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SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬の処方率、人種・民族間で格差/JAMA

 2019~20年の米国における2型糖尿病患者へのSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方率は低く、白人や非ヒスパニック/ラテン系と比較して、とくに他の人種やヒスパニック/ラテン系の患者で処方のオッズ比が有意に低いことを、米国・カリフォルニア大学のJulio A. Lamprea-Montealegre氏らが、米国退役軍人保健局(VHA)の大規模コホートデータ「Corporate Data Warehouse:CDW」を用いた横断研究の結果、報告した。2型糖尿病に対する新しい治療薬は、心血管疾患や慢性腎臓病の進行リスクを低減することができるが、これらの薬剤が人種・民族にかかわらず公平に処方されているかどうかは、十分な評価がなされていなかった。著者は、「これらの処方率の差の背景にある要因や、臨床転帰の差との関連性を明らかにするために、さらなる研究が必要である」とまとめている。JAMA誌2022年9月6日号掲載の報告。2型DM患者約120万例について2019~20年の処方率を人種・民族別に検討 研究グループは、成人2型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方における人種・民族による差異を調査する目的で、CDWのデータを用い、2019年1月1日~2020年12月31日の期間にプライマリケア診療所を2回以上受診した2型糖尿病成人患者を対象に解析した。 医療給付申請時またはVHA施設の受診時に質問票で確認した、自己申請に基づく人種・民族別に、研究期間中のSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の処方(あらゆる有効処方箋)率を評価した。なお、SGLT2阻害薬はertugliflozin、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジン、GLP-1受容体作動薬はセマグルチド、リラグルチド、albiglutide、デュラグルチドを評価対象とした。 解析対象は、119万7,914例(平均年齢68歳、男性96%、アメリカ先住民/アラスカ先住民1%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民2%、黒人/アフリカ系アメリカ人20%、白人71%、ヒスパニック/ラテン系7%)であった。処方率は全体で8~10%、白人以外の人種、とりわけヒスパニック/ラテン系で低い 全対象における処方率は、SGLT2阻害薬10.7%、GLP-1受容体作動薬7.7%。人種・民族別ではそれぞれ、アメリカ先住民/アラスカ先住民で11%、8.4%、アジア人/ハワイ先住民/他の太平洋諸島民11.8%、8.0%、黒人/アフリカ系アメリカ人8.8%、6.1%、白人11.3%、8.2%であった。また、ヒスパニック/ラテン系では11%、7.1%、非ヒスパニック/ラテン系では10.7%、7.8%であった。 患者およびシステムレベルの因子を調整後のSGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の処方率は、白人と比較して、他のすべての人種で有意に低かった。白人との比較で処方オッズが最も低かったのは黒人であった(SGLT2阻害薬の補正後オッズ比[OR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.71~0.74]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.64[95%CI:0.63~0.66])。 また、ヒスパニック/ラテン系の患者は、非ヒスパニック/ラテン系の患者と比較して、処方オッズが有意に低かった(SGLT2阻害薬の補正後OR:0.90[95%CI:0.88~0.93]、GLP-1受容体作動薬の補正後OR:0.88[95%CI:0.85~0.91])。

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がん患者は血圧140/90未満でも心不全リスク増/東京大学ほか

 がん患者では、国内における正常域血圧の範囲内であっても心不全などの心血管疾患の発症リスクが上昇し、さらに血圧が高くなるほどそれらの発症リスクも高くなることを、東京大学の小室 一成氏、金子 英弘氏、佐賀大学の野出 孝一氏、香川大学の西山 成氏、滋賀医科大学の矢野 裕一朗氏らの研究グループが発表した。これまで、がん患者における高血圧と心血管疾患発症の関係や、どの程度の血圧値が疾患発症と関連するのか明らかではなかった。Journal of clinical oncology誌オンライン版2022年9月8日号掲載の報告。 本研究では、2005年1月~2020年4月までに健診・レセプトデータベースのJMDC Claims Databaseに登録され、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんの既往を有する3万3,991例(年齢中央値53歳、34%が男性)を解析対象とした。血圧降下薬を服用中の患者や、心不全を含む心血管疾患の既往がある患者は除外された。主要アウトカムは、心不全の発症であった。 主な結果は以下のとおり。・平均観察期間2.6年(±2.2年)の間に、779例で心不全の発症が認められた。・米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)と比較した心不全のハザード比は、ステージ1高血圧(130~139mmHg/ 80~89mmHg)が1.24(95%信頼区間:1.03~1.49)、ステージ2 高血圧(140mmHg以上/ 90mmHg以上)が1.99(同:1.63~2.43)と血圧が上がるほど上昇した。・心不全以外の心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても、血圧上昇に伴う発症リスクの上昇が認められた。・この影響は、化学療法などの積極的ながん治療を行っている患者においても認められた。 高血圧は、がん患者においても高頻度に認められる併存症であるが、臨床においては血圧低下(食欲不振に伴う脱水など)が問題となることも多いため、高血圧については積極的な治療が行われない場面もあったと考えられる。それを踏まえて、研究グループは、「本研究において、がん患者では、降圧治療を受けていないステージ1高血圧やステージ2高血圧においても、心不全や他の心血管疾患のリスクが高かった。がん患者においても、適切な血圧コントロールが重要である」とまとめた。

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理解されない患者の苦悩、新たなガイドライン、治療薬に期待

 2022年9月15日、アレクシオンファーマは「重症筋無力症ガイドライン改訂と適正使用に向けて」と題した重症筋無力症(以下、MG)の現状と新たなガイドラインに関するメディアセミナーを開催し、鈴木 重明氏(慶應義塾大学医学部神経内科 准教授)から「MGの現状」について、村井 弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科 部長)から「2022年5月のMG診療ガイドラインの改訂ポイントとユルトミリス適応追加の意義」について、それぞれ講演が行われた。MGの現状と患者の負担 鈴木氏は講演で、MGの現状、症状、それに伴う患者負担などを解説した。MGは、日本全国で約30,000人の患者がいると推定される最も頻度の高い神経免疫疾患で、近年では、高齢発症の患者が増加傾向にある。患者の20%は眼症状のみの眼筋型、80%が全身型とされており、疲れやすいこと(易疲労性)と筋力低下などの症状に日内変動がみられることが本疾患の特徴とされている。MGの症状で最も代表的なのが眼瞼下垂である。これに加え、目の焦点が合わない(斜視)、物が二重に見える(複視)など目の症状は多く、最初に眼科を受診するケースも多いという。このほか、構音障害や嚥下障害、椅子から立ち上がれない、腕が上がらないなどの全身症状は、患者の日常生活をさまざまな角度から脅かし、呼吸が苦しいなどのケースでは、非常に重篤なクリーゼにつながることもある。これらの症状は、一定ではなく波があることが多い。朝は調子が良く、夜にかけて症状が悪くなる、活動によりすぐ疲れてしまうものの、休むと回復する、などである。症状の波が悪化に向かった場合、レスキュー治療が必要となってしまうことから、患者は次の症状増悪への不安や、先の予定の立てにくさなどに悩まされることになる。また、周囲から理解されない、就労が困難になる、限られた日常診療で気付かれない(症状がないように見えてしまい診断に至らない)など、患者は非常につらい状況に置かれていると鈴木氏は述べた。MG診療ガイドライン改訂のポイント 2022年5月、MG診療ガイドラインが改訂された(『重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022』)。今回の改訂では、(1)MGの新しい分類を示した、(2)MGの診断基準を改訂した、(3)漸増・漸減の高用量経口ステロイドは推奨しないと明記した、(4)難治性MGを定義した、(5)分子標的薬(補体阻害薬)を追加した、(6)LEMS(ランバート・イートン筋無力症候群)を初めて取り上げ診断基準を示した、(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した、の7つがポイントであると村井氏は言う。新しいMGの分類では、MGを眼筋型(OMG)と全身型(gMG)に分け、全身型をAChR抗体陽性の早期発症(g-EOMG)、後期発症(g-LOMG)、胸腺腫関連(g-TAMG)、AChR抗体陰性のMuSK抗体陽性(g-MuSKMG)、抗体陰性(g-SNMG)に分けることで全6つに分類された。また、新たな診断基準では、「支持的診断所見(血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある)」が加わった。治療を行っていくうえでの基本的な考え方として、患者のQOLやメンタルヘルスを良好に保つことが重要視され、MM-5mg(経口プレドニゾロン5mg/日以下でminimal manifestationsレベル)の治療目標は踏襲、かつ完全寛解や早期MM-5mgに関連しないことから、漸増・漸減による高用量経口ステロイド療法は推奨されないと明記された。難治性MGについては、「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合と定義された。新たなMG診療ガイドラインと治療薬への期待 分子標的薬が加わったことで、治療戦略も変化した。現在では、胸腺摘除はあまり行われなくなり、ステロイドは初期から少量、免疫抑制薬の投与も初期から開始し、ステロイドを増量する代わりにEFT(早期速効性治療戦略)を繰り返していき、症状の波が抑えられない場合、分子標的薬を投与するといった治療の流れに変わってきた。今回の改訂版ガイドラインを参考にすることで、以前のようにステロイドを何十mgも使用することはなくなるだろうと、村井氏は強調した。 MGに対する新たな治療選択肢として加わったユルトミリスは、8週に1回の投与で症状の波を抑え、安定化が期待できることから、頻回な通院が大変な患者に対してとくに期待される薬剤である。村井氏は、今後MGに対してさまざまな分子標的薬が登場することが見込まれており、MG診療は新たなステージに入っている、だからこそMG患者を見逃さず、治療に結び付けていくことが重要だと訴え、講演を締めくくった。

