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第140回 long COVIDの偏見がまん延

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後に数週間や数ヵ月も続く不調・COVID-19罹患後症状(俗称:long COVID)の人のほとんどが社会からの偏見にも苛まれていることが英国での調査で浮き彫りになりました1,2)。英国の実に230万人がlong Covidを患っています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率は依然として高いことからその数は減っていません。long COVIDは治療がままならないこともその数の高止まりに加担しています。long COVID治療探しは一筋縄ではいかないようで、たとえば最近発表された試験結果ではプレドニゾロンのCOVID-19後嗅覚障害の改善効果は残念ながら認められませんでした3,4)。long COVIDの人はかなりの偏見に苛まれていると言われていますが、それがどれほどの負担になっているかはこれまで定かではありませんでした。そこで英国サウサンプトン大学等の研究者等は長引く不調でただでさえ生きづらくなっているlong COVIDの人がいわば泣きっ面に蜂の偏見でどれだけ難儀しているかを新たに開発された評価尺度を使って調べました。その試験はlong COVID患者団体(Long Covid Support)のからの意見も取り入れて設計されました。2年前の2020年のオンライン調査に参加した人にその1年後の2021年11月に案内を出し、以下の3種類の偏見に関する13の問いへの5択の回答をお願いしました。実際の偏見(enacted stigma):体調不良のせいで不当に扱われること内なる偏見(internalised stigma):自身の体調不良を恥じたり気にすること偏見の予感(anticipated stigma):体調不良で不利になると予想すること最終的に千人を超える1,166人から回答があり、そのほとんどを占める英国からの966人の情報が解析されました。解析の結果、ほぼ全員の95%が3種類の偏見のいずれか1つかそれ以上を少なくとも時々被っていました。また、8割近い76%の状況は深刻で、しばしばまたは常に偏見に直面していました。5人に3人(63%)は蔑ろにされたり付き合いを絶たれるなどの実際の偏見が少なくとも時々あり、91%はそういう実際の偏見の予感が少なくとも時々ありました。また、9割近い86%は体調不良を恥じたり、役立たずと感じたり、変わり者だと思い込むなどのlong COVID絡みの内なる偏見に少なくとも時々苛まれていました。そのような驚くばかりの偏見まん延2)はlong COVIDの人に肩身の狭い思いを強いているらしく、5人に3人(61%)はlong COVIDを打ち明けることに少なくとも時々は細心の注意を払っていました。また、3人に1人(34%)はlong COVIDを打ち明けたことを後悔したことが少なくとも時々ありました。今回の研究で使われた13の問い(“自身のlong COVIDのせいで相手が気まずそうだったことがある”等)への5択(ない、稀にある、時々ある、しばしばある、いつもそう)の回答結果に基づいてlong COVID患者が被る偏見のほどを表す検査が開発されています。long COVIDの人が被る偏見のほどの推移や、偏見を減らす取り組みの効果のほどを10分とかからず完了するその検査Long Covid Stigma Scale(LCSS)を使ってこれからは把握することができます。LCSSの開発を指揮した今回の試験の著者の1人Marija Pantelic 氏によると、long COVIDにつきまとう偏見はそれらの患者を害するのみならず社会や医療も損なわせもするようです。先立つ研究で喘息、うつ、HIVなどの他の長患いの偏見が社会をひどく不健全にすることがすでに示されています。偏見の恐れは人々を医療やその他の支援からおそらくより遠のかせ、その積み重ねが心身を蝕んでいきます。今回の試験では意外にもlong COVIDの診断を受けている人の方がそうではないlong COVIDの人に比べて偏見をより被っていました。その理由はわかりませんが、診断を受けた人ほど自身の体調を他の人により知らせているからなのかもしれません。その理由も含め、偏見がどこでどうやって発生するのか、どういう人が偏見を持ちやすいのか、どういうlong COVID患者が偏見を被りやすいのかを今後の試験で調べる必要があります2)。参考1)Pantelic M, et al. PLoS ONE . 2022;17:e0277317.2)Most people with long Covid face stigma and discrimination / Eurekalert3)Schepens EJA, et al.BMC Med. 2022;20:445.4)Prednisolone does not improve sense of smell after COVID-19 / Eurekalert

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2型DM患者の高TG血症へのペマフィブラート、心血管イベント抑制効果は?/NEJM

 軽度~中等度の高トリグリセライド血症を伴い、HDLコレステロールとLDLコレステロールの値が低い2型糖尿病患者において、ペマフィブラート(選択的ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体αモジュレーター)はプラセボと比較して、トリグリセライド、VLDLコレステロール、レムナントコレステロール、アポリポ蛋白C-IIIの値を低下させたが、心血管イベントの発生は抑制しなかったことが、米国ブリガム&ウィメンズ病院のAruna Das Pradhan氏らが実施した「PROMINENT試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2022年11月24日号に掲載された。24ヵ国のイベント主導型試験 PROMINENT試験は、日本を含む24ヵ国876施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照イベント主導型試験であり、2017年3月~2020年9月の期間に患者の登録が行われた(Kowa Research Instituteの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病と診断され、軽度~中等度の高トリグリセライド血症(空腹時トリグリセライド値200~499mg/dL)を伴い、HDLコレステロール値が40mg/dL以下の患者であった。また、患者は、ガイドラインに基づく脂質低下療法を受けているか、有害事象なしでスタチン療法を受けることができず、LDLコレステロール値が100mg/dL以下の場合に適格とされた。 被験者は、ペマフィブラート(0.2mg錠、1日2回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要エンドポイントは、非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中、冠動脈血行再建術、心血管死の複合とされた。非アルコール性脂肪性肝疾患の頻度は低い 1万497例(年齢中央値64歳、女性27.5%)が登録され、ペマフィブラート群に5,240例、プラセボ群に5,257例が割り付けられた。1次予防の集団(年齢が男性50歳以上、女性55歳以上でアテローム動脈硬化性心血管疾患がない)が33.1%、2次予防の集団(年齢18歳以上で、アテローム動脈硬化性心血管疾患が確立されている)は66.9%であった。 ベースラインで95.7%がスタチンの投与を、80.1%がACE阻害薬またはARBの投与を、9.3%がGLP-1受容体作動薬を、16.8%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。空腹時トリグリセライド中央値は271mg/dL、HDLコレステロール中央値は33mg/dL、LDLコレステロール中央値は78mg/dLだった。追跡期間中央値は3.4年。 4ヵ月の時点におけるプラセボ群と比較した脂質値のベースラインからの変化率の差は、トリグリセライドが-26.2%(95%信頼区間[CI]:-28.4~-24.10)、VLDLコレステロールが-25.8%(-27.8~-23.9)、レムナントコレステロールが-25.6%(-27.3~-24.0)、アポリポ蛋白C-IIIが-27.6%(-29.1~-26.1)と、いずれもペマフィブラート群で低かった。一方、HDLコレステロールは5.1%(4.2~6.1)、LDLコレステロールは12.3%(10.7~14.0)、アポリポ蛋白Bは4.8%(3.8~5.8)であり、ペマフィブラート群で高かった。 有効性の主要エンドポイントは、ペマフィブラート群が572例(3.60/100人年)、プラセボ群は560例(3.51/100人年)で発生し(ハザード比[HR]:1.03、95%CI:0.91~1.15、p=0.67)、両群間に差はなく、事前に規定されたすべてのサブグループで明確な効果修飾(effect modification)は認められなかった。 重篤な有害事象の発生には両群間に有意な差はみられなかった(ペマフィブラート群 14.74/100人年vs.プラセボ群14.18/100人年、HR:1.04、95%CI:0.98~1.11、p=0.23)。一方、ペマフィブラート群では、腎臓の有害事象(10.67/100人年vs.9.55/100人年、HR:1.12、95%CI:1.04~1.20、p=0.004)、静脈血栓塞栓症(0.43/100人年vs.0.21/100人年、HR:2.05、95%CI:1.35~3.17、p<0.001)の発生率が高く、非アルコール性脂肪性肝疾患(0.95/100人年vs.1.22/100人年、HR:0.78、95%CI:0.63~0.96、p=0.02)の発生率が低かった。 著者は、「ペマフィブラート群で観察されたアポリポ蛋白BとLDLコレステロール値の上昇が、トリグリセライド値やレムナントコレステロール値の低下による有益性を打ち消した可能性は否定できない」としている。

