内で検出した新型コロナのゲノムデータを分析しました。その結果、第5波では、nsp14の酵素活性に関わる遺伝子が変化したウイルスの割合が感染拡大とともに増え、ピークの前から収束までの間は、感染者のほぼすべてを占めていた、とのことです。2020年秋から21年3月頃まで続いた第3波でも、同様の傾向が確認できたそうです。さらに、nsp14の遺伝子が変化したウイルスではエラーの修復が不十分となるため、新型コロナウイルスのゲノムの変異が通常の10〜20倍あったそうです。研究チームは、人間の体内でウイルスに変異を起こして壊す「APOBEC:apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like」という酵素がnsp14の遺伝子を変化させた、と推測しています。ヒトの身体の中にウイルスが侵入すると、危険信号ともいえるサイトカインというタンパク質が放出されます。このサイトカインによって誘導される酵素の一つがAPOBECです。APOBECが侵入してきたウイルスのnsp14の遺伝子に変化をもたらし、ゲノム複製時のエラーの修復が不十分となってウイルス増殖を阻害したのではないか、というのが研究チームの仮説です。なお、日本人をはじめとしたアジア・オセアニアにAPOBECの活性が強い人が多いそうです。友人は最後に、「RNAウイルスであるコロナウイルスは大型のウイルスで、そのRNAポリメラーゼは“高性能”なポリメラーゼ。“高性能”とは、複製のミスがあればそれを修復する酵素活性を含んでいる、ということ。だから、あまり突然変異は起こらない。この仮説のように、修復の酵素活性に関係するnsp14の変化で修復ができなくなれば、ウイルスのゲノム情報は複製の度にボロボロに壊れていき、最後には増殖できなくなる。感染が拡大しても3〜4ヵ月で収束するのはそのせいかもね。ただ、現場の医師があまりこの仮説に食いついていないのが気になる。ひょっとしたら内容をきちんと理解できていない可能性もある」と話していました。カンジキウサギとオオヤマネコの個体数変動この仮説は、動物生態学(アニマル・エコロジー)の立場からも、とても理解しやすいと思います。すべての生物は適当な環境下にあれば絶えず数を増やす方向に働きます。しかし、繁殖能力をフルに発揮すれば、たちまち数が増え過ぎて“人口爆発”を起こします。そんな時、生き残った個体を殺すような「外力」が働き、今度は数が減少に転じます。ここで言う「外力」とは、食糧不足であったり、外敵の登場であったり、個体同士の争いであったりとさまざまで、各要素の消長によって個体の数のバランスが保たれていく、というのが生態学の一つのセオリーです。ちなみに、昔の生態学の教科書には、カナダの森林に住むカンジキウサギとオオヤマネコの個体数変動のグラフが必ず載っています。カンジキウサギが増えると、それを食べるオオヤマネコが増え、それに伴いカンジキウサギが減る。カンジキウサギが減れば、エサが減るのでオオヤマネコが減る……、というグラフで、その変動は約10年周期で繰り返されるそうです。今改めて見てみると、そのグラフの振幅の波は、さながらコロナの患者数の波のようでもあります。「ヒト-ウイルス」生態系がうまく働けば……ウイルスは厳密には生物とは言えず、動物生態学のセオリーが当てはまるかどうかはわかりませんが、仮にヒトもウイルスもそうした生態系の中に組み込まれた要素である、と考えれば、コロナの感染爆発の突然の収束にも納得がいきます。コロナウイルスはヒトに感染し健康上の害を及ぼしますが、逆にヒトは感染することによってコロナウイルスに対して増殖を抑制するような遺伝子的な「外力」を与えているわけです。人類全体としては、感染を避けるのではなく、むしろどんどん感染することでウイルスを弱らせることができるのだとしたら、それこそ“エコ”なことではないでしょうか。なにしろ、無用なモノや技術を使わないで済むのですから。マスクや手洗いといった目先の物理的な感染防御策や、ワクチンといった薬物(科学技術)による防御策ではなく、「ヒト-ウイルス」という何億年もかけて築き上げられてきた生態系のシステムによって、新型コロナウイルスは自然と弱毒化や増殖不能に向かうかもしれない……。久しぶりに旧友と会ったおかげで、そんな楽観論が頭の中をぐるぐる廻り、昨年よりもお酒が美味しく飲めた年始でした。

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普遍的なうつ病予防~メタ解析レビュー

 うつ病は、心身に影響を及ぼす、非常に蔓延している、しばしば慢性的に経過、治療困難、認知機能や社会的および経済的負荷が非常に大きいといった特徴を有する疾患である。がんなどの非感染性疾患では、治療ではなく予防に焦点が置かれるようになっていることを考えると、うつ病予防は、優先すべき公衆衛生上の課題であろう。オーストリア・ディーキン大学のErin Hoare氏らは、うつ病に対する普遍的に提供される予防的介入についてのメタ解析文献の包括的なシステマティックレビューを実施した。Journal of Psychiatric Research誌2021年12月号の報告。 2021年3月18日にEBSCOHostを介してアクセスした各データベース(Allied and Complementary Medicine Database、CINAHL Complete、Global Health、Health Source: Nursing/Academic Edition、MEDLINE Complete、APA PsychArticles)より検索を行った。検索キーワードは、うつ病、予防、トライアルスタディデザインとした。2人独立したレビュアーが文献スクリーニングを実施し、3人目が不一致性を是正した。適格基準は、うつ病予防(うつ病発症率の低下)に対する普遍的な介入研究を調査したメタ解析とした。 主な結果は以下のとおり。・心理的介入に関するメタ解析6件、学校ベースのメタ解析2件、eHealthに関するメタ解析1件を包括的レビューに含めた。・特定されたすべての調査結果の質は高く、とくに1件は非常に高いものであった。・うつ病予防に対する身体活動の影響を調査した以前のメタ解析レビューは、8件のメタ解析に含まれていた。・予防的介入が成功する主な因子は、学校、地域社会、職場環境で提供される心理社会的介入の利用であった。・学校ベースおよびeHealthによる介入は、うつ病予防に対し一定程度の有用性が認められた。・身体活動は、うつ病予防に効果的であることが、メタ解析より示唆された。・普遍的な予防を一貫して定義することはできなかった。 著者らは「納得度の高いエビデンスによる推奨事項が広まる前に、うつ病予防に対する適切に設定されたランダム化比較試験を実施する必要がある」としている。

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HPVワクチン、イングランドで子宮頸がんをほぼ根絶か/Lancet

 イングランドでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの全国的な接種プログラムの導入により、子宮頸がんおよび前がん病変とされるGrade3の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN3)の発生が大幅に減少し、とくに12~13歳時に接種を受けた女性で顕著な抑制効果が認められ、1995年9月1日以降に出生した女性ではHPV関連子宮頸がんの根絶にほぼ成功した可能性があることが、英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMilena Falcaro氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌2021年12月4日号で報告された。イングランドの2価ワクチンの観察研究 研究グループは、イングランドの住民ベースのがん登録データを用いて、2価HPVワクチンを用いた予防接種プログラムが子宮頸がんおよびCIN3の発生に及ぼした、早期の影響の定量化を目的に観察研究を行った(Cancer Research UKの助成を受けた)。 イングランドでは、2008年9月1日、12~13歳の女児に2価HPVワクチン接種プログラムが導入され、2008~10年にかけて14~18歳の女子に対し、年齢差による遅れを取り戻すためのプログラムが提供された。 本研究では、年齢-時代-コホート(APC)ポワソンモデルの拡張版を用いて、HPVワクチン接種の対象とならなかったコホートとの比較で、ワクチン接種コホートにおける子宮頸がんの相対リスクが推定された。ワクチン接種コホートは、接種時の学年と全国的な接種の普及状況を考慮して、3つのコホート(ワクチン接種時の学年が12~13年生、10~11年生、8年生のコホートで、24.5歳時に最初のがんスクリーニングへの参加を勧められた女性)で解析が行われた。 2021年1月26日に、住民ベースのがん登録からデータが抽出され、イングランドに居住する20~64歳の女性の、2006年1月1日~2019年6月30日の期間における子宮頸がんおよびCIN3の診断について評価が行われた。また、交絡因子に対してさまざまな補正を行った3つのモデルを用いて解析が行われ、結果が比較された。接種年齢12~13歳の25歳時の低下率:がん87%、CIN3 97% 調査期間中に2万7,946例が子宮頸がんと、31万8,058例がCIN3と診断された。ワクチン接種を受けた20~30歳未満の女性の総追跡期間1,370万年のデータが解析に含まれた。 ワクチン非接種コホートと比較した接種年齢別の子宮頸がん発生率の推定相対低下率は、16~18歳(12~13年生)のコホートが34%(95%信頼区間[CI]:25~41)、14~16歳(10~11年生)が62%(52~71)、12~13歳(8年生)は87%(72~94)であり、接種年齢が低いほど低下率が大きかった。 また、CIN3のリスク低下率も、接種年齢16~18歳のコホートが39%(95%CI:36~41)、同14~16歳が75%(72~77)、同12~13歳は97%(96~98)と、接種年齢が低いほど低下率が大きかった。これらの結果は、すべてのモデルでほぼ同様だった。 一方、2019年6月30日の時点で、イングランドのワクチン接種コホートにおける発生件数は、子宮頸がんが予測よりも448件(95%CI:339~556)少なく、CIN3は予測に比べ1万7,235件(1万5,919~1万8,552)減少していた。 著者は、「これらの結果は、2価HPVワクチンによる子宮頸がん予防に関する初めての直接的なエビデンスであり、英国のプログラム全体の効果を評価するには時期尚早であるが、HPVワクチン接種の利点に関する理解と認識を深めることに貢献するだろう」とまとめ、「12~13歳の女児への広範なHPVワクチン接種により、25歳(観察データの範囲)までに子宮頸がんと前がん病変がほぼ根絶されることが示された。HPVワクチン接種の対象となる女性には、より若い世代に利益をもたらし続けるために、何歳であっても(理想的には最初に接種を勧められた時に)接種を受けるよう推奨すべきである」と指摘している。