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シスプラチン不適応の進行尿路上皮がんの1次治療ペムブロリズマブ+エンホルツマブ・ベドチンは有望(EV-103)/ESMO2022

 シスプラチン不適応の局所進行または転移のある尿路上皮がんに(mUC)対する1次治療として、ペムブロリズマブとエンホルツマブ・ベドチン(EV)の併用療法に関する報告が、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのJonathan E. Rosenberg氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 これは第Ib/II相のEV-103試験(KEYNOTE-869試験)の中から、第II相部分のコホートKの解析結果発表である。・対象:前治療歴のないシスプラチン不適応のmUC症例・試験群:ペムブロリズマブ(day1)+EV(day1、8)3週ごと(Pem群:76例)・対照群:EV(day1、8)2週ごと(EV群:73例)・評価項目:[主要評価項目]独立評価委員会による奏効率(ORR)[副次評価項目]主治医判定によるORR、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値は71~74歳、両群とも8割に内臓転移があり、PD-L1発現CPS 10以上は4割であった。シスプラチン不適応の主な理由は、両群ともに6割が腎機能障害だった。・データカットオフ(2022年6月)時点でPem群の32.5%、EV群の10.8%が治療継続中であり、投与サイクル数中央値はPem群11.0、EV群8.0であった。・Pem群のORRは64.5%(CR:10.5%)でEV群は45.2%(CR:4.1%)であった。奏効までの期間中央値は両群共に2.07ヵ月であった。・Pem群では、97.1%で腫瘍縮小が認められ、その効果はPD-L1の発現状態(CPS10以上/10未満)と相関はなく、ネクチン-4の発現レベルとの関連性もなかった。・DOR中央値はPem群未到達、EV群13.2ヵ月、12ヵ月以上の奏効期間を示した症例はPem群で65.4%、EV群で56.3%であった。・PFS中央値はPem群未到達、EV群8.0ヵ月、12ヵ月PFS率は55.1%と35.8%であった。・OS中央値はPem群22.3ヵ月、EV群21.7ヵ月であった。12ヵ月OS率は80.7%と70.7%だった。・Grade3以上の有害事象はPem群の63.2%、EV群の47.9%に発現し、重篤なものは、23.7%と15.1%であった。多く認められた有害事象は、倦怠感、末梢神経障害、皮膚障害、脱毛などで、とくにGrade3以上の皮膚障害がPem群の21.1%、EV群の8.2%に発現した。 演者は「現在ペムブロリズマブとEV併用の第III相試験が3本進行中であり、この両剤の併用療法はシスプラチン不適応のmUC症例への可能性を示唆している」と結んだ。

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1型DMのC-ペプチド分泌能、クローズドループ療法vs.標準療法/NEJM

 新規発症の若年1型糖尿病患者において、診断後24ヵ月間、ハイブリッドクローズドループ(HCL)療法により持続的に血糖コントロールを行っても、標準的なインスリン療法と比較して、残存C-ペプチド分泌能の低下を抑制することはできなかった。英国・ケンブリッジ大学のCharlotte K. Boughton氏らが、多施設共同無作為化非盲検並行群間比較試験「Closed Loop from Onset in Type 1 Diabetes trial:CLOuD試験」の結果を報告した。新規発症の1型糖尿病患者において、HCL療法による血糖コントロールの改善が標準的なインスリン療法と比較しC-ペプチド分泌能を維持できるかどうかは不明であった。NEJM誌2022年9月8日号掲載の報告。10歳以上17歳未満の新規発症1型糖尿病患者97例を対象に無作為化 研究グループは、2017年2月6日~2019年7月18日の間に、10歳以上17歳未満で1型糖尿病と診断されてから21日以内の若年者を、HCL療法群(HCL群)または標準的なインスリン療法群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付け(10~13歳、14~16歳で層別化)、24ヵ月間治療した。 主要評価項目は、診断後12ヵ月時点での血漿C-ペプチド濃度(混合食負荷試験後)の曲線下面積(AUC)で、intention-to-treat解析を行った。 計97例(平均年齢[±SD]12±2歳)が、HCL群51例、対照群46例に割り付けられた。12ヵ月、24ヵ月時点でのC-ペプチド分泌能に両群で有意差なし 診断後12ヵ月時点の血漿C-ペプチド濃度のAUC(幾何平均値)は、HCL群で0.35pmoL/mL(四分位範囲[IQR]:0.16~0.49)、対照群で0.46pmoL/mL(0.22~0.69)であり、両群間に有意差は確認されなかった(平均補正後群間差:-0.06pmoL/mL、95%信頼区間[CI]:-0.14~0.03)。 24ヵ月時点の血漿C-ペプチド濃度のAUCも両群で有意差はなかった(HCL群0.18pmoL/mL[IQR:0.06~0.22]、対照群0.24pmoL/mL[0.05~0.30]、平均補正後群間差:-0.04pmoL/mL[95%CI:-0.14~0.06])。糖化ヘモグロビン値(算術平均値)は、HCL群のほうが対照群と比較して12ヵ月時点で4mmoL/mole(0.4ポイント、95%CI:0~8mmoL/mole[0.0~0.7ポイント])、24ヵ月時点で11mmoL/mole(1.0ポイント、95%CI:7~15mmoL/mole[0.5~1.5ポイント])低値であった。 重症低血糖はHCL群で5件(患者3例)、対照群で1例発現し、糖尿病性ケトアシドーシスがHCL群で1例認められた。

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第127回 未報道コメントに真意が!?WHOテドロス事務局長が発した「終わりが視野に…」