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SGLT2阻害薬、DM有無問わずCKD進行と心血管死を抑制/Lancet

 SGLT2阻害薬は、心血管リスクの高い2型糖尿病患者のみならず慢性腎臓病または心不全を有する患者においても、糖尿病の状態、原発性腎疾患または腎機能にかかわらず、腎臓病進行および急性腎障害のリスクを低下させることが、英国・オックスフォード大学のNatalie Staplin氏らSGLT2 inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium(SMART-C)による解析の結果、報告された。Lancet誌2022年11月19日号掲載の報告。大規模二重盲検プラセボ対照試験15試験の約9万例についてメタ解析 研究グループは、MEDLINEおよびEmbaseを用い、2022年9月5日までに発表されたSGLT2阻害薬の臨床試験(SGLT1/2阻害薬の併用を含む、年齢18歳以上の成人を対象とした二重盲検プラセボ対照試験[クロスオーバー試験は除く]、各群500例以上、試験期間6ヵ月以上)を検索し、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 2人の研究者が独立して、各試験の要約データを査読付き論文から抽出するか、または結果が公表されていない試験については治験責任医師よりデータの提供を受け、コクランバイアスリスクツール(バージョン2)を用いてバイアスリスクを評価した。また、逆分散重み付けによるメタ解析を行い、治療効果を推定した。 主な有効性の評価項目は、腎臓病進行(無作為化時からの推定糸球体濾過量[eGFR]50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全、または腎不全による死亡)、急性腎障害、ならびに心血管死または心不全による入院の複合であった。その他の評価項目は、心血管死および非心血管死、主な安全性評価項目はケトアシドーシスおよび下肢切断とした。 文献検索の結果、15試験が特定され、このうち追跡期間が6ヵ月未満の2試験(inTandem3、DARE-19)を除外した13試験(DECLARE-TIMI 58、CANVAS Program、VERTIS CV、EMPA-REG OUTCOME、DAPA-HF、EMPEROR- REDUCED、EMPEROR- PRESERVED、DELIVER、SOLOIST-WHF、CREDENCE、SCORED、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)が解析対象となった。無作為化を受けた患者は計9万413例で、このうち糖尿病の状態が不明であった4例を除く9万409例(糖尿病患者7万4,804例[82.7%]、非糖尿病患者1万5,605例[17.3%]、各試験のベースラインの平均eGFRの範囲37~85mL/min/1.73m2)が解析に組み込まれた。対プラセボで腎臓病進行リスクを37%低下、心血管死リスクを14%低下 SGLT2阻害薬はプラセボと比較して、腎臓病進行リスクを37%低下させた(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、糖尿病患者(RR:0.62)と非糖尿病患者(0.69)でほぼ同じであった。慢性腎臓病を有する患者を対象とした4件の試験(CREDENCE、SCORED、DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)では、原発性腎疾患の診断にかかわらず腎臓病進行リスクのRRは類似していた。 また、SGLT2阻害薬はプラセボと比較して、急性腎障害のリスクを23%(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクを23%(0.77、0.74~0.81)低下させ、いずれも糖尿病の有無にかかわらず同様の効果がみられた。 SGLT2阻害薬は、心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクの有意な低下は認められなかった(0.94、0.88~1.02)。これら死亡の評価項目に関するRRは、糖尿病患者と非糖尿病患者で類似していた。 すべての評価項目において、各試験のベースラインの平均eGFRに関係なく、結果はほぼ同様であった。絶対効果の推定に基づくと、SGLT2阻害薬の絶対利益は、ケトアシドーシスや切断の重篤な危険性を上回った。

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Pharmacoequity―SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬は公正に処方されているか?-(解説:住谷哲氏)

 筆者は本論文で初めてpharmacoequityという用語を知った。「処方の公正性」とでも訳せばよいのだろうか。平等equalityと公正equityとの違いもなかなか難しいが、この用語の生みの親であるDr. Utibe R. Essienは、Ensuring that all individuals, regardless of race, ethnicity, socioeconomic status, or availability of resources, have access to the highest quality medications required to manage their health is “pharmacoequity”. と述べている1)。その意味するところを簡単に言えば、エビデンスに基づいた治療薬を必要とするすべての患者に公正に処方することを担保するのがpharmacoequityである、となる。 Essienが最初に報告したのは、心房細動患者に対するDOACをはじめとする抗凝固薬の処方率が人種race/民族ethnicityで異なり、白人に比較してアジア人と黒人で有意に低かった、とするものである2)。この研究も本論文と同じく対象患者は退役軍人保健局(Veterans Health Administration)の加入者であり、これが両論文のポイントであるが、すべての加入者に薬剤が無料または低価格で提供されるため、薬価によるバイアスがほとんどない。本論文は同様のアプローチで、心房細動患者に対する抗凝固薬の代わりに、2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率を検討した研究である。その結果は、抗凝固薬の場合と同様に、SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率は白人に比較して黒人で有意に低率であった。 人種/民族が、なぜ抗凝固薬またはSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方率と関連していたのかは、両研究では明らかになっていない。しかし心房細動患者に対する抗凝固薬の処方だけではなく、本論文によって2型糖尿病患者に対するSGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬の処方にも人種/民族が影響していることが明らかとなった。したがって、他のエビデンスに基づいた治療薬の処方においても同様の状況にある可能性は十分にある。EBMの実践が人種/民族によって影響される状況は公正とは言えないだろう。多民族国家ではないわが国ではこのあたりの状況に敏感ではないが、医療における公正性equity in medicine をいま一度よく考える契機となる報告である。

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うつ病と自殺念慮に対する思春期~成人期の24時間行動ガイドラインの重要性

 若年および成人の24時間行動ガイドラインでは、最適な健康状態を確保するために特定の身体活動時間、座位時間、睡眠時間を推奨しているが、メンタルヘルスの指標との関連についてはよくわかっていない。スペイン・ナバーラ州立大学のAntonio Garcia-Hermoso氏らは、思春期~成人期の24時間行動ガイドラインと、成人期のうつ病および自殺念慮を伴う思春期中期(12~17歳)から成人期(33~39歳)までの軌跡との関係を調査するため、本検討を行った。その結果、思春期中期~成人期での24時間行動ガイドラインの利用促進および継続で、メンタルヘルスに関する問題が予防可能であることが示唆された。ただし、本研究結果について著者らは、エラーやバイアスにつながる恐れのある自己評価や、1994~96年のガイドラインへの適合測定を2016年に行いデータセットを作成した点などから、慎重に解釈する必要があるとしている。The International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity誌2022年10月23日号の報告。 米国における思春期~成人期の健康に関する全国縦断研究(Add Health)のWeves I(1994~95年)およびV(2016~18年)の参加者を対象に、プロスペクティブコホート研究を実施した。身体活動時間、スクリーンタイム、睡眠時間は、アンケートを用いて収集した。過去4週間でうつ病の自己申告歴および/または抗うつ薬の使用があった成人は、うつ病として分類した。自殺念慮は、Weves IまたはVにおいて自己申告の単一質問を用いて収集した。Weves Iでの24時間行動ガイドラインにおける特定の組み合わせおよび思春期~成人期の軌跡に応じて、成人期のうつ病および自殺念慮の発生率比(IRR)を推定するため、ポアソン回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、7,069人(女性の割合:56.8%)。・思春期中期に身体活動ガイドラインおよび3つのガイドラインすべてを満たしていた人は、いずれも満たしていなかった人と比較し、成人期のうつ病(IRR:0.84、95%信頼区間[CI]:0.72~0.98)および自殺念慮(IRR:0.74、95%CI:0.55~0.99)のリスクが低かった。・思春期および成人期ともにスクリーンタイムのガイドラインおよび3つのガイドラインすべてを満たしていた人は、満たしていなかった人と比較し、うつ病([スクリーンタイム]IRR:0.87、95%CI:0.72~0.98、[3つすべて]IRR:0.37、95%CI:0.15~0.92)および自殺念慮([スクリーンタイム]IRR:0.74、95%CI:0.51~0.97、[3つすべて]IRR:0.12、95%CI:0.06~0.33)のリスクが低かった。・思春期に3つのガイドラインすべてを満たしていなかったが、成人期に満たしていた人は、ガイドラインをまったく満たしていなかった人と比較し、自殺念慮のリスクが低かった(IRR:0.81、95%CI:0.45~0.89)。