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CAR-T療法イエスカルタ、大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療に有効 /NEJM

 大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療において、自家抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)T細胞製品アキシカブタゲン シロルユーセル(axi-cel、商品名:イエスカルタ)は標準治療と比較して、無イベント生存期間および奏効割合を有意に改善し、Grade3以上の毒性作用の発現は予想された程度であることが、米国・H. Lee MoffittがんセンターのFrederick L. Locke氏らが実施した「ZUMA-7試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年12月11日号に掲載された。世界77施設で行われたCAR-T細胞製品の第III相無作為化試験 研究グループは、早期再発または難治性大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療におけるCAR-T細胞製品axi-celの有用性を評価する目的で、2018年1月~2019年10月の期間に、世界77施設で参加者を募り国際的な無作為化第III相試験を行った(米国・Kiteの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、世界保健機関(WHO)の分類基準(2016年版)で組織学的に大細胞型B細胞リンパ腫と確定され、1次治療で完全寛解が得られなかった患者、または1次治療終了から12ヵ月以内に生検で再発が確認された患者であった。 被験者は、axi-cel群または標準治療群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。axi-cel群は、白血球アフェレーシスを受け、前処置としての化学療法(シクロホスファミド+フルダラビン)が施行された後、目標用量(2×106/kg体重)のCAR-T細胞が単回注入された。標準治療群は、プロトコールで定義された化学免疫療法のうち担当医によって選択されたレジメンによる治療を受け、完全または部分寛解が得られた患者には、さらに大量化学療法と自家幹細胞移植が施行された。 主要エンドポイントは、盲検下の中央判定による無イベント生存。主な副次エンドポイントは奏効および全生存であり、安全性の評価も行われた。無イベント生存期間が6ヵ月以上延長、奏効割合は1.66倍に 359例が登録され、axi-cel群に180例、標準治療群に179例が割り付けられた。全体の年齢中央値は59歳(範囲:21~81)、30%(109例)が65歳以上であり、66%(237例)が男性だった。74%が難治性、79%がStageIII/IV、19%がMYCおよびBCL2とBCL6の両方かいずれか一方の再構成を伴う高悪性度B細胞リンパ腫であった。追跡期間中央値は24.9ヵ月だった。 無イベント生存期間中央値は、axi-cel群が8.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.5~15.8)、標準治療群は2.0ヵ月(1.6~2.8)で、24ヵ月無イベント生存割合はそれぞれ41%(33~48)および16%(11~22)であり、axi-cel群で有意に優れた(イベントまたは死亡のハザード比[HR]:0.40、95%CI:0.31~0.51、p<0.001)。 奏効割合は、axi-cel群が83%と、標準治療群の50%の1.66倍に達した(群間差:33ポイント、p<0.001)。完全奏効はそれぞれ65%、32%であった。また、中間解析における全生存期間中央値は、axi-cel群が未到達、標準治療群は35.1ヵ月であり両群間に有意な差はなかった(死亡のHR:0.73、95%CI:0.53~1.01、p=0.054)。推定2年全生存割合はそれぞれ61%および52%であった。 さらに、無増悪生存期間中央値は、axi-cel群が14.7ヵ月(95%CI:5.4~評価不能)であり、標準治療群の3.7ヵ月(2.9~5.3)に比べ延長した(進行または死亡のHR:0.49、95%CI:0.37~0.65)。24ヵ月無増悪生存割合は、それぞれ46%(95%CI:38~53)および27%(20~35)だった。 Grade3以上の有害事象の発現頻度は、axi-cel群91%(155例)、標準治療群83%(140例)であった。axi-cel群では、Grade3以上のサイトカイン放出症候群が6%(11例)、Grade3以上の神経学的イベントが21%(36例)に認められたが、これらによる死亡例はなかった。 著者は、「アキシカブタゲン シロルユーセルは、再発または難治性大細胞型B細胞リンパ腫の2次治療において、化学免疫療法、大量化学療法、自家幹細胞移植によるレジメンの代替治療として実行可能であることが明らかとなった」としている。

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2021年、がん専門医に読まれた記事は?「Doctors’Picks」ランキング

 ケアネットが運営する、オンコロジーを中心とした医療情報キュレーションサイト「Doctors'Picks」(医師会員限定)は、2021年にがん専門医によく読まれた記事ランキングを発表した。がん横断的なトピックスやCOVID-19とがんに関連する記事のほか、米国腫瘍学会(ASCO)関連の話題が多くランクインしている。【1位】おーちゃん先生のASCO2021肺がん領域・オーラルセッション/Doctors'Picks 6月に行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)。4,500を超える演題から注目すべきものをエキスパート医師がピックアップして紹介。肺がん分野は山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が「CheckMate-9LA試験の2年アップデート」「IMpower130、IMpower132、IMpower150 の免疫関連の有害事象を分析」などを選定した。【2位】がん関連3学会、がん患者への新型コロナワクチン接種のQ&A公開/CareNet.com 3月末、がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)は合同で「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A―患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第1版―」を公開した。【3位】ASCO 乳がん 注目演題まとめ(1)オーラル/周術期/Doctors'Picks ASCO注目演題、乳がん分野は寺田 満雄氏(名古屋市立大学)が全オーラル演題をチェックしたうえで注目すべき10演題を選定、サマリーと共に紹介した。【4位】リキッドバイオプシーを用いたがん遺伝子パネル検査が国内で初承認/日経メディカル 3月、中外製薬は血液検体を用いて固形がんに対する包括的ゲノムプロファイリングを行う検査「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」の承認獲得を発表。リキッドバイオプシーを用いたがん遺伝子パネル検査は国内初承認となる。進行固形がん患者を対象に、血液中の循環腫瘍 DNA(ctDNA)を用いて324個のがん関連遺伝子を解析する。【5位】免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象…メカニズムと緩和戦略/Nature Reviews Drug Discovery チェックポイント阻害薬(ICI)治療に関連した免疫関連有害事象(irAE)の発生と、発生を予測するバイオマーカーを特定し、発症を抑制するメカニズムを解説する論文がNature Reviews Drug Discovery誌に掲載された。6~10位は以下のとおり。【6位】ASCO 消化器がん 注目演題まとめ/Doctors'Picks【7位】固形がん患者における新型コロナワクチン接種後の抗体価/Annals of Oncology【8位】がん免疫療法患者に対するCOVID-19ワクチン接種/SITC【9位】IMpower150試験、EGFR陽性・肝/脳メタ解析の最終報告/Journal of Thoracic Oncology【10位】「オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム」の保険適用を了承/中医協

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COVID-19関連のPTSDリスク~6ヵ国の大学生を調査

 ポーランド・ワルシャワ工科大学のDominika Ochnik氏らは、欧州6ヵ国の大学生におけるCOVID-19パンデミックの第1波、第2波の影響および第2波期間中の心的外傷後ストレス障害(PTSD)リスクとその有病率との関連について調査を行った。Journal of Clinical Medicine誌2021年11月26日号の報告。 ドイツ、ポーランド、ロシア、スロベニア、トルコ、ウクライナの大学生を対象に、横断的研究を繰り返し実施した(第1波:1,684人、第2波:1,741人)。COVID-19への曝露は、8項目(COVID-19の症状、検査、COVID-19による入院、親族の感染、親族の死亡、失業、COVID-19パンデミックによる経済状況の悪化)について測定した。COVID-19関連のPTSDリスクの評価には、PTSD評価尺度(PCL-S)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19の症状は、ドイツを除く5ヵ国において第1波よりも第2波の方が高かった。・COVID-19の検査は、すべての国において第1波よりも第2波の方が多く、その差はドイツが最も大きかった。・第2波でのCOVID-19による入院は、ポーランド、トルコ、6ヵ国全体の学生において入院率が高かった。・COVID-19の検疫を受けた学生の割合は、ポーランド、トルコ、ウクライナで高かった。・すべての国において、第1波よりも第2波において、友人、親族のCOVID-19感染および死亡を経験していた。・COVID-19による失業率の増加は、ウクライナのみで認められた。・第2波期間中の経済状況は、ポーランドで悪化が認められ、ロシアでは改善が認められた。この理由として、規制の厳しさが影響していると考えらる。・3つのカットオフ値(25、44、50)によるCOVID-19関連のPTSDリスクの有病率は、それぞれ78.20%、32.70%、23.10%であった。・PTSDリスクの重症度が異なる場合、予測モデルに違いが認められた。・COVID-19関連PTSDリスクと強いおよびとても強い関連が認められた因子は、女性、うつ病診断歴、友人、親族の死亡、失業、経済状況の悪化であった。・COVID-19関連PTSDリスクと中程度の関連が認められた因子は、女性、PTSD診断歴、COVID-19症状の経験、COVID-19の検査、友人、親族の感染、経済状況の悪化であった。