9月14日から15日にかけて、ちょっと驚くニュースが全世界に向けて発信された。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長が新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)との戦いについて「終わりが視野に入ってきた」と発言したというのだ。個人的な雑感を言えば、終わりが見えなくもないが、「もう一段先かな」と思っていただけに、この一報にはやや驚いた。ちなみに「もう一段先」とは、現在流行しているオミクロン株BA.5の次に流行をもたらすウイルス株が、このままオミクロン株の亜系統になるのか、それとは別の新たな変異株になるのか、そしてそれらの感染力や重症化率を見極められればということである。とりわけ現在のオミクロン株は約10ヵ月と、武漢株を除けば最も長く流行の主流を維持し続けている変異株。次なる流行の主流がこの亜系統となれば、私としてもテドロス事務局長とほぼ似た認識になるだろう。もっとも今回の新型コロナは世間の希望的観測を何度も裏切ってきているので油断はできないというのも本音。その意味でテドロス事務局長よりも“慎重派”の私はまだ「終わりが視野に入ってきた」とは言えないのである。とはいえ比較として適切ではないかもしれないが、通称“スペインかぜ”と呼ばれる1918~19年のインフルエンザ大流行以降のインフルエンザvs.人類の戦いと比べれば、新型コロナの事実上の制圧はこれより大幅に短縮されるのではないかと希望的観測は抱いている。ところでテドロス事務局長はより正確に何と言ったのか? WHOが発表しているブリーフィングの全文を読むと、実は報じられたようなシンプルなものではないことが分かる。実は「終わりが視野に入ってきた」と報じられたフレーズには、「私たちはまだそこに至っていないが(We are not there yet)」という枕詞がついていた。また、現在の新型コロナと人類との戦いをマラソンに例え「マラソンランナーはゴールラインが見えるまで立ち止まらない」として、「今は走るのを止めるには最悪の時期である(But now is the worst time to stop running)」と言い切っている。そのうえで各国が取り組まなければならないことを6つ提言している。(1)医療従事者や高齢者などを含むリスクにさらされやすい人では100%、人口全体では70%のワクチン接種率実現に向けた注力(2)新型コロナの陽性判定検査や遺伝子検査の体制維持し、それらをインフルエンザを含むその他呼吸器感染症のサーベイランス・検査体制へと統合(3)患者に対する正しいケアシステムの確立とそれをプライマリ・ケア体制への統合(4)感染者急増に備えた計画立案と必要な物資、機器、医療従事者の確保(5)医療施設での医療従事者と非コロナ感染者を保護するための感染予防・制御措置の維持(6)新型コロナ関連政策の変更時の明確なコミュニケーションいずれの提言も至極まっとうなものと言える。敢えてこの時期にこの発言をしたのは、約3年におよぶコロナ禍で各国では政府や一般大衆に「疲れ」が見え始めているからだろうと邪推する。さて、この6つの提言を日本に当てはめるとどうなるだろう。個人的な雑感だが、(4)(5)はほぼ実現できているのではないだろうか。(2)についてはまあ達成できていると言えるだろうが、昨今の全数把握の中止方針が今後どのような影響をもたらすかは、未知数だ。(1)についても日本はそこそこに良い線を行っている。9月16日現在の国内総人口に占める3回接種完了率は65.1%。基礎免疫の2回接種完了だけでみれば80.4%で、先進7ヵ国首脳会議(G7)参加国の中ではトップである。もっとも課題はある。すでに2回接種完了率は20代以降では80%超となっているが、5~11歳の小児では2回接種完了者はわずか18.6%に留まっている。比較的、自覚する副反応が多いワクチンであることもあって、親自身が接種しても子供への接種には躊躇してしまうというケースが少なくない。この点ではまだ行政や医療従事者からの情報提供がリーチできていない部分もあるだろう。また、2回目接種完了率と3回目接種完了率には10%以上の開きがある。まさに今週、オミクロン株BA.1対応ワクチンの接種が開始されたが、頻回なワクチン接種にうんざりしている層もいるため、どこまで接種率が上昇するかは、これまた不透明である。(3)も「プライマリ・ケア体制への統合」となると、まだ一般内科の医療機関ならどこでも受診できるという状況には至っていない。(6)については、日本の最大の問題とも言える。過去に何度も指摘しているが、岸田 文雄首相の新型コロナ関連のリスク対応、リスク・コミュニケーション能力はあまりにも欠陥だらけである。オミクロン株BA.1対応ワクチンの承認と接種の前倒しも、アメリカのFDAが最新のオミクロン株BA.5の緊急使用許可の後という間の悪さである。現状の厚生労働省の新型コロナワクチンQ&Aもまだオミクロン株対応ワクチンについての情報は薄く、政治だけが先走っている感は否めない。このように考えると、テドロス事務局長が言うごく正論過ぎる6つの提言を満たすのは実は容易ではないことがわかる。これは実際のところ日本だけの問題ではないはずだ。そして世界的な状況を俯瞰した場合、やはり大きなカギを握る(1)のワクチン接種は地域格差がある。「Our World in Data」によると、全世界の2回接種完了率は62.45%と、テドロス事務局長が掲げる70%(そもそも何を根拠に70%としているのかはわからないが)に近づいている。しかし、地域別で見るとEUが73.31%、アジアが72.07%、北米が64.55%、オセアニアが62.29%に対して、まさにテドロス事務局長の出身地域(本人はエチオピア出身)であるアフリカは22.56%である。今のオミクロン株がアフリカ南部で最初に確認されたことを考えれば、先進国で何回もワクチン接種を推進してもここから蟻の一穴のごとく崩される懸念は消えない。結局、考えれば考えるほど不透明感は増すばかり。逆に「終わりが視野に入る」とはとても思えなくなるという皮肉な様相だと感じている。

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伝統的な子供向けゲームがインターネット依存や社交性スキルに及ぼす影響

 伝統的な子供向けゲームは、小児の身体的、感情的、精神的な健康状態を保護する可能性がある。トルコ・Civril Sehit Hilmi Oz State HospitalのDilek Kacar氏らは、伝統的な子供向けゲームがインターネット依存、社交性スキル、ストレスレベルに及ぼす影響を評価するため、検討を行った。その結果、伝統的な子供向けゲームは、インターネットの使用を減少させ、社交性スキルの向上に寄与する可能性が示唆された。著者らは、小児期は身体的、認知的、心理社会学的な発達にとって重要な時期であり、子供たちの健康状態を保護し促進するため、学校での伝統的な子供向けゲームの実施は利用可能な介入であることを報告した。Archives of Psychiatric Nursing誌2022年10月号の報告。 対照群を用いた試験前後の準実験的研究を実施した。調査の母集団は、トルコの都市部にある2つの中学校の5年生および6年生(日本の小学5年生、6年生に当たる)で構成した。対象は、介入群20人および対照群22人の合計42人の生徒。評価尺度には、家族と子供のインターネット依存症尺度(Family-Child Internet Addiction Scale)、ソーシャルスキル尺度(Social Skills Assessment Scale、Social Skills Scale)、小学生用ストレス反応尺度(Perceived Stress Scale in Children [8-11 years])を用いた。介入群には、伝統的な子供向けゲームを8週間実施した。 主な結果は以下のとおり。・事前の調査では、インターネットの使用、社交性スキル、ストレスレベルは、介入群と対照群で有意な差は認められていなかった(p>0.05)。・介入後に調査した毎日および毎週のインターネット使用は、介入群と対照群で有意な差が認められた(p<0.05)。・介入群の社交性スキルに関する平均スコアは、対照群と比較し、介入後に上昇が認められた(p<0.05)。・ストレスレベルの平均スコアは、両群間で有意な差が認められなかった(p>0.05)。

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大腸がん術後の低分子ヘパリン、投与期間延長は有効か?/BMJ

