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妊娠初期のSSRI曝露、胎児への影響は

 妊娠初期の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)曝露と先天性心欠損との関係を示すエビデンスにより、ベネフィットとリスクを慎重に勘案するとの推奨がなされている。妊娠初期のSSRI曝露が、胎児における特定の先天性心欠損(CHD)あるいは先天性奇形(CA)に関連しているか否かを、英国・アルスター大学のAnthony Wemakor氏らが検討した。その結果、妊娠第1期のSSRI曝露はCHD全般と関連しており、とくにファロー四徴症やエプスタイン奇形といった重篤なCHDのほか、肛門・直腸閉鎖/狭窄、腹壁破裂、内反足などのCAとも有意に関連することを報告した。European Journal of Epidemiology誌オンライン版2015年7月7日号の掲載報告。 研究グループは、妊娠第1期のSSRIへの曝露と、それに関連して文献的(指摘)に認められている特定のCHDや他のCAとの関係の特異性を明らかにする検討を行った。1995~2009年の210万例の出産(生児出産、妊娠20週後の胎児死亡、胎児奇形を理由とする妊娠停止を含む)をカバーする12のEUROCAT CA登録において、奇形児の住民ベース症例対照研究を実施した。特異的CHDを有する新生児/胎児(1万2,876例)および非CHDの先天異常を有する新生児/胎児(1万3,024例)を、対照(1万7,083例)と比較した。対照は、文献的にSSRIとの関係がないと判断されたCAとした。 主な結果は以下のとおり。・妊娠第1期のSSRI曝露は、CHD全般と関連していた(レジストリ調整OR:1.41、95%信頼区間[CI]:1.07~1.86、フルオキセチン調整OR:1.43、95%CI:0.85~2.40、パロキセチン調整OR:1.53、95%CI:0.91~2.58)。・また、重篤なCHD(調整OR:1.56、95%CI:1.02~2.39)、特にファロー四徴症(同:3.16、1.52~6.58)およびエプスタイン奇形(同8.23、2.92~23.16)との関連性が認められた。・SSRI曝露との有意な関連は、肛門・直腸閉鎖/狭窄(調整OR:2.46、95%CI:1.06~5.68)、腹壁破裂(同:2.42、1.10~5.29)、腎異形成(同:3.01、1.61~5.61)、内反足(同:2.41、1.59~3.65)においても認められた。・これらのデータは、SSRIが一部の奇形に対し特定の催奇形性を有することを支持するものであった。ただし、本データでは適応症あるいは関連因子による交絡を除外できていなかった。関連医療ニュース 妊娠初期のうつ・不安へどう対処する 抗うつ薬と妊娠中絶との関連は なぜSSRIの投与量は増えてしまうのか  担当者へのご意見箱はこちら

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急速な経年的1秒量低下はCOPD発症の必須要素か?(解説:小林 英夫 氏)-393

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、1秒量の経年的低下が正常者より急速であるという見解が従来の定説だった。1977年にFletcher氏によって報告され、その後、改変図がさまざまに引用されてきた1)。筆者もFletcher説を学び、厚労省サイトにも掲載されている。今回のLange論文は定説であったFletcher論文に一石を投じたもので、強い印象を与える。COPD発症には、当初からの1秒量(FEV1)低値も重要であって、急速なFEV1減少だけが必須の特性とは限らないと、コペンハーゲン大学 Peter Lange氏らは結論している。 Fletcher 論文を再検討すると、対象が全例「男性」で、年齢30~59歳の1,136例がエントリーされ、792例を8年間観察、25歳時の1秒量を100%として経時的低下をパーセント表示し、解析や算出方法の詳細は記載されていないのである。時代が異なるため、現在の推計学的基準からはいくつか問題点も指摘できよう。 そこで、Lange氏らは、FEV1の低下率が正常範囲であっても、成人早期の呼吸機能が低下していれば、加齢に伴いCOPDを発症する可能性がある、との仮説を前向き検証した。3つの別コホート研究(FOC、CCHS、LSC)のデータを用いたもので、3研究ともに1,000症例以上、また、FOCとCCHSは40歳以下の登録者を平均20年以上追跡している。LSCは50歳代の症例を平均5年追跡し、男性が2割しか含まれていないなど、前2者とは対象内容が大きく異なる。 登録開始時の%FEV1を2別化(80%以上、80%未満)し、最終受診時のCOPD有無でも2別化した全4群において、FEV1の経時的低下率を評価した。登録総数は4,397例、半数が喫煙者で最終観察時にも約2割が喫煙中だった。最終受診時のCOPD発症者は495例で、COPDの診断基準は、GOLD (Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)スコアで2以上、呼吸機能検査で%1秒量80%未満かつ1秒率70%未満である。また、1秒量低下が年40mL 以上を迅速低下、未満を正常低下と定義している。 主目的である1秒量経時的低下の解析は、FOCとCCHSから算出された。平均観察22年で、40歳以前のFEV1が予測値の80%未満であった657例中174例(26%)がCOPDを発症し、80%以上であった2,207例からのCOPD発症158例(7%)であり、“成人早期”のFEV1低値集団で発症が多かった(p<0.001)。COPD発症332例中、登録時1秒量正常の158例は、その後平均53±21mL/年で急速に1秒量が低下した。登録時1秒量低値174例は、喫煙曝露は同程度であったにもかかわらず、その後のFEV1低下は平均27±18mL/年で、FEV1正常集団よりも緩徐であった(p<0.001)。これらの結果に基づきLange氏らは、COPDの約半数はFEV1の低下速度が正常かつ成人早期のFEV1が低値であるので、FEV1の急速低下がCOPD発症の必須特性ではないと示唆された、と結論した。 本論文は、COPD発症には1秒量の「低下速度」と「初期値」の2要素が関係しており、COPD発症は単一機序によるものではないことを提示している。下の図はFletcher論文の図にLange論文の結果を追加したものである。 彼らの結果には類似論文が存在し、重篤なCOPD患者においてFEV1がばらつくことや、経年低下が予想より小さい場合があることが報告されている。本論文は症例数や追跡期間などは秀逸だが、3つの研究を検討しているのに2つだけを対象とした解析、対象母数が一定しない、“成人早期”と和訳した対象に20歳代を含まないなどの問題がある。また、1秒量40mL/年以上の低下を迅速と定義しているが、絶対的基準かどうかなど検討の余地はあるが、20歳代からの呼吸機能追跡が加わりlead-timeバイアスが解消されれば、新たな定説となりうるのではないだろうか。

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ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