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第92回 英国でもオミクロン株入院リスクが低いと判明

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株感染者の入院リスクはデルタ株感染者に比べて20~25%低いとの英国データ解析結果(Report 50)を同国の大学Imperial College Londonが先週22日水曜日に発表しました1,2)。その入院の定義はPCR検査でのSARS-CoV-2感染(COVID-19)が判明してから14日以内の事故/救急科(Accident and Emergency department;A&E)受診を含む来院記録があることです1)。オミクロン株感染者の1泊以上の入院リスクはより小さく、デルタ株感染者を40~45%下回りました。今月中旬16日の報告(Report 49)の段階ではオミクロン株感染者の入院全般(hospitalisation attendance)や症状のデルタ株との差は認められていませんでした3)。オミクロン株感染者の入院リスクがデルタ株感染者に比べてより低いことは英国政府の保健安全保障庁(UKHSA)の解析でも示されています4)。UKHSAの報告によると今月20日までのイングランドのオミクロン株感染者数は5万6,066人で、そのうち132人が病院で治療(admitted or transferred from emergency department)を受けました。14人がオミクロン株感染判明から28日以内に死亡しました。UKHSAの報告でのオミクロン株感染者の入院リスクはImperial College Londonの解析結果よりどうやらさらに小さく、デルタ株感染者より62%(95%信頼区間では50~70%)低いことが示されました。オミクロン株感染者は救急も含む入院(emergency department attendance or admission)にも至りにくく、デルタ株感染者より38%(95%信頼区間では31~45%)少ないという結果も得られています。オミクロン株感染者の入院リスクが他の変異株感染者に比べて低いらしいことは好ましい兆候だがひとまずの結果であって更なる検討が必要だとUKHSAの長Jenny Harries氏は言っています5)。オミクロン株感染がどうやら軽症らしいのはワクチン接種の普及または先立つ感染で備わった免疫のおかげかもしれません。またはウイルス自体の変化が軽症で済むようにさせている可能性もあります6)。参考1)Report 50 - Hospitalisation risk for Omicron cases in England / Imperial College London2)Some reduction in hospitalisation for Omicron v Delta in England: early analysis / Imperial College London3)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis / Imperial College London4)SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England / UKHSA5)UKHSA publishes updated Omicron hospitalisation and vaccine efficacy analysis / UK Health Security Agency (UKHSA) 6)Omicron cases at much lower risk of hospital admission, UK says / Reuters

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COVID-19パンデミック時の不眠症状とそれに関連する因子

 ノルウェー・オスロ大学のOyvind Halsoy氏らは、COVID-19パンデミック中の不眠症状に関連する因子について、調査を行った。Frontiers in Psychiatry誌2021年11月5日号の報告。 ノルウェーの成人4,921人を対象に、2020年3月31日~4月7日および2020年6月22日~7月13日の2つの期間において調査依頼を実施した。1回目の調査で関連するリスク因子や心理的相関を、2回目の調査で不眠症状を測定し、時間経過に伴う関連を含めた調査を行った。不眠症状の測定には、Bergen Insomnia Scale(BIS)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・COVID-19によるロックダウン中の不眠症状は、2008年に実施したパンデミック前の調査結果と比較し、平均レベルが高いことが明らかとなった(p<0.0001、Cohen's d=0.29)。・ソーシャルディスタンスを守った人は、そうでない人と比較し、不眠症状の平均レベルが高かった。・女性、教育水準の低い人、職を失った人、不特定の精神疾患診断歴を有する人は、最も多くの症状を報告していた。・回帰モデル(R2=0.44)では、身体運動が不眠症状の減少と関連が示唆された。・不眠症状レベルの高さと関連していた因子は、健康不安症状、抑うつ症状、役立たない対処法、仕事や経済への懸念、高齢者であった。 著者らは「本調査結果は、とくに脆弱なグループを特定しただけでなく、不眠症状に苦しんでいる患者を支援することへの重要性を改めて示している」としている。

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PFO閉鎖術で脳梗塞再発予防効果が得られる患者は?/JAMA

 18~60歳の卵円孔開存(PFO)関連脳梗塞患者において、PFOのデバイス閉鎖による脳梗塞再発リスクの低減効果は、脳梗塞とPFOの因果関係の確率で分類されたグループにより異なることが示された。この分類法は個別の治療意思決定に役立つ可能性があるという。米国・タフツ医療センターのDavid M. Kent氏らが、「Systematic, Collaborative, PFO Closure Evaluation(SCOPE)コンソーシアム」によるメタ解析の結果を報告した。PFOに関連する脳梗塞は、18~60歳の成人における脳梗塞の約10%を占める。PFOのデバイス閉鎖は脳梗塞の再発リスクを減少させるが、どのような治療法が最適かは不明であった。JAMA誌2021年12月14日号掲載の報告。再発例をPFO閉鎖術+内科的治療vs.内科的治療単独で比較 研究グループは、脳梗塞再発に対するPFO閉鎖術の治療効果の異質性を、これまでに開発されたスコアリングシステムに基づいて評価する目的で、2021年9月までに発表された脳梗塞再発予防のためのPFO閉鎖術と内科的治療を比較したすべての無作為化第III相試験について、個人データのメタ解析を行った。 有効性の主要評価項目は脳梗塞の再発で、PFO閉鎖術+内科的治療と内科的治療単独を比較するとともに、RoPE(Risk of Paradoxical Embolism)スコアおよびPASCAL(PFO-Associated Stroke Causal Likelihood)分類システムを用いたサブグループ解析を行った。 RoPEスコア(1~10点)は、原因不明の脳梗塞で発見されたPFOが、偶発的所見ではなく脳梗塞の原因である確率を示すもので、RoPEが高いほど若年でその確率が高いことを反映する。また、PASCAL分類システムは、RoPEスコアと高リスクPFOの特徴(心房中隔瘤またはシャント量増大のいずれか)を組み合わせ、因果関係を「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」の3つのカテゴリーに分類するものである。 2000年から2017年にかけて世界的に実施された無作為化臨床試験6件、計3,740例が解析に組み込まれた。脳梗塞の原因がPFOである可能性が高いほど、デバイス閉鎖の効果あり 追跡期間中央値57ヵ月(四分位範囲:24~64)において、3,740例中121件のイベントが認められた。脳梗塞の年間発生率は、内科的治療が1.09%(95%信頼区間[CI]:0.88~1.36)に対して、デバイス閉鎖併用では0.47%(0.35~0.65)であった(補正後ハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.28~0.60)。 サブグループ解析では、統計学的に有意な交互作用が認められた。HRは、RoPEスコア低値の患者で0.61(95%CI:0.37~1.00)、高値の患者で0.21(0.11~0.42)であった(交互作用のp=0.02)。また、PASCAL分類システムで「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」と分類された患者のHRは、それぞれ1.14(95%CI:0.53~2.46)、0.38(0.22~0.65)、0.10(0.03~0.35)であった(相互作用のp=0.003)。2年間の絶対リスク減少は、PASCAL分類システムの「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」でそれぞれ-0.7%(95%CI:-4.0~2.6)、2.1%(0.6~3.6)、2.1%(0.9~3.4)であった。 デバイス関連有害事象は、「可能性が低い」と分類された患者で高く、無作為化後45日目以降の心房細動の絶対リスク増加は、「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」でそれぞれ4.41%(95%CI:1.02~7.80)、1.53%(0.33~2.72)、0.65%(-0.41~1.71)であった。

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統合失調症患者およびその介護者に対するCOVID-19の影響

 チリ・タラパカ大学のAlejandra Caqueo-Urizar氏らは、統合失調症患者とその介護者に対するCOVID-19パンデミックの心理社会的影響について、分析を行った。Frontiers in Psychology誌2021年11月5日号の報告。 対象は、チリ北部の都市アリカに在住する統合失調症患者120例およびその介護者(対照群)。次の3点の仮説について検討を行った。(1)患者と介護者の間でCOVID-19パンデミックの影響に関する自己報告には正の相関が認められる、(2)介護者は、パンデミックが日常生活に及ぼす影響が大きいと感じている、(3)COVID-19に感染した患者は、メンタルヘルスの改善レベルが不良で、心理的苦痛レベルが高い。これらの仮説は、相関、平均差、エフェクトサイズ(Cohen's d)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・約1年間隔離された統合失調症患者は、健康および日常生活について、介護者と同レベルの懸念を抱いていた。・介護者は、統合失調症患者と比較し、収入、懸念、雇用について有意な差が認められた。・COVID-19に感染した患者は、ウェルビーイングレベルが低く、精神的リカバリーの不良が認められた。 著者らは「本検討において、パンデミック時における統合失調症患者の介護者に対するメンタルヘルス介入の必要性が示唆された。また、COVID-19感染は、統合失調症患者のリカバリーやウェルビーイングに大きな影響を及ぼすことが示唆された」としている。