 低分子量ヘパリンtinzaparinによる大腸がん切除術の周術期抗凝固療法は、投与期間を延長しても入院中のみの投与と比較して、静脈血栓塞栓症と術後大出血の発現率は両群で類似していたが、無病生存および全生存を改善しなかった。カナダ・オタワ大学のRebecca C. Auer氏らが、カナダ・ケベック州とオンタリオ州の12病院で実施した無作為化非盲検比較試験「PERIOP-01」の結果を報告した。低分子量ヘパリンは、前臨床モデルにおいてがん転移を抑制することが示されているが、がん患者の全生存期間延長は報告されていない。周術期は、低分子量ヘパリンの転移抑制効果を検証するのに適していると考えられることから、約35%の患者が術後に再発するとされる大腸がん患者を対象に臨床試験が行われた。BMJ誌2022年9月13日号掲載の報告。術前から術後56日間の血栓予防と、術後入院期間中のみの血栓予防を比較 研究グループは、2011年10月25日~2020年12月31日の期間に、病理学的に浸潤性結腸・直腸腺がんと確定診断され、術前検査で転移を認めず外科的切除術が予定されたヘモグロビン値8g/dL以上の成人(18歳以上)614例を、血栓予防を目的としたtinzaparin 4,500 IU/日皮下投与を、手術決定時(無作為化後24時間以内)から術後56日間継続する期間延長群と、術後1日目から入院期間中のみ行う院内予防群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、3年時点の無病生存(局所領域再発、遠隔転移、2次原発がん[同一がん]、2次原発がん[他のがん]、または死亡を伴わない生存と定義)、副次評価項目は静脈血栓塞栓症、術後大出血合併症、5年全生存などとし、intention-to-treat解析を実施した。 なお、本試験は、無益性のため中間解析後に早期募集中止となった。周術期の抗凝固療法、期間延長でも3年時の無病生存は改善せず 主要評価項目のイベント発生は、期間延長群で307例中235例(77%)、院内予防群で307例中243例(79%)であった(ハザード比[HR]:1.1、95%信頼区間[CI]:0.90~1.33、p=0.4)。 術後静脈血栓塞栓症は、期間延長群5例(2%)、院内予防群4例(1%)に認められた(p=0.8)。また、術後1週間の手術関連大出血はそれぞれ1例(<1%)および6例(2%)報告された(p=0.1)。 5年全生存率は、期間延長群89%(272例)、院内予防群91%(280例)で有意差は認められなかった(HR:1.12、95%CI:0.72~1.76、p=0.1)。 著者は今回の研究の限界として、非盲検試験であること、結腸がんと直腸がんの両方を組み込んだこと、また中間解析の結果を踏まえて早期に試験中止に至ったことなどを挙げている。

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内科治療に血管内治療を追加する有効性は示されなかったものの、周術期合併症率は低く抑制された(解説:高梨成彦氏)

 SAMMPRIS(Chimowitz MI, et al. N Engl J Med. 2011;365:993-1003.)、VISSIT(Zaidat OO, et al, JAMA. 2015;313:1240-1248.)において症候性頭蓋内動脈狭窄症に対する血管形成術・ステント留置術は、内科治療に対する有効性を示すことができなかった。 本研究もまた内科治療に対する血管内治療の有効性を示すことはできなかったものの、30日以内の脳卒中または死亡が5.2%であった。単純比較はできないもののSAMMPRISにおけるそれが14.7%であったことを考慮すれば、周術期合併症率を低く抑制することができたといえるだろう。 その要因は考察でも示されているように、発症から3週間以上経過した症例を選択し、症例数の多い施設・術者が参加したことが大きいだろう。 WEAVE trial(Alexander MJ, et al. Stroke. 2019;50:889-894.)もまた厳格な適応基準、経験豊富な術者、抗血小板薬の効果判定、緩徐な拡張などの条件を満たすことで、周術期合併症を2.6%と低く抑制できている。 内科治療だけでは脳梗塞の再発が抑制しきれない症候性頭蓋内動脈狭窄症患者において、どのような条件で血管形成術を適用すべきであるか、これら研究のプロトコールが参照されることになるだろう。

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第12回 「今年こそインフルエンザ流行」はオオカミ少年?

毎年「インフルエンザと新型コロナの同時流行が…」という懸念が出つつ、流行しないということが続いています。今度こそインフルエンザが流行するかもしれないと報道されていますが、オオカミ少年のようにあまり信用されていないのが現状です。「インフルエンザと新型コロナはウイルス干渉して共存しないため、コロナ禍ではインフルエンザは流行しない」という見解があり、実際に2シーズン連続でそのような動きとなっています。オーストラリアの流行オーストラリアは南半球にあるため、インフルエンザは夏に流行します。そのため、日本のインフルエンザの流行を予測するうえで、オーストラリアの流行状況を参考にすることが多いです。ほかの国のデータも参考になりますが、オーストラリアが圧倒的に開示されている情報が多く、こちらを基に予測されています。残念ながら、2022年に関しては、オーストラリアでインフルエンザと新型コロナの同時流行が起こっており、ウイルス干渉というロジックがあやふやであることが示されました。オーストラリアでは例年よりも2~3ヵ月早くインフルエンザの流行が起こっており(図)1)、日本でもしこのような事態になるとすれば、年末くらいから流行が始まるかもしれません。図. オーストラリアのインフルエンザ流行状況(参考資料1より)ワクチン同時接種は筋注+皮下注?新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種が認められました。新型コロナワクチンは筋注で行いますが、インフルエンザワクチンは実はまだ添付文書的には皮下注が基本です。病院職員・看護学生へのインフルエンザワクチン接種を筋肉注射か皮下注射の希望選択としている施設での研究によると、申告を要する副反応は、筋肉注射8.2%、皮下注射11.3%と、筋肉注射のほうが少なかったという結果でした2)。別の研究においても、筋肉注射のほうが皮下注射よりも副反応が少なかったと報告されています3)。インフルエンザワクチンによる抗体価上昇は、皮下注射と筋肉注射で差がないこともわかっています4)。一方が筋注、もう一方が皮下注だと、インシデントのもとになりますので、可能であれば両腕に筋肉注射できるようにすべきと考えます。まぁ、そう簡単に同時接種が実現するとは思っていません。ウチの子供の3回目接種が近づいてきたのですが、新型コロナワクチンは自治体から予約、インフルエンザワクチンはかかりつけの小児科で予約、という状況です。参考文献・参考サイト1)Australian Influenza Surveillance Report No. 12 - 29 August to 11 September 20222)馬嶋健一郎ほか. 発症率・接種時疼痛・副反応の前向きコホート観察研究. 日本環境感染学会誌. 2021;36(1):44-52.3)Ikeno D, et al. Immunogenicity of an inactivated adjuvanted whole-virion influenza A (H5N1, NIBRG-14) vaccine administered by intramuscular or subcutaneous injection. Microbiol Immunol. 2010 Feb;54(2):81-8.4)Sanchez L, et al. Immunogenicity and safety of high-dose quadrivalent influenza vaccine in Japanese adults ≥65 years of age: a randomized controlled clinical trial. Hum Vaccin Immunother. 2020 Apr 2;16(4):858-866.

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冠動脈造影/PCI時、コンピュータ支援で急性腎障害軽減/JAMA