 ベンゾジアゼピン系薬およびZ薬(ゾピクロン、ゾルピデム、ゼレプロン)の長期使用例における投与中止戦略について、カナダ・ダルハウジー大学のAndre S. Pollmann氏らはscoping reviewを行って検討した。その結果、多様な戦略が試みられており、その1つに漸減があったがその方法も多様であり、「現時点では複数の方法を組み合わせて処方中止に持ち込むことが妥当である」と述べている。鎮静薬の長期使用が広く行われているが、これは転倒、認知障害、鎮静状態などの有害事象と有意に関連する。投与中止に伴いしばしば離脱症状が出現するなど、依存症の発現は重大な問題となりうることが指摘されていた。BMC Pharmacology Toxicology誌2015年7月4日号の掲載報告。 研究グループは、地域在住成人のベンゾジアゼピン系薬およびZ薬長期使用に対する投与中止戦略について、scoping reviewにより文献の位置付けと特徴を明らかにして今後の研究の可能性を探った。PubMed、Cochrane Central Register of Controlled Trials、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、TRIP、JBI Ovid のデータベースを用いて文献検索を行い、grey literatureについても調査を行った。選択文献は、地域在住成人におけるベンゾジアゼピン系薬あるいはZ薬の投与中止方法について言及しているものとした。 主な結果は以下のとおり。・重複を除外した後の文献2,797件について適格性を検証した。これらのうち367件が全文評価の対象となり、最終的に139件がレビューの対象となった。・74件(53%)がオリジナル研究で、その大半は無作為化対照試験であり( 52件[37%])、58件(42%)がnarrative review、7件(5%)がガイドラインであった。・オリジナル研究の中では、薬理学的戦略が最も多い介入研究であった( 42件[57%])、その他の投与中止戦略として、心理療法、(10件[14%])、混合介入(12件[16%])、その他(10件[14%])が採用されていた。・多くは行動変容介入が併用されており、その中には能力付与による可能化(enablement)(56件[76%])、教育(36件[47%])、訓練(29件[39%])などが含まれていた。・多くの研究、レビュー、ガイドラインに漸減という戦略が含まれていたが、その方法は多様であった。関連医療ニュース 長期ベンゾジアゼピンの使用は認知症発症と関係するか 抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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神経障害性疼痛に対するミルナシプランのエビデンスは?

 ミルナシプランはセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるが、慢性神経障害性疼痛や線維筋痛症の治療に用いられることがある。英国・オックスフォード大学のSheena Derry氏らは、慢性神経障害性疼痛に対するミルナシプランの鎮痛効果および安全性についてシステマティックレビューを行った。その結果、ミルナシプランの使用を支持するエビデンスはないことを報告した。本報告は、慢性神経障害性疼痛および線維筋痛症を対象とした以前のシステマティックレビュー(Cochrane Library Issue 3、2012)のアップデートで、今回は神経障害性疼痛と線維筋痛症に分けてシステマティックレビューを行った。Cochrane Database of Systematic Reviews誌オンライン版2015年7月6日号の掲載報告。 研究グループは、慢性神経障害性疼痛患者においてミルナシプランとプラセボまたは他の実薬とを比較した8週間以上の無作為化二重盲検試験について、2015年2月23日時点でCENTRAL、MEDLINEおよびEMBASEを用いて論文を検索するとともに、参考文献やレビューも調査した。 2人の研究者が独立して検索および有効性と安全性のデータを抽出し、研究の質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・該当した論文は、神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛患者40例を対象とした1件のみだった。・ミルナシプラン100mg~200mg/日とプラセボとで、6週後の疼痛スコアに差は認められなかった(エビデンスの質:非常に低い)。・有害事象の発現率は両群間で類似していたが、結論付けるにはデータがあまりに少なかった(エビデンスの質:非常に低い)。

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喫煙でCKD患者の死亡リスクが大幅に上昇

 慢性腎臓病(CKD)と喫煙が心血管疾患に及ぼす複合的な影響度や性質については、ほとんど知られていない。これらを日本人集団で検討するために、北海道大学の中村 幸志氏らは、8コホート研究に登録された40~89歳の男性1万5,468人および女性1万9,154人のプール分析を行った。その結果、CKDと喫煙が重なると、全死因および心血管疾患による死亡リスクが大幅に上昇する可能性が示唆された。Kidney International誌オンライン版2015年7月22日号に掲載。 全死因および心血管疾患による死亡リスクは、ベースライン時点におけるCKDの有無(非CKDまたはCKD)と喫煙習慣(非喫煙、元喫煙、現在喫煙)で、6つの性別特異的カテゴリーで比較した。CKDは推定糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2未満あるいはdipstickで蛋白尿の場合と定義し、それぞれのカテゴリーで非CKDかつ非喫煙者と比べたハザード比を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(平均14.8年)の間に6,771人が死亡し、そのうち心血管疾患によるものが1,975人であった。・全死因および心血管疾患による粗死亡率は、男女とも、「CKDかつ現喫煙者」が最も高く、「CKDかつ元喫煙者」が2番目に高かった。・年齢や他の主要心血管リスク因子について調整後、CKDかつ現喫煙者のハザード比は、全死因死亡では男性2.26(95%信頼区間:1.95~2.63)、女性1.78(同:1.36~2.32)、心血管疾患による死亡では男性2.66(同:2.04~3.47)、女性1.71(同:1.10~2.67)であった。

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ドネペジルの効果が持続する期間は?:国内長期大規模研究

 これまで、アルツハイマー型認知症(AD)に関する研究は、長期的な大規模研究が非常に少なく、既存試験は通常、対象者数わずか数百例程度で実施されている。そのため、認知症機能評価別病期分類(FAST)により評価した、日常生活動作(ADL)の変化に関する詳細な調査はない。順天堂大学の新井 平伊氏らは、現在進行中のADに対するドネペジル塩酸塩の長期大規模観察研究(J-GOLD試験)の中間結果を発表した。著者らは「本研究は、日本におけるAD患者を対象とした最大規模の前向き研究であり、日常診療の実態を示す重要な研究である」としている。Psychogeriatrics誌オンライン版2015年6月26日号の報告。ドネペジルの効果で認知機能が有意に改善した期間 本研究は、AD患者におけるドネペジル長期投与による疾患状態の変化と安全性を評価することを目的とした。中間結果は、最大24ヵ月の収集されたデータより集計された。有効性は、FASTと認知機能検査(MMSEまたは改訂長谷川式簡易知能評価スケール)を用い評価した。 ドネペジル長期投与によるAD患者における疾患状態の変化と安全性を評価した主な結果は以下のとおり。・ドネペジル投与開始時(ベースライン)と比較してFASTステージが改善または維持されていた患者の割合は、6ヵ月時点で91.1%、12ヵ月時点で83.0%、18ヵ月時点で79.5%、24ヵ月時点で74.8%であった。・ドネペジル投与24ヵ月時点でのFASTの改善や維持または増悪に影響を与える要因を調査するため、多変量ロジスティック回帰分析を実施した結果、「認知症高齢者の日常生活における自立レベル」と「罹病期間」が同定された。・認知機能は、ベースラインと比較して、12週、6ヵ月時点で有意に改善し、12、18ヵ月時点ではベースラインレベルを維持していたが、24ヵ月時点では有意に低下していた。関連医療ニュース 認知症治療、薬物療法にどの程度期待してよいのか アルツハイマー病への薬物治療は平均余命の延長に寄与しているのか:東北大学 抗認知症薬4剤のメタ解析結果:AChE阻害薬は、重症認知症に対し有用か  担当者へのご意見箱はこちら

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新しいがん免疫療法、これまでと何が違う?~肺がん医療向上委員会