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イサツキシマブ、再発難治多発性骨髄腫に対する3レジメンが追加承認/サノフィ

 2021年11月、サノフィは再発又は難治性の多発性骨髄腫の治療薬である抗CD38モノクローナル抗体イサツキシマブ(商品名:サークリサ)における、カルフィルゾミブ・デキサメタゾン併用療法、単剤療法およびデキサメタゾン併用療法に関する承認事項一部変更を発表した。 12月17日に行われたプレスセミナーでは、日本赤十字社医療センターの鈴木 憲史氏、岡山医療センターの角南 一貴氏がイサツキシマブの各療法の承認に至った試験概要や新たな治療法への期待について講演した。イサツキシマブがIsaPdレジメンに加えて3レジメンに追加承認 多発性骨髄腫は日本における新規罹患者数は約7,700人(2018年)、死亡者数は約4,400人(2019年)、比較的高齢者に多く発症する。治療法は移植と薬物療法が中心で、複数の治療薬が承認されており、ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾンのVRd療法をはじめとした多くの併用レジメンがある。薬剤の発達により予後は改善しているが、細胞遺伝学的高リスクや腎機能障害を合併などでは予後不良となるケースが多く、再発難治には患者背景に合わせた複数の治療オプションが求められていた。 今回の承認によって再発難治の多発性骨髄腫に対するイサツキシマブのレジメンは以下の4つとなった(スラッシュ以下は承認の基となった試験名)。・イサツキシマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン(IsaPd)/ICARIA-MM試験・イサツキシマブ+カルフィルゾミブ+デキサメタゾン(IsaKd)/IKEMA試験・イサツキシマブ+デキサメタゾン(Isa+d)/TED10893試験・イサツキシマブ単剤/ISLANDs試験 「多発性骨髄腫は、再発ごとに治療可能期間が減少するため、早い段階で無増悪生存期間を最大化できる戦略が求められる。また、単剤ではなかなか制御できない疾患であり、薬剤の役割分担も重要。イサツキシマブは直接的な細胞死を誘導する作用機序があり、強力かつ長い効果が期待できる。駅伝でいえば花の2区走者になれるのではないか」(鈴木氏)。 「ISLANDs試験は日本人を対象とした日本発のエビデンスであり、抗体薬単剤のレジメンは国内初で、承認も日本のみとなっている。IsaPdやIsaKdの3剤併用レジメンはそれなりに強力なので、 Isa+dと単剤療法はフレイルの患者やポマリドミド・カルフィルゾミブが使いにくい患者の選択肢になるだろう」(角南氏)。

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コロナに感染してもワクチン接種していると、コロナ入院リスクも重症化リスクも死亡リスクも低い(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による第5波の後、日本では感染者は激減して、多くの医療機関では今後押し寄せるだろう第6波に向けて、粛々と感染対策の見直しやコロナワクチンのブースター接種の業務を進めていることだろう。日本では水際対策が功を奏しているからかどうかはわからないが、世界で話題になっているSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統、通称オミクロン株の大きな流行は12月中旬現在では認められていない。ただし米国の一部の地域や英国などでは冬になりオミクロン株が猛威を振るっている状況であり、日本でも感染対策の手を緩め過ぎることのないようにされたい。 ファイザー製コロナワクチンBNT162b2の効果としては、最初に95%の発症予防効果(Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.)が示された。その後もリアルワールドデータが数多く報告され、感染予防効果率:92%、重症化予防効果率:92%、入院予防効果率:87%(Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021;384:1412-1423.)と多くの臨床的有用性がすでに判明している。さらに12~15歳の若年者での報告においては、BNT162b2コロナワクチンを2回接種後にCOVID-19を発症した症例は1例も認めないという高い有効性や安全性も示されている(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。このような高い有効性を示す新型コロナワクチンであるが、本邦では12月中旬に1回目のワクチン接種完了者が1億人を超え、2回目接種完了者も約9,800万人と、国民の78%がワクチンで守られていることも、現在日本でコロナの状況が落ち着いている1つの要因であろうと考えられる。 ワクチン接種完了者における新規感染を、ワクチン接種を突破して発生した感染であることから「ブレークスルー感染」と一般的に呼称している。ブレークスルー感染を惹起したウイルスの種類は、その国や地域のその時点で流行している背景ウイルスに規定される(山口,田中. CareNet論評-1422)。2020年12月から2021年4月に米国でワクチン接種群と非接種群を比較した研究(Thompson MG, et al. N Engl J Med. 2021;385:320-329.)では、(1)ワクチン2回接種群の感染予防効果は91%(ファイザー製コロナワクチンBNT162b2:93%、モデルナ製コロナワクチンmRNA-1273:82%)、(2)ワクチン接種後のブレークスルー感染におけるウイルスRNA量はワクチン非接種群の感染と比較して40%低く、ウイルス検出期間はワクチン非接種群より66%低下したことが示され、以前の論評で取り上げた。これらの結果からワクチン接種群では、ブレークスルー感染を起こした場合においてもウイルスの病原性はワクチン非接種群よりも低く抑えられ、ワクチン接種の重要な効果の1つと考えている。 また、最近まで世界を席巻していたデルタ株によるブレークスルー感染については、米国CDCが詳細に報告(MMWR 2021;70:1170-1176., MMWR 2021;70:1059-1062.)している。デルタ株に起因するブレークスルー感染の発生率は10万人当たり63.8人(0.06%)、入院率は10万人当たり1人(0.001%)と報告されており、ワクチン未接種者でのそれぞれ0.32%、0.03%と比較して有意に少ないことが示された。 2021年11月に南アフリカでオミクロン株(B.1.1.529系統)が検出され、WHOでも日本でも新しい懸念すべき変異株VOC(variant of concern)として位置付けている。オミクロン株に対するデータはまだ限られているが、ファイザー製コロナワクチンBNT162b2のオミクロン株におけるコロナ発症予防効果が英国から報告(UKHSA publications gateway number GOV-10645.)されている。コロナワクチン接種後24週間後にはワクチンによるコロナ発症予防効果がデルタ株においては約60%程度まで低下してしまうが、オミクロン株では約40%程度にまでさらに低下してしまうことが示されている。ただし、ワクチンのブースター接種によりオミクロン株であったとしても約80%にまで回復していることや、まだ少数例での報告のため今後の大規模な報告や実臨床での検討が待たれるところである。 今回取り上げたTenfordeらが報告した論文は、2021年3月11日~8月15日までに米国21施設で入院した4,513例を解析の対象とした症例コントロール研究である。4,513例中新型コロナ感染で入院した1,983例と他の診断で入院した2,530例が比較検討されているが、コロナ入院症例中84.2%に当たる1,669例が新型コロナワクチン未接種者であった。コロナによる入院はワクチン未接種と有意な関連(補正後オッズ比:0.15)があり、アルファ株であろうがデルタ株であろうが同様の結果であった。また3月14日~7月14日に登録された1,197例においては、28日までの死亡や人工呼吸器管理は、ワクチン接種者の12.0%に比べワクチン未接種者が24.7%と有意な関連(補正後オッズ比:0.33)があり、死亡に限ってもワクチン接種者は6.3%であるのに比べ、未接種者は8.6%と有意に関連(補正後オッズ比:0.41)があった。また本研究では退院までの日数もカプランマイヤー曲線で示されており、免疫抑制状態の症例であろうがなかろうが、高齢者であろうがなかろうが、ワクチン接種群が非接種群に比べて有意に早く回復し退院できていることも重要な結果であろうと考える。 本研究の解析は、ワクチン接種率が37.7%にとどまっている時点での報告である。コロナ感染群におけるワクチン接種済みの症例のブレークスルー感染に該当する症例は、65歳以上の高齢者、心疾患や肺疾患、免疫抑制状態の症例が多く含まれており、逆にコロナ感染者でワクチン未接種者は若年者や基礎疾患のない症例が多く含まれ、ワクチン接種群と未接種群のコロナ感染の比較をしても大きく患者背景が異なっていることを考えて解釈すべきだろう。解析では入院日の違い、年齢や性別、人種差などに関してはロジスティック回帰モデルの要素として取り上げられているが、心臓や肺の基礎疾患を併存する症例に関しては考慮されていない。ワクチン接種したコロナ感染群では心疾患を併存している症例が75.2%含まれているのに対し、ワクチン未接種のコロナ感染群では心疾患を持つ症例が48.8%にとどまっている。一般的なコロナ重症化因子として考えられている心疾患や肺疾患が多く含まれている集団なのにもかかわらず、コロナワクチンを接種していると、重症化リスクの少ない集団でのコロナ感染よりもコロナによる入院・重症化・死亡リスクが少ないということは特筆すべき結果と捉えることができる。 今回の解析はすべて入院症例のデータであり、入院を必要としない軽症者には当てはめることができない。またサンプルサイズの関係で、ワクチンの種類ごとの解析や変異ウイルス別での層別化は困難であることはTenfordeらも懸念しているところである。 現在、日本にも押し寄せるだろうオミクロン株を迎え撃つために、粛々と世の中のワクチン未接種者に対してワクチンの正しい理解を深めるような啓発活動を続けつつ、医療者のブースター接種も進めている状況である。今回ワクチンで守られていない症例群が重症化や死亡リスクに深く関わっていることを勉強したが、今後、オミクロン株に対してもワクチン未接種の危険性やブレークスルー感染での重症度や死亡リスクなどが明らかになると、さらに有効なコロナ対策ができうるものと想像している。