 非緊急冠動脈造影や経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行する心臓専門医に対し、教育プログラムや造影剤投与量などに関するコンピュータによる監査とフィードバックを伴う臨床意思決定支援の介入を行うことで、これら介入のない場合と比べて施術を受けた患者が急性腎障害(AKI)を発症する可能性は低く、時間調整後絶対リスクは2.3%低下した。また、造影剤の過剰投与について同リスクの低下は12.0%だった。カナダ・カルガリー大学のMatthew T. James氏らが、心臓専門医34人とその患者を対象に行ったクラスター無作為化試験の結果で、JAMA誌2022年9月6日号で発表した。AKIは、冠動脈造影やPCIでは一般的な合併症で、高コストおよび有害長期アウトカムと関連する。今回の結果について著者は、「こうした介入が今回の試験以外の環境下でも有効性を示すかどうか、さらなる検討が必要である」と述べている。患者7,106人を対象にクラスター無作為化試験 研究グループは、カナダ・アルバータ州の心臓カテーテル検査室3ヵ所で侵襲的治療を行う心臓専門医全員を対象に、ステップウェッジ・クラスター無作為化試験を行った。無作為化の開始日は、2018年1月~2019年9月の間。適格患者は、非緊急冠動脈造影またはPCI、もしくはその両方を施行し、透析は行っておらず、AKIリスクが5%超と予測される18歳以上だった。34人の医師が選択基準を満たした患者7,106人に対して7,820件の処置を行った。被験者のフォローアップ終了は2020年11月だった。 介入期間中、心臓専門医は、教育支援プログラム、造影剤投与量や血行力学ガイド下静脈内輸液の目標値に関するコンピュータによる臨床意思決定支援、および監査・フィードバックを受けた。介入期間前(対照期間)は、心臓専門医は通常ケアを提供し、介入は受けなかった。 主要アウトカムはAKIの発生とした。副次アウトカムは12項目で、造影剤投与量、静脈内輸液量、および主要有害心血管・腎イベントなどだった。解析は、時間調整モデルを用いて行われた。AKI発生率、介入群7.2%、対照群8.6% 心臓専門医34人は診療グループや医療センターにより8集団に分けられた。このうち、介入群には医師31人、患者4,032人、4,327件の処置が含まれた(患者の平均年齢:70.3歳[SD 10.7]、女性32.0%)。対照群は医師34人、患者3,251人、3,493件の処置が含まれた(70.2歳[SD 10.8]、33.0%)。 AKI発生率は、介入期間中7.2%(4,327件中310イベント)、対照期間中8.6%(3,493件中299イベント)だった(群間差:-2.3%[95%信頼区間[CI]:-0.6~-4.1、オッズ比[OR]:0.72[95%CI:0.56~0.93]、p=0.01)。 12項目の副次アウトカムのうち、8項目は両群で有意差がみられなかった。造影剤投与量が過剰だった処置の割合は、対照期間中51.7%から介入期間中は38.1%に減少した(群間差:-12.0%[95%CI:-14.4~-9.4]、OR:0.77[95%CI:0.65~0.90]、p=0.002)。静脈内輸液投与が不十分だった処置の割合も、対照期間中の75.1%から介入期間中は60.8%に低下した(群間差:-15.8%[95%CI:-19.7~-12.0]、OR:0.68[95%CI:0.53~0.87]、p=0.002)。 主要有害心血管・腎臓イベントも、両群で有意差はなかった。

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虚血性脳卒中の2次予防、asundexian追加の有効性示せず/Lancet

 急性期非心原塞栓性虚血性脳卒中の2次予防治療において、抗血小板薬療法への血液凝固第XIa因子(FXIa)阻害薬asundexianの追加はプラセボと比較して、大出血または臨床的に重要な非大出血の複合の発生を増加させないものの、潜在性脳梗塞または虚血性脳卒中再発の複合の発生を抑制しないことが、カナダ・マックマスター大学のAshkan Shoamanesh氏らが実施した「PACIFIC-Stroke試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年9月2日号で報告された。23ヵ国の第IIb相試験 PACIFIC-Stroke試験は、脳卒中の2次予防におけるasundexianの有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験であり、2020年6月~2021年7月の期間に、日本を含む23ヵ国196施設で参加者のスクリーニングが行われた(ドイツBayerの助成による)。 対象は、年齢45歳以上、急性期(発症から48時間以内)の非心原塞栓性虚血性脳卒中と診断され、抗血小板療法による治療を受け、ベースラインで(無作為化の前または割り付け後72時間以内に)MRI検査を受けることが可能な患者とされた。 被験者は、抗血小板薬による通常治療に加え、3種の用量のasundexian(10mg、20mg、50mg)またはプラセボを1日1回経口投与する4つの群に無作為に割り付けられた。治療期間は26~52週だった。 有効性の主要アウトカムは、無作為化から26週の時点またはそれ以前のMRIで検出された初発の潜在性脳梗塞または症候性虚血性脳卒中の再発の複合に関する用量反応効果とされた。また、安全性の主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の判定基準で定義された大出血または臨床的に重要な非大出血の複合であった。事後解析で50mg群の有効性が示唆 1,808例が登録され、asundexian 10mg群に455例、同20mg群に450例、同50mg群に447例、プラセボ群に456例が割り付けられた。全体の平均年齢は67(SD 10)歳、615例(34%)が女性で、1,505例(83%)が白人、268例(15%)はアジア人だった。 脳卒中発症から無作為化までの平均時間は36(SD 10)時間、ベースラインの米国国立衛生研究所脳卒中尺度(NIHSS)のスコア中央値は2.0(四分位範囲[IQR]:1.0~4.0)で、7日目の修正Rankin尺度スコア中央値は1.0(IQR:1.0~2.0)だった。783例(43%)は無作為化後に平均70.1(SD 113.4)日間にわたり抗血小板薬2剤併用療法を受けていた。 26週の時点で、有効性の主要アウトカムは、プラセボ群が19%(87/456例)で発現したのに対し、asundexian 10mg群の発現率は19%(86/455例)(粗罹患比:0.99、90%信頼区間[CI]:0.79~1.24)、同20mg群は22%(99/450例)(1.15、0.93~1.43)、同50mg群は20%(90/447例)(1.06、0.85~1.32)であった。プラセボ群と3種の用量群にはいずれも有意な差はなく、有意な用量反応は観察されなかった(t statistic:-0.68、p=0.80)。 MRI上の初発潜在性脳梗塞と、症候性虚血性脳卒中の再発にも、プラセボ群とasundexianの3種の用量群に有意差はみられなかった。 安全性の主要アウトカムは、プラセボ群が2%(11/452例)で発現したのに対し、asundexian 10mg群の発現率は4%(19/445例)、同20mg群は3%(14/446例)、同50mg群は4%(19/443例)であり、3種の用量のasundexian群全体では4%(52/1,334例)であった。有意な用量反応関係は認められず、ISTHの大出血または臨床的に重要な非大出血の複合の発現に関して、プラセボ群に比べasundexian群で有意な増加はみられなかった(ハザード比[HR]:1.57、90%CI:0.91~2.71)。 大出血と臨床的に重要な非大出血はいずれも、プラセボ群と、asundexianの3種の用量群および3用量全体に有意な差はなかった。 一方、探索的な事後解析では、asundexian 50mg群はプラセボ群に比べ、大出血や臨床的に重要な非大出血のリスクを増加させずに、虚血性脳卒中再発または一過性脳虚血発作の複合の予防効果が優れ(HR:0.64、90%CI:0.41~0.98)、とくにアテローム性動脈硬化を伴う患者で良好であった。 著者は、「事後解析の結果は有望であり、十分な検出力を有する無作為化第III相試験で確認する必要がある」としている。

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第130回 がん治療で知られるCAR-Tの応用で全身性エリテマトーデス患者5人が寛解

がん治療で一足先に実用化されたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の応用で5人の自己免疫疾患・全身性エリテマトーデス(SLE)が寛解に至りました1-3)。5年前にB細胞がんの治療として米国で承認されたCAR-T治療は採取したT細胞を目当ての加工を施したうえで再び患者の体内に戻すという手順を踏みます。SLEは免疫系が自己DNAに誤って反応してしまうことで生じます。その反応とはB細胞が死にゆく細胞から放出されるDNAへの抗体を作ってしまうことです。SLE治療のCAR-Tはそういう病因抗体を作るB細胞の駆除を目指し、B細胞のタンパク質CD19を標的とするキメラ抗原受容体(抗CD19 CAR)を導入したうえで患者5人に投与されました。その投与から3ヵ月以内に5人全員が寛解に至り、免疫抑制剤などのそれまで必要だった薬を止めることができ、薬なしでやっていけるようになりました。5人の観察期間はおよそ8ヵ月(中央値)で、長い人は治療から17ヵ月経ち2)、薬なしでの寛解を観察期間中維持しました。効果がどれほど続くかはまだ不明で今後多くの人に試して調べる必要がありますが、投与したCAR-Tが体内でなくなっても効果は少なくともしばらくは持続するようです。というのも5人に投与したCAR-Tは1ヵ月もするとほとんど検出されなくなったからです。3ヵ月半ほどが過ぎるといったん枯渇したB細胞が骨髄の幹細胞から作られるようになって復活し始めました。しかし幸いにもそれらの新たなB細胞は自己DNAに反応しませんでした。ただし、SLE患者のDNAに反応するように何がB細胞を駆り立てるのかは分かっておらず、何らかのきっかけでその反応が再び頭をもたげ始める恐れがあります。そういう再発の恐れをはじめとする課題を今後の試験で検討する必要がありますが今回の結果をSLE界隈の医師等はまずは歓迎しているようです。僅か5人の結果とはいえCAR-T治療の効果はこれまでにないものであり、胸躍らせるものだとKing‘s College LondonのSLE研究医師Chris Wincup氏は言っています2)。CAR-Tの活躍の場はSLEに限定されるものではなく、免疫が神経を攻撃することで生じる多発性硬化症(MS)などの抗体を要因とする他の自己免疫疾患も相手できるかもしれません。企業による自己免疫疾患治療CAR-Tの開発も進んでおり、たとえば米国カリフォルニア州のバイオテック企業Kyverna Therapeutics社はSLEに伴う腎臓炎症・ループス腎炎を治療するCAR-T・KYV-101の臨床試験を今年中に開始します4)。KYV-101もCD19標的CAR-Tであり、最近Kyverna社はドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学のGeorg Schett氏を科学顧問に迎えています。Schett氏は他でもない今回紹介したCAR-T治療試験のリーダーです。ループス腎炎を合併する重度SLE女性がCD19標的CAR-T治療で寛解に至ったことをSchett氏等は今回の試験報告に先立って昨夏の去年8月にNEJM誌に報告しています5)。参考1)Mackensen A,et al. . Nat Med. 2022 Sep 15. [Epub ahead of print]2)Radical lupus treatment uses CAR T-cell therapy developed for cancer / NewScientist3)Cancer treatment tackles lupus / Science4)Kyverna Therapeutics Names Georg Schett, M.D., and Peter A. Merkel, M.D., MPH, to Scientific Advisory Board / PRNewswire5)Mougiakakos D, et al. N Engl J Med. 2021;385:567-569.