 7月27日(月)、都内で第8回肺がん医療向上委員会※が開催された。その中で、委員長である中西 洋一氏(九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学 教授)が、注目を集める新しいがん免疫療法について、これまでの免疫療法との違い、抗PD-1抗体薬の試験成績と今後の課題について講演した。これまでの免疫療法との違い 免疫療法は、患者の免疫応答と関係なく、一定期間経過すると消失する「受動免疫療法」と、患者の免疫応答を誘導する「能動免疫療法」に分けられる。また、この分類とは別に、特定のがん抗原に対する免疫を強化する「特異的免疫療法」と、免疫機能全般を強化する「非特異的免疫療法」に分けられる。 中西氏によると、非特異的免疫療法の中には、免疫力全般を高め、ある程度の有効性が示されている免疫グロブリンやピシバニールのほか、プロポリスやアガリクス、丸山ワクチンなど有効性に関しては“怪しい”と言わざるを得ないものが含まれる。これらはまったく効果がないわけではなく、免疫力を若干高めるというもので、そのもの自体が怪しいわけではない。しかしながら、それらを「免疫を高めるから、がんに効く」と紹介したり、宣伝したりすることで“怪しい”ものになってしまっているという。 がんの免疫療法としては、受動免疫療法においては、がんを標的とした抗体や細胞療法、また、能動免疫療法には、がんワクチン、サイトカイン(IL、TNFα、GM-CSF)、T細胞活性化メディエーターがある。現在注目されている新たな免疫療法は、このT細胞活性化メディエーターである。これまで開発されてきた免疫療法の多くは特異的免疫療法であるが、T細胞活性化メディエーターは非特異的免疫療法である、と中西氏は強調した。また、T細胞活性化メディエーターには、アクセルである共刺激経路と、大きな注目を集めている、免疫のブレーキである免疫チェックポイント(免疫抑制経路)がある。 現在、肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬として期待されているものとして、抗PD-1抗体(ニボルマブやペムブロリズマブなど)と抗CTLA-4抗体(イピリムマブなど)がある(肺がんに対しては現在、国内未承認)。その違いについて中西氏は次のように説明した。CTLA-4はリンパ組織における抗原提示を制御し免疫系全体を抑制するのに対し、PD-1は不特定多数のがん特異的免疫を抑制する。よって、抗CTLA-4抗体のほうが、抗PD-1抗体より効果が強いが副作用も多い可能性がある。ニボルマブの肺がんにおける試験成績と今後の課題 ニボルマブの扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)に対するCheckMate017試験、非扁平上皮NSCLCに対するCheckMate057試験は、どちらも進行期肺がんのセカンドラインにおけるドセタキセルとの比較で、全生存期間(OS)を主要評価項目として実施された第III相試験である。これらの試験のOSのハザード比は、扁平上皮がんで0.59、非扁平上皮がんで0.73と、どちらも驚くべき結果が認められ、肺がんに対する免疫療法で初めて科学的に有効性を証明した。さらに、安全性にも期待が持てる結果であった。 一方、これらの試験では、ニボルマブ群とドセタキセル群の生存曲線の交差と、PD-L1発現とニボルマブの効果の相関という2つの点において、検討すべき結果が示されている。非扁平上皮がんではニボルマブ群とドセタキセル群の生存曲線が交差しており、ニボルマブにまったく効果のない例が存在する可能性があるという。また、非扁平上皮がんではPD-L1の発現割合の多い症例でニボルマブ群が優れており、PD-L1発現とニボルマブの効果に相関がみられたが、扁平上皮がんにおいてはPD-L1の発現の有無にかかわらず、ニボルマブ群が優れていた。 中西氏はこれらの結果をまとめ、抗PD-1抗体ニボルマブは既治療のNSCLC(扁平上皮がん、非扁平上皮がん)に対して、従来の抗がん剤に比べ、明らかに優れた結果が示されたと述べた。しかしながら、ニボルマブの効果を予測するバイオマーカーについて、PD-L1は関連がある場合とない場合があるため不十分であるとし、また、治療開始の早い段階で効果のない症例を見極めて次の治療を考えることが必要であると強調した。 最後に、中西氏は、肺がんに対する薬物療法において、これまでの化学療法と分子標的療法に加え、免疫療法というもう1つの武器が手に入ったが、今後、どのように使い分けていくか、どのように併用するかを、安全性の点を含めてしっかりと検討する必要がある、と結んだ。※肺がん医療向上委員会特定非営利活動法人日本肺癌学会が、肺がん患者とその家族に正しい情報を提供するとともに、正しい診断と治療がなされる環境を目指し、学術団体、がん領域に関わる患者支援団体、臨床試験グループ、製薬・臨床検査関連企業など、肺がん医療に関わるすべての関係者との連携の下、2013年11月に設置。

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日本人治療抵抗性うつ病患者へのCBT併用試験とは:FLATT Project

 うつ病は、QOLへの影響が最も大きい消耗性疾患の1つであるが、うつ病患者のうち、適切な抗うつ薬治療により寛解を達成できるのは半分以下である。うつ病治療における、その他の有望な治療オプションに認知行動療法(CBT)がある。しかし、CBTの実施には、経験豊富なセラピストや多くの施行時間を要するため、普及は容易ではない。国立精神・神経医療センターの渡辺 範雄氏らは、薬物療法のみで反応不十分なうつ病患者に対し、抗うつ薬切り替えと同時にスマートフォンを用いたCBTプログラムを併用した際の有効性を検討するための研究(FLATT Project)を開始した。Trials誌2015年7月7日号の報告。 主な研究デザインは以下のとおり。・2014年9月より、多施設無作為化試験を実施。・スマートフォンを用いたCBTプログラムは、うつ病のための「こころアプリ」という名で開発され、その実行可能性は、先行のオープン試験で確認されている。・プログラムは、イントロダクション、6つのセッション、エピローグから構成され、患者が自身で9週間以内に完了できるよう設計されている。・対象患者は、DSM-5でうつ病と診断され、4週間以上の適切な抗うつ薬治療を行ったが無反応または部分反応であった164例。「こころアプリ」を抗うつ薬切り替えに併用した群(アプリ併用群)と切り替えのみを行った群(切り替え群)に割り付ける。・切り替え群では、9週間後に「こころアプリ」の全コンポーネントを受け取る。・主要評価項目は、評価者盲検にて電話評価で行う、9週間(第0、1、5、9週)を通じたPatient Health Questinnaire-9 (PHQ-9)の合計スコアの変化とした。・副次評価項目は、Beck Depression Inventory-IIの合計スコアの変化、Frequency, Intensity, and Burden of Side Effects Ratings (FIBSER)で評価した副作用の変化、および治療満足度とした。関連医療ニュース うつ病治療、行動療法の意義はどの程度か:京都大学 抑うつ症状改善に“手紙による介入”は効果的か?:京都大学で試験開始 これからのうつ病治療はWebベース介入で変わるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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クリプトコッカス・ガッティにガチで気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。 本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」(まあ誰も呼んでないんですけどね)は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そしてときにまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。今回はクリプトコッカス・ガッティのガチな気を付け方について考えたいと思います。海外渡航歴がなくても感染する時代へ!そもそもガッティという名前を聞いたことのない方もいらっしゃるかと思います。クリプトコッカスといえばCryptococcus neoformansですよね。現に日本でみられるクリプトコッカス症のほとんどがCryptococcus neoformansによるものです。Cryptococcus gattii(C. gattii)は、1999年にカナダのブリティッシュコロンビア州で最初の感染事例が報告されました1)。この地域では、その後も200例以上の患者が報告されており、現在も流行地域となっております。また、アメリカ合衆国でカナダに接するワシントン州とその隣のオレゴン州でもC. gattii感染症が報告されています。しかし、これらの地域以外にも、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南アフリカ、オーストラリアで報告されています2)。C. gattii感染症は世界中でみられているのですッ!それでは日本ではどうなのかといいますと……けっして他人ごとではありませんッ!!これまで日本では、オーストラリアで感染したと考えられる事例が報告されていました3)。しかし近年、なんと海外渡航歴のないC. gattii感染症の事例が報告されているのですッ4, 5)!! テラヤバス!!今のところ報告数は限られているため、基本的に国内での感染はまれとは考えられますが、海外渡航歴がなくてもC. gattiiに感染しうるということは覚えておいても良いかもしれません。では、いったいどのようにしてC. gattiiに感染するのかが気になるところでありますが、今のところ木々などの環境中に存在するC. gattiiをヒトが肺に吸い込むことで、感染すると考えられています(図)。ですので、ヒト-ヒト感染はありません。クリプトコッカス・ガッティを疑ったらC. gattiiの臨床的特徴についてですが、やはり同じクリプトコッカスであるC. neoformans感染症と似た臨床像をつくります。発熱、悪寒、頭痛などがみられ、感染臓器は肺、脳、あるいはその両方であることが多いです。感染して発症するまでの期間は、まだよくわかっていません。C. gattiiに特徴的といえるのが、肺や脳に腫瘤をつくりやすい点です。これまでの日本での報告例もすべて脳内にクリプトコッカス腫(Cryptococcoma)がみられています。C. gattiiは、C. neoformansと比較して病原性が強いといわれていますが、実際にC. neoformans感染症よりも予後が悪いのかというと、まだ検証が十分ではありません。診断は、C. neoformansによるクリプトコッカス症と同様に、髄液培養や髄液中のクリプトコッカス抗原によりますが、クリプトコッカス抗原での診断ではクリプトコッカスであることはわかっても菌種まではわかりませんので、C. gattii感染症と診断するためには、培養で同定する必要があります。「これはただのクリプトコッカスじゃない……ガチ(C. gattii)なヤツだ!」と思ったら、積極的に培養検査で菌種を同定しにいきましょう! ちなみにC. gattiiの同定は簡単ではなく、L-canavanine glycine bromothymol blue(CGB)培地という特殊な培地や分子生物学的同定法が必要になります。「流行地域への渡航歴がある」「クリプトコッカス腫がある」などC. gattii感染症が疑わしいと思った場合は、まずは細菌検査技師さんに相談してみましょう。なお、治療は基本的には通常のクリプトコッカス症に準じるのが一般的です。これについては米国感染症学会(IDSA)のガイドライン6)などをご参考ください。さて、次回は今年も国内例が出るのか注目が集まる「デング熱」について取り上げたいと思います。締め切りに遅れまくっている私の原稿が先か、2015年度の国内例の初報告が先か、勝負であります!1)MacDougall L, et al. Emerg Infect Dis. 2007;13:42-50.2)Springer DJ,et al. Emerg Infect Dis. 2010;16:14-20.3)Tsunemi T,et al. Intern Med. 2001;40:1241-1244.4)Okamoto K, et al. Emerg Infect Dis. 2010;16:1155-1157.5)堀内一宏, ほか. 臨床神経. 2012;52:166-171.6)Perfect JR, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:291-322.