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急性心不全、強化治療戦略で死亡・再入院リスク減/Lancet

 急性心不全で入退院後、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の早期漸増と頻回なフォローアップによる強化治療戦略は、通常治療と比較して症状軽減、QOL改善、および180日以内の全死因死亡+心不全再入院リスクの減少をもたらすことが、フランスのパリ・シテ大学のAlexandre Mebazaa氏らが実施した多施設共同無作為化非盲検並行群間試験「STRONG-HF試験」の結果、示された。急性心不全で入退院後にGDMTを行う際の用量や漸増速度に関するエビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2022年11月7日号掲載の報告。2週間で目標用量まで漸増するGDMTと通常治療を比較 研究グループは、14ヵ国(アルゼンチン、オーストリア、ブルガリア、コロンビア、フランス、ハンガリー、イスラエル、モザンビーク、ナイジェリア、ロシア、セルビア、スロバキア、南アフリカ、チュニジア)の87病院において、急性心不全で入院し退院予定日前2日以内に経口心不全治療薬の最大用量を投与されていない18~85歳の患者を対象に試験を行った。 退院前に左室駆出率(≦40% vs.>40%)および国で層別化して、通常治療群または高強度(high-intensity)治療群(β遮断薬、RAS阻害薬[ACE阻害薬、ACE阻害薬に不耐用の場合はARB]、ARNI、MR拮抗薬による)に1対1の割合で無作為に割り付けた。通常治療群では各地域の診療に従った治療を行い、高強度治療群では無作為化後2週間以内に推奨用量の100%まで治療薬を漸増するとともに、無作為化後1・2・3・6週時に臨床状態、臨床検査値、NT-proBNP値を評価した。 主要評価項目は、180日以内の心不全による再入院または全死亡で、intention-to-treat(ITT)集団を対象に有効性と安全性を評価した。主要評価項目については、倫理委員会がプロトコルの修正を承認し180日目まで患者の追跡調査を可とした病院に登録された患者のみを解析対象集団とした。 なお、本試験は、計1,069例が無作為化された時点の解析で主要評価項目の群間差が予測より大きかったため、データ安全性モニタリング委員会の勧告により2022年9月23日に早期中止となった。早期漸増で180日以内の全死因死亡+心不全再入院リスクが有意に減少 2018年5月10日~2022年9月23日の期間に、計1,641例がスクリーニングを受け、1,078例が高強度治療群(542例)または通常治療群(536例)に無作為化された(ITT集団)。患者背景は、平均(±SD)年齢63.0±13.6歳、男性61%で、白人またはコーカサスが77%/黒人21%/アメリカ先住民<1%/太平洋諸島系<1%/その他1%であった。 データカットオフ時点(2022年10月13日)において、高強度治療群は通常治療群と比較して、90日目までに経口心不全治療薬を最大用量まで漸増された患者の割合が高かった(RAS阻害薬:55% vs.2%、β遮断薬:49% vs.4%、MR拮抗薬:84% vs.46%)。また、高強度治療群は通常治療群より、90日目までに血圧、心拍数、NYHA分類、体重およびNT-proBNP値が改善した。 180日以内の心不全による再入院または全死亡は、高強度治療群で506例中74例、通常治療群で502例中109例発生した(補正後リスク差:8.1%[95%信頼区間[CI]:2.9~13.2]、p=0.0021、リスク比:0.66[95%CI:0.50~0.86])。 90日以内の有害事象は、高強度治療群(223/542例、41%)が通常治療群(158/536例、29%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現率(88例[16%]vs.92例[17%])、致死的有害事象の発現率(25例[5%]vs.32例[6%])は同等であった。

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日本における妊娠中の社会的孤独と不眠症との関係

 東北大学(東北メディカル・メガバンク機構)の村上 慶子氏らは、妊娠中の女性の不眠症有病率を推定し、妊娠中の社会的孤独と不眠症との関連を調査した。その結果、妊娠中の女性における家族や友人からの社会的孤独は、不眠症リスク増加と関連していることが示唆された。Sleep Health誌オンライン版2022年10月10日号の報告。 本横断的研究は、2013~17年に東北メディカル・メガバンク機構の三世代コホート調査の一部として実施された。妊娠中の女性を宮城県の産婦人科クリニックおよび病院で募集し、調査票への回答および医療記録の提供を許可した女性1万7,586人を対象に分析を行った。不眠症の定義は、アテネ不眠尺度スコア6以上とした。社会的孤独の評価にはLubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を用い、スコア12未満を社会的孤独と定義した。また、LSNS-6のサブスケールを、家族または友人関係の質の評価に用いた。妊娠中の社会的孤独と不眠症との関連の評価には、年齢、出産回数、妊娠前のBMI、妊娠に対する感情、教育、収入、就労状態、つわり、精神的苦痛で調整した後、多重ロジスティック回帰分析を用いた。家族または友人関係の影響についての分析にも、多重ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・妊娠後期の不眠症有病率は、37.3%であった。・社会的孤独が認められた女性は、そうでない女性と比較し、不眠症リスクが高かった(多変量オッズ比[OR]:1.26、95%信頼区間[CI]:1.16~1.36)。・家族関係(OR:1.40、95%CI:1.25~1.56)や友人関係(OR:1.15、95%CI:1.07~1.24)の希薄さは、不眠症リスク増加と関連していた。

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アトピー性皮膚炎の湿疹とかゆみ、臨床で推奨される測定手法は?

 臨床において、アトピー性皮膚炎患者の湿疹コントロールおよびかゆみの強度測定に推奨される手法は何か。イスラエル・ラビン医療センターのYael A. Leshem氏らHarmonising Outcome Measures for Eczema in Clinical Practice(HOME-CP)イニシアチブが、システマティックレビューを介して入手した測定手法についてエビデンスレビューを行った。 結果、湿疹の長期コントロールの測定には、Recap of Atopic Eczema(RECAP)とAtopic Dermatitis Control Tool(ADCT)が、かゆみ強度の測定には、かゆみに関するPatient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS)質問票に基づく、かゆみの数値評価スケール(NRS-itch)でみた24時間ピーク値および1週間ピーク値と1週間平均値が推奨される、とのコンセンサスステートメントを発表した。 「臨床医と患者は、これらの十分に検証され、迅速に実行でき、使いやすい手法を診療所に持ち込み、ニーズに最適な手法を選択することを推奨する。今回の評価は、患者と臨床医の出会いに取って代わるものではなく、実臨床での研究およびヘルスケアの改善に資するものである」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年10月12日号掲載の報告。 臨床でのアウトカムを測定することは、患者のケア、質の改善および実臨床のエビデンスジェネレーションに役立つ可能性がある。HOME-CPイニシアチブは、臨床でアトピー性皮膚炎を測定するための、有効かつ実現可能な手段のリストを作成している。これまでの研究で、湿疹症状と長期的なコントロールが、臨床診療で測定すべき最も重要な領域であることが確認されている。 湿疹コントロールとかゆみ強度を測定するための利用可能な手法をシステマティックレビューにより特定し、HOME VIIIバーチャルオンラインミーティング(2020年10月6日と9日)においてコンセンサス(合意形成)プロセスを開催した。検討では、臨床で最適な手法を選択するために実行可能性(feasibility)の側面に力点が置かれた。反対者が30%未満の場合、その手法がコンセンサスを得られたとした。 主な結果は以下のとおり。・湿疹コントロールの手法は7つが特定された。そのうち、コンセンサスを得たのはRECAP(反対者3/63例[5%])とADCT(7/69例[10%])であった。・1つの質問による患者の総合評価は、支持を集めはしたが、現時点で利用可能な手法はコンセンスを得るには至らなかった。・かゆみの強度の測定手法は6つが特定された。そのうち、3つの手法が推奨のコンセンサスを得た。・3つの手法は、かゆみのPROMIS質問票に基づく、NRS-itchの24時間ピーク値(11/63例[17%])、1週間ピーク値(14/63例[22%])、1週間平均値(16/59例[27%])であった。

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第139回 世界の男性の精子が半減/T細胞強化コロナワクチンの試験開始