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TILsを有するTN乳がんへの術前ニボルマブ±イピリムマブ、高い免疫活性示す(BELLINI)/ESMO2022

 術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の追加による、早期トリプルネガティブ(TN)乳がん患者の転帰改善が報告されているが、どのような患者にICIが有効なのか、そしてどのような患者で術前化学療法のde-escalationが可能なのかは分かっていない。また早期TN乳がんでは、抗PD-1抗体への抗CTLA-4抗体の追加は検討されていない。オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMarleen Kok氏らは、ニボルマブ±低用量イピリムマブの投与が、TILsを有するTN乳がんにおいて免疫応答を誘発するという仮説の検証を目的として、第II相非無作為化バスケット試験(BELLINI試験)を実施。その最初の結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表した。・対象:T1c~T3、TILs≧5%のTN乳がん患者 31例・試験群:ニボルマブ群(NIVO群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル 16例ニボルマブ+イピリムマブ群(NIVO+IPI群):ニボルマブ(240mg)×2サイクル+イピリムマブ(1mg/kg)×1サイクル 15例※両群ともにTIL5~10%:5例、TIL11~49%:5例、TIL≧50%:5例※両群ともに4週間後患者は術前化学療法あるいは手術を受ける・評価項目:[主要評価項目]4週間後のCD8+T細胞および/またはIFN-γ発現の2倍変化で定義される免疫活性化[副次評価項目]安全性、放射線学的反応(RECIST1.1)、トランスレーショナル解析※Simonの2段階デザインにより、30%の患者で免疫活性が確認された場合、コホートの拡大が可能となる。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点の年齢中央値はNIVO群48歳、NIVO+IPI群50歳。grade3腫瘍が93.8%、73.3%。BRCA1/2変異有が18.8%、20.0%だった。無作為化されていないため、NIVO群ではN0が81.3%と最も多かったのに対し、NIVO+IPI群ではN1が60.0%と最も多かった。・4週間後の放射線学的部分奏効(PR)は7/31例(23%)で認められ、うちNIVO群3例(19%)、NIVO+IPI群4例(27%)であった。また、7例のうち3例はTIL≧50%、4例はTIL11~49%だった。・主要評価項目である4週間後の免疫活性化はNIVO群8例(53.3%)、NIVO+IPI群9例(60.0%)でみられ、コホート拡大基準(30%)を満たした。・PRを示した患者ではベースライン時点のIFN-γ発現量が多かった(p=0.014)。・ベースライン時点のCD8+T細胞レベルは奏効と相関しなかったが、空間解析により、CD8+T細胞が腫瘍細胞により隣接していることが奏効と強く関連していることが明らかになった(p=0.0014)。・ベースライン時点では全体の83%の患者でctDNA陽性が確認されたが、4週間後のctDNAクリアランスは24%の患者で確認された。・安全性については、Grade3以上の有害事象はNIVO群1例(6%、甲状腺機能亢進症)、NIVO+IPI群1例(7%、糖尿病)のみであった。 Kok氏らは、TILsを有するTN乳がん患者の多くが、わずか4週間のICI投与で免疫活性の上昇を示し、臨床効果が得られたことから、TN乳がん患者に対する術前化学療法なしのICI投与の可能性が示唆されたと結論付けている。そのうえで同氏は今後の展望として、NIVO群vs. NIVO+IPI群のシングルセル解析や、TIL>50%・N0の患者群における6週間のニボルマブ+イピリムマブ投与後手術を行った場合のpCR率の評価が必要とした。

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心血管疾患2次予防、ポリピルvs.通常ケア/NEJM

 心筋梗塞後6ヵ月以内の、アスピリン、ramipril、アトルバスタチンを含むポリピル治療は通常ケアと比べて、主要有害心血管イベント(MACE)リスクの有意な低下に結び付いたことが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares(CNIC)のJose M. Castellano氏らによる第III相無作為化試験「SECURE試験」で示された。転帰を改善する主要な薬剤(アスピリン、ACE阻害薬およびスタチン)を含むポリピルは、心筋梗塞後の2次予防(心血管死や合併症の予防)のための、簡易な手法として提案されている。結果を踏まえて著者は、「ポリピルは、治療を簡素化し入手可能性を改善するもので、治療のアクセシビリティとアドヒアランスを改善するために広く適用可能な戦略であり、結果として心血管疾患の再発および死亡リスクを低下するものである」とまとめている。NEJM誌2022年9月15日号掲載の報告。アスピリン、ramipril、アトルバスタチンを含むポリピル治療について検討 SECURE試験は、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、ポーランド、チェコ、ハンガリーの113施設で行われ、直近6ヵ月以内に心筋梗塞を有した75歳以上(リスク因子を1つ以上有する65歳以上)の患者を、ポリピルベースの治療戦略群または通常ケア群に無作為に割り付け追跡評価した。 ポリピル治療は、アスピリン(100mg)、ramipril(2.5mg、5mgまたは10mg)、アトルバスタチン(20mgまたは40mg)で構成された。 主要アウトカムは、心血管死、非致死的1型心筋梗塞、非致死的虚血性脳卒中、血行再建術施行の複合。主な副次エンドポイントは、心血管死、非致死的1型心筋梗塞、非致死的虚血性脳卒中の複合であった。追跡期間中央値36ヵ月のMACE発生ハザード比は0.76で有意差 2016年8月~2019年12月に、計4,003例がスクリーニングを受け、適格患者と認められた2,499例が無作為化を受けた。指標となる心筋梗塞から無作為化までの期間中央値は8日(IQR:3~37)であった。ポリピル群21例、通常ケア群12例のフォローアップデータが得られず、intention-to-treat(ITT)集団は2,466例(ポリピル群1,237例、通常ケア群1,229例)で構成された。平均年齢は76.0±6.6歳、女性の割合は31.0%、77.9%が高血圧症を、57.4%が糖尿病を有し、51.3%に喫煙歴があった。平均収縮期血圧は129.1±17.7mmHg、平均LDLコレステロール値は89.2±37.2mg/dLであった。 追跡期間中央値36ヵ月時点で、主要アウトカムのイベント発生は、ポリピル群118/1,237例(9.5%)、通常ケア群156/1,229例(12.7%)が報告された(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.60~0.96、p=0.02)。 主な副次アウトカムの発生は、ポリピル群101例(8.2%)、通常ケア群144例(11.7%)が報告された(HR:0.70、95%CI:0.54~0.90、p=0.005)。 これらの結果は、事前規定のサブグループで一貫していた。 患者の自己報告による服薬アドヒアランスは、通常ケア群よりもポリピル群で高かった。有害事象の発現頻度は両群で同程度であった。

3296.