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成人市中肺炎の原因微生物(解説:小金丸 博 氏)-390

 肺炎は、今でも入院や死亡原因となる重要な感染症である。肺炎球菌ワクチンが普及し、微生物検査が進歩した現代において、市中肺炎の発生率と原因微生物を調査するためにCDC(米国疾病管理予防センター)がactive population-based studyを実施した。 本研究では、シカゴとナッシュビルの5病院に市中肺炎で入院した18歳以上の成人を対象とし、28日以内の入院歴のある患者や免疫不全患者(気管切開や胃瘻が造設されている患者、臓器移植後、嚢胞線維症、CD4数200/μl未満のHIV感染症患者など)は除外された。肺炎は、発熱などの急性感染症状があること、咳などの急性呼吸器症状があること、胸部X線で肺炎像があることと定義した。病原体診断は、細菌培養(血液、胸水、良質な喀痰、気管吸引物)、遺伝子検査(喀痰、胸水、鼻咽頭・口腔咽頭スワブ)、尿中抗原検査、ペア血清による抗体検査で行った。 2010年1月~2012年6月の調査期間で、2,320例が胸部X線で肺炎像を確認された。そのうち498例(21%)が集中治療を必要とし、52例(2%)が死亡した。入院が必要な肺炎の発生件数は、年間1万人当たり24.8(95%信頼区間:23.5~26.1)だった。年齢ごとにみると、18~49歳の発生率が6.7(同:6.1~7.3)、50~64歳が26.3(同:24.1~28.7)、65~79歳が63.0(同:56.4~70.3)、80歳以上が164.3(同:141.9~189.3)であり、高齢になるほど高い傾向がみられた。 2,259例で細菌検査とウイルス検査の両方が実施され、853例(38%)で病原体が検出された。ウイルスのみが530例(23%)、細菌のみが247例(11%)、ウイルスと細菌を同時検出したのが59例(3%)、真菌あるいは抗酸菌が17例(1%)だった。検出された病原体は、多い順にヒトライノウイルス(9%)、インフルエンザウイルス(6%)、肺炎球菌(5%)だった。 本研究では、過去の研究よりも検出感度の高い微生物検査を用いたにもかかわらず、肺炎患者から病原体を検出できたのは38%のみだった。その理由としては、下気道検体を採取できなかったこと、検体採取前の抗菌薬投与の影響、非感染性疾患の可能性などが挙げられる。肺炎の原因微生物を決定することは、現在の微生物検査のレベルをもってしても困難であることを知っておくべきだろう。 肺炎像を呈している患者から最も多く検出された病原体は、“かぜ”の原因微生物として知られるヒトライノウイルスだった。このウイルスが肺炎の原因微生物になっているのかは疑問の余地があるが、無症候コントロール群ではまれにしか検出されておらず、成人の市中肺炎発症に関与している可能性は十分考えられる。 原因微生物として、インフルエンザウイルスや肺炎球菌が多いことも示された。これらに対してはワクチンが存在するため、さらなるワクチンの普及、啓発が重要であると考える。

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ウィルムス腫瘍の術後補助療法、DOXは省略可/Lancet

 ステージII~IIIで中等度リスクのウィルムス腫瘍の標準的術後化学療法に関して、ドキソルビシン(商品名:アドリアシンほか)をレジメンに含む必要はないことが実証された。英国・ロンドン大学小児保健研究所のKathy Pritchard-Jones氏らが小児患者583例を対象に行った、国際多施設共同の第III相非盲検非劣性無作為化対照試験「SIOP WT 2001」の結果、示された。ドキソルビシンは標準レジメンに含まれているが、研究グループは、「ドキソルビシンの心毒性作用の回避が、術後予後が良好であった患児の長期アウトカム改善のために重要である」として、ドキソルビシンがレジメンから省略可能か検討を行った。Lancet誌オンライン版2015年7月8日号掲載の報告より。ドキソルビシンを省略可能か2年時点の無再発生存率で評価 SIOP WT 2001は、26ヵ国251病院から原発性腎腫瘍と診断された小児(生後6ヵ月~18歳)を集めて行われた。患児は、ビンクリスチン(商品名:オンコビン)とアクチノマイシンD(同:コスメゲン)による4週間の術前化学療法を受けていた。 待機的腎切除後の評価でステージII~III中等度リスクのウィルムス腫瘍と判定された患児を、最小化法を用いて、ビンクリスチン1.5mg/m2(1~8、11、12、14、15、17、18、20、21、23、24、26、27週時)+アクチノマイシンD 45μg/kg(2週目から3週間に1回)とドキソルビシン50mg/m2を5回(2週目から6週間に1回)投与する(標準治療)群またはドキソルビシン非投与(実験的治療)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、2年時点の無再発生存率の非劣性についてで、intention to treatにて解析を行い規定マージンは10%であった。 また、安全性と有害事象について評価(肝毒性と心毒性を系統的にモニタリング)した。両群差4.4%で、省略群の非劣性が認められる 2001年11月1日~2009年12月16日の間に、583例の患児(ステージIIが341例、ステージIIIが242例)が集まり、ドキソルビシンを含む標準治療群に291例を、ドキソルビシンを省略した実験的治療群に292例を無作為に割り付けた。追跡期間中央値は60.8ヵ月(IQR:40.8~79.8)であった。 2年時点の無再発生存率は、標準治療群92.6%(95%信頼区間[CI]:89.6~95.7)、実験的治療群88.2%(同:84.5~92.1)で、両群差は4.4%(同:0.4~9.3)であり事前規定のマージン10%を超えなかった。 5年全生存率は、標準治療群96.5%(同:94.3~98.8)、実験的治療群95.8%(93.3~98.4)であった。 治療関連の毒性作用による死亡の報告は4例。標準治療群の死亡は1例(<1%)で敗血症によるものであった。残る3例が実験的治療群(1%)で、水痘、代謝性の発作、再発治療中の敗血症で死亡した。 また、17例の患児(3%)で肝静脈閉塞性疾患が、心毒性作用の報告は、標準治療群291例のうち15例(5%)であった。 腫瘍が再発し死亡に至ったのは、標準治療群12例、実験的治療群10例であった。