世界の総人口80億人到達1)とは裏腹に、その始まりの半分の出どころ、精子が心配なことに減り続けているようです2,3)。しかも悪いことにその傾向は21世紀に入ってどうやら加速すらしています。イスラエルのヘブライ大学公衆衛生学教授Hagai Levine氏が率いる研究チームが6年前の2017年に発表したメタ解析では北米、欧州、オーストラリアでの精子の紛れもない減少が確認されました4,5)。その3年後の2020年春にLevine氏等は2014年以降に出版された試験の同定に着手し、男性1万4,233人からの精液検体を扱った38試験報告を見出しました。新たに見つかったそれらの試験と2017年のメタ解析で扱った試験は合わせて233件あり、1973~2018年の46年間に6万人近い5万7,168人の男性から採取された精液検体の検討結果を含みます。世界6大陸53ヵ国からのそれらの結果を改めてメタ解析した結果、北米、欧州、オーストラリアでの精子が減り続けていることに加えて、南/中央アメリカ、アジア、アフリカでも精子が減っていることが確認されました。世界の男性の精子減少は驚くばかりで、1973年には1mL当たり1億個を超えていたのが2018年にはその半分未満の1mL当たり4,900万個に減っていました。しかもその減少は20世紀に入って拍車がかかっているらしく、1mL当たりの精子数の年間低下率は1972年過ぎ(post-1972)からは1.16%だったのが2000年以降は2.64%へとおよそ倍増しています。日本の男性の精子もどうやら同様かもしれません。4都市(川崎、大阪、金沢、長崎)の大学構内にポスターを出して被験者を募った1999~2003年の試験の結果、中央値およそ21歳の大学生被験者1,559人の精子数の平均は1mL当たり5,900万個でした6)。今回のメタ解析報告での世界の2000年頃の精子数は(同報告のFigure 2 によると)1mL当たり平均7,000万個ほどであり、日本の大学生被験者はそれに比べると少なめです。また、パートナーが妊娠した男性、すなわち不妊ではなく受精能力がある日本人男性のみ募った試験7)での792人の1mL当たりの精子数平均は1億を超えており(1億0500万個/mL)、大学生被験者を上回っていました。それに、大学生被験者の実に3人に1人(32%)は1mL当たりの精子数が4,000万個に届いておらず、よって受精能力が低いと示唆され、パートナーの妊娠はより困難かもしれません。もっというと大学生被験者のおよそ10人に1人(9%)の1mL当たりの精子数は世界保健機関(WHO)の基準下限1,500万個8)未満でした。最初のメタ解析発表の翌年2018年、Levine氏を筆頭とする医師や科学者等一堂は精子減少を公衆衛生の一大事として認識し、人類の存続のために男性の生殖機能を重視することを求める声明を発表しています9)。各国は男性の生殖機能の衰えの原因を調べることに資源や人手を割き、その調子を把握して害されないようにする最適な環境を整えることをその声明は求めています。Levine氏に言わせれば事態は急を要します。今回発表されたメタ解析結果は男性の精子に危機が迫っていることを知らせるいわば炭鉱のカナリア(canary in a coal mine)であり、このままでは人類の存亡にかかわります。人間を含むすべての生き物にとってより健康的な環境を整えることに世界は取り組み、生殖機能を害する振る舞いや要因を減らさねばなりません3)。Pfizer/BioNTech社の“T細胞”強化コロナワクチンの試験開始新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へのT細胞反応強化を目指すPfizer/BioNTechのmRNAワクチンBNT162b4の第I相試験(NCT05541861)が始まりました10,11)。SARS-CoV-2感染症(COVID-19)予防 mRNAワクチンを少なくとも3回接種した健康なおよそ180人を募り、オミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチン併用でのBNT162b4の3用量(5、10、15 μg)の免疫原性や安全性などがオミクロン株BA.4/BA.5対応ワクチンと比べてどうかが検討されます。BNT162b4はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質以外のタンパク質を作るT細胞抗原mRNAが成分であり、T細胞免疫をいっそう強化してより隈なく行き届くようにし、COVID-19予防をより持続させることを目指します。重症化や入院を少なくとも1年は予防する長持ちな抗体やT細胞免疫を引き出すCOVID-19ワクチンを世に出すことを目指していると今年中頃の決算の会見でPfizerの最高科学責任者Mikael Dolsten氏は述べています12)。今回臨床試験段階に進んだBNT162b4はそういう長持ちで手広い免疫反応を引き出す取り組みの一翼を担っています。参考1)11月15日「80億人の日」/ 国連人口基金2)Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2022 Nov 15:dmac035 [Epub ahead of print].3)Follow-up study shows significant decline in sperm Ccounts globally, including Latin America, Asia and Africa / Eurekalert4)Levine H, et al. Hum Reprod Update. 2017;23:646-659.5)Comprehensive study shows a significant ongoing decline in sperm counts of Western men / Eurekalert6)Iwamoto T, et al.BMJ Open 2013;3:e002222.7)Iwamoto T, et al.BMJ Open. 2013;3:e002223.8)WHO laboratory manual for the Examination and processing of human semen / WHO9)Levine H, Basic Clin Androl. 2018;28:13.10)Pfizer and BioNTech Advance Next-Generation COVID-19 Vaccine Strategy with Study Start of Candidate Aimed at Enhancing Breadth of T cell Responses and Duration of Protection / GlobeNewswire11)Safety and Effects of an Investigational COVID-19 Vaccine as a Booster in Healthy People(ClinicalTrials.gov)12)Pfizer (PFE) Q2 2022 Earnings Call Transcript / Fool.com

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治療抵抗性高血圧、二重エンドセリン受容体拮抗薬が有効/Lancet

 エンドセリン経路の遮断による降圧作用が示唆されているが、現時点では治療標的とはなっていない。オーストラリア・西オーストラリア大学のMarkus P. Schlaich氏らは「PRECISION試験」において、二重エンドセリン受容体拮抗薬aprocitentanは治療抵抗性高血圧患者で良好な忍容性を示し、4週の時点での収縮期血圧(SBP)がプラセボに比べ有意に低下し、その効果は40週目まで持続したと報告した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月7日号に掲載された。3部構成の無作為化第III相試験 PRECISION試験は、欧州、北米、アジア、オーストラリアの22ヵ国193施設が参加した無作為化第III相試験であり、2018年6月~2022年4月の期間に参加者の登録が行われた(Idorsia PharmaceuticalsとJanssen Biotechの助成を受けた)。 対象は、利尿薬を含むクラスの異なる3種の降圧薬から成る標準化された基礎治療を受けたが、診察室での座位SBPが140mmHg以上の患者であった。 試験は連続する3部から成り、パート1は4週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の期間で、患者は標準化基礎治療に加えaprocitentan 12.5mg、同25mg、プラセボの1日1回経口投与を受ける群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。パート2は32週間の単盲検(患者)の期間で、すべての患者がaprocitentan 25mgの投与を受けた。パート3は12週間の二重盲検無作為化プラセボ対照の投与中止期で、再度無作為化が行われ、患者はaprocitentan 25mg群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、パート1のベースラインから4週目までの診察室座位SBP、主な副次エンドポイントはパート3のベースライン(36週目)から4週目(40週目)までの診察室座位SBPの変化であった。そのほか副次エンドポイントには、24時間時間自由行動下SBPの変化などが含まれた。4週時の24時間自由行動下SBPも良好 730例が登録され、このうち704例(96%)がパート1を、703例のうち613例(87%)がパート2を、613例のうち577例(94%)がパート3を完遂した。730例のうちaprocitentan 12.5mg群が243例(平均年齢61.2歳、男性59%)、同25mg群が243例(61.7歳、60%)、プラセボ群は244例(62.2歳、59%)であった。 パート1の4週時におけるSBPの最小二乗平均(SE)変化は、aprocitentan 12.5mg群が-15.3(0.9)mmHg、同25mg群が-15.2(0.9)mmHg、プラセボ群は-11.5(0.9)mmHgであった。プラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-3.8(1.3)mmHg(97.5%信頼区間[CI]:-6.8~-0.8、p=0.0042)、同25mg群は-3.7(1.3)mmHg(-6.7~-0.8、p=0.0046)と、いずれも有意に低下した。 パート1の4週時における、24時間自由行動下SBPのプラセボ群との差は、aprocitentan 12.5mg群が-4.2mmHg(95%CI:-6.2~-2.1)、同25mg群は-5.9mmHg(-7.9~-3.8)であった。 パート3の4週(40週)時におけるSBP(主な副次エンドポイント)は、aprocitentan 25mgに比べプラセボ群で有意に高かった(5.8mmHg、95%CI:3.7~7.9、p<0.0001)。 パート1の4週間で発現した最も頻度の高い有害事象は浮腫/体液貯留で、aprocitentan 12.5mg群が9.1%、同25mg群が18.4%、プラセボ群は2.1%で認められた。試験期間中に治療関連死が11例(心血管死5例、新型コロナウイルス感染症関連死5例、腸穿孔1例)でみられたが、担当医によって試験薬関連と判定されたものはなかった。 著者は、「本研究により、aprocitentanによる二重エンドセリン受容体の遮断は、ガイドラインで推奨されている3剤併用降圧治療との併用で、良好な忍容性とともに、診察室および自由行動下の血圧の双方に持続的な降圧効果をもたらす有効な治療法であることが確立された」としている。