自閉スペクトラム症から総合失調症への進展

 これまでの研究では、自閉スペクトラム症(ASD)の小児は、その後の人生において統合失調症の発症リスクが高いことが示唆されている。台湾・高雄栄民総医院のTien-Wei Hsu氏らは、ASDにおける診断の安定性および統合失調症への進展に対する潜在的な予測因子について調査を行った。その結果、統合失調症と診断されたASD患者の3分の2以上が、ASD診断から最初の3年間で進展しており、人口統計学的特徴、身体的および精神的な併存疾患、精神疾患の家族歴が、進展の重要な予測因子であることが示唆された。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2022年9月3日号の報告。 対象は、2001~10年にASDと診断された青年(10~19歳)および若年成人(20~29歳)の患者1万1,170例。統合失調症の新規診断患者を特定するため、2011年末までフォローアップ調査を実施した。統合失調症への進展およびその予測因子を推定するため、時間のスケールとして年齢を用いたカプランマイヤー法およびCox回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・10年間のフォローアップ調査におけるASDから統合失調症への進展率は10.26%であった。・統合失調症と診断された860例中580例(67.44%)は、ASDと診断されてから3年以内に統合失調症と診断されていた。・特定された予測因子は以下のとおりであった。 ●年齢(ハザード比[HR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.11~1.15) ●抑うつ症状(HR:1.36、95%CI:1.09~1.69) ●アルコール使用障害(HR:3.05、95%CI:2.14~4.35) ●物質使用障害(HR:1.91、95%CI:1.18~3.09) ●パーソナリティ障害クラスターA群(HR:2.95、95%CI:1.79~4.84) ●パーソナリティ障害クラスターB群(HR:1.86、95%CI:1.05~3.28) ●統合失調症の家族歴(HR:2.12、95%CI:1.65~2.74)

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ROSCした患者の血圧管理目標値はどのくらいがよいか?(解説:江口和男氏)

 本研究は、院外心停止で蘇生され生存した昏睡状態の患者さんについて、平均血圧目標を63mmHgで保つ群と、77mmHgで保つ群にランダム化し予後を比較するという研究であった。主要アウトカムはあらゆる原因による死亡または神経学的予後不良状態での90日以内の退院の複合、2次アウトカムは血清神経特異エノラーゼ(NSE)レベル(高いと予後不良)、あらゆる原因による死亡、Montreal Cognitive Assessmentの点数(0~30の範囲で高いと認知機能良好)、そして、3ヵ月におけるmodified Rankin scaleおよびCerebral Performance Category(CPC)であった。 本研究の対象者の平均年齢は62~3歳であるが、18歳から90歳と広い年齢層にわたっている。対象者の8割が男性、約9割にバイスタンダーCPRが施行され、心停止の原因はほとんどが心原性で、約85%が電気ショックで蘇生可能な不整脈(VfやPulseless VT)であった。本研究のクリニカルクエスチョンは、脳保護を行うのに平均血圧を高め(77mmHg)に保つのがよいか、低め(63mmHg)がよいかというものであった。ちなみに、これらの平均血圧目標値を収縮期、拡張期血圧に直してみると、たとえば、平均血圧77mmHg→110/60mmHg、平均血圧63mmHg→84/52mmHg程度となる。 ガイドライン(Soar J, et al. Resuscitation. 2020;156:A80-A119.)では、ショック患者の血圧目標値として平均血圧65mmHg以上に保つと記載されており、2021年版ではAvoid hypotension (< 65 mmHg). Target mean arterial pressure (MAP) to achieve adequate urine output and normal or decreasing lactate(Nolan JP, et al. Intensive Care Med. 2021;47:369-421.)と記載されている。これまでは、観察研究や小規模のRCTしかなく、高血圧や動脈硬化の進んだ患者では高めにキープすべきという報告や、高めに保つために増量したカテコラミンにより催不整脈作用があった等、実際にどのくらいのレベルに血圧を保つのがよいかcontroversialであった。 本研究は各群400例弱と十分な症例数があり、この議論に決着をつけるのに十分なエビデンスが得られたと言えよう。結果として、急性冠症候群など心原性の心肺停止患者において、高血圧既往者においても高い血圧目標値のほうがよいという結果は得られなかった。一方で高い目標値の群ではカテコラミンの使用量は多かったものの不整脈などの有害事象の頻度を増やすこともなかった。この結果はseptic shock、vasodilatory shockを対象としたメタ解析の結果(Lamontagne F, et al. Intensive Care Med. 2018;44:12-21. )と同様であった。 したがって、ショックで心肺蘇生した昏睡状態の患者においては、ガイドラインどおりの平均血圧<65mmHgさえ避ければ、65mmHgぎりぎりでも77mmHgと高めの血圧値でも生命予後や神経学的予後に差がないということが明らかになった。ICUやCCUに入室中の患者であっても、血圧は刻々と変動するものであり、上記の2つの平均血圧目標に厳密に管理できるものでもなく、ある程度の血圧変動の幅は許容範囲ということになる。高血圧患者のように高くなりすぎて臓器障害が進行するというセッティングでもない。尿量が保てて、乳酸値が低下していく程度の臓器潅流を維持できる程度の血圧が重要であるという2021年版ガイドラインの結果を支持するものであった。もちろん、蘇生後とはいえ個別の治療が重要であるが、蘇生後の血行動態モニタリングと管理目標において、ガイドラインに加えられるであろう重要なエビデンスである。

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成年後見制度の診断書を依頼されたら【コロナ時代の認知症診療】第19回