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コロナ禍を乗り越え、臨床留学3年目のいま思うこと(内科レジデント編・最終回)【臨床留学通信 from NY】第30回

第30回:コロナ禍を乗り越え、臨床留学3年目のいま思うこと(内科レジデント編・最終回)臨床医で留学するメリット・デメリットはさまざまです。メリットとしては、研究留学よりも英語ができないと仕事ができず致命的なので、最初はかなり苦労しますが、日々十分過ぎるほどの英語の曝露の中で格段に英語力が身に付きます。学会発表はもとより、英語を通じてさまざまな人と繋がることができます (逆に、英語ができないと相手にしてもらえないことも……)。私の場合、卒後10年を超えてからの留学でしたので、学ぶことが何もかも新鮮とはなりませんでしたが、さまざまな人種や疾患に触れることが、確実に医者としての幅を広げていると実感します。何よりも、内科レジデントしての3年間を通して得られた人脈が大きな財産です。米国で出会った人に限らず、日本においてもさまざまな面で人との交流が広がり、それを糧にして次なるステップに進めると思います。また臨床研究も、人脈しかり、データベースしかり、今回のコロナの際にも在籍したマウントサイナイでデータを即座に共有できたのも米国ならではだったと思います。得意なメタ解析を通じて、人と繋がりやすくなったのもあるかもしれませんし、年数がある程度いってから渡米したため、今までの経験を生かしやすくなったとも言えます。臨床留学に限らず、研究留学含め、海外での生活経験は自身の視野を確実に広げ、日本の良いところ(悪いところ)を客観的に見つめ直す良い機会になることでしょう。デメリットは、やはり一番は収入です。最初は6万ドル強、2年目からは多少上がって7万ドル強という状況で、研修医が終われば一定額がもらえる日本に比べると収入が格段に落ちます。家賃や物価も高いニューヨークでマイナス財政を余儀なくされるのは、やはりきついです。当初から2~3年の研究留学、という見通しならばお金の使い方にそこまでシビアになる必要はないかもしれませんが、最大8年のトレーニング期間を見据えると、金銭的な引き締めはきつくせざるを得ません。ただ家族帯同で渡米した場合、子供の教育に関しては節約ばかり言ってはいられません。また、私の場合、日本では循環器のカテーテル治療を主にやっていましたが、渡米してレジデントの期間は一切やらなかったため、手技を高めるという点に関しては、日本にいる方々に比べると劣ってしまい、ここはデメリットと言わざるを得ないでしょう。コロナ時代でこれまでの留学像とずいぶん異なる面もあるかもしれませんが、臨床なり研究なり、留学したいという思いがある方は是が非でも行くべきでしょうし、大変な経験でも人生の幅が広がり貴重な経験となることは間違いないので、ためらわずチャレンジしてほしいです。そして、とにもかくにも英語がモノを言います。これまでの連載で、さまざまな試行錯誤の成功と失敗を率直にお伝えしました。米国で臨床医として働きたい方に、今ここにいる私の経験と情報が少しでも後押しになれば幸いです。<編集部より>次回から本連載は循環器フェロー編として、現在の所属先Montefiore Medical Center/Albert Einstein Medical Collegeでの日々をレポートします。どうぞお楽しみに!

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英語で「手術は成功です」は?【1分★医療英語】第8回

第8回 英語で「手術は成功です」は?So...Dr. Kawano, how did my surgery go?(河野先生、私の手術はうまくいきましたか?)Your surgery went well. There was no issues.(うまくいきましたよ。問題はありません)《例文1》医師AHey, how did the surgery go yesterday? It was your first case, right?(昨日の手術はどうだった? 最初の症例だったんでしょう?)医師BWell, it went well. I guess I was really lucky.(うまくいったよ。運が良かったんだと思う)《例文2》I know you have been through a lot, but your surgery went well.There is nothing to worry about.(大変な経験をされましたよね。でも、手術は成功しました。何も心配することはないですよ)《解説》“Your surgery went well.”は、外科系の現場で手術が成功したときに使われる表現です。手術が終わって患者が目覚めたときに、こう話しかけると安心してもらえます。「手術は成功しましたよ」という、ドラマでよく見る日本語表現の英語版だと思えばイメージがつかみやすいでしょう。非常にシンプルな表現ですが、知ってないと使えないフレーズの1つです。手術に限らず、物事がうまくいったときにそれを主語にして使えるので、どんどん使ってみましょう。この表現を過去形で使うときには、“went well”の部分でWの音が2連続しますので、はっきりと発音することを心掛けてくださいね。ちなみに、あいさつの表現として“How is it going?”というものがありますが、これに対しても今回の表現と同じように、“go”と“well”を使って“(It is) going well.”と返すのが定番です。“I am good.”でも間違いではありませんが、あいさつの表現も使い分けることで英語の幅を広げて楽しみましょう!講師紹介

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血管造影に基づく定量的冠血流比 によるPCIは有効か?/Lancet

 血管造影に基づき血流予備量比を推定する新しい方法である定量的冠血流比(QFR)を用いて経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の標的病変を選択することで、標準的な血管造影ガイドに比べて1年転帰が改善されることが、中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのBo Xu氏らによる無作為化試験「FAVOR III China」で示された。圧センサー付きガイドワイヤーに基づく生理学的評価は、目視による血管造影画像評価と比較して、冠動脈疾患患者における血流制限病変をより正確に特定する。それにもかかわらず、PCIのガイド方法としては、依然として血管造影が最も広く使用されている。Lancet誌2021年12月11日号掲載の報告。患者および評価者盲検にてQFRと血管造影ガイドを比較 FAVOR III Chinaは、中国の病院26施設で実施された無作為化盲検シャム対照比較試験である。研究グループは、18歳以上で、安定/不安定狭心症患者、またはスクリーニングの72時間以上前に心筋梗塞を発症し、血管造影の目視評価で基準血管径が2.5mm以上の冠動脈に50~90%の狭窄病変が少なくとも1つある患者を、QFR群(QFR≦0.80の場合のみPCI施行)と血管造影群(標準的な目視による血管造影評価に基づきPCIを施行)に無作為に割り付けた。被験者と臨床評価者は、治療の割り付けについて盲検化された。 主要評価項目は、1年時の主要有害心血管イベント(全死因死亡、心筋梗塞、虚血による血行再建術の複合)の発現率で、intention-to-treat解析で評価した。QFR群で主要有害心血管イベントリスクが35%低下 2018年12月25日~2020年1月19日の期間に3,847例が登録された。PCIを受けないことを選択した/または医師により撤回された患者22例を除く3,825例が、intention-to-treat解析集団に組み込まれた(QFR群1,913例、血管造影群1,912例)。平均年齢は62.7歳(SD 10.1)、2,699例(70.6%)が男性、1,126例(29.4%)が女性で、1,295例(33.9%)が糖尿病を有しており、2,428例(63.5%)が急性冠症候群であった。 主要評価項目のイベントは、QFR群で110例(Kaplan-Meier推定率:5.8%)、血管造影群で167例(8.8%)に確認された。群間差は-3.0%(95%信頼区間[CI]:-4.7~-1.4)、ハザード比は0.65(95%CI:0.51~0.83、p=0.0004)であり、血管造影群と比較してQFR群が有意に良好であった。これは、QFR群で心筋梗塞や虚血による血行再建術が少なかったことによる。 なお、著者は研究の限界として、QFR法の精度と再現性は技術と血管造影画像法に依存すること、PCI実施者の盲検化は困難であること、追跡期間が1年のみであることなどを挙げている。

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オミクロン株時代における未成年者に対するRNAワクチン接種の意義は?(解説:山口佳寿博氏、田中希宇人氏)