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アルツハイマー病治療薬の今【コロナ時代の認知症診療】第21回

アリセプトの市販後臨床試験結果からみえてくること認知症の原因疾患は、70以上もあるといわれる。治療法はそれぞれの原因ごとに違うが、今のところ治療薬の適応は、数が一番多いアルツハイマー病が基本となっている。実際、現在流通している治療薬の4つはすべてアルツハイマー病が対象である。例外的にドネペジル(商品名:アリセプト)のみは、レビー小体型認知症も適応疾患だった。ところが、この10月の厚生労働省の発表により(令和4年10月28日薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会)、本症の承認条件だった市販後臨床試験で「主要評価項目が未達」と報告された。その結果、認知症専門医らが必要と判断した患者に使用すること等を添付文書に追記を求めることになった。「投与開始12週間後までを目安」に認知機能検査や聞き取りによって有効性評価を行い、効果が判断できなければ「投与を中止」すること、投与継続を決めても定期的な継続可否の判断を求め、さらに「認知症治療に精通」した医師が使うよう注意喚起をしたのである。なお経験的に幻視や錐体外路徴候もある本症にはこの薬が効くといわれてきたが、この発表でもそれが統計学的に示されている。要は、いったんは適応となった薬剤でもなかなか甘くはないといえる。aducanumabとlecanemab、結果の違いをどうみるかさて今日アルツハイマー病の根本治療薬として、開発にしのぎが削られる新薬の主流標的は病気の原因と目されているアミロイドβ(Aβ)、タウ、炎症や免疫に関わる薬などに分類できる。その中でも主流はアミロイドβに関連する抗アミロイドβモノクローナル抗体と呼ばれるものである。これまでこの種の新薬として10種類以上により治験がなされてきた。結果概要は、「原因物質と目されるアミロイドβを脳から除去できる。しかし記憶など認知機能への効果は微妙。副作用として脳血管の出血や浮腫みが30%程度出現する」とまとめられる。確かにこの成績では期待の根本治療薬というわけにはいかない。つい最近まで最も優秀とされたaducanumabが、2011年12月に日本で承認されなかったことには3つの理由がある。まず2つの大きな治験をやっているのだが、その治験の結果が両者で一致しないことがある。次にアミロイドβの脳からの除去と認知機能改善の関係性が説明できないこと。さらに少なからぬ例で脳血管の出血や浮腫が見られたことである。これに対して、lecanemabでは2022年9月に主要評価項目とすべての重要な副次評価項目で統計学的に有意な結果が得られたと報告された。主要評価項目スコアの平均変化量は、本剤投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45、27%という統計学的に有意な悪化抑制を示したのである。また副次評価項目としての脳内アミロイド蓄積は減少した。他の認知機能テストや日常生活動作などについても統計学的に有意な結果を得たのである。また副作用としての脳血管の出血や浮腫みはaducanumabより低い発現率であった。以上の結果を踏まえてlecanemabは、2022年度中に米国ならびに日本、欧州において承認申請を目指すとされる。なお本剤のメカニズムのポイントは、Aβの少数集合体であるオリゴマー(あるいは凝集体:プロトフィブリル)をターゲットにしていることだ。神経細胞に害を与えるのは出来上がったAβの塊である老人斑ではない。Aβの集合状態には単一のモノマーから少数のオリゴマー、さらには線維化Aβまで段階があるが、神経毒性の強さから最も注目されるのはオリゴマーあるいはプロトフィブリルなのである。lecanemabは承認されるか?承認されるかどうかは、3つの問題点に対してこの薬がどこまで答えられるか、またそれが納得できるかという評価にかかっていると筆者は考える。いずれにせよ今度こそ合格するのではないかと熱い視線が世界中から向けられている。けれども難しい問題がある。まず費用の問題。前回aducanumabの時に、年間600万円の薬価だと言われた。日本人は身体が小さいので、400万程度ではないかという試算もあるようだが、いずれにしても高価である。今回どれくらいの薬価になるのかまだ発表はないようだが、そう安くなるとは思えない。もっと大切なのは保険収載だろう。これがあるからこそ、日本国民は、比較的安価に医療サービスが受けられる。逆にこうした高価な薬で収載がなされないとその恩恵に預かることはそう簡単ではない。よく知られているように新規医薬品や医療技術の保険収載等に際しては、費用対効果や財政影響などの経済性評価や保険外併用療養の活用などが検討される1)。冒頭に述べたアリセプトとレビー小体型認知症の関係ではないが、これはかなり厳しいものといえる。ましてこの新薬について、アルツハイマー病の患者さんの総数、費用対効果などを考えた時に簡単に収載になると考えにくいところがある。参考1)厚生労働省保険局.新規医薬品等の保険収載の考え方について(平成30年10月10日)

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がん患者のCOVID-19、免疫抑制と免疫療法の両方で重症化

 免疫療法を受けたがん患者は、免疫系の活性化により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるサイトカインストームがより多く発生する可能性がある。今回、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのZiad Bakouny氏らが、がん患者におけるベースラインの免疫抑制と免疫療法、COVID-19の重症度およびサイトカインストームとの関連を調べた。その結果、COVID-19を発症したがん患者において、免疫抑制と免疫療法のどちらか片方のみでは重度の感染症やサイトカインストームのリスクは増加せず、ベースラインで免疫抑制のあるがん患者に免疫療法を実施すると、COVID-19の重症化やサイトカインストームの発生につながるリスクが高いことが示唆された。JAMA Oncology誌オンライン版2022年11月3日号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、対象は2020年3月~2022年5月にCOVID-19 and Cancer Consortium(CCC19)レジストリ(現在または過去にがん診断を受けたCOVID-19患者の国際的な多施設集中型レジストリ)に報告された1万2,046例。解析対象は、PCRまたは血清学的所見でSARS-CoV-2感染が確認されたactiveながん患者もしくはがん既往のある患者で、COVID-19診断前3ヵ月以内に免疫療法(PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害薬、二重特異性T細胞誘導抗体、CAR-T細胞療法)を含むレジメンで治療された免疫療法群、免疫療法以外(細胞傷害性抗がん剤、分子標的療法、内分泌療法)のレジメンで治療された非免疫療法群、未治療群に分けた。主要評価項目は、COVID-19の重症度(合併症なし、酸素を要しない入院、酸素を要する入院、ICU入院/機械的人工換気、死亡の5段階)、副次評価項目はサイトカインストームの発生とした。 主な結果は以下のとおり。・全コホートの年齢中央値は65歳(四分位範囲:54~74)、女性が6,359例(52.8%)、非ヒスパニック系白人が6,598例(54.8%)であった。免疫療法群は599例(5.0%)、非免疫療法群は4,327例(35.9%)で、未治療群は7,120例(59.1%)であった。・全コホートでは、免疫療法群はCOVID-19重症度(調整オッズ比[aOR]:0.80、95%CI:0.56~1.13)およびサイトカインストーム発生(aOR:0.89、95%CI:0.41~1.93)で未治療群と差が認められなかった。・ベースラインが免疫抑制状態で免疫療法を受けた患者では、未治療群と比較し、COVID-19重症度(aOR:3.33、95%CI:1.38~8.01)およびサイトカインストーム発生(aOR:4.41、95%CI:1.71~11.38)が悪化していた。・ベースラインが免疫抑制状態で非免疫療法を受けた患者も、未治療群と比較し、COVID-19重症度(aOR:1.79、95%CI:1.36~2.35)およびサイトカインストーム発生(aOR:2.32、95%CI:1.42~3.79)が悪化していた。