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糖尿病性腎症に合併する高K血症、patiromerが有効/JAMA

 糖尿病性腎症で高カリウム血症の合併がありRAAS阻害薬を服用している患者に対し、patiromerを4.2~16.8g、1日2回投与することで、血中カリウム値は有意に低下し、52週にわたり維持されたことが報告された。米国・シカゴ大学のGeorge L. Bakris氏らが、306例の患者を対象に行った、patiromerの用量範囲探索、無作為化非盲検第II相試験「AMETHYST-DN」の結果、報告した。JAMA誌2015年7月14日号で発表した。軽度/中程度群ごとに3通りの投与量について、4週間後の変化を比較 試験は2011年6月~2013年6月にかけて、ヨーロッパ48ヵ所の医療機関を通じて、2型糖尿病患者306例を対象に行われた。被験者のeGFRは15~60mL/分/1.73m2で、血中カリウム値は5.0mEq/L超であり、治験開始前からRAAS阻害薬を服用していた。 ベースライン時の血中カリウム値に応じて、被験者を軽度または中程度高カリウム血症に分類。patiromerの投与量について各群の被験者を無作為に3群に分け、軽度群では4.2g、8.4g、12.6gを、中程度群では8.4g、12.6g、16.8gを、いずれも1日2回投与した。 主要有効性エンドポイントは、ベースラインから4週時(または初回patiromer滴定)の平均血中カリウム値の変化だった。また副次有効性エンドポイントは、52週間の平均血中カリウム値の変化などとした。主要安全性エンドポイントは、52週間の有害事象であった。いずれの投与量でも血中カリウム値が有意に低下 結果、主要エンドポイントの平均血中カリウム値(最小二乗平均減少幅)は、軽度群の4.2g群が0.35(95%信頼区間[CI]:0.22~0.48)mEq/L、8.4g群が0.51(0.38~0.64)mEq/L、12.6g群が0.55(0.42~0.68)mEq/Lだった。 中程度群では、8.4g群が0.87(0.60~1.14)mEq/L、12.6g群が0.97(0.70~1.23)mEq/L、16.8g群が0.92(0.67~1.17)mEq/Lだった(ベースライン時からの変化に関するp<0.001)。 4~52週にかけて、毎月の血中カリウム値の有意な低下は維持された。 治療に関連する最も多く認められた有害事象は、低マグネシウム血症(7.2%)、消化管関連では便秘(6.3%)だった。低カリウム血症(<3.5mEq/L)は5.6%だった。

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Ht値と脳卒中・冠動脈疾患リスクは関連する

 ヘマトクリット(Ht)値と循環器疾患(CVD)リスクの関連については、一貫した結果が得られていない。九州大学(現 九州医療センター)の後藤 聖司氏らは、一般的な日本人集団(久山町研究)において、Ht値と脳卒中および冠動脈疾患(CHD)発症との関連性を調査した。その結果、Ht値の増加および減少はどちらもCVDのリスク増加と関連していたが、Ht値の影響はCVDのサブタイプにより異なることが示唆された。Atherosclerosis誌オンライン版2015年7月10日号に掲載。 著者らは、1988年に40歳以上であった地域在住の日本人2,585人を19年間追跡調査した。これらの被験者を、ベースライン時のHt値の男女別の四分位数に応じて4群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、301例(虚血性:210例、出血性:91例)が脳卒中を発症し、187例がCHDを発症した。・虚血性脳卒中のリスクは、Ht値の最低四分位(Q1:男性44.7%以下、女性39.3%以下)および最高四分位(Q4:男性49.7%以上、女性43.8%以上)の両方で、基準とした第3四分位(Q3:男性47.1~49.6%、女性41.7~43.7%)より高かった。なお、多変量補正ハザード比(95%信頼区間)は、Q1が1.55(0.99~2.43)、Q2が1.44(0.93~2.23)、Q3が1.00、Q4が1.62(1.06~2.50)であった(傾向のp=0.86)。・Ht値と出血性脳卒中のリスクは線形の逆相関を示した(Q1:1.91[1.03~3.54]、Q2:1.26[0.68~2.34]、Q3:1.00、Q4:0.81[0.41~1.61]、傾向のp=0.009)。・CHDのリスクはQ4で大幅に増加した(Q1:1.13[0.71~1.80]、Q2:1.08[0.69~1.71]、Q3:1.00、Q4:1.60[1.04~2.46]、傾向のp=0.13)。

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抗精神病薬の治療域、若年者と高齢者の差はどの程度か

 高齢統合失調症(LLS)患者は抗精神病薬による有害反応の影響を受けやすく、治療ガイドラインでは抗精神病薬の低用量を推奨している。しかし、LLS患者における最適な投与量、それに関連するD2/3R占有率については研究がほとんど進んでいなかった。カナダ・Centre for Addiction and Mental HealthのGraff-Guerrero A氏らは、LLS患者における抗精神病薬減量後のドパミンD2/3受容体(D2/3R)占有率の変化と臨床効果、血中プロラクチンおよび抗精神病薬濃度などを評価した。その結果、臨床的安定と関連するD2/3R占有率の最低値は50%で、D2/3R占有率が60%を超えると錐体外路症状(EPS)が起こりやすいことを明らかにした。JAMA Psychiatry誌オンライン版2015年7月1日号の掲載報告。 研究グループは、LLS患者において抗精神病薬を減量した際の線条体ドパミンD2/3受容体占有率への影響、臨床的特徴、血中薬物動態の評価を目的に、非盲検単群前向き試験を行った。対象は大学附属の3次医療センターの外来診療患者で、追跡期間は3~6ヵ月(2007年1月10日~2013年10月21日)とした。被験者は臨床的安定が保たれているLLSの外来患者35例(年齢50歳以上で、オランザピンあるいはリスペリドンの単剤療法を6~12ヵ月間同量投与)で、追跡は2013年10月21日に完了し、2014年10月22日~2015年2月2日に解析を行った。 ベースライン時から最大40%漸減し、減量前後(減量後は最低3ヵ月経過)にC11標識ラクロプライドを用いたPET画像診断、臨床効果の測定、血中薬物動態測定を実施した。主要評価項目は、抗精神病薬による線条体ドパミンD2/3Rの占有率、臨床効果(陽性・陰性症状評価尺度、簡易精神症状評価尺度、Targeted Inventory on Problems in Schizophrenia、Simpson-Angus Scale、Barnesの薬原性アカシジア評価尺度、Udvalg for Kliniske Undersogelser Side Effect Rating Scale)、血中薬物動態(プロラクチンおよび抗精神病薬の血中濃度)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・減量後、全サンプルのドパミンD2/3R占有率は、平均6.2(SD 8.2)%減少した(70[12]%から64 [12]%へ、p<0.001)。・臨床的安定と関連するD2/3R占有率の最低値は50%であった。・D2/3R占有率が60%を超えるとEPSが起こりやすかった。・ベースライン時にEPSを認めた例の90.5%(21例中19例)、減量後にEPSを認めた例の76.9%(13例中10例)で、線条D2/3R占有率が60%を超えていた。・臨床的悪化を認める患者(5例)は臨床的安定を維持している患者( 29例)に比べ、ベースライン時のD2/3R占有率が低かった(58[15]% vs.72[10]%、p=0 .03)。・減量後、Targeted Inventory on Problems in Schizophreniaのスコアが上昇し(p=0.046)、陽性・陰性症状評価尺度(p=0.02)、簡易精神症状評価尺度(p=0.03)、Simpson-Angus Scale(p<0.001)、Barnesの薬原性アカシジア評価尺度(p=0.03)、Udvalg for Kliniske Undersogelser Side Effect Rating Scale(p<0.001)のスコア、プロラクチン(p<0.001)、抗精神病薬の血中濃度(オランザピン:p<0 .001、リスペリドン+metabolite 9-hydroxyrisperidone:p=0.02)のすべてにおいて低下を認めた。  結果を踏まえて、著者らは「LLS患者の抗精神病薬の治療域は50~60%であり、これまでに報告されていた若年者の65~80%よりも低いことが示された」と述べている。関連医療ニュース 抗精神病薬の単剤化は望ましいが、難しい 高齢統合失調症、遅発性ジスキネジアのリスク低 統合失調症のD2/3占有率治療域、高齢者は若年者よりも低値:慶應義塾大学  担当者へのご意見箱はこちら