 本邦にあっては、2022年4月1日をもって民法第4条で定められた成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。それ故、2022年4月以降、他の多くの先進国と同様に本邦においても18歳未満を未成年者と定義することになる。未成年者の内訳は複雑で種々の言葉が使用されるが、児童福祉法第4条と旅客及び荷物運送規則第9条の定義に従えば、1歳未満は乳児、1~6歳未満は幼児、6~12歳未満(小学生)は小児、6~18歳未満(小学生、中学生、高校生)は包括的に児童と呼称される。しかしながら、12~18歳未満(中学生、高校生)に該当する名称は定義されていない。未成年者に対するRNAワクチンの海外治験は生後6ヵ月以上の乳児を含めた対象に対して施行されている。これらの海外治験では、本邦の幼児、小児の定義とは少し異なり5歳児は小児として取り扱われている。そこで、本論評では、海外治験の結果を正しく解釈するため、5~12歳未満を小児、12~18歳未満を(狭義の)児童と定義し、オミクロン株時代におけるこれらの世代に対するRNAワクチン2回接種ならびに3回目Booster接種の意義について考察する。小児、児童に対するRNAワクチン2回接種の予防効果 Pfizer社のBNT162b2(コミナティ筋注)の12~16歳未満の児童に対する感染予防効果は米国においてD614G株とAlpha株が混在した時期(2020年10月15日~2021年1月12日)に検証された(Frenck RW Jr, et al. N Engl J Med. 2021;385:239-250.)。接種量、接種間隔は16歳以上の治験の場合と同様に30μg筋注、21日間隔2回接種であった。結果は、2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価が16~25歳の思春期層での値に対して1.76倍であった(非劣性)。感染予防効果も100%と高い値が報告された。 BNT162b2の5~12歳未満の小児に対する治験は米国を中心に世界4ヵ国で施行された(Walter EB, et al. N Engl J Med. 2021 Nov 9. [Epub ahead of print])。治験施行時期は2021年6月7日~9月6日であり背景ウイルスはDelta株が中心の時期であった。ワクチン接種量は12歳以上の場合と異なり1回10μgの筋注(接種間隔は21日)であった。2回目ワクチン接種1ヵ月後の中和抗体価は思春期層で得られた値の1.04倍であった(非劣性)。感染予防効果は90.7%であり、心筋炎、心膜炎などの特異的副反応を認めなかった。 Moderna社のmRNA-1273(スパイクバックス筋注)の12~18歳未満の児童に対する感染/発症予防効果は背景ウイルスとしてAlpha株が主流を占めた2020年12月9日~2021年2月28日の期間に米国で観察された(Teen COVE Trial)(Ali K, et al. N Engl J Med. 2021;385:2241-2251.)。ワクチン接種は成人と同量の100μg筋注が28日間隔で2回接種された。児童の中和抗体価は思春期層の1.08倍であり(非劣性)、有症候性の感染予防効果(発症予防)は93.3%でBNT162b2と同様に非常に高い有効性が示された。 6~12歳未満の小児に対するmRNA-1273の有効性は50μg筋注(成人量の半量)を28日間隔で2回接種する方法で検証された(Kid COVE Trial)。結果は正式論文として発表されていないがModerna社のPress Releaseによるとワクチン2回接種後の小児の中和抗体価は思春期層の1.5倍であった(非劣性)(Moderna Press Release. 2021年10月25日)。 以上の小児、児童におけるワクチン接種による中和抗体価と予防効果は2回目接種後2~3ヵ月以内のものであり、中和抗体価、予防効果の最大値を示すものと考えなければならない。今後、小児、児童にあっても接種後の時間経過によって中和抗体価、予防効果がどのように変化するかを検証しなければならない。オミクロン株感染の疫学、遺伝子変異、臨床的特徴 2021年11月9日に南アフリカ共和国において初めてオミクロン株(B.1.1.529)が検出されて以来、この新型変異株はアフリカ南部の国々を中心に世界的播種が始まっている。WHOは、11月26日、この新たな変異株をVOC(Variants of Concern)の一つに分類し、近い将来、Delta株を凌駕する新たな変異株として警戒を強めている(WHO TAG-VE. 2021年11月26日)。南アフリカ共和国では第1例検出からわずか1ヵ月の間にオミクロン株はDelta株を中心とする従来の変異株を凌駕する勢いで増加している(CoVarints.org and GISAID. 2021年12月10日)。南アフリカ共和国での感染発生初期の感染者数倍加速度(Doubling time)はDelta株で1.9日であったのに対しオミクロン株では1.5日に短縮されていた(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。12月14日、WHOはアフリカ南部、欧州、北米、南米、東アジア、豪州に位置する世界76ヵ国でオミクロン株が検出されていることを報告した(WHO COVID-19 Weekly Epidemiological Update. 2021年12月14日)。米国では、12月1日にオミクロン感染第1例が報告されて以来、海外からの旅行者以外に市中感染例も認めている。米国CDCは12月8日までに集積された43名のオミクロン株感染者の疫学的特徴を報告しているが、感染者のうち20名(46.5%)は米国が承認しているワクチンの2回接種を、14名(32.6%)はワクチンの3回目Booster接種を終了していたという驚愕の事実が浮かび上がっている(CDC. MMWR Early release vol. 70. 2021年12月10日)。すなわち、オミクロン株感染者の79%までがワクチン接種者であり、Breakthrough infection(BI)あるいはDecreased humoral immune response-related infection(DHIRI)が非常に高い確率で発生していることを示唆した。BI、DHIRIは初感染者のみならず再感染者の数を増加させる。この原因は、下述したごとく、オミクロン株が有する高度の液性免疫回避変異のためにワクチン接種後の中和抗体価の上昇が従来の変異株に較べて有意に抑制されているためである。 本邦では、12月15日までに空港検疫において海外渡航者32名にオミクロン株感染が確認されている(国立感染症研究所. 2021年12月15日)。これらの症例のうち入院した16名にあって1歳未満の1名を除く15名全員がワクチン2回接種を終了していた。感染と経済の両立を考えた場合、海外渡航者を永久に締め出すことはできず医療体制が整った所で水際での“鎖国”を緩和していかなければならない。それ故、2022年の冬場から春にかけて欧州、米国などに遅れること数ヵ月で本邦でもオミクロン株の本格的播種が始まるものと覚悟しておかなければならない。この場合、オミクロン株の単独播種以外にDelta株との共存播種の可能性も念頭に置く必要がある。 オミクロン株は今までの変異株に較べ多彩な遺伝子変異を有することが判明しており、ウイルス全長での遺伝子変異は45~52個、S蛋白での遺伝子変異は26~32個と想定されている(WHO Enhancing Readiness for Omicron. 2021年11月28日)。オミクロン株ではウイルスの生体細胞への侵入を規定するS1、S2領域に従来の変異株よりも多い5種類以上の変異が確認されている(N501Y、Q498R、H655Y、N679K、P681Hなど)(米国CDC Science Brief. 2021年12月16日)。これらの変異の結果、オミクロン株の感染性/播種性はDelta株を含めた従来の変異株をはるかに凌駕する。 オミクロン株にあっては、液性免疫回避を惹起するReceptor binding domain(RBD)の複数個の遺伝子変異が報告されており、特に重要な変異はK417N、T478K、E484Aの3つである。417、484位の変異はBeta株、Gamma株にも認められ、478位の変異はDelta株でも確認されているが、Delta株を特徴づける452位の変異はオミクロン株では存在しない。いずれにしろ、従来の変異株よりも多い液性免疫回避変異の結果、オミクロン株はワクチン、Monoclonal抗体薬に対して高い抵抗性を示し、オミクロン株感染におけるBI、DHIRIの発生機序として作用する。 コロナ感染症の重症化(入院/死亡)は主としてCD8-T細胞に由来する細胞性免疫の賦活によって規定される(Karim SSA, et al. Lancet. 2021;398:2126-2128.)。T細胞性免疫の発現に関与するウイルス全長に存在するEpitope(抗原決定基)数は500以上であり(Tarke AT, et al. bioRxiv. 2021;433180.)、遺伝子変異の数が多いオミクロン株(45~52ヵ所)でもCD8-T細胞反応を惹起するEpitopeの78%は維持されている(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE 2021年12月8日)。ウイルスに感染した細胞は賦活化されたCD8-T細胞によって処理され、その後の免疫過剰反応の発現を抑制する。細胞性免疫は液性免疫とは異なり変異株の種類によらず少なくとも8ヵ月以上は維持される(Barouch DH, et al. N Engl J Med. 2021;385:951-953.)。それ故、オミクロン株感染においても有意な細胞性免疫回避は発生せず重症化が従来の変異株感染時を大きく上回ることはない。以上の遺伝子学的事実より、オミクロン株時代における現状ワクチンの第一義的接種意義は”感染予防”から”重症化予防”にシフトしていることを理解しておくべきである。オミクロン株時代にあって未成年者全員にワクチン接種は必要か? ワクチン接種後の中和抗体価に代表される液性免疫とそれに規定される感染予防効果が2回接種後の時間経過に伴い低下することが明らかにされた結果(Levin EG, et al. N Engl J Med. 2021;385:e84. , Chemaitelly H, et al. N Engl J Med. 2021;385:e83.)、Delta株抑制を目的としてRNAワクチンの3回目Booster接種が世界各国で開始されている。イスラエルの解析ではBNT162b2の2回接種後に比べ3回目接種後(2回目接種から5ヵ月以上経過)のDelta株に対する感染予防効果は8.3倍、重症化(入院/死亡)予防効果は12.5倍と著明に上昇することが報告された(Barda M, et al. Lancet. 2021;398:2093-2100.)。しかしながら、3回目接種以降の経過観察期間は2ヵ月にも満たず、3回目ワクチン接種の効果がどの程度持続するかは不明である。さらに、これらの観察結果は現在問題となりつつあるオミクロン株を対象としたものでないためReal-Worldでの意義は不明である。 Pfizer社の記者会見によると、BNT162b2の2回接種後のオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/25まで低下したものの3回目接種によってオミクロン株に対する中和抗体価はコロナ原株に対する値の1/2まで回復した(Pfizer and BioNTech. BUSINESS WIRE, 2021年12月8日)。一方、英国での暫定的検討によると、BNT162b2の2回接種4~6ヵ月後のオミクロン株に対する発症予防効果は35%と低いが3回目Booster接種2週後には75.5%まで上昇した(UKHSA Technical Briefing 31)。ただし、3回目Booster接種によって底上げされたオミクロン株に対する発症予防効果がどの程度の期間持続するかは解析されていない。また、重症化予防効果についても解析されていない。 米国FDAはDelta株感染の拡大を阻止するために16歳以上の年齢層に対するBNT162b2の3回目Booster接種を認可している(Moderna社のmRNA-1273のBooster接種は18歳以上)。本邦でも18歳以上の成人に対するBNT162b2、mRNA-1273の3回目Booster接種が特例承認され、12月初旬より医療従事者からBNT162b2を用いた3回目Booster接種が開始されている。では、オミクロン株時代に、18歳未満の未成年者(児童、小児、幼児、乳児)に対してはいかなるワクチン政策を導入すべきなのであろうか? 現状では、海外治験によって、オミクロン株ではないが従来の変異株に対する児童、小児におけるワクチン2回接種の効果が報告されている。幼児、乳児におけるワクチン接種に関しては現在Pfizer社、Moderna社主導で治験が進行中である。未成年者におけるコロナ感染症の71%までは家族内感染、幼稚園/保育所/学校/塾での感染が12%と報告されている(日本小児学会 デ-タベ-スを用いた国内発症小児COVID-19症例の臨床経過に関する検討)。未成年者がオミクロン株に感染しても重症化する可能性は低いが児童、小児にあっては家から離れた学校などで感染する機会が存在する。それ故、オミクロン株時代にあっても少なくとも2回のワクチン接種を、また、必要に応じて3回目以降のBooster接種を考慮すべきであろう(米国は、10月29日、5歳以上の小児に対するPfizer社ワクチン10μgの2回接種を認可)。一方、幼児、乳児に関しては、彼らに対する直接的ワクチン接種を考える前に親/年長の家族ならびに保育所職員など大人に対する3回目のBooster接種を含めたオミクロン株感染予防対策を徹底すべきであろう。