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スマホ充電器による皮膚潰瘍【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第222回

スマホ充電器による皮膚潰瘍Pixabayより使用iPhone14が発売されて、買おうと思ったら無茶苦茶高くて諦めました。スマホってそもそも3万円くらいじゃありませんでしたっけ?物価上昇、円安の影響などのせいか、20万円近い価格に手が出ず…。Nakagawa Y, et al.iPhone charger-induced chemical burn from overnight contact with sweat: Two cases.J Dermatol . 2020 Oct;47(10):1187-1190.iPhoneの充電器って、コンセントにつないだものから電極が露出していますよね。あれって触ったとしてもビリビリと感電するわけではないので、安全なのかなと思っていたのですが、どうやら皮膚科では注意が必要のようです。さて、iPhoneは、夜間ベッドの近くで充電されることが多いです。私も枕の下で充電しながら寝ています。iPhoneってどれだけ慎重に使っても、すぐにバッテリーが減っていくので、毎日充電しないと使いものにならないです。これは日本からの報告で、iPhoneの充電器であるLightningケーブルによる皮膚潰瘍の2例です。この論文には、顔に押し付けられた電極が潰瘍化した写真が掲載されています。そう、あの電極が顔に押し付けられると、次第に潰瘍化していくというのです。汗をかいていると、この部位に化学性の潰瘍を生じる可能性があるようです。私も、朝起きて頭皮に潰瘍ができていないか注意しないといけません。大事な髪の毛を守らねば…。ちなみに、リチウム電池を使用しているスマホの場合、過去に爆発事故もありました。今の製品はおそらく大丈夫でしょうが、みなさんもスマホ関連のトラブルには注意してください。

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職場へのお土産の予算は?/医師1,000人アンケート

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し始めた頃、出張や旅行は自主的に制限され、また学術集会もオンラインで開催されるなど、外出への機会は失われ、お土産を買ったり、もらったりということは減少した。しかし、最近では、コロナワクチンの普及や治療薬の登場により、COVID-19以前の生活に戻りつつある。 出張や学術集会が再開されて気になるのは、残してきた家族や医局の同僚などへの「お土産」である。実際、医師がどの範囲の集団に、どの程度の予算でお土産を購入しているのか、今回会員医師1,000人にアンケート調査を行った。 アンケートは、10月13日にCareNet.comのWEBアンケートにて全年代、全診療科に対して実施した。職場へのお土産の予算、最も多いのは「2,000~3,000円」 質問1で「お土産を買うか」(単回答)を尋ねたところ「必ず買う」が439人(43.9%)と一番多く、「ときどき買う」なども含めると全体で895人(89.5%)の会員医師がお土産を購入していた。 質問2で「職場用のお土産の全体予算」(単回答)を尋ねたところ「2,000~3,000円」が325人(32.5%)、「3,000~4,000円」が157人(15.7%)、「1,000~2,000円」が154人(15.4%)の順で多かった。 質問3で「お土産を買う範囲」(複数回答)を尋ねたところ、「家族」が763人、「職場の上司・同僚・部下」が686人、「自分」が302人の順で多かった。 質問4で「よく買うお土産」(複数回答)を尋ねたところ、「地元のお菓子」が814人、「地方限定販売のお菓子」が283人、「地元特産の食品」が221人の順で多かった。 質問5で「もらったとき最もうれしいお土産」(単回答)を尋ねたところ、「地元のお菓子」が557人(55.7%)、「地元特産の食品」が151人(15.1%)、「地元のお酒」が117人(11.7%)の順で多かった。以上からおおむね欲しいものと提供されたものが合致していたが、「地元特産の食品」や「地元のお酒」などを所望する声が多かった。人気のお菓子は「博多通りもん」 具体的にもらってうれしかったお土産では「博多通りもん」、「ご当地のお酒」、「萩の月」の順番で多く、有名な銘菓や現地でないと入手できないもの、運搬にかさばるため簡単に入手できないものに人気があった。 また、寄せられたコメントでは、「医局にお土産が置いてあると和みます(20代・麻酔科)」、「地域限定の食品(保存ができるもの)が一番ありがたい(30代・糖尿病・代謝・内分泌内科)」、「有名なお菓子がうれしいです。マイナーなものだと結局おいしくないものが多い(30代・眼科)」、「子供が鉄道好きなので、それを踏まえたローカルなグッズをもらったこと(30代・耳鼻咽喉科)」など人間関係を円滑にする事例のコメントが寄せられていた。

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2型糖尿病のCOPD重症化、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬が有効か/BMJ

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)で2型糖尿病(DM)の患者において、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬は、スルホニル尿素(SU)薬と比べ、COPD増悪による入院リスクを約30~38%低減することが示された。また、GLP-1受容体作動薬は、中等度増悪リスクを37%低減した。一方でDPP-4阻害薬は、COPD増悪リスクの明らかな低減は認められなかったという。カナダ・マギル大学のRicheek Pradhan氏らが、英国国民保健サービス(NHS)データを基に行った住民ベースの3種実薬比較新規使用者デザインコホート試験の結果で、BMJ誌2022年11月1日号で発表した。3種の新規血糖降下薬vs.SU薬を評価 研究グループは、英国の全NHS病院入院データ「Hospital Episode Statistics Admitted Patient Care and Office for National Statistics」とリンクした、大規模プライマリケアデータ「Clinical Practice Research Datalink」を基に住民ベースコホート試験を行った。 被験者は、試験薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬)のいずれか、またはSU薬を、新たに服用開始したCOPD既往の2型DM患者だった。 第1コホートにはGLP-1受容体作動薬の服用を開始した1,252例とSU薬服用を開始した1万4,259例が、第2コホートにはDPP-4阻害薬服用を開始した8,731例とSU薬服用を開始した1万8,204例が、第3コホートにはSGLT-2阻害薬服用を開始した2,956例とSU薬服用を開始した1万841例がそれぞれ含まれた。 主要アウトカムはCOPDの重症増悪(COPDによる入院と定義)で、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬それぞれについて、傾向スコア層別化重み付けCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)値を推算して評価した。また、これら3つの試験薬が中等度増悪(同日に、COPD急性増悪の外来診断と、経口コルチコステロイドと抗菌薬の同時処方と定義)のリスク減少と関連するかどうかも検証した。COPD重症増悪リスク、GLP-1受容体作動薬は30%、SGLT-2阻害薬は38%低減 SU薬と比較して、GLP-1受容体作動薬はCOPD重症増悪リスクを30%低減した(100人年当たり3.5 vs.5.0、HR:0.70、95%CI:0.49~0.99)。また中等度増悪リスクも37%低減した(0.63、0.43~0.94)。 同様にSGLT-2阻害薬も、COPD重症増悪リスクを38%低減した(100人年当たり2.4 vs.3.9、HR:0.62、95%CI:0.48~0.81)。一方で、中等度増悪リスクの低減は認められなかった(1.02、0.83~1.27)。 DPP-4阻害薬は、COPD重症増悪リスク、中等度増悪リスクともに低減はわずかだった(それぞれHR:0.91[95%CI:0.82~1.02]、0.93[0.82~1.07])。

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PD-L1陽性NCSLCに対するペムブロリズマブ単剤1次治療の5年追跡結果(KEYNOTE-042)/JCO