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CVD予防のためのスタチン開始基準、費用対効果を検証/JAMA

 2013年11月、米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)は、脂質異常症におけるスタチン治療の新ガイドラインを発表した。米国・ハーバード公衆衛生大学院のAnkur Pandya氏らは、心血管疾患(CVD)の1次予防における本ガイドラインの費用対効果プロフィールの検証を行った。新ガイドラインでは、LDLコレステロールの目標値を設定せず、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスク(≧7.5%)をスタチン治療導入の指標としているが、リスク判定に使用されるPooled Cohort Equationsは過大評価を引き起こす可能性があるため、実臨床で閾値の幅を広げた場合などに、不要な治療による甚大なコスト増大やスタチン誘発性糖尿病のリスク上昇の懸念があるという。JAMA誌2015年7月14日号掲載の報告。マイクロシミュレーション・モデルでQALYの増分コストを評価 研究グループは、米国人における10年ASCVDリスクの至適な閾値を確立するために、ACC/AHAガイドラインの費用対効果分析を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。ガイドラインの他の要素は、一切変更しないこととした。 仮想的な100万人の成人(40~75歳)の生涯健康アウトカムおよびCVD関連コストを予測するマイクロシミュレーション・モデルを開発した。モデルのパラメータのデータソースには、国民健康栄養調査(NHANES)、スタチンのベネフィットや治療に関する臨床試験およびメタ解析などが含まれた。 これらを用いて、ASCVDイベント(致死的/非致死的な心筋梗塞、狭心症、心停止、脳卒中)の予防効果および質調整生存年(QALY)の増分コストを算出した。費用対効果は許容範囲内、リスク閾値を広げても基準満たす ACC/AHAガイドラインの推奨閾値である10年ASCVDリスク≧7.5%では、成人の48%でスタチン治療が適切と判定され、10年ASCVDリスク≧10%と比較した1QALY当たりの増分費用対効果比(ICER)は3万7,000ドルであった。これは、一般に使用される費用対効果の閾値である5~10万ドル/QALYを下回っていた。 リスクの閾値をさらに緩めると、10年ASCVDリスク≧4.0%(成人の61%でスタチン治療が適切と判定)のICERは8万1,000ドル/QALY、≧3.0%(同67%)のICERは14万ドル/QALYであり、それぞれの費用対効果の閾値である10万ドル/QALYおよび15万ドル/QALYを満たしていた。 40~75歳の成人1億1,540万人において、10年ASCVDリスクの閾値を≧7.5%から≧3.0%へ転換すると、さらに16万1,560件のCVDイベントが回避されると推算された。また、これらの費用対効果の結果は、スタチンの毎日の服薬、価格、スタチン誘発性糖尿病のリスクに関連した効用値の損失(disutility)の変化に対し感受性を示した。 確率論的感度分析では、10年ASCVDリスクの至適な閾値が≦7.5%となる確率は、費用対効果の閾値が一般的に使用される10万ドル/QALYの場合は99%以上であり、5万ドル/QALYでは86%以上であった。また、費用対効果の閾値が10万ドル/QALYの場合に、10年ASCVDリスクの至適な閾値が≦5.0%となる確率は93%以上であった。 著者は、「ACC/AHAコレステロール治療ガイドラインで推奨されているスタチン治療導入の閾値である10年ASCVDリスク≧7.5%の費用対効果プロフィール(ICER:3万7,000ドル/QALY)は許容範囲内であったが、これを≧4.0%、≧3.0%に緩めても、費用対効果の閾値はそれぞれの基準値である10万ドル/QALYおよび15万ドル/QALYを満たし、毎日の服薬に関する患者の好みや価格の変動、糖尿病のリスクに感受性を示した」とまとめている。

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抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症、乳がんリスクとの関連は

 最近のメタ解析で、統合失調症女性患者では一般集団と比べ乳がんが多いことが示され(エフェクトサイズ=1.25、p<0.05)、実験および疫学データの蓄積により、乳がん発症におけるプロラクチン(PRL)の影響について、研究者らに注意が促されていた。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学精神科医療センターのM. De Hert氏らは、統合失調症女性患者における抗精神病薬誘発性の高プロラクチン血症(HPRL)と、乳がんリスクとの関連について批判的レビューを行った。その結果、プロラクチンが乳がんの発症に関連するという明確なエビデンスは示されなかったことを報告した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2015年6月26日号の掲載報告。プロラクチン以外の乳がんリスクファクターが個々の症例により大きく関連している可能性 検討は、MEDLINE データベースを用い、英語で公表された臨床試験について文献検索(1950年から2015年1月まで)を行い、統合失調症女性における乳がんリスク(ファクター)と、HPRLおよび抗精神病薬治療との関連に関わる現在の認識に関するデータを特定、統合した。 高プロラクチン血症と乳がんリスクとの関連についてレビューした主な結果は以下のとおり。・乳がん発症におけるプロラクチンの関与を支持するエビデンスが増えているが、ヒトにおけるプロスペクティブ研究の結果は限定的、あいまい、そして相関的(リスク比の範囲、閉経前女性:0.70~1.9、閉経後女性:0.76~2.03)なデータが混在していた。・さらに、局所のオートクリン/パラクリンPRL loopの増幅または過剰発現が腫瘍形成においてより重要なメカニズムであるにもかかわらず、これらの研究では乳房上皮におけるプロラクチンの局所産生が考慮されていなかった。・今のところ、抗精神病薬が乳房悪性腫瘍および死亡リスクを増加させうるという決定的なエビデンスについても得られていない。・未経産、肥満、糖尿病および不健康な生活習慣(アルコール依存、喫煙、低い身体活動性)といったプロラクチン以外の乳がんリスクファクターが、統合失調症女性における個々の乳がん症例により大きく関連している可能性があった。関連医療ニュース プロラクチン上昇リスクの低い第二世代抗精神病薬はどれか 抗精神病薬による高プロラクチン血症に関するレビュー 統合失調症の自殺にプロラクチンは関連するのか

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マイクロシミュレーションモデルを用いた大腸腺腫検出率と大腸がん検診の解析(解説:上村 直実 氏)-389