重度の認知症なのに、見逃されてしまいがちなケース認知症者をよくお世話している介護者にとって一番腹立つ台詞だとよく聞くものがある。「認知症だと聞いていたが、話してみたらおかしくない。これなら普通ではないか? どこがおかしいの?」といった発言である。認知症を専門としていない医師や、公証人ですらこのようなことをおっしゃることがある。そんな発言の理由は簡単である。認知症、とくにアルツハイマー型認知症の人では、まず見た目に愛想がよい。会話のうえではもっともらしくその場に合わせた態度をとる。また何か不都合な点が出ても上手に取り繕うことができる。さらに同伴の方などがいれば振り返って「そうでしょう、ねえあなた」という感じで振舞うこともできる。どれも教科書レベルで、アルツハイマー病型認知症者の対応上の特徴と記載されている。ところが多くの人は、認知症になると、暴言・暴力、徘徊・行方不明、便こねなどいわゆるBPSDが現れるものと思っている。だから穏やかな常識的対応に接すれば拍子抜けする。こうしたところから実際には重度の認知症なのに、認知症を知らない人からは、上のように言われてしまっても不思議ではない。成年後見制度の3つのランクとは?さて認知症を専門としていない医師でも、成年後見制度の診断書に記載を求められることが増えてきた。さらに鑑定書の作成が求められるケースもある。そこで前回は任意後見について紹介したが、今回は法定後見への対応の基本を述べてみたい。まず法定後見制度の利用は、認知症として事例性が明らかになってから出てくるのが普通である。たとえば、不必要で高額なものを契約した、通帳を繰り返しなくす、ATMが使えなくなった、明らかに財産管理ができなくなったなどである。前回も述べたように、こうした実態から経済的に判断能力がないため、財産管理や福祉サービスの契約が1人ではできないと考えられる人を裁判所が守ってくれるのが成年後見制度である。これには、補助、保佐、後見と3つのランクがある。まず難しいのは、こうしたランクは、MMSEや改訂長谷川式の点数から決められるのではないことである。つまり認知症の程度と経済的な判断力や意思能力が相関するわけではない。ではどのような区切りでもって3つを分けたらいいのだろうか。これに対する最高裁判所の公式文章1)では、補助支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することが難しい場合がある保佐支援を受けなければ、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない後見支援を受けても契約等の意味・内容をみずから理解し判断することができないとある。もっともこれでは具体的に見えてこない。よくよく探したら神戸家庭裁判所による具体的な記述2)があった。補助重要な財産行為(不動産・自動車の売り買いや自宅の増改築、金銭の貸し借り等)について、自分でできるかもしれないが、できるかどうか危惧がある保佐日常の買い物程度は単独でできるが、重要な財産行為(不動産・自動車の売り買いや自宅の増改築、金銭の貸し借り等)は自分ではできない後見日常的に必要な買い物も自分ではできず、誰かに代わってやってもらう必要があるとされる。主治医意見書作成のポイントさて診断書作成、ランク(3類型)決定で用いることができる診療録など手持ちの内部的資料と介護保険認定調査の結果など外部資料がある。今回は前者について説明する。手持ち資料の代表は、診療録である。また主治医意見書に加えてMMSEや改定長谷川式の成績、そして画像・血液検査データなどがある。診療録からは、ざっくりと3類型のどのレベルかの印象はつかめるかもしれない。とくに経済行為や契約に関わる出来事、たとえば不要な高額商品の契約や銀行でのトラブルなどにふれた記載には注意すべきだ。一方で、主治医意見書は大切である。とくに3.心身の状態に関する意見(1)日常生活の自立度等について、(2)認知症の中核症状、(3)認知症の行動・心理症状(BPSD)、これらがポイントとなる。MMSEや改訂長谷川式は簡易スクリーニング検査であって認知症の診断や重症度の評価をするものではない。しかしざっくりと重症度を知るのには有用である。それだけに1年に1度はこれらをやっておくと評価の定量的・縦断的な資料になり得る。なお画像検査などのデータは認知症の診断には役立っても3類型決定にはあまり有用でないだろう。本テーマに関連して、認知症の重症度をざっくりと判定するための、ある程度の信頼性を有する根拠について言及しておく。DSM5によれば、軽度 手段的日常生活動作の困難(例:家事、金銭管理)中等度基本的な日常生活動作の困難(例:食事、更衣)重度 完全依存とある。簡単であるだけにかえって評価が難しいと感じられるかもしれないが、質問したり観察したりすることは容易だろう。参考1)裁判所「成年後見制度における鑑定書・診断書作成の手引」2)神戸家庭裁判所「診断書(成年後見用)の作成を依頼された医師の方へ」

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シーリングファン頭部外傷の臨床的検討【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第218回

シーリングファン頭部外傷の臨床的検討pixabayより使用シーリングファンってご存じでしょうか。シャレオツな店などにある、天井に取り付ける扇風機のことです。空気を撹拌することで室内の温度を一定にすることができ、吹き抜けの天井が高い部屋で有効とされています。ゆっくり回っているところが多いと思いますが、海外だと結構ビュンビュン回っていることもあり、これが頭部外傷のリスクになる懸念があります。Alias A, et al.Head injury from fan blades among children.Asian J Surg . 2005 Jul;28(3):168-70.2000年1月~2002年12月に、マレーシアでファンブレードによる頭部外傷を負った小児14例を後ろ向きに登録したものです。平均年齢は7.9歳でした。ブレードによる頭部外傷の原因は、表1のようになります。表1.14例の外傷の原因(文献より引用)二段ベッド絡みの外傷が多いようです。確かに、マレーシアの裕福な邸宅には天井にファンが取り付けられており、二段ベッドと距離が近いと頭をけがしてしまう可能性がありますね。子供を持ち上げたらそこにシーリングファンがあった、というのは親としては避けたいところですね。ブレードが鋭いと、とんでもない外傷になる可能性があります。外傷の程度は表2のような結果となりました。結構骨折が多いですね。表2.14例の外傷の内訳(文献より引用)このうち、頭蓋内出血を合併した1例が死亡に至っています。最近も、マレーシアで重症の穿通性頭部外傷を起こした症例が報告されています1)。オーストラリアではシーリングファンの使用に関して指針があり、二段ベッドや家具はシーリングファンから2m以上離す必要があるとされています2)。マレーシアではこれが徹底されていないという批判もあります。日本でも、シーリングファンをつけている富裕層のお宅ではご注意を!1)Ong Y, et al. A Case of a Penetrating Traumatic Head Injury Due to a Ceiling Fan. Cureus. 2022 Jun 26;14(6):e26350.2)Australian Competition and Consumer Commission: ceiling fan injury hazard

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観察研究でRCT模倣可能な“target trial emulation”/BMJ

 観察研究は研究デザインにかかわらず交絡の影響を受けやすいが、目標となる無作為化比較試験(RCT)の模倣が成功すれば、観察研究でRCTと同じ効果推定値が得られる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnthony A. Matthews氏らは、観察研究にRCTの研究デザイン原則を適用した“target trial emulation”のプロセスを概説した。BMJ誌2022年8月30日号掲載の報告。“target trial emulation”の必要性 観察研究は、費用、倫理的観点あるいは迅速性などの理由でRCTを実施できない場合に、介入の有効性に関するエビデンスを提供することができる。しかし、観察研究は、無作為化されていないため交絡バイアスが存在するだけでなく、誤った研究デザインの選択(追跡調査開始時期の指定など)が自らバイアスを引き起こす可能性もあり、因果推論には課題がある。 このような研究デザインの欠陥は、まず、関心のある問題に答えが得られるであろう仮定のRCT(target trial)をデザインし、次に、このtarget trialを、利用可能な観察データと適切な方法を用いて模倣することで克服できるという。“target trial emulation”のデザイン “target trial emulation”の最初のステップは、利用可能な観察データの制約事項内で、理想的に実施されたであろうRCTのプロトコールを特定することである。観察データは、プラセボ対照試験の模倣には使用できないため、target trialは実践的試験(pragmatic trial)でなければならない。観察データを用いてtarget trialを模倣する前に、target trialのプロトコールを明確に定義することで、多くの一般的な研究デザインの落とし穴を回避できるとする。 以下に、プロトコールの各構成要素をまとめる。・適格基準:target trialの適格基準を明示し、ベースライン時の値にのみ基づくようにすることを保証する必要がある。・治療法:target trialで対象者を割り付ける具体的な治療、持続的な治療の場合は対象者がその治療を順守すべき期間、および割り付けられた治療を中止または変更できる正当な理由を策定する(例:試験開始時にアトルバスタチン10mg/日で服用を開始し5年間または禁忌が生じるまで継続する群vs.試験開始時または今後5年以内、スタチンの適応が生じるまでいかなるスタチンも服用しない群)。・割り付け:観察データは日常臨床ですでに行われている治療を反映しているため、データが適合する治療に個人を割り付け、ベースラインの共変量を調整して交絡をコントロールしなければならない。交絡の調整に必要な共変量の最小セットは、因果関係を示す有向非巡回グラフを用いて選択されるべきである。・アウトカム:アウトカムの定義(例:ICD-10診断コードの使用)、使用した測定アルゴリズムやツールの妥当性および信頼性を明示しなければならない。・フォローアップ:フォローアップ開始は、対象者選択(適格基準を満たしたとき)、治療割り付け、アウトカム集計開始の3つの時点と一致する必要がある。観察研究ではこのルールから外れやすく、選択バイアス、不死時間バイアスなどが生じる可能性がある。その後のフォローアップは、アウトカムの発生、打ち切り、死亡、競合イベントまたはフォローアップ終了(管理上またはそれ以外)のいずれか早い時点まで継続される。・因果関係:治療割り付けに関するデータ(たとえば、処方箋)が利用可能で、対象者がベースライン時にデータが適合する治療に従って解析される場合、intention-to-treat効果の観察的類似点を目標とすることができる。per-protocol効果(割り付けられた治療を完全に順守した場合の効果)を目標とすることも可能である。・統計方法:観察データを用いてintention-to-treat解析を行う場合、標準的な統計手法を用いてベースラインの共変量を調整する。

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