 PD-L1陽性の進行または転移を有する非小細胞肺がん(NSCLC)に対するペムブロリズマブ単剤の1次治療を評価する第III相試験KEYNOTE−042の5年追跡結果がJournal of Clinical Oncology誌で発表された。ペムブロリズマブ単剤の1次治療は、5年後も化学療法と比較して持続的に臨床的利益を示すことが明らかになった。 試験デザインは関連記事参照 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は 61.1ヵ月であった。・OSのハザード比はTPS≧50%で0.68(95%CI:0.57~0.81)、TPS≧20%で0.75(0.64~0.87)、TPS≧1%で0.79(0.70~0.89)で、PD-L1 レベルに関係なくペムブロリズマブ群で良好であった。 ・ペムブロリズマブ群の5年OS率は、TPS≧50%で21.9%、TPS≧20%で19.4%、TPS≧1%で16.6%であった。・ペムブロリズマブの35サイクル治療を完了した102例の客観的奏効率は84.3%であった。・新たな安全性プロファイルは確認されなかった。 筆者は、ペムブロリズマブ単剤によるPD-L1陽性の進行または転移を有するNSCLC1次治療は5年間の追跡調査後も臨床的利益を示し続けており、従来通り標準治療である、と結んでいる。

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バイオレットライト透過レンズで学童期の近視進行を抑制/近視研究会

 10月23日に近視研究会が開催された。鳥居 秀成氏(慶應義塾大学医学部 眼科学教室)が「近視進行抑制におけるバイオレットライトの可能性」と題し、学童期の近視増加への警鐘とその予防策について講演した(共催:株式会社JINS)。バイオレットライトを含む短波長側の光は近視進行を抑制すると報告 世界中で近視人口が増えているなか、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)流行による活動自粛が近視進行に拍車をかけている。鳥居氏が示した新型コロナによる活動自粛前後の6~13歳の6年間の屈折値の変化を調査した論文1)によると、とくに6~8歳での近視化が顕著だという。近視予防のためには、これまでも屋外の光環境が重要であることが示唆されてきたが、近年では高照度(10万lux)でなくとも1,000lux台でも効果があることが報告2)され、光の波長に注目が集まっている。たとえば、動物実験において、一部を除けばほとんどの動物種においてバイオレットライト(Violet light)を含む短波長側の光は近視進行を抑制し、長波長側の光は近視進行を進めるというレビュー論文が報告3)されている。近年、学童期の近視の進行抑制治療としてRed light therapyも注目を集め有効性の報告があるものの、効果を発揮するメカニズムが不明であり、中止後3ヵ月でリバウンドを認め、脈絡膜厚はベースラインにまで戻ってしまったという報告4)もあることから、光の波長と近視進行抑制については今後さらなる研究成果が待たれるところである。 一方でバイオレットライトは近視進行抑制効果を発揮するメカニズムがOPN5ノックアウトマウスを用いた研究から明らかになってきており、非視覚光受容体OPN5を介すことで脈絡膜厚を維持し、眼軸長伸長を抑制することが報告5)された。さらには小児では水晶体の分光透過率で長波長側は変わらないものの短波長側の透過率が成人よりも高いことが報告6)され、屋外活動による近視抑制効果が低年齢児で得られやすいという疫学研究結果と矛盾しないことも報告された。バイオレットライト透過眼鏡で近視の抑制効果を認めた 近年の眼鏡は紫外線(UV)カットが多く、UVカットレンズはバイオレットライトも一緒にカットしてしまうため、UVはカットするもののバイオレットライトは透過させることで近視進行抑制効果を高めるレンズをJINSと共同開発。バイオレットライト透過眼鏡を使用することでバイオレットライト透過率が65%までに増加するという。この有効性を評価するために特定臨床研究として『バイオレットライト透過眼鏡によるランダム化比較試験』を実施した。本研究の対象者は近視(-1.50D~-4.50D)と診断された学童113例で、バイオレットライト透過眼鏡装用群と通常眼鏡装用群に割り付け、2年間の経過観察を行い有効性の検証をした。平均年齢(±SD)は9.4(±1.5)歳で、平均眼軸長は24.5mm、屈折値は約-2.7Dだった。バイオレットライトは室内にはほとんど存在しないため、本眼鏡が効果を発揮するには太陽光が存在する屋外に行かないと得られない。そのため全体では屋外活動時間が1時間未満のため、さらに必要症例数(140例)を満たすことができなかったため、バイオレットライト透過眼鏡装用群では近視進行抑制傾向ではあったが有意差を認めなかった。そこでサブグループ解析を実施したところ、屋外活動時間が1時間未満にもかかわらず、2年間で約20%の近視進行抑制効果を認めたことを報告7)した。 最後に同氏は「バイオレットライトをより積極的に室内にいても享受する方法として、現在バイオレットライトを眼鏡フレームから照射することができる眼鏡『バイオレットライト照射眼鏡』を坪田 一男氏(坪田ラボ/慶應義塾大学眼科学教室 名誉教授)らと開発中である」と述べ、「現在はバイオレットライト照射眼鏡の探索治験が終了し、短期安全性については問題がなく、探索的に解析を行ったことで関連が期待される層があったことも報告8)したことから、さらに今後の検証治験で1年間以上の有効性・安全性を評価していく」と締めくくった。■参考1)Wang J, et al. JAMA Ophthalmol. 2021;139:293-300.2)Wu PC, et al. Ophthalmology. 2018;125:1239-1250.3)Thakur S, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2021;62:22.4)Chen H, et al. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022 Aug 17. [Epub ahead of print]5)Jiang X, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2021;118:e2018840118.6)Ambach W, et al. Doc Ophthalmol. 1994;88:165-173.7)Mori K, et al. J Clin Med. 2021;10:5462.8)Torii H, et al. J Clin Med. 2022;11:6000.

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英語で「あなたの趣味は何ですか」は?【1分★医療英語】第54回

第54回 英語で「あなたの趣味は何ですか」は?What do you do for fun?(あなたの趣味は何ですか?)I like watching Anime.(アニメを見るのが好きです)《例文》医師What do you do like to do for fun?(何か好きなことはありますか?)患者I enjoy biking.(自転車に乗ることです)《解説》今回は、「社会生活歴」にフォーカスを当てます。「社会生活歴」は英語でもそのまま“Social History”です。“What do you do for fun / What do you like to do for fun?”という表現で、ざっくりと日本語でいう「好きなことはなんですか」という意味になります。「趣味は何ですか?」というと真っ先に浮かぶのは中学で習った“What is your hobby?”ではないでしょうか。これも直訳した意味は同じになりますが、「“passionate”(熱烈)に打ち込んでいるもの」(楽器やスポーツのような)に限定して聞いている印象があるので、あまり一般的に使われる表現ではありません。今回紹介した“What do you do for fun?”のほうが自然で、日常会話でも頻繁に使われます。答え方としては、“I like〜”または“I enjoy〜”で始めれば無難です。小児科領域でいえば、米国では「HEADSS assessment」という独特の診察項目があり、思春期(11-13歳)になると親を部屋の外に出して子どもと医師が1対1になってHome、Education、Activities、Drugs、Sex、Suicideについて一通り聞くことが推奨されています。そのActivitiesを聞く際に“What do you do for fun?”は必ず使われる表現の一つです。ちなみに、職業を聞く際に使われる一般表現は、“What do you do for living?”(お仕事は何をされていらっしゃるのですか?)です。こちらも学校で習ったであろう“What is your job/occupation?”はかなり直接的な表現で失礼に当たる可能性もあるので、実際に使われる場面はほとんどありません。日本の診察場面では、患者さんが質問に答えた後に医師が反応することはあまりないでしょうが、米国では患者さんが、“I am an accountant.”(会計士です)と答えたら、医師側も“That is amazing!” “Wow, what a nice job!”などと大胆にリアクションをとることも多く、こうした“Social History”のやりとりを通して患者さんとラポートを形成しています。講師紹介