 住民検診や企業検診および人間ドックにおいて、使用される検査自体の精度管理は非常に重要である。今回、地域における大腸内視鏡を用いた大腸がん検診では、腺腫検出率(adenoma detection rate:ADR)が高いほど、生涯にわたる大腸がんの発症や大腸がん死亡のリスクが抑制されるとともに、費用対効果にも優れていることがオランダから報告された。 この研究では、大腸がん検診における内視鏡検査の質に対する評価指標とされるADRを、5群に分類して比較検討した結果、内視鏡術者によってはADRに3倍以上のばらつきがみられた。最もADRが低い内視鏡術者は、最もADRが高い術者に比べて、10年以内の大腸がんの発症リスクが約50%、大腸がん死亡のリスクが約60%上昇するとされている。しかし一方では、ADRが高すぎると低リスクの小さなポリープが多く発見され、追加の検査や治療が増加して、患者にとっての合併症のリスクやコスト高などの不利益が、ベネフィットを上回る可能性も示唆されている。 わが国の診療現場においても、大腸内視鏡検査の精度は施設間や術者間の格差が非常に大きいことは経験上明らかである。今後、このような内視鏡診療技術を用いた臨床研究を解析する場合、上記のバイアスの補正をどのように行うかも課題となる。一方、わが国では新たな専門医制度の認定方法が注目されているが、内視鏡や超音波検査などの診療技術に関して、臨床的に満足できる診療精度が担保される専門医ないしは技術認定医を育成するシステムが必要であるものと思われた。

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長期ベンゾジアゼピン使用は認知症発症に影響するか

 これまでの観察研究では、ベンゾジアゼピンの使用と認知症リスク増加との関連が報告されている。しかし、研究方法に限界があり、本当に関連しているかどうかは不明のままである。スイス・バーゼル大学のPatrick Imfeld氏らは、ベンゾジアゼピン使用と認知症発症リスクとの関連を、症例対照分析により検証した。Drug safety誌オンライン版2015年6月30日号の報告。 英国の臨床診療研究データリンク(CPRD)に基づく症例対照分析。1998~2013年にアルツハイマー病(AD)または血管性認知症(VaD)と新たに診断された65歳以上の患者2万6,459例を同定し、年齢、性別、追跡期間、一般診療情報、記録年数を1対1でマッチさせた非認知症者をコントロール群とした。調整オッズ比(aORs)は、以前のベンゾジアゼピン使用(投与期間、種類による層別化)とADまたはVaDの発症との関連について、95%信頼区間(CIs)を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・AD診断前1年以内にベンゾジアゼピン使用を開始した者におけるAD発症のaORは、2.20(95%CI:1.91~2.53)であったが、診断前2~3年以内に開始した者では、無関係であった(aOR:0.99、95%CI:0.84~1.17)。・VaD診断前1年以内にベンゾジアゼピン使用を開始した者におけるVaD発症のaORは、3.30(95%CI:2.78~3.92)であったが、診断前3~4年以内に開始した者では、ほぼ無関係であった(aOR:1.16、95%CI:0.96~1.40)。・前駆期におけるベンゾジアゼピン使用開始を考慮しても、ベンゾジアゼピンの長期使用は、AD(aOR:0.69、95%CI:0.57~0.85)またはVaD(aOR:1.11、95%CI:0.85~1.45)発症リスク増加との関連は認められなかった。関連医療ニュース メラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか ベンゾジアゼピン処方、長時間型は大幅に減少 長期抗コリン薬使用、認知症リスク増加が明らかに  担当者へのご意見箱はこちら

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ACC/AHA2013のスタチン適格基準は適切か/JAMA

 ACC/AHAガイドライン2013では、脂質管理のスタチン治療対象について新たな適格基準が定められた。同基準について米国・マサチューセッツ総合病院のAmit Pursnani氏らは、コミュニティベースの1次予防コホート(フラミンガム心臓研究被験者)を対象に、既存のATP IIIガイドラインと比較して適切なスタチン使用をもたらしているかを検証した。その結果、新ガイドライン適用で、心血管疾患(CVD)や不顕性冠動脈疾患(CAD)のイベントリスク増大を、とくに中等度リスク者について、より正確かつ効果的に特定するようになったことを報告した。JAMA誌2015年7月14日号掲載の報告より。フラミンガム心臓研究の被験者2,435例を対象にATP IIIと比較検証 検討は、フラミンガム心臓研究の第2および第3世代コホートから被験者を抽出して行われた。スタチン治療未治療で、2002~2005年に冠動脈石灰化(CAC)について多列検出器CT(MDCT)検査を受け、CVD発症について中央値9.4年間追跡を受けた2,435例を対象とした。 スタチン治療の適格性について、フラミンガムリスク因子とATP IIIのLDL値に基づき定義する一方、プールコホート解析においてはACC/AHAガイドライン2013に準拠した。 主要アウトカムは、CVD(心筋梗塞、冠状動脈性心疾患[CHD]による死亡、虚血性脳卒中)の発症とし、副次アウトカムは、CHD、CAC(Agatstonスコアで評価)であった。治療適格者14%から39%に、CVDイベントリスク者3.1倍から6.8倍に 2,435例(平均年齢51.3[SD 8.6]歳、女性56%)において、ATP IIIによるスタチン治療適格者は14%(348/2,435例)であったのに対し、ACC/AHAガイドライン2013規定では39%(941/2,435例)であった(p<0.001)。 これら被験者のCVDイベント発生は74例(非致死的心筋梗塞40例、非致死的虚血性脳卒中31例、致死的CHDイベント3例)であった。 スタチン治療適格者の非適格者と比較したCVDイベント発生に関するハザード比は、ATP IIIを適用した場合(3.1、95%信頼区間[CI]:1.9~5.0、p<0.001)も、ACC/AHAガイドライン2013を適用した場合(6.8、同:3.8~11.9、p<0.001)もそれぞれ有意に高値であったが、ACC/AHAガイドライン2013を適用した場合のほうが有意に高値であった(p<0.001)。 同様の結果は、CHDに関する中等度のフラミンガムリスクスコアを有する被験者を対象とした、CVDイベント発生のハザード比に関する検討においてみられた。 ACC/AHAガイドライン2013ガイドライン適用による新たなスタチン治療適格者(593例[24%])のCVDイベント発生率は5.7%、治療必要数(NTT)は39~58例であった。 なお、CACを有する被験者において、ATP IIIよりもACC/AHAガイドライン2013を適用した場合にスタチン治療適格者となる傾向がみられた。CACスコア0超(1,015例)では63% vs.23%であったのに対し、100超(376例)では80% vs.32%、300超(186例)では85% vs.34%であった(すべてのp<0.001)。ACC/AHAガイドライン2013によるスタチン治療適格者でCACスコア0の低リスク群(306/941例[33%])のCVD発生率は1.6%であった。

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Vol. 3 No. 4 高尿酸血症と循環器疾患 高血圧とのかかわり