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頭皮の傷(裂創)の縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第8回

第8回 頭皮の傷(裂創)の縫合処置外来で意外とよく見かける頭の傷。頭皮は血流が豊富なため傷が浅くても結構出血するので、外来に慌てて駆け込んでくる患者さんがよくいます。しかし、頭部は皮膚が厚く毛包脂腺系に富むので、全身の皮膚の中で最も良好な創傷治癒機転が働く部位でもあります。つまり治りやすいので、慌てず落ち着いて処置していきましょう!ただ、頭を打っている場合は頭蓋内病変も心配です。まずは頭部への衝撃による頭蓋内病変の有無を速やかに判定し、その疑いがあれば直ちに脳外科専門医に紹介をしましょう。外来では、それらを否定してから創部の処置を行います。次に、大まかに創部の状態をチェックして、縫合が必要かどうか、局所麻酔が必要かどうかを考えましょう。擦過傷であれば、第2回に解説した対応で問題ありません。皮膚や浅い皮下組織までの損傷なら、ちゃんと毛が生えます。頭皮の欠損が大きい場合は形成外科に紹介してくださいね。頭皮縫合のポイントは「帽状腱膜」の状態を見極めることさて、よくある頭部の外傷は裂創です。今回は頭皮裂創の縫合処置をメインに解説します。毎度のことですが、最初は局所麻酔と洗浄を行いましょう。創傷処置の基本は洗浄です! 剃毛は必要ありません!! もしどうしても剃毛する場合は、周囲5mm程度にしましょう。剃毛後は粘着テープで周囲の髪を除去します。挫滅した組織をトリミングする際は最小限にとどめ、楔状(右図参照)に行いましょう。洗浄と局所麻酔については前の記事(第2回、第3回)を参照してください。頭皮の縫合を行うに当たって、できれば見極めてほしいポイントが、「帽状腱膜まで切れているのかどうか?」です。処置方法は、帽状腱膜の処置が必要かどうかで大まかに分けられます。(1)帽状腱膜の状態を確認創部がどのくらいの深さか判定するためには、まず頭皮の解剖学を理解していないといけませんね。表皮から順にSCALPの頭文字になっています(下図参照)。皮膚~皮下組織~棒状腱膜は密に結合しているため、まとまって骨膜から剥がれて出血していることが多いです。帽状腱膜(下図参照)は、皮下組織より深層、骨膜上に存在しています。前方では前頭筋、後方では後頭筋、側方では上耳介筋、側頭筋膜にそれぞれ移行する横方向に強靭な線維性組織で、この表層に主要血管と神経が走行しています。そのため、帽状腱膜が損傷している場合は出血量が多いことがあるのです。帽状腱膜の縫合が必要な場合帽状腱膜が破れていたら、しっかり縫合することがその後の止血や瘢痕(はんこん)予防に重要となります。骨膜が見えている、もしくはすぐ硬い骨が触れるような場合、帽状腱膜が破れている可能性が高いです。太めのナイロン糸(4−0)でしっかり縫合しましょう。出血源となっていることも多いため、ここをしっかり縫合することである程度の出血をコントロールできるはずです。腱膜を寄せるのが緊張で難しい場合は、帽状腱膜下を少し剥離するとよいです。帽状腱膜の縫合が不要な場合比較的浅い傷で、毛包や脂肪層が見える範囲にとどまっている場合、出血は圧迫止血のみでコントロールできることが多いです。無闇に電気メスやバイポーラで止血すると毛包を傷つけてしまうので気を付けてください。縫合は、後に解説する表面縫合のみで対応します。(2)帽状腱膜がどれかわからなかったら…帽状腱膜は慣れていないと同定しづらいこともあります。その場合、皮膚から帽状腱膜まで大きく組織を取って縫合するやり方もあります。出血が多い場合は、このように大きく針糸をかけて強めに縫合します。残ってしまった瘢痕は髪の毛で隠せます。縫合の緊張が強過ぎて創縁が壊死してしまった場合は、抜糸後に軟膏処置などを行う必要があります。(3)頭皮の表面縫合について帽状腱膜の処置が終わったら、表皮を縫合しましょう。前回、頭皮に真皮縫合は必要ないと説明しました。真皮縫合を行うと、毛包を損傷し瘢痕性脱毛の原因となります。右図のように真皮浅層から中層を通すように表面縫合を行います。後に記載するステープラー縫合もいいと思います。(4)ステープラー縫合について毛包を損傷しにくいという点で、ステープラー縫合は頭皮の表面縫合に有用です。ただ、寝転がる際に当たる部分などは日常生活で患者さんが苦痛に感じることもあるので注意しましょう。小児の頭部裂創に対して皮膚接着剤を使う方法がある?泣き叫ぶ子供を押さえつけて局所麻酔して縫合して…とは非常に困難ですよね。そこで、止血ができた比較的浅い(皮下組織程度)裂創に対して、ダーマボンドを使う方法があります。創部を寄せるように髪の毛をくっつけるのです。もちろん、処置の前に創部をしっかり洗浄して水分は拭き取ること! ダーマボンドが傷に入らないよう、気をつけて行ってくださいね。参考1)Brosnahan J. Evid Based Nurs. 2003;6:17.2)夏井 睦. ドクター夏井の外傷治療裏マニュアル. 三輪書店;2007.3)波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.4)菅又 章 編. PEPARS(ペパーズ)123 実践!よくわかる縫合の基本講座<増大号>. 全日本病院出版会;2017.5)横田 和典 編.PEPARS(ペパーズ)177 当直医マニュアル形成外科が教える外傷対応.全日本病院出版会;2021.6)山本 有平 編.PEPARS(ペパーズ)14 縫合の基本手技<増大号>.全日本病院出版会;2007.7)上田 晃一 編. PEPARS(ペパーズ)88 コツがわかる!形成外科の基本手技―後期臨床研修医・外科系医師のために―. 全日本病院出版会;2014.8)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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人生100年時代、インスリンも100歳、今もこれからも現役【令和時代の糖尿病診療】第4回