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第138回 コロナ薬発掘の明暗/コロナ再感染はより危険

COVID-19入院患者への抗IL-1薬anakinra使用を米国が認可既承認薬の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療効果発掘の取り組みが米国で結実し、スウェーデンを本拠とする製薬会社SobiのIL-1受容体遮断薬anakinra(アナキンラ、商品名:Kineret) によるCOVID-19入院患者治療が米国FDAに取り急ぎ認可されました1)。重度呼吸不全の恐れが大きいCOVID-19入院患者をsuPAR(可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体)血漿濃度上昇を頼りに選定したプラセボ対照第III相試験(SAVE-MORE)結果2,3)などに基づいてその試験とほぼ同様の用法が今回認可されました。COVID-19患者のsuPAR上昇は重度呼吸不全や死によりいっそう至りやすいことと関連し、C反応性タンパク質(CRP)・インターロイキン6(IL-6)・フェリチン・Dダイマーなどの他の生理指標に比べてCOVID-19進行のより早い段階で認められます。suPARが反映するのは危機を知らせる分子・カルプロテクチンやIL-1αの存在であり、カルプロテクチニンとIL-1αのどちらもCOVID-19の病的炎症の片棒をかつぐことで知られます。カルプロテクチニンは体内を巡る単球によるIL-1β異常生成を促し、IL-1αの阻害はCOVID-19マウスの強烈な炎症反応の発生を予防しました。anakinraはそれらIL-1αとIL-1βの両方の活性をIL-1受容体遮断により阻止します。そういった情報の集積に基づいてanakinraをsuPAR上昇患者に早めに投与し始めてCOVID-19を挫く治療が考案されました。その効果はまずは被験者130人の小規模な第II相試験で確認され4)、続く第III相試験SAVE-MORE2)で確立することになります。SAVE-MORE試験にはsuPAR血漿濃度6ng/mL以上のCOVID-19入院患者が参加し、anakinraは死亡や集中治療室(ICU)治療をプラセボ群に比べて少なくて済むようにしました。anakinra治療群の28日間の死亡率は約4%(3.9%)であり、プラセボ群の約9%(8.7%)の半分未満で済みました。またanakinra治療患者はより早く退院できました。FDAはSAVE-MORE試験の対象と同様の患者へのanakinra治療を取り急ぎ認めています。酸素投与を必要とする肺炎が認められ、重度呼吸不全に進展する恐れがあり、suPARが上昇しているらしい(likely to have an elevated)SARS-CoV-2検査陽性COVID-19入院患者に米国では同剤が使えます。Sobi社には宿題があります。suPAR検査販売の承認申請に必要なデータを準備し、2025年1月31日までにその申請を済ませる必要があります、また、suPAR検査に代わる患者同定手段を確立する必要があり、まずはその解析計画を来年2023年1月31日までにFDAに示し、その4ヵ月後の2023年5月31日までに解析結果を提出しなければなりません。COVID-19にコレステロール低下薬フェノフィブラート無効COVID-19へのanakinraの試験は先立つ研究の集大成として幸いにも成功を収めましたが、既存薬のCOVID-19治療効果発掘の取り組みは周知の通り必ずしも成功するとは限りません。脂質異常症の治療として世界で広く使われているコレステロール低下薬・フェノフィブラート(fenofibrate)はその1つで、国際的な無作為化試験で残念ながらCOVID-19に歯が立ちませんでした5,6)。先立つ細胞実験では試験結果とは対照的にフェノフィブラートの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染阻止効果が示唆されています。SARS-CoV-2感染した培養細胞やCOVID-19患者の肺組織では細胞内の過剰な脂肪生成が認められ、フェノフィブラートはSARS-CoV-2が引き起こす細胞代謝変化を解消し、細胞内でのSARS-CoV-2の複製を阻害することが細胞実験で確認されていました。また、フェノフィブラートの活性型であるフェノフィブリン酸はSARS-CoV-2スパイクタンパク質を不安定にしてその感染を減らすことも最近の細胞実験で示されています。COVID-19に有益そうな免疫調節効果も示唆されていました。期待した効果が惜しくも認められなかった無作為化試験はそれらの有望な前臨床実験結果に背中を押されて実施されました。試験に参加したCOVID-19患者の約半数の351人は発症から14日以内にフェノフィブラートを10日間服用しました。それらフェノフィブラート投与患者の重症度指標をプラセボ投与患者350人と比較したところ残念ながら有意差がありませんでした。死亡などの他の転帰も差がありませんでした。期待した効果が認められなかったとしてもなにがしかの有益な情報は得られるものです。今回の試験もそうで、安全性について重要な情報をもたらしました。フェノフィブラート群では胃腸有害事象が若干より多く認められたものの、大変な有害事象の過剰な発生は認められませんでした。よって脂質異常症などでフェノフィブラートを必要とするCOVID-19患者に同剤は安全に投与できるようです。すでに使っている患者は安心して使い続けられるでしょう。あいにくフェノフィブラートの効果は示せませんでしたが、細胞代謝経路を手入れする他の治療のCOVID-19への試験を引き続き実施する必要があると著者は言っています。コロナ再感染はより危険COVID-19治療薬発掘の取り組みが進むのは心強いですが、健康のために何よりも重要なのは感染しないようにすることかもしれません。COVID-19流行が始まってからおよそ3年が経ち、不運にも二度三度と感染する人もいます。米国の退役軍人医療データの解析によるとそのような再感染は脳や臓器の数々の不調をいっそう生じやすくし、はては死亡リスクも高めるようです7,8)。解析ではSARS-CoV-2感染経験がないおよそ533万人、SARS-CoV-2感染が1回の約43万人、SARS-CoV-2感染が2回以上の約4万人が比較されました。その結果、繰り返し感染した人は感染経験がない人に比べて約2倍多く死亡しており、3倍ほど多く入院していました。また、再感染した人は感染が1回の人に比べて肺、心臓、脳(神経)の不調をそれぞれ3.5倍、3倍、1.6倍生じやすいという結果が得られています。感染を繰り返すほどに健康不調の危険性は累積して上昇するようであり、すでに2回感染していたとしても3回目の回避に努めるに越したことはなく、3回感染している人も4回目をしないようにした方が無難なようです8)。参考1)FDAからSobi社への認可通知2)Kyriazopoulou E, et al. Nat Med. 2021;27:1752-1760. 3)Nature Medicine publishes phase 3 anakinra study results in patients with COVID-19 pneumonia / PRNewswire4)Kyriazopoulou E, et al.eLife.2021;10:e66125.5)Chirinos JA, et al. Nat Metab. 2022 Nov 7:1-11. [Epub ahead of print]6)After showing early potential, cholesterol medication fenofibrate fails to cut severe symptoms or death in COVID-19 patients / Eurekalert7)Bowe B, et al. Nat Med. 2022 Nov 10. [Epub ahead of print]8)Repeat COVID-19 infections increase risk of organ failure, death / Eurekalert

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認知症における抗精神病薬処方を合理化するための介入

 認知症介護施設の入居者に対する不適切な抗精神病薬投与は問題となっている。この問題に対処するため、施設スタッフの教育やトレーニング、アカデミック・ディテーリング、新たな入居者評価ツールで構成された「認知症に対する抗精神病薬処方の合理化(RAPID:Rationalising Antipsychotic Prescribing in Dementia)」による複合介入が開発された。アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ・コークのKieran A. Walsh氏らは、認知症介護施設の環境下におけるRAPID複合介入の利用可能性および受容性を評価するため、本研究を実施した。また、向精神薬の処方、転倒、行動症状に関連する傾向についても併せて評価した。その結果、RAPID複合介入は広く利用可能であり、関係者の受容性も良好である可能性が示唆された。著者らは、今後の大規模研究で評価する前に、実装改善のためのプロトコール変更やさらなる調査が必要であるとしている。Exploratory Research in Clinical and Social Pharmacy誌2022年10月10日号の報告。 2017年7月~2018年1月にアイルランドの大規模介護施設において、混合法による利用可能性介入研究を実施した。介護施設のスタッフおよび一般開業医によるフォーカスグループと半構造化インタビューを3ヵ月のフォローアップ期間終了後に実施し、参加者を評価した。定量測定には、介入前後の評価および向精神薬の処方率を含めた。 主な結果は以下のとおり。・2日間のトレーニング研修に介護施設スタッフ16人が参加し(参加率:21%)、一般開業医4人がアカデミック・ディテーリングセッションに参加した(参加率:100%)。・フォーカスグループとインタビューに参加した18人は、教育およびトレーニングが自身の業務に有益であると認識し、本調査完了後も新規スタッフの教育を継続したいと回答した。・しかし、施設入居者評価ツールの使用は限定的であった。・参加者からは、介入を強化するための推奨事項も挙げられた。・定期的な抗精神病薬の処方が行われていた認知症入居者の割合は、介入前3ヵ月間45%(18例)、ベースライン時44%(19例)であったが、介入3ヵ月後では36%(14例)とわずかな減少が認められた。・認知症入居者に投与される1ヵ月当たりの向精神薬頓服処方の絶対数は、ベースライン時の90から介入3ヵ月後の69へと大幅に減少した。

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