川添 晋 氏鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学はじめに高尿酸血症は、痛風関節炎や痛風腎など尿酸塩沈着症としての病態とは別に、心血管疾患のリスクになることが次々と報告され、メタボリックシンドロームの一翼としての尿酸の重要性が認識されるようになってきた。最近では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることや、尿酸低下療法によって心血管イベントが抑制される可能性を示唆する報告もなされている。本稿では、血圧上昇や高血圧性臓器合併症と尿酸との関連を疫学と機序の両面から概説するとともに、高血圧症を合併した高尿酸血症に対する薬物治療を行う際の注意すべき点について解説する。高尿酸血症と高血圧血圧上昇と血清尿酸値との疫学の歴史は意外に古い。1800年代後半には、痛風の家族歴を持つ高血圧患者が多いことや、低プリン食が高血圧と心血管病を予防することが報告されている。最近の報告では、高尿酸血症が高血圧発症のリスクとなることが国内外の疫学調査から明らかとなっている。米国における国民健康栄養調査にて、血清尿酸値が上昇するにつれて高血圧の有病率は上昇し、血清尿酸値6.0mg/dL以下では24.5%であるのに対して10.0mg/dLでは84.7%に高血圧が合併していた1)。わが国における調査でも、高血圧患者は男性で34.1%、女性で16.0%に高尿酸血症が合併していたと報告されている2)。高尿酸血症と高血圧発症に関する国内外11研究の成績をまとめたメタアナリシスでは、高尿酸血症患者における高血圧発症の相対リスクは1.41と有意に高く、1mg/dL の尿酸値の上昇により高血圧発症リスクは13%上昇するとの結果であった3)(本誌p.29図を参照)。尿酸値上昇自体が高血圧のリスクとなることが明確に示されたことになる。また小規模の研究ではあるが、アロプリノールによる尿酸降下療法にて24時間血圧が有意に下がるとの介入試験の結果も報告されている4)。尿酸が血圧を上昇させるメカニズムについてもさまざまな知見が得られている(本誌p.30図を参照)5)。尿酸によるNO(一酸化窒素)産生低下とレニン・アンジオテンシン系の産生亢進を伴った血管内皮機能低下に起因した腎血管収縮により血圧が上昇すると報告されている6, 7)。このタイプの高血圧は、食塩抵抗性で尿酸値を下げることにより降圧を認めることが特徴であるが6)、別のタイプもあることが推察されている。高尿酸血症は動脈硬化性変化による腎微小循環障害をきたし、塩分感受性で腎依存性、血清尿酸値非依存性の高血圧が形成される8)。微小循環の損傷に起因する病態においては、直接尿酸が血管平滑筋細胞に対して増殖反応を促し、レニン・アンジオテンシン系を賦活化し、CRPや単球走化性蛋白-1(MCP-1)といった炎症関連物質の産生を刺激することが報告されている9)。高血圧性臓器合併症と尿酸日本高血圧学会やヨーロッパ高血圧学会のガイドラインでは、高血圧性臓器合併症の有無でリスクの層別化を行うことを推奨している。Viazziらは、このような臓器合併症の重症度と血清尿酸値との関連性を横断研究にて検討している。これによると、ヨーロッパ高血圧学会のガイドラインに準拠した高血圧性臓器合併症が重症になるにしたがって、血清尿酸値が高値となっていくことが示されている。さらに古典的心血管危険因子で補正後も、心肥大や頸動脈不整の危険因子となることが示唆されている。またSystolic Hypertension in the Elderly Program(SHEP)10)やThe Losartan Intervention for Endpoint Reduction in Hypertension(LIFE)11) といった大規模臨床試験のサブ解析において、血清尿酸値と心血管イベントの発症との間に関連があることが示されている。われわれは669名の本態性高血圧症を対象に前向きに検討を行い、尿酸値が心血管疾患と脳卒中の発症の予測因子となるかどうかの検討を行った12)。平均7.1年のフォローアップ期間に脳卒中71例、心血管疾患58例が発生し、64例が死亡した。生存曲線では、尿酸値が最も高かった群(8.0mg/dL以上)では有意に脳卒中と心血管疾患の発症が多く(p=0.0120)、死亡率も高かった(p=0.0021)。古典的な心血管疾患のリスク因子で補正した後も、血清尿酸値は心血管疾患(相対リスク1.30, p=0.0073)、脳卒中および心血管疾患(相対リスク1.19, p=0.0083)、死亡(相対リスク1.23, p=0.0353)、脳卒中および心血管疾患による死亡(相対リスク1.19, p=0.0083)の有意な予測因子であった(本誌p.31図を参照)。また、血清尿酸値が心血管疾患リスクに与える影響は、女性においてより強かった。しかしながら、大規模疫学調査のなかには、Framingham Heart研究13)やNIPPON DATA 8014)のように、他の心血管危険因子で補正を行うと血清尿酸値の心血管死に対する影響が減弱するか喪失すると結論づけている報告もいくつか認められる。また血清尿酸値と心血管疾患の間のJカーブ現象の報告もあり15)、この分野に関しては今後のさらなる検討が必要と考えられる。高血圧治療の最終的な目標は臓器合併症、すなわち心血管イベント発症や腎機能悪化に伴う透析などの回避であることはいうまでもない。臓器合併症予防のためには、蓄積されつつある知見を踏まえて、血圧のみならず血清尿酸値も含めた管理を行う必要がある。高血圧症例における高尿酸血症の管理高血圧患者における血清尿酸値上昇が腎障害や心血管事故発症と関連することから、日本痛風・核酸代謝学会による『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第2版)』16)に準じて、総合的なリスク回避をめざした6・7・8ルールに基づく尿酸管理が推奨されている(本誌p.32図を参照)。高尿酸血症を合併する高血圧では、血清尿酸値7mg/dL以上でエネルギー摂取制限、運動習慣、節酒等の生活指導を開始する。8mg/dL以上では、生活習慣の修正を行いながら尿酸降下薬の開始を考慮する。降圧療法中の血清尿酸値の目標は6mg/dL以下をめざす。この際、降圧剤が尿酸代謝に及ぼす影響も考慮することが望まれる(本誌p.32図を参照)。サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬は高尿酸血症を増長し、痛風を誘発することがあるため注意が必要である。Ca拮抗薬とロサルタンは高血圧患者の痛風発症リスクを減少させることが知られている17)。大量のβ遮断薬およびαβ遮断薬の投与は血中尿酸値を上昇させる。ACE阻害薬、Ca拮抗薬、α遮断薬は血清尿酸値を低下させるという報告と、影響を与えないとする報告がある。ARBの1つであるロサルタンは、腎尿細管に存在するURAT1の作用を阻害することによって血中尿酸値を平均0.7mg/dL低下させる18, 19)。重症高血圧患者におけるβ遮断薬のアテノロールに対するロサルタンの標的臓器保護作用の有意性を示したLIFEでは、ロサルタンの降圧を超えた臓器保護作用のうち29%は尿酸値の改善によることが示唆されている11)。最近使用頻度が増えているARB/利尿薬合剤には、ヒドロクロロチアジド6.25mgまたは12.5mgが使用されているが、尿酸管理の観点からはより低用量の製剤を使用するか、尿酸排泄増加作用を有するARBであるロサルタンを含む合剤の使用が望ましい。高血圧合併高尿酸血症患者の病型は排泄低下型が多いことから、ベンズブロマロンなどURAT1阻害薬が有用であることが多い。キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールは、これまで唯一の尿酸生成抑制薬として40年間にわたり全世界で用いられてきた。しかしアロプリノールの活性代謝産物であるオキシプリノールは腎排泄性であり、血中半減期が長く体内に蓄積しやすいため、腎機能障害ではオキシプリノールの血中濃度が上昇し20)、汎血球減少症などの重篤な副作用の出現に関係するとされる。高血圧患者には腎機能低下を合併する症例が多いためアロプリノール使用に関してはこの点に注意が必要である。本邦において2011年から臨床使用可能となったフェブキソスタットは、肝腎排泄型であるため腎機能障害者においても用量調節が不要であるとされている。おわりに高尿酸血症が高血圧発症や心血管疾患のリスク因子であるというエビデンスが蓄積されてきている。高血圧診療の場では、糖尿病や脂質異常症などの既知のリスクに加えて、尿酸値も意識して総合的な管理を行うことが求められている。文献1)Choi HK et al. 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