第4回 人生100年時代、インスリンも100歳、今もこれからも現役今回は、2021年の締めくくりとして、糖尿病治療において最も歴史のある「インスリン」について語ろうかと思う。今年は、20世紀最大の発見の1つともいわれるインスリンの生誕100年であり、本来なら世界中でいろいろな記念行事があったに違いない。しかしコロナの影響で中止を余儀なくされたり、バーチャル開催になってしまったりと残念でならない。読者の皆さんにもいろいろな年代層の方がいらっしゃると思う(ひょっとしたら100歳の方がご覧になっているかも!?)ので、私と同じく、あらためてインスリンについて考えてみるのもよいかと思う。100年前というと、和暦で大正10年まで遡る。歴史を紐解くと、この年は日本で原 敬首相暗殺というショッキングな事件があり、混沌とした時代だ。また、大正時代の市民生活は、大卒サラリーマンの初任給(月給)が50~60円というデータが残っているなど、まさにタイムスリップした気分で長い時の流れが感じられる。余談はこのくらいにして、少しインスリンの歴史を振り返ってみることにする。図1:インスリン発見100年の軌跡画像を拡大する1921年、カナダ・トロントの医師Frederick Grant Banting氏とCharles Best氏が膵島ホルモンの抽出に成功し、“isletin(アイレチン)”と命名した。その翌年、isletinは14歳の1型糖尿病患者に初めて投与されたが、当初は抽出物の精製が不十分であったためほとんど効果がなく、アレルギー反応が現れ投与は1回限りで中止された。それから程なくして、精製度を高めたものが用いられ、患者の血糖値は正常に低下した。トロントの研究グループは、膵からの抽出液isletinを“insulin”と名付け、製薬企業の協力下で製剤化し、大量生産ができる体制を整えた。これにより、糖尿病が治療可能な疾患になった。それ以前は、治療といえば飢餓療法という非常に悲しい延命策しかなく、不治の病だったのである。インスリンによる治療が可能になり、糖尿病性昏睡は激減したものの、網膜症・腎症の合併症がクローズアップされ、1930年代後半からは血糖コントロールと細小血管障害との関係があるのかなど、喧々諤々と議論されたこともあった。これに決着をつけたのが、1983~1993年に実施された糖尿病の大規模臨床研究DCCT1)である。数多あるインスリン製剤を使いこなすための基礎知識インスリン発見から100年後の2021年4月現在、インスリン製剤は26種類、59製品もの種類が存在する2)。こうまで増えると何を使用すればいいのかわかりづらく、「それなら糖尿病専門医に任せよう」ということにもなりかねないが、そうならないためにもこの場を借りてインスリン治療の基礎を伝授させていただく。まずはインスリンの適応であるが、日本糖尿病学会が提唱しているインスリン依存状態などの「絶対的適応」であれば、病態が安定するまでは専門医に任せてもよいと思われるので、今回は非依存状態であっても血糖コントロールのためにインスリンが必要な場合に、どのような選択をするかを中心に述べたいと思う。インスリン製剤は、作用時間により(超)超速効型・超速効型・速効型・中間型・持効型に分けられ、さらには作用時間が異なるインスリンを混ぜた混合型インスリン(配合注)が存在する。これらを適切に組み合わせ、正常な生理的インスリン分泌(下図)に近づけるよう単位調節を行っていく。インスリン治療の土台部分であり、食事と関係ない基礎分泌の補充を目的に使用される中間型・持効型、および食後の血糖値上昇に伴う追加分泌の補充を目的に使用される(超)超速効型・超速効型・速効型で分けて考えると理解しやすいかと思う。さらに、自己注射で使用できるデバイスには種類があり、それぞれメーカーや特徴によって名称が異なるため、これらの名前も覚えておくとよいだろう。図2:生理的インスリン分泌2型糖尿病患者にインスリン製剤を処方する際の実際(1)インスリンの導入は基礎か追加か?最初に使用するインスリン製剤については、空腹時血糖値の良しあし(個人的なカットオフ値の目安は150mg/dL)により決めることが多い。さほど高くなければ超速効型(追加分泌)から、高ければ持効型(基礎分泌)からと考えられるが、導入時はおそらくHbA1cが8%以上で空腹時血糖値が高い可能性が考えられる。慣れていない場合は、経口血糖降下薬に持効型(基礎)インスリンを追加する形のBOT(Basal supported Oral Therapy)が処方しやすいだろう。追加インスリンを使用する場合、今は食直前に投与する超速効型が主流だが、直近で登場したいわゆる(超)超速効型といわれる製剤(商品名:フィアスプ、ルムジェブ)は、食事2分前~食事開始後20分以内に注射する必要があり、打つタイミングの指導には注意しなければならない。(2)開始量は?糖尿病治療ガイド2020-20213)には、2型糖尿病における持効型インスリン療法開始時の投与量の目安として、1日0.1~0.2単位/実測体重(kg)程度(4~8単位)と記載されている。血糖値が高いからといって、最初から大量に投与することは避けるべきである。(3)1日の注射回数は?外来導入する場合は、1日1回の持効型または混合型インスリン(配合注)から始めるのが、先生方にとっても、また患者さんにとってもやりやすいかと思われる。とくに最近は高齢の糖尿病患者が非常に多くなり、自己注射がおぼつかないケースも増えている中で、1日1回なら同居家族の方に見守ってもらったり、打ってもらったりすることができるからである。(4)デバイス(インスリン注入器)は?インスリン製剤のデバイスは大きく3つに分かれ、使い捨てのプレフィルド製剤(ペンタイプ)、カートリッジ製剤(万年筆タイプ)、バイアル製剤があるが、それぞれにメリットとデメリットがある。わが国においては、利便性や衛生的な観点から圧倒的にプレフィルド製剤が多く使われているが、費用負担も大きいので、医療費を気にする患者さんには希望を確認したほうがよい。(5)注射針は?現在、太さ・長さ・構造が異なる8製品が処方可能であるが、これに関しての使い分けはマニアックなため一部の専門医に任せるとして、いたって標準的な製品で十分である。これで患者さんの同意が得られれば、インスリン導入ができ目標血糖値に合わせて単位の調節を行っていくことになる。インスリン注射部位の皮膚病変に注意ここで一つ注意点を述べておくと、インスリンは現時点で注射製剤のみであり、個人的に使用上で最も重要な事象として、同一部位に繰り返し注射をすることで発生する皮膚病変に留意している。アミロイドの沈着したインスリンボール(右写真)と、脂肪が肥大したリポハイパートロフィーの2種類がある4)。このような腫瘤部への注射で、インスリンの効果が顕著に減少してしまう。そのため、インスリン自己注射手技の再確認時に腹部の状態も忘れずに確認しておくことが大切である(とくに原因不明のコントロール悪化時など)。「注射部位を毎回変えている」と話す患者さんの中には、左右交互にはしているものの、同一部位に注射しているケースも多々あるので注意が必要だ(再三再四言ってはいるが、どうしても打ちやすい場所が決まってくる、中には硬いところに打った方が痛くないなどと言う患者さんまでいる)。これは糖尿病専門医ですらよく陥る失敗であり、読者にもぜひ心に留めておいてほしい。わが国において、1981年にインスリン自己注射が保険適応となり、自宅でも投与可能となったものの、以前はよく「インスリンは最後の治療」などと言われていた。かつては患者さんから「インスリンを打った知り合いはすぐに亡くなってしまった。だから打ちたくない」などという言葉をよく聞いたものだったが、最近はめっきり聞かなくなった。これは、われわれ医療従事者やインスリンを使用している患者さん方の地道な情報発信により、インスリン治療の有用性が未使用の人々にもきちんと理解されてきたからであろう。同時に、インスリンの早期導入によって生命予後がよくなることも伝わっていると認識している。これからも、インスリンは糖尿病患者さんのよりよい治療薬としてますます活躍していくに違いない。人生100年時代、インスリンも100歳今もこれからも現役今宵はインスリン100歳生誕記念に際し、楽しく気ままに書かせていただいた。まだまだ書き足りないことがあるものの、この辺で宮崎が生んだ焼酎「百年の孤独」を飲みながら、筆をおくことにする。それでは、皆さん来年こそいい年であることを祈りましょう!1)Diabetes Control and Complications Trial Research Group. N Engl J Med. 1993 Sep 30;329:977-986.2)竹内 淳. レジデント2021(医学出版)Vol.14 No.2. [通巻132号]:6-16.3)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.4)Nagase T, et al. Am J Med. 2014;127:450-454.

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日本人の認知症リスクに対する身体活動の影響

 認知症リスクに対する身体活動の影響に関しては、逆因果律の可能性も考えられるため、その因果関係は疑問視されている。京都大学の佐藤 豪竜氏らは、認知症リスクの軽減に対する身体活動の潜在的な因果関係を調査するため、雪国の居住を操作変数(IV)として用いて評価を行った。International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity誌2021年10月29日号の報告。 2013年、65歳以上の高齢者を対象に、独立した身体的および認知機能に関するデータを登録した縦断的コホート研究である日本老年学的評価研究のコホートデータを用いて調査した。平均フォローアップ期間は、5.7年であった。本研究の対象には、日本の19の市町村に在住する7万3,260人が含まれた。身体活動に関するデータは、自己報告形式の質問票で収集し、認知症の発症率は、介護保険データベースより確認を行った。IVは、2段階回帰手順を用いて、piecewise Cox比例ハザードモデルより推定した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間中に認知症を発症した高齢者は、8,714人であった(11.9%)。・IV分析では、1週間当たりの身体活動の頻度と認知症リスクとの間に負の関係が認められた。なお、この関連性は、時間経過とともに減少した。 ●1年目のハザード比(HR):0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.74) ●4年目のHR:0.69(95%CI:0.53~0.90) ●6年目のHR:0.85(95%CI:0.66~1.10) 著者らは「認知症リスクに対する身体活動の影響は、少なくとも4年間は継続することが示唆された。そのため、高齢者の認知症リスクを軽減させるためにも、身体活動を推奨すべきであろう」としている。

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